出張えろえろマッサージ (女子高生と女技士編) (117)

タイトル通りです。書き溜めなしです



佐々木「親なし、金なし、食料なし……学校も休みか」

佐々木「娘に黙って行くとかないわ……せめて、ご飯おいてってほしいんだけど」

佐々木「……」ぐうー

佐々木「……えー、どうしよう。なんかないかしら……」

佐々木「おとんの部屋に、確かカップ麺があったような……」

トタトタトタ――

おとんの部屋

佐々木「しつれーしゃっす……」

キョロキョロ――

佐々木「たばこくさ……こんなところにいたら死んでまう……」

佐々木「ん?」

机の上に書置きを見つける。

佐々木「……なにこれえ」

佐々木「出張えろえろマッサージ?」

佐々木「……と、電話番号が書きなぐってある……」

佐々木「……扉に鍵もかけずに、こんな卑猥なメモを人はこのように放置していくのでしょうか……?」

佐々木「罠?」

佐々木「……いや、でも、ねえ……出張えろえろって……ネーミング……ぷぷっ」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1398522549

佐々木「どっかのスナックかガールズバーの店名か、はたまた言葉通りか……」

佐々木「……おもむろにスマホを取り出してみる」

佐々木「……」

パシャっ

佐々木「……これでおとんをゆすってやろうかしら」

佐々木「……全く、遊び人過ぎるでしょ……」

メモを掴む。

佐々木「あれ、裏に何か書いてる」

佐々木「しんきょ……? いや、にい?」


――新居――


佐々木「なんのことやら……」

佐々木「……あれ、もう一枚くっついてる……」ペロ

○月×日 ○○時~

佐々木「……今日の日付……今、何時だっけ」チラ

佐々木「あ……」



ピンポーン!

佐々木「……おっとぉ? だれだれ……わ、やば、私寝巻のまんまだわ……」

ドタドタ、バタバタ!

女子高生着替え中――

ピンポーン!

佐々木「あ、はーいはい! ブラ……あー、もういいや! ちょっとしか出ないし」

ダダダ――

ピンポーン!

佐々木「はいはい。今開けますからねー」

トタトタ――、ガチャ

?「こんにちは。私、SEMの新居と申しま……」

佐々木「……にい」

佐々木(SEM……出張えろえろマッサージ……)

新居「あ……えっと、ご、ごめんなさい。お部屋を間違えて……」チラ

佐々木(デリヘル……じゃなくて)

佐々木「新居さん……」

新居「え、あ……はい」

佐々木「え、えーと」

新居「は、はい」

佐々木「あ、部屋はたぶんここで合ってると思うので、どうぞ……」

新居「……え、え?」

佐々木「あなたを呼んだ人まだ帰ってないので……ちょっとお待ちください」

佐々木(や、私、内心びっくりしてるんですけどね! デリヘル嬢とか、初めて見たわ……)

新居「そうなんですか……じゃ、じゃあ」

新居さん、パンプスを脱いで、きちんと玄関先へ整列させる。

佐々木「……あ、あの」

新居「は、はい」

佐々木「ほ、本日は初めてで?」

佐々木(私はいきなり、何を聞いているのでしょうか……)

新居「え、ええ」

佐々木「……そうなんですか」

佐々木(…おとんよ……あとで火炙りにして、1階のお花畑に埋め殺してやる)

新居「オシャレなマンションですね……」

佐々木「あ、どうも。こちら、リビングなので、適当にくつろいでください……」

新居「はい……」

新居さんをソファーに誘導して、座らせる。

佐々木「紅茶とコーヒーどちらにしますか?」

新居「あ……おかまいなく」ニコ

佐々木「いえ、あの人いつ帰ってくるかわからないし……良ければ」

新居「そうですか……じゃあ紅茶で」

佐々木「はーい」

佐々木(……いいのか、こんな対応で)

佐々木「……ちなみに、何時までいるようになってるんですか?」

新居「2時間のご予約を承っております……」

佐々木(あの、エロおやじ……2時間もナニするつもりだ……)

佐々木「あ、お金って支払われてますか?」

新居「はい。前払いですので」

佐々木「それは、もったいないですね……」

新居「……そうですね。連絡しても通じないので、もしかしたら、お忘れになられているのかも」

佐々木「……んー、じゃあその間、私の肩を揉んでくれませんか? なーんて」

新居「かまいませんよ」ニコ

佐々木「えー、ほんとですか? ありがとうございます」

眠いので、今日はここまで

佐々木(じゃ、なくて!? をいをい……あと2時間って! おとんが帰ってきても気まずいし、待つのも気まずいし……! てか、なんで待ち合わせ自宅なの! なんでなの! 馬鹿なの! くそ親父!)

新居「どうされました?」

佐々木「えへへ……」

新居「では……」

佐々木「はっ……ごめんなさい! 言ってみただけなんです! ゆっくり、ここでくつろいでいてください!」

新居「そうですか……?」

佐々木「お茶入れますね……っ」

タタタ――


佐々木(い、今さらだけど、とにかく冷静になろう。この人はお金もらってるんだから、それなりに面子もあるだろうし……私が見なかったことにすれば、おとんにもばれない……ああ、そもそも家にあげなければよかったんじゃないかなあ……うはは?)



コトっ

佐々木「どうぞ、レモンティーです」

新居「私のほうが、お客様みたいですね」

佐々木「ははっ……」

佐々木(この人、近くで見たらけっこう若い……化粧で歳よりも老けさせてるのかな)

佐々木「……わ、私は奥で勉強してるんで……何かあれば言ってください」

新居「はい」

佐々木「……トイレは、そこです」

新居「わかりました」

トタタ――ピタっ

佐々木、引き返して扉の影からそっとリビングを伺う。

佐々木(……やっぱ、こういう仕事してるってことは……お金に困ってたりとかするのかなあ……。1時間いくらくらいなんだろ……最近、お土産買ってこないと思ったら……こっちにつぎこんでたんかな……おとんのやつ)


新居はカップに何度も息を吹きかけている。


佐々木「……」

ススっ――(スマホで、デリヘルを検索している)

佐々木(……あったあった、SEM……何々、極上のサービスを目指して……お客様を100%満足させます……)

佐々木(近所だよ……何度かここの前通ったことあるよ……)

佐々木(……おお、写真が並んでる……番号が…………あれ、この人……新居さん……NEWって出てるってことは最近入ったのかな)


「つっ!」


佐々木(おう!? 新居さんどったの……あ、舌やけどしちゃったのね……)

新居、再び必死にティーカップに息を吹きかけている。

佐々木(……アイスティーにしておくべきだったか)

佐々木(……べんきょーするか……)

ソロソロソロ――




新居「……いたっ」

新居(舌がヒリヒリする……)

新居(お砂糖混ぜたら、少し冷めるかも……)

サラサラ――カラカラ

新居(……このまま、2時間ここで待つことになるのかな)

新居(来ても、来なくても、どっちでもいいけれど……料金は頂いているし……)

新居(ううん……やっぱり……)

新居(……だめ、仕事だから……そんな無責任なこと考えたらだめ)

新居(……店長が、時間を間違えてるのかな……クライアントが忘れてしまってるのかも)

新居(……)ウト

新居(……最近、多かったから……少し、疲れてるのかな、店長)ウト

新居(……)ウトウト

コテ――


――――
―――
――


新居「すー……」

ブーブー(携帯のバイブ音)

新居「すー……」

ブーブー

新居「はっ……」パチ

パカっカチカチ――

新居「メール……」


送信者:クライアントX
件名:すいません!
本文:急な用事が入って、ご連絡できませんでした。誠に申し訳ない。今日は、キャンセルします。またの機会を楽しみにしております!


新居「……」

カチカチ――


送信者:新居
件名:
本文:お疲れ様です。そうだったんですね。残念です。宜しければ、またご指名ください。


新居「……」

新居(……1時間も経ってる……)

新居(……あと、1時間か……帰ろう)

トタトタ――

新居(あの子の部屋……ここかな)

ドアに、『娘専用』と書かれている。

新居「……ぷっ」

コンコン――

『はい!』

ガチャ――

佐々木「ど、どうされました?」

新居「どうやら、急用で今回はキャンセルになりましたので、お暇させていただきますね」

佐々木「あー、そうなんですね。わざわざ来てくださったのにすいません」

新居「いえ……こちらこそ、美味しい紅茶をありがとう」

佐々木「いえいえ、いつでも……」

佐々木(ん? 待て待て、いつでもは、ねーよ……)

新居「では……」

遅くなりましたが、これは百合、エロを含めます。

マンションから離れ、しばし時間が経った所で新居の携帯が鳴った。

新居「はい、新居です」

店長「あー、今日のクライアントから聞いてるかもしれないが、次来週のこの時間と二日後の19時にってことだ」

新居「それは、まだ聞いていませんでした。分かりました」

店長「次、予約入れてるから、早めに戻ってきて。じゃ」

新居「はい。失礼します」

ピ――

新居「ふう……」

新居(……明日、月曜日か……そろそろ試験勉強しないと)

新居(間に合うかな……)

新居(ううん、やらないと……無理でもやらないと)

新居(少し、仮眠がとれたし……ラッキーだった)

タタタタ――

翌日――


佐々木(また、何か書置きが……)


『日曜同じ、火曜19時~ 新居』


メモの横には、サンドイッチと即席スープが置いてある。
佐々木は卵とハムの挟まれているサンドイッチを一つ取って、口に運ぶ。


佐々木「あむっ……」もしゃもしゃ

佐々木(……)

佐々木(またかよ……って)

佐々木(え、これ確信犯?)ビクっ

佐々木「ごほっごほっ……!」(喉に詰まらせた)

佐々木「……っはあはあ……」

佐々木「ま、またくんの? いや、いいんだけどね、いいんだけど……」

佐々木「……もしかして、あえてここに置いたってことは、この時間帯はむしろここにいないでくれってことなんじゃ……ん?」

佐々木「そうすると、昨日の件は周知済み?」

佐々木「……ついに、娘を追い出してまで……」


そのメモはよく見ると、左端に、『ショートケーキ三つ』と書かれていた。


佐々木「え、これ買ってこいってこと」

佐々木「いや、あれこれ、三つ?」

佐々木「三つだと?」

佐々木「……ま、まさか新しい母親候補……?」

佐々木「それはないか。若すぎるもんね」

佐々木「……買ってなんて書いてないし、いいよね。別に」

佐々木「……って、やば遅刻する!?」

ガタタタ――!!



