勇者「俺に魔王になれ……と言うのか!」(527)

魔王「私が勇者になる……だと?」【3】

の、続きです

王「良く来た、勇者達よ……そうかしこまる必要は無い、面を上げよ」
剣士「は……」
魔法使い「は、はい!」
僧侶「……はい」
王「魔王が力をつけだして久しい。以前勇者と呼ばれた者が旅立ってからも同じく、じゃ」
剣士「聞いております。勇者と呼ばれた若者が……帰る事は無かったと」
魔法使い「魔王は大変好戦的で、この人の世を支配せんと、恐怖を振りまこうとしていると」
僧侶「そして……その凶悪な爪が、今正に振り下ろされんとしていると」
王「今日そなた達ををここへ呼んだのは……分かるな?」
剣士「……必ずや、魔王を倒してごらんに入れます」
魔法使い「旅立ちを許して頂いた名誉にかけて、必ず……!」
僧侶「今度こそ、本当の勇者、と呼ばれる為に!」
剣士「世界の平和の為に!」
王「うむ……頼んだぞ、選ばれし者達よ!」

王「……勇者一行以下、全て下がれ!」
王「街の者に伝えよ……誉れある若かりし者の出立に光あれ、と!」
剣士「……」
魔法使い「……」
僧侶「……」
王「…… ……と、言う訳で、だ」
剣士「こういうパフォーマンス、必要だったんですかね、王様」
王「そういう事言うな、剣士。何事も形から、と言うだろう?」
魔法使い「なぁにが、『頼んだぞ、選ばれし者達よ!』だよ……恰好つけやがって」
僧侶「まあまあ、そう言うお年頃なんだって、王様もさ」
王「お前らなあああああ!」
剣士「うわ、外でわーわー言ってる……」
僧侶「そりゃそうだろ……勇気と未来ある勇者一行様方が」
僧侶「王様のお部屋で念入りに打ち合わせ、とでも思ってんだろ」
魔法使い「門からでりゃ、俺ら英雄扱いだなー!」
魔法使い「可愛い子から『魔法使い様!行かないで!』とかさ」
剣士「そこはあれだろう。『待ってますから……必ず帰って来て!』だろ」
僧侶「いっそ、『私も連れてって!』はどうだ?」
王「黙れ!この糞ガキども! ……全く」

王「だいたい、何が英雄、だ。そんなもん、魔王を倒してからだろうが!」
魔法使い「大丈夫だって。俺らならやれるって王様だって思ったから」
魔法使い「いきなり『お前ら旅立て』とか言ってきたんだろうが?」
王「本当に……お前達の脳天気さには呆れるわ……」
剣士「そうそう。あの『~~じゃ』とか言う、王様口調?やめた方が良いよ」
剣士「どうせ御伽噺の王様でも真似してるんだろうけどね」クスクス
僧侶「うん。全く似合わネェ。大体そんな歳じゃネェじゃん、お前さ」クスクス
王「う、うううううう、煩いわ!」
魔法使い「……ちょっと前まで、一緒に暴れ回ってたくせになぁ」
王「あーのーなー、お前に剣教えたのは俺だろう、剣士!」
剣士「感謝はしてるって。アンタ、俺の兄貴みたいなもんだしさ」
僧侶「みんなの兄貴、だろ。まあ……アンタが前王様の息子って知った時は驚いたな」
魔法使い「まだ寝込んでるんだろ?急に王位継がなくちゃ、とか言い出した時だって」
王「……誰も信じてくれなかったな」
僧侶「酔っ払ってたからナァ……ついでに一緒に朝まで飲んだじゃネェか」
剣士「戴冠式、二日酔いで出て、こっぴどく怒られたんだよな」
王「お前達が無理矢理飲ませたんだろうが!」
王「……忘れろよそんな事は。さっさと……」
僧侶「……そこで待ってろよ。さっさと魔王の首、取って帰ってくるからさ」
剣士「そうそう。俺たちは勇者様御一行だ」
剣士「……その名に恥じぬ様、きっちり魔王の首を持って帰って参ります」
剣士「……って、か」ハハ
王「全く……」フゥ

魔法使い「ちゃんと病気の前王様、見てやれよ?」
魔法使い「……こっちは安心しとけ。俺たちなら大丈夫だからさ」
僧侶「そうそう。さくっと行って、さくっと帰ってくるしさ」
王「……これを持って行け。少しだけどな」
剣士「ん……? ……お、おい、これ!」
王「この国は小さな島国だからな。大した餞別も用意出来ん」
王「だったら、金の方が良いだろう」
僧侶「……少し、って結構な大金じゃネェかよ」
魔法使い「これで装備整えていけ、て奴?」
王「際限なく飲み食いすんなよ……頼むから」
剣士「しかし……これ、流石に多くないか?」
王「構わん。なんせ勇者ご一行様だからな」ハァ
僧侶「……嫌味にしか聞こえネェんだけど」
王「外に船も準備してある。ここから真っ直ぐ、北上すれば」
王「最果ての大陸の端に着くと言う。一応……地図も渡しておこう」
剣士「至れり尽くせりだな」
王「…… ……」ハァ
魔法使い「どうした?また二日酔いか?」
僧侶「お前が飲ませすぎるからだろ、魔法使い」
王「俺は酒は弱いんだよ……」
剣士「ありがとな、兄貴」
王「……一応王様って呼べ」
僧侶「本来なら、アンタも一緒に行く筈だったのにな」
王「そりゃ無理だ……それに、お前達はまあ……本当に強くなったよ」
王「俺を剣の師だ、兄貴だ……って、言ってくれるのは嬉しいけどな」
剣士「王様……」
王「俺は『勇者』じゃない。そんな器じゃない」
王「……そりゃ、お前達だ」
僧侶「…… ……なんだよ、改まって」

王「ほら、もうそろそろ行け。さっさと行け」シッシ
王「……頭痛いんだよ。俺は寝たいの!」
剣士「困った王様だよ、全く」
魔法使い「良し……行くか!」
王「おい」
僧侶「ん?」
王「いくら勇者ご一行様だとか言われても、強いと言っても」
王「お前達はまだ若い。未来もある」
王「……魔王は、強い。世界を滅ぼそうと出来る位に」
剣士「……」
王「敵わないと思えば、迷わず逃げろ」
王「……命あってこそだ。忘れるなよ」
魔法使い「……」
王「誰もお前達を責めない。倒せば確かに、本物の『勇者』として」
王「褒め、讃えられ、誰もがお前達に尊敬の眼差しを向けるだろう。だがな」
僧侶「……」
王「死んだら、そこから先は何も無いんだ。終わりなんだ」
王「帰ってくる所は、此処だけじゃない。お前達は何処にでも行けるんだ」
王「……それだけは、忘れるな」
剣士「何だよ……改まって」
魔法使い「そ、そうだよ……気持ち悪い」
僧侶「心配すんな。大丈夫だって」
王「……釘指しとかないと、お前ら暴走しそうで怖いもん」
王「…… ……もう行け。頼んだぞ、勇者達」
剣士「……ああ」
魔法使い「任せとけ!」
僧侶「待ってろよ。必ず、帰ってくるからな!」
王「…… ……期待してる、よ」

パタン

王「…… ……」
王「すまん、剣士、魔法使い……僧侶」
王「……すまん。頼むから……生きてくれ、希望の勇者達……ッ!」

……
………
…………

剣士「……スゲェ熱狂だったなぁ」
魔法使い「おい、あの赤い髪の可愛い子見たか?」
魔法使い「俺にしがみついて泣いてんの!」
僧侶「おい!お前ら手伝えよ!船ってどうやって動かすんだよ!」
剣士「ん?ああ……変わるよ……っと」
魔法使い「……お、すげぇ、進んだ」
僧侶「できるなら俺に任せてないで、最初っからやれよ剣士!」
剣士「俺がやるって張り切ってたのお前だろう、僧侶」
魔法使い「すげえな、ドンドン島が小さくなってく……」
剣士「帰った時の熱狂は、今日の非じゃないだろうな」
魔法使い「ひゃっほーぅ! 可愛い子、よりどりみどり!」
僧侶「お前は女の事しか頭にネェのかよ、魔法使い…… ……ん?」
剣士「どうした?」
僧侶「…… ……ありゃ、何だ?」
魔法使い「あ?」
僧侶「剣士、舵任せるぞ……おい、魔法使いあれ見ろ……北のそ……ら……!?」
魔法使い「何だよ珍しい鳥でも飛んでたか?」ヒョイ
魔法使い「……ッ な、ん ……ッ 火、の球……!?」
剣士「おい、どうした!?」
僧侶「剣士、スピード挙げろ!進め……ッ」

グラグラ、グラグラ……!

剣士「な、何だ……!?」
魔法使い「近づいてくる!」
僧侶「風……ッ 衝撃波か……!!」

魔法使い「……ッ やばい、でかい!!」
僧侶「……ッ 全速力だ、この海域を離れないと……!!」
僧侶「剣士!!どっち向いてんだ、前見ろ、前!!」
剣士「……島に向かってないか、あれ」
魔法使い「!!」
僧侶「戻ったって間に合わん!間に合ったところで……!!」
剣士「しかし……ッ !!」
魔法使い「糞、どけ、剣士!」ドン!
剣士「……ッ 何するんだ!」ドタ!
魔法使い「離れるんだ!逃げるんだよ!俺たちまで巻き込まれちまうだろ!?」
剣士「や、やめろ、魔法使い……ッ 島が、島の人達が……ッ」
僧侶「もう遅い……ッ 早くしろ、魔法使い!」
魔法使い「これ以上早くならねぇよ!畜生!」
剣士「戻れ、戻れー!!見殺しにする気か!! ……王……ッ兄貴が!」
僧侶「……ッ 糞ッ」

ズ、ズ…… ゴゴゴゴ……ッ

剣士「な、 ん……の、音……ッ !!」

グラグラグラ

魔法使い「う、うわあああああああああああああ!」
僧侶「く、そ……舵、が……ッ」
僧侶「あああああああああああああああ!」
剣士「兄貴、あに……ッ !! うわあああああああああああああああああ!」

……
………
…………

僧侶「……ッ く、しゅんッ!!」
僧侶「……!!」
僧侶「冷た……ッ」ガバ!
僧侶(……生きて、る。びしょびしょ……ああ、そうだ、船の上……船……!!)
僧侶「魔法使い、剣士!」キョロキョロ
魔法使い「……よう。気がついたか」
僧侶「魔法使い……生きて、たか……」ホウ
僧侶「!! 剣士は……ッ!?」
魔法使い「……」ス……
僧侶(あっち……?船の……先、あ……)
剣士「…… ……」
魔法使い「一番最初に気がついたみたいだな。お前のそれ、あいつのマントだよ」
僧侶「あ……」
魔法使い「……話しかけても無駄だぜ。ああやって島の方見たまんま」
魔法使い「一っ言も喋らネェ……そっとしておいてやれよ」
僧侶「…… ……!!」
僧侶「ひ、火の玉は、島は……ッ!?」
魔法使い「黒煙、見えるだろ」
僧侶「…… ……」
魔法使い「多分、あれだ……そんで、多分……海の底、だ」
僧侶「……そ、こ」
魔法使い「……人も、家も、街も、城も……島毎全部、海の底だよ!!畜生!!」ガンッ
僧侶「…… ……」
魔法使い「黒煙と……熱された海からの熱で近づけネェな、多分」
僧侶「船は、動くのか」
魔法使い「無理じゃね? ……結構な衝撃だったろ」
魔法使い「海に落ちなかっただけ、船が壊れなかっただけ」
魔法使い「……俺たちは強運だ。流石『勇者様御一行』だぜ」
僧侶「魔法使い……」

剣士「…… ……兄貴は、知ってたんだろうか」
僧侶「え?」
剣士「魔王を倒せ。勇者になれる……俺たちならやれるって」
剣士「ずっと前から、色んな人達に言われてた」
僧侶「……」
魔法使い「その『俺たち』の中には、兄貴だって入ってたんだぜ」
剣士「解ってる……俺たちは阿呆みたいに、その気になってた」
剣士「酔った兄貴が、何時か四人で旅立とうとか言ってただろ」
僧侶「……『俺たちならやれる』」
剣士「ああ……」
魔法使い「あの日、兄貴が珍しくへこんでるから何かと思ったんだよな」
僧侶「悪い、俺、魔王倒せないや……だっけ」
剣士「楽しく飲んでた俺たちの傍まで来て、座りもせず突っ立ってたよな」
魔法使い「座らせて無理矢理飲ませて、口割らせたんだよな」
僧侶「実は王様の息子でした。親父は病気で寝込んじまって」
僧侶「明日から俺が王様なんだ……だったか」
剣士「呂律回ってなかったが、そんな感じだったな」
魔法使い「何とちくるってんだって、俺がさらに飲ませたんだよな」
僧侶「そしたら、本当に次の日から玉座に座ってたよな」
剣士「驚いたよ。何で……そんな急だったのか」
僧侶「今でもわかんねぇよ、そんなの」
魔法使い「……まさか、一人急に欠けるなんて思わなかったからな」
剣士「……勇者になるのは俺じゃ無い。兄貴だ」
剣士「なのに……あいつは……」
魔法使い「俺じゃ勇者になれない。なるとしたらお前だ、剣士」
僧侶「……そのしゃべり方、そっくりだな」クック
剣士「魔法使いと僧侶と、魔王を倒す旅に出ろ」
剣士「……お前達なら、勇者になれる」
魔法使い「俺の方が似てるよ」
剣士「……チッ」
僧侶「急がせた、のかな。旅立ち」
剣士「…… ……」

近いうちにっていってたけど次の日とは!
嬉しいけど無理はしないでぬ

僧侶「考えられるよな。大金与えて、あんな茶番までやってさ」
魔法使い「金なんて……何の役に立つんだよ……ッ」
剣士「思い出せよ、魔法使い。兄貴の言葉……」
魔法使い「え?」
剣士「『死んだら、そこから先は何も無いんだ。終わりなんだ』」
僧侶「『帰ってくる所は、此処だけじゃない。お前達は何処にでも行けるんだ』」
魔法使い「……だ、だからって、このまま俺たちだけでどっか行って」
魔法使い「のんびり暮らす為の資金にって、渡した訳じゃネェだろ!?」
僧侶「どういう風にも取れる、ってこった」
剣士「……それも一つの選択肢、だな」
魔法使い「お、おい……」
剣士「何も……そうしようって行ってる訳じゃない」
剣士「……確かに、普通の顔をしてどっかの街で何もせず生活していく事はできる」
僧侶「帰る所は……もう、無いからな」
魔法使い「……」
剣士「……」
僧侶「……」
魔法使い「だからって……だからって!!与えられた金で、悠々と何食わぬ顔して」
魔法使い「何も知らない振りして、過ごせって言うのか!?」
魔法使い「そんな選択肢、与えられたって拒否するしかネェだろ!?」
剣士「…… ……」
僧侶「…… ……」
魔法使い「お前……お前ら、悔しくないのかよ!?」
魔法使い「あんな……目の前で、あっちゅーまに消し飛ばされたんだぜ!?」
魔法使い「俺らの……家族も、家も……俺らの世界、全部!!」

>>12
ありがとー!
仕事無いと暇でなぁwww
無理しない程度にのんびりやるよー

ちょっとおかいものー

ただいまー
昼ご飯まで再開ー

剣士「……美しい島だったな」
魔法使い「……ッ おい、剣士……!!」
剣士「兄貴は、家族同然だった。剣の稽古つけてもらって、強くなって」
剣士「お前達とあって、馬鹿みたいな事やって騒いで……」
僧侶「……本当、あの人酒弱かったよな。なのに、俺らに付き合って飲んでさ」
剣士「何回介抱してやったかわかんないよな」
魔法使い「おいって!!」
僧侶「結構年上なのに可愛いとこあったよな」
剣士「…… ……あんな、糞でかい火の玉、軽々と北の果てから」
剣士「あんな、小さな島に綺麗にぶち当てて、しかも島毎沈めちまうような」
剣士「……信じられない力の持ち主だ。魔王ってのは」
僧侶「それを……たかだか糞ガキ三人、雁首揃えて殺して下さいって行く様なモンだ」
魔法使い「僧侶!!」
剣士「……だからって、黙ってられるか、ての」
魔法使い「……え?」
僧侶「……小さくてさ、美しいだけしか、取り柄のない島だったよな」
僧侶「それでも……俺たちにとって、あれが世界そのものだったんだ」
剣士「このまま俺たちが怖じ気づいて、尻尾巻いて逃げ出したら」
剣士「魔王の思うつぼだろうが……ッ」
魔法使い「剣士、僧侶……ッ」
魔法使い「そうだ……そうだぜ、俺たちだけじゃ無い!」
魔法使い「放っておけば、被害は全世界に広がるんだ」
魔法使い「魔族共が、好き勝手して良い世界じゃない」
魔法使い「……俺たちの世界なんだ……ッ」

剣士「……だが、生半可な覚悟じゃ倒せないぞ」
剣士「兄貴が居たら……否、あいつが居たって……!」
魔法使い「その兄貴の為にも……俺らがやらずに、誰がやるんだよ!」
魔法使い「……ッ放っておけるか……!!」
僧侶「ま……そうなるわな」
魔法使い「……ッ おう!」
僧侶「しかし……船、動くか?」
剣士「無理だな……目立った損傷は無いが……衝撃で随分やられたっぽい」
魔法使い「おい、お前風起こしてどうにかならねぇのかよ」
僧侶「無茶言うなよ!」
剣士「潮に流されて行って……どこに着くやら」
魔法使い「言う程離れてないよな……」
魔法使い「なあ、本当に無理なのかよ、僧侶」
僧侶「お前なぁ、いくら俺が緑の加護受けてるからって……」
剣士「……まあ、やってみても良いんじゃネェの」
僧侶「……出来なくても文句いうなよ」
魔法使い「補助魔法のつもりでさ……良し、俺も後押ししてやるよ」
僧侶「あーほーかー!お前炎使いでしょうが!」
僧侶「んなもんで炙ったら大火事だわ!」
剣士「……」クックック
僧侶「笑い事じゃねええええええ!」
魔法使い「…… ……おい」
僧侶「あ?」
剣士「何だよ」
魔法使い「陸が見える」
剣士「え……」
僧侶「……泳いで行くにしても、死ぬぞあの距離」
魔法使い「潮の流れはどうだ」

剣士「流石にわかんねぇって」
魔法使い「……近づいていかねぇかな」
僧侶「……風、よ……ッ」

シーン……

剣士「…… ……」
魔法使い「…… ……」
僧侶「笑いを堪えたけったいな顔すんな。いっそ笑え」
剣士「しかし、まあ……何時穴が開くかも解らんしな」
魔法使い「もし少しでも近づきそうなら、泳ぐか……」
僧侶「せめてつっこめ!!」

ススス……

僧侶「……ん?」
剣士「進んでる……な」
魔法使い「でかした!僧侶!」
僧侶「……い、いや、俺のアレかどうか……」

グラグラグラ……

僧侶「おい、何かやばくネェか」
剣士「ぐんぐん進んでる、ぞ?」
魔法使い「おー!すげぇすげぇ!まじで泳いでいけるんじゃね!?」
僧侶「……もう少し……もう少し……ッ」
魔法使い「近くなってきたぞ!やったな僧侶!お前すげぇよ!」
剣士「良し、頃合い見て、飛び込……む……ッ て、おい!」
僧侶「なんだよ?」
剣士「下見ろ、下! ……ッ 岩礁だ!」
僧侶「げ……ッ」

グラグラ、ガクガク…… ガリガリガリ……ッ

魔法使い「うわ、やば……ッ」
剣士「……ッ 浸水してるぞ!船底に穴が……ッ」
僧侶「う、旨く岩避けて飛び込め!ぶつかる……ッ」
魔法使い「ごちゃごちゃ言ってんな!来い!」グイッ

剣士「うわ……ッ」ドボンッ
僧侶「おわああああああああああああああああ!」ザバン!
魔法使い「……ッ」ザバーン!

ガリガリ……ッ バキバキバキ……ッ!!
ドォ………ン!
ザバ……ッ ザザ…… ン、ザザ…… ……

剣士「…… ……」
僧侶「…… ……」
魔法使い「…… ……」
剣士「……何で生きてるんだろうな、俺たち」
僧侶「『勇者様御一行』だから……じゃ、ね?」
魔法使い「ちょっとばかし、神様信じてもいい気になるね、こりゃ」
剣士「……陸地はすぐそこだ。泳ぐぞ」
剣士「風邪引いちまうよ、このままじゃ」
魔法使い「ああ……」
僧侶「怪我確認して、火を起こせる所探そう。どこか痛かったらすぐ言えよ」

ザバザバ……

……
………
…………

パチパチ……

僧侶「へっくしょん!」ズズ……
剣士「ここ、何処なんだかな……」
魔法使い「腹減ったぁ……」
剣士「贅沢言うな、魔法使い。取りあえず火に当たれるだけ幸せだろう」

おひるごはーん

僧侶「鬱蒼とした森の外れ……魔物に襲われるにはもってこい」
魔法使い「やめろよ、バカタレ!」
剣士「騒ぐなって……それこそ…… ……」
僧侶「どした?」
剣士「何か聞こえないか」

ガサガサ……ガサガサ……

魔法使い「……お前はあれか。予言師か何かか」
僧侶「褒めても何もでネェよ……おい、寄ってくんな」
剣士「騒ぐなって! ……おい、詠唱準備しとけよ」チャキ

ガサガサ……ガサ

少年「…… ……うわ!?」
剣士「……ッ !!」
僧侶「……ひ、と?」
魔法使い「何だ……ガキじゃネェか」フゥ
少年「お兄さん達……もしかして……あの、瓦礫に乗って来た人達?」
僧侶「……瓦礫に乗れる程器用じゃネェよ俺ら」
少年「……」ジロジロ
剣士「驚かせてすまんかった……君は?」
少年「凄い大きな音が聞こえて、振動がしたんだ」
少年「また魔王が何かしたのかと思って……」
魔法使い「また!?」
僧侶「魔王……って、言ったか?」
少年「…… ……」
剣士「俺たちは怪しい者じゃ……って、言ったって信じない、よな」
少年「ここら辺は魔物も強いよ。そんな所で野宿してたら、死んじゃうと思うけど」
魔法使い「そんな場所でお前さんは何やってんだよ」
少年「……この岬から奥に入ったところに、小さな村があるんだ」
少年「僕はそこから来た。さっきも言っただろ?凄い音がしたから」
少年「……見に来たんだよ」
僧侶「お前……一人で、か?」
少年「僕は強いから大丈夫だよ」
剣士「…… ……」

僧侶「そう睨んでやるな、剣士」
少年「……着いて来なよ。お姉ちゃんが、生存者が居たら拾ってこいって言ってた」
魔法使い「お姉さん!」
剣士「おい!」
少年「こっちだよ」スタスタ
剣士「……どうする?」
魔法使い「行くしかないっしょ」スタスタ
僧侶「お、おいこら、火消してけって……てか、お前は本当に……!」
剣士「色に惑わされて身を滅ぼすタイプだよな、こいつ」スタスタ
僧侶「お前も行くのかよ結局!」
剣士「野垂れ死ぬよりマシだ……相手は、人だ。言葉も通じない魔物じゃない」
僧侶「……糞ッ」スタスタ
少年「お兄さん達、人間だよね?」
魔法使い「どうやったら魔物に見えるんだよ」
少年「……魔族は、人と違わない姿をしてる奴らも多いよ」
剣士「そうなのか?」
少年「特に力の強い奴らはね……ああ、そうだ。名前教えてよ」
少年「僕は少年」
魔法使い「魔法使いだ」
剣士「俺は剣士。そっちは……」
僧侶「……僧侶」
少年「陽が落ちる前に。急ごう」スタスタ
魔法使い「……なぁんか、無愛想なガキだなぁ」
僧侶「聞こえるって……」
剣士「今の俺らには救世主だろ……取りあえず、助かったって言って良いんじゃないのか」
少年「あれだ。あの山の上」
僧侶「…… ……遠ッ」
少年「回り道してるからね」
魔法使い「何でだよ、態々……」
少年「さっきの十字路、左に曲がれば真っ直ぐ上るだけだけど」
少年「魔物が多いんだ。こっちに行けば滝がある」
少年「音と水に怯えて、魔物はあんまり出ない」

少年「結果的に、回り道した方が時間短縮になるんだよ」
少年「疲労困憊っぽいし……戦いたかった?」
剣士「……」
魔法使い「……」
僧侶「……お気遣いありがとよ」
少年「僕一人でも大丈夫だけど……庇いながら戦うのは面倒臭いしね」
剣士(この糞ガキ……ッ)
魔法使い(お姉さんが美人だったら……許す!)
僧侶(我慢、我慢……ッ)
少年「道が悪くなるから、喋って舌噛まない様にね」

……
………
…………

剣士「つ…… ッ」ハアハア
魔法使い「……つ、い……た……」ハア……
僧侶「…… ……」グッタリ
少年「……体力無いね」

タタタ……

姉「少年!」
少年「ただいま、お姉ちゃん」
姉「この人達が……生存者?」
少年「うん……三人だけだったよ」
剣士「……君が、お姉さん、か」
魔法使い(確かに美人だけど……こりゃまた、気の強そうな……)
僧侶(水……水……ッ)
姉「何があったのか、詳しく聞かせて貰いたいところだけど……」
姉「お疲れでしょう。ひとまず私達の家へ。お食事とお酒をご用意致しますわ」
剣士「あ、ああ……ありがとうございます……でも、良いんですか」
剣士「見ず知らずの……俺たちに」
姉「困った時はお互い様、です。ご遠慮なさらずに、どうぞ?」
少年「喋ってる水色の瞳の人が剣士。赤い瞳の人が魔法使い」
少年「……地面に潰れてる、緑の瞳の人が僧侶、だってさ」
姉「青の剣士様に、赤い魔法使い様。緑の僧侶様、ですね」
姉「湯の準備もついでにして参ります……少年、連れてきて頂戴ね」
少年「うん…… 大丈夫、歩ける?僧侶さん」
僧侶「……俺、だけ……随分な、紹介、だ……な……」
魔法使い「……ほら、肩貸してやるよ」グイ
剣士「こっちも掴まれ」グイ
少年「……仕方無いと思うんだけど」ハァ

……
………
…………

僧侶「い……ッ き、かえったー!!!」ハァ
魔法使い「風呂で泳ぐなガキか!」
剣士「……生きてて良かった」
魔法使い「大袈裟だなぁお前らは……」
僧侶「…… ……しかし、ここは何処なんだかな」
剣士「ついでにあいつら何者だ、だな」
魔法使い「まあ……命の恩人にゃ違いネェわな」
僧侶「手、出すなよ、魔法使い……」
魔法使い「阿呆か!んな事しねぇよ」
剣士「いーや、お前はわからん」
魔法使い「……煩ェ ……つか、ありゃ駄目だろ」
剣士「ん?」
魔法使い「もう忘れたのか?……『また魔王が何かしたのかと思った』」
僧侶「……」
剣士「……」
魔法使い「なァんか、匂うよな、あの二人……」
剣士「妙な呼び方、してたな」
僧侶「俺も気になった。青に、赤に、緑……」
魔法使い「加護の事じゃネェの?」
僧侶「だろうと思う、が……態々強調する事でもネェだろ?」
剣士「あの姉弟は茶色の瞳だったな、二人とも」
魔法使い「……雷、かな。妥当なところだと」
僧侶「雷使いか……別に珍しい属性じゃネェだろ」
剣士「ま、本人に聞けば一番早いだろ」ザバ
魔法使い「飯と酒の旨いアテになりゃ良いけどな」ザバン
僧侶「……口つける気か?二人とも」ザバー
剣士「お前は最後な、僧侶」
魔法使い「俺たちの様子がおかしかったら、回復してくれよ」
僧侶「……そうなるのね、結局」ハァ

……
………
…………

姉「お疲れ様でした。ご馳走とは言いがたいですが……どうぞ、お座り下さい」
剣士「いやいやいや、コレは……」
魔法使い「旨そう」ヒュウ
僧侶「ご遠慮なく……と、言いたいですが、何故?」
姉「先ほども申しました。困った時は……です」
少年「頂きます」モグモグ
剣士「……頂きます」
魔法使い「いっただっきまーす」
僧侶「……いくつか、お聞きしたい事があるんですが」
姉「ええ、どうぞ?」
僧侶「少年が……『また魔王が何かしたかと思った』と」
僧侶「……どういう、意味です?」

おむかえー

姉「……貴方達は、船でいらした、のですよね?」
僧侶「…… ……ええ、そうです」
姉「弟が言っていました。海岸になにやら、瓦礫の様な物が見える、と」
僧侶「……」
姉「あの衝撃と音は、船が岩礁に乗り上げたか何かした音……なのでしょう」
姉「船はバランスを崩し横転したか何かで大破。そして……」
僧侶「失礼、質問には答えて頂けないのでしょうかね」
魔法使い「……お前も食えよ、僧侶。旨いぞ」
僧侶(……二人とも、大丈夫そう、だが…… しかし……)
少年「変な物は入れてないから大丈夫だよ」
少年「……ついでに、質問には僕が答えるよ」
剣士「君が?」
少年「お兄さん達に、また魔王が……って言ったのは僕だからね」
少年「10日程前かな。魔王が、一つの島を沈めたらしい」
剣士「!」
魔法使い「!!」
僧侶「……らしい、てのは何だ」
姉「ここは小さな村ですが、船で少し行った山の奥に……やはり小さいですが」
姉「街があります。北の街、と言う」
姉「そこは、最果ての地に一番近い街と言われています」
魔法使い「最果てに……近い!?」
少年「そう。僕たちは船で、そこまで食料の調達なんかに行くんだ」
少年「……村、とか言ってるけど、此処は僕たち一族しか住んでない」
剣士「…… ……それ、はどういう意味だ。一族?」
姉「勘違いなさらぬ様……私達は、人間ですよ」
僧侶「その……北の街とアンタら一族とやら、どう関係が……」
少年「今からちゃんと話してあげるよ。ちょっと待って」
少年「……丁度、10日程、前。さっき言った魔王が、て奴ね」
少年「ここいら一体の人…… ……ううん、あれほどの威力だ」
少年「多分、世界中の殆どの人が見ただろうね」
剣士「…… ……巨大な火の玉、か」
僧侶「剣士!」

少年「やっぱり、お兄さん達も見た?」
姉「……空を切り裂いて燃やさんばかりの火の玉は、轟音を立て」
姉「大海のどこかへと飛来し、そして落ちた……と」
姉「食料調達へでた一族の者が聞いたのです」
魔法使い「……それがどうして『島を沈めた』て話になるんだよ」
少年「北の街から南へと行商に出たって人が戻ってきてたんだ」
少年「海に大渦が出来た、てね」
剣士「大渦……」
少年「そう。だから、島が沈んだからじゃないか、て噂」
僧侶「…… ……」
魔法使い「…… ……」
剣士「…… ……」
姉「そして、あの衝撃と轟音……」
少年「『また』て考えたって、おかしく何か無いだろう?」
少年「ずっと前に、どこかの島が魔王に滅ぼされた、とか」
少年「色んな噂は知ってる筈だよ」
魔法使い「そりゃそうだ。魔王が人間を滅ぼそうとしてるってのは」
魔法使い「……知らない人間の方が少ないだろうよ」
剣士「……じゃあ、此処は、最果ての地に近い、んだな」
少年「最果ての地に一番近いと言われる、北の街に近い場所、が」
少年「正解だよ。此処は小さな島だ。北の街まで、小さな船でも時間はそんなに」
少年「かからないよ」
僧侶「……一族、てのは?」
姉「私達の祖先は、最果ての地の住民であったと言われています」
剣士「!」
魔法使い「な、に……!?」
僧侶「…… ……さっき、アンタ、自分たちは人間だと言ったな」
姉「はい」
僧侶「最果ての地とやらは、魔族の住む土地だと言われている」
僧侶「……矛盾してるぞ」
姉「ですから、私達は……『選ばれた人間』なのです」
魔法使い「…… ……は?」

姉「最果ての地、魔族のみ住まうを許された禁断の地に」
姉「唯一、居住を許された選ばれた人間達……それが、私達の祖先です」
少年「……ま、正確に言うと『そう信じてる』てのが着くけどね」
姉「少年!」
剣士「…… ……」
姉「魔族と人間の争いが激化した頃、祖先の何人かが戦火を逃れ」
姉「此処へ移り住んだ……そう、言われています」
魔法使い「……証拠はある訳?」ハァ
姉「私達は皆、『優れた加護』を持っている。それを証拠として何と言いましょうか」
剣士「優れた加護……?」
姉「そうです。優れた加護は、それ故に持つ属性の干渉を受けません」
僧侶「……アンタらは雷の加護を持っているんだよな。雷を浴びても」
僧侶「平気、と言いたいのか」
姉「勿論です。自然の物は別ですが、魔法である限りは……決して」
剣士「……それは、まあ、良い。良いんだが……何故だ?」
姉「はい?」
剣士「戦火を逃れ、て、言うのだよ。許されて住んでたのなら」
剣士「お前達……その一族、てのは」
剣士「逃げる必要等無かったんじゃ無いのか?」
少年「いくら特別であっても、人は人……魔族と、決して相容れないのさ」
少年「だから、僕たちは僕たちだけで、僕たちの王国を作る」
少年「……そういう訳、らしいよ?」
僧侶「…… ……こんな、山奥の小さな集落で、か」
姉「近親婚も多かったと聞きます。私と弟の親も、異母姉弟でした」
魔法使い「……まじかよ」
姉「他者の血を入れなくては、私達は繁栄できないのですよ」
少年「だから、生存者が居ないか、見に行ったのさ」
剣士「!」
魔法使い「!」
僧侶「……ちょ、ちょっと待てよ。外部の血を入れる為!?」
僧侶「冗談じゃネェ、俺たちは……!」
魔法使い「僧侶!」

少年「さっきも言った通り、近親婚を繰り返すとね」
少年「出生率そのものが悪くなる……産まれてきても、病弱ですぐ死んでしまう」
僧侶「おいおいおいおい、矛盾してるだろ。お前らその……何だっけ?」
剣士「『選ばれた一族』」
僧侶「そう、それだ!それなんだろ!?」
魔法使い「そうだよ。誰でも良いなら、血が薄まるじゃネェか」
姉「普通の人間の中にも、稀に優れた加護を持つ者が産まれるのです」
姉「そういう者を探して、私達は……仲間を増やします」
剣士「…… ……」
姉「単刀直入にお伺い致します。貴方達の中で、優れた加護を持つ方は?」
剣士「俺は魔法は使えない」
少年「残念には変わりないけど、優れた加護かそうじゃ無いかは解らないからね」
少年「剣士さん、貴方は海の魔物……水属性の魔物の魔法で怪我を負う?」
剣士「当たり前だろう!」
少年「……」ハァ
魔法使い「俺も残念だな。美人なお姉さんのお相手は是非お願いしたいが……」
魔法使い「自分の魔法で火傷した事もあるんでね」
姉「……貴方は?僧侶様」
僧侶「二人に同じく、だよ」
姉「…… ……そうですか、残念です」カタン
魔法使い「……?」
姉「明日、北の街までお送り致しましょう。今日はゆっくり、お休みになってください」
姉「少年……後は頼んだわよ」
少年「はいはい……だからそう、うまくいくはず無いって言っただろ」
姉「お黙り!」

スタスタ、パタン

僧侶「…… ……言葉が出ネェな」
剣士「全くだ」ハァ
少年「全く、お姉ちゃんにも困った物だよ」
魔法使い「……もし、俺らの中で優れた加護とやらを持ってたら」
魔法使い「どうなってたんだよ」
少年「想像したら解るでしょう」
僧侶「選ぶ権利ってのがだな」
少年「ある訳ないでしょ……『選ばれた人間』に逆らうなんて頭がイカレてる」
剣士「な……!」
少年「……て、言うよ。一族の人達はね」
魔法使い「イカレてやがるのは、どっちだ……」
少年「仕方無い。所謂……普通の人間、てのは劣等種、て奴だから」
僧侶「『劣等種』?」
少年「そう。僕たちは僕たちだけが特別。僕たちだけが全て」
少年「……選ばれた自分達が、何故魔族如きに許しを得る真似をしなくちゃならない」
少年「……て、ね」
剣士「お前も、そう思っているのか?」
少年「…… ……さてね」カタン
少年「さっさと寝て、さっさと起きて、さっさと出て行きなよ」
少年「多分、お姉ちゃん……明日からはお兄さん達の事見えても居ないよ」
魔法使い「極端だな」
剣士「送って貰えるだけありがたいって言うべきだ、ここは」
少年「船は準備しておくよ。じゃあね……お休み」

パタン

僧侶「……色んな人間が居るもんだ」ハァ
魔法使い「しかし……おかしく無いか?」
剣士「何がだよ」
魔法使い「…… ……10日前」
僧侶「それは俺も思った……が……」
剣士「気を失って、それぐらい彷徨っていたんじゃないのか」
僧侶「……死なないか、それ」

剣士「…… ……そう、か」
魔法使い「精々2、3日だぜ、納得できるのは」
僧侶「帰ろうとする気を削ぐ、為?」
剣士「まあ……考えられなくは無い、な」
僧侶「……だが、現実だ」
剣士「……」
魔法使い「だな…… 2日だろうが、一週間だろうが」
剣士「……俺たちの島は、もう……無いんだ」
魔法使い「…… ……」
僧侶「さっさと寝ちまおうぜ。明日にゃ放り出される、んだろ」
剣士「あの、少年ってガキは……」
魔法使い「あン?」
剣士「いや……姉に比べれば、まだまともそうに見えた、んだけどな」
僧侶「どっちもどっちさ…… ……お休み」
魔法使い「……ああ。お休み」
剣士「…… ……」

……
………
…………

少年「ほら、見えてきた。あれが北の街だよ」
剣士「近い、つってももう日暮れだぞ」
少年「まあ、半日……だね」
魔法使い「折角布団でゆっくり眠れると思ったのに……」ファア
僧侶「顎外れるぞお前……たたき起こされたから俺も眠いっての」
剣士「……おい、少年」
少年「何?あと半刻程で着くよ」
剣士「そうじゃない……お前達、ずっとあの村に居るのか?」
少年「さあね……人口が増えれば、どこかに移動するんじゃ無い」
魔法使い「ほっとけよ、剣士……」
剣士「……口ぶりからすれば、腕に自信はあるんだろう」
剣士「そういう一族なんだろう?それを……魔王討伐に向けようとは思わないのか?」
少年「そんな事してどうするのさ。僕たちが僕たちだけの王国を作れば」
少年「……僕たちの祖先を蔑んだ魔族も、足下にひれ伏すかもしれないのに?」
僧侶「そりゃ……嘘だな」
少年「…… ……」
魔法使い「僧侶?」

僧侶「対等な関係が結べれば、さらなる力をつける事ができる……の方が」
僧侶「正解に近いんじゃネェの」
剣士「……全滅されても困る、か」
少年「良くわかんないな、僕には」
魔法使い「……そうかよ」
剣士「…… ……」ハァ
僧侶「魔族も、魔王も利用するとか考えてるならやめておいた方が良いと思うぞ」
少年「…… ……」
魔法使い「そうそう。魔王は俺たちが……」
剣士「魔法使い」
少年「……倒す、とでも言いたいの?無理だよ」
少年「たかだか、劣等種のお兄さん達には」
僧侶「優れた人間である、自分達でも無理なのに?」
少年「……ッ 無理じゃない!何れ、一族が増えらた……!」
剣士「言い出したのが俺じゃ言いにくいが……やめとけ、僧侶」
少年「…… ……ッ ほら、さっさと降りて。着いたよ」
魔法使い「え、ちょ、入り江までつけてくれないの!?」
少年「足着くだろ。これ以上入っていくと、出る時面倒なんだよ」
剣士「……一晩の休息、恩に着るよ」
少年「……フン」
魔法使い「やれやれ……お前が期限損ねるからだぞ、僧侶」
僧侶「俺の所為!?」
少年「…… ……見てろ。僕は……そのうち王になってやるからな!」
魔法使い「捨て台詞吐いて行っちゃったなぁ」
剣士「……姉よりマシかと思ったが、同じ様なモンだったな」
僧侶「斜に構えたがるお年頃、ってね……さて」
僧侶「……北の街、とやらに着いたは良いが、どーすっかね」
剣士「あっちに船がある……あれ、借りられないか」
魔法使い「魔王倒しに行くから貸して下さい、って言うのか」

僧侶「案外、アリじゃね?」
魔法使い「え?」
僧侶「あの……火の玉は結構な人間が目撃してんだろ」
僧侶「素直に話して、あの島の出身です的な話すりゃ」
剣士「…… ……あり、かな」
魔法使い「えええええ、マジで!?」
僧侶「ついでに有り金全部置いてきゃ良いさ」
魔法使い「おいおいおいおい、戻って来た時どーすんだよ!」
魔法使い「俺ら一文無し!?」
剣士「そん時ゃ、まさしく英雄サマだ」
剣士「……どうにでもなるよ、金なんて」
魔法使い「あ……そっか……」
僧侶「生きて帰れたら、な」
剣士「死んだらどっちにしろ、金なんていらないさ」
魔法使い「……ご尤も」
剣士「良し、僧侶、任せた」
僧侶「えええええええええええええ!?」
魔法使い「口から出任せ、一番得意だろ」
僧侶「出任せじゃねぇだろ!」
魔法使い「俺らはその間に情報収集すっかね」
剣士「だな」
僧侶「まじかよ……お前ら」
剣士「船の持ち主……あの裏の家、かな」
魔法使い「良し、行ってこい!」バン!
僧侶「いってええええええええ!!」
僧侶「……くそったれぇ」ブツブツ……スタスタ

……
………
…………

僧侶「と、言う訳でして、ね」
町長「は、はあ……そりゃ、こんな大金積まれちゃ……」
町長「しかも、魔王を倒しに行くというのでしたら、船ぐらい差し上げますが……」
僧侶「本当ですが!」
町長「はあ……コレだけあれば、もう一隻船が買えますからね」
町長「しかし……その……大丈夫なのですか、三人で、と言うのは……」

僧侶「……まあ、やるだけやってみますよ」
町長「そうですか……解りました。では、帰られるまで、お金はお預かり致します」
僧侶「え、いえいえ、差し上げますって」
町長「いえ、あの、差し出がましいのですが……」チラ
僧侶「はい?」
町長「その……そちらの、腰に差していらっしゃるの……地図、ですよね?」
僧侶「え?あ……コレですか?」ガサ
町長「は、はい!よろしければ、そちらを頂けませんか」
僧侶「へ?」
町長「私は、その……地図を集めていまして」
僧侶「いやいやいや、これ、何処にでも売ってる地図ですよ!?」
町長「古い物はあるのですが、現行の物が今、中々手に入らないのですよ」
町長「魔王の城を目指された人も何人も知っています。大体、此処に寄られるのでね」
僧侶「はあ……」
町長「帰って来た者はおりませんが、大体こうやって皆お金を積まれて」
町長「船を貸してくれ、もしくは売ってくれと言うのです」
町長「土地柄、航行は盛んですので……それは構わないのですけどね」
僧侶(人の良さそうな顔して、結構がめついなぁ、この親父……)
僧侶(帰って来ないから、お金はありがたく頂戴したって暴露してる様なモンじゃねぇか)
僧侶「まあ……どうぞ。こんなモンで良ければ」
町長「ありがとうございます!どうぞ、船はご自由にお使い下さい!」
僧侶「いえいえ……此方こそありがとうございます」
僧侶(まあ……結果オーライ、かな)

……
………
…………

剣士「……しっかしぼろい船だな」
魔法使い「文句言わない、言わない。生きて帰りゃ金も戻ってくるし」
僧侶「地図なんか集めてどーすんだかな」
剣士「コレクターって奴は、良くわかんないモンに価値を見いだしてこそ、なんじゃないのか」
僧侶「そういうモンかね……」

剣士「……あの大陸、か」
僧侶「……」
魔法使い「とうとう乗り込む……か」
剣士「……気合い、入れとけよ。多分、魔物の強さも桁外れだ」
魔法使い「だ、な」
僧侶「良し……そこだ、止めろ」
剣士「…… ……」
魔法使い「…… ……」
僧侶「…… ……」
剣士「降りろ……行くぞ」
魔法使い「おう」
僧侶「……ああ」
剣士「空が……真っ黒だな」
魔法使い「紫、だろ……黒に近いけど」
僧侶「…… ……あっちだ。屋根みたいなのが見える」スタスタ
剣士「僧侶、殿を行け……魔法使い、間に入れ」
魔法使い「あいよ……つか、妙に静か……じゃ、ね?」
僧侶「……風の音しかしないな」
剣士「! ……見ろ、街だ!」
僧侶「……ッ ……街、は街だが……」
魔法使い「気配はしないな…… ……あれ、十字架か?」
剣士「折れてる奴か……みたいだな」
僧侶「魔物達の街に、十字架? ……不似合いだな」
剣士「そろっと抜けよう……気は抜くなよ」

……
………
…………

僧侶「城門だな」
魔法使い「ああ……そうだな」
剣士「此処まで……魔物にすら会わない、てのは……どういうことだ」
僧侶「でかいなぁ……」
魔法使い「ああ、でかいな」
剣士「漫才みたいな会話してないで、聞けよ!」

僧侶「でかい声出すなよ……聞いてるよ」
魔法使い「どう考えても罠……だわな」
剣士「……どうする?」
僧侶「今更それ、聞く?」
魔法使い「答える迄もネェわな」
剣士「良し……開けるぞ!」

ギィィイイ…… ……ッ

魔法使い「……広ッ」
僧侶「へえ、結構良い趣味してんなぁ」
剣士「お前らな……」
魔法使い「……で、此処にも気配無し、と」
剣士「どこから何が飛び出してくるかわかんないぞ」
僧侶「あの階段の上の扉……から行ってみるか」コツコツ

コツコツ……コツコツ……キィ

??「ようこそ、お客人」
剣士「!」
魔法使い「ど、何処だ!?」
僧侶「……ッ」
??「何だ……私を探していたのでは無いのか」

剣士(漆黒の髪、赤い目……真っ赤な、剣……!)
魔法使い(こ……ッ この、魔力……は……ッ!!)
僧侶(何で……ッ 何も、何も感じなかった……!!しかし、こいつは……!!)
僧侶「ま……おう…… ……?」

魔王「いかにも、私が魔王だ……勇者達よ」

魔法使い「う…… ……ッ うわああああああああああああああああッ!!」
剣士「魔法使い!?」
魔法使い「ほ、炎よ……ッ」ボオゥ……ッ
魔王「……ふむ。手荒いなあ」ス…… バチン!

シュウウゥ……

剣士「!」
剣士(あ……あんなに、簡単に……ッ)
僧侶「は……じ、いた……ッ」
魔法使い「あ、 ……あ、あああ。あああああああああああああ!」ボウッ
剣士「うわあああああああああああ!!」ダダダ……ッ ブゥン!!
僧侶「ちょ、ま……ッ ……う、うわあああああ!?」
魔王「……気持ちは解らなくも無いが……何を言っても、通じない、か」ブゥン
魔王「……はぁッ」

ザシュ……ッ ガキィィン……ッ

剣士「うわああああああああああああああああ!」ドン!
魔法使い「ぎゃああああああああ!!」バン!ズルズルズル…… ドサッ
僧侶「ああああああああああ……ッ あ、アァアアア!」ブン……ッドン!
魔王「……力加減がどうにも旨く行かんな」チラ
魔王「なあ、人間よ……こんな所で、無駄に命を散らす必要は無い」
魔王「死にたくは無いだろう……『生きたいか』」
剣士「ふ……ッ ざ、ける、な……ッ」
剣士「ま、おう……の、なさ……け、で ……ッ いき、てどうしろ……と……!」
魔法使い「お、前……を、たお ……な、きゃ……ッ し、ん……も、しにきれ ……る、か!」
僧侶「…… …… ……」
魔王「強情だな……まあ、そりゃそうだろうが」フゥ
剣士「ば……け、もの…… め……ッ!!」
魔法使い「おれ、た……ち、のせか……こわ ……し、やがっ ……て!!」ゲホッ
剣士「皆 ……を、かえせ ……!!しま、を……ッ」
剣士「親 ……を ……兄、 ……を、かえ ……ッ」ゴボゴボ……ゴフッ
魔王「……喋るな、と言っても無駄、かな」
魔王「……そこの。お前は?」
僧侶「…… …… ……」
剣士「おれ ……た、ちの ……しあわ ……う ……ッけん ……など!」
僧侶「…… …… ……」
魔法使い「ん、り ……など、おま ……に、な……!!」
魔王「『生きたいか』」

僧侶(生きる……死ぬ……死ぬ、のか?俺は……)
僧侶(こんな、所…… で ……死ぬ、終わる……?)
僧侶「 ……だ」
魔王「ん?」
僧侶「い、や ……だ しに……く、な……ッ しぬ、の……は ……や、だ!!」
魔王「ふむ……ならば生きろ。強い意思を持ち、己が手を取るが良い……人の子よ」
僧侶「…… …… ……」
魔王「無理か……仕方無いな」フウ。スタスタ……ギュ
魔王「……生きろ。輝かしい、人の子よ」グッ
僧侶(……ッ 何だ?何か…… ……流れ、込んで…… ……ッ)
僧侶「うわあああああああああああああああああああああああ!!」ガタガタガタ
魔王「……ほう」
僧侶「ああ。ああああああ。 ……あああああああああああああああッ!!」ハアハア
僧侶「うわああああああああああああああ!!」ダダダ……ッ ゴオオオウ……ッ
魔王「あっはっはっはっは!元気があって何よりだな!」ドン!
僧侶「ぐ、う……ッ」ブウン……ドン!
僧侶「あ、ああ……ッ あ……」ズルズルズル……ベチャ
僧侶「あ…… ……アァ」ゲホゲホゲホッ
魔王「ふむ。落ち着いたか?」
僧侶「え…… ……お、れ……」ズキッ
僧侶「ぐ……ッ」
魔王「悪いなぁ、まだ余り力の加減が解って居なくてな」
魔王「お前、回復魔法は使えるか?城には回復できる奴なんか居ないから」
魔王「……出来ないなら、まあ、精のつく物ぐらい食わしてやるが」
僧侶「う、うぅ……う、ぅ……」パァ……
魔王「お……良かった良かった」
僧侶「良い事……ある、か……ッ」
魔王「生きたいと願ったのはお前だろう?」

僧侶「!」
僧侶(生きたい……そうだ、俺、死にたくない……って……!!)
僧侶「剣士!魔法使い……!」
魔王「…… ……」
僧侶「……あ、ァ」ヘタヘタ
魔王「気分はどうだ」
僧侶「ふ……ッ ふざけるな!どうして俺だけ助けた!?どうして二人を……!!」
僧侶「どうして、島を……!!」
魔王「……」ハァ
魔王「話をしようとしたら、先に仕掛けて来たのはお前の仲間の方だ」
魔王「……まあ、力の加減が出来なかった事は素直に謝ろう。すまんかった」
僧侶「…… ……ッ」
魔王「島の事も謝らねばならんな……しかし、アレは私の仕業では無い」
僧侶「お前……ッ この期に及んで……ッ」
魔王「……が、前『魔王』の仕業である事には違い無い」
魔王「悪かった。アレは……非常に好戦的な輩でな」
魔王「もう少し……私があいつを殺すのが早ければ…… ……すまなかった」ス……
僧侶「……な、何の真似……だ……!」
魔王「ん?土下座、と言うのはこうやってするんじゃ無いのか」
僧侶「は!?」
魔王「人に対して、誠心誠意わびる時には、こうして土下座、とやらをするのだろう」
僧侶「な……!!」
魔王「取りあえず……二人の亡骸を弔ってやらんか。そして……」
魔王「私の話を聞いて欲しい。人の子だった者よ」
僧侶「……ちょ、ちょい待て、今……なんつった?」
魔王「『私の話を聞いて欲しい。人の子だった者よ』……もう一回言うか?」
僧侶「……もう良い。その、人の子だった者……て、何だよ」
魔王「お前は、生きたいと願ったでは無いか」
僧侶「……ッ そ、そうだ!どうして……どうして、俺だけ助けた!?」
僧侶「魔法使いは、剣士……は……!」

魔王「さっきもそれ、聞かれたな」
魔王「……で、私も提案したんだがな。まあ良い……おい、そっちの奴、持てるか?」
僧侶「は!?」
魔王「弔ってやろう……庭へ行き、浄化する」ヒョイ
魔王「着いて来い」スタスタ
僧侶「あ、ちょ……ッ」
僧侶「…… ……魔法使い……」グイ……ッスタスタ
僧侶「お、おい!待てよ!」
魔王「走れるぐらい回復したか……ふむ、成功、かな」
僧侶「え?あ……」
僧侶(そうだ、俺……死にかけ、た筈だ)
僧侶(魔王に……命を、救われた……!?しかも、何だ……この)
僧侶(溢れんばかりの……魔力……体力……)
魔王「……此処で良いか。花を燃やすと怒られるしな」トン
僧侶「お、おい……!」
魔王「傍においてやれ」
僧侶「何するんだよ!」
魔王「弔うのだと言っているだろう。このままでは……余りにも不憫だろう?」
僧侶「……ど、どうやって……」
魔王「炎で燃やすのだ。器は土に還り、魂は空へ孵る……そして、全ての柵から解き放たれ」
魔王「……浄化される」
僧侶「浄化……」
魔王「火をつけるぞ。良いか?」
僧侶「…… ……」
魔王「…… ……」ボウ……ッ

パチ、パチ……ッ

僧侶「…… ……」ポロポロ
魔王「泣いているのか」
僧侶「…… ……何で、俺だけ助けた」
魔王「この二人は、生きたいか、との問いに」
魔王「否、と答えた。お前は応とした……だからだ」
僧侶「……」
魔王「人と言うのは解らんな。お前が強いのか弱いのか」
魔王「この二人が強いのか弱いのか……私には、解らん」
僧侶「俺は……強くなんかネェ。敵……魔王のお前に」
僧侶「助けてくれ、だなんて…… ……」
魔王「素直さは強さでは無いのか?」
僧侶「……弱いから、無様な命乞いでも平気で出来たんだろうよ」
魔王「ふむ……しかし、お前もう人では無いしなぁ」
僧侶「……は!?」
魔王「さっきも言ったが、魔族は回復魔法等と言う、器用な物は使えないのだ」
魔王「書物によれば、強くも弱くもある人である者の特権だと書かれていたがな」
僧侶「書物? ……いや、ちょっと待て」
僧侶「俺が人じゃ無いってどういうことだ!?」
魔王「お前、人の話聞いていたか?」
魔王「だから、魔族である私に、回復など出来んのだ、って」
僧侶「じゃ、じゃあ……俺は、何だって言うんだよ!」
魔王「……魔族?」
僧侶「首を傾げるな!いっこも可愛くねぇ!」
魔王「いや、それも書物にあってな」
僧侶「何だよ!人を魔に変える方法とか書いた本でも読んだってのか!」
魔王「凄いなお前。正解だ」
僧侶「……マジかよ」
僧侶「ちょ、じゃ……じゃあ、俺、魔族になったって事!?」

魔王「いやあ……こんなに旨く行くとはなぁ……」
僧侶「お、お前なあああああ!」
魔王「しかし、願いは叶っただろう?」
魔王「人としてのお前は死んだが、魔族として生き返った」
僧侶「……ッ」
魔王「強い意思がなければ、成功しないそうだ」
魔王「……私も、やっと魔王になったという実感が持てたよ」
僧侶「! そ、そうだ!お前……ッさっきの話は何なんだ!」
僧侶「前魔王がどうとか……!」
魔王「ん?ああ……言葉の通りなのだがな」
魔王「先代……まあ、親父だな」
魔王「親父は随分と好戦的でな……島を沈めたのも、親父の仕業だ」
僧侶「そんな、そんな話……ッ」
魔王「やはり……信じられないか?」
僧侶「…… ……」
魔王「……まあ、良い。聞くだけ聞くが良い」
魔王「親父が言うには、『王』と言うのは都合が悪いそうだ」
魔王「私がまだ子供だった頃、一つ……王の居た街を滅ぼしたとも言っていた」
魔王「そうして……お前達の居た、島だ」
魔王「『親切にも宣戦布告してやったのに、あの王は態々勇者達の旅立ちを早め』」
魔王「『私に、魔王に逆らった。焼くだけにしようと思ったが、見せしめだ』」
魔王「『……島毎、沈めてやったわ』 ……とな」
僧侶「……殺した、とか言ってたな。その、前魔王を……」
魔王「ああ。代々魔王と言うのは世襲制でな」
僧侶「……だい、だい?」
魔王「そうだ。魔王の子が魔王になるのだ……そして、交代の儀式は親殺し」
僧侶「!?」
魔王「そして先ほど……見たであろう。あの魔王の剣と魔王としての力を」
魔王「受け継いでゆくのだ」
僧侶「…… ……あっさり、言うなよ」
魔王「何故そんな顔をする?」

魔王「お前達人間に取って、あの魔王は害悪以外の何物でもなかろう?」
僧侶「……俺は、もう人間じゃねぇんだろ」
魔王「ふむ……そうだったな」
僧侶「だが、お前が居るじゃないか。新たな……魔王、が」
魔王「まあ……確かにそうだ。だが……別に私は人を滅ぼそう等思わんよ」
僧侶「何……?」
魔王「……終わったな」
僧侶「あ…… ……」
魔王「安心しろ。二人は……もう、苦しまん」
僧侶「……」
魔王「で……お前、どうするんだ?」
僧侶「へ?」
魔王「いや、此処に居たければ居て良いけど」
僧侶「は!?」
魔王「…… ……」
僧侶「お、おいおいおい、放り出す気か!?」
魔王「だから、居たければ居て良いって」
僧侶「……俺、人間じゃなくなったんだろう」
僧侶「何処で、どうしろって言うんだよ……」
魔王「ふむ……私としては此処に居てくれれば助かるが」
僧侶「……?」
魔王「先代の腰巾着共は、過激な奴が多かったのでな」
魔王「ついでに殆ど殺してしまったんだ」
僧侶「…… ……は、はあ」
魔王「残しておいても、私には従わんだろうしな」
僧侶「……やっぱ、アンタ間違い無く魔王なんだな」
魔王「ん?」
僧侶「いや……何でもネェよ」
魔王「魔王の交代の儀式を知る者は少ないからな」
魔王「私が親父を殺したと言えば従うだろうが……あまり意味が無いしなぁ」
僧侶「……? 何故だ?」
魔王「私の思想は、親父とは正反対、だからだな」
僧侶「正反対……?」
魔王「まあ、良い……お前、行くところが無いのなら」
魔王「私の『側近』にならないか」
僧侶「……は!?」

僧侶「『側近』!?俺が!?魔王の!?」
魔王「ふむ……まあ、厭なら無理強いはせんが」
僧侶「な、何だよ……断ったら殺すとか言わないだろうな」
魔王「阿呆。そんな事はせんわ。好きにすると良い」
僧侶「い、いや、だから……放り出されても、ね?」
魔王「煮え切らん奴だな。どうしたいかはっきり言え」
僧侶「……帰る場所なんか、だから、ネェって!」
魔王「まあ、そうだなぁ。何百年……もっとか。見かけも変わらないだろうしな」
僧侶「……まじで」
魔王「人の地を転々とするのも、面倒だろう」
僧侶「そりゃ、まあ……つか」
僧侶「……魔王を倒すって目標も……無くなった、しな」
僧侶「行きたい所も……」
魔王「ふむ。ならば遠慮せず、此処に居れば良い」
魔王「お前の名は今から側近、だ。良いな?」
側近「へ? ……つか、新しい名前とか意味あるのかよ」
魔王「意味があるかどうかは解らんが、新しい生のスタートとしてのけじめとして」
魔王「必要な事だと思うからな……気に入らんか?」
側近「い、いや……良いよ、それで」
魔王「ふむ」
側近「……解ったよ。どうせ行くところも、行ける所もない」
側近「この城に住んで、お前の傍に居てやるよ……魔王様」
魔王「うむ」
側近「嬉しそうにニコニコすんなよ……」
魔王「しかし、お前……僧侶だったんだよな」
側近「あ?ああ……まあ」
魔王「良し。属性は……緑か。風の攻撃魔法を教えてやろう」
側近「は!?無理無理無理!」
魔王「魔法なんて言う物は、要は使い方だ。それに、お前」
魔王「さっき暴走した時に、風の魔法を使おうとしてたぞ?」
側近「ぼう……そう? ……あ!」
魔王「なんと無く覚えてるか?」

側近「そ、うだ……お前……!笑いながら俺の事吹っ飛ばしやがったな……!」
魔王「何だ、覚えてるのか……そう、あの時だな」
魔王「お前はきっと素質があるよ。私がみっちり鍛えてやろう」
側近「じょ、冗談じゃねぇ!」
魔王「私の側近として走り回って貰うのだからな、回復や補助だけじゃ」
魔王「何の役にも立たん」
側近「……まじで言ってんの」
魔王「当然だ」
側近「…… ……さよですか」ハァ
魔王「取りあえず、私の右腕達を紹介しようか」
側近「右腕?」
魔王「まあ、友人であり頼れる部下だ」
魔王「魔導将軍と、鴉部隊長」
側近「……将軍に隊長、っすか」
魔王「何を言う。お前は側近だろう、私の」
側近「……前言撤回して良いか」
魔王「残念だな。もう遅い」ハハハ

……
………
…………

側近「……ん」
勇者「側近!もう昼だ!」
側近「……俺、目見えないから、ずっと夜……」
勇者「……蹴るぞ」
側近「ご免なさい、起きます起きます……よいしょ」
勇者「さっき、倉庫に手紙置きに行ったら女剣士に会ったよ」
側近「おう……なんて?」
勇者「午後から王子と一緒に来るってさ」
側近「ん?王子も?」
勇者「ああ。誕生日なんだってさ、弟王子の」
側近「そうか……幾つになったんだ?」
勇者「俺?14歳」
側近「阿呆。弟王子だ」
勇者「ああ、なんだそっちかえっと……12歳って言ってたかな」
側近「へぇ……」

側近(夢……か。これまた、懐かしい夢みたもんだ……)
勇者「近い内に誕生パーティーするらしくてさ」
側近「ふぅん……」
側近(俺が……前魔王様に魔族にされた頃……)
勇者「それで…… ……」
側近(……ジジィの方の魔導将軍と、鴉のババァが……)
勇者「…… ……」
側近(懐かしいな……)
勇者「側近!!」ユサユサ
側近「起きてる起きてる、聞いてる聞いてる……揺らすなって」
勇者「俺たちも招待してくれるとか言ってたぞ」
側近「……えー」
勇者「えー、って」
側近「お前は良いけど……いや、良くないか……」
勇者「何でだよ」
側近「何時も言ってるだろ?お前は、魔王を倒す運命を持った……」
勇者「王様が是非にって言ってたんだって!」ユサユサ
側近「……だから、揺らすなって……」ガクガク
側近「解った解った、とにかく女剣士が来たらちゃんと聞くから、話すから」
勇者「絶対だぜ!」
側近「はいはい……とりあえず、飯にするか……」
勇者「疲れてるんだと思って待っててやったのに、それかよ……」
側近「悪かったって……ご高齢なんだから、大事にしてくれよ」
勇者「……じゃあ雑炊でも作ってやろうか、おじいちゃん」
側近「そんな歳よりじゃネェよ!」
側近(……しかし、見えないからわかんねぇけど)
側近(不自然に見えない程度に老けて行ってる、て行ってたな)
側近(……でも、まだ……生きてる)

コンコン

勇者「あ……はい!」
側近「どなたですか」
女剣士「王国騎士団、騎士団長の女剣士です」
女剣士「ご面会願えますか」
勇者「……は、はい」
側近「解ってると思うが、笑うなよ」

勇者「大丈夫だよ……」スタスタ、カチャ
女剣士「ごきげんよう、勇者様。お変わりありませんか」
勇者「はい……大丈夫です」
女剣士「側近殿、入ってもよろしいでしょうか」
側近「ええ、どうぞ」
女剣士「騎士二人は少し離れて、待て! ……王子様、どうぞ」
王子「失礼します……勇者様、お久しぶりです」
勇者「これは王子様……態々ご足労頂き、恐縮です」
女剣士「何人も近づけるな。良いな!」
騎士「はッ」

パタン

勇者「……」
女剣士「……」
王子「……」
側近「……」

プッ……クスクスクス

側近「女剣士が一番笑えるな……」
女剣士「煩いな、側近!」
勇者「王子!久しぶりだな!」
王子「おう! ……お母様が煩いからな、中々来れないんだ」
側近「弟王子は元気か?」
王子「うん……一緒には来れなかったけどね」
側近「まだ体調悪いのか?」

お風呂とご飯!

おはよう!
おむかえまでー

王子「熱は下がったみたいだけどね」
王子「来たがってたけど……お母様が、駄目だって」
側近「盗賊、しっかり母親してるよなぁ……」
勇者「女剣士!さっきの話……」
女剣士「ん?ああ……話してないのか?」
側近「誕生パーティがどうとか?」
側近「……しかし、俺らが公の場に出ていくのはな」
女剣士「まあ、王様からの発表の場、だと思ってくれ」
側近「発表?」
王子「……」ニヤニヤ
勇者「あ!お前……何か知ってるな!王子!」
王子「まだ内緒だよ」
勇者「教えろよ!」
女剣士「あんまり大きい声を出すな」
側近「……仕方無いな」
勇者「行って良いの!?」
側近「お召し、とありゃ行かない訳にもいかんだろ」
女剣士「目深に被れるローブをちゃんと用意する」
側近「……」ハァ
女剣士「そう深く考えなくて良いよ、側近」
女剣士「勇者の存在は周知だ。この場所を知るのは騎士団の人間に限られるしな」
側近「まあ、そうだが……」
女剣士「まあ、伝える事は以上、だ……勇者」
勇者「ん?」
女剣士「アタシが剣を教えだして随分経つ。素振りも欠かしていないな?」
勇者「勿論! でも……週一回しか教えに来てくれないんだもんなぁ」
側近「仕方無いだろう。女剣士にだって仕事があるんだから」
王子「俺も強くなったぜ、勇者」
女剣士「そこで、だ……王子と、手合わせしてみるか?」
勇者「え!?良いの!?」
剣士「負けないぞ!」
女剣士「では二人とも、庭の方へ出ろ。騎士に見張らせておくから」
女剣士「まずは素振り200回だ!」
王子「はい!」
勇者「は、はい!」
女剣士「側近、少し待っててくれ。すぐに戻る」
側近「おう」
女剣士「各自剣を持って行け!」
王子「はい!」
勇者「はい!」

パタン

勇者「え!?良いの!?」
剣士「負けないぞ!」



勇者「え!?良いの!?」
王子「負けないぞ!」

訂正orz

側近(発表……発表、ね)
側近(何を企んでるんだかなぁ……)

パタン

女剣士「手短に言うよ、側近」
女剣士「……待たすと煩いからな、あの二人」
側近「ああ……俺も聞きたい事がある」
女剣士「パーティーは明日だ、朝迎えに来る」
側近「随分急だな」
女剣士「日を与えると、アンタは悩むだろう?」
側近「……盗賊の奴」クック
女剣士「明日はその侭、城に泊まると良い。部屋の準備はしてある」
側近「え?」
女剣士「見張りには騎士が交代でつくし……久々に酒でも飲もう、と」
女剣士「『王様からの命令』だ」クスクス
側近「そりゃ断れないなぁ……職権乱用、て伝えとけ」クス
女剣士「……洞窟が見つかった」
側近「!」
女剣士「アタシも同行するが、勇者と王子を連れて行こうと思う」
側近「……マジかよ」
女剣士「鍛冶師が、地図を側近に返しておけと預かったんだが……」
側近「返されてもなぁ……俺にはもう必要無いしな」
女剣士「…… ……そう、か」
側近「王国預かりって事にでもしといてくれよ」
女剣士「……聞きたい事、てのは何だ?」
側近「俺は……老けた、か?」
女剣士「それは……知り合った頃から?それとも……」
側近「この国へ来てから、かな」
女剣士「……そうだな。人が見て不自然で無い程度に」
側近「そうか……お前、幾つになったっけ」
女剣士「もう、30を超えたよ」
側近「お前と比べて、どうだ?」
女剣士「……もう少し、上と言われても違和感は無いな」
側近「そうか……なら、良い。安心した」
女剣士「…… ……」

側近「話は……終わりか?」
女剣士「ああ……二人を見てこよう」
女剣士「食料などは途中の倉庫にいつも通り入れてあるからな」
側近「ああ。勇者に取りに行かせるよ」
女剣士「一緒に行くか?」
側近「え?」
女剣士「庭、だよ」
側近「俺が行っても…… ……いや」
側近「そうだな。行くよ」
女剣士「ん……ほら、手」
側近「おう」ギュ
女剣士「…… ……」
側近「照れるなよ」
女剣士「ち、違うわ、阿呆!」

ガチャ

女剣士「良し、素振りは終わったか!」
勇者「はい! ……あ、側近」
王子「199.200……! ……ッはい!」
女剣士「勇者、スピードを競えとは言っていない」
女剣士「息を合わす事も大事だ」
勇者「は、はい!」
女剣士「……騎士、側近様を頼む」
騎士「はッ ……どうぞ、お手を」
側近「ああ、ありがとう」
女剣士「では向かい合い距離を取れ」
勇者「はい!」
王子「はい!」
女剣士「手加減は無用!急所への攻撃は禁止……始め!」

側近(打ち合う音が聞こえる……勇者も、王子も大きくなったな)
側近(洞窟が見つかった、か……まあ、盗賊の事だ)
側近(明日の発表とやら、その事なんだろうが……地図、持ってきて正解だったな)
側近(…… ……そういえば、あの古い地図)
側近(もしかしたら、俺が……兄貴に貰った奴かもしれないんだな)
側近(俺にくれたのは、女剣士の親父だし……何の因果か)ハァ
騎士「側近様、ご気分でも?」
側近「ああ、いや……大丈夫だ」
騎士「なら、よろしいのですが」
側近「……今、どうなって……」

ガキィン!

騎士「あ……ッ」
女剣士「そこまで! ……勝者、王子!」
王子「よっしゃぁ!」
勇者「く、くそ……ッ」
側近「……負けちゃったか」
女剣士「……王子様、お見事です。勇者様も検討されましたよ」
王子「……ッ ありがとうございました!」
勇者「ありがとうございました……」ハァ
側近(勇者はスタミナ不足……かな)
側近(王子は城で……女剣士に鍛えられてるんだろうしなぁ)
女剣士「……では、明朝お迎えに上がります。騎士、側近様を……」
側近「大丈夫だ、勇者がいる」
勇者「……ああ」
王子「女剣士!勝ったよ、俺!」
女剣士「お見事でした……が、驕りません様、王子様」
王子「……ッ はい!」
側近「お疲れ、勇者」ギュ

勇者「くそ……」
側近「悔しいか?」
勇者「当然だ……!俺は、魔王を倒さなきゃいけないのに……!」
女剣士「では、失礼致します。行くぞ!」
騎士「はッ」
王子「勇者……様。又、明日」
勇者「……はい。お気をつけて」

スタスタ…… ……

側近「さっき、女剣士にも言われただろう?」
勇者「……?」
側近「お前は勇者だ。世界を守り、魔王を倒す光の子」
勇者「…… ……」
側近「目の前にある物を壊すだけの強さを求めて良い訳じゃない」
側近「守る物がある方が強くなれる」
勇者「守る物……」
側近「……そう。力を合わせる、とか。何かを守る、とかな」
勇者「あ……息を合わせる、て……奴、か」
側近「そう。圧倒的な力があれば、一人でも良いけど」
側近「……そうじゃ無いなら、必要だろ?」
側近「仲間を守る。世界を守る……ま、色々な」
勇者「……うん」
側近「魔王は……信じられない位強いよ」
側近「規格外だからな、アレは」
勇者「側近は……魔王を知ってるのか」
側近「…… ……世界滅ぼすとか、噂されてるだろ」
勇者「ああ……うん……」
側近「到底勝てない様な相手でも、仲間が居て、個々に守りたい大事な物があって」
側近「力を合わせれば、勝てるかもしれない」
側近「……俺は、お前にはそういう強さを身につけて欲しいよ」
勇者「……うん!」
側近「良し……で、だ」
勇者「ん?」
側近「腹減ったから、飯つくって?」
勇者「…… ……おう」

……
………
…………

魔王「…… ……ん。側近」
側近「ん!?」パチ
魔王「起きたか」
側近「うわああああああああ、近い、近い!」ドン!
魔王「お……っと…… ……お前な、主を突き飛ばす奴が居るか」
側近「寝室に忍び込むな!寝起きに野郎の顔ドアップで見せられる身になれ!」
側近「……最悪な目覚めだ。何だよ……」
魔王「ちょっと聞いてくれよ」
側近「……ん?窓の外、暗い……おい!まだ夜じゃネェか!」
魔王「……鴉が……裸で私の上に乗ってたんだよ……」
側近「……目に見えてしょんぼりしないでくれる、気持ち悪い……」
側近「良いじゃないか、良い女じゃん、アレ」
側近「……ちょっと羽生えてるけど」
魔王「私の趣味じゃ無い……」
側近「何、据え膳食っちゃった訳?」
魔王「下品だね、お前は……やってないわ」
側近「んじゃ別にいいじゃねぇか」
魔王「吃驚して突き飛ばして逃げてきてしまったんだ」
魔王「……だから、ここで寝かしてくれ」
側近「はぁ!?」
魔王「……怖くて戻れん」モゾモゾ
側近「ちょ、潜り込んでくんな!おい、魔王様!聞いてんのか!」
魔王「おやすみー」
側近「こらあああああああああああ!」

……
………
…………

鴉「おや、おはよう側近……なんだ、アンタ眠れなかったのかい?」
側近「あ?」
鴉「目の下にクマ……台無しだよ」
側近「いい男が、って定型文が抜けてるぜ」
鴉「必要だったかい?」
側近「…… ……つか、誰の所為だと……」ブツブツ

スタスタスタ

魔導将軍「鴉、こんな所にいたのか」
鴉「ああ、魔導将軍……どうした?」
魔導将軍「例の大陸の狼共だがな……」
鴉「ああ……あれか。じゃあね、側近」
魔導将軍「側近、この間はお疲れだったな」
鴉「え?」
側近「ああ……アレね」ゲンナリ
側近「思い出したくもない……」
魔導将軍「魔王様に連れられて、生き残りの部隊を殲滅に行ったのだろう」
鴉「ああ!あれアンタだったのかい!」
側近「魔王様は俺の後ろで笑ってただけだがな!」
魔導将軍「あの程度、訓練に丁度良いと思ったんだろう」
魔導将軍「……大活躍だったそうじゃないか?」
側近「……だから、魔王様がなんもしてくんねーから……」
鴉「良いじゃないか、風の魔法使いこなせる様になったんなら」
鴉「魔王様もご安心だろうて」クスクス
側近「スパルタも良いところだぜ……魔物の群れの中に放りこまれたんだからな」
魔導将軍「側近たるもの、魔王様を守れるぐらいじゃないとな」
側近「……あいつは人間と魔族の共存を望んでるんじゃないのか?」
鴉「……そうだねぇ」
魔導将軍「……」
側近「……なんだよ」
鴉「いや……アタシらはね、魔王様の部下だからね」
魔導将軍「魔王様がお決めになられた事ならば、勿論、従うつもりだ」
側近「腹ん中は違う、って顔してやがんぜ、二人とも」
鴉「アンタはどうなんだい、側近」
側近「俺? なんで、俺……」
魔導将軍「お前、元人間だろう。率直に……どう思うのだ?」
側近「…… ……正直に言えば、どうでも良い」
鴉「……」
側近「魔王様の決めた事なら、ってのはアンタ達に同意。だがな……」
魔導将軍「だが?」

側近「平穏無事、が一番だとは思うぜ。いくら俺が今……魔族だからって」
側近「人間を意味も無くぶち殺してやろうなんて思わネェもん」
魔導将軍「ふむ」
側近「共存して、うまくやってけるならそれが一番だろうが」
側近「……そう、旨くはいかんだろ。簡単には、な」
鴉「…… ……そうだねぇ」
側近「魔王様は、俺にその橋渡し役になって欲しい、みたいな事言ってたけどな」
魔導将軍「それは……」
側近「あ、いっとくけど断ったからな」
鴉「え!?」
側近「時至れば、命令ならば聞いてやる……が、今はそんな時期じゃネェだろ」
側近「……先代の爪痕は深い」
魔導将軍「そう……だな」
魔導将軍「お世継ぎの件も考えねばならんしなぁ」
側近「……魔王の子は魔王、ね」
鴉「そんな、カエルみたいにお言いでないよ……」
側近「つか、アンタら何か用事あったんじゃねぇの」
側近「こんなところで油売ってて良いのかよ」
鴉「ああ、そうだった……行こうか、魔導将軍」
魔導将軍「側近、お前、それとなく魔王様に聞いておいてくれ」
側近「あん?」
魔導将軍「お世継ぎの件だ」
側近「えええええええええええええええええ」
鴉「そうそう。さっさと決めないと、アタシが襲っちまうよ、てね?」クスクス
側近(今更……)
鴉「……何だい、その顔」
側近「何でもねぇよ!じゃあな!」スタスタ
側近(アブねえアブねえ……逃げるが勝ち!)
側近(……ん?)
側近(庭に、誰か…… ……魔王様か)
側近(ん、あっちは…… ……見た事、ネェな)

魔王「ん……側近!」
側近「おう…… ……えーと、こんにちは?」
??「こんにちは」ニコ
側近(美少女!黒髪に青い瞳……清楚……良いねぇ)
魔王「これは后と言う……丁度良かった、側近」
側近「何だよ」
魔王「私はこれから、鴉と魔導将軍と会議でな」
魔王「后に城の中を案内してやってくれないか」
側近「あ、ああ……別に構わないけど」
后「側近、て言うのね。宜しくお願いします」
側近(……鴉も、見た目だけは綺麗だけど、どっちかって言うと)
側近(肉食動物系……鴉なのに)
側近(癒されるなぁ……)
魔王「では、頼むな、側近」スタスタ
側近「ええ、と……后さん。じゃあ、まず……」
后「あ、側近、見て!蝶々!」
側近「え? ……ああ、本当だ」
后「……取ってくれる?」
側近「ん?ああ、良いよ……」タタタ
后「…… ……」ニッ
側近「よ……、と……ッ」グラッ
側近「!? うわあああああ!?」バタン!
后「あはははは!引っかかった!」クスクス
側近「……へ?」
側近(……あ、草……結んで……)
側近(……ッ 前言撤回!)

……
………
…………

側近「…… ……」ムクリ
勇者(すうすう)
側近「……夢見悪いなぁ」ガックリ
側近(勇者は、まだ寝てる、か……今、何時だ?)スタスタ
側近(にい、さん……窓は、ここか)シャッ
側近(……小鳥の声が聞こえる。早朝、かな)
側近(目、覚めちまったな……)
勇者「……ん、側近?」
側近「悪い、起こしたか……まだ早いだろう」
勇者「カーテン開けたら眩しいって……良いよ、起きる」
側近「興奮して眠れなかったのか? ……ガキだな」ハハ
勇者「そんなんじゃ無い……女剣士は、朝来るんだろう?」
側近「流石にまだ来ないだろうけどな」
勇者「……あー……飯作るわ。ちょっと早いけど、良いだろう」
側近「おう、悪いな…… ……勇者」
勇者「ん?」
側近「光の剣、持って行けよ」
勇者「え!?」
側近「……城に泊まるつもりだからな。置きっぱなしは不用心」
勇者「あ、ああ……そういう事か……お泊まりか、そっか」
側近「嬉しそうだな」
勇者「そりゃね。このベッドよりふかふかだろうしさ」
側近「……コレも王様が揃えてくれた奴だぜ」
勇者「気分だよ気分!」
側近「……お前、14だって言ってたな」
勇者「ん?ああ……そうだよ」
側近「大きくなったなぁ……」
勇者「やめろよ……なんか恥ずかしい」
勇者「改まって何だ」
側近「……いや」
勇者「ほら、飯食えよ!」

側近(照れてやんの)プ
勇者「……何笑ってんだよ」
側近「いやいや……」
勇者「弟王子に会うのも久しぶりだな」
側近「そうだなぁ……ああ、そうだ」
側近「女剣士がローブ持ってくるって言ってたから」
側近「ちゃんと被っておけよ。脱ぐなよ」
勇者「大丈夫だって」
側近「……そっか。もう14歳か」
勇者「さっきから何なんだよ」
側近「……勇者」
勇者「だから……」
側近「お前、16になったらこの街を出ろ」
勇者「……え?」
側近「昨日もちらっと話しただろう。自分で仲間を見つけ」
側近「守りたい物を見つけ……そして」
側近「……魔王を、倒せ」
勇者「…… ……」
側近「ずっと話してきたはずだ。お前は……」
勇者「『光に導かれし運命の子』」
側近「……そうだ」
勇者「わかってる……勇者は、魔王を倒す」
側近「…… ……」
勇者「大丈夫だ、側近。俺は、魔王を倒す。この美しい世界を守る為に」
勇者「産まれた……勇者だ」
側近「……拒否権の無い選択をさせてすまん」
勇者「小さい頃からすり込んできたくせに、何言ってんだよ、今更」
側近「魔王……は、強い。だが……」
勇者「……心配するな。俺は勇者だ」
側近「心強い台詞だ……だが、驕るなよ」
勇者「……うん」

コンコン

側近「来た……かな。はい」
女剣士「勇者様、側近様、失礼致します」カチャ
女剣士「……お迎えに上がりました。どうぞ、このローブを……」
勇者「……ありがとう」
側近「勇者、ちゃんと持ったな?」
勇者「ああ」
女剣士「では、行きましょう。王様方がお待ちです」

……
………
…………

ザワザワ……

勇者「凄い人だな……」
側近「ちゃんとフード被っとけよ」
勇者「大丈夫だ……女剣士は何処に行ったんだ?」
側近「し……ッ ここは大広間、だったな?」
勇者「うん」
側近「……人はどれぐらいいるんだ」
勇者「わかんないよ、一杯……王様は何処から……」

カチャ

盗賊「静まれ! ……待たせたな、皆の者!」

シーン……

勇者「王様だ……!階段の上だ!」
側近「小さい声で!」
盗賊「今日は我が弟王子の為に集まって貰って恐縮致す」
盗賊「生まれつき身体の弱い弟王子も、今日で晴れて12の誕生日を迎える事となった」
盗賊「始まりの街、始まりの大陸に住む全ての者が」
盗賊「今日という日を、街中で祝ってくれると言うのは、母として本当にありがたい」
盗賊「今から丸二日、飲むも食うも自由!無礼講にて楽しんで貰いたい!」

ワアアアアアアアアアアアア!

盗賊「……の、前に。話しておきたい事がある……悪いが、少し時間をくれ」
盗賊「……入れ」

スタスタ……

勇者「あ……鍛冶師様、女剣士……王子と、弟王子が出て来た」

盗賊「まず、一つ目!」
盗賊「……弟王子も無事、この日まで育った」
盗賊「これをもって、我が国の時期王の座につく者を、弟王子と定める事とする!」
側近「何!?」
勇者「側近、シッ……!」
盗賊「これは王子のたっての願いでもある。同時に、王子を正式に」
盗賊「我が王国騎士団の一員と認める!」
鍛冶師「これだけは心にとめて置いて欲しい」
鍛冶師「王子といえど、騎士団の一騎士に変わりは無い」
鍛冶師「規律通り、目上の者への態度、言葉遣い、全て従うのが道理」
鍛冶師「一騎士として以上も以下の扱いもしない様、お願いするよ」
鍛冶師「王子、良いな?」
王子「はい!宜しくお願い致します!」
勇者「あいつ……ッ内緒、て……これか……!」
盗賊「二つ目!」
盗賊「……勇者様、こちらへ」
勇者「!」

ザワザワ……
ユウシャサマ?ユウシャサマ、キテルノ?

鍛冶師「側近様もご一緒に、どうぞ?」
側近「……勇者、ローブを取れ。それから……手を」
勇者「あ、ああ……」ギュ

キンノカミ……キンノヒトミ……アノコダ……
ユウシャ……ユウシャサマダ……!!
ユウシャサマ、ユウシャサマ!!

側近「盗賊……お前……」
盗賊「悪い様にはしねぇよ?」ニッ
勇者「王様……あの……」
盗賊「久しぶりだな、勇者。光の剣は持ってるか?」
勇者「あ、ああ……」
盗賊「良し……高く掲げて。繰り返して……」

勇者「……えッ!?そんな事言うの!?」
鍛冶師「大丈夫大丈夫」
女剣士「静まれ!」

シーン……

勇者「え、えっと……『私は、光に導かれし運命の子、勇者だ!』」
勇者「『勇者は、必ず魔王を倒す! ……この、光の剣に誓って!』」

ワアアアアアアアアアアアアア!

盗賊「……上出来」ニッ
盗賊「静かに…… しかし、見たとおり、この光の剣は」
盗賊「ボロボロだ……魔王との戦いの凄まじさを物語るが如く!」
側近(……出任せを……いや、出任せでもないか……うーん……)
勇者「き、き、き……ッ きんちょ、した……ッ」
女剣士「深呼吸しな、お疲れさん」
側近「静かにしなさい君達……」ハァ
盗賊「騎士団は南の島に、稀少な鉱石とやらが眠る洞窟を発見した」
盗賊「が、岩礁に囲まれた小さな島の洞窟には、恐ろしい三つ頭の化け物が」
盗賊「居ると言う……そこで」
盗賊「近々、勇者様と我が騎士団で、この洞窟へと向かう事にした!」
鍛冶師「僕の元で鍛冶を学んでいる者も、忙しくなるだろうから」
鍛冶師「そのつもりでね」
側近「……お前、そんな事やってたの」
鍛冶師「魔法剣に触れるチャンス、僕が手放すと思った?」
側近「…… ……」
女剣士「騎士の中で我こそはと思う者!志願する者は三日以内に」
女剣士「志願書を出す様に!中から精鋭を選んで10人、連れて行く!」
女剣士「……王子、お前も行きたければ、私に勝てるぐらいに、強くなれ!」
王子「…… ……はい!」
盗賊「三つ目!最後だ」
盗賊「これに伴い、騎士では無い者、この島の者で無い者に向けて」
盗賊「冒険者登録書を作る事にした。身元の明らかな者であれば」
盗賊「誰でも利用できる様するつもりだ」

ワアアアアアアアアアアアアアア!

鍛冶師「……さて、と。長くなったけれど」

鍛冶師「今日は楽しんで、飲んで食べて。騒いで」
鍛冶師「良い日を過ごしてくれ。あ、でも……もめ事は勘弁ね?」

ワアアアアアアアアアアア!
ユウシャサマ!ユウシャサマ!
オトウトオウジサマ!オメデトウゴザイマス!
ユウシャサマ、バンザイ!
ジキコクオウ、バンザーイ!

……
………
…………

側近「……もう、食えない」グタ
盗賊「小食だなぁ、側近は……」
鍛冶師「盗賊は二人産んでから、よく食べる様になったよね」
鍛冶師「……僕ももう、満腹」
盗賊「女剣士と、子供達は?」
鍛冶師「寝かしてくるって出て行ったキリだね」
側近「……しかしまぁ、とんでもない企みしてやがったな、お前は」
盗賊「この国に来た時に言ってただろ」
盗賊「……どんどん利用しろ、ってな」
側近「お前もだよ、鍛冶師……」
鍛冶師「さっき言った通り、さ」
側近「チャンスは手放さない、か……」
盗賊「……久しぶりだな。こうやって……話すの」
側近「そう、だな……最後、かもなぁ」
鍛冶師「何言ってんの」
側近「……16になったら、勇者は旅に出させる」
盗賊「伝えたのか」
側近「ああ、今朝な」
盗賊「…… ……そうか」
鍛冶師「君はどうするんだ、側近」
鍛冶師「この城で良ければ、部屋は用意するよ」
盗賊「そうだな。その目じゃ勇者がいなきゃ辛いだろう」

側近「いや……俺は、魔王様の城へ戻る」
盗賊「……」
鍛冶師「……そう、か」
盗賊「なら、船の手配をさせるよ」
側近「いや……ああ、そう……か」
側近「……転移で戻ろうかと思ったんだがな」
盗賊「お前、それは……!」
側近「流石に、もう無理かもな」
鍛冶師「…… ……」
側近「必要そうならば、頼むよ。そういえば……船長は元気にしてる、のかな?」
盗賊「一回だけ来たな……まだ、勇者が小さい頃だ」
鍛冶師「とびきり上等な布を仕入れた帰りだとか言ってたかな」
側近「使用人ちゃんか……」
盗賊「たまには顔出せよ、とは言っておいたんだがな」
側近「……娼婦ちゃんが居るからなぁ」
鍛冶師「…… ……あそこは、相変わらず綺麗だよ」
側近「そっか……」
側近「……いや、しかし吃驚したぞ」
盗賊「ん? ……ああ」
鍛冶師「土下座されたからなぁ……」
側近「土下座!」
盗賊「ああ……王位は弟王子に譲る。だから僕を騎士団に入れてくれ、ってな」
盗賊「憧れなんだそうだ。女剣士が、さ」
側近「へぇ……まあ、望んだ事するのが、一番良いんだろうけどな」
鍛冶師「なあ、側近」
側近「ん?」
鍛冶師「旅立たせる、ってさ……どうするんだよ」
側近「ああ……丁度良いから、登録所とやらを利用させるかなぁ」
盗賊「まあ、それも勇者の望むとおりに、だ」
側近「…… ……そうだな」

カチャ

女剣士「やっと寝た!」

盗賊「おう、お疲れ」
女剣士「あの二人、興奮しちまって寝ねぇんだよな」
側近「まあ、仕方無いさ。まだまだ子供だ」
鍛冶師「……その子供を、旅立たせようってんだから、ねぇ」
側近「俺が前魔王様んとこに行ったのもそんなもんだったかな」
盗賊「……随分、時間が経ったんだな」
鍛冶師「そうだよ……もう、側近達がこの街に来て……10年以上だ」
側近「色々あったな。色々……変わったし」
女剣士「…… ……」
盗賊「良し。アタシもそろそろ休むかな。弟王子、放っておけないし」
鍛冶師「そうだね、僕も……女剣士、後宜しくね」
側近「……なぁんか態とらしいねぇ」
盗賊「気のせいだよ。じゃあな」
鍛冶師「おやすみなさい」

カチャ、パタン

女剣士「…… ……」
側近「緊張してんのか?」
女剣士「流石に……そんな事ないさ」
女剣士「アンタが……色々、とか、さ。何か……寂しい事言うから」
側近「さっき、盗賊達には言ったんだけどな」
女剣士「16になったら旅に出す、か? ……勇者に聞いた」
側近「そうか……」
女剣士「良いと思うよ。アタシ達のお膳立て無しで」
女剣士「自分達の手で、道を切り開いて行かなきゃいけないんだ、あの子は」
側近「……ありがとう」
女剣士「側近は……魔王の城に戻るんだろう?」
側近「え?」
女剣士「……そんな気が、して」
側近「ああ……そのつもりだ」
女剣士「そうか…… ……」
側近「……お前、結婚しないの?」
側近「モテるらしいじゃないか。強くて、怖くて美しい女剣士様、てな」
女剣士「お前以外に言われてもなぁ」ハハ
側近「…… ……悪かったな」
女剣士「お前が……悪い訳じゃ無いさ」
女剣士「……こればっかりは仕方無い」
側近「…… ……ああ」
女剣士「傍で、お前と勇者を守れた。アタシはそれで幸せだ」
側近「洞窟には、何時発つんだ」
女剣士「もう暫く先だな。人員の選出もしないといけないしな」
側近「……俺も、行く」
女剣士「え!?」
側近「勘違いすんな、俺は流石にもう戦えないし……手を出すつもりはない」
側近「ま、回復要員だな」
女剣士「……そうか。助かる」

側近「勇者の回復魔法も、まあ役に立つっちゃ立つけど」
側近「あいつはスタミナと魔力がなぁ」
女剣士「……もう少し、こっちに通わす事は可能か?」
側近「ん?」
女剣士「ああして、街の人達に顔も見せた事だしな」
女剣士「アタシが通って行くにも限界はある。王子と一緒なら」
女剣士「お互いにライバル視してるし、伸びるんじゃないかと思ってな」
側近「ああ、成る程な……そうだな、良いんじゃないか?」
側近「明日にでも、俺から話しておくよ」
女剣士「ああ、頼む…… ……」
側近「…… ……女剣士?」
女剣士「……これで。良かった……んだよな」
側近「…… ……」
女剣士「……部屋まで、送る。もう、休んで、側近」ギュ
側近「……ああ」

……
………
…………

王子「……行った?」
勇者「行った、な」
王子「寝れないよな」
勇者「ああ……良し」ガバ
王子「なあ、もう一回見せてくれよ」
勇者「ん?ああ……何回目だよ」
王子「……綺麗、だな」

おひるごはーん

勇者「……光の剣、か」
王子「でもこれ……刃が欠けてるんだよな」
勇者「何でだかは俺も知らないんだ」
勇者「……俺の剣だって、側近はずっと言ってたけど」
勇者「魔法剣だって言うけど、これじゃ……何も出来ない」
王子「だよな……洞窟、行けると良いな……いや」
王子「絶対、行くからな!」
勇者「おう!」
王子「明日から、特訓だ……ッ」
勇者「良いよな、お前は。毎日女剣士に鍛えて貰えて」
王子「勇者もお願いしてみれば良いじゃないか」
勇者「側近が駄目って言うよ、多分……」
王子「俺も一緒に頼んでやるよ!」
勇者「……うん!」
王子「でさ、一緒に洞窟行って……」
王子「絶対、お前の剣、治そうぜ」
王子「お父様は腕の良い鍛冶師だ。大丈夫だ!」
勇者「そう、だな。そうだよな!」
勇者「それで……俺は、絶対に魔王を倒す」
勇者「この国も、全部……守ってやるから」
王子「俺は、騎士団に入っちゃったからついて行けないけど」
王子「お前が魔王を倒しに行ってる間は、この国、俺が守るからさ」
勇者「ああ。約束な!」ガシ
王子「約束だ!」ガシ

……
………
…………

側近「あれ……魔導将軍?」
魔導将軍「……ああ、側近か」フラフラ
側近「どうしたんだよ、お前……フラフラじゃないか」
側近「大丈夫か!?」
魔導将軍「……そっくりその侭返す。何でお前はずぶ濡れなんだ」

側近「……扉開けたらバケツが振ってきたんだよ」
魔導将軍「そうか……私は、鴉の酒に付き合わされただけだ」
側近「后様、妊娠したって喜んでたからなぁ……」
魔導将軍「悪戯も収まれば良いがな……」
側近「で、魔王様は?」
魔導将軍「寝ていらっしゃるだろう、もう」
側近「もう!?」
魔導将軍「后様の傍から離れないからな」
側近「……何時悪戯仕掛ける暇があるんだ、あの女は……ッ」
魔導将軍「大人しそうな顔して、いやはや……」
側近「しかし、なぁ……鴉のやけ酒も連日だな、ここんとこ」
魔導将軍「案外純情な女だぞ、あれは」
側近「……あれが?」
魔導将軍「……まあ」
側近「裸で、魔王様の上に乗る様な、女が?」
魔導将軍「…… ……忘れてやれって」
側近「無理だ!その所為で俺、魔王様と寝る羽目になったんだぞ!?」
魔導将軍「…… ……お世継ぎが産まれれば、落ち着いてくれると思いたいがな」
側近「本当に、それ、願うよまじで……」
魔導将軍「……」
側近「……」
魔導将軍「……湯でも浴びて、休むとする」スタスタ
側近「おう。俺も……」スタスタ
側近(本気……ねぇ?愛……アイ、ね)
側近(魔王様もあの女の何が良いんだかなぁ……まあ、そりゃ見た目は可愛いけど)ツルッ
側近「……おわッ ……ぶ、ねええええ!」
側近「……なんだ、これ……うわ、酒くさッ」キョロキョロ
側近「あ……ッ 鴉!コラ!」
鴉「あー?」
側近「…… ……目、座ってるし」ハァ

鴉「コレが、飲まず、にぃ……やってられるかあああああああ!」
側近「ウルセェ……ちょ、酒瓶振り回すな!」
側近「ああ、もう……水と拭くもの持って来るから!そこ動くなよ!」タタタ
鴉「…… ……」ヒック
鴉「魔王さまぁ……」グビ
鴉「…… ……」

タタタ

側近「よ、いしょ……っと」フキフキ
側近「ほら……ああああ、もう。瓶を煽るなって……ほら、飲め、水」
鴉「いらなぁい……」
側近「明日二日酔いで死ねるぞ、お前……」
鴉「……なーんで、さぁ、后様なのかねぇ」
側近「俺が聞きたいよ……」
鴉「でもさ、アタシ、さぁ……后様、好きなんだよねぇ……困った事に……」
側近「……」
鴉「お世継ぎ、かぁ……おめでたい、けど、サァ……」
側近「好きならさぁ、酒振りまきながら飲むのやめろって」
側近「后様が滑って転んだら、どーすんだ?」
鴉「…… ……御免」
側近「ん」
鴉「……狼将軍、知ってるぅ?」
側近「あの大男か……ああ」
鴉「今日もまた、怒鳴り込んで来てさぁ?」
側近「まだ諦めてないのか……」
鴉「娘を娶れ!側室で良いから!だってー」
鴉「側室だったら、アタシが居るっての!」
側近「おいおいおいおい……」
鴉「……でも、さ。后様しか目にない魔王様だから、アタシ……」
鴉「前より、魔王様が好きなんだよねぇ……」

側近「さっっっっっぱりわかんねぇ」
鴉「……ねぇ。アタシも……わかんない……」スゥ
側近「おい、鴉? ……寝やがった」
側近「……」ハァ
側近(愛だの、恋だの……ああ、面倒臭い)ズルズルズル
鴉「……うぅん」ゴン
側近「あ…… ……」
鴉「…… ……」
側近「……しゃあねぇな」ダキ
側近「ええっと……鴉の部屋は……」スタスタ

……
………
…………

使用人「ふぅ……出来た」
使い魔「使用人様、何を作ってるんですか?」
使用人「前の魔王様のマントは、勇者様に渡してしまったので」
使用人「……あんまり、上手に出来ませんでしたけど」
使い魔「充分だと思いますよ……余り、どうします?」
使用人「どこかへしまって置いて下さい。また、何かに使います」

コンコン

使用人「はい?」
使い魔「使用人様、沖の方に船が見えます」
使用人「船長さんですね……今回は早かったですね」
使い魔「馬車の用意を致しましょうか?」
使用人「ええ、お願いします。後、ローブを持ってきて下さい」
使い魔「はい」

使用人(随分……大きくなったんだろうな、娘ちゃん)
使用人(本当なら、城へお招きしたいけれど……)
使用人(…… ……贅沢は、言えない)
使い魔「使用人様、準備が出来ました」
使用人「……ローブを此方へ」
使い魔「はい」
使用人「では……行きましょうか。お願い致しますね」

……
………
…………

船長「よう、久しぶりだな」
使用人「何時もすみません、船長さん」
船長「ほらよ、上等な布……何回目だ?」
使用人「10回目、ですかね……もう、10年です」
船長「まだ作ってんのか、カーテン……」
使用人「この前のは魔王様のマントを作りましたよ」
使用人「城中のカーテン、作っちゃいましたからね」
船長「……他に何か、やる事ないのか」
使用人「庭もお花で一杯になってしまいましたからね……」
船長「魔王は……どうだ?」
使用人「何も……ずっと、眠られて居ますよ」
船長「そうか……」
使用人「娘ちゃん、大きくなったでしょうね」
船長「ああ……もうすぐ、15になる」
使用人「そうですか……魔法使いさんは?」
船長「あいつも元気にしてるよ」
使用人「やはり、まだ船に……?」
船長「ああ……死んだら、女海賊と同じように、水葬にしてくれ、ってな」
船長「……最近はそんな事ばっかいってら」
船長「だからジジィ呼ばわりされんだよ。俺より若いのにな」

使用人「船長さんも……白髪、増えましたね」
船長「一年に一回ぐらいだからなぁ、此処に来るのも……」
使用人「勇者様は……」
船長「それも、変わりないさ。一度……お前さんが、一番最初に」
船長「布を頼んだ時に始まりの城に寄ったきりだ。会ってネェ」
使用人「そうですか……」
船長「だが、そろそろ……娘も15歳だ。勇者も同じぐらいだろう」
船長「噂話は耳に入ってくるしな……一度、寄ろうと思ってる」
使用人「そうですか……」
船長「……悪いな。無理言って」
使用人「何が、です?」
船長「顔、隠してくれ、なんてさ」
使用人「……いいえ。娘ちゃんの事とか、考えれば当然です」
船長「しかしまぁ、お前さんはやっぱり……変わらない、んだな」
船長「声も……その侭だ」
使用人「……立たせっぱなし、も気が引けます」
使用人「手短に、お聞かせ願えますか、その……噂話」
船長「ああ……そうだな。あんまり船も待たせられネェ」

おむかえー!

かまってちゃんじゃなかったら最高なんだが

だいたい飯やお迎えだって、「ご飯(だから更新止まるよ)」「お迎え(だから更新止まるよ)」
って意味で言ってるだけだしな

>>89はこれで「ちと休みます」とかだと「理由言えよ」ってなるんじゃねーの?

おはよう!夕方だけどwww
少しだけどのんびりー

船長「……やっぱり、魔石の流通はもう頭打ちだな」
使用人「以前から仰っていたとおり、ですか」
船長「ああ。ここ5.6年……制作すらしてないんじゃないかな」
使用人「そうですか……」
船長「港街が出来た当初はな……良い収入源になったんだろうが」
船長「未だに需要があるのは、魔除けの石ぐらいのもんみたいだな」
船長「とは言っても……もう、神父さんも亡くなって随分立つ」
船長「あの教会にはまだ女神官が居るし、頑張って作ってるみたいだが……」
使用人「そちらも以前言っていましたね。とんでもない高額になっていると」
船長「ああ……質はな。正直……神父さんの足下に及ばネェ。どれもこれも」
船長「数こそ出来てはいるが……」
使用人「……他で、充分に生活が賄えるのならば、仕方無いでしょう」
船長「まあ、な……復活の見込みはネェな」
使用人「……些か、寂しい気はします、が」
船長「後、どこの街へ行っても勇者の話題で持ちきりだ」
使用人「え?」
船長「丁度一年ぐらい前か……俺が此処へ来た後すぐぐらいだったと思うが」
船長「盗賊が、街に冒険者なんとかって、施設?を作ったらしい」
使用人「施設?」
船長「ああ。そこで冒険者として登録して置けば、勇者の目にもとまるかも、ってな」
船長「……ま、目で見た訳じゃ無い。詳しくはわからんが」
船長「後……お前は、知ってたよな。あの……南の島、だ」
使用人「側近様が貰った古い地図に載っていたあれですね」
使用人「魔法の鉱石がどうとか……」
船長「ああ……あの島に、騎士団を派遣したらしいぜ」
使用人「騎士団……女剣士さんが騎士団長に就任された、と言う……あれですか」
使用人「では、国から……ですか?」
船長「噂では、な……俺も詳しくは解らん。だが」
船長「……確認も兼ねて、これから始まりの街へ行ってこようと思う」
使用人「そうですか……」
船長「また、一年後ぐらいになっちまうがな」
使用人「構いませんよ。私は……時間に縛られる身では無いですし」
船長「……勇者の剣、だろうな」
使用人「それしか考えられないでしょう。鍛冶師さんもいらっしゃいますし、ね」
船長「あいつは……その話題になると目の色が変わるからな」
使用人「頼もしい限りですよ」
使用人「……私は、命があると言うだけで何もできません」
船長「……そんな事はないさ」

使用人「もし……勇者の剣の修理が叶っていれば」
使用人「それこそ、世界は……その話で持ちきりなのでしょうね」
船長「箝口令が敷かれていなければ、だが……そうだろうな」
船長「インキュバスの野郎が流した、魔王の進攻の話にプラスして」
船長「勇者の存在が明らかになったんだ」
船長「……旅立ちを心待ちにしていると言う奴も多い」
使用人「旅立ち……ですか」
船長「ああ……『中身』が『器』を殺す、だったか?」
使用人「…… ……」
船長「今のところそんなもんだな。今度戻って来れる時には」
船長「もう少しマシな話をしてやれると思うぜ」
使用人「……ありがとうございます」
船長「また何かあれば、鳥を寄越せよ」
使用人「ええ、遠慮無く……それでは、お気をつけて」
船長「おう……元気で、な」スタスタ
使用人「…… ……」クル……スタスタ
使い魔「戻られますか?」
使用人「ええ。戻ったら……全員を連れて庭に避難してください」
使い魔「やはり……試されるのですか」
使用人「私の力で何処まで出来るか解りませんが……」
使用人「折角、船長さんに布を届けて頂いたのです」
使い魔「…… ……出します」

カラカラ……

使用人(書庫にあった本……古い、魔導書)
使用人(防護の術等……私に出来るか解らない。だけど……)
使用人(私にも……何か、出来る事があるはず……!!)

使用人(一年に一回の定期便。10年も掛かってしまった)
使用人(……否、まだ10年と言うべきだろうか)
使用人(部屋中に、極上の絹で織られた布を広げ)
使用人(風の壁を張るイメージで……)ブツブツ
使い魔「…… ……使用人様?」
使用人(何度も、イメージトレーニングした。大丈夫な筈……)
使い魔「…… ……」フゥ
使用人(風の防壁……側近様が、居れば。否……全盛の頃のお力であられれば)
使用人(力を借りられただろう……だけど)
使用人(まだ城に居たとしたら、これすら、必要無かっただろう)
使用人「……魔王様は、私が、守ります」
使用人「例え……それが勇者様と、敵対する事であっても……!」
使用人(否……敵対、しなければならない)
使用人(確実に、『器』を倒す為……!)
使用人「……魔王様の、望みは……全て、私の望みです」
使用人「……ッ 魔王様……!!」
使用人(……これが『寂しい』と言う感情なんだろうか)
使用人(一年に一度。昔の知人と話す……これ、が)
使用人(寂寥感……)
使い魔「使用人様、到着しますよ」
使用人「……ありがとうございます。馬車を止めたら、その侭皆を連れて避難してください」
使い魔「し、しかし……本当に大丈夫なのですか」
使用人「……大丈夫です。私は、魔王様を残して死ねませんから」スタスタ
使用人「…… ……」スタスタ…… ……カチャ
使用人(玉座の間……中心は、此処)ブツブツ
使用人「……『風よ。広がりて防壁と為せ。美しき織物に宿り、生より生み出されたそれに絡まりて』」
使用人「『守れ! ……風よ!』」

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

使用人「……ッ グッ」
使用人(立って、いられない……ッ ……し、っぱい……し……!?)

シュゥウン……

使用人「…… ……」
使用人(……収まった……成功した?)

使用人「…… ……」
使用人(変化が解らない……けれど)
使用人「…… ……」サワサワ
使用人(カーテン、はカーテン、か……)
使用人「……魔力を消費しただけ、で無ければ良いですが」ハァ
使用人「…… ……」
使用人(……魔王様にも、変わりない……ですよね)ホッ
使い魔「あ、あの……使用人様……」タタタ
使用人「あ……! 庭に出なさいと言ったでしょう……!」
使い魔「……大丈夫です。皆、使用人様を心配していましたし……」
使い魔「成功、された……ん、ですよね?」
使用人「だと……良いんですけど」
使い魔「そうですか…… 良かったです」
使用人「何かあったらどうするんですか……もう……」
使い魔「僕たちでも、使用人様の盾ぐらいにはなれますから」
使用人「そんな……!」
使い魔「ご無事で、良かったです」
使い魔「……魔王様を大事に思われる使用人様の事、皆……大好きですから」
使用人「あ……ありがとう、ございます……」
使い魔「……ご無事で良かったです。では、食事の準備をして参りますね」スタスタ
使用人「……」
使用人(……寂しいとか、思ってご免なさい)

……
………
…………

盗賊「船長! ……お前、又太ったな!」
船長「……開口一番それかよ、王様よ」ハァ
鍛冶師「まあ、立派なお腹に違いは無いよね」

船長「お前もナァ……」
盗賊「何だよ!10年以上顔も見せないでよく言うよ!」
船長「……老けたな、お互い」
盗賊「そりゃな……」
鍛冶師「……何か、あった?」
船長「そりゃこっちの台詞だ」
船長「……あの南の島に船を出したそうじゃネェか?」
盗賊「耳が早いな」
船長「鉱石とやらが手に入ったとなれば、お前が黙ってる筈もネェだろ、鍛冶師?」
鍛冶師「……否定したら怒られるよねぇ」
盗賊「わざわざそれを聞きに来たのか?」
船長「……仕事の一環さ」
鍛冶師「仕事?」
船長「情報料を頂いてる、んでね……使用人から」
盗賊「!」
鍛冶師「会ったのか!?」
船長「大体一年に一度の定期便、だな……半年程前に向こうを出たのさ」
船長「……用事があったら小鳥を飛ばしてくるんだ」
船長「で、まあ……行ける時に向かう感じ、だな」
盗賊「そうか……元気にしてる、んだよな?」
船長「……何時会っても、何も変わらないな、あいつは」
鍛冶師「ま……そりゃそうだよね」
盗賊「娘と……魔法使いは?」
船長「船に居るよ。流石にここに海賊船、って侭に来る訳にいかねぇからな」
船長「商船装って着港したんだよ……ぞろぞろ、海賊が城に向かうのもおかしいだろ」
鍛冶師「……なんか、気を遣わせて悪いね」
船長「そりゃ気にする所じゃネェって……で、だ」
船長「早速で悪いんだが、話を聞かせてくれないか?」
鍛冶師「盗賊?」

盗賊「船長が来た、ってんで人払いは済ませてある」
盗賊「……解った、少し長くなるぞ」
船長「ああ、それは大丈夫だ」
鍛冶師「王子も弟王子も、今はこの城には居ないしな」
船長「弟王子?二人目出来てたのか!」
盗賊「……ああ、そうか。それも知らない、わな」
盗賊「まあ、良い……先に話そう」
船長「……ああ。使用人に、説明してやらないといけないから」
船長「しっかり頼むぜ?」

……
………
…………

女剣士「良し、準備が出来た者から順番に乗り込め!」
王子「はい!」
騎士「はッ!」

ザワザワ……

側近「準備は良いな、勇者」
勇者「それ何回目だよ……てかさ」
勇者「繋いでる手、汗でびしょびしょだし」
勇者「何か小刻みに震えてるけど……大丈夫?」
側近「……船は得意じゃ無いんだ」
勇者「何だよ……それで良く着いてくる気になったな」ハァ
勇者「俺と女剣士と、王子もいるし……騎士達も居るんだ」
勇者「無理しなくても良いんだぜ?」

盗賊「勇者様、ご気分は如何ですか……て言う、社交辞令はまあ」
盗賊「置いておいて、だ」
側近「……盗賊か」
勇者「あ、王様……」
盗賊「真っ青だな、側近」ハァ
鍛冶師「大丈夫?」
側近「大丈夫だ。回復役は多い方が良いだろ」

女剣士「乗り込んだら所定の位置につけ!」
女剣士「海の魔物は雷に弱い!得意とする者は……」

鍛冶師「……張り切ってるねぇ」
盗賊「結局、女剣士任せにしちまったな」
側近「実力考えたら、な」
勇者「……王子、選ばれて良かったな」
鍛冶師「勇者を守る、って張り切ってたからね」
盗賊「……無理はするなよ。女剣士にも言ってあるが」
盗賊「駄目だと思ったらすぐに引け。命があれば何度でも挑戦出来る」
側近「…… ……」
盗賊「死んだらどうにもならない。こんな所で……お前を失う訳にはいかないんだ」
盗賊「……良いな、勇者」
勇者「はい!」
女剣士「勇者と側近も、そろそろ乗ってくれ……こちらは揃った」
勇者「うん……行こう、側近」ギュ
側近「あ、ああ……」
女剣士「……大丈夫か、側近。顔色が……」
側近「お前は、知ってるだろ……」
女剣士「……ああ。酔うんだったな」
盗賊「……」プッ
鍛冶師「こら、盗賊」
側近「……良いよ、笑ってくれても!」

お風呂とご飯ー!
夜来れたら!

おはよう!
今日ものんびりー

勇者「情けないなぁ……」
側近「悪かったね!」
側近(……苦手なんだよ。あの……火の玉を見てから、な)フゥ
女剣士「……では、王様、鍛冶師様。言って参ります」
盗賊「ああ……頼んだ」
鍛冶師「気をつけて……くれぐれも無茶しない様に。無茶、させない様に」
女剣士「心得ております……では、出発!!」
盗賊「検討を祈る!」
鍛冶師「命第一だぞ!」

ワアアアアアアアアアアアア!
ザザ…… ……ザザァ……!

勇者「……早いな。王様達が、あんなに遠く……」
女剣士「海の魔物に警戒しろ!各自持ち場で待機!」
女剣士「……勇者様と側近様は、船室の方へ」
勇者「え、でも……」
側近「居たいのなら甲板に居させて貰え……邪魔はするなよ」
勇者「側近……」
側近「皆も必死だ。仕事ってのもあるが、お前はどうしても」
側近「『守られる立場』になっちまう」
側近「それを踏まえた上で……女剣士に指示を仰げ」
勇者「……」チラ
女剣士「勇者様が居られれば士気は上がりましょう……が」
女剣士「緊張を覚える事も事実」
勇者「……ああ」
女剣士「私の傍を離れられません様。後、勝手な行動は慎まれます様」
女剣士「……守れますか」
勇者「勿論だ!」
女剣士「……側近様?」
側近「任せますよ……女剣士殿」
女剣士「はい……では、ああ、そこのお前!側近様を船室にお連れしろ!」
騎士「はッ」
側近「すまんね」スタスタ
勇者「……」

女剣士「側近様が居ないと……不安ですか」
勇者「だ、大丈夫だ……です!」
女剣士「小さな声で……『勇者様』は我らの希望だ」
勇者「……」
女剣士「お前を守る為なら、皆喜んで身を、命を投げ出すだろう」
勇者「……!」
女剣士「側近に限った事じゃ無い。私も、他の騎士達も……王子も」
勇者「……ッ」
女剣士「……勿論、作戦は成功させたい。全面的な指揮を任せられている以上」
女剣士「責任という重責もある。鉱石を手に入れ、光の剣を修理する」
女剣士「世界を守る為、勇者様の為、だ。だが、それ以上に」
女剣士「お前だけじゃ無い。誰の命も失いたくないと言う思いが一番だ」
勇者「……うん」
女剣士「王様も言っていただろう。必ず生きて帰れ、と」
女剣士「……だから、お前はまず、自分を大事にする事が……今日、一番重要な『任務』だ」
勇者「解ってる……!」
女剣士「それが解って居れば、良い。勇者様が居る、と言うだけで」
女剣士「さっきも言ったが士気が上がる。やる気になるんだ、皆」
勇者「側近は……大丈夫なの?」
女剣士「ん?」
勇者「本当に……顔色、悪かったからさ」
女剣士「船に弱いのは本当だよ。昔……まだ、アタシも彼も若い頃」
女剣士「一緒に船に乗った事あるけど……おえおえ言ってたからね」
勇者「……そうなのか」
女剣士「側近にも大事な役目がある。傷付いた人を癒す、役目」
勇者「そうだよな……俺、回復魔法は教えて貰ったけど」
勇者「魔力自体があんまり無いからなぁ」
女剣士「……仕方ないさ。まだまだ……子供なんだから」
勇者「……ちぇ」
女剣士(……勇者が魔王であれば、魔力の量もその素質も)
女剣士(膨大であっておかしく無い筈なんだけどな)
女剣士(『人』と『魔』って言うのは……そんなに違うもの、なのか)

女剣士「……先は、長い。見張りを交代に立てて、陽が落ちれば休むから」
女剣士「陽が完全に落ちる前に、勇者は側近の部屋へ戻るんだよ」
勇者「うん……女剣士は?」
女剣士「アタシもきちんと休むよ。先に休む訳には行かないけどね」
女剣士「後、もし何かあったら、すぐに起こしに来てくれ。これは、勇者の役目」
勇者「解った……!」
女剣士「良し。では一緒に船を一回りしよう……異常がなければ、休憩だ」
女剣士「良いですね、勇者様?」
勇者「はい!」

……
………
…………

勇者「……きん、側近!」ユサユサ
側近「んぁ?」
勇者「起きて……そろそろ着くってさ」

ユラユラ……グラグラ……

側近「……随分揺れてるな」ウプ
勇者「早いな! ……そんな急に気分悪くなるもんなの」
側近「お前が揺するからだろ……!」
勇者「……ひ弱い」
側近「こればっかりは……うぇ」
勇者「女剣士達も休憩すんだらしいんだ。進むスピードも遅くなってきたし」
勇者「もうそろそろの筈だ」
側近「…… ……着いたら、起こして」ゴロン
勇者「側近…… ……」ハァ
側近「まじで、コレだけは、駄目なんだって……!」
勇者「……解ったよ、まあ、側近役目も無いしな」
側近「その言い方は酷くない!?」
勇者「事実!」
側近「……ハイ」
勇者「じゃあ、俺は女剣士の所にいるからな」
側近「はぁーいぃ………ぅえぇ」

側近(……)ハァ
側近(三つ頭の化け物……か。船長達が行った、のは)
側近(娘ちゃんが多分、女海賊のお腹に居た頃……って事は)
側近(……勇者が今14だから、ほぼ15年前)
側近(魔には……大した時間じゃない。まだ居る可能性は高い……ってか)
側近(確実に居るだろうな)ムクッ ……オェ
側近「どうにかなんねぇかな、コレ」ハァ
側近(南……南、か)
側近(……姫様が居たって言う、エルフの森も遙か南……って、言われてるだけ、か)
側近(でも……エルフの森は、もう閉じられた)
側近(姫様は……眠ってる)
側近(……美しい世界、か…… ……!?)

グラグラ、ガクガク……ッ

側近「な、何だ……?」

バタバタ……ッガチャ!

騎士「側近様、敵襲です!」
側近「!」
騎士「……海の魔物が、大挙して……!」
側近「戦況は?」
騎士「騎士長殿が指揮を……ッ」
側近「……彼女は船上での戦いには慣れてる。大丈夫だろうが……」
側近「怪我人は出るだろう。俺も回復の手伝いをした方が良いな」
側近「行こう……手を、頼む」
騎士「はッ」

……
………
…………

女剣士「……ッ 良し、粗方片付いたな……怪我人は速やかに手当を受けろ!」
側近「女剣士」
女剣士「……ああ、側近か……大丈夫か?」
側近「それを聞かれるべきはお前らだっての」
女剣士「数は多かったが、まあ……大丈夫だ」
側近「手当を手伝おう……もう、着くのか?」
女剣士「着いた、だな……まだ島まで少しあるが、ここから先は」
女剣士「船では入れない。歩いて行くしか無いな」
側近「小さめの船で来て正解、だな」
女剣士「船長から話を聞いてたからな……多分、子供でも足が着くぐらいの水位だろう……が」
女剣士「……アンタは、どうする」
側近「邪魔で無いならついて行きたい、がな」
側近「……どうするんだ。件の三つ頭」
女剣士「先発、後発に別れて行くつもりだ」
側近「後発は僧侶達か……俺はそっちだな」
女剣士「そうだな……良し、では回復が終わり次第降りる!」
女剣士「打ち合わせ通り、前衛の2/3と魔法を使える者の2/3は私に続け!」
女剣士「……勇者様、一緒に来て頂けますか」
勇者「はい!」
女剣士「残りの者は僧侶達と側近様を守りつつ、後の出発に備えておけ!」
女剣士「先発隊は先に治療を受けているな……良し、行くぞ!」

オオオオオオー!

側近「勇者?」
勇者「ここだ、側近」ギュ
側近「無理はするな……ま、散々女剣士に言われてるだろうけど」
勇者「ああ……大丈夫だ、心配するな、側近」
側近「……そっくりだな、声」ボソッ
勇者「え?」
側近「いや、何でもない」
勇者「?」
女剣士「行くぞ!」
側近「行け……気をつけろよ」
勇者「あ、ああ!」

側近(声……か、しゃべり方、か……魔王様にそっくりだ)
側近(改めて、そう感じるのもおかしな話だよな)
側近(魔王様、なんだ……勇者は)
側近「…… ……」
騎士「側近様、すみません、こっちの奴の手当を……」
側近「ああ……すまん。すぐに行く」スタスタ
騎士「あ、そっちは柱……ッ」
側近「へ? ……ッ」ゴン!
騎士「も、申し訳ありません……!」
側近「…… ……とんでも御座いません」
側近(痛い……)

……
………
…………

女剣士「……ッ 止まれ……ッ!」
騎士「ひ……ッ」
勇者「あれが……三つ頭の……ッ」
王子「……騎士長様?」
女剣士「雷の魔法は余り聞かない、火を吐く、との情報がある」
女剣士「……私が引きつける。魔法を使える者は援護を」
女剣士「王子と騎士達は私に続け!」
勇者「お、俺、は……!」
女剣士「もし誰かが怪我をしたら回復を」
勇者「…… ……ああ」
女剣士「行くぞ!」

グルルルルル……ッ

女剣士「後発隊が来るまで、深くは踏み込むなよ!」

ワアアアアアアアアアアアアア!

勇者「…… ……ッ」
勇者(解ってる、解ってる……だけど……!)
勇者(王子だって、参加してる。この半年、女剣士の元に)
勇者(毎日、通って……ッ 剣の稽古も受けた!)
勇者(なのに……『勇者』ってだけで、俺は……守られるだけ……)
勇者(仕方無い、だけど……!!)

女剣士「魔法攻撃を絶やすな!隙を見て首を落とすぞ!」
勇者(王子は……居た……ッあ、あいつ、馬鹿……!近い……!)

ガアアアアアアアアアアアア!

女剣士「……ッ 火、が……ッ !! 王子……!!」
勇者「王子……!!」ダダダッ
王子「!!」
王子(近い、避けられ……ッ !!)
勇者「うわあああああああああああああ!!」パァア……ッ
女剣士「!?」
王子「うわあああああああああああああ!!」
勇者「あああああああああああああああああああああああああ!!」

……
………
…………

騎士「側近様、大丈夫で…… ……! 何だ、あれ……ッ!」
側近「ああ…… ? どうし……ッ うゥッ」ドクン!
騎士「側近様!?」

ウワアアアアア!
アアアアアア!

側近(ゆ…… …勇者の声……ッ な、ん……ッ)
騎士「側近様!!だいじょ…… ッ」

パアアアアアアアッ
ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ

側近「!!」
騎士「……なんだ、あの、光……ッ」
側近「おい、お前……走れるか」
騎士「は?は、はい……、し、しかし……ッ」
側近「大丈夫だ!先に行く……ッ 悪いが、連れて行ってくれ」
騎士「…… ッ はッ!」

タタタ……!

女剣士「…… ……」
王子「…… あ、あ……あ ……」ヘタヘタ
勇者「…… ……」

騎士「……ッ 居ました、側近様……!! ……あ、あ!?」
側近「どうした!?」
女剣士「側近!! ……勇者の、身体、が……!」
王子「ひ、光って…… る……ッ」
側近「!?」
女剣士「……勇者?」ソロソロ……ス……
女剣士「……ッ うっ」キィン!
王子(女剣士の指を弾いた……!?)
側近「……おい、どうなってるんだ……勇者!」
勇者「…… ……」フラ……
女剣士「勇者!」ガシ!
王子「女剣士!」
側近「……誰か説明してくれ。どうなってる」
王子「勇者!勇者……!」タタタ……
女剣士「……気を失ってるだけだ」ホゥ
側近「……光は?」
騎士「こ……この、血は……?」
女剣士「……側近、とにかく勇者を見てくれ」
側近「あ、ああ……」ソ……
側近(……あの、痛みは何だったんだ……)パァ
女剣士「その血は……三つ頭の物だ」
王子「俺が……踏み込みすぎたんだ。三つ頭が炎を吐いて……」
王子「避けれる距離じゃ、無くて……それで……」
女剣士「……勇者……様、が王子に駆け寄ったんだ」
女剣士「そしたら……光。気がついたら、三つ頭は……気がついたら、コレだ」
王子「光で……焼かれたのかな……」
女剣士「かもな。どういう……の、か解らないが」
女剣士「……血を吐いて、死んでる」
側近「…… ……勇者は、力を使いすぎて気を失っているみたいだな」
側近「咄嗟で……魔力の全てを出してしまった、んだろう」
側近「……王子を助ける為に、かな」
王子「…… ……」
女剣士「そんな顔をしなくて良い、王子」

側近「あ、すまん……」
女剣士「……回復だけを、と勇者にお願いしたのはアタシだ」
女剣士「もう少し……王子と勇者を信用しても良かった」
女剣士「踏み込ませすぎたのも、目が行き届いてなかったからだ」
女剣士「……悪かった」
王子「ううん……俺も、つい……良いとこ見せなきゃ、って……」
側近「…… ……」フウ
側近「まあ、各々反省は後にしよう」
側近「勇者も、疲れて寝たみたいなモンだ」
側近「……俺がここで見てるから、洞窟の中の事、頼むよ」
女剣士「……悪い」
王子「御免、側近……」
側近「勇者は大丈夫だから。な?」ポンポン
騎士「側近様、それは……私の肩です」
側近「あら」
女剣士「……良し、お前はそのまま此処で後続を待て」
女剣士「合図があれば、中へと進ませろ」
騎士「はッ」
女剣士「もし他に負傷者が居れば、見てやってくれ、側近」
側近「あいよ」
王子「…… ……」
女剣士「王子、お互い反省は後にしよう……もう一度、後悔する様な事を」
女剣士「今度こそその手で、起こすのはいやだろう」
王子「! ……はい!」
女剣士「良し。では内部へと突入する!隊列を立て直し、着いて来い!」
女剣士「王子、共に来い!」スタスタ
王子「はい!」スタスタ
側近「……」
騎士「……大丈夫、なのでしょうか。王子様……」
側近「様、はいらないんだろ?お前より新米なんだから」
騎士「あ……は、はい」

側近「女剣士の目の届くところ、って事で彼女自身も救われてるんだろ」
騎士「あ……!」
側近「……特別、なんだ、勇者は。確かに……だが」
側近「…… ……故に、な。足枷にもなる」
側近(……信用したら、か。まあ……な。だが、守られているばかりじゃ……)
側近(見た訳じゃ無いし、そうできる訳でも無いが……)
側近(王子の危機に、力を出しすぎたってところがまあ、正しいんだろうな)
側近(……光に焼かれ、血を吐いて絶命した、か)
側近(魔族は、光には弱い……んだろうか。まあ、この魔物がたまたま、かもしれんが)
側近(……何にせよ、『光の勇者』の敵では無かった、て事か)
側近(……皮肉だなぁ。魔族の誰かが、人間に渡さない様にと)
側近(三つ頭に此処を守護させたのだとしたら)
側近(…… ……ま、そんな事、考えてもわからんね)ハァ
騎士「側近様?」
側近「ん?」
騎士「あの……ご気分は?」
側近「へ?」
騎士「いえ、あの……お顔の色も、優れませんし……その、先ほど……」
側近「…… ……ああ」
側近「顔色が悪いのは、そりゃ心配したからね。後……船酔いしてたし」
騎士「それだけ……ですか?先ほど……」
側近「……大丈夫。心配すんな……ありがとよ」
側近(顔色……か。さっきの、胸の痛みは……)
側近(……光の魔法に、目覚めた……時、か?)
側近(……怠い、な。俺も久しぶりに……ちょっと魔力使い過ぎた、かな)

側近(それとも…… ……)
騎士「あ!」
側近「ん?」
騎士「……騎士長様達が、出て来ました!」
側近「え?早く無い?」
騎士「ええ、でも……」
女剣士「側近!」
側近「どうした、何か……」
女剣士「……鉱石、とやらがびっちりだよ。壁一面」
側近「まじで!?」
女剣士「だが……堅くて、どうにもならない」
側近「……ほう」
女剣士「採取出来るところだけ……持ち帰る事にする」
側近「どれぐらい取れそうだ?」
女剣士「解らないな……足りれば、良いが」
側近「……そうか」
女剣士「後は、王国で管理する様……と……国王様に進言してみる」
女剣士「……他国には、余り知られない方が良いだろう」
側近「だな……」
側近(港街や鍛冶師の街はともかく……魔導の街の奴らに此処を知られるのは)
側近(避けたいところ……だが)
側近(……足止めになる魔物は、勇者の光に焼かれてしまった、か)
側近(…… ……複雑だな)

……
………
…………

船長「で……結局どれぐらい持ち帰ったんだ?」
鍛冶師「正直大した量じゃ無い。まあ、剣一本修理するには多すぎる位だけど」
鍛冶師「……堅い、と言っても、魔法の力を込めだすと」
鍛冶師「ぼろぼろと欠けるんだ」

船長「欠ける?魔法に強い……んじゃ無いのか?」
鍛冶師「できあがってしまえば、強い……筈だ」
船長「……筈」
鍛冶師「ああ。鍛えるために魔法の力を注ぐと、ぼろぼろと欠けていく」
鍛冶師「扱いが難しい……のは、解ってたつもりだったんだけどね」ハァ
船長「じゃあ……まだ出来て無いのか」
鍛冶師「……いや、完成はしてる」
船長「完成……は?」
鍛冶師「辛うじて『剣の刀身と言う体裁を保っている』に過ぎないけど……ね」
鍛冶師「元々が元々……の代物だ。満足しないと行けないのかもしれないんだけど」ハァ
船長「そうか……」
盗賊「実際、島から帰って、勇者も一週間ほど寝込んでたんだ」
盗賊「疲れもあったんだろうが、な……」
船長「まあ……力を使い過ぎた、緊張した、色々……あったんだろう」
船長「王子は?」
盗賊「随分マシにはなったが、随分へこんでたよ」
盗賊「自分の所為で……てな」
盗賊「あれ以来、稽古に必死だ、毎日毎日……」ハァ
船長「それで居ない、のか……」
鍛冶師「まあ、騎士団の一員だしね」

お風呂とご飯ー

船長「騎士団の一員……世継ぎだろうに。修行か?」
盗賊「否……アタシの後を継ぐのは弟王子の方だ」
船長「……ま、色々あるんだな」
鍛冶師「そういう事。本人は部屋で本でも読んでるんじゃないかな」
船長「そうか……」
盗賊「勇者も今、丁度女剣士と王子と、稽古中の筈だ……呼ぼうか?」
船長「遠慮しとくさ……賓客じゃネェんだ」
鍛冶師「寂しい事言うなよ」
船長「俺はどこまで行ったって海賊さ」
盗賊「……これから、すぐ使用人の所へ行くのか?」
船長「…… ……墓参りしてから、だな」
鍛冶師「……そうか」
船長「港街と魔導の街を経由して……になるだろうな」
船長「そっちの様子も知らせて欲しいそうだ」
盗賊「気になるのかね、やっぱり」
船長「……『私には知る義務があるのです』だそうだぜ」
鍛冶師「義務?」
船長「ああ……良くわかんねぇけど、さ」
盗賊「じゃあ、ついでに伝えておいてくれ」
船長「側近の様子か?」
盗賊「それもあるが……16の誕生日を迎えたら、勇者はこの街を旅立つ」
船長「!」
盗賊「……世界中に、魔王の噂も勇者の噂も流れているんだろう」
盗賊「やっと、だ。やっと……」
船長「……そうか」
鍛冶師「僕たちも叶う限りは協力する……と言っても」
鍛冶師「たかだか、人間の力は知れているんだろうが」
船長「気持ちってのはでかいんだよ」
船長「……祈ってるよ。皆の……願いが、叶う様に」

……
………
…………

側近「落ち着け」
勇者「……落ち着けると思ってるのか」
側近「やれば出来る子だと信じてますけど」
勇者「あのなぁ……」
側近「まあ、目で見えないから何ともね」
側近「でもさ。右に左に行ったり来たり」
側近「……足音で解る訳だ」
勇者「このマント、踏みそう何だけど」
側近「我慢しなさい」
勇者「剣が重い!」
側近「光の剣置いていく訳に行かないでしょうが!」
側近「折角鍛冶師が治してくれたんだろ」
勇者「……これ、何時も使ってた奴より重いんだって」
側近「この国の紋章入りの鋼の剣か」
勇者「そうだよ。剣に剣の模様ってどうなの……」
側近「見えないからなー、俺」
勇者「いや、恰好良いんだよ。恰好良いんだけどな……」
側近「王子の剣にだけズルイとか」
側近「……言ったの誰だよ」
勇者「まさか……取り替えてくれると思わなかったんだよ!」
側近「てか、別に王子だけじゃないだろ。この国の騎士が使う剣には全部」
側近「入ってんだろうに、それ」
勇者「そうだけど……」
側近「で、お前が元々使ってた奴は?」
勇者「王子が持って行ったよ」
側近「仲良しだねぇ……」

勇者「……女剣士は、いつ来るんだ!?」
側近「お前ね、さっきのその質問から10分も経ってないんだけど」
勇者「…… ……」
側近「……一人で行ける?ついて行ってやろうか?」
勇者「も、もう子供じゃネェよ!」

コンコン

勇者「は、はいぃ!」
側近「……落ち着けって」
女剣士「勇者様、側近様……騎士団長の女剣士です」
女剣士「お迎えに上がりました」
側近「ほら、勇者」
勇者「……うん」スタスタ……カチャ
女剣士「……ご気分、如何ですか、勇者様」
側近「緊張でがっちがちですってよ」
勇者「側近!」
女剣士「……無理も無い」フフ
側近「一人、か?」
女剣士「ああ。騎士団の連中も増えたからな」
女剣士「……あの洞窟から帰って以降、私だけが此処に来れる事になったんだと」
女剣士「伝えただろう?」
側近「そうだったな……否、今日は……特別かと思ってな」
女剣士「今日だからこそ、だ」
女剣士「……盗賊達の出したお触れのおかげで、街はすっかりお祭りムードだ」
側近「そうか……」
勇者「うぅ……」
女剣士「大丈夫だ。また……何時もの茶番だと思えば良い」
勇者「それが一番こっぱずかしいんだよ!」

側近「さっさと行って、さっさと旅立て。茶番も……魔王を倒す頃には」
側近「良い思い出になっているさ」
勇者「……人ごとだと思って……!」
側近「人生、茶番の連続だぜ?」
勇者「…… ……」
女剣士「側近は……行かないのか?」
側近「旅立ちのめでたい日まで、保護者同伴なんて呆れちゃうだろ」
側近「……俺は、此処で良い。今生の別れでもあるまいし」
女剣士「…… ……では、行こうか、勇者」
勇者「……ああ」
勇者「側近」
側近「ん?」
勇者「待ってろよ。必ず……魔王を倒して、俺は」
勇者「……美しい世界を、守ってみせる!」
側近「ああ……お前にしか、出来ない事だ」
女剣士「…… ……」
側近「……世界の運命を背負うお前の荷は……決して軽くない」
側近「だが、一番大事なのは……命だ」
側近「お前の、命…… ……捨ててくれるな」
勇者「……ああ!」
側近「『約束』だ。それは、守る為にあるものだ」
側近「……『勇者は必ず、魔王を倒す』」
側近「『願えば、叶う』……な?」
勇者「ああ!必ず!」
女剣士「……良い、か?」
勇者「……はい。側近、いってきます……!」
側近「ん」

スタスタ……パタン

側近「……頼むよ、勇者」
側近「さ、て……と」

側近(……勇者が、光の魔法を初めて、使った時)
側近(感じたあの痛みが……引きずられた物で無ければありがたいんだがな)
側近(願えば叶う……か……)
側近(魔王様。多分、これで……俺は……)
側近「…… ……頼むぜ、持ってくれよ」
側近「俺は……『魔王様の側近』何だからな……!」

シュゥウン……!!

