櫻子「階段から落ちて人格が入れ替わりました!私は誰でしょー!」(205)

向日葵「は?」

櫻子「もー、向日葵は察しが悪いなあ」フッ

向日葵「……」イラッ

櫻子「さっきね、ある人と一緒に階段から落ちちゃったんだよ、ほら、頭にコブがあるでしょ?」

向日葵「え、ええ、確かに……」

櫻子「そしたらね、その人と人格が入れ替わっちゃったの!」

向日葵(そうは見えませんけど)

櫻子「それを踏まえて!私は誰でしょうか!」

向日葵「……入れ替わってないんじゃないですの?」

櫻子「ブー!」

櫻子「向日葵とは付き合いが長いから判ってくれるかなーと思ってたのになあ……」

向日葵「絶対入れ替わってませんわよこれ……」

櫻子「先輩方は判ります?」

綾乃「え、私も入れ替わってないようにしか見えないんだけど……」

千歳「んー、うちも判らへんなあ……船見さん達は判る?」

結衣「私もちょっと判らないかな……」

京子「向日葵ー、そこのおやつとってー」

あかり「櫻子ちゃんは櫻子ちゃんだよ?」

ちなつ「今日はエイプリルフールじゃないよ、櫻子ちゃん」

向日葵「はい、歳納先輩、バームクーヘンですわ」

京子「うわあい♪」モグモグ

櫻子「えー、誰も判らないの?さみしいなあ……」ショボン

あかり「櫻子ちゃん……」

櫻子「よし、じゃあ、このまま入れ替わった状態でしばらく過ごしてみよっか!」

櫻子「そうすれば、きっと皆も判ってくれるはずだよ!」



こうして、私とあの子が入れ替わった生活が始まった

~生徒会室~


綾乃「それでは、今日の会議を始めます」

向日葵「はい」

櫻子「えー、お菓子食べてだらだらしようよー……」ダルーン

千歳「あはは、大室さん、ちょっとだけやから辛抱してな」

櫻子「ううー、先輩が言うなら仕方ないです」

向日葵「櫻子がそんな調子では、生徒会副会長の座は私の物ですわね」チラッ

櫻子「なんだとー!」ガバッ

向日葵「なんですの!」ガバッ

綾乃「はいはい……ふたりとも、喧嘩しないで、ほら、会議を始めるわよ?」

さくひま「「は、はい……」」

向日葵(というか、櫻子、普段通りなんですけど、入れ替わったって話はどうなったんですの)

向日葵(やっぱりあれは、櫻子の冗談だったのかしら)

向日葵(それにしては手が込んで居たような……)

櫻子「どったの、向日葵」

向日葵「え?」

櫻子「もう会議終わっちゃったよ?」

向日葵「あ、あら、何時の間に……」

櫻子「もー、向日葵って普段しっかりしてるように見えるけど、肝心な所で抜けてるよね!」

向日葵「あ、貴女にそんな事言われたくありませんわ!」

櫻子「まあ、そういう所が可愛いんだけどさ~」

向日葵「なっ……///」

向日葵(か、可愛いって、櫻子は私の事を可愛いだなんて言いませんわ!)

向日葵(や、やっぱりこれは誰かと入れ替わってるのかしら……)

向日葵(い、いや、けど、もしかしたら櫻子がデレたという可能性も……)

櫻子「ほら、向日葵、またボーっとしてる~」モミッ

向日葵「ひゃわ!?」ビクッ

向日葵(む、胸を揉まれた!?叩いたんじゃなくて揉まれた!?)

向日葵(こ、これは確実に櫻子じゃありませんわ!)

向日葵(と、いうか……さっきの揉み方は、何か身に覚えが……)

向日葵「あ、あの、櫻子///」

櫻子「ん?なに?向日葵」

向日葵「あ、あの、もしかして、本当に誰かと入れ替わってるんですの?」

櫻子「だから、何度もそう言ってるじゃん」

向日葵「みんな、櫻子の冗談だと思ってましたわよ……」

櫻子「むー」プクー

向日葵「……」

櫻子「そりゃあ、私も入れ替わってるのがばれないように演技してたから判らないのは仕方ないけどさー」ブツブツ

櫻子「ほんとに誰ひとりとして判んないなんて、超ショックだよ」ブツブツ

櫻子「私は私じゃなくても別に誰も困らないって事?」ブツブツ

櫻子「あーもー、演技なんてやめちゃおっかなぁ……」ブツブツ

向日葵「あの……」

向日葵「ひょっとして、あの、歳納先輩……?」

櫻子「……!」

向日葵「ま、まちがってたら申し訳ないのですが……」

櫻子「ひ、ひまっちゃん……」ウルッ

向日葵「え、さ、櫻子、泣いて……いや、泣いてるのは歳納先輩?」

櫻子「ひまっちゃーん!」ダキッ

向日葵「ひゃあぁっ///」

櫻子「ひまっちゃん、ひまっちゃんだけだよ、私に気づいてくれたのっ」グスン

向日葵「と、歳納先輩、ですのね、やっぱり」

櫻子「う、うん……」ギュ

向日葵「あう///」

向日葵(うう、櫻子の顔でこんなに甘えられると、あの、ちょっと複雑な気分に///)

櫻子「ひまっちゃん、あの、どうしてわかったの?」

向日葵「あ、ええ、あの、その……」

櫻子「?」

向日葵「前に胸を揉まれた事、ありましたわよね?」

櫻子「ああ、本屋さんでのあれ?」

向日葵「あ、あの時と、今回が同じ感触でしたので、その///」

櫻子「そ、そっか……」

櫻子「ひ、ひまっちゃん、あの、以外と、そういう事に対して敏感なんだね///」

向日葵「と、歳納先輩、からかわないでくださいっ」

櫻子「えー、けど、私に触られて私の事を判別にしてくれたって、あの、なにかえっちだよっ///」

向日葵「///」カーッ

櫻子「あ、あの、ひまっちゃん……」

向日葵「な、なんですか、歳納先輩っ///」

櫻子「ま、また、触ってあげよっか///」ボソッ

向日葵「な、な、なっ///」

櫻子「……ふふふ、冗談冗談っ!」

向日葵「も、もう、歳納先輩ったら///」バンッ

櫻子「ひでぶっ!?」

向日葵「あ、す、すみません、何時もの癖で思いっきり叩いてしまいまして……」

櫻子「さ、櫻子ちゃんは何時もこんな突っ込みくらってるのかぁ……」タラッ

向日葵「そういえば、本物の櫻子はどうしてるんでしょうか?」

櫻子「うーん、櫻子ちゃんは演技するつもりはなかったみたいだし、いまごろ結衣達にばれてるんじゃないかなあ」

向日葵「ちょっと様子を見てきます?」

櫻子「そだね!」


~娯楽部~


櫻子「えーと、中の様子はっと……」ソー

京子「船見せんぱーい、お菓子もっと欲しいです~」

結衣「はいはい、じゃあ私の分も食べていいからさ」

京子「うわあい♪」

あかり「京子ちゃん、あかりの分も上げるよぉ」

京子「あかりちゃん、ありがとう!」ニコ

あかり「えへへ///」

ちなつ「それで、京子先輩、何時まで櫻子ちゃんのフリを続けてるんですか?」

京子「えー、別にフリじゃないよ?」

ちなつ「はいはい……櫻子ちゃんと京子先輩が入れ替わってるってネタでしたよね」

京子「ネタじゃなくて本当なんだって!」

結衣「京子はノリがいいからなあ……飽きるまで大室さんのネタに付き合ってあげるといいよ」

あかり「京子ちゃん、子供のころみたいにあかりちゃんって呼んでくれてうれしいよぉ///」

櫻子「バレてない!?」ボソボソ

向日葵「というか、みなさん歳納先輩の冗談だと思われてるみたいですわね……」ボソボソ

櫻子「そ、そんなあ……」ボソボソ

櫻子「結衣、あかり、気付いてよ!幼馴染でしょ!」ボソボソ

向日葵「そ、それを言われると、わたくしも胸を触られるまで気づきませんでしたし……」ボソボソ

櫻子「う、うう、やっぱり、やっぱり私じゃなくてもいいのかな、みんなにとって、わたしってその程度の存在なのかな……」ガクッ

向日葵「と、歳納先輩……」

向日葵「歳納先輩、あの、あんまり気を落とされないでください……」

櫻子「ひまっちゃん……だって、だってぇ」

向日葵「ほ、ほら、まだ一日も経ってませんし、きっと明日にはみなさん気づかれるはずです!」

櫻子「う、うう、そうかなぁ……」

向日葵「そ、そうです!だって、あの、歳納先輩は、凄く個性的ですし、魅力的ですし……」

向日葵「気付かないはずがありませんわ!」

櫻子「あ、ありがとう、ひまっちゃん」ウルッ

向日葵「と、歳納先輩……」キュン

向日葵(あ、あれ、櫻子の姿をした歳納先輩の泣き顔見ていたら、何か凄くドキドキしてきましたわ……)

向日葵(風邪かしら……)

櫻子「えへへ、じゃあ、あの、明日くらいまでは、様子を見ようかな」ゴシゴシ

向日葵「そ、そうですわね、それがいいですわ!」

櫻子「ん……じゃ、今日の所はもう帰ろっか、ひまっちゃん」

向日葵「は、はい」

向日葵「……え、帰る?」

櫻子「うん、お家に帰ろう?」

向日葵「……櫻子の家に帰るんですの!?」

櫻子「あったりまえじゃーん!」

~大室宅~

櫻子「ただいまー!」

花子「櫻子おかえり……あれ、向日葵おねえちゃんも?」

向日葵「え、ええ、今日は櫻子と一緒に勉強する予定がありまして」

櫻子「そのままお泊りするから、花子ちゃんもそのつもりでね?」

花子「それはいいけど……花子ちゃんって呼び方気持ち悪いし」

櫻子「……!」

向日葵「……も、もう櫻子ったら冗談ばっかり!」バシッ

櫻子「ぶへっ!」ヨロッ

花子「……まあいいけど、晩御飯出来たら呼ぶし」

櫻子「う、うん、よろしく~!」

~櫻子の部屋~

櫻子「危なかった……さすがに、全然知らない子を相手に演技するのはキツいかも」

向日葵「ふう、わたくしが付いてきて正解でしたわね……」

櫻子「さっすがひまっちゃん、ありがとね」ニコ

向日葵「……!」ズガン

向日葵(さ、櫻子にこんなに素直にお礼されるのなんて、凄く久しぶりですわ///)

向日葵(まあ、中身は歳納先輩なんですけどっ!)

~娯楽部帰路~

京子「かえるがなくからかーえろっ♪」トテトテ

結衣「京子、そっちは京子の家じゃないよ」

京子「あ、そうなんですか、はじめてだから間違えちゃいました~」ズサーッ

京子「あうっ!」バタンッ

結衣「きょ、京子、大丈夫?」

京子「いたた、何か歳納先輩の身体、動きが鈍いなあ……」

結衣「……京子、まだ演技続けるつもり?」

京子「だから、歳納先輩じゃなくて櫻子ですってば!」

結衣「はいはい……」

「ウエーンウエーン」


京子「あれ、子供が泣いてる」

結衣「ほんとだ、どうしたんだろう」

京子「おーい、どうかしたの?」トテトテ


「風船が木に引っかかっちゃったの」


結衣「あー……あれかあ、私たちではちょっと手が届かないなあ」

京子「よいしょっと」ヒョイッ

結衣「京子、何か道具とか探して……って、もう木に登ってる!?」

京子「もうちょっとで、手が……」

結衣「お、おい、京子!危ないぞ!」

京子「だいじょーぶですって、船見先輩、こういうのは慣れて……」


ツルッ


京子「あれ」

結衣「……!」

京子「うわわわっ!」

結衣「危ないっ……!」タッ


ドスーン


京子「い、いたた……」

結衣「……」

京子「あれ、けど思ったほど、痛くない?」

結衣「京子……重い、どいて」

京子「え……あ、船見先輩が下敷きに!?」

結衣「う、うう……」

京子「す、すみません!」ズサッ

京子「はい、風船……もう離しちゃだめだぞ~」


「ありがと!おねえちゃん!」トテテ


京子「ふー……冷や汗かいた」

結衣「それはこっちのセリフ」

京子「すみません……あの、怪我とかは?」

結衣「大丈夫だよ」

京子「そですか」ホッ

結衣「それより……本当に大室さんなんだね、京子の体の中にいるの」

京子「はい……って、信じてもらえたんですか?」

結衣「うん、京子なら木に登って風船とろうとはしないからね」

京子「ほえ?」

結衣「京子は自分の身体能力が高くないことを知ってるし、頭を絞って他の方法を考えるはずなんだよ」

結衣「余程の緊急事態なら別だろうけど……」

京子「あー、そでしたか……」

結衣「それにしても、まさか本当に人格が入れ替わってるとはなあ……」

京子「世の中不思議なこともあるもんですねえ……」

結衣「……それで、どうするの?」

京子「へ?」

結衣「大室さんが京子の家に帰っても家族の人たちを誤魔化せないだろうし」

結衣「ありのままを話しても混乱させちゃうだけだと思うんだけど」

京子「あー……その辺まで考えてませんでした」

京子「単純に、歳納先輩のお宅はいけーんくらいのノリで……」

結衣「……そういう所は、本当に京子と似てるよね、大室さんは」クスッ

京子「むー、何か馬鹿にされた気がしますっ」プー

結衣「ごめんごめん」クスクス

結衣「それじゃあさ、もし良かったら、私の家に来ない?」

京子「へ?」

結衣「京子は良く私の家に泊まりに来てたしさ、家族の人たちもそんなに不振がらないと思う」

京子「い、いいんですか!?」

結衣「うん、京子が絡んだ事だしね、放っては置けないよ」

京子「やったぁ!船見先輩のパン、食べ損ねたんですよね!いっぱい食べたいです!」

結衣「え?」

京子「早く!早くいきましょ!」キラキラ

結衣「あ、うん……今日はパン作らないんだけど……」

京子「えぇぇー!?」

結衣「準備に割と時間かかるしさ、パンはまた今度作ってあげるから、ね?」

京子「うう、うううっ!絶対ですよ!船見先輩!約束ですからね!」

結衣「ん、約束」

京子「ゆびきりですっ♪」


ユビキリゲンマン、ウソツイタラ、ハリセンボン、ノーマス


結衣「……そっか、大室さんは京子より無邪気なんだな」

京子「え?船見先輩何か言いました?」

結衣「今日の晩御飯は大室さんの為にオムライスにしよっかって言ったんだよ」

京子「おおー!あかりちゃんから聞いてますよ!凄く美味しいって!」

結衣「ふふふ、じゃあ、ちょっと食材を買いにスーパーでも行こうか?」

京子「はーい♪」

~櫻子の部屋~


櫻子「へっくちっ」

向日葵「歳納先輩、お風邪ですか?」

櫻子「んー、風邪ひいてるとしたら櫻子ちゃんの身体なんだよね」

櫻子「人の身体なんだし、ちょっと安静にした方がいいかな?」

向日葵「櫻子の身体ならちょっとやそっとでは風邪ひきませんわ」

向日葵「それより、あの、ここの公式がよく判らないのですが……」

櫻子「ああ、そこはね、こっちの教科書に載ってた式をそのまま……」

向日葵「……あ、なるほど」

櫻子「……ひまっちゃん、理解力が高いよねぇ」

向日葵「と、歳納先輩の教え方がいいんですっ///」

向日葵(歳納先輩と一緒にいると、普段、櫻子が見せない表情とか沢山見れますわね)

向日葵(何か新鮮……)

向日葵(それに、ちょっとドキドキ……)

櫻子「ひまっちゃん?」

向日葵「は、はひっ!?」

櫻子「どしたの、ぼーっとして」

向日葵「な、なんでもありませんわっ!」

櫻子「そ?疲れてるなら、やっぱりちょっと休憩する?」

向日葵「そう……ですわね、一区切り付きましたし、ちょっと休憩しましょうか」

櫻子「やった~♪」

向日葵(こういう所は、櫻子と同じですわね)クスッ

櫻子「じゃ、わたし、お菓子持ってくるね!」

向日葵「え、一人で大丈夫ですか?台所の位置とかは……」

櫻子「平気平気!さっきちらっと見たから判るって!」

向日葵「そ、そうですか?ではお任せします……」

~台所~

櫻子「おっかしおっかし~♪」

櫻子「お、冷蔵庫の中に牛乳がある、これも持っていこうっと!」

花子「あー!その牛乳、花子のだし!」

櫻子「え?」

花子「勝手に飲むなぁ!」グイッ

櫻子「あー、ごめんごめん……」

花子「もう、油断も隙もないし……」ゴクゴク

櫻子「……」ジー

花子「……見てても、あげないし」ゴクゴク

櫻子「……いやあ、可愛いなあって」

花子「ぶふぅっ!?」ゴホッゴホッ

櫻子「わぁ!花子大丈夫!?」

櫻子「あらら、こんなにこぼしちゃって……」フキフキ

花子「じ、自分で拭けるしっ!というか、花子に牛乳吹かせようとしてわざと言ったでしょ!」

櫻子「えー、私は素直に可愛いからそう言っただけだけど……」

花子「……き、きもいし」フキフキ

櫻子「ねー、ちょっと抱きしめてもいい?」

花子「!?」

花子「な、な、なに、なにいってるんだし!?」

櫻子「別にいいよね、姉妹なんだし」ギュッ

花子「ふあ!?」

櫻子「んー、花子は可愛い妹だなあ……」ギューッ

花子「あ、あ、あ……」

櫻子「小さくて体温高いなあ……」スリスリ

花子「ふ、ふ、ふ、ふぎゃーっ!」ドーンッ

櫻子「うわわっ」フラッ

花子「い、い、い、いきなり抱きついたりして!な、なに企んでるんだし!」

櫻子「えー、企んでなんかないよ……ただ、可愛かったから抱きしめただけ」

櫻子「変……かな?」

花子「へ、変!ちょーへん!」

櫻子「そっかー、妹を抱きしめるのは変なのか、姉妹いないからスキンシップの加減が判んないや」ボソッ

櫻子「普通の友達的感覚でいいのかな……」ボソッ

花子「な、なにブツブツ言ってるし……!」

櫻子「へへーん、花子が生意気なこと言ったからちょっと脅かしてやっただけだよー!」

花子「や、やっぱりそういう魂胆だったんだし……!」

花子「まったく、櫻子はいつもいつも……!」プンプン

櫻子「お、これで正解なのかな……覚えたぞ」ボソッ

櫻子「……けど、花子が可愛いって思ってるのは本当だよ」

花子「も、もう騙されないし……」

櫻子「これは本当、花子みたいな妹がいてくれて、私はすごく幸せ者だと思う」

花子「う、ううー……いい加減にするし///」

櫻子「……これからも、私のかわいい妹でいてね?」

花子「し、しらないしっ///」プイッ

~櫻子部屋~

櫻子「おっまたせー♪」

向日葵「あ、おかえりなさいませ、ずいぶん時間がかかっていたようですが……」

櫻子「うん、ちょっと花子ちゃんと遊んでたんだ」

向日葵「そ、そうでしたの」

櫻子「花子ちゃん、凄くかわいいよね~、櫻子ちゃんは花子ちゃんみたいな妹がいて羨ましいなあ」

向日葵「普段は喧嘩ばかりしてますけどね」クスクス

櫻子「うん、そういうのも含めて羨ましい」クスッ

向日葵「歳納先輩の場合は、赤座さんや船見先輩が姉妹のようなものではないのですか?」

櫻子「うーん、あかりや結衣はどちらかというと、お姉さんみたいな感じなんだよね」

向日葵「船見先輩はともかく、赤座さんもお姉さんですの?」

櫻子「うん、子供のころの私は泣き虫で、それでいて我儘だったからね」

向日葵「歳納先輩が、泣き虫……」

櫻子「泣き虫な私を守ってくれたのが結衣で、私の我儘をずっと聞いてくれてたのがあかり」

櫻子「歳は違えど、二人ともやっぱりお姉さんみたいな感じだったかな」

櫻子「だから、花子ちゃんみたいな元気いっぱいぶつかってきてくれる妹的存在に飢えていたのです!」

向日葵「そうでしたか……」

向日葵(ずっと笑顔な歳納先輩の過去に、泣き虫だったころがあったなんて)

向日葵(凄く意外でしたわ……)

『櫻子ー、向日葵お姉ちゃーん、ご飯出来たよー』


櫻子「お、可愛い妹様からのコールだ」

向日葵「もうこんな時間でしたのね……」

櫻子「じゃ、ひまっちゃん、夕食に行こうか?」

向日葵「ええ、何とかボロが出ないようにフォローしますわね」

櫻子「頼りにしてるよ、幼馴染ちゃん♪」

向日葵「もう、歳納先輩ったら……」クスッ

向日葵(何時も笑顔な歳納先輩)

向日葵(不思議な歳納先輩)

向日葵(泣き虫だった歳納先輩)

向日葵(妹が出来たら凄く優しいお姉さんになるだろう歳納先輩)

向日葵(この「入れ替わり」が元に戻るか心配ではありますけど)

向日葵(歳納先輩の色んな所を知れて、ちょっと楽しいですわね)

~結衣宅~

綾乃『ええ!?大室さんと歳納京子が本当に入れ替わってる!?』

結衣「うん、そうなんだよ、綾乃」

綾乃『け、けど昼間の大室さんは普段通りだったわよ!?』

結衣「あれは京子が演技してたらしいんだ……」

綾乃『え、演技!?人格入れ替わるなんて大事件が起こってるのに、どうしてそんなことを!?』

結衣「理由なんて私に聞かなくてもわかるでしょ、綾乃」

綾乃『……確かに、歳納京子がそんな事をする動機は一つだけね』


結綾「『面白そうだから』」


綾乃『まったく、困ったものね、歳納京子も……』

結衣「そんな訳だから、明日の朝、一番に西垣先生に相談しようと思うんだ、二人を元に戻すための」

綾乃『そ、そうね、歳納京子と大室さんに任せておいたら何時まで経っても解決しそうにないし……』

結衣「うん、それで西垣先生に話す時は綾乃も付き合ってくれればなって思って電話したんだ」

綾乃『お、大室さんは生徒会の一員ですものね、私が生徒会副会長として責任もって立ち会わないと!』

綾乃『と、歳納京子が心配だから何てことは全然思ってないんだからねっ!』

結衣「ん、ありがと、綾乃」クスッ

綾乃『それで、あの、大室さんはどうしてるの?』

結衣「今、私の部屋でご飯食べてるよ」


京子「んー♪船見先輩のオムライス、噂通り美味しい♪」モグモグシ

綾乃『もう、歳納京子も大室さんも呑気なんだから』ハァ

結衣「まあ、あのふたりが深刻に落ち込んでる様子は見たくはないけどね」

綾乃『……それもそうね』

結衣「じゃあ、明日の朝、合流してから学校へ行こうか」

結衣「時間は……」


≪ザザザザッ≫


結衣「あれ、電話の調子が……」

≪人の想いはザザザザザッ≫


結衣「綾乃?」


≪ザザザザ純粋な思いを抱いていても≫

≪ザザザザザザッ≫


綾乃『どうしたの?船見さん』

結衣「あ、ああ、今ちょっと電波の調子が悪かったみたい」

結衣(何処かと混線してたのかな……)

結衣「明日は朝の7時くらいに集合ってことで……」

京子「あ、船見先輩、誰に電話してたんです?」

結衣「うん、ちょっと綾乃にね」

京子「杉浦先輩に?」

結衣「明日の朝、一緒に学校に行こうって誘ってたの」

京子「おお、同伴出勤?」

結衣「ち、違うよっ何言ってんのっ///」

京子「ほへ?」

結衣(はぁ……この子の場合は、天然で言ってる可能性高いよな……)

京子「あ、そんな事よりオムライスごちそうさまでした!」

結衣「あ、うん、お粗末さまでした」

京子「京子先輩は毎回こんなおいしいの食べてるのかぁ……」

結衣「毎回ではないけど、良く泊まりには来るからね」

京子「んー、船見先輩は、歳納先輩のお嫁さんみたいな感じなんですか?」

結衣「なっ!?」

結衣「ち、違うよっ!ただの幼馴染なんだってっ///」

結衣「きょ、京子だって、多分、ただそれだけの関係だって思ってるはずで、その///」

京子「……そですか」

結衣「大室さん?」

京子「良かったです!」ニコ

結衣(え、何がだろ……)

京子「私、実はずっと羨ましいなって思ってたんです」

結衣「ん?何を?」

京子「えっと……歳納先輩って、何時も船見先輩と一緒に居て、仲良かったから」

結衣「……ああ、幼馴染で仲が良いからって事かな?」

京子「まあ、そんな感じです……」

京子「ですから、あの!」ズイッ

結衣「な、なに?」

京子「今日は、ずっと私と仲良くしていてくださいね!」

結衣「……う、うん、いいけど」

京子「やった♪」

~大室宅~

~お風呂~


カポーン


向日葵(はぁ……何とか櫻子のご家族には不審がられずに済みましたわね……)

向日葵(撫子さんは、ちょっと怪訝そうな目で見ておられましたが……)

向日葵(……それにしても、歳納先輩、櫻子の演技が凄く上達してましたわ)

向日葵(時々見せてくださる歳納先輩の表情がなければ、私でも間違えてしまいそう……)

『おーい、向日葵~、まだ上がらないの?』


向日葵「あー……もうすぐしたら上がりますわ」


『そっかー……じゃあ、お邪魔しまーす』ガラッ


向日葵「……は?」

櫻子「えへへ、来ちゃった♪」

向日葵「な、な、なんで入ってくるんですの貴女はっ///」ザブーン

櫻子「え、だって、私1人でいると撫子さんが質問攻めしてくるんだもん」ボソボソ

向日葵「え、撫子さんが……?」ボソボソ

櫻子「ちょーっと様子が変だと思われてるみたいだし、あんまり1人でいない方がいいかなって」ボソボソ

向日葵「な、なるほど……」ボソボソ

櫻子「という訳で、向日葵ー!背中流してやるよ!」

向日葵「え、い、いいですわよ、そんな……」

櫻子「遠慮しない遠慮しない!」

向日葵「ちょ、ま、待ちなさいっ、櫻子!というか、手、手つきが、手つきがえっちでっ……んんっ///」

櫻子「ほら、ここがいいのかなぁ?ここ?こことか?」モニモニ

向日葵「や、やめっ、あんっ///」

櫻子「うわあ……向日葵、ほんとに胸がおっきいよね……じかで触るとこんなに……」モミモミ

向日葵「や、止めてくださいって言ってるでしょうっ///」ゴチンッ

櫻子「あ、あう……」プクゥッ

櫻子「ふー、良いお湯だったぁ~♪」

向日葵「さ、櫻子、ちょっとお部屋でお話がありますので///」

櫻子「もー、向日葵あれくらいで怒り過ぎ……」

向日葵「あ、あれくらいって、あんな破廉恥な事をっ///」

撫子「櫻子」

向日葵「……!」

櫻子「あ、おねーちゃん、私達お風呂上がったから、入っていいよ~」

撫子「……」

向日葵「……」ドキドキ

櫻子「ん?どったの、おねーちゃん」

撫子「……そうか、様子がおかしかったのはそれが理由か」

櫻子「ほえ?」

撫子「ひま子」

向日葵「は、はいっ!」ビクーン

撫子「櫻子と末永くお幸せにね」

向日葵「……は?」

櫻子「ん……?」

撫子「じゃあ、私はお風呂いただいてくるから」

櫻子「お姉ちゃん、どしたんだろ」

向日葵(な、何か凄く勘違いされた気がしますわ)

~櫻子部屋~

向日葵「ふー、まあ、色々ありましたが誤魔化せたので良しとしましょう……」

櫻子「うん、ひまっちゃんのお陰だねぇ」

向日葵「と、歳納先輩の演技のおかげですわよっ」

櫻子「えへへ、褒められた」ニコ

向日葵「……!」ドキン

向日葵(また……櫻子の顔で歳納先輩が笑うと、凄くドキドキしますわ……)

向日葵(これは、何なんでしょう……)

向日葵(櫻子の笑顔にドキドキしてるのか……)

向日葵(歳納先輩の笑顔にドキドキしてるのか……)

櫻子「ひまっちゃん?」

向日葵「ひゅいっ!?」

櫻子「あはは、変な声~、ひまっちゃんおっかしい」クスクス

向日葵「も、申し訳ありませんっ///」

向日葵(うう、歳納先輩に変に思われましたわっ///)

櫻子「けど、今日はひまっちゃんの色々な所が見れて、ちょっと嬉しかったな」

向日葵「え?」

櫻子「ほら、生徒会と娯楽部はどちらかと言うと対決主体の関係だからさ」

櫻子「前からひまっちゃん達とはもう少し一緒に遊びたいなーとは思ってたの」

向日葵「そ、そうでしたの……」

向日葵「……私も、あの、歳納先輩との距離が縮まった感じがして、凄く嬉しいですわ」

櫻子「ん、ありがとね、ひまっちゃん……あの」

向日葵「は、はい」

櫻子「身体が元に戻っても、私と、親しくしてくれる?」

向日葵「……!」ドキッ

櫻子「だめ……かな?」

向日葵「だ、だめじゃ、ありませんわ……あの、喜んでお願いしますっ」

櫻子「あ……うん、ありがと!ひまっちゃん!じゃ、ゆびきり!」

向日葵「は、はいっ」


ユビキリゲンマン、ウソツイタラ、ハリセンボン、ノーマス


櫻子「えへへ///」

向日葵(なんでしょう、凄く可愛らしいですわ……)

向日葵「……」ドキドキ

櫻子「お、読みたかった漫画が本棚に揃ってる、櫻子ちゃんすげぇ」スッ

櫻子「~♪」


パラッ


向日葵「あ、あら、何か落ちましたわ?」

櫻子「あれ、ほんとだ……手紙?」スッ

櫻子「……」

向日葵「どうかしましたか?」

こないだは、キクラゲのこと教えてくれてありがとうございました

パン食べられなくて残念です

今度また

    娯楽部に入れたらなあと思って

えーと、上手く書けないんですけど


                     先輩の事が好きです

歳納先輩がうらやましくて


                     大室櫻子

向日葵(これって、書きかけのラブレターですわよね……)

櫻子「これ、見ちゃいけなかったかな……」

向日葵「そ、そうかもしれません……」

向日葵(櫻子、いったい誰に……)

櫻子「……見なかった事にして、しまっておこう……」スッ

向日葵「は、はい……」

櫻子「……」

向日葵「……」

櫻子「と、気を取り直して!」

向日葵「は、はいっ!」

櫻子「……もう、寝よっか?」

向日葵「え?」

櫻子「ほら、もう11時だしさ」

向日葵「あ、ほ、本当ですわね……」

向日葵「じゃあ、あの、私は床で寝ますので歳納先輩はベッドで……」

櫻子「え、一緒に寝ればいいんじゃない?」

向日葵「は……?」

櫻子「今から布団借りに行くのも、家族の人達に申し訳ないでしょ?だから、ほら」

向日葵「え、し、しかし……」

櫻子「私と一緒に寝るの、いや?」

向日葵「……もう、仕方ありませんわね、歳納先輩はっ……」

櫻子「えへへ、やりぃ♪」

向日葵「じゃあ、電気消すます」

櫻子「うん……」


ピッ


向日葵「……」ゴソゴソ

櫻子「ひまっちゃん」

向日葵「はい……?」

櫻子「ありがとうね……」

向日葵「え?」

櫻子「私を、私だって判ってくれて……」

向日葵「……偶然ですわよ」

櫻子「けど、凄く嬉しかった……」

櫻子「ひまっちゃんのおかげで、私は私でいていいんだって思えたから……」

向日葵「歳納先輩……」

櫻子「だから、ありがとう……」

向日葵「……はい」

櫻子「……ん」ニコ

向日葵「……」ニコリ

向日葵(歳納先輩、本人が言ってらっしゃったように……)

向日葵(凄く、弱い部分があるみたいですわ……)

向日葵(自分の存在を不安視してしまうような、弱い部分が……)

向日葵(だから……)

向日葵(そういう弱い部分を……)

向日葵(守って差し上げたい……)

向日葵(な……)zzz

~翌朝~


ガイン、ガイン、ガイン


櫻子「ふご……」


ガイン、ガイン、ガイン


向日葵「ふえ……」


花子「起きろ―、そろそろ学校の時間だし」


ガイン、ガイン、ガイン


櫻子「もう、花子止めてよ、お鍋叩くのー……」モゾモゾ

花子「櫻子、何時もこうしないと起きないし」

櫻子「判った、起きるから……起きるから……」モゾモゾ

~通学路~


櫻子「うわあ!急がないと遅刻しちゃう!」

向日葵「す、すみません、私が着替えを持ってきていなかったから……」

櫻子「気にしない気にしない!走れば間に合うって!」

櫻子「というか、櫻子ちゃんの身体、かるーい!凄く早く走れる!」

向日葵「ちょ、ま、待ってください、歳納先輩……」ハァハァ

櫻子「っと、ひまっちゃん、ごめんね、急ぎ過ぎちゃった」

向日葵「す、少しだけ休めば、走れますので……」ハァハァ

櫻子「うん!」

プルルルー


向日葵「あ、あれ、電話……?」ピッ

向日葵「も、もしもし、向日葵ですが……」

綾乃『あ、古谷さん?』

向日葵「杉浦先輩?」

綾乃『朝からごめんなさい、ちょっと聞きにくいんだけど……』

綾乃『大室さんって、そちらに居るかしら?』

向日葵「……はい、います」

綾乃『本当に、大室さんなのね?』

向日葵(あ、杉浦先輩、もしかして……)

向日葵「えーと、言いにくいのですが、櫻子であって櫻子じゃない方がこちらにいらっしゃいますわ」

綾乃『……なるほど、お互い、状況は理解してるのね』

向日葵「と言う事は、やっぱり、杉浦先輩も……?」

綾乃『ええ、船見さんと私は、歳納京子と大室さんの状況を理解してるわ』

綾乃『これから西垣先生に相談に行くから、貴女達も……』


≪ザザザザッ≫



向日葵「杉浦先輩?」

≪ザザザザザやめて≫


向日葵「え?」


≪やめて≫

≪やめて≫

≪やめて≫

≪本当にやめて≫


向日葵(え、なんですのこれ、混線?)


≪ザザザザザザザッ≫

≪そんなのは、嫌なの≫

≪人の想いは踏みにじられるの≫

≪例えどんな純粋な思いを抱いていても≫

≪踏みにじられて終わらされてしまうの≫

≪だから≫

≪だからね≫

≪    ≫


向日葵「杉浦先輩?」

綾乃「貴女達も合流してほしいなって」

向日葵「え……あ、はい」

綾乃「今私達は、○号線の近くに居るから……」

向日葵(やっぱり混線だったのかしら……)

向日葵「あ、それなら私達もその近くに居ますわ」

櫻子「あ、ひまっちゃん、見てみて」

向日葵「は、はい?」

櫻子「私がいるよ~」

向日葵(あ、本当ですわ、歳納先輩と、杉浦先輩と船見先輩が)

向日葵(意外に近くにいらっしゃったんですのね)

