貴音「昔より、もっと。もう一度」 (58)

以前、vipで投下したものを読み返してたら色々足したくなったので足しました

読んでいただければと、思います。よろしくお願いします

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1398265564

――貴音の部屋
――23:40

貴音「…」チラッ

窓の外を見上げれば、そこには月が浮かんでおりました。

貴音「…」

あなた様は、憶えていらっしゃいますでしょうか。…ふふっ。愚問でした。憶えている筈、ありませんでしたね。

貴音「それは、呪いにも似た、ひとつの感情」

恋することは、なんと罪深き事なのでしょうか。

貴音「しかしそれでもわたくしは」

あなた様を、お慕い申しているのです。

―今も。昔も。

―――
――

『なぁ…お願いがあるんだ…』

夢?

『お願い、ですか?』

誰の夢?

『あぁ…』

これは…俺?

『わたくしに…出来る事でしたら』

誰だ?

『月を見たら…俺を思い出してくれないか?』

『それは、わたくしを呪っているのでしょうか』

どこかで見た事あるような…。

『なんで?』

『わたくしは…×××…なのですよ?』

うまく聞き取れない。聞こえない。

『知っているさ。他の誰よりも、俺がね』

何を?

『それでもあなた様は、わたくしにそれを望むのですか?』

悲しそうな顔。何故だか、苦しい。

『望むよ。だって、お前だけには忘れられたくないからね…』

誰に?

『…』

悲しそうな顔。

『ふふっ…あなた様のそういうところは…改心せずに、いけずなのですから』

うん。笑った顔のがいい。けど、誰なんだろう。

『じゃあ、いつかまた会えたら』

誰と?

『はい。いつかまた会えたら、その時は』

その時は?

