男「友妹ちゃん、か……」 (20)
男「今日の放課後、女さんに告白する」
友「ふーん、よかったね」
生返事だった。
ここは昼休みの屋上。
友は俺の話に興味がなさそうに、弁当のから揚げを口に頬張っている。
いや、そうじゃなくて……
男「おい、他になにか言うことないのかよ。もっと、こう、思いやりのある一言をだな……」
友「がんばれー、応援してるー」
男「……心がこもってませんな」
友「だってその台詞聞いたの、今日で八十五回目だよ。いいかげん馬鹿らしくもなってくるさ」
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男「し、仕方ないだろ!なんたって一年以上の片思いなんだ。少しぐらい臆病にもなる。つーか、よくもまあ、律儀に数えたな?」
友「暇だったから」
男「よくわからん……」
暇だから数えるのか?
謎だ。
友「ごちそうさま」
弁当を食べ終わると友は立ち上がって、屋上のドアに向かって歩き始めた。
まだ口に焼きそばパンをくわえている俺をその場に残して……
男「ちょ、待て。まさか置いていくなんてこと……ないよな?」
友「ごちそうさまって、言った」
男「と、友達を見捨てるのか。この薄情ものー!」
友「…………」
すると、友はゆっくりと振り返って、ジーッと俺の顔を見つめた。
なにを考えているのかよくわからない、いつもの無表情だった。
友「きみと、いつ友達になったっけ……?」
男「たったいま、おまえは俺を怒らせた」
友「ほんとにおぼえてないんだ。ごめん」
男「やめろ。素直に謝られると余計むなしくなる……」
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――――
――
―
去年の七月の初めだった。
セミの鳴き声がやけにうるさかったから、よくおぼえている。
その日運悪く金欠だった俺は、暇と空腹を紛らわすために、なんとなく屋上にあがった。
男「あれ……?」
友「…………」
夏の屋上なんて蒸し暑いだけだ。
普通はクーラーの効いている図書室にでも行く。
だが、屋上には珍しく人がいた。
そいつは地べたに座り込んで一人で弁当をつついていた。
耳の少し下あたりまで切り分けた、ショートカットの髪。
その甘く整った顔にはどこか品性も感じられる。
そいつには見覚えがあった。
男(たしか……2―Aの友だったな)
美形で成績優秀、しかもけっこうな変わり者。
目立つのは当然のことだった。
男「あ」
友「…………」
そのとき、けたたましい腹の音があたりに響いた。
弁当に集中していた友はキョトンとした顔で、こっちに目を向けた。
なんだかすごく恥ずかしい。
男(帰ろう)
マヌケ面を見られたくなかった俺は、急いで友に背を向けた。
だが、それと同時に背中に小さな声が聞こえたような気がした。
友「……る」
男「え?」
友「食べる?」
それが俺たちの出会いだった。
――――――――
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――
―
友「あぁー、たしかそんなこともあったような」
男「おせーよ!」
こいつにとって俺は、道端に落ちてるただの石ころか?
