P「余命一ヶ月、ですか…?」(68)
P「嘘でしょう?」
医者「嘘でこんな事は言わないよ」
医者「胃癌の末期だ」
P「そんな…」
P「あんまりですよ!」
P「突然そんな…」
医者「……」
P「何で俺なんだ……」
医者「うん?」
P「はい?」
P「え?だって……」
医者「ああ、君じゃなくて私が」
P「ああ、あなたが……」
P「なんだ良かっ……」
P「良くないでしょう!」
医者「ちっとも良くないよ」
P「何でそれを俺に報告するんですか」
医者「娘のプロデューサーだろう?」
P「そうですけど…」
医者「それに、君の事を兄のように慕っている」
P「……」
医者「将来『お義父さん』なんて呼ばれると思うとね」ハハハ
P「笑い事じゃないですよ」
医者「もっとも、その『将来』も私にはないのだが」
P「……」
医者「せめて孫の顔を見るまでは生きたかったが、まぁ仕方のない事だろうね」
P「…お父さん……」
医者「そこは『お義父さん』だろう?」
P「まだ言いますか」
医者「単刀直入に聞こう」
医者「亜美と真美、どちらを選ぶ?」
P「なぜ結婚が前提なんですか」
医者「嫌いなのかい?」
P「大好きです、はい」
医者「ならば問題はない筈だ」
P「世間的には問題だらけですよ」
医者「担当アイドルに手を出したロリコンプロデューサー」
医者「といった所か」
P「週刊誌を騒がせそうですね」
医者「残念だがロリコンに処方する薬は持ち合わせていない」
P「優先順位が違いますよ」
医者「確かに」
医者「まず惚れ薬を作る事が重要だ」
P「おい、癌患者」
医者「話が逸れたな」
P「ええ、だいぶ」
医者「で、どちらを選ぶのかね?」
P「だから何故選ばなきゃいけないんですか」
医者「なるほど、重婚をご所望か」
P「話がこじれて来た」
医者「確かに亜美と真美、どちらも幸せにしたい気持ちはわかる」
医者「可愛いからな」
P「そりゃあもう」
医者「ふふふ」
P「ふふふ」
P「娘さん達には、話したんですか?」
医者「いいや」
P「早めに言っておかないと」
医者「報告をする時、君にも同席して欲しいんだよ」
P「俺ですか?」
医者「事実を知ったら、きっと取り乱すだろうからね」
医者「その時は、力いっぱい抱きしめてやって欲しいんだよ」
P「それはまだ貴方の役目ですよ」
P「たった一人の、父親なんですから」
医者「…そうだね」
医者「ところで、今『まだ』って」
P「…気のせいです」
医者「後の事は俺に任せておけ!」
医者「というニュアンスで受け取っても?」
P「想像にお任せします」
医者「そうか…では娘たちの事は頼んだよ」
医者「プロデューサーとしても、男としても、幸せにしてやって欲しい」
P「やっぱり結婚が前提なんですね」
医者「したくないのかね?」
P「したいです」
医者「ウェディングドレス姿が見られそうにないというのが残念極まりないが」
医者「信頼に足る男を見つけられたのだ」
P「……」
医者「私の代わりに、二人を幸せにしてやってくれないか?」
P「誓いますよ」
医者「…ならば安心だよ」
P「…はい、ハンカチ」
医者「おっと、すまんね」
医者「どうも最近涙もろくてな」
P「とは言いつつ、家族の前では泣いてないんでしょう?」
医者「仮にも、一家の大黒柱だ」
医者「おいそれと泣く訳にもいくまい」
P「……」
P「そういう意地っ張りな所」
P「娘さん達にも受け継がれてますよ」
医者「むっ、そうか…」
P「素直に甘えてくれてもいいのに、遠慮しがちなんですよ」
医者「甘えて欲しいんだろう?」
P「バレまましたか」
医者「それはもう」
医者「君もそのうち」
医者「下着を一緒に洗濯しないで」
医者「って言われるようになるぞ」
P「避けては通れませんね」
医者「私が言われた時は大泣きしたよ」
P「おい大黒柱」
医者「おっと、もうこんな時間か」
P「報告しに行きますか」
医者「いや、もうすぐここに来るよ」
P「呼んでたんですか、準備がいい」
医者「何事も備えが大切だよ」
医者「お、噂をすれば」
P「亜美に真美、大切な話があるんだ」
P「ええっ、俺じゃなくて」
医者「そうそう…私が、だよ」
医者「うん、長くてあと一ヶ月だ」
P「ああ、本当の事だ」
医者「……おっと」
医者「はは、いつまで経っても泣き虫だな」
P「……」
医者「うん、うん」
医者「ああ…大好きだよ」
医者「お父さんが居なくなっても、彼がお前たちを支えてくれるから」
医者「泣き寝入りしてしまったよ」
P「くっついて離れそうにないですね」
医者「白衣がぐしょぐしょだ」
P「あなたもひどい顔だ」
医者「君もだろう」
P「お恥ずかしい」
医者「娘たちを、よろしく頼むよ」
P「まだ、俺じゃないです」
医者「そうだったな」
医者「まだ、君には渡せんよ」
P「ええ」
医者「もう少しだけ、独り占めさせて貰うとしよう」
医者「その時が来るまではね」
………
……
…
P「何度見ても仰々しいな…」
P「今日はご報告に来ました」
P「お義父さん…」
P「二人とも、アイドルを引退しました」
P「ふたり揃ってトップアイドルになったばかりなんですが、ね」
P「まあ、いい区切りだったのかもしれません」
P「担当プロデューサーと熱愛が発覚する前に引退しましたから」
P「結局、二人ともお嫁さんにする事になりまして」
P「お義母さんも大賛成でしたよ」
P「そう遠くない将来、孫を連れて来ますね」
P「楽しみにしてて下さい」
end
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