『あなた様の、御側に』

―――
――

――Pの部屋
――03:40

P「っ!」ガバッ

P「…夢?」

何だか、息が苦しかった。
何だか…嫌な様な懐かしい様な夢を見ていた気がする。

P「はぁ…喉が乾いた…」

冷蔵庫を開け、水を取り出し、喉を潤す。

P「…」チラッ

カーテンの向こうでは、月が輝いているのだろうか。
淡く、光が揺れていた。ゆらゆらと。

P「…」スタスタスタ

――シャッ、

やっぱり、月が出ていた。

何故だろう。

昔から、月を見ると悲しくなる。

悲しいというか、何かが足りないというか、

P「…寝るか」

カーテンを閉め、水を仕舞い、ベッドに横たわる。

そこから眠りに落ちるのは、早かった。

―――
――

――765プロ事務所
――10:00

――ガチャッ、

P「おはようございまーす」

小鳥「おはようございます。プロデューサーさん」

P「おはようございます。貴音、来てますか?」

小鳥「貴音ちゃんならまだですよ?」

P「そうですか。少し、早かったかな」

小鳥「あら?今日は貴音ちゃんに同行するんですか?」

P「いえ、今日は今度の写真集を撮影する場所へ下見に行くんですよ」

小鳥「あら、アイドルも一緒になんて珍しいですね」

P「今回は貴音が乗り気なんですよ。あいつ、普段は俺に任せてくれているのに」

小鳥「何か、特別な理由があるんでしょうか。
誰かとの…思い入れのある場所、とかだったりして」クスクス

P「…どうなんでしょうね。撮影地を教えたら、何故かビックリしてましたけど」

小鳥「どこなんですか?撮影地」

P「鎌倉周辺ですね」

小鳥「あら、古都・鎌倉なんてロマンチックじゃないですか」

P「そうですか?」

小鳥「ふふっ。プロデューサーさん?」チラッ

P「なんです?」

小鳥「鎌倉…鎌倉というか、江ノ島ですね。その江ノ島に、こんな民話があるのはご存知ですか?」

P「民話?」

小鳥「ふふっ。はい」

小鳥「『天女と五頭竜』という、民話です」

――ガチャッ

貴音「おはようございます」トテトテトテ

P「おっ?貴音、おはよう」

貴音「おはようございます。あなた様、小鳥嬢。それで、二人して何を話されていたのです?」

P「あ…あぁ今日、鎌倉へ下見に行くだろ?今度の写真集の」

貴音「…っ。えっ、えぇ」

P「?」

P「それでな?小鳥さんが、鎌倉に天女にまつわる民話があるって言うんだよ」

貴音「…民話、ですか」チラッ

小鳥「?」キョトン

貴音「…」ジッ

小鳥「…ッ」ビクッ

小鳥「いっ、いえ…昔話というかなんというか…そういうお噺があるんですよー、的な?」ドキドキ

貴音「…それは」

小鳥「はい?」

貴音「…小鳥嬢。それは、天女と竜の…」

貴音「…いえ、よしましょう。それは過去の事ですから」

P「…貴音?」

貴音「…では、参りましょうか。あなた様」

P「あ、あぁ…」

小鳥「…」

貴音「…小鳥嬢」チラッ

小鳥「あっ!はっ、はい?なんですか?」

貴音「…その話。プロデューサーの前では二度と話さぬ様、よろしくお願い致します」ボソッ

小鳥「え?」キョトン

貴音「…よろしい、ですか?」ズイッ

小鳥「え、えぇ。わかりました…」ドキドキ...

貴音「…ふふっ。ならば、良いのです」クスッ

P「おーい、置いてくぞー?たかねー」

貴音「お待ちになってください、あなた様。
あなた様がいなければ、わたくしは『また』一人になってしまいます」トテトテトテ、

――ガチャッ、バタン

小鳥「何だったのかしら…いつもの貴音ちゃんじゃないみたいだった…」フゥ...

小鳥「…」

小鳥「…『また?』」

―――
――

むかし…というても、千四百年も遠い遠いむかしになろうか。

そのころ鎌倉の深沢に、まわりが四十里(17.4㎞)という湖があり、主の五頭竜がすんでいた。

それがわるぅいわるぅい竜でなぁ。

山くずれや洪水を起こし、田畑を埋めたり、押し流したりして、村人をくるしめておったそうでな。

ときには火の雨をふらすこともあり、村人は山のほら穴に隠れ、まわりを石でかこんでいたんだと。

―――
――

――Pの車内

P「なぁ、貴音?」

貴音「なんでしょう?」

P「貴音が下見に同行するなんて、珍しいじゃないか」

貴音「…」

貴音「…ふふっ。そうでしょうか。
よいですか?あなた様。わたくしの写真集なのですよ?今日はそれの撮影地の下見。その下見に、わたくしが同行してもおかしくは無いと思いますが」クスクス

P「まっ、そうなんだけどな」

貴音「…」

P「なぁ、貴音?」

貴音「ふふっ。今日はあなた様からのお話が多いですね。なんでしょう?」

P「…」

P「さっき、小鳥さんと何を話してたんだ?
貴音にしちゃ珍しく、けっこう怖い顔してたけど」チラッ、

貴音「…」チラッ

貴音「…ふふっ。他愛も無いお話ですよ。
ただひとつ、あなた様に言っておかねばならないことがあります」

P「…?」

貴音「…良いですか?小鳥嬢の言う、天女伝説。あれは聞いてはなりません」

P「何で?」

貴音「…」

貴音「それは…」

P「それは?」

貴音「とっぷしーくれっと、です」クスクス

P「またそれか…」ハァ...

貴音「…」

―――
――

ある日の事だったそうな。

五頭竜は津村の水門のところにあらわれて、はじめて村の子を食ったそうな。

それから村人は、ここを「初くらい沢」と名づけて、近よらなかったそうな。

津村の長者には、16人の子がいたが、一人残らず五頭竜にくわれてしまったと。

おそれおののいた長者は、死んだ子を恋慕いながら、西の里に屋敷をうつしていった。

それで、深沢から西の里へ行く道を【子死恋(こしごい)】とよぶようになり、それが今の、【腰越(こしごえ)】になったのだと。

―――
――

――鎌倉
――11:50

P「あぁ…やっと着いたぁ…」

貴音「…ふふっ。運転、ご苦労様でし…」クゥゥゥゥ

貴音「ッ!」ビクッ

P「くっ…くくっ…」

貴音「…///」カァァァァ

P「そっ…それじゃあ、ふふっ。お、お昼にしようか…ふふっ」クスクス

貴音「…あなた様は、いけずです…」シュン

P「この近くにさ、美味い蕎麦やがあるんだ。
ラーメンじゃないけどいいだろ?そこに入ろう」

貴音「…そば、ですか。ふふっ。楽しみです」

―――
――

――蕎麦や

P「やっぱり鎌倉に来たら鴨南蛮だな!」ズルズルズル

貴音「…面妖な…面妖な…これは面妖な…」ズルズル、

P「美味いか?鴨南蛮」

貴音「…まこと…まこと美味です!あなた様」ズルズル、

P「ははっ。それなら良かった。じゃあ昼メシ食ったら、まずは江ノ島に行こうか」

貴音「…江ノ島…ですか」

P「何か問題あるか?あるなら変えるけど」

貴音「…いえ、大丈夫です。それよりも、あなた様…?」チラッ、

P「なんだ?」

貴音「…是非、おかわりを…」コトン

P「ははっ。まったく…お前らしいよ」

貴音「…ふふっ」クスクス

貴音「…」

―――
――

そうしたとき、天地をゆるがすたいへんなことが起こったそうな。

それは、欽明天皇の時代(6世紀)13年04月12日だったと。

まっ黒い雲が天をおおい、深い霧がたちこめ、大地震が起こった。

山はさけ、沖合からは高波が村をねらっておそいかかってきた。

おどろおどろと地鳴りがし、地震は十日のあいだつづいたが、23日の辰の刻に、うそのようにとまったと。

村人がホッとしたとき、こんどは海底から大爆発が起こり、まっかな火柱とともに岩が天までふきあげられて、小さな島ができた。

これが、今の【江ノ島】なのだと。

―――
――

――江ノ島

P「んー!潮風が気持ちいいなぁ…こういうところで撮影するのは、やっぱり開放感があっていいな!」

貴音「…ふふっ。そうですね。江ノ島…やはり、まこと良き場所です」トテトテトテ

P「…」チラッ

貴音「…どうされました?あなた様」

P「いやぁ…今日の貴音は、いつもの貴音じゃないみたいな気がしてな?
ははっ。なんだろうな、これ」

貴音「っ!」ビクッ

貴音「…あなた様」

P「…ん?なんだー?」

貴音「…上に、登りましょうか」

P「そうだな。青銅の鳥居、だっけ?そこから登れるんだろ?」

貴音「…」

貴音「…では、参りましょうか」

―――
――

五頭竜は、このありさまを湖の中から目をむいて見まもっていた。

すると、天から美しい姫が紫の雲にのり、2人の童女をつれてしずしずと島におりてきた。

そのとき、どこからともなく美しい音楽が流れ、なんとも良き、香ばしい香りが漂ったと。

それを見た五頭竜は、思ったそうな。

『うぅむ、なんと美しい姫だ。よし、我が妻にむかえるぞ』

五頭竜は、波をかきわけて江島へ行くと、

『俺はこのあたりをおさめる五頭竜。美しき姫よ、汝を我が妻にむかえよう』

と、言ったそうな。

「なんと申す五頭竜。あなた様は田畑をおし流し、何の咎無き幼子まで飲み、あらんかぎりの罪を犯してきた。
天女は、そのような者の妻にはなりませぬ」

天女はそういうと、洞窟の中へはいってしまったと。

五頭竜は、すごすごと帰っていったが、つぎの日にまた江島へやってきた。

『天女よ、どうか許してほしい。これからは、心を改め村を護ろう。どうか信じてほしい』

天女は、五頭竜の固い心を信じて、静かにその手をさしのべたそうな。

―――
――

――青銅の鳥居

P「すげぇ…ここをくぐると、土産物やがたくさんあるんだよな」キョロキョロ

貴音「…ふふっ。海産物の、まこと美味しそうな匂いが漂ってきますね」クスクス

P「貴音!焼きたての煎餅が売ってるぞ。食うか?」

貴音「…せんべい!」ピクンッ

貴音「…よろしいのですか?」チラッ

P「当たり前さ。今日はお前の写真集の撮影地の下見だからな!
こういうところから、【江ノ島】を知っていこう!」

貴音「…ふふっ。焼きたてのせんべい…まこと楽しみです」

―――
――

貴音「…」パリッ、バリッ、モグモグ...

P「美味いな…これは…」バリッ、バリッ、

貴音「えぇ…まこと…美味です」モグモグ

貴音「…」キョロキョロ、キョロキョロ、

P「そんなキョロキョロしてどうした?なんか目新しいモノでもあるか?」

貴音「…ふふっ。いいえ?ただ…」

P「…ただ?」

貴音「…」

貴音「いえ、何でもありませんよ。あなた様」

P「そうか?」

貴音「…」キョロキョロ

貴音「…」ハァ...

P「…」

―――
――

――江島神社

P「スゲェ…」

貴音「…」

P「けど…なんだろうな。物悲しいというか、なんというか…あっ、向こうに山があるみたいだぞ?」

P「貴音ー!ここの…「…なりません!」

P「…」ビクッ

P「…えっ?」

貴音「…えっ、あっ…いえ…」アセアセ

貴音「あ、」

貴音「あなた様?転ばれたら、どうなさるのですか?」クスクス、

P「あっ…あぁ…悪い。ちょっとはしゃぎ過ぎたな」

貴音「…ふふっ。あなた様のそういうところ、見ていてはらはらしてしまいます」クスクス、

P「…」

P「片瀬の竜口山だってさ」

貴音「…」

貴音「…えっ?」

P「さっき、煎餅やのおばちゃんが言ってた」

P「江ノ島の、天女の噺」

貴音「…」

貴音「そうですか」

P「なぁ、貴音?」

貴音「ふふっ。なんでしょう?」

P「行ってみないか?その…竜口山。登らないけど、見るだけ」

貴音「…」

貴音「あなた様…今は、竜口山ではなく…片瀬山と呼ばれております」

貴音「竜口山と」

P「うん?」

貴音「竜口山と呼ばれていたのは、」

貴音「うんと、うんと昔の事」

P「…そっか」

貴音「えぇ…」

P「で、どうする?お前が嫌なら、俺は行かないけど」

貴音「…」

貴音「あなた様はいけずです」

P「えっ?」

貴音「わたくしが、あなた様に逆らえるはず…ありませんもの」クスッ

―――
――

それからの五頭竜は、日照りの年には雨を降らせ、実りの秋には台風をはねかえし、津波がおそったときには波にぶち当たっておし返していたそうな。

しかし、そのたびに五頭竜のからだはおとろえていった。

ある日、五頭竜はなみだながらに、

『俺の命もやがては終わる。これからは、山となりて村を護ろう』

そう言い、海を渡って帰ると、一つの山になった。

これが、

【片瀬の竜口山】

山の中腹には竜の形をした岩があり、それは、天女を慕う様に、江ノ島をじっと見つめていたと。

村では、ここに五頭竜を祀った社を建て、【竜口明神】と名づけたそうな。

―――
――

――片瀬山公園

貴音「んっ…」ズキッ

P「…」

貴音「…」フゥ...

貴音「あなた様…」クイッ

P「…なんだ?」

貴音「申し訳ございません。わたくし、先に車へと戻っております」

P「…」

P「じゃあ、俺も一緒に戻るよ」

貴音「…」

貴音「あなた様は…いついつまでもお変わりになりませんね」クスッ

P「えっ?」

貴音「…ふふっ。何でも…何でも…」ツゥー

貴音「…ありません、よ…」ポタッ...

