少し前に書いた話の続き風の短編的なのをぽちぽち書いていけたらなと
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『引きずってみたら』
真っ黒いそこに、ボクは白線を走らせる。
――黒板に字を書くのは、どうにも慣れないな。
かりかりかり、と三行ほどの少々長めの回答を書き上げて、ボクは振り返った。
視線の先には満足げな国語の教師、どうやらボクの書いた回答は正答であったらしい、ふぅ、と胸をなでおろすと、教師は笑顔で言葉を投げてきた。
「二宮、最近調子いいなぁ。先生はお前が元気になって嬉しいぞ」
特に好きな教師であるだとか、そんなことはないのに、少し嬉しくなって表情が綻ぶのを感じた、少し気恥ずかしくなってそそくさと席に着く。ふと窓の外へ視線を向けてみれば、いつも通りの風景がそこにあった。
日常であるところの学校生活、それもまた、最近ではただ退屈なものだというだけではなくなってきている。
それがいい傾向であるのか、はたまた世界に呑まれてしまっているだけであるのか、それは少し考えさせられるところではあるけれど――
――うん、悪くない。こんな毎日、まったくもって悪くないじゃないか。
「ねぇ、プロデューサー」
ぽつり、と言葉を落とす。
「ん? どうした?」
それだけで、必ず返事をくれる存在が、ボクにとってのプロデューサー、Pさん。
仕事に向かう車の中、後ろの席から運転席のシートに向かってボクは続けた。
「今日は学校で良い事があったんだ、たまには大人の思惑通りに行動するっていうのも、いいものだね」
「おいおい、なんだよそれ、大人のいう事は聞くもんだぞ、基本的には」
多少呆れたような声色で言われる。それでもきちんと相手をしてくれるようで、運転に意識を裂きつつ、きっちりと耳を傾けているという姿勢が見て取れた。
「社会的な常識に縛られて、固定概念で物事を考える人たちってのは、ボクは好きじゃないんだ、基本的にはね」
「一理あるけれど、一理しかないぞー、まったく」
「ふふ、安心していいよ、少なくともキミは、ボクの中の基本に含まれない存在であるんだから」
「そりゃ嬉しいな。今日も今日とて絶好調だな、お前」
「ボクは思秋期の痛いヤツだからね、まぁ大目に見てよ、大人なんだから」
「……素直に学校で褒められてうれしい! って言えばいいのに、そこが可愛いところだけれどさ」
「な!? ち、違うぞ! そういう事じゃないさ、ああ、理解ってないなぁ、まったく。そもそもだね――」
ほんとに、大人なのだから、きちんと大目に見てほしいもんだ。頬を膨らませていたらまた可愛いと言われてしまい、結局ボクは移動の車の中で、ずっと俯いていた。
――表情の綻びを抑えられなかったのは、ボクだけの秘密としておこうと、固く誓った。
需要があれば、次のができ次第上げていく形で行きたいと思っていますので、投稿間隔が開くときがあるかもしれませんが、ご容赦ください。
『ボクとキミの関係は』
ボクとプロデューサーの関係を、一度しっかりと考えてみよう。
そう思ったきっかけは、つい先ほど終えた月刊雑誌のインタビューであった。記者がボクに向けた『気になる人はいますか?』という質問。アイドルに対して聞く質問ではないのではないかい、と返すとお決まりなのでと涼しく笑っていたが、その時ふとあの人が――プロデューサーが頭に浮かんできたのだった。
あらかじめ線引きというか、大前提として明記するならば、やっぱりボクはプロデューサーのことは好意的に見ているという事と、それと同時に決して恋愛対象ではないという事だ。
まず、年が離れすぎているのだろう、そこに関しては誰も疑問は持たないはずだ。ボクは14歳の少女で、相手はとっくに成人している男性である、そこには憧れこそあれど、恋愛感情はどうしても湧いてこない。
なんだろう、兄――いや、恩人――というのも、なんだか違う気がする。教師――というのもなんだか違う。もっと対等な、こう、なんというべきか。
そうだ、こういう場合は、ことの馴れ初めから順を追うことが大事だと何かで読んだ気がする。
ファーストコンタクトは、街を歩くボクを、プロデューサーはナンパ紛いな方法でスカウトしたことだったはずだ。
「ねぇキミ! ちよっと俺と話をしよう。そこにカフェがあるだろう、お金は俺が持つから、君の将来について、大事な話をしよう。ちょっとだけでいいんだ、ほんとにちょっと付き合ってよ」
曰く、逸材の発見にテンパっていたそうだ。
それにしたって、酷い。当時のボクはそのギラギラとした瞳を見て、むしろここで断ってしまうより人の多いカフェまで行って声をあげたほうがいいだろう――なんて、考えてしまうほどに、あの時のプロデューサーは酷い様だった。
そんな彼は、今ではボクに新しい世界を、地平を見せてくれる大切なパートナーである――あ。
「なんだ、結論でていたじゃないか。キミはボクのパートナーだ」
「お、おう、唐突に嬉しい事言ってくれてありがとうな。そろそろ事務所つくから、おりる準備しとけよ」
「はーい」
そういってハンドルをきる彼に、あえて聞こえない程度の声で、呟く。
「これからもよろしくね」
「ん、なんか言ったか?」
「いやいやなんでも」
そう、なんでもない。なんてことない、いつものことだから。
『お年頃』
「プロデューサー、ちょっと相談があるんだけれど」
「ん? どうした?」
「最近、周りが色恋にほだされていてね。なんというか、恋に恋しているというか」
「な……ま、まま、まぁ、うん。中学生だしな、しかたないよな、最近の中学生はマセているというし……でも言っておくがな――」
「安心していいよ、キミが思っているようなことはへ別にないから。確かに周りは中学生という思春期特有の恋愛観にほだされているけれど、ボクはその限りじゃないからさ」
あからさまに慌てふためいているプロデューサーに、そう告げると、ならいいんだが、と安心したように息を吐いた。大方、アイドルが恋愛なんて御法度だ――とか、そんな事を言いたかったのだろうが、それくらいボクだって理解っている。少しボクを舐めすぎてやいないか。
「そうか、ならいいんだ、うん。――で、それで? 話を続けてくれていいぞ」
「うん、それでね、当然ボクの友達も彼氏や彼女を作るわけだよ、それで思ったんだけれど『お付き合い』っていうのは、大人からするとどんなものなのかなってさ」
「……ん? そりゃいったいどういう……」
「例えば、中学生のボクから見た愛ってさ――」
(うわ、なにかまた飛鳥らしいのが始まったぞ……、こりゃ長くなりそうだ)
「――平和や未来と同じだと思うんだよ、信じている者のなかにしかないところとか、そっくりだろう? べつにだからなんだっていう話でもないけれど、でも第三者という視点から観測すれば、ボクの周囲の感情はとても滑稽であると思うんだ。いや、別に卑下するわけじゃなくてね、きっと恋愛は当事者以外からすれば滑稽であるのが当然であるのだろうし――まぁ、ボクはそう思うんだけれど、大人に――つまり、キミくらいになったらその恋愛観というのはどうなるのかなーと、そう思ったわけさ」
「ふぅん、なるほど」
僕が話し終えると、何度か情報を噛み砕いているようにこくこくと頷いて、ぽん、とプロデューサーは拍子を打った。
流石ボクのプロデューサーだ、ボクの言わんといることをきちんと理解ってくれている――
「つまりあれだな、要すると『最近ボクの周りみんな恋愛ばかりしてる、ボクも気になる年頃だから興味津々なんだ! ちょっとキミはどうなのか教えて!』と、そういう事だな?」
「――うん、違うよ!? ぜんぜん違うからね!?」
――まったくわかってくれていない、思春期の乙女の恥じらいをまったくわかっちゃくれていない!
「はっはっは、いいよいいよ、そういう事考えるよな、中学生って」
「笑うな! ちょっと恥ずかしいじゃないか!」
「はっはっは、いやぁ、可愛いな、もう」
「――ちひろさーん、お茶もらえますかー?」
「やめて! ちょ、ちひろさんいりませんよ、もってこないで!」
「どうよ飛鳥、水も滴るプロデューサー」
そういうと、両手を広げてその場でくるりと回った。
「――恋、始まったんじゃないか?」
「安心してくれ、それはない。たとえボクがアイドルでなかったとしても、それはない」
「そっか……」
せやな、なんも言えんわ
>>9
別のスレに書き込もうとしたことを誤爆してしまいました恥ずかしい……
次のもうすぐできますので、もうしばらくお待ちを
『二宮飛鳥の髪型事情』
ボクこと、そして新人アイドルこと二宮飛鳥はいくつか趣味を持っている。というのも別に、アイドルであることを前置きなくしてもなにもおかしくはない趣味であるのだが。
漫画を描くこと、ラジオを聴くこと、そしてヘアアレンジがある。
ボクの通う中学校は校則で髪を染める事を禁止している、だから当然、髪の毛を染めることはできない。癪だが、組織下のルールという校則はどうしたって護らなければならないからだ。
けれど、それでも黙って従うだけでは癪だ。だからボクはこのままならない世界へのささやかな抵抗として、カラフルなエクステを使って自分の髪の毛をいじる。もちろん、学校へはそんな髪では行けないから、プライベートのみでの使用ではあるのだが。
だが、アイドルというのはポップカルチャーの中心だといっても過言ではないだろう、昨今アイドルという存在は多くの人々、様々な層に支持されて、認められている。ボクの学校のクラスでだって、その存在はしばしば話題にあがるし、人気の的であったりする。ボクが活動を始めてからボクに近づいてきたヤツらがいたりする辺りに『アイドル』が持つ力というのが見え隠れしている気がしないでもない。つまりそういう事なのだろうね。
実際、ボクは自身もアイドルという存在は少なからず気になっていた。――ここでいう気になっているというのは決して『アイドルになってチヤホヤされたい』といった自己顕示欲を源とするそれではなく、よく目にする文化の一つとしてという意味だ。
偶像を偶像であると自ら申告して、活動するアイドルという存在は、冷静になってみればとても奇妙な存在であるな――と、そういった具合に一度考えたことがあった、その程度の『気になっている』であった。
そんな役を演じている身としては、それなりに『偶像』として役を果たせるような煌びやかさを意識したりすることも大切だと、ボクは思うのだ。
「だからさ、ボクが学校にうっかりエクステを付けていったのはプロ意識の現れであって、それを称賛されることはあれど、あまつさえエクステを没収するなんて、先生はひどい事をすると、そう思わないかい?」
「いや、酷いのはお前のうっかりであって、先生なにも悪くないだろうに……」
「いやいやプロデューサー、キミにはがっかりだよ、ボクを理解ってくれると思っていたのにね」
「……なんだか理不尽じゃないか!?」
『いつかみんなのアイドルに』
プロデューサー。それが俺の職業で、通称で、大抵の人は俺のことをそう呼ぶ。
なんだか最近では、名前よりもそちらで呼ばれることのほうが多い気がする、少し職業に浸りすぎているのかもしれないなー、なんて思う反面『二宮飛鳥のプロデューサー』とか、『飛鳥ちゃんのプロデューサー』とか、そんな風に監督やらディレクターやらに呼ばれるのは、ちょっと嬉しかったりする今日この頃。
さて、そんな俺が所属するプロダクションでは、多くのアイドルが所属し、各アイドルに一人のプロデューサーがつき、二人三脚での活動をする方式を採用されている。
基本的な活動は二人で完結させ、確認や重要案件は社長に通すことを除けば、事実上は二人だけのプロダクションとなっているような錯覚さえ覚えるほどだ。もちろんそれは錯覚で、俺は当然それなりに大きなプロダクションの中の一人であるのだけれど。
「あ、プロデューサーさんお疲れさまです。あ、これ、今日の分のドリンクですよ、よければどうぞ」
「あ、どうも」
――と、忘れていた。本人に聞かれたら怒られてしまうところだ。
彼女は千川ちひろさん。この事務所の事務を一人で切り盛りするとんでもないお人だ。先ほど言った二人だけのプロダクションのような錯覚というのは撤回しよう、正しくは三人の、である。プロデューサーとアイドル間の仲の取り持ちや、面倒を見てくれたりもするすごい人だ。いや、ほんとに。
あと、なぜか元気になる栄養ドリンクをくれたりもする、すごく助かるけれど、出所を聞いたら妖艶な微笑を返された。ちょっと怖い気もする。ちひろさんに限って怪しい物を俺に渡すとは考えられないから、まぁ別にいいのだけれど。
「――んぅ、うまい。なんだろう、絶妙な味してますよね、これ。いやぁ、元気も出るし。薬局とかで買えるんですかこれ、ちょっとまとめ買いとかしときたいな」
「あー、それは市販されてないんですよ。それにあまり飲みすぎても……ねぇ?」
「え、いや、え? 『ねぇ?』とか言われても……」
