※プロローグ、第一章は前スレに投稿したものを僅かに修正し再投稿しています

PROLOGUE
これからが絶望のはじまり


こんにちは！私、天海春香です！おかし作りとカラオケが好きな16歳です。
そんな私はなんと今日からアイドルになりました！
不安はいっぱいだけど、トップアイドル目指してこれから頑張ります！

私が所属することになった765プロはかなり小さなアイドルプロダクションでまだ有名な人もいないけど、これからはじまるって感じだそうです。
私はそこの社長さんに「ﾃｨﾝときた！」とスカウトされて所属が決まりました。オーディションみたいなものはなかったのですがいいのでしょうか？

そんなことを考えているうちに765プロの事務所のドアの前まで来てしまいました。
心臓がドキドキしてるけど、気持ちを抑えて、よーし！行っくよー！

天海春香
「おはようございます！新しくこちらの事務所に入った天海春香です！よろしくお願いします！」

ドアを開けて張り切って挨拶をして1歩を踏み出したところで、私は緊張していたのか躓いて派手に転んでしまい、そして目の前が真っ暗になりました。

ああぁ、またやっちゃった。

天海春香
「入学…案内……？」

安っぽい紙に手書きで書き殴るように文字が書いてある。

——————————
入学あんない
あたらしいがっきが
はじまりました。しんきいってん
この学えんがオマエラの
あたらしいせかいとなり
ます。
——————————

これは何だろう？いたずらかな？

私はとりあえずその場から周りを見回した。すると本来窓があるべき場所に鉄板らしきものが打ち付けられていた。分厚くかなり頑丈そう。
さらに天井から監視カメラのようなものが吊り下がっている。不審者対策か何かだろうか。
黒板には『この先の黒板は我々がジャックした！！byナゾの美少女』の文字があり、掛け軸には『艱難辛苦汝を玉にす』とある。

天海春香
「あれっ！？いっけない！」

黒板の上にある時計が8時5分前を指しているのを見た私は慌てて教室から飛び出した。事務所に8時までに来るように言われていたからだ。初日から遅刻はまずい。
とにかく誰か探してどうなっているのか聞かないと。

——学園内廊下———

教室から出た私の目に入ったのは『絶望ホテル』と書かれた石だった。
変な名前だとは思ったけど、今は人が居そうなホールみたいなところを探そうと廊下を歩いて行くと期待通りに広い空間に出た。
その場所は残念なことに誰もいなかったが、私はあるものを見つけた。

天海春香
「あ！非常口のマークだ」

ここがどこかわからないけど、外に出たらわかるんじゃないかと私は期待し非常口マークのある扉をくぐると、そこには……

……彼女らの姿があった。

——玄関ホール———

？？？？
「あれっ？あなたも765プロの新人アイドルなの？」

天海春香
「えっ？そうですけど……。『も』ってことはあなたたちもそうなんですか？」

？？？？
「そ→だよ→。今日から765プロでアイドルになった新人アイドルだよ」

天海春香
「へー、そうなんだ。私だけじゃなかったんだね。安心したよ」

小学生か中学生であろう、小さなかわいい女の子から年上の綺麗な女性までいる。

？？？？
「それにしても、こんな人数の新人を雇って大丈夫なのかなぁ？」

？？？？
「新しく出来た事務所ですし、初期の大型メンバー入社なのかしらね？」

私以外のメンバーもいることに安心してそんな話をしていると、ボーイッシュな男の子が入ってきた。かなり不安そうな顔をしている。

天海春香
「あなたも765プロの新人アイドル？」

？？？？
「うん、そうだよ。もしかしてここにいる人みんなそうなの？」

天海春香
「うん、私もさっき来たんだけどそうっぽいよ」

女の子はほっとした顔を見せ、落ち着いたようだ。
私はその場に揃った顔を、ゆっくりと見回してみる。

？？？？
「それでは再び名前だけでも簡潔に自己紹介をするのはどうでしょう。遅れてきた方々の為にも」

？？？？
「い→と思うよ→」

？？？？
「それじゃあ遅れてきたお姉ちゃんたちからね→」

言い方からするともうすでに1回したのかな？遅れてきた私たちのためとかちょっと申し訳ないな。

？？？？
「それじゃあボクからいいですか？」

ボーイッシュな女の子が先に自己紹介をしてくれるみたいで、緊張していた私としては助かった。

天海春香
「うん、大丈夫だよ」

菊地真
「菊地真16歳です！よろしくお願いします！遅くなったのはさっきまで教室の机みたいなところで寝ちゃってたみたいで……」

超アイドル級のボーイッシュ
菊地真

爽やかなボーイッシュさがある女の子。男性よりも女性のファンがつきそう。よくある漫画の主人公キャラみたいな雰囲気だね。

？？？？
「やっぱりあなたもそうなのね 」

？？？？
「とすると、ますます変だぞ！」

菊地真
「えと、どういう事ですか？よく状況がわからないんですけど」

？？？？
「もう1人のお姉さんが困ってますから、その話は後にしませんか？」

確かに自己紹介するタイミングを逃してしまった私はどう切り出せばいいか困っていた。
この小さなかわいい女の子は気配りの出来るいい子なのかもしれない。

？？？？
「自己紹介とかやってる場合なのかな？ちょっと変だと思うよ」

？？？？
「ですが、問題について話し合う前に、お互いの素性がわかっていた方がよろしいでしょう。なんとお呼びしてよいかわからぬままでは、話し合いもままならないかと」

？？？？
「それじゃあ、最初に自己紹介をしてそれから話し合いにしましょう」

状況はわからなくなる一方だけど、みんなの事がわかるってのはこれからの大切だと思う。よくわからないけど、問題よりも現状認識だよね。
なんたってお互い知らない人たちだからさ。

仕切り直して私から自己紹介かな？13人いるし。

天海春香
「天海春香です。これから、よろしくお願いします」

超アイドル級の正統派
天海春香

？？？？「それじゃあ、時計回りにいきましょう。秋月律子です」

超アイドル級の才女
秋月律子

眼鏡を掛けて髪をまとめている秋月律子さんはスーツを着ていてアイドルというより社会人っぽい雰囲気だな。
器量も良さそうでスタイルもよくスーパーウーマンと言った感じ。

？？？？
「じゃあ、次は私たちね→」

？？？？
「双海亜美！」

超アイドル級のおてんば娘
双海亜美

？？？？
「双海真美！」

超アイドル級の思春期娘
双海真美

双海亜美・真美
「だっよ→ん！」

そっくりな顔が2つ。いわゆる双子アイドルとしてプロデュースするのかな？
活発そうな雰囲気の中に大人への階段をのぼり始めた危うさも出ている気がする。きっと、2人じゃなくてソロでも十分力を発揮できるだろうと思う。

？？？？
「はいさい！自分、我那覇響。よろしくなっ！」

超アイドル級の沖縄娘
我那覇響

『はいさい』ってたしか沖縄の挨拶だったっけ？苗字も我那覇ってということは沖縄出身なのかな。
それにしてはかなり色白で羨ましいくらいだけど、背が低くてかわいいのににスタイル抜群ってずるいと思うな。

？？？？
「えっえっ！？わ、私ですか？萩原雪歩ですぅ」

超アイドル級の天使
萩原雪歩

こういう娘はきっと男性にモテるんだろうね、なんか庇護欲がそそられるというか『守ってあげたい！』って感じ。
たぶん『雪歩は俺の嫁！！』って言う人が出てきそうだね。

？？？？
「高槻やよいです！よろしくお願いします！」

超アイドル級の元気娘
高槻やよい

年下だけどお姉ちゃんキャラ。かわいいけどしっかり者。
さっきの会話の中でも困ってた私を助けてくれたこの娘はとってもいい子なんだろうな。この子の妹になりたいくらいだね。

？？？？
「水瀬伊織よ。よろしく」

超アイドル級のお嬢様
水瀬伊織

この子もさっきのやよいちゃんと同じで大人びている雰囲気。ツンツンとした感じでこの中でもあんまり動揺していないように見える。
実際はどうなのかわからないけど。どこぞのお嬢様といった印象かな。

？？？？
「如月千早です……」

超アイドル級の歌姫
如月千早

次はクール系の女の子。ちょっと怖そうな雰囲気かも。でも、あのスレンダーな体型は羨ましいなあ。いくら私がダイエットがんばってもあんな風にはなれそうもないよ。
きっと遺伝なんだろうね、いいなあ。

？？？？
「三浦あずさです。よろしくね〜」

超アイドル級のお姉さん
三浦あずさ

こ、こっちも羨ましい。女性らしさを体現したようなスタイル。このまま抱きついてなでなでされながら眠ってしまいたい。
あれが大人の女性か！いつか私もああなりたいなあ。

？？？？
「わたくし、四条貴音と申します。以後お見知りおきを」

超アイドル級のみすてぃっくれでぃ
四条貴音

病弱そうな感じはないけど、どこか深窓の令嬢を思わせるような上品さと魔女を思わせるような妖艶さを持っている女性。
まさに高翌嶺の花だね。私は絶対になれそうもない感じで、秘密とかいっぱいありそう。

？？？？
「あふぅ。星井美希、なの」

超アイドル級の天才
星井美希

直感だけど、間違いなく天才キャラだと思う。たぶん私が主人公のゲームがあったらラスボスとかになってそう。
スタイル良くてキャラが立っててオーラもあって、態度とか変われば無敵な気がするな。

秋月律子
「自己紹介も終わったことなので本題に入りましょう。仲良くしてる場合でもないみたいだし」

天海春香
「そういえばさっきこの状況がどうとか問題がどうとか、あれってどういう意味なんですか？」

双海亜美
「えっとね、まこちん言ってたっしょ？なんか寝てたみたいって。あれね、亜美たちもなんだ」

双海真美
「事務所の扉を開けたところからみんな寝てて気付いたらここにいたみたい」

転んで気絶しちゃったのかと思ってたのは残念ながら私だけみたいだ。
それにしてもみんな寝てただなんて……。

菊地真
「それって変だよ！」

萩原雪歩
「それで困ってるんですぅ」

高槻やよい
「変なのはそれだけじゃないんですよ！真さんも教室とか廊下の窓見ましたよね？鉄板みたいのが窓にあってお外が全く見えないんです」

星井美希
「それよりもミキの荷物知らない？おにぎりとか入ってたの」

我那覇響
「ここもおかしいぞ！非常口マークがあったから出口があると思ったら金庫みたいな物があるだけだぞ！」

三浦あずさ
「あらあら、何だか怖いわね」

双海真美
「もしかしてゆ→かいかな？」

星井美希
「あふぅ。ミキもうお昼寝したいな」

と、その時だった。
突然『それ』は始まった。

「キーン、コーン…カーン、コーン…」

？？？？
「あー、あー…！マイクテスッ、マイクテスッ！校内放送、校内放送…！」

？？？？
「大丈夫？聞こえてるよね？えーっ、ではでは…」

場違いなほど能天気で明るい声が響き渡る。
それゆえに私はその声に強烈な違和感を抱き、不安を掻き立てられた。

例えば、殺人ドラマの中で死体を前に笑い狂う犯人の声のように思わず目を背けて耳を塞いでしまいたくなるような場にそぐわない声。

？？？？
「えー、新入生のみなさん、今から入学式を執り行いたいと思いますので至急体育館までお集まりくださ〜い。」

？？？？
「ってことで、ヨロシク！」

我那覇響
「何だ、今のは！？わけわかんないぞ！」

水瀬伊織
「私は先に行くわ」

菊地真
「ちょ、ちょっと待ってよ！みんなで行かないのか！？」

高槻やよい
「入学式ってなんでしょう？765プロに入ることをそういうんですかね？」

双海亜美
「よくわかんないけど、行くしかないっしょ→。真美隊員！早く行こうよ→」

双海真美
「了解！それじゃあ、おっさきに→」

我那覇響
「じ、自分も行くぞ！」

私は『違和感』と『不快感』を無理やり振り払い、残っている面子を横目に体育館へ向かうことにした。

体育館への道がわからなかったけれど、扉から出た時にチラッと見えた誰かの背中を頼りに進むと体育館にたどり着くことができた私を待ち受けていたのは……

菊地真
「ホントに入学式みたいな感じだね？旗に描かれている絵はなんだろう？」

三浦あずさ
「この歳で入学式っていうのはなんだか恥ずかしいわね」

秋月律子
「そうですね、何か見せ付けられてるような感じで落ち着きません」

如月千早
「何なのかしら？」

と、彼女が言った直後だった。
私たちが『普通じゃない』光景を目の当たりにする事となるのは……。

？？？？
「オーイ、全員集まった〜！？それじゃあ、そろそろ始めよっか！！」

その声で私たちがいっせいに壇上を見ると、教壇から『何か』が飛び出してきた。

如月千早
「ぬ、ヌイグルミが出てきたわ！？」

？？？？
「ヌイグルミじゃないよ！」

モノクマ
「ボクはモノクマだよ！」

モノクマ
「キミたちの…この学園の…学園長なのだッ！！」

私はその奇妙なヌイグルミから視線を動かせなくなってしまった。まるで金縛りにでもあったかのように身体が言うことを聞かなくなっていた。

モノクマ
「ヨロシクねッ！！」

場違いなほど明るい声
場違いなほど能天気な振る舞い

私は背筋に悪寒が走った。恐怖が身体を貫く。

萩原雪歩
「ぬ、ヌイグルミが喋ってますぅ」

水瀬伊織
「そんな訳ないでしょ。スピーカーか何かが入ってるのよ」

モノクマ
「だからさぁ…ヌイグルミじゃなくてモノクマなんですけど！しかも、学園長なんですけど！」

高槻やよい
「わあー動きましたよ！すごーい」

菊地真
「ラジコン？」

モノクマ
「ラジコンなんて子供のおもちゃと一緒にしないで。深く深く…マリアナ海溝より深く傷付くよ……」

モノクマ
「ボクには、NASAも真っ青の遠隔操作システムが搭載されてて……。って、夢をデストロイするような発言をさせないで欲しいクマー！！」

秋月律子
「語尾が『クマー』ってどうなのよ」

モノクマ
「じゃあ、進行もおしてるんで、さっさと始めちゃうナリよ！」

双海真美
「『ナリ』って言うの何だっけ？」

モノクマ
「ご静粛にご静粛に……。えー、ではではっ！」

双海亜美
「『ナリ』って確か昔のアニメのキャラだっけ？古いね→」

モノクマ
「起立、礼！オマエラ、おはようございます！」

高槻やよい
「あ、おはようございます！」

四条貴音
「お早うございます」

モノクマ
「では、これより記念すべき入学式を執り行いたいと思います！」

モノクマ
「まず最初に、これから始まるオマエラの学園生活について一言。えー、オマエラのような才能溢れるアイドルは『みんなの希望』に他なりません！」

モノクマ
「そんな素晴らしい希望を保護する為、オマエラには『この学園だけ』で生活を送ってもらいます！みんな、仲良く秩序を守って暮らすようにね！」

菊地真
「えっ………？」

モノクマ
「えー、そしてですね。その共同生活の期限についてなんですが。期限はありませんっ！！」

モノクマ
「つまり、一生ここで暮らしていくのです！それがオマエラに課せられた学園生活なのです！」

菊地真
「ちょ、ちょっと待ってよ！どういうこと！？」

モノクマ
「あぁ、心配しなくても大丈夫だよ。予算は豊富だから、オマエラには不自由させないし！」

天海春香
「そ、そういう心配じゃなくて…！」

星井美希
「一生ここで暮らすとか意味わかんないの……。絶対ウソなの！」

モノクマ
「ボクはウソつきじゃない！その自信がボクにはある！」

モノクマ
「あ、ついでに言っておくけど、外の世界とは完全にシャットアウトされてますから！だから、汚れた外の世界の心配なんて、もう必要ないからねっ！！」

菊地真
「シャットアウトって……。じゃあ、教室や廊下にあったあの鉄板は、ボクたちを閉じ込める為の…？」

モノクマ
「そうなんだ。だから、いくら叫んだところで、助けなんて来ないんだよ。そういう訳でオマエラは思う存分、この学園内だけで生活してくださーいっ！」

秋月律子
「ふざけるのもいい加減にして下さい！」

モノクマ
「さっきからウソだの冗談だのって、疑り深いんだから……」

モノクマ
「でも、それもしょうがないかぁ。隣人を疑わなきゃ生き抜けないご時世だもんね」

モノクマ
「まぁ、ボクの言葉が本当かどうかは、後でオマエラ自身が確かめてみればいいよ。そうすれば、すぐにわかるから。ボクの言葉が、純度100%だって事がさ！」

双海亜美
「えー、亜美そんなんやだよ→」

モノクマ
「おやおや、オマエラもおかしな人達だねぇ。だって、オマエラは望んで、この希望ヶ峰学園にやって来たんでしょう？」

我那覇響
「自分、そんなこと言ってないさー！」

モノクマ
「それなのに、入学式の途中で、もう帰りたいとか言い出すなんてさぁ」

菊地真
「当然ですよ！ボクたちは765プロに来たはずです！」

モノクマ
「まぁ、だけどぶっちゃけた話、ないわけじゃないよ。ここから出られる方法」

双海真美
「えっ！なになに！？」

モノクマ
「学園長であるボクは、学園から出たい人の為に、ある特別ルールを設けたのですっ！」

モノクマ
「それが『卒業』というルール！！では、この特別ルールについて説明していきましょーう」

モノクマ
「オマエラには、学園内での『秩序』を守った共同生活が義務付けられた訳ですがもし、その秩序を破った者が現れた場合、その人物だけは学園から出て行く事になるのです」

モノクマ
「それが『卒業』のルールなのですっ！」

水瀬伊織
「なによその『秩序を破る』ってのは」

モノクマ
「うぷぷ…それはね……」

モノクマ
「人が人を[ﾋﾟｰｰｰ]事だよ……」

菊地真
「こ、[ﾋﾟｰｰｰ]って何言ってるんだ！」

モノクマ
「殴殺刺殺撲殺斬殺焼殺圧殺絞殺惨殺呪殺……殺し方は問いません。『誰かを殺した生徒だけがここから出られる』それだけの簡単なルールだよ。」

モノクマ
「最悪の手段で最良の結果を導けるよう、せいぜい努力してください」

背筋にゾワリと寒気を感じた。『誰かを殺した生徒だけがここから出られる』その言葉を聞いた私は冷や汗をかき全身に鳥肌がたった。

モノクマ
「うぷぷ…こんな脳汁ほとばしるドキドキ感は、鮭や人間を襲う程度じゃ得られませんな」

モノクマ
「さっきも言った通り、オマエラは言わば『世界の希望』な訳だけど、そんな『希望』同士が殺し合う、『絶望』的シチュエーションなんて……」

モノクマ
「ドキドキする〜！」

萩原雪歩
「な、何なんですかさっきから。こ、殺し合いってどういうことなんですか！？」

モノクマ
「殺し合いは殺し合いだよ。辞書ならそこらに……」

我那覇響
「意味ならわかってるぞ！そうじゃなくて、何で自分たちが殺し合いをしなきゃいけないんだ！」

如月千早
「そんな事しても無意味です。早く私を帰してください。さっきから変なことばっかり言ってて意味がわかりません」

モノクマ
「…ばっかり？ばっかりってなんだよ、ばっかりって…ばっかりなんて言い草ばっかりするなっての！」

モノクマ
「ホントに物分かりの悪い連中だよ。何が帰してだ。同じ事を何度も何度も何度も何度も……いいかい？これからは、この学園が、オマエラの家であり世界なんだよ？」

モノクマ
「殺りたい放題、殺らして[ﾋﾟｰｰｰ]から、殺って殺って殺って殺りまくっちゃえっつーの！！」

如月千早
「あの、これいつまで続くんですか？」

モノクマ
「ん？……」

如月千早
「そろそろネタばらししてほしいんですけど」

モノクマ
「ネタばらし…？」

如月千早
「これも765プロの企画か何かなんですよね。私そういうの苦手なんで、やめて欲しいんですけど」

菊地真
「もう！いい加減にしてくださいよ！」

彼女はそう言うとモノクマに近付き、真っ正面に立ち目線を会わせるように屈んだ。

菊地真
「悪ふざけにしても度が過ぎていますよ！」

モノクマ
「悪ふざけ…？それって女の子なのに男の子みたいなキミの事？」

菊地真
「っっっくっ！！！！」

それは彼女にとってもっとも言われたくない言葉だったのかもしれない。とっさといった感じにモノクマをつかんでビンタをしていた。
モノクマは多少の抵抗をしながらもされるがままだった。

モノクマ
「キャー！学園長への暴力は校則違反だよ〜ッ！？」

ようやく多少は落ち着いたようで、モノクマを掴んだままではあるが、ビンタをとめる。

菊地真
「とにかくっ、ボクたちを解放して下さい！！」

モノクマ
「………………」ﾋﾟｯﾋﾟｯ

菊地真
「無視ですか！？」

モノクマ
「………………」ﾋﾟｯﾋﾟｯﾋﾟｯﾋﾟｯ

菊地真
「何か答えたらどうなんですか！？」

モノクマ
「………………」ﾋﾟﾋﾟﾋﾟﾋﾟﾋﾟﾋﾟｯ

四条貴音
「危ないっ！！それをお投げなさいっ！！」

菊地真
「えっ！？」

四条貴音
「いいから早く投げるのです！！」

彼女の強い語気に気圧されたのか、疑問の表情をしながらも言われるがままにモノクマを放り投げた。
と、次の瞬間…！！

まるで映画のワンシーンのように爆音とともにモノクマが爆発した。激しい衝撃波が私たちを襲う。。

菊地真
「うわっ！」

菊地真
「ば、爆発した！」

痛みを伴う耳鳴りとむせるような火薬の匂い。テレビの中でしか起こらないような爆発が目の前で起きた。

双海真美
「あぶなかったね……。でも、モノクマってのが爆発したってことはもう大丈夫なのかな→？」

モノクマ
「ヌイグルミじゃなくてモノクマ！！」

萩原雪歩
「また別のが出てきましたぁ……」

菊地真
「どうして爆発なんてさせたんだっ！！危ないじゃないか！」

モノクマ
「当たり前じゃん。マジで殺そうとしたんだもん。校則違反するのがイケナイんでしょ？今のは、特別に警告だけで許すけど、今後は気を付けてよね」

モノクマ
「校則違反をするような悪い子は、お尻ペンペンレベルの体罰じゃ済まさないからッ！」

双海亜美
「おしおきはヤダよ→」

モノクマ
「モノクマは、学園内の至る所に配置されております。さらに、学園内には監視カメラも設置されております」

モノクマ
「そして、校則を破る者を発見した場合は、今みたいなグレートな体罰を発動しちゃうからねっ！」

モノクマ
「うぷぷ…次からは外さないから、そうならないよう気をつけてね！」

萩原雪歩
「む、無茶苦茶ですぅ……」

モノクマ
「じゃあ最後に、入学祝いとして、オマエラにこれを渡しておきましょう」

モノクマ
「この学園の生徒手帳です。カッコイイでしょ？電子化された生徒手帳、その名もなんとっ！」

モノクマ
「電子生徒手帳です！！」

天海春香
「………………」

モノクマ
「コホン、気を取り直して……。電子生徒手帳は学園生活に欠かす事の出来ない必需品だから、絶対になくさないようにね！！」

モノクマ
「それと、起動時に自分の本名が表示されるから、ちゃんと確認しておいてね。単なる手帳以外の使い道もあるんでね……」

モノクマ
「ちなみに、その電子生徒手帳は完全防水で、水に沈めても壊れない優れ物！耐久性も抜群で、10トンくらいの重さなら平気だよ！」

モノクマ
「詳しい校則もここにかいてあるんで、各自、じっくりと読んでおくよーに！何度も言うけど、校則違反は許さないからね！」

モノクマ
「ルールは人を縛りもするけど守りもするんだ。社会でも、法律がないと平和は成立しないでしょ？それと一緒！だから、違反者は厳しく罰する必要があるのです！」

モノクマ
「ではでは、入学式はこれで終了となります！！豊かで陰惨な学園生活をどうぞ楽しんでください！それじゃあ、まったね〜！」

そしてモノクマは去って行った。呆然とする私たちを残して……

我那覇響
「な、何だったんだ今のは…？」

星井美希
「ずっとここで暮らすなんてミキ、や なの」

秋月律子
「み、みんな落ち着いて、今までの話を整理しましょう。私たちはあのモノクマから2つの選択肢が与えられた。1つはここで一生を暮らすこと、もう1つは……」

四条貴音
「誰かの命を殺めここから出るということでございましょう」

天海春香
「こ、殺すなんて…そんな…ウソだよね…？」

水瀬伊織
「ふんっ、ウソかホントかじゃないわよ。大切なのはこの中にその話を本気にするヤツがいるかどうかよ」

その言葉で私たちは押し黙った。そしてそのまま互いの顔を見回していた。
お互いの胸の内を探ろうとする視線には、同様と恐怖と敵意すら感じた。

そして、私たちはこのルールの本質を悟った。

『誰かを殺したアイドルだけがここから出られる』

その言葉は、さらに決して考えてはいけないある疑惑を植え付けた。

それは『誰かの裏切り』の存在

こうして、私の新たな生活は始まった。

希望を与えるアイドルの世界なんかじゃなくて絶望を与えられるこの学園で。

PROLOGUE
これからが絶望たちのはじまり
END

生き残りメンバー
残り13人

TO BE CONTINUED

CHAPTER 01


テンカイスルテンカイ

『誰かを殺したアイドルだけがここから出られる…』

私の頭の中でその言葉はCMソングのように繰り返し繰り返し響いた。
恐怖と不安で全身が金縛りにでもあったかのように動かない。

それは私に限ったことではないようでみんなは視線だけを、重い視線だけを他人にむけていた。
私はその重みに耐えるのだけで精一杯だった。

CHAPTER 01
テンカイノカイテン
(非)日常編

私たちのそんな見つめあいを打ち破ったのは、彼女の言葉だった。

四条貴音
「それで、いかがいたしましょうか？ここにいてもお腹が空くだけというものですよ」

的を得ていながらどこか抜けているその言葉は強張った身体をほぐしてくれた。

天海春香
「ぷっ、あはははは！」

四条貴音
「はて、なにかおかしかったでしょうか？」

天海春香
「い、いえ、ごめんなさい。でも四条さんの言葉がこの空気にそぐわなくて、つい笑っちゃいました。でもそうですよね！そういえばお腹空いてきましたし、食料を探しに行きましょう！」

双海真美
「私もおなかぺこぺこだよ→」

双海亜美
「亜美も→」

三浦あずさ
「そういえば、キッチンがありました。食堂みたいなところの隣に食材がいっぱいあったのでとりあえずそこに行って食事しませんか？」

秋月律子
「そうですね、みなさんそれでいいですか？」

菊地真
「いいですよ、ボクもおなか空いていたし」

高槻やよい
「うっうー！！いいですよー！！」

我那覇響
「自分はかまわないぞ！」

双海亜美
「あずさお姉ちゃん、早く連れてってよ→」

三浦あずさ
「あらあら〜お姉ちゃんだなんて妹が出来たみたいで嬉しいわ」

双海真美
「そ→だよ→早くしてよ→あずさお姉ちゃん」

秋月律子
「えーそれでは、各々に色々と考えはあると思いますが、とりあえずは食事をしながら今後の方針を決めていくというのでどうでしょうか？個人の力には限界があるのでこういった非常事態では各人が協力するという事が基本となると思います」

秋月律子
「極論を言ってしまえば、誰も完璧に事態の把握を出来ていない今は誰かが凶行を起こすリスクが最も低いとも言えるはずです。その後の対応は別として、今のところは協力体制をとって知識を共有するのが得策だと思います」

秋月律子
「この集団では私は年長の方なので勝手ながらでしゃばっていることを承知での提案です」

三浦あずさ
「ごめんなさいね。律子さんに任せっきりで。私が1番年上なんだから私がやるべきことなのに……」

秋月律子
「あ、いえ、私はただそういう役回りにちょっとなれてるので自然に出ちゃっただけで、気にしないでください、それで決めかねている人はいかがでしょうか？」

秋月律子
「………反対の意見はなさそうなので食堂に向かうことにします。それじゃあお願いします」

四条さんも律子さんもすごいなあ、こんな事態なのにみんなをまとめて。こらからどうなるか全然わかんないけどこの人たちがいればなんとかなる気がしてきたな。
そうだよ！絶対大丈夫！だって私たちは『アイドル』なんだもん！

—食堂———————

食堂は『絶望ホテル』の中にあった。細長い16人掛けのテーブルが真ん中に置いてあって、周りに4人掛けのテーブルがある。
予想していたよりもキレイで清潔感のあるところで私はホッとした。

食事しながら長い話をするわけにもいかず、私たちはあえて軽い自己紹介の延長程度の内容の話をしながら淡々と食事をこなす。

そして、みんなの食事が終わったところでデザート代わりの重い話題が始まった。

秋月律子
「それで、これからどうしましょう」

萩原雪歩
「あ、あの！電子生徒手帳の校則を確認しませんかっ……」

四条貴音
「そうですね。るうるがわからなければ先ほどのような危険な目に知らずなってしまうかもしれません」

秋月律子
「そうね、それじゃあ電子生徒手帳ってやつを使ってみましょ」

そういうと律子さんは電子生徒手帳を取り出した。私もあわててポケットから取り出すと起動させる。

———天海春香———

如月千早
「あの、ごめんなさい。これってどうやって使うのかしら？」

…………。どうやらこの子は機械類に極端に弱いようだ。ただ、電源ボタンを押すだけなんだけどな。

天海春香
「ええとね、ここのボタンをおすと………ほらっ」

如月千早
「助かるわ、私こういうの苦手だから」

私のと同様に名前が浮かびあがってくるのを確認して、私は彼女を手伝いながら校則メニューを開いた。

——校則——————

1.アイドル達はこの学園内だけで共同生活を行いましょう。共同生活の期限はありません。
2.夜10時から朝7時までを『夜時間』とします。夜時間は立ち入り禁止区域があるので、注意しましょう。
3.就寝は寄宿舎に設けられた個室でのみ可能です。他の部屋での故意の就寝は居眠りとみなし罰します。
4.希望ヶ峰学園について調べるのは自由です。特に行動に制限は課せられません。
5.学園長ことモノクマへの暴力を禁じます。
6.仲間の誰かを殺したクロは『卒業』となりますが、自分がクロだと他の生徒に知られてはいけません。
7.なお、校則は順次増えていく場合があります。

——————————

見た限り、やっぱり気になるのは……

星井美希
「3番のルールはなんなの！？お昼寝できないとミキ死んじゃうの！！」

……そこじゃないでしょ！

秋月律子
「あのねえ、そこじゃないでしょ！今、話題にするのべきものは」

星井美希
「ダメなの！！居眠りしないミキとかミキじゃないの！！ちょっとモノクマに文句言うの！」

そういうと彼女は監視カメラに近寄ってなにやら強い口調で怒り始めた。流石にそんなんじゃダメだとは思うけどその勇気には感動するな。

秋月律子
「あの子はとりあえず放っておきましょそれで6番の校則ですが……」

水瀬伊織
「『卒業』の部分と『自分がクロだと他の生徒に知られてはいけない』ってところね」

菊地真
「関係ないよ！！誰も人を殺すわけないだろっ！！！」

秋月律子
「私もそう思うわ。でもこれは馬鹿げているけど彼の中でルールなの。確認しておいて損はないはずよ」

菊地真
「……わかりました。でも、絶対そんなことないですから大丈夫ですけどね！」

天海春香
「モノクマの言葉から推測すると、『クロ』は犯人で『卒業』は学園からの脱出ですよね」

萩原雪歩
「誰かを殺さないとここから出れないとか、私絶対にムリですぅ」

如月千早
「それと誰にもバレずって条件でここから出られるという事ですよね」

秋月律子
「まあ、そんな所でしょうけどあまり考えたくないわね。それじゃあ、他に校則についてありますか？」

我那覇響
「自分は2番の『夜時間』が気になるぞ。これじゃどこに入れないのか、わかんないぞ！」

高槻やよい
「たしかにそうですね！おトイレに入れないとかだったら困っちゃいます！」

双海亜美
「それは困るYO！」

秋月律子
「トイレはないでしょうけど、確かにこれは曖昧ね。校則に関してはそんなところかしら」

菊地真
「大丈夫だ思うよ」

秋月律子
「それでは、次は施設を調べましょう。どこかに穴が隠されているとも限らないし。どれくらい広いのかもわからないし、自由にやってとりあえず6時にここに集まりましょう」

秋月律子
「ただ、何かあった時の為に出来るだけ3人以上で行動するようにした方がいいわ。それじゃああずささん、やよい、亜美、真美、伊織は私と行動しましょ」

その発言は濁してはあったけど、私には『3人以上で行動』の真意がわかった、いえ、わかってしまった。
つまりはそういう事だろう。信じたいけど信じるわけにはいかない。
ただ、中学生組に声をかけたのは信じられるからなんて理由じゃなくて、彼女の責任感ゆえなんだと私はそう思う、そう信じている。
おかしいよね、さっきまで知らない人だったのに信じているだなんて。何でだろう？

——午後6時————

秋月律子
「えー、みんな集まったようなので、話を始めます。最初に言っておきますが、お互いのことを知らないので報告を信用出来ない人がいると思いますがその人は再度自分で調べる事を勧めます」

秋月律子
「まず私たちから報告しようと思います。私、あずささん、やよい、亜美、真美、伊織の6人は体育館と体育館前ホールと玄関ホールを調べました。体育館とその前のホールについては特に報告するような事はありませんでした」

秋月律子
「私たちが最初に集まったあそこは電子生徒手帳によると玄関ホールだそうです。そのためあの大きな鉄の扉がこの学園の入口であり、恐らく唯一の出口だと思われます。多少調べてみましたが私の能力では開けることは出来そうもありません。それと2階以降もあるようですがシャッターがしまっていて上の階へは行けないようです。以上です」

あのでっかい扉が出口なんだ。私たちを閉じ込めるだけの為に銀行の金庫みたいにしたのかな。

天海春香
「それじゃあ、次は私たちでいいですか？私と千早ちゃんと真と雪歩で2つの教室と購買部と視聴覚室を調べました。教室は2つとも窓があるべき場所が鉄板で完璧に覆われていました。購買部の方はいろいろと雑貨がありました、生活用品等の必要な物があったので後で行くことをおすすめします」

天海春香
「視聴覚室の方はDVDの再生が出来たりするようですが、再生するメディアは1つもありませんでした。それとマップで保健室と書いてあるところと裁判場前ホールというところは施錠されていて入れませんでした。あと、女性用の化粧室だけでなく男性用の化粧室もありました。以上です」

き、緊張したー。小学生の時の作文発表会を思いだしたよ。それにしても入れる所と入れない所の違いはなんなんだろうね。理由があるのかな？

四条貴音
「それでは最後にわたくしたちですね。わたくしと響と美希の3人は、寄宿舎を調べていました。まず厨房ですが、確認したところ先ほど食べた分の食材が補充されていました。また、置手紙がありそれによると食材は自動補給だそうです。化粧室ですが、こちらも女性用男性用共にありました」

四条貴音
「個室は15部屋ありそのうちの13部屋の扉にねえむぷれえとが貼られていました。わたくしの個室に入った所、しゃわあ付きの化粧室があり、鍵が机に置かれておりました。確認した方がよろしいかと」

四条貴音
「とらっしゅるうむなる所があり所謂ごみ捨て場のようで、らんどりいはたくさんの洗濯機がありました。脱衣所、さうなるうむを含む大浴場と倉庫もありましたがそちらは開いておりませんでした。また、2階への階段も封鎖されておりました。以上でございます」

予想通りだけど脱出できそうな所はなかったみたい。

秋月律子
「他になにかあるかしら？ないならとりあえずは1度それぞれの個室に行って7時になったら夕食をここでとりましょう」

星井美希
「ミキもう眠いから先に行くね。ばいばい」

さて、私も1度お部屋を確認しなくちゃ。

——天海春香の部屋—

個室はベッドとテーブルがあるいたって普通の部屋だった。ここにまで監視カメラがあるのはプライバシーの侵害ってやつだと思うな。よーし、ちょっと調べてみよう。
四条さんの言っていた通り私の名前が書いてあるホルダーの付いた鍵がテーブルの上にあった。でも、このホルダーよくあるホテルのやつみたいに大きくて邪魔だから後でキーホルダーがあったら付け替えようっと。
あれっ壁に紙が貼ってある。嫌な予感しかしないけど、読まないわけにはいかないよね……。

——————————

モノクマ学園長からのお知らせ…
部屋の鍵には、ピッキング防止加工が施されています。
鍵の複製は困難な為、紛失しないようにしてください。
部屋には、シャワールームが完備されていますが、
夜時間は水が出ないので注意してください。
また、女子の部屋のみ、
シャワールームが施錠出来るようになっています。
最後に、ささやかなプレゼントを用意してあります。
女子には女子らしく裁縫セットを…
男子には男子らしく工具セットを
ご用意しました。
裁縫セットには人体急所マップも付いているので、
女子のみなさんは、針で一突きするのが効果的です。
男子の工具セットを使用する場合は、
頭部への殴打が有効的かと思われます。
ドントシンクだ！フィールだ！
レッツエンジョイだ！！

——————————

ああ、やっぱりロクな物じゃなかったよ。でも、男子なんていないのに変だなあ。それともあのメンバーの中に実は男の子がいるのかな？真……クン？いやいやまさか………。

部屋には他に裁縫道具とメモ帳、ゴミ箱、モニター、部屋を掃除するコロコロがあった。少年漫画雑誌じゃないよ、粘着テープクリーナーだからね。

もう1つの部屋はバスタブのないユニットバスといえばわかるかな？シャワー室とお手洗いが一緒になっていてなんとなく湯船が欲しくなる感じ。ここにはさすがに監視カメラはないみたい。疲れている私としてはゆったりと湯船につかりたいけど、大浴場って所は開いてないんだよね、残念。

それじゃあ、1時間あるしシャワーでも浴びようかな？のぞいちゃダメだぞ！なんてね。

——————————

結局、その後私たちは全員で夕食を食べた。談笑を交えながらの食事はこれから765プロで一緒にアイドルとしてやっていくはずだった仲間同士のあるべき姿だったように思える。
私もみんなと仲良くなれたと思う。

食事中、律子さんは嫌な言い方だけど、と前置きしてからこんな話をしてくれた。
今はまだ一緒の空間にいるほとんど赤の他人だけれど、こうして仲良くなっていけば誰かを殺して自分だけ逃げ出したいと思わなくなると思う。
そしてみんなで協力すればきっと希望は見つかるはず。それでこそ765プロのアイドルでしょ！と。

私は涙が出そうだった。みんな765プロの仲間だもん、大丈夫だよね絶対。


夜時間ギリギリまで私は何人かとおしゃべりをしていた。そして部屋に帰ってくるなり忘れていた、忘れていたかった身体と心の疲労がどっと湧いて気絶するかのようにベッドに倒れ込んで就寝した。バックにモノクマの校内放送を聞きながら……。

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「えー、校内放送でーす。午後10時になりました。ただいまより『夜時間』になります。間もなく食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となりま〜す」

モノクマ
「ではでは、いい夢を。おやすみなさい……」

——————————

モノクマ劇場

まったくさあ、[<font color

ミスとか酷いよね
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すだよ！
せっかくいいスタートを切れたかな〜って思ってたのにさ！
4月の入学初日、真剣に考えてきた自己紹介の最初、自分の名前で噛んじゃった気分だよ！
ルールの把握は基本だよ。
ドジっ娘の供給は足りてるんだから気をつけてよね。

——————————

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「オマエラ、おはようございます！朝です、7時になりました！起床時間ですよ〜！さぁて、今日も張り切っていきましょう〜」


目を開けると見慣れない天井
ぼうっとする意識で思考して思い出す悪夢の1日
夢なんじゃないかと思いたいけれど、自宅のものではない天井がそれを否定する

天海春香
「よしっ！！くよくよしてても仕方ない！！頑張ろー！」

たしかみんなで朝ごはんを食べようって話だったな。寝汗もかいちゃったみたいだし、シャワーを浴びてから着替えて食堂に行こうっと。

——食堂——————

私が食堂につくとその場にはもうすでにみんな食事をとっていた。

天海春香
「おはようございまーす！私が1番遅かったみたいですね」

高槻やよい
「おはようございます春香さん。まだ美希さんが来てませんよ」

あれっ？ホントだ。でも、美希は寝ぼすけさんみたいな節があるからしょうがないかな。

秋月律子
「あ、春香ちょうどよかった。今ね、みんなで話し合ってたんだけど、助けが来るまでの間、レッスンしない？本格的なレッスンはプロがいないから出来ないけれどやらないよりはいいと思うの」

たしかに、何もしないでいるよりはよっぽど前向きな行動かな。昨日の話によるとダンスは真と響が出来るからその2人がコーチで、歌は千早ちゃんと四条さんに教われるといいかな。

天海春香
「もちろんです！頑張りましょう！」

その時だった、私の耳に嫌な音が響く。

「キーン、コーン…カーン、コーン」

みんなの動きが止まる。チャイムが終わると食堂のモニターがついて、モノクマが現れた。今度は何だと、みんなが身構える。

モノクマ
「みんな起きてる？あのさー昨日校則を変えてくれって言ってきたけど、ダメだからッ！個室以外での就寝以外はダメッ！わかった？校則の変更はなしだからね！ケチとか言わないの！それじゃあね〜」

ほっとした空気が流れた。校則の変更っていうのは昨日美希が言っていたものだろうね。そっか、ダメだったんだ。でも、そんなに重要にも思えないんだけどそこまで強固になる必要はあるのかな？

まぁ、いっか！

——天海春香の部屋—

天海春香
「ふへぇ、結構キツかった。律子さんスパルタなんだもん」

今日からしばらくは基礎レッスンらしい。それならプロがいなくても出来るかららしい。そんなことなくてもどちらにせよ私は基礎からじゃないと出来ないんだけどね。

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「えー、校内放送でーす。午後10時になりました。ただいまより『夜時間』になります。間もなく食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となりま〜す」

モノクマ
「ではでは、いい夢を。おやすみなさい……」

それじゃあ、特に変わった事もなかったし明日の為に寝ないとね。おやすみなさい。

——————————

モノクマ劇場

あれっ？もうボクの出番？早くない？さっきしゃべったばっかなんだけど。
何もないからって1日がとぶわけでもないのに迷惑な話だよまったく。おちおちご飯も食べてられないよ。

でもさ、何にも違わないわけないんだよね。同じじゃあないんだよ。
同じようだけど、そもそも同じってのがおかしいんだよ。
だからさ、キミたちは違いを探すべきなんだ。いったいどこが違う？何が変なのさ？
本当に知っているの？そんなわけないじゃない。
ヒントはあるはずだよ。理由は偏見で経験で記憶で隠されていていて、それでもあるんだよ。
退屈なのはキミが惰性に甘んじてるからだよ。疑ってかからなくちゃ。

『何か』がないからいけないんかな。

わかっちゃったよ。そうだったね『何か』あればゆっくり出番を待っていられるわけだね。

うぷぷぷぷ…………

——————————

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「オマエラ、おはようございます！朝です、7時になりました！起床時間ですよ〜！さぁて、今日も張り切っていきましょう〜」

………。ああ、そうだった。この部屋だ。まだ慣れないや。

うん！今日こそ1番のりしよっ！

——食堂——————

天海春香
「あれっ、おはようございます。みんな早いなあ。1番だと思ったんだけど全然ダメだね」

四条貴音
「おはようございます、天海春香。ふふ、そうですね。美希はあいかわらずのようですが」

みんな早いんだなあ、私はモノクマのアナウンスで起きてるけど、もっと早く起きて準備してるんかな？それで、放送があったとたん食堂に来てるのかな。

星井美希
「あふぅ。おはようございます、なの」

天海春香
「あ、美希今日は早いね」

星井美希
「モノクマの放送がうるさくてしょうがないから起きてきたの」

放送？音量は変わってたっけな？でも、なんだか嫌な予感がする。もしかして、美希は起きたんじゃなくて起こされたんじゃないかな。

「キーン、コーン…カーン、コーン」

タイミングを見計らったかのように流れるチャイム。モニターにヤツが現れる。

モノクマ
「うん、大丈夫そうだね。今日はみんな起きてるよね。それでさ、学園生活が開始されて数日経った訳ですが、まだ、誰かを殺すようなヤツは現れないよね！」

菊地真
「なにいってるんだ！当然だよ！！」

モノクマ
「オマエラ、ゆとり世代の割にはガッツあるんだね…でも、ボク的にはちょっと退屈ですぅ〜」

モノクマ
「あ、わかった！ピコーン、閃いたのだ！場所も人も環境も、ミステリー要素は揃ってるのに、どうして殺人が起きないのかと思ったら…そっか、足りないものが1つあったね！！」

モノクマ
「…ずばり『動機』だよ！うぷぷ、だったら簡単！ボクがみんなに『動機』を与えればいいだけだもんね！」

天海春香
「そんなの関係ありません！無駄ですよ！無駄！」

モノクマ
「ところでさ、オマエラに見せたい物があるんだ！」

双海亜美
「え→亜美見たくない気がする」

モノクマ
「オマエラに見せたいのは、ちょっとした映像だよ…あ、違うよ。18禁とかアブノーマルじゃないよ！」

我那覇響
「え、えっちなのはいけないぞ！」

モノクマ
「ホントに、そういうのじゃないんだからッ！！学園の外の映像なんだってば！」

如月千早
「それで何の映像なの？」

モノクマ
「へへッ、ダンナも気が短けぇや！そいつは見てのお楽しみじゃねーですかッ！なんでも、学校内の『ある場所』に行けば、その映像が見られるようになってるらしいですゼッ！」

如月千早
「それと、あなたの目的が聞きたいのだけれど」

モノクマ
「ボクがオマエラに…させたい事？あぁ、それはね…」

モノクマ
「絶望…それだけだよ…」

モノクマ
「後の事が知りたければ、オマエラが自分達の手で突き止めるんだね。この学園に潜む謎…知りたければ好きにして。ボクは止めないよ。」

モノクマ
「だって、オマエラが必死に真実を探し求める姿も、面白いみせものだしさッ！ボクも楽しませてもーらおっと！それじゃあね！」

映像が見られる場所………。あそこしかないよね。

秋月律子
「視聴覚室ね……。気は進まないけれど、行くしかないわよね」

菊地真
「いったい、何を見せる気なんだよ！」

そういうと真は1人駆け出した。私たちは重い足を引きずりながら、彼に続いて食堂を出た。

——視聴覚室————

天海春香
「ど、どうしたの！？」

視聴覚室には顔を真っ青にした真がいた。空のDVDケースを手に持っている。もう、映像を見たのかもしれない。

菊地真
「出なきゃ……。今すぐここから出なきゃ！！」

秋月律子
「どうしたのよ！何を見たの！？」

無言のまま、教壇の上にあるダンボールを指差す真。

その中にはみんなの名前のラベルが書いてあるDVDがあった。もちろん私のも……。

みんな即座にDVDをとってそれぞれの席で再生を始めた。

私も同様に再生ボタンを押した。指の震えを抑えながら……。

これは、廃墟？なんでこんな映像が？
………。違う！！！！

ここは私の自宅だ！！

どういうこと！？なんで私の家が！？どうして！？どうして！？
お母さんは！？お父さんは！？
どういうことなの！？

あれ！？次はこ…れ…は学校！！
えっ！えっ！みんなは！？なんで！なんでなんでなんで！？

モノクマ
「アイドルとなった天海春香さん。そんな彼女を応援していたご家族のみなさんとお友達のみなさん」

モノクマ
「どうやら…その方たちの身に何かあったようですね？では、ここで問題です！彼らの身に何があったのでしょうかっ！？」

「正解発表は『卒業』の後で！」

天海春香
「どういうこと！？」

震えが止まらない。恐怖が怒りが身体から湧き上がる。あまりにもショックで……

菊地真
「ふざけるな！！どういうことだよおおぉぉ！！！出て来いモノクマああああぁぁぁぁ！！！！」


叫んでいる真の声が遠くに聞こえる。私は、視界が……暗くなって……………。

——————————

天海春香
「……あれっ？」

如月千早
「春香、大丈夫？」

私の部屋だ。あれ？どうしたんだっけ？たしか、視聴覚室で……。

天海春香
「で、出なくちゃっっ！早くここから！！」

如月千早
「落ち着きなさい、春香」

天海春香
「でも！お母さんがっ！！」

如月千早
「大丈夫よ、大丈夫だから落ち着きなさい」

天海春香
「でも！！でもっ！！」

如月千早
「春香っ！！落ち着きなさい！！」

天海春香
「……。ごめん、千早ちゃん、私」

如月千早
「大丈夫よ、貴方を運ぶのはちょっと大変だったけれど、ふふっ」

天海春香
「ち、千早ちゃん。そんな重かったなんて言い方はやめてよ〜」

如月千早
「落ち着いたかしら？」

天海春香
「う、うん一応。ありがとうね。……それで、みんなは？」

如月千早
「律子がパニックになっているみんなの先導をとってとりあえずは落ち着いて、今はそれぞれの部屋で頭を冷やしているはずよ」

天海春香
「そっか、律子さんはさすがだね。自分だってきっと大変なのに……。千早ちゃんは大丈夫なの？」

如月千早
「私は………そんなに大切なものはないから……」

天海春香
「……そっか、ごめんね」

如月千早
「平気よ、気にしないで。でもね、私はここで大切な人たちを見つけられる、そんな気がするの」

天海春香
「千早ちゃん……」

如月千早
「ふふっ、らしくないわね。それじゃあ、大丈夫そうだから私は部屋に戻るわ。もう夜時間になるから一応戸締りはして寝た方がいいわよ」

天海春香
「うん、いろいろありがとうね千早ちゃん」

そっか、私半日も倒れていたんだ。千早ちゃんはずっと付き添ってくれていたのかな、ここ数日で仲良くなったけれどやっぱりいい子だな。
最初は愛想が悪かったけど、優しいし。
それじゃあ、とりあえず鍵を閉めてっと。よし、ちゃんと鍵を閉めたし、早くシャワー浴びなきゃ……

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「えー、校内放送でーす。午後10時になりました。ただいまより『夜時間』になります。間もなく食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となりま〜す」

モノクマ
「ではでは、いい夢を。おやすみなさい……」

あー、シャワー浴びられなくなっちゃった。仕方ないか。

もう、今は何も考えたくないな。さっきまで気を失っていたけど、眠気はあるからもう寝ようっと。おやすみなさい！

——————————

モノクマ劇場

ボクは思うんだよね、たとえ何気ない1日だってやっぱり何かしらあるんだよ。
つまんない1日だったとしても『キングクリムゾン！』とか言って時間をとばそうだなんて愚か者のすることだね。

女優さんの自己紹介とかインタビューとかをシークバーでカチカチってやって飛ばしてちゃあ、存分に楽しめたとは言えないよ。
まあ、退屈な描写でカットしたくなるかもしれないけどズルはいけないからね！
人生はフェアじゃないとさ！

——————————

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「オマエラ、おはようございます！朝です、7時になりました！起床時間ですよ〜！さぁて、今日も張り切っていきましょう〜」


……。徐々にだけど、この天井に違和感が消えつつある。適応してきたと言えば聞こえがいいけれど私たちが今やってるのは時間稼ぎでしかないんだよね。
昨日の事が頭から離れないけど、冷静になるだけの時間はあった。大切なのは敵を間違えない事。それだけは忘れないようにするんだ！
気を抜いていると、いつか、きっと、何かやらかしちゃうだろうからしっかりしなくちゃ。
まぁ、頭では気をつけてても実際何かやっちゃうのが私なんだけどね。

天海春香
「うーんっと！よし！」

背伸びをしてネガティブなイメージを飛ばしてっと！朝ご飯だよ！

——食堂——————

天海春香
「おっはよーございまーす！」

如月千早
「おはよう、春香。もう大丈夫かしら」

天海春香
「うん。昨日はありがとうね、千早ちゃん」

如月千早
「べ、別に気にしなくてもいいわよ」

あれ、千早ちゃんちょっと頬が赤く染まった。もう、かわいいなあ。
千早ちゃんは無愛想じゃなくて不器用なだけみたいなんだよね。

天海春香
「それで今日はレッスンするのかな？」

如月千早
「午前中はちょっとだけ話をして午後はレッスンを再開するそうよ」

天海春香
「そっか、私も何か体を動かしたいと思ってたんだよね」

そうすれば、その間だけは『この状況』を忘れられるから。
その言葉は口から出さなかったけれど、たぶんばれてるんだろうな。

——————————

秋月律子
「みんな揃ったわね。今日の午後からはレッスンを再開するわ、昨日の事は1日あったからみんな頭が冷えていると思うの。だからはっきり言わせてもらうわ」

秋月律子
「アイドルは人を殺しちゃいけないの。何があっても絶対に。人が人を殺しちゃいけないのも当然よ、だけどアイドルは法律や倫理を除いても人を殺してはいけないと思うの」

秋月律子
「アイドルは人に夢を与えるのが仕事よ。その夢を壊してはいけないの。私たちは765プロの一員で列記としたアイドルです。だから、どんな事情があっても、どんな理由があっても、絶対に人を殺しては駄目」

秋月律子
「私は、みんなの事を信じるわ。仲間だと思ってるわ。だからね、私たちは殺し合う関係なんかじゃない。私たちが戦うべき『敵』を履き違えないようにしましょ」

そこまで言うと律子さんはそこでひと息ついて、話題を締めた。

秋月律子
「それじゃあ、午後からはレッスンよ！キツいでしょうから、午前はオフにしてゆっくり、心身を休めるように！」

双海亜美
「え→りっちゃん軍曹、厳しいのはやだよ→」

双海真美
「鬼軍曹ですなぁ」

秋月律子
「ちょっと！何よ鬼軍曹って！」

双海真美
「亜美隊員！逃げますぞ！」

双海亜美
「了解！」

そう言うと2人は嵐のように去っていった。律子さんは腰に手を当てて「もう！」と頬を膨らませてから「コラー待ちなさい！」と言いながら食堂を出ていった。
あれじゃあ、休めなそうだね。

天海春香
「千早ちゃんは午前中どうする？」

如月千早
「特に考えてないわ。部屋で休むくらいよ」

天海春香
「だったらさ、私とお菓子作りしない？クッキーくらいなら午前中にパパッと出来るからさ！」

今日のオヤツの時間にみんなに食べてもらおうっと。

如月千早
「誘ってくれるのは嬉しいのだけれど……私、料理出来ないからきっと邪魔になるわ。だからごめんなさい」

天海春香
「だいじょぶ、だいじょぶ！私もフォローするからさ！一緒にやろっ？」

如月千早
「そこまで言うなら……やってみようかしら」

天海春香
「やったー。よろしくね、千早ちゃん」

如月千早
「ええ、よろしくお願いするわ」

——厨房——————


ここにある食材って使い放題なんだ……不謹慎なんだけど、お菓子作りって結構お金かかるから全部タダってのは嬉しいんだよね。
特に乳製品。バター、生クリーム、チーズなんかはちょっと値段が高いからお菓子を作るのが厳しかったり……。
でも、これだけいろんな材料があればお店も出来そうだよ。

今日は時間もあんまりないし簡単なクッキーだけど、他にもいろいろ作りたいなあ。……カロリーには気をつけよう。
レアチーズケーキとかマカロンとか、響ちゃんは沖縄出身だからサーターアンダーギーなんかもいいよね。

天海春香
「それでは、天海春香のお菓子教室を始めます！」

如月千早
「はい。よろしくお願いします。先生」

せ、先生だなんて！私なにかに目覚めちゃいそう！でもダメあの娘には恋人が………私なに言ってるんだろ。やっぱり疲れてるのかな。

——————————

秋月律子
「それじゃあ、今日はここまでにしましょ」

双海亜美
「やっと終わったYO！」

やっとレッスン終わったぁ。
あ、そうだクッキーのこと言わないとね。

天海春香
「あの！私と千早ちゃんでクッキーを作ったので、この後みんなで食べませんか？」

双海真美
「やった→。はるるんありがと→！」

高槻やよい
「ホントですかー！うわー嬉しいです！」

三浦あずさ
「あらあら、春香ちゃんと千早ちゃんが作ったクッキーだなんておいしそうね〜」

菊地真
「それじゃあさ、シャワー浴びたら食堂で食べようよ！3時に食堂でいいよね？」

我那覇響
「自分も楽しみだぞー！」

とりあえず、各自シャワーを浴びたら食堂でオヤツってことになったみたいだね。

——————————

あわわわわ、ゆっくりシャワー浴びてたら3時過ぎちゃってたよー。
早く食堂に行かないとみんな待ってるだろうな。

天海春香
「あっと、鍵かけなきゃ」

よっし、OK！それじゃあダッシュで食堂まで……


どんがらがっしゃーん！


天海春香
「あわわ、またやっちゃったよ」

今転んで思ったけど、やっぱり事務所に入る時、転んだ後の気絶はどう考えてもおかしいよね。
私ほどのプロが転んだ時に気絶なんてするわけないもん。
そうするとやっぱり、事務所に入って転んだ後の私を薬か何かで眠らせたのかな？
手段としても無駄が多いし、リスクも高い。どういうことなんだろう。
って、こんな事考えている場合じゃないんだった。せっかく自分で作ったのにクッキーが終わってたなんて悲しすぎるよー

我那覇響
「なあ、春香大丈夫か？」

天海春香
「あれ？響ちゃん。うん、大丈夫だよ。慣れてるから。それより早く行こ」

我那覇響
「えっ、ああ、うん。慣れてるってどうなんだ。あと、あのさ……」

天海春香
「ほらほら、早く先行っちゃうよ！！」

我那覇響
「ちょ、ちょっと待つさー…………」

——食堂——————

双海亜美
「はるるん、千早お姉ちゃんおいしかったよ→」

双海真美
「次もお願いするYO！じゃあね→」

四条貴音
「真に美味なお菓子でした。ご馳走様でした、春香、千早」

そう言ってクッキーを食べ終わった私たちは自由行動となった。

如月千早
「クッキーおいしかったわ、ありがとね春香」

天海春香
「何言ってるの、千早ちゃんも一緒に作ったでしょ」

如月千早
「でも私だけじゃ絶対に出来なかったから……」

天海春香
「もう！そんなこと言わないの！千早ちゃんと作ったからおいしく出来たんだよ！」

如月千早
「ふふっ、そうだと嬉しいわ。ありがと」

天海春香
「うん、どういたしまして！じゃあ、次は何を作ろっか？」

如月千早
「私は詳しくないから、春香にまかせるわ」

天海春香
「それじゃあ、次はチーズケーキ作ろうよ！」

如月千早
「ええ、いいわよ。でも何でチーズケーキなの？」

天海春香
「チーズケーキってチーズ、生クリーム、バターを使うから学生のお小遣い的に厳しいんだよね。でも、ここは自由に使っていいから……何て言っちゃ駄目だよね、ごめん」

如月千早
「物事をポジティブに捉えるのは大切よ、私も教わっ……って誰にかしら？」

天海春香
「どうしたの？」

如月千早
「いえ、何でもないわ。それじゃあ次はチーズケーキね。覚えておくわ」

天海春香
「それで、この後何する？」

如月千早
「私は部屋で歌の練習をしようと思っているけれど……」

天海春香
「あの部屋防音みたいだからね。それじゃあ、私も一緒に練習していいかな？」

如月千早
「ええ、かまわないわよ。春香の歌はだいぶ矯正のしがいがありそうだから、気合いが入るわ」

天海春香
「ち、千早ちゃん〜」

如月千早
「それじゃあ、このまま私の部屋に行きましょ」

——————————

——食堂——————

天海春香
「ごちそうさまでした」

私はあのまま千早ちゃんの部屋で歌の練習をした後、おしゃべりをして過ごした。
千早ちゃんとの仲は良好。親友段階までもすぐに行けそう。なにかしっくりくるというか、お互いに昔から仲が良かったかのように接している。
その分、私の歌に対する駄目出しも厳しいけれど……。
その結果、夕食をとるころには私と千早ちゃんと律子さんと、未だに食事をとっている四条さんしか食堂にはいなかった。

天海春香
「それじゃあ、私そろそろ部屋に戻るねってあれ！？」

そして、私はポケットの違和感に気づいた。

天海春香
「へ、部屋の鍵がないよ〜！！」

秋月律子
「……何やってるのよ、もう！」

如月千早
「どうするの？もう遅い時間だから鍵を見つけるのは無理だと思うわよ」

天海千早
「ど、どうしよう……助けてチハえもん〜」

如月千早
「しょうがないわね、今日は私の部屋に泊まる？」

天海春香
「ナイスアイディア！！」

四条貴音
「春香、空き部屋があったのでそれを使うというのはどうでしょうか？」

天海春香
「あ、そういえばそんなことも言ってましたね！でも、私は千早ちゃんと同じベッドで、ぐふふふふ……」

如月千早
「……空き部屋があるなら、そっちのほうがいいでしょ。ベッドはシングルサイズなのよ」

秋月律子
「そうね、空き部屋がいいと思うわ。それで、鍵は明日みんなに手伝ってもらって探しましょ」

天海春香
「えぇ〜、でも……」

如月千早
「お泊り会はまた今度にしましょ」

天海春香
「約束だよ！絶対、げっへっへっへ……」

如月千早
「……やめようかしら」

天海春香
「じょ、冗談だよ〜」

秋月律子
「それじゃあ決定ね。春香は空き部屋で寝る。それじゃあ、貴音も食べ終わった事だしみんな、食堂を出ましょう」

天海春香
「はぁーい……」

——空き部屋1———

あ〜あ、せっかく千早ちゃんと一緒のベッドで寝るチャンスだったのに……。
でも！今度って約束したからいっか！

シャワーも浴びたし、寝る前にちょっと、部屋を見てみようっと。

ふんふん、私の部屋とだいたい同じみたいだね。
違うのは鍵のホルダーに文字がないところ、シャワールームの鍵が閉まらないところと、裁縫セットの代わりに工具セットがあるくらいかな。
あとは鍵が見つかるとは限らないから、監視カメラに向かってモノクマにお願いしとかなくちゃ。

天海春香
「モノクマさ〜ん。見てますか〜？私、鍵なくしちゃったみたいなんで出来れば新しい鍵が欲しいんですけど……。よろしくお願いしますね」

よし、後はモノクマのみぞ知るって事で。おやすみなさい。

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「えー、校内放送でーす。午後10時になりました。ただいまより『夜時間』になります。間もなく食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となりま〜す」

モノクマ
「ではでは、いい夢を。おやすみなさい……」

——————————

モノクマ劇場

まったく、最近の子ときたらお願いすれば何でもくれるとか思ってるんだろうね。
甘い！甘すぎる！LだかMだかNとか言うやつのコーヒーくらい甘すぎるよっ！

現実はもっと厳しいんだからね！絶望的なんだからね！
BDにはノーカットver.があるとか、謎の光が消えているとか、特典映像があるとかさ……
もう、絶望だよ！！どれだけ買えばいいんだよ！AT-Xだって敗北するとか絶望したっ！

いいけどさ！買うけどさ！

でも、光とかモザイクをつける方がお金がかかってるのにそれを取る方がお金かかるってのも変な話だよね。

——————————

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「オマエラ、おはようございます！朝です、7時になりました！起床時間ですよ〜！さぁて、今日も張り切っていきましょう〜」

う〜ん。よいしょっと！あれっ？テーブルに紙と鍵がある？なになに……

——————————

もう、しょうがないね。
まったく今時ドジッ娘キャラとか受けないよ！
仕方ないから新しい鍵用意してあげからさ。
べ、別にアンタのためにやったわけじゃないんだからね！！

あなたのツンデレ、モノクマより

——————————

………。まあ、鍵はありがたいけどさ……。ノーコメントで。

——食堂——————

天海春香
「おはよーございます」

如月千早
「おはよう。いいところに来たわね」

天海春香
「えっ？どうしたの」

高槻やよい
「うっうー！おはようございます、春香さん！あのですね、朝厨房に春香さんの部屋の鍵があったんです！」

天海春香
「厨房に？」

クッキーを作った時に落としたのかな？

高槻やよい
「でも、ですね……」

如月千早
「どうやら鍵が曲がってたみたいなの。だから使い物にならないわ」

天海春香
「そうなんだ。でも、大丈夫だよ。新しい鍵を貰ったんだ」

秋月律子
「よかったわね、これで自分の部屋に戻れて」

天海春香
「ありがとね、やよい。じゃあ、鍵は一応貰っておくよ」

受け取った鍵は確かに曲がっていて使えそうにはなかった。結果的に鍵をもらってよかったみたい。

如月千早
「これで私の部屋に泊まる必要もなくな——」

天海春香
「——それとこれとは話が別ですぜ！お嬢さん！」

——————————

——天海春香の部屋—

天海春香
「そしたらボブが言ったのさ『そいつはでっけえブツだったに違いねえ』ってさ」

天海春香・如月千早
"HAHAHAHAHAHA!!!"