P「…」

―――
――

――Pの部屋
――21:30

P「なぁ…貴音?」チラッ、

貴音「…なんでしょう」

P「見ろよ。月、今夜も綺麗だな」

貴音「…」チラッ、

貴音「えぇ…。まこと、美しいものです。今も昔も、夜天に耀く月だけは、なにも変わっておりません」

P「なぁ、貴音」

貴音「…なんでしょう、あなた様」

P「俺な?最近、夢をよく見るんだよ」

貴音「…はて、夢…ですか?」

P「同じ夢なんだ」

貴音「…」

P「男と女がな?話してるんだ」

貴音「…」

P「で、男は女にこう言うんだ」

『なぁ…お願いがあるんだ…』

貴音「…っ!」ビクッ

『月を見たら…俺を思い出してくれないか?』

P「…男がな?俺に似てる気がするんだよな。女は…正直、誰かは分からない」

貴音「…」

P「…だけど」

貴音「…だけど、なんでしょう」

P「どこかで…見覚えがあるんだよ。
忘れちゃいけない…とても、とても大切な人だったと思う」

貴音「…」

貴音「…」

P「って、ははっ。何を言ってるんだろうな。
俺…普通に考えたら、危ないヤツだよな」

貴音「…あなた様の、」ボソッ

P「ん?」

貴音「ふふっ…あなた様のそういうところは…改心せずに、いけずなのですから」

P「…」

P「…えっ?」

貴音「…なの、ですよね?次の言葉は」クスクス

P「いやっ…そう、だけど…なんで貴音が?」

貴音「月というのは…何年…何百年…それこそ、何千年経ってもその耀きは変わりません」

貴音「例え、真昼であろうとも」

貴音「夜天で、あろうとも」

貴音「いつも空にあって、浮かび、耀いているのですから」

貴音「…あなた様は、憶えていらっしゃいますでしょうか」

P「…」

貴音「…ねぇ、」

貴音「五頭竜」クスクス

P「…」

貴音「…ふふっ。とは、申しても、今のわたくしはただの人間です」

貴音「それは、あなた様も同じ」

貴音「竜と天女…民話に語られるほどの、熱い恋慕。それは、許されないはずの恋慕。
わたくしとしましては、『今』のわたくしが、『今』のあなた様をお慕い申しておりますので、出来ればあなた様には思い出してほしくは無かったのですが…」クスクス

貴音「それが例え…夢であろうとも」チラッ

P「…」

貴音「…ふふっ。ですが、これも業なのでしょうか。あなた様は、思い出してしまわれたようで」クスッ

P「…」

P「なぁ…『貴音』?」チラッ、

貴音「…なんでしょうか、『あなた様』」

P「あの時の約束…覚えてるか?」

貴音「…はて、なんのことやら」クスクス

P「…」

貴音「…」

P「…」グイッ

貴音「んっ……あっ、はむっ…んっ…ちゅっ…」ギュッ

貴音「ぷはっ…あな…あなた、様…」ハァ...ハァ...

P「今なら、言えるかな」ギュッ

貴音「んっ…」ピクンッ


P「愛してる。竜ではなく、人として」

貴音「…ふふっ。ほんとに、全て思い出されてしまわれたようで…」クスッ

貴音「わたくしとしましては、いささか不満が残ってしまいますが…」ムスッ

貴音「…」

貴音「ふぅ…」クスッ

貴音「…わたくしも、」

貴音「お慕い申しております。天女ではなく、人として」

P「貴音…」スッ

貴音「あなた様…」スッ

―――
――


――夜中

P「なぁ、貴音?」

貴音「なんです?」

P「貴音は、いつから思い出していたんだ?昔のこと」

貴音「…」チラッ、

貴音「とっぷしーくれっと、」

貴音「と、言いたい所ですが…こればかりは説明せねばなりませんね」クスクス

貴音「そうですね。わたくしが、まだ961にいた頃でしたか。
あなた様と初めて…ふふっ。違いましたね。あなた様と、再び出逢ったのは」

P「懐かしいな…もう何年も前か。俺がまだ新人だった頃か」

貴音「あの時のあなた様は、『以前』と変わっておりませんでしたので、すぐに分かってしまいました。
あの時は、本当に驚いたものです」クスクス

P「そこから、だったな。なにかと、貴音との因縁が始まったのは」

貴音「…むぅ。因縁とは…まこと酷い物言いです」ムスッ

P「あの頃は俺も必死だったからな。
当時の担当…伊織と『IU優勝』を目標にして、がむしゃらだった」

貴音「えぇ。あの時のあなた様もまた、あなた様らしかったです」

P「俺らしいって?」

貴音「…ふふっ。それこそ、とっぷしーくれっと、」

貴音「で、ございます」クスッ

P「…そっか」

貴音「…その後、あなた様は伊織と共にIU優勝。わたくしは、敗けた責を問われ961を追放…」

P「…で、俺がお前を765にスカウトし、今に至る、と。
何だか、どこかのゲームにありそうな展開だよな。今の、俺たちの関係も含めて、さ」

貴音「今思えば…わたくしはあの時、あなた様と伊織に敗けて良かったと思っております」

P「なんで?」

貴音「でなければ、わたくしはあなた様と共に歩み、この様な、心地好い時を過ごす事は無かったでしょうから」ギュッ

貴音「それが例え、前世で結ばれていたとて」

P「…」

P「確かに、あのまま961にいたらこうまでに親しくはならなかっただろうな」ナデナデ、ナデナデ

貴音「ふふっ。でしょう?」クスクス

P「…」

P「なぁ、貴音?」

貴音「なんです?」

P「結果的に、こうやって俺は思い出した訳だけど…もし、思い出さなかったら、どうするつもりだった?」

貴音「…」

貴音「特にどうもしませんよ?わたくしは四条貴音であり、アイドルであり、あなた様を魅了する事に変わりはありませんから」クスクス

P「大した自信だなぁ…」

貴音「女は、したたかな生き物でもあるのです」

貴音「今も昔も」クスッ

P「そっか」

貴音「それと、もうひとつ…」

P「うん?」

貴音「わたくしは、明日の朝からやらなくてはならないことがありますので、早くに帰らねばなりません」

貴音「なので、部屋の合鍵をお貸し頂けると有難いのですが…」

P「あぁ、合鍵な。ちょっと待ってな。よいしょっと」ストッ、スタスタ

――ゴソゴソ

P「ほれ」ヒョイッ

貴音「ふふっ。ありがとうございます」パシッ

P「それ、そのまま持ってていいから」

貴音「あらあらそれはそれは…。わたくしに、通い妻をしろ、と?」クスクス

P「それもいいなぁ…」

貴音「わかりました。それが、あなた様の望みとあらば」クスッ

P「ん。ありがとう」ナデナデ、

貴音「…ふふっ///」

貴音「でっ、ではわたくしはこのまま寝てしまいます。
あなた様の腕に抱かれていると、良き夢を見れそうなので…」ギュッ

P「じゃあ…また明日な?」ナデナデ、

貴音「ふふっ。はい」

P「…おやすみ、貴音」

貴音「はい。おやすみなさいませ、あなた様」

―――
――

――765プロ事務所
――10:30

――ガチャッ、

P「おはようございまーす」

小鳥「じー…」ジーッ

P「な…なんですか?小鳥さん…」ビクッ

小鳥「プロデューサーさん…昨日…直帰しましたよね?貴音ちゃんと…」ジトーッ

P「え…えぇ…貴音は朝早くに帰っていきましたけど…」

小鳥「何が…何があったんですかぁっ!」ガタンッ

P「えっ?あっ!ちょっ!小鳥さん?」アセアセ

小鳥「あれ!あれを見てくださいよっ!」ビシッ

P「…ん?テレビ?」チラッ

TV(レポーター)『えー、ただいまから765プロ所属の大人気アイドル:四条貴音さんによる緊急記者会見が始まろうとしています』

P「…」

P「…えっ?」

小鳥「社長が何故か朝、ニヤニヤしながら貴音ちゃんと事務所を出ていったと思ったら!」

小鳥「何が始まるんです!?何を企んでるんですか!?」

P「」

TV(レポーター)『あっ!四条さんです!四条さん!今日の緊急記者会見は何故、開かれたんですか!?』

TV(貴音)『わたくし、四条貴音は…』

TV(貴音)『本日をもちまして、アイドル、及び、芸能界を引退させていただきます』

小鳥「」

P「」

TV(レポーター)『何故!何故ですか!四条さん!今が人気絶頂の貴女が何故!』

TV(貴音)『わたくしは、約束を果たさねばなりませんから』

TV(レポーター)『約束!約束とは!?男性関係ですか!?』

TV(貴音)『今度はわたくしが、芸能界という海を渡り終え、プロデューサー…あなた様と共に、今を過ごしていく番なのです』

TV(レポーター)『××××!』ギャーギャー、パシャッ、パシャッ

小鳥「」

P「」

P「…」

小鳥「…」

P「と、言う訳な様です…」

小鳥「はぁ…」ハァ...

小鳥「ふふっ…もう何を言ってもダメみたいですね」クスッ

P「えっ?」

小鳥「ほら、涙、拭いてください。ハンカチ、貸してあげますから」スッ

P「…ありがとうございます」

小鳥「いえいえ」クスッ

―――
――

数時間後
――社長室

社長「いやぁ!あっはっはっ!私もね?最初に四条くんから記者会見を開いてほしいと言われた時はビックリしたよ」

貴音「わたくしのわがままを…ありがとうございます」

社長「うむうむ!君はしっかりとアイドル活動を行ってくれた!
ここでひとつ、家庭に入るのもいいじゃないか!」

貴音「…ぽっ///」ポッ...