……
………
…………

盗賊「良く来た、勇者よ……そうかしこまる必要は無い、面を上げよ」
勇者「は……」
盗賊「魔王の人を滅ぼすとの噂が立って久しい。そしてお前は……16になった。今日は……『約束』の日だ」
勇者「はい」
盗賊「……光の剣は、持ったな」
勇者「はい、此処に……必ずや、魔王を倒してごらんに入れます。この、光の剣にかけて、必ず……!」
盗賊「ああ……頼んだぞ、選ばれし者、光に導かれし運命の子、勇者!」
鍛冶師「その光の剣は……『刀身として体裁を整えただけ』の者に過ぎない」
鍛冶師「……君は、君の手で。君の力で……『欠片』を集めるんだ」
勇者「欠片……?」
盗賊「『大切なモノ』だ。仲間、絆……力。そういう、な」
勇者「……はい」
盗賊「側近は……?」
勇者「家に居ます……今日からは一人なのだから、と」
勇者「仲間は、自分で探し求める物だから……って」
王子「……勇者」
勇者「?」
王子「お前が留守の間、俺と騎士長様と二人で、この国は守るから」
王子「……前に、約束しただろう」
勇者「ああ。任せる……待ってろよ!」
王子「ああ……!ちゃんと、帰って来いよ!」
勇者「解ってる……!」
盗賊「勇者」
勇者「は、はい」
盗賊「『また、後で』……良し、行ってこい!!」
勇者「はい!」

……
………
…………

使用人「……良し、と」フゥ
使用人「随分、広くしてしまったな……おかげで」
使用人(水やりが大変…… ……?)

シュウ、シュウ……

使用人「!?」
使用人「花が……ッ」ガバッ
使用人(どんどん、枯れて……!?)
使用人「……!! ……ッ魔王様……ッ」

シュゥン!

使用人「!」
側近「…… ……ぅえぇ……」フラ……ッ
使用人「そ……ッ」
側近「い、いまま、でで……一番、きもち、わ、る……ッ」
使用人「側近様!?」
側近「あ……れ、その、声……使用人ちゃん…… ……ああ、成功、し……」バタン!
使用人「側近様!?」タタタ……ッ
使用人(顔が……真っ青……!!それに……!!)
使用人「側近様!!」
側近「お、おーけー……だいじょうぶ……」
使用人「ど、何処がですか、真っ青です!」
使用人「すぐに……!!」

ガシッ

使用人「!」
側近「平気、だから……酔っただけ」
側近「……それより、魔王様、は」
使用人「……わかりません」
側近「は!?」
使用人「今、庭の花に水をやり終えた所だったんです」
使用人「……それが、急に枯れ出しました」
側近「……俺の転移の所為、て可能性は?」

使用人「わかりません……今から、確かめてきます」
側近「……俺も、行く」
使用人「だ……ッ駄目です、そんなフラフラで……!」
側近「何の為に帰って来たと思ってる……」
使用人「で、ですが……」
側近「良いから……花、まだ枯れてる?」
使用人「……」キョロ
使用人「……いえ。全体の……3……いえ、1/4程で止まったみたいです」
側近「……一応、念のため、行くか」
使用人「止めても、無駄ですか」
側近「当然だ……俺は……」
使用人「魔王様の『側近』ですものね」
側近「……ホント、頭が良くて助かるよ」
使用人「立てますか……手を」
側近「ああ。ありがと……よっと」
側近「……庭、だよな」
使用人「はい」
側近「て、事は……こっちか」スタスタ
側近「…… ……寂しかった?」
使用人「…… ……はい」スタスタ
側近「あら、素直」
使用人「使い魔が居るのに、寂しいと思うのは違うかも知れません」
使用人「……と、ちょっとへこんだりしちゃう程度に」
使用人「寂しかったです。ですが……」
側近「ですが?」
使用人「…… ……何ででしょうね。今の方が寂しいです」
側近「…… ……」
使用人「側近様が帰っていらっしゃった、と言う事は……」
側近「……ああ。勇者は、旅立ったんだ。さっき」
使用人「…… ……」

側近「……全然、外の様子わかんないだろ?」
使用人「一年に一度ぐらいは、船長さんが」
側近「ああ……そうか。どこまで聞いた?」
使用人「南の島へ出発した、ところまでです」
側近「そうか……じゃあ、後で……お茶でも飲みながら、話そっか」
使用人「はい……ケーキ、ありますよ」
側近「フランボワーズ?」
使用人「良く解りましたね」
側近「……そりゃ、ね」
使用人「…… ……魔王様のお部屋の前です。側近様は、ここで」
側近「行くってば」
使用人「…… ……」カチャ
側近「…… ……?」
使用人「どう、されました」
側近「……気分が、楽になった。少しだけだけど」
使用人「あ……もしかしたら……」
側近「ん?」
使用人「あ……いえ。それも後でお話しします」
使用人「とにかく、魔王様を……」タタ……
使用人「…… ……」
側近「どうだ」
使用人「何も…… 変わりない、様です」ホッ
側近「今、こいつどうなってる?」
使用人「ベッドに横になって……寝てる、みたいですよ」
側近「そっか…… ……サンキュ」
使用人「いいえ……」
側近「行こう……長居は無用、だな」スタスタ

パタン

魔王「…… ……ゥ」
魔王「…… ……」

……
………
…………

オギャア、オギャア!

側近「産まれた!」
魔導将軍「産まれたか!」

バタン!

鴉「産まれたよ!魔王様にそっくりの、男の子だ!」
側近「そ、そっかぁ……そっくり、かぁ……」
魔導将軍「うむ……美形の男の子になるだろう!」
側近「鴉も、ご苦労さん」
鴉「何言ってるんだい……当然だ」
鴉「……ん?」
魔王「男か!そうか……男の子か!」
魔王「黒い髪は后譲りだな!」
魔王「早く目、開けないかな……なぁ、后!」
側近「早速親馬鹿ッぷり発揮しちゃってるよあの人は」
魔導将軍「めでたいんだ、良いじゃないか……見て、良いのか、鴉」
鴉「ああ。ただし静かにね」
側近「魔王様、后様……おめでとうございます」
后「ありがとう、側近……」
魔導将軍「ああ、后様起き上がらないでよろしい。お疲れでしょう」
后「それがね、凄く元気なのよ。嬉しくて……!」
鴉「疲れちゃって気分が高揚しているんだろう。無茶は駄目だよ?后様」
魔王「ほら、見ろよ側近!可愛いだろう、可愛いだろう!?」
側近「お、おう……解ったから! ……お。目が…… ……え!?」
后「え?」
魔王「…… ……紫?」
鴉「え?」
魔導将軍「紫……?」

后「……あら、本当」
后「貴方と、私の瞳の色を足した色をしてるわね」
魔王「……あ、ああ。言われてみればそうだな」
側近「いやいやいや! ……紫、って……!?」
側近「そういう問題!?」
魔導将軍「ふむ……何の加護をお持ちなのでしょうな」
鴉「紫か……聞いた事無いねぇ」
后「良いのよ……何でも」
魔王「え?」
后「私達の可愛い赤ちゃんよ。可愛い、可愛い……若君なのよ」ツン
后「ふふ、ほっぺ、ぷにぷに……」ツンツン……ボロ……
后「……え?」
魔王「后……どうし……!?」
后「……指、が……」ボロボロ……
鴉「!!」
魔導将軍「后様!」
側近「の、退け!」パァ
后「……」ポロポロ……ボロボロ……
側近「糞、効かない!?」
魔王「后!」
后「……崩れて、く…… ……なん、で……」

ふえぇぇ、ふええええ!

鴉「あ……!」

后「あ……あらあら。大変……」ボロ……
后「貴方、若君を抱っこしてくださいな。こっちへ……おっぱい、あげなきゃ」
魔王「あ、ああ……」
鴉「……ッ ほ、ほら、アタシらは出るよ!アンタら、見ちゃ駄目!」
側近「お、わ!」
魔導将軍「あ、ああ……!」

バタン!

鴉「…… ……」
側近「…… ……」
魔導将軍「…… ……」
鴉「……側近、アンタは、回復の方法を」
鴉「魔導将軍は、紫の加護について調べるんだ」
鴉「……アタシは、若についてないと」
側近「…… ……解った」
魔導将軍「すぐに取りかかる」
鴉「……ッ 何でだ!魔王様が産まれた時、こんな事は……!!」

……
………
…………

コンコン

女剣士「……やはり、居なかった」
盗賊「そうか……」
鍛冶師「水くさい奴だな!顔ぐらい……見せていけば良いのに……!」
女剣士「…… ……魔王の城に、帰ったんだろう」
盗賊「……女剣士」
女剣士「……なんだ?」

盗賊「いや……その……」
女剣士「アタシは大丈夫だ。騎士団を放り出したりしないさ」
鍛冶師「そんな事心配してるんじゃ無い!」
女剣士「御免……解ってるよ。大丈夫だよ」
女剣士「……大丈夫だ」
盗賊「……」
女剣士「側近、あの南の島から帰ってきてから、髪……真っ白になってたな」
鍛冶師「……勇者の光、に触れたから……とか言ってたな」
盗賊「転移で戻ったんだろうな……あいつ、無茶しやがって……!」
女剣士「……仕方が無い。あいつは……側近は」
女剣士「『魔王の側近だから』と……言ってた。そんな気はしてたんだ」
盗賊「…… ……」
鍛冶師「…… ……良いのか」
女剣士「仕方無い。良いのさ……これで」
盗賊「…… ……だって、もう……!」
鍛冶師「盗賊!」
女剣士「もう、会えないだろうな。解ってる」
鍛冶師「女剣士……」
女剣士「…… ……」

バタン!

騎士「失礼致します、王様、女剣士様は……」
女剣士「どうした?」
騎士「魔導の街の使者が……」
女剣士「! ……勇者様が出て行かれたばかりだ。接触させるな」
女剣士「……すぐに行く。では、王様、鍛冶師様……失礼致します」

スタスタ……パタン

盗賊「…… ……」
鍛冶師「…… ……」
盗賊「言葉が……見つからないな」
鍛冶師「……ああ」

……
………
…………

勇者「登録所に行け、って言われたけれど」

ユウシャサマー!
ユウシャサマ!ワタシヲツレテイッテクダサイ!
オレダーワタシダー
ギャアギャア

勇者「……入る事もできませんけど」ハァ
勇者(よく考えたら……この、始まりの街でさえも)
勇者(一人で、歩くの初めて……なんだ、よな)
騎士「勇者様!」タタタ
勇者「ん?あれ……城の……」
騎士「……」キョロキョロ
勇者「どうした?」
騎士「いえ……」ホッ
騎士「こら、お前達道を空けろ!」
騎士「勇者様、登録所へ行かれるのですよね?」
勇者「あ、ああ……そう、なんだ」ホッ
勇者(助かった……)
騎士「退きなさい! ……さ、どうぞ」
勇者「ご、御免……ありがとう」スタスタ

キィ……パタン

事務員「まあ、勇者様……!」
勇者「え、あ、あの……?」
事務員「金の髪に金の瞳!まさしく……光の子……」
勇者「…… ……」
勇者(凄いな……何度か、城に出入りしていたとは言え)
勇者(俺、じゃ無くて……色で……解る、ってさ)
事務員「失礼しました。流石噂に違わぬ、神々しいお姿に吃驚して……」
勇者「……いえ。王様から、此処で仲間を探す様に言われたんですが」
事務員「ええ。その為の登録所ですから」
勇者(皆が……俺の。『勇者』の為に……為、だけに)ギュッ
事務員「どうぞ、ご希望は御座いますか」
勇者「希望?」
事務員「はい。そうですね……勇者様を合わせて、三人か四人ぐらいが」
事務員「よろしいかと思います」
勇者「あ、ああ……仲間の人数ね。えっと……」
勇者「御免、俺……どんな人を連れて行ったら良いか……」
事務員「そうですね、回復に長けている方がいらっしゃれば安心でしょう」
事務員「勇者様は剣をお使いになりますし、もう一人前衛の方と」
事務員「それから、攻撃魔法を得意とされる方など、如何でしょうか?」

ジィィ……

勇者(すっげぇ背中に視線が刺さってる……)ハァ
勇者「…… ……」クルッ

ユウシャサマー、ワタシー……
オレダ、オレ
アタシデショ!

勇者「……」キョロキョロ
勇者(……あっちのガタイの良い奴は、戦士……か)
勇者(緑の瞳……王子に、似てる)

勇者(赤い髪、に赤い瞳……盗賊さんみたいだな)
勇者(…… ……青い、瞳。優しそうな人だ)
勇者(ぱっと目についた三人……)
勇者「えっと……貴方、と……」
戦士「俺?まじ!?」
勇者「貴女……」
魔法使い「見る目あるじゃない、勇者様!」
勇者「……で、貴女」
僧侶「私ですか? ……ありがとうございます」ニコ

エエエエエエエエー!
ユウシャサマ!ボクモココニイマス!
ユウシャサマー!

勇者(も、もう良いって!正直誰がどうとかわかんねぇし!)
勇者「な、名前を教えてくれ!」
戦士「俺は戦士だ。緑の加護を持ってる」
魔法使い「魔法使いよ……しかしまぁ、勇者様美形ねー!あ、加護は見ての通り炎よ」
僧侶「僧侶と申します。宜しく……水の加護を受けています」
勇者「……ああ、宜しく」
勇者(……間違えて無い、よな?大丈夫だよな?)
戦士「お前、派手だなぁ……魔法使い」
魔法使い「何がよ」
戦士「見た目だよ、見た目!真っ赤っかじゃネェか」
魔法使い「情熱的、って言って頂戴? ……アンタは茶色に緑で地味ね」
魔法使い「……おでこ、広いし」
戦士「お、お、お前……ッ人が気にしてる事を……!酷い!」
勇者(……大丈夫、かな)チラ
僧侶「どうかしましたか?勇者様」
勇者(この子は優しそうで……良かった……)
勇者「い、いや……大丈夫、何でも無いよ」
僧侶「そこの喧しい方々は放って置いて、行きましょうか」ニコ
勇者(……前言撤回!)
魔法使い「誰が喧しいのよ!」
戦士「お前だろ、どう考えても」
魔法使い「アンタ人の事言えないでしょ!?」

勇者「ちょ、黙れって!」
勇者「……視線も痛いし、行くぞ!」スタスタ
魔法使い「はーい、質問!どこ行くの?」
勇者「……え?」
戦士「俺もしつもーん。どこいくのー?」
僧侶「私も」
勇者「…… ……ひとまず、腹ごしらえでもする?」

……
………
…………

使用人「……では、一応剣、としては使えそうなのですね」ホッ
側近「ああ……だが、実戦ではどうだかな」
側近「いくら稀少な鉱石だとは言え……鍛冶師の腕も疑う訳じゃ無いが」
側近「あれで、魔王様に敵うとは……思えない」
使用人「……しかし、勇者様は光の力に目覚められた、のでしょう」
側近「言葉のアヤ、て奴だ……あれ以来、勇者は……」
使用人「…… ……」
側近「自在に光を操れる様になった訳でもなけりゃ、意図して使えた試しも無い」
使用人「そう、ですか……」
側近「なるようにしか……ならん」
使用人「…… ……」
側近「しかし、腕あげたね、使用人ちゃん」
使用人「……え?」
側近「すげぇ上手い。このフランボワーズ」
使用人「でも……魔王様のお味とは違うんです」
側近「充分だと思うけどね」
使用人「お体、大丈夫ですか」
側近「……何回聞くんだよ、それ」
使用人「すみません。でも……」
側近「『頭が真っ白だし』ってか? ……勇者の光に触れて」
側近「すぐにこうなったんだって。今更、ね」
使用人「…… ……」
側近「……生き汚いよな、俺」
使用人「え?」

側近「前魔王様倒しに行って、魔王様……産まれるの、見て」
側近「……勇者をまた、育ててさ」
側近「いくら生きたいと願ったからって。なぁ……」
使用人「側近様……」
側近「前も言ったが、とっくに寿命が尽きててもおかしく無いんだ」
側近「ジジィの方の魔導将軍も。鴉も……前魔王様も、后様も死んだ、のにさ」
側近「魔王様だって……」
使用人「…… ……」
側近「……俺だけが、生きてる」
使用人「見届ける義務があるんですよ。貴方には」
側近「俺に?」
使用人「はい。多分……私が、受け継ぐ……様に。義務が」
側近「…… ……」
使用人「……今、多分」
側近「?」
使用人「船長さんが、この城に向かっていると思います」
側近「え? ……ああ、そうか。定期便……」
使用人「はい。港街と、魔導の街の様子も知らせて欲しいと」
使用人「我が儘を言ってしまいました、から」
側近「……そっか」
使用人「勇者様が旅立たれたのでしたら、近づかないで置いて貰う方が」
使用人「良いんでしょうか……」
側近「大丈夫だろ。勇者だって、旅立ったばかりだ」
側近「それに、何か頼んだんだろう?」
使用人「ええ……大した物じゃないんですけど……」
側近「…… ……何か、聞こえないか」
使用人「え?」

バタバタバタ……!!
バタン!

使い魔「使用人様……あ、え!?側近様!?」
使用人「何です……用件を先に」
側近「よーう、見えてないけど」
使い魔「……ま、魔王様の、様子が……!」
側近「!?」
使用人「!!」ガタン!

限界です、寝ますー

やっとネット繋がったorz

暇だったのでやっつけ仕事
とりあえず出かけるのでまた明日です

http://imepic.jp/20130708/555450
(ドット絵世界様の素材をお借りして、加工済みです:http://yms.main.jp/

どうやらモデムがおかしいご様子( ゚д゚)
ちょっと明日朝一直ってなけりゃ
電気屋さんに走りますわ…

困った(´・_・`)

接続してもすぐ切れちゃうんだ
再起動しても駄目でさぁ……
とりあえず幼女寝かしてもっかいやってみるー

再起動っでちゃんとコンセントからぶっこぬいて30分放置してる?

おはよう!
おうち帰ったら続き!

>>142
ありがとうー!
放置プレイしたらご機嫌直してた!
ありがとおおぉぉ!

使用人「先に行きます……! 使い魔、側近様をお連れして下さい!」

パタパタパタ……

使い魔「は、はい!」
側近「……様子が、どうなんだ」
使い魔「……ああ、とか、ううとか……その」
使い魔「唸っていらっしゃって……」
側近「何か言ってる、のか」
側近(……微かに胸が上下してるから、生きてる事は解る、と言ってたな)
側近(勇者が旅立ったから? ……『器』として……目覚め始めてる、と)
側近(……言うのか)スタスタ
使い魔「あ、側近様、手を……」
側近「城の中は大丈夫だと思うが……」
使い魔「変わってます、多少は……多分」
使い魔「歩きやすい様に、と使用人様がかたづけていましたし、それに……」
側近「それに?」
使い魔「……船長さんから布を買ってました」
使い魔「書庫で見つけられたそうなのです。極上の布に、緑の魔法で」
使い魔「保護の魔法、だとか……何か」
側近「保護? ……ああ」
側近(それで随分……居心地が良かった、のか)
側近(魔の住む土地だから、なのか……と思ったけど)
側近(同じ加護の魔法の保護があるからか……やっぱ、優秀だね)
使い魔「……すみません、私は此処で。魔王様の部屋の前です」
側近「ああ。ありがとう」カチャ
側近「使用人ちゃん……魔王様?」

魔王「……ゥ ……ァ」

使用人「側近様……」
側近「……成る程、唸ってる、ね」
使用人「身体は……そのまま、眠ってるみたいなんですけど……」

側近「使用人ちゃん、何か……保護の魔法かけたんだって?」
使用人「あ、はい……」
側近「……言いたくは無いけど、引き金になったか」
使用人「……!」
側近「可能性の一つだぜ」
使用人「魔法に、引きずられた……?」
側近「無いとは言い切れない……が」
使用人「でも、成功したのかどうか……」
側近「随分居心地は良いんだけどな。まあ、この土地自体が」
側近「魔力の渦の下にあるみたいなもんだから、かもしれないが」
側近「……このまま、魔王様の魔力が暴走しそうになったら」
側近「どうにか……勇者がたどり着くまで、押さえ込まないと……」
使用人「…… ……船長さんに、魔除けの石を頼むのは効果無いでしょうか」
側近「無い、とは言い切れない、だろうが」
側近「結構な数が居るぜ」
使用人「取りあえず、集められるだけ集めて貰ってみます……まだ」
使用人「間に合うかもしれないし……!!」パタパタ
側近「…… ……」
側近「魔王様……」ソ……
側近(暖かい、んだな。器とは言え……確かに、生きてる)
魔王「……ゥウ」
側近「おう。久しぶりだな」
魔王「…… ……ァ」
側近(魔除けの石、か……姫様の時に、あの透明に近い石が)
側近(紫に染まった……多少は、吸収してくれる、と良いが……)
側近(…… ……使い魔連れて、書庫行くか)ハァ

……
………
…………

鴉「ここに居たのかい、側近」キィ
側近「おう……入ったら埃まみれになるぜ」
鴉「使い魔にでも言って、ちょっと掃除させなよ」
鴉「痛むよ、本」

側近「まあ……そうだな」
側近「魔王様が入り浸ってる間は、使い魔共」
側近「怖がって近づかなかったからなぁ……」
鴉「若も産まれたんだ。もう大丈夫だろうよ」
側近「植え付けられた恐怖ってのは消えないだろ、中々」
側近「ましてや、先代は島沈めちまう程好戦的だったんだろ?」
鴉「……アタシもそん時は、こんなに傍で仕えてた訳じゃないからね」
鴉「あんまり良くわかんないけど……」
側近「んで、お前何か用事あったんじゃネェの」
鴉「ああ、そうそう……狼将軍が、さ」
側近「何、また来たの!?」
鴉「……誰から聞いたんだかねぇ。后様がご病気ならば、って」
鴉「娘を後妻に、ってな」
側近「……后様、生きてるだろうが!」
鴉「元気だからって追い返そうとしたんだけどねぇ」
鴉「……とにかく、魔王様に会わせろって」
側近「まだ……城に居るのか」
鴉「魔導将軍が追い返したよ。無理矢理ね」
鴉「ただ……まあ、魔王様の耳には入れておいた方が良いと思ってさ」
側近「……解ったよ。一応伝えておく」
鴉「もう……耳、聞こえないんだろう?」
側近「多分、な」
側近「……随分、崩れ落ちちまったからな」
鴉「…… ……で、アンタはこの間から、書庫に篭もって」
鴉「一体、何をしてるんだい」
側近「原因究明?」
鴉「…… ……収穫は?」
側近「これといって……な」

鴉「……魔導将軍も、解らないって言ってたね」
側近「紫色の瞳、か……見た事も無いんだろう?」
鴉「ああ……魔王様は赤い瞳をしてる。先代は、茶色だったな」
側近「…… ……后様の言い分が正しかったりしてな」
鴉「え?」
側近「水の青と、炎の赤を足して、紫」
鴉「……絵の具じゃないんだから」
側近「……先代の奥さんはどうだったんだ?」
鴉「ん?」
側近「魔王様の母上だよ」
鴉「ああ……そういえば、聞いた事ないね」
鴉「……アタシも、魔導将軍も……今の地位に据えられた時は、もう」
鴉「先代一人だったよ。そういえば」
側近「…… ……そう、か」
鴉「……無理があるのかもしれないね」
側近「え?」
鴉「魔王の子種、魔王の血……を身体に入れて」
鴉「次代の魔王をその身を育むんだ」
鴉「……強大な魔力を内包すれば、器なんてぼろぼろになって当たり前なのかも」
鴉「しれないよ」
側近「…… ……理不尽だなぁ」
鴉「まあ、ね」
側近「魔王様は、后様の部屋か?」
鴉「ああ……最近は、出てこられないからね、あまり」
側近「……伝えてくるよ」フゥ。スタスタ
鴉「頼むよ……そろそろ若に、飯食わさないとね」

カチャ、パタン。スタスタ……

側近「……あれ、魔王様?」
魔王「ああ、側近か……どうした」

側近「いや、鴉がね……狼将軍が……」
魔王「……娘を娶れと来た、のか」
側近「まあ……魔導将軍が追い返したらしいけど」
魔王「そうか……」
側近「魔王様に会わせろって、煩かったらしいよ」
魔王「……魔導将軍は?」
側近「さぁ……城の中にはいるだろうけど」
魔王「解った。ありがとう」
側近「ついててやらなくて良いのか」
魔王「眠った様だ……今なら、良いだろう」
側近「……なあ、あれまだ続けてるの」
魔王「ん?」
側近「后様だって、女性なんだぜ?」
魔王「……前も言っただろう?愛する人に口づけをして」
魔王「何が悪いんだ」
側近「……いや、まあ。そりゃ……」
魔王「どんな姿になっても、后は后だ……私の、愛する女性だ」
側近「…… ……聞いてるこっちが恥ずかしいわ」
魔王「狼将軍には私から話そう……もし、后がこの世から消えても」
魔王「私の妻は彼女だけだ」
側近「……気をつけろよ」
魔王「ん?」
側近「若……あんまり、目を離さない様にしなきゃな」
側近「まあ、鴉がついてるから大丈夫だとは思うが」
魔王「ああ……あれは瞳の件もあるからな」
魔王「余り、人前に出すつもりは無い」
側近「…… ……」
魔王「ただでさえ、私と后の大事な一人息子だ」
魔王「……誰にも、奪わせはせん。息子も……后も」
側近「ああ……」

……
………
…………

勇者「えーっと……」ブツブツ
戦士「大丈夫なのかよ、勇者様よ」
魔法使い「そんな言い方しないの、戦士……一生懸命地図見てくれてるじゃないの」
魔法使い「あ、それ一個頂戴、僧侶」
僧侶「ええ、どうぞ……勇者様、決まりました?」
勇者「取りあえず、この大陸出ない事にはどうしようも無いよなぁ」
勇者「……船、って何時来たっけな」
僧侶「たしか今日の夕方の便があったはずですよ」
勇者「……じゃあ、それで取りあえず港街に行こう」
魔法使い「そうね、あそこからだったら、北の方に行く船も出てた筈ね」
戦士「おいおい、直行して大丈夫なのかよ。俺らレベル低い所の話じゃネェって」
勇者「魔物を倒しながら行けば良い。この街の港までは」
勇者「歩いてもそれ程掛からない」
魔法使い「そうね。川沿いを行けば……半日、かしら」
戦士「んで、港街から北の方に一気に行くのか?」
僧侶「一度魔導の街へ行ってみても良いのでは?」
魔法使い「あ、それ賛成!一回行ってみたかったのよ!」
勇者「魔導の街?」
僧侶「ええ。魔法の道を志す者には、得る物の多い街だと聞いた事がありますよ」
僧侶「最近、大きな図書館も出来たとか」
魔法使い「……本、か。アンタ読書とか好きそうよねぇ」
僧侶「貴女は苦手そうですね」
魔法使い「……にっこり笑って、アッサリそんな事よく言えるわね」
戦士「まあ……俺らには関係無いけど、良いんじゃないか?」
僧侶「勇者様も魔法を使われるのですし、良いんじゃないでしょうか?」
魔法使い「関係無いのはアンタだけよ、戦士」
戦士「仲間はずれにしないでくれる!」

勇者「んじゃ、まあ……取りあえず、港街に行って」
勇者「それから、一応魔導の街、とやらに寄ってみるか」
僧侶「ええ、そうしましょうか」
魔法使い「後は、それから考えましょ」
戦士「レベルと相談、だな」
僧侶「では……お話もまとまった所ですし、行きましょうか」

……
………
…………

魔法使い「良い気持ちー!川沿いって気持ち良いわね!」
僧侶「余り端っこ歩くと落ちますよ」
戦士「この川をまっすぐ行ったら、森を抜けるのか?」
勇者「そうだと思う。と……王様から貰った地図によると、だが」
戦士「おい、マジでもうちょいちゃんと道歩けって!魔法使い!」
戦士「水辺には魔物も多いんだぞ!」
魔法使い「大丈夫よー。僧侶もおいでよ、気持ち良いわよ」
僧侶「泳げないので遠慮しておきます……濡れて、風邪引くのもいやですし」
魔法使い「かっわいっくな…… ……ん?」グイ
魔法使い「きゃああああああああああああああああああ!!」バッシャン!
僧侶「……言わんこっちゃない」ハァ
僧侶「魔法使いさん、大丈…… ぶ、  きゃあ!」グイッ バシャン!
戦士「何遊んでるんだかな、あの二人は……」
勇者「……ッ 魔物だ!」タタタ
戦士「え!? ……あ、ちょ、勇者様……!」タタ

ギャア、ギャア!

魔法使い「ぷ、は……ッ 糞、今が暖かい季節で助かったわ」
魔法使い「これは、お礼よ……炎よ!!」ボゥッ
僧侶「あ、足、 ……ッが……ッ」
勇者「僧侶!」タタ……ッ ガシ、グイ!
僧侶「ゲホ、ゴホッ」
戦士「トドメ、だあああああああああああ!」ザシュ!

ギャアアアアアアアアアアアアアアア!
ドボォオオン…… ……

戦士「……大丈夫か、水も滴る良い女」グイ
魔法使い「嫌味?」
戦士「半分な……だからちゃんと歩けって言ったでしょ」
魔法使い「……フン …… ……ありがと」
戦士「おう」
勇者「大丈夫か、僧侶」
僧侶「すみません…… 大丈夫です」
僧侶「魔法使いさん……」

魔法使い「ん?アタシは大丈夫よ……」
僧侶「いえ……貴女に引っ張られたのかと思って。ちょっと怨みました」
僧侶「ごめんなさい」
魔法使い「……ッ アンタ、本当に良い性格してるわね……!」
僧侶「褒めても何も出ませんよ」
魔法使い「褒めてないわよ!」
戦士「おいおい……」
勇者「……ま、まあ。大した事無くて何より、だ」
勇者「先を急ごう。日が暮れる迄には港に着かないと」
魔法使い「ああ、そうね……あら?二手に分かれてる……わよ、道」
勇者「そっちの登り道は丘に出る……墓があるそうだよ」
戦士「墓?」
勇者「ああ。俺は覚えて無いけど……昔、側近……えっと」
勇者「親代わりみたいな人に連れて行って貰った事があるそうだ」
僧侶「勇者様が宣言された時に、一緒に居られた方ですね。ご年配の……」
魔法使い「ああ。あの緑の瞳の人ね」
勇者「…… ……見てたのか」
戦士「そりゃそうだ。あの街に住んでりゃ、なぁ」
勇者「……聞くの忘れてたな。皆始まりの街の出身、なのか?」
魔法使い「私は、母の遠い親戚が魔導の街に居るって言ってたわ」
僧侶「え?そうなの?」
魔法使い「随分仲が悪いらしいけどね。あんまり詳しく話してはくれた事が無い」
戦士「俺の父はあの街の騎士だよ。下っ端だけどな」
僧侶「私は暫く宿に泊まってました」
勇者「え?じゃあ……住人じゃないのか」
僧侶「両親は名も無い小さな集落に住んでいます。ここまで送って貰ったんですが」
僧侶「もう、帰ってしまいました」
勇者「何故、と聞いても良い……のかな」
僧侶「勇者様の旅について行きたかった、では駄目ですか?」
勇者「え。いや……駄目、じゃ無いけど」
僧侶「私と歳も変わらないだろう、光の子……と言われる勇者様に」
僧侶「どうしても、会いたかったんです」
魔法使い「……情熱的ぃ」
戦士「茶化してやるなよ」
魔法使い「これこそ褒めてんのよ!」

追いついた!
地図すげえw

>>152
ゲーム作りたくなっちゃうね、こんな事してるとwww

お昼ご飯!

時間なくなっちゃった……お迎え!

>>143
おーアドバイスしてよかった!その後問題はない?
続き楽しみにしてるねー

>>155
ありがとう!
その後は大丈夫ー!!
偶にご機嫌斜めなるんだよね……助かりました!

今日はちょっと無理そうだけど、また明日!

おはよう!
お迎えまでー

勇者「おい、煩い……でも、さ。俺が……僧侶を選ぶ可能性は」
勇者「100%じゃなかっただろ?」
僧侶「勿論、そうですけど。でも……選ばれないかも、と」
僧侶「始まりの街へ残らない選択肢は、無かったんです」
僧侶「やってみて駄目なら、仕方無いですけど……でも、ね?」
魔法使い「追っかけて行きそうよね、アンタなら」
僧侶「駄目だったら、ですか? ……そうだね」
戦士「おいおい……」
勇者「……そんなに、良いモンか?勇者、て」
魔法使い「何言ってんの、貴方……」
勇者「あ、いや…… まあ、ほら、物心ついた時から、さ」
勇者「……ずっと、俺は魔王を倒すんだ、て言われてきたから、さ」
僧侶「不安、ですか?」
勇者「…… ……否、とは言い切れないかな」
戦士「まあ……しゃあない、んじゃね?俺たちもそうだけど」
戦士「勇者様だって、レベル自体は低い訳だし」
勇者「うん……なにげに、さっきの初実戦だったしな」
戦士「……俺も」
魔法使い「その割にはあっさりだったじゃないの……ま、まあ、私もだけど」
僧侶「皆で高めていけば良い……んじゃないかな、仲間なんだし」
勇者「そうだな。助けなきゃ、て思ったら……勝手に、身体が動いた」
戦士「……だよな」
魔法使い「あっさりしたデビュー戦だったわね」
戦士「これからは、そう簡単にも行かないさ」
戦士「……最終目標は、魔王だ。気合い、入れないとな」
僧侶「そうだね……あ!港見えてきましたよ!」

魔法使い「あ……ッ 待って、待って……のりまーす!!」タタタ
戦士「あ、コラ!先に行くなよ!」タタタ……
勇者「……どうにか間に合った、か」フゥ
僧侶「この大陸の魔物はそれ程強く無い、って聞いてます」
勇者「そう……らしいな。俺も、この島から出た事無いからわかんないけど」
僧侶「大丈夫。その為の私達です。仲間……です」
僧侶「折角、こうして願いが叶ったんだもの。頑張りましょう、勇者様」
勇者「……うん」
魔法使い「ほら、勇者様、早く早く!」
戦士「置いてっちまうぞ!」
勇者「楽しそうだなぁ、あの二人……」
僧侶「行きましょうか」
勇者「ん……船か。船も初めてだなぁ」

フネガデルゾー!
ザ、ザ…… ……ザザァン……

魔法使い「んー!良い風!」
戦士「すっげぇ!どんどん遠くなっていく!」
勇者「子供か」クスクス
僧侶「でも、本当に気持ち良い」
勇者「港街まではそんなに時間も掛からないって言ってたな」
戦士「甲板も良いけど、折角船室が着いてるんだ。ゆっくり休んどこうぜ」スタスタ
魔法使い「そうね。すぐって言ったって数時間かかるんだし……ほら、行こう僧侶」
僧侶「ええ……勇者様は?」
勇者「先、行ってて。すぐに行く」
勇者(……光の勇者、か。始まりの街で、城に呼ばれた時や)
勇者(女剣士に剣を習うために、出向いた時……)
勇者(街でも、何処でも……金の瞳の奴なんて、見た事無い)
勇者(…… ……)
女「あ、あのう……」
勇者「うん?」
女「その、瞳の……色。貴方、勇者様、ですよね?」
勇者(……俺が知らないのに、皆は俺を……否、『勇者』を知ってる)
勇者「……はい。何か?」

女「私は少し離れた村から乗って来たのですが……勇者様が」
女「始まりの街から、旅立たれた、と噂を聞いていて……それで……」
勇者(そんなに、緊張しなくて良いのに。俺は……そんな特別な物じゃ無いのに)
女「まさか、会えると思わなくて……!あの!」
女「頑張って下さい!頑張って……魔王を、倒して下さい!」
勇者「……うん。ありがとう」
勇者「大丈夫、『勇者は、必ず魔王を倒す』から」
女「は、はい……!」ペコ。タタタ……
勇者「……俺は、そう、言い続けられて来た、から」ボソ
勇者(皆、『勇者』に期待してる。俺は、勇者だけど……)
勇者(……俺じゃ無いみたいだ)スタスタ

カチャ、パタン

魔法使い「あ、来た来た。ねえ、勇者様!」
勇者「ん?」
戦士「あのさ、光の剣、って奴、見せて貰えないか?」
勇者「あ、ああ……良いよ」シャキン
僧侶「見た感じ……普通の剣とあんまり変わらない、ね」
魔法使い「うっすら光ってる、かしら?」
勇者「南の島にあった稀少な鉱石、って奴で」
勇者「鍛冶師……様、が鍛え直してくれたんだ」
勇者「それまではぼろぼろで、剣の形なんかしてなかったんだよ」
戦士「騎士団が派遣されて持ち帰った、て奴だな」
魔法使い「ああ、そうか……アンタのお父さん、騎士団の人なのよね」
戦士「親父はあの派遣に参加はしてないけどな」
戦士「ありゃ、本当に少数精鋭で行ったんだろ?」
僧侶「勇者様も参加されたんですか?」
勇者「ああ……まあ、一応」
勇者(……王子が危険にさらされた時に、俺が……無意識で光の魔法を使ったんだろうと)
勇者(後から聞いた。三つ頭を倒し……あ、そうか)
勇者(初実戦、あれか……覚えて無いけど)

戦士「親父も騎士団の仲間に聞いても、あんまり教えてくれなかったって」
戦士「過酷な戦いだったんだろ?」
魔法使い「何楽しそうな顔してんのよ……」
勇者「みたい、だな。俺は本当に参加しただけで、何もしてないよ」
勇者「『勇者』に怪我させたりする訳には行かなかったんだろ」フゥ
僧侶「…… ……」
魔法使い「もっと神々しいのかと思ってたわ」
戦士「おい、そんな言い方……」
勇者「いや、正解だ。鍛冶師、様にも言われてる」
勇者「剣として使用できる体裁を整えただけ、だとか何だとかな」
魔法使い「え?」
勇者「魔法剣ってのは……まあ、難しいそうだ、色々と」
勇者「俺も良くわかんないけどさ」
魔法使い「んー、剣としては使えるけど、真価は発揮される状態じゃない、て事?」
勇者「多分、な。光の剣は勇者の剣。だから……」
勇者「『勇者が持てば、真価を発揮する筈だ』って言われてるけど」
僧侶「……どう、なんです?」
勇者「実際戦闘で使うのは、こっちだからなぁ」シャキン
戦士「お……王国の剣か。紋章が入ってる」
魔法使い「あら、本当……でも、これって」
魔法使い「騎士団の人用、じゃ無いの?」
勇者「……旅立つ前に、王子と交換したんだ」
魔法使い「王子様!」
僧侶「上の王子様は、騎士団に入団されたんですよね」
戦士「交換、って……」
勇者「まあ、友人だ、しな」
魔法使い「流石勇者様ねー!」
僧侶「…… ……」
勇者「…… ……」
戦士「親父も持ってたなぁ。そういえば」

僧侶「あの。お話ぶった切るんですけど」
魔法使い「ん?」
僧侶「敬語、やめて良いですか?」
戦士「何だよ急に」
魔法使い「別に……良いんじゃないの?歳もそんなに変わらないだろうし、ねぇ?」
勇者「……どうした?」
僧侶「仲間、だから良いかなって」
勇者「そりゃ、別に……」
僧侶「うん。じゃあ……勇者、って呼んで良いかな」
勇者「……え?」
僧侶「何か、よそよそしい。『仲間』なのに」
僧侶「そりゃ、『勇者』は特別。特別だけど……」
僧侶「『貴方』は『貴方』でしょう」
勇者「……ややこしい」クス
魔法使い「まあ……確かに。勇者さ……勇者も、さっき言ってたしね」
魔法使い「『勇者ってそんなに特別か』」
勇者「あ……うん、まあ」
僧侶「『光に選ばれし、運命の子、勇者』でしたっけ」
戦士「王様が言ってたな。そんな事」
魔法使い「否定はしないわ。確かに貴方は特別な子」
魔法使い「魔王を倒す為に産まれた光の子」
魔法使い「……でも、勇者は勇者よね?」
勇者「……俺は、魔王を倒す為に産まれた。狭い世界しか知らないけど」
勇者「金の瞳の奴なんて、見た事無い。皆、『勇者』ってだけで」
勇者「俺を知ってるんだ。否……『俺』じゃないな。『勇者』を知ってる」
戦士「……気にしてた、のか?」
勇者「そういう訳じゃないけど……でも。うん……上手く言えない、けど」
僧侶「気になったの。『勇者』って言われる度に、顔が曇っていくから」
勇者「俺?」
僧侶「そう……さっき、変な事いってごめんなさい」

おむかえー!

勇者「いや……良いんだ」
勇者「……解ってる、つもりなんだよ。『勇者』である自分も、自分だって」
勇者「それが無いと、俺じゃないからさ」
勇者「ただ……期待、ってやっぱり重いよな」
戦士「倒さないといけない、か」
勇者「ああ。『勇者は必ず魔王を倒す』とか、言い切っちゃったからな」
僧侶「自分に言い聞かす事も大切。それで自信がついて」
僧侶「気分が楽になるなら、良いんじゃないかな」
魔法使い「そうよ。本当に倒しちゃったら、それは真実ですもの」
魔法使い「気にすること無いわ」
戦士「早いに越したことは無いだろうが、ゆっくりでも問題無いだろ?」
勇者「え?」
戦士「充分にレベルあげて、万全の状態で魔王に挑もうぜ」
戦士「期限がある訳じゃないんだ」
僧侶「無い訳でも無いけどね」
戦士「……そ、そうだけど」
勇者「うん……まあ、遊んでるつもりはないけど」
魔法使い「少しずつやっていけば良いのよ」
魔法使い「その……側近?て人だって」
魔法使い「実戦経験積んで、色々……さ」
魔法使い「そういう、準備期間を持つことも含めて」
魔法使い「貴方を、私達を旅に出させたんでしょ」
勇者「……そっか」
僧侶「そうだね。そうじゃ無きゃ、騎士長様とか、その側近、て言う人とかと」
僧侶「勇者が旅に出れば良かった、なんて事にもなるよ」
勇者「……うん」
戦士「側近、て盲目じゃネェの?」
魔法使い「そうなの?」
勇者「あ、ああ……よく知ってるな」
戦士「親父が言ってたけど」
僧侶「噂、って怖いわね」

魔法使い「魔王や勇者の事だって、そうでしょ。怖い物よ」
魔法使い「畏怖や期待を込めて……話は色々加速していく」
魔法使い「これから、私達だって気をつけないといけないわよ」
魔法使い「噂、に惑わされない様に」
勇者「そうだな……ちゃんと、真実を見極めないとな」
僧侶「そうして、貴方は本当の勇者になって行くのよ」
僧侶「今はまだ、自信が無くても……大丈夫」
戦士「おう。俺たちも居るんだ。まだ……弱いけどな」
僧侶「私達は信じてる。貴方が勇者で、必ず、魔王を倒すと言う事」
勇者「……『願えば叶う』か」
魔法使い「え?」
勇者「側近……否、だけじゃない」
勇者「王様も、鍛冶師様も、女剣士……騎士長も」
勇者「皆、揃って……良く、口にしてた」
僧侶「良い言葉だね。『願えば叶う』」
魔法使い「叶えるのは私達よ」
戦士「そうだな。『勇者は必ず魔王を倒す』」
勇者「……ありがとう」
僧侶「どういたしまして」
魔法使い「そろそろ、着くんじゃ無いかしら」
戦士「だな……甲板の方が騒がしい」
僧侶「今日は宿を取らないと行けませんね」
魔法使い「明日、情報収集をして、魔導の街に向かいましょう」
戦士「良いモン食おうぜ、折角なんだし」
勇者「旅行じゃネェんだぞ、戦士」
僧侶「鋭気を養うことも大事よ」
勇者「良し……行くか!」

……
………
…………

コンコン

使用人「側近様、居ます?」
側近「おう」

カチャ

使用人「……使い魔、声ガラガラでしたけど」
使用人「せめて交代させてあげて下さいね」
側近「いや、つい……悪かったな」
使用人「私が読みましょうか」
側近「読みたかった物は大体読んで貰ったよ」
使用人「何を……調べていらしゃったんです」
側近「まあ、手当たり次第、と言うか……昔に読んだだろう奴もさ」
側近「もう忘れちゃってたりもするしね」
使用人「『魔の生態』『加護と性質』『薬草について』『魔力の源』……本当に手当たり次第ですね」
側近「……どうにか、魔王様の暴走を押さえられる方法は無いもんか、とね」
使用人「船長さんには手紙、書きましたよ」
側近「一方通行ってのが痛いよな……まあ、そもそも俺には出来ないから」
側近「使用人ちゃんは凄いと思うけど」
使用人「私に出来るんですから、側近様には容易いと思いますけど」
側近「若い頃なら、ねぇ……」
使用人「……何を仰るのです」
側近「事実だよ……なあ」
使用人「はい?」
側近「以前、昔話、って称して……話した事、覚えてるか?」
使用人「勿論です」
側近「……あの時も、書庫の本片っ端から漁って」
側近「ジジィの方の魔導将軍と、調べたんだけどな」
側近「……后様の、あの奇病の正体は分からなかった」
使用人「先代様の奥様……前魔王様のお母様、が」
使用人「どうだったか、は……もう、解らなかったんですよね」
側近「そうだ。もし同じであったなら」
側近「……そういうモンだ、と納得……て、言うのもおかしいが」
側近「……できた、んだけどな」
使用人「『魔王』と言う強大な魔力を持つ者を孕む代償、ですか」
側近「似てね?」
使用人「え?」

側近「その代償、ってのが真実とあるとして、って前提になるが」
側近「……姫様の話とだよ」
使用人「エルフの長を産む者は……ですか」
使用人「似てます……と、言うか、一緒ですね」
側近「だよな……でも、確かめる術が無かった」
側近「前魔王様は、先代の頃の参謀達を片っ端からぶっ殺したからな」
使用人「…… ……推測になってしまいますね」
側近「ああ……」
使用人「で……その話と、何か関係があるんですか?」
側近「いや……まあ」
側近「産む者、に……同程度の力があればどうだったのかな、と思って」
使用人「?」
側近「まあ、もし……だけど。そうであれば、あんな風に」
側近「崩れ落ちて死んでしまったり、しなかったのかな、と」
使用人「力があれば……受け入れる許容も大きいでしょうし」
使用人「相殺、されたかもしれませんね」
側近「……そう、それ」
使用人「え?」
側近「相殺、だ。多分……魔王様の暴走を押さえようとしたらそれしかない」
使用人「…… ……」
側近「俺が暴走した時は、前魔王様に……まあ、ぶっ飛ばされて」
側近「止まった。使用人ちゃんはどうだった?」
使用人「……抱きしめて下さいました」
側近「…… ……理不尽」
使用人「ほっぺた膨らまさないで下さい。可愛くないです」
側近「酷い! ……ま、まあ、良い。それってさ、結局……相殺だろ?」
側近「俺の場合は、力をぶつけ合った。使用人ちゃんの場合は押さえ込んだ」
使用人「……まあ、相殺と表現してもおかしくは無いかと思いますけど」
側近「だから……俺が、魔王様の力を魔力で押さえ込めば……」
使用人「それは無茶です。そもそもの魔力量が違いすぎます!」
側近「何時までも持つとは思わネェよ」
側近「だが、今なら……まだ、ああやって身体も不自由な侭」
側近「唸ってる位だったら……」
使用人「……有効でしょうが、やはり限度があります」
使用人「それに……!」

側近「俺の身が持たん、か」
使用人「…… ……」
側近「……だが、方法はそれしかない」
側近「あれはただの『器』だ。『中身』は勇者が……持って行った」
使用人「ですが、勇者様は人の子です。魔としては……器であれど」
使用人「その、魔力は……!」
側近「健在、だろうな、勿論。多少のパワーダウンは……まあ、してくれてれば」
側近「ありがたいけどな」
使用人「…… ……これは、推測に過ぎません。けど……」
側近「ん?」
使用人「目を……側近様に与えた時点で、それは……パワーダウン、でしょう」
側近「……まあ、そうだな。身を削ってる、訳だから」
使用人「矛盾しません?」
側近「え?」
使用人「后様のお話を聞いて、思っていた……んですけど」
使用人「『魔王』と言う者を孕み、生み出す代償として、身を崩して消えてしまう程」
使用人「強大な魔力、なのに」
使用人「側近様は、そうじゃ無かった」
側近「…… ……」
使用人「孕んで、産むって過程を差と捕らえれば、一緒には出来ないかも知れないですが」
使用人「内包するのは同じです。まあ……一部、と全てでも、勿論差はあると思うんですけど」
使用人「でも、その違いって何でしょう?」
側近「違い……性別?」
使用人「……ま、まあそれも勿論違いますけど、それじゃ無くて」
側近「…… ……んん?」
使用人「私達、一度……魔王様のお力を与えられていますよね」
側近「……魔族化」
使用人「て、事は?」
側近「??」
使用人「元、人間、です」
側近「!」
使用人「……しかも、側近様は、魔王様が勇者様として生まれ変わられた時に」
使用人「光を、奪われている。急激に老けはしましたけど……」
使用人「『与えられ』て『奪われ』た」
使用人「『受胎』して『出産』した」
側近「…… ……同じと考えられる、と言うのか」
使用人「些か乱暴かもしれませんけど」
使用人「脆いはずの人間は耐えられて、どうして……純粋な魔族には耐えられないのでしょう」

側近「そ、れは…… ……」
使用人「……答えは、わかりませんけど」
使用人「そういう物だ、って言われてしまえば、それまでです」
使用人「……誰も、言ってくれません、けど」
側近「俺が……元人間だからまだ、生きていられる、か」
使用人「…… ……」
側近「『欠片』 ……てのは、ひょっとしたら俺の事か?」
使用人「え?」
側近「……いや、違うな。あの時、確かに……どこかへ飛んで行った、んだな」
使用人「はい。側近様から光が発せられました」
使用人「『魔王様の目』が……奪われていった、んだと思いますよ」
使用人「ついでに……貴方の光、も奪っていった」
側近「だよな。そんで、残照……の、おかげで、俺は生きてる」
使用人「……長く、貴方の中にありましたから。同化してる部分はあっても」
使用人「おかしくは無いのでしょう」
側近「……それをぶつけて、相殺したら。確かに……俺は死ぬ、な」クス
使用人「……笑い事じゃありませんよ」
側近「じゃあ、他に方法は?」
使用人「……私も、手伝います」
側近「延命措置? ……ありがたいけど」
使用人「そんな言い方しないで下さい。私の魔の部分の根っこには……」
側近「そうだな。確かにそれも『魔王様の欠片』……魔王様の魔力、だ」
使用人「…… ……」
側近「俺だけで駄目そうなら、頼むよ。それまでに勇者がたどり着くだろう事を」
側近「祈ってる、けどね」
使用人「…… ……でも、確かに」
使用人「私達も、魔王様の欠片、ですね」
側近「……あの光は、何処に行ったんだろうな」
使用人「解りません。ですが……全て集めないと『魔王』は倒せない」
使用人「勇者様が……拾ってきて下さるのです。きっと」
使用人「『願えば、叶う』んです」
側近「……他人任せっぽくて、厭だなぁ」

使用人「そんな事言ってしまえば、全て勇者様任せ、じゃ無いですか」
側近「そりゃ、そうだけど……」
使用人「……時間が無い、とは思いたく無いですけど」
側近「それもあって、早めにあの街を放り出したんだ」
使用人「……側近様」
側近「ん?」
使用人「始まりの街から、此処までの転移で、魔力を使われているでしょう」
使用人「休息で……戻る程度の物では無い筈です。ですから……」
側近「……解ってるよ。しかしな、船で此処まで戻って来ようと思うと……」
使用人「それこそ『時間が無い』」
側近「ああ……ほんと、ギリギリ、だな……色々と」
使用人「まだ間に合います。後は……船長さんが……」
側近「魔除けの石、か……どれほどの効果があるかわかんネェけどな」
使用人「たかだか人、と侮れないのかもしれませんよ」
使用人「魔に変じたり……人にしか出来ない事もあるんです」
側近「回復魔法もそうだよな。姫様も言ってたが……」
使用人「『強くて弱い、人間だけの特権』?」
側近「だったかね」
使用人「不思議ですね……」
側近「だから、『勇者』は『人間』なのかもな」
使用人「……本当に、規格外ですよ。魔が、人に転生するなんて」
側近「魔王様か? ……分裂、って言った方が良いのかもな」
使用人「…… ……なんかいやですね、その言い方……よ、いしょ」ドサ
側近「? ……何してんだ」
使用人「貴方が手当たり次第に散らかすから、かたづけるんです!」
側近「…… ……すみません」
使用人「埃が立ちますよ……一人で歩けます?」
側近「出てけって事かい」
使用人「まあ、そうです。片付きませんから」
使用人「……貴方のお部屋、その侭にしてあったでしょう?」
使用人「のんびり、寛いできてください」
側近「はいはい……んじゃ、お任せしますよ」スタスタ
側近「……ありがとな」

カチャ、パタン

使用人「…… ……」

使用人「……」ハァ
使用人「さて、片づけて……ッ きゃ……ッ」グラ……バサバサバサ!
使用人「……ああ、もう!」
使用人「仕方無いけど、本当にもう……折角整理したのに……ん?」
使用人(本棚の後ろに、一冊…… ……手、届…… ……い、た!)
使用人「……わ、埃が」ケホッ
使用人(汚れてるけど……落丁はしてなさそう)パンパン
使用人(随分……立派な紫の表紙。見た事無いな……見落としてた?)ペラペラ
使用人(…… ……夜にでも読んでみよう、かな)

……
………
…………

勇者「おい、戦士。お前いい加減にしろよ!」
戦士「良いじゃネェかちょっと位……わ、わ……ちょ、ひっぱんな……!」ズルズル
勇者「通る度に引っかかるな!」
戦士「顔真っ赤にしちゃってぇ……可愛いなぁ」ニヤニヤ
勇者「……ぶん殴るぞ、お前……!」
勇者「娼館になんか、用事無いだろ!」
戦士「別に入らないって。挨拶ぐらい……」
勇者「駄目!」
戦士「……なんだよ、立派な仕事だろうが」
勇者「そういう意味じゃ無い!そんな事は思ってない!」
戦士「はっはぁん……」ニヤ
勇者「……なんだよ」
戦士「まあ、ね。アレだね。娼館のお姉ちゃんと話してるとこ」
戦士「僧侶に見られたら困るもんな、うん」
勇者「何でそこで僧侶が出て来るんだよ」

戦士「んー?熱烈な告白されてたじゃネェか、ん?」
勇者「……そ、そういう意味じゃネェだろ、あれは!」
勇者「『勇者』について行きたい、って……彼女は……」
戦士「船での話じゃネェけど、『勇者』は勇者、だろ?」
戦士「この港街の情報収集だって、本当は僧侶と行きたかったんじゃネェの」
勇者「……お前……ッ」
戦士「顔真っ赤にして凄んだって、怖くないねぇ」ニヤニヤ
勇者「そんなんじゃネェって……!」
僧侶「何がそんなんじゃないの?」
勇者「うわ!」
戦士「おう、お帰り……あれ、魔法使いは?」
僧侶「丘の上に教会を見つけたの。お祈りしにいこうって言ったら」
僧侶「勇者と戦士を呼んでこいって先に行っちゃった」
戦士「……何怒ってんの、お前」
僧侶「私だって、早く行きたいのに……」
戦士「あー……成る程……」
僧侶「?」
戦士「んじゃ、俺も先に行くわ。僧侶、勇者連れて来てくれよ」スタスタ
僧侶「え? ……一緒に行けば良いじゃない。ねぇ?」
勇者「あ、ああ……うん。そうだよな」
勇者(くそ、戦士の奴……!!)
勇者「……追いかけよう、僧侶。早く行きたいんだろ?」
僧侶「うん……戦士、足早いんだから」
僧侶「……大丈夫?勇者」
勇者「え?」
僧侶「顔、赤いよ」ピト
僧侶「……熱くは無いね、おでこ」
勇者「……ッ へ、平気、だから」フイッ
勇者(ひ、額同士くっつける奴があるか!手で良いだろうに……)
勇者(……糞、変な事言うから、妙に意識しちまうじゃネェか……!)

……
………
…………

魔法使い「あら、戦士一人?」
戦士「おう……押しつけてきた。そういうつもりで言ったんじゃネェの、お前」
魔法使い「ふふ、鈍そうに見えるからちょっと心配してたけど」
戦士「一番鈍いのは勇者じゃネェの」
魔法使い「……僧侶でしょ。天然っぽいわよ」
戦士「そうかぁ?あんな告白さらっとしちまうのに?」
魔法使い「前言撤回、アンタもやっぱ鈍いわ」
魔法使い「さらっとしちゃう天然ちゃんだから、でしょ」
戦士「……あ、成る程ね」
魔法使い「まあ、まさか勇者様に一目惚れ!」
魔法使い「……なんて、訳じゃ無いでしょうけど」
戦士「どうだかなぁ。勇者はまんざらでもなさそうだったぜ……て、ああ。来た来た」
魔法使い「勇者、僧侶!こっちこっち!」
僧侶「もう、魔法使いも戦士もズルイ!」
魔法使い「ちゃんと勇者呼んできてくれたのね」
僧侶「もう、仲入った?」
魔法使い「まだよ……ほら、二人でいってらっしゃい」
僧侶「え?でも……」
魔法使い「私、先に裏に回ってみたいの。ほら、戦士、行くわよ!」グイ
戦士「……え、俺も?」ズルズル
勇者「…… ……あいつら……」
僧侶「勇者も、向こうに行きたい?」
勇者「え……ああ、いや。中も見たいよ……行こうか」
僧侶「うん」スタスタ

カチャ

僧侶「すみませーん」

女神官「はい? ……ああ、ようこ……そ…… まあ……!」
勇者「…… ……」
女神官「金の髪、金の瞳……貴方が、勇者様、ですか……!」
勇者「……はい」
僧侶「あ、あの……入ってもよろしいでしょうか?」
女神官「ええ、勿論ですとも……ああ、神よ、感謝致します……!」
勇者「…… ……」
僧侶「……勇者」
勇者「うん……解ってる」
女神官「噂で、聞いておりました。始まりの街から、勇者様が旅立ったと」
女神官「……盗賊さんや鍛冶師さんは、お元気ですか」
勇者「え!? ……知って、いるんですか?」
女神官「今はもう、王様、とお呼びしなければいけませんね」
女神官「……勿論、知っていますよ。あの方達は……」チラ
女神官「……あちらの方々は、お友達、ですか?」
勇者「え? ……あ、窓……そうです」
僧侶「……お墓、ですか?」
女神官「ええ……この、教会を作られた偉大な神父様のお墓、です」
女神官「……失礼、話を逸らせてしまいましたね」
女神官「盗賊さんと鍛冶師さんは……この教会で結婚式を挙げられたのですよ」
僧侶「そうだったんですか……」
女神官「ああ、気がつかれましたね……」オイデオイデ
女神官「まさか……勇者様達が此処に立ち寄って下さるとは思いませんでした」
女神官「折角ですから、お茶にしませんか。あのお二人のお話、聞かせて頂けませんか」
勇者「あ……俺も、聞きたいです」

カチャ

魔法使い「失礼します……」
戦士「おう……」
女神官「さあ、お二人ともどうぞ……お茶をお入れしますね」

……
………
…………

僧侶「……王様と鍛冶師様、凄い方だったんですね」
魔法使い「港街作ったのって……あの二人だったんだ……」
女神官「ええ。人が増えられたと言う事で、始まりの街の方へ引っ越されたのですよ」
女神官「今でも、とても立派な王様と聞いています。あの国も随分栄えたのでしょう」
女神官「お子様にも恵まれた様で、何よりです」
女神官「……もう、二人のお母様、だなんて。私も歳を取る訳です」クス
魔法使い「さっき、私達が見たお墓が、この……教会を作った神父様って仰ってましたけど」
魔法使い「貴女の……お父様、ですか?」
女神官「え?いいえ……聖職者の鑑の様な方でしたから」
女神官「生涯、婚姻はされませんでしたよ」
戦士「うわぁ……」
魔法使い「コラ」
僧侶「聖職者、様って……その、駄目なのですか、結婚、とか……」
女神官「いいえ、そういう訳では……ですが」
女神官「敬虔であられました、から。神に仕えると誓った以上」
女神官「俗世での交わりは、とね」
勇者「……あの、さっきから気になってたんですが」
勇者「その、像は……」
女神官「ああ……これ、ですか」
僧侶「私も、気になってたんです。腕が……」
魔法使い「折れちゃった、んですか?」
女神官「いいえ……この像のモデルとなった方は」
女神官「……事情がありましてね。隻腕の祈り女だったのです。それはもう……」
女神官「神父様にも劣らぬ程の、敬虔な方だったと聞いています」
戦士「事情、って……」
女神官「…… ……とある魔族にもぎ取られたのだと」
勇者「!」
僧侶「え!?」
女神官「私も詳しくはお聞きしていないのですが」
女神官「……神父様は、実の娘の様に可愛がっていらしたそうですよ」
魔法使い「酷い……!」

戦士「その……人は、今はこの教会には居ないのか」
女神官「……神父様より、随分前にお亡くなりになりました」
勇者「…… ……」
女神官「始まりの大陸の小さな、丘はご存じですか?」
勇者「あ……はい。覚えて無いんですが、小さい頃に」
勇者「連れて行って貰った事があるらしいんです」
魔法使い「誰かのお墓があるって言ってたわね」
勇者「ああ」
女神官「盗賊さんの、古いお知り合いの方と、この……方」
僧侶「隻腕の祈り女……?」
女神官「ええ。娼婦様、と仰る方だったんですけれど」
女神官「この方の、お墓です」
戦士「……どうして、この裏の墓地じゃ無いんだ?」
戦士「神父様は、そこに……葬られたんだろう?」
女神官「そこまでは……ただ、あの島は祝福された島だと聞いた事があります」
女神官「ですから……敬意を払って、と言う事では無いのでしょうか」
勇者「祝福された島?」
戦士「初耳だな」
女神官「もし、機会があれば」
女神官「あの、丘へ登ってみられると良いですよ」
女神官「花は枯れる事無く咲き乱れ……心地よい風が吹く」
女神官「私も、何時か行ってみたい物です」
魔法使い「……ステキね」
女神官「神父様も、本当は……あの地でお眠りになられたかったかも知れませんが」
女神官「……この教会に仕えていた者達の要望で、あそこに」
僧侶「葬儀、は……残された者達の為、ですものね」
僧侶「寂しさを分かち合い、忘れない迄も、それを乗り越えていく為に」
女神官「…… ……その、他の神官達も、今はもう全て」
女神官「他の土地へと旅立って行きました。私も……もう、若くはありません」
女神官「この教会を。神父様の墓を……守っていって下さる方が、いらっしゃれば」
女神官「……見つかれば、良いのですけれど」

魔法使い「……見つからなければ?」
戦士「おい」
女神官「建物は朽ち、裏の庭に……一つ、墓が増えるだけです」
魔法使い「あら、駄目よ。貴女が亡くなったら、誰が貴女を墓に眠らすの」
勇者「魔法使い!」
魔法使い「だから、誰かが必要でしょ」
女神官「そう……ですね」
魔法使い「『願えば叶う』んですって。勇者が言ってたわ」
女神官「……まあ」
勇者「え?」
女神官「神父様も、良く同じ事を言っていらっしゃいましたわ」
女神官「……そうですね。神官募集の立て看板でも、出そうかしら」クス
戦士「良いな、それ。ついでに道標も掲げた方が良い」
女神官「以前は……これほど、街が発達する前は」
女神官「この丘へ上がってくる道も、今程解りにくくは無かったのです」
女神官「建物が増え、道が増え……だんだん、ね」
女神官「私の足腰も随分弱りましたから。必要以上に街へ降りていくのも」
女神官「辛いのですよ……」
僧侶「でも、人々の心の中から、神……信仰が消えた訳では無いでしょう」
僧侶「必要とされている限り、無にはならないですから」
女神官「ええ……そうですね」
戦士「難しくて良くわかんネェけど……まあ、何だ」
魔法使い「わかんないなら無理に言葉にしない方が良いわよ」
魔法使い「阿呆がばれるわよ」
戦士「う、煩ェよ!」
女神官「……これを、お持ち下さい」ス
僧侶「これは……魔除けの石!」
魔法使い「魔除けの石……」
戦士「何だそれ」
女神官「魔から身を守る、と言われている、神聖な石、です」
女神官「徳を積んだ聖職者の力が込められた……ただ、それは」
女神官「私が作った物ですから……どれほどの力があるか、解りませんが……」
勇者「でも……頂いて良いんですか」

女神官「ええ、どうぞ……神父様の作られた物ほどの効果は期待できませんが」
女神官「これを取り扱う店で買おうと思うと、結構な値になってしまっています、から……」
僧侶「そうね。随分高価で取引されてるのを見かけた事がある」
勇者「貴女は……作られないのですか?」
女神官「…… ……以前は、作っていたのですけれど」
女神官「此処へ直接買いに来られる方も、減ったのですよ」
女神官「今では、魔導の街で生成される物が主流な様ですね」
魔法使い「魔導の街、ね……」ハァ
戦士「何だよ。お前行ってみたかったんじゃないのか」
魔法使い「そりゃ、ね」
僧侶「もう、やめてしまったのですか?」
女神官「……価格だけが一人歩きしてしまってますから」
女神官「神父様の……懸念されていたことでもあるんです。だから……」
戦士「もったいねぇなぁ……旅人には重宝されるだろうに」
戦士「……まあ、聖職者たるもの、なんて言い出すと、わからんでも無いけど」
魔法使い「でも、数が減れば又、高価になっていく……悪循環ね」
女神官「ええ……それに、体力も、ね。だから……一つだけが理由では無いのですよ」
女神官「……精神力も、体力も、魔力も、消費しますから」
女神官「此処を守っていこうと思えば、あまり……寿命を消費したくないな、って」
女神官「それも、あるんです」
僧侶「……良い方がいらっしゃると、良いですね」
女神官「ありがとうございます……此処を出たら、魔導の街へ行かれるのですか?」
勇者「え、ええ……そのつもりです」
勇者「僧侶と魔法使いと……魔法使う人が二人いますしね」
魔法使い「勇者もでしょ」
勇者「まあ……そうだけど」
女神官「以前、ここに居た者も……魔導の街へと行きました」
女神官「私の名を出せば、何か話をしてくれるかもしれません」
戦士「お前、親戚居るんだろ?」
魔法使い「そうだけど……顔も名前も知らないのよ?」
戦士「そうなの!?」

お昼ご飯食べて、お迎えー!

おはようー!
お迎えまで!

魔法使い「だって、あんまり話てくれないんだもの、父も母も」
戦士「……言ってたな、そういや」
魔法使い「好きじゃ無いんですって」
僧侶「特殊、だと聞くね。あの街の人達って」
女神官「魔法に優れた者しか、住めなかったと言っていました」
勇者「そう、なのか?」
女神官「今現在はどうか……わかりませんけれど」
女神官「今の領主に変わって、もう随分経ちますけど」
女神官「前領主の時代は酷かったそうですよ」
女神官「……中身は、どうかわかりませんけど、ね」
勇者「魔法に優れた者……て、なんだ?」
女神官「加護のお話は聞いたことありませんか?」
勇者「あ……ちらっとだけ」
魔法使い「優れた加護、って奴ね」
戦士「何だそれ」
僧侶「魔法を使えない戦士は知らないか……えっとね」
魔法使い「その辺はまた船の中ででも話してあげるわよ」
魔法使い「長くなるしね」
勇者「そうだな……船の時間もあるし」
女神官「……ありがとうございました。貴重なお時間……頂きまして」
勇者「こちらこそ、色々聞かせてくれてありがとうございました」
僧侶「お茶、ご馳走様でした」
女神官「いいえ……また、機会があれば、お立ち寄り下さい」
魔法使い「じゃあ、買い物済ませて行きましょうか」
女神官「あ……」
戦士「ん?」
女神官「もし……もし、ですが」

女神官「……鍛冶師の村に、立ち寄ることがありましたら」
勇者「鍛冶師の村?」
女神官「はい……そこにも、此処を出て行った者が居るのです」
女神官「……偶には顔を見せて欲しい、と……伝えておいて下さい」
魔法使い「ええ、解ったわ。必ず」スタスタ
女神官「貴方達の旅の無事をお祈りします……勇者様」
勇者「ありがとうございます……お元気で」スタスタ

カチャ、パタン

僧侶「鍛冶師の村ですか……聞いた事がありますね」
勇者「鍛冶師様の出身の村だな」
戦士「そうだった……な。そういう部門があったな、騎士団に」
勇者「ああ。光の剣を直してくれたのも鍛冶師様とその人達だよ」
魔法使い「遠いの?」
勇者「地図で見ると結構遠い……が、ここから北東だ」
勇者「道中、と言えない事も無いんじゃ無いかな」
魔法使い「まあ、今は未定、で良いんじゃない」
魔法使い「取りあえずは魔導の街ね」
僧侶「さっきは厭そうにしてたのに、今は嬉しそうだね」
魔法使い「厭なんじゃ無いわよ。あの時の女神官さんの複雑そうな顔見てさ」
魔法使い「その話する時の母さんの顔、思い出しただけよ」
魔法使い「詳しくは本当に何も教えてくれなかったんだけど」
魔法使い「……なんて言うかな。毛嫌いしてるのは良く解ったし」
僧侶「思い出しちゃったのね」
戦士「でも魔法を使う者としては興味もあるし、か」
魔法使い「そういう事」
勇者「でも、何だっけ……限られてるんだろ?」
魔法使い「住もうと思えば、でしょ」
戦士「ああ、そうだそうだ。加護がどうとか?何なんだ?」
魔法使い「船の上で話しましょ。乗り遅れちゃうわ」

僧侶「そうだね。一日に何便もある訳じゃないだろうし」
勇者「買い忘れた物とか無いか?」
戦士「大丈夫、だよな?……これと言った情報も無かったしな」
僧侶「仕方無いよ。魔王が世界を滅ぼそうとしてる」
僧侶「勇者様が魔王を倒す為に旅立たれた」
僧侶「……それ以上は、私達だって解ってないんだもの」
魔法使い「そうね……あ!港に船が来てる!」タタタ
戦士「……やっぱり嬉しそうに見えるけどな、あいつ」
僧侶「憧れと言えばそうだもの。やっぱり、あの街は、ね」
勇者「何か得るものがあれば良いな。僧侶も、やっぱり楽しみ?」
僧侶「うん!」ニコ
勇者「……そっか」ドキ
勇者(ん?ドキッて何だよ、俺……)
戦士「顔が赤いよ、勇者」ボソ。ニヤニヤ
勇者「う、煩いよ!」
僧侶「? 二人とも、行くよ?」タタタ
勇者「お、おう」
戦士「若いって良いですなー」スタスタ
勇者「……ッ 歳変わらないだろ!」タタ……

……
………
…………

姫「……ぅ、う……ん……」
姫(暑い…… 此処は、どこ……)
姫(身体が、重い。動かない……何故?)ドクン
姫(何か、動いてる……何処……あ)

姫(……私の、内側)
姫(重い、暑い……う、ちがわ……)ドクン
姫「……ま、お……う……」ズキッ
姫「…… 痛……ッ」
姫「あ……、ァ」
姫「……ッ」ズキン、ズキン
姫「う、うぅ……ッ」
姫「あ、 ぁァ……ッ」
姫(そ、うだ……ここ、は……ッ 塔の、中……!)
姫(魔王と、側近と、使用人……と……ッ)
姫(……どれぐらい、眠ってた…… 私、は……ッ)ズキンッ
姫「あ、ああああァアアア……ッ」

オギャア、オギャア……ッ

姫「……ウ …… ……ァ」ハアハア
姫(産まれ……た、って……事、は……)
姫(もう、50年……? ……ああ、そん、な……じゃあ、私、は……)
姫「……まだ、動け……る……」ズル……

オギャア……ッ

姫「よし、よ……し……」ギュ
姫(エルフ、の……弓……魔石……青……ああ)
姫(……娼婦、の……)ギュ
姫「……もう、少し……ッ と、びら……ッ ま、で……ッ」ズルズル……

姫(もう、少し……後……ッ ちょ……ッ)

オギャア、オギャア……ッ

姫「……ご、めん……ね、少し……ッ」ガシッ

ガチャ……キィ……ッ
サァアアア……

姫(まぶ、し……い……ッ  ……外……ッ)
姫「…… ……」ハァハァ……ヨロ
姫(……森、の、中……? エルフの…… ……違、う)
姫(…… ……どこ?)

オギャア、オギャア……ッ

ガサガサ……ッ

姫「! ……あ ……ッ」ガク……ッ
姫(赤ちゃん……ッ)ギュ、パタ……ン

オギャア……フエエエ……ッ

姫(誰、か……何か、 ……居る、の)
神父「……ッ 大丈夫、ですか!?」タタタ……ッ
姫(人…… ……)ハァ
姫「……この、子、を」
神父「しっかりして下さい!しっかり……!」
姫「こ、れ……を、渡し ……」
神父「おお、ヨシヨシ……え……これ、は……」
姫「エルフ、の……弓…… ……この、子…… ……」
姫「……おね、が…… ……」
姫(……もう、声が出ない)
姫(魔王…… もう、いない、のかしら)
姫「…… う」
姫(…… ……も、う)パタ……コロン……
神父「……!娘さん!?」

オギャア、オギャア……!

神父(…… ……神よ。かの身に安らぎを……)
神父「……この子は……この娘さんの……」
神父(暖かい……子供は、元気そうだ)
神父(エルフの弓、と言ったな……では、この子は……エルフ!?)
神父(綺麗な水色の髪に、水色の瞳をしている)
神父(……これは?)ヒョイ

パァンッ

神父「あ……!」
神父(割れた……魔除けの石、か?)
神父(……母の愛、だろうか)

オギャア、オギャア……

神父「あ……! と、とにかく、ミルクを……!」
神父「…… ……娘さん、必ず、眠らせに戻って来ます」
神父「ですから、少しだけ……待ってて下さい」
神父(宿の女将さんに相談してみよう。預かって貰って、戻ってこなければ……!)

タタタ……

……
………
…………

魔王「……ぅ、ウ」
側近「はいはい、何ですかー」
魔王「…… ア……」
側近「……?」
側近「なんて……ッ う……ッ」ドクン!
側近「……ッ 痛ェ」
側近(……魔王様から、滲み出る魔力が……増えた……?)
側近「……あんまり、乱暴しないでくれよ」
側近「勇者、流石にまだ着かないんだろうしさ」

コンコン

使用人「側近様、ここですか」
側近「あー、はいはい。使用人ちゃん入っちゃ駄目だよ」
使用人「え?」
側近「その侭扉越しにね」
使用人「…… ……何か、ありましたか」
側近「またちょっと、魔王様の力が増えたっぽいね」
使用人「え!?」
側近「心配しなくて良いよ。まだ大丈夫」
側近「それより、どうしたの?」
使用人「あ……はい。船が着いた様なので、ちょっと出ます……が」
使用人「大丈夫、ですか」
側近「ああ。行っておいで。魔除けの石、貰ってきて」
使用人「はい……すぐ、戻りますから」
側近「はいよー」
側近(…… ……)
側近(少しずつ、魔力が増えていってる、のは解ってた、んだが)
側近(今のはちょっと……急だったな)
側近「まったく……この世はどうなってるんだかな」ハァ
側近(何日経ったかな。食事は使用人ちゃんが運んでくれるから)
側近(問題無いけど……以前は)
側近(魔王様と、チェスやらなんやらやってたんだよな)
側近(喋らないお人形さんと二人じゃ……退屈、だな)
魔王「…… ……」
側近「なあ、魔王様」
魔王「…… ……」
側近「……返事されても、困るけどね」

側近(しかし……さっき、何か言った、よな?)
側近(……気のせい、かな)

……
………
…………

使用人「ありがとうございます、船長さん」
船長「急いでるんだろうと思ってな。取りあえず……集められるだけ、集めてきた」
船長「が……結構高級品かしちまってな。それほど数が無いんだ」
使用人「構いません……こちらこそ、無理言って申し訳ありませんでした」
使用人「……お体、大丈夫ですか?」
船長「俺は平気さ。最近は娘も随分立派になってきてな」
使用人「次期船長さん、ですね」
船長「まだまだ譲らネェけどな」
船長「……魔王、何かあったんだな」
使用人「ええ……しゃべり出したんです」
船長「え!?」
使用人「あ、いえ……ああ、とか、うう、とか唸るだけ何ですけど」
使用人「……自我の無い侭に暴れ出せば最後……と、思うと」
船長「それで魔除けの石、か」
使用人「どれほどの効果があるかはわかりませんけど……」
船長「大変だな、一人で」
使用人「あ……そうそう、側近様、帰っていらっしゃったのですよ」
船長「……何?」
使用人「勇者様が旅立たれて……すぐに」
船長「転移石、もう無かったんじゃネェのか」
使用人「随分……無茶をされています。魔王様の目の残照がある内に、と」
船長「自分で転移した、てのか!?」
使用人「……今は、魔王様に何かあった時の為に、と」
使用人「魔王様の傍から、動かれませんし……」
船長「…… ……魔族ってのは、とことん規格外だな」

使用人「『人』を基準にすると確かにそうですね」
使用人「……まあ、魔の中にあっても、魔王様はさらに規格外でしたが」
船長「…… ……そうか」
使用人「やはり、港街も魔導の街も……『魔王と勇者』の話で持ちきり、ですか?」
船長「ああ……そうだな。それも料金の内だった」
使用人「はい。しっかり報告して下さい」
船長「俺が立ち寄った時は、とうとう旅立つんだ!ってな時だったから余計だな」
船長「港街はそうでも無かったが……魔導の街は随分な騒ぎだったらしい」
使用人「騒ぎ?」
船長「……頭が変わっただけじゃ、あの街の性質自体は何も変わらんよ」
船長「勇者が滞在中、誰が勇者を射止めるかだとかな」
使用人「頭……ああ、領主ですね」
使用人「……射止めたところでどうするのです」
使用人「勇者様は……」
船長「若い娘を前にこんな話をするのもあれだがな」
船長「子種だけでも、って奴だ」
使用人「…… ……変わりませんね」
船長「劣等種、なんて言葉は耳にはしなかったがな……」
船長「だが、あの……忌まわしい風習が消え去っちまった訳じゃネェ」
使用人「そんな!?」
船長「……表向き、あの頃みたいな事はない、んだろう」
船長「だが……な。どう見ても血が繋がってるだろうって少年二人の」
船長「親の扱いの差、周りの扱いの差……」
使用人「…… ……」ハァ
船長「何回か、目にしたよ」
使用人「……悲しい、事です」
船長「娼館がなくなっただけでも……随分な功績だと思わなくちゃやってられん」
使用人「…… ……そう、ですね」
船長「そんな程度、だ……これから、北の街と鍛冶師の街を回って」
船長「もう一度、魔導の街に戻る」
使用人「え?」
船長「今、魔除けの石の生産量は魔導の街が一番なんだ」
船長「……品質は期待できんがな」
使用人「そうですか……」
船長「今回は急いできたからな。次に来る時には、もう少し数を揃えておく」

使用人「ええ……すみません、お願い致します」
船長「ああ……何かあったら、すぐ知らせろよ」
使用人「はい……何時もありがとうございます」スタスタ

カラカラカラカラ……

船長「さて、と」
娘「おい、親父!」
船長「何だ、娘……降りてきたのか」
船長「行くぞ」
娘「……毎度毎度、ご苦労なこっちゃ」ハァ
船長「俺らは海賊だ。仕事は仕事……金さえ貰えれば」
船長「何だってやるんだよ」
娘「そりゃ耳にタコができるぐらい聞いてるよ」
娘「確かにあの女は金払いも良いし、上客だってのは解ってるぜ」
娘「……でも、ありゃ人間じゃネェだろ?」
船長「…… ……」
娘「何時もの、ありゃ何だよ。解んネェとでも思ってんのかよ」
船長「……鳥か」
娘「きっれいな緑色のな。手紙受け取ったら消えちまう奴な」
船長「……魔法ってのは便利なモンだ」
娘「で、目的地が最果ての地!」
娘「……疑うなって方が無理があるだろうが」
船長「だから、何だ」
娘「……別に。教えてくれても良いんじゃネェかって」
娘「そんだけだ。アタシだってもう、チビじゃネェんだ」
娘「親父が後何十年かしてくたばっちまったら」
娘「変わりになるのはアタシなんだ!」
船長「……だったら、そん時にもう一回聞け」
船長「俺ゃまだまだ現役だ」
娘「親父のお株無理矢理奪う気なんかネェよ!」
船長「だったら話は終わり、だ。さっさと船に戻れ!」スタスタ
娘「……ッち」
娘「…… ……」スタスタ

海賊「娘さん、出発しますぜ、早く乗って下さいよ」
娘「解ってるよ……親父は?」
海賊「甲板の方に行きましたよ」
娘「珍しいな」
海賊「最近、魔物の数増えてますしね」
娘「……魔王のナントカがナントカ、て奴な」
海賊「勇者様も旅立たれたって言いますしね」
娘「フン……」
海賊「とりあえず、北の街に向かうそうですよ」
娘「あの何も無い街に寄って何すんだか……」
海賊「それは船長に聞いて下さいよ……あ、そうだ、娘さん」
海賊「これ、ジジィに持ってってくれませんか」
娘「あ? ……なんだこれ」
海賊「書庫から探しておいてくれって言われてた本です」
海賊「暇つぶしでしょ、何時もの」
娘「んで、ジジィどこなんだよ」
海賊「部屋でしょ、自分の」
娘「……ったく、なんでアタシが……」ブツブツ

スタスタ、カチャ……パタン

娘「……暇つぶし、ねぇ」パラパラ
娘(魔導書、か……まあ、ジジィぐらいにしか必要無いわな)
娘「……っと」コンコン
ジジィ「開いてるよ」
娘「生きてたか、糞ジジィ」カチャ
ジジィ「口の減らない小娘か……」
娘「煩ぇよこのくたばり損ないが……ほらよ」ポン
ジジィ「ああ、あったか……ありがとうよ
娘「そんな本の何が面白いのかねぇ……」
ジジィ「脳みそまで筋肉で出来てる小娘にゃ難しいわな」
娘「……口の減らネェジジィだな」

ジジィ「……船長は」
娘「甲板だとよ。最近魔物の数が増えてきたから、だってさ」
ジジィ「は! ……不機嫌そうな顔してると思えば」
ジジィ「構って貰えなくて拗ねてるのか」
娘「阿呆か!ガキじゃネェんだぞ!」
娘「……それに、真っ直ぐに娘の顔も見ネェ奴の何が親だ」
ジジィ「…… ……そっくりになってきたからな」
娘「え?」
ジジィ「お前さん、だ」
娘「……産んですぐ、死んだって母さんに、か」
ジジィ「…… ……」
娘「ジジィは知ってるんだったな」
ジジィ「仲間だからな」
娘「…… ……」
ジジィ「前も話してやっただろうが」
娘「覚えてるよ。アンタがまだちゃんと『魔法使い』って名前で呼ばれてた」
娘「……その頃の話、だろ」
ジジィ「…… ……覚えとりゃ良い」
娘「本ばっか読んでネェで、偶には役に立てよ、糞ジジィ」
娘「……魔法仕えるの、お前だけなんだからな」
ジジィ「お前が良い腕してるから必要ないだけだろうが」
ジジィ「ジジィはジジィらしく、隠居させてくれんかのう」
娘「急に歳よりぶんな! ……ったく」
ジジィ「ほれ、出てけ……読書の邪魔、すんな」
娘「本当に隠居したいならすぐ言えよ。船から放り出してやるからな」
ジジィ「……海賊は海の上で死ぬモンだ」
ジジィ「何時も言ってるだろうが……儂が死んだら」
ジジィ「……ちゃんと水葬にしてくれよ、ってな」
娘「心配すんな。きっちり海に投げ込んで…… ……ッ」
ジジィ「……!?」

グラグラグラ……ッ

娘「な、ん……ッ だ……ッ!?」
ジジィ「……魔物、か」
娘「……ッ 糞、おい、ジジィ!動けるんならお前も来い!」
娘「甲板が騒がしい……!」タタタ
ジジィ「船長と娘が居りゃ、事足りるだろうに……やれやれ、よっこいしょ」スタスタ
娘「……おい、状況を説明しろ!」
海賊「あ、娘さん……! 人魚です!」
娘「人魚ォ!? ……糞、厄介だな……おい、ジジィ引きずって来い!」
娘「後、耳栓しとけよ!歌声は聞くな!」バタバタ
海賊「あ、ジジィ!早く!」
ジジィ「んな早く歩けんわ ……人魚だと?」
海賊「お前は耳遠いから大丈夫か」
ジジィ「……間違えて雷落としてしまうかもな」
海賊「喧しい!嫌味言ってないで早く行け!」
ジジィ「全く、人使いの荒い……」
娘「親父! ……おい!」
船長「娘か……ちゃんと耳栓したか!?」トントン
娘「あ? ……ああ、耳、な。大丈夫……ッ」

グラグラ……ッ

船長「うお……ッ」ドタ……ッ コロン
娘「わ……ッ あいつら、船に体当たりしやがったか……!」
娘(数が多い……!これも、魔王の……!!)
船長「!」
船長(耳栓が…… まずい……ッ)

♪~♪~

『…… ……さ、ん。船長、さん……』

♪~♪~

娘「……ッ 魔詩だ!耳塞げ!」
ジジィ「…… ……おい、船長!?」
船長「く……ッ そ……ッ」
娘「親父もちゃんと耳栓してら!お前も耳塞げ、って!ジジィ!」
娘「お前の魔法が一番厄介だよ、魅了されると!」ガシッ!
ジジィ「おわ……ッ」

♪~♪~

『船長さん…… ……こっち、です』

船長「……ッ」ブンブンッ
船長「や、め……!! ……ッこ、の、声……」

『船長さん……一緒に、行きませんか』
『綺麗なお花、嬉しかったです。ねえ、船長さん……』

♪~♪~

ジジィ「おい……!おい、娘! ……船長の、様子が……!」
娘「え!?何だって!?」

船長「……しょ……」フラフラ……

『一緒に、お花摘みしましょ? ……一人じゃ、寂しいです』
『ね?船長さん……』

ジジィ「船長!」
船長「…… ……」フラフラ

『一緒に……ほら、手……繋いで?』

♪~♪~

船長「しょ……婦…… ……」フラ、フラ……

『一緒に……ねえ、早く……』

娘「……!」ハッ
娘「親父!!」ダッ
ジジィ「駄目だ、もう間に合わな……!!」ガシッ

船長「……ああ、一緒に……」フラフラ……タタタ……

♪~♪~

『私達と、海の底へね!!』

船長「あ……ッ !!」

ガブッ ……バッシャアアアアン!!

娘「親父!親父……ッ !!」
ジジィ「……魔詩が、止まった……ッ 雷よ!!」

ピシャアアアアアン!!
ギャアアアアアアアアア、アアアアア!!

アハハハ……アハハハハ……ッ!!
ザバ……ザ…… ……

…… ……

娘「あ…… ……ァ、あ……」ヘタヘタ……パタン
ジジィ「糞、遅かったか……!」
海賊「船長!船長ー!!」
娘「……お、やじ…… ……ッ」
ジジィ「…… ……おい」グイッ
海賊「せんちょ……ッ な……!」
ジジィ「さっさと船を出せ!この海域を離れるんだ!」
ジジィ「……あいつらが戻って来たら、今度こそやられちまうぞ!」
海賊「あ……ッ で、でも、船長、が……ッ」
ジジィ「……全滅したいのか?」
海賊「! ……ッ」タタタ……ッ
ジジィ「娘……おい、娘!」

娘「…… ……」
ジジィ「……糞ッ」パン!
娘「!」
ジジィ「しっかりせんか、小娘!」
ジジィ「……今は、仲間を守るのが先だろうが!」
娘「…… ……」フラ、フラ……
ジジィ「…… ……」フゥ
ジジィ(船長……最期に、何を見た?)
ジジィ(お前……まだ……ッ)グッ

……
………
…………

お昼ご飯ー

時間なくなったorz

お迎えー!

おはよう!
幼女が起きるまで!

魔王「后、入るぞ」コンコン

カチャ

魔王「おはよう、后」スタスタ
后「……」
魔王「今日は良い天気だ。窓を開けるぞ」シャッ
后「……」
魔王「すぐに、側近が食事を運んで来る……もう少し、待ってくれよ」
后「……」
魔王「書庫でレシピを見つけてな。鴉に手伝って貰って」
魔王「フランボワーズというケーキを作ってみたのだ」
后「……」
魔王「食事が済んだら、デザートにしよう。あまり上手くは出来なかったが」
魔王「気に入ってくれると嬉しい」スタスタ……チュ
后「……」
魔王「まずかったら、笑ってくれよ」
后「……」
魔王「残しても良いからな……残したら、私がお前の分まで食べるから」

コンコン

側近「魔王様、后様、飯だぞー」
魔王「ほら、来た……」スタスタ、カチャ
側近「ここ、置いておくぞ」
魔王「ああ、ありがとう……後でケーキも頼むな」
側近「おう」
魔王「……今日は良い天気だな」
側近「何だよ急に……」
魔王「后も随分、機嫌が良さそうだ。一刻後に、頼む」
側近「…… ……解った」
魔王「さあ、后……腹が減っただろう?」

カチャ、パタン

側近「……」フゥ。スタスタ

側近(……魔王様の身体で見えないが)スタスタ
側近(そろそろ、一ヶ月……か、后様の身体が、崩れだしてから)
側近(もう、と言えばいいのか、まだと言えばいいのか……)

カチャ

鴉「……どうだった?」
側近「変わらネェ……よ、様子はな。あれ?」
魔導将軍「おはよう、側近」
側近「魔導将軍?珍しいな、食堂に顔出すなんて」
魔導将軍「偶には一緒に飯を食おうと思ってな」
側近「どういう風の吹き回しだか」
魔導将軍「別に、普段から厭うて居る訳では無いぞ」
側近「見回り終わったのか?」
魔導将軍「部下に任せた、んだ。今日は」
鴉「準備出来てるよ……ほら、二人とも座りなよ」
側近「部下ねぇ……何時も自分でやらなきゃ気が済まないって言ってる癖に」
側近「青天の霹靂だな。雨降らネェか」
魔導将軍「何れは任せねばいかん日も来る……不変は無いんだ」
魔導将軍「……観念しただけだ」
側近「観念、ね……」
鴉「后様……見た、のかい?」
魔導将軍「…… ……」
側近「否……魔王様のでっかい図体で見えネェよ」
側近「見せたく……無いだろ」
鴉「…… ……」
魔導将軍「良い天気だな……今日は」
側近「アンタまで……」
鴉「まで?」
側近「いや、さっき魔王様がな」
側近「同じ様な事、言ってたからな」
鴉「……紫、て言うか、灰色って言うか」
鴉「いっつもそんな顔色の悪い空ばっか見てるからだろ」
鴉「こうやって、たぁんまに晴れ間が覗くと、魔王様は昔から」
鴉「……空ばっか、見てた」

側近「何か……落ち着かネェな」
鴉「ん?」
側近「こんな身体になる前は、ずっと見てたはずなのにな、青い空なんて」
鴉「……慣れってのは気がつかない内に。だから……そう言うのさ」
側近「あの暗い空ばっかみてると、恋しくなってもおかしくネェのにな」
魔導将軍「人の子の生きる空の下は心地よかったか?」
側近「それこそ慣れ、って奴だ。当たり前にある事のありがたみなんて」
側近「当たり前でなくなって初めて気がつくんだろ……ご馳走さん」
魔導将軍「何だ、もう食わないのか?」
側近「……魔王様が鴉と一緒にケーキ作ったんだよ」
側近「んで、一刻後に運んでこい、とな」
魔導将軍「……ケーキ?」
鴉「書庫から何か本引っ張り出してきてね」
鴉「……手伝わされた、んだよ」フゥ
側近「何やれやれ、見たいな顔してやがる。随分楽しそうにしてたじゃないか」
鴉「楽しかったよ、確かに。でもね……」
鴉「……后様が食べてくれれば、もっと楽しかったのにな、て……ね」
側近「…… ……」
魔導将軍「…… ……それは、魔王様と后様の分しかないのか?」
鴉「余分はあるよ。食べるかい?」
魔導将軍「折角だからな」
側近「もうちょい時間あるか……俺も貰おうかな」
鴉「……アタシは遠慮しとく、と言いたいけど」
鴉「一緒に食べようかな……」
側近「お前、甘い物嫌いじゃないのか?」
鴉「嫌いだよ。でも……折角、魔王様が作ったんだ」
鴉「后様と……喜び、分かち合おうかなーって」
鴉「ちょっと待ってな。お茶入れるよ」パタパタ
魔導将軍「……本当の所、どうなんだ?」
側近「ん?ああ…… ……本当に、見てないんだよ」
側近「流石に……見せたくないだろう」
魔導将軍「…… ……そう、だが」
側近「気になる気持ちも、いたたまれないってのも……一緒だろう」
側近「若、は?」
魔導将軍「寝てるよ。たらふくミルク飲んでな」
側近「そっか」ハハ……
側近「……あの寝顔には本当に救われるな」

鴉「お待たせ……ああ、先に行っておくけど」カチャカチャ
魔導将軍「ふむ、想像以上に旨そうだ」
側近「な、意外だろ? ……なんだ?鴉」
鴉「アタシは見てただけだからね。全部自分でやる、とか言ってたからさ、魔王様」
鴉「……手、出したかったけど、そんな雰囲気じゃ無かったし」
側近「? ……おう?」
魔導将軍「それは、つまり……」
鴉「味の保証はしない、って事だ……頂きます」パク
側近「見てたんだろ?じゃあ別に……」パク
魔導将軍「心配しすぎだろう」パク
鴉「…… ……」
魔導将軍「…… ……」
側近「…… ……」

……
………
…………

魔王「……后、旨いか?」
后「……」
魔王「鴉の料理の腕は流石だな。毎日これほど旨い物が食えるのは」
魔王「幸せだな……后も、前は良く鴉と一緒に何か作ってたな」
魔王「だから、な……今日のは、私からの礼だ」
魔王「そろそろ……」

コンコン

魔王「……さて、では味見して貰うとしよう」スタスタ。カチャ
側近「魔王様、お、おまた、せ……」
魔王「どうした、随分顔色が悪い」
側近「……おう。平気だ」ウプ
魔王「? ……なら良いが」
側近「食器は下げたか?」
魔王「ああ、ここに……ふむ、我ながら上出来だな」
魔王「旨そうだ……紅茶も、良い香りがする」
側近「じゃ、じゃあ……俺はこれで」
魔王「ああ……この分は私が片付けるから、もう良いぞ」
側近「わかっ ……ッ」ォエ
魔王「?? ……大丈夫か?」
側近「お、おう……じゃあ、な」

パタン

魔王「ふむ。何か悪い物でも食ったか」
魔王「后、待たせたな。ほら……どうだ、旨そうだろう?」
后「……」
魔王「はい、あーん」
后「……」ボロ……
魔王「……后?」
后「……」ボロボロボロ……
魔王「あ……」
后「……」ボロボロボロ……ボロボロ……

魔王「…… ……そう、か。旨いか」
后「…… ……」ボロボロボロ……
魔王「今日が……良い天気で良かった」
后「…… ……」ボロ……ボロ…… ……
魔王「綺麗だ、后。光、が……反射して…… ……」
魔王「…… ……お前は、可愛くて美しくて……意地悪だったな」
魔王「側近が何時も、困ってたな」
魔王「……私にも、意地悪だったんだな、実は」
魔王「最後は……崩れるのが怖くて、抱きしめるのを躊躇させた」
魔王「……全く、仕方の無い奴だ」パク
魔王「……甘い、な」パク
魔王「否……少し、しょっぱい、かな」パク
魔王「…… ……俺を泣かす者等、お前ぐらいだ、后」ハァ

……
………
…………

側近「……悪いな、魔導将軍。洗い物なんかさせちまって」グッタリ
魔導将軍「仕方あるまい……使い魔共も居ないし」ハァ
鴉「……砂糖は分量通り、って言ったのに」ウゥ……
側近「まあ……后様の姿を見せる訳にな……城から遠ざけたのも」
側近「仕方無い、っちゃ仕方無い」
鴉「アンタ平気なのかい、魔導将軍」
魔導将軍「……我慢強いだけだ」ウップ

鴉「…… ……それ、やせ我慢って言うんだよ」

カチャ

側近「? ……ああ、魔王様」
鴉「……全部食べてる。甘かっただろう?」
魔王「否……しょっぱかったぞ?」
魔導将軍「…… ……はい?」
魔王「側近」
側近「んあ?」
魔王「片付けたら……使い魔共を城に呼び戻してくれ」
側近「……え、なん…… ……!!」
鴉「まさか……!!」
魔王「それから、私は……今日は、休む。誰も入れるな」
魔王「……明日から、食事は私の分だけ用意してくれれば良い」
魔導将軍「魔王様……!!」
魔王「色々と……我が儘に付き合わせて悪かったな」
魔王「……ありがとう。后も、喜んでいたよ」スタスタ

パタン

鴉「き……后、様……ッ」ポロポロ
魔導将軍「泣くな、鴉……!!」グッ
側近「……真っ赤な目して、説得力ネェよ、魔導将軍」
鴉「…… ……」
魔導将軍「…… ……」
側近「…… ……」

オギャア、オギャア……!

側近「あ……!」タタタ。ダキ
側近「……寂しがらなくて良い。俺たちが居るから、な?」ヨシヨシ

オギャア、オギャア……フエェ……

……
………
…………

女「お待ちしておりました!勇者様!」
勇者「……はい!?」ビクッ
魔法使い「熱烈な歓迎ね……」
戦士「勇者がビビるのも無理ネェよ、これは……」
僧侶「これ……何人居るのかしら」
勇者「あ、あの……?」
女「船旅、お疲れになった事でしょう」
女「この魔導の街の領主様の命により、お迎えにまいりました」
女「お仲間の方々もどうぞ、ご一緒に」
女「……お屋敷へ、ご案内致します」

ワアアアアアアアアアア!

戦士「ざっと30人、ぐらい?」
魔法使い「領主様とやらの召使い、とか……でしょうね」
僧侶「宿代は助かりそうだけど……居心地は、悪いだろうね」
勇者「ちょっと黙れお前ら……」
戦士「こんなけ煩かったら聞こえてネェって」
魔法使い「聞こえても気にしなさそうよ、この人達」
僧侶「何で?」
魔法使い「選択肢あった?会話の中に」
僧侶「ああ……成る程」
勇者「黙れ、てば」
戦士「何だよ……」
勇者「……俺がくじける。逃げ出したい」
戦士「そうも行かないのが勇者様……俺らも強制連行だろ」
魔法使い「そうよ。まあ……まさか監禁される訳でも無し」
僧侶「行くだけ行って、厭なら帰れば良いのよ」
僧侶「宿ぐらいあるでしょ」
女「勇者様?」
勇者「…… ……では、お言葉に甘えます……」

大まかな歳と年表が欲しいわ…

>>208
世代としては拒否権の1つ前だろ

……
………
…………

領主「おお、貴方が勇者様か!ようこそ、我が町へ!」
勇者「は、はあ……」
戦士「すげぇご馳走……」
魔法使い「……蔵書の数が、凄い……!」
僧侶「このソファ、ふかふかだ……」
勇者「…… ……だから、落ち着けってお前ら……」
領主「さあ、お気になさらずお食べ下さい!お疲れでしょうし、腹も減っておるでしょう」
領主「……しかし、ふむ……素晴らしいですな」
勇者「あ、ありがとうございま……え?」
領主「始まりの街より、光の子が旅立ったと言うのは聞いておりました」
領主「しかし、噂に違わず……否!予想以上に神々しいそのお姿!」
領主「金の髪に金の瞳……紛う事無き光の子!我々の、希望の光ですな!」
勇者「…… ……はぁ」
領主「光の加護など、一般人では持ち得ない!」
領主「まさしく、選ばれた特別な者の証ですな!」
勇者「特別……ですか」
魔法使い「勇者、顔引きつってるわよ。我慢我慢」ヒソヒソ
戦士「これ、うめぇ!」モグモグ
僧侶「領主様、お尋ねしたい事があるんですけど」
領主「……ええ、何でしょう?」フゥ
勇者「?」
僧侶「この街に、大きな図書館が出来たんですよね」
領主「ええ。それが何か?」
僧侶「『優れた加護』について、調べたい事がありまして」
領主「ほう……何をお調べになるか、聞いてもよろしいかな」
僧侶「可能性を」ニコ
領主「……可能性?」
僧侶「ええ、どれほどの事ができるのか」
僧侶「この街程の規模の図書館ですから」ニコニコ
魔法使い「……笑顔が何か怖くない?」ヒソ
戦士「つか、何の話してるんだよ」ヒソ
勇者「…… ……?」

領主「……ふむ、では貴女は……優れた加護をお持ち、ですか!」
僧侶「……」ニコニコ
領主「そういう事でしたら、お力になれましょう……明日にでも」
領主「図書館に行ってみられると良い。伝えておきますのでな」
領主「私の紹介だと言えば、全ての本が閲覧出来ますぞ」
領主「……いや、流石勇者様のお仲間だ!素晴らしいですな!」
魔法使い「?」
戦士「??」
勇者「おい、僧侶……?」
僧侶「ありがとうございます。流石、魔導の街の領主様ですね」
領主「勇者様のお仲間に褒めて頂けるとは、ありがたい話ですな」
領主「貴方様方なら、きっと魔王を倒せましょう!期待しておりますぞ!」

コンコン

女「領主様、失礼致します」カチャ
女「そろそろ……」
領主「ああ、そうか。そうだったな……」フン
領主「では、執務がありますので私はこれで。どうぞ、ごゆっくりおくつろぎ下さい」

スタスタ、カチャ

女「失礼致します」

パタン

勇者「……何だったんだ?」
僧侶「『選ばれた』とか、『特別』とか、やけに強調してたからね」
僧侶「それに……聞いた事あったんだ。魔導の街の人ってさ」
僧侶「領主の血筋、って……皆、優れた加護持ってる、て」
魔法使い「み……んな!?」

戦士「優れた加護、てあれだよな」
戦士「魔法使いが船の中で説明してくれた奴」
魔法使い「アンタ、三割も理解してないでしょ」
戦士「……なんか特別、てのは解ったってば」
僧侶「まさにそれ。『特別』」
勇者「……俺にも言ってたな。勇者は特別、選ばれた、とか」
魔法使い「いい加減慣れなさいよ」
勇者「ああ、いやそういう意味じゃ無い」
勇者「『勇者』である俺は『特別』」
勇者「『優れた加護』を持つ領主の血筋も『特別』……」
僧侶「イコール、と迄いくら何でも言い切りゃしないだろうけど」
僧侶「そういう所、ありそう」
魔法使い「……で、嘘吐いたの?」
僧侶「私、否定も肯定もしてないよ?笑ってただけだもん」
戦士「勝手に勘違いしたのは相手だ、てか……怖いなぁ」
僧侶「失礼な……収穫あったでしょ」
勇者「全ての本が閲覧出来る、とか言ってたな」
僧侶「一般人には許可してない本が読めるなら、ラッキーだよね」
魔法使い「知ってたの!?」
僧侶「まさか。でも……女神官さんと話してた時から思ってたんだよ」
僧侶「『魔法に優れた者しか住めない』って言ってたでしょ……だから」
僧侶「『優れた加護を持つ者のみ、住む事を許された街』なのかなって」
勇者「成る程……で、かまかけた、のか」
僧侶「うん。それまで、領主様の目には多分、勇者しか映ってなかったよ」
戦士「俺と魔法使いと僧侶は、勇者の仲間だから、邪険には出来ないけど、か」
魔法使い「…… ……」
勇者「魔法使い?」

魔法使い「当たらずとも遠からず……いえ、多分正解ね」
戦士「ん?」
魔法使い「この街には親戚が住んでるって言ったでしょ」
魔法使い「どの程度かはわからないから、何とも言えないけど……」
僧侶「……魔法使いは、優れた加護は持ってない、んだよね?」
魔法使い「ええ。母もね……追い出された、のかな、て」
戦士「……この街を、か?」
魔法使い「話したがらないのも、複雑な顔するのも、それなら納得いくのよ」
僧侶「決めつけない方が良いよ。この街に住む人……皆、領主様と」
僧侶「似た様な性格してたとしたら、普通は厭になると思うよ」
勇者「だろうなぁ……居心地悪いったら無かったぜ」ハァ
魔法使い「…… ……そう、ね。うん。そうよね」
戦士「つーか、じゃあ俺なんか論外じゃネェか」
魔法使い「やっぱり理解してないじゃないの!」
魔法使い「加護はすなわち属性だから、魔法が使えるか否かは関係無いって」
魔法使い「ちゃんと説明したでしょうが!」
戦士「……そうだっけ」
勇者「まあまあ……しかしな、俺だって優れた加護なんて持ってないぞ、多分」
戦士「え?」
僧侶「そうなの?」
勇者「まあ……俺の加護が光だとしても」
勇者「今のところ、俺以外に光の魔法を使える奴なんて見た事ないからなぁ」
勇者「確かめようも無いけど」
魔法使い「自分で自分に光の魔法かけたら確かめられるわよ」
勇者「…… ……」
僧侶「別に良いでしょ。それ程重要じゃ無いんだし」
戦士「そりゃそうだ」
魔法使い「……そうね、御免」
勇者「いや……良いよ。そういう方法もあるんだな」ホッ
僧侶「…… ……?」

幼女起きた!
離脱しますー

>>217
私も欲しい、間違うorz
つか私こそ作るべきだね……


では!

「姫様の子」=「拒否権の僧侶」と捉えてザックリ。

-260 姫の母が身篭り、知人が里を出る
-110 「私が勇者になる……だと」魔王の旅立ち
-094 「俺に魔王になれ……と言うのか」勇者の旅立ち
-060 僧侶の誕生
-050 「拒否権はないんだな」先代勇者と魔王の戦い
0000 「拒否権はないんだな」勇者の旅立ち
+060 「ああ……世界は美しい」勇者の旅立ち
+??? 青年の寿命が尽きる前に「俺は……魔王を倒す!」勇者の旅立ち

これより前は現魔王様が何年生きてるか忘れたっつってて不明。
1000年前の側近が来た頃を知っていた魔導将軍は泣いていい。
使用人は別人なのか、ループ外の傍観者なんかね。

おはよう!
幼女が起きるまでー

まだ半年も経ってないと思うよ?書き出して……
つか、うちの幼女どんな勢いで成長すんのwww

年表すげぇ!
ありがとう!参考にするwww
ありがとおおおおお!!

勇者「しかし……ごゆっくり、とか言われても、な」
魔法使い「今日は泊めて貰うつもり?」
勇者「ここまでして貰って、宿取ります、ってのもな」
戦士「さっき何か言ってたじゃネェか。後でお部屋ご用意させます、的な」
僧侶「そうだよね。呼びに来てくれる、んじゃない?」
勇者「まあ、確かに助かるけどな。路銀だって有り余る程ある訳じゃ無いし」
勇者「かといって長居する訳にもな」
戦士「此処を出たらどうするんだ?」
勇者「まあ……北の方に向かう、だな」
魔法使い「色々見ては回りたい、けど……」
僧侶「2.3日お世話になる、で良いんじゃないの?」
魔法使い「そうね。取りあえず街へ行ってみない?」
魔法使い「まだそれほど遅い時間じゃ無いし……」
勇者「そうだな……」

コンコン

女「失礼します、勇者様よろしいですか?」
勇者「あ、はい!」
女「ありがとうございます……皆様、お食事はお済みでしょうか?」
魔法使い「ええ、ご馳走様でした。美味しかったわ」
女「では、お部屋へご案内致します。宜しければ湯をお使い下さい」
僧侶「お風呂! ……嬉しい、けど……」
女「如何致しました?」
戦士「いや、一回街の方に行ってみようかと思ってたんだ」
女「図書館に行かれると言っておられましたね。ですが……」
魔法使い「?」
女「ご利用時間を過ぎてしまっていますので、明日になされては?」

僧侶「そうなの? ……残念」
女「申し訳御座いません。明日の朝から開いておりますし」
女「本日はゆっくりと、疲れをお取り下さい」
魔法使い「……北の方へ行く船の時間って、解ります?」
女「お調べしておきます、申し訳ありません……勇者様」
勇者「え、いや……大丈夫です。明日、自分で見に行きますし」
魔法使い「…… ……」
戦士「どした?」
魔法使い「いえ……何でも無いわ」
女「では、此方へどうぞ。お部屋へご案内致します」

……
………
…………

ジジィ「おい、小娘」コンコン
娘「…… ……」
ジジィ「入るぞ」カチャ
娘「…… ……」
ジジィ「明かりもつけないで何やってんだ」フゥ
娘「……こっち、来んな」
ジジィ「泣いてんのか」
娘「…… ……」
ジジィ「……そりゃ、な。気持ちは解るが、な」
ジジィ「しかし、船…… ……ッ」ボスッ
娘「煩ェ!放っておけ!」
ジジィ「痛ェ……年よりに何するかなこの糞ガキが……ッ」
娘「……クッションにしてやったろ。優しいと思いやがれ」
ジジィ「……母親そっくりだな、お前は」ハァ
娘「…… ……は?」
ジジィ「お前の母親もな、何かあるとすゥぐに物投げたりして来やがった」
ジジィ「……そっくりだよ。すぐに癇癪起こしやがって」
娘「…… ……放っておいてくれよ!明日には…… ……ちゃんと、行くよ!」
ジジィ「そうしてやりたいのは山々だがな」

ジジィ「頭が居ねぇってのは結構重要なんだ、娘」
娘「頭……?」
ジジィ「船に『船長』が居ないとどうなる?」
娘「……!」
ジジィ「……あいつの娘はお前だ。酷なのは解ってるが」
ジジィ「指揮を取れる……舵を握るのはお前しかいないだろうが」
娘「お前がやれば良いだろう、ジジィ!アタシは、航海術なんか知らないよ!」
娘「親父は……何も教えてくれなかった!なんにも!」
娘「……お前が船長になる時、俺が引退する時にもう一回聞け、だとか……ッ」
娘「何時も、そんな事ばっかり……!!」
ジジィ「…… ……」
娘「そんで、あっさり人魚なんかに魅了されて、食われやがって……!」
娘「アタシが、変わりなんて出来る訳ネェだろ!」
ジジィ「……それでも、お前しか居ない。お前は船長の娘、なんだ」
娘「…… ……血、だけで……!」
ジジィ「じゃあ、船を下りるか?」
娘「え……」
ジジィ「船頭が居ない船に意味なんかネェだろう」
娘「…… ……」
ジジィ「船自体は売っちまえば良い。海賊共も別の仕事を探すだろうさ」
ジジィ「それで、良いのか」
娘「……ッ」
ジジィ「人魚の生息海域は出た。行き先が決まってないからな」
ジジィ「比較的穏やかなこの辺でウロウロしてりゃ、差し迫っての危険もないだろう」
ジジィ「それも2.3日だ。それまでに決めろ」
ジジィ「……やっと隠居出来るか。やれやれ」ハァ
娘「…… ……」
ジジィ「邪魔したな」カチャ
娘「あ……ま、待て!」
ジジィ「…… ……」
娘「…… ……」
ジジィ「船長だけじゃネェ。お前の母親も海賊だったんだ」
ジジィ「すぐに答え出せとは、言わん……ゆっくり考えるんだな」

娘「待てって!」
ジジィ「……早う言え」
娘「……母さんの話を、聞かせてくれ」
ジジィ「何度も話してやっただろうが」
娘「アンタと一緒にこの船に、宝の地図持って海賊にしてくれ、って」
娘「来たんだ、ってだけじゃネェか!」
ジジィ「他に……何が聞きたいんだよ」
娘「…… ……何で、親父だったんだ」
ジジィ「…… ……」
娘「……あんな、あんな糞親父……!」
ジジィ「母親が好いた相手、だ」
娘「…… ……」
ジジィ「……偶には昔話も悪く無い。が、座らせてくれるとありがたいがな」
娘「適当にすりゃ良いだろ……」
ジジィ「小さい頃はあんなに可愛かったのになぁ……よっこいしょ」
娘「……煩ェよ」
ジジィ「何で、か……こっちが聞きてェよ」ハァ
娘「え……」
ジジィ「ああ、勘違いすんなよ。別に惚れてたとかじゃネェ」
娘「……お前さ、なんで何時も、あんなしゃべり方すんだよ」
ジジィ「何がじゃ」
娘「それだよ! ……確かに、頭真っ白だし、顔も老けてるけど」
ジジィ「ハッキリ言うな……お前は……」
娘「親父の方が歳、上なんだろう?ジジィなんて呼ばれる年齢じゃねぇだろうに」
ジジィ「良いんだよ……俺は早く歳を取りたかったんだ」
ジジィ「それにこの船の奴らは、船長含めて皆人使いが荒いからな」
娘「母さんと……なんか関係あるのか」
ジジィ「……どうだかな」
娘「ハッキリ言えよ!」
ジジィ「……女海賊が死んだ時な?」
娘「あ、ああ」
ジジィ「海賊は、海の上で生きる。だから、死んだら土じゃ無く海に帰すんだと」
ジジィ「……一杯の花と一緒にな。水葬にしたんだ」
娘「……」
ジジィ「俺も、これが良いと思った。あいつは若い……否、幼い頃からの仲間だ」
ジジィ「男だ女だ、なんて考えたことは多分、ネェ」

娘「……多分?」
ジジィ「もう忘れた。血迷った事はあったかもな」
ジジィ「……綺麗な女だった。お前にそっくりだ」
ジジィ「さっきも言ったが、乱暴な所もな」クック
娘「……悪かったな!」
ジジィ「早く歳を取れば、早くあいつと同じ……水葬にして貰える」
ジジィ「早く、あいつの所へ行ける……ってな」
ジジィ「……『願えば叶う』かと思ったが、ただの人間にゃ、口調を変える位しか無理だな」
娘「死にたいのか」
ジジィ「そりゃ違うナァ……死にたい訳じゃネェよ」
ジジィ「自分で自分の命絶つ根性もネェしな」
ジジィ「……お前も居たからな」
娘「アタシ?」
ジジィ「女海賊の忘れ形見、さ……あいつは」
ジジィ「お前を抱く事もできず、死んじまった」
ジジィ「覚えて無いんだろうが、可愛かったんだぜ……『まほーつかい!』って」
ジジィ「でっかい声で叫んでな。俺の後追い回して……」
娘「や、やめろよ、恥ずかしい……」
ジジィ「聞かせろっつったのはお前だろうが、小娘」
娘「アタシが言ったのは、なんで親父だったか、だ!」
娘「お前の懺悔を聞きたい訳じゃねぇよ、糞ジジィ!」
ジジィ「懺悔……か、成る程」ハハッ
ジジィ「……何で、ってな。さっき言ったろ。俺が聞きテェよ」
娘「…… ……」
ジジィ「『あのでかい腹がセクシーだ』なんて言ってたな」
ジジィ「……男の好みは女海賊に似ないでくれよ」ハァ
娘「……阿呆か」
ジジィ「でもな。いい男だったぜ?船長は」
娘「…… ……あいつは。親父は……アタシが、大きくなってから、だけど」
娘「アタシの目を見て話さなくなった。アタシの……顔も見なくなった」
ジジィ「……しゃーねぇ、とは言わネェよ。親だからなぁ」
ジジィ「だけど……お前さん、本当にそっくりなんだよ」

娘「……母さん」
ジジィ「…… ……」
娘「最後……人魚に魅了されて、さ」
ジジィ「…… ……」
娘「母さんを、見たのかな」
ジジィ「…… ……」
娘「……幻でも、逢えて嬉しかったのかな」
ジジィ「…… ……」
娘「……なぁ」
ジジィ「ん?」
娘「……お前も、幻見るなら、母さんが良いのか」
ジジィ「人魚の魅了の魔詩ってのは」
ジジィ「……自分でも気がつかない様な、心の奥底の欲望の幻だって言うからな」
娘「心の……奥底」
ジジィ「ああ。誰が出てくんだろうな。試してみるのは御免だがな」
娘「……そうか」
ジジィ(船長は…… ……誰が見えた、んだか)
ジジィ(もう誰にも、わからねぇな)
娘「おい」
ジジィ「あ?」
娘「……海賊を集めてくれ。北の街に向かおう」
ジジィ「……大丈夫なのか」
娘「アタシにしか出来ないんだろう。やるだけやってみるさ」
ジジィ「……航海術は海賊に聞け。戦闘は問題無いだろうし」
娘「お前も手伝え……手伝ってくれよ、ジジィ」
ジジィ「……親子揃ってこき使うのかよ」
娘「さっさと歳取りたいんだろうが。働き倒せよ」クックック
ジジィ「お優しいこった」ハァ
娘「お前が何時か死んだら……きっちり、敬意払って水葬とやらにしてやる」
娘「感謝しろよな」
ジジィ「……やれやれ。ほれ、行くぞ」スタスタ
娘「ああ……」
娘(親父、母さんと……喧嘩すんなよ。仲良く……やれよな)スタスタ

海賊「あ!娘さん……ジジィ」
ジジィ「おう。皆集めろ……北の街へ行くそうじゃ」
娘「普通に喋れって」
ジジィ「……良いんじゃよ」
娘「板についてきたあたりで死ぬんじゃネェぞ……おう、お前ら!」
娘「北の街へ行くぞ! ……燃料の補給を済ませて」
娘「えーっと……鍛冶師の街、だったか?」
海賊「目的地ですか?船長はそう言ってましたけど……」
ジジィ「目的はお前が決めるんだよ、娘」
娘「え……いや、でも……」
ジジィ「船長が何をしようとしてたのかもわからんのだろうが」
娘「……」
ジジィ「真似は必要だろうが、模倣ばかりでは意味も無い」
娘「……補給は必要か?」
海賊「そうですね、最果てまでは長かったですし」
海賊「……依頼人に挨拶がてら、でも良いんじゃないです?」
娘「挨拶……」
ジジィ「まあ、何時までも船長の代替わりを隠しておく訳にも行かんしな」
娘「…… ……ちょっと待て」ブツブツ
海賊「……船長が居なくなって、離れていく人も居るだろうしな」
ジジィ「まあ……否定は出来んな」
娘「やかましい!船長はアタシだ! ……良いか、良く聞け!」
娘「北の街で補給を済ませて、顧客に挨拶に行く」
娘「良い機会だ。世界を回る……これと言ってやる事もネェ!」
ジジィ「……フフン」ニヤニヤ
娘「親父は死んだ……今日から、アタシが船長だ!」
娘「文句のある奴は居るか!?」

……シーン

娘「……」ホッ
ジジィ「文句は無いがな。まだまだひよっこ、小娘だ」
ジジィ「……儂も含め、皆でしごいて育ててやろう」

アイアイサー!

ジジィ「ほれ……さっさと行け、船長。操舵術は基本だろ」

船長「あ、ああ……頼む、海賊。アタシに……色々教えてくれ」
海賊「勿論です、船長! ……ありがとうございます」
船長「……こちらこそ、な」
船長「良し!出発だ!」

アイアイサー!

……
………
…………

神父「すみません、女将さん……何から何まで」
女将「とんでもない! ……しかし綺麗な子だね、この子」
女将「その……お母さん……娘さん、は?」
神父「亡骸は、私の住むあの小屋のある丘に……埋めました」
神父「産んで……どうにか、あの場所まで来た、のでしょうね」
女将「可哀想にねぇ……どんな事情があったのかわかんないけど」
女将「こんな可愛い子、遺してねぇ……」
神父(女将さんに助けて貰って、感謝はしている。けれど……)
神父(あの娘さんが……エルフであろう事は、伏せておいた方が良いだろう)
神父(それに……もし、この子がエルフならば)
神父(……何時までも、街に連れて来て、助けて貰う訳にも……)
女将「何か困ったことがあれば、何時でも言うんだよ、神父さん」
女将「アンタが此処に来てから、もう結構経ったんだ」
女将「村の皆も、協力してくれる筈だから、ね?」
神父「ええ……ありがとうございます」
神父「あの小屋を頂けたて良かったです……教会の仕事のある時以外は」
神父「あそこで、育てていけますから」
女将「まあ、空気も良いし……子供には良いね」
神父「はい……」
神父(神父様……これも、神の意志なのでしょうか)
神父(立派に……この子を、育てろ、と……)
神父(これも神の……世界の、思し召し……なのでしょうか)
女将「これ、必要な物まとめておいたからね」
神父「ありがとうございます」
神父「では、そろそろ戻ります……また、何かありましたら……」
女将「ああ。何でも遠慮無く、頼っておくれ」
神父「はい……ありがとうございます」

女将「よく寝てるよ……はい、あ、手は此処ね……首、支えて」
神父「は、はい……」
女将「……頑張るんだよ、神父さん」
神父「ありがとうございます……では、失礼致しますね」スタスタ

カチャ、パタン

神父(山へ入って、少し……奥に歩いた、川沿い)
神父(……この子が育ったとして、子供の足では遠すぎる)
神父(この子が、エルフであっても……やはり)
神父(あの小屋で、何でも出来る様にしておかないと……)
神父(あ、そうだ、名前……考えてやらないといけないな)
神父(……エルフであれば、回復等を教えても意味は無いんだろうな)
神父(良く、寝ている……可愛い。ゆっくり、考えよう)カチャ
神父「……エルフ、か」フゥ
神父「あ……」
神父(そういえば……)ガサガサ
神父(……! やはり……よく似ている。否、そっくりだ……!)パラ
神父(港街の教会から、持ってきてしまった、エルフのお姫様のお話)
神父(……あの、娘さんも……新緑の髪に、透き通る様な蒼の瞳をしていた)
神父(エルフは、人とは思えない程に美しいと言う)
神父「……貴女も、あの娘の様に、この……絵の様に」
神父「美しく……健やかに成長して下さい、ね」ナデ
神父(目に触れない様に……教会の方にもって行った方が、良いかもしれません、ね)

幼女起きたので離脱ー
また来れたら後ほどー

おはよー!
幼女おきるまでー

……
………
…………

側近「若ー!どこいったんだ!」タタタ
鴉「何やってんだい、側近」
側近「あ、鴉! ……いや、かくれんぼをね」
鴉「え?若なら食堂でおやつ食べてるけど」
側近「ええええええええええええ!?」
鴉「……」プ
側近「笑うなよ……ああ、もう……これだからチビちゃんは」ハァ
鴉「ちっちゃい子の集中力舐めちゃ駄目だよ。ただでさえ」
鴉「構われるのに慣れてる子は、次から次へ、何だから」ハハ
側近「俺も何か飲みに行こ……走り回って疲れた」
鴉「そろそろ魔王様と魔導将軍も戻るだろう。皆でお茶にしようか」
側近「ん?あの二人何やってんだ?」
鴉「…… ……」
側近「鴉?」
鴉「将軍職の交代をね、申し出たのさ」
側近「……え!?」
鴉「魔導将軍は、先代の時から既に将軍として頑張ってたからねぇ」
側近「……でも、あいつは……」
鴉「先代の様に好戦的では無かった?」
側近「ああ……そう聞いてる、し」
側近「生き残ってる、て事は……そういう事だろ?」
側近「魔王様は……先代の参謀、全員やっちまったって……」
鴉「……魔導将軍はそりゃあもう、強かった、んだよ」
側近「……」
鴉「よく言えば従順。悪く言えば自分が無い」
側近「おい……」
鴉「見方が変われば評価は変わるモンだろう」
鴉「先代の時に、随分人間を殺してる。それが仕事であり」
鴉「生き残る術、だったんだよ」
側近「…… ……」
鴉「聞いた話、だからね……何処まで確かかはわかんないけど」
鴉「魔王様に、本当はどうしたいんだと聞かれて」
鴉「守る為の力なら存分に奮うと答えたんだそうだよ」
側近「……奪う為の使う力は、本当は使いたく無かった、て事か」
鴉「そう。だけど魔族として産まれた以上、『魔王』に従うのは当然だ、ともね」

側近「魔導将軍の部隊は、好戦的な奴らが多いんだろう?」
鴉「ああ。今は押さえるのに大変だって、何時も言ってるだろう」
鴉「魔王様の代になってから、こちらから人間への進攻なんて一度も無い」
鴉「表だって不満が出ないのは、魔王様の殺戮ショーを知ってるからさ」
側近「……」
鴉「最も、先代を殺したのが魔王様だって話が浸透しちまえば」
鴉「不満と思ってるだけ、の連中も、そんな気無くしちまうかもしれないけどね」
側近「なのに……交代、するのか」
鴉「『魔導将軍』って名前を譲るだけに等しい状態だよ」
鴉「もし何かあっても、もう戦場に立つのが厭なんだろう」
鴉「……しんどい、ってのが正解かも知れないけどね」
側近「え?」
鴉「生きてる年数、ざっと考えてごらんよ。魔族は不死じゃ無いんだから」
側近「…… ……そっか」
側近「お前は?」
鴉「え?」
側近「お前だって、先代の頃から生きてるんだろ」
鴉「アタシは、魔王様が前の部隊長をぶち殺しちまったから」
側近「今の地位に繰り上がっただけさ」
側近「そうなの?」
鴉「正確には部隊の偉いさん達大勢を、だね」
鴉「うちも魔導将軍とこに負けず劣らずだったからねぇ……」
鴉「残ったのは下っ端ばっか。その中から、ちょっとばかし腕の立つ奴集めて」
鴉「性格やらなにやら加味して、選ばれたのがアタシだっただけさ」
側近「まあ……姐御肌、って奴だよな、お前は……」
鴉「魔王様は人間の支配なんて望んでない。それを知ってたから」
鴉「引き受けたのさ……アタシだって、それ程戦いが好きな訳じゃ無い」
鴉「魔導将軍と一緒さ……魔王様を、若を守る為なら、この命を投げ出すのも厭わないけど」
鴉「戦いの中で死んでこそ! ……なんて、全く思えないもんね」

側近「……」
鴉「ああ、悪い。喉渇いてたんだろう。お茶入れてやるよ」
鴉「行こうか」スタスタ
側近「あ、ああ……」
側近(守る為の力、か……俺は『側近』だ)
側近(あんなに、憎んで、恐怖した『魔王』を……守る為に)
側近(俺は、俺の力、を……使えるのか?)スタスタ

カチャ

鴉「おっと……!」
若「そっき……!あ、からす!」
鴉「おや、おやつ食べてたんじゃ無いのかい?」
若「そっきんわすれてきた!」
側近「忘れた、て……物みたいにお前は……」
若「そっきん!」タタタ……ダキ!
側近「はいはい」ナデナデ
若「そっきんみーつけた!つかまえた!」
側近「え!?お前が逃げてる方だったよね!?」
鴉「あははは! ……本当、何時も思うけど、一番なつかれてるよね」
側近「まあ……そう、だなぁ。何でかね」
魔導将軍「嬉しそうな顔して、何が『何でかね』だか」ハハ
側近「魔導将軍、戻ってたのか……魔王様は?」
魔王「此処に居るぞ」
若「ぱぱ!こんどはぱぱとあそぶ!」タタタ
側近「……何度聞いても気持ち悪い」
魔導将軍「……それは俺も否定はせん」
魔王「何だ、二人して……」
若「ぱぱ!にわでぼーるぽん、しよう!」
鴉「……」クスクス
魔王「おお、良いな。ボールぽん、な」
若「はやく!」タタタ
魔王「はいはい……お前達、ニヤニヤしすぎだ」カタン。スタスタ
側近「……ニヤニヤすんな、て方が無理があるだろうが」
鴉「妬いてんじゃ無いよ」
側近「違うわああああああああああ!」

魔導将軍「側近、煩い」
鴉「……どうだったんだい、魔導将軍。ほら、側近、コーヒー」
側近「ああ、サンキュ」
魔導将軍「結論から言うと、まだ駄目、だ」
側近「まだ?」
魔導将軍「……若と交代する頃になったら許可して頂けるそうだ」
鴉「随分先だね……」
魔導将軍「……どうだかな」
側近「え?」
魔導将軍「否、魔王様の言い分を聞いて尤もだと思ったんだ」
魔導将軍「あまり……若の姿を他に晒したく無いとな」
鴉「前から不思議に思ってたんだけど……どうして」
鴉「『魔王の世代交代』は他の魔族には内緒なんだい?」
魔導将軍「……別に、遙か昔からそうだった訳では無いだろうが」
側近「そう、なの!?」
魔導将軍「先代と先々代の交代の時は、先代が自ら吹聴したのだそうだ」
鴉「……それも初耳だよ」
魔導将軍「私は先代から直接聞いたから知っているだけだ」
魔導将軍「先代は……まあ、酷く好戦的な上に、野心も強く、冷酷な方でもあった」
魔導将軍「力を誇示する事に拘る方でも、な」
側近「まあ、そうだよな。で無いと、俺らの島を沈めようと思ったりしないだろ」
鴉「……そう、だったね」
側近「そんな顔すんなって……もう、終わったことだ」
魔導将軍「過激な魔族達を刺激する結果にもなったんだ。先代のその性格と」
魔導将軍「先々代を自ら殺したと、周知される事はな」
側近「まあ、そりゃそうだよな。好戦的な奴らは、そんな魔王様について行けば」
側近「存分に力を振るう事ができる。そうでない奴らは」
側近「従わないと、自らの王に殺される可能性だってある」
魔導将軍「そういう事だ」
鴉「……でも、世代交代自体は、ずっとそうやって……為されてきた、んだろう」
魔導将軍「だろうと思う。が、先代はそこまでは言及しなかった」
魔導将軍「故に自分は……と、言うのがあったのかもしれんがな」

鴉「厄介な人だったんだねぇ……いや、知ってたけどさ」
魔導将軍「魔王様はどちらかと言えば穏やかな方だ」
鴉「……先代に比べりゃ誰だって穏やかに見えるよ」
側近「先代の参謀ほぼ全員ぶち殺したって奴が穏やかってか……」
魔導将軍「それも、先代のその話を知っているから、と言うのもあるだろう」
魔導将軍「……まあ、お前達の言う様に穏やかと言ったって」
魔導将軍「あの方も魔には違い無く、ましてや王であられる」
魔導将軍「……何れ、自らの子に命を屠られる存在でも、あるんだ」
鴉「…… ……」
側近「……極端な話、だけどさ」
魔導将軍「ん?」
側近「自ら命、絶ったら駄目なのか?」
魔導将軍「意味が無い。奪ってこそ継承される力、なのだそうだ」
鴉「そういう物、と納得せざるを得ない、なんて」
鴉「……因果な法則だ」ハァ
魔導将軍「先代は力を譲ろうとはされなかった」
魔導将軍「勿論、何れ……と、解っては居たんだろうが」
魔導将軍「私に、魔王様を監禁しておけと迄仰っていたからな」
側近「え!?」
鴉「……執着も極まると……大したモンだ」
魔導将軍「…… ……魔王様は、それで構わないと仰ってな」
魔導将軍「食事を持って行った隙に、眠らされたんだ」
鴉「魔導将軍が!?」
魔導将軍「甘んじて受けたさ。だが……流石次期魔王様。その魔力は」
魔導将軍「私ではどちらにせよ、抵抗しきれなかっただろう」
鴉「……それで?」
魔導将軍「轟音で目が覚めた。今思えば……側近の居た島へ攻撃を加えた」
魔導将軍「衝撃だったのだろう。慌て玉座の間へ駆けつけると」
魔導将軍「……魔王様が、笑っていらっしゃった」
鴉「笑って……え?」
魔導将軍「先代の首を持って、血塗れでな」
魔導将軍「『これで平和になる。もう、心配しなくて良い』と」

側近「……軽くホラーだな」
鴉「……」
魔導将軍「それから、参謀共を片付けてくる、とな」
魔導将軍「戻られてすぐ……それからは、鴉も知っているだろう」
鴉「ああ……残党片付ける為に駆り出されたね」
魔導将軍「そんな時に、お前達が来たんだそうだ。側近」
側近「それで誰も居なかった訳ね……」
魔導将軍「先代を知る者は殆ど居なくなった。世代交代の真実を知る者は」
魔導将軍「あえてそれを口にはしないだろう者しか残って居ない」
側近「だが、訝しむ奴は居るだろう?もしくは、噂的な話を耳にした者」
魔導将軍「噂に過ぎん。魔王様の代になり、若の代に変わる迄」
魔導将軍「どれほどの時間が過ぎると思うのだ」
魔導将軍「……忘却の彼方へと過ぎるとは言わんが」
鴉「魔王様が言う様に、人との共存を実現できる可能性があるなら」
鴉「それこそ、そんな血生臭い事は、知らせちゃいけない」
側近「…… ……もし、その魔王様の理想が実現したとして」
側近「お前達は、良いのか?」
鴉「魔王様は『魔王』だ。『魔を統べる王』」
鴉「……アタシ達は、従うだけさ。魔王様、だからね」
魔導将軍「そういう事だ。お前は……違うのか、側近」
側近「え……俺、は……」
側近(……魔王様は、俺に……橋渡し役になれ、と言ってた)
側近(時期じゃ無いと断った、が……状況が整えば……)
側近「……応、と言うだろうな」
鴉「何故?」
側近「魔王様……だからなぁ」
魔導将軍「……そうか」
側近「何でそこで嬉しそうな顔するかな」
魔導将軍「……嬉しい、と思うからだろうな」
側近「気持ち悪ィ…… ……けど」
鴉「ん?」
側近「……否。悪い気はしネェな、とな」

鴉「若、幾つになったっけ?」
側近「何だ急に……4歳、か?」
魔導将軍「……早くて、500年程か」
側近「……」
鴉「その頃には、アタシも魔導将軍も、ジジィババァになってるかもねぇ」
側近「え?」
鴉「魔だって不死じゃ無いって言ったろ?」
鴉「個体差はある。けど……若い姿の侭死んで行く奴も居れば」
鴉「寿命が近づいたら、急激に老けていく奴もいる」
鴉「だから、ね」
側近「……そうか」
魔導将軍「若が『魔王』になる頃には……私もやっと、お役御免か」
鴉「そんなにやめたいのかい」
魔導将軍「大勢殺してきた私が言うのも何だが、な……」
魔導将軍「……もう、誰かが死ぬのを見るのは厭だな」
側近「…… ……后様、か」
鴉「…… ……」
魔導将軍「まあ、若の成長を傍で見れるのは嬉しい」
側近「可愛いもんだよな、子供って」
鴉「アンタも相手見つけて、子供作れば良いじゃないか」
側近「は!?」
魔導将軍「ああ、そうだな。お前もまだ若いんだろう」
側近「いやいやいやいや! お、お前らこそ!」
鴉「魔王様以上にいい男が居たらねぇ」
魔導将軍「私は……もう良い。隠居を待つ身に、伴侶などいらん」
側近「か、鴉はともかく!」
鴉「ちょっと、どういう意味だい」
側近「魔王様以上って、どう考えても無理だろうが……」
魔導将軍「私とて同じだ。どれだけ生きていると思ってる」
魔導将軍「人間の時間で換算すれば、勿論まだまだ生きれる、となるだろうが」
魔導将軍「気の問題だ。さっきも言っただろう。血に染めた両手で」
魔導将軍「愛しい者を抱く資格は無い」
側近「魔導将軍……」

鴉「気にすること無いと思うけどね」
側近「…… ……」
魔導将軍「気の問題だ、と言っただろう。無い、んだよ」
魔導将軍「若を愛でている方が随分と楽しい」
側近「愛でる、て……」
鴉「ま、解らなく無いけどね。それも愛、だ」
側近「…… ……」
側近(愛、ね……)
側近(魔王様と后様……あんな『愛』を見ちまえば)
側近(……もう、お腹いっぱい、だよな)
鴉「なんなら、うちの部隊の子紹介するよ?」ニヤニヤ
魔導将軍「ふむ。うちにも良いのが居るぞ」ニヤニヤ
側近「え、えええ遠慮しとく!お前らに一生そんな顔され続けるのは御免だ!」

……
………
…………

魔法使い「広いお風呂……よね」ハァ
僧侶「気持ち良いねぇ」
魔法使い「……気持ち良いのは、良いんだけど」
僧侶「何が気になるの」
魔法使い「アンタ、気にならないの?」
僧侶「?」
魔法使い「……何で、扉が一杯あるのよ」
僧侶「物置、とか」
魔法使い「5個も6個も物置いらないでしょ!」
魔法使い「て、言うか……お風呂に物置、て何よ……何入れる、のよ」
僧侶「んー……道具?」
魔法使い「は!?な、なななな、なんの……ッ」
僧侶「子供用の、あひるさんとか……あ、玩具、か」
魔法使い「…… ……」

僧侶「どうしたの?」
魔法使い「……いえ、別に……」
僧侶「暖まったし、そろそろ出よっか」
僧侶「勇者と戦士も入りたいだろうし」
魔法使い「そう、ね……」

カチャ

戦士「うわ、広ッ」
勇者「まじか……おお、すげ……ん?」
魔法使い「きゃあああああああああああああああああ!?」
僧侶「え? ……きゃあ!」

バッシャアアアアアアン!
コーン……

勇者「わ、ぶ……ッ」ゲホ、ゲホ……ッ
戦士「痛ェッ ……うお……ッ」ゴホッ
魔法使い「そ、僧侶、行くわよ!!」タタタ
僧侶「え、あ ……ッ ちょ、滑る……ッ」タタタ

バタン!

勇者「……こ、混浴、だった、の!?」
戦士「せ、洗面器投げやがった……お湯まで……」ゲホ、ゲホ
勇者「……まあ、これは……俺らが悪い」
戦士「いや、知らなかったよ!?」
勇者「それでも、だよ……後で謝ろう、な?」
戦士「もう入って良いですよ、と言いやがって……あいつ……!」
勇者「諦めろ……何言ったって言い訳だって」
戦士「…… ……殴られないかな」
勇者「甘んじて受けろ」
戦士「……」ハァ
勇者「しかしまぁ、広いなぁ……」

戦士「…… ……」ブクブク
勇者「潜んなよ……」バシャ
戦士「お湯かけられるわ、洗面器なげられるわ……見えないわ……」
勇者「おい……」
戦士「いや、男の子でしょ!?勇者も!?」
勇者「だからって、お前なぁ……」
戦士「……見たくネェの、僧侶の裸」
勇者「!?」
戦士「うお、真っ赤」ケラケラ
勇者「ふ、風呂入ってんだから当たり前だろ!」
戦士「へいへい……ほら、そろそろ、出ようぜ」
勇者「…… ……先に行け」
戦士「ん? ……ああ。想像しちゃったか」ニヤ
戦士「そりゃ出られないよなぁ」ニヤニヤ
勇者「な、何考えてんだよ!違うわ!」
戦士「はいはい。可愛いねぇ勇者ちゃんは……んじゃ、お先」ザバ
勇者「……後でぶん殴ってやる……!」

カチャ、パタン

勇者「…… ……」フゥ
勇者(しかし……いくら、領主の家? ……だからって)
勇者(凄い規模だよな。俺と戦士の部屋も、二間続きで)
勇者(……この風呂も……しかも、混浴なんて……)ハァ

カチャ

勇者「戦士?何だよ、もうすぐ……」
女「失礼致します」
勇者「!? ……え、な……え!?」
女「お背中、流させて頂きます」
勇者「え、いやいやいやいや!結構です!?」
女「ご遠慮なさらず、どうか。お手伝いさせて下さいませ」
勇者「……あ、あの。すみません。そこまでして頂く訳には……!」
女「…… ……」
勇者「…… ……聞いて、ますか」
女「はい。勿論です」

勇者「えーっと……出て貰えると嬉しいんですけど」
女「領主様のご命令ですので」
勇者「……勘弁して下さい」
女「私が怒られてしまいますので」
勇者「……じゃあ、仕方無いからお願いします」
勇者「とは、言わないから!」
女「……駄目、ですか」
勇者「駄目です!」
女「では、お上がりになるまで、お側に居させて下さいませ、せめて」
勇者「……それも、却下」
女「私ではご不満ですか?」
勇者「な、なななな、何がですか!」
女「言葉の通りの意味ですが」
勇者「……何で、ですか。俺が勇者だから?」
女「……」
勇者(どうすりゃ良いんだこういう場合は……!)
女「心に決めた方でもいらっしゃるのですか」
勇者「……そうです、と言ったら引いてくれるんですか」
女「貴方は、魔王を倒す旅の途中です。世界を救う、勇者様です」
勇者「……」
女「ですから、その身を拘束する事は叶わないでしょう」
勇者「そう、ですね」ホッ
女「ですので、此処に滞在する間だけで充分です」
女「どうぞ、お好きになさって下さいませ」
勇者「いやいやいやいや!そんな気ありませんから!」
勇者「……矛盾、してますよ。俺に相手がいれば、って……」
女「ですから、この街に居る間だけで……」
勇者(話ても無駄……っぽい。仕方無い……)ハァ
勇者(こういう時は…… ……)ザバ
女「……勇者様」
勇者(逃げるが勝ち!)ダダダダッ
女「あ……ッ」

ガチャ、バタン!

女「…… ……駄目、か」チッ

幼女起きたー
お出かけするのでまた明日、かなー
ではー!

面接で出るので、電車でかけたら後ほど!

……
………
…………

カチャ

戦士「おう、遅かったな」
勇者「……ああ」ハァ
戦士「……そんな興奮してたの、お前」
勇者「つっこむ気にもならん」
戦士「何だよ元気ネェなぁ」
勇者「……僧侶と魔法使いは、部屋か?」
戦士「じゃ、ネェの……何だよ、態々怒られに行くのかよ……」
勇者「無視してても明日倍になって帰って来るだけだろ……話したい事もあるんだ」
戦士「話したい事?」
勇者「ああ、さっきな……」

コンコン

勇者「!」ビク!
戦士「??」
勇者「……戦士、出て」
戦士「???……はい?」
魔法使い「私よ」
勇者「……入れよ」ホッ
戦士「何なんだよ、一体……」カチャ
僧侶「お邪魔して良い?」
勇者「ああ……さっきは、その……悪かったな」
魔法使い「……態とじゃ無いんでしょ。仕方ないわ。あんな造りのお風呂が悪い」
僧侶「……見た?」
戦士「残念ながら、全く」
勇者「こら、戦士……で、どうしたんだ?」
魔法使い「……」チラ
僧侶「……」チラ
戦士「何だよ、顔見合わせて」

僧侶「……さっき、領主の息子だとか言う人が部屋に来てね」
勇者「……?」
僧侶「まあ……えっと」
魔法使い「プロポーズされたのよ、僧侶」
戦士「…… ……はい?」
勇者「プロポーズ……い、いきなり!?」
魔法使い「そう。『勇者様との旅から戻れば、是非私と結婚して頂きたい』ですって」
戦士「は……はぁ」
勇者「え……で、ど、どうしたの!?」
僧侶「どうした、って……断ったに決まってるじゃない!?」
勇者「…… ……」
戦士「お、おい……勇者、どうした?」
勇者「……俺もさっきな、風呂にいる時、女さんが来たんだよ」
魔法使い「え……入って来たの!?」
勇者「ああ。お背中流させて下さい、てさ」
戦士「俺が出てから!?」
魔法使い「悔しそうな顔するんじゃないわよ、馬鹿」
戦士「……いや、だって、ナァ」
魔法使い「燃やされたい?」
戦士「ごめんなさい」
僧侶「漫才は後にして……で、勇者はどうしたの」
勇者「何言っても聞いてくれないから逃げ出したよ! ……話に行こうとしてたんだ」
勇者「ついでに謝らないとと思ってたからな」
戦士「それで真っ赤だった訳な」
勇者「……この街にいる間だけで良い、どうぞお好きに、なんて言われたんだぞ」
勇者「今日初めて会った人に……」
魔法使い「僧侶の話はもっとおかしいわよ。一目惚れしました、だもの」
僧侶「薔薇の花束準備して訪ねて来て、ね」
僧侶「……それが初対面なのに、どこで見たのかな」
戦士「なんなんだ、一体……」
勇者「……『優れた加護』か」
僧侶「だろうね」
戦士「ん、ん??」
魔法使い「だから、女さんにしても領主の息子にしても」
魔法使い「『血』が欲しいだけなのよ」
僧侶「気持ち悪かったよ……『貴女と私の子なら、きっと素晴らしい子になる』て」
僧侶「気持ち悪い顔で言うんだもん!」
戦士「……何、ブサイクなの?」
魔法使い「領主を若返らせたら息子になるわね」
戦士「あー……」ハァ
僧侶「表情の話!」
僧侶「……断られる可能性なんて、考えて無い、て顔してたの!」

ごめん、また明日ー!

勇者「俺の『勇者』の血、僧侶の『優れた加護』の血、ね」
魔法使い「……でも、ありえないのよ」
勇者「え?」
魔法使い「……優れた加護を持つ人が親であったって」
魔法使い「確実に、子供に引き継がれる訳じゃ無いし」
魔法使い「逆も然り、よ。親に無くても、持って生まれてくる子は、居る」
僧侶「……そう、絶対、じゃない」
僧侶「じゃあさ、優れた加護を持たずに産まれてきた子、は?」
魔法使い「……追放される?」
僧侶「良ければ、って……つくんじゃ無いかな、それに」
勇者「!」
戦士「悪ければ……なんだ、よ」
僧侶「……わかんないよ。けど……」
勇者「考えたくないな」
魔法使い「……そんなに、良い物かしら。優れた加護、なんて」
魔法使い「戦争状態にある訳じゃ無い……勿論、魔王の支配から守る為、てのは」
魔法使い「必要だろうけど、さ……でも……」
戦士「……一応、魔王の居城まで乗り込もうって俺らでも」
戦士「誰も、持ってないモンだもんな」
勇者「『特別』でありたい、んだろう」
勇者「それこそ……そんな良い物じゃ無い」
僧侶「とにかく」
戦士「ん?」
僧侶「今日、こっちで寝ても良い?」
勇者「え!?」
魔法使い「夜中に、部屋に忍んでこられたら怖いもの!」
魔法使い「私だけで、もし、僧侶に何かあったら……!」
戦士「……や、でも……魔法ぶっぱなしゃ……」
魔法使い「赤い瞳をしていたの。もし本当に、あの人達の言う」
魔法使い「優れた者達、てのが、優れた加護……とイコールだったら」
魔法使い「私の魔法なんて、何の役にも立たないわ」

勇者「……良いよ、何も無かったとしても」
勇者「仲間に、怖い思いをさせるのは厭だ」
僧侶「……ありがとう、勇者」
戦士「まあ、しゃーねぇな……ベッドも二つあるし」
魔法使い「私は僧侶と一緒に寝るわよ」
勇者「……で、俺に戦士と二人で一緒のベッドで寝ろ、と?」
僧侶「あれ、駄目なの?」
戦士「…… ……」チラ
勇者「…… ……」チラ
戦士「さーいしょーは、ぐー!」
勇者「じゃーんけーん……!」
僧侶「え、ええ……私、床で……」
魔法使い「大丈夫よ、ソファあるんだし」
戦士「……ッ しゃああああああああ!」グッ
勇者「糞……布団だけ、僧侶達の部屋から持って来るか……」ハァ
僧侶「あ、あ……私も、行くよ!」
勇者「え、でも……」
戦士「行ってこい。魔法使いはちゃんと見てるし」
魔法使い「あ……そうだわ、風呂場からの扉、繋がってるのよねそういえば」
勇者「……え、そっちから行けって事?」
魔法使い「違う違う……一杯扉があったから」
魔法使い「どこに繋がってるかわかんないから……こっちの部屋でも」
魔法使い「来ようと思えば、誰でも来れる、よね」
勇者「ああ……そういう意味、か」
戦士「廊下に面してる扉の方は、鍵ついてるんだよな?」
勇者「こっち……は、ああ。ついてる」カチャカチャ
戦士「良し、んじゃ勇者と僧侶が布団取りに行ってる間に」
戦士「椅子か何かで、扉開かない様にしとこうぜ」
魔法使い「あ……そうね。それで安心」ホッ
勇者「良し、んじゃさっさと行こう」スタスタ
僧侶「うん」スタスタ

カチャ、パタン

戦士「椅子……これで良いか」ヒョイ……スタスタ、ドン
戦士「こっちも置いとくか……」ドン
魔法使い「手伝おっか?」
戦士「そんな気も無い癖に言うなっつーの」
魔法使い「力仕事は男の役目でしょ」
戦士「解ってるって……良し。これで良いだろう」
魔法使い「ねえ、戦士」
戦士「んー?」
魔法使い「……二人が戻ったら、この街、出ようって言っても良いよね」
戦士「何だよ……お前、楽しみにしてたんじゃないのか?」
魔法使い「それはそうだけど……」
戦士「……まあ、居心地悪いよな」
魔法使い「親戚が……居ると思うと、ね」
魔法使い「それもあるけど……ちょっとね」
戦士「何だよ?」
魔法使い「勇者と僧侶の血が欲しいって考える位だもの」
魔法使い「特別、にそんなに拘るなら……」
魔法使い「私とアンタの変わりに、誰か……って」
戦士「!」
戦士「……変わりに、旅について行くって言うのか!?」
魔法使い「最初から思ってたのよ。あの人達の言葉には、基本選択肢が無い」
魔法使い「勿論、勇者は断るだろうけどさ」
戦士「……言い出さないとは限らないな」
魔法使い「それに、拘束とまでは言わないけど」
魔法使い「この街に滞在してる間は、イコールチャンスのある時間、なのよ」
魔法使い「だったらさっさと、街を出ちゃう方が良いわ」
戦士「引き留められる、だろうけどな」
魔法使い「そりゃね……だからって、応とは言わないでしょ、勇者も」
戦士「まあ……そうだな。それよりさ」
魔法使い「うん?」

戦士「僧侶、どうなんだろうな」
魔法使い「僧侶……ああ」
魔法使い「領主の息子が来た時も、『私には勇者様が居ますから』って」
戦士「わーぉ」
魔法使い「そういえば引いてくれるでしょ、って言ってたけどね」
戦士「……男はともかく、女はなぁ」
魔法使い「ん?」
戦士「下世話な話だが、血が欲しい、ってさ」
戦士「男は、いいじゃん。でも……女は子供を産もうと思えば、さ」
魔法使い「ああ……まあ、そうよね。だから『魔王を倒した後』だったんでしょう」
魔法使い「『優れた加護を持つ、元勇者の仲間』なんて」
魔法使い「最高に『特別』でしょうよ」
戦士「でもありゃ、嘘なんだろ?」
魔法使い「そうね……まあ、そうじゃ無くても」
魔法使い「断るには違い無いんだけど」

カチャ

勇者「ただいま」ズルズル
僧侶「お風呂場の方、オッケー?」
戦士「ああ、無理矢理開けようとしたら、音で目が覚めるだろ」
勇者「良し……一応、安心だな」カチャカチャ
僧侶「鍵も良し、と……ハァ、疲れた」
勇者「ついでに、召使いさんに明日の船の時間を聞いてきた」
僧侶「明日の朝一と、夕方の二便があるんだって」
勇者「夕方の便で、北へ向かおう……朝、早めに起きて」
勇者「図書館に寄ってみよう」
魔法使い「……丁度、その話しようとしてた所よ」
勇者「ん?」
魔法使い「賛成……ありがとう」
勇者「長居する必要も無いだろうしな」
僧侶「そうだね」

魔法使い「……会えると良いけど」
戦士「え?」
魔法使い「女神官さんが言ってたでしょ?」
僧侶「ああ……以前港街に居たって言う人、ね」
僧侶「でも……この街も広いし」
戦士「それに、その人に優れた加護が無かったら……住んでは無いんじゃないか?」
魔法使い「ああ……そうか」
勇者「どちらにしても、言う程時間は無いんだ。乗り遅れると厄介だし」
魔法使い「そうね……」
勇者「買い物もしないといけないだろう」
魔法使い「時間は掛かるけど、四人で行動した方が良いでしょうね」
戦士「どうしてもって時は、勇者は僧侶について居てやれ」
魔法使い「じゃあ、戦士は私とね」
戦士「ああ……俺達は目をつけられる事も無いだろうから」
戦士「動きやすいだろうしな」
勇者「全く……面倒な街だ」ハァ
魔法使い「決まった事だし、早く寝ましょ。明日は早く起きないと」
戦士「ああ。もし何かあったらすぐ起こせよ。大声出したら良い」
僧侶「うん。ありがとう」
勇者「このソファも充分ふかふかだなぁ」コロン
魔法使い「ごめんね、勇者」
僧侶「……ごめん」
勇者「気にすんな……お前に何かある方が、厭だよ」
戦士(絶対真っ赤だ、あいつ)クック
勇者「笑うなよ、戦士!」ブン!
戦士「いやいや、笑っ……ッ」ボスッ
戦士「クッション投げんなよ!」ガバ!ブン!
勇者「ふん……ッ」ボンッ
勇者「お前なあああ!」ガバッ

ギャアギャア、ギャアギャア

僧侶「……止めた方が良いと思う?」
魔法使い「ほっといたら良いわよ……あんまり煩かったら」
魔法使い「燃やしてやるわ」

戦士「…… ……」
勇者「…… ……」
戦士「寝るか」
勇者「おう」
魔法使い「おやすみー」
僧侶「…… ……凄い効き目。便利」

……
………
…………

幼女におやつを作らされますorz
いったん離脱~

スコーンちゃうわwww
白玉つくってフルーツと一緒にかき氷に乗せただけ
暑いからね!

もう少しだけー

盗賊「どうしたんだ、女剣士。人払いしろなんて珍しいな」
女剣士「折り入ってお願いが……て、奴だ」
鍛冶師「何だい、改まって」
女剣士「勇者達も旅立った。次に会う時は……もう、魔王を倒した後だろう」
鍛冶師「……と、思いたい、けどね」
盗賊「まあ……知らせの無いのが良いそいつって事だと思いたいけどな」
鍛冶師「噂自体は耳に届いているんだけどね……どうしても時間差があるし」
鍛冶師「けど、それが……どうかしたのかい?」
女剣士「私も、さ。もう……言う程若く無い。勿論、まだまだ働ける」
女剣士「だからこそ、そろそろ後継者に当たりをつけて、育成に力を注ぎたいんだ」
女剣士「もし、勇者達が帰ってくれば……魔王を、倒してしまえば」
女剣士「騎士団自体、必要無くなるのかと思って、さ。相談……かな」
盗賊「ああ……成る程な。そりゃ、確かに……そうかもしれない」
盗賊「……否、そうであってくれた方が、本当は良いんだろう」
盗賊「だが……一応、ここは『王国』になっちまったからな」
鍛冶師「形だけでも、『力』を見せるのは悪く無いと思うよ、僕も」
鍛冶師「魔と人との確執が消えたとしても」
鍛冶師「……否、だからこそ……人同士の、てのが」
鍛冶師「危惧する所なんだけどね」
女剣士「……魔導の街、か」
盗賊「噂に過ぎない。まだ……な」
盗賊「魔王の……『少年』の睨みが効いている内は大丈夫だろうと思いたい」
盗賊「アタシ自身、もう……『劣等種の一人』じゃない。『一国の王』だ」
鍛冶師「弟王子に変わった時……余程の人が傍についてないと」
鍛冶師「正直、不安はあるな……あの子は、病弱と迄は行かない迄も」
鍛冶師「……強い子じゃ無い」
盗賊「頭は悪く無いと思うんだけどな」フゥ
女剣士「……少し話を戻す。その、弟王子の為にも、だ」
女剣士「……次の騎士団長に、王子を押したいんだ」
鍛冶師「……何時か、言うんじゃ無いかなと思ってたよ」
女剣士「え?」
盗賊「アタシ達が、それを言い出す訳には行かないだろ?」
盗賊「騎士としての器を確かめるのは、お前の仕事だしな」
盗賊「『王子』じゃ無く、『騎士の一人』に過ぎないとは言え」
女剣士「……実力は申し分無い。それに、やはりアンタ達二人の子だ」
女剣士「人の上に立つ……血だろうかな。そういう、人間だと思う」
盗賊「……嬉しいな。なぁ?」
鍛冶師「そりゃね」

女剣士「弟王子の事を考えても、最善だと思うんだ」
女剣士「……『騎士の一人』として扱う以上、許可を求める事は」
女剣士「必要無いのかもしれないが……一応、報告……てのが」
女剣士「『騎士団長』としての建前、さ」
盗賊「お前が選んだのなら、異存は無い」
鍛冶師「同じく」
女剣士「……ありがとう。呼んでも良いだろうか?」
盗賊「え?」
女剣士「向こうに待たせてあるんだ」
鍛冶師「……こうなる事を予測して……だよね?」
女剣士「そりゃね」クスクス
盗賊「全く、お前は……」
女剣士「ほっとしてるのは事実だよ。駄目と言われる事は無いとは思ってたけど」
女剣士「多分、扉の向こうの王子の方が、緊張で死にそうになってると思うけど」
鍛冶師「随分長くあってないな」
盗賊「騎士団に入ってから、宿舎で生活してるしな、あいつ」
女剣士「立派だよ……良い子だ。恋人もいるみたいだしな」
盗賊「へぇ!まじで?」
鍛冶師「盗賊……それは、聞かなかった事にしといてやれよ?」
盗賊「ええ……どんな子か、知りたいじゃないか」
女剣士「あ、いや……自分で言っておいてなんだけど」
女剣士「私も他の騎士から聞いただけなんだよ」
鍛冶師「尚更駄目じゃないか!」
盗賊「……つまんねぇの」
鍛冶師「こら……」

トントントン……コンコン

盗賊「ん……弟王子か。入れ!」

カチャ

弟王子「お母様、あの……あ、女剣士」
女剣士「お久しぶりで御座います、弟王子様」

弟王子「お久しぶりです……お仕事のお話の途中、でしたか」
盗賊「人払いしてあるんだ、気にするな」
弟王子「え……」
女剣士「はは、御免御免」
弟王子「何だ……そうだったんだ。珍しいね。どうしたの?」
女剣士「丁度良い、呼んで来るよ」スタスタ
弟王子「?」
盗賊「そうだな……お前も久しぶりだろう」
弟王子「え……何の話、です?」
鍛冶師「すぐ解るよ」

カチャ

女剣士「王子!王様がお呼びだ……入れ!」
弟王子「! ……兄さん!?」
王子「はッ 失礼致します!」
鍛冶師「声裏返ってるよ……」クスクス

キィ、パタン

王子「王様、お久しぶりで……え、弟王子!?」
女剣士「流石にこれは偶然さ」ニッ
鍛冶師「久しぶりだな、王子」
盗賊「元気にしてたか? ……随分、逞しい体つきになったな」
弟王子「兄さん!」タタタ……ギュ!
王子「え、え……え!?」
女剣士「『王様に申し上げたいことがある』てのは嘘では無いよ」
女剣士「ちゃんと、許可も頂いた」
王子「え……え、あ……え!?」
盗賊「人払いはしてあるから、まあ……力、抜けよ」クスクス
王子「な……な……え!?」
女剣士「落ち着けってば……」
王子「だ、騙したのか!?」

盗賊「違うってば。女剣士が『騎士団長』として」
盗賊「『王』に用事があったのは本当だ」
王子「な、何だよ、めちゃくちゃ緊張してたのに、待ってる間……!」
鍛冶師「良いことだ。僕たちは親であるには変わりないのに」
鍛冶師「『王』として扱っていてくれていると言う事だろう」
鍛冶師「……きっちり、公私を分けれているのだと思えば」
鍛冶師「父としては嬉しいよ」スタスタ……ギュ
鍛冶師「……久しぶり。王子」
王子「男二人で、抱きつかないでよ……」
王子「……うん。久しぶり、お父様」
盗賊「こら、お前らばっかりずるいぞ……おいで、王子」
王子「お母様……」ギュ
盗賊「うん ……元気そうで、何よりだ」ナデナデ
王子「いや、ちょ、それは……恥ずかしい」

幼女寝かす!
又明日!

女剣士「丁度良い……王子」
王子「何?」
女剣士「……まだ先の話にはなるが、私は次期騎士団長にお前を推そうと思う」
王子「…… ……え!?」
弟王子「兄さんを……?」
女剣士「ああ……やる気があるのなら、これからはそのつもりで励んで欲しい」
女剣士「授けられる物をそうするのに、私も力は惜しまない」
王子「お、俺が……次期、騎士団長……」
盗賊「すぐに決める必要は無い。まだまだ若いんだ……女剣士の足下にも及ばん」
女剣士「時が来れば、だ。だが、その気が無いなら、人選からやり直す」
女剣士「……どうだ?」
王子「……より一層の修練に励みます!」
王子「お前の事も、助けてやれるな、弟王子……」
弟王子「兄さん……うん!」ギュ
王子「苦しい、て……」トントン
女剣士「約束してやれる物じゃ無いぞ」
女剣士「……駄目だと思えば」
王子「解ってる。驕らないよ」

女剣士「ああ。お前に限っては無いと思うけど」
女剣士「王の息子と言うだけで、やっかむ奴も居ないとは限らないからな」
王子「言わせない位、強くなってやるよ」
弟王子「大丈夫ですよ、兄さんなら」
弟王子「頑張ってると聞きます。先生も褒めてましたよ」
王子「先生?」
鍛治師「ああ、騎士団の治癒班の一人にね、回復魔法の鍛錬を受けてるんだ、今」
盗賊「弟王子は身体を動かすのには向かないし、何かを傷つけるのも……て」
盗賊「言うからな……なら、回復魔法を習ってみればどうだ、と」
女剣士「現役を退いた婆さんが居ただろう?頼んでみたのさ」
王子「そうか……弟王子に向いてるかもしれないな。お前は、優しいし」
弟王子「祈り女さんと、仲良くしてね?」
女剣士「え?」
盗賊「ん?」
鍛治師「祈り女?」
王子「え、ぁ、ちょ……! な、なん、な……!?」

弟王子「先生の部隊の人なんでしょ?彼女」
弟王子「お似合いだ、微笑ましい、て言ってたよ?」
女剣士「…… ……」
女剣士(笑っては……怒られるな)コホン
盗賊「ほーぅ……何々、どんな子?」ニヤニヤ
鍛治師「ちょ、盗賊……」
王子「え!? いや、そんなんじゃ……!」
女剣士「あの婆さん、腕は良いんだけどな、無類の……まあ、噂好きでな……」
女剣士(あの婆さんが発端か……そりゃ、あっと言う間に広まる訳だ)クス
王子「わ、笑うなよ……!」
女剣士「ああ……ごめん。いや、でもな?」
女剣士「あの婆さんに知られたんなら……もう知らない奴は居ないだろうな」
王子「ま……まじで……」
弟王子「あ、あの、僕……何か……」オロオロ
鍛治師「いやいや、弟王子は気にしなくて良いよ。なぁ?王子」
王子「あ、ああ……うん、お前は悪く無いよ、うん……」
盗賊「女剣士は知ってるのか?」
女剣士「祈り女、か?ああ……顔を見れば解るだろうな」
女剣士「頻繁に顔を合わせる訳では無いからなぁ……」

王子「……良い、子だよ」
盗賊「お前が選んだなら、別にアタシは文句無いよ」
鍛治師「……お前の事、知ってるんだよな?」
王子「俺が……『王子』だって事?そりゃそうだろう」
女剣士「大人しそうな子だったよな」
弟王子「可愛い子だ、って言ってましたよ、先生」
盗賊「……その内、紹介してくれよ」
王子「お、おう……解ってるよ」
女剣士「……良し。じゃあそろそろ戻れ。休憩時間に悪かったな」
王子「いや、それは良いんだけど……何か、恥ずかしい思いしにきただけみたいだ」ハァ
弟王子「僕も部屋に戻ります。午後から、先生もいらっしゃるし」
王子「……あんまり言いふらさない様に言っといてくれよ」
女剣士「逆効果だと思うぞ、それ」
王子「え、え!? い、今の無し!」
王子「……失礼します!」バタバタ
弟王子「失礼します」クスクス

パタン。トントン……

盗賊「……」
鍛治師「……」
女剣士「……歳を取る訳だ」

盗賊「……お前は?女剣士」
女剣士「ん?」
盗賊「……」
女剣士「ああ……私は、良いんだ」
鍛治師「……何人も居ただろ。中には……」
女剣士「同じ様な事、側近にも言われたよ、前に」
女剣士「……良いんだ。勇者達が無事に戻って」
女剣士「……引退して、寂しいと思えば、考える、かな」
鍛治師「女剣士……」
女剣士「その時には、もう……側近は……だから、ね」
盗賊「……そう、か」
女剣士「充実してるのさ、今が。この生活がさ」
女剣士「これ以上、考える事増やせ無いよ。元々馬鹿なんだしさ」ハハ
盗賊「そんな、事は……」
女剣士「ああ、側近で思い出したよ。あの小屋だけど」
鍛治師「うん?」

女剣士「盗賊に言われたとおり、何時帰って来ても良い様に」
女剣士「……何時でも、すぐに使える様に、手入れは欠かしてないけど」
鍛冶師「ああ……うん」
女剣士「……私が引退したら、あそこを使っても良いかな」
盗賊「え……あ、ああ。それは、別に構わないが……」
盗賊「城には、残ってくれない、のか」
女剣士「王子は立派に勤めるだろう。何時までも過去の人間が」
女剣士「……のさばっているのも、ね」
鍛冶師「しかし……」
女剣士「仕事がなくなったら、漸くのんびり……側近を待てるんだ」
女剣士「……ありがとう。では、私も……戻るよ」
女剣士「失礼、します!」スタスタ

カチャ、パタン

鍛冶師「……良いのか」
盗賊「引退イコール、勇者の期間後。イコール……側近、は……」
鍛冶師「……うん」
盗賊「結婚は愚か、恋愛も……する気等、無いのだろうな」
鍛冶師「…… ……うん」
盗賊「…… ……どう、言葉にすれば良いのか、解らん」
盗賊「解らない……が」
鍛冶師「……彼女の人生だ。僕たちがとやかく、言う物じゃ無いって」
鍛冶師「解ってる……つもり、なんだけどね」
盗賊「ああ…… ……勇者達は、今どの辺に居るんだろうな」
鍛冶師「そう、あっさりと進む旅じゃない、決して」
盗賊「…… ……」
鍛冶師「どうしたの?」
盗賊「いや…… ……アタシさ、実は娘が欲しかったんだよな」
鍛冶師「何、急に……」
盗賊「……王子が結婚したら、義理とは言え、念願の娘が出来るんだなぁ、と」
盗賊「思って、さ」
鍛冶師「いくら何でもまだ早いでしょ……」

盗賊「まあ、焦りすぎだよな」クスクス
鍛冶師「嬉しそうだねぇ……」
盗賊「嬉しいだろ?親としてさ」
鍛冶師「……否定はしないけどね」
盗賊「こういう当たり前の事で嬉しいと感じられるのは」
盗賊「……本当に、幸せな事なんだ」
鍛冶師「うん……」
盗賊「『両思い』って奇跡だよな。アタシ達もそうだ」
盗賊「そうやって、奇跡を繰り返して、人……否、生きているモノは繁殖して行く」
盗賊「……想いが叶わない、てのは……不思議な事じゃ無い」
盗賊「でも、アタシ達はその奇跡を……つい、普通の事の様に話してしまう」
鍛冶師「その状態を当たり前と思える、僕たちは本当に幸せなんだろうね」
盗賊「ああ……だからって、女剣士や側近を可哀想と思うのは」
盗賊「違う、と思うんだ」
盗賊「……各々、選んだ道……その腕で、手繰り寄せた確かな物だからな」
鍛冶師「……単純に喜んでおけば良い。それで良いんだよ、盗賊」
鍛冶師「僕たちの幸せは僕たちの物だ。……それで、良いんだよ」
鍛冶師「……それも、自分達で手繰り寄せた物に違いは無い。 ……し」
鍛冶師「歳取っても、変わらないね。考えすぎ……悪い癖、だよ」
盗賊「ああ……そう、だよな」
鍛冶師「悲しみも苦しみも、己だけの物だ。共感なんて、出来るはずが無い」
鍛冶師「……でも、そういう……人の、さ。痛みを」
鍛冶師「感じてしまう盗賊だからこそ、僕は好きになったんだけどね」ナデナデ
盗賊「……王子じゃネェけど、恥ずかしいよ」
鍛冶師「おばさんになっても、おばあさんになっても」
鍛冶師「僕の大事な人に変わりないからね」
盗賊「……流石にもう一人、産む元気はネェぞ」
鍛冶師「……また話ぶっとばす……照れ隠し、って知ってるけどね」
盗賊「…… ……じゃあ、態々口に出すなよ」ギュ
鍛冶師「ごめんね……」ギュ
盗賊「……悪いと思ってないだろ」
鍛冶師「ばれてた」フフ

幼女寝かす!
また明日!

おはようー!
お迎えまでー!

……
………
…………

使用人「側近様?」コンコン
側近「はいよー」
使用人「魔除けの石の様子を見たいので、入りますよ」カチャ
側近「魔王様、ほら……使用人ちゃんが来たぞ」
魔王「…… ……ゥ」
使用人「相変わらず、ですか……」
側近「まあ……顔は見えないからな。何とも言えないけど」
側近「今のところ、現状維持だな」
使用人「……真っ黒ですね、魔除けの石」
側近「て、事は……効果ある、て考えて良いのかな」
使用人「気休めと言ってしまえばそれまでですけど……」
使用人「また、手紙を出しておきます。側近様、何か頼む物あります?」
側近「いや、これと言って別に。まあ、状況を知らせて欲しい位かな」
使用人「……ずっと、庭の手入れをしているんですけど」
側近「うん?」
使用人「花がね……あまり、枯れなくなったんです」
使用人「やっぱり……効果ある、んでしょうね」
側近「このカーテンも効いてるんじゃない?」
使用人「……どう、なんでしょうね」
側近「色とか変わって無いか?」
使用人「特には……毒にも薬にもならないなら」
使用人「それはそれで、良し、です」
側近「考えて頑張ってくれたんだから。きっと何かしら、良い風になってんのさ」
使用人「……軽率でした」
側近「まだ言ってんの……」
使用人「まさか、引き金になるとは……思いつかなかったんです」
側近「それも可能性の一つ、てだけだ」
使用人「…… ……」
側近「あんま気にスンナ、って……今、大丈夫なんだからさ」
側近「なあ、魔王様?」
魔王「…… ……」

使用人「まあ……あんまり、気にしない様にします」フゥ
側近「うん……あ、後さ、使用人ちゃん」
使用人「はい?」
側近「船長にさ、可能なら、で良いから」
側近「……盗賊達に謝っておいて、て伝えておいて」
使用人「そっちも、気にしすぎですよ」
使用人「そんなに悔やむなら一言かけてくれば良かったのに、て」
使用人「思います、けど……あれが、最善だったんでしょう?」
側近「まあね……まあ、ほら。別に後悔してる訳じゃ無くてな」
側近「……この間は、伝えそびれたから」
使用人「手紙に、記しておきますよ。また……来られた時にも」
使用人「改めて伝えますけど……」
側近「……うん。間に合うかわかんないしな」
使用人「…… ……」
側近「そんな顔すんなって」
使用人「見えてないでしょう」
側近「なんと無く解るよ。大丈夫さ」
側近「……勇者と約束、したんだろ」
使用人「……はい。そうですね」
使用人「ちゃんと……信じてますよ」

……
………
…………

コンコン

勇者「はい?」
息子「おはようございます、勇者様方。起きていらっしゃいますか?」
僧侶「この声……」
魔法使い「あいつか……」
戦士「誰だ?」

息子「ああ、失礼。私は領主の息子です」
息子「お邪魔しても宜しいかな」カチャ……ガチャ!
勇者「あ、鍵……」スタスタ、カチャ
勇者「おはようございます、息子さん」
息子「……ああ、貴方が勇者様ですね」チラ
息子「おや……」
勇者「部屋が立派すぎて眠れないって言うからね」
戦士「椅子、片付けて置いて良かったな」ヒソ
魔法使い「シ……ッ」ヒソ
息子「そうですか。失礼の無い様にと二部屋用意したんですが」

スタスタ

女「お兄様、お食事の準備が整いました」
魔法使い「お兄様?」
息子「ああ、ご苦労だった……ああ、これは私の妹です」
女「どうぞ、勇者様……覚めない内に、召し上がって下さい」
勇者「あ、いや……あの」
僧侶「ありがとうございます。行きましょう、勇者様」ギュ
勇者(う、腕組んできた!? ……む。胸があた、あた、あ……当たってる!)
魔法使い「そうね。出発の準備も済んだし、折角だから頂きましょう」
魔法使い「こんなに豪華なご飯、もう食べられないわよ、船に乗ったら」
勇者(露骨なアピールだな……まあ、良いか)ハァ
息子「……もう、発たれるおつもりで?」
戦士「魔王は待ってはくれないだろ?」
女「……先に行きます。お兄様もご一緒なさいますでしょう」
息子「あ、ああ……では、どうぞ。お話は向こうで……」

勇者「……行こうか、僧侶」
僧侶「うん」ギュ
魔法使い(声裏返ってるわよ、勇者……)
戦士(天然って怖いねぇ……)
息子「……しかし、急ですね。もう少し滞在して下さるとばかり」スタスタ
勇者「さっき戦士も言いましたが、魔王は待ってはくれませんから」
息子「そ、それは……まあ、そうですが」
勇者「図書館に寄って、今日の夕方の便で発ちます。お世話になりました」
息子「いいえ……父にはお話になりましたか?」
勇者「お忙しいのでしょう。昨日この街へ来た時から、お会いしていませんよ」
息子「そうですか……まあ、どうぞ」キィ
女「どうぞ、お座りになってください」
息子「……女、お父様を呼んできなさい」
女「はい」
魔法使い「伝えて貰えれば結構ですよ。ねぇ?」
戦士「ああ」
息子「まあ、お気になさらずどうぞ」
僧侶「女さんを待ってなくて良いんですか」
息子「すぐに戻るでしょう。大丈夫ですよ」
勇者「お言葉に甘えて頂こう」
僧侶「そうですか……あの、息子さん」
息子「はい、何でしょう?」ニコ
僧侶「……この建物、変わった作りをしていますよね」
息子「え、ええ……まあ。そうですね」
息子「……父の、領主の別宅ですから」
魔法使い「別宅?」
息子「……ええ。こうして、勇者様の様に」
息子「特別なお客様をお迎えするための、ね」
勇者「……で、あのでっかいお風呂に扉が幾つも?」
息子「もし何かあった時、すぐに駆けつけられないと困りますからね」

カチャ

領主「勇者様!」
勇者「あ……おはよう御座います」
領主「今日発たれると言うのは……!?」
勇者「はい。夕方の便で」
領主「……し、しかし急すぎませんかな。私どもとしてはもう少し……」
勇者「息子さん達にも言いましたけど、魔王は待ってくれませんから」
領主「し……しかし、ですな……」
勇者「世界が平和になれば、またゆっくりとご挨拶に参る事もできますし」
領主「……で、では、魔王を倒せばまた、この街に戻って来て下さると?」
勇者「まあ……顔を出すことはあるかもしれませんが」
領主「勇者様は、始まりの街のご出身、でしたかな」
勇者「……お世話にはなってましたけど、それが何か」
領主「でしたら、是非……この街に居をお構え下さい!」
領主「喜んでご用意致しますよ!」
勇者「い、いえ、そんな訳には!」
魔法使い「……必死ね」ボソ
戦士「聞こえるぞ……」ボソ
領主「ご遠慮などなさらず!」
勇者「もし、永住の地を求めるなら、やはり始まりの街にすると思います」
勇者「盗賊……王様は、俺の保護者の知人でもありますから」
領主「え……!?」
勇者「お気持ちは、ありがたく頂いておきます」
領主「……そ、そうですか、お知り合い、なのですか」
勇者「ご馳走様でした。良し、みんな行こうか」
僧侶「うん。美味しかったです、ありがとうございました」
魔法使い「荷物も持ってきたから、すぐ出れるわよ」
戦士「おう……世話になったな」

勇者「じゃあ、失礼致します」スタスタ

カチャ、パタン

僧侶「……王様、知り合いだったんだ」
勇者「だからまあ……側近もあの街を、王様を頼ったんだと思うよ」
魔法使い「…… ……」ピト
戦士「何やってんだよ、魔法使い……扉に張り付いて」
魔法使い「し……ッ」

領主「…… ッ だか…… ……不甲斐な……」

戦士「何だ?」ピト
僧侶「……んん ……聞こえにくい」ピト
勇者「お前らな……」ピト
魔法使い「勇者、言動が一致してない」

息子「……勇者を慕っているのだとすれば、無理強いはできませんよ」
領主「ええい、お前もか、女!」
女「逃げられてしまったんだもの! ……風呂からの扉は開かないし」
息子「全員同じ部屋に居るとは思いませんでしたよ!」
領主「糞……ッ しかし、あれほど言っただろう、船の時間を知らせるな、と!」
女「それも私じゃ無いわ! ……聞かれたけど、私は言ってないわよ」
領主「……召使いの誰かか……!糞、『出来損ない』の分際で……ッ」
息子「……『劣等種』に期待する方が間違いなんだよ、お父様」
領主「その言葉は口に出すな!」
女「劣等種も出来損ないも似た様なモンでしょうに」
領主「それでも、だ……勇者の耳に入ると厄介だろう」
領主「……見張りはちゃんとつけてあるんだろうな」
息子「勇者と僧侶にはね」
領主「残りの二人など、どうでも良い。例え勇者の仲間だろうが」
領主「出来損ないに用など無い」

息子「でも、見張らせても……もう意味無いだろう」
息子「船で出るとか言うし……」
領主「構わん。隙があればあの二人の変わりに」
領主「同行する様、言いつけてある」
領主「優秀な人間の方が勇者の助けになるはずだ。魔王を倒す一向に」
領主「我が血族が居たとなれば、それだけでも名誉になる」
女「……お父様、あっちはどうなっているのよ」
領主「調べさせては居るが、次期国王は殆ど城から出てこないらしい」
女「騎士団に入ったって言う方は?」
領主「あれは放っておけば良い。兄の方だろう」
領主「血筋であれど、王となる者で無いなら意味が無い」
女「……やはり弟の方ね」
息子「勇者の方は私がどうにかしよう。女、お前は始まりの街に行け」
息子「……なんとしても、弟の方を陥落するんだ」
女「解ったわ……勇者の方が魅力的だけどね。仕方無いわね……」
領主「良し。では私は行くぞ」
領主「北の大陸に送り込んだ奴の報告を聞かねばならん」

勇者「……」
魔法使い「……」
僧侶「弟王子様……ッ」
戦士「し……ッ 出て来るぞ、急げ!」

パタパタ……

……
………
…………

お迎えー!
夕方来れたら、又!

おはよう!
幼女が起きるまで!

戦士「なんて言うか、まぁ……」
魔法使い「さっさと出て正解だったわね」
僧侶「…… ……」
勇者「僧侶、どうした?」
僧侶「大丈夫なのかな、弟王子様……」
勇者「王様達も、王子も……女剣士も居るんだ」
勇者「……後は、弟王子に見る目があると思いたい、けどね」
魔法使い「勇者、王様の事もよく知ってる、んでしょう?」
勇者「俺が、と言うより側近が……なんだが」
魔法使い「弟王子様って、病弱……なんだっけ?」
勇者「ん、まあ……確かに、小さい頃からあんまり外には出てこなかったし」
勇者「良く熱出したりはしてたけど……」
僧侶「こういう可能性も考えていらっしゃったのかしら」
戦士「ん?」
僧侶「あんまり、人目に触れさせない、理由。私、多分戦士や魔法使い程」
僧侶「あの街の事も、王様達の事も知らないけど」
僧侶「……次期国王になるなら、誘惑も多いだろうから、さ」
戦士「言ってることは解らんでも無いが、何時までも親が守ってやれる訳じゃないぞ」
僧侶「……ああ、そうか」
魔法使い「心配は心配だけど、戻る訳には……どう、なのかしら」
勇者「……大丈夫だと思いたい、けどな」
勇者「騎士団には、あの街の住人しかなれないだろ?」
勇者「それに……いや、まあ、幾らでも出身地の偽装なんかは出来るだろうけど」
戦士「そうだなぁ。きちんと身元が保証される奴しか」
戦士「入団は許されないはずだ」
勇者「……忠告しに戻りたい、のは山々だけど……」
僧侶「とりあえず、今は時間が無いよ。この街を出るのが先だよ」
僧侶「港街に出る船の時間、一応確かめておこう?」
勇者「え?」
僧侶「……あの人達の不利になる情報が載ってる本なんて無いと思うけど」
僧侶「図書館、行ってみようよ」
戦士「そうだな。考え事は移動時間でも出来る」

魔法使い「勇者と僧侶は先に行って?私と戦士で船の時間、確認しに行きましょ」
勇者「しかし、見張りとやらが……」
戦士「いくら何でも街の中は大丈夫だろう。俺達が『勇者様御一行』てのは」
戦士「昨日のあの歓迎のパフォーマンスで、逆に知らしめてくれてるんだ」
僧侶「そうだね」
戦士「俺一人で行ってくるから、お前も先に行けよ魔法使い」
魔法使い「私もアンタと一緒に行くわよ。大丈夫だとは思うけど」
魔法使い「……一人にはなるべきじゃ無いわよ」
勇者「うん。俺もその方が良いと思う……ごめんな、魔法使い」
勇者「図書館、行きたかったんだろうに」
魔法使い「閲覧時間が減るだけよ。大袈裟ね」
僧侶「勇者、手繋いで良い?」
勇者「え!?」
僧侶「領主さんは私達に見張りつけてるって言ってたからさ」
魔法使い「戦士と私にも、って考えておいた方が良いと思うけどね」
戦士「何、お前も俺と手、繋ぎたいの?」
魔法使い「…… ……アンタ本当に、脳みそまで筋肉で出来てるんじゃないの」
戦士「ど、どういう意味だよ、そりゃ!」
勇者「気を抜かないに越したことは無いな」
僧侶「二人とも、気をつけてね」ギュ
勇者(柔らかいなぁ、本当に……)
戦士「顔赤いぜ、勇者」ニヤニヤ
戦士「良し、さっさと行ってくるわ、行くぞ、魔法使い」ギュ。スタスタ
魔法使い「ちょ、ちょっと、人の話聞いてた!?」タタタ
勇者「あ、阿呆!煩いわ!」
僧侶「勇者?」

勇者「あ、あ……いや、うん。図書館、何処かな」
僧侶「多分、あの大きな建物でしょ……新しそうだし」スタスタ
勇者「う、うん」スタスタ

キィ……

僧侶「……わ、広い」
勇者「暗いな……」
司書「いらっしゃいませ。何の本を……あ!」
勇者「……」ハァ
勇者(又……『勇者様』か)
司書「勇者様、でいらっしゃいますか」
勇者「……はい」
僧侶「……気にしないの」ボソ
勇者「解ってるよ……」
司書「では昨日のあの港の騒ぎは、本当に勇者様の到着を祝う物だったんですね」
僧侶「あ、あの……領主様に、自由に閲覧して良いって言われたんですが」
司書「はい、聞いています……が、本当だったんですね」
勇者「え?」
司書「いえ……その、僕は……」
司書「……いえ、何でもありません」
僧侶「?」
司書「何の本をお探しですか?ここは広いですから」
司書「お探しするの、手伝わせて頂きますよ」
勇者「一般人には閲覧出来ない物もあるんですか?」
司書「ええ、まあ……奥に鍵のついた扉がある部屋があるのですが」
司書「その中の物は、古くからこの街に住んでいる人達にしか」
司書「入る事が許されていません」
僧侶「それは……私達は、見せて貰える、んですか」
司書「ええ。係の者が別に居ますので」
司書「ご利用されるなら、案内させて頂きますよ」

僧侶「どうする?」
勇者「戦士達が来てからにしようか。取りあえず、僧侶は何を見たかったんだ?」
僧侶「まあ、中々見る機会の無い魔導書とか見たかった、んだけど……」
僧侶「……」
勇者「僧侶?」
僧侶「あの……すみません」
司書「はい?」
僧侶「この建物、最近出来た、んですよね?」
僧侶「大きな図書館が出来た、と聞いてたんですけど……」
勇者「ん? ……ああ、そういえば中は随分古い、よな」
司書「正確には外側の改修と増築、ですね」
司書「この図書館自体は古いそうですよ」
僧侶「増築……」
司書「僕も……あまり良くは知らないんです」
司書「最近、とは言いませんが……この街に居住を許されて」
司書「長い訳では無いので」
僧侶「そうなんですか?」
司書「ええ……僕は港街の方から、引っ越して来たので」
勇者「え!? ……あ、じゃ、じゃあ……女神官さん、知ってます、か?」
司書「……寄ってこられた、んですか!?あの教会に……!」
僧侶「じゃあ、貴方が……!」
司書「そう、でしたか……」

勇者「では、貴方も優れた加護って奴を持っているんだな」
司書「あ……いえ……」
僧侶「え?でも……」

キィ、パタン

魔法使い「あ、居た居た、勇者と僧侶」
戦士「最終便はどっちも夕刻過ぎだな。どっちに乗るか決めておけば良いだろう」
勇者「そうか……」
司書「おいでになりましたね。奥へご案内致しましょうか?」
魔法使い「奥?」
僧侶「鍵付きの部屋があるんだって。見せてくれるって言ってたでしょう、領主さん」
戦士「しっかし広いなぁ、此処も……」
司書「どうぞ……」スタスタ
魔法使い「……随分、古くない?」
僧侶「新しく大きな図書館が出来た、って外側の改修と増築なんだって」
戦士「本が一杯ある……」
勇者「図書館なんだから当たり前だろ……何言ってんだ」
司書「失礼します、受付様」
受付「ああ……勇者様ですね。領主様から伺っております」
受付「……ただし、お入りになられるのは勇者様と、僧侶様のみでお願い致します」
魔法使い「え!?何で!?」
受付「何分、中は狭くなっておりますので」
戦士「…… ……露骨だなぁ」ボソ
司書「……では、お願い致します」
僧侶「え…… ……うぅん、仕方無い、か……」
司書「僕は丁度休憩時間です。後のお二人、宜しければ街をご案内致しましょう」
受付「ああ、それは良い事です。ではお二人様、どうぞ?」
司書「……お時間、限られて居られるのでしょう。いってらっしゃいませ」
勇者「……ああ」
戦士「マジかよ……」
司書「行きましょう、お二人様」スタスタ
魔法使い「……もう!」

カチャカチャ……キィ

魔法使い「勇者!入口で待ち合わせよ!」

司書「休憩は一時間です。その時に、お連れ致しますよ」
勇者「わかった」
僧侶「……見れるだけ見ちゃおう、勇者様」

パタン

戦士「……おい、どうにかならないのか!?」
司書「お静かに……後でご説明致しますから」
戦士「説明?」
司書「……街の入口に、ケーキの美味しいお店があるんです」
司書「そこへ行きましょう」
魔法使い「……良いわよ、別に。適当に時間潰してるから」
司書「……女神官様、お元気でした?」
魔法使い「!」
戦士「……アンタが……!?」
司書「此処を離れる迄はお静かに」

カチャ、パタン

司書「昨夜は、宿にお泊まりだったんですか?」
魔法使い「いえ……領主様の別宅、とやらに、よ」
戦士「家二軒も持ってりゃ、掃除大変だよなぁ……」
司書「召使いが大勢、居ますから……大丈夫ですよ」
司書「そうですか……あそこに」フゥ
魔法使い「あ……あれかしら?」
戦士「随分可愛らしい店だな……」
司書「僕、甘い物好きなんですけどね……一人では中々入れなくて」
司書「……さあ、どうぞ」

イラッシャイマセー!

魔法使い「私、チョコレートパフェ!」
戦士「俺は……アイスコーヒー」
司書「僕はチーズケーキと紅茶を」
魔法使い「……で、説明、って?」
司書「あの奥の部屋は、この街に古くから住んでいる者しか」
司書「入る事を許されないんです。イコール……」
魔法使い「優れた加護を持つ者」
司書「……はい。僕は、何年か前に此処に転居して来た所ですし」
司書「そんな……加護を持っている訳では無いので、入れないんです」
戦士「ん?この街に住めるのって……魔法に優れた者、じゃ無いのか?」
司書「全員が全員、そうではありませんよ。『領主の血筋』の者は」
司書「皆……優れた加護を受けては居ます、が」
魔法使い「まずそれが信じられないわ。親から確実に受け継がれる物じゃ無いのに!」
司書「……ええ。ですから……持たない者は、間引かれます」
魔法使い「間……引く?」
司書「家を追放されるんです……否、居なかった事にされると言う方が」
司書「正しいですかね……昔はもっと酷かったらしいのです」
司書「僕も、流石に詳しくは知らないんですけど……」
戦士「ひっでぇ話だな……」
魔法使い「…… ……」
戦士「しかし……じゃあ、なんでアンタはこの街に住めてる、んだ」
司書「……ご存じだと思いますが、僕はあの港街の教会で神官として」
司書「過ごしていました。あの教会には……素晴らしい本が揃っていたんです」
魔法使い「本……?」
司書「はい。ご存じでしょうか……魔石、の話」

戦士「魔除けの石、って奴か?」
司書「それだけじゃありません。今はもう廃れてしまったらしいですが」
司書「昔は、炎や、水等……色々な物を作る技術があったそうです」
魔法使い「へぇ……え、でもそれが、何の関係が……」
司書「……その、魔石の生成方法の本が、あったのです」
司書「ですが、本は……神父様の字では無かった。誰が書いたのか不明、です」
魔法使い「魔除けの石、の制作方法の本じゃ無いなら……神父様も誰かに貰ったのかしら」
戦士「娼婦、って人じゃネェの?神父様に生成方法教えたのってその人なんだろ?」
司書「わかりません……僕は娼婦様にはお会いしたことが無いので」
司書「神父様がご存命の間に、方法は教えて頂きました」
魔法使い「賛否両論だって言ってたわね、女神官さん」
司書「はい……ですが、僕にはどうしても、成功させなければならなかったんです」
戦士「魔除けの石の生成を、か?」
司書「……ええ。その本と、僕にその技術があれば」
司書「この街に、それを伝える事ができる。そうすれば」
司書「……この街に、住む事ができるかも知れない、と思って」
魔法使い「確かに、この街は昔から『魔法を志す者には憧れの街』だったって聞いてるわ」
魔法使い「でも……そんなに、良い物なの?」
司書「……僕は、どうしてもこの街に住みたかった」
司書「あの頃の僕に取っては、焦がれて止まない場所でした」
戦士「何で過去形なんだよ……」

BBAおはよー

司書「……僕に優れた加護が無い事は勿論解って居ました」
司書「それに……昔、その加護を持たないから、と」
司書「領主の血族であるにも関わらず、酷い扱いを受けた人が居たと言う話も」
司書「聞いていたんです。ですが……僕は、どうしても……」
魔法使い「ちょっと、聞きたい、んだけど」
司書「はい?」
魔法使い「……この街の住人の皆が、その優れた加護を持ってる訳では無いのよね?」
司書「はい。僕の様に何らかの『利』があると思われる者は」
司書「一応、許される場合もあるんです」
司書「別宅へ行かれたのなら解ると思いますが、大きな塀の向こうへ行かれたでしょう?」
戦士「ああ、あの仕切りみたいな奴な」
司書「あの奥は……権力者達の住む区域です。要するに」
魔法使い「優れた加護を持つ、者達の家」
戦士「店もあっただろ?」
司書「彼らだけが利用を許される……まあ、高級店ですね」
司書「一般人……優れた加護を持たなくても」
司書「利……まあ、お金持ちとか、そういう、ね」
魔法使い「貴方の様な人達ね」
司書「そうです。僕たちは、あの塀からこっち迄しか」
司書「立ち入りは許されていないんです」

>>311
おっはよー!

戦士「……お前の『利』は……」
司書「はい。魔除けの石の生成方法、です」
司書「……詳しく書かれた本と、その知識と技」
司書「苦労はしましたが……何とか、許されました」
魔法使い「……持ち出した、のね」
司書「……はい」
戦士「で、今は……その仕事まで得た、のか」
司書「得た、と言うより……監視の目的もあるのでしょう」
司書「港街は、魔石発祥の地です。逃げ戻ったり」
司書「他への、知識の流出を防ぐ為に」
戦士「……それで良いのか、お前は」
司書「望んだ事です……今では、魔石はこの街が一番の生産量になりました」
魔法使い「値段も跳ね上がってる、し……ね」
司書「……おかげで、僕は生活できるのです」
戦士「もう一回聞くけど……何で、過去形なんだ?」
司書「昨夜……お泊まりになられたと言う、別宅」
戦士「へ?」
司書「あそこは、旧娼館、なのだそうです」
魔法使い「……娼館!?」
司書「今では改築されて、賓客の為に使われていますが」
司書「何をするため、と聞かれると……解ります、よね?」
魔法使い「それで……あんな作りになっていたのね」
戦士「何で、知ってる? ……いや、だから、なんで過去形……」
司書「そういう所を知ってしまったから、です」
司書「……あの別宅の召使い達の中には、領主に追放された人も居るんですよ」
魔法使い「え……」
司書「領主は、自分の血族であっても」
司書「……召使い兼、要人へのもてなしと称して……」
魔法使い「そんな……!」

おでかけー!

司書「初めのうちはね……僕の耳には入れまいとしていたんでしょうけど」
司書「今の職に就いて、時間が経てば……気にしなくなったのか慣れたのか」
司書「……色々な、噂が耳に入ってくるんですよ」
戦士「……逃げ出さないと解った、からか?」
司書「で、しょうね。望んでこの街に居を移したのです」
司書「……後悔している訳じゃありません。でも」
司書「どこかに……女神官さんや、神父さんを」
司書「裏切ってしまった、と言う……気持ちが、あるのかもしれません」
戦士「で、『だった』……過去形、かよ」ハァ
司書「お気をつけ下さい。領主様達は……執拗ですよ」
魔法使い「どうして、私達にそんな事を話す気になったの」
魔法使い「……『勇者様御一行』だから?」
司書「女神官さんに、聞いたのでしょう。僕の事」
戦士「……」
司書「あの方が……僕に、懺悔の場を下さったのか、と思ったんです」
魔法使い「随分自分勝手ね」
戦士「魔法使い」
魔法使い「素直な感想よ。司書さんは話せて、満足でしょうけど」
魔法使い「……そりゃね。聞くに値しない話だ、なんて、言いはしないけど」
戦士「その、アンタが持って来た本、てのはどうしたんだ」
司書「今は、あの……勇者様と僧侶さんが入って行かれた部屋の中、です」
戦士「……港街の教会に戻そうって気は無いんだな」
司書「戻そうと思っても戻せない、んです……」
司書「……僕は、あの奥の部屋には入れませんから」

戦士「勇者達は見る事ができるが……」
魔法使い「そうね……私達は、知る事ができる。でも」
魔法使い「そういう物を、多くの人が知る事はできない……その、存在すら」
魔法使い「それじゃ、図書館の意味、無いわね」
司書「……返す言葉もありません」
魔法使い「……」
戦士「……」
司書「そろそろ、戻りましょう。休憩は終わりです」
司書「勇者様達を、呼んできます」カタン

……
………
…………

勇者「何かあったか?」
僧侶「……流石、って言っていいのかな」
僧侶「随分詳しい本がある」
勇者「……光の属性ってのに関しては流石に無いな」
僧侶「そうだね……勇者だけなんだろうな、多分」
勇者「まあ……俺も、俺の周りの人達も、今まで」
勇者「見た事も、聞いた事も無いと言うからな」
僧侶「……持ち出しは出来ない、んだよねぇ」
勇者「返す事もできないだろ」
僧侶「…… ……そうだね」

コンコン

受付「はい?」
司書「僕です……戻りました」
勇者「……じゃあ、行こうか」
受付「もう宜しいのですか?」
僧侶「ええ、仲間も戻りましたし」

受付「ゆっくりされても宜しいのですよ。折角ですのに」
勇者「いえ。船の時間もありますし」
受付「……そうですか」
僧侶「では、ありがとうございました。行こう、勇者」ギュ
勇者「ああ……」
勇者(やっぱり手は繋ぐんだな……嬉しいけど)
勇者(ん?嬉しい……?)ブンブン!
僧侶「どうしたの?」
勇者「い、いや……」
受付「図書館の館内はご覧になりました?宜しければご案内を……」
勇者「……すみません、急ぎますから。ありがとうございました、と」
勇者「領主さんにもお伝え下さい」
受付「…… ……はい」

カチャ

受付「司書、後は任せましたよ」
司書「ええ、入口でお二人がお待ちです。ご利用、ありがとうございました」
受付「…… ……」
司書「入口までご案内致します」スタスタ
勇者「ああ。ありがとう」
僧侶「さあ、次は北の大陸ね!」
勇者「え……」
僧侶「……シッ」
受付「…… ……」スタスタ
司書「……奥の部屋にも、外に出る扉があるのです」
勇者「……え?」
司書「北の大陸行きの船に、見張りを先に乗せてしまうつもりでしょう」
僧侶「私達は……戻ろう、勇者」

勇者「態と言った、のか……」
僧侶「引き留めたそうにしてたからね」
僧侶「……始まりの街に戻らなくても、港街からなら、何処にでも行ける」
勇者「そうだな」
司書「貴方達の旅の安全を祈ります。もう……僕は、聖職者ではありませんが」
僧侶「魔法使い達と、何のお話を?」
司書「直接聞かれると良いですよ……乗り遅れたら、大変ですから」
勇者「うん……行こう、僧侶」

カチャ

司書「では……お元気で、勇者様」
魔法使い「勇者!僧侶!」
戦士「こっちだ……どっちに乗るか決めたか?」
勇者「……ああ。時間は?」
戦士「まだ余裕はある。焦らなくても……」
僧侶「ぎりぎりに乗船しましょ。多分……見張りさんが先に行ってる」
魔法使い「え?」
勇者「あの奥の部屋にも、出入り口があるそうなんだ。俺達の話聞いて」
勇者「出て行ったからな」
魔法使い「本当に必死ね」
戦士「収穫あったか?」
僧侶「うん、まあね……あ、勇者」
勇者「ん?」
僧侶「時間があるなら、ちょっと買いたい物があるんだ」
僧侶「……良い?」
勇者「あ、ああ。別に構わないけど」
魔法使い「焦る必要は無いけど、のんびりはしてられないわよ」
僧侶「うん。行こう」スタスタ

戦士「……あれ?」
魔法使い「何よ」
戦士「船、三隻……あるぞ?」
勇者「え? ……あ、本当だ」
僧侶「あ、見つけた……」タタタ
魔法使い「あ、ちょっと!」タタタ
戦士「定期便の船じゃなさそうだな」
勇者「……? あれ、でもあの船……」
勇者(見た事ある様な気が……気のせい、か?)
僧侶「すみません、魔除けの石が欲しいのですけど」
店員「あ……ごめんなさい、先ほど、全て売り切れてしまって……」
僧侶「え!?」
魔法使い「欲しい物ってそれだったの、僧侶」
僧侶「売り切れ……ですか」
店員「え、ええ……あちらの方が……」
戦士「わぁお、ナイスバディ」
魔法使い「……」ゲシッ
戦士「い、テェ!お前、なんで蹴るんだよ…… ……」
勇者「……似てる」
僧侶「あ、あの!」
船長「ん?アタシ?」
僧侶「すみません、お金はお支払い致しますので」
僧侶「一つだけで良いんです。魔除けの石、譲って貰えませんか?」
船長「……悪いけど、これ、依頼人が居るのさ」
僧侶「依頼人……?」
船長「ああ。代理で買いに来た、って事。だから……御免だけど」
船長「譲ってあげられないのさ」
僧侶「そ……そうですか……」
船長「悪いね。アタシも仕事なのさ」スタスタ

僧侶「はあ、残念……あれ、勇者どうしたの」
勇者「……あの人、似てなかった?」
魔法使い「誰によ?」
戦士「いってぇ……なあ、魔法使いって!」
勇者「娼婦……だっけ。あの、港街で見た、像、にさ」
僧侶「……そう?」
魔法使い「そんな風には見えなかったけど」
戦士「ねえ、聞いて?ねぇ?」
魔法使い「煩いわよ、戦士!」
戦士「……俺が何したってんだよ」ハァ
勇者「どこかで見た事ある気がしたんだよ」
勇者「だから……あの像だと思ったんだけど……」
僧侶「確かに、綺麗な人だったけどね」
勇者「…… ……あ! 船!」
戦士「うわ……急げ!」タタタ
僧侶「ど、どっち!?」
魔法使い「こっち!走って!」

海賊「どうしたんです、船長?」
船長「あれが、勇者か……」
海賊「ああ、あの疾走していく金の髪の、ですか」
船長「港街行きの船に乗るんだな」
海賊「……気になるんですか?」
船長「いや……別に」クルッスタスタ
船長「用事は済んだ。アタシらも出るぞ!」

アイアイサー!

船長(……金の、髪。金の瞳)
船長(小さい頃に、一緒に船に乗って居た子も、同じ色彩だった)
船長(否……確かじゃ無い。確かめ様にも……親父も居ない)
船長「……」
船長(……まさか、な。まさか……勇者が、海賊船に乗ってる筈も無い)

お風呂とご飯!

おはよう!
のんびり書けるだけー

海賊「船長?行きますよ」
船長「……ああ」
船長(まさか……考えすぎ、だ)スタスタ

……
………
…………

勇者「……成る程」
僧侶「でも今は娼館としては使われてない、んだよね?」
戦士「似た様なモンだろ、どう考えても」
魔法使い「そっちはどうだったの、僧侶」
僧侶「司書さんが持って来たって本だろう、てのは見たよ」
僧侶「後は魔力の具現化の仕方だとか……」
魔法使い「具現化?」
僧侶「ぱらぱらとしか見てないけど……でも」
僧侶「要するに、魔力って使い様なんだな、って感じ」
勇者「光の加護とか、魔法とかの本は流石に無かったな」
勇者「俺的には……あそこでは収穫無し」
戦士「……で、どうする?取りあえず港街までもう少し、だぜ」
勇者「港街からも、北の方には行けるんだよな?」
僧侶「確か……そうだと思うよ」
魔法使い「どうする?一度……始まりの街へ戻る?」
戦士「弟王子様の件も、気にはなる……よな」
勇者「……『劣等種』て言葉が気になってるんだ」
僧侶「聞いた事無いよね」
魔法使い「王様……ご存じかしら」
戦士「……魔王の方を何時までも後回しにしておく訳にも行かないしな」

また明日!

失礼、酉忘れた( ゚д゚)

おはよう!
今日ものんびりー

魔法使い「どうする、勇者?」
勇者「王様も、女剣士も……しっかりしてる人だ。俺達に言われる迄も」
勇者「無いと思う……んだけど」
僧侶「じゃあ……北の方に?」
勇者「うん……政に口を出すのは、間違えてる気がする」
勇者「……『勇者』に期待されているのは魔王を倒して、世界を平和にする事、だ」
戦士「気になるんじゃないのか?」
勇者「劣等種、か……気にならないと言えば嘘になるけど」
魔法使い「まあ、魔王に関係無い、んだろうしね……」
勇者「……うん」
戦士「迷ってんだったら、やれば良いと思うぜ?」
勇者「え?」
戦士「後でやっとけば、行っとけば、て思うなら、さ」
勇者「…… ……いや、良い。北に向かう」
勇者「俺達には俺達の、やらなきゃ行けない事、をすべきだろう」
魔法使い「勇者がそうきめたなら」
僧侶「あ……着岸するみたいよ」
勇者「良し、北の方へ向かう船に乗り換えよう」

……
………
…………

盗賊「……報告は以上か?」
騎士「はッ」
盗賊「ご苦労だったな……下がれ」
盗賊「ああ、女剣士は此処に」
女剣士「はい」
騎士「では、失礼致します」パタン
鍛冶師「……本当に懲りない人達だなぁ、あの街の人間は」
女剣士「この街にも散々言ってきていたんだろう、直接の乗り入れの件」
盗賊「ああ……港街があるのに、必要無い」
鍛冶師「鍛冶師の村との交渉が上手くいったから、ていうのは大きいんだろうね」
盗賊「あの街はな……仕方無いとも思うよ」
鍛冶師「うん。鍛冶を志す者に取って、魔法剣は憧れの一つ」
女剣士「魔導の街は、変わらず……『魔法を使う者の憧れ』なんだな」
盗賊「『劣等種』が居なくなったとは言え、そう簡単に忌まわしい習慣は消え去らない」
盗賊「支配する側であった方から見れば特にさ」
女剣士「……この国に固執する理由は、唯一『王』が居るから、だけなんだろうか」
鍛冶師「それもあるだろうけど、南の洞窟の件もある」
鍛冶師「魔導の街の管轄に……と迄は思ってないのかも知れないけど」
盗賊「最終的には……視野に入ってると思った方が良いだろう」
盗賊「……私設軍隊を持つ程の力を持っていた奴らだ」
鍛冶師「だけど、それは……『魔導将軍』だっけ? ……の」
鍛冶師「後ろ盾あってこそだろう?」
盗賊「まあ、な。だが体質は変わってない……変わりようが無い」
女剣士「……『血』を遺す、か」
盗賊「『勇者』も……もし、共に旅立った彼らの中に」
盗賊「『優れた加護』を持つ者が居れば、彼らも……目をつけられるだろう」
女剣士「……そして、弟王子、か」
鍛冶師「あまり城から出さない理由の一つ、だね?」
盗賊「あいつは、身体が弱いってのもあるけどね」

盗賊「……牽制の意味も込めて『王』になった、側面は否定しない、が……」
鍛冶師「逆に利用されてやる訳には行かないな」
女剣士「現在、この街への移住者希望者は後を絶たない」
女剣士「許容量の問題で断っているけれど……」
盗賊「当分はそれで良い。居住して年数が経てば、騎士団への入団も認めざるを」
盗賊「得ないからな。出身地不明瞭な者ははねるとは言え」
鍛冶師「偽る事は難く無いからね」
女剣士「……南の洞窟の周辺は、警備を強化しよう」
鍛冶師「後は、弟王子……か」フゥ
盗賊「何かを仕掛けて来ない、とは考えられないからな」
盗賊「……かといって、政略的に結婚させる訳にもな」
鍛冶師「こればっかりはねぇ……だけど」
鍛冶師「……外に出ない分、出会いとかも無いしね、弟王子は」
女剣士「まだ早い、んじゃ無いか?考えておくことは悪い事じゃ無いと思うけど……」
女剣士「兄である王子にしたって、まだ子供だぞ」
盗賊「……まあ、な」
鍛冶師「魔導の街には、引き続き警戒を怠らないでくれ」
鍛冶師「……勇者の旅立ちの騒ぎで、何があるかわからないからね」
盗賊「魔導の街には立ち寄った、かな……苦労しているだろうけど」
女剣士「『血』か……」
盗賊「『勇者』となれば必死になるだろう」
鍛冶師「母親みたいだなぁ、盗賊」
盗賊「王子と同じ歳だぞ? ……子供みたいなもんだ」
鍛冶師「……魔王、だよ?」
盗賊「…… ……そうだけど、な」
女剣士「私は魔王を余り知らないから、良く解らないけど」
女剣士「似ていないんだろう?勇者と、魔王は」
盗賊「全然違うよ。育った環境が違えば当然なんだろうが」
盗賊「……同一人物、とは……思えないさ」

鍛冶師「今頃どの辺かなぁ……顔、見せてくれたら良いのにね」
盗賊「何かあったら戻ってくるだろ」
女剣士「……知らせが無いのは良いこと、さ」
盗賊「そうだな。無事で居てくれれば……それで、良い」

……
………
…………

使用人「…… ……」

カラカラカラカラ……カラン

使い魔「使用人様、着きましたよ。船が見えます」
使用人「ありがとう……後は、歩きます」
使い魔「お気をつけて」
使用人「ええ……よい、しょ」トン
使用人(船……ああ、あれか。私の方が早かったのね)
使用人「…… ……」スタスタ
使用人(……え!?)
船長「アンタが、あの緑の鳥の主か……」
使用人「え、ええ……貴女、は…… ……娘ちゃ……さん、ですか」
船長「……何で、アタシの名前、知ってる……てのは愚問だな」
使用人「船長、さん、は……もしかして、ご病気ですか!?」
船長「……親父は、死んだよ」
使用人「…… ……え?」
船長「人魚の魔詩に魅了されてね……あっさり、食われちまったのさ」
使用人「そ……ん、な……!?」

船長「船長はアタシだ……以後の取引は、アタシとして貰うことになる」
使用人「船長、さん……が……」
船長「……不服か?」
使用人「え……あ、いえ、とんでも無い、です」
使用人「……以後も、宜しくお願い致します」
船長「少し、聞きたい事がある」
使用人「……何でしょう。お答え、できる事でしてたら」
船長「アンタ、人間じゃ無いだろう」
使用人「…… ……」
船長「答えられないか?」フゥ
船長「……まあ、良い。あんな鳥寄越して、最果ての大陸まで」
船長「金に糸目もつけず、頼む物と言えば……魔除けの石をありったけ、だったり」
船長「花の苗だったり……」
使用人「……」
船長「親父の時は上等な布、だったな」
使用人「……」
船長「……ダンマリか。まあ良い」
使用人「船長さ……お父様から、何も聞いていらっしゃらないのですか」
船長「親父の身体が動かなくなって、とうとう引退、って時に」
船長「教えてやるとか言って、な」
使用人「……そうですか」
船長「アタシも海賊だ。これも商売、金銭を受け取る以上、きっちりこなすつもりだし」
船長「余計な詮索は身を滅ぼす、って事も解ってる。だが……だが、な」
船長「……もし、こうやってアンタの手助けをする事が」
船長「世間一般で言う『悪事に手を貸す』結果になってんだったら」
船長「アタシは、今後一切アンタとは関わらない」

使用人「……」
船長「人間じゃ無いからって、イコール悪だと決めつける気はネェ」
船長「親父が……懇意にしてた位だ。信じられない訳じゃネェ」
船長「……一応、確認しておこうと思って、な」
使用人「気持ちは、解ります」
使用人「……私達にとっても、貴女達に取っても、不利になる様な事は」
使用人「誰の望みでも、ありません」
使用人「……信じて、貰えますか」
船長「…… ……」
使用人「…… ……」
船長「オーケィ……信じるよ」
船長「これは今回の依頼の分だ。魔除けの石は魔導の街で買い占めてきた」
使用人「……随分沢山ありますね」
船長「買えるだけ、居るんだろう?」
使用人「ええ……他の街でも、売ってましたか?」
船長「親父が買ってた分も入ってる。くっついて歩いてた訳じゃネェからな」
船長「どれがどこの物か迄は……」
使用人「いえ……良いんです。ありがとうございます」
船長「後は……世界の動向を知らせろ、だったな」
使用人「あ……ええ……」
船長「……この石を買った時に、魔導の街で金の髪と瞳の男に会った」
使用人「!」
船長「……特に会話をした訳じゃない。だがアレが……」
船長「魔王を倒す、って旅立った勇者、だろう?」
使用人「……で、しょうね」
船長「積極的に船を下りようとしたのは、親父が死んでからだ」
船長「親父は余り、アタシと話そうとはしなかったからな」
船長「アタシが、アンタに伝えてやれる事はこれぐらいしかないんだ」
使用人「……充分です。ありがとうございます」

船長「アンタ……親父とは、長い付き合いなんだよな?」
使用人「え?」
船長「……もう一つだけ、聞きたいんだ」
使用人「……はい?」
船長「昔……アタシが、小さい頃。親父の船……あの船で」
船長「金の髪の男の子と、旅をした記憶がある」
使用人「…… ……」
船長「金の瞳をしていた様な気もするし、茶か何かを見間違えたのかもしれネェ」
船長「……だが、もし金の瞳だったとするのなら……」
使用人「…… ……」
船長「海賊船に勇者を乗せた、なんて考えられないんだけどな」
船長「古くから船に乗ってる奴に聞いても、覚えて無いの一点張りでな」
船長「……耄碌ジジィが」チッ
使用人(もしかして、魔法使い、さん……?)
船長「どうした?」
使用人「あ、ああ……いえ。申し訳ありません。私は……存じません」
船長「……そう、か。そうだよな」
使用人「……また、何かあれば鳥を送って良い、のですか」
船長「ん? ……ああ。勿論だ。金さえ貰えりゃ、仕事はこなすぜ」
使用人「助かります……では、これは今回の……」ジャラ
船長「……ああ」
使用人「では、失礼致します」スタスタ

カラカラカラカラ……

船長「…… ……魔族、か」フゥ
船長(ガラでもネェ……手が、震えてやがる)
船長(……仕事だ、仕事。アタシは、海賊だ。船長……だ!)スタスタ
船長「…… ……ん?」

船長(……ッ 人影……魔物か!? ……いや、違う)
船長(随分フラフラと……歩いてやがるな)
船長「おい、そこの兄ちゃん!」
男「…… ……?」
船長(……こいつ、人……か?馬車を見つめてた)
船長「おいおい、お前随分汚れてるな……大丈夫か?」
男「……俺、か」
船長「お前さんしか居ないだろ……船に乗るのか?」
船長(ここは最果ての地……彷徨ってる人間、てのも……考えにくい、が)
男「船……?」
船長「おう。この船が最後だぜ、こんな……廃墟の街にくる用事なんかねぇからな」
船長「逃したら二度と出れないかもしれないが……良いのか?」
船長(……理解してる、のか。頭はまとも……なんだろうな)
男「……金が、無い」
船長「はぁ!?」
男「ここは、何処だ? ……俺は……?」
船長「……おいおいおい、何だそりゃ……ちッ訳ありかよ……」
船長(記憶喪失……? しかも、こいつ……紫の瞳を、してる)
船長(あの……記憶の中の金の瞳の少年と良い、勇者と良い……こいつと良い……)ハァ
船長「仕方ないな……良いよ、乗りな」
男「良いのか」
船長「放って行って欲しいならそうしてやるよ……自分で決めな」
男「……頼む」
船長「お願いします、だろ?」ニヤニヤ
男「……お願いします」
船長(表情は変わらないな……近くで見れば、綺麗な顔をしてる)ドキ
船長「……素直だな、まァ、良いだろう……ほら、早く乗りな。話は中で聞くよ」
男「……感謝する」スタスタ
船長「大丈夫かね、ありゃ……まぁ、良いか……野郎共!船を出すよ!」
船長「出航だ!」

アイアイサー!

男「…… ……」
船長「なァにぼさっと突っ立ってんだい!金が無いなら働いて貰うよ!」
男「……この船は、商船か?」
船長「そんなモノと一緒にして貰っちゃ困るね。この船は天下の大海賊様の立派な海賊船だよ?」
男「……海賊?」
船長「そうさ、あんな廃墟に普通の商船に何の用事があるって言うんだい」
男「……お前、は海賊なのか」
船長「お言葉だね……この船に、アタシ以上に偉そうな奴が乗っている様に見えるかい?」
男「……お前が、船長?」
船長「そうさ……これがアタシの海賊団の動く要塞。不沈の海賊船だよ」
男「……そうか」
船長「……アンタね、もうちょっと驚きなよ。これでもちょっとばかし、有名な海賊団なんだぜ?」
男「……すまん。どうやら……記憶が無い様なんだ」
船長「は?」
男「どうしてあそこに居たのか、何処から来たのかも……わからない」
男「……名も、解らん」
船長「……まじ?」
男「嘘を吐いてどうする」
船長「参ったねぇ……とんだ拾いモンだ」
海賊「船長! ……あれ。誰です、それ」
船長「あー……拾った」
海賊「拾ったぁ!? ……奴隷ですか」
船長「……」ギロ
海賊「ひッ ……じょ、冗談ですよぅ」
船長「用事が無いなら持ち場に戻りな!」
海賊「いや、呼びに来たんですよ、俺は……」
船長「ちッ ……仕方ない。おい、アンタ……取りあえずそこの小部屋に入ってな」
男「……あ、ああ」
船長「アタシの部屋なんだからね!いじくり回すんじゃないよ!」
海賊「……船長、男前に弱いからなぁ」ボソ
船長「何か行ったかァ!?」
海賊「し、失礼しまああっす!」タタタタタ

……
………
…………

使用人「…… ……」コンコン
側近「使用人ちゃんか? ……おかえり。船長元気だったか?」
使用人「…… ……」
側近「……使用人ちゃん?」
使用人「入りますね……」カチャ
側近「……どうした?」
使用人「……魔除けの石、此処に置いておきます」
側近「使用人ちゃん」
使用人「…… ……船長さん、亡くなったそうです」
側近「……え!?」
使用人「人魚、に……食べられた、のだとか……」
側近「…… ……そ、うか……」
使用人「これからは、娘ちゃんが船長として」
使用人「……仕事を、こなして下さるそうです」
側近「世界の動向を聞く事は……出来なくなる、な」
使用人「船長さん、娘さんには話していらっしゃらないみたいでしたし、ね」
側近「……仕方無い。何れ……人間は、死ぬんだ」
使用人「駄目になった魔除けの石、処分しますね……」
側近「……大丈夫、か?」
使用人「寿命で亡くなった、のであれば……納得も出来ます」
使用人「でも…… ……ッ」
側近「…… ……」
使用人「……『魔王』が『勇者』に倒されれば、魔物は居なくなる、んでしょうか」
側近「どうだろうな……可能性は、無いとは言えない」
使用人「そうすれば、私も……」
側近「…… ……厭、か?」
使用人「いいえ。魔王様のご意志です。だから……」

使用人「…… ……」
側近「……」ナデナデ
使用人「それ、肩です」
側近「……だよな。手触りおかしいと思った」ナデナデ
使用人「正解です……けど、子供じゃ無いんですから」
側近「……誰かが死ぬ、てのは悲しいもんだ」
使用人「…… ……」
側近「だから、無理は……」

魔王「……ッ ゥ。ウ……」

使用人「魔王様、変わらない、ですね」
側近「まあ、な……魔除けの石が……」

パリンッ パリン、パリン……ッ

側近「!?」
使用人「……ッ 割れた!?」
側近「魔王様……!?」
側近(魔力が、大きく膨れあがった……!)
使用人「……今、頂いてきた方は無事です、側近様……!」
側近「それ、貸して……!」ガシ、バラバラバラ……
使用人「……だ、駄目です、一斉に紫に……ッ」
側近「……使用人ちゃん、出て行け!もう入るなよ!」
側近「御免!」ドン!
使用人「きゃッ ……ッ」ドタ

バターン!

使用人「側近様!?」
側近「魔力をぶつけて何とか押さえる!」
使用人「!! 一人じゃ無理です、側近様!」
側近「どうにかする!無理なら呼ぶから!」
側近「魔除けの石は暫く良い!娘……あ、船長か」
側近「……勇者が来るまで、近づけさせるなよ!!」

使用人「側近様!」ドンドン!
側近「大丈夫だ。俺がくたばっても、終わっちまうんだよ」
側近「……使用人ちゃん、勇者と約束したんだろ?」
側近「ちゃんと……迎えてやって?」
使用人「側近様……」

……
………
…………

戦士「つ、いたー!!」
魔法使い「流石に長かったわね……」
僧侶「あ……此処に着くんだ……」
勇者「え?」
僧侶「この港から、小さな船が出るんだよ。一週間に一便ぐらいだけど」
魔法使い「少ないわね……何処に向かう船なの?」
僧侶「小さい島だよ。私の出身の村がある」
戦士「そうなの!?」
勇者「へえ……」
僧侶「花が一杯の広場と噴水が村の中心にあってね」
僧侶「少し前に、村長さんが綺麗な女の人の像を買ってきたんだ」
戦士「像?」
僧侶「うん。港街の教会で見た、あの小さい奴の……大っきい版、みたいな感じの」
魔法使い「へえ……」
勇者「似てる、のか?」
僧侶「ううん、顔は全然違うよ。何だろう……もっと、人間離れしてた」
勇者「人間離れ?」
僧侶「凄い綺麗なんだけどね。童話の挿絵のお姫様みたいだったよ」
魔法使い「村長さんの趣味なの?」
僧侶「だろうねぇ。観光名所になれば、とか言ってたけど」
僧侶「不便すぎて、旅人なんか殆ど来ないからね」

魔法使い「ふふ……時間があれば一回行ってみたいな」
戦士「お前、花愛でる趣味なんかあんの」
魔法使い「……いちいち煩い男ねぇ、アンタは!」
勇者「まあまあ……魔王を倒したら、みんなで行こうか」
僧侶「あ、本当?勇者が来る、なんてなったら」
僧侶「村長さん、驚いて倒れちゃうかも」クスクス
戦士「一週間は流石に待てないもんな……えーっと。ここからは陸伝い、か?」
勇者「ちょっと待ってくれよ、地図地図……うん、そうだな」
勇者「北に歩けば北の街だな……近いみたいだ」
勇者「山を越えて南の方に……ああ、でも結構距離あるな……」
魔法使い「そっちに行けば、何があるの?」
勇者「鍛冶師の村、だな」
魔法使い「……港街の教会に居た人が居る、んだっけ」
戦士「だな……どうする、勇者?」
勇者「山越え、きついと思うぞ……この大陸の魔物も解らないしな」
僧侶「そうだね……道に迷うのも怖いよね」
戦士「北の街まで……は、一本道か」
勇者「時間も早い。夜に着ければ……まあ、良いかな、て所か」
魔法使い「北の街の方が良いと思うわよ。何か魔王を倒す為に」
魔法使い「必要な物がある訳でも無いんでしょう、鍛冶師の村に」
戦士「そうだな。俺も北の街に行く方に賛成だな」
勇者「……僧侶は?」
僧侶「必要が無いなら、それで良いと思うよ」
勇者「だな……良し、じゃあこの侭北に進もう」
勇者「北の街まで来れば……魔王の城は、もうすぐだ」
魔法使い「……勇者」
勇者「ん? ……魔物、か」

グルルルルル……

戦士「見た事無い狼だな……って、臭ッせぇ………!」

僧侶「……腐臭、だね、これ」
勇者「見た目は普通……ぽい、けどな」
魔法使い「ごちゃごちゃ言ってないで! ……炎よ!」ボウ!
戦士「そりゃ!」ブン!
勇者「それ!」ブゥン!ザシュ!
僧侶「……しぶといね、結構……」
魔法使い「……血が、臭い……! ……ッ あ……!」

ガルルルルッ!

戦士「危ない、魔法使い!」ガバッ

ガアアア!

勇者「魔法使い!戦士!」
戦士「ぐ、アああああああああああ!臭い!臭い!!」
魔法使い「きゃああああああああああ!!!」ゲホッゲホ!
勇者「……ッ」ブン、ザシュ!ザク!

ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

僧侶「……血、吐き着けられただけで、良かった、じゃない……」
魔法使い「鼻つまみたいのは、私、よ ……ッ」オエッ
戦士「…… ……ッう、プ……ッ」ウエエエエエ
勇者「は、吐くなよ、戦士!!」

おひるごはん!

僧侶「か、回復、する?」
戦士「お、お……うえッ」
魔法使い「やめてよ!私まで吐きそうになるじゃない!」
勇者「……御免、本当に御免、でも……寄らないで」
戦士「勇者酷い!」
勇者「と、とりあえず、さっさと北の街を目指すぞ!」
勇者「……臭くて、かなわん」ハァ

……
………
…………

船長「……先にコッチに行ってそれから……」ブツブツ
男「………!」ガバ
船長「アァ、やっと起きたかい」
男「……俺は、どれぐらい……」
船長「あれから5時間程だな……疲れは取れたか?」
男「疲れていたのかどうかすら……」
船長「記憶喪失って奴かァ? ……名も覚えて無いって言ってたな」
男「ああ……」
船長「剣士、だ」
男「剣士?」
船長「名前が無いと不便でしょうが無いだろ。文句あるかい?」
剣士「……否」
船長「オーケィ。で、だ……本当に何も覚えちゃ居ないのか?」
剣士「ああ……気がついたらあそこに倒れていた」
船長「あそこがどこだか……知ってる訳ないな」
剣士「……空が『紫』色だった」
船長「あそこは最果ての街と呼ばれてる」
剣士「最果ての街?」
船長「そうだ。世界の果ての、果てにある朽ちた街」
剣士「……無人では無いのだろう?馬車と……すれ違った」
船長「森の方向に走っていっただろ?随分と立派な馬車が」
剣士「ああ……」
船長「あれに荷物を下ろしたのさ。アタシ達の大事な顧客様さ」
剣士「……人が、住んでいるのか?森しか見えなかったが」
船長「……知りたいか?詮索は時に身を滅ぼすよ」ニィ
剣士「…… ……」

船長「仲間とは秘密を共有する義務がある。そうやってアタシ達は信頼し合う」
剣士「………」
船長「行く当ては?」
剣士「……俺は……」
船長「わからない、か」
剣士「……ああ」
船長「思い出すまで、置いてやっても良い。が……きちんと働いて貰うよ?」
剣士「……感謝する」
船長「あんな場所に居るからには訳ありなんだろうしな」
剣士「あんな……場所? ……廃墟か」
船長「それだけじゃない。あの森の奥には『でっかい城』があると言われているのさ」
剣士「城……」ズキン
船長「そう……場所が場所だろ? 魔王が住んでるんじゃ無いか、とかな」
船長「……魔王が人を滅ぼそうとしてる、なんて噂まで……どうした?」
剣士「……頭が……魔王……」ズキンズキン
船長「……」
剣士「俺は……魔王を、倒さなければ……」ズキンズキン
船長「……『遅かった』な」
剣士「……何?」
船長「ついこの間……『勇者様が魔王を倒す旅に出た』て話だ」
剣士「……勇、者」
船長「『金の髪に金の瞳』……まるで、正反対だな」
剣士「正反対……どういう事だ?」
船長「アンタだよ、剣士。アンタは……『黒に見まがう紫の髪に、紫の瞳』だ」
船長「……アンタみたいな奴、見た事無いよ」
剣士「……」
船長「それに、この船にはくたばり損ないのジジィだけど」
船長「一応魔法使いが居るのさ……自称物知り、のね」
剣士「……そう、なのか」

船長「そのジジィの話だと、『瞳の色はその者の加護を表している』んだそうだ」
船長「勇者様ってのは、金の瞳……光の象徴なのかもしれん、のだとさ」
剣士「……では、俺は……なんだ?」
船長「さてね……アンタに解らないのに、アタシに解る訳ないだろう」
剣士「……さっきの、馬車は?」
船長「知りたいか?」
剣士「……仲間とは秘密を共有しあうんだろう」
船長「言ったね?……まあ、良いだろう。アンタ、いい男だしね」
剣士「……関係あるのか?」
船長「目の保養って言葉は知ってるかい?」
剣士「……」
船長「『昔は城まで運んでた』んだそうだ。親父曰く、な」
船長「聳える、古い居城があるらしい……が」
船長「『ある日を境に、あの場所で待ち合わせる事にした』んだと」
剣士「……じゃあ、あの馬車は」
船長「城に住む……魔族だろうな」
剣士「……! まさか!?」
船長「さっきも言った。詮索は時に身を滅ぼす……アタシ達は、金さえ払って貰えりゃ」
船長「文句はネェ……あの馬車に乗ってた女はな」
船長「随分昔からお得意様なのさ」
剣士「………女?」
船長「ああ。顔は隠してやがるが声で解る。それに……」
船長「アンタも、暫く船に乗ってりゃ解る『緑色の小鳥』が文を運んでくるのさ」
剣士「だが……何故、魔族と解る?」
船長「『消えちまう』のさ」
剣士「!?」
船長「煙の如く……ね。人間だって魔法を使える。だがな」
船長「そんな芸当、あっさりとやってのけるのは……な?」
剣士「…… ……」
船長「しかも、常識で考えられない値段の物を」
船長「常識で考えられない数注文する」
船長「アタシ達は何とでもして、その依頼を早急にこなす」
船長「……それだけで、2,3年は何もせず遊んで暮らせる額を稼げるからね」
剣士「……」

船長「親父がまだ生きてる時に、とびきり上等な布を大量に届けたりもした」
剣士「……今回は?」
船長「とびきり笑えるよ。今回も前回も……」
船長「魔除けの石を、ありったけ……何考えてるか解りゃしネェが」
剣士「金さえ払って貰えれば……か」
船長「そう言うこった」ニィ
剣士「……お前の、親父は?」
船長「『少し前』、さ……海の魔物に食われて死んだよ」
剣士「……すまん」
船長「気にする事じゃない」
剣士「なのに……魔物を相手に商売するのか」
船長「生きる為だ。食う為だ……金を稼ぐのに、アレは嫌コレは嫌なんて」
船長「……言える身分じゃ、海賊なんてやってネェよ」
剣士「強い、んだな」
船長「……人には、分不相応の幸せってものがあんのさ」
剣士「…… ……」
船長「さて、そろそろベッドに寝かして貰えるとありがたいんだけどね」ス…
剣士「あ、ああ……悪かった…… ……」ギシ
船長「……眉間に皺刻んでんのもイイね、アンタ」
剣士「………何故、上に乗る」
船長「男と女が一つの部屋で一人きり……他に何するんだい」
剣士「……」ハァ
船長「諦めが早いのは良いことだ。アンタ、得するよ……この世界ではね」
剣士「断れる状況でも無いだろう」
船長「おまけに、飲み込みも早い……アンタ、海賊に向いてるよ」チュ
剣士「……褒められているのか、それ…は… ……」

……
………
…………

町長「これは、勇、者…… ……様方、で、すよ……ね?」
魔法使い「……」グッタリ
戦士「……」グッタリ
僧侶「あの、町長さん、すみません……先に、お風呂とか……」
勇者「俺からもお願いします。狼を倒した時に、血を被ってしまいまして……」
町長「あ、ああ……!失礼しました!すぐにご準備致します!」
勇者「良かったな、戦士」
戦士「……」コク
僧侶「……ちゃ、ちゃんと洗ってあげるからね」
魔法使い「……」コク
町長「お、お仲間の方は大丈夫ですかな……お話になるのも、お疲れなご様子ですが……」
僧侶「息すると臭いんですって、自分が」
勇者「……もう少し包んで言おうよ、僧侶」
魔法使い「……」
魔法使い(後で覚えておきなさいよ、僧侶……!)
戦士「……」
戦士(臭いー、自分が臭いー)

……
………
…………

戦士「ああ、生き返った!」ボスッ
魔法使い「ちょっと、邪魔よ戦士……それにアンタはあっち!」
戦士「何処でも良いだろうが、ベッドなんて」
魔法使い「そんなに僧侶の横で寝たいの?」
戦士「ん? ……ああ、その荷物僧侶のか」
戦士「別にベッドくっついてる訳じゃあるまいし、良いだろうが」
魔法使い「勇者が妬いちゃうわよ」
戦士「妬いてんのはお前じゃネェの」
魔法使い「は!? 何でアタシ……」

戦士「何となく ……お前、俺の事好きなんじゃネェの?」
魔法使い「……どうやったらそんな思考回路になるのか聞いてみたいわね」
戦士「脳みそまで筋肉で、って奴か?」
魔法使い「下らない事言ってないで、そこ退いてよ!」
戦士「やだよ」グイ
魔法使い「きゃ……ッ!?」
戦士「お。良い匂いする」ギュ
魔法使い「な、な……ッ 何すんのよ!?」
戦士「俺はお前の事好きだぜ、魔法使い」
魔法使い「……アンタのは『女好き』でしょ」
戦士「まあ、否定はしねぇけど」
魔法使い「……離して、てば」
戦士「厭だってば」
魔法使い「……ッいい加減にしてよ!アタシはアンタのはけ口になるのは……ッ」
戦士「はいはい、煩い煩い」チュ
魔法使い「!?」
戦士「……はけ口じゃ無くて、恋人なら良い訳?」
魔法使い「……アンタの言葉はわかんないのよ。本気なのかどうなのか」
魔法使い「しかも、いきなりそんな事言われたって、そんな素振りも何も……!」
戦士「……勇者と僧侶は?」
魔法使い「え? ……二人で町長さんとこに行ったわよ」
魔法使い「……私達、あんな状態だったんだもの」
戦士「そっか」
魔法使い「そうじゃ無くて!だから、なんで、急に……!」

戦士「だから急じゃ無いって。結構前……最初から、かな」
戦士「気に入ってたんだぜ?」
魔法使い「……何よ、一目惚れでもした、って言いたいの」
戦士「まあ、それに近いのかなぁ」ウーン
魔法使い「何よ、それ……」
戦士「何となく ……お前じゃ無いと、駄目な気がしたんだよ」
戦士「僧侶でも他の女でも無くてさ……『お前』が良い」
魔法使い「戦士……」
戦士「……不思議な感覚だなぁ。何でかわかんないけど」
戦士「『前世でも恋人だった』んかなァ?」ハハ
魔法使い「……こっぱずかしい事あっさり言わないでよ」
戦士「お返事はー?」
魔法使い「……アタシ、も。アンタの事は好きよ」
魔法使い「不思議ね。アンタじゃ無きゃ……駄目な気がするのよ、アタシも」
戦士「ん、何。真似っこ?」
魔法使い「茶化さないで! ……何なんだろうな、この気持ち」
戦士「だから、言ってんじゃん」
戦士「……『前世でも恋人』だったんだよ、俺達。運命、って奴?」
魔法使い「『運命』 ……また、しれっと恥ずかしい事を」ハァ
戦士「本心だって……で、さ。返事は?」
魔法使い「まだ恥ずかしい事を言わせる気なの!?」
戦士「顔真っ赤」クス。ギュ……チュ
魔法使い「……帰ってくるわよ、あの二人」
戦士「鍵かけてあるしー」
魔法使い「……酷い」
戦士「厭なら退けば?」
魔法使い「厭だから、退かない」チュ

……
………
…………

町長「そうですか、最果ての街に……」
勇者「はい。先ほどちらっと見たんですが……もし良ければ」
勇者「あの船を、お貸し頂けませんか?」
町長「……それは、お持ち頂いても構いません。あの船は」
町長「そもそもは、前町長の物ですし……」
僧侶「え?では、貴方の物……でもあるんじゃないんですか」
町長「いえ……前町長はある日突然、姿を消してしまいましてね」
町長「一応、町民から選ばれて私が町長と言う事にはなったんですが」
町長「今の所、誰の物と言う訳でも無いのですよ」
勇者「そうなんですか……」
町長「ですが、勇者様のお手伝いとなれば、誰も文句はいいますまい」
町長「ただし、北の塔にだけはお近づきになりませんように!」
僧侶「北の塔?」
町長「この街を背に、海の……最果ての大陸の方を見れば」
町長「天まで届く程の高い塔が見えるんですよ」
勇者「天まで!?」
町長「ええ……昔はあの塔に行きたがる無謀な者達も居たんですがね」
町長「今では、怖がって誰も……近づこうとはしません」
僧侶「魔物が……住んでいるのですか?」
町長「あ……いえいえ。そういう訳では……ただ」
町長「不気味ですしね。この街の物は……触らぬ神にたたり無し、と」
町長「とにかく……嫌がる物で」
勇者「そう、ですか……」
町長「ええ。ですから、それさえお約束して頂ければ」
僧侶「わかりました……大丈夫だよね?勇者」
勇者「ああ。ご協力頂けるのでしたら、勿論、守りますよ」
町長「そうですか。ではどうぞ、お使い下さい」ホッ
町長「お仲間のお二人も、そろそろ戻られるでしょう。今日はゆっくりと」
町長「お休み下さい」
勇者「ありがとうございます」
僧侶「ありがとうございます!」

キィ、パタン

勇者「良し、足も確保できた……な」
僧侶「丸一日あれば着くって言ってたね。最果ての街まで」
勇者「そうだな……レベルも、まあ、随分上がったよな」
勇者「……強く、なってる……よな」
僧侶「……ちょっと、お散歩しない?勇者」
勇者「え? ああ……別に、構わないけど」
僧侶「街の外に出なければ大丈夫でしょう」
僧侶「……手、繋いで良い?」ギュ
勇者「……答え聞く前に繋いでるじゃないか」ギュ
僧侶「厭だったらほどいて良いよ」
勇者「厭だったらね」
僧侶「…… ……勇者、さ」
勇者「うん?」
僧侶「…… ……」
勇者「何だよ」
僧侶「傷付けたら、御免……あの」
勇者「…… ……」
僧侶「光の魔法、使えない、んだよね?」
勇者「……やっぱり、気がついてたか」
僧侶「魔導の街の図書館で、魔法の使い方とか、一生懸命読んでたし」
僧侶「優れた加護が……とか、離してた時の様子とか……」
勇者「…… ……」
僧侶「…… ……」
勇者「光の剣を修理する為に、南の洞窟に行った時にさ」
勇者「王子が、魔物にやられそうになって……」
僧侶「うん」
勇者「……無我夢中だった時に、一度だけ使った、らしいんだ」
僧侶「らしい?」
勇者「俺は覚えて無いんだ。その後も一週間だか10日だか、寝込んでたらしくて」

勇者「起きたら、光の剣も……今のあの状態になってた」
僧侶「……」
勇者「側近に言われて、何度か試してみたけど……それ以来、一度も使えない」
勇者「俺が使えるのは、簡単な回復魔法だけだ」
僧侶「……そ、か」
勇者「こんなので……俺、魔王……倒せるのかな」
僧侶「『勇者は必ず、魔王を倒す』んでしょ?」
勇者「…… ……」
僧侶「『願えば、叶う』だよ」
勇者「…… ……」
僧侶「自信、無いの?」
勇者「……いや、そんな事は無い。無いよ……俺には」
勇者「僧侶や、魔法使い、戦士……大事な仲間が居る」
勇者「自信が無いなんて言っちゃったら、失礼だろ、お前達に、さ」
僧侶「……うん」
勇者「あれから、試してないけど……」
僧侶「?」
勇者「魔法は、使い様……なんだろう」
勇者「……だから、さ。大丈夫。俺なら出来るって信じてるよ」
勇者「俺は『勇者』だ。『勇者は、必ず魔王を倒す!』」
僧侶「…… ……勇者、おまじないしてあげる」
勇者「おまじない?」
僧侶「うん。目、閉じて?」
勇者「ん……」
僧侶「…… ……」チュ
勇者「!?」
僧侶「…… ……」フイ
僧侶「も、戻ろ、っか!」
勇者「……ッ」グイ!
僧侶「!」
勇者「……僧侶」ギュ……チュ
僧侶「……ッ ん……ッ」
僧侶「……」ソロソロ……ギュ
勇者「…… ……」
僧侶「…… ……」

勇者「……僧侶」
僧侶「わ……私、ね?」
勇者「……?」
僧侶「……勇者が、あの……始まりの街から、旅立つって聞いて」
僧侶「いてもたっても居られなくなって……」
僧侶「『着いていかなきゃ』って思ったの」
僧侶「……『勇者』には、憧れた。誰も持たない、光の加護を持つ」
僧侶「光に選ばれた、運命の子」
勇者「…… ……」
僧侶「でも、実際に貴方を見て……思ったんだ」
僧侶「……この人だ。私、この人と運命を共にするんだって」
勇者「……『運命』」
僧侶「うん……なんか、ずっと探してた物、やっと見つけた、見たいな」
勇者「…… ……」
僧侶「上手く……言えない、けど……」
僧侶「始まりの街を出た時にはああ言ったけど」
僧侶「……本当は、私が選ばれない可能性なんて、考えなかったよ」
勇者「俺……誰を選んだら良いか、なんて解らなくて」
勇者「適当、って言ったら言葉は悪いかもしれないけどさ」
勇者「いや……『適当』であってんのか。ともかく、えっと……」
僧侶「直感?」
勇者「……よく言えば、ね」
勇者「僧侶と、魔法使いと戦士がぱっと目についたんだ。だから……」
僧侶「間違えて……無かった、よね?」
勇者「……当たり前だろ」
僧侶「うん……」フフ
勇者「魔王を倒したら……」
僧侶「ん?」
勇者「始まりの街に戻って、さ……王様達に報告して」
勇者「……港街の、あの教会、で……さ……」
僧侶「ストップ!」

勇者「……え?」
僧侶「魔王倒して、何にも心配する事、無くなってから」
僧侶「改めて…… ……ね?」
勇者「僧侶……」
僧侶「おまじない、してあげたし、大丈夫!」
僧侶「私達は……『勇者は、必ず魔王を倒す』ん、だよ」ギュ
勇者「……ああ!」ギュ
僧侶「……」チュ
勇者「……ん」
僧侶「戻ろ、っか」
勇者「ん……遅くなっちゃったな。もう寝てるかな」
僧侶「かもね。疲れただろうし、ね」
勇者「……明日、出発だ。ゆっくり休もう」
僧侶「……うん」

……
………
…………

神父「…… ……」
少女「あー、うー」
神父(……やはり、人の子と比べて、成長が……早い)
神父(まだ、半年程だろうに……やはり、この子は……純粋な、エルフ?)
少女「うー?」
神父「はい?お腹がすきましたか?」
少女「あー」キャッキャ
神父「すぐに用意しますからね」スタスタ
神父(……事情を話して……否。もう、女将さんに頼るのはやめるべきだろう)
神父(教会へと……通うのも目を離せないし)
神父(やはり、この小屋に篭もって…… !?)ドン
少女「し、ん……ぷ、さま」ニコッ
神父「!!」
神父(此処まで……歩いて……!?)キョロキョロ
少女「……」タ、タ……
神父(……私に、この子を……無事に、育てる事は……出来るのでしょうか)
神父(神父様……神、よ……!!)

……
………
…………

魔法使い「あれか……北の塔、って」
戦士「確かに……天辺見えネェな」
勇者「……迂回しろ、戦士。傍に寄るな」
戦士「あいよ……なあ、勇者。いい加減、その照れた様な目で」
戦士「俺を見るのはやめてくれないかな……」
勇者「……気のせいだ」フイ
僧侶「……おめでたい事だと思うけどね」
魔法使い「な、何よ、僧侶まで……」
勇者「僧侶と部屋に戻ってみれば」
僧侶「……二人仲良く裸のまんまで一つのベッドで抱き合って、ねぇ」
勇者「すーすー寝息立ててなぁ……」
魔法使い「あ、アタシ後ろ見てくるわね!」スタスタ
僧侶「右手と右足同時に出てるよ、魔法使い……」
勇者「……魔王を倒して帰る時は、二つ部屋取ろうな」
戦士「ええ……俺、魔法使いと一緒が良い……」
僧侶「それでいいじゃん」
戦士「……え!?」
勇者「僧侶と俺、戦士と魔法使い、で良いだろう」
戦士「え、え ……えええええええええええ!?」
勇者「その反応したいのは俺の方なんだけどな?」
僧侶「ねぇ」
戦士「いやいやいやいやいや、何時の間に!?」
勇者「そっくりそのまま返してやるわ!」

タタタ

魔法使い「勇者!魔物よ!」
勇者「! ……固まれ!ばらばらになったらやられるぞ!」

僧侶「……ッ 人魚!?」
魔法使い「耳塞いで!」ギュ
勇者「え!?」
魔法使い「魅了の魔詩を唄う奴なら厄介だわ……早く!」
戦士「!」ギュ!
僧侶「……戦わない方が良いわね……やり過ごそう」ギュ
勇者「まじかよ……」ギュ

~♪ ~♪

僧侶「……」
魔法使い「……」
戦士「……」
勇者「…… ……ッ」クラッ

~♪ ~♪

戦士「……ぼーくらはーゆうーしゃー♪」
魔法使い「もう少し……もう少し……」
僧侶「……勇者?」
勇者(な、んだ……意識、が……)フラッ
魔法使い「勇者!?」
僧侶「まだ駄目、魔法使い!」
戦士「つよーいぞー、つよーいんだぞー♪ ……ん?」
勇者(…… ……なん、だ…… ……こ、れ……)バタン!
勇者(あれは…… ……金、 ……と、紫…… ……)
戦士「勇者!?」
魔法使い「……ッ 戦士、船! ……全速力!」
僧侶「勇者!勇者!?」
戦士「お、おう!」ダダダ…ッ

……
………
…………

勇者(う、う……ん?)
勇者(あれ、俺……船の上で…… ……ん!?)
勇者(身体が……動かない。しかも……空の上!?飛んでる!?)
勇者(……あれは、何だ?)
勇者(…… ……あれは、俺……か?)
勇者(金の髪に……金の瞳……)
勇者(……顔も、俺の物だ。でも……何か、違う)
勇者(…… ……何か、言ってる?)
勇者?「…… ……」パクパク
勇者(……聞こえない。何だ?)
勇者?「…… ……」パクパク……ス
勇者(手を挙げて……なんだ?)
勇者(もう少し…… ……近く……)
勇者(何だ……手のひらに……痣……?)
勇者(どこかで……見た事が……?)
勇者(……真っ黒、だ)
勇者?「…… ……」パクパク
勇者(何? ……!声が、出ない……!?)
勇者?「…… ……を」
勇者(え、なんて?)
勇者?「選択……を……」
勇者(選択……?)
勇者?「選択を間違えるな!『俺達』は、知る権利がある!」
勇者(! ……ッ 頭に、響く……ッ)

勇者?「『知る』事を拒否するな」
勇者?「過ちを犯した『世界』は、真に美しい世界では無い」
勇者?「必ず、魔王を倒せ!『欠片』を見つけ出せ!」
勇者(何、を言ってるんだ……この人は……否)
勇者(この人は……俺、か?)
勇者?「きちんと、『知る』んだ」
勇者?「『繰り返される運命の輪』を『腐った世界の腐った不条理』を」
勇者?「今度こそ、断ち切るんだ!『勇者』!」
勇者(な……何? 何を言ってるんだ?)
勇者?「間違うな! ……今度こそ、必ず!」
勇者?「…… ……」パクパク
勇者(え、何……聞こえない……ッ)
勇者?「…… ……」パクパク…… ユラ
勇者(……ッ 歪んで……行く……!)
勇者(何だ…… ……光……ッ!?)

パアアアアアアアアア!

僧侶「勇者!勇者!」
勇者「!」ハッ
戦士「……焦らすなよ」ホゥ
魔法使い「良かった……」フゥ
僧侶「大丈夫!?」
勇者「……」バッ
魔法使い「どうしたのよ、手なんて見て……」
勇者(……何も、無い)
戦士「大丈夫か?」
勇者「あ、ああ……」
勇者(夢……か……)
魔法使い「感謝しなさいよ、僧侶、ずっと回復魔法かけてたんだから」

勇者「……さっきの光は、僧侶か」
僧侶「光?」
勇者「いや……何でも無い。ありがとう、僧侶」
僧侶「……大丈夫なの?」
勇者「ああ……急に気が遠くなっただけだ」
魔法使い「だけ、って!」
戦士「魔詩とやらの効果、か?」
魔法使い「どうなのかしら……魅了されるとしか聞いた事が無いから」
勇者「……夢を見たんだ」
僧侶「夢?」
勇者「ああ……もう一人、俺が出て来て」
勇者「知る事を拒否するなとか……腐ったなんとかを断ち切れとか」
戦士「何それ」
勇者「……さっぱり解らん。あれは俺だった……と思うんだけど」
魔法使い「詩に酔って、悪夢でも見たのかしら」
僧侶「もう、平気?勇者……」
勇者「あ、ああ……詩に酔った、か。成る程な」
戦士「まあ、何も無いなら良かったぜ……最果ての大陸は、目の前だ」
勇者「……ああ」
勇者(たかが……夢、だ)
勇者(……しかし、何かが…… ……ひっかかる……?)

…… 
………
…………

側近「若ー!?」タタタ
使い魔「どうされたのです、側近様」

側近「おう! ……若知らネェ?」
使い魔「いえ……存じませんが」
側近「あー……じゃあ、魔導将軍か鴉!」
使い魔「鴉様は見回りに出てらっしゃいますし」
使い魔「魔導将軍は、狼将軍と会議ですよ」
側近「ええええええええええええ」
使い魔「……どうされたのですか」
側近「いや、魔王様に若呼んで来いって言われたんだけどさ」
側近「どっこにも居ないんだよ!」
使い魔「ああ……いらっしゃったら、側近様が探していらっしゃったと」
使い魔「伝えておきます」
側近「おう、頼むな!」タタタ
側近「まーったく、何処行ったのかねぇ、あの若様は」
側近(何時の間にやらでっかくなっちゃってさー)
側近(……もう、魔王様と見分けがつかないもんな、後ろから見ると)
側近(髪の長さが違うぐらいで……)タタタ
側近「……居ない」
側近「仕方ねぇ……魔王様に居ませんでしたって…… ……ん?」
側近(あれ……外、暗い?まだそんな時間じゃ……)カチャ
側近「……!!」

シュゥシュウ……

側近(庭の花が……一斉に枯れてる!?)
側近「……魔王様!」タタタ

ドォン……ドオオオオオオオン!

側近「!!」
側近「な、何だ!?」

タタタタ……

側近「! 誰……ッ 魔導将軍!」

魔導将軍「側近! ……魔王様は、若は……!」
側近「若を探す様に言われたんだが、居ないんだよ何処にも……!」
側近「それより……!」
魔導将軍「…… ……」
側近「おい、魔導将軍!?」
魔導将軍「……着いてくるが良い、側近」
側近「え!? ……てか、お前会議は!?」
魔導将軍「適当に言って切り上げてきた……覚えがあるのでな」スタスタ
側近「?」スタスタ
魔導将軍「……代替わり、だ」
側近「!! ……ッまさか! 魔王様は、まだ……!」
魔導将軍「…… ……」
側近「……ッ 花が、枯れてたぞ」
魔導将軍「お前にはわからんか? ……ピリピリと、肌に伝わる」
魔導将軍「凄まじい、『魔王』の魔の気……!」
側近「……どっち、だよ」
魔導将軍「……さて、な」

カチャ……バタン!

若「…… ……側近、と魔導将軍、か」
魔導将軍「若……」
側近「……魔王、様……ッ」タタタ
若「…… ……」
側近(穏やかな……顔、だ)
側近(……魔王、様)
魔導将軍「……若、魔王様の亡骸は……」
若「魔導将軍」
魔導将軍「はい」
若「……『魔王』は、私だ」
魔導将軍「…… ……はい」
側近(魔王の剣が……紫に染まってる!?)
側近(…… ……そうか。若……否、魔王様の属性は……)
魔王「親父の亡骸は……すぐに、空へ還る、のだろう」
魔導将軍「……ご存じでしたか」
側近「還る?」

魔王「『悠久の空の彼方へ還り、この世界へ孵る』のだと、親父自身が言っていた」

ボロボロ……サラサラ……

側近「あ……」
魔導将軍「魔王様、新たにその地位をお継ぎになった事は、おめでたい限りです」
魔導将軍「……早速ですが、一つ……許可を頂きたく」
魔王「親父に聞いた。将軍の地位を部下に譲り、隠居したいと言うんだろう」
魔導将軍「……はい」
側近「…… ……」
魔導将軍「鴉からも同様の申し出を聞いております」
魔王「それも聞いてるさ。鴉は……部隊を連れて、この城を離れると言うんだろう」
側近「え!?」
魔導将軍「……はい」
魔王「良いだろう。良い様にしろ。私には側近が居れば充分だ」
側近「…… ……え?」
魔王「何だ。お前まで暇を寄越せとか言うつもりじゃないだろうな」
側近「いやいやいやいやいや!代替わりだったら……え、でも!?」
魔王「『側近』はお前意外には務まらんよ」
側近「……それ、俺喜んで良いの?」
魔導将軍「……では、私はこれで一端失礼します。又後ほど改めて……」

パタン

魔王「……お前は、まだ居るのか」
側近「え……だって、お前今……側近はお前だけって」
魔王「……この部屋に留まるのか、と聞いてるんだ」
側近「……魔 ……前魔王様が、その……」
魔王「好きにしろ」フゥ
側近「…… ……なあ、魔王様」
魔王「ん?」
側近「お前も……人と魔の共存、望んじゃったりする訳?」
魔王「……興味無いな」
側近「……はい?」

魔王「願うとすれば、不干渉か」
側近「……不干渉?」
魔王「ああ。魔も人も……生きやすい世界で各々、生きるのが一番だと思わんか」
側近「…… ……」
魔王「どちらもどちらにとって難があると言うのなら」
魔王「関わらずに居れば良いのだ。徹底した不干渉……」
魔王「それが、私の望みだ」
側近「……そうか」
魔王「で、どうするんだ」
側近「あ? ……ああ。だって俺は『魔王様の側近』なんだろ?」
魔王「…… ……ああ」フッ

……
………
…………

使用人「…… ……」
使用人(今になって……こんな事、思い出すなんて)ハァ
使用人(本来なら……魔王様の、子供に)
使用人(魔王様が……殺される所、を……見守る筈、だった)
使用人(それが……勇者に変わっただけだ)
使用人(…… ……側近様、大丈夫かな)カタン

パタパタパタ……

使い魔「使用人様!」バタン!
使用人「どうしたのです、慌てて……!魔王様に、何か!?」
使い魔「あ……いいえ、違うのです。あの、船が……」
使用人「……船?」
使用人「娘……否、船長さん?でも……」
使い魔「……否、その……金の髪の少年が、乗って居る様だ、と……」
使用人「……!!」

使用人(金の髪……まさか、勇者様!?)
使い魔「……あ、あの……」
使用人「その少年は……金の瞳をしていましたか」
使い魔「い、いえ……そこまでは……」
使用人「……ああ、そうですよね」
使用人(でも……多分。否、確実に……!)
使用人「使い魔」
使い魔「は、はい!」
使用人「全員、仕事の手を止めて、避難する様通達して下さい」
使用人「……ここに残っては危険です」
使い魔「で、ですが……側近様と、使用人様は……!」
使用人「私達は……見届け、受け継ぐ義務があるのです」
使用人「……さあ、早く!」
使い魔「は、はい!」タタタ
使用人(……とうとう、来ましたか)フゥ ……スタスタ

コンコン

使用人「…… ……側近様?」
側近「おう……なんだ、い」
使用人(辛そうな、声……)
使用人「船が、近づいてくるようです」
側近「船?」
使用人「……金の髪の少年が、乗って居る、と」
側近「! ……間に合った、か」
使用人「開けて下さい。私も……手伝います」
側近「それは駄目だ、使用人ちゃん」
使用人「何故です!?約束が違います!」
側近「まだ、大丈夫だ。まだ……持つ」
側近「……それに、受け継いだ『知』は……どうするんだよ」

使用人「し、しかし……!」
側近「受け継ぐって事は、誰かに授けなきゃ行けないってこった」
側近「……それに、勇者と約束してただろ?」
側近「『友達を連れて戻って来たら、フランボワーズを用意しておく』って」
使用人「側近様!」
側近「……約束は違えちゃ駄目だ。行け、使用人ちゃん!」
側近「これで、終わる。やっと終わる。解放されるんだ」
側近「……俺も。魔王様も。だから、悲しむな!」
使用人「側近様!」
側近「『俺達は喜ばなくちゃいけない』 ……早く、行け、使用人ちゃん」
使用人「そ、っきん……さ、ま……ッ」ポロポロ
側近「又後で……もうちょい、後になるだろうけどな」
側近「……ッう ……ッ」
魔王「ゥ。ウ……ッ」
使用人「側近様、魔王様!?」

バターン!

使用人(! ……扉が開く音……勇者様が……来た!?)
側近「……もう、ぎりぎりだ。早く来いよ、勇者……!」
使用人「……下がり、ます。準備を……します」ポロポロ
側近「ああ。美味しいフランボワーズ、作ってやってくれよ」
使用人「……はい」
側近「……ばいばい、使用人ちゃん」

スタスタ…… ………スタスタ、パタン

側近「…… ……」
側近(行った、な)
魔王「ゥ、ウ……アアアアッ」
側近「……ッ」ビリビリ
側近「もうすぐだ、もうすぐだよ……魔王様」
側近「……もうすぐ、終わる」
側近「後で、どっかで乾杯しような?」

……
………
…………

戦士「此処が……魔王の、城」
魔法使い「静かね」
僧侶「……勇者、光の剣、使わないの?」
勇者「魔王と戦う迄はこっちで良い……壊れたら困るからな」
魔法使い「……行こう」
戦士「ああ……」
勇者「…… ……」
僧侶「勇者?どうしたの?」
勇者「……あ、いや……」
勇者(……まさか!でも……!)タタタ
魔法使い「勇者!?どこ行くの!?」
勇者「……しって、る」
僧侶「え!?」
勇者「戦士……その扉を開けてくれ。階段があるはずだ」
戦士「え!? ……お、おう」カチャ
魔法使い「……!」
僧侶「……この、階段は……どこに、続いてる、の?」
魔法使い「僧侶!?」
勇者「……突き当たりに、扉があって……玉座、だ」
勇者「玉座の後ろに、扉が……ッ」

タタタ……ッ

僧侶「あ、待って、勇者……!」

戦士「どう……なってる、んだ!?」
魔法使い「こっちが聞きたいわよ!ほら、行くわよ!」

タタタ…… バタン!

戦士「……玉座、だな」ハァ
魔法使い「ど……どう、して……!!」
僧侶「……勇者?」
勇者「……あの、玉座の後ろ……あの、扉の向こう、に……」
勇者「魔王、が、居る……!」
僧侶「……光の、勇者。勇者は、必ず魔王を倒す……だから」
僧侶「だから、解る……の?」
勇者(知る事を……怖がるな……!?)ドクンッ
勇者「う、う……ッ」
僧侶「勇者!?」
戦士「……何か、声、しないか」
僧侶「勇者よ、戦士……手を……!!」
魔法使い「……違う、もう一つ……」
僧侶「え!?」

ウゥ……アアアア……ッ

勇者(過ちを犯した世界は…… 欠片を、探せ……ッ ウゥッ)ドクン、ドクンッ

…………

側近「まだだ!まだ……落ち着け、魔王様!」
魔王「ぅ、ウ……あ、ァ……ッ」
側近「もう少し、もう少しだから…… ……!?」

ウゥ……

側近(魔王様の声?違う……ッ これは……ッ)バッ
側近(扉の向こう……勇者の声か!?)
魔王「……まだ、だ……まだ、揃って……ゥウ……ッ」
側近「魔王様!?」

…………

魔法使い「あれだわ……ッあの、扉の奥……ッ」
戦士「……魔王、の声……か!?」タタタ……ッ
僧侶「戦士、一人じゃ……ッ」
勇者「アアアアアアアアアアアアアア!」

パァッ

…………

側近「魔王様! ……ッ ぐ、ゥ……ッ」
側近(俺まで!?何だよ……ッ)
魔王「アアアアアアアアアアアアアア!」

パァッ

…………

魔法使い「勇者! ……ッ な、に……ッ光 ……ッ」
戦士「うあ……ッ」
僧侶「勇者!勇…… ……眩し……ッ」

…………

側近「な、ん……ッ」
側近(眩しい……ッ ば、かな!俺の目は……ッ)

…………

勇者「アアアアアアアアア!」
魔王「アアアアアアアアア!」

パアアアアアアアアアアアアアアアアッ

バターン!

魔法使い「きゃあああああああああッ」
戦士「うわああああああ………ッ」
僧侶「……ッ 勇者、勇者!?」
側近「う、ぅ……魔王、様……ッ」
戦士「! ……魔法使い、僧侶、下がれ……ッ」
魔法使い「え……あ ……ッ」
僧侶「敵……ッ !? 勇……ッ え……!?」

勇者「…… ……」
魔王「…… ……」

側近「う、っぅう……ッ」
戦士「あ……う、動くな!」
側近「……勇者と、魔王様は……!?」
魔法使い「な……何で……」
魔法使い「何で、魔王と勇者が同じ顔をしているのよ!?」
戦士「……そんな事、より、勇者は……」
勇者「側近」
側近「……お、生きてた、ね」
勇者「……これは、どういうことなんだ……!?」
僧侶「そ、っき ……え!?」
魔法使い「この人が……側近!?」
側近「説明してやりたいのは……山々なんだがな」
側近「……取りあえず、さくっと魔王様、倒してくれないかな」
戦士「は!?」
側近「……俺は……否、俺達は待ってた。勇者が、魔王様の元に……来る、のを」
僧侶「どう……言う、事?」
側近「俺は……『魔王様の側近』だ。だから、ここで……お前達を待ってたのさ」
勇者「お前が魔王の側近……て、どういう事だよ!」
勇者「何で、なんで……俺は、この城を知ってる!?」
勇者「何で、お前が此処に居るんだ!?」
勇者「……ッ な、んで……ッ」

魔王「……それは、お前が私だからだ。『勇者』」
側近「魔王様!?」

勇者「お前が……俺?」
戦士「耳を貸すな、勇者!」
側近「魔王様、お前……!」
魔王「黙れ」
魔法使い「……」ビク
僧侶「……ッ」
戦士「あ……な、な……!」
側近「……魔王様」
魔王「『時間が無い』良く聞け」
魔王「……『運命の輪』は途切れる事無く、回り続けている」
魔王「『特異点』を探せ……『欠片』を集めるんだ」
勇者「!」
魔王「……手を、見るが良い、『勇者』」ス……
勇者「……!」バッ
勇者(……剣の、文様……!!)ハッ
勇者(夢の中に出て来た、あの俺そっくりの人にも……あった)
僧侶「……手のひらから……光、が……漏れて……る……」
魔法使い「あ……あんなの、勇者の手に無かったわよ!?」
魔王「『私はお前』『お前は私』『勇者と魔王』『光と闇』は『表裏一体』」
勇者「!」
勇者(魔王の手に……同じ、文様が……)
勇者(……あっちは、真っ黒だ。夢のあの人と……同じ……!!)

魔王「『勇者は、魔王を倒す』」
魔王「『魔王は勇者の光を奪いさる』」
魔王「そして……『勇者は、魔王の闇を手に入れる』」
側近「お、おい……魔王様?」
魔王「『弱くもあり、強くもある』……『汝の名は人間』」
勇者「…… ……俺に……ッ」
勇者「『俺に、魔王になれ……と言うのか!』」グッ

パア……ッ

僧侶「……ッ光の剣が……!!」

パリン!

魔法使い「割れた!?」
側近「何!?」
戦士「……ち、がう……見ろ……ッ」
僧侶「……勇者の、光を……すい、とって……る!?」
側近(そうか……あの剣は、使用者の属性を移す、魔法剣……ッ)
側近(飾りの刀身では、光に耐えられない……ッ)

魔王「……『選択を間違うな』」

勇者「『拒否権の無い選択などあるものか!』」
魔王「『真に美しい世界を望む為だ』」
勇者「『勇者は、必ず魔王を倒すんだ!』」

タタタ……ッブゥン!
ザシュゥ……!!

パアアアアアアアアアアアアアアアア!!

ごめん!
出かける時間!

おはよー!
今日ものんびりー

……
………
…………

少女「ええと……これ、と…これと」プチプチ
少女「あれ、これどっちだっけ……確か、これが……」プチプチ
少女「ふぅ、こんなモン……かな?」
少女「……よし。さあ、日が暮れる前に帰らなく……ッ !!」ドクン!
少女(なに、これ……ッ 胸、が……ッ)ドクン
少女(違う、頭……ッ 何かが……)ドクン
少女(流れ……こんでくる……!?)ドクン、ドクン
少女「ヒ、カリ、と……ヤミ…… 失われ……」
少女(な、に……!? …寂しい、辛い……イタイ、カナシイ…… )
少女「……二つの、大きな……命…… 失われた……?」
少女(まだ……どきどきしてる……)
少女(……胸が、苦しい)
少女「……早く、戻ろう……神父さま ……のところ」

タタタ……ッ

少女「神父様!」バタン!
神父「……どうしましたドアは静かにね?」
少女「す、すみません、あの、あの……ッ」
神父「落ち着いて……ね?何があったのです」
少女「……先ほど、何か……大きな…光と、闇…? あの」
神父「……?」
少女「……二つの、命が……失われました」
神父「……」
少女「その……感じ、ました」
神父「そう、ですか……」
少女「………」ジィ
神父「大丈夫です……そんな不安な顔をしないで」
神父「……貴女は、感じる事ができますから」
少女「でも、こんなの……し、知り……ません」
少女「……悲しくて、寂しかった」
少女「とても……」ポロポロポロ
神父「私には…残念ながら感じる事はできませんから、貴女の涙を共有する事はできませんが」
神父「気を強くもって下さい……引きずられてはいけませんよ」
少女「……はい」
神父「貴女がもう少し大きくなったら……お話ししますね」
少女「……?」
神父「いえ……それより、薬草は集まりましたか?」
少女「あ、はい……!睡眠草と、気つけ草……それから毒消し草です」
神父「……」フゥ
少女「あ、あの……神父様?」
神父「……気つけ草と毒草は間違いやすいから、気をつけてとあれほど」ハァ
少女「あ、ああああ!すみません!」
神父「全く……明日、やり直しです……手を洗ってらっしゃい」
少女「はぁい……」トボトボ
神父「…… ……」

神父(……見れば見る程、不思議な存在です)
神父(人より遙かに早いスピードで、あの子は……大きくなった)
神父(……8~10歳程度、だろうか。身体は小さいけれど、知能は……)
神父(…… ……あの子がこけて、怪我をした時)
神父(無理だろうと思いながらも……回復魔法を教えてみると)
神父(……あの子は、あっさりと習得した)
神父(あの子は……純粋なエルフでは無い。人の血が半分……)
神父(……ハーフエルフなど、聞いた事も無い……!)

タタタ……ッ

少女「神父さま、すぐにご飯の用意をしますね」
神父「ええ、お願いします」
神父(……見かけに、人との差違は感じられない)
神父(しかし……あの、勘の鋭さの様な物は何なのだろう)
神父(エルフの、特性なのだろう、か……『感じる力』)
神父(……しかし……光と、闇?)
神父(街の人達の噂で、勇者様が旅立った、と言うのは聞いた)
神父(……では、勇者様は、無事に魔王を?否……)
神父(さっき、この子は……『大きな光と闇。二つの命が失われた』、と)
神父(……相打ち、になった……のだろうか)
少女「神父様、どうかしましたか?」
神父「あ……いえ……何でもありませんよ」
少女「もうすぐ出来ますよ」
神父「……ええ。食事が済んだら、少し、お話をしましょうか」
少女「はい!今日は何のお話をしてくださるんですか!?」
神父「嬉しそうですね……貴女は、お話が大好きですものね」
神父「……何時も、キラキラとした目で、聞いてくれる」
少女「神父様のお話は、とても面白くて……大好きです」
少女「なんて言うか……聞いている内に、目の前に、こう……」
少女「その景色が、広がって、見える様な気がして」

神父「……そう言って頂けるのは、嬉しい限りです、が」
神父「今日は、何時ものお話とは違います」
少女「え?」
神父「……貴女の、母親の話をしましょう」

……
………
…………

ジジィ「……成る程、『握った剣から雷の魔法を落とし、ぶっ倒れた』……と」
船長「テメェがくたばってるから悪い」
ジジィ「口を慎め、この小娘は全く……」
船長「口が悪いのは、こんな風に育てた糞親父に言えよ」
ジジィ「死人に文句言っても仕方なかろうが」
船長「涅槃で待っててくれるさ。死に損ないめ、何なら今すぐ感動の再会させてやるよ」
ジジィ「……この青年……何色の瞳をしてた?」
船長「聞けよジジィ……ったく。目の色ぉ? ……確か、紫だ。それがどうした」
ジジィ「頭の悪い小娘だな。この間教えてやったろうが……瞳は、その者の加護を写し取る」
船長「こいつは雷の魔法で魔物を沈めたぜ」
ジジィ「それだ。雷の加護ならば、黄土や茶を彩る事が多い……『俺の瞳の様に』な」
船長「……テメェ、何が言いたい?」
ジジィ「紫と聞いて連想するのはなんだ?」
船長「……」
ジジィ「難しい質問だったか ……闇、だと思わんか」
船長「こいつは……魔族だって言いたいのか?」
ジジィ「最果てで拾ったんだろ……想像には容易い」
船長「……こいつは仲間だ。誰がなんと言おうと、文句は言わせネェ」
ジジィ「ハ!小娘が……惚れやがったか」
船長「黙れ色ボケジジィが!」
ジジィ「……もしくは『頭がおかしいか』」
船長「……何?」
ジジィ「魔王を倒すと……言ってたんだろう」
ジジィ「勇者一行は無事に旅立ったんだろう……だとすれば」
ジジィ(……勇者は、俺達が始まりの街に送り届けた)
ジジィ(この小娘はうろ覚えだったみたいだが……それも無理は無い)
ジジィ「……一人で勇者を追いかけ、魔物にでもやられて混乱してるんじゃないか?」
船長「し、しかし……!」
ジジィ「剣を媒介に、魔法を行使し、弱っているとは言え」
ジジィ「魔物の大群を一人で沈めたのじゃろう……本懐は遂げられずとしても」
船長「『一人で、あそこにたどり着く』説明は……まあ、強引だが」
ジジィ「それぐらいしか考えれんだろう……他に説明はつくか?」
船長「…… ……」
ジジィ「まあ、今日はゆっくり寝かせてやるんじゃな」
船長「ああ……悪かったな、ジジィ」
ジジィ「……俺も腐っても海の男だ」

パタン

ジジィ(……もう、随分昔だ。だが……)
ジジィ(勇者を、大きくした顔に……随分似てる気がする)
ジジィ(…… ……印象は違いすぎる、が)
ジジィ(あいつ……剣士の髪と瞳を、金に変えると……)
ジジィ「…… ……」フルフル
ジジィ「余計な詮索は、身を滅ぼす……だな」ハァ

ちょっとお買い物に連行されてきます
また戻ったら!

ジジィ「しかし……」
ジジィ(……頭がおかしい、混乱してる、にしたって、だ)
ジジィ(それと……瞳の色と、結びつく訳じゃネェ)
ジジィ(…… ……船長が生きてりゃ、な)ハァ
ジジィ(厄介な事に巻き込まれなきゃ良いがな)

……
………
…………

勇者(…… ……ここ、は。何処だ)
勇者(ん……身体が、動かない……)
勇者(そうだ…… ……魔王、に、光の剣……を……)
勇者(…… ……目が、見えない。俺は……)
勇者(死んだ、のか? ……魔王は……)
勇者(誰も、居ない。俺は…… ……失敗、し、た……のか、な)
勇者(…… ……ん?)
勇者(小さな、光が……見える……あっち…… ……糞ッ)
勇者(身体……動けッ ……あ!)
勇者(動いた……? 前に…… 否、違う)
勇者(光、が…… ……近づいて、く ……る……!)
勇者(のみ、こまれ……ッ)
勇者(うわああああああああああああああああ!)

パアアアアアアアアアアアアアアア!

勇者?「…… ……」
勇者(……ッ ……ん、あれ? ……!!)
勇者(貴方、は! ……ああ、やっぱり、声が……出ない)
勇者?「…… ……」トントン
勇者(何?手 ……? ……!)
勇者(そうだ!魔王と対峙した時に、痣……剣の文様が……!)
勇者(…… ……真っ黒、だ。この人の手、も……)
勇者?「…… ……」
勇者(! この人……瞳が、紫になってる!?)
勇者(……この人は、俺じゃ無い。俺にそっくりだけど……俺、じゃない!)
勇者(俺の瞳は……どうなってるんだ!?)

勇者(……誰、何だろう。この人は)
勇者(この間夢で見た時は、この人……金の髪に金の瞳で……)
勇者(……手に、黒い剣の文様が、あった)
勇者?「…… ……」トン
勇者(うん、解ってる……貴方の瞳は、紫だ…… ……!)
勇者(そうだ、魔王……!魔王の瞳も、紫……!)
勇者?「過ちを犯した『世界』は、廻り続ける」
勇者?「過去も、現在も、未来も……ずっと」
勇者(廻り……続ける?)
勇者?「『俺はお前』『お前は俺』『勇者と魔王』『光と闇』は『表裏一体』」
勇者(!)
勇者(魔王の手に……同じ、文様が……)
勇者?「『勇者は、魔王を倒す』」
勇者?「『魔王は勇者の光を奪いさる』」
勇者?「『勇者は、魔王の闇を手に入れる』」
勇者(どうして……どうして、あの魔王の言葉を……知ってるんだ!?)
勇者?「俺は『知る』事を『拒否』した」
勇者(…… ……)
勇者?「『選択を誤るな』」クルッスタスタ
勇者(! ……あ、待って……!)
勇者(糞、足……動けって……! ……ッ)
勇者(……な、んだ……今度、は……ッ 紫色、の…… ……ひ、かり……ッ!)

パアアアア……ッ

……
………
…………

勇者「!」パチ!
僧侶「勇者!」
魔法使い「勇者……良かった……!」
戦士「全く……心配かけさせやがって……!」
勇者「皆……ッ ……!魔王は!?側近は!?」
魔法使い「……そ、れが……」

僧侶「……凄い、光、が……勇者から発せられたの」
勇者「光?」
戦士「ああ。お前が魔王を切りつけた時だ」
魔法使い「光は、剣と……魔王に、吸い取られて……」
勇者(『魔王は勇者の光を奪い去る』……!)
戦士「……光の剣は、気がついたら……ほれ」ポイ
勇者「あ……!」ガシ
勇者(刀身が、欠けてる……鍛冶師に直して貰う前に戻った……? ……いや)
勇者「…… ……」
僧侶「それで、光が私達を……部屋全体を包み込んで」
魔法使い「……気がついたら、勇者がそこに倒れてて動かなかったの」
戦士「魔王と側近は…… ……もう、居なかった」
勇者「俺は……魔王を倒した、のか?」
僧侶「……手、見て」
勇者「手? ……あ!」
勇者(……真っ黒に、なってる。剣の……文様)
勇者(あの時、俺の手から光が溢れた時…… ……魔王の手にも)
勇者(……同じ文様があった。『私はお前』『お前は私』…… ……)ハッ
勇者「『勇者は、魔王の闇を手に入れる』……!」
魔法使い「何馬鹿な事言ってんの!貴方の瞳は、ちゃんと金の侭よ!?」
勇者「でも、あの人の瞳は……!」
戦士「あの人?」
勇者「……あ、いや……」

コンコン

勇者「!?」ビクッ
魔法使い「誰!?」
僧侶「…… ……」
戦士「……俺が、開ける」スタスタ……カチャ

使用人「……失礼致します」
勇者「アンタ……誰だ……?」
使用人「…… ……使用人と、申します」
僧侶「使用人……?」
魔法使い「な、何なのよ……何の用事、よ……」
使用人「お茶を、お持ち致しました」
戦士「…… ……お茶?」
使用人「はい。お疲れでしょうから」
使用人「……フランボワーズもご用意しております」
使用人「お口にあうと宜しいですが」
僧侶「……ここ、魔王の城、よね?」
魔法使い「どうなってる、のよ……!?」
戦士「おい、魔王は!?魔王はどうなったんだ!?」
勇者「! ……そうだ、側近も……! 否……!」
勇者「……側近が『魔王の側近』って、どういう意味なんだ!!」
使用人「お望みでしたら、全てお話致します……私が、知る『全て』」
僧侶「…… ……貴方、魔王の使用人、なのよね?」
僧侶「どうして…… ……」
使用人「まずは、お席にどうぞ。お茶が冷めてしまいます」
戦士「は!はいそうですか、って!誰が……!!」
使用人「……知りたくは無いのですか」
勇者(『知る事を、拒否するな』 ……!)
勇者「……先に、一つだけ聞かせてくれ」
使用人「……そうすれば、お席に着いて頂けますか」
勇者「…… ……ああ」
僧侶「勇者!?」
勇者「俺は……この城を知ってる。多分……お前も、知ってる、よな?」
使用人「……はい」
魔法使い「え!?」
戦士「…… ……」
勇者「……何故、は、ゆっくり聞かせてくれるんだな」
使用人「はい……では、どうぞ『魔王様』」
勇者「…… ……」
魔法使い「……なんですって?」
僧侶「……魔王が、言っていた事は、本当だったの?」
戦士「勇者が……魔王、だと!?」
使用人「はい…… ……そして、『お帰りなさい』」

おひるごはーん

勇者「……やっぱり、俺は此処に来た事が……ある、んだな」
僧侶「でも……どうして!?」
使用人「順番にお話致します、魔王様」
勇者「黙れ!俺は……『勇者』だ!人間だ!」
使用人「では……どうぞ、回復魔法をお使いになってみてください」
魔法使い「……!」
戦士「魔法使い?」
僧侶「……回復魔法は、人間だけに許された、特権」
使用人「…… ……」
戦士「え!?」
勇者「……待て」
使用人「はい?」
勇者「側近は……側近は、どうなる!?」
勇者「あいつは、回復魔法を使っていたぞ!」
勇者「……でも、あいつは……!『俺は魔王の側近だ』と言った!」
使用人「ならば、尚更です。もし貴方が回復魔法をお使いになれなければ」
使用人「……尚更、貴方が『魔王』であると言う証になるでしょう」
僧侶「側近、さんが……魔族だってのは否定しないんだね」
使用人「一つずつ、参りましょう、僧侶様」
僧侶「…… ……」
勇者「……戦士、腕出せ。血を止める」スッ
戦士「お、おお…… ……?」
勇者「…… ……」
魔法使い「勇者?」
使用人「……ケーキをご用意して参ります。お席にて、お待ちを」スタスタ

カチャ、パタン

僧侶「勇者……」
勇者「……駄目だ。使えない」
魔法使い「そんな……!!」

戦士「……魔王を倒した勇者が、魔王になった!?」
戦士「冗談じゃねぇ!」
魔法使い「そ、そうよ、それにおかしいわよ!」
魔法使い「勇者の金の瞳は!?勇者は人間なんでしょう!?」
僧侶「……『魔王は勇者の光を奪い去り』『勇者は魔王の闇を手に入れる』?」
僧侶「永遠に終わらないよ!ずっとループし続けるって言うの!?」
勇者「……身体の中に、光を感じないんだ」
魔法使い「……え?」
勇者「戦士、俺の剣……あるか?」
戦士「光の剣ならさっき、お前に……」
勇者「違う。王国の剣の方だ」
戦士「あ……ああ、あれ、どこだっけ!?」
魔法使い「……えっと、そうだわ!魔王と対峙する前に……!」
僧侶「そうだ、勇者から光が……!」タタタ……ッ
僧侶「あった!」
戦士「……玉座の奥の扉からも光が漏れて……それで」
戦士「扉が開いた。魔王が……魔王と、側近が出て来て……」
勇者「サンキュ……そうだ。俺は、王子に貰った剣を思わず……落とした」グッ
勇者(やっぱり……手に着いた痣は……この、王国の『剣の紋章』だ)
僧侶「……見せて、勇者……」ギュ
僧侶「あの時は、確かに……これ、光ってたよね」
勇者「ああ……魔王の手にも、同じ物があった。これ……こいつみたいに」
勇者「真っ黒な……」
僧侶「……火傷、みたいだね」
勇者「俺が……光を放った、んだな?」
魔法使い「え?ええ……」
勇者「……以前、騎士団の人達と、南の島に行った時」
勇者「王子が、やられそうになって……気がついたら、俺が光の魔法を」
勇者「放った時があったんだ」
僧侶「……勇者」
勇者「俺は、それ以来光の魔法なんて、使えた事が無かった」
戦士「え……?」

勇者「あれだって、無我夢中で使ったに過ぎないんだが……」
魔法使い「……」
勇者「……その時の獣は、光に灼かれて、血を吐いて死んだらしい」スッ
勇者「僧侶が今……火傷みたいだって言ったけど」
勇者「……これは、光に灼かれた跡なのかもな」
魔法使い「貴方が、魔王だからって言いたいの!?」
魔法使い「違うでしょう、勇者!貴方は確かに『勇者』なのよ!」
魔法使い「あの時、確かに、光が……!」
勇者「……俺の光は、消えてしまった魔王に奪われたんだろう」
勇者「そして、俺は魔王の『闇』を手に入れたんだ」
戦士「勇者……!」
勇者「俺は……回復魔法はもう使えない。俺はもう……人間じゃない……ッ」

コンコン、カチャ

使用人「失礼致します…… ……お座りになっていてくださいと」
使用人「申しました、でしょうに」ハァ
魔法使い「こんな時にのんびりお茶なんて飲んでられないでしょ!?」
使用人「こんな時だから、です……魔法使い様、で宜しかったでしょうか」
使用人「……他に、何をなさいます?」
魔法使い「だ、だからって……!」
僧侶「……座ろう、魔法使い」
魔法使い「僧侶!」
僧侶「話を聞かなきゃ納得できない」
僧侶「少なくとも、この……使用人さん?は……」
僧侶「私達の知らない事を、知ってるよ」
僧侶「……私達の知らない、勇者を知っている」
使用人「…… ……」
戦士「そう、だな」ハァ
魔法使い「戦士まで!」
戦士「……見ろよ。俺の腕は回復しなかった」
戦士「勇者が嘘吐く必要は、無いだろう?」
魔法使い「……!」スタスタ、ストン!

使用人「魔王様も、どうぞ」
勇者「……悪いけど、勇者って呼んでくれないか」
勇者「完全にはまだ……納得できない」
使用人「……失礼致しました。勇者様、どうぞ」
勇者「……ありがとう」
魔法使い「…… ……」
僧侶「…… ……」
戦士「…… ……」
勇者「……何から聞いたら良いか解らない」
勇者「悪いが、そちらから話してくれないか」
使用人「……解りました。ご質問があれば、都度……答えましょう」
使用人「まず……ま ……勇者様。貴方は、この城を、私を知っているのではないか」
使用人「……と、聞かれましたね」
勇者「ああ……何となくだけど、覚えがある」
使用人「……貴方はこの城で産まれ、この城で育ちましたから」
勇者「な……に!?」
魔法使い「何言ってるのよ!勇者は、始まりの城で……!」
使用人「では、側近様は?」
勇者「……側近にこの城を連れ出された、とするなら、辻褄は合う」
勇者「だが、何故そんな事をするんだ!それに……側近は魔王の……!」
僧侶「……そうよ。貴女、さっき側近さんが魔族だって言うの否定しなかった!」
戦士「だ、騙そうったってそうは行かないぜ!?誰が、そんな事信じるかよ!」
戦士「魔王を倒す勇者を、何だってこの……ッ 魔王の城で……!!」
使用人「……勇者様。魔王様のお言葉、覚えていらっしゃいますか」
勇者「……どれだ」
使用人「『私はお前』『お前は私』」
勇者「『勇者と魔王』『光と闇』……で、『表裏一体』……とか言う奴か」
使用人「はい」
勇者「それが……それを、信じろって言うのか!?」
使用人「『真実』です」
使用人「……魔王様の魔力が暴走しかけ、ご自分でご自分を封印された時」
使用人「一筋の光が、天井を突き破り、どこかへと飛んで行きました」
使用人「……魔王様……『器』は眠りについた」
魔法使い「器……?」
使用人「はい。そうして『中身』……勇者様が、産まれたのです」
使用人「……『闇と光』に別れてしまった、んだと思います」

僧侶「中身……が、勇者だって、言うの」
使用人「はい。私と側近様は、勇者様をある程度の年齢まで此処でお育てしました」
使用人「……ですが、勇者様は『勇者』です。『勇者は魔王を倒す者』」
使用人「だから……盗賊さんと鍛冶師さんにお願いしたんです」
勇者「!?」
戦士「……知って、る、のか……!?」
使用人「……側近様が、船でこの大陸を出発され」
使用人「保護者代わりとなって、始まりの街で……時が満ちるのを待ちました」
勇者「……側近は、どうやって此処に戻って来たんだ」
勇者「俺が旅立った時、あいつは、あの街に……!」
使用人「側近様は……魔族ですよ?」
僧侶「……忘れるとこだった。どうして魔族である側近さんが、回復魔法を使えるの」
使用人「元人間だからです」
魔法使い「…… ……は!?」
勇者「元……人間……?」
使用人「はい。人は強くも弱くもある。人だけが、選び取る事ができる」
使用人「強い故に。弱い故に……魔へと、変じる事ができるのは、人間だけなのです」
戦士「ど……ッ 何処まで馬鹿にすれば気が済む!?」
戦士「そんな話……ッ」
僧侶「黙って、戦士…… ……じゃあ、どうして、勇者は使えないの」
僧侶「もし、本当に魔王に……魔になったからって」
僧侶「おかしいじゃない。側近さんと何が違うの?」
使用人「勇者様は元は魔王様です。魔が人に変じるなんて、あり得ない」
使用人「……ですが、『勇者』は人間である必要があったのでしょう」
魔法使い「……『魔に変じる事ができるのは人間だけ』だから?」
戦士「魔法使い!?」
使用人「で……しょうね」
魔法使い「『勇者』は人間でないと行けない。『魔王』になるものだから」
魔法使い「……『光の勇者』と『闇の魔王』」
僧侶「光と闇……表裏一体……」
使用人「…… ……」
勇者「……『汝の名は、人間』か」
戦士「……もうちょっとわかりやすく説明してくんない?」

勇者「だが、元人間だとは言え」
勇者「側近は……魔になったんだろう?」
勇者「魔王に仕えていたんだろう!?」
勇者「……なのに、何故俺を育てる!?」
勇者「魔王にとって、勇者等邪魔なだけだろうが!」
勇者「何で……態々、俺が魔王を倒そうと旅立てる様に」
勇者「……そんな、お膳立てみたいな事するんだよ!」
使用人「魔王様のお力が暴走しそうに……と、先ほどの話に戻します」
魔法使い「自分で自分を封印、とか言ってたわね」
使用人「はい。魔王様のお力が暴走したら……世界は、破滅してしまいます」
僧侶「!」
使用人「……魔王様の望みは、そんな物ではありません」
使用人「だから……『自分を倒してくれる勇者でも現れるまで、寝て待っている』と」
戦士「いやいやいやいや、だからって!」
使用人「……『願えば叶う』にも程がありますけれどね」
勇者「……お前も、その言葉を知っているんだな」
僧侶「それで……自分で自分を倒す為に、勇者を産んだ……産ませた、の?」
使用人「……自然の理において、生を受けた訳ではありません」
勇者「……さっき、言ってたな。光が飛び出して行った後」
使用人「はい。『分裂』した、が一番しっくりくるのかもしれませんね」
僧侶「魔王が器、勇者が中身……」
勇者「だが……俺は、生きているぞ」
使用人「……はい」
戦士「はい、って、お前……!」
使用人「私は神ではありません。全てを知っている訳ではありません」
使用人「……ですが、私は……『受け継ぐ』義務があるんです」
魔法使い「受け継ぐ義務?」
使用人「眠りにつかれる前に、魔王様が……仰いました」

使用人「『生と死』」
使用人「『特異点』『王』『拾う者』」
使用人「『受け入れる者』『表裏一体』『欠片』」
使用人「……『知を受け継ぐ者』」
使用人「『光と闇』『勇者と魔王』」
使用人「『拒否権のない選択を受け入れ、美しい世界を守り、魔王を倒す者』」
使用人「『我が名は、勇者』」
使用人「『光に導かれし運命の子』」
使用人「『闇に抱かれし運命の子』」
使用人「『汝の名は、魔王』」
使用人「『途切れる事無く回り続ける、表裏一体の運命の輪』」
使用人「『腐った世界の腐った不条理を断ち切らんとする者!』」
戦士「……何、それ」
使用人「わかりません。ですが……『欠片』を探し出せ、と」
勇者「……ッ」
僧侶「勇者?」
勇者「…… ……俺が、ここへ来る途中の船の上で見た夢の話をしただろう」
使用人「夢?」
勇者「そうだ。俺と同じ……金の髪に金の瞳をしてた」
勇者「……そして、その時は無かった筈のこれ」スッ
魔法使い「……剣の、文様」
勇者「そう。真っ黒のこれが、彼の手のひらにあったんだ」
勇者「……『知る事を拒否するな』」
勇者「『過ちを犯した世界は、真に美しい世界では無い』」
勇者「……『必ず、魔王を倒せ!『欠片』を見つけ出せ』」
使用人「!」
僧侶「欠片……」

勇者「……それから、俺が魔王に斬りかかった後」
勇者「光に……包まれた、とか言う時だな、多分」
勇者「……また、その人が出て来た」
使用人「……金の髪と瞳を持つ男、ですか」
勇者「ああ。だけど……瞳は、紫だった」
使用人「……紫」
勇者「魔王と……同じ言葉を、言ったんだ」
戦士「同じ言葉?」
勇者「ああ。『俺はお前』『お前は俺』『勇者と魔王』『光と闇』は『表裏一体』」
勇者「『勇者は、魔王を倒す』」
勇者「『魔王は勇者の光を奪いさる』」
勇者「『勇者は、魔王の闇を手に入れる』……それから」
勇者「『俺は『知る』事を『拒否』した』」
僧侶「……え?」
勇者「…… ……『選択を誤るな』」
魔法使い「確かに……同じ、ね」
使用人「…… ……」
勇者「それから……『過ちを犯した『世界』は、廻り続ける』」
勇者「『過去も、現在も、未来も……ずっと』とも」
僧侶「……似てるね」
勇者「え?」
僧侶「魔王を倒した勇者が魔王になって……て、奴に」
勇者「……知ってる、か?」
使用人「……いいえ。流石に解りません」
勇者「違う……ああ、その、言葉もそうだけど」
勇者「俺と同じ顔、同じ……金の髪に、金の瞳をした、男」
魔法使い「ついでに……」グイ
魔法使い「この、手の文様、ね」

使用人「いえ……そちらも、存じ上げません」
使用人「それに……実を言うとこの結果には、少々驚いているところ、です」
戦士「え?」
使用人「……勇者様からは、懐かしい感じがします」
使用人「まだ、お元気だった頃の魔王様の……魔の気、に似ています」
勇者「……だって、俺はあいつなんだろう」
僧侶「勇者!」
勇者「回復魔法も使えない。光も……感じない」
勇者「……使用人は、感じるんだろう、その魔の気、て奴」
使用人「…… ……はい」
勇者「態々、回復魔法まで使わせなくても良かったんじゃ無いか」ハァ
使用人「ですが、信じましたか?」
勇者「…… ……」
使用人「それに……魔王様の言われるとおり、『器』が『中身』に倒されるなら」
使用人「……勇者様は人間の侭の筈でしょう?」
魔法使い「あ……!」
使用人「『魔王』は滅びなかった……私も、生きています」
戦士「? ……何でアンタが関係あるんだ」
使用人「『魔を統べる王』が消え去れば、『魔』が全て居なくなっても」
使用人「おかしくはないでしょう?」
僧侶「……そう、か」
勇者「そ、うだ! ……魔王と、側近は……どうなったんだ!?」
使用人「……お二人の気配は、もう何処にもありません」
使用人「『悠久の空の彼方へ還り、この世界へ孵る』……んだと思います」
勇者「……側近、まで?」
使用人「後ほど、お話ししようと思っていたのですが」
使用人「……側近様は、前魔王様……魔王様のお父様の代から」
使用人「お仕えされていたのです」
僧侶「……魔王に、親?」

使用人「はい……『魔王』の世代交代は、親殺しです」
勇者「!」
使用人「これも、似てますね。魔王様を倒し、貴方が新たな魔王になられた」
勇者「お、れ……は……ッ」
使用人「……貴方は、魔王です、勇者様」
使用人「まだ……終わらない、のでしょう」
魔法使い「終わらない……?」
使用人「私は……旅の途中で、貴方達が『欠片』を拾ってくるのだと思っていました」
使用人「……ですが、この結果を見ると……『まだ、揃っていない』」
勇者「繰り返せ、と……言うのか!?」
使用人「……『選択を、誤らないで下さい』」
勇者「!」
魔法使い「勝手な事言わないでよ!どうして……勇者が……ッ」
魔法使い「……それに、さっきも言ったでしょ!?」
魔法使い「勇者の瞳は金よ! ……光の加護なんて、勇者にしかないの!」
魔法使い「勇者は……ッ人間なのよ……ッ」
勇者「……否、俺は…… ……魔王、かどうかは解らんが……」
勇者「……人間、じゃないさ」
魔法使い「勇者……!」
戦士「…… ……」
僧侶「戦士?どうしたの……難しい顔して」
戦士「同じ事を繰り返す、ってんなら」
戦士「……また、『勇者』が産まれるのか」
使用人「……恐らく、は」
戦士「で、勇者は……魔王みたいに、暴走、するのか?」
使用人「解りません……ですが、同じ道を歩むというのなら」
使用人「可能性はあります」
勇者「!」
戦士「……魔王は眠りについていたんだろう?」
使用人「……余りにも力が、大きくなられたのです」
使用人「自我を失い、破壊衝動に駆られる様になる前に、と」
僧侶「破壊衝動……!」
使用人「はい。魔王様のお力を考えると……それこそ、世界が滅亡しますから」
勇者「……眠る事で押さえた、と言うのか」
使用人「あの方は規格外でしたからね」

魔法使い「規格外?」
使用人「ええ……側近様にご自分の目を与え、心話をしたり」
使用人「転移の魔法を使ったり、側近様の身体を乗っ取ったり……」
戦士「……それ、その側近って奴は大丈夫だったのか?」
使用人「……勇者様がお産まれになった時、天井を突き破って、と」
使用人「先ほど、お話ししたでしょう」
勇者「あ、ああ……」
使用人「あの時、飛び出した『欠片』の力に引きずられ……」
使用人「視力を、失われました」
勇者「…… ……」
使用人「それから、急激に老けて行かれた様に思います」
使用人「……勇者様が人の子の世で生きるには、丁度良かったのかもしれませんが」
勇者「俺が来たから……魔王は、目を覚ました、のか」
使用人「いいえ。徐々に……多分、貴方の成長に合わせて」
勇者「…… ……」
戦士「それで、側近って奴と……魔王が一緒の部屋から出て来た、んだな」
使用人「はい……俺が押さえる、と。部屋に篭もられていましたから」
魔法使い「どうして!?どうして、そんな……ッ他人の為に……!」
使用人「……魔王様ですから。魔王様の、望みですから」
僧侶「望み?」
使用人「はい。『勇者が魔王を倒し、美しい世界が守られる』事」
魔法使い「…… ……」
僧侶「…… ……」
戦士「…… ……」
使用人「側近様は、『魔王様の側近』ですから」
戦士「で……今度は、勇者がそれを繰り返す、のか」
魔法使い「戦士……!?」
戦士「考えて見ろよ、魔法使い」
戦士「……俺は何だ?お前は?僧侶は?」
魔法使い「え……?」
僧侶「……『勇者の仲間』」
勇者「…… ……」
戦士「そういう事」

魔法使い「な……ッ 何が、言いたいのよ!?」
戦士「……もし、同じ事を繰り返すなら」
戦士「止めてやる奴が必要だろう」
勇者「戦士?」
戦士「……おい、使用人って言ったか」
使用人「はい」
戦士「俺が魔になろうと思ったら、どうすれば良いんだ?」
魔法使い「戦士!?」
戦士「俺は……『勇者御一行』だが、勇者の仲間だ」
戦士「……勇者が魔王になるのなら、俺がお前の『側近』になってやる」
僧侶「戦士……」
戦士「……どうすれば、良いんだ?」
使用人「…… ……お教えするのは、簡単です。が」
使用人「全てを、聞いてからになさいませんか?」
勇者「全て?」
使用人「はい。先ほど話しました……魔王様の眠られる前のお言葉」
使用人「あの中の……『知を受け継ぐ者』と言うのは、私の事だと」
使用人「……思われます」
僧侶「それは……何故?」
使用人「魔王様は……私の目をじっとみて、仰られました」
勇者「…… ……」
使用人「何の為に受け継いだのか……それは、貴方達に」
使用人「伝える為、でしょうから」
魔法使い「……ケーキ、頂くわよ」
勇者「魔法使い……」
魔法使い「長くなるんでしょ? ……甘い物が欲しいわ」
魔法使い「一気に言われたって、キャパシティーオーバーよ!」
僧侶「私も……あ、美味しい!」
使用人「良かった……」ホッ
勇者「…… ……」パク
戦士「お…… ……」パクパク

勇者「これ……フランボワーズ……」
僧侶「よく知ってるね」
勇者「……あ、ああ」
勇者「…… ……」
使用人「では、お茶のおかわりをご準備致しましょう」スタスタ
勇者「待って!」
使用人「はい?」
勇者「俺……これ、食べた事、あるのか」
使用人「……ええ、まあ」
勇者「……そう、か」
使用人「忘れていらっしゃる、でしょうが」
勇者「え?」
使用人「……幼い貴方と、約束しました」
使用人「美味しいフランボワーズを用意して待っています。だから」
使用人「……お友達を連れて、帰って来て下さいね、と」
魔法使い「…… ……」
戦士「…… ……」
僧侶「…… ……」
勇者「俺は……なんて?」
使用人「……『また、後で』と」
勇者「そう、か……」
勇者「…… ……」
勇者「だから、『おかえりなさい』だったんだな」
使用人「……はい」
勇者「…… ……ありがとう」
使用人「…… ……いいえ」

カチャ、パタン

僧侶「……悪い人、じゃ無いのは、解る」
魔法使い「そうね」ハァ
戦士「お前は噛みついてばかりだな」
魔法使い「当たり前でしょ!?」
勇者「…… ……」
魔法使い「何でアンタは、あんなあっさり」
魔法使い「『俺も魔族になる』とか言えるのよ!?」
戦士「仕方ねぇだろ。勇者一人置いて、始まりの街へ帰るのか?」
魔法使い「そ……れ、は……ッ」
僧侶「私も……残るよ、魔法使い」
勇者「僧侶!?」
僧侶「……勿論、最終的な決断は使用人さんのお話聞いてからにするけど」
僧侶「でも……勇者と、離れたく無いし」
僧侶「『勇者』が好きな訳でも『魔王』が好きな訳でもないもん」
僧侶「勇者だから、傍に居たいんだよ」
戦士「……さらっと、マァ」
魔法使い「……天然ちゃんって本当に怖い……」
勇者「僧侶……」
僧侶「戦士が側近になるなら、私は何かな」フフ
勇者「……俺が魔王、だからな」
魔法使い「まだ、決まった訳じゃ……!」
勇者「……『魔王』だよ。見ただろう?俺と……あの、魔王の顔」
戦士「そっくり……否、同じだったな」
勇者「俺の手に、この剣の文様……光で、灼け着いたこれが」
勇者「あいつの手にもあった。絡繰りはわかんないけど」
勇者「…… ……表裏一体、なんだろう」
魔法使い「こじつけでしょ、いくら何でも!」
勇者「それに、あの夢に出て来た男も……気になる、んだ」
僧侶「使用人さんも知らないって言ってたね」

勇者「その辺も含めて、聞いて……考える」
勇者「だが……早まらないでくれよ?」
戦士「解ってるよ」
僧侶「大丈夫。仲間でしょ?」
魔法使い「…… ……」
勇者「……盗賊……王様や、鍛冶師様の事も知ってるって言ってたな」
勇者「光の剣の事も……知ってるんだろうか」
僧侶「そう考えるのが妥当だよね」

コンコン

使用人「失礼します」カチャ
勇者「使用人、お前も座ってくれ」
使用人「はい…… ……」
勇者「どうした?」
使用人「……いえ。魔王様に、そっくりだな、と」
魔法使い「勇者は、勇者よ!」
勇者「……話の続きを、聞かせてくれ」
使用人「……はい」
僧侶「貴方の知る全て、をね」
使用人「勿論です」
戦士「……俺、理解できるかなぁ」ハァ
使用人「では……側近様からお聞きした、昔話からお話し致しましょう」

……
………
…………

戦士「……」グッタリ
魔法使い「……大丈夫?」
戦士「あんまり大丈夫じゃない……」
魔法使い「……」ハァ
戦士「理解出来ネェよ!?あんな複雑な話!」
魔法使い「要は、側近って人が、えーっと……」
戦士「ああ、もう良いもう良い!!」
僧侶「好戦的な魔王を倒しに旅立ったら島を沈められて」
勇者「たどり着いたらその好戦的な魔王は、赤い瞳の魔王に殺されてて、世代交代が」
勇者「終わってた」
戦士「やーめーてー……」
魔法使い「使用人さんがご飯の準備してくれてる間に、整理しとかないと!」
魔法使い「……アタシだってこんがらがりそうなのよ!」
僧侶「で、側近さんは赤い瞳の魔王の魔力で、魔族になった」
勇者「その後、后を娶って、紫の瞳の魔王が産まれた」
魔法使い「問題その一。紫の加護って何?」
僧侶「『闇』だよね。勇者が光なんだもん」
勇者「で……后、は身体が崩れて死んでしまった」
勇者「その後、紫の瞳の魔王が、勇者になるべく側近に旅に出される」
魔法使い「そこでエルフの姫に出会った」
戦士「優れた加護とかどうとかだな……」
魔法使い「無理に参加しなくて良いわよ」
戦士「仲間はずれにされるのは厭!」
勇者「紫の瞳の魔王が姫と一緒に魔導の街に行き、盗賊に出会う」
僧侶「……『劣等種』を救うべく、大会に出て、優勝する、と」
魔法使い「劣等種を解放して、そんな言葉使われない様にって言ったのに」
魔法使い「領主の口からは出て来た、のよね」
僧侶「息子の方でしょ」
魔法使い「あ、そっか……」
勇者「言いにくいが、魔法使いのお母さんってのは……」
魔法使い「その時、魔王……『少年』に救われた劣等種の一人って可能性が高いわね」

僧侶「……で、娼婦さんと、使用人さんが、港街を出る」
戦士「あの人も……元人間だったんだな」
勇者「魔導将軍、狼将軍、インキュバスを倒して……」
魔法使い「姫と、紫の瞳の魔王は、眠りに着いた……の、よね?」
僧侶「……ジジィさん、元魔導将軍さんと鴉さんは……狼将軍との戦いで亡くなった」
魔法使い「姫って、子供……産んだのかしら」
僧侶「ええっと……50年とか言ってなかった?」
戦士「でも半分人間なんだろ?」
勇者「未知数だよなぁ……産まれたとすれば……姫も、もう亡くなってるんだろう」
僧侶「似てるって言ってたね」
勇者「后と、姫……そうだな。『エルフの長』『魔王になる者』」
勇者「……力の強い者を育むのは、耐えられない程の負荷が掛かるって事」
魔法使い「で……何だっけ?」
僧侶「えっと……あ、姫と魔王が眠る前に、娼婦さんが亡くなってる」
戦士「ああ、そうだそうだ……ん、で」
魔法使い「……この城で、船長の子供が産まれた、んだよな」
僧侶「キーワードその一。『生と死』」
勇者「……赤ん坊の生、母親の死。それから、紫の瞳の魔王……『器』の死」
戦士「『中身』……勇者が産まれた」
勇者「……俺、産まれたって言うのかな」
僧侶「引き金になったのかもって言ってたよね」
魔法使い「魔導の街であった、あの赤い髪の人……娘さん、だっけ」
魔法使い「勇者は、あの人と一緒に……あの船で」
戦士「側近と一緒に、始まりの街へ行った」
勇者「ああ。盗賊が王様だ。事情も全部知ってる上に」
勇者「……『劣等種』が王になった街。牽制のつもりもあったんだろうな」
戦士「女剣士を騎士団長に迎えて、守りも盤石、と」

僧侶「キーワードその二。『王』」
魔法使い「で、後は……すくすく育った勇者は、私達を仲間にして」
戦士「現在に至る、と」
勇者「問題その二。金の加護って何だ」
戦士「何で態々聞くんだよ。光、だろ」
勇者「……そうなんだけど。でもな?」
勇者「俺が魔王になったなら、どうして俺の瞳は金の侭なんだ?」
魔法使い「解らない問題は後回し……問題その三。魔王の世代交代は?」
戦士「……親殺し?」
僧侶「って事は……勇者の子が、魔王となった勇者を殺す事……」
勇者「…… ……」
魔法使い「そして、その子が魔王になって、以下永遠に繰り返し」
戦士「……お前が子供を作らなければ良いんじゃネェの」
僧侶「で……自分の力を押さえきれなくなった魔王が世界を滅ぼして」
僧侶「おしまい?」
戦士「…… ……」
勇者「……拒否権、ないよなぁ」
魔法使い「美しいこの世界を守る為、か」
戦士「そりゃ、勇者は必ず魔王を倒す……ん、あれ?」
勇者「あってるよ。勇者が元魔王であればこそ、世界を守ろうとするからこそ」
勇者「……倒されないと困るんだから」
戦士「……ん、んん?」
魔法使い「もう、アンタは良いわよ、戦士……」
僧侶「結局……繰り返さないと仕方無いんだね」ハァ
勇者「しかし……な」
魔法使い「え?」
勇者「……もし、俺が……子供を作るとする、だろ?」
勇者「そうしたら……后って人や、エルフの姫の様に……相手は……」
僧侶「私なら大丈夫だよ」
戦士「私って言い切ったな、こいつ……」

僧侶「他に誰が居るのよ!」
僧侶「……側近さんだって、大丈夫だったじゃない。使用人さんが言ってた」
僧侶「問題その四。他の二人の差は?」
魔法使い「……元人間」
僧侶「そう」
勇者「……決心は、変わらないんだな」
僧侶「うん」
戦士「俺も」
魔法使い「……私も、よ」
勇者「え!?」
戦士「『魔王様』には『側近』が必要だろ?」
魔法使い「……戦士を放っておけないし、僧侶が魔王の奥さんになるなら」
魔法使い「は、話し相手ぐらい、必要でしょ!」
戦士「お前は俺の奥さんでしょ」
魔法使い「……ッ と、当然よ!」
戦士「子供一杯作ろうぜ!んで、魔戦士部隊結成だ!」
魔法使い「ハァ!?」
戦士「俺の戦士としての腕と、お前の魔法の腕を併せ持ったら無敵だぜー?」
魔法使い「じょ、冗談じゃないわよ!そんなに産めるか!」

ギャアギャア、ギャアギャア

勇者「……問題、山積みなのにこれで良いのか」ハァ
僧侶「良いんじゃないの。一杯時間が出来るよ。魔族になると」
勇者「子供の事だけじゃ無い……使用人に聞いただろう?」
勇者「強い意思がないと……」
僧侶「それこそ、心配する所じゃないと思うんだけどな」
勇者「……良い、んだな?」
僧侶「勇者、しつこい……大丈夫。『母は強い』って言うでしょう」
勇者「…… ……」
僧侶「あ、そうだ……これ」チャリ
勇者「ん? ……金のペンダント?」
僧侶「うん……拾った、んだ。勇者が倒れてる間に」
勇者「そうか……さっき見せそびれたし」
勇者「光の剣と一緒に、後で使用人に聞いてみよう」

コンコン

使用人「お食事の準備が出来ましたが……どうされますか?」
勇者「ああ……使用人、ありがとう」
勇者「……食事の前に、少し、良いか」
使用人「ええ……何時でも始められる様にはして参りましたので」
勇者「……結論が出た。俺は……『魔王』になろう」
使用人「…… ……はい、魔王様」
魔法使い「……」
戦士「……」
僧侶「……」
魔王「それから、これ何だけど……」チャキ
使用人「!」
魔王「……使用人?」
使用人「…… ……鍛冶師さんの鍛えた部分は吹き飛んで、魔王様の」
使用人「……いえ、『勇者の光』が……と仰っていました、ね」
魔王「あ、ああ……」
使用人「もう随分と昔の話ですので……はっきりとは覚えていませんが」
使用人「……刀身が少し、大きくなっている気がします」
魔王「……使用人も、か」
使用人「え?」
魔王「俺もそんな気がしたんだ」
使用人「…… ……それに、まだ光の色をたたえて居ます」
魔法使い「あ……そうか!これ、元は魔王の剣……!」
戦士「大昔は勇者の剣だったかもしれない、魔王の剣だった、勇者の剣、な」
僧侶「…… ……光の剣で良いじゃないの」
使用人「今はまだ……貴方の瞳は、金色です、魔王様」
使用人「……側近様に、魔王様の目の残照が残った様に」
使用人「貴方の身体にも……光の残照がある、のかもしれませんね」
魔王「……じゃあ、何れ……俺の瞳も紫に染まるのか」
魔王(夢の中の男も……紫の瞳になっていた。やはり……関係あるのか?)
使用人「どう……でしょう、ね」
魔王「……そうだよな、わかんないよな……あ、それから、これ」チャリ

使用人「これは……!」
僧侶「……勇者、じゃない、魔王が倒れている時、拾ったのよ」
僧侶「紫の瞳の魔王の、かしら?」
使用人「……前魔王様……紫の瞳の魔王様が」
使用人「その昔、姫様にプレゼントした物です」
魔法使い「エルフの加護を移した、って言う……アレ!?」
使用人「そうです……そういえば、これを着けた侭お眠りになりました」
使用人「……魔王様が、お持ち下さい」ス…
魔王「え、でも……」
使用人「お話は以上でしょうか?」
魔王「あ、ああ……後は、皆……決意は変わらない、そうだ」
魔王「食事が済んだら……」
戦士「あ-、先にやっちまわねぇ?」
魔王「え!?」
戦士「すっきりして飯、食いたいじゃん?ナァ?」
魔法使い「……まあ、そうね」
僧侶「私はどっちでも」
使用人「……良い、のですか」
魔王「……お前達……」
使用人「……良いのでしたら、始めましょうか」
魔王「で……具体的にはどうすれば良い?」
使用人「先ほどご説明した通り、なのですが……」
使用人「魔王様の魔力で人としての命を奪い」
使用人「そこに、さらに魔力を注いで魔に変じさせるんです」
魔法使い「……一度死ぬ、って事、よね」
使用人「まあ……そうです」
戦士「失敗しないでくれよ?」
魔王「……お、おう」
使用人「そうなる様に、願えば良いのです……ですが」
使用人「……多分、暴走しますから」
戦士「制御出来なければ、自我を失い……って奴な」
使用人「……はい」

魔王「本当に……良いんだな」
戦士「何回聞く気だよ。良いんだってば」
魔王「良し、じゃあ……」
使用人「……僧侶様からが、良いと思います」
僧侶「え、私?」
使用人「はい。魔へと変じれば、魔力量も当然ですが……増えますから」
使用人「……回復が、必要になった場合……」
魔法使い「ああ……成る程ね」
僧侶「わかった……じゃあ、お願い、魔王」
魔王「……ああ。手を繋げば……良いのか?」
使用人「場所は何処でも構いません。身に触れてさえ、居れば」
魔王「…… ……」ギュ
僧侶「ま、魔王?」
魔王「……暴れても、抱きしめてれば……すぐ、押さえられるだろう」
戦士「マァ、恥ずかしげも無く」
魔王「お前は抱きしめないから心配するな」
戦士「……心配する所はそこじゃないだろ!暴走したらどうするんだよ!」
魔王「赤い目の魔王と、側近の場合、な感じで」
戦士「…… ……酷い」
僧侶「……魔王、恥ずかしいから……早く」
魔王「あ、ああ……ッ」
魔王(ええと……願う……ッ)グッ
僧侶「……ッ」
僧侶(急速に……ッ 何かが、奪われる……ッ 目を開けていられない……ッ)
僧侶「あ、ァ ……ッ」
魔法使い「僧侶!?」
使用人「手を出しては駄目です!」
僧侶「ああああああああああああ!」ガクガクッ
魔王「僧侶!」
僧侶「……ッ う、ゥ……ッ」ウエッ ゲホゲホゲホッ
使用人「…… ……僧侶様?」
僧侶「……だ、だい……じょ、うぶ……ッ」ゲホゲホッ
僧侶「ちょっと……気持ち、悪い、だけ……ッ」

使用人「……気持ち悪い、だけ……」
使用人(いや、しかし……このまま、収まるとは……)
僧侶「……う、ウ……ちょっと、そこ、退いて戦士……座らせて……」フラフラ
戦士「お、おう……大丈夫か?」
僧侶「……目が、回る……」フゥ
使用人「…… ……」
魔法使い「使用人?」
使用人「あ、いえ……これだけで済むのでしたら、良いのですが……」
戦士「良し……次は、俺だ」
魔王「休ませろよ、少しは……」
戦士「疲れてんのか?」
魔王「……いや」
魔王(……本当に、魔に……魔王に、俺は……本当に、なったのか)
魔王(それとも……僧侶の命を奪ったからか)
魔王(今までとは……違う種類の、力に溢れて居るのが、解る)
戦士「魔王?」
魔王「……あ、いや……良し。さっさと終わらせよう」ス…
戦士「せめて……肩とかにしてくれない。何で腹……」
魔王「お前でかいんだよ! ……行くぞ」グッ
戦士「おう……ッ」
魔王(同じだ……流れ込んで……ッ これは……『歓喜』だ……ッ)
魔王(『魔』の部分が……喜んでいる……ッ)スッ
戦士「…… ……おう、終わりか?」
魔王「え? ……あ、ああ……何とも無い、のか?」
使用人「!?」
使用人(……戦士様も!?何故……暴走しない……!?)
使用人(否……魔王様は、元勇者……何かが……違う、のだろうか)
戦士「ああ、平気平気、ほら……」ブンブン……クラッ
戦士「……あらら」ヘロヘロ
魔法使い「戦士!」

戦士「うお、やべ……ッ 腕回しただけなのに、目が回る……」
使用人「……ゆっくり、休めて下さい。急激に……細胞が変わっていくのですから」
魔法使い「魔王の力に、魔に変じた己の細胞が……歓喜する、んですっけ」
使用人「ええ……そうです」
魔法使い「……でも、大した事なさそうよね。最後は私」
魔王「抱きしめてたら戦士に殴られそうだな」
魔法使い「僧侶にも、でしょ」
魔王「じゃあ、手を」ス…
魔法使い「ええ……」ギュ
魔王「行くぞ」グッ
魔王(変じられた身の方も歓喜するように……俺の魔力も、なのか)
魔王(……慎重に……ッ)
魔法使い「……ッ ゥ、あ……ッ」
使用人「……やはり、個体差……ッ」
魔法使い(これは、何……奪われる……ッ これが、歓喜!?)
魔法使い(……違う!今度は溢れて来る……ッ ……ッ)
魔法使い「あ、ァあ……ッ ああああああああああああ!」
戦士「魔法使い……!」
魔王「……大丈夫だ。離すぞ、魔法使い」
魔法使い(……身体が、震える……ッ 何かが飛び出そうと……ッ)ガクガク
使用人「……ッ」ビリビリビリッ
魔王「! ……なんだ!?」
使用人「暴走です!魔王様……ッ」
魔王「な……ッ 魔法使い!?」
魔法使い「ああああああああああああああ!?」ブンブン、ブンブン!
使用人「魔法使い様、落ち着いて……ッ ぅ、熱……ッ」
戦士「魔法使い! ……あっちぃ!?」
使用人「魔王様、何か……バリア、の様な物を……ッ」
魔王「え、ええ!?そんな、急に……ッ」
使用人「……ッ 退いて下さい……ッ 風よ!」

ビュオオオオオオ!

戦士「!! ……す、げぇ……ッ」
僧侶(こ、れが……ッ 魔族の力……!?)

使用人「長くは、持ちません……ッ魔法使い様!」
使用人「引きずられないで!頑張って!」
魔王「……ッ魔法使い!」
魔法使い「あ、ああぁ、あア……ッ」
魔法使い(身体が熱い……ッ やめて、アタシを焼かないで!戦士を……ッ)
魔法使い(魔王も、僧侶も傷付けるのは厭……ッ 出てって……!!)

バサ………ッ

魔法使い「ィ、やああああああああああああああああああああッ」バタンッ
戦士「魔法使い!」タタッ
僧侶「飛び出しちゃ駄目!風が……ッ」
戦士「う……ッ」ザクザクッ
魔王「戦士……ッ」
使用人「あ……ッか、風よ、消え去れ……ッ」フッ
魔法使い「あ、ああ……ァ」ハァハァ
戦士「魔法使い……ッ」ギュ
僧侶「戦士、血が!」タタタッ
魔王「違う……僧侶……魔法使いの背中だ……」
僧侶「……!」
使用人(背を……破って……ッ紅い……羽、が……ッ)
魔法使い「……うぅ……」
僧侶「あ……ッ 魔法使い!」パアッ
魔王「だ……大丈夫、か……?」
魔法使い「な、んと……か……ね……」ハァ
使用人「…… ……魔力を、具現化させて……暴走を止めた、のですか……」
戦士「……良かった……」ホゥ
僧侶「ほら、戦士も回復するから……」パァッ
魔王「……やっぱり、僧侶も……魔族になっても……」
魔王「回復は使える、んだな」
僧侶「あ……そういえば、そう……か」
使用人「側近様の例がありますから、それは……」

魔王「……いや。やはり俺だけ特別なんだな……と思ってな」
使用人「…… ……魔力量の問題でしょうか」
魔王「え?」
使用人「いえ……僧侶様は、回復魔法が中心ですし」
使用人「戦士様は……そもそも、魔法は使われません、ので」
魔王「……暴走、か」
使用人「はい……ですが、無事で良かったです。魔王様は……疲れていませんか」
魔王「あ、ああ……俺は大丈夫だ」
使用人「では……最後に、名をお与え下さい」
魔王「……一度生を終え、新たな命を生きようとするけじめ、か」
使用人「…… ……」
魔王「僧侶。俺の后に……なってくれる、んだよな?」
僧侶「うん」
魔法使い「……また、さらっと……アンタ達は……」ハァ
僧侶「魔法使いだって、戦士に張り付いてるじゃない」
魔法使い「アタシはしんどいのよ!」
魔王「……では、『后』」
后「うん」
魔王「戦士は、『側近』で良いんだな?」
戦士「お前が……厭じゃなければな。あの人の……名前だからな」
魔王「寧ろありがたいさ」
側近「おう……心配すんな。お前は俺が守ってやるよ」
魔王「……魔法使い」
魔法使い「アタシも、前もって希望出しといたでしょ?」
魔王「本当に良いのか」
使用人「?」
魔法使い「ええ。戦士との子供一杯産んで、魔王を守る軍隊、作ってやるわ!」
魔王「……では『魔導将軍』」
使用人「……!」
魔導将軍「ぴったりね。背中に羽まで生やしてさ」フフ
使用人「……では……と言いたいところですが」
魔王「ん?」
使用人「お食事……如何なさいます?」

何かPCのp2繋がらない( ゚д゚)
まあ、時間なのでお風呂とご飯ー
明日から仕事なのでまた、電車で!

