穂乃果「私がこの手で、μ'sを終わらせる」 (832)

シリアス&鬱&胸糞注意です

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穂乃果「私、μ'sはもう解散するべきだと思うの」

海未「……はい?」

穂乃果「……どう、かな」

海未「どうかな、じゃないですよ……。性質の悪い冗談はやめてください」

穂乃果「冗談なんかでこんなこと言わないよ」

海未「……」

海未「一体、どうしたというんですか? 急に……。なにかあったんですか?」

穂乃果「とぼけないでよ、海未ちゃん」

海未「っ!」

穂乃果「海未ちゃんだって、分かってるんでしょ……?」



海未「……わ、分かりませんよ。あなたがそんなことを言う理由なんて……」

穂乃果「……じゃあ、これを見てよ」

海未「ノートパソコン……?」


『そういえばμ'sって、まだ活動してんの?』

『死んだんじゃね?』

『完全に消えたよなww』

『オワコンアイドル』

『確かCDも出したけど、全く売れなかったんだよなwww』

『そもそもそんなに人気あったか?』

『もうそろそろ解散かな』

『スクールアイドル(笑)』

 
海未「……」

海未「まさかこんな、ネット上の、匿名の意見を真に受けて、解散だなんて言ってるんですか?」

海未「だとしたら……。見損ないましたよ、穂乃果」

穂乃果「ネット上だろうが匿名だろうが、ちゃんとした『人』の意見だよ?」

海未「ですが……」

穂乃果「ねえ、海未ちゃん。この人たち、間違ったこと言ってるかな?」

海未「なっ!?」

穂乃果「だって、今の私たちにはもう、人気なんてほとんどないじゃん」

穂乃果「この前のライブだって……。席ガラガラだったじゃん」

海未「うっ……」

穂乃果「海未ちゃんだって、気づいてるんでしょ? μ'sに興味を持ってくれてる人なんてもう、いないってことに」

 

海未「で、ですが……っ! ちょっと人気が無くなったからって……。諦めるあなたじゃないでしょう!?」

海未「初ライブの時だって……。席はガラガラでしたし、その後もなかなか、人気を勝ちとれなくて……」

海未「だけどそれでも諦めずに、あなたは……。私たちは、頑張ってきたじゃないですかっ!」

穂乃果「……あの時は、可能性がまだあったから、諦めきれなかっただけだよ」

穂乃果「だけど今はもう……。その可能性も、なくなっちゃったんだよ」

海未「なっ……」


穂乃果「人気が出てきて……。CDデビューも決まった時は、嬉しくて、泣いちゃったけど……」

穂乃果「……だけど、CDは結局、そこまで売れなくて……。それからは、人気も徐々に無くなって……。ファンの人たちも、離れていって……」

穂乃果「……もう私たちには、なにも残ってないんだよ」

海未「そ、そんな、そんなこと……」

穂乃果「ネットでも言われたい放題で……。ねえ、海未ちゃん」


穂乃果「こんな死にかけみたいなアイドルグループ、存在する価値あるのかな?」

パシィン!


穂乃果「……っ!」

海未「あ、あなたは……っ! なにを、なにを腑抜けたことを、言ってるんですか!?」

海未「私だって分かってるんですよ! そんなことはっ!」

海未「もう私たちには、μ'sには、人気もなにも、ないってことくらいっ!」

海未「そんなこと……っ! 私にだって……っ! みんなにだってっ! 分かってることなんですっ!」

穂乃果「だったら……」

海未「だったら諦めるんですかっ!? もう一度、あの時の人気を勝ち取ろうとは、思わないんですか!?」


穂乃果「……」

海未「私の知っている穂乃果だったら……。絶対にこんなことで挫けたり、しませんっ! 目を覚ましてくださいっ! 穂乃果っ!」

穂乃果「目なんかとっくに覚めてるよ……。『夢』ならもう、覚めてる」

穂乃果「もう終わったの。全部……。私の見ていた『夢』は、これでもう終わり」

海未「なにを……! 勝手なことを……っ!」

海未「もうあなただけの『夢』じゃないんですよ……っ!? μ'sは、ラブライブは、私たちみんなの『夢』なんですよっ!?」



穂乃果「……そうだね。だけど元は私が始めたことで……。それにみんなを巻き込んじゃっただけで……」

穂乃果「海未ちゃんだって最初は、反対してたでしょ?」

海未「忘れましたよ、そんな前のことは……っ! 今が、楽し過ぎて……」

海未「私は、感謝してるんですよ……。こんな楽しい日々に、引っ張ってくれた、あなたを……」

海未「こんな素敵な『夢』を見させてくれたあなたに、感謝してるんですっ!」

海未「そして多分、私だけじゃない。みんなもそうですっ!」

穂乃果「……そっか」

海未「そうです……。だから……。そのあなたが諦めるだなんて、言わないで――」

穂乃果「じゃあ、責任をとらなきゃね」

海未「……え?」

穂乃果「私が――」

穂乃果「私がこの手で、μ'sを終わらせる」


海未「な、なにを……」

穂乃果「私がこの死にかけのアイドルグループに、終止符を打つ」

穂乃果「だって、私が全部悪いんだから……。私がみんなに、『夢』を見せちゃったから……」

穂乃果「到底叶わないような、無茶な『夢』を……。だからみんなに無駄な努力を、させちゃったんだ」

海未「無駄、ですって……?」

穂乃果「うん。全部無駄だったもんね。今までしてきた努力も、失った時間も……」

穂乃果「……だけど、楽しかったよね。μ'sとして活動してきて……。辛いことも、苦しいこともたくさんあったけど、でも――」

穂乃果「楽しかった。良い思い出も、たくさんできた。そしてなにより、大切な仲間ができた」

海未「穂乃果……っ!」

穂乃果「私はね、そんなμ'sが本当に、大好きなの……。だからね、海未ちゃん」

穂乃果「これ以上、大好きなμ'sが落ちぶれていくのはもう、見たくない。だから、終わらすんだ」

 
海未「穂乃果……。あなた、本気で……?」

穂乃果「本気だよ。……海未ちゃんなら、分かってくれると思ってたんだけどなぁ」

海未「わ、かりませんよ……。あなたの言ってることは、なに一つ……。あなた本当に、穂乃果ですか……?」

穂乃果「酷いなぁ。私たち、幼馴染なのに……。ねえ、海未ちゃん。もう一度よく考えてみてよ」

海未「……ですから、私は」

穂乃果「私これから、みんなとも話してくるから、その間に考えといて」

海未「ちょ、ちょっと待ってくださいっ! どこへ行くんですかっ!?」

穂乃果「だから、みんなのとこだよ。一人一人に直接会って、海未ちゃんに言ったのとおんなじことを――」

穂乃果「――ううん。ちょっと『違うこと』も、言うかもね」

海未「は……?」

  
穂乃果「じゃあちょっと、行ってくるね」

海未「……穂乃果。みんなに解散を告げたところで、誰も納得しないと思いますよ?」

海未「言ったでしょう? もうあなただけの夢じゃ、ないんですから……」

穂乃果「……だろうね。でもね、海未ちゃん」

穂乃果「μ'sはきっと……。『今日中』に、解散を迎えると思うよ」

海未「なっ……!?」

穂乃果「じゃあね、海未ちゃん。ついてきちゃ、ダメだよ」



誰もが興味を失い、かつての輝きも失った、死にかけのアイドルグループ、『μ's』。

しかし、今日この日を境に……

その名は日本中に、轟くことになる。


――

ことり「どうしたの? 穂乃果ちゃん。話があるって」

穂乃果「ごめんねことりちゃん。バイト中に……」

ことり「ううん、今は休憩中だから……。それで」

穂乃果「私、μ'sを辞めたいの」

ことり「……」

ことり「……えっ?」

穂乃果「なんかね、嫌になっちゃった……。もう私、μ'sにいたくないよ」

ことり「えっ!? ど、どうしたの!? なにがあったの!?」

穂乃果「……実はね」

    
ことり「海未ちゃんに……殴られた……!?」

穂乃果「うん……。ほらここ、赤いでしょ?」

ことり「ほ、ほんとだ……。でも、なんで……?」

穂乃果「分からないの……。話してたら急に……。私なにか海未ちゃんを、怒らせるようなこと言っちゃったのかなぁ……」

穂乃果「……私が悪いのかもしれないけど……。でも私、怖いよ……」

ことり「えっ……」

穂乃果「海未ちゃんが怖い……。私が悪いって分かってても、やっぱり殴られるのは怖いし、嫌だよ……」

ことり「穂乃果、ちゃん……」

     
穂乃果「うぅ……」

ことり(酷い……。穂乃果ちゃん、こんなに怯えて……)

ことり「……ことり、海未ちゃんと話してくる」

穂乃果「えっ……」

ことり「ちょっと行ってくるねっ! 大丈夫、穂乃果ちゃんがμ'sを辞めることなんてないよっ! 」

穂乃果「ことりちゃん……」

ことり「ことりが全部、なんとかするからっ! あ、もしもし海未ちゃんっ!? 今どこに――」
   

 
――

穂乃果「さてと、ここからだね」

穂乃果「最初は誰にしようかなぁ……」

穂乃果「よし、決めた」

プルルル……


穂乃果「あ、もしもし? 穂乃果だよー」

穂乃果「ちょっと話がしたいんだけど、今どこに――」

 
――

穂乃果「お邪魔しまーす。わぁ、可愛いお部屋だなぁ」

花陽「あ、あまりジロジロ見ないでいただけると……」

穂乃果「お父さんとお母さんは?」

花陽「あっ。二人とも、今日は用事があって……」

穂乃果「そっか。ごめんね。急に電話しちゃって、お家にまで上がらせてもらっちゃって」

花陽「いえいえ。それで、お話と言うのは……?」

穂乃果「あのね。かよちゃんは今のμ's、どう思う?」
 

    
花陽「えっ……? え、えっと……」

穂乃果「……」

花陽「……そうですね。前よりは少し、人気も落ちちゃいましたけど……」

花陽「でも皆で力を合わせれば、きっとまた、持ち直せるはずですっ!」

花陽「それに何より、私たちは以前と変わらず、楽しんでやれてますし。ですから、私は今のμ'sも――」

穂乃果「解散するべきだと思わない?」

                
花陽「……」

花陽「は……? 解散……?」

穂乃果「うん。私たちもう、ダメだと思うの。これ以上続けても、ただ時間の無駄にしかならないというか……」

花陽「え、えっと、ちょっと待ってください……」

花陽「あ、あの……。穂乃果ちゃんは、μ'sは解散するべきだと、思ってるんですか?」

穂乃果「うん。だってこれ以上続けても仕方ないし。解散した方が、その分時間を有効に使えると思わない?」

花陽「い、いえ、ですから、私たちは、ちゃんと楽しんでやれてますし……」

穂乃果「えっ。かよちゃんは、楽しいから、アイドルやってるの?」

花陽「そ、そう、ですけど……」

穂乃果「ふーん……」

  
穂乃果「……分かった。ごめんね、冗談だよ。解散なんて」

花陽「ほっ……。そ、そうですよね。冗談ですよね」

花陽「でも……。穂乃果ちゃんがそんな冗談言うなんて、珍しいですね? 何かあったんですか?」

穂乃果「ああ実は、さっき海未ちゃんに殴られ――いや、これはいっか。別に」

花陽「……?」

穂乃果「あのね……。解散は、冗談なんだけど。でももう一つ、かよちゃんに、伝えたいことがあってね」

花陽「はい……? なんでしょうか」

穂乃果「えっとね、かよちゃんさぁ……」


穂乃果「μ's、辞めてくれない?」

花陽「……」


花陽「は、い……?」

    
花陽「えっ……? それも冗談、ですよね……?」

穂乃果「今度は本気だよ。かよちゃん、μ'sから抜けてよ」

花陽「な、んで、ですか……? 私、なにかしましたか……?」

穂乃果「うん。足手まとい」

花陽「え……っ!?」

穂乃果「かよちゃん、何かおかしいと思ったら……。『楽しいから』って理由で、アイドル活動してたんだねぇ」

穂乃果「みんなが真剣に、必死に、全力で、練習してる時に……。かよちゃんてば一人だけ、お遊び気分だったんだぁ」

花陽「ち、ちがっ……そんな、こと……」

穂乃果「だってそうでしょ? だからあれだけ練習時間あったのに、いつまでたってもダンス下手なんでしょ?」

花陽「なっ……!?」

    
穂乃果「みんな気をつかって言わないけどさ。私は一応リーダーみたいなものだから、はっきり言うね」

穂乃果「下手。ダンスも、それに歌も、メンバーの中で一番下手だよ。かよちゃん」

花陽「そ、んな……」

穂乃果「『楽しむ』暇があるんならさ……。その分『苦しんで』、努力してよ」

穂乃果「それが嫌なら……。それができないなら、そんな人はもうμ'sには、いらない」

花陽「……」

穂乃果「……かよちゃん?」


花陽「……わたし、だって」グスッ

花陽「うっ……。くるしんでます……。どりょく、してますよぉっ!」

  
花陽「たのしんでるだけじゃ、ないですっ! くるしいおもいも、してるんですっ!」

花陽「どりょく、してるんですっ! だけどぜんぜんうまくならないから、つらいんじゃないですかぁっ!」

花陽「うっ……。うっ……。ひっく……」ポロッポロッ

穂乃果「……そっか。努力はしてたんだ。ごめん、私の早とちりだったね」

花陽「ほのかちゃぁん……」グスッ

穂乃果「泣かないで、かよちゃん。努力しても上手くならないなら、もう答えは出てるじゃんっ!」

花陽「えっ……?」

穂乃果「才能がないんだよっ! かよちゃんにはっ!」

花陽「……」

穂乃果「……」ニコッ

             
穂乃果「良かったねっ! これでスッパリ、アイドルの道を諦められるよねっ!」

花陽「う、ああ、ああ……」

穂乃果「そもそもアイドルに向いてないんだよ、かよちゃんは。だって――」

穂乃果「もともとはただの、アイドルオタクだもんねっ!」

花陽「あ、あああ……」ポロッポロッ

穂乃果「あはははっ! いくらアイドルが好きだからって、自分がなろうとしちゃダメだよぉ」

穂乃果「だって、向いてないんだからっ! 才能がないんだもんっ! あは、あはははっ!」

花陽「うわああぁぁあぁん! ああぁぁっぁん!!」


                
穂乃果「あははっ! それなのに、『楽しい』だなんて……っ!」

花陽「うわああっ! ごめん、なさいぃっ!」

穂乃果「みんなの足を引っ張るのが、そんなに楽しかったぁ? ねぇ、かよちゃんっ!!」

花陽「うわあああんっ! ごめんなさぁいっ! あしひっぱってごめんなさぁい!」

穂乃果「あはははっ! じゃあμ's、辞めてくれるよねっ?」

花陽「ああ、あ、う、えっ……?」

穂乃果「μ's、辞めてくれる?」

花陽「……そ、んな……。わたし、やめたくな――」

穂乃果「辞めてよ。下手くそ」

花陽「ひっ……!」ビクッ

花陽「……はいぃ……。やめ、ますぅ……」グスッ

穂乃果「あはっ。ありがとっ!」


           
穂乃果「じゃあそういうことで、二度と練習に来ないでね?」

花陽「は、い……。もう、いきません……」

穂乃果「うんっ。あと、今日のことは、できれば誰にも――」

ドタドタドタッ!

花陽「っ!?」ビクッ

穂乃果「……?」

ガラッ!


凛「かーよちんっ! あっそびにきたよーっ!」

穂乃果「あっ」

花陽「……」グスッ

凛「……あれれ?」


今日はここまでで。次回は多分明日か明後日になると思います。
こちらでスレを立てるのは初めてですが、どうか最後までお付き合いください。よろしくお願いします。


           
凛「これはー……。んー?」

穂乃果「……」

花陽「うっ……」

凛「……穂乃果ちゃん? なんでかよちん、泣いてるの? てゆーか、なんでここに……」

穂乃果「凛ちゃんこそ、どうしてここに?」

凛「凛はいつもこうやって、勝手にかよちんのお部屋に遊びに――」

花陽「りんちゃぁん!」

ダキッ

凛「お? っとと……」


             
凛「どうしたのかにゃ、かよちん」

花陽「ほのかちゃんが、ほのかちゃんがぁ!」

凛「……?」

穂乃果「あーちょっと、かよちゃん……」

花陽「わ、わたし、に、みゅーず、やめろって……」

凛「っ! えっ……?」

花陽「さいのうないからって、へただからって、うわぁあぁあん!」

凛「……」

穂乃果「あーあ……」

凛「……どういうことかにゃ? 穂乃果ちゃん」


      
凛「かよちんに、随分酷いこと、言ったみたいだにゃ?」

穂乃果「……だって、本当のことでしょ?」

穂乃果「凛ちゃんは運動神経が良くて、ダンスも上手だから……。だから余計に、感じるんじゃない?」

穂乃果「かよちゃんがどれだけ……。私たちの足を、引っ張ってるのか」

花陽「っ!」ビクッ

穂乃果「あははっ。そうでしょ、凛ちゃん」

凛「……と、ない」

穂乃果「え、なに?」

凛「そんなことないっ!!」



凛「穂乃果ちゃんは知らないんだにゃ! かよちんが影で、どれだけ頑張ってるのか……っ!」

穂乃果「だから、どれだけ頑張っても上手くならないから、『才能がない』んでしょ?」

凛「『頑張る』ことができるのは、才能だっ!」

穂乃果「……なに言ってるの?」

凛「必死に努力ができるっていうのは、立派な才能なんだよっ! それができるかよちんは、すごいんだにゃっ!」

穂乃果「……だけどそれで上手くならないんだったら、意味ないよね?」

凛「上手くなってるっ!」

穂乃果「……」

凛「穂乃果ちゃんが、気づいてないだけで……」

凛「いつもかよちんのそばにいて、ずっと見てる凛は……。ちゃんと、分かってるっ!」

凛「かよちんは、前よりずっとずっと、成長してるんだっ! かよちんの努力は、ちゃんと報われてるんだにゃっ!」

花陽「りんちゃん……」


穂乃果「……あはは。でも私が気づかなかったってことは、たいした変化じゃないんじゃない?」

凛「そんなこと……っ!」

穂乃果「ねえ、じゃあ、いつになったら……。最低でも私より、かよちゃんは上手くなるのかなぁ?」

凛「……穂乃果ちゃんなんか、すぐに追い越しちゃうよ」

穂乃果「だから、いつ? 明日? 明後日? 一週間後? もしかして、一ヶ月ぐらいかかる?」

凛「……いつか、絶対――」

穂乃果「遅いよっ! そうやってモタモタしてるから、μ'sはこんな風になっちゃったんでしょ!?」

凛「っ!!」

穂乃果「ああもう、凛ちゃん……。思わぬ誤算だよ……。まさか先に、そっちから来ちゃうなんてさ……」

     
穂乃果「一応順番とか、あったんだけどなぁ。でも、ま、いっか。ここでやっちゃえば」

凛「……? よく分からないけど、穂乃果ちゃん、とりあえず……」

凛「かよちんに、謝ってくれないかにゃ?」

穂乃果「え? なんで?」

凛「酷いこと言って……、かよちんを泣かせて……。それでなにも言わず、帰るつもりだったのかにゃ?」

穂乃果「……」

凛「そんなんじゃ……。凛、穂乃果ちゃんを許せないにゃ……」

凛「……もう、ついていきたく、なくなっちゃうにゃ……」

穂乃果「あっ、じゃあ、ちょうどいいや」

凛「えっ?」

穂乃果「凛ちゃんもμ's、辞めてくれる?」


        
凛「……えっ?」

穂乃果「ほら、仲良しのかよちゃんも一緒だし、どうかな?」

凛「な、なにを、言ってるのにゃ……?」

穂乃果「凛ちゃんは運動神経もいいし、ダンスも上手いし……。かよちゃんと違って、足を引っ張るどころか、μ'sの役に立ってくれてる」

穂乃果「だけどさぁ……。多分凛ちゃんは、かよちゃんより、アイドル向いてないよ」

凛「……っ!!」

穂乃果「それは、誰よりも……。凛ちゃん自身がそう、感じてたんだよね?」

花陽「……凛ちゃん?」

凛「……」


        
穂乃果「凛ちゃんには、コンプレックスがあるんだよね? 自分は、女の子らしくないって……。そう、思ってたんだよね」

凛「……」

花陽「ほ、穂乃果ちゃん……。まさか……」

花陽「凛ちゃんにまで……。酷いこと、言うの?」

穂乃果「言わないよ? 私はただ、事実を言ってるだけだよ」

花陽「も、もう、帰って……ください……」

穂乃果「なぁに? よく聞こえなかった」

花陽「だ、だから――」

凛「平気だにゃ、かよちん」

花陽「えっ……。り、凛ちゃん?」

凛「凛は……。そんなこともう、気にしてないのにゃ」

凛「そんなコンプレックスは……。μ'sのみんなと過ごしているうちに、忘れちゃったのにゃ」

穂乃果「……」


  
凛「……女の子らしくないからといって、アイドルに向いてないとは、限らないのにゃ。穂乃果ちゃん」

穂乃果「……」

凛「……アイドルに向いてるっていうのは……。やっぱり、アイドルが大好きで、なりたくて……」

凛「……そんで本当に『なってやる』って、努力ができる人のことを言うんじゃないのかにゃ?」

凛「女の子らしくなくたって……。ダンスや歌が、下手だって……。その気持ちなら……。穂乃果ちゃんにだって、負けないよ」

凛「凛も……。かよちんも」

花陽「……りん、ちゃん」

凛「……ま、でも確かに、まだちょっと凛は、可愛い格好をしたりする時は……。恥ずかしいと思うこともあるけどにゃ」

花陽「あはは……」

穂乃果「……はぁ。もう、いいや」


    
凛「……なにが? やっと謝ってくれる気に、なったのかにゃ?」

穂乃果「じゃなくて、もう次に行きたいからさ。とっとと終わらせちゃおう、ってこと」

凛「……」

穂乃果「こんな序盤で、まさかの苦戦を強いられるとは……。凛ちゃんが勝手なこと、するからだよ……」

凛「は……?」

穂乃果「凛ちゃんはもうちょっと後の予定だったのに……。かよちゃんだけなら、すぐに終わってたのに……」

穂乃果「……でもいいや。『電話』もしなきゃだし、早く終わらせちゃおう」

凛「電話……? 誰に……」

穂乃果「凛ちゃん。女の子らしいのは……、可愛いらしいのは……、自分には似合わないって……。それが、コンプレックスだったんだよね?」

凛「え、うん。まあにゃあ」

穂乃果「じゃあそのにゃあにゃあ言うの、早くやめたら?」


    
凛「えっ……? これは、別に……」

穂乃果「言い方変えるね。可愛い子ぶるの、やめたら?」

凛「っ!!」

花陽「ほのかちゃんっ!?」

穂乃果「うん、確かに可愛いよ、『それ』。でもさ、『女の子らしさ』が、つまり『可愛げ』がないことにコンプレックスを抱いてた人が、その喋り方は……。どうなの?」

凛「べ、別にこれは、癖みたいなもので、狙ってやってるわけじゃにゃ――」

穂乃果「また言った。ねえ、それはなに? 必死にコンプレックスを克服しようとして、無理に、そうやって喋ってるの?」

凛「だ、だからこれは――」

穂乃果「じゃなきゃおかしいでしょ? なんでそんな喋り方なの? ぶりっ子だよ、それじゃあ。そういうのが苦手なんじゃなかったの? 凛ちゃんはさ」

穂乃果「ねえ。喋り方、変えたら? 辛くないの? 辛いでしょ? だって、凛ちゃんは――」

凛「そ、そんなの、凛の勝手だにゃっ!!」

穂乃果「……」


この穂乃果は仲間が書いた日誌の内容さえも忘れてしまったのか...

      
凛「そ、それに、コンプレックスなんてもうないって、言ってるにゃっ!」

穂乃果「それは『今』の話でしょ? じゃあなんで出会った時から、その喋り方だったの?」

凛「うるさいにゃっ! これは、凛のコンプレックスとは関係のないことだにゃっ!」

凛「これが、凛の、喋り方だにゃっ! 穂乃果が口出しするようなことじゃ、ないのにゃあっ!!」

穂乃果「いや、だからさ……」

凛「まだ何かあるのかにゃあっ!? だけど、穂乃果になにを言われようが……っ!」

凛「凛はこの喋り方を変える気なんて、ないのにゃあっ!」

穂乃果「にゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあ――」

穂乃果「――ほんっとに『可愛い』よねぇっ! 凛ちゃんはっ!!」

凛「っ!!」ビクッ

     
穂乃果「可愛いなぁ、凛ちゃんはっ! いっつもにゃあにゃあ言ってさぁ、人懐っこくてさぁ、明るくてさぁ、元気でさぁっ!」

穂乃果「可愛過ぎるよっ! 音ノ木坂学院が女子高じゃなければ、男子からモッテモテだったんじゃないっ!?」

凛「な、そ、そんなの、凛にはよく、分からないにゃ……」

穂乃果「分からないのっ!? 本当は、分かっててやってるんじゃないのっ!? 『可愛く』なろうとして、そうやってるんじゃないのっ!?」

凛「ち、ちがうっ!! 凛にはそういう『可愛い』とかが、よく分からないのにゃっ!」

穂乃果「……嘘つかないでよ」

凛「う、うそなんかじゃ……」

穂乃果「流石に無理があるよ? 凛ちゃん。じゃあなんで、そんな喋り方なの?」

凛「……凛はただ、猫が大好きだから……」

穂乃果「……それも嘘なんじゃない?」

凛「っ!? なっ……」


     
花陽「ほ、穂乃果ちゃんっ! もう、これ以上は――」

穂乃果「かよちゃんもよく友達でいられるよねぇ、こんな嘘つきとさぁ」

凛「り、凛は嘘なんかついてないっ! 凛は本当に猫が好きで、だから、こういう喋り方で――」

穂乃果「じゃあなんで猫が好きなのっ!? 『可愛い』からでしょっ!?」

凛「――っ!!」

穂乃果「猫が好きだって言うなら……。当然猫のことを、『可愛い』って思ってるんだよねぇ? あれ? おかしいなぁ」

穂乃果「なんで、自分が『可愛い』格好をすることに抵抗のあるあなたが、『可愛い』猫の真似なんてしてるのかなぁ……?」

凛「そ、れは……」


  
穂乃果「嘘だったんでしょ?」

凛「えっ……」

穂乃果「コンプレックスなんて、嘘だったんでしょ? だから凛ちゃんは自分から、誰に言われたわけでもないのに、そんな『可愛い』喋り方をしてるんだもんねっ!」

凛「ち……が……っ!」

花陽「ほのかちゃんっ! もうやめて――」

穂乃果「ねえっ! 最初に『それ』で喋った時、どんな気持ちだったの? やっぱり『私って可愛いなぁ』とか、思っちゃったの!?」

穂乃果「みんなはどう!? 『可愛い』って言ってくれたっ!? 言われて嬉しかったっ!? そもそも、なんで喋り方を変えようと思ったの!?」

穂乃果「なんなのその喋り方っ!? 普通にしてればいいじゃんっ! それともやっぱり『女の子』らしく、『可愛く』なりたかったの!?」

穂乃果「みんなから『可愛い』って言われたかったのっ!? ちやほやされたかったの!? そうなのっ!?」

穂乃果「おっかしいよ、そんなのっ! 聞いてたのと違うよっ! 凛ちゃんは、私たちに――」

穂乃果「嘘をついてたんだっ!!」

凛「――っ!!」


  
凛「……ち、ちがう、にゃ……りんは、うそなんか……」

穂乃果「じゃあ、証明してよ。私たちに嘘なんか、ついてないって……」

凛「そんなの……。どうすれば……」

穂乃果「その喋り方、やめて」

凛「っ!! えっ……」

穂乃果「本当は辛くて辛くて、仕方がなかったんでしょ? そんな、喋り方」

穂乃果「喋るたびに……。にゃあにゃあ言うたびに、コンプレックスが刺激されて、心が、痛んでたんでしょ?」

凛「そ、んな、こと……」

穂乃果「じゃあどっちなの!? はっきりしてよ! やっぱり嘘ついてたの!? 凛ちゃんは、嘘つきなの!?」

花陽「ほのかちゃんっ!」

穂乃果「かよちゃんは黙っててよっ! あなたはもう、μ'sのメンバーでもなんでもないんだからっ!」

花陽「っ!」ビクッ

凛「……」


凛「やめ、ます……」


  
穂乃果「……なに?」

凛「やめ、る、からぁ……。だからもう、かよちんには……」

穂乃果「かよちゃんのためにやめるの? それとも、自分のためにやめるの?」

凛「っ! じ、ぶん、のためです……」

穂乃果「じゃあやっぱり本当は、嫌だったんだよね? にゃあにゃあ言うの、嫌で嫌で仕方がなかったんだよね?」

穂乃果「だけどコンプレックスを克服するために……。わざと、やってたんだよね?」

凛「そう、です……。ほんとうは、いやだった、にゃ――」

穂乃果「は?」

凛「っ!! いや、でしたっ! や、でした……。もう、もう……」

凛「もう、やだぁ……」

穂乃果「あはは。心配しなくていいよ。凛ちゃんはそんな喋り方なんかしなくても――」

穂乃果「――じゅうぶん、可愛いにゃあ」

凛「うっ……う、ううぅ……」


       
穂乃果「今まで無理してきたんだね。頑張ったね、凛ちゃん」

凛「う、うぅ……う……」

花陽「り、ん、ちゃん……」

穂乃果「その努力は認めてあげなきゃね、凛ちゃん。μ's、やっぱり辞めなくていいよ」

穂乃果「……まぁ、まだアイドル活動する気力があれば、だけど」

凛「う、う……う……」グスッ

花陽「りんちゃん……。ごめんね……。ごめんね……」

穂乃果「じゃあね、二人とも。また学校で会ったら、よろしく」

凛「う、あ、あ……」

花陽「私のために、ごめんね……。ごめん……」

穂乃果「……」

バタン

     
――

穂乃果「これで、μ'sのメンバーが『2人』減ったね」

穂乃果「残りは……。『4人』かぁ」

穂乃果「よしっ。この調子で、どんどん人数を減らして……」

穂乃果「……μ'sを、終わらせる」

穂乃果「とりあえず順番は……。やっぱり一番メンタルが強そうな人は、最後に回そうかな」

穂乃果「……さてと」

穂乃果「『電話』、しなきゃね」

プルルル……


穂乃果「あ、もしもし? 穂乃果だよー」

穂乃果「――ちゃん。今、大丈夫?」


今日はこの辺で。次回は、ちょうど明日がアニメ放送開始日なので、それに合わせて投下できたらなと思っています。
読んでいただいて、ありがとうございましたっ!

>>67
SIDは、手を出せてませんでした……。勉強不足で、すいません

   
――

穂乃果「お邪魔しまーす。わっ。すっごいなぁやっぱり、真姫ちゃんのお家は」

真姫ママ「あら、いらっしゃい。穂乃果さん」

穂乃果「こんにちはー。真姫ちゃんのお母さん」

真姫「で、なんなのよ? 話って」

穂乃果「真姫ちゃんのお部屋行きたいなぁー」

真姫「わ、分かったわよ。こっちよ」

穂乃果「わーい」

真姫ママ「あとでお菓子とジュース持っていくわねぇ」

穂乃果「おかまいなくー」

     
穂乃果「わー。ひっろーいっ! いいなぁ。私の部屋もこのぐらい――」

真姫「もうっ、話が進まないじゃない……。一体何の用よ?」

穂乃果「決まってるよ、そんなの。新曲、聞かせてよっ!」

真姫「……よく分かったわね。ちょうど、できたところなのよ」

穂乃果「へっへー。そろそろだと思ってたんだよぉー。早く早くーっ!」

真姫「そ、そんなに期待されてもね……」

穂乃果「そりゃ期待しちゃうよー。楽しみだなぁー」

真姫「待ってなさい。今から流すから……」


 
~♪

真姫「一応テーマとしては、『苦難や逆境への挑戦』、っていうのがあるんだけど……」

穂乃果「逆境……、もしかして、私たちを?」

真姫「そう。『今』の私たちを、イメージして作ったの。そしてこの曲はラスト、一気に曲調が明るくなるんだけど……」

真姫「そこは……『未来』の私たちを、イメージしたの」

穂乃果「す、すごいよ。これ、この曲……っ!」

真姫「そ、そう? ふふっ……。私、この曲を作るのにね、すごく苦労したの」

真姫「何回も作りなおして……。ようやく納得のいく、曲ができたの」

 
穂乃果「この曲なら……っ!」

真姫「うん……。きっと私たちは、『逆境』を乗り越えて、この曲の、ラストのような……」

真姫「明るい『未来』に、辿りつける――」

穂乃果「この曲なら、μ'sの『最期』の曲に、ふさわしいねっ!」

真姫「……」

真姫「さいご……?」


    
真姫「え、さいごって……?」

穂乃果「この曲は……。μ'sへの、鎮魂歌だね」

真姫「はぁ!?」

穂乃果「うん。特にこのラストスパートの、明るくて、壮大なメロディとか……」

穂乃果「まるでμ'sが天に召されていくような……。そんなイメージが、湧いてくるよね」

真姫「こないわよっ! あんた、話聞いてたのっ!?」

真姫「いいっ!? この曲のラストは、無限に続いていく『未来』をイメージして……」

穂乃果「ないよ、そんなの」

真姫「……はぁ?」

穂乃果「未来なんてない。μ'sは今日、解散するんだから」


              
真姫「……なんの冗談?」

穂乃果「うーん、真姫ちゃんまで……。むしろ、この状況でまだ解散してないほうがおかしいと思わない?」

真姫「なに言ってるの? これからじゃない」

穂乃果「……真姫ちゃんってクールな子だと思ってたけど……。意外と熱いんだね」

真姫「はぁ!? て、ていうか、あんたの方こそ、ちょっと冷めすぎなんじゃないっ!?」

穂乃果「え。そうかな」

真姫「そうでしょっ! だって前に、私が新しい曲を作って、あんたに聞かせた時は――」

真姫「『この曲なら、今度こそ大ヒット間違い無しだよっ! さぁー! 頑張って練習するぞーっ!』って、私の話も聞かず、外に飛び出してったじゃないっ!」

穂乃果「……そうだっけ。ていうか私のモノマネ、上手いね」

真姫「う、うっさいっ!」


             
穂乃果「……でも、そっか。私、そんなこと、言ってたんだね……」

真姫「……穂乃果?」

穂乃果「『今度こそ』だなんて……。根拠のないことを言って……。みんなをいつまでも、縛りつけて……」

穂乃果「勝手にみんなを、巻き込んで……。先に道なんてないのに……。未来なんてないのに……。酷い話だよね」

真姫「な、なに言ってるの? どうしちゃったのよ、穂乃果」

穂乃果「真姫ちゃんには……。特に、迷惑かけちゃったよね」

真姫「私……? 私は、別に……」

穂乃果「だって……。真姫ちゃん、μ'sに入るの、嫌だったんでしょ?」

真姫「えっ……」

  
穂乃果「私が誘った時、すごく嫌がってたもんね……。なのに」

真姫「そ、それはっ!」

穂乃果「……なのに無理やり引き込んで、その上、作曲も全部任せちゃって……」

真姫「……」

穂乃果「真姫ちゃん。私のこと、怒ってるでしょ? 無理やりμ'sに誘った私を、嫌ってるでしょ?」

真姫「……あんた、なんか勘違いしてない?」

穂乃果「……なにが?」

真姫「私はね、μ'sに入って良かったと、思ってるの」

穂乃果「えっ……?」

真姫「そりゃ確かに、最初は嫌だったけど……。でも、今はね、こんな状況だって言うのに――」

真姫「……すごく、楽しいの。μ'sに入って、μ'sのために曲を作ってきて……良かったって」

真姫「そう、思うの」

穂乃果「……」


  
穂乃果「……そっか」

真姫「そうよ。だから……。そんなことで、解散だなんて言ってるなら――」

真姫「全部あんたの勘違いだから。とっとと、考え直しなさいよ。このバカ」

穂乃果「そっかぁ……。はは、私って、バカだなぁ……」

真姫「……ねえ。だから、その……」

穂乃果「なあに?」

真姫「……こ、これからもっ! 一緒に――」

穂乃果「あっ。そうだ、真姫ちゃん」

真姫「……。な、なによ」

穂乃果「μ's、もう辞めていいよ」


  
真姫「……ま、また、あんたは」

穂乃果「μ'sの解散は考えなおすよ。でも、せめて真姫ちゃんだけは、辞めるべきだと思うな」

真姫「は……? やめる『べき』って、なによ……」

穂乃果「だってさぁ。真姫ちゃんは……。アイドル活動なんてしてる暇、ないでしょ?」

穂乃果「曲なんか作ってる暇、ないでしょ? 練習なんてしてる暇、ないでしょ?」

真姫「なに? なに、言ってるの……?」

穂乃果「私たちなんかに付き合ってる暇、ないでしょ?」

真姫「はぁっ!? だから、なに言って――」

穂乃果「――そうですよねぇ? 『お母さん』」


       
真姫「――っ!?」

ガチャッ

真姫ママ「……」

真姫「……聞いて、たの?」

真姫ママ「ごめんなさい……。少しだけ……」

穂乃果「わぁっ! ケーキですかぁ? おいしそー」

真姫ママ「え、ええ……。どうぞ」

穂乃果「やったぁ。いただきまーすっ!」

真姫「……」

穂乃果「もぐっ……。おいひーっ!」

真姫ママ「……。じゃあ、えっと、ごゆっくり――」

穂乃果「どうなんですか? お母さん」


       
真姫ママ「……な、なに、かしら?」

穂乃果「お母さんは、真姫ちゃんに、将来西木野病院の跡を継がせたいそうですね?」

真姫ママ「えっ? ええ、まあ……」

穂乃果「真姫ちゃんは? 真姫ちゃんは、どうなの?」

真姫「わ、私だって、そうするつもりだけど……」

穂乃果「『そうするつもり』……。ふーん。まるで、なれて当たり前みたいに言うんだね」

真姫「……どういうことよ?」

穂乃果「お医者さんになりたくて、必死に頑張ってる人が、どれだけいるか知ってる?」

真姫「は、はぁ?」

穂乃果「なんの努力もせずに、将来はなんとなーく跡を継ごうだとか考えてる、今の真姫ちゃんは――」

穂乃果「必死に頑張ってる人たちに、失礼だって言ってるのっ!」


       
真姫「……私は別に、そんなつもりじゃ」

穂乃果「お母さん。いくら自分の娘だからって、なんの努力もしてない人に、命を預かる大事なお仕事を、任せるわけにはいかないですよねぇ?」

真姫ママ「ち、違うのよ。穂乃果さん。真姫は、ちゃんと――」

穂乃果「努力、してますか? そうですか。で、どうです? 真姫ちゃん、お医者さんになれそうですか?」

真姫ママ「えっ……。それは、その」

穂乃果「真姫ちゃん、最近学校での成績が落ちてるの、知ってます? 前は学年トップだったのに、今じゃいいとこ中の上ですよ」

真姫ママ「なっ!?」

真姫「あ、ちょ、ちょっと、それは――」

真姫ママ「真姫、どういうことっ!?」

真姫「っ!」ビクッ

穂乃果「あれ……。もしかして、言っちゃいけなかったぁ?」クスッ


       
真姫ママ「成績が落ちたって……。あなたやっぱり、勉強を怠ってたのね!?」

真姫「ち、ちがうわよっ! 私だって、ちゃんと――」

真姫ママ「違わないじゃないっ! この前のテストも、口では『満点だった』って言ってたけど、私もそれを、信用したけど――」

真姫ママ「本当は、何点だったの!? 教えなさいっ!」

真姫「そ、それは……」

穂乃果「70点って言ってたっけ」

真姫「っ!?」

真姫ママ「なん、ですって……!?」


       
真姫ママ「……真姫っ!!」

真姫「あ、あの、だから……」

穂乃果「あははっ。私の家だったらむしろ褒めてもらえる点数なんだけどなぁ」

真姫「穂乃果っ! テストの話は、内緒だって……」

穂乃果「ごめんね。でもやっぱりお母さんには、正直に言わなきゃ」

真姫「だ、けど、だけど」

真姫ママ「真姫っ! 穂乃果さんは、なにも悪くないでしょう!?」

真姫ママ「あなたが……。勉強を怠った、あなたが悪いんでしょうっ!」

真姫「うっ……」

       
真姫ママ「勉強もせずに、遊んでばっかりで……っ!」

真姫「わ、私、遊んでなんか……」

真姫ママ「遊んでるでしょ!? そもそも、アイドル活動なんか――」

真姫ママ「――っ! ご、ごめんなさい、穂乃果さん」

穂乃果「いいえ? その通りだと思います。ですから……。私は真姫ちゃんに、勉強に専念してほしいから、μ'sを辞めてほしいと言ってるんです」

真姫ママ「……真姫、聞いた? 穂乃果さんはあなたのために、ここまで言ってくれてるのよ?」

真姫「なっ! い、いやよっ! 私、辞めたくないっ! まだアイドル、続けたいっ!」

真姫ママ「あ、あなたって子は……」

真姫「勉強だって頑張るわよっ! 両立させるからっ! だから、おねが――」

穂乃果「あーあ。やっぱり解散するしかないのかなぁ」

真姫「――っ!?」


       
穂乃果「μ'sが存在するからいけないんだもんね。だったらいっそ解散しちゃえば、真姫ちゃんも気兼ねなく勉強に専念できるよね」

真姫ママ「ま、真姫……っ! あなたはどれだけ、穂乃果さんやμ'sの皆さんに、迷惑をかけるつもりなの……!?」

真姫「違う……。私は……」

穂乃果「いいんですよ。私たちも潮時だと思ってますし、それで真姫ちゃんが勉強に専念してくれるなら、言うこと無しです」

穂乃果「もうμ'sは、ダメなんです。これ以上私たちなんかのために、真姫ちゃんに無駄な時間を使ってほしくないです」

真姫「むだ……って……」

真姫「穂乃果……。私は本当に、あんたたちと、みんなといるのが、楽しくて……」

穂乃果「楽しい時間はもう終わりだよ、真姫ちゃん」

穂乃果「これから真姫ちゃんに待ってるのは、『楽しみ』なんかじゃない。長い長い、『苦しみ』だけなんだよ」

真姫「そ、んな……」


    
真姫「イヤ……。そんなの……」

真姫ママ「……真姫、いつまでも子供のままじゃいられないんだから……。いい加減、現実を見なさい」

真姫ママ「苦しんで、努力して、勉強なさい。私だって……。そうしてきたんだから」

真姫「……」

真姫ママ「……ごめんなさい、穂乃果さん。家族の問題に、付き合わせちゃって……」

穂乃果「いいえー。私も真姫ちゃんには、立派なお医者さんになってほしいですから」

真姫ママ「……良い友達を持ったわね、真姫。穂乃果さんがせっかく来てくださったんだから、今日は遊んでていいけど……」

真姫ママ「……でも明日からは、勉強だけに集中しなさい。もちろん作曲もアイドル活動も、許しませんからね」

真姫「……」

真姫ママ「返事は?」

真姫「はい……」


    
真姫「……」

穂乃果「……大丈夫? 勉強、大変だろうけど、頑張ってね」

真姫「……穂乃果」

穂乃果「なに?」

真姫「私……やっぱり、諦めたくない」

穂乃果「……えっ?」

真姫「ここまで来たんだもん……。やっぱりμ'sを、ラブライブを、諦めたくないよ」

穂乃果「あはは、なにそれ。あれだけお母さんに言われて、まだ続けたいの?」

真姫「あったり前でしょ……。諦められるわけ、ない……。だって、やっぱり、私は……」

真姫「μ'sが、好きだから……。そして何より、『音楽』が、大好きだから……」

穂乃果「あーあ、もう」


       
穂乃果「真姫ちゃんのママってさぁ。もっと厳しい人だと思ってたけど……。結構、甘いよねー」

真姫「……は……? あれで……?」

穂乃果「『今日は遊んでていい』だってさ。ほんと、優しいママだよねえ」

穂乃果「今こうしてる間にも、医者を目指して死に物狂いで努力をしてる人は、たくさんいるのに」

真姫「……そ、それは」

穂乃果「なにしてるの?」

真姫「えっ……?」

穂乃果「『勉強』しなきゃ。真姫ちゃん」

真姫「……」

真姫「ほの……か……?」


        
穂乃果「はやくー。みんなに置いてかれちゃうよー?」

真姫「ま、待ってよ。私にはまだ、やりたいことが」

穂乃果「勉強以外にすることなんてある? ねえ、はやくー」

真姫「……そ、そうだっ! 歌詞っ! さっきの曲の歌詞、考えましょ?」

穂乃果「どうでもいいよ。勉強勉強勉強、勉強だよ。スタディだよ。真姫ちゃんは勉強しか、しちゃいけないんだよ」

真姫「な、なに言ってんのよっ! あんたさっきから、なんかちょっと――」

穂乃果「べーんきょっ! べーんきょっ!」

真姫「な、なんか、ちょっと――」

穂乃果「勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強しなきゃっ! 真姫ちゃんっ!!」

真姫「――こわい、わよ……?」

穂乃果「怖がってる暇があったら、勉強だよっ!」


        
穂乃果「あ、ごめん。邪魔だったね。私、帰るから。頑張ってねー」

真姫「え、あ、ま、まって……」

穂乃果「真姫ちゃん。ちゃんと勉強してよ? 勉強だけ、してよ? 他のこと、しちゃダメだよ?」

穂乃果「曲なんか作らないでね? 歌なんか歌わないでね? ピアノなんか弾かないでね? そんな暇があったら、勉強してね?」

真姫「な、なんで、そこまで……」

穂乃果「遊んじゃダメだよ? テレビ見ちゃダメだよ? 外に出たらダメだよ? 誰かと話しちゃダメだよ?」

穂乃果「ご飯なんか食べないでね? 睡眠なんかとらないでね? お風呂になんか入らないでね? トイレになんか行かないでね?」

穂乃果「そんな暇があったら、勉強だよ? 真姫ちゃん」

真姫「ほ、ほのか――」

穂乃果「私、見てるからね? 真姫ちゃんがお医者さんになるまで、ずっとずっとずっと……」

穂乃果「真姫ちゃんが勉強以外のことをしてないかどうか、ずっと見てるから」

真姫「ひっ……」ビクッ

       
真姫「こわい、よ……。どうしちゃったの? ほのか……」

穂乃果「私、応援してるからね。真姫ちゃんが立派なお医者さんになれるよう、祈ってるから」

穂乃果「だから……。絶対、なってよ?」ガシッ

真姫「い、いたい……ちょ、ほのか……っ!」

穂乃果「ねえ。お医者さんに、なってよ? ならなかったら、なれなかったら、許さないからね?」

穂乃果「見てるからね? 許さないからね? 見てるからね? 視てるからね?」

真姫「も、もう、やめて……」

穂乃果「なにしてるのっ!? 許さないって言ってるでしょ!? ほらはやく、勉強しなきゃっ!!」

真姫「ひっ! あ、ああぁああぁあっ!!」

穂乃果「あはっ。お医者さんになれたら、またゆっくり話そうね。真姫ちゃん」

真姫「あ、ああぁ……。やらなきゃ、はやく、ならなきゃ、あ、ああ……ああぁ」

穂乃果「じゃあまたいつか、何年後かに」

バタン


       
――

穂乃果「別にあそこまでする気はなかったんだけどなぁ、さっさと諦めてくれればよかったのに」

穂乃果「みんな、どうしちゃったのかな……。口を揃えて、『諦めたくない』だとか、『まだまだこれから』だとか……」

穂乃果「おかしいよ……。狂ってるよ……。これじゃあ、まるで――」

穂乃果「――まるで、前の私を見てるみたい……」

穂乃果「……残りは『3人』だね。さてと、次は――」

穂乃果「うん。まあこの3人なら、まずは――」

プルルルル


穂乃果「あ、もしもし? ちょっと、話したいことがね……」


今日はここまでで。次は未定ですが、なるべく間はあけないようにします。   
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。


   
――

穂乃果「あ、おーいっ! こっちこっちー」

にこ「なんなのよー。話って」

穂乃果「それより、なに頼むー? 私、スペシャルいちごパフェっ!」

にこ「それよりって、大事な話なんでしょ? にこ、チョコレートパフェね」

穂乃果「まあまあ、話は、パフェの後だよ。ふっふーん、ここのファミレスのパフェは、最高なんだから」

にこ「へー。楽しみだわ」

穂乃果「……にこちゃん」

にこ「なによ」

穂乃果「にこちゃんは今のμ's、どう思う?」


          
にこ「……話って、それ?」

穂乃果「ううん。本題は、パフェを食べてから。ただちょっと、興味本位で聞いただけだよ」

にこ「……」

にこ「……みんなはどう思ってるのか、知らないけど」

にこ「にこは、今のμ's……。かなりヤバい状況にあると、思ってるわ」

ガタンッ

穂乃果「だよねっ!?」

にこ「な、なによ、急に……」


       
穂乃果「あ、ごめんね。それで、ヤバい状況って……?」

にこ「だから、ほら……。人気も落ちちゃってさ。周りからも注目されなくなって……」

にこ「なんというか……。『解散の危機』、というか……」

穂乃果「やっぱりそう思うっ!?」ガタンッ!

にこ「うるさいわねっ!」

穂乃果「そっかぁ……。にこちゃんなら、そう思ってくれてると、信じてたよ……」

にこ「はぁ……? ていうか、はやく注文しない?」

穂乃果「そうだねっ! あ、にこちゃん。今日は私の奢りでいいよーっ!」ニコニコ

にこ「な、なんなの……?」


                   
穂乃果「ふぅーっ! おいしかったぁーっ!」

にこ「いやぁ、さいっこうだったわっ! また来たいかも」

穂乃果「あははっ。また一緒に来ようね、にこちゃんっ!」

にこ「ふふん。その時はまた、あんたの奢りだからね」

穂乃果「もっちろん! 何度だってっ!」

にこ「も、もちろん……? 何度だって……?」

穂乃果「うんっ! だってにこちゃんは先輩で、私は後輩だもんっ!」

にこ「ま、まあ……。あれ? でも普通逆なんじゃ……」

穂乃果「気にしない気にしないっ!」ニコニコ


      
にこ「……それで?」

穂乃果「え?」

にこ「いやだから、大事な話って……」

穂乃果「ああー、それはもういいの。にこちゃんは私の味方だって、分かったから」

にこ「は……?」

穂乃果「やっぱりなぁ。私、ずっと思ってたの。にこちゃんはメンバーの中でも、μ'sのことをいっちばんよく分かってくれてる人だって」

にこ「……そうね。確かに、μ'sを想う気持ちは、誰にも負けてないつもりよ」

穂乃果「うんっ! それでね、そんなにこちゃんに、お願いがあるのっ!」

にこ「なによ?」


穂乃果「私のね、お手伝いをしてほしいのっ!」


とりあえずここまで。続きは夜に


にこ「……手伝い?」

穂乃果「そう。お手伝い。あのね、ここまでは、割と順調だったんだけど……」

穂乃果「……残りの『2人』は、多分、これまでのように簡単にはいかない。苦戦を強いられることは、間違いない」

穂乃果「だから……。にこちゃんにも手伝ってほしいの。ここからは、二手に分かれて――」

にこ「ちょ、ちょっと、待ちなさいよ」

穂乃果「え?」

にこ「何の話よ? 苦戦って、なに? あんたは一体、なにと戦ってるの?」

穂乃果「なにって……。『μ's』とだよ」

にこ「はぁ……?」

穂乃果「だからにこちゃんには、μ'sを終わらせるためのお手伝いを、してほしいの」

                 
にこ「μ'sを……。終わらせる……?」

穂乃果「そう。具体的にはね、μ'sのメンバーを全員辞めさせて、最後には――」

にこ「ねえ……穂乃果」

穂乃果「なに?」

にこ「ずっと、気になってたんだけど……。パフェを食べてる時も、こうして話してる間も、気になってたんだけど……」

穂乃果「……」

にこ「どうして……。にこがさっき、μ'sは今、『解散の危機』だって……。言った時からさ、ずっと……」

にこ「そんなに、嬉しそうなの……?」

穂乃果「……っ!」



                         
にこ「おかしくない……? にこはてっきり、あんたのことだから……」

にこ「『そんなことない』だとか、『まだ可能性はあるよ』だとか、そんなアホみたいな前向き発言を、してくるもんだと……」

にこ「だけど結局、今のこの状況を脱却する術が思いつかないから、こうして、にこに相談しに来たんだと……。そう、思ってたのに」

にこ「なんで、そんな、ニコニコしてんの……? まるで、解散を望んでるかのような……」

穂乃果「……違うよ。いや、そうなんだけど、私は、にこちゃんという『同志』を見つけたことに、喜んでるんだよ」

にこ「同志……?」

穂乃果「にこちゃんがμ'sのことをしっかり考えてくれてたのが、嬉しかったの」

穂乃果「だから……。μ'sは『解散するべき』だって、そう思ってくれてたんでしょ?」

にこ「……『解散するべき』? 私が、そう思ってる、ですって?」

穂乃果「そう。こんなμ'sは見てられないって、私と同じ――」

にこ「そんなわけ……ないでしょうがっ!!」


                      
穂乃果「にこちゃん……?」

にこ「にこは……そんなこと、言ってないっ! ただ、μ'sは今、解散の危機にあるって……。それほど、ヤバい状況に立たされてるって……」

にこ「……だけど、それでもまだ、『諦めるわけにはいかない』って! こんな状況でも、『挫けるわけにはいかない』って、そう思って――」

穂乃果「……はぁ。また、それ……?」

にこ「あんたも、同じ気持ちでしょ……? だって……あんたの方こそ、μ'sのこと、一番に考えてくれてるじゃない」

にこ「そこだけは……。にこも、あんたを認めてるのよ」

穂乃果「……」

穂乃果「うん。そうだよ。私はμ'sのことが、大好き」

穂乃果「だから、こんな時でも……。いつだって、一番に、μ'sのことを考えてる」

にこ「……だったら――」

穂乃果「にこちゃんなんかよりも、ずっとねっ!!」

ガシャァンッ!!


                  
にこ「……っ!」

店員「お、お客様、どうなされましたかっ!? 今、片付けますんで……」

にこ「……すいません、お騒がせしてしまって。もう、出ますから」

穂乃果「待ってよ、にこちゃん……。話はまだ、終わってないでしょ……?」

にこ「……あんたが言ったんじゃない。もう話はいい、って」

穂乃果「それは……。にこちゃんが、私の『味方』だった場合だよ。だけど――」

穂乃果「――やっぱりにこちゃんも、私の……。ううん、『μ's』の、『敵』だったんだね」

にこ「あんたでしょう? 『μ'sの敵』は」

穂乃果「……」

にこ「手伝い? μ'sを終わらせる? メンバーを辞めさせる? 残りは……『2人』、ですって?」

にこ「……あんた、なに考えてるの? ……ううん、違う」

にこ「あんた、μ'sに……。なにを、したの?」

穂乃果「……ふふっ。あははっ!」


                  
穂乃果「あははっ! すごいなぁ、にこちゃんはっ! 全然動じないんだねっ! さっきの『3人』とは、大違いだよぉっ!」

にこ「……その『3人』には、真姫ちゃんも含まれてるのかしら?」

穂乃果「え? なんでそこで真姫ちゃんが出てくるの?」

にこ「さっき電話しても出なかったからよ……っ! そう、そういうこと、だったのね……っ!」

穂乃果「あはは、それでなに? 私のせいだとでも思ってるの? 違うよそんなの」

穂乃果「多分真姫ちゃんは、ただ忙しくて電話に出れなかっただけだよ。『勉強』とかでね」

にこ「……穂乃果。あんたがまさか、そんな人だったとはね……」

穂乃果「……はぁ?」

にこ「意外だったわ。あんたはもっと、μ'sのことを、大切に想ってくれてるんだと思ってたけど」

穂乃果「だからぁっ! ……もう、いいや」


        
穂乃果「はぁ……。せっかくにこちゃんが、味方になってくれたと思ったのに……。私の勘違いだったなんて」

穂乃果「すぐに先走っちゃうのは……。私の悪い癖、だね」

にこ「……今のあんたの味方なんて、するわけないでしょ? 穂乃果。これから、どうするの?」

穂乃果「……だからこの後は、残りの『2人』に会って、完全にμ'sを――」

にこ「にこがそんなこと、させると思う?」

穂乃果「……」

穂乃果「……話、聞いてた? 『この後』って言ったよね? それはつまり――」

穂乃果「『にこちゃんにμ'sを辞めてもらった後』って、意味なんだよ?」

にこ「……あっそ。ちなみに、どうやってにこを辞めさせる気よ?」

にこ「真姫ちゃんや、他の二人は、どうやって辞めさせたのよ……?」

穂乃果「ふふっ……」


                     
穂乃果「そんな怖い顔しないでよ、にこちゃん。リラックスリラックス」

にこ「ふふんっ、さっきのあんたも、相当怖い顔してたけどね?」

穂乃果「……っ!」

にこ「あんたのあんな顔、初めて見たわ。そんなにショックだったの? 悪かったわね、あんたの期待に添えられなくて」

穂乃果「……にこちゃんは、すごい人だなぁ。そういうところ、尊敬するよ」

にこ「嬉しいっ! もっと褒めてにこーっ!」

穂乃果「あはは、もう、なんていうか……」

穂乃果「……強いなぁ……。にこちゃんは、今までの誰よりも……。本当に、強いね……」

にこ「そうっ! にこは、最強にこっ! 穂乃果、今ならまだ――」

穂乃果「クラスでいじめられてるような人だとは、とても思えないよ」


    
ガタッ

にこ「……」

穂乃果「どうしたの? 『最強』の、にこちゃん」

にこ「……にこが、いじめられてる? ですって?」

穂乃果「うん。いつ頃からだっけ? ちょうどμ'sの人気が下がり始めた頃からかな?」

にこ「ははっ……。冗談、やめてよ。みんなのアイドルにこにーが、いじめなんて――」

先輩A「穂乃果ちゃーん。お待たせーっ!」

先輩B「ここのファミレス、パフェ超うまいんだってー?」

にこ「っ!?」ビクッ

先輩A「……あれ? 矢澤さん?」

先輩B「なんでここに……?」

穂乃果「……お二人とも、こんにちはっ!」ニコッ


               
先輩A「どーゆーことー? もしかして、先に食べちゃったー?」

穂乃果「いいえ? 私はまだ何も、注文してないですよ。食べてたのは、にこちゃんだけです」

先輩A「そっかー。ていうか……ふふっ……」

先輩B「くくっ……。な、なんで、矢澤さんと、いるの……?」

穂乃果「えっとぉ。にこちゃんが、『一人で』パフェを食べてたんでぇ。可哀想だから、一緒にお喋りでもしてあげようかと……」

にこ「えっ!?」

先輩A「ひ、ひとりっ! ひとりって……っ! そりゃ確かに……、可哀想だわ……っ!!」

先輩B「や、矢澤さんらしーっ! あははっ! ははっ!」

ゲラゲラ 

にこ「ち、ちが……な、なんで……」

                    
穂乃果「矢澤さんらしい……? そういえばお二人は、にこちゃんと同じクラスなんでしたっけ?」

穂乃果「……もしかしてにこちゃんって、クラスでも……?」

先輩A「あ、バレちゃったぁ。そうなの、矢澤さんね、いっつもクラスで、一人ぼっちなんだよねぇ?」

先輩B「そうそう。そんで可哀想だから、あたしらがいっつも遊んであげてるのー。ねっ!」

にこ「……」

先輩A「なんか言えよ」

にこ「っ! う、うん……」ボソッ

先輩B「聞こえねーっ! マジで暗いわこいつーっ!」

ギャハハハ

穂乃果「へえー。そうなんですかー」ニヤニヤ

にこ「う、うぅ……」


                    
穂乃果「にこちゃん、そうだったんだー? クラスでは、いつもそんな感じなんだ?」

にこ「えっ……。そ、その」

先輩A「そうだよー? こいつ、全然喋らないし、いっつも暗くてさぁ」

先輩B「んであたしらが近付くと、急にオドオドし始めてさぁっ! これが超可愛いのよぉ!」

穂乃果「……ちょっと意外ですね。私たちμ'sといる時は、もっと――」

にこ「っ!? や、やめ――」

先輩A「ていうか穂乃果ちゃん、矢澤さんと同じアイドルグループなんだっけ?」

先輩B「そういやそーじゃんっ! うわ、言わん方が良かったかな?」

穂乃果「いいえ? 私もにこちゃんのこと、ずっと苦手だと思ってましたから。別に平気ですよ」

にこ「なっ……!?」


     
穂乃果「だってにこちゃんって、いっつも自信満々な感じで、喋ってる時も、なんか偉そうで……」

穂乃果「……先輩だから、仕方ないのかもしれないですけど……。正直ちょっと、苦手だったんです」

にこ「ほの、か……っ!?」

先輩A「あははっ! すげーっ! そんな矢澤さん、見てみたいなぁっ!」

先輩B「後輩にはでかい態度とってんだ? あたしらにももっと、グイグイ来ちゃっていいんだよー?」

にこ「……ちが、う」ボソッ

穂乃果「なにが違うの? にこちゃん」

にこ「っ!」ビクッ

先輩A「今のよく聞き取れたなぁ、穂乃果ちゃん」

                   
穂乃果「さっき話してた時もそうだったよね? ずーっとずーっと、えっらそうに、ふんぞり返ってさぁ」

穂乃果「それで、終いには……。『にこは、最強にこっ!』」

にこ「っ!!」

先輩A「あ、あははっ! 似てるーっ! ていうか矢澤さん、そんなこと言ってたの!?」

先輩B「最強とかーっ! 痛すぎーっ!」

にこ「う、ううぅ……」カァァァ

先輩A「あはは、見てみて、今の顔、超可愛いー」

先輩B「写メとろうぜー!」

にこ「ひぅっ……。や、やめ……」

穂乃果「にこちゃん、もう一度聞くね」

にこ「え……?」

穂乃果「μ'sのこと、どう思ってるの?」


                 
にこ「え、えっと……」

穂乃果「そうだよね。μ'sはにこちゃんにとって、数少ない、安らぎの場所なんだよね」

にこ「……」

穂乃果「クラスで友達もいない、おまけにいじめられてるにこちゃんにとっては、μ'sは唯一、ホッと安心できる場所で……」

穂乃果「それで私たちメンバーはにこちゃんにとって、唯一、『気の許せる仲間』、だったんだよね」

穂乃果「それは分かるよ。でもさぁ、にこちゃん。だからってさぁ……」

穂乃果「私たち後輩に偉そうな態度をとって、μ'sをストレス解消に利用するの、やめてくれない?」

にこ「なっ! そ、そんなこと、してな――」

先輩A「ひっどーい! 矢澤さん、そんなことのために、μ'sに参加してたんだぁ」

先輩B「いくらなんでも穂乃果ちゃんたちが可哀想だよねぇーっ! 謝りなよーっ!」

にこ「そ、んな、にこは、そんなこと――」

先輩A「謝れよっ!!」バンッ

にこ「ひぃっ!」ビクッ

                
にこ「ごめ、んなさ……」ボソッ

穂乃果「……?」

先輩B「穂乃果ちゃんが聞こえねえってよっ! もっと大きな声出せよっ!」

にこ「ひっ! ごめん、なさいっ! ごめんなさいっ!!」

にこ「今まで偉そうにして、ごめんなさいっ! も、もう、これからは、おとなしく、しますから……」

穂乃果「うん、いいよ。許してあげる。でもその代わり、もう二度と、μ'sには関わらないでね」

にこ「えっ……。そん、な……」

先輩A「あはははっ! 後輩の怒り爆発じゃーんっ!」

先輩B「矢澤さん、あたしらがいないところでどんだけ酷いことしてたんだよーっ!」

にこ「ちがっ、にこは、にこはぁ……」オドオド

穂乃果「……」

穂乃果「『あんたがまさか、そんな人だったとはね……』」

にこ「っ!?」ビクッ


                       
穂乃果「あはは、にこちゃんてば、クラスメイトがいると、そんなふうになっちゃうんだねー。『意外だったわ』」

にこ「やめてっ! やめてぇ!」

穂乃果「『あんたのあんな顔、初めて見たわ』……。あははっ! 私たちといる時のにこちゃんからは、想像できない姿だよぉ!」

先輩A「あはは。今度は、誰の真似?」

穂乃果「さぁー? ねえ、にこちゃん。なんだか、惨めだねぇ。クラスでは、いつもそうなんだね」

にこ「う、ううぅ、やだぁ……。みないで……」

穂乃果「うんうん。恥ずかしいよねぇ? いっつも大きな態度をとってる後輩に、こんな惨めな、なっさけない姿を、見られちゃったんだもんねぇ」

穂乃果「私、ショックだなぁ。みんなのアイドルにこにーは、どこに行っちゃったのかなぁ?」

にこ「いやぁ……。こんなの、いやぁ……っ!」

先輩A「ほ、穂乃果ちゃん、結構言うね……」

先輩B「それほど、怒りが溜まってたんでしょ……」


                   
穂乃果「というわけで、私は先に帰りますねー。後は、よろしくです」

先輩A「えー。なにそれー。ノリ悪くなーい?」

穂乃果「にこちゃんが、そこのメニューに載ってるパフェ、全部奢ってくれるそうです」

にこ「っ!?」

先輩B「マジーっ!? ありがとー、矢澤さんっ!」

先輩A「でもあたしらだけじゃ食べきれないから、矢澤さんも半分ぐらい食べていいよっ!」 

にこ「に、にこは、もう、おなか……」

先輩A「なあに?」ギロッ

にこ「たっ! 食べますっ! 食べますぅ……っ!」

先輩A「いやぁ、休日に矢澤さんと遊べるなんて、幸せだなぁ」

先輩B「終わったらゲーセン行こうぜー。もちろん、矢澤さんの奢りでーっ!」

にこ「そ、そんなぁ……。ま、まって……ほのかぁ……っ!」

穂乃果「それでは、ごゆっくり」ニコッ


                
――

穂乃果「にこちゃんのクラスメイトの人たちと、友達になっておいてよかったぁ」

穂乃果「まあにこちゃんが私の味方になってくれてたら、逆にあの人たちを、こらしめてあげてもよかったんだけど……」

穂乃果「……ま、そうだよね。仕方ないよね」

穂乃果「私の味方は……。やっぱり……」

穂乃果「――ちゃんだけ……だよね……」

穂乃果「……さて、残りは……。『2人』か」

穂乃果「この『2人』は、どっちも手強そうだし……。キツい戦いになりそうだなぁ」

穂乃果「だけど……。ここで、『諦めるわけにはいかない』」

穂乃果「……なんてね」

プルルルル


穂乃果「もしもし? 今、どこ? ちょっと、話が――」


今日はここまで。続きはまた週末になると思います。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。是非最後まで、見届けてやってください。

             
――

穂乃果「ごめんね、神社にまで押しかけて。バイト中だった?」

希「もう帰るところやったから、ええよ。どうしたん? 話って」

穂乃果「えっとね。希ちゃんは、今のμ's、どう思う?」

希「んー? なんでそんなこと聞くん?」

穂乃果「私たち、前に比べたら随分落ちぶれちゃったでしょ? そんな現状を、希ちゃんはどう思ってるのかなって」

希「うーん。確かにそうやけど、でも……」

穂乃果「……でも、『諦めるわけにはいかない』?」

希「まー。そんなとこやね」

穂乃果「……あっそ。希ちゃんも、そうなんだ」

希「穂乃果ちゃんは?」

穂乃果「……なに?」

希「穂乃果ちゃんは、どう思ってるん?」


          
穂乃果「……私は、μ'sのことが、大好きだから」

穂乃果「だから……。こんなボロボロで、死にかけみたいなμ'sを、いつまでも見ていたくない」

穂乃果「だったらいっそ……。もう終わらせちゃった方がいいかな、って、そう思うよ」

希「終わらせるっていうのは、解散っていう意味?」

穂乃果「そう……。私、μ'sはもう解散するべきだと思うの」

希「……なるほどね」

穂乃果「だけど、希ちゃんは……」

希「それも、いいかもね」

穂乃果「……」

穂乃果「えっ……?」


                        
希「解散。それも、考えるべきなのかも。もうウチらはこれ以上、アイドルを続けるべきでは、ないのかもしれんね」

希「……なんて、μ'sの名付け親でもあるウチが、こんなこと言うのは……。アレやけど」

穂乃果「そんなことない」

希「うん?」

穂乃果「希ちゃん……。本気、なんだね? 本当に、μ'sはもう、終わった方がいいって……」

希「……ウチね、思ってたんよ、ずっと。穂乃果ちゃんに、任せようって」

穂乃果「えっ……」

希「どんな状況でも、穂乃果ちゃんが諦めないなら、ウチも諦めない。ウチは穂乃果ちゃんに、ついていくって」

希「だけど……。穂乃果ちゃんが『ここまで』だと思ったんなら、多分μ'sの終着点は、そこなんだろうなって」

希「ここが、その終着点なんやね……。穂乃果ちゃん」

穂乃果「希ちゃん……」

穂乃果「……うん。そうだよ。ここが、終着点。私たちの、μ'sの、『ゴール』なんだ」


            
希「そっか……」

穂乃果「……希ちゃん」

希「よし、じゃあ最後に解散ライブ、やろかっ! そこでウチらμ'sは、盛大に散ろうっ!」

穂乃果「あはは、いい考えだけど……。もう私たちのライブなんて、誰も来てくれないし」

穂乃果「……そんなことしても、余計惨めになるだけだよ」

希「うーん……」

穂乃果「……でも、ありがとうね、希ちゃん」

希「なにがー?」

穂乃果「私の考えに、賛同してくれて……。μ'sのことを、理解してくれて……」

穂乃果「本当に、ありがとう……っ!」

希「……ええんよ、別に」


                         
希「それじゃみんなにも、話さんと……。でも、納得してくれるかなぁ」

穂乃果「あはは、大丈夫。もうその必要は、ないよ?」

希「えっ? どうして?」

穂乃果「だってμ'sのメンバーはもう、あと『1人』だけだもん」

希「……なんて?」

穂乃果「他のみんなにはもう、話しちゃったの。μ'sはもう解散するから、って」

穂乃果「そしたらみんな、納得してくれたよ。μ'sを、辞めてくれたよ。あと、残ってるのは――」

希「……ちょっと待って。みんな、本当に納得してくれたん? 穂乃果ちゃん一人で、みんなを説得したん?」


                            
穂乃果「……そうだよ? それが、どうかした?」

希「……」

希「……実は、ウチね。どうしても、気になってることがあるんよ」

穂乃果「なに……?」

希「占い」

穂乃果「うらない……?」

希「ウチ、占ってみたんよ。μ'sの未来を。こんな状況になってもまだμ'sに、明るい未来はあるんかって」

希「……だけど結果は、最悪やった。明るい未来なんて、なかった。このまま続けても、その先に希望なんて、微塵もなかった」

希「それどころか、未来にあるのは……」

希「『絶望』、だけやった」

穂乃果「……やっぱりそうなんだ。希ちゃんの占いは、よく当たるもんね。それじゃあ――」

希「だからウチは、今度はその『原因』を、占ってみることにしたんや」


                    
希「結果は……」

穂乃果「……」

希「『μ'sの始まりが、μ'sを終わらせる』と……。つまりその『始まり』こそが、最大の原因だと、占いは教えてくれた」

穂乃果「あははっ。ねえ、希ちゃん。本気……?」

希「うん、本気。全ての『始まり』は……。穂乃果ちゃん、やったよね?」

希「つまり、穂乃果ちゃん。あなたがμ'sを、絶望の待つ未来へ、ウチらを引っ張ってると……。そう占いに、出たんよ」

穂乃果「酷いなぁ。私がμ'sの人気を落としたって、そう言ってるの?」

希「違う……。別に人気がなくなったって、落ちぶれたって、そんなことはウチらにとっては、絶望でもなんでもあらへん」

希「本当に絶望的なのは……。穂乃果ちゃんが今、やろうとしてることなんよ」

穂乃果「はあ~~~~~~~っ!?」


           
穂乃果「言ってること、さっきと違うじゃん、希ちゃん。解散に、賛成してくれたんじゃないの?」

希「解散には賛成だけど……。それを穂乃果ちゃんが言いだしたことに、ウチは、不安を感じてるんよ」

穂乃果「なにそれ……? それって、私の行動は全部、信用できないってこと?」

穂乃果「占いで私が悪いって結果が出たから、だから、私のしようとしてることも、全部間違いなの?」

希「……ウチだって、穂乃果ちゃんを、信じたい」

穂乃果「じゃあ……っ!」

希「だけど……。穂乃果ちゃん本当に、みんなを、『説得』してくれたんっ!?」

穂乃果「……っ!」

希「ねえ、μ'sのメンバーはもう、ウチと、もう一人しかおらんの!? 昨日だって、練習もあって、みんないたのに……」

希「今日だけで、『6人』も、μ'sを辞めたの!? そんなにみんな、すんなり、夢を諦めてくれたん!?」

希「本当は……。穂乃果ちゃんが何か、吹き込んだんじゃないんっ!?」

穂乃果「……」


                   
穂乃果「希ちゃん……。どうしてそんなこと言うの? どうして私を、疑うの?」

穂乃果「占いが、そんなに大事……? 仲間のことよりも、希ちゃんは、占いの方が――」

希「……じゃあみんなに電話して、確認してもええ?」

穂乃果「えっ……?」

希「穂乃果ちゃんがみんなを説得して、みんなもそれで納得したんなら……。解散も、仕方のないことやん?」

希「だけど……。ウチは穂乃果ちゃんが全ての原因だという、あの占いが、どうしても頭から離れないんよ」

希「だから、確認させて? 本当にみんながしっかり、夢を諦めることができたんなら……。それなら、それで解散したとしても……」

希「……決してそこに、絶望なんて、ないと思うから……」

穂乃果「待った」

希「えっ?」

穂乃果「うん、そうだよ。私、μ'sをこの手で、終わらせようとしてたの」


                
希「……っ!!」

穂乃果「みんなを説得したって言うのは、嘘。本当はね――」

穂乃果「無理やりみんなを辞めさせたの。酷いことをたくさん言って、心をバキバキに折って、頭の中を、グチャグチャにして……」

穂乃果「μ'sで活動を続ける気力が無くなるまで、徹底的に、精神的に、痛めつけたの。そしたらみんな、μ'sを辞めてくれたの」

希「なっ……!?」

穂乃果「あはは。自分がバカ過ぎて、嫌になるよ。そうだよね。こんなこと、すぐにバレちゃうもんね」

希「穂乃果ちゃん……。やっぱり……。そう、なんやね……?」

穂乃果「そうなの。私が悪いの。ぜーんぶ、私のせいだよ」

穂乃果「……でもそんなの、占いなんかしなくても、分かってたことでしょう? だって――」

穂乃果「そもそも私が最初にみんなを巻き込んだのが、いけなかったんだから」

希「……」

                  
穂乃果「はぁ……。まあいいや、希ちゃん。もう今更味方なんて、増やそうと思ってないから」

希「穂乃果ちゃん。聞いて?」

穂乃果「なあに? 希ちゃん。もうとっとと、終わらせたいんだけど」

希「考えを改める気は、ない?」

穂乃果「……え?」

希「穂乃果ちゃんが考えを改めて、こんなこと、やめてくれるなら……」

希「きっと、未来は変わる。穂乃果ちゃん次第で、未来は今からでも、変えられる」

穂乃果「あっはは。仮に解散せずにこのままグダグダ続けても、未来なんてないよ」

穂乃果「それに、もう手遅れだし。言ったでしょ? みんなはもう、再起不能だと思うよ」

希「じゃあ今から、謝りにいこう? みんなのところに」

穂乃果「……本気で言ってる?」


          
穂乃果「まるでお母さんだね、希ちゃん」

希「ふっふーん。いくらウチの体がグラマーやからって、まだそんな年じゃないよ?」

穂乃果「……ホントに手強いな、希ちゃんは……」

希「穂乃果ちゃん。さっきも言ったけど、本気でμ'sは解散するべきだと思ってるなら、ウチはそれを止めたりはせえへんよ」

希「……ただ、みんなに酷いこと言って、傷つけてしまったんは、よくない」

穂乃果「……」

希「占いが示した『絶望の未来』は……。きっとそうやって、μ'sのメンバー全員が、あなたに傷つけられて、無理やりμ'sを辞めさせられて……」

希「みんながバラバラになって……。そして二度と、会話を交わすことさえも、なくなる……。そんな未来のことを、指してるんやと思う」

希「だったらせめて、今からでも、みんなと仲直りしよ? μ'sがなくなっても、みんなと良い関係が続けられるように……」

穂乃果「……無理だよ、今更……。謝ったところで、もう……」

希「大丈夫。ウチも一緒に行ったげるから、ね?」

穂乃果「……」


   
穂乃果「……まさか、こんなこと言われるなんて、夢にも思わなかったよ」

希「ふふ。ウチにはどんなことを、言うつもりやったんかな?」

穂乃果「いいよもう……。希ちゃんにはなにを言っても、勝てる気がしないよ……」

希「じゃあ、謝りに行ってくれるんやね?」 

穂乃果「……」

穂乃果「……分かったよ。謝るよ……」

希「っ! ほんまに……?」

穂乃果「うん……。私の、負けだよ……。このまま、μ'sを終わらせることができたとしても……」

穂乃果「その後一人ぼっちじゃ、やっぱり寂しいもん……」

希「……うんっ」


   
穂乃果「でもみんな、許してくれるかなぁ……」

希「ふふっ。ウチがこうすれば、みんなもきっと分かってくれるはずや」

穂乃果「こう……?」

希「わしわしーっ!」

穂乃果「わーっ!? ちょ、ちょっとーっ!?」

希「やぁっと、普段の穂乃果ちゃんに戻ったねっ! わしわしっ!」

穂乃果「わ、分かったからぁっ! やめてよぉーっ!」 


今日はここまでです。続きは明日また。

なんかフラグにしか見えないんだけど…このまま素直に穂乃果が引き下がるかね……

エリチはメンタル折る手法色々あるからな…

             
穂乃果「はぁ……はぁ……。もう、希ちゃん……」

希「あっはは。安心した。やっぱり穂乃果ちゃんは、穂乃果ちゃんやね」

穂乃果「なにで判断したのかな……」

希「これならきっともう、大丈夫やね」スッ

穂乃果「カード……? もしかして、占い?」

希「うん。もう一度、占ってみるわ。μ'sの、未来を」シュッシュッ

穂乃果「……きっと、良くなってるよね?」

希「もちろん……。穂乃果ちゃんの気持ちが、変わったんなら……」

希「きっと、未来も――」

バラッ


           
穂乃果「……? カード、落ちちゃったよ……?」

希「あ、ご、ごめん。失敗やね。そっち、拾ってくれる?」

穂乃果「うん……。あれ、このカード、なんだろ?」ペラッ

希「……っ!? 穂乃果ちゃん、それ……」

穂乃果「骸骨……。死神……、かな? なんだか、不吉だね」

希「……やっぱり占いは、後で――」

穂乃果「はい、希ちゃん」スッ

希「っ!」ビクッ

穂乃果「このカードも……。『仲間』でしょ? 入れてあげなきゃ」

希「……そ、そう、やね」


占いし直しとか自分でフラグ立てにいく希はん…さすがやで!

           
希「……」

希「……なんで」

穂乃果「……」

希「かわら、ないん……?」

穂乃果「……そっか。やっぱり、未来は――」

希「も、もう一回、やれば、きっと大丈夫やっ!」

穂乃果「えっ? 占いって、やり直しがきくの?」

希「……そうや、ないけど」

穂乃果「おかしいね……。私はちゃんと、改心したのに。みんなに謝ろうって、思ってるのに……」

希「……」

希「……ほんまに?」


       
穂乃果「えっ……。希ちゃん、まさか……」

希「っ! 違うんよっ!? 今のは――」

穂乃果「ひどい……。まだ私のこと、疑ってるんだ……っ!」

穂乃果「私、言ってるのに……っ! 一人ぼっちは嫌だって……っ! だから、みんなに謝るってっ!」

希「ご、ごめん。穂乃果ちゃんは、なんも悪くないよ……?」

穂乃果「そうだよね……。私は、悪くない」

希「……」

穂乃果「……悪いのは全部、希ちゃんだ」

希「……えっ?」

穂乃果「希ちゃんが……悪いんだ」

希「穂乃果、ちゃん……?」


                      
穂乃果「だって……。私が改心しても、未来が変わらなかったということは……。原因は私じゃなかったってことでしょ……?」

希「で、でも、占いの結果は、穂乃果ちゃんを……」

穂乃果「違うよ。占いは、『μ'sの始まり』が、μ'sを終わらすって、そう言ってたんでしょ?」

穂乃果「私、考えたの……。『μ'sの始まり』って、もしかしたら、私じゃなくて――」

穂乃果「『μ's』の名付け親である、希ちゃんなんじゃないかって」

希「なっ……。そ、そんな……」

穂乃果「だってそうでしょ? 希ちゃんが名前を付けてくれるまでは、私たちは『μ's』でも、なんでもなかったんだから……」

穂乃果「だから……。全ての始まりはやっぱり、希ちゃん。あなただったんだよ」

希「違う……ウチじゃ、ない……」

穂乃果「希ちゃんが、諸悪の根源だったんだね。希ちゃんが、μ'sを、絶望の未来に――」

希「違うっ!!」


                       
希「ウチじゃないっ! ウチはμ'sを終わらそうやなんて、思ってないっ!」

穂乃果「……」

希「明らかに、占いの結果は、穂乃果ちゃんを指してるやんっ! だって現に、穂乃果ちゃんはμ'sを、壊そうとしてたんやないかぁっ!」

穂乃果「だけど……。私はもう、心を入れ替えたの。そんな気はもう、ないの。なのに未来は、変わらなかった」

希「……嘘やん。全然改心なんか、してないやん」

穂乃果「……希ちゃん。いい加減にしてよ。私、そこまで信用ないの……?」

希「今だって……。ウチに酷いこと、言うたやん……。穂乃果ちゃんはやっぱり、みんなと同じように、ウチを傷つけようと……」

穂乃果「……希ちゃんの方が私に、酷いこと言ってるよ?」

希「っ!!」

穂乃果「でも……。そうだよね。こんなものがあるから、喧嘩になっちゃうんだよね……」

希「……えっ?」

穂乃果「真の悪は……。占いそのもの、なのかもね。こんなものに私たちは、振り回されて……っ!」

ビリィッ!



         
希「えっ……!?」

ビリィッ ビリビリィ!

希「ちょっ! やめ、破かんといてぇっ!!」

穂乃果「……もういらないでしょ? こんなの。希ちゃん、占いに頼るの、もうやめない?」

希「そんな……。でも、だからって、ウチの大切なカード……」

穂乃果「……それもそうだね。ごめんね、弁償するよ。800円くらい?」

希「っ!! ひ、どい……。ひどいよ、穂乃果ちゃん……っ!」

穂乃果「あっ。ごめん……。もしかして結構、高いヤツ?」

希「やっぱり……穂乃果ちゃんは……。酷い人、やったんやね……。心を入れ替えたなんて、嘘やったんやね……」

穂乃果「……酷いのは、希ちゃんでしょ? まだ私のこと、信じてくれないの?」

希「だってっ! こんなこと、するなんて」

穂乃果「私は希ちゃんのためにやったのっ! これは占いにとらわれてる希ちゃんを解放するために、わざとやったことなのっ!」


            
穂乃果「なのに……っ! それでもまだ、私のこと、信じてくれないの……っ!?」

希「で、でも……でもぉっ!」

穂乃果「信じてよっ! 私のこと、信じてっ! 占いなんかよりも、私のことをっ!!」

穂乃果「『仲間』を信じてっ! 希ちゃんっ!!」

希「う、ううぅ……」

穂乃果「……」

希「……」

希「……うぅ。わ、わか――」

穂乃果「あっそ。そんなに私を信用できないなら、私も希ちゃんのこと、今後一切信用しないから」

希「えっ……?」



                         
穂乃果「私はこれからちゃーんと、みんなに謝りに行くけど……。希ちゃんは、ついてこなくていいよ。その代わり――」

穂乃果「二度と私に話しかけないでね? あなたとだけは、μ'sが終わっても、関係を続けていたくない」

希「そんな……。なんで……?」

穂乃果「傷ついたの。せっかく心を入れ替えたのに……。あなたのせいで、替えたばかりの私のピッカピカの心に、傷がついたの」

希「な、なに言って……」

穂乃果「だからぁっ! 希ちゃんは私のこと、信じてくれなかったじゃないっ! 自分を信じてくれない人なんて、嫌に決まってるよっ!」

希「ち、違うんよっ? ウチは、穂乃果ちゃんのこと……っ!」

穂乃果「いいよもうっ! どうせ私のことより、占いの方が、大事なくせにっ! 私のことなんか、嫌いなくせにっ!」

希「そんなこと……っ!」

穂乃果「嫌いなんでしょっ!? だからさっきも私に、セクハラしたんでしょっ!?」

希「――っ!?」


                      
穂乃果「酷いよっ! なんで胸なんか触るのっ!? 私、すごく傷ついたんだよっ!?」

希「ご、ごめん、なさい……っ! そんな、つもりじゃ……」

穂乃果「……もう、近寄らないでね。私はみんなと仲直りして、これからも友達として、また楽しく、遊んだりするつもりだけど……」

穂乃果「あなたとだけはもう、二度と話さないから。あなたみたいな人と、友達だなんて……。ゾッとするよ」

希「そんなぁ……。ウチはほんまに、ただ……」

穂乃果「じゃあね、希ちゃん。私は占いなんか、最初から、信じてなかったけど……」

穂乃果「私にとっての悪者は、希ちゃんだけだからね。私は希ちゃんのこと、一生許さないから」

希「そんな、穂乃果ちゃん……っ! 待って、違うのぉ……っ!」

穂乃果「絶対に、許さないからっ!!」


         
――

穂乃果「やっぱり希ちゃんは手強かったなぁ……。途中で自分でもなにしてるか、分からなくなっちゃったもん」

穂乃果「さてと、じゃあみんなのところに、謝りに――」

穂乃果「――行かないけど、希ちゃんにバレたらどうなるんだろ。まああの状態ならもう、大丈夫かな」

穂乃果「……そして、μ'sのメンバーは――」

穂乃果「――残り、『1人』。これで全てが、終わる」

穂乃果「これが、最後の戦い……。μ'sはこれで……終わる」

穂乃果「気を引き締めていかないとね。ここで失敗するわけにはいかないもん」

穂乃果「……あれ。私、緊張してるのかな……。いつ以来だろう、緊張なんて」

穂乃果「……」

穂乃果「……よしっ!」

プルルルル……


以上です。今日も読んでくださって、ありがとうございました。
続きは未定です。

女子校ならではのセクハラとか聞くけど
さすがにあんな「わしわし」って名前つくくらいの強い揉み方しょっちゅうやってくる奴居たらそりゃ引くし
その上占いやっててミューズって女神の名前応募してくる電波とか実際友達にはなりたくないな
おまけに副会長ときたもんだ

キレないでよ怖いなぁ(´;ω;`)
disった認識なかったけど確かによく見ると酷いこと言ってる気がしてきた

まだ日曜日があるのに未定とな

               
――

バタンッ!

穂乃果「こんにちはっ! 絵里ちゃんっ!」

絵里「ええ……。次からはちゃんと、ノックしてちょうだいね……」

穂乃果「ごめんねっ! それにしても、休日の、しかももう夕方なのに、生徒会室でお仕事なんて……。大変だなぁ、絵里ちゃんも」

絵里「まあね……。ごめんなさいね。学校にまで来てもらっちゃって」

穂乃果「ううん。むしろ、最高だよ。『学校』なんて、私たちスクールアイドルの最期に、この上なく相応しい舞台じゃんっ!」

絵里「最後……?」

穂乃果「うん。最期。そして、この質問をするのも……。絵里ちゃんが本当に、最後だよ」

絵里「あなたが何を言ってるのか、よく分からないのだけど……」

穂乃果「気にしないで。絵里ちゃんはただ、私の質問に、答えてくれればいいの。ねえ、絵里ちゃん――」

穂乃果「今のμ'sのこと、どう思う?」


                
絵里「……」

穂乃果「……」

絵里「……まあ、正直言って、かなり辛い状況よね。人気もなくなって、ライブも……。この前なんか、誰も来てくれなかったし」

穂乃果「うん。それで?」

絵里「μ'sは今、窮地に立たされてるわ。苦しい場面は今までもあったけど、ここまで追い込まれたのは、初めてなんじゃないかしら」

穂乃果「うん。だけど?」

絵里「だけど、私たちは諦めるわけにはいかない。まだまだこれからよ。努力を続けていればきっと、夢は叶えられるわ」

穂乃果「はい。模範解答ありがとう、絵里ちゃん。そして、不合格だよ」

絵里「模範解答なのに、不合格なの?」

穂乃果「うん。まあ、今更期待もしてなかったけど」

絵里「穂乃果。さっきから、何を言ってるの?」

穂乃果「分からなくていいよ。バカな優等生さん」


               
絵里「……バカ?」

穂乃果「あ、ごめんね。私がそう思ってるわけじゃないよ。ただこの紙に、そう書いてあったから……」

絵里「なによ、その紙?」

穂乃果「これはね、『音ノ木坂学院裏サイト』の掲示板に書かれた、絵里ちゃんへの悪口を、まとめた紙だよ」

絵里「裏サイト……? 私への、悪口……?」

穂乃果「そ。探せば出てくるもんだねぇ。じゃあ次、『生徒会長のくせにアイドルとか、キモイ』」

絵里「……ねえ、どういうつもり? そんなもの読みあげて、どうするの?」

穂乃果「だから、絵里ちゃんは生徒会長でしょ? 裏サイトだろうがなんだろうが、学院の生徒の意見なんだから……。ちゃんと、聞いてあげないとね」

穂乃果「『衣装が全然似合ってない』『無理してる感が出てる』」

絵里「……」


           
数分後

穂乃果「『ウザイ』『腹黒い』『生徒会長としてふさわしくない』」

絵里「……」

穂乃果「『ブス』『早く生徒会長やめろ』『アイドルやめろ』」

絵里「……」

穂乃果「『死ねばいいのに』『メスブタ』『気色悪い』『ゴミクズ』」

穂乃果「『本当に嫌い』『学校に来ないでほしい』『自殺しろ』『優等生ぶんな』」

穂乃果「……以上。生徒会長絵里ちゃんへ寄せられた、100件の意見、もとい悪口でした」

絵里「あら、もう終わり?」

穂乃果「まだだよ? あと200件ぐらいあるもん。続けるね」

穂乃果「『なんか怖い』『冷たそう』『クール気取るな』『偉そうにすんな』」

絵里「……」

穂乃果「あっ。あとで感想言ってもらうから、ちゃんと聞いててね?」

絵里「聞いてるわよ……」

穂乃果「『地獄に落ちろ』『人間のクズ』『性格悪そう』『グチグチうるさい』」


              
数分後

穂乃果「『ビッチ臭い』『ブス』『男に媚びてる』『色気づいてんじゃねえよメスブタ』」

穂乃果「『生徒会長失格』『早く死なないかなぁ』『あの顔見てると腹立つ』『さっさと消えろ』」

穂乃果「『そもそも、なんであんなゴミが生徒会長なの?』『あいつのせいであたし学校行きたくないわぁ』」

穂乃果「『てか、なんでアイドルなんかしてんの? ポイント稼ぎ?』『媚びまくっててムカつく。普段とのギャップ狙い?』

穂乃果「『大っ嫌い。調子乗りすぎ』『廊下走ったぐらいでいちいちうるせえんだよ。マジうざいわー』『アイドル辞めろ。笑顔がキモイ』」

穂乃果「『死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね』『消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ』」

穂乃果「……と。これで、全部かな? なにか感想は? ていうか、ちゃんと聞いてた?」

絵里「『ブス』って書き込みが、38件あったわね。やっぱり短く手軽に人を傷つけられる言葉だから、便利なのかしら」

穂乃果「……へえ、数えてたの?」

絵里「ただ聞いてるだけっていうのも、退屈じゃない?」


                    
絵里「『生徒会長にふさわしくない』とか、『生徒会長失格』とか、私の役職に対する不満は、85件にものぼったわね」

絵里「こういう意見は、どこがどうふさわしくないのか、ちゃんと理由を添えてもらえると、ありがたいのだけれど……」

絵里「だけど『どこが悪いのか言ってくれ』なんて、甘えよね。みんなに認められる生徒会長になれるよう、これからも精進するわ」

絵里「……こんなとこで、どうかしら?」

穂乃果「うん。流石だね、絵里ちゃん。これだけの悪口を、全部受け止められるなんて……。常人じゃ、できないよ」

絵里「褒めて頂けて嬉しいわ。それで、どうしてあなたはこんなことを?」

穂乃果「別にー? 私はただ絵里ちゃんに、自分がどれだけの人に嫌われてるのか、自覚して欲しかっただけだよ」

絵里「……? だから、穂乃果。なんであなたがそんなこと……」

穂乃果「生徒会長って、みんなの人気者だと思ってたけど……。実際はこんなに嫌われてるんだねぇ。私だったらこんな悪口、耐えられないよ」

絵里「質問には答えてくれないのね……」


                     
絵里「……あなた、なんなの? 私の前で、私の悪口を読み上げるって……。ちょっと、酷過ぎるんじゃない?」

穂乃果「……その割には、冷静だね。絵里ちゃん」

絵里「私のことはどうでもいいの。ねえ、穂乃果。あなたって、こんな酷いことする人だったっけ?」

穂乃果「違うよ。これはね、絵里ちゃんが生徒会長として、ちゃんと平等に、自分にとって良い意見だけじゃなくて、悪い意見も、受け止められるのか……」

穂乃果「……っていうのを確かめる、テストだったの。そしてその結果は、大合格だよ」

穂乃果「すごいっ! 絵里ちゃんは生徒会長にふさわしい、素敵な女の子だよっ!」

絵里「……話っていうのは、このこと? こんなことするために、わざわざ学校まで来てくれたの?」

穂乃果「ううん。本題はこれからだよ。あのね……。絵里ちゃん、さぁ……」

穂乃果「μ's、辞めてくれないかな?」

絵里「……は?」


              
絵里「……なんで――」

穂乃果「分からないの? 絵里ちゃんが、μ'sの人気を落としてるからだよ」

絵里「ああ。メンバーである私がたくさんの人に嫌われてるから、それがμ'sの人気に影響してるって、言いたいのね」

穂乃果「そう。絵里ちゃんのせいで、私たちまで、みんなから嫌われちゃってるの。だからさ、絵里ちゃん――」

絵里「辞めないわよ?」

穂乃果「……ふーん。じゃあこれからも絵里ちゃんは、私たちに、迷惑をかけ続けるんだ」

絵里「そうね。迷惑をかけちゃうわね。それは本当に、ごめんなさい」

絵里「でも……。みんなから嫌われてる、私だけど……。こんなダメな、私だけど……。もし、良かったら――」

絵里「これからも、アイドル活動を一緒に、続けてくれないかしら」ニコッ

穂乃果「……」

穂乃果「ふざけてんの……?」


                     
絵里「ふざけてなんかないわ。大真面目よ」

穂乃果「よく言えるよね、そんなこと。絵里ちゃんのせいで、μ'sはこんな風になっちゃったんだよ?」

穂乃果「絵里ちゃん言ったよね? ここまで追い込まれたのは、初めてだって。ここまでμ'sを追い込んだのは、自分のくせに」

穂乃果「『諦めるわけにはいかない』? あなたのせいで、私たちは、夢を諦めそうになってるのに」

絵里「……ごめんなさい」

穂乃果「いらないよそんな言葉。本当に私たちに申し訳ないと思うなら、責任とって、μ'sを辞めて」

絵里「それは、無理。だって私はまだ、アイドルを続けたいから」

穂乃果「はぁ? 絵里ちゃん、それでも優等生の、生徒会長? わがままにも、ほどがあるよ?」

絵里「今の私は優等生でも、生徒会長でもない。μ'sのメンバーの一人、絢瀬 絵里として、わがままを言ってるの」

絵里「そしてμ'sの絢瀬 絵里には、気心の知れた仲間がいる。だから普段の私なら絶対言わないような、こんなわがままを、気兼ねなく言えてしまうの」

穂乃果「……」


                 
絵里「……迷惑をかけてるのは、分かった。今まで気づけなくて、ごめんなさい」

絵里「だけど……私に、チャンスをくれないかしら。みんなから好かれるアイドルになれるよう、努力するから……」

絵里「だから……。もう少しだけ、私のわがままに、付き合ってほしいの」

穂乃果「……」

穂乃果「はぁ……。分かった。いいよ、絵里ちゃん。これからも、μ'sにいても」

絵里「ありがとう……」

穂乃果「そのμ'sがまだ残ってれば、だけどねっ!」

絵里「……え?」

穂乃果「ふふっ……。あははっ! あはははははははっ!」

              
穂乃果「あっはははははは! 流石だね、絵里ちゃんっ! まさかこの状況で、そんな言葉が出てくるなんて……」

穂乃果「やっぱりすごいなぁ。どんなメンタルしてるの? 最後に回して、正解だったよぉ」

絵里「なに言ってるの……?」

穂乃果「だから、あなたがさっきから必死にすがり付こうとしてる『μ's』は、もうないのっ! なくなったのっ!」

穂乃果「だってもう残ってるメンバーは……。絵里ちゃんだけ、なんだからっ! まあ一人で続けるって言うなら、話は別だけどねっ!」

絵里「私だけ……? どういうこと……? 他のみんなは、どうしたの……?」

穂乃果「みーんな、辞めちゃったぁ。ううん、私が、辞めさせたのっ!」

絵里「……」

穂乃果「大変だったんだよぉ。みんなの『弱点』を探って、それを抉って、心を壊して、立ち直れなくして、二度と、アイドルに復帰できなくして……」

穂乃果「そうやってμ'sのメンバーを、減らしてって……。それで最後に残ったのが、絵里ちゃんなのっ!」

絵里「そうなの?」

穂乃果「……? そう、だけど……」


           
穂乃果「もしかして、信じてない? 本当だよー? 明日になれば、すぐに分かるよ? 多分練習に、誰も来ないと思うから」

絵里「……」

穂乃果「あはっ。絵里ちゃんも、辞めちゃおうよ。一人で続けたって、しょうがないでしょ?」

絵里「……私は、辞めない。例え一人になったって……。なんならまたメンバーを集め直して、もう一度、最初から――」

穂乃果「無理に決まってるでしょっ!? あなたはみんなから、嫌われてるんだからっ! メンバーなんか、集まるわけがないっ!」

絵里「いいえ。諦めなければ、きっと――」

穂乃果「またそれっ!? いい加減、諦めなよっ!! μ'sはもう、終わりなのっ! 終わりに、するべきなのっ!」

絵里「……違う。終わりじゃない。μ'sはこれからまた、復活するのよ」

穂乃果「そんなことないっ!!」

絵里「ある」

穂乃果「……」


穂乃果「……なにか、おかしい」

             
穂乃果「なんなの? なんで絵里ちゃん、さっきから……。そんなに、落ち着いてるの?」

絵里「……」

穂乃果「私の言ったこと、衝撃的だったよね? ショックだったよね? ねえ?」

絵里「……」

穂乃果「そもそも今の私、普段と全然違うよね? 私がこんな酷い人だなんて、思わなかったよね?」

絵里「……ええ、そうね」

穂乃果「だから、なんでそんなクールでいられるのっ!? 豹変した私を見て、なんとも思わないのっ!?」

絵里「……まあ確かに、『最初に聞いた時』は、ビックリしたわよ。あなたがそんなこと、企んでたなんて」

穂乃果「……」

穂乃果「どういう、こと……?」


                     
穂乃果「知ってたの……? まさか誰かから、聞いてたの……?」

絵里「ええ。あなたのことは、一度全部、教えてもらってたわ。『電話』でね……」

穂乃果「……『電話』?」

絵里「そう。予め聞いていたから、実際に豹変したあなたを見ても、冷静に対処できた。そして――」

絵里「そして私の役目は、ここまで。時間稼ぎは、もう終わり」

穂乃果「時間……稼ぎ……?」

絵里「それじゃ、後は任せたわ――」

ガチャッ!

穂乃果「――えっ!?」








絵里「――海未」

海未「ありがとうございます、絵里」


今日はここまで。続きは、週末になると思います。

                
穂乃果「海未……ちゃん……っ!?」

海未「穂乃果……。いつだってあなたは、先走って……。私のずっと先を、行ってしまうんですから……」

海未「……ですが、やっとあなたに、追いつきました……。追いつくことが、できました」

穂乃果「何言ってるの、海未ちゃん……? ことりちゃんは、どうしたの……?」

海未「ことりは……。私たちを、待ってくれています」

穂乃果「はぁ……? どういうこと……? ていうか、海未ちゃん……」

穂乃果「時間稼ぎって、なに……? あなたは一体、なにを……?」

海未「……私の考え。そして、私が今まで、『何をしていたのか』。その答えは――」

穂乃果「――っ!?」


               
―――――――――
――――――
――――
――


数時間前、穂乃果がちょうど、花陽の家にいた頃……



ことり「海未ちゃんっ!!」

海未「ことり……。どうしたのですか? あなたまで、私になにか……」

ことり「どうして穂乃果ちゃんを、殴ったりしたのっ!?」

海未「えっ……? こ、ことり……?」

ことり「酷いよっ! 穂乃果ちゃん、すごく怯えてたよっ!?」

海未「なっ、ち、違うんですっ! 落ち着いてください、ことりっ!」

ことり「落ち着いてなんかいられないよっ! だって、穂乃果ちゃんは、穂乃果ちゃんは――」

ことり「μ'sを辞めたいって、言ってたんだよっ!?」

海未「はっ……!?」


        
数分後

ことり「……」

海未「……落ち着き、ました?」

ことり「……ううん。多分、まだ……。だってそんな話、信じられないんだもん」

海未「無理も、ないです。ですが……。全て、真実です」

ことり「穂乃果ちゃんが……、μ'sを、終わらせる……?」

海未「ええ。確かに、そう言いました……。そう言って彼女は、みんなのところへ行くと……」

海未「……そして、こうも言っていました。『μ'sは今日中に、解散を迎える』と……」

ことり「……穂乃果ちゃんは一体、なにを……?」

海未「分からない……ですが――」

海未「あの時の彼女の『目』は、普通じゃなかった。雰囲気もまるで、いつもと違った」

海未「私は……。胸騒ぎがして仕方がないんです。穂乃果はなにか私たちにとって、良くないことをしようとしてるんじゃないかと――」

ことり「そ、そんなっ!」


                
ことり「穂乃果ちゃんが、そんなことするわけないっ! 海未ちゃん、穂乃果ちゃんを信じてあげようよっ!」

海未「ええ……。ですから、これから、確かめに行こうと思います」

ことり「確かめる……?」

海未「はい。私もこれから穂乃果の後を追って、みんなに会いに行こうと思います」

海未「なにもなければ……。それが一番です。私もそう、願っています」

海未「大切な、幼馴染を……。私だって、信じたいんです」

ことり「海未ちゃん……」

海未「では……」

ことり「待ってっ!」

海未「……?」

ことり「……ことりも、行く」



          
ことり「ことりだって、穂乃果ちゃんの幼馴染だもん……っ! だから、この目で確かめたい……っ!」

ことり「穂乃果ちゃんを……っ! 信じたいっ!」

海未「……ふふっ。そう言うと、思ってましたよ。行きましょう、ことりっ!」

ことり「……うんっ!」

ヴーヴー

ことり「あっ、電話……。ごめんね、ちょっと……」

海未「はい、ここで待ってますんで」


海未「さて。最初は、誰のところに行きましょうか……」

海未「……よし、決めました」


          
ことり「……」グスッ

海未「ことり、電話はもう……って、どうしたんですか!? なぜ、泣いてるんですっ!?」

ことり「うっ……うっ……。て、てんちょうがぁ……」

海未「えっ……。あ、そういえば、その格好……。ことり、まさか――」

ことり「す、すぐにもどってこいって……。ものすごく、どなられましたぁ……っ!」

海未「バイトをすっぽかしてきたんですね……。行ってください、ことり」

ことり「えっ……。でも……」

海未「私なら、大丈夫です。こっちは任せてくださいっ!」

ことり「ご、ごめんね……。海未ちゃん……。私の分も……」

海未「ええ……。ことりの意志は、ちゃんと私が受け取りました。私たち幼馴染の思いが合わせれば、きっと……」

ことり「うんっ……」


                      
海未「では、私はこれから、花陽の家に行こうと思います」

ことり「えっ……? なんで、かよちゃん……?」

海未「花陽はメンバーの中でも、μ'sへの憧れが、特に強かった子ですから……。穂乃果が最初に選ぶなら、彼女かと」

海未「……あとは、幼馴染の勘です」

ことり「そっか……。ねえ、海未ちゃん」

海未「なんですか?」

ことり「μ's……。無くならない、よね?」

海未「……ええ。まだまだ私たちは、こんなところで終わったりしませんっ! 絶対に、終わらせたりしませんっ!」

ことり「……ありがとう、海未ちゃん。穂乃果ちゃんを……。止めてっ!」

海未「はいっ! 待っててくださいことりっ! 穂乃果と、みんなとまた、μ'sを続けましょうっ!」

ことり「うんっ! ことり、待ってるからっ! μ'sを救って……っ! 海未ちゃんっ!」


          
――

海未「花陽っ! μ'sを辞めてはいけないっ! あなたはまだ、頑張れる筈ですっ!」

花陽「ダメですよ……。もう私、μ'sにいられないです……。だって私、みんなの足を引っ張って――」

海未「そんなことないですっ! 花陽はちゃんと努力してるじゃないですかっ! μ'sのために頑張ることは、足を引っ張ることにはなりませんっ!」

花陽「で、でも、穂乃果ちゃんが、才能ないって……」

海未「穂乃果にそう言われたから、なんですか!? だったらもっとたくさん努力して、上手くなって、穂乃果を見返してやればいいじゃないですかっ!」

花陽「無理ですよぉっ! 私は何をやっても、ダメなんですっ! アイドルに向いてないんですっ! だから努力なんてしたって、無駄なんですっ!」

海未「無駄なんかじゃないっ! 努力は、必ず報われますっ! だからあなたはいつも、あんなに楽しそうに、歌って踊ってるんでしょう!?」

花陽「っ!!」

海未「ちゃんと……。あなたの努力は、実を結んでるんです。でなきゃあんな笑顔で、あんなに大変なダンスを、踊れるわけないんですから」

花陽「……」


           
花陽「私、は……」

海未「……花陽、アイドルって、『楽しい』でしょう?」

花陽「えっ……」

海未「努力が報われた時なんか、特に……。それまで辛かった分、余計に楽しく感じますよね」

海未「だから辞められないんです。私、『楽しい』から、アイドルやってるんです」

花陽「っ!!」

海未「……花陽は、どうですか?」

花陽「……」

花陽「はいっ……。私もですっ!」


         
凛「……」

海未「凛は、どうですか?」

凛「っ! えっ……」ビクッ

海未「……アイドル、楽しいですよね?」

凛「……もう、分からないよ」

海未「えっ……?」

凛「もうやだよ……。凛は、凛が分からないの……。自分のことなのに、分からないの……」

海未「……どういうこと、ですか?」

凛「だって、凛にはコンプレックスがあったはずなのに……。猫みたいな、『可愛い』喋り方を、自分からしてたんだよ……?」

凛「おかしいよね……? なんで凛は、あんな喋り方、してたんだろ……」

海未「……」

                    
海未「凛。誰もあなたの喋り方を、おかしいだなんて思ってませんでしたよ? むしろ私は、すごく似合っていて、可愛いと思ってましたけど」

凛「だ、だから、それがおかしいんじゃんっ! 凛はそういう可愛いことをするのが、苦手だったんだよ……?」

海未「……じゃあ凛は、無理やり喋ってたんですか? 辛いのを我慢して、可愛い喋り方を?」

凛「分かんないよっ! そんなことなかった気がするけど、そうだった気もするのっ! 凛はもう……。自分が、信じられないっ!」

海未「……ではもう一度、あの喋り方に、戻してみませんか?」

凛「えっ……。ど、どうして……?」

海未「深い意味はありませんよ。ただ私は、前の喋り方の凛のほうが、好きなので……」

凛「……」

凛「……こうか、にゃ?」

海未「ええ……。やっぱりその方が、凛らしいですね」


                 
凛「でも……やっぱり、おかしいよ。凛は……」

海未「凛。あなたは今までずっと、その喋り方で、やってきたんじゃないですか。ならきっと凛は、その喋り方を、気に入ってしまってたんですよ」

海未「コンプレックスなんて、関係ないほど……。だって、そんなに、似合ってるんですもの。そちらの方が凛は、自然ですよ」

海未「いいじゃないですか、それで。喋り方に、『深い意味』なんて、いらないんです」

海未「それに、凛はせっかく、可愛いんですから……。もっともっと、可愛くなってしまえば、いいんですよ」

凛「……」

花陽「り、凛ちゃんっ! 私も、そう思うっ! せっかく可愛いのに、やめる必要なんてないよっ!」

凛「かよちん……」


                    
海未「二人とも、私と一緒に穂乃果のところに行きましょう? 言いたいこと、山ほどあるでしょう?」

花陽「……はいっ! 私はアイドルを続けたいって、言いたいですっ! こんな楽しいこと、辞められるわけありませんっ!」

凛「……」

凛「凛は……」

海未「……」

凛「……凛は、『可愛く』なりたいって! これからはもっともっと、アイドルらしく、可愛くなりたいっ! って、言いたいっ!」

凛「言って、やるにゃあっ!!」

海未「その意気ですよ……っ! 二人ともっ!」

          
――

海未「穂乃果が言っていた『μ'sを終わらせる』というのは、こういうことだったんですね……」

海未「なんて、酷い……。穂乃果……。どうして、こんなことを……」

海未「……ですがこれで、μ'sのメンバーが『2人』、戻ってきましたっ!」

海未「これで残りは……『4人』ですね」

海未「この調子で、どんどんみんなを、μ'sに引き戻して――」

海未「μ'sを、復活させますっ!」

海未「……とりあえず、まずは――」

海未「『電話』を、しなければなりませんね」


プルルルルル……  



              
――

絵里「――もしもし? どうしたの、海未?」

『あ、良かった。繋がって……。真姫と希には繋がらないし、にこは通話中で……』

絵里「希は今の時間はバイト中かもね。ていうか、みんなに電話をかけてるの? なにかあったの?」

『あの、信じられない話かもしれないですが……。落ち着いて、聞いてください』

『……穂乃果がμ'sを、解散に追い込もうと、してるんです。私たち全員に、μ'sを辞めさせようと、してるんです』

絵里「えっ……? なに、それ……? 穂乃果が……?」

『はい……。現に花陽と凛は、穂乃果に酷く傷つけられたみたいで……。さっきまで、すごく落ち込んでいたんです』

絵里「なっ……!? そんな、穂乃果が、二人を……?」

『はい……。絵里は、今どこにいますか?』

絵里「私は今、学校の、生徒会室だけど……」

『そうですか……。では、お願いがあるのですが……』

『穂乃果が来たら、時間を稼いでくれませんか? 私がみんなを立ち直らせて、そこに行くまで……』
        

                   
絵里「時間を稼ぐ……? 具体的には、なにをすれば?」

『……穂乃果はどんな手を使ってでも、あなたの心を壊しにくるでしょう。ですから――』

『――耐えてください。心を、保ってください。どうか、穂乃果の思い通りに、させないでください』

絵里「……分かったわ。任せて。あなたが来るまで、耐えてみせるわ」

『お願いします。きっとみんなを連れて、生徒会室に行きますから……』

絵里「……穂乃果は、いつ私のところに、来ると思う?」

『……多分絵里は、最後だと思います。穂乃果はきっと、絵里を最後の相手に、選ぶと思います』

絵里「なぜ、そう思うの?」

『絵里はμ'sのメンバーを集めるに当たって、一番、苦戦した相手でしたから……」

絵里「ああ、確かに……。後回しにされそうでは、あるわね」

『はい。それと、あとは……。幼馴染の勘、ですかね』

絵里「……そう。ところで海未、みんなを集めて、穂乃果をここに引きとめて、どうする気なの?」

『……そんなの、決まってますよ。私はただ、穂乃果に――』


            
海未「あと『4人』……」

――

カリカリカリカリ……

海未「真姫っ! 無事ですかっ!?」

真姫「……」ブツブツ……

花陽「真姫ちゃん……? なに、してるの? なに書いてるの……?」

凛「……? うわっ! こ、このノート、文字がビッシリにゃっ!?」

海未「……もしかして、勉強、してるのですか? 真姫……」

真姫「……」カリカリカリ……

海未「真姫、聞いてください。話が、あるんです」

真姫「……さいなぁ」カリッカリッ

海未「……真姫? 今は一旦手を止めて、私の話を――」

真姫「うるっさいなぁっ!!」ガリッ!
    

          
真姫「私は今、勉強してるのっ! 医者になるための勉強を、してるのっ!」

花陽「ま、まきちゃん……?」

真姫「邪魔しないでよっ! 時間を無駄に使わせないでっ! もし私が医者になれなかったら、あなたたちのせいだからねっ!?」

凛「な、何を言ってるの……? 真姫ちゃんなんか、怖いにゃ……」

真姫「……」カリカリカリ

海未「……穂乃果に何か、言われたんですね?」

真姫「っ!」ビクッ

海未「勉強は大事ですが……。休憩も大事ですよ、真姫。外に出ましょう?」

真姫「休憩なんかいらない……! 時間がもったいない……っ! そんな暇があったら、勉強しなきゃ――」

海未「あなたはそれで、いいんですか?」
    

          
真姫「……はぁ?」

海未「あなたがしたいことは、本当にそれですか? 勉強なんかよりもやりたいことは、ありませんか?」

真姫「やりたいとかやりたくないとかじゃないのっ! 勉強っていうのは、『やらなくちゃいけない』ことなのっ!!」

海未「じゃああなたは、やらなくちゃいけないことだけやって、やりたいことは全部、捨てるのですかっ!?」

真姫「勉強をするためなら、捨てるわよっ! 音楽も、アイドルも、全部……っ!」

海未「……本気ですか?」

真姫「だって、後悔したくないもの……っ! もしもやりたいことをやって、勉強を疎かにして、医者になれなかったとして……」

真姫「自分のやりたいことに使った時間を、勉強に当ててれば、って……。その時になって後悔したくないから、今、勉強してるんじゃないっ!」

海未「……じゃあもし、このまま勉強だけをして、人生で一度しかない高校生活を、勉強だけで終えて……」

海未「そのまま医者になれたとして、『あの頃もっとやりたいことをやってれば良かったな』って、後悔しないと言い切れますかっ!?」

真姫「っ!!」


        
海未「……今しかないんですよ。みんなでアイドルをやれるのは……。今この時間しか、ないんですっ!」

真姫「だ、けど、勉強だって、しなきゃいけないのよっ! 勉強にも、時間を割かなきゃっ!」

海未「……真姫。なにをそんなに焦ってるんですか? 時間っていうのは、あなたが思ってる以上に、いっぱいあるんですよ?」

真姫「えっ……」

海未「どれだけ勉強に時間を割いても……。やりたいことをやれるぐらいの時間は、残せる筈でしょう?」

海未「私たちの周りには、楽しいことがたくさん転がってるのに……。外にも出ず、勉強しかしないなんて……」

海未「それこそ……。『時間がもったいない』、ですよ」

真姫「……」

海未「……真姫。μ'sを、辞めないでください。私たちはあなたと一緒に、これからも――」

海未「『楽しい時間』を、過ごしていきたいんです」


           
真姫「……」スタスタ

真姫ママ「真姫、どこに行くの?」

真姫「……ちょっと、気分転換」

真姫ママ「……遊びに、行くのね?」

真姫「遊んじゃいけない? 私、高校生なんだけど?」

真姫ママ「……」

真姫ママ「……次のテスト、満点を取りなさい」

真姫「……え?」

真姫ママ「成績を、維持しなさい。やるべきことを、やりなさい。そしたら――」

真姫ママ「……私ももう、何も言わないわ。やりたいことを、好きなだけ、しなさい」

真姫「……ありがとう」

真姫ママ「遅くならないうちに、帰ってきなさいね……」


凛までで今日は終わるつもりでしたが、せっかくなんで。真姫ちゃん誕生日おめでとうございます。
続きは、明日の夜に。

                  
海未「あと『3人』……」

――

海未「見つけましたよっ! にこっ!」

にこ「っ!?」ビクッ

先輩A「……? だれ?」

先輩B「ほら、μ'sの……」

海未「はぁ……はぁ……。電話も繋がらないし、家にも帰ってないし……。ゲームセンターなんかに、いたんですね」

海未「みんなにも、探してもらってたんですよ? とりあえず、合流しましょう」

先輩A「ちょっとー。あたしらまだ、矢澤さんと遊びたいんだけどぉ?」

先輩B「勝手に連れてかないでくれるー?」

海未「……にこ。この方たちは、お友達ですか?」

にこ「えっ……。えっと……」

先輩A「友達だよねぇ?」ギロッ

にこ「ひっ! そ、う、そうなの。ともだち……」

海未「……」


           
先輩A「ていうか矢澤さん。またちょっと顔赤くなってるよぉ?」

先輩B「あはは。また後輩に、情けない姿見られちゃったねぇ」

にこ「っ!!」

海未「……今の発言、どうも友達とは思えませんね?」

先輩A「うん。友達じゃないよ? あたしらこいつのこと、いじめてんの」

にこ「……っ! うぅ……」

先輩A「ごめーん。バラしちゃったー。恥ずかしいねぇ。いじめられてること、後輩にバレちゃって」

海未「……一番恥ずかしいのは、あなた方では?」

先輩B「ははっ。いじめかっこ悪いって? でもいじめられてるヤツの方が、よっぽどかっこ悪いと思うよー?」

にこ「……」

海未「……いえ、私が言いたいのは、そうではなく――」

海未「あなた方が何も知らずに、にこの上に立った気でいることが、恥ずかしいと言ってるのです」


                    
先輩A「……どういうこと? 意味わかんなーい」

海未「ですから、あなた方が勝手に、にこを『いじめた気』になってるだけで……。別に、にこはあなた方のことなんか、全く気にも留めてないんですよ」

先輩B「はぁ? 無理あるっしょ。こんなにビクビクしてんのにさぁ」

にこ「う、み、ちゃん……。なに、言ってるの……?」

海未「……にこは、強いんです。いつものでかい態度も、強さの表れなんです。自信の表れなんです。ですから――」

海未「あなた方になにをされようが、何を言われようが、にこは絶対に、負けませんっ!」

にこ「っ!!」

海未「にこは……『最強』なんですっ! 私はそう、信じてますっ!」

先輩A「……この子、なんか痛いわ」

先輩B「いこー。矢澤さん」

にこ「……」

にこ「……行かない」

先輩A「はぁ? 今、なんて――」

にこ「あんたたちと遊んでる暇なんかないっ! みんなのアイドルにこにーは、忙しいのっ!!」


               
先輩A「……っ!?」

先輩B「な、なにいきなり、大声出してんの……?」

にこ「にっこにっこにーっ! まんまと、にこの演技に、騙されてくれたにこっ!」

先輩A「は、はぁ!?」

先輩B「えんぎぃ!?」

にこ「まさかにこにーが、いじめなんかに屈するとでも、思ったのぉ? はっずかしーっ! 全部演技だったんだよぉ? いじめられてる、フリをしてたんだよぉ?」

先輩A「そ、そんなわけねえだろっ!」

先輩B「大体、フリなんかする意味ないじゃんっ!」

にこ「だーかーらぁっ! にこの演技力を、あんたたちで試したのっ! うん。これなら、女優としてもやっていけそうにこっ!」

先輩A「はぁ……? 舐めてんの?」

先輩B「お前、ちょっと調子乗りすぎだわ……」

海未「……もう、ここらでやめにしませんか? にこはこの通りですし、これ以上続けても、惨めなのはそちらの方ですよ?」

先輩A「くっ……!」

先輩B「もういいよ、いこ……」

にこ「ばいばーいっ! また学校でも、にこの演技力テストに付き合ってねーっ!」

         
にこ「――ってあああああっ! どうすんのよあんなこと言っちゃって、いじめがより酷くなったらあああっ!!」

海未「流石ですね、にこ。確かに女優としてもやっていけそうなほどの、演技力でした」

にこ「うっさいわねっ! あんたがやらせたんでしょうがっ! ううぅぅ……。どうしよう……」

海未「……一つ聞かせてください、にこ。どうしていじめられていることを、私たちに隠してたんです?」

にこ「言えるわけないでしょっ!? 恥ずかしいし、情けないし、惨めだし……。にこ、先輩なのに……っ!」

海未「……私は仲間がいじめられていると知ったら、情けないとか惨めとかよりも、『助けたい』と、まず思いますけどね」

にこ「だからそれが、惨めなんじゃない……。後輩に、助けられるなんて……」

海未「先輩後輩なんて、関係ありませんよ。仲間に助けを求めることは、決して、恥ずかしいことじゃないんです」

にこ「……海未ちゃん。あんた、なんか変わった……?」

海未「えっ……? い、いえ、そんなことは……。そう、ですかね……?」


            
にこ「……ま、いいわ。助けてくれてありがとうね、海未ちゃん」

海未「いえ……。にこがあの場面で、勇気を出してくれたからですよ」

海未「あれだけの勇気があれば……にこはもう、大丈夫です。だけど辛い時は、私たちを、頼ってください」

にこ「……そうさせてもらうわ」

真姫「にこちゃんっ!」

にこ「っ! 真姫ちゃん……っ!?」

真姫「大丈夫……? 穂乃果に、なにか――」

にこ「真姫ちゃんこそっ! 何度も電話したのに、全然出てくれなくて……。心配したのよっ!?」

真姫「あっ……。ご、ごめん……」

にこ「ほんっとに……。でも大丈夫そうで、よかった……」

海未「……ふふっ。にこはやっぱり私たちの、優しい先輩ですね」


                
海未「あと『2人』……」

――

海未「希っ! 大丈夫――って、これは……!?」

にこ「希がいつも大事にしてる、カードじゃない……。なんでこんな、ビリビリに……」

凛「ま、まさか、穂乃果ちゃんに、やられたのかにゃ!?」

希「……ううん。半分は穂乃果ちゃんだけど、もう半分は、自分でやったんよ……」

花陽「えっ……。ど、どうして、ですか……?」

希「もう、いらんもん……。こんなもののせいで、ウチは……。大切な友達を、失ったんやから……」

真姫「こ、こんな希、今まで見たことない……」

海未「希っ! なにがあったんですかっ!? 大切な友達というのは……穂乃果のことですかっ!?」

希「……ウチが、占いなんかに頼り過ぎるから……。これじゃ穂乃果ちゃんに呆れられんのも、仕方ないわ……」

海未「……」


           
数分後

海未「……なるほど。占いの結果が……。それにしても、『絶望の未来』、ですか……」

希「うん……。でもこうなるとやっぱり、ウチが全ての原因なんかなぁ……」

にこ「なっ、そんなわけないじゃないっ! 悪いのは、穂乃果よっ!」

真姫「そうよっ! 落ち着いて考えてみてよ、希っ!」

希「……そういえば、みんな……。穂乃果ちゃんにはちゃんと、謝ってもらえたん?」

花陽「えっ……? い、いえ……」

凛「……ていうか穂乃果ちゃんに謝る気なんか、あるのかにゃ……?」 

希「そ、そう、なんや……。穂乃果ちゃん、やっぱり、嘘ついてたんや……」

海未「……」


      
にこ「でもこれで、分かったでしょ? 穂乃果は改心なんか、してなかったのよ……」

真姫「……つまり、原因は、やっぱり……」

希「そっか……。穂乃果ちゃん……。心を入れ替えたって、言ってたのになぁ……」

希「やっぱ、ダメやったんか……。ウチじゃあ穂乃果ちゃんを、止められへんかったんや……」

海未「……希。一緒に、来てくれますか?」

希「えっ……?」

海未「今きっと穂乃果は、絵里のところにいます。絵里が、時間を稼いでくれてるんです」

希「えりち……? そっか。最後の『1人』は、えりちやったんか……」

希「……穂乃果ちゃんは、えりちまで、傷つけようと……っ!」

海未「止めましょう。穂乃果を……。そして、また――」

海未「みんなで力を合わせて、μ'sを、復活させましょうっ!」


                     
凛「うおーっ! やる気でたにゃーっ! 待ってろにゃーっ! 穂乃果ちゃんっ!」

花陽「わ、私も、頑張りますよっ!」

真姫「さっさと行くわよ。絵里はどこにいるのよ?」

にこ「生徒会室かしらね? 仕事あるって言ってたし。急ぐわよっ!」

海未「……希。みんながこうして揃った今、もう一度占いをしたら、未来は変わってるかもしれませんね」

希「あはは……。そうやね。それを確かめることはもう、できひんけど……」

海未「できますよ。未来なんて、自分で、この目で、確かめればいいんです」

希「……変わったね。海未ちゃん」

海未「えっ……。にこにもさっき言われましたが、私そんなに変わりました……?」

希「うん、変わったよ。なんというか、たくましくなった、というか……。あ、せやっ!」


希「……みんなを引っ張る、『リーダー』っぽく、なったんやない?」

          
海未「あと『1人』……」

―――――――――
――――――
――――
――


海未「その答えは、これです。穂乃果」


花陽「穂乃果ちゃんっ! わ、私、μ's、辞めませんからっ! なんと言われようが、アイドルを続けたいんですっ!」


凛「穂乃果ちゃんっ! 凛は、可愛くなりたいのにゃっ! だからこの喋り方も変えないし、もちろんμ'sも辞めないのにゃっ!」


真姫「穂乃果……。勉強も大事だけど、やっぱり私は自分の好きなことを、捨てることはできないの。だからμ'sも、辞めないっ!」


にこ「穂乃果。にこにーは、μ'sを辞めないにこ。こんな最強アイドルを逃したら、それこそμ'sの終わりよっ!」


希「穂乃果ちゃん。ウチも、μ'sを辞めへんよ。終わりになんて、させへん。『絶望の未来』なんてもう、ないんやっ!」





穂乃果「……」

穂乃果「あはは……。なに、これ……?」

      
 

            
絵里「……私も一応、言っておこうかしらね」

絵里「穂乃果。私は誰からも好かれるアイドルに、なりたい。だから一つだけ、わがままを言わせて。私、μ'sを辞めたくない」

穂乃果「……」

海未「あなたが減らしたμ'sのメンバーは、みんなこうして、また戻ってきてくれました……」

海未「μ'sは、ここで終わったりしません。まだまだこれからも、続いていくんです」

穂乃果「やめて、よ、海未、ちゃん……。どうして、こんなこと……」

海未「……穂乃果。ここからμ'sは、復活していくんです。いえ、みんなで力を合わせて、復活させるんですっ!」

海未「そして最後に……。これだけは、言わせてください」

穂乃果「やめてよ海未ちゃんっ! やめてっ! やめてぇっ!!」

海未「穂乃果っ! 私も、ことりも、μ'sを辞める気はありませんっ! 諦める気なんて、毛頭ありませんよっ!」

穂乃果「――っ!!」


今日はここまで。続きは火曜水曜辺りに
もうすぐ完結です。多分。

 
――――――――
――――――
――――
――



海未「穂乃果。お客さん、どうでしたか……?」

穂乃果「……一人も、来てなかったよ」

花陽「ええっ! 一人も、ですか……?」

凛「きっついにゃー……。とうとう誰も、来てくれなくなっちゃったんだ……」

真姫「嫌な予感は、してたけどね……。前回もほとんど、人いなかったし」

にこ「し、仕方ないわ。とりあえず、始めちゃっていいんじゃない?」

絵里「そうね……。やってる最中にもしかしたら、誰か来てくれるかもしれないし」

希「うん。それに、せっかくいっぱい、練習したんやし……」

ことり「そ、そうだよねっ! お客さんが、いなくても……」

海未「……私たちは、全力で、ライブをやるだけですっ!」

穂乃果「……」



穂乃果「……やっぱり、μ'sは、もう……」




     
――

凛「結局……。誰も、来てくれなかったにゃー……」

花陽「で、でも、私、すごく楽しかったですっ!」

ことり「う、うんっ。やっぱりライブって、楽しいねっ!」

にこ「まったく。こんな最高のライブを、見過ごすなんて……。みんな、どうかしてるにこ」

希「ほんまやねー。みんなどうして、見に来てくれないんやろ……」

真姫「も、もしかして、曲が、ダメなのかな……」

絵里「そんなことないわ。μ'sには確かに、あれだけの人気があったんだもの……」

海未「ええ……。ですから、きっと、また……。諦めさえしなければ、きっといつか、また――」

海未「――ですよね? 穂乃果」

穂乃果「えっ……? あ、ああ、えっと……」



              
穂乃果「……あのね、みんな。私、μ'sはもう――」

ことり「そ、そうだよねっ! 諦めなければ、きっと大丈夫っ!」

穂乃果「っ!? こ、ことりちゃん……?」

花陽「わ、私、もっともっと練習しますっ!」

凛「次のライブが楽しみだにゃー。今度こそみんな、来てくれるはずっ!」

穂乃果「……みんな、μ'sは……」

真姫「私も新曲、頑張って作るわ。この逆境を、乗り越えていけるような……。そんな、曲をっ!」

にこ「にこにーの魅力、みんな忘れちゃったのかなぁ? 絶対、思い出させてやるんだからっ!」

希「ふふっ。みんな、やる気満々やね」

絵里「そういう希もね。まあ、私もだけど」

穂乃果「みんな……っ!」

海未「みんな、諦める気なんて、ないようですね。穂乃果っ! さあ、また一緒に――」

海未「頑張りましょうっ! μ'sはまだまだ、これからですっ!」

穂乃果「……っ! う、うぅ……」




               
海未「……穂乃果? どうか、しましたか?」

穂乃果「えっ? あ、ご、ごめん。なんでも、ないよ……」

海未「……心配ですか? μ'sが」

穂乃果「っ!! そ、そうなのっ! 実は私、μ'sはもう――」

海未「大丈夫ですよ、穂乃果。確かに今日のライブは少し、堪えましたけど……」

海未「ですがそんなの、気にするあなたじゃないでしょう? また明日になれば、いつものように……。『練習練習っ!』、でしょう?」

穂乃果「えっ……。な、なに、言ってるの、海未ちゃん……」

海未「本当に穂乃果は、前向きなんですから……。ですが今日ぐらいはゆっくり、休みましょう? この後どこかに、寄っていきます?」

穂乃果「海未ちゃん……。私、は……」

海未「クレープ屋さんにでも行きましょうか。さ、穂乃果っ。みんなももう、行ってしまいますよ?」

穂乃果「……」


             
穂乃果「そう、だよね……。諦めなければ、大丈夫、だよね……」

海未「ええっ! 元気になりましたか、穂乃果?」

穂乃果「うんっ! ありがと、海未ちゃんっ! クレープ、楽しみだなぁー」

海未「ふふ、まったく、穂乃果は……」

穂乃果「ねえ、海未ちゃんっ!」

海未「はい?」

穂乃果「今はまだ、話せないけど……。近いうちに、海未ちゃんに、大切な『相談』をすることになると思う」

海未「相談……?」

穂乃果「うん。本当に、大切な……。その時は、私の話、聞いてくれる?」

海未「当たり前です。私は、あなたの幼馴染なんですよ? どんな相談にも、乗りますよ」

穂乃果「……ありがとう、海未ちゃん。約束、だよ……」


                     
――――――――
――――――
――――
―――


穂乃果「かよちゃん……」

花陽「……」


穂乃果「凛ちゃん……」

凛「……っ」


穂乃果「真姫ちゃん……」

真姫「……穂乃果」


穂乃果「にこちゃん……」

にこ「……」キッ


穂乃果「希ちゃん……」

希「穂乃果、ちゃん……」


穂乃果「絵里ちゃん……」

絵里「……」


穂乃果「海未、ちゃん……っ!」

海未「穂乃果……」


                    
穂乃果「どう……して……? どうして、なの……!?」

穂乃果「海未ちゃん、みんなぁっ! どうして、諦めてくれないのっ!? 私、あれだけ、言ったよねっ!?」

穂乃果「μ'sに未来なんてないってっ! 解散するべきだってっ! なのに、どうしてみんなっ!」

穂乃果「そんなに、希望に満ちた顔を、してるの……!? 私が絶望を与えてあげたのに、どうしてそんな顔が、できるの……!?」

海未「……まだ、分からないのですか?」

穂乃果「なにがっ!? 分からないよっ! 私、みんなが分からないっ!!」

海未「みんなあなたを見て、μ'sに入ったんですっ! あなたの背中を追いかけて、ここまで来たんですっ!!」

穂乃果「――っ!?」

海未「……あなたを見てるうちに、みんなにうつってしまったんですよ。あなたのバカみたいな、前向き精神が……」


                
穂乃果「……やっぱり、そうなんだ。私の、せいなんだ……」

海未「穂乃果……?」

穂乃果「私がっ! 私がバカだからっ! 私がずっと、バカだったからっ! みんなまで、おかしくなっちゃったんだっ!」

海未「穂乃果っ! ですから、話を聞いてくださいっ!」

穂乃果「みんな、目を覚ましてよぉっ! こんなの、おかしいよっ! μ'sは解散するべきなのっ! もう全部、諦めるべきなのっ!!」

海未「穂乃果――っ!」

にこ「もういいよ。海未ちゃん」

海未「――っ!? えっ……」

にこ「こんな人、もう放っておこうよ。μ'sは……。『8人』で、続けよう?」

海未「な、なに、言って……」

穂乃果「……」



               
海未「にこ、なにを言ってるんですか……? μ'sは、『9人』揃ってこそ、でしょう……?」

にこ「……海未ちゃんこそ、本気なの? 本気でこんな酷い人と一緒にこれからも、アイドルを続けるつもりだったの?」

海未「っ! ……そ、れは……」

絵里「……確かに、にこの言うとおりだわ。私は穂乃果とこれ以上、μ'sを続けられる自信がない」

海未「え、絵里まで……」

絵里「海未。あなた、電話で言ったわね。『私はただ、穂乃果に諦めてほしくないだけだ』って」

絵里「つまり、あなたは……。穂乃果を、許すつもりなのね?」 

海未「……っ!」

絵里「みんなを傷つけた穂乃果を許して、まだμ'sに、残ってもらうつもりなのね……」

海未「も、もちろん、穂乃果がみんなにしたことは、許せることではありません……。ですから――」

海未「謝ってください、穂乃果っ! みんなにちゃんと、謝罪を……っ! そしたら、また、みんなで……」

穂乃果「……」

海未「穂乃果っ!」

にこ「なに言ってるの海未ちゃんっ!? いくら謝られたって、許せるわけないでしょっ!?」


                 
花陽「そ、そうですよっ! 私たち、穂乃果ちゃんを許せないですよっ!」

凛「あ、あんなこと言われて……。あんなこと言う人と、一緒にアイドルなんかやれないにゃ……」

真姫「わ、私は……。ちょっと、穂乃果が怖い……。多分今更謝られても、前みたい接することはできないと思う……」

希「ウチも……。流石に穂乃果ちゃんはもう、信用できへんわ……」

海未「そんな……みんな……」

にこ「……海未ちゃん。あんた穂乃果に、甘過ぎるんじゃない? みんなが許せないのも、当然でしょう? だって、穂乃果は……」

にこ「μ'sを、壊そうとしてたんだから」

海未「……っ! で、ですが……っ!」

穂乃果「ごめんなさい、みんな」

海未「……」

海未「……え? 穂乃果、今……」


穂乃果「酷いこと言って、ごめんなさい。みんなを傷つけてしまって、ごめんなさい。私はみんなに、取り返しのつかないことをしてしまった」

穂乃果「本当に……。ごめんなさいっ!」



        
海未「ほ、穂乃果……」

穂乃果「……ごめんなさい」

にこ「……言ったでしょう? 今更、謝られたって……。許せるわけないじゃない」

穂乃果「……そう、だよね。分かってる。許してもらえるだなんて、思ってないよ。だけど……」

穂乃果「責任は、とらないと、いけないよね……」

海未「穂乃果……? ま、まさか――」

穂乃果「私、μ'sを辞めるね……。スクールアイドルを、辞める」

海未「……そん、な……」

にこ「当たり前でしょ……。もう二度とにこたちに近づかないで、穂乃果」

穂乃果「うん……。本当に、ごめんね……」

海未「まって……。待って、くださいっ!」


        
海未「みんな、おかしいですよ、そんなの……っ! 私たちは、穂乃果のおかげで、ここにいるんじゃないですか……っ!」

絵里「……海未。あなた、なにを言ってるの……?」

海未「だって、そうでしょう……!? 穂乃果が誘ってくれたから、私たちはμ'sにいるんじゃないですか……っ!」

海未「穂乃果が引っ張ってくれたから……っ! いつだって、穂乃果が手を引いてくれたから……っ!」

海未「辛くて、苦しくて……。だけど楽しくて、幸せな日々を、駆け抜けてこれたんじゃないですかっ!」

海未「これからも、穂乃果には……っ! 私たちを、引っ張っていってほしいんですっ! 私たちと一緒にいてほしいんですっ!」

穂乃果「違うよ、海未ちゃん」

海未「えっ……!?」

穂乃果「私の役目は、もう終わり。これからは――」

穂乃果「海未ちゃんが、みんなを引っ張ってあげて。今日みたいに……。今みたいに」

海未「ほの……か……?」

穂乃果「変わったね、海未ちゃん。私よりも、ずっとずっと……。強く、なったね」
            

         
穂乃果「海未ちゃんは……。昔から、恥ずかしがり屋さんで……」

穂乃果「ちょっぴり、臆病なところも、あって……」

穂乃果「私ね……。そんな海未ちゃんと、初めて出会った時、思ったの」

穂乃果「この子は私が、手を引いてあげなきゃ、って」

穂乃果「この子が前に進めなくなった時には、私が引っ張ってあげなきゃ、って」

穂乃果「ずっとずっと……。私が先を行って、道を示してあげなきゃ、って……」

穂乃果「……そう、思ったの」

穂乃果「だけど……」

穂乃果「だけど、そうじゃなかった」

穂乃果「海未ちゃんは、いつのまにか私を、追い越しちゃってたんだね」


        
穂乃果「子供の頃とは、違う……。私に手を引かれるだけの……。臆病だった海未ちゃんは、もういない」

穂乃果「だって、海未ちゃんは……。みんなの手を引っ張って、みんなに道を示して、ここまで、来たんだから」

海未「穂乃果……っ! 私は、まだ……っ!」

穂乃果「もう海未ちゃんは、私がいなくても大丈夫。今度は海未ちゃんが、『リーダー』として……。μ'sを、よろしくね」

海未「穂乃果っ! そんなの、ダメですっ! みんな戻ってきてくれて、やっと、『8人』揃ったんです……っ!」

海未「そして、最後の『1人』は、あなたなんですっ! 最後にあなたが戻ってきて、そしてこれからも、『9人』で……っ!」

海未「アイドルを、続けていくんですっ! どんな逆境でも、苦難でも、絶望でも、私たち『9人』ならきっと、立ち向かっていけますよっ!」

海未「ですから……っ! お願いですから、そんなこと、言わないでください……」

穂乃果「海未ちゃん……」


        
穂乃果「……ありがとう。こんな最低な私に、優しくしてくれて……」

穂乃果「私の味方は……。やっぱり……」

穂乃果「海未ちゃん、だけ……」

海未「……っ!」

穂乃果「いつだって、そうだった……。前を走る、私のことを……」

穂乃果「いつも後ろから、心配して、見守ってくれてた」

穂乃果「私がバカみたいな前向き精神で、ここまで、走ってこれたのも……」

穂乃果「海未ちゃんが後ろからついてきてくれるのが、分かってたからだよ」

海未「穂乃果……っ!」

穂乃果「ありがとう……。海未ちゃん……」

穂乃果「私ね……。そんな、海未ちゃんのことが――」


        
バタンッ!

ことり「海未ちゃんっ!」

海未「えっ……。こと、り……?」

穂乃果「ことりちゃん……」

海未「バイトは……? もう、終わったのですか……?」

ことり「……」

絵里「ていうかあなた、着替えてないじゃない。メイド服でここまで来たの……?」

ことり「……バイトには、戻らなかったの」スタスタ

海未「えっ……? そ、そうだ。ことりっ! ことりも穂乃果に、μ'sに残ってほしいですよねっ?」

にこ「海未ちゃん……。いい加減にしなさいよ。まだ穂乃果を、庇うの……?」

海未「……っ! もう、いいじゃないですか……っ! 穂乃果だってこんなに、反省してるんですから……っ!」

ことり「……海未ちゃんっ!」スタスタ……タタッ!

海未「ことりっ! ことりも、なにか言って――」


   

ドスッ



海未「……っ」




花陽「えっ……?」

凛「……?」

真姫「は……?」

にこ「……っ!?」

希「な、に……これ……?」

絵里「うそ……でしょ……」

穂乃果「……」




ポタ……ポタ……



海未「こ、と……り……? どう、して――」

ドサッ

ことり「……」













ことり「……あはっ」


             
ことり「あっはははははははははははははははははははははははははっ!!」

海未「あ……う……」ドクドク……

絵里「う、み……。そん、な……、こんなのって……」

ことり「やったよぉ! 穂乃果ちゃんっ! ことり、できたよぉっ!!」

にこ「えっ……!? ほの、か……?」

ことり「ことり、ちゃぁんと、海未ちゃんを殺せたよぉっ!」

ことり「穂乃果ちゃんに言われた通り、海未ちゃんを、海未ちゃんをっ!」

真姫「……っ!?」

花陽「……」ガタガタ

凛「うみちゃん……っ! うみちゃんっ!!」

ことり「これで、邪魔者はいなくなったねっ! これで、μ'sは――」

ことり「――『完全復活』っ!! ここからまた、μ'sは躍進していくんだっ!」

希「……ふっ、かつ……? どう、いう、こと……?」






穂乃果「……」


                            



        



『海未ちゃんが後ろからついてきてくれるのが、分かってたからだよ』










――――――――
――――――
――――
――



穂乃果「これで、μ'sのメンバーが『2人』減ったね」

穂乃果「残りは……。『4人』かぁ」

穂乃果「よしっ。この調子で、どんどん人数を減らして……」

穂乃果「……μ'sを、終わらせる」

穂乃果「とりあえず順番は……。やっぱり一番メンタルが強そうな人は、最後に回そうかな」

穂乃果「……さてと」

穂乃果「『電話』、しなきゃね」

プルルル……


穂乃果「あ、もしもし? 穂乃果だよー」

穂乃果「ことりちゃん。今、大丈夫?」


長くなってしまって申し訳ないです。ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
金土日に3日連続で投下して、完結させる予定です。どうか最後まで、お付き合いください。

                     
――

ことり「だ、大丈夫だけど……。ねえ、穂乃果ちゃん、どういうこと? 海未ちゃんが言ってたこと、本当?」

『え……。海未ちゃん、なんて言ってたの?』

ことり「……穂乃果ちゃんが、μ'sを終わらせようとしてるって……」

『そ、そんなわけ、ないよっ! むしろ、逆だよっ!』

ことり「え……?」

『海未ちゃんがっ! μ'sを終わらせようとしてるのっ!!』

ことり「……なっ!?」

『海未ちゃん、みんなに会いに行くとか、言ってなかった!? 多分、みんなを無理やり辞めさせようと、企んでるんだよっ!』

ことり「た、確かに、言ってたけど……。でもそれは、穂乃果ちゃんを……」

『全部嘘っ! 海未ちゃんを信用しちゃダメっ! 私を信じて、ことりちゃんっ!』

ことり「……」


                  
ことり「じゃあ、殴られたっていうのは……」

『海未ちゃんを止めようとしたら……。ごめんね。私じゃあ、海未ちゃんを止められなかった……』

ことり「っ! じゃ、じゃあ、ことりが海未ちゃんを、止めるよっ! 今あっちで待ってるから、すぐに――」

『待って、ことりちゃん。私に、いい考えがあるの』

ことり「いい考え……?」

『ことりちゃん。海未ちゃんを、殺して?』

ことり「……? ころ……?」

『殺して。包丁とかで、グサっと。あ、もちろん、今すぐにじゃないよ?』

ことり「っ!? な、に、言ってるの……? 穂乃果ちゃん……?」

『私ね……。ずっと思ってたの』

ことり「えっ……」

『海未ちゃんのこと、邪魔だなぁって』

ことり「……っ!!」



                      
ことり「邪魔、って……。もしかして――」
 
『だってさ……。私はことりちゃんと二人で、もっともっと一緒に遊びたかったのにさぁ』

『一回遊びに誘ったぐらいで、私たちにつきまとって……。なんかそのまま、学校まで一緒になっちゃって……』

『それでいつの間にか、三人でいることが、増えたよね。私は、ずっと――』

『ことりちゃんと二人だけで、いたかったのに』

ことり「……」

『ことりちゃん?』

ことり「穂乃果ちゃんも……。そう、思ってたの?」

『……ふふっ。ということは、ことりちゃんも?』

ことり「そ、そうなの……っ! ことり、ずっとずっと、ずっとずっとずっと、穂乃果ちゃんと二人で、いたかったのにっ!」

ことり「穂乃果ちゃんと二人で、お買い物したり、ご飯食べたり、ゲームセンターに行ったり、遊園地に行ったり、お家でお喋りしたり、したかったのに……っ!」

ことり「海未ちゃんが……っ! あ、あの、女が……っ!」

『……』



                     
ことり「だ、だけど、こんなこと言ったら、穂乃果ちゃんに軽蔑されると思って……。ずっと、我慢してたの……っ!」

『あはは、私も。だけど気持ちは、一緒だったんだね』

ことり「……あ、あのね、穂乃果ちゃん――」

『ことりちゃん。私、ことりちゃんのことが、大好きだよ』

ことり「――っ!!」

『ことりちゃんは私の、世界でたった一人の、親友だよ』

ことり「……うっ……うっ……」グスッ

『あれ、ことりちゃん。泣いてるの?』

ことり「ご、ごめ、んね……。でも、うれし、くてぇ……」

ことり「だってずっと、穂乃果ちゃんはことりなんかのことよりも、海未ちゃんのことが、好きなんだと思ってたから……」

『そんなことないよ。私の親友は、幼馴染は、ことりちゃんだけだよ。これからもよろしくね、ことりちゃんっ!』

ことり「うんっ……。うんっ……。うっ、うわああぁん……」


                 
『だからね、その邪魔な海未ちゃんを、消してほしいの』

ことり「グスッ……。で、でも、ことり、人殺しなんか……」

『……私ね、親友の定義って、二つあると思うの』

ことり「……?」

『その人のために、死ねるかどうか。そして、その人のために、殺せるかどうか』

『……ことりちゃんは私のために、海未ちゃんを、殺せる?』

ことり「……」

ことり「……ことりね。実は、三人でいる時、いつも考えてたことがあるの」

『なあに?』

ことり「いっつも穂乃果ちゃんに、ベタベタくっついて離れない海未ちゃんを、いつか殺してやりたいって……。ずっとそう、考えてたの」

『……へえ、そうなんだ。私もうっとうしいから早く死んでくれないかなぁって、考えてたよ』

ことり「ことり、やるよ。穂乃果ちゃんのためなら……。海未ちゃんを、殺す」

『ありがとう。じゃあ、段取りを説明するね……』


                  
『――ってことで、海未ちゃんは多分最後に、生徒会室に来ると思うから……』

『頃合いを見計らって、ことりちゃんも来て。そして、そこで……』

ことり「分かった……。ねえ、穂乃果ちゃん。海未ちゃんが死んだら、μ'sは……」

『ことりちゃんが邪魔者を消してくれれば、きっとμ'sはまた、復活できるよ』

ことり「そ、そうだよねっ!」

『そして、このことが明るみに出れば……。きっとμ'sの名前は、日本中に轟く』

『私たちきっと、有名人だよ。ニュースにもなって、マスコミとかもいっぱい来て……』

ことり「そっかぁ。邪魔者もいなくなって、μ'sも有名になって、まさに一石二鳥だねっ!」

『うん。話題作りって、大事だよね。ことりちゃん、お願い。μ'sのために……。私のために……』

ことり「任せてっ! 全部終わったら……。またみんなで、頑張ろうねっ!」

『そうだね……。μ'sはまたここから、始まるんだ』

                   
――――――――
――――――
――――
――




ことり「あはははぁっ! 穂乃果ちゃんっ! それに、みんなっ! これでことりたちは、有名人だよぉっ!」

絵里「な、なにを言って、るの……?」

ことり「それに、μ'sを終わらせようとする邪魔者も、もういなくなったっ! μ'sはまたここから、始まるんだよぉ!」

にこ「け、いさつ……。きゅ、きゅうしゃ……」

穂乃果「ことりちゃん。余計なことする人がいたら、海未ちゃんをグッチャグチャのメッタ刺しにしちゃっていいからね」

ことり「はーいっ!」

にこ「なっ……。ほの、か……あんた……」

穂乃果「それで、今から私がいいって言うまでみんな、喋るのも、動くのも禁止だから。海未ちゃんを楽に死なせてあげられるかどうかは、みんなにかかってるよ」

にこ「……っ!」

海未「あ、う……。ほの、か……。こ、とり……。どう、して……。どう、してぇ……」

穂乃果「説明してる時間はないよ。海未ちゃんはもうすぐ、死ぬんだから」

海未「……っ!? う、あ、ぁ……」ドクドク……



            
海未「しに、たく、ない……」

穂乃果「死にたくない? あははっ、そりゃそうだよねぇ。海未ちゃん、死ぬ覚悟なんて全然できてないもんねぇ」

穂乃果「当たり前だよね。まさか自分がこんなところで、こんなに早く、人生を終えることになるなんて、夢にも思わなかったもんね?」

海未「……っ! う、うぅ……」

穂乃果「さっきまで海未ちゃんは、私を、みんなを説得することで、頭がいっぱいだったもんねぇ。自分が死ぬことなんて、微塵も考えてなかったよねぇ?」

穂乃果「もしかしてまだ、頭が追いついてないかな? あはは、じゃあもう一度、はっきり、言ってあげるね」

穂乃果「海未ちゃんっ! あなたは今ここで、死ぬの。何も分からないまま、なぜ殺されるのかも分からないまま、死ぬの」

穂乃果「血だらけになって、苦しみながら、幼馴染に刺されて、幼馴染に笑われながら、死ぬの」

穂乃果「女子高生のまま、大人になる前に、未来を確かめることもできないまま、死んでいくのっ!!」

海未「……う、うあ、ああぁ」

穂乃果「ほら、もうすぐなんじゃないっ!? 人生最期の言葉は、もう決まったぁ!?」

海未「ほの、かぁ……、わた、し、は……っ!」ポロッポロッ



           
海未「わた、しは……っ! わたしはぁっ!!」

海未「うっ! げほっ! うえっ! えええっ!」ビチャビチャッ!

穂乃果「ほら、頑張ってっ! 最期の力を振り絞って、私に伝えたいことがあるんでしょっ?」

海未「グスッ……。うっ……。え……。うっ、うぅ……」



海未「うぐっ……、わだ、しはぁ……。ほのかぁ……っ! あなだのことを、そんけい、しでだんですっ!」

海未「うっ、うぅ、えぐっ、わだしは、あなだのごとを、ずっど、おいがけて……っ!」

海未「あいどるに、なっだのもっ! かはぁっ……っ! あぐっ……。あなだみだいに、なりだくてぇっ!!」

穂乃果「……」


                  
海未「ほのがは、すごぐ、ずてきな、おんなのごでっ! いづも、あかるくて、まえむぎで……っ!」

海未「わだしを、ひっばってぐれて……っ!」

海未「わだ、しの、でを、ひいて、ぐれ、てぇ……っ!」

海未「うっ、ひっく……。そんなほのがに、かんしゃも、してた……っ!」

海未「うぅっ、ぐっ、わた、じの、ほうなんですっ! かんじゃ、してたのは……っ! ありがどう、って……っ!」

海未「グスッ……。たのじいことに、いづも、わたしを、まき、こんでくれで……っ! うれし、がったんですっ!!」

穂乃果「……」


                 
海未「わだしに、いづも、だの、じいことを、おしえて……。はぁっ、くれ、て……」ドクドク……

海未「はぁ……はぁ……、あ、うぅ……」

海未「……っ! はぁ……っ! はぁ……っ!!」ギリ……

海未「ぞんけいしてましたっ! かんしゃ、じてましたっ! わたしは、ぞんな、ほのかのことが――」




海未「――だいずき、でしたっ!! ほんとうに、ほんどうに、だいずきでじたぁ……っ!」

海未「う、あぁ、えぐ、ひっく……、あぁ、うああぁあぁっ!!」

海未「うぐっ、うっ……。ああ、うぅ……。や、だ……。じに、たく、ない……っ!」

海未「もっ、と、いっしょに、いだい、よぉ……っ!」ポロッポロッ……

海未「グスッ……。ほの、か……。ほのかぁ……っ!」

海未「う、うっ、あああ、あ、ああああああんっ!」

穂乃果「……」


    
海未「あああああ、あ、うっ、うっ……っ!」

海未「うっ、がはぁっ! えほっ! う、げほぉっ!」ビチャッビチャ

海未「いだい……、ぐる、じ、いよぉ……、うっ、おえ、えぇ……っ!」ビチャ……

ことり「あははっ。海未ちゃん、そろそろヤバそうだねー。穂乃果ちゃん、何か言ってあげたらぁ?」

穂乃果「……」

ことり「穂乃果ちゃん?」

穂乃果「海未ちゃん、聞いて」

海未「ほの、かぁ……」




穂乃果「私は海未ちゃんのこと、嫌いだったよ」
     

           
海未「えっ……?」

ことり「……あはぁ」

穂乃果「海未ちゃんは私のこと、好きだったのかもしれないけど……。私は海未ちゃんのこと、嫌いだったよ」

穂乃果「私が一緒にいたかったのは、ことりちゃんだけだったのに……。すっごく邪魔だったよ、海未ちゃん」

海未「……ふっ、う、うぅ……」ポロッポロッ……

穂乃果「だからね、海未ちゃん。あなたが遠くに行っても、この事実を忘れないように……」

穂乃果「『天国』に行っても……。この言葉が、永遠に、頭から離れないように――」


穂乃果「――これから海未ちゃんが死ぬまで、ずーっと耳元で、『嫌い』だって、言い続けるねっ!」

海未「っ!? や、だ、やだぁ……っ! ほのか、ほのかぁ……っ!」

穂乃果「ずっとずっと、覚えててね。海未ちゃん――」グイッ

海未「うっ――っ!?」

穂乃果「だいっっきらいっ!!」


                    
穂乃果「嫌い、大っ嫌いっ! 嫌い嫌い嫌い嫌いっ!」

ことり「あぁーっ! ずるいよ穂乃果ちゃんっ! ことりもやるーっ!」

海未「や、やぁ……、やめて、もう、えぐっ、やめで……」

ことり「海未ちゃんっ! ことりも海未ちゃんのこと、大っ嫌いだからっ!! 天国に行っても、忘れないでねっ!」

海未「――っ!!」

穂乃果「嫌いっ! 嫌いっ! 嫌い嫌い嫌い、大っ嫌いっ!」

ことり「嫌いっ! 大っ嫌いっ! 嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌いっ!」

海未「あ、ああ、あ、あ……」

穂乃果「こーさかほのかはっ! そのだうみのことが、だいだい、だいっっっきらいっ!!」

ことり「みなみことりも、そのだうみのことがぁ!! だいっきらいっ! だいだいだい、だいっきらいっ!!」

海未「ああ、あ、ああああああああああああああああああああああああああぁっ!!」

穂乃果「嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い」

ことり「嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い、嫌いっ!」


                          
穂乃果「嫌い嫌い嫌い――」

絵里「やめてぇっ!! もう、やめてよぉっ!!」

穂乃果「きら――い?」クルッ

絵里「っ!?」ビクッ

穂乃果「あれ。私、喋るなって言わなかったっけ?」

絵里「う、あ、え、っと……」

穂乃果「ふふっ、いいよ。なあに? あ、ことりちゃんは続けてていいからね」

ことり「はーい。嫌い嫌い嫌い嫌いきらーい」

絵里「も、う、やめ、てよ……。なにが、楽に死なせたかったら、よ……」

絵里「最初からそんな気、ないんじゃない……っ! こ、んなの、ひどすぎる……っ!」

穂乃果「……あーあ」


                     
穂乃果「絵里ちゃん、泣いちゃったの? おかしいなぁ、絵里ちゃんは強い子だと思ってたのに」

絵里「っ! グスッ。う、るさい……。そんな、ことより――」

穂乃果「絵里ちゃんは一番メンタルが強そうだから、耐えてくれると思ったのに……。だから最後に、回したのに……」

穂乃果「まあ結局海未ちゃんが、みんなを連れてきたせいで、全員に見られちゃったけど……」

穂乃果「……かよちゃん大丈夫? 腰、抜けちゃったの?」

花陽「っ! ひっ……」ビクッ

穂乃果「……」


穂乃果「……ねえ、海未ちゃん? どうして……。どうして、海未ちゃんは――」

海未「……」

穂乃果「……海未ちゃん?」

ことり「穂乃果ちゃん。海未ちゃんは、もう――」

穂乃果「……そっか。海未ちゃん、もう寝ちゃったんだね……」

穂乃果「……海未ちゃんの寝顔……。まるで酷い悪夢に、うなされてるみたい……」


                                          




『だいずき、でしたっ!!』




穂乃果「……」







『だいっっきらいっ!!』




穂乃果「……」











穂乃果「私のこと……。忘れないでね、海未ちゃん……」


続きは明日です……


にこ「う、うみ、ちゃん……」

真姫「あ、ぁ……」ガタガタ

凛「うみちゃん……っ!」

花陽「……っ! ……っ!」ブルブル

希「……もう、いやや、こんなん……」

穂乃果「……ごめんね。みんなには、見せたくなかったよ」

絵里「ほのかぁっ!!」

穂乃果「……なに? 絵里ちゃん」

絵里「あなたは一体、なにがしたいのよっ!? みんなを傷つけて……っ!! 海未を、殺して……っ!!」

穂乃果「海未ちゃんを殺したのは、私じゃない。ことりちゃんだよ」

絵里「あなたがことりを騙したんでしょうっ!? ならあなたが殺したも、同然じゃないっ!!」


ことり「えっ……?」


絵里「どうして……っ! 海未を……っ!」

穂乃果「……言ったでしょう? 邪魔だったから、嫌いだったからだよ」

絵里「海未は……っ! 海未はあなたのことを、庇ってたのよ……っ!? 海未だけはあなたのことを、信じてたのよ……っ!?」

穂乃果「……そう、だね」

絵里「それに……。海未はあなたの、幼馴染、だったんでしょう……!? あんなに仲良く、してたじゃない……っ!」

穂乃果「……」

穂乃果「……そう見えてたってだけだよ。私は別に、仲良くしてたつもりはない」

絵里「……じゃああなたが、本当に海未のことが嫌いで……。それだけの理由で、殺してしまったんだとしても……」

絵里「あんな酷いこと、言わなくたっていいじゃない……」

穂乃果「……」

絵里「せめて最期くらいは……。嘘でもいいから……。優しい言葉をかけてあげることぐらい、できなかったの……!?」

穂乃果「……嘘、か……」

穂乃果「そうだね。私は『一つ』だけ、大きな『嘘』をついている」

絵里「……一つ?」

                           
絵里「何言ってるの……? あなたはもっとたくさんの嘘を、ついてきたんでしょうっ!?」

穂乃果「……まあ、そうだけどね。だけど……。この『嘘』はきっと、特別な『嘘』だよ」

絵里「特別な……、嘘……?」

ことり「それってことりについた嘘のこと? 穂乃果ちゃん」

穂乃果「……ことりちゃん?」

ことり「ことりのこと、騙してたの? 違う、よね? 絵里ちゃんが嘘を、ついてるんだよね?」

穂乃果「……」

ことり「ことり、間違ったことしてないよね? ことりの行動は、μ'sのために、なったんだよね?」

ことり「μ'sはここから……『完全復活』、するんだよね……?」

穂乃果「ううん。μ'sはもう、終わりだよ」

ことり「――っ!?」

穂乃果「だってさ。よく考えてみてよ、ことりちゃん……。確かにこれからμ'sの名は、日本中に轟くだろうけど……」

穂乃果「人殺しがいるアイドルグループなんて、聞いたことないでしょう?」


                              
ことり「……」

ことり「……わ、か、ってるよ、そんなこと……」

ことり「だけど……っ! だけど穂乃果ちゃんが、『私を信じて』っていうから……っ!」

ことり「だからことりは、海未ちゃんを殺したんだよっ!? 穂乃果ちゃんを信じて、殺したんだよっ!?」

ことり「なのに……っ! やっぱりμ'sは、終わっちゃうの!?」

穂乃果「そう、終わりだよ。μ'sは今日で、解散。でも仕方ないよね。メンバーがメンバーを殺しちゃったんだもん」

ことり「穂乃果ちゃん……っ! 酷いよっ! ことりを、騙したの!?」

穂乃果「……じゃあ聞くけど、ことりちゃんはμ'sをまだ、続けたいの?」

ことり「当たり前だよっ! ことりは、みんなとまだ――」

穂乃果「『みんなと』?」

ことり「っ! えっ……」ビクッ


                      
穂乃果「……私はね。『みんなと』なんかじゃなくて、『ことりちゃんと』、一緒にいたいんだよ?」

穂乃果「だから、μ'sを終わらせようとしてるんだよ? ことりちゃんと二人でいる時間をもっと増やしたいから、終わらせようとしてるの」

穂乃果「なのにことりちゃんは、私と二人でいる時間よりも、μ'sのみんなといる時間のほうが、大切なんだ?」

ことり「そ、それは、その……」

絵里「こ、ことりっ!? ダメよっ! 穂乃果の言葉に、耳を傾けてはいけないっ!」

穂乃果「ねえ、そうなの? そうじゃないよね? 違うよね? 違わない? だとしたらショックだなぁ。私だってことりちゃんを、信じてたのになぁ」

穂乃果「信じてたのになぁ。信じてたのに。ことりちゃんは私のことが、好きだと思ってたのに。私はことりちゃんのこと、好きなのに」

ことり「うっ……。うぅ……っ!」

穂乃果「私はこんなに、ことりちゃんのことが好きなのにっ! μ'sなんかよりも、ことりちゃんの方が、大好きなのにっ!!」

ことり「――っ!!」



                          
穂乃果「……ことりちゃん。スクールアイドル、楽しかったね。ことりちゃんがいたから、楽しかった」

ことり「……」

穂乃果「だけど……。もう、飽きちゃったよね」

穂乃果「だからアイドル活動も、今日で終わり。また二人で次の遊びを、探そう?」

ことり「……」

穂乃果「そうだ。この後、カラオケ行こっか。私、歌いたい曲あるんだぁ」

ことり「……」

穂乃果「……先に行ってるから。その血がついたメイド服を着替えたら、駅前のカラオケに来てね」



    
花陽「……」ブルブル

凛「かよちん……」ギュッ

真姫「……」ガタガタ

希「大丈夫や……」ギュ……

にこ「……穂乃果。どこ、行くのよ……」

穂乃果「だから、カラオケだよ。久しぶりにことりちゃんと二人だけで、遊ぶの」

にこ「あん、た……。頭、おかしいわよ……。狂ってる……」

穂乃果「狂ってるのは、みんなの方でしょっ!?」

にこ「っ!!」ビクッ

穂乃果「……もういい。μ'sはこれで、解散だから……。みんなと会うのもこれで、最後だから……」

絵里「……待ちなさい、穂乃果」
        

    
絵里「……確かにあなたの望み通り、μ'sは今日で解散よ……。だけど――」

絵里「ここまでする必要、あったの……? 海未を殺す必要は、あったの……!? 他に方法は、あったはずでしょう……!?」

穂乃果「……よく言うよ。ここまでしなければ解散なんて、する気なかったくせに」

絵里「……穂乃果?」

穂乃果「μ'sはもうとっくに、限界を迎えてたのに……みんながいつまでたっても、諦めないから……」

穂乃果「……海未ちゃんだって、そうだよ……。私を追ってここまで来なければ、死ぬことだって、なかったのに……」

絵里「っ!? 穂乃果、今、なんて……?」

穂乃果「……あはは。聞こえちゃった? でも事実を言っただけだよ、私は」

穂乃果「海未ちゃんがあの時、私と話をした後、μ'sを諦めて、そのまままっすぐお家へ帰ってれば……。こんなことには、なってなかったんだから」

穂乃果「だけど私の思惑通り、まんまと海未ちゃんはここに来てくれた。わざわざ殺されに、来てくれた」

穂乃果「みんなを連れて来るとは、思わなかったけど……。まあでも、概ね、私の計画通りかな……」

絵里「……」


                   
絵里「……穂乃果。あなた本当は、海未に、ここに来てほしくなかったんじゃないの?」

穂乃果「……はぁ?」

絵里「あなたは、みんなにμ'sを辞めてほしくて、諦めてほしくて、みんなを傷つけて回った……」

絵里「そして一度はみんな、諦めた……。だけど一番諦めてほしかったのは、海未だったんじゃないの?」

絵里「海未にだけは、どうしても、自分の気持ちを分かってほしかったんでしょう? だからもし、その思いが届かず、ここまで来てしまったら……」

絵里「その時は……。こうして殺すつもりだった。海未を殺して、無理やりμ'sを解散に追い込むつもりだった。違うかしら?」

穂乃果「違うけど?」

絵里「……」

絵里「だけど――」



                           
ドシュッ!

絵里「――っ!?」

穂乃果「……っ!」

希「えっ……」


ことり「海未ちゃんにだけは……気持ちを分かって、ほしかった?」

絵里「あっ……っ! う、ぐ……っ」ブシュゥ……

ことり「穂乃果ちゃんは、ことりのことだけが好きなの。あなたの勝手な妄想で、穂乃果ちゃんを困らせないで」

絵里「う、うぅ……」ドサッ

希「えりちっ!!」

にこ「えりっ……! そんな、えりまで……っ!」

ことり「……ねえ、穂乃果ちゃん? ことり、いいことを思いついたの」

穂乃果「……なに? ことりちゃん」

ことり「ここでみーんなを、殺しちゃうの」

穂乃果「……」

ことり「ことりが……。ううん――」




ことり「『私』がこの手で、μ'sを終わらせる」

ことり「みんなを殺して……。μ'sを真の意味で、終わらせる」

ことり「そしたら、私たちは……。また二人だけに、なれるよね」



                       
花陽「……っ!? え、えっ……!?」

凛「そ、それ、って……。り、りんたちまで……!?」

真姫「い、や、やだぁ……っ!!」

にこ「ことりちゃん、やめてよっ! そんな、そんなバカなことっ!」

穂乃果「……最高だよ、ことりちゃん」

ことり「ふふっ。でしょ? あ、穂乃果ちゃんは服が汚れちゃうといけないから、先に行ってていいよ」

穂乃果「うん。じゃあ、またあとでね」

希「えりちっ!! やだ、しっかりして……っ! えりちぃ……っ!!」





ガチャッ ギィ……






穂乃果「……さようなら、みんな」




バタン
    




           
ザシュッ!

希「――っ!! あ、ぁ……」ブシュゥ!

ドサッ

にこ「っ! のぞみぃっ!!」

ことり「これでまた、μ'sのメンバーが『2人』減ったね」

真姫「やだぁっ! は、はやく、逃げっ……っ!?」

真姫「えっ……。な、なんで……!? なんでドアが、開かないの……!?」

ことり「残りは……。『4人』かぁ」

真姫「っ!?」ビクッ

花陽「ひっ……っ!」

凛「だ、だいじょう、ぶ……。かよちんは、りんがまもる、からぁ……」

にこ「あ、あ、ああ……」

ことり「よしっ。この調子で、どんどん人数を減らして……」


ことり「μ'sを、終わらせちゃおっとっ!」


                       
「やだあああっ! こないでっ! やめてええええっ!!」

「あけてっ!! ほのか、おねがいだからここ、あけてぇっ!」ドンッドンッ

穂乃果「……」

「あはぁ……」

「きゃああああああっ! たすけ、たすけてぇっ!!」

ザクッ

「あ、ぐっ! いた、い、いたいよぉ……っ!」

「あははははははははははははっ!!」


               
ザシュッ! ブシュゥ……

「いやぁあぁぁあぁあっ! かよちんっ! かよちんっ!!」

「も、もう、やだ……っ! みんな、ころされちゃう……」 

「たすけてぇ……っ! うっ、うぅ……。ママぁ……っ! ままぁっ!」

ドシュッ ザクッ ザクッ!

「あっ! あ、あぁっ! う、が、はぁっ! あがぁあぁ!!」

「まき、ちゃん……。あ、あああ、あぁぁっ! うああああああっ!!」

「あはははははははっ! あははははははっ!」

穂乃果「……」


                        
「うっ、うっ……ひっく……、かよちん……おきて……。おきてぇ……」

ドシュッ!

「あぁっ! がっ、う、ぅ……」

ドサッ

「あは、あはははっ! ふふっ、あははぁっ!」

「……やだ、こないで、こないでぇ……っ!」


             
「あはははははっ! はぁっ! はぁっ! あはははああっ!!」

「やだぁあぁあっ! たずけてっ! いやぁぁぁっ!!」

ザシュッ! 

「あっ……いた、い……。いだ、い……」

ドシュッ! ザクッ! ザクッ!

「ああっ! うぐっ! ぎゅっ! がっ! うぎゃあっ! あああっ!!」

ザクッ! グシュ! グシュ! グチュ! 

「あ、ぎ、あ、あ……」

「あははっ! あは、あはははは……」


穂乃果「……」


            
「……」

穂乃果「……」

「……穂乃果ちゃん、そこにいるの?」

穂乃果「……うん。いるよ」

「あはっ。ぜんぶ、終わったよ。みーんな、死んじゃった」

穂乃果「……そっか。大変だったでしょ? 御苦労さま」

「ううん、穂乃果ちゃんのためならこんなこと、苦でもなんでもないよ」

穂乃果「……ありがとう、ことりちゃん。やっぱり私の親友は、ことりちゃんだけだよ」

「穂乃果ちゃん……」



                  
「……あ、あのねっ! 穂乃果ちゃんっ!」

穂乃果「なあに? ことりちゃん」

「これからも、ずっと……」

「……ずっとずっと、ずーっとっ! 親友同士で、いようねっ!」

穂乃果「うんっ。もちろんだよ、ことりちゃん」

穂乃果「だから――」






穂乃果「――ことりちゃんが死んじゃった後も、私、絶対に忘れないからっ!」

「……」

「えっ……?」


                 
「ほ、穂乃果ちゃん、なに言ってるの……? そ、そうだ。ここ、開けて?」

穂乃果「ねえ、ことりちゃん。私がさっき電話でした、親友の定義は『二つ』あるって話、覚えてる?」

「……おぼえ、てるよ」

穂乃果「ことりちゃんは、私の親友だよね?」

「……」

「……あはは。酷いなぁ、穂乃果ちゃんは……」

「……って……、……いった、のに……」

「カラオケに行こうって、言ってたのに……。また二人で遊ぼうって、言ったのに……」

穂乃果「……」

「やっぱり……。穂乃果ちゃん、は……」

「……のかちゃん、は……」


「……の、こと……。……だったん、だね……」

穂乃果「……」



「……」






「……穂乃果ちゃん。最後に、聞かせて?」




              
「スクールアイドル、好きだった?」

穂乃果「嫌いだったよ」


「μ'sは、好きだった?」

穂乃果「嫌いだった」


「μ'sのみんなのことは、好きだった?」

穂乃果「嫌いだった」


「……海未ちゃんのことは、好きだった?」

穂乃果「大嫌いだった」


「……」

「……じゃあ――」


「――ことりのことは、好きだった?」

穂乃果「もちろん。大好きだったよ」


「……」

「あはは……」

「そっ、かぁ……」



「……」




















「穂乃果ちゃんの、嘘つき」










次回、完結です。明日投下の予定ですが、まだ書き切れてないので、間に合わなかったらすいません……。
ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました

全然書けませんでした……。すいません、今日はナシで……。
月曜か、もしかしたら火曜になるかもです。もう少々お待ちを
あと夢ではないので大丈夫です



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『――ニュースです。昨日、夕方頃、東京都千代田区、国立音ノ木坂学院で、大量殺人事件が発生しました』

『被害者は、同学院の生徒である、絢瀬 絵里さん、東條 希さん、矢澤 にこさん、園田 海未さん、南 ことりさん、西木野 真姫さん、星空 凛さん、小泉 花陽さん――』

『――以上八名です。絢瀬さん、矢澤さん、 園田さん、南さんの四名は、発見時に既に死亡しており――」

『――他四名も、病院に搬送されましたが、まもなく死亡しました。いずれの遺体にも、鋭利な刃物で刺されたような傷があり――』

『――犯人は未だ分かっておりませんが、凶器は、南さんの遺体の首に突き立てられていた包丁だとして、警察は捜査を進めています』


             
           
『第一発見者である高坂 穂乃果さんは、事件発生後すぐに保護されましたが、酷い錯乱状態にあり、警察は高坂さんの回復を待ち、その後事情聴取を行うとのことです』


『――被害者の八名、および第一発見者の高坂さんは、同学院で九人組のスクールアイドルグループ、μ'sのメンバーとして活動しており、学院内でも評判だったそうです』

『――しかし高坂さんの親族の方の証言によると、最近では人気も落ちてしまい、高坂さんもそのことについて、非常に悩んでいらしたとのことです』

『――昨今のアイドルブームの最中、スクールアイドルグループμ'sのメンバーを突如襲ったのは、前代未聞の大量殺人事件でした』

『被害者の方々のご冥福を、お祈りします――』




                    
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――――
――




『犯人、南 ことりだったな。包丁から指紋が取れたって』

『高坂 穂乃果が犯人とか言ってたヤツwwwwww』

『穂乃果ちゃんみたいな可愛い子が、そんなことするわけないだろ!』

『ことりちゃんの方が可愛いだろカス』

『しっかしメンバー殺しまくって自殺って……。この笑顔でなに考えてたんだよコイツ』

『マジで怖すぎだろこの事件。一体なにがあったんだよ』

『最初ニュース聞いた時は震えたわ。別にμ'sは好きじゃなかったけど』

『名前すら知らんかったけど、画像見る限り、みんな可愛いな』

『真姫ちゃん可愛いよ真姫ちゃん』

『一番ヤりたいのは絵里ちゃんだな。あー、もったいないわー』

『胸糞悪い事件だな……。海未ちゃんは俺の嫁』


                   
『おい、μ'sの1stシングル特典付き、オクで値段跳ねあがってんぞっ!』

『CDなんか出してたのかよ。買っとけばよかった』

『事件起きてから知ったにわか多すぎ』

『PV、全部消されてるな。どっかに上がってない?』

『PVとかもうまともな目で見れんだろ……』

『事件のおかげで一気に超有名アイドルだなwww』

『正直もう落ち目だったし、ちょうど良かったんじゃね?』

『なんか無理してる感があったんだよな、こいつら。必死というか』

『俺も前は好きだったけど、いつの間にか冷めてたわ。とっとと解散しときゃよかったのに』

『お前ら最低だな。俺が穂乃果ちゃんだったら自殺してるわ』

『穂乃果ちゃーんwww見てるー?www』








穂乃果「……」



            
ドンドン


「お姉ちゃん……。たまには外に出ないと、体に悪いよ……?」 

穂乃果「……」

「……そうだよね。あんな事件があった後だもん。外になんか出たくないよね……」

穂乃果「……」

「そ、そうだ。私の部屋にこない? お喋りしようよ」

穂乃果「……」

「……。ご飯できたら、またここに置いておくから……。ちゃんと、食べてね……」




ガチャッ!



雪穂「――えっ?」

穂乃果「……ちょっと、散歩してくるね……」

雪穂「お、お姉ちゃん……?」


         
――

「おい、あれ……」「高坂 穂乃果じゃね……?」

穂乃果「……」スタスタ

「いや、まさか……」「でも似てるよな……」

穂乃果「……」

「なんか、写真で見た時より暗くね?」「いや、当たり前だろ……。ほんと、可哀想に」

穂乃果「……」

「お前、話しかけてこいよ」「や、やだよっ! なんで俺が……」

穂乃果「……」

「サインくださいっつって」「いらねーよバカっ! 別に俺ファンじゃねーし」

穂乃果「……」スタスタ……

「だーから、オクに出せば金に……あっ」「行っちまった……」


                  
――

穂乃果「……ここなら誰もいないかな」

穂乃果「……」

穂乃果「はぁ……」

穂乃果「みんな、死んじゃった……」

穂乃果「μ's……。終わっちゃったなぁ……」

穂乃果「……でも、楽しかった、なぁ……」

穂乃果「みんなで練習したり……。遊んだり……。合宿したり……。ライブしたり……」

穂乃果「本当に……。楽しかった……。すごく幸せな、毎日だった……」

穂乃果「……」


             
穂乃果「……」

穂乃果「ねえ、みんな……」

穂乃果「……みんなが望んでた通り、μ'sは今、日本中で話題になってるよ」

穂乃果「天国で見てるかな、みんな。μ'sは最後の最後で、大きな花を咲かせたよ……」

穂乃果「良かったね……。みんなの喜ぶ顔が、見たかったなぁ。みんなと一緒に、喜びたかったなぁ……」

穂乃果「……なんてね」

穂乃果「……」


穂乃果「『嘘つき』、か……」
    


                   
穂乃果「……一体どこまでが嘘で、どこまでが本当なのか……」

穂乃果「自分でももう、分からなくなっちゃったよ……」

穂乃果「私は嘘を、つきすぎた……」

穂乃果「……だけど、私がμ'sを終わらせたかったのは、本当だよ。みんな……」

穂乃果「μ'sとして過ごした毎日は、本当に、楽しかった。幸せだった」

穂乃果「辛い時も、苦しい時も、あったけど……。それも含めて、かけがえのない、大切な、日々だった」

穂乃果「だけど……」

穂乃果「そんな日々は、いつまでも続くわけじゃなくて……。どんなことにも、『終わり』はあって……」

穂乃果「その『終わり』は……。『ゴール』は……。すぐそこまで、近づいて来てたのに……」

穂乃果「どうしてみんなは、それを受け入れようと、しなかったの……?」

穂乃果「μ'sは……。もうとっくに、ボロボロだったのに……」

穂乃果「μ'sはもう、休ませて、あげるべきだったのに……」


                 
穂乃果「どうしてみんなは、分かってくれなかったのかな……」

穂乃果「どうして、私の言葉は……。みんなに、届かなかったのかな……」

穂乃果「どう……して……」

穂乃果「……」


穂乃果「……そっか」

穂乃果「ああ、そういうことか……」

穂乃果「あはは、私……。あれだけみんなに言っておいて、まだ心のどこかで――」

穂乃果「……そりゃ、届くわけ、ないよね……」

穂乃果「……でもこれで本当に、μ'sは終わった。終わらせることが、できた……」

穂乃果「うん……。これで、ようやく――」



穂乃果「――私も、諦められる……」

             
「高坂 穂乃果さんですよねっ!?」

穂乃果「っ!?」ビクッ

「あ、あの、本物、ですよね……?」 

穂乃果「そう、だけど……」

「あ、ご、ごめんなさいっ! いきなり話しかけちゃって……」

穂乃果「……あなたは……? その制服は、中学生、かな?」

少女「は、はいっ! あ、あの、えっと……」

穂乃果「……?」

少女「わ、私っ! あの、ずっと――」



少女「――ずっとμ'sの、だ、大ファンでしたっ! ずっと、ずっと、応援してましたっ!」

穂乃果「えっ……」

少女「こんなところで、穂乃果さんに会えるなんて……。私、嬉しいですっ!」


              
穂乃果「……」

少女「あ、あの、ご、ごめんなさいっ! こんな、時に……」

穂乃果「……」

少女「で、でも、どうしても、その、我慢できなくて、と、いいますか――」

穂乃果「……それ」

少女「えっ……?」

穂乃果「そのバッグについてる、缶バッジ……。もしかして……」

少女「あ、は、はいっ! 1stシングルの数量特典ですっ! 私の宝物で……。ずっとここに、つけてるんですっ!」

穂乃果「……」

少女「『僕らのLIVE 君とのLIFE』、今でも大好きですっ! 落ち込んだ時は、いつも聞いてますっ!」





           
少女「……穂乃果さん?」

穂乃果「……」















少女「泣いて、るんですか……?」

穂乃果「っ! えっ……」



       





 
穂乃果「あ、れ……? わたし……」

少女「ご、ごめんなさいっ! そ、そうですよね、あんな事件があった後で……。不謹慎でした……っ!」

少女「私、最近東京に引っ越してきて……。その前はずっと、地方にいて……」

少女「ライブにもすごく行きたかったんですけど、地元からじゃ、なかなか行くことができなくて……」

少女「だからまさかこんなところで、本物の穂乃果さんに会えるなんて、思わなくて……。興奮してしまったんですっ! ごめんなさいっ!」

穂乃果「あ、謝らなくていいよ。そっか。そう、だったんだね……」

穂乃果「ちゃんと、いてくれてたんだね……。私の知らないところでちゃんと、μ'sを好きでいてくれた人が……」


          
穂乃果「あはは……。そっか……」

穂乃果「嬉しい、なぁ……」

穂乃果「……うれ、しい……。なぁ……」

穂乃果「あははっ。はは……。うっ。う、うぅ……」

穂乃果「うれしい、よぉ……」ポロッポロッ

少女「穂乃果、さん……」

穂乃果「みんな……。いたよ。こんな私たちを、まだ好きでいてくれた、人が……」

穂乃果「天国で見てるかな、みんな……。みんなの喜ぶ顔が、見たかったなぁ。みんなと一緒に、喜びたかったなぁ……」

穂乃果「……なん、て……。うっ、うぅ……」

穂乃果「うぅ……。みん、なぁ……っ!」


               
穂乃果「うっ、うぅ、ひっく……。えぐっ……」

穂乃果「うぅ……。う、ぅ、ああぁぁぁん……っ!」

穂乃果「あり、がとう……っ! うっ、ぅ、ほんと、に……っ!」

穂乃果「グスッ……。えへへ、うれしいよぉ……。すき、って、いって、くれて……」

穂乃果「あり、がとぉ……。ひぐっ、う、ぅ……。ありが、とう……」

穂乃果「いままでμ'sを、おうえん、してくれて……っ! ほんとうに、ありがとう……っ!」

少女「はい……っ! こちらの、方こそ……」

少女「私に、いつも元気をくれて……。本当に、ありがとうございましたっ!」 

穂乃果「う、うう、うあぁぁあぁん……」ポロッポロッ



          
少女「穂乃果さんっ! 私……」

穂乃果「うぁあぁん……っ! うぅ、ううぅ……」

少女「……私、絶対に、なりますからっ!」

穂乃果「うっ、えぐっ、うぅ……。えっ……?」

少女「μ'sを見てきて、思ったんですっ! 私も……」

少女「私も、スクールアイドルに、なってみたいってっ! みんなに元気を届ける、そんな存在に、なりたいってっ!」

穂乃果「――っ!!」







『アイドルだよっ! アイドルっ! スクールアイドルって、最近どんどん増えてるらしくて――』

『――人気の娘がいる高校は、入学希望者も増えてるんだってっ! それで私、考えたんだ――』



         
穂乃果「グスッ……。うんっ……」

穂乃果「なれるよ、あなたなら……。きっと……」

穂乃果「諦めなければ、きっと……」

少女「は、はいっ! ありがとうございますっ!」

穂乃果「……ふふっ」

穂乃果「……忘れないでね。私たちのこと」

穂乃果「『μ's』というスクールアイドルがいたことを……。どうか、忘れないで」

少女「はいっ! もちろんですっ! μ'sは、私の――」


少女「――『憧れ』、ですからっ!」


         
『μ'sのこと、どう思う?』





穂乃果「……」

穂乃果「……よかった」

少女「えっ……?」

穂乃果「ここであなたと話せて、よかった。元気がでたよ。ありがとう……」

少女「い、いえ。そんな……」

穂乃果「おかげで、決心がついたよ。私、もうそろそろ、いくね」

少女「決心……? あの、穂乃果さん。これから、どちらへ……?」

穂乃果「……」


穂乃果「……私ね。ずっと、考えてたの」

穂乃果「どうしたら、忘れないでもらえるかな、って。どうしたら、ずっとずっと、覚えててもらえるかな、って……」

少女「……? μ'sのことを、ですか……?」

穂乃果「……」


                               
穂乃果「どんな形でも……。ずっと覚えててもらえるなら、それでいいかな、って、考えてた……」

穂乃果「例えそれが、その人を傷つけるような、酷い『嘘』でも、って……」

穂乃果「例えその人が、泣いてたって……。苦しんでたって……」

穂乃果「その人に、『嘘』だと、気づいてもらえなくたって……」

穂乃果「いつまでも、ずっと……。忘れないでいて、もらえるなら……」

少女「……」

穂乃果「……だけど、やっぱり私は、バカだから……」

穂乃果「結局今になって、そんな『嘘』をついてしまったことを、後悔してるんだ」

穂乃果「『嘘つき』と言われた、私でも……」

穂乃果「この気持ちだけは、『嘘』のままにはできない、って……」


穂乃果「……だから――」




穂乃果「だから、これから、伝えにいくの……」






穂乃果「『ぜんぶ嘘だよ』、って……」









穂乃果「本当は――」
















穂乃果「『私も、大好きだったよ』、って……」

穂乃果「ちゃんと伝えにいかなきゃ、ダメなんだ」



           
少女「えっ……!?」

穂乃果「……なにもかも、手遅れだけど」

穂乃果「それでも私が今更、できることがあるとすれば……。その人のところにいって、それを伝えてあげること、ぐらいだと思うから……」

少女「ほ、穂乃果さん。えっと、もしかして、ですけど……」




少女「それ、って……。その人に、『告白』するって、ことですか……?」



穂乃果「……」




少女「――っ!!」





その時――








その時、少女が見たのは――














                 
穂乃果「――よっしっ! それじゃ、いってくるねっ!」

少女「――へっ!? あ、は、はい……」

少女「……あ、ちなみにその人って、今どちらに……?」

穂乃果「すっっっごく遠い場所っ!」

少女「ええっ!? 今からで、大丈夫なんですか……? もう、夕方ですけど……」

穂乃果「だいじょうぶっ! だって……。決心は、ついたんだから……」

穂乃果「覚悟は、決めたんだから……」

穂乃果「だから……。私は、やる」

穂乃果「……やるったら、やるっ!」

少女「あ、あはは……。やっぱりすごいなぁ、穂乃果さんは……」

穂乃果「それじゃあねっ! ばいば――」

少女「あっ! あのっ、穂乃果さんっ!」

穂乃果「えっ?」

少女「こ、告白、頑張ってくださいっ! 私、応援してますっ!」

穂乃果「……ふふっ。ありがとっ!」

穂乃果「……それじゃ、今度こそ――」








穂乃果「――ばいばい……っ!」











    



タッタッタッ……




少女「行っちゃった……」

少女「穂乃果さん……。やっぱり、素敵な人だなぁ……」

少女「……告白。私もいつか、誰かにするときが、来るのかな……」




少女「――さて、私も、頑張らなきゃっ!」

少女「穂乃果さんの、分まで……。私が……」

少女「……と、いっても、『1人』じゃ、スクールアイドル、できないよね……」

少女「まずは、メンバー集めからか……。やっぱり『9人』は、欲しいよねっ!」

少女「……」



スゥ……ハァ……





少女「――よーしっ! やるぞーっ!!」





タタッ……!








        


     
――μ's。



誰もが興味を失い、かつての輝きも失った、死にかけのアイドルグループ、『μ's』。

しかし、あの凄惨な事件を境に……。その名は日本中に、轟くことになった。


あの日、μ'sに一体、なにが起きたのか……。

あの日、μ'sのメンバーは……。なにを思い、なにを、感じていたのか……。

その真相は、誰にも分からない。

しかしただ一つ、言えることは……

あの日、スクールアイドルを辞めた、『彼女』は……

『彼女』だけは……。きっと――




きっと……。ちゃんと『諦める』ことが、できたのだろう。

他のメンバーが、誰一人、できなかったことを……。

『彼女』だけは、きっと、できたのだろう。



なぜなら――




                 



『それ、って……。その人に、告白するって、ことですか……?』

『……』



その時、少女が見たのは――


スクールアイドル『μ's』のリーダーとして、『彼女』がいつも見せてくれた……

太陽のように明るく輝く、とびっきりの笑顔。



……では、なく――



頬を染め、少し照れたような……

まるで、恋をする女の子が、見せるような……




そんな優しげな、儚げな、微笑だった。





             


それは、スクールアイドルだった頃の『彼女』が、決して見せることはなかった、表情で……

『彼女』が……。ちゃんとアイドルを諦めることができたという、なによりの、証明で……

その時……。『彼女』はやっと、『普通の女の子』に、戻れたのだろう。





みんなのために笑顔を届ける、アイドルではなく――

誰か一人を好きになり、恋をする。

そんな、『普通の女の子』に……





……そして――





         


そして『彼女』は、走り出す。

太陽のような笑顔で、再び駆け出す。

『遠い場所』へと。

あるいは、『ゴール』へと。





そして少女は、走り出す。

ひだまりのような笑顔で、ここから駆け出す。

『スタート』へと。

あるいは、『遠い場所』へと。





全てを諦めた、アイドルと……


アイドルを目指す、少女。


『終わり』と、『始まり』……


向かう先は、違えど――







――二人の女の子が、今、確かにこの場所から、走り始めた。







~fin~




終わりです。みんなに酷いことして、すいませんでした。
そして、最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございました!
読んでもらえて、嬉しかったです。それでは、またどこかで。

ズブ!

にこ「ぎゃっ……!」

花陽「ひぃ!!」

凛「や、やっぱり死にたくないにゃ! かよちん、ごめん!」

ドン!

花陽「あっ!?」

ズブ!

真姫「ひぃっ!」

花陽「り……んぢゃ……な、んで……」

凛「死にたくないにゃ!死にたくないにゃ!死にたくないにゃ!」

ことり「ふふふ!あっはははは!!」

理事長室

ことり母「今すぐμ'sを解散しなさい」

絵里「そんな! 嫌です! 私達はーー」

ザクッ!

絵里「えーー?」

凛「ひぃ!」

花陽「きゃあっ!! 理事長が絵里ちゃんを刺したぁ!!?」

にこ「や、嫌ぁ!!」

ガチャガチャガチャ!

にこ「え、何で開かなーー」

ザシュ!

花陽「きゃあああ!!!」

ことり母「鍵は開きませんよ。 だってーー」

穂乃果「私が鍵を閉めたんだもん」

ドス!

希「ぎゃっ!!」

ことり「穂乃果ちゃん!?」

真姫「あ、あんた何やって……」

穂乃果「これで三年生は全員死んだね! さて、お次は……」

花陽「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!」

穂乃果「……うるさいなぁ。 次は花陽ちゃんでいいか」

花陽「ひっ!? あ、わ、私μ's抜けます! やめます! だからーー」

ザク!!

穂乃果「もう遅いよ、そんなこと言われても」

凛「ああ……かよちん……」

海未「穂乃果! こんなことやめてください!!」

ことり「穂乃果ちゃん!お母さん!目を覚まして!!」

ことり母「目を覚ますのはあなたよ、ことり」

ことり「え?」

ことり母「留学はやめるだなんて、なんて親不孝者なのかしら。そんな子、もういらないわ」

穂乃果「私もいらなーい。 ことりちゃん毎日ベタベタ私に引っ付いてくるし、そのせいでクラスメイトからレズなの?って聞かれたことあったし」

ことり「そ、んな……」

穂乃果「じゃあね、ことりちゃん」

ズブ!

穂乃果「えっ?」

ことり「海未ちゃん!?」

海未「こ……とり……め、を……さまし……」

穂乃果「あーあ、残念。海未ちゃんは最後に殺そうと思ってたのに」

ことり「っ!!」

パン!

穂乃果「痛っ!」

ことり「最低だよ、穂乃果ちゃん」

穂乃果「はぁ? 最低なのはことりちゃんの方だよ」

ズブ!

ことり「あぐっ!」

ことり母「穂乃果ちゃんの言う通りよ。この親不孝者」


穂乃果「はぁ? 最低なのは乗っ取りの>>817だよ」


ことり母「穂乃果ちゃんの言う通りよ。>>817の親不孝者」

真姫「ぁあ…あ……」

凛「かよちん……かよちん……」

穂乃果「ふんふーん♪ 後二人、どっちからにしようかな~」

ことり母「待って、穂乃果ちゃん」

穂乃果「何ですか? まさか、今になってやめようとか考えてるんですか?」

ことり母「違うわ、いいことを思いついたの」

穂乃果「いいこと?」

ことり母「この二人に六人を殺した罪をなすりつけるのよ」

穂乃果「あ、それいい考えですね!」

その翌日、凛ちゃんと真姫ちゃんは六人を殺した罪で逮捕された。
裁判で言い渡されたのは勿論死刑だった。
二人共、殺したのは理事長と穂乃果だって喚いてたけど、殺人鬼の言うこと信じる人なんて殆どいない。
それから、一ヶ月後、二人は同じ日に死刑執行で死んだ。
私はその後、家を継いで、立派に暮らしている。
私は今、とても幸せ!!


穂乃果「ねえ、にこちゃん、μ'sやめてくれない?」

にこ「はあ?何言ってんの?」

穂乃果「正直そのぶりっ子超ウザいよ。だから抜けて欲しいの」

海未「穂乃果、笑えない冗談は止してください」

ことり「そ、そうだよ! どうしたの穂乃果ちゃーー」

グサ!

ことり「えーー?」

花陽「ひっ!?」

穂乃果「私は悪くないよ。抜けないにこちゃんが悪いんだから」

にこ「がっ……じに、だぐ……な……」

穂乃果「まだ生きてるの?しぶといなぁ」

ズブ!

にこ「……」

穂乃果「よし、やっと死んだ」

凛「あっ……あっ……」

真姫「これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢…………」

穂乃果「あ、そうだ」

凛「ひぃ!?」

穂乃果「凛ちゃんもやめてくれないかな?」

凛「えっ?えっ?」

穂乃果「そのにゃーの語尾、マジでウザいんだよね。 だからーー」

凛「辞めます!辞めますぅ!だからーー」

ズブリ!!

凛「ぎっ!?」

穂乃果「私が喋ってる最中なのに、遮らないでよ」

絵里「あ……あぁ……」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年04月30日 (水) 01:02:30   ID: x1HQ5BOh

穂乃果は結局死んでしまったのか…?

2 :  SS好きの774さん   2014年04月30日 (水) 03:20:21   ID: GaV3bRa0

くっせえ
くさすぎ

3 :  SS好きの774さん   2014年04月30日 (水) 15:33:50   ID: -sCrRgfG

救いがないな

4 :  SS好きの774さ   2014年04月30日 (水) 23:34:16   ID: FG68Lp1E

海未推しなのかな?

5 :  SS好きの774さん   2014年05月01日 (木) 01:50:39   ID: vNbLZbqS

ここまで、救いがない話をかける文才はすげえな・・・

6 :  SS好きの774さん   2014年05月01日 (木) 08:02:53   ID: -C4M8X5s

久々に面白いss見つけたわ。うん。

7 :  SS好きの774さん   2014年05月02日 (金) 18:04:38   ID: 5Rlj_l9V

>>810-821は質の悪いのっとり
念のため

8 :  SS好きの774さん   2014年05月05日 (月) 01:31:19   ID: mITX_kl_

これアニメと同じ論法なら、一部の登場人物が生粋のサイコキラーじゃねえか

9 :  SS好きの774さん   2014年05月05日 (月) 16:37:27   ID: 1jw-9auz

コメントの>>6
私も思ったわ。
 

10 :  SS好きの774さん   2014年05月12日 (月) 22:18:09   ID: rglNo6ZX

欝エンド過ぎ、死ねる

11 :  シュウケイさん   2014年05月14日 (水) 09:25:51   ID: kLczsIAu

あー。えっと。・・・とりま乙です。


・・・

12 :  SS好きのwpmgdjwa   2014年06月02日 (月) 23:31:39   ID: ZcX5zBbZ

この内容を最後まで完結出来たのは凄いと思います
おつかれさまでした

13 :  SS好きの774さん   2014年07月18日 (金) 13:04:32   ID: Ajh9yGXX

グロかったですけど感動しました……。

14 :  SS好きの774さん   2014年08月12日 (火) 03:21:20   ID: HB0qa1zB

内容はあれでしたけど...
長文お疲れ様です。

15 :  SS好きの774さん   2014年10月24日 (金) 18:02:14   ID: P7WlUNxH

なんかさ、ラブライブ!に対する愛を全く感じないよね

16 :  SS好きの774さん   2014年11月27日 (木) 00:17:57   ID: pxjmGtQ_

このような内容とても好きです!
おつかれさまでした〜

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