梓「進撃の唯先輩」 (74)

突然狂人となった彼女は、連続通り魔事件を起こし逮捕された。
群衆に突っ込み次々と刺し、斬り殺した彼女に下された審判は【極刑】
これにて事件は幕を閉じた。

…かと思われていた。

キャスター「ニュースです、現在通り魔事件が全国で多発しており、目撃者の証言によると全て同じ女子高生が…」

そう、彼女「平沢唯」は極刑を下された後、全国あらゆる場所に出現し殺戮を再開した。
時には山奥の古びた集落で、時には繁華街のど真ん中で、時には海辺の公園で…
警察は彼女を捕まえる事に成功したが、彼女を「一人」捕らえたところで事態は収束しなかった。
「平沢唯」は全国どころか世界各地のあらゆる場所に「複数」存在していたのだ。
平沢唯は常人と比にならない高い身体能力と生命力を持ち、平沢唯が3人集まれば軍の一個師団を壊滅させられるとも言われた。
…事件から10年。
平沢唯は更にその個体数を増し、人類は平沢唯を恐れ外出する事に抵抗を覚えた。

しかし、世界にただ一箇所だけ平沢唯が出現しない地域が存在した。
「桜ヶ丘」と呼ばれるその土地は、最初の平沢唯の事件以降一切平沢唯の目撃情報のない地域だった。
人々は我先にと桜ヶ丘への移住を希望し、不動産屋は桜ヶ丘に多くの高層マンションを建てた。
しかし土地の関係上桜ヶ丘に籍を置ける人間は限られ、多くの人間が入居を拒否された。
だが、入居出来なかった人間が必ずしも桜ヶ丘を諦める訳ではなかった。
中には桜ヶ丘でホームレスとして生活を始める者も現れ、桜ヶ丘は人口密度世界一となった。
しかし、桜ヶ丘が平和だと主張できる根拠は「これまで被害にあっていない」というものだけだった。
人々は桜ヶ丘に立て籠もり、また桜ヶ丘を鉄製のフェンスで覆った。
その平和が永遠だと信じていた。

しかし、それは過信だった。

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「お待たせ、大行列のできるお店で買ったクッキーを持ってきたわよ」
そう言って「部室」に入ってきたのは、金髪のロングヘアが似合う、大手財閥の女社長「琴吹紬」だ。

律「おームギ、すごいな!クッキーだなんて!」

購買に行列ができるクッキー。
これだけ聞けばさぞ上質なものを思い浮かべるだろう。
しかしこの桜ヶ丘においては、そうではなかった。
人口密度が食物の生産量に合わず、ほぼ全ての店に人集りが出来る為、何も珍しいものではない。


紬「梓ちゃんはまだかしら?」

律「あぁ、梓はまだ仕事から帰ってないよ、外部勤務だし」

「外部勤務」とは、桜ヶ丘以外の土地での勤務を指す。
桜ヶ丘内部での就職希望者が多い分、外部勤務を希望する者は極端に少なくなった。
それに伴い多くの企業が破産、もしくは企業縮小となった。
残された桜ヶ丘外部に勤めなければならない公共機関は人手不足となり、給料を上げて希望者を募る他なかった。
そして、梓は桜ヶ丘市外で刑事として働いていた。

紬「そうね、それに刑事さんはこれだけ殺人事件の多い世の中じゃ…
律「おい!」

紬がいい終わる前に律は机を力一杯鳴らして叫んだ。

紬「…ごめんなさい」

律「ムギは悪くないよ…」

事件の事は律や紬の間ではタブーとされていた。
この事態の現況である平沢唯と多くの時間を過ごしてきた彼女達にとって、平沢唯の悪い話は全て不快になるもので、テレビのニュースなんかは絶対につけないようにしていた。

日がくれ、時計の針が二周目を終えようとしていた頃、梓は「部室」へとやってきた。

梓「すみません、遅くなりました」
「代わりに」と言わんばかりに大きくふくらんだスーパーの袋を3つ両手にぶら下げていた。
梓の小柄な体には不釣り合いだった。

紬「あらあら、梓ちゃん力持ちね」

梓「刑事をやっている以上どんな危険が迫ってきてもおかしくないので、これぐらいでへたれてたら話になりません」
そう言って梓はぶら下げていた袋を律と紬が向かい合ってる机に降ろした。

律「よーし、それじゃこの食材たちを私が調理して差し上げよう」

律は高校卒業後すぐに調理師免許を取ったが、職に付けず紬や梓に養ってもらう他無かった。
その代わりにという感じでその調理の腕を梓と紬の為に振るっている。

律「っしゃーできたぞ、それじゃお待たせ」

紬「今夜も美味しそうね」

梓「流石律先輩です!」

「よせやい」と律は照れ笑いする。
こうして、この日は「無事」に終わった。

翌朝、真っ先に目を覚ましたのは外部勤務の梓だった。

紬「梓ちゃん…体大丈夫なの?うちで雇ってもいいのに…」

梓ざ支度する物音で目を覚ました紬が梓に言う。

梓「いや、私はこの事件を絶対に解決させるんです。その為に刑事になったんですから」

そういうと梓はぶかぶかのコートを羽織って部室から出ていった。

そもそも、部室とは学校兼アパートと化した桜ヶ丘高校の一室であり、元音楽室だった場所は現在律達の居住スペースとなっている。
厳密に言えば「元部室」だ。

律「ん…おはよう、梓の奴また朝食も取らずに行ったのか?」

紬「えぇ…朝早くから夜遅くまで勤めて体大丈夫かしら…」

律「心配する気持ちはわかるけど梓が自分で希望した道だ、梓を応援してやろう」

紬「そうね、頑張れ梓ちゃん」

梓のいない部室で紬はそう呟いた。

紬が出勤した後、律は必然的に室内に一人残される事になる。

律「一人って暇だなー」

そういうと律はベッドからむくりと起き上がり、ジャケットを羽織る。

律「ちょっと散歩でもしてくるか」

そう言って律は部室から出る。
部室を出るとすぐに目に入るのは現在他人の居住スペースとなっている旧理科室や旧家庭科室だ。
学校の機関として使われているのは各クラスの教室だけで、他は全て住居となっている。
律は授業が行われてる教室の前をすっと通り、階段を降りた。

通勤ラッシュは過ぎたとはいえ大人口都市桜ヶ丘、校門を出たら人の群れだ。

律「うっわー相変わらず…あ、そうだ」

携帯電話を取り出して、メール送信画面を開く。
宛先は「梓」、内容は「今日の食材は私が揃えとくよ」と、シンプルなものだった。
勤務中の梓から返信が来る筈もなく、要件を送るとすぐに携帯電話を閉じて人の群れへと突っ込んだ。

律「うおらぁぁぁ気合だぁぁぁ」

とでも言わんばかりの勢いでスーパーまで向かっている途中、律は思わぬ遭遇をしてしまう。

人混みの中、律はある人物をはっきりと捉えた。
栗色のショートヘアに黄色の髪留めをした桜ヶ丘の制服を着た女子高生。
律はその姿に見覚えがない筈が無かった。

律「あ…あ…」

声にならない声を挙げ亜然としていると、その人物は人混みに消えた。
数秒後、律は我を取り戻す。

律「唯!」

そう叫んで彼女の後を追った。
直後、そう離れてない場所で悲鳴が上がった。
そして悲鳴は次々に広がっていき、人は悲鳴の現況から逃げ惑う。
そしてその空間に残った一人の女子高生を、率はその目にはっきりと焼き付ける事になった。

足元に血まみれの死体を数体転ばせて踏み付けている女子高生、平沢唯を。

銃声が響く。
警官が発砲した。
警察は対平沢唯時限定で報告無しに発砲する事を国に許可されている。
その条例のおかげで、これまでどの街も平沢唯に壊滅させられる前に平沢唯を射殺して被害を食い止めていた。
しかし今回はそう簡単にはいかなかった。
警察の発砲した弾丸が外れた。
いや、平沢唯が弾丸を避けたのだ。
「な…クソッ!」
連続で銃声が鳴り響くが、平沢唯はそれを全て踊るように避ける。
そしてそのまま警察ににじり寄り、手刀を作って警官を横からチョップした。

警官が右腕の肘から先を斬り落とされ、手刀が脇腹に食い込んでいるのに気付いた時には遅かった。
平沢唯が手刀をばっと抜くと脇腹と、先端の無い腕から鮮血が吹き上がった。

その時の平沢唯は、赤い眼をしてケタケタ笑っている。
もはや誰が見ても狂ってるとしか言い様が無いだろう。

律は狂った「元親友」を10年ぶりに目の当たりにし、どうにかなりそうだった。
声をかけなきゃいけない。
そんな使命感に捕らわれた律はなんとか言葉を探す。探して探して出てきた言葉がこれだった。

