諸葛亮「どう考えても就職する陣営を間違った」 (63)

諸葛亮「本当はどの勢力に所属せずに気ままに農民をしていたかったのに」

諸葛亮「水鏡先生が秘蔵の菓子を食べたことを根に持って、劉備様に「伏龍」と「鳳雛」を告げたばかりに面倒なことに成って」

諸葛亮「いつも私とホウ統の三番手であった徐庶が、門下時代の仕返しに劉備さまに私の本名を告げて曹操陣営に言ったことで、三度私の元に訪ねてきた」

諸葛亮「……三度来ようと断りたかったけど、外で待っている猛獣×2に何されるか分かったもんじゃなかったからなー」

諸葛亮「虎の方は家に火をつけようとするし」

諸葛亮「まぁ、私も? 幼いころに火計の実験に嫌がらせをしてきたガキの家に火をつけたけど、まー、これは時効だし? ね?」

諸葛亮「しかし、徐庶のヤツ。母親を人質に捕られて出て行ったようだけど、劉備陣営の体質がイヤになって逃げ出したんじゃないだろうね」

諸葛亮「流浪が長かった所為か、資金や兵糧の流れがメチャクチャ。まるで群雄としての最低限の質もない」

諸葛亮「……はぁ。いや、文句を言っても仕方ない。とりあえず頑張ろう」

諸葛亮「とりあえずは。私のことを嫌っている鬚と虎をどうにかしないと……」

諸葛亮「……………………………………火計の巻き添えは最終手段。うん」

兵士「諸葛亮様! 夏侯惇率いる数万の兵がここ新野に向けて進行中とのこと」

兵士「劉備様がすぐに来るようにとのことです」

・軍議室

劉備「おお、よくきてくれた先生。さっそくだが隻眼将軍がコチラへと向かってきているらしいんだ。なんとかしてくれ」

諸葛亮「まー、やれることはしますよ。ええ」

関羽「我が軍の軍師殿は覇気が足りないのではないか」

張飛「ガハハハァァ。策なんていらねぇ。このオレ様が夏侯惇など蹴散らしてくれるわ!」

諸葛亮(……一応、貴方の嫁さん繋がりで親戚になるわけですが? この人に何を言っても無駄か)

諸葛亮「率いる将は夏侯惇ですか。して、それを支える参謀は?」

兵士「いえ、名のある将は夏侯惇だけのようです」

諸葛亮(うわぁ、ウチの陣営って舐められてるなー。徐庶を引き抜いたからって、誰も軍師に付けないとか)

諸葛亮(しかし程昱や荀彧や荀攸や賈クを軍師としてつけられてたら、即効で逃げるしか無かった)

諸葛亮(劉備軍と曹操軍だと、兵士の質が文字通り雲泥の差だろう)

諸葛亮(……せめて徐庶がいてくれれば、火計の実験にしてあげれたのに)

諸葛亮「とりあえず私に策があります。皆様には」


諸葛亮、将に策を説明する

劉備「先生。その策は巧くいくのだろうか?」

諸葛亮「キチンと私の言ったとおりに動いてくれれば必ず成功します」

諸葛亮「では、劉備さまは夏侯惇を釣る囮役。頑張ってください」

劉備「う、うむ。まかせておけ!」

諸葛亮(さて、皆さんが戦っている間は暇なので、今のうちに財政管理や諸々をしておかないと)

諸葛亮(あの人たちは人に構ってきすぎてまともに事務作業ができないからね)

諸葛亮(この作戦だと約2日は稼げるはず)


博望坡の攻防。
諸葛亮が提案した火計により劉備軍は大勝することになった

関羽「さすがは「伏龍」諸葛亮殿だ。見事な策であった。まぁ、拙者は貴殿の才能には初めから見抜いていたのだがな」

張飛「逃げまとう曹操軍の奴らを殺し回るのは最高だったぜ!」

劉備「さすがは先生だ! このような大勝は我が人生で初めてだ」

諸葛亮「……それは、ええ、良かった、デス、ね」

諸葛亮(く、あまりの杜撰ぶりに2日徹夜して3割も纏められなかった)

諸葛亮(このままだと将来過労死するかもしれない……)

劉備「それでは宴会を始めようぞ」

諸葛亮「……まだするつもりですか。もう5日連続ですよ」

諸葛亮「戦後処理もまだ済んでないのですが」

劉備「先生。そんな細かいことをきにしてどうする! 騒げる時に騒ぐものだ」

諸葛亮(そんなのだから、今まで流浪をしてくるハメになったのでは?)

