【たぬき】神谷奈緒「あたしの髪には何かが棲んでいる」 (84)

 モバマスより小日向美穂(たぬき)の事務所と神谷奈緒のSSです。
 独自解釈、ファンタジー要素、一部アイドルの人外設定などありますためご注意ください。


 前作です↓
【たぬき】緒方智絵里「くろうさちえりの逆襲」
【たぬき】緒方智絵里「くろうさちえりの逆襲」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1554480579/)

 最初のです↓
小日向美穂「こひなたぬき」
小日向美穂「こひなたぬき」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1508431385/)


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1555339914


  ―― 事務所


奈緒「ちーすおつかれさーん」ガチャ

P「おう、お疲れ」

未央「あ、かみやんおつかれー!」

美嘉「お疲れ★ 今コーヒー淹れるとこだけど、奈緒も飲む?」

奈緒「あ、うん飲む飲む。砂糖ふたつ入れてくれっ」


  ズズズ…



未央「でもアレだねー。かみやんのもふもふ、あったかそうだよねっ」

奈緒「んー? ああまあ、そうかもなぁ。冬なら湿気もあんま無いしさ。静電気は大変だったけど」

美嘉「めっちゃやわらかい髪質だよね。天然でそのくらいふわふわなのって羨ましいよ」

奈緒「いやぁ、そんないいもんでもないぞ? 手入れとかも手間だし」

P「やっぱそうなのか?」

奈緒「そうそう! 梅雨とかほんと大変なんだから! もう髪がうじゃー、もじゃーって!」

美嘉「あ~、毎年スゴいよねぇ……」

P「そんなアレだったら、一回さっぱり散髪してみたらどうだ? イメージもがらっと変わると思うぞ」

奈緒「え? 切ってみろ、って……」

美嘉「プロデューサー」ツネリ

P「オゥッフ脇腹!?」

未央「ちょっとこっちこっち」ヒッパリ

P「おっ、と、と、何だ何だ!?」


美嘉(いきなりそれはないでしょ!)ヒソヒソ

未央(そうそう! 女の子に髪切れなんて、ちょーっとデリカシーが足りてないぞー?)ヒソヒソ

P(えぇ!? でも大変だって……)

美嘉(それとこれとは別! 髪の話題はデリケートなんだから!)

未央(伸ばすのにもちゃーんと理由があるんだよ? 切るかどうかは本人の判断だかんね?)

P(むぅ……反省するよ)

美嘉(……それともプロデューサー、ショートの方が好みとか?)

未央(あホント? じゃあ未央ちゃんもストライクゾーンな感じ?)ニシシ

P(いやそれこそ全く別の話題じゃないですか)

美嘉(だよねー美穂とか楓さんも短めだもんねー)

P(何故そこでその二人が!?)

奈緒「……おーい、丸聞こえだぞー」

三人「ぎくっ」


P「ということで、急にデリカシーの無いこと言ってすまん」ペコリー

奈緒「別に気にしてないよ。まあでも、今んとこ髪切る予定は無いかなぁ」

美嘉「ほら」

P「だよな。やっぱ大事だよな」


奈緒「うーん……ていうかほら、切っちゃうと多分、あいつらがいられなくなっちゃうんだよな」


美嘉「だよね…………え?」

未央「あいつら?」

P「……って何?」

奈緒「あ!? い、いやなんでもない! そうそうこだわりなんだよこの髪!」モッフゥー

P「いや今明らかに何者かを意識した発言を」

奈緒「だからなんでもないって!!」モッファアア

P「グワーッやわらか髪ビンタ♡」フカフカァ~



  ~しばらくして~


P「あの後なんだかんだで話を終わらせた俺達は、流れでジュース買いにいくジャンケンを行った」

P「そして奈緒は気合一発チョキで一人負けし、休憩スペースの自販機に向かっているのだ(説明終わり)」


P「ふぅ。しかし今日もいい天気だな」

美嘉「すっかり春ってカンジだね」

未央「今年もお花見楽しかったねー! 去年より人増えたし!」

美嘉「だね★ テンション上がった楓さんと茄子さんがアレだったのはまあ、毎度のことだけど……」

P「ははは……」ゲッソリ

P「……」

未央「……」

美嘉「……」


三人(『あいつら』って、どいつら……!?)


  ◆◆◆◆


 別に隠さなきゃって思ってたわけじゃない、つもりだ。
 この事務所のみんななら、信じないなんてことはないんだろうし。

 だけど言わないままで済んだわけだし、いつの間にかなんとなーくでここまで来てた。
 アイドル活動に必要ってわけでもなかったしな。
 だから今更カミングアウトも逆に変な気がして、このままなんかの機会でスッと明かせばいいかー、とか。

 その機会が今のとこ来ないんだけど。

 だからあたしのことを知ってるのは、言うまでもなくわかったごく少数――


「あら、奈緒ちゃん? お買い物ですか~?」

 たとえば、茄子さんとか。


「うん、ジャンケンで負けちゃってさ。プロデューサーさん達にジュース買ってた」
「そうなんですかぁ。でもジャンケンくらい、奈緒ちゃんなら……」
「いやいや、そんなことで頼らないって」

 あたしのもふもふを見ながら茄子さんは言う。
 この人もたいがい謎だよな。もう慣れちゃったけど。

「うふふ。でもみんな、奈緒ちゃんの力になりたいって言ってくれてますよ?」

 茄子さんが笑うと。
 あたしの髪が一部、もふっと盛り上がった。

「わ、こら。出てくんなって」


 ぽんっ!


 次の瞬間、空中にちっこいものが発生した。
 ピンポン玉サイズの白くてもこもこした、タンポポの綿毛みたいなやつだ。

 そいつらは、あたしの髪に住んでいる。


  ◆◆◆◆


 実は5歳くらいまでストレートだったんだ。
 奈緒ちゃんの髪はサラサラできれいだねー、なんて言われたりして。

 これは自分でもあんまり覚えてないんだけど、母さんの実家に行った時あたしは行方不明になったらしい。
 一晩まるまる帰ってこなくて、すわ神隠しかと近所の人とか警察総出で捜索してたところ、何も無かったみたいにひょっこり帰ってきた。

 その時にはもう、今みたいなもふもふになってたってわけ。



「これは『けさらばさら』じゃねぇ」


 婆ちゃんが言うには、なんでもそういう妖精? だか、妖怪? って存在なんだって。
 昔はもっとたくさんいたんだけど、今じゃめっきり数を減らしちゃってるんだそうだ。
 だから、あたしの髪に乗っかって下界に出てきたこいつらはだいぶ珍しい群れだとも。

 どうもそこがお気に入りになってしまったらしい。
 悪い奴ではないみたいだし、あたしも悪い気はしなかった。


 5歳児から今に至るまでの12年間、自分の髪に住み着いた白毛玉たちをあたしはケサランパサランと呼んだ。


 困ったことはほとんど無い。
 そりゃ確かに最初はびっくりしたけど、大きくなる頃にはこれが当たり前だったし。
 
 相手は毛玉にしか見えないけど、これでも生き物だ。

 日によってふらっと飛んでどこかに行くこともあれば、気楽に増えたり減ったりしていた。
 特に湿気が好きみたいで、梅雨から夏にかけてはあちこちから寄ってきてあたしのもふもふをパワーアップさせた。

 普段は全然自己主張しないし、他の人に見られることも出てくることもない。
 だから共同生活も苦じゃなくて、感覚としては半野良のハムスターか何かを飼ってるようなもんだ。


 ただ一つだけ、どうしたものか判断に迷うことがあって――



  ◆◆◆◆

  ―― 後日 街中


P「悪いな、電車移動になっちゃって」

奈緒「いいってこれくらい。車の調子悪いんだろ?」

P「ああ。昨日までなんともなかったのに急にプスンってな。車の機嫌もよくわからないもんだ」

P「それより、今日のオーディションの手ごたえはどうだった?」

奈緒「もうバッチリ! 結果は期待していいぞ、プロデューサーさん!」

P「おっマジか。よし、ならご褒美におじさんがなんか奢っちゃろうか」

奈緒「ははっ、なんだよおじさんって? ――んじゃ、クレープがいいな! 加蓮にうまいとこ教えてもらったんだ!」



  アリガトゴザマシター


奈緒「奢っといてもらってなんだけど、アンタは買わなくていいのか?」

P「オッサンなので糖質を気にするのだ」

奈緒「そうかぁ? まだ若く見えるけどなぁ」

P「いやぁ、こう見えて中身の方は順調にくたびれてきてるもんよ……」

奈緒「だったら運動すりゃいいじゃんか。あたしらのレッスンに呼ぼうか?」

P「すごく悪い笑みを浮かべる青木さんがありありと想像できるからやめて!」

奈緒「あはは。……ん、うまいなこのクレープ!」ムシャー


奈緒(なんか、二人きりで歩くのって珍しいなぁ)

奈緒(車が故障しちゃったのもまあ、怪我の功名かな……へへ♪)

奈緒(…………ん?)


毛玉(…………)モコモコ


   〇


 たまに、変に運が向いてくることがある。

 都合よすぎっていうか。

 大抵の場合大したことじゃないんだけど、でも「日頃の行い」では納得しがたいほどだったりもして。
 そういうのは短期間に一気に来るんだ。
 たとえば、こんな――


   〇


 からんからーんっ!


「一等賞! ぴにゃこランドペアチケット大当たりで~~~す!」

「お、おぉ……!?」

 おつかいに来た商店街の、ふらっと寄った福引でのことだった。
 大体こういうのって一等のチケットより二等以下の家電の方が嬉しかったりするんだ。
 それをなんでこんな、しかもペアチケットだなんて…………。

 ふわふわ、ぱちん。

「……!」

 あたしの髪の毛から白毛玉が舞って、一つ弾けた。シャボン玉みたいに。

 疑うまでもない。
 あたしの幸運は、こいつらのおかげだった。


 ケサランパサランは幸福の象徴だって言われてる。

 彼らが弾けると、その度に奇跡が起こるんだ。
 それは一つ一つは小さなものだけど、どれも宿主の都合のいいように働く、いわばラッキーだ。

 あたしは子供の頃ケサランパサランに気に入られた。
 彼らは人間社会にあまり居場所が無いらしい。
 だからなのかあたしは、よくその恩恵を受けてしまっている。

 こっちから頼ったりは全然してないんだけど。
 家賃替わりだと思ってんのかな。


  ◆◆◆◆

  ―― 後日 事務所


奈緒(……)

奈緒(せっかく貰っちゃったんだし、無駄にするのも、だよなぁ……)

奈緒(えぇ~? でも遊園地だぞ? 大人の男の人ってこういうの喜ぶのかぁ……?)

周子「奈緒ちゃん何持っとるんー?」ヒョコッ

奈緒「わぁ!? 周子!?」

周子「お? なになに遊園地のペアチケ……あぁ~」

奈緒「な、なんだよぅ」

周子「いやいや、頑張り~? あたし誰応援していいかわからんけどー」ヒラヒラ

奈緒「だからなんだよー! 変な想像してるだろー!?」ワタワタ

奈緒「はぁ、ふぅ……行っちゃったし。そ、そんなこと言われると余計に緊張するじゃんか……」


P「おいすー」ガチャ

奈緒「げっ」

P「人の顔見るなり『げっ』はなくない?」

奈緒「いやあの、よ、よぉプロデューサーさん! 奇遇だな!」

P「奇遇もなにもここ事務所だからな」

奈緒「あっそうか、えっとそうだったな。あー……えっと……げ、元気か!?」

P「おかげさまでそこそこ健康ですが……なんだどうした? 変なことでもあったか?」

奈緒「ああ、いやぁ、そういうわけじゃなくてさぁ……」

奈緒「あのさ、ゆ……!」

P「ゆ?」

奈緒「……由愛ってさ、かわいいよなっ!」

P「だな。頑張り屋さんだし、情熱もある。いいアイドルだ」

奈緒「うんうん! って、じゃなくて、遊……!」

P「遊?」

奈緒「…………遊佐こずえって、いい名前だよなっ!」

P「??? うん、そうだな……?」

こずえ「いえーい……」

奈緒「あ~~……じゃなくてぇ……」


P「なあ、どうした奈緒? 悩みでもあるのか?」

奈緒「どぇ!? いやそういうわけじゃ……な、なんでもない! なんでもないんだっ」

奈緒(今度のオフ一緒に遊園地行こうなんて、言えるわけないだろぉっ!!)

P「そ、そうか……ならいいんだが」

P「おっと、そろそろ時間だ。打ち合わせ行ってくるわ」

奈緒「あ、ああわかった。気を付けてな!」

奈緒(無い、無い無いっ。凛か加蓮でも誘おう、そうしよう……っ)


 フワ フワ…

 ぱちんっ!


  『プロデューサーさんっ!!』


奈緒「!?」

P「んお!? なんだ、どうした?」

奈緒(あ、あたしの声……っ!?)

奈緒「あ、いやあの、なんていうか実はっそのぉ……!」

奈緒(え、ええいっ!もうなるようになれだ!!)


  ◆◆◆◆


 結局、誘っちゃった。


「…………もぉぉ~~~~っ!」

 ベッドでじたばた。どうしていいかわからない。
 いきなり聞こえた自分の声に背中を押されて、勢いで……って感じだったけど。
 そういえばあの声は……。

「お前たち……だよなぁ」

 天井付近をただよう白毛玉たちは、どことなく誇らしげだった。
 いつの間にあたしの声真似なんて……。いや、結果的にはいい感じになった……のかなぁ?

 正直よくわからない。
 プロデューサーさんは快諾してくれたけど、でもなんていうか。
 オフに男女二人でどっか出かけるってことはつまり、はたから見れば、いやどっからどう見ても……。



「…………で、デ~~~…………」

 にまぁ……。

「……はっ! ちがっ、違う違う! 違うぞ!?」

 誰に言い訳してるんだあたしは。
 はぁ~、でも……。
 そっかぁ……。
 つ、次の日曜、かぁ……。へ、へへへ……。
 な、なんの服着てこ……いつものでいいかなぁ……たまにはでも、普段着ない可愛い系の奴とか…………。

「だぁっ! だから違うぅっ!!」

 だから誰に言い訳してるんだあたしは。
 転がるあたしの気持ちを知ってか知らずか、毛玉たちは電灯の周りをゆらゆら回遊して。

 ぽんっ。
 ぽんぽんっ!
 ぽぽぽーんっ!!

 ひとつ、ふたつ、みっつよっつと、テンポよく増殖していった。


 そういえば最初の方に、気楽に増えたり減ったり……って言ったけど。

 彼らが増える具体的な条件は、「幸せになること」なんだ。

 ケサランパラサンは幸せの象徴。幸福で満ち足りた空気になれば、彼らはそれを吸って増殖する。
 反面、不幸で落ち込んだ空気になってしまうと、逆にしょぼくれて減っちゃうんだ。

 一応の宿主であるあたしのテンション、周囲の空気、こいつら自身のテンションで増減する様は、幼いころからひとつの幸せのバロメーターだった。
 そっか、増えたってことはいいことなんだな。
 …………って。

「……いやっ! 今のあたしが幸せだってのかよーっ!?」

 ぽぽぽぽぽぽんっ!!

 うわまた増えた!!
 もはや天井を埋め尽くす勢いのケサランパサランにはいっそ笑うしかなかった。
 仰向けに寝転がり、幸せをもたらす同居人の群れを見上げた。


「あ、でも、ああいうことはしなくていいんだぞ! クジで当たり取らせるとかさ!」

 しゅん……

 あ、ちょっと減った。

「だって、あたしがお前らをそういう目的で使ってるみたいだろ。あんなの無くたって、あたしんとこにいていいんだからなっ」

 ぽぽんっ!

 増えた。嬉しいみたいだ。
 こういうやり取りも、12年も付き合っていればお馴染みのことだった。

「ははっ。……お前らに接するみたいに、あたしも素直になれたらいいんだけどな」

 綿毛の雲はほわほわと空気の流れをなぞっている。
 見上げているうちに眠くなってきた。日付が変わってもう結構経つ。
 もだもだしてるうちに夜更かししちゃってたみたいだ。あたしは布団を被って電気を消した。

「……なーんて言ったって仕方ないよな。もう寝るよ。明日も頑張るぞ!」

 目を閉じると、綿毛たちが髪の中に戻っていく。
 そのやわらかな感触に包まれて、あたしは眠りに落ちていった。


  ◆◆◆◆

  ―― 日曜 ぴにゃこランド


P「ほほ~」パシャパシャ

奈緒「なあ」

P「なるほどなるほど……」パシャパシャ

奈緒「おいっ」

P「ここはもう一枚……ん? どうした奈緒?」

奈緒「なんでさっきから写真撮りまくってんだよっ」

P「ああ、実は次のステージのセットは遊園地モチーフにしようって話があってな」

P「やっぱ本物の遊園地がどんなかはチェックしとかなきゃってさ。いやぁ助かったよ奈緒!」パシャシャー

奈緒「なんだよ、結局仕事かよ……」

P「このシリーズだいたい怪異の解決ばっかで仕事してる描写ほぼ無いから、たまにはな!!」

奈緒「切実だな!! てかメタ発言やめろよ!!」

P「ムッハッハ。――あ、奈緒そこ立ってくれるか?」

奈緒「え? ……は? あ、あたしも撮るのか!?」

P「これはプライベートなやつだから。ほらほらそこ立って」

奈緒「わっ、ちょっ……あ、あたしなんか撮ったって意味ないだろ!? あそこの着ぐるみとかでいいじゃんか!」


P「そう言うなよ。せっかく可愛い格好なんだから」

奈緒「かわッ」

P「それ、普段あんまり着ないタイプの服だよな。すごく似合ってるし、周りの風景にも合ってるからさ」

奈緒「か、かわ……かわ……」

P「ああ、もちろんここだけの秘密だ。みんなに言ったらからかわれちゃうしなぁ」ワハハ

奈緒「ひ、秘密……二人だけの……」

奈緒「わ……わかった。そういうことなら……」カチコチ

P「いやカタいな!?」

奈緒「しょ、しょ、しょうがないだろぉ……いきなりそんなこと言うからぁ……」

P「仕事の撮影でもそこまで緊張しないだろ……。よしわかった、俺がポージング指導をしてやる」

P「あ、すいませーん! 写真撮って欲しいんですけどー!」

奈緒「しかもツーショットかよ!!?」

P「お前一人じゃカチコチだろ。この際だ、仕事ってわけじゃなし、俺も一緒に映るから」

女の子「ええ、私で良ければ喜んで……」

奈緒「わ、わ、わ」

P「ほら肩の力抜いて、はいチーズ」

女の子「撮りますよ♪」パシャー


P「ありがとうございましたー!」

女の子「とんでもありません。では、友人を待たせているので……」

女の子「お互い、よきぴにゃ体験を……♪」グッ

P「ええ、よきぴにゃ体験を」グッ

P(……いやぴにゃ体験って何だ?)

奈緒「ほ、ほ、ほ、ほんとに撮っちゃったのか……あたしとアンタの、つ、つ」

P「ああ、これデータ。いるか?」

奈緒「いッ……………………る」

P「じゃ後で送るよ。いやでも、ほんと似合ってるぞ。普段も着ればいいのになぁ」


  ぼふんっ!!!


P「髪のもふもふ度が爆増したーッ!!?」ガビーン

奈緒「なっなっなんでもない! なんでもないからっ!! ただの寝癖だこれはっ!!」モジャモジャ

P「時間差で炸裂する寝癖なんてある?」

奈緒「あるって言ったらあるんだっ!!」モファーッッ


奈緒(似合ってる似合ってる似合ってる似合ってるって似合ってるって)

奈緒(わ、やばい、どうしよあたし、わけわかんなくなってきた……! 落ち着け落ち着け落ち着け……っっ)

奈緒(……つ、ツーショット写真撮っちゃった……♪)


  ◆◆◆◆


加蓮「――あーあー、こちらエージェントK。エージェントR、聞こえますか?」

凛「聞こえてる」

加蓮「こちらは目標を確認しました。そちらのポイントから二人は見えますか?」

凛「見えてる。っていうか私、隣にいるじゃない」

加蓮「もー。凛ってばノリわるーい」

凛「いいのかなこんなことしてて」

加蓮「だって気になるでしょ? 奈緒とプロデューサーのお忍びデート!」

凛「まあ……。奈緒ってああいう服も着るんだね。ちょっと意外かも」

加蓮「かわいーよね~♪ プロデューサーとデートで気合入ってるんでしょ?」

凛「……ねえ、加蓮」

加蓮「わかってるわかってる、口出したり後で弄ったりしないって! ちょっと見守るだけ!」

  ジャアサイショハアレニノッテ…

  ン? ダレカガコッチミテ…

加蓮「やばっ! 隠れて!」ササッ

凛「……気付かれた?」

加蓮「……セーフみたい。あっ、あっちに行っちゃいそう! 追いかけるよ!」

凛「本当にいいのかなぁ……」

凛(そういえば遊園地入るの、小学生低学年のとき以来かも……)


   タタタッ……


  ◆◆◆◆


P「奈緒ってお化け屋敷とか平気なタイプ?」

奈緒「おばっ!? な、なんだよ急に……?」

P「ほらあそこ、『啓蒙! 青ざめた血の病棟 ~宇宙悪夢的恐怖をあなたに~』って奴。あれ入ってみないか?」

奈緒「な、なんだよプロデューサーさん。ああいうの好きなタイプだったのか……?」

P「遊園地アトラクションがテーマならあっち方面のセットも確かめないとな! 小梅たちのステージに使えそうだ」パシャパシャ

奈緒「ふ、ふ~~~ん……」

奈緒(定番のやつだ……『きゃあ怖い!』つって抱き着いちゃうやつ……マンガで読んだことあるぞ……!)

奈緒(や、やるか……? できるか、あたしに? 大体そんなことしてドン引きされたりしないかな……?)