魔王「あ、ああ……俺は大丈夫だけど……」チラ
后「お腹……すいた」
魔王「え……気分悪く無いのか?」
魔導将軍「もうぺっこぺこだわ!」
側近「俺もー」
魔王「……悪い。すぐに準備してやってくれるか」
使用人「はい」クスクス

……
………
…………

盗賊「で、この島が……」
弟王子「はい」

バタバタバタ……!

盗賊「ん?」
女剣士「失礼します、王様!」

バタンッ

女剣士「! ……ッ これは、弟王子様……ッ」
弟王子「大丈夫ですよ、今は僕とお母様しか居ません」
盗賊「どうした?」
女剣士「……各地で、魔物の弱体化が報告されている」
盗賊「……何?」
女剣士「南の洞窟の警備隊からも、交戦中だった海の魔物が……」
女剣士「……剣も通さない硬い鱗を持つ魔物が……魔力の切れた魔法隊の杖の一打で」
女剣士「……絶命した、と」
盗賊「な……!?」
女剣士「数も徐々にだが、減って行っている様だ」
弟王子「では……勇者様達が!」
盗賊「早まるな、弟王子。まだ……わからん」
女剣士「可能性は高いと思う……が」

盗賊「ああ……多分、間違いは無いだろう。無いと思いたい、が……!」
女剣士「…… ……」
盗賊「事が事、だからな。慎重になるべきだろう。鍛治師は?」
女剣士「研究室だろう」
弟王子「では、僕が呼んで来ますよ」
盗賊「いや……あ、うん」
弟王子「?」
盗賊「……何時迄も過保護にしていても仕方ない。頼めるか」
弟王子「はい!」スタスタ、パタン
女剣士「今迄……城内どころか、部屋から余り出なかったもんな」
盗賊「あいつの立場を考えるとな」
盗賊「……全て伝えて、先を委ねる事も考えたが……」
女剣士「親バカ」クス
盗賊「……否定はしないさ」
盗賊「だが……間違えては居なかったと思いたい。勇者が……魔王を倒したのだとすれば」
盗賊「尚更、な」

女剣士「ああ……そうだな」
盗賊「お前、時間はあるのか?」
女剣士「バタバタはしているんだ。本当に報告が相次いでいるからな」
女剣士「……まあ、悲鳴を上げたいのは私じゃ無くて、対応に追われてる事務方と騎士達だろうが」
盗賊「……じゃあ、弟王子と鍛治師が戻れば急ぎ対策を立てよう」
女剣士「弟王子も?」
盗賊「ああ……今も地図を広げて」
盗賊「……情勢を説明してた所さ。誰に似たんだか……頭良くて助かるよ」
女剣士「なら……先に始めていてくれ」
女剣士「なるべく、状況を正確に把握したいだろう。ちょっと戻ってくる」
盗賊「解った……頼む」
女剣士「ああ」

スタスタ……パタン

盗賊「…… ……」
盗賊「勇者……そうか」フゥ
盗賊(喜ばなくてはいけない。アタシ達は……だが)
盗賊(……複雑だ。勇者は、魔王。魔王は……勇者)
盗賊(……早く、戻れよ、勇者)

働いてきます!

……
………
…………

弟王子(ええと……お父様の研究室は)キョロキョロ

ドン!

弟王子「あ、ごめんなさい!」
女「申し訳ありません」
弟王子「いえ、僕が前見て無かったから……」
女「何かをお探しのご様子ですが……私で宜しければ、ご案内致しますが」
弟王子「あ……え、と……鍛治師……様、の研究室を探してるんですが」
女「ああ、この先の一番奥の扉です」
弟王子「ありがとうございます!良かった……」
女「新しい研究員の方ですか」
弟王子「いえ……そう言う訳では……」
弟王子(言わない方が良い……んだよね)
弟王子(お母様に……余り人目につくなと言われているし)
弟王子「すみません、足を止めてしまって。それじゃ」ペコ……パタパタ
女(…… ……)ガサ
女(……似ている。人相書きでは限度もあるが……)
女(面差しは父親似か……鍛治師の顔は確認したし)
女(城から、どころか部屋から余り出ないと言われているらしいが……)
女(……あの階段から降りてきた。あれは玉座の間に続いたはず)
女(多分……間違いないな)
女(……城が一般人の立ち入り自由なのは助かったが……さて)
女(どうやって近づくかな)

女(……盗賊や鍛治師と違い)
女(警戒が足りないな、弟王子)フフ
女(……しかし、王族と言うだけで)
女(優れた加護も持たないだろう、劣等種……何故、私が……ッ)
女(……勇者の方が良かったが、仕方が無い)
女(御しやすくはありそうだ……さて、長居は無用。策を練る……か)

スタスタ……ピタ
女「…… ……」クル、スタスタ…
女(……何を話しているのか)

弟王子「……と、女剣士が」
鍛治師「本当に!?」

女(ん……聞こえにくい、な……)

弟王子「ですが、お母様が焦っては、と……」
鍛治師「……そうだね。油断は禁物だ。それで……戻れと?」
弟王子「はい」
鍛治師「そうか……本当なら、嬉しい話……なんだ、よな」
弟王子「お父様……?」
鍛治師「……否。僕達は喜ばなくてはいけない、んだ」
鍛治師「魔王が……勇者に倒された、なら……」

女(……!)
女(勇者が……魔王を倒した!?)
女(……否、確定では無いのか……しかし)
女(彼が……弟王子だという確証は得た。収穫はあり、だな)
女(…… ……)

タタタ……

仕事おわた!
また明日!

と、思ったけど少しだけ

鍛冶師「ん…… ……」
弟王子「? お父さ……」
鍛冶師「シッ」
弟王子「…… ……」
鍛冶師「気のせい、だったら良いけど」
弟王子「??」
鍛冶師「……否、足音が聞こえたからね」
弟王子「え……」
鍛冶師「本当に……喜ぶ事態であれば、良いんだけど」ハァ
弟王子「…… ……?」
鍛冶師「まあ、良い。盗賊の所に戻ろう」
弟王子「は、はい……あの、僕……」
鍛冶師「気にしないで良いよ。お前は時期が来れば……王になる」
鍛冶師「確かに、盗賊が言う様に警戒は必要だ。色々な問題については……」
鍛冶師「……そろそろ。知って良いかもしれない」
弟王子「……」
鍛冶師「そんな、怯えた様な顔しなくていいよ」
鍛冶師「聞いた上で、判断するのはお前だ。何時までも僕たちの影に」
鍛冶師「隠れている訳にも行かないんだから」
弟王子「……はい!」
鍛冶師「ん。でも気張りすぎない様にね。お前が望むなら」
鍛冶師「僕たちは何時だって、お前を助ける」
弟王子「はい、お父様……!」
鍛冶師「さ、行こう。女剣士も待ってる」

……
………
…………

女剣士「以上が、現状の報告だな」
盗賊「……判断に足りると言えばそうだし、足りないと言えば……それもまた、だな」
女剣士「増えてくるのだろうと予測は出来る……が」

カチャ

鍛冶師「待たせたね、盗賊、女剣士」
盗賊「人払いは済ませてある。弟王子、お前も座りなさい」
弟王子「え、でも……」
盗賊「お前の意見も聞きたいんだ」
弟王子「……はい!」
鍛冶師「……で、何だって?」
盗賊「世界中の魔物の弱体化、だ。鍛冶師……数も減ってるが」
盗賊「……どう見る?」
鍛冶師「勇者が魔王を倒したか、か」
女剣士「そうだ。これからも同様の報告は増えるだろうと予想される……し」
女剣士「……旅人の目撃例もある。『勇者様が本懐を遂げたのだろう』と」
女剣士「……喜ぶ声も、な」
鍛冶師「噂は……怖いな。あっと言う間に広がるだろう」
弟王子「ええと……それは、広がると困る、のですか」
盗賊「もしそうで無かった時の落胆が怖いんだよ。上がって落ちた絶望程」
盗賊「怖い物はない……だろう」
弟王子「……そう、ですね」
女剣士「先走って、王が宣言を出すには慎重にならざるを得ない……が」
女剣士「決め手には欠けるんだ。勇者が戻れば何よりなんだが……」
弟王子「で、でも……何れは戻られる、のでは?」
鍛冶師「……世の中に『絶対』は無いんだ、弟王子」
弟王子「…… ……」
盗賊「しかしな……どこかで決断は下さなきゃいけない、んだ」
女剣士「……噂が広がるのは時間の問題だろうな」
女剣士「お祭り騒ぎは結構、だが……」
弟王子「お祭り……」
鍛冶師「ん?」

弟王子「……何も言わず、式典など開くのはどうでしょう」
女剣士「式典?」
弟王子「はい。そうですね……闘技大会なんて、どうでしょうか」
盗賊「闘技大会……」
弟王子「それで勇者様の魔王討伐の噂が消えるとは思いませんが」
弟王子「何食わぬ顔して、開くんです」
弟王子「そうすれば……気は、逸らせます」
女剣士「しかし、それでは……勇者の帰還を祝う様ではないか?」
弟王子「人々は勘違いします。その間に知らせが届けば、勇者様が戻れば」
弟王子「それで良し。宣言も出来るかもしれません」
鍛冶師「時間稼ぎか」
弟王子「何も無ければ……そうですね。建国祭、とかでも良いのでは」
盗賊「建国祭か……まあ、確かに何もしていなかった、がな」
鍛冶師「盗賊、そういうの苦手だもんね」
弟王子「建国祭であれば、『未だ魔王討伐を叶える為に頑張る勇者様を讃えて』と」
弟王子「名目は着けられますよ」
盗賊「……成る程な」
鍛冶師「今年で丁度……ん、何年だっけ」
盗賊「否、何年でも良いさ……何より」
女剣士「『面白そうだ』?」
盗賊「勇者が旅立ってそろそろ一年だ。キリは良いかもな」
鍛冶師「期待と不安は表裏一体だしね」
女剣士「……表裏一体、ね」
弟王子「……やはり、甘い……でしょう、か」
盗賊「否。詰める必要はあるが……考えて見よう」
盗賊「ありがとう、弟王子」
弟王子「あ、いえ……その…… ……嬉しい、です。お役に、立てるかもしれない、なら」

あかん限界( ゚д゚)
今度こそ明日!

ドウモ( ・∀・)っ旦
電車で書けるだけー

盗賊「闘技大会、か……」
女剣士「騎士団の関係者は参加できんな」
弟王子「え……何故です?」
女剣士「大会を催そうとするなら、周辺警備は必要だろう。救護班、審判もな」
女剣士「審判が騎士であれば、公平を期す為に、な」
鍛治師「家族なんかが出場しちゃうと、ね」
盗賊「表立っての文句は出ないかもしれんが、徹底しておくに越した事はないな」

弟王子「あ……成る程……」
鍛治師「ささやかな賞金ぐらいは用意すべきだな」
女剣士「まあ、金が一番無難だろうな」
盗賊「……あんまり出せないぞ」
鍛治師「ま、話題になれば街も潤う。投資だと思えば良いだろう」
女剣士「建国際とするには時期は微妙だな……さっきの」
女剣士「『勇者を讃えて』的なので良いんじゃないかな」
盗賊「そうだな。国の祭りと称するには準備ももっと……必然的に大掛かりになる」
盗賊「鍛治師、先に触れを出してしまおう」
弟王子「え!?」
盗賊「魔物が弱ってきてるのは、勇者が頑張ってるから、て事に違いは無い。嘘でもない」
女剣士「……では、騎士を集めるか」
弟王子「え、え!?」

盗賊「開催時期は決めておかないとな」
盗賊「すぐにはどっちみち無理さ」
女剣士「……盗賊、一つ頼みがある」
盗賊「ん?」
女剣士「前哨戦と称して、一勝負させてくれないか?」
鍛治師「ああ、それは良いね。騎士同士の勝負なんてなかなか目にする機会も無いし」

働いてくる!

鍛冶師「……盗賊?」
盗賊「うん。良いんじゃないか?」
盗賊「ただ、メンバーはどうする。一人か?」
女剣士「トーナメント式にしようと思う。ある程度人数は絞っておくが……」
女剣士「勝ち抜いた一人と、私が戦おうかな」
弟王子「それも『公平性』ですか」
女剣士「そうだな。旨を伝え、我こそはと思う者、と」
盗賊「……なら、賭けでもするか。祭りの……そうだな。前夜祭って事で」
鍛冶師「王様自ら賭け事認めるの?」
盗賊「今回限り、さ。しかも『公式』なんだ」
盗賊「……逆に、盛り上がると思わねぇ?」
鍛冶師「まあ……隠れてされるなら、寧ろ堂々とってのは」
鍛冶師「…… ……まあ、良いか」ハァ
盗賊「どうせならパァッとやろうぜ」
女剣士「不正を防ぐにはまあ、良いかもしれないな」
弟王子「……あ、の」
女剣士「ん?」
弟王子「兄さんは……」
女剣士「希望するなら参加させるが……実力で勝ち上がって来ない事には」
女剣士「私にもどうにも出来ないよ」
弟王子「そう、ですよね」ホッ
盗賊「……なんだ?」
弟王子「いえ。どうせなら正々堂々と、『強い兄さん』を見たいですから」
鍛冶師「うん。僕もだよ」
鍛冶師「……盗賊は、負けた王子を見ると、げらげら笑いそうだよね」
盗賊「当たり前だろ。お前弱いな!って大笑いしてやるけど?」
女剣士「……良い親を持ったな、弟王子」
弟王子「え? ……はい。そうですね」
弟王子「流石に……僕は笑いませんけど」
盗賊「笑ってやれば良いんだよ。励みになるさ」
鍛冶師「…… ……いや、それは……どう、かなぁ……」
女剣士「では、私は騎士団に伝えて良いんだな?」

ごめ、無理( ゚д゚)

盗賊「ああ。詳しい日程はもう少し、弟王子と詰めよう」
弟王子「え……あ、あの。僕で良いのですか」
盗賊「当たり前だ」
鍛冶師「決まったらすぐに連絡するよ」
女剣士「頼む……では早速、希望者を募るとするかな」スタスタ

カチャ、パタン

弟王子「……嬉しそうですね、女剣士さん」
鍛冶師「そう……かい?」
弟王子「え?」
盗賊「……嬉しいのさ。あってるよ」
鍛冶師「…… ……」
弟王子「あ、あの……」
盗賊「……アタシ達と同じ気持ちさ。嬉しくて、少し寂しい」
弟王子「寂……しい?」
盗賊「…… ……」
鍛冶師「何時か、ね。お前にも解る時が来ると思うよ」
弟王子「は……はい」
盗賊「さて。準備に……どれぐらい掛かるかな」
盗賊「決定から開催日まで……今の状態だと余り伸ばさない方が良いだろうな」
鍛冶師「そうだな。まあ……スペースの確保ぐらいか」
弟王子「騎士団の演習場は如何です?」
鍛冶師「屋内か……見物人を入れる事を考えたらちょっと手狭だな」
盗賊「城の庭で良いんじゃないか?狭い事に変わりは無いが」
盗賊「何も殺し合いをする訳じゃ無いからな」
弟王子「ルールも決めないといけませんね」
盗賊「ルールか……そうだな。魔導の街のアレを参考にさせてもらうか」
鍛冶師「ああ……そういえばあの街もそういう大会、やってたね」

電車でかけたら後ほど!

盗賊「致命傷に繋がる攻撃や、急所への攻撃は禁止、とか」
鍛治師「騎士に審判やらすなら、まあ……そこは大丈夫だと思いたいけど」
鍛治師「周りの人に被害行かない様にしないとなぁ」
弟王子「的を作るのは如何ですか?」
盗賊「的?」
弟王子「身体に……そうですね。風船とか印を着けて、壊されたら負け」
弟王子「ちょっと緊迫感には欠けますけど……」
鍛治師「成る程ね。まあ、攻撃魔法や剣だって当てに行くものだしね」
盗賊「物理攻撃する奴には模造刀使わせるか」
鍛治師「魔法は威力絞って当てれば問題ないな」
盗賊「風船はちょっと可愛い過ぎるが……」
弟王子「す、すみません」
鍛治師「いやいや、発想は悪くないよ」
鍛治師「プレートに何か印を着けたら良いだろう。防御にもなる」

盗賊「それで行くか」
鍛治師「後は細かい調整だなぁ……前哨戦は良いけど、何人位になるかにもよるなぁ」
盗賊「現状そのまま情報出して良いだろ?」
鍛治師「へ?」
弟王子「現状、確認しながら……街の人達、楽しめる、て事ですか」
盗賊「そういう事」
鍛治師「まあ……まあ、良いか」ハァ
盗賊「出場者の募集は登録所にやらせよう。騎士の管理やらは女剣士に任せるから」
盗賊「騎士団で女剣士に挑みたい奴募集中って情報も含めて」
盗賊「うまい事頼むよ、鍛治師」
鍛治師「はいはい……弟王子、手伝ってくれる?」
弟王子「は、はい!喜んで!」

……
………
…………

女剣士「と、言う訳だ」
騎士「勝ち残った奴が女剣士様と勝負……」ヒソヒソ

オレハヤルゼ!
オレモ!ワタシモ!

女剣士「騎士であれば誰でも構わない。我こそはと言う者は……そうだな。早急で申し訳ないが」
女剣士「三日後迄に名乗り出るが良い!」

オオオオー!

王子「女剣士様、俺は出ます!」
女剣士「ああ。勝ち上がれよ、王子!」
王子「勿論です!」
騎士「私も出ます!王子、負けないわよ!」

カチャ

盗賊「悪いな、邪魔するぜ」
騎士「こ、これは王様!」
女剣士「如何なさいました?」
盗賊「今街全体に触れを出させたところだ」
盗賊「あー、と。騎士はこれで全員じゃないよな?」
女剣士「はい。締め切りは3日後と考えて居ますが……」
盗賊「ああ。構わない……が、まあ、大勢になるだろうしな」
盗賊「祭りは二週間後に決定した」
盗賊「それまでに上位二名を決めてくれ」
盗賊「祭りの前日に女剣士に挑む奴を決める試合を行う」
女剣士「はい」
盗賊「そして当日、闘技大会の前に、前哨戦を行おうと思うが……良いか?」
女剣士「はい!」

盗賊「城の庭に会場を作ろう。時間を決めて、審判を立て試合で決めてくれ」
盗賊「誰でも見にこれる様にするから、格好悪いところ見せるなよ?」ニヤニヤ
騎士「は、はい!」
盗賊「用事はそれだけだ。邪魔したな」

パタン

騎士「……楽しそうね、王様」
王子「…… ……」
女剣士「王子?」
王子「あ、いえ……」
女剣士「良し、では解散!持ち場に戻れ!」
王子「…… ……」グッ
王子「女剣士様!」
女剣士「なんだ?」
王子「後で、お時間宜しいでしょうか」
女剣士「あ、ああ……では、夕刻、私の部屋に」
王子「ありがとうございます!」
女剣士「……ああ」スタスタ

パタン

騎士「何よ、王子……怪しいな」
王子「変な勘ぐりすんなよ……」
騎士「何の相談よ」
王子「……騎士団長に、勝ったら」
騎士「ん?」
王子「……い、祈り女に、結婚申し込む!」

オオオオ!?
マジデ!?ガンバレヨ!
ソシシテヤル!オレモ!アタシモ!

王子「……負けないからな!」
騎士「尚更全力で行かなくちゃ!」
王子「勿論だ!」
騎士「で、女剣士様に相談?」
王子「一応、結婚の許可貰わないとな。それに……」
騎士「ん?」
王子「全力で、叩き潰す! 」
騎士「宣戦布告?熱いわねぇ」

王子「真剣なんだよ!」
騎士「……うまくいくと良いわね」
王子「おう」
騎士「ま、勝てたらね?」
王子「……絶対勝つ!!」

……
………
…………

コンコン

后「魔王、入るよ」カチャ
魔王「ああ……」
后「どうしたの?」
魔王「え?」
后「食事の時から、なんか元気無いなあと思ってたからさ」
魔王「……これ、読んでたんだ」
后「ん……小説?」パラ
魔王「古詩、かな……はっきりとじゃないけど……覚えてる」
后「え?」
魔王「まだ俺が小さい頃……紫の瞳の魔王の側近が、聞かせてくれた。何度か……」
后「へぇ……」
魔王「愚図って寝ない時とかさ」
后「ふふ……私にも聞かせてよ」
魔王「……え?読むの?」
后「うん。魔王の声で知りたい」

魔王「……恥ずかしいんだが」
后「私と魔王しかいないよ」コロン
魔王「……お前、膝の上……」
后「待ってる」
魔王「…… ……」
魔王「『始まりは終わりだった。古の神との忘れらた契約』……」

……
………
…………

船長「……闘技大会?」
海賊「はい。始まりの街でやるんですって」
剣士「国を上げて殺し合いか」
海賊「……いや、ただの試合だから」
船長「んで、それがどうした?」
海賊「船長、出たらどうです?強いんだし」
船長「なら、アタシより剣士だろ。ナァ?」
剣士「……俺は、良い」
船長「何でだよ、このアタシを負かしたんだぜ?お前は」
剣士「正確には勝負はついていないだろう」

カチャ

ジジィ「でっかい声で何話してんだ。廊下まで聞こえておるわ」
海賊「おう、ジジィか……体調大丈夫か」

ジジィ「何とかな……年には勝てん。すまんが何か飲むものくれんか」
海賊「おう……飯は?」
ジジィ「いらん……すまんな」
剣士「大丈夫なのか」
ジジィ「生きてるだけで丸儲けだ」
剣士「…… ……」
船長「流石に今回はくたばっちまうかと思ったぜ、ジジィ」
ジジィ「熱が引かんかったからな……」
ジジィ(……やはり、見れば見るほど……勇者に似てる、この男)ジィ
剣士「……何だ」
ジジィ「お前さんはやめておけよ、剣士」
剣士「?」
ジジィ「その闘技大会、とやらじゃ」
剣士「……出るつもり等微塵も無い」
船長「何だよ、珍しく弱気な事言うから、たまには心配でもしてやろうかと思ったら」ハァ
船長「しっかり聞き耳立ててんじゃネェか」

ジジィ「お前の声がデカイからだ、小娘」
ジジィ「……剣士の風貌は嫌でも目立つ。髪はどうにでもなるが……瞳の色は変えられん」
船長「……しかしな、今んとこ行くあても、やる事もネェんだよナァ」
海賊「港街で聞いただけだから、もう終わってるかも知れませんけど」
海賊「行くだけ行ってみます?すぐですし」
ジジィ「……あんまり目立つ事はすんなよ」スタスタ
船長「お前もたまには、気分転換に船降りれば?」
船長「街の近くに不思議な丘があるとか聞いたぜ」
ジジィ「……ありゃ、墓だ」ボソ
剣士「墓?」
ジジィ「…… ……」
ジジィ「面倒だ……部屋で寝てる」パタン
海賊「……ジジィも、長くないのかもなぁ」
剣士「…… ……」
剣士(丘の上の……墓。墓……)ズキッ
船長「剣士?」
剣士「……その、墓とやら」
船長「気になるのか?」
剣士「知って……いる、様な気が」
船長「……記憶の手掛かりになりそう、か?」
剣士「解らん……が」

働いてきます!

おわた( ゚д゚)
帰る!また明日!

船長「良し、んじゃ行くか!」
海賊「船長!?」
船長「目立たない様に、ローブ着て行きゃ大丈夫だろ」
剣士「……しかし」
船長「別に闘技大会に出場する気なんてネェよ」
船長「ま、ほら。デートだと思って、気軽に楽しもうぜ?」
海賊「……本当、剣士には甘いんだからなぁ……」
船長「ほら、さっさと船出せ!」
海賊「あ、アイアイサー!」タタタ

パタン

剣士「お前は我儘だな、船長」
船長「やる事ある時は、いくらお前だって、こんな風にはしネェよ」
剣士「……まあ、な」
船長「良いじゃネェか。たまには」
剣士「…… ……」
剣士(墓……しかし、始まりの大陸?)
剣士(俺は……行った事があるんだろうか)ズキ
剣士「……ッ」
船長「剣士?」
剣士「……見舞いに行く」
船長「は?」

剣士「ジジィの所だ。お前は舵を取るんだろう」
船長「ここから、始まりの大陸迄位…… ……否、良いよ。行ってこい」
船長「邪魔して欲しく無いんだろう」
剣士「……行ってくる」スタスタ

パタン

船長「…… ……」ハァ
船長(『惚れたか』か……糞ジジィめ)
船長(……訳ありに、深入りしても、な。解って……る、さ)

……
………
…………

魔導将軍「ねー側近」バサバサ
側近「んー? ……お前、羽煩い。つか飛ぶな」
魔導将軍「飛行訓練よ。やっと落ちなくなったの!」
側近「……そう言えば何回か壁に激突してたな」
魔導将軍「天井にもね……じゃなくて!」
側近「何だよ」
魔導将軍「魔王と后は毎日毎日、書庫に篭って何やってんのかしらね」
側近「楽しいらしいぜ?后曰く、知識が増えるのは快感なんだとよ」
魔導将軍「いやらしいわね」
側近「お前な……」
魔導将軍「まあ、ね。使用人に聞くだけじゃ、わかんない事も多いわよね」
側近「そりゃな。使用人だって、全てを知ってる訳じゃない」

魔導将軍「……后がね」
側近「ん?」
魔導将軍「『早く魔王の赤ちゃんが欲しいなぁ』なんて、言うのよ」
側近「……複雑だな」
魔導将軍「うん……『魔王の世代交代』が『親殺し』なら」
側近「魔王と后の子は……勇者になる、よな」
魔導将軍「やっぱり……そう考えちゃう、わよね」
側近「わからんけどな。こればっかりは……やってみないと」
魔導将軍「……でも、子供が出来なければ、魔王は多分」
魔導将軍「紫の瞳の魔王と……同じ道を辿る事になる」
側近「……『繰り返される運命の輪』」
魔導将軍「あの言葉って、それを指してるのかしらね」
側近「さあな……まだまだ知らない事が多すぎる」
側近「……全部、は無理でも少しでも多く残してやりたいがな」
魔導将軍「そうね。次期勇者の為に」
側近「ああ……んで、その為には、俺達も頑張って」
側近「軍隊作れる位の子供つくんないとな!」ガバッ
魔導将軍「きゃ……ッ 物みたいに言わないでよ」
側近「んなつもりあると思ってんのかよ」
魔導将軍「……ふふ」チュ

……
………
…………

コンコン

ジジィ「開いてるぞ」

カチャ

剣士「少し……良いか」
ジジィ「お前か……何だ?」
剣士「……お前は、俺を知ってるのか?」
ジジィ「何故、そう思う」
剣士「顔を合わす度、ジロジロ見られれば、な」
剣士「……物珍しいのだと言われれば、それ迄だが」
ジジィ「…… ……」
剣士「俺の瞳は目立つのだろう。それに……墓、と教えてくれたのはお前だ」
ジジィ「逆に聞きたい。その『墓』をお前は……知ってるのか?」
剣士「……俺には記憶が無い。だが……引っかかる事は確かだ」
剣士「お前が……俺を知ってる、のなら」
ジジィ「何でも良いから教えろ、とでも言いたいか」

剣士「……否定はしない」
ジジィ「俺はただの……海賊のジジィ、だ。くたばり損ないのな」
剣士「…… ……」
ジジィ「気になるならその目で確かめろ。空振りに終わっても、マイナスなんぞには」
ジジィ「決してならん」
剣士「……俺は、人間なんだろうか」
ジジィ「何で俺に聞く」
剣士「船長が……お前は、『自称物知り』だと」
ジジィ「本当に……あの小娘は」ハァ
ジジィ「小娘やお前より、ちょっとばかし長く生きてんだ」
ジジィ「知ってる事が多くて当然だろうが」
剣士「…… ……」
ジジィ「役に立てずすまんな」
剣士「……否」
ジジィ「…… ……」
剣士「…… ……」
ジジィ「まだ……なんかあるのか」
剣士「『勇者』とは何者だ」
剣士「魔王を倒す、選ばれた存在なのか。金の髪に金の瞳」
剣士「……光に、選ばれた者だと聞いた」
ジジィ「それこそ、だ。自分の目で確かめれば良い」
剣士「会えるかどうか等……」
ジジィ「『会う事は無い』と思うのか?」
剣士「…… ……」
ジジィ「『魔王を倒さねば』と言ったお前が?」
剣士「……だが」
ジジィ「機会が無いなら作れば良い。本当に必要だと思うのなら」
ジジィ「そうするべき、物だろう」
剣士「……『願えば叶う』?」
ジジィ「小娘にでも聞いたのか」
剣士「…… ……否」
剣士「何となく……出て来ただけだ」
ジジィ「…… ……」
剣士「どこかで……聞いた、んだろうな」

ジジィ「……自分で自分を人で無いと思うのか?」
剣士「……わからん」
ジジィ「ならば……案外それは正解かもしれないな」
剣士「?」
ジジィ「『人間』は自分が『人間』である事に、疑いなど持たないのかもしれん」
ジジィ「……そう思っただけだ。現にお前は……紫の瞳をし」
ジジィ「その……たかだか鋼一本。それを媒介に、様々な属性の魔法を使う」
ジジィ「……疑問に思うても、不思議では無いだろうな」
剣士「…… ……」
ジジィ「……もう良いだろう。横にならせてくれんか」
剣士「……すまん」
ジジィ「…… ……」
剣士「……」スタスタ

パタン

剣士(……俺は……何なのだろう)
剣士(船長に問うた所で……『お前はお前だ』としか帰って来ない)
剣士(何時もの様に……だが)
剣士(それは確かに真実。しかし……)
剣士(俺は……『人間』なのか?)
剣士(……否であれば。俺は……なんだ?)

……
………
…………

船長「盛り上がってんナァ」
剣士「…… ……船長」
船長「……解ってる、てば……丘の墓に行くんだろ?」
剣士「試合を見たい気持ちは解るが、余り目立ちたくは無い」
船長「それだけ目深にフード被ってりゃ大丈夫だよ」
船長「知り合いでも居るのか?」
剣士「否……そう言う訳じゃ無いが」
船長「えっと……あ、あそこか」スタスタ
剣士「おい……ッ …… ……」ハァ。スタスタ
船長「お……見ろよ、剣士。意外と本格的だぜ」
剣士「…… 城の騎士同士の試合らしいな」
船長「そうなのか? ……いい勝負だな。互角、か?」
剣士「さっき話してたのが聞こえた。 ……否。男の方が圧倒的に……」
船長「え?でも……あ!」

キィイン!

船長「剣を弾いた……!」

審判「そこ迄!武器を離しては続行不可のだ!」
審判「……勝者、王子!」
王子「ッ ……しゃあ!」
騎士「糞ッ ……流石に強いわね……」

船長「ほーう……お前の言う通りだったな」
剣士「……もう良いだろう。行くぞ」

船長「へいへい……一回街を出るぞ」
剣士「ああ…… ……」チラ

審判「王子は次の戦いへ!敗戦者は救護班の措置を……」
王子「もう少しだ……ッ 騎士団長に、勝って……」チラ
王子「……!? ……ゆ ……ッ !!」

剣士「…… ……?」

王子(……あの顔……勇者!?まさか……ッ)タッ
騎士「王子?どうしたの」
王子「…… ……」
騎士「……?」
王子「……い、や…… ……」
王子(フードの下……見えた顔は……否、しかし……!?)
王子(……あの、顔は。確かに……だが……!)
王子(ちらっと見えた、瞳は…… ……紫!?)
騎士「王子、ってば!」
王子「あ、ああ……悪い……」
王子(……否。見間違い、だろう。紫の瞳なんて、聞いた事が無い)
王子(ましてや、勇者だったら……あいつの瞳は金だった)
王子(……他人の、空似……だ、よ……な)

船長「剣士?」
剣士「……行こう」スタスタ
剣士(あの……王子、と呼ばれた奴……俺の顔を見て、驚いた様な顔をしていた)
剣士(……紫の瞳を見られたか? ……否、あの距離では……)
剣士(…… ……まあ、良い。さっさと、去るに限る)

……
………
…………

船長「大した魔物にも会わず、まあ……ラッキーだったな」
剣士「お前と一緒だ。心配等」
船長「そりゃ、アタシの台詞……」

ザアアアアアアアアァァ……

船長「……風が気持ちいいな」
剣士「……ああ」
船長「しかし……ちょっと話と違わないか?」
船長「『四季折々の花が枯れずに咲き乱れ』……なんて、さ」
剣士「…… ……」
船長「確かに、綺麗だけど……」
剣士(墓……か。しかし、墓標も何も無い)
剣士(心地よい風が吹く、心地よい場所。 ……その言葉に違いは無い、が)
船長「……剣士?」
剣士「お前に同意、だ。確かに美しい。 ……が」
船長「それだけ、だな。 ……何か、思い出したか?」
剣士「…… ……否。これと言って」
剣士(見覚えがある……訳でも無い)
剣士(……空振り、か)
船長「収穫無し、か」フゥ
剣士「悪かったな、付き合わせて」
船長「別に良いさ。言っただろう?偶にはデートのつもりで、てな」
剣士「…… ……」
剣士(『空振りでも、マイナスにはならん』……それは、そうだが)
船長「…… ……」
船長(心ここにあらず、か)ハァ
剣士「……戻るか。次は何処に行くんだ?」
船長「何処でも。小鳥も来ないし、アテもネェよ」
剣士「……そうか」スタスタ
船長(…… ……現実、てのは……上手くいかネェな)スタスタ

おはよう!
のんびりー

……
………
…………

審判「勝者!王子ー!!」
王子「よっしゃああああああ!!」

ワアアアアアアアアアアア!!

審判「明日、騎士団長様に挑む優勝者を決定する試合を行う!」
審判「両者、ゆっくりと身体を休め、明日に備えてくれ!」

ワアアアアア!
オウジー!ガンバレヨー!
オウジニマケルナー!

女剣士「二人ともよく頑張った!」
女剣士「明日の試合後、私と勝負だ……全力で行く!遠慮はいらん!」

ワアアアアアアアアアアアア!

盗賊「王子は順当に勝ち残った、な」
鍛冶師「……変装してまで見に来るって、親ばかだねぇ」
盗賊「お前は人の事全く言えないだろうが」
鍛冶師「ばれちゃう前に戻ろうか」
盗賊「明日は弟王子も連れて、堂々と観戦できるしな」
鍛冶師「……帰ったらもう一度、出場者の名簿に目を通しておくよ」スタスタ
盗賊「ああ。私も騎士達ともう一度安全確認をしておこう」スタスタ

女剣士「では、解散!騎士は持ち場に戻れ!」
王子「はい!」

タタタ……

祈り女「王子様、おめでとうございます」
王子「祈り女!」
祈り女「流石です……お怪我は、ありませんか?」

王子「ああ、大丈夫だよ」
祈り女「……あ、腕……ッ」
王子「え? ……怪我って言う程じゃ無いさ」
王子「転んだ時に擦り剥いただけだ」
祈り女「……」パァッ
王子「大袈裟だな……ありがとう」
祈り女「明日……頑張って下さいね」
王子「うん…… ……もし、俺が女剣士様に勝ったら、さ」
祈り女「はい?」
王子「…… ……お祝い、しような」
祈り女「勿論です!」
王子「じゃあ、仕事に戻ろう」スタスタ
祈り女「ええ」スタスタ
王子(明日……ッ 絶対に、女剣士に勝つ!)
王子(勝って…… 祈り女に……!!)

ガサ

女(……行った、か)
女(王子の恋人と言うのがあの祈り女と言う女……)
女(……お父様の言う通り、此方は王になる訳でも無い)
女(しかし、予想以上に……王のガードが厳しい)
女(弟王子には中々近づけん……明日、何とか勝ち上がって)
女(……チャンスを作らねば……!)

……
………
…………

側近「魔王、いるか?」コンコン、カチャ
魔王「おう……ってかお前さ、それノックの意味あるの」
側近「さぁ?」
魔王「……別に良いけど。后と魔導将軍は?」

側近「使用人と庭いじりしてたけど」
魔王「庭いじり?」
側近「……紫の瞳の魔王とお前の戦いで、花が軒並み枯れたからな」
魔王「ああ……まあ、他にやる事も無い、もんな」
側近「帰れる訳でも……無いしな」
魔王「……そう、だな」
側近「お前が帰れば、嘘を吐く事になる」
魔王「まるっきりの嘘じゃ無い。確かに……俺は」
魔王「『勇者』は『魔王』を倒したんだ」
側近「…… ……」
魔王「それだけで終わらなかった、だけだ。『勇者』はもう居ない」
魔王「俺は……勇者は、魔王になっただけ、だ」
側近「『だけ』って形容して良いモンかどうか」ハァ
魔王「……確かに俺は姿形は変わってない」
魔王「后にしたってお前にしたって……見た目は何も変わらない」
側近「……魔導将軍、か」
魔王「ああ……彼女だけ置いて帰る事はできないよ」
魔王「何れ、此処に帰ってくるにしたってな」

側近「…… ……」
魔王「盗賊や女剣士には申し訳無いけど……何も、言える事なんか無いんだ」
側近「王様や鍛冶師様……騎士団長、は、さ」
側近「知ってたんだろう?全て」
魔王「……ああ。だからこそだ」
側近「そう……だな」
魔王「紫の瞳の魔王の側近を失う事も……あの人達は解ってた」
魔王「だけど……国のため、人の為に。平和の為に」
魔王「……これで、良いんだ」
魔王「使用人に、船長って人に小鳥を飛ばして貰った」
側近「何を頼んだんだ?」
魔王「世界の情勢を教えてくれ、ってな。ついでに花の苗も、とか」
魔王「言ってたよ」
側近「それで庭いじり、か」
魔王「……だろうな」
側近「魔導将軍がな……せめて、羽をしまえればな」
魔王「叶った所で……だ」
魔王「俺達がまた……『人の世界』に顔を出したって、良い結果にはならんだろう」
側近「…… ……」
魔王「俺は……何れ……」
側近「…… ……」

コンコン

后「魔王?」
魔王「どうした?」
后「お茶にしましょうか、て、使用人が」カチャ
后「あ、側近も居たのね」
側近「本読んで、お茶して、飯食って……」
側近「優雅な生活だよな、俺達」
后「仕方無いよ。他に……何もやる事なんか無いもの」

后「何処に行けるでも、何が出来るでも……」
魔王「……聞いてたのか?」
后「え?」
側近「……考える事は似たり寄ったりだろうよ」ハァ
后「そんな話、をしてたの?」
魔王「魔導将軍は?」
后「使用人を手伝ってる……待ってるから、早く行こう」
后「……考えたって仕方無いんだよ、魔王」
魔王「…… ……」
后「私達の出来る事は、世界を守る事。次代へ『受け継ぐ』事」
側近「『欠片』を探す事……だけど」
側近「この城から、大陸から出れないんじゃ……どうしろ、ってんだよな」
魔王「……だからこそ、次代を育むしか出来ないんだよ」
魔王「この……腐った世界の腐った不条理を押しつけて」
魔王「俺達が出来なかった事を引き継がせて……断ち切らせる、んだ」
后「喜ばなくちゃいけないのよ。私達は」
側近「喜ばなくちゃいけない……か」ハァ
后「ほら、行くよ……魔導将軍、怒っちゃうよ」

……
………
…………

盗賊「皆、良く集まってくれた!」
盗賊「これより、第一回闘技大会を行う!」

ワアアアアアアアアア!!

盗賊「まずは、先日、騎士団から勝ち上がってきた二人の戦いだ!」
盗賊「勝った方には、騎士団長である女剣士と戦って貰う!」
盗賊「……まァ、国民皆の前で無様な負け方しない様に?」
盗賊「挑戦者の二人には頑張って貰いたいもんだ」アハハ!

鍛冶師「……盗賊、一番楽しんでるんじゃ無いかなぁ」
弟王子「兄さん、緊張で凄い顔してますけど……大丈夫でしょうか」
鍛冶師「まあ、大丈夫でしょ。女剣士に勝ったらプロポーズするとか」
鍛冶師「言ったらしいじゃないか」ニヤニヤ
弟王子「……お父様も楽しんでますね」

盗賊「女剣士に挑む奴が決まったら、準備が終わる迄の間に」
盗賊「どっちが勝つかの賭の申し込みの受付を始めるぞ!」

ウワアアアアアアアアアアア!
ソリャキシダンチョウサマダロ!
イヤイヤ、マダワカラナイゾ……!

弟王子「……ああ、言っちゃった」ハァ
鍛冶師「今更になって、思いとどまると思った?」
弟王子「いいえ……」

盗賊「ま、長ったらしい話はこの辺にしといて、さっさと始めるか!」
盗賊「……王子!炎使い!前へ!」

ワアアアアアアアアアアアアアア!

王子「……負けないからな」
炎使い「俺だって、だ!」

盗賊「……良し、女剣士、後は頼んだぜ」
女剣士「お前、マジで賭なんかやるつもりなのか……」
盗賊「まァまぁ、良いじゃないか。折角の祭りなんだしさ」
女剣士「全く……一国の王ともあろう者が」ハァ
盗賊「アタシがこういう奴だって皆知ってるさ。取り繕っても仕方無いだろ、今更」
盗賊「ほら、二人とも待ってるぜ。開始の合図頼むよ、騎士団長殿」ポン
女剣士「やれやれ……」スタスタ
女剣士「……健闘を祈る!始め!」

ワアアアアアアアアアアアアア!

弟王子「兄さん……!頑張って……!」
鍛冶師「応援しておいてやりなさい」
盗賊「見ていかないのか?」
鍛冶師「登録所見ておかないとね」
弟王子「ああ、危ない……ッ 兄さん、そこ!右です!」
女剣士「私が行く。折角だ、家族で応援してやれよ」
鍛冶師「え?でも……」
女剣士「私は立場的にどちらも応援できんさ。すぐに戻るよ」スタスタ
弟王子「兄さん、良し!行け!」
盗賊「……興奮してんなぁ、弟王子……」
鍛冶師「まあ、中々こんな機会も無いしね」
盗賊「お前、どっちに賭ける?」
鍛冶師「え?王子と炎使い?そりゃ……」
盗賊「違う違う、勝った方と女剣士だよ」
鍛冶師「……本当に心底楽しんでるだろ」
盗賊「アタシは女剣士に賭けるぜ」
鍛冶師「勝ち上がってきたのが王子でも!?」
当然「当たり前だろ?」
鍛冶師「…… ……そ、そう」

ワアアアアアアアアアアアアアア!!

審判「そこまで!勝者、王子ー!」
王子「……ッ」ハァ、ハァ
炎使い「……お前、マジで……強くなったな……ッ」ハァハァ
王子「……ッ ありがとうございました!」

弟王子「やったー!」
盗賊「ほーぉ……やるじゃん」ニヤ。スタスタ
鍛冶師「ぼろぼろだけどね」

盗賊「良し!ではただいまより賭の受付始めるぞ!」
盗賊「女剣士が勝つか!王子が勝つか!」
盗賊「アタシは女剣士に賭けるけどな」ニヤ

王子「まじで!?」
炎使い「……俺はお前に賭けるぞ、王子」
審判「……俺は参加出来ないんだよな」
王子「出来たらどっちに賭けるんだよ」
審判「騎士団長様に決まってるだろ」
王子「えええ……」

盗賊「では、半刻後に集合!」
盗賊「炎使いと王子は、回復を受けておく事」
盗賊「特に、王子! ……万全の体制で挑め!」
盗賊「女剣士は決して弱く無い!手を抜く事も無いだろう」
盗賊「……ま、期待してるぜ?」

王子「……はい!」
炎使い「でも、王様は女剣士様に……」
王子「黙れって……」
審判「母親だろうに……冗談だろ?ありゃ」
王子「ああいう人だ、あの人は」ハァ

盗賊「では、一端休憩だ!試合開始までに申し込めよー!」
盗賊「解散! ……さて、アタシは女剣士に一口、と」
弟王子「ほ、本気だったんですか!?」
盗賊「当たり前だろ……お前はどうする?」
鍛冶師「……ま、王子かな」
盗賊「弟王子は?」
弟王子「え、僕も!?」
盗賊「良いじゃネェか。無礼講さ……で、どっちだ?」
盗賊「小遣いで参加するなら文句はネェよ」
弟王子「そ、そりゃ、兄さんです!」

盗賊「何だ、二人とも王子かよ……ま、良いか」
鍛冶師「……あんまりはしゃぎすぎない様にね!?」
盗賊「おう、大丈夫だって、心配すんな」スタスタ
弟王子「…… ……お母様」ハァ
鍛冶師「ねえ、弟王子」
弟王子「はい?」
鍛冶師「そりゃ、僕だってさ。できれば王子に勝って欲しいよ」
鍛冶師「プロポーズの話まで聞いちゃってるしね」
弟王子「……はい」
鍛冶師「だからこそ、女剣士も本気で行くだろう。そうじゃ無いと……」
弟王子「それは……解ります。兄さんが本気だから……」
鍛冶師「ああ……だけど……」
鍛冶師「…… ……」
弟王子「お父様?」
鍛冶師「……お母様は、王子に結婚して欲しくないとか、そんなんじゃ無いんだよ」
鍛冶師「『何時までも、女剣士には長であって欲しい』だけなのさ」
鍛冶師「……勿論、それが無理だって事も解ってる」
弟王子「この間言っていた……嬉しくて、寂しい、と言う奴、ですか?」
鍛冶師「うん……そうだね」
鍛冶師「不変の物は無いんだ。絶対もあり得ない」
鍛冶師「けど……すがりつきたくもなる。そういう物に」
弟王子「……ですが、やっぱり僕は、兄さんに買って貰いたいです」
弟王子「時期、騎士団長として……!」
鍛冶師「お前は、それで良いんだよ……未来を紡ぐ為には」
鍛冶師「それで、良いんだ」

……
………
…………

女剣士「名前を呼ばれて居ない者は居ないな?」
女「……一つ、宜しいでしょうか」
女剣士「何だ?」
女「優勝したら賞金が頂けると聞きましたが、私はお金はいりません」

ザワザワ……
ヒソヒソ……

女剣士「…… ……」
女「ですので、もし私が優勝した暁には」
女「一つ、願いを聞いて頂きたく思います」
女剣士「それは聞くも決めるも私では無いだろう」
女剣士「……勝てたその時に、王様に伺うのだな」
女「……解りました」
女剣士「……では、私は失礼する。お前達は此処で待て」
女「試合を見る事はできないのですか?」

女剣士「私と王子の、か?」
女「はい」
女剣士「希望するなら後から来る騎士の指示に従え」
女剣士「守れない者は出場の資格を失うと思え……良いな」

スタスタ、パタン

女(……優勝すれば王にお目通りが叶う、と言う事か)
女(であれば……この祭りの中。弟王子も傍に居るだろう)
女(ならば、どうにか……)
雷使い「ねえ、ちょっと……貴女」
女「何だ?」
雷使い「貴女、随分な自信ね。そんなに腕に自信があるの?」
女「出来損ないが、気安く話しかけるな」
雷使い「な、何ですって!?」
女「…… ……全員敵だろう。私はなれ合うつもりなど無い」
雷使い「ちょ……ッ アンタねぇ!?」

ガチャ

騎士「何を騒いでいる! ……今より、女剣士様と王子の試合を行う」
騎士「見学を希望する者はついてくるが良い」
雷使い「……ッ 覚えてなさいよ!?」
女(……フン。下らん、劣等種が……ッ)

……
………
…………

女剣士「緊張した顔だな、王子」
王子「……そりゃ、ね」

女剣士「お前のこの間の相談、嬉しかったぞ」
王子「……全力で、お願いしますよ、騎士団長殿」
女剣士「当然だ……すっきり勝たねば、言う物も言えないだろう」
王子「貴女は憧れでした、昔から。今日こそ……貴女に勝って」
王子「俺は……ッ」
女剣士「……始めるぞ。審判、合図を!」

審判「では、これより女剣士様と王子の試合を始める!」
審判「両者、一歩後ろへ……始め!」

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

盗賊「緊張してるなぁ、王子」
鍛冶師「そりゃそうでしょ。相手はあの女剣士だもの」
弟王子「……に、兄さん、どうしたんです……ッ防戦一方じゃないですか!」
盗賊「……女剣士の一撃は重いよ。回復を受けたとは言え」
盗賊「まともに受け続けりゃ、体力が奪われてく」
鍛冶師「王子……」
盗賊「スピードはともかく、力と体力はなぁ……」
鍛冶師「……ん?」
弟王子「あ、返した……!」
盗賊「女剣士が……よろけた……!」
鍛冶師「……バランスの悪い一打を見逃さなかったな、あいつ」
弟王子「兄さん、今だ! ……良し、形勢逆転……!」
盗賊「得意のスピード生かして打ち込んでる、けど……」
鍛冶師「大して効いてないねぇ……」

祈り女「……王子様……ッ」ギュ
治療師「目瞑っちゃ駄目よ、祈り女。ちゃんと見なさい」
祈り女「で、でも……ッ」
治療師「王子が頑張ってんのよ! ……良し、そのまま……ッ」
治療師「アンタがちゃんと見届けないと、王子悲しむわよ!」
祈り女「……ッ は、はい……ッ」
祈り女(王子様……ッ)

女剣士「ぐ、ぅ……ッ 流石早い、な。だが……スタミナ切れか!?」ブゥン!

キィン! ……ギリギリギリ……ッ

女剣士「……ッ 何時まで、耐えられるかな……ッ」
王子「貴女に教わったんだ……ッ相手の方が、力が上な場合……ッ」

スルリ……

女剣士「!」
王子「受け流せ、とな!」シュ……ブン!
王子「スピードは、俺が上だ!」
女剣士「しま……ッ」
王子「うわあああああああああああ!」

ガン! ……カラン、カラン……ッ

盗賊「あ……ッ」

祈り女「剣が……ッ」

シィン……

王子「…… ……」ハァ、ハァ
女剣士「……ッ 痛、ゥ……ッ」

審判「……ッ」ハッ
審判「そ、そこまで!女剣士様、剣を取り落とし、続行不可能!」
審判「しょ、勝者…… 王子ー!」

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

女剣士(……柄を打たれたか…… 腕が、まだ痺れて……)フゥ
王子「か ……た。勝った……!」

祈り女「王子様……!」
治療師「やったああああ!」

弟王子「兄さん!やった、兄さんが勝った!」
鍛冶師「…… ……お見事」
盗賊「ち、マジで勝ちやがったか……あいつ……」
鍛冶師「泣きそうな顔してるよ、盗賊」
盗賊「……複雑だな。母親としては嬉しい。王としてもな」
盗賊「育ってくれる、と言うのは……だが」
鍛冶師「寂しい?」
盗賊「……老いるんだ。アタシも、お前も……女剣士も」
盗賊「解ってるんだけどな……」
盗賊「……少しだけ、な」

王子「……女剣士様」
女剣士「見事だ、王子。私の負けだよ」
女剣士「……だが、忘れるなよ」
王子「解ってます。驕りません……決して」
女剣士「うん ……強くなった。大きくなったね、王子」
王子「……ッ ありがとう、ございました……ッ」
女剣士「泣くなよ、馬鹿」クス
女剣士「まだもう一仕事あるだろう、お前は」
王子「……ああ。祈り女!」

祈り女「!」ビクッ
治療師「呼んでるよ。行っておいで」
祈り女「え、でも……」
治療師「あっちからじゃ、こっちは見えてないよ。行かないと」トン
祈り女「……あ」オロオロ…… ……タタタ

王子「祈り女!見ててくれただろう!?どこだ!」

弟王子「あ…… あっちから走ってくるあの人、祈り女さん、ですかね」
盗賊「公開プロポーズかよ、あいつ……興奮して、アタシらが見てるのも」
盗賊「忘れてんじゃネェの」
鍛冶師「まあ、ここテラスの上だしね……」
盗賊「文字通りの高みの見物、だ」
鍛冶師「良いじゃないの。盗賊の涙、見られる事無くて」
弟王子「な、泣いてるのですか、お母様!?」
盗賊「泣いてネェよ! ……仕方無いから」ハァ
盗賊「見守ってやるかね……」
鍛冶師「……後で真っ赤っかになるまで冷やかす気だろ」
盗賊「当然だ」

祈り女「王子様……!」タタタ……
王子「祈り女!」ギュ
女剣士「…… ……」スタスタ
祈り女「え、あ、あの!?王子様!? ……は、恥ずかしいです……!」
王子「女剣士様に勝ったら、言おうと決めていた」
祈り女「は、はい!?」
王子「……俺と、結婚して下さい!」

ワアアアアアアアアア!
キャアキャア、ヒュウ!

祈り女「え、ええええええええええ!?」
王子「……大事にする。絶対。だから……ッ」
祈り女「あ、あの、その!? ……わ、私、等で……!?」
王子「お前じゃ無いと厭だ!」

ワアアアアアアアア!
オウジサマカッコイー!
イノリメチャン、ヘンジハー!?

王子「……御免。居てもたっても居られなくて、俺……」
王子「でも……勝ったら、言おうと決めてた。だから……!」
祈り女「王子様……!」ギュ

オオオオオオオオオ!
キャアキャア!ワアアアアアアアア!

祈り女「……ずっと、離さないで下さい……!」

ワアアアアアアアアアアアアア!
オメデトウ!シアワセニナー!

盗賊「…… ……」
鍛冶師「はい、ハンカチ」
盗賊「お前が先に使えよ」
鍛冶師「僕は大丈夫。盗賊、鼻も垂れてる」
盗賊「!」グイッゴシゴシ
弟王子「兄さん……おめでとうございます……!」

王子「女剣士様!」
女剣士「……おめでとう。私は邪魔なだけだろうに、何故呼び止める」クスクス
王子「い、いえ、あの、その……ッ」
女剣士「……まあ、良い。王様の許可を貰ってから、と思ったが」
王子「?」
女剣士「良い機会だ……今、なのだろうな」
王子「……女剣士?」
女剣士「……私は、今日お前に負けたら、騎士団長を引退しようと思っていた」
王子「!?」
祈り女「そんな……!?」
女剣士「身体はまだ動く。が……それも、何時までも変わらない物じゃ無い」
王子「し、しかし……!」
女剣士「だからといって、いきなりお前に全てを丸投げする訳には行かん」
女剣士「……騎士団長の座を譲りはするが、暫くは指南役として」
女剣士「お前を導こうと思う」
女剣士「……不必要だと思えば、何時でも行ってくれれば良い」

盗賊「…… ……何話してんだ、あいつら」
鍛冶師「声迄は聞こえないな」

王子「不必要だなんて! ……そ、それに、驕るなって言ったのは……!」
女剣士「確かに私だ。だけどな……王子」
女剣士「変わらない物は無い。変わっていかなくてはならない」
女剣士「そんな泣きそうな顔をするな。私は……私達は」
女剣士「喜ばなくてはいけないんだよ」
祈り女「女剣士様……」
女剣士「…… ……祈り女。王子を支えてやってくれ」
女剣士「王様には、後から話しておく。後日改めて」
女剣士「騎士団へも通達しよう」
王子「た、確かに時期騎士団長としてって話は聞いてたが」
王子「俺には、まだ早い……ッ」
女剣士「そんな事は無い…… ……世界は、これから平和になっていくだろう」
王子「え……それ、は …… ……!!」
王子(そうだ、この間、街で勇者そっくりな奴を見た……!)
王子(まさか……勇者は、魔王を倒した!?)
王子(……しかし、あの…… ……紫の瞳、は……!!)
女剣士「まだ、詳しくは話せない。後ほど……な」
女剣士「この後が祭りの本番だ。今から闘技大会が始まる。二人とも任務があるだろう」
女剣士「……行きなさい。また、後で」クル、スタスタスタ
王子「女剣士……」
祈り女「…… ……喜ばなくてはいけないんでしょう、王子様」
王子「祈り女……」
祈り女「取りあえず、行きませんか?」
祈り女「……私、恥ずかしくて死にそうです」
王子「あ……ッ ご、ごめん!」

盗賊「……大体、想像はつくけどな」
鍛冶師「だ、ね」フゥ
弟王子「あ……!」
鍛冶師「ん?」
弟王子「……闘技大会に出場する人達、来ました……あ!」
盗賊「ああ、そうか……忘れてた」
鍛冶師「どうした、弟王子?」
弟王子「あの……女の人」
鍛冶師「ん……ああ、あのショートカットの?」
盗賊「…… ……」
弟王子「この間……お父様を呼びに研究室に行った時に会いました」
鍛冶師「……あー」

カチャ

女剣士「ただいま」
弟王子「女剣士様!ご苦労さまです……」
女剣士「……ああ」
盗賊「早速で悪いが、女剣士。やはり、あの女……」ヒソヒソ
女剣士「……ああ。やはり、か。先ほどもな……」ヒソヒソ
鍛冶師「……懲りないなぁ」
弟王子「お父様?」
鍛冶師「さて、後はゆっくり見物でもしていようか、弟王子」
鍛冶師「お母様と女剣士は、ちょっとばかり……忙しくなるからね」
弟王子「??」

……
………
…………

ピィ……

剣士「ん?」
船長「お……やっと来たか。おいで」

ピィ……クルクルクル

剣士「何だ、この緑の小鳥……! ……こいつか」
船長「ああ。足に手紙が着いてるだろう……って」
船長「随分、気に入られた、のか?」
剣士「……おい、髪を咥えるな……ほら、手紙」ポイ
船長「……」クスクス……カサ

当然「当たり前だろ?」にワロタwwww

>>518

Σ(・△・)

お風呂とご飯ー

おはよう!
幼女が起きるまでー!

剣士「……おい。纏わり付くな」

ピィ……ピィ

船長「放っておけ。何時もすぐに霧散する……ほら」ポイ
剣士「……見て良いのか」
船長「『仲間』だろうが、お前は」
剣士「……」カサ

『世界の情勢をお知らせ下さい。後、花の苗をお願い致します』

剣士「……世界情勢に、花の苗?」
船長「あんな場所に居れば、噂ってのも流石に届かないんだろうよ」
船長「……花はいつもの事だ。怪しい実験でもやってんじゃネェの」
剣士「それは……」
船長「……『皆にとって不利益な事は決してしてない』てのは聞いてる」
剣士「信じるのか」
船長「……商売ってのは、信頼関係が大事なんだぜ」
剣士「…… ……」

ピーィ……

船長「……本当に随分気に入られたな」
剣士「何時まで居るんだ、こいつは」
船長「さあな……何時もはすぐに……」

バタバタ!バタン!

海賊「剣士、来てくれ!船長も!」
船長「魔物か!」
剣士「……行こう」カタン

船長「おい、場所はどの辺だ、今」
剣士「……先に行くぞ」スタスタ

パタン

海賊「港街を通り過ぎた所ですよ」
船長「……戻るには遅いか。良し、進路を魔導の街へ」
船長「戦闘が終わったら、上陸する」
海賊「アイアイサー! ……あれ?」

ピィ!
コンコン!

船長「……扉突っつくな! ……なんだよ、剣士について行きたいのか!?」
海賊「まだ消えてないんすか、こいつ」
船長「随分剣士が気に入ったみたいだなぁ……ほら」カチャ

ピィ!パタパタ……

海賊「あ、行っちまいやがった……大丈夫ですか?」
船長「『魔法で出来た鳥』なんだろ? ……気にすることは無いだろ」
船長「何時も、すぐに消えちまうのにな……何でだろうな」フゥ
海賊「……小鳥に迄ヤキモチ焼くのはどうかと思いますけど」
船長「阿呆か!お前もさっさと行け!」

……
………
…………

審判「勝者、女! ……第一回闘技大会、優勝者の決定だ!」

ワアアアアアアアアアアアア!

女「…… ……当然だ」
雷使い「……ッ あ、アタシの魔法が、通じない、なんて……!」ハァハァ
女「同じ属性であることが災いしたな」
雷使い「…… ……アンタ、優れた加護持ってたのね」
女「…… ……」スタスタ

審判「では、優勝者は此方へ」
女「…… ……はい」
審判「夕刻、城門前に来なさい。王様からお話と、優勝賞金の授与がある」
女「!」
女(拝謁するのなら……弟王子にも会える可能性が高い)
女(……願っても無い。テラスに居るとは聞いていたが)
女(このチャンスを逃す手は無いな)
女「わかりました」
審判「それまで、ゆっくり身体を休めなさい」
女「はい」
審判「静かに! ……鍛冶師様よりお話がある!」

鍛冶師「皆さん、ご苦労様でした!」
鍛冶師「テラスの上からで御免ね。少しだけ話を聞いて欲しい」

女(鍛冶師と……弟王子か。王の姿は見えないな……)
女(……女剣士も、居ないか)

鍛冶師「大したトラブルも無く、無事に全て済んで良かったよ」
鍛冶師「楽しんで貰えたのなら何より!」
鍛冶師「優勝者には、後ほど賞金を授与するとして」
鍛冶師「……お祭りは、今からが本番!今日は飲んで食べて」
鍛冶師「明日からは、また仕事とか、頑張って欲しい」

弟王子「僕も、とても楽しかったです!」
弟王子「……これから、世界はきっと平和になっていくのだと思います」
弟王子「僕はそう信じてます!」

ワアアアアアアアア!

弟王子「勇者様が帰られる迄、帰って来られた時、笑顔で迎えられる為に」
弟王子「今日はしっかり息抜きして、明日からまた、頑張りましょう!」

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

鍛冶師「……ん、上出来」
弟王子「き、緊張しました……!」
鍛冶師「さて、僕らも少し休んで、盗賊達の所に戻ろう」
弟王子「はい……!」
鍛冶師「もう一仕事、待ってるからね」
弟王子「……はい!」

女(平和の為に、か…… ……勇者はまだ、魔王を倒して居ないのか?)
女(……未確認、と言ったところか)
女(勇者が戻れば、弟王子など……否、しかし……)
女(……一度、お父様と連絡を取るべきだな)
女(まだ、時間はある……)スタスタ

……
………
…………

コンコン

盗賊「来たか?」
女剣士「かな……入れ!」

カチャ

雷使い「あ、あの……失礼致します」
盗賊「まずはお疲れさん……残念だったな」
雷使い「あ、ありがとうございます! あの、私……?」

女剣士「緊張しなくて言い。少し聞きたい事があるだけだ」
盗賊「……他言無用、は約束してくれるな?」
雷使い「あ、はい!それは……さっき、騎士の人に聞きましたけど……」
雷使い「一体、何なのです、か……」
盗賊「決勝戦でお前が当たった相手だ。お前と同じ属性だった奴」
盗賊「あいつにはお前の魔法が一切効かなかった」
雷使い「あ、ええ。優れた加護を持っていたんでしょう。悔しいけど……」
雷使い「……こればっかりは仕方ありません」
女剣士「聞き慣れない言葉を耳にしなかったか?」
雷使い「え? ……いいえ、特には…… ??」
盗賊「そうか……流石に、無いか」
雷使い「あ、でも……会場に行く前に」
雷使い「あいつ、アタシの事出来損ない、って!」
盗賊「……『出来損ない』ね」
雷使い「そりゃ優れた加護持ってりゃ、自信もつくんだろうけど」
雷使い「全員敵だし、気安く話しかけるな、って」
女剣士「成る程なぁ……」
雷使い「あの……それが何か?」
盗賊「いやいや。ちょっとな」
女剣士「ありがとう。疲れているところ、申し訳無かった」
雷使い「?? ……いいえ……」

カチャ

鍛冶師「ただいま……っと」
弟王子「戻りました」
雷使い「鍛冶師様!お、弟王子様も!?」
盗賊「あー。丁度良いところに。弟王子、準優勝者の雷使いだ」
盗賊「労いの言葉ぐらい、かけてやれよ」
雷使い「え!?」

弟王子「え!? ……あ、あの、お疲れ様でした!」
弟王子「……試合は残念でした、けど。貴女の魔法、とても綺麗でした」
雷使い「あ、ありがとうございます!」
鍛冶師「……綺麗、て」クスクス
女剣士「……笑ってやるな」ボソ
雷使い「あ、あの!では、失礼します!」スタスタ

パタン

弟王子「お父様、女剣士様、聞こえてます」ハァ
弟王子「僕、何か変な事言いましたか……」
盗賊「いやいや。素直な感想なんだろ?良いじゃないか」
盗賊「アタシには言えない言葉だなぁ……」
女剣士「さて……問題は次だな」
弟王子「次?」
鍛冶師「さっき話しただろう。大丈夫。フォローはするから」
弟王子「……は、はい」

コンコン

騎士「優勝者が参りました、王様」
盗賊「うん、通せ。見張りの騎士は扉の内側に待機」
騎士「はッ! ……入りなさい」

カチャ

女「失礼致します」

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