諸葛亮(このままでは……私がまずもたない)

諸葛亮(ここは余命短い劉表が死んだ後に荊州を奪ってもらい、荊州人材を加える必要がありそうだ)

・数日後、劉表私邸

劉表「うぅぅ、劉備殿。我が生命は、もう長くない。才能なき我が子より、劉備殿が、この荊州を治めてくれないか」

諸葛亮(キター。劉備殿、頷いて下さい。それで全てが巧くいきます。天下三分の計も予想よりもずっと早く実現することに)

劉備「なにを弱気なことを!」

劉備「この劉玄徳。劉表殿より受けた万を超える御恩を報いておりませぬ。その上に、この荊州をいただく事などできませぬ」

劉備「私は、劉表どののご子息を支える覚悟です!!」

l劉表「お、おおおお。劉備殿……」

諸葛亮(……………………え。この人、何を考えてるんだろう。せっかく話を蹴るなんて)

諸葛亮(まさか私にすら思い浮かばない考えが)

諸葛亮(うん。それはないな)

諸葛亮「あの、劉備様? なんで劉表さまの話を蹴られたのですか」

劉備「ほら、一度目で頷くなんて人として、なんか駄目だろう? うん」

劉備「先生も三度訪ねてやっと立ち上がってくれたのだ。この誘いも何度か断って、更にしてくるようなら受けるつもりだ」

諸葛亮「……」

諸葛亮(それとこれは状況が違いすぎるのですが。人材と一州を劉備様にとっては同じように扱われるのか)

諸葛亮(たぶん二度目はないだろう。蔡瑁が手を回し、この話を劉表殿が劉備様に話をする事は二度とないだろう)

・数日後、劉備陣営

兵士「緊急事態です。劉表殿は死亡し、劉表の後継者となった劉琮は曹操軍にすぐさま降伏したとのこと」

劉備「なん……だと」

諸葛亮(……ま、こうなるでしょうね)

諸葛亮(劉キが、蔡瑁一派を黙らせ、義母を誅する気迫があれば良かったのですがね)

諸葛亮(監禁された時に進言した時に青い顔をされたので、江夏の太守となるように進言したのですが)

諸葛亮(その機を待って直ぐに行動に移すとは。劉表の死も、果たして病気による死なのか疑問だ)

劉備「どどどど、どうしよう先生! このままでは、そ、そそそそ曹操が来てしまうっ」

諸葛亮「とりあえず逃げましょう。劉キどのが居る江夏ならば、我々の味方にもなってくれるでしょうし、蓄えもあるでしょう」

劉備「そそそそうだな」

劉備「よし、すぐに江夏へと向かうっ」

諸葛亮(本当は江陵へ行きたかったですが、流石に間に合わないでしょうね。曹操軍の苛烈な速さからは)

民「劉備さまー。オラ達、劉備さまに付いていく」

民「曹操の元になんていたくねー」

劉備「おお、民達よ。よく分かった。我々と着たい者は直ぐに準備を始めよ!」

諸葛亮「…………………………………………………………は?」

諸葛亮「あの、劉備様。今の状況、分かってます?」

諸葛亮「前からは曹操軍が、後ろからは劉琮軍が。正に前門の虎、後門の狼の状態ですよ」

諸葛亮「一刻も早く江夏へ向かわなければ駄目な時に、なぜ民を連れて行くことに?」

劉備「だって、民達が一緒に行きたいって言うからには仕方ないだろう」

劉備「大丈夫大丈夫。曹操も民を無闇矢鱈に殺しまくるなんてことはしないだろうからな。はっはっはは」

諸葛亮(この人は徐州の件を一切合切忘れているのか……)

諸葛亮(うぅう、胃が痛い。下手すると今宵、劉備軍は終わるかもしれないなー)

・長坂坡の戦いが終わった後の江夏

劉備「うおおぉぉぉ。私を慕い、ついて来てくれた民を、数多喪ってしまった!」

劉備「おのれ。おのれぇぇ、曹操ぉぉぉおおおお」

諸葛亮(いや、曹操を恨むのは筋違いなのでは?)

諸葛亮(あの時、劉備殿が民にキチンと説明して付いてくる事を止めさせてれば、こんな大敗北に繋がることはなかった)

諸葛亮(それに民にとってもひどい目にあった挙句に死ぬこともなかっただろう。曹操の治世事態に悪い評判は聞かないわけで)

諸葛亮(これが天下人の魔性の魅力なのか。……私には一生それを感じることは無理そうだけど)

兵士「失礼します。陣中見舞いということで魯粛どのが来られました」

諸葛亮「どうやら曹操軍の事を聞きに来たのでしょう。次に狙われるのは十中八九……呉でしょうから」

劉備「して、先生。私はどうすればいい?」

諸葛亮(さっきまで号泣していたのは……。今はその形跡が全くない)

諸葛亮「のらりくらりと話をはぐらかせて下さい。……良いですか。基本「分からない」で構いませんからね。下手に「はい」とか「いいえ」とかは言わないで下さいよ」

劉備「子供ではないのだから、その程度のことは大丈夫だ。はっははは」

諸葛亮(その程度の事をしてくれないから、こんな苦労をしているのに)

魯粛「いやはや驚いた。まさか諸葛亮殿自らが来ていただけるとは!」

諸葛亮「是が非でも呉には勝ってもらわなくてはいけませんからね。そのためなら犬馬の苦労も惜しみません」

諸葛亮(よしっ。これで久しぶりに休む事が出来る!)

諸葛亮(劉備軍に入って一週間の睡眠時間が5時間なんてザラだった。この気にゆっくりと休んで気力を回復させよう)

諸葛亮(どうせ呉に言っても部外者の私は口出しは出来ないだろうし。ゆっくりと休めるハズだ)

諸葛亮(……私がいない隙に曹操は江夏に攻め入ったりしないかな。しないかなー。ハァ)

魯粛「見えてきました。それが我々の本拠点です」

諸葛瑾「おや、そこにいるのは孔明ではないか」

諸葛亮「……ああ、兄上。遠くからみても直ぐ兄上だと気づきましたよ(独特な顔をしているので)」

諸葛亮「ゆっくりと会話をしたいですが、互いに違う勢力に身を置く者同士。できる限り接触はしないでおきましょう」

諸葛瑾「う、うむ」

魯粛「弟さん。若いのにしっかりとされてますね」

諸葛瑾「……」

諸葛瑾(孔明のヤツ。よほど疲れているようだな。ほとんど脳を働かせないようにしているようだ)

諸葛瑾(これから戦争反対派による舌戦が控えているというのに大丈夫なのだろうか)

魯粛「申し訳ない諸葛亮殿。我が陣営の文官たちが非礼をした」

諸葛亮「いえべつにかまいませんよ。かれらもいきのこるためにひっしなのでしょうから」

魯粛(ん……? 何か言葉が平坦な気がするが)

魯粛「今夜はゆっくりと休まれよ。明日には周瑜殿が帰ってこられ、近日中に交戦か降伏かの結論が下されるだろう」

諸葛亮「……びしゅうろうとうわさされるかれにあうのは、とてもたのしみにしてますよ」

諸葛亮「すみませんが、ちょっとながたびでつかれたので、これでしつれいします」

魯粛「そうでしたな。この建物を自由に使ってくれて構いません。困った事があれば兵士に言ってくだされ」

諸葛亮「わかりました……」

周瑜「貴殿が「伏龍」諸葛亮殿か。同門であったホウ統殿も今はおられるが、お会いになったか」

諸葛亮「……ホウ統には会ってませんね。兄には、来た時に挨拶をした程度です」

諸葛亮(「伏龍」と「鳳雛」の二つ名は呼ばないでほしいなぁ)

諸葛亮(水鏡先生の門下だった頃の黒歴史だ。具体的に言えば、自分は特別な存在だとか、目には不思議な力が宿ってる的な感じの時にしたことで)

諸葛亮(それを水鏡先生が面白がって呼ぶもんだから定着してしまった)

諸葛亮(……昔の事はさておき、ホウ統は呉にいるのか)

諸葛亮(なんとか引き抜いて、私の劉備陣営にいる時の負担軽減剤になった欲しいものだ)

諸葛亮(それは追々考えるとして、今は眼前のことに集中しなければ)

諸葛亮「して、周瑜殿は交戦と降伏。どちらの腹積もりなのです?」

周瑜「……結論は急がないでもらおうか。まずは貴殿から曹操陣営のことを聞いてから考える」

諸葛亮「私から曹操軍のことを?」

諸葛亮「簡単にいえば曹操軍は圧倒的数の兵と、才気煥発の将軍と参謀を抱え、覇王の格を持った軍勢、ですね」

諸葛亮「陸で戦えば間違いなく破れ。水の上でなんとか六分四分と言ったところでしょうか?」

魯粛「しょ諸葛亮どの! あまりに表現が過ぎるのではっ」

諸葛亮「過ぎませんよ。曹操は今や大陸の半分以上を手中に治め、数多の有能な人材を抱えています。魯粛殿はそれを否定されるおつもりで?」

周瑜「……それほど巨大な相手に、なぜ劉備は降伏をしない」

諸葛亮「陰陽が交わらないように、劉備様は曹操に降伏をするつもりはないのでしょう」

諸葛亮(ま、降伏してくれたら、私は直ぐに隠居をして残りの余生を自由気ままに生きたいのですが)

諸葛亮「しかし周瑜殿。曹操は他人の花嫁から盗むほどの好色家です」

諸葛亮「もし戦で敗北する、いえ降伏をすれば、間違いなく貴方と、そして断金の交わりをした孫策さまの奥方を曹操は要求するでしょうね」

諸葛亮「奥方二人を曹操に差し出せば、呉の将兵は死ぬ事もなく、領地を荒らされることもない。どちらが得か、周瑜どのなら」

周瑜「止めろ!!」

周瑜「曹操などの逆賊に我が妻。そして伯符の奥方に触れさせてたまるか!!」

諸葛亮「……曹操と戦う気ですか?」

周瑜「ああ、そうだ! もはや何人たりとも我が決意を変えることなぞできんっ!」

諸葛亮「周瑜どの。貴方の気持ち、この孔明、いたく感銘を受けました。さすがは美周郎と呼ばれる天才だけはあります」

諸葛亮「周瑜どの才には遠く及びませんが手伝わせていただきたい」

諸葛亮(そして出来るだけ引き延ばしたい。せっかくの休暇を短く終わらせたくはないからな)

・諸葛亮に与えられた屋敷

ホウ統「相変わらず口が上手いなぁ、ええ、伏龍さんよ」

諸葛亮「……兵士さん不審者です」

ホウ統「ちょっ! 冗談がキツイぞ。俺だよ、俺! ホウ統だよ」

諸葛亮「チッ。それで人の部屋に忍び込んでなんのようだ。劉備軍に来たいのなら、大歓迎だぞ」

ホウ統「ヘヘ。今は呉に食い扶持の世話になってる身なんでね。それに伏龍すらも苦戦する陣営に招待されてもねぇ」

諸葛亮「どうせなら生贄は一人よりは二人が良いだろう?」

諸葛亮「まぁいい。私は疲れているんだ。さっさと帰ってくれ」

ホウ統「……今頃、呉の将兵と孫権が集まって話し合いをしているんだろ。見に行かなくてもいいのかい」

諸葛亮「構わないよ。どの道、曹操と戦う事を選ぶだろう。周瑜が喬姉妹を曹操に渡すはずがない」

ホウ統「ふぅん。それでお前はこれからどうする気なんだ。前線で周瑜と共に策を練るのか?」

諸葛亮「まさか。私は戦の末端の更に端でユックリと身体を休めるつもりだ。動く時は、たぶん、決戦の時だろう」

ホウ統「……そう自分の思い通りにいくかねぇ」

諸葛亮「行って欲しい。ま、しばらくは周瑜殿のお手並み拝見で」

諸葛亮「そういう鳳雛はどうする気なんだ?」

ホウ統「んー。お前と似た感じだな。今は特に重要な役職にされていないから、いつも通りに税の仕事をする」

諸葛亮「ま、精々頑張ることだ。……互いに才能を腐らせない程度にな」

ホウ統「ああ」

バタン

ガチャ

魯粛「諸葛亮殿! 孫権様がついに曹操と雌雄を決する決断をされたぞ」

諸葛亮「……それは朗報ですね」

魯粛「それで是非とも諸葛亮殿にも共に前線へ趣き、周瑜殿と力を合わせてほしい」

諸葛亮「…………………………え?」

諸葛亮(前線までは予想していたけど、周瑜殿と共に力を合わせると言われても)

諸葛亮(何かずっと睨まれてるし。ぅぅ、何か胃がまたキリキリしてきた)

諸葛亮「周瑜殿。あくまで私は別陣営の者。そんな者が、作戦の中枢にいては、周瑜殿も今後の事を考えて、積極的に発言は出来ないでしょう」

諸葛亮「私は魯粛殿に用意して貰った舟で過ごすので、御用があればお呼びください」

諸葛亮「この孔明。周瑜殿の知恵の手伝いのためには、寝ていても直ぐに駆けつけますよ」

諸葛亮「……でも、美周郎と呼ばれる方に私ごとの青二才の知恵は必要ないでしょうが」

諸葛亮「それとも、私がいないと不安、ですか?」

周瑜「不安などないっ! 用があれば呼ぶから、それまでは貴殿が言ったとおりにしていろ」

諸葛亮「はい」

諸葛亮「体よく暇を得ることに成功した。……が」

諸葛亮(見張りは全部で2名か。ま、当然の処置だな。逆に他陣営の者に見張りを立てなかったら無能だろう)

諸葛亮(それにしても周瑜殿は、どうしてあんなに私に敵愾心を丸出しなんだろう)

諸葛亮(あの調子では、この戦いが終わった後の劉孫の同盟に影響がでる)

諸葛亮(ただでさえ劉備さまの陣営は面倒が山積みなのに、更に厄介事を増やすのはやめてほしい)

諸葛亮(とりあえずは周瑜どのの軍略を静観しますかね)

>>1だけど、
夜じゃないと書けそうじゃないため、SS速報の方で改めてしようと思います。
保守してくれた方ありがとうございます。

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