訂正、やっは怖いかも。
とかく、実際問題元気はでた。となれば仕事である。
担当アイドルで、一番好きなアイドルで、俺のアイドル(自称)であるところの二宮飛鳥を、一刻も早く、一人でも多くの人に布教させるのが俺の仕事だ。というか、俺のしたい事だ。
価値観の押し付けは、愚かしい事だ。
とか、なんとか、飛鳥に言われた記憶がないでもないが、人間同士どうしたって理解しあえないのならば、できることをするのがきっと正しい。正しくなくともそうしたい。
「そうしていつか、俺のアイドルを皆のアイドルにしたいと、俺は常々思うんですよね」
「それはすごく立派ですね、流石です、プロデューサーさん」
ちひろさんに褒められた、ちょっと嬉しい。
「でもですね」
「なんです?」
「自分の机のまわりを飛鳥ちゃんグッズで固めるのはいかがなものかと」
なにを言うのだろうか。
「ちひろさんともあろう人が、またまたー」
「いや、そんな『御冗談を』みたいな反応されても困りますよ!? いや、ホントにやめたほうがいいと思うんですよ。なんですかその机、ポスターから写真から、机の元の素材見える隙間ないくらい二宮飛鳥に染められてるじゃないですか!」
「市販のものだけではない! なんと個人的に撮影した写真もありますよ! ほら! これとかも可愛い! 寝顔とかたぶん見れるの俺だけ! いやぁ、この前車で送迎中に寝ててですね! すごいでしょう!?」
「なんで自慢げなんですか!? 担当アイドルを好きなのはいいですけれど、いや、立派ですけれど、でもやっぱり飛鳥ちゃんの心象というか、ドが過ぎているというか、そういうのもですねぇ……」
「だって飛鳥のこと好きなんですもん、しかたないじゃないですか」
「周りの目とか、ちょっとは気にしましょうよ。最近他のプロデューサーさんからちょっと異常なのでは? って目で見られだしてますよ?」
「異常であることは認めますけれど、好きなものはしょうがないです」
頭を抱えだすちひろさん。
いや、自覚はあるのだ。我ながら中学生相手に本気で恋愛感情を抱くとても気持ちの悪い成人男性だという自覚は、確かにある。
でもほら、理解できても、納得できても、だからといってそれが解決に繋がるのかと言われれば否なわけで、でも心配されるまでもなく、決して手を出したり、うっかり相手の前でそんなことは言わないようにという線引きは持っているつもりである。
俺は飛鳥が好きだが、それ以上に飛鳥を好きになってもらいたいのだ。
そして付け加えるならば、現実的問題として、俺がなにかしらアプローチをかけたならそれは『犯罪』の臭いすらしだしそうだし、もっと前提的なところで、飛鳥がそれを受け入れてくれるわけはないことは理解できているわけで。
「ですから、ほら、大丈夫ですよちひろさん。俺はきちんと仕事をこなしますし、飛鳥をトップアイドルにしてみせます。飛鳥を俺の気持ちには気がつかせませんし、俺は結果飛鳥を皆に好きになってもらえます、完璧! 最高! これ以上はないですよ! ひゃっほう! やっばい! 想像するだけで楽しい!」
「うわぁ……、素晴らしい事ですけれど、うわぁ……――あ、飛鳥ちゃん来ましたね」
あ、本当だ、今日も今日とて可愛いな、もう。わっほい、いやっほい。
「――おはよう、飛鳥。今日はこの後営業があるから準備はしといてな、俺がこの仕事片づけたらすぐ向うから」
「おはよう。わかったよ、それじゃあ向こうで座っているから」
(この切り替えの早さだけは、毎度すごいと思わざるをえないんですよねぇ……この人、ほんとよくからないわ……。飛鳥ちゃんの前では基本的に変なテンションになったりもしないし)
「よし、終わり! っし、おーい飛鳥、行くぞー」
「はやい!? 書類の束が一瞬で!?」
なにやらぶつぶつと呟いているちひろさんをよそに、飛鳥へと声をかけつつ、スーツの上着をきっちり着て、出かける準備を終わらせる。机に開いてある送迎用の車のキーを回収して玄関で飛鳥を待つ。
数秒で、飛鳥も旬日は済ませていたようで、すぐに玄関まで歩いてきた。
「準備はできたよ、さぁ行こうか」
笑いかけられた笑顔に、思わず表情が緩む。やはり俺のアイドル――もとい、俺の担当アイドルはとても魅力的だ。今日も一日、約束のためにがんばろう。あの日、ついてきてくれると言った彼女に、俺は約束したのだから、そしてつい数日前にも、また一つや約束をしてたのだから。
「おう、それじゃあ今日一歩前進と行こうか、逃げ切るんだもんな最果て(トップアイドル)まで」
「うん、一緒にね」
――きっといつか、必ず皆のアイドルに。
「そういえばプロデューサー?」
「ん?」
「机に置いてあったボクの寝顔の写真は、どういうことなのかな?」
「……さ、最果てへ!」
「誤魔化せないよ!」
「に、逃げ切りたいーーぃ!」
おわり
というわけで無事終了です。
実際、飛鳥Pってプロデューサーやるとしたらこんな具合になるんじゃないかなーとか思ったら書きたくなって書きました
対して長くもないのにだらだらと時間かけてしまってすいませんでした、不甲斐ない。
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