とある高校――

佐々木「で、ここに代入して、これでいいんじゃないかな」

清水「なるなる……解ける解ける!」

山田「ささきー、抜け駆けでテスト勉強してるでしょー」

佐々木「抜け駆けもなにも、私は真面目なんだっちゅーのに」

清水「ほんと、バイトして勉強して、家事もしてって、佐々木ちゃんのスキル高いよね」

佐々木「スキルゆーな」

山田「いやいや、並々ならぬ努力のたまものだって言うことは分かっておりますよ」

佐々木「分かってるなら、ちっとはあんたも勉強したら」

山田「ホワイ?」

佐々木「何も言うまい」

清水「山田ちゃんは、そのままでいいよ。それで、いつか大人になって、社会の厳しさに触れ葛藤と挫折を繰り返すの。それから、路頭に迷って、私の家に訪ねてきて、『山田ちゃん、私が養ってあげるから!』って展開を希望してるから」

山田「何それ怖い」

佐々木「いいのか、そんな人生設計で」

清水「もちろん、佐々木ちゃんも入れてあげるよ」

佐々木「ノーセンキュー。一人でも生きていくよ」

清水「寂しいぞ」

佐々木「清水のペットになるよりは人間性を保てるかなーって思うんだ」

山田「給料はでるかな?」ドキドキ

清水「うん、お月謝制にするつもり」

山田「やた!」

佐々木「いいのかそれで、おまえさんは」



キーンコーン
カーンコーン


佐々木「……次、移動だー」バタバタ

教室を出て、三人三様に階段を勢いよく駆け下りる。

ドンッ

佐々木「わ、ごめんね!」

「あ……」

佐々木「やば……?!」

ぶつかった女生徒はバランスを崩し、体が後ろに傾いていく。
佐々木は間髪入れず、彼女の後ろへとダイブした。体を抱きかかえるようにして、佐々木は物凄い音を立てて下敷きになった。




山田「佐々木がやられた!」

清水「佐々木ちゃん死すとも、志は死せず……」

佐々木「あいたた……比較的下の方でぶつかって良かった」

山田「ダイジョブ?」

佐々木「うーん……お尻痛い」

「いたあ……」

山田「大丈夫?」

「え、ええ」

清水「筆箱、どうぞ……」

山田「佐々木が失礼をいたしまして……」

佐々木「ご、ごめんなさい。えっと、日野さん?」

日野「え……」

佐々木「……あ、ノートに書いてて」

日野「え、ああ……」

山田「これ、佐々木、三年生ですよ」

佐々木「あ、すいません……ぶつかっちゃって。私、二年の佐々木です」

清水「何か壊れてたり、体が後でいたくなったり、気分悪くなったりしたら、佐々木ちゃんに請求書をまわしてください」

佐々木「をい!」

今日はここまでです

オリジナル?

>>20
オリジナルです

日野「特に、痛みとかはないから……あなたこそ、私の下敷きになったよね? ひどい音したけど……」

佐々木「あー、平気です。自業自得ですし……」

日野「私、なんともないから、あまり気にしないでね」

佐々木「す、すいませんでした。ありがとうございます……」

日野「授業遅れないようにね」

清水「はい」

日野はスカートを払って、小さく会釈し去って行く。

佐々木「はー、怒られなくて良かった……」

山田「これが男子だったら、新しい恋の始まりだったかもね」

佐々木「え、男に下敷きにされたらさすがに……芽も出ないうちに体が潰されるわ」

清水「今の先輩のパンツ、真っ赤だった」

山田「マジで、すげえ! 大人しそうな人に限って……ってやつだ」

佐々木「……」

清水「佐々木ちゃんも今日は真っ赤だよね」

山田「そうなん?!」

佐々木「しッ、しッ。よるな、変態どもめ!」

山田「図星?」

佐々木「誰が教えるか!」

清水「スカートの中身くらいでいちいち騒がなくたっていいと思うの」

山田「佐々木はデリケートだよね」

佐々木「よおし、遺言があれば聞いてやる……」

清水「わ、佐々木ちゃんが怒った!」

山田「般若だ! 般若がいる!」

清水と山田が走り出す。

佐々木「待て、こら!!」





放課後――


清水「ねえ、今日カラオケ行かない?」

山田「ごめん、バイトあるー」

佐々木「今週はパス」

清水「ぐすん。みんなつれない」

佐々木「テスト明けなら毎日でも付き合うよ」

清水「テスト前にやるから、スリルがあるのに」

佐々木「……後悔するから、それ」

山田「そんじゃ、お先ー」

佐々木「あーい」

清水「ちぇっちぇ、仕方ないから、佐々木ちゃんの放置プレイに付き合ってあげるもん。このドスケベめ!」

佐々木「あー、聞こえなーい」

佐々木宅――



佐々木「ただいまー……」

佐々木(って、誰もいまんせよっと)

佐々木「……ん?」

佐々木「なにこれ、また……メモが」

『夕方18時頃 秦泉寺』

佐々木「……な、なんて読むのこれ……え、ていうか」

メモの裏側に、携帯の番号が控えられていた。

佐々木「ま、まさかね……そんな馬鹿な話が」

佐々木は時計を確認する。時刻は17時50分。

佐々木「落ち着けー、落ち着くんだ。もしかしたら、おとんがこういう寺に行くってだけかもだし」

佐々木(ああ、でもそっちの方が望み薄……)

佐々木「……」

佐々木「よし、ちょっとソファーでひと眠りしよう」

今日はここまでです

――――
―――
――


ピンポーン!


佐々木「……ふあ?」

佐々木は口元から涎をたらして、のろのろと立ち上がる。


ピンポーン!


佐々木「……だれ?」


ドンドン!


佐々木「ひい!?」

佐々木(借金取りじゃあるまいし?!)


タタタタ――ガチャ


佐々木「はい……?」

背の高い女が立っていた。縁の大きなサングラスをかけている。深めの帽子に、ほとんど金髪に近いショートヘアが隠れていた。

佐々木「じ、秦泉寺……さん?」

秦泉寺「……あんた、誰?」

佐々木(だれ、とか申されましても……ここは一応、私めのお家でして……じゃなくて)

秦泉寺「……ああ、あんたが娘の……」

佐々木「へ?」

秦泉寺「どうでもいいけど、早く入れてくんない。この恰好、それなりに恥ずかしいから」

佐々木「ど、どうぞ……じゃなくて!? あの、父は今いませんが」

秦泉寺「知ってる」

佐々木「……」

秦泉寺「あんた、私が腹違いの姉だって言ったらどうする?」

佐々木「げ?!」

秦泉寺「嘘よ」

佐々木「な……」

秦泉寺「あー……もう勝手に入るわよ」

秦泉寺はブーツを脱ぎ始める。

佐々木「ちょっと、ちょっと……」

勝手知ったる他人の家がごとく、彼女はそのままリビングへと進んでいく。

佐々木(結局、また家に上げてしまった……)

佐々木「あの」

秦泉寺「なに」

佐々木「父に用がないなら、何しに来たんですか? あなたって、その……SEMの人ですよね?」

秦泉寺「……ま、そうだけど。あんた、夕飯まだ?」

佐々木「え、あ、はい」

秦泉寺「冷蔵庫に何があるの?」

佐々木「おいしい水が1L程……」

秦泉寺「……はあ」

佐々木(ため息吐かれた……)

秦泉寺「呆れた……」

佐々木(初対面の人に、冷蔵庫に食べ物がないからと呆れられる私っていったい……)

秦泉寺「金出しな」

佐々木「わ、我が家にはお金なんてありません」

秦泉寺「そういう意味じゃないから。買ってくるから、金寄越せっつってんの」

佐々木「……あ、あの?」

佐々木(えーっと、つまりこの人は夕飯を作ってやると言っているのでしょうか)

佐々木(この、金髪サングラス女さんが、私に夕飯を……?)

秦泉寺「遅い。金がないならつけとくから」

彼女はそう言って、サングラスを外す。

佐々木「……わ」

目鼻立ちの整った、美人だった。化粧は少し濃い。

秦泉寺「あんた、今化粧が濃いって思ったでしょ?」

佐々木「そんなことは、決して」

秦泉寺「どーだか……」

佐々木(顔に出てたんかな……)

秦泉寺「何か、食べたいものあんの? なければ適当に買ってくるけど」

佐々木(あれ、これ流されてしまってるんですが、いいんですかね……)

秦泉寺「遅い。もう行くわ」

佐々木「ちょ……!」

秦泉寺は佐々木の呼びかけに片手で応え、また玄関に戻って行く。追いかけると、もうブーツを履いていた。
扉を半分開けて、それから、こちらを肩越しに見やって言った。

秦泉寺「あんたさ、食べれないものは?」

佐々木「え、ピーマンと人参……」

秦泉寺は笑いを堪えるような顔をして、扉を閉めた。

佐々木(なに、正直に答えてんだ私は)

佐々木「……じゃなくて、なぜなにどうしてこんなことに?」

とあるスーパー――


秦泉寺「……」

秦泉寺(八宝菜でいっか……ピーマン、人参多めで)

