千早「12月の雨」 (27)
書き溜めてます。
チャチャッと投下していきますね。
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ザーザー
「・・・んっ」
12月って言うのにかなり強い雨が降っていたおかげで、雨音でつい起きてしまった。
今日はオフ。収録もレコーディングも、レッスンもなし。
だから目覚ましもかけずに寝ていた。
時計を見たら午前9時半。
いつもは7時半には起きているから遅くまで寝ていたとは言えるのだけど・・・
正直、もう少しベッドで寝ていたかった。
でも部屋の寒さで身震いしてしまう。
寒さで目が覚めてしまったからには仕方がない。
もう起きよう、そう思って体を持ち上げた。
ベッドから出てストーヴを点ける。
エアコンだと喉を痛めてしまうから、少し面倒だけどストーヴを使う。
しばらくしたら、ストーヴの近くのガラス窓が曇ってきた・・・よほど外は寒いのでしょうね。
この外で降っている雨もいわゆる「氷雨」なのだろう。
曇った窓をこすり、外を見ると雨の中で寒々とした空が広がっていて、いかにも「冬景色」というものだった。
その冬景色を見ていると、その冬景色の中を「彼女」が白い息を吐きながら
通りの向こうからあわてて道を渡って私のいる部屋に走ってやって来る、そんな気がした。
・・・もちろんその姿はないのだけど。
でも、その駆けてくる姿を想像するとなんだか少し可笑しくなる。
横断歩道を渡りきったその時に滑って転んだりするんじゃないかしら?
ふふっ♪
冷蔵庫から昨日買ってきたゼリーと牛乳を取り出し、トーストをオーブンに入れて温める。
牛乳をマグカップに注いでレンジにかける。
昔だったら朝もサプリメントだけで済ませてただろう。
朝食にトーストを食べるようになったことでさえ私にとっては大きな変化。
でも「彼女」なら、『もっと色んなもの食べないと!』って言ってきたかもしれないわね・・・
・・・後でコーヒーでも淹れようかしら。
レンジとオーブンが同時にチンッとベルが鳴った。
火傷しないようにトーストを持ちながら、バターとブルーベリージャムを塗る。
レンジから温めた牛乳を取り出し、蓋を取ったゼリーの容器と共にテーブルに運んでいく。
辺りに充満するトーストの甘い香り・・・
「いただきます」と心の中で呟き、トーストを口に頬張る。
・・・んっ、美味しい!
自分では気がつかなかったけどお腹が空いていたのだろう、無我夢中で食べてしまった。
テレビを点けてニュースと天気を確認する。
どうやらこの雨はこの後上がるようだ。
天気予報が終わるとテレビはクリスマス特集をし始めた。
もう少しすればクリスマスになる。
イヴの24日は萩原さんの誕生日でもあるわね。
去年の萩原さんの誕生日の時には「彼女」が色々と頑張って、765プロのみんなで集まってパーティを開いた。
あの日はとても楽しかった・・・
彼女は、『今年もあの時みたいに集まれたらいいね、えへへ・・・』
前にそう言ってたけど今年も去年みたいにみんなの予定が入っているから・・・
いや、去年よりも予定が入っているから今年集まろうとするには、もっとみんながうまく取り繕わないといけない。
・・・みんな、か。
まさか自分がこんなことを考えるようになるとは、ゆめにも思わなかった。
確かに、765プロのみんなも売れていったらいいとは思っていた。
でも一番は、私が歌手になって、とにかく歌って、歌って・・・そして売れたらいい、
そんなことを最初765プロに入った時は思っていた。
でも、今は違う。
「彼女」が変えてくれた。
無関心で無愛想にしていた私の懐に真っ先に飛び込んできた。
歌だけしかないと、頑固になっていた私を諭した。
優のことで私から歌が離れた時、私が拒絶しても・・・それでも手を伸ばしてきた。
そうして私の過去に光を与えてくれた。
そして、765プロが壊れそうになった時は真っ先に気付いて、1つにしようとした。
それが「彼女」。
おせっかいで、ドジで、怖がりで、
でも、いつも笑ってて優しくて、手を引っ張ってくれる。
そんな「彼女」。
私は・・・私が今ここにいるということを、本当に「彼女」に感謝しないといけない。
もちろん、プロデューサーも音無さんも社長も、そしてアイドルみんなにもですけどね?ふふっ♪
雨音が聞えなくなった。雨が上がったのかもしれない。
外の様子はどんな感じかと再び窓の外を見る。
雲は広がっているけど、大分空が明るくなっている。
向こうの空からは日差しも出ているようだ、これなら今からは晴れそうね。
