とあるお話【短編作】(30)

とあるお話。

出会ったのは中学1年生の時。

彼女は二年生で、一つ年上だった。

二人とも、若かった。

同じ部活の先輩だった。優しく、笑顔が素敵な人だった。

俺は、いつの間にか彼女に惹かれていた。

まあ、自然なことなのかもしれないが。

あっという間に1年が経つ。

この時が永遠に続いてほしいと願ったのはこれが初めてだったと思う。

中学二年生。彼女は常に前を向き、不思議なほど笑顔に陰りを見せなかった。

しかし俺は知っていた。たまにどうしようもなく暗く、深い気持ちに飲み込まれていく彼女がいることを。

助けたかった。

でも俺の手は。足は。口は。脳は。一歩も。いや、一ミリも動けないでいた。

彼女の。弱いところを初めて知った気がした。

春。夏。秋。恐ろしいスピードで時は流れる。

大人になったらこの速さは、この時間は。動くのをゆっくりにしてくれるだろうか。そんなことを考えていた。

いつの日か。いつからか?俺たちは毎日。一緒に帰るようになっていた。

もうどんなことを話しながら帰ったかも覚えていないんだが。

君の笑顔だけは。笑顔だけが脳にしっかりと焼き付いている。

忘れない。忘れたくない。忘れさせない。決して。

そんな笑顔だ。

しかし非情にも、時という物は一秒、一時も遅れてはくれない堅物なのだ。

君も、同じ学年じゃないのが悲しいと言っていた。

俺も、そう思っていた。

卒業式。別れの日。旅立ちの日。運命の日。

君の、彼女の名前が、呼ばれる。

はっきり言って、よく覚えていない。ただ、校歌斉唱の起立で遅れたことは覚えている。

嫌なことは、意外によく覚えているものだ。

運命は、そのあと。

簡単に言えば、付き合ったのだ。告白して。

卒業式が終わった後、二人とも黙りこくってベンチに座っていた。

何を話せばいいのか考えながら30分ほどが経って。

俺は、好きですという言葉をようやっと吐き出したのだ。

彼女のほうを見ると、ボロボロに泣いていた。これには仰天した。

またしばらく、無言の時間が続く。時間。思い出。過去。

一つだけ、俺たちには良いことがあった。

家が近い。まあそれだけなのだが。

部活が終わった後。急いで家に帰ってきて、それから君の帰りを待つ。

やはり公園のベンチで、手を握っていたり、他愛無い会話を楽しんで、二人だけで笑う。

そんな日々が。とても、楽しく、幸せだった。

幸せだったよな。うん。きっと、君もそう答えてくれるはずだ。

俺は、幸せだったよ。

幸せというのは、まあ俺が連呼してるだけだが。

昔の俺も、今の俺も、こんな気持ちは『幸せ』でしか表せない。

そんな日々を繰り返していると、やはり一瞬だ。

今度は俺の受験が迫ってくる。

特に夢もなく、収入の安定性から公務員が良いと考えていた俺は、専門学校などは無視し、彼女と同じ学校を選んだ。

君は、勉強を教えるのが上手い。今度は彼女の家にお邪魔するようになって、勉強を教わっていた。

まあ、勉強していても君の顔が近くてあまり集中できなかったんだけどな。

無意識でそれを繰り出すのは卑怯だ。

君は動物が大好きだった。動物にも、人にも、優しさであふれていた。

まぁ・・・君のとこの犬と仲良くなるまで1年半かかったんだが。

彼女は「怖がっちゃいけない。犬は相手がおびえると分かる」とよく言っていた。

勉強に疲れた時にお世話になりました。犬先輩。

俺は、どちらかというと、彼女のために頑張ったのかもしれない。

彼女に会うために。まあ、となると結局自分のためか。

彼女の支えもあり、成績は少しづつではあったが向上した。

俺は、単純な男なんだ。目的さえあれば、頑張れる。

その時は君が。君が目標になってくれた。

ありがとう。

おかげで高校には受かった。しかもそこそこ良い順位で。

君に受かったと伝えた時、自分の時より喜んでいたね。

俺は嬉しかった。頑張ってきてよかったと思った。

おめでとうのハグを歩道のド真ん中なのにしてくるのは恥ずかしかった。まあ、いいんだけど。

高校生活は、ほとんど覚えていない。

そんなこと言ったら君は怒るんだろうけど。初めてのキスは、覚えてる。高2の時だった。

君は、なんか大人っぽくなってたと思う。

恥ずかしい時は顔が赤くなる。それが可愛いかった。

俺?いや・・・俺も赤かった。

その時の顔は、キスが衝撃的だったから覚えてるんだよな。

変態じゃないよ?

君は大学へ行った。獣医さんになるって言ってたね。

少し会う機会が減ってしまったのは悲しかったが、携帯電話、スマホというのは便利なものだ。

君は、俺と結婚するってずっと言ってたね。恥ずかしくもあり、嬉しくもあり。

俺も、その気持ちはあった。だからしっかりとした仕事に就こうと、勉強に必死だった。

たまに君に会うと、雰囲気がどんどん大人になっていた。

笑顔と、その心の優しさは全く変わっていなかったが。

愛。まさにこれだった。青春。すべて君がいた。幸福。これも君のことだ。

俺も大学進学を選んだ。一人暮らし、不安だと思っていたが、予想外の出来事が起きたのだ。

彼女の両親が、早く俺と彼女をくっつけようと必死だったのだ。

というか俺の両親も、彼女の両親ととても仲が良く、二つ返事で俺を彼女と一緒に住まわせることに決定した。

嬉しかった。楽しみだった。驚いた。ちょっと汗が滲んだ。

彼女は喜んでいた。抵抗がないことに俺が驚いた。

俺の大学は少し離れていたが、自転車ならそんなにかからない。

彼女は料理も上手かった。まさに運命の人。俺はそんな言葉を思いながらご飯を頬張っていた。

うーん。君には迷惑しか掛けていなかった気がする。

でも君はいつも笑顔で、優しかった。

毎日一緒に寝る、というルールが決まったのには少し「いいのか??」と自分で葛藤した。

君は、俺が起きていようと、寝ていようと、必ずキスをしてくる。

今まで付き合ってきたのに知らなかったこと。

君は意外にも甘えん坊だ。そんなことを言うとまた顔を赤らめてしまうんだが。

毎日幸せだった。考えれば、彼女と過ごしている時は幸せな時間しか過ごしていない。

彼女が20歳になった時。俺たちは初めてセックスをした。

愛を、気持ちを共有した。君がいればすべてがどうでもよくなった。

そんな日々も、少々大人になっただけで、あの頃と大して変わらなかった。

笑ながら二人で話して、手をつないで、少しだけエッチをして、一緒に眠る。

君は節度のある人間だった。たまにハメを外しでしまうことはあったんだが。

大学を出て、無事就職出来たら、結婚することを二人で誓った。

結婚、という形ができても、俺らの関係はほぼ変わらないんだが。

大学を出た。就職も決まった。君は1年前から獣医として働き、夢をかなえた。

俺らは、世界でもごく少数の、幸せな人だったろう。

皆が祝福していると思えた。希望と光しか見えなかった。

仕事が大変でも、帰れば君がいて、そんなことは苦にならなかった。

そんなこんなで時間がたつ。

毎日が楽しく、いまだ青春を送っているかのようだった。

そう。あの時までは。君から笑顔が、初めて無くなったと思えたあの時。

最後のあの時。

忌々しい雨の音。ずぶ濡れでボタボタと滴る水滴。世界が、一瞬歪んだあの時。


君が、この世から居なくなったあの時。


はぁ・・・

俺は、いつものように、君が作ってくれたお弁当を持ち、会社へ向かった。

その時は、少しテレビが騒がしかった。

気にせず出かけた。

会社で、出張を頼まれた。少し面倒だとも思ったが、別に大した用もないので引き受ける。

彼女に電話した。彼女は少し寂しそうな声をしたが、すぐに「分かった」と承諾してくれた。


そう。これが運命の分かれ道だったのだ。俺が。出張を断ってさえいれば。

2泊3日。少し遠出だ。彼女にキスをして、「行ってきます」と言った。

彼女は微笑みながら手を振っていた。

俺は少し戸惑いながらも、覚悟を決め、駅へと向かった。


その時に、戻ればよかった。悔やまれる。悔やんでも、どうしようもない。

