高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「七夕のカフェで」 (39)

……。

…………。

高森藍子(星の海が、広がってる……)


藍子(足元には、四角形のもこもことしたマットが敷かれています……)

藍子(それから、絵本に出てくるようなメルヘンなお星様がソファの形になって、向かい合うように置いてあって)

藍子(ソファの間には、銀河色のテーブル。少しだけ透けてるみたいです。触ってみたら、感じ慣れたごつごつとした感触が)

藍子(見慣れたお手拭きやボタンと、メニュー表と、小さな花瓶とが、テーブルには置いてあって)

藍子(そして――)


北条加蓮「やっほー。藍子」


藍子(向こう側のソファに座った加蓮ちゃんが、こっちに手を振っていました)

藍子(……)

藍子(あっ、これ夢だ)

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レンアイカフェテラスシリーズ第78話です。

<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「真剣勝負のカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「そわそわ気分のカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「のんびり勝負のカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「朝涼みのカフェで」

――夢の中?――

藍子「…………」キョロキョロ

加蓮「どしたの? きょろきょろして。そんなに周りの様子が気になる?」

藍子「……それは、まあ……。気になりますよ」


藍子(……夢の中の、よく分からない場所で。それでも、いつもいてくれる人がいる。こんなにほっとすることなんですね)

藍子(ソファに腰掛けるのに、少し、勇気が要りました)

藍子(でも加蓮ちゃんが、「まあ座ったら?」と勧めてくれたので、自分でもびっくりするくらいいつも通りに座ることができました)

藍子(ごつごつしてるのに、ふわふわしてる……。ふふ。本当に、変な場所っ)


加蓮「ま、場所が場所だし気にはなるか。でもあんまり加蓮ちゃんを無視して周りばっかり見てたら拗ねちゃうよー? なんてねっ」

藍子「あはは……。じゃあ、加蓮ちゃんのことをじ~っと見ちゃいますね」

加蓮「いやそれはそれで照れるんだけど」

藍子「じゃあ、加蓮ちゃんはどうしてほしいですか?」

加蓮「……テキトーに?」

藍子「は~い」

藍子「あれっ?」

加蓮「?」

藍子「ここ――」


藍子(加蓮ちゃんも、ここがおかしな場所だって気付いてる……?)

藍子(ここって、私の夢? それとも、加蓮ちゃんの夢なの?)

藍子(そういえば、いつかお話したことがあります。夢を伝って、遊びに行きたいな……って)

藍子(それはメルヘンな想像でしかなかったけれど……。本当のことになったのかな?)

藍子(ううん。そもそも、ここって本当に夢の中?)

藍子(う~ん……)


藍子「加蓮ちゃん。ちょっと、聞いてみますね」

加蓮「んー?」

藍子「これって……夢の中?」

加蓮「うん。夢だよ?」

藍子「えっそれあっさり言っちゃっていいんですか!?」

加蓮「藍子も気付いてるっぽいから濁しても意味ないでしょ。相手が分かってることなのに必死に隠すのって、どういう意図があっても相手への不信になるだけだって思わない?」

藍子「また加蓮ちゃんらしいことを……! じ、じゃあ、……これもすごく変な質問ですけど、これは私の夢なんですか? それとも、加蓮ちゃんの……?」

加蓮「さあね。藍子かもしれないし、私のかもしれないね」

藍子「加蓮ちゃんにも、わかってない……?」

加蓮「お星様に囲まれた空間、なんで藍子の考えそうなことかな? ほら、この星のソファーとか。私だったらここまでメルヘンにしないかなー」

藍子「……」

加蓮「でも、加蓮ちゃんだってこう見えても夢見る乙女ですし? 案外、私の夢に藍子が迷いこんだのかもね。ふふっ、寝てもお散歩するなんて藍子らしいっ」

藍子「…………」

加蓮「……そこで何言ってんだコイツって顔するの、どういう意味かなー?」

藍子「いや、」

加蓮「んー? 私、一応藍子と同い年ってことになってる筈なんだけどなー」

藍子「……あ。どう見ても、加蓮ちゃんだ」

加蓮「それ以外の何に見えるの」

藍子「何って、加蓮ちゃん……みたいな人?」

加蓮「ひどくない? こんな子、世界に2人もいる訳ないでしょ」

藍子「……確かに、加蓮ちゃんが2人もいたら色々と大変そうっ」

加蓮「なんで今日のアンタってナチュラルに失礼なのよ……。心の声、だいたい出ちゃってるわよ?」

加蓮「ま、細かいことは今追求しても面白くなくない? 夢にある人物が出てきてその人物は本当に同じ人なのか? なんて。起きた後の現実の私にしてあげなよ。カフェでのんびりする時のネタの1つってことにしてさ」

加蓮「ほら、そういう空想話とか、もしも○○だったら的なの、藍子も嫌いじゃないでしょ?」

藍子「……」

加蓮「んー……」

加蓮「じゃあこう考えてみなさい。お星様に囲まれた場所になんて、もう2度と来れないかもしれない。七夕の奇跡――」

加蓮「……とまで言ったら、さすがに私のキャラじゃないかな?」アハハ

加蓮「とにかく。きっと、晴れた日の七夕だから藍子はここに来ることができたの。晴れないと、星が藍子を見つけることはできないもんね」

加蓮「七夕の日が晴れって確率、相当低いってことは藍子も知ってるでしょ?」

藍子「……そうですね。毎年、晴れればいいのにって思うのに、雨が降っちゃって」

加蓮「ねー。ホント、晴れればいいのにね」

藍子「加蓮ちゃんも、天の川を見たかったんですか?」

加蓮「ロマンだもん」

藍子「ロマンですよねっ」

藍子「1回だけ、お母さんにやつあたりしてしまったこともあるんです」

加蓮「……八つ当たり?」

藍子「やつあたり」

加蓮「藍子が!?」

藍子「私だって、怒る時は怒りますよ?」

加蓮「それは知ってるけど八つ当たりって……。うわ、珍しー」

藍子「お母さんに、どうして織姫様を見れないの、って詰め寄っちゃって。……お母さん、すっごく困った顔になったんです」

加蓮「それは困るよね」

藍子「……困らせたこと、帰ったら謝らなきゃっ」

加蓮「いやいや。その八つ当たりしたのがいつか知らないけど、大昔のことにごめんって言われてもポカーンってなると思うよ? あぁまた藍子が変なこと言い出したー、って」

藍子「そうかもしれませんけれど、思いついたことは言った方が――って、誰が変ですかっ。また、って何ですか~っ」

加蓮「藍子は変な子ー♪」ヒヒッ

藍子「変じゃないです!」

加蓮「七夕だからってお星様の夢を見るとか、十分変だよ。6歳の女の子ならともかく16歳にもなってさー」

藍子「ま、まだ加蓮ちゃんの見る夢に私がお邪魔している可能性だってあるじゃないですか」

加蓮「ないない。私神様とか大っ嫌いだし」

藍子「神様じゃなくても、加蓮ちゃんこそっ、……えっと……」

藍子「ろ、6歳の頃に戻る気分になることだって、あるんじゃないですか?」

加蓮「無いわよ」

藍子「……あはは、ですよね」

加蓮「あ、でも普通の女の子になりたいって思う時はなくもないかな……」

藍子「……」

加蓮「藍子といると私にまで変人エキスが伝染っちゃうから、ノスタルジーごっこは1人でやらなきゃ」

藍子「だから変人って呼ぶのをやめてください! いいですよっ、そんなこと言うなら、加蓮ちゃんがその"ノスタルジーごっこ"をやろうとしたら、絶対ぎゅ~ってひっつきますからっ」

