塩見周子「抱きしめてほしくなる」 (43)


(その夜はひどいどしゃ降りで)

(テレビ局の楽屋でも雨音が聞こえてくるほどだった)

ザーー…

塩見周子「……すっごいなー」

周子「傘あったっけ。役に立たんか」カチャカチャ

周子「んー、ま、片付けこんなもんかな」

周子「よし」パタン

ガチャ

周子「おまたせー」バタン

デレP(以下P)「うん、お疲れさま」

周子「いやほんと、何時まで働かせるんって感じ」

P「すまん、いける時間ギリギリまで入れたから」

周子「ま、もちろんお仕事ですからねー。きちんとやるけど」


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コツ コツ 

周子「あとなんかある?」

P「これで終わり。明日は休みだから、ゆっくりしてくれ」

周子「Pさんのこと」

P「ああ、俺もあがり。明日は久しぶりに全休だな」

周子「お、Pさんも」

P「いくらなんでも、休みくらいはあるよ」

周子「そっかぁ」

P「まぁ、ほとんど寝てるだろうけど」

周子「あはは、わかるわ」

周子「じゃあ、この後は?」

P「今日? ……まぁ夕飯、いや夜食だな。食べて帰るだけ」

周子「ほーうほう」

P「いくか?」

周子「んー、そうねーっ……」ノビー


周子「お寿司なのかステーキなのかは気になるところですなぁ」

P「たかる気満々かい。グレード低けりゃそれでもいいんだけどさ……」

周子「お、マジ、いいの?」

P「ラーメンの方が優しいけどな」

周子「この時間のラーメン、罪だね」

P「たまらんな」

P「さて、あと問題は」コツ コツ

ウィーーン ビュォッ

周子「おわ、風つよ」

ザーーーーー

P「これはー……」

周子「うーん。ダメそうやねー」

P「傘さしても、ってくらいだな」

周子「ゲリラ豪雨なら、ちょっと待つっていう手もある?」

P「そうだな…… ちょっと調べるか」


P「うわ」

周子「どしたの」

P「落雷で電車が止まったって」

周子「あーあ、あかんやん」

P「……雨雲レーダーだと、あと15分くらいであがりそう」

周子「なら、それからご飯食べて駅行って」

P「終電までに動くかな」

周子「あー……」

P「とりあえずタクシー呼ぶつもりなんだが…… 配車も待ちそうだ」

周子「まぁ、みんな考えることは同じよね」


周子「ん、てことは、アタシら帰れない?」

P「いや、バスとか地下鉄あるし」

周子「東京の交通は強いねぇ」

P「だなぁ…… あ、バスは遅れてるって」

周子「なんで」

P「道路冠水。ほら、渋谷って谷だから」

周子「凛ちゃんは谷やった」

P「渋谷さんは谷じゃない」


P「仕方ない、雨が弱くなったら、ひとまず駅まで歩こう」

周子「えー。大事なアイドル歩かせるんー?」

P「原宿駅までだから」

周子「え、そっち?」

P「そっちの方が近い。地下鉄も通ってるし、帰れないってことは無いだろう。道で拾えればタクシーも乗れる」

周子「あーあ、帰るころには翌日になってそうねぇ」

P「まぁ、明日はゆっくり……あ、すまん、朝から予定あったか?」

周子「なんもー。何時に帰ってもええよ」

ザーーーーー

周子「帰れるなら」

P「んー……」


P「今はもう待つより他ないか。何食べる?」

周子「ラーメン拉麺らーめん」

P「……助かるよ。そっちのソファで待とう。外も見えるし」

周子「ん」

バフッ

周子「Pさん明日はどうすんの」

P「えー。起きて飯食って、洗濯して飯食って寝る」

周子「有意義やなぁ」

P「そうだろう」

周子「皮肉も通じひんのかーい」

P「そういう周子は?」

周子「そーねー。夕方まで寝てからー」

P「有意義過ぎる」

周子「んふふふ」


---

周子「――え?。じゃあ、Pさんも割とやんちゃだったんやねぇ」

P「別に法に触れたことはないって……」

