ほむら「全てはあなたのため」(57)

まどか「ごめん、ほむらちゃんの言ってる事、全然分かんない」

ほむら「ま、まどか」

まどか「じゃ、じゃあね」

ほむら「待って!待ってよ!」

ほむら「待って・・・」

嫌われた
まどかに嫌われた
何回も時間を繰り返して来た
でも
この時間では、まともに話してもくれなかった
とうとう嫌われてしまった

何がいけなかったんだろう
どうしてこうなるんだろう
わたしは、小さくなっていくまどかの後姿を見つめて
じっと立ちつくすしか出来なかった

涙が頬を伝って落ちた

まどかを救いたかった
わたしの大切な友達、まどかを守りたかった
あなたを待ちうける絶望の運命から
だけど
時間を繰り返すたびに、心が離れていく感じがする

もう何人の違うまどかを見てきただろう
一人ひとり今でも思い出せる
そして
その思い出が積み重なるたび
わたしの心も重くなる

そのまどかに嫌われた

頭が真っ白になった
何のために時間を繰り返しているの
それすらも、もうわからない

わたしは空っぽだった

もう
やめちゃおうか

ふと、そんな考えが浮かんだ
心はもう麻痺してた
このまま魔女になっちゃえば楽なんじゃないのかな
何も考えずに暴れまわって誰かに倒される
その方が楽なんじゃないのかな

このままわたしが本当に諦めれば
あっという間にソウルジェムを闇色で染めてしまうだろう
わたし自身の呪いで

もしかしたら
魔女となったわたしが、まどかを殺してしまうのかもしれない
どちらにしろ、ワルプルギスの夜に命を奪われてしまうんだ
その方がいいのかもしれないね
せめて自分の手で

自分の手で?

まどかはどんな死に方をするんだろう
痛いんだろうか
悲しいんだろうか

せめて苦しまない死に方をして欲しい
わたしはもう守れないから
大切なまどかを

もう心が折れちゃった
ごめん
ごめんね、まどか

せめて苦しまないように死ねるように
祈る事しか出来ないよ
わたしはもう神様を信じられないけど
あなたの事だけは神様に祈る

ううん
もう一つ方法がある

そう
自分の手で

まどかを自分の手で殺す
苦しまないよう
安らかに眠れるように

それは素晴らしい事に思えた
たぶん
わたしの心は壊れちゃったんだ

だって大事だったんだ
まどか、あなたが
でも失っちゃった
この気持ちがわかる?
この喪失感がわかる?

これは、まどかに対する最後のわたしの気持ち
受け取って欲しい
わたしがあげるのは

ほむら「あなたの安らかな死よ・・・まどか」

ほむら「アハ・・・アハハハハハッ!」

まどか「・・・はぁ」

逃げ出しちゃったな
でも
良かったのかな

ほむらちゃん、あんなに必死だった
もっと話を聞くべきだったのかな

まどか「わたしを守るってなに?」

まどか「わからないよ、全然」

正直、少し怖かった
ほむらちゃんは自分の事を何も話してくれないもん
悪い子には見えないけど
どう信じろっていうの?

まどか「え!?」

目を疑った
目の前に、ほむらちゃんが立ってた

ほむら「まどか・・・」

まどか「ほむらちゃん、何で?」

何でだろう
いつものほむらちゃんなのに
泣きそうな顔に見える

ほむら「信じてもらえないと思うけど」

ほむら「わたしはあなたを大切に思ってる」

まどか「え?」

ほむら「あなたには苦しんで欲しくない」

ほむらちゃん
何を言ってるの?

ほむら「だから、せめてわたしの手で天国に行かせてあげる」

天国って・・・なに?
わたしの耳がおかしくなっちゃったの?

まどか「い、意味が分かんないよ」

まどか「さっきの態度を怒ってるの?それとも冗談なの?ねえ」

ほむら「ごめん、まどか」

まどか「何で謝るの?何に対するごめんなの?」

ほむらちゃんは何も言ってくれない
何でそんなに打ちひしがれた目をしてるの?

まどか「嫌な思いをさせたんなら謝るよ」

まどか「だから、そんな目をしないで」

だけど
ほむらちゃんは無言で魔法少女に変身した
そして次の瞬間
わたしは押し倒されて、頭に銃を突きつけられてた

どうしよう思考が全然追いつかないよ
何これ
どうなってるの?

まどか「何でこんな事するの?」

ほむら「全てはあなたのため」

ほむら「大丈夫・・・銃声を聞いたと思ったら終わってるから」

まどか「ぜ、全然大丈夫じゃないよ・・・何で?何でこんな事」

でも
わたしは分かった
ほむらちゃんの目に冗談の欠片も見当たらなかった
本気なんだ
本気でわたしを殺す気なんだ

まどか「嫌だ・・・死にたくないよ・・・まだ死にたくないよ」

まどか「助けて・・・お願い、助けてよ」

一瞬
ほむらちゃんの目が揺れた気がした

ほむら「助けようと・・・したよ」

ほむら「何度も何度も何度も何度もッ!」

ほむら「何度だって繰り返せるって思ってた!救えるって思ってた!」

まどか「ほむら・・・ちゃん?」

ほむら「わたしはただ、あなたに笑ってて欲しかっただけなのに!」

ほむら「何で笑ってくれないの?」

ほむら「何でわたしに笑いかけてくれないのよぉ!」

何を言ってるかは、今も分からない
分からないけど
この人は本気で悲しんでる

ほむら「ごめん、訳が分からないよね・・・気持ち悪いよね」

わたしは無言で首を振った
気持ち悪いなんてある訳ないよ
ほむらちゃん、必死だもん
こんな必死に何かを伝えようとしてる所、初めて見るよ

だとしたら悪いのはわたしかも
今までどれだけ本気で話を聞こうとした?
分からないばっかりで
どれだけ分かる努力をしようとしたの?