藍子「それから、加蓮ちゃんのやりたいことを全部聞いて、1つ1つやるんです。どんなことでも、時間がかかることでも……」

藍子「それで、加蓮ちゃんが楽しいって思ってくれるならっ」

加蓮「……、いきなりどしたの藍子。変人以上に"いきなりシリアスを始める超変人"って称号でもつけてあげようか?」

藍子「あっ。……あはは。ちょっぴり、熱くなってしまいいました」

加蓮「ホントだよ。私の顔まで熱くなって来るんだけどー?」

藍子「加蓮ちゃん、照れてる?」

加蓮「アンタの無駄なパッションが伝染しただけだってば」

藍子「前向きになれるのなら、無駄じゃありませんよ?」

藍子「……」

加蓮「……、」

藍子「……」キョロキョロ

藍子「……星が、やっぱりすごい……。これって、天の川なのかな……」

藍子「わぁ……!」

加蓮「あはは……。今更感動するんだ」

藍子「あれから、ずっと天の川を見ることはできなかったから……。それでも毎年、わくわくしてしまうんです。今年こそは、今年こそは……って! その夢が、夢の中で叶っちゃいました!」

加蓮「あははっ。夢見る乙女だ」

藍子「ふふ。加蓮ちゃんより、私の方が夢を見てしまう女の子なのかもしれませんね」

加蓮「私だって夢見がちだよ? いや6歳の気持ちになったりはしないけどさ……。1人でごろごろしてる時、たまに藍子のことも考えちゃって」

藍子「私?」

加蓮「暇な時、藍子といたいなーのんびりしたいなー、とかつい考えて」

藍子「ふんふん」

加蓮「すぐ我に返って舌打ちするけど」

藍子「舌打ち!?」

加蓮「なんかむかつくし」

藍子「えぇ……」

藍子「ずっと言い続けていますけれど、いいんですよ? そういう時は、電話でも、メッセージでも、連絡をしてきて。私も……いつも返事できるか、絶対って言うことはできませんけれど、ちゃんと応えますよ?」

加蓮「やだ」

藍子「……くすっ。そうですよね。加蓮ちゃんは、そう言いますよね」

加蓮「お。ついに諦めてくれた感じ?」

藍子「諦めませんっ」

加蓮「頑張れー」

加蓮「藍子は天の川を見たいと思ってて……。だからこんな夢に招待されたのかな」

藍子「かもしれませんね――」

藍子「あっ。私が招待されたってことは、やっぱりこれは加蓮ちゃんの夢なんですねっ」

加蓮「げっ」

藍子「そうなんですね~。加蓮ちゃん、七夕になる度に、こんな場所に来たいなって思ってたんですね」

加蓮「そ、その温かい目を今すぐやめなさいよ。子供扱いするなっ」

藍子「いいじゃないですか。夢見る乙女なんですよね?」

加蓮「人から言われるとそれすごい腹立つ!」

藍子「くすっ」

加蓮「ぐぬぬ……」

藍子「そういえば……。周りは、星の海で……天の川だとして。この四角い空間は、カフェ?」キョロキョロ

加蓮「そうじゃない? ソファがあって、テーブルもあって。ほら、そこにメニューもあるし」

藍子「う~ん。カフェって言うには、内装が寂しすぎるような……」

加蓮「じゃあ欲しいものでも思い浮かべてみたら? 夢の世界なんだし。ぽんって出てくるかもしれないよ?」

藍子「それなら、まず欲しいものは……。そうですね~。時計っ」

……。

藍子「……出てきませんよ?」

加蓮「あれ、おっかしーなー」

藍子「やっぱりこれって加蓮ちゃんの夢だから――」

加蓮「違うってば! いいよ、私がやって出てこなかったら私の夢じゃないってことだからね。出てきなさい、時計!」

ぽんっ!

