男「童貞が差別される世界」 (24)

以前そんなラノベはどうってスレ建てたけどSSとして書いてみよう

――四月、とある高校、放課後

男「どうした。急に呼び出して」

友「やあ、わざわざ来てもらっちゃって悪いね。だけど大事な話だ」

男「(中学が一緒であるものの、これまでほとんど絡みのなかった奴。今更何の用だ?)」

友「僕らもいよいよ高校三年生。進路とか考える時期だな」

男「そうだな」

友「君はどうするつもりだい?」

男「就職するよ」

友「……やはり噂で聞いた通りか」

男「何だよ、噂って。俺の進路が何か関係あるのか」

友「いや、君は成績いいじゃないか。てっきり大学に進学するものだと。
  家に金がないわけでもあるまい?」

男「(まともに話したのはほぼ初めてだが、ずいぶん気取った喋り方をする奴だな……)」

友「ずばり聞こう。君、童貞だろ?」

男「! ……そうだよ。それがどうした」

友「そろそろまずいぜ。二十歳の誕生日まであと二年だ。それまでに脱童貞できないと『烙印』を押される」

男「分かってるよ、そんなこと」

友「なあ、男。僕はこう推測しているんだ。君は何らかの理由で童貞卒業を諦めてるんじゃないかと」

男「何故そう思う?」

友「君が大学に進まずに就職する道を選んだのは、童貞卒業できる見込みがないからだろう?
  大学に行ったところで二十歳までに脱童貞できなきゃ『烙印』を押され、まともな人生は望めない。
  だからもう華々しい未来は諦めて、童貞なりにひっそりと堅実に生きていく道を選んだ」

男「……すごいな、その通りだよ。お前は名探偵か」

友「ひとつ訊きたい。君はできることなら脱童貞『したい』のか?」

男「いや、俺はそんなこと望んではいない」

友「童貞を貫く堅い意思があると?」

男「そう言うと大げさだが、まあそんなところだ」

友「いいね。気に入ったよ」

男「なあ、さっきから何の話だ? 肝心の要件は何だよ」

友「ここから先は教室では話せない。僕の家に来てほしい」

――友の家

男「(豪邸だな……)」

友「遠慮せずくつろいでくれたまえ」

男「(落ち着かん……)」

友「では早速本題だ。実は、僕も童貞だ」

男「嘘だろ!?」

友「お、そのリアクション。僕がモテる男だと思っててくれたのか。嬉しいね」

男「いや、まあ……」

友「まあ実際僕はモテるよ。言い寄ってきた女の子も数知れない」

男「お前の口から言われるとムカつくな……」

友「だけど全部断ってきた。僕には童貞を守らなきゃいけない理由があるんだ」

男「理由……?」

友「この国では二十歳までに脱童貞登録を行わないと額に焼印を押され、『成人童貞』として社会的に様々な差別を受ける。
  まともな就職はもちろんできないし、家の塀に落書きをされたり、石を投げ込まれたり、嫌がらせも受ける。
  最近では『童貞狩り』なんて事件も起きてて、死人も出ているのに警察は被害者だから童貞だからって相手にしない。
  おかしいと思わないか?」

男「まあ……」

友「そこで、僕はこの間違った世の中を変えるため、レジスタンスを結成しようと思う」

男「レジスタンス!? お前のような高校生が?」

友「この歳だからこそできることだ。我々未成年童貞はまだ額に烙印を押されていない。
  外見上は非童貞と変わらないんだ。成人童貞たちとはできることの幅が違う。
  この国を変えるには、僕たち未成年童貞が立ち上がらなきゃならないんだよ」

男「なるほど。で、そのレジスタンスに俺を勧誘しているわけか」

友「話が早くて助かる。このレジスタンスには君のような、童貞を守るという強い覚悟をもった人間が必要なんだ」

男「しかし、その話は現実的だとは思えない。いくら童貞としての制約を受けないとはいえ、俺らみたいなガキに何ができる?」

友「いいか、男。僕が童貞を守っているのは何もレジスタンスのリーダーとしてのけじめのためだけじゃない。
  童貞ってのはそれだけで価値だ。今からそれを見せてやる」

男「?」

友「来い」パチン

中年「はっ」

友「紹介しよう。僕の父だ。彼もまた童貞でね」

男「あ、初めまして。……って、父親で童貞っておかしいだろ」

友「戸籍上の父であって実父ではない。おい、見せてやれ」

中年「はっ」

男「何を……。!? 椅子が、宙に浮いてっ!?」

友「これが、童貞の力だ」

男「どこかにピアノ線が……?」

友「ないよ。超能力のようなものだと思ってもらっていい」

男「そんなこと信じられるか」

友「いいぜ。好きなだけ疑って。こちらとしては証拠を目の前に提示してるからね」

男「……本当に浮いてる」

友「これはほとんどの人間が知らない事実だが、ある程度の年齢を超えても童貞だと、人間は魔法使いになれるんだ」

男「知らなかったよ、そんなこと」

友「だが、魔法使いとして覚醒するにはちょっとコツがいる。若い頃に魔法を使う訓練をしておかないとすぐにその資質を失ってしまう」

男「そういう意味でも未成年童貞は貴重だと?」

友「その通り。僕はこれから君に魔法の使い方を教える。これらの魔法が僕らの武器となる」

中年「ハア、ハア」

友「あ、御苦労。もういいぞ」

中年「さすがに疲れましたよ」

友「彼の魔法は、サイコキネシスと言えば分かりいいか。手を触れずに物体を動かせる」

男「『彼の』って、人によって使える魔法が違うのか?」

友「そうだ」

男「使える魔法は一人一つまで?」

友「原則、そうだ」

男「なるほど。……考えとくよ」

友「また声をかける。いい返事を期待してるぜ」

――病院の一室

ガチャ

女「!」

男「よっ」

女「男くん」

男「体調は?」

女「最近いい感じだよ」

男「それは良かった」

女「男くんはもう三年生だね」

男「ああ」

女「誕生日は五月だから、もうすぐ十八かー」

男「そうだな」

女「結婚ができる歳」

男「ああ」

女「あの、さ」

男「何」

女「男くんって童貞だよね」

男「ぶっ」ゲホゲホ

女「だ、大丈夫?」

男「あ、ああ。ただ女の口からそんな言葉聞くとは思わなくて」

女「童貞のまま成人しちゃうと、色々大変なんでしょ? せっかく大学に行っても……」

男「俺は大学には行かないよ。就職する」

女「……!」

男「だから心配するな」

女「もう、諦めてるんだね」

男「……」

女「わたし聞いたんだけど、お金払えば脱童貞登録に付き合ってくれる人もいるって。だから」

男「女、確かにそういうことをやってる奴はたくさんいるが、本当は違法なんだ」

女「えっ」

男「それに、俺は好きでもない人なんかとしたくない」

女「そう……」

男「俺は大丈夫だから」

あげ

――とある工場

おっさん「じゃあ、卒業したらウチで働いてもらうよ」

男「ありがとうございます!」

おっさん「しかし君はまだ高校生だろ? 童貞捨てるの諦めるのには早くないかい?」

男「いえ、いいんです」

男「(童貞だけで構成されている工場……)」

男「(工業高校や高専の卒業者が多く、技術も高いが給与は非童貞の半分……)」

男「(皆いい人たちなのに……)」

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