真尋「幻夢境?」早苗「いいえ、幻想郷です」(143)


・ニャル子×東方、と言うか幻想入り
・スレタイは仮題
・ss速報の小ネタスレの概要から変更点多々アリ
・更新は不定期、寧ろ乗っ取ってくれちゃっても良いのよ?

・誤字脱字その他指摘、ネタ提供及びリクエスト他何でもあり、つーかネタ下さい。
※但し必ずしもネタが反映されるとは限りません、十年後、或いは二十年後になる事もありえます。


以上、つらつらっと書いていきます。

――――――――――――――――――――――――――――――――

「……日符『ロイヤルフレア』」

画面の中の魔法使いが広げた本を片手に詠唱に入る。
直後、魔法使いの手に現れるのは巨大な火球。
必殺技が発動状態になった事を示すグラフィックだ。

必殺技の発動に成功したクトゥグアはニヤリと笑い、対するニャルラトホテプは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
ニャルラトホテプが操作するキャラ、紅と白の巫女のキャラはクトゥグアのコンボで空中に飛ばされた直後であり、受け身をとれる状態ではない。

戦いは終盤であり、必殺技が通ったこの時点でクトゥグアの勝利は確実。だったのだが……、

「必殺ッ、夢想天生!!」

テーレッテーテーレッテー!! ジュキ-ン!!

「……ああッ!?」

追い詰められていたいた筈のニャルラトホテプが、一転して凶悪な笑みを浮かべたかと思うと、
受け身すらとれない無防備な状態だった紅白巫女が何故か戦闘体勢――それも超必殺技が完全発動した状態で、
クトゥグアの魔法使いを粉砕!玉砕!大喝采!していた。

「やりぃ、勝った!勝ちましたよ、真尋さん!」

「……うぅっ、くすん、ズルい……ロイヤルフレアは発動成功したら無敵の筈なのに……。 ニャル子、絶対ズルしたでしょ?」


「ふっふっふ、ニャルラトホテプ星人のクロックアップをもってすれば、超必殺のコマンド入力など朝飯前どころか前夜の夕食前なのですよ!」

「完璧にイカサマじゃねーか」

堂々とイカサマ宣言するニャルラトホテプに八坂真尋はこめかみを押さえながらため息をついた。
たかが格闘ゲームで負けそうになったくらいで、リアルチート使わないで貰いたい。

「……少年、これは格闘ゲームじゃなくて弾幕アクションゲーム」

「うん、いきなり人の思考を読むのは止めような」

「それにしても流石地球ですね。商業ではなく同人でこのクオリティなんですから」

ニャルラトホテプたちがプレイしていたのは『東方project』の番外作、『東方非想天則』だ。
弾幕ゲーと言うstgから始まったこのシリーズは、格ゲー、書籍と幅広い展開を見せ、同人界隈の最大手に上り詰めた人気作だった。
その盛り上がりは多数の二次創作を生むに至り、ネット上のイラストサイトや動画サイトではほぼ必ず見掛けるジャンルになっている。

「ここまで来ると殆どプロが作ってるようなモノだからな。 出来が凄いのは当たり前だろ」

「ゲームの出来もそうですが、このシリーズは背景設定の作り方が上手いです。
脳内補完の余地を残して、創作欲やら妄想欲やら肉欲やらを掻き立てる構成は流石としか言えません」

「おい、変な欲まで掻き立ててるぞ」

「何を仰いますか真尋さん!肉欲は子孫を残し、繁栄する上でもっとも重要な欲求ですよ!
 さあ真尋さん、私たちの更なる繁栄のために私に真尋さんのあつ~い肉欲をぶつけアッガイ!?」


「ふざけるのも大概にしないと今度はフォークで弾幕ゲーをすることになるぞ」

「スイマセン調子乗ってました。お願いですから勘弁して下さい」

脳天への踵落としと三叉の最終兵器でニャルラトホテプを黙らせるとクトゥグアが口を開く。

「……とは言えこのシリーズが良く出来ているのは事実。 地球上の神話や伝承、俗説をうまく織り込んでいる」

話を戻すクトゥグアの言葉に真尋たちは画面に目線を戻す。
『東方project』は妖怪として世間一般に広まっている存在を少女化したキャラクターとして登場させるシリーズだ。
妖怪と言うと、とこぞの漫画家が描いたおどろおどろしい姿が浸透していただけに色々な意味で挑戦的だ。
もっとも、妖怪以上のおぞましい存在が今まさに真尋の隣と背後に居るのだが……。

「そう言えば真尋くんのお母さんはアルバイトで実際に妖怪狩りをしてたんだよね?」

「そうらしいな」

今までシャンタッ君とじゃれつつ観戦に徹していたハスターの言葉に真尋は目を逸らしながら頷いた。
ニャルラトホテプらのイザコザに巻き込まれる最中判明した驚くべき母親の裏の姿の話だったからだ。

「我々惑星保護機構では未確認ですけどね。
 とは言え、真尋さんのお母様も交戦経験があると言うことはこのシリーズのような話も完全な絵空事ではないのかもしれませんね」

「おいやめろ、フラグだぞその言葉は」

唸り声をあげるニャルラトホテプに真尋はすかさず釘をさした。
真尋の手は周囲の宇宙の邪神たちで手一杯なのである。
妖怪の存在自体は大分前に母親が立てたフラグだが、埋まっているモノを掘り返すような真似はやめて貰いたかった。


「ですが世界観の構築といい造形といい、実際に見てきたとしか……、おっと、電話ですね」

「……わたしにも来た」

部屋に流れ出したのはさっきまでプレイしていたゲーム音楽を元にした着うただった。
とは言えある種の美しさを感じる原曲と違って、san値をごっそり削りそうな毒電波としか思えないような歌だったのだが……。

只でさえカオスな電波ソングが二曲同時に流れたせいで余計おかしな事になっていた。
このまま延々と続ければ一種の拷問になるかもしれない。
相変わらず二人に同時に電話を掛け、指示を下す課長とやらがどうなっているのか理解できないが、深く考えるだけ無駄なので真尋は考えるのを止めた。

「もしもし課長?今日は一体なんの……えっ? あっ、はい……はい……、分かりました調べます」

「……うん……うん……、分かった。今すぐ行く」

「なんだ?また密入星か何かか?」

ニャルラトホテプとクトゥグアの電話が同時に鳴るのは業務連絡(と言う名の厄介事)の時だけだ。
また妙な宇宙からの招かれざる客でも来たのか、そう真尋は思っていたのだが……。

「いえ、直接的な密入星ではないみたいです。幻夢境で未知の不正アクセスが確認されたとか……」

「幻夢境で?」

幻夢境は地球を精神面から防衛する為に作られた惑星保護機構管理下の精神世界の砦だ。
ニャルラトホテプたちと出会ってから真尋も何度か、幻夢境をめぐるイザコザに巻き込まれた事がある。

幻夢境の防衛システムはイザコザの発端となった事件で壊してしまい、ニャルラトホテプらは防衛システム再建の間、幻夢境の護衛も任されているのだ。


「……確認されたのは数分間。ただ、不正アクセスしてきた相手が惑星保護機構側で確認していない未知のモノだった」

「特定出来なかった、って事か……」

「そんなわけで現地調査してこい、とのことです。 と言う訳で真尋さん私と一緒に……」

「一緒に来い、って言うんだろ?分かってるよ、行けば良いんだろ?」

「なっ!?真尋さんが私の言わんとした事を察したどころか素直に了承した!?
 まさかこの真尋さんは質量のある残像で本物は既に別の場所に……!」

「行かなくて良いならそれでも僕は構わないぞ」

「あーすいませんすいません、謝りますからついて来て下さい」

「はぁ……」

すがり付いてくるニャルラトホテプに適当に相槌をうちながら、真尋は自分も随分と骨抜きにされてるなと、嘆息せずにはいられなかった。













「で、ニャル子、ここは一体何処なんだ?」

「…………あれ?」

数分後、いつものように幻夢境に向かうために銀の鍵でもって精神世界へ旅立った真尋たちは……、




何故か見知らぬ森の中に居た。


――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――

状況整理。
幻夢境へ不正アクセスの調査に向かった筈が、気が付いたら森の中に居た。
しかも真尋とニャルラトホテプの二人だけで。
ここから導きだされる答えは……?

「おいニャル子、クー子やハス太たちも居ないぞ。 お前まさか、仕事にかこつけて僕だけ変な所に連れてきたんじゃないだろうな?」

「いくら私でもそんな真似はしませんよ! 真尋さんは私をなんだと思ってるんです!?」

「利用出来るものなら何でも利用するニャルラトホテプだろ?」

「うっ……、なまら事実なだけに言い返せませんね……」

真尋が言うとニャルラトホテプはばつが悪そうに目線を逸らした。
素直なのは良いが、流石にこういう時くらいは否定して欲しい。

「で、ここは何処なんだ?幻夢境じゃあないんだよな?」

「それは間違いないです。次にここが何処なのか、ですが、私のiaiaphoneが何故か圏外なので特定は出来ません」

「圏外って妨害電波か何かか?」

ニャルラトホテプたちは不正アクセス事件を調べに来たのだ。
イアフォンの通話が人為的に妨害されているのであれば事件の犯人よる仕業の可能性が高い。


「いえ、そうではなく純粋に電波が来ていないようです。宇宙連盟や惑星保護機構が把握してない場所なのかもしれません」

「アト子の時の地下空洞みたいな場所、って事か?」

真尋が少し前の事件を思い返しながら呟くと、ニャルラトホテプは小さく頷いた。
あんな特異空間はそうそう地球上には無いだろうと思っていたが、どうやら違ったらしい。
それにしても地下空洞の時ですら一応電波は来ていたのにそれすら無いとは、一体地球上にはどれだけ未知の空間があるのだろうか?

「なんにしても気は抜けない、って事か……」

「そうですね。ん?真尋さん、静かに!」

「今度はどうした」

「今、私の邪神レーダーに妙な反応が……」

「久々に聞いたな、その設定……」

何故か時と場合に応じて性能が乱高下するニャルラトホテプのアホ毛を見ながら、真尋は小さくため息をついた。
前に見たときはどこぞの妖怪少年のようにピンと伸びていた気がするが、今日はやけに荒ぶっている。
そう言う意味では妙、なのかもしれない。


「むむむ、これは……、見切った!そこですッ!!」

「残念、残像です!」

「なん……だと?」

ニャルラトホテプが背後の茂みに名状しがたいバールのようなものを投擲するのと、反対側の茂みから碧髪の少女が飛び出てきたのは同時だった。
気づいた時には、碧髪の少女はニャルラトホテプに棒のようなものを突き付けていた。

「……巫女さん?」

突如現れた少女の姿はまさにそれだった。
良く見掛ける紅と白ではなく蒼と白の装束だったが、和風な出で立ちは巫女さんのソレを連想させた。
良く見ると少女が持っている棒は先っぽに和紙のヒラヒラがついた神社なんかで使われる御幣だ。

いきなり襲撃される形になったニャルラトホテプが少女に向かって吠える。

「なんなんですか貴方は!?いきなり人にこんなモノを突き付けて!私になにか怨みでもあるんですか!?」

「あっ、すいません、なんか邪悪な気配がしたので、てっきり妖怪か何かかと思いまして……」

「うん、間違ってないぞ」

「真尋さんはどっちの味方なんですか!?」

ニャルラトホテプのツッコミを無視して、真尋は改めて飛び出てきた少女を見た。
最初に目についた碧色の髪は腰まで延びたロングヘアーで、服は蒼と白の巫女装束。
良く見ると腋の部分は全開でそこだけが異彩を放っていた。


「ん? 貴方は……」

「どうしたニャル子、知り合いか?」

「いえ、そうじゃないんですが、私、この人に見覚えが……」

「見覚えがあるのに知り合いじゃないのか?」

「真尋さんも覚えてません? ほら、さっきまで私たちがプレイしていたゲームの……」

「ゲームって『東方』の? ああ……」

言いかけて真尋は思い出した。
目の前の少女の格好はゲームに出てきたキャラクターの一人、『東風谷早苗』と瓜二つだったのだ。
『東方project』シリーズに出てくる二人目の巫女キャラで、『東方非想天則』のストーリーシナリオでは自機キャラにもなっている。

「いや、その理屈はおかしい。もっと常識的に考えろ、コスプレか何かじゃないのか?」

『東方project』は同人界隈では大人気のジャンルだ。
キャラクターのコスプレ人口もそこそこ多いのではなかろうか。

「それにしては私の邪神レーダーに反応したり、私に一撃かましてきたり、不可解な事が多すぎます。
 貴方、一体何者なんです?今すぐ正直に、洗いざらい答えなさい、さもなくば無理矢理話して貰いますよ!!」

「なんで会って間もない人に問い詰められてるんだろう……。えっと、まずは私の名前ですけど……」

苦笑しながらも少女はニャルラトホテプの問いに答える。
当たって欲しくない答えを裏付ける、決定的な答えを……。








「東風谷早苗、って言います。この近くの守矢神社で風祝などしています」






――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――

「じゃあなんですか、あの同人ゲーの『東方project』シリーズは実際にあった事で、ここがその舞台の幻想郷だと?」

話を一通り聞き終えるなり、ニャルラトホテプが胡散臭そうな視線を早苗に向けた。
大人気同人ゲームの世界がこの世に実在する。
少女の言ったことを端的に纏めるとそうなってしまうのだ。

「はい、幻想郷に迷い込んだ上海アリス幻樂団のzunさんが、私たちから聞いた話を、
 シューティングゲームや同人誌と言うかたちで纏めたのが、『東方project』シリーズだと私は聞いてます」

「じゃああのゲームに登場する妖怪たちも?」

「もちろん実在しますよ。zunさんは幻想入りしやすい体質なんでしょうね。先日も来てましたし……」

「実在する異世界の話を創作物として世に出すなんてそんな世迷い言みたいな話、一体誰が信用すると……」

「似たような話を僕は最近お前から聞いたような気がするんだが?」

「♪~~♪~~」

真尋が睨み付けるとニャルラトホテプは露骨に目を逸らした。
確かこの宇宙から来た邪神どももラヴクラフト氏ほか多数の人間に接触し、自らの事を小説にして貰っていたような気がする。
それにしても毎度思うが、吹けもしない口笛で誤魔化すのは邪神たちの共通スキルなのだろうか?


