吸血鬼♀「私はいつ死ぬべきなのか?」(129)

男「……」テクテク





男「! 殺気!!」

吸血鬼「!」ビクッ

男「あ、あれ!?み、見てました!!?///」

吸血鬼「な、何で気づいたの……?」

男「すみません、つい誰もいないと思ってふざけちゃいました!!」

吸血鬼「なんだ、偶然か……」

吸血鬼「ま、いいや。さっさと済ませちゃおう」スッ

男「え?」バッ

吸血鬼「……」スッ

男「あっ」バッ

吸血鬼「む……」スッ

男「」スッ

吸血鬼「よ、避けるなよ!!」

男「急に知らない人に頭を触られそうになるなんて、警戒しますよ!」

吸血鬼「……あまり抵抗しない方がいいぞ。少し乱暴になるかもしれない」

男「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」

男「ど、どうして俺の頭を触ろうとするんです!?」

吸血鬼「説明する必要も無いし……大丈夫、明日には全部忘れてる」

男「結構印象的なシーンですよ?ま、まぁとりあえず話し合いましょうよ!!」

吸血鬼「話し合う?」

男「そうですよ!とにかく俺の頭を触ろうとする理由を教えて下さい!!俺のことが好きなストーカーですか!?」

吸血鬼「や、それは無いよ」

男「むっ……どーせ俺のことを好きになる娘なんて……」

吸血鬼「あ、いや他意は無いんだ」

男「どーせ……どーせ俺なんて……」

吸血鬼「面白い奴だな、キミは」

吸血鬼「ま、たまには人と話すのも悪くないか」

男「あ、話す気になってくれました?」

吸血鬼「無意味なんだけどね」

男「で、どうして俺の俺の頭を触ろうとしてたんです?」

吸血鬼「気絶させるため」

男「きぜ!?」

吸血鬼「うん」

男「頭を掴んで気絶させられるんですか!?」

吸血鬼「掴むというかまぁ、触ればできるよ」

男「……じゃあどうして気絶させようとしてたんです?」

吸血鬼「血を吸うため」

男「……?」

吸血鬼「私は吸血鬼だよ」

男「……」

吸血鬼「信じてないね?」

男「そりゃまぁ」

吸血鬼「よろしい。証拠を見せよう」

男「え?」

吸血鬼「何か刃物を持ってないか?」

男「学校で使うカッターならありますけど……どうするんです?」

吸血鬼「それでいい。貸して」

男「は、はぁ……どうぞ……」

吸血鬼「見てて」

男「はい」



ザクッ


男「!?」

吸血鬼「っ……」

男「ちょ、ちょっと!!何してるんですか!!い、今ハンカチを……駄目だ!清潔じゃない!!」

吸血鬼「慌てないで。傷口を見て」

男「……?」

男「!?」

吸血鬼「どう?」

男「傷口が……塞がってく……」

吸血鬼「治癒能力は吸血鬼の特性の一つだ。信じてくれたかな?」

男「……だ、駄目ですよ!!こんなことしちゃ!!」

吸血鬼「!?」

男「自分を刃物で刺すなんて、絶対にやっちゃいけない!!」

吸血鬼「で、でもすぐ治るし……」

男「それでもさっき痛そうだったじゃないか!!」

吸血鬼「そ、それはまぁ……多少は……」

男「二度と!!こんなことしちゃ駄目だよ!?」

吸血鬼「は、はい」

男「約束だよ!?」

吸血鬼「はい」

男「……犬歯見せてよ」

吸血鬼「ほら」グイッ

男「……すげー尖ってる」

吸血鬼「吸血鬼だもの」

男「ほ、ほんとに吸血鬼なのか……?」

吸血鬼「そうだよー」

男「す、すごい……」

吸血鬼「というかタメ口になったな……」

男「君もそうじゃないか」

吸血鬼「そうだね」

吸血鬼「だからさっき私はキミを気絶させて、血を吸おうとした。わかった?」

男「気絶させなくても吸血鬼なら力ずくで押さえ込めるんじゃ?」

吸血鬼「まぁね。相手がモハメドアリでも問題なく押さえ込めるよ!」

男「ドヤ顔やめろ」

吸血鬼「でも暴れられると多少吸いにくいし、後で記憶を消す手間も減るし」

男「記憶消せるんだ?」

吸血鬼「催眠術の類は吸血鬼の十八番さ!」

男「へぇー」

男「でも何でそんなにコソコソしてるのさ?吸血鬼ならそんなの気にせずやりたい放題やれそうなものだけど」

吸血鬼「私としても吸血鬼の噂が広まっちゃ不都合があるのさ」

男「そうなの?」

吸血鬼「私は確かに普通の人間よりは遥かに強いけど、それでも何もかも蹂躙出来るほど強いわけじゃない」

男「ふーん?」

吸血鬼「純粋な吸血鬼だと、確かに細かいことは気にしない輩も多い。強いから」

男「……というと?」

吸血鬼「私は純粋な吸血鬼じゃない。人間とのハーフなんだ」

男「へ!?吸血鬼って人間と子供作れるの!?」

吸血鬼「作れるよ。ただ、人間とのハーフは吸血鬼の血がかなり薄まっちゃうけどね」

男「あぁ……それで君は」

吸血鬼「まーね。でもこれはこれで便利なところもあるんだよ?」

男「というと?」

吸血鬼「吸血鬼としての弱点はほとんど無い」

男「そうなの?」

吸血鬼「吸血鬼としての利点はそこまで顕著な衰退はしてないんだけどね」

男「これが進化か」

吸血鬼「淘汰を経てないけどね」

吸血鬼「それというのもさ、今吸血鬼って世界中に散らばっちゃっててなかなか他の奴等に会えないんだよ」

男「そうなの?」

吸血鬼「吸血鬼ってのはさ、ながーい間生きてるんだ」

男「ふんふん」

吸血鬼「退屈で仕方が無い。生きてる意味も見いだせない。そんな奴等ばっかなんだよ」

男「……」

吸血鬼「そんな奴等でもさ、なんとか人生を楽しもうとしてるんだよ。だから皆家族単位で旅に出たんだ。そんで散り散りになっちゃった」

男「自分探しの旅みたいなもんか」

吸血鬼「近親間で子供作るわけにもいかないだろ?それは吸血鬼の未来の為にも良くない」

男「生物の授業で習ったな」

吸血鬼「何より気持ち悪い」

男「そりゃそうだ」

吸血鬼「じゃ、そろそろ血を頂いてキミの記憶も消すとするか」

男「!」

吸血鬼「自分のことを語ってばっかりだったけど結構楽しかったよ。ありがとう」

男「くらえ!」

吸血鬼「……何をしてるんだキミは」

男「十字架!」

吸血鬼「さっき効かないって言ったよね……」

男「本当に効くってわかってたらやってないけどね」

吸血鬼「あと十字架が効果を持つのは信仰ありきだぞ?」

男「あ、そうなの?」

吸血鬼「例えばキミが効力のある十字架を持ってきて私に見せたとしよう」

男「うん」

吸血鬼「キミってグロテスクな絵や写真って平気?」

男「あまり良い気分はしないけど……まぁ絵や写真だったら平気」

吸血鬼「そんな感じ」

男「へ?」

吸血鬼「別に害はないけどあまり近づけてほしくない、見たくない。そんな感じ」

男「あぁー……なるほど……」

吸血鬼「じゃあそろそろ……」

男「待って!」

吸血鬼「……痛くしないし、キミの身体に影響が出るほどの血も吸わない。だからちょっとだけ分けてよ」

男「それはいいよ」

吸血鬼「あ、そう?じゃあ」スッ

男「!」バッ

吸血鬼「……何で避けるのさ」

男「記憶は消さないで!」

吸血鬼「へ?」

男「せっかく出会ったんだ、忘れたくない!」

吸血鬼「……えっと」

男「君もさっき言ってたじゃん。人と話すの久しぶりって!」

吸血鬼「ま、まぁ……」

男「さっさと力ずくで血を吸って立ち去ればよかったのに、それをしなかったのは」

男「君も寂しかったからだよね?」

吸血鬼「……」

男「俺は絶対君の秘密は言わない。だから」

男「せっかくだから友達になろうよ!」

吸血鬼「!」

吸血鬼「……私は吸血鬼だよ」

男「うん」

吸血鬼「その……気持ち悪くないのか?怖くないのか?」

男「? 意味がわからない。吸血鬼ちゃんすごく美少女じゃん!」

吸血鬼「え!?」

男「言い方が悪かったか……お友達になってください!!」

吸血鬼「え……あ……」

男「駄目か……かくなる上は土下座だ!!」

吸血鬼「ちょ、ちょっと待って!!土下座なんてしないで!」

男「じゃあ友達になってくれる?」

吸血鬼「なるなる!友達になるよ!!」

男「本当!?やったぁ!!」

吸血鬼「と、友達……」

男「いやぁ吸血鬼の友達なんて初めてだよ!」

吸血鬼「私も……人間の友達なんて初めて……」

男「? 今まで人間の友達はいなかったの?」

吸血鬼「だって……私、吸血鬼だし……目立たないようにしなきゃいけないし……」

吸血鬼「その……人間にとっては……お化けだし……」

男「ふふん。今の日本の男を分かってないね」

吸血鬼「?」

男「今の日本の男は!お化けだろうと動物だろうと無機物だろうと何にでも萌えられる器の大きさを持っているのだよ!!」

吸血鬼「も、萌え!?」

男「ま、そんな極端なこと言わなくても吸血鬼ちゃんはすごく可愛いんだから男なら誰だって友達になりたいよ」

吸血鬼「か、可愛い!?」

吸血鬼「私はいつ死ぬべきなのか?」
男「今でしょ!」ザクッ
みたいなのを期待してた…

男「お腹空いた」

吸血鬼「帰ってご飯食べるのか?」

男「え?一緒に食べようよ」

吸血鬼「私お金持ってないから」

男「奢る奢る!一緒に食べようよ!」

吸血鬼「そんな、悪いよ」

男「何食べたい?どこか行きたいお店ある?」

吸血鬼「ほんと、私なんかに物食べさせるなんてもったいないよ!私は食べる必要無いんだから!」

男「でも食べられるんだよね?」

吸血鬼「そ、それはまぁ」

男「じゃあ一緒に食べてよ!人と食べたほうが楽しいもんね!」

吸血鬼「そ、そうか……悪いな」

男「で、どこか行きたいお店ある?」

吸血鬼「……どこでもいいのか?」

男「うん!どこでも!」

吸血鬼「じゃあ」

男「じゃあ?」

吸血鬼「王将」

男「王将!?」

吸血鬼「久しぶりに王将の餃子が食べたい」

男「餃子!?」

吸血鬼「ご飯食べるのなんて本当に久しぶりだな……」

男「にんにくは!?」

吸血鬼「好き」

男「そ、そう……じゃあ王将行こうか」

吸血鬼「うん!」

男「……ところでさ」

吸血鬼「ん?」

男「吸血鬼に血を吸われたら、そいつも吸血鬼になっちゃうの?」

吸血鬼「そんなことはないよ。意識して吸わなきゃ同族は出来ない」

男「そうなんだ?」

吸血鬼「いちいち同族を増やしてられない。というより人一人の人生を変えるなんて、重い」

男「……」

吸血鬼「むやみに同族を増やさないように、ってのが今の吸血鬼の共通認識。皆目立ってめんどくさいことになるのが嫌ってだけだけどねー」

男「他の吸血鬼の仲間もいるの?」

吸血鬼「いるにはいる……らしい」

男「らしい?」

吸血鬼「お母さん以外の吸血鬼には会ったことがないから、それもお母さんから聞いた話」

男「……お母さんはどこにいるの?」

吸血鬼「知らない」

男「知らない?」

吸血鬼「今どこにいるんだろうねぇ」

男「……会ってないの?」

吸血鬼「お父さんが死んでからは会ってない。私がいたら邪魔でしょうし」

吸血鬼「まだ、というよりずっと、お母さんは若いから」

男「……吸血鬼だもんね」

吸血鬼「そして私もずっと若いのさ!!ハーフは多少寿命が短いとはいえ、人類滅亡をこの眼で観ることくらいは出来るであろう!!」

男「……」

男「……吸血鬼ちゃんって、いくつ?」

吸血鬼「女性に年齢を聞くものじゃありません!」

男「大体でいいからさー」

吸血鬼「……キミは何歳?」

男「え、俺?20だけど」

吸血鬼「およそキミの八倍!」

男「160歳!?」

吸血鬼「およそだよ!!吸血鬼にしたらまだ若いの!!どうせ老化もしないんだし!」

男「すげぇ……18くらいに見えるよ……」

吸血鬼「うん。ちょうどそれくらいから私の身体は変化してないよ」

男「永遠の18歳……」

男「……お父さんは人間なんだよね」

吸血鬼「うん」

男「……君は100年ほど一人で?」

吸血鬼「……まぁね」

男「……」

吸血鬼「そ、そんな顔しないでよー!あ、王将着いた!!」

男「……うん」

吸血鬼「もっと楽しい話しよう!せっかくの王将なんだから!」

男「せっかくの王将……」

吸血鬼「そう!せっかくの王将!」

男「……そうだね。腹一杯食べよう!」

吸血鬼「おー!!」

━━
━━━
━━━━

吸血鬼「おいしーい!!」バクバクモグモグ

男「いっぱい頼んだから……もうちょっと落ち着いて食べよう」

吸血鬼「王将ってこんなに美味しかったっけ!!いやー美味しい!」ムシャムシャ

男「……なんか最初と口調が違わない?」

吸血鬼「えー?そんなことないよー?」ズズズズズ…

男「こんなに美味しそうにご飯を食べる女の子は初めてだ……」

吸血鬼「そうなの?王将こんなに美味しいのに!」

男「ご飯を美味しそうに食べる人とする食事って楽しいなぁ……」

吸血鬼「王将美味しいよー!!」

男「そうだね。王将は美味しい」

吸血鬼「ごちそうさまでした!」

男「ごちそうさまでした」

吸血鬼「ありがとうね。私は別に生きる上で食べる必要なんて全く無いのに」

男「そんなことないよ」

吸血鬼「? いや必要無いよ」

男「君は食べることで笑ってたじゃないか。笑顔は、生きる上で必要だよ」

吸血鬼「……は」

男「は?」

吸血鬼「恥ずかしいセリフを吐くなぁ……」

男「ほっとけ!」

吸血鬼「……うん、心が満たされた感じがするよ」

男「お腹を満たすだけが食事じゃないからね」

吸血鬼「キミは人が良いね。見ず知らずの吸血鬼の心を自腹で満たしてあげるなんて」

男「いや、俺の方こそ……」

吸血鬼「幸せだ……」

吸血鬼「……うん、今すごく幸せだ」

男「……俺の方こそ」

吸血鬼「ありがとう」

男「お、俺の方こそありがとう!」

吸血鬼「キミさっきから『俺の方こそ』ばっかりだな」

男「あ、うん」

吸血鬼「キミは寂しかったのかな?」

男「……君の方こそ」

吸血鬼「……うん、そうだね。私も寂しかった」

男「……」

吸血鬼「……あのさ、もし良かったらその…………」

男「?」

吸血鬼「こ、これからもたまに会ってくれないかな……?」

男「え?」

吸血鬼「も、もちろんご飯を奢れとは言わない!ほんの少しお話するだけでいい……」

吸血鬼「だ、駄目……かな?」

男「……俺たちさっき友達になったんじゃなかったっけ?」

吸血鬼「え、あ、それはそうなんだけど……」

男「友達ならまた会うのは当たり前じゃないか。たまにと言わず俺はしょっちゅう会いたい」

吸血鬼「!」

吸血鬼「……い、いいのか…………?」

男「いいも何も……こっちからお願いしたことだし……」

吸血鬼「そ、そっか…………そっかぁ……」

男「あ、吸血鬼ちゃんって携帯持ってる?」

吸血鬼「持ってない。……必要無かったしお金も無いし」

男「そ、そっか……」

男「……じゃあ君を家まで送ってもいいかな?」

吸血鬼「へ?い、いいけど」

男「何か君に会う手段が欲しいしさ。家の場所くらい知っときたいなーって」

吸血鬼「なるほど!少し歩くけど大丈夫?」

男「吸血鬼には劣るかもしれないけどこれでも俺は体力には自身があるんだよ」

吸血鬼「それじゃ、私の寝床に向かってしゅっぱーつ!」

男「おー!!」

男「懐かしいなー。俺の通ってた中学校だ」

吸血鬼「ここってキミの通ってた学校だったんだねー!あ、そこ曲がって」

男「え?そこってここ?」

吸血鬼「うんそこそこ」

男「ここ未舗装の道だよ?裏山にしか繋がってないはず……」

吸血鬼「寝床の場所を知りたいんでしょ?そこ曲がらなきゃ」

男「ね、寝床ってまさか……」

吸血鬼「はい!ここが私の寝床です!」

男「……寝床は単なる言い回しだと思ってたよ!こんなの雨もしのげないじゃないか!!」

吸血鬼「雨はあんまり当たんないよ?結構大きいんだーこの岩!」

男「」

吸血鬼「まー大雨が降ったら浸水しちゃうけどね!結構快適だよ!」

男「せ、洗濯や風呂はどうしてるのさ……?」

吸血鬼「学校の反対側の方に山を降りたら小さい川があるんだー。至れり尽くせりだね!」

男「た、確かにあった……」

吸血鬼「雨もしのげるし人も来ないしたまに口が寂しくなったら木の実も取れるし、良い場所だよーここは!」

男「……いつから?」

吸血鬼「へ?」

男「いつからここに住んでるの?」

吸血鬼「え、えーと……六年前かな?」

男「俺が中学生だった頃から住んでるのか……」

吸血鬼「……もしかして怒ってる?」

男「怒ってない。怒ってないけど……!」

吸血鬼「えっと……それじゃ、気が向いたら遊びに」

男「うちに住め!」

吸血鬼「へ?」

男「スペースはある!俺の部屋で一緒に住もう!」

吸血鬼「え?へ?」

男「一人暮らししてるから問題はない!いやそれが問題なのかもしれないけど!」

吸血鬼「あ、あの」

男「君は強いだろ?もし俺が変なことしそうになったら思いっきり殴り飛ばしてくれていいから!」

吸血鬼「えっと……?」

男「もし君がおっさんのホームレスならこんな提案はしないんだろうな……。君が美少女だから、こんな気になるんだろう。やっぱり偽善なのか?いや、美少女と一つ屋根の下で暮らしてみたいという下心が無いと否定は出来ないから偽善ですらないのかもしれない。果たして下心があるのに男と一緒に住むことなんて提案してもいいのだろうか?しかしこの状況を見て見ぬふりをするのもやはり良くない気がする。俺はっ……!何でこうも不純なんだっ……!もっと純粋な善意が何で俺には無いんだっ……!」

吸血鬼「あ、あの……」

男「はい!」

吸血鬼「い、いろいろ考えてくれてるのはわかったよ。そ、それで……その……」

男「はい!」

吸血鬼「き、キミに……甘えてしまっても……キミと、一緒に住んでも……」

吸血鬼「い、いいんだろうか……?」

男「!」

吸血鬼「あ、いや!迷惑ならいいんだ!そもそもこの状況を私は何も苦にしてないんだし!あ、でも苦にしてないのならキミの家に住む理由も無いのか……」

男「い、いや!俺が一緒に住んでほしいだけだから!!」

吸血鬼「じゃ、じゃあ……」

男「う、うん……」

吸血鬼「キミの家に住まわせてもらって……いいかな……?」

男「う、うん!大歓迎だよ!!」

吸血鬼「ご、ごめんね……別に私はこの裏山でも充分なんだから……いつ追い出してくれてもいいから……」

男「追い出すなんて!俺のために住んでもらうようなものだから!うん!」

吸血鬼「……下心?」

男「あ……」

男「……うん」

吸血鬼「……私も……そう」

男「! えっ……と……」

吸血鬼「……よろしくお願いします!」

男「よ、よろしくお願いします!!」

━━
━━━
━━━━

男「ここだよ」

吸血鬼「わぁーすごい!」

男「ボロでごめんね」

吸血鬼「ううん!すごいすごい!私久しぶりに建物の中で寝られるんだ!!」

男「……じゃ部屋に行こうか」

吸血鬼「うん!」

男「悪いけどエレベーター無いから三階の俺の部屋までは階段だ」

吸血鬼「ジャンプで上がれる高さだね」

吸血鬼「おじゃましまーす!」

男「あれもあれも……片付けてあるよな……うん……」

吸血鬼「なんというか……意外と片付いてるね」

男「意外って何だ」

吸血鬼「……ん?」

男「?」

吸血鬼「男の臭いに混じって……微かに別の臭いがする……」

吸血鬼「これは……女の子の臭いかな……」

男「君すごいね」

吸血鬼「吸血鬼は鼻が効くんだよ」

吸血鬼「…………あ、あの、もしかして」

男「妹だよ。妹も今年からこの辺で一人暮らし始めてさ。ちょくちょく遊びに来るんだ」

吸血鬼「あ、あぁー!な、なるほど!!」

吸血鬼「キミの部屋……男の部屋……」

男「適当に寛いでてー。あ、吸血鬼ちゃんコーヒー飲める?」

吸血鬼「あ、あの!お手伝いするよ!!」

男「あはは、コーヒー淹れるくらいで手伝うことなんてないよ。で、コーヒー好き?」

吸血鬼「あ、う、うん!好き!」

男「砂糖とミルクは?」

吸血鬼「少しずつお願いします!」

男「……緊張してる?」

吸血鬼「た、多少は」

男「俺も」

男「はい、どうぞ」

吸血鬼「あ、ありがとう」

男「……」

吸血鬼「……」

男「……ふぅ」

吸血鬼「……美味しい」

男「……あのさ」

吸血鬼「何?」

男「……コーヒー出しといて何だけどさ、さっき俺の血を吸えなかったわけだよね。本当に飲みたい物があるよね」

吸血鬼「……」

男「ここならまず人目は無いから、血、吸ってもいいよ」

吸血鬼「え、えっと……」

男「遠慮しなくていいよ」

吸血鬼「あの……そうじゃなくて……」

男「?」

吸血鬼「……キミの血は飲みたい……けど、コーヒーもあったかいうちに飲みたいから」

男「あ、そ、そうか」

吸血鬼「……あったかいもの飲むの久しぶりなんだ。本当に、人の血に負けないくらい美味しい」

男「……ごめん、ゆっくり飲んでくれ」

吸血鬼「うん……」

男「……もっとスマートに気遣いが出来るようになりたい」ボソッ

吸血鬼「そうなの?」

男「あれ!?聞こえた!?」

吸血鬼「吸血鬼は耳もいいんだー」

男「……恥ずかしい」

吸血鬼「……不器用な気遣いってのも、良い物だよー」

男「えぇ?」

吸血鬼「キミの気遣いはね」

吸血鬼「このコーヒーよりもあったかくて、染みるんだよ!すっごく心地良いものなんだよ!」

男「……」

吸血鬼「私は今何かをキミに返したくて仕方がない。何か私に出来ることはないかな!?」

男「い、いいよそんなの!」

吸血鬼「でも私キミと対等に付き合いたいもの!」

男「付き合う!?」

吸血鬼「あ、いや、男女の関係ってことではなく!!」

男「あ、そ、そうだよね!」

吸血鬼「う、うん!あ、そうだ!家事!家事するよ!私!!」

男「え!?いいよそんなの!」

吸血鬼「それくらいさせて!お願い!!家事くらいで対等なんて図々しかな……?」

男「いやいや!俺家事苦手だからすっごく助かるんだけど!」

吸血鬼「決まりっ!160年の経験値を見せてあげるよ!」

男「……じゃあお願いします!」

吸血鬼「らじゃ!」

吸血鬼「じゃ、さっそくお風呂洗ってくるよ!湯船、浸かるよね?」

男「あ、うん。お願い!」

吸血鬼「任せて!」

男「なんか悪いね」

吸血鬼「いえいえ!」






吸血鬼「終わりましたー!今お湯を張っております!」

男「ありがとー」

吸血鬼「お湯溜まりましたー!」

男「じゃあお先どうぞー」

吸血鬼「え!?いやいやキミが先に決まってるでしょう!!」

男「俺が入るタイミングはまだ先なんだー。先入っといでー!」

吸血鬼「そ、そうなの……言ってもらえればまだお湯張らなかったのに……」

男「君、結構気ぃ遣いだねー。俺は大雑把な質だから君も適当にやってよ!」

吸血鬼「じゃ、じゃあお先失礼しまーす……」

男「いってらっさーい!」

━━
━━━
━━━━

吸血鬼「良いお湯でしたー!」

男「あ、おかえりー」

吸血鬼「あったかいお湯ってこんなに素晴らしいものだったんだ……久しく忘れていた……」

男「よくあったまった?」

吸血鬼「それはもう!湯船に浸かる文化って最高!!」

男「それはよかった。じゃあ俺も入るかな」

吸血鬼「いってらっしゃい!」

男「……美少女が入ったお湯…………」

男「へ、変なことは考えてないぞ!」

男「くそぉ!!鎮まれ!俺の空気読めない息子よ!!」

男「……仕方ない。一発抜こう」

男「変な気を起こさない為にも必要だな。うん」

男「くそぉ……こんな展開、童貞の俺に耐えられるわけないだろ……!」

吸血鬼「おかえりー!」

男「すっきりしたー……」

吸血鬼「穏やかだなぁ……」

男「そうだねー……」

吸血鬼「……」

男「……ゲームしようか」

吸血鬼「ゲーム?囲碁か将棋かオセロならルールは知ってる!」

男「いや、テレビゲーム」

吸血鬼「おお!噂のテレビゲーム!!やりたいやりたい!!」

男「じゃスマブラでもしよーか!」

吸血鬼「うん!!」

男「このボタンがガードで、これがジャンプ。弱攻撃に強攻撃に……」

吸血鬼「ふんふん」






男「……こんなもんかな。じゃ、さっそくやってみようか」

吸血鬼「うん!!」

━━
━━━
━━━━

男「成長早すぎ!!もう勝てない……」

吸血鬼「吸血鬼の動体視力をナメちゃあいけない!」

男「結構自信あったのに……」

吸血鬼「ね、もっとやろ!」

男「べ、別のゲームやらない?勝てなくなっちゃったし!」

吸血鬼「情けないな!いいけど!」

━━
━━━
━━━━

男「アクションゲームでは勝てないことがわかりました!」

吸血鬼「自分の才能が恐ろしい……!」

男「そろそろ眠くなってきた。まだゲームやりたかったらやっててもいいよー」

吸血鬼「キミが寝るなら私も寝る。この辺で寝かせてもらうねー!」

男「え?いやいやカーペット敷いてあるとはいえ女の子を床で寝かせるなんてするわけないじゃん」

吸血鬼「カーペット、すごく快適だよ?ここで充分すぎるよ」

男「いいから君はそっちの部屋で寝なさい」

吸血鬼「ここはキミの部屋じゃん!」

男「まともな寝具はこの部屋のベッドしか無いもん」

吸血鬼「だから何で居候の私が一つしか無いまともな寝具で寝るのさ!」

男「女の子より快適な環境で寝るなんて俺のプライドが許さない。大丈夫、寝袋あるから」

吸血鬼「でもさ……」

男「いいから俺の為だと思ってベッドで寝てよ」

吸血鬼「……」

吸血鬼「あ、そうか、じゃあ一緒にベッドで寝ようよ!」

男「はぁ!?」

吸血鬼「平等だったらいいでしょ?」

男「いやいやいや!!それは俺には刺激が強すぎる!!断固拒否します!!」

吸血鬼「えぇー?」

男「じゃ、じゃあ俺はリビングで寝るから!」

吸血鬼「ちょ、ちょっと待って!」

男「?」

吸血鬼「い、一緒の部屋で寝てくれない……かな……」

男「へ!? 」

吸血鬼「お願い!!」

男「いや、でも……」

吸血鬼「お願いったらお願い!!」

男「い、いいの?」

吸血鬼「いいも何もお願いしてるんだよ!」

男「じゃ、じゃあ……同じ部屋で寝させていただきます」

吸血鬼「ありがとう!!」





男「じゃ電気消すね」

吸血鬼「はーい」



パチッ

吸血鬼「布団ってものっっっすごく気持ちいいね……」

男「……」

吸血鬼「私さ、久しぶりに生きてて良かったと思った」

男「……俺も」

吸血鬼「キミもなの?」

男「……まぁね」

吸血鬼「ほら、私ってさ、死ねないじゃん?銀の弾丸を打ち込まれるか心臓を杭で打たれるか首をはねられるかしない限り」

男「そう聞くね」

吸血鬼「今の時代そんな風に殺されることなんて無いしさ。長く生きることに絶望したりもしてたんだ」

男「……」

吸血鬼「でも、我ながら単純だけど」

吸血鬼「今幸せ」

男「……うん」

男「……普通に銃で撃たれても死なないんだ?」

吸血鬼「よっぽどグチャグチャになるまで撃たれない限りは」

男「どうして銀の銃弾は効くんだろうな」

吸血鬼「あれじゃない?銀イオンが血液に混入して、それが吸血鬼には致命的とか」

男「あれ?もしかして制汗剤で死ぬんじゃね?」

吸血鬼「傷口に吹き掛けられたらもしかしたらヤバいかも」

男「弱点は無くなったんじゃないの?」

吸血鬼「全部じゃないし。致命的な弱点くらいある」

男「……」

吸血鬼「……」

男「……寝るね」

吸血鬼「私も寝る……」





男「おやすみ……」

吸血鬼「おやすみなさい……」

吸血鬼「……」

吸血鬼「……寝たー?」

吸血鬼「…………」

吸血鬼「……布団気持ちいいなー…………」

吸血鬼「ご飯美味しかったなぁ……」

吸血鬼「……素敵な人だなぁ」

吸血鬼「……なんで人間に生まれなかったんだろう」

吸血鬼「……」

吸血鬼「…………寝よ」

吸血鬼「今度こそおやすみなさい……」

━━
━━━
━━━━

男「ん……」

男「……あれ?吸血鬼ちゃんがいない」

男「……何やら台所の方から懐かしい物音が」






男「……早いね」

吸血鬼「あ、もう起きちゃったー?ごめん、冷蔵庫勝手に開けちゃった……」

男「早起きして朝ご飯なんて作らなくていいのに……」

吸血鬼「家事するって言ったじゃん」

男「そうだけど……」

吸血鬼「もうすぐ出来るから座っててー」

男「……ありがとう」

吸血鬼「いいってことよー!あ、目玉焼きは堅焼きがいい?半熟がいい?」

男「半熟の方がいいなー」

吸血鬼「あいよっ!喰らえっ!!サニーサイドアップ!!」

男「必殺技みたいだ」

男「いただきまーす!」

吸血鬼「召し上がれ!」

男「む……この味噌汁、すげぇ美味い……」

吸血鬼「それはよかった!」

男「目玉焼きの焼き加減も絶妙だ……」

吸血鬼「そんなに褒めるない!」

男「ずっと野外生活してたくせに……」

吸血鬼「驚いたかい?」

男「うん……これは……すごいっ……!」

吸血鬼「あのさ、これはいつまでも居座るつもりで相談するんじゃないんだけど」

男「? 別にいつまでもいていいんだよ」

吸血鬼「……そ、それはまぁ置いといて」

男「うん」

吸血鬼「私バイト始めようと思うんだ」

男「え?」

吸血鬼「一緒に住む以上せめて半分お金負担したいから」

男「そ、そんなの!別に無理することないんだよ!!」

吸血鬼「全然無理なんかしてないよ。私バイト経験あるし」

男「気にしなくていいのに……」

吸血鬼「だからね、住所を使わせて欲しいの」

男「うん、それは別にいいんだけど」

吸血鬼「それから……その……」

男「何?」

吸血鬼「履歴書と写真を用意するお金を貸して欲しいの……」

男「何をそんな深刻そうに……いいよ、それくらい」

吸血鬼「ありがとう!」

男「……じゃ、ネットでバイト探す?」

吸血鬼「あー、ネット!でも網張って待つよりは私はもっとアグレッシブに探しに行きたいな」

男「インターネットのことな」

吸血鬼「インターネット!あの伝説の!!」

男「どこで伝承されてるんだ」

吸血鬼「あ……家で探せちゃうの?」

男「うん」

吸血鬼「そ、そっか……」

男「……いや、やっぱ一緒に外へ探しに行こうか」

吸血鬼「! ほ、本当!?」

男「まー個人経営のお店とかネットで求人してないとこも多いしね。ぶらぶらしながら求人の貼り紙でも探そー!」

吸血鬼「う、うん!!」

男「……それはそうと昨日と同じ服で出かけるの?」

吸血鬼「あ、そっか。裏山にもう一着着替えあるから取ってくるね!」

男「……二着しかないの?」

吸血鬼「? うん」

男「よし、今日は君の生活必需品を揃えよう」

吸血鬼「えぇ!?いや私お金無いんだってば!!」

男「だから貸したげるよ。バイト始まったら返してくれればいいからさ」

吸血鬼「……」

男「服に食器に……」

吸血鬼「だ、だから私は食事必要無くて」

男「駄目、一緒に食べるの。えーとそれから……洗面具か」

吸血鬼「え、えっと……」

男「じゃ、とりあえず俺の服貸すよ。ジーパンしか無いけど」

吸血鬼「あ、じゃあ……借りるね……」

男「じゃあさっさと着替えて出かけようか!」

吸血鬼「う、うん!」





男「……くそ、俺の服を着てるのに可愛い」

吸血鬼「へ、へへー……私可愛い?」

男「うん。それじゃあしゅっぱーつ!」

吸血鬼「おーっ!!」

男「まず服買いに行くか」

吸血鬼「うん!」

男「あと靴も買おう」

吸血鬼「うん!」

男「ごめん、貸すとか言っちゃったけどそんなに余裕があるわけじゃないんだ。だからユニクロでいいかな?」

吸血鬼「ユニクロ?何かわかんないけどどこでもいいよっ!」

男「ま、じゃあとりあえずユニクロへ」

男「じゃあとりあえず適当に見繕ってきなよ」

吸血鬼「男が選んで!」

男「え、えぇ!?俺ファッションとか疎いんだ!」

吸血鬼「私は男が可愛いと思う服を着たいの!!」

男「え、えっと……それって……」

吸血鬼「あ、いや深い意味は無くてね!!?」

男「で、でも本当に俺が選んでいいのか?」

吸血鬼「うん!ていうかなんか周りの人に笑われてるし早くして!!」

男「お、おう!」

━━
━━━
━━━━

男「大体揃ったかな……」

吸血鬼「うん、ありがとう!」

男「じゃ、お昼ご飯食べようか」

吸血鬼「え、えーと……」

男「一緒に食べるんだよ。この辺に友達に教えてもらった美味しいお店があるんだけどそこでいいかな?」

吸血鬼「あ、うん!!」

男「じゃあ行こっか」

吸血鬼「うん!」

男「俺トマトパスタ」

吸血鬼「私ペペロンチーノ」

男「……にんにく好きだな」

吸血鬼「へへー」

男「……」ソワソワ

吸血鬼「……なんかキミ、そわそわしてない?」

男「あ、いや……なんとなく思ったよりオシャレな店だったから……」

吸血鬼「だから?」

男「こういうとこ経験無いもんで……」

吸血鬼「気ぃ小さいね」

男「ごちそうさま!」

吸血鬼「ごちそうさまでした!」

男「さて、求人もいくつか見つかったし午後は遊ぼうか!」

吸血鬼「本当!?何して遊ぶ!?」

男「パッと思いつくのは……ボウリング、カラオケ、ゲームセンター……」

吸血鬼「どれもこれも魅力的だね!」

男「じゃあ今日はちょっと忙しなくたくさん回ろうか!」

吸血鬼「うん!」

━━
━━━
━━━━

吸血鬼「いやー楽しかったぁ!!」

男「初ボウリングで180点とか……」

吸血鬼「キミ、歌上手いねぇー!聴き惚れちゃった!!」

男「あ、本当?趣味なんだーカラオケ」

吸血鬼「どうりで!」

男「まぁほとんどヒトカラなんだけど……」

吸血鬼「最近の歌ってかっこいいんだねぇー……」

男「君はだいぶ伝統のある曲ばっか歌ってたね……」

吸血鬼「あ、これ……」

男「あー花火大会の広告……もうそんな季節かー……」

吸血鬼「二週間後……」

男「……一緒に行かない?」

吸血鬼「え?」

男「花火大会、一緒に行こうよ」

吸血鬼「あ、でも……いいの?こういうのは一緒に行くお友達がいるんじゃ……」

男「野郎と行って何が楽しいんだよ。君こそいいの?」

吸血鬼「わ、私は行きたいけど……」

男「じゃあ決まり!二週間後が楽しみだね!!」

吸血鬼「…………うん!」

━━
━━━
━━━━

吸血鬼「ただいまー!」

男「おかえりー。ちゃんとバイト早めに上がれたね!」

吸血鬼「花火大会何時からっ?」

男「7時から。今5時だね」

吸血鬼「ちょっと早いけどもう出ちゃうー?」

男「まぁちょっと待てって。こっち来て」

吸血鬼「?」

男「じゃーん!」

吸血鬼「!」

男「浴衣!お袋に送ってもらった!」

吸血鬼「! そ、それ女物じゃ……ま、まさか……!」

男「うん!」

吸血鬼「キミにそういう趣味があったなんて……!」

男「違う!!君の!!」

吸血鬼「冗談だよ。でもいいの?これ妹さんのじゃ……」

男「あーあいつは浴衣とか着たがらないからいいの。だから実家に置いてきたんだし」

吸血鬼「じゃあ……」

男「うん。キミに着て欲しくて」

吸血鬼「……嬉しい…………!」

男「君着付けとかわかる?」

吸血鬼「あ、わかんない……」

男「じゃあパソコンで調べながら着替えてきて!パソコンの使い方は教えたよね?」

吸血鬼「うん!」

男「じゃ、待ってるよー」

吸血鬼「う、うん!」

━━
━━━
━━━━

吸血鬼「出来たー!」

男「お……」

吸血鬼「どう?似合う?」

男「……」

吸血鬼「? ちょっとー」

男「あ、うん!!すげー似合う!」

吸血鬼「本当?」

男「すごい破壊力!!」

吸血鬼「破壊力!?」

男「しかし浴衣を着た吸血鬼ってのもオツだな!」

男「じゃ、じゃあ行こうか!」

吸血鬼「うん!」







男「……」

吸血鬼「人が増えてきたねー!」

男「う、うん……」

吸血鬼「なんかキミ、変じゃない?」

男「ちょ、ちょっと緊張してるだけ!」

吸血鬼「? ふーん」

男「屋台が出てるねー」

吸血鬼「あ、綿菓子がある!買ってきていい?」

男「じゃあ買ってきてあげる」

吸血鬼「い、いいよ!バイト先は週払いだから私ももうお金持ってる!!」

男「お祭りの日はいーの!今日は男の俺になーんでもねだりなさい!」

吸血鬼「な、なんでお祭りはいいの?」

男「特別な日だから!俺が見栄をはりたい日だから!」

吸血鬼「う、うーん……」

男「じゃ、買ってくる!」

吸血鬼「あ、ちょっと!」

男「はい!」

吸血鬼「あ、ありがとう……」

男「くれぐれも遠慮をしないよーに!遠慮をされたら俺の面子が潰れると思え!!」

吸血鬼「え……あ……」

男「わかった!?」

吸血鬼「は、はい」




男「あ……」

吸血鬼「花火……」

男「始まった!!急げ!!」

吸血鬼「えっ!? 」

男「走れー!走れー!」

吸血鬼「べ、別にここからでも見えるからゆっくり行けば……」

男「いいから!走れー!」

吸血鬼「う、うん」





男「……浴衣着てるのに速いね」

吸血鬼「つま先が動けばこれくらいわけない」

男「着いた!」

吸血鬼「こ、ここは……」

男「へへー、席とっといたんだー」

吸血鬼「こ、これってお金かかるんだよね……?」

男「だーから今日はそういうこと気にしないの!!俺の為に俺に甘えて!」

吸血鬼「あ、ありがとう……」

男「ほら!早く行こう!」

吸血鬼「う、うん!」

男「はい、ここ座ってー」

吸血鬼「ありがとう」

男「お礼はいいから花火見よー!」

吸血鬼「う、うん」



ヒューーーー……

ドドドドォーン……




吸血鬼「……!!」

男「す、ずげぇ……!」

吸血鬼「そ、空一面だよっ!!すごいすごいっ!!」

男「ほ、本当……すげぇ……」

吸血鬼「何これ……綺麗!綺麗っ……!」

男「こ、こんなにすごい花火大会だったんだな……」

吸血鬼「ふわぁ……」

男「……」

吸血鬼「…………」

男「……」ソーッ…



ギュッ



吸血鬼「ふあっ!?」バッ

男「あっ、だ、駄目……かな……?」

吸血鬼「あ、い、いや……」



吸血鬼「駄目……じゃない……」

男「そ、そう?じゃあ……手、出してよ……」

吸血鬼「う、うん……」



ギュッ

ドォーン…ドォーン…


男「…………」

吸血鬼「…………」








男「……終わった…………」

吸血鬼「綺麗……だったねー…………」

男「……」

吸血鬼「……」

男「……行こうか」

吸血鬼「うん……」







吸血鬼「……」テクテク

男「……」テクテク

吸血鬼「今日はありがとう……すっっっごく楽しかった……」

男「うん……」

男「……あのさ、少し話があるんだけどいい?」

吸血鬼「? う、うん」

男「そこの公園で話そう」

吸血鬼「う、うん」

男「何飲むー?」

吸血鬼「あ……じゃあ紅茶花伝を……」

男「トマトジュースもあるよ?」

吸血鬼「どうしてトマトジュースを勧めるの……紅茶花伝ください」

男「ん」ピッガランゴロン

男「俺はコーヒーにしよ」ピッガランゴロン

男「どーぞー」

吸血鬼「ありがとう……いただきます」

男「いただきまーす」

男「さて、本題です」

吸血鬼「……何でしょう?」

男「あのさ、長く生きるのってやっぱり辛い?寂しい?」

吸血鬼「……どうだろう」

男「……どうだろうって?」

吸血鬼「そうだなー……考えないようにしてたかなー……」

男「考えないように……」

吸血鬼「昔は辛かったし寂しかった。絶望して自殺しようとも思ったけど私が死ねるほど自分の身体を痛めつけることも怖くて出来なかった」

吸血鬼「二、三年血を吸わなければ死ねるんだけど、これまたしんどくて……」

男「……」

吸血鬼「で、そんなのがずっと続いたら、絶望を切り離して死ぬことを考えられるようになった」

吸血鬼「私はどうやって死ぬべきか?良い方法が見つかったとしていつ死ぬべきか?そんなことをずっと考えてた」

吸血鬼「辛さ、寂しさは感じなくなって、ずっと純粋に死に方だけを考えることが出来てた」

男「……」

吸血鬼「……と、思ってた…………」

男「え?」

吸血鬼「二週間前キミに会ってから、幸せってものを久しぶりに味わってさ」

吸血鬼「いや、思考が成熟してからはもしかして初めてかも?両親とは不仲だったし」

男「え!そうだったの!?」

吸血鬼「まぁね。そこはまぁいろいろあって。……で、話を戻すとキミのおかげで私は幸せを味わった。幸せの中でちょっと前までのことを思い出すとさ」

吸血鬼「どーしようもなく胸が締め付けられるんだよ。痛くて苦しくてぶっちゃけ何度か吐いた」

男「えぇ!?」

吸血鬼「思うにさ、私はやっぱりずっと辛くて寂しかったんだ。それが当たり前になれば辛さ寂しさが平常心になっちゃうわけで」

男「……」

吸血鬼「慣れってすごいね……絶望すらも許容する」

吸血鬼「でも……脆い。たった二週間で覆っちゃう……」

男「……長く生きてる君に、おこがましいけどそれでも一つ言いたいことがある」

吸血鬼「?」

男「幸せは、慣れない」

吸血鬼「……!」

男「これは俺の希望的なものだ。たった20年しか生きてないのにって君は笑うかもしれない。でもきっと、絶対そうだ」

吸血鬼「……前さ、キミも寂しかったって言ったよね?辛かったんだよね?それなのになんでそんなことが言えるのさ!!」

男「俺の辛さ寂しさは君のみたいなまともなものじゃないし……」

吸血鬼「……参考までに、キミはどうして寂しかったの?」

男「え、えーと……情けなくてあまり人に言いたくないんだけど……」

吸血鬼「いいから。どんな原因だろうと苦しみが情けないなんてこと無い」

男「えっと……あのさ、俺あんまり楽しく感じることって無くてさ、楽しみが無いのにどうしてしんどいことをしなくちゃいけないんだろう、って思って」

男「しんどいことばかりしなきゃいけない人生なんてしんどいなーと思って……いつの間にか無気力になって……」

吸血鬼「……」

男「何もかもどうでもよくなって……現役で大学入って20歳なのに実はまだ一回生なんだよね……学校行かなくなっちゃって」

男「今年は親への申し訳なさがギリギリで勝ってなんとかなってたけど……その内それすらどうでも良くなるんだろうなって……」

男「自分の駄目人間さに絶望して……あ、いやこんなので絶望なんて言っちゃいけないな」

吸血鬼「ううん、そんなことない。続けて」

男「……で、そんなときに君に会った」

吸血鬼「……」

男「いやー楽しいのなんのって!あーそうだこれが幸せだ!って思い出したんだよ!」

吸血鬼「……ん」

男「いや、思い出したってのは違うかな?今までにないくらいの幸せだったから!」

吸血鬼「お、大袈裟だな……」

男「ううん。大袈裟じゃない」

吸血鬼「え、っと……」

男「で、この幸せがずっと、ずーーーっと続いたら慣れちゃうのか?って考えた」

吸血鬼「……」

男「慣れないと確信した! 」

吸血鬼「……ついこないだまで絶望してたくせに」

男「まーねー。でも俺はうじうじ考えることと妄想することについては自信があるのさ」

男「そしてネガティブ思考で悲観的な俺が、君と過ごせばずっと幸せでいられると確信した!」

吸血鬼「っ!」

男「そこで俺は君にお願いしたい!内容はもうわかるね!?」

吸血鬼「あ、えっと……ちょ、ちょっと待って……///」




男「君の一生を俺にくださいっ!!」

吸血鬼「待ってって言ったじゃんっ!!」




男「で、返事は?」

吸血鬼「き、キミこそ……わかってるくせにっ……//」




吸血鬼「お、お願いします……///」

男「……よろしくお願いしますっ!!」

吸血鬼「ゆ、夢みたい……」

男「……俺も」

吸血鬼「少しの間……と思ってた幸せがあと60年程続くなんて……」

男「? 60年?」

吸血鬼「え?キミ今20歳でしょ?キミが死ぬまであと60年くらいだよね」

男「……君勘違いしてるね。さっき俺は何て言った?」

吸血鬼「え……?君の一生を……」

吸血鬼「あっ!?」

男「うん。俺を吸血鬼にしてくれ」

吸血鬼「だっ、駄目だよ!!長く生きるのは辛いって話をさっき私したじゃん!!」

男「一人で長く生きるのは辛いって話しだろ?」

吸血鬼「い、いやいやいくら私といたってずっとずーっと続けば……!」

男「ずっと幸せだってさっき言ったじゃん」

吸血鬼「そ、それは人の一生の内の話だと思って……」

男「俺は最初から吸血鬼の一生のつもりで話してた」

吸血鬼「そ、それでも……」

男「君は別にいつか俺に飽きてもいいんだよ。俺はずっと君を愛するから」

吸血鬼「愛っ!?いやそれなら私だって!」

男「じゃあ問題無いじゃん」

吸血鬼「…………!」

吸血鬼「……甘い、甘いよキミは…………!」

男「いーや甘くないね。俺だって安易に決めたわけじゃない。これまでの人生で一番考えに考えぬいたよ」

吸血鬼「……たかだか20年の人生のくせにっ!」

男「うん。でも君とこれから何百年でも何千年でも生きたい」

吸血鬼「…………んあーっ!!//」

吸血鬼「……これ以上キミが吸血鬼になって私と一緒に生きたいと言い張るなら」

男「うん」

吸血鬼「それを押し退けてこの場から立ち去れるほどキミへの想いは軽くないし、そこまで私は強くもない」

男「うん」

吸血鬼「最後のチャンスだ。今キミが拒否すればなんとか私も踏みとどまれる」




吸血鬼「……本当に、いいの?」

男「おう!!」



吸血鬼「…………!!!」

吸血鬼「……じゃ、じゃあ…………」

男「……」

吸血鬼「……す、吸う……からね」

男「ああ。なんだかんだで血を吸われるのは初めてだな」

吸血鬼「そ、そうだね……」

男「……どうした?早く吸えよ」

吸血鬼「あ、あの……血を吸うときって首から吸うんだけど……」

男「? そうだろうな」

吸血鬼「……な、なんか恥ずかしいから目を閉じててくれない?」

男「あ、そ、そう」

男「はい。閉じたよ」

吸血鬼「う、うん……それでは……」





吸血鬼「えいっ!」チュッ





男「………っ!!///」

吸血鬼「あははーガラ空きだよ!!///」

男「は……初めては俺がリードしたかったのにっ……!!」

吸血鬼「ふふん!残念でしたー!!」

吸血鬼「男!大好きっ!!」ガバッ

男「ちょ、ちょっと待った!!お前本当力強いな!!」

吸血鬼「男だって五分後には同じパワーになってんだよっ!!ほら!私が言ったんだから男もっ!!」

男「え?」

吸血鬼「もー!!」

男「あ、ああ!」





男「大好きだ、吸血鬼」

吸血鬼「うんっ!!」




ガブッ




fin

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