魔王「父親に後継がされたけど世界とか割とどうでもいい」 (25)

魔王「……はあ、思えば修行ばっかでつまんない青春だったなー。そう言えば、学び舎で一緒だったはーぴーちゃんは人間の男と駆け落ちしたんだっけ」

魔王「おじさーん、私、恋愛がしたいよー」

側近「おじさん呼ばわりはやめてもらえませんか? まだそのような年でもないので」

魔王「恋空とかしぇいくすぴあみたいな恋愛がしたいよー」

側近「……後者は勘違い自殺オチが主ですが、そのようなものでよろしいのですか?」

側近「魔王様には許嫁のヴァンパイア様がおられるでしょうに」

魔王「いーやーだー! けっこんする相手くらい自分で見つけるのー」

側近「我が儘はよしてください。御自分の身分を忘れないよう」

魔王「かーけーおーちー! 家出してやるぅう!」

側近「死んだお父様が悲しまれますよ」

魔王「うぅ……でも……」

側近「…………。また人間の街から恋愛小説でも買ってきてあげましょう」

魔王「ほんとにっ! いいの? この前雑誌とゲーム買ってきてもらったところなのに」

側近(こんなのが魔王で大丈夫なんだろうか。人間界制服まであと一歩だというのに、前魔王が病で亡くなるとは……)

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側近「……ことごとく本屋が潰れているな」

側近「まあ当然か、治安が悪化し、貨幣制度が崩壊しかかっているのだから」

側近「押し入れば中に本があるかもしれんが、この人型であまり目立つことはしたくないな」

側近「我々の魔の手がこんな田舎町にまで及んでいるとは知らなんだ」

側近「あ、ここの古本屋まだ電気付いてる」

店員「いらっしゃいませー」

側近「まだやってる本屋があったんですね」

店員「こんな世の中じゃ読書だけが生きがいだって人も少なくありませんから、店を畳むわけにはいきませんよ」エッヘン

側近「……なるほど。貴方、いい人ですね」

店員「いえいえ、貴方もよっぽど本が好きなんですね。今の世の中、外を出歩いてたらいつ魔物に襲われるともわからないのに」

側近「ははは、腕には自信がありますから。こうみえても城の兵士だったことがあるんですよ」

店員「おおっ! それじゃあこの辺りのモンスターくらいなんてことはありませんね」

店員「狭いですけど、色々な本を取り揃えてありますよ。倉庫とかも入ってみますか?」

側近「…………」

店員「お客様?」

側近「店員さん。本を売るより大事なことはないんですか? 例えば、家族と過ごすとか……」

店員「家族、ですかぁ……。死んじゃいました。父も母も、兄も恋人も」

側近「……すいません、変なこと訊いちゃいましたね。こんな世界じゃ珍しいことでもないのに」

側近「これと、あとこれをください」

店員(うぉう! 恋愛小説……それもベッタベッタの奴ばっか)

店員(あらやだロミジュリからBLものまでとは幅が広い殿方で……///)チラッ

側近「わ、私ではありません! プレゼント用です!」

店員「意外と多いんですよ、そういう人。大丈夫です、私、理解のある方ですから」グッ

側近「む、むすめです! 私のむすめが……」

店員(二十台にしか見えない……苦しい言い訳するなこの人)

店員「そうですか、ませた娘さんですね」

側近「ええ、本当に困ったもので」
(上手く誤魔化せたな)

店員(むすめ、かあ……私もあの人が死んでなかったら今頃……)

店員「ありがとうございました。また来てくださいね、死ぬまで店は開けておくつもりですから」

側近「ええ、こっちも生きていればまた来ますよ」

店員「娘さんがいるんですから、簡単には死んじゃあダメですよ」クスッ

側近「……そうですね」

店員「今度はもっとBLものも仕入れておきますね。数が少なくて申し訳ございません」グッ


側近「娘ですからね? 娘ですからね! 私ではなく娘が欲しがっているんですからね!」 

店員(そんなにムキにならなくても)

店員(行っちゃったか、久し振りのお客さん。そう言えばあの人、何かの本で見たことがあるような……)

魔王「おじさん、おじさぁーん!」バタバタ

側近「もうおじさんでいいよクソ。はい、なんでございましょうか?」

魔王「西の国の侵略に当たってたごーれむが殺されたって!」

側近「仕方ありませんね。大方勇者一行と鉢合わせでもしたのでしょう」

魔王「人間って魔族[ピーーー]の?」

側近「当然でしょう。何言ってるんですか」

魔王「だってちょっとどかーんってやっただけでいっぱい死ぬんでしょ? 人間にごーれむなんか殺せるの?」

側近「勇者一行は特別ですし。ほら、神崩れの加護とか色々受けてますから」

魔王「そーぞーできない……。勇者見てみたい!」

側近「ダメです」

魔王「うへへー王様の娘が夜中に城を抜け出して父と対立していた人に会いに行くなんて小説みたい」

魔王「こんどメイドに自慢しようっと」

魔王「西の国だったかな? 西の国西の国西の国」ブツブツ

魔王「私人型寄りだし、フード深く被ってたらばれないわよね、うん」

魔王「ふんふふんふ、ふー♪ ああ父上、罪深き私をゆるしくだされーいっ♪」タタタタッ

勇者「いやーこんなにお礼もらっちゃっていいのかな。勇者辞めて遊び暮らそうかな」

魔術師「バカかお前は。最近魔物の出現が増えて、今じゃほとんど通貨に価値なんかねぇよ」

勇者「そう言うなって」

魔術師「むしろほとんど物資的な援助をもらえなかったことに憤りすら感じるね」

勇者「宿がフリーパスになったじゃん」

魔術師「国民の命守ってようやく宿がフリーパスになっただけだぞ?」

魔術師「しかも国が無理矢理命じただけで、宿からしてみりゃただ赤字よ。いづれーつーの」

勇者「かたいなー魔術師は。だから魔術師はみんなネクラって言われんだ」

魔術師「だいたい! この宿屋自体今ではゴールドではなく、衣服やアクセサリー、食料品で客を泊めてるんだぞ」

魔術師「金なんかパン切れ投げたらいくらでももらえるだろうがっ!」

僧侶「仕方ありません、この国だって貧しいのです。子供の食料を奪ってでも援助しろとは言えないでしょう?」

宿の主人「あの、すいません」

勇者「はい、はいはい、なんでしょうか!」

宿の主人「えと、その、ゆ、勇者様はいつまでこちらにお泊りになられるのかと……。いえ、確認しておきたいだけでして、すいません、細かい性分なもので」ペコペコ

勇者「…………」

勇者「実は明日、他国で友人と会うことになっていまして。明日の朝には出発します」

勇者「すいません。フリーパスまでいただいたのに、なんだか好意を捨てるようで……」

宿の主人「そうですか。いえいえ、お気になさらず」ホッ

魔術師「…………」

店の主人「あ、あと……その」

勇者「うん?」

店の主人「どうしても今勇者様に会いたいと言っている方がいるのですが……連れてきて大丈夫でしょうか?」

勇者「どうぞどうぞ! はっはー、一応僕、ここの救世主だもんね」

店の主人「実は村の者ではないのです」

勇者「えっ?」

店の主人「それもかなり怪しい格好をしておられる方で……追い返しましょうか?」

勇者「大丈夫ですよ。ただ、外で会います。もしも魔物だったら建物が大変なことになりますからね」

勇者「その人物がいるところまで案内してください」

勇者「誰もいませんね」

店の主人「おかしいですね。先ほどあの川に行った帰りに会い、ここで待つと」

勇者「いたずらですかね」

店の主人「にしても腑に落ちませんね」

勇者「まさか、ここに僕を呼び出しておいて宿にいる仲間を……」

店の主人「な!!」

勇者「すいません、先に戻ります」ダッ

魔王「……思わずかくれちゃった」

魔王「私、何やってるんだろ」ハア

魔王「だって、知らない男と喋ったのだいぶ前だし……」

魔王「いきおいできちゃったけど、私、かなりはずかしいことことしようとしてたかも」

魔王「だって、ねえ。男の人よびだして何がしたかったの私? ばかなの、しぬの?」

魔王「帰ろう……よかった、れいせいになるのがはやくて」

魔王「あと少し遅かったら一生消えないこころのきずを負っていたかも」

魔王「明日からはまじめに世界ほろぼそう。魔法修行と通常の半分の義務教育しかしてない私に恋愛はむりなんだ」トボトボ

魔術師「どこに行くんだお嬢さんよ」

魔王「あばばばばばっ!」

魔王「ちがいますーそういうのじゃないですーえっとそのあっと……」

魔王「ゆーしゃにあいたいって言ってたの私じゃありませんー! 格好似てるけどべつじんですー!」

魔王「万年発情期の鳥頭ハーピーが言ってました! 私、男の人名指しで呼ぶようなハシタナイ子じゃありませんー!」

魔王「ぜーぜーはっは……」

ボウッ

魔王「うばあっ!」ドサッ

魔王「ななななな何するんですかー! あたってたら死刑ですよ死刑、私を誰だとおもってんだー!」アタフタ

魔術師「お前、魔族だろ。俺は他者の魔翌力に敏感でな、そういう薄っぺらい変装はわかるんだよ」

魔王「……ふぇ?」

魔術師「妙な魔力を感じて出てきたらこのザマだ。人に扮装しようなど、コスい魔物だな」

魔王(私が……魔王が、コスいものぉ?)プルプル

魔王(こんな奴、ちょっと私が上級魔法でぶっぱしてやればすぐに……)

魔術師(まずいな。誰か連れてくるべきだった。この魔力……俺の故郷を焼いた邪神官よりやばい)

魔術師(魔王がゴーレムの件を知って刺客を送ってきやがったんだ。クソ、こんなバケモノクラスのが魔王群にはゴロゴロいんのかよっ!)