P「もし怖かったら俺にしがみついてていいぞ、はっはっは」

奈緒「はぁっ!? だだだ誰が!」

P「遠慮するな、これでも肝は据わってるつもりだ」

P「こちとら高空からヒモ無しバンジーしたり幽体離脱したり拉致られたり狐屋敷に閉じ込められた男だ、今さらお化け屋敷なんて大した事ねーや」ワハハ

奈緒「説得力がえげつねぇ」

P「というわけで入るぞ! あぁ楽しみだなぁ!」ウキウキ

奈緒「まったく、頼もしいんだかそうでないんだか……。あ、中は写真撮影禁止だからな!」ワクワク



P「ぎゃあああああああああああああっ!!」

奈緒「ひょわぁぁぁああああああああっ!!」

P「あばばばばばばばばばばばばばばばば!!!」

奈緒「ひぃぃいいいいいいいいいいいい!!?」

P「アイエエエエエエエエーーーーーーーーーーッ!!!?」

奈緒「いやああああああああああああああああああっ!!!!」



P「」チーン

奈緒「」ポックリ

P「……は、は、発狂するかと思った……」

奈緒「人形……人形が喋った……」

P「なんなんだよあの目玉いっぱいの……」

奈緒「うぅっ……あの変な歌が耳から離れない……」


  ~しばらくして~

P「あれはまだ俺たちには早かったみたいだ」キリッ

奈緒「そうだな」キリッ

P「それにしても奈緒、悲鳴は結構乙女なんだな。『いやー』って(笑)」

奈緒「んなっ!? あ、アンタこそ情けなかったぞっ! 何が『お化け屋敷なんて大したことねーや』だぁ!」

P「なんだとぉ!?」

奈緒「やるかぁっ!?」


奈緒「……ぷふっ」

P「……ははっ」

奈緒「あーあ、叫びすぎて喉渇いちゃったな。なあ、飲み物買いにいかないか?」

P「お、いいな。よしおじさんが奢っちゃろう」

奈緒「おっ出たなおじさん。そんならお言葉に甘えようじゃんか!」


P「グリーンぴにゃこらスムージー(枝豆味)……」

奈緒「……ま、まあこれはいいかな……」


  ◆◆◆◆


加蓮「お。なんか雰囲気よさげ……?」ジー

加蓮「お化け屋敷入ったんだから『きゃあ怖い!』って抱き着くくらいはしたんだろーねー、奈緒~……?」ジジー

凛「加蓮。ねえ加蓮」

加蓮「むむむ、距離が遠くて見えづら……えっ何?」

凛「あれ。昇天ぴにゃこらサイクロンコースター」

加蓮「……それが?」

凛「乗りたい」

加蓮「却下」

凛「!?」

加蓮「乗ってる時間ないでしょそんなの。ていうか私絶叫マシンとかムリだし! 気絶しちゃうし!」

凛「でも、乗った人にはもれなく昇天ぴにゃこら太お面がプレゼントされるって……」

加蓮「いらない! ほら、早く行かないと見失っちゃうじゃん!」

凛「昇天ぴにゃこらサイクロンコースター……」ショボン


  ◆◆◆◆


 ――なんだかんだで、普通に……いやすごく、楽しんだ。
 ジェットコースター乗ったり、ウォーターライド乗ったり、フリーフォール乗ったり、コーヒーカップ回したり。
 メリーゴーラウンド乗ったり、ゲームコーナーで遊んだり、観覧車…………はまだ早い気がするから無理として。

 プロデューサーさんはアトラクションめぐりのついでに写真も増えてご満悦だった。
 仕事の資料用と、プライベート用。藍子に教わって、結構カメラなんかも凝りだしたらしい。

 あたしが映るのはみんなプライベート用で、一枚くらい新規衣装の参考にさせてもらえないか言われたけど、さすがにやめろって言った。
 ……恥ずかしいし。


「ほら奈緒、アイス買ってきたぞ」
「ん、さんきゅ」

 ベンチから見る人の流れには、色んな顔があった。
 親子連れ、つるんでる学生、遠足の子供たち、ぴにゃマニアっぽい人……と。
 よく見るのは、やっぱり……カップル。

 こういうとき定番の台詞がもう一つある。

 あたしたち、どんな関係に見えてるのかな? ――だ。


 さすがに言うのは憚られた。
 この朴念仁のことだから「兄妹」とでも言うに決まってるし、万が一期待通りのことを言われたらそれこそどうしていいかわからない。
 それに、今さらそんな試すようなことを言うのもちょっとヘンな感じがするし、だいいち恥ずいし。
 そもそもこれ、いいのか? ファンの人にバレたりしないか? いつもと違う服だから気付かれないかな? あ~なんか頭ん中ぐるぐるしてきた……。

「……ちべたっ」
「お?」

 頬にアイスがついちゃってた。ついつい考え込んだせいだ。

「なんだ奈緒、ボーッとしてたのか? ちょっと待ってろハンカチあるから」
「え!? い、いいよぉ、その辺のトイレで拭くから……!」
「早くしないと垂れちゃうだろ。ほら顔こっち向けな」
「いいって――んぅ、んーっ」

 結局されるがままだった。
 あたしの頬を手早く拭って、プロデューサーさんは気の抜けたような笑みを見せた。

「こうしてるとあれだなぁ。まるで……」
「えっ? ま、まるで……!?」
「大きな娘か、妹がいるみたいだなって」
「ああはいはい、うん知ってた、あたし知ってたよアンタはそういう奴だ」
「何が!?」

 予想通りというか、期待外れというか……。
 いきなり白けたあたしに彼は戸惑うばかりで、だからなんか、怒る気もなくなった。


 それに、たとえ誰にどう見られてたって……な。

「あ」

 もわわんっ。

 また髪がもふみを増した。ケサランパサランが増えたんだ。
 両手で押さえてみたけど、やっぱり明らかにもふついていて、隣のプロデューサーさんが目を丸くしている。

「……なあ、それってやっぱ湿気が関係してるの?」
「いや……どっちかっていうと、気分かな」
「どういう体質だよ!」
「どういうのでもいいだろっ。その、なんだ……」

 何よりも、こいつらには……自分の気持ちには嘘がつけない。
 あたしは今、幸せなんだと思う。


「嬉しいとこうなるんだよ、ばかっ」


  ◆◆◆◆


加蓮「いけ奈緒っ、ちゅーだ! そこでちゅーだ! ……もう、もどかしいっ」

凛「そうだね」チュー

加蓮「……てか、凛は何飲んでんの?」

凛「グリーンぴにゃこらスムージー(枝豆味)」

加蓮「商品名聞いてるんじゃなくて! あとその頭の! どこにあったのそんな変なヤツ!?」

凛「ぴにゃハット……変装になるかと思って。大丈夫、加蓮のも買っといたから」

加蓮「いらない」

凛「!?」

加蓮「めちゃくちゃ緑じゃん! そんなの被ってたら逆に目立つってば!」

凛「けど周りみんな被ってる……」


通行人A「最高にイケてる」

通行人B「今年はこれが来る」

通行人C「オッホホ~ウ! マジェスティック!」

通行人D「これも葦名のため……」


加蓮「……マジだし」

凛「被ってない方が逆に目立つんじゃないの? こっちだって顔バレしたらまずいと思うけど」

加蓮「……う~。かわいくない……」

凛「……」ワクワク

加蓮「はぁ、仕方ないなぁ……。一つ貸して」

凛「ピンクと黒どっちがいい?」

加蓮「カラバリあるんだそれ!?」ガビーン


   ◆◆◆◆


 気が付けば、夕方だった。

 こんなに早く時間が過ぎたのは初めてだ。
 いつしか緊張も吹っ飛んで、あたしは園内を制覇する勢いでプロデューサーさんを引っ張っていた。

 結局、「観覧車に乗りたい」とは言い出せないままだったけど。

「……っっはぁ~! 遊んだなぁ~!」
「だなぁ。資料も手に入ったし、一石二鳥だ」
「へへっ、あたしに感謝したっていいんだぜー?」

 でも、もう夕方。そろそろ帰る時間だ。
 名残惜しくないと言えばウソになる。明日になったらいつも通りの生活で、いつも通りのアイドルで。
 仕事は楽しくて、事務所のみんなも好きだけど……二人の時間はもうおしまい。

 プロデューサーさんはあたしだけのプロデューサーじゃない。それはわかってるけど……。

「しかし、なんだな。カメラ持ってきゃ色々言い訳できるかもしれん。これは発見だぞ」
「ん? ……何が?」
「資料のためって名目なら、次は会社から経費引っぱれるかもしれないぞってこと。ちひろさんさえ説得できればな」
「次……」
「まだ乗ってないやつあるしな。一回でおしまいはお互い嫌だろ」

 …………………………。

 もふふんっ!!

「また髪が増えた!?」
「なんでもないっ。もふもふの気分になったんだ!」

 ……さらっとそういうこと言うんだからなぁ……。
 でも、次か。
 経費がどうこうはさておいても、もし次があるなら、それは……嬉しい。嬉しいことだ、うん。


 じゃあ、今度はあたしが連れてってもらうよ。

 そう言おうとしたとこで、向こうを歩いてるお兄さんたちがこっちを見た。


「なあ、あれってアイドルの――」


 …………やっべ!!

 こっちが締めくくるより魔法が切れる方が早かった。
 さすがにいつまでもバレないままとはいかなさそうだ。
 ごまかすか、どうしよう、と逡巡するあたしに一歩踏み込んで、プロデューサーさんが耳元で言う。

「走れっ」

 弾かれたように、走り出した。
 お兄さんたちにはゴメン。今はマズいんだ。
 後ろでちょっとだけ騒ぎが起こって、もうこっちは必死だった。とにかく人目のないとこに、あと人にぶつからないように、全力ダッシュだ。

 でもお互いの歩幅は違って、走っていても差は徐々に開いていく。
 まずいと思ったところで、彼の手があたしの手を握った。

 走る。走る。走る。長い髪が広がる。目の前にあの人の大きな背中。
 風になびく髪の端から、白く光るものがこぼれ出て。二人の走る軌道に残り――




   ぱちんっ、

      ぱちんっ、

         ぱちんっ――



 誰にも捕まらなかった。気付かれもしなかった。
 綿毛の幸運が助けてくれたんだ。
 人ごみに隙間ができて、出口のゲートに行列は無く、追い風が背を押して、渡る信号はみんな青。
 シャボン玉の割れるようなキラキラした音が、すぐ後ろで断続的に咲き続けた。

 夜の近付く街は、七色に輝いていた。仄かな闇にネオンが滲んで、走り抜けざまに視界の端を流れ去る。
 置き去りにした遊園地の煌めきは、振り返るとお城みたいに大きくて、夕空に眩しいくらいの光を投じる。
 
 街頭の灯り出した道の先、ずっと上にはもう星があって、茜色の中でチカチカ輝いていた。


「あははっ」


 急になんだか楽しくなった。
 髪がもふもふしてる。春の夕風は肌に心地いい。

「ははっ、あははははっ!!」

 振り向く彼の不思議そうな顔。それがまたおかしくて、走りながらあたしは、涙まで滲ませて笑った。



   〇


 二人して足を止めた時、アイドル神谷奈緒に気付いた人は誰もいなかった。

「はぁ、ふぅ……いやー良かったな。なんとか逃げ切れた」
「……だな。今度からはもっと気を付けなきゃ」

 今度から、だって。
 自分で言ってて驚いた。今度もこういうことするつもりなんだ、あたし。
 けど確かに……一回こっきりで終わらせたくは、ない。

「あのさ。経費がどうとかは、あたしどっちでもいいんだけどさ。……また、連れてって欲しいな」

 言えた。
 言い終えた後でドキドキが追いついた。
 いや、変な意味じゃなくて――と言い足そうとしたところで、プロデューサーさんがうんうん頷く。

「もちろんだ。今度はみんなとも行きたいな。未央や莉嘉とか、こういうの好きなんじゃないか?」

 あ、ほら、そういうこと言う。
 ……まあいいか。それもらしさだ。
 走り抜けた後の心地よさが尾を引いて、なんだか大体のことにも「まあいいや」で済ませられる気分になっていた。


 ……本当に、そうか?



 言っておくべきことが、まだあるんじゃないか?

 周りは静か。誰もいない。
 もしかしたら、魔法の時間はまだ続いているのかもしれない。
 いつか言おういつか言おうって思ってた、その「いつか」は「今」なのかもしれない。

「さて、そろそろ帰るか、奈緒。……奈緒? どうした突っ立って」
「いや――」

 チャンスか。いや、これチャンスって言っていいのか?
 だいたい段階ってものがあるだろう。あたしそういうの全然わかんないぞ。
 いきなり言ったら絶対引かれる。いやプロデューサーさんは引いたりなんか。でも話が話だぞ。
 美穂や、美嘉や、まゆが、でもあたしだって。いやいやちょっとズルくないか?
 大体アイドルはどうするんだ。言うだけ言えばいいと思ってないか?
 雰囲気に流されちゃダメだ、今じゃない今じゃない今じゃ――



  『すきだ』



「!!?」
「……? すまん聞こえづらかった、なんだって?」
「あ!? いっいや、なんでも! なんでもなっ――」

 いきなり、あたしの声がした。
 風を含んだ髪から綿毛が飛んで、またぱちんと弾けた。


  『あたし』

  『アンタのことが』


「わーっ! わーっ!! ちょ、違っ、これは……」
「んん……? なんか、さっきから奈緒の声が重なって聞こえるんだが……」

 ふわふわ、ぱちんっ。


  『ずっとまえから』


「……前から?」


  『す』


「トイレだっ!!!」

 プロデューサーさんが、ぽかんとした。

「とっトイレ! トイレ行きたくてさぁっ! ず、ずっと前から我慢しててあたしっ、あは、は、ヤバいかもっ!!」
「女の子が大声で主張することじゃなくない!?」
「いやほんとヤバくてっ、あたしちょっと行ってくるからっ! あー漏れる漏れるーっ!!」

 ほとんどヤケクソだった。髪を押さえて、さっきよりも全力でダッシュする。
 トイレがどこにあるかなんて知らない。適当に何度も曲がった路地の先にゴミ捨て場があって、その陰に身を潜めた。


「――お、お前らなぁっ……」

 ぜぇぜぇ言いながら、髪をかき上げる。
 するとケサランパサランたちが現れて、あたしの周囲を回遊しだした。

「ああいうのやめろって……! し、心臓に悪いだろぉ……!」

 綿毛はまた、ぱちん、と弾けて。



  『なんで』

  『逃げるんだ?』


 あたしの声だった。
 こいつらに悪意が無いことはわかってる。
 けど、いきなり自分自身に背中を刺された気がして。
 それで、無性に腹が立った。

 クジが当たったのも、プロデューサーさんを誘ったのも、さっきのことだって、あたしは別に。
 あんなの無くたって。いきなり幸せを押し付けられなくたって。






「誰もそんなことしろなんて頼んでないだろっ!!」




 …………あ。

 しまった。
 また、言っちゃった後で事の重大さに気付く。
 怒鳴り声が暗い路地にわんわん反響して、それは自分でも驚くほど冷たく聞こえた。
 ケサランパサランはしばらく目の前に浮いていた。

 やがて、ぱちんと一つ、また一つと弾けて、言った。


  『ごめん』

  『ごめんな』

  『喜んでほしくて』


「違っ――違うんだ、今のは別にお前らが嫌いって意味じゃなくて……」

 弾けた綿毛は、戻らなかった。
 急に地面から冷たい風が吹いて、全身を撫で上げた。

 ぶわっ――!

 あたしの髪が大きくなびき、そこから大量の綿毛たちが飛び立っていく。
 風に乗りながら彼らは弾け、白い残滓を散らして消えてなくなる。


  『ごめん』


「待っ――!!」


 小さな白い雲が、その数を減らしながら、空へと消えていく。

 まるで泣いているみたいだった。


   〇


P「…………」

P「…………トイレ長いな。我慢してたんだろうな」

P「そうだ、待ってるうちに画像のチェックしとこ」カチカチ

   タタタッ…

P「お、来たか。おーい奈緒――」


奈緒「プロデューサーさんっ!!」サラサラァ~


P「どちら様ですかーっ!?」ガビーン


奈緒「何言ってんだあたしだよあたし! 奈緒っ!!」サララァ~ン

P「えぇ、な、奈緒!? お前どうしたそのサラツヤストレート!?」

奈緒「説明は後だっ! あいつらを追いかけなきゃ!!」

P「あいつら!? あいつらってどいつら!?」

奈緒「あたしっ……みんなに、酷いこと言っちゃって……! すぐ謝らないと……!!」

P「……!」

P「どっちだ? 何を追いかければいい!?」

奈緒「あっちだ! あの空飛んでる白いの! 早くしないと見失っちゃうよ!!」

P「よし、任せろ……!」


P「……それにしても大したもんだ。シャンプーのCM来るんじゃねこれ」サラサラ

奈緒「え、そうか? へへ……って言ってる場合か! 急ぐぞっ!」サラァ~


  ◆◆◆◆


凛「……」

加蓮「……」

凛「……完全に見失ったね」

加蓮「もう! あの二人走るの速すぎっ! 信号でも全然止まんなかったし!」

凛「まあ、もういいんじゃない? 上手くいったみたいだし」

加蓮「……そだね。まあいっか。後のことはプロデューサーから聞いとこ」

凛「遊園地、結構悪くなかったね」スンッ

加蓮「いやめっちゃ楽しむ姿勢だったじゃん。帽子被りっぱだし……あれ?」

凛「なに?」

加蓮「いや、あそこ……」



   フヨフヨ~


凛「……雲かな。でも、それにしては低いような」

加蓮「あのもわもわ、奈緒の髪に似てる……」

凛「加蓮、大丈夫? 疲れてるんじゃない?」

加蓮「素で心配しないでよ! ここは『そうだね』とか言う場面でしょ!?」

凛「そんなこと言ったって、あの変なもわもわが……」

凛「…………似てるかも」

加蓮「なんか変な感じする。ねえ、追いかけてみない?」

凛「わかった」タッ

加蓮「おっ即答。頼もしーい♪ ……って速っ! ちょっと、私に合わせてよ!?」タタッ

 一旦切ります。
 次で終わると思います。


  ◆◆◆◆


 空を見上げながら、何度も転びそうになった。
 赤信号や踏切に引っかかったり、人とぶつかりそうになったり、目の前を黒猫が横切ったり……。
 幸運が無きゃこんなもんだった。見失いそうになりながら、それでも諦めずに、プロデューサーさんは付き合ってくれた。

 いよいよ暗くなりつつある街を駆け抜け、逃げる時より必死に走って、やがて一気に視界が開けて――


 大きな橋の上で、ようやく綿毛に追いついた。


 幅広の川が、傾いた夕陽を反射して鱗みたいに輝いてる。
 橋から身を乗り出して、あたしは声を限りに叫んだ。

「おぉいっ!!」

 ケサランパサランは、手を伸ばしてギリギリ届かない空中に浮かんでいた。
 川の上は風が強い。東京湾へと流れていく風が、みんなまで持っていってしまわないか気が気じゃなかった。


 綿毛の数は、もう両手で数えられる程度の数まで減ってしまっていた。


「あれは……」

 プロデューサーさんは綿毛とあたしの髪を見比べて、何かを察したみたいだった。
 でもゆっくり説明する時間はない。欄干にお腹を乗せて、片手をいっぱいに伸ばす。

「帰ってこいよ! さっきはごめんな、言い過ぎた! だから……」


 ぱちん、とまた弾けて、減る。


  『失敗した』

  『間違えた』

  『きらわれちゃった』


 ――あたしも素直になれたらいいんだけどな。

 前の夜、みんなにそうこぼしたのはあたしじゃないか。
 こいつらはあたしの望みを聞こうとしたんだ。背中を押そうとしてくれたんじゃないか。

 12年の付き合いで、あんなことは初めてだったから。
 あたしも動転しちゃって、ついみんなを傷付けてしまった。



  『ごめん』


「怒ってないって。な、一緒に帰ろうぜ? お前らのことプロデューサーさんにも紹介するよ」

 手を差し伸べても、綿毛は戻ろうとしなかった。

 ぱちん。
 ぱちん。

 また弾けて、ぷつぷつ湧き上がる声で、言う。


  『今まで、たのしかった』


「え? お、おい、何言ってんだよ。なあ、あんなこと気にしてないって――」


  『友達や、好きなひとと』

  『どうか』

  『幸せに』


 最後の、ひとつになって。
 ケサランパサランは風に乗って、夜が昇る東の果てへと飛び去ろうとしてしまう。

「…………っ!!」

 腹の底に湧き上がるものがあって、考える前に動いていた。
 後ろでプロデューサーさんが何か叫んだ。気がする。聞こえない。
 
 欄干を踏み越えて、あたしは橋から飛び出した。

 全身が浮遊感に晒される。さらさら髪が風に洗われて、12年ぶりの感触が不思議だった。
 伸ばした右手を、いっぱいに開いて。


 …………掴んだっ!!


 一瞬後、たった一匹のケサランパサランが手の内にあった。
 掌で柔らかく包んで、そのふわふわを確かに感じた。

 で。命綱なしに飛び出したってことは、当然――


「あ」

 直下には一面の川。どれくらい深いんだ? 川幅広いからそんなでもないかも。
 いや、これって実はかなりマズくないか? 思ったよりずっと高いぞ。落ちちゃったらあたし――




「奈緒っ!!」


 いきなり上に引っ張られて、左肩が抜けそうになった。
 
「え……!?」

 見上げると、プロデューサーさんの必死な表情。
 今度は彼が欄干から乗り出して、限界のところであたしの手を掴んでくれていた。
 助けてくれた。
 助けてくれた。
 あたしのために危険を承知で、自分だって落ちそうなのに。

 ……自分だって落ちそうなのに?

 よく見て「あ!」と声が出た。プロデューサーさんはかなりギリギリだ。
 ずるずると上体がずれ込んで、重心が徐々に下がっている。欄干を掴むもう片手も汗が滲んで、いつ滑ってもおかしくない。

「や、やばいよプロデューサーさんっ! 離せってば!!」
「何言ってんだ、落ちたいのか!?」

 そんなこと言ったって、このままじゃ二人とも落ちちゃう。
 あたしはいい。自分から飛び出したんだ。
 宙にいるうちに離せば、ケサランパサランも飛んで逃げられる。
 落ちるのはあたしだけでいいんだ。こんなのプロデューサーさんが付き合うことじゃない。



「あっ……あたしはなんとかなるからっ! でも、でもアンタはまずいだろ!?」
「はぁ!?」
「だって、だってアンタ、あたしだけのプロデューサーじゃないじゃんか!! 他のみんなが悲しむだろっ!!」
 
 あ……あれ? 何言ってんだろ?
 切羽詰まるとよくわかんない感じになる。

 だけど、それはそれで本音なのかもしれなかった。
 だってあたしにとって彼は一人だけど、彼にとってあたしは担当アイドルのうち一人でしかなくて。
 もしあたしになんかあっても、プロデューサーさんにはやるべきことが沢山あって…………、

「ば」

 ば? 

「バカかお前は!!」

「なっ! なんだとぉっ!?」
「こんな時に変なこと言ってんな!! お前に何かあったってみんな悲しむんだよ当たり前だろ!!」
「そっ、れは、でも、だって……あたしの都合に、巻き込んじゃって……!」
「今さら何だ! いいから離すなよ! このまま、なんとか、引き上げるから……!」



 落ちた汗があたしの頬で弾けた。その熱を感じて目頭が熱くなる。
 あんなに必死になって。いつも運動不足だって言ってたくせに。

 ぶら下がったまんま、あたしはあたし以外が無事であることを心底願った。


「もういいよ! アンタが大事なんだよぉ!!」
「そんなのお互い様だろ!!」


 握る手に力がこもる。絶対に離さないと全身で言っているみたいだった。
 腕二本分の距離を隔てて見つめ合う。彼の顔が、いきなり強張る。


「あ゙」
「……『あ゙』?」
「あ、足が……攣った」
「運動不足っ!?」

 踏ん張る足が力を失う。手だけは握り合ったまま、とうとうプロデューサーさんの体まで、欄干からずり落ちた。
 一瞬、二人と綿毛が重力に引かれて――



 ぐいんっ!


「ぐえっ」

 また引っ張られる感覚と、プロデューサーさんのうめき声。
 大人一人の身長分だけ下がった高度から見上げると、プロデューサーさんの両脚をがっちりホールドする人影があった。

 慣れ過ぎているくらい、見慣れた二人だった。


「凛! 加蓮!?」


 なんでぴにゃこランドの帽子被ってんだ!?

「お、お前ら、ここで何してんだ!?」
「こっちの台詞! 何いきなり橋からダイブしてるわけ!?」
「え!? 俺の足掴んでんのその二人!?」

 一人だけ逆さまだから何もわかってない。
 綿毛、あたし、プロデューサーさん、凛と加蓮の順で橋に繋ぎ留められて、あたしは呆然とするばかりだった。

「……待ってて、今引き上げるから……!」
「おっっも……! さすがに二人はキツいけど……っ!」

 どちらも本気だった。
 あたしは、もう「離せ」だなんて言えなかった。
 なんでここにとか、来てくれたんだとか、難しいことは抜きにして、みんな本気だった。
 プロデューサーさんも凛も加蓮も、命懸けであたしを引っ張り上げようとしていた。



 なんで、そこまでして。あたしなんかの為に。


「離すなよ、奈緒。絶対に離すな……!」
「あヤバ、プロデューサーのズボン脱げる」
「ちょ、このままだとお尻見えちゃう!」
「お前が命懸けで、その白毛玉を引き留めようとしたように、」
「ずれるずれるずれる」
「パンツ見えた!?」
「俺たちもお前の……ねえ今ちょっと真面目な話してんだけど!?」
「脱げちゃうんだから仕方ないじゃん!!」


 凛が汗まで流して力を込める。加蓮も必死だ。プロデューサーさんは宙吊りのまま、両手でがっしりあたしの手をホールドしてくれる。
 ぶら下がったあたしは右手に意識を向けた。
 指に風が絡んで、綿毛がすり抜けてしまいそうになる。
 逃がさないだけでも必死だった。けど強く握り込んでしまうと、潰してしまいそうで怖かった。


 指の間に見え隠れするケサランパサランは、戸惑っているようだった。
 ぼわ、と膨らんで、あたしの声で小さく聞いた。


  『どうして』


 どうしてもこうしてもあるか。




「お前だって、友達だろっ!!」





 ――あ。


 叫んだ後で、やっと気付いた。
 あたしはこいつらが大事で、こいつらもあたしが大事で、少しすれ違っちゃったけど、お互いの気持ちは変わらないまんま。
 プロデューサーさんたちもあたしに対して同じことを思ってくれているから。
 理由なんてそれくらいで十分なんだ。


 手の内の綿毛が小さく震えた。

 思えば、はっきり言ったのはこれが初めてだった気がする。
 今までが当たり前すぎたから。あたしにとって幸運なんかあってもなくても、ずっとこいつらが傍にいるんだと思ってた。
 こんな土壇場で確かめ合うなんてどんだけ不器用なんだ。


 
 ――がくんっ!


「うぇ!?」

 いきなり、体がまた一段階下がった。
 プロデューサーさんは離してない。凛も。けど加蓮が姿勢を崩していて。

「あ、頭、くらくらしてきた……」
「加蓮! まさか、貧血なの……!?」

 ここまでタクシーとか使った風でもなかった。多分あたしらと同じとこから走ってきたんだ。
 となるとかなり体力を使ったはずで、急な全力疾走ともなれば貧血は必然だ。

「か、加蓮! がんばれ! そして俺のパンツを、尻を頼むッッ――」
「ご、めん、――私、もう……だめかも……っ」
「わぁっ、加蓮っ!?」
「落ちる……!?」
「尻が涼しい!!」

 それでも粘ろうとした凛と加蓮までも、欄干からずれ落ちて。
 とうとう繋ぎとめるものがなくなってしまい、四人が四人とも空中に放り出される。


 その時だった。



 

    ぽ ぽ ぽ    ぽ ぽ ぽ

  ぽ  ぽ ぽ ぽ ぽ ぽ ぽ ぽ

  ぽ  ぽ  ぽ  ぽ  ぽ ぽ ぽ

   ぽ  ぽ  ぽ  ぽ  ぽ ぽ

    ぽ  ぽ  ぽ ぽ ぽ ぽ

      ぽ  ぽ ぽ ぽ ぽ
 
       ぽ ぽ ぽ ぽ

        ぽ ぽ ぽ
  
          ぽ

          ぽ

          ぽ
 


  ぼ  わ  ん  っ  っ  !!!!





 右手で何か爆発的な勢いがあって、そこからはあっという間だった。

 一匹だけだったケサランパサランが信じられない速さで増殖した。

 一匹が二匹に、二匹が四匹に、四匹が八匹に、そんな倍々ゲームがコンマ以下秒単位で炸裂して、あっという間に万単位になっていた。


 そして密集した綿毛は、小さくて高密度な雲となって。
 あたしら四人を、空中で受け止めていた。


「お、おぉ……!? なんだ、何が起こった……!?」
「うぅ……ん……私たち、浮いてる……?」
「プロデューサー、ズボン履いて」

 みんな、無事だ。
 ふかふかの雲の上で身を起こして、あたしは友達を見下ろす。
 夕映えを受ける白いそれは一つ一つが意思を持っていて、ここで生まれた「幸せ」で一気に爆増したんだ。



「お前ら……」

 ストレートの長髪が風になびく。
 ケサランパサランの群体は徐々にその高度を上げ、あたしの手元の一つがぱちんと弾けた。


  『ありがとう』


 言うなり、強い風が吹いて。

「うわわっ!?」


 それに乗って、雲が空高く舞い上がった。


   〇


「まさか東京でも空を飛ぶことになるなんてなぁ……」
「これほんとに大丈夫なわけ? 落ちたりしないよね?」
「どこまで行くんだろう……」

 気が付けば、だいぶ高いとこまで舞い上がっていた。
 川の上とか橋とかそんなレベルじゃない。東京を見下ろすほどの高さ。どんな高層ビルよりも高い空を、ふよふよ泳いでいる。

「大丈夫だ。こいつらはもう、どっか行ったりとかはしないよ」

 ――だろ?

 もふもふやわらかな白いのを撫でると、ケサランパサランの雲はくすぐったがるように揺れた。
 あたしらは、空のちょうど中間にいた。
 西には朱色の残滓が、東には藍色の宵闇があった。見え始めた星と月がまたたいて、夜の訪れを告げていた。

 眼下には夜モードに切り替わりつつある東京の夜景。
 おもちゃ箱をぶちまけたような雑多な光でも、よくよく見れば街のかたちがわかる。



「……あ、ほら! あそこ!」


 行く先の、結構でかいビルを指差す。
 ライトアップされた、噴水まである屋上庭園が見えた。
 あのビルはうちのアイドルプロダクションだ。雲はゆっくりでも、まっすぐそちらに向かっている。
 屋上で降ろしてくれるつもりだとわかった。

「うわマジだ。今日休みなんだけどなぁ」
「なんか、小さいね。下から見るとあんなに立派だったのに」
「てか空から見るとこんな感じなんだー。あははっ、なんか新鮮かも♪」

 帰れるんだ。
 なんやかんやあったけど、あたしはもふもふを撫でながら、街を見下ろしていた。

 ふと思い立った。

「あ、観覧車」

「ん? どうした?」
「いや、観覧車……乗りたいなって思ってた。――けど、こっちの方がいいや」
「奈緒……」

「いや、観覧車は観覧車で乗りたい」

 横から凛がずいっと顔を出した。

「わぁ、凛!?」
「なになに、今度は二人っきりで乗ろうね的な? 奈緒ってば私らいるとこでそういうこと言う~?」
「加蓮も!? ちがっ、だから別に、観覧車はもういいってことを……!」
「私観覧車乗りたい」
「グイグイ来るな凛!?」


 というか、そうだ、こいつらだよ!
 何やってたんだ二人とも!? ぴにゃこランドにいたのか!?
 しかもあたしらの居場所を知ってたってことは……つまり……まさか……!

「はい、そのまさかでーす」

 加蓮がぴーすした。

「いやでもさ、口出しはしないつもりだったよ? マジマジ。あんなことがなきゃ関わらないつもりだったの」
「だからもうちょっと遊んでもいいかなって思ったのに」
「ああそうそう、聞いてよ奈緒ー! 凛がさー、尾行目的なのに遊ぼう遊ぼうって言ってきてー!」
「知らねーよっ! そっちが勝手に尾行してたんだろぉ!?」

 アンタからも何か言ってくれよ――と視線を投げると、プロデューサーさんは結構真剣な顔で何か考えていた。

「さすがに大人数を経費は厳しいか……ちひろさんをどう説き伏せるかだな……」
「えっ!? 次から経費で遊園地行けるの!? 行きたい行きたーい! 私ぴにゃポテト食べたーい!」
「ほら、加蓮も遊びたかったんじゃない。ねえプロデューサー、昇天ぴにゃこらサイクロンコースター乗った? どうだった? 次は私も乗りたいんだけど」
「お、お、お前らなぁっ! あたしがどんな気持ちであそこにいたか知らないでぇっ!」

 もわもわ、もふもふ。
 屋上が近付いてくる。
 ケサランパサランはあたしの手の下でもこもこ蠢いて、何もかも知ってるような感じで、また弾けた。



  『がんばれ』


「……よ、余計なお世話だっ。でも、まあ……」

 撫でると手触りが良かった。
 5歳の頃から知ってる感触だ。


「あたしはあたしなりにやってみるから。……うん。見守っててくれよ、みんなも」



  ◆◆◆◆

  ―― 後日 事務所


P「――なるほど。そんなことがなぁ」

奈緒「ごめんな、今まで黙ってて。そういうことだったんだ」

P「いやいいんだ。話はわかったし。それに、改めて紹介してくれて良かったよ」

奈緒「うん。みんなここでも伸び伸びしてくれてたらいいなってのは、前から思ってたからさ」

P「ところで、ケサランパサランの増殖っぷりは、彼らやお前の幸せ感に左右されるって言ったよな?」

奈緒「ああ、だな」

P「……今の状態って、どのくらいの幸せレベルなんだ?」

奈緒「あ~~~~、えっと…………」


 ポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワ
 ポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワ
 ポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワ
 ポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワ


奈緒「史上最高レベル……かなぁ……」

加蓮「事務所の天井がもふもふに埋め尽くされてる……」

凛「まっしろ」


アーニャ「オー! まるで、動く雪(スニェーク)みたいですっ♪」

イヴ「気分はいつでもホワイトクリスマスですね~♪」

未央「は~~~、かみやんの髪にこんなもふもふさん達がねー……」

美嘉「どれどれ……わ、かわいい★ へー、一つ一つが生きてるんだ!」


茄子「隠れる必要も無くなったというわけですね~。いいことです♪」

芳乃「ただでさえ数を減らしておられる種族なればー。ここでなら、のびのび暮らしていけることでしょうー」


奈緒「おーい、みんなーっ! あんまり遊ぶと迷惑になっちゃうだろーっ!」

奈緒「その辺にして、そろそろ戻ってき…………うわわわわっ!?」


   ぼふふふふふふんっ!!


加蓮「奈緒の髪が凄いことに!?」

凛「過去最高のもふりっぷりだね」

P「ユウキ・コスモかよ」

奈緒「誰がアフロだぁっ! あたしはイデオンなんて乗らないぞ!!」

こずえ「ぐれんきゃのんもだー……」


   〇

  ~しばらくして~


P「ふぅ、これで一件落着かな」

奈緒「ごめんな、変なことに巻き込んじゃって」

P「それこそ今更だろ。まあ結果オーライだよ、気にすんな」

奈緒「うん。……」モフモフ

P「…………」

P「あとな、一つだけお説教があります」

奈緒「おせっ……!? え、な、なんだ……?」

P「俺はお前だけのプロデューサーじゃなくて、他にも担当の子がいる。だからみんなが悲しむだろ……的なこと言ったよな」

奈緒「……!」

P「違うだろ。俺は担当アイドルを数で認識してなんかいないし、だから一人は仕方ないなって考えたりしないぞ」

P「そもそもお前だって俺だけの奈緒じゃないだろう。ユニット仲間やアイドル仲間、たくさんのファンや、家族や友達もいる」

P「そういうことです。奈緒のことが大事な人は山ほどいるんだ。それこそ、今その髪に住んでるみんなだってな。だからあんま卑屈なこと言わない」



  モフモフ


奈緒「あ……」

奈緒「うん、わかった。……よくわかったよ。ごめんなさい」

P「もう危ないことすんなよ。凛や加蓮にもお礼言っとけな」

奈緒「うん」


奈緒「……へへっ」

P「? どうした?」

奈緒「いや……なんか、考えてさ。あたし恵まれてるなぁって。アンタもいるし、みんなもいるし……」


奈緒「そういうのも、あたしの友達……ケサランパサランがくれた、素敵な奇跡なのかなぁって思って」


P「奈緒……」

奈緒「……………………ごめんやっぱ今のナシで」カァァ

P「そうさ、俺たちと君の出会いは運命(デスティニー)。純白の毛玉(フレンド)がもたらした、消えることのない奇跡(ミラクル)……そして続く栄光の人生(グロリアス・ロード)……」

奈緒「拾うなっ! 広げんなっ!! 恥ずかしいだろぉっ!!」モフフーッ

P「ワッハッハ。ワッハッハッハ」

奈緒「もぉ~~~っ!」ワタワタワタ


  ふわふわ……

  ぱちんっ



  ◆◆◆◆

  ―― ちょっと昔 街中


奈緒「ふわぁ~……今日も学校終わりかぁ……」

奈緒「帰ったらどうしよ。撮り溜めてたアニメでも観るかなぁ。あ、でもその前に宿題か……」


  タタタ……

  ドンッ!


奈緒「おわぁっ!? あ、すいません! 大丈夫ですか!?」

加蓮「……」キッ!

奈緒「!」


  タタタ……ッ


奈緒「……ああびっくりした。なんだったんだろ、さっきの……」

奈緒「でもめっちゃ綺麗な子だったなぁ。モデルかなんかかな? 急いでたみたいだけど……」

奈緒「ってカバンの中身ぶちまけちゃってるし。あーあ、ついてないなぁ」ヒロイヒロイ



  ふわ……

  ぱちんっ


P「あ~……また駄目だったかぁ……」

凛「駄目だったね。何回目?」

P「ええと確か、五回目だったかな。五回も断られた……ううむ手強い……」

凛「プロデューサーも懲りないよね。あの子、相当頑固だと思うけど……」

P「いや諦めんぞ。あの子には天性のものがある。何度でも……っと、すみません、大丈夫ですか?」

奈緒「ああいや、大したことないよ。ちょっと落としちゃっただけで……」ヒロイヒロイ

P「あの子とぶつかったんですよね。いや申し訳ない、巻き込んじゃったみたいで」ヒロイヒロイ

P「…………」

奈緒「は? え、えと……何?」

凛「……プロデューサー? その子、誰?」


   ぱちんっ!


P「君、アイドルになりませんか?」つ名刺

奈緒「えっ…………はぁ!!?」



  ―― 現在に続く


 ~おしまい~

 以上となります。
 お付き合いいただきありがとうございました。
 金ローで平成狸合戦ぽんぽこが放送されたのでおおむね未練はありませんが、平成のうちにもう一本くらいは投稿したいです。

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