アルミン「巨人の子」(43)

*人類が巨人に勝ってから数年後の設定です



ジャン「よっ、アルミン」ガチャ

アルミン「ジャン、ひさしぶり」ニコ…

ジャン「お前のところの部下が、アルミンが1週間も仕事部屋に引きこもってるっつーから、立ち寄ってみたんだけど」

アルミン「それはありがとう…」

ジャン「なんかボロボロだな」

アルミン「満身創痍だよ」アハハ


ジャン「引きこもって、好きなことしてるくせに。仕事人間」スタスタ

アルミン「ジャンの顔見たら、おなかがすいたよ」グー

ジャン「カーテンくらい開けろよ。苔が生えちまう」シャッ

アルミン(…うわ)

ジャン「1週間ずっとカーテン閉めてたのかよ」ヤレヤレ

アルミン(…眩しすぎる)

ジャン「アルミン?」

アルミン「明順応がうまくいかない…」クラ

ジャン「なんだか太陽の光が、やけに…白いな…」

アルミン「……うん…」


ジャン「ずっと執筆してたのかよ」ヨイショ

アルミン「わわ、きみが今腰掛けた僕の机には大切なメモが」

ジャン「こんな紙切れ!!」クシャクシャ

アルミン「なにするんだよ!!」アセアセ

ジャン「こんなものいらない」ビリビリ

アルミン「理由のない破棄!?」涙目


ジャン「今お前が書いているやつは随筆なんだから、メモなんていならいだろ」ポイ

アルミン「それでも構成は考えないと…」シュン

ジャン「ありのまま書けばいいじゃん」

アルミン「それはそうなんだけど」

ジャン「いつごろ完成しそうなんだ?」

アルミン「あと1ヶ月くらいは必要かな…」

ジャン「…楽しみだな」

アルミン「………僕は…」

ジャン「なんだよ」

アルミン「僕は泣きそうだ」

ジャン「は?」


\コンコン/



ジャン「はーい」

アルミン「なんでジャンが返事をするの…」

ジャン「いいじゃん」

アルミン「きっとミカサだよ」

ジャン「へ」

ミカサ「アルミン」ガチャ


ジャン「…よ、よう、ミカサ」

ミカサ「ジャンも来ていたの」スタスタ

アルミン「僕のことを心配して来てくれたんだ」ニコ

ジャン「ち、げーし、そんなんじゃねえ」

ミカサ「…そう。ありがとう、ジャン」ニコ

ジャン「……別に」カア

アルミン「………」ニコニコ

ジャン「くそっ」ポカッ

アルミン「いた!」

ミカサ「?」

アルミン「もう…。ミカサ、迎えに来てくれたんだよね?ありがとう」

ミカサ「いや、すぐに行く?」

アルミン「うん、もう向おう」スッ

ジャン「…どこに?」

アルミン「エレンのところだよ」ニコ


ジャン「そうか…」チラ

ミカサ「…なにか?」ニコ…

ジャン「!」フイ

アルミン「ジャンも行くかい?」

ジャン「…いや、俺は待ってるよ」

アルミン「そう?」

ジャン「ああ。…そうだな、俺の部屋で待ってるから、帰ってきたら寄れよ」

アルミン「わかった」スタスタ




アルミン「行ってくるね」ニコ

ミカサ「…また」

ジャン「ああ」


バタン


ジャン「………」






ミカサ「相変わらず、この建物は白い」スタスタ

アルミン「病院は清潔感を現すために白を使うらしいよ」スタスタ

ミカサ「そう…」スタスタ

アルミン「でも」スタスタ

ミカサ「?」スタスタ

アルミン「白すぎて、…白すぎて、なんだか」

ミカサ「アルミン」スッ

アルミン「ミカサ」

ミカサ「私は平気」ニコ

アルミン「……うん。僕も」




ハンジ「やあやあ、二人とも久しぶりだね!」

リヴァイ「………」

アルミン「お二方、ご無沙汰しています」ペコ

ミカサ「……」ペコ

ハンジ「いやー、いつの間にか偉くなっちゃって」

