男「職業は?」少女「当たり屋」(247)

男「いやいや、聞いておいて何なんだけどさ、女子高生だよね」

少女「まだまだ新参者ですけど、当たり屋として日々精進してます」 ムスッ

男「じゃあその制服は」

少女「ユニフォームです。フリマで500円で買いました」

男「冗談やめてくれない?俺のスクーター、君のせいで壊れちゃったし」

少女「私もまさかここまで大破するとは思いませんでした。しかもあなたに当たれなかったなんて、当たり屋失格ですね」

男「何その俺が勝手に壁にぶつかったみたいな言い方」

少女「いえ、全部私のミスです。ごめんなさい」

男「やっと謝ってくれた。じゃ、連絡先教えてよ」

少女「えっ、そんな、困ります」

男「俺の方が困る」

少女「だって、私とあなたじゃ年の差があまりにも……」

男「好きなわけじゃねーよ」

男「スクーター、君の親に弁償してもらうから」

少女「親はいません」

男「それも嘘だろ」

少女「本当です。父さんは私が産まれてすぐに蒸発しました。母さんは二年前に病気で死にました」

男「……ごめん」

少女「いいですよ、事実なんですから」

男「……」

少女「じゃ、私はこれで」

男「おいおい、ちょっと待て」

少女「何ですか」

男「親がいるにしろいないにしろ、弁償してもらわないと困る」

少女「困るんですか?」

男「困る。今も困ってる」

少女「とんだ困ったさんですね」

男「君の方が困ったさんだよ!」

少女「仕方ないですね。当たってきますから待っててください」

男「えっ」

少女「えっ、って、それが私の仕事ですし」

男「そんなことで弁償してもらっても後味が悪い。バイトは?」

少女「本業で手一杯です」

男「ていうかさ」

少女「ん?」

男「当たり屋は仕事じゃねぇ」

少女「えー」

少女「それなら体でも売ってきますよ」

男「やめてよ」

少女「だって、お金が欲しいんでしょう。それでスクーター買うんでしょう」

男「そりゃそうだけど、ちゃんと綺麗なお金で返して欲しい」

少女「わがままですね」

男「いや、それが普通だから」

少女「……じゃ、こんなのはどうですか」

少女「私があなたに体を売ります。スクーター分満足したと思ったら捨ててください」

男「またそんなのか、嫌だよ」

少女「あー、やっぱり断ると思った」

男「ちゃんと働こうよ。コンビニのバイトでよければ紹介するから」

少女「コンビニですか。素敵ですね」

男「じゃ、決まりな。今から行こう」

少女「今から?アポもとらずに?」

男「コンビニにアポなんてとるかよ」

少女「やってきましたコンビニ!」

店員「しゃーせー」

男「店長呼んでくれるかな」

店員「やしたー」

少女「店長を呼びつけるなんてまるでクレーマーですね」

男「人聞きの悪い」

店長「いや、あげたての唐揚げを要求したり、アイスを温めさせたりするからわりと店員から嫌われてるぞ、お前」

男「えっ」

少女「おお、目に見えてショックを受けている!」

男「死にたい」

店長「メンタル弱いな」

少女「本当にちょっとしたクレーマーもどきだった……」

店長「で、今日は何だ」

男「ああ、こいつを働かせてやって欲しいんだ」

店長「お前、こんな可愛い子とどうやって知り合ったんだ」

男「ええと……姪だよ、姪」

店長「お前の姉ちゃん結婚してないだろ」

男「あれだよ、いとこの子ども。面倒だから姪って言ったけど」

店長「名前は?」

少女「少女です」

店長「少女ちゃんっていくつ?」

少女「花も恥らう16歳です!」

店長「16歳か、若いねぇ……」

少女「わ、若いので飲み込み早いですよー」

男「友達のよしみで頼むよ」

店長「声も大きいし笑顔もいいし、よしみなんかなくても雇うよ」

少女「ありがとうございます!」

店長「それじゃあ履歴書書いてくれる?君のこと、知っておかなくちゃダメだから」

少女「えぇー……」

男「絶対に書かなきゃダメか?」

店長「ああ」

少女「ええと、住所は……」

男「ほら、貸して」

店長「何でお前が書くんだ」

男「こいつ、先月から俺の家で暮らしてるんだけど、住所覚えてないんだよ」

店長「美少女と一つ屋根の下だと」

少女「美少女だなんて!」

男「手なんか出してないからな」

店長「あれ、高校いってないんだ」

少女「色々ありまして」

男「まさか不採用なんて……」

店長「むしろたくさんシフト入ってもらえて助かる」

少女「ガンガン入ります!」

店長「じゃあ早速シフト組もうか」

男「これで立派なフリーターだな」

少女「当たり屋卒業ですね」

男「あいつがくれた廃棄の幕の内でお祝いだ」

少女「ケーキは?」

男「借金してる身でよく言えたな」

少女「ケーキ」

男「……」

少女「ケーキ」

男「わかったよ!」

少女「うーん、美味しい。誰かと食べるご飯って美味しいですね」

男「わかったから揺れるな」

少女「男さん、ケーキ半分こしましょう」

男「半分こ?」

少女「タルトも食べたいし、モンブランも食べたいですもん」

男「それなら二つとも食べな」

少女「分かち合いましょうよ」

男「包丁持ってくる」

少女「うわあ、タルトがぐちゃぐちゃになっちゃった」

男「不器用だな。俺がやるよ」

少女「ぷっ、男さんも下手じゃないですか~」

男「タルトだ、タルトが悪い」

少女「包丁も悪いですよ、刃がボロボロ。研いでもどうにもなりませんね」

男「包丁なんて使わないし」

少女「使わなきゃここまでなりませんよ。何切ったんですか」

男「あー、蟹かなあ……」

少女「カニ!」

少女「ずるいずるい!カニ食べたかった!カニ!」

男「三年前だし」

少女「カニィ!」

男「貰い物だったから」

少女「カニ爪!カニ味噌!カニ身!」

男「蟹買う金なんかない」

少女「カニバリズム」

男「おい、包丁を構えるな」

少女「一人でカニなんてひどすぎる。ケーキは没収します」

男「せっかく切ったのに」

少女「でもかわいそうだから栗はあげます」

男「あ、優しい」

少女「カニ、待ってます」

男「借金を忘れたか」

少女「毎晩廃棄弁当」

男「何だと……」

少女「もらってこれるんですよ?もちろん男さんの分もね」

男「何蟹がいいですか」

少女「タラバ!」

少女「男さん、通販やってますよ」

男「お、タラバか」

少女「うわあ、今ならもう一杯つくんですって!」

男「じゃ、家一杯と店長に一杯やるか」

少女「店長に?」

男「たくさん嘘もついたしな」

少女「申し訳ないことをしました」

男「かと言って本当に家にあがりこんでくるとは思わなかった」

少女「宿無しだって言ったら男さんがいれてくれたんじゃないですか」

男「スクーターのことがあったから」

少女「本当にスクーター好きですね。スクーターと結婚すればいいのに」

男「早く買わなきゃならないんだ」

少女「通勤手段でした?」

男「違う。型落ちしてるから早くしないと売り切れるんだ」

少女「別のにしないんですか?あ、壊れたスクーターの分しか払いませんけどね」

男「あれがいいんだ。姉ちゃんが買ってくれたスクーターだから」

少女「シスコン?」

男「かもな」

男「というわけで明日はスクーター買いに行くけど。一緒に行く?」

少女「さっきのカニが留守中に届いたらどうしましょう」

男「まだ来ないよ」

少女「じゃあ行きます!」

男「見つけるまで探すからな」

少女「しつこい男は嫌われるぞ☆」

男「うぜぇ」

男「ほら、ガキは早く寝なさい」

少女「乙女です」

男「何でもいいから早く寝ろ」

少女「おやすみのキ」

男「それ以上言ったら追い出すぞ」

少女「おやすみなさい」

男「はい、おやすみ」

男「おはよう」

少女「……」

男「起きろー」

少女「……」

男「飯を抜こうか」

少女「おはようございます!」

少女「美味しいです」

男「嬉しいこと言ってくれるじゃないの」

少女「このフレンチトースト、すごく……大きいです……」

男「分厚い、だろ」

少女「アッー!美味しい!」

男「やめろ」

少女「男さんから振ってきたのに」

男「ベスパの……」

少女「ほう、ベスパですか」

男「知ってるのか」

少女「知りませんけど?」

男「なら黙ってろ」

店員「お待たせいたしましたー」

男「ありましたか!」

少女「暇だ~」

男「ありがとうございました」

店員「またお越しくださいませー」

少女「買えましたか」

男「ああ、買えたよ。これだけしたけどな」

少女「高っ!」

男「頑張って稼いでくれよな」

少女「後ろ乗せてください」

男「ヘルメットがないと駄目だ」

少女「買ってくださいよ」

男「蟹の甲羅でもかぶってろ」

少女「甲羅をかぶれば乗せてくれるんですか、かぶりますよ!」

男「ごめんなさい」

少女「でも甲羅って味噌焼きますよね、髪が匂うなあ……」

男「……姉ちゃんのヘルメットやるから」

少女「それは嬉しい。じゃ、今度出かけましょう!お弁当作りますよ」

男「料理できんの?」

少女「ゆで卵とか、目玉焼きとか……」

男「いいよ、俺が作る」

男「おー、これだこれだ。姉ちゃんのヘルメット」

少女「かわいいですねぇ。ウサギのステッカーが白いヘルメットにはえてて」

男「そういうの得意だったからな。ほら、俺のも姉ちゃんが作ったんだ」

少女「器用な方なんですね、男さんと違って」

男「お前の方が不器用だ」

少女「はー、ドキドキしてきました」

男「初めてだもんな」

少女「怖いです……」

男「怖くない。お前はいい女だ」

少女「男さんがそう言ってくれると緊張もほぐれます」

男「よし、行くぞ」

店長「お前がおくってくるなんて」

男「悪りぃか」

少女「こう見えてもいい人なんですよー」

店長「いい人はわざわざ唐揚げをあげさせたりしない」

少女「男さんは私が働いてる時に来ないでくださいね!」

男「えっ」

少女「手間を増やさないでください」

店長「男の家はどう?」

少女「イメージしてた男の一人暮らしと全然違いました。小綺麗だし料理もうまいし最高です」

店長「あいつは姉ちゃんっ子だったからなあ」

少女「お姉さんは何してるんですか?」

店長「あれ、聞いてない?」

少女「はい」

店長「あー、じゃあ奥行こうか。俺も阪神が負けてやる気でないし、今日は話そう。店員、後は頼む」

店員「っすー」

店長「あいつの姉ちゃん、死んだんだよ」

少女「えっ」

店長「あいつ、姉ちゃん好きだったから落ち込んでさ。自暴自棄になって大学もやめて大変だったんだぜ」

少女「そんなことが……」

店長「何とか立ち直って就職もできたけどな。一時は趣味のスクーターにも乗らなくなったし」

少女「今は乗ってますよねぇ」

店長「乗らないとスクーターがかわいそうだ、って言って乗り出したんだ。あれ、姉ちゃんの遺品なんだよ」

少女「ええー……!」

店長「遺品っつっても死ぬ兆しもなかった時
に買ってくれた物らしいんだけどな。姉ちゃんの形見だって言って。今日は乗ってなかったみたいだけど」

少女「そ、そっすね……」

店長「少女ちゃん、あいつの姉ちゃんに似てるよ。だからあいつも君に懐いてるんだろうな。赤の他人の少女ちゃん」

少女「!」

店長「本当に親戚なら知ってるだろ、それくらい」

少女「あ、そっか……」

店長「何があったのか知らないけどさ、あいつのこと、助けてやってくれ」

少女「むしろ私が助けられてます」

店長「持ちつ持たれつか。俺も彼女欲しいなー」

少女「か、彼女なんてそんな!」

店長「えっ?」

少女「えっ」

少女「ただいま帰りましたー……」

男「おかえり」

少女「ご飯ですよ、って何やってるんですか?」

男「ステッカー作ってる。前のベスパに少しでも近づけようと思って」

少女「ベスパ……」

男「どうした?」

少女「ご、ごめんなさい。ごめんなさいぃ……」

男「ちょ、泣くなって」

男「店長め、余計なことを」

少女「ううっ……」

男「泣きやめって。今さら戻ってくるわけでもないし」

少女「何で私はあんなことを……」

男「それは当たり屋だからだろ」

少女「人の思い出を壊す当たり屋にはなりたくなかったです……」

男「でも新しい思い出もできたぞ」

じゃあ俺が書くか?

男「ベスパ探して歩き回ったり、飯も食ったし、コンビニも行った。今度は弁当持ってでかけるんだろ?」

少女「……」

男「いつまでも昔のことを引きずってる俺がいけなかった、ごめんな」

少女「男さん……」

男「ベスパなんか買えばいいんだよ。形ある物は壊れるんだから」

少女「私、私……」 グゥゥ

男「腹、減ったな」

少女「今日はナポリタンとペペロンチーノをもらってきました」

男「ナポリタン!」

少女「好きなんですか?」

男「大好きだよ。少女は?」

少女「私はどっちも好きですよ」

男「じゃあ半分こするか!」

少女「……はい!」

少女「男さん男さん!」

男「どうした」

少女「明日休みがもらえたんです。ピクニックに行きましょー」

男「また急だな。大した弁当作れないぞ」

少女「おにぎりだけでもいいです」

男「わかった。準備しとくよ」

少女「あ、おにぎりは鮭でお願いします。塩はきつめで。のりはしっとりで」

男「注文の多い料理店かお前は」

男「起きろ、起きろ」

少女「もう起きてますよ」

男「遠足の時に張り切るタイプか」

少女「張り切ってから回るタイプですねー」

男「ゲロ吐いたりするなよ」

少女「お、卵焼き美味しい!」

男「食うな馬鹿」

青「ゲホッ、ゲホッ」

堀北「大丈夫?

少女「青い海!白い砂浜!吹き渡る潮風!」

男「嘘はいかんな、嘘は」

少女「緑の木々!緑の地面!緑の中の私たち!」

男「そんな感じだな」

少女「鳥がいますよ。焼き鳥何人前作れるでしょうね」

男「なんと現実的な」

少女「卵焼き、唐揚げ、ウインナー、煮物におひたし、それにコロッケ!」

男「弁当っぽくはなかったかもしれない」

少女「最高ですよ!」

男「おい、そんなにがっつかなくてもいいって」

少女「ふぅ、お腹いっぱいです」

男「こんなに綺麗に平らげてくれると嬉しいよ」

少女「これからどうします?」

男「あ、行きたい場所があるんだけど」

少女「そうですか。じゃあそこに行きましょうか」

少女「墓墓墓」

男「爪爪爪みたいに言うな」

少女「まさか墓地に来るとは」

男「生きてたらそれが一番よかったんだけどな」

少女「えっ」

男「ほら、これ、家の墓。姉ちゃんもここにいる」

少女「お姉さん……」

男「話がある」

少女「あ、実は私も」

男「じゃあお先にどうぞ」

少女「男さん、今までありがとうございました」

男「!」

少女「これ、バイト代です。ベスパの分だけあります」

男「ああ、うん。ベスパな、ベスパ……」

少女「お世話になりました。で、男さんの話は?」

男「や、その……。何だ、家族に紹介しようかと」

少女「紹介、ですか」

男「これからまだまだ一緒に暮らすのかと思ってさ。もうベスパか、早いなー!」

少女「あのー、まだまだ一緒に暮らすって」

男「うん。俺って高卒の馬鹿だからさ、少女とずっと一緒にいられるんじゃないかって」

少女「男さん」

少女「それはプロポーズと思っていいんでしょうか」

男「うーん……」

少女「プロポーズなら受けますけど」

男「えっ」

少女「えっ、じゃないですよ。そりゃあ墓場で、しかも家族の前で公開プロポーズなんてびっくりしましたけどね」

男「少女……」

男「よかった、ありがとう……」

少女「ちょ、泣かないでくださいよ」

男「最初は姉ちゃんに似てるなって思って引き止めたんだ。普通なら保険会社に駆け込めば済んだんだけど」

少女「やっぱりお姉さんですか。店長も私のこと、お姉さんに似てるって。とんだシスコンですね」

男「うっ」

少女「でも、死んだお姉さんのことをここまで大事にしてる人なら私も安心です。今までの生活でいい人だってことは知ってましたけどね」

男「引かれるのかと思った」

少女「おや、雲行きが怪しいですね」

男「雨、降りそうだな……」

少女「何か雨雲がどんどん近づいてきてます」

男「よし、帰ろうか」

少女「どこへ?」

男「ふた、ふた……りの……」

少女「二人の愛の巣、ってところですか」

男「そ、それそれ」

少女「自分で言い出して恥ずかしがるなんてかわいい」

男「う、うるせぇ。早く帰るぞ。食べられなかったデザートは家で半分こだ」

少女「はい!」


おわり

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