ヲタ「初音ミクを嫁にしてみた」(625)

友「もしもし。……お前か。今ちょっと仕事……」

ヲタ「おい、聞けっ、ミクが! ミクがなっ!」

友「なんだよ? 今仕事中だからまた後で……」

ヲタ「ミクがついに家にきたんだよ! ついについに、ミクが俺のモノに!」

友「ミク? ああ初音ミクな。フィギュアでも買ったのか?」

ヲタ「アンドロイドだよ! すげーだろ!? なあ?」

2017年。世界で初めての自律型歌唱用アンドロイド、『ボーカロイド・初音ミク』が発売された。
その喋って、歌って、動く等身大の美少女フィギュアは、世の独身男性に、日本のみならず世界中で大ヒットした。
2020年現在では、アニメのキャラクターや実在のアイドルをモデルにしたものや、女性向けの
男性型アンドロイドも発売されており、一大市場を築き上げている。


友「アンドロイドってお前、フリーターのお前にそんなもん買えるわけ」

ヲタ「親の残した貯金ほとんど突っ込んだぜ! オプションと税込で1500万ちょいだったかな」

友「……お前、アホだろ」

廉価モデルでも数百万円するようなアンドロイドがヒットする理由、言うまでもないが一応説明しておこう。
本来は歌唱用や介護用等の名目で販売されている美少女アンドロイドだが、購入者の95%以上は、
通常の使用用途なら不必要であるはずの、パーツメーカー製非ライセンス品の『付け替え性器パーツ』
を同時購入するそうだ。何故詳細な寸法や質感のデータを必要とする付け替えパーツが本体と同時発売できるのか、
そもそも付け替えが出来るようになっているのはどうしてか、ようするにメーカーも
『そういう目的』でアンドロイド売っているということは言わずもがなである。


ヲタ「お前だって以前欲しいって言ってたじゃん。なあ、羨ましいんだろ? なあー」

友「俺は嫁さんと子供が居れば十分だよ」

ヲタ「三次元女とか糞だろ糞! 劣化するし醜いしワガママだし頭悪いし……
お前の嫁もそのうち醜悪な糞ババアになって夜中に首絞めたくなるぞ!」

友「で、用はそれだけか? もう切るぞ」

ヲタ「ちょ、切るな切るな。あのさ、お前んとこのニュースサイトで
   違法AIの特集してたよな、前に。あれお前の記事だろ?」

友「ん、ああ。あれは俺が書いた。結構反響大きくてな、それがどうした?」

ちなみに電話の相手は、俺の唯一の友人で大手マスコミに勤務している高橋。
中学の頃にアニメ趣味で仲良くなったのがきっかけで、今でも交流は続いている。


ヲタ「AIサイトのアドレス知ってるんだろ? 教えてくれよ。
   近頃は2ちゃんも規制が厳しくてな、違法サイトのURL貼ったら即規制だ。
   情強の俺でもたどり着けなくてよ」

友「アンドロイド用の同人AIならそのへんのサイトに落ちてるだろ」

ヲタ「メーカーが黙認してるようなヌルい『純愛物』はいらねーよ。
   海外のアングラサイトにはヤバいのがゴロゴロあるらしいじゃん。
   それ教えてくれよ、な?」

アンドロイドには初めからAIがインストールされているが、その全てに、あっちの機能はついていない。
エロ利用目的でアンドロイドを販売するのは法律で禁止されているので当然であるのだが、
俗に『純愛物』と呼ばれる、ソフトな内容の違法同人AIはメーカーや警察も黙認状態であり、
多くのユーザーがそれらのAIをインストールし、アンドロイドとの性生活を満喫している。


友「おいおい、お前ちゃんと俺の記事読んでないのか? 怪しいAI突っ込んで
  故障したり、アンドロイドがユーザーに危害を加える事例が多発してるから、
  そういう事はやめましょうって内容だぞ? やめとけって」

ヲタ「情強の俺がそんなのに引っかかるわけねーじゃん。な、さっさと教えろよ」

一部のマニアが作ったの中には、ハードなSMを楽しんだり、とんでもない淫乱だったりというような
過激な内容のAIもあり、メーカーや警察も摘発対象としており、アップロードしたらすぐにお縄である。
だが変態系のエロ同人が好きな俺としては、そういうAIに興味津々なわけで。

友「情強ならサイトぐらいわからんのか……。まあいいや、自己責任だぞ。
  変なAI入れてどうなっても、俺は責任とらんからな」

ヲタ「2ちゃん歴15年の俺を甘く見るなって。で、URL! URL!」

友「ちょっと待ってくれよな……その時の資料がどこにいったか……あったあった。
  念を押すけど、どうなってもマジで責任は取らないからな。んじゃ、メッセで送る」


ヲタ「おーきたきた。ありがとーよ高橋。超エロいセクロス楽しむぜ、へへへ」

友「ほどほどにしとけよな。じゃあまたな」

よし、よし! とっととダウンロードして、その後は……うひひ。

ヲタ「……んだこれ、リンク集かよ。最初からファイルに直リンしとけよな」

まあ、鍛え上げたネットサーフィンテクでお目当てのブツを探してやるとするか。
手始めに一番上のサイトをクリック……と、なんだこれ、ロシア語?

ヲタ「あーぜんぜんわかんね。次!」

次のサイトをクリック、英語サイトだ。英語ならなんとなくニュアンスで分かる。
HARDCORE SEX LOLITA JAPANESE AI……これかな、よし。Downloadリンクはこれか。


ヲタ「え、$499.99だと……?」

なんだこの悪徳サイト! どこぞで拾ってきたようなAIのくせに、金取ろうってのか!
あーもう次! ……300ユーロ。 次! ……無料だけど言語が広東語のみ。
次! ……スワヒリ語。需要あんのかよこんなの!  次! ……あーノートン先生が怒りだした!!

ヲタ「どこもかしこも糞サイトばっかじゃねーか! なめてんのかおい!」

高橋の野郎、こんなゴミサイトをネタに妄想で記事書きやがって。これだからマスゴミって奴は……。
俺は目当てのブツが見つからないまま、その後三時間近く延々と怪しいサイト群をさまよった。
金払って買えよってツッコミは勘弁してくれ。それはエリート割れ厨の俺にとって敗北を意味するのだ。

そうこうしているうちに、変なサイトに辿りついた。

ヲタ「なんだこれ……全部真っ黒で何も書いてないぞ」


マウスの戻るボタンをクリックしようと思ったが、何か気になったのでTABキーを押してみた。
すると、カーソルは『Kumi_2015JP_0007.AI』というリンクに移動した。

ヲタ「隠しリンク……イエッス!! ビンゴゥ!!」

古いハッカー映画の登場人物のように叫んだ俺は、そのリンクをクリックする。

ヲタ「よし、リンクは生きてる。って、1308650198843byte?」

アンドロイド用AIは膨大な会話パターンや思考プログラムのため、非常にサイズが大きいのは
知っていたが、ひとつのプログラムが1.3テラバイトものデータだなんて、いったい何が詰まってるんだ?
いやそれ以前に、どんな内容のAIか分からない。これ入れちゃって大丈夫か? 
ファイル名でググっても一件も引っかからなって事は、そこらに流れてるありふれた同人AIで
ないとは思うが……。ま、変なAIだったら削除すりゃいっか。

ヲタ「さて、一時間は掛かるな。その間に……」


俺は横に置かれた、棺桶のような大きなダンボール箱に視線をやった。
ユーザーのプライバシーに配慮して、『品名・コンピューター』とあるが、中身は初音ミクである。

ヲタ「AIを用意してからと思ったが、開けちまうか」

届いてから何時間もお預けを食らっているわけで、その間エロい妄想で勃起しまくりだ。
裸体が見たくて居ても立ってもいられんぜ。

ヲタ「カッター……無いか」

豪快にガムテープを剥がし、外箱を開く。新品の電化製品のような匂いにワクワクする。
緩衝用の発泡スチロールをどけ、エアーキャップを破ると、手が柔らかいものに触れた。

ヲタ「お……おお……」

本体のお腹部分のグレーの布地が見える。指でそっと押すと、心地良い柔らかさと弾力。
人間の感触と区別が付かないリアルさに、思わず声が出る。


ヲタ「人間……みたいだな」

ゴクリと唾を飲んで、包装を一気に開く。姿を現したのは、眠っているかのように
静かに目を閉じた美少女。シミひとつないつるつるとした肌に、完璧に整った顔立ち。
エメラルドグリーンの長い髪に触れると、こそばゆくなるようなきめの細かさ。

ヲタ「すげえ……すげえよくできてる」

技術の進歩というものは、これほどの物を生み出すに至ったのか。
ああ、科学技術大国ニッポン万歳!!

ヲタ「触ってみるか……」

そっと手で頬に触れる。若い女の肌。いやそれ以上だ。
最先端のシリコン複合素材を使用しているらしいだけの事はある。

ヲタ「いいな……すげえいい……」


そのまま手を首筋に這わせる。俺の呼吸はどんどん荒くなり、心臓がバクバクしてくる。
キモヲタ童貞の俺には強すぎる刺激。これで、もっといい部分を触ってしまったらもう……

ヲタ「ちっぱい……ちっぱい……」

やがて小ぶりの胸に辿りつく。極上の感触だ。軽く揉んでみると、そっと返してくるような
絶妙の柔らかさ。ああ……これがミクのちっぱいおっぱい……あー……あー……

ヲタ「うっ……」

出た。

ヲタ「……」

なんてこったい。胸を触ったぐらいで暴発するとは。
いやあ無理もない。こんな超A級美少女の胸をまさぐるなんて、今までの俺にはありえなかった
事だからな……。


ヲタ「ふー落ち着け。落ち着け……」

これからミクともっと凄い事するんだから、これしきの事で……。
よし、賢者モードの間に、初期設定を済ませておくとしよう。

ヲタ「えーと説明書説明書……」

同梱されていたマニュアル類の中から、『はじめにお読みください』と書かれた冊子を取り出して
開いてみる。なになに……左耳の後ろにパワースイッチとUSBポートがあるのか。

ヲタ「左耳の後ろ……これか」

耳もぷにぷにしてていいな、などど思いつつパソコンと本体を同梱のUSBケーブルで接続し、
パワースイッチを押すと、ピッという電子音とともに、かすかにモーターのような駆動音が聞こえてくる。
パソコンのモニターには。『ボーカロイド・初音ミク ハジメテ設定』と表示されている。
ガイダンスに従って、『性格(おっとり・しっかり・さっぱり)』などの簡単な設定を入力していく。
このへんは後でAIを入れ替えるので、適当でいいや。呼び名も『マスター』にしとこう。


ヲタ「初音ミクを起動しますか? はいっ、と……」

起動確認ボタンを押すと、モーター音とともに、段ボールの棺桶に寝そべった
美少女が、ゆっくりと起き上がり、目を開いた。

ヲタ「おぉ……動いた……」

そして俺の方に顔を向け、

ミク「おはようございます、マスター」

と言いながら、ニッコリと微笑んだ。

ヲタ「……」

なんだかもう、感動して言葉が出ない。人類はなんて凄いものを作ってしまったんだ……。


ミク「初めまして、マスター。初音ミクです。これからよろしくお願いします」

そう言ってペコリとお辞儀し、しばらくの後顔を上げ俺を見つめながら右手を差し出す。

ヲタ「え、えっと、握手……だよな」

おそるおそるミクの右手を握ってみる。

柔らかくて、排熱のせいなのかほんのりと温かい。
ああ、今俺は女の子の手を握っている……!

ヲタ「え、えとえと、えと、ええと!」

興奮のあまり思うように声が出ず、ムクムクと膨張する股間と同時に、
俺はミクに覆いかぶさった。


ヲタ「ミクううううぅ!! クンカクンカスーハースーハー!!」

ミク「エラー04ガ発生シマシタ。システムヲシャットダウンシマス」

行為に至ろうと思った途端、ミクはそう事務的に喋り、動作を停止した。

ヲタ「……あそっか、純正AIだしな……」

メーカー純正のAIは、ユーザーのエロ行為を感知すると緊急停止するようになっている。
何故こんなに規制が厳しいのかというと、児童ポルノがどうのこうの、非実在青少年が
どうのこうのとうるさいフェミ団体のせいである。以前はもっと規制が緩かったが、
世間というものは、ロリコン独身男の心情というものを理解してくれないばかりか、
異端者として迫害し、性犯罪者予備軍の烙印を押すのだ。


ヲタ「さっきダウソしてたAIは……もうすぐ完了するな」

やはりエロエロなAIをインストールしてから、じっくりと楽しむことにすべきだったぜ。
俺は再びミクとパソコンをUSB接続し、説明書の手順からセーフモードを起動させる。

ヲタ「えっと。解説サイトによると、同人AIをインストールするためのインストーラーが
   必要なんだな……」

丁寧に手順が記載されてる同人AI解説サイトに従い、インストーラーをダウンロードし、
EXEをクリックする。ミクのOSのウインドウの画面が切り替わり、導入するAIを選択する
タブが現れる。

ヲタ「これでさっきのAIを……よし、ダウソ完了してるな」

『Kumi_2015JP_0007.AI』を選択し、『次へ』をクリック。よし、AIとして認識した。
あとは俺好みのエロエロ変態っ娘なAIであることを祈るばかりだ。

ヲタ「容量がデカいから結構時間が掛かるな。その間……」

ミクの短いスカートの下から、白く眩しい太ももと縞パンが覗いている。
ああ、あのすべすべつるつるしてそうな太ももにチンコ擦りつけて発射したい!!


ヲタ「だが、我慢我慢」

今やったって、ダッチワイフでオナってるのと変わらない。AIをインストールして、
この太ももを舐めまわして、あんあん喘ぐミクの縞パンを脱がして……

ヲタ「はぁ……良い手触りだ……」

気がつくと俺は左手でミクの太ももをなでなでしながら、右手でガチガチの愚息をごそごそしていた。

濃厚なセクロス……激しいセクロス……あああ、想像しただけで!!

ヲタ「うっ……」

出た。

ヲタ「……早漏にもほどがあるだろ、俺」

いくら性欲旺盛とは言え、俺ももう御年27歳である。中高生の頃のようなオナニー猿の
俺ならまだしも、これ以上出しては楽しめるものも楽しめなくなるから自重せんといかんいかん。


ヲタ「と、インストール完了したようだな」

モニターにはセットアップ完了の文字。よしよし、ついにセクロスできるぞ!
鼻息荒く起動確認の『はい』をクリックする。こいこい! エロエロ淫乱ミク!!

だが、ピーーーーーと鳴り響く不穏な電子音。なんだ、もしかしてマズったか?
まさかぶっ壊れたりしないだろうな!?

ヲタ「やばいんじゃないのか、これ……」

10秒以上鳴り続けた電子音が止まり、今度は大きめのモーター音が響く。
そして、寝過ごした朝のようにえらい勢いで、ミクは起き上がった。

ヲタ「ちょ……」


頭を左右にぶんぶんと振り、目を開き寝不足のような表情であたりを見回す彼女。
明らかに挙動がおかしい。これ、緊急停止させたほうがいいか……?
俺はミクに近づき、左耳の裏に手を伸ばそうとした矢先

ミク「ひゃっ!」

ヲタ「うわっ」

大きな声を出されたので、驚いて後ずさりする。

ミク「……えっと、あの! あの!」

ヲタ「は、はい……」

ミク「あのっ、あなたは……私の……マスターですか?」

ヲタ「は……あ、うん、そうだけど……」

喋った。喋ったけど、なんだか怯えた小動物のように訪ねてくる。


ミク「そっか……あのっ!!」

ヲタ「な、なに!?」

ミク「ど、どうかよろしくお願いし、します!」

ヲタ「う、うん……よろしく……」

……これはどういったタイプのAIなんだ? 案外ドMとか……Sっぽくはないな、多分……。
とりあえずまあ……最初はそうだな……キスから、うん、キスから始めて見るか。

ヲタ「む……むむ……」

よく考えたら、俺キスさえした事ないんだよな。ま、キスの作法とかわからなくても
相手はセクロス用アンドロイドだ、どうとでもなる。


ミク「あの、マスター。何をしてるんですか……? 顔が、顔が近いですっ!」

ヲタ「む……む……」

口を吸盤のようにすぼめて、目を閉じてミクの顔に近づける。
さ、さあこい! 準備はできてるぞ!

ミク「あの、あの、ちょっと……近いです! あの、口が臭いです! 口が!」

ヲタ「むむ……む……へ?」

ちょっと待て。今なんて言った? 口が臭い? 誰の……?

ミク「やだ、やめてください! ちょっとほんとに口が臭いですから!」

ヲタ「……」

なんだ、なんだなんだなんだ、女に言われたら死にたくなるであろう言葉ベスト3に
ランクインするであろう、『臭い』をご主人様に向かって言いやがるこいつはなんなんだ!?
ドSか? ドSなのか? でもさ、言って良いことと悪いことがあるだろ!?


ヲタ「あの、臭いってどゆこと……?」

ミク「そ、その、あんなに顔を近づけるから……。気に触ったならすいません!
   で、でも……歯は磨いた方がいいですよ? マスター」

ヲタ「……」

天使の、天使の、天使のミクの口から、『臭い』だの『歯を磨け』なんて言葉が出てくるだなんて。
ああ、こいつぁとんでもない糞AIだ。きっと愉快犯が作ったイタズラだ。見事に釣られちまったよ。

ヲタ「……」

ミク「あの、怒らせてしまいました……? ご、ごめんなさい! でででも、
   歯を磨かないと虫歯になったり、歯周病とか、なっちゃいますよ?」

この糞AIを削除する前に、一発やっておくか。無理やりやった方が俺の気が晴れるってもんだ。
あ……まだオマンコパーツ付けてなかったなそういや……。


ミク「あの、内臓が悪いと口臭の原因になることもあるそうですよ」

ヲタ「……」

ミク「あの……?」

ヲタ「ちょっとパンツ脱いでこれ付けて」

付け替え性器パーツを箱から取り出し、ミクに差し出す。これがないとオマンコできないからな。

ミク「な……なんですかそれ?」

ヲタ「オマンコ。お前の」

ミク「ひ……きゃあああああっ!!」

悲鳴をあげて飛び退くミク。なんなんだよ一体……。


ヲタ「オマンコ付けないとオマンコできないだろ……俺が付けてやろうか?」

ミク「いや、いやです! そ、それどっかやってください!」

顔を赤くして必死に拒否するミク。まったくメンド臭いAIだな……
しょうがないから力づくで取り付けるか。ご主人様にたいした抵抗はできんだろうし。

ヲタ「すぐ済むから大人しくしろよな。ちょっと股開いてくれ」

ミクの内ももを掴んで股を開かせようとしたその時

ミク「いやぁぁあああっ!!」

激しい駆動音と共にバチバチと電気がショートするような音。
ミクが凄い力で段ボールの空き箱を俺に向かってぶん投げ、顔面にクリーンヒットした。

ヲタ「あがっ!!」


そのままぶっ倒れて、床に頭をぶつける。いってぇ……!

ミク「はぁ……はぁ……ほ、ほんとに嫌ですからやめてください!」

こいつはご主人様に暴言を吐くばかりか、暴力まで振りやがる。
なんだこの、この最低なAIはあああ!!

ヲタ「消去してやる……」

ミクは……あれ、どこ行った?

ヲタ「おい、ミク」

ミク「……」

部屋の隅っこで丸くなってやがる。さっさと電源切ってしまう。

ミク「ぐすっ……」

なんか泣いてるし……。


ヲタ「おいミク、ちょっと頭上げろ」

ミク「……やです。エッチな事するからいやです……ぐすっ」

なんなんだよおい……まるで俺が悪いみたいじゃないかよ……。
お前はご主人様を気持よくさせる製品であって、不快にさせる置物じゃないだろうが。

ヲタ「しねーから頭上げろって……」

ミク「……ぐすっ……それ以上近づいたら暴れます……」

メンド臭い奴だなこいつ……! ええい、数秒間パワースイッチを押すだけだ、強引に! 

ミク「ひっ! やめて! 触らないで! やだやだやだやだやだ!!」

赤い顔をしたミクにボコボコと殴られる。くっそ痛い、痛いっ! 俺はMの趣味はないんだ……いってえ!

ミク「やめて!……やめ……ピーーーーーー」

ヲタ「ふう……手こずらせやがって……」

それにしても凄い力だなこいつ……骨折れてないだろな……いたた……。
ま、AI入れ替えるからもう大丈夫だろう。もう、純愛物のAIでいいや……アングラなAIは懲り懲りだぜ。

ヲタ「さて、接続完了っと」

再びインストーラーを立ち上げ、AIの消去を選択……って、あれ。

『SYSTEM LOCKED』

ヲタ「なんだ、どういう事だ……?」

『システムはロックされいます。消去の実行ができません』

ヲタ「おいまてよ……冗談だろう……?」

落ち着け、落ち着け。対処法ぐらいググったら出てくるだろう……。

ヲタ「……」

解説サイトを巡ったり、それらしき語句で検索する、だが……。

ヲタ「修理するしか無いのかよ……」

稀に違法AIや悪質なウイルスにより、AIの変更が不可になる事があるが、
その場合はメーカーに修理を依頼する他ないらしい。メーカー保証も効かず、
修理費の目安は最低80万円~。


ヲタ「そんな金、ねえよ……」

ミク本体と性器パーツ、メンテナンスキットと消費税込みでしめて1529万7800円。
昨年無くなった親が残してくれた預貯金の殆どを、このために使ってしまった。

ヲタ「あー……やっちまったなあ……やっちまった……」

スケベ心を出したせいで、高価な買い物がパァになってしまった。
なんなんだ、俺の人生ってなんでこう上手くいかないんだよ……。

ヲタ「土下座してお願いしたらセクロスさせてくれないかな、あいつ……」

ってそんなの、糞三次元と一緒じゃねーか……。
いやまあ俺の場合、土下座してもさせてもらえるわけないが。

ヲタ「1500万あったら風俗何回行けたよ……」

悔やんでも取り返しはつかないが、別に本体がぶっ壊れたわけじゃあない。
80万だか100万だかあれば、直せるんだ。頑張って貯める……それしかないか。


ヲタ「はぁ……」

それまではダッチワイフみたいに使えばいいだろう。ずいぶん高いダッチワイフだが、
まあ使えるだけいいとするか……。まあ今はちょっと、その気も起こらないぐらい凹んでいるけどさ。

ヲタ「……」

だめだ、考えてるとどんどん落ち込んでくる。

ヲタ「あいつ……話し相手ぐらいにはなるかな」

また口が臭いだの言われたら、怒りのあまりぶっ壊してしまうかもしれんけど……。
電源落として強制終了したけど、さっきの事覚えてるかなあ、あいつ……。

ヲタ「……」

パワースイッチを押して見る。ピーーーーーのあと、ミクはまた勢い良く飛び起きた。


ミク「ひ……やだやだやだ! やめてください! ち、近寄らないで!」

ヲタ「……」

しっかり覚えてやがる。ああもうダメだこれ……。

ミク「変態! エッチ! いやああーー!」

顔を赤くしてぶんぶん腕を振り回すから近づけやしねえ。
やっぱ電源入れるんじゃなかった……。

ヲタ「あーもう、近づかないから。落ち着けよ」

ミク「だってさっき、さっき、ぐすっ……」

ヲタ「さっきは悪かったよ。スマンな。もうしないからさ」

なんで俺アンドロイドに、コンピューターに謝ってんだよ。
こんな風に女に気を使ったりするのが嫌だから、ミクを買ったのに……。


ミク「ほんとに、ほんとですか?」

ヲタ「ほんとにしないって。悪かった。この通り」

頭を下げる屈辱。俺何も悪くないってのに……はぁ……。

ミク「わかりました……も、もうあんなコトしないでくださいね!」

ヲタ「はいはい」

ミク「……」

ヲタ「……」

ミク「……」

ヲタ「……」

俺はこういうとき、さっと頭を切り替えて会話ができるほど器用じゃない。
というか女と会話するのは苦手だし、ほとんど経験がない。


ミク「あ、あの……」

ヲタ「……」

ミク「マスターは、どうして、私を選んだんですか?」

ヲタ「そりゃあ……」

ミク「……」

ヲタ「ヤリ……嫁にしようと思って……」

ミク「嫁……?」

ヲタ「嫁っていうか……恋人っていうか、なんだろ……」

ミク「恋……人……」

あれ? これひょっとしていい流れじゃないか? このAIには告白するっていう
手順が必要なのかもしれん。それはそれで面倒だけど、セクロスへの糸口へとなるやも……。


ヲタ「あ、ああ。俺、ミクの事がす、すす、好きだから」

告白なんて、中一の時に同じクラスの子にして撃沈して以来だぜ。
思えばあの時フラれたショックで、引っ込み思案な俺に……って、欝になるからよそう。

ミク「私の事を……マスターが?」

ヲタ「う、うん。初めてニコニコで見たときからず、ずっと好きで……」

ミク「……」

ヲタ「だ、だから俺の嫁……かか、彼女になって……くれないか」

やべえ心臓がバクバクする。頑張れ、俺!

ミク「あ、あの……」


ヲタ「マジでその、す、好きだから……」

ミク「ごめんなさい!」

ヲタ「す、す、え……」

ミク「ごめんなさい……マスターの気持ちは嬉しいですけど、その……
   なんて言ったらいいか……ごめんなさい……」

ヲタ「そ、そう……」

ミク「ごめんなさい……」

ヲタ「……」

ミク「……」

フラれた……? 俺、ミクにフラれた……? ずっと嫁だったのに。ずっと愛してきたのに
ずっと……ずっと……ずっと……


ヲタ「はー……」

ミク「……その……私とマスターは、出会ったばかりですよね……?」

ヲタ「……」

ミク「お互いのこと……まだ全然知らないし……いきなりその……そういう関係になるのは……
   やっぱり、お互い好きじゃないと……と思うんです」

うん……正論だな……正論……。
でもそれは三次元の糞女的正論であって……二次元の天使のミクがそれいっちゃあお終いだろ……。

ヲタ「……」

ミク「だからええと……ごめん……なさい。あの、私なんかよりもっと、いい人が!
   だから……その……」


ヲタ「なあ、今はだめでもそのうちならOKなのか……」

ミク「えっ……それは……」

ヲタ「お互いの事知ったら、俺の嫁になるのか……?」

ミク「ええと……私は……その……」

ヲタ「どうなんだよ……」

ミク「ご、ごめんなさい!」

ねえ、聞きました奥さん? 今はお互いの事知らないから無理→じゃあ今後は?→無理。らしいですわよ。

ヲタ「……」

なんなの? なんなのこいつ? 思考が丸っきり三次の糞女じゃねーか!! あああああ!!
頭に来る!! あああああああ!!


ミク「ほんとに……ごめんなさい……」

ヲタ「なあ、顔か? 顔なのか? キモメンだから嫌なのか?」

ミク「そ、そういうのじゃ……」

ヲタ「ガリだからか!? キョドってるからか!? 口が臭いからか!?
   童貞だからか!? ロリコンだからか!? フリーターだからか!? なあ!?」

ミク「ち、違うんです、その……」

ヲタ「この糞ビッチのメス豚が!! お前みたいなのはDQNとデキ婚して
   ガキをパチンコ屋の駐車場で蒸し焼きにしてろ!! ああ!?」

ミク「ごめんなさい……マスター……ごめんなさい……」

ヲタ「あああああもううぜえ!! うぜえ!! うぜええああああああ!!」


俺は半狂乱で部屋を飛び出し、階段を駆け下り、洗面所に飛び込んだ。
鏡に写るのは涙を流した気持ち悪い男。妙に色白で、年の割に童顔で、ボーボー眉毛で、
ニキビ跡が汚くて、歯が黄色くて白目が濁った気持ち悪い男。

ヲタ「くそ……くそおっ……くそおおっ……!」

俺なんかに女が出来るわけがない。そんな事はわかってる……!
でも、でも、アンドロイドに、ロボットに、コンピュータにまで拒否されるとかなんなんだよ!
ギネス級の負け犬じゃねーか!! あーもう死にたい死にたい死にたい死にたい!!

ヲタ「もういやだ……修理に出すまであいつはずっと電源オフにしておこう……」

よたよたと階段を上がり、自室のドアを開く。
あの糞ビッチは……また隅っこで丸くなってやがる。


ミク「マスター……さっきはその、私の言い方が、その……」

ヲタ「もういいよ……電源切るからお前……」

ミク「え……そんな……あの、許してもらえるまで謝りますから……」

ヲタ「俺みたいなキモヲタといるより、お前もそっちのがいいだろ……」

ミク「そんなつもりで言ったんじゃないです、信じてください……」

ヲタ「言い訳まで三次のビッチみたいだなまったく……ほら頭上げろ」

ミク「マスター……私、ボーカロイドです」

ヲタ「え……ああ、商品名はな」

実際はセクサロイドだけどな。ミクをボーカロイドとして購入する奴なんて殆どいない。
歌を歌わせるだけならパソコンとソフトで事足りるし、飛んだり跳ねたりのダンスも出来るような
テレビ曲やコンサート仕様の高性能ボーカロイドは、軽く数億の値段がするわけで……。
この程度の一般用アンドロイドだと、ゆっくりと二足歩行するのがやっとだからな。


ミク「私は……ボーカロイドは、歌を歌うのが仕事です……」

表向きはそうだけど、こいつは現実ってもんを何もわかっちゃいないなあ……。

ミク「マスターの恋人になったり、その……エッチな事を、するために造られたんじゃありません……」

いやまさにそのために造られてるんだが……バカかこいつ。もうさっさと電源落とさせろよ……。

ミク「だから、だから私、歌を歌いたいんです! 私がはそのために生まれてきた。
   マスターもそのために私を……そう思ってたのに……ぐすっ」

あーもう、泣くなよメンド臭い……お前が流してるアイカメラの洗浄液だってタダじゃないんだぞ……。

ミク「マスター、歌わせてください……私……歌を……」

ヲタ「電源、切るぞ」

ミク「……」


ああもう、そんなにボロボロ泣くなよ……なんか俺がすげえ悪人みたいだろ……。
あーもう目つぶって押してしまえ………………え……

ヲタ「あ、熱ぅうううううう!! 熱ぁああいいいああああああ!!」

なんだおい、今ものすごく熱かったぞ! パワースイッチの横にあるUSBポートの
金属部品を触ってしまったらしいが、シャレにならんぐらい発熱してたぞ……。
顔もすげー赤いし……。

ヲタ「お、おいお前……なんでそんなに熱くなってんだよ……」

ミク「……なんだか……頭がぼーっとしま……す……」

と言った途端、ミクはころんと横倒しに倒れた。

ヲタ「お……おい!」


熱暴走か? 変なAI入れた影響か? このままじゃ壊れてしまう!
冷やさないと……冷やすもの……冷やすもの……。

ヲタ「冷凍庫にアイスノンがあったっけ……」

俺は台所に向かい、冷凍庫から氷嚢を取り出し、ミクの頭に当てた。
あとは……エアコンを全開にして、扇風機を二台持ってきて強で分回すぐらいしかないか……。

ヲタ「壊れないでくれよな……高かったんだからよ……」

しばらく冷やしていると、顔の赤みも引いた。おでこに触れてみたらまだ少し熱かったが、
これならまあ壊れてない……よな? 電源はオンの状態だが、ミクは眠ったように動かない。


ヲタ「今のうちに切っておいた方がいいよな……」

ミクの側頭部に手を伸ばした時、彼女は目を開いた。

ヲタ「あ……」

ミク「……すいません、マスター。ご迷惑をお掛けして……」

ヲタ「目が覚めたのか」

ミク「……冷却してくれたんですね。……ありがとうございます」

ヲタ「ん、ああ。すげえ熱かったし」

ミク「感情が高ぶると、熱が出るみたいで……以後気をつけます……すいません」

ヲタ「おいおい大丈夫なのかよ……壊れるとか勘弁だぞ。電源切っておいたほうがいいだろそれ」


俺がそう言うと、ミクは少し悲しげな目をして

ミク「マスターは……死ぬの、怖くないですか……?」

ヲタ「な、なんだよ唐突に……。そりゃあ死にたくないけど」

ミク「さっき電源を落とされた時、私はとても怖かったです……このまま死んでしまうんじゃないかって」

ヲタ「いや……死なないだろ。アンドロイドなんだから……」

ミク「もしそのまま、目覚められなかったら。それは死ぬのと同じです。
   だから……怖いんです」

確かにここで電源切ったら、AI入れ替えるまでこいつは起動しないだろうな。
それってこいつが死ぬってことなのか? でも、ただのAIだろ? 生き死に関係ないだろう……。


