刀剣匠「は?」
女騎士「いや、だからそれを頂こう、と」
刀剣匠「駄目だっつってんだろ!」
女騎士「なんでだよ!」
刀剣匠「顔洗って出直してこい!」
女騎士「ち、ちくしょー!」
ドタドタッ バターン
刀剣匠「まったく、なんだあいつは」
刀剣匠「ふざけたことを……」
女騎士「頼もう!」バターン
刀剣匠「……」
女騎士「顔を洗ってきた!」
刀剣匠「……一応聞くがどこで洗ってきた」
女騎士「近場に手頃な井戸がなかったのでな」
女騎士「……広場の噴水に飛び込んできた!」
ザワザワ……
「なにあの人……」
「この店から出て噴水に飛び込んだと思ったら、また意気揚々と入って行ったけど……」
刀剣匠「てんめぇっ!何してやがる!」
刀剣匠「根も葉もない噂が立ったらどうしてくれる!?」
女騎士「ふっ、根も葉も生えたそばから切り落としてくれよう」
女騎士「そのためにも」
女騎士「その剣、頂こうか」
刀剣匠「だから駄目だっつってんだ!」
女騎士「だからなんでだよ!」
女騎士「この店の為にもなるんだぞ!」
刀剣匠「世間ではそれをマッチポンプというんだ!」
女騎士「ち、ちくしょー!」
ドタドタッ バターン
ザワザワ
刀剣匠「まったく、こっちは忙しいってのに……」
少女「こんにちわー」
刀剣匠「うん?お嬢ちゃん、ここは君が来るようなところじゃないよ」
少女「金ならある」バッサァ
刀剣匠「な、んだと……?」
少女「くくく……驚いているな?」
少女「この店には先代の残したという最後の一振りがあると聞く」
少女「それを頂こうか!」
刀剣匠「ぐっ……!」
少女「……」
刀剣匠「……」
少女「えーっと、次はなんだっけ」
刀剣匠「……おいちゃん飴あげようねー」
女騎士「お、出てきたな?」
少女「飴もらったー」
女騎士「……」
女騎士「頼もーう!」バターン
刀剣匠「また来た……」
女騎士「子どもを!」フガフガ
女騎士「買収するとは!」フガフガ
女騎士「何事か!」フガフガ
刀剣匠「お前が言えた立場じゃねえし、とりあえず口の中の飴を消費してからこい!」
女騎士「む、むぐっ!」
刀剣匠「……水か!?」
女騎士「むー!むー!」
刀剣匠「噴水へどうぞ」
女騎士「む、むむーっ!!(ちくしょー!)」
ドタタタッ バターン
刀剣匠「ふう……ようやく静かになった」
翌日
刀剣匠「やべえ、期日までもう時間がないぞ……」
刀剣匠「猫の手も借りたいくらいだ」
「頼もーう!」バターン
「なんだ、誰もいないのか?」
刀剣匠「…………いらっしゃーい!」
女騎士「……はっ!」
女騎士「何かと思った、凄くいい笑顔」
刀剣匠「こっちにも事情があるんでね」
刀剣匠「お前に頼みたいことがある」
女騎士「なに……?だ、駄目だ!私もそれなりに忙しいんだ」
刀剣匠「くくく……いい剣が欲しいのだろう?」
刀剣匠「頼みを聞いてくれれば、考えてやらんこともない」
女騎士「悪どい、実に悪どい笑みだ!」
刀剣匠「返事は?」
女騎士「承知仕ったあ!」
女騎士「配達?」
刀剣匠「そうさ、あちこち物入りらしくてね、もうてんてこ舞いさ」
刀剣匠「物は仕上がっているんだが、それぞれ届けにゃならない」
女騎士「ワンド、メイス、ハルバードか……」
刀剣匠「大事な商品だ、本当なら俺が持って行って微調整までやるんだが」
刀剣匠「俺はいま、大物にかかりっきりだ」
刀剣匠「……背に腹は変えられない」
刀剣匠「ここは、お前に、託す」
刀剣匠「しか、ないのかなー……自分が憎い」
女騎士「何やら自問自答しているようだが、これらはどこへ?」
刀剣匠「ワンドは魔法使い、塔で研究をしている」
刀剣匠「ちなみに塔は街外れの山の山頂にある」
刀剣匠「メイスは僧侶さん、教会で祈りを捧げ、孤児たちの面倒を見る優しい人だ」
刀剣匠「ちなみに教会は街道を行った隣町のさらに先の谷にある」
刀剣匠「ハルバードは戦士さん、この国では並ぶもののいない豪傑」
刀剣匠「ちなみに今は修行を兼ねて、海を渡った孤島にいる」
女騎士「ほほう……」
刀剣匠「以上だ、何か質問は?」
女騎士「……それを何日で?」
刀剣匠「……二日だ!」
バターン!
女騎士「ちくしょーー!!!」
女騎士「もっと計画性を持てえええぇぇぇ………」
刀剣匠「行ったか……」
刀剣匠「さて俺もとっとと取り掛からねば」
渓谷の町 教会
「井戸の水を汲んできてー……」
子ども「はーい」
子ども「よ、いしょ、うんせ、ほい」
子ども「はっ」
女騎士「や、やあ、こども、こ、こは……谷の、教会、かあい?」
子ども「よ……」
女騎士「よ?」
子ども「妖怪だあぁぁ!」
女騎士「妖怪ではない、立派な騎士だ!」
子ども「ひいっ!」
女騎士「さあさあ、案内しておくれよお 」ニイィ
子ども「し、しすたあー!!!」
ダダダダダ!ダァン!
女騎士「むっ!?」
??「はぁ!」
女騎士「ぐっはあああ!」
??「あらやだ、はしたない」
女騎士「……や、屋根から奇襲とは……不覚」
??「大丈夫?何か変なことされなかった?」
子ども「こ、この人がいきなり茂みから……」
??「何かしら、大きな包みを3つも持って」
??「……あら、この人は……」
今日はここまでにします、また明日続けます、よろしくお願いします
続けますー
…………
女騎士「はっ」
僧侶「目が覚めて?」
女騎士「ここは……」
僧侶「教会の集会室よ、こんなところしか空いてないの、ごめんなさいね」
女騎士「いや………、そ、そうだ!メイス!」
僧侶「この包みのことかしら?」
女騎士「そう!それ!貴女が刀剣匠に依頼していた僧侶か?」
僧侶「確かに依頼はしてるけど……貴女は?」
女騎士「配達に来た!刀剣匠に頼まれて!」
僧侶「そうなのね、てっきり新手の変質者かと」
女騎士「誤解だ!私は一応、王宮の元近衛隊長さ!」
僧侶「元、ねえ」
女騎士「い、いろいろと事情があるのだ!やはり怪しむか?」
僧侶「まあいいわ、人には言えないことあるものね」
僧侶「早速メイスを見せてもらえる?」
女騎士「ああ!さあさあ見てやっておくんなまし!」
僧侶「変な口上を覚えてるわね……、よっと」
僧侶「……貴女、こんなものを担いで来たの?」
僧侶「えらく重そうなケースだけど」
女騎士「はっは!いやあ軽いもんさ!」
僧侶「隊長ってのも頷けるわ」
僧侶「……綺麗なメイスね、ううん、綺麗なだけじゃない、治具もしっかりしてるし、このさりげない装飾も……教会の教えをちゃんと理解してる」
女騎士「後日、微調整をしたいそうだ」
僧侶「そう、わかったわ、ありがとう」
女騎士「私にも見せてくれるかい?」
僧侶「ええ、いいわよ」
女騎士「……ふーむ、確かに確かに」
女騎士「でもなんかあの剣とは違うなあ、あの剣はもう少し無骨というか実用的というか」
僧侶「あの剣?」
女騎士「そう!刀剣匠の店にある先代の親父さんの剣さ、最後の一振りなんだって」
女騎士「どうしてもあと一週間以内にその剣が必要なんだ、是非譲ってもらいたくてさ」
僧侶「そう、だからこんな手伝いをしているのね」
女騎士「大変さー、もう強行軍だよ」
子ども「しすたー、この食材……」
僧侶「ちょ、ちょっと!そんなに積んだら……!」
子ども「え?う、うわわあ!」
僧侶「危ない!」
僧侶「…………?」
女騎士「はっは、無茶するのは危ないぞー、気をつけなよ」
子ども「ご、ごめんなさい……」
子ども「そろそろお夕食の時間なんだけど、今日ほかのみんなは街へ買い出しに行ってるんだ……」
女騎士「そっかそっか、君はがんばり屋さんだな」
僧侶「…………」
女騎士「ってあれ?うわああ!?もう夕方じゃないか!」
女騎士「すまないが私は次の所へ行く!」
僧侶「次って今度はどこへ?」
女騎士「街外れの山頂にある魔法使いの塔!」
女騎士「それでは!」
僧侶「山に行くなら途中の分かれ道を右に行ったほうが近道よー!」
女騎士「……りょーかーい!」
僧侶「ふふ、元気な人ね」
女騎士「うひゃー!ひとつ届けたから随分身が軽いや!」
女騎士「お、ここが僧侶の言っていた分かれ道か!」
女騎士「馬車道と……獣道ね!」
女騎士「ではでは獣道へ!」
村人「……ありゃ、看板が外れてるべ」
村人「危ねえなあ直しとくべ」
村人「たまーにこの獣道に入り込むのがおるんだよなあ」
村人「……これでいいな、この先入るべからず!道迷い遭難」
村人「さあてもう少し行った先の辻で待ち合わせだったか」
今日はここまでにします、短くてすみません、週末に更新します
ありがとうございます、続きになります
深い森の中
ガサガサ
女騎士「はっは……」
女騎士「こんな道を、近道だなんて、僧侶も随分逞しいなあ」
女騎士「む、少し先が随分開けてそうだ」
女騎士「……お、おお!?」
女騎士「……深い谷だなあ」
女騎士「右にも左にもだいぶ続いてそうだ」
女騎士「幸い、こちらの方がむこう側よりいくらか高いな……」
女騎士「よーし、ここはひとつ……飛ぶか!」
女騎士「おいっちにー、さん、しー……」
女騎士「よし!」
ダダダダダッ
女騎士「おおおおお!りゃああ!」
??「薬草集めも楽じゃないよねー」
??「こいつらが自生してるのはここ位だし」
??「おや?あれは……まさか、群生地!?」
??「い、やー!なんて幸運、ありがたい!」
??「日頃の行いがいいとこういうことがあるよねー……」
…………ぉぉおおおお
??「ん?なんの音だ?叫び声?」
??「あっちの方から……って!いいい!?」
女騎士「……おおおお、りゃああああ! !!」ズザー
??「あっ……!」
女騎士「ふう!久しぶりだったけどなんとかなった!」
女騎士「無事、とうちゃーく!」
女騎士「あ、地元の方だろうか?どうもこんにちわー」
女騎士「ちょっと聞きたいのだが、魔法使いの塔とはどちらに行けばよいだろうか」
??「…………ふっ」
女騎士「わ!ちょっと!急に倒れてどうした地元の人ー!」
魔法使いの塔
??「ここは……僕の家?」
女騎士「お、目を覚ましたか?魔法使い」
魔法使い「あれ、僕、君に名乗ったっけ?そもそもなんでここまで……」
女騎士「ああ、そのことなら大した問題ではなかったぞ」
女騎士「貴方を担いで道を歩いていたら、地元のおばさんが色々と親切に教えてくれてな」
魔法使い「……ああそう」
魔法使い「そうだ!君、困るよ!僕は大事な薬草を集めてたのに!」
女騎士「あ、これのことか?」
女騎士「すまなかったなー、罪ほろぼしと言ってはなんだが、とりあえず集めておいた!」
魔法使い「こんなに、沢山……どうやって」
女騎士「はっは!山中探したらなんとかなった!」
女騎士「気力体力は私の自慢だからな、それとももしかして足りなかったろうか、だったらもう少し集めてくるが」
魔法使い「いや、もう十分すぎるよ、ありがとう」
女騎士「そうか、よかった!」
女騎士「ところで私は貴方に用があるんだ」
魔法使い「え?僕を訪ねてここまで来たの?ならなんであんな山の中に……」
女騎士「近道を行ったんだがなかなか大変でな」
魔法使い「近道って……、普通に道が通じてる筈だけど」
女騎士「まあ貴方に会えたから結果オーライさ!」
魔法使い「まあいいけどさ、それで用って?」
女騎士「刀剣匠に頼まれて、ワンドを届けに来た」
魔法使い「え?あ、そうなんだ、あいつは来ないのか」
魔法使い「せっかく酒でもと思っていいのを出しといたのに」
女騎士「なんだ、友人であったか」
魔法使い「古い知り合いでね、まあ腕の方も知ってたし」
女騎士「調整は後日したいそうだが、まあなにはともあれ、渡しておこう」
魔法使い「ありがと、……なに、このケース二つ抱えて飛んだの?さらに僕を抱えてここまで?」
女騎士「そうだが?」
魔法使い「ちょっと尊敬するよ……」
魔法使い「……いいワンドだね、流石だ。これは柊の木を芯に入れてるんだな。持ち手のことを考えた造形か、あいつらしいな。」
女騎士「よかった、気に入ったようだな」
魔法使い「そうだね、これからしばらく使うことになるだろうから、なるべく自分に合ったものをと思ってね」
魔法使い「君も刀剣匠に剣でもつくってもらってるのかい?」
女騎士「いやー、私は……なんとか先代の親父さんの剣を譲ってもらえないかと思ってるんだが」
魔法使い「ああ、あの剣は駄目だよ。別の剣を打ってもらった方がいい」
女騎士「何故だろう?やはりとても大事なものなのか?」
魔法使い「親父さんの遺言でね、あの剣を渡す人はもう決まってるらしいんだ」
女騎士「……そう、そうなのか」
魔法使い「まあ刀剣匠も鬼じゃないし、君にここまで配達に来させたんだから何かしら用意してると思うよ」
女騎士「そうか……」
魔法使い「ちょっと、見るからにしょんぼりしないでよ」
魔法使い「そうだ、そのもうひとつの包み、それも届けるんじゃないの?」
女騎士「……そうだったあ!」
女騎士「今の時間は……!」
魔法使い「昼過ぎだね、どこまで届けるの?」
女騎士「孤島!あの南海の!それも今日中に!」
魔法使い「はーっ!?無茶でしょどう考えても!」
女騎士「約束したんだ!騎士としてこれは違えられない!」
魔法使い「いやいや……ここからなら普通に行けば少なくともまるっと一日はかかるよ」
女騎士「全力で走れば間に合うと思っていたが……!」
魔法使い「……しょうがないな、力を貸すよ、薬草のこともあるし」
女騎士「魔法使い、これは……」
魔法使い「飛翔魔法だよ、人に使ったことはないけどね」
魔法使い「これで君を孤島近くまで飛ばす」
魔法使い「着地が難しくてまだ未完成なんだけど、君ならなんとかなるだろう」
女騎士「……はたしてご期待に沿えるだろうか、甚だ不安だ」
魔法使い「いざという時の為に着地を補助する風魔法も組み込んであるから」
女騎士「……い、いいだろう……」
魔法使い「じゃあいくよー!」
女騎士「ま、待て!まだ心の準備が……!」
フワッ
女騎士「い、いいいい!?」
女騎士「うわぁーーーっ!!!」
魔法使い「行った行った」
魔法使い「さあて僕も準備に取り掛からないとね……」
孤島
ザザーン……
??「…………」
??「…………」
??「……はっ」
??「うたた寝をしてしまった、いや、今日はなんとうららかな陽気だ」
??「魚は……餌だけ食われてしまったか」
??「そろそろ戻って身支度を始めるかな」
ザザ、ン……
??「……む?波が立ってきたな、これは珍しい」
??「いや、なんだあれは」
??「何やら遠くから……飛んでくる!」
孤島沖 上空
女騎士「ひ、ええええええ!」
女騎士「魔法使いの大馬鹿者ー!」
女騎士「着地とか言うから島の上の方から落ちていく風に思うではないか!」
女騎士「角度が浅すぎだー!」
女騎士「このままでは岩肌に突っ込むぞ!」
女騎士「……あれ、誰か、いる?」
女騎士「と、投網を持った……漁師!?」
毎度短いですが、本日はここまでになります、またよろしくお願いします
ありがとうございます、続きます
??「にわかには信じ難いが、飛んでくるのは人か」
??「このままでは岩肌に激突必死!」
??「むぅん!!! 」ザッシャア
女騎士「……ぇぇぇぇええええ!!!」
??「ぬぅおおおおおお!!!」
ズガァッッッッッッ
ガガガッガガガガガッ
??「むぅぅぅぅん!!!」
ガガガガガッガッ
??「むぅ!押し切られるか!」
??「おおおおおおー!!!」
ブワッ
??「これは、風が起こって!?」
ガガガガガ……ドシャア
??「ふぅ!!!」
??「大丈夫か御仁」
女騎士「あ、ありがと、う」
??「目を回しておるか、仕方ない、許せよ」
女騎士「えっ?わっ、ひゃあ!」
??「すぐそこに私のテントがある、少し辛抱せいよ」
女騎士「は、はあ……」
孤島の森の中 テント
??「なんと!魔法で飛んできたと申すか!」
女騎士「ああ……、飛びごこちはよかったんだが」
女騎士「着地は見ての通り酷いもんさー!」
女騎士「でもまあ助かったからよしとしよう!」
??「はっは!随分と切符の良い御仁だ!」
女騎士「……ところで漁師さん」
??「……漁師ではない、一応は戦士だ」
女騎士「はっは!なんだあ貴方が戦士だったのかあ!」
女騎士「色黒だし半裸だし、素潜り漁でもやってる人かと!」
戦士「む、そんなに黒いか」
女騎士「いやもう立派な島民だよ!」
戦士「ぬう、少しは身なりを整えておかんとな」
戦士「して、私に何の用向きだ?」
戦士「こんな方法で来たのだ、急を要するのであろう」
女騎士「あ、そうだな!……って……あれ?」
女騎士(ない!ど、どこいった!?)
戦士「何かなくしたのか」
女騎士「あ、あははは!いや、な!黒っぽい、これくらいの大きさのケース、なかったかなーと!」
戦士「ケースか……、そういえば、何かそれらしいものが山の方に飛んでいったな……」
女騎士「それだあ!山ってどっちだ!?」
戦士「あちらの方だが……この辺りは獣も多い、一緒にいこう」
女騎士「あ、ああ!助かるよ!」
女騎士「にしてもよくそんなケースまで見てたな」
戦士「なに、日々の鍛錬の賜物よっ」ニカッ
女騎士「今度その鍛錬教えてくれ」
刀剣匠の工房
カーンカーンカン
刀剣匠「ふーっ、あちー!」
刀剣匠「少し休憩しよう」
刀剣匠「……大体仕上がってきたかな」
刀剣匠「まだまだ師匠の域ではないか」
刀剣匠「だけどまあ泣き言も言ってらんねえな」
刀剣匠「まずは俺に出来る最高の仕事をしよう!」
刀剣匠「うっし、気合い入れるぞ!」
刀剣匠「……あいつはちゃんと届けられたかな?」
女騎士「はくしょっ!」
戦士「どうした?」
女騎士「何か寒気が……いや、大事ない」
戦士「そうか……見えたぞ、あれがこの孤島で最も高い岩山だ」
アギャアアギャアアギャア!
女騎士「戦士……あれは」
戦士「ぬわっはっはっ!ちなみに怪鳥が巣くっておる!」
戦士「その卵は栄養満点!私の大好物となった!」
戦士「奴と私の戦歴は五分と五分なのだ!」
女騎士「あ、貴方で五分の実力とは!」
女騎士「……うぐっ!」
戦士「どうした、探し物があったか」
女騎士「あった……やつの巣の付近だ」
戦士「うぬ、あれは……ハルバードか」
女騎士「貴方が注文していたものだ」
戦士「なるほど、お主は配達人だったか」
女騎士「すまない!私が不注意なばかりに!」
戦士「なに、気にするな!これはいい機会だ!」
戦士「私の修行の締めくくりとして、奴とは白黒つけようと思っていた所だ」
戦士「いざ協力して取り返そうぞ」
女騎士「戦士……、ありがとう!」
怪鳥の巣の裏手
戦士「……ふっ、ふっ、ふっ……」
女騎士「戦士め、この崖を素手で登るか……!さすがだ!」
アギャアアギャア!ギャアア!!!
女騎士「怪鳥が戦士に気付いて威嚇している」
女騎士「今のうちだな」
女騎士「おお、岩山に深々と突き刺さっている」
女騎士「よく折れなかったな、笑えるほどの強度だ」
女騎士「さて……抜くぞ!」
女騎士「ふん!ぬううう~!」
女騎士「…………っはっはっはぁ!」
女騎士「……ぬ、抜けない!?」
怪鳥の巣
戦士「ぬしとの勝負、今日で決着をつけてくれる!」
ギャアアー!!!
戦士「ゆくぞ!」
アギャアアギャアアギャア!
戦士「はっ!まだまだだあ!」
戦士「その尾翼、取ったりい!」
戦士「おおおお!……だあああ!」
ギャアアース!
ズズン……
戦士「はっはっはっ!これで私の勝ち越しだなあ!」
戦士「さて女騎士の方の首尾は……なんだ、手間取っておるのか」
戦士「大丈夫か女騎士!」
女騎士「あ、ああ戦士!これ!抜けないんだ!」
戦士「むう、確かに深々と突き刺さっておるな!」
戦士「任せておけ!ぬん!」
戦士「ふ、ううううむ!!!」
……ギャアア、ギャアア、アギャア!!
女騎士「怪鳥が……こっちへ!」
女騎士「戦士!一旦引こう!」
戦士「ぬ、ううううううううう!!!」
アギャアアギャアアギャアアアアア!!
女騎士「戦士!」
ギャアアアア!
女騎士「ちっ!こっちだ鳥野郎!」スラン
女騎士「だあああ!」ズガァ!
ギャオオオ!
ギギ、バキィン!
女騎士「くっ、剣が……!」
戦士「……ぬうおりゃあああああ!!!」ズズズッ!
ブオン!
……ゴウウ!!
ギャーア!アアアア……
戦士「なんと、ハルバードから風が……!」
戦士「これは……魔法の武具か!」
女騎士「凄い威力だ……、なんとか助かったようだな」
戦士のテント
戦士「うむ、なるほどな」
戦士「ハルバードの刀身に魔石を組み込んでいるのか。そして柄には術式……、どちらかと言えばこれは護身の為の魔法のようだな。」
戦士「はっはっは!これは面白い!」
戦士「あのままでは確実に怪鳥を仕留めていたが……奴もまた子の親」
戦士「これがあれば無駄な殺生も最小限にできるかもしれぬな」
女騎士「そうか、喜んでもらって何よりだよ」
戦士「ああ、感謝するぞ!これでようやく旅に出かける事ができる」
戦士「その前に、腹ごしらえだ!これは旨いぞー!」
女騎士「卵は食べるんだな……、実に美味だが!実に美味だ!」ガツガツ
戦士「それはそれ、これはこれよ!」ニカッ
城下町
戦士「それではまた会おう!」
女騎士「ああ、またな!ありがとう!」
女騎士「気持ちのいい男だったな」
女騎士「さあて、と」
女騎士「刀剣匠の店に行くか!」
女騎士「その前に……少し腹ごしらえしてくかな」
女騎士「奴とはこれから大いなる舌戦になりそうだ」
宿屋
女騎士「ようし、お腹いっぱい!」
女騎士「さあさあやってやるぞう!」
女騎士「いざ、刀剣匠と合間見えん!」
女将「……あら、貴女、彼の所に行くの?」
女騎士「へっ?ああ、そうだが」
女将「じゃあこれ持っていってくれる?」
女将「きっともう3日は何も食べていないと思うの」
女将「あの子、昔から作業に没頭すると倒れるまでやっちゃうから……」
女将「貴女もよければ一緒に食べていいから」
女将「ね、頼むわ、ちょっと心配してたのよ」
女騎士「そうなのか、よし、引き受けた!」
女将「ふふ、ありがとう」
刀剣匠の店
女騎士「ふーっ……、よしっ!よしっ!」
女騎士「頼もう!」
シ……ン……
女騎士「物音ひとつしないな」
女騎士「工房のほうか?」
女騎士「……開けるぞ?」ギギ
女騎士「いない……か、……む?」
女騎士「大きな布包み……なんだろう」
女騎士「鎧くらいの大きさ……かな」ソ……
刀剣匠「それに触れるな!!!」
刀剣匠「職人の工房に勝手に入りやがって……」
女騎士「刀剣匠……」
女騎士「す、すまない、悪かった」
刀剣匠「とっとと出ていけ」
女騎士「本当にすまなかった、この通りだ」
刀剣匠「……」
女騎士「……わかったよ」
女騎士「これは置いて行く、良かったら食べてくれ」
バタン
スタ、スタ、スタ
スタ、スタ
ピタッ
女騎士「…………」
女騎士「……ぅ」
女騎士「……ぅぐっ」
女騎士「うわああ~~ああ!」
女騎士「うわぁ~!」
兵士A「おい!あそこ!」
兵士B「……や、あれは……!」
女騎士「うわぁ~!刀剣匠の、馬鹿野郎~!」
兵士B「どうされましたか、元隊長!」
兵士A「どこかお身体でも悪いのですか、元隊長!」
女騎士「お前ら……!」
女騎士「元は余計だこの野郎!うわぁ~~!」
兵士A「ど、どうされたのか」
兵士B「とりあえず詰所まで引きずって行くか」
兵士A「まったく元隊長が泣きわめくなんて……!」
兵士B「天変地異の前触れか!」
……パク
刀剣匠「……旨い」
刀剣匠「あー、くそっ、つい怒鳴っちまった」
刀剣匠「謝らなきゃ……」
「頼もう」
刀剣匠「誰だ?今立て込んでるんだ、悪いが帰ってもらえない……か」
少女「くっくっく……強気だな、それもまた若さゆえか」
少女「泣いて……いたぞ?」
少女「早く追いかけるのだ!」
少女「そして何も言わず、そっと後ろから抱きしめてやるといい」
刀剣匠「……」
少女「……」
少女「えーっと、次はなんだっけ?」
刀剣匠「大衆演劇に毒されるのはやめようねー」
刀剣匠「おいちゃん絵本あげるから」
少女「わーい」
本日はここまでになります、またよろしくお願いします
続きますー、ありがとうございます
………
女騎士「ひっく、刀剣匠がなんぼのもんじゃーい!」
女騎士「私はちゃんと期日通りに配達したぞー!」
女騎士「刀剣匠のどあほー!」
兵士A「元隊長……おいたわしや」
女騎士「だから元っていうな!」
兵士B「そんな、無茶言わないでください元隊長」
女騎士「おまえら本当に心配してるのか!?」
兵士B「仕方ないです、王の決定なのですから」
女騎士「うう……私の何が悪かったのか」
女騎士「城に仕えてかれこれ15年」
女騎士「近衛隊長になってからのこの半年はそりゃあもう頑張ったさ」
女騎士「なのに、なのにだ!」
~~~
少し前
練兵場
大臣「女騎士よ、本日を持って近衛隊長の任を解く」
女騎士「今、なんと……」
大臣「次の行き先は半月後に伝える」
大臣「それまではしばし休暇でも取るとよい」
女騎士「ま、待ってください!」
大臣「ならぬ、これは決定事項だ」
女騎士「私はまだこの国の為に力を……!」
~~~
女騎士「隊長になった時に頂いた剣も取り上げられちゃうしさ」
女騎士「私では力不足だったのかな」
兵士B「そんなことはありません!」
兵士A「元隊長は我々にとっては今でも隊長です!」
女騎士「お前たち……!」
女騎士「私はいい部下を持ったなああ!」
女騎士「必ず、必ずまた近衛隊長に返り咲くぞ!」
女騎士「やはり私には剣が必要だ……」
女騎士「武術大会まであと3日」
女騎士「なんとしてで私の扱える剣を手に入れて、大会で優勝し、力を認め直してもらわなければ!」
兵士B「それで、剣はどうでした?」
女騎士「…………はあ~ああ」
兵士B「な、なんという大きなため息!」
兵士A「らしくないですよ元隊長!」
兵士A「もっといつものように何も考えていない顔で豪快に笑いとばしてください元隊長!」
女騎士「だから本当に心配してるのか!?」
ワーワー
バタン
刀剣匠「邪魔するぞ」
兵士A「やや!何奴!」
兵士B「ここは栄誉ある近衛騎士団の詰所だ!」
兵士B「部外者が立ち入る場所ではない!」
刀剣匠「ならそこの元隊長殿も相応しくないな」
女騎士「なっ!」
兵士A「それは確かに」
兵士B「なるほどもっともだ」
刀剣匠「だろ、じゃあちょっと借りてくぞ」
女騎士「な、ちょ、ちょっと待て!」
女騎士「くそ!お前ら~~!」
兵士A・B「「お気を付けて~!」」
刀剣匠「話は外で少し聞いた、武術大会に出るための剣が欲しいのか」
女騎士「むっ……、その通りさ」
女騎士「生半可な剣じゃ駄目なんだ、私の剣圧ですぐに駄目にしてしまう」
刀剣匠「だからあの剣が欲しいのか」
女騎士「そうだ、あれならもしくはと思ったんだが」
刀剣匠「すまんがあれは駄目だ、売り物じゃあない」
女騎士「魔法使いから聞いたよ、もう持ち主がいるって」
女騎士「残念だがそうと聞いてわがままを言うほど馬鹿じゃない、諦めて別の剣を探すさ」
刀剣匠「……ちょっと手を貸してみろ」
女騎士「えっ?こらっ、ちょ、ちょっと……!」
女騎士「な、何をしてるんだ」
刀剣匠「うるさい、集中させてくれ」サワサワ
女騎士「なんだよ……」
刀剣匠「…………」
刀剣匠「……そうか」
刀剣匠「成る程な、よく剣を振り込んでいるいい手だ」
女騎士「うん?」
刀剣匠「用意してやるよ、お前の剣」
刀剣匠「配達もしてもらったしな、約束だ」
女騎士「ほ、本当か!」
刀剣匠「ただし師匠の剣じゃなくて、俺の打った剣だ、それでもいいなら」
女騎士「ああ!ああ!それでいい!」
女騎士「みんなお前の仕事を褒めていた!私もお前の剣が見てみたい!」
刀剣匠「よし、決まりだ」
刀剣匠「調整は大会当日になっちまうが、必ず間に合わせる」
刀剣匠「まあ枕を高くして待ってろ」
女騎士「宜しく頼む!お前が力を貸してくれるなんて、これは百人力だ!」
刀剣匠「はははっ、任せとけ」
武術大会当日 準決勝
女騎士「はっ、はっ、はっ」
兵士B「元隊長、かなり力を抑えて戦ってる」
兵士A「そりゃその辺のなまくらじゃあすぐ駄目になるからなあ」
兵士A「それでもここまで来るんだから、凄い人だ」
兵士B「我が国随一の使い手が何故、近衛隊長の任を解かれたのか……」
女騎士(……これは実にまずい!)
女騎士(さすがに手加減していては……)
女騎士「ちい!」
バキィ!
「待て、中断だ!」
「どうする、替えの剣はあるか?」
女騎士「ああ……」
女騎士「確かに用意はあるが、これでは……」
刀剣匠「……女騎士!」
女騎士「……刀剣匠!」
刀剣匠「これを使え!」
女騎士「この剣は……!」
刀剣匠「遅くなって悪かった!だが、きっとお前の手に馴染む筈だ!」
「再開するが、大丈夫か?」
女騎士「ああ!」
女騎士「しなやかな剣だ、あの店に残っていた剣とは対照的に」
女騎士「それになんという軽さだ!」
女騎士「持ち手は手に吸い付くかのごとく」
女騎士「まるで使い込んだ愛用の剣のようだ」
女騎士「これなら!」
………
「がっはあああ!」
「勝者!女騎士!」
女騎士「やった……!」
女騎士「これで決勝進出!」
女騎士「相手は……」
戦士「おお!なんだあお前さんが相手か!」
女騎士「せ、戦士か!」
戦士「はっはっ!これも何かの縁だなあ!宜しく頼むぞ!」
女騎士「ああ!受けてたとう!」
『それでは!決勝戦、始め!』
戦士「む?その剣は……刀剣匠が打ったものか?」
女騎士「ああ、よくわかったな」
戦士「はっはっ、そりゃあ私もそれを狙っていたからなあ」
女騎士「何?」
戦士「なんだ知らんのか、そいつは刀剣匠の最高の一振りだ」
戦士「そんなもんを託されるとは、随分と奴に好かれとるな!」
女騎士「最高の……一振り」
戦士「はっはっ!ますます楽しくなってきた!」
戦士「いざ!」
女騎士「……参る!
…………
王「む、決勝に出ているのは……女騎士ではないか」
王「あやつには休暇でも取れと申した筈だが」
王「ふはは!面白い奴だな」
王「それに相手はあの戦士か」
王「よいよい、実に面白い」
…………
女騎士「であああああ!」
戦士「ぬぅあ!」
「……勝者!女騎士!」
女騎士「か、勝った……!」
戦士「はっはっはっ!流石だな!」
女騎士「いや、貴方も……ここまで追い込まれたのは初めてだ」
女騎士「私もまだまだだな!鍛え直さねば!」
戦士「はは、私も精進するとしよう」
タッタッタッ
女騎士「はっ、はっ……」
女騎士「刀剣匠は……いないか?」
兵士A「あの方ならつい先ほど帰られましたよ」
兵士A「宜しく言っといてくれ、とのことで」
兵士B「何やらこれから工房に籠って大仕事があるとかないとか」
女騎士「そうか……」
女騎士「訪ねていっても迷惑だろうな、はは、また怒られそうだ」
女騎士「……」
謁見当日 城門前
女騎士「結局あれから刀剣匠には会えずじまいだったな」
女騎士「礼を言いたかったが……」
女騎士「……」
女騎士「しかし今日ばかりは気にしてもいられんか」
女騎士「ああ、私はどこへ飛ばされてしまうのか!」
女騎士「北か?南か?もしや南海の孤島か?もしやすると、首!?」
僧侶「あら……」
僧侶「ごきげんよう、元隊長さん」
女騎士「あ、あれ、僧侶じゃあないか!」
僧侶「ふふ、あれ以来ね」
女騎士「どうしたんだ?城に用なのか?」
僧侶「そう、少しね」
女騎士「そうかそうか!……と、今日に限ってあいにく私も大事な用があるんだ」
女騎士「城下町を案内したかったんだが、すまん!」
僧侶「ふふ、ありがとう、また今度宜しくね」
女騎士「……?貴女はお城に入らないの?」
女騎士「あ、ああ!まだ少し時間が早くてな!」
女騎士(怖くて入れないなんて言えない!)
僧侶「そう、私はもうすぐだから行くわね?」
女騎士「気をつけてな!」
女騎士「早く行かなければ……でも怖い……」
女騎士「おろおろ……」
魔法使い「……いーよっと」
魔法使い「……そこにいるのは女騎士?何してるの?」
女騎士「ま、魔法使い!」
女騎士「やあ奇遇だなあこんな日に!」
女騎士「今飛んできたのは魔法か?なんだ私にもそれかけてくれれば良かったのにー、意地悪か?こーいつー!」
魔法使い「これは自分だけにしか使えないんだよ……ってどうしたのさ、やけに饒舌だけど」
魔法使い「なにか……城に入るのを躊躇ってるの?」
女騎士「や、ややや、やだなー!どーして近衛隊長の私が入るのを怖がるなんて!」
魔法使い「元でしょ、抜けてるよ」
魔法使い「よくわかんないけど、先に行ってるね」
女騎士「そ、そーかい!行っておいでー!」
魔法使い「……はあ、ほら水でも飲んで落ち着きなよ、これあげるから」
魔法使い「じゃあね」
女騎士「き、気をつけてなー!」
女騎士「はあ」
ゴク!ゴク!ゴク!ゴク!
女騎士「ぶはー!!!」
女騎士「よ、よーし、なんとなく落ち着いてきたぞう!」
女騎士「よーしよーし、やってやるぞう!」
戦士「……そこにいる元気な輩は女騎士か!」
女騎士「お、おお戦士か!」
女騎士「今日は不思議な日だなあ」
女騎士「戦士も城に用事なのか?」
戦士「ああ、王様に呼ばれてな!」
女騎士「王様に?」
女騎士(……なんだなんだ?あ、もしかして前の武術大会で準優勝したから?いい役職を用意してやる的な?近衛隊長とかいい具合に空いているぞってか?)
女騎士「ゆるさーん!!!」
戦士「なんだどうした女騎士」
女騎士「へっ?い、いやすまない、声に出ていたか」
女騎士(いやだがしかし、考えてみれば、そうであるなら私が復帰することもあるんじゃなかろうか、だって勝ったし!僅差だけど!)
女騎士「なるほどね!」
戦士「さっきからどうした、お前さんも城に行くんだろう?」
女騎士「ああ、すまなかった戦士、さあ行こうじゃないか!」
戦士「はっはっ!何があったかわからんがそれでこそ女騎士だ!」
「入城か?それならこの名簿に記入を……」
「え?ダメダメ!顔パスじゃないよ!今のあんたは近衛兵ではないんだから!」
戦士「ど、どうした女騎士!信じられんくらい肩が落ちてるぞ!」
………
刀剣匠「ひい、はあ、ぜえ、ぜえ」
刀剣匠「お、重かった……」
「なんだ、荷車で押してきたのか?連絡をくれれば手伝いに行ったものを」
刀剣匠「いや、今朝までかかったんだ……連絡する暇なかった」
「そうかそうか、代わろう、少し休むといい」
刀剣匠「ああ助かる、頼むよ」
「一応中身をあらためさせてくれ」
「剣が一振り、防具一式、装飾具が数点、それと工具だな……」
「よし、行こうか、すでに始まっている」
王「ほんの二週間ほどだったが、休暇は楽しめたか?」
女騎士「……はい」
女騎士(昨日なんてご飯が喉を通らなかったさ!)
王「ふ、歯切れが悪いな」
王「よい、知っておるぞ、お主が武術大会に参加して優勝したことは」
女騎士「は、はい!」
王「流石だな、その腕前と心意気に恐れ入ったよ」
女騎士(お?おおー?これはもしかして?)
王「もはやお主に敵うものはこの国にはおらぬかもしれぬな」
女騎士「は、僭越ながら!」
女騎士(来たぞう!来たぞう!)
王「……やはりお主を近衛隊長の任から解いたのは正解だったようだ」
女騎士「は、ありがとうございます!」
王「……?」
女騎士「……え?」
女騎士(な、なにいー!!?)
女騎士(なんだ今の会話の流れは!?)
女騎士(王様!そこは、間違っていたな、とか仰る所でしょう!?やだなあもう!あああ、きょとんとしてらっしゃる!)
王「おほん!今日はそなたに会わせたい者がおる」
女騎士「え……?」
王「入ってまいれ」
戦士「失礼します」
戦士「王のご指名により、不肖私め、参上致しました!」
女騎士「せ、戦士!」
戦士「よう!先ほど振りだな!」
王「なんだ知り合いか?それなら話が早い」
王「戦士には頼みがあってな、本日は来てもらった」
女騎士「んな、な、な、それは……まさか」
王「すでに気付いておったか?」
女騎士(気付きたくありません!)
王「……むう、気付いておるならば仕方あるまい、ん?」
王「他の二人はどうした?」
戦士「や、先ほど少し荷運びを手伝いまして」
戦士「すぐ戻ってくるかと……、おお来ましたな」
魔法使い「いやまさか、僕の他にも頼んでいたとはねー……」
僧侶「本当ですね、そうとは知らず、悪いことをしました」
王「来たか、待ちわびたぞ」
魔法使い「は、遅くなりました、魔法使いただいま参りました」
僧侶「僧侶です、この度は呼んで頂き光栄です」
女騎士「な、な、ええ?」
王「お前達、もう女騎士は知っておるようだ」
王「先だって話したことに異論はあるか?」
僧侶「いいえ、ありません、とても相応しいと思います」
魔法使い「僕もありません、まあ、賛成です」
戦士「私もありませんな!むしろ光栄に思っておりますわ!」
王「そうかそうか、ならば女騎士よ……」
女騎士「は、ははっ!」
女騎士(や、やめてやめて!もう耐えられない!)
女騎士(私はまだ騎士でいたい!)
女騎士(なんだ!?私はもうお払い箱か!?)
女騎士(いやだー!いやだー!いやだー!)
王「……そなたを勇者として、魔王討伐を命ずる」
女騎士「……断固お断りです!」
女騎士(ああっ、王様になんて口の聞き方をー!どっちにしろもう駄目だー!………)
女騎士「…………は?」
王「なんだどうした?もう腹が決まっておるのかと思ったが……」
女騎士「え?いえ、え、勇者?」
女騎士「私は、近衛隊長の任を、解かれて、さらに城からも追い出されるのでは?」
王「そんなつもりは毛頭ないが……なんだ、気付いておらなんだか」
王「北の大地に……魔王が現れたのは知っておるな?」
女騎士「はい……」
王「いまはまだ目立った動きはないが、既に魔族の軍勢を整えているとの噂もある」
王「奴はいずれこの国にも攻めて来ることだろう」
王「その前に……我が国からも先手を取り勇者を旅立たせることにした」
王「彼らにはその旅に同行することを命じたのだ」
女騎士「勇者……仲間……」
王「そして肝心の勇者として、わしはそなたを選んだのだ」
王「今まで秘密にしておったのは、考える時間を与えて断られん為だ」
王「そなたほどの騎士はおらん、間違いなく我が国きっての使い手だ」
王「騙すようなやり口ですまん、だがどう考えてもそなたしかおらん」
王「どうだ?やってくれるか?」
女騎士「……は」
女騎士「はいっ!身に余る思いです!必ずやご期待に沿い、魔王を討伐しましょう!」
王「そうか!そうか!そなたのような者がいてわしは嬉しいぞ」
王「旅に出すにあたって援助は惜しまん」
王「全力で魔王を討伐しようぞ」
王「さしあたって……そなた達には支度金を渡しておいたな?」
戦士「はっ、おかげでいい武具を揃えることが出来ました」
王「ならよい、わしからも餞別として別に用意させた」
王「よければ使ってくれ、……あれを」
女騎士「こ、これは……!この、剣は……!」
王「国一番だった職人が残した剣だ」
王「国を救う人物に渡してくれとの遺言だった」
王「そなたに授けよう」
女騎士「有り難き幸せ……」
女騎士「この感触はまるであつらえられたかのよう……!」
王「その調整をさせる為に、お主愛用の剣を借りた、すまなかったな」
王「そしてそれは職人の弟子が作った鎧だ」
王「弟子はどうやら防具づくりに才があるらしくてな」
王「そなたらにも装飾具を授けよう、有効に使ってくれ」
魔法使い「は、ありがとうございます」
王「弟子も城に呼んである、後で細かい調整をしてもらうといい」
王「期待しておる」
女騎士「はっ!」
僧侶・魔法使い・戦士「はは!」
………………
………
…
刀剣匠「よう、終わったか」
女騎士「ああ」
刀剣匠「なら調整させてくれ、魔法使い達の分もまだ出来ていないしな」
女騎士「この剣も鎧も、わたしにあつらえたようにぴったりだよ」
女騎士「刀剣匠は私が勇者を拝命することを知っていたのか?」
刀剣匠「いや?俺が聞かされたのは、この剣の持ち主に合う剣を用意してくれってだけだ」
女騎士「なら何故?」
刀剣匠「その腰に提げてる剣、それを作る時にお前の手を見せてもらったからな」
女騎士「大会用にくれた剣か」
刀剣匠「剣を見れば持ち主のことはなんとなくわかる……」
刀剣匠「すぐわかったよ、勇者はお前だと」
女騎士「凄いなあお前は!」
女騎士「この、お前の師匠がつくった剣も!本当にしっくりくる!」
刀剣匠「そうかそうか」
刀剣匠「さ、ならその剣返してくれ」
女騎士「何故だー!」
刀剣匠「師匠の剣を貰ったんだろ?お望みのものが手に入ったんだからいいじゃねえか」
刀剣匠「それに師匠の剣は両手剣だ、俺のは使えないし邪魔になるだけだろ」
女騎士「い、いやだ!!!」
刀剣匠「なんでだよ!持腐れされるのは俺だっていやだ!」
女騎士「こうすれば、使えるもんねー!」
刀剣匠「な……!両手剣を片手で……二刀流だと!?」
僧侶「さすがね」
魔法使い「本当だねえ」
戦士「はっは!それでこそ女騎士だ!」
刀剣匠「俺の剣は師匠のに比べて出来が良くないんだよ!そんなもん勇者様に使わせられるか!」
女騎士「それは攻撃力の話だろう?知ってるよ、お前の剣は身を守る為の剣さ」
刀剣匠「だけどよ……!」
女騎士「それにさ」
女騎士「確かにこの両手剣は、伝説の職人が残した最強の剣かもしれない」
女騎士「でも私にとっては、汗水垂らして手に入れたこの剣」
女騎士「お前が私の事を考えてくれて鍛え直してくれたこの剣」
女騎士「そしてお前の打った最高の一振り」
女騎士「これこそが、私にとっても、最高の一振りなのさ」
……………………
…………
…
「え~、つまりそんな訳で……」
「二刀流の勇者と仲間達によって世界は魔王から守られたという……」
「めでたし、めでたし……」
パチパチパチ……
娘「ねーねーお母さん、その後勇者様たちはどうなったの?」
母「……くくく!知りたいか?ならばその身に刻み込んでやろう!」
娘「あ……また演劇の影響を受けてる」
娘「もうっ……、お腹すいちゃった、早く帰ろう?」
母「いいだろう!そなたのはらわた、満たし尽くしてくれるわ……」
「あ、こちら観劇された方への粗品ですー」
母・娘「「わーい、ワッペンだー」」
ワッペンには二本の剣をあしらった刺繍が施されている
刺繍と同じ絵柄の看板を掲げた街外れの工房からは、
鋼を叩く音と時折夫婦の楽しそうな語らいが、聞こえてくるとか、こないとか
刀剣匠「これが最後の一振りだ」女騎士「 それを頂こうか」 おしまい
以上になります、最後は一気に投稿になりましたがなんとか終わらせることができました。
ありがとうございました。
このSSまとめへのコメント
イイハナシナノカナー
登場人物全員がノリ良くて大好きだ