律「唯…お前、老けないな」

その言葉を聞いた平沢唯の笑いはピタリと止む。
眼の色も赤いソレから茶色混じりの黒に戻っていた。

唯「りっちゃんだ!」

そう言うと唯は律に嬉しそうに駆け寄る。
律はそれを拒もうとしなかった。目の前にいるのは狂った「平沢唯」じゃなく、高校時代の親友「唯」なのだから。
「りっちゃん、あのね---」

唯が言葉を発そうとした瞬間、銃声が聞こえ、その言葉は途切れた。
騒ぎを聞き付けてやって来た別の警官が発砲したのだ。
今度の弾丸は唯の頭部を的確に捕らえ、唯はその場に崩れ落ちた。

律「唯ィィィ!!!」

律はうつ伏せになった親友に駆け寄ったが、すぐに警官に引き離された。
「一般人は離れてろ!こいつは人間じゃない、バケモノだ!」
そういって警官はうつ伏せになった唯にこれでもかといわんばかりに弾丸を浴びせる。

律「やめろォォォ!!そいつはあたしの親友だァァァ!!!」

そう言って律は警官を殴り倒し、唯の頬にに触れる。
生暖かい血が律の手にべったりと付く。
それはどう見てもさっきまで生きていた「人間」だった。

直後、律は後頭部に強い衝撃を受け気絶した。

律は気が付くと見知らぬ部屋のベッドに仰向けになっていた。
ご丁寧な事に衝撃を受けた後頭部を癒すように冷たい枕が律の頭の下に敷かれている。
その枕の冷たさが律の頭に染み、「冷たっ!」と言って律は飛び起きた。

「気を取り戻しましたか」

聞き覚えのある声を聞き振り向くと、その声の主は梓だった。

律「梓…?唯は?唯はどうなった?」

律がそう言うと、「落ち着いて聞いてください」と梓が声をかける。

梓「律先輩、平沢唯は死亡しました」

律は、言葉を失った。

梓「すみません、状況をお伝えします、まずここは警察署で---」

梓が何か喋っていたが、律の耳には入ってこなかった。
しかし、ドアががちゃりと開いた音で律は我に返る。
そのドアから入ってきたのは、先ほど唯を射殺した警官だった。

警官「すまない、君と平沢唯の関係は中野刑事から聞かせてもらった、君の気持ちは理解した」

律「だったらなんで殺した!」

律が叫ぶと、警官は憂いの表情を浮かべ言った。

警官「今君の手元に銃があったら、親友を殺した俺をどうする?」
と言って黒いソレを律に渡した。

律「決まってるだろ!」
そう言って律はそれの引き鉄を引く。
すると小さなBB弾が警官の制服に当たる。

警官「俺も、同じ事をする」

その瞬間律は理解した。
唯に殺された警官はこの警官と親しかったのだ。
それもそうだろう、近隣ですぐに駆け付けれる警官なんてそういないし、同じ管轄の警官だろう。

律はおもちゃの銃を床に落とし、その場に泣き崩れた。

どれだけ泣いただろう。
律にはわからなかったが、時は律が思っていたより早く進んでいた。
窓から見える外は既に日が沈んでいた。

梓「落ち着きましたか?平沢唯と接触した人間がいると聞いて他所の署から飛んできてみたら律先輩だったなんて」

律「なんだよ、私じゃ悪いのかよ」

梓「いえ、心配なだけです、律先輩の事が。平沢唯と面識の無かった一般人ならただ聴取をすればいいんですけど」

律「梓ぁ、さっきから平沢唯平沢唯って、それが先輩を呼ぶ呼び方か?」

梓「…平沢唯は唯先輩じゃない、別物です」

梓のその口調に腹を立てた律は梓の胸ぐらを掴む。

律「唯は唯だ!どうなってたって唯なんだよ!」

そう言うと、後ろから律の肩に手が置かれる。
振り向くとさっきの警官だ。

警官「聞いた話だと中野刑事も最初は平沢唯の事を唯先輩唯先輩と言ってたらしいが、平沢唯の事件に携わっていくうちに呼び方を変えたらしい」

律「…どういう事だ、梓」

梓「だから、唯先輩はもういなくて、今いるのは平沢唯なんです。唯先輩と平沢唯は違うんです。律先輩もいつかわかります…」

そう言うと、律は梓を掴んでいた手を離した。
そして、聴取は終わったという事で律は居住区である桜ヶ丘高校へと送り帰された。

紬「りっちゃん、大丈夫?」

先に帰っていた紬が部屋に入ってきた律に駆け寄る。

律「ちょっと応えたかな…」

紬「ご飯…作っておいたよ」

律「ごめんムギ、食欲ない」

そう言って律はベッドに潜り、梓の帰りを待たずに眠りについた。

翌日、律が目を覚ました時には既に紬も梓もいなかった。
時計を見ると午前の11時ちょいを指している。

律「あぁ、もう行ったか…」

律は前日の唯の事が気になり、普段付けないテレビのニュースを付けた。

予想通り平沢唯の事がどのチャンネルでも騒がれていた。
「専門家」と称されて出てきた髭を生やしたオヤジは「平沢唯が桜ヶ丘に現れたという事は、桜ヶ丘が必ずしも桜ヶ丘が安全という事では---」と言ってる最中に、律はリモコンの電源スイッチを押した。
画面が真っ黒になる。

律「あの時唯は私に何か訴えようとしてた…よし」

律はジャケットを羽織って、外へ出た。
「唯」を探す為に。

外はつい昨日と変わって人通りがやけに少ない。
桜ヶ丘市民の多くが平沢唯を恐れて外出を控えているのだ。
職場や学校に来ない人間も多いらしく、昨日営業してたコンビニが今日は営業してない。なんの為のコンビニエンスストアなのかと律は小一時間そこの店長に問い詰めてやろうかと思った。

そうこうしているうちに、律にある二人の人物の存在が脳裏を過る。
梓と共に刑事として勤めて突然消息を絶った「秋山澪」と、10年前の事件発生直後に消息を絶った、平沢唯の妹「平沢憂」
この二人を探し出せば手がかりは得られるかもしれない。そう思ったのだ。

…しかし、思うだけで律には何も出来なかった。
澪や憂の事なら確実に自分より先に梓が洗ってるだろうと思ったからだ。
部屋でゆっくり考えようと桜ヶ丘高校に戻ると、校門の手前にいた。
「平沢唯」が。

その眼は茶色掛かった黒だ。
そして、律を見るなり待っていたと言わんばかりの表情で駆け寄ってきた。

唯「りっちゃん!聞いて!」

律の寸前で止まった唯に対し、律はつい身構えてしまった自分を責めた。
唯は律に外を加えようとは全くしてこない。

唯「りっちゃん…どうしたの?」

律「あ、いや。で、どうしたんだ?唯」

唯「りっちゃんさ、私に老けないねって言ってくれたよね!その秘訣をりっちゃんに教えようかと…」

話そうとした唯が突然頭を抱え膝を付く。
「うっ…」と苦しそうな声を上げながら、ある言葉が律の耳にハッキリ聞こえた。

唯「りっちゃん逃げて!」

意味が全くわからない律は「お、おいなんだよ」と目の前の人物に話しかける。
顔を上げたその眼は赤に染まっており、狂った笑みを浮かべたあの平沢唯だった。

律「唯…?」

律が声を掛けた時には、平沢唯の手が律の目の前まで迫っていた。

「中野刑事!平沢唯が出ました!」
激しい形相でガタイのいい男が梓に叫びかける。

梓「場所は!?」

男「桜ヶ丘高校、内部です!」

直後、梓は戦慄した。

男「…中野刑事?どうされました?」

梓「…行きます」

男「え?」

梓「私、平沢唯に会いに行きます」

梓「とにかく行かせて!」

引き止める周囲の男女を振り切って車へ向かう。

「ダメです、中野刑事は情報処理が担当です、現場は機動隊に任せてください!」

と言って車の前に人が立ちはだかる。

梓「なら徒歩で行くまでです」

と言って梓が車庫から通りに出ると一台のパトカーが梓の目の前に止まった。

「中野刑事、乗ってください」

そのパトカーの運転手は、律の目の前で唯を撃った警官だった。

梓「助かります」

警官「いえいえ、ちょっと急ぎますよ」

そういうと警官はアクセルを思いっきり踏み込む。
ガタンと一度車体が揺れる、梓はガラスに頭をぶつけたがそんな事気にしていられる余裕は無かった。

梓「被害状況わかりますか?」

警官「ハッキリはわかりませんが、桜ヶ丘高校内部は全滅している恐れがあると…」

梓は膝の上で拳を握る。

梓「…急いでッ!」

警官「急いでます!」

そして桜ヶ丘高校に到着した梓は目の当たりにした。
校舎の全ガラスにべったりと付着してる赤。
そして校門前に立っている平沢唯の足元にうつ伏せになって血を流してる律を。

梓「律先輩が!」

警官「中野刑事、後方支援お願いします!」

そう言って警官は梓に一丁の銃を手渡すと、車から降りてもう一丁の銃を取り出し発砲した。
梓も平沢唯目掛けて発砲する。
梓は平沢唯を撃つ事を躊躇わない。
平沢唯が梓の知る唯とは違う事を、梓は理解していたから。

