バトー「茅場? 誰だ、そいつは」 草薙素子「バトー、あなた知らないの?」 (15)

「全員、揃ったな?」

召集に応じた部下達を一瞥して、内務省直属の攻性公安警察組織、通称『9課』の長たる荒巻大輔は単刀直入に下命した。

「お前たちを呼んだのは他でもない。現在世間で話題になっている電脳技術を応用した世界初のVRMMORPG、【ソード・アート・オンライン】に潜入し、その安全性を調査して貰うためだ」

公安9課はほぼ全員が全身義体化済みの電脳戦におけるエキスパート集団である。
そんなプロフェッショナルたちをわざわざ呼びつけて何を命令するかと思えば、子供のおもちゃを調査せよとは、9課の中でも頭に血が上りやすいバトーが黙っていない。

「おいおい、じいさんよ。とうとう耄碌しちまったか? この俺様を呼びつけてガキが遊ぶようなおもちゃの調査をしろとはよく言えたもんだな。悪いが、そいつは俺の仕事じゃない。今回ばかりは降りさせて貰う」
「あら、それは残念ね。自分の感性が現代に通じないと知るのが怖いのかしら?」
「なんだと?」

売り言葉を買ったのは隊長である草薙素子。
頭2つ分はあるであろう身長差を物ともせずに、憤慨するバトーに挑発を続ける。

「あなた、自分が『古い人間』だって証明されることが怖いんでしょう?」
「いつ、誰がそんなことを言った?」
「言わなくても顔に書いてあるわよ」

そう言われて思わず自らの仏頂面を触って確かめてしまった時点でバトーの負けであり、荒巻は部下の口喧嘩に構わず話を進めた。

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「既にβ版と呼ばれるプロトタイプに1000人が参加し、ある程度安全性は確認されている。そうだな、イシカワ、ボーマ?」
「はい。ありゃなかなか見事なもんですぜ」
「ユーザーに危険性のある攻性防壁並びに防壁迷路の類は見つかりませんでしたが……」
「なんだ、その歯切れの悪い物言いは」

どうやら既に潜ったらしい2人は顔を見合わせて、訝しげなバトーを鼻で嘲笑った。

「ありゃ、お前さんには無理だ」
「な、なんだとぉ!?」
「ああ、絶対に無理無理。くくく。元レンジャーにファンタジーは厳しすぎるだろうよ」
「ば、馬鹿にしやがって!!」

仲が良いやら悪いやら。やれやれと。
一番の若手であり、唯一全身義体化を施していないトグサが、荒巻に疑問点を尋ねた。

「部長。既にβ版で安全性が確保されているんなら、どうしてわざわざ俺たち9課全員に非常呼集をかけてまで調査の必要が?」
「うむ。どうもこのゲームの開発者である茅場晶彦という男が気になってな」
「茅場、晶彦……」

ゲームの開発者になど興味のない者が大半を占める9課のメンバーでも、天才と称されるその男の名前には聞き覚えがあった。

「茅場? 誰だ、そいつは」
「バトー、あなた知らないの?」
「なんだ少佐、お前の昔の男か?」

無知を晒すだけでなく下衆の勘繰りまで働かせたバトーに呆れつつ、素子は説明する。

「茅場晶彦はこのゲーム内の仮想空間、つまり電脳空間の創造主と呼べる存在よ」
「創造主とは大きく出たもんだな」
「彼を舐めないほうがいいわ。以前、ネットの海で私は彼と"遭った"ことがある。彼の不審な足跡を辿ってかなりの深部まで追いかけたけれど、私は追跡を諦めた」
「お前が? 撒かれたのか?」
「いいえ。囁くのよ、私の"ゴースト"が。それ以上は追うのをやめなさいってね」
「チッ。またそれか」

舌打ちをしてそれ以上の追求を諦める。
バトーは自分の目で見たものしか信じない。
イシカワとボーマと共にβ版をプレイした素子は簡潔にゲームシステムを説明した。

「茅場晶彦曰く、このゲームはゲームであってゲームじゃないそうよ」
「なんだそれは?」
「実際にその自慢の目で見て確かめたら?」

そう嘯いて、少佐が部長を見やる。
荒巻は頷き、9課のメンバーにその世界を体感させるべく、別室へと皆を連れていく。

「これから少佐並びにイシカワ、ボーマが監修して複製したソード・アート・オンラインの世界を体験して貰う」
「複製って、オリジナルは?」

仮想空間へとダイブする際に用いる"ナーヴギア"をしげしげと眺めながら質問するトグサに、荒巻ではなく草薙少佐が答えた。

「β版は期限切れ。そして何重にもかかったプロテクトによって完全な解析は不可能だった。だからこれはオリジナルとは別物」
「不可能って、少佐の腕でも?」
「そうよ。だから言ってるでしょ、茅場晶彦は天才だって。その意味がわかった?」

草薙少佐は凄腕のウィザード級ハッカー。
その彼女すらも解析困難な電脳空間。
一同はその事実を踏まえて気を引き締めた。

「本当に人体に影響はないんだろうな?」
「ああ、それは大丈夫だ。安心しろ」

不安げなトグサにイシカワが太鼓判を押し、そしてボーマが意味深にこう付け加える。

「攻性防壁も防壁迷路も存在しないが、その代わりに巨大な迷宮が待ち受けている」
「迷宮? でも、防壁迷路は存在しないって」
「トグサ、これはゲームなのよ? ゲームには当然、クリア条件が存在するでしょ?」
「クリア条件? どでかい迷宮を攻略を攻略することが目的って、一体何が面白いんだ?」

ゲームに関しての常識など、中年男性には持ち合わせておらず、ちんぷんかんである。

「面白いかどうかはさておき、刺激的であることは間違いないわ。総員、用意はいい?」

少佐の呼び方に各々頷く。そして声を揃え。

「いくわよ。リンク・スタート」

すぐに擬似的な昏睡状態となり五感が失われ、デジタル信号により補完されていく。
限りなく現実的な夢の中に迷い込む感覚。

「すげぇな……電脳もここまで来たか」
「少しは茅場晶彦の偉業を理解出来た?」
「その声は……少佐か?」

見渡す限りの草原。
そして聳える大迷宮。
迷宮というからてっきり地下に洞窟が広がっているかと思いきや階層は上に伸び、雲すら突き抜けて最上階は地上から視認出来ない。

そんなことより、少佐の珍妙な格好だ。

「なんだその剣は。チャンバラごっこか?」
「あら、試してみる?」

少佐が佩く剣の細さを揶揄うと、スラリと鞘から銀色の刀身を抜き、挑発的に笑みを浮かべた。

「上等」

丁度、この電脳空間での身体能力を知りたかったところだ。バトーは短いサバイバルナイフを抜いて構えた。対する少佐はレイピア。

人よりも図体のデカい魔物やら怪獣相手ならばある程度の刃渡りは確保する必要があるかも知れないが、対人戦ならばナイフに勝るものはない。

「いくわよ」
「来い」

少佐の踏み込みに、バトーは反応出来ない。

「シューティングスター!」
「ぬあっ!?」

バチッと火花のようなエフェクトが瞬く。
目の前に居た筈の少佐の姿が消えている。
構えた位置が動かせなかったバトーのナイフはレイピアの衝突により耐久値を失ったらしく、砕けてしまった。

「どう? なかなかのものでしょ?」
「いくらなんでも速すぎやしねぇか!?」

背後から届く声。振り向きながら憤りをぶつけると、細いレイピアでヒュンヒュン風切り音を鳴らしながら少佐は種を明かした。

「この世界にはスキルという概念があるの」
「スキル?」
「ええ。所謂、特殊技能みたいなものよ」

特殊技能。
この電脳空間特有の技術。
元レンジャーのバトーは興味を抱いた。

「それを覚えれば俺にもそんな動きが?」
「出来るわ。出来ないこともあるけど」
「どういう意味だ?」
「通常のスキルとは異なるユニークスキルと呼ばれる唯一無二の技もあるってことよ」

ユニークスキル。プレイヤー特有のスキル。

「ちなみに少佐のはどんなスキルだ?」
「私のは地味なものよ」

そう言って少佐はすぅっと背景に溶けた。

「少佐……?」
「ここに居るわ、バトー」

声がする位置は先程から動いていなかった。

「これが私のユニークスキル『光学迷彩』」
「なるほどな……少佐らしい」

光学迷彩。
身体の表面に背景を投影し、姿を消す。
となると。バトーが腕を伸ばすと、やはり。

「実体はあるってわけか」
「ちょっと、どこ触ってるのよ」
「さてな」

もにゅもにゅ感触を堪能してから手を離す。
脊髄から反射する感覚はない。全年齢対象。
ただただ柔らかく心地良かっただけだった。

「なるほど。だいたいわかった」
「何がわかったんだか」
「それで、少佐」
「なによ」
「俺のユニークスキルはどんなのだ?」
「知らないわ」
「なんだ、えらく冷てぇじゃねぇか」
「恐らくは全プレイヤーが潜在的にユニークスキルを持ち得ているのでしょうけど、それを引き出せるかどうかは別問題ということ」
「少佐はどうやって発現したんだ?」

しつこいバトーに少佐は素っ気なく答えた。

「私は煩わしいことを省きたかっただけよ」
「へっ……いかにもだな」

敵のエンカウントをスルーしまくった結果、少佐は光学迷彩を発現したらしい。

「苦戦しているようだな、バトーの旦那」
「トグサ。お前、そいつはまさか……?」
「これが俺のユニークスキル」

得意げなトグサが見せびらかしてきた物は。

「おいおい、そりゃマテバじゃねぇか!?」
「いいでしょ」

世界観に削ぐわぬ銃器。しかし残念ながら。

「ん? そのチャンバー、空じゃねぇか」
「トホホ。銃はあっても弾がないとはなぁ」

そもそも銃自体が異質で弾など存在しない。

「それじゃあただの鈍器だな」
「それでも俺はマテバがいいの!」

意地を張るトグサを馬鹿にしつつも、バトーは羨ましさを隠せない。ユニークスキル。
バトーは躍起になってその発現を急いだ。

「バトー。目的を忘れるな」
「あと30分だけ!」
「お前だけ置いていくぞ」

しばらく野原で悪戦苦闘していたバトーだったがユニークスキルはそう簡単に発現せず。
迷宮に向かう少佐に仕方なく従うことに。

「迷宮に潜る前にい言っておくけど、このゲームは何故かは知らないけど蘇生が非常に困難で、一度死んだらリセットされて最初からやり直しになるわ」
「セーブ機能は実装出来なかったんですか」
「オリジナルでは出来たらしいけど、再現出来なかった。記録を保存出来てもそれを反映する仕組みがそもそもない。最初からこのゲームはそのように作られている」

トグサの質問に淡々と答える少佐。
蘇生手段が乏しいわりに容易く落命するゲームバランス。そこに違和感を抱いていた。

「ともかく必要なのは勝ち続けることだ。一刻も早くクリア条件を解放し、そしてその結果を解析する」

少佐の言葉を受け、九課の顔が引き締まる。

「これはゲームであってゲームではない。茅場が何を思ってこの世界をそう表現したのか定かではないが、この電脳空間には間違いなく、公表にされていない秘密がある。だからこそ我々公安9課にお鉢が回ってきた。これから私たちがするのは楽しいゲームではなく仕事だということを忘れるな」

言いたいことだけ言って少佐は迷宮の扉を開ける。これ以上の言葉は不要だった。
ただ先へ。より上に。この馬鹿げた犯罪に終止符を打つべく九課が動く。それが仕事だ。

プロフェッショナルは瞬く間に上層に至る。

「仕事、ねえ」
「なによ、バトー」

それにしては少佐は楽しそうだった。
まるで、子供のように無邪気に見えた。
サクサクプレイでストレスなくβ版の最終到達階層まで一直線に進める程の熟練者。

「薄々、勘づいていたりするのか?」
「なんのこと?」
「いや、少佐なら茅場の秘密とやらに心当たりがありそうだと思ってな」

少佐は能面みたいな無表情で肯定した。

「ええ。このゲームは危険よ」
「具体的にはどう危ないってんだ」
「蘇生手段ならびにゲームデータのセーブ機能がゲームの規模に合っていない」

セーブ機能。バトーは首を傾げながら問う。

「理不尽なゲームバランスがプレイヤーのストレスにでもなるってのか?」
「違うわ。直接的な被害を招きかねない」
「だから具体的に言えってんだよ」

痺れを切らしたバトーに少佐は耳打ちする。

「最後に用を足したのは何時間前?」
「いきなり何を言ってやがる……っ!?」

突然の警告。バトーの視界が赤く染まった。

「やっぱり、忘れていたのね」
「ど、どういう意味だ?」
「人間の大脳は時として尿意や便意を忘れてしまうことがあるということよ」

バトーは既に10時間以上排泄してなかった。

「私は先に進むわ」
「ま、待て! 素子!」

置いていこうとする少佐を呼び留めるバトー。アラートが鳴り響き、強制切断の瞬間が刻一刻と差し迫っている。もう時間がない。

「てめぇ、知ってやがったな?」
「そうね。でもあなたなら……」
「俺なら、どうしたってんだよ」

少佐の失望を滲ませた悔しそうな顔と声。

「あなたなら、乗り越えられると思った」
「素子……」

最後のボス部屋の扉を開ける少佐。咄嗟に。

「トグサ! そいつを寄越せぇ!!」
「うわ! 何すんだ!? 返せよ!!」

トグサから奪ったマテバを尻穴に当てがい。

「素子ぉおおおおおおおおおおっ!!!!」

ズボッ!

ピコン!

「む?」

ユニークスキル

『異物混入』が解放されました。

「ああっ!? 俺のマテバが……」
「フハッ!」
「おまえひとりで行かせやしねぇ! 行かせやしねぇぞ!!」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

少佐は嗤う。高らかに。嗤い女事件の発生。
ボス部屋の扉が閉まる直前、光学迷彩でも隠しきれない少佐の愉悦がバトーの尻穴に突き刺さった十字架に響いた。

「結局、発売中止か」
「ええ。当局はあのゲームを危険と判断したわ。実際、被害者も出たわけだし」

バトーが漏らしたせいでソード・アート・オンラインの発売を待ち望んでいた子供たちはさぞガッカリしただろうが、それでも一般市民に犠牲が出る前に未然に防げて良かった。

「少佐も残念そうだな」
「そうね……私はあのゲームを通じて茅場晶彦の人間性に触れて、可能性を感じた」
「可能性?」

桜の24時間監視をしながら遠い目をする少佐の義体に埋め込まれたレンズには、あのゲームであってゲームでない世界が映っている。

「全年齢対象のゲームの抜け道」
「まさか……」
「お尻の快楽は流石に盲点だったようね」

ゲーム内で子供たちが尻穴に目覚めることがなくて本当に良かったとバトーは思う。
あれはガキには早い。大人の愉しみだ。

「桜の監視にも飽きてきたわね」
「なら、俺と映画でもどうだ?」
「本当に観たい映画はひとりで観ることにしているのよ」
「だったら俺の尻穴は?」
「さっさとお尻を捲りなさい」
「おっかないこって」

居直るどころか尻穴が縮むほどの剣幕で新たな現場に着任する少佐の電脳におかしな嗜好を植え付けた茅場晶彦という男はたしかに、厄介な危険人物だったのかも知れない。


【攻殻機動隊・嗤う女事件】


FIN

すみません
最後、嗤い女じゃなく嗤う女になってましたね
SAOは間違いなく攻殻機動隊にインスピレーションを受けていると思いますが、サスペンスとファンタジーの差が大きすぎて書くのが難しかったです

最後までお読みくださりありがとうございました!

このSSまとめへのコメント

1 :  MilitaryGirl   2022年04月20日 (水) 03:40:54   ID: S:3KVVB_

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2 :  MilitaryGirl   2022年04月21日 (木) 09:13:17   ID: S:xLePe8

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