魔法少女フラン☆マギカ� (959)

魔法少女まどか☆マギカと東方projectのクロスです。



いくつか注意点です

※初SSです。いろいろ足りないところがあると思いますがよろしくお願いします。

※独自設定がてんこ盛りです。

※一部オリキャラが出ます。

※東方キャラはすべて出るわけではありません。また、かずマギ、おりマギのキャラは出ません。

※駄文、超展開ありです。

※一部、残酷な描写がございます。ご注意ください。

※当SSはフィクションです。実在の人物、団体、歴史的事実とは一切関係ありません。

批判はいつでも受付中です。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1362722680



このスレは2スレ目です。


全スレはこちら↓↓


おっ期待するぜぃ

( ・_ゝ・)ツマンネ

( ・_ゝ・)ツマンネ
( ・_ゝ・)ツマンネ

( ・_ゝ・)ツマンネ
( ・_ゝ・)ツマンネ

( ・_ゝ・)ツマンネ
( ・_ゝ・)ツマンネ

( ・_ゝ・)ツマンネ
( ・_ゝ・)ツマンネ

( ・_ゝ・)ツマンネ
( ・_ゝ・)ツマンネ

( ・_ゝ・)ツマンネ
( ・_ゝ・)ツマンネ

( ・_ゝ・)ツマンネ
( ・_ゝ・)ツマンネ

( ・_ゝ・)ツマンネ
( ・_ゝ・)ツマンネ

( ・_ゝ・)ツマンネ
( ・_ゝ・)ツマンネ

( ・_ゝ・)ツマンネ
( ・_ゝ・)ツマンネ

( ・_ゝ・)ツマンネ
( ・_ゝ・)ツマンネ

( ・_ゝ・)ツマンネ
( ・_ゝ・)ツマンネ

( ・_ゝ・)ツマンネ

↑お前の人生がツマランのは分かるが、ここに書かれてもな……

新スレ乙!

( ・_ゝ・)>>5ツマンネ

( ・_ゝ・)ツマンネ
( ・_ゝ・)ツマンネ

( ・_ゝ・)ツマンネ
( ・_ゝ・)ツマンネ

( ・_ゝ・)ツマンネ
( ・_ゝ・)ツマンネ

( ・_ゝ・)ツマンネ
( ・_ゝ・)ツマンネ

( ・_ゝ・)ツマンネ
( ・_ゝ・)ツマンネ

( ・_ゝ・)ツマンネ
( ・_ゝ・)ツマンネ

( ・_ゝ・)ツマンネ
( ・_ゝ・)ツマンネ

( ・_ゝ・)ツマンネ
( ・_ゝ・)ツマンネ

( ・_ゝ・)ツマンネ
( ・_ゝ・)ツマンネ

( ・_ゝ・)ツマンネ
( ・_ゝ・)ツマンネ

( ・_ゝ・)ツマンネ
( ・_ゝ・)ツマンネ

( ・_ゝ・)ツマンネ
( ・_ゝ・)ツマンネ

( ・_ゝ・)ツマンネ

ナニが始まるんです?



第三次世界大戦だ

期待

期待

>>8
なんだって!それは本当かい!?

マミさん幻想郷へ行こう!


                                    ヘ(^o^)ヘ いいぜ
                                      |∧  
                                  /  /

                              (^o^)/ てめえが何でも
                             /(  )    思い通りに出来るってなら
                    (^o^) 三  / / >

              \     (\\ 三
              (/o^)  < \ 三 
              ( /

              / く  まずはそのふざけた
                    幻想をぶち[ピーーー]

2スレ目なんか凄いな
前スレ読んでくる

18禁のエロ描写はありますか?

マミさん幸せになるのか

なれると良いよね

2スレ目初投下

早いもんですね〜
いつまで続くんでしょうか。いつまで続けられるんでしょうか。


>>13
何故上条さん出て来たしwww

本編で上条(恭)にそげぶをやらせてみようかなw



>>15
ありません!!
ないはずです。
ないはずです・・・・

出るとしてもモザ有りです。


>>16>>17
そうですねー(遠い目)


まあ、

そこは、

ほら、

あれだから・・・・・・・・





まどマギだから・・・・・・・・・・・・・・・・











                  *








 気が付けば、真っ暗な闇の中に居た。












 さっきまで眩しい光を見ていた気がする。
色とりどりの、あれは……花火みたいな光の弾が飛び交う光景。
何だっただろう? よく思い出せない。







 あなたが、コンティニューできないのさ! 












 って、何だったのかしら?






 マミは寝たまま軽く首を傾げるが、よく覚えていない夢の内容を思い出そうとしても意味がないと思い、
頭からその記憶を振り払う。




 マミはベッドに寝ていた。体を包むふんわりとした柔らかさ。心地良い。
このままいつまでも寝ていたい。













「ん……?」






 ふと、背中に違和感を覚えた。もっと具体的に言えば、何だか背中が窮屈なのだ。
服に何かが抑えられているような、サイズが小さな服を着た時の窮屈な感じがする。






 何だろうと思って半身を起こし、背中に手を持っていく。
服が膨らんでいる。
何かが入っているみたいだ。
しかも、それに服の上から触っている感触がする。
つまり、これは私の体の一部なのだ。













 何だろう? 嫌な予感がする。


















 頭を振り振り、眠気を飛ばす。そうすれば、ほらすっきり。












 周りを見回す。どうやら見慣れた寝室のようだ。
寝る前の記憶はあやふやだが、ここが我が家であることに間違いないようだ。
明かりは全くないが、やたらよく見えた。
部屋のどこに何があるのか、全部分かる。
なぜだろう? なぜこんなによく見えるのだろう? 暗いのに。



 背中の違和感を除けば、体が妙にすっきりする。
寝る前までの苦しみと痛みが嘘のようだ。
あれだけ寝不足で暴れ回ったのに、筋肉痛も無いし、意識も晴れ渡っている。
このまま空に飛んでいけそうな気がした。








 心の中はすかっと晴れ渡っていた。
台風一過とはこのことか。
苦痛の嵐が過ぎ去って、私の心中は雲ひとつない快晴で、燦々と“月”が輝いていた。
部屋は真っ暗だけど。




 それぐらい清々しい気分だった。
惜しむらくは少し空腹なことぐらいだろうか。それは仕方ない。
なにしろ、何日分か知らないが、ずっと食べてないのだから。






「よっ」



 体が軽い。こんな幸せな気持ちで目覚めるのは初めて。もう何も怖くない。






 跳ねるように私はベッドから立ち上がり、トンと軽い音を立てて私は床に着地した。
間違ってもドシンとか言ってはいけない。
言った奴は屋上でティロ・フィナーレ。星になれ。







 部屋暗く、足取り軽く、目覚め良く。































 取敢えず、背中のこれが気になるので、姿見の前に立つ。
明かりがなくても自分の姿がよく……よ、く……………………映らない。
映っていない。































「は?」



 手を振ってみる。

 鏡は暗い部屋を映しているだけ。
そこに、鏡の目の前に立つ自分の姿は……ない。









 あわてて部屋の入口にある電気のスイッチを押す。


 パッと明かりがついた。

「うっ」

 その明るさが妙に眩しい。
虹彩が光の量の調整を忘れたみたいだった。


 眩しさに目をしょぼつかせながら、もう一度姿見の前に立つ。






「うそ……」







 ない。どれだけ鏡を見ようと、そこに自分の姿が映ってない。
目を何度も擦っても、その場で一回転しても、やっぱり映ってない。









 ゾッ。









 体温が急激に下がり、全身から冷汗が噴き出る。
喉が干からび、呼吸が荒く、動悸が激しくなる。
眩暈が起こって、頭がくらくらする。
これは決して眩しさのせいじゃないはず。



 さっきまでの晴れやかな気分は、とうに宇宙の彼方に飛んで行ってしまった。
信じがたい現実が、あの悪夢がリアルになったことが、認識されていく。


「う、うそ。うそ……」


 そう言えば、フランは鏡に映らなかった。
自分の姿を確認するときは、魔法をかけた特殊な鏡を用意するんだと言っていた。










 そして……あの子の背には、人の物ではない物が生えていた。









「マミ?」






 いきなりドアが開いて、マミは飛び上がった。
驚き過ぎて息を飲んでしまい、悲鳴すら出なかった。









 フランだった。


 幼い深紅の目が、心配そうにこちらを覗いている。
いつも通り、サイズの合わないだぼだぼのシャツに下着を着けただけという、だらしない姿だった。
なんでそんなことをしているかと言えば……。









「大丈夫? 気分はどう?」


 フランは中に入って来た。




 私は動けない。目は、フランの背中のふくらみに釘づけだった。


「あ……」

 フランの視線が私の顔から、その背後に移る。

「終わったんだね」


 一安心したように、フランは笑った。だが、すぐに私の顔を窺う。

「気分が、悪い?」








「ねえ、フラン」

 フランの質問を無視して私は尋ねる。




「私の、背中……どうなってるの?」





 答えなんて分かり切ってる。
でも、自分で認めたく無くて、一人で確かめる勇気がなくて、思わずフランに訊いてしまった。







 フランは、優しく微笑んだ。



「脱いでみて。そうすれば、分かるから。大丈夫。怖くないよ」



 フランは私の前に立ち、そっと手を取った。

「う、うん」

 私は手を離し、来ていた寝間着の上着のボタンを取っていく。

 全部外し終わると、袖から手を抜き、上着を取った。


 ブラは付けてない。胸の大きい私は、寝る時にブラが邪魔になって、熟睡できないからだ。
そのせいで、今フランには半裸の私が目に映っているだろう。
別に気にしない。同性だし。




 私は恐る恐る自分の体を見下ろす。

 雪のように真っ白な肌。
艶やかに光を反射して、自分でも綺麗と思ってしまうほどきめ細やかだった。
傷一つ見当たらない。
微かに血管が透けている。それほど透明感の高い美肌だ。


 いや、それは今はどうでもいい。問題は……背中。





















 ゆっくりと、私は首を後ろに向けてゆく。





























 徐々に目に映る、背中の違和感の正体。











































 何、これ…………。







 背中から——異形の証が生えていた。真っ黒な、まるで……悪魔のそれのような……。







































「い、いやあああああああああああっ!!」






 マミさんは上半身裸

















 マミさんは上半身裸

 

 大事な事なので(ry

虹色の羽は生えなかったか—



途中にある有名なセリフが出てきますが、
元々、前回のシーンとこのシーンの間に、
マミさんが紅魔郷EXステージの夢を見るシーンがあったのですが、
諸事情で丸ごと削除し、
その代わりに入れたものです。


特に意味はありません。






P.S.
また忙しくなるのでご無沙汰するかもです。

乙 ゆっくりしていってね

どんくらい空きますかね…?


まあ、マミさんガンバ!

さあ皆、マミさん(とついでに恭介)をなんとか出来そうな人を喚ぶ儀式をするんだ!

せーの!

( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん!

ねじくれた黄色い木の枝みたいのかと思ってたが違ったか

乙でした
>>体が軽い。こんな幸せな気持ちで目覚めるのは初めて。もう何も怖くない。
なんでマミさんはすぐにフラグ建ててまうん?(´・ω・`)

>>31
虹色のあれってピアス的なものじゃないの?(無知)

翼につけられている結晶は「賢者の石」
賢者の石とは卑金属を金などの貴金属に変えたり、人間を不老不死にすることができるという。
霊薬としてのエリクサーと同様のもの。

それって二次設定じゃなかったっけ? 賢者の石はパチュリー関連のアイテムだし、フランのは特に詳しい設定は無かった筈

あの羽についてはなんの設定もないよ

背中から生えてる羽はその気になれば出し入れ出来るっていうのは公式設定だっけ?それとも二次?

あれは勝手にフランの異形の象徴だと思ってる

こんなの見つけた!

http://www.youtube.com/watch?v=uyLsUJPjE_s



フランちゃんの羽についての設定はなかったような・・・・
ぶら下がっているのが賢者の石だとか、(レミリアの)羽は脱着式とかは、二次設定だったはず。


>>35
( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん!

Help me, ERINNNNNN!!
えーりん出て来るのか分からないけれど、( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! って歌ってる人たちは・・・・・・

>>37

          ふらぐたてたって



          いいじゃないか



          まみさんだもの




>>43
いつか誰か気付くと思てました。
このSSとは何の関係もありません。

しかし、何でフランなんでしょうね?? こんなの書いといてあれですけど・・・・







               *







 契約と言うんだから、書類に名前でも書いてハンコを押すのかと思っていたけど、全然違った。
ただキュゥべえに向かって自分の願いを言えば、ソウルジェムが生まれ、それを受け取って完了らしい。
随分と簡素なものだ。
「本当にそれで願いが叶うの?」という、当然の疑問が浮かび上がって来たけれど、
マミという実例も居るし、さやかは取り敢えずその疑問に封をした。 



「さあ、受けるといい。それが君の運命だ」




 我らが魔法の使者、キュゥべえさんは耳から生えた手のような物(触手?)をさやかの胸元に伸ばす。
すると、その両方の触手(仮)の間から、浮き上がるように青い光を放つ何かが現れた。
同時に、何とも形容しがたい痛みが全身を襲う。
体の中から何かが抜けて出ていくような不思議な感覚。やがてその何かは形を作る。


 光り輝きながら自分の手元に収まる卵型のソウルジェム。
マミの黄金色のそれがトパーズのような輝きを持っていたと言うなら、さやかのジェムはまるでサファイアのようだった。
その深い青色に、さやかの同じ色の瞳を持つ眼は吸い込まれそうになり、
無意識にリップクリームの塗られた瑞々しい唇の間から、柔らかな吐息が漏れた。
清楚で、可憐で、そしてさやかの持つ生来の明るさを損なわない、宝石。
それを、さやかは愛おしそうに抱き寄せた。






 綺麗……。




 さやかは思わず自分のジェムの輝きにうっとりする。


 この大きさのサファイアなら、それこそ目玉が飛び出るような値がつくだろう。
世界中の富豪たちを魅了した止まない至高の蒼玉。
けれどこの宝石は、他のどんな高価な、例え世界一高いダイヤよりも、自分には価値があった。


 これが自分の願いが生み出した宝石。自分だけの輝き。プライスレスの石っころ。







「変身してごらん。念じるだけで出来るはずだ」





 目の前のキュゥべえが言う。

 契約したのに、特に変わった様子はない。

 自分にとっては特別な瞬間でも、キュゥべえにとっては数限りなく繰り返してきた作業なんだろう。
そこが、若干残念に思う。
キュゥべえの態度はなんだか淡々とし過ぎていて、いまいち感慨というものが湧かない。



 けれど、そんなことを気にしてもしょうがない。
さやかは、そういうもんか、と思うことにした。




「うん」


 取り敢えず、キュゥべえの言葉に頷く。
そして、静かに目を閉じ、さやかは変身するイメージを思い浮かべる。
参考にしたのは、幼いころに見た魔法少女もののアニメの変身シーン。
中学生にもなって思い出すとは思わなかったが、さやかの脳は毎週興奮させてくれたそのシーンを鮮明に覚えていた。



 まず、ソウルジェムから青い光が溢れ出し、さやかの全身を包んだ。
そして、服が無くなる感覚と同時に、一瞬全裸になり、今まで着ていた見滝原の制服とは違う服の感触に覆われる。




 あっという間。気が付けば一瞬。





 本当にうまくいったのかと、不安になりながら、恐る恐る目を開けると、ものの見事に変身していた。




「うわー」




 思わず自分の体を見下ろし、感嘆の声を上げる。

 見た目はファンシーな西洋の騎士と言ったところか。
白いマントを羽折り、肩と臍が露出している。
青い装甲が、マミ程ではないにしろ、同年代の女子より一回り成長しているさやかの双丘を柔らかに包み、
左右で丈の違うミニスカートと白いニーハイソックスがさやかに活発で軽快な印象を与えていた。
さらに、腕には青いアームガードと白い手袋が肌の露出を少なくし、
ニーソックスにを履いた足とのバランスを取っている。

 全体的に、白と青を基調としており、爽やかな印象を受けた。
特に、青色はさやか自身の髪と同じ色で、さやかも自分のイメージカラーと思っていたので、
似合っている。
ポカリスウェットっぽい色だと思ってしまったのは、秘密。



「お、おお。これが……魔法少女……」

 自分の両手を見下ろし、マントを翻し、全身をくまなく観察する。

 たった今初めて着たばかりなのに、服に違和感はない。
自分のイメージが作り出したのだから、自分にサイズがぴったりなのは言うまでもないようだ。
体を捻っても、手足を持ち上げても、衣装が絡みつくような感覚はしなかった。

 ただ、マミやほむらに比べて露出が多いのが気になった。
肩は思いっきり出ているし。



 ちょっと子供っぽいのは、気にしない方がいいかも。
まどかのセンスを笑えない。
……いや、あそこまで桃色ピンクのどファンシーではないか。




「えーっと……ソウルジェムは……っと、これか」



 青い宝石はどこに行った、と体を見下ろすと、お臍の上についたジェムを確認する。
形はCの字型。
自分でも不思議な形。確かにマミも変身時は、ソウルジェムが花形に変わっていたけれども、
本人は花が好きらしいし、特におかしくはない。
でも、さやかのソウルジェムの形はやや不可思議だった。



 私って、英語苦手なのになぁ。




 なんでCの字型なんだろうか?




 一瞬頭を捻る。けれど、さやかはすぐにそんな疑問を追いやり、二度三度、全身を見回す。






「マミさんとは違うんだね」







 ぽつりと呟いた一言。ちょっと残念なような気もする。
だって、憧れのマミさんとはいろいろ違うから。
でも、今の自分がマミと同じ格好をするのは、それはそれで恐れ入る。

「魔法少女の願いによって、ソウルジェムの色や変身後の形と位置、衣装や武器、
魔法の特性なんかは全部違う。
一人として、他人と同じ魔法少女は居ないよ」

 端的に答えるキュゥべえ。へー、とさやかは応じる。

「じゃあ、私は、何が使えるのかな? 魔法とか武器とかって」

「さやかは癒しの願いで契約したから、治癒魔法じゃないかな? 
武器は君自身が取り出して確かめてごらんよ」

「あ、そうなんだ。治癒かぁ。結構便利そうだねー」


 そう言いつつ、さやかは適当な調子で武器を出すイメージをしてみる。
両手を前に突き出し、取り敢えず、力を込めるように、それっぽくやってみる。







 う〜ん…………、




















 出てこない。



「あれ?」

「もっと集中しないとだめだよ」

 キュゥべえにダメ出しされてしまった。早速サポートされてるよ、私。



 容赦なく告げられた言葉に、がっくりと肩を落とすさやか。
が、それも一瞬、すぐに気を取り直し、今度は真剣に念じてみる。
でも、どんな武器が出てくるか分からないので、ただ武器を出すことを念じる。
目を閉じ、イメージを浮かべることに集中するが、肝腎の武器の姿はボヤっとしたまま。
マスケット銃だったらいいな〜、なんて思ったりして。











 うおりゃ〜…………、















 すると、今度は手ごたえがあった。
不意に腕から何かが出て、両の掌の先で形を作る。
しかし、さやかはそれを掴み損ねてしまった。
指先が何か、固い物に弾かれる感触と共に、次いでガランという意外に重そうな音が鼓膜を震わせ、
足元にそれが落ちた。



 見下ろすと、そこには一本の剣。



 片刃の西洋風のサーベルで、僅かに反っており、持ち手の部分にはアームガードも付いていた。
マミのマスケット銃同様、なかなかお洒落なデザインだった。
しかも、よくよく見ると、何か特殊なギミックもあるようだ。
持ち手の部分に、トリガーのような物が付いている。



「おっと、剣か」



 さやかは早速剣を拾い上げ、軽く振ってみる。


 さっきの音とは違い、重さは感じず、しっくりと手に馴染む。
自分が生み出した武器だ。
衣装と同様、違和感や扱いにくさは全くない。
それどころか、完全に自分の一部であるように振うことができた。
試しに、トリガーを引いてみる。



「うわっ!」



 バシュッ! という大きな音ともに、刀身がさやかの視界から消えた。
それは、一瞬後に20メートル近く上昇し、やがて重力に従い、さやかの眼前、
キュゥべえのすぐ後ろに豪快な音を立てて落下した。
幸い、そこには誰もおらず、キュゥべえにも当たらなかったが、派手な音にさやかの肩が大きく震える。



「危ないよさやか。当たるところだったじゃないか」



 上げられる、至極まっとうな抗議の声。その意味を理解して、冷や汗を流すさやかは、
「あはは〜」と苦笑いを浮かべた。
どうやら、剣の刀身を飛ばすことができるみたいだが、誰かに当たってしまわないように使う時は
注意しなければならない。




 しかし、それはともかくとして、さやかは自分の武器に満足した。



 憧れのマミのような銃使いではないが、マミのようにセンスのいいデザインの、
しかも特殊なギミックまでついた強力な武器を手にすることが出来たし、
何より自分はもう魔女に怯えなくてもいい存在になったのだ。
これで、戦線を離脱したマミの代わりに街を守ることができる。
恐怖に勝てるようになった。
もう何も怖くない。









後、気になることといえば、





「キュゥべえ。ちゃんと恭介の腕は治ったんでしょうね」

「間違いないよ。契約は問題なく結ぶことが出来た。きちんと君の願い事は叶ったよ」



 念を入れて確認するさやかに、キュゥべえははっきりと断言した。
「奇跡」について半信半疑だった部分があったので、こんなことを思わず訪ねてしまったのだ。
もし、これで恭介の腕が治ってなかったら、えらいことになっていたが、どうやら杞憂に終わったようだ。
キュゥべえの様子を見るに、わざわざ確認しなくても構わないだろう。
その言葉には、それだけの安心感があった。



「そっか。よし、これで魔法少女さやかちゃんが誕生したって訳か。
ふふふ。マミさんの代わりに街を守っちゃいますよぉ」

 などとのたまい、調子よく笑うさやか。





 その時、ふと違和感を覚えた。

 どこに、というのではない。
何となく、頭の中でそういうものを認識したのだ。
例えるなら、歯と歯の間に肉の繊維が挟まったような異物感。
早く取り除きたくなる不快感。
異物が挟まった気持ち悪さ。




 そんな感じのものだ。


 何気なくさやかはソウルジェムを見下ろすと、それは少し明滅していた。


「これは……」

「早速だね。少し離れているようだけど、その反応の強さだと、魔女が出たみたいだ」










 魔女。


 言わずもがなの、魔法少女や人類の敵。自然と、さやかの体に力が入る。
今更ながら、マミが依然言っていた「命がけ」という言葉が脳裏に蘇って来た。
ただ、キュゥべえの冷静沈着な声が、必要以上に緊張することを防いでくれる。
ある意味、いつも通りなキュゥべえの存在は、今のさやかにとって、とても安心できる材料だったのだ。


「魔女……よーし、この美少女魔法戦士美樹さやかちゃんが、サクッと倒しちゃいますよ。
初陣だけど、もうすでに負ける気がしない!」

 さやかは拳を振り上げた。
緊張はすれど、そこはさやか。
持って生まれた明るさや、元気の良さが、彼女の取り柄。
恐怖心はゼロではないけれど、それで足が竦むようなことはない。
昔から、物怖じしないことが彼女の持ち味の一つだった。


「気合十分だね。でも、早くした方がいいよ。巻き込まれた人が居るかもしれない」

「そうだね。じゃ、行きますか」


 キュゥべえの言葉にさやかは変身を解き元の制服姿に戻ると、緊張を解すように駆け出した。













>>47
>そして、服が無くなる感覚と同時に、一瞬全裸になり、今まで着ていた見滝原の制服とは違う服の感触に覆われる。

さて、さやかの下着はどこに行ったのだろうか? ちゃんとパ○ツ履いてるのか?

私、気になります!!



(真面目な話)
このシーンは本編5話アバンの、さやかが契約した直後の物です。
そのつもりです!!




さやかちゃんにチルノとつるませたい

>>57
馬鹿コンビ結成だな!

本当にいろんな意味でアホだもんな、さやかって
もう本当にアホ

アバン?ストラッシュ?

あたいってほんと?

�?

杏子には……絡ませるならやっぱりザル門番かね?



いつの間にかさやかちゃんがチルノと絡む流れにw
まあ、中の人からも「馬鹿」って言われてますからね。

でもそんなところが阿呆の子かわいいさやかちゃん。

>>59
あんまりアホアホ言うなしw

さやかはすごく潔癖で正義感が強いから、自分の汚いところを受け入れられない。
加えて、理想も高く(本編でもTDSでもマミさんを神聖視してた)、そこに至れない自分を否定する。
結果、自分を自分で追い詰めて、楽することも許せず、孤独になって破滅へひた走っていってしまう。
そんなところがバカとかアホとか�とか言われる所以なんだろうけど、一番人間臭いキャラクター。
さやかの心にもっと踏み込んで、殻を強引に壊さないと、さやかは救われないんですよね。
本編の杏子にしろ、TDSのマミさんにしろ、さやかに手を伸ばすのが遅すぎた。



という訳で、さやかちゃんを助けてくれるイケメソカモーン
(果たしてさやかちゃんに差し出される手は間に合うのか!? ご注目ください)


それはそうと、以下注意事項。
※ちょいグロシーンあり

※まどマギな要素あり

※マミさんは上半身裸×900,000,000
(大事な事なので�オク回ry)












「今言ったことが、あの時私のしたことよ」




 リビングで、テーブルの向かい側に座るフランがそう言って話を締めくくった。







 それまでマミが聞かされていたのは、あのお菓子の魔女との戦いでフランがマミを助けるために
やったことのすべてだ。

 マミが魔女にかみつかれる直前、フランはその場を飛び出し、さらに魔弾を放った。
それによって、砲撃の直後、油断と反動で動きを止めていたマミの胴体に命中し、彼女を転倒させた。






 結果的に、それがマミの命を救ったことになる。
頭を噛み千切られるという悲劇を回避できたわけだが、しかし、マミは胴体の半分以上を食い千切られるという致命傷を負ってしまう。
治療と魔女の相手を同時にしなければならないために、フランは分身を作り出した。
それが、あの「Four of a kind」という技。
かつてのマミの弟子が作り出したそれと同じく、実体を持ち、かつ独立した意志と行動能力を有する。
本体のフランは分身二体と共にマミの治療にあたり、残り一体が魔女の相手をした。




 その時、フランの頭は沸騰したという。
かつて感じたことのない怒りが体中を駆け巡り、それが同時に、彼女の心の奥底にしまわれていた
狂気を目覚めさせた。
しかし、それでもフランは怒りに囚われることも、狂気に身を委ねることもなく、冷静に、落ち着いて
マミを助けることに注力する。
フランは吸血鬼であり、また魔法の知識にも精通している。
その知識は、あの場でマミを助けるのに大いに役立った。
もし、フランが感情的になって暴れまわっていたとしたら、きっとマミは助からなかっただろう。
しかし、この時フランが行ったのは、魔法による治癒ではなく、吸血鬼本来の行為——吸血であった。





 吸血鬼の吸血行為とは、本質的には他者の魂の操作であるらしい。
血を吸うことは魂を奪うことであり、眷属を作るということは魂そのものを変化させることだそうだ。
正直、そのあたりの小難しい話はよく分からなかった。
分かりたくもなかった。
けれど、その後にフランが話したことは聞き逃せないことだった。












 フランがマミの治療にあたり、最も苦労したのは、マミのソウルジェムの処理だったそうだ。
なぜなら、それが固形化したマミの魂であったから。
















「ソウルジェムは魂……か。初めて聞いたわ。キュゥべえもそんなこと言わなかったし」











「『知らなくても不都合はない』そうよ」


「フランは分かっていたのよね」


「……会った時から」


「何で言ってくれなかったの?」


「…………きっと、ショックを受けると思ったから」


「そう……」









 マミは膝を抱える。今、この体には魂が宿っている。魔法少女という、抜け殻ではない。


 けれど、もう既にそれは人間のものではなかった。フランがそうしたからだ。理屈は分かる。
だから、感謝の気持ちがあるのは確かだ。
けれど、感情が納得しなかった。
頭で分っても、心は落ち着かない。



 それはそうだ。いきなり、「あなたは吸血鬼になりました」と言われて、
「はい、そうですか」と返せる人はいないだろう。
ひょっとしたら、すごく変わった価値観を持っている人ならできるかもしれないが、生憎マミは、
魔法少女関連を除けば、ごく一般的な価値観を持つ少女だった。




 だから、どうしても心の中に暗い感情が影を落とす。
あの時、もっとフランが早く行動してくれれば、あるいはまた別の方法を採ってくれていたら、
結果は違っていたかもしれない。
マミは吸血鬼にならずに済んだかもしれない。
でも、そうはならなかった。
現実として、フランはもうヒトならざるモノに変化してしまっていたのだから。


















 恨んではダメ。そう思うのに、恨まずにはいられない。














 思い浮かぶのは、狂ったような笑い声をあげながら魔女を弄するフラン。
マミの血で真っ赤になりながら会話するフラン。
狂っていたのか冷静だったのかよく分からない状態だったフランたち。
本人によれば、あれでまだちゃんと理性を保てていたらしい。
気を紛らわせるために、マミはずっと気になっていたそれを聞いてみた。




「意外と、冷静だったのね、あの時。おかしくなっちゃったんだと思ったわ」























「………………おかしくなってたのよ」































 妙な間があって返された答え。
先程と矛盾するその発言に、マミは首を傾げる。
あの時、フランは怒りと狂気を、ギリギリのところで抑え切れていたのではないか?










「どういうこと?」




「私ね、前に、ずっと地下に閉じ篭っていたって言ったでしょ?」

「うん」

「あれね。半分間違いなの」

「うん?」

「本当は、200年くらい閉じ込められていたの」

「なんで?」



 脈絡のなくなった話に、マミは多少混乱しながらも、何かを言わんとするフランのために、
取り敢えず話を合わせる。
テンポよく相槌を打ちながら、しかし、放り投げられたフランの次の言葉によって、マミは固まってしまった。

























「狂ってるから」






















「……」



 一瞬生まれる思考の空白。
フランの言葉がうまいこと耳に入ってこない。
否、物理的に聞こえては来るが、脳が認識しきれなかった。





 狂っているから、閉じ込められていた?





「生まれつき、精神的に不安定なところがあってさ。
心の天秤が傾いて釣り合いが取れなくなると、おかしくなっちゃうの。
私みたいな大きな力を持つ吸血鬼が暴れ出すと、なかなか手が付けられないからね、
私を閉じ込めてそうならないようにしていたのよ。
もちろん、今はそこまで不安定じゃないけど、まさか狂いかけるとは思わなかったわ」








 なんだろう? どういうことだろう、この感情。









 こんな状況で浮かび上がってくるある感情に、マミは戸惑いを覚えた。
おかしいと思うのに、止まらないそれは、「嬉しさ」。
気が付けば頬を伝う熱く、湿った感覚。





「マミ……」






 フランはマミのために精神のバランスを崩しかけた。
それだけ、マミのことを思っていたからだ。
マミにはそれが嬉しいのだ。
彼女が激しい感情に我を失いかけたのも、そこまでフランのことを思っていたからだった。



 両親を亡くして以来、それほどまでマミのことを大切に思ってくれる人はいなかった。
ずっと一人ぼっちだった。
友達はみんな離れて行ったし、家に帰ればキュゥべえしかいない。
彼は彼で、マミにとって大切な存在だったけれど、彼は自分のことをほとんど話さないし、
何か隠していたのも薄々感づいていた。
まさか、ソウルジェムのことだとは思わなかったけれど。











 だからだろう。それが嬉しい。唯々、嬉しい。

















 でも、暗い感情は止まらない。
嬉しいと思えば思うほど、またその感情も強くなっていくのだ。
まるで、強い光が、より濃い影を作り出すかのように。
目の前のガラスのテーブルに映る自分の眼は、徐々に暗い影を帯びていく。




 そんなに私のことを大事に思っているなら、どうして吸血鬼になんかしたのよ? 
お陰で私は、今こんなに苦しんでいるのよ。







 そう、恨まずにはいられない愚かな自分がいた。
理不尽な糾弾をせずにはいられない弱い自分がいた。
魔女を前にして油断をした自分が原因。
ましてや、フランは助けてくれたのに、その恩も忘れ、被害者面して一方的にフランを、
親友を責め詰る酷い自分がいた。














「……もう、私は戻れないの?」




 脈絡のない言葉。
けれど、今のマミにはそれを考える余裕すらない。
ただ、思ったままのことを口にする。
その心は、身勝手な責任転嫁と、それに対する自己嫌悪で、混乱し、疲弊しつつあった。
だから、ポロリとそんなことを零してしまったのかもしれない。




「それは……」


 フランの言葉は続かない。
ガラスのテーブルに映る自分の紅い瞳を見下ろすだけ。
同じく、マミも抱えた膝に顎を埋め、ガラスのテーブルに映る自分の顔を睨み下ろしていた。





「戻れるの? 戻れないの?」






 マミの口調は強く、問い詰めるようになる。

 言い訳はいらない。ただその答えだけが欲しい。




 考えるたびにマミの心の中によくないものが降り積もる。
恐るべき速さで、真っ黒な吹雪のように、どんどんマミの心を埋めていってしまう。
その勢いは、そんな自分を咎める心すらも覆い隠していく。





 客観的に見れば、それはとても恐ろしいもの。
自制をなくすということ。
しかし、マミはそれに気が付かない。
生まれつき狂気をその身に宿し、狂気との付き合い方も弁えているフランと違い、
元はただの少女だったマミに、狂気に対する免疫がない。
だから、それは本人に自覚すら与えることなく、徐々に彼女の心を支配していく。
狂った歯車は、不快な不協和音を出し、マミの心の向かう先を狂わせてしまう。









 マミは顔を上げる。
暗く、どんよりとした瞳で、蛍光灯の光を反射する“主”の髪を見つめる。
マミの顔の位置からでは、前髪に隠れて、フランの表情は直接に見れない。
だが、ガラスのテーブルに映っている鏡像を見ることはできた。





 その唇は白くなるまで噛み締められていた。
苦痛に呻く病人のような顔で、彼女はテーブルの自分を睨むのだ。
それは彼女が何かを後悔しているということ。
けれど、マミにとってはその様子がもう憎たらしい。
その顔をする資格があるのは自分の方だ。
何であなたがそんな顔をするの? 
私の方がずっと苦しいのに。
そんな醜い感情が、マミの心を突き動かそうとする。























「……ごめんなさい」




















 やがて紡がれた言葉。それがきっかけだった。




















 パリンと、何かが割れる音がした。


























「いい加減にしてよ」




 地の底から湧き上がってきた怨嗟のような声にハッと顔を上げるフラン。
驚いたような、戸惑ったような、悲しんでいるような瞳がマミを映す。

 それを見て、ついにマミの感情を抑えていたタガがはじけ飛んだ。
あとはもう、濁流のように飛び出すそれをフランにぶつけるだけ。
















「何よその顔はッ!!」
















 絶叫しながらマミは立ち上がる。
目を限界まで見開き、いつの間にか変化した真紅の瞳でフランを睨み下ろした。
その表情は、阿修羅の如き憤怒に満ち、ウェーブのかかった長い金髪が、今にも怒りで天を突かんとしている。

 溜まった鬱憤は留まるところを知らない。
恨み、憎しみ、怒り、悲しみ。
そういった負の感情がフランを襲う。
真っ黒で、ドロドロとした衝動がマミの胸の奥底からこみ上げ、それは全身を巡り、
最後に口から飛び出して、目の前の小さな体に、悪意の爆撃を見舞うのだ。





「苦しいのは私よ!! 
昨日、私がどれだけ苦痛を味わったと思ってるの? 
今、どれだけ未来に絶望していると思っているの? 
私、もう人じゃないのよ。人でなしなのよ? 
ふざけないでよ。なんでよ!! 
何でこんなことになるの? 
私何かした? 
あなたに恨まれるようなことした? 
あの時油断したから? 
ええ。そう! 私が悪かったわ。

でも、何よ! 
吸血鬼にすることないじゃない!!」




「マミ! 違っ!」




 あまりにも酷い言葉の数々。傷つけるためだけに口を出た悪意。
けれど、フランはそれらに反応せず、しかし「吸血鬼」という言葉には反応した。






 自分を責め詰るのはいい。けれど、吸血鬼になったことは否定しないで。
辛いだろうけど、それは自分には許せないことだから。





 フランが発する言外のメッセージ。当然、激昂するマミには伝わらなかった。





「何が違うのよぉぉぉ!? 
あなたがやったんでしょっ!! 
謝って済むと思ってるの? 
恩着せがましく言えば納得してくれるって思ってるの? 
バカにしないでよ。

私は人間でいたかっただけよ! 
吸血鬼になんてなりたくなかった。
魔女と戦いたくなんてなかった。
ただ、普通の女の子でいたかっただけなのに」











 なのに、何で?








 なんで、どんどん『普通』から離れていくの?












 家族を喪い、友達を失い、手に入れたのは魔法の力と自分のためだけに奇跡を祈った後悔と、
魔女と戦う運命。




 私が欲しかったのはこんなものじゃない。
ただ家族といたかった。
友達と楽しく遊んでいたかった。
本来なら、私は今頃家族に励まされながら受験勉強に苦労し、息抜きに友達と遊びに行っていたはずだ。



















 それがなんだこれは。
















 こんなもの、私の望む幸せじゃない。
私が欲しかったものは、取り戻したかったものは、もう永遠に手に入らない。









「こんなものがあるから」






 呻くように呟くと、マミは背中から生える一対の「羽根」のうち、右の方を左手で掴んだ。


 その瞬間、マミが何をしようとしているのか分かったのだろう。
フランが悲鳴を上げながらマミを止めようとした。
慌てて立ち上がり、フランはマミにしがみつく。







「マミ! やめてっ!!」





「離してッッッ!!」








 マミは力の限りフランを振りほどいた。
今のフランはただの幼女と変わらない。
その小さく軽い体は、マミの吸血鬼らしい膂力に抗うことなどできず、突き飛ばされて、
大きな音を立てて床に転がった。



 端正な幼顔が苦痛に歪む。
けれど、マミはそれを視界に入れることすらなく、力の限り「羽根」を引っ張った。




































「う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッッッッッッ!!」















































 





 ブチブチブチブチッと、背中から何かが引き千切られるいやな感覚と、
焼き鏝を押し付けられたような激痛が走った。
それを打ち消すために、マミの口から雄叫びが漏れる。
防音設備の整ったマンションだから、隣の部屋には響かないだろう。
しかし、マミの耳を塞ぎたくなるような絶叫は、部屋中の空気を震わせた。







 ボトリと落ちるのは、黒い蝙蝠のような「羽根」。
背後でびちゃびちゃと滝のように流れ出す血が音を立てる。
マミは、血まみれになった自分の左手を、軽く振って血を払う。


























「もう、やめて……」








 消えそうな声が聞こえた。フランの声だ。


 床に這いつくばったまま、真っ赤な目で彼女はマミを見上げる。
その小さな体ははっきりと分かるほど震えていて、まるで怯える小動物のようだ。
お願いだから、と懇願する彼女は、見た目相応の無力な少女だった。











 けれどマミはそれを無視した。聞く耳すら傾けなかった。


 今度は右手で、残った左の「羽根」を掴む。フランは視線を落とした。
































「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうううううううううううッッッッッッ!!」
















 獣がうなるような音が、喉の奥から響いてきた。
床に落ちる黒い「羽根」と重なる水の音。
噛み締めた歯の隙間から、蒸気のように熱い吐息が漏れる。



 止めどなく背中から流れ出す赤い血は、テーブルの下の絨毯を、使い物にならなくなるほど
真っ赤に染め上げ、フローリングの床にゆっくりと広がっていった。
人が見れば、殺人事件でもあったのではないかと思うほどの凄惨な光景。
少女の部屋らしい、独特の甘い匂いに、強烈な鉄臭いにおいが混じった。
しかし、そんなことは最早マミの頭の中にはない。



















 これで「羽根」はなくなった。これで私は戻れる。
















「ハッ」












 激痛なんて感じない。血が減ってふらつくなんて関係ない。













「アハハッ。アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッッ!!」











 ゆらあっと、マミが一歩踏み出し、フランに近づく。


 狂ったように笑いながら。
解放されたような顔をしながら。
その背中から、どくどくと血を流しながら。



「どうよ。これで、私は、もう、戻れるわよ」



 フランは僅かに顔を上げ、床に落ちた黒い塊に目を向ける。



「マミ……」

「私は吸血鬼じゃない。『羽根』はなくなったのよ」








「それは……」

 と、フランが言い掛けたところで、引き千切られて床に落ちていた「羽根」が形を崩し、
真っ黒な煤のようになって、空間に溶けるように消えて行く。






 同時にマミは背中に強烈な違和感を覚えた。
ゆっくりと、何かが生えてくるような感覚と、それに伴い徐々に引いていく痛み。
まさかと思って振り返った時にはもう終わっていた。


















 そこには、先程と変わらぬ黒い「羽根」。化け物である証拠。
















 再び現れたそれは、マミに、自身が化け物であるということを、骨の髄まで思い知らせ、
その心を完膚なきまでに叩きのめした。






「うそ……」



 膝が折れた。全身から力が抜け、マミはその場にうずくまった。





 先ほどまで高ぶっていた感情は空気の抜けた風船のようにしぼみ、
あとはどうしようもない絶望がマミの心を支配する。
さっきまで血に汚れていた絨毯も床も、既にそんなものは最初からなかったかのように元通りになっていた。
マミの血も、さっきの「羽根」と共に消えてしまったのだろう。







「マミ。ごめんね。マミ」






 のっそりとした動きでフランはマミの傍にしゃがむ。
その一挙種一同が、マミには見なくても分かった。
なぜなら、彼女はマミの「主」だから。



 眷属は顔を両手で覆ったまま動かない。
それでも、フランは優しく言葉をかける。
その肩に両手を添え、耳元で囁くように謝る。









「ごめんね。ほんとにごめんね。
全部私が悪いの。
ちゃんとマミに言ってなかったから。
マミと一緒に戦ってあげなかったから。
本当に、ごめんなさい」










 マミは動かない。泣いているのかそうじゃないのか、音すら立てない。



「マミ……」







「……ねえ」











 くぐもった低い声がマミの両手から漏れ出す。



「何?」









「私、どうなるの?」









「……ずっと、吸血鬼のまま」









「そうじゃなくて。私は、このまま見滝原に住んでいられるの?」









「……」








 それが答えだった。



 そう、とマミは擦れた声を出すと、ゆっくりと顔を上げ、フランを見据えた。




「私は、ここにはいられないのね」







 肩から手を離したフランは頷く。
油の切れた人形が無理やり首を動かしたようなぎこちなさだった。







「もう、妖怪だもんね」








 そう言ってマミは、半身を起してフランの両肩を掴んだ。


 フランが苦痛に顔を顰める。
あまりに強い力で掴んだため、折れそうなほど華奢な肩がみしみしと音を立てた。
いっそのこと、折ってしまおうか。












「そうよね。この世界では妖怪は弱くなっちゃうものね。
私にはもうここで住む資格はないものね。
私はこの世界からも追い出されるのよね。
もう二度と鹿目さんにも美樹さんにも……佐倉さんにも会えないのよね。
笑っちゃうわ。無様ね。みじめね。
私の人生って何だったのかしら? 
家族を奪われ、人間としての生も奪われ、ついには住む場所さえも奪われてしまうのね。
これならあの時死んだ方がまだましだったわ。
今でも死ねるかしら? 
吸血鬼って、死ににくいだけで、不死って訳じゃないはずよね。
太陽の下に出れば死ねるかしら? 
心臓を杭で貫けば死ねるかしら?」














 吐き出される支離滅裂な言語。
悪意と絶望と恨みと憎しみが先行し、もはや文脈の体をなしていない。
それを、フランはただ黙って受け止めていた。







「ねえフラン。いえ、『ご主人様』。

教えてよ。私どうしたらいい? 
死ねばいい? 
死ねる? 
それとも、私に生きていて欲しい? 









……ああ、そうか。そういうこと……」









 マミの目が何かに気が付いたように見開かれる。
まるで、世紀の大発見をしたかのように。
それは、やがて歪んだ笑みへと変わった。
残酷なまでにはっきりとした、醜い情動の発露。
誰もが見ただけで体を震わせるような、凄惨な笑み。













 そして、マミの乾いた唇が、血の気の薄い唇が、ゆっくりと言葉を紡ぎ出す。























































「あなたは、私からすべてを奪って、幻想郷に行かなきゃならないようにした。だってそうすれば、もうずっと一緒に居られるものね」












































 マミの口から飛び出した悪意の槍は、過たずフランの心の一番弱い所を貫いた。










 心をずたずたに引き裂かれ、止めに刺し貫かれたフランの相貌はいかなるものなのか。
向かい合う吸血鬼のうち、片方の目が驚愕で大きく開かれた。















 それを見たマミの、


















 ——————ポキン——————



















 心の中で何かが折れた。







 急にマミは我を取り戻す。
そして、さっきとは真逆に、慌てて弁明を言い出した。




「あ……ちがっ、違うの……そういうつもりじゃ」








 その時のフランの顔を、マミは一生忘れないだろう。
黄金色の瞳が怯えたように揺らぎ、耐え切れなくなったマミは立ち上がって逃げ出した。
そして、寝室に飛び込む。














 こんな時だけ膝に力が戻る自分を卑怯だとなじりながら。
























マミさんェ・・・・・



途中、マミさんが乙女にあるまじき言動をしていますが、あんまり気にしないでやってください。
マミさんもストレスたまってるんです。



それと、さやかちゃんの回との落差がひどいw



まあ、マミさんのおppiがオアシス的なあれになるんですがね(ゲス顔)。


よくよく考えてみれば幻想郷に狂ってない奴なんて…

>>96

そこで紅魔館の良心、美鈴の出番ですよ

くれないみすずさん人食い妖怪じゃん

まさに絶望。はてさてこの先どうなりますことやら…

くれないみすずちゃんは紅魔館の花壇を管理する心優しい妖怪ですよー

め、メイド長さんもロリコン気味だけどとても優しいですよ

確かにちょっと不便な生き物にはなったが
魔法少女と魔女の全貌を知った後で幻想郷に移り住んだら、きっとそんな気持ちすっ飛んじゃうぜ?
友達もいっぱい出来るよ!

「人間じゃなくなってた+いずれ魔女(化物)化する」に対し
「みんな死ぬしかないじゃない!!」で返した子が妖怪化させられれば‥どんな伝え方してもこうなるのか?

まあ‥少なくとも冷静に対応してもらうのは無理だな
そう考えるとこれならまだマシなほうか

あと托卵器との契約はどういう扱いになるのかちょっと気になるところだ

魂を抜き取ったQBじゃなくて、フランの方に矛先が向いてるのが余計に居たたまれないな


>>※まどマギな要素あり
この注意書きだけで希望が霧散するって凄いな

真実知った瞬間自殺願望ルート突入する人だし、しょうがないか……
他人を道連れにしないで親友を嬲って罵る程度で済んだんだけマシな方だろうし

おお、皆さん期待通りの反応ですww

>>97>>98>>100
みすずの人気に嫉妬。
みすずは作者によってキャラがかなりぶれますね〜
咲夜さんにナイフ刺されて百合百合したり、フランちゃんにフルボッコにされてないたり、おぜう様にはぶられたり、魔理沙にマスパ喰らわされたり、基本Mですw
たまに、シリアス系だと人食い妖怪らしい面を見せることもありますが・・・・・

>>102
アリス「呼んだ?」


>>103
それはおいおい。前回で、その辺がどうなったのかちょっと明かしたつもりですw
SGの行方についても、すでに作中でヒント(というか答え)が出てます。
契約自体は既に完了されていて、後はマミさんがつけを払えば(=魔女化すれば)いいのですが、
吸血鬼になっちゃったので、魔女化しなくて済むようになりました。
ただ、これはいわば、ツケを払うために、闇金から金を借りた状態で、
・・・・・まあ、そういうことです。


>>104
ハッハッハッ何をおっしゃるwwwwwwww
まだ、こんなもので済むわけないじゃないですかワラ







              *





 ほむらと別れた後、まどかは駅前で親友の一人、志筑仁美を見つけた。

 様子がおかしいので話し掛けてみると、意味不明なことを言う。
よくよく見てみると、首筋に魔女の口付け。
ほむらにもマミにも連絡が取れず、
しかし仁美を放っておくこともできず、
まどかは彼女に付いて行くことにする。



 行きついた先は町はずれの廃工場。


 そこには仁美と同じように魔女の口付けを受けた人たちが集まっていた。
そして、密室に籠り、化学洗剤から毒ガスを発生させて集団自殺を図ろうとする。

 まどかはそれを妨害した。
途端に、呪われた幽鬼と化した人々に囲まれる。




 慌てて逃げた先に使い魔。
まるで不幸のピタゴラスイッチのように、そのまま魔女の結界に引き込まれてしまった。








 大きな青い卵型の空間の中。
まるで水の中に居るかのようにふわふわする。
空間を覆う壁にはメリーゴーランドのような馬の乗り物に、テレビ画面が乗せてある。
そして、そのテレビ画面には、魔女に食い千切られるマミと、魔女を破壊するフランの姿。









 その映像は、まどかの後悔を表していた。
あの時、マミを助けようとしなかった自分、ただ見て居るしかできなかった臆病な自分。
それを責める罰なのだと、まどかは薄れゆく意識の中で思った。






 だんだん自分という存在があやふやになる。
この青い、水とも空気とも言えない何かに満たされた空間に、徐々に自分が溶けていくような気がした。

 甲高い笑い声のようなものを発しながら、片羽根の人形が現れる。
それは、先ほどまどかをこの空間に引きずり込んだ使い魔だ。
そして、その使い魔たちにエスコートされるように、羽根の生えたパソコンのモニターが近寄って来た。







 これがこの結界の主なのだろうか。



 モニターの中には見たこともない記号と、長いツインテールの女の子のシルエットが現れた。








 魔女はまどかの傍を通り過ぎると、そのまま離れていく。
が、魔女を運んでいた使い魔はそのまままどかを捕まえる。
そして、数体がそれぞれまどかの四肢を引っ張った。
そのせいでまどかの手足はあり得ないぐらい伸びた。
結界の中で、他との輪郭が曖昧になってしまったまどかは、まるでゴムで出来ているかのように伸び切った。








 きっと私が、弱虫で、嘘つきだったから……バチが、当たっちゃったんだ。











 まどかは絶望する。
もはや抵抗はおろか、助けを求める気力すら失い、ただされるがままに身を任せる。
どんどん伸びる手足が痛い。
まどかは悲鳴を上げた。



















 だが、希望はそこに駆けつけた。













 突然、激しい破壊音と共に青い幾筋かの閃光が走ったかと思うと、まどかを引っ張っていた
使い魔が真っ二つになった。
更に、まどかの近くを漂っていた魔女も勢いよく吹っ飛んでいく。








 同時に、あやふやになっていたまどかの輪郭が元に戻り、意識がはっきりとする。
伸びていた手足も元に戻り、それまで絶望に覆われていた心も、霧が晴れたようにすっきりとした。















「えっ……さやかちゃん!?」














 すぐ下の方(と言っていいのだろうか?)に人が居るのを見つけた。









 体を包む長く白いマントがはためき、その向こうに青いミニスカートと健康的な太腿が覗く。
その青髪の英姿颯爽とした騎士の姿には嫌という程見覚えがあった。
しかし、その服装は全く見たことがない。







 蒼髪の騎士は名前を呼ばれると、微かにまどかの方を振り向き、口元にうっすらと笑みを浮かべた。
少なくともまどかにはそう見えた。








 まるで強風に煽られているかのようにマントがはためく。
その白い布の隙間から、まどかは確かに見た。
その手に握られた一本の長剣。
磨かれた光沢のある白銀の刃が青い騎士の姿を映す。









 騎士は親友を守るように異形の化け物の前に立ち塞がる。













 化け物は体を揺らし、そのモニターから多数の手下が這い出るように現れた。
ゆっくりとこちらに向かって来る使い魔は、片羽の人形。
致命的にまで可愛くない顔付き。
奇妙な笑い声を上げながら敵を囲む。
そしてまた、騎士もそれに呼応するかのように飛び出す。
そして、掛け声一発、自分を取り囲む使い魔たちを、白銀の剣で叩き切っていく。
最早、蟷螂の斧では彼女の怒りの刃を止められない。









 目にも留まらぬ速さ。電光石火の如く。










 瞬く間に使い魔は殲滅され、残された魔女はモニターに尚もフランやマミの映像を映す。
それは魔女の精一杯の抵抗。
しかして蒼髪の剣士、怒髪天を衝く。








「はああああああああっ!!」







 騎士は激昂。


 魔女は恐慌。


 剣技は速攻。







 まどかを苛み、マミさんを侮辱した悪鬼羅刹め! 

 地獄に堕ちて牛頭馬頭に虐げられろッ!!








 大切な恩人を精神攻撃の材料に使い、その上親友に無用な自責を強いた魔女に、蒼いヒーローは憤激し、
神速の剣を浴びせる。











「これでとどめだぁ!!」








 咆哮博撃。光芒一閃。魔女を斬る。



 もはやただの的と化した箱に、剣士は尚も容赦なし。

 





 轟き渡るは怒りの絶叫。

 それは疾風と怒涛(シュトゥルム・ウント・ドラング)。

 最後の最後に切り裂き魔(スクワルタトーレ)。


















 灰塵に帰せッ!!





















 剣の刀身が射出され、魔女に突き刺さったまま結界の底に彼女を張り付けに。
そうして爆発し、箱の中から人形が飛び出る。
球体関節の少女、放物線を描いて宙に舞い上がり、重力に捉まれば、底にぐしゃりと墜落。





 遺言残す間もなく、魔女は嘆きの種——漆黒の宝石に逆戻り。



 同時に、結界の中に浮いていたメリーゴーランドも落下、結界自体も崩れていく。























                *









 廃工場には、魔女の口付けをされていた人たちが倒れていた。

 その中には、もちろん志筑仁美の姿もある。
だが、彼女たちに脅威はもうない。
なぜなら、魔女はルーキーの魔法少女によって倒されたからだ。

 だが、そこにもう一人、魔法少女候補生の活躍があったことも忘れてはならない。
きっと、その少女の勇気ある行動がなければ、廃工場に集められた人々は二度と帰ってくることはなかっただろう。













「いやーゴメンゴメン。危機一髪ってとこだったねぇ」





 頭の後ろで両手を組みながらさやかは笑って言った。
それはまるで、悪戯が友達にばれてしまった時のような口調で、気軽なものだった。
戦いが終わって緊張が緩んだのか、随分とリラックスしていた。
初めての魔女討伐を終え、一仕事を完了した達成感と、親友二人を含めた大勢の人を助けられた充足感からか、
さやかは余裕の様子だ。







 反対に、まどかは戸惑っていた。

 助けられたのはいいものの、何故か親友が魔法少女になっている。
昼間にキュゥべえと別れたはずなのに、さやかは自分の知らない所で契約していた。
マミのような目に遭うかもしれないのにも拘らず、だ。彼女は怖くないのだろうか? 
助けられた安心と感謝と共に、そんな疑念や困惑が顔を持ち上げる。







「さやかちゃん……その格好」




 まどかの戸惑いと不安が混ざった声に、さやかは慌てて取り繕うように笑う。


「ん? あーはっは、んーまあ何、心境の変化っていうのかな?」



 そう言って頭を掻きながら、さやかはいつもの軽い調子で続ける。
その様子に、不安げなところはないが、逆にまどかにはそれが心配だった。

 さやかは辛い時でも無理して空元気を出すことがある。
マミのことは、さやかもよく分かっている筈だ。
本当は不安があるはずなのに、無い訳ないのに、さやかはそれをおくびにも出さない。
それがまどかが不安がる理由だった。
加えて言うなら、さやかが調子に乗っている時は、最後に大抵失敗をやらかすのだ。
だから、余計に心配だった。





 そんなまどかを見て、さやかはさらに安心させるように言った。


「大丈夫だって! 初めてにしちゃ、上手くやったでしょ? 私」

「でも……」


 それでもまどかの不安は拭えない。

 両手を胸の前で組み、眉尻を下げて心配そうにさやかを見つめる。
まどかの、そんな愛らしい姿に、さやかは内心クスリと笑う。




 ちゃんと心配してくれるなんて、まどかは可愛いなあ。





 まどかの心配の理由も考えず、さやかはそんな呑気なことを考えていた。













 と……、


 カツッ。




 小さな足音。さやかはハッとして振り返り、まどかもさやかの背後に目を向ける。




 そこに現れた人物を見て、二人の体は固まった。
和やかな空気が一転、即座に張り詰める。
今まで気が緩んでいたさやかは、再び緊張し、まどかも思わず身構えた。







 視界に映るのは長い黒髪。
月と街の灯りを背後に、黒々とした少女のシルエットが現れる。
その姿は、この街に引っ越してきたイレギュラーの魔法少女。
その力も、実力も未知数な、謎多き転校生。
故に、二人は警戒の色を濃くしたのだった。






「貴女は……」




 暁美ほむらはさやかを睨みつけながら、小さいながら、悔しさの籠もったような声色で言った。



 その剣呑な態度に、さやかも睨みを返す。







 一度はさやかもほむらのことを見直した。
何だかんだ言って、あの狂った空間から自分とまどかを助け出そうとしてくれたのだ。
だから、さやかもほむらと近付くつもりはあった。
彼女は実力ある魔法少女だろう。
もし説得できれば、彼女だって街のために戦ってくれるかもしれないし、
契約したばかりの自分には心強い味方になるかもしれないと思ったのだ。
だが、結局向こうに友好的な関係を築く意思がなければ、仲良くはなれない。
さやかの抱いた小さな幻想は、脆くも崩れ去った。


「何よ。なんか文句あるの?」

 結果、さやかは、失望感や転校生の態度に辟易したのもあり、かなり棘のある言葉を返してしまった。
自分で言って、少し後悔したほどだ。
まだ昨日の礼も言っていないのに、さすがに失礼だろうか、と思う。
一方で、まどかは、二人の間に流れ始めた不穏な空気に戸惑うしかなく、
ただ視線を交互に行き来させるだけだった。


 さやかは、そんなまどかの様子を視界の端に捉えながら、しかし、ほむらの目から視線を逸らさない。
ほむらもさやかの青い瞳をただ睨み付けている。







 そうしてしばらく互いに敵意をぶつけ合う。合ってしまう。初めてマミと会った時みたいに。
















 だが、睨みあうのは少しの間。





 不意にほむらが踵を返した。


 今まで張り詰めていた空気が緩み、さやかとまどかの肩から力が抜けた。








「精々、自分の願いに後悔しないようにしなさい」





 そんな負け惜しみのような捨て台詞を残して、ほむらは闇に消えた。
そんなにグリーフシードを取られたのが悔しかったのだろうか?






 余計なお世話よ。








 すっかりほむらの評価を元に戻したさやかは、そう思うのであった。











うん。
戦闘描写にもっと勢いが欲しい。


さやかちゃんの戦闘シーンは、アニメのシーンを意識して、勢いが出るように書きましたが・・・・




ところで、ここで漢字に振り仮名を振ったり、文字に傍点を付けたりするのはどうしたらいいんでしょうかね?


振り仮名は()になるし、傍点は消えるし・・・・


振り仮名や傍点を振る方法があるなら教えろください(´・д・`)

あと、今回の書き方読みにくかったら、いってください変えますので
















悠木さんがアップを始めました

読みにくくなんて…ないッッッ?


大丈夫だ……これは本編じゃないんだ……二次創作なんだ……
きっと最後はハッピーエンドになるんだ……

今からアホのさやかちゃんが絶望する時が楽しみです^^

作風なんだろうが改行がちょっと多いかも

乙!
抜け殻→さやかキョンシーウマー?もしくは尸解で裏技逃げ?


さやかちゃん馬鹿なのにえらく語彙が豊富だなぁ
同じく、欲を言うならちょっと行間を詰めてほしいです


今まで進行が遅かったせいか杏子の登場が早い気がしてしょうがない

むしろ行間はこのままの方が嬉しい
携帯では面倒だろうけどPCだと丁度いい


>>132
アホって言っても東大レベルの授業をやってる中学内でのアホの子なんだよね……
「偏差値60とかないわー」な世界なんだろうな

>>103です

>>106
わざわざありがとうございます
一気に魔女化しそうな絶望具合だっただけにその点はもう大丈夫なんだろうなとは思ってました
確認が取れてよかった

ただ(本人たちにはそれどころじゃないんでしょうけど)
魔法少女としての技は
1.もう使えない
2.能力として行使できる
デバンシュウリョウ
1ならマミさん戦力外通告、
2なら‥どうするんだろ?

スペースを空ければ1行上の半角カタカナをルビ代わりにできないかと思ったけど‥
やっぱ無理か

たまに禁書SSでルビを色々頑張ってるのを見る
参考にしてみてもいいかも

>>134
フランちゃんも魔法少女。という事は、勉強すれば魔法(SG式
魔法少女とは種類は違うが)くらい朝飯前……とかじゃない?

>>137

そりゃ、お前ふらんちゃんいるし、スペルカードでマスケtt(ry



マミ「無限の魔弾『パラットラ・マギカ・エドゥ・インフィニータ』!」

1ならヤリかねない

砲符「ティロ・フィナーレ」
砲符「ボンバルダメント」

誠に勝手ながらあんまりそういう書き込みは見たくないです

で?っていう

レミリアとマミさんは気が合いそう
ティロ・フィナーレ(笑)と全世界ナイトメア()だし

ティロフィナーレのネーミングはどっちかというとマスパとかの方が近いだろ



マミさんは中二。
お茶会で中の人たちが
「マミさんだけね〜(笑)」とか言ってた気がすぅ


>>130
そうですね。
文章量を増やしたので、改行少な目に行きたいと思います。

>>131
魂そのものは存在しているし、難しいかも!?
そこら辺はまだよく考えていないです。

>>132
渋と理想郷で短編集書いてる某放射線の方みたいな文章が書きたかった。
→ムリでした☆

・・・あんな文をかける気がしない

>>133
なん・・・・・・だと・・・・・・!!!!!?????