警官と梓の弾丸を平沢唯は舞うように避けていく。

警官「クソっ、なんで当たらないんだ!」

二人の弾を避ける平沢唯だが、二人分の射撃のせいで警官にも梓にも容易には近付けない。

梓「まずい、弾が…!」

梓の銃がガチャっと音を立てると同時に平沢唯は梓に走り寄ってきた。
直後機関銃の音が聞こえる。
平沢唯はバックステップでそれを全て躱して行くが、射撃は止まらず、平沢唯は校舎の2階までジャンプし、ガラスを破って校舎内に逃げ込んだ。

すると、梓の耳に聞き覚えのある声が聞こえる。

「梓、無事か?」

ヘルメットと防護服で身を固めている為その姿を確認する事はできないが、声と物言いですぐにその人物の正体を悟った。

梓「澪先輩!」

梓「澪先輩、何故突然姿を…」

澪「悪い梓、話してる時間はない」

そういうと澪は防護服とヘルメットを被り盾を持った機動隊の指揮を取り、桜ヶ丘高校の校舎を囲った。

すると澪は拡声器を取り出しお決まりとも言える言葉を言った。

澪「平沢唯、お前は包囲されている。大人しく出て来い」

すると正面玄関から唯が出てきた。
眼は茶色掛かった黒で、不安そうな表情を浮かべている。

「秋山隊長、奴は今正気です!」

澪「構わん、撃て」

直後大量の銃声が鳴り響き唯は身体中から鮮血を吹き上げ後ろに倒れた。

澪が右手を上げると、銃声が止む。
そして澪は梓に近寄ってヘルメットを外した。
やはり澪だった。

澪「久しぶりだな、梓」

梓「澪先輩…何してたんですか!突然いなくなって!」

澪「すまないな、とりあえず律は回収して病院に運ばせた、息はあるらしいから安心しろ」

澪がそう言うと梓は思わず胸を撫で下ろす。

澪「あまり詳しい事は話せないけど、とりあえず今ここで言える事だけ言っておこう」

澪「あれは唯のクローンだ。それも記憶、性格、容姿。全てをクローンが作られた当時のまま再現した夢のような」

梓「なんで唯先輩のクローンが殺戮なんかするんですか!」

澪「唯のクローンには容姿や記憶を保持する為に専門家ですら首を傾げるおかしな薬が投与してあってな、その薬の効能で身体能力は恐ろしく強化されてる」

梓「殺戮を行う理由になってません」

澪「それはまだわからないけど薬を投与した真犯人が何処かにいるんだよ」

梓「…どうして澪先輩はそんなに詳しいんですか?」

澪「私も実験台にされたからだよ」

梓「そんな…!なら澪先輩も唯先輩…いや、平沢唯みたいに狂暴化するんじゃ…!」

澪「そう思われて数ヶ月間監禁されていた、でも私は狂暴化しなかった、身体能力は恐ろしく跳ね上がったがな」

そう言うと澪は地面を軽く蹴った。
すると地面のコンクリートにヒビが入る。

梓「…澪先輩、澪先輩は自分も実験台にされたって言ってましたよね?もって事は他にもいるんですか?」

澪「あぁ、他に一人だけな」

梓「それは誰ですか?」

澪「今病院に運ばれた律だ」

梓「…え?」

澪「律は今はまだ息があるが間も無く死に至る。この薬が無ければな。この薬は再生能力まで恐ろしく活性化するらしくて、即死しない限りはどんな傷でも修復するらしい」

梓「…そうですか、私何も知りませんでした…刑事失格ですね…」

澪「いや、梓だけじゃない。今私が率いてる部隊と司法解剖を行った人間達以外は知らないよ」

澪が話を続けようとすると
「あ!あずにゃんだ!」
校舎から唯が出てきた。

澪「…ッ!?先輩撃て!」
澪がそう言うと射撃が始まる。
唯は一瞬にして蜂の巣となった。

澪「気を緩めるな、二体の平沢唯を確認したんだ!まだいてもおかしくない、突入するぞ!」

梓「え、澪先輩も行くんですか?」

澪「あぁ、まあ私は薬のおかげで唯と肉弾戦になっても簡単にはやられないから大丈夫だ」

そう言い終わると澪が右手を上げて合図する。
その合図と同時にヘルメットと防護服の集団は校舎に突入していき、その後に澪も続いた。

警官「中野刑事」

梓を乗せてきた警官が梓を見つめる。

梓「もちろんです」

そう言って、警官と梓も澪達に続いた。

梓達が突入すると、すぐに激しい銃声があっちこっちから聞こえた。
間違いなく平沢唯がいる、それも一人や二人じゃない。

梓が銃を構え廊下に出ると、そこには平沢唯の頭を思いっきり殴り潰す澪がいた。
澪はすぐに次のフロアへと向かう。

梓はその光景を目の当たりにし、むせ返った。
血は刑事として見慣れてるものの、人の頭が潰されるシーン等目撃したのは初めてだ。
梓は校舎から撤退してしまった。

警官「大丈夫ですか?」

梓と共に抜け出してきた警官が梓に声をかける。

梓「…この場は機動隊に任せて彼等が出てくるのを待ちましょう」

警官「そうですね…無事に戻ってきてくらるといいですけど」

梓「無事に戻ってくるに決まってます!一人も死なずに戻ってきます!」

梓がそういうと、警官はしばらく沈黙し、数秒経ってから「そうですね」と言った。

銃声が止んだ。
そしてしばらくして、出てきたのは澪と、重傷を負った隊員数人だけだった。

澪「この校舎内にいた唯は4体、3体で軍の一個師団を壊滅させられるらしいが通算6体をこの場で私達が倒したんだ、軍の師団なんてアテにならないな」

澪がそう軽く笑い飛ばすと、梓は口を開いた。

梓「澪先輩…隊員達は…?」

澪「…残念だが、生き残ったのは今出てきた彼等だけだ」

梓「そ、そんな…」

梓はその場に崩れ落ちる。

その後、梓と警官は懲戒処分になり、桜ヶ丘高校は立ち入り禁止となった。

梓と律と紬はそれぞれ別の居住区に移された。
梓は部屋の中で一人で考え込んでいた。
平沢唯は何故殺戮を行うのか。
もちろん梓が考えて分かる筈も無かった。
そこで梓は何が手掛かりになるか考えた。

梓「あ」

梓はある事に気が付いた。

梓「どうしてこんな簡単な事に気が付かなかったんでしょう」

そう呟くと梓は自前のぶかぶかなコートを着て「ある場所」へ向かった。

律は目が覚めると見知らぬ部屋にいた。
周りを前の警察署の時よりは設備が整っているためすぐに病院だと分かった。

律(私…生きてたんだ…)

そう言って自分の手足を動かしてみる。

律(あれ、普通に動く?)

律の手足は何一つ不自由無く動いた。
痛みも全くないどころかかすり傷1つ体のどこにも見当たらない。

律(どうなってるんだ?ここはあの世なのか?)

律はとりあえず起き上がり病室を出ると、すぐ目の前にある人物がいた。

桜ヶ丘総合病院

梓が澪から聞いた律の入院先だ。

梓「すみません、田井中律という入院患者はいますか?」

受け付け「あぁ、田井中さんならあそこの部屋になります」

梓「わかりました、ありがとうございます」

梓が律の病室まで辿り着くと、病室のドアが開き律が出てきた。

律「お、梓か」

梓「お、じゃないですよ律先輩、体は大丈夫なんですか?」

律「おー元気元気、ほれ」

と律が軽く飛び跳ねようと地面を蹴ると、ものすごい勢いで跳ね上がっていき天井に衝突した。
鈍い音が響く。

律「痛っ…くない?」

梓「やっぱりですか」

律「やっぱりって?」

梓は律に澪から聞いた話をそのまま説明した。

律「なるほど…それを私に教える為にここに?」

梓「そうですけどそれだけじゃないです」

そして梓は自分の考えを全て律に伝えた。

律「…なるほどな、確かにこんな事できるのはあいつしかいない」

梓「はい、しかし万が一の事を考えるとやっぱり律先輩と澪先輩の必要が不可欠なんです」

律「わかった、澪が生きてるのを確認したんなら電話かけてみる」

律がその場で電話をかけようと携帯電話を取り出すと、「院内での電話はご遠慮ください」と通りがかったナースに言われ、病院を後にした。

ちょっと休憩します

まさかこの作者、以前『梓「世界妹計画…?」』とかいうSS書いて途中で頓挫した人か?
沢山出てくる憂を唯に置き換え、黒幕が未だ姿を見せない和ではないか、という事から連想出来るんだが。

風邪気味なもんで寝てました、今からできる限りで再開します
>>39
違いますー、過去作ちゃんと完結させてますよ
あんまり評価良くなかったから改訂版を投下しようかと迷ってるところで。。。

寝てました
>>39
違いますよー、過去作ほけいおん全盛期に書いたきりですが一応完結させてます

すまそまた寝てた

日付またいで続けるから一応酉付けとく

澪「…それで、私をここに呼んだ訳か」

律「あぁ、そういう事だよ、澪」

律と澪が数年ぶりの再開にも関わらず大きなリアクションを取らない事に梓は疑問を感じたが、そんな悠長な事を言ってる暇は無かった。

律「じゃあ行くか、梓」

梓「はい」

澪「気休めにしかならないかもだけど、梓はこれを持って」

澪から渡されたのは大きなバッグだった。

梓「随分と思いですね…中身、見ていいですか?」

澪「見ておかないと使い物にならないぞ」

梓「そうですね、では」

梓がバッグを開けると、そこには一丁のサブマシンガンといくつかの手榴弾等が入っていた。

澪「悪いな、それぐらいしか用意できなくて」

梓「全く…澪先輩、これ犯罪ですよ!」

律「でもまぁ、犯罪者には犯罪で対抗するしかないだろ?」

梓「はい、では」

「行きましょう、ムギ先輩のところへ」

おうふ、酉忘れかけてた
それとレスが出来たのかiPhoneじゃわからない時があるな…

「社長、客人です」

紬「あら、どちら様?」

「社長の旧友の中野様と申しており、残り2名が---」

紬「わかったわ、通して」

「失礼します」と声をかけ、梓は立派な木製の扉を潜る。
部屋の中は高級そうな本が並んだ、これまた高級そうな本棚や、アンティークな机などで作られていた。

紬「それで、何の用かしら?」

梓「単刀直入に聞きます、一連の平沢唯事件に貴方は一枚噛んでますよね?」

紬「…うふふ、何を根拠に言ってるのかしら?」

梓「人間のクローンなんていう法外な技術を持っていて、世界中にそのクローンをばら撒くなんて、琴吹財閥にしかできない事です」

紬「梓ちゃん達が知らないだけで人間のクローンを作る技術なんてどこにでも転がってるものよ?」

梓「それは…」

梓が黙りかけた時、律が紬に近寄る。

律「正直に話せよムギ、なんなら力付くで…」

律が紬の襟に手を伸ばす

紬「…斎藤」

紬がそういうと、律と紬の間に一人の老父が立ちふさがっており、律の腕を掴んでいた。

律「なっ…いつの間に!」

律が慌てて力任せに腕を引き抜こうとすると、斎藤と呼ばれた老父は律を部屋の隅に投げ飛ばした。
その衝撃で本棚から本が落ちる。

斎藤「貴方達には出ていってもらいます、社長に危害を加える人間は排除せよとの命なので…」

澪「斎藤さん、その身体能力はどこで手に入れたんだ?」

斎藤が澪達の腕を掴んで追い出そうとした時、澪が斎藤を睨み付けて言った。

斎藤「どこで手に入れた?アホらしい」

そう言うと、澪と梓を部屋の外へと引きずりだし、倒れ込んでいた律も荒々しく廊下に放り出された。

斎藤「お帰りください、次は承知しませんよ」

あれ、また酉が迷子に

琴吹財閥の本社から追い出された梓は、口を開く。

梓「あの斎藤って人…」

澪「あぁ、間違いなく薬を使用してる」

律「いってて…それにしてもあの爺さんどっから出てきやがったんだ!?」

澪「それはわからない…気が付いた時には律の目の前に…」

梓「このままじゃ話もできないです」

律「…わりぃ」

三人の間に沈黙が訪れる。
その中で一番に口を開いたのは律だった。

梓「でもあの爺さんをどうにかしない限り手は打てない、今度奇襲をかけます」

澪「奇襲って…!」

律「馬鹿、見ただろあの身体能力!」

梓「えて、ですから正攻法での突破は考えてません。『平沢唯』を使います」

律「唯をどうするって言うんだ」

梓「捕らえます」

澪「捕らえてどうするんだ?」

梓「目が赤くなる前の唯先輩に事情を話せば協力してくれるはずです、そして目が赤い平沢唯に豹変した場合は中で暴れさせます」

澪「なるほど…平沢唯を囮に使う訳か」

梓「はい、律先輩も協力してもらえますか?」

律「仕方ないな、やってやらぁ」

梓達は、平沢唯捕獲作戦に乗り出た。

「ニュースです、○○市の公園付近で平沢唯を目撃したという情報が〜」

ニュースキャスターが慌ただしく言う。

梓「…澪先輩、律先輩」

律「あぁ」

澪「行くぞ」

そう言って澪の用意したバンに乗り込む。