櫻子「おーーーい!わたしーーーーー!」ブンブン


京子「あ!船見先輩!私がいますよ!ほら!道路の向こう側!」

結衣「うん、そうだね」

綾乃「あら、あんなに近くに居たのね」

京子「おーーーーーい!わたしーーーーーーーー!」タッタッタッ

結衣「あ、ちょ、大室さん、突然飛び出したら」

綾乃「危ないわよ!」

京子「平気ですって!」タッタッタッ


コッ


京子「あうっ」ズデーン

結衣「あ……」

綾乃「……あ」



向日葵「え……」

櫻子「……!」

京子「いてて……転んじゃった……」

京子「歳納先輩、やっぱり運動不足なんじゃ……」

向日葵「櫻子!危ない!」

京子「ほえ?」

間に合わないと思った

ここから歳納先輩の身体……

もとい、櫻子が倒れてる道路まで距離があり過ぎる


だから、助けようとしても間に合わない


間に合わずに

櫻子にトラックが突っ込む


そう思った

きっと、船見先輩や杉浦先輩も、そう思ったのだろう


けど

1人だけ

そう思わなかった人がいた

「櫻子ちゃん!」

その人は凄いスピードで櫻子に向かって行った

そう、今の彼女の身体が持つ運動能力なら

もしかしたら

もしかしたら

届くのかもしれない


私が期待した通り


その人の手は、倒れたままの櫻子が伸ばした手に届いた




けど、それだけだった



歳納先輩が伸ばした手は衝撃で払われ

櫻子はそのまま、トラックの車輪に巻き込まれて

引き摺られて

塀に激突して

潰れた

向日葵「……え」

櫻子「い、いたた……」

向日葵「え、う、うそ……」

櫻子「あ、あれ、私……」

向日葵「う、うそよ、うそ、こんな……」

櫻子「頭が、ふらふらして……」

向日葵「と、歳納先輩、ど、どうしましょう……さ、櫻子が、櫻子がっ……」ガクガク

櫻子「え、なに?呼んだ?」

向日葵「櫻子が!トラックの下敷きに!た、助けないとっ!」

櫻子「なに言ってるの、向日葵」




櫻子「櫻子は私だけど」



向日葵「……は?」

櫻子「私、どうしたんだろ、確か、道路で転んで……」

櫻子「そうだ、それで、私の身体が走ってきて……あれって、歳納先輩だよね、身体入れ替わったんだし」

櫻子「え、歳納先輩は?」

向日葵「……」

櫻子「ねえ、向日葵、歳納先輩は?」

向日葵「……」

櫻子「向日葵?」

向日葵「櫻子が、元の身体に戻ってる……じゃあ」

向日葵「じゃあ、歳納先輩の身体には……」

向日葵「あの身体には……」

向日葵「あの潰れてしまった身体には……誰が……」

電話の最後の一言を想いだした


≪貴女達が≫

≪不幸になりますように≫


私と櫻子は歳納先輩のお葬式には参加しなかった

出ると、恐らく、櫻子は「感謝」されてしまう

公には、櫻子は道路で転んだ歳納先輩を助けようとしたのだから

本当は逆だけど



だから、私達は歳納先輩のお葬式には、参加しなかった

向日葵「……櫻子、気を落とさないで……」

櫻子「……」

向日葵「貴女が悪いわけじゃ……」

櫻子「……ありがとう」

櫻子「けど、今はその事には触れられたくない……ごめん」

向日葵「櫻子……」

櫻子「先に、生徒会室に行くね……」タッ

向日葵「……」

向日葵(櫻子が、先に行ってくれた助かりましたわ……)

向日葵(だって、だって、私も、泣いてしまいそうですもの……)

向日葵(歳納先輩……)

向日葵(う、ううっ……)グスッ

向日葵(どうして、どうして死んでしまわれたのですか、どうしてっ……)ヒック

向日葵(私、もっと歳納先輩のこと、知りたかったのに……なのにっ)ヒック

~生徒会室前~


向日葵(……)ヒック

向日葵(駄目ですわ、何時までも泣いていたら……)

向日葵(きっと、きっと船見先輩や杉浦先輩は、私よりももっと……)

向日葵(もっと辛いはずですし……)

向日葵(当事者である櫻子も……きっと……)


『納得いかないよ!そんなの!』


向日葵「……!」ビクッ

向日葵(い、今の声、生徒会室の中から……?船見先輩の声みたいでしたけど……)


『どうして、どうしてそんな事の為に、京子が!』

『ふ、船見さん、落ち着いて!』

『綾乃だって、こんなの納得できないって言ってただろ!』

『そ、そうだけど……』


向日葵(誰かと、喧嘩してる……)

向日葵(誰と?)

向日葵「あ……」

向日葵「ま、まさか……」


ガラッ


結衣「はぁ……はぁ……」

櫻子「……」

綾乃「あ……古谷さん……」

向日葵(う、うそ、櫻子が……櫻子が……2人に攻められて?)

向日葵「や、やめてください……」

綾乃「古谷さん、違うの……」

向日葵「や、やめてください!さ、櫻子を攻めたって、歳納先輩は、歳納先輩はっ……」

結衣「……」ギリッ

櫻子「ひ、向日葵、違うの、これは……」

結衣「……」タッ

綾乃「あ、ふ、船見さんっ!」タッ

向日葵「さ、櫻子が悪いわけじゃ……ありませんっ……」

向日葵「櫻子は、悪くない、悪くありませんわ……」ウルッ

櫻子「向日葵……」

向日葵「さ、櫻子、大丈夫、私が、私が守って差し上げますから……」ヒック

向日葵「大丈夫、大丈夫ですからっ……」グスッ

櫻子「……ごめん」

向日葵「だって、櫻子にだって、弱いところはあるんですから、幾ら強そうに見えても、何時も笑っていてもっ……」ヒック




櫻子「ごめんね、向日葵」



~数週間後~


向日葵「櫻子、今日も生徒会の仕事、御苦労さまでしたわね」

櫻子「うん、杉浦先輩達がいない分、私達が頑張らないとね……」

向日葵「そう……ですわね……」

櫻子「ま、私の手にかかれば生徒会の一つや二つ、全然大したことじゃないんだけどさ!」

向日葵(櫻子、辛い癖に、それを隠すのが上手になりましたわね……)

向日葵「……ええ、最近の櫻子は、見違えるように頑張ってますわね」

櫻子「でしょー?」

向日葵「……杉浦先輩も、そのうち、きっと戻って来てくれますわよ……」

櫻子「……うん」



「ウエーンウエーン」


櫻子「あれ、子供が泣いてるや」

向日葵「ほんとですわ、どうしたのでしょう」

櫻子「おーい、どうしたの?」トテトテ


「風船が、また木に引っかかっちゃったの」


向日葵「あー……あれですわね……櫻子、ここれくらいの木ならちゃちゃっと登って……」

櫻子「んー、登るのは無理っぽいなあ……ちょっと何か道具探してくるよ」

向日葵「……え?」

櫻子「近くで釣りしてるお姉さん居たから、釣竿借りてきたよ~」トテトテ

向日葵「……」

櫻子「これにガムをつけて……ひょいっと」

櫻子「取れたよ!」


「ありがと!おねえちゃん!」トテテ


櫻子「さて、あとは釣竿返してくるね?」

向日葵「……歳納先輩?」

櫻子「ん?」

向日葵「……歳納先輩、ですの?」

櫻子「……向日葵、何言ってるの?」ニコ

向日葵「……さっき、返事しましたわよね」

櫻子「あれはびっくりして返事しちゃっただけだって」

向日葵「……この木は、昔から櫻子が良く登ってた木ですの」

櫻子「……」

向日葵「どうして、登れないなんて、言いだしたのです?」

櫻子「……」

向日葵「……」

『古谷向日葵さん』


向日葵「は、はい?」


『問題です』

『階段から落ちて人格が入れ替わった後、更に交通事故にあって片方が死んでしまいました!』

『さて、私は誰でしょー!』


向日葵「……それは」

向日葵「それは……」

~事故直前~


京子「櫻子ちゃん!」

櫻子「と、歳納先輩?」

京子「よ、良かった、間に合った……」

櫻子「え、わ、わたし、トラックにはねられ……ました?」

京子「いや、まだ撥ねられてないよ、ギリギリ指が届いた」

京子「ほら、元の身体に移れば、助かるから!早くこっちに来て!」

櫻子「え、け、けど、それじゃあ……歳納先輩は、どうなるんです?」

京子「わ、私はいいから!」

櫻子「い、いいわけないですよ、どうなるんです!?」

京子「あ、あはは、櫻子ちゃん、心配し過ぎ、私はほら、こう見えて運動神経いいから」

京子「元の身体に戻っても、トラックなんて、直前でヒラッと、ね?」

櫻子「……嘘です」

京子「う、嘘じゃないって!だから早く!」

櫻子「歳納先輩の運動神経の無さは、身に染みてわかってます……」

京子「櫻子ちゃん!」

櫻子「そ、それに……歳納先輩が、死んじゃったら、悲しむじゃないですか」

京子「え、な、なに言って……」

櫻子「船見先輩が、悲しむじゃないですか……」

京子「……!」

櫻子「黙ってましたけど、わたし、船見先輩のこと……好きなんです」

櫻子「ラプレターとかも、ちょっと書いてたんですけど、完成しなくて……えへへ」

京子「櫻子、ちゃん……」

櫻子「だから、やっぱりここはドジ踏んだ私がここにとどまるべきなんです……」

京子「だ、駄目だよ、櫻子ちゃん、そこにいたら、そこにいたらトラックに撥ねられて死んじゃうじゃん……」

櫻子「えへへ」

京子「笑ってる場合じゃないよ!ひまっちゃんや、花子ちゃんや、撫子さんはどうするの!?」

櫻子「家族の事は、多分、大丈夫です、わたし、嫌われてますし」

京子「そんな事ない!櫻子ちゃん、そんな事ない!」

櫻子「ただ、向日葵のことだけは心配だなあ……あいつ、ほら、脆いし」

櫻子「だから、向日葵のことだけは……」

京子「櫻子ちゃん!手を……!」

櫻子「お願い……」

京子「櫻子、ちゃんっ!」

櫻子「しま……」

櫻子「す……」

京子「い、いたた……」

向日葵「え、う、うそ……」

京子「あ、あれ、私……」

向日葵「う、うそよ、うそ、こんな……」

京子「頭が、ふらふらして……」

向日葵「と、歳納先輩、ど、どうしましょう……さ、櫻子が、櫻子がっ……」ガクガク

京子(あ……わたし、わたし、間に合わなかったんだ……)


『ただ、向日葵のことだけは心配だなあ……あいつ、ほら、脆いし』

京子(……うん、櫻子ちゃん)

京子(判った……)

京子(ひまっちゃんが……)


『船見先輩が、悲しむじゃないですか……』


京子(いや、それだけじゃない、結衣も)


『お願い……』

『しま……』

『す……』


京子(みんな悲しまないよう……頑張ってみる)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~お葬式の後~

~生徒会室~

結衣「大室さん、冗談で言ってるなら、本気でぶつよ?」

櫻子「ぶってもいいけど、これは本当」

櫻子「私は、歳納京子だよ」

綾乃「そ、それじゃあ、事故で亡くなったのは……」

櫻子「……うん、本物の、櫻子ちゃん」

結衣「……」

櫻子「結衣?信じてくれる?」

結衣「……幾つか、質問させて」

綾乃「わ、私も……それに応えて貰わないと、ちょっと信じられないわ……」

櫻子「ん、判った、何でも聞いてくれていいよ」

結衣「……私達が小学4年生の頃の担任の先生は?」

~数分後~


結衣「じゃ、じゃあ、ほんとに?ほんとに京子なの?」

櫻子「だからそう言ってるって……」

結衣「……ど、どうしてもっと早く言ってくれなかったの!」

結衣「わ、私が、私が京子のお葬式で、どれだけ泣いたと……!」

綾乃「そ、そうよ、もっと早く言ってくれたら、私たちこんな悲しい思いしなくて……!」

綾乃「そんなの納得できないわ!」

櫻子「……ごめん」

櫻子「けど、私……私、ひまっちゃんや、櫻子ちゃんの家族を悲しませたくないんだ」

結衣「……なに、言ってるの、京子」

櫻子「だからね、私は、これから大室櫻子として生きるつもり」

綾乃「と、歳納京子?」

櫻子「ただ、2人の前でだけは、元に戻るから……お願い、悲しまないで?」

結衣「な、納得いかないよ!そんなの!」

結衣「どうして、どうしてそんな事の為に、京子が!」

綾乃「ふ、船見さん、落ち着いて!」

結衣「綾乃だって、こんなの納得できないって言ってただろ!」

綾乃「そ、そうだけど……」


ガラッ


綾乃「あ……古谷さん……」

向日葵「や、やめてください……」

綾乃「古谷さん、違うの……」

向日葵「や、やめてください!さ、櫻子を攻めたって、歳納先輩は、歳納先輩はっ……」

結衣「……」ギリッ

櫻子「ひ、向日葵、違うの、これは……」

結衣「……」タッ

綾乃「あ、ふ、船見さんっ!」タッ


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『問題です』

『階段から落ちて人格が入れ替わった後、更に交通事故にあって片方が死んでしまいました!』

『さて、私は誰でしょー!』


この質問は、きっと取り返しがつかない質問

私が「貴女は歳納先輩です」と応えれば、彼女は「歳納先輩」に戻るだろう

私が「貴女は櫻子です」と応えれば、彼女はこの後の人生を「櫻子」として過ごすだろう

きっと

私の為に

櫻子の為に


向日葵「それは……」

どちらを選ぶのが正しいんだろう


ずっと一緒に居た幼馴染か

憧れていた先輩か


正解がどちらかは判らないけど

私は今すぐ選ばせなくてはならない

なら

なら

フリーズして書き貯めたやつ全部飛んだ




向日葵「さくらこ、です、わよね……」





その瞬間

歳納京子は死んだ

二度目の死を迎えた


櫻子「……」

向日葵「……」

櫻子「そうだよ、向日葵、判ってんじゃん」ニコ

向日葵「はい……」

櫻子「歳納先輩の死が応えたのは判るけどさ、そろそろ乗り越えないと……」

向日葵「……はい」

櫻子「私も支えるから、さ」

向日葵「……」

櫻子「ね?」

向日葵「はい」



それ以来、歳納先輩は、誰の前にも姿を現さなくなった

船見先輩達の前にも


櫻子「いたた……」

向日葵「櫻子、また船見先輩にぶたれたんですの?」

櫻子「うん、歳納先輩を出せって……さ」

櫻子「そんな事言われても、私は櫻子だしさ」

向日葵「……ええ、そうですわね」

向日葵「あなたは……櫻子ですわ」

櫻子「うん」

向日葵「……さあ、帰りましょう、傷の手当てをしないと」

櫻子「花子達には黙っててね?苛められてるとか思われると格好悪いしさ」

向日葵「ええ……」



「大丈夫ですわ、櫻子」


「貴女は私が守りますから」


「今度こそ、絶対に」



時系列的には関連してないけど影響は与えてるSS

綾乃「二人で紡ぐ物語」


はい!

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