ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ


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　　　　　ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ


ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ


　　　　　ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ


ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ ザワ

億泰「き、帰宅時間……こ……こんなに……ど、どいつだ……？」

仗助「どいつになったんだ！？ 『吉良吉影』はどいつになったんだ！？」

康一「……！？」

承太郎「ヤツは脅えもしなければ隠れもしない……この『桜が丘』から出もしない。
　　　　この町で今までどおり生活する」

康一「『吉良吉影』ーッ！ 卑怯だぞ〜〜〜出てこいーーーッ！！」

通行人「？」

通行人「……」

康一「……ッ！」

承太郎「……逃げ切りやがった」

『桜が丘高校』


吉良「（ふむ……なんとか……とてもギリギリではあったが……仗助どもを撒くことが出来た）」

吉良「（『全くの見ず知らずの他人と顔を入れ替える』。単純なことではあるがだからこそ効果はある。
　　　　とっさの思いつきにしてはなかなかだ……）」

吉良「（あとはボロを出さずに上手くこの入れ替わった男の人生を生きるのだ。この吉良吉影にならそれが出来る）」

吉良「（今までと何も変わらない……静かに……平穏に……）」

「……い。川尻『先生』！」

吉良「……？」

さわ子「聞いてるんですか？ 川尻先生！」

吉良「すみません……少し上の空でした」

さわ子「あの件についてお話しようとしてたんです。考えてくれました？」

吉良「……あの件？」

吉良「（まずい……私には何のことやらサッパリ分からないぞ。ここはそれとなく……）」

吉良「ええ、勿論です。前向きに考えてはいますが」

さわ子「本当ですか？ 良かった〜。こういうこと頼める先生、他にいなくて」

さわ子「川尻先生ならきっとすぐに『あの子達』と打ち解けられると思いますよ」

吉良「（『あの子達』……生徒絡みのことか。もう少し踏み込まなければ）」

吉良「私なんかに務まりますかね？」

さわ子「大丈夫ですよ、顧問なんて形だけみたいなものですから。
　　　　部長の田井中さんにもお話はしてますし」

吉良「（顧問！ 部活の顧問を受け持ってほしいということだったのか……。
　　　　部長の名は『田井中』。あとで名簿で調べてみるとしよう）」

さわ子「ではどうかよろしくお願いします」

さわ子「（よーし、久々の長期休暇！ 代理顧問も見つけたし、全国駆けずるわよ〜ッ！）」

吉良「……」

吉良「（この男の体の名は『川尻浩作』。桜が丘高校の教師をやっていたらしい）」

吉良「（生徒や教師からの評判は周りの態度から察するに、あまり良いものではなく、影の薄い男だったみたいだな）」

吉良「状況は少しずつだが分かりかけてきた……」

吉良「しかし……困ったぞ」

吉良「（私は冷静で慎重な男だ。才能を上手に隠す術にも長けている。
　　　　人に物事を教えられるほどの教養もあるし、目立つことを極力避ければ完全に成りすませるだろう）」