律「それにしても昔はちょっと擦り傷剥いただけでギャーギャー騒いでた澪が今じゃ特殊部隊ねぇ…」

澪「人は変わるものだ」

梓「澪先輩、あれ!」

梓が車の中から指差した位置には、平沢唯がいた。
後姿しか見えない為、どんな状態かは確認できない。

澪「律、行くぞ」

律「わかってますとも」

澪と律が車を降り、続いて梓も車を降りる。

澪「慎重にな、油断したら殺されるぞ…」

律「わかってる、澪こそへまするなよ」

そういって気配を殺して唯に近付く。
ふと後方で車がクラクションを鳴らした拍子に、平沢唯が振り向く。

澪「…まずい!取り押さえろ!」

律「了解!」

澪と律が駆け寄ると、唯は「え?」と言いたげな表情を浮かべた。

梓「唯先輩…?」

唯「あっ、あずにゃんだ!」

「あずにゃんあずにゃんー」と連呼し手足をばたつかせる唯を律と澪は取り押さえていた。

唯「痛いよ、何するの?」

澪「唯、頼むからついてきてくれ」

唯「むむ…澪ちゃんがそう言うなら…」

澪「悪いな」

そういうと、澪は唯に太い手錠をかける。

澪「特殊合金で出来た手錠だ、そう簡単には壊せない」

唯「んー!!!ほんとだ…壊れないや」

律「でも、暴走時の身体能力は…」

澪「大丈夫だ、暴走時も正常な時も能力は変わらない」

梓「じゃあ今の唯先輩を捕らえておけるなら暴走時も大丈夫って事ですね」

澪「そういう事だ」

そして車内で梓達は唯に事態を伝えた。


唯「私の…クローン?」

梓「はい、それとその事について知ってる限りの事を教えて欲しいんですが」

唯「私、何も知らないよ…」

そういうと、梓が唯に銃を向ける。

律「おい梓!」

梓「わかってます」

そういうと律は察したようにシートにまた腰をかける。

唯「わ、わかったよ!話すから!」


唯のその発言に、澪と律は驚いた。

澪「梓…」

梓「わかってます」

そういうと、澪は道路の隅に車を止め、梓が唯を車から降ろす。

梓「知ってる事というのは?」

唯の顎に銃突き付ける。
両脇には澪と律がそれぞれ身構えている。

唯「え、えーと…」

と、困った顔をした後、少し俯く。

澪「梓、離れろ!」

澪が唯から梓を引き剥がす。

唯「あは…あっはっはっは」

唯が笑い出すと、梓は唯に向け機関銃を放つ。

唯「きかないよ、あずにゃん」

唯は身体中から血を流しながらも全く動揺しない。

律「赤目の唯が喋った!?」

澪「考えてる暇は無い!」

澪は唯の頭に回し蹴りをヒットさせる。
唯は10メートル吹き飛ばされ、地べたで少し引きずられて停止した。
しかし、その場で唯はまた立ち上がった。
全身から多量の血をこぼし、ところどころ皮膚が抉れている。

梓「おえ…!」

梓はむせ返る。

澪「梓、目を瞑ってろ」

そう言って澪は唯に連続で攻撃を仕掛ける。
全てヒットし、唯は何度も吹き飛ばされた。
しかし、唯は相変わらず立ち上がる。

澪「なんなんだ…一体どうなってる!」

澪がそう叫んだ時、「こうなってるのよ」と後ろから声が聞こえた。
澪が振り向くより先に銃声が聞こえた。
その銃声こ元から放たれた弾丸が唯に当たったのを澪ははっきりと捉えていた。

澪「あんなの通用しな…」

「それはどうかしら」

銃を撃った主がそう言って唯を指差すと、唯は苦しそうにもがいた後動かなくなった。

律「…お前は…和か?」

和「…よくわかったじゃない、10年ぶりね」

澪「和…一体今何を…!?」

梓「唯先輩は…倒せたんですか?」

両手で目を塞いでいた梓が恐る恐る目を開ける。

和「唯の中の薬を中和して肉体を人間に戻した…というのが正しいわね」

澪「なるほどな…どうしてそんな物を持ってるんだ?」

和「そうね、そもそもあの薬を作ったのが私だからかしら」

律「どうしてそんな薬を…!」

和「元々はどんな傷でも回復させる為に細胞を活性化させる薬だったの、その試作段階にあれが出来、その試作品のデータを消そうとした時ある女にデータを奪われたの」

梓「ある女…?」

和「そう、あなた達もご存知憂よ」

休憩貰いますねー
風邪まだ治ってないのよ(*_*)

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