千早「5回だけ過去に戻れるなら」(119)
内容:
ミスって「」だけになってました。こっちでやり直します
それは突然のことだった。目の前でサッカーボールのように跳ね飛ばされる弟。今でも夢に出てくる。
如月優、私にとって初めてのファンで、大切な弟。
千早「!!」
また、夢に出た。
ゴシップ記事は大げさに書くもの。分かってはいるけど、私が見殺しにしたなんて記事を書かれると、嫌でもショックを受ける。声が出なくなってどれぐらい経ったのだろうか。音のないこの部屋において、足蹴く通う春香の声だけが響く。
微睡の中、不意に携帯電話が光っているのが見えた。765の仲間からの心配のメールに混じって、見たことのないアドレスからメールが来ていた。いつもなら迷惑メールとゴミ箱に入れるところだけど、そのメールを削除することが出来なかった。
『もしも5回だけ過去に戻れたら、あなたはどうしますか?』
意味の分からない、悪戯メールの類だろう。過去に戻る? 都合がよすぎる。
機械に疎い私でもそれぐらい分かる。不愉快なメールをゴミ箱に捨てようとすると、メールの着信が。
『例えば、死ぬ運命の人間を救うとか』
千早「!?」
まるで私をピンポイントに狙ったかのような内容。心臓の鼓動が早くなる。
あたりを見渡す、当然私以外誰もいない。じゃあ監視カメラでもあるの? 私は怖くなって、部屋着で外に駆け出す。
千早「ハァ……、ハァ……」
とりあえず外に出ようと、当てもなく走ったため、息も切れ切れだ。そして私はふと気づく。今私が立っている場所は、優が事故にあった道路だと。
携帯を見ると着信を知らせる光。
『過去に飛びたければ、メールを返してください』
ずいぶんご丁寧な送り主だ。どうすればいいかまで教えてくれるなんて。
どうせ最初から信じていない。ただ悪戯メールに返信するだけだ。
少しばかりの期待を込めて、悪戯メールに返信する。
千早「!?」
世界が、変っていく――。
気づくと、太陽が昇っており、道を行きかう人々。
千早「どういうこと……」
予想もしていなかった展開に、私は混乱する。ここはどこなんだろう、本当に過去に飛んだのだろうか?
?「ボールが転がっちゃった!」
私の耳に、とても懐かしい声が聞こえた。小さなころ、ずっと聞いていた声。
??「まってよ、優!」
私の前を通り過ぎて行った青髪の姉弟。そうだ、あの子たちは……。
千早「優、止まってー!!」
優「え?」
大きく息を吸い込み、割れんばかりの声で叫ぶ。優と呼ばれる少年はこちらを向いて、転がっていくボールはスピードを出し過ぎている青い車にぶつかり、
シュートが決まったように飛んでいく。
千早「た、助かったの? ゆ……」
急に眠気が襲ってきて、その名を最後まで呼ぶことが出来なかった
――さん、起きて……。
誰かの声が聞こえる。おかしいわね、私の家には誰もいないはず……。重い瞼を開けると、そこには
?「おはよう、姉さん」
千早「ゆ、優なの……?」
優「どうしたの、僕が優以外に見えるの? ってどうしたの、泣きそうな顔をして……」
千早「優!!」
優「うわっ! どうしたの、姉さん!?」
抱きしめた優の体温を感じる。そうだ、紛れもない。背も高くなって、声も少し低くなっているけど、目の前にいる彼は、正真正銘如月優だ!
千早「ってあれ?」
優を抱きしめながら気づく。ここ、私の部屋じゃないわね……。
私の部屋じゃない、けれども、クラシックのCDが棚に入っているし、寝巻は昨日のままだ。
もしかして……。
優「母さんが待ってるよ。土曜日曜、姉さんが忙しくないときは、みんなで朝食。忘れたの? 提案したの姉さんでしょ?」
千早「みんなって……」
寝ぼけた頭が覚めてくるにつれ、事情が読み込めてきた。優が助かったから、両親が喧嘩する理由もなくなったのだ。
こういうのをバタフライエフェクトっていうのかしら? 優が生きていることで、私たち家族が離ればなれになることがなくなったんだ。
階段を下りると、美味しそうな匂いがしてくる。私一人の部屋にはなかった、家庭の温かみがそこにあった。
千早「そうだっ、携帯は!?」
過去に戻るメール、携帯電話を見ると、新たな受信が。
『残り4回』
千早「必要ないわよ、そんなに」
ごみ箱に捨てようかとも思ったけど、このメールのおかげで優は助かったんだ。記念に保護しておく。
携帯でもう1つ気づいたこと。それはみんなからの心配のメールがなかった。成程、優がいるだけで、こんなに変わってしまうんだ。
如月家『いただきます』
家族4人の団欒。もう叶うわけがないと思っていたけど、奇跡は起きたようだ。
優「そうそう、姉さん今度ライブでしょ?」
千早「ライブ? ああ、そうね」
予定ではライブが何日か後にあったはずだ。そこで思い出す。
私、歌えるのかしら?
千早「フレッ、フレッ、頑張れっ♪ さぁ行こう♪ フレッ、フレッ、頑張れっ♪ 最高♪」
優「ね、姉さん……」
千早「歌える……、私歌えるようになったのね!!」
高槻さんの曲だからかしら? その後自分の持ち歌、今度のライブで披露する曲を歌い、私は完全に復活したと確信した。
優「姉さんやっぱり上手いね」
私のファン1号もご満悦だ。
優「そろそろ行かないとレッスンに間に合わないんじゃない?」
千早「へ? そうかしら?」
優「いや、聞かれても分からないよ。メーリスとか来てるんじゃないの?」
優に言われて携帯を見ると、レッスンの時間と場所が書かれたメールが、アイドルに一斉に送られていた。竜宮の分は律子が管理しているのだろう。
千早「あれ? 美希には来てないのかしら?」
メーリングリストを見ると、美希の名前がない。大方、プロデューサーに、
美希『美希は一斉送信嫌なの! ハニーは美希だけに特別なの送ればいいと思うな!』
とでも言ったんだろう。プロデューサーの苦労が窺える。
千早「それじゃあ行ってくるわ」
優「うん、気をつけて行ってきてね」
優に見送られ、事務所へと向かう。空は青く澄み渡っている。なんとなく、私の気分もよくなる。
千早「おはようございます」
春香「千早ちゃん、おはよう!」
やよい「おはようございます! 千早さんなんかすごく嬉しそうです。いいことありました?」
千早「ええ、とても素晴らしいことがね」
765プロに着いた私をいつも通りのみんなが迎えてくれる。私たちを長年苦しめていた原因を取り除いたからか、他人からは嬉しそうに見えるみたいだ。
P「よし、みんな集まったな。それじゃあ今日の予定だけど……」
ぞろぞろとアイドルのみんなも事務所に入ってきて、ミーティングを始める。あれ、伊織はいないのかしら?
P「以上だ。みんな、今日も大変だけど頑張ってくれ」
一同『はいっ!』
伊織は休みみたいね。後でお見舞いメールでも送ってあげようかしら?
社長からの流行情報を受け、私たちは各々の準備を始める。今日は歌唱レッスン、自ずとテンションも上がる。
律子「じゃあ竜宮は行きますよ。亜美、あずささん、美希。用意お願いね」
あずさ「はーい」
亜美「らじゃー!」
美希「ハニー、寂しいけど、美希頑張るから!!」
竜宮組は別行動のようだ――。
千早「へ?」
どうして美希が竜宮にいるの?
千早「律子、なんで美希が竜宮にいるのよ?」
おかしいと思った私は律子に尋ねる。
律子「へ? 竜宮? なによそれ」
美希「千早さん、美希は浦島太郎じゃないよ?」
千早「竜宮小町よ! 律子がプロデュースしたんでしょ!? 伊織がリーダーで、亜美とあずささんの水関係の苗字の3人グループよ!」
春香「水関係なら私もなんだけどな……」
真美「真美もだよ」
一体どんな顔をしていたのだろうか? 律子は少し怯えるが、落ち着いてこう伝えるのだった。
律子「千早、竜宮なんて知らないし、そもそも伊織って子知らないわよ?」
頭が真っ白になっていく――。
律子「えーと、誰かその伊織って子知ってる?」
律子が尋ねるが、誰も答えない。
律子「千早どうしたのよ? 記憶喪失にでもなった?」
千早「違う! 私は……」
律子「スターフィッシュよ。海と浦、そして星。海の星でヒトデにしたんじゃない。まあ流石にヒトデってアイドルグループはいやだけど……」
律子の説明によると、私の知っている竜宮から伊織と美希を入れ替えたようだ。じゃあ伊織はどこに……。混乱していると、社長が口をはさむ。
社長「如月君、もしかして伊織というのは、水瀬伊織君のことかね?」
千早「!! そうです! 水瀬伊織! うちの事務所のアイドルよ!!」
社長は少し驚いた顔を見せると、心苦しそうに告げるのだった。
社長「そうだね……。もし生きていれば、それも叶ったかもしれないね」
千早「生きていればってどういうことですか……」
震える声で尋ねる。
社長「水瀬伊織君は、小さなときに亡くなっているんだ」
それは、一番聞きたくなかった言葉だ。
ホントだ……。致命的なミスをしてしまった。竜宮の部分カットで。
社長の話によると、水瀬伊織は小学校の頃、不審者に殺されたという。取り乱す私を、社長は家へと帰す。
千早「どうなっているのよ……」
優「ただいま、早いね。どうしたの?」
家に帰った私を、優が迎えてくれる。
千早「ねえ優。あなたパソコン使える?」
優「パソコン? 一応出来るけど、珍しいね。アナログな姉さんがパソコンに興味を示すなんて」