アルミン「そんなことないですよ」

ハンジ「そんなことあるよー、偉い偉いよー」

リヴァイ「おいクソメガネ。今はやることがあるだろ」ギロリ

ハンジ「はいはいはい。もー、重いよ重い、空気が重い苦しい」


ミカサ「あの」

リヴァイ「なんだ」

ハンジ「なに?」

ミカサ「…今日はありがとうございます」

アルミン(……ミカサ)

ハンジ「いいえ、エレンは私たちにとっても大事な仲間、なんだよ」ニコ

リヴァイ「……部屋に入るぞ」

アルミン「はい」






アルミン(…白い、エレンの寝顔)

ハンジ「このおっさんが少し無理してくれてね」

リヴァイ「あ?」ギロッ

ハンジ「安心して、エレンを連れ出していいよ」ニコッ

リヴァイ「…ちっ」

ハンジ「エレンを連れて行くのに、車椅子も借りたから」

アルミン「何からなにまで…ありがとうございます」


リヴァイ「…エレン…か」スッ

ミカサ「……」

リヴァイ「おい、クソガキ。なにちんたら眠ってやがる」

ハンジ「…リヴァイ」

リヴァイ「ハナから終わりまで、本当に甘ったれた奴だ」

ハンジ「………」ポンポン



アルミン(エレンの病室はいつも静かだ。

     白い壁、白い天井、白いベッド、白いカーテン…。

     覗くようにそそぐ太陽の白い日差しが、まるで、)



ミカサ「…エレン」ジワ



アルミン(僕たちを刺しているようだ)


,



ミカサ「…エレン、起きないの?」ナデナデ


ミカサ「…………エレン…」ギュ


アルミン(握り返すことのない、エレンの…白い手)







ハンジ「じゃあ、気をつけてね」

アルミン「ありがとうございます」

ミカサ「……」ペコ

リヴァイ「おい、お前ら」

アルミン「はい」

リヴァイ「帰って来いよ」ギロ

アルミン「……もちろん…」

ミカサ「…はい」







ハンジ「行っちゃったね」

リヴァイ「夕方になる前に帰ってくるだろうが」

ハンジ「…予定ではね」

リヴァイ「おい」

ハンジ「いやいや、あの二人はきちんと帰ってくるよ。エレンを連れて逃走とかはないよ」


ハンジ「そういう子たちだよ」

リヴァイ「………」

ハンジ「まあ昔、嫌気が差すほど、政府が上手く利用することのできた、あの3人のこととなれば」

リヴァイ「………」

ハンジ「多少のことがあっても、上は目を瞑ってくれるよ」

リヴァイ「クソだな」

ハンジ「なにがよ」


リヴァイ「……そんなもののために、闘っていたんじゃない」

ハンジ「そうだよ。私たちはそんなことのために、闘っていたんじゃない。
    人の尊厳と自由を夢見て…けれど、結果としては政府の糧になるだけだった。
    わかってたけどね。わかってたけど…」

リヴァイ「……」フイ

ハンジ「少し静か過ぎる生活になっちゃったよね」

リヴァイ「もう行くぞ、クソメガネ」スッ

ハンジ「うん、行くよ」

リヴァイ「………」

ハンジ「懐かしいね」

リヴァイ「……そうだな」

ハンジ「そりゃ、私たちも歳を取るわ」

リヴァイ(結局勝ったのは、闘うことを知らない奴らだ)

ハンジ「今日は、ひときわ…太陽がまぶしいね」







ミカサ「エレン、風が気持ちいい」ガラガラ

アルミン「ミカサ、石があるよ。車椅子気をつけて」

ミカサ「わかった」ガラガラ

アルミン「懐かしいね、ここ」

ミカサ「よく3人で遊んだ」

アルミン「まだ咲いてるんだね…リンドウ」

ミカサ「…うん」


アルミン(突き抜けるように青い空。
  
     刺すように痛い白い太陽。

     心地のよい風が、膝丈までよく伸びたリンドウを揺らす)



アルミン(鮮明に蘇る。
   
     今日までの親友のこと。

     出会った時からのこと、ずっと)



アルミン(思い出を、なぞる)








ジャン「俺がアルミンの部屋にこもっててもしかたねーか」ボリボリ


ジャン(…もう二人は病院をでたかな。

    アルミンには、俺の部屋に来いって言っちゃったし、部屋に戻るか)ガタッ


ツルッ ドタンッ


ジャン「くっそ!!!なんだ!!!この紙切れは!!!俺を転ばせて…」


ジャン「ん?“エレンの気持ちがわからなかった”…?」


ジャン(アルミンが今、書いている本か)


ジャン(気持ちがわからないも何も…エレンはお前ら二人を守りたかっただけだろ、いつだって)


ジャン「まったく」ガサガサ


ジャン(ビリビリに破いたアルミンのメモを掻き集める。

    アルミンが今までに執筆したのは研究による本しかない。

    そんなあいつが、“エレンが決めたエレンの期限”を目前に、随筆を書き始めた)



ジャン「当時誰かが、アルミンは非情だって言ってたな」

ジャン「そうです、言ったのは俺です」アハハ

ジャン「はー」フリフリ




ジャン(捨ててきたものに、情があるかないかなんて、本人にしかわからない。

    アルミンは、本を書く。

    捨ててきたものを、拾うように。

    忘れないように、とっておくために、誰かに覚えていてもらうために。

    アルミンの心の底に溜まる、“捨ててきたはず”のものが、湧き上がって活字に映る)



ジャン「バーカ!」




ジャン(もう誰もいない。


    それでも…)








アルミン(エレン。

     僕たちのしてきたことは正しかった。

     人類は勝ち、世界は踊る。
  
     色に満ちる、明るい街。

     壁より広い空、動物が群れをなす大地、太陽が沈む海)


アルミン(エレン…)


アルミン(どうやら、色んなものを捨てすぎた。

     足りないものが多すぎる。

     埋まらない穴を見つめることしかできない)








ミカサ「…いってらっしゃい、エレン」ナデナデ




アルミン(君がいない僕は)



アルミン「…エレン」




,









アルミン「…ミカサ」

ミカサ「そろそろ、帰ろう、アルミン」

アルミン「そうだね」

ミカサ「ジャンが待ってる」

アルミン「え?ミカサもジャンのところ行くの?」

ミカサ「?
    ジャンは待ってると言っていたはず」

アルミン「そうだけど…」

ミカサ「?」

アルミン(よかったね、ジャン)


ミカサ「私たちは生きる」

アルミン「うん」

ミカサ「生きていける」

アルミン「うん」

ミカサ「アルミンを失いたくない」

アルミン「……僕もだよ、ミカサ」


アルミン「書きたい本もまだあるしなあ」

ミカサ「アルミンは働きすぎ」

アルミン「鬼のミカサ教官にはかないません」

ミカサ「やめて」

アルミン「あはは」



ゴォォ


ミカサ「…風が」

アルミン「……戻ろうか」

ミカサ「ええ」









,



ジャン「“賞賛、畏怖、期待、憎悪…彼は色々なものと闘っていた。”


    “僕とミカサは彼の尊厳を守りたかった。”

    
    “ある日、彼の体が朽ちはじめる。限界が来たのだ。”」




アルミン(さようなら、エレン)




ジャン「“彼は特別に崇高な人間ではなかった。”


    
    “夢を見る、ごく普通の少年だった。”」



.



アルミン「僕たちは、ここで生きてゆく」



.



★ お わ り ★

ここまで読んでくださった方、ありがとうございます

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom