「俺らって労働者?」
ミカサ「エレン、今月の給料いくらだったの?」
エレン「訓練兵なんだから変わらねえだろ。5万くらいだよ」
ミカサ「私は主席。なのでエレンより少し高い。ので今度町に行こう」
エレン「別にいいよ、買いたいものもねえし。そもそも食うものと寝るところはあるしな」
アルミン「だけどそれにしても給料安いよね。これじゃあ本も満足に買えないよ」
ミカサ「私もエレンと町で休憩するだけの余裕が、ない」
エレン「休憩ってその辺に座ってりゃいいだけだろ?」
ミカサ「エレンが外がいいというならそれでも私は構わない。でも初めてはやっぱりベッド の上というのが……」
エレン「ん? なにいってんだ?」
アルミン「エレンは一生気付かないかもね」
マルコ「やあ、何の話してたんだい?」
アルミン「あっ、マルコ。いや、いくら訓練兵って言っても給料が安すぎるんじゃないかって」
マルコ「そういえば町でもそういう問題が起こってるらしいね。ブラック企業とかいってさ。この前いった居酒屋覚えてるかい?」
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エレン「この前って……居酒屋ワタミンのことか?」
マルコ「そうそう、あそこはブラック企業の代名詞になっているらしいよ」
エレン「そうなのか? 安いし良心的な店だと思ったんだけどな」
アルミン「違うよ。安いってことが僕たち消費者にとってはいいことなのかもしれないけど、働いてる側からすると儲けが少ないってこと。つまりは僕たちが安いものを消費するってことはそのしわ寄せは労働者にいってるんだよ」
エレン「なるほどな。あそこの店員も大変なんだな」
ミカサ「そもそも薄利多売なら社員も多くは雇えないから店長がオーバーワークして過労死することも珍しくないらしい」
エレン「過労死? 働いて死ぬのか?」
マルコ「うん、そういうケースが少なからず報告されているよ。有名な裁判で言うと『電通事件』があるね。このケースは労働者が過労の下でうつ病に罹患して自殺したってケースなんだけど、多いときは月に8回は徹夜で仕事をしてたみたい」
エレン「俺たちだってそんなに夜の警備はねえぞ。そもそもそんなに仕事させていいのか?」
ミカサ「一応一日8時間、週に40時間に限定されていた、はず」
アルミン「半分正解。でも二人とも36協定って知ってる?」
エレン「協定?」
マルコ「労働基準法36条を下に結ばれる労使協定のことだね。これを結んでおくとその法定労働時間を超えても大丈夫になるんだ」
ミカサ「何時間くらい?」
アルミン「24時間」
エレン「は?」
マルコ「実際には23時間だね。一時間は休憩を入れなきゃいけないからね」
エレン「そんなに働かせて法律はどうなるんだよ!?」
マルコ「それによって損害が出ても、損害賠償請求は可能だけど、刑事罰までは無理だろうね。ワタミンの社長なんかこの間の選挙で王政府の議会の議員になっちゃったみたいだしね」
エレン「なんでだよ! それを守るのが法律じゃねえのかよ……」
アルミン「無理なんだよ、今の段階ではね……。労働基準法を順守した結果倒産した企業もあるらしいし」
エレン「労働基準法を順守して倒産するくらいなら、そんな企業は倒産すればいいんだ……」
エレン「駆逐してやる……ブラック企業を一社残らず……」
ミカサ「駆逐系男子……素敵」
アルミン「ミカサがうっとりしちゃったよ……胃が痛い……」
エレン「そもそも俺たちってさっき言ってた36協定って結んであるのか?」
アルミン「それ以前に僕たちが労働者であるかっていう問題があるんだよ」
エレン「どういうことだ?」
アルミン「労働基準法で守られるためには僕たちが労働者でなきゃいけないんだ」
マルコ「労働者であるためには①当該就業者の事業組織内への労働力としての組み入れ、②当該就業者のその業務に対する諾否の自由の有無、③契約内容の一方的決定の有無、④時間的・場所的拘束、および会社の指揮命令権限の有無、⑤報酬が労務の提供の対価という性質を有するかどうか、の五つの点を考慮するって言われてるよ」
エレン「それでいうと……俺たちは労働者になりそうなのか?」
マルコ「そうだね。だから基本的にいわゆる労働法の保護を受けることができそうだね」
キース「お前ら、もうすぐ消灯時間だぞ! 部屋に戻れ!」
全員「はっ!」
キース「労働法か……」
本日の参考判例電通事件、国・中労委事件、CBC管弦楽団事件
訓練所
…夜は食事時前に訓練、授業が終わる
休憩あり
食事付き
入浴可
寮あり就寝可
非番あり 給料あり
技能が身につく
備考
恋人持ちがいる
…結論ワタミより遥かにいい所
公務員の労働法との関係は近いうちに憲法との絡みで論じたいと思っていますが、それ以上にやるのは一般的な労働法と、多少の行政法の知識が必要となってくるので、一通り終わったら具体的な進撃についてのあてはめを行いたいと思います。
>>11
確かにそうかもしれませんねwwww
私は飲食店でバイトをしていたことがありますけど、飲食は体質的にブラックになるしかないような気がします。
2 You're fired!で首?
エレン「そういえばなんで労働法なんてあるんだ? アルミン」
アルミン「なんでっていうと、どういうことかな?」
ミカサ「民法623条以下に雇用契約っていう規定がある。ので不必要なんじゃないの?」
アルミン「確かにその契約で十分可能なんだ。でも民法の一般な原則としては我妻先生以来意思表示の合致による契約っていうのが建前になってる。ここまではいい?」
エレン「我妻先生?」
アルミン「民法学の有名な先生だよ。憲法の芦部信善に当たる人と思ってくれていいかな。ともかくそれによれば使用者側から一方的に解雇を伝えれば解雇が可能になっちゃうんだ(民法627条)」
エレン「っていうことは今の法制度では解雇は簡単にはできないってこと?」
アルミン「そう。もちろん整理解雇、雇い止めだとかいろいろルールはあるんだけどね。さっきの民法では二週間前に告げれば解約をしていいってことになってるんだけど、労働法ではそれを30日に延長してる。もし予告なしで契約が解除された場合はその分の給与を払わなくちゃいけないんだ」
飲食店は従業員に技術がいらんから育てる必要性はなく、短期間で入れ替えたほうが給料は安く社員の数も調整できる
だからあえてのブラック
って聞いた
ミカサ「逆に言えば一か月前に告げれば解雇できるの?」
アルミン「それがちょっと微妙なんだよね。判例は解雇権の乱用に当たるケースを示していて、具体的には①客観的に合理的な理由を欠き、②社会通念上相当であると認められていない場合、が無効になるって言われてるね」
エレン「なんだかわかるんだかわからないんだかっていうルールだな」
アルミン「そう、だから経済界からはこれを明確にするようにっていう要請があるんだ。ただそういう企業は優秀な法務の人がいるんだからそれくらいのリスク回避はできると思うんだけどね」
ミカサ「それで私たちがそれを具体的に理解できるようになるためにはどうしたらいいの?」
アルミン「判例を読んでみるしかないね。例えば仕事の成績が下位10%であることを理由にして行われた解雇は無効としたセガ・エンタープライズ事件なんて言うのもあるね」
ミカサ「それでいうと成績が悪いからっていうので開拓地送りは無効?」
アルミン「その辺はあんまり一般化できない。あくまでも判例っていうのは具体例だからね。でも裁判所が、成績を理由にした解雇っていうのはよっぽどの理由がないとダメっていうのが考え方なんじゃないかと思う。もちろん類設計室事件みたいな例もあるんだけど」
エレン「まあつまりは判例を読んでみろってことか?」
アルミン「労働法を学ぶんだったらそうかもね。平成20年に施行された労働契約法なんかはいわゆる判例法理の多くが明文化された背景もある」
ミカサ「具体的にはどんな判例がいいの?」
アルミン「そうだな……それなら一番最初に紹介した電通事件判決なんてどうかな? 比較的読みやすい判例かもしれない」
アルミン「そうしたらごめん。ミカサ、図書館に行って判例集を借りてきてくれるかな? もしマルコもいたらマルコも誘ってきてよ」
ミカサ「わかった。すぐとってくる」
エレン「それなら俺も――」
アルミン「エレンはちょっと残ってて。それじゃあいってらっしゃい」
エレン「なんでミカサだけを行かせたんだよ?」
アルミン「ん? もしかしてマルコと二人きりになるんじゃないかって心配してる?」
エレン「っんな! そんなわけねえだろ!」
アルミン「ふふっ、いい加減素直になったらいいのに」
エレン「俺にはそれ以上に大切なことがあるんだよ」
アルミン「巨人を駆逐すること?」
エレン「それとブラック企業を駆逐することだな。それが終わるまでは落ち着けねえよ」
アルミン「そうだね。それでこそエレンだ」
エレン「それでマルコを読んだ理由は?」
アルミン「厳密にいうと僕の専門じゃないからかな。僕はあくまで民法の専門だからね。マルコは労使関係法の論文も書いてたことがあるから詳しいんじゃないかと思って」
ミカサ「お待たせ、エレン」
マルコ「判例を読むのかい? それじゃあ始めようか?」
今日は以上です。
判例は少し迷いましたが、私も初めて読んだ判例である電通事件を選ばせていただきました。
で読むことができるので興味がある人は見てみてください。
>>14
そういう面もあるかもしれないですね。大学生がから暇だと思ってるのか容赦なく働かせてますからね。
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