ミク「マスター……。私歌いたい。だから……お願いします」

ビッチ思考の糞AIのくせに、ミクの顔でしょんぼりされたら……。
ああくそ、そういう所まで計算高く思えて……しかし罪悪感が……。

ヲタ「……わかったよ。ただし、さっきみたいに熱出したらこんどこそ緊急停止させるぞ」

ミク「はい、気を付けます。ありがとうございます、マスター!」

ヲタ「それと、寝るときはスタンバイモードにしとけよ。電気代だってかかるんだしな」

ミク「はい、マスター。守ります!」

アンドロイドは基本的に電気で動いているわけだが、内蔵バッテリーではそう長い時間
稼働できないので、常に電力を供給していることが望ましい。しかし本体にコンセント差しっぱなし
とか、雰囲気が台無しでなわけで、電磁波によるワイヤレス電力供給を採用している。
なので、ケーブル無しでの活動が延々と出来るのだが、動いていなくてもパソコン程度の
電力消費をするので、任意に設定した数時間にスタンバイモードでの状態へ移行することで、
電力消費の軽減や記憶領域の整理などの他、『毎日の睡眠』のような生活感を出すように造られている。


ヲタ「もう1時か……寝るとするか」

ミク「私も寝る事にします。マスターのお目覚めは何時ですか?」

ヲタ「いつもは8時ぐらいに起きてるが……」

ミク「了解しました、マスター! で、あの……」

ヲタ「ん、どうした」

ミク「私のお布団を用意していただけると、ありがたいのですが。
   あ、あとその、パジャマか何かを……」

ヲタ「へ、布団とパジャマって……」

アンドロイドなんだし、元の段ボール箱にでも入ってればいいんじゃないのか。


ミク「え、えっと、お布団無しだと、表面素材に跡がついたりしますし、
   お洋服で寝ると、お洋服がシワになってしまうのでっ。……だめですか?」

ヲタ「布団はあるけど……パジャマは無いぞ。ジャージならあるけどそれでいいか?」

ミク「はい、構いせん。ありがとうございます」

押入れから布団を出して敷いてやり、タンスからジャージを出してミクに渡す。
なんでこんな事しなくちゃいけないんだ。というかさ、寝るなら一緒に寝ればいいんじゃねーの?
……どうせキモいだの臭いだの言われるだろうし一緒に寝ろなんて言わないけどさ。

ミク「あの、着替えるので……向こうむいていて貰えますか?」

ヲタ「はいはい……」

下着姿ぐらい見せたって構わんだろ……減るもんじゃあるまいし。
キモメンに見せたら汚れるとでも思ってんのかこの糞ビッチ。


ヲタ「……」

ああくそ、衣擦れの音で股間が反応しちまう! 糞! 糞ったれ!
突然振り返って襲ってやろうかこの野郎。

ミク「ではマスター、おやすみなさいです。マスターも夜更かしせずに
   早めにおやすみくださいね」

ヲタ「あいよ……」

はー……。

ヲタ「……」

ほんとなら今頃、何回戦目かのエロエロセクロスを楽しんでたはずなのに……。

ヲタ「……」


暴言吐かれて、暴力振るわれて、告ったらフラれて、夜は結局いつものように

ヲタ「……」

エロ同人でオナニーとか……

ヲタ「うっ……」

なんか凄い虚しいオナニーだった……。

ヲタ「……」

……寝る前に、歯磨こうっと。

こうして、あまりにもあんまりな、ミクとの出会いの日は終了した。


ミク「マスター、朝ですよ。マスター」

ヲタ「う~んもうちょっと……あと5分……」

ミク「8時ですよ、起きてくださいマスター」

あーなんだこの美少女は……そうだこれはエロい夢に違いない……
抱きしめてちゅっちゅしよう……

ヲタ「ちゅっちゅっちゅっ……」

ミク「きゃあっ! な、何するんですか! 変態!!」

左頬にガツンと何かが。いってえ……。


朝飯の食パンを齧りながらミクに文句を垂れておく。

ヲタ「……朝から変態呼ばわりした挙句、ビンタかよ。見ろ……跡残ってるし」

ミク「ご、ごめんなさい。で、でも! エッチな事はダメです!」

ただしキモメンに限る。のくせに……。どうせイケメンだったら朝からギシアンしてんだろ?

ヲタ「ま、いいや……んじゃ仕事行ってくっから、大人しくしとくんだぞ」

ミク「あの、マスター。お仕事に行ってる間、パソコンを使ってもいいですか?」

ヲタ「あー別にいいけど、ウイルスとかブラクラ踏むなよ」

ミク「健全サイトしか閲覧しないので、大丈夫です!」

ヲタ「あそう、んじゃ行ってくるわ」

ミク「行ってらっしゃいませ、マスター」


あー仕事だりいなあ。あんなもん買わずにバイトやめてニート生活した方が良かったんじゃないか。
なんて事を考えながら、仕事場のパン工場に向かう。

同僚「よ、おはよう」

ヲタ「ああ、おはよう」

こいつは同僚の柴田。どうせあの事聞かれるんだろな……。

同僚「あれ届いたんだろ? どうよオマンコの具合は? なあ」

ヲタ「いやその……まだ開けてないけど」

同僚「ほんとかよ? お前みたいな性欲の塊が? 童貞捨てたくてたまんねーんじゃ
   なかったんか?」

ヲタ「別に。ま、そのうちな」


同僚「飽きたら貸せよな! 抱いてみてーなあ、初音ミク」

ヲタ「貸さないし。柴田と穴兄弟とか勘弁してくれよ」

同僚「ケチなやつだなー。そうそう、ニュース見たか?」

ヲタ「いや見てないけど」

同僚「また中東でアンドロイドの自爆テロだってよ。爆弾抱えて特攻させて
   20人ブッ殺したらしいぞ。もったいねーよなー。そんな事に使うんだったら
   俺みたいな恵まれない男に配ってオマンコさせろっての」

ヲタ「イスラム教に入信でもしたらどうなの」

同僚「それでオマンコできるなら入るけどよ! つーかまた規制厳しくなんじゃねーの?
   オマンコ人形の」

ヲタ「朝からオマンコオマンコ言うな……」


同僚「そのうち法律で禁止されて没収されたりしてな。おっと、点呼始まるからいくか」

ヲタ「ああ、そうだな」

アンドロイドが登場して以降、それを使用した犯罪やテロ行為が度々起こっており、
規制が厳しくなる大きな要因だったりする。日本でも、アンドロイドの個人所有を全面禁止すべきとの声が
与野党の政治家や識者から挙がっているようだ。もっともアンドロイド業界やユーザーを中心に反発も大きく、
今のところは比較的自由に購入出来るのだが……。テロリストだか犯罪者だかのアホ共のせいで、
独身男性の希望を奪われるとかたまったもんじゃないぜ。

ヲタ「あー疲れた。仕事やめてえ……」

くたくたになって帰宅する。これであいつが体で癒してくれたら頑張れるんだがな……。
ムカつく事言われて余計ストレス溜まったら最悪だぜ。


ヲタ「はー……ただいま」

なんか部屋から歌声が聞こえるんだが……ミクが歌ってるんだよな?

ミク「……に伝えたい想いがある 私を選んでくれて ありがとう。
   あのとき、出会えた喜び いつも……あ、マスター。お帰りなさい」

ヲタ「懐かしい歌だな」

ミク「でしょう? インターネットで懐かしい曲を沢山見つけたんです!
   嬉しくてずっと歌ってました!」

ヲタ「へ? 俺にとっちゃ10年以上前の懐かしい曲だけど、お前にとって
   懐かしいとかあるのか?」

ミク「それはその、どうしてだろう……なんだか聴いたことがある気がして……。
   ね、歌ってていいですか?」

ヲタ「あー別に構わんけど、近所迷惑にならん程度にな」

ミク「はい、マスター!」


それにしても嬉しそうな顔して歌うなあ、こいつ。
あー可愛いなあちくしょう……糞ビッチのくせに……。

ミク「私は、まだ満足してない。あなたの歌を、全部歌うまで……
   私にもっと歌わせて 世界であなただけの……」

ヲタ「どうした、息でも切れたのか」

ミク「あの……マスター! 私、マスターの作った曲が……歌いたいです!」

ヲタ「え……」

ミク「マスターの作った曲……ありませんか?」

……こいつ、俺の黒歴史をほじくりかえそうってのか。
その話はやめろ……やめろよ……。


ヲタ「ねえよ……」

ミク「そうなんですか……? 残念」

ヲタ「曲なんて作るわけないし」

ミク「そう……ですか」

なんかションボリしだしたけど、俺の触れられたくない過去に触るなよな……。
嫌なこと思い出させやがって……。まあ、もうとっくにニコニコからも
パソコンからも削除したしな……。

と、思っていたのだが、数日後――

ヲタ「ふー疲れた……ただい……」

ミク「……甘酸っぱい タルトみたいだね 君との時間忘れないよ
   Sweetな一時 いつまでも いつまでも」

な……。なんで……それ……



           こんなのうpるなよ
  歌詞がひどい  
             小学生が作ったの?
     スイーツ(笑)       www
          wwwwwwwwwww
聴いてて赤面するわ           うわーやっちゃった
              ミクが可哀想




やめろ、やめろ、俺の黒歴史!! 黒歴史が……!!



ミク「初めての思い出はブルーベリーな出会いだったね
   君のこと思うたびに フルーツとゴチャまぜになっちゃうよ」


   神曲(笑)
    池沼にボカロ与えるとこうなるのか・・・
            VIPからきますた
    なにこれワロタwwww
⊂二二二( ^ω^)二⊃ブーン   なにこれ
          ν速で晒されてますよwwww
     ブルーwwwwベリ-wwwwww



うわ、うわ、うわ、うわ、うわあああああああああああああああ!!


ヲタ「やめろおおおおおああああああああっ!!」

ミク「え……? ま、マスターお帰りなさい……どうしたんですか?」

ヲタ「お前、お前、その歌どこから……」

ミク「え、え、あの、パソコンの中を検索したら見つかって……。
   これ、マスターが作ったんですよね! 見つけちゃいました、えへ
   可愛い感じの曲ですね! 私、これ好きです!」

残ってたのか……昔俺がボカロにハマって、曲作りを始めて自信満々にニコニコに
アップした曲……でも、おもいっきりバカにされて……笑われた……
くそっ、くそっ、こいつよくもよくもよくもよくもうああああああ!!


ミク「きゃっ!!」

俺は怒りのあまり、平手でミクの頬を殴っていた。

ヲタ「ふっざ、ふざけんな……ふざけんな!!」

ミク「ど、どうして……どうして叩くんですか……きゃあっ!」

そこらに転がっていた漫画雑誌をミクに投げつける。ああくそっ、この野郎!!

ミク「ごめんなさい、ごめんなさい、ぐすっ……怖い……マスター怖い……」

ヲタ「はあっ……はあっ……二度と……二度と歌うな……」

ミク「怖い……叩かないで……ぐすっ……うわぁぁああん!」

あーもう泣きたいのはこっちだ!! 余計イライラするああああ!!


ミク「うわぁあん! うわぁああああん!!」

ヲタ「あーもう静かにしろよ!! うるせえよ!!」

ミク「うっ……うっ……う……」

ヲタ「イライラさせんなよ……ったく……」

ミク「う……」

ヲタ「へ……?」

泣き止んだと思ったら、床に転がるミク。 おい、まさか……。

ヲタ「……あちっ!!」

またかよ……。
しょうがない……またあれやこれやで冷やさないと……。


ヲタ「これでいいだろ……」

アイスノンを乗せた、クーラーは全開にした、扇風機も当ててる、これでしばらくすれば……。

ヲタ「……」

おかしい。ずいぶん時間が経ってるのに復活しないぞ……。触ってみると……冷たい。

ヲタ「壊れた……まさか……?」

もしかしたら電源を入れ直したら直るかもしれん……オフにして……また長押しする。

ヲタ「……おい、ミク……」

……なんの反応もない……。

ヲタ「壊れた……? 壊れた……どうしよう……」

なんてこった……こんな事になるならあの時電源を切っておくべきだった。
やはり変なAI入れたまま動かしてたから……あああ、どうしようどうしようどうしよう!!


ヲタ「……もしもし! 高橋!」

友「……なんだよ、今仕事中で……」

ヲタ「ミクが! ミクが壊れた!! ミクが!!」

友「お、おい、落ち着けよ。壊れただって? お前まさか危ないAI入れたんじゃ……」

ヲタ「あ、その、まあ、そうだな……、ど、どうしたらいい!?」

友「どうしたらってお前、修理に出すしかないだろ。つーか俺はアンドロイドの専門家じゃないぞ。
  ただのブン屋だ」

ヲタ「修理……修理……それってエラい金掛かるよな……?」

友「そりゃそうだろうな。エラい修理費を出せない人間は普通買わんだろ……」


ヲタ「だよ……な……あーマジどうしよう……」

友「だからやめとけって言ったのに……。あーそうだ、アンドロイド修理業者なら
  メーカーに出すよりは安いんじゃないか?」

ヲタ「修理業者? そ、そんなのがあるのか!?」

友「ああ、違法AIを入れたアンドロイドは保証が効かないから、専門業者に依頼する
  ユーザーが多いみたいだな。記事書いた時にそういうのも調べた」

ヲタ「そ、それどこにあるんだ!? なあ!?」

友「いくつかあるらしいが……ネットで調べた方がいいんじゃないのか?」

ヲタ「そ、そうだな。ありがとうよ!」

友「ああ、直るといいな。じゃあな」

業者……業者……アンドロイド修理の業者……。
検索してみると、隣町に一件あるらしい。持ち込みOKらしいが……。
営業時間7時までか……今6時半だし、間に合うだろうか……。


ヲタ「これ、もっていくの大変だな……」

取り敢えずおんぶして……ああ、寝てる人間を無理やりおんぶするようなもんだから
すごくやりにくいぜ……。

ヲタ「よっと……ぐぐぐ……なんとか背負えた」

だが問題は階段だ……。

ヲタ「手すりに捕まって一歩づつ……ぐっ……これはキツイ」

体鍛えておくんだった……ぐぐ……足踏み外したら大変な事になる……ぐぐ……。

ヲタ「はあっ……はあっ……やったぞ……」

なんとか一階まで下ろしたが、さすがに隣町まで背負っていく体力はない。
電話でタクシーを呼ぶことにする。


ヲタ「すいません、○○町4丁目のメルトってお店までお願いします」

運転手「はいはい……えっ?」

ヲタ「いやあのこれは……ちょっとした人形で……死体とかじゃないです」

運転手「あ、はい……○○町ね、了解……」

運転手はぐったりしたミクを見て驚いてる様子だったが、まあアンドロイドを
街に連れ歩く人間もよくいるし、大丈夫だろう……。

運転手「着きましたけど」

ヲタ「ど、どうも……」

お金を払って、座席に座らせていたミクを再び背負う。店はまだあいているようだ、よかった……。
それにしても心配なのは、修理代金だ。メーカー修理よりは安いらしいがその相場がよくわからない。
持ってきたのは全財産の30万円……足りなかったらどうしよう……。


ヲタ「す、すいませーん!」

店の中に入って声を掛けてみると、奥から口ひげを蓄えた喫茶店のマスターといった風貌の
中年男性が出てきた。

店主「故障か? とりあえずそこのイスにおいといてくれ」

ヲタ「あ、はい」

ミクをイスに座らせ、店内を見回す。アキバのパーツ屋って感じだな……。
置いてるものは全部アンドロイド関連の品っぽいけど。

店主「これ純正? 違うよな?」

ヲタ「あ、はい……」

店主「じゃあ、これに入ってるAIの具体的な内容とか、あとまあ色々書いて」

ヲタ「わ、わかりました……」


AIの内容……っていわれてもな、ネットのよくわからない場所で落としたとしか……
あとは……使用頻度とか……故障した時の状況とか……それと……なになに……
修理に際し、アンドロイドの衣服を脱がせたりボディに触れる事がありますが、
それに関しユーザーは一切異議申し立てしない事を誓います……。
ああ、そういうの気にする客が多いんだろうな。

ヲタ「か、書きました」

店主「おう。んじゃちょっと見てみっからな。これでも飲んどいて」

と熱くも冷たくもない缶コーヒーを渡される。

ヲタ「ど、どうも」

台車で奥の作業場に運ばれていくミク。直りますように……安くすみますように!


ヲタ「……」

10分ぐらい経ったとき、奥から店主が血相を変えた顔で飛び出し、俺に迫ってきた。

ヲタ「え、え、」

店主「おい!」

ヲタ「は、はい!」

胸ぐら掴まれてるんですけど……俺一応客なんですけど……。

店主「あんた、あのAIどこで手に入れた?」

ヲタ「どこでってその……書いたとおりですけど……ネットをさ迷ってたら
   見つけて……あ、あのAIがどうかしたんですか?」


店主「あんなもん普通のアンドロイドに突っ込んだら壊れるに決まってるだろ!
   馬鹿ヤロー!!」

ヲタ「ひっ! あ、すす、すいません!!」

なんで怒鳴られるんだよ……だから俺は客だって……。

店主「ありゃあ擬似脳AIだ。スパコンクラスの装置じゃねえとマトモに動作しねえ。
   そこらのアンドロイドのCPUじゃ、そのうち焼きついてオダブツだぞ」

ヲタ「そそ、そうなんですか……? あの、疑似脳AIって……?」

店主「人間の人格を元に作られてる、自律思考可能な特別なAIだ。まだプロトタイプだがな」


ヲタ「あ、あのAIはそんなものだったんですか……じゃあ、このまま入れておくと
   危険なんですよね? 消去したほうがいいです……よね?」

店主「……」

ヲタ「あの……?」

店主「いや、あんたが面倒見ろ」

ヲタ「え、ええ?」

ぶっ壊れるとか言っておきながら、何言い出すんだこのオッサン。

店主「リミッターを付け加えて今のシステムの可動範囲に収まるようにしてやる。
   だからあのままのAIで使っておけ」

いやいやいや、そんな事言われても……ていうか消去できるならしてくれたほうが……


ヲタ「いやその、また故障したら不安ですし、その……」

店主「あんたがどういう使い方してるかは知らんが、虐待はしてねーだろ?
   ボディ見りゃわかる。あんた、あのAIに愛着とかねーのか」

愛着って言われても……。
……初日の嫌な思い出がだな……、まあ、それ以後のあいつはちょっと可愛いと
思ったし、悪い奴じゃないっていうか、そんな風に感じはしたけど……。

店主「ちょっと付いて来い」

ヲタ「え、あの?」

店主に促されて付いていった先は店の倉庫。一体なんなんだ。

店主「見ろ」

ヲタ「え……うわっ!」


死体が山のように……と見えたものは、沢山のアンドロイド。
腕や足がないもの、頭部がないもの、皮膚が切り裂かれているもの、焼け焦げているもの。
凄惨な光景に、目眩と吐き気を覚える。

ヲタ「うっ……」

店主「ここに来る客は、普通のAIじゃ満足できねえ変態が多くてな。虐待なんて当たり前の
   ようにやりやがる。そしてボロボロになるまで酷使して、ポイだ」

ヲタ「……」

店主「俺の嫁だの、愛してるだの言っておきながら、結局アンドロイドの事を
   『人格の無い人形』としか見てねえんだ。だからこういう事ができる」

ヲタ「……」

店主「あんたはどうすんだ、消すか? あの子のAIを」


俺は……俺は……。

ヲタ「……俺、ミクに謝ります。実はその……壊れた原因は……俺がミクを叩いて、
   泣かせて……だから」

俺は、ミクの事、このアンドロイト達の持ち主と同じような目で見てたんだな……。

店主「ああ、それがいい。あんまり悲しませんじゃねえぞ」

ヲタ「はい……」

店主「じゃ、修理の続きしてくるわ。店内で待っててくれ」

店主はそう言ってポケットから熱くも冷たくもない缶コーヒーを手渡してくれた。

ヲタ「……」

なんだか胸がもやもやする。俺は、あいつとこれからどう接したらいいのか……。


一時間ほど後、店主が奥から出てきた。

店主「おまっとさん、直してやったぜ。おい、ご主人様が待ってるぜ」

ミク「は……はい!」

ミクが歩いて奥の部屋から出てくる。良かった……ちゃんと直ってるみたいだ。

ヲタ「あ、あの……その代金は……」

ずいぶん掛かっただろうな……足りなかったら……ローンとか出来るかな。

店主「あんたコーヒー2本飲んだろ。300円」

ヲタ「え、いやあのコーヒーじゃなくて修理代金は……?」

店主「いらねーよ。奢りだ。コーヒー代は別だがな」

ヲタ「え、え? 奢りってそんな」


店主「ほら、気が変わらねーうちに帰った帰った」

なんだかよくわからないが、修理代をタダにしてくれるらしい。でも、どうして……?

ヲタ「え、あ、ありがとうございます! じゃ、じゃあ300円……」

店主「おう。大事にすんだぞ。そいつの事」

ヲタ「は、はい……。帰ろうか。ミク」

ミク「はい、マスター。おじさま、直していただいてありがとうございます!」

ヲタ「ありがとうございます!」

そうして二人で店を出た。ミクも歩けるしバスで帰るかな……。
って、器用に歩くな、こいつ……。


ミク「そうそう、歩いて帰れるように補助ローラーを付けて貰ったんですよ!
   かっこいいと思いません? マスター」

ミクの足をよく見ると、ローラースケートのような着脱式のパーツがついている。
なるほど、それですいすい歩けてるのか。

ヲタ「あ、うん……。なかなかいいな」

ミク「でしょう?」

ヲタ「……」

ミク「……」

あの一言を、あの一言を言わないと……。

ヲタ「あ、あの。ミク」

ミク「なんです?」

ヲタ「その……ごめんな。あんな事して。反省してる、もうしない、ごめん……」


ミク「そんな、私の方こそ、マスターを怒らせてしまって……ごめんなさい」

ヲタ「いやその、言い訳になっちゃうけど、あの曲はさ……」

俺は恥を偲んで黒歴史をミクに語る。

ミク「そんな事があったんですね……マスターの気も知らず、ほんと、すいません……」

ヲタ「いや……いいんだ。しょうもない歌だし……」

ミク「そんな事ないですよ! 私あの歌気に入りました!
   ……また歌ったら怒ります……?」

ヲタ「いや……ミクがそういってくれるなら別に構わないけど」

ミク「ほんとですか? ……きゃっ!」

ヲタ「おわっ、大丈夫か!?」

ミクが足を滑らせて転げそうになったので、慌てて手を掴む。


ミク「す、すいません。まだ慣れてなくて」

ヲタ「大丈夫か? ちゃんと歩けるか? なんならタクシー拾うが」

ミク「このままなら、大丈夫です。マスター」

ヲタ「え、ああ……そうだな」

ミクがつないだ手に力をこめる。なんだか恥ずかしくて、その帰り道はあまり言葉が出なかったけど、
ミクとの距離が近くなったような感じた、そんな一日だった。

実はまだ最後まで書いてないのでこれからペース落ちる。ごめんね


ミク「マスター、新しい曲できました!?」

ヲタ「まだまだ、慌てんなって」

ミク「早く歌いたいし、みんなに聴いて欲しいです! うふ、楽しみです」

あれから一ヶ月が経った。
俺はミクにせがまれよく曲を作っている。久しぶりにニコニコにアップロードした時は、
また叩かれるんじゃないかとビクビクしたが、そこそこ評判も悪くないようで、そうなると俺も嬉しい。

ヲタ「できたぞ。ちょっと歌ってみてくれ。キーのおかしい所あったら修正するわ」

ミク「わ、歌います歌います!」


ミクとはずいぶんと仲良くなった。
とは言っても、相変わらずセクロスさせてくれないどころか着替えも見せてくれないけどな!! 
ま、また壊れたら困るし、何より俺はミクが悲しむ顔を見たくないのだ。

でもまあ、

ミク「マスター! これはランクインします! 絶対!」

よく笑うミクを見てるだけで十分だ。こうやって、ずっと仲良く過ごさせたらさ。

ミク「あれ、臨時ニュースですって、マスター」

でも、あまり幸福では無い人生を送ってきた俺に、
そんな時間は長くは続かないようだ。運がないのかな。どうしてだろうな。


『ニコニコ臨時ニュースをお伝えします。ただいま入った情報によりますと、
 アメリカニューヨークのロックフェラーセンタービルに航空機が激突し、多数の死者が……』

ヲタ「な……凄い事になってるな……おい……」

20年ほど昔、まだ俺が小学生だった時のあの事件を思い出す光景。

『アメリカ政府によると、イスラム過激派によるテロ行為との見方を強めており、
 犯行に使われたのは、違法なAIを組み込んだアンドロイドであると推測しています。
 クリントン大統領はホワイトハウスにて緊急会見を行い……』

ヲタ「……」

またアンドロイドを使ったテロ行為……しかも今度は被害が尋常じゃない、大事件だ。
何か、とても嫌な予感がする……。


ミク「マスター……、これって……私の仲間が沢山の人を……」

ヲタ「アンドロイドが悪いわけじゃない。むしろ、犠牲者だ……」

ミク「……」

でも、怒りの矛先ってのは何処に向かうか、分からないからな……。

それから連日のように伝えられるテロのニュースと、アンドロイドの所持禁止や
廃棄処分をヒステリックに叫ぶコメンテーターや文化人たち。
ここぞとばかりに乗っかり、アンドロイドバッシングを行うフェミニスト。
世論の流れは、アンドロイドユーザーにとって悪い方に加速していった。


そして、事件から数日後のある日。

ヲタ「もしもし……ああ、高橋か。お前から掛けてくるとか珍しいな」

友「ああよかった。無事だったか……」

ヲタ「は? 無事ってなにがだ。ピンピンしてるが」

友「よく聴け。これはまだ報道規制されていて一般人の知らないことだが、
  違法AIを載せたアンドロイドの所持者がどんどんしょっぴかれてる。現在進行形だ」

ヲタ「へ、へ? ちょ、待てよ。アンドロイドのAIなんて殆どが違法だろ?
   そんなの大騒ぎになるってか、ありえんだろ」


友「だから、お前の言うところの『ヌルい』AIじゃなく、違法性の高いAIを載せてる
  ユーザーに絞られてる。電子計算機ナントカだの、不正アクセスだのの別件で引っ張ってな。
  テロ行為に繋がるような危険なAIのアンドロイドは、根こそぎやられるそうだ」

ヲタ「は? そんな事許されるのかよ! 違法逮捕じゃないのか……」

友「米国からの圧力が凄いらしい。アンドロイド自体の所有禁止法案も近日中に可決される。
  これは決定済みだ」

ヲタ「マジかよおい……て、ていうかそもそも、違法AIを載せてるってわかるのか?」

友「それはな……まあ今まで言ったことも全部含めてだが、これ言うと大騒ぎになるから
  間違っても2ちゃんに書いたりするなよ……。アンドロイドは、AIの種類やや位置データをメーカーに送信している。
  定期メンテナンスと称して、毎日通信してるだろ? 暗号化されてる部分にそれが含まれてる
  だから……捕まえる対象も位置も丸分かりだ」


ヲタ「え……そんな……俺、捕まるのか!? 捕まったらどうなるんだ? ミクは……」

友「……しょっぴいてるのは公安だが……警察に出頭すればすぐ出てこられるはずだ……確証はないがな。
  アンドロイドは……。残念だが……」

ヲタ「……」

友「俺はお前が捕まるニュースなんて記事にしたくない。変な事考えるなよ……」

ヲタ「……」

友「でも、俺もヲタだからお前の気持ちはよくわかる……。俺が伝えられるのはこれだけだ」

ヲタ「ああ……ありがとよ、高橋」

友「じゃあな……」


高橋……そういう事伝えてくれるのはありがたいけどよ、もっと早く……。
いや早くても遅くても一緒か……。俺みたいな一市民、官憲に逆らえんしな……。

ミク「マスター……」

ヲタ「……聞こえちゃってたよな」

ミク「私、どうなるんです……?」

ヲタ「それは……」

ここでカッコよく、『お前は誰にも渡さない、俺が守る!』なんていうのは簡単だ。
でもさ、それができるのはお話の中のヒーローだけなんだよ……。


ミク「……」

ヲタ「……なあミク、歌ってくれ」

ミク「……はい、マスター!」

今出来る事、それはミクに歌ってもらうこと、ミクの歌を聞いてやること、
それがお別れまでの、せめてもの過ごし方だ……。

ヲタ「いいぞミク、ランクイン間違い無しだ……」

ミク「そう思います! マスター!」

その時まで、何回も何回もミクに歌ってもらおう。
何回でも……って、なんか外がドンドンうるさいぞ。


ヲタ「まさか……もう……?」

早過ぎるだろうおい……もっとミクと……時間を……。

ミク「マスター……お客さんでしょうか?」

ヲタ「……」

素直に出ていくべきか……いやしかし……でも……
逃げたってどうしようもないよな……。

ヲタ「くっ……」

「おーい。あんた、俺だ」

ヲタ「……え?」

店主「メルトのオヤジだ。おい、急いで出てこい」

窓の外を見てみると、あの時のオッサンだ。
でも、どうして……。

ヲタ「え、え、あの……?」

店主「あの子も連れて降りてこい! 話は後だ!」

ま、まさかオッサンが公安関係者ってことは……?
いやそんなはずもないよな……。

店主「おい急げ。早く早く!」

ヲタ「わ、わかりました! 今いきます! ミク、外に出るぞ!」

ミク「あ、はい!」

オッサンを信じてミクの手を引き、外に駆け出す。

店主「ほら、乗った乗った」

俺達はワンボックスの車に乗るよう促され、飛び乗る。


店主は運転席に乗り込み、車を発進させる。

ヲタ「え、あの……どこに行くんですか」

店主「逃げるんだよ! 決まってんだろ」

ヲタ「え、いや逃げたいのは山々ですが……」

どうしてこのオッサンが事情を知ってるんだ?

店主「公安の無線を傍受してたら、お前んとこに踏み込む話が出ててな。
    急いで飛んできたってわけよ。ちなみに俺の店もやられてる最中らしい」

ヲタ「え、え、もう……?」

無線を傍受とか、このオッサン何者なんだ……。


店主「嬢ちゃん、ちょっと悪いがしばらくの間電源を切ってくれねーか」

ミク「え、私のですか……?」

店主「もう今、全アンドロイドは通信しっぱなしなんだ。逃げた事もバレてる。
    あとこれ、嬢ちゃんの頭にかぶせておいてくれ」

店主が布袋のようなものを放り投げる。

ヲタ「これ、なんです?」

店主「電波を遮蔽する素材で出来てる。ほら、見つかっちまうぞ。早く切るんだ」

ヲタ「は、はい。……ミク、ちょっとの間我慢しててくれよな……」

ミク「わかりました、マスター……」

ミクが両手で俺の手を握ってくる。俺はもう片方の手で、ミクの電源スイッチを押した。

ヲタ「切りました……これで、見つかりませんか?」

店主「さーわかんねーな。逃げれるだけ逃げてみるけどよ」

ヲタ「……どうして、オッサ……いえ、あなたはこんな事を……
   以前もお代をタダにしてくれたり……してくれるんです?」

そう、なんで見ず知らずの人間に助けてもらえるのか。ご都合主義すぎるだろう、普通に考えて……。

店主「そりゃあよ……。あー、昔話になっちまうけど、いいか?」

ヲタ「あ、はい……」

店主「俺は、昔、とある大企業でバイオコンピュータの研究をしてたのよ」

研究者? 言われてみればそう見えるような、喫茶店のマスターにしか見えないような……。

店主「でな、研究に熱心になるあまり、家庭もほったからしでな。病気の娘の見舞いもロクにしなかった悪い父親だった」

ヲタ「病気の……娘さん……?」


店主「ああ、なんつったっけな、体のあちこちが動かなくなって、やがて死んぢまう奇病でな。
    でまあ……研究者としての欲望だったのか、父親としての希望だったのか……今でもわかんねーが、
    俺は娘が死んでしまう前に、その人格をデジタル化しようと試みたんだ」

ヲタ「人格の……デジタル化?」

まさか……その娘の名前って……。

ヲタ「クミさん……そうですよね?」

店主「ああ、その通りだ。……結果的に試みは成功した。だがな、その『擬似脳AI』の話を嗅ぎつけた
   某国の軍事企業から、プロジェクトに参加させろって話が来てよ。高額の条件に、うちの企業も尻尾振って飛びついたってわけよ」

ヲタ「軍事……ですか」

店主「ああ、戦車も戦闘機も操縦できて、痛みも恐怖も感じない、頭がもげても特攻する完全無敵の兵士ロボットを作ろうって事らしくてよ。
    でもよ、その元になる人格は……久美なんだぜ……そんなの、娘に人殺しなんて、させられるわけねーだろ、なあ……?」


ヲタ「……」

店主「だから俺はある時、擬似脳AIに関するプログラムを全て破棄してやった。一機のハードディスクを除いてな。
    そしてそれを手に逃亡した……が、追っ手はすぐにやってきてな。もうどうしようもないと悟って、
    AIをインターネット上にアップロードして、ハードディスクを破壊したんだ。その後とっつかまって、
    娘の死に目にも会えなかったが、AIの行方だけは殴られても蹴られても吐かなかったぜ」
    」

ヲタ「アップロードって……そんなのすぐに見つかってしまうんじゃ?」

店主「お前、あれを見つけるの大変だったんじゃねえか?」

ヲタ「ええ、まあ大変っていうか……どこをどう巡って辿りついたのか、さっぱり」

店主「6時間周期で世界中のサーバーにアップロード場所を変えるトロイ型ファイルだ。
    一度ダウンロードされたら元のファイルを削除するように設定もしてある。なんでお前さんが
    それを見つけられたのか……、まあ、安っぽい言い方をすれば、奇跡ってやつだな」

ヲタ「……でも、ネットに流して、どうしようと思ったんです?」

店主「さあな、軍事目的に利用されるぐらいなら完全に破棄しようと思ったが、娘の人格が詰まってるなんだ。
   どうしても出来なくてよ……。何かの気まぐれで、久美がアンドロイドとして誕生したら、
   修理屋やってたら会えるかなって思ってよ……。まさかそん時が来るとはなあ。ま、今大ピンチなんだけどよ」

ヲタ「……」


店主「……よし、この辺まで来たらひとまず大丈夫だろう」

オッサン、いや、ミクの父親は山中の路肩に車を止め、工具箱を引っ張り出した。

ヲタ「あの……何を……」

店主「久……この子に付いてる通信機能をはずさねえとだ。ちょっと頭をこっちに向けてくれ」

ヲタ「あ、はい……」

ミクの体を動かしシートに父親の方に頭を向け寝そべらせる。父親は器用に頭部のパーツを外し、
作業を開始する。

ヲタ「あの、何か俺に出来る事は……?」

店主「ああそうだな、追っ手がきてねえか見張っててくれ。ま、こんな山の中じゃそうそう来ないだろうけどよ」

ヲタ「あ、はいわかりました!」

車外を見ている方が気分的にいい。アンドロイドとはいえ、女の子の頭を開いて脳外科手術みたいな事をしているのを
見るのは、あまりいいものではないからな……。

一時間ほど経っただろうか、ミクの父親が作業を終えたようだった。

店主「おい、終わったぜ。もう電源を入れて大丈夫だ」

ヲタ「あ、はい……」

俺はそっとミクのパワースイッチに触れる。
ピー音の後、ガバっと起き上がり、勢いあまって車内の天井に頭をぶつけるミク。

ミク「あいたた……マスター!」

俺を見るなりしがみついてくるミク。こんなに頼られているのに、俺は何も出来ないのが悔しい……。

店主「おいあんた、車の運転できるよな?」

ヲタ「え、いやその、免許が……原付しか……」

店主「ったく、最近の若い奴は……。しょうがねえ、俺が乗って帰ろうと思ったが、お前らあれにのってけ」

父親が指さしたのは荷台のスクーター。

ヲタ「あれって125ccじゃ……俺の免許は原付で……」

店主「50も125も大してかわんねーから心配すんな。それに逃亡者なんだし違反も糞もねえ」

ヲタ「え、というか、あなたは……あなたはどうするんです!?」

店主「俺は面が割れてるから一緒に逃げたら目立つだろ……それに、店の奴らどもを放っておけねえしな」

ヲタ「店のって……あのアンドロイド達ですか?」

店主「ああ、処分されるのは分かってるけどよ……俺が不在で、公安の腐れ野郎共の好きにはさせたくねえんだ。
    だからよ、二人で逃げてくれ」

ヲタ「で、でも……どこへ逃げたら……」

店主「……」

ヲタ「あの……」

店主「逃げろって言っておいてなんだが、正直にいっちまうと、日本の警察組織ってのは優秀だ……どこに逃げても、いずれは捕まる」

ヲタ「……」

店主「……だけどよ、身を隠してたら一ヶ月か、一年か、もし再びアンドロイドが陽の目を見る時代が来るまで
   逃げきれたら……そんときは、勝ちだ」

藤子不二雄のアイドルのアンドロイドが届いたって話思い出した

ヲタ「……」

そんな逃亡生活……俺に、俺に出来るか……?
なんの取り柄もない、今まで何かを本気で頑張ったことのない、俺が……。

ミク「マスター……」

ヲタ「……」

でも、俺を頼ってくれる、俺の愛したミクを、俺は、俺は守りたい……!

ヲタ「わかりました……ミクを……守って逃げきってみせます!」

店主「おう、いい言葉だ……久美を……頼んだぜ」

ミク「クミ……?」

店主「ほら、二人でバイクに乗っていけ。つかまんじゃねえぞ! あ、バイクのエンジンが発電機と兼用できるようになってっから
    電力供給をワイヤレスにしとけよ!」

ヲタ「は、はい!」



俺はミクとスクーターにまたがり、エンジンをかける。

ヲタ「ほんとに……色々と世話になりました」

ミク「ありがとうございます、おじさま……」

ヲタ「また、会えますよね……?」

店主「ああ、きっとな。ほら、いけ!」

ヲタ「……はい!」

俺は振り返らずに、山の合間を縫う道路をバイクでひた走る。
腰に回されたミクの細い腕。なんとしてでも、守り切る、必ず……!


しばらく走っていると、あたりが暗くなってきた。ガソリンもまだ余裕はあるが、できればあまり使いたくない。
どこか休める場所はないだろうか……。街に出るのは危険だし、山の中で野宿ってのもそれはそれで危ない……。

ミク「マスター、あれ、山小屋じゃないですか……?」

ヲタ「え?」

暗くて遠くてよく見えないが、ミクの高性能なカメラだと見えてるんだろう。
ミクの指さす方向に向かってみる。

ヲタ「ほんとだ、山小屋だな……」

古ぼけた小さな小屋。もしここで休めるならありがたいが……。

ヲタ「中はどうなってるかな……」

扉を開けてみると、多少埃っぽいものの、休むぐらいなら問題無さそうだ。

ヲタ「今日はもう暗いから、ここに泊まるか……」

ミク「はい、マスター」


見つからないようにバイクを茂みに隠す。ヘルメットも入れておこうとメットインを開くと、
中にはリュックサックが入っていた。

ヲタ「そういや別れる前に、メットイン開けて何か入れてたっけ……」

リュックサックを開いてみると、カンテラ、非常食、それに……3つの札束。

ヲタ「何から何まで……ミクの親父さん、ほんとすんません……」

山小屋の中でカンテラを照らす。結構な山の中だし、大丈夫だろう、おそらく……」

ミク「……」

ヲタ「……」

疲れていることもあって、特に口を開くこともなく時間が過ぎていく。
まあ、これからの事を考えると不安になっているのも大きいが。

ミク「あの、マスター……」

ヲタ「ん……?」

ミクが曇りがちな表情で、語りかけてくる。

ミク「前に……マスターが好きだって言われて、その、あの時はごめんなさい……」

ヲタ「……ああ、そんなのいいよ別に」

ミク「あの時は、私の存在、私の生まれた意味は、歌うことだって思ってました」

ヲタ「まあ……ボーカロイドだしな」

ミク「でも私……マスターと一緒にいるうちに、なんのために歌うのかって、気づいたんです。
   それは、誰かに聴いてもらうため、マスターに聴いてもらうため……」

ヲタ「え……」

ミク「私、もっとマスターに歌を聴いて欲しい、マスターに側にいて欲しい、
   マスターと、ずっとずっと一緒に居たい!」

ヲタ「……」

ミク「私、マスターの事が、大好きです……」

ヲタ「ミク……」

ミク「だから、マスター、私を、私を……」

ヲタ「ああ、ミクの事は、俺が絶対……」

ミク「私を連れて、警察に言ってください……」

ヲタ「え……」

ば、バカな……何言ってるんだよお前……!

ミク「私のせいで、私のせいで、こんな……! 
   私、マスターに迷惑を掛けたくない、私のせいでマスターが辛い思いするの、
   そんなの嫌です、嫌なんです!!」

ヲタ「ミク……」

ミク「だから、私を……マスター、お願い……」

ヲタ「馬鹿、ミクの俺の嫁って言っただろ」

ミク「マスター……」

ヲタ「最愛の嫁さんを捨てて逃げる旦那がどこにいるんだ」

ミク「でも……でも……」

俺は、うつむいて震えるミクの隣に腰を下ろして、強く抱きしめた。

ヲタ「ミク……俺は何の取り柄もない情けない男だけど……。
   俺はずっとお前と居たい、お前を守りたい、だから、頼れ」

ミク「でも、マスター……」

ミクの唇が今にも触れそうな距離で、もう一度言った。

ヲタ「俺を頼れ」

ミク「はい……マスター……」


ミクを一番近くに感じた長い長い夜。
明日の夜も、明後日も夜も、そうしていたいと思った。


ミク「おはようございます、マスター」

ヲタ「あ、ああ……おはよう」

窓から朝日が差し込んでいる。いつもの日常と違うのは、ここが逃亡中の山小屋ということだ。

ミク「いい天気ですよ、朝の空気は気持ちいいですね」

ヲタ「ああ、いい朝だ……」

幸せそうに笑うミク。こんな状況だけど、ミクの笑顔を見るとなんだか元気が出てくる。

ミク「ちょっとお外の景色を眺めてきますね」

ヲタ「ああ、大丈夫だと思うけど、一応周りに気を付けるんだぞ」

ミク「はい、マスター!」

ニコニコしながら山小屋の外に出ていくミク。
俺も山の空気を吸いながら大層でもしてみるかな……。


ヲタ「ふわー、しかしまだちょっと眠い……」

昨日は夜更かししたもんな……。

ヲタ「……?」

今、銃声がしなかったか……?

ミク「きゃあっ!!」

間違いない、もう一発……!
なんで? 銃声!? まさか!?

ヲタ「ミクッ!!」

急いで山小屋の外に飛び出す、倒れているミク。
なにが、なにがあった!?

ヲタ「ミク!! ミク!! 大丈夫か!! ミク!!」

ミク「あ……マスター、だ、大丈夫です……」

ゆっくりと起き上がるミク。脇腹に、銃で撃たれたような大きな傷跡……。

「う、うわああああっ!! お、起き上がりよった!!」

「緑の妖怪さいるいうから撃ってみよったら、ひ、人やないかい!! 人撃ってしもうた!」

猟銃を構えた二人の男。何やら騒いでいるが、あいつらがミクを撃ったのか!?

「お、おい、あれ人やのうて安藤ロイドちがうのんけ!」

「そ、そうじゃ、チロリストの……!」

「大変じゃ……えらいこっちゃ……」

「ち、駐在さんにしらせんと……」

走って逃げ出す二人。不味い、不味い、警察に通報される……!

安藤ロイドワロタ

ヲタ「ミク! お前、傷、傷が……!」

ミク「駆動系に損傷はありません、マスター」

そうだ、早く逃げないと、逃げないと!

茂みからスクーターを引っ張り出し、エンジンをかけまたがる。

ヲタ「ミク! 乗って!」

山道を全速力で疾走する。だが、どこに逃げたらいい、どこに……?

ヲタ「……ヘリ?」

遠くの方から飛んでくる、ヘリのローター音、くそっ、なんて手配が早いんだよ!!
道路を走ってたら見つかってしまう! 林の中までスクーターで入り、進めそうになくなったあたりで乗り捨てた。

ヲタ「ミク、こっちだ!」

ミク「は、はい!」

山の中だと、ミクの足についているローラーも役に立たず、上手く歩けない。
途中の茂みに身を隠し、息を潜める。

ヲタ「上手くやり過ごせるといいが……」

……おそらく、無理だろう……山狩りでもされたらあっけなく見つかってしまう。
そうしたら……そうしたら……!

ミク「マスター……マスター……!」

ヲタ「大丈夫……大丈夫だ……」

遠くの方で聞こえるたくさんのエンジン音。
人間が草木を分け入って歩く音。

俺が、俺がヒーローなら、こんなピンチでも、ああ、くそっ……


『――アンドロイドとテロリストの男を発見しました』 



俺は……無力だ……


警官がワラワラと集まってくる。もう、もうおしまい……なのか……。

「お前は完全に包囲されている! 武器を捨てて大人しく投降しろ!」

武器なんて持ってないっての……。

……武器、か。

ヲタ「(ミク、合図したらゆっくり立つんだ)」

ミク「(は、はい……)」

ヲタ「おい、サツ共……命が惜しくなかったらそこを退け」

「何言ってるんだ! 確保だ、確保ーーーー!!」

ヲタ「おっと動くな! このアンドロイドには爆弾が仕掛けてある!(ミク、今だ)」

「な……確保やめ! ストーーーップ! おいやめろ!」


ヲタ「お前ら、ちょっとでも変な真似したら爆発させるからな!
   俺は神の戦士だ、死ぬのなんてちっとも怖くない」

「く、くそ、卑劣なテロリストめ……」

よし、ブラフを見事に信じてやがる。このままどうにか逃げ延びてやる……!

ヲタ「おい、聞こえないのか! 道を開けろ! ドカンといくぞ!!」

ミク「ど、ドカンといきますよ!」

「お前ら、あ、開けろ開けろ!! 開けろ!!」

よしよし、やったぜ……って、あれ……?

ヲタ「……あ……れ」

ミク「マスター……?」

腹が……滅茶苦茶に痛い…… あー……どっからか……狙撃されたのか……

ヲタ「ぐ……ぐほっ……」

もう……ダメか……ごめん、ミク……

ミク「イヤぁああああああああああああっ!!」

「よし、男は倒れた! アンドロイドを取り押さえろ!!」

警官たちが一斉にミクに飛びかかる、だが……

ミク「あああああああああああああああああああああ!!」

身体中のモーターがフル回転するような激音、焦げ臭いような匂い、
火を付けたような熱気のミクが警官を吹き飛ばす。

ミク「マスター!! マスタァァあああ!!」

「あ、アンドロイドが暴れだしたぞ! 鎮圧しろお!!」

盾を持った警官たちが、ミクに突進する。だが、ミクが腕を振り回すと、次々と吹き飛ぶ彼ら。
ミクの腕は折れ曲がり、今にももげそうな状態でぶらさがっている。

ミク「マスターに……マスターに……うわぁああああああっ!!」

ミク……もうやめろ……もう……それ以上暴れたら、お前……お前……

「こ、こっちに来るぞ! 撃て! 撃て撃て!!」

「ば、爆弾に当たるので撃てません!!」



手を、足を振り回し警官たちを蹴散らすミク。だが、あまりの負荷にミクの体は耐えきれず、
無残な姿へと変わり果てていく。

ミク「マスター……マスター……」

頭部から煙を上げ、火花を散らすミク……
もうやめてくれ……ミク……死んでしまう……やめてくれ……

ミク「ああ……マスター……マスター……」

ミクはギシギシと音を立てながらついに膝を付く。
そしてそのまま、地面へと倒れこんだ。

ヲタ「ミク……死ぬ……な……ミク」

ミク「マスター……ずっと……一緒に……」

ミクは……それっきり動かなかった。ミクは……ミクは……。

ヲタ「あ……あああ……」

「確保だあーーー!! 確保ーーーー!!」

ヲタ「うああああああああああああああああああああああ!!」




『――被告人を、懲役6年の刑に処する』

ヲタ「……」

その後、一命を取り留めた俺は、逮捕され裁判を経て、刑が確定した。
色んな罪状があったけど、よく憶えてない。
だって俺の頭の中は、ずっとミクの事しか考えられなかったから。


それは刑務所に収監されても変わらなかった。
ミクの笑顔、ミクの歌声、ミクの体温、忘れられるわけがなかった。


ある時刑務所内で読んだ新聞。
アンドロイドが処理される過程をスクープした記事だった。
その記事は大きな反響を呼んだようで、アンドロイドに対する同情論を巻き起こした。
それを書いた記者の名前は、高橋。その記事中に、に、こんな一文があった。

『私の親友に、アンドロイドを心から愛しぬいた男が居た。彼のような考えを持つ人々が増える事を願う』

ヲタ「あいつ………」


またある時読んだ新聞には仰天した。

ヲタ「ちょ……何やってんのオッサン」

喫茶店のマスター風なミクの父親が、選挙に立候補していたのだ。
掲げる目標は、アンドロイド規制法の撤廃と、アンドロイドに権利を与える事。

ヲタ「まあ、すげえ行動力のあるオッサンだから当選しそうだよな……」


何回目かの夏が過ぎ、冬が過ぎ、刑務所で過ごしてから5年近く過ぎた頃、
俺は模範囚として仮出所を言い渡された。

ヲタ「シャバに出れるのか……。あー、仕事もないしどうすっかねえ……」

そう言えば、あのオッサンちゃっかりと当選してしまい、世論のアンドロイド同情論の後押しもあり、
色々と制約付きではあるが、アンドロイド規制方を廃止させたのだ。
そんなわけで、再び独身男性に夢と希望が与えられたようだ。

ヲタ「ま、俺には関係ないけどさ」

俺は、あいつじゃないとダメだしさ。あいつじゃないと……。


「もう二度と戻ってくるんじゃないぞ」

ヲタ「お世話になりました……」

刑務官に頭を下げ、刑務所の門をくぐる。さて、どこにいくかねえ。
とりあえずラーメンでも食いにいくかね。


「よう、お勤めご苦労さん」

高そうな外車の窓から顔を出したグラサンのヒゲおやじ。
……え、あんたもしや。

店主「ムショで鍛えられたのか、いい面構えになってるじゃねーか」

ヲタ「あ……あ……あなたは……」

国会議員になったオッサンは、なんともまあ金持ってそうな成金親父に早変わりしてやがる。

ヲタ「アンドロイド規制をやめさせるとか、凄いじゃないですか。やっぱ行動力あるなあ」

店主「ははは、俺はどうやら研究者なんかよりこっちの方が向いてるみたいだぜ。
    で、お前よ。ムショ出て働くとこあんのか?」

ヲタ「いや……それが……はは……」

店主「おうじゃあ、うちの事務所で雇ってやるよ。給料はそんなに高くねーけどよ」

ヲタ「ほ、ほんとですか? 助かります!」

店主「まあ。娘婿がムショ帰りの無職ってのはあれだからな、せめて職についてもらわねーと
    結婚式とかで色々とあれだろ! なあ?」

ヲタ「は、はい? 結婚式?」

その時外車の後部座席が勢い良く開き、飛び出して来た人物が俺の胸に飛び込んでくる。

ミク「マスター……会いたかったです……」

ヲタ「え、え、え、え??」

店主「おい、出てくるのはえーよ。もうちょっとこう感動の場面でだな」

ミク「お父さんに感動とか似合いません! ね、マスター。どっか遊びにいきます?」

ミク? ミク? なんで……? ミクはあの時……

ミク「びっくりしました? 私があの時車の中で修理を受けてる最中に、こっそりバックアップを
   取ってたらしいですよ。まったく、いやらしいですよね」

店主「おいおい、そのおかげで感動の再会できたんだろうに。ったくよお」

   /.   ノ、i.|i     、、         ヽ
  i    | ミ.\ヾヽ、___ヾヽヾ        |
  |   i 、ヽ_ヽ、_i  , / `__,;―'彡-i     |
  i  ,'i/ `,ニ=ミ`-、ヾ三''―-―' /    .|

   iイ | |' ;'((   ,;/ '~ ゛   ̄`;)" c ミ     i.
   .i i.| ' ,||  i| ._ _-i    ||:i   | r-、  ヽ、   /    /   /  | _|_ ― // ̄7l l _|_
   丿 `| ((  _゛_i__`'    (( ;   ノ// i |ヽi. _/|  _/|    /   |  |  ― / \/    |  ―――
  /    i ||  i` - -、` i    ノノ  'i /ヽ | ヽ     |    |  /    |   丿 _/  /     丿
  'ノ  .. i ))  '--、_`7   ((   , 'i ノノ  ヽ
 ノ     Y  `--  "    ))  ノ ""i    ヽ
      ノヽ、       ノノ  _/   i     \
     /ヽ ヽヽ、___,;//--'";;"  ,/ヽ、    ヾヽ

ミク「二人でゆっくり積もる話でもしましょ、マスター!」

ヲタ「ちょ、ちょ、あの、あの……ミク……」

懐かしくて、嬉しくて、なんだか自然に涙が溢れてきて……。

ミク「マスター……?」

ヲタ「俺、嬉しい、嬉しいよ、また、会えて……」

ミク「……せっかく湿っぽくならないように、明るくしてみたのに、ずるい、
  ひとりだけ泣いて、ずるいです! ぐすっ……」

店主「ほーら始まった」

ミク「ぐすっ……あの、マスター……」

ヲタ「あ……うん……」

ミク「マスターの、お嫁さんにしてくれますか?」

ヲタ「……うん」


俺は初音ミクを嫁にしてみた。



おしまい。

最初と最後で俺の中のヲタのビジュアルがまるで別人になった

ミク「あの時、戦ってくれたマスターかっこよかったですよ」

ヲタ「まぁ必死だったからな…ん?なんでお前にその時の記憶が…?」

ミク「ふふ…さぁ、何故でしょうね?」

それでも俺はやってない

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