吉良「だが……」

桜が丘『女子』高等学校

吉良「川尻浩作め……まさか『女子校』の教師だったとは……！？」

吉良「くそっ、この私の……この吉良吉影のサガを押さえることが出来るのか？
　　　湧き上がる殺人衝動をなだめすかせ、借りてきた猫のように落ち着かせることが……」

グギギ…… ミシ……

吉良「……爪が……伸びているな」

『軽音部・部室』


梓「新しい顧問の先生ですか？」

律「そ、さわちゃんがしばらく休暇で居なくなるから代理だってさ」

律「お気に入りのバンドが全国一周ツアーやるから、それを追っかけるんだとかなんとか」

澪「さわ子先生らしい理由だな……」

唯「らいりのひぇんへぇっへ？」モグモグ

澪「唯、口の中のお菓子を飲み込んでから喋ろうか」

唯「ほうられ、ひおひゃん……ごくん。代理の先生って？」

律「川尻先生」

紬「川尻先生……？ そんな先生居たかしら？」

律「うーん、すげー地味な先生だからな。ムギの気持ちも分かるよ」

律「私は少し知ってるけど、進んで部活の顧問とかやりそうな先生じゃないし、
　　多分、無理やりさわちゃんに押しつけられたんだろうな」

梓「なんとなく想像出来ますね」

澪「なら、川尻先生に気を遣って……てのも変だけど、川尻先生が顧問の間はしっかり練習しようか」

律「つまり、さわちゃんが居る時は練習しなくていいと！」

澪「はっ、しまっ……！？」

紬「澪ちゃんもだいぶ毒されちゃったわね〜」

澪「ち、違う、言葉のアヤだ！ 揚げ足をとるな馬鹿律！」ゴチンッ！

律「あだっ！」

唯「りっちゃんの頭にアイスクリームが二つ出来た！」

紬「あらあらまあまあ」

コンコン

梓「はい？」

ガチャリ

吉良「……」スゥー

吉良「……」キョロキョロ

梓「あ、あの……？」

吉良「軽音部は……ここで良いのかな？」

梓「は、はいっ。あの、川尻先生ですか……？」

吉良「（……とても小さな手首だ。ちょいと力を込めれば簡単にポキッと折れそうなくらいだ。
　　　　指先の皮膚がやや分厚く張っている……指を酷使する楽器……ギターかベースか。
　　　　つまり、この子は軽音部の部員だな）」

