律子「夢見る脇役」 (17)
美希「ねぇ、りつこー?」
律子「さんをつけなさいよ」
美希「いいじゃん、2人っきりなんだから」
律子「……。で、何よ?」
美希「お刺身によくついてくる、この、大根?これなんて言うの?」
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律子「『つま』ね」
美希「妻?大根がお魚の奥さんなの?」
律子「あら正解よ、美希」
美希「えー!そうなの!」
律子「『つま』はね、漢字で書くとあんたの言った通り『妻』って書くのよ」
美希「えへ、スゴイでしょ?……スゴイでしょ?」
律子「……どうしたのよ」
美希「むー頭くらい撫でてくれたっていいの」
律子「はいはい。で、語源としては『端(つま)に置かれたもの』、『添え物』として夫婦の関係に見立てて当てはめたんですって」
美希「へー、最初はダジャレだったんだね」
律子「ええ。主役である「刺身(夫)」の「傍に添えられ(寄り添う)端に置かれるもの(妻)ってことでね。……美希にしては冴えてたわね」
美希「むー、ミキ『にして』は余計なの」
律子「まぁ例えるなら、あんたが刺身で、私がつまってことね」
美希「ふぇ!」
律子「何よ、大きい声出して」
美希「律子はミキのお嫁さんになりたいってこと?ミキ、そういうのはまだ早いって思う、」
律子「ていっ!」
美希「ッ痛~いの!」
律子「10年早いのよ、あんたには」
美希「律子と4つしか変わらないもん」
律子「そのうちまた5つ離れるわよ」
美希「またすぐ追いつくの!……律子はさ、お刺身さんになりたいってことなかったの?」
律子「何言ってんのよ、あんた?」
美希「ミキ的にはさ、律子がアイドルするの良いかもって思うんだ」
律子「……褒めたって夜におにぎりはダメよ」
美希「そんなんじゃないもん!だって律子スタイル良いし、歌だって上手いし、それに」
律子「ストップ。ありがとうね、美希」
美希「……」
律子「でもね、私は最初からマネージャーとか、プロデューサーとかの裏方希望だったのよ」
美希「うん」
律子「それに、そういうキラキラした役は私なんかより美希の方がお似合いよ。社長だってあんたには期待してるんだから」
美希「そうなの?」
律子「セルフプロデュース多めなこの事務所であんただけプロデューサーの私がついてるでしょ」
美希「ミキ、ちょっと怖くなってきたの」
律子「何弱気になってんのよ、あんたらしくもない。……あんたは大丈夫よ、私と違って才能あるもの」
美希「律子もアイドルなの?」
律子「ぜーんぜん売れないFランクアイドルだったけどね。まぁその経験が今のあんたのプロデュースに役立ってるんだから、無駄にならなかったのは良かったけどね」
美希「今ならもっと上までいけるの!ミキだって律子のおかげでCランクまで来れたんだもん。……律子だってお刺身が良いでしょ?」
律子「つまがないとお刺身は美味しくならないわよ」
美希「えっ?」
律子「あんたの嫌いな魚の生臭い匂いを消したり、見た目とかを美しくしたりすんのよ。串カツのキャベツと同じよ」
美希「……うん」
律子「脇役には、脇役の大事な仕事がある。輝くのはあんた、支えるのは私。あんたが戦うのが舞台の上なら、私が戦うのはこの裏方なのよ」
美希「……」
律子「美希、あなたに私の夢知ってる?」
美希「……ううん」
律子「あんたが立派なトップアイドルになることよ」
美希「……!」
律子「あんたと一緒に頂点の景色見てみたい。……夢見過ぎだと思う?」
美希「ううん!全然!それならミキなるよ、律子の夢に!律子の夢は、ミキの夢だから!」
律子「ありがとう。……なら、そのために早く帰りなさいよ、明日も早いんだから」
美希「律子はまだ帰らないの?」
律子「私はもうちょっと書類作業がね。駅まで送ろうか?」
美希「そこまで子どもじゃないもん!じゃあお疲れさまー」
律子「はーい、お疲れ」
お刺身さんになりたくない、か。
憧れたりしてないって言ったら正直嘘になる。
けれど、私はもう選んだのだ。
自分から輝く道じゃなくて、誰かを輝かせるそんな道を。
でも、もし私を輝かせてくれる、導いてくれる、そんな人がいたならば。
……私もあの輝いたステージに立てたのかしら?
その日、私は夢を見た。
そこには魔法をかけられたように、一面にいっぱいいっぱいと広がる緑の光を浴びてlivEしている輝く笑顔の私の姿があった。
ふと横を見てみると、スーツを着た男の人が私に向かってガッツポーズを取っていた。
あぁ、私はこの人に『アイドル』にしてもらったんだ。この人が私をみんなの『アイドル』へと導いてくれたんだ。
夢は夢だった。
私は脇役だと思ってたのに。
でも今日は何だか無性にその夢に『アイドル』になってみたかった。
お粗末さまでした。
律子、誕生日おめでとう!
滑り込みどころか遅刻でごめんなさい!
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