「で、貴方たちは外の世界から来た人間の八坂真尋さんと、ニャルラトホテプ星人のニャル子さん、なんですね?」

「クトゥルーって宇宙人だったんだ、すご~い」と言いつつ目をキラキラと輝かせる早苗。
ゲーム中でも結構フリーダムなキャラだったが、どうやらその辺りは本人に準じているらしい。

「いずれにしても『東方』を知っているなら話は早いです。真尋さんやニャル子さんは『幻想入り』してしまったようですね」

「幻想入り?」

「『東方』の用語で、作中の舞台である異世界・幻想郷に現実世界の人やモノが入り込んでしまう事ですよ。真尋さん」

「詳しいな、おい」

「『東方』の関連用語は我々の間では一般常識ですからね」

「そんな“一般”があって堪るかッ!!」

同人界隈とかネット界隈とかそう言うディープな界隈での常識なのだろう。
そう言うのは通常、常識とは言わないのだが……。

「真尋さん、この世界では常識に囚われてはいけないのですよ!」

「その意見には同意せざるを得ませんね!」

「最低限の良識ぐらいには囚われろよ!と言うかそっちもさも当たり前と言わんばかりのドヤ顔で頷くなああああぁぁぁっ!!」


全力で真尋がつっこむが、ニャルラトホテプと早苗はそれを華麗にスルーした。
二人は真正面から向かい合うと、どちらともなく手を取り、ガッチリと掴む。

「なんでしょう、なんだか私、ニャル子さんとは上手くやっていけそうな気がします!」

「奇遇ですね、私も早苗さんとは気が合いそうです」


「…………どうしてこうなったェ……」


意気投合する二人の少女を尻目に、真尋は今回もろくな結果にならない事を早くも確信したのであった。




――――――――――――――――――――――――――――――――

以上、書き溜めといた導入部投下終了

それでは、ネタとかお手伝いとか代理の書き手とか、色々お待ちしております。

――――――――――――――――――――――――――――――――

「どうぞ居間で寛いでいて下さい。お茶を持ってきますので」

「いや、そんなお客じゃないんだし、お構い無く……」

とりあえずいつまでも外で立ち話を続ける訳にはいかないので、真尋たちは早苗の住む守矢神社にやって来ていた。
早苗は神社の奥にある住居スペースに真尋とニャルラトホテプを案内すると、一言そう告げて台所へと向かおうとする。
型通りのお客様対応に、真尋も型通りの返答をしようとしたのだが、空気を読めない一名がそれを見事にぶち壊した。

「いや~、すいませんね早苗さん! それじゃお言葉に甘えて……よっこいしょーいち」

「お前は少し遠慮しろよ!つーかネタ古ッ!いつの時代のネタだよ!オイッ!?」

遠慮の『え』の字すら感じさせない、さも当然と言う態度でちゃぶ台の脇に腰を下ろしたニャルラトホテプに真尋は猛然とツッコミを入れる。
話を聞く限りここは異世界で、ここでは邪神とは言え完全にアウェーな筈なのに、見事なまでの通常営業っぷりだ。

「ンモー、そんなこと言いつつ真尋さんもしっかりつっこんでるじゃないですか~」

「お前がやらせてるんだろ?お、ま、え、が!!」

「お二人とも随分と楽しそうですね。クトゥルーの方たちってみんなこんな感じなのですか?」

急須や茶葉を載せたお盆を手に戻ってきた早苗が、二人のやり取りを見て苦笑する。
騒いでいる間にすべて終わってしまったようだ。


「いや、コイツが飛び抜けて異常なだけ……でもないな、案外……」

真尋は早苗の問いを否定しようとして、出来なかった。
クトゥグアはニャルラトホテプに負けず劣らずのおバカさんだし、比較的まともとは言えハスターもツッコミ所がない訳ではない。
地球で事件を起こしてきた他の邪神も然りだ。

「どうかしましたか?八坂さん。顔が真っ青ですよ?」

「いや、一人が突出して酷いせいで、いつの間にか善悪の基準がゲシュタルト崩壊してたんだな~、と……」

「真尋さんの常識も壊されてしまった!おのれディケイド!」

「壊したのは他でもないお前だからな?」

「……そう言えば、守矢神社と言えば他のお二方が見えませんね。 八坂神奈子さんと洩矢諏訪子さんは何処に?」

真尋のツッコミをやはり華麗にスルーしながら、ニャルラトホテプは早苗に問い掛けた。
言われてみれば確かにこの神社の主である筈の二柱の姿が見当たらない。
『東方project』の内容通りなら同じ神社にいる筈なのだ。

「ああ、神奈子さまたちでしたら今、ちょっと留守なんですよ」

「おやおや、お出掛けですか?」


「はい、今年は出雲大社とお伊勢さまの式年遷宮なので、その集まりに……」

「そこら辺、キチンと日本の神様なんだな……。
 あれ?そう言えば出雲大社と伊勢神宮の式年遷宮って2013年だよな?今年って2013年だったっけ?」

「…………」

「…………」

「集まりがあるんじゃ仕方ありませんね」

「ええ、本当に残念です。神奈子さまたちも交えてクトゥルー談義などしたかったのですが……」

「…………」

これはアレか、例によって例のごとく追求してはいけない場面なのか。
妙な間と、その後の無理のあるハイテンションっぷりがやけに気になったが、無駄にsan値を削るのも馬鹿馬鹿しいので見なかった事にする。

「それにしてもなんでいきなり幻想郷に迷い込んでしまったんですかね~? 私たちは幻夢境に向かっていた筈なんですけど……」

「なんで、ってその原因が幻想郷にあるから、じゃないのか?」

「ほほぅ、して真尋さん、その根拠は?」

「お前らと行動しててフラグにならなかったイベント事が一度としてあったか?」

「ですよねー」


真尋は数年間は軽く過ぎてるんじゃないかと思えるほど濃厚な日々をさらっと振り返る。
思い返すと、どの事件も狙い澄ましたかのように話の筋が通っている。

そして毎度毎度、変な所に伏線が仕込まれているのだ。
それも重要そうな会話ではないどーでもいい場所に。

「えーと、ニャル子さんたちは幻夢境?って言う精神世界への不正アクセスについて調べてたんですよね?」

「そうですが……、もしや早苗さん、何か心当りが!?」

「その事件に幻想郷が関わっている前提での話ですけど……」

そう答える早苗はやや歯切れが悪かった。
言いにくい事なのか、しばらく困ったような表情を浮かべていたが、やがて意を決したのか、ポツリとある名前を挙げる。



「もしかしたら、ですけど、それは『八雲紫』さんの仕業かもしれません」



その名前にニャルラトホテプだけでなく、真尋もピクリと反応した。
さわり程度の知識しか持っていない真尋でも知っている『東方』のキーパーソン的存在だ。


「それは妖怪の大賢者にして神隠しの首謀者だと言う、あの?」

「その八雲紫さんです」

「胡散臭かったり、式神扱いが酷いなどと噂される、あの?」

「その八雲紫さんです」

「ある所では少女臭だのbbaだの噂サミラスッ!!?」

「その八雲紫さんでマゼランッ!?」

「やめろ、それ以上いけない」

何故か猛烈に嫌な予感がした真尋はニャルラトホテプと早苗の口に湯呑みを押し込む。
押し込んでから湯呑みにお茶が入ったままだった事に気付いたが、もう遅い。
ニャルラトホテプなら問題ないだろうが、早苗は人間なのだ、確実に口の中を火傷しただろう。

「ごくごく……ぷはぁっ! あー、ビックリしたぁ~」

「あれ?大丈夫なの?」

「奇跡的にお茶が冷めてました!」

「あっそ……」

どうやら無用な心配だったようだ。
彼女の能力は『奇跡を起こす程度の能力』だそうだが、しょーもないところで発揮されたらしい。


「ま、まふぃろさぁん、わらしはらいじょうふじゃなひんですけど……」

「体温が90度越えるヤツが80度くらいのお茶でつべこべ言うな」

「ひ、ひろいれすよまふぃろさぁ~ん」

逆にニャルラトホテプの方がダメだったらしく、大ダメージを受けていた。
最終兵器のフォークといい、邪神たちのダメージ計算はどうなっているのか、いまいち疑問だ。

「えーと、とりあえず話を続けても良いですか?」

「あっ、ごめん、お願い」

真尋が先を促すと早苗は気をとりなおすように咳払いをした。
それから「あくまで私の憶測ですが」と前置きした上で話し始めた。

「私たちの幻想郷も似たようなモノかもしれませんが、私はその幻夢境と言う精神世界をひとつ上の次元だと解釈しました。
 そんな世界に介入するとなると、それ相応の実力者でなければ不可能です。
 幻想郷には吸血鬼や冥界を統べる亡霊など多数の実力者が居ます。が、他次元にまで影響を及ぼせる人物となると……」

「『境界操作』の能力を持つ八雲紫がもっとも怪しい、と……」

「それに、紫さんが犯人ならニャル子さんたちが幻想郷に来てしまったのも頷けます。 滅多にない『幻想入り』も紫さんなら思うがままですからね」

「なるほど、一理ありますね……」

いつの間にか復活していたニャルラトホテプが口元に手をやりながら考え込む。
キャラクターとして『八雲紫』と言う人物を知っているだけに早苗の話にはやけに説得力があった。


「まあ、幻想郷に来てしまった時点でどっちにしても八雲紫には会わないとですしね」

「ニャル子?」

「『東方』の八雲紫と言えばこの幻想郷を結界で覆い、その管理もしている、妖怪の元締め的存在です。
 そして、真尋さんが先程考えていた通り、今回の私たちはアウェーです。つまり……」

「……元の世界に帰るにしても会わないといけない、って事か?」

さり気なく思考を読まれた気もするが、敢えて言葉を飲み込む。
代わりに確認するように尋ねると、話を聞いていた早苗が大きく頷いた。

「そうなりますね。もっとも、紫さんは神出鬼没なので何処に居るのかは私も皆目見当もつきませんが……」

「つまり、幻想郷をしらみつぶしに探すしかない、と……」

早苗の言わんとしてる事を察した真尋は思わずため息をついた。
作中で舞台になっただけでも、幻想郷には巨大な山や案内人無しでは抜け出せない竹林など、厄介なダンジョンが点在している。
飛行手段でもあるシャンタッ君すら居ない今、それらを回るだけで骨が折れそうだ。

「ちょっと待って下さい真尋さん、何かお忘れじゃありませんか?」

「こんな時に何の話だ?ニャル子?」

「ネフレン=カーですよ!ネフレン=カー! 私の愛車を使えばこの程度の規模なら小一時間で済みますよ!」

「そう言えばあったな、そんなのも……」


「すっかり忘れてた」と真尋が言うと、ニャルラトホテプは誇らしげに胸を張る。
胸をやたら強調するだけでは止まらず、そのまま身体ごと胸を押し付けて来ようとしたので、
フォークでアホ毛を壁に縫い付けてそれ以上飛び掛かれないようにした。

「んー、ネフレン=カーねぇ……」

ネフレン=カーは水陸両用(ただし空だけはダメ)の超高性能特殊車輌(at車)だ。
が、免許がとれた事自体が奇跡的、なニャルラトホテプが運転すると言う時点で真尋の乗車意欲はマイナスに振りきれていた。
それだけろくな目に遭ってないと言う証である。

「ニャル子、あの車だけは止めにしないか?」

「何を仰います真尋さん!邪神(ぜん)は急げと言いますし、私と心行くまで幻想郷ドライブと洒落こみましょうよ! 八雲紫の捜索も兼ねて、ね?」

「そっちがついでかよ!つーかお前はいい加減自分の欲望を隠す素振りを覚えろ!!」

「あっ、因みに言っておきますけどニャル子さん、幻想郷には乗用車の使用に耐える道路はありませんからね?」

最高潮に達したニャルラトホテプのテンションだが、次の瞬間、早苗の手により思わぬ冷水がぶっかけられた。

「…………マジですか?」

「大マジです」


「さてニャル子、地道に足で探すとするか」

「そんなぁ~」

真尋が肩を優しく叩くと、フォークの拘束を振り切って荒ぶっていたアホ毛が一瞬にして萎え、
ニャルラトホテプはその場にしゃがみこんで「乃」の字を書き始める。

「そう言えば東風谷さん、少し調達したいものがあるんだけど買い物が出来る場所とかない?」

「早苗で良いですよ、八坂さん。
 買い物ですか?買い物でしたら人里に行けばある程度でしたら売ってると思いますよ?案内しましょうか?」

「えっ?良いの?」

「乗り掛かった船ですし、私も留守番で暇ですからね。お二人についていきます!」

留守番が神社を留守にするのは如何なものかと思ったが、ニャルラトホテプと二人で異世界探索をするリスクを考え、真尋は敢えてなにも言わないでおいた。





――――――――――――――――――――――――――――――――

と言う訳で行動開始です。
次回から道中戦に入りますよ~。

――――――――――――――――――――――――――――――――

「早苗、そっちの二人は食べても良い人間?」

金髪に赤いリボンが特徴的な少女が問い掛けてくる。
見た目といい、両手を広げたポーズといい、この少女の特徴は見事にある妖怪と一致していた。

「開幕早々出ルーミアですか。まさしく定番!って感じですね!」

「何処の定番だ、何処の……」

「とにかく戦闘開始ですね! 真尋さん、ここは私に任せて下さアサプラスッ!?」

嬉々として前に出ようとするニャルラトホテプに真尋は問答無用で釘ならぬフォークをぶっ刺す。
ニャルラトホテプが一時的に行動不能になったのを確認してから、真尋は続いて早苗の肩を叩いた。

「早苗、頼む」

「えっ?良いんですか? ニャル子さんは……?」

「コイツに任せると絶対ろくな事にならないから良いんだよ。頼む……」

察してくれ、と真尋が目線で訴えると、何となく言いたい事が伝わったのか、早苗は少し戸惑いつつもしっかりと頷いた。

「分かりました。それでは時間もないので……」






「最初からクライマックスです!!」





「えっ?」


ザッ!
早苗は大きく跳躍すると、持っていた御幣を大上段に構えた。
そのままルーミアの頭上に回り込んだ早苗は……、そこで御幣を振り下ろしルーミアを頭から一刀両断にした。

「必殺! 開海『モーゼの奇跡』ッ!!」

ザッパーン!!
ルーミアを一刀両断にした直後、何故か勢いよく水飛沫が吹き上がった。
水飛沫は激しく、真尋やニャルラトホテプの顔や服を瞬く間に濡らしていく。

「…………」

試しに目の前に飛んできた飛沫の臭いを嗅いでみた。
臭いはなく、色も無色透明で滑りけなども無い。どうやら本物の水のようだ。
だがしかし、今のビジュアルはどう見ても……、

「早苗、まさかこれって血しぶ……」

「水です!混じりっけの無い純水です!」

「いや、誤魔化してるけど、これどう見ても血だ……」

「水って言ったら水なんです!」

「…………」


水と言い張る早苗に絶句していると、真尋の肩を優しく叩く手があった。
振り返ると、ニャルラトホテプがやたら良い笑顔でサムズアップしていた。

「真尋さん、お忘れかもしれませんので一応言っておきますが、早苗さんはああ見えて洩矢諏訪子(ミシャグジさま)の直系の方です。
 元は違えど私たちと同じ邪神、それも最凶クラスの祟り神ですからね。あんまり直視しない方が良いと思いますよ」

「そー言うことは早く言ってくれ、早く……」

早苗の参戦は渡りに船だと思っていたが、どうやらその船は泥舟だったらしい。
真尋は自身の浅はかさを呪いながらガックリと肩を落とす事しか出来なかった。




――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――

常識に囚われない早苗の言動にsan値をガリガリ削られつつ、真尋たちはどうにか山を下りる事に成功した。
早苗の暴走は想定外だったが、山の支配者たる天狗に見付からなかったのは不幸中の幸いと言えるのかもしれない。

そんなこんなで山を抜け、人里までもう一息と言う気が抜け掛けたタイミングで、それはやって来た。


「む、私の邪神レーダーに反応が……、二つ……いえ、三つありますね」

「これはまた団体さんですね。私がまた逝きましょうか?」

「いや、逝かなくて良いから」

目を輝かせて名乗り出た早苗を真尋は一言で斬って捨てる。
妖怪退治大好き外道巫女の出番は精神衛生の面でもご法度にして頂きたい。

「と言う事は今度こそ私の出番ですね!」

「因みに聞くが、一体何をする気だ?」

「私の宇宙cqc『冒涜的な手榴弾』でもって、相手を一網打尽に……!」

「よし、僕が行ってくる」

「ちょっ、八坂さん!?」


皆まで聞かずとも、自身の行動が無駄だったと悟った真尋は一人前に出る。
早苗が慌てて止めに入るが、それすら無視して更に前進。
歩を進めるのと同時に真尋は自身の感覚を極限まで研ぎ澄ましていく。そして……、

「聞いて驚け!見て笑え!我ら閻魔さま一の子ぶ……」

「閻魔の使いの唐笠がいて堪るか!」

3時方向から飛び出てきた唐笠お化けに、右手に持っていた三叉の銀器を容赦なく投擲。
――全弾命中。

「ギニャアアア!?」

フォークの直撃を受けた唐笠お化けが断末魔の悲鳴を上げながら地に墜ちる。
と今度は鳥とも蝙蝠ともつかない羽を生やした少女が左手方向から飛び出てきた。

「そこの人間!私の歌を聞けえええぇぇぇぇッ!!」

「…………」

ズババッ!!
目線を向けるより早く、今度は左手に持ったフォークを投擲。
やはり全弾命中。
出てきて一秒とたたぬ間に夜雀は木に磔にされた。


「ば、バカなぁ!たかが人間風情相手にこのミスティアさまが手も足も出ないなど、そんなバカな事が……」

「あるからいい加減黙ってろ」

ごすっ。
脳天に手刀を落として真尋は夜雀を黙らせる。

二体の妖怪を下したところで真尋はふぅと大きくため息をついた。
汗を拭おうと、真尋はポケットに手を伸ばし……、次の瞬間、自身の背後にフォークを突き刺した。

「⑨め!掛かったな人間!小傘とミスティアは囮……、って、ギャアアアァァァァッ!!?」

台詞を言うより早くフォークの洗礼をくらったワンピースの少女が地を転がる。
振り返って見ると、バカとか⑨とか散々言われまくっている氷の妖精が、刺された眉間を押さえながら悶絶していた。
今度こそハンカチで汗を拭っていると、今まで静観していたニャルラトホテプが非難がましい目線を向けてくる。

「いくらなんでもやりすぎじゃありませんかね? ぱっと見たら今の真尋さん、連続幼女虐待犯ですよ?」

「その幼女を手榴弾で一網打尽にしようとしてたのは何処の誰だ?」

「あははは、嫌ですね~。『東方』にボムは付き物じゃないですか~」

真尋が言うとニャルラトホテプは露骨に視線を逸らした。
妖怪と妖精の混成部隊が潜んでいることをいち早く察知し、『冒涜的な手榴弾』でマップごと破壊の暴挙に出ようとしたのは、僅か数十秒前の話だった筈だ。


「……ニャル子さん、ニャル子さん」

「なんですか、早苗さん?」

「このフォークって普通のフォークですよね?なんで八坂さんが使うと退魔属性が付与されるんです?」

唐笠お化けに刺さっていたフォークをしげしげと観察しながら、早苗はニャルラトホテプに耳打ちする。
次々と妖怪を屠る真尋のフォークに、何か仕込みでもしてあるのかと早苗は思ったのだが、
神の力を持つ早苗が視ても、フォークに特殊な仕込みがしてあるようには見えない。

「その謎が分かったら宇宙ノーベル賞も夢じゃないと思います」

寧ろその疑問はニャルラトホテプの方が教えて貰いたいくらいだった。
八坂母子のフォークだけは何をやっても装甲を貫通するチート兵器なのだ。

「うぅぅ~、今日は調子が良いから行けると思ったのに~」

真尋に撃墜された妖怪三体のうち、早くも復活した氷精チルノが舌打ちしながら起き上がる。
自然の化身とされるだけに回復も早いようだ。

「調子が良い、って今日は早くも一勝負してきたんですか?」

「勝負にならないほどあたいのかんぷー勝ちだったけどね!
 赤くてメラメラ燃えてたし、見ない顔だったからどんだけ強いのかと思ったけど、あたいの敵じゃなかったよ!」


早苗の問い掛けにチルノが胸を張りながら答える。
ニャルラトホテプのように邪な感情の無い胸の張り方に謎の安心感を覚えつつ、真尋は何か引っ掛かるような、妙な違和感を今の言葉に感じていた。

「赤くてメラメラ燃えてた……?」

「見ない顔……?」

「それって……」

「まさか……」

違和感を感じたのは真尋だけではなかったらしい。
見るとニャルラトホテプも何とも言い難い微妙な表情を浮かべていた。
どうやら真尋と同じ事を考えているらしい。

二人の異変に気付いたのか、早苗が訝しげな表情で問い掛けてくる。

「八坂さん、ニャル子さん、なんかもの凄く形容しがたい表情をされてますが、何かありました?」

『く……、く……』

「九九?」






『クー子の事かああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!?』






真尋とニャルラトホテプの予感は絶叫に近い怒号となって妖怪の山の麓に響き渡ったのであった。




――――――――――――――――――――――――――――――――

投下終了
次回からあのキャラが登場します。
そのため投下のペースが少々落ちると思います。
あしからず。

さーて、原作のクー子パートを読み返す作業が始まるお!

――――――――――――――――――――――――――――――――

「ここだよ、あたいが今朝メラメラを倒したのは!」

チルノに案内され、件の交戦現場とやらに行ってみると、そこには完全に氷漬けになったクトゥグアの姿があった。

「いや、その理屈はおかしい」

クトゥグアは『生きている炎』と揶揄される炎の神性だ。
少しでも興奮すれば周囲の気温は真夏日になり、怒り出そうものならガラスはおろか壁すら溶かし尽くすのだ。
そんな歩く危険物第五類、脳味噌固形燃料のクトゥグアが、高々マイナス数百度程度の氷でどうにかなるとはとうてい思えない。

「なあニャル子、一体どうなってるんだ?なんでクー子がこうもあっさり氷漬けにされてるんだ?」

「私に聞かないで下さいよ。直接本人に聞いたらどうです?」

そう言うとニャルラトホテプは『名状しがたいバールのようなもの』でクトゥグア入りの氷像をかち割る。
元々溶け出していたのか、氷はあっさりと真っ二つに割れ、細かい破片と共に中からクトゥグアが掘り出された。

「…………」

氷から発掘されたクトゥグアは、まるで産まれたばかりの雛鳥のように何度か瞬きすると、辺りをキョロキョロと見回し始めた。
どうやら何が起きていたのか理解出来ていないらしい。


「おいクー子、大丈夫か?」

「まったく、アンタはこんな所で何やってるんですか?クトゥグアにあるまじき失態としてネットに無いこと無いことうpしまくりますよ?」

「100%デマじゃねーか」

「……ニャル子? それに少年?」

おずおずと言った雰囲気でクトゥグアが真尋とニャルラトホテプを交互に見始める。
いつになく不可解な行動に流石の真尋も違和感を覚える。

「ん?クー子、本当に大丈夫か?何か様子がおかし……」


「…………もうプレイは終わりなの?」


『はい?』

思わぬ言葉に真尋とニャルラトホテプは同時に声を上げていた。
クトゥグアは頬を赤らめ、熱っぽい表情で身体をくねらせ始める。


「……ここに来たとき、ニャル子も少年も居なかった。
 けど、一緒に移動したのだから違う場所に出ることはあり得ない。
 だからわたしはニャル子たちを待つことにした」

「…………」

「……わたしは待った。 待って、待って、待ち続けた。 そしてある時、わたしは気が付いた」

『?』

「……これはニャル子と少年による新手の放置プレイだと!」

「ちょっと待てよオイ」

見事な論理の飛躍だった。
相変わらず飛躍しすぎて斜め上どころか、斜め下に全力で突き抜けていたが。

「だあぁぁぁっ!!どぉぉしてそーアンタは何時でも何処でも頭ん中まっピンクなんですか!?
 万年発情期のケモノですか!? 学習能力ってもんは無いんですか!?」

「よーし、よく言ったぞニャル子。今の台詞、録音しといたからよーく覚えておけよ?」

あらん限りの怒号でクトゥグアに捲し立てるニャルラトホテプに真尋はここぞと言わんばかりに言質をとる。
クトゥグアに並ぶ万年発情期邪神がここに居ることを、真尋は忘れていなかった。


「それで? それとここで氷漬けになっていたのと、どう関係があるんです?」

意外にも話を進めたのは早苗だった。
邪神どもの通常営業過ぎる異常な会話は一般人にはきつい筈だが、しっかりついて来たようだ。
幻想郷の人間はスルー力が凄いのか、それとも早苗が異常なだけか。
前者であって欲しいが、どうせ後者なんだろうなと真尋は勝手に判断した。

「……放置プレイだと分かった途端、身体の奥がジュンっと熱くなった。凄く興奮した。
 身体が熱くなるたびに興奮して、興奮すると更に身体が熱くなった。わたしは火照りを抑える事が出来なかった」

思い出しただけで興奮したのか、クトゥグアが恍惚とした表情を浮かべる。
心なしか、周囲の気温も上がったようだ。

「変態ですね。 変態がここに居ますよ!真尋さん!」

「ちょっと黙ってろ」

「失礼致しましたぁ!」

フォークをチラつかせて、ニャルラトホテプを黙らせる。
話を進めるために敢えてクトゥグアを暴走させているのに、話の腰を折らないで貰いたい。

そのクトゥグアだが、真尋のフォークすら目に入らないほど没頭していたようで、身体をくねらせながら話を続けている。

「……そして、身体の火照りが最高潮に達した時……、わたしは一気に涼しくなったような気がした。
 火照りが一気に消えて、頭が冷やされる感覚を覚えた。 これが噂に聞く『賢者タイム』なのかもしれない、そう思っていたら……」


「氷漬けにされていた、と?」

「……そう。 あれはすごく新しい感覚だった。ああ、思い出しただけで興奮してきた」

「よしクー子、黙っていいぞ」

恐らくそのタイミングでチルノが凍らせに掛かったのだろう。
絶妙なタイミングと言う言葉があるが、ここまで妙なタイミングはそうそう無い。

「つまり、クトゥグアさんが自分の世界に没頭して周りが見えていなかったので、
 『先制攻撃の チャンス!』状態になり、チルノさんが大金星をあげたと、そう言う訳なんですね?」

「よく分からないけど、あたいったらやっぱりさいきょーね!」

早苗が話を纏める脇でチルノが再び胸を張る。
言動は完全にアホの子だが、『東方project』シリーズで描かれたままのおバカさ加減なので、放置で良いだろう。
それよりも、真尋には気になる事があった。

「クー子、お前たしか冷凍技も持ってたよな?と言うか寧ろ自由自在だった記憶があるんだが?」

「……少年、乙女は複雑怪奇。いつ何が起こってもおかしくないのが女の子と言う生き物」

「それで誤魔化したつもりかお前は」

この手の誤魔化しはニャルラトホテプの十八番なのだが、どうやらクトゥグアも手を出し始めたらしい。
もっとも精神年齢三才児の脳味噌固形燃料に整合性を求める方が間違いなのかもしれないが。


「しかし参りましたね。これは厄介な事になりましたよ」

「何の話だ?」

神妙な面持ちで頭を押さえるニャルラトホテプに、真尋も気を引き締める。
ニャルラトホテプの態度から真面目な話だと察したからだ。

「最初に幻想郷(ここ)に来た時、私と真尋さんの二人しか居ませんでした。
 だから『幻想入り』に巻き込まれたのは私たち二人だけだと私は思っていたんです」

「あー、そう言うことか……」

一緒に移動する筈が守矢神社の前には真尋とニャルラトホテプの二人しか居なかった。
その時点でクトゥグアたちも巻き込まれた可能性をニャルラトホテプは切り捨てていたのだろう。
だからこそ最初から行動目標を今回の事件の首謀者と思われる『八雲紫』の捜索に絞る事が出来たのだ。

が、クトゥグアもこうして幻想郷に来ていると言う事は……。

「ハス太やシャンタッ君も幻想郷に来てる、って事だな」

「断言は出来ませんが、そう考えた方が賢明でしょうね」

ハスターやシャンタッ君の加勢は八雲紫との戦闘も考えられる現状では貴重な戦力となるだろう。
が、懸案事項が増えてしまったのは事実で、その点では厄介だと言えた。


「……話がよく見えない。 誰か三行で説明して」

「私は風祝の東風谷早苗で、こちらは氷精のチルノさん。
 ここは妖怪たちの闊歩する幻想郷で、簡単に言えば『東方』の世界。
 で、スキマ妖怪の八雲紫さんが今回も疑惑の総合商社状態なんです。
 これも何かの縁なので守矢神社を信仰してください。具体的にはお賽銭とか!」

「うん、その四行目は要らないよな。と言うか邪神相手に賽銭要求すんな」

毎度のごとく付け足される謎の四行目に真尋は間髪入れずに突っ込んだ。
余計なことを言わないと気が済まないのは邪神の専売特許じゃなかったのかと一瞬考え、すぐに早苗も似たようなものだったと思い直す。

「……オーケー、把握した。手持ち十円しかないけど、それでも良い?」

「はい、ありがとうございまーす!」

「よーし、クー子も早苗も修正してやるからまずは歯食いしばれ」

現状を理解しているとは到底思えない常識欠落娘たちに真尋は握り拳を作って見せる。
特にこの、地球圏最強のアホは「憧れの『東方』の世界に来れてラッキー」ぐらいにしか考えていないに違いない。

「気持ちは分かりますが抑えて下さい真尋さん。今はハス太君を見つける方が先決です」

「む、そ、そうだな、確かに……」


いつになく真面目なニャルラトホテプに流石の真尋も毒気を抜かれてしまう。
なんだかんだと言いつつニャルラトホテプが友達を大切にしていることは真尋自身、短い付き合いながらも分かっているが、
周囲が規格外の常識欠落娘に囲まれているせいかニャルラトホテプがマシを通り越して常識人のように見えてしまう。
これは良くない傾向だ。

「真尋さんの手をクー子の血で濡らすなど、考えただけで虫酸が走りますからね。
 あっ、私にでしたら何時でも手を出して構いませんよ。私は年中無休で営業中ですので……」

「……それじゃあお言葉に甘えて。……いただきます」

「だああぁぁぁっ!何やってるんですかアンタは!!? 私はアンタに許可を出した覚えは一切ありませんよ!?
 ああ、真尋さん、少々お待ち下さい。クー子は私が責任をもって塵も残さず抹殺しますので、後の処理は私に任せて下さい」

「うん、今の一言が無きゃ完璧だったよ……」

「はい?」

稼いだ好感度ポイントを一瞬で台無しにしたニャルラトホテプに嘆息しつつ、
これがあるからsan値をどうにか保ち続けていられる現状に、世の不条理を嘆かずにはいられない真尋だった。





――――――――――――――――――――――――――――――――

投下終了

クー子の変態性の再現難しすぎワロスw

――――――――――――――――――――――――――――――――

「さて、とりあえず僕たちはハス太やシャンタッ君たちを探さないといけない訳だが……」

八雲紫を探すため物資調達に行く筈が、いつの間にか雪だるま式に目的が増えている事に頭を押さえながら真尋は切り出した。
目的がコロコロ変わる様はお使いゲーと揶揄される某rpgのようだと一瞬思い、すぐに毎度毎度こうだったと思い直す。
今までの事件で一度たりとも無駄足を踏まず、ストレートに物事が解決した事があっただろうか?いや、無い。

とりあえず今は、ハスターたちを探す事が最優先事項なのだ。
そうなると、さしあたって問題になるのが。

「何処から探したら良いんだ?」

「何処から探せば良いんですかね?」

「……何処から探すの?ニャル子、少年?」

「…………」

「…………」

「…………」

「ちょっと待てオイ。お前ら腹案とかないの?」

「ありませんよ。流石の私も土着の結界内部の情報なんて持ち合わせていませんからね。
 さっきも言いましたが、ここでは私たちと言えど部外者であり余所者です。英語で言うとウィーアーアウェイ!」

「アウェイは敵地の意味で余所者って意味はないぞ」


真面目そうに見えるニャルラトホテプの解説を真尋は一言で斬り捨てた。
ニャルラトホテプの性格を考えるに、適当に言葉を並べたかっただけに違いない。
とにかく、邪神二人は今回頼りになりそうもない。
そうなると頼りに出来るのは地元民である幻想の住人、と言うことになるのだが。

「なるほど、つまりあたいの出番だな!」

「と言う訳ですので早苗さん、道案内をお願いします」

「あれ?」

ズイッと前に出てきたチルノを無視して早苗の手をとるニャルラトホテプ。
見事なスルーだが、どこもおかしな所はない。

「それは構いませんけど、何処から回るんです? まずはそれを決めないと私としてもどうしたら良いのか……」

「うーん、それならまずはやっぱり人里からかな? いい加減フォークの補充をした……」

「あー、そうですね!まずは近場とか良いんじゃないですかね! 近い所からしらみつぶし、これぞ捜査の基本です!」

「……わたしもニャル子に同意する」

『フォーク』の単語が出かかった途端、ニャルラトホテプとクトゥグアが示し合わせたように捲し立てる。
真尋が睨みつけると、二人は揃って目線をそらした。


「お前らなぁ……」

「大丈夫ですよ真尋さん!何だかんだと言いつつ幻夢境や宇宙、コミケと言った数多の戦場を潜り抜けてきたじゃないですか。
 フォークが有効なのは先の戦いで実証済みですし、心配要りませんって!」

「ちょっと待て、他は兎も角、僕はコミケになんて行った覚えは一度としてないぞ」

「…………」

「…………」

「ああ、すいません、これは神殺し編の世界での話でした」

「お前らは何が何でもループものにしないと気が済まないのか?」

こう何度もやられると誘導してるんじゃないかと疑いたくなってくる。
間違いなく虚言だろうが、妙な伏線の芽は早めに摘み取っておいた方が安全だろう。

「ん~、ここから近い場所だと紅魔館が最寄りですかねぇ。空を飛べれば話は別なんですけど……」

スルー力の高さを無駄に発揮しつつ、早苗が行き先を提示する。
さり気なく人外的な要求をされたような気もするが、気にしたら負けだろう。
ここはそう言う場所なのだ。


「えっ、紅魔館?紅魔館ってあの紅魔館ですか?」

「どの紅魔館か知りませんけど、多分その紅魔館ですよ」

早苗の挙げた行き先に、ニャルラトホテプは目敏く反応した。
あまりにも露骨な豹変っぷりに真尋も何事かと問い掛ける。

「なんだニャル子?嫌なのか?」

「嫌? 何を言ってるんですか、寧ろ大好きですよ!
 『運命を操る程度の能力』とかいかにも厨二って感じですし、と言うか私も真尋さんの運命を操りたいです!」

「言いたい事は分かったからこっちに来るな寄るな息を吹きかけるな顔が近いんだよ」

やたら興奮した様子でニャルラトホテプがずずいっ!と身を乗り出してくる。
基本的にテンションの高いニャルラトホテプだが、このテンションは異常である。
地球に来て、最初にアニメショップに行った時か、その時以上の興奮っぷりだ。

「それにほら、私の十八番と言えばクロックアップじゃないですか?
 通常の三倍なんて目じゃないスピードで動ける訳ですが、それでも時間停止能力には憧れと言いますか、ロマンを感じるんですよねぇ。
 ほら、時止めからのジェム砕きで一撃死、とか一度は狙いたくありません?」

「んな物騒な事をやる趣味は無い」

言葉としては理解不能なのに、言わんとしてる事がなんとなく分かってしまい、真尋は頭を押さえた。
何故そんな微妙な例えが理解出来たのか、一瞬引っ掛かったが、深く考えない事にする。