梓「……！」

吉良「そう、川尻浩作だ。山中先生から代理顧問を頼まれた」

唯「川尻先生ー！」

眠いのでお休みなさい。

吉良「君は……その、すまない。まだ名前を覚えきれてないのでね」

吉良「出来れば自己紹介としてくれると助かる」

唯「あっ、平沢唯です！ ギターを担当してます！」

澪「秋山澪です。私は……ベースを」

律「部長兼ドラムスの田井中律です！」

紬「キーボードの琴吹紬です」ペコッ

梓「中野梓です。担当は唯先輩と同じギターです」

吉良「ありがとう、もう覚えたよ。恐らくは短い間になると思うが宜しく頼む」

紬「こちらこそ宜しくお願いします。川尻先生」

吉良「ああ……」

吉良「（……まずい、非常にまずいぞ）」

唯「川尻先生は……」

吉良「（白くキメ細やかな肌）」

澪「……だろ？ 律」

吉良「（包み込むような大きな手）」

律「……ってのはどうかな？」

吉良「（しゃぶりたくなるほどに美しい指先）」

紬「私はね……」

吉良「（綺麗に丸みを帯びた爪）」

梓「……ですよ」

吉良「（どれをとっても完璧過ぎる……この五人は……）」

吉良「（私はこれまでに多くの女性の『手』と出会ってきたが、
　　　　ここまでの『美人』と出会ったことはそうそう無いぞ）」ギギ……

吉良「（『唯』『澪』『律』『紬』『梓』と言ったな）」

吉良「（カワイイ名前じゃあないか……とてもお似合いの名だ）」ギギギ

吉良「……！」

吉良「（爪が……）」

吉良「（私は興奮しているのか……それはつまり……）」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

吉良「（……君達を殺してみたい……ということだな）」

唯「川尻先生はどう思いますか？」

吉良「はっ？」

澪「ほら、先生だって困ってるじゃないか」

唯「え〜、可愛いと思うんだけどなぁ」

吉良「はて……何の話をしているんだい？」

律「川尻先生のあだ名だよ！ 『川尻先生』だと何か長くて呼び辛いかなーって」

唯「先生は『フーミン』と『かわちゃん』のどっちが良いですか？」

吉良「『フー……」

吉良「（川尻浩作……よほど生徒にナメられていたようだな。
　　　　しかし、ここでつっぱねてしまっては違和感を残すか？ ここは流されるべきか）」

吉良「その二択しか無いのならもう好きにしたら良いんじゃあないのかな」

唯「では多数決を採りたいと思います！ 『かわちゃん』が良い人！ はいっ！」

澪「じゃあ……はい」

梓「『フーミン』って、川尻先生の原型無いじゃないですか……『かわちゃん』で」

唯「『フーミン』の人！」

律・紬「はいっ！」

唯「厳正なる多数決の結果……」

唯「川尻先生のあだ名は『かわちゃん』に決定しました！」

律「ですよねー」

紬「ねー♪」

澪「むしろなんで『フーミン』だと思ったんだ」

律「女には……負けると分かっていても戦わなくちゃいけない時があるんだ！」キリッ

紬「そうよ澪ちゃん！」

澪「いや……サッパリ理解出来ない」

唯「かわちゃん先生！」

吉良「フ〜……」

梓「わ、私は普通に『先生』と呼びますから」

吉良「何とでも呼んでくれ」

吉良「（時期が来れば……いずれ君達も大人の『レディ』にしてあげるよ）」

吉良「（今は動いちゃあいけない……いや、動けない……）」ギ ギギ

『桜が丘市内・通学路』


吉良父「かつて……エジプトで『エンヤ』と名乗る老婆が言っていた……！」

吉良父「『この矢が欲しがる者を射抜け！ その射抜かれた人間は矢に選ばれた者だから死ぬことは無い！』
　　　　『その射抜かれた人間は矢に選ばれた者だから味方になってくれるっ！』」

吉良父「そして射抜かれた人間は心に潜む特別な能力、『スタンド』を得るとッ！」

吉良父「この桜が丘にわしの『吉影』を追うものが仗助とかいうヤツの他にも居るというのなら、
　　　　わしはこの『弓と矢』で『スタンド使い』を増やし、吉影を守ってみせるぞッ！」

吉良父「さあ『矢』よッ！ どの人間が欲しいんじゃあッ！？」

グイン！ ピタッ グググ……



憂「〜♪」

『桜が丘グランド・ホテル』


仗助「このおびただしい量の写真はなんスか？」

承太郎「岸辺露伴が撮った、桜が丘周辺の駅の利用者の写真のコピーだ。
　　　　彼はこういった所からしらみつぶしに吉良を捜していくらしい」

仗助「へぇ〜〜〜マメっスねェ。俺にゃあ、とても無理ですよ。
　　　大体、仮にこんな大量の通勤客の中に吉良吉影が居たとしてもまず分かんねースよ。
　　　ウォーリーだって、もう少し見つけやすいぜ」

承太郎「いや、あながちこの方法で見つからないこともないかも知れないぜ。
　　　　この写真の人間一人一人に吉良の年齢・体格などを当てはめていけばある程度は絞っていける」

承太郎「吉良はあくまで自分の『顔』を変えただけだ。それ以外の持って生まれたものは隠しようがない」

仗助「な〜るほど……そんで承太郎さんも写真とにらめっこってワケっスね？」

承太郎「いや……俺は別の所から攻めてみるつもりだ」チラッ

仗助「……？」

TV「……から、午後のニュースをお伝えします」

ここまで。

『川尻家』


吉良「おはよう」

しのぶ「あなた……おはよう。ち、朝食が出来てるわ」

吉良「うむ……美味しそうだ、コーヒーも貰えるかい？」

しのぶ「わ、分かったわ」

吉良「……」キョロキョロ

吉良「早人はもう学校か？」

しのぶ「ええ……いってきますも言わないでさっさと行っちゃったわ。はい、コーヒー」

吉良「……」

吉良「（子供というのは良く分からないな……親というものになったことがないからか、
　　　　どう接していいものか苦しむな。静かな生活を送るにおいて、仲の『不和』というのは障害になる。
　　　　別に仲良く家族ごっこがしたいワケじゃあないが、余計なトラブルや面倒は極力避けたいんだ）」

吉良「（もっとも、一番の問題は別にあるのだが……）」ギギ

吉良「……爪切りはどこにしまってたかな」

『平沢家』


唯「むにゃむにゃ……うーん？」

唯「えーっ、もうこんな時間！？ ち、遅刻だよー！」ガバッ

唯「もお……どうして起こしてくれなかったのさ憂……」

唯「うーいー」

唯「……」

唯「憂？」

唯「憂ー、先行っちゃったのかな……」

コンコン

唯「う……」

憂「……」

唯「憂！？ ど、どうしたの！？ 凄く顔が赤いよ……」

憂「げほっ、ごほっ……お姉ちゃん？」

唯「憂！ 大丈夫？ 具合悪いの？」

憂「ごめん……実は昨日の夜くらいから少し気分優れなくて……」

唯「風邪かな……インフルエンザ流行ってるって、テレビで言ってたし……」

憂「お姉ちゃん、学校行かないと……」

唯「ううん、今日は休むよ。憂の看病しないと」

憂「でも……」

唯「いいからいいから、私にどんと任せて憂！」

『軽音部・部室』


梓「唯先輩も休みなんですか？」

律「うん、今朝メール来てさ。ほら」

『憂が風邪をひいてしまって看病しなきゃいけないから今日は学校を休むね。
　みんなにも伝えておいて、りっちゃん。
　P.S あずにゃんには今日会えなかったぶん、明日はたくさんあずにゃん分補給させてねって言っといて〜』

梓「……あ、はい」

澪「唯が憂ちゃんの看病をするのか……なんか心配だな」

律「うーん……憂ちゃん、風邪悪化するんじゃないの？」

梓「それはいくらなんでも言い過ぎじゃ……有り得ますね」

紬「ねえ、私達も憂ちゃんのお見舞いに行かない？ きっと唯ちゃん一人で大変だと思うの」

律「お、いいなそれ！ じゃあさ、なんかフルーツとかも買っていってあげよーぜ」

澪「お見舞いに行くのはいいけど……じゃあ、今日も練習はお休みか」

律「今回ばかりは仕方ないだろ。それに唯が居ないんじゃ、まともに練習出来ないって」

澪「いや、憂ちゃんのお見舞いに行くこと自体は大賛成だ。
　　ただほら……川尻先生が顧問になってからしばらく経つけど結局部活らしいこと何もしてないからさ。
　　川尻先生、あまり良く思ってないんじゃないかなって」

律「それに関してはあんまり気にしなくても良いと思うけど」

吉良「……」パチッ パチン

澪「……部室で爪切ってる」

律「……多分、あんま興味ないんだよ私達のこと。だからさ、澪が気にする必要無いって」ボソボソ

紬「先生、今日の部活動は早めに終えて帰っても良いですか？
　　これから私達、唯ちゃんの妹の……憂ちゃんと言うんですけれど、その子のお見舞いに行こうと思ってるんです」

吉良「好きにしろ」パチン パチ

紬「はい、ありがとうございます」

梓「憂へのお見舞い、どこで買って行きましょうか」

律「一番近いスーパーで良いんじゃない？ よし、こうなったら晩ご飯も作ってやるか！
　　意外と家庭的なりっちゃんの腕前を見せてやるぜ！」

吉良「待つんだ」

澪「はい？」

吉良「……」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

澪「あ、あの……先生……？」

吉良「平沢唯にこれを渡してくれ。今日の分のプリントだ」

澪「あ……分かりました」

澪「（び、ビックリした……先生の顔凄く怖かったぞ……まるで何かを必死に抑えてるような……）」

吉良「気をつけて帰りなさい」

『平沢家』


ピンポーン♪

律「ゆーいちゃーん、あーそーぼっ！」

澪「違うだろ」ゴチンッ

律「でっ！ ……じょーだんだよ冗談？」

紬「……出ないわね、唯ちゃん」

梓「あれ、でも音はしますよ」

……タドタ

律「んー？ どれどれ……」

ドタドタドタドタドタドタドタドタ ガチャッ バンッ！

律「ぶっ！？」ドゴッ！

紬「唯ちゃん！」

唯「み、みみみみみみんな……！」

律「い、いきなりドア開けんなよ……お、おデコが……ぐおお……」

唯「あ、あのねあのね、憂が、憂が、憂がね？」

澪「お、おい落ち着け唯。憂ちゃんがどうしたんだ？」

唯「ふっ……ふふふ……憂がふふふ……！」

梓「ふ？」

唯「う、憂が『二人』居るの！！！」

澪・律・紬・梓「……」

澪・律・紬・梓「ええ！？ 憂ちゃんが『二人』ッ！？」

唯「あ、あわわわわ……」

『軽音部・部室』


吉良「……」

吉良「彼女達はずいぶん慌ててお見舞いとやらに行ったようだが……」

吉良「全く……自分達が使った食器くらい洗っていけ。私はヨゴレ物を放っていくのが大嫌いなんだ！」カチャカチャ

吉良「そもそも何故、お菓子やらティーセットが部室にあるのかが分からないが……」ジャー キュッ

吉良「フー……これで落ち着いて帰ることが出来るぞ」

ピラッ

吉良「ン？」

吉良「これは平沢唯に渡すように頼んだプリントの内の一枚じゃあないか。
　　　何かに紛れて渡しそびれてしまったのか？」

吉良「別に明日渡しても良いが……気づいてしまった以上、無視するのも気持ちが悪くて仕方ない。直接渡しに行こう」

吉良「……」

吉良「……さて」

『平沢家』


憂？「お姉ちゃん、あ〜ん♪」

唯「あ、あーん……はむっ……美味しい！」モグモグ

憂？「えへへ……//」

律「確かにどっからどう見ても……」

澪「憂ちゃん……だよな」

紬「そっくりね……」

梓「……本物？ の憂は二階で休んでましたし……どういうことでしょう？」

憂？「次は何を食べたい？ お姉ちゃん」

唯「そ、それより……さっきから言ってるけどあなたは……？」

憂？「憂だよ？」キョトン

唯「うんとね、そうじゃなくてね……えっと……」

憂？「あ〜ん♪」

唯「はむっ……美味しい……けど誰……」モグモグ

律「……ホントに美味そうだな。見た目はプロ並だ。私もちょっと……」ソーッ

憂？「めっ！」ギュッ！

律「いだだだだ！？」

憂？「……それは私が『お姉ちゃんの為だけに』作ったの。他の人は食べたらダメです」ギュウ キギギ……！

律「ちょ、ギブギブ！？ 憂？ちゃん！ ギブアップギブアップー！？」

梓「う、憂、ストップ！」ガシッ！

梓「（！？ 凄い力……！ 全然律先輩から引き離せないっ！）」

紬「う、憂ちゃん！」

律「まっ……て！ っつ……」

唯「やっ、やめて憂！」

憂？「はーい♪」パッ

澪「だ、大丈夫か律……？」

律「いっ……たぁ……ぐすっ」

澪「見せてみろ……うっ！ 赤く腫れてる……」

紬「……氷か何かで冷やした方が良いわ、あるかしら唯ちゃん？」

唯「うん、待ってて！」

律「痛ぅ〜……」

憂？「……」ピクッ

憂？「『めっ』です、紬さん」

紬「え？」

ドッ！

紬「う……」ドサッ

唯「ひっ、ムギちゃん！？」

梓「ムギ先輩っ！？」

澪「な、何……！？」

憂？「ダメじゃないですか、お姉ちゃんを『働かせる』なんて……そんなことさせたら『めっ』です」

梓「働かせるって……ムギ先輩は氷を持ってきて欲しいと頼んだだけだよ！？」

憂？「お姉ちゃんは『何もしなくて』いいの。ずっとお姉ちゃんのままで居てくれたらね」

澪「ムギ、ムギ！」

紬「……」

憂？「ねっ、お姉ちゃ〜ん？」

唯「（や、やっぱり違うよ……憂の顔だけど憂じゃない……！）」

憂？「あ！ お姉ちゃん、ご飯まだ残ってるよ？ ちゃんと食べないと『めっ』だよ」

憂？「はい、お姉ちゃん♪ あ〜ん」

唯「う、憂……」

ピンポーン♪

唯「！」

唯「（だ、誰か来た……？ た、助けてもらわなきゃ……！）」

憂？「誰……？ お姉ちゃんとの食事を邪魔するいけない子は……」

吉良「……」

吉良「？ 反応が無いな。部屋の灯りは点いているが……」

吉良「居ないなら仕方あるまい、プリントは郵便受けに入れておけば良いか」

「助けて！」

「あ、お姉ちゃん！ 行っちゃダメだよ！」

吉良「なんだ……？」

ガチャッ バンッ！

唯「か、かわちゃん先生！？」

吉良「居たのか平沢君。君に渡しておくべきプリントがまだあってね……」

唯「た、助けて下さい！ う、憂が二人居て、憂がみんなに暴力を振るっていて、で、でも憂は風邪で寝ていて……！」

吉良「……言っている意味が良く分からないんだが？」

唯「だから！ りっちゃんとムギちゃんがケガしちゃって……！」

憂？「こんにちは、お客さんですか？」

唯「憂……！？」

吉良「いや、すぐ帰る。私は桜校の……」

ドスッ！ ポタッ……ポタッ……

吉良「うっ……ぐっ……！？」ガクッ

憂？「『めっ』」