海未「あなたと一緒なら」 (159)
Hey,hey, hey, START:DASH!!
……
ワーワー、キャーキャー!
穂乃果「みなさん! 今日は本当にありがとうございました!」
穂乃果「……あっ、そうだ! 大事なことを言い忘れてました!」
ザワザワ
穂乃果「さぁみなさん、ご一緒に!」
『μ's! ミュージック、スタート!』
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1394209206
……
…………
………………
ピ-、ピ-、ピ-
スー……、スー……
海未「……あっ、今少し口角が上がった。 ふふふ、よほど楽しい夢でも見てるんでしょうか」
ガラガラ
雪穂「……。あっ、海未ちゃん。 久しぶり」
海未「雪穂。 ご無沙汰してます」
雪穂「2週間ぶりくらいかな? どう? お姉ちゃんの様子。 何か変わったところある?」
海未「……先ほどほんのちょっとだけ笑ったように見えましたけど、容態は相変わらずですね」
雪穂「……そう、だよね」
雪穂「そうだ、喉乾いてない? 飲み物買ってきてあげるよ。 お茶でよかった?」
海未「あっ、いえ。 別に気にしないでく……」
雪穂「遠慮なんてしなくていいんだよ! それじゃあちょっとだけ待っててね!」
海未「で、ですから……っ!」
ガラガラ
海未「……行ってしまいました。 本当に、こういうところは姉妹そっくりですよね」
スー……、スー……
海未「穂乃果……」
…………
ピーポーピーポー
海未「救急車? 今私の家の前通りましたね」
海未「……気になりますけど、今はどうやって音ノ木坂学院を廃校から救うか考えなくては」
海未「……ことりが留学して、2人きりになってしまうのですし」
海未「……」
海未「とりあえずお風呂にでも入ってスッキリしてきましょうか」
海未「……ふぅ。つい長風呂してしまいました」
海未「……あまり夜更かしするわけにもいきませんし、今日は宿題を終わらせて寝ることにしましょう」
prrrrr, prrrrr
海未「……? もう10時回るっていうのに」
『高坂雪穂』
海未「雪穂? 雪穂からの電話ということは、また穂乃果が家出でもしたんでしょうか?」
ピッ
海未「はいもしもし、海未です」
雪穂『あっ、海未ちゃん!? こんな時間にごめん!』
海未「いえ、大丈夫ですよ。 穂乃果でしたら今日はうちに来てないみたいですけど……」
雪穂『そ、そうじゃないの! えっと、私たち今病院にいて、それで、あの……えっと……っ!』
海未「……病院? 雪穂、一度深呼吸して落ち着いてください」
雪穂『は、はい……』
『スー、ハー』
海未「それで? 病院にいるとは、なにかあったんですか?」
雪穂『……はい。 お姉ちゃんが……』
雪穂『お姉ちゃんが……目を開けなくて!』
ガラガラ!
海未「……はぁ、はぁ! 穂乃果っ!」
雪穂「海未ちゃ……っ!」
海未「いったい……どういうことなんですか!? 穂乃果になにがあったんです!?」
ほの母「それが私たちにもわからないのよ……。 夕飯の時間になっても部屋から出てこなくて……」
雪穂「起こしに行ったらお姉ちゃんベッドで寝てて……。 きっと音ノ木のために動き回ってるから疲れてるんだろうなって思って放っておいたんだけど、少ししてさすがにお腹空いちゃうだろうなって心配で起こしてあげようとしたんだけど……」
雪穂「いつもなら私が大声だしたら何かしら嫌そうなリアクション取るのに、今日だけは何もなくて……。だからふざけてお姉ちゃんの上に馬乗りになってみてもピクリともしなくて……、そしてよくみてみたら、呼吸も、脈も……全然なくて……っ!」
ほの父「雪穂、あんまり無理するな」
雪穂「うっ、うう、うわぁぁぁぁん!!」
海未「……」
海未「……う、そ……ですよね?」
スー……、スー……
海未「嘘ですよね、穂乃果……?」
ほの母「海未ちゃん……」
海未「ねぇ、穂乃果! ただちょっと深い眠りにいるだけで、明日の朝にはちゃんと目を覚ますんですよね!? 穂乃果!?」
医者「き、君。 あんまり患者を揺さぶってはいけませんよ。 もしかしたら脳を患ってるのかもしれませんから」
海未「……もしかしたら? なぜ検査を行ってないんです……? ここに寝かせておくよりそれが先でしょう……!?」
医者「……もちろん、しました。 ですが身体のどこにも異常なんてみられないんです」
海未「なんですって……?」
医者「明日また詳しく検査をするつもりです。 今は急患が多すぎて、そちらの対応で精一杯なんです……」
海未「急患?」
ほの父「知らないのか? 今日飛行機が一機、爆発したんだ」
ほの母「……かなしいことにその乗客のほとんどは即死だったみたいだけど、そのうち8人だけ辛うじて生きていたみたいで……」
医者「だがその患者たちもみんな火傷がひどくて、かれこれ4時間はうちの医師陣も手術室に篭りっぱなしで……」
海未「あなたは、行かなくていいんですか……?」
医者「私はまだ研修中の身なんです……。 なのであのような精密な技術がいるオペにはまだ立ち寄れなくて……」
海未「……そうなんですか」
海未「……」
海未「……あれ? そう言えばさっき『4時間』って言ってましたよね……?」
医者「え、ええ。 それがどうかしましたか?」
海未(確か……『あの子』が乗る飛行機は5時間前に空港を出て……)
ほの母「あっ、ちょうどそのニュースが流れてるみたい」
海未「……っ!?」
『本日、○○空港の17時25分発△△行きの便が、離陸直前に大きな爆発を起こしました。原因は、前方のタイヤがパンクしていたことにより機体が前方に傾き、そのまま鼻先を引きずったまま走行したことによって機体に火がつき炎上、その火が燃料タンクまで広がってしまったため今回の事故を引き起こしたとみられています。
これがそのときの映像です。スピードをあげていくにつれて機体がどんどん傾いていくのがわかるでしょう。今回の件について□□航空の◇◇社長は、「これは整備側のあってはならない不注意だ。今後はこのようなことがないように指導をしっかりと行うつもりである」と述べ……』
海未「……っはは。 これはきっと悪い夢ですよね……? そうに決まってますよ……」
海未「だっ、だって……このテロップ……」
【重軽傷者】
高田 淳さん(67) 水又 準さん(58)
篠原 涼子さん(52)
・
・
・
前田 厚子さん(22) 渡辺 友舞さん(19) 南 ことりさん(16)
海未「ことりの名前があるなんて……おかしいじゃないですか」
医者「もしかして、その子と知り合いなんですか?」
海未「知り合いも何も、ことりは私の幼稚園の頃からの親友で……」
医者「……」
海未「……先生?」
医者「今日はもう遅いので、みなさんこの部屋で休んで行くといいでしょう。 あなたの言うとおり、明日にでも穂乃果さんは目を覚ますかもしれません」
雪穂「それって本当ですか……?」
医者「……っ」
医者「……では私はほかの患者を診てこなくてはいけないので、これで失礼します。 穂乃果さんに何か異変があったらコールをしてください」
ほの母「はい……」
ガラガラ
医者「…………くそっ! 」ガンッ
医者「あんな証拠も確信もない嘘しかつけないのか俺は……! 何が先生だ、何があらゆる病気を治す医者になる……だ! お前にはなにもできないじゃないか! この出来損ないがぁ……!」
コツコツ
医者「……ん?」
看護師「先生。 今日はもうお疲れでしょうし休んでください」
医師「……ああ。 だが最後に○○先生の補佐に行かなくては」
医者「……あっ、医師先生……。どうでした……?」
医師「……あぁ、君か。 ……そうだな」
医師「はっきり言って…………ダメだ。ほとんどの患者が火傷の範囲が広すぎて体のどこからも皮膚の移植ができない」
医者「で、では……」
医師「一応保管してある別の皮膚を移植してみるつもりだが、おそらくは……」
医者「……」
医師「1人だけまだレベルの低い女の子がいたから、その子だけ先に皮膚移植を済ませておいた。……しかし」
ことり「あっ、海未ちゃん。 お見舞いに来てくれたんだ♪」
海未「こ、ことり……」
医師「もうまともに動くことも、声を出すことをできないだろうな……。 それに最悪の場合は……いいや、これは考えないでおこう」
ことり「あはは……ゴホッ、カハッ! まさかこんな事故に巻き込まれるなんて、ついてないね……」
海未「ことり、あまり喋らない方がいいのでは……?」
ことり「大丈夫だよ。鎮痛剤が効いててあまり痛みはないから。 ……でもちょっと皮膚が引っ張られてるような変な感じはあるかな?」
ことり「ごめんね……? こんな包帯だらけのことり、気持ち悪いよね? それになんだか声もガラガラだし、まるで自分の身体じゃないみたい」
海未「……」
ことり「これも全部、穂乃果ちゃんとあんな別れ方した報いなのかな……」
海未「そ、そんなこと……!」
ことり「きっと嫌われちゃったよね……」
ことり「ねぇ、海未ちゃん」
海未「はい、なんでしょう……」
ことり「私ね、最後に穂乃果ちゃんの声が聞きたい」
海未「さ、最後って……あなた何を言ってるんですか……?」
ことり「なんだかね、私今すごく眠たいの。 だからさ、穂乃果ちゃんの声聞いたらぐっすりと眠れるような気がして」
海未「……!」
海未「だ、だめです! そんなの私が許しませんよ!」
ことり「ひどいや海未ちゃん……。どうしてそんなこと言うの?」
海未「ひどくたってけっこう! 私は……これ以上誰かを……!」
ことり「お願い……海未ちゃん。 私の言う事聞いてよ……」
海未「ことり! 諦めちゃだめです……っ!」
ことり「……っう、穂乃果ちゃん、会いたいよぉ……」
ことり「声が聞きたい……。 どうしてことりがこんなことになってるのにお見舞いに来てくれないの……!? もしかして本当にことりのこと嫌いになっちゃったの……!? もう留学するなんて言わないから……、ずっと一緒だって約束も守るから……! だから、お願い……!」
ことり「……あ」
海未「……ことり?」
ことり「……ふふふ。 ことり、わかっちゃったかも」
ギロッ
海未「……えっ?」
ことり「海未ちゃんさ、もしかして穂乃果ちゃんのこと独り占めしようとしてる?」
海未「なっ!? 急に何を言って……!」
ことり「ことりわかるもん。私の大好きな穂乃果ちゃんは私がこんな大怪我してるのにお見舞いに来ないはずがない。 つまりさ、海未ちゃんは隠してるんだよね? 私がこんな状態になってること、穂乃果ちゃんに」
海未「そんなわけ……っ!」
海未(だって伝えようにも……穂乃果もここのちょうど上の部屋で眠ってて……!)
ことり「ひどいよねー。 まさか信じてた親友にこんなところで裏切られるなんて」
ことり「あはははは……はは……はははっ…………ゴホッ、ゴホッ!」
ことり「ゲホッ、ゲホッ……ゴホッ……」
海未「ことり……」
ことり「………………恨んでやる」
ことり「……恨んでやる……。 これから先ずっと、ずっと海未ちゃんのこと恨んでやるんだから……! ずっと、ずっと、ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと!!!」
ことり「そして…………いつか必ず……
呪いコロシテヤル!! 」
ことり「あはははははは!! ゲホッ、ゲホッ! うっ、ガハァッ!」ビチャッ
海未「……っ」
ことり「……ぅ」
ドサッ
ことり「」
海未「……ことり?」
ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
海未「え……」
ガラガラ
理事「ごめんねことり。ちょっと道が混んでたのよ。でも……ふふ、大好きなチーズケーキ食ってきてあげたから許して?」
海未「理事長……」
理事「あら海未ちゃんじゃない。こんな夜中にお見舞いに来てくれたの? ありがとう」
海未「い、いえ……それはいいのですが……」
理事「? そういえばさっきからこの部屋、機械音がうるさ……」
ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
理事「……!? ち、ちょっとことり!? しっかりしなさい!」
ことり「」
理事「た、大変……! 誰か呼ばなきゃ……!」
ピッ
『はい、こちらナー……』
理事「娘が……娘のことりが……! お願いです! 早く来てください!!」
『か、かしこまりました! 急いでそちらへ向かいます!』
ガチャ
理事「ことり! 返事して! お願い! ことり……っ!!」
海未「……」
ギロッ
海未「」ビクッ
理事「……ねぇ海未ちゃん。 ことりはいつからこの状態だったの……?」
海未「……っ!」
海未(さっきのことりと同じ目……)
海未「理事長が入ってくる数秒前です……」
理事「……そう。 じゃあね、どうしてことりがこうなってすぐにお医者さんに連絡してくれなかったの?」
海未「そ、それは……!」
海未(ことりの言動に驚いて、体が動かなくて……)
理事「……答えられないのね。 まあいいわ」
ガラガラ!
医師「患者の容態は!?」
ナース「……心肺停止! 吐血のあともあります!」
医師「くそ、やはりダメだったか……! 至急手術室へ!」
ナース「はい!」
理事「ことり、ことり! しっかりして!」
ガラガラ
タッタッタッタッ
海未「……」
『……恨んでやる……。 これから先ずっと、ずっと海未ちゃんのこと恨んでやるんだから……! ずっと、ずっと、ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと!!!』
海未「……どうして、こんなことに……。 私も連れてこられるものなら連れて来たかったですよ……。 それか穂乃果の今の状態を伝えたかった……! でもそうしたらあなたはきっと希望をなくしてしまうと思ったから……私は……!」
海未「……」
海未「もう2時……。今日はもう休まなきゃ……」
海未「ごめんなさい……ことり……」
ガラガラ……
海未「……」
雪穂「海未ちゃん。おかえり」
海未「……ただいま。 おばさんとおじさんは?」
雪穂「お母さんはもう寝ちゃってるよ。なんだか疲れてたみたいで、海未ちゃんが出て行ってからすぐに」
雪穂「お父さんは家の鍵を閉め忘れてたからって家に戻ったよ。 そのまま今夜はあっちで寝るって」
海未「……そうですか」
雪穂「……ことりちゃん、様子どうだった?」
海未「……」
海未「先ほど心肺が止まって、手術室へ運ばれました」
雪穂「……そう……なんだ」
雪穂「なんともなければいいね……ってそれは無責任か……」
海未「雪穂、お互い疲れてますし今日は休みましょう」
雪穂「……うん」
カチッ
海未「それではおやすみなさい」
雪穂「うん……」
雪穂「お姉ちゃんもおやすみ……」
スー……、スー……
海未(寝て起きたら全て夢だといいのに……)
チュンチュン
海未「……」
海未(真っ白な天井。 やはり現実はそう甘くはないですよね……)
ガラガラ
海未「……」
理事「……海未ちゃん」
海未「ことりはどうですか……?」
理事「もう、天国へ行っちゃったわ」
海未「……そんな……」
理事「聞いたわよ。 穂乃果ちゃんも今大変な状態みたいね」
海未「……はい。昨晩から呼吸も脈もとても弱くて、目を覚ましません」
理事「……それなら、ことりも淋しくないわね」
海未「……っ! 理事長!!」ガシッ
理事「やだ、冗談よ」
海未「……っ!!」
理事「服が伸びちゃうわ。 この手を離してもらえるかしら」キッ
海未「……う」
海未(理事長、目が真っ赤……)
海未「……はい、すいません。 ついカッとしてしまいまして」
理事「いいのよ。 私も不謹慎なこと言っちゃったから」
海未「……」
理事「知ってた? ことりの背中の包帯、血だらけだったみたいよ。おそらく海未ちゃんが来る前から傷口が開いてたみたいなの。でもことりったらあの性格だから、『他の人の手術もしなくちゃいけないから、自分は落ち着いてからでいいや』とか思ってたのでしょうね」
理事「私がかけつけたときも、あなたと話してる時も、ずっと痛いの我慢してたのよね……。それなのに私、全然気付いてあげられなかった……。ごめんね、ことり……。こんなお母さんでごめんね……」
理事「ね、穂乃果ちゃんのそばにいてあげなくていいの?」
海未「ですが……」
理事「ことりなら大丈夫。私がついてるから。お葬式の連絡は日程が決まり次第連絡するわ」
海未「……はい」
海未「それでは失礼します」
ガラガラ
海未「……」
『……うぅぅ、ことり……どうしてこんなことになっちゃったの……? ……ひっく、お父さんもあなたに留学勧めたことを後悔して会社の屋上から飛び降りちゃって……うっ、うぅ……私、もうどうしたらいいの……? お母さん、独りじゃ辛いわ……』
海未「理事長……」
海未「くっ……そ……」
雪穂「あっ、海未ちゃん」
海未「雪穂……」
雪穂「私もことりちゃんのお見舞いしたくって。 ほら、お姉ちゃんと一緒に遊んでもらったこといっぱいあるから……」
海未「……」
雪穂「……海未ちゃん……その唇どうしたの? 血だらけだよ」
海未「……え? あ、あぁ……ちょっと噛んでしまったみたいですね。 どうってことはないですよ」
雪穂「でも血が首まで伝ってるよ……?」
海未「ほんとに大丈夫ですよ。 ほら、穂乃果のところへ戻りましょう。 もしかしたらもう目を覚ましてるかもしれませんから」スッ
雪穂「……」
海未「だから大丈夫ですって。 少し経てば瘡蓋になりますから……いたっ!」
雪穂「バイ菌入っちゃってたらどうするのさ。 消毒くらいしておかなくちゃダメだよ」
海未「うぅ……しみます……」
雪穂「我慢してください」
海未「……はい」
雪穂「……」
海未「……穂乃果、起きませんね」
雪穂「喋らないの。 やりづらいから」
海未「ごめんなさい」
雪穂「……うしっ、終わりっと」
海未「唇にガーゼなんて貼ったら、ご飯食べる時どうするんですか」
雪穂「えっ? …………えっと」
雪穂「我慢?」
海未「……はぁ。あなたたちって本当によく似た姉妹ですよね」
雪穂「よく言われます……」
雪穂「これからどうしよう……。 もしもこのままずっとお姉ちゃんが目を覚まさなかったら……私……グスッ」
海未「……とりあえず時間がほしいです。 だった1日でことりを失い、穂乃果までも……。 頭がおかしくなってしまいそう……」
雪穂「うん……」
ガラガラ
ほの母「あら2人とも、戻ってたの?」
海未「おばさん……」
ほの母「ことりちゃんの様子……どうだった? 昨晩に容態が急変したって聞いて……」
海未「……」
ほの母「…………そう、なのね」
ほの母「雪穂。 あんたは海未ちゃんと一緒に家に帰りなさい」
雪穂「えっ? でも……」
ほの母「もし穂乃果が目を覚ましたら連絡してあげるから。 海未ちゃんも、一旦家に戻ってしっかり休んだ方がいいわ。 学校にも行かなきゃいけないでしょ?」
海未「……はい」
雪穂「海未ちゃん……。 うん、わかった」
ほの母「気をつけて帰るのよ」
ドサッ
海未「……はぁ」
海未(どうしてこんなことになってしまったのでしょう……。 つい一週間前までは3人一緒だったのに)
海未「……あぁ」
海未(身体が重たい。 瞼も、重い。 ことりのあの時の目を思い出しただけで、心が痛い。 穂乃果がこのまま目を覚まさなかったらと考えたら……不安で押しつぶされそうになる)
海未「……寝よう」
海未(せめて夢の中では……また二人の笑顔が見れるといいな……)
・・・・・・
海未「あれからもう6年も経ったんですか。 早いものですね。 私なんかもう家を継いで毎日稽古やらなにやらで忙しいと言うのに……」
穂乃果「」スゥ、スゥ
海未「あなたはいつまで眠ったままなんですか? このお寝坊さん」デコピン
穂乃果「」
海未「あっ、今顔を顰めましたね。 最近になってあなたは表情を変えられるようになりましたけど、これはあなたが目覚めることとなにか関係があるのでしょうか」
ガラガラ
雪穂「海未ちゃんごめん! ちょっと製菓のレポート出すの忘れててさ、今からちょっと学校行ってくるね! はい、お茶!」
海未「あっ、雪……」
バタン
海未「……本当に、あなたそっくりな慌てん坊さんになりましたよ、雪穂も」
海未「今はもしも家を継ぐことになったらのために製菓の専門学校へ通ってるんです。 ですが、仮にあなたが目を覚ました時には2人一緒に家を継いでもらうっておじさんも言ってましたよ? ……ってこの話はもう何回もしましたよね」
穂乃果「」スゥ、……スゥ
海未「あっ、今身体拭いてあげますね。 ちょっと待っててください」
海未「……では脱がせますね」
シュルッ、シュル
海未「……」
穂乃果「」スゥ、スゥ
海未「……っ」
海未「……ごめんなさい穂乃果、すぐに済みますから……いつも、ごめんなさい……」
海未「……ん、あっ、あっ、……クチュ……穂乃果……白くて、キレイです……んんんっ……クチュクチュ、んぁ……あの時から何も変わってないです、あなたは……ピクッ、私は身長も伸びたのに、あなたはちっとも……あっ、あぁぁっ、い、いくっ……!」
海未「あ……あぁぁ……んっ」ビクン、ビクン
海未「……はぁ、はぁ……。 もうこんなことをして何年になるんでしょうね。 本当に自分が嫌になってきます」
海未「……あっ、脱がせたはいいけどお湯がない。 汲んできますので、ちょっと待っててくださ……」
ガシッ
海未「…………………………えっ?」
「待って」
海未「……う、うそ……」
「ここ……どこ?」
海未「…………これは……今度こそは夢じゃないですよね……?」
「んんぅ、なんだろ。 身体がすごく動かしづらい……」
海未「穂乃果……っ!」
ダキッ
穂乃果「きゃっ、……え、えっ?」
海未「穂乃果! 穂乃果ぁ……! ううっ、ぐすっ、うわぁぁぁん!!」
穂乃果「あ、あの……えっと……」
海未「あなたが眠ってる間に本当にいろんなことがあったんですよ……!! そ、そうだ……! ことりが、ことりが……!」
穂乃果「えっ、あ、あの、ごめんなさい……。 『小鳥』って……?」
海未「ことりはことりですよ! 南ことり! あの子、あの日乗った飛行機で事故にあってしまってそれで……」
穂乃果「……ち、ちょっと待ってください」
バッ
海未「あ、ご、ごめんなさい……。 急に目を覚ましたんだから頭が追いついてませんよね」
穂乃果「……」
海未「ゆっくり説明していくので聞いてください」
穂乃果「あの、本当にごめんなさい。 あなた、誰なんですか?」
海未「あの日の夜、あなたは突然寝たきりになってしま………………えっ、今……なんと……?」
穂乃果「ですから、あなた誰なんですか……? 私の知り合いじゃないですよね……?」
海未「…………は……?」
1週間以内にかけるかなぁ……
医者「……ふむ、おそらくは記憶障害でしょうね」
ほの母「記憶障害……」
医者「穂乃果さんの脳には小さな血腫が見られました。 先月検査した時は無かったのですが……。 それが記憶を司る部位の海馬を圧迫しており、その影響でものを思い出すことをできなくしているのかと」
ほの母「そうなんですか……」
医者「明日、この血腫を取り除く手術をします」
雪穂「じゃあ、それが成功したら……お姉ちゃんは全部思い出せるようになりますか……?」
医者「……」
ほの父「先生……?」
医者「それは……わかりません。 過去に今回のようなケースの患者を3人見てきました。 うち2人は未だに記憶を戻せず、1人は記憶が戻らないどころか新しいことも覚えることができなくなってしまう、いわゆる認知症のような状態に……」
雪穂「……それじゃあ、お姉ちゃんはもう……」
医者「ですが海外ではちゃんと記憶を取り戻した例もあります。 ですから可能性がないわけではありません」
ほの母「あ、あの……その手術で穂乃果にもしものことが起こったりは……」
医者「その心配はしなくて大丈夫です。 この手術での失敗は極めて0に近いですから」
ほの父「よかった……」
医者「穂乃果さんが記憶を戻せるかどうかは本人の意志次第ですが、ご家族のみなさんもぜひサポートしてあげてください。 よろしくお願いします」
ほの母「こちらこそ、手術よろしくお願いします」
医者「はい」
穂乃果「……ん」
雪穂「目が覚めた?」
穂乃果「……あれ、またここ……。 なんで私病院なんかにいるの?」
雪穂「お姉ちゃん、私のことわかる?」
穂乃果「…………?」
雪穂「……そっか」
穂乃果「あの、今朝から気になってたんですがお姉ちゃんって? 見たところあなたの方が歳上に見えますけど……」
雪穂「あ、それもそうだよね……。 お姉ちゃんなんてあの日からほとんど何も変わってないし……」
雪穂「」コホン
穂乃果「?」
雪穂「いい? あなたの名前は高坂穂乃果。 22歳」
穂乃果「こうさか……ほのか」
雪穂「そして私の名前は高坂雪穂。 20歳。 そしてお姉ちゃんの妹なの」
穂乃果「……ってちょっと待って!? 22って、私ってそんなに歳とってるの!?」
雪穂「そうだよ。 そんでそこにいる園田海未ちゃんと同い年なんだから」
海未「……」
穂乃果「……うそ。 こ、こんなにかっこよくて美人な人と同い年なんだ……私……」
海未「…………っ!? き、急に何を言い出すのですか!」
穂乃果「あ……ごめんなさい。 あんまり素敵な人だから、つい……」
海未「……ーーー!」
穂乃果「……あの、海未さん……?」
海未「ち、ちょっと風にあたってきます!」
ガラガラ
穂乃果「行っちゃった……」
雪穂「ふふっ、海未ちゃん顔真っ赤でかわいかったな」
海未「穂乃果に美人って穂乃果に美人って穂乃果に美人って穂乃果に美人って穂乃果に美人って穂乃果に美人って穂乃果に美人って穂乃果に美人って穂乃果に美人って穂乃果に美人ってきゃぁぁぁーー!!」
穂乃果「……よっ、と。 うぅ……」
海未「がんばってください穂乃果」
穂乃果「……もぉ! なんでこんなに歩きづらいの!?」
海未「6年間も寝たきりだったせいで身体中の筋肉が衰えてるそうです。 なので当分はリハビリを頑張らないといけませんね」
穂乃果「はぁ……。 二本足で立ってる海未さんが信じられないよ……」
海未「……」
穂乃果「くぅぅ……! もう少し……!」
海未「……穂乃果?」
穂乃果「んー?」
海未「その、最近敬語を使わなくても慣れてきましたよね?」
穂乃果「んー、そうだね。 でもまだちょっと抵抗あるけど……それがどうかしたの?」
海未「えっと、ですね。 ……その、あなたには私のこと、昔みたいに『海未ちゃん』と呼んでもらいたいのですが……」
ピタッ
穂乃果「昔、みたいに……?」
海未「は、はい……。 ダメですか……?」
穂乃果「……ううん! それじゃあ今から海未ちゃんって呼ぶから!」
海未「……はい! ありがとうございます!」
穂乃果「昔のこと……昔の……早く思い出さなきゃ」
海未「穂乃果? 何か言いました?」
穂乃果「え? あ、ううん! なんでもない! それより今日は外に連れて行ってくれる約束だよね!」
海未「ええ。 車椅子でならいいと先生もおっしゃってくれましたし。 あと二往復できたら出かけましょうか」
穂乃果「やった! ……え? 二往復?」
海未「はい。 イヤならベッドに戻りますか?」
穂乃果「う、うぅ……海未ちゃんの鬼ー! 悪魔ー!」
海未「なんとでも言いなさい。 私はあなたのためなら何にでもなってみせますよ」
穂乃果「くっそぉ。 なにか美味しいもの買ってくれなきゃ許さないんだから……」
海未「ふふっ、偉い偉い」
穂乃果「うわぁ……。 窓からは何度か見てたけど、本当に田舎だねここ」
海未「そうですね。 でも私はここのゆったりとしている空気は好きですよ。 お隣の秋葉原の波に飲み込まれてしまいそうで不安にはなりますが」
穂乃果「……うん。 私もこの空気は嫌いじゃないかな。 なんかこの町自体が私の宝物みたいな、そんなふうに感じる」
海未「そうですね。 あなたも私も生まれてからずっとこの町で暮らしてきたわけですし、記憶がなくても感覚が体に染みついてるのかもしれませんね」
穂乃果「ねえねえ、どこに行くの?」
海未「そうですね、どこか希望とかあります?」
穂乃果「うーん、じゃあねー。 私の過ごしてきた場所全部がみたい!」
海未「過ごしてきた場所というと、学校とかでしょうか」
穂乃果「うん。 ほら、私って高校に対して強い思い入れがあったみたいでしょ? だからそこに行けば記憶が戻る足がかりになるかな、とか」
海未「別に急いで思い出そうとしなくてもいいんですよ?」
穂乃果「いいや、少しでも早く思い出したいんだ」
穂乃果(あなたとの過去、私だけ覚えてないの不公平だから)
海未「?」
穂乃果「ほら、はやくでかけよう!」
海未「……? わ、こら! 車椅子の上で暴れないの!」
穂乃果「……」
海未「落ち込んでしまうのも無理はないですね」
穂乃果「……うん。 だってさ、私の過ごしてきた場所全部がもうなくなっちゃってたなんて……。 そしてこのオトノキも……」
海未「小中学校がなくなったのは去年ですが、高校と幼稚園がなくなったのは3年前です」
穂乃果「3年も……前に」
海未「私も1年かけて弓道や剣道でどうにか生徒を集められないかとがんばってみたのですが、やはり個人種目でさほど競技人口の多くない武道で人を集めるにはムリがあったみたいで……。 それでも1月ごろには希望生が少しは増えて一時は廃校を見直ししてもらえるところまでいったのですが……」
海未「私の一つ上の方たちが卒業するのと同時に理事長も自殺をしてしまいまして……。 それが廃校決定に拍車をかけてしまったんです」
穂乃果「自殺……」
海未「はい。 ことりのお母さん……理事長もかなり心を病んでいたみたいで、無理もないですよね。 愛しの家族を2人まとめて失くしたのですから」
穂乃果「……」
海未「私もそうなれたらどれだけ楽か何度も考えてしまったことはあります」
穂乃果「……っ!」
海未「でも、」
ギュッ
海未「私にはまだちゃんと残っていましたから。 大切な人が、何年も目を覚まさないお寝坊さんが。 そして今、こうして一緒に同じ景色を見てる親友が、ここに」
穂乃果「海未ちゃん……」
海未「もしあなたにももしものことがあったら、私もここにはいなかったかもしれませんね、ふふっ」
穂乃果「……」
穂乃果「ね、海未ちゃん。 ちょっと私の前に来て」
海未「……えっ? はい。 これでいいですか?」
穂乃果「うん」
ギューッ
海未「……穂乃果?」
穂乃果「……」
海未「あ、あの……」
穂乃果「ごめんね、ごめんね……」
穂乃果「海未ちゃんずっと辛かったんだよね。 それなのに私はずっと眠ったままで、少しも力になれなくて……、終いには昔のこと何も覚えてないし……ごめんなさい、海未ちゃん……ごめんね……」
海未「……泣かないで、穂乃果。 確かに私が1番誰かに縋りたかったときにあなたは隣にいませんでした。 ですが、」
海未「今ちゃんと、確かに、こうして目を覚ましてくれたじゃないですか。 それだけで……私は本当に、嬉しくて……っ!」
穂乃果「も、もう……海未ちゃんまで泣かないでよ。 あはっ、そんなに頬擦り付けられたらくすぐったいよ」
海未「泣いてるのはあなたも一緒でしょう……? 今はあなたの体温がとても愛おしくて……もう少しこのままでいさせてください。 ダメですか?」
穂乃果「ううん。 でも、どうせなら私は……」
チュッ
海未「……え?」
穂乃果「こういうふうにされるほうが好きかも……」
海未「い、いま、唇に……」
穂乃果「え、えっと……このことはお母さんや雪穂ちゃんには内緒だよっ!」
海未「あ、は、はいっ!」カァァ
海未(穂乃果から……キスされてしまいました……!)ポンッ
海未(……。 でも、このキスも本当は……)
穂乃果「……あっ、見て見て海未ちゃん! 金髪だよ! 金髪!」
海未「こらこら、外国の人を見ただけでそんなに驚いては……って、あの人は……!」
穂乃果「知ってる人?」
海未「い、いえ。 さ、さ、さて、次の場所に行きましょうか。 ちょうどお腹も空いてきましたし」
穂乃果「あ、うん。 えっと、私美味しいもの食べたいな! パフェ付きのとこで!」
海未「わかりました。 では行きま……」
「んっ? あら、海未じゃない」
海未「」ビクッ
「いやね。 そんなに驚かなくてもいいじゃない。 もしかして私のこと忘れちゃった? ふふっ、まさかそんなことないわよね。 ……ね、海未?」
海未「……っ」
穂乃果「えっ、日本語? ちょっと、あなたなんなんですか! 海未ちゃんから離れてください!」
「あら、ずいぶん可愛い子連れてるじゃない。 もしかしてその子があなたの……」
海未「……もう私に話しかけないと約束しましたよね。 絵里」
絵里「そうだったかしら? もう四年も前のことなんて覚えてないわ」
海未「……穂乃果、行きますよ」
穂乃果「あ、う、うん」
絵里「だから待ちなさいって。 じゃないとその子も……」
海未「」ピクッ
絵里「ふふふ、ちゃんと身体は私の事覚えてるのね」
海未「何が目的ですか」
絵里「別にそんなに怖い顔しなくてもいいでしょ? ただあなたとお話したいだけよ。
絵里「今じゃその子もいてなんだし、今日の6時、あの公園で待ってるわ」
スタスタ
海未「……」
穂乃果「海未ちゃん、あの人誰!? 私ああいう人ちょっと嫌いかも!!」
海未「……ただの高校の時の先輩ですよ。 さて、どこのお店がいいでしょうか……」
穂乃果「うーんと、やっぱり海未ちゃんと一緒ならどこでもいいよ!」
海未「そうですか。 ではあの店がここから近いので、そこに……」
海未「……」
絵里「約束通り来たのね、偉いわよ」
「ちょっとエリー、半年振りに顔を見せたと思ったら誰よこの人。 ま、まさかまた浮気してるんじゃないでしょうね!?」
絵里「違うわよ。 この子は……そうね、強いて言うなら元カノかしら」
海未「よもやあの成績優秀で真面目な生徒会長がこんなに遊び人だったなんて思いもしませんよね」
絵里「何か言った?」
海未「なんでもないですよ。 それより元カノだなんて何を適当なこと言ってるんですか」
絵里「まあまあ、そう怒らないでよ。 でもそんな表情のあなたも素敵よ」
海未「……帰ります」
絵里「ほんとせっかちね。 あっ、真姫。 あなたはもう帰っていいわよ」
「……え? は、はぁ!? 私30分間ここで座ってただけなんだけど! もしかして私を呼んだのもただの退屈凌ぎだったわけ!?」
「信じらんないっ!! そんなんだったら言われなくてもこっちから帰ってやるわよ!」
絵里「あっ、そうそう。 これを渡し忘れてたわね」
絵里「はい」ピラッ
「な、何よこの紙きれ」
絵里「そこに書いてあるホテルで待ってて。 すぐに行くから」
「……/// し、仕方ないわね。 またすっぽかしたりしたら許さないんだから」
スタスタ
絵里「……さてと。 邪魔者もいなくなったし本題に入りましょうか」
海未「邪魔者って……。 あの子はあなたの彼女じゃないのですか?」
絵里「彼女? んー、まぁあっちはそう思ってるみたいだけど、私にとっては都合のいい遊び相手よ」
絵里「だってこれまでもこれからも、私がずっと愛し続けてるのはあなただけなんだもの。 海未」
ポンッ
海未「……ツッ」
パシィ
絵里「いたっ……」
海未「気安く触らないでください。 もう私は騙されたりなどしませんからね」
海未「今日も夜は穂乃果のところに泊まるつもりなので早く病院に戻りたいのです。 用件は手短に」
絵里「……本当に釣れない子ね。 それじゃあお望み通り手短に言ってあげるわ」
絵里「海未。 私と撚りを戻しなさい」
海未「……やはりそんなことでしたか。 私がなんと答えるかぐらいあなたにも想像がつくでしょう?」
絵里「そうね。 でもあんな細くて弱そうな子と一緒にいるよりは私と一緒になった方が幸せになれると思うわよ?」
絵里「知ってると思うけど私は今ロシアに住んでて、そこで子供達にバレエを教えてるのよ」
海未「……それがなんだというのです」
絵里「いや、ね? 半年くらい前に教え子のうちの三人がロシアのトップ3にはいっちゃってね? それからうちのスクールではバレエを習いたい子が大勢押しかけてきて、」
絵里「……ふふっ。 そしてこれがまたすごくお金が取れるのよ」
絵里「だからね、あんな子のことなんか忘れて私とフランスで一緒に暮らさない? ね? 悪くないでしょう?」
海未「……」
↓A ↓B
↓B
海未「それも悪くないですね……」
絵里「でしょ? あなたは私とこれからも一緒にいるべきなのよ」
海未「はい……。 それに私の本当の姿を知ってしまったらあの子はきっと私のこと軽蔑するでしょう。 だから、バレてしまう前にあなたと遠くへ行きたい」
絵里「本当にそれでいいのね?」
海未「はい」
絵里「ふぅ、これでわざわざ日本まで戻ってきたかいがあったわ。 急だけど飛行機は明日の朝のやつに乗るから」
海未「……そんなに早いんですか? せめて一言でもあの子に別れくらい言いたいのですが……」
絵里「それはムリね。 やっぱり私よりもあの子を選ぶの?」
海未「……わかりました。 ではこれから家に戻って身支度と親に説得してきます。 海外修行だと言えばおそらく許してもらえるでしょう」
海未「そして今夜は……あなたのところに泊めてください。 ダメですか?」
絵里「」ゾクッ
絵里「……ふふっ、いいわよ。 日本での最後の夜、楽しみましょう」
海未「……はい」
穂乃果「もぅ! 海未ちゃん遅い! 今頃帰ってきても口聞いてあげないんだから!」
穂乃果「……もう外真っ暗。 海未ちゃん遅いな。 し、仕方ないから少しくらいなら口聞いてあげるから、早く帰ってきて」
穂乃果「……ふぁ。 もう日付変わっちゃった……。 もしかして海未ちゃん、事故に巻き込まれて……。 ううん、そんなことないよ。 ……うん。 きっと大丈夫」
穂乃果「……はぁ。 昨日の夜あれから海未ちゃん戻ってきてくれなかったな。 きっと家に忘れ物取りに行ったらそのまま寝ちゃって、とか。 うん。 ありえなくはないかな」
穂乃果「ねぇ、もう12時になるよ……? 海未ちゃんも人のこと言えず寝坊助じゃん……」
穂乃果「……あっ、暗くなってきた。 今日も海未ちゃんと出かける約束してたのにな……。 今来てももうどこにも出かけられないよ……」
穂乃果「もう1週間だよ……? さみしいよ海未ちゃん……。 どこにいるの……。 どうして電話も出ないの……!? いやだ……さみしい……こわい……くらい……。 うみちゃんうみちゃん海未ちゃん海未ちゃん海みちゃん海未ちゃんうみちゃん海未チゃん海未ちゃん海未ちゃんうみちゃんうみちゃん海未ちゃん海未チャんうみチゃんうみちゃン。 ア、頭ガ……イタイ……」
海未「お疲れ様絵里。 今日は久しぶりに和食にしてみました」
絵里「和食かー。 先月ちょっと日本に帰って以来ね」
海未「どうです? 久しぶりに作ったので口に合うかどうか……」
ポンッ
海未「あっ……」
絵里「……ふふ、おいしいわよ。 やっぱりあなたは私の最高のお嫁さんね」
海未「は、恥ずかしいです///」
絵里「ところで海未。 私が仕事してる間、家に一人でいて退屈じゃないの?」
海未「うーん、まぁ家事がありますからそれなりに忙しかったりもします。 ですが何より……」
海未「あなたの帰りを待っているのがとても楽しいんです。 ふふっ」
絵里「本当に可愛い子猫ちゃんね、海未は。 今日もいっぱい可愛がってあげるから」
海未「も、もう……! ご飯中ですよ!」
絵里「ごめんなさいね。 あなたの反応を見てるのがおもしろくて」
海未「勝手に人の顔で楽しまないでください……」
絵里「愛してるわ、海未」
海未「……はい、私もです♪」
BAD END 1 「金に目が眩んで」
乙
↓A
海未「話はそれだけですか」
絵里「……え?」
海未「そうですか。 それでは私はこれで失礼させてもらいます」
絵里「ち、ちょっと待ちなさい! 私と一緒に来ればなに不自由ない生活が送れるのよ!? それをあなたはみすみす手放すっていうの!?」
海未「……確かにそれは私にとってこれ以上ない素晴らしい条件なのかもしれません」
絵里「でしょっ!? だから……っ!」
海未「それでも私は…………願って願ってやっと6年ぶりに再び逢うことのできた、かけがえのない親友と共に過ごす未来を選びます」
絵里「……それが、あなたの答えなのね」
海未「はい」
絵里「そう。 それじゃあ……」
海未「……あとこれはあなたのためにも警告しておきますが、」
海未「もし穂乃果にちょっかいをかけるようでしたら、私はなんの躊躇いもなくあなたを殺しますから」
絵里「……!」ビクッ
絵里「や、やだ。 そんなに怖い目されると本気で言ってるのかと勘違いしちゃうじゃない……」
海未「? 本気に決まってるでしょう。 私が冗談を言うのがヘタなことくらい、あなたなら知っているはずですが」
絵里「……」
海未「そんなに目を見開いて……。 ドライアイになっても責任取りませんからね」
海未「それではさようなら。 今後こそ私の目の前に現れないように注意してください。 じゃないと私、あなたになにしちゃうかわかりませんから」
絵里「……」
海未「返事は?」
絵里「……は、はいぃ」
続き3日以内には頑張ります
海未「……まったく。 今日はせっかく穂乃果と外を歩き回ることができて嬉しかったのに、あんな輩と出会うことになってしまうとは。 ツイてるようで、全然ツイてません」
ガラガラ
海未「ただいま戻りました。 ほら、穂乃果の好きなイチゴを買ってきましたよ。 食べます?」
穂乃果「……」
海未「あれ、穂乃果? 寝てるんですか?」
穂乃果「……起きてる」
海未「そうですか。 ごめんなさい、遅くなってしまって。 晩御飯も全部食べましたか?」
穂乃果「……うん」
海未「では今イチゴを出しますので待っててくだ……」
穂乃果「いらない」
海未「……?」
穂乃果「」プクー
海未「……あの、顔がフグみたいになってますけど」
穂乃果「……知らない」
海未「私、何かしましたか?」
穂乃果「…………知らない」
海未「……」
穂乃果「……むぅ」
海未「……」
穂乃果「絵里さんだっけ? あの人、海未ちゃんのなんなの?」
海未「……えっ?」
海未(こ、これはもしかしなくても……嫉妬というやつですか!?)
穂乃果「……」
海未(かわいい)
穂乃果「ずいぶん仲が良さそうだったね」
海未「あっと、あれで良さそうに見えました?」
穂乃果「うん……」
海未「あー……えっとですね、絵里は私の高校の時の先輩なんです。 本当にそれだけで……」
穂乃果「それだけなら、なんで海未ちゃんは敬語も使わずに話してたのさ」
海未「うっ、それは……」
穂乃果「それは?」
海未「……わかりました。 本当は隠しておきたかったのですが……、話して機嫌を直してくれるならその方がいいです」
穂乃果「……」
…」
…………
「海未、お願い!」
海未「えっ、こ、困りますよ! 部長は先輩なんですからやっぱり先輩が行くべきです!」
「でも私なんかのが流されるより、全国8強まで進んだ海未のインタビューの方がこれからの部のためにいいアピールになると思うの! だから、この通り! ね!?」
海未「そ、そんなこと言われましても……。 私、そ、そんな、インタビューなんてうまく答えられる自信無いです……」
「でもね!? このインタビューは町の偉い人たちも見るらしいの! そしてうまくいけば廃校の見直しが検討されたり……」
海未「廃校の……見直し?」
「うん!」
海未(もし廃校の決定を見直しさせることができたら、穂乃果が帰って来た時に喜んでくれるかもしれない。 それなら……)
海未「……わかりました。 引き受けましょう」
「ほんと!? ありがとう! それじゃさっそく今日の放課後に生徒会室にいる絢瀬さんのところに行ってね!」
海未「はい」
ー放課後ー
海未(……よし、あらかたの質問には答えられるようにしっかりと準備はしておきましたし、あとは緊張さえしなければ……)
コンコン
「はい、どうぞ」
海未「し、失礼します。 弓道部の園田です。 インタビューの件でこちらへ伺ったのですが…………ぇ!?」
「あっ、やっ、やめっ……人来とるって! ぁん、エリちあかんって! あ、あぁぁぁ……!!」プシャッ
海未「……!? ……!?」
絵里「ふふ。 人がいるっていうのに盛大に潮吹いちゃって、可愛い子ね希」
「んん……ちょっとお手洗い行ってくるわ。 ……まったく、こんなんじゃ下着つけられへんやん……」
スタスタ
絵里「さて、いらっしゃい。 あなたが園田さんね。 部長から厄介ごと押し付けられて災難だったわね」
海未「い、いえそれは構わないのですが、……それより今出て行った副会長と……」
絵里「あぁ希? 別に気にしなくていいわよ」
海未「……いえ、気にしなくていいと言われましても……」
絵里「いいったらいいの。 ほら、時間もないんだしさっそくインタビュー始めましょうか」
絵里「それではまず最初の質問です。 園田さんは先月の大会でとてもよい成績を残されたそうですね。 そんな園田さんが弓道を始めようと思ったきっかけはなんだったのでしょう?」
海未「はい。 私は家が道場をしてまして、母が舞踊の、父は剣道や弓道、空手などといった武道の師範をしています。 幼い頃から私は家の跡取りとして育てられてきたため物心つく前から弓を握っており、きっかけとかそのようなものは特になく、気づけば私は……」
海未(うーん、やはり先ほどの2人の行動が気になります……。
会長と副会長、確かに卑猥なことをしていましたよね……。 も、もしかして私……お邪魔してしまったんでしょうか。 それなら悪いことをしてしまいました……)
絵里(……)
絵里「今回は弓道部の園田さんのお話を聞かせてもらいました。 それではこれでインタビューを終わります。 ありがとうございました」
海未「ありがとうございました」
絵里「………はい、お疲れ。 何か飲み物でもいる?」
海未「いえ、お気になさらず……」
絵里「遠慮しないで。 あっ、でもコーヒーしかない……。 飲める?」
海未「は、はい飲めます。 ではお言葉に甘えて少しだけ」
ニヤッ
絵里「ええ。 ほらほら、立ってないでここに座って?」
海未「し、失礼します」
トポトポトポ
絵里「はい、どうぞ」
海未「ありがとうございます。 いただきます」
ゴクゴク
絵里「……ふふっ」
海未「……? …………うっ!」
ゴトッ
海未「……な、なんですかこれ……くっ、身体が……熱い……!」
絵里「ふふふ、案外呆気なくかかったわね」
海未「は、はあ……? な、なにを……」
絵里「園田さん。 ……ううん、海未。 私ね? 前からあなたのことが気になってたの」
海未「うぅ、はぁ……はぁ……」
絵里「キレイな黒髪、凛々しい顔立ち、堂々とした姿勢、全てが私の好みで、」
海未「く、苦しい……はぁ……ぁぁ」
絵里「やっと見つけた、私の運命の人」
海未「な、なにを言ってるんですか! こんなことして、ただで済むはずが……」
フゥー
海未「ああああぁぁぁ!?」
絵里「……いい声。 もう身体中敏感になってるみたいね。 今どんな感じだった? 身体、ゾクゾクしなかった?」
海未「そ、そんなの……してません……! はぁ、はぁ……第一私には心に決めている人がいるんです……! だからこんなことされて堕ちたりなど……!」
絵里「え? あなた、何か勘違いしてるようね」
海未「……え?」
絵里「ずっと見てきたからわかるわ。 あなたには好きな人がいて、心の中はその人のことでいっぱいだってこと」
海未「それなら……っ!」
絵里「でもね、あなたの気持ちなんてどうでもいいのよ。 私がやりたいからやるの。 ……ふふっ。 こんなキレイなお人形さん、ずっと欲しかったのよね」
シュルッ
海未「待っ、だ、だめ……!」
海未(……うそ、身体に力が……入らない)
海未「お願いです……脱がさないで……っ!」ジタバタ
ガリッ
絵里「痛っ……」
海未「あ、ご、ごめんなさい……。 引っ掻くつもりはなくて……」
絵里「……ふふ、ふふふふ」
絵里「そそる……そそるわ……! あなたの反抗的な態度、すごく興奮する! ほら、もっと抗ってみてよ! そしてなす術なく私に犯されて悔しさに歯ぎしりする顔が、あなたのそんな顔が見てみたい!」
ブチブチッ!
海未「……きゃっ!」
絵里「海未の胸、キレイな形ね。 Aかしら? 手に馴染んでいい感じよ」
海未「やだ、やだぁ……!」
絵里「嫌なわりには先っぽがこんなに固くなってきてるけど」
海未「ひっ……! やっ、そ、そんなに弾かないで……あっ! やめて、やめて!」
絵里「下の方はどうなってるのかしら。 この様子だときっと大洪水ね」
海未「……えっ、う、うそですよね……。 ま、まさか本当に触ったりなんて……」
絵里「あら、予想通りヌルヌルね。 指がすんなり入って行くわ」
海未「あああぁ……!」
絵里「締め付けもいいし、すごくアツい。 指が溶けちゃいそう」
海未「そ、そんな……ヒック、ヒック……穂乃果にも触られたことないのに、全然知らない人の指が私の中に……ヒック」
絵里「泣かないで海未。 私のことはこれから知ってもらえればいいから。 だから、」
絵里「今はたくさん気持ち良くなっちゃいなさい」
海未「んあああぁぁぁぁぁ!!! や、やめ……っ! そんな激しくかき回されたらおかしくなるぅ!! あぁぁ!!」
絵里「……ん」
海未「……ん、んんぅ!?」
海未(…………わ、私の初めてのキスまで、この人に……)
海未「う、うぅ……ヒック」
絵里「もう二本入りそうね」
海未「や、む、ムリ……! き、キツイ……いたっ……」
絵里「少しずつ慣らしていくからね。 すぐに気持ち良くなるわ」
海未「あ……あぁぁ……! いたいよぉ……も、もうやだぁ……」
海未(……あぁそうだ、これはきっと夢だ……。 こんなひどいことが現実で起こるわけない……。 これは夢、これは夢、これは夢、夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢)
海未(……あぁ、そっか。 夢の中でまでこんな人に犯されてる必要はないんだ。 今私の中に入ってるのは穂乃果の指。 今私の舌を舐めてるのは穂乃果の舌。 私の……私の目の前にいる人は穂乃果自身)
海未「……」
海未「あっ、気持ちいい……。 もっと、もっとしてください……」
穂乃果『あら、急に素直になったわね。 やっと私のものになってくれたのね、海未』
海未「何をいってるんですか? 私は昔からずっとあなたのものですよぉ……? だからもっといっぱいキスしてくだしゃい。 もっと身体中触ってぇ……!」
穂乃果『可愛いわ海未。 お望み通り、あなたの全部を私のものにしてあげるから』
海未「嬉しい……! 好き、好きぃ! もっと愛してください! もぅどこにも行かないでくださいね! 私の、あなただけにしか見せないえっちな部分をたくさん見て……! 私のことたくさん好きになってくださいね……っ!」
海未「……うっく、ひぐっ、あぁ……ひっく、うっ……」
絵里「気持ちよかったわ。 やっぱりあなたは最高ね」
海未「も、もう……ごんなごどじないでぐだざい……ヒグッ」
絵里「んー、それは無理なお願いね」
海未「……な、ぞんな……!」
絵里「だって、」
ピッ
『もっと、もっと強く擦って! 壊れちゃうくらい激しく、 あっ、そ、そこ気持ちいいよぉぉ!!』
『ふふっ、キスしちゃいますね。 もっとあなたの唾液が飲みたいです。 ……ん、ぷはっ。 甘くて美味しいです。 ……ひゃっ!? い、いきなり下のお汁を飲むのはずるいです! 私にもあなたのをください! ひ、あ、あぁぁん……!』
海未「……えっ、なんですか……これ」
絵里「この映像? 全部さっきまでのあなたよ? これ」
海未「い、いや……。 そ、そんな……私が……穂乃果じゃない人にあんなキスや……身体を求めてるなんて……あ、ありえない……!」
絵里「でも動画として残っちゃってるわけだし、これを晒されたくなかったら……わかるでしょ?」
海未「……そうしたら、この動画は消してくれますか?」
絵里「ええ。 私が卒業する頃にはね」
海未「…………」
絵里「ふふっ。 これから私のことは絵里って呼んでね、海未」
絵里「ていうかそもそも弓道部にだけインタビューなんてあるわけないじゃない。 部長の子もちょっと可愛がってあげたら私の従順なペットになってくれて、ちゃんと命令通り海未を連れて来てくれるし。 今度ご褒美をあげなきゃ」
絵里「偽インタビューの方のビデオはもう消して、っと。 ……今日はこの動画だけで一晩過ごせそうね。 さて、これからどんな色に海未を染めていこうかしら。 ふふふふふふ」
…………
海未「……ね? あまりおもしろい話ではないでしょう?」
穂乃果「う、海未ちゃんがあの人と……そんなことを……」
海未「……ごめんなさい」
穂乃果「どうして謝るの……?」
海未「それは……私はあなたのことが…………っ」
海未「いえ、なんでもないです。 とにかく、あなたの親友を名乗る人間がこんなに汚れてしまっていることが申し訳なくて……」
穂乃果「……」
海未「……穂乃果」
穂乃果「…………てあげる」
海未「……え?」
穂乃果「上書き、してあげる」
海未「上書きって……きゃ!」
ギュッ
穂乃果「……私、その、こういうこと全然わからないけど……がんばるから」
海未「ほ、穂乃果……! 落ち着いて!」
穂乃果「あの人との思い出なんか、私が忘れさせてあげる。 ……目をつむって、海未ちゃん」
海未「ほ、ほの……」
↓C ↓D
↓D
チュッ
穂乃果「海未ちゃん、好き。 ずっと私のそばにいてね」
海未「……はい。 私もあなたのことが好きですから」
穂乃果「嬉しい……! 両想いだったんだね」
海未「普通好きでもない人を何年も何年も待ったりしますか? てっきり私の気持ちに気付いてるものだと思っていましたが」
穂乃果「……むぅ。 言っておくけど今は私の方が攻めの体制なんだからね。 そんな生意気なこと言うと……」
海未「……ふっ、それで優位に立ってるつもりですか?」
ギュッ
穂乃果「えっ? きゃっ!」
ギシッ
海未「ほら、形勢逆転ですよ」
穂乃果「うぅ、筋力さえ戻ってれば……」
海未「さて穂乃果、どうしてほしいか口で言ってみましょうか」
穂乃果「え、えっ! や、やだよ……恥ずかしい……」
海未「えー? 恥ずかしいことをしてほしいんですか? ここ病院なんですよ?」
穂乃果「あ、え、えっと、そ……それは……」
海未「ほーら、言ってくれなきゃわかりませんよ」
穂乃果「……う、うう。 う、海未ちゃんなんてきらいなんだから!」
海未「ほぅ。 それでは私はこれでお暇させてもらいましょうかね」
穂乃果「……!? や、やだ! 待って!」
海未「ですが私のこと嫌いなんでしょう? ならここにいても仕方ないですよね」
穂乃果「いや、違うの……。 お願い……帰らないで……」
海未「それじゃあどうしてほしいかそのお口で言ってみてください」
穂乃果「……。 お願いします……。 海未ちゃんの過去を聞いて欲情してしまったこの私の卑しい身体に罰を与えてください……」
海未「ふふふ、罰って……別に私はそんなつもりはなかったんですけど、あなたがそれをお望みなら願いをきいてあげましょうか」
シュル
穂乃果「ひゃ、急に下着まで脱がされたら恥ずかし……」
バシンッ!
穂乃果「……ぁぁあああっ!?」
海未「悪い子にはお尻を叩いて躾けるものだと相場が決まっていますからね。 ほら、ちゃんと謝り続けなさい。 『好きな人が他人に犯された話を聞いてダメだとわかってるのに私の身体は火照りが止まりませんでした。 ごめんなさい』って」
パシィィン!
穂乃果「ひゃ、ひゃいぃぃっ! だ、大好きな人が自分以外の人に犯されたっていうのに、その場面を想像して興奮してしまいました! ご、ごめんなさい!」
パシィイン!
穂乃果「ふぁぁぁあああ! ごめんなさい! ごめんなさい!」
海未「……ねぇ、穂乃果」
穂乃果「は、はい、なんでしょうか……?」
海未「私、今あなたを躾けるためにお尻を叩いてるんですよ? それなのになんですかこれ。 なんで私のズボンにこんなに大きなシミがついてるんでしょうね?」
穂乃果「……! そ、それは……!」
海未「あなたはとんだ変態さんですね! 痛みを覚えさせるのが躾けなのに逆に気持ち良くなってるなんて、この淫乱女!」
穂乃果「……っ!」
海未「はぁ、信じられませんよ。 22年間も見続けてきた幼馴染が本当はこんなに変態だったなんて。 これじゃあ天国にいることりもガッカリですね」
穂乃果「……」
海未「穂乃果?」
穂乃果「……ヒック、ヒック……ごめんなさい……ごめんなさい」
海未「ちょっ、穂乃果!? 泣いてるんですか!?」
穂乃果「ごめんなさい……。 こんな変な身体でごめんなさい……。 でも海未ちゃんに触ってもらえてると思ったらドキドキして嬉しくて、なんだかえっちな気分になっちゃって……!」
穂乃果「ごめんね……私みたいな変態女は嫌だよね……。 で、でもすぐに直すから! だから私のこと見捨てないで……っ!」
ギュー
穂乃果「……!」
海未「……バカですね。 そんな部分も全部含めて私はあなたのことが好きなんですよ。 だから直す必要なんてないです。 いえ、むしろそのままでいいです。 私だってあなたが眠っている時にあなたの手を借りて……その、シタこともありますし……」
穂乃果「……」
海未「……あっ、い、いえ! なんでもないです! と、とにかく私は大事な人の性癖を垣間見たくらいで見捨てるような女じゃないです! それだけはわかってください!」
穂乃果「……グスッ。 本当……?」
海未「本当です。 指切りでもしますか?」
穂乃果「……いい」
海未「……そうですか」
穂乃果「……でもその代わり、私の全部を海未ちゃんのものにして。 海未ちゃんだけにしか見せない私を知ってほしいの。 ……だめ?」
海未「……穂乃果」
海未「だめなものですか。 むしろこんな時が来るのを楽しみにしていたくらいなんです。 もう……ひきかえすことはできませんよ」
穂乃果「……ありがと、海未ちゃん……。 だいすき……」
海未「……あっ、い、いえ! なんでもないです! と、とにかく私は大事な人の性癖を垣間見たくらいで見捨てるような女じゃないです! それだけはわかってください!」
穂乃果「……グスッ。 本当……?」
海未「本当です。 指切りでもしますか?」
穂乃果「……いい」
海未「……そうですか」
穂乃果「……でもその代わり、私の全部を海未ちゃんのものにして。 海未ちゃんだけにしか見せない私を知ってほしいの。 ……だめ?」
海未「……穂乃果」
海未「だめなものですか。 むしろこんな時が来るのを楽しみにしていたくらいなんです。 もう……ひきかえすことはできませんよ」
穂乃果「……ありがと、海未ちゃん……。 だいすき……」
それから数ヶ月して穂乃果が退院したあとも私たちは毎日のように会って、出かけて、電話して、たまにえっちなこともしたりして、ずっと一緒にいました。……そう、家のことも忘れて。
私が家を勘当されてしまうまでに1年もかかりませんでした。親の堪忍袋の緒が切れたのは、穂乃果の24歳の誕生日に1週間近く内緒で旅行に行ってたことが原因でしょう。
その数日後、私も穂乃果も家を捨て都会の喧騒からほど遠い北の町へと逃げてきました。穂乃果は、私は遠くへ越すけどそれでもついてきてくれるか、と聞くとなんの躊躇いもなく頷いてくれて、こうして連れて行くことにしました。
穂乃果「いやー、今日も吹雪だよ海未ちゃん。 やっぱり北海道はすごいね。 東京じゃこんなに雪積もんないもんね」
海未「……あなたは雪が降る度にそんなリアクションしますよね。 もうここへ来て何年経ってると思ってるんですか」
穂乃果「んー、わかんない。 てへっ」
海未「……まったく。 ほら、いつまでも外ばかり見てないで仕事にいく準備しますよ」
穂乃果「えー。 こんな中で外行ったら絶対に事故っちゃうよー。 よし、今日はおやすみにしよう!」
海未「それはあなたが決めることではないです」
穂乃果「いいでしょー。 ねえしゃちょーさーん」
海未「ダメです。 甘やかすのは誰のためにもなりませんから」
穂乃果「えーっと、私がもっと海未ちゃんを好きになります♪ ほら、海未ちゃんのためになった♪」
海未「うっ……で、でもダメです! あなたを許してしまうと他の社員にも示しが……」
穂乃果「あー、でも海未ちゃんって会社でも女の子の社員にモテモテだからなー。 やっぱ私が行かなきゃ心配だなー」
海未「……はっ? もしかして私のこと信用してないんですか?」
穂乃果「まっさかー。 信じてなかったらこんなところまで2人で逃げてこないよ♪」
穂乃果「……ていうかさ、私だけ休んでも海未ちゃんが行っちゃうんだったらお家に一緒にいれないじゃん!? それはだめだ! やっぱり私も行く! あ、で、でも外は寒い……」
海未「……はぁ、ほんとに忙しい人ですね」
海未「ほら、手を繋いで行けば暖かいですよ。 だから今日も一緒に頑張りましょう。 ね?」
穂乃果「……うん!」
実は穂乃果の記憶はまだ戻っていません。
でも私は今のままでも充分に幸せです。何と言っても私には穂乃果と過ごす『未来』がありますし、穂乃果があの日目覚めて、一緒にリハビリをがんばって、いろんなところにでかけて、そして恋人になって、今ここにいる。そんな『過去』も私たちはちゃんと持っています。
あなたには知らない過去、私には見えない未来。そのことで悩んだ時期もありました。でももう私たちには怖いものなんてなにも……
ドンッ
海未(……えっ?)
穂乃果「……カッ」
海未(なんですか……これ。 背中がやたらと痛い……。 それに視界がやけに白くボヤけて……)
ドサッ
ブロロロロロロロ
海未(……今私の上を通ったのって……トラック……? ……あぁ、引かれたんですか……私たち。 しかも引き逃げって……。 ナンバープレート確認しなきゃ……うっ、目が霞んで見えない……)
海未(……そうだ、穂乃果は)
海未「ほ……の」
穂乃果「……」
海未(たいへん……口から血が出て……。 救急車呼ばなきゃ……。 ……あぁ、ダメ……身体が動かない……。 周りに人もいない……)
海未(……寒い)
海未「うっ……」
ギュッ
海未(……穂乃果の手、冷たい……。 早く暖かいところへ連れて行かなくちゃ……。 ……でも、ごめんなさい穂乃果……。 少しだけ、少しだけですから……)
海未(私も少し眠っていいですか……。 すぐに……起きますから……)
……ふふふ。2人だけ楽しそうにしてずるいな。私も仲間にいれてよ。
だって約束したでしょ?
