女「公衆便女だよ」(67)

帰り道、急に腹痛に襲われた。

今にも決壊しそうだ。

幸い、近くに公園があった。

慎重に、早足でトイレへ。

入り口に清掃中の看板が立っていたが、緊急事態につき無視。

なんとかたどり着いた。

いささか乱暴に個室のドアを開けると、中に女がいた。

女子トイレと間違えたか?

いや、でも小便器はあった。

くそっ、なんで個室が一つしかないんだ。

とにかく別の、いっそ女子トイレに……

入り口で立ち尽くしていると、顔色で察したのか女が便器を譲ってくれた。

最中ではなかったようだ。

感謝もそこそこに、扉を閉め、ズボンを下ろし、腰掛ける。

尻が便座につくまえに噴出。

下品な水音と、遅れて臭気がただよう。

ああ、助かった。

安心感につつまれる。

幸せだ。

ひと心地つくと、疑問が沸いて来る。

なんでここに女がいたんだろう?

清掃員か?

それにしては服装が変だった。

あまり良くはみていないけれど、あれはバスローブだったんじゃないだろうか。

だいたい、清掃員にしては若すぎる。

偏見かもしれないが、ああいうのはいわゆるおばちゃん、おじさんの仕事だろう。

個室の中も変だ。

妙に生活感というか、人のいた気配がある。

あの女、ここに住んでるんじゃないだろうな。

そんな馬鹿な考えまで沸いて来る。

いやしかし、もともとの状況が尋常じゃない。

なにがあっても不思議では……

まあいい。

もう女もいないし、確かめようがない。

一通り出し切ったので、くだらない考えにキリをつけて、紙に手をのばす。

尻を拭くと、おびただしい茶色のシミ。

ウォシュレットがほしいな。

無い物ねだりはよそう。

十分に拭き取って、レバーを下げる。

グルグルまわりながら消える汚物。

いわれのない達成感と共にドアをあけると、女がいた。

「間に合ってよかったね」

平坦な声で女が言う。

どうも……と、でも返せばいいのだろうか。

なんだこの女は。

どうしてまだいるんだ。

さっき止めた疑問がまた溢れ出す。

「出てもらっていい? ちょっと邪魔」

追撃。

思わず道を開けてしまう。

身体を横にしてスッと個室に入ってしまった。

便座を紙でサッと拭くと、便器へぽい。

一連の動作が滑らかだ。

「……君、だれ?」

「公衆便女だよ」

平坦な声だった。

公衆便所?

この女が?

トイレの精とか、そういうことか?

見えてはいけないものが見えてしまう人種の匂いがする。

格好もやはりおかしい。

ところどころ染みのついたバスローブ一枚だけのようにみえる。

まともな人間が外で着ているべきものではない。

今は便器に腰をかけ、大きめの肩掛けを下ろしている。

……こういうとき警察と病院、どちらにすべきだろう?

「あなたの、ずいぶん臭うね」

ずいぶん直接にもの言うやつだ。

むっとするこっちを無視して、鞄を漁る。

消臭スプレーだ。

茶色の臭いがきえてゆく。

「で、使うの?」

個室を清めながら女が尋ねる。

「……使うって、なにを?」

「わたし」

「はあ?」

「公衆便女だから、わたし。好きに使ってください」

使うって、どういうことだろうか。

どうも、そういうことしか想像できない

いつの間にか、硬くなっていた。

「使うみたいね」

そこを見ながら女が言う。

事務的な口調に、なぜかゾクリとした

今すぐにでもズボンを脱ぎ捨てたかったが、ありえない状況に理性が働く。

「……い、いくら?」

物語の中でしか聞いたことのない台詞を口走る。

十分錯乱しているようだ。

「タダだよ」

女が薄く微笑む。

「ココも、ココも、ココもココもココも…」

…みーんなタダ

唇から始め、女の身体の随所を細い指先がなぞる。

それだけでバスローブの下の身体が意識される。

もうどうなってもいい。

使おう。

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