再びマンションの下の通りを見降ろしてみると、みな傘を差さずに持って歩いていて、みな寒さをしのぐために着込んでいる。
こうして見ていると本当に色んな人が通りを行き交っている。
かっちりしたスーツをコートの下に着ている若い男性や、ベビーカーを押していく女性・・・
そんな景色を見ていると、「彼女」が白い息を吐きながら何だかやってきそうな気がする。
赤いリボンを2つ頭につけて、それを揺らして、いかにも楽しそうにしながら私の家にやって来る。
そうそう、あんな風にニコニコと横断歩道の前で信号が青に変わるのを待って・・・
ん?あの人・・・まさか・・・
「春香?」
「ええっ!?」
本当に?だって今日、あなた仕事じゃ・・・
本当に春香なのかをちゃんと確かめようとベランダに出てみる。
あのリボンの付け方、あの姿、まさしく春香だった。
ふと春香がこちらを見てきた。私に気付いたのだろう、ニコニコしながら手を振って来る。
思わず私も顔を綻ばせながら手を振り返す。
信号が青になったのかパッと春香は走り始め、その姿はマンションの死角に入ったせいで見えなくなった。
途中で転んでなければいいけど・・・
ピンポーン
千早「はい」ガチャ
春香「えへへ・・・おはよう、千早ちゃん!」
千早「おはよう、春香。ねえ、あなた今日仕事じゃなかった?」
春香「実は、スケジュール変更があったの忘れてて・・・」アハハ
春香「それで事務所に行ったら千早ちゃんもお休みって言うから、千早ちゃんのとこに来ちゃった!」
千早「そうだったの」
春香「もしかして・・・お邪魔だった?」シュン
千早「そんなことないわよ?」
千早「今日は家でゆっくりしようかなって思ってたぐらいだから」
春香「そっか~・・・ティン!・・・ねえ千早ちゃん!」
千早「なに?」
春香「せっかく晴れたんだし、ショッピングに行こうよ!」
春香「それにオフなのに一日中家でゴロゴロっていうのも勿体ないよ!」
千早「う~ん・・・それもそうね、そうしようかしら」ニコッ
春香「うん!そうと決まったらレッツゴー!」
千早「ち、ちょっと待って!まだ準備してない!」
春香「あっ、そうだった・・・ごめん」アハハ
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千早「お待たせ、準備できたわよ」
春香「それじゃあ行こっか!」
千早「ええ!」
ガチャ バタン カチャッ
春香「うう~っ、やっぱりお外は寒いね~!」ブルッ
千早「そうね、さっきも雪が降ってるのかと思った」
春香「そうそう!って千早ちゃん、昨日もそのコート着てなかった?」
千早「ええ。これしかコート持ってないから・・・」
春香「ダメだよー!女の子なんだから、もっとオシャレにならないと!」
千早「そ、そうかしら?」
春香「そうだよ!・・・よし!今日のショッピングは千早ちゃんのコートを探そう!」
千早「・・・いいの?」
春香「いいの!」
春香「それじゃあ、しゅっぱ~つ!」
テクテク
春香「~♪」
千早「春香、何だか楽しそうね?」
春香「当り前だよー!だって、こうやって千早ちゃんと2人で遊ぶの久しぶりだもん!」
千早「!・・・確かにそうね!」
ヒュウゥゥ・・・
春香「うう・・・やっぱり寒い・・・」ブルッ
千早「そうね・・・ティン!」
千早「こうして手を繋いだら良くないかしら?」ギュッ
春香「!・・・そうだね!えへへ、暖かい~♪」
千早「それにこうした方が転びそうになっても大丈夫だし」
春香「ええっ!ひどいっ!」ガーン
千早「冗談よ」クスッ
時はいつの日にも 親切な友達 ♪
千早(あっ、この曲・・・有線かしら?・・・)
千早「・・・『時はいつの日にも親切な友達』か」ポツリ
春香「どうしたの?」
千早「いや・・・結構的を得てるなぁって思って」
春香「おおっ!何だか哲学者っぽいね、千早ちゃん!」
千早「どういうこと?」
春香「んー・・・わかんないっ!」アハハ
千早「何よそれっ」クスッ
春香「あっ、そうそう!この前ね?・・・」
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おわり
本当はタイトルがタイトルだから、12月までに投下する予定だったんです。でも間に合わなかった・・・
ユーミンの「12月の雨」からタイトルを拝借。
話の流れも歌をモチーフにしちゃってます。
はるちはってこれくらいの距離感が一番良いと思うんだ。
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