周子「そんで、普通に大学出て普通に就職した?」

P「まぁ、そうなるな」

周子「ふぅん」

P「なんだよ」

周子「ううん」


P「ん……やっと弱まってきたかな」

周子「お。これくらいなら行けそうね」

P「じゃあ、行くか」

周子「……」

P「……周子?」

周子「ねぇ」

周子「Pさんは明日、お休みって言ったよね」

P「ん?」

P「……言ってない」

周子「うわっ、この人さらりと嘘つきよる」


周子「つまり、あたしが何言いたいかわかったってことよね?」

P「わかってない、知らない、さっさと飯いくぞ」

ウイーーン コツコツ…

P「もう小降りだな」

周子「ご飯は行くけど。その後でさ」

P「まっすぐ帰る」

周子「そんなこと言わずに」

P「……言わずに、何したいって」

周子「やっぱりわかってるんじゃーん」

P「……」

周子「んふふ、それでね。シューコちゃんと夜遊びしない?」

P「言い方がアウトだからしない」

周子「大丈夫、言い方だけだから」

P「だからってセーフにはならない話だろう」

周子「ん?大丈夫じゃない? 18は超えてるわけだし、固いこと言わんで」

P「言う案件だよ」

周子「あっ、知ってる、これPさんが根負けするパターン」

P「プロデュース業の根性なめんな」

周子「ほんなら、アイドルの根性見したる」

P「出会った時の周子に聞かせたい言葉だ」

周子「いけずー」


周子「別にヘンなコトしようってわけじゃないんよ?」

周子「ダーツしたり、カラオケ行ったりしてさ、一晩遊ぼうよー。一夜を共にしちゃおうよー」

P「だから……」

周子「あたし、そういう夜遊びしたことないからさ」

周子「大学生みたいな遊び方」

P「去年まで高校生だったんだから、そりゃあ」

周子「ならそろそろ、遊び方を知るべきやと思わん?」

P「徹夜で遊ぶと、休日潰れるぞ」

周子「まぁ、遊んだ分は確実にね」

周子「でも、潰す価値があるっていうか」

周子「休日のお昼にできたとしても、仕事終わりの夜にやるからこそ意味があると言いますか」

P「……だろうな」

周子「Pさんが一緒の方が助かるんだけどなぁ」

周子「着いてきてくれないなら、一人で行くしかないね」

P「それ脅迫だからな」


P「……はぁ」

P「よし分かった」

周子「お?」

P「始発まで付き合ってやる」

周子「お、お、なんだかんだ言って、ちゃんと付き合ってくれるんだからーもー」バシバシ

P「いたい。茶化すならなし」

周子「わわ、ごめんてー」

---

周子「中盛り」

P「大盛り、ライス」

周子「うわ、えぐぅ」

P「スープを味わってこそラーメンだと思うわけだよ」

周子「ふむ…… ……あたしも」

P「マストレさん5回」

周子「やめときまーす」

P「共犯のよしみだ、俺のライスでよければ分けてやろう」

周子「わーい」


ズーー ズルズル

周子「そんでさ、なにする?」

P「ん?」

周子「このあとー」

周子「徹夜の定番はカラオケって気がするけど」

P「……定番だけど、アイドルとサシは勘弁してくれ」

周子「えー。Pさんの歌声も気になるけどなぁ」

P「そんな面白いもんでもない」

周子「映画、レイトショーは?」

P「絶対寝るだろ」

周子「間違いないわ。時間潰しなら漫喫とか?」

P「それもちょっとな……」

周子「んー……  あっ、ねぇどっか夜景見えるところとかない?」

P「夜景?」

周子「ちょっとロマンティックにさ。なかなか見る機会ないでしょ?」

P「夜景ね…… あー、この時間ならまだやってるか」

周子「お?」

P「まぁ、朝まで時間潰すんだ」

P「遊べるところ、回ってみるか」


---

チン ウィーーン

周子「おー……」

P「さすがにあまり人がいないな」

周子「何ここ。シアター?」

P「そっちはもう終わってる。ここのロビーが穴場で」

コツコツ…

周子「わ」

P「ちょっとした夜景が見下ろせるんだ」

周子「おー……」

周子「え、ここ無料なん」

P「いいだろう。基本的に用がないと来ないからな」


周子「あっちのビルは展望台ないん?」

P「オフィスビルは無理だな。展望台のあるところ、46階のが渋谷にはあるんだけど」

周子「えー、そっちいこうよ」

P「もうやってないんだなー」

周子「んー」

P「あと、2,500円」

周子「うっそ……ペア料金?」

P「おひとり様」

周子「……ま、ここでええわ」

P「助かるよ」


周子「はい、それじゃぁ」

ぽん

P「ん、スマホ?」

周子「この辺かなー。よろしゅー」

P「カメラね。OK」

カシャッ カシャッ

P「適当に撮っても」

カシャッ カシャッ

P「絵になるな」

周子「ま、本職ですので」

P「はは、言うようになったな」

周子「じゃあ本職に訊くけど、SNSアップは?」

P「俺が窓に反射してなければ」

周子「はーい」

カシャッ カシャッ


P「こんなもんか」

周子「うん、いいね?」

周子「ほいっ、それじゃあPさん、屈んで?」

P「うん? え、おい」

周子「いぇーい」

カシャッ

周子「ピースくらいしてよー」

P「せんよ。なぁ、その写真は」

周子「わかってるって。SNSに出したらりあむちゃん」

P「いくら何でも代名詞にするのは可哀想だろう」


P「さて、リクエストには応えたものの、0時で閉まるんだよな結局」

周子「あー」

P「妙案はあるかい」

周子「ん?…… そだ、ダーツ行こうよ。ダーツ」

P「あぁ、それいいな」

周子「よーし、それじゃぁお店は?」

P「バーはダメだぞ」

周子「……なるほど、それは成人したら行こうってことやね」

P「うわ、しまった」

周子「ふふーん。今日はそんな背伸びしませーん」ゴソゴソ

周子「こいつが火を吹くぜ」

カシャカシャ

P「マイ、矢?」

周子「周子ちゃんカスタム~。バレルを軽めにね」


――アミューズメント施設

P「3時間くらいでいいか」

周子「うぃー。へ?、深夜料金か」

P「週末料金も追加だ」

周子「朝までここで遊ぶのは?」

P「……その体力が残っている気がしない」

周子「まぁ、そうね」

P「終わったら終わったとき考えよう」

周子「ほいほい。あ、自分の分は出すよ。おかげさまで、貰うものは貰ってますし」

P「どっちでもいいけど、そうだな。じゃあ自分の分は自分で」

周子「ていうかあたしが誘ったんだから、全部出しても」

P「さすがにそれはいかん。なんかこう、変な気分になる」

周子「え?? なんかちょっと、やらしくない?」

P「そういう意味じゃない」


P「ルールはとりあえずカウントダウンかな」

周子「よーし」

ピコン ピコン ピピッ

P「あ、やばい普通に上手い……」

周子「まずはどれだけ減らせるかだもんね」

P「よーしいいだろう」グイッ

周子「おっ……」

周子(……ネクタイ外すの、なんかエロいな……)

ピコン ピコン ピッ

P「よーし、まぐれブル」

周子「やるやん、と…… あっ」

カチン

P「お、外した」

周子「……外したんはそっちやちゅうに」

P「え?」

周子「知らなーい」

ピコン


P「結局全敗かー……」

周子「あはは、まぁさすがにね」

周子「そういやここって他のもできるん?」

P「ああ、時間パックだからいろいろできるぞ」

周子「じゃあPさんはどれがいい?」

P「んー、そうだな」キョロキョロ

P「あれとか」

周子「お、ビリヤードできるの」

P「別に上手いわけじゃないよ。ダーツよりはマシだろうってだけ」

周子「いい勝負できるかもね」

ゴト コンコン コン

P「9ボール、ルールは分かるよな」

周子「何となくは」


P「それじゃ、こっちからで」

ガッ カーーン

周子「おー、力強い。えーと、1は……」

P「これだな」

周子「あー……入る気はしなけど、さて……」グイ

P(……あ)

カッ カン コン   ゴトッ

周子「あはは、違うの落ちたわ」

P「あ、おう」

周子「ん?」

P「いや……1ゲームだけでいいよな」

周子「はぁ。いいけど、どして」

P「いや、別に」

周子「じーー」

P「……」


周子「こういう時は凝視するとええって聞いた」

P「……あー ……あまり前屈みになるな」

周子「?」チラ

周子「……おっと」

周子「ふーん、そういうこと……」

P「この選択は俺が悪かった」

周子「やーん、Pさんったら、やらしーんだ」

P「そんなに胸元緩い服だとは……いや」

周子「くっくく、墓穴掘ってはるわ。めずらしー」

P「……」

カッ コン

周子「んー、ほんなら」

ゴトン

周子「見物料は、次の場所を奢りで」


――喫茶店

周子「うひー、投げまくったー」

ドサッ

周子「あっつ」

P「あまり変装を解くなよ」

周子「お、なんかスパイものみたいじゃない?」

P「どうだろう……」

周子「しかし、こんな深夜でもやってる喫茶店あるんやねぇ」

P「日本でも有数の繁華街だからな」

周子「そりゃあるか。んー、薄暗くていい雰囲気…… おぉ、メニューにお酒ある」

P「夜だけ販売とかだったかな」

周子「ほー。こんなところ知ってるなんて、やっぱり遊び人やったん?」

P「ゆっくりしたいって言ったのそっちだったよなぁ。さっき探しただけ」

周子「あはは……ふぁ……」


周子「……さすがに眠気きはじめたわ」

P「始発までは……あと2時間くらいか」

周子「そろそろ徹夜を後悔する時間だよね」

P「だな」

周子「眠気覚ましは何がええ?」

P「俺はコーヒー……のリキュール」

周子「うわっ、飲む気なん」

P「オフに何飲んだっていいだろ」

周子「それはそうだけど…… コーヒーかぁ」

P「カフェラテにでもしておいたら」

周子「目ぇ覚める?」

P「まぁ、ある程度は。……じゃあカプチーノとか」

周子「お?」

P「エスプレッソにクリーム入れたやつ」

周子「あー。それ行ってみよ」


カチャ

P「ふー」

周子「……うん、飲める」

P「それは良かった」

周子「ねぇ、大学生ってこんな感じなのかな」

P「あー……こんなに頑張ってまで遊びはしないだろうけど」

P「遊んでも、本分を全うしないなら留年だな」

周子「あはは、そらそうや」

P「……ん、悪くない」ゴク

周子「Pさーん、いつかあれ行ってみたい」

P「うん?」

周子「なんだっけ、ほら水タバコ吸うとこ」

P「シーシャってやつか。……んふっ」

周子「え、なに」

P「似合いすぎだろって」

周子「でしょー? 我ながらそう思うもん」


P「あとは誰が似合うと思う?」

周子「楓さんとか瑞樹さんとか」

P「黙って吸ってくれれば、かな。……数年後の話だけど、俺としてはライラさん」

周子「えー、それは反則やわ」

P「『ミントアイスフレーバーが美味しいのでございますねー』」

周子「あはははは、そんなんあるん?」

P「知らんよ。行ったことないし」

周子「あはは、じゃあ一緒に行こうよ。いける年になったら」

P「まぁ、いいんじゃないか」

周子「……」ズ…

カチャ

周子「Pさんはそればっかりだね」

P「え?」


周子「あたしが提案して、それをダメか、いいんじゃないって言うだけ」

P「そうか?」

周子「ま、平気で嘘つきはるもんなぁ」

P「人聞き悪いなぁ」

周子「カラオケとか漫喫は選ばなかった」

P「……」

周子「あたしがバレるような、人が大勢集まるところ……クラブにもしていない」

周子「バーは、まぁ、もうちょっと待つけども」

P「……悪いな。行けるところは、もともと限られていたんだよ」

周子「そうかもしれへん」

周子「でも」

周子「二人きりになる場所も選ばなかった」

P「……」

ポツ ポツ ザザ…


周子「これは絶対わざとやろ」

P「……」ゴク カチャ

P「そうだな」

周子「あたしは……こどもなん?」

P「大人でもない」

周子「……いけずやわー、本当に」グデー

P「意地悪で言ってんじゃない」

周子「わぁってるけどー、そうだとしてもー」

周子「……守る対象なんでしょ」

P「仕事上、そりゃ」

周子「それだけ?」

P「……」

周子「今日付き合ってくれたのは、気まぐれ?」

P「それは周子が手段を選ばなかったからだろ」

周子「あたしは」

周子「気まぐれじゃない」

ザザ ザ


周子「あーあ、やっぱり歌えるとこが良かった」

P「うん?」

周子「カラオケでもー、なんだっけパブ? スナック? みたいな」

P「無茶言うなって」

周子「歌いたい」

周子「あたしの歌」

周子「そうすれば」

周子「もっと伝えられるのに」

ザァーーー…


周子「『真夜中に合図して』」

周子「『飛び回る蝶のように』」

周子「……飛び出したら、追いかけてきてくれる?」

P「……」

周子「そして冷えないように、どこか暖かいところに連れ込んでー」

P「そこまで計算してたら追いかけない」

周子「じゃあ今のなしで」

P「……」

周子「『ギュッて、抱きしめて欲しくなる』……」

P「……」


P「抱きしめたりとか、例えばキスしたりとか」

P「そういうのは付き合っている人とやればいい」

周子「それアイドルにゆうー?」

P「俺はそういうのはしないけど」

P「追いかけて捕まえるなら」

P「いつだろうと、どこだろうと探すよ」

P「塩見周子を」

周子「……」

周子「あー、あたしって単純」ケラケラ

周子「こんなめんどいこと言うといてよ」

周子「そんなかんたんな言葉ひとつでさ……」

周子「……やっぱし嬉しんやもんね」


――5時

周子「……始発ってまぁだぁー?」

P「まだぁ…… 30分くらいなら駅で待つのもあり」

周子「ん…… タクシー動いてるっしょー……」

P「ここまできてそれかい」

周子「あの、あれ、駅までだけ」

P「徒歩2分なら自分の足で歩けシンデレラ」

周子「……歩くー」

P「じゃあ、まあ、行くか」


ピッ ピピ

P「カードで」

ピー

周子「お、晴れとる」フラー

カラン

P「レシートを。……どうも」

カラン パタン

P「ふー」

P「周子」

P「……周子?」

P「え……」


P「周子!」タタッ

周子「ほい」

P「えっ」

周子「……」

P「……」

周子「すぐそこにおったけど」

P「……いや」

P「ちょっと陰になって見えなくて」

周子「んー、んふふ」

P「……」


周子「逃げたりしいひんよ」

周子「それとも」

周子「蝶みたいに見えた?」

P「それは…… ……あるかも」

周子「捕まえようとしてくれた」

周子「でも抱きしめてはくれない」

周子「それがPさんの愛なんだね」

P「愛って……」

周子「愛じゃなかったら?」

P「……責任、とか」

周子「そ。そこが逃げ場かぁ」

P「……随分と、自信があるようで」

周子「これでも器用に生きている方なんよ」


周子「もしあたしがアイドルじゃなかったら――」

周子「今日で何か変わっていたと思う?」

P「何かって?」

周子「Pさんとあたしの関係」

P「……」

P「そもそも会ってないんじゃないか」

周子「そうか、それもあるか」

周子「じゃあ会っていたとして」

P「たらればを重ねたらなんでもありになっていくぞ」

周子「つまり、変わっていた可能性もあると」

P「……あるんじゃないか」


周子「抱きしめてって言ったら、抱きしめてくれる可能性かぁ」

P「ただ……周子とは、こういう形でしか出会えていないし」

P「こうでしか出会えなかったかもしれない」

周子「じゃあ、この状況を受け入れるしかないって?」

P「今はそうかもしれない。でも……」

周子「……でも?」

P「……」

周子「……」

P「この出会い方だったとしても」

P「いくらでも変わっていくだろ」

周子「……」

P「周子の人生が変わったように」

周子「ん……」

周子「そやね」


――駅改札

周子「あーあ、徹夜して引き出せたの、こんくらいかぁ」

周子「もーちょっと素直になってもバチ当たらんよ」

P「すま…… 謝るのは違うな」

周子「んふふ……」

周子「今日はPさんのつよーい責任感に免じて、無事に帰してもらうか」

P「無事に帰ってくれ」

周子「それとも、これから……」

P「もう寝ろ」

周子「くく…… 担当アイドルにこんなんもって、大変やね」

P「自覚してるからたち悪い」

周子「ね」

P「その口塞ぐぞ」

周子「どうぞー?」ンーー


P「……」

周子「んー、これは奏ちゃんの特権かな?」

P「スルーされるところまで含めてな」

周子「あははは」

ピ ガシャッ

周子「――ねぇ。いつか答えてくれるなら」

周子「そしたらその時は」

周子「抱きしめて、ええよ」

コツ コツ コツ…

(その蝶はすぐに雑踏に紛れた)

(去り際の笑顔は)

(白昼夢を夜にみた気分にして)

P「……眩し」

(そんな、どしゃ降りの雨があがった朝)





おわり




お読み頂きありがとうございました。
周子ソロ2曲目をテーマに書きました。
https://www.youtube.com/watch?v=6nmRVM2loNY

年明けくらいには書き終っていたんだけど、ドミナント周子が来たので投下です。おめでとう。
周子と夜遊びをしたいだけの人生だった……

過去の周子SS、よければこちらもどうぞ。
塩見周子「どっちがいーい?」
塩見周子「どっちがいーい?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1559372967/)

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