友「あのときのきみ、すごい物欲しそうな目をしてたね」
男「こいつは、人を物乞いかなにかみたいに……」
友「ぼく、間違ったこと言った?」
男「もういいよ……」
本当につかみどころがない。
それに友は面白いやつだった。
だからあの日以来、昼休みになると、俺は自然と屋上に足を運ぶようになった。
男「まあ、おまえがどう思ってるのかはともかくとして、俺はおまえのこと友達だと思ってる」
友「…………」
友はなにも言わずに、澄んだ目で見つめてくるだけだった。
俺は呆れてため息が出そうになった。
予鈴が鳴る前に俺は教室にもどった。
自分の席に座ると、隣の席の幼馴染が嫌味っぽく話しかけてきた。
幼馴染「ずいぶんと、遅かったのね」
男「うるせーな。文句あるかよ?」
幼馴染「大有りよっ!!」
幼馴染は机を両手でドンッと叩いて、俺の顔をキッとにらみつけた。
相変わらず短気な女だ。
幼馴染「いいかげんにしなさいよっ!一昨日から言ってたじゃない!今日はみんなで学食行くんだから予定空けときなさいって!」
男「そんな前のことなんか、いちいち覚えてねーよ」
幼馴染「あんたの脳みそ、ニワトリ以下ね」
男「おい。なんかいま、人間としての尊厳を激しく傷つけられたぞ?」
女友「はろはろー!そこのお二人さん。今日も仲がおよろしいことでー」
男友「うぃーっす」
男「おまえら……」
幼馴染と言い合っていると、途中で男友と女友がやってきた。
こいつらとは一年のころからの腐れ縁だ。
男「勘弁してくれよ。こいつと、なんてあるわけないだろ」
幼馴染「なによっ!そこまで言うことないじゃないっ!」
男「もう一回言ってやるよ。死んでもありえねー」
幼馴染「むっかー!」
男「なんだよ?悔しいなら言い返してみ――痛ぇッ!?」
幼馴染「ふんっ」
男「てっ、てめぇ……!」
こいつ、思いっきり足踏みやがった!
男友「なんだ男のヤロー。ツンデレか?」
女友「男くんの場合、ありえるかもねー」
男「いや、ないから」
女友「まあ、それはともかくとして幼馴染ー」
幼馴染「なに女友?」
女友「男くんにはさあ、好きな人がいるのよ」
男・幼馴染「え?」
コイツイマナンテイッタ……?
男・幼馴染「ええええええええッ!?」
男友「なにおまえまで驚いてんだよ」
男「いや、だって……」
ま、まさかバレていたとは……
にしても、タイミングが悪すぎる……
幼馴染「だ、だれっ!?それだれっ!?」
女友「ふふ、焦らない焦らない~♪ちゃんと教えてあげるから、ね?」
男「…………」
男友「んん~?顔色わるいな。どした?」
男友はニヤニヤ笑っている。
ぶん殴ってやりたい。
女友「実は……」
幼馴染「う、うん」
女友「実はぁ……♪」
幼馴染「はやくーーーっ!!」
男「あ、ああ……」
終わった。
俺はもう……終わった。
女友「3―Aの……友くんですっ♪」
幼馴染「え……」
その言葉を聞いた瞬間、期待と不安に満ちた幼馴染の目は輝きを失い――
幼馴染「は、はああああああ……???」
脱力した声がため息とともに出てきたようだった。
俺も同じ心境だった。
男「なに……トチ狂ったこと言ってんだ、おまえ?」
幼馴染「…………」
男友「ありえねぇ。BL本の読みすぎだろ」
女友「あっれ~~~?反応それだけ~~~?おかしいなぁ……」
俺たちの反応が悪かったので、女友は苦い顔で首をかしげている。
女友「でもでも~。ウワサ、けっこう広がってるよ?」
男「ちなみに聞くけど、それってどういう……?」
女友「うん。あのね、男×友は確実だって。あと大穴狙って、男×男友もありえるかもって」
男「だれだ?そんな信憑性ゼロの情報流したやつ。だれだ?」
呆れてため息も出てこない。
男友「男」
男「なんだよ」
男友「おまえの気持ちは嬉しいけど、俺には想い人がいるんだ。だから、ごめん……」
男「しね」
男友「ああ……モテる男って辛いよなーマジで」
男「聞けよバカ」
昼休みはそんな感じで終わった。
とりあえずここまで
女友「ねー、男くん。ちょっといいかなー?」
男「?」
昼休み後の掃除時間。
ほうきを持ってボーッと突っ立っていると、急に女友がこそこそと手招きをしてきた。
しかも、周りを注意深くキョロキョロ見回している。
怪しすぎる……
女友「よし、おっけー☆」
男「……なにが?」
女友「ま、とりあえずろーか来てよ。ろーか。男くんに大事なお話があるの」
男「いま掃除中……」
女友「いいからいいからー」
男「ちょ」
腕を強引につかまれ、そのまま教室の外へずるずる引きずられる。
人通りが少ない西階段まで来ると、女友は急に足をとめた。
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