ほむらちゃんをここまで追い詰めたのは
誰でもない、わたしなんだ

あなたをここまでさせるものは何なんだろう
知りたい
でも
わたしは知る努力をして来なかった

何でいつもこうなの?
何で嫌いなままの自分でいるの?
もう、消えたい
消えるべきなのかもしれないね

もう仕方ない事に思えちゃったな
だから

まどか「わたしこそ、ごめん」

まどか「なるべく痛くしないで欲しいな・・・あはは

ほむら「それは約束するわ」

まどか「うん、ありがと」

まどか「一つ聞いていいかな?」

ほむら「何?」

まどか「もしかして、わたしの知らない所で」

まどか「わたしとほむらちゃんは知り合いだったの?」

ほむらちゃんは少し驚いたようだった
でも
すぐに表情を戻して言った

ほむら「そうね」

ほむら「あなたはわたしの大事な友達」

ほむら「たった一人の大事な友達」

大事な・・・友達

わたしは
わたしは大事な友達って言ってくれる人に
こんなことをさせてる

こんなことをさせちゃったんだ

まどか「ごめん・・・ごめんね」

涙が溢れて止まらなかった
何てバカなんだろう、わたし

ほむら「あなたが謝る事はないわ」

まどか「ありがとう」

ほむら「もう・・・終わりにする」

まどか「うん」

わたしは目を閉じた
嘘みたいだな
死ぬ前にこんな穏やかな気持ちだなんて

自分が死ぬって分かったら
もっとメチャクチャになるって思ってた
怖くて怖くてどうしようもないって
もしかして
泣きわめいちゃったりするかも

そんな姿、簡単に想像出来るよ

ほむら「さよなら、まどか」

まどか「さよなら、ほむらちゃん」

ああ
終わる
銃声が聞こえたら終わるって言ってたな
やっぱり少し怖いな
早く終わらせてくれないかな

ポタッ

なんだろう
この頬に落ちた熱いものは
なんだろ、これ

いつまでたっても銃声は起きない
その間
熱いものはずっと頬に落ちてた

わたしはそっと目を開けてみた
そこにあったのは
顔をくしゃくしゃにして泣いてるほむらちゃんだった

ほむら「無理だよぉ・・・出来る訳ない」

ほむら「大事な友達なんだもん・・・出来る訳ないよぉ」

その瞬間、わたしは理解した
この人はわたしと同じ
わたしと同じ弱い人なんだ

弱いのに
こんなこと・・・させて

まどか「ごめんなさい・・・ごめんなさいぃ」

わたし達はずっと泣いてた
どの位の時間が過ぎたかも、分からなかった

そして今、わたし達はほむらちゃんの部屋にいる

わたし達は無言で立ち上がり
無言で歩いた
繋がれた手だけが暖かかった
それが自然な事に思えた

ほむらちゃんは教えてくれた
別の時間から来た事も
何で魔法少女になったかも
全部教えてくれた
これから現れる最強の魔女も、何もかもを

まどか「何で今まで、ちゃんと話を聞く事が出来なかったのかな」

悔しかった
こんな思いをほむらちゃんにさせた事が
情けないよ

ほむら「しょうがないわ」

ほむら「信じる方が難しい話なんだから」

ほむらちゃんは寂しそうに笑った

そんな顔をして欲しくなかった
ほむらちゃんこそ、笑って欲しい
そんな
膝を抱えて寂しそうにして欲しくないよ

でも
何をすればいいのか分からなくて
何かをしなくちゃと思って
わたしは、ほむらちゃんに駆け寄った

ほむら「んっ!?」

気づいたら、ほむらちゃんの唇を塞いでた
自分でも何をしてるのか分からなかった

まどか「ごめ・・・わたし、わたし」

ほむら「まど・・・か?」

まどか「わたしバカだから、どうしていいか分からなくて」

まどか「な、何やってんだろね、わたし」

恥ずかしくなって顔を手で隠した
どういう事なのか、自分でも分かんない

まどか「ごめん、ごめんなさい」

どう思っただろう
ほむらちゃんは、どう思っただろう
何でこんな事しちゃったの?

見れない
ほむらちゃんの顔が見れないよ

その時
何かに包まれる感じがした
恐る恐る
顔を隠してた手をどけてみると
ほむらちゃんに抱き締められてた

ほむら「ありがとう、励まそうとしてくれたんだよね」

その腕はとっても暖かくて
わたしはまた泣きたくなった

肩を震わせるわたしに
ほむらちゃんは後ろからそっと顔を近づけてきた
すぐ何をするのか分かった
鈍いわたしでもね、それくらい分かるよ
唇は優しく重なった

自分で受け入れたのに
心臓が跳ねあがった感じがした
すごい
心臓の音が聞こえるかと思ったよ

優しいキス
それはたぶん
ほむらちゃんの優しさ

あなたは間違ってないんだよという
無言のメッセージ

もちろん、こんなの間違ってる
ほむらちゃんの望んでるのは、こんな事じゃない
わたしは、この人を傷つけてるのかもしれなかった
でも、それでも
何かの繋がりを求めたかったんだ

キスは涙の味がした

まどか「ごめんね、わたしバカでごめんね」

ほむら「そんな事ない・・・バカなのはわたし」

ほむらちゃんの目にも涙が浮かんでる
我慢しきれなかったんだね
あっという間に溢れちゃうのが見えた

二人でボロボロ泣いた
泣きながらキスした

唇を求め
唇を求められ

より深く求め
より深く求められ

歯が当たって、二人で笑った
泣きながらだったけど、笑った

大人から見れば
子供がおままごとしてるようにしか見えないよね
でも
わたし達にしてみれば真剣だったんだ

お互いを求める事は
お互いがそこにいるのを確認する事だった

もう間違ってるなんて関係ないよ
わたし達にこれ以上正しい事があるなら
誰か教えてよ

だから
わたし達は服を脱いだ
それが自然な事だったから

お互いの体にキスした
その意味も分からなかったけど
夢中でキスした

ほむら「んんっ」

まどか「あっ」

わたしのキスに
ほむらちゃんが反応してくれるのが嬉しい

ほむらちゃんの唇が
わたしの体に触れるのが嬉しい

これはえっちの真似事
ただの、おままごと
でも
わたし達には最高のおままごと

やがて
体が熱くなってきた
ほむらちゃんの唇が熱く感じるよ
顔が火照って
抑えてた喘ぎ声が出ちゃう
恥ずかしいよぅ

体も何か、ふわふわしてきた
何これ?
どうしちゃったの?

まどか「ほむらちゃ・・・わたし・・・何だか」

ほむら「わたしも・・・だよ」

ほむらちゃんも声をあげてた
その声が可愛くて
何だか嬉しかった

それから二人で抱き合ってボ~っとしてた
どう言えばいいのか分かんないけど
自分がリセットされちゃった感じ
これが一番近いのかな
分かんないな

わたしは、ほむらちゃんの顔を見た
ほむらちゃんも、わたしの顔を見た

まどか・ほむら「ぷっ」

二人で笑った

まどか「ティヒヒ、わたし達ちょっと大人だね」

ほむら「大人なのかな」

まどか「ごめんね、本当はこんな事したくなかったよね」

ほむら「ん~ん、嬉しかった」

ほむら「まどかの気持ち感じられて、嬉しかった」

まどか「でも、ごめんね」

ほむら「何だか、二人でごめんばっかりだね」

ほむらちゃんはクスっと笑った
その笑顔はとても自然で
それはとっても素敵だなって思う

まどか「ありがとう」

ほむら「わたしも、ありがとう」

わたし達はまた唇を重ねた
自然に出来て嬉しかった

でも
こういう事はこれが最後だって分かった
だって
もうこんなの必要ないから
お互いが大切だって、分かったから

大切だって思える事が嬉しいよ
思ってもらえる事が嬉しいよ

そして
ワルプルギスの夜が現れた

ほむらちゃんは、勝てなかった

ほむら「また、あなたを救えなかった」

ほむら「ごめんね・・・ごめんね」

まどか「そんな事ない、わたしは十分救われたんだよ」

まどか「こんなになるまで戦ってくれて、ありがとう」

悲しくてじゃなく
嬉しくて、わたしは泣いた

まどか「わたしの為に、ごめん」

ほむら「また、ごめんばっかりだね」

また二人で笑った
こんな状況でも笑っていられる
それは、とってもおかしな事
でも
それは、とっても大事な事

ほむらちゃんが、わたしの頬に手を触れた
わたしには分かった
それが別れの合図だって

まどか「行くの?」

ほむら「うん」

まどか「わたしが言うのも変かもしれないけど」

まどか「その、無理はしないでね」

ほむらちゃんは優しく抱きしめてくれた

ほむら「わたし、今のあなたから勇気をもらった」

ほむら「だから戦い続けるよ・・・まどかを救う、その日まで」

わたしは、ほむらちゃんにキスをした
もうしないって思ってたけど
今はそれだけで気持ちが全部伝わるって思ったから

次の瞬間
もうそこには、ほむらちゃんの姿はなかった

唇だけに感触が残ってて
わたしは指でなでた
きっと思いは伝わったよね

思い出の道を一人歩く

ワルプルギスの夜に壊されてしまってるけど
あの日、ほむらちゃんと手を繋いで歩いた道を歩く

最悪の魔女はまだ暴れてたけど
そんな事はどうでもいいよ
あんたにも、わたしの思い出は壊せない

わたしの思いも壊せない

大事な友達って言ってくれたんだ
その嬉しさは、あんたなんかに分からないよね

ほむらちゃんの顔を思い浮かべた

まどか「頑張ってね」

まどか「それと、ほむらちゃんに救ってもらえる」

まどか「わたしじゃない、わたし」

涙が一筋、頬を流れた

まどか「ほむらちゃんを大事にしてあげてね」

わたしは目を覚ました

そこはいつもの始まりの場所
病院のベッドの上

わたしは飛び起きる
眼鏡を外し、魔法を掛ける
三つ編みにしてた髪をほどく
まるで
それが何かの儀式のように

今度こそ、まどかを救う
まどかに勇気をもらった
それを無駄になんかするもんか

嫌われてもいい
無視されてもいい
わたしは、まどかを救うだけ

もう迷わない
もう
何があってもくじけない

              END

あの気弱なほむらが、ああなるって
相当なことがあったって思うよね

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom