小鳥「ロンリーバースデー」 (19)



「はい、765プロダクション、音無小鳥でございます…はい…はい…ありがとうございます…はい、ではそのように…」

衣装を発注していた会社から、納期の連絡。いつもの通り少し早めに出来上がったそうなので、それに合わせて納品も早まるそうだ。

あ、私、765プロで事務員をしてる音無小鳥って言います。

…誰に向けて、自己紹介してるんでしょうね。

今日は、事務所には私一人。

社長はテレビ局のお偉方…じゃなかった、重役の方々と打ち合わせ。

律子さんは竜宮小町の3人とテレビ収録。

そしてプロデューサーさんと残りのアイドルの子達は横浜で、こちらもテレビの収録。


「今日は1人かぁ……」

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そう、今日は、というか今日も一人です。
最近、765プロのアイドルは人気鰻登りという感じで、スケジュールはミッチリです。
昔なら、事務所でのんびりしてから収録に向かったりしていたのだけれど、もうそんな暇も無いと言った感じです。

「…あーあ…ちょっと前まで、あんなに騒々しい事務所だったのになー」

まあ、事務所的には良い事ですね。それだけお仕事があるという事ですから。

「…退屈だなぁ」

退屈…じゃない!

「あっ!そうだった、律子さんに渡す資料と…プロデューサーさんの資料と…」

センチな気持ちを切り替えて、パソコン画面とにらめっこ。
……眠い。

「…駄目、駄目よ小鳥!」

そう、こういう時はコーヒー…紅茶でも良いわね…ああ、帰りにビールでも飲んで…って駄目…駄目よ…!

「皆が頑張ってるのに、私だけそんな事を考えちゃ駄目!さて…コーヒー…は…切れてる…お茶…も無い…」

そうか…事務所に人が来ないせいか、私も忘れてたみたい。

「…買いに行こう」



イラッシャイマセー


「うー…暑い…アイスも買っていこう…あら?」

雑誌コーナーを見れば、いろんな雑誌の表紙に765プロのアイドルの子達が出ています。

「へぇ、千早ちゃんがこんな笑顔で…あら?美希ちゃんと春香ちゃんの主演ドラマ…うわぁ~なんかドロドロ…え!?真美ちゃんの水着?!」

ああ、いけないいけない、のんびりしてたらキリがない。

765エンデス


アリガトウゴザイマシター



「えーと、留守電は…ないっと…ん…と…」

誰も居ない事務所は、何だかガランとしていて。
日めくりカレンダーを見て、私はふと、思い出した。

「…今日、誕生日だったんだ」

他の皆の誕生日は、毎回できる限り、全員揃っての誕生日会をしてたけど、私は…

「…ま、まあ。今更誕生日位で喜ぶような歳でもないし」

とは言う物の…

「…寂しい…ロンリーバースデートゥーミーって…うう…」

先日の真ちゃんの誕生日は、皆で揃ってお祝いできたけど…

「はぁ…」

ううん、良いの。
皆には仕事があるし、そっちの方が大事ですもの。

「って、分かってるんだけどなぁ…」

さっきから、独り言ばっかりだなぁ…

「いけないいけない…」

仕事に集中しないと…



『それでは、次のコーナーは…こちら!』

『ミキの、なんなのなの!どーしてなの!』

『このコーナーは、美希が世の中のニュースで気になったことをざっくり解説するコーナーです』

『ありがとなの、千早さん。それでは、今日はこちら!』


「あはは…美希ちゃん、幾らなんでもざっくりすぎ!」

お昼のワイドショーで、美希ちゃんと千早ちゃんはレギュラーとして、ワンコーナーを任されています。
今日の御題は、今朝決まったばかりの東京オリンピックについて。
…けーざーいーかとかいんふらせーびとか、意味が分かってるのかな…

「…千早ちゃんも、楽しそうで…」

春香ちゃんと組んでるときの千早ちゃんも自然体だけど、美希ちゃんと組んだ時はまた違った、年相応の笑顔も見せるんですよね。

「お腹すいたなぁ…」

『まこと、この麺は…革命です!日進、麺の鉄人とんこつ、しお、しょうゆ…ああ、どれかを選ぶなど…私には出来ません!』


「貴音ちゃんのCMだー…らぁめんにしようかしら…ううん、ダメ、ダメよ…もう買ってきてあるし」

…はっ!私は何をゆっくり…


「さーて、仕事ですよ、仕事…!」









カタカタカタカタカタカタカタ…ッターンッ!






「…んーっ!終わった…!」

頼まれていた資料や帳簿の作成、あと皆のお仕事のスケジュールを立て終わったんだけど…

「…えええ?!もう真っ暗…7時か…」

いつの間にかこんな時間に…

「…皆、帰ってこないなぁ…」

…帰っても一人。
もう少し、待ってみようかな。

「メール…?いつのまに…?プロデューサーさんだ!」

見逃してた…何だろう?

『ごめんなさい、今日は遅くなりそうなので、春香達を送ってから帰ります』

「…こっちには、戻ってこないのかな…」

ちょっと、期待してた…ううん、ちょっとじゃなくて…
ひょっとして、今から食事、とか…

コーイーヲーユメーミールオヒメサマハー♪

「律子さん?メールメール…あ」

『申し訳ありません、ロケの機材トラブルで、遅くなりそうです。真美達を家に送りますので、直帰します』

「…そ、そうよね…皆明日も仕事があるし…」


グゥ


「…お腹すいたなぁ…確か、戸棚にカップめん…」


「…ない…」


「……」


「…はぁ」


「…あは…やだな、何か…」


悲しいわけじゃないの、ちょっと寂しくなっただけ。
皆の声が聞きたいだけ。
ううん、それも全部、自分のワガママで。
っていうか、別に…寂しくなんか…寂しくなんか…


「…寂しい」


「帰ろう…」



ガチャン


「音無さん?」

えっ…?

「っ…プロデューサーさん?!」

帰るって言ってたのに…?

「え?事務所に帰るって言いませんでした?」

「…帰るって言うから、直帰かと思いました…」

「…泣いてたんですか?」

「…」

「…ごめんなさい…」

「ちょっと、寂しかっただけです…」

「…誕生日、ですもんね」

「…覚えててくれたんですか!」

「…忘れる訳、無いじゃないですか」

「…プロデューサーさん…」

「ごめんなさい…寂しい思いばかり…」

「いいんです、私は、皆が活躍してくれれば」


「…!」

突然抱きしめられた。
…ちょっと、汗臭いかな。

「小鳥さんが、こうして事務所に居てくれるから、俺達は安心して外で仕事が出来るんです」

「…」

「…ねえ、小鳥さん…」

「はい…」

「…本当に、いつも…ありがとうございます」

「…」

「…って、あ、ご、ごめんなさい…つい」

今更、抱きしめてたことを謝るプロデューサーさん。
…そのままでも、良かったのにな。

「…意気地なし」

「…え?」

「……」

女の子…って歳でもないけど…が、泣きそうな目で上目使いですよ…やる事は、決まってるじゃないですか!

「……」


チュッ


「…ほっぺた、ですか」

「…」ニヤリ


「え?」


チュッ

「?!?!」

「…んっ…」

「…いきなりすぎます!」

「…ごめんなさい…でも…」

「……好き…です」

「…俺も…」



ガチャリ



え?誰?!

「あーっ、小鳥さん、ごめんなさい、忘れ物しちゃって、あとお誕生日おめ…で…」

律子さんが、私達の姿を見て固まっています。
そりゃあそうでしょうね…抱き合って、唇が触れ合うくらいの距離…

「…」

「…」

先に、口を開いたのは、律子さんでした。

「お、おほほほほ、お邪魔、でしたか?」

「ま、まて律子違う、いや、違わないけど」

「そ、そうですよ律子さん!」

「あははは、どうぞお幸せにごゆっくりどーぞ」

「ま、待て律子!誤解だ!」

「プロデューサーさん、誤解って…どーゆーことですか?!私とは遊びだったんですねぇ?!」

「ち、違うんです小鳥さん、そういう事じゃ…あーもう!分かりました!小鳥さん、今から役所行きましょう!」

「え!?」

ど、どどどどどどいうことですかそれは?!

「俺が全責任を取ります!小鳥さん結婚してください!」

「えええええっ?!」






と、言う訳で…その後の事は、また別の話。

1つだけいえるのは…今度の誕生日からは、ロンリーバースデーじゃなくなりそうですね!








小鳥さんお誕生日おめでとうございます!太ももスリスリしたい!

お粗末さまでした。

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