加蓮「」

藍子「壁際に大きな時計が……! これ、いつかの謎解きのカフェにあった古時計と、そっくりですっ」

藍子「あっ、でも長針や短針の先のところが星型になってる。あの古時計は、普通の針でしたよね」

藍子「細かいところまで、七夕を意識してるの、真面目な加蓮ちゃんらしいですっ」

加蓮「……藍子」

藍子「はい」

加蓮「今すぐ私に殴られて痛みで現世に戻りなさい!」

藍子「ふぇっ? ……わ、わあっ!? いきなりパンチしてこないで~~~っ」

藍子「こっ、ここが加蓮ちゃんの夢だっていうのは私のせいじゃないですよ――って聞いてください! 左手を振りかぶらないでください!!」

加蓮「……、」

藍子「はあっ、はあっ……」

加蓮「……もうこれ以上は何も出さないからね」

藍子「はい。あの、からかったりしませんから。加蓮ちゃん、座って、落ち着いて?」

加蓮「…………」スッ

藍子「ほっ。でも、いつか加蓮ちゃんの作ったカフェにも行ってみたいなぁ……」

加蓮「夢の世界の?」

藍子「夢の世界の、加蓮ちゃんが店長さんのカフェっ」

藍子「どんな感じになるのかな……。やっぱり、メニューにポテトがいっぱいあったりするのかな?」

加蓮「案外サンドイッチだらけになったりして。ほら、私ってよくカフェでサンドイッチを頼んでるじゃん」

藍子「確かに……。あとは、コーヒーもですね」

藍子「あっ。そうだっ。このメニュー表を見れば、それが分かるかも!」スッ

加蓮「……って、だからここは私の夢じゃないし、私が作った場所でもないんだからね?」

藍子「メニューは……。あれ、いつものメニュー? 定食も期間限定メニューもあるっ」

藍子「あっ。期間限定メニューが、七夕のお子様ランチになってる! わぁ、可愛い……♪ これ、織姫さんと彦星さんの人形がついてくる、って書いてありますよ! 手縫いの編みぐるみかな?」

藍子「加蓮ちゃんの作った編みぐるみ、見てみたいなぁ……。でもお子様ランチを注文するのは……ちょっと恥ずかしいかも?」

加蓮「藍子ちゃーん? だからそもそもここは私の夢じゃなくて、その編みぐるみとやらを作ったのも私じゃなくて――」

藍子「?」

加蓮「話を聞こ?」

藍子「でも、どうしてお子様ランチなのでしょうか。それも、期間限定メニューに」

藍子「いつものカフェには、お子様ランチはありませんよね」

加蓮「子供の来る場所じゃないもんね。ちびっこの喜びそうな物とかなんにもないし、大人な雰囲気って感じの場所だし」

藍子「う~ん……」

藍子「あ!」

藍子「加蓮ちゃん、もしかして最近ジャンクフードのお店に行きましたか? そこで、ちいさい子ども用のメニューを見たから、この世界にも混ざって出てきちゃったとかっ」ドヤッ

藍子「ほら、夢って、直前に見たものとか、やったことに影響されるって言いますよね」ドヤッ

加蓮「……」ペシ

藍子「痛いっ」

加蓮「ドヤ顔がムカついた」

藍子「む~。……あれ? 夢なのに、痛い?」

加蓮「?」

藍子「えっ。普通、夢の世界って、ほっぺたをつねっても痛くなかったりして、それで夢って気付いて――」ムギュ

藍子「普通に痛いです……」

加蓮「アホ」

藍子「えうっ」

加蓮「ソファに座ってる感触も、何なら今どついた時に藍子の感触だって伝わったんだし、夢でも痛くていいんじゃない?」

藍子「そうでしょうか……。でも、うんっ。そうですよね。あんまり細かいことを気にしても、仕方がありませんよねっ」

加蓮「そーそー。それよりさー、せっかくメニューがあるんだから注文してみない?」

藍子「いいですね。加蓮ちゃんは、何にしますか?」

加蓮「そうだね。……どうせ誰も見てないんだし、ここの出来事は私と藍子しか覚えてないんだし」

藍子「ってことは――」

加蓮「注文しちゃおっか。お子様ランチ」

藍子「はいっ♪ すみませ~んっ」

加蓮「来た来た。……えーっと?」

藍子「あれっ、いつもの店員さんじゃない……」

加蓮「まあここはあのカフェじゃないからそれはいいんだけど」

藍子「頭の上に……ウサミミ?」

加蓮「……あ、注文。注文だよね。お子様ランチを2人――思ったんだけど2人で食べる必要はなくない?」

藍子「それもそうですね。でも、編みぐるみ……」

加蓮「藍子。ここ夢の世界だから。ここでもらっても現世にはたぶん持ち帰れないよ?」

藍子「あっ。……そう考えると、なんだか勿体無いですね。織姫さんと彦星さんの可愛い編みぐるみ、ほしかったなぁ……」

加蓮「はいはい。帰ったら作ってあげるから。私でいいなら」

藍子「ほんとっ!? それなら一緒に作りましょうね。私、こういうのを編んだことあるから、加蓮ちゃんに教えてあげますっ」

加蓮「……余計なこと言っちゃったな? ま、いっかっ」

>>21 4行目の藍子のセリフを一部修正させてください。
誤:藍子「頭の上に……ウサミミ?」
正:藍子「頭の上に……うさみみ?」


加蓮「お子様ランチを1人分にするなら、あとは何を注文するの? さすがに2人で分けて食べるのは量が少なすぎでしょ」

藍子「それなら……。加蓮ちゃんって、お腹空いてますか?」

加蓮「実はほとんど」

藍子「あはは、私も。夢だからかな?」

加蓮「夢だからだろうね。じゃ、いつも通りのサンドイッチにでもしよっか」

藍子「は~い。それでお願いします、店員さんっ♪」

加蓮「よろしくー」

藍子「わ、戻っていく時にうさみみがぴょこぴょこ揺れてる……。あっ、よく見ればうさぎの尻尾までついています! 可愛いな……♪」

加蓮「……藍子にもつけてあげよっか?」

藍子「え?」

加蓮「くくくっ。藍子、よく考えてみなさい。藍子は時計を出すことはできなかったけど私は出すことができた。つまり――」

加蓮「今の私なら、藍子にウサミミをつけることも尻尾をつけることも自由自在!」

藍子「!!!」

加蓮「出てきなさいウサミミ! 尻尾! バニーガール衣装!!」

藍子「何か増えてますよ!? 待って、加蓮ちゃんっ、待っ――」

……。

加蓮「……何も出てこないんだけど」

藍子「ほっ……」

加蓮「何でよ! 時計を出せたんだからバニーガール衣装の1つくらい出てもいいでしょ!」

藍子「まあまあ。ほら、ここは夢の世界ですからっ」

加蓮「ぐぬぬ……。途端に藍子が余裕ぶってるの、すっごいムカつくっ」

<おまたせしました~

加蓮「早っ」

藍子「ありがとうございますっ。あの……どうして、店員さんはうさみみなんですか?」

加蓮「……答えないで行っちゃった」

加蓮「あれかな。私の中で星とか宇宙って言ったらあの人しか思い浮かばないからかな……」

藍子「あ~……」

加蓮「さて、お子様ランチは……。うん。お子様ランチだね」

藍子「お子様ランチですねっ。ご飯と、ハンバーグと、ひかえめの野菜と、スープと……。編みぐるみ!」

加蓮「ご執心だねー」

藍子「可愛い……♪ 見てみて加蓮ちゃんっ。目の中もお星様になってる! それに織姫さんのドレスも、すっごく作り込まれてて――」

加蓮「……ふふっ。藍子、ホント楽しそう」

加蓮「やっぱりこの夢は藍子が見てる夢なんじゃないのー? こんなに大はしゃぎしちゃって」

藍子「え~っ。絶対、加蓮ちゃんの夢ですよ。店員さんがうさみみだったのも、加蓮ちゃんがそうイメージしたからです!」

加蓮「藍子だってそれくらいの連想はできるでしょ。絶対藍子だよ」

藍子「絶対、加蓮ちゃんっ」

加蓮「藍子!」

藍子「加蓮ちゃんっ」

加蓮「藍子でしょ。いいじゃん、認めちゃえば。別に笑ったりしないよ?」

藍子「加蓮ちゃんこそ、私は笑ったりしませんよ。いいじゃないですか。七夕の日に、夢を描いたって」

加蓮「いやいやさすがに私のキャラじゃないし。こういうのは藍子のすることでしょ?」

藍子「ううんっ、加蓮ちゃんのやることです!」

加蓮「むー」

藍子「う~」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……食べてみよっか」

藍子「そうしましょうっ」

……。

…………。

「「ごちそうさまでした。」」

加蓮「普通の味だった……」

藍子「サンドイッチ、いつもの味でしたよね。お子様ランチは……子ども向けの味?」

加蓮「って言っても分かんないよねー」

藍子「なんだか、懐かしい味がしたくらいでしょうか」

加蓮「病院食とは違うのは確かだったー」

藍子「……あ、」

加蓮「ん? あぁごめんごめん。……藍子ちゃーん? だからって現世に戻ってから私にお子様ランチを食べさせようとしなくてもいいんだからね?」

藍子「へっ? 何のお話――」

加蓮「あはは、なんでも。……お、店員が戻って来た。お皿を下げに来てくれ、た……?」

藍子「……え? 未央ちゃん!?」

加蓮「どっからどう見ても未央だこれ……。ちっこいけど。ウサミミもないけど」

藍子「未央ちゃんは、いつもうさみみをつけていませんよ?」

加蓮「そうじゃなくて」

<お皿下げちゃうよ!

加蓮「あ、うん。お願い」

藍子「……あっという間にぜんぶのお皿を両手に持って、行っちゃった」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……ま、夢だし」

藍子「……うん。夢ですもんね」

加蓮「もしかしたらこれ、私と藍子が一緒に見てる夢なのかも」

藍子「一緒に見ている夢?」

加蓮「ほら、ウサミミ店員はウサミンでしょ? たぶん、私が星や宇宙から連想して出てきたんだと思う」

加蓮「で、未央は未央なんだけど、未央も星のイメージあるじゃん。アイドルのスター! とかいっつも言ってるし」

藍子「『ミツボシ☆☆★』もそうですよねっ。ひょっとして……未央ちゃんが出てきたのは、私が星から連想したから?」

加蓮「ってこと。あとやっぱりこの星のソファーとか私が思い浮かぶ物じゃないし。だから、私達が一緒に見てる夢なんじゃない? って思ったの」

藍子「なるほど~……。それなら、私と加蓮ちゃんは一緒に眠っていて? ……でも、それで夢が一緒になることって、あるんでしょうか?」

加蓮「さあ。夢だからあるんじゃないの?」

藍子「夢ですもんね」

藍子「あれっ? ちいさい未央ちゃんが、こっちに戻ってきてます」

加蓮「ところでなんであの未央はちっちゃいの?」

藍子「さあ……?」

加蓮「んー……。あ、そっか。なるほどー。藍子から見て、未央はまだまだ子供だって言いたいのかな?」

藍子「……? 確かに、未央ちゃんは1歳年下ですけれど」

加蓮「ちびとかガキとか心の中で思ってたりして?」

藍子「思ってませんよ~!」

<これ、あげるっ!

藍子「なにかな?」スッ

加蓮「短冊……」スッ

藍子「そっか。七夕! それなら、願い事を書かなきゃっ」

加蓮「……、」

藍子「ペンも貸してくれるんですね。ありがとうございますっ。願い事、願い事……」

加蓮「……」

藍子「う~ん。……あっ、短冊の裏に何か書いてある。え~っと?」

藍子「"書いたら叶うよ!"、だって! 加蓮ちゃんっ。これ、書いたら本当に叶っちゃう短冊かもしれません! 慎重に書かなきゃいけませんね」

加蓮「……、」チラ

藍子「願い事……。私のやりたいこと――」

藍子(……私のやりたいこと?)

藍子(そういえば、何かで聞いたことがあります。夢の中を、ここは夢の世界だって自覚したら、いつもはできないことができるようになるって。明晰夢、だったかな?)

藍子(いつもはできないこと――)

藍子(いつもなら……)ジー

加蓮「ん、これでよし」サラサラ

藍子「できないこと――えっ? 加蓮ちゃん、もう書いたんですか!?」

加蓮「一応ね。フツーのありふれたことだけど……。こらっ、覗き見ようとするなっ」ペチ

藍子「痛いっ」

加蓮「ったく。で、これはどうしたらいいの? どっかに飾ればいいのかな……」キョロキョロ

藍子「あぅ~」ヒリヒリ

藍子「……やりたいこと……いつもはできないこと……」ブツブツ

加蓮「……、」

藍子「…………」ブツブツ

藍子「――あれっ?」グラッ

藍子「え、なに……? 目の前が、ぐらっとして……」

加蓮「……、」

藍子「加蓮ちゃんの顔が、ぼやけてる……?」

藍子「うぅ……」クタゥt

藍子(起き上がれない……。力が、何かに吸われている感じがします……)

藍子(ひょっとして、私が……現世の私が、目を覚まそうとしてる、のかな。それなら、時間が、もうあんまりない……)

藍子「やりたいこと、書かなきゃ……!」

藍子「やりたいこと」

藍子「いつもは、できないこと」

藍子「私の、やりたいこと――」

加蓮「藍子」


藍子(酷い目眩と、鈍い頭痛の中、加蓮ちゃんの声がはっきり聞こえました。まるで、LIVE会場の騒がしさの中でも届く、強い歌のように)


加蓮「藍子は、何がやりたいの?」


藍子(意識の中に直接入り込んでくる言葉に、返事ができないまま、私の意識は星の彼方に流されていって――)




――おしゃれなカフェ――

藍子「はっ!」バッ

藍子「え……え? あれ……?」キョロキョロ

藍子「ここ……いつものカフェ? 私……」

加蓮「起きた。おはよー、ねぼすけ藍子♪」

藍子「おはよう、ございます……。加蓮ちゃん?」

加蓮「……うぷっ、あははははっ! 藍子、口の横のとこ涎がついてる! 跡がすごいくっきり……あははははははっ!!」

藍子「!?」

加蓮「スマフォで見せてあげる。ほら!」スッ

藍子「……~~~っ! お手洗い、行ってきますっ」ダッ

……。

…………。

藍子(それから、お手洗いで入念に顔を洗って……水の感触で完全に目が覚めてから、私は戻りました)


藍子「2時間……?」

加蓮「そ。お昼ご飯を食べたらすぐ寝ちゃってたよ、藍子」

藍子「そんなに……」

加蓮「ま、私もつられて寝ちゃったからあんまり笑えないんだけどね」

加蓮「でさー、さっきまで外が晴れてたんだけど、雨が降り出した瞬間に藍子が起きたんだよね」

藍子「外……。本当ですね、雨が降ってる……

藍子「……うぅ。今年も、天の川は見れないのかな」

加蓮「あんなにはしゃいでたのに。残念だね」

藍子「はしゃいでた、って、私がですか?」

加蓮「覚えてないんだ。もっかい顔洗ってくる?」

藍子「……、」

加蓮「雨が降った瞬間に藍子が起きたから、星の世界からこっちの世界に引き戻されたのかなって思ったよ。……なんて、ちょっとメルヘンチックすぎ?」

藍子「……、」

加蓮「こら、真剣に考え込むなっ。今のナシ! さすがにちょっと恥ずかしいし」

藍子「私……」

加蓮「あ、それと藍子。これ」スッ

藍子「……短冊?」

加蓮「店員がね、よければ書いていってくださいって。ほら、今日は七夕だし。雨が降り出しちゃったけどね」

藍子「願い事……」

加蓮「ま、こんな紙切れに書いて叶う願いなんて願い下げなんだけど。一応、頼まれたんだから書いてあげよっか」

加蓮「んー……。"明日の学校の授業で寝てても叱られませんように"。これくらいならいいでしょ」

加蓮「店員さーん。書いたよー。……えー、駄目? 店員さんもワガママだなー。仕方ない、真面目に書くね」

藍子「……」

加蓮『藍子は、何がやりたいの?』


藍子(短冊に書く言葉が思いつかず、その後、加蓮ちゃんとお話して……"みんなが元気でいられますように"って私は書きました)

藍子(そうなったらいいな、とは思うけれど、私の本音の一番深いところにある言葉は、絶対にそれじゃない)

藍子(でも……そこに何の言葉があるのか分からないのは、どうして……?)


【おしまい】

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