さやかちゃんウチより頭ええやん(泣)
ということはまどかもマミさんも・・・・・

>>134
いえいえ、どういたしましてw

マミさんの魔法少女としての力がどうなったのかは、またおいおい。

ちょっと言えば、その辺りのことはこのお話の結構重要な部分になりますんで、
マミさんの力がどうなったかについての、考察・予想書き込みなんかも控えていただけると嬉しいです。

>>136
禁書SS多すぎて分からない><;

ステイル? 垣根? フレンダ?(あれ、何でこんな・・・)


>>128
虚淵さんは、スバラシイ脚本家です!!
虚淵(ry








                 *







 その夜。



 見滝原は北から西にかけて低い山々に囲まれている。
そんな小さな山の一つ。
見滝原市全域を見渡せるそこには、夜景スポットとして最近若いカップルに人気の展望台があった。
実際、100万ドルとはいかないものの、その小山から眺める見滝原の夜景はなかなかのものだ。
摩耶山や函館の夜景にも匹敵するという噂が広まり、大体の日の夜には人の姿が絶えない。

 だが、今日この日に限っては、風が強く、今にも雨が降り出しそうな天候が、人々を敬遠させたのだろうか、
その展望台には人影が見当たらなかった。




 その展望台の裏、その小山からさらに上に向かって広がる斜面の中腹に建てられた、鉄塔に二つの影があった。
正確には、一人の少女と、小さな動物の影。

 鉄塔のビームに腰かけた少女は、片手にクレープを持ち、それに齧り付きながら眼下の街を見下ろしていた。
普通の人間は到底登れないような高所、どう考えても立ち入り禁止のはずなのに、
少女はまるで当たり前だと言わんばかりにそこに居た。
展望台より数倍景色のいい場所に腰を下ろしていても、しかし少女の表情は酷く機嫌が悪そうで、
ストレスを発散させるようにクレープを乱暴に貪っているのだ。

 ビームの鉄骨に片足を乗せ、もう片方の足をだらんと宙に垂らしている。
地面まで数十メートルもあるような高さなのに、少女は特に怖がる様子を見せない。

 その上、結構な強風が吹いていて、彼女の長い髪をはためかせる。
けれど少女はそんなことは気にも留めず、不機嫌そうに傍らの小動物に話し掛ける。





「で、結局マミはどうなったのよ? 怪我して一時戦線離脱って訳?」



 年の割に幼く聞こえる声。少女らしい甲高い発声だが、不思議と不愉快にはならない。
とは言え、今の険悪そうな声には、触れれば怪我をするような棘がたくさん含まれていた。

 だが、小動物は、睨み付けられても怯むことはなかった。声色も変えず、冷静に答える。


「今でも戦えないことはないと思うよ。ただ、もう普通に生活を送れなくなっただけで」

「はぁ? 話が見えて来ないんだけど」

 少女はあからさまに眉を寄せる。
先程からストレスが溜まりまくっていて相当に機嫌が悪いが、その上訳の分からない話をされてさらに悪くなっていく。
何しろ、この動物の言うことは要領を得なくて、いまいち何が言いたいのか伝わらない。
しかも、少女ははっきりしない態度が大嫌いだった。
だから、情報を断片的にしか出してこない小動物に対し、非常にイラついているのだ。



 しかし、白い生物はそれに気が付いているのかいないのか、ただ淡々と述べるだけ。





「今のマミは、人間とも魔法少女ともあり方が違ってしまっているんだ。
つまり、人間でもない魔法少女でもない、もちろん魔女でもない、まったく別種の存在に変わってしまったんだよ」

「何それ?」

「君たちの言葉では、吸血鬼やヴァンパイアと言うべき存在かな。
少なくとも、彼女はそう言っていたし、僕もそう呼ぶのが妥当だと思うよ」




「吸血鬼ぃ?」




 何を言っているんだこいつは、と言わんばかりに少女が顔を歪める。
あからさまに胡散臭い話に、少女は大業に溜息を吐いた。



「確かにアタシたちは普通の存在じゃないし、どっちかと言えばオカルトなものなんだろうけどさぁ、
いくらなんでも吸血鬼は嘘臭くない? 何を隠しているのよ」


 呆れたような、少し怒ったような声。
露骨に不審さを表す少女に、しかし、白い生き物は調子を変えず、至って平坦に返す。



「心外だなあ。何も隠してないよ。
ただ、マミがはっきりと吸血鬼と言う存在に変わったという証明は出来ていないんだけどね。
だけど、君は太陽の光を浴びて体が煙を吹いていく人間がいると思うかい?」

 少女は首を振る。「マミがそうなったっていうの?」


「そうだよ。僕も見てたし、他に何人か証人もいる。確かなことだよ」




 確かに、吸血鬼は日の光に弱い。
日光を浴びれば煙ぐらい吹くかもしれない。
実際、キュゥべえは見ているのだ、その光景を。





 けれど、やはりそんなことは信じがたい。
吸血鬼なんて、完全に御伽噺の中の登場人物でしかないはずなのに。


 とはいえ、ここでコイツとこれ以上この問答を続けても意味ないか、と少女は考え、話を進める。
何より、覚えている限り、コイツははっきりと嘘を吐いたことはなかった。
少なくとも、今回の吸血鬼云々という話も、事実ではあるのだろう。
それが全ての真実であるという保障はないが。




「ふーん。で、マミは昼間に生活出来無くなっちゃったって訳?」

「そうだね。今具体的にどういう状態なのかは分からないけど、少なくとも死んではいないはずだよ」

「ま、いいや」

 そう言って少女はクレープを口に入れ、かみ砕いて飲み込んだ。
甘い生クリームが口の中に広がるが、それでもささくれていた気持ちは落ち着かない。
彼女を苛立たせている要因は、実はもう一つあるのだった。













「それより、マミの奴が戦えなくなったからって聞いてわざわざ出向いてやったのにさぁ。
何なのよ! ちょっと話が違うんじゃない?」





 苛立ちを隠しもせず、少女はさらに乱暴にクレープを食い千切る。
そして、隣に座るキュゥべえを睨み下ろした。


「悪いけど、この土地にはもう新しい魔法少女が居るんだ。ついさっき契約したばかりだけどね」

 悪びれもせず、キュゥべえが返す。
それが少女の苛立ちを加速させるが、少女の方も、キュゥべえに怒っても暖簾に腕押しだと言うのは
分かっているので、怒鳴ったりはしない。

「何ソレ? 超ムカつく。
ていうかさぁ、アンタが呼んだんでしょ。
アタシが到着するまで待てなかった訳? 
ったく、何で契約しちまうのさ」




 何とも身勝手な話。結局、少女はこの小さな生き物に振り回された形だ。
だが、少女はそれで大人しく元の巣に帰るほど殊勝な性格をしていなかった。
その頭では、この苛立ちをどこにぶつけてやろうかと考えているのだ。



 しかし、キュゥべえは少女の言葉に律儀に応えるだけだった。





「仕方ないよ。契約を迫られれば僕は拒否できない。
そもそも、そうやって奇跡を求めている子たちと一人でも多く契約するのが僕の役目だ。
それに、僕には君にやってもらいたいことがあるんだ」


「やってもらいたいこと?」


 小首をかしげる少女。

 人並み以上に優れた容姿を持つ彼女のそんな仕草は、異性を惹き付ける可愛らしいものに見えなくもない。
しかし、今の彼女は、百年の恋をも冷めさせるような、心底面倒くさそうな表情をしていた。

「アタシはもうやることを決めたんだけど」

「何をするつもりだい?」

「決まってるじゃん。ぶっ潰すんだよ、その子を。
だって、こんな絶好の縄張り、みすみすルーキーのヒヨッ子にくれてやるってのも癪だからねぇ」



 そう言って少女は嗤う。



 口が横に裂け、白い歯と大きな八重歯が覗く。
目は怪しく光り、険呑な色を帯びる。
とても、この年頃の少女が浮べるものとは思えないような邪な表情だった。
それでも、この少女がすると、その表情は非常に魅力的に映るのだ。




 不穏な発言をする少女に対し、キュゥべえは一切動じなかった。
それどころか、契約した魔法少女がどうなってもいいと言わんばかりに続ける。

「それをするのは君の自由だけど、出来れば頼みを聞いて欲しいな」

「何さ、それ」

「吸血鬼を倒して欲しいんだ。マミも含めてね。もちろん強制はしないけどね」


「はあ?」


 少女の顔が、先ほどとは別の意味で険悪になる。
露骨に不快感を表し、キュゥべえを睨む。



「マミも含めてってどういうこと?」

「実はマミの他に吸血鬼がもう一人いるんだ。
彼女がマミを吸血鬼にした張本人だよ」

「ソイツが元凶ってこと?」

「そう言えるね。彼女がマミに噛み付かなければ、マミは吸血鬼にならなかったよ」

「はっ、やっぱり噛み付かれると吸血鬼になるんだ。マミは血を吸われたの?」

「君たちの伝承の通りなら、そうなるね。実際にマミに噛み付いていたしね」

「ふぅん。ホントに居るみたいだねぇ、吸血鬼」


 少女は興味深そうに唸った。



 残ったクレープにかぶりつきながら、再び眼下の街を見下ろす。
その視線の先には、ある一つの建物。
彼女にとっては懐かしい場所。
さっきまでの不機嫌そうな表所は消え失せ、今は無表情な幼い美貌が街明かりに照らされている。
少女は静かに咀嚼しながら、何を思うのか、そこを見続けていた。
その横顔向けて、キュゥべえは自分の用件を言う。


「ただ、やるなら気を付けてほしい。吸血鬼は、相当な力を持っている。
魔女ですらその力の前には翻弄されるばかりだったよ」





 へぇ。






 少女は再度キュゥべえを見下ろし、軽く驚いたように目を丸くする。
クレープを頬張っていた口の中を空にし、キュゥべえに問う。



「魔女を倒せるんだ」

「そうだよ。だから、ひょっとしたら吸血鬼が暴れることによって魔女が減り、
君が手に入れられるグリーフシードが減ってしまうかもしれない。
だから、君にとって悪い話ではないと思うよ」





「マミも?」



 低く、抑揚のない声で問い返す。






 少女はキュゥべえから先ほどまで見つめていた建物に視線を戻した。
その顔は、再び街明かりに照らされるが、前髪に隠れ、キュゥべえには伺えなかった。
彼女は微かに俯いたようだ。


「マミの方は未知数だ。もしかしたら暴れ回るようなことはしないかもしれない。
ただ、彼女の性格を考えると、無理を押しても魔女退治に励みそうなものだけどね」





 そう。







 少女は低く小さな声でそう呟く。
だから、その声は吹き荒れる強風の音にかき消されて、キュゥべえの耳には届かなかった。



「でもまあ、マミの方は倒さなくてもいいよ。
彼女が今魔法を使えるかは分からないけど、もし仮に使えるとしたら、マミ自身相当な実力の持ち主だ、
もう一人の吸血鬼と一緒に相手をするのは流石の君でも難しいと思う。
だから、最低限吸血鬼の方を倒してくれたら僕としてはそれで構わないんだけどね。
そっちの方がより脅威度は高いし」

 少女が何を見つめているのか気が付いたキュゥべえが、同じ所に視線を向けながら言った。
一度は決別した相手、それを、隣の少女が気にしているのは、彼にとって不可思議なことだった。
ただ、キュゥべえにとってそれはさほど重要ではない。
もとより、自分と人間たちは違う生き物。
相互の理解が不足するのは想定済みだった。
ただ彼にとっては、契約する少女が増えてくれればいいのだから。




 他方、しばらく少女は固まっていた。
手に食べかけのクレープを持ったまま、視線を動かさない。
その紅蓮の色の長い髪は風に吹かれて乱れ、白い肌は街の明かりに照らし出されて闇に浮かぶ。
それはさながら赤い亡霊の如く、ただ静かに自らの赴く先を見据える。
その眼に浮かぶ色は、果たしてなんの色か。
無表情なその顔貌も瞳も、今は彼女の心の内を語ってはいない。
















 やがて——、



 少女の口端がゆっくりと引き上がり、唇と唇の間から唾液に濡れた艶かしい光沢をもつ八重歯が覘いた。





 轟、と一際強く風が唸る。






「なかなか面白そうね。やってやろうじゃん」







 少女はそう嘯いた。
















皆さんお待ちかねのあんこ登場!!

マミさんがあんなことになったので、いきなり不機嫌ですw


ガンバレあんこ!
負けるなあんこ!
1はここにあり!






もちろん、まどっちとの絡みもあります。
当然、ほむほむとの絡みもあります。
当り前ですが、マミさんとの絡みもあります。
言うまでもなく、さやかと絡みます。


あんこちゃん逃げて

ここに 墓標を建てよう



いくらフランちゃんが弱体化してるっつっても、夜に相手しようってのは上策ではないかもね

ほむらがグリーフシードのためにマミさんを見殺しにしたっていう誤解のせいで出来た「グリーフシードのために戦う=悪」なさやかの思い込みを補強する形であんこが出てきた原作ほどはこじれなさそうだな

衝突はしたとしてもグリーフシードの使用拒否して魔女化直行とはなるまい

おとなしく待つか。さやかちゃんの結末が訪れる、その時を

逆に、TDSでマミさんとの関係拗らして魔女化したさやかを舐めるな

さやかの問題は仁美・恭介との三角関係になる事だからな

佐倉杏子此処に眠る

…………黙祷

でん六豆をぶつけたらダメージになるかね?

あんこちゃんの槍とレバ剣どっちが長いのか…いや、普通にレバ剣だな

がんばれあんこ。
結界の外なら十分に勝機はあるぞ。


あんこwww
登場早々この扱いってwwっうぇwwwww

>>157>>163
勝手に殺すなしwwww

>>160
安定のさやかです。



さて、あんこが登場して、物語も中盤に入ってきました。
今日は、5話の冒頭、まどさやの会話のシーンです。







                   *







「久々に気分いいわー。爽快爽快」






 川べりの土手に寝転がり、さやかは思いっきり天に向かって両手を伸ばした。
その左手の中指にはめられた銀色の指輪——ソウルジェム——がキラリと陽光を反射する。



 空は透き通るような青さで、ソフトクリームみたいな雲が浮かんでいる
。どこまでも青々としたその天球に落ちていきそうな錯覚がした。
底なしの空に浮かぶ雲に乗ればさぞかし気持ちがいいだろう。
そのままウィーンやベルリンまで飛んで行けそうだ。
あるいはカラヤンに会いに行けるかもしれない。
……いや、死んじゃダメじゃん。


 風が優しく吹き付け、さやかのアンシンメトリーなショートヘアを揺らす。
春らしい暖かく心地良い風だ。
昨日の荒っぽい強風とは対照的である。
今朝の天気予報でも、今日は気持ちの良い一日になるだろうと言っていた。
土手を覆う芝生はその風にそよそよと吹かれ、新緑の匂いがさやかの鼻をくすぐった。
さやかは息を大きく吸って目を閉じ、その匂いをじっくりと味わう。




 辺りは広々とした川べりの公園で、タイルの敷き詰められた遊歩道が一面の芝生を縦断している。
気持ちの良い午後、公園には憩に来た人たちの姿がちらほらと見えた。
遊歩道をベビーカーを押した若奥様がゆったりと歩き、ボール遊びをする小学生たちが歓声を上げ、
公園の木陰のベンチでスーツ姿のサラリーマンが仕事をサボって寝ていた。
さやかたちの目の前には、見滝原を流れる川の支流と、それが本流に接続する場所に建てられた大きな水門。
さらに水門の向こうにはゆっくりとプロペラを回す白い風車の列。
そしてその向こうでは針山のような黒い工場群がスカイラインを描いている。







「さやかちゃんはさ、怖くないの?」



 遠くに子供たちの声を聞きながら、傍らで芝生に腰かけるまどかが尋ねた。
どこまでも平和で長閑な景色の中で呟かれた、やや不穏な単語。
まどかの顔も、この場に似つかわしくない暗い不安気だった。



 まどかの心境としては、昨夜のことは唐突過ぎて頭の整理が追い付かなかったというのが、
正直なところ。
今朝から彼女は色々とさやかを詰問していたが、人目のある所、しかもほむらの居る所ではあまり
聞けなかったのだ。
だから、二人は放課後、学校が終わってからこんな所でのんびりしているのだった。


 そんな親友の心配そうな声を聞き、さやかの頭が一晩前の記憶を探り出した。



「ん? そりゃあちょっとは怖いけど……、でも、昨日の奴にはあっさり勝てたし。
もしかしたらまどかと仁美、友達二人も同時に亡くしてかもしれないって。
そっちの方がよっぽど怖いよね」

 だーかーら、と言って、さやかは足を上げて反動をつけ、上体を起こした。
スカートがふわりと舞い上がり、あわや下着が見えそうになる。
白く眩しい太腿が躍動し、未だ不安がぬぐえないまどかの眼を引きよせた。



 さやかはまどかに元の形に戻したソウルジェムを見せる。


「何つーかな。自信? 安心感? ちょっと自分を褒めちゃいたい気分っつーかね」


 そう言ってさやかは勢いよく立ちあがった。そして空を見上げる。







「まー、舞い上がっちゃってますね、私。
これからの見滝原市の平和はこの魔法少女さやかちゃんが、ガンガン守りまくっちゃいますからねー!」



 甲子園の開会式よろしくさやかは片手を天に向かって突き上げ、宣誓する。
その顔は自信に満ちあふれ、全く先憂のないように見えた。
つい昨日なったばかりとはいえ、異能の力を手にし、さっそく魔女を撃破して多くの人々を助けた
ニューヒロインは、ただ調子よくそんなことを言うだけだった。







 普段からテンションの高いさやかの性格をよく知っているまどかからすれば、今の様子には
さらなる不安を覚えるだけ。
さやかが調子に乗ると碌なことがないし、何より魔法少女の世界は甘いものではないのは
一昨日マミが身を以って二人に示していた。


「後悔とか全然ないの?」

 まどかがそう訊くと、さやかは少し表情を曇らせた。

「そうねー。後悔って言えば、迷ってたことが後悔かな。
どうせだったらもうちょっと早く心を決めるべきだったなって。
あの時の魔女、私と二人がかりで戦ってたら、マミさんもあんなことにはならないで済んだかもしれない」





 脳裏に浮かぶのはあの時のマミの無残な姿。そして、狂ってしまったフラン。





 自分が契約していれば、少なくともマミが吸血鬼になってしまうことはなかっただろう。
日光に皮膚を焼かれなければならない運命に落ちずに済んだだろう。

 ある意味、マミを襲ったのは死ぬより残酷な定めだった。
だけど、今さらそんなことを言ってももう遅い。
過去に起こったことは変えられない。
それに、魔法の力でマミさんを治せるかもしれないじゃん。


 楽観的かもしれない。見通しが甘いかもしれない。
でも、キュゥべえによれば、さやかは癒しの力を手に入れたのだと言う。
なればこそ、マミを治療することも可能なんではないか。
さやかはそう考えていた。









「私……」







 呟くまどかの声がかすかに湿る。


 この人一倍優しくて気弱な親友は、だからこれまた人一倍泣き虫だった。
そこをさやかはまどかの長所と捉えているのだが。






 まどかはそのまま黙ってしまう。
何か言いかけたようだが、言おうか迷っているようだった。
言いたくないなら別に言わなくてもいい。
さやかは無理に促すことはせず、まどかが自分から言い出すのを待っていた。






 やがて、

「……卑怯、だよね。さやかちゃんばっかりに負担掛けさせちゃって。
昨日も、私が契約してたら、すぐに仁美ちゃんたちを助けられたのに。
…………それに……マミさんのことも…………」


 俯いたまま、歯切れの悪い涙声で苦しみを吐き出すまどかの肩を、さやかはそっと抱き寄せた。
いつものまどからしくない冷たい体。
細い肩は小刻みに震えていて、それを押さえ込むように、さやかは少し腕に力を入れた。


「私、ね。あの病院の、魔女の結界の中でね、マミさんと、約束したの。
戦いが終わったら…………契約、するって。……そう言ったの。
なのに、あの時、私、怖くて……契約しなかった」






 さやかに身を預けながら懺悔するまどか。
さやかは何も言わず、空いている方の片手で懐からハンカチを取り出し、まどかに差し出した。


 ありがとう、と小さく呟いて、まどかはそれを受け取った。
けれど、顔の涙を拭こうとはしない。
頬も目も真っ赤なまま、まどかは苦しそうに言葉を吐き出し続ける。




「私、逃げたの。怖くて、今も怖いの。だから、私……」




 ハンカチを握りしめるまどかに、さやかはついに閉じていた口を開いた。








「うん。分かった。まどかの、気持ちはよく分かったよ。あたしも、おんなじだったからさ」







 空は気持ち良く晴れ渡っている。
こんないい天気の日に、湿っぽい話をするのはもったいない。
さやかは空を見上げ、そう思った。




「だけど、恭介が、もうバイオリンを弾けないって言っていた時にさ、どんな怖いことでも乗り越えられる
……ううん、乗り越えなきゃいけないって思ったんだ。
だから、契約した。
私なんかの願いで恭介が助かるなら、もう迷うことは無かったしね」


 そう、そこだ。
まどかとさやかの違い。
それは、恭介が居たかどうか。
願い事で助けたい人が居たかどうか。
まどかは漠然と人を助けたいと思っていて、さやかは恭介を助けたいと思った。
どちらも同じこと。ただ、違うのは明確な対象があったかという点だけ。
さやかは、恭介のためになら、どんな恐怖も乗り越えられると、そう思ったから契約したのだ。
まどかにも同じように契約しろなんて言わないし、本当に叶えたい願い事、恐怖も越えられるようなものが
できた時に、契約するべきだと思う。




「……さやかちゃん」

「後悔、してないよ。私なら、魔法でマミさんを治せるかもしれないし、ね。
何でも、キュゥべえが言うには、私は『治癒』の能力がある魔法少女なんだって。
だから、ひょっとしたらね」

 だから、まどかは無理しなくていいよ。さやかは微笑んだ。

「あ、それは……」

「焦っちゃダメ。こういうのはね、なっちゃったから言えるの。
どうせならってのがミソなのよ。
まどかは時間があるんだから、もっとゆっくり考えたら? 
一回きりの奇跡なんだからさ。ほんとに自分が『そうしたいッ!』っていう願い事にした方がいいよ」

 ね? 胸元から見上げる濡れた双眸にさやかは笑い掛けた。



 それがさやかの偽らざる本心。

















 言いかけた言葉を飲み下し、まどかはゆっくりと視線を下ろして足元の芝生に目を向ける。





















「ほんとの、願い……」

「そ! まどかがそれを願っても後悔しないことだよ」

「……私、マミさんの、ために、願い事、使いたいよ。……やっぱり」


 なかなか頑固だ。うーん、とさやかは頭を捻る。


 確かにまどかの気持ちは分かる。マミのために奇跡を使いたいというのは立派な考えだ。
さやかはそれ自体を否定するつもりはない。
でも、さやかはまどかがそのことで契約するべきじゃないと思うのだ。


「まどかはマミさんのこと裏切ったって言うけどさ、私もマミさんのこと、見捨てようとした。
あれだけマミさん、マミさんって言って、いざとなったらあの様。
……情けなかったよ、自分が。
今でもその気持ちは残ってるし、まどかが同じこと思っているのも分かるよ。

だけど私は、








それでもマミさんのために祈らなくて良かったと思ってる」








「え……?」



 一見酷いように聞こえるさやかの言い方。
まどかは驚いたような、困惑したような色をその瞳に見せる。
だが、さやかはそんなまどかの眼を視ず、遠くの空を見通すように眺めながら、僅かに口元を緩めて続けた。




「だってさ、もしマミさんのために祈ってたら、きっとマミさんはそのことを責任に感じちゃうと思う。
『私のせいで美樹さんが魔法少女になっちゃった。私のために一回きりの奇跡を使っちゃった』とかってね。
そりゃあ、私は恭介のために祈ったよ。
でも、私は恭介の恩人になりたい訳じゃないし、魔法少女になったことを言うつもりもないよ。
だって、そのことで恭介が私に責任感じたら嫌じゃん」

「……、」

「ちょっと酷い言い方になっちゃうけど、恭介は魔法少女のことなんて知らないから、
教えなければ何も分からないよ。
でも、マミさんは違う。
まどかが契約したらきっと分かると思う。
そしたらさ、マミさんいい人だから、きっとまどかに対して負い目を感じちゃうかもしれないと思うんだ。
それってさ、まどかも嫌でしょ? 
素直に喜べないよ、そんなの」





 しばらくまどかは黙って考えていた。
きっとさやかの今の言葉を噛み締めているんだろう。
だから、さやかはもう何も言わなかった。
これ以上自分が言うことは何もないし、それでもまどかがマミのために祈りたいと言うなら、
もう止めるべきじゃないとも思う。





 二人はしばしの間無言で、さやかは胸元にまどかの体温を感じながら、そよそよと吹く風に身を委ねていた。
心地良い、午後の春風に乗り、公園で遊ぶ子供たちの元気な笑い声が聞こえて来た。
どこまでも平和で長閑な景色。
これからさやかが守っていくものだ。
それを意識すると、その荷の重さを実感できた。
そして、かつて感じたことのない充実感で胸が一杯になる。
ああ、自分も正義の味方になったんだ。
そんな感慨が湧いてきた。


 本当に今日は気持ちいい天気だ。ポカポカした春らしい一日。
このままこの土手でお昼寝するのもいいかもしれないけど、この後は大切な予定がある。
そろそろ時間だから行かないといけない。


 と、そんなことを考えていたさやかからまどかが身を離した。
さやかの思考は中断される。
まどかはさやかの渡したハンカチで目元を拭きながら、少し吹っ切れたような声で言った。




「そうだね。さやかちゃんの言う通りだよね。
……ちょっと、考えが浅かった。ごめんね。変なこと言って」

「なーに言ってんの! 私たち、友達でしょ。
まどかの相談なら、私いつでも乗るからさ。
この美樹さやかちゃんにどんどん言ってくれたまえ〜。
ワハハハハア。なんてね」




 おどけて胸を叩くさやかに、まどかも小さな笑みを零した。
良かった。いつもの調子に戻ったみたいだ。



 ありがとうね。



 まどかが頷くと、さやかはこれで話は終わりとばかりに立ち上がり、伸びをした。


「さてと、じゃあ私はそろそろ行かないと」

「ん? 何か用事があるの?」

 ハンカチを返しながら、まどかは首を傾げた。
それに、さやかは照れ笑いを浮かべる。



「まあ、ちょっとね」









このシーンは結構好きなシーン。

さやかの心の中を表すような青空の下で二人が話し合う、さわやかで明るいところが気に入っています。



・・・・でも、この時既にマミさん死んでるんだよね。




途中、さやかちゃんのセリフの中で、不自然に改行されているところがありますが、
これは傍点の代わりに、改行で強調したからです。
苦肉の策(笑)



まどっちが、何を言おうとして、その言葉を飲み下したのか、考えてみてくだしぃ。

こういうこと言ってて結局魔女化するときみたいなことになるんだから
なんというか俺もあんまり言いたくないけどアホ以外に言い様がない


みんなあほあほ言うけどさ、この子ら中学生なんだぜ・・・?
あんだけの目にあったら狂うし絶望もするだろ・・・
しかしこのさやか、恭介に感謝されるつもりはないと断言してる分原作よりちょっと大人かもしれない

まどかにしたって考えがあって成功したわけじゃなくて踏ん切り付かなくてもたもたしてたらそうなったって感じだしな

言われているほどさやかが特別頭が悪いってわけでもない


強いて言えば運が悪くて間が悪い

アホって言うか、そこまで考えられないんだろ

よくまどマギ論評してる奴は自分達と同じくらいの思考能力がある前提て話してるけど、
さやか達はまだ、中学生。
14、15の子供に大人と同じ論理的思考能力を求めてもね…
こいつら基本フィーリングで生きてるし

しかも、女だ。
さやかが中の人達に人気があるのも、
「少女」らしいから。
感情的なのは、仕方ない

中学生位なら感情論で物事を判断してしまうのも仕方ないよなぁ

>>106
美鈴の不憫ネタや、メイド長のPADネタは、
数年前ならともかく今は廃れてるので、使うと荒れる原因になるぞ。
原作では逆の扱いだし。

それはそうと、妹様が不憫なので、ほのぼの動画を置いときますね

ttp://www.youtube.com/watch?v=yNRzCCLyeIA

まぁガキだしね

中学生女子にみられる行動の一例
・友人への断りのメール内容が思いつかず、泣きながら兄を怒鳴る
・兄がメール考察を断ると地団駄を踏み、泣きながら兄に枕を投げつける
・兄の提案したメールの内容には有無を言わさず否定し、泣きながら兄に蹴りを入れる
・兄がせめてもの抵抗で鼻で笑うと、泣きながらカラーボックスを投げ込む



チュウガクセイジョシッテテンシダヨネー(死んだ魚の目)

尚且つ近くの同世代の男子または弟に対して理不尽な暴力をふるう

ジョシチュウガクセイッテカワイイナー(絶望した目)

>>187-188
……お前ら姉妹に恵まれなかったのな。

でも妹欲しかったわー

>>190
小学校上級生の妹n(ry

夜、家族がそろい夕食を食べ始める

妹、(父の)iPhoneに夢中
母に叱られ舌打ち→食べ始める

妹がTV、iPhoneに夢中になって食べない
父に叱られ「ワカッテルヨ!!」となぜか大声で怒り出す

妹、畳で立ち膝で食べ始める
俺が注意すると「くぁwせdrftgyふじこlp(ry」何故かヒステリーを起こす

風呂上り、髪の毛濡れてない

その後兄は妹系キャラのアニメを鑑賞し、「妹ってなんだっけ…」と自室でつぶやく

就寝、枕を涙で濡らすのでした…

コレでも、妹が欲しいと申すか…(震え声)



>>191
むさい男3人よりマシだわ!

そんな悪辣な言葉しか投げかけてこないなら妹より男兄弟の方がいいわ
とか言う俺は一人っ子

妹はキツイ特に長女で妹ならなおさら

兄のスマホを奪い2〜3時間の長電話
兄が返せと言ったら舌打ちor逆ギレ
兄が肩にゴミが乗ってるからと落としてあげるとマジギレ
挙げ句の果てに自分は悪くないアピールし始める


イモウトッテカワイイヨー(死んだ魚のような目)

姉もひどいぞ

肩車しろと言って無理矢理乗ってくる
車の免許取ったとはしゃいで連行される
部屋の漫画を勝手に持ち出される
酔っぱらって首にキスマーク付けるつって近寄ってきてゲロ吐く

やっぱ妹のがいいわ

用法と用量を適切に使用すれば扱い易い馬鹿な幼馴染が一番ましだ

いつのまにか姉妹の愚痴にwww

なんだこれw

いつのまにか姉妹の愚痴にwww

なんだこれw

二度も言うほど大事なのか

大事なことなので(ry

………それよりも>>1はまだか〜?


何故か姉妹談義になってるwww

この間妹に久々に会ったけど、

 ま っ た く 可愛げがなかった。

プレゼント飼ってやったのに、お礼の一言もないとか、どういうことだ、おい!


>>185
このSSでさくやさんがPADネタでいじられことはないです。
というか、できないですw
あの人の乳はアンタッチャブル。

美鈴も、ネタで不憫にされることはないかと…、



動画w
咲夜さんが可愛いww


>>191
分かるw分かるw

萌えキャラの「妹」は所詮誰かの幻想の中にしかいない。
リアル妹はそんなもん。

生意気な態度をとられても、大人な対応して生暖かい目で見守ってあげよう!





なんのスレだっけ、ここ?







                  *





 この町で一番大きな病院の屋上に数人の人が集まっている。




 その病院は四方がガラス張りの高層ビルで、見滝原中心街の摩天楼群の一つを成していた。
およそ病院には似つかわしくない、どちらかといえばオフィスビルや商業施設と言われた方が
しっくりとくるその病院の屋上は、これまたそうとは思えないほど広々としていて、だだっ広いそこには
春の日光を存分に浴びながら、色とりどりの花が咲き誇っていた。
そして、その花壇を背に、ヘリポートを兼ねた公園にあるような広場にて、細やかな演奏会が行われている。


 両手の指で数えられるほどしかいない観客たち。
その病院に勤めている気の優しそうな医師や美人な看護師、明らかに夫婦と思われる壮年の品のいい男女、
そして少年と同年代の学校の制服を着た少女。
年齢も服装もばらばらな彼らは、車いすに座っている若きバイオリニストと向き合っており、
そして誰も彼もが、穏やかで、幸せそうな微笑を口元にたたえていた。


 少年は——若きバイオリニストは、彼がこの演奏会の主役である。


 彼は繊細に弦をゆったりと動かし、メロディに身を任せるように曲を奏でていた。
物理的にこの場所からでは彼の音楽は聞こえないが、まるで音楽と一体となったような、少年の演奏は
洗練された美しさがそこにあって、見ているだけで聞こえてきそうで、視線はその姿に固定され、
思わずリズムに体を揺らしそうになる。
幼いころからやっていたのだろう、そこに初心者然としたぎこちなさはなく、
むしろリラックスしていい感じに力が抜けていた。





 目を閉じた少年の口元には、穏やかな笑み。
少年のことを全く知らない者が見ても、その笑みは、少年がこれまでの人生を音楽に賭けて
生きてきたことを理解できるだろう。
曲への敬意と、再び演奏が出来る事への驚喜。
それを旋律に乗せて、少年は音楽に身を沈める。






 アヴェ、マリア



 恵みに満ちた方



 神の母聖マリア 



 御胎内に御子イエスを授かられた方



 我が身に降りた御業をお喜びください









 ———————病院の屋上、花の咲き誇る庭園の傍で、細やかなコンサートが行われている。








 その様子を遠くから眺めている二つの目玉があった。

 見滝原で一番高い建物、見滝原セントラルタワーの最上階展望台にある双眼鏡を通してコンサート
を覗いている少女の物だ。
その上魔法で双眼鏡の倍率を上げている。


 そこは地上200メートルを超える高所。
東京都庁とほぼ同じ高さにあるその展望台からは、見滝原全域はおろか、北を向けば越後山脈の
ギザギザとしたスカイラインに、視界の大部分を占める榛名と赤城。
西には白い噴煙を上げる浅間山に、東は下野の国。
そして南を見れば、遠く東京まで望めるという、絶好の観光スポットだ。
当然、そこからは駅前のビル群も見下ろし、病院の屋上もよく眺められた。




 少女が見ているのはコンサートの主役の少年ではなく、その演奏にうっとりとした様子で耳を傾けている彼の幼馴染の方だった。


 中学生女子にしては背は高め、青いアンシンメトリーなボブとミディアムの中間のヘアー、
活発そうな顔に恋に落ちた乙女のような儚げな表情を浮かべている。
いや、本当に恋に落ちているのだろう。
少年を見つめるその目線には、やけに熱が籠っていて、彼女が彼にどういう感情を抱いているのか、
数百メートル離れた場所から望遠鏡で覗いていてもよく分かった。
今まさに幸せ絶頂と言った様子だ。
大好きな少年の奏でる音楽に陶酔し、さぞかしご満悦といった感じ。




 それを見ながら、少女は心の中で軽く舌打ちする。
どうにもその様子が気に食わないからだ。
何も分かっていない新入り。
魔法少女に幸福はない。聖母は祝福しないのだ。
なのに、あのルーキーのヒヨッ子はそんなことも露知らず、呆けた顔で舞い上がっているみたいだった。
昨日今日で、契約したばかりの彼女には、そんなことを知る由もなく、だから何も分かっていなくてもしかながないと、
理屈では分かるのだが、少女の心の中は時化た海のように荒んでいる。



 まるで、無知で愚かだった過去の自分を見ているような気がするから。



 その後に訪れる悲劇に感付きもせず、ぬるい考えで魔法少女をやっていた自分に見えるから。



「アイツか……」

 少女は菓子を齧る。いや、噛み千切る。

 あまりに乱暴に口を動かしたので、ウエハースのモナカの破片がポロポロと床に落ちてしまった。
普段は食べ物をそんなふうに荒っぽく食べることはないのだが、今は荒んだ気持ちを少しでも
静ませたくて、ほとんど歯応えのないモナカを、固い煎餅でも噛み砕くかのように、
顎に力を入れて咀嚼していく。


「本当に彼女と事を構える気かい?」


 彼女の後ろには白い生物がちょこんと座っていた。
相変わらず感情の伺えない、いつ聞いても変わり映えのしない声で尋ねる。



 その生物は普通の人間には見えず、このように堂々と展望台のど真ん中に居座っていても、
誰にも気付かれないのだ。
とは言え、そもそもこの展望台に居るのは、少女とこの生物だけ。
平日の夕方という、多くの人が高いところから景色を楽しむより、職場や学校から家に帰ることの方を
優先する時間帯では、人が居ないのも当然である。
もちろん、防犯カメラはあるのだが、少女はその死角に立っているので、カメラにも人の目にも映らない
魔法の使者と話していても、不自然に思われることはない。
だから、彼女は堂々と生物の言葉に答える。




「だってチョロそうじゃん。瞬殺っしょ、あんなヤツ。
吸血鬼を叩く前のウォームアップにちょうど良さそうだし。
それとも何?」

 少女は双眼鏡を補強していた魔法を解き、ソウルジェムを元の形に戻しながら振り向いた。
ソウルジェムの色は真紅。
彼女の長い赤髪と同じく、このガラス張りの展望台を染める夕焼けの光を反射し、キラリと輝く。
あるいは魔の力によるものか。
やはり、ジェムには僅かな濁りがあるものの、それはルビーのような美しさを主張していた。


 そのソウルジェムを見せつけるようにしながら、少女は挑発的な笑みを浮かべる。




「文句あるっての? アンタ」




「全て君の思い通りになるとは限らないよ。この街にはもう一人、魔法少女がいるからね」


 そんな少女の態度に微動だにせず、白い生物はただ彼女と会話する。
彼にとって、人間の表情の変化はさほど重要なことではない。
彼がコミュニケーションに用いるツールはもっぱら言語。
非言語コミュニケーションは、彼にとって一方通行の物でしかないからだ。




「へぇ、何者なの? ソイツ」

 少女は余り興味のなさそうな様子で訊き返す。それは余裕か、はたまた油断か。



 確かな実力、そしてそれに裏付けられた自信を持つ彼女にとって、魔法少女の一人や二人、
大した障害ではないし、ましてやあのヒヨっこルーキーみたいなら敵にすらならない。

 ただ、


「僕にもよく分からない」


 契約の使者の意外な一言に少女は僅かに怪訝な顔をすることになった。



 キュゥべえから言われた、意味不明な一言が彼女の琴線に触れたようだ。
そこで初めてもう一人の魔法少女に興味を持ったらしい。

「はあ? どういうことさ。ソイツだってアンタと契約して魔法少女になったんでしょ?」

「そうとも言えるし、違うとも言える」

 キュゥべえの要領の得ない答えに、少女は更に訝しんだ様子で耳を傾ける。

「あの子は極めつけのイレギュラーだ。どういう行動に出るか、僕にも予想がつかない」

「へっ、上等じゃないの」


 暗に警戒を促すキュゥべえの言葉も、少女は鼻で笑い飛ばす。
その声には、相変わらず余裕と楽しむような響きがあった。
例えイレギュラーだろうと吸血鬼だろうと、ベテランの域に達する彼女にとっては、
恐るるに足りないのである。
それに、キュゥべえも知らない、予想もつかない魔法少女とあれば、彼女の興味を大いに引く対象となったのだ。


「退屈過ぎてもなんだしさ。ちっとは面白味もないとね」




 少女——佐倉杏子はウエハースのお菓子の残りを口に放り込み、
気だるげな声を出しながら歩き去った。
その背中で、赤いポニーテールが揺れる。
碌に手入れもされておらず、少し寝癖が付いたままの長い赤毛は、
それでも艶やかに夕日を反射していた。




 やがて、キュゥべえの赤い目玉に映る彼女の姿は展望台から消え、
そしてまた、白い生物も音もなく動き出し、その場から去って行ったのだった。







とりあえず、今日はここまで。

アヴェ・マリアの歌詞(和訳)は、適当です。
ウィキペディアとかに乗っていたのを改編しただけ・・・・

友人に阿部 真理亜がいるんだが…
いや、何でもない。

>>196
幼馴染がいて損なことなど、なんにもないのでは?

さぁて、どうなる事やら

>>202

>萌えキャラの「妹」は所詮誰かの幻想の中しかいない。
>リアル妹はそんなもん。

妹に限らず、子供自体は今も昔も変わらない

変わったのは、社会それ自体だ(キリッ

>>215
わりと真面目に悪い意味でゾッとした

咲夜さんマダー?(ソワソワ

十六夜サトゥーヤさんマダー?

ほむらと咲夜さんって共通点結構あるよね

十六夜咲男です

八雲……咲男さんです!さっちゃんです!サクヤイザヨイサーンです!


咲夜さんに「早漏野郎!」と罵られたい方が出没されてますね^^;
我々の業界ではご褒美です(キリッ


>>212
含みのある言い方、、、気になる
「阿部」を見ると、どうしても「阿部寛」が思い浮かんでくるんだが・・・・・


>>213
知らぬ間に彼氏作ってます(´・д・`)


>>219
・時間停止
・執着?忠誠?(咲夜→おぜう ほむら→まどか)
・ひn(ピチューン
・変態(二次)

なるほど、共通点が多い・・・・(ほとんど二次だけど)



真面目な話、東方とまどマギクロスが少ないのは前々から不思議に思ってました。
まあ、咲夜さんはループしてるわけでも、追い詰められてるわけでも、コミュ障な訳でもないけど・・・・・





                   *






 日が沈んだ。

 なんとなくではなく、はっきりと分かる。今、丁度今、日が沈んだ。


 今朝も、日の出をぴったり言い当てられた。
昼間には、正午丁度、太陽が南天に達したのも感じ取った。
どうやら、吸血鬼になったことによって、完全に太陽の位置を知ることが出来るようになったらしい。
太陽に嫌われ、夜の世界に追いやられた存在だからこそ、太陽のことがよく分かるのだろう。


 それにしても、不思議なものだ。

 毎日毎日その恩恵を享受しておきながら、普段はほとんどその存在のありがたみを感じることがなかったのに、
いざ太陽を失ってみると、理不尽なことに、この世の何よりも太陽が憎たらしく思えてくる。
これが吸血鬼と云うモノだろうか?




 光の入らない真っ暗な寝室で、マミはベッドの上で膝を抱えて考え事をしていた。


 何もすることがない。
正確にはひとつしたいことがあるのだが、やる気が起きない。
動こうという意思も、生理的な欲求に基づくその意思も、ただの「億劫」という感情に打ち負かされてしまい、
結局マミはその場から微動だにせず、ひもじいままにひたすら思考の海に意識を埋没させるにとどまっていたのだった。


 それはともかく、動きたくないマミはずっとベッドの上で考え事をするか、睡眠をとるかの
どちらかで、この日を過ごしていた。
結局、昨晩から一日中自室に引き籠もっていたのだ。




 だが、睡眠も考え事もマミにはありがたくないものだった。




 寝れば夢を見る。それも、自分が殺される夢。
あのお菓子の魔女に首を食い千切られる夢。
あのまま鋭利な歯に首を引き裂かれ、頭をぐちゃぐちゃと咀嚼される音と感触が生々しい。
現実にはなかった、ifの可能性なのに、妙なリアリティを持ってマミの記憶に残っている。

 他にも、見上げるほど巨大な魔女に殺されたり、訳の分からないことを叫んだ上に何故かかつての
弟子を殺し、自分もまどかに殺されたり、突然学校で魔女に襲われクラスメートや教師たちが
使い魔に殺されていくのを目撃してしまう夢を見た。




 さっさと忘れたいのに、悪夢は記憶に残って時々思い出してしまう。







 これは予知夢なのだろうか? 未来の私の行動を示しているのだろうか?







 そして、考え事と言えば、今の自分の状態しかない。それしか考えられない。





 私は、完全に吸血鬼になったんだ。






 フランドールはそう言っていた。だから、あの地獄のような苦しみはなくなった。
もうあれに苦しめられることはない。呻き声を上げながら、このベッドでのた打ち回ることもない。
なぜなら、それは肉体が人間から妖怪へ変化する故のものだったから。


 背中に現れた異形の印。脱いでいた上着を身につけると、そのせいでマミの胸部は
(その豊満さも相まって)やたら窮屈だった。
まるで、サイズの合っていない服を着たみたいに。

 その気になれば魔法で服を貫通させることもできる。そうすればこの窮屈さはなくなる。
けれど、マミはしない。
なぜなら、それは自分がそういう存在に変わり果てたことを認めることになるからだ。



 マミは認めたくない。まだ人間で居たい。



 だが、現実は非情だ。
今日一日だけで自分が人ではなくなったことを嫌というほど思い知らされた。
正確に太陽の動きが分かるなんて、まさにその証拠だ。





 どうしてこんなことになってしまったんだろう? 
どうしてもっと慎重に戦わなかったのだろう? 
どうしてフランは自分を吸血鬼にしたんだろう?








 昨日は、ショックのあまりフランに当たってしまった。



 酷い言葉を投げかけた。思い出したくもない激しい非難を浴びせた。
散々怒鳴って、自分の羽を自分で引っこ抜くという暴挙にも出て、挙句の果てには最後の最後で
惨たらしい言葉を叩き付けた。
その時のフランの表情が忘れられない。
そうしてここに逃げ入って、それからずっとこんな調子だ。


 どうしようもなく居た堪れなかった。
だから、顔を合わせるのが気まずい。
どれ程傷つけてしまったのだろうか。
あんな身勝手な、聞くに堪えない罵詈雑言を投げつけ、目の前で自分を傷つけるようなこともして、
おまけに暴力も振って。……そりゃあ、あんな顔もするだろう。
あの時のフランの顔を見た時、マミは酷く後悔し、そして恐怖した。
自分の犯した罪を、まざまざと見せつけられたから。
自分がどれだけフランを傷つけたか分かったから。



 フランが隣の居間に居るのは気配で分かる。
けれど、マミの居る寝室には決して踏み込んでこない。
それは、彼女なりの気遣いだろうか。
それとも、もう自分とは関わりたくないのだろうか。



 フランは悪くない。非があるのは自分。
これは、愚かな自分が招いた応報。
あの場では、フランの行動は最善だったのだろう。
それを責めても、ただの八つ当たりと責任の擦り付けでしかない。




 理性を失いかけた状態でフランはよくやってくれた。
そう、あの子はベストを尽くしたのだから、それを責めてはいけない。してはいけないのに。
フランがマミに対して罪悪感を抱いているのは分かっていたのに、
その心を抉るようなことを言ってしまった。










 最低だ、私。










 最早、思考の整理はつかない。
丸一日費やしても頭の中はごちゃごちゃのままだ。
吸血鬼になってしまったことへの戸惑いと絶望、油断したことへの後悔、
フランへ八つ当たりしてしまった自己嫌悪。



 そんな負の感情が今のマミを支配していた。











 希望は見出せない。




 私は、死ねない。











 かつてあれほど生きたいと願った。そして、二度死にかけて、二度とも辛くも生き延びた。







 一度目はあの交通事故。二度目は病院に居た魔女。








 確かに望みは叶った。でも、代償も大きかった。


 孤独に魔女と戦う運命を背負わなければならなくなり、そして今度は人として生きることは出来なくなった。







 今なら分かる。自分自身の本当の願いが。




 ただ、家族と共に、普通の少女として生きたかったのだ。
交通事故以前に、当たり前に享受していた幸せを取り戻したかったのだ。
ただ、それだけなのだ。魔法少女にも、吸血鬼にもなりたくなんてなかった。










 なのに、現実は残酷だ。


 死にはしなかった。けれど、あの幸せはもう二度と戻らない。
これから何年生きようとも、もう昔に戻ることは出来ないのだ。





 私の目の前には、この部屋よりも暗い闇が広がっている。



 吸血鬼になったせいか、暗闇でも見通すことが出来るが、その闇は見通せない。






 そこに、一筋の明かりもない。



 それは永遠の暗闇。




 これから自分はこの中で生きていくしかないのだ。生き続けていくしかないのだ。






 フランを恨んだ。こんなことになる引き金を引いた自分自身を罵った。






 フランは、私と一緒に居ようとしてくれた。自分がしたことを謝ってくれた。
責任を取ると言ってくれた。誠実だった。


 でも、私はフランを責めた。彼女の優しさに付け込んだのだ。
酷い言葉を投げかけて、思いっ切り傷つけた。
そのことが悔しくて、そんな弱っちい自分が嫌で、ずっと自分を責めている。
ぐるぐると同じ思考が頭の中を巡り、袋小路から抜け出せなくなってしまっていた。




 どす黒い感情が私の胸を覆う。
心臓が圧迫されるような、肺が潰されるような、息苦しい感覚。
体の中で広がっていくそれは、ありとあらゆる負の感情の塊。
恨み、憎しみ、嫌悪、怒り、悔恨、破壊衝動……それらが私を覆い尽くす。










 本当は、これは罰なのかもしれない。











 最愛の両親を見捨てて自分だけ奇跡を使って生き残ったこと。
離れたく無くて、今が恋しくて、フランと堕落しきった日々を過ごし、人として、魔法少女としての
尊厳を捨て去ったこと。
自らが選んだ道だというのに、まどかやさやかにその重荷を分けて自分の負担を軽くしようとしたこと。


 それら、大罪への罰なのだ。




























「オチテシマイナサイ」













 不意に耳元で囁かれたその言葉は、猛毒。
それは、たいそう甘美な響きを持っていて、マミの鼓膜を震わせ、頭蓋内で反響し、
やがて神経に乗って全身へと浸透していく。
ほんの一瞬の間に体の末端にまで到達したそれは、すぐに快感となって脳髄まで戻って来た。
生理的な反応なのか、意図せず身震いしてしまう。






 振り向くと、ベッドの上に立つ人影。
自分と同じ姿をした全裸の異形が、血の如き緋色の瞳でこちらを見下ろしている。
その口元には、牙を見せた残虐な笑み。
ウェーブのかかった金髪が肩や背中に散らばり、その背中からは黒々としたソレが
圧迫から解放されたように広げられていた。









 己の背中でソレが膨れ上がり、胸元が急に苦しくなる。
その異形の証が自己の存在を主張し出し、私の心を人ならざるモノへ堕さんと暴れる。









 それは嵐のように。激しく、強く、禍々しく。

 抗う力のない私は、そうして飲み込まれていった。
もう、流れに身を任せるしかない。どうなっても、いいから。


 目の前の“私”が笑みを濃くする。









 ……ダメよ。私は、まだ……。















 モウイイジャナイ。モウ、クルシマナクタッテ、イイジャナイ。


 ツライノデショウ? ダカラ、ワルアガキハモウシナクテイイノヨ。















 ……ごめんなさい。














 鹿目さん、美樹さん、フラン————みんな————ごめんなさい……。




















 落ちていく…………。
















 墜ちていく……。





















 堕ちていく…………。


























「クルイナサイ。マミ」















 “私”は呟く。

 そして、私に向かってゆっくりと手を伸ばしてきた。
白く、ほっそりとした指の先に、野獣のように鋭くとがった爪が付いて、それは近づいてきただけで
皮膚が裂けそうなほど冷たく微かな光を反射していた。

 その指先が頬に触れる。体温のないその指先は、やはり、氷のようだった。











 これが、死者の指。死者の温度。















 ——————あゝ、心地よい——————





















 人ではなく、魔法少女ではなく。



 正義を失い堕落した愚か者は、深く暗い闇の底へ真っ逆さまに落ちていく。



 冷血な狂気は、苦悩と苦痛に火照ったマミにとって気持ちがいいものだった。


 だから、彼女は黄金色の瞳が収まった眼を閉じ、ゆったりとそれに身を委ねる。


















 私と“私”が一つになり、静かに混ざり合って溶けていく。
マミは、それを穏やかな心地で感じていた。
苦しみから解放された心は、狂気という名の蜘蛛の巣に絡め取られたのだ。
























 ————————そうして悪魔になる。

















           *













————————お腹が空いたわ————————























           * 














マミさんが逝っちまいました・・・




手直ししながら投下してたらいつの間にかこんな時間にorz


おやすみなしぃ








咲夜さんはもう少し待てください


>>1は登場人物が幸せになれるかどうかで「まどマギだから・・・」と言っていたが
これは・・・つまり原作、TDS並かそれ以上に救いようもないバッドな展開になるという事なのか?
話の展開とかそういう事は触れないでssの方向性だけでも教えてくれれば
個人的にはそういう方向性だと明言してくれるなら色々覚悟して読めるんだけど・・・

ガンバレマミさん(ゲス顔)

マミさんサクヤイザヨイサーンに殺されるのかな?

乙でした
マミさん魔法少女じゃなくなっていてよかった、でないと今頃魔女化してただろうし(棒

>>238
個人的に一番バラされたくないことなんで勘弁してくださいお願いします

また 誰かが犠牲になるな

実の所、人間には人間以外の分かりやすい敵が居た方が、落とし所付けやすいんだよな

乙、乙
マミさんは改変後世界で自分の本体がSGだと知っても魔法少女をやれてるみたいだから
最初こそ戸惑いはしても人間じゃなくなった事に耐えられなくはないと思うけどね
心を整理する時間は必要だろうけどさ

吸血鬼が本来持っている破壊衝動か
それでヴァンパイアハンターに仕留められちゃったら滑稽だけど

幻想郷の連中は人外同士のレベルで付き合ってるからつい忘れそうになるが
常識的な人間の感性で言ったら化け物どもなんだよな

なんでもそういう対象にしてしまう日本人の習性だな
化け物も愛でる対象にするという

あんこちゃんに妹様は荷が重過ぎるような…クランベリーで終わりそう、それか通常2

オフィリエイトとか言う意味不明単語を投下してみる

>>246
幻想郷では常識にとらわれてはいけないのですよ!(ドヤッ)

奇跡を意図的におこす奴に運命を操る奴に常時核融合してる奴に時間を止める奴幻想郷に常識は通用しねぇ(ドヤァ)

境界を操るババアとか化け物以外の何者でもないしな

あら?紫が「私はまだババアじゃない!!」って叫びながらスキマに入って行ったけど
どうしたのかしら?

マジで勘弁してください快適にSSが読みたいんです



いろいろカオスなことに・・・
東方系のSSはこうなってしまうんかな?

強さ論議(まどマギ勢と東方勢のどっちが強いとか)や、設定論議(公式にない世界観の設定についてなど)はご遠慮願います。
荒れてしまい、他の読者に不快な思いをさせてしまうので。
あと、バーローとか某イケメルヘンのカブトムシさんとか、あまり出張させないでくだしぃ。


ゆかりんはBBAじゃないよ。香霖堂ではロリロリだよ!!!



>>238
一般論として
(こういうジャンルに一般論というものがあるのは置いといて)、
まどマギで改変前のシリアス物をやると、
どうしてもダークなものになっていってしまうと思います。
必然的に。

ですので、そういうことだと思っていただければ・・・・・












              *







 その少し前。



 まだ日があるころ、さやかは街を彷徨歩いていた。
後ろにはまどかが付いている。
少しでも力になりたいと、彼女は魔女退治に同行を願い出たのだ。
もちろん、親友の健気な頼みを断るはずも無く、さやかは承諾した。


 肩にはキュゥべえが乗り、左手の上にソウルジェムを乗せてながら、時に人ごみに紛れ、
時に人通りのない裏路地を進み、魔女を求めて歩き彷徨う。
魔女は、繁華街や、人気の少ない路地裏に潜んでいる場合が多いとマミは言っていた。
無論、病院は最優先で、さやかは先ほど屋上コンサートが終わった後にチェックをしたが。




 あのお菓子の魔女の使い魔は、マミがあらかた掃除したそうだが、ひょっとしたら撃ち漏らしが
居るかもしれない。
魔女になってはいけないし、使い魔のままでも十分脅威なので、居たら速攻で狩らねばならない。
だが、それは杞憂に終わり、結果、まどかとキュゥべえを引き連れて魔女探しをしているのである。


 正直、一人では不安だった。
昨日の魔女は運良くあっさり倒せたものの、次も上手く行くとは限らないし、出来ればマミに居て欲しいが、
当の本人は自分より遥かに大変な目に遭っているし、今もまだ顔を合わせづらかった。



 だが、有難いことに、今は二人の心強い味方がいる。



 まどかとキュゥべえ。共に戦う力はないが、まどかは長年の友人であり、気心も知れているし、
キュゥべえは知識が豊富で、魔女との戦いの時にはサポートしてくれる。
味方が居ると言うだけで、さやかの心は随分と落ち着いた。




 マミが居ないのは本当に残念だ。

 今、その代わりを出来るのは自分しかいない。
転校生や他の魔法少女はグリーフシードが目当てかもしれないので、信用できないからだ。


 それに、こうしてマミの代わりを務めるのが、彼女に対するさやかなりの贖罪のつもりなのだ。
あの時契約して助けてあげられなかったこと、瀕死の彼女を見捨てようとしたこと。
それは、未だにさやかの心に棘となって刺さっている。









 不意に掌に乗せていたソウルジェムが明滅し出した。

 魔女に近い。さやかとまどかはその辺りを歩き回り、そしてある路地の入口に立った。


「ここだ」


 さやかがそう呟くと同時に、結界が展開する。

「この結界は、多分魔女じゃなくて使い魔の物だね」

 と呟くのは、さすがのキュゥべえ。冷静で分析が早い。

 それを聞いてさやかは少しほっとしたように言った。
キュゥべえの冷静さはさやかにとっても安心できる。
隣で落ち着いた態度をとってくれる人(人じゃないけど)が居ると、浮足立ちそうになる心が静まってくれるのだ。


「楽に越したことないよ。こちとらまだ初心者なんだし」

 そう言って結界に踏み込むさやかに対し、キュゥべえは釘を刺した。

「油断は禁物だよ」

「分かってる」




 ルーズリーフを張り付けて、黄色や緑に塗りたくったような結界だ。
幼稚園児が作ったようなハチャメチャで何を表現しているか分からない、目に悪そうなカラフルな空間。
そこに、一匹の使い魔が現れる。


「あっ」


 まどかが声をあげる。その視線の先には、

「あれが」

「逃げるよ」

 クレヨンで描いた飛行機とそれに乗る小さな女の子の絵。
それが子供のような歓声を上げながら、ルーズリーフの上を飛び回る。
さしずめ、落書きの魔女の手下といったところか。
大して強そうな使い魔じゃないが、油断は禁物だ。楽でいいけど。





「任せて!」


 さやかのソウルジェムが蒼く輝く。


 青い光が彼女の全身を包み、すぐに魔法少女の衣装に変わり、その手には白銀のサーベルが握られた。
さやかは変身を終え、着地するとマントを翻し、それに包まるように身を隠した。
ふわっとマントが膨らむ。



 そして、次にさやかは立ち上がりマントの中から出ると、その周りに複数のサーベルが突き立てられていた。
その様子は、さながらマミがマスケット銃を自分の周りに突き立てて戦っていたようであり、
実際マミの戦い方をイメージしたのだった。
それはさやかが彼女に憧れと尊敬の念を抱いている証でもある。

 さらにさやかはマミを真似て、くるりくるりとその場で回転しながら、周りのサーベルを次々と使い魔に向けて投擲する。

 いきなり飛んで来たいくつものサーベル。
使い魔は悲鳴のような歓声を上げながら逃げ回る。
意外にすばしっこいようで、さやかの剣は一本も当たらない。



 このままでは埒が明かないと考えたさやかは剣を投げる方向を変えた。
今度は、使い魔の進行方向に剣を投げ付ける。

 ガツンと大きな音を立てて結界の壁に突き刺さるサーベル。
目論見通り、使い魔は進路を阻まれて驚いたような悲鳴を上げ、一瞬動きが止まる。
そこに止めの剣を投げ付けた。


 それで、勝ったと思ったさやか。しかし、思惑は意外な妨害によって外れてしまった。




 突如として剣が何かに弾かれる。





 見ると、なんだかよく撓る鞭の先に、槍のような穂先をつけた武器(?)が剣を弾いたらしい。
剣とその武器(?)がぶつかって、甲高い金属音が響く。
弾かれた剣は地面に突き刺さり、使い魔は今が好機とばかりに、あっという間に逃げ去ってしまった。







「ちょっとちょっと。何やってんのさ、アンタたち」











 同時にさやかたちの耳孔に入り込んでくる、高く、幼いソプラノの声。
一人の少女が降り立つ。
閉じていく使い魔の結界を背景にして。



「あっ! 逃がしちゃう」

 まどかが叫ぶと同時に、さやかが使い魔を追って駆け出した。






 ——————が、それもすぐに止められてしまう。






 少女の持つ槍(先ほどさやかの剣を弾いたのはこれのようだ)がまっすぐ伸び、
さやかの喉元に穂先が付きつけられたのだ。

 さやかは仰け反るようにして急停止。

「見て判んないの? ありゃ魔女じゃなくて使い魔だよ。グリーフシードを持ってる訳ないじゃん」






 それは赤い魔法少女。
その衣装はとにかく暖色系がほとんどだ。
上着のノースリーブは燃えるよな色で、下半身まで覆う丈の長いものになっているが、動きの邪魔にならないように、
鳩尾の辺りから大きく逆V字型に開いている。
その下からは黒いブラウスの裾が覗いており、さらに下半身はピンク色のミニのプリーツスカートと、
ブラウスと同じ色のニーハイソックスを履いていた。
腕には白のアームバンドを付けており、スカートとソックスの間の太腿と、袖に隠れていない腋が健康的な肌色を見せていて、
少女らしい活発さを感じさせる。
ノースリーブの胸元は少し穴が開いて肌が露出しており、その上から覆うように真っ赤なソウルジェムが付けられていた。
そして目立つのは、赤いロングヘアーで、黒い大きめのリボンで縛ってポニーテールにしていて、
髪質はいい方なのか、微かに路地に差し込む光を艶やかに反射していた。


 さやかが、自分のイメージカラーを青だと思っているように、この少女も赤が自分のそれだと考えているのだろうか? 
キュゥべえ曰く、魔法少女の衣装は、その個人のイメージによるところが大きいそうだから、
彼女もそう思うところがあるのかもしれない。






 情熱の赤。冷淡の青。
そんなふうに、視覚的にもイメージ的にも対比される二色のが関係だが、今この場においては、
そのイメージとは逆の状況になっていた。
心を激しい感情で徐々に熱していく青の魔法少女に対し、赤の魔法少女はそれを冷ややかに見つめる。






「だって、あれほっといたら誰かが殺されるのよ?」




 喉元に凶器を突きつけられながらも、さやかは怯むことなく反論する。
何を訂正する余地があるのか、と言わんばかりに。


 対して、赤い魔法少女は答えず、どこからか取り出した鯛焼きに齧り付く。
そして、そのままさやかの問いには答えず黙って咀嚼し始めた。
ジロジロと遠慮のない視線がさやかを捉える。
あまりに無礼なその仕草に、さやかの眉間に縦じわが寄る。
人の使い魔退治を妨害した上に、危険な獲物を突きつけ、挙句の果てには物を食いながら人のことを
堂々と観察する始末。
ちょっとどころか、かなり常識を疑う。
一体、どういう教育を受けてきたら、初対面の相手にこんな態度をとるようになるのだろうか。
さやかの心の中で真っ先に生まれたのは、怒りではなく、信じられないという気持ちだった。



 そうしてさやかを不躾に見ながら、やがて鯛焼きを呑み込むと、やっと彼女は口を開いた。

「だからさぁ、4〜5人ばかり食って魔女になるまで待てっての。
そうすりゃちゃんとグリーフシードも孕むんだからさ。
アンタ、卵産む前の鶏シメてどうすんのさ」

 少女はそう言って槍を引っ込め、軽く回してから石突を地面に立てた。
まるで雑談でもするようなその所作と、それとはかけ離れた言葉の中身。
そのあまりの暴論に、さやかは一瞬言葉を失ってしまった。





「な……。魔女に襲われる人たちを……あんた、見殺しにするって言うの?」



 信じられない。こいつはグリーフシードのために他人を犠牲にするのか。



 赤い魔法少女はまた鯛焼きに齧り付いて何かを考えるように目を閉じた。
またすぐには答えず、もぐもぐと鯛焼きを食べる。

 その微妙な間合いにさやかの苛立ちが積もる。
少女も、まるでそれを見越しているかのような、余裕綽々の態度を取っているのだろう。
それが分かるから、さらに苛立つ。


 再び、彼女は口の中の物を飲み込むとソプラノの声を響かせた。


「アンタさぁ、何か大元から勘違いしてんじゃない? 
食物連鎖って知ってる? 学校で習ったよねぇ」



 少女はそう言いながら近づいてきた。







 顔は如何にも勝ち気そうで、大きなつり目が特徴的。
ほっそりした輪郭に、細い眉も意志の強さを秘めているようだ。
総じて整った綺麗な顔立ちをしている。
すれ違った男なら、一度は振り向きそうだ。
そして、そのチャーミングポイントと言えば、その小さな口から時々覗く八重歯だろう。
フランのように何故か目につく。あちらは、最も、牙としての意味合いが強いが。



「弱い人間を魔女が食う。その魔女をアタシたちが食う」



 少女は鯛焼きを齧り、行儀の悪いことに口に入れたまま喋り続ける。
高い声は、もごもごと籠ったような音になり、大変よろしくないが、グリーフシードのために
他人の犠牲も厭わないという常軌を逸した考えをする奴だ、お行儀の良さを求めても仕方ない。
仕方ないのだが、それでも、それとさやかの苛立ちが増していくのはまた別の話だ。


「これが当たり前のルールでしょ、そういう強さの順番なんだから」


 少女はそう言いながらさやかに迫り、後退りを始めたさやかを追い詰めるようにそのまま進む。
そしてそのまま二人はまどかの前を横切り、そこから離れていく。
慌てて、まどかが後を追おうとすると、いきなり赤い鎖のような物が張り巡らされて、
まどかとさやかたちを隔ててしまった。
それは赤い少女が張った結界壁みたいだ。



「そんな……」

 まどかは思わず一歩下がった。

 完全に蚊帳の外に出されてしまったのだ。なんとなく分かった。
少なくとも、赤い少女はさやかと戦うつもりだ。
そうでなければ結界を張ったりしない。
まどかが邪魔をしないように、隔離したのだろう。




 お願いさやかちゃん、その子と戦うなんてしないで……。





 口に出さず、心の中で祈る。
だが、まどかの願いも空しく、さやかは簡単に挑発に乗ってしまった。




 二人は立ち止まり、赤い方が槍の穂先を地面に突き立てる。
同時にさやかは食ってかかりそうな声で唸った。





「あんたは」

「まさかとは思うけど。やれ人助けだの正義だの、その手のおチャラケた冗談かますために……」

 少女はさやかを馬鹿にしたような目つきで見つめながら言い、それからふと振り返って、
首を傾げながら、背後の、結界の向こう側から二人を見つめるキュゥべえに視線を移した。


「アイツと契約した訳じゃないよね? アンタ」


 あからさまな挑発。どう聞いても誘っているのだ。

 だからこそ、良く言えば実直、悪く言えば愚直で単純なさやかはあっさりと引っ掛かってしまった。
瞬時に、さやかの頭の温度が沸点を超える。



「だったら!」左手で剣を振り上げ、さやかは突撃する。「何だって言うのよ!」






 ガキンッ!!。







 甲高い金属音と共に火花を散らして剣の刃と槍の柄がぶつかる。
さやかの怒りの一撃も難なく受け止められてしまった。
少女はちょこっと槍を動かしただけ。
それだけなのに、その一本は不動の柱のようで、ビクともしない。






 怒りのあまり切りかかってしまったさやかに対し、赤い少女は落ち着いていた。
落ち着いて、さやかを煽る。


「ちょっとさ、やめてくれない?」


 目を閉じ、困ったように眉を寄せて、明らかに嘲りと侮蔑を含んだ声で言う。
怒りを見せたさやかを馬鹿にするように、呆れたような態度を見せた。
ただ、それも挑発。彼女はここぞとばかりに、さやかをさらに煽っているのだ。



 さやかはそれに対してさらに怒りを加速させたのか、剣を両手で持ち、一歩踏み込んで力任せに押し切ろうとする。
だが、悲しいかな。二人の間には力の差がありすぎて少女が片手で支えている槍は全く、
ピクリとも動かなかった。



 顔を歪め、あらんかぎりの力を出しているさやかに対し、少女は尚も余裕綽々と言った様子で鯛焼きを齧る。

 さやかは歯を食いしばり、親の仇を見るように少女を睨み付ける。
その顔を一筋の汗が流れ落ちた。
それだけ彼女が全力を、全体重を込めているのだが、全く持って不可思議なことに、少女の持つ槍は微動だにしないのだ。

 単純な技量の差だろうか? それとも、素質としての、パワーの差だろうか?

 いずれにしても、その原因を冷静に分析できるほど、今のさやかは落ち着いてはいなかった。
ただ怒りに身を任せ、さらに力を込めて、この憎き悪しき少女に切りかからんとするのだ。







 それに対し————。








 少女は何も言わず、涼しい顔をして鯛焼きを頬張る。

 それを飲み込むと、少女は軽くため息をつくように小さく口を開いた。





「遊び半分で首突っ込まれるのってさ、ホントムカつくんだわ」



 本当にムカついたように、少女は眉を寄せ、それまで支えているだけだった槍を押し返した。
全力を込めていたさやかは、それだけであっけなく、軽々と吹き飛ばされてしまった。
間抜けな悲鳴を上げながらすっ転ぶ。だが、それだけでは終わらなかった。

 少女が持っていた槍はその瞬間にばらばらに分解される。
柄がいくつにも分かれ、その一つ一つが鎖で繋がった多節棍になったのだ。
その一瞬の変化に、さやかは反応できない。
そして、少女はその場で回転し、多接棍のはその遠心力を貰って無慈悲にさやかに襲いかかった。



 立ち上がったばかりで備えが出来ていなかったさやかはまともに正面からくらい、悲鳴を上げて大きく吹っ飛んだ。
その手から剣が離れ、宙に舞い上がる。
さやかの体は壁に叩きつけられ、そこにあったパイプを切断した。
内臓がひしゃげ、骨が砕ける。
さらに、魔法少女の衣装を貫通してさやかの柔肌にパイプの破片が突き刺さった。


 地面に倒れたさやかの傍に落ちて来た剣が突き刺さる。


「さやかちゃん!!」

 まどかが結界に駆け寄り叫ぶが、その声は届かない。
ここで見ているだけしかできない彼女の声は、さやかの耳に入らない。



 切れたパイプから水が漏れ出した。

 結果は一目瞭然。二人の間にある圧倒的な差。さやかには超えられず、勝負はあっさりと着いた。
まだ駆け出しのルーキーであるさやかには、このベテランの域に達する赤い魔法少女に対抗することは叶わなかった。



 少女は残った鯛焼きを齧りつつ、地べたに蹲るさやかに向けて勝利を宣言する。
その声には、さやかに対する見下しと強者の余裕が含まれていた。
大人が小さな子供の悪戯に、本気になって怒らないように、少女もまたさやかの反攻を軽くあしらっただけであった。



「ふん、トーシロが。ちっとは頭冷やせっての」



 そう言って止めを差さず、踵を返した。



















 ————だがその歩みはすぐに止まる。















 なぜなら——————呻き声を上げながら、ボロボロのさやかがよろよろと立ちあがり、
傍らの剣を抜いたからだ。








 その様子が気配だけで分ったのだろう、少女はさやかに背を向けたまま疑念の声を上げる。


「おっかしいなぁ。全治3ヶ月ってぐらいにはかましてやったはずなんだけど」




「さやかちゃん、平気なの?」

 まどかも同じく首をかしげる。
ただ、両手を胸の前で握って、心配そうにさやかを見つめていた。

 二人の疑問に答えたのは、張本人であるさやか……ではなく、いつの間にかまどかの方に収まっていたキュゥべえだった。



「彼女は癒しの祈りを契約にして魔法少女になったからね。ダメージの回復力は人一倍だ」



 そう言えばそんなことをさやかが昼に言っていた、とまどかは記憶を掘り起こす。
さっきから、状況が急転直下して、まどかの頭は混乱気味で、昼間の会話が随分以前に交わした
もののように思えて来た。

 

 それはともかく、実際それを目の当たりにすると、やっぱり魔法はすごいものだと思う。
さやかは魔女や使い魔を倒すだけでなく、傷ついた人を癒せるのだし、相対する赤い魔法少女も、
魔女をあっと言う間に葬ったさやかですら叶わないパワーを持っているから、
相当な実力者なのだろう。
魔女を倒す実力は、きっとマミに勝るとも劣らないに違いない。
だから、こんな風に魔法を使ってはいけないはずだ。
それはこんなふうに、魔法少女同士で傷つけ合うために使うものではないはずだ。








 なのに、どうして二人は武器をぶつけ合うのだろう?










 まどかには分からない。
赤い少女の方はもちろん、数年来の親友であるさやかですら、どうしてこんなふうに危険な武器を人に対して振うのか、
その考えが理解できない。
だから、それはまどかを悩ませ、悲しませ、苦しませるのだが、彼女にできることは、その場で思い悩み、
二人の戦いの行く末を見ているしかない。








 さやかは激痛に呻きながらなんとか立ち上がり、少女を睨みつける。

「誰が……あんたなんかに。あんたみたいな奴がいるから、マミさんは……!!」

 低く、強い激憤を込めた声で————、



 さやかは剣を構え、もう一度少女に向かって吠える。
その眼は怒りに燃え、その肩は怒りに震え、その声は怒りに狂う。
昨日の魔女と対峙した時以上の憤怒がさやかの心から湧き上がり、顔も耳も、それどころか全身が
熱を帯びていた。








「ウゼェ」



 イラついたような声で少女は振り返る。少女はさやかの怒りをもろともしない。


「超ウゼェ」


 槍を構え、敵意と殺気を込めた目でさやかを睨み返す。
何が彼女の琴線に触れたのだろうか。
先程とは違った、余裕を排した本気の声。
彼女は、そこで初めてさやかを敵と認識したようだ。

 対するさやかは足元に青く輝く魔法陣を展開していた。
楽譜のような魔法陣が回転し、さやかの体の傷が次々と癒えていく。
外傷だけではない。
体に突き刺さったパイプの破片が抜け、潰れた内臓が元に戻り、折れた骨が繋がる。
それだけの治癒を、彼女はたった数秒で完了してしまった。
これこそが彼女の魔法。
奇跡の結果。
人を癒すことに特化した尋常ならざる不可思議の法理。


「つうかさ。あんまりアンタに構ってらんないのよね。これから吸血鬼の所に行かないといけないんだし」

「吸血鬼? マミさんとフランちゃんに何するつもりだ!!」


 少女の言葉に反応したさやかが絶叫する。
それは失言だったが、怒りのあまり冷静な判断が下せなくなっていたさやかは気づかない。



「へぇ。フランって言うんだ」

 対して、少女は薄く口元に笑みを浮かべる。
それは、倒すべき、憎むべき相手の名を知った故のもの。
悪辣な笑みが、さやかの青い瞳に映る。
その意味を誤解したさやかは、さらに己の怒りの炎を激しく燃えたぎらせ、ついに少女に向けて飛び掛かった。



 次の瞬間には剣と槍が激しくぶつかり、火花を散らす。





 さやかの一撃は軽々と弾き返され、そのまま絶え間のない連撃が繰り出される。
さやかにはそれをいなすだけで精一杯で、反撃できるはずもなく、徐々に押されていった。



 赤い少女はパワーだけでなく、スピードもすさまじいらしい。

 廃工場に居た魔女との戦闘で高速の斬撃を放っていたさやかが、何とか対応できるほどの速さだった。
しかも、少女の攻撃は速いだけでなく、一撃が重く、その上さらに槍が多節棍となるので変則的でトリッキーであった。
初心者で、しかも戦闘経験などほとんどないに等しいさやかに、その隙をついて反撃することは叶わない。


「チャラチャラ踊ってんじゃねぇよウスノロ!」


 少女が吠える。さやかを煽るが、当のさやかに口答えする余裕はない。
容赦がなく繰り返される強力な攻撃に、さやかは押されるだけだった。
今彼女にできる精一杯は、剣を握り続けることだけ。
何度も浴びせかける連撃の一つひとつに馬鹿力が込められていて、それを剣で防いでいるさやかの手は、
今にも取り落としそうになるくらい痺れていたのだ。

 少女が一段と力を込めてさやかを叩き、ついにさやかはバランスを崩した。対応が間に合わない。



「さやかちゃん!!」



 まどかが叫ぶ。それをキュゥべえが止める。

「まどか、近づいたら危険だ」




 少女の多節棍が繋がって槍に戻り、さやかの腕の骨を打ち砕き、そして即座に分裂し、
今度はさやかの体に巻き付いて、さやかを建物の壁へと叩き付けた。

 さやかの肺から悲鳴と共に空気が漏れ、そのまま地面に落ちる。
体のどこかで鈍い、嫌な音が響き、内臓が圧迫されて変形されるという、ぞっとするような感触が脳髄を走った。

 ダメージは確実に体に浸透していた。
先程から斬撃を受け止めたせいで、腕が痺れるし、槍で叩かれた所は焼けるように痛かった。
その上、壁に叩き付けられて全身に力が入らない。








 だが、負ける訳にはいかない。



 こいつが何をしようとしているのか分からないが、グリーフシードのために他人を傷つけるだけじゃなく、
マミやフランも傷つけようとしているのだ。
今のマミの状態は分からない。
けど、まともに戦えるような状態ではないだろう。
フランはどうだか分からないし、あれだけの力を持っているんだったら、この魔法少女に負けることもないだろう。
けれど、あの時のように暴れ出せば周りへの被害も大きくなってしまうに違いない。
しかも、傍にはまどかもいる。
なんとしても、今こいつを止めなければ、罪も無い人たちが犠牲になってしまうのだ。





 大丈夫、恐くない。






 正直、あのお菓子の魔女と戦っていた時のフランの方がヤバかった。
あれに比べれば、こんな奴、屁でもない。




 さやかは無理やり体を回復させる。
治癒魔法が使えて良かった。そうでなければ、今頃動けないか、死んでいただろう。







「言って聞かせてわからねえ、殴ってもわからねえバカとなりゃあ……後は殺しちゃうしかないよねッ!?」








 ばらばらに別れた多節棍が宙を舞い、少女の言葉とともに一つに繋がる。


 少女は槍を構え、地面を蹴った。

 未だ上体を起こしただけのさやかに向かって、弾丸のようにで突っ込んでくる。
その目は大きく開かれ、その光は獲物を狩る獰猛な野獣の如く。


 さやかは気合を入れて立ち上がり、剣を向けて迎撃する。















 刹那——、不思議な現象が起こった。









 槍と剣。付き合わされる二つの切っ先。
まるで手品のように、少女の槍とさやかの剣の先がピタリと合わされた。そこで初めて少女が驚いたような顔をする。








「負けない」










 穂先と切っ先からお互いの魔力が放出され、ぶつかり合い、うねりながら一つになって、競合し、光る玉となって現れた。












「負けるもんかあ!」









 叫ぶと同時にさやかは槍を押し返した。

 全身全霊を込めた一撃に、少女は正面から受けはせず、剣を弾いて向きを逸らせた。


 さやかはさらに畳み掛ける。
だが、素人丸出しの雑な一撃はあっさり躱され、少女は落ち着いて背後に飛び上がる。
そして槍を伸ばし、宙返りをすると、空を蹴り、勢いを付けてさやかに向かって降って来た。


 鬼のような強力と天狗のような疾速。
その二つを持って突き出された赤い槍は、路地の路面に、大穴を穿つ。

 人間に直撃すれば、一瞬でばらばらの肉片に変える様なすさまじい一撃。
辛うじて躱したさやかも、砕かれた地面の破片と爆風は防げず、背後に吹き飛ばされるが、
それでも立ったままの姿勢を保った。
なんとかバランスを保ったまま勢いを殺すとさやかは雄叫びを上げながら再度少女に向かって切りかかった。
だが、気合や精神力で技量の差は埋めがたく、さやかの攻撃は難なく受け止められ、先程の繰り返しになってしまう。




 再び始まる、剣と槍の打ち合い。
互いに敵意と憎悪を込めて、互いを傷つけんと狂気を振う。
それを、結界の外からまどかは眺めるしか出来なかった。




 あれほど親友がボロボロに傷つき、それでも戦っているのに、何も出来ない。
これでは、お菓子の魔女の時と同じだ。
また自分は何も出来ないのだろうか? 
また、自分は無力なまま、大切な人が傷つくのを見ているだけなのだろうか?





「どうして? ねえ、どうして? 魔女じゃないのに。どうして味方同士で戦わなきゃならないの?」

 肩にしがみついているキュゥべえに問いかける。



 こんな現実、認めたくない。あって欲しくないのに……なぜ?



 訳が分からない。さやかと少女が殺し合う理由なんて、なかったはずだ。
本当なら、あの使い魔だって協力して倒せばいいはずだ。
グリーフシードのためだなんて、信じられない。
でも、なぜか少女はそんな考えをするし、さやかはそれを聞いただけで、
少女の事情も把握しようとせずに、いきなり切りかかった。


 暴力はいけない。振るった方が悪い。
そう、まどかは優しい両親に教わって来たし、それは世間一般の常識であるはずだし、
だから当然さやかも、赤い魔法少女も知っている筈なのだ。
ましてや、剣や槍なんていう、向ける相手を変えれば人をいくらでも不幸にできるような危険な武器を、
誰かに対して振り下ろすなんてもってのほかだ。
だというのに、二人は、今目の前の現実として、その武器をぶつけ合っている。


 吐き出された、まどかの深い悲しみの籠った声に、言葉を返したのはその肩に収まる、
人間ではない魔法の使者。


「どうしようもない。お互い譲る気なんてまるでないよ」

 キュゥべえがそう答える間も戦いは続く。





 少女の多節棍の攻撃に手を取られて隙を見せたさやかを、少女は思いっきり蹴飛ばす。




 そこが彼女とさやかの違いの一つである。
武器に頼っているさやかと、高性能な武器を持ちながら、時には体術を駆使する赤い魔法少女。
これほどの技量の差がある以上、さやかに勝機はない。





「お願い、キュゥべえ。やめさせて。こんなのってないよ」


 まどかは苦悶の悲鳴を上げる。
暴力のぶつけ合いは、さやかの敗北という、結末を迎えそうだった。
このままでは、大切な親友が傷つけられてしまう。
だから、まどかはなんとか頼れる者に頼ろうとする。











「僕にはどうしようもない」



 キュゥべえは残念そうな声で言いながらまどかの肩から飛び降りた。





「でも、どうしても力づくでも止めたいのなら、方法が無い訳じゃないよ」





 キュゥべえが地面に座ってまどかを見上げる。

 その言葉に、まどかははっとした。

 提示された、魅力的な解決方法。一挙に事を収められる夢の様な選択肢。

 元よりまどかは、契約するなら誰かのためにしたいと考えていた。
今ならば、さやかを助けるため、そして赤い少女が人を傷つけないために奇跡を使える。
だから、キュゥべえに言われて、今まで意識の外に合ったその方法を思い出した瞬間、
まどかの心はその方向に向かって行ったのだ。


 ただし、ほんの僅かな迷いが生じる。それは、先日のあの惨劇。


 そんなまどかの機微に気が付いたキュゥべえは、そこでダメ押しのように一言付け加えた。

「この戦いに割り込むには、同じ魔法少女じゃなきゃダメだ」

 そう言っている間にも未だ戦いは止むことはない。






 二人は烈しく武器をぶつけ合い、時に宙を舞い、時に離れ、互いに激しく睨み合いながら殺し合う。




 そう。殺し合い。




 ただの喧嘩ではない。
武器を持った者同士が、殺意を込めて相手を攻撃し合う殺し合いだ。
そこに、言葉やなんの力も持たない少女の介入できる余地はない。
ただ、憎しみが、敵意が、衝突し、鮮血が飛び散り、怒声が響き渡る。
夕日に照らされた路地裏は、瞬く間に戦場へと変貌し、二人の少女は何かに取りつかれたように戦うのだった。






「そうだ……私が契約すれば……」







 迷いを振り切り、まどかは決意する。

 さやかは大切な親友だ。こんな所で死なせたくない。
それに、赤い子も説得すれば(今は頭に血が上っているだけで)、仲間に出来るかもしれない。








 まどかがそう考えた時、ついに勝負に決着が着いた。


 さやかの足に多節棍が絡まり、さやかは剣を離してこける。

 ダメージと疲労が溜まっていて、すぐには立ち上がれなかった。
足が思うように動かない。同時に、勝利を確信した少女の目が危険な光を帯びる。
そして彼女は宣言する。圧倒的な強者の勝利を、その場に轟かせる。



「終わりだ……」





















 ——————だが、それは最後まで言い切られない。






 なぜなら…………、









「何だ? アンタ」



 少女は多節棍を槍に戻し、その穂先をさやかの背後に向ける。
同時に眉を顰め、その先を鋭く睨み付ける。明らかに警戒したふうだった。

 まどかとさやかもつられてそちらに視線を向ける。



 人の姿があった。こんな物騒な殺し合いの場のすぐ近くで、いつの間にかその人はその場に立っていた。







 そこに居たのは、















 ————見た事も無い少女————













 
 だった。










お待たせしました。

いよいよあのお方のご登場です。
寝ます。

更新早いな


「あの方」か
オリキャラ(読者にとってさえ「見たこともない」)じゃあないのか
東方勢ならとりあえず思い当たるのは3人
単独で現れたことが気になるが
まどマギ勢なら2人思い当たるが「あの方」とか呼ばれてるしなあ

乙です
>>238です。回答をわざわざありがとうございます。これで割り切って読める
それから、さやかはシャルロッテの一件でフランに悪感情を抱いてるんじゃないかと思ったけど
別にそんな事はなかったんですね

売り言葉に買い言葉
まさに中学生

何がどう変わるか、楽しみだね

そういえば>>1さんは他にどんなSTGが好きなんだっけ?
俺としては当たり判定修正、進化枠・突然変異枠・装備敵機を増やして、もっと爽快で奇抜に
アレンジされたダーウィン4078、スーパリアルダーウィンの続編みたいのをやってみたいなぁ

乙でした
もう少しで4月ですが、時期的にそろそろ投下が減ってくると覚悟した方がよろしいでしょうか?

>>281
個人的な付き合いでならともかく、こういった匿名希望の場でそういった質問はどうかと思うぞ

>>282
>>281は誤爆じゃない?

咲夜さん登場か?

そう決まった訳じゃないけど一番それっぽいと思える

>>285
おぜうさまの可能性は?



叛逆のpvキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!

飽きが待ち遠しいですね!!

キレほむと謎のシルエットの正体が知りたい




>>277
「あの方」です。
すぐ↓で分るんですけどねww

>>282
どうなんでしょうね?
まだ解りません。


今日の部分はかなりの書き直しをしたところです。
粗があるかもしれませんので、あったらご指摘をお願いします。









                 *






 少女は、さやかの背後5m程の所に立っていた。







 何時現れたのか、気配は全くしなかった。
ただ、いつの間にかそこに現れ、いつの間にかこちらを見つめていた。





 それまで熱されていた空気が急速に冷えていく。
うるさく路地裏に響いていた戦いの音は消え、代わりに不自然な静寂が辺りを包み始めた。
まるで、熱気の籠る厨房から大型の業務用冷凍庫に入ったような急激な温度の変化。
誰もが思わず身震いした。



「誰?」



 さやかも警戒するように立ち上がり、剣を拾う。

 突然現れた少女は答えない。表情も全く変わることがない。
ただ、不気味なほど固まった顔貌をさやかたちに向けている。







 その容姿はとにかく奇抜なものだった。





 青いメイド服に白いエプロン。スカートはひざ丈。袖は半そで。
白のブラウスに、同じく白いフリル付きのカチューシャを装備。
銀色のボブはややくすんでいて光沢は鈍い。
両方のもみあげを短い三つ編みを緑色のリボンで縛るという珍しい髪形だ。
眼鏡を掛けて、顔の印象を分からなくしている。
年恰好は、まどかたちより少し上。
高校生ぐらいだろうか。随分と大人びた雰囲気を纏っているが。




 まるで、アニメに出てくるキャラクターとしての「メイド」のような格好だった。
持ち物も、晴れているのに男物の大きな蝙蝠傘に、小柄なまどかならすっぽり入ってしまいそうな程
大きいトランクという不審さ。
旅行者として見るには、どうにも胡散臭かった。


 顔立ちは、日本人ではない。肌は雪のように白く、顔の彫りは深い。
輪郭は細く、繊細なガラス細工をイメージさせる。
ここまでは、普通の美少女と言ってもいい。
だが、彼女の顔が、とても人間の物ではないような無機質な物に、まどかには思えた。
なぜなら、その目は、ガラス玉のように生気を感じさせない、不気味な目だからだ。



 深く澄んだ蒼色の瞳は何の感情も語らず、無表情というより、人形そのもののようだ。



 ほむらも無表情なことが多いが、彼女の眼はまだお喋りな方だ。
このメイド姿の少女に比べれば……。








 直感的に、まどかと赤い魔法少女は、ヤバいと悟った。こいつは相手にしては駄目だと。













「もし」










 少女が呟いた。


 意外にも、発音の綺麗な日本語だった。
とはいえ、そんなことに気を取られることなく、相対する三人の少女たちは警戒を解かず、
空気がだんだんと張り詰めてくる。固唾を飲んでメイド姿の少女の動向を窺う。





「お取り込み中申し訳ございません。一つ伺いたいことがございまして、お時間よろしいでしょか?」




 やたら畏まった固い言葉で話しかけてくる。日本語はかなり流暢なようだ。


 その異様な風貌とのアンバランスな言葉遣いに、三人はますます警戒を強める。
三人が黙りこむと、メイド服の少女の方も口を閉じたまま固まった。
相変わらず、その表情は仮面でも被っているかのように変化しない。




 赤い魔法少女はその様子に一層不審を抱く。
警戒を解かないように、じっくりと観察する。
そして何より恐ろしいことに、







 ————隙が無い。








 どこから切りかかっても対応される。それなりに場数を踏んできた赤の少女には分かる。
直感的に、少女はこのメイドの実力の高さを悟っていた。
それは、この目の前の青二才には無理だろうけど……。



 そもそも、こいつは何なんだ? 
本物の武器をぶつけ合う本物の殺し合いを「お取り込み中」の一言で、眉一つ動かさずに片付けやがった。
普通の、堅気のヤツじゃないことは確かだ。
同じ魔法少女か? だとしたら、相当の熟練者だな。





 赤の少女が自問自答している間も、ピリピリとした空気が辺りには張り詰めて、沈黙が続いた。誰も口を開かない。




「君は……何者だい?」


 結局口を開いたのは、キュゥべえだった。
赤の少女以外の視線がまどかの傍に座る彼に集中する。
彼女だけはメイド姿の少女から視線を離さない。否、離せない。




 一方で、メイドはキュゥべえをちらりと見る。
が、すぐに興味を失っていまったのか、傘とトランクを手に持ったまま、滑らかな動きで頭を下げた。



「失礼。私、紅魔館が女中長にして、当館の主でおわします偉大なる紅き夜の王——レミリア・スカーレット様に仕える従者である、
十六夜咲夜と申します。
自己紹介が遅れたことをお詫び申し上げます」



 メイド姿の少女は、やはり本当にメイドのようだった。
慇懃な言葉遣いとともに、丁寧にお辞儀をする。
どうやら、かなり訓練されたメイドのようで、仕草や言葉遣いの一つ一つが洗練されていて、
礼儀正しい。
話していることは半分も理解できないが。



 それにしても、十六夜咲夜とは、見た目とは違って随分日本人らしい名前だ。
仕えている相手は、外国人っぽいが。


「はぁ? 意味分かんないんだけど」

 赤い少女が首をかしげる。その言葉は、今の三人の心情を端的に表していた。
軽そうな口調で尋ねながらも、決して警戒は解かない。
解いた瞬間、グサリと刺されそうな危なさがメイドにはあったからだ。



「それは致し方のないことであると承知しております。
ただ、時間もあまりございませんので、手短に用件を済まします」


 メイドは静かな声で続ける。
敬語を散りばめ、丁寧な言い方に努め、時間がないからさっさと用件を済ましたいと述べるのだが、
何となく上から目線で言われている気がして、どうにもすっきりしない。
というか、若干の不快さを覚えた。
そして、それは青い方も同じだったのだろう。
ただし、彼女と赤い少女には決定的な違いがあった。
それは、この目の前のメイドの恐ろしさを理解しているか否か、ということ。




「だから何なのよ、あんた!? 邪魔しないでくれる?」

 よく住宅街にいる騒がしく吠え立てる番犬のように、さやかはメイドに噛みついた。
そう、まさに臥せる虎に吼える子犬といった感じだ。
よくもまあ、こんな奴にそんな元気よく食って掛かれるものだと、赤い少女は舌を巻いた。
恐れ知らずというか、無知というか、それ自体が恐ろしい。
それと同時に、少女を大いにヒヤヒヤさせてくれる。


 ただ、メイドの方が大人であり、さやかの激しい言葉にも動じなかったのは幸いだった。

「申し訳ありません。ただ少し、お時間を戴ければありがたいのです。
貴女方は、少々、他とは違われます故」

 相変わらず、淡々と一本調子で喋るメイド。
表情に変化は微細も見られず、ただ機械的に、赤いルージュを塗った唇が動き、一切の感情を排した事務的な声が紡ぎ出されるだけ。
背筋が凍るほどの美貌を持つだけに、その様子は強烈な違和感を生み出し、
さらに黄昏の光がその顔に作り出すコントラストが不気味さをより一層引き立たせた。



 ふと、赤の少女は思う。こいつとキュゥべえは似ている、と。




 両者とも、整った造形を持ち、喋る時も顔が全く変わらない。
キュゥべえに至っては、口すら動かさずに喋る。
それに比べれば、メイドの方がまだ人間味はあるか。
少なくとも、見かけは人間だし。


 そう思いつつ、少女は先を促す。
このメイドが何者か、自己紹介を聞いただけではよく分からなかったが、まともでないのはよくよく理解できた。
何しろ、いつからそこで見ていたのか知らないが、魔法少女を見てもその正体を尋ねるどころか、
「他とは違う」の一言で片づけたその物言いに、このメイドとは一刻も早くおさらばしたいと思ったからだ。


「で? 用件ってのは何なんだい?」

 できるだけ平静を装う。メイドの方は例の如く、棒読みの様なセリフで答えた。

「ええ。では、申し上げます。私、現在人を探しております。ご存知ありませんか? 
見た目が10にも満たない小さな少女に」





「あ?」


「あ……」


「え……」


「なるほど」




 反応はそれぞれだった。

 事情をよく知らない赤い魔法少女は完全に分からないというふうに首をかしげた。
一方で、まどかとさやかはメイドの言葉にピンと来たらしく、メイドの探し人のことが分かった。
そしてキュゥべえは、もっと深いところの事情まで察することが出来た。
その反応の違いに、メイドの少女は気が付いたのだろうか? 
尚も淡々と言葉を繋いでいく。


「名は、フランドール・スカーレットと言います。我が主、レミリアお嬢様の妹君にございます」



「フランドール……。へぇ。ひょっとして、吸血鬼かい?」



 勘のいい赤い少女は、少ない情報からおおよその事実を見当出来た。
自分が相手にする、マミを吸血鬼にした張本人。
先程青二才がポツリと漏らした「フラン」という名前。
それを、「フランドール」を略した愛称と考えるなら、その結論に至るのはすぐだったからだ。



「おや、ご存知のようですね」




 メイドの声に変化はなく、表情も微動だにしない。
全く驚いた様子は見受けられなかったが、台詞は意外な時に使う感嘆詞を含んでいた。




 少女はその「フランドール」なる吸血鬼のことは全く知らない。
狙う理由はあっても、事情は把握してない。
だから、それを知っているであろう、青いのとそのお友達に丸投げする。


「ちょっと、話を小耳に挟んだだけさ」


 吸血鬼を狙っているということは隠す。
コイツと今、敵対するのは得策ではない。
得体の知れない相手。逃げられるなら逃げ出したいが、向こうに害意もないし、逃がしてくれそうにない。
なら、ここはうまくやり過ごすのが一番だろう。



 と、そこで初めてメイドの表情が変化した。
と言っても、目がほんの1ミリ細くなったぐらいの、変化と言えないような僅かな変化だが、
それでも確かに動いた。
蒼い瞳は少女の赤い衣装を映し、そこに僅かに興味の色が着いた。




 やっぱり、興味を持たれたか。でも、青いのがさっきのことを言い出す前に、コイツらに丸投げしちまえ。



 先程、さやかに「フランドール」を狙っていると言ったのをリークされたらかなわない。
少女は自分とメイドの間に立つさやかを、軽く顎でしゃくった。


「いや、居場所は知らないんだけどね。そこの二人なら知っているみたいだけど……」

 ウィーンという機会の音が聞こえてきそうな動きで、メイドがさやかに顔を向ける。
本当に機械的な、人間とは思えないような不自然な動き。



「な、何よ」

 メイドの無感情な視線に怯みながらも、さやかは精一杯の虚勢を張ってメイドを睨む。


「あんたたちみたいな奴らに、フランちゃんとマミさんの居場所なんか教えるもんか」




 ああ、こういう奴を「馬鹿」っていうんだろうな。




 赤い少女はしみじみと思った。
もうちょっと察しが良くならないものかと呆れるが、それでも彼女のその無謀さがあるから楽になっていい。
虎の相手は、この恐れ知らずの子犬に任せて、さっさと退散しよう。






「フランちゃん、ですか……」







 さやかの言葉に、メイドは口の端を釣り上げるように笑った。

 先程までの能面のような顔に負けず劣らず不気味な笑みだ。



「何笑ってんのよ。何が可笑しいの?」

「いえ。ただ、自分より遥かに年上で、遥かに高貴な身分の相手に、ちゃん付けとは……。
……恐れ入りますわ」


 メイドはかなりの侮蔑をこめた目でさやかを見据えた。
それまでほとんど情動を見せなかったメイドが急に見せた激しい侮辱の顔。
赤い少女は、それが相手の地雷だと悟った。
吸血鬼に仕えているというのは本当のようで、しかも本心からのようだ。
そんな相手を、「ちゃん」付けされて呼ばれたら、そりゃあ怒るだろう。
ただ、さやかはそれが分かったのか分からなかったのか、いずれにせよ、あからさまに侮辱されたことで、
また頭に血が上ったらしい。
一度は下ろした剣を再び構えた。



「何よ。悪い? あの子がそれでいいって言ったのよ。なんにも知らないくせに、笑ってんな!」

「おや。妹様と随分親しくなされていたようでございますね。
これはご無礼をおかけしました。謹んで謝罪申し上げます」


 そう言って、メイドは深々と頭を下げた。

 メイドが殊勝に謝ったからだろう、さやかの勢いは殺された。
そのお辞儀の仕方も完璧だったのだが、今この場では、それはわざとやっているに違いない。
どう好意的に見ても、メイドはさやかへの当て擦りのために形だけの謝罪をしたとしか思えなかった。
はじめてみせた人間らしい仕草が、こんな悪辣なものとは、このメイドは相当いい性格をしているのだろう。




 赤い少女は心の中で溜息を吐いた。




 彼女はさやかほど単純ではなく、この程度の挑発に乗るほど気が短くもない。
まず第一、こんな不気味な相手にいきなり切りかかるという選択肢は取らない。
少なくとも、相手の武器が分かるまでは様子見すべきだ。
どの道、吸血鬼狩りはそこまで本気じゃない。
邪魔にならないなら辞めてもいい。
キュゥべえの頼みを無理に聞く必要はないからだ。
だから、このメイドとも事を構えずに済むならそうしたい。


 けれど、それはあくまで赤い少女の意志であって、その眼前に背を向けて立つ、
青いルーキーはそうではなかった。
彼女は、相手の実力も図らず、自分琴線に触れるような言動を許さない。



「くっ……あんた、フランちゃんに何の用なのよ」

「私が仰せつかった命は、迷子の吸血鬼を探し出し、連れ帰ることにございます」



 メイドの言っていることに、少なくとも今のところ矛盾はない。
姉に仕えるメイドが、主人の妹を連れ帰りに来た、という単純な話だ。
ただ、さやかにはそれは言い訳にも聞こえたらしい。
疑っていることを隠しもせず、強気で問い詰める。


「本当に? 信用ならないんだけど。あんたからも、そこの赤い奴とか転校生と同じ匂いがする」

「私の申し上げたことが信用頂けないと? ですが、これは真実です。
最も、証明する方法を今この場で用意できませんが」





 メイドとさやかが問答し始めた。
二人の意識が互いの方向を向き、メイドが自分に興味を失ったのを悟って、赤い少女は少し緊張を緩める。




 今の内なら、ここからずらかれそうだ。




 そう考え、少女は離脱ルートを計算し始める。


 この上、路地を挟む建物の壁を蹴り、その屋上に出て出来る限り早く駆け去ろう。
吸血鬼狩りもやめだ。



 素早く頭を回転させ、少女はここを去る目処を付けると、メイドとさやかの様子を見ながら、
今度は飛び出すタイミングを計る。




 一方で、そんな赤い少女の考えなど露知らず、さやかは目の前のメイドに全力で噛みついていた。


 彼女にとって、フランは恐怖の象徴であると同時に、マミの大切な友達で、
かつその恩人でもあり、いくら怖いと思っても、守る対象に入っているのだ。
例え、本人が想像を絶する強さを持っていたとしても、さやかは正義の魔法少女であり、
このメイドのような、訳の分からない相手に、探しに来たから居場所を教えてと言われて、
「はい、そうですか」なんて言う訳がなかった。



 だからこそ、さやかは堂々と自分の意思を宣言する。




「なら、私はあんたを信用しない。それに、フランちゃんは今大変なの。
アンタみたいな胡散臭い奴に引き渡せないわ!」

















 その途端、メイドの雰囲気が変わった。












 さっきまで人間味を感じさせなかった無表情に、全くの無色だったその貌に、何かどす黒いものが張り付いた。そんな気がした。




 見た目に変化はない。視覚で認識する限り、メイドの無表情は全く変わっていない。
にも拘らず、その全身から滲み出す僅かな冷たい感情が、彼女の纏う空気をがらりと変容させたのだ。
















「……私の目的は、すなわち我が主君の御意志。その邪魔をするということですか?」







 一拍子、間が置かれて続けられた言葉には、案の定、隠しきれない敵意が含まれていた。



「邪魔でも何でもするわよ!!」



 叫ぶさやか。


 流石にメイドの変化に気が付いたのだろう。
敵意を向けられて、さやかに再び火が着いたらしく、威勢よく食って掛かる。





 一方で、二人を観察しながらタイミングを計っていた赤い少女は、その状況の危険さを敏感に察知した。
これはさやかを止めないとヤバいことになる。
直感的にそう思った彼女は、さやかに声をかけようとするのだが、













「左様でございますか」











 静かに、しかしはっきりと告げられたメイドの言葉がそれをさせなかった。


 もう、取り返しのつかないところまで来てしまったのだ。メイドはもう止まらない。
さやかが邪魔をすると、はっきりと言ってしまったから。




 少女の喉が干上がる。





 遠くから聞こえて来ていた街の喧騒がピタリと消え、夕日の差す路地裏が、瞬く間に処刑場へと様変わりする。
幸か不幸か、少女にはそれが分かってしまった。








「ならば、致し方ありません。
私の、我が主君の前に立ち塞がり、妹様の御帰還の妨害をするというのならば……、
貴女を妹様に害を為す、我らがスカーレットの敵とみなし、






故にこれを殲滅します」











「ッ!?」



 ゾオッと、背筋を走り抜ける冷たい何か。全身の毛が逆立ち、膝が笑いだしそうになった。
それを、少女は必死で抑え、手に持った槍をメイドに向ける。いつの間にか、掌は汗でびっしょりになっていた。



 路地全体がびりびりとした空気に包まれる。メイドから放たれるのは、正真正銘、本物の殺気と敵意だ。
先程の戦いが餓鬼同士のチャンバラごっこに思えるような、蒸留され、生成され、濃縮された凶悪極まりない殺意。
人が人を殺すときに向ける、純粋で混じりけのない感情。
そして、これほど純度の高い殺気は、本当に人を殺した奴でなければ出せない。
赤い少女は、直感的にそう思った。




 逃げろ!!




 頭の中で、自分の姿をした誰かがそう叫ぶ。
本当に聞こえそうなほど、頭蓋の中をサイレンが鳴り響き、赤色灯が明滅して、
あらん限りの警告を発している。
このままここに居れば死ぬ。青いのを見捨てて逃げ出せ。
その誰かは、そう言うのだが、しかし少女の体は、まさに蛇に睨まれたカエルの如く、全く言うことを聞かなくなってしまっていた。


 能面のようなメイドの顔。しかし、その眼光は著しく鋭さを増していた。
猛禽類もかくやという獰猛な視線が、さやかを射抜く。本当に人を殺せそうな目だ。





 そう、メイドの殺気はさやかに向いている。
だというのに、直接それを浴びせかけられていないというのに、少女の体は動かず、必死で震え出すのを押さえておかなければならない。
ただ、余波を浴びただけでそれだ。では、さやかはどうだろうか。



 果たして、マントに隠れたその後ろ姿は少女にも分かるほど小刻みに震えていた。
それはそうだろう。少女ですらこの様なのに、このルーキーが耐えられる訳がない。
恐怖しない訳がない。
しかし、それでも美樹さやかは気丈だった。
震えを抑え付け、精一杯虚勢を張り、メイドに反駁する。





「な、何よ!? やるっての? う、受けて立つわよッ!!」






 必死で剣を構えたのが、背後からでも分かった。




 訂正しよう。さやかは青二才だが、その芯の強さは特筆すべきだ。
ベテラン魔法少女である、赤い彼女ですら震え出すほどの殺気をまともに浴びても、
まだ意志がくじけないのは正直、驚きだ。
こんな状況でなければ、少女は素直にさやかに拍手を送りたい。






















 だからだろうか? メイドの動きを見て、警報が最高潮で鳴り響き出しても、少女が飛び出したのは。
























 メイドは、ゆっくりと手に持っていた傘を持ち上げる。
黒い、大きな男物の蝙蝠傘。
杖の代わりに使えるほど丈のあるそれは、女子が片手で持ち上げるのも重そうである。





 傘は水平になる前に止められた。その先端がさやかの足に向けられているのは気のせいではない。












「——ッ!!」


















 ダァン。




 路地に、爆竹を何倍にも大きくしたような音が響き渡る。
それは路地の中で何度も反響し、エコーしながらすぐに消えていった。
あまりにもその音が大きいので、さやかが上げた小さな悲鳴は誰も耳にしなかった。



「ウワッ!!」

 転がるさやか。何が起こったのか分からない。
突然後ろからマントを引っ張られ、息が一瞬止まってしまい、気が付いたら地面に転がり、
傍らで響く絶叫を聞いていたのだ。




 さやかが咳き込みながら顔を上げると、すぐ傍で赤い少女が右足を押さえながら地面に倒れ、
悲鳴を上げながらのた打ち回っていた。




「ちょっ、何!?」





「杏子!」





 キュゥべえに杏子と呼ばれた赤い槍使いは、相変わらず足を押さえたまま地べたに蹲っていた。
右足の膝下は真っ赤な肉が破れたブーツの間から覗いており、その衣装とはまた別の色の赤い液体がおびただしく漏れ出ていた。



 いったい、彼女がどうしてこんなことになっているのか分からない。
だから、思わず硬直してしまう。
状況の理解に努めようとして、彼女は目の前の脅威を失念してしまった。







「おや? 庇われるのですか? ならば、貴女も敵として排除しますわよ」






 ただ、幸いにも、その脅威たるメイドの関心が杏子に向いたおかげで、さやかはすぐにその脅威を思い出すことができた。
慌てて剣を構え直し、メイドを睨みつける。


「あ、あんた!!」


 怒鳴ると、メイドが杏子からさやかに視線を移す。
殺意を隠しもせず、人を傷つけても据わったままの目玉が、ぎょろりと青い剣士を睨みつけた。



「何てことすんの!? 殺す気?」

「ええ。貴女から」




 再び動く傘。何故か、その先には丸い穴があいている。
それは、まるでマミのアレを思い起こさせた。


 それを見て、ようやくさやかは事態を飲み込めた。









 これは傘ではない。傘の形をした、銃だ。








 先程響いた轟音は銃声。杏子と呼ばれた魔法少女は、足を銃弾で撃たれたのだ。
正真正銘、本物の銃弾で。


 それは、街のお巡りさんが腰にぶら下げている小さな物ではない。
もっと凶悪で、殺傷力が高く、治安維持のためではなく、戦場で人を殺すためだけに生み出された殺意の塊なのだ。



 このご時世、魔法やら剣やらより、それの方が、遥かに恐怖の象徴として伝わりやすい。



 それが分かった途端、さやかの威勢はどこかに吹き飛んでしまった。
剣の届かない距離から、音速を超えて飛んでくる鉛玉の脅威とその結果をまざまざと見せつけられ、
魔法少女とはいえ、元はただのどこにでも居るような女子中学生であるさやかは、一瞬にして恐怖に体を支配されてしまったのだ。

 そして、この無慈悲で理不尽で、狂い切った殺人者の前では、それは致命的だった。












「避けろ!!」












 誰かがすぐ近くで怒鳴る。




 だが、さやかの体は、いや、体どころかその思考すらも動かない。

















 ————ガシャッと、金属のぶつかり合う音がした。










「チッ」


 軽い舌うちと共に、メイドが傘を振う。





 それとほぼ同時に、杏子が振るった多節棍の槍と傘が激しくぶつかり合った。
魔力で、撃たれた足を無理やり回復させた杏子は、硬直したさやかからメイドの狙いを外すために槍を振ったのだ。



 傷は応急処置が済んだ程度で、まだほとんど治っていない。
さやかと違い、杏子は治癒魔法が不得意なのだ。
それでも動き出せるようにはなった。





 このメイドは狂ってる。
メイドとしては優秀なのかは知らないが、相当破綻した思考回路の持ち主だ。
その場に居る誰もがそう思った。
そして、そのような狂った人間が、凶悪な武器を持つことの恐ろしさも、その身に浸みて来た。





 狂気と殺意で動く殺人マシーンの如きメイドは、一切の表情筋を動かすことなく、
機械的に傘を回し、銃口のついた先端を杏子の頭に向ける。





「杏子! 気を付けて!」


 キュゥべえの叫びと同時に、杏子は脇に転がった。
間髪入れず、傘の先端が火を吹き、破裂音が響き渡る。




「うわっ」




 さっきまで杏子の頭が乗っていた地面が爆発して、その破片をまともに食らった。
悲鳴を上げながら、杏子は頭を引っ込める。
くそっ、本気で殺しにきやがった!!





 杏子の心臓は痛みを覚えるほど激しく動悸し、全身の毛穴から冷や汗が吹き出て来た。



 だが、止まっていられない。



 杏子は素早く立ち上がる。同時に、もう一発銃声が鳴り響き、杏子の傍の路面が弾け飛んだ。




「その傘、何仕込んであんだよ!」

 怒鳴りつけると、メイドはうっすらと嗤う。



「SPAS-12ですわ」

「すぱす?」

「ショットガンです」

「おい!!」



 杏子が突っ込むと同時に、メイドは傘に偽装したショットガンの照準を合わせる。

「くそっ」


 杏子が駆け出した途端、またショットガンが火を吹く。
結構な反動があるはずなのに、片手だけでショットガンを支えている。
相当腕力が強いらしい。
加えて、暴力的な銃声も、火を噴く銃口も、強力な反動も、彼女の表情を変化させることはなかった。



 全速力で杏子は駆ける。
と言っても、狭い路地では思うように動けない。
さやかを巻き込まないように杏子はジグザグに走りながら、メイドに近付いた。


 そのさやかは固まったまま。できれば逃げてほしいが、この様子ではそれは難しいだろう。


 一瞬でそれを確認すると、杏子はどうメイドに対処するか考える。
さやかと違い、彼女の思考と身体が今この状況で動くのは、何度も死線を潜り抜けて来たことと、
あまりにも明確な生命の危機を認識したからだ。










 とにかく、槍の距離まで入り込めばこちらのもんだ。
右足はまだ本調子じゃないが、魔力で無理やり動かしかなねえ!!

















 だが、そうは上手くいかないものだ。


 メイドは表情を変えることなく空いていたもう片方の手でトランクを持ち上げた。側面には穴が開いている。
その様子に悪寒が走った杏子は、咄嗟に槍を伸ばし、自分はそれに掴まって上に跳んだ。












 刹那、トランクが火を吹き、連続して鼓膜を破らんとするほど響き渡る圧倒的な殺意の爆音。







 先程まで杏子が居たところに鉛玉が撒き散らされ、さやかの斬撃を受けてもびくともしなかった槍が銃撃でボロボロになってしまった。
どうやらトランクの中には機関銃が仕込まれているらしい。
杏子は宙を蹴り、全力で弾幕を躱す。
ただ、遮蔽物がないので、いつまで持つか分からない。












 だが、それだけではなかった。



 杏子は見逃していたが、トランクの側面には、機関銃の銃口と、その下にもう一つ、
それより大きな穴が開いていたのだ。
それは、トランクに仕込まれたグレネードランチャーの発射口。
小さな子供の拳ほどの大きさの榴弾がバシュッという音ともに射出され、それは杏子の背後の壁に命中し、大爆発を起こした。









「ぐわぁっ!?」


 悲鳴は爆音に打ち消されてしまう。



 予想していなかった杏子は不意を打たれ、真後ろから襲ってきた衝撃波も含んだ爆風になす術も無く吹き飛ばされた。
その背中がずたずたに引き裂かれ、さらに爆炎で焼かれ、真っ赤に血や小さな皮膚の切れ端が飛び散る。
路地の端っこで震えていたさやかも巻き込まれて地面を転がっていき、結界の向こう側に居たまどかとキュゥべえ以外にその炎が襲いかかる。
衝撃で吹き飛ばされた杏子は、固い路面に叩きつけられ、その意識が一瞬断絶してしまった。

何処ぞのターミネーターメイドと同じ武装じゃねぇかww
いつものナイフはどうしたよww




「さやかちゃん!!」




 それまで頭を抱え、しゃがんで震えていたまどかだが、間近で花火が爆発したようなすさまじい轟音に顔を上げた。


「まどか! 危険すぎる。早くここから離れるんだ。この結界もいつまで持つか分からないよ」


「で、でも!」




 まどかには、死への恐怖に対抗できるだけの、友人への思いやりがあった。
それ故、判断が遅くなったり間違ったりする。
キュゥべえの指示は的確だったが、まどかは従おうとしない。
彼女にとって、身の危険以上に、友達が傷つくことの方が恐ろしいのだから。



「どうしてもさやかを助けたいなら、今すぐ僕と契約して魔法少女になるしかない。
今の君じゃ、あそこに行っても死ぬだけだよ」




 それを理解して、キュゥべえは相変わらずの提案をする。

 今の自分に出来ることはそれしかない。
このままさやか(と杏子)を見捨てるなんて、もってのほかだ。



 だが、契約するなとほむらにあれほど釘を差されている。
今契約してしまっては、ほむらに悪い気がした。







 しかし、契約すべきか否かでまどかが悩んでいる間にも、銃撃戦は続く。













 結界はまだ健在で、それは杏子の生存を意味していた。





 今、杏子は最初に張った結界を背に、もう一つ別の結界を張って、メイドの攻撃を防いでいて、
その足元には、先ほどの爆発で気絶したさやかが倒れている。
杏子が咄嗟に回収したのだ。




 その杏子の方はと言えば、爆風の直撃を受けながらも、受け身と身体強化の魔法でダメージを最小限に抑え、
なんとか結界を張ることに成功した。
それは、ベテランのなせる業であり、杏子だからこそ出来たものだ。
ただ、まどかの方から見ると、杏子の背中は酷い有様で、思わず目を背けたくなる。
それだけ、彼女が負った傷は深いのだが、それでも杏子は痛みに耐え、必死で魔法を発動させている。






 ただ、その杏子をしても信じられないことに、あのメイドは間近で爆発を受けても、傷一つ負わなかった。
一体何で出来ているのか、平然とした顔で爆炎の中から現れたのだ。










 コイツ、一体になにもんだよ!!










 銃規制が厳しいこの日本で、こんな軍隊並みの武器を持っているコイツは、間違いなくヤバい連中と繋がりがあるに違いない。
それに、コイツ自身も頭がおかしい。
普通、これだけの武器を人に向けるか?




「くそ。このままじゃもたねえ」



 杏子が攻撃を仕掛けられたのは、さっきの一瞬だけ。
これだけの弾幕を張られてしまっては、最早杏子の打てる手段はこれだけしかない。





 まるで未来から来た殺人ロボットのようなメイドは、無表情のまま無茶苦茶な火力で杏子の結界を押し切ろうとする。
実際、結界にひびが入ってきている。
長くは持たない。
このまま結界を貫かれれば、間違いなく杏子は蜂の巣にされる。
容赦のない命の危機。
誰かの助けがない限り、その運命は揺るがない。









 それは、背後から杏子の様子を見ていたまどかにも分かった。



 そして決意する。心の中でほむらに謝りながら。


「私……」















「それには及ばないわ」

















武装女中さくや☆フィジカ




そして、「それには及ばないわ」
頂きましたww





同じ能力を持つ者同士の会遇です。




以下、咲夜さんが使っていた武器
フランキ・スパス12
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%91%E3%82%B912

M203グレネードランチャー
http://ja.wikipedia.org/wiki/M203_%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%83%8D%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC


完全にフローレンシアの猟犬です本当にありがとうございました

>>290の「隙が無い」が胸が無いに見えてしまった・・・

ほむらがコスプレしてると言っても違和感ないくらい兵器を平気で使ってるな


この咲夜はレミリアの従者になる前まではどんな事をやっていたんだ?
重火器使ってるけど、ヴァンパイアハンター説を採用するんなら基本的に銀製の武器を使用するはずだが

相手は吸血鬼ちゃうから別に銀製でなくともいいんちゃう

ここの咲夜さんはクールビューティで物騒なキャラか。
原作は結構天然入ってるんだけど、まどマギのダークな世界観にあわせてるんだろうか


前までさやかはアホの子ちゃうって風評がこのスレにあったが、これどう見てもドAHOの子や
杏子が外道魔法少女だったら二対一って構図も普通にあったんだぞ

>>308
つまり咲夜さんに本気になれと……?(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

>>314
ヤムチャシヤガッテ……

ほむほむはどう出るかね

ほむらの時停は半端だからなぁ

殺伐とした状況にDIOが!

むしろナイフ使わない方が安全だと思うがね、時間止めてるにしたって何百のナイフを一瞬で投げつけて来られるよりか一発の銃弾の方が遥かに良心的だわ

無駄無駄無駄アッ!

というか入ってたのがグレネードで良かったな下手すりゃ戦車とか入っててもおかしくなかったぞ

連日更新乙です

咲夜さんだったか
‥日も落ちてない時間なのにお嬢様をどっかに置いてか!?
(いくら何でもご主人様をトランクに詰めはしないよなあ‥)

紫様かお嬢様の可能性も考えてました
(そして来れんのかよ!?とか日出てますよ!?とかツッコむつもりでした)

あんまり関係ないが猟犬がトランクに仕込んでたグレネードランチャーは確かMP37だった筈
使用弾丸もMP37は37×110mmの特殊弾、M203は40×46mmの一般規格弾で
アーウェンは三発または大容量弾倉使用で五発装弾の自動排莢、M203は単発装弾の手動排莢といろいろ差異があるぜ

まあ普及してる弾丸バリエーションの多さから言ったら40×46mmの方が圧倒的に多いんだけどな
高性能炸薬弾以外にも空中炸裂弾や形成炸薬弾、散弾もあったはずだから
逆に37×110は元々暴徒鎮圧用みたいなもんだからガス弾、ゴム弾の非殺傷弾が多めだし
あんま詳しくないから色々間違ってるかもしれないけどな

…というか[ピーーー]気満々じゃねーかこのメイド!

咲夜さんならトランクの中に戦車すら入れられるから些細な誤差だ

空間を操るからトランクの中になんでも詰められるんだよな・・・

咲夜さんは下手したら対戦車砲とか対戦車ライフルとかも入れてるかもしれん

雑魚の人間風情相手に時止め能力使うまでもないという余裕の現れかもしれない

そのうち咲夜さんは素手で戦いだすに一票

いや、あるいはパッチェさんが作った能力が使えないオートマータかもしれん

さやかちゃんは契約したてなのに2日目にして魔女の使い魔→ベテラン魔法少女→紅魔郷5ボス(手加減モード)の連戦はいくらなんでも難易度高過ぎだろw

この際だから完膚無きまでにボッコボコにしてもらって心をバッキバキに折ってもらうのもいいかもしれない

まぁナイフは弾幕ごっこ用の商売道具だろうしね
殺し合いならガチが基本の現実だからこそのチョイスなんだろう



おふぅ
急に書き込みが増えたw

>>316
人間相手なら鉛玉で十分。
銀弾はコストが高いので。

という訳ですw

>>318
えっ?
天然さんじゃないですか!?

初対面のいたいけな少女にいきなり発砲するとか、
妖精を瓶詰にするのと同じ程度の発想ですよwwww

>>319
杏子ちゃんは聖女だからそんなことしない(キリッ


>>327
wwww
投下してから気が付いたwwww

まあ、M203の方がメジャーかなと・・・・・(汗)

>>328
やだなあ、戦車どころかW88も入れられますよ!よ!

この咲夜さんなら持っていてもおかしくないww

>>334
難易度ルナティックwww

さやかちゃんの人生は修羅の道です。


咲夜さんが銃火器で武装しているのは、これがガチだから。
弾幕ごっこはあくまで「遊び」ですので、
本気で殺し合うなら、銃を使わない手はないでしょう。
もちろん、場合によりけりですけど。

そして、みんなで>>314の御冥福を祈りましょう。








                 *







 そう言って颯爽と現れたのは、見滝原のもう一人の魔法少女で、キュゥべえがイレギュラーと呼ぶ謎の少女。





 彼女は濡れ羽色の長い髪をたなびかし、まどかの真横に立つ。


「ほむらちゃん!」


 まどかはヒーローに助けを求めるような目でほむらの横顔を見上げた。
だが、それも束の間、すぐに戸惑うことになる。



 ほむらの顔は険しかった。その端正な貌は歪み、目には戸惑いと不安の色が窺えた。
もっとはっきり短く言えば、彼女は動揺していた。

 その訳は、今彼女の目の前に広がる凄惨たる光景だけではない。
確かに、視界に映る景色は酷いものだ。
滅茶苦茶にに破壊された路地裏、背中に惨たらしい傷を負った赤い魔法少女、気絶して転がっている美樹さやか。
何より、能面のような面からぞっとするほど鋭い殺意を流し出しているメイド姿の武装した少女。













 だが、これら全てより、暁美ほむらにとって衝撃的な事実があり、彼女はそれに対して動揺しているのだった。









「佐倉杏子!」


「な……どこかで会ったか?」

 ほむらに名を呼ばれ、佐倉杏子は驚いて振り返る。
その様子を見るに、ほむらの登場は既に気が付いていたのだろう。
集中を切らして結界に込める魔力を弱めないあたりも、流石にベテランだった。

 とはいえ、長い間魔法少女をやっている彼女ですらここまで追い詰められている現状はかなりまずいと言えた。
もちろん、相性の問題もあるのだろう。
トリッキーに攻める杏子に対し、圧倒的な火力による面的制圧は有効な手段だ。
その点、ほむらの方が戦いやすい。
何故なら、彼女も同じだから。


「貴女たちは下がって。あいつは私が止める」

 その一言に、取り敢えずほっとする杏子だったが、状況は変わっていない。
気を抜くことは無かった。



 いつの間にかメイドは射撃を止めていた。
強固な結界を張られた上に、増援が来たので様子見と言ったところだろうと、杏子は考える。
正直、これはありがたい。
この背後にいきなり現れた魔法少女が、キュゥべえの言う「イレギュラー」なんだろうが、
こうやって味方してくれるのであればイレギュラーだろうがレギュラーだろうが何でもいい。

 メイドは、しかし急な増援の到着にも動じず、猛禽類のような鋭い目でこちらを睨みながら、
ショットガンの銃口を向けてくる。
そして、もう片方の手で持っていたトランクを置き、銃をこちらに向けて構えたまま軽くしゃがんで
器用に片手でトランクを開けた。





 中から何やら長い、筒のような物が出て来る。
これまた凶悪そうな一物に、杏子は思わず泣き出したくなった。
勘弁してくれよ、と心の中で嘆きながら、ありったけの魔力を結界に込めた。


 実物は見たことがない。ただし、どこかでその存在については伝え聞いていた。
その先には、太い、膨らんだ弾頭。
きっと、世界のどこかで戦車を鉄の棺桶にするために使われているそれは、所謂バズーカという奴らしい。



「拙いッ」



 ほむらが駆け出し、杏子の前に立って、盾を構えた。同時にメイドが引き金を引く。











 視界が真っ白になった。音が一瞬で消えた。
訳の分からない衝撃が結界を突き破り、杏子を襲った。
そのまま激しい振動に二度三度揺さぶられ、自分がどうなったか分からないまま、気が付いたら地面に倒れていた。


 衝撃が強すぎて、頭がグワングワンする。
意識が朦朧として、周りの状況がよく分からない。
痛みすら感じない。本格的に脳の機能不全に陥ったようだ。
どこかの血管が切れて血が目に入ったのか、片方の視界が真っ赤だった。
その真っ赤な視界の中で、メイドとイレギュラーが対峙する。
信じられないことに、二人ともほぼ無傷だった。
ほむらの方が、若干い服が汚れたり破れたりしているが、体に傷は見られない。

「何者なのよ、貴女。パンツァーファウストなんて持ち出して」

 爆発によって聴覚が麻痺した杏子には聞こえなかったが、ほむらはそう言った。
倒れた杏子の傍で、二重の結界に守られたおかげで奇跡的に無傷だったまどかが震えている。
さやかは少し離れた壁際に飛ばされて、こちらは完全に動かない。
そんな阿鼻叫喚な光景の中で、二人は睨みあった。



「私も、貴女に興味がありますわ。個人的に」

 メイドは、これまた無傷で粛々と口を動かしていた。
ここまで来ると、このメイドが本格的に化け物なんじゃないかと杏子は戦慄する。
さっきのハリウッド顔負けのド派手な爆発は、コイツも充分巻き込まれるくらい大きかったはずだ。
素材が何で出来ていればそれを喰らっても、無傷で立っていたれるんだろうか。
あれだけ派手に攻撃しておいて、その顔は全く変わらない。
いっそ、ロボットと言われた方がまだ納得がいく。

「私と同じ力。まさか、そんな相手に出会えるとはね。魔法少女でもないのに」

 何のことか杏子には分からないが、状況が良くないことはほむらの表情からも伺えた。
その顔には酷く動揺の色が現れていたからだ。

「ええ。私もですわ。魔法少女とやらに、私と同じ力を扱える方がいらっしゃるなど、思いもおりませんでした。
てっきり三下ばかりだと考えていましたわ」



 相変わらず慇懃無礼な言葉。
メイドは露骨にほむらを煽っていたが、ほむらのほうは動じなかった。
むしろ、そんなことより他に気を取られていることがあるから反応しなかったというべきだろう。





 イレギュラーがどういうつもりで味方するのかは分からないが、助けに来てくれたのはありがたい。
だが、切り抜けられるか?




 魔力で聴覚と体のダメージを回復させ、杏子はゆっくりと立ち上がった。
三半規管に受けた衝撃が強すぎてまだ少しフラフラするが、そこはタフな魔法少女、
摩訶不思議な力技で何とかする。
そして、杏子が体を治している間にも、ほむらとメイドの会話は続く。




「一体、何の用でここに来たのかしら?」

「あるやんごとなき身分のお方を迎えに参りました。
我が主人の妹君、フランドール・スカーレット様にございます」

「フランドール? あの吸血鬼のことね」

「左様。貴女もご存知でしたか」


 メイドは微かに首を縦に振った。




「ならさっさと家に連れて帰ってくれないかしら。はっきり言って、迷惑なのよ。貴女が、だけど」

「もとよりその心算ですわ」

 メイドはほむらの皮肉も気にせず、形式ばったお辞儀をした。
そして尚も淡々と、恐るべきことに、戦闘前と全く同じ調子で、続きを言う。


「ですがその前に、妹様の居場所を探さなければなりません。幸い、そこの方々がご存知なようなのですが……」

 メイドはうっすらと笑いながらトランクからばかでかい銃を取り出した。
それはこの国の防衛組織も採用している機関銃。
そんな物が当たり前に持ち出されたことに、ほむらは自分のことを棚に上げて舌を巻いた。
後ろでまどかが息を飲む。



「偉大なる吸血鬼の王の御意志を、
恐れ多くも、
そこの青い方と赤い方が遮らんとするので……、
まずはこれを無力化し……、
“然るべき処置”を以って、
妹様の所在を聞き出す心算だったのです。
ただ、貴女がもしその方々に味方すると言うならば」


 そう言いながらメイドは銃を持ち上げ、口元から笑みを消し去る。



















「お前も挽き肉にするわよ」























 低く呟いた。





 それが開戦の合図。





 ほむらも盾から自動小銃を取り出し、メイドに向けて撃ち出す。
メイドも、トランクの陰に隠れながら、ミニミ機関銃をぶっ放す。
途端に狭い路地裏に、けたたましい銃撃音が響き渡る。
その恐ろしい音に、杏子は頭を押さえて路面に這いつくばった。
今顔を上げれば、間違いなく頭蓋骨に穴が開く。



 いきなり始まった、西側諸国の現代火器どうしの銃撃戦。
現実の戦争ではなかなか実現しなかったそれが、驚くべきことに魔法少女と吸血鬼の従者という組み合わせで為されることになった。
しかもその舞台は、中東やアフリカの荒地ではなく、信じられないことに戦争から60余年の間無縁だった日本の街の路地裏だ。
最早、この狭い空間に立ち込める硝煙の臭いは濃厚で、それが否が応でもこの場が戦場であることを思い知らしめる。


 ほむらは咄嗟に横に跳び、機関銃の射線からずれた。
だが、咲夜もトランクの影から銃を動かして、ほむらの動きを追ってくる。
狭い路地で至近距離から撃ち合う二人。
このままでは火力の小さいほむらの方が不利だった。



 だから、ほむらは足に魔力を込めて一気に跳躍。
狙いは、路地上の非常階段の踊り場。位置によるアドバンテージを取るためだ。


 メイドは追って来ない。下から機関銃を撃つだけである。
どうやら、魔法少女のように身体強化の類の魔法は使えないようだ。



 ほむらは射撃で相手を牽制しながら非常階段の踊り場に着地し、上からメイドに向けて鉛玉を撃ち落とした。
メイドはトランクを持ち上げ、それを盾に身を隠す。
流石に腕力が持たないのか、片手で機関銃を撃つことはない。




「佐倉杏子! そこの二人を連れて逃げなさい! 今の内よッ!!」


 その間にほむらは銃声に負けないように声の限り叫んだ。



「恩に着るぜ」



 出る幕がなく、結界を張り直して二人の銃撃戦を見ていた杏子が叫び返す。
そして、傍らでまだ気を失ったままのさやかを担ぎ上げ、腰を抜かして震えているまどかに声をかける。

「おい、行くぞ。立て」

 だが、まどかは杏子を見上げて恐怖に耐えながら言った。

「ほ、ほむらちゃんが……」

「アイツが行けって言ってんだろ! うだうだ言ってると置いてくぞ」

 その優柔不断な愚直さにイラッとしながら杏子は怒鳴った。
コイツはやっぱり素人で、状況がなんにも判ってない。
青いのも、何でこんな一般人を連れて来たのか理解に苦しむ。

「で、でも、置いてけないよ。……ほむらちゃんを一人残して逃げるなんて」


「はあ」

 杏子は大袈裟に溜息を吐いた。

「アンタがここに残ったところで何が出来るんだよ。むしろアイツの足を引っ張るだけだと思うぜ。
このルーキーのこともあるし、逃げるのが正解だ」

「あ、あのメイドの人、フランちゃんを捜しに来たって……だから、話せば分かってくれるかも」


 おどおどと気弱な様子を見せながらも、しかしまどかは頑なだった。
そこにあるのは争いをしたくないという優しい思い。
今この場では、最悪の価値基準。
気弱そうに見えて、頑固なところを見せるまどかのギャップが、変に杏子を苛立たせる。
もう少し、状況を理解してほしい。



 そこに、

「そうだよ杏子。それに、彼女がここに残って僕と契約すれば、あの二人の戦いを止めさせられるかもしれない」


 と、余計な茶々をキュゥべえが入れる。


「あー、もうっ! お前は話に入ってくんな! いいか、あのメイドは頭が狂ってやがる。
まともに話が通じるかも分かんねえ。
ちょっとのことですぐ発砲する危険人物なんだよ。
何でもかんでも話し合いで解決すると思ってんじゃねえぞ」

 そう言って杏子はまどかを強引に抱え上げた。



「あっ……やだっ……離して!」

 杏子は暴れるまどかとぐったりと動かないさやかの二人を抱えたまま飛び上がり、
キュゥべえを置いてそのまま路地を挟む壁を蹴って建物の屋上に出た。
そして、更に跳躍を繰り返しながら去って行く。
残されたキュゥべえは戦う二人を観察したままだ。
ほむらはそれを排除したいが余裕がない。
杏子たちの離脱を確認すると、銃撃を止めて、下の様子を窺った。
今のうちにキュゥべえを撃ち抜けるかもしれない。


 そんなふうに意識を逸らしたのがいけなかった。


















「どこを見ているの?」


















 不意にすぐ傍から聞こえる低い、凍えるような声。

 驚いて振り向く前に、脇腹に強烈な衝撃が走る。


 背中から非常階段の踊り場の柵に叩きつけられ、肺の空気が全て吐き出された。
だが、咳き込む間もなく、次の一撃が来る。

 視界がぶれるような衝撃に襲われた。一瞬、意識が明滅する。


 顎を蹴りあげられ、頭が強制的に上を向いた。
骨が折れたと思う程の激痛が走り、口の中に鉄臭い味が広がる。




 しかし、ほむらもやられてばかりではない。

 痛みをこらえて左手を上げた。
その手を中心に、魔力を放出し、強風を生み出す。
はっきり言って、目くらましにしかならないが、それで十分だった。
その隙に、僅かに怯んだメイドからほむらは離れ、路地に飛び降りた。


 メイドは踊り場からほむらを見下ろす。
その眼は相変わらずの、いや、さっきにもまして強烈な殺意と憎悪が込められている。
お前のせいで逃がしたではないかと言わんばかりだ。
彼女にとって、佐倉杏子と美樹さやかの二人は邪魔ものであると同時に、情報源にもなり得るのだろう。
だからこそ、ほむらの妨害に憤怒の相貌を見せているのだ。



「大したことないのね。少し期待していたのに、残念だわ」




 本当に残念そうにメイドは首を振る。そこにはあからさまな侮蔑があった。
だが、暁美ほむらは挑発に乗らない。
どう考えても、それは八つ当たりのために行われているのだ。
気晴らしにほむらの体の風通し良くしたいとでも思っているのだろう。



 だからこそ、ほむらは慎重に相手の能力を見極める。
何しろ、今まで出会ったことはなかったが、自分の能力が効かない相手というのは相性が最悪だからだ。
勇み足を踏んでも、手痛い返り討ちを喰らうだけ。
恐らくだが、相手の方が戦闘経験は上だ。








「貴女……」









 ほむらは口の中にあふれた血を吐き捨てメイドを睨み上げた。


 蹴られた顎と脇腹がひどく傷む。
口の中もそうだが、脇腹の内出血もひどい。
そのせいで上手く動けない。
このままでは不利だ。
火力なら相手を上回れる自信があるが、自分の能力が通用しないのはきつい。
正確には、相手も同じ能力を持っているせいで、互いの能力同士が干渉し合って、条件が同じになってしまうようなのだ。




「さて、どういたしましょう。
あの赤いのも、妹様の居場所を知っているという二人の餓鬼も行ってしまいましたわ。
貴女が邪魔したので、取り逃がしてしまいました」




 メイドはそう言って大袈裟に溜息を吐いた。


 ほむらは次の行動を警戒しながらいつでも盾から武器を取り出せるように構える。
だが、メイドはそんなほむらの動きに取り合わず、ワザとらしい仕草で肩をすくめて、

「貴女は、妹様の居場所をご存知?」

「教えてもいいわ」






 即答。
戦いを避けられるなら、それがいい。
もちろん、さっき、杏子と言い合いしていたまどかの主張とは違う理由だ。
ほむらは平和主義者ではなく、現実主義者だったから。


 それに、既にほむらの頭脳は冷静に状況を分析し、どうすれば最善か、という答えを弾きだしていた。
それはある意味簡単な手段で、また別の意味でも難しい。
そう思ったのだが、嬉しいことにメイドの方が歩み寄りの意思を見せてくれた。
頭の中の大事なネジが全部ぶっ飛んだ戦闘狂じゃなくて良かったと思う。
彼女は、ただちょっとやり方が苛烈なメイドさんなのだ。

 ほむらの返答を聞き、メイドの瞳が僅かに光る。
殺気が薄まった。
ちょっと意外そうな顔をしているあたり、さっきの問いかけは答えを期待していたものではなかったのかもしれない。





 ほむらはその隙に、取り敢えず目障りなキュゥべえに銃を向ける。
そして、躊躇なく引き金を引き、白い体を弾き飛ばした。
ばたりと倒れる白い肉塊。メイドは少し目を細めた。


「いけないことをするのね」

「邪魔だからよ」


 メイドは特に気にしたふうもない。
ほむらも新しい個体が現れないのを確認して話を続ける。
出て来てもまた撃たれるだけだと思って奴も撤退したのだろう。好都合だった。
そして、メイドもメイドで興味がないのか、それ以上追及してこない。



 それよりも、と彼女は前置きする。



「本当に教えてくれるのかしら?」


「もちろんタダという訳にはいかないわ」


「条件は?」




「あの三人に手を出さないこと。
彼女たちには私から話をつけておくわ。
貴女の邪魔をしないようにね」









「……いい条件ね」











 疑うような視線がほむらを探る。随分と用心深い性格らしい。
まあ、それはそうだろう。
つい今さっきまで銃撃戦を繰り広げていた相手が持ち掛けてきた取引なんて、すぐに応じる訳はない。
なので、ほむらはさらに一押しした。




「言ったでしょ。貴女が迷惑だって。それに、あの吸血鬼も危険なのよ」


「ふーん。なるほど。ひょっとして、妹様の力を直接目の当たりにしたのかしら?」


「ええ」




 そう、とメイドは微かに頷いた。
ほむらの知らないことに納得したのだろう。
どうやら、あの吸血鬼の恐ろしさは彼女も知っているらしい。





「いいわ。条件を呑みましょう。そういう約束でね」

 意味深に付け加えられた一言。ほむらは微かに首を傾げるが、取り敢えず頷いておく。




 やけにあっさりと応じてくれた。
一度は疑う素振りを見せたが、それでもほむらの想像以上に上手くいったのだ。
これはちょっと意外だった。
どうしてだろうか、とほむらは一瞬頭を巡らせる。
騙しているような気配もしない。
となれば、おそらく彼女の中での優先順位が明確なのだろう。
目的が吸血鬼のお迎えである以上、それを最優先に、魔法少女との戦闘は二の次三の次といったところか。
いずれにしても、美樹さやかのように感情論を振りかざす相手より、こういうビジネスライクな考え方をする相手の方が、
ほむらとしてはやりやすかった。


 相手の強調した「約束」という言葉に、ほむらは頷いておく。
それがどういう意味かは分からないが、わざわざ強調した以上、自分もそれを守るし、
ほむらにもそれを守れと言うつもりなのかもしれない。



「ええ。約束。そう云う取り決めよ」

「じゃあ、早速で悪いけど、居場所を教えてくれない?」


 そっけない言葉と共に、メイドが殺気と敵意を引っ込める。
戦闘が終了した合図だ。
非常にあっさりしているが、もうこれ以上戦う理由はない。
疑心暗鬼になっても仕方がないし、利害が一致しているなら、さっさと用件を済ませた方がお互いにとって一番いいのだから。


 メイドの口調は慇懃としたものから随分砕けたそれに変わっている。
やはり、あの口調は相手を挑発するもの? 
あるいは、ほむらが「味方」になったからだろうか?



 それはともかく、ほむらは警戒を解き、魔力で傷を治し始めた。
そして、グリーフシードを取り出す。
メイドはその間に踊り場から飛び降りて、何事も無いかのように着地した。
三階分の高さはあったはずなのに。
そう言えば、さっきも踊り場にどうやって現れたのだろう? 
その時能力は使わなかったはずだ。
使ったらほむらも気付くから。




「案内するわ。付いて来て。……ただし、そこに今いるとは保証しかねるわ」

「結構よ。待っていれば会えるなら」

「恐らくね。ただ、もう一人吸血鬼がいるから」



 散らばっていたトランクや傘に偽装したショットガンを回収していた手が止まり、メイドの目が開いた。はっきりと驚いた表情になる。
今までで一番の表情変化だった。
そのあまりの驚き様に、ほむらの方が驚いたほどに。



「もう一人?」




「……ええ」




 メイドはその場を動かず、顔をこちらに向けて聞き返しただけだったが、そこには迫るようなものがあった。
ほむらは変身を解き、グリーフシードでソウルジェムを浄化しつつ頷いた。







「名前は巴マミ。元は私と同じ魔法少女で、あの吸血鬼としばらく行動を共にしていたけど、
ある魔女との戦いで致命傷を負って、救命措置として吸血鬼にされたのよ」



「魔女……? この世界にはまだ魔女がいるの?」





 メイドは首をかしげ、驚愕と疑念を持った眼差しでほむらを見つめる。
さっきの未来から来た殺人ロボットのような人物と同じとは思えない程感情を豊かに表現していた。



「この世界? まだ? 貴女、まさか……」



 ほむらがハッとする。そんな言葉に聞き覚えがあったからだ。




 しかし、互いに互いの発言に驚いていては話が進まない。
ほむらは自分の疑問を封じ込めて簡単に説明する。


「そう呼ばれる怪物よ。魔物といった方がいいかしら。
で、私たち魔法少女はあの白い小動物と契約してその怪物たちと戦う使命を背負うの。
たったひとつの奇跡の代わりにね」




 ほむらはこのメイドが異世界の、それも魔法少女の存在を知らない住人だと考えた。
なぜなら彼女はソウルジェムを持っていないし、キュゥべえのことも知らないみたいだからだ。
それに、吸血鬼なんて言う、この世界には本来存在しないはずの生き物を追って来ている。
それがなんで現代の重火器を持っているのかは不明だが。

 だから、簡単に説明したのだ。話せば長くなりそうな真実を伏せて。



「へえ。下らない契約ね」


「ええ。とっても」




 もしかしたらと思ったが、その可能性はあり得なさそうだ。
今の説明だけで、魔法少女契約の怪しさに気付いたらしい。
なかなか頭はキレるようだ。
というより、そもそも興味もないのだろう。
反応は、さっきまでの殺人ロボットモードの時に見せていた、冷淡なものだった。




「……あの小動物が、奇跡の規約を、ねぇ」

「そうよ。あれが全ての黒幕」

「なら私が排除しますわ。そんな簡単に奇跡を起こす白い糞は除去して街を綺麗にしないと」

「無駄よ」


 ほむらは首を振った。幾ら彼女でもキュゥべえを殺し尽くすことは出来ないはずだ。



「あいつは殺しても殺しても湧いて来る。
あの体はあくまでここで活動するための端末なの。本体は別にいるのよ」


「さっきは出て来なかったじゃない。新しいのが」

「引き下がっただけよ。また出会うことになるわよ」

「厄介ね。ま、いいわ。取敢えずは妹様を探すことが優先。案内して」

「ええ」




 “荷物”をまとめ終えた咲夜にほむらは肯き、彼女を連れて歩き出した。
ついさっきまで本気の殺し合いをしていた自分たちがこうやって当たり前に会話しながら
共に行動することに奇妙な感慨を持ちながら。










武装女中さくや☆フィジカwithほむほむ


二人の能力の関係性について、劇中にある通り。
これは、輝夜に咲夜の能力が通じるのかという問題にも通じるところがあるとは思いますが、
ここでは一応、こんな設定です。


咲夜さんが使ってた武器
パンツァーファウスト3
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%84%E3%82%A1%E3%83%BC%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A6%E3%82%B9%E3%83%883
MINIMI
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%8B%E3%83%9F%E8%BB%BD%E6%A9%9F%E9%96%A2%E9%8A%83

ほむほむが使ってたの
89式小銃
http://ja.wikipedia.org/wiki/89%E5%BC%8F5.56mm%E5%B0%8F%E9%8A%83



単純に時止めが通じないだけなら空間操作とキングクリムゾンができるぶんさっきゅんのが有利な感じするね
全てに干渉されるなら互角だけど





パンツァーファウストとはまた物騒なモノを
まぁRPG-7とかカールグスタフ撃たれても困るんだが


野次馬がこないところを見ると空間操作で外に音がもれないようにしてるんだろうな

咲夜が完全でも瀟洒でもないな
さやかより頭悪いだろ

フランの友人自称する相手に銃撃とかいくらなんでもあり得ない
自分で賢いつもりなのがたち悪いタイプ



あんな頭おかしい連中にこっちの常識を当てはめられても

この咲夜さんはやくざさんで間違いない


大抵のクロスだと登場人物が増えるたびに希望が溢れてくるのに暗闇しか見えてこないのですが……
寧ろ暗闇が濃くなってるんですが……


最近ツイッター感覚でコメしてる人が多いけど、レスが勿体ないし多少自重した方が良いと思う(提案)

提案でレス数が減るもんでも無いと思うんだが

>>356
時間圧縮とかしてたけどキンクリもできんの?

>>364
一応林檎ジュースを林檎酒に変えるような事が出来るって公式設定であったから過程をすっ飛ばして結果だけを残してると考えてる



>>356>>365
キンクリか〜
できるんですかね?
ジョジョにあんまり詳しくないからわかんないですけど。


>>358
・・・・基本、まどマギはそういう野次馬とかいないですやん。
大きな街のはずなのに、不自然に人が少ない。


>>359
“自称”友人が、「迎えに来た」っつっているのに
「信用ならないから居場所を教えない」とぬかした上に、
武器まで向けて来たんだから、発砲しない理由はないでしょう
というのはさほど不自然ではないかと。

これはまだ劇中では語られてませんが、
咲夜さんの(このssでの)性格や生い立ちを含めて考えれば、
言葉<暴力で、まず殴ってから「説得」しようということですw

剣を持って対立の意志を見せるということは、普通戦争をしようという表明に受けたられます。


>>361
やくざというか、マフィアとかテロリストに近い感じ。


>>362
え?
そ、そうですかね?
まだまだだと思うんですが・・・・

>最近ツイッター感覚でコメしてる人が多いけど、レスが勿体ないし多少自重した方が良いと思う
ご、ごめんなしぃ








                    *





「ここよ」


「このマンションの、どの部屋?」


「案内するわ」




 ほむらと咲夜はマミのマンションにやって来ていた。
そして、そのままマミの部屋まで行く。
日はすっかり沈み、街の喧騒が遠くに聞こえるだけ。
辺りは静けさに包まれ、返って不気味なほどだ。
集合住宅なのに、人の気配はあんまりしない。空き部屋が多いのだろうか? 
それがより一層不気味だった。





 初め敵対していた二人だが、共に時間を止めたり流れを変えたりできる能力を持ち、
武器は銃火器という共通点もあって、意外と親近感を抱いていた。
自己紹介をして、互いを名前で呼ぶようになったが、しかし、咲夜の方は余り身内のことは話してくれなかったし、
ほむらも自分の過去のことは言わなかった。
なので、自然と話題は銃のことになった。
年頃の少女が二人で話すこととしては些か不自然ではあるが、二人の話は弾んだ。
互いにお気に入りの銃の長所を言い合い、また別の銃の短所を言って同調し合った。
ロボットみたいなメイドかと思いきや、咲夜は意外と口が達者だった。
その分、下品なジョークも多いが。

 どうやら自分の中でスイッチを切り替えられる人物らしい。
きっと、相手によって態度を器用に使い分けるのだろう。
先程の、冷血殺人鬼モードは鳴りを潜め、あまり表情は変化しないものの、ほむらとの会話をどこか
楽しそうにしていた。
ただ、その仕草の一つ一つが落ち着いていて、ほむらは咲夜に大人びた印象を抱いた。





「この部屋ね」

 「巴マミ」という表札のある部屋の前に二人は立つ。
何の変哲もない、普通のマンションの部屋の鉄製の扉だ。
外から伺う限りでは特におかしな様子はない。






 ただ、






「人の気配がしないわ。本当にいるの?」

「だから、会えるかどうかは保障できないと言ったでしょ」

「そうね」


 そう言って咲夜はドアノブに手を掛ける。



「あら? 鍵が掛ってないわ」



 軽く驚いたような声を上げる咲夜に対し、ほむらは眉を顰めた。
あのしっかり者の先輩にしては珍しい。
彼女がカギを閉め忘れるというミスをするのはほむらにとって非常に不可解で、余計に不気味だった。
一体、何があったのだろうか?



「待って。罠の可能性も」

「大丈夫よ。下手はしないわ」

 妙に自信ありげに咲夜が呟く。
同時に時間が止まった。
彼女はほむらのように、特別なギミックのある盾を操作しなくても時間を止められるらしい。
便利なことだ。
世界からあらゆる音が無くなり、完全な静寂が訪れる。
全て物が停止した中で、動けるのは私たちだけ。
私たちしか知らない世界。


「これは……」


 なるほどとほむらは肯いた。
時間が止まった世界で動けるのはこの二人だけだ。
それはほむらが時間停止を発動させようとも同じだった。


「こうすればいいでしょ?」

 咲夜は少し微笑み、ドアを開けた。

 何もなし。玄関に爆弾が仕掛けられてはいない。
というか、何で爆弾を警戒しているんだろう? 
ほむらは自分でやっていておかしく思った。



「人の気配はしないわね」


 時間が再び動き出した。


 街の喧騒が戻って来る。
さっきまでの静寂が嘘のように騒がしくなり、マンションを包んでいた静けさも、時が止まった世界と比べれば
フル稼働している工場のように喧しい。


「出掛けているのかしら」

「そうかもしれないわ。ねえ、ほむら、傘がある?」

「傘?」

「傘を差して日光を遮ることが出来れば、吸血鬼は昼間でも動けるのよ」

「ああ、そういうこと」

 納得したほむらは玄関の傘置きを見る。
そこには、透明なビニール傘しかなかった。


 記憶が正しければ、マミは花柄の傘を持っていたはずである。
その傘は、確かこの時間軸では、フランドールが持っていた。
それに、年頃の中学生がビニール傘しか持っていないなんて考えにくい。
しかし、それがどうしたというのだろうか?



「柄入りの傘がないわ」

「やっぱりね」

 咲夜は何かに納得する。
あの傘を持っているとしたら、フランドールか? 
咲夜も同じ結論に至ったのだろうか?


 そんなふうにほむらが考えている間に咲夜は靴を脱がず勝手に上がっていた。
何の遠慮もなく、土足で踏み込む。
せめて靴を脱いだら、と思ったけれど、咲夜の彫の深い顔立ちを見て納得した。
向こうでは、家の中で靴を脱ぐ習慣がない。


「ちょっと」


 ほむらも靴を脱いで慌てて後を追う。
だが、すぐに止まることになった。
咲夜がリビングの入り口で立ち止まっているからだ。






「どうしたの?」

 不審に思い、後ろからリビングを覗き込んで、ほむらは息を呑んだ。
その眼が驚きに見開かれ、アメジストの瞳がその心を表すように揺れる。




































 そこに広がっていたのは、強盗にでも入られたかのような凄惨な光景。
部屋の中は無茶苦茶だった。
市街を展望できる大きな窓のガラスは割られていて、床も壁もズダボロ。
ところどころに焦げたような跡もあり、半分に折れたドアが転がっていた。
このドアの片割れは、窓の近くに落ちていた。これは恐らく、寝室へ続く物だったはず。






 大きく解放された窓から生暖かい風が吹いてきて、二人の髪を揺らした。
その感触の、妙な不快さにほむらは少し体を震わせ、足元に視線を這わせる。








 その床にはいろんな物が散乱していた。




 引き裂かれたクッションとその中身、ボロボロのソファ、画面にひびが入ったテレビ、
砕けたガラスのテーブルの破片、ひっくり返った本。
足の踏み場もないほど散らかっていた。
そして、それらに飛び散っている赤黒い跡。
整理された広い部屋は、今や見る影もなく、散らかり放題。
そのあまりの惨状に、ほむらは小さくないショックを受けた。
一体全体、ここで何があったのだろうか?


























「これは……」






「暴れたのね」






「暴れた?」


 部屋の惨状から、咲夜が何かを察した。ほむらは咲夜を見つめる。


 咲夜は顎に手を当て、何事かを考え込むような仕草を取りながら説明し出した。






「魔法少女が人間だとするなら、吸血鬼になるには相当な苦痛があったはずよ。
肉体や魂が人間のそれから妖怪のそれへと変化するからね」





 果たして、魂が物質になってしまった魔法少女は人間と言えるのだろうか? 
それはともかく、その苦痛に喘いだ巴マミがこれだけの惨状を?


 まあ、それも考えられるかもしれない。
もし巴マミがフランドール・スカーレットと同じくらいの力を持つ吸血鬼に変貌したのだとしたら、
あの吸血鬼の暴れっぷりを見れば、むしろこの部屋の惨状は被害が小さいほうかもしれない。
吸血鬼が暴れれば、この大きなマンションの部屋も、軽く吹き飛んでしまうだろう。






「だから、こうなったの?」



「いいえ。多分、その変化が終わって落ち着いたその少女は、妖怪としての本能に目覚めた。
結果、理性を失い、欲望のまま力を奮う、野獣同然の存在になり下がったのよ。
その場合、どうなるか」






 そんなのは、言わなくても分かる。





 だが、信じられない。あの、優しくて寂しがり屋の先輩が……。













 いや、その因子は元々彼女の中に眠っていたのだろう。
魔法少女の真実を知り、あれだけの暴挙に出た人だ。
自分が吸血鬼なったと理解した時、彼女が恐ろしい行動に移るのは想像に難くなかった。






 それを考え、ほむらは唇をかみしめる。


 目的のために、大きな障害が現れたと感じると同時に、どこかに悔しいと思っている自分がいるのも事実だった。
ほむらが己の心に刻みつけている目的のために、巴マミは毎回見捨てていた。
魔女に殺され、魔女になり、取り乱したり、自殺したり、その末路は散々で、ほむらが彼女を助けることは叶わなかったし、
その内に助けようという意思も潰えてしまった。
けれど、だからと言って堂々と見捨てられるほどほむらも冷血ではなかったのだ。
彼女に死んでほしいなんて思わない。
でも、自分は別のことに手いっぱいで、彼女まで手が回らない。
それが、いつも心苦しかった。



 そんな、微かな胸の痛みに顔を顰めるほむらを知ってか知らずか、咲夜はさらに続けた。


「当然、人間を襲い始めるわ。血を吸うために。
それを、妹様は止めようとして争ったのね。
この有様は、その結果よ」



「じゃあ巴マミは……」





「彼女よりむしろ妹様の身が心配だわ」


「どういうことよ。あの吸血鬼の力は、すさまじいのよ」







「ええ。でもそれは、ここでは発揮できない」







 咲夜の言葉にほむらは首を傾げる。そして、目で説明を促す。






「吸血鬼は、妖怪は幻想の存在。この世界では、存在そのものが否定されているの」





 ほむらは頷いた。


 確かに魔法少女である自分も、実際に目の当たりにするまで吸血鬼が実在するなんて思いもよらなかった。
フランも、少し特殊な子供としか認識していなかった。

 それを幻想と言うのなら、そうなのだろう。
そして、幻想の存在は、この世界で否定される。
何故なら、誰も信じていないから。
おとぎ話にしか出て来ないと思っているから。




「だからね、ここではその力がすごく弱まるのよ。存在が確立できるか否かというレベルで」


「……それじゃあ、彼女は、消えてしまうじゃない」

 ほむらは驚いたが、一方で納得できることもあった。
病院の魔女を倒した後、ほむらはフランドールが何故か弱っていたから、彼女を殺すチャンスだと踏んで攻撃を仕掛けた。
その時、フランドールが弱っていたのは——ほむらは日光を浴びたからだと思っていたが——実際はそうではなかったらしい。
とすると、別の疑問が沸き起こるのだが、それはすぐに咲夜が答えた。




「そうなる前にこの部屋の主と出会ったのでしょうね。
この世界にも、本来存在を否定された魔法や異形があるみたいだし。
魔法少女に出会えれば、消えることは避けられるのかも」


 そう言いつつ、それまでほむらと一緒に部屋の入口で立ちすくんでいた咲夜は、荒らされたその場に踏み込む。
できるだけ、物を踏まないように。
一方で、靴下のままのほむらは、足を怪我するかもしれないので踏み込まなかった。


 そんな咲夜の背中を見ながら、なるほど、とほむらは頷く。
つまり、この世界の異形である魔女のテリトリーの中なら、本来異物であるフランドールも
その力を取り戻せるということか。





 けれど、それでは説明できないことがある。





「じゃあ、何で貴女は時間の魔法を使えるの?」





 咲夜はしゃがんで、床にこびりついていた血痕に指を付けた。


「私が人間だからよ。貴女たちが魔法を扱えるのと同じように、私にも出来るの。
人間は妖怪と違って肉体への精神の依存度が高い。
だから、存在そのものが否定されることはないし、それが弱まることも無い。
魔法も、問題無く使えるのよ」




「ソウルジェムがなくても魔法を使えるってことが驚きなんだけど」







 それには答えず咲夜は血痕をしげしげと観察し、立ち上がった。




「血が新しいわ。そう時間が経っていないようね」

 ほむらの言葉には返事をせず、彼女はそう言った。
特に返答も求めていなかったほむらは、ふむ、と頷く。



「探せば見つかる?」

「放っておいたら、面倒なことになりそうね。
きっと妹様も、自分の眷属を追って行ったのでしょうね」




 拙い。それは拙い。




 だが、暴走し出した巴マミの行く先なんて分からない。
余り交友関係の広くなかった彼女だ、ある程度は絞れるかもしれないが、元々魔法少女としてこの町全域で
活動していた。完全にランダムだと……。




「昼に来れば戻っているかも」


「傘がないんでしょう? 
あれを持って行ったのが、眷属の方なのか妹様の方なのかは分からないけど、昼間もここに帰ってくるつもりはないみたいね。
ま、一応ここで待っているけど」



 咲夜は腰に手を当てて、大きく溜息を吐いた。
そこにあるのは一つの懸念。
言い掛けた咲夜の言葉の続きをほむらは察する。
それは、当然考えられる問題であった。
だから、ほむらは申し出る。
巴マミに暴れられるのは好ましくない、と感じているのは咲夜と同じだから。



「私も協力するわ」



「あら、それは助かるわ。
私はこの街の地理に詳しくないから、貴女は捜索をお願い。
見つけたら、無理に接触せずに、先ず私に知らせて」


「分かったわ」


 取敢えず、マミのいそうな場所をあたってみる。
咲夜を置いて、ほむらは急いで部屋を後にした。








時を止めて、ガチで爆弾に警戒しているほむ咲prpr

いかにこの二人の感性が常識から遠いところにあるか分かりますねw
きっと、途中で我に返ったほむらはまともな方。


爆弾を警戒とかどこのサージェント・サガラだよ

乙ほむ
この咲夜さんは幻想郷よりノースティリスが似合うな

乙〜
よく考えたらこの二人って胸少ないよな
まぁどこぞのキャラが言うように
「貧乳はステータスだ!!希少価値だ!!」に全力で同意するが

>>365
それ時間を加速しただけじゃない?
メイドインヘブンに近い気がする


確かに紅魔館では靴を脱ぐ習慣は無いと思うけど、博霊神社とかは土足厳禁では?それともそこの巫女とは知り合いでも神社に足を運んだことは一度もない?

何があるか分からない家で靴は脱げないだろ

生い立ちがどうであろうと言葉より暴力という時点で瀟洒ではないな
完全かと聞かれると、あそこの住人はみんなアレだから

あっきゅんみたいにたまに平和主義っぽい娘も居るんだけどなぁ

>>386
でもあっきゅんって妖精に対してはかなり辛辣だよね?

>>387
うん…まぁ…ね?

弾幕ごっこなんてルールをわざわざ決めとかないと
ちょっと喧嘩になっただけで洒落にならないレベルの化け物どもだし

本気で殺り合うなら弾幕だって十分の一もいらないような化け物祭りだもんね〜

この投下速度の速さ…

>>1は間違いなく化け物

とりあえず、咲夜さんが作る美味しいご飯が楽しみです。あ、でも人間用と吸血鬼用とで分けてはもらいたいな

吸血鬼用の材料は一体どこから仕入れるんですかねぇ・・・

この投下量をほぼ3分おきに投下する>>1はまさか……咲夜さん?

血掛けご飯なんて想像したくないものが頭に……ああ……ガクガクブルブル

俺の性癖もどうかと思うが新鮮な血掛けご飯って美味そうな微妙なような感じがする


携帯でまどか達に連絡取るべきと思ったがそもそもメルアド交換してなかったな
絶対に話がこじれるぞコリャ



なんでSSと関係ない話でここまでレス消費できるんだ?
しかも何人かは一言程度の内容を間隔空けてコメントしてるし
正直>>1のやる気を削いでるんじゃないかと気が気でないのだが

>>398番は貰った!



くっ・・・・>>398を奪われたか・・・・


>>381
ああ、うん。
頑張って生き残れ。防弾チョッキを着といたほうがいいかもね・・・

貧乳好きはロリコンか、その予備軍だ、、、、、、ってけーねがいってた。


>>383
さすがに、畳に土足で上がりはしないでしょう。
マミさんの部屋は洋室、床がフローリングなので、ありかなあっと。


>>385
原作でもあんまり瀟洒じゃない気が(ピチューン


>>396
ご飯を咀嚼している時に、口の中を噛む(イテッ)
  ↓
口の中が切れて、血が出る
  ↓
血が、口の中のご飯と混ざる
  ↓
ものすごく不快な気分になる


>>397
ご心配なくっ!
レスが増えるとやる気が出ます!!

まあ、>>397のような人も居るので、関係のないレスは程々に・・・


>>391>>394
ザッツ・オール・ライト!!

ザ・ワールドを使ってます(嘘)


実際は、ワード文書に書き溜めたのをここに張り付けて、
改行と、気になるところや誤字脱字が有ったら手直しして、
「書きこむ」ボタンをクリックするという作業を繰り返しているに過ぎません(キリッ







                *




 翌日。

 ゲームセンターのダンレボで踊る少女が一人いた。



 赤い長い髪に、気の強そうな勝ち気な顔。
チョコレートのついた棒状のお菓子を咥え、激しいテンポの曲にも拘らず、
整った顔に余裕の笑みを浮かべながら踊る。
その動きは滑らかで、慣れた様子があった。

 緑のパーカーに黒いTシャツ、デニムのホットパンツの下はすらりと長い脚が伸びており、
素足にブーツをはいている。
彼女らしい活動的な服装で、傷一つない白い生足が眩しい。
その足に軽く汗の反射があり、それが尚更彼女を輝かせていた。
ゲームセンターの若い男性店員が、ちらちらとそんな彼女の足に目を向けている。
けれど、少女は視線に気が付いているのかいないのか、楽しげに踊り続けているのだった。

 激しくステップを踏むたびに長い髪が跳ね、少女と女の中間の美脚が艶かしく躍動する。
その艶やかさに、誰もが思わず見入ってしまうような美しさがあった。
洗練された感があった。彼女はこのゲームもベテランらしい。


 元気に踊るその姿に、負傷の影響は見受けられない。
昨日は酷い傷を負って、見るからに痛々しい背中を見せていた彼女だが、そんなものはまるでなかったかのように、
彼女はダンスに没頭している。
治癒が不得意な彼女でも、多くのグリーフシードと一晩の睡眠があれば傷一つなく回復できるのだろうか。



 その少女の背後にもう一人の少女が近付いてきた。


 踊る少女は、それに気配だけで気が付いたが、踊りを止めることはなかった。



「よう。今度は何さ」

 少女は踊りながら背後に立つ暁美ほむらに話し掛ける。




「貴女に頼みたいことがある」




「なんだい」


 佐倉杏子は器用にも、踊りながら会話を続けた。











「二週間後、ワルプルギスの夜が来る」












 杏子の顔が驚きに染まる。


 それでも彼女は踊りを止めることはないし、ミスをすることもなかった。
頭と足が別の生き物のようだ。


 ワルプルギスの夜。
それは最強最悪の存在として魔法少女たちの間に語り継がれている超ド級魔女。
現れただけで街一つを壊滅させ、時に数千人規模の犠牲者を生み出す巨大な悪夢。
近年は現れたことはない、とはキュゥべえの言だが、もし出現したら、杏子一人では太刀打ちできないだろう。
当然、ベテランである杏子も、それらしい雰囲気のほむらもその魔女については知っているのだが
……どうしていつ来るかまで分かるのだろうか。


「なぜ分かる?」



「それは秘密。それともう一つ」

 杏子は答えずダンスを踊る。
それが話の先を促しているのだと心得たほむらは続けた。


「吸血鬼には手を出さないで」


 杏子は答えない。

 ただ激しく動く背中と跳ねる赤髪がほむらの視界に映るだけだ。
先程と違い、あまり楽しげな様子はない。
惰性で踊っている感じだ。
その状況がしばらく続いた後、やっと彼女は口を開いた。



「あのメイドに何か吹き込まれた?」

「交渉したのよ。もとより彼女の目的はフランドール・スカーレットを連れ帰ること。
害はないわ。邪魔しなければ」












「……マミは、……マミはどうなる?」




 鼓膜を激しく震わせる騒音の響くゲームセンターの中で、低く小さな杏子の声は確かにほむらの耳に入った。



 ほむらは逡巡する。果たして事実を伝えるべきだろうかと。




「それを教えてくれなきゃ、アンタと一緒に戦うことは出来ない」



 急かすような杏子の言葉。ほむらは小さく息を吐き、


「……仕方ないわね。覚悟はして。きっとショックを受けると思うから」

 と、前置きをした。




 かつて、杏子はマミの弟子だったことがある。
そして、理由は知らないが、二人は決別した。
だが、それでも杏子がマミにある種の敬意を払っているのはよく知っている。
恐らく、この見滝原にやって来たのも、その辺りが理由だろう。





「巴マミは、吸血鬼になったのよ。身も心も、ね」







「……で?」








「今、彼女は吸血鬼の本能に従って暴走し出している。
居場所は分からない。
いつ人を襲うのか、あるいはもう襲っているのか、それは分からないけど、
とにかく今は獣みたいに凶暴な状態だと咲……メイドは言っていたわ」







 杏子がステップを止めた。曲はまだ終わっていない。




「どういうことだよ!」




 くるりと振り返ってほむらを怒鳴りつけた。
そして、ダンレボから降りて、ほむらに掴みかかる。



「嘘だろ!」



「いいえ、本当よ。
実際、昨日の時点で彼女の部屋はぐちゃぐちゃになっていた。
恐らくは、巴マミが暴れたから。
見たいなら、案内するけど?」



 ほむらは努めて冷静に言った。
ここで自分が取り乱していても仕方がない。
内心、いきなり怒りを見せた杏子に驚いてはいたが、それを顔に出さないように、必死で心を抑える。


 一方の杏子は、随分と焦ったように吐き捨てた。
形の良い眉が歪み、大きなつり目がさらにつり上がった。
踊り手のいなくなったダンレボが、未だに騒がしいBGMを流し続けている。



「くそっ。じゃあ、すぐに見つけねえと」

「それがそうもいかないわ。
今の巴マミの力は未知数だけど、吸血鬼自体が種族的にトップクラスの実力を持つ妖怪だそうよ。
魔法少女でも簡単に相手に出来るとは思えない」






「妖怪って何だよ!! アイツは妖怪なんかじゃねえッ!」







 ほむらに掴みかかったまま、杏子は店中に響く大声で怒鳴った。
口に咥えていたお菓子が零れ落ち、唾がほむらの顔にかかる。



 ほむらは不愉快そうに顔にかかった唾を拭い取り、相変わらず感情を消した声で続ける。

「あのメイドによれば、巴マミは完全に吸血鬼に変化しているそうよ。
もう人間に戻ることはないし、これから吸血鬼として、すさまじく長い時間を生きていくことになる。
私たち魔法少女とも、人間とも、もちろん魔女とも違うわ」

「……なんで、クソッ!!」


 杏子はほむらを乱暴に突き飛ばし、ダンレボの機械を思いっきり蹴った。

 バンッというすごい音がして、壊れるかと思ったが、機械はそんな気配も見せない。
その画面には杏子の成績が表示されている。




「許さねえ。アタシは、その吸血鬼を許さねえ。マミを吸血鬼にしたっていう、ソイツを……」





 激しい憎悪の籠もった凍えるような呪詛の言葉。
未だ嘗て、ほむらはこれほどまでに怒りを見せた杏子を見たことがなかった。




 表情こそ変えなかったものの、ほむらは戸惑いは大きくなる一方だった。


 普段は気が強く、自分勝手なことばかりしている杏子が、他人のために激怒するとは思っていなかったからだ。
しかも、その相手は一度決別したはずの巴マミだ。
それは、ほむらが初めて見る杏子の側面。
どう対応していいか分からなかった。



 静かに乱れた襟元を治しながら、ほむらは何か言わなければならないと思い、口を開いた。

「でも、彼女がいなければ、恐らく巴マミの命はなかった。
胴体のほとんどを食い千切られれば、流石に魔法少女といえど、回復は難しい」


 なんで吸血鬼の肩を持つようなことを言ったのか、自分でもよく分からないが、
今はとにかく杏子を諌めることが必要だと感じた。











「……クッ」






 けれど、結局こんな言い方になってしまう。




 杏子は俯いて、こちらに顔を見せてくれない。

 かつて、マミと杏子の間に何があり、何を思って決別し、互いに相手をどう思い続けていたのか。
ほむらはほとんど知らないし、知っていることも表面から伺えることだけだ。

 ただ一つ分かったのは、杏子という少女は、本当はマミのように他人思いの優しい根を持っているんじゃないかということ。
そうでなければ、一度でもマミと行動を共にしたり、ここまで彼女のことで取り乱すことはないだろう。
杏子は今でもマミを慕っているのかもしれない。
それを口にすると本気で怒りだしかねないが。













「分かったよ」




 そう言って彼女がこちらを見たのはしばらくしてからだった。





「アンタには昨日の借りもある。頼みは聞いてやるよ」




 そう残して、彼女はとぼとぼと歩いていった。


 随分としょぼくれた背中だった。
ほむらのよく知る、つい今し方までの、自信と余裕に溢れた背中が嘘のようだ。






 気が付けば、野次馬がこちらを見つめていた。杏子の大声で集まって来たらしい。


 ほむらは恥ずかしさのあまり、慌てて杏子に背を向けその場を立ち去った。










あんこの生足ハァハァ

踊ってるあんこを見たら、絶対にまずその足に目が行く。
マミさんが胸なら、あんこは足。あと脇。
異論は認めない。


乙ほむ
ほむほむなら髪の毛ですね!
黒髪ロングは正義、三つ編みも正義

乙だZE☆
胸 は幽々子さんと藍さまその他諸々足はあややとはたて腋は霊夢と早苗ちゃん黒髪ロングは霊夢とお空三つ編みは咲夜さんとえーりんだな

>>1
乙だがしかし。

>あんこは足。あと脇。
>異論は認めない。
バカ野郎。
あんこならへそだろへそ。
わかってないなー

さて、気になる吸血鬼マミさんの行方と行動は如何に

幻想郷の住人ではない「この世界」の人間が吸血鬼化したから力は魔女の結界内じゃなくても全開状態か。ある意味ワルプルギスの夜より厄介な存在が誕生してしまったな。

しかし向こうから来れるって事は、SG式魔法少女の方だって、何かの拍子に幻想郷に行っちゃってる可能性はあるよね

多分ゆかりんにお願いしたんだろ咲夜さんは

幻想郷の結界には自殺志願者とか死に掛けの奴を引き込む性質あるらしいじゃん?多分それの影響力の事言ってんだろ


今日はお休みかな?


まどかの頭の色の花が満開な今日この頃。

現実逃避しに来ましたw


>>408
髪の毛もいいが、ほむらは指だな。
手の指、足の指。
そしてうなじ。
入院続きだったから、すごい白いと思ふ。


>>409
>足はあややとはたて
美鈴を忘れてる
>黒髪ロングは霊夢とお空
てるよが入ってない
>三つ編みは咲夜さんとえーりん
お燐も


>>410
へそはさやか。
へそはさやか。
大事な事なので二回言いました。

あんこの臍もいいんだけどね。
やっぱ、さやかでしょ。
他には、尻と腰と鎖骨だな、さやかは。


>>413
ニコニコ大百科によると、幻想入りの方法は四つ。
1、外の世界で幻想になる
(幻と実体の境界の効果で自動的に引き込まれる)
2、ゆかりんの神隠し
3、偶然入り込む
(秘封倶楽部のメリーはこれに近い?)
4、何らかの方法で入る
(巴…じゃなかった、二ツ岩マミゾウさん他が取った方法)

魔法少女なら、3か4が可能性が高いけど、
意図してはいるなら、二重の結界を突破しないといけないので、
かなり難しそうですね。

ほかに、妖怪の山にも外に繋がるルートがあるらしい?(未確認)








                 *






 並み以上の資産家の家らしく、上条家の敷地は広い。
白い漆喰が塗られた土塀に囲まれた大きな日本家屋。
枯山水まである上品な日本庭園。
どれもこれもが上流階級。
地元の名家で、古くから見滝原の地主を務めている上条家は、当然大金持ちだった。
そうでなければ、バイオリンなんて幼い頃から弾かなかっただろう。
お金持ちの坊やは、将来を約束されているのだ。
彼には、音楽家になるレールが用意されている。


 そんな恭介とさやかが幼馴染として、昔から仲良く出来ているのは、単に親同士が知り合いだからだ。
さやかの父と恭介の父が大学の友人同士で今でも仲がいい。
そして、二人の間にはたまたま同い年の子供がおり、だからその二人の子供が仲良しという訳だ。
逆を言えば、親が知り合いでなければ、二人の間に接点はなかっただろう。
単なる近所に住むクラスメートという仲だったに違いない。





 さやかは上条家の門の前に立ち、インターフォンを押そうとして止めた。

 家から微かにバイオリンの音色が聞こえて来る。練習の邪魔をしては悪い。
演奏中は、元々神経質なところがある恭介がもっと神経質になるからだ。
その上、やっと入院生活から解放されて気分がいいはずだ。
今邪魔が入ると機嫌が悪くなる。






 自分なんかのために、貴重な演奏時間を割いてもらう訳にはいかない。
せっかく怪我から復帰して喜んでいるのに、それに水を差すのは無粋極まりない。



 少し心残りがあるが、これでいい。これが本望だ。
自分はこのために契約したのだ。
今、演奏を聞いているだけで、恭介が歓喜しているの想像ついた。
だから、自分も嬉しくなる。
確かに願いは叶ったのだ。
これ以上望むのは、欲張りというものだろう。












 ……………………退院のことを知らせてくれなかったのも、きっと浮かれ過ぎていて
自分のことを忘れていただけだろう。
バイオリン中毒の恭介らしい愛嬌だ。
だから、「せめて教えてくれてもよかったのに」なんて非難めいたことは思ってはいけない。


 見返りなんかいらない。恭介はまた演奏が出来るようになった。
自分は人々を魔女や使い魔から護る力を手に入れた。
何の不満も無い。




 さやかは胸に手を当て、満足そうに口元に笑みを浮かべると、帰ろうとして振り返った。























 遠くには街の明かり。人口のネオンが宵闇の空をほんのりと照らし出している。
駅の方の中心街には高層ビルが立ち並び、それが煌々と輝いているのだ。
天を突く摩天楼群の光は、そこに無数の人々の営みがある証拠。


























 —— 一人の少女の影が視界に映った ——























 その明かりを背負い、お菓子を齧るシルエットが立っている。
逆光になっていてその表情ははっきりと分からないが、昨日のような余裕のある顔をしている訳ではないみたいだ。
どこか苛立ったような雰囲気を纏っているのが感じ取れた。



 カリッと小気味よい音を立ててお菓子が齧られる。



「会いもしないで帰るのかい? 今日一日追いかけまわしてたくせに」



 どことなく投げやりな声。
さやかのことを構っている筈なのに、それが面倒臭くて仕方ないと言わんばかりだ。
その様子がさやかの機嫌を急降下させた。
はっきりと睨みつけてやる。

「お前は」

「知ってるよ。この家の坊やなんだろ? アンタがキュゥべえと契約した理由って」

 その声にも、多分に棘が含まれていた。
さやかの言葉を無理やり遮り、不機嫌さを隠しもしない。


 はあっと佐倉杏子は溜息を吐いた。


「まったく。たった一度の奇跡のチャンスをくっだらねぇことに使い潰しやがって」

 呆れたような表情でそう嘯く。
その言葉に、さやかは顔が怒りで高潮するのを自覚した。
全身の血液が逆流したんかと思うほど熱くなる。



 いきなり現れて、何を言い出すかといえば、さやかの願いの否定。
何を考えてそんなこと言ったのか知らないが、こんなことを言われる筋合いはない。
それはさやかの誇りなのだ。
確かに、上条恭介という、絶望に落ちた大切な人を救った証なのだ。
それを、「下らない」と蔑むのは、許しがたい暴言。
言語道断だ。
実はイイ奴なのかもと思っていただけに、怒りだけでなく失望感も大きい。




 今日、まどかと共に昨日の路地に行った。
当然、時間が経ち過ぎていて使い魔は居なかった。
杏子(名前はキュゥべえに聞いた)が逃がしたせいで、罪も無い人が殺されるかもしれないのが許せない。
その時、まどかは杏子やほむらと仲良くしようと提案した。話し合えば分かりあえるとも。




 まどからしい、現実を直視していない机上の空論だとさやかは思った。
魔法少女は、テレビアニメの中のそれと違って、実際に人命が掛っているし、杏子みたいに自分の利益のために、
他人を顧みない悪逆非道な奴も居るから、みんな仲良くとはいかないのだ。
まどかにはそれが分かっていない。



 昨日の戦いの顛末は聞いた。
杏子もほむらも、あのメイドからさやかとまどかを守ってくれたのは知っている。
その上、杏子はさやかを庇って撃たれ、しかもまどかとさやかの二人を安全なところまで運んでくれたし、
ほむらは自分から進んでメイドを食い止めてくれたらしい。


 それには感謝している。二人とも根っからの悪人ではないのだろう。
むしろ、あの時さやかを庇ってくれたのは、感謝してもしきれないと思う。
だけど、それで杏子やほむらをいい魔法少女と断定はできなかった。
二人がグリーフシード目当てなのは明らかだから。

 実際、ほむらは廃工場の魔女が倒され、自分が契約したことを知って、随分と悔しそうな顔をしていたし、
杏子に至ってはさやかの邪魔をして使い魔を逃がした。





 だから、まどかに言ったのだ。







 魔女より悪い人間がいれば戦うと。
杏子とも、ほむらとも、そしてあの化け物メイドとも。
人々を傷つける悪人は誰であろうと許さない。
無辜で無力で善良な人々を守るのが、正義の味方だから。
法律や警察で取り締まれない害悪を排除するのが自分の役目だと思うから。







 そうまどかに宣言した。


 そして、さやかは今それが正しいことを確信した。









 やっぱりこいつは悪人だ。












「お前なんかに何が分かる!」


「分かってねえのはそっちだ、バカ!」


 元から機嫌が悪いのか、杏子は刺々しい口調だ。
さやかを強く睨みつけ、更に暴言を浴びせかける。


「魔法ってのはね、徹頭徹尾自分だけの望みを叶えるためのもんなんだよ。
他人のために使ったところで、ロクなことにはならないのさ。
だから巴マミもあんなことになっちまったんだろ? 
人間でもない、魔法少女でもない、吸血鬼という妖怪になり下がっちまったんだよ。
バカバカしいことにねッ!!」

 杏子はそう吐き捨てた。あらゆる悔恨と怒りを込めて。


 だが、あっという間に頭に血が上ったさやかは感付かなかった。
杏子が八つ当たりしているようにしか見えなかった。
願い事どころか、尊敬する先輩を侮辱され、奥歯が砕けるかと思うほど強く噛みしめる。
胸の奥底からマグマのように熱い怒りが噴き上がってきて、さやかの全身を駆け巡った。





「惚れた男をものにするならもっと冴えた手があるじゃない。せっかく手に入れた魔法でさぁ」

 先程の口調とは全く異なる、甘い響きを含んだ声。杏子の顔が妖艶に歪む。


「何?」


 聞いてはいけないと理性が警鐘を鳴らす。
こいつの言葉は悪魔の甘言。
聞いてもロクなことにならない。

 なのに、思わず聞き返さずにはいられなかった。







「今すぐ乗り込んでいって、坊やの手も足も二度と使えないぐらいに潰してやりな。
アンタなしでは何もできない体にしてやるんだよ。
そうすれば今度こそ坊やはアンタのもんだ。身も心も全部ね」











 さやかは耳を疑った。
信じられない考えだった。
とても理解できるものではない。
それを口にするのはもちろん、考え付くのだって常軌を逸脱している。
こいつに倫理観とか道徳観念というものはないのかと、さやかは本気で思った。
自分の望みを叶えるために、魔法で他人を傷つけるなんて、人間の考え方じゃない。


 やはり悪魔の言葉は悪魔の言葉だ。
こいつは紛うことなき極悪非道の大罪人。
昨日のことが嘘なんじゃないかと思えてきた。



 怒り心頭。怒髪衝天。許すまじ!!




 さやかは身を震わせた。

 14年生きてきたが、ここまで激しい憤りと憎しみを抱いたのは初めてだった。
そのあまりの激しさに、とても抑えられる気がしない。
また、抑えるつもりもない。


「気が引けるってんなら、アタシが代わりに引き受けてもいいんだよ?
同じ魔法少女の好だ。お安い御用さ」


 そんなさやかの様子を見ながら、杏子はさらにその怒りを煽る。

 そこにあるのは余裕。さやか如きに遅れはとらないという自信。
それが分かるから、余計に腹立たしい。
最早、さやかの怒りは爆発寸前だった。
ひょっとしたら昨日よりも怒っているのかもしれない。



「昨日助けてくれたことは……感謝してる。
少しは見直したのに…………やっぱりお前だけは、絶対に許さない。
今度こそ……必ず!」




「場所変えようか? ここじゃ人目につきそうだ」





 杏子はそう言って口元に残忍酷薄な笑みを浮かべた。















                    *








 割れた窓から冷たい夜風が吹き込む。都会の空気を吸った汚い風だ。

 昼間は暖かくなったこの時期でも、夜はまだ肌寒い時がある。
濁った排気を含んだ夜風に、咲夜は思わず身震いした。







 懐かしい臭いが鼻をくすぐる。随分と久しぶりの感覚だ。


 荒れ果てた部屋の中、窓ガラスの無い窓辺に立って咲夜は都会の夜景を見下ろす。
この街の中心街に林立するバベルの塔。
天に挑むように、あるいは針山のように、ビル群はそびえている。
その下では、無数の自動車が走り、ビルとビルの間に列車が姿を見せている。
それは街が生きている証。
眩しい不夜城は眠ることを知らない。



 この景色に、地下室しか知らないフランドールは何を思っただろうか? 
案外、あの引き籠もりの妹系吸血鬼は、子供っぽいので素直に感動していたのかもしれない。
幻想郷に住む者たちにとっては、科学の発展の象徴である、摩天楼の輝きは新鮮に映るだろう。






 咲夜にとって、この街の景色は見慣れないものでも、都会の夜景は見慣れたものだった。

 見滝原それなりに大きな街のようだが、夜景の美しさではマンハッタンのそれには劣る。





 
咲夜が初めてニューヨークで「仕事」をした時、エンパイアステートビルの上から夜景を見下ろしたことがあった。
その時には、思わず感嘆の溜め息をついてしまったものだ。
今は無くなってしまったらしいツインタワーも、その時には堂々とそびえ立っていた。



 だが、この夜景を毎日見ながら生活できるというのは、なかなか乙なものだと思う。
この部屋の主も気に入っていたことだろう。
マンハッタンには及ばないが、これもなかなかの夜景だからだ。




 咲夜は、夜景の明かりに照らされた室内を振り返った。


 ぐちゃぐちゃの室内は、咲夜が過ごしやすいように多少片付けられた。
ハウスキーパーをやっているだけあって、掃除は得意だ。
むしろ、そうでないメイドなどいないはず。
いくら銃火器が扱えても、掃除の一つも満足に出来ないようではメイドを名乗れない。


 咲夜は割れた写真立てに目をやる。床に落ちていた物を、棚の上に置いてあるのだ。












 そこには、幸せそうに微笑む親子の姿が映っていた。




 人の良さそうな父親と、美人の母親。そして、優しそうな父の顔と整った母の顔を受け継いだ幼い娘が二人の間に挟まれて笑っている。
まだ、12歳ぐらいの娘はきっとその身に降りかかる不幸のことなど露とも知らなかったのだろう。
どこかの公園に居ると思われる三人は、絵に描いたような幸福な家族。
咲夜が生まれて此の方知らないものだった。













 この部屋の主はその娘だろう。彼女が巴マミ。フランドールの、眷属だ。














 彼女の身に何があったのかは大体察せた。
そして、そんな彼女が寂しさのあまりフランを求めたであろうことも。


 当の本人たちがいないので、二人がどんな生活を送っていたかは知らない。
ただ、関係は良かったのだろう。
それなりに親しくしていたのは間違いない。
ほむらもそう証言している。





 成長したものだと思う。







 フランの友人といえば、図書館の魔女ぐらいだったからだ。
二人で図書館に籠って、ひたすら本を読んだり、魔法実験を行うことに明け暮れていた。
姉のレミリアとさえ碌に会話しない。
最も、姉妹仲はそれほど悪い訳ではないが。



 だから、そんな今までのフランからすれば、異世界で友人を作るなど奇跡に近い。
そのために、奔走するなど天変地異に等しい僥倖ではないだろうか。


 一時はどうなるかと思った。
魔女はひどく落ち込んでいた。
フランを死に追いやったと自分を責めていた。
だが、このままうまくフランを連れ戻せば、万事円満に解決するかもしれない。












 ただし。







 そのためには障害を排しなければならない。










 咲夜は街を見下ろした。



 下から街明かりに照らされたシルエットが飛んでいる。
一見すると鳥のように思えるが、速度と大きさがそうではないことを物語っていた。




 まさか、こんなことになるとは思ってもいなかった。




 咲夜は大きく息を吸い込み、そしてゆっくりと吐いた。




 懐かしい仕事ね。上手く出来るかしら? 
いや、上手くやらねばならないわ。
私は今、お嬢様の手下。
失敗はお嬢様の誇りに傷をつける。
そんなことは断じてあってはならない。






 背後には、傘に偽装したショットガンと、機関銃とグレネードランチャーを仕込んだ武器庫を兼ねる大きなトランクが置いてある。

 咲夜はそのトランクを開けた。
中は、咲夜の能力によって空間が拡大され、さまざまな武器が詰め込まれていた。
備えあれば憂いなしと思ってたくさん持ってきたが、まさか使うことになるとは思わなかったのが、
正直なところ。
今回与えられた任務それ自体は、ただ迷子の妹様を迎えに行くだけ。
その過程で、あらゆる脅威に対処できるように持って来たに過ぎない。


 とはいえ、役に立って良かった。
眷属の方を刺激すれば、どこに居るか分からないフランと出会えるかもしれない。
闇雲に街を探し回るより、余程確実な方法だ。




 トランクの中から、グリップに銀の装飾を施したハンドガンを二丁取り出す。
それを腰に着けたホルダーに突っ込み、続いて予備のマガジンと大量のナイフを用意する。
ニンニクと銀の粉を含んだ特殊な手榴弾も出し、他に閃光弾や聖水の入ったボトルも取り出す。
ついでに、永遠亭製の秘薬も忘れない。

 これで必要な物はそろった。
次に咲夜はそれらを全身に仕込んでいく。


 今着ているメイド服は、家事用だが、戦闘服にもなるという便利な物。
手先の器用な森の人形遣いの作る服は、人間用でも高機能な物だ。
その上、この服は咲夜の能力でさらに細工が施されており、武器を仕込めばそこらの小隊一個分の火力を持てる。





 テキパキと、慣れた様子で滞りなく咲夜は仕込みを終えた。



 滑り止めのついた指だし手袋をつけていると、急に背後に人の気配を感じ取る。



 いつの間に入って来たのか、暁美ほむらが立っていた。






「どこに行くの?」

「“仕事”よ」



 咲夜は短く答え、手櫛で軽く髪を整える。

 後ろに現れたほむらにも驚かない。
自分もよくやるからだし、時間が止まったこともちゃんと知覚したからだ。



「そう。取引の交換条件、覚えているでしょうね」

「もちろんよ。でも、私の狙いは昨日とは違うわ」


 その一言に、ほむらはハッとしたように目を見開く。



「貴女……まさか……」



 ま、誰でも気がつくか。



 咲夜は振り返った。

「止めないでね。貴女の出した条件には無かった筈だから」

 そう言って咲夜は窓へ向かって歩いて行き、躊躇なく空中へ飛び出した。


 ほむらが息を呑んで窓の外を見ると、咲夜は宙を飛んでいた。
落ちているのではなく、滑空に近い飛翔を行っている。




 その様子を見たほむらは、時間を止めて、巴マミの部屋を後にした。












さやか「杏子を絶対許早苗」

さくや「魔法少女マジ狩る☆さくや」



なにげに仲良くなった、ほむほむと咲夜さん。
能力が同じだから、親近感がわいたんでしょうか?










咲夜さんの御年齢は、計算してもここに書き込まないように。

乙ほむ
短絡的さやかちゃんマジさやかちゃん

きっと肉体の時間止められるからね、年齢なんてあってないようなものだね、まあ白髪になるのもわk(ry


咲夜さんの髪は白髪では断じてない!
あの髪は綺麗な銀髪だ!!
咲夜さんの年齢なんてどうでも良い(つか幻想郷では結構年齢に関する話題は禁句だったりするしね)

咲夜さんは少女、それだけでいい

毎日投下してくれる>>1よ貴方のおかげで明日も幼馴染の猛攻を耐え切れます



その割り 胸が………プークスクス

>>435
ガハラさんみたいな人なのか?

いくらマミさんが強くなったかも知れないと言っても、対吸血鬼用の武装をした咲夜さんには勝てる気がしないな

どうせ魔女になったら魔法少女に討伐されるんだし
その予定がちょっと早まって違う形式になっただけの話かもしれない

咲夜元ヴァンパイアハンター設定できたか。元々東方の世界はサザエさん時空みたいなもんだし年齢なんて気にするだけムダだからね。

>>437
何をやっても「何やってるの?」黙らせても持ち前のお空レベルの鳥頭ですぐに繰り返すやつ


ちゃんと言ったのにフラグ立ててる人がちらほら・・・・・

>>435
ガハラさんだな。。。。

きっと、気になるんだよ、>>435のことがw


マミさんの死を覚悟している人もいらっしゃるようで、

やりがいを感じます!!








                *





 さやかと杏子は、見滝原市内を縦断する高速道路に掛る歩道橋の上に来ていた。
辺りに人影はなく、ここなら思う存分魔法を使ったとしても人目につくことはないだろう。




「ここなら遠慮はいらないよね。いっちょ派手にいこうじゃない」

 そう言って杏子は左手を持ち上げ、ソウルジェムを戻した。
そして、ジェムから真紅の光があふれだし、その場で軽くジャンプした杏子を包み、あっという間に赤い魔法少女が出来上がった。
杏子は槍を振り回し、そっと歩道橋に着地する。

 それを見たさやかも変身しようとソウルジェムを掲げたのだが、




「待って、さやかちゃん!」




 そう叫びながら現れたのはまどかだった。
隣にはキュゥべえ。
恐らくキュゥべえから事態を聞かされて慌てて駆けつけたのだろう。

「まどか!?」

 さやかは驚いたが、それも束の間、すぐに突き放すように言った。

「邪魔しないで!そもそもまどかは関係ないんだから!」

「ダメだよこんなの、絶対おかしいよ」



 何でこんな時に……。



 事態をややこしくし始めたまどかに、さやかは軽く苛立ちを覚える。
それは杏子も同じだった。


「ふん、魔法少女でもないのに邪魔をしないでくれるかい」


 戦いを知らない者は口出しするな、そういうことだ。


 杏子は二人に槍を向ける。
それを見て、まどかが一瞬戦いたような顔になるが、それはすぐに驚きのそれに代わる。
その急激な表情の変化に杏子は微かな疑問を抱いたのだが……、






「じゃあ、魔法少女ならいいのね」








 いきなり背後から返答が来て、杏子の心臓は一瞬動きを止めた。
振り向くと暁美ほむらが背後霊よろしく立っている。



「あ……」



 どういう訳か、突然背後を取られたうえに、余興の邪魔をされて杏子は舌打ちをした。
コイツの能力は全くもって意味不明だ。

 そんな杏子の様子を気にすることもなく、ほむらは冷めた声で警告する。
瞳には苛立ちの色が浮かんでいて、どうやら彼女は怒っているらしかった。



「こんな所で魔法を使えば彼女を呼び寄せてしまうわ。危険よ。今すぐ武器をしまって」

「ならいいじゃねーか。捜してんだろ? アタシも捜してんだよ」

「ええ。
でも、ここに居る全員が結託しても、フランドールの眷属になった巴マミに勝てるかは分からない。
少なくとも、あのメイドがここに来るまで待つべきよ」

「チッ。アイツが来るのかよ。ていうか、どの道向こうはやる気だぜ」

「マミさんがどうしたんだよ。お前ら、マミさんを化け物みたいに言うなあ!」

 さやかが突然会話に入って来て、いきなり叫んだ。


 やってることも言ってることも無茶苦茶だが、杏子も同じ気持ちだった。
ほむらの言い方は辛辣すぎる。
もうマミのことは諦めたと言わんばかり。
杏子からすれば、簡単に諦められるような事柄ではないし、赤の他人とは言え、こんなふうに
マミのことを言われるのは我慢ならない。


 だが、そんな杏子たちの気持ちを知ってか知らずか、尚彼女は冷たく言い放つ。



「化け物よ。彼女は、体はおろか、心すらも堕落してしまった。
吸血鬼の本能に従って人を襲い始めているかもしれないわ」


「うるさい!! お前なんかに……お前なんかにマミさんの何が……」


「貴女は何も知らないからそんなことが言えるの」


 横眉怒目して激昂するさやかに、あくまでほむらは落ち着いた声で返す。
それが返ってさやかの神経を逆なでした。



「お前も許さない。マミさんを侮辱するなんて」



 心の底から怒りを吐き出すような口調でさやかは唸る。
その目は爛々と光り、燃えていた。

 火に油を注ぐとはこのこと。
杏子との会話で怒り心頭だったさやかは、さらにほむらの物言いに心を煮えたぎらせていた。
必ず懲らしめて謝罪させる。それ以外、許さない。







「貴女の知っている巴マミはいない。居るのはケダモノ同然の怪物よ」




 静かに、しかしほむらはきっぱりと宣言する。




 それは、彼女のけじめであり、そうやって言葉にすることで切り替えたいのだ。
別にほむらだってマミを貶したい訳ではない。
ただ、そうしないとこれから彼女と向き合えないと思ったからだ。
必要な時に殺せないからだ。


 杏子にはそれが何となく察せたが、それと納得できるのは全く別問題。
さやかでなくとも、この言葉には激怒するだろう。

 そして、そのさやかは最早ほむらの言葉を聞いてはいなかった。
心の奥底から湧き上がる激情に身を震わせ、はっきりと分かるほどの敵意を持った視線で、
ほむらを射殺さんと睨み続けている。
その手に握られたソウルジェムはその心情を表すように微かに光を強め、今まさに変身しんとしていた。

 まどかは小さく口元で「ひどいよ」と呟く。
彼女にとって、ほむらの言葉は理解の範疇の外にあるもの。
どうしてそんなことを言うのか、そして、さやかたちと同じくほむらに感じた怒りで、彼女の心の内は混乱していた。


 そして……、




























「随分なことを言ってくれるじゃない、暁美さん」





















 さやかが口を開く前に、杏子の脇から言葉が返って来た。









 いつから居たのか? どうして音も気配も感じなかったのか?








 歩道橋の欄干の上に、巴マミが立っていた。














 月明かりに照らされ、杏子にとって懐かしい、下した金髪が輝く。
いつも巻き毛にしているせいか、軽いウェーブのついた綺麗なロングヘア。
お姉さん然としたマミをさらに大人びて見せる緩やかなその髪が、杏子は昔から好きだった。
 

 ただ、その髪とは別に、マミの黄金色の瞳は姿を隠していて、
代わりに見慣れぬ血のように真っ赤な眼がほむらを見据えていた。


















「久しぶりね、皆。元気にしていたかしら?」



















みんな大好きマミさんが帰って来た!!




セリフないけど、キュゥべえも居ます。


ギャーマミサーン
正直此処で登場するとは微塵も思ってなかった

とりあえず白饅頭の駆除から始めよう つRPG−7

うわぁ、遂に来ちゃったよ…
まさか主要人物が全員集合してる現場に堂々と姿を見せるとは思わなかったな。

乙ほむ
魔法少女がどこまでエグい化け物になったのか楽しみだ

>>449
いやいや
つICBM(MIRV搭載)

つXM-X3


何人か歩道橋ごと吹き飛びたい奴が居るみたいだなww

っMINIMI

ICBMは大陸間弾道ミサイルだぞMIRVは拡散弾頭だぞ核弾頭だぞ日本が吹き飛ぶぞ

国か街ごと幻想入りさせたい訳か。そんな素敵な事になるなら、まぁ気持ちは分からんでもないが

っ対話砲

高町式対話術OHANASHIか

つダブルオー○アンタ

っ地球破壊爆弾

つ アンデルセン神父

前言撤回
つ橙(付属 八雲藍と八雲紫)



みんな白饅頭嫌いなんだな〜(笑)


そんな武器を貰っても困るお(´・д・`)

>>451
そんな、エグいだなんて・・・
マミさんはマミさんですw


>>459
魔王様何やってるんっすかw


>>462
渡されても困る・・・・


>>463
だから、渡さry

っていうか、ゆかりんは・・・・もう、dピチューン







              *







「マミさん!?」

「マミさん!」

 最初に反応を見せたのはさやかとまどかだった。
二人はほっとしたように笑いかけるが、その表情は途中で凍りついた。

 なぜなら、マミの背中から飛び出している「それ」に気がついたからだ。


「マミ!」

 次に杏子が叫んだ。だが、それだけだった。


「あら? 懐かしいわね、佐倉さん。私の代わりにここに来たの?」

 マミはいつもと変わらず、先輩ぶったおしとやかな微笑みを湛えて言った。

「大丈夫……なのか?」

 あまりにも不自然なのに自然な様子のマミに、杏子は思わず心配するようなことを言ってしまった。
何しろ、どう考えても尋常ではないのだ。
裸足にパジャマで出て来るなんて、間違ってもマミらしくない。


 そんなマミに対し、一番警戒しているのはほむらだった。
膝を軽く曲げ、いつでも左腕の盾に触れられるようにスタンバイしながらマミを睨みつける。


「ふふ。心配してくれているの? 何だかんだ言って優しいのは変わってないのね」

 そんなほむらを気にも留めず、嬉しそうにマミは笑い、口元に手を当てた。
クスクスと、おかしそうに小さく喉を鳴らす。
その仕草は杏子もよく知っている、大人びているけど、可愛らしいところも多い年相応の少女のようで、
そんなマミを見るのが杏子は大好きだった。



「う、うるせえ。余計なこと言うんじゃねえよ!」

 照れる杏子の耳は真っ赤だ。
どうにもマミに弱い。
何というか、昔からマミに翻弄されっぱなしなところがあるのだ。
見栄っ張りで、変なポエムとかいっぱい作ってて、ちょっと天然も入っているこの弱点だらけの先輩は、
しかし杏子相手にはやたらと強かったのだ。
言い合いをしても、いつも負かされてしまう気がする。



 けれど……、





「マミさん、こいつと知り合いなんですか!?」




 びっくりこいたと言わんばかりに大きな声でマミに尋ねるさやか。
マミと杏子が親しげな様子を見せたから、たいそう驚いたのだろう。
その隣でまどかも目を丸くさせている。



 そんなさやかとまどかに、マミは優しい微笑を見せた。


「そうよ。美樹さん。昔の、私の弟子なの」


「弟子ぃ!?」


 さやかはあからさまに引いた。信じられないものを見るような目を杏子に向けている。


「そう。一時期一緒に戦ってたこともあったの。
今ではこんなに擦れちゃったけど、昔はもっと可愛げがあったのよ。
『ロッソ・ファンタズマ!』とか言っちゃったりしてね」

「わーわーわー。それはアンタが言い出したことだろ!」


 思い出したくもない恥ずかしい記憶をほじくられて真っ赤になって杏子が槍を振りまわす。
さやかはあっけにとられて目を丸く開いていた。
驚きのあまり低く擦れてしまった声がその口から洩れ出す。

「ロッソ……ファンタズマ……」

「黙ってろ! ぶっ潰すぞ!」

「元気がいいわね」

「誰のせいだよ!!」

 大声で喚き散らし、杏子は荒れた息を吐いた。
やっぱり、どうしてこうなるのだろうか? 
「ティロ・フィナーレ」とかイタイことを叫んでるはずなのに、翻弄されっぱなしだ。
何が「ロッソ・ファンタズマ」だよ! 一度も言ったことねえぞ!!

















 閑話休題。



 マミの気配が変わった。表情はそのままに、不穏な「ニヲヰ」を醸し出す。




「ところで佐倉さん、魔女もいないのに変身して何をしようとしていたのかしら?」





「あ?」





 杏子がきつくマミを睨み上げる。マミも動じず、余裕の笑みを浮かべて杏子を見下ろした。


「マミさん! こいつは、マミさんのことを貶したし、使い魔に他の人たちを襲わせて、魔女になるまで待つって言ってるんですよ。
だから、私、決闘でこいつを懲らしめようと……」

 答えたのは杏子ではなく、さやか。
必死にマミを味方につけようとする。
それを見て、正確にはさやかの掌に載っている青いソウルジェムを見て、マミは僅かに残念そうに目尻を下げた。



「美樹さん……あなた、魔法少女になったのね」



 けれど、そんなマミの微妙な変化にも気が付かないほど浮かれているさやかが場違いなほど元気よく返事をする。





「はい! マミさんの代わりと言っちゃなんですが、この見滝原を守るために……」

「ごめんなさいね」



 すまなそうにマミが謝る。



「え……」







「辛い運命に巻き込んでしまって……私のせいよ」



「そんな! マミさんは悪くないです。私、叶えたい願いがあったから契約しただけです」

 さやかは首を振る。


 マミが謝ることは何もない。一番辛いのは、マミなのだから、謝らせてはいけない。


 そう思っての、必死の否定だった。
そして、マミはそれを分かった上で、優しく諭すように、

「そう。美樹さんらしいわね。でも、佐倉さんと争っても何もいいことはないわよ」

「でも!」

「ぐだぐだうるせえな。邪魔しないんならさっさと始めるぜ。マミもそこで見てろよ」


 そこで、マミとさやかの会話を杏子の言葉がぶった切った。
マミがこの場に現れたとしても、杏子のやることは変わらない。



 本心を言えば、杏子はマミにいろいろと訊きたいことがある。
どうしてこんなになっちまったんだとか、どうすれば元に戻るのだとか、小一時間問い詰めたい。
けれど、まずは、この目の前のムカつく青二才に現実を教え込まないといけないのだ。


 杏子は再びさやかに槍を向けた。



 だが……、





















「ダメよ、佐倉さん。私、あなたたちに用事があるんですもの」


















 マミの言葉がそれを遮る。
横合いから口を出されて、若干イラつきを覚えながら杏子はマミを振り見た。


 その口元に浮かぶのは緩やかな笑み。
楽しそうに目を期待に輝かせ、彼女は可憐に笑っているのだ。



「用事?」


「ええ。用事……」


 マミがさらに笑みを深くする。
薄い赤色の唇が裂け、白いピカピカの前歯と、そして、人間で言えば犬歯がある場所に、それよりも大きく目立つ牙がのぞいた。
ややたれ目気味の大きな眼の中に納まった真紅の瞳は、そこに杏子の姿を映して、愉悦に揺らいでいる。











「私の初めて、あなたたちに捧げようと思ってね。誰からがいいかしら?」








「……は?」











 杏子が槍を構えたまま首をかしげる。

 さやかは発言の意味が取れず硬直したまま、まどかはただマミの不気味な様子に震えているだけ。


 ほむらは、どこからともなく取り出した銃を手に持っていた。
黒い無骨なそれは殺意の証明で、こんな場には、魔法少女の集う場には相ふさわしくなく、
しかし化け物狩りには容易に取り出される代物である。



 マミの長い金髪が風に吹かれて靡く。



 いつもの縦ロールにはない、大人びた妖艶な雰囲気を纏う。
改めて、彼女の服装は淡い黄色のパジャマで、足は裸足。
まるで、たった今起きてきて、そのまま外に飛び出したかのような格好だった。



「巴……マミ……」

 ほむらが唸る。銃を構え、今にも殺しかねないような殺気を放ってマミを睨みつける。




「暁美さん」




 視線を杏子からほむらに移したマミが静かに首を振る。目を閉じて、実に残念そうに。








 歩道橋の街灯の明かりがマミの貌に濃淡を作り出していた。その口元が、僅かに光っている。







「そんなおもちゃじゃ意味無いわ」































 ————それは涎だった。涎がマミの口から垂れていた。














「黙りなさ……」

 叫んで、ほむらが叫んで引き金を引く。
だが、その言葉は最後まで発せられることはなかった。







 バガン!! というドラム缶がへこんだような凄まじい音がして、その場に居る全員が飛び上がった。
杏子たちの視界から、一瞬で欄干に立っていたマミが消えていて、彼女たちが音のした方に目を向けると、
ほむらがその背後の、マミが立っていた方とは反対側の欄干に叩きつけられていた。
衝撃のあまり、欄干にほむらの体がのめり込み、彼女は口から血と胃の中身を吐き出した。
赤と黄土色の混じり合ったドロリとした液体が、彼女の暗い配色の魔法少女衣装をべったりと汚し、
鉄と酸の臭いが杏子たちの鼻を刺激する。



「きゃっ」

「おい!?」


 まどかは悲鳴を上げて目を反らし、杏子が手を伸ばした。





 先程までほむらが立っていた位置にマミが立っている。
いつの間に移動したのだろう? 
その貌には愉悦の笑みが浮かび、その眼は先程と変わらず愉快そうな色を湛えていて……。































 ————その背中から、異形の証が生えていた————









































 それは、黒々とした、蝙蝠のような羽根。彼女が人外の存在であることの証明。





「だから意味がないと言ったでしょ?」

 マミが何かを投げ捨てた。


 小さな音を立てて転がったのは、一発の銃弾だった。ひしゃげた真鍮色の実弾だった。






 それを見て杏子は戦慄する。
あの一瞬でマミは銃弾を掴み、ほむらと突き飛ばして欄干にのめり込ませたのだ。
尋常じゃない反射神経とスピードとパワー。
これは反則だ。
戦って敵うような相手じゃないし、そもそも戦いになるかすら分からない。



 ほむらはピクリとも動かない。
骨など粉々に砕け、内臓は原形も留めないほどに潰れているだろう。

 マミはほむらに一歩近づき、その頭を片手で掴んで吊り上げた。
その体が力なく垂れ下がり、ふらふらと揺れる。



 ほむらが僅かに呻き、手先がピクピクと痙攣するように動いた。
まだ生きているみたいだった。それでも断末魔だろうが。





「ダメじゃない。人に向けてあんなものを撃っちゃ。危険でしょ?」






 マミは微笑む。慈愛に満ちた、女神のような笑みを浮かべる。
その顎を、口の端から垂れた透明な滴が伝っていた。



「マミ、離せ!」


 杏子は槍を振った。牽制のつもりだった。



 マミは背後から降り下されたその槍を、残った片方の手で後ろ手に掴んで止めた。
慌てて杏子が槍を引いてもびくともしない。

 そして彼女は微かに首を傾げながら、杏子に目を向け、いつもと変わらないお姉さんぶった声で、
優しく諭す。


「佐倉さんも。その武器は魔女に振るうためにあるんでしょ? 人に向けてはだめよ」

「アンタ……何してんのか分かってんのか?」

「もちろんよ」

 マミの微笑みは変わらない。




 それは、かつて杏子がマミのお菓子をご馳走になった時、がっついて食べている杏子を見つめていた時と同じ微笑み。
子を看る母のような、あるいは妹の世話をする姉のような、母性的な笑み。




 こんな状況で浮かべるものじゃないはずだ。何で、そんな嬉しそうなんだよ!?





「なんで……」

「もちろん、後で食べるためよ」











 その瞬間、杏子は槍を捨てて飛び退った。


 マミに掴まれていた槍は消え、杏子の手元に新しい槍が現れるが…………、その穂先はマミに向いているが、
小さく震えていた。





「お前……マミじゃないな!」



 槍だけではない。その手も、その膝も、その声も、全てが震えている。
恐怖で震えている。
衝撃で震えている。


「私は、巴マミという名前を持っているわ」

「勝手に、その名前を名乗るな!」

「ひどいわね。ただ、ちょっと吸血鬼になっただけじゃない」





 杏子の視界がぼやけて来た。

 涙が溢れる。その理由は恐怖なのか、悔しさなのか、悲しみなのか。
それらの感情がぐちゃぐちゃに絡み合い、一つになって杏子を突き上げた。
そこにかつての敬愛する師匠は居ない。
大好きな先輩はもう死んでしまっていた。



「マミ、さん……」

「やめてよ。こんなのって、無いよ……」




 まどかはすでに半泣きだ。さやかも震えているだけだった。






「泣かないで。怖くないから。痛いのは一瞬よ」







 優しく慰めるようにマミは言う。それは、事実上の死刑宣告だった。







 変わらない。いつもと変わらない。昔と変わらない。





 なのに、その言葉は、果てしなく残酷で、どこまでも思いやりがなくて————そして今、
目の前に居る見知ったそれは、杏子たちの知っている「マミさん」からは那由多の距離にある姿だった。









 ほむらの言うとおりだ。







 杏子は悟った。


 ほむらの言っていたことは正しかった。
こんな所にさやかを呼び出して魔法を使うんじゃなかった。
マミを呼び寄せて話をしようとしたなんて目論見、甘いどころのもんじゃない。
そもそも、話が通じない相手なのだ。


 見た目は巴マミ。記憶も巴マミのもの。
けれど、中身は違う。
巴マミの形をした化け物だったのだ。



 それなりの実力を持っている筈のほむらが一瞬で粉砕された。
杏子でもあのスピードに対応できない。
回復力の高いさやかでさえ一発もらえばKOだろう。
動いた瞬間勝負がつく。



 そんなレベルの話だった。




 ぶっちゃけ、ワルプルギスの夜のほうがまだましかもしれない。
こんな人外の化け物を相手にするよりは、見慣れない魔女のほうがいい。



 マミは動かないほむらを離し、こちらを向いた。
力なくほむらが崩れ落ちる。





 杏子は一歩下がる。






 マミが一歩出る。






 杏子とさやかとまどかが一歩下がる。







 クスッ。












「逃げないでよ。怖がらせてしまったことは謝るわ。
でも安心して。あなたたちにあんな乱暴なことはしないから」


 そう言ってマミはさらに一歩踏み込んだ。









 逃げられない!!





 杏子たちは、最早巴マミの形をした捕食者から逃げることは叶わなくなってしまっていたのだ。
相手は吸血鬼で、彼らは人間を貪り食う化け物で、ありったけの恐怖を詰め込んだ肉の袋で、
魔法が使えるだけの、しかしか弱い少女でしかない杏子たちには、敵うはずもない
————絶対的で、絶望的な悪魔そのものなのだ。


彼女は、

お人好しで、

寂しがり屋で、

世話好きで、

甘党で、

可愛いものが大好きで、

変な言葉をカッコイイと思っているちょっと変わった先輩————ではなく、







冷酷で、




残虐で、




獰猛で、




凄惨で、




暴食の欲に憑りつかれた、





どこまでも背徳と冒涜にまみれた堕落した、

























———————————————————————————————————吸血鬼だ。




























 その瞬間、杏子は生への執着を諦めた。生きることを諦めた。




 血を吸われるのだろう。肉を食われるのだろう。




 杏子に負けず劣らずケーキを飲み込むその口は、今から数分後には、ここに居る少女たちの鮮血で真っ赤に染まり、
甘い物をよく食べるから虫歯にならないようにと毎日丁寧に磨かれていた白い綺麗な歯は、
今からほんの百数十秒後には、杏子たちの柔らかな肢体を、





死体を、





咀嚼しているのだろう。











 これは、マミにとって小さな変化かもしれない。
なにせ、今の彼女は、美味しいお菓子を目の前にした時のような目で杏子たちを見ているのだ。
だから、きっと杏子たちを食べる時も、お菓子を食べている時のような顔で、美味しそうに、
頂くのだろう。
甘いブリオッシュを味わうように召し上がられるのであろう。






 いただきます。










 ごちそうさま。










 それで終わり。
杏子たちは髪の毛の一本も残すことなく、全てマミの胃袋に収まり、胃液で溶かされ、
その血肉になってマミと共にこれからの時を過ごしていくのだろう。


 怖くないと言えば、そんなことはない。
むしろ、杏子の全身は恐怖で言うことを聞かなくなっているくらいだ。



 けれど、彼女の心の大部分を埋める感情はそれではない。












 悲しみだ。










 悲しいのだ。













 マミが、無辜の人を守ることに生き甲斐を見出していた彼女が、
こんなふうに人を喰らう化け物に落ちてしまい、
そして人を食べるという、どうしようもない罪を犯そうとしていることが、
そんな彼女がこの先永遠に救われることはないであろうことが、
それがただひたすら悲しくて仕方がないのだ。






 できるなら止めたい。神が居るなら止めてやってほしい。







 でも、そんな奇跡は起こらないのだ。
何しろ、杏子は、もう奇跡を使ってしまったのだから。














 マミがまた一歩、杏子たちに近づいてきた。



 その貌は嬉しそうにほころんでいて……。






 ああ、どうしてそんなに幸せそうなんだろうか。
これから大切だった後輩を喰らうというのに。
取り返しのつかない大罪を犯すというのに。











 どうしてそんなに笑っていられるんだ。










 …………あるいは、悪魔だからこそ、それに至福を見出すのだろうか。




 杏子はゆっくりと瞼を閉じる。
視界は闇に包まれ、最早マミのあまりに残酷なその姿を見ることもない。
これからも見ることはないだろう。
何故なら、もう二度とこの目が開かれることはないのだから。







 ————痛いのは一瞬————







 マミはそう言った。


 その言葉を信じてみよう。
まだ微かに彼女の中に残っているかもしれない、せめてもの慈悲に賭けてみよう。


 杏子は、マミにその命を委ねたのだった。

























 ——————だが、







 それは現実にはならなかった。





















 何故なら、














「アアッ!!」













 銃声と、甲高い女の悲鳴が聞こえたから。


















はっちゃけちゃったマミさんw


あの人、意外と食べること好きなのかなと思ったり。

だって、手作りケーキ、美味しいらしいし。
しょっちゅう自分で作ってたのかも。




乙ほむ
マミさんがてぃろふぃなーれ()とか言っちゃう厨二系魔法少女からきっとあんこちゃんが構える槍の先端とかに乗っちゃいそうなカリスマ系吸血鬼にランクアップですね!



咲夜さんが来ないことに苛立つ俺


杏子と同じ気持ちになって悲しい
マミさん……

今さらながら

杏子とさやか:レミリアとフランドール

それぞれ武器がちょうど槍と剣なんだよな


もうだめだぁ・・・おしまいだぁ・・・
フランドールがどれだけ自分の破壊衝動を自制できてたかがよく分かるわ。そういえば彼女は今どこに?

フランは、剣じゃなくて杖だよ

魔法少女を吸血鬼が食う
吸血鬼をメイドが食う
そういう順番でしょ

レーヴァは北欧の神フレイの勝利の剣と同一視されることもあるから魔剣でもあるかもね、基本解釈は魔杖だけど

つまりバールの様な何か


そういや某ラノベの公式SSでレーヴァディンの杖って書かれてたぜ

マミさんは魅力が大幅に増したな〜(棒)

フランちゃんの居場所を(痛め付けて)聞き出す為に、十六夜咲夜颯爽登場!

>>490
「ちょっと、あんなトリッキーなだけでチンケな槍と、
 私の最高に素晴らしいグングニルとを一緒にしないでいただけるかしら?」

颯爽登場!銀髪美少女!ジャック・ザ・リッパー!

俺はジャックをメイデンと脳内変換しておこう

乙でした
元魔法少女ということで結界外でも吸血鬼パワー全開?魔法少女としての経験・実力もあるし理知的で狂っている
ワルプルギスが可愛く見えてきた

ジャックばジャック・オー・ランタンに
銀髪美少女は咲夜さんに脳内変換しとくわ

「わたしは人間をやめるぞ!キョウコーーーーッ!!」

「わたしは人間を超越するッ!キョウコ、おまえの血でだァーーッ!!」



皆さん予想通りの反応でwww
でも、ほむらを心配している人いなくてワロタ・・・・・ワロタ・・・・
ほむェ・・・・・

現在の状況
マミ:暴走
杏さやまど:ガクブル
ほむら:重体
フラン:消息不明
咲夜:???
歩道橋:軽微な損傷「大丈夫だ。問題ない」


>>487
ありそうだから困るww
某オサレマンガみたいなバトルになるかもしれないww

>>494
スルトの剣とも同一視されているんじゃなかったですか?
はっきりとしたことは分からんですけど。

中二乙


かりちゅま「うー☆うー☆ 戦いが始まるよ!」








                    *






 あまりの急転直下に、思わず杏子は目を開けた。



 目の前には、片腕を抑えてその場にうずくまるマミの姿。
傷口を抑えている指の隙間から、真っ赤に染まったパジャマの一部が覗いている。

 マミが顔を上げ、杏子の背後にいる誰かを睨み上げた。
つられて杏子も振り返り、マミを攻撃した犯人の姿を目に収めた。


 そこに居たのはあのメイド。
両手で黒い拳銃を構え、その銃口をマミの眉間に合わせながら、ゆっくりと近付いて来る。



「貴様が巴マミね」



「くっ……あなた、何したの?」

「分からないのね。ならそれでいいわ」


 そう言って、突然メイドが消えた。


 と思ったらすぐ傍に現れた。その手にはぐったりしたほむらが抱えられている。



 まるで当り前のように行われたその不可思議な現象に、一同は驚愕する。
一体何がどうなっているのか、誰にもさっぱり分からない。
杏子たちにとって、魔法少女でもないこのメイドがどうしてそんなことができるのか、
理解が及ばない。
有り得ないことなのだ。彼女たちの常識では。


「彼女をお願い。あれは私に任せて、貴女たちは逃げなさい」

 他方、メイドの方と言えば、言葉と共にまどかにほむらを押しつけ、マミの方を睨みつけた。


 マミは未だに傷口を抑え、戸惑ったように自分の血とメイドの顔を交互に見て呟く。



「傷の治りが遅いわ。何? 何なの?」

「その理由も分からないくせに……これで妹様の眷属とは、片腹痛いわ」


 咲夜は右手に拳銃を、左手にナイフを握ってマミと相対。
武骨な黒い拳銃のボディと、バナナほどの大きさの、瀟洒な装飾が施されたナイフの銀刃が光を鋭く反射する。
どちらも少女の細腕には似合わない物騒な物なのに、不思議と咲夜が持っていると、そこにはある種の
調和のようなものがあって、不釣合いな感じはしなかった。
逆を言えば、それだけ彼女がそういった武器を“持ち慣れている”ということであり、自然、杏子は
咲夜の踏んできた場数の多さを直感的に感じ取っていた。


 だから杏子は、この場で口を挟むことはできなかったし、まず第一、事態が急に動きすぎて、
頭がそれに追いついていなかった。
それに加え、先程咲夜が起こした奇妙な現象もその混乱に拍車をかけていた。
まどかもさやかも同じで、しかし、三人があっけにとられているうちにも話は進む。
メイドとマミは互いに睨み合いながら円を描くように移動し始めた。


「そう。あなたがフランの言っていたメイドさんなのね」

「気安くその名を呼ぶな!」


 昨日とは違いメイドの口調は乱暴で荒々しいものだった。
表情も、能面のようなものではなく、その目は獲物を狩る虎のように獰猛で、今にも食い殺さんとしている。
あの路地で杏子たちを襲った人物と同じとはとても思えないほど、今の咲夜は激しい感情を見せていて、
ロボットではなく猛獣の様であった。


 いったい、何が彼女をここまで憤らせるのか、どうしてこんな激情を撒き散らすのか、
全く杏子たちには分からない。
分からないが、それでも、今ここで彼女の邪魔をすれば、昨日と同じ目に遭うことだけはよく分かった。
だからこそ、杏子も、さやかも、まどかも、動かず、喋らず、ただ黙って事の行く末を見守るほかない。



「私は、あの子の眷属なのよ。名前を呼ぶ権利ぐらいはあるんじゃない?」

 対してマミの表情は涼しげなものだった。
嘗めているのか、あるいは本当にそうなのか、余裕たっぷりといった感じだ。
それこそ、先程から変わらない、“いつも通り”の巴マミのままの声で、言葉遣いで、仕草で、
咲夜と問答している。
マミ個人が咲夜を恐れていないのか、あるいは吸血鬼に人間の殺気程度のものは通用しないのか。


「フランドール様は栄えあるスカーレット家の妹君。
その名を軽々しく口にするのも憚られるやんごとなき身分のお方。
貴様のような低俗で野蛮な畜生がその名を呼ぶ権利を主張するなどおこがましいにも程がある。
吸血鬼としての矜持も品格も無い。今の貴様は野獣に等しい」


 メイドは足を止め、銃とナイフを構え直した。



「だから殺す」





 瞬間、起きたのは超常現象。
マミの周囲に、両手両足の指を使っても数えきれないほどのナイフが現れた。突然、空中に。


 そして、そのナイフの大群の全てがマミの体を狙っており、その全てがマミに向かって飛んで来たのだ。


 到底避けきれるものではない。
何が起こっているのか理解できないまま、しかし、マミはそれを防いだ。

 当たればヤバいことは分かる。
瞬時に自分をリボンで覆い、繭を作ったのだ。
足元から、パジャマの袖口から、瞬く間に伸びたリボンは、押し寄せるナイフの大群全てを弾き返し、
完璧にマミを守りきった。



 マミを守ったそのリボンは、魔法少女時代に使っていた黄色いそれではない。
吸血鬼になった彼女を象徴するかのような、真っ赤なリボンだった。
血のように真っ赤な色だった。


 マミの周囲の路面に落ちて、ナイフが甲高い音を響かせる。
が、それもすぐに音を立てなくなった。
それらは全て、まるで最初から存在しなかったかのように消えてしまったのだ。
しかし、それは幻ではない。



「なるほど。これがあなたの能力なのね。厄介だわ」


 全然厄介とは思っていない、余裕の落ち着いた声でマミが言う。
リボンの繭が解け、中から黄金色の吸血鬼が再び姿を現した。

 同時に咲夜がその背後から銃とナイフで襲いかかる。
そのナイフの切っ先はマミの頸動脈を狙い、その銃の銃口はマミの脳髄を撃ち抜かんと牙を剥く。


 それに対し、マミは背後を向くこともなく、黙って足元の、歩道橋を覆うアスファルトを砕いた。
ゴオンという凄まじい音ともに、歩道橋全体が崩れるんじゃないかと思うほど激しく揺れ、
咲夜が僅かに怯んだ隙に距離を置く。


「それ、銀ね。やっと分かったわ。傷の治りが遅いのもそのせいね」


 マミが自信満々に言い放つ。
その腕の傷は既に癒えており、後には赤く染まったパジャマしか見えない。
対する咲夜は口の中で軽く舌打ちしてまた消えた。



 同時に、辺り一面を埋め尽くすような、尋常じゃない数のナイフが出現した。
先程のナイフの大群よりも多い。
歩道橋を照らす街灯の灯りを、ナイフの銀刃が反射し、それは行く筋もの閃光となって、
空を切りながら次々とマミに襲いかかる。




 けれど、マミは余裕の顔で、余裕をこいて、先程のようにリボンの繭で自身を守ろうともせず、
翼をはばたかせ、強風を起こしてナイフの軌道を反らせようとするが、その体に銀の銃弾が突き刺さった。



「ぐッ」



 腹に銃弾を受け、怯んだマミに次々とナイフが命中する。


「あああああ!!」


 マミは悲鳴を上げてその場に倒れた。
そうする間にもナイフは津波の如くマミを呑みこんで、その体をずたずたに引き裂いていく。
血飛沫と悲鳴が飛び散り、一瞬にして歩道橋は凄惨な赤色に染まった。





 そして————、

 再びナイフが消え、咲夜がマミの前に現れる。
僅かに息が乱れているが、まだまだ余力がありそうだ。


 一方で、先程まで余裕綽々だったマミは無残にも倒れ伏していた。
体中を切り裂かれ、真っ赤な血の池に沈んでいる。
服もボロボロで、ほぼ裸だった。


「マミさん!!」

 まどかが叫ぶ。

 そこで初めて咲夜は見ていた三人と一匹に目を移した。


「まだ居たの?」

「あんた! いくら何でもやりすぎだろ」

 さやかがメイドに向かって吠える。だが、メイドはそれを無視した。


「問答している暇はない」

 それだけ告げて、咲夜がその場を飛びのいた。

 同時に空から何かが降って来て、轟音と爆風を撒き散らしながら歩道橋を砕く。
それはさっきやられたはずのマミ。
しかし、その体はまったくの無傷だ。
それを見た咲夜が悔しそうに呻く。

「分身か。妹様の能力をある程度受け継いでいるみたいね」

「大丈夫よ、鹿目さん、美樹さん。これぐらいじゃやられたりはしないわ」


 歩道橋にのめり込んだ両足を片方ずつ抜きながら、マミは優しくまどかたちに微笑みかける。
だが反応は芳しくない。
まどかもさやかも、怯えたような表情を見せるだけで、さっきのようにその名を呼んだりはしない。


「嫌われているわよ。『マミさん』」


 メイドは侮蔑の笑みを浮かべてマミに向かって中指を立てた。


「それはあなたのほうじゃなくて?」


 マミは表情を消す。
そして、次の瞬間にはアスファルトを蹴り、咲夜に向かって一直線に飛び出した。





 だが、その顔はすぐに、怪訝そうに歪む。





 一向に咲夜に近づかないのだ。




 理解不能な状況に、マミは戸惑う。
本来なら、とっくにメイドを八つ裂きにして、原型も留めない挽肉にできる筈なのに、
なぜかそれは未だに、目の前にあって、腹の立つ嘲りの笑みを浮かべているのだ。
果てしなく殴り飛ばしたい。
が、それを殴り飛ばす距離まで近づけない。









「馬鹿ね」

 メイドが口を開く。遅れてそんなセリフが聞こえてきた。






 ————そう。花火を見た時のように、あるいは雷が光った時のように、目に見える現象より遅れて音が到達する。
それは何故かというと、距離が遠いから……。



 まさか!?



 そう思った時には既に遅く、背後にメイドの姿。
丁度振り向いた瞬間に、ありえない速度でメイドのナイフがマミの胸に突き刺さった。



「ガハッ」


 呻き声を上げ、膝から力が抜けたマミはその場に崩れ落ちる。
ナイフは確実にマミの心臓を貫いていた。
いかに頑丈で治癒力の高い吸血鬼と言えど、急所を、それも銀製のナイフで刺し抜かれては、
立っていることすらできない。
結果、マミは自分を狩るハンターに対し、致命的に無防備な姿を晒してしまう。



「死ね」



 メイドの銃が火を吹く。
合計四発。
銀の弾丸が、マミの額、心臓、腹、首に直撃した。














仄かに少女臭の漂う中、始まったマミさんと咲夜さんのバトル。

血が湧き、肉が踊り、乳が揺れる!!


ちなみに、マミさんはノーブラなので、胸がすごいことになってます。
脂肪の詰まった柔らかいふくらみが、上下・左右・斜めに、とえらいことになっとります。
オフwwwよだれがwwwwwwwww




時止めはやっぱ卑怯技だわあ
メイドの余裕顔に一発くらいかましてやって欲しいが

そのマミさん今にも滅されそうじゃねぇかよぉ!

胸が揺れてるのは片方だけじゃないですかッ!

単純な時止めの能力は
咲夜>ほむら>DIOと、なるんだよな!

乙ほむ
スルトの炎の剣は自前って言う意見もあればフレイさんぶっころして奪った勝利の剣って言う意見もある
まあ魚系魔法少女のさやかちゃんは双剣使いだからどっちにしろあんまり接点ないけど

>>518
さっきゅんのどこがPADだって証拠だよ!

この期に及んでマミさんかばうってさやかどんだけ馬鹿なんだ

咲夜さんはガチ殺し合いだとマジにヤバい


このままメイド長がこの化け物を滅ぼせれば気が楽だけど、そうは問屋がおろさないんだろうな。

>>521
さやかちゃんだけは巴マミが破壊の獣に成り下がっている可能性があることを誰からも聞かなかったからね。(まどかは一応フランドールから聞かされてる)
それよりも今回の事件でアニメ本編よりも早く精神を病まないかが心配。

さやかはもうね、うん…

>>519
時止め込みの戦闘能力の高さなら
DIO>咲夜>ほむほむかなぁ、ザ・ワールドはそれ自体が強いんじゃなくてDIOが使うから強いわけだし

しかし名前呼んだだけでキレるとかこの咲夜は幻想郷にいたら胃擦りきれるんじゃないか?

幻想郷のメンバーはそれなりの実力があるって認められてるんじゃないの?

なりたて吸血鬼の衝動+ふ っ き れ た これが原因

>>527
sageはメール欄ねー

名前呼ぶなってのはお前ごときがってのと、その呼ぶ態度に敬意も親愛も感じない(暴走して調子乗ってる?から)ってのが大きいんだろうね、やっぱり
たぶん、吸血鬼になって暴走する前の、仲良かった時なら呼び捨てで名前を呼んでもちゃん付けでも問題なかったと思われる

>>505
ほむらの心配をしてないというより、ほむらはある意味(特にSSでは)ほぼ生存が約束されてるからその必要がないというか・・・
逆に生存とか幸せと縁遠いのがマミさんとさやか・・・

悪堕ちしてもマミさんは可愛い
ポンコツ扱いされがちなメイド長がお嬢様キチ全開なのもいい

まどかと一緒にいるはずなのに全然台詞がないから、QBが完全に蚊帳の外だな。次こそは出番あるか!?

QB「出番は別に要らないけど、GSはよこしてね?」

QBめ………この!猫泥棒!!(第四回東方m-1さとりこいし参照)

しかし原作からして『食料』をケーキやらなんやらに『加工』しているメイドな訳で
本来これくらいのことは涼しい顔してやりかねないんだよな

毒草でお茶作ったりな(汗







咲夜さんがキチってるけど、そういう仕様です。
(変態的な意味ではなく)おぜうラブな咲夜さんです。

マミさんは…………ヒロインです。ヒロピンです。
色々と逝っちゃってます。

さやかは、まあ、さやかだから・・・・
本編では不憫な青い子には頑張ってもらいたいです。



QBも居るよ!よ!

コイツが一番動かしにくい。
感情がないから感情移入するのが難しいしw













                *








 勝負はついた。


 倒れているのはマミ。立っているのは咲夜。

 圧倒的な勝利だった。
咲夜は一発も食らっていない。それが彼女の実力。




「マミ……」

 杏子がふらりと近寄る。
だが、咲夜は杏子に銃を向けて牽制した。


「来るな。まだ終わってない」


 咲夜は倒れたマミの傍らに立ち、そしてしゃがみ込んだ。
その手に握られているのは、今まで見たどのナイフよりも刃渡りの長いナイフ。
そんな物、一体何に使う気なのか?


「待てよ。もう勝負はついたろ!」


 杏子が叫んだ。










「あ!」





 同時にまどかが声を上げる。
それが合図であるかのように、倒れたマミの体が真っ黒な何かに分裂した。
その真っ黒な何かは、バサバサバサと空気を叩き、咲夜に襲いかかった。


 咲夜は顔を手で覆い、その場から飛びのく。

 だが、突然アスファルトの中から赤いリボンが飛び出し、咲夜の体をがんじがらめにしてしまう。
完全な不意打ちに、咲夜はなす術もなかった。
咲夜はもがくが、緩まるどころか、リボンはさらに締め付けを強くし、その顔が苦悶に歪んだ。


「マミ!?」


 マミの体だった黒いそれは小さな蝙蝠の群れ。
キーキーという甲高い音を立てながらそのまま空中で集まり、元のマミの姿に戻っていく。
ボロボロだった服も綺麗に修復され、見た目麗しい吸血鬼が、元通り、宙に浮かび上がっていた。











「痛かったわぁ。あなた、容赦がないのね」













 呑気な声を上げてマミは笑う。そこには相変わらずの余裕があった。

 杏子もさやかもまどかもあっけにとられていた。
まさか、無数の蝙蝠に分裂して難を逃れるなんて思いもよらなかったからだ。
そして、同時にマミがもう人ではないことを嫌というほど思い知らされた。


 そう、もうマミは人ではない。
人は蝙蝠に分裂することはないし、あれだけ撃たれたり刺されたりしたら、普通は死んでしまう。




 けれど、死なないマミは、吸血鬼なのだ。化け物なのだ。



 そんな三人を横目に、マミはゆっくりとした口調で語る。


「時間を操る能力かあ。その応用で空間も広げられるのよね。
さっき、一向に近づかなかったのは、私とあなたの間の空間が拡張されていたから。
真正面から向かって行っても、あなたからは止まっているようにしか見えなかったのでしょうね」



「時間って……」



 思わずまどかが零した。


 なるほどさっきから起きていた異常な事態は、全てメイドが時間を操作して起こしていたものだったのだ。
だとすれば、ほむらが突然現れたり消えたりするのも、時間を止めているからだろうか? 
同じ能力と言っていた気がするし。

 まどかはちらりとほむらを見下ろす。

 変身は解けていた。
だが、ほむらが回復する様子は一向に無く、白い貌に玉のような汗を浮かべて苦しそうな浅い呼吸を繰り返すだけだった。
その腹部の傷は惨たらしく、まどかはなるべくそれを視界に収めないようにする。





「でも残念。あなたはここまでよ」


 マミは死刑宣告を放つ。
その声にまどかは顔を上げ、宙に浮くマミを見上げた。
彼女の顔にもはや笑みはなく、無慈悲な殺戮者としての冷徹な仮面しか見えない。
咲夜は動けず、杏子やさやかにも対抗する力はなく、予定調和のように事態は最悪へと進んでいく。



 バサッとマミの羽根が大きく展開する。
その大きさは、マミ自身の身長を優に超えていて、そして、その羽根から冗談みたいな量の妖気が放出された。


 ぞっとする冷たさがまどかの背筋を走る。
思わず身震いした。
目の前に立っているさやかの表情は伺えないが、彼女も小刻みに震えているのは分かった。




 怖いのだ。それは本能が怖がっているのだ。






 なぜなら、マミは吸血鬼で、まどかたちは人間だから。
マミは捕食者で、まどかたちは被捕食者だから。

 マミの様子を見ても、縛られたままのメイドは悔しそうに歯を食いしばり、マミをひたすら睨み上げるだけだった。
それは奇しくも、病院の魔女との戦いの前に、ほむらが陥った状況とよく似ていた。
あの時もマミはああやってリボンで人を縛ったのだ。




 マミが片手を広げると、彼女の羽根を起点に何丁ものマスケット銃が現れた。
それは、よく見知った銃。
随分と懐かしく感じられるが、違和感もあった。

 今までのマミの銃は、シルバーのボディに黒い装飾が入っていたが、この銃は赤い装飾が加わっている。


 そしてマミは右手を上げ、大きく口を開いた。





「Pallottola magica ed infinita!!」






 軽やかで綺麗な発音のイタリア語。
今までの、いかにもなカタカナ発音の似非イタリア語ではなく、まるで本物のイタリア人が喋っているようなそれだ。
マミは辺り一帯に響き渡る大きな声で高らかに叫び、右手を勢い良く振り下す。


 同時にマスケット銃が火を噴いた。
銃声が轟き、赤っぽいオレンジ色の光弾が発射される。
その音は、今までまどかたちの耳に入っていた、歩道橋の下から聞こえて来る高速道路の騒音を掻き消し、
その場はその音に埋め尽くされてしまった。






































「Eternal meek」





 ————だから誰もその言葉を聞いていなかった。













 咲夜の体が発光し、全身から青白い弾がまき散らされる。
その弾は咲夜を縛っていたリボンを弾き飛ばし、マミの銃撃と衝突した。


 二人の間の宙で、魔弾と魔弾がぶつかり合い、魔力が弾け、爆音と閃光を放って対消滅する。
爆風圧が歩道橋の上を襲い、その場に居た全員が顔を手で覆う。



「わっ!?」

「きゃあ」


 悲鳴を上げるまどかとさやか。けれど、すぐに風はおさまり、まどかたちは顔を上げた。



 マミはその場を動かず、空中に立った姿勢のまま浮かんでいた。だが、咲夜の姿がない。


 見回すと、すぐ近くで欄干にもたれかかっていた。
すごく痛そうに顔を歪めている。その理由はすぐに分かった。


 彼女の片足から夥しい量の血が流れているからだ。
先程のマミの銃撃は当たっていたのだろう。






「まさか抜けられるとは思わなかったわ。でも、その足じゃ逃げも戦いも出来ないわね」

 ぺろりとマミが唇を舐める。

 中途半端に欠けた月を背負ったマミの瞳が赤く輝く。



「おいしそう」



 そう言うや否や、マミは宙を蹴り、咲夜に向かって飛び出した。
時間の流れを遅くする魔法でも効いているのか、マミのスピードはまどかの目にも追える程だったが、
それでも下を走る自動車並みの速さだった。
マミは片手を突き出し、咲夜に掴みかからんとした。


 傷の痛みで動けない咲夜は、懐から取り出した何かをかろうじてマミの前に何かを放り投げた。
それは、ただのラベルをはがしたペットボトル。
中には水のような透明な液体が詰まっている。


 ペットボトルはマミの剛腕によってあっさり引き裂かれた。中身が飛び出し、マミの手や胴体、顔にかかる。





















 だから、もし…………、























「ぎゃああああああああああっ!!」
























 彼女が魔法少女だったならこんなことにはならなかったかもしれない。だが、彼女は吸血鬼だった。

 とても人間と同じ声帯から発せられたとは思えないような悍ましい叫び声を上げてマミは墜落し、
欄干に衝突し、歩道橋のアスファルトに叩きつけられた。


 そして、悲鳴を上げながらその場でのたうちまわる。
その右腕から顔の半分と胸にかけての範囲が煙を吹いて、溶けていた。
赤いモノがマミの右半分を覆い、その顔面は形容できないほど歪んでいて、杏子は思わず口元を抑えた。




「な、あっ……」




 誰かが絶句する。



 何が起こったのか、マミを含め、その場に居た全員が理解出来ていなかった。
ただ、咲夜だけがそれに気を留めず、懐から小瓶を取り出して中身を傷ついた足に掛けた。

「やっぱり、永遠亭の薬はよく効くわね」

 咲夜は一人そう呟くと、さっきまでの怪我が嘘のように、すっと立ち上がった。
その足の傷は、不思議なことに、もう痕も無く綺麗に治っている。


「な、にを……」


 マミが苦しそうに呻きながら、まだ原形を留めている左目で咲夜を睨み上げた。
鬼のような(彼女は本当に鬼だが)恐ろしい目だ。
それでも、メイドは全く怯みもしない。




「聖水よ。なるほど効果は抜群ね」


 咲夜は満足そうに頷き、先程の大きなナイフを取り出した。

 スナップを利かせて軽く振り、マミに刃先を向ける。

「理性を失い、ただ本能のままに突撃してくるから、あんな分かりやすいトラップに引っ掛かるのよ。
誘っているのは誰の目にも明らかだったのに。
貴様みたいな下等な存在が仮にもスカーレットの仲間入りを果たしたなんて、信じられないわ。
お嬢様なら、いえ妹様ですら、こんなふうに無様に地面に転がるようなことはないでしょうね」

 もっとも、あの方々は特別だけど、と付け加えながら咲夜はナイフを振りつつゆっくりと近づく。

「あの方々は吸血鬼の中でも頂点に立つくらい強い。
そして、エベレストよりも高い気品と、ダイヤモンドより硬い矜持を持たれている。
貴様なんかとは、格が違うのよ」

 そしてマミの傍らに立ち、容赦なくその体を踏みつけた。

「貴様は、ただ存在するだけで妹様を侮辱し、その上スカーレットの名まで汚す。
だから私は貴様を認める訳にはいかない。
私程度に負けているようでは、どの道貴様に先はない。
この私を、一瞬で粉砕したお嬢様の足元にも及ばないわ」



 そう言って咲夜はナイフを振り上げた。





 今度こそ、巴マミに止めを刺すために。



















咲夜さんとマミさんの戦いその二。

なぜ繰り返したかというと、弾幕を使わせたかったからです。



紅魔郷では、一説に、やけくそ弾幕と言われている(?)「エターナルミーク」を使わせてみました。

これじゃあもう咲夜>ほむらですww

設定上では、二人の能力にそこまで差をつけていないので、単純に時間停止以外の引き出しの多さの違いかと。


そして、安心と信頼の永遠邸製回復薬グレート

そして、イタリア語の発音を覚えたマミさんww



盲信というか選民思想というかメイド長のモチベーションも適度に狂ってるよな
幻想郷にまともな神経でいられる方がおかしいか

乙!
ギャーマミサーン!?これじゃ折角の綺麗な顔が台無しじゃないですかー!やだー!


咲夜はマミさんが妹様のお気に入りで殺したら怒りを買うであろう事は想定していないのか?

>>548
つまり幻想郷=ロナアプラみたいな場所と・・・
そこまで物騒なとこだっけ?
そりゃ迷い込んだ人間が妖怪の餌にされるぐらいの事はあるが
一応、均衡を保つために弾幕勝負が作られたんだろう?


この先の展開次第ではマミさんはあの時、死んでいた方が幸せだったって事になりそうだな
結局フランは苦しませただけという



咲夜>ほむら
大丈夫、みんな咲夜さんの登場時点で予想してたと思うから



>>548
まぁそれなりに早苗さんも幻想郷色に染まっているし幻想郷で普通の(幻想郷の外での)精神状態に居られる奴なんぞ居ないだろうよ


常人場馴れした身体能力だけでなく魔法も得意なタイプの吸血鬼だったか。予想はしていたがやはりしぶとい敵だな。そして今回も出番が無かったQBぇ…。

いっそのことほむらは咲夜さんに弟子入りしてみる?ワルプルギス倒せるぐらいまでレベルアップ出来るかもよ?

ほむら「デフレーションワールド」バァーン

         。+・☆*・+。゚*☆・+。*

      。*'・`゚           `・* 。          
     *゚     ,...:::::::::::.....        *。
    。*'      /::::::-‐=ェ、.:::::::`ヽ     `*。
   +。      |::::/、/|::::::`'=|::::::::::\     ☆     
   ☆,、_   〃//`|:::/、ヽ|:::::|:::::::::..     +゚
    ∠|] \γι'  |///` |:://:::::::::丶    *。
        \ ゙ト、    ι'   |//):::::::::::::::   +゚     
        \ ` .     ,//"::::::::::::::::::`  *゚
      。*・゚ ` 、 ≧__ェイく:::::::::::::::::::::::::☆       
   。 ☆     ヽ. ア介ー-、>:::::::::::::::::*`:.       
   ,*    ,、__ノ //| |   ヽ:::::::ヽ*゚::::::::::::i        
   +    {[   /  |_| ヽヽく`ヽ \☆::iヽ:::::::::|
   `*。   {[  / /\   人+゚ヽ*`〉、::|  ヽ:::|゚+    
    ☆  {[|/  / \☆。+゚\`彳アヽ   ヽ| ゚*    
       `・+。・+。-**゚∨ \ィ彡 `'       ☆
        〈_/ミニミニ=彡"         *゚   
             |  |           。*`     
             |  |       。☆+゚
             |  |     。*・' ゚
     ☆      |  |。・*。+・`
      `+。*。・*・+。*・ ゚
             |ン

あれぇ?魔法少女してる事に違和感を覚える不思議……

乙ほむ
マミさんが吸血鬼として弱いのはしゃーない、少ししか生きてないし、ベースの伝説もないし

まだ吸血鬼としてはゼロ歳児だからな
500年ぐらいすれば5ボスくらいにはなるさ

いろいろ理屈並べ立ててるけど
知らない小娘が自分を差し置いて「お嬢様のお気に入り」になったのが気に食わないだけじゃねーのかって気がする

お気に入り以前に曲がりなりにも眷属になったのにやっていることが
家の面汚しだからこれ以上面子潰される前に始末しちゃおうってだけでしょ

>>559-560
まぁ両方ともあると思うわ

まじかる☆さくやちゃんスターなんてネタもあったのう

ふと思ったんだが。
このssの弾幕って非想天則仕様じゃないんだな!

3Dアクションバトルな感じじゃね?



>>554
魔法が得意っていうより、元から使えた能力を使っているだけというか・・・
東方チックに言うと、程度の能力=幻想の力です。

ほむらはトリッキーだけど、ワルプル倒せるだけの火力無いから・・・・・・・


>>555
ワロタwww


>>559>>560
だいたい>>560の通りです。
スカーレット家は(恐らく)貴族なので、
お家の名に泥を塗るような事は、従者である咲夜さんには許せないことなのです。

マミさんはフランの眷属になって、スカーレット家の一員に仲間入りしたわけですが、
あまりにも(マイルドな言い方をすると)、「お下品」なので、
怒っちゃったのです。

魔法少女のままのマミさんだったなら、
多分咲夜さんは、主人の妹の友人ということで、ちゃんと敬意をもって接したと思います。



さて、マミさんは絶賛大ピンチですが……、





               *






 その瞬間、まどかは目を閉じた。
 

 元より戦う力のない彼女には、この殺し合いに手を出すことはできない。
契約しようにも、恐怖で支配されたまどかの心は動かない。
初めて見た吸血鬼と人間の殺し合い。
互いに相手を罵り合いながら、血をまき散らし、殺意を向けて命を奪おうとする。

 マミの今の姿はまどかにとって、耐え難いほど残酷な物だった。
かつての優しい先輩の面影は外見にしかなく、中身は狂気に憑りつかれた化け物。
先程、自分たちを襲おうとした時も、まどかにはそれが現実味のあることには思えなかった。
目の前で起こっていることが常識を逸脱し過ぎていて、まどかはテレビドラマでも見ている気分になった。








 実際の殺し合いが始まるまでは。











 目で見えるものだけではない。
武器をぶつけ合う音が、飛び散る血の臭いが、そして充満する殺気がまどかにこれが現実であることを、
嫌と云うほど思い知らせた。



 ナイフを振り回し、摩訶不思議な現象を起こしながらマミを襲うメイド。




 狂気に彩られた言葉と共に以前からは考えられないような、本気で人を殺そうとするマミ。







 今まで殺し合いというのは何度か見た。
凄惨な光景も見たことがある。
だけど、何度それを目の当たりにしても、決してまどかには慣れることはできそうにもない。
いつも、勝負の片隅で震えているだけなのだ。
大切な人の無事を祈り、誰かにそれを託すことしかできない。



 毎回助けてくれたほむらは戦えない。助けを求めても助けてくれる人はいない。
だから、まどかは初めて本気で神に祈った。








 助けてください。マミさんを、助けて、ください。























                  *








 目の前で起こっていることが信じられなかった。いや、信じたくない。


 かつての師匠が、人を喰らう化け物に成り下がり、人間に化け物として退治される。
夢なら冷めてほしい。こんな悪夢なんて、見たくない。




 マミは、今まで魔法少女として街の人々のために戦ってきた。
毎日毎日街へ繰り出し、魔女を、使い魔を、せっせと退治してきたのだ。
そのマミが、人間のために戦ってきたマミが、人間に殺される。
なんという運命の皮肉だろうか。





 やめて……くれよ……。













 似ている。かつて、佐倉杏子に襲いかかった悲劇とよく似ているのだ。







 もちろん、状況は全く違う。だけど、中身はよく似ていた。


 杏子は「魔女」と蔑まれた。
それも、最愛の家族に。
父の話を多くの人に聞いてもらいたいと願ったのに、その父にそう呼ばれたのだ。

 マミも同じだ。
マミも、人間のために何年も戦い続けてきたのに、その人間に排除されてしまう。


 助けないといけない。過去の因縁なんて、そんなものどうでもいい。
この裏切りを認める訳にはいかない。彼女を、自分と同じ目に遭わせたくない。








 だというのに、体が動かない。



 どんなに強くそう思っても、この足は、なぜか動こうとしないのだ。



 今まで、どんな魔女にも恐れず立ち向かってきた。場数も相当踏んできた。
多くの魔法少女が早くに脱落するこの世界で、杏子はもう何か月単位で戦ってきた。



 なのに、体が動かない。ショックを受けた心は動かない。



 マミと過ごした日々が頭の中に溢れてくる。
楽しそうに笑いながらお菓子と紅茶を出してくれた彼女が思い出される。
軽やかに舞いながら魔女と戦う先輩の姿が記憶の底から浮かび上がってくる。










 それを、涎を垂らして嗤う吸血鬼の姿が覆い隠す。










 膝から力が抜けた。肩からも力が抜けた。
穂先の方が重い槍が、かろうじてその柄を持っていた杏子の手を軸に回転し、その切っ先を路面に打ち付けた。


 固い音が歩道橋の下から聞こえて来る車の走行音に紛れて消えていく。


 愛と勇気が勝つストーリーなんてどこにもない。ただ、無力な少女たちは無慈悲な運命に翻弄されるだけ。

 ゆっくりと目を閉じる。視界から光が失われる。





 その刹那、白いマントが翻ったのが見えた。














                *






 咲夜のナイフは振り下ろされることはなかった。


「チッ」


 軽く舌打ちをして、咲夜はその場から飛び退く。
その直後、咲夜の体があった場所を白銀の剣が通りすぎた。



 忌々しげに咲夜は襲いかかってきた相手を睨む。

「何のつもり?」

 西洋風のサーベルを両手で構え、マミを庇うように立ちはだかるのは、一人の蒼い剣士。
咲夜にとっては完全に不意打ちとなった。
それを回避できたのは偏に経験とそれに裏付けられた勘によるものである。


 初めて出会った時から、青二才だと断じて大した脅威にはならないと考えていた。
だからほむらと取引したのだ。
とるに足らない相手なら、放って置いても構わない。
なのに、彼女は今目の前に立ってこちらに剣を向けている。





 これはまずいことになった。
彼女を倒すのは簡単だが、それだとほむらとの約束を破ってしまう。
約束事にはうるさい主のおかげで、咲夜も約束を破ることができなくなってしまっていた。


 それは論外。だから、別の方法を模索するが。


 時間操作でうまく避けられるだろうか? 
いや、それも避けたい。
なぜなら、この青二才がどう動くか完全に予想することができないからだ。
相手がプロなら、赤い槍使いのようなベテランなら、その動きは逆に予想しやすい。
長年戦ってきた者として、咲夜と同じ思考プロセスを働かせるからだ。
しかし、今目の前にいる相手は素人。
プロの動きをするとは思えない。
それ故に、読みづらく、時間停止で相手を無力化しないまま獲物だけを狙うのはリスクが高いとみえる。


 だが、だからといってここで獲物を逃すのは惜しい。
聖水を浴びて弱っている今がチャンスだ。
ここを逃したらもう二度と狩ることはできないと思った方がいい。
なぜなら、基本的に吸血鬼狩りは奇をてらった方法による不意打ちによって達成されるからだ。
逆に、そうでなければ吸血鬼を倒すのは難しい。
人間と吸血鬼の間にはそれほどの差があるし、例え時間操作の力を以てしてもそれは大きくは変わらない。




 緊張の合間の一瞬に、咲夜は素早く頭を巡らす。
剣士から意識を外さず、その背後に臥している吸血鬼の様子を伺って、口の中だけで小さく舌打ちした。



 こうして睨み合っている間にも、獲物はどんどん回復していく。
今のところ、黄金色の吸血鬼はほとんど回復していないように見えるが、それも数分の間だけだろう。
すぐに動けるくらいには回復するに違いない。



 そして、それが分かるからこそ、咲夜は焦った。
今やらねば殺す機会はもう訪れることはないだろう。





 どうする…………?









 どうしてこうなった………………。






                 *








 気が付いたら飛び出していた。自分でもいつ変身したか分からない。
そうして、無我夢中で剣を振った。


 正直、すごく怖い。
何しろ相手は躊躇なく銃火器をぶっ放してくる凶悪犯罪者だ。
今も視線だけでさやかを殺せそうなほど睨んできている。
虎というか、鷲というか、完全に殺る気の目だ。

 勝てる気がしなかった。
さやかがまるで歯が立たなかった佐倉杏子ですら防戦を強いられた相手なのに、さやかに勝てる道理なんてない。








そう、理屈なんてない。













 怖い。けれど、飛び出してきたことに後悔はなかった。



「どきなさい。どうなっても知らないわよ」

 メイドは冷然とした声で命令を突きつける。脅しではない。
そんなこと、相手の目を見れば瞭然だ。


 体が震える。
膝から力が抜けそうになる。
今すぐ剣を捨ててお家に帰りたい。

 心がすくみ上る。腰が引ける。
口を開こうと思ったのに、歯が鳴るだけ。
口の中がカラカラに干上がって、逆に剣を握る両手は汗でびっしょりだ。




 逃げるな! 逃げるな、あたし!!





 背を向けようとする弱い心を叱咤激励する。
臆病になって、腰が引けそうになるのを我慢する。
気合を入れるため、無理やり体に力を込める。
でないと、今すぐにこの場から引き下がってしまいそうだった。


 そうすれば、さやかが傷つくことはない。でも、それではあの時の繰り返しだ。



 尊敬する先輩を、まどかと共に結界に迷い込んだところを助けてくれた命の恩人を、見捨てることになる。











 それは…………できない。したくない。













 さやかは己の心に向かって叫ぶ。














 思い出せ! お菓子の結界の中での悪夢を。




 体を食いちぎられて血まみれでなぎ倒されるマミの姿が蘇る。












 思い出せ! 恐怖のあまり失禁した挙句、マミを見捨てようとした情けない自分を。




 真っ赤に燃える炎の中を、狂ったように笑いながら魔女を嬲るフランの声が聞こえる。















 思い出せ! 契約した時、どんな恐怖も乗り越えてみせると誓った心を。




 大好きなバイオリンを弾けなくなって憤り、嘆く恭介の涙に濡れた瞳が脳裏に浮かぶ。















 徐々に、力が戻ってくる。体の震えが小さくなってくる。



























 奮い立て!! 美樹さやかッ!!




























「どけ! 青二才が」


 メイドが吠える。真正面からたたきつけられる殺気。人が人を殺す時に向ける純粋な感情。本気の殺意。







「い……」
















 どくもんか!!









 こんな時なら、マミなら決して引かない。
どんなに怖くても、守るべき人を背負っているなら立ち向かえる。


 後ろにはそのマミがいる。
あの時助けられなかった先輩がいる。
また助けられないのは嫌だ。
例え吸血鬼になっても、人を喰らおうとしても、マミはマミだ。























「いやだッッッ!!」






















 決意の叫びは発憤興起のためのもの。
歩道橋に響き渡る声で、勇猛果敢に立ち向かう。
目の前には恐ろしいメイド。
ひょっとしたら殺されちゃうかも……。




 それでも引き下がらない。


 両の足はしっかりと路面を踏む。


 震えていた体は力を取り戻し、逃げ出そうとしていた臆病な心は消えていった。


 さやかは負けじとメイドを睨む。





 こんなふうに後先考えずに飛び出して、殺されるかもしれないなんて、ホントにバカだよあたし。





 でも、バカでも、ムボーでも、卑怯者にはなりたくなかったんだ。




















「あんたに、マミさんを傷付けさせない!!」

















 全身全霊の叫び。
その時、さやかは確かに正義の味方だった。
己の信じる正義をもとに、恐怖に打ち勝ったのだ。








「………………そう」










 メイドの目が据わる。
それまで胸を圧迫するほど空間に溢れていた殺気は引っ込み、表情を消した殺人マシーンが現れた。
その変化に、さやかは覚悟する。



 来る!!







 剣の切っ先をメイドに向けた。












 その刹那、


 ブワッと、


 さやかの目の前に無数の銀のナイフが現れた。その刃先はすべてさやかのほうを向いている。

 上も下も右も左も、しかも後ろもナイフだらけ。
いったいどこから現れたのか、というほど大量のナイフがさやかを取り囲んでいた。
逃げ場なんてない。自然と、さやかは剣を振り上げ、頭を狙っているナイフだけを払い落とそうとした。


 だから、胴体ががら空きになってしまったのだ。








「あれっ!?」

 気が付くと、そのナイフは幻だったかのように消えていた。一本も見当たらない。

 
剣を振り上げたままの間抜けな格好で辺りを見回すさやか。
先程から見ている光景だが、やっぱり不思議なものは不思議だ。
あまりに状況がころころ変わるので、さやかは目を丸くする。


 ついでに言えば、メイドもさっき立っていたところに居ない。
彼女は少し離れた欄干の傍にいた。
その手には……、






「ああああ!!」








 悲鳴を上げたさやかをメイドが冷ややかに見つめる。



「貴女たちはこれがなければ魔法も使えないそうね」

 メイドが持っているのは青い宝石。
さやかのソウルジェム。
腹を見下ろすと、いつの間にか抜き取られていた。



「返せ!」叫んでさやかが詰め寄る。





























 それを、十六夜咲夜は欄干の向こうに投げ捨てた。


「アアッッ!!」

 暗闇の向こうに放物線を描いて落ちていく青いソウルジェム。
さやかが慌てて欄干の向こうを覗きこむと、それは運良く(?)丁度下を走るトラックの荷台に落ちたところだった。





「あ、あんた、なんてことすんのよ!!」



「これで邪魔者はいなくなったわ」




 メイドはさやかの怒鳴り声も飄々と無視して、まだ倒れたままのマミに寄って行く。
それを見てさやかの頭が沸騰する。


 大事なソウルジェムを投げ捨てられた上に、この態度。
怒り狂ったさやかはメイドに飛びかか…………ろうとした。











 不意に、体から力が抜けていく。バランスを失って、重力に沿って路面へ落ちていく。



「な……」



 声ならぬ声が口から洩れ、さやかの手はメイドに届かない。




 突然己の体を襲った事態に、思考が追い付かない。





 視界が闇に染まる直前、親友の悲鳴を聞いた気がした。
















——私は無能かもしれんが卑怯者ではないよインテグラ——
                    シェルビー・M・ペンウッド卿


アーカードの旦那が喜びそうなさやかちゃんの心意気。
「やはり人間は素晴らしい」














                      \ 安 定 の さ や か /










       


さやかはもうこのままトラック輸送されてた方が物語は丸く収まるんじゃないかな?

ほむらもいないからこれは詰んだ

フランがこないともうマミさんは本当にマミっちyピチューン
ごめんなさい
とりまマミさんが危ないな
俺は東方組の方が好きだけど

見える!
今までなかった出番を取り戻すかのように嬉々として語りだすケダモノの姿が

     |┃三
     |┃

     |┃       |\           /|
 ガラッ. |┃       |\\       //|
     |┃  ノ//   :  ,> `´ ̄`´ <  ′
     |┃三     V           V
     |┃       i{ ●     ●  }i
     |┃       八   、_,_,     八
     |┃三    / 个 . _  _ . 个 ',
     |┃三   /   il   ,'    '.  li  ',



完全にKYではあったが、さやかちゃんが格好よく見えた。でもまさか本編のジェム捨てハイウェイ事件がこんな形で起きてしまうとは。さてどうなる?

乙ほむ

さやかちゃんまじたりない子
そして胸糞悪い淫獣タイムはっじまーるよー

これほどまでに「だが無意味だ」のシチュエーションにはまっているのは珍しい

ここでさやかの魂はどうなる!?

�、プリティーなさやかちゃんハートに影響され、回復して落ち着いたマミさんが取ってきてくれる
�、偶然この状況を見ていたフランちゃんが回収してきてくれる
�、どっかで人知れず魔女化。現実は非情である

�落ちて自動車に轢かれ砕ける、現実は非情である

答え � 答え � 答え�

遲披促



なんか、さやかの扱いがひどいww
紳士諸君。いたいけな女の子なんだから、もっと優しくしてあげよう!


>>582
なんてことを言うんだ!!
それだと、あんこが逝く。


>>586
来んじゃねえwww
星に帰れwww


>>587
伝わって良かった><
みんなさやかに辛辣だから、ちゃんとイケメンなさやかが伝わってるか心配してたんだw


>>590
残念w
全部外れww

強いて言うなら、�が近い?
ほむらがダウンしてるこの状況で、さやかが復活するには、
この場に居ない誰かの介入が必須です。


>>591>>592
あまりにも救いがないw


以下、ちょっと訂正。



>>447


>月明かりに照らされ、杏子にとって懐かしい、下した金髪が輝く。

→街明かりに照らされ、杏子にとって懐かしい、下した金髪が輝く。



>>543


>中途半端に欠けた月を背負ったマミの瞳が赤く輝く。

→星も月もない夜空を背景に、マミの瞳が赤く輝く。


ご覧のとおり、月がなくなりました。
本来なら、この日この時間帯に月は浮かんでいないので。

月の説明は、また何回か後の投下の際にします。


では、お待ちかねの胸糞☆説明タイムですw






                  *






 ゆっくりと力なく倒れていくさやかの体。
変身も自然に解けて、元の制服姿に戻ってしまっている。



「さやかちゃん!!」



 まどかが悲鳴を上げながらさやかの傍に駆け寄った。
歩道橋の路面に俯せで倒れてしまったさやかを、彼女は抱え起こす。



「さやかちゃん!! しっかりして!!」



 まどかが半泣きになりながらさやかを揺するが、開かれたままのさやかの虚ろな目は変わらない。
杏子も傍により、さやかを揺する。

 まるで反応のないさやか。
まるで死んでしまったように————。












 そんな二人を尻目に、咲夜は再びマミに近寄る。


 彼女にとって、美樹さやかがどういう状態になろうと、それは関係のないことであった。
目下、彼女の目的は、誇り高い主人の家名を汚す吸血鬼を退治すること。
一瞬の隙が命取りになる世界で、他のことに気を取られている余裕などなかった。

 見ると、幸い、巴マミの回復はまだ済んでいない。
未だに体を半分と化された状態のまま、死んだ魚のような目でこちらを見つめているだけだ。
だから、咲夜は今度こそマミに止めを刺そうとした。











「オイッ!!」



 が、それは再び阻止される。




「テメェ! 何しやがった!!」




 杏子の仕込み槍が咲夜とマミの間に振り下ろされた。

 咲夜は露骨に舌打ちしながら杏子を睨み、その全身から凍えるような殺気を放出してナイフを構える。


 時を止めてさっさとマミを刺してもいいのだが、刺す瞬間には必ず時間停止を解除しないといけない。
そうしないと、マミの体にナイフが刺さらないからだ。
そして、その瞬間に杏子なら一撃加えることができる。

 さっきの青二才は、ソウルジェムを投げ捨てることで排除できたが、こっちの場合はそうもいかない。
厄介なことになったと、咲夜は心の中で舌打ちするが…………、
















「アイツ……死んでるじゃねーか。どういうことだよ、コレ!!」


 唾を飛ばしながら怒鳴り散らす杏子。後ろで、まどかがさやかの体に縋り付いて泣いていた。






















「死ん……でる……?」




 思わぬ一言に、咲夜の思考が止まる。

 その背中に、ヒヤリとしたものが走った。全く予想外の事態だ。



 まさか、そんな馬鹿な。
慌てて振り返ると、倒れたさやかと泣くまどか。
さやかは目を開いたまま、口を半開きにしたまま、人形のようにまどかに揺すられるだけで、ピクリとも動かない。
死体を数多く見て来た咲夜は、それだけ見て、杏子の言う通りさやかが死んでいるのが分かった。



 傷つけるつもりなんてなかった。ほむらとの約束だからだ。
約束を破るような不届き者は、レミリア・スカーレットの従者にふさわしくない。
だから、彼女が傷つかないように、魔力の元となっている宝石だけを奪い、さやかを戦えなくしたのだ。

















 そう、そのはずだった。



 なのに、何だこれは?





 死んだ? まさか、そんなはずはない……。




 凍りつく咲夜に、さらに杏子は怒りをぶつける。




「テメェ、アイツのソウルジェムをどこにやった!?」






 ……ソウル、ジェム。






 ほむらから聞いた、願いの結晶。魔法少女の源。


「まさか……!!」


 咲夜は何かに気が付いたように声を上げると、さっとさやかの傍に立った。
そして、しゃがみこんでその目や脈を調べる。
その様子を、まどかと杏子は何も言わずに眺めていた。








「……そう、そういうこと……」

 やがて、調べ終わった咲夜がそう呟きながら立ち上がった。

 恐ろしい事実を悟って、そして自分の犯したミスを噛み締めながら。




「おい……」



 声をかける杏子を無視して、それまで欄干の上に座って三人を観察していたキュゥべえの方に向き直る。


 赤い目玉がこちらを向く。
そこには目の前でこんな事態が起きているというのに、僅かな動揺はおろか、一切の感情の色すら伺えない。



 この「キュゥべえ」という生き物を、自称「魔法の使者」という妖怪を、咲夜はほむらから
「決して信用してはいけない。人間の価値観の通用しない存在」と知らされていた。
むしろ、どうしたらこの訳の分からない存在を信用できるのか聞いてみたいものだが、
予想以上にこいつは不気味な生き物だと、その目を見て咲夜は感じた。












「端的に訊くわ。ソウルジェムとは、結晶化した魂。違うかしら?」





















 今更こいつが何と言おうが驚かない。
これもあくまで確認の質問。
ただ、他の二人には大きな波紋を残した。



「なっ……!!」

「えっ……!?」



 まどかと杏子が同時に絶句する。
けれど、咲夜は反応せず、ただキュゥべえの反応を見ているだけだ。


 しばしの間、咲夜とキュゥべえの無表情な目が向き合う。
どちらも目を逸らさず、感情も見せず、ガラスの玉のようなつるりとした二対の目玉が互いを映すだけ。




 やがて、言葉を発したのは、白い人外の方。

























「単に、人間の魂を結晶化させただけじゃないから、厳密には正解とは言い切れないけれど、概ねその認識で正しいよ」

























 まったく変わらない顔から淡々と言葉が紡がれる。



 まどかにとっても、杏子にとっても、その言葉は単なる記号の羅列のようにしか聞こえなかった。
まるで理解できない。全く意味不明。




「な……何言ってるの? キュゥべえ。意味、分かんないよ……」




 震える声でまどかが尋ねる。


 その問いに、白い魔法の使者は溜息を吐いて答えた。





「はあ。もう一度言うけど、ソウルジェムっていうのはね、君たちの魂と同義なんだよ」





 まるで、物分りの悪い子供を諭すように。大人が、子供に常識を説くかのように。




 こんな当たり前なことも分からないのかい?




 言外に、そんな意味が含まれている気がした。




「だから、魔法少女の肉体っていうのは、例えるなら、外付けのハードウェアさ。
本体はソウルジェムの方だよ。
君たち魔法少女は、ソウルジェムから魔力を送って体をコントロールしているんだ。
ただし、その限界範囲は100mだ。
それ以上肉体とソウルジェムの距離が離れてしまうと、今のさやかのようになってしまう。
ただ、普通、肌身離さず持っているから、こういうことはあまり想定していない事故だけどね」




 あまりにも恐ろしい話に、まどかと杏子は言葉も出ない。
咲夜もただ、厳しい表情で黙っているだけ。
その中で、淡々とキュゥべえの説明だけが続けられていく。





「そんなに驚くことかい? まどかはともかく、杏子は心当たりあるんじゃないかな。
君は、今まで魔女と戦って来て、普通の人間なら死ぬような傷を負った経験があるだろう?」



「何が、言いたい」



「魔法少女は普通の人間より丈夫にできているということさ。
人間の肉体は脆いからね。
急所は多いし、たった数リットルの出血で死に至ってしまう。
しかも、肉体が活動を停止すると、精神まで消滅してしまう。
その点、魔法少女は心臓が破けようが、脳が破壊されようが、ソウルジェムさえ無事ならいくらでも復活することができる。
暁美ほむらを見てみなよ。
彼女がまだ生きているのは、ソウルジェムが無傷だからさ。
あれだけの傷を負えば、普通の人間なら即死だよ」




 さも当たり前のように、そしてさも素晴らしいことのように語るキュゥべえ。
その姿に、杏子は、自分が溶けた鉄を飲み込んだかのように熱くなるのを自覚した。




「テメェ、ふざけんじゃねえ。それじゃあアタシたちはゾンビにされたようなもんじゃないか!!」




 キュゥべえに近寄った杏子は乱暴にその頭を掴んで宙に吊り下げる。
それでも、白い獣は態度も表情も変えない。
だらんとぶら下がったまま、今までと全く変わらない調子でしゃべるのだ。



「どうして人間はそんなに魂の在り処に拘るんだい? 
むしろ便利だろう? 
魔法少女はソウルジェムを砕かれない限り無敵だよ。

そうでないと、魔女と戦ってほしいなんて、危険すぎてとてもお願いできないよ。
だから、僕たちは君たちと契約を取り結ぶ時、君たちが戦いやすいようにその魂を抜き取ってソウルジェムにするんだ。
それが僕たちの役目だよ」







「そ、そんなこと……聞いてないよ……」


 そう呻くまどかの顔はすでに涙で汚れていた。
信じられない事実に、立ち上がる気力さえ奪われた。
ただ、さやかの動かぬ体を抱えて咽び泣くだけ。
そして、それを見てもキュゥべえが感情を表すことはない。
淡々と事務的な口調で話が続けられる。



 それが少女たちの心を抉り、傷つける。






「それは聞かなかったからさ。それにね、この事実に自分で気が付いた少女もいるんだよ。
現に、そこに居る十六夜咲夜やフランドール・スカーレットはそうだ。
最も、その二人は特殊な例だけどね。
ただ、彼女たち以外で、自分でソウルジェムの事実に気が付いた魔法少女は存在したよ。
よく考えれば分かる筈のことなのに、それを教えられなかったからといって、一方的に僕のことを逆恨みするのは理不尽だよ。
それは単に、君たちが情報収集を怠っただけの話じゃないか」




「ッ!!」





 脳が蒸発するかと思った。
全身の毛が逆立って、奥歯が砕けるほど顎に力が入る。

 だから、理解不能な糾弾の言葉に、杏子が歩道橋の路面に思いっきりキュゥべえを投げつけたのも詮無い。
槍で引き裂かなかったのは、最低限の理性が働いたからだ。
本当は今すぐ八つ裂きにしたいくらいだった。



 獣の白い体は路面に叩きつけられたが、弾力のおかげで一回二回跳ねてその動きを止めた。
それからキュゥべえは体を起こす。
全く表情を変えることもなく。
まるで何事もなかったかのように。







 ここまで来ると、これがロボットのように、杏子には思えてきた。
なぜここまで乱暴に扱われて、顔をしかめることも、痛がることもないのか? 
なぜこんな恐ろしいことを淡々と説明できるのか?



 ベテランの彼女が薄々感づいていたことはどうやら現実だったらしい。
この、キュゥべえと言う、可愛らしく見える生き物は、人間の価値観のまったく通じない異形の生き物だということだ。
これなら、吸血鬼の方がまだ友好的だ。










「ひどいことをするね。全く、君たちはいつもそうだよ。
事実をありのままに伝えると、決まって同じ反応をする。


訳が分からな……」





















 ドンッ!





















 すぐ傍から聞き慣れた銃声が轟いた。
それと同時に、白い契約者の体がはじけ飛ぶ。
後に残るのは、白と赤の混じった何かの肉片と僅かな魔力の残滓。


 驚いた全員が振り向くと、街明かりの下、一人の吸血鬼が立ち上がっていた。
その右手には、一丁のマスケット銃。彼女の象徴。








 その銃口から、一筋の白い硝煙が立ち上っていた。




「しまった」


 咲夜が唸る。すぐにナイフではなく、銃を構えるが、マミは何の反応も示さない。




 俯いて、銃を構えたままの姿勢で固まっている。
表情は伺えず、時が止まったように静止していて、その体に聖水を浴びた後は見当たらない。
驚異的な回復速度だった。
しかも、服すら元に戻っている。




「マミ?」




 咲夜も動かない。否、動けなかった。







 歩道橋に広がる、静謐とした殺気。それが、彼女に動くことすら許さなかったのだ。






































「ク……」

































 小さく音が漏れる。その音は、マミの喉から発せられていた。
























「ククッ」



























 黄色い寝巻に包まれた肩が震える。下ろした長い金髪が微かに揺れる。




























「クククク」


























 吸血鬼が顔を上げる。



















 その瞬間、三人は恐怖に体を支配された。
血液は逆流し、神経は凍りつき、残酷なまでに戦慄に囚われてしまったのだ。













 街明かりに照らされて、端正な顔が狂気に歪む。
























「クハッ…………アハハハハハハハハハハハハッッッ!!」

























 以前は決してすることのなかった、下品な顔。
これでもかというほど大きく口を開けて、血のように真っ赤な舌と咽喉を見せて、吸血鬼はワラふ。



 その姿は、将に鬼。
人肉を引き裂く牙を惜しみなく見せ、その鬼は腹の底から笑い声を絞り出す。




 ゆらりと羽根を広げれば、禍々しい妖気が全てを圧迫する。
魔法少女であろうと、時間を操作できる狩人であろうと、その圧倒的な力に抗う術は持ち合わせていない。
ただ、その矛先が己に向かぬよう、祈るしかない。
足を釘で留められたかのように、誰も動くことは叶わなかった。





























「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」



































 そうして、彼女はひとしきり笑い終えると、何が愉しいのか、顔を愉快に歪ませたまま、誰に向けるでもなく、呟く。



























「あぁ、可笑し」























 そして、




 ズンッ!!





 という轟音を立てて飛び立った。歩道橋が壊れるんじゃないかと思うほどの衝撃と共に。



















そして、




 ZUN!!





 という轟音を立てて飛び立った。歩道橋が壊れるんじゃないかと思うほどの衝撃と共に。










ネタですw

一回やってみたかった。後悔はしてない。
これをやるためだけに>>613の擬音を「ズンッ!!」にしたw

なおさやかちゃんのソウルジェムは絶賛移動中の模様

さやかはこのままフィードアウトか

おつほむ

咲夜さん取り行ってあげて!

おつ

もうさやかがいるとややこしくなるから、そのまま放っておこう(提案)


まぁ咲夜さんの方が時間停止半端じゃないし、空も飛べるからちょっと時間掛ければ回収は容易だろう


キュウちゃんやっと出番が来たよおめでとう♪そして光の早さで退場…。
何故!?魔法少女でもない化け物に仕留められなければならないんだ!べぇさんのご冥福をお祈りします。(まあ無限コンティニュー出来るけどw)

は……発狂(既にしてた気がするけど)マミさんだー!

とりあえず矛先が逸れてよかったね!事態が悪化した気がするけど!




乙マミさん

もうすぐ第二章も終わります。
結局、さやかと杏子とマミ中心に話が回りました。
予告すると、第三章もそんな感じ。


・・・・・・あれ、主人公・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一応、主人公は全部で三人いるので、、、、


>>618
www
酷いwwwでも採用しようかなwwww


>>619
時速100kmで走る車は3分で5km進みます。
べえさんの暴露とか、マミさんの発狂とかで、これくらいの時間が経過したとすると、
空を飛んでも往復10分はかかるかと(もちろん時間はずっと止めてる)

とか、理屈をこねてみる。


ちなみに、本編でのSGを乗せたトラックの速度を計算してみました。
跨道橋(歩道橋じゃなく、こうい言うのが正確らしい)の高さを目算で15mと仮定し、
本編の、トラックの荷台にSGが落下してからさやかの意識が途切れるまでの時間を計ったところ
約8秒。
ここから、トラックの速度を計算すると、

およそ、時速44km

一般道じゃねえか!!
誰だよ高速道路っつったの!


>>621
助かったマミさん。
どんどん壊れていきますwwwwwww


現在の被害
杏子・まどか:無傷、心に大きなダメージ
ほむら:意識不明の重体
咲夜:健康
マミ:バーサーカー
(歩道橋改め)跨道橋:重傷(生きているって素晴らしい)








              *







 三人はしばらく無言だった。



 誰も何も言うことができなかった。
まどかは、泣くことさえできていない。
立て続けに襲って来た残酷な事態に、その思考も感情も追いついていないのだ。


 しばし、三人は呆然としていて、やがてその心身はそれぞれの感情に支配される。







 ある者は、思わぬ形で己の約束が破られてしまったことを悔いていた。








 ある者は、自分自身に隠された恐るべき事実と完全に狂ってしまった敬愛する師匠のことで心が押しつぶされる寸前にあった。








 ある者は、死んだも同然の親友を抱きかかえ、信じがたい事実に精神をすり減らしていた。




















「……………………なんだよ、これ」















 最初に呟いたのは、杏子だった。


 辺りを見回せば、ひどい光景が広がっている。

 ショックのあまり立ちすくむ二人。
親友の抜け殻を抱えて呆然とするまどか。
めちゃくちゃに破壊された跨道橋に、路面を汚す白い肉片。
そして、今なお苦しそうな呼吸を繰り返して横たわる暁美ほむら。







「こんなの、ねぇよ……」


 自然と杏子の膝から力が抜け落ちた。
膝を路面に着いた杏子は、カツンと槍を立てて、それを支えに祈るような姿勢になる。





 そして、俯いて、呻くのだ。






「なんだよ。ふざけんなよ。何が、ソウルジェムは魂だ、だよ。そんなの知らねえよ……」







 柔らかな少女の心は、無慈悲な現実という鋭い爪でずたずたに引き裂かれ、その傷口からドクドクと、夥しい量の血を流している。
杏子の言葉はまるでその血を吐くようで、苦悩とも悲嘆とも悔恨ともつかぬ、感情の塊がその口を突いて出たのだ。


 下の高速道路を、大きな音を立てて車が走ってゆく。
そこに落ちたさやかのソウルジェムの行方は何処と知れず、重苦しい空気が辺りを包んでいた。










「……佐倉……杏子」

















 地の底から響いて来たような掠れた声が杏子の鼓膜を震わせた。
ハッとして音のした方を見ると、暁美ほむらと目が合う。
苦しそうに顔を歪めながら、それでもしっかりと目を見開いて杏子を見上げている。


「おい! 大丈夫か!?」

「ほむらちゃん!?」



 ほむらは横たわったまま、浅い呼吸を繰り返すだけ。
相当苦しいようで、起き上がる気配はない。
杏子は立ち上がってほむらの傍に寄る。







「何が……あった、の?」



「ソウルジェムが、魂だって分かったのよ」




 咲夜がさやかを一瞬ちらりと見遣りながら答えた。
それで事情を察したのだろう、ほむらは微かに頷いた。


「ま、ずい、わね」

「知ってたのね」

 咲夜の問いに、さらにほむらは頷く。




「美樹、さやかの、ソウルジェムは、どこ?」



「……下に、投げ捨てちゃったわ」


「テメェ、何だよその言い方!!」


 咲夜の、あまりにも他人事だと言わんばかりの言い方に、杏子は激昂する。
思わず掴み掛ろうとした杏子に、


「杏子……」とほむらが声をかけた。

「なんだよ」杏子は手を止め、再びほむらを見下ろす。

「ソウルジェムが砕かれたら、美樹さやかは、死ぬわ。早いところ、見つけないと、手遅れになる」




 なおも呻くような声でほむらは続けた。その右手が懐を弄っている。何か探しているようだ。

 杏子は学校に行っていないが、ほむらの言葉の意味が分からないほど馬鹿ではない。
殴り飛ばしたくなる咲夜のすまし顔から目を背けて、あからさまに舌打ちする。


「どうやって、見つけんだよ……」

 途方に暮れたような、苛立ちを抑えられていないような声を出す杏子。
ほむらは、それを聞きながら、路面に横たえていた左腕を動かし、自身の胴体の上に置いた。



「魔女探しと、同じ要領でやれば、いいわ。美樹、さやかの、魔力の波動を、探すの」



 そう言う彼女のソウルジェムは、もう真っ黒だった。
体の回復に相当魔力を使っているらしい。
そのせいで、元の宝石の色が分からないほど濁っていた。


「お前……それ、真っ黒じゃねえか」


 絶句する杏子。
彼女はこれほど濁ったソウルジェムを見たことがなかった。
まるで黒いしみのようで、とてもジェムとは思えない。

 そう言えば、ジェムが濁りきった時、何が起こるのだろうか? 
杏子は知らなかったが、良くないことが起こるのは、ほむらのジェムを見れば了然だ。



「いえ、大、丈夫」

 苦しそうにしながらも、ほむらはグリーフシードを懐から取り出していた。
先程からこれを探していたらしい。
震える手でグリーフシードをソウルジェムに宛がって浄化し始める。



「巴、マミは?」



 ジェムからシードに穢れを移す間、ほむらは咲夜を見上げてさらに質問した。
咲夜は眉を寄せて、悔しそうな顔で吐き捨てるように答える。





「逃がしたわ」


「そう……」






 対して、ほむらはそれだけしか反応を見せなかった。
今は、逃げたマミより、自分の体の方が重要なのだろう。
ただ、その顔はどこか安心したように安らいでいた。

 そう。先程から、息を吸って吐くのも苦しそうにしているにもかかわらず、彼女は安堵の表情を見せたのだ。
その妙な変化に、杏子は僅かな引っ掛かりを覚え、その訳を問いただそうと口を開きかけたのだが、
次の咲夜の言葉によってそんな小さな疑問はどこかに吹き飛んだ。




「完全に狂ってしまったわ。あれはかなり危険よ。最低限の理性も失って、力の続く限り暴れ続ける」

 その咲夜の様子に、杏子は何も言えなくなった。
なぜなら、彼女の言っていることは、事実だから。
それも、杏子がまざまざと見せつけられた光景だから。

 否定をする気も起きなくなるほど杏子はその言葉に納得してしまったのだ。



「……そう」



 浄化を終えたグリーフシードを、ほむらは懐にしまった。
キュゥべえがいない以上、どうするかは分からない。




 コツコツと、靴音を鳴らして咲夜がほむらに近づく。
そして、無理やり体を起こそうとして、痛みに顔をしかめていたほむらの体を支えたのだ。



「助かるわ」

 そのまま咲夜はしゃがんで、ほむらに背を向けた。負ぶされという合図だ。


 その意図を察したほむらは、やたらノロノロとした動作で、咲夜の背中にしがみついた。
咲夜は立ち上がり、そのままほむらを負ぶって去って行く。



「おい、待て! どこ行くんだテメェ」

 慌てて杏子が呼び止めると、咲夜は立ち止まり、前を向いたまま冷たい声で答えた。


「帰るのよ。ここにはもう用はないわ」

「さやかは! さやかはどうすんだよ!?」

「……ソウルジェムを紛失したのは、私の責任。
探すのには協力するけど、私は魔法少女でもないし、この街に詳しい訳でもない。
それに、あの吸血鬼に対処しなければならないから、あまり期待はしないでね」



 そう言って、闇に消えて行っってしまった。







 それを見届けるしかなくて、杏子は胸の内に溜まったもやもやしたものを唾と一緒に吐き捨てた。


「クソッ」

 悪態をつき、未だにさやかを抱えて震えているまどかに近づく。
変身を解いて、元のパーカー姿に戻った。


「ぁ……」

 そして、まどかからさやかを奪い取るようにして抱え上げる。
意識を失った人間の体は、思った以上に重かった。
ただ、並みの少女ではない杏子は、その程度でふらつくこともなく、しっかりとさやかの体を持つ。



 その様子を、まどかが戸惑ったように見上げていて、杏子は踵を返しながら彼女に言った。

「とりあえず、コイツをどっかに隠すぞ。このまま見つかったら事だ」

 そして、咲夜が去った方とは反対方向に、さやかを抱えたまま歩き出す。


「いいところを知ってる。ついて来な」


 そう、まどかに声をかけて。



「うん。ありがとう。えっと、名前は……」


「杏子。佐倉杏子だ」


「杏子ちゃん。私は、鹿目まどか。よろしく、ね」

 立ち上がったまどかがその背中にそう言うと、


「よろしくな」と、小さな声が返ってきた。










杏子たんハアハア


復活したほむらは咲夜が、さやか(マグロ)は杏子が、回収しました。



まど杏です。まど杏・・・・・


あんこをもっと泣かせたい。。。。



毎日更新し続けて2週間
お疲れ様です

(‥深く考えるのはやめておこう‥)



もうこんな更新ペースで大量投下してても驚かねぇぞ(速過ぎだろ)


いつの間にか杏子がメインヒロインに。
さやかジェムをのせたトラックは高速道路を走ってたから下手すれば違う県まで行っちゃうぞw

ところで残ってた最後の理性もブッ飛んだのはもう魔法少女ですらないけど、長い間信頼してたQBですら自分を騙してたことを知っちゃったから?

吸血鬼になった時に自分が化け物になったと思ってたら、実はとっくの昔に既に化け物だったこととか、
それだったら化け物にしたという理由でフランを責めた自分は何なんだろうとか、まぁ色々あると思うね



過去ログ見たら、26日から毎日投下してるのなww


>>634>>635
リアルを犠牲にして、、、と言う訳ではありません(笑)
書き溜めが大量にあって、それを投下して行っているだけです。
どれくらいあるかと言うと、今まで投下した分が書き溜めの6割ほどw
ちなみに、書き進めてないので、書き溜めを消費していっているだけです。
このペースだと、来月には追い付きそうです。


>>636
SG探しにあんこが旅する話でもw


>>637>>638
他にも、さやかちゃんが契約した=人じゃなくなった事に対する負い目とかも。
さやかはさやかの意志で自分の願いを叶えたけど、勧誘したのはマミさんだから。










                     *








 跨道橋を離れた咲夜とほむらは、今、ほむらの家に向かっていた。
咲夜は見滝原での拠点をほむらの家に移すことに決めたのである。
先に荷物を取りに行きたかったが、ほむらがこの状態なので、まず咲夜はほむらを家に送って行かなければならなかった。
その後、今まで拠点にしていた巴マミの部屋に荷物を取りに行く。




 二人は無言のまま、夜の街を往く。
時々ほむらが道を咲夜に教えるだけで、二人の間に会話はなかった。


 ポプラの木が並んだ大通りの歩道。
10時を過ぎて、歩く人影はほむらを背負った咲夜だけ。
車道を、時々家路を急ぐ車が走って行く。

 前から車が来るたび、ほむらは眩しい光を浴びることになるので、咲夜の頭を陰に顔を隠していた。
微かに、香水の香りがほむらの鼻腔をくすぐり、ほむらの心を少し落ち着かせる。
鼻に付かない程度の適度なその香気が彼女の小さな優しさを感じさせてくれた。

 咲夜は前を向いたまま、淡々と歩き続けている。
静かに、ほむらを揺らさないように、気を使ってくれているのだろう。





 第一印象は最悪だった。




 なにしろ、狭い路地の中で、尋常じゃないぐらい凶悪な銃火器をぶっ放していたのだ。
一歩間違えればまどかが蜂の巣になっていた。
ハリウッド映画に出てくるアクション俳優顔負けの火力押しだった。
それも、どちらかと言えば敵役の方の。



 だが、話してみると意外と打ち解けやすい人物だった。

 口も達者で、ブラックジョークも多い。
けれど、今のようにさり気ない優しさを見せることもある。
そして、自分の中にぶれない軸を持っている。









 それが、主君:レミリア・スカーレットへの忠誠。












 主人が、カラスは白と言えば、彼女はカラスを白くし、死ねと言えば、喜んで周りを巻き込みながら死ぬ。
そんな人物だとほむらは感じたのだ。



 さらに、彼女は何事にも基本的にポジティブだ。
出会って少ししか経っていないが、それは彼女の行動に端的に表れていた。











「ねえ、ほむら」

 不意に咲夜がほむらに呼びかけた。ほむらは咲夜の耳元で囁くように答える。

「何かしら?」



「怖い?」





 投げ掛けられた問いは、ほむらの予想だにしないもの。
一瞬、何を聞かれているのか分からなかったほむらは、思わず「え?」と聞き返してしまった。



「怖い?」と、咲夜はもう一度繰り返す。

「……何が?」

「あの、吸血鬼のことが、よ」



 なんで……。
と呟いた声は掠れていて、この至近距離でも果たして咲夜の耳に届いたのか分からないくらい小さかった。


 どうして分かるの? という疑問が心の中で広がっていく。
その感情は、ほむらが先程芽生えさせたものだ。
つい数分前に抱いたものだ。
なのに、どうして咲夜がそれを言い当てられたのだろうか? 
どうしてほむらが巴マミを恐れているのが分かったのだろうか?



 疑問と共に混乱も波紋を広げる。
だから、ほむらはしばし無言だった。
存外、想定外の事態に弱い暁美ほむらという少女は、言葉を失って感情の乱れに囚われていたのだ。
そして、その混乱を引き起こした咲夜もまた、どうしてか口を開かなかった。



 結局、どちらも何も言わず、二人は黙ったまま夜道をしばらく進むことになった。

 その間も、ほむらの頭の中では、ぼこぼこと、「どうして?」とか「何故?」といった疑問が次から次へと湧き出していて、収拾がつかなくなっていた。


 マミに襲われ、殺されかけたという事実を認識した時、ほむらは恐怖の波に呑まれ、その脳内が埋め尽くされてしまったのだ。
もちろん、その認識だけが恐怖の源泉ではない。
過去に経験した、今やトラウマと言ってもいいほど忌まわしい記憶との相乗が恐怖を生み出したのだ。

 ただ、それを他人に知られるとは思わなかった。
何より、ほむらにとって自分の心の内を知られるということは、恐ろしいことである。
詰まる所、図星を突かれた挙句、その不意打ちからの混乱と内心を知られたという恐れがほむらの頭をぐちゃぐちゃに掻き乱し、
思考は堂々巡りをし始めたのだ。



 そんなふうに目を回し始めたほむらに、黙ったままだった咲夜が、回答を示した。


「恐れるのは仕方のないことよ。
誰だってあんな目に遭えばそうなるし、何より、人が妖怪に恐怖を抱くのは当たり前のこと。
妖怪は、人の恐怖が生み出したモノなのだから」



 混乱が止まる。

 ほむらは咲夜の頭部に頭を預けながら、その言葉に耳を傾けた。


「貴女の反応は、まさにその妖怪を恐れる人間のものだった。
過去に同じ反応を数多く見て来たから、すぐに分かったわ。
驚くことないし、恥じることもない」

 安心させるように彼女は言う。その声に滲んでいる微かな思いやりがほむらの心を落ち着かせた。


 頭を巡っていた混乱はすっきりと消え去り、疑問の答えも分かって、ほむらは取り敢えずほっとする。
どうやら、内心が表に出ていたらしい。

 まあ、先程の動揺も咲夜に見抜かれていたようだが。


 自分は昔と比べてかなり変わったと思うし、ポーカーフェイスも身につけたと自覚しているのだが、
どうにも分かりやすいところもあるみたいだ。

 気を付けようと思う。
思うのだが、どうしてか、心は静かなままで、奇妙に落ち着いていた。
だというのに、違和感は全くなく、何故分かりやすいところがあることが分かってもそうなのか、
少しほむらは考えた。


 さっきは咲夜に図星を突かれたことにあんなに動揺したのに。




 と、そこで、ふと気が付く。


 別に、咲夜なら知られてもいいかもしれないと思う自分がいることに。



 どうして? ホワイ? と問う前に、こじつけの様な理由が思い浮かびあがってくる。



 彼女が、今までにいなかったイレギュラーだから。
同じ能力を持っているから。
魔法少女ではないから。
エトセトラ……。












 でも、違う。そうじゃないんだ。

 そう思う。


 では、何がその理由なのか?

 私は、咲夜との間に何か通じるものを感じているの? だからなの? 



 考えて、考えて……、







「…………貴女は、怖くないの?」

 気が付けば、そんなことを尋ねていた。

 まるで、自分と彼女の間の共通点を探るように。





「……恐怖心がないと言えば、嘘になるわ」







 紡ぎ出された答えは、少々意外なもの。


 なにしろ、路地裏ではあれだけの大立ち回りを見せ、全く恐れ知らずのように思えたからだ。
しかも、マミとどんな戦いを繰り広げたか分からないが、出掛ける前にあれだけ念入りに準備をしていて、
今も無傷であることを考えれば、健闘したのだろうということは分かる。


 そんな彼女が、恐怖心を抱いているなんて、思いも寄らなかったのだ。









「でも」と、咲夜は続ける。
「それが躊躇う理由にはならない。倒さなければならない敵がいるなら、私はその恐怖すら踏破する」






 言い切った咲夜。


 その言葉に、ほむらは「そう」問い返しただけ。

 その後につけようと思った「強いのね」という一言は、僻んでるみたいに思われそうだったからやめた。














 倒さなければならない敵(ワルプルギスの夜)がいる。
だから、恐怖に打ち勝たなければならない。







 ほむらの目的はただ一つ。



 鹿目まどかを魔法少女にせず、魔女の夜祭を越える事。



 まどかを守らなければならない。
魔法少女にならないように、あるいは他の因子によって死なないように。


 巴マミがまどかを傷つけるなら、巴マミを排除しなければならないし、現に彼女はまどかに危害を加えようとした。
だから、倒さなければならない。

 だというのに、この様ではとても彼女と戦えそうになかった。




 それは私が弱いから。かつての、無残に無力な小娘だった部分が残っているから。



 まだ足りない。まだ強さが足りない。



 暁美ほむらという少女は、たった一人の親友との約束を道標に戦い続けて来た。彼女を守るために。

 だから、強くなる必要があった。
そうしなければ自分以外の誰かを守るなんて叶わない。
弱い自分を捨て、甘さを排し、ただひたすら道標を頼りに邁進しなければならなかったのだ。





 だから、こんなところで止まっていられない。巴マミなんかを恐れていられない。

 それでも、まだ弱い自分は、その恐怖を踏破できそうもなかった。

 それが、ほむらの中で深い失望を生み、心は落ち込んでいく。

 咲夜と自分の間に通じるもの。確かに存在する。
けれど、それ以上に大きな隔たりが彼我の間には横たわっているのだ。




 強い彼女と弱い自分。





 でも、彼女ならその弱さをさらけ出せると、彼女なら受け止めてくれると、根拠もなく思ってしまう。

 弱いのは駄目だ。でも、今だけは、と思う。思ってしまう。
















 ————と、



「私、貴女に謝らないといけないことがあるわ」




 ぽつりと呟くように発せられた咲夜の言葉。

 うじうじと考え込んでいたほむらはその言葉に、ハッと意識を戻す。
脈絡もなく、いきなり変なことを言われたので、数瞬、ほむらの思考の動きが遅れた。


 そして、当然生まれた疑問を呟くように口に出す。

「謝らないといけないこと?」

 しかし、咲夜はすぐには答えなかった。






 迷っているのか、自分の頭の中で言葉をまとめているのか。
どちらにしろ、彼女はしばらく沈黙したままで、ほむらも咲夜の言葉を待って、また沈黙していた。
















「約束、破ってしまっわ」




 やがて聞こえてきた告白は、傍を走る車の音にかき消されてしまいそうなほど小さかった。
その様子に、ほむらは咲夜が何を言おうとしているのか分かった。

「彼女、美樹さやかだったかしら。あの子のことを、傷つけてしまった。ごめんなさいね」

 懺悔の声は、後悔の色を含んでいた。
咲夜の表情は伺えないし、動揺がある訳でもない。
ただ、淡々と罪を告白する。



 そんな咲夜に、ほむらは驚いていた。




 もっと厚かましくて、不遜な性格をしていると思っていたからだ。
こんなふうに、殊勝に、謙虚に、律儀に、約束を破ったことを謝罪してくるとは思いもよらなかった。
けれど、この様子や、ほむらに見せたちょっとした優しさを見るに、彼女もまた、根はいい人なのかもしれない。




 だから、ほむらは口元が緩みそうになった。
咲夜は見ていないけれど、ここで笑ってはダメだと思い、なんとか我慢した。
それは、思い切って告白してくれた彼女に対し、流石に失礼だろうから。


 それからほむらは少し考えた後、今一番咲夜に必要な言葉を与えた。

「別に、いいわよ。私も、言ってなかった、わけだし。
それに、美樹さやかの、ことだから、どうせ、貴女の邪魔をしたのでしょう? 
だから、貴女は、私との、約束を破らないように、彼女のソウルジェムだけを、狙った。
つまり、偶然の事故よ。気に揉むことはないわ」


 少し回復したとはいえ、まだ一度に長文をしゃべるのは苦しい。
ほむらは、大きく息を吐いた。









「……ありがとう」












 先程よりさらに小さな声。照れているのだろうか? 
だとしたら案外かわいいところもあるみたいだ。


 それからまたしばらく続く沈黙。
咲夜は押し黙って歩き、ほむらは呼吸を落ち着かせるために何も言わなかった。















「ねえ」

 少しして、今度はほむらから声をかける。

「何?」と、咲夜は相変わらず前を向いたまま返事をした。

「どうして、約束を、守ることに、そんなに、拘るの?」


 またまた訪れる沈黙。
夜道を走る車の音に加え、どこからか救急車のサイレンが聞こえてきた。


 ふと、ほむらはまどかと保健室に行く間にした会話も、こんなふうにテンポが悪かったわ、
なんて関係のないことを考えた。














「お嬢様が、そういうことには厳しいから、よ」


 そして帰ってきた答えには、ほむらの興味をそそる言葉が含まれていた。
それは彼女の軸。主君。


「お嬢様って、確か、彼女の姉の……」




「レミリア・スカーレット様よ。
現スカーレット家当主にして、かつてはヨーロッパでも指折りの悪魔卿であったお方。
そう。悪魔なの」




 仰々しい修飾句と共に語られる彼女の主人の名。悪魔の名前。


「悪魔、ね。なら、むしろ、約束なんて、平気で破りそうだけど?」

「逆よ。悪魔は約束事に敏感。決して破ったりはしないわ」

 きっぱりとそう言いきる咲夜。なるほどと、ほむらは頷いた。


「だから、貴女も約束は破れない」

「そうよ。従者の名誉は主人の名誉。従者の不名誉も主人の不名誉。
悪魔に使える者が、約束や契約違反をすれば、傷つくのは我が主の名よ。
故に、私はそのようなことは決してできないの」

 そう語る咲夜の声は、とても自信に満ちていた。













 そう。それが彼女の誇りなのだろう。
吸血鬼に忠誠を誓い、我が身を一生捧げる。
それこそ、まさに先程ほむらが確かめようとした、自分と通じるところだ。
彼女の倒さなければならない敵とは、すなわち主人の敵だ。









 もちろん、全く違うことだ。
ほむらはまどかを救うために荊の道を歩き続けている。
咲夜は、主人のために一生働き続ける。




 だが、どちらも、たった一人のかけがえのない大切な誰かのために、生きる。そこに違いはない。










 だから、咲夜のことをもっと知りたくなった。
先程から考えていたこと。弱さと強さ。




 何故吸血鬼に仕えるの? どうして恐怖を乗り越えられるの? 何が貴女の道標なの?





「理由を聞いても、いいかしら? 貴女が、その吸血鬼のお嬢様に、仕える理由を」


 思えば、他人に興味を持つのは、まどかを除けばこれが初めてだ。
かつて魔法少女の先輩として教えを受けた巴マミとも、まどかの幼馴染である美樹さやかとも、
共闘を持ちかけた佐倉杏子とも、こういう話はしたことがなかった。







 共通点が多いからかしら。




 暁美ほむらという少女は社交性が高くない。
入院生活が長かったためか、かつては同年代の女子と話すことさえ緊張した。
それからほむらはだいぶ変わったが、社交性の低さは相変わらずのままだ。
表面的な話題について人と話すことはあっても、互いの内面に踏み込んだ話はしない。
したことがない。


 もちろん、まどかは別だ。
鹿目まどかという少女は、暁美ほむらを語る上で欠かせない要素だから。
ただ、まどか以外でこんなふうな話をすることは初めてだった。
それも、自分の内から湧いてきた感情によって。






 だから、ほむらはそんな自分の気持ちに軽い驚きを覚えたのだった。
そして、その気持ちも悪くはないとも思ったのだ。
















「…………なら、貴女の話も聞かせてほしいわ」







 帰ってきた答えは交換条件を求めるもの。















 それは…………そうだろう。






 咲夜の言っていることは全く不自然じゃない。
ただ、ほむらには躊躇いがあるのだ。自分の過去を他人に話すことについて。




 果たして受け入れてもらえるか? まどかでもないのに、話していいのか? 期待は裏切られないか?













「分かったわ」













 口を突いて出た了承の言葉。
半ば無意識だったけれど、特に驚かないし、無意識に答えた自分自身にむしろ、感謝したくらいだった。


 きっと、躊躇いを振りきれなかっただろうから。
そして、多分咲夜は、ほむらが躊躇いを見せいていたら、譲歩してくれただろうから。
無理に語らなくてもいいと、情けをかけてくれていただろうから。


 それは嫌だった。


 だから、無意識的に返事をして良かったと思ったのだ。





 咲夜なら、聞いてくれる。理解はしてくれないかもしれないが、受け止めてはくれる。




 今だけは、弱い自分でもいい。他者に過去をさらけ出してしまうような無様な少女でもいい。












 微かに、咲夜は頷く。そして、語り出した。














「私は、昔、吸血鬼ハンターだったの。この稀有な力を持つ故に、そう育てられたのよ」









「誰に?」

 合いの手に、ほむらは問う。ちょっとした驚きと、そこから生まれた素直な疑問のために。




「今もあるかは知らないけれど、少なくとも私が吸血鬼ハンターをやっていた頃には、そういう悪魔退治の専門機関があったの。
場所は言えないわ。今も存続していたら拙いし。まあ、ヨーロッパにあったとまで言っておこうかしら」

「そんなものがあるのね」

「ええ。言わなくても分かるとは思うけど、キリスト教の機関よ。
主の教えに背く邪悪を滅するのが私たちの使命だったわ」





 彼女の充実した武装はそこに所以があるのだろうか。
銃の扱いに慣れていたのも、戦闘訓練の賜物だと思えば不思議ではない。




「私は物心ついた時からそこに居た。
親の顔は知らないわ。教官がその代わりを務めてくれていた。
だから、私は幼いころから吸血鬼を殺すために、ありとあらゆる技術を叩きこまれたわ。
基本的な体術や銃の扱いはもちろんのこと、吸血鬼によく効く武器の作り方まで教わった。
そうして、12になるころには立派な吸血鬼ハンターとして狩場に駆り出されたのよ」

 それから彼女は次々と吸血鬼を駆逐していったらしい。
さらに、吸血鬼だけではなく、悪魔や人狼などと言った、吸血鬼以外の魔物も狩るようになったのだという。
正直、魔女以外にこんなに化け物がこの世に存在していたことが何よりの驚きだった。



「意外と都会にも多いのよ。魔女じゃないけれど、人の悪い感情に取りつく悪魔もいるわけだしね。
そういう感情は、ストレスの多い都会の人間の方がたくさん抱えている。
ニューヨークには何度も足を運んだわ。
ウォール街は多くの人の夢が果てる場所だから」

「魔女もそうなのかしら?」

「かもしれないわね。とにかく、不幸な人が多い場所に奴らは現れるわ。
おいしい餌場なのでしょうね。
だから、私も必然的にそういう場所に向かった。
ニューヨークに限らず、紛争の続いていた旧ユーゴスラビア、通貨危機の起こったタイや韓国、
そして、テロが発生した東京や地震で壊滅した神戸とかね」

 だから、日本語がしゃべれるのよ。と、咲夜は付け足す。





 だがちょっと待ってほしい。
咲夜の言っていることが本当なら、今の彼女は確実に二十代後半の年齢だ。
だというのに、彼女は高校生くらいにしか見えない。



 ほむらがそれを率直に言うと、

「何を言っているのよ、ほむら」



 肩越しに、ちらりとこちらを見ている咲夜の目は溜息を吐きたそうだった。




「私も貴女も、時間を扱うことができるのよ。
自分の肉体の成長や老化を遅めることぐらい、造作もないわ」

 ということは、この人はかなり年上のお姉さんらしい。


 ほむらも外見以上に年齢を重ねてきたが、流石に咲夜ほどではない。


 やっぱり、二人はよく似ている。













「それはともかく、私が吸血鬼ハンターとして最後に狙ったのが、スカーレット。



レミリアお嬢様の首よ」


















 スカーレットという家名は、相当有名らしい。
古くから続く吸血鬼の家系で、その名を聞くだけで誰もが恐れ戦いた。
しかも、レミリア・スカーレットはそのスカーレット家の中でも、最高の素質と実力を兼ね備えた最強の吸血鬼としてその名を轟かせていた。
もう、その吸血鬼を打倒する力を人類は持っていないから、決して勝てないと言われていたほどだったそうだ。



















 ————咲夜を除いて。











 彼女は、レミリアを倒す人間の最後のカードとして期待されていた。
高い技術、豊富な経験、そして何より、時間操作という強大な能力。
人間で唯一レミリアを倒し得る存在であり、彼女が倒れたら人間たちにもうレミリアに対抗する手段はない、とまで言われた。

















「それが蓋を開けてみれば、完敗だったわ。まるで歯が立たなかった。
時間停止の効果は確かにあったけど、あちらにしてみれば、“戦いにくい”程度の認識でしかなかったでしょうね」



 その圧倒的な力に粉砕された咲夜は、それでもレミリアの前で呼吸を続けることを許された。
それは偏に、彼女が咲夜の能力に興味を持ったからにすぎない。




「『お前は面白い奴だ』と、お嬢様は仰られたわ。だから、私は生きることができた。お嬢様の、従者として」





 敗北は死、と考えていた咲夜からすれば、それは意外な結末であり、そして同時に屈辱であった。
自殺しようとした彼女を、吸血鬼は諌めたのだという。






「実際に出会うまで、私はお嬢様のことを、人間たちが築き上げた想像の中でしか知らなかった。
ただひたすらに凶暴で、邪悪な存在だと思わされていたわ。
でも、本当はそうじゃなかった。
あのお方は、非常に高貴なお方。無暗な殺生を忌避されるし、弱者を暴虐で虐げることも良しとしない。
常に自らの在り方に気品を求められている」

 単なるプライドの塊ではないのよ、と咲夜は言う。その口調は、とても誇らしげだった。


「あの方と出会って、私は、恥ずかしながら、初めて真の強さというものを知ったわ。
お嬢様は紛うことなく真実の強者であられ、誰よりも夜の王にふさわしいお方。
カリスマなんて安っぽい言葉で言いたくはないけれど、
それでもあえて使うなら、あの方は間違いなく真のカリスマを備えてらっしゃるわ」

 だから、と繋げながら、咲夜は微かに顎を上げ、天を仰いだ。

「惚れたのよ。惚れ込んだのよ。
そして、私はこの方のために生きて、生き抜いて、死ぬまでこの私の全てを捧げようと、誓ったの。
この名前も、今ここに居る私の『十六夜咲夜』という名前も、お嬢様から与えられたもの。
吸血鬼は十五夜、満月の夜に最も力を発揮するわ。
だから、私はその後ろに控えて、十六夜の月に花を添えるのよ」

















 そう語る咲夜の横顔は、とても美しかった。
暗い街灯の光の下で、それでも彼女の目は輝いていた。







 ほむらは何も言えなかった。
こんな話をされては、閉口せざるを得ない。
「すごいわね」なんて、ありきたりな言葉を吐いて、雰囲気をぶち壊しにしたくはなかった。


 だから、黙っていた。余計なことを言わないように。




 すると、咲夜はさらっと話を締めくくった。

「と、まあ、こんな感じよ。長くなっちゃって申し訳ないわね」





「……いいわ。私の話も、長いから」








 ちょっとずつ回復しているので、ほむらは何とか長話をできる程度には、元気になっていた。

 とは言え、ほむらの心臓は早鐘のように鳴っていた。
まどか以外で自分の話をするのは初めてだ。

 ほむらは気を落ち着かせるために深呼吸をすると、ポツリポツリと語り出した。








「私はね。未来から来たのよ」























                 *







 深夜。





 東南東の空にやっと姿を現した月齢26の月。
その明かりは、日付をまたいで丑三つ時も過ぎ、もうそろそろ早朝と言われる時刻になっても明るい地上の星の光にかき消されてしまっていた。
ただ、夜空にそれが浮かんでいるのが分かるだけ。
この世界において、月は夜の女王ではなく、地上の光に圧迫されて、夜空の片隅で細々と光っているだけの存在だった。




 都会に住む多くの人間たちはそんな月を見上げたりはしない。
視界に映っても注意を向けない。
人はいつの間にか、月を見ることすらしなくなった。










 そんな月を、凋落した夜の女王を、一人の吸血鬼が見上げていた。














 赤い航空灯が点滅する高層ビルの屋上。
落下防止の高いフェンスの外で、屋上の縁に腰を掛けている少女がいる。
足をぶらぶらさせて、紅い瞳に月を映していた。少し肌寒い春の夜風に煽られて、彼女の長い金髪が舞う。



 それだけ見れば幻想的な光景。平凡な画家でも名画が描けそうなくらいだ。


 けれど、そこに居るのは狂気に染まった吸血鬼で、近づく人間を全て喰らわんとする凶暴な獣だった。

















 吸血鬼はワラふ。





 なぜなら、彼女はそれしかできないから。
彼女は泣き方を忘れたから。








 彼女を支えていたものは全て崩れ落ちた。



 彼女の親友にして主人である悪魔の妹は、彼女の悪意が傷つけ、拒絶した。
彼女の大切な後輩は彼女のせいで生きる屍と化した。
彼女の長年の仲間は彼女自身が殺した。



 故に、彼女の心の中には誰もいない。想う人はいなくなった。



 そして、空っぽになった心を、代わりに埋めるのは、狂気。



 少女は狂う。笑って、狂気に身を委ねる。




















第二章完










う〜ん、前半グダグダだった気がががggg

ほむほむの心理描写はもっと削ってもいい気がすぅ。



何はともあれ、さやかちゃんのSGは行方不明のまま、マミさんは壊れたまま、第二章が終わりました。


さて、次からはみんな大好き、あのお方が登場します。

お姉さんな咲夜さんかわいいなぁ


さくほむがなんか良い感じ。こういう風に常識ではあり得ない話をお互いに語り合えるっていうのはいいもんだな。
自分の所業全てに絶望して理解者すら拒絶したあの人はもうどん底だけど。



追記


お月さんの説明です。

↑で、月齢26の月とありましたが、さやかのSGが運送された日から日付を跨いでますので、
月齢が25の月が、跨道橋での事件のあった日の月になります。

2008年の4月から5月にかけて、と言う設定ですので(ほむらがループしてきたのが、4月16日ということになります)、
この間で月齢が25なのは5月1日。
>>595で修正したのは、この月は深夜に昇って、午後の早い時間に沈むため、
日没後には見えないはずだからです。


月は話の中の時系列をはっきりさせるために重要です。
これからちょっと時系列が複雑になるので。


もうマミさんは完全に詰んだな
早いとこ殺して楽にしてやった方がいい
どうせ正気に戻っても自殺しか精神崩壊しかないんだし

まだ人は殺してない……といいなぁ
描写外で民間人殺ってない保証もないし
とりあえず、誰も殺してないのが戻って来れる最大条件だし



ほむほむのカレンダーには31日があるから三月か五月なんだろうが、三月じゃあんな木々が青々してない上に桜も咲いてないし、
五月じゃ六月になった後夏服になってなく雨も一回しか降ってないんだよな
だから四月が一番合ってるんだよな

別に幻想郷の妖怪だって昔のこの程度のやんちゃはしてただろうし大したことじゃない

あの人って、最凶最悪で有名な幻月だったりしてなwwww

sage入れ忘れてた!

俺はマヨヒガ組と巫女組と紅魔館組と天狗組が好きだけどこのメンバーからは出ない気がする

大量投下まじで乙
ただ>>1の時折入れるマミさんの状況に(悪意を感じる)草生やすのが気になってしょうがない

しかし今の時点でここまで壊れてたら、魔法少女が魔女になるという最悪の事実を
知ったときどうなるのか楽しみではある(それまで存在していられるかの問題があるが)

ミストさん「魔法少女は魔法少女で化け物だから、
       吸血鬼という化け物になっても特に問題ないってことにはなりませんよね?」

いやぁ、スカーレットデビルは強敵でしたね…

さやかちゃんが犠牲になってしまったからね…

気品()

フラン「カリスマ?」レミィ「ブレイク!!!って何言わせてんのよ?」を思い出しちまったじゃねぇかよ……咲夜さんのカリスマ発言で



乙マミさん


今朝の地震すごかったですね。
揺れで目覚まして、テレビ付けたら、6弱とかあってビビったww
しかも、震源が阪神大震災に近いし。
幸い、大きな被害はなかったようですが。

テレビで、近くに住む一人暮らしのお年寄りに声をかけるように呼びかけているのを聞いて、
この国もまだ捨てたもんじゃないなあと思ったり。
政府の対応がやたら早くて結構頼もしかったり。






(てんこさん要石お願いします)





>>663
三十路咲夜さんが受け入れられて良かったお。
クーデレ咲夜さん、マジにじゅうなry


>>664
ほむらがデレるとしたら、咲夜さん相手だよなあと思ったり。


>>668
不思議ですよねえ、あのカレンダー。
虚淵さンは何月を想定してたンですかねェ。


>>673
そ、そんなことないですよ(:.;゚;Д;゚;.:)
ほ、ほら、好きな子に意地悪したくなるっていう、アレ・・・・・・・


>>674
魔法少女が化け物かっていうのは、難しい問題。
裏を返せば、人間って何だろう? という哲学の問題なので、簡単に答えられないし、
正しいと言える答えが出るものでもないですね。

吸血鬼は化け物に違いはないですけど。


>>678
>フラン「カリスマ?」レミィ「ブレイク!!!って何言わせてんのよ?」
どこかのSSのタイトル?
ググってみたけど出なかった(´・д・`)

まあ、巷で広まっている、カリスマ(笑)とか、かりちゅまなお嬢様じゃなく、
ちゃんと「カリスマ」のあるお嬢様を書きます!!





第二章行間


















                    *
 













 その日も紅美鈴は門番だった。




 彼女が門番ではなかったのはちょっと昔。
十六夜咲夜がメイドになるまではメイド兼門番兼庭師をやっていた。
その頃はかなりの激務で休む暇もなかったが、別に苦には思わなかった。
美鈴にとっては、偉大な吸血鬼の王の下で働けることが誇りだったからだ。
そして、それは今でも変わっていない。


 現在は、門番兼庭師になった。
何分、メイド長は大変優秀なので、彼女一人で働かないメイド妖精の分まで補って余りあるので、
お手伝いに呼ばれることもなく、従って、あんまりすることがない。
いつもは時々花壇の手入れをして、たまにやって来る訪問者の相手をするだけで、後の時間の大部分を
シエスタに費やしている。
眠くなかったら太極拳の練習でもやっているくらいだ。


 ここが勢力と勢力のぶつかり合う危険な場所だったらそれなりに緊張感のある仕事になっただろうが(戦闘にも自信があるし)、
生憎、平和な幻想郷である。
訪れるのは、近くに棲む妖精たちや、この館の住人の知り合いが何人かだけ。暇なものだ。


























 だが、それは「いつも」の場合である。今は、「いつも」ではない。












 何が起こったのかは全て聞かされていた。
その上で、隠蔽のために美鈴はここに「いつも通り」立たされているのである。
そうして、この館が、紅魔館が「いつも通り」であると振る舞うのだ。
何故なら、美鈴は紅魔館の顔でもあるから。


 今のところそれは成功していた。
事件が起きて二週間弱経ったが、未だにそのことが外に漏れている様子はない。
まあ、幻想郷の各勢力は各々縄張り意識が強い。
その気になれば幾らでも閉鎖的になれるのだ。

 美鈴としては、隠蔽には少し首をかしげる。
ただ、これくらい緊張感があった方が仕事にやりがいができるとも思う。
昔みたいに、ハラハラドキドキとは言わないが、幻想郷は長閑過ぎて些か退屈していたところだったからだ。
もちろん、この事件は早く解決して欲しいと思っているが。




 発端は二週間前、紅魔館の地下図書館で行われていた大規模な魔法実験。
この館の客人と館主の妹が進めていたスキマ妖怪が依頼した魔法の実験。それが、悲劇を生んだ。



 美鈴は直接その場に居合わせた訳ではない。
その時も、例の如く、門番をやっていたからだ。
そもそも、美鈴は余り地下には行かない。行く理由も無い。

 ただ、外に居たとはいえ、美鈴は「気を操る程度の能力」を持つ妖怪。
実験の失敗が起きた時、地下からぐちゃぐちゃになった魔力の波動をしっかりと感じ取った。
そして美鈴が採った行動は、何事も無いかのように門番を続けること。
ちょうどその時、美鈴は妖精たちの相手をしていた。


 紅魔館は、幻想郷にある最大の湖「霧の湖」の真ん中に浮かぶ島に建っている。
その島からは砂州が岸辺まで続いているので、歩いて行き来できる。
そして、この霧の湖は、幻想郷に棲む妖精の半分以上がそこに居を構えている場所でもあった。
その妖精たちの中で、最も力が強い、自他共に認める「最強の妖精」チルノと、彼女とよく一緒に居る大妖精がその時紅魔館の門前に居たのだ。

 何をしていたのかといえば、チルノが新しいスペルを開発したので、美鈴はその腕試しの相手をしていたのだ。
妖精の行動原理は子供そのもので、チルノもその例に漏れず子供なのだが、「最強の妖精」と言うだけあって、
流石に力は結構あった。
弾幕の密度もそこらの妖精と比べ物にならない。
集中を切らせばすぐにやられてしまう。

 だからと言う訳ではないが、美鈴は事故が起きたのを感知しても妖精たちとそのまま戯れていた。
チルノも大妖精もそれが分からなかったらしいので、特に教える必要も感じなかった。



 無視したのは、美鈴が不真面目だからではない。
彼女はあくまでも紅魔館の顔であり、お嬢様の指示があるまでは表情を変えないつもりだったし、
そうするべきではなかったからだ。
館内のことなら、大抵は咲夜が対応するし、もし咲夜の手に余る事態になっても、お嬢様が居る。
どの道、美鈴が出る幕はなかった。




 妖精たちにはちょっとだけ早く帰ってもらった。
にこにこ笑みを浮かべて二人を見送った後、「いつも通り」の門番を続けたのだ。

 お嬢様からの指示があったのはその直後だった。
客人パチュリーの作った通信用の魔法道具(手紙の形をしていて、美鈴の懐にしまってある)が喋った。
曰く、館内に誰も入れるな、と。



 後はその通りにするだけで、その後やって来た天狗やら魔法使いやらを門前払いし、美鈴のその日の職務は終わった。
事情を知ったのはその後だった。










 実験が失敗になった結果、主人の妹、フランドールが消えた。
パチュリーの目の前で起こったらしい。
魔女の取り乱し様が、今まで見たことも無い程ひどかった。
逆にお嬢様の方が落ち着いていたくらいだ。



 次に美鈴に与えられた役目は、魔女の治療。
それほど深刻なものではなかったが、妖怪は精神の生き物、ひどい錯乱は時として命の危機に繋がる。
その予防だった。



 魔女の気を整え、ゆっくりと心を落ち着かせる。
尋常ではないご様子だった。
並みの妖怪なら、これだけ取り乱せば致命傷だっただろう。
だが、そこは大妖怪。
命に別条がない程度の重傷で済んだのは不幸中の幸いだった。
彼女を支えていたのは、まだ妹様がどこかで生きているかもしれないという最後の希望だったのだろう。
逆に、それが折れてしまえば魔女は絶望して死んだか、あるいは再起不能になってしまっていたかもしれない。


 事件後、初めて彼女を見た時、美鈴も驚かざるを得なかった。
元々不健康な生活をしていて、喉が弱く、顔色も目つきも悪いお方だったが、その時の彼女は、
何と言うか、亡者みたいだった。

 顔面はいつも以上に蒼白で血の気がなく、目元にははっきりとした隈ができていて、唇はカサカサの上に紫色、
泣き腫らした目が真っ赤。
美鈴が診た時、すでに魔女は廃人のようで、外界にほとんど反応を示さなかった。

 気を落ち着けた後も、魔女は普段の様子が嘘のように弱々しかった。
お嬢様は、妹様よりもむしろ、そんな魔女の方を心配していたように思う。
それが、自分と同じ強靭な吸血鬼である妹様への信頼か、それとも目の前で苦しんでいる親友の方の優先事項が高かったのかは分からない。
ただ、事件後もお嬢様は妹様のことは余り気にしていない様子だった。







 それが不自然かと言われれば不自然と言えたし、当然かと言われれば当然と言えた。
そういう方なのだ。お嬢様は。

 家族や友人には温かく優しい面を見せることもあるが、同時に非常に厳格で冷徹な吸血鬼の王でもある。
それなりに付き合いの長い美鈴は、そんな彼女の反応を何パターンか予想できた。
現実の反応は、その内の一つだったから、特に不審には思わなかった。







 ただし、それはあくまでもお嬢様の事件に対するリアクションだけの話である。
その後のことは、流石に首を傾げるようなことが幾つかあった。






 例えば、このことを公表しないこと。
裏でお嬢様の友人であるスキマ妖怪が動いていたのは知っていた。
妹様の捜索は彼女に任せているらしかった。

 ただ、決して小さくない事件である。
少なくとも博霊の巫女の耳には入れておくべきだったと思う。
しかし、巫女にはそんな様子はなかった。
事件後、一度巫女の方から紅魔館にやって来たことがあった。
何故来たかと言えば、「最近宴会に来ないけどどうしたの?(意訳)」だそうだ。
事件のことを知っていたらそんな反応にはならなかっただろう。




 美鈴に与えられた役目。それは、外から来る相手のシャットアウトである。
人妖問わず、誰も館内に入れるなとのお達しだった。
特に、魔法使いと天狗には気取られるな、と。





 対外向けの言い訳は、「魔女が大規模な魔法実験に失敗して負傷した上、館内もめちゃくちゃで、しばらく修復に時間が掛かるから誰も入れなくなった」である。




 どうせ、あの実験失敗の時に漏れ出た魔力は隠しようがない。
特に気にするのは白黒魔法使いと記者の天狗だろう。
魔法使いは単にお見舞いで来るだけだからまだいいとして、天狗の方は取材と称して確実に探りに来る。
そこでお嬢様が採った方法は、敢えて自らその取材に応じることだった。









 紅魔館の庭で、咲夜と共の取材に応じるお嬢様。決して館内に天狗を入れなかった。
その天狗、射命丸文はそのことが不満だったようだが、一応はオープンな姿勢を見せるこちらに対し、
それ以上突っ込む理由が無かったのだろう。
大人しく引き下がった。
もう後は、記事にするようなことは無い。
表向き、パチュリーが回復したかしないかが話題になる程度で、そんなものは紙面の一部に記事でも載せれば済むことだからだ。

















 さて、この事件もそろそろ解決の兆しを見せてきた。
というのも、スキマ妖怪が妹様の居場所をおおよそ特定したからである。
そのため、数日前に妹様の迎えに咲夜が派遣された。

















 不審な点、その二である。















 妹様の居場所が分かったなら、そのままスキマ妖怪が連れ帰ってくればいいだけのことだ。
なのに、何故わざわざ咲夜を派遣するのだろうか?



 一応、その理由と言うのは説明された。
なんでも、外の世界では妖怪は十分に力を使えないため、人間である咲夜が適任なんだとか。
それなら、スキマ妖怪なら力技で何とかなりそうな気もするのだが……。













 だが、主の言うことだ。
美鈴は敢えて追求するようなことはしない。できない。
とにかく咲夜が妹様を迎えに行った。
二人が帰って来れば一件落着である。
魔女の体調も快方に向かっているし、すっきり片付くだろう。











 だから、今日も今日とて美鈴は門番を勤める。









 すでに日は高く、春らしいポカポカとした陽気が地上を包んでいた。
天気もすっきり晴れていて、霞はあるが気持ちがいい青空が広がっている。




 背後に目を向けると、そこには紅い館を背後に、春の化粧を施した自慢の庭が視界に飛び込んで来る。





 花々はこれでもかと言うほど色鮮やかに咲き誇り、ゆらゆらと心地良さ気にそよ風に吹かれていた。
庭は庭師も兼任する美鈴が毎日細目に手入れしているので花壇は色とりどりの花で一杯だった。
この子たちが幸せそうに咲いていると、こっちまで努力が報われた気がする。





 門から正面玄関へ、庭を縦断する道の両脇には菜の花やタンポポが植えられていて、その花弁は黄金に近い黄色に輝き、
マリーゴールドはオレンジ色や黄色い花に日光を浴びせて、オオイヌノフグリは小さな花びらを深い青色に染めていた。


 一昨年植えたばかりのユーカリの木(お嬢様が変わった植物を植えたいとご注文されたので、
ちょっと珍しいユーカリをスキマ様経由で手に入れたのだ)はもう立派に成長して、白い雄しべのたくさんついた花を咲かせている。
すぐに枝が伸びるので、細目に剪定しなければならず、手間が多いが、その分、切った枝や葉の用途も豊富だ。



 その下、西側から夕日が当たらない場所には黄色や白のチューリップが風に揺られている。
チューリップはあまり日当たりが良すぎるとすぐに花が咲き終わってしまうから、この位置に植えたのだ。
今はいい感じに咲いてくれていて、近くにある背の低いマリーゴールドとの対比が素晴らしい。

 チューリップの花壇から小道を挟んで反対側には芝桜が広がっていた。
緑の上に、やや紫がかったピンクの花が乗っかっている。
グラウンド・ピンクと言う別名がぴったりで、それだけで地面が彩られていって、
思わず、このピンクの絨毯に飛び込んで甘い花の香りに包まれたくなる。




 庭の隅には桜の木が植えられている。
もう花見の時期が過ぎて、すっかり花を散らしてしまい、残花と新緑が混ざって多少見栄えが悪くなってしまっているが、
それが逆に季節の移り変わりを教えてくれていた。
これから新緑の若葉が庭の端に添えられることになるだろう。


 門の傍に置いてある鉢からはアサガオが若草色の蔓を伸ばし始め、キュウリやナスといった夏に花を咲かせる植物も芽を出していた。

 さあっと風が吹き、花々がゆらゆらと揺れる。
同時に、辺りを芳しい春の匂いが舞い上がり、美鈴は思いっきり息を吸ってその匂いで肺を満たした。
長い赤髪ともみあげの三つ編みも風に漂わせ、美鈴はゆったりと目を閉じる。



 目蓋の裏にも鮮やかな庭の色が浮かぶ。
鼻腔を花の香りが刺激するのを感じて、自然と口元が緩む。
今年も綺麗に咲いてくれた花々に感謝しつつ、もう一度大きく息を吸い込んだ。





「うわあ。すごいですね〜」

















予想の斜め上を行くまさかの行間。まさかの門番。



花の知識はテキトーにネットで調べて来たものなので、間違っているところが多々あるかも。

イギリスの貴族という設定なので、イングリッシュガーデンにしようかとも思ったんですが、
難しくてよく分かりませんでした。
なので、ユーカリがあったり桜があったり、割といい加減ですw




さて、声を掛けて来たのは誰でしょう???


東方で美鈴に敬語使いそうなキャラが非戦闘キャラ以外だと早苗さんと文と妖夢ぐらいしか浮かばない
文かな


美鈴って二次で結構扱い分かれるキャラだよな
かませだったり、普段は昼行灯だが実は咲夜さん並の実力者でおぜうさまの腹心の一人だったりで
妹様とのカップリングも多いわで役割が分かれる

おつおつ
オオイヌノフグリとか…いやらしい…

乙!
>>692
むしろ美鈴って原作設定どんな感じなの?
二次創作でしか東方は知らない自分の中では近接格闘なら最強だったりドラゴラムしたりするイメージになってる

この話しかけて来た人が”外”に行くのか?

>>694
紅魔館の門番で中華風の妖怪(公式)。つまり何の妖怪かは登場から10年以上経っても不明
能力は”気”を使う程度の能力(気功的な意味で)で全6ステージ中3面ボス(咲夜さんは5面ボス、フランは隠しボス)
武術が得意で弱点らしい弱点もないけど秀でた能力もない(人間だと武術の達人でも美鈴に勝つのはきつい)
暇なときは門番しながら太極拳やってたり昼寝してたり花畑の世話してたりと結構穏やかで気さく
↑ここまで公式

設定があまり明かされない東方キャラ全体でも種族自体が明らかになってない珍しいキャラなので
実力隠してるだけで実は超強い!とか実は龍族(東方では龍=神様)なんだよ!とかの二次創作も多い

前の方でテレビに守矢のことやってたから早苗とみた

めりーんは雑魚相手には強いけど、一線級に行くとイマイチ器用貧乏なサザンドラのような存在

咲夜さんにいじめられてる可哀相なのまでいるからな

というかそれは咲夜さんがドSからポンコツPAD長までキャラがぶれてるせいもあるんでは

くれないみすずにまつわる諸説

呼び鈴の妖怪説→説得力があり人気
メイドを呼ぶためのベルの妖怪説→御嬢様の使ってきたベルが妖怪になったという説。メイレミ妄想が捗る
キョンシーの妖怪説→以前は人気があった。しかし芳香の登場で不人気に
龍や麒麟の妖怪説→強みすず支持派に人気がある
パンダの妖怪説→大穴。一部でカルト的な人気がある

他に明確な種族がよくわからん東方キャラって精々ルーミア(闇の妖怪)とレティ(冬のry)ぐらいなんだよなあ
後はハーフの霖之助?(何の妖怪のハーフかは不明)

あと住所不定のフラワーマスターと鈴蘭毒娘もだろう

たしかレティは雪女の類いじゃなかったか?

書籍の方で「判りやすく言えば、雪女の一種である。」って書かれてるねえ

美鈴に関して言えば基本>>698の認識で間違ってないと思う
まあ東方で紅魔館に用がある強い奴って大体知り合いだし門番としては十分機能してる…はず

>>678の発言した奴だけどあの
フラン「カリスマ?」レミィ「ブレイク!!!って何言わせてんのよ!?」
はいえろーぜぶらが出してた東方M-1ぐらんぷりの第六回でのスカーレット姉妹のネタの最初の方にあった発言だよ




つか東方M-1まじでツボにはまるわ

やべっsage忘れたわ

俺も忘れてた

落ち着け、sagaになってるぞ

初めてのレスですのでご勘弁を



>>691
惜しかった!


>>693
そう言えばそうだったw
金○とか、ヤラシイ///


>>697
あれはそういう意味ではなく、別の複線だったりします。


>>701
>呼び鈴の妖怪説
クーリエにあった、七つの大罪をテーマにした紅魔組の話を思い出した。
そこで、確かめーりんは呼び鈴だったはず。
でも、個人的にはうそっこおぜうの時みたいな中途半端な竜っていう説のが好き。

ここでは特に設定してません。


>>703
フラワーマスターは、一応「花の妖怪」では?
鈴蘭は設定明らかになって内っぽいけど、付喪神に近い感じ?


>>706
見て来たwww
家燃やすなやwwww

ラブホに吹いたw


では、ぼちぼち書いてきます。








                  *







 背後から、少女特有の、若くて元気のいい声が聞こえた。
目を開け、息を吐いて振り返ると、そこに居たのは幻想郷のニューカマー。



 名は、確か「コチヤ サナエ」。漢字は……どう書くんだっけ?




「いらっしゃい。守矢神社の子でしたよね」

 はいっと、少女は元気よく、太陽に負けないくらい輝いた顔で返事する。



 この季節に合った新緑の長い髪。蛙と蛇の髪飾りが目に付く。
白を基調としたノースリーブに青地のスカート、そして分離した袖。
どうして幻想郷の巫女は脇を出したがるのだろう?(正確には風祝と言うらしいが)





「そう言えば、こちらに来るのは初めてですね」


 早苗(確か名前はこんな字だった気がする)は相変わらず邪気のないキラキラとした目で美鈴を見つめる。

「改めて自己紹介しましょうか。私は、紅魔館で門番と庭師を勤めている紅美鈴です」

「東風谷早苗です。東に谷に風と書いて『コチヤ』、早いと苗で『サナエ』と書きます。以後改めてよろしくお願いしますね!」

 ぺこりと早苗は頭を下げた。本当に礼儀正しい、いい子だ。



 こういう、明るい子と話しているとこちらまで元気になれる。
なんて、年寄臭いことを思ってしまった美鈴だった。




 彼女は、彼女の信仰する二柱の神と共に、神社ごと幻想郷に引っ越してきた。
なんと、湖のオプション付きで。

 それだけでも大変な騒ぎなのに、その上引っ越してきた場所が天狗の牙城、妖怪の山であり、
しかも引っ越し早々、恐るべきことにあの博霊の巫女に喧嘩を売ったのだ。
そこで勃発したのが守矢異変である。

 彼女の神社に居る神々はこの島国ではかなり有名な神様のようで、彼女たちがやって来た時には、
その鮮烈な幻想郷デビューも相まって、それはそれはすごい大騒ぎになった。
到る所で彼女たちの噂が囁かれ、美鈴もいろんな人妖からうんざりするほど聞かされたのはいい思い出だ。
しかも、その中には直接異変に赴いた白黒魔法使いも含まれていたというオチ。

 白黒は有ること無いこと、いろいろと誇張して美鈴に得意げに語っていた。
多分、幻想郷中に居る知り合いにそう語っていたのだろう。
まあ、いつものことなので話半分に聞いていた美鈴だったが。




 その後、山の勢力と和解した守矢はそこで信仰を集め、無事幻想郷に定着した。
それが半年前の、去年の秋のころの話である。








 さて、その守矢と紅魔館に繋がりができたのは丁度その頃のことだった。
異変の後、博霊神社で例の如く開かれた宴会にて、我が主、レミリア・スカーレットと守矢の祭神の一柱、八坂神奈子が、
気が合ったのか、打ち解けた。
以後、二人の親交は今日まで続いている。



 片や高位の悪魔、片や高名な神である。
本来なら敵対してもおかしくないような種族の違いがあるが、共に武勲に優れ
(お嬢様には吸血鬼の王としての権威を裏付けるほどの力があり、八坂の神も軍神として祀られている)、
一勢力を率いる主人であり、かつては統治者でもあった二人は、それなりに共感する所が多いのだろう。
特に、お嬢様は強い相手がお気に入りらしく、力ある者同士の繋がりを重視する。
ただ、そのような打算を抜きにしても、二人の気が合うのは確かなようだ。
気が付けば、親しげに話しながら酒を飲み交わしていた。





「それで、御用件を伺いましょう」



「あ、実はレミリアさんにお会いしたいのです」





 純真な笑顔でそう言う早苗。美鈴は少しだけ困ったような顔をして見せた。


「ええとですね。わざわざ御足労して頂いて申し訳ないのですが、ただいまお嬢様とはお会いできないのですよね」

 そこで早苗の表情が曇り、戸惑ったような顔になる。

「えっと、お出掛け中ですか?」

「いえいえ、そういう訳じゃないんですけどね」

 こんないい子に隠し事をするのは気が引ける。
ただ、仕事は仕事だ。
あまり乗り気はしないが、美鈴は表情を作ってマニュアル通りの返答をする。



「実は、今館の中でトラブルが起きていまして、中に誰も入れないんですよ」

「あ……! 確か、図書館の魔法使いさんがお怪我をなさったとか。新聞で見ましたよ」

「そうです。それです」

 その新聞と言うのが、射命丸文の発行する「文々。新聞」だろう。
これで「ぶんぶんまるしんぶん」と読む。


「まだ、お怪我が治らないのですか?」

 心配そうに尋ねてくる早苗。何だか、すごく心が痛む。



 有能だけど性格がアレなメイドさんと交換すればいいリフレッシュになりそうだ、
と美鈴は心の中だけでかなり失礼なことを考えつつ、

「ええ。まあ。ただ、快方に向かっているので、もうすぐ治りますよ。
お嬢様も大事を取っているだけなので、そこまで心配する必要はないです」

「そうですか。ああ、でも、それじゃあ今日のところは無理ですね……」


 残念そうな顔をする早苗。
と、用件を大体察した美鈴は提案する。






「用事って、ひょっとして、八坂神奈子さんからですか?」


「え? あ、はい。そうですけど」

「伝言か、渡す物があるなら、私がお嬢様に取り次ぎますよ。
こちらの都合で無駄足になっちゃいけませんから」

「え、えーと」

 と、逡巡する早苗。だが、すぐに意を決したような顔になる。
なんだか仕草がいちいち初々しくて微笑ましい。


「分かりました。それでは、これをレミリアさんにお渡し願いますか?」

 そう言って早苗が懐から取り出したのは、一通の封筒。
「八坂神奈子より」と表に達筆な墨字が書かれている。


「はい。じゃあ、お嬢様に渡しておきますね」

「お願いします!」

 と言って、また早苗は元気よく頭を下げる。
その頭が上がるのを待って、美鈴はもう一つ尋ねた。




「今すぐの方がいいですか?」

 美鈴としては、あまりこの場を離れたくない。
急ぎの用事でないなら、夜に渡してもいいだろうと思う。


「いえ。別にそういう訳ではありませんけど、出来るだけ早く返事が欲しいと、神奈子様は仰っていましたから、
お返事は早くに頂けると助かります」

「分かりました。それでは、明日のこの時間にまたお越しください。
その時、お返事させていただきます」

 そう言って美鈴は完璧な営業スマイルを浮かべた。



 早苗も表情を明るくして元気よく返事をして、それから……、



「あの、ところで、ちょっといいですか?」


 まだ何かあるのかと美鈴が首を傾げる。

「何でしょう?」

 キラキラと輝く早苗の目と美鈴の目が合う。





「お庭、少し拝見させて頂いても宜しいですか? お花が綺麗なので」


「どうぞ! お好きなだけ見ていって下さい」




 今度は、美鈴も心からの笑顔を浮かべることが出来た。

















短いけど、今日はここまで。




まだ、綺麗だったころの早苗さん。
純真無垢、天衣無縫、天真爛漫なお嬢さんですw


ちなみに、神奈子様からのお手紙の内容は、
「宅飲みしようぜ!!」
です。

何分、メールも電話もないので・・・・

乙ー
今月の茨を見るに早苗さんは今でも純粋な良い子やで(憤慨)
風神録から半年後ってことは時期的には儚月抄前後?

乙です

おつおつ
早苗さんは2p巫女じゃないよ!よ!

なんつー神様にあるまじき手紙の内容
(まぁ幻想郷のお偉いさんも似たようなもんか)

綺麗だった頃って・・・今は酷いみたいな言い方は止めようよ!
早苗さんは昔も今も根っこ部分は全然変わってない良い子だよ!

何言ってんだ?今となっては幻想郷の奴らより変な思想に侵されてしまってるじゃないか

ニューカマーね…早苗さんって男の娘だったのか( ゚Д゚)

別に今の早苗さんは常識がないサディストってわけじゃないんだ
巨大ロボとかオカルト雑誌とかが好きで幽幻道士とかかじってたりする、ただ毒されやすいだけの純粋な子なんだよ!
なお公式のキャラ紹介で皮相浅薄(表面的で薄っぺらい・要はにわか)と書かれた模様

そういえば別の東方×まどマギSSでもあったけど、鍵山雛がいればソウルジェムの穢れは全部吸い取ってくれるんじゃ?




>>719>>723
これは失礼しました。
影響受けやすい純粋っ子なんですよね、早苗さん。

白は何色にも染まりやすいって、白の魔法使いも言ってましたし。


>>721
今では強烈な個性を獲得しましたもんね。
まあ、当時は「この幻想郷では常識に囚われてはいけないのですね」と言う前なので・・・・


>>725
まさかその言葉からそんな発想をするとは・・・・
妄想力すごいww


>>727
早苗さんが見滝原行くやつでしたっけ?

結論から言うと、無理なんじゃないでしょうか。
求問口授によれば、「厄」とは、不運の幽霊らしいです。
不慮の事故とか、病気とかを呼び寄せてしまうものです。
要は外部的な要因。
一方、「穢れ」は(これが厄介なんですが)、SGに溜まる、魔法少女が生み出した「負の感情から出て来たもの」
と考えてもいいわけです。
負の感情を抱くとSGは濁るので。
こちらは、内部的な要因。
起こす結果はよく似たものでも、出が異なる。
だから、雛さんにはお門違いではないかと。
(あくまで1の個人的な見解です)


ところで、もうしばらく行間が続きます。








                  *







 それから美鈴と早苗は紅魔館の庭で花を見回りながら楽しくお喋りをした。
早苗は少し花の知識があるようで、随分と美鈴との話が弾んだ。
そして、幾種類かの花の種を分けることを約束して、早苗は「ありがとうございました〜!!」と言って
帰って行ったのが三十分ほど前。





 再び美鈴に暇な時間が訪れた。









 と思ったら、そうでもなかった。







 遠くから黒い点が近づいて来る。気配は一番来て欲しくない相手を示していた。



 その点はあっと言う間に一人の少女として目の前に現れる。
一陣の風が吹き、美鈴の髪を乱して降り立ったのは、件の天狗、射命丸文だった。

 カラスのように黒いショートボブに、背中から生えているカラスのような羽。
早苗より幼く見える整った顔立ちに、それなりに女性らしい体つきが少しアンバランスで魅惑的だ。
種族は鴉天狗である。



「こんにちはっ! いい天気ですね」




 こちらも少女のように元気よく挨拶する。
顔に張り付いている笑顔も若々しくて明るいもの。
だけど、先程の早苗のそれと比べて、気分が良くならないのはなぜだろうか? 
やっぱり、心からの笑顔とそうじゃない笑顔と言うのは、違いが分かるようだ、と美鈴は射命丸文に返事をしながら考えた。


「文さん! 今日は暖かくていいですよね」

「いや〜。最近はポカポカして気持ちがいいですよ。ここのところ幽香さんの機嫌も良くて、こっちは大助かりです」

「また幽香さんに怒られるようなことしたんですか? そのうち本気でぶっ飛ばされちゃいますよ」

「あ、あははは。そんなことは無いんですけどね。仲良くやってますよ」




 歯切れ悪く笑いながら、後頭部を掻く文。
天狗が喧嘩を売って歩いているような、この天狗は、そこら中でトラブルを引っ掻き回すのが特技だった。
ただ、近頃は平穏な日常に少々辟易しているらしい。
言い換えれば、大人しいのだが。


 そんな文の様子に、美鈴も苦笑いを浮かべる。

「それならいいんですが。ところで、またネタ探しですか?」

「そうです。最近は面白い話題が少なくて……。平和なのはいいんですけどね〜。
新聞大会も近いのに、どうしましょう?」


 やれやれというふうに大げさに肩をすくめた文は、そこで美鈴の背後の花壇に目を向けた。


「そう言えば、幽香さんが今年の紅魔館の庭は見物だって言ってましたよ。
なるほど、これはすごいですね」

「でしょう? 今年は結構気合を入れて手入れしたんですよ」


 得意げに胸を張る美鈴。
花の大妖怪、風見幽香のアドバイスもあって今年の庭は歴代最高の華やかさを誇る(と美鈴は自画自賛している)。



 文も女性だ。花には魅かれるのか、「ちょっと見て行っていいですか?」と尋ねて庭を回る。
ただ、本気でネタに困っているようで、しげしげと花を見ながら手元の手帳に何かを書き込んでいた。







「これ……」




 しばらくそうやって花見をしていた文だが、不意に立ち上がって美鈴に声を掛けて来る。




「『ガーデニングの極意』とかって特集組んで、記事にしたらどうでしょう?」



「……需要ありますかね?」

「あると思いますよ。白玉楼の妖夢さんとか永遠亭や守矢神社とか。あと、幽香さんにも」

「私の知識には結構、その幽香さんの受け売りが入っているんですよ。でも、それはいい案ですね」

「ですよね!」


 キラキラと目が輝く文。
根っからのブン屋なのか、記事になるようなことへの関心は無茶苦茶高い。
いろいろと煙たがられることも多い文だが、美鈴はこんな文の新聞への情熱は結構好きだった。
それが加熱し過ぎてトラブルの元となることもしばしばあるのだが。



「ああ、でも、ガーデニングの知識と言っても、かなりありますよ? 
季節によっても違うし、花ごとの注意事項もあるし、何より、庭にどれだけ綺麗な花壇を作れるかは、
個人のセンスによりますしね」



「いえ。ご心配なく」



 きっぱりと文は言い切る。


「連載を組めばいいだけですし、センスについても美鈴さんの主観でいいのでアドバイスがあれば記事になりますよ」

「そうですか。そんな物でいいんですかね?」

「ええ。構いませんよ」

「分かりました。取材に応じます。けど……」


 ちらっと美鈴は紅魔館を見る。文もそれを察したみたいだ。





「都合のよろしい時で構いません」




 そう言ってにっこりと満点スマイルを浮かべた。
まるで気にしていないようだが、文が本当に取材したいのは紅魔館の中に居る主や魔女だというのは、美鈴も手に取るように分かっていた。
ただ、彼女は踏み込めない。












 理由はいくつかある。




 一つは紅魔館が文々。新聞を定期購読している、ということ。
さらに、紅魔館と揉め事を起こせば、彼女の所属する妖怪の山でもその責任を追及されてややこしいことになること。
文だって、ちゃんと引き際は弁えている。
いやむしろ、文の方が紅魔館の誰よりもそういうことはよく分かっているのだろう。



 射命丸文は、こう見えて齢千を数える大妖怪だ。
紅魔館最年長のお嬢様の倍は生きているのである。
当然、老獪さはそこらの若輩とは比べ物にならない。
駆け引きなら、それなりに得意な美鈴も敵わないだろう。
それに、弾幕ごっこでも勝てる気がしない。
唯一自信があるのは体術ぐらいだが、圧倒的な速さを持つ文には美鈴の拳は掠るのがやっとかもしれない。






 それから文は美鈴と取材の段取りを決めて、あっという間にかっ飛んで行った。
流石、自称「幻想郷最速の記者」である。










 騒がしい天狗が去り、再び静かな時間が訪れた。




 日は南天を過ぎ、西の空へと傾き始めている。
早苗と文の相手をしていた美鈴は、少し遅めの昼食を摂ることにした。


 いつもは咲夜が昼食を届けてくれるのだが、生憎彼女はいないので、美鈴は朝自分で作ったお弁当を広げた。
ちなみにメニューはチャーハンだけ。あまり動かない仕事なので、これだけでも足りるのだ。



 料理全般の腕はすでに咲夜に抜かれてしまった美鈴だが、中華料理だけはまだ勝っていた。
得意料理はチャーハンである。
尚、咲夜もおいしいチャーハンを作るのだが、味付けが薄くて美鈴には物足りない。
濃い目に味を付けるのが美鈴の好みなのだ。





「いただきまーす」






 アツアツ、ホカホカのチャーハンを食べ始める。
能力で“熱気”を操作して冷めないようにしていたのだ。
おかげで、出来たてそのままの美味しいチャーハンを食べられる。
やっぱり、冷めちゃうと美味しくないからね。



「ん〜、おいひ〜」


 ホクホクと一人でチャーハンを食す。今日も最高の出来だ。




 ここしばらくチャーハンしか食べていないが、味付けを変えることで飽きを防いでいた。
それができるくらい、美鈴のチャーハンのレパートリーは多いのである。













 と、また近付いて来る気配を感じた。この感じは……、





「よう美鈴! 美味そうだな!」








 そう言って箒に乗って現れたのは、魔法の森に住む「人間の方の」魔法使い、霧雨魔理沙。
いわゆる白黒である。



 黒くて大きなとんがり帽子に、黒い服と白い前掛け。見た目は魔女そのもの。
図書館の魔女より魔女らしい。
ただし、それは外見だけで、中身は半ば強盗と化している。


 昔は妖精と変わらない精神の持ち主だったが、最近は見た目と共に、ちゃんと人が物を食べている時に砂を巻き上げない、
という気遣いができる程度には成長したらしい。
ゆっくりと美鈴の前に降り立ち、ずかずかと近寄って来る。


「最近チャーハンばっかり食ってないか? 咲夜に『チャーハン地獄の刑!!』とかやられてるんじゃないだろうな」

 そう言えばここ数日、美鈴が昼食を食べている時に魔理沙と合うことが多い気がする。
多分、たまたま時間が合うのだろう。
もとから魔理沙は昼ぐらいに来ることが多かったからだ。



「違うわよ。最近咲夜さんが忙しいから自分で昼食作ってるの」

「……ああ。そっか。パチュリーの看病してるんだっけ? 咲夜は。でも、お前チャーハンしか作れないのか?」

「まさか。ただチャーハンが手軽で好きなだけ」

「へえ。一口いいか?」


 そう言って遠慮なく貰おうとする魔理沙。
つくづく厚かましい人間だが、どうしてか憎めない。
遠慮が無いように見えて、ちゃんと気遣いができるからだろう。



 美鈴はチャーハンをすくって、レンゲを魔理沙に差し出した。

「ん。サンキュ」

 魔理沙はパクリとレンゲごとチャーハンを食べた。
美鈴がレンゲを魔理沙の口から抜くと、白い陶器でできた匙が自分のじゃない唾液で濡れていて、
なんだかアレだった。


「あふいは。さっひふふっはのは?」

 行儀悪く食べながら喋る魔理沙。
多分、「熱いな。さっき作ったのか?」と言いたいらしい。
美鈴は呆れたように溜息を吐いた。


「食べてから喋りなさい。熱いのは、私が気を操って『熱気』を閉じ込めたからよ」


 モグモグ、ゴクン。魔理沙は口の中のチャーハンを飲み込むと、満面の笑みを浮かべた。



「すごい美味かったぜ。ありがとな」


「どういたしまして」





 美鈴はチャーハンを再び食べ始める。
それを、魔理沙は物欲しそうに眺めていたが、美鈴が黙っているとやがて別の方に目を向けた。




「そういや、パチュリーはまだ治らないのか?」


「快方に向かっているわ。でも、お嬢様は大事を取ってゆっくり休ませることにしたのよ」


「そうか。……妹の方は大丈夫なのか?」


「……妹様? ええ。ご心配なく。あの方は吸血鬼だから、多少のことは平気よ」


「そうだったな。パチュリーと一緒に仲良く引き籠もっているから、てっきり体が弱いのかと思ったぜ」













 …………あんまり、他人には言われたくない一言だ。



 美鈴はあまり妹様、フランドールのことは詳しくない。
そもそも、普段外に居る美鈴と、一日中地下に引き籠もっている妹様は接点自体が少ない。
だから、彼女のことはよく分からない。
まあ、性格が悪い訳ではないらしいが。


 とはいえ、それを身内以外に堂々と言われるのは気持ちがいいことではない。
まあ、その辺りが魔理沙の未熟なところだろう。



「ん〜。まだパチュリーが治らないなら、私も中に入れないな。今日のところは退散だぜ」

「結局、何しに来たのよ。チャーハン食べに来ただけ?」

「いや。別に用が有った訳じゃない。ただ、飛んでたらここが見えたから寄ってみただけだ」








 これだ。いかにも魔理沙らしい理由だ。


 しれっとした顔で言っているが、内心はパチュリーが心配で来たに違いない。
ここのところ、しょっちゅう紅魔館に顔を出していたからだ。




 普段は、「死ぬまで借りていくだけだぜ」なんて屁理屈こねながら紅魔館の図書館に押し入って本を強奪して行くくせに、
こういう時はいろいろ気を回すみたいなのだ。
これが、彼女なりの優しさの表し方なのだろう。
根っこは善人なのだ。捻くれてるけど。


 美鈴は小さく息を吐く。



「ま、パチュリー様が回復したらちゃんと教えてあげるわよ」


「べ、別にいいぜ」



 なぜそこで赤くなってそっぽを向く。何で照れる? 




「それと、頼んでくれたらチャーハン作ってあげるわよ」



 ガバッと魔理沙が振り向いた。今度は目が爛々と光っている。


「ほんとか!?」

「ええ。ただし、客人としてちゃんと門から入ってきたらの話」

「分かった。また来た時に頼むとするぜ」


 じゃあな! と元気良く、嬉しそうに魔理沙は箒で飛び立っていった。










 良かった。チャーハンの友ができた。


 安堵する美鈴。
なぜなら、お嬢様も咲夜も濃い味付けの美鈴チャーハンがあまり好きではないからだ。
咲夜の薄めの味付けのチャーハンは、お嬢様の好みなのだ。

 それが美鈴には残念でならなかった。
魔女や妹様はもともと脂っこい物は食べない方だったし、あのチャーハンを美味しいと言ってくれるのは
図書館の司書兼(以下略)の小悪魔ぐらいなものだったから。




 それからすぐにチャーハンを食べ終わった美鈴は、さっそく眠気に襲われた。





「ふああ」






 大きな欠伸を一発。グッと大きく伸びをして、門の前に椅子を置き、そこに腰を下ろす。
そして、外壁に背中を預け、シエスタ開始だ。




 もちろんサボっている訳ではない。
こんな心地良い日にはお昼寝をしなければならないのだ。
きっとどこかの神様がそう仰ったのだ。だから寝る! 


 ついでに言えば、シエスタを妨害する最大の脅威たるメイド長が出張中なので、ゆっくり安心して寝られる訳なのだ。

 別に寝たからといって何かが起こる訳でもない。
寝ながらでも門番の役目をこなせるほど、美鈴は気配に敏感だった。
もし何かがあればすぐに目が覚める。
場合によっては寝ながら対応できる。




 と言う訳で、おやすみなさい……………………。
















 ……………………………………。





 ………………………………。






 …………………………。






 ……………………。






 ………………。





 …………。





 ……。

















 それから一時間、二時間と経過し、温かい午後の日差しの下、美鈴は熟睡していた。


 だからと言う訳ではない。
ただ、美鈴のシエスタが妨げられるのはある意味当然の結果と言えた。
なぜなら、彼女は気配に敏感だったから。



















「ッッッ!?」





 それは突然起きた。同時に美鈴も飛び起き、全速力で館の中に飛び込んで行く。

 館の中から発せられた、強烈な魔力の波動。地下の、図書館の方向からだった。



 その魔力の波動は、美鈴がよく知るものだった。つい二週間ほど前にも感じたものである。
その時と状況が似ていたのに、美鈴がすぐに館に飛び込んだのは、中に咲夜がいなかったからだ。


 大規模な魔法実験の失敗ではない。その時のように、乱雑に撒き散らされた感じはしなかった。
今度は、ちゃんと秩序だった魔力の流れ。つまり、何らかの大規模魔法が成功した証しである。
現在、紅魔館の中でそれができるのは、たった一人。







 そう、その魔力を発したのは療養中の魔法使い——パチュリー・ノーレッジに他ならなかった。













今日はここまで。

新聞大会の時期とか、すごい適当です。

おつおつ
シエスタ(常時)ですねわかります

乙です
美鈴はいつもどうり寝るんですね(笑)

逆に美鈴がシエスタして無い時の方が珍しい気が

公式で業務中にサボって図書館で寝てるのが明らかになっちゃったからね、仕方ないね
あ、乙でー


見滝原では大変なことになってますが、幻想郷は今日も平和です。
二次創作では印象の悪いキャラになることも多い文や幽香もだいぶおとなしめのようで何より。

確か元々は外と行き来をする為の魔法を試してたんだよな?
って事は、引き入れる方をやったんだとすると……まさかアレが来るのか?一応魔翌力の塊でもあるみたいだし

なんか2、3日くらいVIPに入れなかった

ようやく帰って来たぜなんか鯖落ちのメッセージが出てて大変だったぜ

何故誰も来ないんだ?

たぶん>>1が気付いてないだけ



復活したみたいなので投下していきます。


>>748
>確か元々は外と行き来をする為の魔法を試してたんだよな?
そうではなくて、博麗大結界じゃない方の結界(幻と実体の結界)を補強するための魔法の実験です。

全スレ>>641
>すなわち、幻想郷を幻想郷足らしめている二重の結界の一つ、常識の結界に作用するような魔法を〜
とありますが、これは博麗大結界のことで、
>>1のミスで取り違えていました。
本当は、幻と実体の結界の方です。
ミスが目立って申し訳ありません。


では、行間最後のパートです。










                     *








「あ!」






 ピクン、と犬みたいな白い尻尾が立った。
モフモフとしていて触り心地が良さそうな尻尾だ。
もっとも、その持ち主は絶対に触らせてくれなそうだが。





「何が見えたの?」



 射命丸文は、傍らで紅魔館を覗いている白狼天狗の犬走椛に尋ねた。



「紅魔館の門番が走って中に入って行きます。かなり焦ってました」


「そう」



 声を大きくする椛に、ただ文は淡々と返しただけだった。
それが不満なのか、椛は少し眉を寄せるが、文はそれに見向きもせずに、考え込むように顎に手を当てる。


 そこは、妖怪の山の麓に立っている大きなナラの木の太い枝の付け根。
文と椛はそこに居るのだ。紅魔館の監視のために。

 昼間に美鈴の元を訪れた文は、その後「取材」をしてこの場所にやって来た。
文は大きな木の幹に背を預けながら腕を組み、椛はその足元で太い木の幹に腰を掛けて紅魔館を見張っている。


 このナラの木から紅魔館の正門と正面玄関はよく望めるのだが、些か距離が遠過ぎて、文の目では見えない。
そこで、普段山の哨戒任務に就いている椛が呼ばれて、こうして紅魔館を見張らせているのだ。
彼女は「千里眼」という特殊な目を持つからである。

 もっと近づけば文一人でも監視はできるのだが、それだとあの門番に気が付かれてしまうのだ。
厄介なことに、紅魔館の門番は存外優秀で、その能力をフルに使い、かなり広範囲の気配を感知することができる。
文なら、例え門番が文の気配を感知しても行動を起こす前に彼女を蹴飛ばすことができるくらいのスピードはあるが、
見張りが出来るほど目がいい訳ではない。
確かに動体視力は高いが、単純に遠くを見通すのはそこまで得意な訳ではないのだ。
そこで、千里眼持ちの椛が引っ張り出されたのだった。



 いつもとは違う任務に就いて、椛は表にこそ出さないものの、不満があるのだろう。
ただし、これは文の個人的な指示ではなく、山の組織の上層部からの命令であった。
山のお偉いさん方は、紅魔館を見張れと言っているのである。



 およそ二週間前、紅魔館から大規模な魔力の放出が観測された。
彼らは対外的に、それが魔法実験の失敗だと説明し、そこに住む魔女の負傷も伝えた。
それは、文が取材した情報である。

 一見、紅魔館の態度はそこまで不審なものではなかった。
実際、彼らは文を通して幻想郷に事の顛末を語ったし、門番やメイドはいつも通りだった。
多くの人妖たちはその紅魔館の情報を信じただろう。
だが、長年記者をやって来て、きな臭いことには鼻の利く文を騙すことまではできなかったようだ。




 取材をした時、紅魔館の中から漂う不穏な空気やピリピリとした雰囲気を、文は肌で感じていた。
そして、それと対照的に落ち着いていたレミリアの不審さ。
つつけばいろんな物が出てきそうだった。
しかし、相手も狡猾な悪魔。
そうそう簡単に尻尾は見せてくれなかった。






 一方で、このことに妖怪の山が関心を持ったのは別の理由だ。
お上は、どうやらスキマ妖怪の不審な動きを察知したらしい。
彼女は、紅魔館の事件以前からこそこそと動いていたようだが、事件以後、その動きが小さくなったのだそうだ。
そこに何かあると考えた山の上層部は、文に紅魔館を探るように指示し、椛にも監視を行わせているのだ。



 ここしばらく、紅魔館に動きはなかった。精々、メイドが姿を見せなくなっただけである。
だが、今日は違った。




 昼に門番と会った時は、彼女は「いつも通り」の愛想笑いを浮かべて、こちらに事情を探らせなかった。
紅美鈴とは何度も腹の探り合いをしているが、互いに尻尾を見せないので進展はなかった。
が、ついに彼女が取り乱すような何かが起こった。


 あれは気を操る妖怪。
瞬時に何が起こったのか理解したのだろう。
そして、あの反応。





 美鈴は、二週間前の事件当時、湖の妖精たちと戯れていたことが分かっている。
あの門番があれだけの魔力放出に気が付かない訳がないから、気付いた上で敢えて妖精たちと遊んでいたのだろう。
規模から考えて、かなりの大事だが、彼女が動かなかったのは、館内のことを他の誰か、
例えばメイドに任せていたからではないだろうか?


 そう考えると、今起こった事態を説明しにくい。
メイドがいるなら、二週間前と同じくメイドに任せて自分は昼寝をしていれば良かったのだ。
わざわざ取り乱した姿を見せる必要はない。
なのに、門番は大慌てで館内に駆け込んだ。
これの意味する所は……、









「メイドに頼れない……」













 ぽつりと呟いた文を、椛が振り見た。彼女は仕事用の無表情で文に尋ねる。


「監視を続けますか? それとも一度報告に行きますか?」


 文はしばらく考えた。




 このまま自分の思考に没頭したいのが本音だ。
ここに居ればゆっくり頭の中を整理できるだろう。
けれど、監視対象に明らかに大きな動きがあったのに報告に行かないのはいろいろとまずい。
結局、文はすぐに報告に行くことにした。
それに、お上も今の魔力放出には気が付いているだろうから、どの道黙っていても意味がない。


「私はいったん帰るわ。貴女はこのままここに居て監視を続けて」



 文はそう告げて椛に背を向け、翼を広げる。





 いずれにせよ、紅魔館で起こっていることはかなり深刻なようだ。
特に、先程の魔力の奔流。
秩序だった流れのベクトルが感じ取れたあれは、大きな魔法が成功した時の物。
紅魔館から離れたこの場所に居た文にすらはっきりと分かった。








 倒れた魔女。


 何かを隠す門番。


 不自然に落ち着いた館主。


 姿を見せないメイド。










 ああ、もう一人、主人の妹がいた。彼女は、どうしたのだろう?












 そう考えた文の背中に、椛が「了解しました」と声をかける。
文はそれに頷き返して、そこから飛び立った。









 もうすぐ夕方。月齢25の、中途半端に残った月が西南西の空に沈もうとしていた。
















短いけど、これで行間終わりです。



幻想郷のどこに居ても不自然ではなく、顔が広くて、狡猾で立ち回りがうまく、
記者と言う身分を持つために何を詮索していても不自然ではない。
そんな文ちゃんです。



最後の一文にある通り、行間の日はさやかちゃんがSGを投げられた日と同じです。


おお、投下来てたのか
乙ー

乙!

待ってました!
乙です!


紅魔館門番のホンさんはいつも大変だねw


2章フランちゃん序盤しか出てなくね?
3章に期待するか……

乙でした
今更だけど、ガーデニングは風通しや受光量その他諸々でいろいろ生育法が変わって来るからマニュアル通りにやっても育たないんですよ
結局自分自身でその庭にあった育て方を模索していくしかないというね

>>765
原作ではラスト以外ほとんど空気だった魔法少女もいるけどなww
ん?こんな時間に誰だろ?ちょっと出てくる

乙です!
>>366 無茶しやがって…

>>766だったすまない

いやぁ危なかった俺も巻き添え喰らう所だった
よかった夢想天生しといて

だいぶ再開が遅いな
って思ったけどよく考えたらほぼ毎日更新してた今までが異常だったのか

まだなのか?流石に遅すぎるぞ

まだ前回の投下から十日しか経ってないけどな
ストックが切れたか忙しいかじゃね?

頻繁な更新は嬉しいが、ある意味じゃ良し悪しかもな
ちょっと遅れただけで騒ぐ奴が出るから
それが当たり前になって、当たり前のことがされないと不満に思うんだろう

少し前に来月にはストックが切れそうって言ってたから、ストックはあるけど忙しいんだろう
ゆっくり待つわー

その昔、完結まで仕上げたデータが一夜にして吹っ飛んだという書き手がいてだな……

その作者に何があった



ご無沙汰?です。

巡回してる方もいらっしゃるようで、恐れ入ります。
早起きしたのと、最近のss速報の調子が変なので、こんな時間に投下します。

>>764
そうですね。確かにそう思います。

>>765
うn・・・・・主人公(空気)になっちまったんだよね。
脇役たちの存在感も大きいから・・・・

>>766
ほら、そこはマスコミ()だからw
記事になって、売れればいいんだよ!!
って、感じ。
まあ、ガーデニングの本とかもありますし、リアルでもどっかの新聞がガーデニングの記事書いてる気もしないこともない。

>>771-774
お待たせしました。
書き溜めの修正と、ラストシーンの書き起こしと、パズドラやってましたwwテヘペロ

>>775
悲惨・・・・
USBにこまめに保存しとかないとね・・・
パズドラのバックアップもしとかないと・・・・



次からは第三章に入ります。
舞台は見滝原に戻ります。
登場人物も増えますw






第三章�
















                  *












 跨道橋での一件から一夜明け、佐倉杏子は美樹さやかのソウルジェムを探すために街を彷徨い歩いていた。
暁美ほむらのアドバイスに従い、魔女探しの要領でやっていたのだ。





 もちろん、あの跨道橋の真下は真っ先に探した。
しかし、そこは高速道路の車線のど真ん中。
じっくり探す余裕もないし、ジェムが車に踏み砕かれている可能性もあった。
けれど、破片の一つも見つからなかったので、杏子は何とかさやかのジェムはまだ無事だという
希望的観測を持つことができたのだった。


 ちなみに、昨夜暴れた跨道橋は、ひどいことになっていたので、朝から警察が捜査をしていた。
誰かが見つけて通報したのだろう。近づくことは叶わなかった。
なので、少し離れた所から、魔法で目一杯強化した双眼鏡で高速道路の路面を覗いていたのだが、
その行動が不審に思われたらしく、警察に声を掛けられそうになったこともあった。
慌てて逃げたが。






 さて、ただいまの時間午後5時半頃。
沈みかけている太陽が空を茜色に染めている。
気温は春らしいポカポカとした暖かさで、風は穏やか、過ごしやすい一日だった。
今朝の天気予報で言っていた通りだ。



 そんな春の夕暮れの中、杏子は街を縦断する国道を歩いていた。



 北陸と南関東、東北の丁度岐路に位置する見滝原は、物流の一大拠点である。
それが発展の起点であり、そこからこの大都市「見滝原」は生まれた。
そして、この街は今も成長し続けている。
近年、経済の停滞した日本に珍しく、どんどん発展しており、それが常に人口流入を招いているのだ。
故に、工事が多く、当然工事車両も多い。

 事実、国道を走る車の中には、結構な割合で大小様々なダンプカーや重機を乗せたトレーラー、
どこかの建設業者の名前を付けた乗用車や軽トラックが混じっている。
それらは頻繁に道路を行き来し、自家用車と同じくらいの割合で走っているみたいだった。

 そもそも、工事現場は魔女が潜んでいることが多い場所の一つである。
特に、事故があった場所にはほとんど必ずと言っていい程魔女か使い魔がいる。
だから、杏子は魔女を探す時、そういうところを重点的に回る。
そうするべきだと教えたのは、巴マミだった。
彼女が、杏子の魔法少女としての基礎を鍛えたのだ。






 懐かしい、と言うほど昔でもない。
ただ、いろんなことがあり過ぎて、随分と古い思い出のように思えるのだ。




 巴マミとの思い出。
そう長い間一緒に居た訳ではない。精々数カ月。
だというのに、記憶の中には溢れんばかりの思い出が詰まっていて、独りになってからそれを思い起こすと、
寂寥な気持ちになった。



 一度は決別した相手。
なのに、彼女の今を思うと、心が揺さぶられる。
その理由は分からない。
自分はちゃんと、彼女と袂を別ったはずなのだ。
そして、それに納得したはずなのだ。
だというのに、気持ちが荒ぶる。気分が悪くなる。



 いい加減にしてくれよ、ホント…………。



 思わず弱音を吐きそうになる。

 狂ってしまったマミ。
そのマミを殺そうとする咲夜。
すでに死んでいる体に、石っころになった魂。
ソウルジェムがどこかに行ったさやか。
今まで自分たちを騙していたキュゥべえ。




 一度にいろんなことが襲ってきて、杏子の頭はパンクしてしまいそうだった。
元々考えるのは得意ではないのに。




 気が付けば、大抵マミやさやかのことを考えていた。
それ以外の場合も、体やジェムのこと、キュゥべえのことばかり考えてしまう。




 はあ、と思い溜息を吐きながら、杏子はとぼとぼと歩く


 国道と、県道が交差する交差点に来た杏子は、そこを左折し、今度は県道を歩く。
その先にあるのは、見滝原で工事をする建設会社の、資材置き場。
そこにさやかのジェムがあるのではないかと杏子は予想していた。

 というのも、咲夜がさやかのジェムを投げ捨てるところをキュゥべえが見ていたらしい。



 昨日、杏子がさやかの体を隠したところにキュゥべえが現れた。
最初は杏子と、その場にいたまどかは驚いたが、その後にキュゥべえの秘密を聞かされて、さらに驚いた。
単一の意志で複数の体を操る生き物なんて、そんなの聞いたことがなかったからだ。





 それはそうと、彼曰く、さやかのジェムは下を走っていたトラックの荷台に落ちたそうだ。
危険を冒して高速道路をうろつく前に言えと言いたかったが、情報提供してくれただけでもありがたい。
決して信用ならない奴だが、今はそれが数少ない手掛かりだった。


 だが、高速道路を走っていたトラックである。
どこに行くか分からない。
せめてナンバーでもと思ったが、生憎キュゥべえもそこまでは見ていなかったようだ。
だから、もしそのトラックが新潟や長野まで行っていたら、もう探しようがない。
ただ、トラックの進行方向には見滝原のインターチェンジがあるので、ひょっとしたらそこで高速を下りて、
市内のどこかに行ったのかもしれない。
杏子はそう思い込むことにしていた。
でないと、心が折れてしまいそうだったから。













 そして、奇跡は起こった。









 キュゥべえが叶えるものじゃない。素質さえあれば叶えられる安物じゃない。













 本当の奇跡。


















 ——————そう、杏子のソウルジェムは、確かにさやかの魔力の波動を感知した。






 もしこの街から遠くに行ってしまっていたのなら、その残滓すら追うことは叶わなかっただろう。
だが、女神は微笑み、さやかのソウルジェムは探せる範囲に残っていた。





 微かにさやかのソウルジェムの反応を感じ取った時、思わず杏子は泣きそうになった。
そんなことがあるんだと、あっていいんだと、さやかはギリギリで救われたんだと、そう思うと胸が詰まったのだ。
まどかにそのことを話すと、同じ気持ちになったのだろう、彼女は嬉し泣きし始めた。




 それから杏子は、(キュゥべえが契約すればさやかが元に戻るとしつこく勧誘していたので)まどかに契約しないように、
そしてさやかの体を見守って置くように言いつけて、ソウルジェムを片手に乗せ、街を彷徨い歩き始めた。





 見滝原は広い。
いくら探せる範囲にあるからと言って、早々にソウルジェムの場所を特定するのは難しかった。
しかも、時間が経てば経つほど、さやかのソウルジェムに何か悪いことが起こって、遠くへ運ばれてしまったり、
壊されてしまうんじゃないかという恐れが大きくなって、焦りが増してくるのだ。

 そんな心配ばかりしていると、自然と視線も落ちてしまう。
いつの間にか、泥でくすんだ色になっているアスファルトを見下ろしながら歩いていることに気が付いた杏子は、
ハッと顔を上げる。
俯いたままだと、気分はどんどん沈んで行ってしまうから、
せめてもの気休めにしかならないけれど、しっかり面を上げて前を見据えながら歩いて行こう。







 正面から誰かが歩いてくるのが見えた。
視線を落としたままだとぶつかってしまったかもしれない。
杏子はさり気なくソウルジェムを隠して、すまし顔になる。



 歩いて来たのは、こんな田舎では目立つ美人な女。
背が高くて、ほっそりしているが、出るところは出ているスタイルのいい美女だ。
その割に、身に着けているのは薄汚れたグレーの作業着。
胸元に、「野中建設」という会社の名前が入っている。
その格好とアンバランスな短い金髪と黒い野球帽が目を引いた。




 一瞬、交差する女と杏子の視線。
ジロジロ見るのも失礼なので、杏子はすぐに眼を逸らした。




 そのまま、杏子と美女は無言ですれ違う。
互いに相手に興味はないので、もう一瞥をくれたりしない。
杏子は再びソウルジェムを取り出す。




 夕日がそれを照らすのを見ながら、杏子はそれからさらに歩く。


 そうやって一人で押し黙ったまま歩き続けていると、人は思考に没頭し始めるものだ。
杏子もその例に漏れず、自分の行為に意味を自問し始めた。



 どうして自分はさやかのためにこんなにも必死になっているのだろうか?


 どうしてアイツのことが気になるんだろうか?




 腕が動かなくなってしまった少年のために契約したバカな奴。
人のために奇跡を願って、それがどういう結末をもたらすかも考えず、その上人のために魔法を使う、どうしようもないアホ。




 マミに憧れ、マミのように戦いたいと願い、そしてマミのあんな姿を見せつけられても、
アイツはマミのために身を投げ出した。





 あの時、飛び出していった白いマントに覆われた背中が、一瞬初めて出会った時のマミの姿をだぶった。
その時も、杏子は何もできず、見ているだけだった。


 現実から目を背け、理想を捨てて逃げ出した自分に、あの背中は眩しすぎた。
自分と同年代の少女の華奢で、未発達な背中。
それでいて、どうしようもなく頼もしく、どうしようもなく広く思える背中。
追いたいのに、置いて行かないでほしいのに、臆病で卑怯なこの足は動かなかった。










 ——さやかちゃんを、助けて——












 だけど、それでもこうして街を歩き回っているのは、あのボンクラの友達がそう言ったから。



 一般人のくせに、戦う力がないくせに、魔法少女のことに口を出してきて、鬱陶しいと最初は思っていた。
けれど、ソイツは、こんな自分でも頼ってくれたのだ。
アイツを探してほしいと、縋ってきた。



 結局、その言葉がなければこの足は動かなかったのだろうか? 
その言葉がなければあの背中を追うことはなかったんだろうか?




 人のために魔法を使わないと誓ったはずなのに、今もこうして歩きまわっている自分がおかしい。
でも、不思議と嫌な気はしなかった。
少なくとも、今の自分は前を向いているから。
逃げてはいないから。























                 *








 目指すのは街外れの資材置き場。県道からさらに細い道を一本入ったところにある。
周りには、田んぼや畑が広がり、道沿いにいくつか民家が建っているだけの寂しい場所だ。


 人影は見えず、畑の向こうの県道を走る車の音が静けさを破る。
ふと足を止めて空を見上げれば、紺色がかった天を背景に、カーカー鳴きながらカラスが飛んでいた。
日は沈みかけて、西にそびえる山々は黒く、スカイラインは赤々と照らされていて、
その光が妙に目に染みて、杏子は目をしょぼつかせた。

 彼女は太陽から顔を背け、背を向けて再び歩み出す。
夕日影が、その背中で揺れるポニーテールを橙に染め上げ、杏子の赤髪はまるで燃え上がる炎のようだ。


 近くに住む人が日常で使うだけの狭い道。
自身の影に覆われてさらに輝きを増したソウルジェムの導くままに、少女は進み往く。
探し物は目と鼻の先。



 どこにでも広がっているような田舎の景色。
山が近くて、ただのんびりとした空気が漂っている。ここも見滝原だ。




 杏子が幼かった頃は、この街はもっとこんな感じで、長閑な田舎だった。
それが駅を中心とした市街地の辺りが急速に発展し、郊外はそれに取り残された。
結果、一つの街の中に大都会と片田舎が併存するという、奇妙なことになった。
杏子の背後には、遠く、天を突くような摩天楼がそびえていて、なんだかそれがアンバランスだった。








 資材置き場の前までやって来た杏子は、ふうっと小さく溜息をつき、手に乗せた赤い魂を見下ろす。



 それは、微かに明滅していた。



 まるで魔女を探知した時のような反応。しかし、これはそういう意味ではない。



「…………どこだ?」


 杏子は辺りを見回す。



 資材置き場はそこそこ広い。
二台の小型のパワーショベルに、「野中建設」の社名が入ったトラックが数台。
重ね置かれた鉄骨に、シートが被せられている木材。
敷地はトタン板に囲われていて、二階建てのプレハブが端っこに建っている。
その窓にはカーテンがかかり、中に人がいる様子はない。




 小さなソウルジェムを探すには少々広くて障害物の多い場所だ。
だが、杏子は安堵していた。

 どこにあるかは分からないが、さやかのソウルジェムはこの場所にあるのは確かだ。
もしかしたら県外……なんて思っていたが、そうならなくて良かった。
あとは、ここを徹底的に探せばいい。






 資材置き場の入口は、立ち入り禁止の看板と、鎖で塞がれていたが、杏子は躊躇いなく中に侵入した。
そして、まずはトラックの周辺から探し始める。



 と……、

「あ! あった!!」


 運よくすぐに見つかった。

 一台のトラックの傍の地面に落っこちていたサファイアのような宝石は、暗がりの中でも輝いている。
ただ、濁りが少し多い。杏子は持っていたグリーフシードを取り出した。

 そして、さやかのジェムにそれを宛がう。



「これで良しっと」



 濁りを取り除くと、ふと自分がしたことの意味に気が付いた。



 全くらしくない。

 誰かのために、一日中、足を棒にして彷徨い歩き、その上貴重なグリーフシードも使ってしまうなんて、
ちょっと前なら考えられなかった。
そんな割に合わないことをやる自分にびっくりしたのだ。







 フフッと、自然に笑みが零れた。






 だけど、こういうのも悪くない。












 杏子はさやかのソウルジェムを優しく持ち上げ、そっと懐にしまうと、顔を上げて、

「おい。キュゥべえ!」と虚空に呼びかける。



















 少しの間、その声が資材置き場に寂しく響き渡るだけだった。
あとに残るのは、遠くから微かに聞こえる喧騒だけ。
呼びかけに答える者はいない。


 すぐに姿を見せない魔法の妖精に、杏子は苛立ちながら、軽く舌打ちしてもう一度呼ぼうとした。
その時に、



「呼んだかい?」



 言葉と共に、ぬうっとキュゥべえが姿を現した。

 すぐ目の前のトラックの下からいきなり出て来た妖精にも杏子は驚くこともなく、
口を尖らせて苛立ちをぶつける。


「おせーよ。さやかのソウルジェムを見つけた。まどかにテレパシー送ってくれ」

「見つけられたのかい? よくできたね」



 白い生物は夕日に照らされていない暗がりの中から赤い目玉で杏子が手に持つさやかのジェムを見上げた。
その瞳からは何の感情も伺えない。




 以前から杏子は、この生き物が感情を持っていないんじゃないかと感じていた。
明確な根拠はない。
単なる勘だが、昨日の様子を見ていると、それはいよいよ強まった。


 だが、そんなことはどうでもいい。
コイツは言ったことはちゃんと聞いてくれる。
えげつないことをしたとは思うが、悪意を持って人に接している訳ではないのだろう。
何より、この生き物からそんなものは感じ取れないから。
だから、感情がないとも思えてくるのだ。




「御託はいいから早くしろよ」

「分かったよ」



 杏子が文句を言うと、キュゥべえは、やれやれというように首を振った。
その仕草はまるで感情があるみたいだった。










あっけなくさやかちゃんのSGが見つかりました(笑)


だんだんあんこが主人公っぽくなってきたw
書いてると、あんこに結構感情込めちゃったりするから、そうなっちゃうんですよねww

一応、主人公は三人(のつもり)です。


久々に乙

探し物簡単に見つかって良かったねー(棒)


杏子…野中建設…声優ネタ?

さやかちゃんのショットガン

乙です!

乙ー
>>あっけなくさやかちゃんの〜
おかしいな……なんでこんなに不安になってるんだろ……

乙です
もうタイトルを「きょうこ☆マギカ」に変えてもいいのでは?

乙!

>>799


フ☆ラ☆グ?

見えにくい所にあって、コンタクトレンズよろしくな事態にはならなかったかww

それは良いとして、俺も美鈴さんの作った濃い味チャーハンが食べたいです……です

ふむ…「行きはよいよい帰りは恐い」なんて言葉もあるからね。家に帰るまでが本番だろうね。



おはようございます。
また早朝に来ましたw


>>796
そうですw
半分は声優ネタですww


>>797
さやかちゃん“に”ショットガry


>>800
あんまり洒落になってない(´・д・`)


>>803
oh,me too!
チャーハン上手く作れる人って浦山しいです。


>>804
「家に帰るまでが遠足」みたいな?







                  *









「今日の欠席は、暁美さんと……鹿目さんと……美樹さんね」







 クラス担任の早乙女和子が、珍しそうな顔をして言った。


 実際、さやかとまどかの二人が同時に休むなんて初めてのことだったはずだ。
彼女たちといつも一緒に居る志筑仁美は所在無さ気に席に座っている。
二つとも空いた友人の席の隣で、彼女も困惑しているようだった。


 一方、暁美ほむらについては元々病弱だと聞いていたし、よく知らない子なので、特になんとも思わなかった。
ミステリアスな上に、冷たく近寄りがたい雰囲気を纏っている彼女について、心配している生徒はそれほどいないだろう。
親しくもない人間をそこまで案ずる人はなかなかいない。
事実、クラス全員が彼女の欠席について聞き流しているだろう。



 そのままホームルームは何事もなく終わった。
和子の、あの激しい恋愛トークもなかった。
この間破局したと聞いたので、今は彼氏募集中なんだろう。

 多感で、異性への興味が尽きない男子中学生にとって、和子の話は、それがどんなに下らないものでも、
いろいろと思ってしまうのだ。
語られていない部分を想像してしまうのだ。
女子は笑って聞き流す話でも、男子は(興味がない振りをして)じっと耳を欹てている。
だから、今日のホームルームは、(彼らの基準で言えば)はずれであった。







「おい。宿題やってきた?」



 ホームルームが終わり、和子が授業の準備のために職員室に戻った後、にぎやかになった教室の中で、
鞄から1時限目の授業の教科書と宿題のノートを取り出していた上条恭介は、不意に頭上から降って来た声に顔を上げる。

 そこに居たのは、友達の中沢。
いっつも和子の恋愛トークに付き合わされていて、よく「どっちでもいいと思います」
という回答をする先生お気に入りのベストアンサー。



「忘れた?」

「うん。見せてくれ」

 拝むように頼む中沢を、恭介は憐れむような目で見ながら、わざとらしく溜息を吐いた。

「分かったよ。ほら」

 そう言って鞄から取り出したばかりの宿題のノートを彼に渡す。

「お、サンキュー」

 中沢は嬉々とした様子でそのノートを取り、自分の席に戻って行く。
それを見ながら、恭介はもう一度溜息を吐いた。
それから、ふと思う。
どうして自分は何回も溜息を吐いたのだろうかと。




 本来なら溜息を吐くような気分じゃないはずだ。





 最近、嬉しいことがあったから。



 交通事故に遭って、もう二度と弾けないと思っていたバイオリンがまた弾けるようになったのだ。
まだ足の方は治っていないけれど、腕が元に戻って、喜びのあまり(そして勘を取り戻すために)、
ここ何日かは、家に帰ったら演奏ばっかりしている。



 突然降ってきた僥倖。
特定の宗教に入っている訳じゃないけれど、神様仏様の与えてくれた奇跡だと言われても、不思議には思わなかった。


 実際のところ、それについてはなぜなのかまるで分らない。
いや、一つだけ心当たりがある。だけど、それはあり得ないと理性が否定する。















 ——あるよ——












 あの時、絶望し自暴自棄になった自分に、彼女は泣きそうな目でそう言った。



















 ——奇跡も、魔法も、あるんだよ——











 普通なら鼻で笑われるようなことを、中学生にもなってさやかは大真面目に言い放った。
だというのに、その言葉には、不思議と、人を信じ込ませるような力があったのだ。



 恭介は自身の左手を見下ろし、ゆっくりと手を開いて、閉じる。

 先週までは感覚すらなかったその手は、今はもう何の違和感もなく動く。
現代医学で治せないと宣告されたのに、まるで何事もなかったかのようにこの手は健在だ。









 それを……奇跡と言うのだろうか。そして、さやかはそのことを知っていたのだろうか。





 さやか………………。






 思えば、恭介はさやかにまだ何もしていなかった。


 鬱陶しいと思ってしまうほど、頻繁に見舞いに来てくれたさやか。
それでも、長くて退屈な入院生活の間は、彼女が来てくれることが恭介にとって何よりの楽しみの一つだった。

 もう一人、よくお見舞いに来てくれた人もいたけれど、彼女の前では緊張して肩に力が入ってしまう。
けれど、さやかの前だとそういう気兼ねはいらない。
リラックスできるし、遠慮もする必要はない。






 だから、本当は感謝しないといけないのに、あんなことを言ってしまった。
その上、そのことをちゃんと謝っていないし、屋上演奏会を開いてくれたことや見舞いに対するお礼もしていない。


 さやかはほぼ毎回クラシックCDを持ってきてくれた。決して安くない。
別段経済的に裕福でもないさやかの小遣いでは少々厳しいだろう。
なのに、「いじめてる」とか「もう聞きたくない」とか、傷つけるようなことを言ってしまった。
さやかはガサツに見えて、結構繊細だから、今でもあのことを気にしているんじゃないかと心配している。









 恭介は再びさやかの席を振り見た。



 その隣の席の仁美と目が合う。彼女はお淑やかに会釈してきた。





 恭介はそれに会釈し返して、前に向き直り、またまた溜息を吐いた。


 中沢辺りは恭介とさやかの関係をよくからかってくるが、恭介は、自分とさやかの関係は
からかいのネタになるようなものじゃないと考えていた。
昔から仲がいい幼馴染で、単に性別が違うだけだ。




 だからといって、何でも言っていいわけではない。

 親しき仲にも礼儀ありだ。ずっとさやかにどんなお礼をしようか考えていた。
……お詫びのことも。





 そう言えば、もう一つ、さやかに謝らないといけないことがあった。
忙しいのと、浮かれていたのとで、うっかりさやかに退院のことを教えるのを忘れていたのだ。
本当に申し訳なく思う。
バイオリンに夢中になると、ついつい周囲のことが疎かになるのが、恭介の悪いところだった。



 やっぱり、さやかにお礼をするなら、バイオリンが一番いい。
そう考えて、恭介はさやかのために演奏会を開こうと考えていた。
今必死で勘を取り戻そうとしているのも、そのためだ。





 けれど、生憎退院してから、さやかと会う時間がめっきり減っていしまった。
学校で話しかけようとしても、なぜだか避けられてしまう。
いや、そこまで露骨ではなくて、距離を置かれているだけだ。
やっぱりあんなことを言ったから、嫌われてしまったのだろうか?





 それだけじゃない。
最近、家に帰るのが遅いらしい。
そういう話を、恭介は母親から聞いていた。



 何かあったのだろうか? 
毎日帰るのが遅いなんて、ひょっとしたら良くない連中と関わってしまったのだろうか?




 そんな心配をしてしまう。
さらに、今日は休みだ。これは、何かあったのではないかと勘繰らない方が無理だろう。

 母親も、今ぐらいの年の女の子はぐれやすいと言っていた気がする。
まさかとは思うが、さやかは変な道に走って行ってるのではないか。








 いや。さやかはそんなに馬鹿じゃない。










 心の中に沸いた妙な疑問を振り切る。



 お世辞にも、さやかの成績はいいとは言い難いが、付き合う人間を選ぶくらいはちゃんとできるはずだ。
むしろ、正義感の強いさやかだからこそ、悪い連中とは絡まないだろう。
だから、きっと心配ない。
学校終わりに遊んでいるだけなのかもしれない。













 ……でも、やっぱりちょっと気になる。




 おもむろに恭介は席を立った。一コマ目の授業にはまだ時間がある。
松葉杖を突き、恭介はさやかの席の方に向かって歩き出した。




 その目線の先には、クラスの女子と話す仁美の姿。
彼女は恭介が近付いて来るのに気が付くと、「あら?」と言うように首をかしげた。
仁美と話していた女子数人もそれで恭介に気が付いた。





「あ、志筑さん、ちょっといいかな?」


「何でしょうか?」




 物腰の柔らかな態度に、鈴の音を鳴らしたような清らかな声。
万人が見てもお嬢様と気が付くであろう彼女は、どんな男でも陥落させることができそうな、
完璧で瀟洒な微笑みを浮かべた。
実際、その清楚な美しさに、恭介も彼女のことを悪くは思っていなかった。





 だから、やっぱり肩に力が入ってしまう。



 若干、緊張しながら恭介は用件を伝える。
周りの女子の、興味津々とした視線がさらに恭介を力ませる。




「さやかのこと、知らない?」




 聞き方が悪かっただろうか? 仁美は一瞬眉を顰めた。



「いえ、欠席のことは私も先程初めて知りましたので、分かりませんわ」

 まどかさんもお休みですし、と仁美は付け加えた。




 その顔にはただ困惑の色が浮かび上がっていた。
何か隠している訳でも、嘘を言っている訳でもないようだ。




「そっか。じゃあ、最近さやかの帰りが遅いのは、知ってる?」

「それは、聞きましたわ。まどかさんも同じみたいです。お二人が何をしてらっしゃるのかは、ちょっと……」


「あ、まどかとさやかのこと、一組の子が見たって言ってたよ」


 そこで口を挟んできたのは、今まで恭介と仁美のやり取りを好奇の目で見ていた女子の一人だった。
ちょっと軽い感じの、仁美とは対照的で、さやかとは別のベクトルの「明るい」雰囲気の女子。
割と整った小顔に、きょろきょろとよく動く目。
男子にそこそこ人気のある彼女の名前は、確か「幽香」といった。



「幽香さん、ご存知なの?」



「あたしが見た訳じゃないけどね。なんかね、三年の先輩と外国人っぽい小さな女の子と一緒に歩いてたんだって」



 幽香がそう言うと、また別の女子が口を挟んだ。

「何それ。どういう組み合わせ?」

「さあ?」

 と、幽香は首をかしげた。
そして、今度は目をきらりと光らせて、こう言う。



「でね、その先輩なんだけど、ここ最近ずっと学校に来てなくて、先生も連絡着かないんだって。
なんかありそうじゃない?」


 その言葉に、周りに居る他の女子たちが反応する。
けれど、恭介はもう聞いていなかった。






 さっきまでの心配は杞憂に終わった。
けれど、それと同時に、また別の嫌な想像が心の中をかき乱し始めたのだ。




 もしかしたら、さやかたちは何か大変なことに巻き込まれているんじゃないか。
そんな嫌な予感が頭を掠め、恭介は思わず松葉杖を握る手に力を入れた。




 視線を下ろすと、仁美と目が合った。


「ごめんなさい。お力添えできなくて」

「あ、いや、別に謝ることはないよ。僕の方こそごめんね」



 何となく気まずくなって、恭介はそそくさとその場を離れた。




 席に戻ると、中沢がノートを返しに来た。宿題の写本は終わったらしい。


「おい上条。美樹の次は志筑さんにまで手を出す気かよ」

 またくだらないことを言い出した友人に、恭介は今日何度目かの溜息を吐いた。










                   *






 その日の授業は結局何事もなく終わった。
最近不審な幼馴染に頭を悩ませながらも、恭介はごく平凡な一日を過ごした。

 退屈な授業。体育は見学。馬鹿を言うクラスメート。中沢はいつも通り。


 放課後、杖を突きながら恭介は家路を歩いていた。
背中に当たる夕日が恭介の足元に長い影を作り出していて、その陰に向かって足を進めながら、
恭介は今日のバイオリンの練習メニューを頭の中で組み立てていた。




 歩いているのはそこそこ広い道の歩道。
恭介の家もある住宅街へと延びている道だ。
その両側には家が建ち並ぶ。
その家と家の間から、夕日に照らされたビル群が覗いていた。



 恭介は周りの景色に目を向けることもなく歩き続ける。
毎日見ている景色だ。珍しいものでもないから彼は視線を自身の影に固定していた。





 今日は何を弾こうか? どんな練習をしようか?






 そんなことを考えているうちに、やがて恭介は我が家の前に帰って来た。













「あ」

















 そんな声がして、恭介は顔を上げる。


 下ばかり見ていたから気が付かなかった。
立派な家の門の前には、小柄な一人の少女。
色白の顔が夕日で橙色に染まって、濃淡を作り出していた。



「上条君……」



 彼女の名前は鹿目まどか。さやかとすごく仲がいい友達の一人。




「鹿目、さん?」












 まどかは不思議なことに、学校を休んだにも拘らず制服だった。
風邪を引いた様子もないし、今日休んだのはズル休みだったのだろうか? 
真面目で気の弱そうな子だけど、案外そういうところもあるのかもしれない。

 思わず、恭介はそんな勘繰りをしてしまった。



「今、いいかな?」

 けれど、まどかの真剣な様子を見て、そんな疑いは綺麗に吹っ飛んだ。



「さやかちゃんの、ことなんだけど」









かつて、まどマギssにおいて、さやかのセリフの中に登場しただけのモブが、これほど個性を持ったことはあっただろうか?

いや、ない。








※途中で出て来るモブの子は、例のあのお方とは何の関係もありません。ご了承ください。
 名前が被っていたのでネタにしただけです。



QB「同名というだけで君たちは勝手に勘ぐってありもしない関連性を想像する。
   実に不合理でわけがわからないよ」


威圧感はなってそうなモブだな


今回は恭介視点のストーリーか。

乙ー

( ゚∀゚)o彡゚ 幽々子!幽々子!
( ゚∀゚)o彡゚ 幽々子!幽々子!
( ゚∀゚)o彡゚ 幽々子!幽々子!
( ゚∀゚)o彡゚ 幽々子!幽々子!
( ゚∀゚)o彡゚ 幽々子!幽々子!



改変してみまみた

怖れるべき事態は、幽香様の精神だけ見滝原入り→名前が同じという縁からモブ幽香に憑依→JC幽香様爆誕

>>825
さすがにそれは無いだろwしかし、まどかのクラスメイトのモブキャラが「ゆうか」って名前があったのはどこで分かる設定?

まどマギオンラインじゃね

4話のさやかのせりふ

恭介は本編でも果たしてこのくらいさやかの事を考えていたのだろうか…考えてなかっただろうなぁ…

>>829
なんかPSPでは気があったみたい
で、さやかみたいに「僕なんかがさやかの(ry」みたいなこと言ってた

>>830
どっちもめんどくせぇ!

>>829
どっちも一度思い込むと感情的だけど肝心なところで奥手になっちゃうんだよな。そういう意味では似た者同士だが


何かずっと、ページが開くのが遅い。
鯖に負荷がかかり過ぎてるのでしょうかね?

>>825
wwwww
怖れるべき事態というより、最悪の事態だわww

>>826
偽さやかのことだったりしてw
まどマギはけいおん!やAnotherほどモブに見せ場はないですねえ。


・・・・神様になったあの子は主人公だよ?


>>830
そのめんどくささがイイ!!
でも、そうすると恭介は入院中にさやかで(ry



引き続き恭介パートです。










                    *








 どうやらまどかは恭介が帰って来るのを待っていたらしい。
その様子と言い、さやかについての何か相談事と言い、どうにも深い事情がありそうだ。
ただのサボりで学校を休んでいた訳ではないみたいだった。






 ついて来て、というまどかの言葉に従い、恭介は家に背を向けて歩き出した。
まどかはどこかへ案内するつもりなのか、恭介に合わせ、ゆっくりとした歩調でその横を歩いている。


 恭介はその横顔をちらりと伺う。
童顔だけど整った顔立ちの彼女は、意外と男子人気があった。
さやか程ではないけれど、よくさやかや仁美たちと談笑している彼女は、どこにでもいる元気な少女といった感じ。
けれど、普段は明るいそんな彼女も、今は暗く沈んでいる。
どうやら、彼女の相談事は良くないことのようだ。




「あ、えっと、何かな? さやかのことって」


 いつまでも黙っている彼女に痺れを切らした恭介は、まどかの横顔に声をかける。
だが、彼女はそれに微かに首を振り、小さな声で、「ちょっと待ってね」と呟くだけだ。





 まどかは、気弱そうに見えて、意外とマイペースなんだろうか?


 それはともかく、恭介は言われたとおりに少し待つことにした。できれば早くしてほしい。
家に帰って練習をしたいからだ。
けれど、さやかのことは気になるし、急かすのはわざわざ待っていてくれたまどかにも悪い。




 しばし、二人は何も言わずに歩いた。


 時折、二人の横を走り抜ける車の音を聞きながら、恭介は逸る気持ちを抑える。

 今朝、幽香から聞いたことをずっと考えていたのだ。
さやかと一緒に居たという三年の先輩と外国人の幼い少女。
そして、その先輩は現在連絡が着かないという。


 その人に何があったのだろうか? さやかはそれに巻き込まれてしまったのだろうか?


 まどかはその二人のことを知っているのかもしれない。


 聞いてみたい。でも、聞ける雰囲気ではない。


 恭介は、大人しくまどかが口を開くのを待っていた。






 そうして、二人がしばらく並んだまま無言で歩いていると、やがて、まどかがハッと決意したような表情で顔を上げる。
そして、恭介を見る。

 それに気が付いた恭介も、若干の期待と怖れを込めて見返す。


 その目に、恭介は軽く圧倒された。

 いつもは小動物系の柔らかな目をしているのに、今のそれはとても力強く、意志の強さが宿っている。










「あのね。上条君。落ち着いて聞いてほしんだけど」

「あ、ああ」




「上条君は」まどかはちらりと恭介の左腕に視線を移す。







「その腕、どうして治ったか、分かる?」







 二人の間を夕暮れの少し冷たい風が吹き抜けた。
恭介はその風に少し身震いしながら、まどかに答える。



「いや、分からないよ」



 それを聞くと、まどかは前を向き少し考え込むような仕草を見せる。

「それが、どうかした?」

 まどかはコクンと頷いた。そして、また恭介の方を向く。







「その腕、治したの、さやかちゃんだから」







 え……? と、空気が漏れるような音が恭介の口から漏れ出た。


「それって、どういう…………」


 そう問い返す恭介の脳裏に、あの時のさやかの声がこだまする。
その声と、次にまどかが言った言葉が、重なる。









































「奇跡とか魔法とかって、あると思う?」
 ——奇跡も、魔法も、あるんだよ——














































 まさか……。そんなことは……。









 絶句する恭介に、まどかはさらに畳み掛けるように続けた。



「もしこの世に何でも願い事を一つだけ叶えられる契約があったとして、そのチャンスがさやかちゃんに巡ってきたら、
さやかちゃんはどうすると思う?」




 何でも願い事が叶う契約? さやかが、それを?




 そんな訳がない。





 第一、奇跡なんて馬鹿らしい。そんなものはお伽噺の中にしか存在しないはずだ。

 ある日、さやかの目の前に妖精が現れて、「あなたの望みを何でも一つだけ叶えてあげます」と言ったなんて言うのか? 
ふざけている。そんなことはありえない。

 大真面目でそんなことを言うまどかは変な夢でも見ているんじゃないかと、焦りにも似た気持ちが
必死で彼女の言葉を否定する。
なのに、理性は否定するのに、どこか納得しつつある自分がいて、それがさらに恭介を動揺させるのだ。



 そこに聞こえて来るまどかの“追い打ち”。





「ごめんね。なんか言い方悪いよね。私も、うまく伝えられなくて、ホントにごめんなんだけど」


 まどかは恭介の様子を伺うが、当の彼は全く眼中に入ってなかった。
ますますその頭の中は混乱していっているのだ。










「でもね、本当のことなんだよ。さやかちゃん、上条君の腕を治すために、奇跡を使ったの」
















 パチン、と頭の中で何かのピースがはまった。
パズルはまだ完成していないけれど、大凡の全体像は分かった。




 恭介は足を止める。それにつられてまどかも立ち止った。


 いつの間にか辺りの景色が変わっている。
恭介の家がある住宅街の外れ、ちらほらと畑が見える。
二人は住宅街から延びる広めの道を歩いていた。






 先程まで荒れに荒れていた恭介の内心。
それが、シンと、水を打ったように静まり返る。


「どういうことか、説明してくれないかな」


 抑揚のない、強張った声で彼はまどかに尋ねた。

 それに気が付いたのか付いていないのか、まどかは微かに頷くだけ。



「うん」









 そして彼女は語り出す。二人は暗くなる道端で、立ち止まったままだった。











 それから恭介は信じがたいことをいろいろ聞かされた。



 魔法少女、魔女、キュゥべえと言う生き物、奇跡、そしてソウルジェム。









「そっか………………」









 まどかがすべて語り終えた時、恭介はそれだけ呟いた。




 正直、こんな非現実的な話をされても「はい、そうですか」なんて言えるわけがない。
でも、それを聞いて納得してしまう自分が存在するのも確かだった。



 そうか、そういうことだったんだ。



 今まで心の中でモヤモヤしていたものが取れて、すっきりする。
それと入れ替わるように、新しい不安が膨れ上がってきたのだけれど。



「嘘じゃ、ないんだよね」

「うん。全部、ホントのことだよ」


 まどかは再び歩き出す。
どこへ向かっているのかは、何となく分かった。
きっと、まどかの向かう先にさやかがいる。


「今まで、黙っててごめんね。上条君のことなのに。さやかちゃんが、上条君に言いたくないって言ってたから」

「それ、言っていいの?」

 恭介も歩き出した。今度はまどかが少し前を行く格好になる。

「私も、さやかちゃんがあんなことにならなかったら、言わないつもりだったの。
でも、今は、さやかちゃん、大変な目に合ってるから」




 少し肌寒い風が恭介の頬を撫でる。嫌な予感は的中したみたいだ。









「さっき、魔法少女のソウルジェムは、その子の魂だって言ったでしょ?」


「……うん」















「さやかちゃんのソウルジェムね、なくなっちゃったんだ」















「……え?」




 思わず恭介は足を止めてしまった。





 それって……、













「じゃあ、さやかは、今…………」















「体の方は、無事。ソウルジェムも、他の魔法少女の子が探してくれてるよ。
だから、多分、大丈夫だと思う」


「他の、魔法少女?」


「うん。見滝原には、さやかちゃん以外にも、何人か魔法少女がいるよ。ほむらちゃんも、そうなの」



 意外な名前が飛び出たことに、恭介は軽く驚いた。
それは、あのミステリアスな転校生の名前だ。




「ほむらって、暁美さんも?」

 あの、クールで澄ました彼女が魔法少女とは、なんとも言えないのだが、まあ、名前ほど明るく楽しげなものではないようだし、
どこか影を背負った彼女の雰囲気も、その辺りに起因しているのかもしれない。



「うん。ほむらちゃん、今日学校に来てた?」

「来て、なかったよ」

「そっか」

 そう呟くまどかの表情は伺えない。幼い桃色の後頭部だけが恭介の目に映る。

「彼女も、大変な目に?」

「さやかちゃんとは、違うけど。怪我しちゃって」

「魔法少女って、危険なことなんだね?」

「うん。怪我もするし、…………酷い時は、死んじゃうかもしれない」






 その言葉を聞いて、なんだろう? 何でか、腹が立つ。



 恭介は、自分の内から湧く感情に首をかしげた。
自分は、何に腹を立てているのだろうと? 
そう考えて、……考えて、やがて脳裏にさやかの顔が浮かんできた。







「さやかは、今どんな状態なの?」



 僅かに苛立ちが入って、恭介はしまったと思った。
まどかに、八つ当たりしていると思われるのは嫌だ。


 対して、それに気が付いていない様子のまどかは、また何かを躊躇うようにすぐには答えなかった。

 小さなその背中は少し丸くなっていて、まるで何か大きなものを背負っているみたいだった。
実際、まどかにとってこのことは大きな重荷なんだろう。


 恭介はまどかのことをそこまでよく知らない。
彼女はあくまでも友達の友達であり、さやかの話によく出てくる登場人物でしかない。
どちらかといえば、仁美の方が親しいだろう。

 ただ、さやかはまどかのことを優しくていい子と評していた。
だから、今もこうやって恭介に真実を話してくれたのだろう。
彼女は、さやかのことに心を痛めているに違いなかった。恭介はそう思う。








「さやかちゃんの体、ね」







 まどかは、「さやか」ではなく、「さやかの体」と言った。つまり、















「今は、その、心臓とか、動いてないんだ……」














「死んでるってこと?」




「あんまり、そういう言い方は良くないけど……、…………そう、だよ」














 小さな声でまどかが答える。


 もう、何と言っていいか分からない。
今まで恭介が築き上げてきた『常識』というものが、足元から崩壊した気分だった。






 まさかそんなものが存在したなんて。しかも、それが身近にあるなんて。

 全く、この話を信じられない。どこからどう受け入れていいのか分からない。


 胸の内はぐちゃぐちゃで、頭を抱えたい。
ただでさえ普通に歩くより労力の要る松葉杖を突いての歩行が、さらに億劫なものに感じられて、
さっさと家に帰りたくなった。




 それでも、この先にはさやかが居るのだ。
その姿を我が目で確認するまでは、帰るつもりはない。
それに、ひょっとしたら、これは壮大なドッキリで、さやかやまどかがグルになって恭介を騙そうとした悪戯かもしれない。



 そんな、儚い希望を抱く恭介に、背を向けたまままどかがさらに言葉をかける。
その様子は、到底ふざけているようには思えない。





「だけど、今、杏子ちゃん——さっき言った他の魔法少女の子が、
一生懸命さやかちゃんのソウルジェムを探してくれてるから、きっと大丈夫だよ」

「見つかる、保障は?」

「……ないけど、諦めたく、ないから」



 歯切れの悪い返答に、恭介は軽く溜息を吐く。










 ドッキリな訳がない。まどかが言っているのは事実だ。




 まどかは嘘を吐くのがきっと下手なタイプだろう。
あまりよく知らない子だけれど、何となくそういう気がする。
だからこそ、この冗談みたいな、悪夢みたいな話は真実味を帯びていて、恭介の気分は鉛を付けたように重く、
暗い淀みの底へと沈んでいくのだった。





 もし、さやかのソウルジェムが見つからなかったら、どうなるんだろう? 考えるまでもない。








 それから二人はしばらく無言だった。
恭介は言うべき言葉を失ったし、それはまどかも同じだろうから。



 重苦しい空気が二人を包んでいて、だから二人とも口を開かないのか、あるいは無言だからこそ重苦しい空気に包まれているのか、
それは分からない。
が、いずれにせよ、恭介もまどかも喋る気にはなれなかった。





 ザーッという音を立てて、車が後ろから前へと走り抜けていった。

 日暮れの時間帯は事故が起きやすいらしい。
テールランプは赤く灯っており、それがどんどん遠くへ走り去ってゆく。



 その車の運転手には、自分たちはどう映っただろうか? 
同じ学校の制服を着てならんで歩いているから、仲のいい男女に見えたのかもしれない。





 それなら、どんなにか良かっただろう。
平和で、平穏な、日常の一幕なら、恭介はどれだけ狂喜乱舞できただろう。


 この道の左右に広がる長閑な景色は、この国が血なまぐさい争いからほど遠いことの証拠で、
けれど恭介にはこの道が、まるで処刑場へと向かう路のような気がした。




 辺りは田畑が増え、道路の横には涼やかな水音を立てる農地用の用水路が走っている。
田んぼでは植えられたばかりの稲の葉が日光を浴びて暖かく輝き、その根元の水面はキラキラとその光を反射していて、
遠くに見える摩天楼と、奇妙な調和を作り上げていた。
それから視線を前方へと上げると、先には市内を縦断する高速道路の土手が視界に映る。
恭介はあまりこちらの方に来たことがなかった。




 その高速道路が道と用水路をまたぐ高架の下。
道とは用水路を挟んだ対岸の位置。
そこに、ボロい小屋が建っていた。
人の記憶から忘れ去られたような、錆び付いたトタンで出来た小屋。
まどかは、歩道から用水路に架けられた鉄板の橋を渡り、そこに向かって行く。


「ここに、さやかが?」

「うん。見つかると、大変だから」


 後に続いた恭介とまどかはそう言いながら小屋の前に並び立つ。
その入り口では、腐りかけの木で出来た扉がかろうじてその役割を果たしている。
まどかは躊躇なくその扉を押し開けた。
途端に、恭介の鼻腔を埃っぽい空気が満たし、思わず顔を顰める。



「足元、気を付けてね」

 まどかの言う通り、足元はかなり悪かった。
木材や汚れた毛布、なぜか自転車のサドルなんかも転がっていた。
段差もあるので、転ばないように慎重に中に入る。




 正直、こんな汚くて散らかった場所なんて、見るのも嫌だった。
足を踏み入れるなんて、もっての外だ。




























 ————しかし、そんな不快な気分は、幸か不幸か、すぐさま吹き飛んだ。






























 顔を顰めながら小屋の中に入った恭介の目の前に、彼女は横たわっていた。


 流石に汚い床に直接寝かせられてはいなかった。
青いビニールシートの上に、両手を組んだ形で、制服姿の美樹さやかが居た。
両目は閉じられていて、逆に口は微かに空いているので、ちょっと間の抜けた感じがする。








 彼女はまるで眠れる森のお姫様だ。王子様がキスをすれば起き上がりそうだった。









 けれど、僅かな違和感がそれを否定する。
見ただけなのに、恭介にはそのさやかが正常ではないと確信できた。













 ——————本当に、本当に、これは事実なのだ。抗いようも無い、現実なのだ。









 今になって、まどかの話に実感が湧く。


 ドッキリではない。悪戯ではない。
魔法少女も、奇跡も、さやかの死体も、何もかも紛うことなき真実だった。











「さやか?」




 松葉杖を支えに、恭介はさやかの傍らにしゃがみ込む。
そして、左手でさやかの右手に触れた。


















 ————冷たい————。




























 カランと、軽い音を立ててアルミ製の軽量松葉杖が倒れた。


「上条君!」


 崩れ落ちそうになった恭介を、まどかが慌てて支えた。

「大丈夫?」

 まどかが心配そうに恭介の顔を覗き込む。だが、恭介は反応しない。
ただ、その震えがまどかの小さな体にも伝わって来ていた。



 呆然と目を見開き、薄暗い小屋の中でもはっきりと分かるほど蒼白になり、彼は乾ききった唇を小さく動かす。







「さやか……ほんとに……」


 途切れて、震えている声が、端的に彼の内心を表していた。
親しいさやかの、あまりにも残酷な姿に、恭介の頭は混乱の極みに達していたのだ。



 けれど、震えながら、それでも恭介は気丈に、まどかを支えに立ち上がろうとした。






 ————その時だった。




「ぁ……」




 まどかの小さな呟き。ハッと恭介がまどかを見る。



 その顔は、すぐに嬉しそうな、ホッとしたようなものに変わった。

 急激なまどかの変化に戸惑う恭介に、彼女は微かに笑みを見せた。









「良かったぁ。杏子ちゃんが、さやかちゃんのソウルジェムを見つけてくれたみたい」






















まどかさんが、エライ事をやっちまった感がある・・・・



いきなり魔法少女とか言われて混乱する恭介カワイソス








さて、お次はお楽しみの、杏×恭と、さやかの復活&修羅場ですw




乙ー

>「良かったぁ。杏子ちゃんが、さやかちゃんのソウルジェムを見つけてくれたみたい」
冷たくなったさやかを見せておいてこの発言、なぜかちょっとホラー物っぽいと思った(小並感)


この流れからのまどかの発言がなんだか怖い


ある意味もう非常識な世界に入ってたまどかと、まだ入ってもいなかった恭介との温度差の違いか

上条視点だとまどかが得体のしれない何かに見えるレベルの怖さ


経験の差なんだろうけど、まどかの冷静さっぷりが不気味すぎる

乙です!
最近東方の方のキャラの出番が少ない気が…

良いんだよ
咲夜様は妹様を探していらっしゃるわけだし

人のSSスレでコテハンはマナー違反
外してから出直してこい

さやかの心の動き方次第かなぁ……

大丈夫だよ!すべて上条君が右手で解決してくれるから!!

それ禁○じゃねえか

>>865
その幻(ry

ジェムをそげぶしたら契約解除で万事解決なのか、それともただの魂に戻ってその場で霧散したり昇天したりするのか博打すぎるな

>>868
幻想殺しの能力は不自然な流れを自然のものに戻すというもの
SGはQBの技術で魂を加工したものだから完全に異能側の産物
魂は肉体が死んでたら消滅するのが自然の流れだから、そげぷしたら十中八九昇天するな

ってここ禁書関係ねーのになんで語ってるんだ俺は

>>869
昇天しても金髪巨乳の抱き締めたがりな女神様が転生させてくれるから大丈夫だよ……ッ!(震え声)

そうなった場合問題は転生したらどうなるかが問題だな
なんせその世界で死亡したと認定されて居るワケだし
1から人生やり直しになりかねん

そうなった場合問題は転生したらどうなるかが問題だな
なんせその世界で死亡したと認定されて居るワケだし
1から人生やり直しになりかねん

連投スマソ
つか同時刻に連投された理由が分からん
書き込みボタンは1回しか押してないのに



咲夜さん自機復活オメ〜
早く誰か咲夜さんがドヤ顔してるAAを



そして魔理沙www

妖器「ダークスパーク」
 ミニ八卦炉の火力を最大限に引き出した
 全てを無に帰すレーザー




>ダークスパーク
>ダークスパーク
>ダークスパーク





咲夜さん自機復活オメ〜
早く誰か咲夜さんがドヤ顔してるAAを



そして魔理沙www

妖器「ダークスパーク」
 ミニ八卦炉の火力を最大限に引き出した
 全てを無に帰すレーザー




>ダークスパーク
>ダークスパーク
>ダークスパーク




お、落ち着け・・・・

て・・・手が、手が震えている
ダークスパークに右手が震えている・・・・










レス返します。


>>856-860
え!?怖い??
そ、そんなつもりはなかったんです。
ただ、あんこから連絡があって、さやジェム見つかったから喜んだだけだよ!
そりゃあ、独り言みたいにいきなりあんな事呟いたらアレな人だけど、
まどかとしては普通の反応かなあ(などと供述しており・・・)


>>861
しばらく杏子さやかが自機です。
でも、後でちゃんと東方勢は出て来るのでご心配なく。


>>862
と、思うでしょ?

マミさん見て、血がたぎっちゃって・・・
ほら、むry


>>865
最近、あの人ついに音速戦闘にも対応できるようになったみたいですね^^;


>>869
どうなんですかね?
禁書とのクロスも、構想だけは、考えてあるので、
そこら辺も考察してみないと・・・


>>870
おk
ちょっと死んで来る。




今日は、紅魔館で開かれている「祝、十六夜咲夜自機復活」パーティの話です(嘘です)







                  *






 ガチャッと扉が開いた。


 並んで座っていた恭介とまどかはそろって顔を上げる。




 そこに居たのは赤い髪を持つ一人の少女。
ロングヘアーを黒いリボンで縛ってポニーテールにしているのは、年頃の少女が気にするお洒落ではなく、
単に楽だからという感じだ。
しっかり手入れして髪質を維持している様子もなく、雑然と撫でつけてあるせいか、
ポニーテールから毛先が跳ねていた。

 その顔立ちは整っていて、きつそうなつり目に、「あ」と開けた小さい口から覗く八重歯が可愛らしい。
緑のパーカーにデニムのショートパンツを履いた少女はいかにも活発そうだ。




 この汚い小屋に来てもうすぐ一時間。
さやかの体の傍に、まどかとそろって腰を下ろし、重く気まずい空気を共有していた恭介は、
ホッと溜息を吐いた。
何しろ、あまり親しくもない女子と、身近な人の“死体”と共に、ほとんど言葉を交わすこともなく
時間を過ごすというのは、想像以上に苦しい、拷問のようなものなのだ。

 時折まどかは気を使って話しかけてくれたのだが、いかんせん会話を弾ませる空気ではないし、
そんな気分にもなれず、話題もない。
結局、二人はそれぞれの思考に没頭しながら彼女の登場を待っていたのだ。
幸い、集中力に自信のある恭介は、この場でもそれなりに考えをまとめることができた。




「杏子ちゃん!」


 慌てたようにまどかが立ち上がって駆け寄る。
その声には、恭介と同じ感情が多分に含まれていた。
そして、足元の毛布に足を取られてしまう。



「わわっ」

「おっと」

 こけそうになったまどかを、杏子と呼ばれた少女が抱き留める。
その様子は、しっかり者の姉とおっちょこちょいの妹といった感じだ。


「そんな慌てんなよ」

「うぅ……ありがと」


 まどかは顔を赤らめながら杏子から離れる。
それを見た杏子が、やはりさやかの傍らに腰を下ろしている恭介に目を向けた。




「あんたが、バイオリニストかい?」



 そう言って、露骨に探るような目で恭介を観察し始める。
不躾な視線に恭介はむっとしながらも、低く「ああ、そうだよ」と呟いた。


 ふーんと喉を鳴らすように呟きながら、杏子は尚も恭介をじろじろと見る。
その視線を不快に思っていた恭介は、「何かな」と返した。




 俄かに緊張し出した小屋の中の空気。

 二人のあまり友好的でない雰囲気を敏感に察したのだろう、まどかが慌てて口を挟んだ。



「あ、しょ、紹介するね。こっちは佐倉杏子ちゃん。さやかちゃんのソウルジェムを探してくれてたんだ」

「おい」

「ひ、ひゃい」

 まどかの言葉にかぶせるように駆けられた乱暴な声。
ビクッとそのツインテールが跳ねる。
噛んだのか、変な声も出てた。


「コイツに言ったのか? 全部」

 コイツ、と言う言い方に恭介は眉を顰めるが、何かを言う前に、まどかが先に口を開いた。

「あ、うん。さやかちゃんのこと、全部言ったよ」

「何で?」

「……だって、上条君も関わってることだし、さやかちゃんはこんな目に遭って、きっと辛いと思うから、
その時に上条君が居れば……」

「つまり、さやかを慰める役目をコイツに押し付けたっていうのか?」

「それは!」


 杏子は怒っているようだった。
赤い瞳は爛々と光り、頬は紅潮し、眉間には深いしわが寄っていて、そのきついつり目が睨みつける様は、
かなり迫力がある。
まどかはすっかり縮こまっていた。




 露骨に剣呑な感情を見せる杏子に対し、流石に恭介もまどかをフォローしない訳にはいかなかった。
こうしてついて来たのは他ならぬ自分自身だったし、さやかのことが気になっていたのも事実だ。

 純粋な親切心から教えてくれたであろうまどかが、この無礼で粗暴な少女に一方的に責められるのは、流石に不憫だ。


「それは別にいいよ。鹿目さんについて来たのは僕だし。
さやかのことは、ショックだけど、さやかの力になれるなら、何でもするよ」



 さやかは恭介が辛い時に支えてくれた。おまけに、腕まで治してくれた。
それに、お礼がしたいと思っていたのは、他の誰でもない、自分だった。
だから、今さやかにとって自分が必要なら、進んで手を貸したい。



 それが、杏子が来るまでの間、頭を整理して出した恭介の結論だった。


「そうかい」

 杏子はそれだけ言うと、もう恭介には興味を失ったように今度はさやかに目を向けた。
そして、おもむろに近付き、パーカーのポケットから青い大きな宝石を取り出した。


 銀の台座にはめ込まれたサファイアのようなそれは、この暗い小屋の中でも、仄かに光を放っていて、
それが人には触れ得ない、近寄りがたい神秘的な雰囲気を醸し出しているのだ。
それが、ソウルジェム。
さやかの魂。







 綺麗だと、思った。









 その輝きはさやかの希望。命がけで叶えた願い事の光。








 恭介はつばを飲み込み、魅了されたようにその宝石の光を凝視する。
視線は静かな海のような輝きを放つそれに囚われたように動かせず、ただ杏子の手から
ゆっくりとさやかの体へと下ろされて行くそれを見続けるしかなかった。








 今、宝石は持ち主の手に帰る。


 杏子はそっとソウルジェムをさやかの胸元に置いた。










 そして、



「ハッ」



 ぴくっとさやかの体が跳ね、次の瞬間には青い瞳が瞼の間から覗く。




「ん?」




 小さく呻きながら、ゆっくりと上体を起こすさやかの肩を弾かれたように駆け寄ったまどかが支えた。


「さやかちゃん!? 大丈夫?」


 まるで寝起きのようにさやかはとろんとした目でまどかを見る。

「何? どうしたの? ここ、どこ?」

 さやかは首を回し、今度は杏子を視界に納め、途端にその目に敵意を宿した。

「あんた……」

「待って、さやかちゃん。杏子ちゃんは、さやかちゃんを助けてくれたんだよ」


 杏子を睨み上げながら、棘の含んだ言葉を言い掛けたさやかに、まどかは制止の声を上げる。
すぐにさやかはまどかに目を向け、首を傾げた。


「何それ? どういうこと?」


 そう尋ねる声は混乱の色が含まれていた。

 まあ、起きていきなりこの状況では、誰だってこうなるだろう。
困惑しながらも、説明を求めるさやかに対し、



「それより」




 と、不意に杏子がさやかの言葉を遮った。









「坊やもいるぞ」


 そう言って、親指で恭介を指す。





 それまで恭介は黙っていた。否、言葉を失っていた。




 今まで死んでいたさやかが息を吹き返して、嬉しいと思うより、ショックを受けていたからだ。
困惑しているのは彼も同じ。
しかし、その理由は違い、恭介はただ、目の前の状況を受け入れられないのだ。
心がそれを拒否していた。



 それでも、恭介は何とか自分を落ち着かせ、ゆっくりと振り向いたさやかに、ぎこちない笑みを浮かべる。





 さやかの目が一杯に開かれた。
口もポカンと開き、信じられないものを見たような顔になる。














「き、恭介……」


「あ、えっと」


 なんて言おう? 頭がうまく回らない。
自信のある集中力も、今この場では働かない。
なんとか言葉を続けようとして、口から洩れるのは声にならない音ばかりだった。

「なんで、ここに?」

 恭介ができそこないの言葉を吐き出している間に、呆然自失とした様子でさやかが呟く。
そんなさやかを何とか慰めようとして、恭介はやっと意味を成す文を絞り出した。


「えと、鹿目さんに、さやかが大変なことになってるって、聞かされてさ。
でも、無事みたいで良かった、よ……」



 それを聞いたさやかがガバッとまどかに振り向いた。


「あんた、なんてことを……。恭介に知らせたくないって、言ったじゃんか!!」


 突然怒鳴るさやか。
まどかは驚いたのか、怖いのか、涙目になりながらも、しかし必死で弁明をする。


「ご、ごめんね。でも、私、さやかちゃんが大変な目に遭ってるのに、何にもできないのが嫌で、
だから、さやかちゃんのために……」




「全然あたしのためじゃないよ!!」



 狭い小屋の中にさやかの怒声がさらに響く。
まどかの肩を掴み、怒りを見せるさやかに、恭介は何も言えなかった。





















 だって————その様子は、アレだ。




































 まるで、生きているみたいじゃないか。































 さやかに掛けようと思っていた言葉はいっぱい考えてあった。
どんなふうに慰めてあげようとか、どうすれば彼女は嬉しいだとか、彼女の両親の次にさやかのことはよく分かっているつもりの恭介は、
そんなふうにいろいろ頭の中で準備をしていた。


 でも、いざさやかと向き合うと、そのすべてが真っ白になった。
頭の中がぐちゃぐちゃになり、さやかを受け入れられない。
どうしてそうなっているのか、恭介は分かりかねていたけれど、怒りを見せるさやかを見て、
その正体に気が付いた。


















 それは、嫌悪だった。
















 もう目の前にいるのはさやかじゃない。
そう認識した途端、さやかのことが気持ち悪くなった。
まるで、意志を持って自ら動いているさやかの形をした人形。
さやかのことがそう思えてきてしまった。


 そして、さらにそんな自分を嫌悪する気持ちもあって、恭介の心の中は酷くむしゃくしゃしているのだ。
今一番してほしいことは何かと言えば、そのお得意の奇跡やら魔法やらで、この気持ちもこの記憶も、
まとめて消去してもらうことだった。








「全部話したの?」



 恭介がさやかを嫌悪し、自身を嫌悪している間にも、そんなことは露知らず、彼女はまどかを詰問する。


「う、うん。願い事の、ことも」



「……そう」





 さやかはまどかの肩から手を離す。
それまで痛みに顔を顰めていたまどかは、少しほっとしたような顔になった。
一方で、さやかは俯いて、その表情を見せない。





「ごめんね」


 一瞬静まり返った小屋に再び響くさやかの声。
恭介が聞いたこともないほど、低く沈んでいた。







「ごめんね、恭介。気持ち悪いよね、こんなあたし。ほんと、ごめんね」







 そう呟いて、さやかは立ち上がる。
それから、少し皺やほこりが付いた制服を払いもせず、そのまま彼女は小屋から飛び出した。
恭介に、一瞥もくれることもなく。









 それは、彼女にとって良かったのかもしれない。



 なぜなら、その時の恭介の表情は、まさにさやかを気持ち悪がっているその心を表していたから。






「さやかちゃん!!」


 まどかが後を追おうとする。
それを、それまで黙って見ていた杏子が遮った。


「杏子ちゃん!?」

「追うな。今のアンタがアイツを追ってもいい結果にはならなねえ」


 低く呟いて、まどかから恭介に視線を移す。







 赤い瞳が恭介の顔を映す。



 彼女も魔法少女。さやかと同じく、動く死体と化した少女。


 それを意識すると、恭介は杏子のことも気持ち悪くなった。

 さやかと同じように、魂亡き肉体。







 生きてる振りをした自動人形(オートマタ)。








 未だブルーシートの上に腰を下ろしたままの恭介は、少し後ろに下がる。




 チッと、小さな音がした。薄暗い中で、赤い目が動く。






「うわっ」

「杏子ちゃんやめて!」






 まどかの叫び。気が付いたら、シートの上に押し倒されていた。


 さっきまで小屋の入口の傍に立っていた杏子が今は恭介の上に乗っている。
その片方の手で、胸ぐらを掴んで、怒りの表情を見せて。



 般若か鬼か。逆鱗に触れられた竜の如く、怒気にその長い赤髪は逆立つ。










「ふざけんなよ」




 吐き出される呪詛のような言葉。
血の底から聞こえてきた怨嗟のように低い声。
それが、端的に彼女の怒りの程を示していた。







 ものすごい力で抑えつけられている。
男の恭介がもがいても、びくともしない。息が苦しい。









「アンタ…………アンタ、何だよその顔はッッッ!!」









 怒声と共に、杏子の体が数倍に膨れ上がった気がした。
恭介を締め付ける力はさらに強くなり、視界が徐々に白んでくる。
脳に酸素が行き渡らず、朦朧とし出した意識に、それでも彼女の、
ありったけの憤怒が込められた声は槍のように鋭く届いた。










「なんて顔してんだよ!! その眼……気持ち悪いか? アタシたちのことが気持ち悪いかッッッ!!」











 その瞳は怒りで真っ赤に燃え、白い頬は上気して染まっていた。














 怖い。怒っている彼女が怖い。



 何で怒っているのだとか、どうやったら怒りを収められるのだとか、そんなことを考える余裕なんてない。
喉元を抑えられて息が苦しい上に、生まれて初めてぶつけられた激しい感情に、
既に恭介の脳は正常な思考を放棄していたのだ。


 そして、恭介が酸素を求めて口を動かしている間にも、さらにさらに力は強まり、言葉は激しく、
彼女は尚——、























「アタシたちは、魔法少女なんだ!!」

















 叫ぶ。





 怒鳴るのではなく、叫ぶ。








 怒声ではなく、叫び。


 怒り以外の、何かしょっぱい感情が吐き出されたような叫びだった。

















「たった一つの願い事のために、命掛けて、そのためにこんな体になっちまった、バカでマヌケなガキなんだよ!!」










 全身全霊の叫び。


 最早怒りはなく、そこにあるのは別の感情。



 紅潮した頬に、真っ直ぐ恭介を射抜く鋭い瞳。
その顔はまるで、泣いて駄々を捏ねている幼い少女のようだと、締め付ける力が弱まって余裕が出て来た恭介は思った。





「それでも、アタシたちにとって、その願い事はかけがえないものなんだ。
この先の人生掛けてでも手にしたかったものなんだ。






それを、否定しないでくれ。







アンタはアイツの願いの相手なんだから、だから……そんな顔をアイツに向けるな。




そんな眼でアイツを見るな。




アンタにそんなふうにされたら、
アイツが……、















さやかが辛いじゃねえか」










 ようやっと、その眼に光を反射する滴が溜まっていく。
彼女はとうに泣いていた。
叫びだした辺りから、彼女の感情は怒りから哀しみへと移ろっていた。





「さやかを、気持ち悪がらないでくれよ…………。

それが、一番堪えるんだ。





アイツは大馬鹿野郎だけど、アンタの幸せを願った気持ちは本物だ。






だからアイツは人生を、魂を掛けたんだからさ、……裏切らないでやってほしいんだ」




 彼女の眼もとに溜まった滴が膨らみ、やがて切り離され、重力に従って恭介の制服に落ちて、
小さなシミを作った。








「受け入れろとは言わない。
さやかのことをどうにかしろとも言わない。



でも——それだけはやめてくれ。



拒絶するな。否定するな」



 そこで少し彼女は言葉を切る。
そして、真っ直ぐ恭介を見つめていた眼を逸らし、恭介の胸ぐらに伸びる両腕の間に顔を埋めた。






「頼むから、さ……」






 杏子は恭介を押し倒したまま、呻くように、祈るように、震える声で、そう言うのだった。
それだけじゃない。恭介の胸元を掴む力が弱まって、震えが伝わって来た。


 恭介は、唯々圧倒されて、何も言えなかった。何も言葉が思い浮かばなかった。





 彼女はしばらくそのままで、恭介の上で震えているまま。
時折、湿っぽい音を立てて鼻をすする音が小屋の中に響いた。








 まどかは俯いて何も言わず、恭介もそのままの体勢で、三人はしばらく動かなかった。動けなかった。




 真っ直ぐな言葉をぶつけられて、恭介はそれをどう受け止めていいか迷っていたのだ。




 人生を掛けたとか、命を掛けたとか、そんなの、理解できるはずがない。


 第一、どうしてただの幼馴染にそこまでできるのか、まるで分らないのだ。




 確かに自分は救われたし、それには感謝している。
さやかが、腕が治らないと告げられて荒れていた自分の姿に、心を痛めたのは容易に想像できる。
彼女が恭介の完治を望んでいたのも分かる。


 でも、だからと言って、当たり前に享受できる幸福を投げ打ってでも、恭介の腕を治せるものなのか。



 二人の関係なんて、いつまで続くものか分からない。
所詮は親同士の繋がりから生まれた関係。
お互い親元を離れた後、疎遠になるのは想像に難くない。
もし、恭介は自分とさやかを置き換えた時、同じことをできるかという問いに、イエスとは答えられないのだ。






 だから、杏子の言葉も分からない。
そして、分からないと言えば、どうして杏子がそこまでさやかに肩入れするのかも分からない。





 さっきのさやかの様子から、どう好意的に見ても、二人は友達ではないだろう。
むしろ、仲が険悪と言っても過言ではない。
だというのに、なぜ彼女はさやかのために涙を流すのか? 


 同じ魔法少女のよしみ?


 そんなお人好しには見えない。





 分からない。どうしてなのか、どうしたらいいのか。




 恭介の頭の中は、最早整理不能なほど散らかり、混乱は極みに達していた。
訳が分からず、故に言葉を、思いを、受け止めることができないのだ。











 やがて、杏子は恭介から離れた。
そして、そそくさと何も言わずにさやかが開けっ放しにしていた小屋の入口から外へと姿を消した。
小口から覗く外は、もうすっかり暗くなっていた。












 小屋の中を、重苦しい空気が包み込む。







 恭介もまどかも何も言わず、ただそこに居るだけだった。


 頭上から、高速道路を走る車の音だけが響いてくる。
騒音といえば、それくらいしか聞こえず、都会である街の中心部と違って、
まだ地方の田舎の景色を残すこの辺りは、静かなものだ。







「ごめん」





 そんな空気を破って、まどかがぽつりと呟いた。
彼女は俯いていて表情は伺えないが、外が暗いので、仮に顔を上げていても、どんな表情なのか分からないだろう。





「私のせいで、さやかちゃんも、上条君も、杏子ちゃんも、傷つけちゃった」





 恭介は何も言わない。






「ほんとに、ごめんね。ほんと、ごめん」


 微かに鼻をすする音がした。
何度も謝るまどかの声は湿っていて、彼女は泣いているらしかった。










「でも、でもね」


 か細い、泣き声と変わらない声で、それでもまどかは必死に言葉を繋ぐ。


「さやかちゃんのこと、嫌わないであげて。魂がソウルジェムになっちゃっても、さやかちゃんは、さやかちゃんのままだから……」







 恭介は黙ったまま松葉杖を拾い、立ち上がる。早く家に帰りたかった。








 もう、たくさんだ。


 魔法少女も、ソウルジェムも、願い事も。







 どれもこれも恭介の理解の範疇を越えていて、心の中はぐちゃぐちゃに掻き乱されたまま。
それに、なんだか腹が立つし、ゆっくり考える時間も欲しかった。




 おかげで、今日の練習はナシになった。
今のままじゃあ、無理に演奏しても練習にならないだろう。


 だからと言って、まどかを恨む気持ちはない。
元はと言えば、さやかに口止めされていた(らしい)ことを、勝手に彼女が恭介にばらしたのが悪いのだが、
不思議とそれを責めようとは思わなかった。

 それはまどかの人間性によるものか、恭介が自身の疑問の答えを得ることができたからか(代わりにこんな目に遭ったが)、
あるいはその両方が理由なのか。
いずれにせよ、ここに来て良かったとは思わないが、間違ったとも思わない。





 ただ、これ以上まどかと空間を共にするのは勘弁願いたかった。
早く独りになりたいし、鉛のような空気を吸うのも願い下げだったのだ。






「あ、待って。送って行くよ」


 小屋を出ようとした恭介の背中に、まどかが声をかける。



「いいよ。一人で帰れるし。鹿目さんの方こそ、気を付けてね」

「ぁ……」


 まどかの声を背に、恭介は歩き出す。
一刻も早く、という気持ちが先に行って、自然と足が早まった。











 家に帰るために。慣れ親しんだ日常に戻るために。
















気が付けば、900超えていた。





あんこ、魂の叫び!
が、恭介には響かず・・・・


いよいよ、さやかちゃんスーパーフルボッコタイムに突入ですw

安定のさやか再☆誕!!


この恭介は随分冷めた考えをする人間だな…
確かに魔法少女とかSGが本体と聞かされたら戸惑うのはわかるけどさ
だからって幼馴染の命懸けの願いを気持ち悪いはないだろう…
大人になったら二人の関係がいつまで続くかわからないって…
お前、毎日病院に見舞いにきてくれる様な子をその程度の関係にしか思えないって…
結局恭介にとってさやかはその程度の存在でしかなかったのか

まどポじゃ腕が治らない事に絶望して自殺未遂したくせにそれかよ…

乙ー
やっぱこの二人めんどくせえなぁ…


まぁ面倒臭く書くかどうかも筆者のサジ加減一つなんだが

久々にクズ条を見た気がする・・・



こんぐらいのがリアルと思う たかが中坊だし


次回はさやかちゃんの絶望顔か、はたまた号泣顔か……
オリジナル笑顔でもいいのよ?


>>906
冷めた人間は嫌悪の表情なんてしないよ

>>909
普通の人間が同じ立場なら化け物叫びながら突き飛ばして逃げ出してもおかしくないし、寧ろマシな方じゃない?


これが普通の反応かもな…もれなく非日常の世界を知るとそれに引きずり込まれるのもお約束
子供だけで非日常的な出来事に挑んだバイファムやゴーダム辺りは無茶だな

咲夜さんやったね最新作で自機だよ


これで恭介が魔女に襲われて、助けに来た彼女の戦闘シーンを見せ付けられたり
直接か調理かで吸血鬼のご飯とかにされちゃったりした日には……


恭介も軽く精神崩壊しちゃったような感じだな…。そしてこれはまだまだ非常識に巻き込まれそうなフラグ。

>>911
幼馴染の状態にショックを受けて戸惑ったり目の前の状況に理解ができなくて混乱するのわかるんだけど
恋愛感情はなくとも幼い頃からの親友みたいなもんでしょ?
そこまで嫌悪感を露わにする物なのかなって
人とは違う化け物みたいな異形とか
ゲームみたいに事情を知らずに肉体が腐敗している状態や
バーサーカー状態のさやかを見たのならわかるんだけど

自分の価値観が特殊なのかもしれないが

スレタイのフランちゃんが空気(´・ω・`)

とりあえずこれでも見てな!!

http://www.youtube.com/watch?v=unRPhNH-YWo&feature=youtu.be

>>917
これすげぇよな……

容量もすげえ


復旧してる。

今月は早かったですねえ。


なんか上条君が話題になってるけど、
恭介が当麻にそげぶされて、ノーバウンドする話とか書いた方がいいんでしょうか?


前回の恭介の反応は、さやかが復活する所を見たら、リアルならこんな反応するかな〜、と思いながら書いた次第です。
結果、悪い意味でリアリティが出てしまったのかもしれません。

死体がいきなり起き上がって、元気に怒り出したら、
そりゃあ誰だって「気持ち悪い」と思うんじゃない? と思ってたから、恭介はあんな反応になった訳です。
事実、まどポでも恭介はさやかのことを化け物呼ばわりしてた気がする・・・・。
あと、さやかとの関係の捉え方は、まあ結構ドライだなあ、くらいに思ってくれれば。
彼は結構現実的なのかなあと思ったり。


>>912
お楽しみ。恭介の今後も、今月末に配布される輝針城の体験版も・・・・


>>916
フランって誰だっけ?状態ですね、もう。


>>917
これすごい・・・・
秘弾と波紋を躱せる気がしないw
魔理沙がどうやって避けているのか見えないww

ゲーム中では二次元の弾幕も、実際は三次元な訳だから、こんな感じなんですかね。
だとすると、二次元より遥かに難易度が高いという・・・
液晶の中の嫁とリアルの女ぐらいの違いがある訳だw








                    *






 気が付くと、カーテンの隙間から光が漏れていた。もう朝らしい。



 さやかはベッドの上で寝返りを打ち、首を回して枕元の時計を見た。

 7時15分だ。
カチ、カチ、と秒針が音を刻みながら回っている。いつもの朝の光景だった。
違いはただ一つ。さやかが寝不足であること。




「ん、うぅん」



 昨夜は結局一睡もできなかった。




 ずっと恭介のこと、まどかのこと、魔法少女のことを考えていた。
でも、何の答えも得られなかった。

 昨日、まどかがやったことについては彼女を責めても仕方がない。
余計な御世話だけれど、その気持ちだけは本物だと思う。
だから、あまりまどかに恨みはなかった。
ただ、恭介に知られたのがショックなだけで。



 まどかは夜も、心配してメールをよこしてくれた。
その中で、ひたすら謝っていた。

 だから、あまり責めるのは可哀想だと思ったのだ。





 それに、これはこれで良かったのかもしれない。


 ずっと恭介に黙ったままなのは、騙しているみたいで返って悪い気もしたからだ。
ただ、恭介の恩人になるつもりはないという気持ちは変わらない。
彼がどんなに感謝しようと、それだけは変えるつもりはなかった。








 これは「献身」だ。



 いつだったか、フランが言った「献身」と「独善」の違い。
さやかは恭介に感謝されて、天狗になりたい訳じゃない。
彼が絶望の底から救われたというなら、それでもう満足なのだ。
ただ、彼が再びバイオリンを手に取り、美しい音色を奏でることができればそれだけでいい。
それ以上は望まない。


 だって、恭介のバイオリンは本当に素晴らしいから。それで十分だから。




 そう、本当に恭介の演奏はすごいのだ。




 さやかはちょっと音楽に詳しいだけの、普通の素人だから、どこがどうすごいのか、具体的には説明できないけれど、
彼の奏でる旋律は繊細で、優しく、ついつい聞き惚れてしまうような耳に心地良い音色なのだ。
聴けば聴くほどその音に魅せられていく。


 だから、もっとみんなに聴いてほしい。

 恭介のバイオリンは素晴らしいんだって。本当にすごいんだって。

 その演奏を聴いて感動したこの気持ちを、もっと伝えたい。


 そして何より、バイオリンを弾いている時の恭介の喜びを、彼にそれを手にできる幸せを、取り戻してほしかった。




 それがさやかの願いだ。


 皮肉なことだが、まどかのおかげでさやかは見失いかけていた自分の本当の願いを、
もう一度見つめ直すことができた。





 見返りはいらない。これでいいのだ。


 さやかは、自分が恭介に対して抱く気持ちが「恋慕」であることを、とうに知っていた。
だからと言って——否、だからこそ、その成就を願うのではなく、掛け替えのない、大切なその人の幸せのために
祈ったのだ。
そこに、下世話で不純な気持ちなど混じっていない。
純粋に、純情に、恭介のためにさやかは一生の祈りを捧げた。



 果たして、「奇跡」は起こり、彼は再び光に照らされた舞台へと舞い戻ることができた。



 その結果、魂が石っころになっても、体が死んでしまっても、それがどうしたというのだ? 
望みは叶った。恭介は幸せになった。


 それでいいじゃないか。それ以上望むのは欲張りだ。「身勝手」だ。





 恋は破れてしまったかもしれない。
彼の幸せの代償に、さやかの淡い初恋は終わりを告げたかもしれない。




 だけど、それなら安いものだ。
それ以上に、恭介の音色は美しいから。







 …………だから、この小さな恋は胸にしまって、大事に抱えていこう。










 未練がないと言えば嘘になる。諦めきれない部分もある。
それでも、そういうものはスパッと切り落として、これから歩んで行くのだ。


 想い人と過ごした、砂糖菓子のように甘美な一時は、頭の中だけで美しい思い出にしてしまおう。




 さよなら、初恋。これでお終い。




 さやかと恭介は、明確に別の道を往く。
彼女は魔法少女として戦いに身を捧げ、彼は奏者として栄光の舞台へ突き進む。










 ガバッとさやかは布団を捲った。それまでの思考を振り切るように。



 人生初めての徹夜が、まさかこんな形になるとは思わなかった。
けれど、不思議と眠気はなく、目蓋は痛いほどぱっちりと開いている。
意識は霞むことなく覚醒しており、つまり気持ちいい朝を迎えた気分だったのだ。


 さやかは起き上がり、小さな呻き声を上げて大きく伸びをした。

 窓辺に目を向けると、カーテンの隙間から差し込んだ日光が、床に細長い日向を描き出していた。
どうやら、今日の天気は晴れらしい。


 気持ち良く朝を迎えた気分だが、どうにも心の内は晴れ渡らない。
ハアッと、思い溜息を吐いて、さやかは自分が憂鬱であることを自覚した。





 学校に行くのが怠い。
恭介に顔を合わせるのが気まずい。
でも……、









「おい。いつまでもしょぼくれてんじゃねえぞ、ボンクラ」










 突然頭の中に響くテレパシー。
しかも、なんか結構失礼なことまで言われた気がする。


 さやかは、朝っぱらからこんな不躾なことを言う奴を一人しか知らなかった。




 ベッドから這い出て窓辺に寄り、カーテンを開けて外を見回す。

 さやかの住んでいるのはマンションの二階。
見下ろした先には花壇と、リンゴが詰まった袋を抱えた赤髪の少女。


 佐倉杏子だ。花壇の縁石に腰かけ、こちらを見上げている。



「ちょいと面貸しな。話がある」

 そうテレパシーを送りながら彼女は袋からリンゴを取り出し、丸齧りし始めた。
その様子に、顔を顰めたさやかは不機嫌そうに返信する。



「ちょっと待ってて」




 それから急いで制服に着替え、鞄を持って部屋を出る。
これなら、学校に行くという言い訳もたつし、杏子の話が終わったら実際に学校に行ける。

 家を出る時、母親が「朝ご飯は?」と聞いてきたので、「いらない」と返した。

 それから、外で待っていた杏子の前に立つ。


「学校、行くのかよ」

「普通そうでしょ? あんた、学校行ってないの?」

 コクンと杏子が頷いたので、さやかは呆れたように溜息を吐いた。

「中学生? なら、義務教育だよ?」

「うっせぇ。それより、ちょっとばかり長い話になるけど、いいか?」

「…………できるだけ、短く」


「ついてきな」


 そう言って杏子は歩き出す。
さやかもその後を追った。











ちょっと短いですけど、次が長いのでこれで区切ります。



さて、久しぶりに主人公()が登場しました。名前だけだけどw
まあ、ほむほむも空気化進行してるけど・・・・

恭介、今後が辛い事になったら、その気持ちを曲にでもしてみる事だな



気づいたら2スレ目も900オーバーか
‥フランちゃん生きてる?

乙ー
やっぱ雑談してるとレスの消費速度がハンパないな
冗談抜きで5スレ目突入するんじゃない?

乙!
フランちゃんマジどこ行った
最後の場面があれだったし主人公補正が無かったら生存を疑うレベル

きっと楽屋に居ても余りに暇だから一時帰省してるんだろうと思ってる


勝ち目ゼロなのに咲夜と対峙したり魔法少女の正体を知っても持ちこたえたりと、ここのさやかちゃんは結構な鋼メンタルだな。


そして後に無能どもから、「鋼の」と呼ばれる

今後も耐えられるか見物だな



そろそろ次スレの季節ですね。

立ててから二カ月半で900オーバーとか、驚異的なスピードww

>>930
イイですね。
曲でも書かせてみますかw


>>931
生きてますよ。
多分・・・


>>932
イクカナー
イキソウダナー


>>935
多少、本編より強くは書いております。
ただ、本編が難易度Hardなら、こっちはLunaticなので・・・


尚、作中の時間ですが、
さやかが「死んでいた」状態から覚醒するのに時間が掛かったため、
一日遅れで進んでおります。







                 *









「よっと」


 杏子は掛け声とともに古びた木の扉を蹴り開ける。
扉は大きな音を立てて向こうに倒れた。
埃が軽く舞い上がって、その後ろに居たさやかは思わず、鼻の前で手を扇いだ。



 そこは廃墟。元は教会のようだ。


 どこからどう見ても、人は住んでいる気配はない。

 扉の向こうには大きな講堂が広がっていて、その奥には高い祭壇と割れて外が見えるステンドグラス。
講堂の中も荒れていて、ガラスの破片や木の屑などが散乱していた。

 森の中に寂莫と佇む、廃れた教会。
色とりどりのガラスの向こうには、境界を囲む鮮やかな新緑の木立が覗き、それとかつては荘厳であったであろう教会の内装の残骸が、
さやかを何とも言えないもの悲しい気持ちにさせた。

 杏子はその中に入って行く。さやかもその背中を追って廃教会に踏み込んだ。



 中は外と違って、ひんやりとした空気に包まれている。
それが、ここがかつて神聖な場所であった名残に思えた。

 それなりに大きな講堂。外繋がる穴が開いているせいで、音はそんなに響かない。


 入口から祭壇の正面へ、講堂の中を杏子はまっすぐ進んで行く。
彼女の歩いているところは、丁度通路になっていて、左右には長い木製の黒ずんだ椅子が並んでいる。
今では、足や背もたれが壊れ、座面には何かの破片が散らばり、倒れたり列を乱したりしている長椅子だが、
まだこの教会が「生きていた」頃には、きっとここにはたくさんの人が集まって、そこに腰掛けていたのだろう。

 一体、どれくらいの人がこの場所で祈りを捧げていたのだろうか? 
その答えを知っていであろう目の前の赤いポニーテールは、きっと、語らないに違いない。



 ピチャッと、水音がして、さやかは視線を杏子の背中から足元に落とした。

 散らばる残骸の隙間にできた小さな水溜りがさやかを見上げている。
その顔は悲しそうで、目の下にはうっすらと隈ができていた。




 ヒドイ顔……。




 そう思って、それからさやかは視界に映る、別の物に気が付いた。


 ロザリオだ。
水溜りに半分ほど浸っている、黒い煤で汚れた小さな十字架が、床に落ちていた。



 信者だった誰かが落とした物だろうか? あるいはこの教会の住人の物のだろうか?



 さやかは、しかし、特に気に留めることもなく、視線を上げて、再び杏子の背中を見つめる。





「ここは? 勝手に入っていいの?」


 杏子は無言で祭壇を登る。
質問を無視されたことにムッとしながらも、さやかは後に続いた。

 杏子は祭壇の上で、さやかが登りきるのを待ってから背を向けたまま口を開く。



「ここはね、アタシの親父の教会だった」



 投げ掛けられた言葉に、さやかは微かに頷く。


 何となく、そんな気はしていた。
何せ、この教会に入って行く杏子には、まるで家に帰って来たみたいな雰囲気があったから。

 そうやってさやかが一人納得している間にも、杏子は言葉を紡いでいく。


「親父は、正直過ぎて、優し過ぎる人だった。毎朝新聞を読む度に涙を浮かべて、真剣に悩んでるような人でさ」





 それから語られたのは、杏子の過去。





 むかし、むかし、あるところに暮らしていた優しくて正しい父親と、純粋で父親のことが大好きだった娘のお話。


 毎日欠かさず心からの祈りを捧げ、正しいことを信じていた父親は、世の中にあたり前に転がっている悲劇や悪意に
常々心を痛めていた。

 彼はそんな現実をどうにか変えたいと、切に願っていた。神にも祈りを捧げた。






 Agnus Dei, qui tollis peccata mundi. しかし、どうしてわれらはこうも罪深いのでしょうか。









 ————その答えは、聖典にも教義にもなかった。


 だから、ある日、父親は世の中に正しさを広めるため、教義にないことまで信者に説いた。
それが悲劇の始まり。










 いくら正しいことを説いて回っても人々には受け入れられず、生活は貧しくなり、やがては明日食う物にも困る
有様になってしまっていた。




 誰も話を聴かなかった。聞こうともしなかった。




 かつてはあれほど熱心に教会に通っていた信者たちも、そろって父親に背を向けた。
人間の持つ、あまりにも醜悪で残酷な部分が現れたのだった。







 だから、娘は父の話を皆に聞いてもらいたくて、悪魔に魂を売った。

 悪魔の売ってきた商品の効果は確かなもので、祈った翌日から、教会には人が押し寄せた。


 初めは、誰もが喜んだ。娘も正しいことをできたのだと実感し、魔女という敵を倒すために戦い始めた。



 父親が正義を説き、娘が正義を振う。
そうやって、二人で世の中を正しくしていくんだと、娘は本気で信じていた。


 けれど、それは長くは続かなかった。






 奇跡を人の手によって叶えること。その意味に彼女が気付いた時、既に何もかもが遅かったのだ。

 それは、世の中に不条理を生み出す。
祈りが何であろうと、それは不条理に変わりはなく、よってそれは不条理で終わる。






 ある時、父親に全てのからくりがばれた。








 そして、その結果が——この上なく皮肉なことに——彼女を残しての一家無理心中。








 父親は娘を「魔女」と罵った。彼は酒におぼれ、絶望という病に憑りつかれ、ついに乱心する。


 娘が誰よりも正しいと信じた父親は、誰よりも愛していた母親と、誰よりも守りたかった妹を手に掛け、
自らも二人の後を追うという、救いようのない罪を犯してしまった。




 娘の心は砕けた。信じていた幻想は、無慈悲にも、木っ端微塵になってしまった。



 彼女の祈りが家族を破滅させたのだ。
父は地獄に堕ち、母と妹は理不尽に命を奪われ、後にはどうしようもなく無力で小さな少女だけが残されたのだった。








 ひどい話だった。


 まるでドラマの中の悲劇みたいな話だった。


 そのせいで、正義を夢見ていた少女は全てを諦めた。
そうしなければ、彼女は自分自身を保てなかったのだ。




 だから彼女は正義を捨て、自分のために魔法を使うと決意した。
それなら、何が起こっても自業自得だから。
良かれと思ってやったことが人を破滅させ、悲劇を生むことはないから。





「奇跡ってのはタダじゃないんだ。希望を祈れば、それと同じ分だけの絶望が撒き散らされる。
そうやって差し引きをゼロにして、世の中のバランスは成り立ってるんだよ」



 話の最後に、杏子はそう言った。

 それが彼女が出した結論だった。


 奇跡には必ず対価がある。
もし、誰かのために奇跡を祈ったら、そのツケはその誰かに回ってくる。
あるいは、その誰かを恨んでしまう。
けれど、自分のために奇跡を願えば、ツケは自分で払うことになる。



 それが自業自得。



 全部自分の招いた結果だと思えば、他人を恨むことはないし、割り切ることができる。


「何で、そんな話を私に……?」

 杏子の過去は分かった。でも、それを話した意図が見えてこない。
だから、さやかは素直に疑問を口にした。


「アンタも、開き直って自業自得に生きればいい」


 杏子は視線を落としながら呟く。

 要するに、杏子のように、自分のためにだけ魔法を使えばいい、という訳だ。




 変なの、と思う。

 利己的なことを言うくせに、やってることはさやかの心配をしてのことだ。
その矛盾を突こうとして、さやかは口を開きかけた。
けれど、それは続く杏子の言葉に遮られる。







「って、そう思ってたんだけどさぁ」


 いつの間にかこちらを向いていた杏子はまっすぐさやかを見据える。
その口元には、仄かに笑みが湛えられていた。




「あの跨道橋で、あのメイドがマミを殺そうとした時、アタシは……何にもできなかった。
ただ、見ているしかなかったんだ」

 柔らかな日差しが廃墟の中に差し込んできて、ステンドグラスを通った光が講堂の床に様々な模様を描いていた。
赤、青、黄色、紫、緑、白。
灰色の埃の積もった床は、そんな色たちに彩られていて、綺麗に染まっていた。
杏子は、それに目を落としながらとつとつと自分の想いを言葉に乗せる。


「でも、アンタは違った。
アンタはマミを守るために飛び出した。
結果は散々だったけど、アンタは確かにあの時、正義のヒーローだったよ」



 そんなことを、杏子は真顔で言う。さやかは思わず顔を背けてしまった。


 あの時は、考えなしに飛び出しただけだ。勝算なんてなかった。
それを、面と向かって褒められるとかなり恥ずかしい。顔が火照ってる。




「それで気が付いたんだ」


 そんなさやかの内心を知ってか知らずか、杏子は尚も真剣な顔で続ける。



「アタシのやりたかったことって、こういうことなんだってね」

「じゃあ……」




「アタシたちは魔法少女だ」






 杏子の表情は変わらない。それどころか、さらに深刻な顔になっている。


「他に同類なんていない。だから、アタシたちがどんなに人のために頑張っても、それは決して理解されないんだ。
アタシの親父がそうだったようにね」


 その言葉は、意図せずして、さやかの心の一番深いところを突いた。





 胸を刺す痛みに、さやかは僅かに怯む。


 それで…………、そんな時に反発せずにいられないのが美樹さやかと言う少女だった。






「く……。だから、何? それくらいの覚悟、とっくにできてるわよ。
第一、私は見返りを求めない。
だから、誰からも感謝されなくてもいい。
恭介は知っちゃったけど、別に恭介の恩人になりたい訳じゃない」



 杏子が顔を顰める。まるで苦虫を噛み潰したように。






 彼女の気持ちは、何となくだけれど、分かる。
あんな過去があったなら、そういう気持ちになっても仕方がないと思う。
でも、だからこそ認める訳にはいかない。頷くことはできない。







 だって、それは、祈りを否定することになるから。
魂を賭けた願いを嘘にすることになるから。









 今、ここに居るのは、人間ではなく、魔法少女————魔法少女さやかだ。



 その原点は、「恭介の腕を治したい」という願いにある。それが、さやかの根幹なのだ。

 故に、そこは絶対に不可侵の聖域であり、自分を含めた誰にも否定し、犯すことを許さない。








 ————佐倉杏子にとってのこの教会と同じく。




 ここにはきっと、忘れられないたくさんの思い出が詰まっているのだろう。
悲しいことも、嬉しいことも、みんなここで起きたことなのだろう。




 だから聖域だ。






 それはもちろん、さやかが両親から与えられている「私室」という意味ではない。
それは、イェレサレムのような、バチカンのような、メッカのような、土足で踏み込むことを許さない神聖な領域という意味。






 かつて、杏子が祈りを捧げた場所。
家族と暖かい時間を過ごした場所。
救いようのない破滅が起きた場所。





 そして、彼女はさやかを招き入れ、自らの過去を打ち明けた。

 その意味は大きい。とても特別なことなのだ。










 今まで、さやかは杏子の表面しか見ていなかった。
利己的で、他人の犠牲を顧みない、悪い奴だと思っていた。







 けれど、それは真実の彼女の姿ではない。







 今なお、この崩れかけの教会で祈りを捧げる少女こそ、佐倉杏子の本質なのだ。











 ……それから、一瞬顔を顰めていた杏子はすぐに元の真顔に戻った。
そして、ふと天井を見上げる。


「もう一つ、話がある」

「何よ?」


 唐突に行われた話題転換に、さやかは思わず棘のある返事をしてしまう。
ああ、しまったと思ったが、杏子は特に気にした様子はない。



「アタシが、マミの弟子だったことは知ってるよな」

 それは、跨道橋でのマミと杏子の掛け合いの中で聞いた。
その時は信じられなかったが、杏子のことを知った今は納得できる。
何しろ、二人は同じタイプの魔法少女だったからだ。



「アタシにとって、マミは憧れの先輩だった。いや、憧れの先輩だ」



 そう言う杏子の目は、マミを見つめるまどかのそれのようだった。
つまり、さやかのマミを見る目と同じだということだ。



「マミは、街の人を守るために戦い続けてきた。
辛くても、苦しくても、頑張ってきたんだ。ホントに、マミは正義のヒーローだよ」


 杏子は顔を下ろし、真っ直ぐな目でさやかを見抜く。さやかも負けじと見つめ返す。

 青と赤の視線が交差する。




「だから、マミの奴をあのままで放っておけない。
あのままだと、いずれマミは人を殺しちまうかもしれない。


それは……、ダメだ。

今まで人を守ってきたマミが、人を傷つけたりしたら、アイツは自分で自分のやってきたことを壊しちまう。



……だから、止めなきゃいけない。




それには……、アンタの力が必要なんだ」






 思わぬ強い意志をストレートにぶつけられて、さやかは思わずたじろいだ。



 杏子の目には、一片の迷いもない。視線も言葉も、槍のようにまっすぐに突き進んでくる。







 その様子に戸惑いつつも、さやかは尋ね返す。
しっかりと、その槍を受け止めるために。




「何で、私?」


「アンタ、治癒の力を使えるんだろ?」


「そうだけど」


「ならさ、その力で、マミのことを治せるかもしれないじゃんか。
マミを、元に戻してやれるかもしれないじゃんか」



 ハッと、さやかは息を飲む。



 それは、何日か前に、まどかと公園の土手で話していたことだ。
その時は、ひょっとしたらできるかも、程度にしか思っていなかったのだが、杏子の言葉には確かな強さがあった。



 さやかには強力な治癒能力がある。
それは、全治三か月の重傷を一瞬で治してしまうほど強力な物。
マミを助けるためのものとしては、申し分ないだろう。





「ほんとに、私でも、できる?」


 あの時、マミを助けようとして、結局何にもできなかった無能な自分でも、マミのために、
今度こそ本当に力になれるのだろうか?


 不安になる。自信がなくなる。




 それでも————、




「それは、やってみないと分かんねえよ。でも、やるだけの価値はあると思う」


 杏子は、さやかが必要だと言った。




「でも、今のマミさんは……」


 杏子は、マミを助けようと言った。





「確かに今のマミはちょっと暴れん坊になってるけどさ。二人掛りなら抑えられる。
一人じゃできないことも、二人ならできる」


 だから、さやかは信じてみようと思う。





「分かった。そういうことなら、協力するよ」






 さやかがそう言うと、杏子はニヤッと笑った。
なんか、それが様になってる。
さっきのような、真剣な顔とか、シスターのような微笑みとかより、こういう悪ガキっぽい笑い方の方が杏子には似合ってる気がした。





 その調子でさやかに近寄って来る杏子に、さやかは片手の掌を向けた。



「ただし、条件があるよ」


 なんだよ、と言うように杏子が眉を寄せる。




「今度からちゃんと使い魔も退治すること。グリーフシードのために、見逃したりしないこと。
私と組むなら、それは守ってよね」

「分かってるよ」



 杏子は紙袋の中からリンゴを一個取り出した。そして、それをさやかに向かって放り投げる。








「食うかい?」






 軽い音を立ててさやかの両手に納まるリンゴ。
傷一つない皮は、鮮やかな赤色で、すごくおいしそうだった。

 朝ご飯を抜いて空腹のさやかは、思わず口の中に溢れた涎を飲み込んだ。
だが、すぐには受け取らない。



「あんた、このリンゴどうしたの? ちゃんとお店でお金払った?」


 すると、杏子は心外だと言わんばかりに顔を顰めた。


「ちゃんと買ったよ」


 その不貞腐れたような、子供っぽい仕草が、意外と可愛らしい。
その仕草に、さやかはうっすら笑みを浮かべた。





 廃れた教会に、久方ぶりに戻る笑顔。
新たな希望の芽が吹き、二人の少女は笑い合いながら大切な人を救うために、互いに手を取る。



 そのことを実感して、さやかは勢いよく林檎に齧り付いた。












   空海 登場☆


本編より早く杏子が本性(聖女)を表しましたww



お蔭で明るくなりつつありますw

マミさんを助けるためという名目なら、
杏さややってもいいかなあと思った。
後悔はしていない。

乙ー
杏子ちゃんマジ聖女


まみさんなおるといいなー(棒)

どうせ みんな いなくなる

>>958
どうしてそんな事を書いた! 言え!なんでだっ!!

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