由華「今年入部しました巽です」 (103)
タイトルでは分かりづらいと思うので説明します
咲-Saki- 晩成高校のssです
一年前が舞台です。小走先輩は二年、巽由華は一年です。進級するところあたりまで進める予定です
未確定部分は妄想で埋めます。確定部分について抜け漏れありましたら、申し訳ありません
以上です。始めます
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1397312298
由華「晩成高校麻雀部の名に恥じないよう精進します。宜しくお願いします」
パチパチパチパチパチパチ
部長「これで全員か。以上で新入生の紹介を終わる。これから君達も共に常勝晩成の歴史を築いていくことになる。練習は厳しくなるが覚悟するように。本日のミーティングは以上だ。では解散!」
一同「お疲れ様でした!」
ガヤガヤ
良子「ついに俺らにも後輩が出来たな」
日菜「なんだかむずがゆい気分ねー」
紀子「……しっかり指導していかなくてはな」
良子「そうだな」
良子「それにしても、入学してもう一年が経つのか。早いもんだな」
日菜「そうねー。振り返るとけっこうあっという間ね」
良子「入部したての頃は何かと大変だったがな……雑用は多いし、先輩の顔もちゃんと覚えなきゃならなかったからな」
紀子「校内で先輩とすれ違う際の挨拶は今でも苦労する……」
日菜「それに練習も厳しいしねー。さすがに一年経った今は慣れてきたけれど」
良子「勉強との両立が厳しいんだよな……その辺はさすが高偏差値校と言ったところか。授業も油断出来ないからな」
紀子「しっかり集中していれば問題ない。それよりもレギュラー争いの方が熾烈だ」
良子「俺にとっては授業に集中することこそ難しいんだよな……しかしレギュラー争いが熾烈なのは、確かだな」
日菜「ただでさえレベルの高い打ち手が多いのに、三年生の先輩方はその中でも抜きん出ているからねー」
紀子「うむ。三年生同士での争いが激化している中、我々二年生がそこに割って入るのは至難だ。とても成し得るものでは無い」
良子「そうだな。まあ、かと言って諦める気もさらさら無いが、現状じゃあちと厳しいのが事実だな」
日菜「悔しいけどそうねー。今の二年生でそんなことが出来ているのは……」
紀子「……来たか」
日菜「噂をすればなんとやらねー」
やえ「おまたせ」
やえ「今年もたくさん入ったね」
良子「やえ。来たか」
やえ「ちょっと部長に呼ばれてね」
やえ「しかし今年の新人。どんな打ち手がいるか、楽しみね」
日菜「そうねー。早く打ってみたいものだわ」
良子「実力者もちらほら混じってそうな雰囲気だしな」
紀子「……後塵を拝するわけにはいかない」
良子「おう。晩成は甘くないところを見せてやろうぜ」
やえ「良い意気ね」
やえ「私達で、まずは教えてやろう」
良子「そうだな。でもまあ今日はとりあえず」
日菜「少し遅めの、やえちゃんの誕生日プレゼントを買いに行くのよねー♪」
やえ「えっ」
やえ「出かけるって、そういう事だったの……?」
良子「そうだ」
日菜「やえちゃんは先輩方のレギュラー争いに割って入るほど頑張ってるけど、麻雀だけじゃなくわたしたちの学年のまとめ役にもなってくれてるじゃない?」
やえ「ま、まとめ役なんて、それは別に意識してやってる訳じゃ……」
良子「それに勉強も手を抜かないしな」
日菜「そんな日頃からつい頑張っちゃうやえちゃんに感謝の意を込めて、誕生日を祝おうということになったのよー」
紀子「そういう事だ」
良子「まあ誕生日自体は過ぎてしまってるんだけどな」
やえ「い、いいわよそんな、子供じゃないんだから……」
良子「まあそう言うなって。この中じゃお前が一番後輩なんだから」
やえ「な……あ、アンタと少ししか違わないじゃない!」
日菜「もうーカッカしないの♪とにかくいきましょうー」
良子「行こう行こう」
紀子「うむ」
やえ「だ、だから別にいいって……」
スタスタスタスタ
ーーーーーーーーーーーー
良子「よし。着いたぞ。ここだったな」
日菜「そうそうー。かわいいアクセサリーがいっぱいあるのよねー」
紀子「もの選びをするなら最適だろう」
やえ「ちょ、ちょっと……本当に……?」
良子「遠慮するなよ。俺らも楽しんでいるしな」
日菜「そうだ。それならこれからは、みんなの誕生日が来る度にお祝いをするのはどうかしらー」
良子「おっ、それは良いな」
紀子「悪くない」
良子「そんなわけだから、気にするなって事だ」
やえ「う……」
ーーーーーーーーーーーー
日菜「これなんかどうー?」
紀子「うむ。良いな」
やえ「え、ええと……」
良子「俺はこういう系統の物はいまいちピンと来ないが、まあなんだ、可愛らしいんじゃないか」
日菜「ほらほら、鞄につけたら良い感じだよー」
やえ「う、うん……かわいいと思う……」
日菜「でしょー?」
やえ「で、でもなんというか、晩成の麻雀部員としての威厳が……」
良子「それならほれ、このドクロのアクセサリーなんかどうだ?」
やえ「それは却下!」
良子「早い否定だな……まあ威厳といっても高校生なわけだし、そんなに気にしなくて良いんじゃないか」
日菜「そうそうー。それに可愛らしいアクセサリーをしていれば、ギャップがあってなお素敵と思うわー」
やえ「う、それなら……」
紀子「決まりだ」
日菜「おっけーい♪」
アリガトウゴザイマシター
日菜「では改めて、」
日菜「やえちゃん、」
日菜・紀子・良子「お誕生日おめでとうー」
やえ「あ、ありがとう……」カァァァァ
日菜「早速つけましょうー」
やえ「そ、そうね……」カチャ
日菜「うん、良い感じねー。一年生の視線も釘付けね♪」
やえ「そ、そんな……」
良子「先輩に変に目をつけられたりしなきゃ良いがな」
やえ「それは避けたいわね……」
ワイワイ
由華「……」
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由華(あれは晩成の先輩達か……)
由華(部室での部長の挨拶の後、話してる声が少しだけ聞こえたけど……)
由華(晩成は甘くないところを見せつける、か……)
由華(もちろん、県内随一の強豪。一筋縄じゃいかないことは分かってる……)
由華(でも私だって、ここでやっていく自信がなきゃ入学してない)
由華(先輩達を倒して、必ずレギュラーを奪う!)ゴッ
今日は止めます
続きは明日以降書きます
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やえ「おはよう」
日菜「おはようー」
良子「おう、おはよう」
紀子「……」
日菜「あら、アクセサリーちゃんと付けてくれてるわねー」
やえ「ま、まあ、ね。せっかくの頂き物なんだし……」
日菜「嬉しいわー」
良子「買った甲斐があるってもんだな」
やえ「ど、どうもありがとう……」
日菜(まだ照れてるみたいね)
やえ「さ、さて、今日は一年生対二年生の練習試合ね」
良子「おう。張り切っていかないとな」
紀子「一年生の力を見極めると同時に、我々にとってはレギュラー奪取のアピールの場となる」
日菜「やえちゃんはレギュラー格の扱いのはずだけど、この試合には出るの?」
やえ「うん。二年生は全員参加ということになっているから」
日菜「そう。それならがんばりましょうー」
やえ「当たることになったら全力で行くから」
良子「もちろんだ。返り討ちにしてやるぜ」
紀子「威勢だけは一流だな」
良子「なんだとー?」
部長「よし、集合!」
良子「おっと。行くか」
日菜「いよいよねー」
紀子「……」
やえ「……よし」
部長「皆揃ったか」
一同「はいっ!」
部長「よし。ではルールを説明する」
部長「基本的に二年生からふたりずつ、一年生からふたりずつという面子で対局して貰うことにする。人数が不足した場合はどちらかの学年で埋めること。部室にある卓の半分を使い、残りは三年生の練習に充てる」
部長「午前中いっぱいを練習試合の時間とする。私がそれぞれの卓を回ってチェックするので、より多くの局数をこなすように」
一同「はいっ!」
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良子「よし、じゃあ早速行かせて貰うか……ん?」
やえ「よろしく」
良子「いきなりやえが相手とはな……まあ良い。相手にとって不足はないぜ」
やえ「お互い全力で」
良子「おう!さて一年生は……」
一年生「よ、よろしくお願いしますっ……!」
由華「よろしくお願いします」
良子「揃ったか。それなら始めるか」
……
…
やえ「ツモ」
良子「くそー、またやえのアガリか」
一年生「うぅ……」チャラ
やえ(ふう……)
やえ(周りには私が優勢に見えてるかも知れないが……)
やえ(油断出来ない。この感覚……)
由華「……」
やえ(対面の一年生から嫌な気配を感じる……)チャッ
一年生(……)パシッ
由華(……)スッ
由華「リーチ」
やえ「!」
やえ(来たか……!)
良子(ちっ……ツモも悪い上にこれか……)
良子「ほらよ」タンッ
やえ(良子はオリたか……)
やえ(私もここは引く)チャッ
一年生(……)タンッ
由華(……)スッ
由華「……ツモ」パララッ
やえ「!」
良子「うおっ」
一年生「ひっ……!」
やえ(一発か、しかも高め……やはりこの一年生、ただ者じゃない)
やえ(……面白いじゃない)
……
…
ーーーーーーーーーーーー
部長「よし、終了!集まれ」
ザッ
部長「時間が来たので、一年生対二年生の練習試合は終了とする。昼休憩を挟んだ後は通常練習だ。ではこれより休憩」
一同「はいっ!」
ガヤガヤ
日菜「お疲れさまー」
良子「おう、お疲れ」
紀子「……」
やえ「お疲れ様」
良子「結局、直接対決では皆お互いに五分五分だったか」
紀子「貴様、本当にそう感じたのか?小走との対局を見たが明らかに打ち負けていたぞ」
良子「何?それを言うならお前だってそうじゃないか。しかも俺にも直撃食らっておきながらよく言えたもんだぜ」
紀子「なんだと?」
日菜「まあまあー、ふたりとも良い麻雀してたわよー。見応えのある試合だったわー」
良子「お、おう、サンキュ……」
紀子「うむ……」
日菜「やえちゃんはどうだった?」
やえ「感触としてはそこそこね。ただひとつ……」
部長「小走!」チョイチョイ
やえ「!?はいっ!」
やえ「ごめん、また後で」スタスタスタ
日菜「いってらっしゃいー」
良子「……」
良子「やえが言いかけたこと、今日最初の対局のことかも知れない」
日菜「見てたわよー。りょうちゃんとやえちゃんと一年生の子ふたりの試合ねー」
良子「上家の一年生が、なんか嫌な感じだったんだ……」
日菜「すごかったわよねー。やえちゃんに正面からぶつかってたし」
紀子「私も対局したが……アレは他の一年生とは明らかにモノが違う」
日菜「とりあえず逸材がひとり、ってところかしらねー」
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ーーーーーー
やえ「どうしました、部長」
部長「お前は二年生で唯一、レギュラーが確約されていると言って良い身分だ」
部長「故に、今日の対局にも本来は出てもらわなくて良かったのだが」
部長「お前に直に見てほしかった。今年の一年生に、モノになりそうな奴がいるかどうかを」
やえ「……」
部長「どうだ、めぼしい人材はいたか?」
やえ「……もう部長のお目にも留まっているかも知れませんが」
やえ「私が対局した中では……巽」
やえ「彼女は明らかに他の一年生とは違いました」
部長「やはりか。端から見ていても奴は目立っていたな」
部長「お前は今日の対局中、基本的に様子見を決め込んでいた。それが、巽に対してだけは多少本気になったと私には見えたが、どうだ?」
やえ「そんな、私は常に全力で当たりましたよ……」
部長「どうかな」
やえ「……と、ともかく、彼女は注目すべき存在です」
部長「うむ。常勝晩成をより磐石なものにし得る素材が入ってくれたか。喜ばしいことだ」
部長「次の対外試合に連れて行って、様子を見てみるのも良いかも知れないな」
やえ「そうですね」
部長「それと、二年生からも何人か連れていこうと考えている。メンバーは……」
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由華「……」パクッ
由華(とりあえず、上手く立ち回れたかな。やはり県内屈指の強豪。気が抜けない……)
由華(それにしても、初戦の相手……)
由華(あれで二年生というのが信じられない。最上級生と言われても疑いようのないプレッシャー……)
由華(ほんの一瞬でさえ、気を抜くことは許されなかった……)
由華「小走やえ、か……」
……
…
ーーーーーーーーーーーー
キーンコーン
良子「やっとお昼か。今日も長い授業だぜ」
紀子「……集中していればあっという間だ」
良子「内容が理解出来れば早いんだろうがな。話してることが難しすぎるんだ……」
良子「まあ何にせよ、飯だ」
日菜「りょうちゃーん」
良子「おう日菜、昼休みに来るとは珍しいな」
やえ「私が声をかけたの」
紀子「小走も一緒か」
やえ「今日は学食に行かない?」
良子「良いな。そうするか」
紀子「四人での昼食も新鮮だ」
やえ「ありがとう。なら早速行こう」
良子「おし」
紀子「うむ」ガタッ
スタスタスタスタ
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ーーーーーーーーーーーー
紀子「……上田。常々思っていたが、食事の量が多過ぎるんじゃないか」
日菜「カレー大盛りに唐揚げにうどんまで……わたしじゃとても食べられないわー」
良子「これぐらいじゃなきゃ腹が減ってしょうがないんだよ……というか、俺からしたら皆が少食だと思うんだが」
紀子「そうでも無い。極めて一般的だ」
良子「お前はそうかも知れないな。しかし日菜なんか、おにぎりとサラダで足りるのか?」
日菜「わたしはこれくらいでちょうどいいのよー」
良子「そうか……」
紀子「……体格の差、か」
日菜「りょうちゃん大きいからねー」
良子「そんなもんかねえ」
やえ「おまたせ」スチャ
良子「……」ジーッ
良子(かけそばのみか……)
良子「……そうかも知れないな」
やえ「ん?」
良子「いや、なんでもない」
やえ「?」
日菜「ふふっ♪」
良子「と、とにかく全員揃ったんだし、食おうぜ」
やえ「?……そうね。では、」
一同「いただきます」
パクパク
良子「そういえば、このメンバーを集めるなんて、何か話でもあるのか?」
やえ「うん。実は今度の練習試合のことなんだけど」
日菜「あぁ、そういえば試合があるってミーティングで話してたわねー」
紀子「確か三年生のレギュラー、ベンチ入り候補メンバーが参加する筈だな」
やえ「そう。当初はそういう予定だったんだけど……」
やえ「その後部長の提案で試験的に他のメンバーも参加させることになったの。監督も承認してる」
紀子「何だと?……メンバーは決まっているのか」
やえ「うん」
やえ「日菜、良子、紀子。皆メンバーとして選ばれたわ」
良子「本当か?」
紀子「……!」
日菜「やったねー」
やえ「この前の一年生との練習試合を見て決めたそうよ。今日の練習後に部長から話があるはずなんだけど、先に言っておきたくて」
やえ「おめでとう。これは絶好の機会の筈。頑張りましょう」
良子「遂に来たな」
日菜「アピールしなきゃねー」
紀子「……うむ」
やえ「それともうひとり、参加メンバーがいるわ」
紀子「……誰だ」
やえ「一年生の、巽」
紀子「……なるほど」
日菜「一年生でいきなり目をつけられるのは驚きだけど納得ねー。あの子、凄かったからねー」
良子「……やえ、お前もあいつには注目していたんじゃないか?」
やえ「……そうね。あの対局中、普通じゃない感じがしてたわ」
良子「だな。俺もそう思ってた」
紀子「……」
日菜「……」
良子「……まあでもあれだ。このメンバーで行くのなら」
良子「あいつとは仲良くしようぜ。まだどんなヤツか分からないし、一年生ひとりだけで心細いだろうしな」
やえ「……!」
日菜「そうねー。わたしたちも立場としては似たようなものだし」
紀子「存外に早く打ち解けられるかも知れない」
やえ「……そうね」
やえ「私はたぶん三年生と一緒に行動することが多くなる筈だから、その辺りのこと、まずはお願いするわ」
良子「おう、もちろんだ」
やえ(……あの対局以降、私は巽に対してどこかで警戒心を抱いていた)
やえ(でも皆は、巽を後輩として気づかい接しようとしている)
やえ(……どうやら、ひとつ教わったみたいね)
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部長「集合!」
ザッ
部長「これより対外試合に出発する。まずはレギュラー組やベンチ入り候補である三年生の対局。その後タイミングを見て、君達には打って貰う。宜しく頼むぞ」
良子・日菜・紀子・由華「はいっ!」
部長「よし。ではバスに乗り込む」
ゾロゾロ
由華「……ふう」スチャ
良子「おつかれさん」ヒョイッ
由華「!?」ビクッ
由華「お、お疲れ様です」ペコッ
良子「隣いいか?」
由華「はい、どうぞ」
良子「悪いな」スチャ
良子「俺は上田良子。良子でいいぜ。この間の練習試合で打ったんだが、覚えてるかな」
由華「は、はい……」
良子「そりゃ良かった。ところで、名前聞いていいか」
由華「す、すいません、名乗り遅れました。由華です。巽由華」
良子「由華、ね。オッケー。これからは名前で呼ぶわ。宜しくな、由華」
由華「よ、宜しくお願いします。良子先輩……」
良子「そう改まらなくても良いぜ。今回の練習試合は三年生がほとんどだ。二年生で試験的に付いてきたのは俺と、前の席のふたり」
日菜「こんにちはー」ヒョイッ
紀子「……」ヒョイッ
日菜「わたしは木村日菜。日菜でいいわよー。よろしくねー、ゆかちゃん♪」
紀子「……私は丸瀬紀子。紀子で良い」
良子「俺たちも立場的には由華と似たようなもんだ。まだ覚えてもないような先輩ばっかりで息苦しいかも知れないが、俺らに対してはまあなんだ、気楽にやればいいと思うぜ」
由華「……あ、ありがとうございますっ!」
由華「日菜先輩と紀子先輩も、よろしくお願いしますっ」ペコッ
日菜「よろしくー」
紀子「……うむ」
良子「そうだ。俺たちの他にひとりだけ、二年生のレギュラー組がいる」
日菜「そうなのよー」
良子「あそこを見てみろ。あのちっこいやつだ」
由華(あの人は……)
紀子「待て。座っているんだから背丈など分からないだろう」
日菜「それにやえちゃんが小さいというより、りょうちゃんが大きすぎるのよー」
良子「うっ……そ、そうか」
由華「……確か、小走先輩、ですね」
良子「そうだ。覚えてたか」
由華「はい。対局で印象に残っていたので……」
良子「そうだったんだな。確かにあいつは変に威圧感があるからな。背は小さいくせに」
日菜「だからりょうちゃんが大きすぎるんだってばー」
良子「おお、すまんすまん……」
良子「まあなんだ。今日は頑張ろうぜ。もしかしたらメンバー入り出来るチャンスかも知れないしな」
由華「はい。頑張りましょう!」
由華(……部の人たちはライバルでもあるし、あまりべったりはしたくないけど)
由華(なんとなく、この人たちとは仲良くやれそうだ)
ガヤガヤ
部長「……二年生の座席が騒がしいな」
やえ「ふふっ」
部長「……嬉しそうだな」
やえ「い、いえ。緊張して力が発揮出来ないよりは良いだろうと思いまして」
部長「それもそうだな」
部長「……ところで」ジーッ
やえ「?……はい」
部長「小走にしては可愛らしいアクセサリーをしているじゃないか」
やえ「!?こっこれはその、あの、」カァァァァ
部長「だが、似合っているな」
やえ「そ、そうですか。あ、ありがとうございます……」
部長(意外とこういうデザインが好きなのか……)
ーーーーーーーーーーーー
やえ「ロン!」
相手校「ぐっ……」
日菜「やえちゃんは順調に仕上がっているようねー」
良子「みたいだな」
由華(凄い……やっぱりこの人は強い)
部長「そろそろか……」
部長「丸瀬、木村!次はお前達に打って貰う」
紀子・日菜「はいっ!」
部長「上田、巽!お前達はその次だ。用意しておけ」
良子・由華「はい!」
良子「いよいよだな。まあリラックスして行こうぜ」
由華「はい」
…………
……
…
ーーーーーーーーーーーー
晩成一同「ありがとうございました!」
相手校「ありがとうございました!」
……
…
良子「まあ、ボチボチってとこか」
日菜「そうねー。とりあえず、出せる分は出したかしら。ただ……」
紀子「……三年生が想像以上に調子を上げていたな」
日菜「そうねー」
由華「……」
やえ「みんな。お疲れ様」
良子「お疲れ。仕上がりは順調みたいだな」
やえ「私はまあまあというところ。皆は良い感じだったと思うわ」
良子「どうだろうな。まあ後は部長の判断を待つさ」
やえ「そうね」
やえ「……あなたも」クルッ
由華「!?」
やえ「一年生なのに堂々とした立ち回りだったわ。晩成の部員に相応しい打ち筋を、早速見せてくれて嬉しい」
由華「あ、ありがとうございますっ……!」ペコッ
やえ「面と向かって話すのは初めてね。私は小走やえ。これから接する機会が増えていくことになると思う」
由華「巽由華です。宜しくお願いします」
やえ「……期待しているわ。宜しくね、由華」
由華「あっ……ありがとうございます!頑張りますっ」
やえ「うん」ニコッ
……
…
ーーーーーーーーーーーー
部長「……以上が夏の大会のメンバーとなる。今年も目指すところはもちろん全国だ。全員で一丸となって戦おう!」
一同「はいっ!」
ガヤガヤ
良子「くそー、届かなかったか」
日菜「みんなアピールはしっかり出来てたんだけどねー」
紀子「三年生が皆、それを上回っていた……最後の大会に懸ける気持ちの表れだろう」
日菜「まあ仕方ないわねー。今回はおとなしく、やえちゃんを応援しましょうー」
良子「そうだな」
…………
……
…
オツカレサマデシター
由華(……)スタスタ
由華(メンバー入りはならなかったか……)
由華(悔しいけど、これが今の実力。秋に向けて切り替えよう)
良子「おう、由華」
由華「あっ、お疲れ様です。良子先輩」
良子「今回はお互い残念だったな。まあ三年生相手なら仕方ない。次また頑張ろうぜ」
由華「そうですね」
良子「それに、応援席は応援席で、いろいろ楽しいことがあるんだぜ」
由華「?それってどういう……」
日菜「りょうちゃんは悪い子だからねー」
由華「日菜先輩。お疲れ様です」
日菜「おつかれさまー。りょうちゃんはね、試合中に会場を抜け出してお散歩しようとしてるのよー」
由華「えっ」
良子「そうだ。買い食い出来るしけっこう楽しいぜ」
由華「そ、そんな事していいんですか?」
紀子「無論、駄目だ」
由華「紀子先輩。お疲れ様です」
紀子「……うむ」
紀子「上田、お前は去年で懲りなかったのか」
日菜「そうそうー。ものすごく怒られたじゃない」
由華「去年もそういうことがあったんですか?」
良子「ああ。副将戦だったかな。うちの勝ちが目に見えてたからトイレを装ってちょっと、な。このふたりも強引に連れていった」
紀子「そして先輩に見つかった」
日菜「わたしたちは一年生だったから、それはそれは怒られたわよー。あんまり怖かったから今でも覚えてるわー……」
由華「……少なくとも、私は参加してはいけなさそうですね」
良子「大丈夫だよ。去年は対局中に抜けたからまずかったんだ。今回は対局間の休憩中に行くんだ。そしてすぐ帰ってくる」
日菜「うーん、すぐ帰ってこれないパターンの気が……」
良子「大丈夫大丈夫。今回は由華も含めて四人か。人が多いと楽しくて良いね」
由華「ま、待ってください、本当に私も参加するんですか?」
良子「もちろんだ。きっと楽しいぜ」
由華「そ、そうですか……よろしくお願いします……」
日菜「……のりちゃん、危なくなったらがんばって止めようねー……」
紀子「ああ……」
…………
……
…
やえ「……」スタスタ
やえ(とりあえず、今回もメンバー入り出来た)
やえ(三年生にとっては最後の大会……)
やえ「……負けられない!」ゴッ
ワイワイ
やえ「リーチ!」
実況『小走選手、リーチをかけてきたぁ!既に大差がついているものの、貪欲に奪いに行きます!』
解説『県内随一の強豪校である晩成において唯一の二年生レギュラーですからね。相応の自信も備わっているのでしょう。勢いに乗っていますね』
由華「凄い……」
良子「だろう?」
由華「え、ええ……対局した時も感じましたが、小走先輩は強さのレベルが違います」
良子「そうだ。だが、今日に関しては、やえはただ強いだけじゃない」
由華「……?」
良子「あいつは今こう考えているはずだ。『三年生の最後の大会。私が不甲斐ない打ち回しをするわけにはいかない』と」
由華「……」
日菜「やえちゃんはメンバーのことを常に考えて打っているからねー」
紀子「責任感の強さ故に、妥協をしない」
良子「やえが二年生にしてレギュラーなのは、そういう面もあるだろうな」
由華「そう、なんですね……」
実況『決まったああああ!』
実況『小走選手が他家を飛ばしました!圧倒的な強さで、晩成高校が全国行きを決めた!』
解説『見事です。今年は全国でどこまでやれるか楽しみですね』
良子「おお、決まったか」
日菜「やったねー」
紀子「全国か……」
由華「……」
由華(全国に行くんだ……)
由華(小走先輩、二年生でありながらチームを引っ張っているんだ……)
由華(凄い……)
由華(私も、そうなりたいな……)
良子「あっ、しまった」
日菜「んー?」
良子「いや、結局散歩してないなと」
日菜「そうねー、どの試合も展開早かったからねー」
紀子「……未遂に終わったなら、それで良い」
良子「まあ良いか。インハイの会場でやろうぜ」
日菜「えー、全国大会ではやめとこうよー」
紀子「一人でやるならもはや我々は止めはせん」
良子「それは難しいな。みんな連れていくからな」
日菜「うーん、とりあえず怒られないようにしましょうかー……」
良子「大丈夫、早く戻るから。今から楽しみだな」
紀子「……気が早い奴だ」
由華(結局やるのか……)
ーーーーーーーーーーーー
良子「やえ」
やえ「良子。お疲れ様」
良子「帰りにコンビニ寄るんだが、どうだ」
やえ「行こう」
…………
……
良子「やったな。全国だぜ」
やえ「うん。とりあえず……先輩方の力になれて良かった。本当に」
良子「控えめなコメントだな。他校を飛ばして終わらせた奴のセリフじゃないぜ」
やえ「ふふっ、そうかもね」
良子「まあ……良くやったよ。お疲れ様」
やえ「……ありがとう」
やえ「……」
やえ「インハイ期間中は一緒に行動する時間が少なくなりそうなのが残念ね」
良子「そうだな。まあ、しっかり応援させてもらうよ」
日菜「ほんとにー?」
良子「お、おう日菜……」
やえ「日菜、お疲れ様」
日菜「やえちゃんお疲れさまー。圧倒的だったわねー」
やえ「あ、ありがとう……」
日菜「ところでねー。やえちゃん、のりちゃんはまた大会中の散歩を企んでるのよー」
やえ「えっ、去年もやってたあの?……良子、アンタも懲りないわね」
良子「ちょっとだよ、ちょっと。それに真面目に応援するのは勿論本当だ」
日菜「ふーん……まあ、しょうがないから付き合ってあげますけどー」
紀子「どうした」
由華「お疲れ様です」
日菜「あらー、ふたりともお揃いで」
紀子「……そこで偶然一緒になった」
良子「そうか。ちょうど良い。みんなでコンビニ行こうぜ」
ーーーーーーーーーーーー
良子「おっ、見ろこれ」
日菜「東京の観光雑誌ねー」
良子「タイミングの良いことに、会場近辺の地図が載ってるぜ」
日菜「ほんとねー」
紀子「近くに公園があるのか」
由華「すぐ側ですね……」
良子「こりゃ軽い観光になりそうだな」
日菜「ほんとに早く帰ってこれるんでしょうねー」
良子「大丈夫、心配するなって」
やえ「……」
日菜「やえちゃん、なんだかごめんねー」
やえ「わ、私は別に構わないけど……その、程々にしなさいよ。晩成高校の生徒という体面があるんだから」
良子「ああ、もちろんだ」
ガヤガヤ
やえ(……)
やえ(た、楽しそうじゃない……)
実況『さあ、組み合わせが決まりました!いよいよ今年も、頂点を目指した熾烈な戦いが幕を開けます!」
解説『昨年優勝の白糸台を中心にどう展開していくのか。非常に見応えがありますね』
ーーーーーーーーーーーー
良子「開会式が終わったか」
由華「スタンドで見ていただけなのに、凄い緊張感でしたね……」
日菜「インターハイの開会式は独特の雰囲気があるのよねー。地区大会とは確かに違うわね」
紀子「我々の試合はこの後すぐか」
良子「よし、ちょっと下に降りようぜ」
日菜「やえちゃんに最後の声かけねー」
…………
……
…
部長「いよいよ初戦だ。晩成高校の代表として恥じない試合をしよう」
レギュラー「はいっ!」
部長「よし。対局室に移動するか」
スタスタ
やえ(……)
ドクン
ドクン
やえ(……)スタスタ
良子「やえ!」
やえ「!」ハッ
日菜「やえちゃーん」ブンブン
良子「がんばれ!」ブンブン
やえ(みんな……)
やえ(……)フッ
やえ(まかせて)グッ
スタスタスタスタ
由華「三年生の皆さん、小走先輩も、堂々としてましたね。さすが強豪晩成のレギュラー……」
良子「やえはけっこう固くなってたけどな」
由華「そ、そうなんですか?」
良子「まあ、俺らは付き合い長いからな。なんとなく分かるんだ」
日菜「今ので、多少は力が抜けてくれたみたいだけどねー」
紀子「降りてきた甲斐があったようだな」
由華「そうだったんですね……」
由華(小走先輩でも、緊張してるんだ……)
由華(……)
由華(頑張ってください……小走先輩!)
やえ「ロン」
実況『晩成高校小走選手、出あがりを決めた!』
解説『幸先良いですね』
解説『そしてこの待ち。これはなかなか読めないはずですね。小走選手が優秀な打ち手であることが窺えます』
由華「やった!」
由華(小走先輩、凄い……!)
良子「良い待ちだったな」
日菜「エンジン全開ねー」
紀子「ここは全国。油断は出来ない、が……この様子なら安心して良さそうだな」
…………
……
…
アナウンス『これより一時間の休憩となります。一時より対局再開となります』
良子「おっ、来たか」
日菜「休憩は一時間なのねー」
良子「これだけ時間があれば行けるな。みんな、出発だ」ガタッ
日菜「これなら怒られる心配もあまりなさそうねー」
紀子「……行くか」
由華「はい」
スタスタスタスタ
ーーーーーーーーーーーー
良子「おっ、屋台が出てるぞ」
由華「そうですね」
日菜「ちょうどお昼だし、お腹空いたわねー」
良子「いくつか買って行くか」
紀子「……そうだな」
日菜「買ったら適当に座れる場所を探しましょうー」
ーーーーーーーーーーーー
部長「よくやった小走。お前のおかげでチームに勢いがついたと言っていい」
やえ「ありがとうございます」
部長「あとは私達に任せてくれ」
やえ「はい。応援しています」
やえ(……)
やえ(……良かった)ホッ
やえ(先輩方は皆相当な打ち手だし場馴れもしている。私がしっかり打てるかどうかがポイントだと思っていたけど……)
やえ(上手くいった。ここからは安心だ)
やえ(みんな、散歩に行ったかな……)ボーッ
部長「……」
部長「小走、他の二年生が気になるか?」
やえ「!?い、いえ、そんなことは……わ、私は散歩になどは興味ありませんし……」アセアセ
部長「散歩?何のことだ」
やえ「!?」
やえ(し、しまった……部長は散歩の事を知らない……)
部長「……ふっ、よく分からんが」
やえ(……?)
部長「今は昼休憩なんだ。皆のところに戻っても良いんだぞ」
やえ(!?)
やえ(部長……)
やえ「……」
やえ「そういうわけにはいきません」
やえ「私はレギュラーの一員なんですから」
部長「……そうか」
部長「ありがとう」
やえ「いっいえ……」カァァァ
やえ(……よく考えたら、部長が散歩のことを知ってるはずがないんだよな)
やえ(これじゃまるで、私が散歩に行きたがってるみたいじゃない……)カァァ
ーーーーーーーーーーーー
日菜「あそこにちょうどいいスペースがあるわねー」
良子「本当だ。そこに座ることにするか」
スタスタ
良子「よし、では頂きますか」ガサガサ
紀子「……上田」
良子「ん?」
紀子「……買い過ぎじゃないか」
良子「うっ、そうかな……」
紀子「いや、いい」
日菜「それがりょうちゃんだものねー」
良子「ちょ、ちょっと待ってくれ。その諦めたような感じはいい気分がしないんだが」
日菜「諦めたんじゃなくて、理解したのよー。りょうちゃんはわたしたちと違うってねー」
良子「ぐ……気持ち悪いな……」
良子「よし、由華。これをやる」サッ
由華「えっ?わ、私もそんなに食べられませんよ……」
良子「いいからいいから。なんなら物々交換で良いぜ」
日菜「それじゃ意味ないわよねー」
紀子「意地にならなくても良い」
良子「く、くそ……」
由華「……ふふっ」
良子「どうした?そんなにおかしいか」
由華「あっ、いえいえ!悪い意味じゃないです」アセアセ
由華「先輩方は本当に仲が良いんだなと思って」
良子「うーん、そうだな……まあ、入学以降このメンバーで行動することが多いからな」
紀子「もう慣れてしまったな」
日菜「そうねー。このメンバーが居心地よくなっちゃってるわねー」
良子「あとは、やえだな」
日菜「やえちゃんがレギュラーになってからは前ほど頻繁には一緒にはいないけど、やっぱりよく行動するわよー。やえちゃんはかわいいしねー」
由華「かわいい……んですか?どちらかと言うと「かっこいい」の方が合いそうな気が……」
日菜「そのへんは、これから分かってくるわよー」
由華「そうですか……」
良子「おっ、あそこに池があるぞ」
日菜「行ってみましょうかー、ちょうど食べ終わってるし」
ゴチソウサマデシター
良子「おぉ……鯉がいる」
由華「ほんとですね」
日菜「なにか残してれば餌やりできたわねー」
紀子「……どうやらそれは禁止事項らしい」
日菜「ありゃりゃ……」
良子「鯉は何を食べるんだ?」
由華「パンの耳とか……ですかね、よく分からないですね」
紀子「……向こうに像がある」
日菜「何かの記念かしらねー」
良子「見てみようぜ」
スタスタ
良子「これは……単に誰かの作品みたいだな」
日菜「こういう公園にたまにあるわよねー。謎の像よね」
由華「ですね……」
良子「しかし、これは何を表現したいのかわからんな……」
紀子「……芸術は困難なものだ」
良子「だな……」
由華「ですね……」
日菜「ん、そろそろ時間ねー」
良子「そうか。よし、戻るか」
日菜「良かったー。これなら怒られることもないわねー」
紀子「実に健全だ」
由華「去年は相当大変だったんですね……」
日菜「そうよー。前にも言ったかもしれないけど本当に怖かったんだから」
良子「俺らがあんなに怒られたのは後にも先にもあの一回だけだな」
由華「そうなんですね……」
良子「とにかく、今年の応援席の三年生も怒らせると怖いからな。さっさと戻ろう」
日菜「そうねー」
ーーーーーーーーーーーー
実況『さあ、いよいよ後半戦が始まります!』
良子「ギリギリじゃないか。いかんいかん」ソソクサ
三年生「……」ジトーッ
由華「先輩にものすごく睨まれてるんですが……」スチャ
良子「大丈夫大丈夫、一応セーフだ」スチャ
日菜「開き直って堂々としてましょうー」スチャ
由華「……さすがですね」
紀子「……うむ」スチャ
…………
……
…
実況『さあ勝負は大将戦にもつれ込みます!現在トップは奈良代表晩成高校!しかしどの高校にも逆転の目はあります!』
解説『各チームの大将にはミスが許されない展開となりましたね』
日菜「やえちゃんの頑張りでうちが優勢になりはしたけど……」
良子「一筋縄ではいかないみたいだな」
紀子「……」
ーーーーーーーーーーーー
レギュラー1「徐々に他校に追い上げられたけど」
レギュラー2「部長なら大丈夫ね」
やえ「……」
やえ(部長……)
ーーーーーーーーーーーー
「ロン」
部長(!?)
部長(何だと……!?)
実況『おおっと!晩成高校、ダマに振り込んだあ!トップが入れ替わりました!』
解説『残り局数も少ない中、晩成高校にとっては苦しい流れになりましたね』
部長(!?)
部長(こ、この感覚は……)ガクガク
部長(マズい……)ガクガク
…………
……
…
実況『一回戦、決着ー!』
実況『前半戦をトップで折り返した晩成高校、大将戦で逆転を許し初戦敗退となってしまいました!』
解説『特に大将戦はプレッシャーもあったでしょうね。晩成高校は良いチームだと思うので、次の世代に期待ですね』
ーーーーーーーーーーーー
良子「マジかよ……」
紀子「なんということだ……」
日菜「……」
由華「そんな……」
ーーーーーーーーーーーー
部長「皆、済まない……」フルフル
レギュラー1「……」
レギュラー2「あぁ……」グスッ
やえ「部長……」
やえ(あの部長が、振り込んで以降明らかに動揺していた……)
やえ(これが、全国……)
ーーーーーーーーーーーー
部長「……今回は非常に申し訳ない。皆の思いに応える事が、出来なかった……」
一同「……」
部長「だが、私は信じている。次の世代が我々の無念を晴らしてくれると。晩成の系譜を、受け継いでくれることを」
一同「……」
部長「この場を借りて、次の部長を発表しようと思う」
一同「!」ザワッ
部長「……小走」
やえ「!」
やえ「はい」
部長「お前に頼みたい。次代の晩成を担う役割を」
部長「引き受けて、貰えないだろうか」
やえ「……」
やえ「」キッ
やえ「わかりました。部長からのご指名とあらば」
やえ「全力で、務めさせて頂きます」
パチパチパチパチパチパチパチパチ
部長「うむ……」
部長(晩成高校の部長という意味……遅まきながら私も、最後の試合になってようやく理解したが)
部長(それはとてつもなく重い……しかし)
部長(お前ならきっと……)
部長「お前ならきっと、立派に務められるだろう。頼むぞ」
やえ「はい」
やえ「……」
割と連投したので一応宣言します
今日はここで止めます
続きは明日以降書きます
ーーーーーーーーーーーー
やえ「改めて、新部長となりました小走です」
やえ「前部長に比べまだまだ力が及ばないところもありますが、宜しくお願いします」
パチパチパチ
やえ「先輩方はインターハイに出場し、全国の舞台でも堂々と戦いました。私達の代では、先輩方を上回る成績を残せればと思っています。皆で団結し、またお互い切磋琢磨していきましょう」
一同「はいっ!」
ーーーーーーーーーーーー
良子「遂に俺らの代が来たか」
良子「しかし、立派な演説だったな。小走部長」
やえ「あ、あの程度、ありふれた挨拶よ……」
日菜「まあまあ謙遜せずー」
やえ「うーん……確かに昨日今日のことでまだ据わりが悪いけど。ひとまずこれから宜しく」
良子「おう」
紀子「無論だ」
日菜「よろしくー♪」
ーーーーーーーーーーーー
日菜「やえちゃん、少し辛そうだったわねー」
紀子「……何せ晩成高校の主将だ。恐らくプレッシャーは相当なものがあるだろう」
良子「だな。やえに負担がかかり過ぎないよう、どうにかフォローしていこうぜ」
日菜「そうね」
紀子「うむ」
すいません
今日はこれだけで・・
ワイワイ
良子「三年生が引退して初の練習だな」
日菜「そうねー。わたしたちが中心になってやっていかなきゃねー」
やえ「みんな、集まって」
ザッ
やえ「これから練習を開始します。今日は二年生同士、一年生同士で打ちましょう」
一同「はいっ!」
ガヤガヤ
紀子「ロン」
良子「何?その待ちか……ほらよ」ジャラッ
やえ(良子もいい形でテンパっていた……ふたりとも良い感じね)
やえ(……)チラッ
由華「ツモ!」
やえ(由華も順調に来ているみたいね……)
ワイワイ
一年生1「それカンっ!」
一年生2「えー?そこカンする意味ある?」
一年生1「だって嶺上開花したいじゃないー」
一年生3「かっこいいもんねー」
一年生1「それなら私だって狙ってやるわよ!」
一年生4「リンシャン大会ねー」
ガヤガヤ
やえ(一年生の空気が緩んでいる……)
やえ(大会直後だし気が抜けるのも仕方ないけど)
やえ(言わなきゃいけない、か……)スッ
日菜「ちょっと!真剣にやりなさいよ!」
一同「!?」ビクッ
日菜「遊びでやってるわけじゃないんだからね!」ゴーッ
一年生一同「す、すみませんでした……」ペコッ
シーン
良子(日菜が怒鳴るとは……)
紀子(滅多に無い事だ……)
日菜「ふぅ……」スタスタ
やえ(日菜……)
日菜「……」チラッ
ニコッ
やえ「!」
やえ(日菜……)
やえ(まさか私のため……?)
やえ(……)
やえ(……ありがとう)
ーーーーーーーーーーーー
キーンコーン
やえ(お昼か……)
やえ(今日は弁当準備出来てないし、売店に行くか)スッ
……
…
一年生1「あっ、小走先輩」
一年生2「ほんとだ!」
やえ「……」スタスタ
一年生1「小走先輩!お疲れ様ですっ! 」ペコッ
一年生2「お疲れ様ですっ!」ペコッ
やえ「お疲れ様」ニコッ
スタスタ
一年生1「小走先輩……」
一年生2「今日もかっこいい……」
……
…
良子「小走部長!」
やえ「ん?……なんだ良子じゃない」
良子「なんだとは失敬な。しかし」
良子「だいぶ様になってきたんじゃないか?」ニヤリ
やえ「ん……まあ徐々に慣れてきたというところね」
良子「そうか。そいつは良かった」
良子「お前が号令をかけると皆締まってくれるし、部長として良くやっていると思うぜ」
やえ「そ、そう……けど部長が言って締まるのは当然だと思うけど」
良子「誰がやっても同じように出来るわけじゃない。皆に慕われているんだと思うぜ」
やえ「そうかな……」
良子「……まあ、なんだ。もし何かあれば、気にせず言ってくれ。相談に乗るぜ」
やえ「……」
やえ「……そう。宜しく頼むわ」ニヤリ
良子「ぶ、不気味な笑みだな……」
やえ「ふふっ。他意はないから安心して」
良子「そうか……」
やえ「……」
やえ(……ありがとう)
……
…
ーーーーーーーーーーーー
やえ「集合!」
ザッ
やえ「来週から秋の近畿大会が始まります。その団体戦オーダーを監督と話し合い決定したので、発表します」
ザワザワ
やえ「まず、先鋒は私」
パチパチパチパチパチパチパチ
やえ「次に次鋒は……紀子」
紀子「……はい」
パチパチパチ
やえ「中堅、日菜」
日菜「はいっ♪」
パチパチパチ
やえ「副将、良子」
良子「おう!」
パチパチパチ
やえ「最後に大将は……由華」
由華「!?」
オォォォォォォォ
由華「は、はいっ!」
パチパチパチパチパチパチ
やえ「団体戦はこのメンバーで行きます。新生・晩成の第一歩です。皆で勝利をもぎ取りましょう」
一同「はいっ!」
ーーーーーーーーーーーー
良子「いよいよ俺らがレギュラーだな」
日菜「がんばりましょうねー」
紀子「……巽、緊張しているか」
由華「!?」ビクッ
由華「……そ、そうですね。本当に私で良いのか、不安です……」
やえ「大丈夫」
由華「小走先輩……」
やえ「由華は強いんだから。これは誰もが認めている」
良子「楽にやれよ。俺らが差をつけて回してやるから」
紀子「……別に、次鋒で終わらせてしまっても構わんのだろう?」
日菜「ふふふっ♪久々にのりちゃんのパンチの効いた発言が聞けたわー」
紀子「……と、とにかく、リラックスすると良い」カァァァ
由華「み、皆さん……」
由華「ありがとうございます!頑張ります!」ゴッ
良子「その意気だ」
日菜「晩成の力を見せつけてやりましょうー」
やえ「……」
遅いペースで申し訳ありませんが
今日はここまでで……
すいません
実況『いよいよ始まりました!近畿大会!他地区と比べても激戦区として知られる近畿地方。今年も激しい戦いが繰り広げられようとしています!』
解説『この地区はレベルが高いですからね。好勝負が期待出来ますよ』
ーーーーーーーーーーーー
やえ「行ってくる」
良子「おう!」
日菜「がんばってー」
紀子「……」
由華「頑張ってください!」
やえ「うん」
スタスタスタ
ーーーーーーーーーーーー
実況『さあ、始まりました予選第一回戦!奈良の強豪、晩成高校が登場します!先鋒は小走やえ選手です』
解説『現レギュラーの中では唯一、去年から残っているメンバーですね。今年から部長も務めているとあってより一層気持ちが入っていることでしょう』
実況『さあ、その小走選手の親番で試合がスタートです!』
やえ「……」チャッ
ドクン
やえ「……!」
ドクン
やえ(こ、この感じ……!)
やえ(腕が、重い……)
ドクン
やえ(こ、この私が……緊張……?)
やえ(まさか……)
やえ(……)
やえ(いけない、早く切らないと……)
やえ(……)チャッ
実況『小走選手の西切りで場が回りだしました』
解説『順当なところですね』
チャッ
パシッ
やえ(……)
ジワッ
やえ(手汗……)
やえ(あり得ない。この私が……)
やえ(一体、どうなって……)ブルッ
…………
……
…
「リーチ!」
実況『おおっと!西家が先制リーチ!』
解説『捨て牌から察知し易い待ちとなっていますが……他家がどう動くかですね』
やえ(……)
やえ(捨て牌がピンズに寄っている……比較的読みやすいか……)
やえ(これは通る……)チャッ
ドクン
やえ(!)ビクッ
やえ(だ、駄目だ……切れない……)チャッ
やえ(……)
やえ(もしこれが当たり牌だったら、高い役だったら、皆の勢いを削いでしまう……)
やえ(もしこれがきっかけで歯車が狂って……敗退してしまったら)
やえ(晩成の名に傷をつけてしまう……)
やえ(……それだけは絶対に許されない)
やえ(……)
やえ(くっ……)パシッ
実況『小走選手、手を崩して現物を切りました!』
解説『慎重になっていますね。まだ序盤ですし、もう少し突っ張っても良いと思いますが』
ーーーーーーーーーーーー
由華「小走先輩、固い打ち回しですね……」
良子「やえにとっては自分の代になって初めての大会だからな」
日菜「じっくり大事にいきたいんでしょうねー」
紀子「……」
実況『先鋒戦、終了!』
実況『各校ともエースポジションの選手を揃えて来るため本来荒れやすい先鋒戦ですが、大きな点数の動きはありませんでした』
解説『固い打ち手が多かったですね。晩成高校の小走選手あたりは暴れてくるかと予想していましたが、点棒を非常に大事にした打ち回しでした』
やえ(……)ドクン
やえ(結局、対局中ずっと、この違和感が消えることは無かった)ドクン
やえ(こんなの、初めてだ……これがきっと、晩成の部長でありエースであることのプレッシャー……)
やえ(部長もきっと最後の最後で、このプレッシャーにやられたんだ)
やえ(まがりなりにも私は、先輩方に混じってレギュラーとしてこれまで打ってきた。だから晩成の重みは感じてきたはず、だったのに)
やえ(これ程のものだったなんて……)ドクン
やえ(……)スタスタスタ
やえ「」ハッ
やえ「紀子……」
紀子「……」
やえ「……ごめん」
紀子「……謝る必要性などどこにもない。堂々としていれば良い。プラス収支で繋いでくれたのだから」
やえ「……」
やえ(でも……)
やえ(稼ぐことが、出来なかった……)
紀子「……我々は晩成高校の看板を背負っているが、ひとりでそれに押し潰されることも無い」
やえ「……!」
紀子「……とにかく、応援していてくれるとありがたい」
やえ「紀子……」
ーーーーーーーーーーーー
良子「対面が相当な多面待ちだな……」
日菜「うちにとっては良くない流れねー……」
やえ「……」
ーーーーーーーーーーーー
紀子(アンパイは無し、か……)
紀子(……)
パシィッ
実況『丸瀬選手、危険牌を通した!』
解説『かなり危ないところですが、良く通しました。これでイーシャンテンですね』
紀子「……」ピシッ
実況『丸瀬選手、二回り目も危険牌を通してテンパイ!』
紀子「……」スッ
紀子「……ツモ」
実況『丸瀬選手、対面の多面待ちをかわしてツモ上がり!』
解説『これは見事です。晩成高校は勢いがつきそうですね』
ーーーーーーーーーーーー
由華「やった!」
良子「あいつ、やりやがった!」
日菜「さすがのりちゃん♪」
やえ「紀子……!」
やえ(そうだ……晩成の部長、エースという重みはあるけど、試合になれば目の前の局面にただ集中するんだ)
やえ(そして私は……部長の座を託されたその時からずっと、私が皆を全国へ連れていくという思いでやっていた)
やえ(でも、そうじゃなかった)
やえ(私には仲間がいる。仲間と一緒に、全国へ行くんだ)
やえ(紀子……初スタメンで緊張しているはずなのに逆に教えられた)
良子「この勢いで俺らも行くぜ!」
由華「はいっ!」
日菜「がんばりましょうー」
やえ(皆も勢いづいたみたい)
やえ「……ありがとう」
やえ(おかけで私も、吹っ切れたわ)ゴッ
ーーーーーーーーーーーー
実況『一回戦、終了!トップは晩成高校!次鋒の丸瀬選手が作ったリードを中堅、副将で更に広げ、大将の巽選手がシャットアウトするという展開でした』
解説『エースの小走選手が割とおとなしかった中で、この内容ですからね。今年の晩成高校も実に完成度の高いチームに仕上がっているようです』
実況『早くも次戦に期待の高まる内容ですね!』
ーーーーーーーーーーーー
キーンコーン
由華「今日は学食か……」
スタスタ
良子「由華!」ブンブン
由華「あれは、良子先輩……」
スタスタ
由華「お疲れ様です……あっ」
日菜「こんにちはー♪」
紀子「……」
やえ「こんにちは」
由華「お疲れ様です。皆さんお揃いだったんですね」
良子「そういうことだ。せっかくだから一緒に食おうぜ」
由華「はいっ、ありがとうございます」
……
…
良子「まずは一勝だな」
日菜「そうねー。良い勝ち方だったんじゃないかしら♪」
やえ「うん。みんなベストを尽くせていたと思う」
やえ「私も次は稼ぐ」
良子「おう、頼むぜ」
紀子「うむ」
やえ「由華も、落ち着いて打てていたと思う」
由華「いえ、まだまだです……先輩方がリードしてくれたおかげです」
やえ「いえ、自信を持っていいわ。二年生で大将を務められるのはそれだけ立派なことだから」
由華「小走先輩……ありがとうございます」
やえ「次戦も期待してるわ」
由華「はいっ。がんばります!」
良子「ところで、他のブロックも強豪が順当に勝ち上がってきているみたいだな」
日菜「近いうち当たるところでめぼしいのは、千里山女子ねー」
良子「今大会からエースが交代したらしいな」
日菜「あれだけの強豪で、しかも変わる前のエースは二年生からその座に座った程の打ち手……それだけの打ち手がいながらの配置転換なんて、なんだか不気味よねー」
紀子「……兵庫の劔谷高校も侮れない」
由華「更なる強豪を相手にしないといけないんですね……」
やえ「うん……でも」
やえ「私達だって立派な強豪。どんな相手が来ようと、今の私達なら関係ないわ」
やえ「勝つ。必ず」
良子「……そうだな」
紀子「うむ」
日菜「だねー」
由華「……」
由華(小走先輩が言うと気が引き締まる……)
由華(やっぱり、誰より頼もしい)
すいません
今日はここまでで止めます
明日以降また続けます
実況『大会も日程が進み、今日はいよいよ準決勝です!』
解説『強豪揃いの好カードですね。熱戦となることは間違いありません』
実況『4つのブロックで展開される準決勝。それぞれのブロックから決勝進出が許されるのはたったの一校となります!さあ、では対戦する4校を紹介しましょう』
実況『奈良県代表、晩成高校!インターハイ出場を逃したのは過去40回のうち一度だけという驚異的な戦績を誇ります。この近畿大会でも猛威を振るうことが出来るか!』
実況『激戦区の兵庫にあって存在感を放つ劔谷高校!どのような麻雀を見せるのか楽しみです!』
実況『和歌山代表、和深高校!強豪ひしめくこの近畿大会において準決勝まで勝ち進んで来ました。ここからどこまで行けるか!注目です』
実況『そして当ブロック最注目!北大阪代表、千里山女子!毎年のようにプロを輩出する言わずと知れた名門校です!』
解説『今大会からエースが交代しています。どういう麻雀を見せるのか、非常に興味深いですね』
実況『さあ、選手達が揃いました!』
実況『試合、開始です!』
怜「……」
やえ(この試合、注意すべきは千里山……)
やえ(この選手は今大会からのレギュラーで過去の牌譜は無し)チャッ
やえ(それでも今大会のこれまでの試合を見る限り、いくつか特徴があった。そのひとつが……)
怜「リーチ」ドッ
やえ(来たか……!)ゾワッ
実況『来ました!園城寺選手のリーチ宣言!』
解説『この大会中、彼女はリーチ宣言をした場合必ず一発で和了っています。この確率は驚異的ですよ』
実況『今回もそれが見られるか!』
和深先鋒「うーん……」チャッ
やえ(鳴けない……)
やえ(……)パシッ
美幸「……」ピシッ
やえ(劔谷も鳴けなかったか……)
やえ(……ということは)
怜「ツモ」パララッ
実況『一発だー!園城寺選手!リーチ後は必ず一発ツモ和了り!今大会中未だ外れ無し!』
解説『相当の確信があるか、調子がすこぶる良いのか……いずれにせよ信じがたいですね……』
実況『さあ園城寺選手、最高の形で親番を迎えました』
パパ
やえ(……やはり。この選手、リーチ後は必ず一発。まるで未来が見えているかのよう……)
やえ(……面白い)ニヤリ
やえ(さて、せっかくの親番で悪いけど、早速流れてもらう)
やえ(……私の和了りでね!)
やえ「リーチ!」クルクルクル
実況『小走選手!負けじとリーチをかけてきた!』
怜(けったいやな、リーチ棒を投げてきよって……そのへんは私もヒトのこと言えへんけど)
怜(当たり牌は私がひとつ押さえとるけど……どうすることもできんな)パシッ
和深先鋒「きっついなー……」パシッ
怜(……晩成がそのままツモってまうからな)
やえ「……」チャッ
やえ「」ニヤッ
やえ「ツモ!」
実況『小走選手、一発ツモをやり返した!』
解説『今の攻めにはプライドのようなものを感じましたね。初戦の頃とはまるで別人です。晩成高校のエース、いよいよエンジンがかかってきたというところですね』
和深先鋒「まじかー……」
美幸(いきなりなんなのよもー……)
怜(……)
怜(そういえばフナQが言うてたな。今大会で注目すべき選手のひとり、晩成高校の小走やえ。こんなけったいな髪型しとったら嫌でも注目してまうが……)
怜(……私はこれが初めての大会やし、他校のエースとやり合うのはもちろん初めてやけど、そんな私でも分かる)
怜(プレッシャーが他とは段違いや。これはセーラに勝るとも劣らん……本物のエース。さすがはフナQの観察眼と言ったところやな)
怜(セーラもこんな選手とやり合ってきたんやろな……)
怜(これからは私がそうなるんか……いつかはあのバケモノみたいなチャンピオンとも)
怜(これはなかなかに……楽しいことやな)
実況『先鋒戦、終了!!』
実況『序盤から千里山・園城寺選手と晩成・小走選手が大いに暴れました!結局最後までこのふたりの一騎討ちの様相を呈していました』
解説『素晴らしい対局でした。お互い一歩も引かず、真っ向からの叩き合いでしたね』
実況『結果、千里山女子が僅かにリード!沈んでしまった劔谷と和深はどう巻き返すか、次戦に注目です!』
ーーーーーーーーーーーー
やえ「ごめん、稼ぎ負けた……」
良子「いや、良いもの見せてもらったぜ」
紀子「あの千里山のエースを相手にしてこの立ち回り……見事だ」
日菜「晩成ここにあり!を見せつけてくれたわねー♪」
やえ「結局負けてるからあまり良い気分じゃないけど……」
やえ「……まあ良いわ。あとは任せたから」
良子「もちろんだぜ!」
紀子「うむ。……さて、行ってくる」
日菜「がんばれーのりちゃん♪」
日菜「わたしも千里山の元エースが相手だからねー。引き締めていかなきゃ」
やえ「うん。頼りにしてる」
由華「小走先輩!」
やえ「ん?」
由華「……す、凄かったです。とても……」
由華「……勇気を貰えました。ありがとうございます!」
やえ「それは良かった。いつも通り打てばきっと大丈夫。期待してるから」
由華「はいっ!頑張ります」
やえ(……)
やえ(みんなが活気づいた)
やえ(……先鋒の役目はとりあえず果たせた、か)
由華「……」パシッ
和深大将(くっそー、どうにか一矢報いたいが……)
梢(……少々厳しい試合になりましたね)
竜華「……」
実況『さあ、準決勝もいよいよ大詰め!大将戦最後の南場です!』
実況『現在トップは千里山女子!元・エースの江口選手を含め次鋒から副将まで圧倒的な強さを見せつけました』
実況『しかし健闘しているのが二位の晩成!各選手とも堂々の闘牌を見せ、ここまで僅差につけています。最後まで見逃せません!!』
解説『息詰まる展開ですね』
由華(……)チャッ
由華(張った……逆転手!)
由華(局数残り僅か……これを和了れば、凌ぎ切れる!)パシッ
竜華「ロン」
由華「!」
実況『千里山女子、清水谷選手!ここで二位の晩成巽選手から直撃!』
解説『これは大きいですね。しかしまだ満貫直撃でひっくり返る点差です』
由華(対局中ずっと感じてたけど、やっぱりこの人不気味だ……)
由華(妙な待ちばっかりで、こっちはことごとく当たり牌を掴まされている)
由華(……まさか、狙われている?)
竜華「……」
…………
……
…
梢「テンパイ」
竜華「ノーテン」
和深大将「ノーテン」
由華「ノーテン」
実況『流局!』
解説『劔谷のテンパイ気配を察知してか、皆オリ気味でしたね』
実況『さあ、いよいよオーラス!二位の晩成、逆転なるか!守り切るか千里山!劔谷と和深はどう動く!』
由華(これで良い……さすがに三位に振り込むわけにはいかない)
由華(ここで取る。千里山から……)チャッ
由華(配牌イーシャンテン……いける!)
梢「……」パシッ
竜華「……」ピシッ
和深大将「ふう……」パシッ
由華「……」チャッ
由華(よし、テンパイ!)
由華(ここはダマでいく……あとは悟られないように待つのみ……)パシッ
梢「……」パシッ
由華(……)
竜華「……」チャッ
由華(こいっ……!)
竜華「」ピシッ
由華(くそ、惜しい……)
和深大将「うーん……」パシッ
由華「……」チャッ
由華(和了り牌、じゃない……でも関係ない。直撃じゃなきゃ意味ない)ピシッ
竜華「ロン」
由華「!?」ゾクッ
実況『清水谷選手!オーラスで直撃一閃!またも二位の巽選手から奪った!』
由華(うそ……このヒト……)ガクガク
実況『試合、終了です!!』
今日はとりあえずこれで止めます
続きは明日以降書きます
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怜「おかえり竜華」
竜華「怜」
怜「部屋移動する前にちょっとだけ」
竜華「そうやな」スチャ
怜「……」ポフッ
怜「……うん。やっぱり竜華の膝枕が一番やな」
怜「セーラにお願いしたけどあかんかったわ」
セーラ「ええやんかー別にー」プンスコ
セーラ「……まあなんにせよ、決勝進出やな」
怜「そうやな」
セーラ「……竜華。最後の相手、けっこう警戒したんちゃうか?」
竜華「……そうやな。一時も気は抜けんかった」
セーラ「警戒心ゆえの直撃狙いか……」
竜華「あの子かわいかったし可哀想やったけど、これは勝負事やからな」
怜「先鋒のドリルの子も強かったし、ええチームやったな」
セーラ「そうやな。またどっかで打ちたいもんやな」
…………
……
…
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良子「しかし激しい試合だったな……今日はさっさと帰って休みたいぜ」
紀子「うむ……」
日菜「ゆかちゃん、相当落ち込んでたわねー」
良子「そうだな……今回ばかりは相手が悪かったから仕方ないんだがな。上手く切り替えてくれるといいが……」
やえ「……」
やえ「……そうだ」
良子「?」
やえ「誕生日プレゼント」
日菜「あっ」
良子「由華も俺らのイベントに参加させるか。そりゃ良い考えだな」
紀子「……巽の誕生日は近いのか」
やえ「部員の名簿によると由華の誕生日は確か10月だったはず」
やえ「由華もレギュラーの一員として私達と一緒にやっているし」
日菜「そうねー」
やえ「由華にも誕生日プレゼントをあげよう」
紀子「うむ」
良子「そうするか」
やえ「今週のどこかで皆で買いに行って来週渡そう」
日菜「そうしましょうかー」
やえ「決まりね」
……
…
やえ(あれから一週間……昨日皆で買いに行ったからプレゼントの用意は出来てるけど)
やえ(紀子と良子は文化祭の打ち合わせで練習には出られない……日菜は風邪で学校を休んでいる……)
やえ「出来れば皆で渡したほうが良いよな……」ガラッ
ゴチャッ
やえ(部室が散らかっている……)
やえ(せっかくだし、掃除ついでに模様替えでもするか)
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由華「お疲れ様です……」ガラッ
やえ「由華!?お疲れ様。早いわね」イソイソ
由華「小走先輩!……もう、いらしてたんですか」
やえ「部室の模様替えをしようと思ってね……と、これはちょっと重いな……」イソイソ
由華「後輩に、させたらいいのに……」
やえ「ん……まあ、確かにそうかもしれないけどついやりたくなってしまって」イソイソ
由華「……」
由華「……先週の試合」
やえ「」ピタッ
由華「……本当に……すみませんでした」
やえ「……」
由華「……大会前は確かに不安でした。緊張もしたし……でも、これでも私入部当時はけっこう自信あったんですよ。レギュラーを奪って、強くなって、全国の強豪を倒して……そういうイメージを持ってて」
由華「そのために、他の部員ともなれ合わず集中してやってきたつもり、だったんですけどね……」
やえ「……」
由華「甘かったみたいです……」
由華「やっぱり……自分が思うほど強くないみたいですね、私……」
やえ「……」
やえ「由華」
由華「はい……」
やえ「覚えている……かわからないけど。私と由華が初めて対局した時のこと」
由華「覚えてます。小走先輩のこと、二年生とは思えなかったです。プレッシャーが凄すぎて……」
やえ「ふふっ、そうだったのね……」
由華「……?」
やえ「私もね、由華」
やえ「とんでもない新入生が来たものだと思った。うかうかしていられないと。久しぶりに脅威を感じたわ」
由華「……」
やえ「正直なところ……あの日は、一年生相手に本気を出すわけにはいかないと思ってやっていた。でも、由華を相手にしたときだけは、そんなことは考えなかったわ」
やえ「感じ方なんてそんなもの。人それぞれなんだから。自分が思うよりも小さい自分が、他人からは大きく見られていたりする」
由華「……」
やえ「それに、由華の相手は関西屈指のプレイヤー。あれを相手になお優位に立つことが出来たら、今の由華はそれこそ最強の一年生ということになる」
やえ「だから、良いの。それだけ伸び率があるということなんだから」
やえ「次は負けないという目標が出来た。それで良い」
やえ「今度当たった時は見せつけてやりましょう。どちらが真の王者かを」
由華「小走先輩……」
由華「……」
由華(どんなときもくじけない……前向きな心……)
やえ「と……いうことで、良かったら手伝ってほしいんだけど」イソイソ
由華「は、はい」ササッ
やえ「向こうの机に置きましょう」
由華「はい」
ヨタヨタ
やえ「よし、もう少し……」
コケッ
やえ「あっ!」
由華「!?」
ガシャーン
やえ「し、しまった……」
由華「大丈夫ですか!?」
やえ「わ、私は大丈夫。由華は……?」
由華「大丈夫です……」
由華(あっ)
由華「……ほこり、ついてますよ」
やえ「えっ」
由華「肩です。とってあげます」サッ
やえ「わ、悪いわね……」カァァァ
由華「……ふふっ」
やえ「ふふふ」
由華「なんだかおかしいですね」
やえ「そうね……」
由華「さて、早くしまわないと……」イソイソ
やえ「……」
やえ「……由華、ちょっと待ってて」ガサゴソ
由華「?」
やえ「……はい」サッ
由華「これは……」
やえ「由華、この間誕生日だったわよね」
由華「ええ……」
やえ「私と良子、日菜、紀子からのプレゼント」
由華「えっ?」
やえ「去年から、私たちは4人の誕生日が来る度にプレゼントをあげることにしてて」
やえ「それで、由華もレギュラーになって私たちと一緒にやっているから、由華にもあげようと……皆で決めて」
由華「……そうなんですか」
やえ「そう、だから、もし良ければ、受け取って貰えればと思う……」
由華「……嬉しいです。ありがとうございます」
やえ「うん」
やえ「……由華」
由華「はい」
やえ「その……」
やえ「ナイスゲームだった。これからも、宜しく」
ドクン
由華「……」
由華「……ありがとうございます」
やえ「じゃあとりあえず、片付けようか」
由華「はいっ」
やえ(結局先にあげてしまった……)
やえ(まあ、いいか)
由華(……)
由華(なんだろう……この感じ……)ドクン
…………
ーーーーーーーーーーーー
日菜「お疲れさまー」
良子「おう日菜。風邪は大丈夫か?」
日菜「おかげさまでー」
良子「そうか。良かった。俺らも文化祭の打ち合わせであまり練習に出られなかったからな。今日が久々の全員集合だ」
日菜「そうだったのねー」
紀子「ようやく、次の大会へ向けてスタートだな」
日菜「秋はあれだけの試合が出来たんだものねー。モチベーションはあがりまくりね♪」
良子「その通りだ!」
由華「先輩……!」
日菜「あら、ゆかちゃん。お疲れさまー」
由華「皆さん、その、ありがとうございました!」ペッコリン
日菜「ん?」
由華「小走先輩から受けとりました。誕生日プレゼント……」
日菜「ああー。そっか、やえちゃん、先に渡したんだねー」
由華「嬉しかったです……」
良子「それは良かった」
由華「皆さんで、選んだんですか?」
日菜「選んだのはそうねー。でもね、ゆかちゃん。最初にやろうって言い出したのは、やえちゃんなのよー」
ドクン
由華「えっ?そうだったんですか。そんなことは何も……」
日菜「言わないでしょうねー。きっと照れてるんでしょうから」
由華「……」
日菜「大会期間中もね、やえちゃんはずっとゆかちゃんのことを気にかけていたんだよー」
良子「やえも去年はちょうど今の由華みたいな立場だったからな。感じるところはあったんだろうぜ」
ドクン
由華「そう、だったんですか……」
由華(……感じる)
由華(皆さんが、小走先輩が、私を心配してくれていたこと……)
由華(……)ドクン
由華「皆さん」
日菜「んー?」
良子「おう」
紀子「……」
由華「……本当に、ありがとうございます。私、もう大丈夫です」
日菜「そうー。良かったわー」
良子「よっしゃ!それなら次の大会に向けてまた頑張って行こうぜ」
日菜「おー♪」
紀子「うむ」
由華「……はいっ!」
ーーーーーーーーーーーー
初瀬「阿太峯中出身、岡橋ですっ!よろしくお願いしますっ!」アセアセ
やえ「ん。これで全員か」
やえ「新入部員の紹介は以上です。夏の大会へ向け、あとはひたすら練習していきます。先輩方の記録を塗り替えられるよう全員で高め合いましょう」
一同「はいっ!」
やえ「よし。これでミーティングは終了です。お疲れ様でした」
一同「お疲れ様でした!」
ザワザワ
由華「小走先輩!」
やえ「由華、お疲れ様」
由華「……いよいよですね。先輩方の、最後の夏」
やえ「まああと3ヶ月ほどあるけど……」
やえ「確かに、いよいよ来たという感じはあるわね」キッ
ドクン
由華「……」
由華(また、この感じ……)
日菜「やえちゃーん」
やえ「日菜」
良子「帰りにコンビニ寄ってこうぜ」
やえ「良いわね」
紀子「……巽もどうだ」
由華「ぜっ、ぜひ!」
……
…
………
……
…
やえ「そういえば、去年は大会中に散歩をしようとしてここで盛り上がってたわね」
良子「そうだったな」
日菜「りょうちゃんが屋台で買いすぎたのよねー」
良子「俺にとっては普通だったんだよ……」
良子「でもしっかり時間内に戻ってきてお咎めなしだったぜ」
紀子「……睨まれはしたがな」
良子「あれはセーフだよ!」
やえ「ふふっ」
やえ「……でも、今年はそうはいかない」
やえ「よっぽどのことがない限りは、このメンバーが団体戦のオーダーだから」
やえ「一緒に大会に出てもらうわよ」ニヤリ
良子「……そうだな。まあ、むしろそうありたいところだな」
紀子「……まずは部内の競争に勝つ」
日菜「そうねー。がんばっていきましょうー」
由華「……私も、頑張ります!」
やえ「うん」
やえ「頼りにしてる」
ドクン
由華「……」
由華「……はい!」
ーーーーーーーーーーーー
キーンコーン
やえ(今日は学食か……)スッ
…………
由華(お昼か……)
由華(学食に行こう)スッ
スタスタ
由華(あっ、小走先輩)
やえ「……」スタスタ
ドクン
由華(また……)
由華(これってもしかして……)
由華「……」
由華「……確かめなきゃ」キッ
由華「小走先輩!」
やえ「あぁ由華。お疲れ様」
由華「今学食に行こうとしたら先輩の姿が見えたので……」
由華「先輩も学食ですか?」
やえ「うん。いつもは弁当なんだけど、今日はちょっと用意できなくて」
由華(……確かめなきゃ)
由華「あ、あの……」ドクン
由華(確かめなきゃ……この気持ちの)
由華「も……もし良ければ……」ドクン
由華(この気持ちの、正体を)
由華「お昼、ご一緒しませんか?」ドクン
カンッ
終了です
長くてすいませんでした
こんな文に付き合ってくださった方
ありがとうございました
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