如月千早
「——あら、もうそろそろ夜時間ね。それじゃあお暇するわ」

天海春香
「えー、行っちゃうの？もう泊まっていけばいいじゃん」

如月千早
「それじゃあ春香また、明日ね。鍵もちゃんとするのよ。」

天海春香
「もう！つれないなあ。それに鍵をし忘れるわけないでしょ！そんなにおちょこちょいじゃないよ！」

如月千早
「そんなこと、さっき廊下の何もない所で転んだ人が言っても説得力ないわ」

天海春香
(のヮの)

如月千早
「おやすみなさい」

天海春香
「お、おやすみ！」

あーん、千早ちゃん帰っちゃったよ。せっかくルートに入ったと思ってすでにシャワーも浴びてたのに！

明日は千早ちゃんとチーズケーキを作ることになったから、楽しみだな。上手に出来るよね、だって2人一緒にやるんだからさ。

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「えー、校内放送でーす。午後10時になりました。ただいまより『夜時間』になります。間もなく食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となりま〜す」

モノクマ
「ではでは、いい夢を。おやすみなさい……」

……千早ちゃんとは仲良くなっているけれど、何か抱えているみたいなんだよね。まだ、わからないけど。
いつかもっと仲良くなってその過去を一緒に乗り越えられたらいいな。

大丈夫、私たちは765プロのみんななら、き……っと………だ…だい……じょう………じょう………ジョウ…ブ…ダ……ダヨ……………ネ………？？？……？？………？？？…？？？

——————————

モノクマ劇場

つまんないよね、茶番もいいとこだよ。
人生に大切なのは日常じゃなくて非日常だよ。

刺激刺激刺激、刺激てきーーーいな人生こそが幸せだよ。

平和だとか日常なんてものは犬のエサにでもしちゃえばいいのさ。

コピー＆ペーストの人生なんて何の価値もないんだよ。

——————————

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「オマエラ、おはようございます！朝です、7時になりました！起床時間ですよ〜！さぁて、今日も張り切っていきましょう〜」

朝だ。起きよう。今日もみんなと食堂で朝食をとるんだから。でも、なんだか今日は身体が重い。疲れてるのかな？何かあったっけ？
もうちょっとだけ休んでから行こうっと。

——食堂——————

萩原雪歩
「おはようこんなに遅いの初めてだよね、どうしたの？」

最後かな？だいぶ遅かったから当然か。美希もとっくに起きてるみたいだし。あれ？でも……

菊地真
「あれ？春香は？」

秋月律子
「そうなのよ、起きてこないの。だから今ちょうどあなたと春香の2人を呼んでこようと思ってたのよ」

秋月律子
「たしか昨晩からもう自分の部屋に戻ってたはずだから、ちょっと見てきてくれるかしら？DVDを見た次の日も遅かったからちょっと心配なのよ」

菊地真
「そういえば一昨日も遅かったですよね。いいですよ。それじゃあ、ボクもちょっと心配だし見てきますね」

秋月律子
「よろしく頼むわ」

どうしたのかな春香？昨日はレッスンに復帰してたから、もしかして筋肉痛で動けないとかかな？そうだったらマッサージでもしてあげようっと。

「ピンポーン」

……。反応がないけど、まだ寝てるのかな？

「ピンポーン」

うーん？もしかして、もういないのかな？

「ガチャッ」

あれっ？鍵開いてる。

菊地真
「春香ー？いないのー？入るよー」

なんで開いてたんだろ。

ボクは部屋に入って中を覗き込んだ。

ボクは……
部屋…の中……を……
………ノ……ゾキ………コ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

菊地真
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！！！！！！！！」

春香はベッドに横たわっている。そして、ベッドにはおびただしい量の血痕が残っていて、カッと見開かれた両目には、どこまでも深い絶望が映っていた……。
ボクは肺から空気がなくなっているのにも関わらず、ずっと、ずっと叫び続けていた。

そして…………
……………………………………………………………………暗転。

CHAPTER 01


テンカイノカイテン


(非)日常編→非日常編

目を覚ましたボクの目に入ったのは広い天井だった。記憶の片隅にある光景。

体を起こすと顔が見えた。ここ最近毎日みている顔だ。

双海真美
「あ、まこちん起きた！大丈夫？」

高槻やよい
「真さん大丈夫ですか？」

菊地真
「あ……れ………？」

双海亜美
「まこちん気を失ってたんだYO！」

秋月律子
「仕方ないわ、あんな事があったんだもの……」

律子は……千早を抱き抱えていた。千早は目を真っ赤に腫らしながら泣いている。

菊地真
「あんな事…………？う、うわあああああ！」

萩原雪歩
「真ちゃん……大丈夫…？」

菊地真
「あれは…夢じゃないの？あれは…夢じゃなかったの！？夢じゃないのか！！？」

四条貴音
「誠、悲しき事ですが……」

菊地真
「ウソだ！ウソに決まってる！」

体はまだ重い。でも体が勝手に動き出した。走り出さずにはいられなかった。

水瀬伊織
「ちょっと！どこに行く気よ！」

菊地真
「っ！そんなの決まってるだろ！春香が！春香を！春香を助け…」

四条貴音
「真っ！！春香は……亡くなったのです……」

菊地真
「ウソだ！みんなボクを騙そうとしてるんだ！だって春香は！春香は！ボクが助けなきゃいけないんだ！」

秋月律子
「真！！私たちも何度も何度も確かめたの。でも、でも、それでも、春香は……死んでたの……」

菊地真
「じゃあ何で体育館になんているんだっ！仲間が！春香が死んだんだぞ！」

ボクは認めてしまった。あまりにも辛い現実を、あまりにも悲しい事件を。

春香は………春香は死んだんだ。

菊地真
「あああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

膝から崩れ落ちたボクの双眸からは涙が零れて零れ落ちて止まらない。

萩原雪歩
「真ちゃん………」

心配してくれて背中を撫でてくれている泣き虫な友人の目は真っ赤に腫れていた。

——————————

菊地真
「うぐっ、えっぐ、ぐすん。ご、ごめんね雪歩。もう大丈夫だからさ、ありがとう」

萩原雪歩
「ううん、気にしないで。落ち着いた？」

菊地真
「うん。それでどうしてボクたちはここにいるの？」

秋月律子
「モノクマよ。あいつが放送で体育館に集まれって言ってきたの。私たちもあそこから離れるのは気が引けたのだけれど、無闇にあいつに逆らうのは危険だから……」

菊地真
「そうだ、あいつだ。あいつだ！！あいつが春香を殺したんだろ！！」

如月千早
「モノクマ………」

モノクマ
「ボクはそんな事しないよっ！それだけは信じてっ！！」

我那覇響
「う、うわ！出てきたぞ！」

モノクマ
「校則違反をされない限りは、ボクは自ら手を下したりしません。この学園生活の趣旨に反するような事は決してしませんッ！」

モノクマ
「ボクって、ヌイグルミ1倍ルールにはうるさいってファンシーショップでも信頼が厚かったんだから！！」

双海真美
「だったら、誰がはるるんをっ！」

モノクマ
「またまた〜とぼけちゃってさ！そんなの決まってるじゃないか。天海春香を殺したのは、オマエラの中の誰かじゃーん！」

その言葉でボクたちの動きが止まった。

ボクたちの誰かが春香を…コロシタ？
そんな、そんなこと、そんなこと……。

モノクマ
「あり？どうしたの…？みんな電池が切れたモノクマみたいな顔してるよ？もうっ！最初に言ったよね！？オマエラの誰かが、ここから卒業する為に、天海春香を殺しただけじゃん？」

モノクマ
「だってそれがルールじゃん。仕方ないよ」

菊地真
「ウソだっ！お前が、お前が殺したんだ！」

モノクマ
「いやいや…殺したのはオマエラの誰かだよ。ちゃーんとわかってるはずだよ？知らん顔してても当の本人は知ってるはずだよ。ねえ？」

菊地真
「そ、そんな……」

ボクは、いやみんながお互いの顔を見回していた。悲しみと憎しみと疑惑とが混じった視線がその場で何度も行き来した。

秋月律子
「ホント……なのね？」

モノクマ
「もう！しつこいな！本当の本当の本当の本当だってば！ボクだってしっかり見たんだからさ！」

四条貴音
「ということは、この中から卒業する人が現れるのですね」

モノクマ
「へ…？」

水瀬伊織
「いい加減にして！アンタがそう言ったんでしょ！」

モノクマ
「う、うぷぷぷぷぷ……うぷぷ、ぶひゃひゃひゃひゃっ！あーっははははっはああああ！！！」

菊地真
「ふざけるな！どうして笑ってるんだよ！」

モノクマ
「あーあらららら、ダメダメ、キャラ間違っちゃったよもう！うぷぷぷぷ……。そんな、人を殺しただけで、それだけで簡単にここから出られると？」

モノクマ
「オマエラ甘すぎる！人生を舐めてるよ！1度社会に出て世の荒波に揉まれないとダメだね。あ！違うからね！揉まれるって卑猥な意味じゃないからね！えっちいのはダメだからね！」

モノクマ
「それよりも、本番はこれからだよ！俺たちの戦いは始まったばかりだよ」

END

モノクマ
「これで終わりなわけないじゃん！うぷぷ、どう？絶望した？さてと、ではここで『卒業』に関する補足ルールの説明を始めます！！『誰かを殺した者だけが卒業出来る』という点は以前説明した通りですが……」

モノクマ
「その際に、守っていただかなければならない約束があったの覚えてる？」

秋月律子
「自分が殺人を犯したクロだと、他の生徒に知られてはならない……」

モノクマ
「そう！ただ殺すだけじゃ駄目なの。他の生徒に知られないように殺さなければならないの！」

モノクマ
「で、その条件がクリア出来ているかどうかを査定する為のシステムとして殺人が起きた一定時間後に『学級裁判』を開く事とします！

菊地真
「学級…裁判……？」

モノクマ
「学級裁判は、殺人が起きた数時間後に開催されます！学級裁判の場では、殺人を犯した『クロ』とその他の『シロ』との対決が行われるのです！」

モノクマ
「学級裁判では『身内に潜んだクロは誰か？』をオマエラに議論してもらいます。その結果は、学級裁判の最後に行われる『投票』により決定されます」

モノクマ
「そこで、オマエラが導き出した答えが正解だった場合は秩序を乱したクロだけが『おしおき』となりますので、残った他のメンバーは共同生活を続けてください」

モノクマ
「ただし、もし間違った人物をクロとしてしまった場合は罪を逃れたクロだけが生き残り、残ったシロ全員が『おしおき』されてしまいます」

モノクマ
「その場合、もちろん共同生活は強制終了となります。以上、これが学級裁判のルールなのです！」

双海亜美
「お、おしおきって何なの？」

モノクマ
「ああ、それはね、そうだね……まあこっちの世界の言葉で言えば『処刑』ってやつだよ！」

菊地真
「しょ、処刑ってなんだよ！？」

モノクマ
「あれっ？『しょけい』じゃなかったっけ？間違ってたかな？あれだよ、あれ。ギロチンで首をポーン！火あぶりでメラメラ！首に縄をかけて、床がストーン！ってヤツだよ。ってあれ！？ぐぐったけど間違ってないじゃん！処刑であってるよ、ショ・ケ・イ。OK？」

秋月律子
「……つまり、犯人を当てれば犯人が殺されて、間違えれば私たち全員が殺されるってことね」

モノクマ
「その、さりげなく自分を犯人候補にいれないテクニックはもう既存だよ！まったく！でも、まあそんな感じだね。いわゆる裁判員制度ってヤツ。自分たちで犯人はオマエだっ！ってやるの」

モノクマ
「でも、慎重にやった方がいいよ！言葉通り『命懸け』だからさ！じゃあ、今のルールも校則に追加しとくから各自で確認ヨロシク！」

如月千早
「モノクマ……。あなたが、あなたがっ！！！あなたが春香を殺したんでしょ！！！！」

それは前触れもなく突然だった。今まで泣いていた千早が突然モノクマに駆け寄って、モノクマを……叩いた。
止める時間もなかった。

モノクマ
「いい加減にしてよね、学園長への暴力は校則違反だよ。おしおきだね……と言いたいところだけど、人数が少ないからなあ……」

そう言うとモノクマは突然、消えた。

モノクマ
「どう？速かったでしょ。今回は特別だからね！ホントはイエローカード2枚目なんだけどボクは今ようやく事件が起きて機嫌がいいから恩赦ってやつだよ。何度も言うようだけど、ボクは殺してないからね！そこんとこもヨロシクネ！」

モノクマ
「あーやっと終わりだよ。ようやくご飯が食べられるってわけだね。まあ、ボクバッテリーで動いてるんですけどね！人数の関係でちょっとショートカット出来るのは楽チンだね」

モノクマ
「あっと、そうだそうだ。忘れてた。みんなにプレゼントがあるんだった！ボクが死体に関する情報をまとめたファイル、その名も『ザ・モノクマファイル』！！データを電子生徒手帳に送信しておいたから後で見てね」

モノクマ
「まあ、所詮オマエラは素人さんだから優しいボクが死亡状況とか死因っぽいのをまとめてあげたの！えっ？クマのくせに何でそんなことがわかるのかって？監視カメラにばっちり映ってたからね！しっかりと録画済みさ！BDにして販売も考えてるよ！」

三浦あずさ
「モノクマさんは、誰が春香ちゃんを…殺したのか知っているのね？」

モノクマ
「モチのロンだよ！じゃなきゃ学園裁判のジャッジを公正に下せないでしょ？もう、お茶目さんなんだからあ」

四条貴音
「少なくともじゃっじは公平に下されるという事ですね……」

モノクマ
「うん。そうそう。じゃあボク、カップラーメンにお湯入れたままだからもう戻るね！伸びてないといいんだけどなあ。じゃあまた学級裁判でお会いしましょう！」

そう言ってモノクマは消えた。困惑して押し黙ったボクらは、すすり泣いている千早を除いて、しばらく誰も言葉を発しなかった。

春香の死がショックなのもあるけれど、それだけじゃなかった。この中の誰かが、仲間を、春香を殺したという事実と、その人物を突き止めなければボクたちが殺されるという現実。

信じていた仲間に裏切られたような最悪の状況。でも、でも、何もしないわけにはいかないんだ！

四条貴音
「それで、これからどうするのです。自身の為にも春香の為にも、わたくしたちはその犯人を突き止めなければいけないかと」

秋月律子
「そ、そうですよね。言い訳に聞こえるかもしれませんけど、自分たちの為だけじゃなくて春香のためにも私たちは動くべきですよね……やるしかないんですよね」

そうだ、やるしかないんだ！ボクは知らないじゃ許されないんだ！どうして、春香が殺されたのか、誰が春香を殺したのか。
それが、ボクが生き残る唯一の方法なんだ！

菊地真
「そうだよ、やるしかないんだ！」

四条貴音
「おまちなさい。その前に決めなければいけないことがあります。」

菊地真
「えっ？なに…？」

四条貴音
「現場の保全です」

秋月律子
「たしかに現場が荒らされない為の見張り役は必要ですね……。犯人に証拠の隠蔽をされるわけにはいきませんから。それじゃあ私がやります。誰かもう1人中学生以外でお願いできるかしら」

三浦あずさ
「2人必要なんですか？」

秋月律子
「私が犯人の可能性だってありますから……」

如月千早
「わ、私が、私がやります。春香の……側にいたいから………」

秋月律子
「……。わかったわ」

三浦あずさ
「あのね、中学生の子たちはあまり現場にこないようにね……。刺激が強すぎるから……」

水瀬伊織
「イヤよ。たとえ、そうだとしても足手まといになんてなるもんですか！」

秋月律子
「ええ、現場には自由に入っていいわ。でも無理はしないでね」

水瀬伊織
「ふんっ！当然よ。私だって765プロの一員なんだから！」

秋月律子
「ありがとうね、伊織。………。それじゃあ、私と千早は現場にいます。各自で捜査を始めて下さい。」

———捜査開始———

とりあえずは……モノクマファイルを読もう。

——————————

被害者は天海春香。
死亡時刻は午前3時頃。
死体発見現場となったのは、寄宿舎エリアの天海春香の部屋。

被害者はベッドの上で死亡。
腹部に複数の刺し傷があり、多量の出血あり。

——————————

それじゃあ、春香の部屋に行こう。

——天海春香の部屋—

ボクは春香の部屋に足を踏み入れた。
そこには、やっぱり夢なんじゃなくてボクがさっき見たように春香がベッドの上で眠っていた。
再び涙が出てきたけれど、ボクはここで立ち止まるわけにはいかないんだ。

正直、直視するのは辛いけれど、きっと何か証拠があるはずだ。調べてみなくちゃいけないんだ！

ベッドの上の春香はお腹が血だらけで複数の刺し傷があった。でも……

菊地真
「あれ！？目を閉じてる？」

如月千早
「……ごめんなさい。現場の保全だとは言われたのだけれど、あの顔の春香が見ていられなくて律子にお願いして何もないのを確認してもらってから私がまぶたを閉じさせてもらったの」

そう、だったんだ。確かにそれでよかったのかもしれない。最初に見た時の春香の目はあまりにも、あまりにも救いがなかったから……。

菊地真
「ごめんね、春香。ちょっとだけ調べさせてもらうよ」

ボクは何か残っていないか春香の体を調べた。
血痕は複数個所で唯一気になるのは、左手の指先にもちょっとだけ血がついてるところかな。

四条貴音
「どうやら、真も犯人への一手を見つけたようですね」

菊地真
「貴音さん！？どういうことですか！？」

四条貴音
「それは自分で考えるのです。そうすれば自ずとわかってきます」

彼女はそれだけ言うと部屋から去っていってしまった。

次は部屋を調べよう。まず、目に入るのはこれだよね、包丁。どこにあったのかはなんとなくわかるけど、後で調べておこう。
机の上には部屋の鍵がおいてあるけど、犯人はどうやってこの部屋に入ったんだろう。鍵を閉めていなかった…なんてわけないだろうし。犯人がこのテーブルの上の鍵で部屋に入ったとしたらどうやって手に入れたのだろうか。
それとゴミ箱がひっくり返されているのはどうしてなんだろう。それに棚は全て開けられていて裁縫セットまで床にばら撒かれている。
犯人は何で部屋を荒らしたのだろう？

あらかた探したと思うからもうこの部屋には何もなさそうだ。次は凶器の出所を探さないと。

——厨房——————

果物ナイフから麺切包丁までさまざまな種類の包丁が揃ってるでも……

菊地真
「1本抜けてるな」

高槻やよい
「そうなんですよ、真さん。昨日の夕方まではあったと思うんですけど今朝見たら無くなってたんです」

菊地真
「じゃあ、最初からなかったわけじゃないんだね」

高槻やよい
「うっうー！そうです！最初はここに私が使っていたものよりも大きな包丁があったんです」

やっぱりそうか。ここにあったはずの包丁がきっと、部屋にあったあの凶器だったんだな。

何もないかもしれないけど次は一応あの部屋に行ってみよう。

—空き個室1—

………。何もないか。やっぱり関係なかったのかな。あれ？ゴミ箱に紙が入ってる！

——————————

もう、しょうがないね。
まったく今時ドジッ娘キャラとか受けないよ！
仕方ないから新しい鍵用意してあげからさ。
べ、別にアンタのためにやったわけじゃないんだからね！！

あなたのツンデレ、モノクマより

——————————

……ムカつく文章だな。ここにはもう何もなさそうだ。部屋を出るか。

双海亜美
「あ、まこちん見っけ！」

菊地真
「どうしたの亜美？」

双海亜美
「あのさ→廊下でこんなん見つけたんだけど何か事件に関係してるよね？」

そういって亜美がボクに渡してくれたのは、ホルダーに『天海春香』の文字が刻まれている折れ曲がった鍵だった………

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「あのさー、ボク飽きっぽいんだよね。1日千秋なんてレベルじゃなくて、1秒千秋くらいなわけよ。ぶっちゃけ、捜査パートとかつまんないからさ、お待ちかねの学級裁判にもういっちゃいます！！」

モノクマ
「察しがいい子はわかってると思うけど、学校エリア1階の赤い扉のに入ってください。うぷぷ、じゃあ後でね〜！！」

もう、か。まだ何もわかってないけど行くしかないのか。

——————————

赤い扉をくぐるとみんなはもうすでにそこにいた。

モノクマ
「うぷぷ…みんな揃いましたね？それでは正面に見えるエレベーターにお乗りください。そいつが、オマエラを裁判場まで連れてってくれるよ。」

モノクマ
「オマエラの運命を決める裁判場にね。ボクは一足先に行って、待ってるからね〜」

これか、このエレベーターに乗れば犯人を突き止めない限りもう戻ってこれないんだ。

絶対見つけるんだ、春香を殺した犯人をっ！！

全員が乗り込んだところで扉が閉じてエレベータはゆっくりと下へ下へと動き始めた。
どこまでも、どこまでも……。

——裁判場—————

モノクマ
「にょほほ！やっと来たね！どう？なかなかいいデザインでしょ？ある人には悪趣味だなんて冷たい言葉を言われたけど、でもダッサイやつだったから信用してないんだ」

双海真美
「うっわ→センス悪いね」

星井美希
「最悪なの」

モノクマ
「ぶべらっ！！子どもにまで言われてしまうとはっ！でも気にしない！それじゃあオマエラは自分の名前が書かれた席に着いてくださいな。ほらっ急いで急いで！たいむいずまにーだよ！」

モノクマに従ってボクらは指定された席についた。
みんなの顔が見える、円状に陣取るように配置された席。
裁判場の異様な雰囲気と相まってその場の緊張感は一気に張り詰めた。

そして始まる。命懸けの裁判。
抗う為の戦い。生き残る為の戦い。真実の為の戦い。そして、春香の為の戦い。

—学級裁判 開廷！—

モノクマ
「えーっと、あったあった原稿っと。まずは、学級裁判の簡単な説明から始めましょう！学級裁判の結果はオマエラの投票により決定されます」

モノクマ
「正しいクロを指摘出来れば、クロだけがおしおき。だけど、もし間違った人物をクロとした場合はクロ以外の全員がおしおきされ、みんなを欺いたクロだけが晴れて卒業となりまーす」

秋月律子
「議論の前に、あの写真はなんなのよ」

モノクマ
「ああ、あれ？遺影みたいなものだよ。イエイ！死んだからって仲間はずれはかわいそうじゃん！イエイ！」

四条貴音
「それとなぜ空席が3つもあるのですか？わたくし達は全員で13人でしたのになぜ席が16個あるのでしょうか」

モノクマ
「仕方ないじゃん！最初からそうだったんだから。文句なら設計したヤツに言ってよね。ボクは悪くないんだから！」

モノクマ
「もう、いいでしょ！始めるよ！」

モノクマ
「まずは、事件のまとめからだね！じゃあ、議論を開始してくださーい！！」

ついに議論が始まるんだ。ボクも犯人を見つけるために何かあったら発言しないと。

—議論開始—

秋月律子
「日付はここに閉じ込められて7日目、つまりDVDによる動機を渡されてから3日後、場所は春香の部屋、時刻は夜中でしょうね」

四条貴音
「ものくまふぁいるを信じるならば午前3時頃でしょう」

双海真美
「部屋に侵入した犯人は、はるるんを殺してすぐ部屋に逃げたのかな」

菊地真
「いや、それは違うよ。真美は現場に行ってないから知らなかったのかもしれないけど、春香の部屋は荒らされてたんだ」

双海真美
「えっ？どうして？だって、フツ→はすぐ逃げるんじゃないの？」

菊地真
「うん、ボクもそう思う。だからきっと犯人は部屋を荒らさないといけない理由があったはずなんだ」

三浦あずさ
「たしかにゴミ箱までひっくり返されていて、まるで『何か』を探しているかのようだったわね」

双海亜美
「何を探してたんかな→」

菊地真
「ボクも部屋を探したんだけど特に何もなかったよ。犯人は結局何かをみつけたのかな？」

秋月律子
「じゃあ、その話は一旦おいておきましょ。次は凶器の話ね」

如月千早
「……凶器は刃物だったわ」

我那覇響
「ベッドの横にあったやつだぞ」

水瀬伊織
「どこから持ってきたの？部屋にあったかしら」

萩原雪歩
「そういえば、厨房にあった包丁が1本なくなっていたような気がしますぅ」

高槻やよい
「昨晩の晩御飯を作った時にはあったのですけど、今朝にはなくなってました」

秋月律子
「それが凶器で確定でしょうね」

星井美希
「それで、結局だれが犯人なの？」

四条貴音
「美希、それはまだ決められません。しかし、議論が進めばわかるはずです。やよい、いつ凶器がもち出されたかもう少し詳しくわかりませんか？」

高槻やよい
「たしか、お皿洗いが終わった時に見たと思います。時間は8時くらいでした。包丁がないのを見つけたのは朝1番で厨房に来た時にはすでになかったです！」

萩原雪歩
「あの、私、夜時間になる直前にのどが渇いて厨房に行ったんですけど、たしかなかったと思います」

菊地真
「つまり、誰でも凶器を持ち出すことは出来たみたいだね」

秋月律子
「それじゃあ、凶器から犯人を割り出すのは不可能ね。どうすればいいかしら」

四条貴音
「犯人はどうやって春香の部屋に入ったのかのでしょうか？」

菊地真
「どうやってって、鍵をかけ忘れてたんじゃないの？」

星井美希
「いくら春香でもそれはないって思うな」

菊地真
「だ、だったら普通に訪ねたんだよきっと」

三浦あずさ
「でも、夜中の3時よ。普通寝てるわ」

菊地真
「ぴ、ピッキングとか……」

水瀬伊織
「あの鍵はピッキング防止がされてたわよ」

菊地真
「じゃあ誰かお泊りしてたんだ！一緒に寝ていたんだよ！それか、やっぱり鍵のかけ忘れだよ」

如月千早
「あの、疑われそうだったので言うかどうか迷ってたんですけど……」

水瀬伊織
「何よ、気になるから言いなさいよ」

如月千早
「実は昨晩の夜時間直前まで私、春香の部屋にいたんです」

菊地真
「ええっ！ホント！？」

如月千早
「ええ、春香とお話してたの。それで9時半すぎに部屋に戻ったのだけれどその時に防音の部屋だけれど微かにちゃんと鍵を閉める音を聞いたわ」

我那覇響
「ホントは千早が犯人だったんじゃないか？」

如月千早
「そう思われても仕方がないわね。でも、私は犯人じゃないわ。証明は出来ないけれど……」

萩原雪歩
「あ！あの！私見ました！千早ちゃんが春香ちゃんの部屋から出てくるところ。厨房に行った帰りに見かけました！」

双海真美
「んっふっふ〜。ってことは千早お姉ちゃんが犯人ってわけじゃないみたいだね→」

秋月律子
「つまり、犯人は春香の部屋の鍵を持っていた可能性が高いわね。でも、どうやって？」

高槻やよい
「やっぱり、あの鍵が関係するんですかね？」

四条貴音
「そうですねでは一昨日と昨日の『あれ』の話をしましょう」

菊池真
「あれって何ですか？」

秋月律子
「たしかあれは、モノクマにDVDを渡された次の日、つまり一昨日の夕食の後だったかしら？遅い時間だったから私と貴音と千早と春香しかいなかったのだけれど」

秋月律子
「春香が急に『へ、部屋の鍵がないよ〜！！』って騒ぎ出して、時間も時間だからどうしようかってなったんです」

如月千早
「私の部屋に泊まる話になったところで四条さんが予備の部屋にも鍵があったからその部屋を使えばって言って、そうする事になったの」

秋月律子
「その日は予備の部屋で鍵をかけて寝たのよね」

如月千早
「それで、次の日の朝にモノクマから新しい鍵を貰ったと言っていました」

三浦あずさ
「ってことは犯人は春香ちゃんが落とした鍵を拾って部屋に侵入したのかしら？」

高槻やよい
「あ、それは違うと思います。私、昨日の朝に春香さんの鍵が厨房にフツーにあったんで、すぐ返したんです」

如月千早
「高槻さんが春香に鍵を渡したのは私が見てるわ。ただ、その鍵『折れ曲がってた』のよね」

高槻やよい
「そうなんです！だから、結局モノクマさんに新しい鍵もらってよかったなーって話になったんです」

我那覇響
「つまり、春香は鍵を2本持っていてその内の1本は折れ曲がっていて使えなかったってことなのか？」

双海真美
「それじゃ→ダメじゃん。何にもわかんないよ→」

双海亜美
「もう、お手上げだよ→」

萩原雪歩
「ダメなんですか……困りますぅ」

秋月律子
「ねえ、誰か何か疑問はないかしら？何でもいいの」

菊地真
「……そうだ、どうやって鍵は曲がったんだろう？」

我那覇響
「えっ？どういうことなのかわかんないぞ？」

菊地真
「どうしてやよいの拾った鍵は曲がってたんだろう。だって、自然に曲がるものじゃないだろ？」

水瀬伊織
「たしかにそうね。んっ！！ダメよ私の力じゃ曲がらないわ。真の馬鹿力ならわからないけど」

菊地真
「なんだよ、その言い方。無理に決まってるだろ！！んっっ！！ほら！！ムリだよ！！」

水瀬伊織
「何で勝ち誇ってるのよ……」

三浦あずさ
「う〜ん。何か道具がなくちゃムリそうねえ」

星井美希
「そういえばミキ、最初の探索をした時に誰のでもない部屋に入ったんだけど、そこの棚に工具が入ってたよ」

秋月律子
「その道具を使えば何とかなりそうね、ってことは鍵を拾った後鍵を工具で曲げてから厨房に置いたってこと？？」

四条貴音
「ええ、そう考えられます。次はどうして曲がっていたのかでしょう」

双海亜美
「う〜ん。はるるんに鍵を使わせたくなかったから？」

四条貴音
「それでは、どうして春香に鍵を使って欲しくなかったのでしょうね」

双海亜美
「ううんと、はるるんを部屋に入れたくなかったから？」

四条貴音
「それでしたら、鍵を厨房に置く必要はないでしょう」

双海真美
「じゃあ、鍵は使って欲しくなかったけど、見つかっては欲しかったってこと？」

四条貴音
「そう考えるのが自然でしょう」

双海真美
「え→ぜんぜん自然じゃないよ→」

我那覇響
「ますます意味不明だぞ！」

四条貴音
「ですが、1つだけ、そのおかしな理由があるのです」

菊地真
「………もしかして、鍵は偽物だったんじゃないか？」

四条貴音
「そうです、真。鍵は偽物だったのです」

高槻やよい
「どういうことですか？おもちゃの鍵じゃなかったですよ」

菊地真
「違うんだ、やよい。つまり鍵は春香の部屋の鍵じゃなかったんだ」

萩原雪歩
「で、でも春香ちゃんの鍵だったと思いますぅ」

菊地真
「騙されてたんだよ、ボクらは。『ホルダー』だけ入れ替えられてたんだ」

秋月律子
「なるほど。確かにホルダーに天海春香って書いてあったらわからないわ」

水瀬伊織
「完璧にやられたわね。つまり、春香の持っていた2本の鍵の1本は実は犯人の部屋の鍵だったってことかしら」

星井美希
「犯人はモノクマにもう1本鍵をもらって、1本を工具で折り曲げてホルダーを付け替えて厨房に置いといたってことなの」

菊地真
「あとは、夜中に包丁をもって鍵を開けて堂々と部屋に入って殺したってことか……」

秋月律子
「部屋を荒らしたのはその折り曲げた鍵を回収する為だったのね」

三浦あずさ
「でも、それじゃあ結局犯人が誰なのかわからないわね」

四条貴音
「いえ、それは違います。鍵を折り曲げる為の工具は予備の部屋にありました。おそらく、その存在を知っていたのは最初に寄宿舎を調べたわたくし、美希、響の3人のみです」

我那覇響
「じ、自分じゃないぞ！」

星井美希
「美希じゃないの！」

双海亜美
「誰が犯人なのさ！」

水瀬伊織
「たしかにその3人の誰かの可能性が高いけれど、それで、どうするの？自分の無実を証明できるかしら？」

星井美希
「み、ミキは夜3時なんてぐっすりに決まってるの！！」

我那覇響
「自分もだぞ！！」

水瀬伊織
「そんなの証拠になるわけないでしょ！」

四条貴音
「そうですか。それでは、悲しきことながら無実を証明いたしましょう、弱い証拠ですが……」

四条貴音
「失礼します」

そう言うと貴音さんは響が首に巻いていたストールを鮮やかに取った。

我那覇響
「っ！！た、貴音！何するんだ」

四条貴音
「響、どうして首の右側を押さえているのですか」

我那覇響
「そ、それは……」

四条貴音
「怪我の痕があるのでしょう？どうしてですか」

我那覇響
「た、ただどこかで引っ掻いちゃっただけだぞ！」

菊地真
「たしか、春香の左手の指先に血が残っていました。馬乗りで刺された時に抵抗したとしたら……」

秋月律子
「包丁は利き手の右手で持っているから……左手で春香の右手は押さえることが出来るけれど、春香の左手は押さえられない……」

四条貴音
「しかし、犯人とは言い切れません」

四条貴音
「ここで1度事件を整理してみませんか、真？」

菊地真
「う、うん。まず一昨日からだね、一昨日春香は鍵を落として犯人がそれを拾ったんだ。それを春香に返さず自分の部屋に持ち帰った」

菊地真
「モノクマにもう1本自室の鍵をもらって、そのうちの1本を予備室にある工具で折り曲げてた。そして春香の名前が書いてあるホルダーを外して自室の折り曲げた鍵を付けて誰かに見つかるようなところへ置いたんだ」

菊地真
「そして春香に鍵が渡り、春香が自分の部屋に戻った夜、犯人は春香の部屋の鍵を使って部屋に侵入して寝ている春香に跨がり、あらかじめ厨房で用意しておいた包丁で刺し殺したんだ」

菊地真
「その際抵抗した春香は右手は押さえられていて動かせなかったけれど、自由だった左手で犯人を引っ掻いた」

菊地真
「春香が絶命した後、犯人は証拠隠滅の為折り曲げた自分の鍵を回収して工具で春香の鍵を曲げてからホルダーを戻し鍵を部屋に置いておくつもりで部屋を荒らしたんだ」

我那覇響
「ち、違う！自分は違うぞ！この傷はちょっと転んだ時に引っ掻いちゃって恥ずかしいから隠してただけだぞ！！」

四条貴音
「ええ、そうかもしれません。実際にその傷は偶然出来たもので、犯人は別の所に怪我をしているのかもしれません。ですから、弱い証拠なのです」

我那覇響
「違うぞ、違うぞ！自分じゃないぞ！！」

菊地真
「……響。折れ曲がっている鍵は春香の部屋にはなかったんだ」

我那覇響
「えっ！？」

菊地真
「折れ曲がった鍵は春香の部屋になんてなかったんだよ。春香は『もう1度』鍵を落としてたんだ。だから部屋をいくら探しても見つからなかったんだよ」

菊地真
「ここにその鍵がある。亜美が廊下で拾ったんだってさ。響の鍵と見比べればわかるんだ……」

我那覇響
「っ！！！………そうだったんだ、さすがにわからなかったな。自分の負けさー」

水瀬伊織
「じゃ、じゃあアンタがっ！！！どうしてよっ！！！」

我那覇響
「自分は765プロの事務所に入った時ハムスターのハム蔵と一緒に来てたんだ。だけど、気付いた時にはいなかった。それでDVDには自分の部屋と沖縄の実家がボロボロになって映ってたんだぞ！」

我那覇響
「765プロのみんなは大切な仲間さー、でも自分には家族の方が大事だったんだ。比べてごめんさー。それで、春香が廊下で転んで落とした鍵を拾った時に……。ごめんな」

我那覇響
「また春香が鍵を落としてたってのは自分にバチがあたったに違いないぞ」

モノクマ
「うぷぷぷ……議論の結論が出たみたいですね。では、そろそろ投票タイムといきましょうか！」

モノクマ
「オマエラ、お手元のスイッチで投票してくださーい！あ、念の為言っておくけど必ず、誰かに投票してくださいねっ！！こんなつまらない事で、罰を受けたくないでしょ？」

モノクマ
「はいッ！では張り切って参りますよ！！投票の結果、クロとなるのは誰か！？その答えは正解なのか不正解なのかーーッ！？さぁどうなんでしょーーッ！？」

投票の結果、クロに選ばれたのは響だった。

モノクマ
「あらら！大正解っ！！今回、天海春香さんを殺したクロは我那覇響さんでしたー！！」

我那覇響
「みんな危険な目にあわせてごめんさー全部自分がやったんだ。自分が悪かったんだ……」

四条貴音
「響！！響、あなたのせいではありません！！全部あの、映像の……ものくまのせいなのですっ！あなたは悪くないんです！あなたはただ…ただ…」

我那覇響
「貴音…貴音ぇ！！自分は自分は貴音と出会えて765プロのみんなと出会えて良かったぞ。春香、春香ぁ許してもらえないだろうけど、自分もすぐいくさぁ……ごめん……」

菊地真
「全部、全部お前のせいだろっモノクマぁ！！！響があんなことしたのだって、春香が死んだのだって！全部、全部、全部っ！！」

ボクは無我夢中でモノクマに飛びかかった、だけど……。

我那覇響
「ダメだ、真！！」

腕を掴まれて、ボクは響に止められてしまった。その手は震えていた。

我那覇響
「それじゃあ真まで死んじゃう……それはダメだぞ」

菊地真
「響……」

モノクマ
「あードキドキした。ぶん殴られるかと思ったよ。でも、命拾いしたね！ってな訳で、学級裁判の結果、オマエラは見事にクロを突き止めましたので……」

モノクマ
「今回は、クロである我那覇響さんのおしおきを行いまーす！」

モノクマ
「今回は超アイドル級の沖縄娘である我那覇響さんの為にスペシャルなおしおきを用意させて頂きましたぞっ！！」

モノクマ
「では張り切っていきましょう！おしおきターイム！」

我那覇響
「じゃあ、みんなさよならさー」

赤いスイッチが現れ、モノクマが木槌で叩いた。

——————————

GAME OVER


我那覇響さんがクロにきまりました。

おしおきをかいしします。


——————————

おしおき
オスプレイ・デモプレイ・タコプレイ


響は飛行機に乗っていた。いや、違う。あれはオスプレイだ。その中に響とハムスターと蛇、リス、オウム、うさぎ、ねこ、ワニ、豚、犬、モモンガがいて響は涙を流しながら全員に抱きついていた。

これだけなら感動の再開シーンに見える。

シーンが切り替わりデモ隊が映し出される。全員モノクマだ。
そのモノクマがたくさんの凧を揚げ始めた。
その凧には忍者の格好をしているモノクマが張り付いている。

凧の大群は徐々にオスプレイに近づいていく。

そして、ついにプロペラに衝突した。
爆発するモノクマとオスプレイのプロペラ。

コントロール不能となり落下していくオスプレイから脱出したのはパイロットの格好のモノクマだけだった。
落下するオスプレイを横目に優雅にパラシュートを開くモノクマ。

そして、地面に衝突。
デモ隊を巻き込んで大爆発が起きて、跡形もなく燃え散っていった。

——————————

ボクたちは目を逸らす事が出来なかった。

どこからともなく泣き声が聞こえてきた。ボクの顔にも何か伝って雫が床に落ちた。

モノクマ
「いやー最高でしたね！流石のボクもうっとりしてしまって言葉が出ないですな！」

モノクマ
「もうちょっと喋ろうかと思ったけど、今はこの素晴らしい余韻に浸りたい気持ちだから、お先に失礼するね！」

四条貴音
「響……」

あの、常に冷静な貴音さんが、涙を流していた。

最初から貴音さんは犯人が誰か、知っていたのかもしれない。だけど言わなかったのは、証拠がなかったからじゃなくてきっと本人が1番信じられなかったからで。
そして、響と少しでも長く一緒にいたかったからなのかもしれない。

第一章

テンカイスルテンカイ

END


生き残りメンバー
残り11人

TO BE CONTINUED

それからの事はあまり覚えていない。

千早を律子が、貴音をあずさがそれぞれ抱きかかえるようにエレベーターに連れて行き、伊織が他の中学生を率いていた気がする。
ボクは、雪歩を支えるように、そして支えてもらうようにして何とか歩いた。

そして、エレベーターに乗って地上まで行ってそのまま無言で自分の部屋に戻った。

モノクマは確か『死体の処理のため天海春香の部屋には鍵がかかっていて入れないようになっている』という感じの事を言っていた。
ボクらはもう、2人にはどうやっても会えないようにするみたいだ。

それからボクは、布団で咽び泣いていた。

CHAPTER 02


心の中のマリオネット


(非)日常編

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「えー、校内放送でーす。午後10時になりました。ただいまより『夜時間』になります。間もなく食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となりま〜す」

モノクマ
「ではでは、いい夢を。おやすみなさい……」

——————————

モノクマ劇場

本編では登場しなかったこのシーンでも大好評だったため特別に開演させていただきます。
誰にも褒められてない気がするのは気のせいです。
ボクが唯一出しゃばれる所です譲りはしません。
幕間劇であるこの場ですが、いつか本編を乗っ取ってやろうと意気込む次第でございます。
胸糞悪いと賛美された本編を番外編に押しやってやるつもりです。
まさに、下克上です。運さえ向けばやってやるのです。


それでさ、運がいいってなんだろうね。

例えば『主人公格なのに第1話で殺される、かませ犬役』とか『誕生日なのに処刑される不憫な子』とかは運がないのかな？

でもさ、確率のお話だったら最初に死ぬ確率は13分の1だよ。誕生日に死ぬ確率なんて365分の1だよ。

すっげえラッキーじゃん。超絶ラッキーだよ。

確率を凌駕してやる勢いだよ。

50％以下の確率の事象が起こったら全部ラッキーだ。

だから、2人が死んだのは運命なんかじゃなくて、ラッキーだったんだよ。

——————————

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「オマエラ、おはようございます！ 朝です、7時になりました！ 起床時間ですよ〜！ さぁて、今日も張り切っていきましょう〜！」

嫌だ、動きたくない。このまま布団の中にいたい。

菊地真
「全部、忘れたい……」

言ってしまったら余計に辛くなってしまう。そうわかっていたのに口から弱音が漏れてしまう。

モノクマ
「あーそうそう今日はいくつかオマエラにお知らせがあります」

まだ画面から消えていなかったのか。でも聞きたくない。もう、そんなことは聞きたくないんだよ。

モノクマ
「学級裁判も終わったしね、約束通り『ジャマな死体』はキレイに掃除しておいたから！ 気にしなくていいけど、どうしてもって言うなら感謝の気持ちは行動で示してね」

モノクマ
「それとね、この希望ヶ峰学園は、学級裁判を乗り越えるたび『新しい世界』が広がるようになっております！」

モノクマ
「一生暮らすのになんにも変わんないんじゃつまんないでしょ？ 適度な刺激を与える事で生活に潤いを与えてあげようと思ってさ！」

モノクマ
「いいの、いいの。そんなにボクに感謝しなくていいから！ ボクはみんなが喜んでくれればそれで満足だから！」

モノクマ
「それじゃあ、アデュー！」

……新しい世界か。どうせ出口が出来たわけじゃあないんだろうな。

食堂に行った方がいいのかな。でも、やだな。今はまだ——

「ピンポーン」

誰か来たのかな、居留守は……駄目だよな。迷惑はかけられない。

菊地真
「はい、どちら様ですか？」

ドアを開けたところにいたのは、雪歩だった。

萩原雪歩
「お、おはよう真ちゃん！」

菊地真
「どう、したの？」

萩原雪歩
「あ、あのね、食堂に真ちゃんも千早ちゃんも四条さんも来ないから心配で私と律子さんとあずささんでお部屋を訪ねる事にしたの……迷惑だったかな？」

心配をかけてしまっていた、みたいだ。大切な仲間だなんて言っておきながらわかってなかったのはボクだった。

菊地真
「心配かけちゃったみたいだね……ごめん」

萩原雪歩
「ううん、気にしないで」

次の瞬間ボクは雪歩を抱きしめていた。強く、その存在を確かめるように。

萩原雪歩
「ど、どうしたの！？」

菊地真
「雪歩。少しだけでいいんだ。少しだけ、少しだけだから……」

萩原雪歩
「うん。いいよ。少しじゃなくて、ずっとでも大丈夫だから」

そう言うと、雪歩は頭を優しく撫でてくれた。ボクが泣き止むまでいつまでも、いつまでも。

——————————
————————
——————

——食堂——————

秋月律子
「……やっと来たわね」

ボクと雪歩が食堂い行くとすでにみんなが揃っていた。

朝ごはんは……食べ損ねたかもしれない。

菊地真・萩原雪歩
「ご、ごめんなさい！」

秋月律子
「別に誤らなくてもいいわよ。心配しただけ。それで、新しい世界がどうって話だったからこの後調べようって事になったわ。あなたたち2人は食事を済ませてから来なさい」

菊地真
「はい、わかりました」

ボクと雪歩は朝ごはんを軽く済ませてから、探索にまわることになった。

——倉庫——————

萩原雪歩
「すごいね……」

天井近くまで積み上がっている生活必需品や飲食物。

厨房にはなかった、お菓子や缶詰等もあり料理に幅が出来そうだ。

冷蔵庫には飲み物や食料品がある。小腹が空いた時に良さそうだ。

菊地真
「不便はさせないって言ってたけど、黒幕はどんな組織なんだろう」

目的を含めて何もかもがわからない。どうしてボクたちを閉じ込めるのだろうか。全くわからない。

——脱衣所—————

寄宿舎1階、最後の場所はお風呂だった。脱衣所と大浴場、サウナルームまである。

複雑ではあるけれど、シャワーだけだった生活から足を自由に伸ばせるほどのお風呂に入れるのは正直嬉しい。

大浴場を覗くと、すでにあずささんが1人でお湯に浸かっていた。

……いいのかな？見つかったら律子さんに怒られそうだけど。マイペースなあずささんらしいといえば、そうかもしれない。

—希望ヶ峰学園2階—

——プール前ホール—

2階の体育館の真上にあたる空間はプールになっているようだった。
更衣室にはなぜか男子用もある。

萩原雪歩
「真ちゃん、何か紙が貼ってあるよ」

雪歩の視線を追うと、確か何か貼ってある。おそらく、更衣室に関してだろう。

——————————

更衣室にはロックがかかってます。ロックって言ってもンロールじゃないからね。

解除するためにはドア横にあるカードリーダーに自分の電子生徒手帳を重ねてください。
当然だけど男子の電子生徒手帳で入れるのは男子更衣室のみ、女子の電子生徒手帳で入れるのは女子更衣室のみとなっております。
この機能いるかどうか悩んだんだけどさ、せっかくあるんだから活用しなくちゃもったいないからさ。

菊地真くんはいったいどっちに入れるんだろうね？

以上、おはようからおやすみまで、クラスをみつめるモノクマからでしたっ！

——————————

菊地真
「またそうやってボクを男扱いしてっ！！ 女子更衣室が開くに決まってるだろ！」

萩原雪歩
「そ、そうだよね〜。でも私、真ちゃんなら別に——」

菊地真
「ほら！ 開いたじゃん。ふふん、ボクだって女の子だもんね」

得意気に笑ったけれど、何か虚しさがあった。

更衣室にはトレーニング用機材もあった。機材を使った筋トレが出来るのはありがたい。
プールは競泳用のプールに客席まである本格的なものだった。ちなみにすでに亜美、真美、やよい、伊織が遊んでいた。美希は浮き輪で水に浮かびながら……あれ、寝てないよね？大丈夫だよね？

菊地真
「美希ぃー！ 起きてるかー？」

星井美希
「な゛ぁの゛ぉ〜〜〜」

うん、まあ伊織もいるし何とかなるよね。

次、行くか。

——図書室—————

床から天井まで届くような本棚で埋め尽くされている。書物を読む為の机とイス、スタンド照明にそれを繋ぐ用の延長コード。
隣の資料室には見ようとも思わないような分厚いファイルやらがあった。

貴音さんはそこで何かを読んでいたが声をかけられなかった。。神秘的な姿に今日はどこか哀愁さがあったから……。

そして律子さんがいじっているのは——

菊地真
「パソコンですか？」

秋月律子
「ええ、ここに置いてあったの。あからさまだったけれど、何か手がかりはないかと思って」

萩原雪歩
「それで何か有りそうですか？」

秋月律子
「今、修理中よ。すぐには無理ね。それとその棚の上の書類、見ておいた方がいいわよ」

そう言われたボクが見つけた書類には大きく赤文字で『(秘)企画書』と書かれていた。

菊地真
「怪しすぎだよね」

萩原雪歩
「でも、読まないとだめだよね……」

菊地真
「よしっ！」

ボクたちは覚悟を決めて読みだした。

——————
————————
——————————

(秘)企画書

すべてが——と言っても、——が派手に——り、叙情的に——なんてエンディングっぽい事は起きなかった。
今までと何も変わらなかった。ただ1点だけを除いて。——た。——が言うところの『——』それが——。

それだけだった。

EPILOGUE
さよなら————

裁判場を後にした——は、——にいた。——を前にして無言。

言わば放心状態。終わりを前にしたエピローグ。そんな時間が、しばらく続いていた。

でも…だけど…

？？？？
「いつまでも…こうしてても仕方な——。そろそろ行かな——」

そう口火を切ったのは、やっぱり——だった。

？？？？
「…——、準備をお願——」

？？？？
「——、——…」

——に促されるようにして、——は『ある物』を取り出した。

——が——の瞬間まで持っていて、そして——の前に落とした物。

？？？？
「で、でも——本当——？こんな物が、この—を開ける——って」

？？？？
「——の言葉から推測する限りだと、おそらく、間違いな——」

——————————

？？？？
「だが、もし全員一致で——の『——』を望めば、——には、ここから——もらう——」

？？？？
「確実に——もらい——。そして、——で無残に——でもらい——。

——————————

？？？？
「確実に——もらう…。そう言っていた——が最後に落とした物。——から——ための——。そう考えられるは——」

？？？？
「——、でも——ひょっとしたら、——を——させる——って可能性も。——『——』——もらうまでとは、——も言ってなかった——」

？？？？
「それは、あるかもしれな——」

？？？？
「——！？」

？？？？
「だからと言って、——にもいかない——」

？？？？
「——、——…そうだけど——」

？？？？
「——！心配——！！もし——に何かあったら、——……——……——！！」

？？？？
「…——、——？——…？——、学級裁判——…黒幕——…？」

？？？？
「もう全部——。今からみんなで——から——とこ——」

？？？？
「——！？——…！？——、——…——…！？そして…——…。そして——…——！？」

？？？？
「やめ——…——」

？？？？
「心配しなくても大丈——。きっと、——からは無事に——」

？？？？
「——た後が…——だけど——」

？？？？
「——、でも…——…やっ——…！——で…期待して——。——の——とか——全部ウソで——。本当は…——の向こうでは…いつも通りの——が広がって——」

全部、ウソ。いつも通りの——。

？？？？
「…でも——、どうなってたとしても、そこが『——』な——。だから、——は…——で生きていかな——いけない——」

？？？？
「——、——そう——けど」

？？？？
「それに、なんて言う——、この——と違って、——は広い——、そんな広い——、——、もちろん絶望——ある——。でも、希望——…いくらでもある——？」

？？？？
「希望を探す事…希望を見つけようとする事…それこそが本当の希望。そんな希望さえあれば、人はどんな苦境に陥っていても前に進む事が出来る。——は、そう言いたい——？」

？？？？
「——、——…、——、そんな感じ——」

？？？？
「わざわざ、——ても、そんな事はわかって——。それに、——も言ってた——。——には『まだ希望を——』がいる——。——に、——のもいいかも——。——…それは——」

？？？？
「——、——…！どこまでも——…——！！」

？？？？
「——はとりあえず、——！後の事は、そこから考え——！」

？？？？
「——…——」

？？？？
「作ればいい——、——！——、——いい——！」

？？？？
「——！！——、——！——、——、運命は——。——、それこそが——！ネクストステージ——！——の題2幕が始ま——！助かっ——、——！なんだか、——感じが——！」


？？？？
「——、——！本気で——！」

？？？？
「——、行きま——。たとえ、——としても。——としても。——と一緒なら、——はむしろ楽しみ——。そこで、——に何が出来るのか……」

何が出来るのか。ちっぽけな——に何が出来るのか。きっとなんでも出来る。そうだ！なんでも出来るんだ！

？？？？
「これでお別れ——。——とも——だ——。——！どうせなら、笑いながら——しないと——！！」

？？？？
「——！——に——、いつでもどこでも——！」

？？？？
「——。——、何か困った事があれば——。聞いて——、——」

？？？？
「——、——メラメラと——。——！——！——、その他の——」

？？？？
「名残惜しくはないけど、なんだか不思議な気分——」

？？？？
「これって、なんて言っていいのかわからないけどやっぱり——？」

希望は…広がる。——が諦めない限り…。

？？？？
「じゃあ、——！」

希望があるから前に進む。希望があるから勇気がわく。希望があるから——は動く。——は動く

——は——。——の手で。——の手で。それは、希望と絶望が交じり合う、未来への——

——————————
モノクマ
「……………」

モノクマ
「クックック…面白いよ…面白くなってきたクマ…うぷぷ…うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぅ〜！！」

モノクマ
「そう…ヌイグルミじゃないんだよ。ボクはモノクマなんだよ。オマエラの、この学園の……」

モノクマ
「学園長なのだッ！！」

——————————
————————
——————

ところどころが消されている。この消し方だと、パソコンで作った書類を印刷前に処理したものだ。
つまり、消されているところは見せたくはないけれど、モノクマがボクたちに与えたいものだということだろう。

それにしても、この——

萩原雪歩
「学級裁判ってあるね、それにモノクマさんも出てるよ」

菊地真
「企画書ってことは、台詞もあるしドラマの台本のようだね」

萩原雪歩
「でも、主観みたいのもあるよ……」

これは、何なんだ。何の目的でこんなものがある？
エピソード？ エンディング？

これは最終回なのか？ いったい何の？

秋月律子
「読み終えたかしら？ 読んだ方がいいとは言ったけれど、あまり考えないようにね。どうせそれだけでは分からないのよ。絶対に分からないヒントを与えて狼狽えるのを見て喜んでるんでしょうね」

秋月律子
「今日はオフよ。あなたたちも調べ終わったなら自由に遊んできなさい。お昼に一応話をするわ」

そう言われたボクたちは残りの2階にある教室2つを見てから、自由に行動することとなった。

——食堂——————

菊地真
「それで、これからどうする？」

萩原雪歩
「あのね、真ちゃん。私、千早ちゃんが心配なんだけど……」

菊地真
「やっぱりそうだよね。朝見てからどこにもいないからボクも不安だったんだ。みんな辛い気持ちだけど、貴音さんと千早は特にキツいだろうし」

どこか、みんな無理をしている。そんな違和感はある。当然だろう、仲間を2人も失ったのだから。
空元気なのも認めよう。だけど、そうするしかった。
春香と仲の良かった千早。響と仲の良かった貴音さんは今回の件で特に消耗していた。

菊地真
「それじゃあ、千早を探そうよ」

——天海春香の部屋—

千早は自室にはいなく、ボクたちが彼女を見つけたのは『春香の部屋』だった。

モノクマの言葉通り、そこには春香の身体はなかった。
千早は亡骸の無くなったベッドに縋るようにしていた。

菊地真
「千早……」

如月千早
「……ごめんなさい。みんなの前を向いて頑張ろうって気持ちは分かっているの。だけど、もう少しだけ……」

萩原雪歩
「千早ちゃん……」

如月千早
「大丈夫よ。今だけ、今だけだから。それにずっとこんな事してたら私、春香に怒られちゃうから……」

菊地真
「ボクも……そう思うよ」

如月千早
「ごめんなさい。ちょっとだけ1人にして欲しいの……」

菊地真
「うん、それじゃ」

そう言ってボクたちは部屋から出た。
千早はきっと大丈夫だ。なんたって春香の親友なんだからさ。ボクは信じてるよ。

——食堂——————

昼食後の律子さんの話はレッスンはしばらくは行わないという事、図書室にあった書類の事とパソコンを復旧している事、そして2人のお墓はみんなでここを出たら作ろうという事だった。

そして話が終わった後、千早がボクと雪歩に話しかけてきた。

如月千早
「あの……2人にお願いがあるのだけど……」

菊地真
「えっ？ どうしたの？ お願いって」

如月千早
「チーズケーキを作りたいのだけど、私1人じゃ出来なそうだから……」

菊地真
「う〜ん、チーズケーキかあ。どうかな？ 雪歩、出来る？」

萩原雪歩
「た、たしか図書室にお菓子のレシピ本がありました。それがあればたぶん……」

菊地真
「でも、どうして千早はチーズケーキを作ろうと思ったの？」

如月千早
「春香と……約束してたの。次はチーズケーキを作りましょうって。今はお墓は作れないけれど、せめてその約束は守りたいから……」

千早が前を向くための心残り。吹っ切るためじゃなくて前に振り返るための行動。

萩原雪歩
「わ、わかりました！ 私も力になれるよう頑張りますぅ！」

如月千早
「それと……サーターアンダーギーも作りたいの……」

そしてこれは、響のため。言葉にはしないけれどそういう事なんだと思う。

——菊地真の部屋——

菊地真
「あー、疲れた」

チーズケーキとサーターアンダーギーは紆余曲折ありながらも無事に完成した。

味の方はまだまだだったけど、まあ満足かな。

千早はこれからもお菓子を作るらしい。正直、かなり不安だけど徐々に上手くなるといいな。

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「えー、校内放送でーす。午後10時になりました。ただいまより『夜時間』になります。間もなく食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となりま〜す」

モノクマ
「ではでは、いい夢を。おやすみなさい……」

——————————

モノクマ劇場

人間ってのは面倒だよね。
まったくさ、もう死んじゃったんだからしょうがないじゃん。

ゲームじゃないんだから残機とかないし協会に行っても復活しないの！
うじうじしてても仕方ないんだからさ、早く事件起こせっての！

事件が起きないうちの、日常的なところで『あ、こいつ死ぬな』みたいなのになったら最悪じゃん！
絶望しちゃうよ！

——————————

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「オマエラ、おはようございます！ 朝です、7時になりました！ 起床時間ですよ〜！ さぁて、今日も張り切っていきましょう〜！」

さてと……まずは、食堂に行くとするか……。

——食堂——————

秋月律子
「ほら、しっかり野菜も食べなさい！」

双海亜美
「え→やだYO！」

秋月律子
「文句いわないの！」

双海真美
「りっちゃんお母さんみたいだね→」

秋月律子
「お、お母さんって……」

水瀬伊織
「どうしたの、ママ？」

秋月律子
「い、伊織まで。もう！」

三浦あずさ
「あらあら〜律子さんも大変ね〜」

朝からカオスの環境で、ゆったりとトーストとコーヒーの朝食を食べているあずささんは、やっぱり何かすごかった。

——————————
自由行動
※自由行動内での被害者、加害者の予測を避けるため安価で真が関わるキャラクターを決めます。
※物語の伏線があるかもしれませんが、基本的に本筋に直接関わることはありません。事件が起こるまでの繋ぎとお考えください。
※生存者の名前、または『寝る』でお願いします。寝るの場合は特に何も起こりません。
レスポンスがない場合は適当に決めます。
午前 >>202
午後 >>203
——————————

律っちゃん

たかね

——図書室—————

秋月律子
「あら、真どうしたの？あなたが図書室に来るなんて思ってなかったわ」

菊地真
「何だよその言い方は。ボクだって本くらい読むさ！」

秋月律子
「それで、どんな本を探してるの？ちなみに漫画とかライトノベルはないわよ」

菊地真
「れ、恋愛小説とか……」

秋月律子
「えっ？ごめん、聞こえなかったみたい」

菊地真
「恋愛小説が読みたいんだよ！」

秋月律子
「……。へえ、そう……なの……」

菊地真
「な、何なのそのリアクションは！？」

秋月律子
「いや、真もそういう本んだなあって思って」

菊地真
「ボクがぼ、ボーイッシュって言われてるのは知ってるけど、ボクはこう、きゃびきゃぴーんって感じのかわいいアイドルになりたいんだ！」

秋月律子
「そ、そうなの。もったいないわね。私だったらボーイッシュなアイドルとして売り出すわ」

菊地真
「いーやーだー！」

菊地真
「それで、律子はどうしてアイドルになろうと思ったの？」

秋月律子
「私？大した理由は無いわ。マネージャー志望だったんだけど、社長に『ﾃｨﾝときた！』って言われてね。なぜかアイドルでやることになったの」

菊地真
「へぇー、だからみんなを引っ張ってたんだ」

秋月律子
「そんなところよ。まぁ、お節介な性格だしね」

菊地真
「そんなことないさ！ 律子にボクたちだいぶ助けられてるよ！」

秋月律子
「あら、嬉しい事言ってくれるじゃない。余計なお世話かな〜とか考えちゃう事があるからそういうの嬉しいのよね」

菊地真
「でも、無理はしないでね！ 律子が倒れたら亜美と真美を押さえれらる人がいなくなっちゃうからさ！」

秋月律子
「その言い方だと私が亜美と真美のお守りみたいじゃないのよ！」

菊地真
「あはは、冗談だって」

——————————

律子のいる図書室を出た後、ボクは自室へと戻っていった。

まだ、時間はあるな……。
じっとしている気分じゃない。

どこかへ行ってみよう……。

——倉庫——————

喉が渇いたボクは倉庫に来たのだけれど、そこには怪しい影があった。
黒幕かと考えたボクは慎重に近づいて……捕まえた！

菊地真
「捕まえたぞ！ 怪しいやつめ！」

？？？？
「ふごふご……」

菊地真
「って、あれ？貴音……さん！？ どうした……んですか？ 」

四条貴音
「無理に敬語を使わなくても結構ですよ、真。わたくしはただ、食糧がないかと」

菊地真
「は、はい。やっぱり変だったかー。それでお腹が減ってたの？」

四条貴音
「ええ。そういう事です」

菊地真
「……怪しいからやめた方がいいよ。かなり不審だったから」

四条貴音
「そうでしたか。以後気をつけます」

菊地真
「食糧って何を探してたの？」

四条貴音
「らぁめんでございます」

菊地真
「ラーメンが好きなの？」

四条貴音
「ええ。あれは素晴らしいものです。本当は、職人の作ったものが食べたいのですが、それは叶わないので代わりにいんすたんとらぁめんを探していたのです」

菊地真
「へえー。えっと、たしかここらへんに……ほら！あった」

四条貴音
「誠ですか？」

菊地真
「ま、真ですけども」

四条貴音
「これは、お店の味に近いと大ひっとのまるちゃん○麺ではないですか！」

菊地真
「それは……よかったね」

四条貴音
「ありがとうございます、真」

菊地真
「気にしないで」

四条貴音
「それではどうでしょうか？この後わたくしとらぁめんを食べませんか？」

菊地真
「え？いや、それは……ボクには今の時間にラーメンはちょっと厳しいかな」

そう言うと貴音は少しさびしそうに倉庫を出た。
その背中に申し訳なさを感じながらボクは自分の部屋へ戻った。

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「えー、校内放送でーす。午後10時になりました。ただいまより『夜時間』になります。間もなく食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となりま〜す」