千早「じゃ、じゃあ調べて欲しいことがあるんだけど……」
優「?」
千早→伊織は水瀬さん、な。気にする人もいると思うから一応
優「水瀬……、伊織っと。これだね、釘宮小で起きた女子殺害事件。被害者が水瀬伊織って言うんだ。あれ? この日は確か……」
千早「そ、そんな!? どうして……」
ディスプレイには当時の新聞が映っている。水瀬財閥の長女、水瀬伊織。間違いなく、私の知っている彼女本人だ。
優「なんというか因果な話だね」
千早「へ?」
優「ああ、うん。この日ってさ、僕が車に轢かれそうになった日じゃんか。あのお姉さんのおかげで助かったけど。ってそういや姉さんに似てるな……」
まさか優を助けた代償で、伊織が死んだっていうの!? 私は食い入るように写真を見る。するとあることに気付く。
千早「ね、ねえこの車って……」
小学校に乗り込んだ不審者の車。この車は、
千早「青い車……?」
優「あっ、ホントだ。あの時の車そっくりだ」
かつて私の弟を轢き殺した、青い車がそこにあった。
>>24 一応調べた呼称表には両方書いてた。前に水瀬さんじゃなくて伊織、って言ってた人もいたからどっちなんだろ。以下水瀬さんで。
優は生き残った。だけど今度は水瀬さんが同じ人間に殺されてしまった。いや、優の場合は事故なんだけど……。
優「この人、水瀬系列の会社で働いていったみたいだね。首になって、奥さんにも逃げられて、借金が残ったって書いてる」
もしかすると、優が事故に遭ったから、怖くなって水瀬さんを殺さなかったのだろうか? そう考えると、この連鎖に納得がいく。
1人考えていると、不意に携帯が震える。またあのメールかと思ったけど、ただの迷惑メールだった。
千早「そうよ……、あのメールがあるわ! ねえ、優。いくつか調べて欲しいんだけど……」
優「何を?」
千早「えっと、釘宮小学校の電話番号と……」
優「そんなの調べてどうするの? 姉さんにそんな趣味あったっけ?」
千早「何でもいいから! お願い、どうしても必要なの」
優「なんかの映画の真似? まあ良いや。ちょっとまってね……」
優「はい、これ。って姉さん年齢的に無理なんじゃ……」
千早「好きなのよ。ありがとっ、ちょっと行ってくるわ!」
優「行ってくるって……、どこに?」
千早「ちょっと昔に!」
過去に飛べるのは残り4回。私は優からもらったものを落とさないように握って、メールへと返信するのだった。
世界が再び変わっていく――。
千早「さっきと一緒ね……」
たどり着いた先は、優の事故現場。恐らく……、
?「ボールが転がっちゃった!」
??「まってよ、優!」
やっぱり。ここからやり直すのね……。
千早「優、止まってー!」
優「え?」
ボールは車のヘディングを食らう。優の無事確認、次は……。
千早「携帯は使えないわね」
過去に飛んだため、その時に発売していないモデルの携帯は使えないようだ。来るのはあのメールぐらいだろう。
千早「確かこの辺に……。あった!」
幸いにして近くに公衆電話があった。最近は少なくなってきて、少々さびしく思う。私は釘宮小に電話をかける。
先生「はい、もしもし。釘宮小学校ですが……」
千早「すみません! 今すぐ生徒を教室に閉じ込めてもらえませんか?」
先生「は?」
千早「意味が分からないかと思いますが、お願いです。教室に非難させてください」
先生「ちょっと、なんですか? 悪戯ですか!?」
千早「いいえ、こっちは真剣です」
先生「こっちも真剣なの。もう気が済んだ? 切りますよ……」
やはりそう来るか……。でもこっちにはまだ手があるわ。
千早「今すぐテレビをつけて競馬にチャンネルを変えてください!」
先生「はぁ? 競馬?」
千早「このレース、3番のサイレントナナジュウニが1着、6番のナカムラセンセーが2着、1番のユリシーが3着、5番のワカバヤシシンが4着ですから」
先生「何言ってるのよ」
優に調べてもらった競馬情報。これなら信じてもらえるはず――。
千早「確かめてください! それで正しかったら、子供たちを教室に入れて、警察を呼んでください!」
先生「もう何が何だか……」
千早「どうですか?」
先生「ビンゴよ……。なんなの? あなた競馬予想師?」
千早「いいえ、通りすがりのアイドルです」
先生「別に通り過ぎてないじゃない……。分かったわよ、信じてあげる。その代わりなにもなかったら通報するわよ?」
千早「お好きにどうぞ」
受話器を置く。これで警察が間に合えば……。気が抜けたのか、また私は意識を失っていく――。
――さん、起きて……。
私を呼ぶ声。どうやら第一関門は突破したみたいね。
千早「おはよう、優」
優「おはよう姉さん」
目の前には、弟が笑顔で座っていた。
千早「ねえ、水瀬伊織って知ってる? それと竜宮小町って」
優「水瀬伊織って姉さんの事務所の? 竜宮小町すっごく売れてんじゃん。まぁ姉さんの方が上だけど。ってどうしたの急に」
千早「いいえ、これで全部丸く収まったと思って」
優「変なの」
水瀬さんは生きていて、竜宮小町も活動している。これで全部上手くいったんだろう。
千早「思えば回りくどかったわね……」
結果として救えたからよかったけど、競馬情報って他になかったかしら。不慣れな奴ほど奇をてらう、だったかしら。そんなことを誰かが言ってた気がする。
千早「残り3回ね……」
3回のチャンス。正直もう戻ることはないと思うけど、そのままにしておく。
千早「行ってくるわ」
優「行ってらっしゃい」
レッスンスタジオは昨日と変わらず。私は大してメールを確認もせずに外に出る。
……この時、きちんと確認しておけば、後に待っている新たなる火種に驚くこともなかったかもしれない。
千早「おはようございます」
春香「おはよう千早ちゃん!」
伊織「おはよう」
千早「おはよう2人とも」
事務所に水瀬さんはいた。よし、これですべて上手くいったんだ。そう、全部……。
P「それじゃあミーティングだぞー」
プロデューサーに集められ、ミーティングを受ける。内容も昨日と同じだ。ただ、違う所があるとすれば……。
律子「竜宮行くわよー」
あずさ「はーい」
伊織「今日の予定は何だったかしら?」
春香「今日はいいともだよ!」
亜美と真美がいないこと。
千早「ねえ律子。竜宮小町のメンバーの誕生日を教えてくれる?」
律子「へ? 急にどうしたの? 伊織が5月5日、あずささんが7月19日、春香は……、いつだっけ?」
春香「4月3日です!」
律子「冗談よ。それ知ってどうするの? 相性占いでもするわけ?」
千早「じゃあ、双海亜美と双海真美の誕生日は?」
律子「へ? 誰それ」
千早「……クッ」
二人の姿が見当たらないから、なんとなくそうじゃないかと思っていた。
今度は何がダメだったの!?
社長「如月君、どうして双海姉妹の名前を知っているのかね?」
千早「風の便りです」
社長「良く分からないが、彼女たちも可愛そうな子たちだ。あんなことがなければ……」
律子「あんなこと?」
社長「身代金目的で誘拐されたんだ。双海姉妹は病院の院長の娘で……、どこに行く気だね如月君!」
千早「ごめんなさい、今日はお休みします」
驚くみんなを背に、私は家へと駆けだす。事故、殺人ときて次は誘拐!? 一体どこでボタンのかけ違いが起きてるのよ……。
優「ただいま姉さん、早かったね」
千早「優!」
優「はいっ! なんでしょうか?」
千早「パソコン借りるわよ」
優「へ? あっ、どうぞご自由に……。って姉さんパソコン出来たっけ?」
千早「出来ないわよ。だから操作してほしいの」
優「はいはい。何を調べたらいいの?」
千早「双海病院 誘拐 で調べてみて」
優「ちょっと待ってね……」
優「はい、これだね。双海病院の双子の娘が、近くの公園で誘拐された事件。身代金目的の誘拐で犯人は捕まったんだけど、双子の姉妹は心に深い傷を負ったみたい」
千早「トラウマね……」
犯人に何をされたかは知らないし、知る術もないけど、二人が生きているということにひとまずホッとする。
優「で、この事件の犯人なんだけど、実は元々近くの小学校に通っている子が目的だったみたいでさ、警察がいたから逃げたんだって。それで次はお金持ちの娘を誘拐して……。ってどうかした?」
千早「近くの小学校って釘宮小のこと……?」
画面に映る犯人の顔は、水瀬さんを殺した男の顔と同じだった。どうやら、すべての元凶はこいつで間違いなさそうだ。
千早「何の恨みがあるのよ……。優、どこで誘拐されたって?」
優「えっと、公園だよ。僕らも良く遊んだあそこの公園」
千早「分かったわ、ありがとう」
優「どういたしまして。って何を始める気なの? 急に昔の誘拐事件を調べたいとか言って……」
千早「日付よ」
優「日付? あれ、この日って……。姉さん?」
世界が変わっていく――。
>何も知らない
思い切りレイプされたって書いt(´・ω・`)
なんでふたつIDで書き込みしてるのん?
