騎士「そうだ。俺は、勇者になりたかったんだ……」(109)




「僕ね!大きくなったら父上のような立派な騎士になりたい!
 それでね、お話の勇者さまみたいになるの!なれるかなぁ?」

それが子供の頃の口癖だった
父は誰もが讃えてやまない素晴らしい騎士で、それが彼の自慢であり誇りだった


いつか自分もと、胸に秘める事数年



子供は青年となり、今まさに憧れへの一歩を踏み出そうとしていた





騎士と勇者の物語





青年が騎士を目指して数年。一日たりとも精進を忘れた日はなかった
幼い頃より勉学、武術双方を弛まぬ努力で学び、今日この日にために備えていたのだ


――騎士試練


それは、騎士を目指す者にとっての最初の壁であり登竜門
騎士となるのに相応しい人物かを見定め、ふるいに掛けるのだ
そうして突破したものは騎士として封ぜられる


青年はついにこの日がやってきたと感無量だった

青年(だが、これは俺にとって超えねばならないただの壁だ
   目指すものは、その先にある……足元をすくわれるなよ!)

両の頬を平手で叩き、気合を入れなおす

そして試練は始まった


試練は普通。そう、至って普通だった
筆記、面接、武術披露。今のところ特別なことは行われなかった

青年(んん?父上の話では、随分厄介だったと聞かされたのだが…
   脅かされただけかな)

普段の努力のせいか、そのどれもを難なく終わらせてしまった青年にとって、拍子抜けもいいところだった
ところが…


「諸君、これより最終試練を実施する。各自、指示された監督に付いていくように」


危険な任務を行うこともある騎士にとって、頭の良さや腕っ節の強さよりも重視していたものがある
それは任務達成力と生存力だった


任務を達成できなければ、場合によっては国が危機に晒されることもある
また、任務を完遂しても、生きて戻らなければ意味が無い
騎士とは兵士と違って、おいそれと補充できるものではなかった



「――つまり、この試練ではいかに任務を達成して帰還できるかを見ることになる」

青年の担当者が簡単に説明していった

青年「それで、その試練の内容とは…」

「お主にはここより北に向かい、マダラ蜘蛛糸を取ってきて貰いたい」

青年「マダラ……大蜘蛛からわずかに取れ、大弩などに使われる大糸、ですか?」

「うむ。よく知っているな。その通り。お主はそれをなんとか手に入れ、ここにいる私に納品してほしい」

青年「……ちなみに聞きますが、お金で買って納品、というのは…?」

青年の質問に、口角を釣り上げた形で笑みを作り、

「やっても良いが、バレたら剥奪の上に永久に騎士になることは出来ない
 そして禁錮刑だ。実はそういう輩が結構居るのだよ」

やけに楽しそうだった。彼がそういった人達の不正を暴いているのだろうか?
いやらしい笑みを貼りつけたまま告げた

「期限は今より四日後の日没までとする」



北の山岳地帯
この岩だらけの寂れた場所に、大蜘蛛は好んで生息している
巨大な巣を張り、巨鳥や、山頂に居着く動物などを捕食している

強靭無比な肉体を持ち、凶暴。牙に麻痺毒を持ち、それをもって獲物の動きを止める
吐き出す蜘蛛糸にも弱性の毒があり、絡めとった獲物を徐々に弱らせる働きを持つ


青年「厄介だな…」

家から持ちだした簡易図鑑を荷物へ突っ込む

青年「例の蜘蛛糸は蜘蛛から吐き出される前に取らないといけないから、どうしても対決は免れない…」

そうぼやきながらも意気は高まっている
自分だけの力を頼りに困難に挑む。まさに望むところだった



青年「いた…!」

青年の足元に巨大な蜘蛛の巣が見えた
そこに大蜘蛛もいた

青年「火や爆弾は使えないな…」

剣と弓矢。これが今使える武器だった

青年「矢は十五本。予想よりも大きいけど、十分だろう」

そう算段をつけると自分に優位な位置取りを探した
太陽の向かいに立ち影を悟られないようにする
そして大蜘蛛を下、自分を上に置き、準備は整った


青年(近寄られたら終わりだ……。頭だ。一発で決めろっ!)   


渾身の力で弦を引き絞る
 

ピョゥッ!


矢が大蜘蛛の頭部に見事命中した

青年「よし!二発目もくらえッ!」

続けて第二射も放たれた
しかしそれを、巨大で頑丈な足で防いだ
大蜘蛛が矢の方向を見定める

青年「しまった!気付かれた!」

想像以上の知能に、思わず動揺してしまった
まさか一発目で居場所を看破されるとは思っていなかったのだ

青年(姿を隠していたのに…!これほどとはっ!)

ゴツゴツとした岩肌を、巨大な足で力強く登ってくる
その勢いに気圧された


何度か射掛けるが、勢いは収まらなかった
諦めて腰に下げた剣を抜刀し、構える

青年(登り切った所で、無防備な腹に一撃を加えてやる!)


ガシガシッ
       ガシガシッ

   ガシッ!

青年「ここだあッ!くらえッッ!!」

風切り音をたてて剣を突き出す
しかし、剣は空を切った

青年(え……?)

青年の頭上に影がかかる
そう、大蜘蛛は登り切る直前にあろうことか飛んだのだ

度肝を抜かれた青年は青ざめた
対峙する敵は、予想をはるかに上回る知能を有し、それを的確に操っている
初めて感じる死の恐怖だった


大蜘蛛は、青年を飛び越え背後を取った
青年も大蜘蛛へ振り返る

様子をうかがっているのか、大蜘蛛は直ぐには動かない
青年も蜘蛛と睨み合ったまま動けないでいた

青年(………)

背後に背負った日光が、ジリジリと照りつける
叫びたくなるほどの張り詰めた空気、緊張感
剣を握る手に力がこもる



最初に動いたのは青年だった

青年「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーッッ!!」

雄叫びを上げながら、剣を突き出し突進する
狙うは頭部。一撃必殺だった


大蜘蛛は足を器用に使い、剣に向かって突き出した
直前でそれをかわす。本当の狙いはこれだった

かわした勢いを使って身体を回転させ、そのまま剣を突き出された足、その関節へ叩きつけた

バキッ!っと音がして、右の前足が一本切り落とされた


確かな手応えに、体の奥底から勇気が湧いてくる
大蜘蛛が痛みに悶えている間に、手頃な大岩によじ登る

そして、大蜘蛛めがけて落下攻撃をおこなった

青年「でりゃぁぁぁぁぁあああああッ!」

裂帛の気合とともに剣を頭部へ振り下ろした
全体重を利用した必殺の攻撃だった


異常を察した大蜘蛛だったが、それよりも早く、青年の剣が大蜘蛛に到達した


青年「く、た、ば、り、や、が、れぇぇぇぇぇぇーーーッ!!」

暴れまわる蜘蛛に負けないようにさらに力を込める
深く、より深く剣が食い込んでいく


しばらくすると、蜘蛛の動きが弱くなってきた
そして、ついに大蜘蛛が力尽きた

青年「ハァ…ハァ…」

青年はそのまま蜘蛛の骸の中に崩れ落ちた
大蜘蛛の体液でベトベトになっていても、それを拭う気力もなかった



しばらくそのまま息を整えた
僅かな戦闘時間だったが、疲労困憊だった
息が整うと、疲労で震える手を叱咤して、大蜘蛛の体を切り開いていく


青年「あった、これだ!」

大蜘蛛の体から、一際奇妙な糸を取り出した
それはマダラ模様をしていた

それを懐から取り出した袋へ丁寧に入れ、大切にしまった

死骸からよろよろと這い出て、適当な岩に腰を下ろした
そして大きく深呼吸をする

青年「フゥゥ~~……。 くせぇ……」



これで、彼に課せられた試練は終了した
後は、生きて納品するだけだ



……

「やあやあ息子よ!聞いておるぞ。おめでとう!」

青年「父上!」

親子は固く抱擁をかわした

青年「相変わらずお耳が早いですね。今から報告しに行くところだったのです」

「ハッハッハ!固いことを言う
 なんでも今回は、お前と後二人だけだったらしいじゃないか」

青年「そうなのですか?自分のことに必死でどうにも……」

「うむ。よろしい。が、もう少し視野を広く持て。何がどうなるか知っておくのは、何事にも有効だ」

大蜘蛛との一戦を思い出し、その言葉を肝に銘じた

「さ、母上に報告しにいくといい。首を長くして待っていたぞ」

そう言って青年を送り出した


優しく戸を叩き、声をかける

青年「母上、私です」

「まあ!待っていたのですよ。お入りになって」

入室すると、相変わらず顔色悪くベッドに横になる母が居た
弱り、やせ細った母の傍らに立つ

青年「母上見て下さい」

そう言ってエンブレムを見せた
それは騎士の称号、証だった

「ああ、よくやったわ!これでお父様と肩を並べられるのね」

目にうっすらと涙を浮かべる
青年の手を握る手に、熱がこもった

「もう、思い残すことはないわ……立派になったわね…」

青年「何を言うのです、母上!」

「いいのです。自分の体のことは良くわかります…
 でも、これで安心して逝くことができます」

青年「母上……」



五年ほど前、突如謎の病に母が襲われた
父は八方手を尽くし、高名な医師、薬、果ては怪しげなものまで
ありとあらゆる方法で、母を治そうとした

結果は言わずもがな。今の有様であった

誰よりも悲しんだのは父であり、誰よりも冷静に受け止めたのは母であった
悲しむ父を逆に慰め、元気づけたのである



青年は母の言葉を受け、名に恥じぬ騎士になろうと、
母が失望しないようにと、心に誓った




青年が騎士になり、数年が経った
今や青年は若手たちの憧れの的だった

模範的であり、常に努力を続ける姿勢、物腰の柔らかい姿に、人気を博した
そして実力も抜きん出ていた。家伝の剣、弓、槍、馬……
特に槍術は、他を寄せ付けないほどの冴えを見せ、師である父を上回りつつあった
年々実力が上昇していき、第一の勇士も目前と噂されていた



ある日……

青年「魔物の討伐ですか?」

「そうだ。魔物を滅ぼすのも我らの勤め。
 お前は私の指揮下に入り、魔物討伐へ向かう」

青年「場所は何処です?」

「……剣の山、麓にある廃村だ」


―剣の山

帝国の真北へ位置した大山脈。霧の谷も有している
とにかく険しい山々で、山越えを行うことは不可能とされ、事実その通りに越えたものは居ない
山の向こうへ行くのならば、霧の谷を抜けていかなければなない
霧の谷は年中濃霧に覆われている谷で、わずかに毒をはらんでいる

はるか昔に霧の谷を抜けた者達がおり、その者達が建国したのが霧の国と言われている
西の蛮族を鎮圧するという大業を成し遂げ、また剣の山と霧の谷に背後を守られた、要害の地とされる

また剣の山は、物語に登場するほど魔物の出現する頻度が高い
かの魔王も剣の山から現出したと言われているほどだった



青年「剣の山ですか……穏やかではないですね」

「うむ。ゆえに我らが赴くのだ。万全を期してな」

万全。魔物相手にどれほどの準備をすれば万全といえるのだろう
その言葉の重みを知っているのか、目の前の騎士には深いシワが刻まれていた


青年「しかし、今の私は父の代わりに母を看なければ…」

「ああ、それは承知している
 私が信頼している医師団に、母君を看させよう。君の代わりに母君の世話をさせるのだ」

青年「……ですが」

「分かってくれ。今回の遠征、君の力がどうしても必要なのだ」

青年「……」

「母君も、任務を取ることを喜ばれると思うが」

青年「分かりました。微力ながら協力いたします」

「決心してくれたか」


青年の母はまだ生きていた
しかし、それはただ「生きているだけ」という状態だった
もう話すことも、笑うことも、怒ることもない
生きる屍だった

だが、それでも諦めずに青年の父は打開策を探し続けた
今も世界各地を飛び回り、珍品名品名医をかき集めている
そして、その留守の間の母の看護を青年が行なっていたのだ

出立の日

青年は暫くの間家を離れることを母に報告した後、討伐隊へ加わった


騎士二十名、三人一組の弩戦車が四騎、計三十ニ名の大規模な編成だった
それほどの魔物が現れたのだろうか



廃村

今はすっかり寂れているが、僅かに賑やかだった頃の面影が残っていた

青年「このような場所にどうして魔物が…」

「わからん。おそらく山で現出し、流れ流れてここに到達したのだろう」

「情報ではたまたまここを通りがかった商人連中が、巨大な影と吼え声を聞いた。
 同じく通りがかった冒険者が、近くの森の木々をなぎ倒す何かを見た…
 ……実際の被害は出てはいないようですね」

青年「それでなぜ我々がこのような重装備で?」

「・・・可能性だ」

青年「可能性?」

青年は理解しかねて、オウム返しに聞いた


「竜だ。情報部の調査でその可能性が浮上してきた
 我々は討伐と同時に調査も兼ねた隊でもある。もし竜の場合、討伐から調査へ切り替え、情報を伝える」

「竜…!」



―竜
強力無比な肉体を持ち、巨大な身体で空を駆る覇者
その生態は謎に包まれており、そもそも遭遇した例が少ない
有史以来、竜を倒したという話しは帝都の魔人譚でのみ語られている
また、竜は魔界の生物ではなく、もともと地上に生息していたという学説が発表されている


青年「竜退治は騎士の誉れ。しかし、実際に退治した話は騎士ではなかった魔人のみ…か」

「だけど、そんな怖ろしい怪物がそんなちゃちい噂や情報だけだなんて、情報部はちゃんと機能しているのか?」

「万が一、だ。そのために我々が直々に調査するのだぞ。
 竜でなくとも、魔物は厄介だ。油断していると足元を救われるぞ」

「フフフ…。分かってますよ」


日がやや傾き始めてきた
騎士団は調査を開始し始めて、既に二時間が経過していた


「変ですね…。巨大なものが居れば、その痕跡は容易に分かるはずなのに…」

青年「これだけ探しても、情報と合致する地点が見つけられないなんて」

「情報の一つに巨大な何かが木々を倒していた、というのがあったが、それすら見当たらない…
 一体どういうことだ?」

「何か、ヤバい雰囲気がありますね……」

「チッ。情報部はマジに仕事してんのかよっ」


騎士団率いる団長が危険を察知して調査の一時中止、招集をかけた


しばらくして、周囲を調査していた騎士たちが足早に戻ってきた

「何か様子がおかしい。陣形を敷き、警戒に当たれ」

団長の号令のもと、弩戦車を中心に陣形を敷いていく
この場に居た誰もが多かれ少なかれ異常を感じていた。言葉に出せない違和感のようなものを肌で感じ取っていた


突如、ピンッ!と空気が張り詰めた
一同の鼓膜を聞こえない何かが震わせ、耳鳴りを引き起こしたのだ

青年「痛っ!」

突然の痛覚に、思わず耳を押さえる


そして



ド、ド、ドォォォォンッ!


耳を押さえる騎士たちの目の前の木々が、次々となぎ倒されていった


それはあまりにもおぞましく、そして不快だった

芋虫のような体に、しわくちゃの赤子の顔
巨体を引きずる小さな足、頭部から伸びるヌメヌメとした光沢を持つ触手
体毛のない体は何かの粘液に濡れ、薄気味悪い緑色の身体を光らせている


「な、な、なんだ!こいつは!」

巨大な芋虫は三体いた
緩慢な動きでこちらに近づいてくる
近付くにつれ、耳鳴り、痛みは強くなってきた

「この痛みは…グッ…。あいつ、からか!」

近づいてきて分かったが、触手の根本に常に小刻みに震えている物が見えた
原因はこれなのだろう



「くっ、怯むな!弩戦車、撃てッ!」

団長の振り絞るような怒号で正気に戻った射手が、慌てて照準をつけ、発射した


ボシュッ

  ボシュッ!


大きく鈍い音を発して、弩から大矢が放たれた
至近距離で撃ったため、誰もが直撃を思い描いたが、現実は違った


緩慢な本体とは裏腹に機敏に触手が動き、大矢を絡めとってしまったのだ
そして、わずかに伸縮しただけで大矢を圧し折ってしまった


その様子に絶句してしまう



「落ち着け!生き残りたくば戦うのだ!
 四人一組!戦車は馬をどうにかして動かせ!」

「しかし団長!弩の矢を受けるようなバケモノですよ!勝ち目はありません!」

「ある!幸い触手以外の動きは遅い。裏に回りこんで戦うんだ
 それに、それは馬鹿正直に真正面から撃ち込んだのだ。次はきっちり受け切れないタイミングで撃たせる
 以上だ!行けッ!」


訓練通りに四人一組で化物に戦いを挑んだ
しかし、近づけば近付くほど音の威力は上がっていく
超音波の前に、騎士団の動きも鈍くなり、普段の半分も実力を出せない状況に陥っていた

逆に化物の触手は、ますます動きを早め、近付く騎士団をムチのように打ち据えていく


「グ、あああああぁぁぁぁぁぁぁ!」

騎士の一人が触手に腕を絡まれ、先ほどの大矢と同じように容易く骨を砕かれた
だが、それだけで済まないのかそのまま締め付けを緩めず、そのせいで皮膚が、筋肉がねじり切られていく

ジワジワと襲い来る痛みに我を忘れ、のたうち回る

「こ、このぉぉ!離せーーッ!」

騎士の一人が襲われている団員を救おうと、触手に剣を振り下ろした
しかし、粘液に刃が立たず、救い出すことが出来ない

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

ブチブチと音を立てて、ついに腕がちぎり飛ばされてしまった


断末魔の悲鳴、そして阿鼻叫喚の光景
それが団員の恐怖心を、一層煽った


その恐怖心を怒りで追いやり、それぞれが雄叫びを上げて一斉に怪物に攻撃した

だがそれも、濡れた身体と弾力のある肉体に阻まれ、決定的なダメージにはならなかった


青年「槍だ!槍で一点を貫くんだ!!」

そう言って、触手の結界を低い姿勢からの踏み込みでかわし、
全身のバネを使って突きを繰り出した

乾坤一擲の突きは『堅牢』な表皮と筋肉を突き破り、ついに決定的なダメージを与えることに成功した


――あ あ あ あ あ あ  あ あ あ ぁ ぁ ぁ ぁ  ぁ ぁ ぁ ぁ 


「なんだ、この吐き気のする鳴き声は…!」

耐え切れずに思わず耳をふさぐ

しわがれた赤子の顔から絶叫がほとばしる


痛みで巨体をくねらせ暴れまわる

(やはり弩でなければ、これを殺すことは出来ない…)

「弩まだか!」

「無理です!この音に怯えて動こうとしません!
 音を止めて下さい!」

「よし!」

団長は今の情報を団員たちに伝えた

「奴を倒すためには弩の強力な一撃がいる!そのためには我々を悩ますこの耳鳴りを止めなければならない!
 発信源は触手の付け根だ。危険ではあるが、再優先で狙うのだ!」

団長の下知に答えるべく、早速行動に移った

先ほど槍で身体を貫いたのを見ていたので、それぞれが槍を手にし、同じように力いっぱい刺突を行っていく


何人かは触手に打ち据えられてしまったが、集団戦法を繰り出し結界をかいくぐっていく

「触手さえ気をつければ後はトロい本体だけだな!このバケモンめッ!…ングワぁッ!」


相打ちになってしまったが、一人の騎士がついに一体目の超音波を止めることに成功した
一体成功すると、身体が少し楽になり俄然勇気が湧いてきた

すぐに二体目、三体目の超音波を止める


勝機が見えてきた


「馬は!」

「もう少しかかりますが、動きます!注意を惹き付けて下さい!」


超音波が止まったことで身体が軽くなり、また馬も動けるようになった
後は触手の動きを惹き付け、確実に大矢を撃ちこむだけだ


青年「ん?」

気がつくと、周囲は薄い紫色の霧に包まれていた
そのことに気付いたのは、青年ただ一人だった


紫色の霧はどんどん濃くなっていく

そして…




―ゴガボッ!


霧の濃い場所に居た騎士が、突如血反吐を吐き絶命した


「!?」

続いて今度は二人が血反吐を吐いて即死した

青年「ど、毒だ…。この霧に気をつけろ!吸い込めば即死の劇毒だぞ!!」

「なんなんだこれは!どこから出てやがる!」


幸いなことに、霧自体は騎士たちが密集する場所まで来ては居なかった
それでも、行動範囲が狭められた上に、完全に退路まで絶たれてしまった

死地に入ったと、誰もがそう直感した


「だ、団長……」

団員の一人が団長の指示を仰ぐ

「……」

団長は答えない
歴戦の経験を誇るが故に、今の状況がいかに絶望的かがハッキリと理解できたのだ


青年(一体、いつのまに霧が発生したんだ……)

自分を落ち着かせ、冷静に観察してみる

青年(この霧、人が即死するほどの毒のある霧なんて聞いたことがない
   これは勘だが、魔界のもの。あるいはこの化け物達が発生させているんだろう)

もし自然発生であったなら、この地に村を作ろうとはしないだろう

青年(いや、霧が出たからこそ村を放棄した?
   それなら帝国の方に情報がいっているはずだ……)

青年(だが、どうであろうと俺達の危機には変わりはない
   ならどうする?少しでも可能性があるならば、行動するしかない!)

青年はそう決断した


青年「みんな聞いてくれ。時間がない。だから結論から言わせてもらう。
   おそらくこの霧はあの化物達が発生させているのだ。だから奴らを倒せば俺達は生きて帰れる!」

絶望感が漂う騎士団に、その言葉は雷鳴の如く響いた

「何故そんなことが言い切れる!あてずっぽうが過ぎるぞ!」

青年「ではなぜ我々が居るところを包むように霧が発生しているのですか
   おかしいと思わないのですか。不自然だと感じないのですか!
   この霧は自然発生したものではないのです。何かが意図的に発生させているのです」

「だが、奴らが霧を操っている証拠など何処にもないのだぞ!
 我らに無駄死にしろというのか!」

青年「無駄死にですと!今のまま死を受け入れるほうがよほど無駄死にです!
   騎士の誇りをお忘れですか!!」


その言葉が団長の胸へ突き刺さる

(騎士の…誇り…)

青年「それに、今我々に出来る最善の行動は、目の前の妖魔を打ち倒すことです
   違いますか!」

青年に一喝され、口をつぐむ

しかし、青年の言葉を受け、先ほどまであった絶望の表情はもはやない
団員の目に力強い光が戻ってきた


「騎士の誇り…。そうだ、今この状況こそ、我々に残された最後の挟持……。
 たとえこの身が朽ちようとも、勇気を持って立ち向かわなければならない」

「団長!」

「名誉ある死こそ我らが誉れなり!
 滅びの道でも誇りある我らの生き様、穢れし妖魔にとくと見せつけようぞッ!」


―オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!! 




自棄に見えたかもしれない。何故なら彼らの足掻きは無駄に終わるかもしれなかったからだ
それでも、彼らの信じる道に懸けて、戦わなければならないのだ
騎士とは皆、そういうものなのだ



覚悟を決めた騎士たちは、もはや生死を度外視していた
一撃一撃が必殺の威力を持ち、瞬く間に化け物たちに傷を負わせていった


そしてついに、青年の渾身の力を込めた一撃が化け物の顔面を貫いた


――おぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ


最後の足掻きに振り舞わした触手が、青年の左腕の骨を折った
仲間が即座に、そして一斉に槍を化け物に突き立てる

しばらく触手が力なく動いていたが、次第に動きを弱め完全に動かなくなった


一体目が力尽きるのと同時に、もう一体にもトドメをさしていた
再び絶叫する
よほど激しい抵抗を受けたのか、血塗れでない者は一人も居なかった


最後の一体
他の化け物が倒されたのを悟ったのか、今まで以上に暴れ狂っていた

巨体が身体をくねらせて暴れているのだ。近付くことはおろか、武器を出すことすら出来ていなかった
頼みの綱の弩は、大きく動かれて狙いが定まらなかった


戦い終わった団員たちも合流したが、この様子に手を出せずに居た


そうしている間に背後には毒霧が迫ってきている
いくら死を覚悟したとはいえ、生きられるならば生きていたいというのが人の本能だ
だから、彼らは人知れず焦り始めていた


「どうする!このままでは武器が立たんぞ!」

「弩は!?」

「ダメです!狙いが定まらず、撃てません!それに、霧のせいでもう移動もままなりません!!」

「こ、ここまでか…」

「生半可な打ち込みでは、あの体液と脂肪で文字通り刃が立たない……」

「疲れて動きが鈍くなるまで待つというのは」

「その前に俺達が毒で死ぬだろう」

「万策尽きたか……。こんな、こんな無様だとは…」


奇妙な光景だった
手出しできずに魔物を取り囲む人間
魔物はひたすら巨体を踊り狂わせ、他を寄せ付けない
そして背後からはジワジワ迫る、猛毒の霧

地獄絵図だった



誰もが諦めていた
できる事はしたと思った







しかし


奇跡というのは


得てしてこういう場合に


起こるものなのである











――グ ォ ォ ォ ォ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ !









古来よりこの地に存在し

あまりの強靭な生命力は、人に信仰の対象として崇められ

今もなお、事実として天空にあり続ける

地上最強の生物……





それは翼の一振りで人も霧も吹き飛ばし、なぎ倒してしまった

それは鋭利な鉤爪を持って、化け物に突き立て、もう一度翼を一振りして天空に躍り上がった


そして、人間に見向きもしないで、荘厳に、雄大に、偉大な王者の風格を持って剣の山へ飛び立っていった

その間、誰一人として声をだすものは居なかった



後に残ったのは、人間の荒い呼吸音と静寂。いや、嵐のような風の鳴き声だけだった


――――


魔物討伐遠征は、死者四名。負傷者多数
任務は成功。竜の存在も確認でき、彼らは戻ると表彰を受けた

仲間の死に胸を痛めつつも、同時に彼らの胸は誇りで一杯になった
通常なら見ることも近付くことも出来ない竜を、間近で見ることが出来たのも、彼らの自慢となった


しかし一人だけ。喜ぶ気になれない人物が居た




青年「母上……」

「坊ちゃま……」

「丁度出立した辺りから容態が急変して、そのまま眠るように……」

「申し訳ございません。私達はあなたの信頼を裏切ってしまいました…」

青年「いえ…。いつか、いつかこうなると分かっていました……。
   皆さんは良くしてくれました。父に変わり、お礼申し上げます」

顔を青ざめながら、丁寧に頭を下げた


青年「父は?父とは連絡を?」

「いえ、私共も皆目見当がつきませぬので、早馬を飛ばすことも出来ませぬので……」

青年「そうか…」


覚悟はしていた。むしろ、ようやく母が安らげると思ったくらいだった
しかしそれでも、彼の心は重く、暗くなった





父が帰ってきたのは、それから四日後だった


父は青年以上に嘆き悲しみ、それは何日も続いた
次第に部屋に引き込まるようになっていき、見るからにやつれていった


青年はそんな父を見かねて、そして自身の鬱屈を晴らすために、父を狩りや催し物に連れだそうとした
そのどれをも拒否し、その内食事すらまともに摂ることもなくなってしまった




だからというか、必然というか


父は忽然と姿を消してしまった



母の死を契機に、青年の家は崩壊した
いや、まだその一歩手前だった


青年が居たし、その弟妹や召使いたちも居た


だが、後に残った暗い雰囲気はいつまでたっても払拭することは出来なかった




やがて、騎士団が忙しくなると、青年は家によりつかなくなり、
弟妹たちも独り立ちし、残ったのは屋敷を清掃管理する召使だけになってしまった



第一幕  完

展開も投下も駆け足ですが、ここまで読んでくださってありがとうございます

後編は明日か明後日にこのスレに投下します
お疲れ様でした


母が死に、父が蒸発してから数年が経った
青年はもう青年ではなく、立派な騎士となっていた

騎士は父母のことを忘れるように、騎士団の仕事に従事した
その様子に、彼を理解するものはいたわり、彼の好きなようにできるように気を使っていた


その間、騎士は様々な戦果を上げていた
ついたアダ名は『金面無敵』
戦いの時にいつしか金の面具を付けるようになったことと、ただの一度も負けなしという所から自然と呼ばれ始めた

しかしこれは、彼に面と向かっていう人は居ない
どんなに強くても、家族を引き止めることは出来なかったという皮肉が込められているからだ

外敵無敵。内患無能

故に『金面無敵』

戦うことでしか、彼は彼で居られなかったのだ


―都市防衛戦

騎士は今、テロリストに襲われた都市を守るために、援軍として戦っている
団長として騎士団を率い、都市防衛の任にあたっているのである



テロリストは魔人が台頭した頃に起こった、統一戦争で滅んだ国の人間たちである
帝国に奪われた国土を取り返し、国を再興させるために戦っている
その実、帝国は簒奪した国の自治を認めており、帝国領となってはいるが、ほぼそのまま存続しているのである

この奇妙な政策は、何故か現在までしっかり機能しており、裏で何らかの取引があったのではと囁かれている
テロリストはそういった属国化をよしとせず、国に残った者達や、侵略した帝国を敵と定めているのだ


余談であるが、統一戦争と呼ばれる侵略戦争は、大陸の半分を併呑した時点で終戦している
その後はすっぱり沈黙しているのである
帝国が何故戦争を引き起こしたのか、あと一歩で統一というところで戦争をやめたのか、
現代史の謎として学者達の論争の的になっている


彼が率いる騎士団は、最終防衛線が敗れ、敵がなだれ込んできてから本領を発揮した
味方が立て直す時間を稼ぎ、ぎりぎりのところで侵入を阻んでいた

いずれも一騎当千の強者揃いである。野に下り、ただの賊と成り果てた輩に遅れを取ることはなかった


やがて、隊を立て直した味方が戦列に復帰し、退却の隙を与えらず、テロリストは敗北した
戦いは終結し、街の被害状況や負傷兵の手当に追われることとなった


その時である
後に騎士は後悔した。何故あの時街へ足を向けたのだろうと


―戦後の軽い視察のつもりだった

水際である程度は食い止められたが、被害を受けた地域はどれほどか見て回ったのだ

―何故部下に任せなかったのか



路地に薄汚れた一人の男がうずくまっていた


―何故、声をかけてしまったのか



薄汚れた男は顔中髭だらけで、髪も脂ぎってボサボサだった
ボロボロの布切をまとい、顔は酒で異様に赤く、眼の焦点が合っていなかった
正気ではなかったのだ


騎士「あんた、そんなところでどうしたね?」

「おお!騎士様。ありがたや……」

騎士は正気を失った男が妙に気になり、馬から降り話しかけた

騎士「戦いがあったのにここで呑んでたのか?命がいらないと見える」

「ハァー…ヒヒッ。いのちですかい?ヒ!
 大丈夫でさぁ。あたしにはこの秘薬がある。これさえあればどんな怪我も病魔も裸足で逃げ出しまさぁ」

騎士「秘薬?ハハ。そんな奇跡のようなもの、あるはずがあるまい
   おやじ、そうとう酔っているな」


「酔ってなど、いないですぞぉ」

そう言ってボトルの酒をあおる
この取るに足らない酔っぱらいの浮浪者。話すに連れて、何かが騎士に引っかかっていく


「これは本物ですとも。あたしは嘘はいいやせん
 これが実際に使われ、どういった効果を発揮するのかも、せーんぶ知っておる」

騎士「ほう。それは興味深い。本当にそのような効果があるのならば、おやじ、どうだ?
   その秘薬、騎士団が買い取ろう」

「残念ですが、これは秘中の秘ですので。ヒヒ、無理でやす」

騎士「では実際の効能とは?その目で見たのだろう?」

焦点の定まらない瞳がキラリと光った

男は語った

「実はこの秘薬、昨年完成したばかりなのですさ。
 それまでは薬師に頼み、目的の効能が出るまで研究してましてな
 あー…何だったか…
 そう、薬師が完成したと言った時がありまして、それが三年、いや五年前…まあ数年前ですな
 その薬を受け取ったのでさ。しかし、それはとても難しい薬でして、本当に目的の効能が現れるか試してみなければ、
 わからないのでさぁ…」

騎士「今まで試して、その効能が得られなかったと」

男は頷いて再び酒を呑む


「そこであたしはいつもの様に実験してみたのでさ
 あたしには協力者がおりましてな、いつもその協力者に飲んでもらってたんでさ」

騎士「ふむ」

「結果は八割方成功でした。二割は失敗でさ
 あたしは怒りましたわ。その二割は致命的な失敗で、いのちに関わるような失敗だったんで」

騎士「……」

「今まで失敗はあったけれども、直接生死に関わることはなかった
 だからあたしはその薬師をもう一度訪ね、再度調整するように厳命したんでさ
 ある程度手伝い、軌道に乗った頃に帰ったんでさ、そしたら……」


騎士は滝のように汗をかいていた
喉が乾き、舌が上顎にピタリとくっつく
耳鳴りがした。視界が揺らぐほど目眩もする
頭がわれ鐘のような痛みを訴えている
全身が警告していた。それ以上聴くなと

しかし、身体は動かなかった


「協力者はおっちんでましてなぁ……流石にショックでしたわ
 まあ、この秘薬の完成に貢献したとあって、きっと名誉に思いながら逝ったと思いまさぁ…」


男は話し終わったのか、二度三度と喉を鳴らして酒を飲み干した


騎士「……その協力者の最期の様子とは?」

「? ああ。生ける屍、でさ。今までは歩けなくなったりする程度だったのに、
 それらの症状が改善すること無く、永遠にその状態を維持し続ける、って状態でさぁ」

騎士の目がカッと見開く

騎士「その…協力者の名は…?」

「名…名前……。さあ、忘れっちまったで」

騎士「最後に聞こう。あんたの名は?」

「あー、確か『―――』で、……え?」



それが男が発した最期の言葉だった
男は何が起こったのか分からず、命を落とした

見ると白金に輝く長剣が心臓を貫き、背中を貫通していた
騎士は無感情に長剣を引抜き、血を払い、鞘へ戻した






騎士「何故、どうして?……あんた、何やってるんだよ……」







父上…………






彼が知った事実は重く
そして、誰に打ち明けることも出来ない呪いとなった

父が母を利用し秘薬を作り、その挙句母を死なせた


何故?
という疑問が常に頭の中にあった

何故薬を作らなければならなかったのか
何故父はあのような姿に身をやつしていたのか
何故母を利用したのか

何故?なぜ?ナゼ?



答えは出るはずもない
答えを出せる者はこの手で消したのだから

いや、もう一人いる。薬を作った薬師だ
だが、今更探し出す気も起きなかった

全てが終わってしまっていたからだ
自分自身も




彼は、そのことを考えないで済むように、一層激しく働いた
死に急ぐかのように戦いに身を起き、後進を鍛え、疲れて倒れこむように睡眠をとった


揶揄されて付けられた『金面無敵』のアダ名
それはもはや皮肉ではなく、彼の名誉ある名として知れ渡っていった
味方はその名に頼り、敵はその名の前に震え上がった


そんなもので持て囃されても、彼には無意味なことだった
彼の中には常に乾いた風が、空虚に吹き荒んでいた

そんな騎士の所に一つの事件が飛び込んできた


帝都に邪竜が出現したのである


「バカな!竜だと!?確かか」

「間違いありません。帝都の守護を容易く突破し、ただ今帝都上空で交戦中です!」

「まさか、あの時の竜…が……」

「それは分からん。ただ、かつてないほどの危機にさらされている、ということは事実だ。
 我々にも救援要請が来ている。三時間後に出撃する。準備を整えろ!攻城戦の用意だ!」


かつてない緊張が誰の顔にも現れていた
竜と戦う……

あるものは燃え
あるものは怯え
あるものは得られる名誉に酔いしれた


では騎士は?
長らく死に場所を探していた騎士はどう思っているのか


「団長。竜ってどう、ですか?」

騎士「どう、とは?」

「噂で聞きました。以前の任務で竜と遭遇して生き残った英雄の一人だって…。
 これから伝説と戦うんです。少しでも心構えをしておきたくて……」

彼の団員の中で一番若い団員が、震えを隠して聞いてきた

騎士「さてな。あの時はまるで相手にされなかった。見逃されたんだよ、私達は。
   見た目は伝説の通りだ。生半可な武器など通用しないだろうな」

「では、どうやれば……勝てますか」

騎士「……。それに答えられる者は、帝都の魔人だけだろうな」

若い団員の質問を撥ねつけるように言い、自分の団を見回りに部屋から出て行ってしまった

騎士の心はさざなみ一つ立っていなかった
かつて見た時は、あれほど心臓が、心が躍ったというのに

今はただ、伝説の怪獣と言えど仕事の一つだとしか思わなくなっていた



――――


「帝都が見えてきたぞ」

遠方に見える帝都は、以前のように荘厳華麗な輝きを失い、煙がもうもうと立ちこめる、廃墟の気配すら漂っていた

「竜は?」

「見えません」

「早馬を出せ。帝国側に知らせるのだ」

「ハッ!」

騎士団は改めて周囲を見回した
今は竜に襲われていないようで、帝都は沈黙していた

「これがあの帝都だというのか……。たった一匹でこれほどの被害を出せるのか…」

「つ、通用するのか?人の武器が……」

予想以上の被害に、団員に動揺が走る
それを何とか諌めて、帝国に入城した


あちこちに帝国兵が走り回っており、市民の救助にあたっていた



入城した騎士団は、竜襲撃の際の遊撃隊としての権限を与えられた
それまで、この兵舎で英気を養うようにとのことだった


「まだ、来るんですかね?」

騎士「わからん。竜の習性なんて誰にもわからないだろう
   あの口ぶりでは、既に二度三度襲われているようだ
   だから『次がある』と断言して、我らに救援要請を出したのだろう」

「じゃ、じゃあ!これで終わりかもしれないですね!」

騎士「そうかもしれんし、そうじゃないかもしれん。
   だが、守護神である魔人がいるのに我らに助けを求めたのだ。確実に来るだろうな。
   直感だがね」


騎士の予感は当たった
竜の襲撃は深夜に行われたのだ


先に大地を揺るがすような叫びが聞こえ、次に襲撃を告げる花火が打ち鳴らされた
それに続き、警鐘が慌ただしく響く



「き、き、きた!ほんとうにきた!!」

竜が帝都上空を旋回しているのが見えた
時折空が光るのは、竜が口から火を噴いているからだった


僅かな時間で完璧な戦闘態勢に入り、竜が射程距離に入るのを固唾を呑んで待っていた


今か今かと焦がれているその時、ついに竜が降下を始めた


戦いの始まりだった


帝国兵は、射程距離に入ると、大砲の一斉射撃を開始した
帝都上空に向かってである。流れ弾もお構いなしの攻撃だった。それ程の覚悟があるということだろうか


夜だというのに、巨体なのに、竜は飛んでくる砲弾をかわしていく


騎士「我らも負けるな!大弩用意!
   …………撃てーーッ!!」

四方八方に配置された大弩戦車から、一斉に大矢を発射する

大砲に比べて発射音は小さく、矢は細く鋭い
それが幸いしたのか、当たりはしなかったが竜の態勢を崩すことに成功した

速さが落ち、高度も態勢も大きく崩した竜に、弓兵達が矢を射かけていく
それはさながら雨のようであり、絶え間なく続けられた


大弩の次弾装填が終わった
次に射掛ける大矢には鎖がついてあり、例え当たらなくても翼の動きを封じ込めようという作戦だった


その企みは成功し、ついに竜の動きを封じてしまったのだ


「や、やった。やったぞ!これで勝ったも同然だ!」


動きを止められた竜に、次々と矢が降り注ぐ
一部の大砲が、照準を合わせているのが見えた


伝説の巨獣が、人間の結束の前に敗れ去ろうとしている
その高揚感がその場にいる全員に、「誰」が「何」を相手にしているか忘れさせた

そしてそれは油断へ繋がった



まず竜は大砲がある城壁に向かって渾身のブレスを噴いた
それは鋼鉄と岩で出来た城壁を、こともあろうに炎上させたのだ

火が火薬に引火し、次々と爆発が起こった
この時点で状況を正しく理解していた人間は一人としていなかった


次に、身体にまとわりつくものを力任せに振り回し、その地点に再びブレスをお見舞いしたのだ


一瞬。一瞬の出来事だった
勝利を確信したと思ったら、既に現存する部隊は壊滅していたのだ


戦闘開始から一時間あまりで、全ての決着がついてしまった


いや、生き残っているものは多数いたが、あまりの出来事に戦意を喪失してしまったのだ


解き放たれた竜は天へ昇り、低空飛行を繰り返しながら、抵抗するものがいなくなった帝都を焼きつくしていった
建国からここまで無様に蹂躙された経験は、帝国にはなかった



――――

騎士団はブレスの直撃を受け、壊滅状態だった
六割が死に、生き残ったものは重い火傷を受け、あるいはなぎ倒された住居の下敷きになってしまっていた

その中で、まだ動けるものが居た
『金面無敵』こと騎士である

彼は偶然にもブレスの直撃を避ける事が出来たのだ


騎士「こ、ここまでとは……」

あっという間の敗北に、消えかけていた人間性が、皮肉にも蘇ってきていた

天を仰ぎ見ると、竜はまだブレスを噴いている


騎士「…………」

意を決した騎士は、強弓を手に馬を走らせた


騎士の考えはシンプルであり、そして賭けであった
弓で気を逸らせ、自分に引き付けるというのである

幸い竜は低空飛行を続け、十分矢が届く範囲だった


騎士(今のあれは怒り狂っているはずだ……
   思いがけない抵抗にあい、挙句地面に磔になったのだ…
   今まで敵なしのあれにとって、この上ない屈辱となったはずだ!)
   

騎士「だから………」


ギリ…
       ギリ…


  ギリリ…

騎士「……向かってこいッ!」


矢は一直線に竜へ向かっていった


矢は見事に命中した
その一撃は、意気揚々と支配した地を蹂躙していた竜の、逆鱗に触れるのに十分だった



竜は抵抗のなくなった帝都上空を我が物顔で飛び、思うままに破壊していった
この地は既に自分のものであり、自由自在だと思った

地面に縫い止められた屈辱を晴らすために、特に念入りに破壊を行なっていった
竜の誇りはズタズタになり、怒りは冷めることはなかった

その時である
何者かが自分に抵抗の意思を示したのだ

竜は我慢ならなかった。まだ自分の意のままにならないものが居るのかと
そして激怒した。僅かな、微弱な抵抗であったが、屈辱の怒りの炎は一気に燃え上がった



騎士「かかったか!このまま外まで誘導してやる」

馬に鞭をくれ、馬を急がせた

この企みは思いのほかうまくいった
自爆した城門も道が残っており、問題なく外へ脱出することが出来た

騎士(ここまではいい。あとはどうする?何処へ向かえば時間を稼げる?)

幸いブレスを吹く気配はない。このまま街道を行っても大丈夫そうだった
馬の足にもいい


―南に行け


騎士「ッ!?」

ボソリと呟くような声が、耳元でなった
驚き、馬上から周囲を見回すが、当然並走するような人間はいない


―南だ。南で待つ


騎士「まただ!何者だ!……南で『待つ』だとお……!?」

この危機的状況が起こした幻聴なのかと思った
しかし、どうしてもそれだけには思えなかった

騎士(どうせこの状況は変わらないんだ。賭けてみるか)

騎士はあろうことか、得体の知れない謎の声に従うことにしたのだ
もはや命を捨てた行動だった
いや、死に急いでいたからこその選択だったのか


騎士は東へ伸びる街道を外れ、場首を南へ向けた
竜もそのままついてくる


舗装されてない悪路を疾走するのは危険があった
十分、十五分と馬を走らせ、騎士は徐々に焦り始めていた

騎士(クッ!まだか。……まさか妖魔に魅入られたか……)

魔物に弄ばれ、時間を棒に振ったかと思ったのだ
街道を行っていれば、もう少し馬を長く走らせられたかもしれなかった


そして、恐れていた事態が発生する

馬が疲労で踏み外し、足が折れてしまったのだ
さすがの騎士も、高速で移動する馬から勢い良く投げ出されてしまった


竜は騎士の頭上を通り過ぎ、空中で旋回してから襲いかかってきた

騎士(これで……ようやく…)

地面に転がったまま、諦めて目を閉じた









―ド ォ ォ ォ ォ ォ ォ ン ッ !







今度は爆音と共に発生した衝撃波に、騎士は吹き飛ばされてしまった


騎士「ッッ!!??」

騎士は何が起きたか理解できなかった
衝撃波に揉まれ、地面へ投げ出された

続いて複数の足音があちこちで聞こえた
鎧の金属音も一緒だった

騎士「い、ゲフッ……。一体何が…」

かろうじて目を開けることが出来、音の方に目を向けた


そこには十ニ人、それぞれが白の鎧を身にまとい、それぞれが様々な形の槍を手にしていた
一人だけ見慣れない鎧を見につけ、槍も手にしていなかった
銀髪白ひげ。手に持っていたのは細く、緩やかな曲線を描いた片刃の剣。極東の国の刀と呼ばれるものだった


騎士(ま、まさか……そんな…あいつは……!)


十一人が槍を掲げる
何か不可視の力が働いているのか、飛び上がろうとしていた竜の両翼がねじ折れ、切れた

テスト



――オオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ…………ッッ!!



悲痛な叫びが大気を揺るがした



銀髪白ひげの男が倒れた竜に近づいていく


「古よりの叡智を捨て去り、獣へ堕した龍の末裔よ。なぜ人の領土を脅かす。
 時の彼方で忘れ去られようと、人と龍が交わした盟約は生きているのだぞ」

白ひげの男が朗々と説く


――…………


竜は答えなかった
そもそも答えられる言葉を持つのか?

騎士は夢でも見ている気分になった
目の前で起こった光景が、あまりに現実とかけ離れていたからだ



「もはや言葉も失ったのか……
 どちらにせよ、我が国を脅かしたのだ。貴様は始末させてもらう」


刀を持ち上げ、竜の首に狙いを定める


最後の力を振り絞ったのか、首を振って白ひげにぶつけ、吹き飛ばした
そのまま血で濡れた身体を起こし、地面を蹴り、騎士に向かって突進したのだ

竜にとって屈辱を与えたものを殺すことが、最優先だったのだ
それよりも、自分が人間に敗れることなど微塵も信じていなかった
目の前のこの人間を殺した後、周囲に居る人間を殺す…。ただそれだけの事だった



「浅はかなり、獣よ」


いつの間にか白ひげの男が騎士の前に立っていた
そして、両の手でしっかりと握った刀を一閃し、振り上げた




―ス パアァァン……ッ!



恐るべきことだが、竜の首の半分しかない長さの刀で、竜の首を一刀両断にしてしまったのだ
首は勢いそのままに騎士の後方へ飛んでいき、地鳴りを上げて着地した

竜本体は、鎧達がどうにかしたのか、槍を掲げて動きを止めていた


首から血が噴水の様に吹き出した

騎士(竜の血も、赤いのか……)

血を滝のように浴びながら、そんなことを考えていた



突然、身体が燃えるように熱を帯びる
筋肉が悲鳴を上げ、骨が軋み、燃えるように熱かった

騎士「こ、こ、の血……。ど、毒がッ!!」

思考もその内出来なくなり、騎士は意識を失った







「運命はお前を選んだ。もう、逃げることは出来ない」







第二幕  完

今回はここまで
残りはあとわずかですので、よければお付き合い下さい

もし質問がある方は、最後の投下の後にお願いします。表現不足で申し訳ありません


ここまで読んでくださってありがとうございます
お疲れ様でした

20:00から再開


終幕



エピローグ


そしてプロローグ


…………

……




騎士「……ここは…。りゅ、竜は…?
   そうだ。私は毒を……」

身体を起こし、異常がないか探す


騎士「なんとも、ない…?」

ゆっくりと立ち上がる
身につけていたのは記憶にある鎧ではなく、白い簡易着だった


部屋は派手ではないが上質な調度品で整っており、気品が漂っていた

ドアに手をかけ、開けようとする
が、鍵がかかっているのか開かなかった


騎士「一体ここは何処なんだ?
   あの鎧達は何者だったんだ……
   いや、一人だけわかる…あの銀髪白ひげ、やつは…」


「銀髪白ひげとは私のことかな?」

突然声をかけられて、身構えながらドアの方に振り返る


騎士「て、帝都の魔人……!」

戸口に立っていたのは銀髪白ひげの老人だった

「世間ではそう呼ばれているようだ
 まあ、悪い気はせんがな
 ……起きていたなら話が早い。私についてくるのだ」

アダ名に反して意外と気さくな雰囲気を持っていたが、指示する内容は有無を言わせぬ力を持っていた


魔人に案内されたのは、一言で言うなら食堂だった
テーブルには出来立ての料理が湯気を立てており、美味しそうな香りがした

「話しは食事の後でたっぷりしよう。まずは腹ごしらえだ」

そう言って騎士の対面に座り、食事を始めた
いまいち状況が掴めなかったが、空腹もあって食事をとった


食後の紅茶を飲み干すと、魔人が口を開いた


「まず貴様が何処に居るのか話そう
 ここは帝都の中心、その地下だ
 私のような地位と権限を持った、一部の人間しか知らない秘密の場所だ」

「次に、何故そんな所に居るのかを話そう
 貴様は竜の血を浴びたのだ。竜の血は劇毒で、通常の解毒では治癒することが出来ない。
 そこで貴様に『選択』させるために、ここに連れてきたのだ」

騎士「選択?」


「そう。選択だ。貴様には今二つの道がある
 一つはこのまま体内に潜む毒に、ジワジワ内部から侵され、死ぬか
 一つは運命を知り受け入れ、人のために生きる傀儡となるか…」

騎士「何!?」

「選択だ。貴様が選び取れる道は二つに一つだ」

騎士「い、意味がわからない。何を言っているんだ!」

「我らの治療を受ければ毒を消すことが出来る。が、かわりにもう人間ではなくなってしまう。
 貴様は運命の奴隷として、その肉体が滅びるまで人間のために戦わなければならなくなる」

騎士「……」

「だがそれは死ぬよりも辛いことかも知れん
 だから我らは選択させる。このまま毒で死ぬか、生きて永久を戦い続けるか」


騎士「なぜ、そんなことを」

「貴様が行く末を決定するように、運命が貴様を選んだのだ。
 竜の血を浴び、第一段階を生き残ったこと。その場に我らがいた事。
 記憶の海から蘇り、いま私の眼の前に居ること。
 それが故に、貴様は選択しなければならない」

騎士「すまない。まだ状況が飲み込めない
   貴方が言っていることを半分も理解できない……」

「これは失礼。急ぎすぎていたようだ。
 では、竜の血の毒についてお教えしよう」

「竜の血は劇毒というのは先に話した通り。これには二段階あるのだ。
 一段階は血を浴びた時に直ぐに効果が現れる。肉が腐り、骨が溶ける。そのような効果だ。
 それでも死ななかったものはどうなる?体内に毒が潜み、内側から徐々に腐らせ、殺す。これが第二段階目だ」

騎士「それで私はその、二段階目にいるということか…」

「そうだ。貴様は今、生きているわけでも死んでいるわけでもないのだ」

騎士「……」


「そして竜の血にはもう一つ力がある。第一段階を生き残ったものへの祝福なのだろう。
 血は竜の、いや龍の歴史の記憶を見せる。
 かつて大陸を支配していた記憶。人とともにあった記憶。長く激しい戦いの記憶。
 貴様は見たはずだ。血を浴び生き残ったものは必ず見るのだから」

騎士「……私は、見ていないようだ。そんなもの…」

「いや、覚えていないだけだ。必ず見ている
 それは心に直接刻まれるのだ。集中しろ。心を平静に保て。意識で確かめるのだ



混乱した頭ではそう簡単に集中をすることができなかった
それでも徐々に、言われるがままに意識を集中させていく

目を閉じ、頭の中を空にする様に務める





何分経ったのか、あるいは何時間経ったのか

やがて、初めての体験だが、どこかに深く深く沈んでいくような感覚に陥った


そして――

それは断片だけだったが、とてつもない情報の量だった
この世のありとあらゆる真理が詰まっていた
龍のこと、人のこと、大地のこと、天のこと
神のこと、魔のこと、そして……


バシッ!


騎士「ハッア!ハァー、ハァー……い、今のが…」

「この大地そのものの記憶。龍の記憶だ。
 そして見ただろう。真実を」

騎士「み、見た!
   そんな、まさか……あり得ない。今のが、真実だと…?」

「今の貴様なら分かるはずだ。嘘偽りのない事実と」

騎士「信じられない……」

騎士は茫然自失となってしまった
あまりの事に考えることを拒否してしまったのだ


「記憶の海。それがそうだ
 あまりの情報量に心が耐え切れなくなり、崩壊する。そしてそのまま目覚めることはない
 後は徐々に毒に蝕まれて死ぬだけだ
 だがそれも突破して、貴様は私の前に居る
 ……それが運命に選ばれたということなのだよ」

混乱している騎士に、紅茶のおかわりを飲むように促した
紅茶を飲み、幾分か落ち着きを取り戻した

騎士「……状況は、理解した。ようやく、だが。
   だから、私は選ばなければならないのか」

「安らかな死を選ぶか、滅びるまで人のために戦う地獄へ往くか
 二つに一つ」


魔人も紅茶をすする

「まだ幾ばくか時間はある。今から二十四時間やろう
 二十四時間たったら答えを聞く。それまでじっくり考えるといい……」


魔人の話は終わった
魔人は再び騎士を促し、最初の部屋へ案内した

「この階ならば自由に行動していい
 なにか必要ならば、あの男に言うといい。それでは二十四時間後に」

そう言って去って行った

騎士(とんでもない……とんでもないことになってしまった…)

現実感が無かった。まだ、夢のなかにさえいると思った
だがこの満腹感はたしかな現実だった


先ほど見た記憶を考える
それは、彼にとって自身を揺るがす事実を伝えていたのだ



騎士「勇者なんて、いない……
   ただのマヤカシ……ただの…怪物……」

彼の心の指標。追い求めた伝説
今まで様々な困難が襲いかかってきたが、常に勇者たらんとして居たからこそ、ここまで生きてきたのだ
その心の支えを、たった今、自らの手で破壊してしまった


母が死んだ時。父を殺した時
それ以上の絶望が、彼を包んだ



結局言い渡された二十四時間を、部屋から一歩も出ずに過ごすことになった
そもそも外を散歩する気持ちになんてなれなかった


…………

前と同じように戸口に魔人が立っていた

「この場ですまないが、答えを聞かせてもらおう
 修羅道を往くか、安らかに逝くか」



騎士「私は…………」












「我らは君を歓迎しよう」



「ようこそ、人類最後の切り札。聖槍騎士団へ……」









彼は生きることを選択した。それは超人として、人の理を外れた存在としての道だった
もう普通の人間としての生活は送れない。個人の意志と自由はなかった
だが、それでもいいと思った


例え運命に囚われようと、最早どうでもよかった
彼が信じた神も、彼が憧れ目標だった勇者も、いないと知ったのだから




二十数年の時が流れる
帝国の切り札。人類の影の守護者。聖騎士として彼はいた


彼は最後の聖騎士として、黒鉄の鎧と聖槍と呼ばれる槍を賜った
それらを身にまとい、長い間聖騎士として帝国の影として任務を遂行した


彼は、隠密として行動してきた
聖騎士団内でも存在は秘匿され、魔人や一部の者しか知ることはなかった
何故なら、彼は帝国の闇を背負う任務を主に扱っていたからだ

不穏分子の抹殺に始まり、秘密裏に帝国に牙向く者たちを処理していった



そして……


彼は今、洗脳処理を施された配下を従えて東の地へ急いでいた

任務はある村に住む男との接触
そして男以外の村と村人を焼き払うことだった

奇妙な任務だった。そんな辺鄙な所に国を脅かすような者が居るのだろうか?
賢者共の計画のためとはいえ、無辜の民を犠牲にすることにドス黒い気持ちになる



しかし彼は道を進む

いつもの様に疑問も不信も、感情も押し殺して
何も思わぬ影にように……




黒衣共が闇を往く





ここまで読んでいただきありがとうございました

短いですがこれで終わりです
もし描写不足の所があればお答えします

お疲れ様でした

乙ありです
分岐は残念ながら…
どのみち受けなければ安らかに逝ってしまうので
このまま殺されるまで、父殺しの罪と、目標の喪失という絶望を抱えて、来るべき時まで生き続けます


あと心苦しいのですが当ssは世界観を共有している、以下のシリーズの一つになっています

少年「そうだ!天使を見つけに行こう!」僧侶「私もお伴します」
男「そうだ!東へ行こう!」少女「行きましょう!」

これらを読まなくても楽しめるようになっているので、別に読まなくても大丈夫です

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