魔術師(でかい魔法でも撃ってあいつらに気づかせるか)

魔王「だー! だれがこすいまものだぁぁぁぁぁぁあ!」

魔術師(俺のやるべきことはひとりでも多く国民を逃がすこと。ここは……もうダメだ)

魔術師「妙な魔力を感じて出てきたらこのザマだ。人に扮装しようなど、コスい魔物だな」

魔王(私が……魔王が、コスいまものぉ?)プルプル

魔王(こんな奴、ちょっと私が上級魔法でぶっぱしてやればすぐに……)

魔術師(まずいな。誰か連れてくるべきだった。この魔力……俺の故郷を焼いた邪神官よりやばい)

魔術師(魔王がゴーレムの件を知って刺客を送ってきやがったんだ。クソ、こんなバケモノクラスのが魔王群にはゴロゴロいんのかよっ!)

魔術師(でかい魔法でも撃ってあいつらに気づかせるか)

魔王「だー! だれがこすいまものだぁぁぁぁぁぁあ!」

魔術師(いや、ひとりでも多く国民を逃がすべきだ。ここは……もうダメだ)

魔術師「破滅の神は、最期に朽ちぬ刃をこの世に残した。いずれそれは神話となり、この世を乱す一筋となる……爆発魔法、ルイn」

魔王(詠唱も遅い……魔力もそこまで高くない……こんな奴にコスいまもの呼ばわりされるなんて)グググ

勇者「はい、そこまで」ポンッ

魔王「ん?」

魔術師「止めるな勇者っ! コイツはとんでもない魔力を持ったバケモノだ!」

勇者「…………」タッタッ

魔王「な、なんでこっちに来るの? ち、違うよ。私じゃないですよ、あなたを呼んだの」

魔王「ほらこのフード、隣国で流行ってて」ワタワタ

ばさっ

魔王「あうっ///」

勇者「ほら、見てよ。ただの可愛い女の子じゃないか」

魔王(か、かわいい?)

魔術師「どこがだっ! ただの悪魔とエルフのハーフだろうがっ!」

勇者「この耳に目……エルフが母親の場合に見られる顔立ちだ。つまり、育ての親はエルフである可能性が高い」

魔術師「だからと言って……」

勇者「この娘がまだ何もしていないのが、敵対する気のない何よりの理由だよ」

魔王「…………///」モジモジ

勇者「キミの魔族嫌いは知ってるが……目的を見失っちゃあダメだ」

魔術師「お前は、コイツの莫大な魔力がわかってねーからそんなことが言えるんだ!」

勇者「……ごめんね、急にフードを外したりして」

魔王「いえ、らいひょうふです……だ、大丈夫です」

勇者「それで、僕に何か用?」

魔王「え? ち、ちがます……私じゃ、私じゃなくて……」

勇者『ほら、見てよ。ただの可愛い女の子じゃないか』

魔王(……かわいい、おんなのこ)

勇者「そっか人違いか……それじゃあ」

魔王「やっ、やっぱりひとちがいじゃないれす」

勇者「…………?」

魔術師「は?」

勇者「えっと、じゃあどういう用件で……?」

魔王「うん?」

勇者「え?」

魔王「そ、そっか私が呼んだなら用事がないとダメだよね。えっと」アタフタ

魔王「ごめんなさい、やっぱり私じゃないです……」シュン

勇者「え?」

魔王(だ、だめだ。このままじゃお話が終わっちゃう……)

魔王「呼んだのは……私だけど私じゃないです!」

勇者「え? ああ、うん」

魔王(ダメだ……へんなこだと思われてる。かわいいけど変な娘だと思われてる///)

魔王「えっと、そうじゃなくて、私は私じゃないんですよ」

勇者「おおう?」

魔王「あ、そうじゃなくて。私はそもそもみんなが自分だと思っているものは自分なんでしょうかということを言いたかったのです」

勇者「…………」

魔王「五感が送られ、指示通りに動くものを自分としていますが、それは本当に自分とし得るのでしょうか? またその条件を満たすならば……」

魔王(あれ、私何言ってるんだろう)

勇者(どうしようこの人)


01

今から千年ほど前のこと、
魔法なんて便利なものはなく、この地は剣がすべてを制する戦乱の中心。

各地の支配者たちは権力を求め、何千もの兵を用いて何十万もの命を奪いました。

そうして膨大な権力を得たものを、人々は敬意と畏れを込め、王と呼ぶようになったのです。

これは、そんな王に仕えていた、とある男の物語です。』


店員「大昔に読んだ絵本、なんで私はこれを手に取ったんだろう……」

店員「よくあるやすっぽい伝説話、いつ死ぬかわからないんだから、もっと読んでおきたいものがあったような」

店員「死ぬ前なら、本読むより彼に会いたかったな」

店員「死んでからなら叶いますよーって。ははは……洒落にもならないか」

店員「……この挿絵の兵士、なんかどっかで見たことあるような」

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