勇者「立てば怪物、座れば腐敗、歩く姿は魔物かな」 (288)

───とある、魔物の巣


勇者「………はぁっ、はぁっ、………」

魔物A「ヒャッハハハハハハハアアアァァ!!勇者ってのも大した事ねえなあ、おい!!」

魔物B「うっせえなあ、さっさと殺っちまおうぜ」

魔物C「ほらよ、剣だ、首を切り落として一撃、頼むぜ」ポイッ

魔物A「わりーな、おいしいところだけ持ってっちまってよお!うはははは!!」

魔物B「いいからやれって」

魔物A「あー、わかったわかった……まったく、冷たいヤローだな」ブンッ


スパンッ
ゴロゴロ……


魔物A「ほらよ、バッチリ切断しといたぞ」

魔物B「よし、魔王様に報告しなきゃな」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1376199824

勇者(首無し)「………」バタッ

魔物C「っつーかよ、勇者勇者って大騒ぎする割にはすげー弱くなかったか?」

魔物A「あん?人間なんてこんなもんだろ」

魔物B「余計な事は気にしなくていい、俺達は魔王様の命令を聞いて動いてればいいんだよ」

魔物C「そう言われてもなあ……」

勇者(首無し)「…………………」ボコボコボコッ

魔物A「……あ?」

魔物B「……おい、アイツの首、辺な泡が出てきてないか?」

魔物C「に、人間にあんな機能は付いてないはずだぞ」

勇者(首無し)「………………」ボコボコッ ズルッ

魔物A「おい!何か出てきたぞ!」

魔物B「構えろッ!」バッ

ボコボコボコッ  ズルンッ


勇者「………ふぅ……」

魔物C「ひっ!!」

魔物A「なっ……首が、生えてきやがったぁ!?」

魔物B「回復魔法の類か!?いや、そんな強力な回復魔法は無い筈だ!」

魔物A「いいから[ピーーー]ぞぉっ!」バッ

勇者「……」チャキッ

魔物A「おおおおおおォォォォォォォォッ!!」ブンッ

勇者「………ふッ」ズバンッ

魔物A「がぁッ!」

魔物B「A!……くそっ……C、2人で同時に行くぞ、お前は右からだ」

魔物C「おう……!」

魔物B、C「うおおおおおあああああぁぁぁぁぁっ!!」ダッダッダッ

勇者「………」スパァッ

魔物C「あッ!」

魔物B「せえええええぇぇぇぇッ!!」ズバァン

勇者(上半身)「がッ……」ボトンッ

魔物B「ハァッ、ハァッ………」

魔物B「なんなんだ、この人間は………」

勇者(上半身)「…………」ボコボコボコッ  ズルンッ

勇者「はぁー…………」

魔物B「なッ!!」

勇者「早く殺ってくれよ」

魔物B「言われなくても!ハアアアァァァァッ!!」ブンッ

勇者「…………」ズバッ

魔物B「あ……あぁ……」バタン

勇者「………洞窟の魔物、殲滅完了」

勇者「……帰るか」スタスタ



───とある村

村長「いやはや、なんとお礼申し上げたらよいのか……!」

村民「ありがとうございましたっ!」

勇者「そういうのはいらない。報酬を」

村長「あ……はい!すぐにお持ち致します!」


村長「報酬はこの、『死神の薬』で良いのですよね?」

勇者「ああ。早くくれ」

村長「どうぞ受け取って下さい」スッ

勇者「ありがとう、では」スタスタ

勇者「さて、『死神の薬』……」キュポンッ

勇者「俺を殺してくれるかな」ゴクッ

勇者「……ッ!!」ドクンッ

ボロッ……ボロボロッ……

勇者「おお……体がどんどん崩れて……跡形もなくなっていく」

勇者「これでよう…………や………」

勇者(砂)「……………」

ザザッ ザァーッ

ボコボコッ ボコボコボコボコボコボコッ

勇者「………やっぱり、ダメか」

勇者「はぁ……」

勇者「死にたい」

───3年前、魔物の巣

勇者「はぁ、はぁ、はぁ………」ダッダッダッダッ

魔物「勇者アアアァァァァ!!諦めてエサになっちまいなああァァァ!!」ダッダッダッダッ

勇者「い、いやだ、いやだ、しにたくない、しにたくない……!!」ダッダッダッダッ

魔物「勇者に生まれた事を呪って死なせてやるぜえええええ!!」ダッダッダッダッ

勇者「う……うわああああぁぁぁぁぁぁッ!!」ズバンッ

魔物「な……ッ!がはっ!」バタン

勇者「………助かった………」

魔物『おい、あっちから声がしたぞ!』

勇者「……また、来る…」

勇者「あ」

勇者「部屋だ!部屋がある!……ここに隠れて、やり過ごそう」

ガチャ

バタンッ

勇者「うう、うううううう…………」ガタガタガタガタ

魔物1『いたか!?』

魔物2『いねぇ!そっちを探せ!』

魔物3『クソがっ!さっさと殺されてろよォッ!!』

勇者「い、いやだああああ……しにたくない、しにたくないよ……」ガタガタガタガタ

勇者「何か、役に立つ、ものは……」キョロキョロ

勇者「……なんだ、これ?……薬?」

[Immortal potion]

勇者「……魔物の言葉?読めないな……」

勇者「……イチかバチか、飲んで見たいところだけど……これは最後にしよう」

勇者「この剣はさびてるし、大砲の弾なんて使えないし…」ガチャガチャ

勇者「……やっぱり、あの薬しかないのか」

勇者「…………」

魔物1『オイっ!そこの部屋探したか!?』

勇者「!!!」ビクッ

魔物2『そういえば探してねえな、おい、魔物3!』

魔物3『行ってくるぜッ!』ダッダッ

勇者「く、来る!今度こそ、殺される……」

勇者「……イチか、バチか」

勇者「しにたくないっっ!!!」ゴクッ

勇者「……あれ、何も変わらな」

バキンッ

勇者「……!!」

魔物3「ここにいやがったか……オイ!いたぞォ!!」

勇者「ひっ……ひぃっ!」

魔物1「さて、どう殺してくれようかね」

魔物2「まずは磔で、じっくり焼いてやろうぜ」

魔物3「お、いいじゃねーかそれ」

勇者「や、やめ、やめ……」

勇者「うわあああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」ブンッ

ザッ

魔物3「あん?いってえなあ、何してくれんだ、このカスがッ!!」ザンッ

勇者「あ……ッ……や、いや……だ」バタッ

魔物1「おい!」

魔物3「しょうがねえだろ!斬りかかってきたんだからよ!」

魔物2「はぁー……つまんねー人間だったな」

勇者(ああ……目の前が真っ暗に……)

勇者(死ぬ……のか……)

勇者(……)

魔物1「おい、なんかこいつの傷から、変な泡が……」

魔物2「ほっとけ、変な薬でも持ってたんだろ」

魔物3「どう見たって死んでるだろ、気にすんな」

勇者(あ……視界が明るくなっていく……)

勇者(天国……かなあ……あはは)

勇者(……あれ?)

勇者「………」ムクッ

魔物1,2,3「!!!!」

勇者「え、あれ、ここは」

魔物1「おい、死んでねーじゃねーか」

魔物2「違う!傷が治ってやがる!」

魔物3「コイツ!バケモノか!?」

勇者「え?」

勇者「な、何」

勇者「あ」

勇者「うわあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」ズバァッ

魔物1「痛ぇっ!」

魔物2「よくわからんが[ピーーー]!」ブンッ

勇者「うわっ!」キィンッ

魔物2「な、防……」

勇者「て……てやあああぁぁぁぁ!!」ザクッ

魔物2「があッ!!」

魔物1「2!……くそ、心臓を貫いてやがる、ダメだ」

魔物3「ぶっ[ピーーー]!」ブンッ

勇者「ひっ」

ズバンッ

魔物3「今度こそ、やっただろ……」

魔物1「胴体を真っ二つ、見事なもんだな」

勇者(ああ……よくわからないけど、やっぱり死ぬんだろうなあ……)

ボコボコボコッ
ズルンッ

魔物3「うわっ!!」

魔物1「下が……生えてきただと!?」

勇者「え」

勇者「ま、また」

勇者「う、うわあああっ!」ザンッ

魔物3「ぐぎゃあああっ!!く、首が!首が!」ブシャアアァァァ

魔物1「な、お前人間か!?」

勇者「ああああああああああ!!!!!」ブンッ

魔物1「うわっ!」


ザンッ ズバァッ ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ

勇者「はぁ、はぁ………」

勇者「なんで、死んでないんだ……?」

勇者「確かに、真っ二つにされたはずなのに………」

勇者「…この薬?」

勇者「もしかして、不死身になるっていう、伝説の……!」

勇者「や、やった!」

勇者「これで怖いものなんて、何もない!!」

───現在、宿

勇者「思えば、3年か」

勇者「最初の頃は、死なない、とか言ってはしゃいでたっけな」

勇者「それが今じゃ自殺志願者だ」

勇者「笑える」

勇者「しかも、一旦怪我をして再生した箇所は脆くなるときたもんだ」

勇者「はー……」

勇者「死にたい」

───とある街

勇者「もっと強力な劇薬が必要だ」

勇者「だが、依頼の難易度が高過ぎると、そもそも相手に斬りかかれないから詰む」

勇者「どうしたもんか……」


??「お、そこの旅人さん?」


勇者「……? 俺か?」

??「そうですそうです!アナタ、仲間がいなくてさびしい、って顔してますよ!」

勇者「いや、そんな顔はしてな」

??「悩んでる暇があるなら酒場へ、ささ!」グイッ

勇者「おい、ちょっと待てぇっ!!」ダッダッ

───街の酒場

勇者「……で、誰なんだアンタは」

??「ああ、申し遅れました、ワタクシ、この店の店員をやっています」

店員「店員といっても、基本的には勧誘が仕事ですがね」

勇者「ああ。それで俺をこんな所まで ム リ ヤ リ 連れてきたんだな」

店員「は…ハハハ………ごめんなさい」

勇者「まあいい。で、酒場って事は仲間を集められるって事でいいんだな?」

店員「それは勿論!」

勇者(ちょうどいい、そろそろワンランク上の依頼をこなしてみたかったところだ)

勇者「よし、仲間を募る。名簿か何かに記入する必要はあるのか?」

店員「あ、はい!こちらの紙にお名前、性別、装備、職業、使える魔法、それと特技、特徴を記入して、あそこのヒゲが長い人に出して下さい。あちらがマスターです」ピラッ

勇者「わかった」

勇者「やはり細かいな……まあ、当然か」サラサラ

名前[勇者]

性別[男]

職業[勇者]

装備[革の服、革の靴、鉄の剣]

使える魔法[なし]

特技[野宿の際のキャンプファイヤー等の準備]



特徴[不死身]