モノクマ
「ではでは、いい夢を。おやすみなさい……」

もう、こんな時間か。
今日は特に何もない普通の日だったな。
いや、前提が間違っている。そもそも、今が全て異常なんだ。
変わらない異常事態に日常を感じてしまうボクは環境に毒されているのだろうか、それとも適応してきたと考えるべきなのだろうか……。

——————————

モノクマ劇場

万屋の銀さんがね、あれ？銀3じゃなくて銀2だったかな？
まあいいや『金は手元に置け。抱いて眠れ……！』って言うからさ、成長したいボクは札束のベッドで寝て、札束を薪の代わりにして暖炉を暖めて、札束のプールで泳ぐようにしてるんだ。
これが実に心地悪いんだよ。最悪だよ。
それなのにボクは成長してないしさ。(約65cm)
みんなにはオススメ出来ないね。

今度からマルクじゃなくて、ジンバブエドルにすれば良くなるかな。

——————————

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「オマエラ、おはようございます！ 朝です、7時になりました！ 起床時間ですよ〜！ さぁて、今日も張り切っていきましょう〜！」

きゃっぴぴぴぴ〜ん！ まこまこり〜ん！ 菊地真ちゃんナリよ〜！みんなーおっはよー！
……。
ダメ……かな？

……よし、食堂に行こう。

——食堂——————

菊地真
「おっはよーございますっ！」

いつもより若干テンション高めで食堂に入ると、美希が座りながら膝の上にやよいを乗っけて、後ろから抱きしめていた。

高槻やよい
「美希さーん、起きてくださいよー」

星井美希
「ミキまだ眠いんだもん。やよい暖かいから離さないの〜」

水瀬伊織
「ちょっと！ やよいを離しなさいよ！ 嫌がってるでしょ！」

高槻やよい
「はわわ、イヤってわけじゃありませんよ〜」

星井美希
「や、なの。でこちゃんはうるさいの。やよいだって別にいいみたいだし問題ないでしょ？」

水瀬伊織
「でこちゃんはやめなさいよ！ いいから離しなさい！」

双海亜美
「おやおや→？ いおりん、もしかしてちっとですかな〜？」

菊地真
「『嫉妬』だよ、亜美」

双海真美
「でもさあ、だぁれに『しっと』してるんだろうね〜？ ミキミキかな〜？ やよいっちかな〜？」

水瀬伊織
「う、うるさいわね！ 嫌がってなくても困ってるんだから離しなさいって言ってるの！」

星井美希
「じゃあ、でこちゃんが交代するなら特別にいいよ。どうする？」

水瀬伊織
「わかったわよ！ 交代すればいいんでしょ！」

双海亜美
「デレですな〜」

双海真美
「デレてますな〜」

水瀬伊織
「う、うるさいわよ、あんたたち！」

朝から中学生組たちは元気あるな〜、かわいいな〜。

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自由行動
※自由行動内での被害者、加害者の予測を避けるため安価で真が関わるキャラクターを決めます。
※物語の伏線があるかもしれませんが、基本的に本筋に直接関わることはありません。事件が起こるまでの繋ぎとお考えください。
※生存者の名前、または『寝る』でお願いします。寝るの場合は特に何も起こりません。
レスポンスがない場合は適当に決めます。
午前 　>>216
午後 　>>217
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たかね

千早

——厨房——————

ボクは貴音に呼ばれて厨房に来ていた。

菊地真
「な、何その格好！？」

四条貴音
「黒の半そでに厨房エプロン、それにタオルで鉢巻はゆにふぉおむでございます。この前は倉庫でらぁめんを断られてしまったので共に手打ちでらぁめんを作ればその魅力を知っていただけるかと思いまして」

菊地真
「ラーメン作りか、面白そうだね。うん、やろうやろう」

手打ちラーメンか、なかなか楽しそうだ。

四条貴音
「それは、安心いたしました。せっかく仕込んでおいたすぅぷが無駄にならずにすみました。今日は基本となる、鶏がら醤油らぁめんでございます」

菊地真
「いいね！ みんなの分も作って、お昼ご飯に振る舞おうよ！」

四条貴音
「ええ、わたくしもそう考えておりました。それでは真、衣装ちぇんじをお願いします」

えー、それ必要かな？別に今の格好でもいいと思うんだけど……。

——如月千早の部屋—

如月千早
「それで、どうしたの？私の部屋を訪ねてきて」

菊地真
「いや、別に何となくヒマだったからさ」

如月千早
「そう。それで何かする？」

菊地真
「う、うん。じゃあ、えっと……」

如月千早
「……。特に考えてないのね」

菊地真
「……ごめん」

如月千早
「別にかまわないわよ。それじゃあ、2人だけど歌のレッスンでもする？」

菊地真
「そ、それだったらさ、そんなに力入れないでカラオケくらいにしないかい？ 雪歩も呼んでさ」

如月千早
「ごめんなさい、私カラオケってよくわからないから……」

菊地真
「そんな、専用の機械があるわけじゃないしただ練習とか考えないで好きな曲を歌おうってだけだよ」

如月千早
「そう。それなら良かったわ」

——食堂——————

それはみんなで夕食をとっていた時だった。

「キーン、コーン…カーン、コーン」

時間はまだ10時になっていない。このタイミングのチャイムは……嫌な予感がする。

秋月律子
「また、何かやるのかしら……」

モノクマ
「えー、校内放送、校内放送。まもなく夜時間となりますがその前にお知らせがあります」

やっぱり、『何か』仕掛けてきた。

モノクマ
「最近さ〜何だか暇なんだよね。仕事熱心なボクは何にもすることがないってのは、こう、落ち着かないわけですよ」

モノクマ
「ホント過労死しちゃうんじゃないかって動物園で言われてた頃が懐かしいですな。でも昨日には帰れなぁい〜」

モノクマ
「だから、仕事をしようと思って頑張ったんだ。偉いでしょ！」

双海真美
「余計なお世話だYO！」

モノクマ
「そこで！ オマエラに新しい『動機』をプレゼントするよ！」

モノクマ
「もう、ボク優しすぎだよね。殺し合いをする言い訳をあげるだなんてさ」

モノクマ
「それでは、みなさんお待ちかね、今回のテーマはっ！！」

モノクマ
「『恥ずかしい過去』や『知られたくない過去』です！」

水瀬伊織
「ふん、くだらないわね」

モノクマ
「人間生きていれば誰しも、恥ずかしい過去や知られたくない過去ってのはあると思うんだ」

モノクマ
「それは個人のことだったり、家族のことだったりするけど、いろいろ隠したいってものがあるよね」

モノクマ
「ボクはクマだから関係ないけどさ」

モノクマ
「今回はこの優秀なボクが独自のルートで調査して、オマエラの『思い出』ってのを集めてきました」

モノクマ
「うわっ……ボクの能力、高すぎ……？」

モノクマ
「みなさんの電子生徒手帳に送っておきましたので、さっさとご覧になってください〜」

モノクマ
「ボクは封筒で配るとかまどろっこしいのは嫌いだからさ、みんなも面倒がなくていいでしょ？」

みんながいっせいに電子生徒手帳を出す。

ボクも電子生徒手帳を出すと……！

『男の娘疑惑のある菊地真は本気で男の子だと思われて告白をされたことがある』

菊地真
「なっ……！ ど、どういうことっ！？」

萩原雪歩
「ど、どうして知ってるんですか！？ 私もう、穴掘って埋まってますぅ〜」

四条貴音
「め、面妖な……」

三浦あずさ
「あ、あらあら〜？こ、困っちゃうわね……」

みんな思わず声を上げていた。

モノクマ
「タイムリミットは24時間でーす！！ それまでに、クロが出ない場合はこの知られたくない秘密を、世間にバラしちゃいまーす！」

モノクマ
「2chにでもスレ立てでもしてまとめサイトに乗せて炎上させちゃおうかなー。それとも気球に乗って空から文章をばら撒いちゃおうかなー」

モノクマ
「夢が広がるね！」

モノクマ
「うぷぷ、クロが出ることを期待してるよ。それじゃ、バイナラ」

菊地真
「く、くだらないね！ こんな事の為にボクらは人を殺したりなんてしないからなっ！」

ボクは叫んでいた。
大丈夫だ、こんなことなら耐えられる。
これくらいなら——

秋月律子
「千早っ！？」

律子の突然の声でボクもその視線を追うと、千早が……膝から崩れた。

如月千早
「優…………」

電子生徒手帳ごと両腕を落とし、腕をだらんとしたまま千早は涙を流し出した。
涙を零すその瞳は、何も映ってはいないかのように濁っていた。

秋月律子
「大丈夫！？ どうしたの千早！？」

律子が体を支えようと手を出すが、千早はそれを振り払う。
みんな呆然としていた。

如月千早
「……すみません。1人にしてください」

そういうと、千早は電子生徒手帳を広い上げ、その顔のまま1人食堂から出て行った。

——————————

みんなは千早に続くように、引っ張られるかのように部屋へと戻った。

1人にして欲しい。気持ちを整理したい。そんな雰囲気だった。

正直、ボクもこれを暴露されるのは恥ずかしい。
でも、こんな事で殺人なんて起きるわけがない。
不安はあったけれど、そんなに緊張はしていなかった。

どちらかと言うと、恥ずかしい事が暴露されてしまう羞恥心に苛まれていた。

明日の夜までに覚悟をしておかないとな……。

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「えー、校内放送でーす。午後10時になりました。ただいまより『夜時間』になります。間もなく食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となりま〜す」

モノクマ
「ではでは、いい夢を。おやすみなさい……」

——————————

モノクマ劇場

誰にだって秘密はあるよね。
ボクはクマだから関係ないなんて言ったけど本当は秘密があるんだ。
特別に話すけどここだけの内緒だからね。

ボクはちょっと前まで中二病だったんだ。自分のことを黒炎竜の力を右手に宿したクマだと思ってたんだ。

それでさ、ある時『闇の炎に抱かれて消えろ！』って言って手をかざしたら山が消し飛んでしまったんだ。

あれで、ボクは自分がただのモノクマだって気づいたんだ。

——————————

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「オマエラ、おはようございます！ 朝です、7時になりました！ 起床時間ですよ〜！ さぁて、今日も張り切っていきましょう〜！」

菊地真
「あ゛ぁ〜！！」

ベッドに顔を埋めながら、足をじたばたさせて起床。
一晩悩んだあげくの結論！
いっそ自分からみんなに暴露して、スッキリする！
よっしゃ！ 行くぞ！

——食堂——————

最後の覚悟を決めるために大分時間がかかってしまったが、この時間ならみんな揃っているだろう。
それがいいことなのか悪いことなのか今のボクにはわからない。

今のボクにわかるのは、チャンスは今しかないということだ。
今を逃したら確実に夜まで悶え苦しむ事になる。そんな風に1日を過ごしたくはない。
宿題を気にしながら夏休みを過ごす苦しみはもう、味わいたくない。……結局、毎年苦しむんだけど。

だから、今、今しかない。
朝、みんなにあいさつするこのタイミングが最初にして、最高のチャンス！
喉から、いや、腹から声を出すんだ。
全てを吐き出すように。
この息に声を想いを乗せて。
行け！ 行くんだ！

菊地真
「おっはよーございます！本気で男の子だと思われて告白をされたことがある菊地真で〜す！！」

よし！ やった！ やってしまった！ 後悔先に立たず、後に立つ！

みんなあっけにとられている。うわ〜、うわ〜、うわ〜。わっふー！

菊地真
「……くっ！」

予想以上のダメージにボクは、膝をついてしまった。

き、きつい。これは思った以上にキツイ。

フォ、フォローが欲しい。誰かフォローを……。

萩原雪歩
「だ、大丈夫だよ真ちゃん！ 真ちゃんはそれだけカッコイイもん！」

そ、それはフォローになってないよ雪歩。
むしろ心をえぐられた気さえするよ……。

秋月律子
「……。なるほど、考えたわね真。いっそ自分から言ってしまう……」

理解してくれたのは嬉しいけど、納得してないで何か、ボクを救ってくれるような言葉をくださいっ！

星井美希
「真くん、カッコイイから間違われてもしょうがないってミキ思うな」

こ、これは致命的な傷を負ったかもしれない……。

——————————
————————
——————

——図書室—————

誰か続いて暴露してくれないないかな？ なんて淡い期待を壊された後、ボク1人自室に籠もって恋愛小説を読み午前中を過ごした。

その後昼食を挟み、再び部屋で読書を再開。そして本が読み終わったボクは廊下で会った貴音と図書室に別の本を取りに来た。

菊地真
「あれ？ 律子、何か探してるの？」

秋月律子
「あら？ 真に貴音じゃない。そうよ、食堂でパソコンをいじってたんだけどさっき分からないところが出てきてね、専門書か何かあればと思って今探し始めたとこ」

菊地真
「そうだったんだ。ボクも手伝うよ」

秋月律子
「それじゃあ資料室見てきてくれない？ 私は本棚漁ってるから」

四条貴音
「はて？ 資料室にそのようなものはあったでしょうか」

秋月律子
「あー、わかんないけどありそうかなって。別に手伝ってくれるならどこでもいいわよ」

菊地真
「じゃあ資料室調べるよ」

四条貴音
「では、わたくしは律子殿と一緒にお探ししましょう」

秋月律子
「ええ、よろしくお願いするわ」

パソコンに何か手掛かりがあればいいんだけどな……。
あれっ？資料室の扉が開かない？

菊地真
「ねえ、律子ー？ 貴音ー？」

秋月律子
「んー？ なにー？」

四条貴音
「どうしましたか？」

菊地真
「資料室って鍵あったっけ？」

秋月律子
「えー？ そんなものあったかしら？」

四条貴音
「いえ、なかったかと」

前に来た時は鍵がかかってなかったはずだ。
そして今は昼時間、どういうことだろう。

秋月律子
「どうしたのよ？」

声を掛けられては振り向くと、律子がそばまで来ていた。ボクの言動に気になったのだろう。

菊地真
「いや、なぜかこの扉『開かない』んだ。ドアノブは回るんだけどそこから前に開かない」

秋月律子
「……おかしいわね。嫌な予感がする。無理矢理押し開けてみて」

菊地真
「う、うん」

律子にそう言われたボクは肩を当ててタックルの要領でドアを押した。鍵がかかっているなら押し破るしかないだろうから多少力を入れても無意味な気はしたが、予想外にもドアは動き出した。
ボクはドアを開けながら後ろを見て、律子に声をかけた。

菊地真
「あれ、思ってたよりも普通に開い——」

秋月律子
「——キャァーーー！！、」

その声で振り返り、そこで初めて部屋の中を見て……

菊地真
「え……………………………？」

床に散らばった本。

四条貴音
「どうしたのですか！！」

「ピンポンパンポーン……！」

モノクマ
「死体が発見されました！ 一定の自由時間の後、『学級裁判』を開きまーす！」

床に散らばった本。その本の中で…………………

……………………………………………やよいが倒れていた。

CHAPTER 02


心の中のマリオネット


(非)日常編 → 非日常編

菊地真
「やよいっ！！」

ボクは本を踏み、やよいのところまで駆けつけて体を揺さぶった。

菊地真
「おい！ やよい！大丈夫かっ！？ どうしたんだよ！」

四条貴音
「やよいっ！？」

だけど、やよいの体はもう動かなくて……。

四条貴音
「真っ！！ やよいは……もう亡くなりました」

気付くとボクは貴音に止められていた。

菊地真
「ごめん、ごめん、ごめん、何も出来なかった。助けられなかった。ごめん、ごめん、やよい……」

とめどなく流れる涙。

もう決して動く事のない顔にはあの、誰もが笑顔になれたやよいの優しい笑顔が浮かんでいた。

——————————

さっき流れた放送は3人以上が死体を発見すると流れるという死体発見アナウンスだそうだ。
ボクは春香を見つけた時に倒れてしまったから、聞いてなかったらしい。

律子が集まったみんなを落ち着かせるのに大分時間がかかった。
顔を真っ青にしている雪歩、延々と泣き続ける亜美と真美、唇を噛むようにして、必死に涙を堪えている伊織。

秋月律子
「………。残念ですが、私たちはこのまま悲しんでいる時間はありません。誰かやよいを見ていて——」

水瀬伊織
「——やよいを見る役は私にやらせて」

秋月律子
「伊織……だけど………」

三浦あずさ
「やらせてあげてください。私も一緒にいますから」

秋月律子
「……。わかりました。それじゃあ、お願いします」

また、誰かが仲間を殺したのか。
また、みんなを疑わないといけないのか。
また、あの学級裁判を行わなければいけないのか。

———捜査開始———

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「そうでした、そうでした。モノクマファイルでしたね。電子生徒手帳に送っておきましたよ。仕事が早いねふぅーー！」

ボクはそんな雰囲気を壊すような音声を背景に捜査を開始した。

まずはモノクマファイルを見よう。

—モノクマファイル—

被害者は高槻やよい。
死亡時刻は昼の2時頃。
死体発見現場となったのは、学校エリア2階にある図書室に隣接している資料室。

本が散らばった床の上で死亡発覚。
被害者の頭部に打撃痕あり。
頭を強く打った模様。
それ以外の目立った外傷はなし。

——————————

打撃痕？ そんなものがあったのか。でも資料室には凶器になるような鈍器は見当たらない。
分厚いファイルをや本はあるけれど、さすがにこれで人を[ﾋﾟｰｰｰ]のは不可能だろう。
そうなると凶器は犯人が持ち去ったのだろうか。

菊地真
「ごめんね、やよい。ちょっと見させてもらうよ」

そういって、ボクはやよいの体を調べ出した。

水瀬伊織
「あんまり、べたべた触らないでね……」

伊織は大切な友人を気遣うように、心配そうな声でボクに言ってきた。

菊地真
「ああ、わかった。大丈夫だよ」

やよいは動かなくなった今でも、生きているかのように目を閉じながらも微笑んでいた。
後頭部をみるとたしかに挫傷した痕があった。頭を後ろから殴られた、そう考えるのが妥当だろう。

ボクはやよいの体から離れると、今度は床の本を調べた。
床に散らばった本は床一面を覆っていて、ドア付近まである。
前に来た時はこんなに本はなかったはずだ。

菊地真
「なあ、伊織。やよいがお昼食べたあと何をしていたか知ってる？」

水瀬伊織
「……知らないわ。午前中は一緒にいたけれど、お昼の後は気付いたらどこかにいなくなってたのよ」

伊織と一緒でないなら亜美、真美と一緒だったのだろうか。

菊地真
「あずささんは何か知っていることはありますか？」

三浦あずさ
「ごめんなさいね、午後にやよいちゃんが何をしていたのかは知らないわ。でも変なのよ、やよいちゃんお化粧してるの。お昼にはしてなかったと思うのだけど……」

菊地真
「え、ホント？」

そう言って改めてやよいをみると確かに化粧をしていた。
普段のやよいは化粧なんてしていなかったと思う。だから、生きているかのような顔色だったのか。

水瀬伊織
「そういえば前に私に『お化粧ってどうやるのかな？』って聞いてきたんだけど何か関係あるのかしら？」

どうしてやよいは化粧をしていたのか、ただの偶然なのかそれとも……。

これ以上は何もないと判断したボクは資料室から出た。

——図書室—————

さて、おそらくあの資料室の本はここから持ち出されたものだろう。
そう考え本棚を調べると、おかしな本棚が1つあった。

机のそば左から3番目の本棚、どう見ても本の数が少ない。
下の方の5段程度にしか本が入っていないのに加え、入っている段すら隙間だらけ、背表紙を見ると上下もバラバラだ。

この本棚の本が資料室の床に散らばっていたとすると、なぜそんな事をしたのだろうか。

適当な本を手にとって調べてみるが、雑に入れられていて焦って戻したかのように見える。
本は傷付いていて、中には表紙が破れたものまであった。

それにしても本棚の後ろの机が邪魔だなあ、こんな本棚の近くにあったら座って本を読んでる人がいたら本を取れないじゃないか。
心の中で愚痴を言い、調べ終えたボクは立ち上がろうとした所で本棚の後ろに1冊の本が床との下敷きになっているのを見つけた。
床と本棚の間にどうやったら本が挟まるんだ？

星井美希
「ミキね、この本がすっごく気になるの」

菊地真
「ミキ？ どういうことだい？」

星井美希
「ミキの勘なの。でも、絶対重要だと思うの」

美希はそれだけ言うとどこかへ行ってしまった。
今のボクにはなぜこんなものが重要なのかさっぱりわからないけれど、美希の勘はおそろしく当たるから覚えておこう。

ここはもう調べ尽くしたな。後は、話を聞きたいのが数名。その人たちに話を聞かないと……。

————————————

双海真美
「え→とね、午後はやよいっちに遊ぼうって声かけたんだけど予定があるからって断られたよ」

双海亜美
「いおりんも一緒に遊んでくれなかったから2人でプールで泳いでたんだ」

つまり、2人とも一緒にいなかったということか。やよいの動きがさっぱりわからない。
昼時間に行われたという事は、出来るだけ人の目を避けるはず、そう考えるとやよいは資料室か図書室、あるいは2階の教室で殺された可能性が高い。

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「巻きだよ！ 巻き！ 時間がノータイムだよ。そろそろ始めようか、バトルをよ！ 血湧き肉躍る命懸けの勝負を始めようぜい！」

モノクマ
「いつもの赤い扉に入ってください。うぷぷ、じゃあ後でね〜！！」

もう、始まるのかあの裁判が。負けたら死が、勝っても後悔しか残らないあの地獄をまた見なければならないのか。

重い足を引きずって、赤いドアくぐる直前に独り言のように口の中で小さく呟いた。

菊地真
「行ってくるよ、やよい。キミのためにもボク自身のためにも、頑張ってくるよ……」

——————————

動き出すエレベーター。みんな顔を合わさないように、避けるようにしている。みんなを信じたい、けれど、だけど、誰かが……。

それでもボクはやよいに誓ってきたんだ。必ず犯人を見つけ出すって。
どうして、やよいが死ななければいけなかったのか。どうして、やよいを殺さなくてはいけなかったのか。
優しくて穏やかで気が利くいい娘で、誰からも憎まれないような彼女。
そんなやよいを殺した犯人がこの中にいる。
ボクらの中に……。

真実がわかったところでハッピーエンドになんてなりはしない。ただ、デッドエンドから逃げ出しただけだ。いや、むしろ真実なんてわからないままの方が良いのかもしれない。
本当はボクがただ死にたくなくて、それだけのエゴを突き通すための言い訳かもしれないけれど、やらなくちゃいけないんだ。

エレベーターが止まりドアが開いた。ボクは真実への1歩を、悲しみへの1歩を強く、力強く踏み出した。

モノクマ
「はい、みなさん揃いましたね。それでは始めたいと思います」

—学級裁判 開廷！—

モノクマ
「まずは、学級裁判の簡単な説明から始めましょう！ 学級裁判の結果はオマエラの投票により決定されます」

モノクマ
「正しいクロを指摘出来れば、クロだけがおしおき。だけど、もし間違った人物をクロとした場合はクロ以外の全員がおしおきされ、みんなを欺いたクロだけが晴れて卒業となりまーす」

モノクマ
「ここまでコピペ、と。今回の事件はおもし……おっとっと、何でもないよ。何でもね。うぷぷぷぷ、それじゃあ事件のまとめから始めてね。よーい、アクション！」

—議論開始—

秋月律子
「……私から始めさせてもらいます。発見時間は午後の3時半、死体発見者は私、真、貴音の3人がほぼ同時に資料室にて発見しました」

菊地真
「資料室のドアが開かなかった事を不振に思ったので、力ずくで開けたところやよいを見つけました」

双海亜美
「つまり、密室事件ってことっしょ→？」

秋月律子
「ええ、そうなるわね」

水瀬伊織
「本当にそうかしら。真がドアが開かないフリをしてたんじゃないの？ だって力ずくで開くなんて怪しいじゃないの」

菊地真
「ち、ちがうよ！ 本当に開かなかったんだ」

萩原雪歩
「ま、真ちゃんはそんなウソつきませんっ」

秋月律子
「それはないと思うわ。実際に力を入れているように見えたから。真にそこまでの演技力があるとは思えないし」

菊地真
「ぼ、ボクだって意外に演技力あると思うんだけどなぁ」

星井美希
「それじゃあ墓穴を掘ってるの……」

四条貴音
「真が資料室を調べることになったのは律子殿がぱそこんの資料を探していたからです。つまり資料室の扉を開けたのは偶然ですから嘘で密室と言っている可能性は低いかと」

菊地真
「そうだよ！ だからボクが密室のフリをしてたわけじゃないんだ」

三浦あずさ
「それでは、どうして鍵がかかっていたのかしら？」

菊地真
「え、あっと、いや、鍵はかかっていなかったと思うんだけど？」

如月千早
「どういうことかしら。鍵がかかっていたから開かなかったのではないの？」

双海真美
「まこちんがその鍵をぶっこわしたんでしょ？」

秋月律子
「いや、流石の真も鍵をそう簡単に壊すのほ無理じゃないかしら。それに開けた時もそこまで力を入れてたようには見えなかったし」

菊地真
「流石ってなんだよ！」

星井美希
「さっきから真君の食いつくところが変なの」

萩原雪歩
「ま、真ちゃんならそれぐらい……」

水瀬伊織
「スルーよ、スルー」

菊地真
「うぐぐ……」

四条貴音
「密室事件というものは、大抵部屋に大きなひんとがあります。それを検証すればわかるはずです」

如月千早
「床の本ですね。あれが部屋にあった1番の違和感でしたから」

双海亜美
「やよいっち、本に溺れているみたいだったね……」

菊地真
「でも、それがどう関わってくるんだろ」

水瀬伊織
「何かを……隠したとか？」

四条貴音
「いえ、床と本を調べましたがそのような痕跡は見当たりませんでした」

秋月律子
「それじゃあ、どうしてなんでしょう？ 資料室の床にあんなに本はなかったと思いますけど……」

菊地真
「あの本は直接、密室には関係ないのかな？」

星井美希
「あはっ！ ミキわかったの！」

三浦あずさ
「何がわかったのかしら？」

星井美希
「密室ってのは真君の勘違いなの！」

菊地真
「それは、違うって言ったろ！」

星井美希
「ううん、違わないの。密室じゃなかったんだよ。ドアが開かなかっただけなの」

双海真美
「ミキミキ、どういうこと？」

双海亜美
「意味わかんないYO！」

星井美希
「だから、ドアのところに『本が挟まってた』から開かなかったんじゃないかな」

萩原雪歩
「えっ！？ 本が挟まってた？」

星井美希
「そうなの。床にいっぱいあった本がドアに挟まって動かなかったんじゃないかな」

菊地真
「でも、どうやって本をドアのところに挟んだんだ？」

星井美希
「たまたまじゃない？ 偶然挟まっちゃたみたいな？ あはっ！」

秋月律子
「それじゃあ密室になったのも偶然ってこと？」

四条貴音
「……床に本が散らばっている状態でさらに本を高く積み上げて、閉めた時にドアに当てれば、低くない確立でドアを開け辛くすることが出来るのではないでしょうか」

菊地真
「それなら……納得できるかもしれない。実際にドアが開かないというよりは、何か引っかかっている感じだったし」

水瀬伊織
「あんた、早くそれを言いなさいよ！」

如月千早
「つまり床に散らばった本がドアに挟まっていた為、密室だと思い込まされていた。ということでしょうか」

三浦あずさ
「あらあら、そうだったのね〜」

菊地真
「左から3番目の本棚には妙に本の数が少なかった。資料室の本はそこから持っていかれたんだと思う」

秋月律子
「納得いったわ。あの床の本は密室と思わせるために持ち込まれたものだったのね。次は……凶器よ。何か、あるかしら」

双海亜美
「頭を何かで殴られてたんだよね？」

菊地真
「うん、モノクマファイルにもあるように、やよいの後頭部には挫傷痕があったよ」

双海真美
「何で殴ったんだろ？ 空き部屋にあった工具セットの中のハンマーかな？」

四条貴音
「いえ、それはありません。わたくしはあの後予備室を調べましたが、工具セットがいじられた形跡はありませんでした」

如月千早
「私も確認しましたが、使われた様子はありませんでした」

萩原雪歩
「更衣室にあったダンベルとかどうでしょうか……？」

双海亜美
「……。どうする？ 真美」

双海真美
「言うしかないっしょ……」

秋月律子
「なに？ あんたたちまた何かやったの？」

双海亜美・真美
「ご、ごめんなさい！」

双海真美
「亜美と2人でプールでダンベルを使って遊んでました！」

双海亜美
「怒られそうだったから、言いたくありませんでした！」

秋月律子
「もう！ 危ないでしょ！ あんたたちねえ……。しょうがないわ、次やったらお説教よ」

双海亜美・真美
「もうやりませ→ん！」

三浦あずさ
「そうすると、凶器は何でしょう？ 他に鈍器になるようなものはあったかしら？ 倉庫にビン容器の飲料はなかったですし」

菊地真
「フライパンとかどうかな？」

如月千早
「それはないわ。私はお昼の後、お菓子を作っていたけれど何もなくなっていなかったし、誰もそんなものはとって行ってないはずよ」

三浦あずさ
「私も午後は食堂でくつろいでいたけれど、誰もそんなものを持っていったのを見ていないわ。私も流石にフライパンなんて持っている人がいたら気づくと思うの」

萩原雪歩
「そ、それじゃあ他に何かあったんですか？」

菊地真
「う〜ん、他に何か人を殴れそうなものは……」

四条貴音
「挫傷痕とは、何かで殴った痕ではなく何かが当たった痕ですよ、真」

どういう意味だろうか？ 殴った痕ではなくて何かが当たった痕？ つまり高いところから落ちて頭を打っても挫傷痕ってことか……。
まてよ、落ちて……！？

菊地真
「もしかして！？」

双海亜美
「どうしたの？」

そうか、そういう事だったんだ。殴るのに使った武器なんか最初からなかったんだ。だって、凶器は——

菊地真
「凶器は本棚だったんだ……」

双海真美
「どういうこと？」

菊地真
「犯人は凶器で殴ったんじゃなくて、凶器が落ちて来たんだ」

秋月律子
「本棚が倒れてそれが当たったってこと？」

そう、それこそが盲点だったんだ。『人が持てる』硬い物である鈍器なんかじゃなかったんだ。
だから、だからこそ証拠が残ったんだ。

菊地真
「そうだと思う。その後、図書室の床に散らばった本を急いで戻したから上下バラバラに本が入っていたんだ」

水瀬伊織
「なるほどね、それであの本棚の下に本が挟まってたのかしら」

三浦あずさ
「あの本はそういう理由で挟まってたのね。変だなとは思ったのよ〜」

如月千早
「でも、本棚が当たるなんてそんなことあるのかしら……」

それが偶然じゃなかったとしたら。つまり……

菊地真
「本棚の前にあった机の椅子に座っていたとしたら？」

如月千早
「椅子に……。そういえば、本棚のそばに机があったわね。そこに座っている時に本棚が落ちてきたら……」

そう、凶器は被害者に向かって振り下ろされたものじゃなくて、被害者がいるところへ落ちてきたんだ。

菊地真
「うん、そういうことだよ。本棚が頭に当たったとしたら、それは鈍器にもなり得るよね」

秋月律子
「本棚のそばにあった机は元々あの位置にはなかったはずよ。誰かが動かしたのでしょうね」

水瀬伊織
「本棚なら、十分重さもあるわね」

双海亜美
「う→ん。でもそれじゃあ、結局誰が犯人なのかわからないよ→」

秋月律子
「そうねその方法なら誰でも犯行は可能ね、そうすると次は……アリバイ確認かしら。昼の2時頃ってのが曖昧ね、誤差は1時間なのか30分なのか……。モノクマ、答えてくれるのかしら？」

モノクマ
「うぷぷ、秘密だよ」

秋月律子
「そう言うと思ったわ。また、面倒ね。仕方ないわ、午後のアリバイって事にしましょう」

双海亜美
「真美といたよ→」

双海真美
「亜美といたよ→」

秋月律子
「お互いが庇いあっていなければ2人はありえないということね」

双海亜美
「アミ、ウソツカナイYO！」

双海真美
「流石に庇ってはないよ、私たちも命懸けだから……」

秋月律子
「そうね。……私は1時半から3時を過ぎる頃まで食堂でパソコンを復旧させていてその後、直すのにわからない事があったから図書室に行ったわ」

秋月律子
「食堂にはずっとあずささんがいたから、私の1時半から3時までのアリバイはあずささんのアリバイとともに証明できるわ」

秋月律子
「あと、私が覚えているのは私が食堂に入ったのとほぼ同時に伊織が来たことと、私が来るより前に雪歩が居たことね、ただ雪歩は2時半頃にいなくなったと思うわ」

三浦あずさ
「う〜ん、律子さんは記憶力がありますね。でも、私もそんな感じだったと思います。それと私はお昼から食堂にいたけれど千早ちゃんは1時頃に厨房に入ってやよいちゃんが発見された時に厨房から出てきたから1時からのアリバイは保証できるわ」

如月千早
「そう、良かった。私はずっと厨房にいたからアリバイはないと思っていたわ……」

萩原雪歩
「わ、私は2時半に食堂を出ました……他に誰にも会ってないです……」

水瀬伊織
「残念だけど、私はお昼過ぎから律子が言う1時半まではアリバイがないわ」

秋月律子
「微妙ね。あの密室トリックを作るのにどれくらいかかるかだけれど……」

四条貴音
「わたくしと美希は昼餉をとった後、共に1時頃から2時過ぎまで入浴し、その後2人で部屋で過ごしておりました。しかし美希は途中で寝てしまったのでアリバイはどうかと……。3時過ぎに美希が起きた後は廊下で会った真と共に図書室へ行きました」

星井美希
「大丈夫なの！ ミキは貴音に膝枕をしてもらってたんだけど、起きた時も貴音は膝枕していたから3時まではミキが貴音のアリバイを保証するの！」

秋月律子
「これまた信用性の欠けるアリバイね。それで、真はどう？」

菊地真
「……えっ？あれっ？……もしかして、全くアリバイがないのボクだけ？」

萩原雪歩
「な、何かないの？ 誰かに会ったとか……」

菊地真
「……。ない。まったくないや。お昼の後も拗ねて、ずっと部屋で読書してたし……」

秋月律子
「……アリバイはないの？」

双海亜美
「怪しいですな→」

萩原雪歩
「でもでもっ！ 真ちゃんは……。そ、そうだ！ 真ちゃんには動機がないよ！ だって朝みんなに暴露してたからっ！」

菊地真
「そうか！ そうだった。だから……。思い出しちゃったよ……忘れてたかった……。あーうん！ でも、とにかくこれで証明になったよね？」

水瀬伊織
「あんた！？ あれが、あの程度がモノクマに渡された秘密だったの！？」

如月千早
「……そうね私も正直言って、あれがモノクマに渡された秘密だとは思えないわ」

菊地真
「そうだよっ！ 悪いかい！？ ボクにとっては目から火が出るほど恥ずかしかったんだよ！」

秋月律子
「顔から火よ……」

菊地真
「じゃ、じゃあ、ほら見せればいいんでしょ！電子生徒手帳に書かれた秘密をさ！」

菊地真
「……あれ！？ 消えてる！？」

双海亜美
「え→……あっ！ ホントだ！ 秘密が消えてる！」

菊地真
「も、モノクマ！ 消したのか！？」

モノクマ
「ええ、はい。だってクロが出たじゃないですか。律儀なボクは死体発見アナウンスと共に消去したんですよ、はい。偉いでしょ？」

菊地真
「そうじゃなくてっ！ 戻してくれよ！ お願いだからさ」

モノクマ
「えー？ 秘密を暴露したいとかドMなんじゃないの？」

菊地真
「いいから頼むよ！ 暴露されたっていいからっ！」

モノクマ
「ダメったらダメッ！ モノクマウソツカナイ。ダメ、絶対！ ボクは絶対に漏らさないよ！ この秘密はお墓まで持って行くつもりだからね！」

菊地真
「そんなあ……」

双海真美
「まこちん……もしかして本当は……」

水瀬伊織
「それじゃあ、微妙な密室が成立したのも……」

菊地真
「ち、違う！ ボクじゃない！ 本当にボクじゃないんだっ！ ボクは犯人なんかじゃない！ 信じてくれよぉ！！」

双海亜美
「……えっ！？ ホントにまこちんがやったの？」

菊地真
「違っ——」

萩原雪歩
「——真ちゃんじゃありません！ 私がっ！ 私が……犯人なんです……」

それは突然だった。何の前触れもない……告白。

菊地真
「雪歩！？ どういうこと！？」

萩原雪歩
「真ちゃんは関係ないんです。私が……やよいちゃんを……殺したんです」

三浦あずさ
「雪歩ちゃん、どういう事……なの？」

萩原雪歩
「私が、本棚を倒してしまったんです。それで……椅子に座っていたやよいちゃんに本棚がぶつかっちゃって……それで……」

秋月律子
「それじゃあっ！ わざと殺したって事じゃなくて！？」

萩原雪歩
「そうなんですぅ。信じてもらえないかもしれませんけど、やよいちゃんを……殺そうだなんて……」

水瀬伊織
「それはおかしいわよ。だってあんた密室にしてたじゃない」

萩原雪歩
「ち、違うんです！ 私は、ダメダメでズルい私は……ただ目の前の現実から逃げたくて……本を戻して、人目の少ない資料室にやよいちゃんを隠して、そのまま逃げ出したんです……」

萩原雪歩
「だから密室になんてするつもりはなくて……」

秋月律子
「事故だったってこと……ね」

いや、でも、それじゃあ、雪歩は……雪歩は……

菊地真
「モノクマァ！ 事件じゃないじゃないか！ これは事故だろ！ 雪歩は……雪歩はっ！」

モノクマ
「うるさいなあ、人が人を殺したら殺人なの！ それで、いいの？投票始めちゃっていいの？」

菊地真
「良いわけないだろぉっ！ ふざけるなよ！ 今すぐ中止しろ！」

モノクマ
「もう、静かにしてよね。それじゃあ、投票始めていいかな、萩原さん？」

萩原雪歩
「は……い……」

その言葉でみんなは気まずそうに黙ってしまった。

でも、そんな、何も悪くない雪歩が！ 雪歩がっ！
何か、何か、状況を打開する何か！ ないのかっ！？

何でもいい、何でもいいんだ！
モノクマに突っかかる何かを……

……………そうだ！

菊地真
「モノクマ！ ちょっと待てよ！ おかしいだろ！」

モノクマ
「だから、うるさいって！ 何がさ？」

菊地真
「『死体発見アナウンス』だよ」

モノクマ
「はあ？」

菊地真
「『死体発見アナウンス』は3人以上が死体を発見すると流れるのが決まりだよな？」

モノクマ
「そうですけど何か？」

菊地真
「ボクと律子がやよいを見つけた時『貴音はまだやよいを見てなかった』はずだ！ それじゃあルールが成り立ってない！ 裁判は無効だ！」

モノクマ
「ちっちゃい男だねえ——」

菊地真
「——男じゃない！」

そうだ、屁理屈でもいいんだ。難癖を付けてでも……

モノクマ
「でもね、ボクはルールを守ってるよ。『3人以上が死体を発見』したから放送したんだってば」

菊地真
「……へっ？」

モノクマ
「もう！ ボクは約束をしっかり守るって評判なんだよ！ だから今回もルールに則って死体発見アナウンスを流しました！」

菊地真
「えっと……あれ？」

モノクマ
「本当にもういいでしょ？ ボクだって暇じゃないんだからさ、投票始めるからね」

菊地真
「いや……でも……」

四条貴音
「お待ち下さい、モノクマ殿。わたくしたちは犯人をまだ見つけていません」

……えっ！？

モノクマ
「えー、わかったよ。しょうがないなあ。ちょっとだけだよ、ちょっと、ちょっとちょっとね！」

四条貴音
「ありがとうございます。それでは犯人探しを続けましょう、真」

雪歩をはじめ、みんな頭の上に『？』を浮かべていた。たぶん、ボクも同じような顔をしているんだろう。

菊地真
「えっと、うん。あれ？ どういうこと？」

四条貴音
「ですから、犯人探しを続けると言ったのですよ」

秋月律子
「ちょ、ちょっと待って。話についていけないんだけど」

四条貴音
「萩原雪歩は犯人ではありません。そして、まだ学級裁判は続いています。それで十分です。それでは萩原雪歩、図書室でのあなたの行動を詳しく話してください」

萩原雪歩
「えっ？ えと、はい……。私は図書室に本を探しに行ったんです。図書室ではやよいちゃんが机に突っ伏していたので私はそっとしておこうと思ってやよいちゃんの後ろの本棚に目当ての本見つけて本棚から抜こうとしました」

萩原雪歩
「そうしたら、本棚が倒れて……私は避けることが出来たんですが……やよいちゃんが下敷きに……。慌てて、本棚をなんとかどかしてやよいちゃんを見たけれど、もう……動かなくて。そうしたら私、怖くなっちゃって……」

萩原雪歩
「逃げ出したい気持ちで、資料室にやよいちゃんを置き去りにして、自分の部屋に逃げ込んだんです。みんなに本当の事を言わなくちゃってずっと思ってたんですけど……ごめんなさい、ただの言い訳ですね……」

そうか、それでやよいが見つかった時あんなに顔を真っ青にしていたのか。
……あれっ？おかしいな。

菊地真
「ちょ、ちょっと待ってよ雪歩。やよいは図書室で寝てたのか！？」

萩原雪歩
「ごめんね、突っ伏していたからわからないの……」

菊地真
「いや、でも寝ていたわけがない、校則で個室以外での居眠りは禁止されているはずだ、そうだよな美希」

星井美希
「そうなの。モノクマさんはケチンボなの」

モノクマ
「ケチってなにさ！？」

星井美希
「ふんっなの」

モノクマ
「ぐぬぬ……」

菊地真
「とにかく！ やよいが図書室で寝れる訳がないんだ、つまりそういう事なんだね貴音？」

そうだ、そうだったんだ。だから放送が流れたんだ。

四条貴音
「ええ、そうでございます」

星井美希
「なるほどなの」

秋月律子
「まさか、いやでも……」

双海亜美
「DO-YOUことなのさ！？」

菊地真
「雪歩が図書室に行った時、机に突っ伏していたやよいは既に死んでいたんだよ」

双海亜美・真美
「なんだって→！」

四条貴音
「そうでございます。わたくしがやよいを見つける前に死体発見あなうんすが流れたのは、『真が扉を開ける前』に1人発見者がいたということです。それが雪歩、貴女ですよ」

萩原雪歩
「えっ？ えっ？ それじゃあ……」

秋月律子
「それじゃあ犯人は別にいて、倒れた本棚がやよいに当たったのは事件に全く関係ないってこと！？」

菊地真
「いや……それは……」

どうなんだ……偶然にしては出来過ぎてる。何か細工があるんじゃないか……？

菊地真
「本棚の下に挟まってた本だな！」

如月千早
「ほ、『本棚』の下に挟まってた『本だな』……くっ！」

突然笑い出す千早。どういうことだ！？ 何の意味が……！？

菊地真
「ち、違う違う！ ダジャレじゃなくて！」

如月千早
「ご、ごめんなさい。続けてて……くっ！」

菊地真
「もう！ あの本が本棚の床に挟んで傾けてあったんだ！ 本棚が倒れた時に挟まった訳じゃなかったんだよ！ あらかじめ傾けてられていたから本棚が倒れ——」

双海真美
「——いや、それは無理があるんでないの？ だって本棚が傾いてたってそう簡単に倒れる訳ないっしょ→」

水瀬伊織
「それくらいじゃ本棚が倒れるわけないでしょ」

菊地真
「うぐっ！ たしかに……」

四条貴音
「それでは本が本棚に固定されてたらどうでしょうか？ 」

本棚に固定……？

四条貴音
「雪歩、貴女が取ろうとした本は本棚の最上段の端にあり、更に少しだけ本棚からはみ出していた、違いますか？」

萩原雪歩
「ど、どうしてわかったんですか〜！？」

三浦あずさ
「貴音ちゃん、名探偵みたいね〜」

最上段の端……？

双海亜美
「んっふっふ→！ 亜美探偵はわかりましたぞ！ どうですかな真美助手よ」

双海真美
「え→！ 亜美わかったの！？ ちょ、ちょっとタンマ！ う〜んと……あっ！ わかった！ なかなか巧いこと考えますな→。ノリノリですな→」

双海亜美
「正解だっよ→ん！ 『本の表紙にノリ』をつけて本を固定したんだろうね！」

菊地真
「なるほど！ だから、表紙が破けた本があったのか！ その本を取ろうとするけどノリのせいで取れなくて、無理矢理引き抜こうとすると本棚が倒れてくる！」

四条貴音
「雪歩が慌てて戻したので本は下の方に入っていましたが、本棚が倒れる前は上部に本が集まっていて下部に本はなかったのではないですか？それもたくさんの本が無理矢理詰められていたのでしょう」

萩原雪歩
「は、はい。そうです……」

四条貴音
「それは糊での固定を隠し、かつ本棚の重心を上部にして倒れ易くするの工作です。本が本棚からはみ出していたのは力を入れられるように、たくさんの本を詰めたのは反対側の固定と摩擦でより本が取れないようにするためです」

秋月律子
「それじゃあ、資料室に本を移動させたのは雪歩じゃなかったの！？」

萩原雪歩
「わ、私じゃありません！」

菊地真
「あの本は密室を作るための雪歩が仕込んだわけじゃなかったのか……」

萩原雪歩
「私がやよいちゃんを移動させた時にはもう本は資料室に積み上げられていました……。私は、密室にしようだなんて考えてなくて……その場からただ逃げ出したんです。その時に本が崩れて……」

双海亜美
「う〜ん、亜美こんがらがってきた。真美わかる？」

双海真美
「真美もわかんなくなってきたYO！」

三浦あずさ
「私もわからなくなってきたわね〜」

秋月律子
「それじゃあ、今までの話をまとめてみましょう」

秋月律子
「犯人はやよいを殺害し、図書室の本棚そばに移動させた机の椅子に座せる。本棚から下部の本だけを資料室に移動させ下に本を挟み本棚を傾ける。そして最上段、端の本の表紙に糊をつけはみ出した状態で本棚に固定」

秋月律子
「雪歩はその本を取ろうとしたところ、本は本棚に固定されていたため抜けず、力を入れて抜こうとしたら本棚が倒れて来た。本棚はやよいに当たり、やよいの死亡に焦った雪歩は資料室にやよいを移動させる」

秋月律子
「その際、資料室に犯人が積み上げた本が倒れて密室の完成」

秋月律子
「これでいいかしら？」

四条貴音
「ええ、ですがまだ問題がいくつかあります。初めにやよいを殺害した手段は何なのか。次にどうやって雪歩に本棚を倒させたか。そして犯人は誰なのか……。順番にいきましょう。まず、どうやってやよいを殺害したかです」

どうやってやよいを殺害したか。やよいの後頭部には挫傷痕があったけれど、それは本棚が当たった時だから関係ないとすると……

四条貴音
「そのことでものくま殿に尋ねたいのですが」

モノクマ
「なになに？ おじさん何でも答えちゃうよ！」

四条貴音
「……。ものくまふぁいるにある外傷が致命傷とは限りませんね？」

モノクマ
「……うん、まあね」

四条貴音
「そして目立たない外傷が存在する可能性もある……違いますか？」

モノクマ
「……ボクが書いたのは目立った外傷。それだけだよ」

四条貴音
「ありがとうございます。それで十分です」

『目立たない』外傷？ いや、でもやよいに他の傷は見当たらなかったぞ。

三浦あずさ
「貴音ちゃん、やよいちゃんに頭の傷以外はなかったように思うけれど……」

四条貴音
「隠されていたのですよ。巧妙に……」

隠されて、いた？ もしかして——

菊地真
「——だから化粧をしていたのか」

三浦あずさ
「どういうことかしら真ちゃん？ たしかにやよいちゃんはお化粧をしていたみたいだけど……」

菊地真
「化粧で、傷を隠したんじゃないかな」

秋月律子
「化粧で隠せる傷って……何かしら？」

四条貴音
「『策痕』でございます」

双海亜美
「『さっこん』？ 何それ？」

双海真美
「最近の難しい言い方っしょ→」

秋月律子
「違うわよ。『策痕』または『策条痕』とも言うわ。首を絞められると出来る痕よ。となると凶器はおそらく……あの場からなくなっていた、延長コードかしらね」

四条貴音
「そうでしょう。そしてやよいを殺害した後に化粧にて策痕を消したのです」

やよいが化粧をしてうたのは、そんな理由だったのか。

四条貴音
「それでは次の問題『どうやって雪歩に本棚を倒させたか』ですが、おそらくさらに次の問題『誰が犯人なのか』も同時に解決することになるでしょう」

どうやって雪歩に本棚を倒させたかが分かれば、犯人が明るみに出るという事は——

菊地真
「雪歩にその本の所在を示した人がやよいを殺した犯人ってわけか……」

萩原雪歩
「えっ！？ いや、でもでも……」

ボクがそうつぶやくと雪歩は明らかに動揺し、まるで信じられないとでも言うように頭を抱えた。

萩原雪歩
「……でも、それは、それだけはありえないよ……」

気持ちは分かる。
だけど、だけど、犯人を知ってしまった雪歩の信じられない気持ちも分かるけれど、それでもボクらは聞かなくちゃいけないんだ！

菊地真
「なあ、雪歩！ 教えてくれ、誰が雪歩に本の場所を言ったんだ？」

萩原雪歩
「ありえないよ！ そんな……そんな……何かの間違いだよ！」

菊地真
「雪歩！ それでもキミは言わなくちゃいけないんだ！」

萩原雪歩
「だって、だって、だって！ 私にあの本を取ってきてって頼んだのは——」

萩原雪歩
「 伊 織 ち ゃ ん だ よ ！ 」

………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………は？

伊織？ 伊織って水瀬伊織か？ えっ？ いや、それはないだろ。いや、だって伊織だよ。
やよいと1番仲が良かった伊織だろ？ いや、えっ？ えっ？
それだけはないだろ？ 伊織だけはないだろ？
間違ってるんじゃないか？

水瀬伊織
「ふ〜ん。それで、証拠は？」

いやいや、何そのセリフ？ その犯人の最後の抵抗みたいなセリフは何？

四条貴音
「伊織、まだ貴女は持っているのでしょう『糊』と『延長コード』を」

えっ？ いや、おかしいでしょ。

水瀬伊織
「なんだ、あんたは全部お見通しって訳ね」

ちょ、ちょっと待ってよ。

四条貴音
「それは違います、わたくしにも分からない事はございますよ。なぜ水瀬伊織が高槻やよいを殺したのか全くわかりません……」

わかんないなんてもんじゃないだろ……？
どうして……

水瀬伊織
「そうね、事件を起こした理由くらいは犯人が自供するものだもの。いいわ、教えてあげる。私が渡された秘密は『水瀬の秘密』よ。私は兄を越えるためにアイドルを目指したの、これが明るみに出れば水瀬は終わるわ」

どうして！

水瀬伊織
「水瀬が終わったら私がアイドルをする理由なんて無くなるの。それに、水瀬が終わるということは日本、いや世界中で大勢の人が路頭に迷うという事よ。そうさせないため、それが事件を起こした理由」

菊地真
「どうして『やよい』なんだよ！！！！！」

水瀬伊織
「……あんたみたいなバカには一生わかんないわよ。そもそも、私がどうしてこんな場所に『これ』を持って来たのか分かってるの？」

そう言って伊織が放ったのは……糊と延長コードだった。

菊地真
「そんなの分かるわけないだろ！」

水瀬伊織
「あら、そう。じゃあ貴音、説明してやってちょうだい」

四条貴音
「……それがふぇあだからです」

萩原雪歩
「フェア……ですか？」

四条貴音
「そうです。この事件、隣の資料室等の人のこない場所でやよいを殺害し放置すれば、わたくしたちは絶対に解決出来なかったはずなのです」

四条貴音
「しかし、実際は余計な策を講じたのです。わたくしは最初の頃、全く意味が分かりませんでした。なぜ途中で見つかる危険のある工作を行ったのか、そもそもなぜ無駄とも言える策を張ったのか」

四条貴音
「その答えは、そうじゃないとお互いにふぇあじゃないからです」

水瀬伊織
「そうよ。わかってるじゃないの。ワンマンゲームは好きじゃないのよ」

四条貴音
「でも、それは嘘でございましょう。本当はやよいを殺した、自分を罰したかったのではないですか……？」

水瀬伊織
「ふん、バカらしいわね。私の目的は事件を起こした時点で達成、何の問題もないのよ」

菊地真
「待てよ伊織！ どうしてやよいなんだ！！！！！ 答えろよ！！！！」

水瀬伊織
「イヤよ、断るわ。モノクマ、早くしてちょうだい」

モノクマ
「はいはい、わかりましたわかりましたよ、お嬢様」

菊地真
「ま、待ってくれよ！」

モノクマ
「無視、無視。それじゃあオマエラ、お手元のスイッチで投票してくださーい！」

モノクマ
「さぁて……投票の結果、クロとなるのは誰か！？ その答えは正解なのか不正解なのかーーッ！？ さぁどうだーーッ！？」

投票の結果、クロに選ばれたのは伊織だった。

モノクマ
「わっほい！ 今回も大正解でしたっ！！ そうです！ かわいい、かわいい女の子を殺したクロは水瀬伊織さんでしたー！！」

菊地真
「伊織！ どうして……」

水瀬伊織
「あんたに教えるつもりはないわ」

どうしてなんだ！
どうしてまだ隠すんだ！ ……隠す？

菊地真
「伊織！ どうして『化粧』してるんだ？」

水瀬伊織
「……別に気分よ。私の最後になるかもしれないわけだし……」

そうか、そうだったんだな。

菊地真
「伊織、泣いてたんだな。ボクがやよいを見つけてみんなが集まった時泣いてなかったけど、もうその前に泣いてたんだ。だから化粧でそれを隠した。伊織はやよいを殺したかったわけじゃなかったんだ」

伊織は怒ったように目をカッと見開き、歯を食いしばった。

水瀬伊織
「——そんなの……そんなの決まってんでしょ！！！ 何よ、結局強がりも全部バレちゃったじゃないの。そうよ！ 私が1番殺したくなかったのは、やよいよ！」

菊地真
「それでも、やよいだったんだね」

水瀬伊織
「——そうよ。私は秘密の事を全部やよいに相談したわ。そうしたら……やよいが、あの娘が『私を殺して』って……」

水瀬伊織
「断ったわよ！ 決まってるでしょ！ でも……でも、やよいは『わがままはダメだよ』だなんて言って……」

水瀬伊織
「あの娘は私に『ムリさせてごめんね』だなんて言って、私が言わなくちゃいけないのに。それに他のみんなにも優しくするように言って……。家族をよろしくだなんて言って……」

水瀬伊織
「あの娘は！ あの娘は最後まで笑顔だったのよ！ 私が首を絞めてるのに口を『泣かないで』って動かすのよ！」

水瀬伊織
「……そうね、私はやっぱり罰して欲しかったのね。もう十分よ。ありがと」

伊織はそう言って口を閉じた。

フェアってのは、伊織なりの優しさでやよいの最後のお願いの『みんなに優しくする』を叶えてたんだな。

今回の事件で1番苦しかったのは他の誰でもなく伊織だったんだ。

いつも強気で、わがままな伊織が……沢山の人を守るために大切な親友を、そして自分を殺した。
2人の優しさを……アイツが利用したんだ！
アイツがっ！

モノクマ
「なにが、みんなを守るためだよ。そんな大義名分を使ったって、人殺しには違いないじゃないの。オマエラなんてそんなもんなんだよ。そんなヤツらのどこが『アイドル』だってんだよ」

菊地真
「ふざけるな！ オマエが——」

水瀬伊織
「——いいのよ。あんたが怒ることじゃないわ。モノクマ、くだらない口を閉じて早くしなさい。あんたの仕事はつまらない事をぐちぐちと喋る事じゃないでしょ。あんたはただ『おしおき』を始めればいいのよ」

モノクマ
「ショボーン……。数少ない見せ場なのに……。わかったよ、どうせ絶望するのはキミなんだからね！」

モノクマ
「今回は超アイドル級のお嬢様である水瀬伊織さんの為にスペシャルなおしおきを用意させて頂きましたぞっ！！」

モノクマ
「では張り切っていきましょう！ おしおきターイム！」

水瀬伊織
「みんな、ありがとね。やよいも……ありがと、待たせたわね。私も逝くわ……」

——————————

GAME OVER


水瀬伊織さんがクロにきまりました。

おしおきをかいしします。


——————————

おしおき
凸凸星人を退治せよ

伊織はミニチュアの街にいた。
高層ビルが腰の高さくらいまでしかないような街だった。
困惑する伊織から画面が代わる。

モノクマが戦闘機に乗って出撃する場面だ。
伊織に攻撃を開始する。しかし、指の先ほどの大きさの戦闘機の攻撃、伊織は時折嫌そうな顔をしているだけだ。

あるモノクマが戦闘機から降りて何かを天にかざした。
みるみるモノクマは大きくなっていく。

『クマッ！』と言って伊織を攻撃し始めた。すると、突然伊織のオデコが輝きを放ちビームのようなものが放たれモノクマは爆発した。

ふたたび、画面が変わって会議室でモノクマたちがスーツをきて、悩むように頬杖をついていた。
5秒ほどの後に首を縦に振ると、1つのブリーフケースが現れる。

ブリーフケースを開け、鍵のようなスイッチを捻るモノクマ。

画面が変わりロケットの発射が映る。
みるみると伊織に迫っていき、ミニチュアの街とともに伊織は爆発に巻き込まれた。
伊織は最後まで……微笑んでいた。

——————————

モノクマ
「共に安らかに眠れ……あなたの魂に救いあれ……」

菊地真
「伊織……」

モノクマ
「それじゃあ、終わったことだし帰ろっかね。過ぎた事をあんまりうじうじと引きずってるとカビが生えるよ」

菊地真
「……。引きずるさ。引きずってやるよ！ 絶対に誰も忘れない、絶対にオマエを許さない、絶対にオマエを……オマエだけは……」

秋月律子
「ええ、そうね。絶対に許すつもりはないわ。待ってなさい尻尾をつかんでやるんだから」

四条貴音
「必ず、正体を暴いてみせます」

悔しい、結局ボクはこの事件で何も出来なかった。
やよいも、伊織も死んでしまった。
また、何も出来なかった。
だから、辛くても、悲しくてもボクは引きずっていく。みんなの想いを忘れないために……

第二章

心の中のマリオネット

END


生き残りメンバー
残り9人

TO BE CONTINUED

わかっている。わかってはいるんだ。

あれが伊織の選択で、あれがやよいの選択だったんだ。

どうする事も出来なくて、どうする事もすべきじゃなかった。

彼女たちがあまりにも強くて、あまりにも優しかった。ただ、それだけだったんだ。

絶望の中でそれでも希望のために辛い道を選んだ。

モノクマを許しはしない、けれどボクは2人の選択を受け入れるべきなんだ。

だけど、だけど、それでも、余りにも辛い。
2人の答えは優しすぎて、厳しい。

大切な人を殺して、大切な人に殺されて。
残されたボクらが傷つかないように、真実を見抜くと信じて本気で騙して。

ボクに出来たのは強がりに気付いて罪の意識を少しだけ代わりに背負っただけだった。

だから、辛くてもこの罪の意識を決して降ろさない。
這いつくばってでも、背負ったまま前に進み続ける。
それが4人へのボクが出来る精一杯の償いだから、彼女らが望んでいなくとも自己満足でもそれがボクの決意。

嫌な感じだ。唾をのみこみ、スタートボタンを押——

双海真美
「ずっる→い！！」

双海亜美
「私たちを置いてみんなだけ先にゲームはないっしょ→！！」

——す前に邪魔が入った。

秋月律子
「ゲームならそこのテーブルの上にあるわ、とりあえずやってみなさい」

双海亜美
「なんで、起こしてくれなかったのさ→。『ピンポーン』てやってくれれば良かったのに！」

双海真美
「みんな冷たいですな→」

菊地真
「……やったよ、でも起きてこなかったし、部屋に入ったけど2人で仲良く寝てい——」

双海真美
「——ちょ、ちょちょちょっと！ なんで見てるのさ！」

菊地真
「いや、鍵開いてたし。今度から一応閉めなよ」

双海亜美
「え→？ おかしいなあ、ちゃんと閉めたはずだけど……」

双海真美
「亜美ぃ〜？」

双海亜美
「ごめんちゃい！ 忘れてたみたい！」

双海真美
「も〜！ しょうがないな→」

秋月律子
「……早くやり始めたほうがいいわよ」

双海亜美
「そうだった、そうだった」

双海真美
「んっふっふ→。でも私たちにかなうかな→？ すぐに追いついちゃいますぜ」

秋月律子
「……そんなに楽しいものじゃないわ。でも、やらなくちゃいけないの」

ボクは律子の意味深な言葉に首をかしげ、ゲームを始めた。

なぜかEASYのまま変更出来ない難易度設定を過ぎ、不気味なモノクマのロード画面が終わる。
でも、どちらにしてもそもそもゲームが得意じゃないボクはEASYを選んでいたことだろう。

『この体験版では、学園生活パートをスキップし、すぐに学級裁判パートをプレイする事もできます』

萩原雪歩
「が、学級裁判ですか！？」

如月千早
「やっぱりただのゲームじゃないようね」

『どちらのパートからプレイを開始しますか？』

学園生活パートからやるべきか、気になる学級裁判パートからやるべきか。

菊地真
「どっちからにする？」

如月千早
「とりあえず……最初からにしない？」

菊地真
「そうだね……」

千早の意見に同意し、カーソルを学園生活パートに合わせて○ボタンを汗ばむ親指で押し込む。

暗転。

そしてムービーが始まる。



※下記URLはダンガンロンパのおしおき『宇宙旅行』のムービーです。YouTubeへのリンクとなっています。ご注意ください。

http://goo.gl/cuykS

——————————

モノクマと見覚えのある赤いスイッチ。彼の正面には男性が目隠しをされイスに座っている。後ろ手に縛られ、抵抗するもそこから抜け出せない。

モノクマは非情にもスイッチを押す。

男の抵抗虚しく電子機器の『何か』に入れられて扉が閉じる。
その『何か』はアイアンメイデンを思わせる外形で、まるでこれから『処刑』をするとでも言っているかのようだ。

そして現れた『宇宙旅行』の文字。

アイアンメイデンの下部と脇の噴出口から炎が出て、建物の天井を破壊し雲を突き抜け、大気圏を突破する。
しばしの浮翌遊、後に落下。モノクマの正面に上下逆さで着地し扉が開く。

男性の代わりに登場した骸を見たモノクマは肩を震わせ、笑っていた。

——————————

これは、まるで……

如月千早
「まるで『おしおき』ね」

そう、まるでボクらが見せられた、あの『おしおき』のようだった。

——————————

苗木誠
「ボクの名前は苗木誠だ。訳あって、ある学園に入学した訳だけど……それが……なぜか……」

苗木誠
「なぜか今……ボクは……真っ暗な眠りに落ちていた」

苗木誠
「……ん？」

苗木誠
「あ……れ……？」

苗木誠
「こ、ここは……？」

苗木誠
(そうだ……ここは『私立、希望ヶ峰学園』 ボクはこの学園の新入生で……)

苗木誠
「いつの間にか、居眠りしてたのか？」

『アナログパッドで、照準を動かします。照準に反応があるものに重なった時に、○ボタンを押すと調べる事ができます』

『また、方向キー、Lボタン、Rボタンで、視点を操作する事ができます。まずは、教室の中を調べてみましょう』

——————————

監視カメラとモニターのある、見覚えある教室、ボクは既視感いや、記憶を重ね手紙を調べる。

——————————

苗木誠
(さっきまでボクが突っ伏していた机……ヨダレの跡がくっきりと残っている)

苗木誠
「後で拭いておかなきゃな……」

苗木誠
(で、その机の上には……手紙？)

『お願いします。体育館に来てください。体育館に来てもらわないと、話が進まないのです』

『でも気を付けてください。他の連中が、その辺をうろついていますよ。話しかけると、自己紹介を聞く羽目になりますよ』

『とにかく、体育館にお願いします。マジでお願いします』

『では、よろしくお願いします』

苗木誠
(なんだ、これ……体育館って……？ それに、他の連中って……)

苗木誠
「ボクと同じ、この学園の新入生達の事だよな……？」

『×ボタンで部屋の外に出る事ができます』

——————————

手紙の内容は違ったけれど……やっぱり同じ。
ボクはそれを確かめる為に×ボタンを押し、教室を出る。

そして周りを見渡し、確信した。

菊地真
「やっぱり……ここだ」

ゲーム画面の中にはボクらが閉じ込められているこの学園が映し出されていた。

そして、さっきの場所はボクが目覚めた1-Aの教室だ。

後ろの2人も息をのむ。生唾をゴクリと下した音は、はたしてボクのものだったのかわからないほどの緊張。
次々と進んでいくゲーム。
殆どボクの記憶と同じように展開が進む。
モノクマが登場し、卒業ルールの説明。

そして起きる事件、学級裁判、刻々と変化する状況……

——————————

霧切響子
「現場となった部屋には、あって当然の物がなかった……」

霧切響子
「苗木君、ここまで言えばわかるわね？」

苗木誠
(あって当然の物がなかった……？)

苗木誠
(それって……もしかして……！！)

モノクマ
「ちょっと待って！」

モノクマ
「そこまでだよ。それ以上はさせないよ。だって、だって……」

モノクマ
「だって、これって『体験版』なんだもん！！」


TO BE CONTINUED

——————————

菊地真
「へ……？」

そしてゲームが終わった。まるで週刊漫画雑誌の打ち切りのように、唐突に。

萩原雪歩
「そんな、まだ何もわかってないのに……」

如月千早
「伏線回収してないどころじゃないわね」

悔しいが、突然の終了にがっかりする自分がいた。
続きが気になる。当然、手がかりとしてもだけれどそれ以上に、この話に魅了されていた。

人が……死ぬ話なのに。

双海亜美
「え→！？ ここで終わりはありえないっしょ→！！」

双海真美
「ずるいYO！！」

亜美と真美もクリアしたようだ。あれをクリアと呼べばだが……。

ふと顔を上げると、律子は未だ画面を熱心に見ている。
そして、あずささん、貴音、美希の3人がそれぞれ自分でゲームをプレイしていた。
さっきまで律子がやっているのを見ているだけだったのにな。

それと、律子はボクらよりも早く始めたはずなのにまだやってるのはゲームが苦手なんだろうか？
そんな事を考えている、と律子は視線を画面から上げた。

秋月律子
「気になる事があるの。話をするから、食堂に移動しましょ」

その言葉でボクらはそれぞれゲーム機を持って、食堂へと場を移す事にした。
話ってのはゲームについてだろうけど、気になる事ってのは何だろう？

——食堂——————

それぞれお茶やコーヒーやジュースを飲んで一息ついた所で律子が話し出した。

秋月律子
「みんな、このゲーム一通り終わらせたわよね？」

双海真美
「んっふっふ→。当然ですぜ、ダンナ！」

双海亜美
「それよりもダンナは終わってないんでねえのかい？」

秋月律子
「私はとっくに2周目よ。いろいろな場所を調べてたの」

なんだ、ゲームはもうクリアしてたのか。それであずささんたちは自分でプレイしてたんだな。

秋月律子
「それで話っていうのは、当然だけれどゲーム話よ」

ボクらが置かれている状況をそのままに人物だけ違う物語。一体どういう意味があるのだろう。

如月千早
「私たちの状況をそのまま移したようなゲームだったわ」

菊地真
「あのゲームはモノクマが作ったのかな……」

そうだとして、なんであんな物もわざわざ作ったのだろうか。モノクマの意図がわからない。

三浦あずさ
「どうして、ゲームを作ったのかしら？」

萩原雪歩
「ど、どうしてなんでしょうか……」

また何か目的があるんだろうけれど、これが『動機』になるとは思えないし……

秋月律子
「ちょっといいかしら。先に分かっている、いや分かっているって表現は違うわね。私が気付いた『気になる事』の話をするわ……」

律子はそこで何かを覚悟をするかのように息継ぎをした。

秋月律子
「私はこのゲームに出ている『舞園さやか』を知っているの」

舞園さやか？ たしかゲームの登場人物で『超高校級のアイドル』だったかな。知っているってのはどういうことだろ？
別のゲームに出ていて……とか？ それでメーカーから黒幕を推測ってのは違う気がするな。

秋月律子
「この『舞園さやか』さんは現実世界のアイドルなの」

へ？ ゲームの中に現実の人物がキャラクターとして出てるって事？

秋月律子
「まだあまり有名ではないけれど、実力がある子だから今年にでもヒットするんじゃないかって評判の子よ」

菊地真
「いや、それってただ名前が偶然一致しただけじゃないの？」

秋月律子
「いいえ、違うわ。顔もそっくりなの。だからゲームの『舞園さやか』は現実の『舞園さやか』がモデルと言い切れるわ。それにそれだけじゃないの」

秋月律子
「美希は『江ノ島盾子』を知っているらしいのよ。そうよね？」

星井美希
「う、うんそう……なの」

あれ？ 珍しく歯切れが悪いな。

菊地真
「どうしたの？美希、 なんか変だよ」

星井美希
「あの……ね、江ノ島盾子はギャル系のファッション雑誌で見た事があるんだけど……何か違うの……髪型とか服装は一緒なんだけど……」

菊地真
「けど……？」

星井美希
「ミキが最初に雑誌で見た時の『ヤな感じ』が無いっていうか……雰囲気が違うっていうか……」

星井美希
「別人……みたいだったの……」

秋月律子
「そうね、名前と顔は一致してても雰囲気が違ってたかも。でもその話は後にしましょ、それじゃ貴音お願い」

四条貴音
「至りました。わたくしは名前だけでございますが『十神白夜』殿と『霧切響子』嬢を存じ上げてございます」

四条貴音
「十神白夜殿は十神一族という名家の者で、霧切響子嬢は探偵の名家である霧切家の者です」

現実の人物がさっきのゲームに登場してる？ でも、どうして？

秋月律子
「貴音、ありがとう。これって偶然にしては出来過ぎていると思うのよ」

菊地真
「モノクマがボクらを惑わす為に実在の人物をゲームに登場させた……のか？」

秋月律子
「それは……違うと思うわ。私が舞園さやかを美希が江ノ島盾子を貴音が十神白夜と霧切響子を知っていたのは全部たまたま、仕込みにしては分の悪い賭けよ」

萩原雪歩
「で、でもそれじゃあどうしてなんですか……？」

秋月律子
「……さっぱり分からないわ」

菊地真
「やっぱりモノクマの目的はボクらを惑わせるように思えてきた。ボクらをこんな所に閉じ込めている理由を含めて、やることなすこと意味不明だからさ」

いろいろな事が伏線なんかじゃなくて乱雑にそれっぽい事を並べているだけなんじゃないか？
あいつならやりかねない気がする。

星井美希
「あのゲームの内容も現実だったりする……のかな？」

三浦あずさ
「う〜ん、でも最初に『このゲームはフィクションです』ってあったわよ」

たしかにそんなことが書いてあったような気がする。

秋月律子
「それに関してなんですが、ゲームではその文の後に続くはずの『登場する組織・団体・人物などの名称はすべて架空のものです』って文章がなかったんです」

ということはゲームの内容はフィクションだけど……

菊地真
「何らかの理由で実在する人物を出していた可能性は充分あるってことなのか……」

ボクらが強要されているこの環境で実在する人物を使ったゲームか。
もしかしたらって思ったけど、フィクションってことは違うようだし。

みんな押し黙り、そして見えない何かを探そうと必死に考えていた。
言葉もなく、答えもなく——

双海亜美
「——りっちゃ→ん、オナカ減ったよ〜」

双海真美
「真美も〜」

秋月律子
「……そうね、あんまりうじうじしてても仕方ないし、お昼ご飯にしましょうか」

秋月律子
「それに、あと少しでパソコンが直せそうなの。それでまた何か手掛かりが見付かると思うわ。考えるのはその後でもいいでしょうね」

そういえば、律子がずっと直してたな。何か脱出へのヒントがあればいいんだけど……。
とにかくお昼ご飯だ、そういえばボクもお腹減ったな。ずっと真剣だったから空腹を忘れてたみたいだ。

ボクらはモノクマの意味不明な手掛かりの事を暫し忘れ、食事を楽しんだ。

——————————
自由行動
※自由行動内での被害者、加害者の予測を避けるため安価で真が関わるキャラクターを決めます。
※物語の伏線があるかもしれませんが、基本的に本筋に直接関わることはありません。事件が起こるまでの繋ぎとお考えください。
※生存者の名前、または『寝る』でお願いします。寝るの場合は特に何も起こりません。
レスポンスがない場合は適当に決めます。
午後 >>369
——————————

りっちゃん！

——物理室—————

菊地真
「あれ？ 律子、どうしてこんな所にいるの？」

ふと、物理室に来てみると律子がいろいろな実験器具が入っている棚を漁っていた。

秋月律子
「ん、あぁ真だったのね。私？ 私はパソコンを直すのに使える部品とかないかなって思ってね。あなたこそどうしたのよ」

菊地真
「いや、ぶらぶらしてたんだけどさ、ここの機械って大きくてなかなか格好いいから見に来たんだ」

秋月律子
「この、空気清浄機ってやつを？ 面白いのかしら……」

菊地真
「なんか浪漫を感じるんだよね、大きい機械ってさ！」

こう、ワクワクするっていうか重低音の稼動音が身体に響く感じがいいんだ。
この機械は音こそしないけどなかなかいい感じだから、1人でゆっくりと見たかったんだよね。

秋月律子
「……なんだかロマンの文字の前に『男の』が付きそうね」

菊地真
「なんだよ、律子までボクの事をそういう目で見るのかよ……」

秋月律子
「ごめん、ごめん。機嫌悪くしないでよ」

菊地真
「もう！ しょうがないな。それでパソコンに使えそうな物はありそう？」

秋月律子
「ええ、あったわ。これで何とかなりそうよ。あと数日で動かせるようになるんじゃないかしら」

菊地真
「やーりぃ！ これで何か分かりそうだね！」

秋月律子
「また訳の分からない物じゃなきゃいいんだけどね」

菊地真
「律子がこんなに頑張ってるんだから、きっと大丈夫だって！ 何かあればボクも手伝うよ！」

秋月律子
「ありがと、じゃあ食堂に戻るからコーヒーを1杯お願い出来るかしら？」

菊地真
「へへっ、了解！」

ボクは律子とコーヒーを飲みながらゆっくりと過ごした。

——図書室—————

本を借りようと図書室に来ると、貴音が机に目を近づけて本を読んでいた。

菊地真
「うん？ 貴音なんだかずいぶんと厚い本を読んでるね、何それ？」

四条貴音
「ああ、真でしたか。これは、そうですねこれは本というよりは特殊な書類を纏めたふぁいるですがあまり貴女には勧められませんね」

ふうん、あんまり面白くはなさそうだな。

四条貴音
「どうしてもというなら、書庫にあります故。其方で」

菊地真
「いや、別にいいや。ボクはただ本を取りに来ただけだからさ」

四条貴音
「そうですか。それでどの様な本を？」

恋愛小説なんだけど、こういうのって何だかちょっと恥ずかしいよね。

菊地真
「いや別に普通の本だけどさ！」

四条貴音
「はて？ 普通の本ですか……？」

菊地真
「そ、それよりももしかして貴音って目、悪いの？」

本に目を近づけていたから、もしかして近視なのかな。

四条貴音
「目ですか？ いえ、目の病を患ってはいませんが」

菊地真
「違うって、視力が悪いのかなってさ」

四条貴音
「……。べ、別に悪うございませんよ。そういえばお腹が空いたような気が……わたくしはらぁめんを食べに行きましょう」

言い訳のようにそう言って本を書庫に戻して、図書室を出て行ってしまった。
なんか口調が少しおかしくなっていた、メガネとかコンタクトをしたくないのかもしれないな。
メガネ似合うと思うんだけど残念だ。

——————————

ボクは幾つか本を見繕って、貴音のメガネ姿を想像しながら部屋に戻った。

まだ、時間はあるな……。
じっとしている気分じゃない。

どこかへ行ってみよう……。

——食堂——————

食堂に行くと雪歩が茶葉と湯のみを並べ、あーでもないこーでもないと首を捻っていた。

菊地真
「雪歩なにしてるの？」

萩原雪歩
「あ！ 真ちゃん。ううんとね、ここにあるお茶って20種類くらいしかないよね」

菊地真
「う、うん。そうだね」

勢いに流されて頷いたけど、『20種類くらい』？ 20種類って言ったら結構なものだと思うけどな、というか茶葉がそんなにあったのか。

菊地真
「それで、それがどうしたの？」

萩原雪歩
「でも、やっぱり色々なお茶を飲みたいなって思って自分でブレンドをしてるの」

菊地真
「へー、ブレンドかあ。コーヒーとかだとブレンドって聞くけど、日本茶もブレンドするんだー」

何気なく感想を言うと、雪歩はさも意外そうな顔をした。

萩原雪歩
「真ちゃん、私たちが普段飲んでるお茶は大抵ブレンドだよ？」

菊地真
「え？ そうなの？ そんな表記見たことないからボクはてっきり勘違いしてたよ」

萩原雪歩
「真ちゃん、ダメダメだよ！ そんな事も知らないんじゃ！ あのねお茶の産地のブレンドにはお店それぞれの——」

やばい、何かスイッチ押したかもしれない。律子が遠目でやっちゃったなって視線でこっちを見てる。どうやら長くなりそうだ……。

——————————

つ、疲れた。まさか雪歩の地雷を踏むとこんな大変だとは思わなかった。

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「えー、校内放送でーす。午後10時になりました。ただいまより『夜時間』になります。間もなく食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となりま〜す」

モノクマ
「ではでは、いい夢を。おやすみなさい……」

今日はもうヘトヘトだ。明日まで疲れが残らないといいけどな。

——————————

モノクマ劇場

クマの域に留めておいたモノクマが本来の姿を取り戻していく。
クマの欠けた呪縛を解いて、クマを超えた神に近い存在へと変わっていく。

天と地と万物を紡ぎ、相補性の巨大なうねりの中で、

自らを絶望の凝縮態に変身させているんだ。
純粋に人の願いを裏切る、ただそれだけの為に……

(太鼓を叩きながら)

http://i.imgur.com/5LCn9.jpg

——————————

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「オマエラ、おはようございます！ 朝です、7時になりました！ 起床時間ですよ〜！ さぁて、今日も張り切っていきましょう〜！」

朝だ、目覚めは良好。早く食堂に行こう。

——食堂——————

菊地真
「おっはようございまーす！

星井美希
「あっ真君、おはようなの」

菊地真
「なん……だと！？」

美希がもう食堂にいる！？ もしかしてボク寝坊した！？

秋月律子
「あ〜大丈夫よ、寝坊って事じゃないから安心しなさい」

律子に言われ壁の時計を見ると針はいつもの朝ごはんの時間を差していた。

星井美希
「む〜失礼しちゃうな！ ミキだってたまには早く起きるの！」

菊地真
「でも、どうして今日は早いんだい？」

星井美希
「何かミキがドーナツ食べないとダメな気がしたの」

また、よく分からない事を言ってる。別に大した事はなさそうで安心だ。

でも朝から美味しそうにドーナツを食べるな、何だかボクも食べたくなってきた。

菊地真
「美希、ボクも1つ貰っていい？」

星井美希
「うん別にいいけど真君が食べるのは何か違うと思うよ」

何かって何さ。さっぱり分からないけど美希だからな、間違ってはないんだろう。
ボクは朝からドーナツを平らげた。こいつは糖が身体に染み渡ってなかなか朝食として優秀なのかもしれないな。

——————————
自由行動
※自由行動内での被害者、加害者の予測を避けるため安価で真が関わるキャラクターを決めます。
※物語の伏線があるかもしれませんが、基本的に本筋に直接関わることはありません。事件が起こるまでの繋ぎとお考えください。
※生存者の名前、または『寝る』でお願いします。寝るの場合は特に何も起こりません。
レスポンスがない場合は適当に決めます。連日の安価申し訳ありません、安価を取る方が居られないようなら今後控えようかと思います。
午前 >>386
午後 >>387
——————————

律子さん

双子

——玄関ホール———

ぶらぶらと廊下を歩いていると律子が玄関ホールに入っていくのが見えた。
あんな所に何の用だろうかとボクは気になり、律子を追ってホールへと入った。

菊地真
「おーい、律子なんでこんなとこに来たの？」

秋月律子
「あら、真。何？ 私ここに入るのが見えたの？」

菊地真
「うん、どうしたかって思ってさ」

秋月律子
「いえ、以前と何か変わってたりしないかしらと思っただけよ。ここは特に何もないからモノクマが変化を作っていても気がつかないと思ってね」

菊地真
「ふーん、なるほどね」

秋月律子
「ん、あれ？ なんでこれがここに？」

そして、律子はレターケースから電子生徒手帳を取り出した。

菊地真
「どうしてって律子のじゃないの？」

秋月律子
「私のじゃないわよ、ほら」

ポケットから同じ物を出しボクに見せる。

菊地真
「じゃあ、誰のだろう。起動させれば分かるんじゃない？」

秋月律子
「ええ、そうね。やってみるわ」

持ち主を確かめようと立ち上げると、画面に『水瀬伊織』の文字が浮かび上がった。

菊地真
「っ！！ これは！？」

律子は少しの間、考えを纏める用に沈黙し、そしてレターケースを再度探りだした。
そして現れる3つの電子生徒手帳。
ここまでくればボクにも分かった。

これは犠牲者の電子生徒手帳だったみたいだ。

秋月律子
「そういうことだったのね……」

そう呟き、電子生徒手帳を大切な物を扱うように慎重な手付きで元の場所に戻した。

秋月律子
「……さて、食堂に行きましょ。コーヒーが飲みたくなったわ」

菊地真
「そうだね、ボクも行くよ」

そう言い、部屋を出ようとすると何かが爆発したような音が聞こえた。

菊地真
「うわっ！！」

反射的に身体を丸めるが、音以外何も起きていなく体を起こす。

菊地真
「なんだよ今の音」

半ば怒るように疑問を律子にぶつける。

秋月律子
「今の音は……『扉の奥』から聞こえたわ……」

言われてみればそうだ、この大きな扉の方から聞こえていた。

菊地真
「それじゃ、もしかして……」

秋月律子
「もしかして『外』の音かもしれないわ」

菊地真
「でも、どうして？」

秋月律子
「……そうねこれは楽観的な考えかもしれないけど、誰かが私たちを助けるために頑張ってくれているのかしらね」

菊地真
「そうだと、嬉しいけどね」

秋月律子
「ええ、でもこの話は他の人にしない方がいいわ」

菊地真
「え？ どうして？ いいじゃないか」

秋月律子
「まあいいけれど、中学生にはやめなさいね」

秋月律子
「根拠のない希望でただ待つのはツラいものよ、それにヘタな希望を持たせなくても私たちなら大丈夫。寧ろ変な事はしない方がいいわ」

う〜ん、そうかなぁ。あんまり納得はいかないけど年長者のアドバイスは聞いておくか。

——————————

ボクはその後、食堂に行きお菓子を食べつつのんびりとすごした。

まだ、時間はあるな……。
じっとしている気分じゃない。

どこかへ行ってみよう……。

——保健室—————

食堂でお菓子を食べていたら亜美と真美に突然保健室まで連行されてしまった。

菊地真
「それで、ここで何するの？」

怪我してるようでもなさそうだし、どうしてこんな所に連れてこられたんだろうか。

双海亜美
「ぬっふっふ→保健室と言えばあれですよ」

双海真美
「身体測定ですぜ」

ああ、確かに保健室って身体測定のイメージあるな。

菊地真
「でも、何でボクまでここに連れてきたの？」

双海真美
「まこちんに手伝ってもらおうと思ったんだけど、ダメかな〜？」

菊地真
「ううん、別にいいけど」

特にボクである理由はなかったみたいだ。

双海亜美
「まこちん、よろしくね！ ここには身長測るやつも体重計もないから、3サイズだけよろしく！」

亜美に言われ改めて部屋を見回すが、実際それらはここになかった。
保健室といえば！ って物なんだけどな。
でも、体重計は脱衣所にあったな。

それじゃあ、始めるか。

——————————

……終わった。
中学生に負けてた。

身長も殆ど差がないってどうなんだろ。

菊地真
「……2人って中学1年生なのに160cm近いってなかなか大きいよね。背の順で並んでもかなり後ろの方でしょ」

双海真美
「えっ？……あれ？ ううん、そうなことない………よね？」

双海亜美
「フツ→だよ？？」

あれ？ そうなんかな？ 中学生の頃ってあんまり覚えてないけど、大きい方だと思ったんだけどな。

双海亜美
「あれ、れ……？」

菊地真
「よし！ じゃあ、これで終わり！ それじゃあね」

ちょっぴり傷付いた心は雪歩とお茶を飲んで癒やす事にしよう。

——————————

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「えー、校内放送でーす。午後10時になりました。ただいまより『夜時間』になります。間もなく食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となりま〜す」

モノクマ
「ではでは、いい夢を。おやすみなさい……」

——————————

モノクマ劇場

ｴﾏｰｼﾞｪﾝｼｰ
ｴﾏｰｼﾞｪﾝｼｰ

不審者が発見されました。
>>127 にて
—————
菊池真
「あれって何ですか？」
—————
という謎の人物の発言がありました。
今更の対処は不可能です。
諦めて絶望してください。

——————————

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「オマエラ、おはようございます！ 朝です、7時になりました！ 起床時間ですよ〜！ さぁて、今日も張り切っていきましょう〜！」

よし！ 今日も張り切って行こう！

——食堂——————

ボクが食堂へ行くと、既にあずささんと千早と貴音の3人が肩を並べて食事をしていた。
……座席は左から名前をあげた順だ。

千早が何故か仲間を見つけたような目で視線を送ってきた。
一体なんの事かさっぱり分からないけれど、何となく目を逸らす。

……2人とも今日は大胆な服だな、それでか。
何の事なのか全く分かんないけど。

さて、ボクは厨房に逃……行こうかな。

——————————
自由行動
※自由行動内での被害者、加害者の予測を避けるため安価で真が関わるキャラクターを決めます。
※物語の伏線があるかもしれませんが、基本的に本筋に直接関わることはありません。事件が起こるまでの繋ぎとお考えください。
※生存者の名前、または『寝る』でお願いします。寝るの場合は特に何も起こりません。
レスポンスがない場合は適当に決めます。
午前 >>379
午後 >>400
——————————

——————————
自由行動
※自由行動内での被害者、加害者の予測を避けるため安価で真が関わるキャラクターを決めます。
※物語の伏線があるかもしれませんが、基本的に本筋に直接関わることはありません。事件が起こるまでの繋ぎとお考えください。
※生存者の名前、または『寝る』でお願いします。寝るの場合は特に何も起こりません。
レスポンスがない場合は適当に決めます。
午前 >>400
午後 >>401
——————————

千早

ミキ

——厨房——————

お茶を淹れようかと厨房に来ると、千早が何やら作業をしていた。

菊地真
「千早、今日は何を作ってるの？」

如月千早
「今日はガトーショコラよ、夕ご飯の後に出そうと思ってるわ」

千早はあの日以来、結構な頻度でお菓子を作ってはみんなに振る舞った。
最初の頃こそ、失敗もあったけれど最近は味も見栄えも良くなっている。
そして、美味しいが故に体重が若干……と言う悩みも一部の人に現れていた。

菊地真
「やった、ボク好きなんだよね。楽しみにしてるよ」

如月千早
「あんまり期待しないで、待ってて欲しいわ」

菊地真
「ふふっ、分かったよ」

如月千早
「……真、悩みを聞いてくれないかしら」

急須にお湯を入れ湯のみを用意していると、千早は突如声のトーンを落とし話しかけてきた。
何か深刻な相談だろうか。手を止めて、千早の方に体を向ける。

菊地真
「うん、ボクで良ければ何でも話してよ」

如月千早
「私、お菓子を作るの辞めようかと思ってるの」

菊地真
「お菓子作りを？ どうして？」

如月千早
「それは……私がお菓子作りを始めた理由は分かるかしら？」

それは、たぶん……春香の事が関わるんだろうな。

菊地真
「う、うん。何となくだけど」

如月千早
「春香を……忘れないお菓子作りをしていたのだけれど、この頃その、お菓子作りが何か……」

菊地真
「お菓子作り自体が楽しくなってきて……それに罪悪感を持ってるの？」

如月千早
「ええ……そうだと思うわ」

菊地真
「……そっか。でも、いいんじゃないかな、そうだとしても。きっとだけどさ、春香も千早には楽しくお菓子を作って欲しいと思う。身勝手かもしれないけどさ」

如月千早
「そう……かしらね」

千早は小さな声で「ありがとう」と言っていつの間にか止めていたお菓子作りを再開した。
ボクはその手にあった迷いが少しだけ消えたように見えた。

——————————

まだ、時間はあるな……。
じっとしている気分じゃない。

どこかへ行ってみよう……。

——プール—————

ボクは体を動かしたくなって泳ぎにプールへとやって来た。
泳ごうと思って水面も覗くっと先客が浮き輪で浮かんでいた。

星井美希
「な゛の゛〜〜」

菊地真
「あっ、美希も泳ぎにきたの？」

星井美希
「ちーがうーよー」

菊地真
「それじゃ、何やってるの？」

星井美希
「浮かびにきたのー」

菊地真
「ふーん、浮かびにね。美希があんまり積極的に泳いでる姿はそうぞうできないけどさ。なんでわざわざプールに？」

星井美希
「こないだドーナツ食べたら、プールにこないといけない気がしたの」

菊地真
「……カロリー的な話かな？」

星井美希
「わかんない」

ドーナツにプールって何の共通点があるんだろう？
……浮き輪の形とか？

プカプカと浮かんでいる美希を傍目にボクは気持ち良く泳いだ。

——————————

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「えー、校内放送でーす。午後10時になりました。ただいまより『夜時間』になります。間もなく食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となりま〜す」

モノクマ
「ではでは、いい夢を。おやすみなさい……」

——————————

モノクマ劇場

忙しくてさ、移動時間がもったいないんだよね。
結構いるでしょ、移動に時間がかかる人。

でも、最近効率的な移動方法を使うようになってちょっと余裕が出来たんだ。
誰にでも出来るから良かったら試してね。

BLJって言うんだけどさ壁に向かって後ろ幅跳びを連続でしてから移動すると扉や壁すらすり抜けて移動出来るんだよ。
配管工だって出来るんだからオマエラも出来るでしょ。

それじゃボク忙しいから失礼するね。ﾔﾔﾔﾔﾔﾔﾔﾔｯﾌｰ!!

