美希「4月30日」 (16)


「今から、デートしないか?」

「うん、いいよ」

時はゴールデンウィーク真っただ中。
今日のお仕事終わりのミーティングで出た魅力的な提案を、
ミキは受け入れた。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1556638148


スタッフさんの挨拶もそこそこに、急いで車に乗り込む。
いつもならここから事務所に向かうけれど、今日は別。
反対方向へ曲がって、ミキとハニーは夜の街へ飛び出した。

「行先とか、聞かないのか?」

何も言わないミキのことを不思議に思ったのかな。
こちらを向かず聞いてきたハニーの横顔を、ミキはじっと見つめ返した。

「ハニーと一緒なら、どこだってキラキラのステージなの!」


車の中の時間はミキが大好きな時間。だってハニーと二人っきりだもん。

今日のお仕事のこと。
今流行りのファッションのこと。
昨日学校で話したこと。
明日の宿題のこと。
ファンの人のこと。
ミキのパパとママのこと。
ハニーのこと。
ミキのいろんなお話を、ハニーは前を向いて、でもちゃんと聞いてくれるよね。


そんなハニーが、なんだか今日は上の空。
ミキがなにをいっても、「ああ」とか「そっか」とか、そんなのばっかり。

「ねね、ハニー。ミキの話、ちゃんと聞いてる?」

「え。あ、うん。大丈夫。ちゃんと聞いてるぞ」

そんなこと言ってるけど、このくだりもこれで3回目。
今日のハニーはウソツキさんだね。
いつもならミキも怒るところだけど、今日はそのまま、ハニーをじっと見る。

「……どした?」

「ううん」

緊張してるのかな。
ハニーの横顔、いつもよりちょっとかたい気がする。


上の空のハニーのお話に、ミキも答えて。

ハニーの鼻歌に合わせて、ミキも歌って。

時々ちょっと揺れる車に、身体を預けて。

ハニーの横顔を、じっと見つめながら。

あっというまに、目的地に到着した。


「寒くないか?」

「うん、だいじょぶ」

人気のない、真夜中の夜の波止場。
夏には花火大会が、冬にはイルミネーションでキラキラしてるけど、
4月の終わりにそんなのあるわけない。

「この場所、覚えてるか?」

当たり前だよ。忘れるわけがない。
だってここは、ミキとハニーの特別な場所だもん。


「美希と初めて会ったの、もう随分前なんだよな」

「初めて公園で出会って、初めて事務所でミーティングして。仕事して、レッスンして」

「アイドルについて一緒に悩んで考えて。身体をはったこともあったっけ?」

ハニーの言葉を聞きながら、ミキもたくさんのこと、思い返してた。
最初はテキトーにお仕事してたこと。
初めてライブで、キラキラした景色がみえた時のこと。
ハニーと一緒に、事務所でいっぱい、アイドルについて考えたこと。
アイドルについてわからなくなったときに、ハニーがミキのこと、みててくれたこと。

それから、こわい夜のことも。


思い切って髪を切ったことも、ハニーが立ち止まっていた時のことも。
全部全部、覚えてる。忘れられない、忘れたくない、ミキとハニーの思い出なの。

「美希がここで変わるって言ってくれた時は、本当に嬉しかった」

「一生懸命に頑張る美希が嬉しくて、キラキラしている美希が眩しくて」

「眩しすぎて……いつの間にか、俺のほうが置いてけぼりにされてた」

「そんな俺を、美希はその先で待っててくれたよな」

「美希が信じてくれたから、隣に立っててくれたから、俺も変わらなきゃって思ったんだ」


「もしかしたら、もっとふさわしい場所があったのかもしれない」

「二人っきりになれるレストランとか、綺麗な夜景が見られるスポットとか、以前ライブしたステージとか……」

「けどなんだろうな。俺には、これ以上の場所が思いつかなかった」

「美希が俺に約束して、俺が美希に約束した、たくさんの足跡が残る、特別な場所だから」

「だから……新しい時代を迎えるこの時間に、美希と二人でいたかったんだ」


「美希」

「美希と出会ってから、今日までのこの日まで、たくさんの物を俺にくれて、ありがとう」

「明日から新しい時代になっても、きっとこれまで以上に楽しいことも、大変なこともあると思う」

「でも、何があっても俺を信じて、これからも隣にいてほしい」

「だから……その」

「これからも、よろしくお願いします」


「……ぷっ」

「…………?」

「あはっ☆ ハニー、緊張しすぎってカンジ!すっごい他人行儀だよ?」

「う……うるさいなあ!緊張してるんだよ、これでも!」

「ハニーがミキに告白してくれた時みたいなの。あの時もガチガチだったし」

「掘り起こすな!!」

「ハニーって、案外本番に弱いタイプだったりして」

「…………からかうなよ、もう」


「ね、ハニー」

「…………なんだよ」

「みて。今、日付変わったよ」

スマホの画面をハニーに差し出す。
いつの間にかそこに浮かぶ数字は、もう5月1日を示していた。

「ミキもね。ハニーと会えて、ホントに良かった」

「でも、今日からの新しい時代は、もっともっと、ステキなことがあると思うの」

ぴん、と背中を伸ばして、ハニーをまっすぐ見つめる。
最初の姿は、ちゃんとしていたいから。


「これからもずっと、ずーっと。ミキのこと、よろしくおねがいします」

「…………はい」

たくさんの思い出が詰まった平成の時代が終わって。
ハニーのちょっと冷たくなった手が、初めての令和の思い出になった。


「…………腹減った」

「えー」

「仕事終わってからここまでなんも飲まず食わずだぞ。そりゃ腹も鳴るって」

「いくらなんでもムード台無しってカンジ……」

「なんだよ、美希は腹減ってないのか」

「………ペコペコなの」

「じゃ、ご飯食べ行こうか。令和最初の、二人のご飯!」

「うん!」


おしまい

以上です。ここまで読んで下さいましてありがとうございました。

きっと令和の時代も、美希とプロデューサーはふたりでキラキラしていけるはず。

おつ

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom