京介「行ってきます」 (967)

1スレ目
京介「なあ、桐乃」 桐乃「なによ」
京介「なあ、桐乃」 桐乃「なによ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371103358/)

2スレ目
京介「なあ、桐乃」 桐乃「なに? 京介」
京介「なあ、桐乃」 桐乃「なに? 京介」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1372478669/)

3スレ目
京介「ただいま」 桐乃「おかえり」
京介「ただいま」 桐乃「おかえり」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1373702134/)

4スレ目
京介「おかえり」 桐乃「ただいま」
京介「おかえり」 桐乃「ただいま」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1375244567/)

5スレ目
桐乃「行ってきます」
桐乃「行ってきます」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1376832426/)

本編完結済み(1スレ~2スレの途中まで)
原作12巻後、アニメ2期16話後のお話となっております。

本編の合間(最終話前の三年間)の短編スレです。
こんな話が読みたい。 などありましたら、レスして頂ければ可能な限り書きます。 あまりにもイメージと違っている場合は書けません。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1378727397

1乙!
最初のスレから見てる
京介の方がゲームにのめり込むような話が見てみたい

おつ

今回はきりりん視点あるのかな

スレたて乙です


前スレから気になってたんですけど
スレタイの「行ってきます」は二人で一緒に出掛けると言うことで
よろしいですか?

こんばんは。
乙、感想ありがとうございます。
ちょっと投下厳しいので、レス返答のみ。

>>2
前スレの676-730がそのお話に当たります。

>>8
今回のは無いです。 この後投下のが3つ程あるので、その後でよければ書けますが。

>>9
正直に言いますと、間違えた。

てかずっと気になってたんだけど、原作も含めて誕生日ネタなくね?

この前訪問販売でさ、硬くてでかいっつーから買ってみたら皮がついてた…剥けないんだけどどうしたらいい?

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

>>11
そうなんですよね。 誕生日が分かれば色々捗るのに……。

>>15
どのスレでそれを書こうとしたのかすごく気になります。


遅れてすいません、投下致します。

京介「桐乃、ゴールデンウィークって暇か?」

桐乃「結構暇だケド。 それがどーしたの?」

京介「いやさ、沙織から旅行に行かないかーって誘われてるんだよ」

桐乃「はぁ? なんで京介に先に連絡行ってるワケ?」

京介「沙織的には俺かお前か、どっちか一人に連絡するつもりだったそうだ。 どうせ二人一緒に居るんだから、そっちの方が連絡しやすいからだとか」

桐乃「……ふうん」

嬉しそうにしてるなぁ、こいつ。

京介「で、どうする? 行くか? お前が行かないなら俺も当然行かないけどよ」

桐乃「決まってるっしょ! 行く!」

そんな会話があったのが3月頃。 今より2ヶ月程前のことだ。

そして、ゴールデンウィーク開始日の今日、俺と桐乃、沙織と黒猫とでの旅行となったわけ。

何回かあった旅行ではあるが、その時のことを赤城に話すと必ず言われる台詞。

「お前、なんでそんなハーレム旅行をしているんだよ?」

その時に俺が返す台詞は決まっている。

「いや、お前から見ればそうかもしれないけど、桐乃の荷物持ちにされるわ力仕事は全部俺だわで、殆ど召使いみたいな物だぜ」

そして、赤城は最後にこう言うのだ。

「……今度は是非、俺も連れて行ってくれ。 女子の召使いとか最高すぎる」

俺はお前が気持ち悪い。

当然の如く赤城を連れて行くのは桐乃と俺の関係的に無理。

こういう隠すのも含めて、それは俺と桐乃がこれからぶつかって行くであろう問題なのだ。

そしてそれは、俺たちは覚悟している。

それくらい、俺は桐乃が好きだし……こいつもそれは一緒。

桐乃「京介、着いたらまずはご当地メルルのチェックね。 見つかるまで今日は寝れないと思って良いから」

……多分。

京介「……へいへい」

桐乃「適当な返事すんな」

京介「分かりました」

桐乃「よろしい」

若干、以前の奴隷状態が続いてる感があるってのが納得いかないぜ。

黒猫「それはそうと、暇ね」

正面に座る黒猫はそう言う。

今は全員が集まっているのだが、黒猫は先ほどから随分と眠そうな表情をしていた。

京介「それはどうしようもないだろ。 てか、二人部屋って言っても結構広いんだな」

そして現在、俺たちは電車に揺られている。 寝台列車での旅。

沙織がマネーパワーを使い、チケットから宿泊先やら、全てを用意してくれた。 こいつと結婚した奴は多分、とても幸せになれるのだろう。

桐乃「……」

無言で肘打ち。 こいつは一体どうやって俺の考えを読んでいるんだ……。

沙織「はは。 札幌までは結構時間が掛かります故、暇潰しアイテムは用意しておりますぞ?」

さすがは沙織。 気の利く奴だぜ。 もう何から何までさせちまって、申し訳ないよな。

ちなみに部屋は俺と桐乃、沙織と黒猫といった感じで分かれている。 それを決める経緯で色々と面倒なことはあったのだが、その辺りはご想像にお任せしよう。

黒猫「それは楽しみね。 一体どんな遊戯を用意したというの?」

沙織「それはですな……ずばり! 人生ゲームでござる!」

京介「却下だ!」

人生ゲームには嫌な思い出しかないからな。 つうか、沙織が持っているのって以前やった奴と一緒のだし。

……もう、あんな展開は御免だっての。

沙織「きりりん氏は随分やりたそうな顔をしておられますが」

桐乃「へ? んなことないって!」

黒猫「あ~あ。 折角、京介と結婚するチャンスだったのに、このぐるぐる眼鏡、無理矢理押し通しなさいよ」

桐乃「な、なに言ってんの! ヘンな勘違いすんなクソ猫!」

黒猫「あらぁ? わたしはあなたの想いを口にしたなんて、ひと言も言っていないわよ? ただのわたしの感想だったのだけど……何故、そんな慌てているのかしら?」

桐乃「こ、こんのッ!」

……物事が進まないのはいつものこととして、仮にも二人部屋に四人集まっているのだから、取っ組み合いは止めて欲しい。

京介「……沙織、他にも用意してあるんだろ?」

掴み合いをし、何やら罵り合っている二人を放置。 俺は沙織へと話し掛ける。

沙織「ええ。 他にはトランプ等も持ってきていますが」

京介「お、良いじゃん。 それやろうぜ、それ」

沙織「良いのですかな。 拙者、トランプには自信がありますぞ」

京介「大丈夫。 内容にも寄るけど、俺より弱い奴いるし」

そう言い、桐乃の方をちらっと見る。

沙織「はっはっは。 確かに、性格から考えるとそういった物は苦手そうですな」

京介「へへ、だろ?」

そこまで話したところで後頭部を叩かれる。

桐乃「あんた今あたしの悪口言ってたでしょ」

京介「なわけ無いだろ! なあ? 沙織」

沙織「トランプが弱いと言っておりましたぞー」

ちくりやがった! こいつ案外酷いな!

桐乃「ふうん。 上等じゃん。 犬がご主人様に勝てると思ってんの? ん?」

沙織「……犬?」

京介「なんでもねえ! ほら、いいからやろうぜ!」

とっとと桐乃の記憶から消え去るのを願いつつ、俺は慌ててそう言った。

んで、やることとなったゲームは『ダウト』。

順番にカードを捨てて行って、嘘か本当か見破るって奴。

京介「で、俺からでいいのか?」

沙織「ええ、京介氏から時計回りで行きましょうぞ」

ってことは。

俺、黒猫、沙織、桐乃って順番か。

京介「了解、んじゃ、始めるか」

……とは言った物の、初っ端の1が無いと来たぜ。 運ねえのかな。

まあ、さすがにいきなりばれることは無いだろうし、適当に余ってる奴を捨てるとしよう。

京介「1」

桐乃「はいダウトー!」

京介「お、お前……」

手札見てたんじゃねえだろうな!? いやでも位置的に見えるような場所じゃないよな……。

ってことは、こいつ1を四枚持ってたりすんのか。 それなら納得だけど。

桐乃「なに? あたしは正々堂々としか戦わないから」

へいへい。 分かりましたよ。

黒猫「いきなり嘘とは関心しないわよ。 先輩」

黒猫が俺の出したカードを確かめながら、そう言う。

京介「うっせ、ほっとけ」

俺は渋々、ついさっき出したばかりのカードを回収。 桐乃の野郎、覚えとけよ。

黒猫「わたしの番ね。 2」

沙織「次は拙者ですな。 3」

桐乃「あたしね。 よーん」

嘘くせーぞ。 嘘くせーが……本当だったときが不利になっちまう。 確実に嘘だと分かる時に言わなければ。

堅実に、だ。

京介「俺だな。 5」

なんか、桐乃の方からすっげー視線を感じる。 なんだってんだ。

しかし先ほどの様に言われることは無く、本当のカードを出した俺にとっては少し残念。

そんな感じで、しばらくの間はつつがなくゲーム進行。

結構な枚数が場に溜まった時、俺の順番が回ってくる。

……手札は結構減ったが、こういうときに限ってそのカードが無いんだよな。

あまり悩んでいても怪しまれる。 とっとと出して、とっとと流してしまおう。

京介「俺か。 4」

桐乃「ダウトダウトダウトー! ふひひ」

なんかおかしいぞ! 何でこいつは正確に俺の嘘を見破ってくるんだ。

京介「チッ……」

舌打ちをしながら、カード回収。

もうこれ、勝ち目なくね?

それから何回か騙し合い。 増えては減ってを繰り返し、いよいよ終盤。

場にはかなりの枚数。 今度これを引かされたら、勝ち目は本当に消えて無くなる。

そして俺がカードを捨て、黒猫に順番は回る。

手札の枚数的には、俺が5枚。 桐乃が6枚。 沙織が3枚。

んで、黒猫は最後の1枚。

黒猫「……6。 ふふ、あがりよ」

場に流れるのは緊張感。 ここで誰かが「ダウト」と言わなければゲームは終了だ。

その場合、沙織が2位で俺が3位、桐乃が4位となる。

うむ、この場合……ダウトって言うとしたら、桐乃だろうな。

桐乃「……」

京介「おいおい、このままだとお前がビリだぜ?」

沙織「拙者は申し訳ありませぬが、この順位で納得しているので……」

桐乃「チッ……分かってるってーの」

桐乃「京介、お願ぁい」

お前それはずりーぞ! 正々堂々戦うって言ってたのはどこいったんだよ!?

京介「い、言わねえぞ! お前がいくら頼んでも!」

桐乃「ふん。 まぁ良いし。 んじゃ、ダウト」

黒猫「……いつか必ず仕返しするわ」

……おいおい、それ嘘かよ。

黒猫が出したカードは別の物で、桐乃のことを睨みながらカード回収。

桐乃「ウソ! マジ!? ひひ、ざっまぁあああああああ!!」

そして再びゲームは進行。

黒猫が殆ど持って行ったのもあり、俺も沙織も桐乃も思うようにカードが捨てられず、段々と平坦な状態へとなっていく。

そうこうしている内に、場には再びカードが溜まり、俺の番。

ちなみにこれが最後の1枚。

京介「……4。 あがりだけど」

黒猫が10枚程、沙織が6枚。 そして桐乃が2枚。

桐乃「ダウトぉ! それウソ! ひひひ」

……おかしくね? この状況だと黒猫が言うのが普通だが、桐乃が言うのか……?

桐乃「あ~あ。 さっきあたしの代わりに言ってくれれば見逃してあげても良かったんだケドぉ。 ごめんねぇ」

京介「……お前、なんで俺が吐いた嘘、全部分かるんだ?」

もう勝ち目は無いわけだし、俺は桐乃にそう尋ねる。 するとこいつは、こう答えた。

桐乃「そんなの、顔見れば一発だってーの。 何年一緒に居ると思ってんの?」

……そう言われればそうか。 俺も桐乃の顔見れば、こいつが嘘吐いてるか吐いてないかは分かるし。

京介「じゃああれだな。 お前の顔見とけば、嘘か本当か分かるってことか」

桐乃「うん。 そうそう」

桐乃の余裕は当然で、案の定こいつは全部が本当のカードだった。

で、俺が最下位の桐乃がトップ。

桐乃「あっれえ? あたしぃ、弱いのに京介に勝っちゃった? おっかしいなぁ!」

……俺の顔を覗き込みながら、ずっと桐乃はこんな調子。

桐乃「あ。 それともぉ、京介がチョー弱かったってことなのかな? ねえねえ」

俺の頬をぺちぺち叩きながら言う桐乃。 その表情はすっげえ楽しそう。

京介「……すんませんでしたー」

桐乃「え? なに? 謝ったの? ふひひ」

いつまでも終わりそうにないこの拷問はいつまで続くのだろうか。

なんて、そんな風に思ったとき、黒猫から声が掛かる。

黒猫「そう言えば、仲が良さそうなあなたたちを見て思い出したのだけれど」

言うと、ノートパソコンをカタカタと叩き始める。

俺と桐乃は一度そちらに向き、黒猫の言葉を待った。

黒猫「以前、先月くらいだったかしら。 秋葉原でこんなのを見つけたのよ」

そう言うと、黒猫はニヤリと笑いながら画面をこちらに向ける。

京介「……ん?」

映し出されていたのは、キスをしている俺と桐乃。

京介「って待て!! お前これ何だよ!?」

黒猫「何、と言われても困るわ。 たまたま行き着けのお店で、たまたま飾られていた写真があって、たまたまわたしがそれを見かけたということね」

黒猫「まさかポッキーゲームをして、それを写真に収められるバカップルがこの世に居たなんてね。 顔が見てみたいわ」

黒猫「あなたたちもそう思うでしょう?」

……あの店、まだ写真飾ってるのか! いらんことしやがって!

ていうか、そうだよな。 マスケラの本とかも置いてあったんだし、その時点でこの可能性に気付くべきだったか。

桐乃「あ、あははは。 あたしもそう思う。 そんなバカップル居たら見てみたいなぁ~」

こいつ、黒猫がからかって言ってるのに気付いてねえ。 つうか、どう見たって写真に写ってるのは俺とお前じゃねえかよ。

黒猫「そうよね。 桐乃の言うとおりだわ。 それにこのバカップル、どうやらカップルでは無いらしいわよ」

桐乃「へ? どゆこと?」

黒猫「写真の下の方に書いてあるじゃない。 高坂夫婦って」

……俺は黙秘権を行使しよう。

桐乃「ほ、ほんとだ~。 あはははは」

黒猫「あなたと一緒の苗字なのね」

桐乃「ふ、不思議だね」

黒猫「苗字だけでなく、名前も一緒らしいわよ」

桐乃「そ、そんな偶然もあるのかぁ~」

黒猫「嬉しかった? それとも楽しかった? いえ、幸せだったかしら?」

桐乃「全部!!」

……駄目だこいつ。 完全に調子おかしくなってやがる。

沙織「京介氏は先ほどからだんまりですが、どうかされましたかな?」

京介「い、いや別に? ただ、ちょっと乗り物酔いかなぁ?」

黒猫「あら大変。 先輩、仕方ないからわたしが膝枕をしてあげるわ」

……どんな流れだよ。

桐乃「はぁ!? そんなことしたらこいつが調子乗るっての!」

黒猫「別に構わないわ。 わたしは調子に乗っている先輩も厭では無いから」

桐乃「あ、あたしだって……」

沙織「ふっふっふ。 仕方ありませぬな。 ここは拙者が」

こいつら本当に悪ノリ好きだよな! あんま桐乃をからかわないで欲しいぜ。

桐乃「あたしがやるっての! 京介ほら早くして!」

桐乃は言いながら、俺の首根っこを掴む。 で、無理矢理自身の膝へ倒す。

京介「いててて! いてーよ!」

桐乃「うっさい! あんたはあたしの膝でしか寝ちゃ駄目だから。 大人しくしろ!」

黒猫「沙織、シャッターチャンスよ。 早く撮りましょう」

そんなことだろうと思った。 お前らほんと、いつか痛い目に遭わせてやるからな……くそ。

桐乃「ふひひ」

桐乃はというと、カメラに向けて満面の笑み。

……こうなるのが俺は嫌だったんだ。 桐乃がこうなると、しばらく治らないし。

桐乃「あ~もう。 仕方ないなぁ。 京介、すぐ甘えるんだからぁ~」

先ほど首根っこを掴んで無理矢理膝枕状態にしたことは、こいつの中では既に無くなっている様だ。

桐乃「ふひひ~。 京介、頭撫でてあげるね~。 うひひ」

……俺は俺で嬉しいから別に良いか。


北へ 終

以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

おぉ!きてたか。
ワクワクするぜ

ワクワクしすぎで腹痛いwwwwwwwwwwwwwwwwwwww


この>>1最高だわ
毎回楽しみにしてる


そういえば昔、北へ。っていうギャルゲあったよね

こんばんは。
乙、感想ありがとうございます。

>>58-61
不覚にも

>>65
なんだか興味が!


それでは、投下致します。

京介「桐乃、おい」

ベッドに丸まりながら寝る桐乃の肩を揺らし、起こす。

これは完全に無駄話なのだが、ベッドは二つ用意されていた物の、結局俺と桐乃は同じベッドで寝ることとなった。

で、その現場は決して見られたく無かったので、俺は少し早めの起床をしたというわけ。

沙織や黒猫はまだ寝ているだろう時間に、俺は一人目を覚ましたのだ。

桐乃「……んー」

にやにやしながら寝てるなぁ、こいつ。 一体どんな夢を見ているのだろうか。

……なんか、起こすのに少し気後れしてしまうな。

すやすやと寝息を立てながら眠る桐乃。 そんな桐乃の頬を突付く。

桐乃「……ふひっ」

あー可愛いなちくしょう!

こいつの肌はやはりとても柔らかく、俺は夢中になって頬を突付いた。

桐乃「……んんー」

桐乃は顔を背け、俺の指から逃げようとする。

京介「これ面白いな。 はまりそうだ」

桐乃「……んむ」

そして突如、頬を突付いてた手を桐乃は両手で持ち、そのまま口へと入れる。

京介「……お、おい?」

桐乃「んふふふ」

寝ぼけてるのか……? すっげーペロペロ舐めてきてるが。

京介「お、起きろって。 桐乃」

空いている方の手で、桐乃の頬を軽く叩く。 すると、ようやくこいつは目を覚ました。

桐乃「……んー。 きょーすけ? はよお」

あまり桐乃の寝起きってのは見る機会が無いからなぁ。 俺が起きると、いっつもこいつは起きていて、飯の用意しているし。

京介「おはよう」

そう挨拶すると、へらっとした表情をして桐乃は笑う。

で、自分が手に持っている物を確認。

桐乃「……はれ?」

今の今まで口に入れていた指に気付き、桐乃は勢いよく飛び上がる。 やっぱおもしれえな。

桐乃「あ、あんたなに妹の口に指突っ込んでんの……?」

京介「……俺がお前の頬を突付いてたら、お前が急に舐めだしたんだよ」

桐乃「……捏造乙」

言い合いしても仕方ないし、どうせこいつは認めないだろうし、そういうことにしておいてやろう。

それよりも。

京介「桐乃、窓の外」

俺は言いながら外を指差す。

桐乃「……うわ、すごー」

思わず声が漏れるといった感じで、桐乃は言う。

窓から見えているのは広大に広がる自然と、青空と、端から端まで見渡せそうな景色。 で、雪。

正直驚いたぜ。 五月でも雪って降る物なんだな……。

京介「トンネル抜けてるってことは、もう北海道なんだな」

桐乃「だね。 外の空気おいしそー」

京介「窓、少し開けてみるか」

俺は言うと、ロックを外して窓を開く。

するとすぐにそこから風が吹き込んできて、俺と桐乃の体を包んでいった。

桐乃「チョー気持ち良い。 えへへ」

隣に居た桐乃は、そう言うと俺の方を見て、微笑む。

風によって髪がなびいていて、俺は慌てて視線を窓の外に移した。

こういう不意打ち的な物は反則だっての。 恥ずかしいじゃねえか。

京介「そか。 沙織に感謝だな」

桐乃「うん。 沙織にもだけど、ね」

俺のことを未だに笑顔で見ながら、桐乃は言う。

そんなこいつを見て、俺は去年のクリスマスをふと思い出す。

桐乃が言おうとしたことは、言いたいことは、そういうことだろう。

桐乃「うっは! やっぱ外に出ると全然違うね。 空気おいしー!」

黒猫「全く。 あなたは毎回毎回騒がないと気が済まないの?」

桐乃「だってそっちの方が楽しいっしょ! 全力で楽しまないと!」

桐乃「だからほら、あんたも笑って笑って」

桐乃は言いながら、黒猫の頬をつまむ。 相変わらずの仲良しだぜ、こいつらは。

沙織「折角ですから、一枚写真でも撮りますか」

京介「お、良いじゃん。 俺撮るからさ、並んじゃえよ」

沙織「では、宜しくお願い致します」

沙織からデジカメを受け取り、三人に向ける。

楽しそうに笑う桐乃と、恥ずかしそうにしている黒猫。 その様子を嬉しそうに眺める沙織。

撮る方としても、なんだか楽しくなってくるな。

京介「おっし。 撮れたぜ」

俺は言い、沙織にデジカメを渡す。

沙織「次は京介氏も入ってくだされ。 拙者が撮ります故」

その場で代わる代わる写真を撮る。 黒猫が撮ったり、桐乃が撮ったりといった感じで。

桐乃「あ、どーせならさ。 一人ずつも撮ろうよ」

沙織「お。 良いですな。 そうしましょう」

とのことで、一人一人も撮ることになったのだが。

桐乃「ちょっと、あんた表情硬すぎ。 もうちょっとどうにかなんないの?」

京介「つっても一人で撮るって言われると緊張するんだって……」

桐乃「っは~。 あんたそれでもあたしの彼氏? カメラくらい慣れてよ」

無茶言うんじゃねえ。 俺はお前みたいに撮られなれてないんだっての。

黒猫「痴話喧嘩もそこそこにして頂戴。 でも、確かにそうね。 先輩ももっと笑えば良いのに」

京介「お前だってさっき撮った時ガッチガチだったじゃねーか! 人に言える立場かよ!?」

黒猫「う、うるさいわね。 わたしは良いのよ、わたしは」

……まさか写真を撮るってだけでここまで言われるとはね。

まあ、桐乃はさすがに言うだけあり、撮ったときは素直にすげえって思ったけどな。

で、なんとか俺の番は終わり。

沙織「では、お次は京介氏ときりりん氏で撮りましょう!」

桐乃「……はいはい。 早く撮ろ」

言い、桐乃は俺の腕をぐいぐいと引っ張る。

京介「よし、オッケーオッケー」

沙織は俺たちの方へカメラを向け。

京介「へへ」

俺は桐乃の肩を抱き、寄せる。

桐乃「ちょ! そんなくっつかないでよ!」

京介「良いだろ? 付き合ってるんだし」

桐乃「……このばか」

黒猫「あら、おかしいわね。 さっきあれほど言っていた桐乃の表情が硬いわよ」

桐乃「うっさい! 良いから早く撮って!」

沙織「はっはっは。 これは良い記念になりそうですな」

後で見せて貰ったその写真には、視線はカメラより大分外れ、手は何かを我慢しているように体の前で組んでいて、とてもモデルには見えない桐乃が写っていた。

まずは旅館へ行こう。 とのことになり、沙織の案内で旅館に到着。

そこに居た人から聞いた話だが、5月に雪が降るのはかなり珍しいらしい。 珍しいというだけで、無かった訳では無いとのことだ。

にしても、積もるってのがすげえな。 まあ、この寒さ的におかしな話では無いのかもしれんが。

暖かい格好してきて良かったぜ、ほんとに。

そして今は部屋。 俺と桐乃は一緒の部屋。

着いたのが朝早くというのもあり、お昼頃までは一旦休憩しようとの話になっていた。

京介「疲れてないか? 桐乃」

桐乃「んー。 だいじょぶ。 でもお茶飲みたい」

ベッドの上で寝転がり、桐乃は続ける。

桐乃「外寒かったし、暖かいのね」

どうやら俺がお茶を淹れるのは確定しているらしいな。

京介「へいへい」

俺はそう返事をし、湯呑みに茶葉をいれ、備え付けのポットからお湯を出し、お茶を作る。

京介「ほらよ」

ベッドの上でそんな俺を眺めていた桐乃に湯呑みを渡し、腰を掛けた。

桐乃「さーんきゅ。 よしよし」

そう言いながら俺の頭を撫でる桐乃。 こいつ、なんかこれ癖になってないか。

京介「しっかし、遠くまで来たもんだなぁー」

桐乃の隣に寝転がり、天井を見上げながら俺は言った。

冬の北海道というのも中々楽しそうではあるけど、この時期ってのも良いな。

有名な観光地もあるし、そういうのを周って見たいぜ。

桐乃「ねね、北海道にアキバみたいなとこって無いのかな」

京介「……無いだろ」

桐乃「……無いか」

もうお前秋葉原に住めよ。 って言いたい。 言ったら恐らく「引っ越そう!」とか言い出しそうなので言わない。

桐乃「あ、お茶美味しい」

両手で湯呑みを持ち、熱いのかちびちびと飲んでいる桐乃は言う。

京介「へえ、良い奴なのかな?」

桐乃「なのかな?」

さぁ、どうだろうな。

俺と桐乃は二人して首を傾げる。 やがて、桐乃は湯呑みをベッド横のサイドテーブルに置くと、一緒になって横になる。

桐乃「……やっぱちょっと眠い」

京介「少し寝るか?」

桐乃「んー。 そーしよっかな」

桐乃はそのまま俺の胸辺りに頭を乗せ、目を瞑った。

そんな桐乃の頭を撫でながら、俺もゆっくり目を瞑る。

昼までまだ時間はあるし、一緒になって少し寝るとしよう。

どのくらい経っただろうか。 肩を揺らされる感覚。 その所為で目を覚ます。

ぼーっとした頭で目の前にある人影を確認。

黒猫「いつまで寝ているのよ。 あなたたち」

京介「……黒猫か?」

黒猫「そうよ。 気持ち良さそうに寝ているところ、悪いのだけどね」

京介「いや、構わねえよ」

起き上がり、辺りを確認。

隣で桐乃は寝ていて、部屋の中には黒猫と沙織。

沙織はどうやらガイドブックやらを眺めており、床には地図やらが散らばっている。

鍵は開けていたので入れたのだろう。 で、俺たちが寝ているのを見て、この場で軽く暇潰しをしていたってところか。

最後に黒猫が痺れを切らし、俺を起こしに掛かったと考えれば納得が行く。

京介「悪いな。 すっかり寝ちまってた」

時計を見ると昼過ぎ。 数時間ほど寝ていたのか。

黒猫「疲れていたのでしょう。 桐乃も随分とはしゃいでいたしね」

沙織「きりりんさんが起きましたら、お昼でも食べに行きましょうか」

いつ眼鏡を取ったのか気になるが、今考えるのはそれじゃないか。

京介「なんなら起こすか?」

と、聞いたのだが。

黒猫「可哀想じゃない。 気持ち良さそうに寝ているのに」

と黒猫に返される。

……ふむ。 俺は起こして良いと判断したのか、こいつ。

京介「ま、そうだな」

黒猫の発言には異論を唱えたいところだったが、確かにこれだけ気持ち良さそうな顔をして寝ている桐乃を起こすのは気が引けてしまう。

黒猫「いつもこうして寝ていれば良いのよ。 この女は」

それは色々と困るだろうが。 確かに綺麗だけど、眠り姫じゃあるまいし。

京介「しかし喉渇いたな……ちょっと自販機まで行ってくるけど、お前らなんか飲むか?」

沙織「わたくしは大丈夫ですよ。 先ほど、お水を頂いたので」

黒猫「あの光景はあなたたちにも見せたかったわ。 沙織、水道から出る水の美味しさに感動していたのよ」

京介「へえ、そんな美味かったのか?」

沙織「わたくしの自宅まで引っ張りたい程の」

すげえ美味いなそれ。 水以外いらないだろ。

京介「俺も後で飲んでみるよ。 で、黒猫は? なんなら一緒に来るか?」

黒猫「では、そうしようかしら。 桐乃が起きていたら不可能だから」

京介「そういう言い方をされると浮気しているみたいで嫌なんだけど……」

黒猫「あら。 違うのかしら。 てっきりデートのお誘いかと思ったのだけれど」

京介「ちげーよ。 俺は桐乃一筋だからな」

黒猫「……そんな台詞を堂々と何事も無いように言えるあなたには、素直に感心するわね」

京介「……ほっとけ」

と、そんなこんなで黒猫と二人でロビーにある自販機へ。

旅館内は暖房が入っているおかげもあり、薄着でも問題は無いくらいだった。

京介「にしても、さすがは北海道って感じの気温だよなぁ」

黒猫「そうね。 千葉と比べれば寒すぎるわ」

京介「つうか、五月なのに雪って時点で凄まじいよな」

黒猫「凄まじいわね」

京介「雪で遊んだりできるくらいかもな。 はは」

黒猫「遊べるかもしれないわね」

……こいつ。

京介「……お前、会話続ける気無いだろ?」

黒猫「そうだけど、問題あるかしら?」

京介「すっげえあっさり言いやがったな……」

黒猫「ふふ。 それとも、先輩はわたしとお話がしたいの? 桐乃という大切な人が居ながら」

京介「別に友達と話したくらいであいつは怒らないっての。 あいつって意外にも結構自由だしな」

黒猫「……それは少し興味深いわね。 性格的に束縛が激しそうに思えるわ」

京介「そうでもねーぞ?」

黒猫「では、いくつか聞くわね。 良いかしら?」

京介「おう。 何でも来い」

やがて階段に差し掛かり、俺が少し先を歩く形で進んで行く。

黒猫「あなたが他の女と遊ぶのは?」

京介「……それは論外だろ。 今みたいに、桐乃も含めてってなら話は別だけどよ」

黒猫「では、他の男と遊ぶのは?」

京介「お前は瀬菜か。 いやでも……一応、誰と遊ぶとは伝えるかな」

黒猫「あらそう」

京介「で、帰る時間は伝えておく」

黒猫「……そう」

京介「ああ、後遊んでいる間にもメールはするかな」

黒猫「……なるほど」

京介「十分置きに」

黒猫「十分置き!?」

京介「な、なんだよ。 急に大声出すなって……」

黒猫「あなた、友達と遊んでいるときに携帯をずっといじっている様な物じゃない」

京介「で、帰る時間は伝えておく」

黒猫「……そう」

京介「ああ、後遊んでいる間にもメールはするかな」

黒猫「……なるほど」

京介「十分置きに」

黒猫「十分置き!?」

京介「な、なんだよ。 急に大声出すなって……」

黒猫「あなた、友達と遊んでいるときに携帯をずっといじっている様な物じゃない」

京介「そうは言ってもさ、あいつのメール昔に比べて全然可愛いからよー」

やべ、自然と顔がにやけてきた。

黒猫「まさかここまで来て惚気が始まるとは思わなかったわよ」

京介「そうじゃねえって! くそ、ちょっと待ってろ黒猫」

俺はそう言うと、ポケットから携帯を取り出し、操作。

少し前に赤城と遊んでいた時に来たメール。 それを開き、黒猫に見せてやる。

From 桐乃
題:エロゲーに埋もれるあたし。


京介「写メ付きだぞ!? どうだ!!」

黒猫「普段からそんな一発芸の応酬をしているの……?」

京介「まあ、たまに」

黒猫「……飲み物を買いましょうか」

俺を追い抜き、先を歩く黒猫。

なんだよ、このエロゲーの山から顔を出している桐乃の写メ、結構お気に入りなのに。

京介「あー、そういえばさ。 桐乃、普通に寝てたか?」

黒猫「どこまでが普通、という判断になるのかは分からないけれど、少なくともわたしが見た限りは普通だったわよ。 それが、どうかしたのかしら?」

だとすると、今回は大丈夫だったのか。 稀にあいつ、俺を抱き枕にして寝てるからな。

京介「いや別に。 ただ、聞いてみただけだ」

黒猫「そう」

そんな会話をしている内に、自販機の前に到着。

黒猫「……」

黒猫は黙ったまま、自販機に金を入れるとボタンを押す。

選んだのは、ミルクティーか。

……猫だけに牛乳が好きなのだろうか。

そう思って、ひとつ質問。

京介「北海道といえば、魚介類だよな」

黒猫「……? 突然どうしたの?」

京介「黒猫ってさ、やっぱり魚好きだったりすんの?」

黒猫「嫌いでは無いけれど……やっぱり?」

京介「……あ」

黒猫「ちょっと待ちなさい。 もしかして、わたしが黒猫というハンドルネームを使っているから……とか考えて無いでしょうね」

何故分かった。 さすがに鋭いな、こいつ。

京介「いや、だって飲み物もミルクだし」

黒猫「べ、別にそんなのはたまたまでしょう! それにこれはミルクじゃないわ」

黒猫「……闇夜を照らす聖なる白き液体。 魔界から訪れたクリーチャーと戦う為に必要なのよ」

エロゲー風に解釈すると、大分破廉恥な台詞に聞こえて来る。

そう思ってしまう辺り、俺も末期かもしれんな……。

京介「俺はなんか甘い物が良いな」

黒猫「あなた、今わたしを無視したわね」

京介「だってそんなポーズ決められたら、どんな反応すれば良いか分からないじゃんか! むしろお前はどう反応して欲しかったんだよ!?」

突っ込まなかった俺を褒めて欲しいぜ。 いかにもなポーズ決めやがって。

黒猫「そこはあなたもポーズを決めるところよ。 やってみなさい」

……マジでやんの?

黒猫「早くしなさい。 このノロマ」

京介「……はいはい」

なんだろう。 罵倒されると素直になってしまう。

……俺、明らかヤバイ方向に行ってないか、これ。 明らかに桐乃の所為だろ。

京介「は、ははは。 貴様がいくらその液体を使おうと、私の前ではゴミも同然……ってお前携帯で何撮ってるんだよ!?」

黒猫「別に構わないでしょう。 先輩の頭がおかしくなったと、後で桐乃と沙織に見せるわ」

……言っておくが、お前と大差ねーからな、今俺が言ってた台詞。

京介「もう好きにしてくれ……部屋戻るぞ」

黒猫「そうね。 桐乃が戻ってもまだ寝ていたら、さすがに起こしましょうか」

京介「りょーかい」

そして、部屋に戻る俺と黒猫。

行きと同様に、何気無い会話をしながら部屋まで戻ったのは覚えている。

で、扉を開けたんだ。 鍵は掛けていなかったら、すんなりと開いて。

まず目に入ったのは、少々焦った顔をしている沙織。

次に目に入ったのは、ベッドの上で膝を抱えて座る桐乃。

沙織はどうやら桐乃を宥めている様で、ということはつまり。

桐乃の顔は、不機嫌その物だったということだ。


雪降る日 終

以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

こんばんは。
投下致します。

京介「き、桐乃……? 起きたのか?」

桐乃「……」

あからさまに俺から顔を逸らしやがる。 これはあれか、俺が黒猫と二人揃って居なかったから怒ってるのか。

黒猫「……とりあえず謝ったら?」

横に立つ黒猫は桐乃には聞こえない様、小声で言う。

まあ、そうするか。

京介「すまん桐乃! 別にお前に隠れて……って訳じゃねえからさ」

俺が言うと、桐乃はようやく顔をこちらへ向ける。

桐乃「……ベツに、そんくらいで怒らないし」

桐乃「てか、あたしは怒ってるワケじゃないし」

……そうなのか? でも、ならどうしてこんな不機嫌なんだ、こいつ。

京介「じゃあ、他に理由がある……のか?」

桐乃「ヤダ。 教えない。 ばーか」

言い、俺にあっかんべーとする桐乃。

……久し振りに翻訳してみるか。 ええっと、これは恐らく。

今は沙織も黒猫も居るから言いたく無いの。 後で、二人っきりになったらね。

ということだろう。

桐乃「大体、京介に理由教えないといけない意味が分からないし。 ばっかじゃないの?」

話したいけど、恥ずかしいから。 だから、後で京介から聞いて?

ということか。

まあ、それなら俺としては後で聞くしかないよな。

京介「へいへい。 わーったよ」

俺が答えると、桐乃は再度顔を逸らす。 ああくそ、今すぐ抱き締めて頭なでなでしたい。 嬉しそうな顔をするんだろうなぁ!

黒猫「解決したのなら良いわ。 それより、お昼を食べに行きましょうよ。 わたしもさすがに魔力を補給したいわ」

桐乃「いいね! 賛成!」

お前が寝てるから後回しになってたんだけどな。 言ったら多分、桐乃が座っているベッドの横……サイドテーブルに置いてある俺の財布が飛んでくるだろう。

俺と桐乃の位置、桐乃と財布の位置的に。

沙織「では、皆様少々待っていてください。 すぐに戻って来ますので」

沙織は言うと、立ち上がる。

なんだ? 俺たちがここで待っている理由って、あるのだろうか?

黒猫も桐乃も同じことを思っているのか、顔をしかめている。

が、誰かが何かを言う前に沙織はそそくさと部屋を出て行ってしまった。

数分した後に沙織は戻ってきて、昼飯。

桐乃「でなんでカップラーメンなワケ!? フツー、なんか食べに行くでしょ!!」

京介「夜に美味い物食えるって言ってるんだし良いじゃんか。 ほら、俺のチャーシューあげるから」

桐乃「ふひひ、ありがと……じゃない! そうじゃないでしょ!」

黒猫「鬱陶しいわ。 少しは静かに出来ないの?」

特に理由は無いとのことだったが、持ってきたから食べようとのこと。

沙織「代わり、と言ってはあれですけど……夕食は満足して頂けると思いますよ」

京介「へえ、どっか良い店知ってるのか?」

沙織「いえ、この旅館での食事となります」

京介「……」

ふむ。 可能性のひとつはアレか。

京介「一応聞いとくぜ。 この旅館って……」

聞くと、沙織はにっこりと笑って答えた。

沙織「系列の旅館となっております」

……是非、将来はこいつの下で働きたい物だ。 桐乃は好きな事をできるだけの物は持っているだろうしな、それで俺がこれだと若干悲しいので、俺を雇ってくれないかな。

黒猫「沙織、雇ってくれないかな……って顔をしているわよ。 先輩」

京介「へ? な、なわけねえだろ? ははは」

沙織「あら、京介さんが宜しければ、いつでも」

……マジか! 俺の将来安泰じゃねえか!

桐乃「ダメ。 あたしが許さない。 こいつ一生あたしの奴隷だから、あたしの目が届かないところには置かないし」

黒猫「……鎖ね、鎖」

黒猫は言いながら、俺の方を見る。

京介「……何が言いたいんだよ」

黒猫「先輩が嘘吐きということよ。 何が「そうでもねーぞ?」よ。 雁字搦めじゃない」

京介「いやいや。 お前なぁ……まだ「あたしの視界から外れたら罰ね」まで行ってないから楽だぞ」

黒猫「……良い様に調教されているわね。 あなた」

どこがだよ。 俺は桐乃の為にならなんだってするし、あいつがその場でぐるりと回って「ワン」と言えって命令すれば実行するし、むしろ桐乃からの命令なら喜んでやるぜ!

……あれ、なんか俺おかしいか。

京介「な、無い……多分。 恐らく。 そう思い込みたい」

黒猫「……後何年か経ったら、喜んで桐乃の足を舐めてそうだわ。 気持ち悪い」

ついこないだそれがあったとは口が裂けても言えんな……。

桐乃「こそこそなに話してんの? 京介」

京介「あ、え、ええっと。 き、桐乃さんの話を……」

桐乃「へえ、どんな?」

京介「……桐乃さんって超可愛いなぁとか、最高の妹だよとか、桐乃以上の女は存在しない、だとか」

桐乃「ふ、ふひひ……そんなこと言っても何も出ないからね! えへへへへへ……」

黒猫「……どっちもどっちね」

溜息を吐く黒猫と、そんな光景を写真に収める沙織と、苦笑いする俺と、特徴的な笑いを零している桐乃。

良い、思い出になるだろう。

その後は観光名所を回るとのことで、外出。

桐乃「しょぼ! さすがは残念名所なだけあるよね~。 この時計台」

京介「そういうことを大きな声で言うなって……怒られるぞ」

いやまあ、確かに……言うとおりではあるけど。

明らかに隣のビルの所為だろうな、これは。

黒猫「三大がっかり名所と言われるのも無理は無いわね」

京介「……お前らなぁ」

言いたい放題にも程があるぜ。 こいつらときたら……少しは沙織を見習ってだな。

で、その沙織はというと、そんな様子を先ほどから撮っている。 後で全員に送るから、記念にということらしい。

沙織「皆さん楽しそうで、何よりですわ」

京介「なあ、ちょっとカメラ借りていいか?」

沙織「ええ、構いませんけれど……何か撮りたい物でも?」

京介「いや、撮りたいって言うと桐乃に怒られるからな……沙織も折角だから、写れってことだよ」

沙織「……は、はい」

俺がカメラを構えると、恥ずかしそうに顔を俯かせる沙織。 俺たちの前に限っては結構平気になってきたと思ったのだが、これはやっぱり恥ずかしいのか。

桐乃「なーに下向いてんの! ほらカメラの方向きなさいって!」

横から桐乃がやってきて、沙織の顔を無理矢理上へ。

恥ずかしそうにしている沙織ではあったが、その表情はどこか嬉しそうにも見えた。

桐乃「黒猫もほら! あたしのワンちゃんが撮ってくれるみたいだから」

黒猫「……お呼ばれよ? せ、ん、ぱ、い」

……その呼び方、そろそろ止めて欲しいぜ。

そして夕方。

日が傾き始めた頃。 俺と桐乃は教会に居た。

二人だけで。

こうなったのにもしっかりと理由があって、あの後……まあ、色々と観光し終わった後、黒猫が「北の大地にわたしの名前を刻みたい」と言って、沙織はそれに同伴。

恐らく、ゲームセンターだろう。 で、余った俺と桐乃はこうして一緒に歩き回って、たまたま見つけたのがここだったってわけだ。

桐乃「なに? 教会に連れて来て結婚式でもするつもり?」

京介「バツイチ同士でか?」

桐乃「……お互い一回は結婚してるから?」

京介「そーいうことだな」

桐乃「うわぁ。 そう考えると、あたしってこの若さでそれなんだよね。 軽くショック」

京介「バツイチ女子高生ってか」

桐乃「……やめてくんない?」

睨むなって。 半分くらいは事実だろ。

京介「ごめんごめん。 で、だけど」

周りに人はおらず、ステンドガラスから差し込んでいる光りが、綺麗に教会内を照らしている。

夕日のおかげで見える桐乃の顔は。

……言う必要の、無い物か。

京介「それはできねえよなぁ。 今度するとしたら、意味が違ってくるしよ」

桐乃「前のとはってこと?」

京介「そういうこと。 もうちょっとしっかりしてからじゃねえと」

桐乃「まーねー。 ワンちゃんとしてはまだまだだからね、京介」

京介「はは。 んじゃあ、お前の彼氏としては?」

桐乃「さあね? ふひひ」

京介「そうかい。 ありがとよ」

桐乃「あたしは何も言って無いんですケド?」

京介「分かるっての。 今、お前が考えてることくらい」

桐乃「ふうん。 兄妹だから?」

京介「兄妹だから」

桐乃「へへ。 そかそか」

桐乃は真っ直ぐ前を見ながら、呟くように続けた。

桐乃「そーいえばさ、さっき旅館であたしに「怒ってるか?」って聞いたじゃん」

京介「ん? ああ、聞いたな」

桐乃「それはほんとに違うんだけど、理由……分かった?」

京介「……まぁな」

桐乃「ひひ。 じゃあ、言ってみて」

桐乃「あ、言っておくケド、外したら罰与えるからね」

こいつ、何かしら俺に罰を与えたがって無いか。

今回は、それを受けることは無さそうだけどな。

京介「……寂しかったんじゃねえのかなって、そう思う」

桐乃「ふ~ん? なんで?」

京介「逆だったら、俺もそうだっただろうしな」

桐乃「そか。 よし、合格」

京介「へいへい。 そりゃどうも」

桐乃「ってワケでさ、京介」

俺が横に居る桐乃に顔を向けると、桐乃もまた俺の方へ顔を向け、言った。

桐乃「ごっこしよ、ごっこ。 子供の遊び感覚で。 ね?」

京介「……ったく。 断ったらどーなるんだ、それ」

桐乃「前、京介にあたしがあげたご褒美より、もっと良いご褒美あげるだけだよ?」

……勘弁して頂きたいな、それは。

京介「わーったわーった。 じゃあ、桐乃。 お前花嫁役な」

桐乃「え~? しっかたないなぁ」

桐乃「あたしに任せて、京介」

桐乃は言って。

桐乃「あたしは花嫁役だから……じゃあ、京介は花婿役ね」

京介「仕方ねえな。 やれやれ」

京介「桐乃、任せとけ」

俺は言った。

そして俺と桐乃は子供のように、笑う。

桐乃の方に体を向けて、お互いに体を寄せて、顔を寄せて。

目を瞑り、顔を少しだけ上に向ける桐乃の体を支えて。

俺は、桐乃にキスをした。

桐乃「ごっこだから途中で止めると思ったんだケド?」

そうは言いつつも嬉しそうな桐乃。

京介「……もし途中で止めてたらどうなってたか教えてくれ」

桐乃「決まってんでしょ。 死刑」

良かったよ、最後までして。

京介「ま、じゃあそろそろ帰るか? 旅館」

桐乃「もーちょっと遊びたかったけどね。 黒猫たちも気になるし、そうしよっか」

京介「おう。 じゃあ行くか」

桐乃の手を掴んで、俺たちは教会を出る。

桐乃「……次は、ちゃんとやろうね」

その声は、扉を開けたことによる風で掻き消され、俺の耳には届かなかった。

京介「ん? なんか言ったか?」

桐乃「なーんも。 あはは」

京介「……変な奴」

ぼそっと言ったのだが、それはどうやら聞こえてしまったらしく、桐乃は少しムッとする。

桐乃「へえ? ふうん? あそう?」

京介「な、なんだよ?」

桐乃「あたし、京介が黒猫とイチャイチャしてたことはまだ許してないからね?」

京介「別にイチャイチャなんてしてねーだろ! どこがそう見えたんだよ!?」

桐乃「だって仲良さそうに、一緒に戻ってきたじゃん」

京介「普通にしてただけだって。 そんなに俺のこと好きなのかよ」

言いながら、頭をぽんぽんと叩く。 するとこいつはこう言った。

桐乃「だってあたしのワンちゃんでしょ。 ほら、ワンワンって言ってみ」

京介「言わないっての……。 俺はお前の犬じゃねーよ!」

桐乃「あーあ。 言ったら許してあげようかと思ったのに」

ってことはあれか。 言わなかったら帰ってからこれより酷い事をされるってのか。

京介「……チッ」

俺は短く舌打ちし、続ける。

京介「わんわん」

桐乃「う、うひひ。 それマジで結構可愛いからね。 よしよーし」

背伸びしながら俺の頭を撫でる桐乃。 うむ。 これが見れただけで満足かも。

桐乃「よっし! じゃあ後は家に帰ってからにするとしてぇ」

京介「っと待て。 後ってなんだよ、後って」

桐乃「あたしが許したのはさっき「変な奴」って言ったことに関して。 黒いのと一緒にラブラブしてたのは許してない」

ラブラブなんてしてねーってのに。

桐乃「ふひひ~。 なにしてもらおうかなぁ」

と言いながら俺のことを見る桐乃。

……ちょっと楽しみに思え来る辺り、やはりあれだ。 黒猫の言うとおりかもしれん。

まあ、結論としては桐乃とどんな形であれイチャイチャできれば良いんだけども。

それから俺と桐乃は旅館へ戻り、沙織と黒猫と合流。

夜飯を食い終わり、風呂にも入り、今は桐乃と部屋で二人きり。

桐乃「いいとこだね、北海道」

京介「飯美味そうに食ってたしな」

桐乃「……そーゆう意味で言ったんじゃないんですケド」

京介「へいへい。 分かってるっての」

桐乃は窓の外を見ながら、ベッドで横になっている俺に向けて言う。

桐乃「ね。 ちょっと外、散歩しない?」

京介「こんな時間にか?」

時刻は夜。 夜中とまでは行かないが。

桐乃「いーじゃん。 どうせ行くんでしょ? そんなこと言っても」

京介「まあ、そうだな」

京介「お前が行くっつうなら、付いていくしか無いだろ」

桐乃「えへへ」

振り向き、笑顔を向ける桐乃。 その顔は大人っぽく見えて、時間の経過を感じさせた。

京介「上着きろよ。 外、寒いだろうしさ」

桐乃「京介とくっ付いてれば大丈夫じゃない?」

京介「……うっせ」

俺が恥ずかしがっているのを見て、桐乃はまた笑い、上着を手に取る。

桐乃「よっし。 じゃあいこ。 京介」

何気ない話をしながら、俺と桐乃は歩く。

並んで、しっかりと手を握って。

……確かに桐乃の言うとおりだったかもしれん。 くっ付いてれば、暖かけえや。

京介「寒くないか? 桐乃」

桐乃「だいじょーぶ」

坂を上り、俺と桐乃は高台へと向かっていた。

特にそこに何があるという訳では無いが、なんとなく景色が綺麗かもしれないと思って。

京介「今日は楽しかったか? 桐乃」

桐乃「うん。 楽しかったよ」

京介「また来れると良いな? 桐乃」

桐乃「だね。 また来たい」

……よし。

京介「俺のこと好きか? 桐乃」

桐乃「なに言ってんの。 当たり前……じゃない! 何言わせようとしてんの!?」

京介「そこまで言ったなら言えよ……」

桐乃「やーだよー。 ふひひ」

俺が100回好きって言う内に、こいつが好きって言うのは1回あるか無いかだしな。 たまには言って欲しいぜ。

桐乃「なに。 そんな言って欲しいの?」

京介「そう言われると、無理矢理言わせてるみたいで嫌だけどな」

桐乃「……じゃあ、こうしない? この坂上り終えるまでに、あたしを驚かせることが出来たら言ってあげる」

京介「じゃあお前一人でちょっと歩けよ。 俺どっかに隠れてるから」

桐乃「そうゆうことじゃないっての! なんて言えば良いのかな……。 感動的な感じで」

……難しい注文するんじゃねえよ。 さすがにそんなのパッとは思い付かないぞ。

京介「じゃあ、後でいきなり抱き締めてやる」

桐乃「それ言わなかったら大丈夫だったかも。 でも今言ったからアウトー」

京介「……ワガママな妹だな、おい」

桐乃「良いじゃん。 妹なんだし」

京介「まーな」

さて、どうした物か。

こいつも構えているだろうし、並大抵のことじゃあ驚きそうにねえよな。

頂上まではまだ半分ほど残っているか。 ううむ。

京介「そういやさ、お前から借りてたゲーム……エロゲーじゃない奴。 だけど」

京介「あれ、昨日クリアしたぜ」

桐乃「……ふうん。 それで?」

驚けよ。 俺がお前から借りて一週間も経たずにクリアしたんだぞ!? 驚き要素たっぷりじゃねえか。

……まあ、結構面白かったからやり込んでただけなんだけど。

京介「くそ……。 じゃあ、そうだなぁ」

京介「実は、お前の寝顔を毎日写真に収めてたりするんだが」

桐乃「……」

じっとりした目を向けないでくれ。 お前だって、俺が寝てるときに色々写真撮ってたじゃねえか。

桐乃「帰ったらチェックね。 ヘンな写真だったら殺す」

京介「……へいへい」

後でパソコンに送って、携帯のは消しておこう。

俺が撮ったのは、色々あるしな。 へへ。

桐乃「次はぁ? ま、京介じゃ無理かぁ~」

わざとらしく口に手を当て、笑う桐乃。 今に見てろよこいつ。

京介「……なら、これはどうだ」

京介「お前に頼まれてたノートパソコン、実は忘れた」

桐乃「はぁ!? あたし、あれだけ持って行けって言ったじゃん! 何を聞いてたワケ!?」

……違う方向で驚いたようだな。 はは。

京介「いやだって、他に用意する物だってあったし……」

桐乃「言い訳? ねえそれ言い訳?」

京介「……すんません」

桐乃「チッ……。 折角、北海道でエロゲーできると思ったのに」

その行為にどんな意味があるのか分からない。 多分、エロゲーを極めていないと分からないのだろう。

分かりたくねえな。

京介「あー。 着いちゃったな」

無念。 坂は伸びることも無く、呆気なく終わりを迎える。

桐乃「ふひひ。 残念でしたー」

そう言いながら、俺の正面に回り、桐乃は笑う。

京介「……結構マジで悔しいな」

桐乃「もーちょっと頑張ってよ。 あたし、本気だったんだけどなぁ」

そうかいそうかい。 終わってしまえばいくらでも言えるからな。

桐乃は近くにあったベンチに腰を掛け、夜景を見ている。

俺はそのすぐ隣に腰を掛け、一緒にそれを眺めていた。

そして、気付く。

……あーあ。 もっと早く気付いていれば、良かったのによ。

京介「桐乃、上見てみろよ」

俺は言い、指を差す。

どれ程の偶然か、どれ程の奇跡か、どれ程の幸運か。

空には、オーロラが広がっていた。

桐乃「……」

桐乃は言葉を失って、その光景に見入っていた。

京介「思い出、増えたな」

桐乃「……だね。 うん。 増えた」

桐乃との時間を大切にして、桐乃との時間を幸せでいて、桐乃との時間を愛して。

それは桐乃も恐らく一緒で。

俺と桐乃は、一日一日を大切にしている。

そんな俺たちにとってこの光景は、とても嬉しい物だった。

桐乃「これ、知ってたとかないよね?」

桐乃はようやく空から顔を俺に向け、そう訪ねる。

京介「まさか。 んな訳ねえよ」

桐乃「そこで「当たり前だろ」って言わなきゃ」

京介「……当たり前だろ」

桐乃「だから遅いっての! もう良いし」

ほんと、ワガママな奴だぜ。 俺はただ本当のことを言ってるだけだってのに。

桐乃「でも、どうだろ」

京介「何が?」

桐乃「んー。 あたしが散歩したくなって、京介が付いて来てくれて。 で、それでこれでしょ?」

京介「まあ、そうだけど」

桐乃「偶然かな、これって。 どう思う?」

京介「また難しい質問だな……」

京介「あー。 あれか。 俺と桐乃の愛の力、みたいな」

桐乃「……」

冷めた目で見るなよ。 さすがに俺だって死にたくなるぞ。

京介「なるようにしてなった、じゃねえの」

桐乃「やっぱそう思う? 今日北海道に来たのも、今日オーロラが出たのも、そうかもしれないよね」

京介「だな。 で、桐乃」

京介「……俺は好きだ。 お前のことが」

京介「これはそんな適当なことじゃねえぞ。 そう想って、そう感じて、そう決意して。 俺はお前のことが好きだよ」

桐乃「ひひ。 ありがと」

桐乃は空を再度見上げ、最後にこう言った。

桐乃「……今回だけ、サービスね。 京介」

桐乃「好きだよ、京介」

顔を見ずに、桐乃は言う。 横顔だけでも、気持ちは充分に伝わった。


いつかはきっと 終

以上で本日の投下終わりです。

乙、感想ありがとうございます。

とらドラを見ていて投下が遅れたなんて言えない!

いつも幸せになる展開ありがとうございます。

でも、実際ふたりの子供ってどうなるんですかね…遺伝的にも社会的にも。。
兄妹で結婚できない理由のいちばんがそのことでしょうし。

でもやっぱり二人には幸せになってほしいです!

本編は完結しているということですが、
そのことに触れ、それでもやっぱり幸せになれる話を読んでみたいです。

ハッピーエンドをやっていて投下が遅れるなんて言えるわけがない。

乙、感想ありがとうございます。

>>177
その辺りは少し悩み中です。
このままなんとも無い日常話をだらだらと続けようか、そう言った本編の方に絡ませる話を書くか……。
書くとしても時間は掛かりそうなので、参考にさせて頂きます。
京介自身はしっかりちゃんときりりんを幸せにしてあげられると思いますが、自分がそれを書けるかどうか。


それでは、投下致します。

5月。 旅行から帰ってきて、ゴールデンウィークが明けて、桐乃は高校へ、俺は大学へ。

そんな、いつも通りの日々に戻ったある日のこと。

始まりは一通のメールで、些細な物だった。

差出人は、黒猫。

From 黒猫
今度の日曜日、私の家で遊ばないかしら?
沙織もその日は用事が無くて、あなたの家でも良いのだけれど……たまにはね。
あの女にも声を掛けておいて頂戴。

俺は気軽に返事をし、何のことも無く遊ぶことになる。

この時はまさか喧嘩になるなんて、思ってもいなくて。

京介「そういやさ、桐乃」

夕飯を食べ終わり、携帯を操作している桐乃に声を掛ける。 最近になってまたソーシャルゲームにはまっているらしく、暇があればいじっている感じの桐乃。

そんなこいつは、携帯の画面を見たまま返事をした。

桐乃「んー。 なに?」

京介「黒猫がさ、今度の日曜日遊ばないかって言ってるんだよ。 あいつの家で」

桐乃「黒いのの家かぁ……って、ってことはひなちゃんとたまちゃんも居るってことだよね!?」

京介「そりゃそうだけど」

桐乃「行く! 行く行く!!」

こいつ、黒猫と遊ぶのが目的って感じじゃないな。 明らかにあの妹たちと遊ぶのが目的になってる。

まあ桐乃らしいっちゃ桐乃らしいが……。

京介「はいよ。 んじゃあ桐乃も行けるって伝えとくわ」

桐乃「うん。 よろしく……あ」

にこにこ機嫌が良さそうな顔から一変。 その顔はどんどんと曇っていく。

ええっと……なんか用事でもあったのか?

桐乃「……その日、仕事だった」

どうやらそうらしい。 高校に行ってからというもの、結構忙しくなってるんだよなぁ。

その合間合間でしっかり新作エロゲーやら、ギャルゲーやらをチェックしているこいつは尊敬に値するぜ。

京介「あー、そうだったのか。 なら、日程ずらしてもらうか」

桐乃「でも、そしたら結構先になっちゃうっしょ? 黒猫の家で遊ぶのって結構レアじゃん」

京介「だけど……お前、行けないんだろ?」

桐乃「まあそうだケド……」

京介「だったら仕方ないだろ。 俺と桐乃はいけねーって伝えとくわ」

桐乃「あんたは行ってくれば? あたしはベツに良いし。 ひなちゃんとたまちゃんの写メ撮ってきてくれれば良いよ」

どんな条件だよ。 でも言い方を考えると……別に怒っている、というわけでは無さそうだ。

声の調子からして、そんな感じ。

京介「分かったよ。 出来たら撮ってきてやるさ」

桐乃「出来たら、じゃなくて絶対だかんね」

京介「……へいへい」

ううむ。 どうあいつらに納得させて撮れば良いのだろうか。

桐乃が写真を欲しがっていると言えば、こいつの本性を知っている日向ちゃんや珠希ちゃんには拒否されそうな気がするし。 珠希ちゃんはもしかしたら承諾してくれるかもしれんが。

しかしだな。 問題はそいつらの姉だ。 それを姉である黒猫に聞かれたら断固として撮らせてくれないだろう。

ん……そうだ! ばれないように撮れば良いのか!

いや、それは普通に危ない奴だ。 一歩間違えれば犯罪になってしまうじゃねえか。

ま、なんとかして適当な理由を付けて撮るとしよう。

いざというときは、土下座でもして。

そして、その日がやってきた。

黒猫が住んでいる社宅。 どうやら沙織は先に居るとのことだ。 その旨を伝えるメールが先ほど届いたから。

で、ドアの前に立ち、インターホンを押す。

それと殆ど同時、扉が勢い良く開かれた。

日向「おっす! 高坂くん!」

京介「うわっ! び、びびった……」

日向「へっへっへ。 もうすぐ来るような気がして、玄関で待ち構えていたんだよ」

……暇なのだろうか、この中学生は。

京介「俺じゃなかったらどうするんだよ」

そう言うと、日向ちゃんは笑顔で返す。 自身満々で。

日向「いや、大丈夫。 もう何回か間違えてるから」

姉に怒られても知らないぞ、俺は。

黒猫「何をしているの? そんなところで」

玄関での会話が聞こえたのか、奥から黒猫が顔を出す。

京介「お、悪いな。 遅れちまって」

黒猫「構わないわ。 入って頂戴」

日向「ルリ姉さ~。 もっと素直に喜べば良いのに。 京介が来てくれた、うふふって」

黒猫「……」

日向「あ、分かった。 キリ姉が居ないから楽しそうじゃないんだ。 いっつも桐乃が桐乃がって言ってるもんね~」

黒猫「……黙ってくれないかしら?」

日向「あれぇ。 もしかして怒ってる? だって本当のことだし仕方ないじゃん。 チャットとかしてるとき、すっごく楽しそうだし、笑ってるし」

ピキ、という擬音が聞こえた気がする。

黒猫「黙れ」

……あーあ。 だから俺はあれほどその辺でやめておけと言ったのに。 目でな。

黒猫「くっくっく……」

黒猫の声のトーンが下がり、不気味な笑い声を出す。 非常事態を察したのか、日向ちゃんは引き攣った笑いをしながら俺の後ろへと隠れた。

黒猫「……仕方ないわね。 あなたごと、焼き払うわ」

俺巻き添えかよ!? まだ一歩も家の中に足を踏み入れていないというのに!?

京介「おい、俺が被害を被るのはごめんだ。 大人しく黒猫に焼き払われろ」

日向「ひど! そこは男らしく庇ってよ。 日向、お前は俺が守ってやるぜ。 みたいな感じで」

京介「やだよ。 黒猫怖いもん」

日向「……」

そのゴミを見るような目を見ると、なんだか桐乃を思い出すぞ。 よくそんな視線を向けられていた気がする。

今でも俺があまりにも調子乗ると、たまにしてくるけど。

黒猫「さぁ、覚悟は良いかしら?」

そう言い、部屋の中で何やら詠唱を始める黒猫。

ううむ、なんだこの家。

日向「……ちょ、ちょっと待ったルリ姉!! それはマズイって!!」

と言い、先ほどまで隠れていた背中から飛び出し、黒猫の元へと日向ちゃんは走って行く。

……これも、一連の流れなのだろうか?

黒猫「ふふふふふふ。 もうこうなったらわたしでも止められないわ。 詠唱は勝手に進んでしまう……そして、あなたの恥ずかしい秘密を一つ一つ唱え始めるわ」

恐ろしすぎる呪文だった。 俺もあまり黒猫に喧嘩を売るとその呪文を唱えられてしまうのだろうか。

日向「す、ストップ!! そういうことばっかしてるからたまちゃんがおかしくなっちゃうんだって!!」

ん? たまちゃんって……珠希ちゃんのことだよな? おかしくなるって、なんだ?

黒猫「……そ、そうだったわ」

黒猫は慌てて禍々しいオーラを収め、こほんと小さく咳払い。

黒猫「気をつけないと、いけないわね」

日向「そうだよ。 たまちゃんまでルリ姉みたいになっちゃったら、あたしだけじゃ面倒見切れないって」

黒猫「でも、それとこれとは別よ。 特別に肉体的な躾だけで今回は勘弁してあげるわ」

日向「……へ?」

冷や汗を掻く日向ちゃんにヘッドロックをし、黒猫は耳元で何かを呟いている様子だった。

日向ちゃんの顔は見る見る青ざめていき、俺は正直、もう帰りたいと思っている。

それから落ち着き、ようやく部屋の中に通され、黒猫と沙織と日向ちゃんと……珠希ちゃん。

なんだろう。

珠希「どうしたんですか? おにいちゃん」

喋り方は、前とはそりゃあ少しは変わった。 でも俺に対する呼び方だとか、そういう物は全く変化が無い。

それはあくまでも言葉だけであって、だけであって。

……その頭に被っているいかにもな帽子はなんだ。

まるであれだ、魔女の帽子みたいな……。

京介「珠希ちゃん、その帽子は?」

突っ込まずにはいられない!!

珠希「これはですね、まりょくをたくわえるのに使うんです」

京介「は、はは……そうなのか……はは」

やべえ、影響もろに受けてるじゃねえか。 責任重大だぞ黒猫ぉ!

思いながら黒猫を見ると、他所他所しく視線を逸らす。 まるで、わたしの所為ではありませんと言っている様に。

黒猫「わたしの所為では無いわ。 珠希には元々その才能があったということよ」

マジで言いやがった。 しかも才能とか言いやがったぞこいつ。

つうかだな……どう考えてもお前の責任じゃねえか。

沙織「はっはっは。 姉妹仲が良さそうで、何よりですな」

全く持ってその通り。 悪い方向でな。

京介「……日向ちゃん、二人を宜しく頼むぞ」

日向「任せといてって! ルリ姉はもう年齢的に無理だけど、たまちゃんだけは何とかするから」

ああ、そういえば黒猫も大学生か。 時が経つのは早い物だ。

黒猫「先輩。 今失礼なことを考えていたでしょう」

京介「考えてねえよ。 俺はただ時が経つのは早いなあって……」

黒猫「本当に?」

京介「……う」

この嘘を鋭く見破ってくる辺り、桐乃にそっくりだぜ。

心の奥底で思っていたことを突いて来やがる。

黒猫「まぁ、良いわ。 それより本題に入りましょう」

助かった。 命拾いとはこのことだな。

てか、本題? 今日ってそんな話す内容がある集まりだったっけか?

沙織「そうですな。 今日はあれですからな」

京介「……あれって?」

沙織「まさか分からないのですか!? 京介氏!」

な、なんだってんだ。 なんだか分かってない俺がおかしいみたいな流れだぞ。

助けを請うように二人の妹へと視線を移す。 すると、二人ともにきょとんとした表情をしていた。

それも最初の内だけで、数秒した後、日向ちゃんが口を開く。

日向「あ、ああ! あれだね! うんうん」

……なるほど、そういう流れってわけか。 合わせるのが下手すぎるぜ日向ちゃん。

京介「はいはい。 で、その本題って何だよ? そんな大事なことか? それともただ言ってみただけか?」

黒猫「どちらかと言えば、前者ね。 まぁ、ただ全員のお宝を見せあいましょうと言うことよ」

沙織「ほほー。 なるほどですな」

お前、さっきまで知ったような顔をしてたのに。

京介「って言われても、そんなの今知ったから何も持ってきて無いぞ?」

黒猫「なら話だけでも構わないわ。 予め言っておくけれど……」

黒猫は途中で言葉を区切ると、日向ちゃんと珠希ちゃんの方に一瞬意識を移したように見えた。 で、こう続ける。

黒猫「今回見せ合うのは人では無いわよ。 分かったわね」

恐らく、気を使ってくれたのだろう。 多分それには惚気るなという意味合いも含まれていそうだけど。

京介「宝物、か」

そういや、そういえば。

俺ってそういうの、無いんじゃないのか?

黒猫の言うところの『宝物』って、俺には。

物じゃなければ当然ある。 だけど、しっかりとした形としての『宝物』は……。

あった。

ひとつ、あった。

……だけど、言えねえ! これは言えないぞ!

沙織「では、拙者から」

俺が答えに窮しているのを察したのか、沙織は名乗りをあげる。 物じゃなけりゃあ、俺にとってはお前らも大切な宝物だよ。

沙織「拙者はやはり、自身が作ったSNSですな。 それが拙者の『宝物』でござるよ」

……少し、驚いたな。

俺的にはその眼鏡を『宝物』と言うのだと思ったんだが。

まあ、それにも沙織なりの想いや事情、言い分はあるのだろう。

そしてそれは俺や黒猫、部外者が口を挟んで良いことでも無いのかもしれない。

京介「ってか、それってありなのか? なら俺は----------」

黒猫「私たちのことをそうだと言ってくれるのは有難いわ。 でも、もう駄目よ。 沙織の場合は自分で作った物だから、ね。 あなたの場合は少し違うでしょう?」

そう言われればそうかもしれないけどさ。

黒猫「私の次はあなたよ? 先輩。 もしかして『宝物』があなたには無いのかしら? ふふ」

……くそ。 自分でそう言うからには、こいつは大層立派な『宝物』を持っているのだろう。 くだらない物だったら怒るぜ、俺。

京介「ほお。 よし、だったら見せてみろよ。 黒猫さんよぉ」

黒猫「良いわ。 少し待っていなさい」

黒猫は言うと、一旦その場から離れる。 恐らく本当にそれは物で、自分の部屋にでも仕舞ってあるのだろう。

一体どんな物が来るのだろうか?

もしかしたら日向ちゃんや珠希ちゃんは知っているのか? そんなことを思い、二人の方に顔を向けたが。

日向「……」

珠希「……」

二人揃って、口を固く閉ざしている。 釘を刺されている、と考えるのが妥当か。

諦めて沙織の方へ顔を向ける俺だったが、沙織もどうやら口を開く気は無いらしい。 もっとも、こいつが知っているという可能性は低いけれど。

で、それから一言も会話は無く、程なくして黒猫が戻ってきた。

黒猫「お待たせしたわね。 私の『宝物』はこれよ。 刮目しなさい」

……一体どんな物が飛び出すかと思ったが。

ふっつーに、なんの新鮮さも無い物。 こう言っちゃあれだが、俺にとってはもう見慣れた物。

そりゃあの妹様が居るからな。 一日一回は目にしているかもしれない物。

同人誌だったってわけだ。

そして、俺は口を開く。

それには多分、黒猫に先ほど煽られた所為か、それともくだらない見栄か。

それとも、俺はそういう奴だったのかもしれない。

何の考えもせずに、俺は言った。

京介「おいおい、散々言ったわりにはただの同人誌じゃねえか。 それがお前の『宝物』かよ?」

言って、俺は黒猫の方へ顔を向ける。

目は少し驚いたように開いていて、俺はその表情へと逆に驚かされた。

黒猫は唇をぎゅっと噛み、その表情は。

今にも泣き出しそうな物だったからだ。

さすがの俺でもマズイと思い、慌てて視線を逸らす。 紛れも無く、逃げる為だったのだろう。

逃げた先には日向ちゃんの顔があり、いかにも「お前、それは言っちゃ駄目だよ」みたいな顔。

沙織は何も言わず顔を伏せていて、珠希ちゃんは事態が良く分かっていないのか、背表紙に「暗黒魔導ノ書 序章」等と書かれている本を読んでいる。

その分厚さで序章かよ、とツッコミを入れたくなってしまうが、そんなことをした所でこの場の空気は変わらない。 それほどまでに、俺の言葉は失言だったという訳だ。

そして黒猫はようやく、口を開いた。

黒猫「……すぐに、帰って頂戴」

結局その日、俺は俺の『宝物』を話すことは無かった。


時にそれは 終

以上で本日の投下終わりです。

乙、感想ありがとうございます。

乙っす
なるほど後30分で今日が終わるな

>>215
わかった。聞き届けよう、その願い!

というわけで本日の投下致します。

京介「……はぁ」

結局俺は黒猫に謝る暇すら与えられずに、別れることとなった。

いや……違うか。 黒猫は待っていたのかもしれない。 だけど、その場の空気に圧されて俺が逃げただけのことだろう。

時刻は夕方。 夜と言っても良いかもしれない。 窓から見える空は、暗い。

沙織からは連絡があった。 俺をフォローする内容だったが、それが今の俺には逆に辛いことにも思える。 だってそうだろ。 悪いのは明らかに俺だから。

……明日にでも、しっかり謝らないとな。

黒猫がどんな想いをしたのか、俺はどんな想いでそれを言ってしまったのか、あれから時間が経って、ようやく俺は理解した。

一度電話した方が良いのか? いや、でも逆にそれだと更に怒らせてしまいそうだし。

あー、くそ。 どうすりゃ良いのか分からないぜ。 桐乃の場合だったら、こんな時……。

違う。 違う違う。 相手は桐乃じゃないんだ。 黒猫なんだよ。 俺が考えるべきはそうじゃないんだ。

……分からねえよ。 どうすりゃ良いのか。

「たっだいまー」

その声を聞いて、時計に目をやる。 言われていた時間よりは早い。 桐乃の声は機嫌が良さそうだし、仕事がスムーズに終わったとかそんなところだろう。

桐乃にどんな話をすれば良いのかさえ、分からない。 どんな顔をして「黒猫と喧嘩した」なんてことを言えば良いのかも、分からない。

桐乃「ちょっとシカト? って、部屋暗ッ! あんたなにしてんの?」

元気な奴だぜ。 別に部屋の電気を付けるのが面倒だっただけだっての。

桐乃「……」

桐乃は部屋を一度見回し、言う。

桐乃「今日、お風呂掃除あんたの番でしょ。 あたし仕事だったんだから。 なんでやってないの?」

京介「そりゃ……悪い」

桐乃「洗濯物も取り込んで無いし。 ご飯も炊けてないし」

京介「……すまん」

悪い癖だ。 俺の気持ちひとつで、桐乃に迷惑を掛けるなんて。

桐乃「ひなちゃんとたまちゃんの写真は?」

京介「あ……わり、忘れてた」

桐乃「……はぁ。 ま、ベツに良いけどさ。 とりあえず」

桐乃は言って、座り込む俺の目の前にしゃがみ込み、こう言った。

桐乃「ただいま。 京介」

……ずるい奴だよ。 俺の妹は。

そんな俺に気を使うんじゃねえよ。 泣いちまうじゃねえか。

桐乃「チッ……泣くなってーの。 ほら、可愛い妹がただいまって言ってるんですケドぉ」

京介「……おう。 そうだな……。 おかえり、桐乃」

桐乃は俺の言葉を聞くと、一度笑い、すぐ隣に腰を掛ける。

何も言わずに、何分も何分も桐乃はそうしていた。

そんな桐乃に俺が事情を話始めたのは、情けないことに一時間程経ってからだ。

桐乃「はぁ~。 それで黒いの怒らせたってワケ?」

京介「……まあな」

桐乃「サイテー。 馬鹿すぎっしょ。 あんたそれで黒いのがどれだけ悲しかったか分かってんの?」

京介「今になって、やっと分かったよ。 明日、ちゃんと謝るつもりだ」

桐乃「そんなの当たり前だから。 それすらしなかったらぶっ飛ばしてるから」

桐乃が怒るのも無理は無いことだ。 表面上では喧嘩をしてばかりの二人だけど、親友なのだから。

京介「……悪いな、桐乃」

桐乃「あたしに謝ってどうすんのよ! はぁ……京介ってほんっと、情けないよねぇ~」

ああ、そうだよ。 もう好きなだけ言ってくれや。

でもこうして思いっきり言ってもらえるのは、今の俺にとってはありがたいことなのかもしれない。 少しキツすぎる気もするが。

京介「……そうだな」

桐乃「ふん」

部屋は未だに暗いままで、殆ど灯りと呼べる物は無かった。

そんな中、桐乃が立ち上がる。 物音で、雰囲気で、それが分かった。

京介「桐乃……?」

桐乃「なにぼさっとしてんの。 行くよ」

京介「行くって、どこに?」

桐乃「決まってんでしょ。 黒いののとこ」

京介「い、今からか?」

桐乃「今じゃなくていつ行くの? 明日とか言ったら蹴り飛ばす」

京介「……ああ、そうだ。 今、だよな」

一生適わないぜ、この妹には。

京介「でも、俺一人で行ってくるよ。 俺の問題だから」

そう言いながら立ち上がったところで、桐乃に両手で顔を挟まれる。

桐乃「却下。 あんた一人じゃ絶対うまく言えないから」

京介「……だけど」

桐乃「はぁ。 確かにさ」

桐乃はそのままの姿勢で続ける。

桐乃「今回のことは京介が悪いよ。 言って良いことと悪いことがあるしね。 親しき仲にも礼儀ありって言うし」

お前がそれを言うのかよ。 はは。

桐乃「んで、誰がどう見たって悪いのはあんた。 それは分かった?」

京介「ああ、分かってる。 だから、お前を連れては……」

桐乃「だけど、あたしは京介の味方だから。 前に言ったじゃん。 あたしだけはあんたの味方だって」

京介「……桐乃」

桐乃は笑って、最後に。

桐乃「だから京介。 あたしに任せて」

そう、言った。

それから俺と桐乃は一緒に家を出て、黒猫の家へ。

桐乃「実はさ、ちょっと気になったんだよね」

京介「気になった? 何が?」

桐乃「黒いののこと。 確かに京介が言ったのは酷いことだけどさ」

抉られる抉られる。 心が抉られるぜ、桐乃。

桐乃「でも、それでも……それであいつがそこまで怒る物なのかなーって、思う」

京介「そりゃ、お前だって大切にしてる物に嫌味みたいな言い方されたら怒るだろ?」

桐乃「それはあたしの場合。 黒猫の場合は違うんじゃない?」

京介「そう、なのか?」

桐乃「うん。 しつこく言ったらさすがに怒ると思うけどね。 だけど、一回くらいで怒るとは思えない」

京介「つっても、現にあいつは怒ってた訳だしよ……」

桐乃「だーかーら。 それが気になるの。 なんでだろうって」

桐乃「多分、あたしたちが思っている以上に大切な物なんじゃないかな。 その『宝物』って奴」

……そうだろうな。 そうだよな。

黒猫が言う『宝物』。 それは、それには黒猫の想いが、込められているのだから。

京介「……そう考えると、俺って本当に酷いことしちまったな」

桐乃「はぁ。 いつまでもうじうじしてないでよ。 あたしがそうゆう風に落ち込むとチョー頼りになるのにさぁ。 自分のことだとほんと駄目だよね、あんた」

京介「自分のことだから、じゃねーの」

桐乃「そうかもね。 でも、だからあたしが居るんでしょ」

京介「……だな。 ありがとよ」

もう少し、しっかりしねえとな。

桐乃「ふひひ。 じゃあお礼頂戴ね」

京介「……どんな?」

桐乃「それを考えるのが京介の仕事。 あたしが喜ぶ物ね」

京介「へいへい。 分かったよ、考えておく」

桐乃「ひひ」

そんな会話をしている内に、黒猫が住んでいる社宅の前へと到着。

桐乃「よし。 んじゃ、電話して呼ぶから」

京介「……おう」

一番最初に言うべき言葉。 それは分かっている。

後は、なるようになるだろうさ。

桐乃は俺から少し離れ、電話を掛ける。

その電話自体は数分で終わり、桐乃は黙って俺の横へと来た。

待っていろと、言うことだろう。

それから数分して、見慣れた姿が視界に入る。

服装はいつものジャージ。

黒猫は俺の顔を見ると、申し訳無さそうに顔を逸らした。

気付けばすぐ目の前まで来ていて、俺は黒猫に向けて口を開く。

黒猫「ごめんなさい」

開こうとしたところで、黒猫が言う。

てか、ごめんなさい?

京介「な、なんでお前が謝るんだよ。 悪かったのは俺だっての」

京介「ごめんな、黒猫」

黒猫「いえ、そうじゃないわ。 私も悪かったわよ」

黒猫「普段なら冷静に流せたはずなのだけど……。 つい、頭に血が上ってしまって。 ごめんなさい」

京介「だから、そうさせたのは俺じゃねえかよ。 ごめんな」

黒猫「……ああもう。 そういうことでは無くて」

埒が明かないやり取りをしていたところ、桐乃がそれに割って入る。

桐乃「あんたらどれだけ謝りたいの? なんならあたしに謝ってみる? ひひ」

黒猫「……そうね。 あなたも巻き込んでしまって、ごめんなさい」

桐乃「ちょ、マジで謝るなっての……」

黒猫「あなたがそうしろと言ったのでしょ?」

桐乃「そうだケド……」

京介「……く、くく。 ははは」

桐乃「笑うなッ!」

桐乃の鋭い蹴りが俺のケツへと入る。 酷い奴だぜ。

黒猫「……はぁ。 私としたことが、迷惑を掛けたわね。 本当に」

京介「うし。 んじゃあ黒猫、仲直りだ」

俺は言うと、黒猫へと手を差し伸ばす。

黒猫はそれを見て、笑って、ゆっくりとその手を握った。

何故か恋人繋ぎで。

黒猫「そうね。 仲直りの握手よ」

桐乃「……」

横から殺気を感じるぞ。 顔を向けるのが怖い。

京介「あ、あー。 はは、そ、そうだな」

無理矢理解くのも、何だか先ほどまで喧嘩をしていたのもあり気が引けてしまう。 そして、それが余計に桐乃からの殺気を増大させている訳だが。

桐乃「……」

こいつもこいつで、仲直りの握手という名目がある以上、口を挟んでこないのだろう。 多分。

黒猫「ふふ。 それではお茶でも出すわ。 家の中へ入りましょう、先輩」

そう言い、黒猫は俺の手を引いて歩き出す。 桐乃を放置して。

桐乃「ちょ、ちょっと待った!! あたしのことをシカトとかどうゆう了見なワケ!?」

黒猫「あら、居たの? ごめんなさい、気付かなかったわ」

桐乃「嘘吐けッ! さっきまでふっつーに話してたでしょ!」

黒猫「用件が済んだので帰ったと思ったのよ。 ふふふ」

……なんか、傍から見たら修羅場みたいに思えるんじゃないのか、この光景って。

京介「喧嘩すんなって! な!?」

桐乃「あんたもあんたでいつまで手繋いでんの!? 早く離せ!!」

それを聞いた黒猫は、俺の手を握っていた手を解く……と見せかけて一段と強く握り締める。

黒猫「厭ね。 嫉妬深い女はこれだから」

桐乃「良いからはーなーせ!」

黒猫「どうして?」

桐乃「あ、あたしが気に入らないから」

黒猫「あらそう。 でもごめんなさい。 私はこうしていたいのよ。 ふふ」

桐乃「は、はぁ? あんたなに言っちゃってんの?」

黒猫「でも、桐乃が京介と手を繋ぎたいと言うのなら、私はこの手を離すわ。 どうなのかしら?」

……こいつは、全く。

桐乃「あたしは……あたしは」

桐乃「つ、つなっ……繋ぎ……」

おお、可愛い。 口をぱくぱくさせて必死に言おうとしてる。 ちょっとこれ、動画として保存しておきたいな。

桐乃「繋ぎたいわけあるかッ!!」

桐乃は叫び、俺の足を蹴飛ばす。

京介「いってえ! お前なぁ!」

分かってる、分かってるぜ京介。 あれは照れ隠しのはずだ。 恥ずかしくなって行き場の無くなった感情が俺にぶつけられただけの話だ。

桐乃「ぼさっとしてないで黒いのの部屋行くんでしょ!? ちゃっちゃ足動かせ!」

桐乃は言うと、俺と黒猫を置いてそそくさと社宅の中へ。

黒猫「……全く、やれやれね」

黒猫「あなたの苦労も計り知れないわね、先輩」

黒猫は俺から手を離し、顔を向けるとそう言った。

京介「……分かってくれるか」

黒猫「でも、そうね」

黒猫「もしかしたら、私もあんな妹が欲しかったかもしれないわ」

京介「あんなワガママで生意気な奴だぞ?」

黒猫「……私も先輩も、今回のことは桐乃に助けられたのかもしれない」

黒猫「だから、そう思ってしまうのかしら。 桐乃みたいな妹が欲しいって」

京介「どーだかな。 俺としちゃあ、日向ちゃんや珠希ちゃんみたいな良い妹が居るお前は羨ましいよ」

黒猫「そう。 それなら妹を交換してみる? ふふ」

黒猫は意地悪く笑い、言う。

京介「悪いが、断らせてもらう」

京介「俺の妹は、あいつだけだからな」

他に居やしないし、代わりなんてのも存在しない。

俺は兄で、桐乃は妹で。

家族で。

兄妹で。

俺はたまに馬鹿やって。

桐乃は桐乃で馬鹿やって。

時に助けられたり、助けたり。

あいつの為なら、なんだってできる。

アニメやゲームが大好きで。

すっげーワガママで。

俺にきつく当たることなんてしょっちゅうで。

……時々素直になったりして。

何事にも一生懸命で。

しっかり筋を通して。

努力を惜しまなくて。

負けず嫌いで。

そんなあいつの為になら、俺はなんだってできるさ。

俺が世界一大切にしたいあいつの為になら。

桐乃「なーんか久し振り。 この家来るのも」

それから黒猫に部屋まで通され、俺と桐乃はそれに甘えてくつろぎ中。

京介「そうだっけか? この前も来たじゃねえか」

桐乃「……そういえばそうだったカモ。 嫌なこと思い出させないでよ」

桐乃が言う嫌なことってのはあれだ。 日向ちゃんに怪しまれたときのことだ。

普通、兄と妹が恋愛関係になっているなんて予想する奴がいるか? 驚いたぜ、俺はあの時。

その鋭さも姉譲りって訳だ、あの妹さんは。

まあ、その場はなんとか凌げたんだけどな。 あの日は疲れたぜ。

黒猫「お茶、入ったわよ」

黒猫が言い、テーブルを挟んで向かい合いながら座る俺と桐乃にお茶を差し出す。

京介「おう、さんきゅ」

桐乃「ご苦労ご苦労。 下がって良いよ」

酷い言い方だ。 ここは黒猫の家で、わざわざお茶を出してくれたのにこれだぜ。

黒猫「はぁ。 それで、あなた達どうするの? 泊まっていくかしら? もう結構遅い時間でしょう?、どうせなら……」

桐乃「大丈夫だって。 それとも寂しいの? ぷ」

黒猫「そ、そんな訳無いでしょう」

京介「はは……あ、そういや日向ちゃんと珠希ちゃんは?」

俺が言うと、桐乃がテーブルの上に身を少し乗り出し、口を開く。

桐乃「そうそう! それあたしも気になってた! あたしの妹たちはどこに行ったの!?」

黒猫「あなたの妹じゃないでしょう……。 それと、もう少し静かにして頂戴。 二人とももう寝ているわ」

桐乃「……ごめんごめん」

桐乃「……あーあ。 ならわざわざ家まで来た意味無かったぁ」

お前それが本音か!? まさか俺の為とかじゃなくて黒猫の妹目的だったのか!?

京介「お前、もうひとつ気になることがあるんじゃなかったのかよ?」

その言葉を聞き、ようやく思い出したのか、桐乃は小さく「あ」と声を漏らした。

桐乃「そーだった。 黒猫、ちょっとひとつ聞きたいことあるんだった」

黒猫「何かしら?」

桐乃「あんたの『宝物』って、そんな大事な物なの?」

随分ストレートに聞く奴だな。 俺としちゃあ、それで喧嘩したのもあり、若干気まずいんだが。

その言葉に黒猫は少しの間黙り、ようやく口を開いた。

黒猫「……分かったわ。 今回はあなたにお礼を言わなければいけない立場だから、仕方ないわね」

黒猫「これ、あなたなら知っているでしょう? 桐乃」

黒猫は言いながら、昼間に見せた物と同じ同人誌を桐乃に見せる。 それは紛れも無く、黒猫の『宝物』だ。

桐乃「……それって」

黒猫「そうよ。 あなたが思っている物で間違い無いわ」

京介「え、えっと? わり、話が全く見えないんだが」

桐乃「……ふん」

桐乃は頬を赤く染めると、俺と黒猫から顔を逸らす。

京介「……黒猫? それって」

黒猫「ふふ。 これは貰い物なのよ。 桐乃からの、ね」

京介「そうだったのか……」

なるほど、そういうことか。

黒猫があれだけ怒った理由も納得行ったぜ。 それは正真正銘、大事な物なのだろうから。

黒猫「そうよね? 桐乃」

黒猫が笑いを堪える様に聞くと、すぐさま桐乃は答える。

桐乃「し、知らないし」

自分がプレゼントした物が『宝物』と言われているんだ。 そりゃ、こいつだって恥ずかしいよな。

京介「……改めて、ごめんな。 黒猫、桐乃」

黒猫「もう良いと言っているでしょう。 止めて頂戴」

桐乃「チッ……」

こんな感じで、今回の話は幕を閉じる。

と、思ったのだが。

黒猫「それより先輩。 あなたの『宝物』をまだ聞いていないわ。 教えて頂戴」

桐乃「あ! それあたしもちょっと気になる。 京介って趣味とか全然無いじゃん? だから」

京介「そ、それはもう良いだろ? 俺の『宝物』はお前ら仲間だよ。 はは」

黒猫「……」

桐乃「……」

蔑んだ視線を浴びせるんじゃねー! 俺だって恥ずかしい台詞を言っているのは分かってるっつの!

京介「……言わなきゃ駄目か?」

黒猫「ええ。 教えて頂戴。 私も沙織も言ったのだから」

京介「わーったわーった。 じゃあ黒猫」

俺は言い、黒猫を手招き。

桐乃「はぁ? なに内緒で話そうとしてんの?」

京介「いやいや。 だってお前は『宝物』教えてくれねーじゃん。 あるだろ?」

桐乃「あるケド……ふん」

京介「桐乃が言えば、お前にも教えてあげるんだけどなぁ」

桐乃「ふ~ん。 ベッツに京介のに興味なんて無いから」

へいへい。 そーですかっと。

黒猫「ふふ。 では、私だけ聞かせて貰うとするわ」

そう言い、俺の方に耳を寄せる黒猫。

俺は少しだけ……本当に少しだけだぞ? あまり近づくと桐乃を本気で怒らせるから。

で、こう言った。

京介「……俺のはあれだ。 前に貰った奴だよ。 桐乃から」

黒猫「……なるほど。 似た者同士だったということね。 私も、あなたも」

京介「……まーな。 本人には恥ずかしくて言いたくねえけどさ」

黒猫「……そうね」

それは俺が初めて桐乃から貰った物。

世間一般では受け入れられない物なのかもしれないが、大切な物。

妹から貰った初めてのプレゼントがエロゲーってのも、どうかと思うがな。

桐乃「……」

京介「なんだよ? そんな睨んでも教えねーぞ」

桐乃「……う、ううう」

桐乃はやがてテーブルを軽く叩き、俺の方をじっと見つめながら言った。

桐乃「やっぱ教えろ。 納得いかない」

黒猫「あらあら。 あなたが納得いかないのは、先輩の『宝物』を教えて貰えないことかしら? それとも……」

桐乃「うっさい! 良いからあたしにも教えて」

京介「じゃ、じゃあお前のも教えろよ?」

桐乃「やーだ」

言いながら唇を尖らせる。 子供っぽい仕草が何だか面白おかしい。

黒猫「全く。 あなたの我侭っぷりも行くところまで行ったわね」

桐乃「我侭じゃないし~。 あたしはただお願いをしているだけだっての」

黒猫「お願い? ならもう少し可愛く言って御覧なさいよ。 「お兄ちゃん、お願ぁい」みたいな感じで」

桐乃「絶対ヤダ! なんであたしが「お願ぁい」なんて言わないといけないワケ?」

近いことはあったと思うが。

それに「お兄ちゃん」の方は否定しないんだな、こいつ。

京介「……一件落着、か」

俺の独り言が聞こえたのか、桐乃は言う。

桐乃「なんか言った?」

それを聞いて、俺はあの日のことを思い出した。

あの時もこうして、俺と桐乃と黒猫で話していて。

解決してくれたのは、桐乃だったっけか。

なんだかそれが懐かしくて、思い出深くて、笑えてきて。

京介「ん、ああ」

俺はあの時と同じ台詞を言うことにした。

京介「ありがとな、桐乃」

桐乃はやはり呆気に取られ、頬をほんのりと赤くして、こう返す。

桐乃「ひひ。 こっちこそ、ありがとね」

その思いの他ストレートな返答に俺もやはり恥ずかしくなってしまう。

俺の想いって物は多分、そんなたった一つの言葉だけでは現せない物だろう。

だからこそ俺は行動し、いつだって桐乃に習って全力でいなければいけないと思う。

そりゃあ人生は簡単には行かないだろうけどさ。

全力でやったって、どうしても駄目な時だってあるかもしれない。

そうだから辛くて、挫けそうになって、迷ったりもする。 時には喧嘩をしたり、な。

しかし俺はこう感じた。 やっぱり桐乃と居ると、毎日が楽しいぜ。 なんてな。

泣いてもこいつが隣に居てくれて、落ち込んでもこいつが隣に居てくれて、辛い時も隣にこいつが居てくれて。

それがあるから、俺は一緒に笑えるのだろう。 桐乃と、黒猫と。

俺の友達全員と、笑えるのだろう。

黒猫が言おうとしていた言葉。 今日の昼、皆で『宝物』を見せようとした時に言おうとしたことだ。

『今回見せ合うのは人では無いわよ。 分かったわね』

多分、桐乃のことを言うと予想して黒猫はこう言ったのだろうが。

違うぜ、黒猫。

もし今回の話で『宝物』に物以外が含まれるのだとしたら、俺が言うべきことはこうだ。

皆が居て、笑って、泣いて、遊んで、喧嘩して、励まし合って。

そんな光景が、俺にとっては『宝物』だ。

桐乃「で、それは言いとして京介の『宝物』ちゃっちゃと教えて」

京介「……マジで?」

桐乃「あ、た、り、ま、え。 あたしと京介の仲じゃん? 隠し事なんて水臭いっしょ~」

こんな時だけそんなことを言うんじゃねえよ!

京介「く、黒猫……」

黒猫「厭よ。 私は別にあなたの『宝物』が妹から貰ったエロゲーだなんてことは関係無いのだから、助けないわよ」

助けるどころか桐乃に加勢しやがった! ていうか答え言いやがった!

桐乃「……え、エロゲーが『宝物』とか……キモ」

京介「お前だってエロゲー大好きじゃねえかよ!」

桐乃「あたしは良いの。 可愛い妹だから。 京介はダメ。 なんでか分かる?」

京介「へいへい……。 へたれな兄貴だからとか、そんなとこだろ?」

桐乃「はっずれー。 京介はね」

桐乃「マジな妹と付き合ってるんだから、ダメなの。 ふひひ」

全く畜生。 桐乃が口を開けば殆ど凶器だぜ。 なんでこんなドキドキしないといけないんだよ。

黒猫「もうすぐ夏が来るのだから、温暖化に貢献するのは止めて頂きたいわね」

黒猫の呆れ声が部屋に響いて、俺は苦笑い、桐乃は満足気に笑うのだった。


それぞれの宝物 終

以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございました。

ハッピーエンドやったよ
シナリオが若干アレで、ここの作者さんが書けばどれだけの物になったかと思った

こんばんは。
乙、感想ありがとうございます。

>>273
もし自分が書いたら、全部のエンディングが桐乃endになる可能性が……
シナリオ作る仕事って楽しそうですよね。


それでは、本日の投下致します。

書き忘れ。
今回のは5スレ目の883さんのが元ネタです。

6月。

大学からの帰宅途中のことだ。

あやせ「お兄さん! こっちへ!」

後ろから声が聞こえ、それがあやせだと理解した時には既に手を掴まれていて、俺が何かを言う前には引っ張られていた。

京介「あ、あやせ? どうしたんだよ?」

あやせ「いいから来てください!」

なんだってんだ。 すっげー慌てている様に見えるが……。

まさか、またあのストーカーと何かあったとかか?

それから数分手を引かれながら走り、辿り着いた場所は路地裏の様な場所。

一体何がどうしたと言うのだ。

あやせ「はぁ……はぁ……」

京介「……大丈夫か?」

あやせ「わたしは大丈夫です! それより……ごめんなさい、お兄さん」

京介「なら良いが……って、なんで謝ってるんだよ?」

うむ。 状況が理解不能だ。

あやせ「……その、簡単に説明します」

あやせは言い、ゆっくりと語り始める。

どうやらそれは今日、学校であった話らしい。

桐乃「そんでさぁ~。 そうゆう流れになるワケじゃん? で、あいつったらマジで告白してきたのぉ。 ウケるっしょ?」

加奈子「いや全く分からねー。 なんでちょっとした口論から告白の時を再現しようって話になるのか全然意味不明」

桐乃「はぁ。 ま、加奈子は分からなくても仕方ないかもね~。 あやせは分かるっしょ?」

あやせ「わ、わたし? あ、あはは」

桐乃はあれだな。 赤裸々に語りすぎだぜ。 こんな感じで第三者から話を聞かされる俺の身にもなって欲しい。

あやせ「……微妙、かな?」

桐乃「もぉ~。 なんでぇ?」

あやせ「でも、お兄さんと桐乃の仲が良いことは分かったよ。 ね?」

桐乃「そ、そんなこと無いってぇ! 一日一回は喧嘩してるし!」

あやせ「あはは。 喧嘩するほど仲が良いって良く言うでしょ?」

加奈子「こいつらの場合は、その喧嘩自体が甘々だけどな~。 うへぇ」

桐乃「二人ともやめてよぉ。 ふひひ」

あやせ「良いなぁ。 羨ましい」

桐乃「ふ、ふひひひ」

あ、これってあれだろ。 桐乃が調子に乗るパターン。 長いこと一緒に居る俺だから分かる。

桐乃「ま、まあ? あやせにも加奈子にもちょっと難しい話だったかな? ごめんごめん」

加奈子「……あぁ?」

桐乃「だってぇ、二人ともどうせ彼氏とか出来たこと無いでしょ? き、き、キスとかも……無いでしょ?」

桐乃「あたしはあるし? だから二人にはちょっと難しかったよね~。 ふひ」

俺的には、毎日こんな話をされていて今もまだ仲良くやっているお前らは凄いと思うぜ。 黒猫然り。

……まあ、それだけあいつに魅力があるということかもしれんが。

加奈子「あー。 はいはい、すいませんでした桐乃先生ぇ」

桐乃「うへへ。 やめてよもぉ」

あやせ「……」

桐乃「あやせ、どうしたの? 黙っちゃって」

そして、あやせは言ったらしい。

言われっぱなしなのが嫌だったのか。 それともあやせのプライドか。

あやせ「わたしだってキスくらいは!」

後の流れは言わずもがな。 まず、その相手が誰かという話になり、思わず言ってしまったあやせはそれに慌てて、どんどんとボロを出したということだ。

結果。

あやせ「お兄さん、桐乃に殺されるかもしれません。 わたしも、お兄さんも」

京介「……お前なんてことしてくれたんだ!! かもしれないじゃねえよ! 間違いなく殺される!!」

あやせ「そ、そうですよね……授業中とか、休み時間、桐乃ずっと不機嫌になっちゃって……」

そりゃなるだろうよ! あいつのことだしな!

あやせ「それで、学校が終わってから呼び出されたんです」

京介「……マジか。 で、桐乃はなんて?」

あやせ「「あやせ、ちょっと屋上まで付き合って貰っていい?」って」

だが、それで今この場にあやせが居るということは。

京介「それでお前は逃げてきたという訳か……」

いや、それは正解だ。 大人しく行ってたら今頃、女子高校生が屋上から転落……みたいなニュースになっていたかもしれん。

あやせ「それで、逃げている内にお兄さんを見つけたんです」

京介「あー、俺の身も危険だと思って、連れて行ってくれたってこと……で良いのか?」

あやせ「……まぁ、そういうことですね。 それで、ついでに相談しようと思いまして」

あやせ「わたし、これからどうすれば良いですか!? このままじゃ学校にもいけません!」

京介「お前そう言うけど俺は家に帰れないんだぞ!? 帰ったらこの前より酷いことをさせられるかもしれん……」

あやせ「……この前?」

京介「ああいや、なんでもね。 ははは……」

思い出したくない記憶だ。 活き活きとしている桐乃は可愛かったけどな。

京介「で、だ。 要するに俺もお前も同じ悩みってことだな」

あやせ「そうなります。 なので一緒に助かる道を考えましょう」

……殆どお前の所為だけどな、あやせさん。

京介「仕方無い、か。 てか、ぶっちゃけた話どこまで話したんだよ?」

あやせ「殆ど全部ですね。 わたしが告白したところから……その、あれまで」

京介「それもう諦めた方が良くない? 大人しく」

あやせ「嫌です。 桐乃と仲直りがしたいんです」

京介「つっても、桐乃に会わない限りそれは無理だぞ……」

あやせ「……」

黙り込むなよ。 俺だってあいつを怒らせたく無いんだっての。

京介「……よし。 分かった。 素直に謝ろう、二人で」

あやせ「お兄さんも、ですか?」

京介「こういう場合、俺も巻き添えってのは決まってるだろ?」

あやせ「あはは、そうですね。 では、お兄さんも巻き添えにします」

京介「おう。 いやまあ、お前がしてきたこととは言っても……俺も、嬉しかったしさ」

桐乃「な、に、が?」

……。

京介「う、うわあああああああああああああああ!!」

あやせ「き、桐乃!? どっどうして!?」

桐乃「だってあたしの方が足速いし、体力あるし、当然じゃん? 見失うと思った? あやせ」

桐乃は言いながら、あやせとの距離をじりじりと詰める。 口だけ笑ってて恐ろしい。

あやせ「な、なるほど。 あはは……さ、さっすが桐乃」

桐乃「でしょ~?」

お、おう。 中々良い感じじゃねえか。 こりゃ、仲直りもすぐだな。 良かった良かった。

あやせ「ちょ! お兄さん、どうして逃げようとしているんですか!」

桐乃「はぁ!?」

桐乃の注意があやせに向いている間に、俺はこの場を離れようと距離を少しずつ取っていたのだが……あやせめ! 余計なことを言いやがって!

桐乃「へえ? 逃げるんだ? ふうん?」

京介「あ、あー。 は、はは……」

あやせ「さっきは一緒に謝ってくれるって言ったじゃないですか!」

……くそ!

京介「に、逃げるなんてとんでもない。 しっかり謝るつもりだぜ? な?」

桐乃「ふーん。 なら折角だし、家いこっか」

桐乃の言葉に、俺とあやせは首を縦に振るしかなかった。

桐乃「で、何か言っておくことある?」

家に着き、桐乃が座る対面に俺とあやせは並んで正座。 あやせをここまでにするなんて、桐乃って実は相当怖い奴なのかもしれんな。

桐乃「……」

そして無言で俺のことを睨んでくる。 考えは全てお見通しらしい。

あやせ「そ、その……」

京介「すまん桐乃!」

もう土下座だ土下座。 これしかない。 桐乃、結構普通を装ってるけど、内心は相当不機嫌そうだしな。

桐乃「……はぁ」

桐乃は俺の方に一度視線を向けた後、小さく溜息を吐く。 そして、続けた。

桐乃「……ま、良いよ。 今ってワケじゃないし、昔のことだしね」

あやせ「ほ、ほんとに? じゃあ……仲直り、してくれるの?」

桐乃「ひひ。 なーに言ってるの? 元々喧嘩なんてしてないっしょ」

桐乃は言うと、可愛らしく笑う。

普通、ここで俺が思うべきことは……。

良い奴だな、とか。

優しいな、とか。

そんなところなのだろうけれど、今の俺には何故かそう思えなかった。

どうしようも無く、寒気がしたからだ。

あやせ「……よ、良かったぁ。 もう、桐乃に嫌われちゃったのかと思って、わたし」

言いながら目尻を拭うあやせ。 割と本気で怖かったらしい。

しっかし、俺にはどうもことが上手く行きすぎな気がしてならない。 なんだろうな、この感じは。

あやせ「やっぱり、何かして欲しいこととか無い? そうしないと気が済まない感じがして……」

桐乃「あはは。 大丈夫だって、あやせは心配しすぎなんだよ~」

桐乃「でも、そっかぁ。 あ、それならさ」

桐乃「明日ってあやせ、仕事無いよね?」

あやせ「へ? うん、明日は無いよ。 学校もお休みだし……一日中暇、だけど」

桐乃「そっか。 なら今日は泊まっていかない? ここに」

京介「ちょ、俺も居るんだぞ!?」

桐乃「ベツに良いじゃん。 それともなに、あたしの大切な友達に手出すの?」

京介「い、いや……そんなことはねえけどよ」

桐乃「ふひひ。 なら決定! あやせも良いっしょ?」

あやせ「き、桐乃がそうして欲しいって言うなら……」

桐乃「やったー! じゃあ準備とかあるだろうし、一回家に帰って着替えとか持ってきなよ。 待ってるからさ」

あやせ「うん。 分かった。 すぐに来るね!」

それだけ言い残し、あやせは一旦家から出て行く。

……あやせの奴、嬉しそうだな。

内心では相当テンション上がっていそうだ、あの感じだと。

しかし、なんつうか……。

京介「桐乃、お前何か企んでいるだろ?」

桐乃「なんで? あたしはただ、あやせとお泊りしたいって思っただけだしぃ」

嘘くせー!

京介「……」

桐乃「な、なによ。 人の顔をそんなじっと見ないでくれない?」

俺はただお前が何を隠しているのか気になるだけだぜ。

京介「……ううむ」

桐乃「……」

そして何故か、お互いに見つめ合うこととなり、それがしばらく続くのだった。

あやせ「桐乃のところにお泊りって、随分久し振りな気がするなぁ……」

桐乃「そだったっけ? あー、でもそっか。 京介と一緒に暮らしてるからね、結構前から」

あやせ「うんうん。 それであまり機会が無くって。 修学旅行とかはあったけど」

桐乃「それで思い出した! あの時、加奈子チョー怒られてたよね? 部屋抜け出したりしてさ~」

あやせ「あはは。 そんなこともあったかも。 でも、桐乃だって抜け出してなかった?」

桐乃「あ、あたしのはベツに……加奈子みたいに悪巧みなんて、してないし」

あやせ「ふうん? そうなんだ~?」

桐乃「……もう」

ぶっちゃけて言うぞ。 居辛い。

なんだよこのガールズトークは! 明らかに俺って場違いじゃねえか!

そうか、これか? これが桐乃からの俺に対する報復なのか!?

……いや、そんな訳がねえ。 俺の妹がこんな甘い方法で報復をするとは思えん! まだ、何かある筈だ。

桐乃「……あたしたちのこと見てる暇あったら、お風呂でも洗ってきてよ」

京介「……へいへい」

ここ、一応俺の家なんだけどな。 そりゃあ桐乃も今となっちゃ一緒に暮らしているから、ある意味では桐乃の家でもあるのだが。

それでも俺に対する扱いが酷い。 友達の前だからか?

いつもだったら、そうだなぁ。

桐乃「ちょ、なに見てんの? やめてよ……」

とか言って急に顔を赤くしやがるんだ。 俺はただなんとなく見ていただけなのに。

桐乃「ふん……。 ま、まあ……京介ってシスコンだし、そんなに見たいなら……ベツにあたしは構わないケド」

とか言うんだよなぁ! やべ、よだれ垂れてきそうだ。

桐乃「……でもやっぱムカつく! あんたが見るってんなら、あたしも見る」

って言って、俺のすぐ目の前に対面して座るんだぜ。 うへへ。

京介「……はぁ、俺はどうして必死に風呂を洗っているのだろうか」

そんなことを呟き、現実に引き戻される。

時折、桐乃とあやせの笑い声が聞こえてくるのがまた……なんとも悲しい気持ちにさせてくれるぜ。

京介「あ、そうか。 今日はあやせもこの風呂使うのか」

俺と桐乃だけならまだしも、一応あやせはお客様だしな。 いつもより念入りに洗っておこう。

これでもかってくらいに、な。

京介「……うし、これで完璧だろ」

もうぴっかぴかだぜ。 排水溝から普段は気にもしない天井まで、隅から隅まで綺麗にしてやった。

そして気付けば一時間程経っている。 少し集中しすぎたかもしれんな。

俺が腰に若干の痛みを覚えながら部屋に戻ると、桐乃とあやせはさっきまでと同じ様な体勢で会話を続けていた。

良くもまあ、話の種が尽きない物だ。 それだけ話してて楽しい相手、ということなのだろうけど。

桐乃「んでさ、あたしはやっぱり言えないじゃん? だから笑うの必死に我慢してさ~」

あやせ「あはは。 わたしだったらそれ、笑っちゃってるかも」

桐乃「それはマズイって。 ひひ」

京介「おう。 盛り上がってるとこ悪いが、風呂洗い終わったぞ。 もう日も暮れてきたし、どうせなら入っちまったらどうだ?」

俺的には、あそこまで綺麗にした風呂場を見て貰いたかった。 桐乃にもあやせにも。

桐乃「お疲れ様。 じゃ~、どうしよっか?」

あやせ「あ、わたしは最後でいいよ。 桐乃とお兄さんの後で」

桐乃「そう? まぁ……そうしよっか。 あたし入っちゃうね」

桐乃は言うと、立ち上がる。

今の立ち位置は桐乃を俺とあやせで挟み込む感じの立ち位置。 桐乃はあやせに背を向けていて、俺と対面している。

桐乃「じゃあ、お風呂入ろうかなぁ~」

何故かその場でもう一度桐乃は宣言すると、桐乃はそこで笑った。 顔だけ。

物凄く、寒気がしたぞ今。

桐乃「あ、京介も一緒に入る? いつもみたいに」

あやせ「は、はい!?」

……き、きやがった! やっぱりやりやがったこいつ! そうかこの野郎……そういうことかよ!!

京介「な、なにおかしなこと言ってるんだよ。 いつもは俺とお前でばらばらだろ? な?」

俺が引き攣った笑いを向けながら言うと、すぐさま桐乃は返す。 まるで答えを予想していたかのように。

桐乃「おかしなこと言ってるのはそっちじゃん? だってぇ、一週間に一回は一緒に入ってるしぃ」

あやせ「い、いっしゅ!?」

あやせの顔が凄いことになっている。 いやまあそりゃあそうだろ。

俺があやせの立場だったとしても、同じような顔をしていたと思うし。

桐乃「だからぁ~。 ね、一緒にはいろ?」

京介「きょ、今日はやめとこう! 今日は! な!?」

桐乃「え~? ま、京介がそーゆうなら良いケド。 じゃああたし入ってくるね~」

ようやく満足したのか、桐乃はニヤニヤと笑いながら洗面所へと消えていく。

……なんて奴だ。 なんて奴だなんて奴だなんて奴だ!

マジでありえん! 二人だっけならまだしも、あやせが居るんだぞ!?

俺に対する報復だとしても、これじゃああやせまで……。

……そうか。

これはあれだ。 俺に対する報復じゃねえ。

紛れも無く、あやせに対する報復だ。 やべえ、俺の妹怖すぎる。

あやせ「あ、あの……お兄さん」

京介「ハイ!? 何でしょうか!?」

桐乃がいなくなった部屋で、あやせが後ろから話しかけてくる。 そのトーンはかなり低く、思わず敬語になってしまった。

あやせ「さっき桐乃が言っていたのって本当ですか? そ、その……い、一緒にお風呂に入っているとか!」

言いながら俺に顔を寄せるあやせ。 こいつ、興奮するとすぐにこうだからな……俺だからまだしも、違う奴なら勘違いさせるぞ、それ。

京介「……ど、どうだろうなぁ」

あやせ「一週間に一回とか!」

京介「へ、へえ?」

あやせ「話を逸らさないでください! 今、とても大事なお話をしているんですよ!」

京介「……あ、あー。 桐乃が風呂から出たときの為に、冷たいお茶いれとかないと」

あやせ「いつもはそんなことしないじゃないですか。 あからさますぎます」

京介「何で俺がそんなことしてないって知ってるんだよ?」

あやせ「桐乃から結構聞いてますから。 いっつも言ってますよ、気が利かないって」

京介「……悪かったな」

明日から、桐乃が風呂から出たら冷たいお茶を出そう。

あやせ「それで、さっきお話していた話の続きですが」

それからしばらく、俺はふらふらと話をはぐらかすのに必死になるのだった。

桐乃「あー、さっぱりしたぁ~」

桐乃「あれ? どしたの、京介。 なんかすっごく疲れてるみたいだケド」

風呂から出てきて、すぐに桐乃は言う。 分かってやってる癖に良く言うぜ。

京介「誰の所為だっての!」

桐乃「ぷ。 誰の所為だろうね?」

嬉しそうにしやがって……。

あやせ「お兄さん! 早くお風呂に入ってきてください!!」

京介「な、なんだよ急に……」

あやせ「良いから早く行って下さい。 臭いので」

……いくら俺でも、そんな正面から言われたら傷付くんだぞ。 あやせはどうやら俺を風呂に行かせたいらしいが。

まあ、桐乃から次にどんな攻撃が飛んでくるか分からないし、俺としては一時避難所的な風呂場は助かるっちゃ助かるけどな……。

桐乃「……んー」

桐乃は少し考える素振りを見せた後、俺の方へと近づく。

というか、近い。

京介「……ど、どした?」

いきなりそんなことをやられ、顔が熱くなるのを感じながら俺は言う。 すると桐乃はこう言った。

言った、じゃない。 こんな行動を起こした。

桐乃「ん~」

俺の肩辺りに手を置き、そのまま胸辺りに顔を沈めたのだ。 あやせの前で、あやせの前で、あやせの前で。

京介「な、なんだよ!? いきなりどうした!?」

あやせ「き、桐乃!?」

俺とあやせがかなりの焦りを見せる中、桐乃は数秒経った後に顔を上げ、口を開く。

桐乃「……ベツに普通じゃん? ヘンな匂いとかしないケド」

……こいつ俺の匂いを嗅いでいたのか!? 何してんだマジで!!

というかあれだ。 風呂に入ったばっかだからか、それとも普段から気を使っているからなのか。

すげえ良い匂いがするんですけど、こいつ。

あやせ「あ……あ……」

あやせは地に足ついていないといった感じで、体をふらふらと左右に振り、やがて……文字通り、倒れた。

桐乃「ちょ、あやせ!?」

京介「……はぁあああ」

こんなのがまだまだ続くとか、俺の疲労はどこまで蓄積されるのだろうか。


ある告白 終

すいませんまた書き忘れ。
前後編となっております。

次は土日辺りに~。

以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

ハッピーエンドがクソゲーらしいけどどうなんだろう…

>>323
マジレスしますと、クソゲーげふんげふん……。

麻奈実さんが何も言わずに桐乃との関係認めている感じだったり、きりりんのキスシーンが無かったりと……

ですが、俺妹のおまけ的な感じでやってみれば面白いかもです。 きりりんは可愛いですし。
新しいコンテンツが無さそうってのもありますが!

落ち込んだ京介を桐乃が励ます話を
書いては頂けないでしょうか?

自分で書くとうまく話がまとまらないので…

乙、感想ありがとうございます。
レス返し~

>>329
了解です。 似たようなのが2個前くらいのですが、今度はそっちに主眼を置いて書いてみます。
リクエストして頂いたのがいくつかまだありますので、それを投下し終えたらですがが。

おつ

季節がら京介の学祭ネタとかどうでしょう?
なぜかきりりんがミスコンにエントリーしていて京介ポカン、みたいな。

乙です

気が向いたらでいいんで、ちょっと趣向を変えた
桐乃が本気で京介を怒らせてしまい、機嫌を直すために奔走するみたいな話を書いてくれたら嬉しい

>>332
了解です。
桐乃の文化祭はやったので、それの逆パターンで構成してみます。

>>333
凄く面白そう!
でも書くのが難しそう……。
336さんの方向で書いてみます。


面白いネタ沢山頂いて、ありがたやありがたや。

まだセーフ!

乙、感想ありがとうございます。

本日の投下致します。

桐乃「ふんふふーん♪」

台所から上機嫌な声が聞こえ、俺とあやせは顔を見合わせる。

京介「……大丈夫か、あやせ」

あやせ「も、もう駄目かもしれません」

桐乃がいつもの様に料理を作ってくれると言って、あやせは当然手伝うとのことを言ったのだが、案の定それは断られた。

桐乃としても多分、料理が上達したのを友人に見せたいといった気持ちはあるのだろう。

京介「やっぱりこれってアレだよな、アレ」

あやせ「……あれ、とは?」

京介「決まってるだろ、桐乃の復讐だ」

あやせ「何を言っているんですか! そんなことをする訳が無いじゃないですか!」

あやせは言うと、俺の胸倉を思いっきり掴む。

おいおい、お前の中でどれだけ桐乃は神格化されているんだ。 絶対間違いだぞ、それ。

あやせ「お兄さんは分かっていないんです! 桐乃はいっつも優しくて……可愛くて……皆の憧れなんですから」

ふうむ。

優しい……か? いやまあ、たまにはそういう時もあるのは否定しない。 そりゃ学校ではそういう感じなのだろうけど。

でもなぁ、ここまでされて「優しい」とは……。

で、次になんだっけ。 可愛い、か。

うん。 それはそうだろ。 そんな当たり前のことを今更言うなよ。

皆の憧れ、というのは触れないで良いか。 学校でのあいつ、俺は良く知らないしな。

性格からして……そういうのもあるとは思うが。

京介「分かった分かった……俺が間違ってたって」

とりあえずはその場凌ぎでそう言う俺。 首が絞まって苦しいからな。

桐乃「何騒いでるの? 京介、あやせにヘンなことしてないよね」

京介「してないしてない! なんもしてないッス!」

桐乃「うんうん。 なら良し」

包丁を持ったまま顔を出すのはやめてくれ。 色々とトラウマなんだから。

あやせ「……」

横でその光景を一緒に見ていたはずなのだが、なぜこいつはこうも黙り込んでいるのだろうか。

何か言えとまでは言わないけれど、少しくらい驚きの声でもあって良いだろうに。

あやせ「……可愛いなぁ。 エプロン付けてる桐乃」

……俺が思っている以上に、重症かもしれない。

桐乃「お待たせ~。 出来たよ!」

言いながら、料理を運んでくる桐乃。

この部分だけ切り取って見たら、俺はすげえ良い奴と付き合っている様に見えるんだろうな。

苦労ばっかだぜ、実際のところ。

それが俺は好きってのがあれだ。 傍から見ればお似合いみたいに見えるのかね?

……気になってきてしまった。 今度、沙織と黒猫に聞いてみるとするか。 俺と桐乃は周りから見たらどう見えているのか。

どーせ、バカップルだとか言われるんだろうな。

へへ。

桐乃「……なに笑ってんの? キモ」

京介「わ、笑ってねえよ。 俺は生まれつきこんな顔だ」

桐乃「いやいや絶対無いから」

手をぶんぶんと振りながら否定してきやがる。 つうか、俺が勝手に笑ってたって良いじゃん。

あやせ「あはは。 わたしも少し気になります。 お兄さんがどうして笑っていたのか」

京介「大した理由なんてねえっての。 なんかこの光景が新鮮だな、みたいに思っただけだ」

まあ、嘘だけどな。

だって言えるかよ。 桐乃との関係がどんな風に見られているのか想像してニヤニヤしてただなんて。

京介「それより、早く飯食おうぜ。 冷めたらあれだしさ」

桐乃「なーんか隠してそうだケド……ま、いっか」

桐乃「それじゃ、ご飯食べよ。 あやせ」

あやせ「うん! 桐乃の手料理、すっごい久し振りかも」

京介「へえ、前に食べたことあるのか?」

あやせ「あ、あはは。 中学生の時に、一度」

京介「……聞かないでおこう、それ以上は」

桐乃「昔のことは良いから!! 頑張って練習して、マシになったんだっての!」

っはあ。 これで「マシ」って言い方をするのかよ。 どれだけ上を目指しているんだろうな。

俺はそんな桐乃が心なしか誇らしくなり、すぐ近くに座っていたのもあり、頭を撫でる。

桐乃「……ん、なに」

目だけを俺の方に向け、桐乃。

京介「別に。 なんでもねーよ」

あやせの手前、桐乃は眉間に皺を寄せながらも顔だけは嫌そうにしようとしているが、それとは別で……本音、と言うべきか。

それの所為で、変な顔になっている。

桐乃「は、早くご飯食べよ。 お腹減った」

京介「おう。 そうだな」

桐乃「……手、退けてよ」

京介「ああ、わりわり。 払われるまでこうしてようかと思ってた」

桐乃「ばかじゃん。 そんなことしてたらご飯食べれないっしょ」

こんな会話をしながらも、俺は未だに手を退けない。 桐乃の顔が面白くて。

京介「そうだなぁ」

桐乃「……ふん」

払おうと思ったのか、桐乃は自身の頭の上へと置かれている俺の手を掴み。

……掴んだのは良いが、そのままの姿勢で固まる。

京介「なんだよ。 払うんじゃねーの?」

桐乃「……ねね。 このままでご飯食べよ」

京介「このままで? どうやって」

その言葉を聞くと、桐乃は自分の箸でテーブルに並んでいるおかずを一品、掴み取る。

桐乃「ふひひ。 あーん」

ああ、そういうことか。 可愛いじゃねえか。

京介「お、おう」

と返事をして口を開けたところで、別の所から声が掛かった。

あやせ「……あの、私のこと忘れていませんか?」

正直に言おう。 すっかり忘れていたぜ!

桐乃「……っ! 死ねッ!」

桐乃は言うと、器用に先ほどまで俺に向けていたおかずを食べ、俺の腕を思いっきり叩く。 なんて奴だ……。

京介「お、お前なぁ……」

仕返ししてるんじゃなかったのかよ、あやせに。

折角、折っ角! 俺がそれに協力してやろうとこんなことをしたというのに。

断じて桐乃といちゃいちゃしたかっただなんてことは無いぞ。 うむ。

桐乃「あ……ご、ごめん」

恥ずかしさから叩いたのを謝罪する桐乃。 一昔前だったら考えられないことだなぁ。

京介「良いって良いって。 だから謝んな。 ほら、あーん」

桐乃「……あーん。 ひひ、おいし」

桐乃「……って! なにすんのよ!!」

つくづく面白い奴だぜ。

そんなこんなでようやく飯を食い終わり、雑談中。

桐乃は洗い物をしてくれているので、俺とあやせだけだが。

もっとも俺もあやせも手伝うとは言ったのだが、案の定断られてしまったという訳だ。

あやせ「お兄さん、ひとつ教えて貰えますか」

にこにこと笑いながら言うあやせ。

京介「ん? なんだ?」

あやせ「どうして結局「あーん」とかやってご飯食べたんですか!? わ、私の目の前であんな破廉恥な……!」

桐乃には聞こえない声量。 だけどもしっかりと怒鳴っている様に聞こえる。 そんな絶妙な感じ。

京介「べ、別に破廉恥じゃねえだろ……。 お前が変な目で見てるからじゃないのか?」

あやせ「そんなことはありません!」

京介「分かった分かった! 分かったから少し離れろ!」

顔を近づけすぎだっての。 こんな場面を桐乃に見られたら今度こそ生きて明日を迎えられないぞ。 俺もお前も。

あやせ「……」

納得いかないような顔付き。 気は進まないが……ここはしっかりと話しておいた方が良いかもしれん。

京介「よし、あやせ。 ちょっと考えてみてくれ」

あやせ「……内容によります」

京介「例えばだな……そうだ。 お前から見て、俺と桐乃は仲が良いように見えるんだよな?」

あやせ「ええ、勿論です。 というかですね、最初からずっとそう思ってますよ」

京介「そ、そうか。 で、だな。 仮に俺と桐乃の仲が滅茶苦茶悪いとするだろ?」

京介「……お互いに無視しあう、くらいに」

あやせ「……はい」

京介「そんな状態の俺と桐乃の中にお前が居たら、正直気まずいだろ? 帰りてえって思うだろ?」

あやせ「まぁ……帰りたいと思うかどうかは分かりませんが、居心地が良くないのは事実ですね」

京介「つまり、そういうことなんだよ。 俺と桐乃はお前が居心地良くなるように、仲良くしているんだ」

あやせ「……なるほど。 ということは、普段はそこまで……い、いちゃいちゃしてないということですか?」

京介「え? あ、ああ。 まあ……」

言い訳をするにしても、なんか間違った方向へ行っている気がしてきた。

あやせ「なら、お風呂に一緒に入っているというのは?」

京介「あれは……多分、桐乃がお前に気を使ったんだな。 多分」

そして寝る時間。

桐乃「前に布団買っておいて良かった。 無かったら床で寝るところだったし」

言いながら押入れから布団を取り出す桐乃。 なんかこいつ、主婦みたいだな。

桐乃「それじゃ、あやせ」

その布団を手渡しながら桐乃は言う。 あやせはそれを受け取ると、普段敷いてある布団から少し離れた位置へとそれを敷いた。

あやせ「ありがとう、桐乃。 この辺でいいよね?」

桐乃「うん。 それじゃ、寝よっかー」

桐乃とあやせが布団を準備している間、俺も自分の布団を敷いておいた。

で、その中へ桐乃が入る。

あやせ「……あれ? お兄さんはどうするんですか? 他の場所に?」

……ああ、やべえ。 なんも考えてなかった。

京介「お、おー。 俺はあれだ。 む、向こうで寝る」

そう言いながら居間の方を指差す。 てか、どうしよう。

桐乃「なに言ってんの? いっつも一緒に寝てるんだし、おいでおいで」

桐乃はそんな俺の努力を無に返す発言をした。 そうだった……こいつ、仕返しの為にあやせを泊まらせているんだった!

京介「……はは」

あやせ「……お兄さん」

京介「な、なんでしょう?」

あやせ「やはり騙されるのには無理があります!! さっきの発言も全て無しということで!」

こいつわざと騙されてくれてたのか! すげえ良い奴じゃん!

桐乃「ほらほらはーやーくー」

そんなことに構いもせず、桐乃は俺の足を自身の足で挟む。

京介「お、おい! 危ねえって!」

桐乃「あんたがヘンなことをゆうからでしょ。 折角あたしが待ってるのに」

こいつ恥ずかしくねえのか!? さっきはあんな顔赤くしてやがったのによ……。

あれか。 これは予め考えていたってことか。

桐乃「よっと」

言い、桐乃は足を捻る。

当然俺はバランスを崩し、そのまま桐乃の方へと倒れた。

京介「……」

桐乃「……」

多分、これは桐乃が狙っていたことではないのだろう。

俺が押し倒すような姿勢になっているこの状況は。

その証拠として、桐乃は超恥ずかしそうな顔をして視線を逸らしているからだ。

桐乃「……ごーいん」

あやせ「ぶち殺しますよお兄さん!!」

京介「待て待て待て!! お前も見てただろ!? 事故じゃねえか! てかお前はお前で何言ってんだよ!?」

顔を赤くして背けるなよ。 マジで俺が何かしたみたいじゃん。

あやせ「こ、この……変態!!」

以前なら迷わず蹴り飛ばしでもされていただろう。 今はただの罵倒だけなので、正直助かる。

あやせもあやせで顔を赤くしながら、そのまま自分の布団へと潜り込んでしまった。

頭まですっぽりと布団を被って。

桐乃「……重いんですケド」

京介「お、おう。 わりい」

俺はその言葉を聞いて桐乃の上から退き、部屋の電気を消す。

全く。 疲れるぜ……。

ようやく全員が寝る感じとなり、俺もいそいそと桐乃の横へと入った。

あやせは暗黙の内に認めてくれたらしい。 有耶無耶になったってのが正しいかもだが。

隣を見ると俺に背中を向けたままの桐乃。

反対側を見ると、こちらをじっと見つめているあやせ。

……怖いって。

京介「……なんだ?」

あやせ「……何でも無いです」

まるで俺を監視するかの様な視線だな……。

いや、恐らくはその為なのだろうが。

果たして今日は心地よく寝れるのだろうか。

京介「……んー」

窓から差し込んできた明かりに刺激され、意識がどんどんと覚醒していく。

それにしてもあれだな。 熟睡だった。

俺って案外、繊細では無いのかもしれん。

で、ゆっくりと目を開けると目の前にあやせ。 なんか怒った顔。

京介「お、お前なんだよ!?」

あやせ「し、静かにしてください……!」

そう言われるとあれを思い出す。 桐乃が夜中に俺の部屋に来て「人生相談がある」と言ってきていた時のこと。

あれももう、今となっちゃなんだか懐かしいな。

京介「……俺の顔に何か付いてんのか」

あやせ「……」

あやせは無言で指を差す。

俺、では無いな。 だとすると俺の隣にいる奴か。

桐乃「……ふひひ~」

幸せそうに寝てるなぁ、おい。

京介「お、起こすか?」

あやせ「駄目です。 気持ち良さそうに寝ているので」

なるほど。

京介「でも、起こさないと俺動けないんだけど……」

それもそう。 こいつ、俺のことを抱き枕にしてやがる。

桐乃「じゅる……ふひ」

ああくそ。 いつもだったらこんな良い顔をしている桐乃を近くでじっくり見ていられる機会なのに!

あやせがすっげー睨んできている所為で、桐乃の表情を堪能できねえ!

あやせ「駄目です」

京介「……あの、だったら俺のこと睨むのやめてもらえませんかね」

あやせ「……」

ぴくっと眉を動かすあやせ。 怒りが蓄積された合図だろう。 つまりは断るとのことだ。

京介「……はぁ」

でも桐乃の体温を感じるぜ。 朝からこんな天国と地獄状態を体験するのは結構レアかも。

下衆な話、生理現象的なあれもあるっちゃあるが……布団のおかげであやせは気付いていないらしい。

だってそうだろ。 気付いていたら俺、間違いなく生きていられないし。

桐乃「んふ……愛してるよぉ」

どんな夢を見ているか知らんが、耳元でそんな甘ったれた声を出すんじゃねえ!

桐乃「どしたのあやせ。 なんかすっごく疲れてるみたいだケド」

よく言うぜ。 にったにたしながら言う台詞かよそれ。

あれから桐乃が起きたのは一時間程経った後で、起きるなりいきなりこいつは俺の頬へとキスをしてきやがった。

寝惚けてなのか、わざとなのか、それは分からない。

ただひとつ言えるとしたら、そのキスされた場所があやせの時と同じだったということだけだ。

あやせ「……」

それからこいつはずっとこんな調子でぼーっとしている。 深刻なダメージを受けてしまったらしい。

京介「……おーい。 大丈夫か、あやせ」

あやせ「え? あ、はい。 大丈夫です。 うふふふふ」

絶対大丈夫じゃないだろ! お前そんな笑い方しねえじゃん!

あやせ「桐乃、私……ひとつ分かったよ」

桐乃「分かったって?」

あやせ「桐乃とお兄さんがすっごく仲が良いこと」

桐乃「え~? そんなことないってぇ! あたしは全然京介になんて興味無いし~?」

桐乃「ほんと、マジ勘弁って感じだってのぉ~。 ま、京介はあたしのこと大好きみたいだケドぉ」

桐乃「嫌になっちゃうよねぇ。 ふひひひ」

これだけ桐乃に好意を向けられると、若干恥ずかしくなってくるぜ。 お前どれだけ幸せなんだよ。

あやせ「あはははは」

あやせの様子を見るに、多分こういう桐乃の発言には慣れているのだろう。

いや、慣れていないとしたらあやせが壊れてしまったのかもしれん。

京介「……楽しそうでなによりだ。 もし機会があったらまた来いよ」

俺がそう言うと、最後にあやせはこう返してきた。

あやせ「お断りします!!」

ちなみに後日、帰宅中に後ろから強烈な蹴りを食らったのはまた別の話。


お客様 終

以上で本日の投下終わりです。

乙、感想ありがとうございます。

おつおつ!
話は終わりがあるからおもしろいものだけど、
これはいつまでも読んでいたいものだ


ところで二つ前ぐらいのスレだったかな以前話題にあがった、
18斤?って人?の同人だかなんだかの情報が
検索しても全然ヒットしないんだけどだれか詳細教えてください

乙です!

>>276
今更だけど5スレ目の883さんじゃなくて833さんだね

833 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/06(金) 06:50:19.10 ID:NjyCkYeV0
(アニメで)あやせが告白&ほっぺにキスしたのってバレてないんだよね?
これがバレる話が読んでみたい…

>>385
これですかね?
ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=19832630

確かに結構キツイ内容でした……。

>>386
oh..
申し訳ないです。

こんばんは。
乙、感想ありがとうございます。

リク消化~
5スレ目887さんに頂いたネタとなります。

それでは、投下致します。

今日は少し前のことを思い出してみよう。

隣で寝てる京介の顔を見て、そんなことをふと思った。

幸せそうな寝顔。 どんな夢を見ているのだろうか。

その夢にあたしが少しでも出ているのだとしたら、それだけであたしは多分幸せな気持ちになれる。

そんなのは確かめようが無いけどね。

今日はいつもより寝付けない夜……思い出を振り返ってみることにした。

寝付けないのにもしっかりと理由がある。 はっきり言えば、興奮状態になっているからだと思う。

その理由?

そんなの決まってるじゃん。 京介があたしのことを抱き寄せてきているから。

ほんとに、これは新手の嫌がらせなんじゃないかと思ってしまう。 それだけのことであたしが寝れなくなっているっていうのに、当の本人は気持ちよく寝ているんだからさ。

桐乃「……ばか」

弱々しく罵倒しても、それに対する返事は無い。

あたしは肩に回されている京介の手を両手で掴み、目を瞑った。

桐乃「ちょ、なにこれ……」

待ち合わせの途中で連絡が入り、今日の予定がすっかりと空いてしまった。

どうやらたまちゃんが熱を出してしまったみたいで、それを伝えるメールがあったのは今から数時間前のこと。

ちょっと楽しみにしていた……いや全然楽しみじゃないけど。 で、予定よりも随分早く待ち合わせ場所に居たあたしは、それを見てすぐに黒猫に電話を掛けた。

あたしも行こうかと提案したんだけど、熱を移してしまったらつまらないから大丈夫。 と、黒猫。 そんなの心配してる場合じゃないでしょ。 あたし並みにお人好しだよね、あいつって。

その所為もあり、その後の予定にすっぽりと穴が開いてしまったあたしは、特にすることもなく、すごすごと家に帰ったんだけど。

そこで目にした物。

付いたままのパソコン。

最初は、あの馬鹿電気代が勿体無いじゃん。 って思った。

しかし、その付いたままのパソコンに映し出されていたページはあたしが良く知っている物だった。

桐乃「……あたしのブログ」

……ってことはなに!? あいつ、あたしのブログ見てるってこと!? それしか無いよね!?

ま、待て。 落ち着けあたし。 そりゃ、あのシスコン馬鹿兄貴のことだから……あたしの名前で検索とか、普通にやってそうだよね。

それでたまたま見つけて……ってことなら納得が行く。 ちょっと漁れば、出てきそうだし。

正直、ここまでは「もしかしたら」と思ったこともあるしね。 そんな時の為のパスワードってワケだし。

桐乃「……えっと」

とりあえず、どうしよう。

このまま気付かない振り? それとも京介が帰ってきたら問い詰める?

まぁ……内容さえ見られてなきゃ、良いんだけど。

そしてあたしは、なんとなくマウスを握って、スクロール。

試しに記事をクリック。 当然の様にパスワード入力画面。

通常だったら、その入力場所には空白のはず。

……だけど、今あたしの目の前には空白である場所に埋まっている文字だった。

桐乃「ちょ、ちょおおお!! ま、マジ!?」

なんで!? なんであいつがあたしのブログのパス知ってるの!?

上手く隠していたと思うのに!! 紙に書いたり、携帯のメモ帳に入れないで全部あたしの頭の中にあるはずなのに!!

や、やばいって。 これはマズイって。

だってあんなこと書いてた記事とか、全部見られてたってことだよね!?

……そんな焦る感情とは裏腹に、納得が行ったことがひとつ。

道理で最近、あたしがブログに書いたことが叶っていくわけだ。

でも……どうしよう。

あんなぶっちゃけたブログ、見られてたって。

帰ってきたらどんな顔をすればいいの? もう二度と正面から顔を見られないくらい恥ずかしいんだけど。

あー。 絶対今、あたしの顔大変なことになってるって。

鏡なんて見なくても、それくらいは分かる。

よし。 一旦落ち着こう。

落ち着け、落ち着け。

桐乃「……うう」

全っ然、ムリ。

でも、落ち着け落ち着けと念じている内に別の感情が少し出てきた気がする。

どんな感情かって? 決まってるじゃん。

桐乃「……ムカつくムカつくムカつく!!!」

あたしがチョー嬉しそうにしてたのだって、あいつは「しめしめ」とか思って見ていたのかと思うとムカつく!!

「しめしめ」と思っていたかどうかは知らないけど……。

多分、あいつのことだからあたしの為にやってくれたことってのは分かるけど……。

それでも、こんなの素直に「ありがとう」って感情が湧いてくるわけが無い!

……よし決めた。

今日もどうせ何か企んでいるのだろう。 こうなったら仕方無い。

仕返し、してやる!!

桐乃「……今に見てなさいよ。 あんの馬鹿!」

あたしは未だに帰ってこない同居人に苛立ちを覚えながら、パソコンの前に座るのだった。

京介「ただいまー」

ふむ。

どうやらパソコンを付けっぱなしにしてたのは忘れてたっぽい……?

普通に、いつも通りの京介だし。

桐乃「おかえり」

だったらあたしもいつも通りにしてやるだけ。 隙を見せるまではゆっくりと待ち構えて……その時を待つ。

京介「……っ」

京介がほんの少しだけ、息を詰まらせた。

……視線は、パソコンに行っている。

どうやら気付いたらしい。 今、画面はスクリーンセイバーが仕事をしてくれているけどね。

ちらっと横目で京介の顔を確認。

……ぷ。 ヤバイ。 チョー嬉しそうにしてる。 ばれてないと思ってるし! ウケる!

京介「ああ、パソコン付けっぱなしだったか」

わざとらしすぎるんですケドぉ!? それはさすがに怪しいって! あたしだったらさり気なく消すっての!

それにしても、そろそろ気付くはず。 あたしが用意してあげた物に。

……どんな顔するんだろ? ちょっと楽しみ。

それから一言二言会話をして、京介はようやく気付く。

京介は何も言わずにあたしの方を見る。

そんなこいつに、あたしは今日一番の笑顔を向けてあげた。 チョー優しくない?

京介「い、いや。 何でも無い。 はは」

顔、全く笑ってないし。

ちょっとムカつく。 あたしが折角笑ってあげたのに、そんな顔をされて。

いやでも仕方無い……かな? 状況が状況だしね。

さてさて。 そろそろ京介も本格的にどういう状況になっているか気付くだろう。

……ふひひ。

京介はあたしのブログを眺めた後、あたしの方に向き直る。

あたしもようやく読んでいた雑誌を近くに置き、京介の方に顔と体を向けた。

そして、土下座する京介。

なにこの状況!? まぁ、あたしがブログで書いたことなんだけど。

それでもマジでここまで謝るの!? なんか、そこまでされると気が引け……ない! こいつはあたしに酷い仕打ちをしたのだから、それ相応の目には遭うべきだし!

きょ、今日は心を鬼にしないと……。

たまには、ね。 たまには。 だって、あたしいっつもめっちゃ優しいし。

いつもの京介にそう言ったら、多分「いっつも鬼じゃねえか」みたいなことを言うと思う。 あ、そう考えると苛立ちが。

桐乃「なぁにぃ~? いきなりどうしちゃったワケ? きりりん意味分からないんですケドぉ~?」

桐乃「ねぇ、どうしたの? ねぇねぇ」

なんて言いながら、京介の頭を踏みつけてみた。

……ヤバイ。 やり過ぎ? 京介怒るかな? 怒ったらどうしよう?

内心もうビクビクのあたしだったけど、そんな心配は無用だったらしい。 少しだけ顔をあげた京介の表情は、あたしに愛想笑いを向けるだけだった。

えぇ……マジで怒らないの? あたしが逆の立場だったら絶対怒ってると思うケド。 でも、隠れてブログを見るなんてしないけどね。

もし京介が隠れてそういうことをしていたら、問答無用で内容を見せてもらうし。

それから段々と行動はエスカレートしていき、自分でも正直やり過ぎたと思う頃には、京介は「わんわん」と可愛く言っていた。

桐乃「ふひひ。 よしよし。 いい子いい子」

……っ!

これは正直かなりキタ!! こ、これってもはや犯罪じゃない!? この素直さヤバすぎる……。

うう……このまま思いっきり甘えたい。 甘えたい!

京介にも頭撫でて貰いたいんですケドぉ!!

……いや違う! 今日は心を鬼にするんだった。 我慢しないと、我慢我慢。

ていうか、なんであたしがこんな苦労をしないといけないワケ!? 我慢する必要なくない!?

京介「わんわん」

そんなあたしの気持ちを知ってか知らずか、京介は再度そう言う。

桐乃「あんま調子に乗らないでね。 次、犬ならあたし乗せて歩いてよ」

それのおかげで大分冷静になれた。 あたしを乗せて歩け、だなんて言っている時点でそうじゃないかもだけど。

とまぁ、こんな感じで成り行きで色々なことをすることになって。

その度にあたしは我慢をすることになって。

ぶっちゃけ、あたしって好きな物に関してでも意外と我慢できる方だと思う。

エロゲーだってそうだし、メルルだってそうだし。

しっかりと自制出来ているはず。 自分でそう思っているだけかもだけど。 だけど、どんな事にも……どんな物にも例外はあるんだ。

それがあたしにとって唯一の例外。

でも、一応これでも我慢したんだよ? もう胸が締め付けられまくって大変だったけど。

そしてそれを抑えられなくなってしまったのが夜のこと。

京介「ええっと……布団、敷きますか?」

京介が恐る恐るあたしにそう聞いてくる。 びびりすぎでしょ……。 そんなおどおどされるとなんか、あたしがマジで酷いことしたみたいじゃん?

桐乃「自分で考えなさーい」

あたしが言うと、京介はそそくさと布団を敷き始める。

……健気すぎ! もう、どんだけあたしのこと好きなワケなの。 これってあたしに嫌われたくないから……だよね? そう考えるのはちょっと傲慢かもしれないけど、そうだと思ってしまう。

それがもう可愛すぎて、可愛すぎて。

この時にはもう、ブログのことは割りとどうでもよくなっていた。 というか、京介はとどの詰まり、あたしの為に動いてくれていたわけだしね。

正直に心の底からの言葉で言うと、あたしが思っているのは「ありがとう」という言葉だけ。

でも……ふむ。 この状況、この状態はうまく活かさないと。 なんて悪魔の囁きみたいなのが聞こえる。

ふ……ふひひ。

……もうちょっとだけ、もうちょっとだけならいいよね? 許してくれるよね?

聞いているはずもない誰かにあたしは必死に確認を取り、結局自己解決。

桐乃「よし。 じゃあ寝よっか?」

京介「お、おう」

桐乃「あ、でもぉ。 あたしちょっと喉渇いちゃったかもぉ?」

京介「……水、持ってきます!」

言いながら台所へ行こうとする京介。

あたしは布団の上にぺたんと座りながら、そんな京介の足を掴んだ。

京介「……どした?」

桐乃「ここで飲みたくない。 向こうで飲みたい」

京介「……って言うと?」

桐乃「連れてって」

あたしは言うと、京介の顔を見る。

じっと見つめて、目を逸らさない。 京介は慣れていないのか、頬を掻きながら顔を逸らし、小さく「おう」と返事をする。

そんな恥ずかしいこと言ってないよね? あたし。

なのにそんな照れられてしまうと、あたしも釣られて恥ずかしくなってくるんですケド。

そして京介はあたしの方に一歩近づき、しゃがみ込み。

あろうことか、あたしを抱き上げた。

桐乃「……」

あまりのことに何も言うことができない。

だって! だってさ! あたしが考えていた内容だと、京介に手を引いて貰って……みたいな感じだったんだから!

普通いきなり抱っこする!? 考えられなくない!? しかもお姫様抱っこってどういうことだっての!!

……。

顔あっつ。 鼓動が早くなっている気がする。 どうやら慣れていないのはあたしも一緒だったらしい。

変だよね。 ここ最近ずっと仲良くやっていたのに、昔では考えられないくらいにベタベタしていたのに、それなのにどうしてか……こんな風なことには未だに慣れやしない。

いつになったら慣れるんだろうなぁ。

逆に考えてみよう。 あたしはこれに慣れても良いのだろうかって。

うーん……考えられないかも。

京介「……そうじっと見られると恥ずかしいんだが」

いやいや見てないし! 全っ然見てないし! なに勘違いしてんの!?

桐乃「……あたしが見てることに文句あるワケ?」

あたしは思っていることと全く違うことを言う。 どっちが本当のことなんて、一々説明しなくてもいいよね。

京介「いいえ。 ありませんとも、お嬢様」

桐乃「なら良し。 早くして」

京介はあたしの言葉に少しだけ頬を緩ませ、台所へと移動する。

そこであたしを降ろし、戸棚からコップをひとつ取り出し、水を注いで突き出した。

京介「どうぞ」

桐乃「……」

京介「……飲まないのか?」

いつまで経っても受け取らないあたしを見て、不審そうな顔をしながら京介は言う。

桐乃「……自分でどうすれば良いか考えてみて」

試すように言ってみた。 こんな風に言われたら、京介はどうするのだろう?

京介「えーっと……」

数秒考え、やがて京介は口を開く。

京介「き、桐乃……」

桐乃「なに? どしたの?」

京介「……さすがに口移しは恥ずかしいぞ」

桐乃「な……! な、な、な……!! なワケあるかッ!!」

なにを言っちゃってるの!? あたしがそんなこと望んでいるワケ無いじゃん!!

ゼロかゼロじゃないかで言えばゼロではないかもしれないけど! それでも今はそうじゃないっての!!

桐乃「普通に飲ませてくれって言ってるのが分からないの!?」

京介「ふ、普通に? 俺が、お前に?」

桐乃「……そ。 京介がワガママばっかゆうから、手疲れた」

京介「お、おう。 そりゃ悪かったな」

桐乃「分かれば良い。 ほら、早く」

あたしは言いながら目で合図も一緒に送る。

京介「んじゃ……」

京介はそのままあたしの口にコップを近づけた。 なんか思っていたのと違うけど……まぁ、仕方ないから許してあげよう。

桐乃「……」

少しずつ傾けられたコップから、あたしはゆっくりと水を喉に通す。

京介は頭の後ろを手で支え、水を零さない様に本当に少しずつ傾けていた。

……てか、なんかこいつの視線エロくない? まさか、ヘンな目で見てない?

桐乃「……ん。 ストップ、ストップ」

京介「おう。 どうした」

桐乃「あんたヘンな目で見てたでしょ?」

京介「う……」

桐乃「嘘吐いたらどうなるか分かってるよね? で、どうなの?」

京介のことをそう言いながら睨むと、気まずそうに視線を逸らす。

……これ、絶対に黒だ。

京介「仕方ねえだろ!!」

桐乃「はぁ!? 仕方無いワケ無いし!! あんたどんだけキモいの!?」

京介「桐乃がエロい飲み方するからじゃねえか!! もうちょっと普通に飲めよ!!」

桐乃「……なに。 あたしの所為にすんの?」

京介「いえすいませんでした」

……この状況、ちょっと楽しい。

一応、あたしは至って普通に飲んでた。 そう京介に見えていたというのなら、それは京介がヘンなことを常に考えているから。

……マジありえないんですケド。 えへへ。

桐乃「そうゆうときはなんて言えば良いと思う? ねえ」

あたしは意地悪く笑いながら言う。 すると京介はこう返した。

京介「……わんわん」

あーヤバ! キタコレ!!

桐乃「ふ、ふひひ……」

京介の頭を撫でて、顔をじっと見つめる。

京介「……恥ずかしいんだが」

桐乃「……えへへ」

京介「……桐乃さん?」

桐乃「……桐乃様でしょ。 ひひ」

京介「……桐乃様」

桐乃「よしよし……」

頭の中で何かが外れる音が聞こえた気がする。 絶対に気のせいだとは思うけど……カチ、みたいな音が響いた気がした。

桐乃「きょーすけ、京介。 京介!」

京介「な、なんだ?」

桐乃「早く布団行って一緒に寝よ。 早く早く」

京介「……了解です」

そう言うと、京介は再びあたしを抱きかかえ、布団へと向かっていった。

京介「あの、桐乃さん」

桐乃「なに?」

京介「そんなずっと見られてると、寝れないんすけど」

桐乃「じゃあ、寝なきゃ良いんじゃない?」

京介「いやいやそうは言っても……」

布団を被り、あたしは京介の顔をじっと見る。

勿論、顔を背けたりしないようには言ってあったので、京介はあたしとの距離が物凄い近い状態で見つめ合うことになって。

ちなみにこの時、布団の中では京介と手を繋いだりしているわけだけど。

京介「……お前の顔、近くで見ると余計に可愛いな」

桐乃「でしょ? ありがたく思ってね」

甘い! 京介は多分、あたしが恥ずかしがって顔を背けるとでも思ったのだろう。

でもね、今日はそんなの全然大丈夫だっての。 吹っ切れたと言っても間違いでは無い。 心臓はばっくばくいってるけどね。

京介「ちくしょう……ちくしょう」

桐乃「そんなに寝れないなら目を瞑れば良いじゃん」

あたしが優しくアドバイスをすると、京介はすぐに反論をする。

京介「……お前の息遣いとかが聞こえてくるんだよ! 時々笑い声聞こえるし!」

桐乃「もう、そんなの気にしなければ良いのに~? そんなにあたしのこと気になるの?」

京介「気にならないわけがねえだろ! くそ……」

ふ、ふむ。

……本当にそう思ってるのかな?

桐乃「じゃあ、言ってよ」

あたしが言って貰おうとしたことは、京介だったらすぐに理解してくれただろう。

だって、それを聞いた京介は一瞬あたしから顔を背けようとしたから。

京介「……好きだよ」

う……!

桐乃「ちゃんと顔見て言って。 目も見て」

京介「……桐乃」

いやちょっとタンマ。 距離近すぎない? もうちょっと時間的にも距離的にも間を置いて、仕切りなおした方が良くない? むしろやっぱり目は合わせない方が良くない?

京介「好きだ」

桐乃「ぐふっ……」

あたしがしっかりと覚えていたのは、ここまでだった。

桐乃「こ、この……ばか!!」

横で寝ている京介の顔を叩く。

京介「いてっ! き、桐乃!? な、なんだ。 どうした!?」

桐乃「知るかっ! あたしは寝る!!」

京介「……へ? お、おい。 お前怒ってるのか?」

桐乃「うっさいばかばか!!」

あり得ないあり得ない。 いくらちょっと前のことだと言っても、思い出したらすっごくむずむずとしてきた。

京介の背中を向けて、頭まで布団を被る。 目を瞑って、今日は寝ることにしよう。

京介「……せめて叩かれた理由を教えてくれよ」

京介の若干泣きそうな声が聞こえた気がしたけど、気のせいということにしておくとして。

そして多分、あたしの顔が若干……本当に若干緩んでいることも、気のせいだ。



いつかの思い出 終

以上で本日の投下終わりです。

乙、感想ありがとうございます。

ふひひ乙~


調子に乗ったきりりんが京介を挑発しまくるんだけど逆に京介に火が付いちゃって、ごーいんに迫られてタジタジきゅんきゅんしてるきりりんが見たいです
R-18にならない程度にww

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

176さんのネタで書いていますが、もう少し時間が掛かりそうです。
明日か明後日には投下致します。

一連の流れからオチは出来たのですが、何だか賛否両論な感じになりそうな予感ががが。

>>443
了解です。
ソフトにやります、ソフトに

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

少し短いですが、投下致します。

桐乃「京介、ちょっと聞いてよ」

京介「なんだ。 帰ってきて早々に……飯も風呂もまだなんだけど」

桐乃「そんなのはどーでも良いの! そんなことより大事な話」

京介「分かった分かった。 聞くから言ってみろよ」

桐乃は困った様な、悩んでいる様な顔をしながら俺に言う。

桐乃「あの子さ、最近成績がちょっとねー」

……ううむ。 そっち系の話と来たか。

正直、俺も人に自慢できる程の頭は持ち合わせていないし、そういう方向の問題なら桐乃に任せているのだが。

まあ、桐乃が相談してきているんだ。 その相談に乗ってやらないわけにはいかないよな。

京介「分かった。 着替えてからでも良いか?」

桐乃「うん。 あたし、リビングで待ってるから」

京介「おう。 すぐ行くよ」

俺は桐乃に言い、一旦部屋へと入った。

着ていたスーツを壁に掛け、ふと物思いに耽る。

そういや、昔似たような顔をされた気がするな。

あの時はもっと、事態は大きな物だったが。

「……」

俺と桐乃はいつものアパートに居た。

時刻は夜中。 明日からはしばらくの間、俺と桐乃は休み。

俺は仕事が始まるのでぼけっとだけはしていられないが、今日くらいは別に構わないだろう。

桐乃は布団を口元まで被り、俺はそこから少し離れた場所で窓の外を見ていた。

お互いに無言で、普段なら別に気まずくは思わないが……今日は違う。

ぶっちゃけ、すげえ気まずい。

そんな気まずさを紛らわす為に、俺はきらきらと光っている星を見ながら今日のことを振り返る。

まず、そうだ。

大学の卒業式があったんだ。

いやいや、今思い出したみたいになっているが……しっかり覚えていたぜ?

だけど、そんな今日のことがもう遥か昔みたいな感覚になりつつあるんだよな。

それくらい、今日は色々とあったから。

家に帰ってきて、すると桐乃から『人生相談』があると言われて。

連れて来られた場所は、いつかの式場だった。

桐乃「……」

ふと桐乃の方を見ると、起きているのが見て取れる。

俺はそれを確認した後、ようやく口を開いた。

京介「なあ、桐乃」

桐乃「……」

桐乃はそれに答えない。

その沈黙は恐らく、黙って聞くということだろう。 それくらい、もう分かる。

俺は小さく笑うと、続けた。

京介「……子供の名前どうする?」

桐乃「は!? ちょっと待った! いきなりそれ!?」

桐乃はがばっと飛び上がり、俺の方にどんどんと詰め寄る。 さっきまでのしおらしさはどこへ行ったんだ。

京介「じゃあ他に何て言えってんだよ?」

桐乃「もっとあるでしょ!! これからのことを語りだすとか、あたしを安心させるようなことを語るとか!」

分かった分かった。 分かったから胸倉を掴むのはやめてください。 首が絞まって息が出来ません。

京介「お、落ち着け……落ち着けって。 そりゃ、お前が元気無さそうにしてたからさ」

桐乃「あったりまえじゃん。 だって」

桐乃「……そんなの、おかしいし」

言うと、桐乃は俯く。

……はぁ。 仕方ねえな。

てか、お前は望んでいたんじゃないのかよ。

いいや分かっているさ。 こいつだって、本心はそうなのだろうから。

京介「そうだ。 おかしい」

京介「でも、今更じゃねえか」

桐乃「だけど!」

京介「……そりゃ、大変だとは思うぜ」

京介「だって俺とお前は兄妹なんだから。 それはもう変えられないからな」

桐乃「うん。 分かってる」

桐乃は目尻に涙を少し溜めて、漏らすように言った。

桐乃「……こんなんだったら、本当に義理なら良かった」

京介「ばーか。 弱音吐いてるんじゃねえよ。 似合わねえ」

俺は桐乃にでこぴん。

桐乃「……はいはい。 今のは忘れて」

俺にでこぴんされた場所を摩りながら、桐乃。

京介「俺だって、怖いんだよ」

俺の言葉に驚いたような顔を桐乃はしていた。 意外に思っているのか、それとも。

これはあくまでも俺の予想で、事実は違う可能性なんて存分にある。

桐乃はこの時、こう思っていたのでは無いだろうか。

嬉しい、と。 俺が真剣に考えていて、嬉しいと。

京介「怖くて、怖くて堪らねえよ。 だけど、それでも俺はそうしたいんだ」

京介「そんな怖いだとか、不安だとか、全部吹っ飛んじまうくらいにお前のことが好きだから」

京介「お前となら、大丈夫だと信じられるからな」

そうして俺は桐乃に笑い掛ける。

桐乃の顔を見て、俺はこう思った。

ああ、くそ。 やっちまった。 って。

どうやら俺は、親父との約束を破ってしまったらしい。

面目無い。 悪いな、親父。

だけど、どうしてだろうな。

どうして俺は、こんなにも幸せな気持ちになっているのだろう。

それは今、目の前にある物を見ればなんとなく分かる。

桐乃の頬を伝っていた涙を見れば、なんとなく。

桐乃「ちょっと、着替えるのにどんだけ時間掛かってんの?」

京介「おお、悪い悪い。 今行くから待ってろ」

桐乃「ふん。 早くしてよね。 あの子も待ってるから」

桐乃は言うと、部屋の扉を少しだけ勢い良く閉める。

……変わらないなぁ。 昔っから。

あの日、俺と桐乃はひとつの約束をしたのだ。

正真正銘、俺と桐乃だけの秘密。

これが破られる日は恐らく来ないだろうし、来たとしても手をあげて喜べやしないだろう。

もし、万が一に破られるとしたら。

つまり、あの時とは逆ってことだから。

今はとにかく、桐乃からの呼び出しに早く答えてしまわないとな。

俺と桐乃の大切な子の為にも。

「桐乃、ひとつ約束してくれるか」

「なに? 約束って」

「もし、子供が出来てさ……生まれたら」

「……俺とお前が兄妹ってことは、絶対に秘密だ」

「……子供を騙せってこと?」

「そうだ。 ばれたら皆が傷付くから、俺とお前が背負わないといけないんだよ、それは」

「ずっと、一生?」

「多分、な」

「……」

「……桐乃、これは大切なことだから。 それくらい分かるだろ? だからしっかり返事、聞かせてくれ」

「……うん。 分かった。 絶対に言わない」

「……ごめんな」

「京介が悪いわけじゃないから。 悪いのはあたしも一緒」

「そうだな。 へへ」

「大丈夫だ。 俺とお前の子供だぜ? 超立派になるに決まってんだろ」

「……八割あたしのおかげだけどね?」

「へいへい……」

「桐乃……幸せか?」

「ふん。 分かってるくせに」

「……心配か?」

「……やっぱり、ね」

「……怖いか?」

「……うん」

「……なあ、桐乃」

「安心、出来たか?」

「……うん。 ありがと」

京介「悪い、待ったか?」

桐乃「ぜーんぜん? ねー?」

桐乃は言うと、正面にちょこんと座る中学三年生になる娘に語りかける。

……ほんと、成績が芳しくないのは桐乃が溺愛している所為なのでは。

だってこいつらときたら、すぐに俺をからかってくるからな。 いっつも手を組みやがって。

まあ、良いさ。 俺には俺で手を組む奴が居るからよ。

高校三年生になる、立派な息子が。

……で、ちょっと待て。

なんでその息子の方も、一緒になって居るんだ?

京介「……桐乃?」

桐乃「……あたしも分からないって」

桐乃に耳打ちをして尋ねたのだが、どうやらこいつも理由はしらないらしい。

ふうむ。 確かに前まで喧嘩ばっかだったのが多少はマシになったとは思うけど、妹の説教にわざわざ同伴までするのだろうか。

何か、こいつの方からも話があるのか? そしたら。

京介「……そっちの話から聞くか。 それで良いよな?」

俺が息子に話し掛けると、一度頷き、口を開いた。

その言葉は結局、回りまわって来たというわけで。

こいつら兄妹は結局、俺と桐乃の子供というわけで。

どこまでそっくりなんだろうな。

なあ、桐乃。

お前もそう思うだろ? こいつらはやっぱ、俺たちの子供だよ。

この兄妹の場合は一体、どんな物語になるのだろうか。

俺はそれに真剣に耳を傾けなければなるまい。 無論、桐乃も。

親として、家族として。

そして俺と桐乃……兄妹としても、な。

全く。 やれやれ。

桐乃からの『人生相談』は、終わったとしても。

その性格やら、考え方やら、やり方も。

しっかりと受け継がれてしまっている様だ。

「ね、京介」

「……ん?」

あの日。 約束を交わした日。

桐乃は俺に、こう言った。

「もし……さ。 あたしと京介の子供が、馬鹿やったらさ」

「馬鹿ってのは、俺とお前が馬鹿やってるみたいにか?」

「うん。 そう」

「それで、今度はあたしたちが親の立場だったとしたら」

「……しっかり話そう。 全部」

「……おう。 分かった」

「それで助けてあげよう。 傷付くとは思うけど、そうしないとダメだと思うから」

「助ける……ってのは? どっちの意味でだ?」

「……まだ分からないかな。 その時になってみないと、分からない」

「そっか。 でも、良いぜ。 約束だ」

「……うん!」

あの時のどっちかは、もう桐乃は分かったのだろうか。

俺はしっかりと分かった。

だってよ、こんな真剣な顔をされちまったら適わねえよ。

隣に座って先ほどから黙っている桐乃の顔を俺は見た。

そして、すぐにそれも分かった。

桐乃も俺が何を言おうとしたのかは分かったようで、俺と桐乃は同時に口を開く。

「俺に任せろ」「あたしに任せて」

俺はしっかりと幸せを見つけた。

小さくて、見落としていたかもしれない幸せを。

でも見つけることが出来たんだ。 俺には、桐乃が居たから。

だから大丈夫だよ。 お前らにもきっと見つけることが出来るだろうさ。

なんつったって、俺と桐乃の子供なんだから。


幸せの形 終

以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

こんな感じになりますた。

おつ!さすが>>1だわ
この2人にはハッピーエンドしか似合わないからな
いつまでも幸せでいてほしい

ちなみに子どものイメージはPSP版の2人で脳内再生されますた

>>490
そのイメージで書いているのでok!

Pの二人って年子だか2歳差じゃなかったっけか

乙です。

2スレ目の「そして二人は」っていうSSも、大学卒業して2回目の結婚式やった日の夜の話だったけど、今回のSSとはつながってない?

>>492
oh..
脳内でアレコレしておいてください。

>>495-500
イメージ的には事後じゃないです。
↓こんなやり取りがあったと思って頂ければ。

京介「……桐乃」

名前を呼んで、顔を近づける。

桐乃の着ている服のボタンは幾つか外れていて、その格好が俺たちが今からやろうとしていることを嫌でも実感させられる。

嫌、では無いけどな。 今までずっと、桐乃を待たせていたのだから。

桐乃「……」

黙って、少し強張った表情を桐乃はしていた。

だけども、俺から目を逸らすことはしない。

そんな桐乃に俺はゆっくりと顔を近づけ……。

桐乃「……た、タンマッ!!!」

殴られた。

京介「いってえ! お前なんだよ!?」

桐乃「……心の準備が」

俺はもうとっくに準備出来たっていうのに、こいつときたら。

まぁ、でも良いさ。 桐乃を待たせていた分、ここで俺は待つべきなのだろうし。

桐乃「……すぅ……はぁ……」

と、おもむろに深呼吸を桐乃は始める。

あー、やべぇ。 一旦間を置かれた所為なのか、俺もすげえ緊張してきた。

桐乃「よし。 おっけ」

京介「……いや待て。 俺ももう一回準備したい」

桐乃「はぁ!? あたしが折角準備したってのに、待たせる気!?」

京介「少しだけだから! もうちょっとだけ! な!?」

桐乃「……ま、良いケド」

そう言うと、桐乃は横に除けてあった布団を被る。

……ううむ。

いかんいかん。 俺は何をヘタレているんだ。 ここまで来たんだ、もう逃げるなんて道はねえんだよ!

よし……よし! 良いぜ上等だ。 やってやろうじゃねえか。

京介「桐乃!」

言って、俺は桐乃の上に覆いかぶさる。

桐乃「ま、待てぇえええええ!!」

すると腹を蹴られた。

京介「な、なんだよ……いてえ」

桐乃「も、もっかいだけ準備させて。 ね?」

……果たして、このやり取りは後何度繰り返されるのだろうか。

そして押し黙った桐乃と一旦距離を置き、俺は窓辺に腰を掛けることにした。

みたいな感じです。

きりりんが京介氏に想いを伝える練習しているお話が見たいナァ

投下遅れていてすいません。

明日辺りには投下致します。

>>521
了解です。

本来の短編の方もいくつかネタが溜まりましたので、一旦リクの方は521さんのまで投下致します。
その後に頂いたリクは、何個か投下終えてからになります。

短編いつも楽しみなんだけど、そろそろ本編にあった温泉への家族旅行の話も読んでみたいなあ、なんて。

別に大介に「で、京介、桐乃とはどこまで済んだのだ?」と聞かれてガクブルする京介が見たいとか
佳乃と一緒に温泉入って「しばらく会わない間に桐乃は女らしい身体つきになったわね。いえ、エッチな身体つきと言うべきかしら? 京介に愛されているのね? フフフ」
と言われアタフタテレリコする桐乃が見たい訳じゃないんだからね。

ま、親の立場としては幸せそうで安堵はすれど、複雑だし素直に喜べないんだろうけどさ。

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

>>529
実はそれも書く予定だったりします。
多分、投下を終える前辺りになりますがー

それでは投下致します。
>>329さんから頂いたネタです。

あやせ「それじゃ桐乃、また明日」

桐乃「うん。 ばいばい」

いつもの分かれ道であやせに手を振り、あたしとあやせは別れる。

学校から帰るときはいつもここで手を振って、遊ぶ予定とかがない時は「また明日」仕事とか、遊ぶ予定がある時は「また後で」そんな感じで、いつも分かれている場所だ。

そして今日はその前者。 遊ぶ予定が無い日。

あやせは暇だったらしく、今日この日は遊びに誘われていたんだけど……。

それでもどうしても、あたしには今日を譲ることはできなかった。

桐乃「……」

あやせが角を曲がり、あたしの視界から消える。

桐乃「よし、よし! 早く帰らないと!!」

それを確認して、走り出す。 もうマジで、今この瞬間にリアと勝負すれば勝てるんじゃないかってくらいの走り。

それもそう。 今日は新作エロゲーの発売日!!

待ちに待って、ようやく訪れた今日!

京介は休みで家に居るので、午前中には届くように通販を使っておいた。 帰ったらすぐやりたいし。

今度のエロゲーは普通じゃない。 前作の2倍のボリューム、シナリオ分岐、システム面の改善。 他にも色々あるんだけど。

しかーし! それさえも「その他」に分類しちゃうくらい新しいシステム!

簡単に説明すると、なんと本編をヒロイン視点でプレイすることが出来ちゃうの!

一周すれば解放されて、主人公の内面だけでなく、ヒロインたちの内面も全部見れちゃうってワケ! ヤバくない? あのかっわいいヒロインたちがどんなことを思っているのかとか、考えただけでテンションあがるんですケド!!

そんな新作エロゲーをいち早くプレイしたく、あたしは走って家に帰っているのだ。

桐乃「ふひひ~。 ヤバイってヤバイって……ひひ」

桐乃「たっだいまぁ!」

京介「おう。 おかえり」

桐乃「エロゲー届いた!?」

京介「帰ってきて早々それかよ……。 分かってたけどな」

京介「ほら。 しっかり受け取っといたぜ」

京介は言うと、あたしにそのゲームを手渡す。 タイトルは『妹姉妹』。

読み方は『マイシスター』。 いい名前っしょ?

桐乃「うひょお! きたぁああ!!」

京介「エロゲーも良いけどよ。 今日、お前の番だからな?」

……知ってる知ってる。 分かってるって。

桐乃「……ねね。 お願いがあるんだけど」

京介「お前今の俺の言葉から言うお願いって、あれしかねえじゃん」

桐乃「明日と明後日あたしが材料買ってくるから、今日は頼んで良い? ね?」

京介「……明日と明後日とその次の日も」

桐乃「……うぐぐ」

京介「睨んでも譲らねーぞ。 へへ、別に嫌なら良いんだぜ?」

桐乃「チッ……。 分かった。 明日から三日連続ね」

京介「オッケーオッケー。 なら聞いてやろう」

偉そうに言ってるけど、結局あたしが一緒に来てって言えば一緒に来るじゃん。 素直じゃないなぁ。

桐乃「ふひひ。 かえでちゃん、今から一緒に遊ぼうねぇ……じゅる」

京介「……程ほどにな」

京介の言葉を軽く受け流し、手洗いなどを済ませ、パソコンの前へスタンバイ。

京介はどうやら、時間までは勉強をしている様子。 地味に偉いんだよね、そういうとこ。

って、今はそっちに気を取られてる場合じゃない。 あたしはかえでちゃんを愛でなければならないのだ。

桐乃「いんすこいんすこ~。 うわ、なが」

さすがに大容量だけあってかなり時間が掛かりそう。 にしても、なーんかパソコンが重い。

うーん、文句言っても仕方無いよね。 それまでどうしよっかな。

桐乃「よし! お風呂だ!」

京介「うるせえよ! 独り言でももう少し静かにやってくれ!」

桐乃「……う、はいはい」

いけないいけない。 ついつい興奮してしまった。

京介も本気で怒っているわけでは無い……けど。 それでも、邪魔になっていそうなのは事実だしね。

は~。 素直に自分の非を認めるあたしは偉いなぁ!

京介「機嫌良さそうで何よりだ。 だけど……別にお前は偉くねえぞ?」

桐乃「へ? ちょ、あたし今口に出てた?」

京介「出ては無いけど、顔を見れば分かる」

……そんなジロジロ見ないで欲しいんですケド。 シスコンシスコン。

桐乃「そんなあたしの顔を見たいなら、もっと近くに寄ればぁ? ふひひ」

京介「……」

茶化すようにあたしが言うと、京介は黙って立ち上がる。

で、あたしのすぐ傍まで来て、あたしの顔を両手で挟む。

いやいや待って! 何この展開!?

あたしもしかして、無理矢理キスとかされちゃうワケ!? ありえなくない!?

桐乃「な、なにしようっての」

京介「何も? お前が顔を見たいなら近くに寄れって言うから、こうしてるだけだけど」

桐乃「……見るなッ!」

京介の手を無理矢理解き、あたしはそそくさとお風呂場へと向かっていった。

桐乃「……はぁあああ」

なんだっての。 普通、いきなりあんな近くに来る? 京介ってばそれでなんとも無い様な顔をするからムカつくムカつく。

あたしが逆に顔を近づけたら顔を赤くして逸らす癖に。 一体何を考えているのやら。

そんなことより! 今はとにかくエロゲーエロゲー。 ちゃっちゃとお風呂を済ませて、エロゲーに興じるとしよう。

桐乃「ふひひ……待っててね。 かえでちゃん……ふひ」

「おーい、声聞こえてんぞ」

と、扉の奥から京介の声がする。

桐乃「盗み聞きとかキモ~い。 そんなにあたしの声が聞きたかったワケぇ?」

「へいへい……すいませんでしたね」

正直な話、また同じ様なノリだと思ったんだけど……違うのか。 それともなに、京介もやっと振りじゃないってことを理解してくれたみたいな?

ばかじゃんばかじゃん。 どう考えても振りでしょうが!

……あたし少しのぼせたかな。 馬鹿なことを考えている気がするし。

そうと分かればちゃっちゃと出よう。 そんで、エロゲーをプレイしよう。

ていうか、当初の目的ってそれだしね。 京介と話すことじゃないし。 ふん。

桐乃「飲み物オッケー! お菓子オッケー! よし、やるぞぉおお!」

京介「……なんか、お前見てると楽しくなってくるな」

桐乃「なにそれ。 馬鹿にしてる?」

京介「してないしてない。 全然、これっぽっちも」

桐乃「……ふうん。 ま、良いや」

横でちょくちょくと口を挟んでくる京介の方に顔を向け、あたしはありがたいお言葉を放ってあげる。

桐乃「ねね、特別に一緒にやってもいいよ?」

京介「……お前がどうしても一緒にやって欲しいって言うなら、別に良いけど?」

桐乃「しっしっ……あっち行け」

京介「へいへい……」

別にそこまでして一緒にやって欲しくは無いし~。 あたしはどうでも良いし~。

……素直に一緒にやりたいって言えばいいのに。

ま、まぁ良い。 気持ちを切り替えて~っと。

桐乃「……てか、なんか長くない? まだ終わって無いとか」

てっきりインストールは終わっていると思ったんだけど、どうやらまだ終わっていない様子。

ふうむ。

仕方無い、とりあえずネットサーフィンでもして時間を潰そう。

で、マウスを握って操作……しようとしたとき、気付く。

桐乃「ウソ。 フリーズしてる」

うーん……最近、特に変わった様子は無かったんだけど。

桐乃「……はぁ」

仕方無い仕方無い……ウィルスチェックは後でやるとして、とりあえず応急処置で違うパソコンを使おう。

メインがこれだから、使いやすいんだけどね。

京介「おう、どうしたんだよ。 見るからにしょぼくれてるけどよ」

桐乃「パソコンが固まったの。 なーんか重いし、変……」

言いながら、横に居る京介の方に顔を向ける。

なんだ、結局一緒にプレイしたかったんじゃん。

……じゃない! いやいや、もしかして。

桐乃「ねえ、昨日パソコン貸したよね?」

京介「その言い方だと俺が貸してくれって頼んだみたいじゃねえか……」

別にそんなのはどうでも良い。 ただ、京介には未だにエロゲーに対する信念とか信条とかが足りないとあたしが思って、ゲームを貸してあげたんじゃん。

無論、プレイするのはあたしが家に居るとき限定でね。 で、問題はそれ。

桐乃「京介さ、ゲーム以外やってない?」

京介「そんなのお前が見てる前でしかやってないんだから……」

桐乃「じゃなくて、あたしがお風呂入ってたりしてる間」

京介「ん? ああ、その時は暇だったから適当にネット見てたけど」

……それだ! 絶対それだ!

桐乃「そ、その時……なんか怪しいサイトとか見てない?」

京介「見てねえよ! 見たら絶対お前怒るじゃねえか!」

桐乃「……ふうううむ」

京介の顔を見る。 見る。 見る。 見続ける。

京介「……」

恥ずかしそうに顔を逸らす京介。 うん、嘘は吐いて無さそう。

京介「……あ、でもさ。 お前が喜ぶだろうと思って」

桐乃「あたしが?」

京介「おう。 なんか、変な表示が出たからよ」

桐乃「……うん」

ヤバイ。 嫌な予感がしてきた。

京介「なんだっけな……お使いのパソコンがクラッシュ寸前です、みたいな」

桐乃「……そ、それで?」

京介「やべえって思って、サイトを辿って行って……改善するソフト落としといたぜ」

それだああああああああああああ!!!! 絶対それじゃん!!!!! 何してくれてんのこのクソ兄貴!!!!!!

桐乃「……ふ、ふふ」

京介「……桐乃?」

桐乃「こんのクッソ兄貴!!!!!!!!!!」

それからは説教。 延々と。

どのくらいだろう。 約二時間ほどは続けた気がする。 勿論、その間に別のパソコンでエロゲーのインストールは済ませているけどね。

桐乃「そんなんだからあんたは何も分かってないの! 妹たちに申し訳ないとは思わないワケ? しっかり心の奥から悪いと思ってんの?」

桐乃「大体、京介にはエロゲー愛がまず足りてない。 保管の仕方も適当だし、扱いも適当すぎ。 定期的にパッケージも出して拭かないと埃が付いちゃうでしょ。 聞いてる?」

京介「……はい」

桐乃「チッ……。 もう良い。 さっさとご飯の材料買ってきて」

全く全く。 分かってくれればいいんだけど、その理解するのに時間掛けすぎ! 京介にも悪気があったってわけじゃないのは分かるけどさ。

京介「桐乃、ごめんな……」

申し訳なさそうに謝る京介に、本来なら「別に良い」くらい言うべき場面だったのだろう。 でも、あたしにはそれが出来なかった。

家を出て行く京介の背中を横目で見ることしか、出来なかった。

桐乃「……ふん。 ばか」

桐乃「ふひ、ふひひ」

やっぱこのエロゲー、マジ神ゲーすぎ! あー、なんかむしゃくしゃした気分だったけど、結構エロゲーやったらすっきりしたかも。

桐乃「かえでちゃんかぁいいなぁ……」

だってさ、ちょっと考えてみてよ?

今、あたしがやっているシーンは「主人公の姉がデパートで迷子になった妹を見つけたシーン」なんだけどね。

ここで少しだけ製作側のサービスか、ちょっとだけかえでちゃんの内面が見れるようになってるんだ。

んでんで、その時のかえでちゃんの台詞。

「別に迷子になってないし。 お姉ちゃんが迷子になってたんでしょ?」

って言って可愛らしく笑うの。 でも、笑いながらも少し泣きそうになっているんだよね。

ここで内面! 内面が見れんの!

あたしが代弁すると……。

「……怖かったよ。 お姉ちゃん」

ヤーーーーバーーーーイーーー!! このなんとも無いような顔をしながら、心の中では怖くて怖くて堪らなかった感じがヤバすぎ!!

これはもう、いち早くクリアして全部の心情見るしか無いっしょ!? それ以外の選択肢はありえない!!

桐乃「ちょっと、あんたさっきからなに黙ってんの?」

と言いながら、あたしは横を見る。

桐乃「……あ」

そうだった。 京介、今出かけているんだった。 あたしの代わりに。

……気にしない気にしない。 隣に居なくたって、平気だし。

桐乃「続き続きっと……」

それからエロゲーを続けること数十分、やがて、京介が帰ってくる。

京介「……」

黙ったまま買ってきた物をテーブルの上へと置く京介。

桐乃「……ただいまくらい言ったら?」

京介「ん、ああ……ただいま」

なにこの雰囲気。 調子狂うなぁ。

それが嫌で、一旦ゲームは中断。

あたしは立ち上がると、京介の下へと向かった。

桐乃「京介」

京介「な、なんだ?」

桐乃「あたしはベツに気にしてないから。 もう大丈夫だって」

京介「……つってもよ」

桐乃「あたしが良いって言ってるんだから良いの! 分かった!?」

京介はその言葉に首を縦に振る。 よし、これにて一件落着。

とは行かなかった。 京介は一応は納得したような素振りを見せた物の、結局は全然元に戻って無い。

あたしが声を掛けてもどこか上の空って感じだし、ぼーっとしながら歩いて何も無いところで転びそうになっているし。

あんたはいつから天然キャラになったんだっての! ああもう。 やっぱ調子狂う。

そうと決まれば、することはひとつだ。

今日中に絶対、京介を元に戻してやるんだから。

……京介がこうなってしまったのも、あたしに原因の一端があるのは確かだしね。 本当に、米粒くらいの大きさだけどね。

覚悟しておきなさいよ、京介。

ってわけで、作戦その壱。

さり気なく優しくする作戦。

桐乃「はい、お茶淹れたよ」

今日はちょっと寒いから、暖かいお茶。 未だにぼーっとして壁にもたれて座っている京介に差し出す。

京介「……ああ」

反応薄ッ! もっとこう「ありがとう桐乃」みたいなのは無いワケ? あたしの思惑通りだと、京介はあたしの頭の上に手を置いて、撫でてくれるはずだったんだけど。

……仕方無い。 ここはひとつ頑張ってみよう。

ってわけで、作戦その壱。

さり気なく優しくする作戦。

桐乃「はい、お茶淹れたよ」

今日はちょっと寒いから、暖かいお茶。 未だにぼーっとして壁にもたれて座っている京介に差し出す。

京介「……ああ」

反応薄ッ! もっとこう「ありがとう桐乃」みたいなのは無いワケ? あたしの思惑通りだと、京介はあたしの頭の上に手を置いて、撫でてくれるはずだったんだけど。

……仕方無い。 ここはひとつ頑張ってみよう。

桐乃「えへへ」

そう言って、京介の顔を見ながら笑ってみる。 いや大分ヤバイって、恥ずかしすぎるんですケド。

変に緊張しちゃって、なんだか笑い方がぎこちなくなっている気がする。 頬がぴくぴくするし。

京介「……」

ハァ!? 反応無し!? ていうか、あたしに意識あんま行って無くない? あたしが折角こんな可愛い顔を見せてあげているのに、その態度は無くない!?

落ち着け落ち着け。 まだダメと決まったワケじゃないし。

……優しくする作戦、失敗。

まだまだ諦めない。 あたしには次の作戦がある。

作戦その弐。

名付けて、甘えてみる作戦。

桐乃「ね、ねえ」

先ほどの場所から動かない京介に隣に、ちょこんとあたしは座り込む。

で、隣を向いて話し掛ける。

京介「……ん」

桐乃「あ、あああ、あ、頭……」

桐乃「……頭、撫でて欲しいなぁ」

よし良く言ったあたし! これでもう、一発でしょ。 あたしの経験則で言わせれば、これで落ちない兄は居ない。

エロゲーの経験でだけどね。

京介「……」

シカト!? ちょ、ちょっと待て。 さすがのあたしでもその反応はダメージ大きいって。

もう一回言う……? 聞こえてなかったかもだし……。

やっぱムリ! 作戦変えよう、それが良い!

作戦その参。

デレデレしてみる作戦。

ふ、ふふ。

これ、もう最後の砦みたいなもんだよね。 いつもは全く、一ミリも、一切京介に対してデレっとしないあたしがデレれば、余裕でしょ。

台詞はどうしようか。 一発勝負だし、威力が高そうなのが良いよね。

……うーん。

「お兄ちゃん、大好き」

無い。 はっきり言って無い。 あたしから見ても、ぶっちゃけキモい。

「京介、大好き」

ふっざけすぎ! それが正面から言えれば苦労しないっての!! 却下却下!! ありえない!!

「一緒にゲームしよ?」

……ふむ。

無難、かな? いつものあたしだったら「あんたもゲームやるんだから、とっとと来て」だとか「あたしが一緒にやれっつってんの。 意味分かる?」みたいな言い方をするのだろうけど。

今日のあたしはデレてやるんだ。 だから、言い方も優しく。

こうするのが多分、一番効果あるんじゃないかな? 勿論、もっとデッレデレの台詞……それはもう、あたしが大好きなエロゲーのヒロインたちみたいな台詞を言えれば良いんだけどさ。

さすがになぁ……。

それを言えないから、あたしなんだし。

ってわけで、作戦決行。

桐乃「……京介」

京介の前でしゃがみ込み、顔を覗き込む。

京介「……どした」

なんだか、悲しそうな顔をしていた。 京介は今、何を思っているのだろうか。

桐乃「その、あのさ」

あたしはさっきまで考えていた台詞を言おうとする。

言おうとして、口を開こうとして、京介の顔を見て。

気付いた。

あたしが京介を元気付けようとやっていたことは、ただあたしがしたかったことなんじゃないかって。

あたしがそうしたいから、そうしただけなんじゃないのかって。

今、考えるべきことは何だろうか。

分かっている。 京介がこうなってしまった原因だ。

普通に考えれば京介も悪い。 でも、それはあたしも一緒かもしれない。

逆の立場だったとして、あたしが京介にあれこれ言われたら、そりゃあ落ち込んでしまうだろうし。

そしてそれから考えることは、思わなければいけないのは、京介の気持ちだ。

あたしは一人じゃない。 京介と一緒に、居たい。

桐乃「……ごめん」

用意していた台詞は結局、何も言えなかった。 その代わり、口から出てきたのは謝罪の言葉。

……今の今まで、言ってなかった言葉。

京介「なんで、お前が謝るんだよ。 悪いのは俺だろ」

京介は言い、あたしの頬へと手を添える。

桐乃「違う。 その……あたしも、言いすぎちゃったし」

桐乃「それで、京介落ち込んでたみたいだし……だから」

あたしは言う。 これがあたしの言いたかったことなのだろう。 そう、思いながら。

京介「……お前、そんなこと考えて」

京介はもう一度悲しそうな顔をした後、自分の頬を両手で叩く。

京介「うし。 分かった。 お前にそんな顔されたら適わねえよ」

京介「桐乃、悪かった。 ごめん」

桐乃「あたしも、ごめんね」

それから京介はいつも通りに戻って、少し二人で色々と話した気がする。

京介曰く、今回のことは本当に悪いと思っていて、それであたしに謝られて、何をしているんだって気持ちになったらしい。

お互いに謝って、手打ちにすることになった。 それはお互いに口には出さなかったけど、雰囲気で……空気で、分かった。

だからあたしは、京介に言う。

桐乃「よし! じゃあほら、エロゲーやるよ!」

京介「……結局それかよ」

桐乃「あたしが一緒にやれっつってんの。 意味分かる?」

京介「へいへい。 分かりましたよ。 お供させて頂きます」

そうして並んで座って、いつも通りの日常。

それに必要だったのは、たった一つの言葉だった。


言葉に込めて 終

以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

台詞回しが凄い好きです
1の本職が気になる

1乙です!

案外、青いつなぎの自動車整備工だったりしてな

>>580
>>581
流れてくるお刺身の上にタンポポを乗せる仕事をしております。

他にもSS書いてるのかな?
あるなら教えて欲しいかも

乙、感想ありがとうございます。


>>588
他には書いていないです。
というか書ける気が……。

投下遅れていて申し訳ありません。
もう少しお待ちを!

次の日曜日辺りには投下できるかと・・

>>596
おつおつ
楽しみにしてまっす

ちょうど自分の結婚式あとあたりに更新されそうだ

>>597
妹と結婚式だと!?

投下遅れていてすいません。
ネトゲのハロウィンイベントを頑張っていたなんて言えない……

す、水曜日くらいには……

まさかペロペロ催眠じゃないよな?

こんばんは。
乙、感想ありがとうございます。

>>616
もうサービス開始から十年以上経っているネトゲです。


それでは、投下致します。

「それでは、次の方どうぞ!」

響く声。 歓声をあげる大勢の人。

俺はそんな熱気溢れる空間の丁度一番後ろ辺りに居た。

メルルのイベントとかとはまた一風違った雰囲気の会場。

例えるならば……そうだな。

今、俺が居るこの場の空気を表すと「わー!」だとか「ひゅー!」だとか、多分そんな感じになるのだろう。

それはもう、普通にライブだとか、高校でのイベントとか、そんな熱気溢れる場だ。 そう思って貰えれば問題は無い。

んで、メルルのイベントの場合。

もうあっちはそんなレベルじゃねえ。 あれは「うぉおおおお!!」だとか「メルルぅうううう!!」だとか、こんな感じ。

いざ言葉で表してみると後者の方が盛り上がっている様にも見えるが、この俺が今感じている熱気も実際のところ、それとは良い勝負だと思う。

そんな会場のボルテージが上がる瞬間。 司会の人の声によって一人一人が壇上を歩く瞬間である。

イベントのメインってことだし、そこで盛り上がらなかったらイベントとしては失敗だろうけどな。

まぁ、そんな失敗も無く盛り上がっているわけだが。

「こんにちは! 特にここの大学の生徒じゃないとダメってワケじゃないみたいだから、来ちゃいました!」

……そして俺はこの状況をどう説明すれば良いのだろうか。 頭が痛い。

今、マイクを持って歓声に答えている奴が出ているイベント。 それがこの「サマーへ向けて楽しまナイト」。

名前を付けた奴はセンスが無いのは明らかだし、何より今は夜じゃない。 というか、そんなことはどうでも良いんだった。

問題はイベントの内容だ。

イベントの名前からしたら全く予想は出来ないが、とりあえず1から説明すると……。

まず、今は俺が通う大学の学園祭が行われていて。

そして毎年恒例……らしいこの「サマーへ向けてなんちゃら」が行われていて。

……去年は結局、参加しなかったしなぁ。 学園祭。

友達が居ないわけじゃないぞ。 断じて。 俺にだって話す奴はいるし、遊ぶ奴だっているさ。 ただ、高校の時の友達の様にそこまで深くつるんでいるわけじゃないだけで。

その所為もあり、中々参加しにくかったというわけだ。 で、そんな俺が何故今年は参加しているのかと言うと。

赤城「おいおい高坂。 もっと面白い反応を期待していたのに何頭抱えてるんだよ?」

こいつに誘われたからだ。

去年は特に何も言われなかったから俺も何も言わなかったんだが、今年はやけに俺を参加させたがっていて……で、参加したらこれだ。

京介「お前の企みは理解した。 頭いてえ……」

言いながら、俺は目頭をつまみ、きつく目を閉じる。

願わくは次に目を開けたときには、目の前の光景が変わっていればと。

俺はそう思い、目を開ける。

「あはは。 ありがとうございまーす!」

しかしそんなことは無く、壇上にはやはり俺の妹が居た。

京介「学園祭?」

赤城「そっそ。 どうせ暇だろ? 行こうぜ」

暇なのは確かだからなんとも反論できない。 せめて桐乃が家に居れば、反論できたというのに。 赤城が言った日にちは見事に桐乃から「予定があるから家を空ける」と言われていた日だった。

予定が何なのかは言っておらず、俺も対して問い質す様な真似はしなかったけど。

京介「……ま、別に良いか。 よくよく考えれば断る理由も無いし」

赤城「よし! そうと決まればメインイベントには必ず参加したいよな!?」

京介「しらねえよ! まず、何でお前が俺が通っている大学の学園祭に詳しいんだよ!?」

赤城「瀬菜ちゃんから色々聞いてるんだよ。 同じ大学だろ?」

京介「まーそうだけど……。 てか、それなら瀬菜と行けばいいじゃんか。 なんで俺?」

赤城「それには深い理由があるんだよ。 俺だって出来ることなら瀬菜ちゃんと一緒に行きたかった!!」

絶対、対して深い理由とかねえな。 瀬菜は彼氏と回りたいんだろうし。 その辺りの事情をうまいこと濁されて納得させられたのだろう。 惨めな奴だ。

京介「分かった分かった……。 で、そのメインイベントって何だ?」

赤城「知らないのか? 結構有名なはずなんだけど」

そう言う赤城の顔は割りと真剣で、その表情から大学内だけで有名な話でも無いとのことが分かる。

赤城「ま、良いか。 簡単に言うと……コンテストみたいな物かな。 ミスコンだよ」

京介「へー」

赤城「興味無さそうだなお前……。 お前が通う大学に可愛い子ばっか集まるんだぜ? 超楽しみだろ普通!」

京介「俺は別に出会いなんて求めてないし、可愛い子も見慣れたしなぁ? あやせとか」

ここでさすがに桐乃とかって言ったらマズイかもしれないので、一般的に見て桐乃の次に可愛いあやせの名前を出す。

赤城「それだよそれ!! あーくそ……何であやせたんが出ないんだ……」

京介「そもそもあいつ、大学生じゃないだろ……しかもモデルとして雑誌には出てるんだし、それで良いじゃんか」

赤城「そんな子が大学に来て、生で見れるのが良いんだろうが! モデルとして見るよりもっと身近に感じるだろ!?」

そう力説されても困る。 高校の時……いやまあ、大学に入ってからもか。 普通にあいつとは話しているし。

赤城「それに高坂、甘いぜ。 そのミスコンには部外者でも参加オーケーなんだよ。 だから俺はこうも悔しがっているんだ」

へぇ。 最早それ、大学のミスコンじゃなくて、ただ可愛い子を集めたいだけじゃないのか。

……桐乃が出たら、あいつのことだから優勝とかしちまうんだろうなぁ。 贔屓目無しでさ。

そういった何々だろうなだとか、あいつならきっとだとか、そういうのを本当にしてしまうのが桐乃だし。

京介「ま、そのミスコンとやらはどうでも良いが……参加すれば良いんだろ? お前が瀬菜と回れずに悲しんで居るのを放っとくのもあれだしな」

赤城「うるせえ。 お前だって妹と回れていないじゃねえか!」

京介「俺の場合は桐乃が忙しいからだ! だけど、俺がどうしてもって言えばあいつは一緒に来てくれると思うぜ?」

変なところで意地を張る俺。 そしてそれは赤城の意地でもあった。

赤城「ほ、ほお? 言っとくけどな高坂。 俺だってどうしてもって言えば瀬菜ちゃんは一緒に来てくれるはずだ!!」

京介「どうだかね~。 そんな薄っぺらい言葉じゃ信用できないな、赤城さんよ」

ぶっちゃけると俺と赤城の立場はまるで一緒のはず。 しかし何故か、俺が優位に立っているような感じだった。

赤城「……上等だ! ちょっと待ってろ!!」

赤城は勢い良く言い、俺から数歩離れると携帯を取り出し、どこかに電話を掛ける。

……大方、瀬菜だろう。 というか行動が早すぎる。 断られても知らないぞ俺は。

そして数分後。

案の定というか、予想通りというか、死にそうな顔の赤城が戻ってきた。

赤城「……高坂ぁ」

マジで泣きそうだ。 大丈夫かこいつ。

いやでも……気持ちは分からなくも無い……気がする。

必死に頼んで断られたのなら、尚更だし……。

京介「そ、そんな落ち込むな赤城。 俺もお前が電話している間に頼んだんだが……結果はお前と一緒だ」

嘘だけど。 俺の場合は嘘だけどな。 こんな状態の赤城を放って置くのはさすがに気が引けるから。

もう一度言っておくぞ、俺は桐乃に振られたわけじゃない!

ただ、先ほど打った誘いのメールの返事が「ムリ」っていう簡素な物だっただけだ。

お、俺はそんな必死に頼んだわけじゃないし。 だから赤城よりはまだマシだし。

……やべ、泣きたい。

京介「なんか妙だとは思ったけどな……そういうことだったのか、赤城」

この大学で開催されているミスコン、そして出場している桐乃、つまりは赤城はそれを知っていて俺を連れてきたということだ。

でも、だとしたら一体どこからそんな情報を手に入れたのだろう? まさか、桐乃に直接聞いたわけじゃああるまい。 もしそうだったら、赤城には俺の許可無く桐乃と話した罪で鉄拳制裁を……。

赤城「こ、高坂。 落ち着け、お前声に出ているからな」

赤城は一歩二歩後退り、俺と距離を取る。

赤城「俺が聞いたのは瀬菜ちゃんからなんだよ。 理由は教えてくれなかったけど……お前を何とかして学園祭に連れて行けって頼まれてさ」

……ふむ。 それならまあ、確かにあり得そうな話ではある。 桐乃と瀬菜は意外と仲良くやっているみたいだし。

赤城「んで、ここに来てよーやく分かったってこと。 お前の妹が出てきてさ」

赤城「……良いよなぁ」

京介「何がだよ……。 俺としては、なんかこう……なんとも言えない気持ちなんだけど」

赤城「いやいや、普通にお前に対するサプライズみたいなもんだろ? 瀬菜ちゃんも実は出てたり……」

そう言いながら、辺りをきょろきょろと見回す赤城。

そうか、サプライズか。

桐乃からのちょっとしたプレゼント。 そう考えると……まぁ、嬉しいけど。

だから桐乃は俺からの誘いを断って、今日は用事があると言っていたのか。

……全く馬鹿な奴だ。

そんなことを思いながら、軽く泣きそうになる俺。 ここで泣いたら赤城から相当な変人扱いをされかねないので、必死に堪えるが。

「えー、それではメインイベントに移りたいと思います!!」

司会がマイクを通し、会場全体に通る声で唐突にそう言うと、再びボルテージは最高潮へ。

というか、メインイベント? 桐乃でどうやら出場者は最後だったみたいだし……これで結果発表的な物をして終わりじゃないのか?

その結果発表がメインと言えばそうかもしれないが……なんだか、嫌な予感がする。

「まずは結果発表からで~す! とは言っても、決めて頂くのは皆さん!」

「この子が一番だ! と思った人の時に、目一杯拍手をお願いします! 今年はかなりレベルの高い子が多いので、面白くなりそうですね~」

等と言いながら、司会はどんどんと話を進める。

会場も司会が話す度に歓声を上げ、確かにこれは毎年かなりの盛り上がりと言われているのも頷けるな。

どうやら隣に居る赤城はすっかりそれに呑まれて、司会が参加者を紹介する度、歓声と拍手を送っていた。

……いや、お前は一人に決めろよ。

「それでは次の方! きりりんさんどうぞ~!」

そう桐乃の名前が呼ばれた瞬間だった。

会場の雰囲気は一気に変わり、まるで人気グループのライブ会場にも感じられるほどの熱気に包まれる。

ライブ会場というよりは、男性アイドルがサプライズで登場して一気に盛り上がる感じの方が近いかもしれない。 まるで会場が揺れているかの様な錯覚を覚えるほど。

俺も当然、桐乃の時に拍手を贈ったのだが……この分じゃ多分、あいつには届いていないだろう。

「……はは、凄いですね。 もうこれ、優勝で良いですね!」

司会がそう言い参加者達の方に顔を向けると、皆一様に首を縦に振っていた。 そりゃあまあ、雑誌にも出る様な奴だしな……。 こう言っちゃ悪いが、スポーツで例えると素人の集団に一人だけプロが混じって試合をしている様な物だろうさ。

との訳で、とんとん拍子に桐乃は優勝ということになったのだが。

問題はこの後だ。

「皆さん静かにー! それでは優勝者も決まったところで、賞品を賭けたゲームを始めたいと思いまーす!!」

……ゲーム? なんだ、そういう遊び要素も含まれているのか。

赤城「へへ。 高坂、頑張れよ」

京介「……頑張るって、何が?」

赤城「え? お前しらねえの……ってそうか。 高坂、このイベント自体知らなかったのか」

赤城の言葉が終わるか終わらないかくらいのところで、司会から再び声が発せられる。

「今年の賞品はコレ! なんと、今年の優勝者と一日デートが出来る権利です!!」

おお、確かにそれはすごい賞品だ。 なるほど。

そりゃ、ミスコンで優勝出来るほどに可愛い奴とデートできるなんて、男だったら是非とも獲得したいだろうしな。

……いやいやそうじゃねえ! なんだって!?

「は、はぁ!?」

桐乃もどうやら、それは知らなかったらしい。

赤城「……お前の妹、なんも確認しないで参加したんじゃないか?」

その言葉から考えるに、しっかりと事前に説明はあるとのことだろうな。 あいつ絶対、周りが見えない状態になっていただろ……参加するとき。

いつにも増してお洒落をしている桐乃は壇上に設置されている椅子に大人しく座っていたのだが、その司会の言葉を聞いて立ち上がると、一気に司会へ詰め寄っていた。

俺の場所からは全くどんなやり取りなのかは聞こえない。 しかし数分話した後、桐乃はここから見ても分かるくらいに肩を落としながら、自らの椅子へと戻り、座った。

……落ち着いた、とはとても言えない状態だ。 明らかにそわそわしているし、手を忙しなく動かしている。

ああくそ! なんだか知らんが面倒なことになったのは違いねえ。 とりあえず今やるべきこと、だ。

桐乃に期待するのは……少し、厳しいだろう。 いざとなったらあいつは相手をこれでもかってくらいに振るだろうが……それは同時に、桐乃に泥を被せてしまうことにもなる。

自業自得と言えばそうかもしれない。 だけど、俺はそんなんで納得できやしない。

なるべく何事も無く無事に、桐乃に変な噂が流れないように、解決しないと。

俺としては、勿論桐乃が良く分からない奴とデートなんてありえないと思っている。 だから、つまり。

京介「赤城、お前か俺か、絶対に勝つぞ」

赤城「おうとも! お前の妹可愛いしな。 デートできるならそりゃ頑張るぜ!」

京介「ちげーよ! お前が優勝したら権利を俺に譲れ。 分かったな?」

赤城「……なんだ高坂。 お前、妹とデートしたいのか?」

京介「だったら聞くぞ。 お前は瀬菜が良く分からない奴とデートしていてもいいのか?」

赤城「……」

赤城は少しの間黙り、思考する。

その間、約2秒ほど。

赤城「高坂! お前の気持ちは良く分かった! 俺が勝ったら権利をお前に譲ってやる!! そして真壁の野郎はいつか絶対にしばく!!」

一体どんな想像をしたのかは詳しく考えたく無いが、乗ってくれたならそれで良しとしよう。

待ってろ桐乃。 必ず、どうにかしてやるからな。

そして時間は経過し、ゲームが始まって数十分が経とうとしていた。

ゲームの内容は簡単な○×ゲームで、司会が出した問題に○か×かで分かれるという、良くあるゲームである。

問題が簡単な内は赤城と俺とで一緒の場所で、見事に正解していったのだが……。

意外にも後半になると難易度が馬鹿みたいに上がり、元々頭の出来が良くない俺と赤城は結局、途中で分担作戦を決行し、今残っているのは俺だけというわけだ。

「それでは、次の問題です!」

「いよいよ大詰め、と言った感じですね」

司会が言うように、残っているのは俺を含めても数人。 片手で数えられるほど。

桐乃は途中で俺が参加していることに気付いたようで、祈るように手を合わせ、目を瞑っていた。

何を祈っているかなんて、考えるまでもないだろう。

それよりも最初はこの空間に大勢居た人が、今は殆ど居なくなっているのがなんだか寂しくもある。

まぁ、見ているだけの方からしたら、ミスコン優勝者とデート出来る奴の顔を見たところで、面白くもなんとも無いから出て行ったのだろう。

今残っているのは多分、余程の物好き達というわけだ。

「問題!」

「もう皆さんもお酒を飲む年でしょう。 飲んでいない方もいるとは思いますが」

「サークルでの飲み会などもありますし、それにちなんだ問題です!」

「カクテルとして有名なゴッドファーザーですが」

やべぇ、何言っているんだこいつ。

「作り方はウィスキーとアマレットを混ぜた物である! ○か×か!」

知らねえよ! 大学生でそんなの知ってるなんて、よっぽどの酒好きかそっちの道を目指している奴だろ!!

くそ、どうする。 赤城は……。

半ば助けを請うように、遥か後ろで見物している赤城に視線を送ったのだが。

頭をぼりぼりと掻き、謝るジェスチャー。

まぁ、分かっていたら逆に凄いとは思うけども。

頼みの綱の桐乃は、どうやら全く知らないらしい。 先ほどの祈る姿勢から変化が無い。

仕方無い。 ここはもう運頼み……。

そう思って、○の方へ行こうとした時だった。

参加者は俺を含めて四人なのだが、その殆ど全員が焦る中、一人だけそそくさと×の方へ移動する奴を見つけた。

……あいつ、もしかして知っているのだろうか?

だとしたら、あいつに付いて行くのが正解だ。 確率が五分なら、少しでも可能性が高い方に移るべき。

そんな経緯があり、参加者四人は分かれ終わる。

×には三人。 ○には一人。

なるほど。 これが多数決勝負なら勝ちだが……ま、可能性はこっちの方がありそうではある。

しかし、生憎そう上手くは行く物では無い。

「正解は----------」

「○です!」


ミスコン 前編 終

以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

次は日曜日辺りに~。

ちなみに今回の話ですが
>>332さんのネタでやらせて頂いてます。

京介どっち選んだんか

>>651
京介さんが選んだのは×のほうです。

>>1はかえでサーバーかな?

あ、明日か明後日に・・・

>>659
そっちでは無いです!

約束は破るためにあるんだよ!!

すいません、投下致します。

どうする。

「いやー、決まっちゃいましたね。 それでは、正解の方はこちらへ来てください!」

視界の隅で、その正解者が舞台の方へ歩いていくのを捉えながら、俺は必死に考えていた。

何をするべきか。

桐乃の方を見るのが怖く、あいつがどんな顔をしているのかを見るのが嫌で、ゆっくり目を瞑る。

落ち着け。

どうにかするんだ。

……それとも、これは俺が我侭なだけなのだろうか。

普通に考えれば、事前にどんな内容だったかチェックしておかなかった桐乃が悪い。

そして、このイベントで負けてしまった俺も悪い。

だから、自業自得。

そういうことなのだろうか?

心の奥底で、頭の片隅で、思って。 目を開けた。

丁度視界の真ん中に桐乃が居て。

ここからは大分距離が離れているが、見えた。

未だに諦めず、祈るように手をきつく組んで、目を閉じている桐乃の姿が……見えた。

俺は一体、何を諦めているのだろうか。 こんな状況で、何もしないでぼーっと立っていれば誰かが助けてくれるなんてことは無いんだ。

どうにかするのは、出来るのは多分、俺だけ。

……だったら!

桐乃は俺の妹で、俺の家族で、俺の大切な人なんだよ。

そんな桐乃があれほど助けを求めているのに、放っておけるわけがない。

京介「ッ!」

地面を思いっきり蹴り、走る。

向かう場所は勿論、桐乃のところ。

誰よりも早く、桐乃の下へ向かう為に。

遠く思えた距離はあっという間に縮み、俺は壇上へと飛び乗る。

周りが一瞬呆気に取られ、動きが固まっているのが分かった。 それもそうだ、ここに居る誰もが「一体こいつは何だ?」と思っているのだろうから。

しかしそれはどうやら違ったようで、この場に限っては二人ほど例外が居たらしい。

一人は。

桐乃「京介!」

桐乃だ。

桐乃は俺が近づいてきたことにすぐ気付くと、駆け寄ってきた。 このまま一緒に走って逃げても良いのだが、生憎桐乃は舞台衣装っぽいひらひらとした服を着ている。 そんな状態では多分、走ったとしても転ぶ可能性が高いだろう。

京介「……少し我慢しろよ。 緊急事態だ」

桐乃にそう告げ、抱き上げる。

そうした瞬間こそ恥ずかしそうに桐乃はしていた物の、すぐに自分ではうまく走れないことを理解したのか、俺の首へと両腕を回す。

全く……これじゃあまるで誘拐犯だぞ。 当初よりは大分人が減ったので、目撃証言は少なくて済むが……明日からの大学生活が少しだけ心配だなぁ。

なんてことを考えているときに、一瞬の内に視界が奪われた。

なんだ? 停電……なのか?

いや、違う。

恐らく誰かが照明を落としたのだろう。 それをやりそうな奴を俺は知っている。

……それをやったのはもう一人居た例外。 赤城だ。

恐らく、俺がこの行動をすると予想が出来ていたのだろう。 妹大好きなあいつのことだし。

結局俺も、そうなんだけども。

しかしこれは助かった。 この暗闇に乗じて行けば、誰にもばれずに桐乃と脱出できる。

京介「……よし!」

こうして俺は桐乃を抱えたまま、ミスコンの会場を後にするのだった。

京介「はぁ……はぁ……ここまでくりゃ、大丈夫だろ」

あれから大分走り、今は大学から遠く離れた場所。 途中で通行人などから奇異の目で見られてた気がするが、気にしないでおこう。

通りかかった公園に入り、そこにあったベンチで休憩。

桐乃「……はー。 マジでびっくりした」

桐乃はそんなことを呟きながら、ベンチへと腰を掛ける。

京介「俺はそれプラスめっちゃ疲れたぞ……」

桐乃「少し走っただけじゃん。 あれくらいで根をあげないでよ」

そりゃ俺だって多少は鍛えたりしているから一人で走る分には問題無さそうな距離だったけど、お前を抱えて走ってたんだよ! 疲れない方がおかしいだろうが!

との思いを桐乃に向ける。 勿論、口に出したら怒られると思うから視線で、だ。

桐乃「……なに。 もしかしてあたしが重かったからとか言いたいワケ?」

どうやらお見通しだったらしい。 怖いなこいつ。

京介「そんなわけないだろ? めちゃくちゃ軽くて心配になったくらいだぜ」

うむ。 ここはとりあえず持ち上げておくべきだろうな。 一旦は。

桐乃「へえ。 よし……」

桐乃は言うと、立ち上がる。

京介「どうしたよ?」

桐乃「良いから、早く立って」

一体何をする気なのだろうか。 そう思いつつも、俺は言われた通りに立ち上がる。

桐乃「……」

すると桐乃は無言で俺に両手を向ける。

京介「……ん?」

桐乃「……軽いんでしょ? なら家まで運んで」

前言撤回しよう。 確実に持ち上げるべきではなかった。

京介「……マジか?」

桐乃「マジマジ。 ひひ」

大学からここまで、家の方向とは正反対に走ってきたから……。

いやいや、結構な距離あるんすけど。

京介「……途中で倒れたら後は頼んだぞ」

桐乃「だいじょーぶだって。 そしたらあたしは歩いて帰るから」

京介「お前のことじゃねえよ! 俺の体のことを言ってんの!」

桐乃「……うーん。 まあ、仕方ないから救急車くらいは呼んであげてもいいよ」

笑いながら言うんじゃねえよ。 どれだけ小さな優しさだこれ。

京介「ったく。 俺は折角お前を助けてやったってのによー」

桐乃「助けてなんて言って無いし~?」

京介「お前なぁ……」

桐乃「ベツにいいでしょ? 京介満足してるし?」

……まあそうだけどな! そうだけどなんか違う!

桐乃「それとも「大好き!」とか言って欲しかったワケ?」

その「大好き!」って言葉自体が冗談だとしても、俺はなんだか恥ずかしくなってくるぞ。

京介「……へいへい。 んじゃ、帰るとするか」

俺は言い、桐乃を抱き上げる。

ちなみに今は夕方。 夏が近いこともあり、日は大分伸びてきているので意外と明るい。

一般的な家庭ならば、そろそろ夕飯となりそうな時間帯だ。

「ねえねえ、なにあれー?」

散々な目に遭ってしまった所為で、そして必死にここまで走ってきた所為で、全く回りが見えていなかったのだが……。

見ればどうやら、この公園は近所の子供たちが集まって遊ぶ場になっていたらしい。 それを証明するかの如く、小さな子供とそれを迎えに来た母親たちが俺と桐乃のことを遠巻きに見ていた。

京介「……」

桐乃「……降ろして」

アニメや漫画の世界でしか見なかった「なにあれ?」「しっ。 見ちゃ駄目よ」を目の前でやられた俺と桐乃の気持ちは多分、これでもかと言うくらい一緒だったと思う。

俺としては助かったが……どうやら妹様は納得が行かなかったらしい。 勿論、恥ずかしいという気持ちはあったと思うけど。

仲良く家に向けて歩き出した俺たちだったのだが、ようやく家まで半分ほど歩いたところで、桐乃が唐突に口を開いた。

桐乃「で、結局何も聞いてなかったケド……どうだった?」

京介「……ん。 えーっと……ミスコンのことか?」

桐乃「そっそ。 何か感想とか無いワケ?」

京介「……ま、ぶっちゃけて言うと桐乃だからなぁ。 優勝するとは思ったけどさ」

桐乃「真顔でそれを言われるとさすがに恥ずかしいっての……って、そうじゃなくて」

桐乃は若干顔を赤らめながら、そっぽを向きながら言う。

桐乃「あたしが出て、驚かなかった?」

京介「驚いたに決まってんだろ……最初は良く似た奴が居るもんだと思い込んでいたけどよ」

というよりは、自分に言い聞かせていたと言った方が正しいだろう。 だってマジで信じられなかったしさ。

桐乃「んで、その後は?」

京介「その後って……」

京介「……まあ、そりゃ嬉しかった」

桐乃「ひひ。 そっか」

それは本当に正直な気持ちだ。 桐乃が俺を驚かせる為にやってくれて、嬉しかった。

京介「だけど、少しは事前に確認しとけって……お前、相当テンパってただろ?」

桐乃「そりゃね……でも、結構落ち着いてたかも」

京介「どう見てもそうは思えなかったが……」

桐乃「うっさい。 心の中では落ち着いてたんだって」

京介「ふうん? どして?」

桐乃「秘密~。 えへへ」

桐乃は機嫌が良さそうに、言う。 なんとなくは分かってきたが……これはなんとなくのまま、終わらせておこう。

桐乃「てか、それより!」

京介「な、なんだ?」

桐乃は俺の方へ向き直ると、指を差しながら告げる。

桐乃「折角優勝したのに、何も貰えなかったんだよね」

まあ、逃げてきたわけだしな。

桐乃「でもさ、優勝したあたしが何も貰えないっておかしくない? 理不尽だよね?」

どちらかというと、一番理不尽な目に遭ったのはさっきのイベントの○×ゲームで勝ち残った奴だろう。 あいつにとっては、本当に時間の無駄になっただろうし。

桐乃「だから、京介」

京介「……何か寄越せってことか?」

桐乃「お! さっすがぁ。 分かってんじゃん」

台詞だけ聞くと、まるで喝上げされているみたいだ。

……妹に喝上げされる兄貴。 なんとも情けない響きである。

京介「うーん……」

桐乃「何か無いの?」

京介「じゃあ、そうだな」

俺から桐乃にあげられる物なんて大した物では無いが……。

俺は桐乃の肩を掴み、顔を若干近づける。

京介「大好きだ。 桐乃」

桐乃「なっ……」

桐乃は口をぱくぱくさせ、声にならない声を出しながら、顔を真っ赤に染める。

ほんと、一々反応が愉快な奴だな。

桐乃「不意打ちはやめろっ!!」

思いっきりビンタされた。 前言撤回だ。 一々反応が恐ろしい奴にしておくべきだろ。

……なんだか今日は、自分の発言を撤回することが多いな。 もう少し責任を持って発言するべきなのだろうか。

京介「いってえ! お前それはひでえよ!?」

桐乃「あ、あんたがいきなりゆうからでしょ!!」

どれだけ恥ずかしがっているんだよ。 さすがにもう慣れて欲しいのだが。

京介「……わ、悪かったな」

とは口では言った物の、ぶっちゃけかなり納得がいかないぜ。

だって、この前こいつに「桐乃、今からお前に好きって言うぞ」と言ってから先ほどの台詞のようなことを言ったのだが、こいつの反応はこうだ。

「……なんか予め言われると感動薄いかも」

びびる。 それで今日この反応だからな。 いやでも感動してくれているってのは分かったから良いのか……?

絶対よくねえ! 危うく叩かれたことを良しとしてしまいそうになった!

桐乃「……」

桐乃はそう言った俺の顔をじっと見つめる。

京介「な、なんすか? 謝っちゃ駄目だった……とか?」

桐乃「……そうじゃないケド」

桐乃「京介って、絶対あたしのこと責めないよね?」

京介「……そうか?」

京介「つっても、かもしれないな」

桐乃「シスコンシスコン」

……否定できねえ。 最早否定するつもりも無いけど。

にしても、俺が桐乃のことを責める……ねえ。 一昔前ならあり得たかもしれないが、今の状態だとよっぽどのことが無ければそうはしないだろうな。

それは言ってしまえば逆でも成立しているんだが。 桐乃も俺を責めるようなこと、しないし。

黒猫に言わせてみれば「それはさすがに勘違いだと思うわよ……」なんてことを言われそうではある。 しかし、桐乃も本気で俺を責めるようなことはしていないんだよな。

京介「ブラコンが何言ってるんだか」

俺が言うと、桐乃は一瞬だけむっとした表情をする。 だがそれも一瞬だけで、すぐにニヤニヤと笑い始めた。

桐乃「へえ? ふうん?」

あー、嫌なパターンだな……。 こいつの表情と言い方からして、絶対に何かしら企みがあるぞ、これは。

京介「……謝ったら間に合う?」

桐乃「ふひひ。 間に合わない」

時既に遅し。

桐乃「……ねえ、京介」

京介「な、なんでしょう?」

桐乃「あたしさぁ、ブラコンだからぁ? お兄ちゃんが大好きなのぉ」

語尾をわざとらしく伸ばし、桐乃は続ける。

桐乃「んでぇ、話変わるケド……一応、ミスコン優勝したじゃん?」

京介「……んむ」

桐乃「ふひひ。 ご褒美ちょーだい」

そう言うと、桐乃は俺の方に真っ直ぐと顔を向けたまま、目を瞑った。

ふと、ここでそのまま放っておいて帰ったらこいつはどんな反応をするのだろうか、なんて意地悪な思いが浮かんでくる。

……うーむ。

間違いなく後で酷い目に遭わされるだろう。 それは避けておくに越したことはない。

それに、ぶっちゃけ俺に対するご褒美じゃん! そう考えると急にドキドキしてきたな。

京介「……」

しかしあれだ。 最近では桐乃に良い様に手玉に取られている感があるからなぁ。

なんとか仕返しをしたい。

……よし。

俺はそのまま桐乃に顔を近づけ、キスをする。

口では無く、頬に。

すると桐乃はすぐさま目を開け、こう言った。

桐乃「……違くない!?」

京介「あ~。 そうだったのかぁ~。 悪いな~」

わざとらしく言うと、俺は先に歩き始める。

それにしても、むすっとした表情も普通に可愛いから驚くぜ。 そんな表情をされてしまっては、なんだか胸が痛いじゃねえか。

桐乃「……ふん」

と言いながら、桐乃は少し駆け足で俺のすぐ後ろを歩く。

京介「あ」

桐乃「ちょ、急に止まらないでよ」

桐乃は俺の背中にぶつかり、そう文句を言ったのだが。

俺は振り向き、桐乃にキスをしてやった。 勿論、口に。

桐乃は驚いて目を開き、それでも少しすると、ゆっくり目を瞑る。

……それから少しの間、俺と桐乃はキスをしていた。

桐乃「……」

京介「……」

先ほどからずっとこの調子。 桐乃はそっぽを向いて、俺の方を向きやしない。

さっきまであれだけ素直にしていたってのに……分からない奴だ。

一応それでも、俺の腕を掴んではいるんだけどな。

京介「……怒ってんのか?」

桐乃「……なワケ無いでしょ」

京介「だろうな」

桐乃「分かってるなら一々言わないで」

あー。 マジやべえ、こいつ可愛い。

京介「へいへい。 悪かったよ」

言い、桐乃の頭を撫でる。

ほんの一瞬、猫のようにふにゃっとした表情になった後、むすっとした顔をする。

しかしそれでも、何故か俺との距離を少し詰めてきたな……こいつ。

ま、こんな感じで一件落着と言ったところだろう。

俺は俺のやり方でなんとかうまく纏められた気はするし、誰の力も借りないで……とは、とてもじゃないが言えないけれど。

それに関しては、赤城にしっかりとお礼をするとしよう。

……別に変な意味では無いぞ? 瀬菜じゃあるまいしな。

にしても、もうすぐ夏か。

桐乃と一緒になってから二回目……か? お互いが本音を伝えてから、数えたとしたら。

そんなことをふと空を見上げ、思う。

そして未だに薄っすら明るい空から、夏の香りが漂っているのを感じた。

後幾らかしない内に、やがて季節は変わるのだろう。

確実に時間は経過するし、誰もそれを止めることは出来ない。 だから俺は、精一杯こいつと一緒に楽しんでいきたい。

勿論、それで学業を疎かにはしないけど。

……それを気をつけないといけないのは俺の方だろうな。 桐乃は絶対に大丈夫だろうし。

桐乃「ねえ、京介」

そんな桐乃が唐突に口を開く。 俺は一度足を止めると、桐乃もすぐに足を止めた。

何故そうしたのかと言われれば、そうだな。 なんとなく、桐乃が大切なことを言おうとしている雰囲気が、俺に伝わったのだろう。

しっかり正面から聞かないといけないことだと、思ったから。

京介「どうした?」

俺が聞くと、桐乃は俺を掴んでいた腕を離し、自身の胸に手を当てる。

桐乃「……ありがと。 今日は、ほんとにありがとね」

この言葉はきっと、桐乃が今日ずっと俺に伝えたかった言葉なのだろう。


ミスコン 後編 終

以上で本日の投下終わりです。

乙、感想ありがとうございます。

1乙!ずっと追いかけてる!
あんまりにも二人が可愛くて草加雅人なみにニヤニヤしながら読んだぜ!

質問なんだけど、本編意外のってまとめのtxtとか配ります?

すいません生きております。
中々書く時間が取れず、もう少々お待ちを……。
年内には投下します。

>>714
ある程度まとまったら、配る予定です。 次は短編100本目に行ったらかな? そこまで続くか分かりませんが。

今何本目だったっけ?

降臨いつまでもお待ちしてますー!

本編のテキストって配ってるんですか?

作者「そろそろ終わらせたいんだが・・・」

こんばんは。

今書いている短編が年内に間に合いそうにないので、即興で書いた短編的な物をひとつ。

本編の話とは別世界の話となります。 新しい物として見て下さい。

少しだけズレた感ありますが、クリスマスネタです。

12月24日、クリスマスイブ。

その日は俺にとって特別な日であり、それはきっとあいつも同じことだろう。

今から丁度一年前、今までは特になんとも思わなかった日が、特別な日へと変わった。

そして今日はその日であり、俺は起きて早々に意識せずにはいられなくなっている。

京介「……ううむ」

ベッドの上に座り込み、考える。

京介「普通に挨拶するべきか……? それとも、何か気が効いたことを言った方が良いのか……?」

朝の7時、窓から見える爽やかな青空とは違い、俺はどうしようも無く悩んでいた。

悩んでいることは一つ。 この『特別な日』である今日……その相手にどうやって挨拶をすればいいか、だ。

つい昨日までは普通に会話をしていたし、お互いに敢えて言い出さなかったのかもしれないが、この日に関してのことは何も話など無かったのだ。

あいつ……桐乃は今、俺と同じ様に悩んでいるのか?

……俺にどう挨拶すれば良いのか悩んでいる桐乃か。 妹ながら、ちょっと可愛く思えてくる。

まあ、俺があいつのことを可愛いと思っているのは今に始まったことでも無いけれど。

京介「……あーくそ! 悩んでいても埒が明かねぇ!」

……よっし。 めちゃくちゃ爽やかに挨拶してやろう。 俺はやれば出来る男のはずだからな。 へへ。

京介「……ふー」

一度深呼吸をし、立ち上がる。

目指す場所は我が家の一階。 桐乃は恐らく、ソファーで雑誌でも読んでいるだろう。 さっき下に向かっていく足音が聞こえたしな。

こうして俺、高坂京介の一日が始まった。

京介「……」

とりあえずは様子見も兼ねて、無言でリビングへと繋がる扉を開ける。

確か昨日の夜、お袋は近所の人らとどこかへ出掛けると言っていたっけか。 親父はいつものことだが、仕事で出ているだろう。

ってことは、この家に居るのは俺と桐乃だけで、ぶっちゃけて言うとそれはある意味好都合だったのかもしれない。

やがて視界が開かれ、リビングにいつも通り居る桐乃の姿が……。

京介「ねえ!?」

ちょ、ちょっと待て。 これはさすがに予想外だ。 なんでいねえんだよあいつ!?

京介「……落ち着け落ち着け。 どうせすぐに戻ってくるだろ」

多分、風呂にでも入っているのかもしれない。 ここでエロゲの主人公だったら風呂場まで確認しに行く常識の無さを発揮するのだろうが、生憎俺は常識を弁えているからな。

決してびびっているわけではない!

それから待つこと数分。

京介「……来ないな」

もしかして、この日の出だしから俺は間違えたのか?

桐乃が居ない理由……か。 あり得るとしたら、あいつがやっているモデルの仕事ってところだろう。

……だけど、なんか釈然としない。

あいつが今日この日に限って、仕事を入れると思えない。 はっきりとした理由は分からないけど、なんとなくそう思うだけ。

京介「……ん。 ちょっと待てよ」

俺はこのリビングに来てから、ずっとソファーに座って桐乃のことを待っていたのだが……わざわざ家中を探すより、手っ取り早く桐乃が外出しているか否か分かる方法があったじゃねえか。

出掛ける時は当然靴を履くだろうから、玄関に桐乃の靴が無ければアウトで、あればセーフってこと。

京介「うっし」

そうと決まれば善は急げ、確認。

京介「……はぁ」

結果から言うと、靴は無かった。

つまり、あいつはどこかへ出掛けているということだ。

京介「くそ……」

気分的には、出鼻を挫かれた感じ。 俺のプランだともう既に、二人で今日のことを話しているはずだったのだが……。

それが未だに、挨拶すらできていない。 下手したらそれすらままならないまま、今日が終わってしまう可能性さえある。

……それは駄目だ! ていうか、それはあいつも分かっていると思うんだけどな。

一応、その、なんだ。 俺と桐乃の間には色々あったわけだし。

そんな感じで玄関前で、一人色々と想像してニヤついたり顔を赤くしているときだった。

桐乃「ただいま……って何してんの?」

俺が今一番会いたい奴が目の前に現れた。

京介「お、おう!?」

ええっと、つまりこれはどういうことだ。

桐乃はどこかへ出掛けていて、帰ってきたってことか? そうとしか考えられない状況だし。

それに、右手に持っている袋からなんとなくそれは分かるわけだし。

……よし、よし。 まずは落ち着け。 当初の目的を思い出そう。

つうか、俺はなんでこんな緊張しているんだ! 相手は妹だぞ!? そりゃまあ、俺にとっては色々思うところもあるのは事実だけども!

えーっと……。 そうだ。

まずはあれをするべきだろう。 最初に会ったときしようと思っていた挨拶。

京介「……桐乃」

一度咳払いをしてから、桐乃の名前を呼び、顔を正面に見据える。

何度見ても整った顔立ちで、外の寒さの所為なのだろうか。 頬の辺りが少しだけ赤くなっている。

当の桐乃は、俺が何を改まっているのか分かっていない様子で、きょとんとした目を俺に向けていた。

京介「桐乃、メリークリスマス」

こうして俺はその日にするべき挨拶を桐乃に向けてする。 これを言えば、こいつは今日の日のことを嫌でも考えなければいけないし、俺も後には引けなくなるから。

そんな意味も込めて、俺は言ったのだ。

んで。

それに対する桐乃だが、こいつが何て言ったか分かるか? よし、教えてやろう。

桐乃「その、京介」

桐乃「……クリスマス、明日だけど」

本当に、正しくその通りである。

京介「……で、それは?」

あれから少し経ち、俺と桐乃はリビングにあるテーブルを挟んで、向き合って座っている。

桐乃「これ? 朝ご飯」

京介「朝ご飯? ああ……それでお前、居なかったのか」

桐乃「お母さん出掛けるって言うからさ、なんか無いとあれだし」

ふうん。 冷蔵庫になんか無かったのかね? 朝飯くらい適当に作れば良い物を。

桐乃「冷蔵庫になんも無かったしね。 買ってきたってこと」

俺の考えを読んだかの様に、桐乃は言う。

なるほどね。 その辺りを事前にチェックするしっかり具合はさすがの桐乃ってところか。

てか……そういえばこいつ、料理の方はアレだったんだっけか?

桐乃「……なんか失礼なこと考えてない?」

京介「全然」

桐乃「……チッ」

そう睨むなよ。 もっと仲良くやろうぜ桐乃さんよぉ。

京介「つか、それなら俺もなんか買って来るかな……」

こんな寒い中、コンビニまで歩くのさえ苦痛だけども。 何も無いんじゃどうしようもないし。

俺は言いながら立ち上がり、扉へと手を掛ける。

桐乃「……ちょっと待って」

京介「ん?」

今から極寒の地へ繰り出すというのに、引き止めてくれるなよな。

桐乃「その、あるから」

京介「……ある? って、何が?」

桐乃「……あんたの分も、買っといた」

あれ?

もしかして、今日って4月1日だったりすんのか? 俺が勝手に12月24日だと思い込んでたのか?

いやでも寒いしな。 それに桐乃はさっき「クリスマスは明日」って言っていたし。

ってことは、だな。

京介「……お前が俺に!?」

桐乃「……そ、そんな変?」

俺の驚きっぷりが予想外だったのか、桐乃は少しおどおどと言う。 多分、俺が思うに恥ずかしさってのも混じっているんだろう。

京介「い、いや……変じゃねえけど」

桐乃「ふん。 あっそ」

つんと顔を逸らす桐乃。 そんな仕草も、今となっては大分可愛く見えてくる。

京介「むしろ嬉しいくらいだっての」

俺は桐乃の隣まで行くと、そう言いながら頭を撫でる。

対する桐乃は「手を退けろ」だの「気安く触らないで」だの言わずに、黙って顔を逸らし続けるのだった。

なんとなくの流れで二人一緒に朝飯を食い始め、食べている間に会話こそ無かった物の、悪くは無い雰囲気でもあった。

むしろ、どちらかと言うと心地良いくらいの。

ちなみに、俺の分と言い手渡された物は殆ど俺の好物だったのもあり、かなり上機嫌である。

京介「……ほんとありがとな、桐乃」

桐乃「ちょ、何泣きそうになってんの?」

京介「お前って、すっげえ優しい奴だったんだなって思ってさ」

桐乃「ば、馬鹿じゃん? ったく」

桐乃「……それくらいで一々喜ばないでよ」

京介「へへ。 次は桐乃の手料理が食いたいなあ」

桐乃「……ふ、ふうん」

さて、余談。

この日から数日後、具体的に言うと年が明けた頃の話だが……。

今日の様に両親が居ない時、桐乃が本当に飯を作ってくれたのだ。

俺はすっげえ嬉しくて、味なんか気にせずに食べきったんだよな。

ちなみにそれから数日間、俺はベッドの上から動けなくなってしまったが、それは桐乃の料理とは関係無いと言っておこう。 兄として。

桐乃「おっし」

桐乃は飯を食い終わると、後片付けをし、急に立ち上がる。

京介「どした?」

桐乃「あたし部屋戻るから、なんかあったら声掛けて。 って言っても緊急時以外は呼ばないでよ?」

京介「構わんが……部屋で何すんの?」

桐乃「ふっふっふ。 良くぞ聞いてくれた! ふひひ」

ああ、大体予想付いたわ。

桐乃「じゃーん! クリスマス新作エロゲー! 『聖夜の願い、妹よ永遠に』!」

桐乃「これはね、ヒロインの夜ちゃんがもうすっごく可愛いの!! PVの時点でかなりやばかったの!」

桐乃「お兄ちゃんに対して素っ気無い態度を取ってるんだけどね、その裏ではずっっっっと! お兄ちゃんの為にって頑張ってるんだよ!? チョー健気じゃない!?」

興奮して力説しているところ悪いが、そのヒロインは多分死ぬと思う。 タイトル的に。

桐乃「そんで、クリスマスの日に夜ちゃんの願いが届くかどうかってのが主題なワケ! あー、ヤバ。 鼻血出そう」

こんな桐乃は絶対に人前には出せんな……。

京介「へいへい。 分かったよ。 じゃあ、本当の緊急時以外は呼ばないでおく」

桐乃「一応言っとくケド、邪魔したらマジで許さないから。 プレイした後貸して欲しかったら、静かにしててね」

今から俺の部屋でライブでも開けば、そのゲームを貸して貰わないで済むかもしれんな。

京介「りょーかい。 大人しくしてればいいんだろ?」

桐乃「……ま、京介がどうしても一緒にやりたいっていうなら、トクベツに横で見てても良いけど?」

京介「……あー」

一緒にやって欲しいんだろうなぁ! 絶対そうだろうなぁ!

もうちょっと素直に言えば俺も喜んで二つ返事をするってのに、こう、変に回りくどくされると……。

京介「うーむ。 一緒にやりたいんだけど、大学のレポートあるしなぁ」

桐乃「そ、そか」

うわ、すげえ悲しそうな顔してやがる。 分かりやす!

京介「……ま、でも後回しでもいっか」

京介「よっしゃ桐乃、一緒にやろうぜ。 エロゲー」

桐乃「マジ!? ひひ、もぉ~しょーがないなぁ~! そんなにやりたいならあたしも断れないしぃ? 一緒にやるのを許したげよっかなぁ!

桐乃「それじゃ京介! 紅茶淹れて、クッキーが棚に入ってるからそれも一緒に持ってきてね。 あたし部屋で待ってるから」

京介「おう。 すぐに行く」

俺がそう返すと、桐乃はニコニコと機嫌良さそうに笑って、二階に続く階段を上がっていった。

ま、悪くはない過ごし方だろう。

二階に上がる桐乃を見送って、俺は台所へと向かう。

京介「……あいつめ」

そこにあったのは二つのカップ、二つのおしぼり。

あーんなことを言っておきながら、最初から俺と一緒にやる気だったんじゃねえか。 全く憎めない奴だ。

こうして俺は、桐乃が用意していたカップに紅茶を淹れて、トレイに乗せて二階へと向かっていったのだった。


日常的クリスマス 前編 終

以上で本日の投下終わりです。

ちなみにこれを「一本で終わらせる筈が書いている内に妄想が膨らんで書ききれない内に前編後編に分割して誤魔化す病」と言います。

中途半端な年内投下でしたが、今年は色々ありがとうございました。

続きは年明けとなります。 良いお年を!

>>740
一応、最後に投下した短編が65本目です。 今書いているのが66本目になっています。

>>741
気が向いたときに希望して頂ける方が居ましたら、うpします。

>>744
書くのが楽しすぎて終わりが見えない!
当初は本当に本編だけでサクッと終わる予定だったんですけどね。

こんにちは。
あけましておめでとうございます。

クリスマス後編投下致します。

今俺は、桐乃の部屋の前でうずくまっている。

理由、か。 話せば長くなるな。 まあ、聞いてくれ。

遡ること約一年前……なんてことはない。 精々、遡って5分ほど前のことだ。

桐乃が可愛らしく「一緒にエロゲーやろ?」なんて言うものだから、俺はそれに乗って、これから一緒にエロゲーをプレイすることになっていたはずだ。

ちなみに今日、クリスマスイブである。 そんな日に兄貴と一緒にエロゲーをやる妹なんて、例え話で聞いたとしても絶対に信じられないようなことだが……。 実際、俺の妹はそうであったのだ。

そりゃ、俺と桐乃の場合は色々と特殊かもしれんが。

ていうか、それはもうこの際どうでもいい。 とりあえず遡って話すとしよう。

一年前では無く、5分前に。

京介「……しっかし、俺も上手いこと使われている気がするな」

何気無く兄貴をパシリにするとはな。 まあ、トレイに乗せて予め用意していた辺り、優しいと言えば優しいのか? でも、それなら自身で運んでくれても良いような。

俺も俺で、嫌ってわけでは無いからいいけどよ。

京介「今に始まったことでもないさ」

多分、それがいつからかなんてのは考えるだけ無駄だろう。

いつまで経っても俺は兄貴だし、あいつは俺の妹なのだから。 兄貴は黙って妹の言うことを聞いてりゃいいのさ。 聞いて、話して、分かり合えれば尚良い。

これがいつも通りで、変わらない物なのだろう。

そしてそれが俺にとっちゃ、一番だ。

そんなことを考えながら階段を上がり、俺の部屋の前を通りすぎ、桐乃の部屋の前へ。

京介「……あ」

ノックは一応しようかと思ったんだけど、見事に両手が塞がっていて出来ない。

トレイを一旦下に置けば良かったし、何よりドアの外から桐乃に声を掛けるだけでも良かっただろう。

しかし、俺はどうやらものぐさなようである。 トレイを下に置くこともせず、声を掛けることもせずに「どうせ今更、いきなり開けてもいいだろ」なんて考え、肘を使って器用にドアを開くことにしたのだ。

京介「おーい、桐乃。 持ってきた……」

部屋の中を見ると、まず目に入ったのはデスクトップが表示されているパソコン。 そのすぐ横には先ほど桐乃が持っていたエロゲー。

そして、丁寧にベッドの上に畳んで置かれている桐乃が先ほどまで着ていた服。

……先ほどまで着ていた服。

桐乃「……っ!」

最後に、下着姿の妹が目に入った。

京介「待て!! 今俺を殴ったり蹴ったりしたらこれが溢れる!!」

桐乃「く……!」

桐乃はその言葉に寸でで襲いかかろうとしていた動きを止めた。 そして睨み合い。

そう睨まれてしまっては俺も動けず、桐乃も桐乃で何もできずに俺のことを睨む。

……つうか怖すぎだろ。 こういう時は、何か気の聞いたことを言うべきなのだろうか。

京介「き、桐乃」

桐乃「……」

京介「……その下着、結構可愛いな」

その後のことは想像に任せよう。

敢えて説明するならば、それを言われた桐乃は顔を赤くして「……そう?」と言って、最後に「ありがとね」と言った。

なんてことは当然無い。 そんな簡単に物事は進まないんだぜ。 辛いよな。

実際にあったことと言えば、桐乃は一瞬目を見開き、一度深呼吸をして、俺の腹に思いっきり蹴りを入れたってことだ。

トレイは桐乃が綺麗にキャッチして、一旦床へと置き、そして再度俺に襲いかかった。

まあ、あったことと言えばこれだけだ。 些細なもんだぜ。

そんな感じで俺は現在、桐乃の部屋の前でうずくまっている。 ドアは閉められ、廊下には冷たい空気がただただ流れているだけだ。

……全く、せっかくのクリスマスイブに俺は何をやっているんだか。

俺は俺で、しっかりと声を掛けるなりしていればこうはならなかっただろうし、桐乃は桐乃でやりすぎた面もあるとは思う。

しかし、俺は兄貴で桐乃は妹。 そう考えれば、悪いのは俺ってことなのだろうか。

まあ、どっちが悪いかなんてのは正直どうでもいい。 問題は桐乃と仲直りできるかどうかだ。

こんな風に真っ先に考える辺り、俺もあの頃と比べたら大分変わったのだろう。

そしてそれは、俺だけでは無かったようである。

唐突に目の前の扉が開き、少しだけしゅんとした桐乃の顔が視界へと入ってきた。

桐乃「……その、ごめん。 もう良いから、エロゲーやろ」

ちくしょう。 どうやら先手を打たれてしまったらしい。

桐乃「うっ……ひっぐ……」

あれから桐乃と二人でエロゲーを始め、今現在、こいつは号泣している。

ゲーム自体は終盤で、案の定ヒロインの夜ちゃんとやらが不治の病で倒れ、今にも息を引き取ろうとしている場面である。

こんなことを考えるのは無粋かもしれんが……この夜ちゃんとやらは、つい昨日まで元気に飛んだり跳ねたり兄貴のことをぶっ飛ばしたりしていたんだけどな……。 まるで即効性な毒薬並みの病気だぜ。

夜『……お兄ちゃん』

夜『さいご……最後に、ひとつ、お願いがあるんだ……』

桐乃「や、やだよぉ……最後なんて言わないで……」

京介「……」

エロゲーと会話してるな、こいつ。

というか、のめり込みすぎだろう。 桐乃はよく俺に「現実とエロゲーを一緒にするな」と言っていたけれど……こいつの方こそ大丈夫だろうか。

そんな心配とも困惑とも取れる視線を俺は桐乃に向けていた。

桐乃「……ちょっと。 なに「何でこいつは泣いているんだ」みたいな目向けてんの?」

それがどうやら桐乃にはそう見えていたらしい。

京介「んなこと思ってねーよ」

桐乃「ウソ。 絶対ウソ」

京介「マジマジ。 俺がお前にそんなこと思うわけ無いだろ?」

桐乃「ふうん。 じゃ、証拠見せて」

京介「……証拠?」

桐乃「そ。 あんたが本当にそんなこと思ってないなら、あんたもしっかり泣きなさいよ」

マジか!? どんな証拠だよそれ!?

京介「いやいや無理だって! お前だって、感動できない物に無理に感動しろって言われてもできないだろ!?」

桐乃「は? あんた、これが感動できないの?」

京介「……まあ、はい」

桐乃「チッ……ま、いいや。 分かる人にだけ分かれば良いし」

京介「そりゃすいませんでした」

桐乃「ふん……あ」

と、桐乃は何かを思いついたように声を漏らす。

京介「ん? どした」

桐乃「あんたさ、その」

桐乃「……」

京介「……なんだよ?」

やけに歯切れが悪いな。 こいつは以外と思ったことをズバズバ言う奴だとは思うんだが。

こういう感じで言い淀みされてしまうと、なんだか変に緊張するぜ。

桐乃「……その」

京介「だから、なんだってんだ?」

桐乃「あ、あたしのこと……好き、なんでしょ?」

……はぁ!? 唐突に何を言い出しているんだこいつは!? なんだ、知らない内に俺はエロゲーの世界にでも迷い込んだのか!?

ありえない……よな? エロゲーの世界へ迷い込んだことでは無くて、桐乃がそんなことを言い出すなんてことが、だ。

いやいや、でもこいつは現に今そう言ったはずだし……待て、俺の聞き間違いか? はは、なんだ、その可能性がまだあったじゃねえか。

ったく、驚かせやがって。

京介「もう一回良いか?」

俺はこうしてもう一度、桐乃が言った言葉を確認する為に聞き返したのだが……。

桐乃は俺のことをキッと睨むと、つんと顔を逸らしてしまう。

……ふむ。 この可愛い反応はともかくとして……ってことはあれか、こいつがさっき言った言葉は聞き間違いでは無い……ってことになるのか?

……どうすりゃ良いんだ、これ。

桐乃「……」

桐乃はどうやらその先を言うつもりは無いらしい。 未だに逸らしている顔は若干だが恥ずかしそうで、部屋の中は暖かいはずなのに、頬は赤く染まっていた。

京介「……桐乃」

言わなければならないだろう。 こうなってしまっては、しっかりと。

京介「好きだよ、俺はお前のことが大好きだ」

桐乃はそれを聞き、俺の方に顔は向けずに口だけを動かす。

桐乃「……あっそ」

全く面倒な妹である。 ま、そこが良いんだけどな。

京介「で、話を戻すけど」

それから少し経ち、お互いにある程度落ち着きを取り戻した頃合を見計らって、俺は切り出した。

京介「それで俺がお前のことを好きってのを確認して、どうするんだよ?」

桐乃「……あんま好き好きゆうな」

桐乃は一度息を短く吐くと、続ける。

桐乃「ええっとね」

桐乃「だから、このヒロインをあたしに置き換えてみれば感動できるんじゃない?」

とんでもない発想だな。 ましてやエロゲーのヒロインだぞ。 お前に置き換えて良いのかよ。

いや、エロゲーのヒロインってのはある意味こいつの夢である可能性も否定できないから怖い。

京介「このヒロインがお前だったとしたらか」

そして、俺もなんだかんだは思いつつも考える。 この夜ちゃんとやらが桐乃だったとしたら。

こうやって今は元気にエロゲーをやっている桐乃が、クリスマス当日……つまり明日、いきなり倒れたとして。

病院に運ばれて、窓の外を見ながら言うんだ。

「大好きだったよ。 本当は、昔からずっと」

桐乃「ちょ、何泣いてんの!?」

京介「へ? あ、ああ……」

桐乃「あたしに置き換えた瞬間に泣くとかさすがにキモイって……」

うるせえ。 そりゃ泣くに決まってるだろうが。 ニヤニヤ笑いやがって。

桐乃「……ま、感動できたなら良いや。 続きやろ」

桐乃はそう言い、マウスを握り、クリック。

夜『……あのね』

そして言う。 その最後のお願いとやらを。





『……私と一緒に、死んでくれる?』


桐乃「サイアク! ほんっとサイアク!!」

京介「お前が分岐間違えたんじゃねえのか!? それで俺に八つ当たりするのはやめてくれ!!」

桐乃「だってめちゃくちゃ良い雰囲気だったじゃん! ふっつーに正規ルートだと思うじゃん!!」

京介「分かったから落ち着けって! 俺を叩くのをやめろ!」

しかし、あの台詞と共に大きなSE音と画面いっぱいに夜ちゃんとやらの顔が表示される仕組みはヤバイだろ。 桐乃の驚きっぷりと来たら面白かったけどさ。

桐乃「はぁあああ……死ぬかと思った」

京介「お前、椅子から落ちそうになってたもんな」

桐乃「仕方無いでしょ。 あれは誰でも驚くって……。 まさかこんなルートがあるなんてさぁ……」

桐乃「こんなことになるんだったら、ちゃんと説明見とけば良かった。 あたしとしたことが……」

だいぶ落ち込んでやがるな。 大方、事前に情報を全て知ったら楽しめないだとか、そんな理由で見てないのだろう。

桐乃「もう今日は終わり! お風呂入ってこよっと」

京介「一緒にか?」

俺が言うと、桐乃は体をびくっと反応させ、口を開く。

桐乃「なワケあるかッ! でてけっ!!」

酷い奴だ。 軽いジョークだってのに。

京介「しっかし、なんだかなぁ」

部屋から追い出された俺は自分の部屋へと戻ると、ベッドの上に寝転び、一人呟く。

京介「なんつうか……」

何だろうか。 何か違う気がする。 折角のイブだってのに、やっていることと言ったらいつも通りのことだけだ。

去年は色々と事前に準備はしていた物の、今年は特にそういったことをしていないから仕方無いことかもしれんが。

桐乃がどこかへ出かけようと言えば出かける準備はしてあったし、本当に何も考えていないわけじゃない。

俺から誘う選択肢も勿論あったが、あれは中々度胸が必要な物である。 去年は聖夜たんフィギアという口実もあったのですんなりとは出来たけど、今年はなぁ。

そしてそんな感じで今みたいに悩んでいる間に、今日がやってきてしまったということだ。

京介「……」

今更考えてもどうしようもないことを考えている内に、いつの間にか俺は眠りに就いていた。

桐乃「いつまで寝てんの?」

鼻をつままれて、目が覚める。

京介「……っと、桐乃」

桐乃「どうすんの?」

京介「……どうするって、何が?」

桐乃「ご飯。 もう夜だし」

言われて、窓の外に顔を向ける。

……うむ。 確かに外は真っ暗だ。

京介「あー」

京介「なんか買ってくるか。 朝はお前だったし……俺が買ってくるわ」

さすがの桐乃と言えば良いのか。 朝の時点で昼の分も買って置いたようで、昼飯は全く困らなかったしな。

京介「つか、お袋はいつ帰ってくるんだよ?」

桐乃「ひひ。 それがさ、お父さんと一緒にご飯食べるから、あんた達二人で何か適当にやっておいて。 だって」

……なんだそれ、すげえ面白そうな場面だな。 見に行きたい。

桐乃「仲良いしね。 お母さんもお父さんも」

京介「はは……」

だからと言って俺と桐乃を放置するんじゃねえっての。

桐乃「……あんた、お母さんたちが居ないからってヘンなことしないでよ?」

京介「しねーよアホ!」

ていうかだな。 もし本当にそう思っているなら俺の部屋に『今お風呂から出てきました』みたいな格好で入って来るんじゃねえ。 そして俺の上に馬乗りになったまま話をするんじゃねえ。

桐乃「ふうん? しないんだ?」

京介「お、お前なぁ……」

桐乃「ぷ。 なにマジな顔してんの? キモッ!」

と、大変いつも通りな我が妹だ。 もうこの「キモッ」って言葉は褒め言葉にも思えてくるぜ。

桐乃「ほら、いつまでも横になってないで行くよ」

京介「行くって……飯か?」

桐乃「そ。 あんた一人に任せても不安だし、あたしも一緒に行ったげる」

京介「……へえ、珍しいな」

桐乃「……問題ある?」

京介「無い無い。 一緒に来てくれるなら何よりだっての」

桐乃「ふひひ。 でしょ?」

……あれ、まさかとは思うが。

京介「……てっきり、さっきのエロゲーが怖くて、一人で家に残るのが嫌なのかと思った」

俺が言うと、桐乃は部屋から出ようとしていた動きをぴたりと止める。

桐乃「ち、違うし。 怖くないし」

……そういうことにしておこう。

それから二人で準備をして、夜飯を買いに行く為に家を出て、街灯が照らす中を歩いている。

京介「……さっむ」

桐乃「家に引きこもってばっかいるからじゃん? あたしみたいに外に出れば良いのに」

京介「人を引きこもりみたいに言うんじゃねえよ……」

桐乃「事実っしょ?」

京介「全然事実ではない! つうか、引きこもってるって言うならお前だって休みの日は殆ど部屋でエロゲーやってるじゃねえか!」

桐乃「あれは良いの。 あたしの生きる上での義務みたいな物だから」

とんでも無い義務を課せられているんだな、この妹様は。

京介「なら寒さを感じるのは人としての義務だ。 日本の四季に対してな」

桐乃「……ふうん?」

京介「……なんだよ?」

桐乃「ふひひ。 なんか偉そうなことゆうわりには、耳まで真っ赤だなって思っただけ」

京介「ほっとけ」

俺が素っ気なく言うと、桐乃は俺の前に向き合うように立つ。

桐乃「あ~あ。 もう、仕方ないなぁ……」

京介「……」

桐乃「ま、京介がどーしても寒いってゆうなら……仕方ないなぁ」

なんだこのわざとらしい演技は。 見ていて若干面白いぞ。

桐乃「……」

桐乃はそのまま手に持っていたカバンに手を入れ、中にあった物を外へと出す。

桐乃「……はい。 いちお、クリスマスプレゼント」

京介「……へ。 お、俺に?」

桐乃「あんた以外いないでしょ。 良いから早く受け取ってよ」

京介「お、おう……」

そうやって桐乃から渡されたのは、マフラーだった。 暖かそうな、マフラー。

桐乃「……黙って見てないで、付けたら?」

京介「あ、そ、そうだな」

驚きすぎて何がなんだか分からないぜ。 ええっと、マフラーってどうやって付けるんだっけか。

さすがにそこまで馬鹿にはなっていないらしく、体がしっかりと覚えていたようで、問題なくマフラーは巻けた。

桐乃「……お。 やっぱり良い感じ」

京介「やっぱり?」

桐乃「うん。 この前雑誌で見ててさ、京介に似合いそうだなーって思って買ったの。 さすがあたし!」

京介「……そっか。 ありがとな、桐乃」

桐乃「ひひ。 京介みたいに冴えないのには、そのくらいが丁度良いよね~」

褒めるのか貶しているのか分からなくなってきた……。 俺も感覚が大分麻痺してきているかもしれん。

京介「……あ、そうだ」

桐乃「んー?」

京介「桐乃、ちょっとこっち来てくれ」

いきなり呼ばれ、桐乃は少し困惑した様子だったが、意外にもすんなりと俺の傍まで寄ってくる。

京介「ほら」

俺は言い、桐乃の手を掴む。

桐乃「……」

桐乃は黙って、その手をしっかりと握り返した。

京介「夜飯だけどさ、どっか食べに行くか」

桐乃「良いケド……お金あるの?」

京介「おうよ。 任せとけって」

桐乃「ひひ。 じゃあお言葉に甘えて」

京介「おっし。 んじゃあ行くか」

こうして、俺と桐乃が過ごしたイブは終わる。

そうだ。 これで良いんだ。

俺と桐乃の場合は、これで良い。 俺はただ、こいつと一緒に居たいだけなのだから。

無計画が良いとは言わない。 考え無しが良いとは言わない。

時にはそれも必要になっていくだろう。

だけど、今はこれで良い。

明日は桐乃を誘って秋葉原にでも行くとしよう。 折角のクリスマスだしな。 何かしらあるだろうし。

並んで歩いて、同じ道を歩いて行こう。

決して楽な道では無いだろうが、それでもこいつと一緒なら大丈夫だと俺は思う。

なんつったって、俺の妹だしな。

桐乃「なーに笑ってんの?」

京介「はは、何でもねえよ」

桐乃「ふーん」

京介「あー、つうかさ」

桐乃「んー?」

京介「俺、美味しい店とか知らないんだけど、お前知ってる?」

桐乃「……普通、それあたしに聞く? 雰囲気考えてよ、雰囲気」

知らない物は知らないんだよ! 悪かったな!

桐乃「ま、良いや。 京介」

桐乃「あたしに任せて」

と、笑って桐乃は言うのだった。


日常的クリスマス 後編 終

以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

なんだか、書き込む度に「混雑しています、ロックを解除しました。 ~~秒お待ち下さい」と出るのですが、何でだろう……

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

当初の構想とは何だか大分変わってしまった様な気がしますが……。
>>333さんのネタで、短編です。 これで66本目。

それでは、投下致します。

桐乃「あ、そーいえばさ」

あたしはひとつ思い出し、昼間からパソコンに向かい合ってエロゲーを嗜んでいる兄に向けて口を開く。

京介「ん? なんだ?」

京介「……いやてか、お前はどうして俺のことを可哀想な奴を見る目で見ているんだよ?」

何を言っているのだろう?

折角の休みの日、大学生である兄が一人エロゲーをやっている。 それも昼間から。 誰がどう見たって……。

桐乃「だって、昼間からエロゲーとか可哀想な奴じゃん実際」

京介「お前がやってみろって言うからじゃねえか! つうか、お前が今言った台詞はそのまま全部返すぞ!!」

桐乃「あたしは良いの。 何でか分かる?」

ゲームを中断して、京介はあたしの方に体を向ける。

京介「……そうだなぁ」

少し考える素振りを見せ、京介は。

京介「美少女だから?」

と、言った。

……わざわざ真顔で言わなくても。

桐乃「あたしはエロゲーを愛してるから良いの!! あんたは大して愛して無いからダメなの!! 分かった!?」

あたしが慌ててそう返すと、京介は少々呆れた様に口を開く。

あ、分かった。 どうせ「だったら愛してない俺にやらせるんじゃねえ」とか言うのだろう。

京介「だったら愛してない俺にやらせるんじゃねえ」

ね? 京介が言いそうなことくらい、最近ではもう分かってしまう。

そのおかげもあって、あたしが何て返すかなんてのは頭の中で出来ていた。

桐乃「だからやらせてあげてるんだって。 京介もあたしと同じくらいエロゲーを愛せるようになるまで。 ふひひ」

京介「……よし、良いぜ桐乃」

……良いって、何がだろ? さっきは京介の言いそうなことは分かると言った物の、全部が全部分かるわけでは無いしね。 それに、京介は時々とんでもないことを言うし。

京介「要するに、お前は俺がエロゲーを愛せるように、エロゲーをやらせているってことだよな?」

桐乃「まあ……そうだケド」

京介「その最終地点は桐乃がエロゲーを愛しているのと同じくらい、で良いんだよな?」

桐乃「……うん」

さっきそう言ったし。 何の為に纏めているんだか。

てかね、京介じゃあたしの境地までは絶対辿り着けないかなぁ。 素質がないしね。

京介「つまり、お前のエロゲー愛と同じくらいの愛を俺が持てば良いってことだろ?」

うんうん。 あれ……そうなのかな? なんか違う気がするような?

桐乃「……」

あたしが若干困惑しているのを知ってか知らずか、京介は更に捲くし立てる。

京介「だが残念だったな。 俺はお前の持っているエロゲー愛なんかより、よっぽど強いのを持ってるぜ」

桐乃「はぁ? 京介があたしよりエロゲーを既に愛してるって? ぷ。 無い無い」

もしも本当にそうだとしたら、昼間からエロゲーなんて基本だし、夜更かししてエロゲーも基本だっての。 あたしが知る限り、京介はそんなことしていないしね。

ふん、甘い甘い。

京介「ベクトルが違うんだって。 俺が愛してるのは---------」

そこまで言ったところで、何を言うのか予想が出来た。

桐乃「ひひ。 あたし?」

分かっていても、嬉しい。 なんだかとても満たされる気分になってくる。

って言っても、まだまだ満ちてはいないけど。 あたしの器は大きいからね。 足りない足りない。

京介「いや違う。 俺が愛しているのはこの『あやせお手製、桐乃人形』だ!」

……。

京介は言い、この前あやせから貰ったあたしをモデルにして作ったという人形を突き出す。

桐乃「……えっと」

な、なんだろうこの気分は。 嬉しいような……嬉しくないような。 京介が持っているあの人形のモデルは確かにあたしだけど、でもなんか違う気が。

桐乃「あ、ありがとう?」

と、疑問形で言ってしまう。 うーん……。

京介「へへ。 どういたしまして」

桐乃「……」

なんだか靄が残る。 そんな気分で、京介を見ていた。

京介「いやぁ、それにしても本当に出来が良いよな。 この人形」

京介「この桐乃はすっげー可愛いしなぁ」

……この桐乃は!?

桐乃「京介」

京介「ん? なんだよ……って、お前なんか顔が怖いぞ」

はぁ? 怖い? 顔が? 誰の?

桐乃「今言った台詞、もっかい言って」

京介「……あ、あー。 なんて言ったっけ、俺」

桐乃「は、や、く」

京介を睨みながら、あたしは言う。

京介「……こ、この桐乃もすっげー可愛いしなぁ。 って言ったかな、はは」

微妙に変えてるし。 てか変えたってことは、自分が言ったこと分かってるじゃん!

桐乃「ふうん。 そうなんだ?」

京介「お、おう」

桐乃「絶対に? 嘘じゃない?」

京介「……も、もしかしたら少し違うかも?」

桐乃「あ~。 そうなんだぁ~。 じゃあ違ったら何してもらおっかなぁ~?」

京介「お前のその『何か』ってのは恐ろしすぎるんだが……」

桐乃「ふひひ。 で、どうなの? 違うの?」

京介「……すいませんでした」

よし、勝った。

桐乃「ふうん?」

頭を下げる京介の顔を覗き込みながら、あたしは言う。

京介「……桐乃」

桐乃「ん? なに?」

京介は顔を上げると、あたしの目をじっと見つめる。 そして、顔を近づけてくる。

ゆっくり、ゆっくりと。

……って近くない!? ちょ、ちょっと!?

あたしが何か言おうと口を開こうとしたところで、京介はあたしにキスをしてきた。

桐乃「い、いきなり何すんの!」

京介「へへ、お前隙だらけだからな」

桐乃「……だからって!!」

京介「ほら、また」

京介はそう言い、もう一度あたしにキスをするのだった。

京介「……大丈夫か?」

桐乃「ふ、ふひひ」

あたしは平気。 うんうん。 大丈夫。

京介「……」

京介は黙ってあたしの頬をつまむ。 つまんで、引っ張ったり。

京介「お前の肌って、ほんと柔らかいよなぁ」

桐乃「……人の顔で遊ばないで」

京介「お、もう大丈夫か」

桐乃「あたしは最初から大丈夫だっての。 ふん」

京介「へいへい。 そーでした」

全く。 2回もキスしておいて、そんな余裕っぽい態度がムカつく! 後であたしからもキスしてみよっかな……。

無理だ。 恥ずかしい。

京介「それで、何だよ?」

桐乃「……何だよって、何が?」

京介「いや、俺がエロゲーやってたら桐乃が「そーいえば」って言ったんだろ?」

……そんなこともあった様な、無かった様な。

てか、かなり話が脱線していた気がする。 今日に限った話では無いけど。

えっと……あ、そうだ。

桐乃「あ、明日なんだケド」

桐乃「あたし、仕事入っちゃってて帰り遅くなるからさ、ご飯とお風呂やっといてもらってもいい?」

京介「あー、そうなのか。 別に構わないけど……」

桐乃「八時くらいには帰るから……ってなに? どしたの? なんか言いたそうじゃん」

京介「いや、なんつうか」

京介「そうやって言われてみると、家族だなーって思う」

家族? それってつまり……。

あたしと京介が夫婦みたいってこと!? はぁ!?

桐乃「い、いきなりやめてよ! 毎回だけど恥ずかしくないワケ!?」

京介「……何焦ってるんだ、お前」

桐乃「だってあんたがいきなりヘンなことをゆうからでしょ!! た、確かに一緒に暮らしてるケド……」

顔が熱くなるのを感じながら捲し立てると、京介は首を捻りながらしばし考える素振りを見せる。

京介「……ああ、そういうことか」

京介「おいおい桐乃さんよ。 お前、俺と家族だってのが恥ずかしいのか?」

桐乃「……そりゃ、いきなり言われたら。 あたしだって色々準備が出来ていないというか……だし」

京介「俺が言ったのは兄妹って意味だぜ? なんの準備をするんだよ?」

ニヤニヤと笑う京介の顔を見て、あたしはようやく言葉の意味を理解する。

……さて。 頭のどの部分を叩けば記憶は飛んで行くのだろうか。 まず始めに無くなるまで試してみることにしよう。

そう思って、あたしは京介に飛び掛る。

京介「はぁ……はぁ。 お、お前……あそこまでマジで切れなくても」

桐乃「……全然怒って無いし?」

京介「明らか怒ってたじゃねえか! それに元はと言えばお前の勘ちが……」

桐乃「何か言った? おかしいな、忘れたんじゃなかったっけ」

京介「あ、忘れた。 はは、なんだっけか」

桐乃「ひひ。 良かった。 またくすぐらないといけないところだった」

京介「そ、そーですね。 ……はは」

こうやって、二人ともに何も無いときはただただ、家でこうしていたりする。 そして意外にもこれが結構楽しかったり。

明日はあたしが仕事だからこうはできない。 だから多分、いつも以上に京介と居るのかもしれない。

桐乃「ねね、京介」

京介「ん?」

桐乃「ふひひ。 なんでもなーい」

京介「へへ、そうかよ」

そして、次の日。

仕事が終わり、帰り道。

今日は途中から天気が崩れた所為もあり、撮影が長引いてしまった。 案の定、時間は結構遅い。

真っ暗な道を一人で歩くのは心細くもあり、不安だ。

なんだか少しだけ……昔を思い出す。

ずっと、あたしはこんな道を歩いていた気がする。 先が見えなくて、真っ暗な道を。

だけど気持ちだけはしっかり持っていて、持ち続けていた。 どれだけ光を探しても見つからないけれど、必ずどこかにあると思って。

こんな風に思うのは、大袈裟だろうか。

ヤバ……もしかしてあの黒いのの性格が移ったりしてるのかな……。

桐乃「……夜ご飯なんだろ」

一人呟いて、一歩ずつ進む。

京介のことだから、下手したらスーパーのお惣菜という線も……捨てきれない。

ていうか、家に着いたら燃えて無くなってましたなんてことは無いよね? さすがの京介でもそこまでじゃないよね?

多分これは、あたしが昔「一人で料理をする」と言ったときに京介が思っていたことでもあるのだろう。

今じゃもう、余裕だけどね。

さて、そろそろ家が見えてくる頃だ。

そもそも、本来だったら京介を呼び出して車でも出して貰うのが良かったかもしれないけれど、ご飯もお風呂もやってもらっておいて、それは気が引けてしまう。

桐乃「ちゃんとやってるかな? あいつ」

本当にこの場限りの話。 正直言って、こう毎日ずっと一緒に居ると、あたしが今日みたいに仕事だったり、あいつが大学とかで帰りが遅かったりすると、何だか心細くなってしまう。

……一日だけでも離れるとか今じゃ考えられないし。

あ、やめよ。 こんなことを考えていると、会ったときにどんな顔をすれば良いのか分からなくなってしまう。

桐乃「……ふう」

気づいたらもう部屋の扉は目の前で、あたしは一度息を吐くと、解錠してその扉を開ける。

桐乃「たーだいま」

桐乃「……あれ?」

部屋は真っ暗。 人の気配がしない。

桐乃「京介?」

とりあえず、電気を付けよう。

桐乃「……どこか出かけてるのかな?」

うーん。 こんな時間に出かけるのだろうか? それに、何かあったら電話とかメールをするだろうし。

桐乃「あ、そだ。 電話」

それで京介に連絡してみよう。

そう思い、カバンから携帯を取り出す。 取り出したところで、後ろから声が掛かった。

京介「桐乃!」

桐乃「へ? ちょ、な、なに?」

今帰ってきたのか、玄関の扉が開くと同時に、京介の声がした。

京介はそのままあたしの傍まで駆け寄り、あたしを抱きしめる。

京介「……心配させんな! 馬鹿野郎!」

桐乃「え? え?」

京介「……ったく。 お前は本当に……」

聞けばどうやら、京介はあたしを探しに町中を走り回っていたらしい。

帰りが予定より遅れて、それでも連絡が無かったので、気が気じゃなくなったと言っていた。

それを聞いたあたしの心にはなんとも言えない感情が渦巻いている。

そこまで心配してくれて嬉しい、とも思った。

そこまで大袈裟にしなくても、とも思った。

そこまで考えが回らなかったあたしが情けない、とも思った。

そして、そこまでしてくれた京介に申し訳ない、とも……思った。

桐乃「……ごめん」

京介「ダメだ。 許さない」

珍しく京介が怒っている。 それだけ、あたしが心配を掛けたということだろう。

桐乃「ま、マッサージでもしようか?」

京介「……」

ヤバ、余計怒らせたかな?

京介「……なんかエロい言い方だなそれ」

桐乃「ぶっ! そ、そんなつもりじゃないって!!」

京介「いやいや、声色とか仕草とかめっちゃエロかったって……」

桐乃「気のせい!! へ、ヘンな目で見ないでよ!」

ていうか、そういう話じゃないでしょ! 今は!

それは京介も分かっていたのか、ゆっくりと口を開いた。

京介「……桐乃」

京介は一度あたしの名前を呼び、一息置いてから話始める。

京介「もっと俺を頼ってくれないか?」

桐乃「……今日のこと?」

京介「ああ」

京介「確かに大袈裟かもしれないけどさ、お前のことが俺は心配で心配で堪らないんだよ。 分かるか?」

京介「俺はお前のことが好きだしよ。 妹としても、彼女としてもな」

京介「……お前が居なきゃ、なーんもできねえんだよ」

桐乃「でも、色々やってもらって……悪いし」

京介「馬鹿。 今更何言ってるんだ? お前は俺に無理だけ言ってれば良いんだよ。 つうか、変な気を使うなっての」

桐乃「……うん」

何も言い返せない。 そう言われてしまっては。

京介「それともう一つ」

京介「もっと、自分を大切にしてくれ。 これは、頼み……かな」

京介「桐乃みたいなのが夜遅くに外歩いてちゃ、何があるか分からないしよ」

京介「……それが少し、怖い」

そう言う京介の顔は本当に心配そうで、怯えているようで。

そんな顔をさせているのがあたしだと思うと、心に棘が刺さるような気分になった。

桐乃「うん……うん。 ごめんなさい」

京介「……分かればいいんだけどさ」

そうだ。

それが、あたしだ。

兄貴に無理を頼んだり、無茶を頼んだりして、困ったときは助けてもらったりして。

それを当たり前のことだとは言わない。 そこまで傲慢にはなれやしない。

だから、せめて一つ一つのことに感謝しよう。

桐乃「京介!」

すぐ目の前に座っていた京介に抱きついて、首に腕を回して、あたしは言う。

かつてはとても言えなかった言葉。 感謝の気持ちと、本心。

京介「お、おい? 桐乃?」

桐乃「ごめんね。 ごめんなさい」

桐乃「それと……ありがと」

あたしは言って、京介にキスをする。

京介はと言うと、顔を逸らして、呟くようにこう言った。

京介「……とっくに許してるっての。 つうか、お前のそれは反則すぎるんだよな……毎回」

桐乃「ひひ。 でも、あやせが同じことしてきたらどうする?」

京介「あ、あやせが?」

京介は目だけを上に向け、何やら想像し始めている様子。

……なんかむかつく。

桐乃「あんた今ヘンなこと考えてたでしょ」

京介「か、考えてねえよ!?」

桐乃「ふうん? ふーん?」

京介「……それより桐乃さん」

桐乃「なに?」

京介「いつまで俺に抱きついているつもりだ?」

桐乃「っ! こ、この変態ッ!!」

不覚。 慌てて離れて、距離を取る。

京介が変態だってことをすっかり忘れていた!

京介「ほほう。 変態だと言うのか」

桐乃「……な、なによ。 文句あるワケ?」

何か嫌な予感がするような、しないような。

京介「いや別に? ただ、俺は変態だからなぁ」

京介「妹にいきなり抱きついても仕方ないってことだ!」

そう京介は叫ぶと、少し離れた位置で座り込んでいたあたしに思いっきり飛びかかる。

桐乃「ちょ、やめ……」

京介「や~だね。 俺の気が済むまでこうしてやる」

桐乃「……ばか。 勝手にすれば」

そう言って、あたしも京介を抱きしめる。

あたしと京介が「そろそろご飯を食べよう」と思ったのは、それから1時間程後のことである。


休みの一日 終

以上で本日の投下終わりです。

乙、感想ありがとうございます。

お刺身の上にタンポポを乗せる仕事が大分暇になってきたので、若干ですが投下量増やせると思います。

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

投下致します。

今回は久しぶりに普通の短編です。

7月。

少々暑くなってきた今日この頃。 朝っぱらから俺と桐乃は話し合いの場を持っていた。

今はミニテーブルを挟んで向かい合っている。

こんな感じで話し合うってのは中々に珍しかったりもするわけで、いつもならだらだらと壁に背中を預けながらとか、エロゲーをやりながらとか、布団に入りながらとかが多い。 そういったこともあり、俺は妙な緊張感に襲われていた。

自分から話を振る分には特にそんなことは無いだろうけど、今回は何を隠そう……桐乃から声を掛けられ、こんな場となっているからな。

一体どんな話なのだろうか? 俺は今、完全に寝起きだったのもあり寝間着なのだが、桐乃ときたらしっかりと着替え終えていて、気合の入った格好をしている。

……人生相談か?

真っ先に浮かんだのがそれである。

まあ、そうだったとしたら俺はそれをしっかり聞いて、答えてやるだけ。

何かをして欲しいってことなら、一日中走り回っても良いしな。

桐乃「……京介」

京介「お、おう? どした?」

神妙にも思える面持ちの桐乃から出された今日の議題。

桐乃「車でどっかデートいこ」

と、桐乃は言った。

京介「……それだけ?」

桐乃「はぁ!? それだけってなに!?」

京介「怒るな怒るな! 俺はてっきりもっと重大なことだと思ったんだよ! こんな緊張感ある場を作るから!」

桐乃「重大なことって、例えば?」

例えば、と言われてもな。 例えようの無い緊張感だったのは確かだが……。

京介「た、例えば……妊娠したとか?」

桐乃「す、するワケ無いでしょ!! ばか!!」

そんな声と共に飛んでくるのは脇に置いてあった台拭き。

ミカンよりはマシだ。 そう思おう。

京介「……の割にはやけに焦ってるように見える」

桐乃「そうじゃないっての! ばかじゃん!?」

桐乃はテーブルをばんばんと叩き、今にも飛びかかってきそうな勢い。

あまり叩くなよ、壊れたらどうするんだ。 安物なんだからさ。

つうか、やっぱこいつをからかうのは結構楽しいぜ。

京介「どうだかなあ?」

桐乃「だ、だって……まだ、そうゆうの無いし」

言いながら、桐乃は恥ずかしそうに顔を逸らした。

……よし、今日の分のエネルギーは確保できたぞ!

京介「冗談冗談。 話を戻そうぜ」

桐乃「……自分から逸らしといて、勝手なんだから」

京介「で、車でデートってのは?」

桐乃「ふん」

どうやら、桐乃様はお怒りの様子で。

こういう時は、どうすれば良いのか大体俺も分かってきた。 というか多分、桐乃はそれを狙っている気もしなくはないが。

京介「悪かったって。 ほら」

言って、俺は桐乃の頭を撫でる。

すると桐乃は不機嫌そうな顔から段々と機嫌が良さそうな顔に戻っていく。 勿論、本人は表情を変えていないつもりなのだろうけど。

桐乃「……うん」

ヤバイな。 一週間分は動けそうだぞこれで。

京介「で、本題だけど……」

桐乃「……んん」

桐乃は一度息を整え、口を開く。

桐乃「やっぱりさ、たまには車でどっか行きたいとか思わない?」

京介「行ってるじゃん」

桐乃「あんたが言ってるのは殆ど秋葉原とかでしょ! もっとこう……分かる?」

京介「……なんとなく言いたいことは分かるけど」

要するに、桐乃としてはいつもと違ったデートがしたいってことだろう。

桐乃「でしょ!? でしょ!?」

京介「でも行くって言ってもどこに?」

桐乃「……むう」

結局はそこだよな。 俺と桐乃が行きたい場所って言ってもバラバラだろうし。

桐乃の場合はそれこそ流行の物が売っているところだとか、服屋に行きたがるのだろう。

京介「桐乃はどっか行きたい場所とかないのか?」

しかし、俺がそう聞いてみても。

桐乃「……今は特に無いんだよねぇ」

とこいつは返す。

桐乃「逆に京介は行きたい場所とかないの?」

俺の行きたい場所か。

……そういえば、あやせが今度グラビア撮影をやるとかなんとか言っていた気がする。

いやいや待て俺! 行きたい場所の後にあやせのグラビア撮影を思い出したのは事実だが、決してそこに行きたいなんて思って無いからな! マジで!

だって考えてみろよ。 妹の目の前で、彼女の目の前でそんなこと考える奴が居ると思うか? 居ない居ない。 俺は桐乃一筋なんだよ。 うむ。

桐乃「おーい」

桐乃は言い、俺の顔の前で手を振る。

京介「お、おう……わりい」

桐乃「ひひ。 で、どっか行きたいとこある?」

……一々笑顔が殺人的だな。 いつの日か笑ったってだけの理由で警察に捕まるんじゃないだろうか。

京介「そうだなぁ……」

京介「あ、そうだ」

桐乃「んー?」

京介「今度、高校で体育祭あるとか言ってたじゃんか。 それに行きたいな」

桐乃「……歩いて行けるじゃん。 それにそれだと、あたしとデートじゃないし」

なるほど。 確かにその通り。

桐乃「もうちょっとしっかり考えてよ。 やる気あんの?」

なんのやる気だよ!? つうか、そういうこいつはやる気とか常に持っているのだろうか?

……持っていそうだよなぁ。 そういう奴だし。

京介「めっちゃあるぜ。 なんて言ったって、お前とのデートなわけだし」

桐乃「あ、あっそ……」

桐乃「……あ、あたしも。 京介とのデートだからやる気チョーあるよ?」

……やばいな。 今日は過充電かもしれん。 この、手をもじもじとしながら俺のことを上目遣いで見てくる桐乃の可愛さときたら。

こんな桐乃を俺が独占していると思うと、世界で一番幸せなのは間違いないと思えて来るぜ。

京介「そ、そりゃどうも」

桐乃「……」

京介「……」

なんだこの妙な間は!? すっげー緊張するんだけど!?

もう今日何回目だろうな? つうか、起きてからずっと緊張しっぱなしな気がしなくもないが。

桐乃はどうやら緊張というよりは恥ずかしいという思いから、コップに口を付けたまま動かない。

……そういや、こいつが緊張してるところってあまり見ないよな。 俺が気づいていないだけか?

京介「なあ、桐乃ってさ……緊張することとかあるのか?」

自分でも唐突だったとは思うが、どうしてもそれが気になってしまった。

こいつは一体、どんな場面で緊張するのだろうか。 それを少しだけ、知りたくなった。

桐乃「へ? あたし?」

京介「そ。 お前」

桐乃「……緊張はフツーにするケド。 てか、人を機械みたいに言わないでよ」

京介「おお……悪い悪い。 んで、どんな場面で緊張すんの?」

桐乃「うーん。 そう言われても中々難しいかな。 例えばだけど」

桐乃「京介といるとき」

マジか! やったね!

桐乃「はあまりしないかも。 だってもう何年も一緒だしね。 そりゃ、場面によってはするかもだけど……基本、あんたと居るときはしない」

マジか……辛いぜ……。

桐乃「京介といるときはさ、緊張ってゆうより……安心できる感じだから」

……なんだよ。 嬉しいことを言ってくれるじゃねえか。

京介「そりゃサンキュー。 俺もお前と一緒だよ」

桐乃「さっきはチョー緊張してたって言ってたのに?」

そんなことを言ったような言っていないような気もする。 まあ、緊張していたってのは事実だから何も言えんが。

京介「それはお前が変に真剣な顔するからだろ! 服だってしっかりしたの着てるしよ……」

桐乃「あ、これ? ひひ。 今からあやせと加奈子と遊びに行くからね」

京介「……あまり遅くなるなよ?」

桐乃「分かってるって。 京介寂しくて泣いちゃうもんね?」

京介「な、泣くか! 泣くわけねえだろ!」

強がる俺。 そしてお決まりの如く、桐乃はこう反応する。

桐乃「……そっか。 京介はあたしが居なくても大丈夫なんだね。 ごめんね」

桐乃「あたしは京介が居ないとダメなのに……京介はあたしが居なくても平気なんだね。 あーあ……勘違いだったのかな……えへへ」

京介「……お前、それってどのエロゲーのヒロインだ?」

桐乃「ふひひ。 『雨がヤンだら妹の待つ家に帰ろう』の『雨音ちゃん』!」

京介「とりあえず、ヤンデレってことだけは分かった」

桐乃「でしょ? で、どうだった?」

桐乃が聞いてきているのは恐らく、今桐乃が演じた『雨音ちゃん』のことだろう。

京介「……面倒くさそうな妹だなって感じ」

言い終わった後で、怒られるパターンかと思ったのだが、桐乃の反応は意外にも「あー、やっぱりかぁ」という物だった。

京介「やっぱりって……妹マニアのお前にしては珍しいな」

桐乃「妹『マニア』じゃなくて、妹『オタク』ね。 そこ大事だから間違えないで」

京介「俺には一体どんな違いなのか分からないぞ……」

俺が言うと、桐乃は溜息を吐き、心底呆れた顔で話し始める。

桐乃「いい? 京介。 まず、妹『マニア』ってのはね、あくまでも妹を客観的に見ているの。 妹が好きなのは変わらないケド……。 やっぱり『マニア』の人ってのはどこか枠の外から妹たちを見ているからさ」

……こいつは一体何を言っているのだ。

桐乃「返事」

京介「は、はい。 どうぞ続けてください」

桐乃「ふん。 なんか京介、聞いてなさそうで話す気失せてきたんだケドぉ」

いやいや、俺は聞いているぜしっかりと。 ただ、内容が理解できていないだけだ。

桐乃「んでね、次に妹『オタク』の方だけど」

結局続けるのか!? 今、めっちゃ嫌そうな顔で「話す気が失せた」って言ってたじゃんか!!

桐乃「こっちはもう全然違う。 客観的じゃなくて、主観的に見てるからね。 線引きするなら、本当の妹がエロゲーの妹を愛する。 これが真髄かな」

桐乃「自分たちが妹で、そんな自分とエロゲーの妹を被せて見るんだよ。 感情移入もできるし、そうすることで本当にエロゲーの妹たちを愛することができるから」

京介「ってことは、お前もエロゲーの妹に自分を重ねてるってこと?」

桐乃「そうそう! りんこりんとか特に……」

桐乃「じゃ、じゃない!! あたしはそんなことはしていない!!」

思いっきり口が滑っていたけどな。 それにしてもなるほど……。

桐乃「……よし」

桐乃はひと言そう呟き、立ち上がる。

京介「どした?」

桐乃「いや、ちょっとまたくすぐって京介の記憶を消そうかなって」

京介「やめてね!? お前の攻撃って本当に容赦無いから!」

桐乃「ふひひ。 そう言われるとやり甲斐があるかなぁ」

一体いつからこいつはあやせみたいになったんだ。 人の嫌がることをするなんて!

よし……そうだな。 そうと決まれば俺にも作戦があるぜ。 つっても、今考えたばっかだけど。

京介「……分かった。 大人しくされるから、場所移そうぜ? ここだとテーブルとかあるからさ」

桐乃「珍しく抵抗無し? 京介も分かってきたのかなぁ?」

桐乃「んじゃ、あっちね」

そう言って桐乃が指すのは居間。 俺と桐乃がいつも寝室に使っている場所である。

……ふはは。 馬鹿め。

京介「……お手柔らかにな?」

桐乃「ふひひ」

楽しそうに笑いながら、桐乃は居間へと向かう。

俺は桐乃の後を付いて行き、距離を少しだけ詰める。

一歩、二歩、進んで行き……やがて、居間へと桐乃の体が入る。

京介「……かかったな!!」

俺は言って、桐乃に背後から飛び掛る。

桐乃「へ? ちょ、な、何すんの!!」

そのまま桐乃を押し倒し、手を脇腹へ。

桐乃「ひっ……や、やめ……」

京介「先手必勝だぜ? やられる前にやれって言葉もあるだろ?」

桐乃「ギブギブ!! あたしが悪かった!!」

ギブアップ早すぎだろ。 まだ手を脇腹に当てただけだぞ。

京介「知ってるか。 ギブアップしたら五分間やられ放題ってルールがこの前追加されたんだ」

桐乃「はぁ!? き、聞いてないっての!!」

京介「おう。 言ってないもん」

……多分、俺は今物すっごく悪い顔をしているんだろうなぁ。

まあ、いいや! やっちゃえ!

そう結論を出し、脇腹に当てていた手で桐乃をくすぐる。

桐乃「や、やめ……あ、あはははははははははは!!」

しかし、目尻に涙を溜めて必死に堪える姿もこいつは可愛いなあ……。

なんてことを思いながら、色々な場所をくすぐっていた結果、十分くらい経っていた。

桐乃「ま、まじ死ぬって……はぁ……はぁ……」

京介「悪い。 桐乃が可愛くてつい」

桐乃「……こんな時に、言われても……嬉しくないっての……」

動けなくなっている桐乃を横目に、俺はお茶でも淹れようと台所へと向かう。

桐乃のも淹れといてやろう。 せめてもの罪滅ぼしだ。

京介「桐乃ー。 紅茶でいいか?」

桐乃「……うー」

まともな返事が返ってこない……やり過ぎた所為で桐乃が幼児退行したのか。 どんなエロゲーだよ。

いやまあ、肯定と受け取っておくとしよう。 文句があれば、俺のと変えれば良いしな。

そう思いながら台所でお茶を淹れている途中で、テーブルの上で鳴っている桐乃の携帯に気づく。

京介「携帯鳴ってんぞー」

桐乃「……持ってきてー」

俺をパシリにしやがって。 持って行くけどもさ。

お茶のついでだと思えば、別にどうってことは無いだろう。

俺はそのままトレイにカップを二つ置き、運んで行く途中で桐乃の携帯を回収する。

着信時間からしてメールだろうか? あやせか、加奈子か、他の友達か。

……或いは、エロゲーヒロインからか。

華の女子高生としては、前者であって欲しいと願う物である。

京介「ほらよ。 紅茶と携帯」

桐乃「ん。 さんきゅ」

どうやら紅茶で良かったらしい。 さすが俺だぜ。

桐乃「……これ緑茶なんですケド」

おおっと、渡す方を間違えた。 これは失礼。

京介「こっちだな。 ほら」

桐乃「……なーんか、いやらしい思惑が感じられる」

何を言っているんだよこの妹は。 まさか、俺がお前と関節キスをしたいから違うコップを渡したとでも思っているのか?

そうだとしたら、それは勘違いってもんだ。

京介「良いからほら、携帯」

桐乃「……」

じっとりした目で俺のことを見ながら、携帯を受け取る桐乃。

しかし、そんな桐乃の目は携帯を開いて確認した瞬間、変わった。

カタカタと何やら文字を高速で打つと、桐乃は俺の方へと向き直る。

桐乃「京介!!」

京介「な、なんだよ? いきなり大声出すなって」

桐乃「ちょっとこっち来て! 早く!」

なんだ、やけに慌てているな……。 何かあったのか?

京介「わ、分かった分かった。 今立つから手を引っ張るなって!」

桐乃「はーやーく!」

俺も慌てて立ち上がり、桐乃に引っ張られるまま、玄関へと向かう。

桐乃「……よいしょっと」

京介「……なぜ、そんなとこに座り込む?」

桐乃が座った場所は、玄関の扉からすぐの床。 壁に背中を預けながら、足を伸ばして桐乃は座っている。

桐乃「京介も座って。 あたしの正面で」

京介「言っている意味が……」

桐乃「いいから早く!」

なんだなんだ。 やけに急かすな。 まあ、桐乃の頼みとあっちゃ断れんが。

京介「……ほらよ。 これで良いか?」

桐乃「まだダメ。 次は片手をあたしの頭の横に付けて。 もう片方の手であたしの両手首を掴んでね」

言われるがまま、俺は桐乃の後ろにある壁へと手を付ける。 そしてもう片方の手は、桐乃の頭上で手首を抑える。

京介「こ、こうか?」

桐乃「うんうん。 良い感じ。 んじゃ次はそのまま肘も壁に付けて」

注文がやたら多いな……。 何がしたいんだ? こいつ。

京介「……」

んで、俺はそれを実行したわけだが……やたらと桐乃の顔が近い。 そりゃ、桐乃に覆いかぶさるようになっているわけだから当然だろうけど。

桐乃「もうちょっとこっち来て。 あたしの膝の上に乗る感じで」

京介「い、良いのかよ?」

桐乃「良いって言ってるの。 早くして」

……なんだかエロい格好になってきたぞ。 こいつは本当に何をやろうとしているんだよ。

桐乃「うん。 良い感じ」

桐乃「じゃあ最後に、そのままゆっくり顔をあたしに近づけて」

京介「いやいや! 恥ずかしいんだけど!?」

桐乃「……あ、あたしだって恥ずかしいし」

じゃあやるなよ!? なんだこれ!?

いやでもこれはある意味チャンス……。

京介「い、良いんだな?」

欲望に負けた俺がそう聞くと、桐乃はこくりと小さく頷く。

京介「……桐乃」

桐乃「……京介」

そんなとき。

ガチャりと、扉が開いた。

この場面で開く可能性があるとすれば、玄関の扉。

しかしそこからすぐの場所で俺と桐乃はこうしているわけで……。

つまり訪問者から、俺と桐乃は丸見えというわけである。

あやせ「お邪魔します……って、何やってるんですか!!」

桐乃「あ、あやせ!! 助けて!!」

はは、なるほど。 そういうことか桐乃さん。

京介「おま……ハメやがったな!?」

桐乃「京介が無理やり……あやせぇ!」

さっきのくすぐりの仕返しと言ったところだろう。 もうこれ、仕返しってレベルを超えている気がするんですけど。

とまあ、こんな感じである日の一日は終わっていく。

あやせ恐怖症なる病気が存在するならば、俺は間違いなくかかっているだろう。

……俺が何をされたかって?

ひとつだけ言えることは……そうだな。

とても口には出来ない恐ろしいこと、とだけ言っておこう。


妹は神様です 終

以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

次回は来週の真ん中頃となります。

そうなんですよね……
京介がもっと怒って、きりりんが色々とご機嫌取りをするって感じが良さそうなんですが、うまいこと妄想が働かず……
機会があればまたチャレンジしてみます

>>1はエロマンガ先生読んだ?

>>944
読みましたよ!
さぎりん可愛いですよね。 早くも2巻が楽しみ。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2013年12月17日 (火) 17:18:34   ID: 01ILd1wx

期待しています!!

2 :  SS好きの774さん   2015年03月07日 (土) 12:17:57   ID: FH_I6BDl

期待します。

3 :  SS好きの774さん   2015年04月11日 (土) 11:16:06   ID: urdsTklQ

これって…続きないの?

4 :  SS好きの774さん   2015年12月06日 (日) 14:48:47   ID: nnXszYfC

続き存在しないのかな。

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