秦泉寺「さて、こんなものか……あと、歯ブラシセットと……」

カツカツ――

日野「……秦泉寺さん?」

秦泉寺「あ、新居」

日野「外でそういう風に呼ぶの止めてください」

秦泉寺「いいじゃん、誰も気づかないって」

日野「ではなくて、困ります。私の事、知ってますよね? それに、秦泉寺さんの場合、面白がってるだけじゃないですか?」

秦泉寺「そうとってくれもいいけど?」

日野「もお……あれ、そういえば、今日お仕事じゃ……?」

秦泉寺「ええ」

日野「確か……佐々木さんの所でしたよね?」

秦泉寺「バカっぽい娘が一人でいたわ」

日野「30万ぽんと出して、泊まり込みさせるなんて正直びっくりしました……」

秦泉寺「ホント、世の中不平等」

日野「……でも良かったじゃないですか。お得意様ができて」

秦泉寺「そのうち、シェアされるかもよ?」

日野「お仕事ですから。そういう場合もありますよ」

秦泉寺「そ」

日野は少し笑っていた。

秦泉寺「せいぜい気をつけな」

日野「はい」

佐々木宅――


香ばしい匂いに、鼻孔がひくついた。佐々木は、キッチンに堂々と立って料理をする秦泉寺の背後に近寄り、久しく使われていなかった中華鍋の中を見た。

佐々木「……あ、あの何を作って」

秦泉寺「見ればわかるでしょ」

佐々木「八宝菜?」

秦泉寺「そ」

佐々木「私、さっき嫌いなもの尋ねられましたよね?」

秦泉寺「忘れた」

佐々木「……ひどい」

秦泉寺「あんた、ろくなもの食べてないんでしょ」

佐々木「そんなこと……」

秦泉寺「昨日、何食べた?」

佐々木「スーパーカップ」

秦泉寺「くそ以下」

佐々木「な、なんなんですか、いいじゃないですか別に」

秦泉寺「バカ娘、そんなのばっかり食ってるから乳が萎むんじゃん」

佐々木(確かに、大きくはならないだろうけど……)

佐々木(赤の他人にここまで言われる筋合いはないし……)

秦泉寺「できた。皿」

佐々木「は、はい」




パン――

秦泉寺「頂きます」

佐々木(どうして、一緒に夕飯を食べることに……)

佐々木「頂きます」

秦泉寺「残すんじゃないよ」

佐々木「……」

佐々木は皿の中のピーマンと人参を選り分けようとして、手が止まる。

佐々木(……そうですね。今日会ったばかりの他人とは言え、料理に罪はありゃしません。それに、この人悪い人じゃなさそうだし……)

秦泉寺「あんたさ」

佐々木「はい?」

秦泉寺「流されやすいって言われない?」

佐々木「ごほッ……た、たまに」

秦泉寺「でしょーね……」

秦泉寺は口の端を釣り上げて、その美麗な顔を歪ませて妖艶に笑った。
ふと、この人は夜の人間だったと、佐々木は思い出す。

佐々木「あの、秦泉寺さんは、父になんて言われてここへ?」

秦泉寺「……あんたの子守をしろと言われたのさ」

佐々木「こ、子守り?」

秦泉寺「そ。人見知りしない子だから、どんどん甘やかしてやってほしいってね」

佐々木「……そ、それってお仕事なんですか?」

秦泉寺「もちろん、そんなバカな話今回が初めてだったけど、まあ金になるしね……上の人間もそれが決めてだったし。それに」

佐々木「それに?」

秦泉寺「こういうの嫌いじゃないの」

こういうのって、と佐々木は聞き返そうと思った。けれど、秦泉寺は少しバツの悪そうな顔で食事を再開していたので、彼女はピーマンと一緒に質問も飲み込むことにした。

―――
――


佐々木「え? 泊まるんですか?」

秦泉寺「そゆこと」

佐々木「いいですけど……」

佐々木(なんか、この状況になれてきてしまっている……)

佐々木「じゃあ、私の部屋使ってください」

秦泉寺「遠慮なく」

佐々木(この人の身長で、ベッドに入るだろうか)

秦泉寺「さ、オプション料払ってもらってるから、まずは風呂行くよ」

佐々木「オプション料?」

秦泉寺「背中流し」

佐々木「……いえ、一人でできますので、結構です」

秦泉寺「こっちは仕事できてんの。あんたに拒否権とかないから」

佐々木「んなアホな……」

秦泉寺「ほら、脱ぎな」

秦泉寺は上着を脱ぎ始める。

佐々木「い、いやです」

秦泉寺「手間かけさせんな」

佐々木「だめ、いや! NO! 夕飯を作ってくれたことには感謝しますが、そこまではさすがに無理!」

秦泉寺「こっからが本番なの」

佐々木「本番? 本番ってなんですか!?」

秦泉寺「えろえろマッサージ」

佐々木「ちょっとお?!」

秦泉寺は、佐々木を羽交い絞めにして無理やり服を脱がせる。
案外と力の強い秦泉寺に、佐々木の身ぐるみはなすすべもなく剥がされていく。

佐々木「……ッ……アホ……バカ! ……変態!」

秦泉寺「ひどい言われよう」

すったもんだの末、互いに全裸となった。佐々木は持っていたブラジャーを秦泉寺に投げつける。

佐々木「信じられない……ホントに……」

秦泉寺「……」

秦泉寺は真顔でブラをキャッチし、佐々木の肢体を眺めていた。

佐々木「まじまじ見ないでください!」

佐々木は服をかき集めて、体の前側を隠す。

秦泉寺「あんたさ、そのお腹とか背中とかについてる赤い点々さ……」

佐々木「あッ……」

言われて、佐々木の頬が紅潮する。

佐々木「虫刺されです……」

秦泉寺「ふーん……ま、いいよ。あんたの親父から聞いてるし」

佐々木「え……?」

秦泉寺「母親にタバコ押しあてられたんだって?」

佐々木「違います」

秦泉寺「嘘」

佐々木「だから、違いますから」

秦泉寺「ま、どうでもいいけど……風呂行くよ」

秦泉寺は佐々木の首根っこを掴んで、ずるずると風呂場まで引きずっていく。

佐々木は風呂のタイルに敷かれたマットの上で秦泉寺の下敷きになっていた。

佐々木「重いっす…」

秦泉寺は佐々木の上で、ボディーソープを泡立てて体に塗りたくる。
正面の鏡でそれを確認して、佐々木はこれから何をされるか何となく予想できてしまった。

秦泉寺「かゆいところは?」

佐々木「ないっす…」

秦泉寺「そ」

秦泉寺はふくよかな胸に角の立った泡をのせ、佐々木の背中にこすりつける。

佐々木「ひい……」

秦泉寺「お客さん、弱め? それとも強めがいい?」

佐々木「いや、もう止め……」

秦泉寺「強めね、はいはい」

佐々木「ちが」

佐々木の背中に、こりっとした感触。すぐに、強く押し当てられ上下にこすられる。

佐々木「ッ……ひ……変態……」

秦泉寺「すぐに気持ちよくさせてあげる」

佐々木「なんない、なんないから!」

秦泉寺はボディーソープでぬるぬるになった佐々木のお尻を撫でまわす。

佐々木「ひゃッ……」

秦泉寺「敏感ね……いたぶりがいがあるじゃない」

佐々木は秦泉寺に体をひっくり返され、仰向けにされる。秦泉寺に見下ろされ、佐々木は固まった。

佐々木「あ……」

佐々木の脳裏にはある光景がフラッシュバックしていた。それは、幼い頃の「遊び」。母親の「遊び」。

秦泉寺「……ッ」

佐々木は震える手を伸ばして、秦泉寺の首元を締め付ける。秦泉寺は抵抗しない。佐々木は目の前にいるのが、母ではなく秦泉寺だということが分かっていたのだが、手は目の前の白く細い首から離れてくれない。

秦泉寺は顔を少し歪ませた。と、同時に佐々木の腕を掴んで、首から引っぺがす。

佐々木「……ッは」

秦泉寺「苦しいじゃない」

佐々木「……ご、めんなさい」

秦泉寺が佐々木の体を引き起こす。佐々木は、秦泉寺の首をかたどっていた手のひらを見つめた。肩の力が入っていることに気づく。力を抜くと、手は下に落下していった。

秦泉寺「こほッ……」

秦泉寺の首は血が集まり、赤くなっていた。秦泉寺が人差し指で佐々木の首をなぞる。

佐々木「……ッ」

秦泉寺「良い趣味してんね」

佐々木「……もう、しないでください」

秦泉寺「ママを思い出しちゃう?」

佐々木「父が喋ったんですか? ……ホント、あのくそ親父……」

秦泉寺「あんたがいつまでも母親を引きずってるからでしょ」

佐々木「……好きで引きずってるわけじゃない……」

秦泉寺「……」

秦泉寺は、ゆっくりと佐々木の体の赤い点に人差し指を押し当てる。

佐々木「んッ……」

佐々木の両胸の間には一際大きい赤黒い痣があった。

佐々木「……触らないでください」

佐々木は自分の体に力が入らないのがわかり、諦めも含みながら言った。

秦泉寺「可哀想」

佐々木「……思ってもないくせに」

秦泉寺「正解。賢い賢い」

佐々木「同情よりも、よっぽど清々しいですけどね」

秦泉寺「同情は私の役目じゃないし」

佐々木「は?」

秦泉寺「あー、寒くなってきた。お風呂入ろうっと」

佐々木「……」

佐々木は震える手の平を見つめる。彼女は父親が自分に何をさせたいのか、わずかに分かったような気がした。

翌朝――



ピピピピー(携帯のアラーム)

佐々木「ふんぐあ……うっせ」

佐々木「目の前が白い……」

佐々木「なにこれ、コピー用紙……」

佐々木は額に張られてあった用紙をはがす。


『またね』


佐々木(もう、くんなし……)

佐々木はソファーから起き上がる。リビングのセンターテーブルに朝ごはんとお弁当らしきものが置いてあった。

佐々木「……」

お弁当の中身は昨日の残りかもしれない、と佐々木はため息を吐いた。

日曜日――


ピンポーン!

ピンポーン!

ピンポーン!

ピンポーン!


佐々木「……」

佐々木(出ないとダメかな……)

佐々木(さすがに考えちゃうわ)

佐々木(丁重にお断りしよう)

タタタタ――ガチャ

佐々木「あの……申し訳ないんですが」

新居「す、すいません……ストーカーに狙われていて……」

佐々木「……え」

新居「入れて頂いてもかまいませんか?」

佐々木「た、大変だ……どうぞ!」

バタン――

リビング――


新居「ふー……」

佐々木「だ、大丈夫ですか? 警察呼んだほうがいいですか?」

新居「あ、お構いなく。嘘なので」

佐々木「そっか、良かった。嘘なんですね……はあ!?」

新居「秦泉寺さんから、お話を伺っていたので、もしかしたら入れてくれないかもと思いまして」

佐々木(なにその連携プレー)

佐々木「じゃあ、新居さんは私が嫌がるの分かってて来られたんですか……」

新居「ごめんなさい……佐々木さんの嫌がることがしたいわけじゃないんです」

佐々木「そんなこと言われたって……」

新居「あなたからすると、私たちはすごく勝手な人間に感じられると思います。実際、私自身お仕事だと割り切ってここにいます。なので、軽蔑して頂いてもかまいません」

佐々木「あ、いや……一番悪いのは父ですし……」

新居「ふふッ……」

新居は少し笑った。

佐々木「あの、この間来られた時は新居さん何も知らないって感じでしたよね?」

新居「私もてっきりお父さんの方に用があるのかと……」

佐々木「……説明不足なんですよね。いっつも。うちの父親は」

佐々木「あの、新居さんとこのお店って……風俗なんですよね?」

新居「はい」

佐々木「こういう家政婦みたいなことって、たびたびあるんですか?」

新居「いえ、私も日が浅いのでよくは分かりませんが、今回のようなことは初めてでした」

佐々木「そうなんですか……」

佐々木「そう言えば、新居さんは今日何をされに来たんですか?」

新居「あなたとお話をしろと言われています」

佐々木「えろえろマッサージとかは……?」

新居「お望みなら」

佐々木「いえ、いいです!」

佐々木は勢いよく首を振る。

新居「その様子だと、よっぽど、秦泉寺さんに気に入られたんですね……」

佐々木「違います違います」

新居「あの人、自分の気に入った子にはサドなんですよ」

佐々木「ひい……」

新居「ふふ……」

佐々木「秦泉寺さんのことは置いておいて……あ、ケーキがあるんです。ショートケーキ、食べれます?」

新居「そんな、構わないでください」

佐々木「いや、たぶん新居さんの分になると思ってたやつなので。ちょっと、持ってきますね」

新居「おごちそうになります」

いったんここまで

コトッ――

佐々木「あの……こういうのって聞いちゃダメなんでしょうが……うちの父とその」

新居「え……あ、いえたまたま店舗の方でお会いする機会があって。何回かお話しただけですよ」

佐々木「そ、そうなんですね」

新居「私自身、まだ研修生のような扱いなんです。だから、まだ、その、行為に近いことはしたことがなくて……」

佐々木「へー……どんなことするんですか?」

新居「例えば、お客様を脱がしてオイルマッサージをするとかですね」

佐々木「お客さんって、どんな方が多いんですか?」

新居「だいたい、中年の方が多いですね。……興味、あるんですか?」

佐々木「そういうんじゃないんですけど、それって楽しいですか?」

新居「楽しいと思いますか?」

佐々木「わかんないです」

新居「佐々木さんは、ダメだなって思いながらやってしまうことってありますか?」

佐々木「むっちゃくちゃあります」

新居「ふふ……」

佐々木「で、いつかきっと天罰が下るんだと思います」

新居「そうかもしれないですね……」

佐々木「新居さんはなんで、風俗始められたんですか?」

新居「佐々木さんは、けっこうバッサリと際どいところに食い込んできますね」

佐々木「あ、ごめんなさい。答え難いなら全然……」

新居「……少し、目を瞑ってくれますか」

佐々木「へ……は、はい」

佐々木は素直に言うことに従った。目を閉じる。新居が笑っているような気がした。

新居「今から言う質問に正解したら、教えてあげます」

佐々木「……」

新居「お客さんに何度か聞かれたことはあるんです。どうして、君みたいな子がって」

佐々木(確かに、私も思った。だって、秦泉寺さんとか、サイトで見た他の女の人たちと何か違う)

新居「私は……」

佐々木「待って」

新居「?」

佐々木「やっぱり、いいですよ」

新居「気にならないんですか?」

佐々木「私も野次馬根性強い方ですけど、新居さん、私を試そうと思ってませんでしたか?」

新居「……」

佐々木「正解してもしなくても、新居さんが私に何かのレッテルをつけるのは勘弁して欲しいかなって……」

新居「あなたから聞いてきたのに、ひどいですね」

佐々木「た、確かに……すいません」

新居「どうして私が試そうとしてるって分かったんですか?」

佐々木「なんとなくですよ。あとくだらないですけど、年上の女性の前で目を瞑るのって、ちょっと不安で」

新居「そうなんですね……」

佐々木「新居さんが怖いとかじゃないんですけど……はは」

新居「いいんです。誰だって、怖いものがありますから」

佐々木「……新居さんの怖いものってなんですか?」

新居「……誰も、私以外は誰もいない空間です。寂しがり屋なんですね」

佐々木「……なんか、意外、可愛いですね」

新居「もう一つ怖いものがあるんです」

佐々木「何ですか?」

新居「……私の傍に立つ男女のペア」

佐々木「……どういう」

新居「カップルとか両親とかそういう類のものです」

佐々木「それは、妬みとかっていうんじゃなくて?」

新居「うーん、何かカテゴライズするなら、やっぱり恐怖に近いですね」


佐々木「それって、誰かとお付き合いするっていうのとはまた別なんですかね」

新居「誰かと付き合ったことはないので、よく分からないですが。仕事上、自分自身とお客様に対して意識してしまうと、体が固まってしまったりはありますね」

佐々木「そっか……お互い、変な癖もっちゃってますね」

新居「そうですね……」

佐々木「それって、外出た時大変じゃないですか?」

新居「意識してしまうと、ダメですね……考えないようにしてますけど」

佐々木「私も女の教師とかとすれ違う時、いつも2の段の九九を脳内で呟いてます。あ、おススメですよ。ちょっと集中したい時とかも」

新居「ふふ……今度やってみます」

佐々木「……何だか、新居さん年上の方なのに、あんまり怖いって思わないんです。何でだろ」

新居「何ででしょうね……」

佐々木「んー……謎。……あ、ケーキどうぞ」

新居「頂きます」

夕方――


佐々木「あー、すっかり話し込んじゃいましたね」

新居「お腹すきませんか? どこか食べに行きません?」

佐々木「え、えっと」

新居「秦泉寺さんに聞いてませんか?」

佐々木「何をですか?」

新居「あなたのお父さんから、食費もお預かりしてます」

佐々木(なんやて……聞いてないぞ)

新居「その様子だと、一杯喰わされたような感じですね……」

佐々木「全くですホントに……」

新居「近くに居酒屋があったと思うので、そこにしましょうか」

佐々木「わ、私飲めませんよ?」

新居「お酒以外もありますから安心してください」

佐々木「あ、なんだ」



とある居酒屋――




店員「ただいまカウンターとテーブル席がいっぱいでして、奥のお座敷でもかまいませんか?」

新居「よろしいですか?」

佐々木「あ、はい」

店員「かしこまりました。二名様ご案内しまーす!」




奥座敷――


佐々木「こ、こういう所始めて来ました」

新居「そうですよね」

佐々木「野球拳とかしなくちゃいけないんですかね」

新居「それは、しなくてもいいですよ」

佐々木「良かった……」

新居「佐々木さんって、可笑しいですね」クスクス

佐々木「私が可笑しいというか、周囲の人間がおかしいというか」

新居「一緒にいて、楽しいって意味ですよ」

佐々木「あはは……」

新居「ドリンク何にします?」

向かい合って、佐々木と新居はメニュー表を眺めた。佐々木はソフトドリンクと書かれたメニューの横に、ノンアルカクテルの文字を見つける。

佐々木「私、これにします」

新居「分かりました」

新居は手際よく店員に声をかけて、飲み物を注文してくれた。

新居「佐々木さんは、将来のんべえになりそうな気がしますね」

佐々木「そんなことは……」

新居「お食事も決めましょうか」

佐々木「はい……あ、新居さん」

新居「はい?」

佐々木「ずっと、言おう言おうと思ってたんですけど、敬語」

新居「敬語?」

佐々木「私の方が年下なんだから、敬語使わなくていいですよ」

新居「いえ、お仕事なので」

佐々木「あ……そうですよね。はは、忘れてました」

新居「……でも、そうだね、堅苦しいから止めにしよっか?」

佐々木「……はい!」

新居「その代わり、佐々木さんも敬語は無しだからね」

佐々木「そ、それはちょっと」

新居「いいんですよ、私はどちらでも」

佐々木「あー、分かりました! 分かった、これでいい?」

新居「うん、それそれ」

佐々木(あ、なんか嬉しそう)

数分して、飲み物が運ばれる。二人は、適当にサラダと串焼きを何本か注文した。
新居がビールジョッキを宙に掲げる。

佐々木「乾杯するんですか?」

新居「敬語」

佐々木「わっと、何に乾杯するの?」

新居「んー、二人の出会いに?」

佐々木「新居さん、それ何か違くない?」

新居「他に何かあるかな?」

佐々木「……うーん」

新居「思いつかないの?」

佐々木「……新居さんが高圧的に……」

新居「私、そんなに甘い人間じゃないよ。どちらかというと、秦泉寺さんタイプだから」

佐々木「げえ……羊の皮を被った狼」

新居「それ、すごくしっくりくるね」

新居「佐々木さんは、狼の皮を被った羊かな」

佐々木「……アスパラベーコン巻き」

新居「ロールキャベツ?」

佐々木「……お腹すきました!」

新居「じゃ、はい」

新居は再び、ジョッキを掲げる。

佐々木「……二人の出会いにかんぱーい」

新居「狼さんと羊さんの出会いにかんぱーい」

佐々木「……」

新居「……」ゴクゴク

佐々木(……むっちゃのむでーこの人……)

ゴトン!

新居「……」

佐々木「……あの、それってそんなものの数秒で飲むもんなの?」

新居「そういう決まりがあるわけじゃないんだけど」

佐々木「新居さんがおかしいの?」

新居「おかしくはないと思うよ?」

佐々木「……」ペロペロ

新居「犬みたいだね」

佐々木(ジュースかと思ったけど、けっこうきつい味がする)

新居「あ、すいません。生中一つお願いします」

佐々木「……」ゴクゴク

新居「カクテルは味が濃いから、ジュースより飲みにくいかな?」

佐々木「あ、いえ」ゴクゴク

新居「サラダ、取り分けておくね」

佐々木「けぷッ……ありがと」ゴクゴク

新居「……よく飲むね……もしかして、不味かった?」

佐々木「……ごほ」ギクッ

新居「……」

佐々木「そ、そんなこたあ」

新居「無理しなくても」

佐々木「……あ、いや飲めないことはないし。ちょっと科学薬品みたいな味があれだけど」

新居「……ちょっと貸して」

佐々木「どぞ……」

コトッ

新居「……」ゴク

佐々木(あれ……)

新居「……やだ、これアルコール入ってる」

佐々木(マジか……)

佐々木「何か、体が熱く……」

新居「佐々木さん、大丈夫?」

佐々木「平気。ちょっと、世界が回るけど」

新居「お冷飲んでおこっか」

佐々木「うん……」

佐々木はお冷へと手を伸ばすが、グラスを上手く掴めない。距離感覚がおかしい。

新居「もっと、右。あ、行き過ぎた……」

佐々木「お冷が逃げるなんて、そんな馬鹿な。こいつら、何者だ」

新居「佐々木さん、お冷は動いてないんだよ?」

佐々木「まさか、大地が動いている?」

新居「……ふッ……ふくくッ……や、笑わせないで」

新居「ストロー差してあげるね」

スポッ――

佐々木「ありがとう」チュー

新居「のんべえにはならなさそうだね」

佐々木「たぶん、一番に落ちるわ」チュー

新居「焼き鳥食べる?」

佐々木「……食べたい」

新居「口元まで持っていこうか?」

佐々木「お願いします」

新居「素直だね。いいよ」

新居は串を一本手に取り、佐々木の口元へと近づける。

新居「はい、あーん」

佐々木「あー……ん?」

佐々木は串に食いついた。と、思ったのだが口の中は空気しかなかった。

新居「……」もぐもぐ

佐々木「ちょ、ちょっと新居さんってばそりゃないじゃんか」

新居「たれが落ちそうだったから、つい」

佐々木「理由になってない……もっかい」

新居「……何がいい?」

佐々木「あー……あんでも」

新居「じゃあ、今度はお刺身」

佐々木(心臓がどくどく言ってて気持ち悪い)

佐々木(新居さんは、よく平気だな)

新居「はい」

佐々木「あむ……」

新居「あいたッ……歯、立てちゃダメだよ」

佐々木「……」

佐々木の口には、新居の人差し指が突っ込まれていた。

佐々木(この人もたいがいだな……)

新居「佐々木さん?」

佐々木「ふぁんでもいいれふか」

新居「それはダメかな」

佐々木「……」

佐々木は口をタコのように尖らせて、思いっきり吸い付いてやった。

数十分後――


佐々木「新居さん、年上じゃん……譲ってよ」

新居「佐々木さん、そのセリフお返ししておく」

皿の上に乗った一個の唐揚げ。

佐々木「じゃんけんだ」

新居「いいよ」

佐々木「勝ったらからあげ」

新居「負けたら何でも一つ言うことを聞くこと」

佐々木「ええ?!」

新居「じゃんけん――ぽん!」

佐々木「わあ?!」

新居「えへへ……私の勝ち」

佐々木「……こら!」

新居「……」モグモグ

佐々木「むー……何したらいいのさ」

新居「……じゃあね、お願い事あと3つに増やす」

佐々木「最低なお願いだな、おい!」

新居「ジョーダンジョーダン。ふふ……怒らないで」

佐々木「怒ってない、呆れてるだけ……ッ」

新居「じゃあね、一つだけ」

佐々木「どーぞ……」

新居「私と付き合って欲しいな」

佐々木「どーぞどー……ぞ?」

新居「……なんてね。言ってみただけだよ」

佐々木「つつきあう……?」

新居「どーして、そうベタなボケばかり拾うのかな?」

佐々木「……付き合うって、あれか。あれなの?」

新居「うん?」

佐々木「……マジで? 親父に、何か言われたの?」

新居「……どうしてそう思うの?」

佐々木「それ以外、考えられない」

新居「うーん……じゃあ、そういうことにしておこっか」

佐々木「そういうことにって……」

新居「佐々木さんが信じられないなら、そういうことにしておかないと。それに、私も言ってみただけ、だから」

佐々木「新居さんって、そういうこと気持ちもなく言う人じゃないと思う」

新居「……私の気持ち、分かるかな?」

佐々木「……酔ってる勢いで、気分も良いし、嫌いじゃないから、寂しさを埋めようって思ってる?」

新居「……わあ、佐々木さんすごいね。どうしてわかったの?」

佐々木「それは、なんとなく……新居さんこそ、こんなにズケズケ言われて嫌じゃないの?」

新居「どうして? それ、ホントだから。しょーがないよね」

佐々木「ホントって……じゃあ、一つ聞くけど、嫌いじゃないっていうか……離れたくないかなって思ってる?」

新居「んー……正解。でも、それ……佐々木さんの欲目もあるの?」

佐々木「……あるかも」

新居「そっか……」

新居は、口角を少し上げて、上目遣いに佐々木を見た。

佐々木「……」ドキ

新居「……もう少し一緒にいてくれる?」

佐々木「……ッ」

新居「や?」

佐々木「い……」

新居「い?」

佐々木「今、私冷静に判断できないから……だから、明後日に、また」

新居「……いいよ。佐々木さんの好きなようにして」

佐々木(雰囲気に流されかけた……、もしかして、これ夢)

佐々木は自分のほっぺたを抓る。痛い。新居が反対側を抓っている。さらに痛い。

佐々木「あにすんの……」

新居「夢じゃないよ?」

佐々木「夢だったら良かった……」

新居「ごめんね……」

佐々木「あ、いや」

新居「……」

佐々木「……新居さんは、もともとそう言う人なん?」

新居「ううん……私が言うのも変だけど、自分でもどうしてかわからない。気が付いたら言ってた」

佐々木(……)

佐々木「明日になったら忘れてるかもね……」

新居「そうかな、そうかもね……」

佐々木「……」

佐々木はさっきとは違う意味で、動悸が激しくなっていくのを感じた。

新居「佐々木さん?」

佐々木「……はきそう」

新居「……」

今日はここまで

最初の注意書き少なくてごめん
もっかい、ここでまとめる

このssは百合、エロ、オリジナルです

―――
――


佐々木「新居さん、ごめんなさい……(一回トイレで吐いた)」

新居「全然気にしてないよ」

佐々木「ちょ、ちょっとトイレに行ってきます」

新居「また?」

佐々木「ま、また」ニコ

新居「今度も一緒に行こうか」

佐々木「あいや……」

佐々木は首だけを振って、逃げるようにトイレに向かった。

新居「……」


―――
――


1時間後――


タクシー内


新居「佐々木さん……起きて」

佐々木「……ふが」

新居「お家、着いたよ」

佐々木「ひゃい……」

新居「ほら、このマンション見覚えある?」

佐々木「あ、ある……あります。大丈夫です。救助者一名、意識取り戻しました……」

新居「佐々木さん……ふッ……ぁははッ」

佐々木「はッ、ごめんなさい」

新居「ううん……ッ」

新居の手を借りて、佐々木はタクシーを降りた。


佐々木宅――

リビング


佐々木「今日は、ありがとう……」

新居「こちらこそ、ありがとう。すごく楽しかった。お仕事だって忘れちゃう所だったよ」

佐々木「あの、今日は話だけって言ってたよね?」

新居「うん。あ、でも泊まっていくね」

新居はそう言って、カバンからお泊りセットをちらつかせた。

佐々木「お泊りって、あの、そういうオプションなの?」

新居「そうだよ。秦泉寺さんから聞いてない?」

佐々木「マッサージとかはあるって聞いてたけど……」

新居「そう、お泊りマッサージ」

佐々木「つまり、この後マッサージがあるということ?」

新居「うん」

佐々木「……そうなんだ。そっか、そ……え、え? マジで?」

新居「うん」

佐々木は頭を悩ませる。

佐々木「ダメだ、何も対策が思い浮かばない」

新居「くすくす……秦泉寺さんに聞いてるよ。あんまり無理なことはしないから安心して」

佐々木「秦泉寺さんが……」

新居「後ろからしろって言われてるから」

佐々木「わーい……」

風呂場――

佐々木(結局、また流されてしまった)

新居「着替え、手伝うね」

佐々木「え」

新居は佐々木のブラウスのボタンを外す。新居のつけている柑橘系の甘い匂いが佐々木の鼻をくすぐった。

佐々木「わ、何やってんのッ」

新居「年上の言うことは素直に聞くこと」ニコ

佐々木「だ、だって恥ずかしいじゃんか」

新居は佐々木の止める手をやんわりと押しのける。ボタンを外し終ってから、丁寧に袖を腕から抜いていく。

佐々木(秦泉寺さんと違って、一つ一つ優しいから……対応に困る……)

新居「よいしょ」

新居はしゃがみ込んで、佐々木のジーンズのチャックの手を伸ばした。

佐々木「そ、そこは自分で」

新居の両目を両手で抑えて、佐々木は抵抗する。その抵抗も空しく、新居は視界が奪われた中、着実にジーンズを剥いていった。

佐々木(無理やり押しのけるべきなのに……なんか、傷つけたらとか思うと……できない)

新居「佐々木さん?」

佐々木「いや……何でもな……あ、新居さんの服は私が…」

新居「あ、大丈夫だよ。すぐ脱げるから」

と、新居は本当にものの10秒でほぼ全裸になっていた。

佐々木「……」

新居「なあに?」

佐々木「いいえ……」






新居「はい、じゃあ」

新居は風呂場の椅子に佐々木を座らせる。自身はその後ろへと。

佐々木「……お、お手柔らかに」

新居「大丈夫。気持ちよくしてあげる」

佐々木「その大丈夫は安心できないんだけど」

新居「ふふッ……」

彼女は笑いながら、手にスポンジを持った。そして、ごく普通に体を洗い始めた。

佐々木「……」

新居「優しくするね」

佐々木(予想とちがった。期待してたとかじゃないけど……)

新居「普通だ、って思ってるかな?」

佐々木「あ、うん。あまりに普通だったから、逆に驚いてる」

新居「秦泉寺さんのと比べたら、かなりそう感じちゃうと思うよ」

佐々木「ほんと……それ」

新居「はい、腕上げてー」

佐々木「うい」

新居「人によって、好みは異なるんだけど、やっぱりハードなのがいいって言う人も中にはいるんだよ」

佐々木「へー」

佐々木(気持ちよくて、寝てしまいそう)

新居「前するから、目瞑ってて」

佐々木「は、はい」

新居(……何も見えないと、変に敏感になっちゃうな)

佐々木「……ッ」

胸の周り、太ももの内側など、新居は本当にごく普通に洗ってくれる。まるで、意識している自分がおかしいようだ。

新居「はい、おしまい」

佐々木「はッ……はやい」

訂正:新居(……何も見えないと、変に・・・・)→佐々木(……何も見えないと。変に・・・・)

新居「途中、何も言わなくなっちゃったけど、痛くなかった?」

佐々木「そんなことは」

新居「良かった……刺激に耐えてる顔、何だか可愛かったよ」

佐々木「ぶ!? こ、こら年下をからかうもんじゃありません!」

新居「あはは。じゃ、今度は頭ね」

佐々木「もうッ、今度は覗かないよーに! はッ、いや、そもそも耐えてないから!」

新居「うん」

佐々木「むう……」


頭を洗った後も、新居は特別なことはせず、自身の身体を洗い二人で狭い湯船に浸かった。
佐々木は、拍子抜けして、もはや昨日から夢だったのかと、頭を傾げたのだった。


―――――
―――

佐々木の部屋――


『娘の部屋』

佐々木「新居さんはここ、使って」

新居「佐々木さんは?」

佐々木「え、ベッド一つしかないし。リビング寝るよ」

新居「どうして?」

佐々木「そりゃ、新居さんはお客様だし」

新居「佐々木さん、違うよ。お客様は、佐々木さんの方なんだから」

佐々木「いいって」

新居「じゃなくて、添い寝」

佐々木「はい?」

新居「オプションに添い寝があるんだよ。今日は、それをしておしまい」


佐々木「……」

新居「ダメかな?」

佐々木「ダメというかなんというか」

新居「一緒に寝よ?」

佐々木「はうんっ……」

佐々木(落ち着け、ちょっと可愛いとか思ってない。私の目の問題だ)

新居「あ、何にもしないよ? 怖がらなくて大丈夫」

佐々木「怖がってなんか……」

新居「自分で言うのもだけど、居酒屋での事気にしてたりする?」

佐々木「それは、もちろん意識しちゃうけども……」

新居「そっか……。うん、仕方がない、添い寝はキャンセルにしておくね」

佐々木「あ……うん」

新居は笑ってリビング向かおうとする。

佐々木(なんだ、この罪悪感みたいなのは……ああ、もう)

佐々木「新居さん、待って」

佐々木は新居の腕を掴む。

新居「どうしたの?」

佐々木「やっぱり、添い寝のキャンセル取り消してほしい」

新居「いいよ……」ニコ

―――
――


佐々木「狭くない?」

新居「大丈夫だよ」

佐々木と新居はほとんど身体を密着させていた。なにせ、ベッドがシングルなのだからしょうがない、と佐々木は自分に言い聞かせる。横を向くと、すぐに新居の顔があって、ベッドのスタンドライトに照らされる彼女は幼い印象だった。

佐々木「……あれ」

新居「どうしたの?」

佐々木(デジャブ……どこかで、見たような……あれ、どこだっけ)

新居「私の顔、何かついてる?」

佐々木「ううん……」

新居「……」

佐々木「んー、なんでもない。電気消しまーす」

新居「どうぞ……」


カチ――


―――
――



ブーブー(携帯のバイブ)

佐々木「……」

新居「すー……」

佐々木「に、新居さん携帯……」

新居「すー……」

ブーブー

佐々木(ほっといたらいっか……)

ブーブー

ブーブー

ブーブー

佐々木(……)

佐々木は起き上がって、新居のカバンの上にある携帯を手に取る。


『秦泉寺』

佐々木「秦泉寺さんだ……」

ブーブー‥・プツ

佐々木「あ、切れた」

佐々木「……まあ、いっか」

ピンポーン!!

佐々木「ふお?!」


―――
――

玄関先――


佐々木「……あ、あの」

秦泉寺「新居は?」

佐々木「寝てますよ……」

秦泉寺「じゃ、あんたでもいいや」

佐々木「は、はあ」

秦泉寺「金貸して」

佐々木「はい?」

秦泉寺「すぐ返すから。頼む、早く」

佐々木「ちょ、ちょっと待ってください。あの、すごくお急ぎの所申し訳ないんですが……」

秦泉寺「理由なんて、聞いてもどっちにしろ貸すなら一緒じゃん」

佐々木「貸すゆーてないんですが……」

秦泉寺「あー、分かった、今すぐまとまった金を支払わないと、彼氏がやばいの」

佐々木「ど、どうやばいんですか?」

秦泉寺「ヤクザに殺される」

佐々木「……ま、待って。今、自分の平和的な脳みそからすぐに返事できない内容が……」

秦泉寺「だから、早く、命かかってんの」

佐々木「待ってください。今、ビックリする程、混乱してるんです」

秦泉寺「それは、私の方だっつーの」

佐々木は、2の九九を試したがやはり脳内の混乱は収まらなかった。

佐々木「……い、いくら必要なんですか」

秦泉寺「300万」

佐々木「いつまでに支払わないとダメなんですか?」

秦泉寺「今日中」

佐々木「あと、1時間!?」

秦泉寺「だから、早くして!」

秦泉寺は声を荒らげた。佐々木は秦泉寺の彼氏など全く関係のない存在であったし、秦泉寺とも1度しか会ったことがない。変なこともされた。もし、彼女が嘘を付いていたら? ここで、新居さんにバトンタッチすればこのヤバイ山に自分が関わることはないのだろう、とそこまでは判断ができた。

佐々木「……新居さんを」

呼んでいいのか。

秦泉寺「どっちでもいいから……」

彼女は縋るように腕を掴んできた。
今にも崩れそうな、秦泉寺らしからぬ弱い力だった。

佐々木「……ですか?」

秦泉寺「は?」

佐々木「どこですか、すぐに連れてってください」




今日はここまでです。続きはちょっと、2、3日空くかも。

読んでくれてありがと。あんまり説明ないけど、脳内補完よろしく。

時間できたので、投下します

秦泉寺「……漁港の倉庫で待ってるって」

佐々木「一人でですか?」

秦泉寺「そうだよ」

佐々木「ホントですか……? ヤクザとか」

秦泉寺「あの人は嘘なんて吐かないからっ」

秦泉寺は今にも噛み付きそうだ。

佐々木「わ、わかりました。とりあえず、おとんのヘソクリ……200万が」

佐々木はそう言いながら、リビングに向かった。そして、食器棚の引き出しを引っ張り出す。

佐々木「確か、底の裏側に……あ、あったあった」


べりべり――

秦泉寺「んな所に……今時」

佐々木「現金は大事だよ、って言いながら娘の前で笑いながらへそくり隠す馬鹿なんです」

佐々木(いざって時に使いなさいって意味もあったのかもだけど……)

秦泉寺「この際何でもいいさ……」

佐々木「んじゃ、行きましょうか」

秦泉寺「や、あんた来なくていいから」

佐々木「ええ?!」

秦泉寺「ええ、じゃないだろ。邪魔なだけ」

佐々木「邪魔しませんって」

秦泉寺「傍にいたら気になるつってんの」

佐々木「か、金は私(の父親)が払うんだからいいじゃないですか!?」

秦泉寺「ちっ……」

佐々木「なんで、私が舌打ちされなきゃならんのですか!?」

佐々木(はっ……新居さんが起きてしまう)

佐々木「連れていかないと、これはお渡しできません」

秦泉寺は心底イラついた顔で、佐々木を睨みつけた。佐々木は少し怯んだが、ぐっと堪えて睨み返す。

秦泉寺「ばかなんじゃないの……」

佐々木「私、何かの役に立つかもしれんですよ?」

秦泉寺「なるわけないでしょ」

秦泉寺は自分の髪をくしゃくしゃと混ぜた。

佐々木「時間、もうないですよ」

秦泉寺「……わかった。連れて行く。その代わり、着いても車から顔出すんじゃないよ、絶対に」

佐々木「彼氏さん、一人なんですよね……?」

秦泉寺「そうだよ……」

佐々木「……」

秦泉寺「すぐに出る。3分で用意しな」

佐々木「ラジャっ」



―――
――


車内――

秦泉寺「……」

佐々木「……はやっ」

時速80kmオーバー。着く前に死なないことを祈りたい。
佐々木は秦泉寺の運転に酔いそうになりながら、口を開く。

佐々木「あの」

秦泉寺「黙ってないと、舌噛むよ」

佐々木「……なんで、ヤクザとそんなことに?」

秦泉寺「あの人は悪くない。街でバーを開いてて、ヤクザが店のショバ代だっつって騒いでるだけ」

佐々木「治安悪いっすね……」

秦泉寺「あんたが知らないだけで、家から一歩出りゃどこもそんなのよ、この街は」

佐々木は車の窓から夜の商店街をうかがう。

佐々木「……」

そう言えば、と佐々木は思い出す。
自分の母親も結婚前には、このあたりの風俗店で働いていた、と親戚が言っていた気がする。

佐々木(なんでおとんは、あの人と結婚したんだろ……)

佐々木(風俗が悪いとは思わないけど……)

佐々木(……違うか……やっぱり心のどっかで見下してる……)

佐々木(母親を見下してる……)

街路を歩く年の差のありそうな男女が一瞬視界を横切った。

佐々木「

佐々木「……」

振り返ると、ホテルに入っていくところだった。

建物の外壁に取り付けられたネオンの眩しさに、佐々木は目を細める。
外側からは幸せそうに見えても、当事者は互いに何を考えているのか情事の最後になっても分からないのかもしれない。

佐々木「あの、秦泉寺さんは結婚とかも考えてるんですか?」

秦泉寺「は?」

佐々木「あ、その人と……」

秦泉寺「……そうよ」

佐々木「やっぱり、お仕事もやめるんですか?」

秦泉寺「……そりゃ」

佐々木「そうですよね」

秦泉寺「……この仕事始めたのは、手っ取り早く金になるから。それだけ」

佐々木「それって、彼氏さんのためですか?」

秦泉寺「当たり前えじゃん」

秦泉寺「ここか」

佐々木「うわッ…と」

車が急停止し、佐々木は前のめりになる。秦泉寺は周りを見渡している。
佐々木は鼻をひくつかせた。潮の匂い。

秦泉寺「いた…」

佐々木「あ…」

埠頭の先に人の影。街頭に照らされている。

秦泉寺「絶対出るな。分かった?」

佐々木「は、はい」

秦泉寺は200万の入った封筒を握りしめて、ドアに手をかける。

秦泉寺「顔も出すな。しゃがんでおきな」

佐々木「サー……」

秦泉寺が車から降りて、ヒールの靴で走り出す音が聞こえた。
佐々木は助手席の下に身を隠し、フロントガラスから少しだけ埠頭の先をのぞいた

佐々木「……」

男の方も秦泉寺に気が付いて、駆け寄ってきた。二人が抱き合う。
しばらくして、秦泉寺が封筒を差し出して、男がそれを受け取った。
何か話している。

佐々木(『俺のために、すまない』 『いや、いいのよ、気にしないで……トム』)

佐々木(トムはねえな……)

佐々木(『だが、どうしたんだこんな大金?』 『聞かないで……』)

佐々木「あれ……」

いつの間にか、二人が言い争いのような状態になっている。
秦泉寺が男の体を揺さぶっている。

佐々木「あれれ……」

男は土下座し始めた。

佐々木「……なに?」

秦泉寺は片膝をついて、両手で顔を覆っている。泣いているのかもしれない。
男は顔を上げて、秦泉寺の足に縋っている。なんとも情けない光景だ。

佐々木「……」

秦泉寺はそれを振り払おうとしている。だが、男は負けじと離さない。
秦泉寺が男の顔を叩いた。

佐々木「わあ……」

男は多少よろめいて、次の瞬間、秦泉寺の顔を叩いていた。

佐々木「ちょッ」

その反動で彼女は床に尻餅をつく。ここからでは表情は見えない。
男は秦泉寺を組み敷いて、また何か言っている。秦泉寺も抵抗して男の顔をまた叩いた。

佐々木(これは……痴話げんか……?)

佐々木がもう一度二人を見ると、男が秦泉寺の首を絞めているようにも見えた。
まさかと思い目をこすって、もう一度見る。紛れもなくそうであった。

佐々木(……やややや……どう……いうこと……?!)

佐々木(ま、まさか……え、ちょ)

佐々木(け、警察……警察)

佐々木 (よ、呼んでる場合じゃ……)

佐々木(は、クラクション鳴らせばいいんじゃね?! 仲間がいるって分かったら……)

佐々木は手を伸ばして、クラクションを鳴らした。

ブ――!

男の動きが止まった。秦泉寺に何か言っている。それから、男が走り出した。彼はすぐに暗闇へと消えていった。
佐々木は車外に飛び出したくなるのを必死でこらえる。乗っているのが子どもだとバレるわけにはいかない。

暫くしてして、秦泉寺がむくりと起き上がった。
それから、立ち上がって車に戻ってくるまでに随分と時間が経っていた。

その後、秦泉寺は一言も喋らないまま佐々木をマンションへ連れて帰った。
助手席から見た彼女の横顔は赤くなっていた。佐々木も何も聞けなかった。

佐々木「……」

マンションのエントランスホールで佐々木は秦泉寺と別れた。
ホールの壁掛け時計はすでに2時を回っていた。




――――
―――
――



佐々木は音を立てないように玄関を開ける。

佐々木「はあ……」

と、力ない溜息はすぐに引っ込んだ。

新居「……」

佐々木「……わあ?!」

新居が体育座りして、こちらを見上げている。

新居「おかえり……」

佐々木「に、、新居さん……いつからここに」

新居「2時間くらい前かな……?」

佐々木「まさか、秦泉寺さんが来た時、起きてたの…?」

新居「ううん、起きたら佐々木さんいなかったから……どの部屋にもいないし」

佐々木「だからって、こんな所で……」

新居「……部屋で待つの苦手なの」

絵里「…………ハラショー!!!」

絵里「ダンボール……奥が深いわ!」

スネーク「ほぅ、お前もダンボールの良さが分かるのか!よし!このダンボールはお前にやる!」

絵里「いいんですか!やったわ希、にこ!」

にこ「賢くないわ……」

希「本人がええなら、ええやない……?」



穂乃果「みんなでダンボール被ってるよ!」

海未「絵里……」

ことり「なんだか体育が怖くなってきちゃった……」

誤爆しました
すいません

佐々木は新居を立ち上がらせようと手を差し出す。

新居「足、ちょっと痺れちゃってるみたい」

佐々木「……はは」

佐々木は腰が抜けたようにすとんと新居の横に座った。

新居「佐々木さん?」

佐々木「新居さん見たら……何か力抜けた」

佐々木の右手を新居が握りしめる。
彼女は、佐々木の肩にことりと頭を預けた。

佐々木「……」

佐々木も握り返す。柔らかく細い指だった。

佐々木「……新居さん、秦泉寺さんってどんな人?」

新居「……優しい人かな」

佐々木「そっか……秦泉寺さん、泣いてた。怒ってて、悔しそうで……でも、泣くだけだった」

新居「うん……」

佐々木「秦泉寺さん……大丈夫かな」

佐々木はそうは言うものの、どこからか夢だったんじゃないかと思わずにはいられなかった。

新居「あの人は……うんん。あの人も寂しがり屋なの」

佐々木「……」

新居「前も何回か男にお金を貢いでたらしいけど……」

>>98
気になさらず

新居「何回か、騙されたって聞いてる。本人から直接聞いたわけじゃないけど」

佐々木「周りの人、止めないの……?」

新居「秦泉寺さん、周りに相談すると思う?」

佐々木「……」

新居「でも、このままじゃ秦泉寺さん、いつか破綻しちゃうと思うよ……頑固になると目の前しか見えなくなるらしいから」

佐々木「どうしたら良かったんだろ……お金、貸したって何にも解決しないんだ……」

新居「……佐々木さん、秦泉寺さんにいくら貸したの?」

佐々木「……200万」

新居「……」

佐々木「私、馬鹿だ……結局、秦泉寺さんを責めるような状況を作った。新居さんに、相談しておけば良かった」

新居「佐々木さん……」

佐々木「新居さん、どうしよう……できることをしてあげたかったんだ……でも、お金は無駄になったし、秦泉寺さんを助けることもできてない。全部、から回ってる……」

新居「佐々木さん、落ち着いて……何があったの?」

佐々木「分からない。何も教えてはくれなかった」

新居「……」

佐々木「でもお金は渡してる……お金が払えるって思われたとしたら、また付き纏ってくるんじゃないのか、あいつ……」

新居「うん、そうかもね……きっと、秦泉寺さんもそれは分かってると思うよ……」

佐々木「結局、秦泉寺さんをもっと悪い状況に追い込んだんだ……」

新居「……それは違うんじゃないかな」

佐々木「だって……」

新居「あの人が、自分で選んだことで、佐々木さんが悩むのはおかしい。お金を貸したのは佐々木さんだけど、その判断を躊躇できる状況じゃなかったんじゃない? だから、貸した。違う?」

佐々木「……そうだけど」

新居「それに佐々木さんは、その判断を冷静にできる年齢でもないよね」

佐々木「新居さんは、私を庇ってくれてるのかもしれないけど……」

新居「だって、佐々木さん……自分を追いつめてどうするつもりなの? その先に答えはないと思う」

佐々木「私は……」

新居「……佐々木さん、危ないことはしないで」

佐々木「新居さんこそ、会ったばかりでどうしてそこまで言ってくれるの……?」

新居「佐々木さんが心配だから」

佐々木「……だけど」

新居「……分かった。明日、秦泉寺さんに話し聞いてみるね……できることがあれば相談してもらえるようにする」

佐々木「新居さん……ありがと……」

新居「うんん。いいの。佐々木さん」

佐々木は新居を抱きしめた。

新居「……」

佐々木「……すー」

新居「佐々木さん?」

佐々木「……すー」

新居「……」

翌日――


とある学校――

佐々木「……」ぼー

教師「佐々木さん、次、和訳してください」

佐々木「……」ぼー

清水「佐々木ちゃん、和訳」

佐々木「ふんが?」

教師「佐々木さん?」

英語の教師が、眼前で教科書を叩いている。

佐々木「うわッ……?!」

山田(和訳だよ……P12三行目)コソコソ

教師「五行目です」

山田「あれ」

佐々木「は、はい―――『彼女は、誠実そうに見えて実は…』」


――――
―――
――


清水「どうしたの? お昼寝?」

佐々木「昨日、寝たの遅くて……ふぁ」

山田「ナニしてたの?」

佐々木「おまえは、小学生男子か……」

山田「寝不足はお肌の敵だよ? 明智君」

佐々木「……ぐう」

清水「突っ込むのも疲れたって」

山田「むー……」







放課後――

佐々木「……」そわそわ

山田「そわそわしてますぜ」

清水「うーん、病気かなあ」

山田「患い?」

清水「恋?」

山田「バナナ?」

清水「?」

佐々木「勝手に膨らませんのやめい」


――――
―――




佐々木家――



佐々木は自室で試験勉強をしながら、何度も携帯に視線を送る。

佐々木「……」

着信も受信もなし。

佐々木「……」

佐々木はおもむろに椅子から立ち上がり、深呼吸してまた椅子を引いて座る。

佐々木(聞いてくれるとは言ってたけど、会えるか保証はないし、今日その返事があるとも限らない……)

佐々木(気にしたって、時間の無駄……それは分かってる)

佐々木(……新居さんに電話……いやいや仕事中だろ……)

その日は連絡は来なかった。新居から秦泉寺のことを聞いたのは次の日の夜。
約束されていた時間――19時ぴったりに彼女は現れた。

新居「お返事遅くなってごめんね」

佐々木「あ、いやこっちこそすいません。それで、秦泉寺さんは、なんて……」

新居「『お金はすぐ返す、余計なことは考えるな』……って」

佐々木「……あっちゃー」

新居「長い目で見ていくしかないのかもね」

佐々木「ま、予想はしてたけど……」

佐々木はにやりと口の端をゆがめる。

新居「……笑ってるの?」

佐々木「お金返すまでは、口うるさく言ってやれるってことだからね」

新居「そんな風に解釈できるんだ」

佐々木「基本的に、前向きなんで」

新居「……よ」

佐々木「え?」

新居「うんん」

佐々木「秦泉寺さん、次はいつ来るんだろ」

新居「秦泉寺さんはもう来ないと思う」

佐々木「え、そうなんだ」

新居「うん、私も今日で最後」

佐々木「え?! 新居さんも?!」

新居「だから、一昨日のお返事聞かせてほしいな」

佐々木「……え」

新居「今日、返事くれるって言ってたよね?」

佐々木「言ったけど……答えが違っても、結果は同じなんてことになりかねないんじゃ……?」

新居「……」ニコ

佐々木「新居さん、なんであんなこと言ったの……? あの時のあれって、本心だったの?」

新居「知りたい?」

佐々木「そりゃ、冗談ってこと……?」

新居「ふふ……目瞑ってくれたら教えてあげる」

佐々木「……」

佐々木は言うとおりにする。すぐに、胸のあたりが息苦しくなる。

新居「……佐々木さん、後ろ向いてくれるかな」

佐々木「うん……」

新居「最初はね……お金になるお客さんが来たなって……思ったの」

佐々木「……」

新居「あなたのお父さん、この間から何回もお店に足を運んでくれて……いつも秦泉寺さんと私を指名してくれて……店舗の方でお話したり、高いお酒を頼んだり……気に入られてるんだとばかり思ってた」

佐々木「……」

新居「でもね、違った。違ったの……あなたのお父さんが優しくしてくれるのはね、罪滅ぼしだった」

佐々木「罪滅ぼし?」

新居「秦泉寺さん……私とあの人姉妹なの」

佐々木「ええ!?」

新居「びっくりするよね」




新居「父親は違うんだよ。母親が一緒……秦泉寺さんは私が物心ついた頃には、もう別の所で暮らしてて、お店で働いてた」

佐々木「……」

新居「だから、ホントに最近になってから、しかも、お店でしか話したことがないんだよ。可笑しいでしょ」

佐々木は新居が何を言おうとしているのか、それを理解したかった。
だから、彼女の話しを懸命に聞いていた。

新居「うちのお店の社長が私たちの母親……母は、日野雅子という名前」

佐々木「……日野雅子」

新居「聞き覚えある?」

佐々木「ある……あるよ……おかんの旧姓」

新居「……うん」

佐々木「……新居さんは……日野さん?」

新居「うん……」

思い出せなかった記憶が漸く言葉となって甦った。佐々木は、学校で新居と合っている。

佐々木「新居さんは……姉さんなの?」

新居「そうだね……秦泉寺さんも。あなたのお父さんは、お店にずっと出資してる。養育費の代わりにね」

佐々木「……」


新居「ここに来て1度目の時は、そんなこと何も知らなかった。その後、聞かされて……その時の私の気持ち分かるかな?」

佐々木は首を横にふった。

新居「愕然としたんだよ。父親が違うからって、生活がこんなにも違うんだって……妹がいたことより、そっちの方が衝撃だったんだから」

新居「この生活楽しい?」

佐々木「……」

佐々木は黙って、新居を見た。目の前の存在になんと言葉をかけたらいいのかわからなかった。

新居「望んでいた普通の生活……あなたが憎い」

佐々木は体をびくりとさせる。新居は、佐々木の頬に片手を寄せる。

新居「あなたを憎んでもしょうがないけど……あなたを壊してしまいたい……そんな風に思ってた」

佐々木「……信じられない」

新居「……ふふ。だよね」

佐々木「仮に、その話しが全部本当だとして……私を壊して、新居さんはその後どうしたいの?」

新居「あなたをペットにするのもいいかなって。私のことを忘れることができないように……してしまおうかと思った」

佐々木は背筋を震わせた。新居の告白の意味が漸くわかった。

新居「それで、今の生活を終わりにできたらなって……」

佐々木「新居さん……」

新居「何も知らない可愛い妹も道連れにして……」

佐々木「……」

佐々木は新居の気持ちを理解することはできなかった。ただ、昔母親も同じようなことを言っていたのを覚えていた。
滅多に帰らない父、そんな中で私を育てる母。先の見えない明日に怯える暮らし。経済的には安定していたけれど、誰かが傍にいて、誰かに囲まれている方が、母はよっぽど安心できたのかもしれない。だから、三人も産んだんじゃないのか。

だが、新居にとっては違ったのだ。いや、段々と掛け違っていた部分が大きくずれていったのかもしれない。
佐々木は母親を恐れていた。憎みもした。けれど、今、自分の生活というものを持つことができ、表面にそれが現れたことはない。その気持ちは忘れてしまったわけではなく、思い出せないだけで、きっとどこかに仕舞われているのだろう。

新居「告白の返事聞かせてくれる?」

佐々木は体が怯んだ。

佐々木「……」

新居「……」

佐々木「新居さん……秦泉寺さんも……馬鹿」

新居「……」

佐々木「馬鹿じゃないの……まだ、楽しいこと沢山あるよ。できることあるよ、やっていいんだって……」

新居「……」

佐々木は視界がぼやけてきたのを感じ、片手で目をこする。

新居「佐々木さんに言われても……」

佐々木「私が言える立場じゃないのは分かってる……でも、今それを言えるのって私だけじゃんか……」

佐々木「新居さん。私、新居さんに会えて話しができて嬉しかった。新居さんは違うんだろうけど、やっぱりそう思える。こんな、短い間で思えたんだからもっと長くいたら……もっと楽しいんじゃないかな。うんん、取り戻せるかもしれないじゃん……私たちの思い出」

佐々木は振り返った。

佐々木「新居さんの思い通りにはなれない。それでもいいなら、付き合ったろーじゃん」

新居「……ッふふ」

新居が突然笑い出す。

佐々木「新居さん?」

新居「ふふ……あはははッ……さむッ……」

佐々木「……ちょッ……人が真剣に言ってんのに!」

新居「秦泉寺さんにしろ……どうして……他人のことで……ふふッ……そこまで真剣になれるの?」

佐々木「……そんなの、知らん。強いて言うなら、お姉ちゃんだから?」

新居「あははッ……そんな理由……ふふ」

佐々木「……そんな理由だよ」

新居「……そっか……そっか」

佐々木「……ん」

佐々木は手を差し出す。

新居「……」

新居はきょとんとしている。

佐々木「お願いします」

新居「ああ……」

新居は手を差し出して、佐々木の方を見て一度微笑んだ。
それから、素早く手を払いのけた。乾いたパーンという音が響いた。

佐々木「ええ?!」

新居「頭、大丈夫?」

佐々木「お、おうおう!?」

新居「私の妹がこんなに単純だなんて思わなかった」

佐々木「ぐッ……言わせてもらうけど、私の姉がこんなに乱暴だと思わなかった」

新居「断って、無視すれば終わる話しだったのに……なんでそうなっちゃうのかな」

佐々木「はあ……そっちこそ付き合って楽しく過ごせば終わる話しじゃんか。大人しく付き合え」

新居「……いつの間にか主導権握ってるんだもんね。びっくりする」

佐々木「乗りかかった船だし」

新居「泥船でもいいの?」

佐々木「うん、いい。お姉ちゃんも一緒に乗るから大丈夫」

新居「沈むのも早いよ?」

佐々木「うッ……いいの! つべこべ言わない!」

新居「わかった……付き合ったら、して欲しいことがあるの……」

佐々木「な、なに」

新居「お風呂に入って背中流したり、一緒のベッドで寝たり、ショッピングに行ったり、映画に言ったり、ご飯を一緒に作ったり作られたり……それから、お姉ちゃんって呼んで」

佐々木「……」

佐々木は無理難題の凄い要求が来ると思っていた。が、案外と普通の、そう、普通の姉妹がやりそうなことばかりだった。新居がもとめていたものは、本当はそんな単純なことだったのかもしれない。

佐々木「いいよ、お姉ちゃん」

新居「あとは、マッサージも」

佐々木「ええ?!」

終わりです。



突貫ssに付き合ってくれてありがと。
また、機会があれば。


して欲しいことするシーンはー?

>>114
ごめん、気力切れ

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年05月06日 (火) 18:56:41   ID: W3EJmF5E

おもしろかった

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