如月千早「死神と歌姫」 (47)

「千葉くん!」

今回の調査対象、如月千早が私の名前を呼んだ。

それまで彼女と揉み合っていた二人の若者は、動きを止めた。

「なんだよお前」

「なんなんだよお前」

なんなんだとはなんなんだ。二人の質問の意味がわからないため私はそう言う。

「馬鹿にしてんのかよ!」

降りしきる雨の中、若者が叫ぶ。前に見た映画のワンシーンにこんなのがあったな。

私はこの若者たちと似たような外見をしている人間を何人も見てきたが、彼らが私に対して

発する言葉も似ていた。なんだよ、うるせえよ、馬鹿にしてんのか、ぶっころすぞ、

だいたいこんなところだ。

如月千早は目線をキョロキョロとさせ、この選択肢に人生がかかっているかのような表情をしていた

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ちょっと早いですが一旦ここまで。

超遅筆になります。

今日のボイトレも問題なく終えると、私は用意していたミネラルウォーターを口にする。

水分が渇いた喉にしみわたっていく。快感。飲みながら、歌った後にはこれ一本!なんていうキャッチフレーズが

閃く。そういえば水のコマーシャルはほとんどみけないな、と思う。発見。

「良い飲みっぷりだね。千早ちゃん」天海春香が声をかけてきた。

「ええ、この瞬間も楽しみの一つよ」

春香も一気飲みを始め、半分まで飲むと

「ぷはー 効くぅぅー」

「写メールで撮っておくべきだったかしら。アイドルの卵飲酒現場、ってね」

「卵ってとこがちょっと来るなぁ。 せめてアイドル候補!それか未来の売れっ子」

「卵は卵でも金の卵よ」

「割れたらもったいないね」

千葉~

如月千早を担当して三日がたった。

こんなふうに報告がぞんざいなのは、この三日間は外見的には変わったことはなかったからだ。

ただ分かったことがある。

如月に付きまとっている者がいるのは確かであることだ。

私は仕事の一環として如月を尾行しているのだが、その者は

そういった目的は感じられない。現れるのは決まって帰宅時だった。

如月は、「この子が守ってくれるわ」

とけたたましいアラームが鳴る機械を得意げにみせていたが

役に立つのだろうか。

そして今日は6日目、そろそろ報告をするところだ。

いつもなら私は可の報告をするのだが、今回はどうしようか。

そんなことを考えながら、帰宅している如月を尾行していた。

私はさっきから感じていた違和感に気づく。

尾行の人数が減っている。いつもなら私を含めて三人いるのだが

今回は二人である。

ふいにスピードののった車が後ろから走ってきた。

水たまりに入ってもスピードを緩めず、私にひんやりとした水がかかった。

車は如月のそばで止まった。

この近くに知り合いはいない、と言っていたはずだが

どういうことだろうか

千早~

傘をさしているとはいえ、水たまりのせいか、足から膝まではびしょびしょだった。

靴の中に水がしみて気持ちが悪い。これならいっそサンダルを履いた方がよかった。

後ろから車。雨で視界がきかないはずなのに猛スピードで突っ走ってくる。

違法な公道レースでもやってるのかな、と思っていると、車は私のそばで止まった。

二人の男が降りてきて、一人が私をはがいじめにする。この間約二秒。

なんども練習したのかと疑うほど見事な連携だった。

「なんですか!」

「いいからおとなしくしろよ!」

「おい早くのせろ!」運転席の窓から顔がでてきた。もう一人いたようだ。

「つーかまじ可愛くねえ?」

「そりゃこいつ一応アイドルだしな、事務所から出てくるの何度も見たし。まぁうれてねぇけど」

アイドルじゃない。歌手だ。

私が必死で暴れているのに、男たちは余裕で談笑している。

防犯ベルはバッグに入っているのだが、暴れた拍子に落としてしまった。

「くっ…」

おそらくここ最近の尾行はこいつらだろう。たぶん何日もつけて帰り道を把握し

今日実行に及んだのだ。

視界の先で見覚えのある人間が見えた。

千葉~

「千葉くん!」

人間が何をしようと私には興味がないので、踵を返そうと考えていたところ、

如月が私の名前を呼んだ。

それまで彼女と揉み合っていた二人の若者は、動きを止めた。

「なんだおまえ」

「なんなんだよお前」

「なんだとはなんなんだ」

私がそういうと、二人は顔をきょとんとし、一人が

「馬鹿にしてんのかよ!」と憤った。

「おい、そいつほっとけ! 早くしろ!」

運転席の男が叫ぶ。その声にはっとしたように二人の若者は再び動く。

なるほど。と私は納得した。

人間の男の間では、集団で女を車に乗せ、連れまわすのが流行っているらしい。

昔の調査でも似たような場面をみたことがある。

「千葉くん、助けて」

ああ、嫌なのか。私は彼らに向かって近づいた。

するとどこから来たのか、

「てめぇら!何してんだ! あぁん!」

と声が聞こえ、人間が飛び出してきた。

千早~

飛び出してきた男(多分)はピストルを持っていることを強調するように振り回している。

私を掴んでいた二人はまたきょとんとした顔をしている。

ピストル男はそのうちの一人に近づきピストルを額へと向け、発射した。

パァン!と音がなり、銃口からは煙。男はふらり、と倒れる。一瞬銃でうたれたかと思ったが

気絶しただけだった。

間違いない。顔はよく見えないがあれは師走くんだ。それにしてもなぜここにいるんだろう。

「てめえもかぁ?」

そういってもう一人にも銃を向けた。

「おい!早く乗れ! そいつやばい!」

男二人は私を突き飛ばし、車にとびこんだ。ドアをしめないまま走り出す。

あの二人は運転手のいうことは聞くらしい。

「如月さん」

「師走くん、どうしてここに?」

「びっくりした?」

「ええ。百年分くらい。」

「あの、如月さん。えっと…ごめん!」

師走くんはピストルを落とし、帽子を脱ぎ捨てると私に頭を下げた。

謝られる理由も知らないので反応のしようがない。

「えっと、謝られるようなこと、されたっけ?」

「僕、如月さんをつけてたんだよ。ここ数日。僕はろくでなしのストーカークズ野郎なんだよ!」

あの二人だけじゃなかったのか。師走くんまで。しかし助けられたという事実は変わりないため

怒りは湧いてこない。

「つけていた目的は? あの人達と同じじゃなさそうだけど」

「うっ…」

彼はそう漏らした。私は彼の言葉を待つ。 

「ずっと言いたくて…タイミングつかめなくって…つい付け回すことに…」

「日直の時にいえばよかったのに」

「言えないよ。そんな重大なこと」

「何を言おうとしたの?」母親に今日の晩御飯を聞くようなそんな軽い気持ちで聞いた。

「如月、千早さん。好きです…」

えっ、と思わず声が出た。今日は波乱万丈すぎる。

今まで何度か異性からの告白はあったが、こんな状況は始めてだ。

一度授業中に手紙が回ってきて告白されたことがあるが、あれをしのぐ。

足元にわく水たまりを見て、意を決し顔を上げた。

「ごめんなさい。付き合えないわ」

彼はバツが悪そうに下を向く。

「あなただから嫌ってわけじゃないの。今はだれとも付き合う気はないの」

歌が彼氏だから、とはさすがに言わなかった。

千葉~

不意打ちで登場した男のせいで、如月は私の存在を忘れているようだ。

隙をみて身を隠した。さて、そろそろ報告をしなければならない。

調査当初は可の報告をすることを決めていたが、如月は歌手の卵であり

いつの日か、私の心躍るミュージックを歌うかもしれない。

仕事用の電話をとりかける。相手がでる。今回はどうするか相手が訪ねてきた。

すこし間が開き、私は答えた



「見送りだ」

お わ り

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