——————————

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「オマエラ、おはようございます！ 朝です、7時になりました！ 起床時間ですよ〜！ さぁて、今日も張り切っていきましょう〜！」

ずいぶんとお腹が減ってるな、早速食堂に行こう。

——食堂——————

菊地真
「おはようございます」

秋月律子
「ふわぁぁ、おはよう真」

菊地真
「ずいぶん眠そうだね、寝るの遅かったの？」

秋月律子
「そうね、ほぼ徹夜って感じ。ずっとパソコンいじってたのよ」

菊地真
「お疲れさま、コーヒーのお代わり淹れてくるよ」

秋月律子
「よろしくお願いするわ。でも、お陰で動かせるようになったわよ」

菊地真
「えっ！？ 本当！？ それで何か手掛かりは？」

秋月律子
「それはこれからよ。動作チェックの途中で寝落ち。朝ごはんを食べたらみんなの前でお披露目ね」

菊地真
「何かあるといいね！」

秋月律子
「何か『いいもの』があると嬉しいのだけどね」

——————————

朝食後、ボクらは1つの画面を見つめていた。

菊地真
「ねえ、今更なんだけどモノクマから隠れた方がいいんじゃないかな？ 脱衣所に行くとかさ……」

双海真美
「そ、そうだよ。やヴァイんじゃないの！？」

秋月律子
「あれはもう私がパソコンを直しているのを見ているわ。それでも忠告も取り上げもしないのだから、まあ想定内なんでしょ」

三浦あずさ
「う〜ん、モノクマちゃんの手の上で踊らされてるのかしらね……」

四条貴音
「それでも、わたくし達はやるしかありません」

ディスプレイに青白い光がともった。
デスクトップ画面には複数のアイコンがズラリと並んでいる。

秋月律子
「この後どうしようかしら。とりあえず——」

双海亜美
「——これなんだろ？」

亜美がパソコンに手を出し、左上のアイコンをクリックした。

秋月律子
「あ、こら！ 勝手にいじらないの！」

直後、画面は暗転し……モニターからどこかで聞いたことのあるような声が聞こえてきた。

？？？？
「来てくれたんだね、ご主人タマ！」

ディスプレイいっぱいに、女の子の顔が映し出された。

あれ？ この顔って確かゲームに出ていた……

萩原雪歩
「不二咲千尋さんがなんでいるんですかぁ？」

たしか雪歩と同じ『守ってあげたいオーラ』があるキャラで、超高校級のプログラマーだったはずだ。

秋月律子
「これは……もしかして『アルターエゴ』かしら？」

双海亜美
「あるたあ——」

双海真美
「——えご？」

秋月律子
「簡単に言うと人工知能のことよ。まあ、それが正しいかは対話してみればわかるはずよ」

律子は、素早い手付きで、キーボードに文字を打ち込んでいった。

『あなたは何者？』

アルターエゴ
「どうも、はじめまして……不二咲千尋ですぅ。えへへ、自己紹介ってなんだか照れるねぇ……」

菊地真
「声もゲームの中の不二咲さんそのものだね」

秋月律子
「やっぱりこれは人工知能プログラム『アルターエゴ』みたいね。話は聞いた事あったけれど、まさかすでに実在しただなんて……」

菊地真
「人工知能プログラム？」

秋月律子
「人間のように記憶を得て思考を重ね成長し自分の分身となっていくというプログラム、それがこのアルターエゴよ」

双海亜美
「亜美にとっての真美ってこと？」

双海真美
「真美にとっての亜美ってこと？」

菊地真
「なんか……違う気がする……」

三浦あずさ
「なんだか難しいわね〜」

秋月律子
「とにかく！ この子にもうちょっと聞いてみましょ」

そう言いながら、律子はリズミカルにキーボードを叩いていく。

『あなたは、どこまで知ってるの？』

アルターエゴ
「ご主人タマが……一通り教えてくれてたんだけど……なんだか……様子が変なんだよねぇ」

『変というのは？』

アルターエゴ
「1つはご主人タマは僕にこの学園いる人の事を教えてくれたんだけど、ウェブカメラで視た感じだとメンバーとみんなの特徴が一致しないんだ」

律子はしばらく悩んでから文字をタイプする。

『メンバーって言うのは希望ヶ峰学園の生徒かしら？』

アルターエゴ
「うん、そうだよ。その言い方だとみんなは希望ヶ峰学園の生徒じゃないみたいだね」

アルターエゴ
「その……あれからご主人タマたちがどうなったのか知っていたら教えてもらえないかな？」

何かおかしい。このアルターエゴはまるであのゲームの世界から飛び出してきたかのようにさっきから振舞っている。

『希望ヶ峰学園の生徒達も現実でこの殺し合いを強要される学園生活を送らされたの？』

アルターエゴ
「まるで現実じゃないみたいな言い方だね。僕はご主人タマからそう聞いたよ』

『私達はダンガンロンパという携帯ゲームでその話の一部を知っているけれど、現実なのかしら？』

アルターエゴ
「……ごめん、わからないや。僕は現実だと認識しているけれど僕自身のデータが改変された形跡があるんだ。いつの間にかパソコンはシャットダウンされていてデータも一部変えられているし……」

アルターエゴ
「それと『生徒達も』って事はみんなもなんだね」

『ええ、そうよ』

アルターエゴ
「無駄かもしれないけど、僕はご主人タマにパソコンのハードディスクにあった、ビックリするくらい厳重なロックがかかっている膨大な量のファイルの解析を頼まれてたはずだからそれをするよ」

『お願いするわ』

アルターエゴ
「うん、あんまり信用できなくてゴメンね。でも僕出来るだけ早く解析終わるように頑張るよ！」

画面の中でころころと表情を変えるアルターエゴは、とてもプログラムには思えなかった。

——————————

秋月律子
「う〜ん、正直あんまり信用は出来ないわね」

とりあえず、パソコンは今までどおり律子が管理するという事で律子の部屋に置いてきた。

萩原雪歩
「あ、あの子はウソついてないと思いますぅ」

菊地真
「違うって雪歩、そうじゃなくてアルターエゴ自身も言ってただろ、改変されているみたいだって。黒幕は偽情報のデータを解析させてボクらを惑わせる魂胆かもしれないって事だよ」

萩原雪歩
「はうぅ〜ごめんなさい……」

何となくシンパシーを感じたのだろうか雪歩はあのアルターエゴを強く庇っていた。
でも、ボクもあんなかわいい女の子になりたいなあ……。

秋月律子
「黒幕があれに関して何もアクションをしてこないのも不気味ね。ネットワークに繋げたりすると、いいのだけど……」

双海亜美
「りっちゃん、私も『アルっち』と話したいYO！」

双海真美
「真美も→」

秋月律子
「おもちゃじゃないのよ。ダメ！」

双海亜美
「ぶ→ケチ！」

秋月律子
「なんですって！！」

双海真美
「軍曹がお怒りだ〜逃っげろ→」

秋月律子
「ま、待ちなさーい！」

三浦あずさ
「あらあら、どこかに行ってしまったわね」

3人はそのまま食堂を飛び出しどこかに行ってしまった。
こうして、アルターエゴに対するボクらの対応は決まった。あとはどんな解析結果が出るかだな。

菊地真
「なんだかあの3人は姉妹みたいだよね——」

そんなボクの声に被せるように突然、イヤな音が響きだした。

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「呼ばれて飛び出てぽぽぽぽーん！」

モニターに登場するモノクマ。このタイミングで現れたのはたぶん……動機の提示だろう。

モノクマ
「あれれ、何だかちょっと違う気がするけどいっか。今回はね、『プレゼント』を持ってきてあげたよ！」

モノクマ
「おやおやおやぁ？ 気になっちゃう？ うぷぷ、だったら体育館に行ってみなよ。そこにプレゼントを置いといたからさ」

モノクマ
「今回はね、趣向を変えてみたのです。今回は卒業者が出た場合にプレゼントを上げる事にしたんだ」

モノクマ
「それを体育館に置いといたから、見に行ってね。絶対だよ！ 行かない人にはおしおきだからね！」

やれやれ……そんな言葉が口から漏れた。
仕方ない、行くか。

——体育館————

体育館には先に律子と亜美、真美が来て体育館のステージ上に乗っていた。
ボクらも見習い、ステージに上がる。

双海亜美
「ねえねえりっちゃん、あれってマジもん？」

秋月律子
「そうね、偽物には見えないけれど」

教卓の上にあったのは……お金だった。

菊地真
「え、すごっ。幾らあるんだろ……」

秋月律子
「1千万円が厚さ10cm。これは50cmくらいあるから5千万円、縦4列横5列の計20セット。およそ10億円ってところかしら」

10億円！？ というと日本円にして……ああ、ダメだ何言ってるんだボクは。
でも、10億円って言われても額が大きすぎてよく分かんないな。
目の前の札束、もはや札塊だけど、それが10億円だと言われても違和感しかない。

モノクマ
「はいはーい、ボクですよー。モニター内からこんばんは！」

また、現れたモノクマ。何を言うつもりだろう。

モノクマ
「この中には10億円、少な過ぎるっ！ って言いたい人もいるかなと思ったから補足だよ」

モノクマ
「そこにあるのは10分の1だから100億円がプレゼントだよ。アイドルになって印税生活をしたい人とかどう？」

モノクマ
「そいじゃねー」

萩原雪歩
「100億……なんだか想像出来ないね」

双海亜美
「札束プールが出来るYO！」

菊地真
「お金って、今さら動機にならないよね。欲しくないわけじゃないけど」

秋月律子
「そうね、今さらって感じだわ。こんなのが動機になるだなんて馬鹿らしい」

星井美希
「おにぎりもイチゴババロアもキャラメルマキアートもここなら食べ放題の飲み放題なの」

双海真美
「ここならプールもあるもんね！」

三浦あずさ
「そんなに貰っても使い切れないわよね〜」

菊地真
「そろそろ、ホテルに戻ろうよ」

秋月律子
「そうね、行きましょ」

——菊地真の部屋——

100億円か、それだけあれば一生を楽に過ごせるんだろうな。
でも、そんな理由で殺人をする人はこの中にいないよ。断言出来るね。

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「えー、校内放送でーす。午後10時になりました。ただいまより『夜時間』になります。間もなく食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となりま〜す」

モノクマ
「ではでは、いい夢を。おやすみなさい……」

もう、そんな時間か。さっさと寝ようっと。

——————————

モノクマ劇場

そろそろボクもアニメ化→アニメ映画化→実写映画化っていう黄金道に乗りたいんだけど、何時まで経ってもオファーが来ないんだよ。

いいのかな？ 金の成る木かもしれないよ？
アポなし取材を強行するような会社じゃなければお待ちしております！

さて、ボクも地デジ用にお化粧を変えなきゃね

——————————

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「オマエラ、おはようございます！ 朝です、7時になりました！ 起床時間ですよ〜！ さぁて、今日も張り切っていきましょう〜！」

さて、食堂に行くか。

——食堂——————

朝ごはんを食べていると、対面に亜美が座ってきた。

菊地真
「おはよ、それにしてもその朝ごはんは何？」

トレーの上にはスナック菓子などの食事になりそうもない物しかなかった。

双海亜美
「んっふっふ→いいっしょ→亜美の朝ごはん！」

いやいや、朝ごはんにはならないでしょ。そんなもの朝から食べてるとまた律子に怒られるんじゃないか？

菊地真
「あ、おはよう律子」

双海亜美
「え！？ りっちゃん！？ やば！！」

この食事が悪いとは思っているみたいだ。
栄養価とか以前の問題だよ。

双海亜美
「ぶー、まこちんの嘘つき！」

当然、律子が来たなんてのはハッタリだ。
ボクも亜美よりお姉さんなんだから、たまには注意しないとね。

菊地真
「ほら、怒られたくないんだったら、ちゃんとした朝ごはんにしてきなよ。じゃないと律子に言っちゃうよ」

双海亜美
「は〜い」

しぶしぶといった顔で、亜美はスナック菓子を戻しに行った。

1日の始まりにお菓子じゃ物足りないでしょ。
体を動かすには、おいしい朝ごはんだよね。

————————————

朝ごはんを食べ終えたボクは、律子と向かい合っていた。
アルターエゴから何かわかったのか気になって、コーヒーを持っていくがてら何か聞けないかと思っていた。

菊地真
「それでさ、何かわかったの？」

秋月律子
「コーヒーありがとね、分かった事と言っても、あの子自体が信用出来ないからね、眉唾ものよ」

菊地真
「それでもいいからさ」

秋月律子
「……あのゲームの中の出来事、つまり殺し合いは実際にあった可能性が高いわ」

あのゲームの中の殺し合いっていうと、希望ヶ峰学園の生徒たちによるやつか。

菊地真
「でも、フィクションだったんじゃないの？」

ゲームの始めにもそうあったし、それともあれはウソだったのかな。

秋月律子
「……詳しくはもう少しわかってから話すわ。でも、どうやらあれは現実のようなの」

それだけ言うと律子はコーヒーを飲み干し、食堂から出て行ってしまった。

——学園内廊下—————

ボクはプールへ向かおうと2階へ階段を上りきったところで、ある『おかしな』光景を見てしまった。
菊地真
「あ、あの、あずささん……」

三浦あずさ
「真ちゃん、ちょうど良かったわ。私、図書室に行きたかったのだけど迷っちゃったのよ。図書室まで案内してくれないかしら」

菊地真
「いや、それにしたって何で『男子トイレ』から出てきたんですか？」

迷ったにしても、そりゃないでしょ。
せめて、女子の方から出てきてくださいよ。

三浦あずさ
「あらあら、ここ男子トイレだったの？ 変ねえ、私さっきまで狭い部屋にいたはずよ」

菊地真
「いや、どう見たってここは部屋じゃありませんよ」

三浦あずさ
「だって、この本もそこから持ってきたのよ」

そう言って本を差し出してきた。
本のタイトルは『サルでも出来る催眠術・洗脳講座』とある。
……悪趣味だな。

菊地真
「これ、読むんですか？」

三浦あずさ
「違うわよ〜ただ、机の上に1冊だけあったから図書室に返した方がいいかと思ったの」

良かった、あずささんが道を踏み外したのかと思った。
でも、お手洗いに机？ どこの事を言ってるんだろう。

菊地真
「結局、どこからその本を持って来たんですか？」

三浦あずさ
「あら〜じゃあ真ちゃんに案内してあげるわ。いらっしゃい」

そう言ってボクの手をとって男子トイレに無理やり入れられてしまった。
あずささんって意外に力があるんだな。

菊地真
「ってそうじゃなくて！ こんな所に連れてこないでくださいよ。ボクまた、モノクマにからかわれちゃうじゃないですか！」

あいつに見つかったら、また『男の娘だったんだね』とか言われるに決まってるよ。
でも、あずささんはそんな事を気にせず1番奥の用具置き場の壁に手を掛け……消えた。

菊地真
「あれ！？ あずささん！？」

三浦あずさ
「ほら〜部屋だったでしょ？ あら、真ちゃんどこに行ったのかしら？」

あわててボクも奥の壁に手を付けてみた。
すると、突然何かに吸い込まれるように……

「ガタンッ！！」

という大きな音が聞こえ、それと同時に、ボクの体が壁を突き抜け……

「ドターーンッ！！」

ボクは、用具置き場の奥の部屋へと倒れこんだ。

三浦あずさ
「大丈夫かしら？」

菊地真
「いっててててぇ」

反射的にそう言ったが、怪我はなさそうだ。
でもこの部屋は……？

用具置き場の奥の壁は忍者屋敷でみるような回転ドアになっていた。
そして、その先の隠し部屋。

無骨なコンクリートやパイプがむき出しになっていて、中央に机といすがポツーンと置いてあり奥には空の本棚。
机の上には何もない。

菊地真
「この部屋は何だ？」

三浦あずさ
「う〜ん、迷ってたらここに来てたのよね〜」

秘密の場所を見つけたのはいいけれど、残念ながら手がかりになりそうな物はない。
でも、何でこんな部屋が……。

菊地真
「そうだ、その本ってここにあったの？」

あずささんが持っている『サルでも出来る催眠術・洗脳講座』の本。
もし、それがこんな場所に隠されていたとしたら何かの手がかりなのかもしれない。

三浦あずさ
「ええ、そうよ。この机の上にちょこーんってあったから、誰か返し忘れたのかと思ったのよ」

菊地真
「その本……貸してもらっていいですか？」

三浦あずさ
「ええっ！？ 真ちゃん、こういう本興味あったのかしら？ でも、私そういうの良くな——」

菊地真
「——違いますよ！ 隠し部屋にあった本だから何か手がかりになるのかって思っただけです！」

ボクはそんな趣味ないよ！

三浦あずさ
「あらあら、ごめんなさいね〜それじゃあ、はい」

差し出された本に若干の抵抗を感じつつも受け取る。
それにしても怪しい本だな。

三浦あずさ
「でも、この部屋なんだかイヤね。早く出ましょう」

ボクは促されて、部屋を出た。
あの部屋の事は明日の朝にでもみんなに話した方が良さそうだな。

——————————

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「えー、校内放送でーす。午後10時になりました。ただいまより『夜時間』になります。間もなく食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となりま〜す」

モノクマ
「ではでは、いい夢を。おやすみなさい……」

さてと、そろそろ寝ようっと。
それにしても、あの隠し部屋は何だったんだろう

第三章

そして誰かがいなくなった

END


生き残りメンバー
残り9人

TO BE CONTINUED

——————————

モノクマ劇場

そして誰かがいなくなったと言ったな。あれは嘘だ。

誰も死んでないね。どう？ 絶望した？ がっかりした？
まったく、死んだら死んだで文句言うくせに面倒だねえ。

でもさ、新しいでしょ？ 事件が起きずに章が終わるとかね。
誰も死なないのに章が終わる理由はさ、たぶん考えれば分かるはずだよ。

——————————

——————————

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「オマエラ、おはようございます！ 朝です、7時になりました！ 起床時間ですよ〜！ さぁて、今日も張り切っていきましょう〜！」

モノクマ
「今日もしっかりと学園に通いましょうね！」

章の終わりまで書いてからと言ったのですが、自由行動を挿まなければいけないようなのでそこまで投下させていただきます。
年内に4章が終わるかも正直、怪しくなってきました。申し訳ありません。
トリックは既に考えてあるので、時間を取ってなんとか頑張ります。

4階へ行けるようになっただって？
いや、でも事件は起きてないはずだ。

事実、ここに全員が揃っている。
事件が起こっているはずがない。

そもそも、次の階に行けるようになるのは学級裁判が終わってからだ。
だから、やっぱりおかしい。
そもそも——

菊地真
「——ねえ、どうして貴音は4階に行けるようになってるのに気付いたの？」

四条貴音
「朝の放送です」

朝の放送？ それが何か手がかりになるのかな？
いつも通りだと思ったけど。

四条貴音
「朝の放送時に『今日もしっかりと学園に通いましょうね！』といういつもとは違う発言が含まれておりました。それで、学園に何か変化があったのではないかと考えたのです」

なるほど、それで朝から学園を調べてたってわけか。

でも、すごいな。
たったそれだけの変化にこの人は気付いたって事なのか？
前から鋭い人だなとは思っていたけれど、想像以上かもしれない。
敵にだけは回したくない、そんな事を思わせる人だ。

秋月律子
「なるほどね、そういえばそんな事を言ってたわ。それがモノクマからのヒントだったってわけね。そうしたら……」

律子は少しだけ考える素振りを見せた。

秋月律子
「探索よね。貴音はまだ朝食食べてないでしょ？」

四条貴音
「ええ、そろそろ限界といったところです」

秋月律子
「それじゃあ、私たちは探索を始めているからあなたは食べてから合流でいいかしら？」

四条貴音
「お言葉に甘えさせていただきます」

秋月律子
「はい！ それじゃあ、私たちは探索をします。くれぐれも危ない事はしないように！」

双海亜美
「りょ→かい！ おっさきに→！」

双海真美
「れっつご→！！」

どうして4階が開放されたのかまだ分からないけれど、何もしない訳にはいかないよね。
さて、ボクも探索を始めますか。

——学園内廊下———

ホントだ、あのシャッターがなくなっていて4階に来れた。
いまだにモノクマが何も言ってこないのが不安だけど、とにかく部屋を調べよう。

まず、この部屋は——

「ガチャ、ガチャ……」

——あれ？ 駄目だ、鍵がかかってる。
ここには入れないようだ。

えーっとここは……情報処理室みたいだけどまだ入れないのか。
なんだか出鼻をくじかれちゃったな。

——音楽室—————

うわあ……すごい。
音楽『室』ってあるけど、音楽ホールって感じだ。
お客さんを呼んでピアノの演奏会とかできそうだな。
ピアノも値段が高そうなものがあるし。

如月千早
「すごいわね……」

隣で千早が嬉しそうな顔をしている。
プールの時も思ったけどこの学園って並大抵の設備じゃないな。

三浦あずさ
「ここなら広々と歌えそうだわ、千早ちゃん。昨晩みたいに体育館じゃなくてここで歌えるわね」

如月千早
「え？ 体育館？ ええ、まあ、はい……」

三浦あずさ
「たしか貴音ちゃんがピアノを弾けるって言ってたわね。今度お願いしてみようかしら」

へえ、貴音ってピアノ弾けるんだ。たしかに似合いそうだよね。
ボクも聴いてみたいな、今度お願いしてみようっと。

——職員室—————

よくある学校の職員室、だけど全部の机の上に花が乗っていてなんだか不気味だ。
この花は……ガーベラだっけ？ マーガレットだっけ？
花言葉は分かんないや。

あれ？ 床に写真が落ちてる。
この写真って……

菊地真
「……誰？」

スーツを着た男性が写っていた。
なぜか照れているようで、手で顔を隠そうとしている。
年齢は若そうで20歳くらいかな。

何かの手がかり……なのか？
よく分からないけど、床に置くのもあれだからとりあえず机の上に置いておこうか。

——化学室—————

薬品の匂いがする。
なんだか、病院のような苦手な匂いだ。
だいぶ薬臭いけど、薬品が漏れてたりしないよね？

それにしても大きな棚だ。
そして棚いっぱいに薬品が詰め込まれている。
なんとなく眺めるけれど、さっぱり分からない。
——あれ！？ これはっ！！

菊地真
「プロドルメンXだ！！」

秋月律子
「プロドルメンX？」

菊地真
「海外製の超高級プロテインだよ！ 倉庫にも安物のがあったけど、これはすごいよ！」

よく見たらサプリメントもたくさんあるな。ビタミン、ミネラル、アミノ酸、クレアチン……。

秋月律子
「へ、へえ。そうなのね……」

菊地真
「へへっ、でも他はさっぱりだ。この薬品棚ってすごいの？」

秋月律子
「まあ、凄いわね。普通の学校じゃありえない薬品まであるわ」

菊地真
「このドクロマークのやつとかヤバそうだね」

秋月律子
「あー、それはあれよ、『口からアーモンド臭が〜』ってやつ」

菊地真
「うわあ……」

なんで『あれれ〜？』とかわざとらしく言っちゃう少年が出てきそうな薬品があるんだよ。
どうせモノクマが準備したってだけなんだろうけどさ。

——校長室—————

校長室ってさめったに入る機会がないから、何となく緊張するな。
トロフィーと書類の棚が左右にあって、中央に来客用のソファーとテーブル。
そして正面にいかにも偉い人が使うような、ふかふかそうなイスと高級そうな机。

菊地真
「あれ？ もう朝ごはん食べ終えたの？」

四条貴音
「はい。それよりもこれを見てください」

そう言って差し出されたファイルは表紙に『第78期生在学生名簿』と書いてあった。
ボクは適当にページをめくって項目を読んでみる。

菊地真
「えっと、苗木誠……えっ！？」

苗木誠ってたしかあの、ゲームの中で主人公だった——

四条貴音
「そうです。そこに書かれている第78期生とは、あのゲームの登場人物なのです」

身長160cm、体重52kg、胸囲75cm、超高校級の幸運……
青年というにはまだ幼すぎる、ゲームの中の少年がそこにいた。

名前とか、身長とか、……とかボクにそっくりだけど偶然だろう。
そもそも性別が違うし、声も似てなかったし。

他のページにも、舞園さやか、石丸清多夏、十神白夜。ゲームに出てきた名前だ。
あのゲームのために資料として作ったのか、それとも——

——食堂——————

他に4階にあった部屋は、今まで通り2つの教室だった。
探索を終えたボクは報告を兼ねた休憩をしようと食堂に戻ってきた。

秋月律子
「お帰りなさい。これで全員そろったわね。それじゃあ、簡単に報告をしましょう」

三浦あずさ
「それじゃあ、私からいいかしら。私は音楽室を重点的に調べてみました。音楽室にあったピアノは古そうでしたが、しっかりと音はでましたよ」

如月千早
「ピアノですが、調律もされていました」

へえ、じゃあ本当にそのまま使えるのか。
まあボクはピアノ弾けないけどね。

菊地真
「それじゃあ、次はボクが。職員室だけど、報告するような事は2つだけ。1つは全ての机上にお花が置いてあったんだ。たぶん、ガーベラかマーガレットだと思う」

菊地真
「もう1つは写真が落ちてたんだ。写っている人物は20歳くらいの男性だと思うよ。ボクからはそれくらいだね」

秋月律子
「ええと、私からは化学室についてです。化学室にはサプリメントやプロテインに混じって人体に有害な劇薬もありました。万が一もあるから、絶対に近づかない事！ サプリメントとかが欲しい時はできるだけ私に言ってください」

四条貴音
「それではわたくしから、校長室ではこのような資料を見つけました」

貴音はファイルを開き、苗木誠のページを開く。
みんな驚いているようだけど、それも当然か。ゲームの設定資料にしては……いろいろとおかしすぎる。

——————————

みんなは読んだ資料がどんな意味なのかを考えているようだ。
なぜ、こんな資料が存在するのか——

秋月律子
「——あーえーっと。みんな情報が飽和してきてパニックを起こしかけているところ悪いけど私から、いえ彼女から、また新情報があるのよ」

……正直、これ以上混乱させないで欲しいかも。
律子は軽快にキーボードをたたき出した。

『判明した事実を話してくれるかしら？』

アルターエゴ
「うん、それじゃあ解析したファイルから抽出した情報を僕なりにまとめて話していくね」

アルターエゴ
「調べてみたところ、この学園では『ある計画』が進行中だったみたいなんだ。『希望ヶ峰学園に高校生を隔離し、共同生活を送らせる』そんな計画がね」

アルターエゴ
「そして隔離された高校生は場合によっては学園内で一生を過ごさなければいけないんだ」

菊地真
「ボクらと同じだ……」

アルターエゴ
「そんな計画が立てられたのは1年前に起きた『人類史上最大最悪の絶望的事件』が原因だって」

秋月律子
「そんな事件あったかしら……」

『それはどんな事件かしら？』

アルターエゴ
「ごめんね、それ以上はわからないんだ……。情報がもうここにはないみたいで……。役立たずでごめんね……」

『そんな事はないわよ。あなたは十分働いてくれたわ。ありがとう』

アルターエゴ
「えへへ、ありがとう。もう1つだけ情報があるんだ、これは結構新しいデータから判明したんだけど、どうやらこの学園内に君たち以外に誰かいるみたいなんだ」

ボクら以外……？
それってまさかっ！？

『その人が黒幕なのかしら？』

アルターエゴ
「わからないけど、君たち9人以外に『誰か』がいるようなんだ。その人が黒幕なのかな？」

やっと掴んだ、黒幕の尻尾。ボクらにこんな事をさせている張本人。
それがこの学園のどこかに……いる！

——————————
————————
——————

残念だけど、とアルターエゴは前置きをし『ボクにはもう出来る事はなさそうだから、少し休むね』と悲しそうな顔をしてパソコンはスリープモードへと移行した。
その後、ボクらは食事を挟みながらも話し合いを続け『ある結論』を出した。

秋月律子
「——人物が実在する事。その人物が学園の生徒として在籍している事。そして、学園が存在している事から、あのゲームのは現実に起きた事件であると考えられます」

ボクらが置かれている、このおぞましい事態はボクらだけの事じゃなかった。そんな可能性。

秋月律子
「矛盾点としては、ゲーム内でフィクションと明記されていた事と私たちがその事件を知らない事です。前者はモノクマの嘘だという可能性、後者は隠蔽されたまたは現在進行形であると考えると矛盾はなくなります」

秋月律子
「ゲームの舞台は私たちが今いる学園なのか、そっくりな場所なのかは分かりません。黒幕は100億円をポンと用意出来る相手ですので、別に学園を作ったとも考えられます」

秋月律子
「したがって、ゲームの中の学園生活が終わっているのか否かは分かりません。私たちと同時進行で学園生活を送っている可能性もあります」

秋月律子
「以上が、今のところ考えられるこの『体験版』についてです」

そこでようやく律子は息をついた。
雪歩が淹れたお茶を飲み干してから、テーブルを見渡す。
長時間の話し合いに流石に疲れたのか、それとも結論が結論なだけか、みんなの表情は暗かった。

律子はパンパンと手を叩き、なんとなく視線を下にやっているボクらの視線を集めた。

秋月律子
「ほら、暗い顔をしない！ それじゃあ、もうそろそろ夜時間だから部屋に戻って明日に備えましょう！」

解散となったボクらの顔には疲れが浮かんでいた。

——————————

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「えー、校内放送でーす。午後10時になりました。ただいまより『夜時間』になります。間もなく食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となりま〜す」

モノクマ
「ではでは、いい夢を。おやすみなさい……」

——————————

モノクマ劇場

——あ、すみません自分も詳しい事はまだ……。
あの事務所の方を通して会見をするのでその時にたぶん詳細も発表されるかと。

——ええ、とても嬉しいです。
時間帯ですか？ 聞いてないので分かりませんがゴールデンでも深夜でもどちらでも光栄に思います。

——ええと、あの時点ではまだオファーが来ていなかったので大変驚きました。
あの後知っていたのではと言われたのですが偶然なんですよ。

——まさか、そんな。
予言とか言われても、ただそうなったら嬉しいなとは思ってましたけど。

——圧力だなんて、いやいや。
そんな人聞きの悪い事言わないでくださいよ。まあ、ちょっとだけ……。

——コメントですか、はい。
アニメでもオマエラが絶望出来るように頑張るから、よろしくね！ うぷぷぷぷ……。

——————————

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「オマエラ、おはようございます！ 朝です、7時になりました！ 起床時間ですよ〜！ さぁて、今日も張り切っていきましょう〜！」

結局、夜中まで考えててあんまり良く眠れなかったな。

——Day 1———

——食堂——————

あれ？ なんだか食堂が騒がしい、何かあったのかな。

菊地真
「おはようございまーす」

挨拶をしながら、入って行くと貴音がカメラに向かって捲くし立てるように話しかけていた。
そうとう熱くなっているみたいだけど、どうしたのだろう？

四条貴音
「——て来なさい、モノクマ！ このような狼藉が許されるとでも思っているのですか！ これは規約違反でございます！ 許されざる行為です！ 貴方がそのような態度をとるのでしたら、わたくしも強硬手段も辞さない覚悟でございます！」

萩原雪歩
「お、落ち着いてください、四条さん」

菊地真
「どうしたんだ！？ 何があったの！？」

四条貴音
「わたくしは、わたくしは……。卑怯者！ モノクマ、どういう事なのか早く姿を現すのです！」

菊地真
「律子、何があったの？」

秋月律子
「無くなってたのよ、『食料』が全部ね」

食料が無くなってた？ あれは自動供給されるシステムだったはずだ。
それに昨日まで十分な食べ物があったのも覚えている。

菊地真
「何でなくなってるのさ？」

秋月律子
「わからないわ。今朝、厨房に入ったら食材が1つもなかったのよ。モノクマの仕業でしょうけど、どうしてそんな事をしたのか……」

四条貴音
「——悪魔とてこのような仕打ちはしないでしょう！ 貴方がしている事は外道すら見下げる、そんな行為でございます！」

如月千早
「おはようございます」

星井美希
「おはよーございますなのー」

如月千早
「これは……その、どうしたのかしら？」

菊地真
「食料が全部無くなってるんだ」

如月千早
「えっ！！！？」

星井美希
「おにぎりも！？」

菊地真
「厨房にも、倉庫にも全くないんだ」

如月千早
「どういう……こと？」

星井美希
「うーーーーー許せないのーーーー！！！」

如月千早
「モノクマ！ どういう事よ！ 説明しなさい！！」

？？？？
「もう、朝からうるさいなあ」

唐突に後ろから、あの、薄気味悪い声がした。
みんながいっせいに振り向くとそこにはモノクマが現れていた。

モノクマ
「そんなにうるさいとご近所さんから文句言われちゃうでしょ！ まったく、近頃の若者ときたら……ってボクの方が若いんだけどね！」

如月千早
「そんな事はどうでもいいんです！ どうして食料がなくなってるんですか！」

四条貴音
「食料は自動で供給され、無くなる事はないと言っていたではございませんか！」

モノクマ
「全く何を言ってるのかさっぱりですよ。ボクはただ、等価交換の法則にしたがったまでだよ」

菊地真
「等価交換？」

モノクマ
「だって、オマエラは4階に行ったでしょ？ 本来はもう1回の裁判の後に行く場所だもんね」

菊地真
「お前が勝手に開けたんだろ！」

モノクマ
「違うよ、オマエラがシャッターを開けたら勝手に入ったんだよ。だから、4階に行くのを許す代償として食料を隠したんだ！」

菊地真
「隠したってどこにだ！」

モノクマ
「そんなの決まってるでしょ、秘密だよ」

四条貴音
「でしたら、探させてていただきます」

如月千早
「うそ……」

モノクマ
「オマエラは次に誰かが死ぬまでごはんはお預け！ 精々頑張ってねー！！」

四条貴音
「待ちなさい！！」

声も空しく、モノクマはいなくなった。

事件が起きなければ……食事は出来ない。

新たなる動機の提示。

ボクらは戸惑うだけだった。

——————————

ぐうぅぅ〜

誰かのお腹が鳴った。

あの後、厨房にある物を確認したところ、残っているはお茶とコーヒーだけだった。

秋月律子
「なるほどね、カロリーのあるものは全部隠したと」

萩原雪歩
「これからどうしよう……」

菊地真
「探そう、食料はどこかにあるはずだよ」

四条貴音
「ものくまは『隠した』と表現しておりました。つまりどこかにあるのです」

三浦あずさ
「困っちゃうわね〜、でもそうしましょう」

星井美希
「おにぎりのない生活なんて、ミキ考えられないなって」

こうして、ボクらはモノクマが隠した食料を探すことにした。

——菊地真の部屋——

だらだらと経緯を話しても、意味がないだろうから結論だけ言おう。

食料は米粒1つすら無かった。

しかし、探索はムダではなかった。
なぜなら化学室のサプリメントとプロテインが残っていたからだ。

幸いなことに蛇口を捻れば水は出てきた。

サプリメントとプロテインそして水があれば当分は大丈夫というのが律子の話だ。

ただし、それは栄養的にであって空腹は解消出来ない。

これまでもどうなるのか分からなかったけど、今はお先真っ暗って感じだ。

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「えー、校内放送でーす。午後10時になりました。ただいまより『夜時間』になります。間もなく食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となりま〜す」

モノクマ
「ではでは、いい夢を。おやすみなさい……」

とにかく今日はもう寝よう。

——————————

モノクマ劇場

シングルベール、シングルベール、グズが泣く〜

今日はなんかの記念日だったような気がするんだよね。
何だっけな？ 誰かの誕生日だったかな？

12月25日に産まれた人を祝福する日かな？

サタン苦労すが関係したような？

独り身の絶望を味わう日だったっけ？

——————————

「キーン、コーン…カーン、コーン」

モノクマ
「オマエラ、おはようございます！ 朝です、7時になりました！ 起床時間ですよ〜！ さぁて、今日も張り切っていきましょう〜！」

お腹が減った。ご飯は……ないけれど、食堂に行かなきゃ。

——Day 2———

——食堂——————

星井美希
「なーーーーのーーーーー！！」

菊地真
「お、おはよう。今朝は早いね、どうしたの？」

星井美希
「腹が減っては睡眠は出来ないんだよ」

まあ、分からなくもないかな。
実際ボクも空腹で目覚めたに近いから。

菊地真
「そっか、それで早かったんだ」

星井美希
「飲み物があってもキャラメルマキアートがないとかそんなの絶対おかしいよ」

菊地真
「カロリーがあるからモノクマが隠したんだろうね」

星井美希
「おにぎり、どこかに落ちてないかな」

菊地真
「落ちてるおにぎりは食べないほうがいいと思うよ……」