千早「優、止まってー!!」
優「え?」
3度目となると慣れたものだ。優の事故を防ぎ、公衆電話へと急ぐ。
先生「もしもし、釘宮小学校ですけど……」
千早「すみません、釘宮小学校に爆弾を仕掛けちゃいました」
先生「は?」
千早「爆弾です。ドカンと一発行けますよ」
先生「なんですか!? 悪戯ですか!?」
千早「本気です。早く警察を呼んで爆弾を探した方が賢明かと」
先生「要求は何よ!!」
千早「じゃあ子供たちをまだ帰宅させないでください。1人でも校門を出たら、ドカンと行きますから」
先生「け、警察に電話をー!」
千早「ふぅ、競馬より早く行ったわね」
>>50 イーモバだからかな? 良く分からない。
千早「次は……、公園ね」
誘拐される前に、亜美と真美のもとへと走り出す。
亜美「ねぇねぇ真美、うちってお金持ちなんだってね」
真美「そ→そ→、だから誘拐されちゃうかもね!」
公園で能天気に遊ぶ若かりし亜美真美。真美は思春期真っ盛りだけど、亜美は今とあまり変わらない気がする。
千早「ねえあなた達、少し聞きたいんだけど……」
真美「ん? 真美たちになんか用?」
千早「ええ、少し道を聞きたいんだけど……」
誘拐犯はここを通るらしい。来る前に何とかしないと……。
真美「だってさ、亜美」
亜美「亜美たち知らない人に付いてっちゃダメって言われてるんだ」
そうよね、私も知らない人にカウントされるわよね。名前を……。
千早「クリス、牧瀬紅莉栖よ」
でっち上げちゃいました。
真美「クリスってがいこくじん?」
亜美「スッパイみたいな名前だね!」
恐らくスパイと言いたいのだろう。
千早「そうよ! 私はスパイなの! ある任務でこの町に来たんだけど、道に迷っちゃって……。そこで二人に聞いたの」
真美「スパイなのに道がわからないってむのーだね」
亜美「むのーむのー!」
千早「クッ……、だから教えて欲しいの。場所はそうね……、カラオケなんだけど」
亜美「じゃんからかな?」
真美「かもねー」
千早「そうそう! ジャンから! 悪いんだけど私を助けると思って道教えてくれないかしら?」
真美「いーよ!」
亜美「亜美たちもつれてけー!」
時間つぶしにはなるかしら? 誘拐犯が来る前に、公園を後にする。
亜美「~♪」
真美「~♪」
千早「誰かとカラオケって久しぶりね……」
優が死んでから、私は1人を好むようになった。今では1人カラオケも珍しくはないけど、初めの内は奇妙な目で見られてたっけ。
亜美「ねぇねぇ、クリスお姉ちゃんも歌おうよ~」
真美「スッパイの歌声聞かせて!」
亜美真美にマイクを渡される。と言っても子供が喜ぶ曲なんて知らないわよ? 高槻さんの曲もないし……。
千早「適当に入れるか……」
履歴からそれっぽい曲を選ぶ。
想い出がいっぱい。また古い曲ね。合唱で歌ったっけ?
>>54
タイトル忘れた上にうろ覚えだけど日本映画のホラー
自分の死が書いてある未来の日付の新聞を見つけてから色々おかしくなる
>>58 恐怖新聞?
亜美「すげー」
真美「スッパイすげー」
亜美と真美は眼を点にする。
千早「こんなものかしら」
歌い終わると、終了10分前のコール。延長する理由もないし、亜美真美をいつまでも連れ回すわけにもいかない。
双海総合病院に2人を送り届ける。
真美「ねえクリス姉ちゃん、また会えるかなぁ?」
亜美「また遊ぼうよ~」
亜美と真美は寂しそうに私の服をつかむ。
千早「ええ、また遊べるわ。私みたいに歌の上手なアイドルになってみなさい、そしたらいつか会えるから」
亜美「アイドル?」
真美「なにそれ」
千早「ごめんなさいね、私はスパイじゃないの。アイドルなの。歌を歌って、ダンスを踊ってみんなを楽しませる仕事よ」
亜美「すごそう!」
真美「真美たち、絶対クリスお姉ちゃんみたいなアイドルになるかんね!」
千早「ええ、楽しみに待ってるわ……」
最後まで言うことなく、私は現在へと戻る。これで、誘拐はなくなったはずだ。
千早「おはよう、優」
優「あっ、起きてたんだ」
千早「ねえ、うちの事務所に双子の姉妹がいること知ってる?」
優「うん、亜美と真美でしょ?」
千早「じゃあ竜宮のリーダーは?」
優「伊織さん?」
千早「正解よ」
今回は私も正解したみたいだ。これで全部上手くいくはず――。
千早「おはようございま……、あれ?」
事務所のドアを開けると、見慣れない青髪の双子がいた。
亜美「あっ、クリ、千早お姉ちゃん!!」
真美「おはよう!!」
千早「ぐふっ……」
扉を開けるや否や、亜美と真美が抱き着いてきた。きれいに入ったわよ……。
春香「もう、亜美真美はしゃぎ過ぎだよ?」
伊織「そうよ。その憧れのアイドルが千早にどれだけ似てるのか知らないけど、別人なんだから」
千早「ははは……」
成程、そう来ましたか。確か亜美と真美はriolaってアイドルグループに憧れてたはずだけど、私が介入したせいで変ってしまったんだ。
私をまねたような青髪がまさにそれだろう。riolaには悪いことをしてしまったかしら?
P「よーし、ミーティング始めるぞー」
プロデューサーがミーティングの合図をする。見渡すと、うん。13人いる。ようやく、悪夢のループから逃れることが出来たようだ。
青髪→千早色で
それから、ライブは無事にとりおこなわれた。961プロの姑息な妨害があったみたいだけど、そんなのにへこたれる私達じゃない。
そしてクリスマス、春香やプロデューサーが調整したおかげで、クリスマスパーティ&萩原さんの誕生日パーティーが決行されることとなった。
社長「ふむ……、なかなか時間がかかっているようだね」
予定時刻は過ぎているが、どうやら美希とプロデューサーはまだ戻って来ていないようだ。
春香「渋滞に捕まったのかな?」
クリスマスだから仕方ないかもしれないわね。美希のことだから、
美希『ハニーと長くいたいの!』
P『ちょ、やめろって!』
って感じでやってるんじゃないかしら?
まだかまだかと待ちわびていると、事務所に電話が鳴り響く。
小鳥「はい、765プロです! え? 警察の方ですか? ええ、はい……」
音無さんが対応するが、どんどんと顔色が悪くなっていく。
小鳥「はい、分かりました。ありがとうございます……」
春香「小鳥さん、どうしたの?」
ただならぬ様子の音無さんは、目に涙を浮かべながら、
小鳥「プ、プロデューサーさんと……、美希ちゃんが……」
小鳥「事故に遭ったって……」
千早「!?」
天災は忘れたころにやってくる、人災もまた然り。
小鳥「それで美希ちゃんが……、足が動かなくなったって……」
小鳥さんはそういうとその場に泣き崩れた。
小鳥さんが言うには、プロデューサーも美希も重体、とりわけ美希は酷く、最悪足を切断しなければいけないと。
春香「どうして……、どうしてなの……」
楽しいはずのクリスマスパーティーは、一本の電話によってぶち壊されてしまった。
千早「美希!?」
美希「あっ、千早さん。来てくれたんだ」
数日後、私は意識を取り戻した美希のもとへ見舞いに行っていた。プロデューサーは美希よりはマシだったらしく、リハビリに励んでいる。
しかし美希は……。
美希「ねえ千早さん。車いすって難しいのかな?」
千早「美希……」
美希「ううん、良いの。足を切っちゃうよりはマシだと思うから……」
寂しそうな目で私を見る。
美希「美希ね、もうアイドル出来ないんだよね……。車いすの人を馬鹿にするわけじゃないよ? でもファンのみんなは、それを望むのかな?」
千早「それは……」
美希「もう十分楽しんだし、輝き過ぎちゃったんだと思う。だから美希悲しくなんてないよ? 悲しくなんてないんだから……」
美希の涙を、私は止めることが出来なかった。
優「姉さん……」
千早「あっ、優。ゴメンね。少し良いかしら?」
優「ううん。どうしたの?」
千早「美希の事故のこと、少し調べようと思って」
優「美希さんの事故? あれはトラックが突っ込んできたって聞いたけど」
単純な話だ。酒気帯び運転のトラックが突っ込んできた。幸い死者は出なかったが、美希とプロデューサーは深い傷を負った。
それだけの話。だけど癖になったのかしら? 事故の起きた背景を調べたくなるってのは。今回は優も伊織も亜美真美も関係ない、別の事件なのに……。
優「これだね。容疑者も自認しているし、そんな映画みたいに陰謀があるわけ……」
千早「そうよね」
もちろんだけど、運転手は私たちを散々苦しめたあの男とは別人だ。だからこの事故は、優が死んだとしても、起きた事故なはずだ。
優「でもこれは酷いよね。ネットはやっぱ怖いや」
千早「どうしたの急に」
優「ん? この事故関係のスレッドだけどさ、姉さんは見ない方がいいよ。気分を害すると思うから」
千早「そこまで弱くないわよ。何が書いてるの?」
優「うん、この運転手の人って、本当ならずっと前に死んでいたんだって」
千早「へ? どういうこと?」
優「うん。自称看護師の書き込みだけどさ、この運転手は何年か前に死にかけて、骨髄移植を受けたんだって
千早「生きながらえたんだけど、今度はこうやって事故を起こした。ってこと?」
優「そうだね。だから美希さんが事故った原因は、骨髄移植のドナーが悪いってさ」
千早「そんなの言いがかりもいいとこじゃない!」
優「だから言ったんだって。ご丁寧に顔写真まで載せてさ……。これじゃあドナーの人も可哀想だよ」
千早「え? どうして?」
私は目を疑った。悪意ある書き込みに張られた写真には、知っている顔が写っていた。
千早「どうしてこうなるのよ……」
それは、青い車で優を轢き、水瀬さんを殺し、亜美真美を誘拐した、これ以上なく迷惑な男の顔だった。
千早「どうすればいいのよ……」
ネットの書き込みと同じだ。もし彼がドナー登録しなかったら、いやドナー登録者なんて何万人もいる。
その誰かの与えた命のバトンが、もし渡らなかったら? 美希は今も輝く舞台にいただろうし、プロデューサーも怪我することがなかった。
千早「今度は殺せって言いたいの……?」
携帯電話が、着信を知らせた。
美希「あっ、千早さん。また来てくれたんだ」
ベッドに寝たきりの美希が、笑顔で私を迎えてくれる。
千早「ねえ美希、一つ聞いていいかしら?」
美希「なに?」
千早「もし傷つけてしまったらごめんなさい、美希はまだ、アイドルを続けたい?」
美希「うーん、美希ね、今の方がハニーが付き合ってくれるから、このままでいいかなって思ってたりするの」
美希「でもね、ハニーにはこんな美希じゃなくて、キラキラ輝いている美希を見て欲しかったかな……。無理だけどね」
千早「いや……、まだ行けるかもしれないわ」
美希「千早さん?」
千早「私なら変えることが出来る、それだけよ」
美希「変な千早さん」
変で結構。誰かに話しても信じてもらえるわけじゃない、だけど良い方向に変わるなら。
千早「残りは2回。これで終わるはずよ……」
メールに返信、またもや風景が変わっていく――。
亜美「アイドルすげー」
真美「リオラっていうんだあのお姉ちゃんたち!」
公園で遊んでいた亜美と真美を、デパートの屋上へ連れて行く。
黒髪ロングの2人も可愛らしかったけど、全部丸く収めるんだから、元に戻しておく。
亜美「クリスお姉ちゃん行っちゃうの?」
真美「また会えるよね?」
千早「ええ、会えるわよ。あのお姉さんたちみたいに頑張っていればね!」
先輩アイドルに後輩を託し、私は例の男を探す。公園付近にまだいるはずだ。
千早「ビンゴね」
公園のブランコに乗って、俯いているうだつの上がらない男。車は小学校で乗り捨ててきたのだろうか、見当たらない。
亜美真美は知らない人に付いていったんだろうか? 名前を名乗れば付いてくるか。
千早「隣良いですか?」
男「え?」
千早「いや、昔はこうして弟と一緒にブランコに乗ったなぁと思いまして」
男「昔ですか……。信じて貰えないかもしれないですけど、これでも私大企業で重役だったんです」
千早「水瀬とかですか?」
男「凄い……、どうして分かったんですか?」
千早「……勘ですよ」
新聞で見ましたなんか言えない。会社を首になり、借金を背負い、家族に逃げられた。
不運の見本市のような人で、同情したくもなるけど、水瀬の娘を殺そうとするわ、大病院の娘を攫うわ、碌なことをしていない。
そんな気力があるならハローワークにでも行けばいいのにと心の中で思ってしまう。
そんな彼でも、死の間際役に立とうとドナーに登録した。結果として、それが事故につながったのだけど。
男「それにね、私今日最低なことをしようとしたんです。私をクビにしたのは水瀬です、でも娘さんに罪はない。それに気づいたのは、学校に着いてからでした」
千早「そうですか。でも思いとどまって良かったじゃないですか」
男「ふらふら~と公園に来たら、なんかブランコが懐かしくなって、それでこんな昼間っから漕いでるんですよ。うちのチビと一緒に漕いだなぁって」
千早「お子さんがいるんですか?」
男「ええ、まだはなたれ小僧ですが。かみさんが連れて逃げちゃいましたけどね。もうすぐ再婚するみたいです」
千早「それは複雑ですね」
男「良いんですよ。私みたいな男より、ずっといい男ですよ。それにね、私長くないんですよ」
千早「えっ……」
男「ははっ、心労が祟ったんでしょうね。もう私には何も残されていないんです、だから最後ぐらいは人の役に立ちたいですね」
千早「例えば?」
男「そうですね。骨髄ドナーなんてどうでしょうか?」
千早「それはとても素晴らしいと思いますよ。でも」
男「でも?」
千早「カードを添えてあげてください。飲んだら乗るな、飲むなら乗るなって」
男「?」
千早「誰かの未来を救える、魔法の言葉ですよ」
男「不思議な言葉ですね……」
千早「ええ、こんなんでも救えちゃうんですよ。少なくとも、私の大切な人たちは」
男「じゃあそうさせてもらいましょうかね。なんかあなたと話してたら、気分が楽になりました。えっと、お名前は……」
千早「如月、如月千早です」
男「如月さん、ありがとうございます。あなたのおかげで、もう少し頑張ってみようと思えました。さようなら……」
千早「あれ、何か落としましたよ。名刺?」
男「あっ、まだ名刺なんか持ってたんだ。すみません、こんなの持ってても仕方ないのに」
千早「そうですか。それじゃあありがたく貰っておきますね、天ヶ瀬さん」
天ヶ瀬「ええ、それでは……」
世界が変わっていく――。
――さん、起きて……。
優「おはよう、姉さん」
千早「おはよう、優」
新しい朝が、今日も始まる。
亜美「千早お姉ちゃんおはよう!」
真美「おっはー!」
千早「おはよう、亜美、真美」
黒髪ロングの亜美真美……、やっぱりこの子たちは元の方が似合ってるわね。
伊織「おはよう千早」
千早「おはよう、水瀬さん」
美希「千早さん、でこちゃんおはようなの!」
千早「おはよう、美希」
伊織「でこちゃん言うなー!!」
あのころと変わったこと、優がいて、家族みんながいる。そのせいで色々大変な目にあったけど、これでよかったんだと思う。
誰も死なない、最高にハッピーな終わり方。
千早「あと1回か……」
5回だけって言うけど、5回も有れば十分すぎるわよね。4回で何とかなったし。
残り1回を使う日が来ないことを、心から願っておく。人の人生に介入するってのは、勘弁願いたい。
P「それじゃあ今日もミーティングだ!」
アイドル、プロデューサー、事務員、社長、全員揃って1日が始まる。スターフィッシュも、春香の竜宮入りもない。
ライブはもちろん大盛況、黒井社長がなんやかんやしてたみたいだけど、そんなものにうちの団結が負けるものですか。
おととい来なさい!
一同『メリークリスマス&雪歩、誕生日おめでとう!!』
雪歩「あ、ありがとうございますぅ!」
優「ねえ姉さん、僕もここにいていいの?」
千早「良いわよ。なんせ今日この日が無事に過ごせるのは、優のおかげと言っても過言ではないわ」
優「どういうこと?」
千早「教えてあげない」
P「遅くなってすみません!」
美希「なのー!」
渋滞に捕まっていたプロデューサーと美希も合流。これで全部上手くいった。
大きなどんでん返しとかは無いかもしれないけど、それでも私は十分だ。これ以上天ヶ瀬さんに振り回されるのもごめんだしね。
冬馬『俺の親父はダメな奴でしたけど、親父のバトンが苦しんでいる人を救いました。
怖いかもしれません、でも命のバトンは繋がっていきます。骨髄ドナーに御登録を』
P「天ヶ瀬君もなかなか大変な家だったみたいだな」
伊織「直接は関係ないけど、申し訳なく感じるわね」
天ヶ瀬さん、あなたの息子は立派に育っています。少し口が悪いけど、根は悪い子ではありません。
年が明けて――。
春香「きゃっ!」
P「春香!!」
春香「プロデューサーさ……」
P「のわっ! なんだ? ネット?」
スタッフA「おい、こんなの用意したか?」
スタッフB「知らないぞ? おーい、あんた大丈夫か!?」
P「ええ、ネットのおかげで何とか……。ホント、どこから出てきたんだ?」
千早「それは秘密です」
お終い
これで終わりです。
最初から最後までミスが多かったですが、自分なりに最良の終わり方が出来たんじゃないかなと。
最初は3週目後 美希が不審者に殺される→ロリ美希に知らない人と話しちゃダメと忠告する
4週目後 理解者のいない不審者自殺→息子が伊織を殺そうとするが、優が盾になり優が死ぬ
5週目は水瀬パパに連絡して、クビを防いだからハッピーエンド、プロデューサー怪我で今度は春香が……、
で終わる感じでしたが、書いてる途中で変わってきました。
最後まで付き合ってくださった方、ありがとうございました。落ちが弱くてゴメンナサイ。
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