長門有希「言語だけが意思疎通のツールではない」 (48)

「キョン。あんた、有希と何かあったの?」
「どうしてそう思うんだ?」
「なんか最近お互いに意識してるでしょ」
「そうか? 気のせいじゃないか?」
「誤魔化すってことは何かあったのね?」

あったと言えばあったとも言えるしなかったと言えばなかったとも言えよう。そもそも俺と長門の間に起きた出来事を何故お前に話さなければならないのか。その理由が不明だ。

「私はSOS団の団長として団員の近況を把握する義務があるの。同時に団員は団長へ近況報告の義務が生じるわけ。わかった?」

さっぱりわからん。とはいえ、別に口止めされているわけでもないし、長門の許可さえ下りたら話してやってもいいだろう。

「有希から許可は貰ってるわ」
「なら長門から訊けばいいだろう」
「有希があんたの口から話せって言うのよ」

そりゃなんとも面倒な役回りを押し付けられたもんだ。しかしながら口下手な長門より俺のほうがまだ適任なのは言うまでもないな。

「それで? 何があったのよ」
「キスした」
「え? キスって……有希と?」
「ああ……嘘じゃないぜ?」

呆気に取られたことを誤魔化すように訝しんできたハルヒに念を押すと、今度は困ったように眉根を寄せ、口をへの字に曲げて促す。

「詳しく話してみなさいよ」

拒否権はなさそうなので俺は語ってやった。

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「ん? 長門、どうかしたか?」

ある日、元文芸部室でたまたま長門と2人っきりになる機会があり、適当に本棚から見繕った本を流し読みしているとこちらへ向けられていた視線に気づき、俺がそう訊ねると。

「近くへ」
「近くに寄ればいいのか?」

頷かれて傍に寄るとシャツの裾を引かれた。

「なんだよ、どうしたんだ?」

引かれるがまま屈むと、丁度、椅子に座ったままの長門と目線の高さが合った。長門は何も言わなかった。ただ目と目が合っている。

「声が出なくなったのか?」
「違う」
「じゃあ、なんで黙ってるんだ?」
「言語だけが意思疎通のツールではない」

なんだそりゃ。この距離でジェスチャーゲームでもしようってのか? 俺が首を傾げていると、おもむろに長門が自分の唇を指差して。

「たとえば、キス」
「キス?」
「そう。キスもコミュニケーション」

そりゃ海の向こうではそうかも知れんが、ここは日本であり、そんなコミュニケーションは恋人同士じゃなければ成立しないぞ。

「そんなことはない」
「ためしたことでもあるのか?」
「ない。あなたが初めて」

なら尚更信憑性はないな。やれやれと嘆息。

「いつかそうやってコミュニケーションが取れる相手が出来るといいな」

頑張れよと長門の頭に手を置いたその瞬間。

「待って」
「え?」

突然立ち上がった長門に唇を塞がれて俺たちはキスをした。まるで時間が引き伸ばされたように一瞬にしてはやけに長く感じられた。

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