「しかし意外だな、お前なら時間停止ぐらい普通に出来そうな気もするが?」

「何を言ってるんですか!? 時間に関する技能、それも時間停止は我々の業界でもトップクラスの技術ですよ!?
 いくら私がニャルラトホテプ星人でも、個人で出来る訳が無いじゃないですか!寧ろ出来たら化け物ですよ!」

それなら僕は化け物なのか?と喉まで出掛かった言葉を真尋はグッと堪える。
真尋のある特異体質については極力ニャルラトホテプたちには知られたくない。
それを知られると間違いなくあの事件の事も話す事になるからだ。
とりあえず適当に流した方が正解だろう。

「……あー、そういうモノなのか?」

「そう言うものです! とにかく、時間停止はロマンなんですよ!ロ、マ、ン!
 はぁ~、私も這いよる混沌として、一度は『頭がどうにかなりそうだった~』とか、相手に言われてみたいですねぇ」

「分かった、分かったから落ち着け。 それと何度も言うが今でも十分頭がどうにかなりそうな行動しかしてないからな。お前は」

ニャルラトホテプが時間停止の素晴らしさと言うかロマンとやらをとくと語り出すが、真尋にはいまいちピンと来なかった。
先の真尋の特異体質と言うのが、他者からの時間干渉を無効化する能力、つまり時間停止などを受け付けない体質の事だからだ。

これはかなり珍しい事らしく、これが原因で真尋は過去に遡って歴史の修正役を任されると言う、
おおよそ男子高校生が関わることではない事件に巻き込まれてしまった。
真尋からすると、そんな能力は厄介事の種でしかなく、憧れはおろか寧ろ無い方がマシとしか思えないのである。

それにしても時間干渉を無効化する真尋といい、イースの過剰適合者の暮井珠緒といい、
地球人である真尋たちに出来て、なぜ宇宙の邪神どもに出来ないのか、そっちの方が疑問でならない。
普段は非常識の塊のくせに、変な所で邪神どもは常識に縛られているのだ。まったくもって訳が分からない。


「紅魔館に行ったら是非とも咲夜さんと一戦交えたいですねぇ。本物の時間停止とやらを受けてみたいです!」

「やめろ、お前は紅魔館と全面戦争でもしでかす気か?」

個人の知的好奇心で周りに喧嘩を売られては堪ったものではない。
ニャルラトホテプと紅魔館の住人が戦うと言う事は、間違いなくその周りに居る真尋たちも巻き込まれると言う事である。
そんなとばっちりは真っ平御免だ。

「ん~、でも紅魔館ならまず会うのは門番の美鈴さんなんじゃないですか?咲夜さんって結構多忙ですし、会えるとは限りませんよ?」

「うん、今ぐらいなら昼寝してるめーりんが居る筈だよ!朝に行っても夕方に行ってもめーりんは寝てるけど」

それは昼寝ではなく完全に職務放棄だと思う。
門番としての機能は無いも同然なのではないだろうか。

「ま、ルーミアにチルノと来たら次は三面ボスの美鈴だよな。『紅魔郷』的に考えて」

「あー……、ですよねー……」


早苗たちの言葉にニャルラトホテプのテンションが一気に急落する。
『紅魔館』と聞いて勝手に当主クラスの面々と対面出来ると思い込んでいたようだが、いきなり五ボス従者組とエンカウントなんてご都合主義は通常あり得ない。
良く考えると真尋たちが最初に出会った早苗も五ボス従者組の一員だった気もするが、敢えて言わないでおいた。
折角早苗が空気を読んで話を進めてくれたのだ。好意を無駄にする事は無いだろう。
常識を投げ捨てている割りに空気をしっかり読むあたり、流石風祝と言った所か。

「……少年、いくらなんでもソレはない」

「だからお前はピンポイントで人の心を読むな!」

「まあ良いです。とにかく行ってみましょう!紅魔館へ!」

そう言ってニャルラトホテプが拳を振り上げる。
一見するといつも通りに見えるが、もう片方の手にサイン色紙が握られていたのを真尋は見逃さなかった。





――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――

そんな訳で真尋たちは湖の畔の紅魔館の前へとやって来たのだ。
が。

「……早苗、一つ質問」

「なんですか?真尋さん?」

「美鈴さん、って言うのはあの門の前に立ってるメイド服の人の事か?」

真尋たちから見て数百メートル先に赤煉瓦で造られた屋敷が鎮座していた。
色といい、風格といい、紅魔館の名に恥じない立派なお屋敷である。

そのお屋敷の前に彼女は居た。
青と白のメイド服を纏った銀髪の女性が。

「いいえ、違いますね」

「じゃああの人は誰だ?」

「紅魔館メイド長の十六夜咲夜さんです」

「咲夜さあぁぁぁん、私です!決闘して下さあああぁぁぁぁぁいっ!!!」

「お前はちょっと黙ってろ!」

「サザビー!!?」


咲夜と聞いたニャルラトホテプが飛び出すより早く、真尋は持っていたフォークで撃墜する。
念の為、三本ほどお見舞いして動かなくなったのを確認してから、真尋は紅魔館の方を見た。
門の前の女性がこちらに気付いた様子はなく、まずは一安心。

「妙ですね。美鈴さんじゃなくて咲夜さんが門の番をしてるなんて……。チルノさんは何か心当りあります?」

「ん~、分かんない。あたいたち、基本めーりんが門番してる時にしか遊ばないから。咲夜はすぐ追い払おうとするんだもん」

「と、言うことは……」

「何かしらの異常事態が起こってる、って事か?」

真尋が言うと、早苗は小さく頷いた。
仮に早苗たちの言う通り厳戒態勢が敷かれているのなら、今紅魔館に行くのは自殺行為だ。
どうしたものかと真尋や早苗が悩んでいると、赤いツインテールがニュッと進み出て来た。クトゥグアだ。

「……ここはわたしに任せて」

「クー子?」

「……『東方紅魔郷』はイージーからルナティックまで全てやり込んだ。
 仮に戦闘になっても伝説のルナシューターと言われたわたしの名古屋撃ちで、返り討ちに出来る」

「名古屋撃ちって、そんな調子で大丈夫か?」

「……大丈夫、問題ない」


「あのなぁ……ん?」

自信たっぷりと言った様子で断言するクトゥグアに一言言ってやろうとして、真尋は妙な違和感を感じた。
この感覚を真尋は知っている。 と言うかこれと同じ違和感を真尋は以前にも経験したことがあった。
具体的には、ニャルラトホテプらと出会って間もない頃、ルルイエが浮上し、全銀河が静止した、あの時だ。

見ると、倒れているニャルラトホテプも、一気に死亡フラグを立てたクトゥグアも、幻想の住人である早苗たちも、皆、一様に静止していた。
空を飛ぶ鳥も止まっているあたり、時間が止まっているのは間違いないらしい。

「へぇ、貴方は動けるのね?」

「そう言う特異体質らしくてね。 あって得した事なんて殆ど無いけど」

背後から掛けられた声に、真尋は動揺する事なく答えた。
この場で、こんな芸当が出来る者は、邪神や幻想の住人を含めても彼女しか居ない。
声のした方を振り向くと想像したとおりの姿があった。
青と白のメイド服を纏い、銀髪の一部を三つ編みにした女性が真尋たちを見据えている。

「えっと、十六夜咲夜……さん?」

「あら?私の事まで知ってるのね。 なら、話は早いわ」

「あっ、いや、えっと、僕たちは決して怪しい者じゃないんだ。敵意とかそう言うのは……」

「分かってるわ。今朝の少年と変な鳥の知り合いでしょう?」

慌てて真尋が弁明するとそこで咲夜は表情を一気に崩した。
このまま襲われるのでは?と言う懸念すら抱いていた真尋は殺気が消えたのを感じ取り、ホッと胸を撫で下ろす。


「ハス太やシャンタッ君の事を知ってるのか?」

真尋が尋ねると咲夜は小さく頷いた。
どうやら紅魔館に来たのは『当たり』だったらしい。
ここまで都合が良いと、もはやご都合主義と言われても仕方ないだろう。
邪神さまの見えざる手は今日も絶好調のようだ。

「門の前に倒れていたのを美鈴が見つけたのよ。 今は美鈴がお嬢様の所に連れて行っている筈だわ。
 で、その間だけ、門番の代わりをしていたら、貴方たちがここに来た。と言う訳」

つまり咲夜が門番をしていたのは偶然で、早苗たちの言うような厳戒態勢ではなかったと言う事だ。
真尋たちがたまたま勘違いするようなタイミングで来てしまった。ただそれだけの事らしい。

「良かった、変な伏線とかじゃなくて……」

「何か言った?」

「いや、こっちの話だから気にしないで」

「悪かったわね、驚かせちゃって。早苗や貴方のような人間だけなら見逃してあげたんだけど、変な気が混じってたから様子を見に来たのよ」

「うん、その判断は正しいと思うよ」

ご丁寧に時間停止までして、反撃を封じた上で様子を見に来るとは、番として優秀と言わざるを得ないだろう。
しかし、あの距離でこちらに気付くとは、完璧で瀟洒な従者の異名は伊達ではないようだ。


「ん~、気配は禍々しいけど、あの子たちの知り合いなら大丈夫かしら?
 それとも、こっちの二人には釘くらいは刺しておいた方が良い?」

「釘を刺すんならそこで寝てるバカに刺してやってくれないか?咲夜さんの熱烈なファンらしいから」

真尋の言葉に咲夜はフッと微笑むと、時間停止で止まったままのニャルラトホテプの周囲にナイフを設置しだした。
止まっている相手の周りに一本ずつナイフを設置すると言うシュールな光景がしばらく続く。
ニャルラトホテプは時間停止がカッコイイだのロマンだの言っていたが、今の光景は地味そのものだ。
こういう裏場面を見てしまうと、時間停止も良いものだとは思えない。
どうやら真尋は時間停止へのロマンとやらにはとことん無縁のようだ。

そして。

「そして時は動き出す……!」

止まっていた全てが再び動き出した。

ドスドスドスッ!

「キュベレイッ!!?」

「……それにわたしの名古屋撃ちは108式まで……って、ニャル子!?」

フォークで撃沈していたニャルラトホテプがナイフの大群に襲われたのを見て、クトゥグアが目を剥く。
ニャルラトホテプの惨状に、意気込んでいた筈のクトゥグアの顔色が見る間に蒼くなっていく。

一方、弾幕の洗礼を受けたニャルラトホテプは……、なんとも言えない恍惚とした表情を浮かべていた。
心なしかニャルラトホテプの周りに虹色のエフェクトが掛かっているように見える。


「……このナイフの刺さり方、間違いない本物の『咲夜の世界』」

「分かるのかよ」

ニャルラトホテプに刺さったナイフを指先で突きつつクトゥグアが唸り声をあげる。
判別方法が判別方法だけに眉唾物としか思えないのだが、クトゥグアは極めて真面目な顔で頷いた。

「……当然分かる。『萃夢想』が世に出た時、わたしもこの技を真似しようとゲームのモーションをモニタに穴が開くほど凝視しまくったから」

「かめはめ波や二重の極みを真似する小学生かお前らは!!」

「どうかしら?私の自慢の弾幕の味は?」

「はっ!たいへん美味しゅう御座いました!! ふぅ、私の輝かしい歴史がまた一ページ……」

覗き込むようにして尋ねる咲夜に対し、ニャルラトホテプはバッと跳ね起きると手を取り、ぶんぶん振り始める。
念の為言っておくと、この二人の関係はいきなり問答無用で弾幕を浴びせた加害者と、浴びせられた被害者である。

「なんなんですかこの光景?咲夜さんの弾幕はどこぞのレスラーのビンタと同じなんですか?」

「いや、僕に聞かれても困る」

「なあ人間、くとぅるーの邪神、ってバカしか居ないのか?」

「ああ、間違っちゃいないよ」


流石について来れなかったのかとうとう早苗は頭を抱え出す。
一方のチルノは、一言で地球圏最強のアホ二人を斬ってみせた。
単純明快な妖精だけに、本質が良く見えているのだろう。

「ふっ、早苗さん、この幻想郷では常識に囚われてはいけないのですよ。そう、常識に囚われてはいけないのです!大事な事なので二度言いました!」

「常識に囚われない……?常識に囚われない……?ジョウシキニトラワレナイ……、ナルホド、ソレナラ納得デス?」

「いや騙されんな。 真に受けるんじゃない、還ってこい!!」

言動が怪しくなってきた早苗の頬を真尋は何回か軽く張る。
早苗はどうにか還って来たが、邪神と幻想郷の相乗効果でsan値が危険域に達しつつあるのを真尋はひしひしと感じとっていた。





――――――――――――――――――――――――――――――――

投下終了

真面目な方向に行きがちな紅魔館組との遭遇戦にどうニャル子のノリをどう盛り込むか、かなり苦労しました。
結果、こうなりました。
好きなキャラの弾幕を受けてみたいと思うのは東方好きの性ですよね?そうですよね?
因みに私はゆゆ様の反魂蝶でピチュりたいです。


次回は残りの二人とおぜう様に登場願いたいと思います。

続き書いてて気付いたんで誤字訂正

>>54
ニャル子の『ハス太君』を『ハスター君』に

>>66
早苗の『真尋さん』を『八坂さん』に


それぞれ読み替えて下さい。
続きの投下は二・三日後ぐらいになるかと。

――――――――――――――――――――――――――――――――

「うっひょぉぉぉぉっ、すっげぇぇぇっ!これがリアル紅魔館ですか~」

周囲をキョロキョロ見回しながらニャルラトホテプが興奮した様子で歓声をあげる。
真尋にニャルラトホテプ、クトゥグアと言ういつもの面々に早苗とチルノを加えた一行は、
咲夜に案内され、ハスターたちが居ると言う紅魔館当主、レミリア・スカーレットのもとへと向かっていた。
早苗はともかく、なんでチルノまでついてきているのか些か気になったが、今更言うのも野暮なのでスルーする。

「満身創痍になったばっかだって言うのに復活早いなオイ」

「擦りむけた膝が痛くとも、すぐ立ち上がらないとチャンスは逃げていきますからね!
 こんな機会滅多にありませんから、残機の一つや二つ、軽くちょろまかしてみせますよ!」

「僕たちはあくまでハス太とシャンタッ君を探しに来たのであって、観光しに来た訳じゃないんだぞ?分かってるのか?」

「分かってますって、モチのロンです!」

「どうなんだか……」

お上りさんのようなニャルラトホテプの態度を見るに、本来の目的より紅魔館見学の方に比重がいっているのはほぼ間違いない。
と言うか真尋たちの最終的な目的は幻夢境への不正アクセスの調査及びその疑惑の掛かった八雲紫の捜索であり、
元の世界へ帰還する事である筈なのだが、ニャルラトホテプたちがその事を頭に入れているのか、はなだ疑問である。

「おぉぉっ、これが『萃夢想』ほかでステージになった広間ですか!これは写真を撮らねば!」

「ああ、『疑問』じゃなくて『確定』だったか」

「……少年、ちょっと……」


iaiaphoneで写真まで撮り出したニャルラトホテプに真尋がため息をついていると、今度は背後から服の裾をくいっと引っ張られた。
振り向くと、クトゥグアが階段の方に視線を向けたまま突っ立っていた。
どこか視線が熱を帯びているように見えるのは気のせいだろうか。

「ん?どうした、クー子」

「……さっき、地下図書館への入り口を見つけたのだけど、ちょっと覗いて来ても」

「ダメだ」

「……紅魔館地下図書館と言えばわたしたちの業界では神のおわす聖地と」

「ダメなもんはダメだ」

「……ぐすん」

同じく観光気分丸出しのクトゥグアを真尋はコンマ数秒で斬り捨てる。
紅魔館の人間である咲夜の案内が無ければ開幕五秒で迷えるほど館は大きいのだ。
ハスターたちと合流しにきて、クトゥグアが迷子になったのでは意味がない。
団体行動の基本を学校で習わなかったのだろうかと一瞬考え、すぐに以前見た宇宙小学校を思い出し、納得する。
あの学校でそんな常識が身に付く訳がない。

「着きましたよ。こちらです」

咲夜の声に我に返ると、長い廊下を抜け、テラスの前まで来ていた。
どうやらハスターたちはテラスに出ているらしい。


「それでは私はこれで」

「忙しいのにありがとう、助かったよ」

「良いのよ。この借りはあとできっちり早苗に返して貰うから」

「えっ!?私ですか!?」

早苗が声を上げた時には咲夜の姿は既になかった。
恐らく時間を止めて移動したのだろう、大きなお屋敷のメイド長は常に多忙なのだ。

「ちょっと待って下さい八坂さん! そんな事より他につっこむ場所がありましたよね!?」

「なんでナチュラルに思考を読んでるんだよ。お前は」

「奇跡です。奇跡的に分かりました!」

「なるほど分かった。分かったからこの話はここで終わりな」

「って、ちょ、八坂さん!?」

更に何か言いかける早苗を真尋はスルーした。
同じ地球人と言う事で保留にしていたが、早苗に関しては、宇宙の邪神どもと同じ扱いで差し支えないと判断したからだ。


「あっ!まひろくんっ!」

みっみーん。
テラスに出るなり、聞き慣れた声が聞こえてくる。
見ると、テラス中央の丸テーブルを囲うように置かれた椅子の前で、金髪の緩い三つ編みが特徴的な少年が跳び跳ねていた。
その足元では特徴的なコウモリアームをばたつかせながらシャンタク鳥のシャンタッ君が同じ様に跳び跳ねている。
相変わらず見事な似た者同士っぷりだ。

「すごいっ!すごいですレミリアさん!ホントにまひろくんたち来ましたよっ」

みっみーん。

「この位朝飯前よ。なんなら貴方たちの死に顔を教えてあげても良いわよ?」

歓声をあげるハスターたちに対し、向かいに座った少女はさも当然と言うような得意顔でティーカップを口に運ぶ。
シャンタッ君のコウモリアームをもっと立派にしたような羽が特徴的な、紅魔館当主のレミリアだ。

「誰が得するんだよ、その運命」

「あら、外の世界では千一体の像から自分と同じ死に顔を探せる寺があると聞いたのだけど?」

「へー、そうなんだー」

「根も葉もない都市伝説だし、ハス太も納得しないでくれ」

本当にそんな寺なら修学旅行生から多数の死者が出てしまう。
分かっていてからかっているのか、素で間違ったのか、笑みを崩さないあたり前者だろうとあたりをつける。


「むむむ、これが噂に聞くカリスマおぜうさま! 流石ですね。この私でさえ圧倒されかねない程の風格がありますよ」

「お前に風格なんてものがあったのか?」

「……わたしとニャル子の風俗的な関係いくらでもある」

「なに言ってるんですかアンタは!? 1ミクロンたりともありませんよそんなもの!」

「……ニャル子ったらいつも激しくて……、あっ、ニャル子、そこはダメぇ……!」

「黙れそこの歩くフランス書院」

いきなり自らの妄想を垂れ流し、発情し出すクトゥグア。
脈絡もなければ、誰かが焚き付けた訳でもない。
毎度毎度勝手に火がつくあたり、流石クトゥグアと言うべきか。

「あはは、クー子ちゃんらしいね。でもかえって安心したかも」

「今の話の何処に安堵する要素があったんだ?」

「……ぼくね、まひろくんたちが来るまで、心細かったんだ。
 みんなといつの間にかはぐれちゃって、気づいたときにはシャンタッくんと二人きりだったから」

「ハス太……」


「あっ、でも、身体とかはなんともないんだよっ! すぐに美鈴さんに助けて貰ったし」

「ああ、その辺の話は聞いてるよ」

慌てて取り繕おうとするハスターの頭を真尋は優しく撫でてやる。
考えてみれば幻想入りだけでも十分一大事なのだ。
いくらシャンタッ君が一緒だったとはいえ、一人で知らない世界に放り出されたら不安にもなるだろう。

「うぅ~、なんでハスター君ばっかり……、羨ましい限りです」

「……少年、わたしも一人きりだった。撫でて」

「来て早々早苗と漫才してたり、勘違いで欲情してたのはどこの誰だよ」

羨ましそうな目線を向けて来ているが、この二人に関してはお世辞にも『普通の反応』とは言い難い。
寧ろこの二人は確実にアブノーマルに分類される。

「そう言えばその美鈴さんは何処に居るんです? 門の番に戻ったんですか?」

「あっ、えっと、美鈴さんならお茶の用意に……」

「お嬢様、お茶のお代わりを持って来ました。 おや、早苗さん?今日はなんの御用ですか?見慣れない方たちを連れているようですが……」

噂をすればなんとやらとはこう言う事を言うのだろう。
タイミングよくチャイナ服を纏った女性がティーポット片手にテラスへとやって来た。
ハスターたちを最初に保護したと言う紅美鈴だ。


「ありがとう美鈴。 貴方たちも私のティータイムに付き合わない?お茶ならいくらでもご馳走するわ。 守矢の巫女の奢りで」

「さっきの咲夜さんといい、紅魔館の皆さんはウチの神社に何か恨みでもあるんですか?」

「冗談よ。 まあ、とりあえず座りなさい。話はそれからよ」

「それではお言葉に甘えさせて頂きます!」

「……ん、このケーキ美味しい」

「いきなり食ってるんじゃねーよ」

真尋たちが席に着くより早くクトゥグアがお茶請けのケーキを頬張りはじめる。
妖怪の楽園だろうと、吸血鬼の巣窟だろうと、食い意地に変化がない辺り、恐怖感覚が麻痺しているとしか思えない。

「はい、お茶です。どうぞ」

「ああ、ありがと」

席についた真尋たちの前に美鈴が淹れたてのお茶を並べていく。
本来ならメイド長の咲夜の仕事の筈だが、意外にも手つきはこなれていた。
格式高い紅魔館らしく教育が行き届いているのだろう。
とりあえず一旦心を落ち着けようと真尋は目の前に置かれたティーカップに手を伸ばし、すぐにその手を止めた。


「……この紅茶、やけに赤みが濃いな?どんな茶葉を使ってるんだ?」

「ああ、それは紅魔館特製のブレンドティーでして、ブラッティーと言うお茶ですよ」

「クー子、食ってばかりじゃ喉が渇くだろうし、僕のお茶も飲むか?」

「……んくんく……ごくん。……どうしたの少年。またわたしの好感度稼ぎ?」

「んな訳あるか」

平静を装いつつ、内心真尋は冷や汗をかいていた。
対応が常識的だった為、すっかり失念していたのだが、ここは吸血鬼の住む妖怪屋敷なのだ。
邪神たちで訓練された真尋だから直前で気付けたが、それでもあと一歩で口をつける所だった。
常識に囚われない幻想郷ではやはり油断は禁物らしい。

「あれ?あたいの席がないよ?」

「あら、居たの?氷精。 気温が下がった覚えがなかったから気付かなかったわ」

「ああ、クー子と打ち消しあってるからな」

居るだけで気温を上げるクトゥグアに対し、氷精であるチルノが冷却材になっているのか、気温的にはちょうど良い。
出力最大のストーブとクーラーを同時に使うようなもので、賢い使い方では決してないのだが。


「まあ良いわ。それより貴方たち、宇宙から来たそうね。話はそっちの二人から聞いているわよ」

「僕は普通の人間だけどな」

「あら、そうなの? 同じ『八坂』だし、山の神社の関係者かと思っていたわ」

「ああ、言われてみれば八坂さんも神奈子さまと同じ姓ですね!今気が付きました」

「オイそこの風祝」

どうやらこのすっとぼけ巫女は自らが仕える神さまの名前すら失念していたらしい。
巫女がこの有り様なのだ、あの二柱が幻想郷に来るのを決断したのも当然と言えよう。

「と言う事はもしや真尋さんに八坂の神の血が流れている可能性が微粒子レベルで存在」

「しねぇよ」

「……なるほど、これで少年と少年のお母さんのフォークが矢鱈強い事に説明が」

「つかねぇよ」

「えっ?まひろくん、神さまの子孫だったの?」

「だから違うって言ってるだろ。 つーか揃いも揃って僕に変な設定を付与しようとするんじゃねぇっ!!」

変な設定は例の特異体質だけで十分なのだ。
この上、神の子などと言うファンタジーな設定まで付与されては堪ったものではない。
他はともかく、真尋自身が『あちら側』の仲間入りをする事だけは回避しなければならない。


「ともかく、僕は普通の人間だ。出生の秘密とか、そう言うのは一切無い!」

「そうは言っても真尋さん。真尋さんのフォーク捌きは既に人知の域ではないと思うのですが? 寧ろ私たちと同じ人外と考えた方が辻褄が……」

「ニャル子、折角の幻想郷なんだ、話があるなら弾幕戦でつけないか?」

「マヒロサンハフツウノニンゲンデスヨ」

わざとらしくフォークを鳴らす事でニャルラトホテプはようやく理解してくれたようだ。
出来ることならフォークを見る前に、察する理解力と洞察力を身に付けて貰いたい。

「ふふふ、貴方たち、中々の面白さだったわよ」

「勘弁してくれ、と言うか今のは狙ってやってたのか」

「さぁ、どうかしら。 一つ言えるとしたら、これが貴方の運命だった、って事かしら」

「やっぱり一枚噛んでるんじゃねーか」

ニヤリと笑うレミリアに真尋は早苗に加え妖怪も邪神どもと同様に扱おうと深く心に刻み込んだ。





――――――――――――――――――――――――――――――――

投下終了

話が進まねえええええええええええええええええええ
食べ物系の定番ネタがやれた事がせめてもの救い。

――――――――――――――――――――――――――――――――

「ん?なんだありゃ?」

先導するように飛んでいた魔理沙が声をあげたのは、山の陰を抜け、間欠泉が視界に入ってきた時の事だった。
声につられて眼下を見ると、間欠泉の辺りから何やら多数の噴煙が上がっている。
間欠泉と温泉から出た湯煙かと一瞬思ったが、それにしては煙は激しく、また酷く黒い。

「あれ、爆煙じゃないか?」

「そのようですね。 良くは見えませんが、どうやら相当派手にやりあってるみたいです」

早苗の言葉から察するにそう言う事なのだろう。
あそこで誰かが戦っているのだ。
妖怪か、それとも温泉に行っていると言う博麗霊夢か、いずれにしても何らかのトラブルが起きているのは間違いない。

「ヒャッハー!と言う事はリアル弾幕戦ですか!? ちょっと行って観戦してきましょう!」

「ちょっと待て!アレはどう見ても異常だろ!?この状態で闇雲に突っ込むんじゃな……アッーー!!」

真尋が制止の声をあげるが時既に時間切れだった。
ニャルラトホテプはシャンタッ君の身体を大きく傾けさせると、間欠泉目掛け急降下の態勢に入っていたのだ。
そのまま一気に降下すると、爆発やら弾着やらでクレーターだらけになった間欠泉に強引に着地する。


「うぅっ、ニャル子ちゃん、今のはちょっときつすぎだよぉ」

「にゃははは、ちょーっとやり過ぎちゃいました。てへぺろ」

「てへぺろ、じゃないッ!」

「ミネルバッ!!?」

反省どころかふざけているようにしかみえないニャルラトホテプに拳骨をお見舞いしていると、魔理沙と早苗が続けて降りてくる。

「うっわ~、これはまた酷いですね。一体誰がこんな事を」

「あら?早苗に魔理沙じゃない。って、また凄いのを連れてきたわね。なに、早苗んとこ、神様変えたの?」

そんな声が空から聞こえ、次の瞬間真尋たちの目の前に紅白の巫女装束を纏った少女が着地する。
手にありったけの御札を持ち、いかにも戦闘態勢!と言った感じの少女は『東方project』シリーズの顔役としてお馴染みの博麗霊夢その人だった。
登場して僅か数秒で正体を見破ったことにニャルラトホテプら邪神たちは思わず目を丸くする

「おや、私どもが邪神だと分かるのですか?」

「仮にも巫女よ?見れば一目で分かるわ。私の勘を嘗めないで欲しいわね」

「実力なのか勘なのかはっきりしろよ……」

「まあ良いわ、ちょっと手伝って頂戴」

そう言うと霊夢は爆煙の向こうをキッと見据える。
その表情は真剣で、戦いが生半可なものではないことを如実に物語っていた。

その空気に、魔理沙たちだけでなく、ニャルラトホテプたちも得物を構える。
武器の八卦炉を片手に周囲に目を光らせつつ、魔理沙が尋ねる。

「で、何があったんだ?」

「あのバカ鴉がまたど忘れしたのよ」

「バカ鴉?」

「鴉天狗の文さんはさっき私がピチュらせましたし、地獄鴉の空さんじゃないですか?」

真尋が漏らした言葉に答えたのはニャルラトホテプだ。
『東方』で鴉と聞いて真っ先に思い浮かぶ射命丸文はニャルラトホテプの不意打ちで瞬殺されているのでまずありえない。
更に言うと文たち天狗はスピード重視のキャラだ。
このような惨状を引き起こせる火力バカでは断じてない。
それらから考えるに、今回の犯人は『東方地霊殿』に登場した地獄鴉の霊烏路空と見て、ほぼ間違いないだろう。

「ど忘れ? 今日は何を忘れたんです?」

「火の止め方よ」

「なっ!?」

「ああ、納得したぜ」

霊夢の言葉に真尋は目を剥き、魔理沙は苦笑した。
どうやら空が基本的な事までど忘れするのは日常茶飯事らしい。
そんなのでどうやって生きてこられたのか、凄く疑問ではあるのだが。


「そう言えば八雲紫さんも一緒だったと聞きましたが、姿が見えませんね?どちらに行かれたんです?」

「紫ならバカ鴉の開幕ぶっぱでその辺に沈んでるわ。フルコンボ決められてたから暫く起きてこないんじゃない?」

「うわぁ……」

「妖怪の賢者すら一撃必殺ってどんだけ凄い火力だよオイ」

八雲紫と言えば『東方project』シリーズきってのチートキャラだ。
その紫が例え不意打ちとは言えあっさりやられるとは、幻想郷はいつから世紀末な世界になったのだろうか。

「空さんの最大火力は一兆度に達しますからね!」

「それ、前にどっかで聞いたぞ」

「……く、クー音姉さんと同じ!?」

「ああ、その時だったか……」

何故か自慢気な早苗にクトゥグアはおののき、真尋はため息をついた。
仮にも地球の一妖怪が、宇宙でも最強クラスの邪神に対抗出来ると言うのは幻想郷と言えども流石にどうかしている。
真尋の中で地球に対する認識を改めないといけないのかもしれない。

「みんな、くるよ!」


ハスターの声に真尋たちは一斉に前を見た。
真っ赤な炎の壁が、この世の全てを焼き尽くさん勢いでこちらに迫ってきている。

「なにあれ!?どうなってるの?」

「本来なら火球の弾幕の筈よ。火力の調整が出来ないから全部くっついて壁になってるけど」

「どんだけだオイ!」

「クー子、同時に仕掛けますよ!」

「……分かった」

ニャルラトホテプとクトゥグアは大きく跳躍すると、同時に名状しがたいバールのようなものを投擲する。
二人が投げた名状しがたいバールのようなものは衝撃波を巻き起こしながら炎の壁に迫る。が、しかし。

じゅっ。
炎の壁に触れた瞬間、二本の名状しがたいバールのようなものは熔けて蒸発する。
あまりの高温に邪神たちの武器ですら熔解してしまったのだ。
流石、妖怪の作り出した炎と言うべきか。

「……少年、やっぱり少年はギャグセンスがないと思う」

「人の思考を読む前にすることがあるだろ!」


「くらえ、必殺!マスタースパークッ!!」

「行きますよ。 開海『海が割れる日』ッ!!」

続けて魔理沙や早苗が攻撃を加えるが、炎の壁はこちらからの攻撃を一切通さない。
いくら撃っても、攻撃は炎に呑まれるばかりであり、空には一発たりともこちらの攻撃が当たらないのだ。
そうこうしているうちに、炎の壁がこちらの方にまで迫ってくる。

「ぎゃあぁっ!? こっちに来るなぁ!」

立っていた位置が悪かったのか、チルノが炎の壁に呑まれそうになる。
弾かれたように空へと飛ぼうとするが、壁は目の前に迫っており、間に合いそうもない。

「チルノちゃん、あぶないっ! 逃げてっ!」

「逃げる?さいきょーのあたいにその文字はないよ! あたいはいつだって引かぬ、媚びぬ、省みぬ! くらえ!ぱーふぇくとふりぃぃぃぃずっ!!」

ハスターの忠告すら無視して、チルノはその場で立ち止まると、炎の壁目掛け、氷の弾幕を放つ。
が、その量、勢い共に弱々しく、焼け石に水でしかないのは火を見るより明らかだった。
弾幕戦でこういう場面には慣れているのか、魔理沙が突き放すように呟く。

「ありゃもうダメだ。 チルノは一回休み確定だな」

チルノには悪いが、真尋もその意見に同意だった。
自然の化身たる妖精なので完全に死ぬ訳ではないらしいが、見ていて気持ちのいい場面ではない。
真尋はその瞬間を直視しないように目を逸らそうとして。


ぱきん!

「えっ?」

次の瞬間、炎の壁が消えていくのを真尋は視界の隅に見た。
邪神たちの宇宙cqcも早苗たちの攻撃も蹂躙してみせた壁があっさりと消えてしまったのだ。

「あ、あたいったらやっぱりさいきょーね!」

「どうなってるんだ?なんで炎の壁が消えたんだ?」

「冷気が弱点だったんでしょうか?」

「議論は後にしなさい!次が来るわよ!」

振り返ると炎の壁の第二波が再び空を覆い隠していた。
勢いに衰えはなく、一体となった壁に隙間はない。

「クー子、あんた確か冷気系の技も持ってましたよね?」

「……アフーム=ザーの事?使ってみる」

そう言うとクトゥグアは普段使っている機動砲台の色違い、眷属のアフーム=ザーを召喚する。

「……行って」

クトゥグアの号令と共に散開したアフーム=ザーは炎の壁へ一斉に攻撃を仕掛ける。


「……ダメね。効いてないわ」

アフーム=ザーの冷気攻撃もまた、先程までの攻撃と同じように炎に呑まれるだけだった。
あの壁の弱点は冷気ではなかったらしい。
或いは元から弱点などなく、さっきのは単なる偶然だったのかもしれない。

「オイどうするんだよ霊夢!?」

「霊夢!アンタはくれーの巫女でしょ!?なんとかしなさいよ!」

「ああっもうッ!五月蝿いわね! とにかく今はやれることをやるしかないのよ!」

「やれる事って、一体どんな手が……、きゃあああっ!?」

炎が何かを巻き込んだのか、突如起こった爆発に早苗たちが吹き飛ばされる。
不意をつかれた為か、四人は受身すら取れずに岩場に叩きつけられた。

「早苗さん!魔理沙さん!」

「チルノちゃん!れいむさん!」

ニャルラトホテプたちが呼び掛けるが、早苗たちからの返事はない。
ダメージが大きかったのか、蹲ったままだ。


「くそっ!」

舌打ちをしながら真尋はポケットの中から、残されたありったけのフォークを取り出した。
残数、僅か三本。
かなり心もとないが、この三本に賭けるより他なかった。

「ええぃ!こうなったらどうにでもなれだ!!」

迷いを振り切るように吐き捨てつつ、真尋はフォークを一本ずつ放射状に投擲する。

一本目は青く燃える焔の部分に着弾。 フォークは一瞬にして蒸発する。
二本目は赤々と燃え上がる炎の部分に着弾。 着弾した直後、フォークは真っ赤になって熔解する。

三本目は炎の中で黒く、目のようになっている部分に着弾。
フォークは……、蒸発も熔解もせずに、逆に炎の壁の方が一瞬にして霧散した。

「そうか!そういうことだったんだ」

炎が消えて行く様を見ながら、真尋は全てを理解した。
何故チルノが一度は助かったのか。何故他の攻撃では打ち消せなかったのか。

「ニャル子! 炎の中の『黒点』を狙え! 非想天則のストーリーモードと同じなんだ!」

「非想天則? なるほど、このスペルは核熱『人工太陽の黒点』ですか!」

「……核熱『人工太陽の黒点』。黒点のある人工太陽を壊すと他の人工太陽も連鎖的に壊れるスペル」

「そっか、じんこう太陽が大きくなりすぎて壁になってただけなんだね!」


「成る程ね。良い事を聞かせてもらったわ」

邪神たちが口々に声をあげると、そこに別の声が割り込んだ。
振り返った先には紅白の巫女装束少女の姿があった。

「れいむさん!?」

「おい、大丈夫なのか?」

霊夢の巫女装束はあちこちが擦り切れ、全身が土埃にまみれている。
明らかに無事とは言えない格好だったが、それでも霊夢の目はまだ勝負を捨ててはいなかった。

「大丈夫よ。それに、あの程度でくたばってたら博麗の巫女の名が廃るわ!」

「いいですねぇ。そう言う展開、嫌いじゃありません!」

「……アンタ、名前は?」

「這いよる混沌などをしておりますニャルラトホテプと申します。 気軽にニャル子とでも呼んで下さい」

「ニャルラトホテプのニャル子ね。覚えておくわ」

「…………」

「…………」


ニャルラトホテプと霊夢はお互い顔を見合わせると、どちらともなくフッと微笑んだ。
それからクトゥグアとハスターとも頷きあい、最後に真尋を見た。

「それじゃあ真尋さん、ちょっくら地球を守ってきます!」

「ああ、行ってこい!」

一言そう残して邪神たちと博麗の巫女は飛び出していく。そして。


「うわらばぁっ!!?」


幻想郷を核の炎で包みかけた地獄の八咫烏こと霊烏路空はこうして鎮圧されたのであった。





――――――――――――――――――――――――――――――――

投下終了
vsと銘打っておきながら戦うんじゃなくて共闘するのはヒーローものの鉄則です(キリッ!
今回の推奨bgmは『霊知の太陽信仰』で、その割りに空の台詞が一つしかありませんが。

あとゆかりんは出てくると面倒(一発で物事が解決する)なのでオネンネしてもらいました。
ゆかりんファンの皆様スイマセン。

――――――――――――――――――――――――――――――――

「幻夢境に干渉なんかしてない?」

ようやく捕まえた八雲紫から出た言葉は予想外のモノだった。
霊烏路空を鎮圧した後、温泉に沈んでいたところを回収された紫は憮然とした表情で答える。

「そうよ。霊夢と一緒に三日三晩取材を受けてたのに、ちょっかいなんか出せる訳ないでしょう?」

「そうですか?貴方ほどのチートスキルを持つ大妖怪ならやれそうな気がしますが?」

「それをやって私に何の得があるの?
 ここ数年、新興勢力が好き勝手やってくれちゃって只でさえ頭が痛いのに、外の世界からわざわざ火種を貰ってくる必要があると思う?」

「その辺はアレですよ。ムシャクシャしてやった。今は反省している~ってヤツで」

軽い口調でニャルラトホテプが言うと、紫は心外だと言うようにこちらをキッと睨みつける。
プライドの高い大妖怪ゆえ、馬鹿にされたと思ったのかもしれない。

「どこの餓鬼よ。少なくとも幻想郷の運営に関わりそうな件で軽はずみな行動をとった事は一度として無いわ」

「へぇ、そうだったんですね。 知ってました、魔理沙さん?」

「いや、私も初めて聞いたな」

「貴方たちとは一度、よーく話し合う必要がありそうね」

身内である筈の早苗と魔理沙にまで言われ、紫は頬をひくつかせる。
妖怪相手にここまで図太い態度をとれるのだから恐ろしい。


「そうね、少なくとも紫はそんな事はしないわ」

「流石霊夢ね。良く分かってるわ」

「自分自身に矛先が向くなんてヘマ、紫は絶対にやらないわ。
 上手く他人に擦り付けるか、そもそも事件が起きた事すら相手に気づかせない、これが紫の常套手段よ」

「そうそう、やるなら絶対バレない手段で、って何を言わせるのよ!?」

霊夢の言葉に一度は頷いた紫は次の瞬間思いっきり目を剥いた。
惚れ惚れするほど見事なノリツッコミだ。

「と、とにかく!その幻夢境での件に私は一切関わってないわ。他をあたって頂戴」

「……などと、意味不明な供述をしており」

「おいコラやめろ」

言い掛けたクトゥグアを真尋はすかさずはっ倒した。
折角、話が終わりかけているのに不穏当なナレーションを被せないで貰いたい。


「それで?どうするんだ?ニャル子」

「うーん、少なくとも紫さんにアリバイがあるのはハッキリしてますからねぇ。でもそうなると他に容疑者なんて見当もつきませんし」

ニャルラトホテプの言う事はもっともだ。
有力な容疑者だった紫が消えてしまい、捜査は振り出しに戻ってしまった。
最初から紫が犯人だと決めてかかっていただけに、この失態は痛い。
ここまで来て手詰まりか、誰もがそう思った、その時だった。

「おーい、早苗ーっ!」

『ん?』

「諏訪子さま!?」

声のした方を見ると、目玉のついた帽子を被った少女が降りてきたところだった。
早苗が仕える守矢神社の祭神の片割れの洩矢諏訪子だ。

「んもー、留守番しててって言ったのに居ないんだもん。鍵も掛けてないし、吃驚させないでよね。
 って、随分と大人数だね。何かあったの?」

「ああ、えっと、そのぉ……。八坂さん、ニャル子さん!こういう場合ってどうやって説明したら良いんですか!?」

「いや、僕に聞かれても困る」

「とりあえず名乗るだけ名乗って、後は野となれ山となれ作戦、って言うのはどうです?」

「それは作戦とは言わねぇよ」


ただ単に流れに身を任せるだけじゃないかと言い掛けて、いつもと何ら変わらない事に気づく。
ニャルラトホテプたちと行動するといつも超展開にしかならないのだ。
下手に足掻こうとせず、流されるのが正解であることはこれまでの経験が物語っている。

「えっと、諏訪子さま、こちら外の世界から来た人間の八坂真尋さんと、ニャルラトホテプ星人のニャル子さんです」

「ニャルラトホテプ? ニャルラトホテプってクトゥルー神話の?」

「……くすん、ハブられた」

「ぼくも……」

「言いたい事は分かるが、今は我慢しろ」

恨めしそうにボヤくクトゥグアとハスターをたしなめつつ、真尋は早苗たちの方を見た。
最も有力な手がかりが潰えてしまった今、話が進む事は無いと真尋は思っていたのだが。

「あっ、もしかして幻夢境からの返事を持って来てくれたの?悪いねぇ、その件だったらもう終わっちゃったんだよ」

『えっ?』

「えっ?」

「…………」

「…………」

「ん?なんかあったの?」


その時、世界が凍りついたような気がした。
ニャルラトホテプも早苗も、霊夢はおろか紫ですら唖然とした表情で諏訪子を見ている。
諏訪子も諏訪子で、周りの反応が理解できないのか、首を傾げた。分かっていないのはチルノだけだ。

「……諏訪子さま、今なんと仰いました?」

「だから幻夢境からの返事ならちょっと遅かったな、って……」

「幻夢境を知っていたんですか?邪神の存在も?」

「そりゃあ私たちは最近まで外の世界に居たしねぇ。一応同じ神様だし、付き合いぐらいあるさ」

ある意味、日本の神様らしい答えだった。八百万の神々はクトゥルーの邪神とも繋がっていたらしい。
嫌な予感をひしひしと感じつつ、真尋は諏訪子に肝となる質問を投げ掛けた。

「で、幻夢境に一体何の用があったんだ?」

「えっ、何のって、飲み会の誘いだけど……」

「飲み会?」

「うん、今年は出雲大社と伊勢神宮の式年遷宮だからね。それを祝う神様の宴会があったんだよ」


「今回の伏線はそっちかああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」


想定していた想定外のオチに真尋は絶叫した。

確かにその話を真尋たちは聞いている。早苗との他愛ない雑談の中で。
その後、早苗が八雲紫犯人説を唱えたため、記憶の彼方に吹っ飛んでいたのだが。

よく考えると、紅魔館でレミリアが残したヒントも『神社に行け』であり、『博麗神社』とは限定していなかった。
つまり『神社』が『守矢神社』の事でも何らおかしくないのである。

「つまり、何か?端的に言うと」


『また守矢か!!』


魔理沙を筆頭に全員の声がハモり、視線が早苗に集中する。
チルノを除く全員に睨まれた早苗の顔は血の気がなく、真っ青だった。

「おい早苗」

「早苗さん」

「……早苗」

「ま、待って下さい!普通あり得ないでしょこんなオチ!常識的に考えて絶対に分かりませんって!」

首と手を左右に振り、必死に取り繕おうとする早苗。
だが、その言い分は早苗に関しては言い訳にすらならない。なぜなら。

「……幻想郷では常識に囚われてはいけない。これは早苗が言っていた事」


「早苗、お前言ってたよな? 常識に囚われてはいないけど捨ててもいない、って。
 少しでも人間らしい良識があるなら、後は言わなくても分かるよな?」

「うっ……。にゃ、ニャル子さぁ~ん」

答えに窮した早苗はすがり付くようにニャルラトホテプを見た。
ニャルラトホテプはまるで聖母のような笑みを浮かべると、優しく早苗の肩に手を置いた。
そして。

「ニャル子さん!」

「早苗さん…………残念ながらアウトです」

にこやかに極刑を言い渡したのであった。





――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――

「どうやら野良ニャルラトホテプに殺された神々の一部に、日本の神様と密かに関係を持っていた者が居たようですね」

「……それが今回の幻夢境の再編で明るみに出た」

ところ変わって、ここは博麗神社の一室。
洩矢諏訪子らの事情聴取にと用意された部屋で、ニャルラトホテプとクトゥグアが口々に言う。

話を纏めるとそう言う事だった。
前任の神々が地球勤務になったことをいいことに、裏ルートを構築していたらしい。
真尋たちが幻想郷に来てしまったのも、その裏ルートが影響していたようだ。

「それでニャル子ちゃん、今回の件はどうなるの?」

「諏訪子さんらは関係が非正規だとは知らされていなかったようですし、裏ルートを構築した神々も既に死んでますからね。
 被疑者死亡で済ませることになりそうです」

「結局身内から出た錆なのかよ」

クー音といい、幻夢境の神々といい、相変わらず邪神どもは欲望に歯止めがきかないらしい。
惑星保護機構は一度、内部の膿を徹底的に洗い出した方が良いのではないだろうか。


「ニャル子さん、八坂さん、今回は本当にご迷惑をおかけしました。 もう、なんと言ったら良いのやら……」

最後の最後で大失態を演じてしまった早苗が勢いよく頭を下げる。
不正アクセス事件に関して早苗に責任はないのだが、これでもかと言わんばかりに縮こまっている。

「ああ、もうそんな畏まらないで下さいよ。私的には幻想郷に来られただけで大満足なんですから」

「……わたしも。とても楽しかった」

「ぼ、ぼくもきにしてないよ!レミリアさんのお茶もおいしかったし……」

みっみーん。
フォローになっていないフォローを述べる三人と一匹。
公私混同がご法度な公務員にはあるまじき態度なのだが、早苗に免じて見なかった事にする。

「こいつらもこう言ってるし、気にする事はないと思うぞ。寧ろ世話になったことの方が多いんだし」

「八坂さん……」

「ほらアンタたちーっ! 外の世界に帰るんでしょ?早く来なさいよー!」

「あっ、帰りのじゅんびが出来たみたいだよ!」

「若干名残惜しい気はしますが、そろそろお暇しましょうか」

「……早く帰らないと宇宙より広いわたしのお腹も我慢の限界」

「紅魔館でアホみたいに食ったのはどこの誰だよ」


紫と共に送還の準備をしていた霊夢に呼ばれ、ニャルラトホテプたちは神社の庭へと出ていく。
真尋もその後に続こうとして、後ろから手を掴まれた。

「……外の世界の、それも同世代の人と話が出来て今日は楽しかったです。
 久々に、本当に久々に、向こうの空気を思い出す事が出来ました。
 これはほんの気持ちです。ささやかですが、持っていって下さい」

そう言うと早苗は服のポケットにサッと何かを忍ばせる。

「早苗?」

「真尋さーん、何やってるんですか?行きますよーっ!」

「さっ、行って下さい八坂さん。置いてきぼりをくらったら本当に帰れなくなっちゃいますよ?」

真尋が何か言うより早く、早苗は真尋の背を軽く押す。
真尋を呼びに戻ってきたニャルラトホテプがさっきまで早苗が掴んでいた手をとり、そのまま真尋を引いていく。
部屋を出る直前、チラリと見えた早苗の表情は、優しくて、それでいて意地の悪い笑みを浮かべていた。





――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――

目を覚ますとそこは、ニャルラトホテプの自室だった。
真横を見るとニャルラトホテプにクトゥグア、ハスター、シャンタッ君と言ういつもの面々が安らかな寝息をたてている。
どうやら無事に帰って来られたようだ。
ふと思い立ち真尋はポケットに手を突っ込こんでみた。何かがポケットに入っている。
そのまま引っ張り出してみると、小さな御守りとメモ書きが一つずつ、束になって入っていた。

「『神さまはなんでもお見通しなんですよ』? なんだこりゃ?なんだって早苗はこんなメモを……ッ!!?」

メモを見て、それから御守りを見た真尋は次の瞬間目を見開いた。
小さな桃色の御守りに刺繍された願掛け、それは。


『恋愛成就』


「~~~~っ!!」

この御守りに、あのメモ書き。これが意味することは一つしかないだろう。
初対面の早苗から見てもそう見えた。つまりはそう言う事だ。
言葉にならない微妙な気持ちを抱えながら、真尋はニャルラトホテプたちが目を覚ますまで一人、悶絶し続けたのであった。





――――――――――――――――――――――――――――――――<完>

はい、以上を持ちましてニャル子さん幻想入りssは完結です。
これがやりたかっただけだろ!と思っていただければ幸いです。

ニャル子さんの原作に近づけようと思いつくままにパロネタを投入してみましたが、結構難しかったです。
ただでさえ得意分野はシリア(笑)系なので……

ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。
ご意見ご感想ありましたらお願い致します。


次回は『大長編ニャル子さん、真尋と銀河超特急』を予定しております。
ウソです。次回作の構想は何も考えておりません。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom