兵士「勇者の為に死にたくねぇ」 (79)
兵士S「なんであんなイケメンで強くて金持ちで人気者の勇者の為に、俺が戦わなきゃいけねーんだ」
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兵士A「魔王を倒せるのは勇者様だけだろ?」
兵士S「おめー戦争がしてぇのか?俺は戦争反対だ!」
兵士A「魔族の奴らが人を襲う。どれだけの街が滅ぼされたと思ってる?」
兵士S「だからってよぉ…力で反撃したら戦争終わらねぇだろ?王様が魔王と話し合えよ」
兵士A「綺麗事言うなよ、そんなんで解決するかよっ、魔王を倒せば戦争は終わる。俺たちは国のため命を捧げるんだ」
兵士S(ふざけんなよ……死んでなんになる)
新兵「ブリーフィング始まります、第2訓練場に集合してください」
上官「ついに! 最終決戦の時が来た! 皆命を捧げよっ!」
兵士一同「おおおっ!」
上官「魔王軍は南大陸の街をほぼ侵略し、我が王都のすぐ目の前まで来ている。もう一刻の猶予もない」
兵士一同「……」
上官「先日、勇者様が旅から戻られたのは皆も知っていると思うが、その手には聖剣を持っておられた」
兵士「おお、さすが勇者様」
兵士「あの伝説の…」
兵士「ついに見つけたのか…」
兵士S(あんだけ王様に支援された旅なんか、誰でもできるだろ)
上官「我々は! 勇者様と共に魔王軍の本拠地『魔王城』へ侵攻する!」
兵士一同「おおおっ! やるぞぉ!」
兵士S(マジかよ…前線だけは勘弁してほしい…)
上官「我々王都軍は魔王城の正面から侵攻、勇者様パーティは裏の海から城へ侵入。魔王を撃つ!」
兵士「魔族どもを蹴散らす」
兵士「家族の仇だ!」
兵士「命に代えても奴らを倒す!」
兵士一同「やるぞぉぉ!」
兵士S(行きたくねぇっっ、これって勇者の為の陽動作戦じゃねぇか。しかも正面から魔王軍と衝突なんて絶対死ぬ)
最終決戦当日
魔王城まであと2キロ地点を、王都軍約1000人が歩く…
兵士S「くそぉ…結局前線に配置されちまった」
兵士A「なんで俺がお前の部隊なんだ…」
兵士S「文句いうなよ、俺だって好きで隊長やってるわけじゃねぇ」
新兵「僕はあなたの部隊初参加ですね、よろしくお願いします」
兵士S「挨拶なんかいらねぇよ、戦闘始まれば兵士の半分は死ぬ。今回は全面対決だ、もっと死ぬんじゃないか?」
女兵士「勇者様が魔王を撃てば戦争も終わるわ」
兵士S「勇者の部隊はいいよな、国で一番優秀な戦士と魔法使いと僧侶。そりゃ生存率あがるっつーの」
兵士A「俺らがパーティで悪かったな。言わせてもらうが、この部隊で訓練成績が一番悪いのはお前だS」
新兵「え??そうなんですか?なんで隊長を?」
兵士A「こいつ魔法もアビリティも使えないのに、模擬戦の生存率が異常に高いんだよ……」
兵士S「隊長にむかって、こいつって…」
女兵士「臆病なだけでしょ?」
兵士S「おめーら隊長なめすぎ、ははは」
伝令「後方よりドラゴンの群れ出現!! エンカウントしました! 総隊長よりこのまま魔王城正門へ突入せよとのこと!」
士S「マジかよっ」
兵士A「ド、ドラコン」
女兵士「始まったのね」
新兵「……っ」
ゴゴゴゴゴ……地響きが聞こえる。
新兵「隊長! 指示をっ!」
兵士S「ちょっと待て!」
女兵士「何言ってるの? 突入するわよっ」
兵士S「いいから待てっ」
兵士A「後ろからドラゴンが迫ってんだぞ、他の部隊は突撃してる! 俺らも行くぞ!」
兵士S「俺が隊長だっ! 命令だ、全員待機っ!」
兵士A「死にたいのかっ? 後ろからドラゴンの群れが迫ってるんだぞ?!」
兵士S「バカはおめーだっ。あそこは敵の本拠地だぞ? 一番に突っ込んでったらすぐ死ぬぞ」
新兵「それが僕らの役目でしょう?! ここで暴れて敵を引きつければ勇者様達が魔王に近づける!」
女兵士「仲間達が次々正門へ突撃してるわっ私だけ助かるなんてできない」
兵士S(冗談じゃない、死んでたまるか)
伝令「左翼よりモンスター群出現っ!」
兵士S(これは……囲まれてる)
兵士S「よし! 正門へ突入する。行くぞっ」
1です。レスありがとうございます!
まったり書いていきたいと思ってます。のんびり読んでいただけたら嬉しいです。
トリつけさせて頂きます。
魔王城正門前
中へ誘い込むように門は開いている。
兵士A「中で魔族と交戦始まってる! 加勢するぞっ」
新兵「はいっ!」
兵士S(このまま城内へ入っても、待ち構える魔族にやられるだけだ。城を囲む城壁の上に登れば…)
兵士S「みんな防御陣形を崩すな、正門の横の城壁の扉へ行くんだ」
女兵士「ふざけないで! 目の前で仲間が戦ってるのよっ! 」
兵士S「正門が開いているのは、俺たち捨て駒を誘い込む為だ! 奴らが陽動作戦に引っかかってる証拠だ」
女兵士「だからなによ?! 仲間が目の前で戦ってることには変わりないっ」
兵士S「俺たちまで死ぬ意味はない。命令だ、俺について来い」
兵士A「お前、仲間を見捨てるのか?」
兵士S「俺たちは捨て駒なんだ。命を捧げるつもりで来たんだろ? 俺は他人の命は心配しねーよ」
女兵士「あんた最低。私は行くわ、じゃあね」
新兵「あ……」
兵士A「おい、行っちまったぞ。いいのかよっ!」
兵士S「言ったろ? 俺は他人の命は心配しない。ついて来い命令だ」
女兵士は正門をくぐり抜け城内へ。兵士S達は城壁の扉を開けて、中の螺旋階段を登る。
城壁の屋上に出て、城内を見下ろす。
兵士S「……」
兵士A「全滅してる…」
新兵「女兵士さん…」
兵士S「あとは勇者にまかせて、俺らは戦線離脱するんだ」
兵士A「てめぇは仲間が殺されて何も感じないのかよっ! このまま逃げていい訳ないっ!」
兵士S「感じねーよ、そういう職業だろ?」
兵士A「兵士としての愛国心は? 一緒に訓練した仲間への思いは? 何もないのか?!」
兵士S「ねぇよ、徴兵制度で兵士になっただけだ。志願したわけじゃない。そもそも、仲間が死んで何故悲しむ? この作戦で仲間が死ぬのは分かり切っていたことだろうが」
新兵「くっ」
兵士S「作戦前から分かっていたのに、今更悲しむなんて何も覚悟できてなかったんだ。俺は兵士に徴兵された時から覚悟してたんだよっ」
兵士A「俺は国のために志願して兵士になった……勇者様の為に」
兵士S「じゃあこの城壁から飛び降りろよ、下の魔族に当たれば一人倒せるぞ。普通に戦ったんじゃ勝てないからな、はは」
兵士A「……」
兵士S「そもそも…なんだかんだ言っても、俺の命令に従ってついて来たってことは怖かったんだろ?全滅した光景を見て、自分は行かなくてよかったとホッとしたろ?」
兵士A「うわあああああああっ」
兵士S「お前をバカにしてるわけじゃない、正しい選択をしたと思うよ、俺は」
新兵「これからどうするんですか?」
兵士S「この城壁の屋上をつたって、敵の少ないと思われる城の裏手の海へ行く」
正門付近の戦闘は後衛部隊、ドラゴンなども加わり激しさを増して行った。兵士S達は敵のいない城壁を走る。
新兵「海が見えてきました!」
兵士S「あそこから城内に入れる。船着場を目指すぞ」
ガチャ…扉を開き魔王城の中へ
兵士A「中は静かだな…」
兵士S「見つからないように進むしかない。エンカウントしたら即死亡だ」
兵士S(スニーキングミッションにしては三人は多過ぎだ。リスクが高い…どうする?)
新兵「敵はいませんね…」
兵士S「黙って進め、陽動作戦で正門付近に敵が集中してるだろうが、まったくいねぇ訳ではないはず」
兵士A「シッ…」
兵士S(敵だ。まだこちらに気がついてはいねぇ…上位の魔族、見つかったら100%殺される)
新兵「どうします?」ヒソヒソ…
兵士S「やり過ごして抜けるしかない。奴の視界に入らないよう、1人ずつ手前の部屋へ行こう」
新兵「あの、僕から行きます」
兵士A「見つかるなよ、タイミングを身計らえ」
新兵「はぃ」
兵士S(まだだ…奴が向こうを向いたら…)
新兵「……」
兵士S(今だ!いけっ)
新兵「っ…」タタタタッ…
ガチャ…
兵士S(よし気付かれず部屋へ入った)
兵士A「次はお前いけ」ヒソヒソ
兵士S(……タイミングだ。魔族に見つかったら最後…)
兵士S(まだだ…)
兵士S(今だ!)サッ
ガチャ…
兵士S(?)ガチャガチャ
兵士S(扉が開かない?! 鍵が掛かってる)
兵士A(なにやってんだ?! 早く入れ!)
兵士S(まさか…新兵…)
魔族「?」
ガチャガチャ
兵士S(ダメだ開かない!)
魔族「誰だっ!」
兵士S「くそっ!! おい! 新兵っあけろっ!」
兵士A「見つかった…」
新兵「隊長…あなたは正しい。僕も他人の命は心配しないことにします」
兵士S「てめぇ俺らを囮にするつもりかっ! 開けろ!」
新兵「ごめんなさい…」
兵士S「くそっ!」
兵士S(どうする? 魔族一人、ジリジリ近づいてくる)
兵士A「やるしかないっ! 剣を抜けSっ!」
兵士S(俺たちみたいな雑魚が勝てるわけねぇ、こいつを囮に…?いや、賭けだ)
兵士S「A…」
兵士A「なんだよ?」
兵士S「合図したら左の通路へ走れ、俺は右に行く。運がいいほうが助かる」
兵士A「ハッ…俺らのチームワークにピッタリな策だな。乗ったよ」
兵士S「…スリーカウントだ」
魔族「ザコ共が…」
兵士S「3」
兵士S(悪運の強さなら誰にも負けねぇ)
兵士S「2…」
魔族「ぎゃあああああああっ!」
兵士S「え?!」
兵士A「なっ?!」
眩い光と共に魔族は断末魔をあげ消え去った…
兵士S「な、何が起きたんだ?」
??「君たち、怪我はないですか?」
兵士A「ゆ…勇者様っ!!」
勇者「無事なようですね」
戦士「……」
女僧侶「今回復しますわ」
女魔法使い「怪我一つしてないみたいよ」
兵士S「勇者パーティ…俺らは大丈夫」
勇者「よかった…」
兵士S(こいつが勇者。なんて爽やかイケメンなんだ、可愛い僧侶と美人の魔法使い連れてイケスカねぇ)
兵士A「勇者様、ご無事でなによりです! 自分もお供させてください!」
兵士S「おい、A。何言ってんだ、足手まといだろうが」
戦士「……こいつの言う通りだ」
勇者「戦士、そんな言い方はないだろう。彼らも命を賭して戦ってくれているんだ」
兵士A「く……」
兵士S「俺らは裏の海から船で戦線離脱しますよ」
勇者「やめた方がいいですよ。海は敵の大群が待ち構えている。今回の作戦は魔王軍に情報が漏れていたようです」
兵士A「…っ!」
兵士S「マジかよ…陽動作戦も何も、始めから待ち伏せされていたってのか…」
勇者「陸路で離脱するのは?」
兵士A「囲まれています、厳しいですね」
女魔法使い「そうなると脱出方法は一つしかないわね」
女僧侶「転送魔法陣、情報ではこの城の地下にあるはず」
勇者「よし行きましょう」
兵士S「ちょ、ちょっと待ってよ、なんで俺たちを助けてくれるんだ?いくらあんた達でもそんな余裕ねぇだろ?」
女魔法使い「なんだい、助かりたくないのかぃ?」
兵士S「魔王は最上階だろ? 遠回りして無駄な戦闘で、消耗したくないとは考えねぇのか?」
勇者「それでも僕らは君達を助けたい。ここにいれば確実に死ぬよ」
兵士S「助けたい? 助けたいだと? ハハッ笑えるわっ」
兵士A「Sっ! 勇者様を侮辱するのか!」
兵士S「この作戦で、あんた達の為に何人の兵士が死んだと思ってんだ! 今更助けたいだと? ふざけんなよっ」
戦士「……戦いに犠牲は付き物だ。お前達を助けるのはただの善意、見返りは求めてない」
女僧侶「勇者様は助けられる命を、けして見捨てません。善を行うことに理由は必要ありませんわ」
女魔法使い「それが“勇者”なんだよ」
兵士S「じゃあ言わせてもらうぞ!おめーが…」
勇者「ちょっと待ってくださいっ!」
兵士S「………」
勇者「君と二人きりで話がしたいです。皆、少し時間をくれ。僕はみんなを助けたいんだ」
………
兵士S「んだよ、二人きりで話って。そんなのんびりしてる場合じゃねーだろ」
勇者「君は“勇者”という職業をどう思いますか?」
兵士S「平和の為、人々の為、身を犠牲にして戦う。アホらしくてあくびか出るね」
勇者「大抵の人間は素晴らしい職業、尊敬する職業などと言う。この世界には争いが絶えないからです」
兵士S「偽善に見えるよ」
勇者「そう、君はこの職業と、この世界の茶番に気が付いている。だから二人で話したいと思ったんです」
兵士S「どういうことだ?」
勇者「町でモンスターに困ってると言われれば退治し、盗賊に盗まれたと言われれば取り返しに、揉め事があれば調査し解決する」
兵士S「……」
勇者「物事の善悪を判定し、悪を根絶する。そして人々は言う。勇者様ありがとう…無償で善を行うなんて素晴らしい、と」
兵士S「俺は感謝したことねぇけどな」
勇者「しかし本当は……“勇者”という職業は見返りを求めているんだ」
兵士S「…」
勇者「俺に感謝しろ、俺を尊敬しろってことだ」ニヤリ
勇者「“勇者”として認められれば、王よりも地位も名誉も高い、金に困ることもない、女はいくらでもよってくる」
勇者「それが見返りです。綺麗事で勇者やってるわけではありませんよ」ニコッ
勇者「ただ、僕の私利私欲で世界が平和になる。それって悪いことではありませんよね?」
兵士S「俺らを助けようとしたのは?」
勇者「あなたが帰還したあと、『勇者に助けてもらった』と皆に言ってほしいからですよ」
兵士S「俺は助かる、勇者の名声はあがる。ギブアンドテイクって訳か」
勇者「僕の為に兵士達が命を賭けるのは、今まで培ってきた善への見返りって訳です」
兵士S「なるほどな、納得したよ。ただ…なんで俺なんかに本音を言った?」
勇者「君がもし僕の本音を人々に言いふらしても、誰も信じない」
兵士S「たしかに」
勇者「それと、君には“勇者”としての素質があると思いました」
兵士S「ハハッ、ねぇよ。レベルが足りねぇ」
勇者「レベルだけが力じゃないですよ。現に今君はラストダンジョンのど真ん中で生きている」
兵士S「俺あんたのこと誤解してたわ、気に入ったよ。帰還したら勇者様の有志を言いふらしとくよ」
勇者「ありがとう、僕も魔王を倒したら君が勇敢に戦ってたと言おう」
兵士S「交渉成立だな!転送魔法陣へ急ぐぜ」
兵士Sは脱出の為、勇者パーティと地下にある転送魔法陣へ目指す。
勇者「敵だっ! 下がってください!」
兵士A「はい!」
魔族兵「シネェェ」
女僧侶「○☆→$\°〆~⁂£っ!」
兵士S(こ、これは支援魔法…攻撃力と防御力が上がってく…)
戦士「ふんっ」
魔族兵「くっ」
女魔法使い「くらえっ」
兵士S(すげぇ…)
兵士A「なんて強さだ…これが勇者の戦い」
兵士S(強すぎる。王都軍1000人より強いんじゃないか?)
勇者「終わりだ。大丈夫か?みんな」
女魔法使い「全然…余裕ね」
勇者「魔法陣はもうすぐです、そこの階段を降ります」
カツカツカツ…
兵士A「勇者様、それが聖剣ですか?」
勇者「そうですよ、とても神々しいと思いませんか?」
女僧侶「こちらの剣は勇者様以外使うことができません、唯一魔王を倒せる剣とされております」
女魔法使い「これ手に入れるの苦労したんだから~」
兵士S(女僧侶も可愛いが、女魔法使いの方が好みだな…)
戦士「……また階段か…降りるぞ」
カツカツカツ……
兵士A「勇者様、それが聖剣ですか?」
勇者「そうですよ、とても神々しいと思いませんか?」
女僧侶「こちらの剣は勇者様以外使うことができません、唯一魔王を倒せる剣とされております」
女魔法使い「これ手に入れるの苦労したんだから~」
兵士S(女僧侶、上目遣いがいいな…女魔法使いは色気すげぇ)
戦士「……また階段か…降りるぞ」
カツカツカツ……
兵士A「勇者様、それが聖剣ですか?」
勇者「そうですよ、とても神々しいと思いませんか?」
女僧侶「こちらの剣は勇者様以外使うことができません、唯一魔王を倒せる剣とされております」
女魔法使い「これ手に入れるの苦労したんだから~」
兵士S(うん? …あいつら、さっきから同じ会話繰り返してないか?)
戦士「……また階段か…降りるぞ」
カツカツカツ……
兵士A「勇者様、それが聖剣ですか?」
兵士S「おい! ちょっと待て! おかしいぞ…」
勇者「どうしたんですか?」
兵士S「何回同じ会話繰り返すんだよ?! お前らどうしちまった?」
みんな「?」
兵士S(いや、おかしいのは俺か? 時間が戻ってる?)
勇者「敵はいませんよ、地下の魔法陣へ急ぎましょう」
兵士S(??? 視界が歪む…これは幻覚か? い、いつから幻覚見てた)
兵士A「S? 大丈夫か?」
兵士S(くっ…意識が…幻覚の魔法攻撃か…)
兵士「う…く、そ…」
バタッ
…………
兵士S「ハッ……」
兵士A「気がついたか…」
兵士S「おめーだけか? ここは……牢屋?!」
兵士A「俺ら幻覚魔法で捕まったみたいだな、勇者様たち無事だといいんだけど……」
??「そうか、お前たちは勇者パーティのメンバーではなかったのか」
兵士S「おいおい……まさか」
兵士A「ま、ままままま魔王?!」
魔王「いかにも、余が魔王軍の王じゃ」
兵士S(本当にいかにもって感じの爺さんじゃねえか、魔王は巨乳の女の子かと)
兵士A「こいつが人類の敵っ」
魔王「フハハハハ、勇敢な人間だな。そんな虚弱な身体で」
兵士S「別に勇敢じゃねぇよ、好きで戦争に来てるわけじゃねぇ。お前らが戦争吹っかけてくるからだろうが」
魔王「なんだ? この戦争に不満があるのか?」
兵士S「ったりめーだろうが。なんで殺しあう?俺らもお前らも死にたくはねーだろ?」
魔王「面白いことを言うのじゃな、戦争とは必然なのだよ」
兵士S「戦争のどこが必然? 正当化するつもりか? 需要があるとでも言うのか?」
魔王「別に正当化しようって訳じゃない、戦争は非道で残虐で酷いものじゃ」
兵士A「分かっていながら……」
兵士S「……」
魔王「だがそれが生物の本来の姿じゃ、自然の摂理じゃ」
兵士A「はぁ?」
魔王「弱肉強食。弱いものは強いものに食われる。お前たちは肉を食うじゃろ? それは人間が動物より強いから食らってるのじゃ」
魔族「人間も魔族も同じじゃ、お互いを食らう為に、つまりは縄張りを広げる為に戦ってるに過ぎん」
魔族「それを非道だ、残虐だって当たり前なことを何を言ってる」
兵士S「……」
魔王「昔、お前みたいに余と話し合おうと、ノコノコ魔王城まで来た王様がいたな。殺してしまったよハハハハ」
兵士A「この外道がっ!!」
魔王「やらなければやられる。それが自然の摂理じゃ。奪い合うことは悪いことじゃない、なんだってそうじゃろ? 金に地位に女に、世界は奪い合いで成り立ってる」
兵士S「…………そうだな、世の中平等ではない」
兵士A「Sっ! お前なに納得してんだよ、人間は違うっ! 」
兵士S「違くねぇだろ? 学校でも仕事でも弱いものは強いものに虐げられる」
魔王「お前ら人間の争いのない平和な世界?これは人間だけに外敵がいない、人間という種族だけが数を増やしていく自然の摂理では異常な世界じゃ」
兵士S「それを正義と呼ぶのは笑える話だか、またそれを求めるのは種の繁栄という生物の本来の姿だ。魔族も同じだろう?」
魔王「そうじゃ、魔族の中にも正義じゃ大義じゃ言うやつもおるが……お主は話がわかるのう。気に入ったよ」
兵士S(生にしがみ付くこともまた、生物として人間として当たり前なことだ。なんとしても生きる、恥ずべきことではない!)
兵士S「魔王……いや、魔王様。俺を仲間にしてくれないか?」
魔王「フハハハハ本当に面白いやつじゃのう。命乞いをするはずの人間が、仲間じゃと?」
兵士A「Sッ! 正気か?! 生きたいからって人間としてのプライドまで捨てるのか?!」
兵士S「プライドなんて糞食らえっ! そんなもの始めから持ち合わせてねぇ」
兵士A「そこまでして生きたいのかよ、人間捨ててまで……お前なんの為に生きるんだ?」
兵士S「なんの為に??……生きる?」
魔王「フハハハハ、実に面白い。余は、まだお主を仲間にするとは言ってないぞ。そうじゃな、Sとやら…」
兵士S「ああ」
魔王「そこの仲間を殺せ」
兵士A「!!お、おれ?」
兵士S「!!……」
魔王「フハハハハ」
兵士S「こいつを……仲間と思ったことはないんだがな」
兵士A「おいS……うそだろ?」
魔王「ほれ、剣じゃ」
カシャンッ
兵士S「……」
魔王「できんのか?」
兵士S「できるさ」
兵士A「や、やめろ!」
兵士S(悪く思うなよ、このまま何もしなければ二人とも死んでしまうんだ……)
兵士A「俺たちは、魔族を殺すため訓練してきた兵士だろっ!! その剣を向ける相手は俺じゃない! 魔王だろ?」
兵士S「沢山訓練したよな、おめーとは長い付き合いだ……始めて会ったのはDEC訓練のときだったな」
兵士A「始めて??……く、来るな」
魔王「フハハハハ」
兵士S「弱いものは強いものに虐げられる」
兵士A「や、やめろ…」
兵士S「死ねッ!」
ジャキンッ
兵士A「ぐああああああああああ……ああ……ぁ」
バタッ
兵士S「……」
魔王「ほぉ」
兵士S「俺は生まれ変わる。魔王様あなたについて行きます」
魔王「人間の部下というのも、又一興。フハハ」
兵士S「なんでもお申し付けを。俺は勇者と面識があります。スパイとして近づくこともできます」
魔王「勇者は余が相手をしよう。それでなくては意味がないのじゃフハハハ」
兵士S「あまり勇者を軽視しないほうがよろしいかと。彼は強い、それに……」
魔王「それにあの聖剣じゃろう? 勇者が強いのは百も承知、歴代勇者の中でも群を抜いてる。だが彼は、あの聖剣のせいで余に勝てる可能性はないのじゃよ」
兵士S「??」
魔王「余は魔剣を所持しとる。聖剣と魔剣は鍵なのじゃ」
兵士S「鍵?」
魔王「魔界へのゲートの鍵。聖剣と魔剣が剣を交えた時、ゲートが開く。それこそがこの戦いの目的」
兵士S「魔界へのゲート……」
兵士S(大量の魔族がこの世界になだれ込んでくる、人間に勝ち目はない)
魔王「フハハハハ、あの聖剣を装備している時点で勝ち目はないというわけじゃ」
兵士S「……」
魔王「お主は転送魔法陣で王都へ行け、人間の王を討つのじゃ。近づくことも他安かろう」
兵士S「仰せの通りに」
魔王「余は最上階で勇者を待つとしよう……」
黒い煙が上がると魔王は姿を消した。
兵士S「ふぅ……」
兵士S「おい、しっかりしろA。ほら回復薬だ」
兵士A「ぐぁ…げほっげほっ……」
兵士S「気がついたか? 大丈夫か?」
兵士A「だ、大丈夫なわけ……ないだろ……げほっ」
兵士S「お前の回復薬は何処だよ?」
ゴソゴソ…
兵士S「ほらよ」
兵士A「ぐ…」
兵士S「この程度の回復薬じゃ傷が塞がらねぇ……急いで帰還すんぞ」
兵士A「ふざけやがって……マジで死ぬかと…思ったぞ……」
兵士S「ちゃんと急所は外したろ? 生半可な攻撃じゃ、魔王に気が付かれるだろうが」
兵士A「なにがDEC訓練だよ、お前と始めて会ったのは学生の時だ」
兵士S「へへ。だからDEC訓練(通称デコイ=囮訓練)の意味がわかったろ?」
兵士A「こんな囮あるかっ……い痛……」
兵士S「さあ、転送魔法陣で王都に帰還しよう。立てるか?」
兵士A「ぐぐ…いっ痛……肩貸せよ」
兵士S「しょうがねぇな、ここは地下牢だろうから、魔法陣は近くにあるはず」
兵士S達は地下牢を出て、魔法陣を探す。
兵士A「お前に肩借りるなんて気持ち悪いな」
兵士S「文句があるなら置いてく」
兵士A「ある。なぜ俺を助けた? 俺を殺したほうが魔王にバレるリスクは減ったのに」
兵士S「さぁな」
兵士A「ふん」
兵士S(言われてみればそうだな。俺は何故この選択肢を選んだ? 自分でもわからん)
兵士S「ここだ! 転送魔法陣だ」
兵士A「く……痛っ。そうやく脱出できる」
兵士S「おめーはすぐ回復魔法かけてもらわねーと」
兵士A「あとは勇者様が魔王を倒して戦争もおわる!」
兵士S「……おめーは聞いてなかったか」
兵士A「なんだよ? 見ただろ、あの強さ。勇者様が負けるわけない! ついに終わるんだよ戦争が」
兵士S「勇者は、負けるよ……」
兵士A「なんで言い切れる?」
兵士S「魔王が言ってたんだよ、聖剣は魔界へのゲートの鍵で……勇者を待ってたんだ」
兵士A「え……」
兵士S「勇者の旅も、この最終決戦も、魔王の目的の為に踊らされてたんだよ。聖剣で戦ってはいけなかったんだ。人間は負けるんだ」
兵士A「……そんな」
兵士S「俺たちは王様に早く知らせるんだ。じきにこの魔王城に魔界へのゲートが開き、魔族の大群が溢れ出てくる……」
兵士A「……」
兵士S「さぁ行くぜ」
兵士A「待てよ……」
兵士S「おめーの傷ふさがってねぇんだぞ。マジで死にてぇのか? モタモタすんなよ」
兵士A「待てよ、俺は一人で歩けない。だから」
兵士S「ああ?」
兵士A「お前が勇者に聖剣のこと伝えに行け」
兵士S「はぁ?!」
兵士A「ゲートが開いてしまったら人間の負けだ。勇者が魔王と対峙する前に、その事実をお前が知らせに行くんだ」
兵士S「もうおせーよっ! 間に合う訳ねぇ…それに俺一人で最上階へ向かうだと? ここは魔王城だぞ? すぐ死んじまう」
兵士A「勇者に聖剣のことを伝えれば、まだ活路ある! もうお前しかいないんだよっ」
兵士S「ふ、ふざけんなよっ! 自殺行為だ! 死ぬとわかってて行けるかっ」
兵士A「命くらい賭けてみろよっ、この作戦で何人死んだと思ってんだ。みんなの死を無駄にするのかッ」
兵士S「目の前に出口があるんだぞ。今更敵の中に戻れってのかよ」
兵士A「時間がない……わかってるのか? この世界の運命は、お ま え に か か っ て ん だ ぞ?」
兵士S「っ……」
兵士S(な、なんだ? 俺迷ってんのか? 馬鹿がっ、無謀すぎる。いつもみたいに冷静に、リスクを回避すればいいだけだ……)
兵士S(でも、ここで逃げたって人間は魔族に滅ぼされる。いや、ゲートが開いたからって、みんな死ぬとは限らねぇ……今まで無謀に突っ込んでいった奴らを何人見た? それと同じだ)
兵士S(簡単な選択なのに……なんで踏ん切りがつかねぇんだ?)
兵士A「勇者の為、世界の為、死んでいったみんなの為、命賭けてみせろよっ! これ以上命賭ける理由があるかっ?!?!」
兵士S「……俺が命を賭ける? 俺はお前らとは違う、できねぇよッ知ってんだろ!」
兵士A「Sッ!! お前は敵に寝返ることも出来たのに俺を助けた! お前だって俺と同じ人間なんだよ」
兵士S「う……うあああああああああああああっ!!!!」
兵士Sは部屋を飛び出し走り出した。
理屈ではない、何が正しいかは問題じゃない、勇者に伝えなければならない。いや伝えたい……彼はそう思ったから走った。
そこら中に敵の死骸、兵士の死体。
新兵の死体もあった。
兵士Sはただただ走った。
だが、見つからずに最上階までたどり着けるわけはなかった。
すぐに無数の敵が、兵士Sの前に立ちはだかる。
兵士S「強行突破だ。うああああっ!」
助けてくれる人もいない。
奇跡なんて起こることもない。
現実はそんなもの。
ーーー魔王城最上階屋上・空中庭園ーーー
勇者「魔王ッついに追い詰めたぞ」
魔王「フハハハハ……待っていたよ勇者」
戦士「友の仇を…!」
女魔法使い「滅ぼされた故郷の恨みをはらす!」
女僧侶「無益な戦争を終わらせます!」
魔王「すばらしいよのう……勇者よ。永きにわたった魔族と人間の戦争は終わるのじゃ」
勇者「ああ、お前を倒して終わるんだよ」
魔王「余はこの空中庭園で、この戦いをずっと見ていた。人間も魔族も自身の価値観・考えに従い、命を賭ける。なんと素晴らしく美しい光景じゃ」
勇者「そうだ。善も悪もない。自らが信じた理由で戦うんだ」
魔王「命を賭ける、これこそもっとも美しい。できることなら、ずっと見ていたかったわい」
勇者「その考えに否定も肯定もしないよ。でも俺はもう人々が苦しむ姿を見ていたくはない」
魔王「余とお主の戦いは、もっとも美しいものになるじゃろう……フハハハハ」
勇者「さぁ! 剣を抜けッ! 魔王」
魔王「始めよう」
勇者「行くぞッ」
兵士S「待てぇええええっ!!」
勇者・魔王「!!!!!」
兵士S「勇者っ! 聖剣で戦ってはダメだっ! 魔剣と交わるとゲートが開いてしまう!」
魔王「……あ、あやつ……」
勇者「えっ!?……」
魔王「くっ何故ここに奴が……どうやって?」
兵士S「間に合った。勇者、聖剣は使うなよ」
女僧侶「怪我一つしていないですわ」
戦士「お前、あの敵の群れの中どうやって?」
兵士S「転送魔法陣だ。あれは一度見た場所には何処へでも行ける。城壁の屋上走ってる時、ここが見えたからな」
女魔法使い「あ、あんた…」
兵士S「無謀に突っ込んで死ぬのは、やはり俺らしくねぇ」
勇者「ありがとう……」
兵士S「剣はこれを使え。聖剣無しでいけるか?」
勇者「誰にも負ける気がしませんよ」
兵士S「よし」
勇者「Sさん」
兵士S「あん?」
勇者「この聖剣を預かっててください」
兵士S「え……お、俺が持てるのか?」
勇者「持てます。言ったでしょう? 素質があるって」
兵士Sは聖剣を受け取った。
勇者「さぁ魔王……始めよう」
[勇者の為に死にたくねぇ]END
ありがとうございました!!
>>1です
最後まで読んで頂きありがとうございました!
まったり書いてくとは言ったものの、仕事が忙しく本当にゆっくり過ぎな投下になってしまいました。
誤字も沢山……すみません。
今回が台本形式で始めて書いて見たんですが、やはりキャラが動かせず難しいですね。
でも[戦わずして世界を救う]というテーマで書くにはちょうどいいかと思い書いて見ました。
どうでしたでしょうか?
どのくらいの人に読んでもらってたかわかりませんが、
良かったところ、悪かったところ、次回作に繋げたいので感想頂けたら幸いです。
(ちなみにドMなので厳しい意見でお願いしたいです)
本当にありがとうございました!
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