ね、
BAD END「ずっと一緒だよ」
↓C
スッ
穂乃果「……え?」
海未「だめですよ、穂乃果。 こういうことは本当に好きな人とするものです」
穂乃果「そ、それなら私は海未ちゃんと……!」
海未「……」
海未「……あー、今日はいろんなところを歩き回って疲れちゃいましたね。 もう時間も遅いですし寝ましょうか」
穂乃果「海未ちゃ……!」
海未「私は大丈夫ですから。 昔は確かに辛いことがありました。 だけど現在はこうしてあなたが私のそばにいてくれる。 それだけで充分ですよ」
チュッ
海未「電気消しますね」
穂乃果「うん……」
穂乃果「……ばか。 おでこにチューとか古臭いってのに……」
海未「何か言いました?」
穂乃果「なんでもないですー! おやすみっ!」バサッ
海未「……」
海未(ごめんなさい穂乃果。 私だって本当はあなたを拒みたくなかった……。 でもそうしなくちゃいけない理由があるんです。 私は……ズルイから……、こんなことで罪滅ぼしになってると思ってる。 あなたを受け入れてしまったら、もう一人の親友に対して顔向けができないんですよ……)
海未「……おやすみなさい」
医者「……ふむ。 この調子だったらもう退院しても問題ないでしょう」
雪穂「本当ですか!? やったね、お姉ちゃん!」
穂乃果「う、うん」
雪穂「? 嬉しくないの?」
穂乃果「いや、そんなわけじゃないけど……」
雪穂「これでまたお姉ちゃんと暮らせるんだ。 お菓子の作り方とか覚えてないだろうし、私が教えてあげるからがんばろっ!」
穂乃果「うん。 ありがとう……」
医者「入院中に記憶を戻すことはできませんでしたが、これからゆっくりと焦らず、時間をかけて思い出していけばいいです。 それでは私はこれで失礼します」
ガラガラ
海未「……あ」
医者「おっと、失礼」
スタスタ
海未「こんにちは。 最近家の方が忙しくてあまり顔を出せなくてごめんなさい。 調子は変わりませんか?」
雪穂「聞いてよ海未ちゃん! お姉ちゃんね、もう退院できるんだってさ!」
海未「えっ!? 本当ですか! やりましたね、穂乃果!」
穂乃果「あ、ありがとう……」
海未「穂乃果?」
雪穂「んー、さっきからこんな様子なんだよね。 やっと美味しくない病院食ともおさらばできて自由の身になれるっていうのにさ」
穂乃果「……」
海未「……」
海未「そうだ穂乃果。 少し外を歩いてきませんか?」
穂乃果「……え?」
海未「一緒に紅葉を見に行きましょう。 高校の前の遊歩道、オレンジ色に染まっていて綺麗ですよ」
穂乃果「紅葉……」
雪穂「うん、行ってきなよお姉ちゃん。 その間にお母さんたち呼んで持ち帰るものまとめておくからさ」
穂乃果「……うん」
海未「では行きましょうか」
スタスタ
穂乃果「……」
海未「髪、伸びましたね」
穂乃果「そうかな。 あんまり気にしてなかったかも」
海未「昔は肩くらいまでの長さで、片側だけ結っていたんですよ」
穂乃果「そうだったんだ。 はは……。 今は伸び放題で腰辺りまできちゃってるね。 ……洗うの面倒くさい」
海未「切らないんですか?」
穂乃果「……うん。 できればこのままの長さで、ストレートに矯正したいなって考えてるの」
海未「どうしてです?」
穂乃果「それは……そうしたら海未ちゃんとお揃いだから、かな///」
海未(かわいい)
海未「べ、別に私みたいになろうとする必要はないと思います。 あなたはあなたのままでいてくれたほうがいいです」
穂乃果「でも私は少しでも海未ちゃんと一緒がいい」
海未「穂乃果……」
穂乃果「……」
海未「ちょっとそこのベンチに座りましょうか」
穂乃果「紅葉見に行かないの?」
海未「急がなくても逃げたりしませんからね。 ここで少し休んでいきましょう」
海未「それにさっきから左足引きずってるのも息が荒くなってきてるのもバレバレです。 まだ人並みの体力まで戻ってないんですから、ムリはしないでください」
穂乃果「……気づかれないようにしてたのに。 やっぱり海未ちゃんはすごいね」
海未「ふふっ、何年あなたの幼馴染やってると思ってるんですか」
穂乃果「……」
海未「はい、穂乃果。 あったかいココア買ってきました」
穂乃果「ありがとう」カシュッ
穂乃果「……ん、……あちっ。 火傷しちゃった」
海未「……だからあったかいって言ったじゃないですか」
穂乃果「舌ヒリヒリするよー……。 ううぅ……」
海未「……ねぇ、穂乃果?」
穂乃果「なぁにー? あぅー……」
海未「……家に戻るの……不安ですか?」
穂乃果「……。 どうして?」
海未「いえ、なんだかそんな気がして」
穂乃果「…………」
穂乃果「ねぇ海未ちゃん。 私ってさ、高坂家の長女なんだよね」
海未「はい、間違いないです。 高坂家の長女で、穂むらの跡取りです」
穂乃果「……でも私にはさ、その家で生きてきた記憶が少しも残ってないんだ。 だから自分の家に帰るんだっていう自覚が全然持てなくて……」
穂乃果「病院の個室にいるときはまだ楽だったよ。 そこが誰のものでもない部屋だってわかってたから。 でも家に帰ったらさ、自分の家、自分の部屋があって……。だけどその『自分』っていうのは今の私じゃない、高校2年生までの記憶を確かに持っていた本物の高坂穂乃果であって、その高坂穂乃果の暮らしてた部屋なんだよね……」
穂乃果「雪穂やお母さんたちも私のことを大切な家族として接してくれる。 けどね、私にはまだあの人たちを家族として見ることができないの……。 ひどいよね、私……。 あんなに心配してくれてる人たちのことをまだ他人としてしか見れてないなんて……。 だから、自信がないの。 私はちゃんと……高坂家の長女としていられるのか……」
海未「……」
穂乃果「跡取り……かぁ。 私みんなの足引っ張っちゃいそうだな……。 もしかしたら勘当されちゃったりして。 ……はぁ」
海未「……」
ナデナデ
穂乃果「?」
海未「……難しく考える必要はありませんよ。 あなたは確かに高坂穂乃果で、記憶を失くす前の高坂穂乃果と同じ人間です。 あなたの記憶にはまだ5ヶ月分の記憶しかないかもしれませんが、私にはあなたと過ごした16年間、ただ目を覚ますのを待つことしかできなかった6年間、そして『現在』のあなたと過ごした半年の全部を覚えています。 だからそのですね、えっと……」
海未「もしあなたがこのまま何も思い出せなくても、あなたの知りたい過去は全部私が教えてあげますから。 私にはわからないこともおじさんやおばさん、雪穂が知っています。 だから頼っていいんですよ。 私はあなたの親友で、雪穂たちはあなたの家族なんですから」
穂乃果「……ふふ。 海未ちゃんも案外口ベタなんだね」
海未「なっ……! も、もう! そういうことは言わないでください!」
穂乃果「ごめんごめん。 でも……ありがと。 おかげで元気出てきたかも」
穂乃果「大好きだよ。 海未ちゃん。 これからも私のこと支えてください」
海未「……はい。 任せてください」
ヤァァァ! メェェェン! イェアァァァ!
海未「ほらそこっ! 疲れてきましたか! 集中が切れてますよ!」
「は、はいっ……!」
「ふっ、師範。 試合中に練習してる子達に指示出すなんてずいぶん余裕ですね……!」
海未「……。 やぁ!」
パシィィン
「うっ、」
「い、一本!」
「くっ、見事です……」
海未「……ふぅ。 ありがとうございました」
海未(穂乃果、そろそろ病院を出て家に着いた頃でしょうか)
うみ母「失礼します。 海未さん、電話が来てますよ」
海未「あっ、すいません母上。 舞踊の方を任せきりなってる上に、電話まで出ていただいて……」
うみ母「いいのですよ。 それより早く出てあげてください。 穂乃果ちゃんからですから」
海未「穂乃果から? わかりました。 すいません父上、後はよろしくお願いします」
うみ父「うむ」
海未「もしもし。 どうしました?」
穂乃果『海未ちゃん、今から私の部屋に来れるかな?』
海未「今ですか? まだ私、稽古の途中なんですが……」
穂乃果『えっ!? そ、そんなときに電話しちゃってごめん! じゃあ切るね!』
海未「ちょっと待ってください! ……そうですね。 あと2時間くらいで終わるので、それからでもいいですか?」
穂乃果『……うん。 ほんとに忙しい時にごめん。 それじゃあまた後で』
海未「はい。 それでは」
ガチャ
穂乃果「……」
ー1時間前ー
雪穂「この公園、昔よく遊んだんだよねー」
穂乃果「そうなの? あっ、野球してる子たちいるね。 もう寒いのに元気だなぁ……」
雪穂「私たちも小学生くらいのときはよくこんな寒い日でも遊んでたよ」
穂乃果「えー! 信じらんない……」
雪穂「雪の日も毎日のように四人で雪合戦したりしてさ。 ほんとに楽しかったなぁ……」
穂乃果「四人ってことは、私と雪穂と海未ちゃんと、あとはこと……」
カキィィィン!
「わっ、ばか。 強く打ちすぎだっての。 お前自分でとりにいけよな」
「わりいわりい。 ……ってあぁぁ!! そこのお姉ちゃんたち、危ないっ!!」
雪穂「えっ?」
ヒュゥゥゥウウ
雪穂「え、う、うそ!? ぶつかる……っ!」
穂乃果「……っ、雪穂……!!」
ドンッ
雪穂「わっ、きゃぁ!」
ゴッ
穂乃果「……あぐっ……」
雪穂「お、お姉ちゃん大丈夫!? 今頭にボールが……!」
穂乃果「……」
「ご、ごめんなさい!! 怪我はないですか!?」
穂乃果「…………え、えっ……うっ、な、なにこれ……頭の中が……気持ち悪……!」
「お、お姉さん! お、お、おい! お前救急車呼んでこい!」
「わ、わかった!」
穂乃果「……待って」
雪穂「お、お姉ちゃん……?」
穂乃果「……ふふ、大丈夫だよ。 全然なんともないから。 はい、ボール」
「あ、ありがとう……」
穂乃果「元気なのはいいことだけど、今度からは気をつけてね?」
「は……はい。 本当にすいませんでした」
タッタッタッタッ
穂乃果「さてと、家に帰ろっか?」
雪穂「ほ、ほんとに大丈夫なの? さっき吐きそうになってたけど」
穂乃果「大丈夫大丈夫! 私はそんなにヤワな人間じゃないよ」
スタスタ
雪穂「あ、待ってよ!」
穂乃果「ほら、家まで競争だよ!」
雪穂「ちょっと、走っても大丈夫なの!? お、おねーちゃーん!」
雪穂(…………ん、あれ? どうしてお姉ちゃん、家までの道わかるんだろう。 私の知らない間に何回か帰ってきてたのかな?)
ー現在ー
ガララー
ほの母「いらっしゃいませ。 って海未ちゃんじゃない」
海未「こんばんは、おばさん。 穂乃果いますか?」
ほの母「ええ。 穂乃果ー! 海未ちゃん来てるわよー!」
「はーい! 今行くから待っててー!」
海未(おや? 穂乃果の部屋にきてほしいって言われてたはずですが……。 気が変わって外を歩きたくなったのでしょうか)
穂乃果「おまたせ海未ちゃん♪ いこっか!」
海未「はい。 ところでどこへ行くんです?」
穂乃果「それはまだわからない!」
海未「わからないって……。 まぁそういうところはあなたらしくていいと思います」
穂乃果「えへへ。 それじゃあ行ってくるねお母さん。 晩御飯も外で食べてくると思うから!」
ほの母「あら、そうなの? せっかく今から海未ちゃんの分も用意しようと思ったのに」
穂乃果「ごめんごめん。 それじゃ!」
海未「あ、ちょっと待ってください。 外で食べるなら私も一度家に戻ってお金を持ってこなくては……」
ガララー
ほの母「……ふふふ。 今の穂乃果、なんだか昔のあの子を見てるみたいだったわ。 さてと、お店も閉めてご飯の準備しなくちゃ」
ほの母「……あら? 包丁が一本ないわね」
海未「ではどこへ行きましょう。 夜の秋葉原でもまわりますか?」
穂乃果「ううん。 実はね、行きたいところがあるんだけど、場所がわからなくて」
海未「あぁなるほど。 それで先ほどは『決めてない』ではなく『わからない』と言ったのですね」
穂乃果「そうなの。 それでね、私が行きたいところって言うのは……」
海未「……」
穂乃果「うぅぅ……やっぱり夜に来るべきじゃなかったかなぁ……。 怖いぃ……」
海未「あの、どうしてここに来たいと思ったのですか?」
穂乃果「どうしてって、私が目を覚ましてから一度も来てあげたことないからさ、」
穂乃果「ことりちゃんのお墓」
海未「……確かことりの7回忌に一緒に行かないかと誘った時、『記憶のない人間が行ってもきっとことりさんは喜ばないから』とか言ってついてきませんでしたよね?」
穂乃果「……うん。 でも普通に考えたらそんなのおかしいよね。 記憶がなくても私は私、高坂穂乃果なんだもん。 たとえ記憶には残ってなくても、ことりちゃんと一緒に過ごした過去は消えたりしない。 私が顔を出すだけでも、ことりちゃんはきっと喜んでくれたはずなのに」
穂乃果「ことりちゃん、ごめんね。 6年も会いに来なくて、さみしかったよね。 ことりちゃんが死んじゃう間際のことも海未ちゃんから聞いたよ。 本当にごめん。 ことりちゃんが痛い思いしてる間に私はずっと呑気に眠っていて……死目にもそばにいてあげられなくて……挙げ句の果てには海未ちゃんを勘違いしたまま天国に行っちゃった……」
穂乃果「私のこと……きっと許してくれないかもしれない。 でも海未ちゃんはなにも悪くないの! ことりちゃんがいなくなるって知って急に態度変えたのは私! ことりちゃんが準備が忙しくて学校来れなくなっても家まで様子見に行かなかったのも私! 電話やメール、何回もしてくれたのに……グスッ、無視、したのも……うっ、う、わたし……! ごめんね……ことりちゃん……私があなたを引き止めていればこんなことにはならなかったんだよね……!」
海未「……! 穂乃果、あなた記憶が……!」
穂乃果「ゴシゴシ……うしっ。 それでね、私決めたんだ。 ことりちゃんの分まで全力で生きるって! ことりちゃんができなかったこと、全部私がしてあげる! だからさ、もしできるなら…………私たちのこと、暖かく見守って欲しいんだ」
穂乃果「そんで手始めに…………。 海未ちゃん」クルッ
海未「……?」
穂乃果「私と付き合ってください」
海未「……! ちょっと待ってください! 何があったか知りませんがもう記憶は戻ってるんですよね!? それなら思い出したはずです! あなたとことりは……っ!」
穂乃果「……」
…………
ことり「ねぇ海未ちゃん聞いてー♪」
海未「どうしましたことり。 なにやらいつにも増して上機嫌ですね」
ことり「昨日ね、穂乃果ちゃんに告白したんだ☆」
海未「……はい?」
ことり「そしたらね、穂乃果ちゃんもずっと私のこと好きだったんだって! だから私たち付き合うことにしたの」
海未「……え……穂乃果と……ことりが……? えっ……?」
海未「いや、ちょっと待ってくださいよ。 どうして穂乃果は私のことが好きなのにことりの告白を受け入れたんですか?」
ことり「うーん、自分がおかしなこと言ってるって自覚はないんだね」
海未「だってことあるごとに『海未ちゃん海未ちゃーん!』と私のところへやって来るかわいい穂乃果が私以外の人を見ているはずがないんです。 だからもう一度確認してきては? おそらく妄想と現実の区別をつけられずに自分の都合のいい方向に返事を解釈してしまったのでは、と私は思うのですが」
ことり「そこまで言うんだ……。 それじゃあ本人に直接聞いてみよう」
穂乃果「」zzZ
ことり「穂乃果ちゃーん。 起きてー」
穂乃果「ふ、ふわっ!? 地震……!? きゃ、お父さんが家の下敷きに! わ! どこからともなく金髪の巨人がこっちに! あぁお父さんが……!」
穂乃果「やめろおおおおおぉぉぉ!」ガバッ
穂乃果「…………あれ?」
ことり「穂乃果ちゃんおはよ」
穂乃果「…………。 なんだ夢だったんだ……よかった。 それじゃあおやすみ」zzz
ことり「ちょ、穂乃果ちゃん!? 起きてってばぁ!」
穂乃果「……んー、もうなにサ! なんなのサ! 人がせっかく気持ち良く眠ってるっていうのに!」
海未「というか学校は気持ち良く眠る場所じゃありません」
ことり「あのね、確認したいことがあるの。 私と穂乃果ちゃんって付き合ってるよね?」
穂乃果「え?」
海未「ほら見なさい。 やはりあなたの勘違いで……」
穂乃果「当たり前でしょ。 ことりちゃんには私が16年半守ってきた処女をあげたんだから。 あれが夢だったって言うんなら私発狂して窓から飛び降りるよ」
ことり「いや、昨晩のことは夢じゃないから安心して? ほらね海未ちゃん、穂乃果ちゃんもこう言ってるし……ってあれ? 海未ちゃん?」
海未「……はぁ、今日はいい天気ですね。 こんな日は空を飛んでみたいと思いますよね。 よし、飛ぼう」
ことり「わぁダメだよ海未ちゃん! 飛び降りないでー!」
海未「空を自由に飛びたいなー。 ハッ! それなら自力で飛んでみなさい!」
ことり「ほ、穂乃果ちゃんも抑えるの手伝って! 穂乃果ちゃーん!」
穂乃果「枯れない桜の木の下でまた逢いましょう……むにゃむにゃ」
ことり「穂乃果ちゃーん!」
海未「……気づいたら夜になってました。 昼間のことは実は夢で……なんてオチは用意されてないみたいですね、悲しいことに」
海未「……それにしても、まさか本当に穂乃果とことりが付き合ってるなんて……。 ……なんで私が選ばれなかったのでしょうか……。 なんで、どうして……? そもそもあなたは廃校を阻止するために頑張るって、今はそれが大事だからって真剣な顔で言ってたから私は邪魔しないようにとこの気持ちを伝えるのを我慢してたんですよ……?」
海未「……もし、もし告白していたら今頃はことりではなく私があなたの隣にいれたのでしょうか……。 穂乃果から毎日送られてくるおやすみのメール……、それを見てこんなに寂しいと思ったのは初めてです。 今あなたは一人で、ベッドに横たわりながらこのメールを打っていたんですか? それともことりの隣で……」
海未「……ううん、今の私がすべきことは掴むことのできなかった過去を悔やむことではなく、親友2人がこれから幸せになるように手伝いをする……、これですよね。 ……そうですよ。 ことりは私なんかよりもずっと女の子らしくて可愛い。 惹かれるとしたら間違いなく私みたいな古風な武道少女よりもことりのようなふわふわしてるわたあめみたいな女の子ですよね。 ……なんだか言ってて虚しくなってきました」
ー1ヶ月後ー
海未「どうしましたことり。 急に家にきてほしいなんて」
ことり「うん……。 海未ちゃんには伝えておかなくちゃと思って……」
海未「?」
ことり「私ね…………留学することになったんだ」
海未「……え? 留学……?」
ことり「……うん」
海未「駅前留学……?」
ことり「それはわざわざ家まで来てもらって打ち明けることじゃないよね」
ことり「外国に行くんだ。 それでたぶん……高校在学中には帰ってこれないと思う。 すごく厳しい学校で毎日課題やレポートやらで忙しくて、でも有名なデザイナーを何人も輩出してるところだから私もうまくいけば……なんて」
海未「それを穂乃果には伝えたんですか?」
ことり「……ううん、まだ」
海未「私よりあの子に言うのが先では?」
ことり「……そうだよね。 でも、言ったら私の覚悟が揺らいじゃう気がして……」
海未「確かに穂乃果にはあなたを快く送り出すなんて器用なマネ、できないでしょうしね」
ことり「穂乃果ちゃんに行かないでって言われたら、私きっと頷いちゃう……。 だからね……もうどうしようもないって時になるまで、伝えずにいようと思うの」
海未「きっとショック受けますよ。 あの子も、あなた自身も」
ことり「でも私……挑戦してみたいんだ。 自分のやりたいことをこの手に?んで、」
ことり「そして必ず穂乃果ちゃんのことを迎えに来る」
海未「……」
海未「そうですか。 私は引き止めたりなどしませんよ。 大事な親友の人生をかけた一大決心なんですから」
ことり「ありがとう。 海未ちゃんならそう言ってくれると思ってたよ」
海未「でも勘違いしないでくださいね? 別に穂乃果を横取りしたいからあなたにいなくなってほしいわけではないですから。 むしろあの子を正々堂々と取り返すにはあなたがこちらにいる必要がありますし、だから…………」
海未「どうか風邪もひかず、元気で過ごしてくださいね。 帰ってくるの……待ってますから……グスッ」
ことり「海未ちゃん……泣かないで」
海未「……はい、はい……。 ごめんなさい、何年も会えなくなってしまうと考えたら目頭が熱くなってしまって……ごめんなさい。 泣くつもりはなかったのですが……涙が止まらなくって……」
ギュッ
海未「ことり……」
ことり「海未ちゃん、私のためにそんなに泣いてくれてありがとう。 大好きだよ」
海未「私も大好きです……」
ことり「……ねぇ、最後に一つだけお願いがあるんだ。 聞いてくれるかな?」
海未「なんですか? 私にできることでしたらなんでも……」
ことり「穂乃果ちゃんを守ってあげてほしいの」
海未「……守る? 何を言っているのですか。 それはこれまでもこれからもあなたの役目でしょう?」
ことり「そうなんだけどさ、穂乃果ちゃんってほら、今とても頑張ってるでしょ? どうにか廃校を阻止したいって毎日寝る間も惜しんで方法を考えてさ、でもそんなに頑張り過ぎたら穂乃果ちゃんが壊れちゃう。 だからそうならないように、私の代わりに穂乃果を助けてあげて」
海未「……当たり前ですよ。 今までだってあなたたち2人のことを変わらず助けてきたつもりです。 だからあなたがいなくなったとしても何も変わりません。 あの子が困っている時に手を差し伸べる、それだけです」
ことり「うん、それが聞けただけで十分だよ。 そうだ、これから穂乃果も呼んで三人で遊びにいかない?」
海未「私は構いませんけど……できるだけ2人きりで過ごす時間を多くもった方がいいのでは?」
ことり「ううん。 確かに私の恋人は穂乃果ちゃんだけどね、海未ちゃんのことだって穂乃果ちゃんに負けないくらい大好きだよ。 だからそんな2人と……残された2週間を大切に過ごしたいの」
海未「はい……わかりました。 では穂乃果を呼びましょう。 家の手伝いで忙しくなければいいのですが」
ー時は過ぎー
海未「とうとう今日が来てしまいましたね……」
ことり「うん……」
海未「ことり、元気を出してください。 穂乃果もきっと別れが辛いだけなんです」
ことり「そう……だよね」
ことり「ねえ、あの日にしたお願い覚えてる?」
海未「穂乃果を守ってほしい、ということですか?」
ことり「うん、それ。 ずっと穂乃果ちゃんのこと見ていてあげてね。 ……もし私が帰ってこれなくなるようなことがあっても」
海未「え? 数年後には必ず帰ってくると言っていたではありませんか」
ことり「そうだけど……もしあっちで重い病気にかかっちゃったりとか、事故に遭ってとても帰れる状態じゃなくなったらさ……」
海未「な、なにを縁起でもないこと言って……」
ことり「お願い」
海未「……ズルイです。 そんな真剣な目をされたら断れるわけないじゃないですか」
海未「心配しないでください。 仮にあなたがあちらで大成功して日本に帰ってこれなくなるほど忙しくなったとしても、わたしたちがあなたの元へ遊びに行ってあげますから。 だから安心して勉強がんばってきてくださいね」
ことり「うん。 本当に……海未ちゃんが幼馴染でよかった。 大好き」
海未「ふふ、前にも聞きましたよ」
ブーン
海未「ほら、バスが来ますよ。 やっぱり私も空港まで……」
ことり「ううん、大丈夫。 空港で……最後に話したいことがあるから」
海未「話したいこと? ……あ、」
海未(家族水入らず、ということですね)
プシュー
海未「はい、それではここで。 また会える時を楽しみにしていま……」
チュッ
海未「……?」
ことり「ばいばい……!」
ブーン
海未「まったく、気が早いですね。 まだここは日本ですよ」
海未「……さて、家に帰りますか。 これから2人で廃校阻止に向かってがんばっていかないといけないんですよね……。 あの猪突猛進の穂乃果をひとりで面倒みていかなくちゃいけないとか……まったく、骨が折れます」
ポタッ、ポタッ
海未「……あ、いま……こんな顔で歩いてたら私、へ、変に思われちゃいますね……。 う、うぅぅ……うぅ……グスッ」
…………
海未(私が穂乃果と付き合えない理由……、それは記憶を無くした穂乃果はことりが好きだったという過去をも忘れていたから。 そんなあなたが私のことを好きになってもそれはきっと雛鳥が初めて見た相手を親と思いこむくらいニセモノで、……そして何より、記憶を戻したあなたに急に捨てられるのが私自身怖かったからなのかもしれません)
海未(でも今私の目の前にいるのは……記憶を全て戻した穂乃果。 その穂乃果が私と付き合ってほしいと言ってるということはつまり……)
海未(いいんですか……もう。私、自分の気持ちに素直になってしまっても……)
↓E↓F
↓E
海未「穂乃果、私はことりと約束したんです。 帰ってくるまであなたのことを守る、と」
穂乃果「でもことりちゃんはもう……」
海未「はい。 ことりはもうどこにもいません」
穂乃果「だから……っ!」
海未「……私は、怖いのかもしれません。 死に際のことりにあんなことを言われて……それで穂乃果と一緒になってしまったらあの子になんて言われるんだろう、とか……思ってしまって……。 また恨まれるんじゃないかって……」
穂乃果「そ、そんなことないよ! ことりちゃんだってきっと生きてるわたしたちには幸せになってほしいと思ってるはずだよ!」
海未「そうだとしても……あなたは私にとって守るべき対象であり、」
海未「そういった特別な感情は持てないです……」
穂乃果「……嘘つき」
海未「裏切り者になるよりはマシです」
海未「ことり、安心してください。 穂乃果のことはちゃんと私が守っていますから」
穂乃果「……」
海未「ではどこか飲食店に行きましょうか。 あまり外に長くいると風邪を引いてしまいます」
穂乃果「後悔……しても知らないよ」
海未「……しませんよ。 これが自分で決めたことですから」
ー数年後ー
穂乃果「ありがとうございましたー!」
雪穂「またのお越しをお待ちしてます!」
穂乃果「ふぅ、今日はこんなものかな。 雪穂、外の片付けしてくるから中はお願い」
雪穂「いいよ、私がやっておくから。 お姉ちゃんはそんな身体なんだからゆっくりしてて」
穂乃果「もう、まだ私は全然動けるよー?」
雪穂「お姉ちゃんがそれを言っても全然信頼できないんだって……」
穂乃果「あーひどーい!」
ガラガラ
穂乃果「あっ、いらっしゃいま……」
海未「こんばんは」
穂乃果「あ、海未ちゃん! 帰ってたの!?」
海未「ええ、昨日の夜に。 弟子に勧められて出た全国大会でしたけど、他の選手たちの動きを見ることができてとても勉強になりました。 」
穂乃果「結果は!?」
海未「もちろん、優勝です」
穂乃果「うわぁ、すごいね! じゃあ日本一?」
海未「恥ずかしいですけど、そうなりますかね。 それよりどうです? 様子は」
穂乃果「もぉ、海未ちゃんもすぐそうやって……」
雪穂「だって本当に気になるんだもん。 ね?」
海未「ですね」
穂乃果「そういう海未ちゃんの方はどうなのさ? 順調なの?」
海未「……実は先ほど病院にいってきたんです」
穂乃果「おっ、てことは?」
海未「私のお腹にも、新しい命が宿ってるそうです」
穂乃果「本当!? 海未ちゃんおめでとう!」
海未「これでうまくいけばまた私たちの子どもも幼馴染にできそうですね」
雪穂「いいなぁ2人とも……。 私も早く結婚したいなぁ」
穂乃果「あれ? 付き合ってた彼とはどうなったの?」
雪穂「もう別れたよ……。 身体目当てのゲス野郎だったんだもん」
穂乃果「それはそれは…………あっ」
海未「穂乃果?」
穂乃果「いま……動いた」
雪穂「ほんとに!? さわらせてさわらせて!」
穂乃果「ふふふ、いいよ♪」
海未「私もさわっていいですか?」
穂乃果「もちろん、ほら」
海未「男の子か女の子、どっちなんでしょうね」
穂乃果「私は……女の子がいいかな」
雪穂「どうして?」
穂乃果「この子には……私とは違って、自分の信じた道を進んでほしいから」
海未「では私の子も女の子がいいです」
穂乃果「どうして?」
海未「あなたと同じ理由ですよ」
穂乃果「そっか」
穂乃果「楽しみだね」ニコッ
海未「ええ」
GOOD END「それぞれの道」
↓F
海未「本当に私でいいんですか?」
穂乃果「うん。 私……海未ちゃんのこと好きだから……」
海未「それではお付き合いしましょうか。 ま、まぁ私たち女同士ですけど……」
穂乃果「そんなの気にしないよ。 だって女の子を好きになっちゃいけないなんて絶対おかしいと思うもん」
海未「それもそうですね。 では、もしそのことで私たちを邪魔する人が今後現れても、私が必ず守ってみせますから」
穂乃果「うん、ありがとう。 大好き」
海未「……」
ことり(うん。 本当に……海未ちゃんが幼馴染でよかった。 大好き)
穂乃果「海未ちゃん?」
海未「穂乃果は……」
海未「穂乃果はもう……私の前からいなくなったりしませんよね?」
穂乃果「とうしたの? 急に」
海未「……ぁ。 い、いえ、なんでもないんです。 今のは聞かなかったことに……」
ギュッ
海未「あ……」
穂乃果「大丈夫。 もう私はいなくなったりしないよ」
海未「…………はい。 もうひとりにしないでくださいね……? すごく……さみしかったんですから」
穂乃果「もちろんだよ。 ……だから、ね? 目、閉じて」
海未「……え? あ、あの……そんな……ことりのお墓の目の前で……」
穂乃果「……海未ちゃん」
海未「あっ、ほ、ほの…………ん」
ドスッ
海未「………………え?」
穂乃果「ずっと一緒だからね、『私たち』。 またあの楽しかった頃に戻ろう」
海未(……お腹が熱い……。 何か……刺さって……)
穂乃果「6年半……か。 すごく時間かかっちゃったな」
がんばってきます
……
ことり「……」
穂乃果「遅かったね」
ことり「よかった。 メールみてくれてたんだ」
穂乃果「…………ていうかさ、何分待ったと思ってるの? 普通呼び出した人の方が先に来るよもんだよね」
ことり「ご、ごめんね。 大事なもの忘れて一回家に戻っちゃって」
穂乃果「ふーん……」
ことり「……」
穂乃果「……」
ことり「ねえ穂乃果ちゃん、私のこと好き?」
穂乃果「ずいぶん唐突だね」
ことり「お願い、答えて」
穂乃果「……さぁ、どうだろ。 3日前に急に留学することになったなんて言う人は好きじゃないかもしれない」
ことり「……ごめんね」
穂乃果「もう遅いよ。 ことりちゃんはあと1時間もしたら私のところからいなくなって遠くへいっちゃう。 今ことりちゃんを許しちゃったらただ大好きだった人を待つことしかできない辛い日々が待ってるだもん」
ことり「……」
穂乃果「何?」
ことり「穂乃果ちゃんはさ、本当に私のこと好きだったの?」
穂乃果「……だから今は……」
ことり「違う。 今じゃなくて、私の告白に応えてくれたときの穂乃果ちゃんは本当に私のこと好きだったの?」
穂乃果「……なにを言ってるの? 好きじゃなかったらOKするわけ……」
ことり「……じゃあ……どうして3人でいるときに海未ちゃんばかり見てたの? どうして2人でいるときに海未ちゃんとの話ばかりしてきたの……?」
穂乃果「……え?」
ことり「私ね、ずっと不安で不安でどうにかなりそうだったんだよ? 本当に穂乃果ちゃんは私のこと見ているのかなって。 ……でも私、嫌われたくなかったから聞けなかった。 だけど……どうせ私はここからいなくなって、当分会えなくなる。 だから……今ちゃんと聞いてみたいんだ」
ことり「穂乃果ちゃんは……海未ちゃんのことが好きなんじゃないの……?」
穂乃果「……」
ことり「……」
ことり「答えて……くれないんだね」
穂乃果「…………ことりちゃん、元気でね」
スッ
ことり「あっ! 待って……穂乃果ちゃ……っ!」
スタスタスタ
ことり「……穂乃果……ちゃん」
ことり「……」
ことり「………………あはは。 穂乃果ちゃんはなにも言わなかったけど、その背中をみただけで全部わかっちゃうよ……」
ことり「でも……そんなんじゃ余計悲しいよ……。 私は多分、今までの思い出を一つ残らず否定されてキレイさっぱり諦められるような……そんな言葉を期待してたのに……」
ことり「……」
ことり「……ううん、こんなんじゃダメだよことり! あなたは穂乃果ちゃんのことが好きなんでしょ!? その気持ちを誤魔化すことなんてできないよね!?」
ことり「よし、決めた! 今度帰って来るまでに穂乃果ちゃんが一切よそ見もできなくなるくらいいい女になってやる! 絶対に! だからがんばる! がんばるぞー!!」
ー高坂宅ー
バフッ
穂乃果「……」
ことり『穂乃果ちゃんは……海未ちゃんのことが好きなんじゃないの……?』
穂乃果「……」
穂乃果「……そんなの、わからないよ。 この気持ちが恋愛感情なのか、同情でしかないのかなんて……。 逆に教えてほしいくらい……」
穂乃果「ことりちゃん、泣いてた……。 私があんな別れ方、それに一緒にいたときもあんな不安になる振る舞いをしていなかったら……ことりちゃんは今日もきっと笑顔でいけたはずだったのに……」
穂乃果「謝りたいな、ちゃんと顔を見て。 会いにいってあげたいけど……それじゃきっと迷惑になっちゃうね……」
穂乃果「だから……ことりちゃんが日本に帰ってきたときにはちゃんと伝えよう。 いままでごめんね、って。 これからは不安にさせたりしないから、って」
穂乃果「高校を卒業して、大学も卒業して……6年くらいかな。 長いな……」
穂乃果「……ふわぁ」
穂乃果(なんだか眠くなってきちゃった。 これからのことは…………起きてから考えよ……)
何で>>1も寝落ちしてんだ…
>>148
6年経ったら起きます
…………
ドサッ
海未「……くっ、それはおばさんが一番お気に入りにしている包丁。 高坂家の厨房には包丁が4本あってうち3本はセットになっておりそんなに多くの包丁を使う機会なんてないのについついお買い得だったからという安易な理由で買ってしまったもので、同じメーカーのはずだがこの包丁だけはやたらと切れ味がよく他の2本はというとこれまでを合わせても未だに5回ほどしか使われたことがないらしい。 しかも驚くことにこの包丁には他の2本と見分ける印のようなものは一切ついていないにも関わらず料理の際はまるで手に吸い付いてくるようにいつもこの包丁が選ばれるという。 これはおばさんのスキルのひとつなのだろうか、はたまた偶然なのか、それとも……。 無論おじさんが厨房に立つ際にはこのスキルは発動されない。 穂乃果と雪穂はまず料理をしない。 そもそもなぜこの包丁だけそんなに切れ味がいいのかというと、それは明確にされていない。 一説によると同じメーカーが作っている高級包丁を作る際に使われる金属がたまたま量産用の金属に混入してしまい、それによってこの包丁がまさかお買い得な値段で販売されることになってしまったとかそうでないとか。 そして今回、穂乃果がこの包丁を選んで持って来たのはただの33.3%という確率による代物だったのだろうか。 もしそのような偶然の産物でなく、必然だったなら……おばさんの能力はしっかりと娘にも遺伝されていることになる。 だが穂乃果が厨房に立つことはないため、この能力の遺伝を検証するための統計をとることはできない。 ちなみに残りの一本は私が昨年のおばさんの誕生日にプレゼントとして贈ったそこそこのお値段がする包丁である。 もちろん他の3本とは柄が異な…………」
ズサッ
海未「」
穂乃果「……ふふ。 海未ちゃん、ことりちゃん、私たち約束したよね。 いつかそれぞれ別の道に歩む日が来ても、それでもいつまでも一緒だって。 だからね、誰かが遠くへ行きそうになったら呼び止める、もう手遅れなら追いかける。 あの時も本当はそうしなくちゃいけなかったんだよね。 ことりちゃんはさ、無理矢理にでも引き止めて欲しかったんでしょ? 仮にあの問いに私が頷いていたとしても、大事な親友としてそばにいたかったんだよね。 それを私は……拗ねてそんなこと考えもしなくって……」
ギュッ
海未「」
穂乃果「海未ちゃんも私に殺されたなら本望だよね。 だって海未ちゃんが私のこと好きだったなんて小学生のときから知ってたんだから。 そんな私の手にかかって死んで、それでまた……」
グサッ
穂乃果「……ゴフッ……3人でいられるように……なれ……る……なら……、それが一番だよ……ね……」
穂乃果「……はぁ、はぁ……。 そ、そうだ……。 あっちで言うの……カハッ……忘れちゃいそう……だから……今言うね……?」
穂乃果「はぁ……ふぅ……。 私はね、ちゃんとことりちゃんのことみてたんだよ? ちゃんとことりちゃんのこと大好きだったんだよ? ……不安にさせちゃってごめんね……。 でも私たちが一緒になったら海未ちゃんがひとりになっちゃって……それがたまらなく嫌で、苦しくて、辛くて……。 海未ちゃんも一緒になれれば、って考えてたらいつのまにか海未ちゃんのことばかり見てて……」
穂乃果「だから……今あの時のことりちゃんの質問に、答えるよ」
穂乃果「ことりちゃんが言ったとおり、私は海未ちゃんが好き。 でもこれはことりちゃんへの好きって気持ちより優れてるなんてことはないし、劣ってることもない」
穂乃果「私は……2人が大好きだった」
穂乃果「……はぁ、はぁ……。 そ、そうだ……。 あっちで言うの……カハッ……忘れちゃいそう……だから……今言うね……?」
穂乃果「はぁ……ふぅ……。 私はね、ちゃんとことりちゃんのことみてたんだよ? ちゃんとことりちゃんのこと大好きだったんだよ? ……不安にさせちゃってごめんね……。 でも私たちが一緒になったら海未ちゃんがひとりになっちゃって……それがたまらなく嫌で、苦しくて、辛くて……。 海未ちゃんも一緒になれれば、って考えてたらいつのまにか海未ちゃんのことばかり見てて……」
穂乃果「だから……今あの時のことりちゃんの質問に、答えるよ」
穂乃果「ことりちゃんが言ったとおり、私は海未ちゃんが好き。 でもこれはことりちゃんへの好きって気持ちより優れてるなんてことはないし、劣ってることもない」
穂乃果「私は……2人が大好きだった」
穂乃果「だけどもうことりちゃんをこっちの世界に連れ帰ることはできない……。 それならさ、今度こそ私がそっちまで迎えにいくしかないよね。 でもそれじゃあまた海未ちゃんを置いていっちゃう」
穂乃果「だからちょっと強引だけど海未ちゃんも連れてきちゃった。 ……これでよかったんだよね……、これで……」
フラッ
穂乃果「あれ……」
ガンッ
穂乃果「あ……ぁ……ぐ……」
穂乃果(もう、ことりちゃんの身体硬いよ……。 頭が割れそう……。 ってこれは墓石か。 そりゃこんなに痛いわけだ)
穂乃果(もう目の前は真っ暗。 手足の感覚もない。 痛みなんて感じない。 あんなに賑やかな都会の喧騒も聞こえない。 寒い)
穂乃果(大人になったことりちゃん、きっとすごい美人さんになってるんだろうな。 海未ちゃんには……いきなり包丁で刺しちゃったこと怒られそうだな……)
穂乃果(海未ちゃんがお説教して、私が拗ねて、それを見てことりちゃんが微笑んでる。 そんな当たり前の日々にやっと戻れる。 だから、さ。け 今度こそ絶対に……)
しあわせに、なろうね。
TRUE END「世界が変わっても」
次回予告!!
海未「フハハハハ! いつから我が死んだと錯覚していたァ! 眠ったふりをしていただけなのだよ!」
穂乃果「ヒャッハァー! 儂もまだまだ闘えるぜェ!」
海未「よくも我に不意打ちをかましてくれたな! 今回は特別だ……、冥土の土産に俺の滅殺技を味合わせてやる!」
海未「くらえ、羅武・亜楼終吐ォォォォ!!」バシュゥゥゥ
穂乃果「ぬん!」パシッ
海未「……ッ!!」
穂乃果「ふっ、そんなチンケな技……儂には効かぬわ!」
海未「なん……だとォ!?」
穂乃果「冥土の土産とかなんだかとほざいておったな。 では儂は貴様にこの殺撃技を贈ってやるわぃ! これを喰らって今まで立ち上がれたものはおらん。 さて、貴様はどうだァ!?」
海未「ぬぅぅ……ッ!」
穂乃果「穂むら・まんじゅう!!」ドンンンンン!
穂乃果「それじゃあおやつにしよっか。 あっ、お茶持って来るから待っててね」
海未「はい」
ことり「2人とも……」
果たしてこの会話は一体!?
過去のもの? それとも未来のものか!?
そして3人は本当にあの楽しかった日々に戻れたのだろうか!?
次回 「試練」
お楽しみに!!(嘘)
おしまいです。
こんな稚拙な文章を最後まで読んでいただいた方、ありがとうございました。
このSSまとめへのコメント
屑ssやな
途中から読むのやめた
バッドエンド要らないだろ
やはりことカスは害悪ですね
えりちはうちとくっつくべきやねん