P「いっ…いや、社長?」アセアセ、アセアセ、

社長「ムッ?なんだね、君ィ。まさか、四条くんと添い遂げないつもりかねぇ?」ジィッ...

P「まさかっ!貴音とは『もう』離れませんよ!」

社長「はっはっはっ!ならばそれでいいじゃないか!
よし!アイドルを引退した後は、四条くんを我が765プロの新たな事務員として再雇用しよう!共に頑張ってくれたまえ!」

貴音「ふふっ。あなた様?これで『もう』、離ればなれになることはありませんね」クスッ

P「…」

P「ははっ…まぁ、それもいいかぁ」スッ

貴音「んっ…」ギュッ

貴音「んっ……ちゅっ…あふっ…///」

社長「おぉっ!おぉっ!これはめでたいっ!
今夜は765プロ総力をあげて、二人の新たな門出を祝おうじゃないかっ!」

P・貴音「「///」」テレテレ、テレテレ、

―――
――

――Pの部屋
――00:40

P「飲みすぎた…」フラフラ、フラフラ、

貴音「ふふっ…大丈夫ですか?あなた様」クスクス

P「あんだけ飲んで、ぜんぜん酔わない貴音が羨ましいよ…」フラフラ、

貴音「ふふっ。わたくしはもう20歳を過ぎているのですよ?お酒も嗜みます。
さぁ、あなた様。ベッドです。横になってくださいませ」クスクス

P「んー…貴音も一緒に」ゴロン

貴音「ふふっ。では、おとなり、失礼致しますね?」コロン

P「…」チラッ、

貴音「…」チラッ、

P「なぁ、貴音?」

貴音「なんです?」

P「『昔』もさ、お前の事を愛していたよ。でもな?」ナデナデ、

貴音「…」クスッ

P「『今』のが、もっと愛してる」ギュッ

貴音「あなた様…」ギュッ

貴音「わたくしもです、あなた様」

貴音「『過去』は、所詮は過ぎ去った過去」

貴音「『今』の耀きには、勝てません。お慕い申しております。あなた様」

P「愛してるよ、貴音」スッ

貴音「わたくしもです。あなた様…」スッ

貴音「んっ…ちゅっ…」

―――
――

『なぁ…お願いがあるんだ…』

『お願い、ですか?』

『あぁ…』

『わたくしに…出来る事でしたら』

『月を見たら…俺を思い出してくれないか?』

『ふふっ。それは、わたくしを呪っているのでしょうか』

『なんで?』

『わたくしは…天女…なのですよ?』

『知っているさ。他の誰よりも、俺がね』

『それでもあなた様は、わたくしにそれを望むのですか?』

『望むよ。だって、お前にだけは、忘れられたくないからね』

『…』

『ふふっ…あなた様のそういうところは…改心せずに、いけずなのですから』

『じゃあ、いつかまた会えたら』

『はい。いつかまた会えたら、その時は』

『お前の、側に』
『あなた様の、御側に』

―――
――

貴音「あなた様…わたくしは、やっと…やっと立てる事が出来ました」

貴音「他の誰でもない、愛しいあなた様の御側に」ナデナデ、

P「…」zzz...

貴音「ふふっ。可愛い寝顔ですね」

彼を起こさないように、ゆっくりとベッドから降りる。

貴音「…」トテトテトテ...

――シャッ、

カーテンを開ける。

窓の外では、今夜も月が浮かんでおります。

貴音「ふふっ」クスッ

あなた様は、憶えていらっしゃいますでしょうか。

…ふふっ。憶えて…いいえ、思い出して…いただけましたね。

貴音「それは、当たり前の、ひとつの感情」

恋する事とは、なんと素晴らしい事なのでしょうか。

貴音「だからこそわたくしは、」

あなた様を、お慕い申しているのです。

今も、昔も。

…。

……。

貴音「…ふふっ。違いますね」

もう一度、あなた様を愛する事が出来るから。

―昔より、もっと。

はい。ここまでありがとうございました。これで終わりです

昔に書いたやつを読み返すと、継ぎ足したい所がちょくちょく出てきてしまいますね。

では、ここまでありがとうございました。また、よろしくお願いします

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