しかし。悔やまずにはいられない。悔やんでもどうしようもないという理性が、俺の心を無へと引きずっていた。

君は、怒るだろうか。もう一度、笑ってくれ。

俺は・・・笑えないかもしれないが。君の笑顔を・・・もう一度、この目で見たいのだ。


2020年。4月。出張先で、君からの一通のメール。

COVID-19の検査で、陽性だった。ごめんね。


COVID-19。またの名を、新型コロナウイルス。

何かが、俺の脳内を、ガン、と殴ったような気がした。

俺は、家で、ただ一人、君とのビデオ通話を眺めていた。

君が、思ったより元気で少し安心した。若い人は、なかなか重症化しにくいのだそうだ。

ただ、やはり。薬がない。治療方法も不明。そんなことが、俺たちの気持ちに影として忍び寄っていた。

君は、相変わらず、「心配をかけてごめん」だとか「会社に持っていくお弁当、作れなくなっちゃったね」などどと言っている。

顔は、笑顔だ。しかし、俺にはもうわかる。無理をしている。相当なショックだろう。

俺は、無理しなくていい、と言った。彼女には気持ちを吐き出して、少しは楽になってもらいたかった。

一週間経ち、病院から電話が来た。

「重症化」最悪の三文字が俺の目の前で並んだ。

肺炎による呼吸困難に、たんからくる息苦しさなどがあるらしい。

俺は電話で、彼女に何度も呼び掛けてみた、病院の人によると、目を細めて笑っていたそうだ。

電話を切った後、俺は床に突っ伏していた。何度も床を叩いた。

悔しかった。何故彼女が、と何度もつぶやいた。

俺がなればよかったのに。

5月、彼女は悪化と改善を繰り返していた。

精神的にも、肉体的にも弱り切っていた。

常にベットで寝ている状態というのは体を、周りが完全防護の医者しかいない状態は心を蝕んだ。

彼女の姿を見ていると辛くなった。実際会いに行けないのも辛かった。

ただ、祈るばかりの生活。

あっという間に時間は過ぎて行った。

。。。。。。

彼女は、5月の最後、息を引き取った。

奇しくも君の、誕生日だった。

君には、会えなかった。帰ってきた時には、小さな箱だった。

何故。何故神様はここで、我々を貶めたのか。

ふざけるな。何故彼女が死ななければいけない。

何故・・・。考えても、結論は出なかった。結論など無いのかもしれない。

虚無。空想。君の夢を見て、汗だくで起きるような生活をしばらく続けていた。

なあ、、、俺たちは。

君は今、どこにいるんだろう。

俺は、君を見つけられないだけだと思う。

本当は、元気で、笑顔でいるはずだ。そうだろう。

なあ、、、返事をしてくれ。

頼む。

正直、涙が止まらなかった。

俺の生きがい、希望、夢。すべてが彼女に詰まっていた。

俺はまた、何もかもなくしてしまった。

君の笑顔が恋しい。

声が聴きたい。

せめて・・・ありがとうと、伝えたい。

。。。

今回、新型コロナウイルスが流行し、多くの感染者、および志望者の方々が出ました。

遺族、友人の方々。私たちには、忘れないという義務があります。

これ以上、悲しむ人が増えぬよう。

身近ではない方もいるとは思いますが、もうしばらく、気にかけてお過ごしください。

お読みいただき、ありがとうございました。

ヤベぇー1 動揺しまくり。2 脱水症状起こしまくり。3 壁に穴空きまくり。

これらの要素から誤字脱字文面崩壊起こしてる。

気にするな!気にしたら負けだ!!!

後、俺の精神状態安定まで他作の更新も不定期になる。あまり期待はしないでくれ。

よろしく。

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