勇者「あんたかマスターか、仲間を募りたい」ピラッ

マスター「………ふむ、勇者か」

勇者「ああ」

マスター「その割には貧相な装備だな。魔法も使えないのか」

勇者「必要ない」

マスター「何故だ?」

勇者「特徴の欄を見ろ」

マスター「これは冗談だろう。書く事が無かったのなら仕方無い」

勇者「冗談じゃない。本当だ」

マスター「何だと?」

勇者「俺は死なない。焼かれても、つぶされても、真っ二つにされても、砂になっても、海に沈んでも、再生する」

マスター「…………ふっ」

勇者「何だ」

マスター「その目は本当の事を言っている目だな。おちゃらけて冗談を言う奴の目じゃない。それは───」

マスター「死んだ奴の目だ」

勇者「わかってくれたのならいい。で、俺は指名でもされるのを待ってればいいのか?」

マスター「パーティーを造るのもいいだろう」

勇者「……手っ取り早い、そっちにする」

マスター「了解した、メンバーを選べ。お前を含めて4人までのパーティーだ。掲示板はあそこにある」

勇者「ああ」




[参加希望掲示板]

勇者「これか」

勇者「パーティー構成を練りながら、一通り見てみるか」

勇者(まず、魔法使いと僧侶は必須、戦士は……まあ、一応要るな)

勇者(回復役が僧侶、最前衛が俺、その後ろに戦士で……魔法使いは防御魔法に特化したやつが望ましいな)

勇者「ふむ」

勇者「僧侶は見つかった。まあ仲間になってくれるかどうかはわからないが」

勇者「魔法使いは、防御魔法特化ではないとはいえ中々の使い手がいるようだな」

勇者「そして………戦士。いや、こいつは騎士か」

<特徴[弱い奴には従わない]>

勇者「こいつは強いな」

勇者「まず僧侶から声をかけてみるか」

勇者「……あいつか」



勇者「おい、僧侶だな」

僧侶「は、はいいっ!!」ビクーッ

僧侶「な、なななんでしょう!」

勇者「仲間に加わってくれないか?回復魔法を使ってくれればいい。戦闘には極力参加させないようにする」

僧侶「は……はい?いいですけど……戦わなくてもいいんですか?」

勇者「俺がやる」

僧侶「は、はい………?」


勇者(僧侶獲得。次は魔法使いだな)


勇者「おい、お前が魔法使いか?」

魔法使い「そうですけど、何か用?」

勇者「仲間に加わってほしい」

魔法使い「職業は」

勇者「勇者」

僧侶「ふぇえっ!?」

魔法使い「魔法は」

勇者「使えない」

魔法使い「特徴は」

勇者「不死身」

僧侶「ええええぇぇぇっ!?」

魔法使い「…………」

勇者(ダメか。魔法が使えないのが痛いからな)

魔法使い「………あっはっはははははははっ!!アンタ面白いじゃん!」

勇者「…………」

魔法使い「不死身って何よ!?あっはははははははは!!」

魔法使い「いいよ、仲間になってあげる」

魔法使い「このあたりのザコ魔物程度なら一瞬で焼き払えるから、期待しなよー」

勇者「言い忘れていたが防御魔法とか使っていてくれればいい」

魔法使い「……はぁっ!?」

勇者「戦うのは俺とあともう一人、加入予定のヤツだけだ」

魔法使い「んー、意味わかんないけど、まあ死んだら死んだで面白いし、別にいっか」

勇者「話がわかる奴で助かった」

勇者(魔法使いもゲット。あとは………騎士か)

勇者「おい」

騎士「………」チラッ

騎士「……………」プイッ

騎士「………」

勇者「………仲間に加わってほしいんだが」

騎士「そんな貧相な装備の奴の仲間に入る意味は無い」

勇者「ほう」

勇者「特徴、見てみろ」ピラッ

騎士「……不死身だと?ふざけるな、そんな人間がいてたまるか」

勇者「いるんだよな、それが」

騎士「ザコの戯言に付き合うなど、労力の無駄だ。去れ」

騎士「まあ、俺から一本取ることが出来れば考えてやろう」

騎士「貴様には無理だろうがな」

勇者「……いいぞ、やろう」

騎士「本気か」

勇者「大マジだ」



───空き地

騎士「悪いが、調子に乗ったザコを落ちつかせるのに言葉を使える程器用ではない」

騎士「油断すれば、[ピーーー]」

勇者「いいぜ、さっさと斬りかかってこいよ」

騎士「……………そこまで言った事、後悔させてやろう」ダッ

勇者「………」

騎士(なんだコイツは。どう見たってタダのザコだ。魔法も使えないし、構えだってなってない。)

騎士(だが、この目は……何だ?『負けない』と思ってる目ではない。では何だ?)

騎士(なぜ、こいつの目はこんなに悲しそうな目をしているんだ?)

ズバンッ

勇者「………」ドクドク…

騎士「怯えて動く事さえできなかったか。安心しろ、斬ったのは腕、そこまで深い傷ではない」

騎士「止血すれば問題は無い。家で安静にして、もう一度自分の立場を考えるんだな」

勇者「はははははは」

騎士「何がおかしい。気でも狂ったか」

勇者「笑わせるな。不死身を舐めるなよ」

ボコボコボコッ

ボコボコッ   シュゥゥゥゥ……

騎士「な………傷口がふさがっている、だと」

騎士「貴様、まさか魔物か。この場で[ピーーー]」

勇者「俺は人間だ」

騎士「問答無用」バッ

勇者「はぁ………」

ズバンッ

騎士「やったか」

勇者「………」バタッ

騎士「人に紛れて街に入ってくるとは、悪しき魔物め」

ボコボコボコッ

シュゥゥゥゥゥ

勇者「……ふー」ムクリ

騎士「なッ!?」

勇者「俺は人間だよ」

騎士「バケモノめ……」

勇者「お前に危害を加えるつもりはない」

騎士「街の住人が目当てか」

勇者「違う」

騎士「じゃあ何だ」



勇者「[ピーーー]る薬だ」

ピーーー入っちゃいましたね。「タヒねる薬」と書こうとしました



騎士「……不死身の肉体を持っていながら、なぜ死のうとする」

勇者「もう嫌なんだよ、こんな体」

騎士「何故だ」

勇者「見ろよ、俺の腹」

騎士「……?」

勇者「こうやって、思いっきり叩くだろ……ッ」ドッ

ボロボロッ グチャァッ

騎士「…………ッ」

勇者「再生した箇所は、こうやって脆くなる」

勇者「再生すれば再生するほど、だ」

ボコボコボコッ
シュゥゥゥー

勇者「俺はもう、こんな体は嫌なんだよ」

騎士「……俺では貴様に勝てない」

騎士「いいだろう、今から俺は、貴様のパーティーに加入する」

騎士「貴様の自殺を手伝ってやろう」

勇者「……助かる」




魔法使い「不死身ってのはホントだったのねー……」

僧侶「あわわわわわわわ………」



騎士「……そこの二人は仲間か」

勇者「……ああ……」

───酒場

マスター「ふむ。騎士を仲間に入れるとはな」

勇者「仲間もそろったところだし、ここに用はない。では」

マスター「………お前は、死んではいけないと思うがな」

勇者「そんな事はないさ」





騎士「で、まず何の依頼をこなすのだ」

勇者「この依頼なんかどうだ?」ピラッ

[ビッグオーガの討伐]

騎士「ビッグオーガといえば、ここらで一番強い魔物ではないか」

勇者「問題無い、俺がやる」

僧侶「あのぉ、私は何をすれば……?」

勇者「騎士や魔法使いが傷を負った時に回復魔法を使えばいい。俺には使うな」

僧侶「は、はいっ!」

勇者「魔法使いは騎士に防御魔法等のサポート魔法をかけてやってくれ」

魔法使い「りょーかい、アンタにはしなくていいのね?」

勇者「必要ない」

勇者「では出発は明日の朝、集合場所は酒場の前」

3人「了解」



───翌日、酒場前

勇者「全員そろったな。アイテムが不足している者などはいないか」

騎士「大丈夫だ、装備の手入れもしてある」

僧侶「私も大丈夫です、たっぷり寝て、魔翌力を補充しました~」

魔法使い「私もおっけー」

勇者「じゃ、出発だな」

───ビッグオーガの洞窟

勇者「魔法使い、松明に火を」

魔法使い「はいよ」ボッ

勇者「全員の松明を俺の松明の火を移す、近くまで持ってきてくれ」

騎士「了解」スッ  ボッ

僧侶「はーい」スッ  ボッ

勇者「よし、行くぞ」ザッザッザッ

騎士「貴様は前衛でいいのか?」ザッザッザッ

勇者「不意打ちを食らっても問題が無いのは俺だけだ」ザッザッザッ

騎士「それもそうだ」ザッザッザッ

勇者「……敵だ、構えろ」ピタッ

騎士「わかった」チャキッ

勇者「魔法使いは騎士に防御魔法、僧侶はすぐに回復魔法を使えるようにしておくんだ」

魔法使い「りょーかい」

僧侶「はい!」

勇者「来るぞ」チャキッ

オーガ「ウルルルルオオオオオオオォォォォォォォ!!!!」

勇者「ちっ、オーガか、厄介だな」

騎士「先手必勝ッ!」ダッ

スパァッ

勇者「よし、右腕を切断したな!一旦下がれ!」

騎士「了解ッ!」バッ

オーガ「ウウウウウウガアアアアアァァァァァ!!!!!」ズドンズドンズドンッ

魔法使い「ちょっ……こっち着てるわよ!?」

勇者「任せておけ」

勇者「こっちだ」タッタッタッ

オーガ「ウウウ……?ウルルルルガアアアァァァァァァッ!!」クルッ ズドンズドンズドン

勇者「騎士!」

騎士「わかっているっ!」バッ キランッ

オーガ「アアアアアァァァァァァッ!!」ゴキィッ

勇者「ぐぁっ……ふっ……」バキバキッ ペキンッ

騎士「はぁッ!!」ズバァッ

オーガ「ガ………!」ズドォン……

勇者「ちっ……背骨が折れてる、こりゃ再生待ちか」ボコボコッ

騎士「まるでゾンビのような体だな」

僧侶「ちょっ……騎士さん!そんな事言ったら悪いですよ!」

勇者「ゾンビ……か、ゾンビの方がマシかもしれないな」ボコボコボコボコッ シュゥゥー

騎士「……………」

勇者「さて、再生は終わった、進むぞ」スクッ

騎士「……ああ」

騎士(また、悲しそうな目だ。どうしてそんな目をする?[ピーーー]ない事に絶望している目ではない。ただ悲しそうな目だ)

勇者「……」ザッザッザッ

勇者「近いな」

騎士「ああ、強い魔物の気配だ」

魔法使い「なぁーにカッコつけてんのよ、アンタらは。地面見ればわかんでしょーが」

僧侶「地面……?あっ!!」


勇者「足跡、にしてはでかいな」

騎士「ビッグオーガと言うだけはある、ということか」

勇者「……進むぞ」ザッザッザッ


───洞窟、最深部

勇者「待ってましたって感じだな」

騎士「……やはり巨大だな」

魔法使い「ひょー、おっきーねー」

僧侶「あわわわわ」


ビッグオーガ「………オイ、人間」


勇者「喋れるのか」

騎士「巨大なのは身体だけじゃなく、脳みそもだったか」

ビッグオーガ「俺ヲ殺シニキタンダロウ」

勇者「そういうことだ、大人しくやられてくれるとありがたい」

ビッグオーガ「断ル」

勇者「ならば[ピーーー]」

ビッグオーガ「来イ」




勇者「騎士、アレを出してくれ」

騎士「了解」ゴソゴソ

騎士「これでいいんだな?」スッ

勇者「よし」

ビッグオーガ「………? 何ヲシテイル?」

勇者「全員、走って洞窟を抜けろォーッ!!!」

騎士「早く出るぞ、お前ら!!」ダッ

魔法使い「え?何?よくわかんないけど、頑張ってね勇者さーん」ダッ

僧侶「ええ!?勇者さん置いてなんて……」

騎士「いいから来い!」ガシッ

僧侶「ええぇっ!?きゃあっ!」ダッ

ビッグオーガ「何ヲスル気ダ?」

勇者「これ、何だと思う」

ビッグオーガ「……玉?」

勇者「はずれ」

勇者「ヒントをやろう」

ボッ

シュー……

勇者「こうやって使うもの、だ」

ビッグオーガ「ナッ……!!マサカ、爆ダ」



ドオオオォォォォォォーン!!!

───洞窟、入り口

僧侶「な、何ですか、今の音!!」

騎士「やったか」

魔法使い「何何?何をヤったの!?」

騎士「アイツに渡したのは爆弾だ。しかもとびっきり高い威力の」

僧侶「えっ!?」

魔法使い「ふぅーん、考えたじゃない」

騎士「俺じゃない。アイツが考えたんだ」

魔法使い「自殺志願者っぽいアイデアねー」



勇者「よう、無事だったみたいだな」

騎士「自殺志願者のお出ましだ」

僧侶「勇者さん!何でこんな無茶を!」

勇者「無茶じゃない。俺からしたら、普通の戦闘と何ら変わらない」

騎士「こいつの無茶と俺達の無茶は合致しないだろうな」

投下中すまんがsagaを入れると殺すや死ねなど使えるよ

sageじゃなくてsagaな

勇者「依頼は達成、報酬の『不死殺しの毒薬』をいただきに行こう」

騎士「そうだな」




町長「ビッグオーガの討伐、ありがとう」

勇者「ああ、報酬を早くくれ」

町長「『不死殺しの毒薬』だな」スッ

勇者「ありがとう」

町長「これも受け取ってくれ」ヂャリン

勇者「これは……金?なんだ?」

町長「ビッグオーガを爆弾で倒したそうだが、そこから鉱物が見つかってな、利益の一部だ」

勇者「……もらっておこう」パシッ

騎士「炭鉱夫として働いたらどうだ」

勇者「[ピーーー]ないだろうが」

>>42
知らなかった、ありがとう


勇者「依頼は達成、報酬の『不死殺しの毒薬』をいただきに行こう」

騎士「そうだな」




町長「ビッグオーガの討伐、ありがとう」

勇者「ああ、報酬を早くくれ」

町長「『不死殺しの毒薬』だな」スッ

勇者「ありがとう」

町長「これも受け取ってくれ」ヂャリン

勇者「これは……金?なんだ?」

町長「ビッグオーガを爆弾で倒したそうだが、そこから鉱物が見つかってな、利益の一部だ」

勇者「……もらっておこう」パシッ

騎士「炭鉱夫として働いたらどうだ」

勇者「死ねないだろうが」

なぜ2回書き込んだし



勇者「さて、死ねるといいんだが」

僧侶「ゆ、勇者さん、ホントに死んじゃったらどうするんですか!?」

勇者「天国で大喜びするな」

僧侶「勇者さんっ!!」

騎士「自殺志願者に何を言っても無駄だ」

勇者「そういうことだ」キュポンッ

ゴクッ


勇者「……?」

騎士「何も起こらないな」

勇者「………………」

勇者「ニセモノだった」

騎士「空しいな」

僧侶「ほっ…」

勇者「まあいい、次だ」

騎士「北の山にドラゴンが出現したという話を聞いたが」

勇者「報酬は」

騎士「『消滅薬』、飲んだ者の体を一瞬で消滅させる毒薬だ」

勇者「よし、行こう」

騎士「待て、一晩休みを取りたい。貴様は問題ないだろうが、俺達は疲労が溜まるんだ」

勇者「おお、そうか。じゃ、明日の昼出発だ、集合場所は酒場前」

3人「了解」


騎士「というか、全員同じ宿に泊まればよいのではないか?」

勇者「…………ああ」

魔法使い「それもそうね」

勇者「じゃあ、どこに泊まる?流石に同じ部屋はまずいだろう、4部屋空いている宿がいいんだが」

騎士「ここから少し歩いた所に、部屋の数が多い宿がある、行ってみよう」

───宿

勇者「ホントに空いてたな」

騎士「ギリギリだったが」

魔法使い「ふぁぁーあ、眠い眠い、風呂入って寝るわぁ……」スタスタ

僧侶「あ、私もぉ……」ペタペタ

勇者「お前はどうする?」

騎士「部屋で装備の手入れをする。お前はそのボロボロの服と剣を買い替えたらどうだ」

勇者「そうだな、金も手に入ったし、少し店を見てくる」

騎士「了解」

───商店街

勇者「やはり夜なだけあって、あらかたの店は閉まってるな」

勇者「……お、あそこは明かりがある、開店中か?」スタスタ



勇者「おい、まだ店は閉めていないか?」

店長「お、冒険者さんかい?まだ店じまいの時間じゃないよ、何か買ってくかい?」

勇者「武器が欲しい。できれば剣だな。防具は適当に服を」

店長「剣なら鋼鉄の剣があるよ」

勇者「よし、それをくれ。服はそこの服でいい」

店長「あいよ、2000Gだね」

勇者「ああ」チャリン

店長「まいどありぃ」

勇者「ああ、そうだ、忘れてた。ついでに、────」



───翌日、宿

勇者「準備はいいな」

騎士「問題無い」

魔法使い「全然おっけー」

僧侶「私も大丈夫です!」

勇者「行くぞ」

───北の山

勇者「そこまで高くはないな。………頂上の面積がやたら広いが」

騎士「ドラゴンとの決戦場というところだろう」

魔法使い「へぇ」

僧侶「ドラゴン……」ブルブル

勇者「登ろう」



───北の山、山道

勇者「山なのに、草も木も何もないな」

魔法使い「ま、歩きやすいし、好都合じゃーん?」

勇者「それもそうだ」

騎士「気にすべき事ではない。やるべき事は一つ。ドラゴンの討伐だ」

───山頂


勇者「……お待ちかねのドラゴンさんだ」チャキッ

騎士「強いな」チャキッ

勇者「魔法使い、僧侶」

魔法使い「わかってるわよ」

僧侶「はいっ」


ドラゴン「……人か」


勇者「……ああ」

ドラゴン「くだらん。なぜ貴様らのような非力な生物が我に逆らう?」

勇者「知るか、お前を殺すように依頼した奴に聞け」

ドラゴン「………生意気な小僧め」

勇者「行くぞ」ダッ

騎士「了解」ダッ

勇者「はああぁぁっ!!」ブンッ

ドラゴン「弱い」ガキッ

勇者「ちっ、爪で止めるか」

騎士「こちらを忘れてもらっては困るぞ」ザッ

ドラゴン「……効かぬ」

騎士「堅い鱗…っ!」

ドラゴン「燃え尽きろ」ボッ

ゴオオオォォォォォォッ

勇者「炎かッ!魔法使い!防御魔法を!!」

魔法使い「了解っ!!」

ボオオォォォォッ

騎士「はぁ、はぁ……助かった、感謝する」

魔法使い「なーに言ってんの……はぁ、……焦げてんじゃないのよ」

騎士「問題はない」

勇者(黒こげ)「………」

ドラゴン「ふははははは!!小僧を見捨てて防御したか!!非情な人間どもめ!!」

ドラゴン「だが、回復魔法というものが厄介だな、この小僧は喰ってしまうか」ヒョイッ

勇者(黒こげ)「…………」ビッ

バグンッ

騎士「……………」

魔法使い「あーあ、食べられちゃったー」

僧侶「ゆ、勇者さん……あわわわわ……」ガタガタ

ドラゴン「貴様ら、こうなりたくなかったら、今すぐ山を降りるがいい」

騎士「………」

騎士(勇者……飲み込まれる寸前に、指を3本立てていたな)

騎士(……そうか、なるほどな)

騎士「おい、貴様ら」ボソボソ

魔法使い「…何よ」ボソッ

騎士「3分だ。3分で勝負がつく」ボソッ

魔法使い「……ああ、勇者さんね、わかったわ、説明はいらない」ボソッ

騎士「助かる」ボソッ

ドラゴン「何をぼそぼそと話をしておる。迷う事などあるまい」

騎士「……よくも俺の仲間を喰らってくれたな。許さぬぞ」

魔法使い「そーよ、アタシだって一応、魔法使いとしてのプライドがあるのよ」

騎士(嘘だがな……)

魔法使い(うっそぴょーんっ)

僧侶「ゆ、勇者さんを食べるなんてっ!!絶対に許しません!!」

騎士(こいつは本気で言っていそうだな)

魔法使い(かーわいいんだからぁ)

騎士「はああああぁぁっ!!」ダッ

ドラゴン「効かぬと言っておろうがッ!!」バキィッ

騎士「ぐああっ!!」ドサッ

僧侶「か、回復魔法!!」パー

騎士「……助かる」ムクッ

ドラゴン「弱い、弱いな、人間!」

魔法使い「凍結魔法ーっと」ピキピキッ

ドラゴン「む、足が……」ピキピキ

騎士「今だ!」ズバンッ

ドラゴン「ふはははは!今のは少し効いたぞ!だが、まだ弱い」

騎士「なに……」

魔法使い「防御魔法!……騎士、さっさと斬ってきなさい」

騎士「ああ」ダッ

ドラゴン「いつまでくだらぬ事をするつもりだ!」ズバッ

騎士「ぐっ……効かんぞ!」ブンッ  ズバッ

ドラゴン「ぬぅ!目を狙ったか!……だが」

ドラゴン「生憎、まぶたも頑丈でな」

騎士「くっ……」

騎士「まだまだッ!」ズバッ スパンッ

ドラゴン「効かぬ」ザンッ

騎士「ぐああっ!!」ドサッ

僧侶「回復魔法!!」パー

騎士「くっ……はぁ、はぁ……」

騎士(そろそろ時間か)


───ドラゴンの腹の中

勇者「………」ボコボコボコッ

勇者「……………」シュゥー

勇者「やっと再生したか」

勇者「胃液とかで再生が妨害されて、やはり時間がかかったな」

勇者「さて」

勇者「買っておいてよかったな、『これ』」キランッ

───昨夜、店の前

勇者「ああ、そうだ、忘れてた。ついでに、短剣をくれないか?」

店長「短剣?ああ、いいのがあるよ、これさ」スッ

勇者「これは?」

店長「刃に微量だがダイヤを仕込んであってな、よく切れるぞ」

勇者「………いくらだ」

店長「3000Gだな、値下げはしないね」

勇者「……残り4000G……仕方無い、それをくれ」ヂャリンッ

店長「まいどありー!」


───現在、ドラゴンの腹の中

勇者「さーて、ダイヤを仕込んだ短剣とやらの切れ味はどんなものかな」スラッ

スゥーッ……

ドバッ

勇者「ほう、これはいいな」

勇者「じゃ、このまま身体の中を荒らしまくるか」スパッ

ドラゴン「ぬぅ……っ!?ぐあああああああぁぁぁぁッッッッ!!!!」

騎士「……よし」

魔法使い「大体想像つくけど、何やってんのかねー、勇者さんは」



勇者「ふんッ!せいッ!!」ザッ スパァァンッ

ブシャアアァァァッ
ドクドクドクッ


ドラゴン「い、痛い、痛い、痛い!腹の中を斬り裂かれているようだ!!なんだこれはッッ!!??」ドバァッ

騎士「短剣か何かか」

魔法使い「考えたわねー」

僧侶「ゆ、勇者さん、すごい……」


勇者「これが心臓か……」スラッ

勇者「はあッ!!」ドスッ

ドクンッドクンッ ドクンッ   ドクンッ        ドクッ        ドッ………


ドラゴン「か……はッ……」ドサァッ

勇者「よっと」ズルズルッ

騎士「貴様、血まみれではないか、傍から見たらただの狂人だぞ」

勇者「仕方無いだろう」

魔法使い「うっわー、血生ぐさいわねー」

勇者「俺もこの臭いは正直キツい、早く下山しよう」


───街

勇者「温泉へ行ってくる。報酬は受け取っておいてくれ」

魔法使い「わかったー」


───温泉

勇者「服は……まあ、少し流す程度しかできんな」ジャー

勇者「こんなものか」ザー

勇者「ふぅ……」チャポン

勇者「……………」

勇者「……………」

勇者「そろそろ出るか」ザバッ

───宿

勇者「帰った。報酬は?」

魔法使い「これよーん」チャポンッ

勇者「おお、早くくれ」

魔法使い「ほーい」ポイッ

勇者「うおっとぉ……」パシッ

勇者「劇毒だぞ、渡し方に気をつけろ・・・」キュポンッ

魔法使い「あ、ごめんごめーん」

勇者「さて、死ねるかな」

騎士「死ねるといいな」

勇者「ああ」ゴクッ

パッ

騎士「!! 消えたッ!」

魔法使い「へーえ、どうなってんのかね」

僧侶「消えたっていうよりは、一瞬で跡形もなく蒸発したって感じでしたけど……」

騎士「……なるほど」

パッ

騎士「!」

魔法使い「再生したらいきなり現れるんだ……」

勇者「死ねなかった」

僧侶「またも、ほっ……」

すいません出かけてました


勇者「死神の薬はダメ、不死殺しの薬もダメ、この消滅薬もダメ、と」

騎士「最後の2つは知っているが、死神の薬とはなんだ?」

勇者「ああ、このパーティーを組む直前にこなした依頼の報酬だ。飲むと死神が迎えに来るとかいう言い伝えらしい」

騎士「それで、どうなったのだ」

勇者「身体がボロボロと崩れた。でも、再生して死ねなかった」

騎士「………そうか」

魔法使い「ねぇねぇ、そういう毒薬飲む時って痛みとか無いの?」

勇者「ほぼ無いな。大抵神経を一瞬で破壊してくれる」

魔法使い「ふーん」

魔法使い「じゃ、爆発とかは?」

勇者「一瞬すぎて痛みを感じる間も無い」

魔法使い「ふぅーん………」

魔法使い「じゃあ、オークに殴られた時とかは?」

勇者「…………いっそ踏みつぶしてくれ、と思う」

魔法使い「…………そう」

勇者「さて、また毒薬が報酬の依頼を探さなきゃいけないのか……」

騎士「ふむ。昨日、今日と引き続き、あんな強力なモンスターを倒せたのはほぼ貴様の活躍とも言える」

騎士「依頼ならば俺達で探しておく。今日は宿でゆっくり休んだらどうだ?疲労があるのか知らないが」

勇者「………ちょっと一人で考えたい事がある。そうさせてもらう」

騎士「わかった」スタスタ

魔法使い「えー、私達もー?」

騎士「当たり前だ」

僧侶「はーい」スタスタ

勇者「………行ったか」

勇者「………さて、どうしたもんか」

勇者「…………」ベシッ

ボロッ

ボコボコッ
シュゥー

勇者「………脆い。脆くなってる」

勇者「まずいな」

勇者「いや、まずくないのか」

勇者「このまま脆くなって、脆くなって、……最後には、死ねるかもな」

勇者「はははは」

勇者「……………………」

勇者「……………………」

勇者「武器でも研ぐか」チャキッ

勇者「……………」シャッ シャッ シャッ シャッ

勇者「…………いいナイフだな」シャッ シャッ シャッ シャッ

勇者「よし、これで十分だろう」チャキッ

キラーン

勇者「お、そうだ」

勇者「騎士の剣の輝きが鈍くなってた気がするな」

勇者「依頼探しの礼だ、研いでおいてやるか」


───騎士の部屋

勇者「これか」チャキッ

勇者「いい剣だ。薄く、長く、それでいて頑丈な素材を使っている」

勇者「そして、持ち手の擦り減り。血の染みさえ付いている。相当使い続けたようだな」

勇者「……『本物』だな」

勇者「…さて、研ぐか」チャッ

勇者「……………」シャッ シャッ シャッ シャッ シャッ

勇者「……………………」シャッ シャッ シャッ シャッ シャッ

───翌朝、勇者の部屋

騎士「勇者、いるか」コンコン

勇者「ん……お、騎士か、いるぞ」

騎士「開けるぞ」ガチャ

勇者「……剣なんて持って、どうしたんだ?」

騎士「剣の輝きが増している、研いだとしか思えん。貴様か?」

勇者「ああ、そうだが……何かまずかったか」

騎士「いや、文句を言いにきたのではない」

騎士「良い研ぎだ、と言いに来たのだ」

勇者「ほお?」

騎士「俺とて剣の手入れを怠っていない。毎日丹念に研いでいる。だが、どうしても輝きは落ちていく」

騎士「それが見ろ、朝日を反射して、光り輝いている」ピカー

騎士「素人が研いだとは考えにくい。その手の仕事をした事があるのか?」

勇者「まあな、子供の頃だが」

騎士「勇者などにならず、鍛冶屋にでもなればよかったものを」

勇者「………冒険を、したかった」

騎士「………」

勇者「6,7歳の時、うちの村に勇者が訪れてきた。とても優しく、強い、素晴らしい勇者だった」

勇者「その勇者は、俺の村の近くで暴れてた、大地を凍らせるドラゴンを退治してくれた」

勇者「かっこいいって思ってさ、つい勇者が泊まってる部屋に行ったんだ」

勇者「そしたら、その人は笑顔で歓迎してくれて、冒険の話を聞かせてくれたんだ」

勇者「とても楽しそうな顔で話していた。それを聞いて、俺も冒険してみたい、と思ったんだ」

騎士「………子供らしい夢だな」

勇者「だろ?」

騎士「ところで、大地を凍らせるドラゴン、というと、まさか青い4枚の翼を持つドラゴンではないだろうな?」

勇者「あの人はそう言ってたな」

騎士「……その人物は、恐らく今の国王だ」

勇者「何?」

騎士「国王は元勇者で、武勇伝の中にそのドラゴンの話がある。間違いないだろう」

勇者「へぇ……」

騎士「まあいい。とにかく、この剣の事は感謝する」

騎士「ではまた」スタスタ

勇者「ああ」

勇者「防具がボロくなっていたな」

勇者「………次の依頼を達成したら、防具でも買ってやるか」

勇者「おっと、もうすぐ朝の集合だな。リーダーの俺が遅れるのはマズイ」

ドタバタ
バタドタ

勇者「よし、行くか」ギィ……バタン

勇者「おはよう。依頼は見つかったか?」

魔法使い「吐き気を催す薬とか、そういう弱めの毒薬が報酬の依頼なら山ほどあったわ」

魔法使い「でも、強力な毒薬が報酬の依頼は無かった。だって、あなた、ビッグオークとドラゴンを取ったら、この辺何もいないわよ?」

勇者「……この街を離れるべきか」

騎士「そうだな、もう一つ街を知っているが、そこはどうだろうか」

勇者「行ってみるか」

騎士「馬車に乗って行けるから、荷物は大き目でも問題無いぞ」

騎士「とは言っても、そんな大きな荷物を持ってる者はいないと思うが」

勇者「そうだな、金と装備だけ持ってれば十分だ」

魔法使い「あたしもそんなもんかなー」

僧侶「あ、私は本を数冊…」

騎士「その程度なら問題ない」

勇者「よし、明日の朝、ここを出よう」

騎士「わかった」

魔法使い「りょーかーい」

僧侶「はい!」





すいません、また出かけなきゃいけないので、明日、出来るだけ早く続きを書きます。

2時くらいまで書きます


───翌朝、宿前

勇者「全員、荷物の準備はいいか?」

騎士「金も持った。問題ない」

魔法使い「えへへー、あたしも本持ってきちゃったー」

僧侶「そうなんですか!今度交換しませんか?」

魔法使い「おー、いいねー!」

キャピキャピ

勇者「………」

勇者「出発する」

騎士「馬車が出ているのはここから西へ向かった所だな。街を出てすぐの所にある」

勇者「わかった」

───街の入り口、西

勇者「ふーむ、あれか」

騎士「馬車は……あるな」

魔法使い「ふぅーん」



勇者「おい、そこの……店員か?」

店員「あ、そうですが、馬車のご利用ですか?」

勇者「そうだ、4人乗せてくれ。行き先は…………」

騎士「西の街だ」

店員「かしこまりました、すぐにご用意いたしますので、そこの日陰で休んでいてください」




勇者「西の街まではどれくらいかかるんだ?」

騎士「大体1日半といったところだろう。天候や馬の調子によって前後するが、馬車程度の速度ならばそんなところだ」

勇者「到着は夕方頃になるな」

勇者「宿が空いているといいんだが…」

騎士「空いていなかったら貴様の特技の使いどころだろう。野宿の時の準備等だったか?」

勇者「そうだな、最悪野宿になる。危険だからできるだけ避けたいが……」

店員「馬車と馬、用意出来ました」

勇者「お、わかった」

店員「毛布等を有料で貸し出せますが、どうしましょう?」

勇者「……俺はいらないが」

騎士「同じくだ。女子二人はどうだ」

魔法使い「うーん、無いとチョットねー……」

僧侶「あ、あの、私も少し……」

勇者「じゃあ、毛布を2枚」

魔法使い「待った待ったぁ」

魔法使い「せっかくなら4人で毛布敷いて寝よーよ、ね?」

勇者「……仕方無いな、毛布を4枚くれ。いくらだ?」

店員「1枚20G、4人分で80Gになります」

勇者「代金だ」チャリッ

店員「ありがとうございます、こちらが毛布でございます」

魔法使い「悪くないわね」

───馬車の中

勇者「ふむ、なかなかの広さだな」

僧侶「はえ~~……」

騎士「さすがに4人寝転がるほどのスペースは無いが、俺と貴様が座って寝れば問題は無いだろう」

勇者「だな」

魔法使い「かぁーっこいー」

勇者「さあ、出発だ」

勇者「運転手!出発していいぞ!」

運転手「はいよ」

ベシンッ
ヒヒィィーンッ!!

パカラッ、パカラッ、パカラッ……

ガタガタッ  ガタンッ

勇者「やはり揺れるな」グラグラ

騎士「仕方が無い」グラッ

魔法使い「酔っちゃったら魔法で治療してあげるから、安心してねーん」

僧侶「あ、じゃあ私は本を読むので、もし酔ってしまったらお願いしますね」

魔法使い「おっけぃ!」




勇者「なあ」

騎士「……………」

勇者「死ねる、ってどういう気分だ」

騎士「死んでしまう、の方が正しい。そうだな、みっともない話だが、正直恐ろしい。本当に死後の世界があるのかどうかもわからない。無というものになってしまうのかもしれない。」

騎士「夜に考えると思考が暴走しそうになるな」

勇者「……そうか」

騎士「逆に問おう。死なない、というのはどういう気分だ?」

勇者「正しくは死ねない、だな。そりゃ不死身になりたての頃は嬉しかったさ。生物の頂点に君臨したとかバカな事を言っていた気もするな。」

勇者「不死身になって1年経った時に、飽き始めた」

勇者「2年経った時に、死ぬ方法を探し始めた」

勇者「3年経って、お前達に出会った」

勇者「不死身なんて、ろくなものじゃない。怪しい薬とか、絶対に飲むなよ。いいな」

騎士「薬を飲んでそんな身体になったのか?」

勇者「ああ、言ってなかったか。そうだ、あれは3年前、俺が魔物の巣に入った時だ───………」

勇者「………───で、今に至るという訳だ」

騎士「ふっ」

勇者「何だ」

騎士「今でこそそんなどっしりした態度のお前が、そんな臆病者だったとはな」

勇者「……………言い返す言葉もない」

騎士「3年で変わるものだな、人は」

勇者「3年じゃなくとも、人なんてコロコロ変わるものさ」

騎士「……そうだな」

運転手「お客さん!」

勇者「む、何だ!?」

運転手「外を見てみな、良い景色だぜ」

勇者「窓は……これか」ギィ……

勇者「……ほぉ…」

騎士「海か」

魔法使い「なになにー?わっ、きれー!」

僧侶「綺麗です……」

運転手「俺ぁ見慣れてるから特別すげぇとは思わねえけどよ、お客さんからしたら良い景色だろう?」

勇者「うむ、ありがとう」

運転手「いいってコトよ」

───夕方

運転手「……おぉ?」

運転手「……ありゃあ……」

運転手「ちぃっ、出やがったか」

運転手「おーい!お客さん達!大変だァ!!」



勇者「何だ!!」

運転手「出やがったぜ、魔物どもが!!」

騎士「む」スクッ

魔法使い「ふーん、ま、予想はしてたけどねー」

僧侶「た、戦わなきゃ!」

運転手「幸い敵はゾンビで鈍いが、それでも走路に入られると面倒だ、その前にやっちまってくれ」

騎士「一旦馬車を止めて殲滅するのではだめなのか?」

運転手「バカ言え、あんな亡者共に果てがあると思うな、無限に沸くぞ!」

勇者「おい、あそこに小さい影が見えたが」

運転手「犬っコロの魔物は問題ねえ!馬が適当に轢き殺してくれる!」

運転手「それでもダメなら、俺だってちったあ戦えらあ!」

騎士「勇敢な運転手だな」チャキッ

勇者「おう、戦士にでもなればよかったのにな」チャキッ

魔法使い「あたしと僧侶ちゃんは前方に出てきたゾンビを殺るから、アンタらは横から突っ込んでくるゾンビをお願いね!」

僧侶「頑張ります!」

勇者「運転席の左右は空いているか!?」

運転手「空いてるぜ!」

勇者「よし、2人はそこに乗ってゾンビを迎撃しろ!」

魔法、僧侶「了解!」

勇者「俺は左側を担当する。右側は任せたぞ」チャキッ

騎士「指一本、この馬車には触れさせない」スラァァン



運転手「来るぞおおおおォォォォォォ!!!」



勇者「よし、扉を開けろ!」バタンッ

騎士「わかった!」バタンッ


ゾンビA「ガ……ウガァ……」

魔法使い「火炎魔法……は、馬車が燃えちゃったら怖いから、狙撃魔法!形状・弓!!」バシュッ

ゾンビA「ウガァァッ……」ズドンッ  バタッ

ゾンビB「シャアアァァァァッ!!」

僧侶「わ、私だってちゃんと戦えます!セイントアロー!!」キィィン ヒュンッ

ゾンビB「シャアアッ!!」ドスッ  ドロォ

魔法使い「効果覿面ね、それ」バシュッ バシュッ

ゾンビC、D「ギシャアアァァッ!!」ズドォッ

僧侶「えいっ!たあっ!!」キィィン ヒュンッ ヒュンッ

ゾンビE、F「グオアアアァァ……」ドロォォォ……


───馬車の中

勇者「せいっ!てやぁッ!!」ズバッ ズドッ ジャキッ

騎士「ふッ、はぁっ!」スパンッ ザシュッ

勇者「外もやってるみたいだ……なッ!」ザンッ

騎士「まあ、彼女らなら問題あるまいッ!」ズシャァッ

勇者「はぁ、はぁ……今までの単独行動と違って、守る対象があると、きついものだな……」

騎士「仲間というのは……ぜはぁっ、そういうものだ、助けられ、助け、そうやって出来るものがパーティーだ」

勇者「良い事を言うじゃないか」ザスッ

騎士「不死身の言葉よりは軽いさ」グサァッ

運転手「ほっ!当たれぃ!」ギリギリギリ……ビシュッ

ゾンビG「ギャシャアアアッ!!」ズドッ バタンッ

魔法使い「おー、やるじゃーん」

運転手「へっへっへ、これでも昔は狩人だったもんでね」

魔法使い「なるほどね」

運転手「そろそろゾンビの出現する地帯を抜ける、馬車の中に戻っていいぞ」

魔法使い「はーい」

僧侶「わかりましたー」

運転手「ありがとなー」

勇者「お、もう終わりのようだな」

騎士「馬車への損害は恐らくゼロだ」

魔法使い「わーお」

僧侶「ま、魔法も使わずに……すごいです」

運転手「これ以上先にはモンスターは沸かないからよ、時間も時間だし、寝るなりしてくれやー」

勇者「了解した」

勇者「という事で、全員寝床に着け。と言っても、毛布をかけるだけだが」

騎士「俺と勇者は何かあったらすぐに気付くように、両側の扉に背を向けて座ろう」

勇者「よし、まあ女子はゆっくり寝転がってくれ」

魔法使い「はーい」ゴロッ バサッ

僧侶「わかりましたー」ゴロンッ バサッ

勇者「……さて、寝るか」ドンッ バサッ

騎士「そうだな」ドッ バサッ

4人「…………………」

魔法使い「………ねぇ、どうせ4人一緒に寝るならさ、話でもしながら寝ない?」

勇者「矛盾しているが………俺は構わないぞ」

騎士「俺もだ。疲労なら寝ずとも街に着くまでに解消できる。無理に寝る必要もあるまい」

僧侶「あ、私もいいですよー」

魔法使い「じゃあ決まりっ!」

魔法使い「じゃー何から話そっか?」

僧侶「今までの旅のことを振り返るのはどうでしょう?」

魔法使い「お、いいねぇ。じゃあ、リーダーの勇者さん、お願いしますっ!」

勇者「……なぜ俺なんだ……」

勇者「まあいい。ではまず、一番最初の依頼……ビッグオーガについてはどうだろう」

騎士「始めての依頼にしては難易度が高い依頼だったが」

僧侶「でも勇者さんのおかげでなんとかなっちゃいましたよね~」

魔法使い「ほんとほんと、いくら死なないとはいえ自爆なんて、普通考えるかねー」

勇者「一番手っ取り早かったんだ」

騎士「俺も爆弾を買っておいてくれなどと言われた時は正気を疑ったな」

魔法使い「……アンタ、加入したてのパーティーメンバーをパシらせたの?」

勇者「違う。俺は洞窟侵入からビッグオーガ討伐までの作戦を練っていてだな」

魔法使い「言い訳無用!」コツンッ

勇者「いたっ。さすがに杖は痛いぞ」

魔法使い「あっはっはっは、ごめんごめーん」

僧侶「その次はドラゴンでしたね~」

魔法使い「そうそう、ビッグオーガなんかよりも難易度高い依頼で、ほんとに死ぬ気なのかと思ったー」

勇者「ほんとに死ぬ気だよ」

魔法使い「あ、そっか」

騎士「正直あの鱗と炎を見た時はダメかと思ったがな、そこでやはりコイツだ」

勇者「ギリギリで指が動いて助かった。動いてなかったら置き去りにされていたかもしれんな」

騎士「いや、するが」

魔法使い「そりゃーするでしょ、こわいし」

僧侶「ご、ごめんなさい、皆さんがいないと、私もちょっと……」

勇者「お前ら………」

騎士「ほんと、敬われてないリーダーだな。活躍はしてるんだが」

勇者「さすがに泣くぞ。不死身にだって涙は通ってるんだ」

勇者「それに、前日の夜にあの短剣を買ってなかったら、本当に危なかったからな」

騎士「ああ、それは良い判断だと思ったな」

魔法使い「あの短剣ってそんなすごいもんなの?」

僧侶「あ、私も知りたいです。いくら内臓とはいえ、ドラゴンのものをいともあっさり……」

勇者「ああ、刃にダイヤが微量ながら含まれていると言っていたな」

騎士「なるほど、通りで斬れるわけだ」

魔法使い「ねぇ、それ高かったんじゃないの?」

勇者「3000Gだったな」

騎士「高いな」

僧侶「うわぁ……すごいです」

魔法使い「で、今の所持金は?」

勇者「……500G」

魔法使い「使いまくったわね……」

数分後


勇者「………ZZZ」

魔法使い「ありゃ?寝ちゃったか」

僧侶「一番早く寝ちゃうなんて、意外です~」

騎士「不死とはいえ負担は大きいのだろう。寝かせてやれ」

魔法使い「……ねぇ、騎士」

騎士「なんだ」

魔法使い「あたしが今読んでる本、主人公が魔法使いの女の子でさ」

魔法使い「ある日、出会ったステキな騎士に惚れちゃってね、好かれようとその人がいるパーティに入って活躍する」

魔法使い「っていうお話なんだけど」

魔法使い「まるであたし達みたいじゃない?」

騎士「……何だ、急に」

魔法使い「ねぇ、よかったらさ、…………」

僧侶「は……はわわわわわわわ」カァー

騎士「眠気で頭でもおかしくなったか。冗談はやめて、寝ろ」

魔法使い「冗談なんかじゃなぁいわよぉ、ほらぁ、すなおになっれぇ……」

騎士「おい、ろれつが回ってな………」

騎士「この臭い、酒か」

魔法使い「よっれなんか、いないはよぉ……」

魔法使い「はふぅ」バタンッ

魔法使い「ぐぅ……」スー スー

騎士「寝たか」

僧侶「魔法使いさんって、酔うとこんなになっちゃうんですね……」

騎士「迷惑なものだ」

僧侶「……………」

騎士「……………」

僧侶(気まずい………)

騎士(普段異性とあまり喋らないのがあだとなったか。何を喋ればよいのだ、こういう場合は……)

僧侶「あっ、あのっ!」

騎士「なあ」

僧侶「……」

騎士「……」

騎士「……先に言っていいぞ」

僧侶「あ、はい、じゃあ……あの」

僧侶「騎士さんって魔法は使えるんですよね?」

騎士「ああ、そこまで強力なものは使えないが」

僧侶「今まで使った所を見た事が無いんですが、どうしてでしょう?」

騎士「斬った方が早いし強い。それだけだ」

僧侶「ははぁ~……」

騎士「では、俺の方もいいか」

僧侶「あ、はい!」





騎士「貴族の娘がどうしてこんな所にいる」

僧侶「………え?」

騎士「もう一度言おうか」

僧侶「いえ、聞こえてました……けど」

騎士「ならば答えてくれないか」

僧侶「や、やだなあ、私が貴族の娘だなんて」

騎士「お前の母は国王の姉、父は有名鍛冶屋の初代当主」

僧侶「……………」

騎士「確か、将来は大臣になるとか噂されていたが」

僧侶「………あはは、バレちゃいましたか」

僧侶「そうです。私の母は国王様の姉です。幼い頃から政治に関しての知識を色々教え込まれました」

僧侶「別に将来の事は不満じゃありませんでした。でも」

僧侶「ある日、私に夢ができたんです。『世界の果てを見てみたい』って夢が」

僧侶「それから、私はお母様に、旅に出る事を必死でお願いしました。でも、いつもいつも断られました」

僧侶「だから」

僧侶「家出してきちゃったんです」

騎士「なるほどな」

僧侶「隠しててすいませんでした。でも勇者さんや魔法使いさんには、言わないでほしいんです」

騎士「わかった。深い事情は聞かないようにしよう。口外もしない」

僧侶「……ありがとうございます」

騎士「…もう眠い。寝る」

僧侶「あ、私もそろそろぉ……ふにゃ」スー スー

騎士「…………」

騎士「…………」スー スー…

───翌日、朝

勇者「………ん、朝か」

騎士「…………ふぅ…………」

魔法使い「ん~~っ!!頭痛いっ!!」

僧侶「ふぁぁ……おはようございまふぅ……」

勇者「朝とは言っても特にする事は無い」

騎士「だな」

勇者「お、そうだ、お互いが何かを教え合う、というのはどうだ?」

魔法使い「なにそれ?」

勇者「例えばだ。俺が騎士に剣の研ぎ方を教える。次に、騎士が俺に剣の技を教えてもらう」

勇者「魔法の事はよくわからんが、適当に教え合ってくれ」

魔法使い「ふーん、なるほどね」

僧侶「わかりました!じゃあ、魔法使いさん、…………」




勇者「さて、俺達もやるか」

騎士「正直、剣の研ぎ方については気になっていたのだ。助かる」

文体に見覚えがある気がする。

前に何か書いてた?

勇者「まず、刀身に水をかける。量は適当でいいが、あまり多くはない方がいいな」

騎士「ふむ」

勇者「そして、研ぐ時の注意なんだが───………」




………………




勇者「で、最後にこうだ。この時、あまり力は入れない方がいい」

騎士「……なるほど、奥が深いな」

勇者「だろう?」

騎士「助かった。次は俺が教える番だな」

勇者「お、頼むぞ」

騎士「まず剣の握り方からだ。普段通り持ってみろ」

勇者「普段はこうだが」ギュッ

騎士「それでは力が無駄に働いてしまう。こっちの方が力が逃げない」ギュッ

勇者「ふむふむ……」ギュッ

勇者「おお、まるで剣と腕が合体したみたいだ」

>>103
勇者ものはこれが初挑戦ですねー


騎士「そして振り方だ。腕を振るのではなく、斬る。これを意識するだけで、自然と威力は上がる」

勇者「腕を振るのではなく……斬るッ!」ブオンッ

勇者「おお、早さが上がった」

騎士「馬車の中で振り回すのはやめておいた方がいいな」

勇者「あ、すまん」

騎士「次は防御の方法……と思ったが、貴様は特に必要無いな」

勇者「確かにそうだが、ひどいな」

騎士「では、実践で遭遇しうる状況でのテストだ」

勇者「お」

騎士「相手は棍棒を持ったオーガだとしよう。」

騎士「自分は全力で相手に走っていき、あと数歩で自分の剣の間合いに入る、という所で、オーガが棍棒を振りかぶってしまった」

騎士「さて、どうする?」

勇者「うーん、左右に避ける、かな」

騎士「不正解だ。左右に避けたところで、オーガどもの怪力では、すぐにどちらかに棍棒を振り回されて直撃だ」

勇者「ならばどうすればいい?」

騎士「そのまま突っ込むのだ」

騎士「ふところに入れば、相手の攻撃は当たらない。腕と腕の隙間に入るイメージだな。そして、その時には相手の急所…つまり、首がガラ空きになる。そこを斬るのだ」

勇者「……なるほどな」

騎士「他にも実践でなりうる状況は山ほどあるが、それはその内話そう」

勇者「わかった、だいぶ為になった、ありがとう」

騎士「礼には及ばん」





魔法使い「……でね、そこで魔力を放出する時がポイントで」

僧侶「ふむふむ」




騎士「あちらもやっているようだな」

勇者「ああ」

魔法使い「終わったよーん」

僧侶「終わりましたぁ~!」


勇者「いやはや、新しい技術を身につける事が出来た」

騎士「これで武器の手入れが捗る…」


魔法使い「なんだ、そっちも仲良くやってたんじゃん」

僧侶「普段なんだか隙間があるような感じだったから、心配だったんです」

勇者「そうか?」

騎士「そうでもないと思うが」

っと、2時になってたので今日(?)はここまでとさせて頂きます
では、また。

戻りました、続けます


魔法使い「っていうか、アンタらって最初の頃、普通に仲悪そうじゃなかったっけ?」

勇者「そうか?」

騎士「いや、ただ単に俺がこいつの事をバケモノを見るような目で見ていただけだ」

勇者「………………」

魔法使い「ザックリと言うねぇ……あはは」

騎士「言っておくが、自分が斬った相手が倒れないというのはかなりの絶望感だぞ。身体中がゾッとして、考え過ぎて頭が痛くなる」

魔法使い「へーぇ」

勇者「騎士としてのプライド、ってやつか?」

騎士「そうだな、それもある」

勇者「しかし、あれは俺が相手だったからであって、普通の相手だったらキレイに真っ二つだぞ」

魔法使い「そうなの?」

勇者「ああ。俺が自爆したり、わざと喰われたりで依頼を達成しているからわかっていないだろうが、こいつはかなりの腕だぞ」

騎士「…………」

魔法使い「んー、まあ、オーガの腕斬った時とかはすごいって思ったけどね」

勇者「どのくらいかわかるか?」

魔法使い「さあ?あたしの専門は魔法だし」

勇者「装備を良い物にすると、国の防衛騎士団の分団長になれるくらいだ」

魔法使い「え、そんなに!?」

勇者「ああ。オーガの腕をあそこまで見事に切断出来る奴はそうそういない」

魔法使い「へぇー……あんた、意外とすごいヤツだったのねー……」

騎士「『意外と』とは何だ、『意外と』とは」

魔法使い「あっははははー、ごめんごめん」

───数時間後

勇者「…………………………………」

騎士「………………?」

魔法使い「どったの?」

騎士「いや、こいつの顔色がだな……」

魔法使い「………………ねぇ、勇者さん」

勇者「…………なんだ………」

魔法使い「酔った?」

勇者「………………」コクッ

魔法使い「本読んでた訳でもないのに、何で酔うのよ……」

勇者「慣れてないんだ、こういうのは………」グテー

魔法使い「そーなんだ……まあいいや、治癒魔法っと」パー

勇者「…………うぁッ」ドアバターン

勇者「うげぇぇぇぇぇ…………」ゲロォー

魔法使い「ちょっ……大丈夫!?」

勇者「何で悪化したんだ……うぇっ、魔法、間違えてないだろうな……」

魔法使い「もしかしてゾンビに近いから、そういうのは効かないってこと!?」

騎士「だろうな。不死身なんてゾンビの強化版のようなものだからな。効果は抜群だろう」

魔法使い「だーもう、どうすりゃいいのよぉ!」

勇者「お……おい、吐き気を催させる魔法って、あるか……」

魔法使い「あ、あることはあるけど……」

勇者「治癒が効かないなら逆を使えばいい、たのむ……」グテーン

魔法使い「……悪化しても知らないからね」

魔法使い「嘔吐魔法!」パー

勇者「………おっ」ムクッ

魔法使い「おおっ?」

勇者「治った」

魔法使い「マジで!?」

勇者「ああ。今までの吐き気が嘘かのように治った。絶好調だ」

騎士「便利な身体だな」

───夕方、馬車の中

勇者「……そろそろか」

騎士「ああ」

魔法使い「うんしょ……っと」ギィ…

魔法使い「おー、街っぽいの見えてきたよー!」

僧侶「ほんとですかっ!見せてくださーい!」タタッ

僧侶「おぉー…」

勇者「予定通りだな」

勇者「運転手!」

運転手「おう、街ならもうすぐだぜ!で、何の用だい?」

勇者「西の街の、できるだけ部屋の多い宿を知っているか?」

運転手「おう、知ってるぜぃ。街に入ってすぐの所に商店街があんだ。ずーっとまっすぐ歩いていくと、『旅人の巣』っつー宿屋がある。建物自体もデカいし、部屋の数もなかなかだぜ」

勇者「旅人の巣、か。わかった、ありがとう」

運転手「おうおう、いいってことよ」

───西の街、入り口

運転手「お客さん、到着だ」

勇者「わかった。全員、降りるぞ」ガチャ スタ

騎士「ああ」スタッ

魔法使い「ほいほーい」ピョンッ ズダッ

僧侶「はーい」ストッ

運転手「ゾンビの時は助かったぜ、あんがとよ」

勇者「俺達は宿へ向かうが、運転手、お前はどうするんだ?」

運転手「今から帰ると、夜を2回過ごさなきゃいけねぇからな。またゾンビなんかに出会うのはたまったもんじゃねえ。適当に宿を探すさ」

勇者「そうか。もう会う事も無いだろうな。無事に帰る事を祈る」

運転手「あいよ。あんたらも達者でな」

騎士「……そろそろ行こう。日が沈む」

勇者「ああ。ではな」クルッ スタスタ

運転手「おう、じゃあな」

───旅人の巣、前

勇者「ここか……大きいな」

騎士「ふむ」

魔法使い「早く入ろーよ!風呂入りたいの!」

勇者「ああ、わかった」ガチャ

───旅人の巣

店員「いらっしゃい」

勇者「部屋を4つ」

店員「はいよ、何泊するんだい?」

勇者「未定だが、この街を出るまでは3泊置きに代金を払う」

店員「3泊なら、1部屋あたり100Gだな」

勇者「わかった。各自、金はあるな?」

騎士「ドラゴン退治の依頼の時の金がある」

魔法使い「あたしもー」

僧侶「あ、私もあります」

勇者「……500Gか……」

魔法使い「あ、そっか。アンタ、あの短剣買っちゃったからお金無いんだっけ」

勇者「……ああ」

魔法使い「いーよいーよ、お金手に入るまで、あたしが払っといてあげるから」

勇者「面目ない。頼む」

魔法使い「素直でよろしい!じゃ、200G」チャリン

騎士「100Gだ」チャリンッ

僧侶「どうぞー」チャリンッ

店員「ひぃ、ふぅ、みぃ……確かに400G、受け取った。ほら、鍵だ」コトン

店員「部屋の番号は鍵に書いてある。数字は、鍵の差し込む部分を下にした時に読める数字だから、『9』と『6』を間違うなよ」

勇者「わかった」スッ

勇者「じゃあ、各自自由行動だ。集合は明日の朝、場所は依頼掲示板の前だ。通った道にあったから、わかるな?」

騎士「問題無い」

魔法使い「おっけー」

僧侶「わかりましたー」

勇者「到着した者から依頼を探してくれ。劇薬が報酬の依頼が望ましいが、報酬金が高い依頼でもいい」

騎士「わかった」

勇者「では」

勇者「解散!」

───勇者の部屋

勇者「……特にする事も無いな」

勇者「散歩でもするか」ガチャ


───商店街

勇者「ふむ」

勇者「やはり、前の街よりも暑いな」

勇者「砂漠が近いせい、もあるだろうが……」

勇者「一番の原因はあれだろうな」

勇者「………火山」

勇者「出来れば、この街にいる間に水の貯蔵の技術を身につけたいな。恐らくそういった知識には長けているだろう」

勇者「しかし、整った道路だな。治安がいいのか?」

騎士「だろうな」

勇者「ッ!!」バッ

勇者「…なんだ、騎士か」

騎士「宿に向かう途中に店を横目で見ていたが、万引きの対策がやや緩いように見えた。治安が悪ければ対策は万全になるであろう」

勇者「なるほどな」

騎士「ところで、何をしていたのだ?暇つぶしの散歩か?」

勇者「そんなところだな」

騎士「丁度いい。こちらも暇を持て余していた所だ。剣の訓練をするぞ」

勇者「お、いいな」

騎士「すぐ近くに空き地がある。そこでいいだろう」

勇者「わかった、行こう」

───空き地

勇者「で……訓練って、何をするんだ?」

騎士「実技……と言いたいところだが、まずは基本的な技術からだな」

騎士「『切断』の方法はこの前教えた通りだ」

勇者「腕を振る、じゃなく、斬る。だったな」

騎士「そうだ。切断ならばそれで十分だ」

騎士「今度は、刺突のやり方だ。……丁度いい、そこの木を、剣で貫いてみろ」

勇者「わかった」スラァン

勇者「…………」ダダダダッ

勇者「はぁッ!」ズドッ

騎士「ふむ」

騎士「やはりな。反対側に剣の切っ先が出ていない」

勇者「いや……この木、かなり太いぞ。貫通となると、木と柄が当たるくらいまで刺さないとできない」

騎士「木と柄が当たるまで刺すんだ」

勇者「……ふんっ!」ググッ

勇者「……これ以上刺さらない……」

勇者「いや……無理だ」ザスッ

騎士「少し離れろ」スラァンッ

勇者「ああ」ザッ

騎士「………」ダッダッダッダッ

騎士「ふッ!」ズドォッ

騎士「こうだ」

勇者「……貫通してる」

騎士「構えは貴様と同じだ。では、なぜ貫通しないか。わかるか?」

勇者「………いや、わからん」

騎士「突く瞬間の違いだ。切っ先が少しでも対象に触れたら、そのまままっすぐに貫け。無駄な動作はいらん。ただ、上下左右に剣を少しも動かさないようにする」

騎士「貫通出来ない理由は、貫いている最中に剣が動いてしまったのだろう。そのせいで、切り口は若干曲がり、剣が木の中に引っかかってしまったのだ」

勇者「……なるほど。少しも動かさない、か」

騎士「もう一度やってみろ」ザスッ

勇者「ああ」チャキッ

勇者「…………」ダダダッ

勇者「はァっ!」ズドンッ

勇者「おお、貫通してる」

騎士「よし、十分だ。その感覚を忘れるな」

勇者「ああ」

騎士「とは言え、実際に魔物を相手にして、剣を真直ぐに刺す事は難しい。たが、急所を貫く際には、相手の体の半分も貫けばいい。貫通はあくまで最良だな、順守する必要は無い」

勇者「わかった。『上下左右に剣を動かさない』だな。次の依頼で使わせてもらう」

騎士「そうしてくれると助かる。………おっと、そろそろ夜も更けてきた頃だな」

勇者「もうそんな時間か」

騎士「宿に戻るか?」

勇者「そうだな、明日の依頼に備えて、早めに寝るか」

騎士「わかった」

───翌朝、依頼掲示板前

勇者「お」

騎士「む、勇者か」

勇者「来てるのはお前だけか」

騎士「そうだ」

勇者「何か良い依頼は見つかったか?」

騎士「いや。前の街よりも大きい街だからな。依頼の数も多く、手間取っているところだ」

勇者「その分、いい報酬の依頼も多いといいんだがね」

騎士「………む、これはどうだ?」ピラッ

勇者「どれどれ」


[東の銀鉱山での銀鉱石採取]
[指定量……支給した袋に取れるだけ]
[報酬……袋の数×1500G]


勇者「なるほど、採取か」

騎士「貴様にぴったりの依頼だろう」

勇者「? どういう事だ?」

騎士「ビッグオーガの時のように、自爆すればいい」

勇者「………お前、なかなかひどい事考えるな」

騎士「不死身の体を最大限活用しようとしているまでだ」

勇者「酷使の間違いじゃないのか」

騎士「そうとも言うな」

勇者「おい」

勇者「ま、やる事は簡単だし、いいかもな、この依頼」

騎士「だろう」

勇者「やってみるか」




魔法使い「あー、ごめーん、朝風呂浴びてたら遅くなっちゃったー!」

僧侶「ごめんなさーい!」




勇者「メンバーも揃ったな」

勇者「早速だが、今回やる依頼が決まった」

魔法使い「え、早っ!なになにー?」

勇者「これだ」ピラッ

魔法使い「………へぇ、銀鉱石の採取ね。で、なんでまたこんな依頼なの?」

勇者「騎士のアイデアでな、俺が自爆すればいいとの事だ」

魔法使い「げっ、エグい事考えるわね~、あんた」

騎士「……ふん」

魔法使い「ま、いいんじゃなーい?」

僧侶「わ、私は、ちょっと見ていられないと思うので、今回は……その」

僧侶「ご、ごめんなさいっ!」

魔法使い「僧侶ちゃんは優しいのねー、よしよし」ナデナデ

僧侶「う、うぅぅ~……」

魔法使い「って事で、今回の依頼は僧侶ちゃん抜きで!いいわね?」

勇者「ああ、もちろんだ。そうだな、最年少の僧侶にもう少し気を使うべきだったな。すまん」

僧侶「うぅぅぅ~~…………!」グスン

魔法使い「あーあ、女の子泣かせちゃったー」

勇者「あ、えっと、だな」

勇者「今まで、僧侶にはきついものを見せてしまったな。すまない、これからは気を付ける」

僧侶「ふぇぅぅ~……あ、ありがとうございます~……」

魔法使い「もー、可愛いなぁ、僧侶ちゃんはー」

勇者「じゃあ、僧侶は宿で休むなりしていてくれ。俺達は依頼者から袋をもらってくる」

僧侶「は、はい……」

騎士「どうやら、依頼者は鉱石を扱う業者のようだな」

勇者「どこへ行けばいいんだ?」

騎士「銀鉱山の前の小屋だそうだ。見たところ、西にある小さな山が銀鉱山だろう」

勇者「よし、2人はそこで袋を貰っておいてくれ。中に銀鉱石を入れた時に、3人で持てる限界の量を想定してくれ」

騎士「わかった」

勇者「俺は商店街で爆弾を何個か買っていく」

魔法使い「りょーかい。じゃ、またねー」スタスタ

───商店街

勇者「爆弾、爆弾……」スタスタ

勇者「……あれか?」スタスタ




勇者「店主。この爆弾の威力はどれくらいだ?」

店主「お、いらっしゃい。威力は……そうだね、半径7メートルは吹き飛ぶ。火薬を入れればの話だけど」

勇者「……よし、5つくれ。火薬もだ」

店主「ありがとさん、1つ300G、5つなら1500Gだね」

勇者「………しまった」

店主「金が無いのかい?」

勇者「……………すまん、ツケにしておいてくれないか。明日には返す」

店主「しょうがないねぇ、明日だからね」ドンッ

勇者「すまない、ありがとう」

店主「何しに行くのか知らないけど、まあ頑張りなよ」

───銀鉱山前

勇者「おーい、準備はできているか?」スタスタ

騎士「問題無い。が、言っておかなければならないことがある」

勇者「?」

騎士「どうやら、鉱山内にモンスターが沸いているみたいでな」

勇者「どんなモンスターだ?」

騎士「ゴーレムだ。性質は石、鉱山から発生したとして間違いないだろう」

勇者「勝てるか?」

騎士「大きさはそこまでではない。身体は堅いが、間接には隙間がある。そこに剣を刺せば簡単に切断が出来る」

勇者「急所はあるのか」

騎士「コアが頭の中にあるが、首を切断した方が早いだろう」

勇者「わかった」

魔法使い「あたしは何してりゃいいのー?」

勇者「松明に火をつけてくれればいい」

魔法使い「うわ地味っ!」

勇者「つるはしの貸出などはあるか?」

騎士「1本50Gで借りれるぞ」

勇者「3本借りるか」

魔法使い「そういうと思って借りてあるわよ。ほら」ガシャッ

勇者「……ありがたい」

勇者「では出発だ」


───銀鉱山

勇者「ある程度の明かりはあるが、やはり暗いな。松明に火を」

魔法使い「はいよん」ボッ

騎士「爆弾の威力はどれくらいなのだ?」

勇者「半径7メートルは吹き飛ぶそうだ」

騎士「ふむ」

魔法使い「ちょっと、誤爆とかほんとにやめてね」

勇者「安心しろ、火薬を混ぜなければ爆発しない仕組みだ」

魔法使い「あら、そ」

勇者「…………」スタスタ

騎士「…………」スタスタ

魔法使い「はぁー…………」スタスタ

勇者「このあたりはほとんど採掘済みだな」

騎士「ああ。恐らくモンスターが沸く前にあらかたは掘りつくしてしまったのだろう」

勇者「こりゃ早めに爆発することになるか」

騎士「そうだな」

魔法使い「……ねぇ、あそこの細い道にあるの……銀じゃない?」

勇者「………行ってみるか」





騎士「銀だな」

勇者「掘るか」

魔法使い「はー、めんどくさ」

カァンッ カァンッ カァンッ カァンッ カァンッ カァンッ ………………


勇者「大体掘り終わったな」

勇者「お次は爆弾の出番だ」

騎士「7メートルとは言うものの、実際は衝撃などで天井が崩れたりするからな。15メートルは離れた方がいい」

魔法使い「はいよーん」

勇者「そうだな。避難が終わったら何か合図をくれ。残りの火薬は騎士、お前が持っててくれ」スッ

騎士「わかった」パシッ

騎士「では」ダッダッダッ

魔法使い「あ、待って」タッタッタッ

タッタッタッタッ
ダッダッダッ

騎士「このあたりなら安全だろう。魔法使い、適当に大声を出して、勇者に合図を送るんだ」

魔法使い「えぇ~……あたし? しょーがないなぁ……」

魔法使い「すぅーーっ………」


魔法使い「「オッケーよーーーーーっ!!!」」

勇者「…………」ゴソゴソ サーッ パンパンッ


『オッケーよーーーーーっ!!!』


勇者「!!」

勇者「避難が終わったか」ゴソゴソ カパッ

勇者「よし、爆弾も完成した」

勇者「火を付けて」ボッ

シュゥーーーッ……

勇者「爆破!」


ドゴォォォォォォーーン!!!!


騎士「っ!! 勇者か!」

魔法使い「わっ、すごい音……」

騎士「行くぞ」ダッ

魔法使い「はーい」タタッ

ボコボコボコボコボコッ

シュゥゥゥゥー………

勇者「………ふぅっ」

騎士「再生していたか。しかし」

魔法使い「うっわー、すごいね、こりゃ」

勇者「……おお、だいぶ削れたな」

騎士「銀もむき出しの状態でいくつもあるな」

勇者「よし、掘るか」

魔法使い「こりゃー大変ね……」


カンッ カンッ カンッ カンッ カンッ カンッ カンッ カンッ カンッ カンッ … … … … … … … … … … 


勇者「こんな所か。今、何袋くらいだ?」

騎士「俺は2袋分だ。袋がさほど大きくないからな」

魔法使い「あたしは1袋半。アンタら、よくもそんなに動いてられるわねー……」グテー

勇者「俺が3袋。合計6袋半で、9000Gくらいか」

騎士「上出来だな」

魔法使い「爆弾ってあと4個もあるんでしょ?まさかこんな作業をあと4回も……」ゾッ

勇者「いや、予想以上に大量に採れた。あと1、2回で持ち切れなくなりそうだからな、そのくらいにしておく」

魔法使い「あっそー、あたしはもう疲れたけどねー………」

勇者「次の場所を探すぞ」ザッ

騎士「ああ」ザッ

魔法使い「はーあ……」ザッ

魔法使い「ていうか、同じ場所を何回も爆破するんじゃだめなの?」

勇者「上半分くらいは空洞だろう。威力の無駄になる」

魔法使い「あー………そう」

勇者「……しかし、ゴーレムは現れないな」

騎士「そんなに会いたいか」

勇者「一目は見てみたいな」

騎士「だったら都合がいい」

騎士「ゴーレムが来ている」


ズシン、ズシン、ズシン……


勇者「うおっ」

ズシンッ、ズシンッ、ズシンッ……

ゴーレム「オオオオオォォォォォォォ……………」ズシィンッ

勇者「出たな」チャキッ

騎士「いざ」スラァン

ゴーレム「オオオォォォォォォォォォオオオオオオッ!!!!」ズシンッ ズシンッ ズシンッ

勇者「おっと、こっちか!」

騎士「はああぁぁぁっ!!」ダッダッダッダッ

騎士「せいッ!」ブンッ

ガキッ

騎士「ちぃっ、やはり堅いか」

ゴーレム「ォォォォォォオオオオオオ!!!!」ズシンッ ズシンッ ズシンッ

勇者「騎士の方には目もくれないか……俺がやるしかないな」ダッダッダッダッ

ゴーレム「オオオオオオオオオオオオッ!!!!」ズシンッ ズシンッ

勇者(よし、この距離なら、少し飛べば首に届──)

ゴーレム「オオオォォォッ」ピタッ グオオォォォッ

勇者「なっ」

勇者(腕を上げ………潰すつもりか!)

勇者(避けるか?………いや)

勇者(そうだ、思い出せ)


騎士『ふところに突っ込むのだ』

騎士『ふところに入れば、相手の攻撃は当たらない』


勇者「……ッ!」ダダッ

騎士「よし、それでいい」

勇者「とッ」バッ

ゴーレム「オオオォォォッ!!!」ブンッ スカッ

ゴーレム「オオオ…………オオッ?」

勇者「首がガラ空きだ」キランッ

勇者(そして)

勇者(突く時は、『剣を上下左右に動かさない』だったな)

勇者「………ふッ」ズドンッ ズバッ

ゴーレム「オオ……オオォ、ォォォ………」ゴシャァッ  パラパラパラ……

勇者「やったか」

騎士「今のは良い戦い方だったな」

勇者「そうか」

魔法使い「へぇ、やるじゃん、勇者さん」

勇者「騎士から似たような戦い方を教わってな」

勇者「さあ、進むぞ」ザッザッザッ

騎士「ああ」ザッザッザッ


ザッザッザッ………


勇者「よし、このあたりでいいだろう。避難してくれ」

騎士「了解」ダッ

魔法使い「はいはいっと」タッ





騎士「よし、もう安全だ。合図を」

魔法使い「はいよっと。すぅーっ」

魔法使い「「おっけーーーーーっ!!!」」




勇者「よし、完成だ」


「おっけーーーーーーっ!!!」


勇者「避難も終わったか」

勇者「点火」ボッ

勇者「爆破」

ドォォォォォォン!!!



騎士「行くぞ」ダッ

魔法使い「はいはい」タタッ



ボコボコボコボコッ
シュゥーーーッ


勇者「来たか。今回も大量みたいだぞ」

騎士「ふむ」

魔法使い「はー……また掘るのね……」

勇者「弱音を吐くな、掘るぞ」

カァンッ カァンッ カァンッ カァンッ カァンッ カァンッ カァンッ カァンッ … … … … …


勇者「よし、こんなところだろう」

騎士「そろそろ持てる量も限界だ」

魔法使い「うー、おもいー……」

勇者「全員、今何袋分だ?」

騎士「4だ」

魔法使い「3袋~……」

勇者「俺の5袋を足して、12袋か」

騎士「今なら18000Gだな。山分けにしても、一人当たり4500G」

勇者「楽な割にはいい報酬だな」

魔法使い「どこが楽なのよぉ……」

騎士「どうするのだ?帰るか?」

勇者「そうだな、こんなもんだろう、出よう」

魔法使い「はぁぁー……………」


───銀鉱山前、小屋

勇者「戻った。銀12袋だ。確認してくれ」ドサドサドサッ

依頼者「おおおっ、あの短時間で、よくもこんなに集めたものだね」

騎士「まあ、少しばかり、な」

依頼者「まあ方法なんてどうでもいいんだよ、とりあえず中身を……」バッ

依頼者「ふむふむ」

依頼者「全てまぎれもない本物だね

依頼者「12袋で18000Gだ」ガサガサ ドサァッ

勇者「ありがとう。では」

依頼者「また暇があったら頼むよ」

───旅人の巣

勇者「……お、僧侶か」

僧侶「あ、おかえりなさい、勇者さん!」

勇者「意外と大量でな、爆弾を使いきる前に手持ちが一杯になってしまった」

勇者「お前の分の金だ」ヂャリンッ

僧侶「え!?こ、こんなに、悪いですよ!何もしてないのに……」

勇者「そういうのは関係ないんだ。同じパーティーメンバーには、同じだけの金を得る権利がある」

僧侶「えっと、じゃあ、もらっておきますね。ありがとうございます」

勇者「そして魔法使い、宿代の100Gだ」チャリンッ

魔法使い「はいよ」

騎士「俺は空き地で素振りをしてくる」

勇者「……っと、騎士、それなら商店街に行かないか?」

騎士「何だ?何か買いたい物でもあるのか?」

勇者「お前の防具だ」

騎士「………そうだな、少し脆くなったかもしれん。替え時だな」

勇者「じゃ、行くか」

ちなみに爆発したら服はどうなるのか、といいますと、なぜか革の服ごと再生するという事で。


───商店街

勇者「おっと、忘れてた。爆弾を買った時の金をまだ払ってないんだ、払ってくる」タッタッ

騎士「自分から誘っておいてよくわからん奴だな」






勇者「待たせたな、行くか」タッタッタッ

騎士「ああ」

勇者「どういう防具がいいんだ?」

騎士「基本的には鎧がいいが、そこまで頑丈なものはいらん。あくまですばやく動けて、敵の攻撃を少しでも軽減できればいい」

勇者「ふむ」

騎士「……ちょうど、ああいった防具だな」

勇者「お?」

騎士「そこの店に飾ってある鎧だ。あの程度の装甲があれば問題無い」

勇者「へえ。値段、聞いてきたらどうだ?」

騎士「そうだな」

騎士「店主。訪ねたい」

店主「いらっしゃい、何か用か?」

騎士「あの鎧はいくらだ?」

店主「3000Gだな」

騎士「………ふーむ、3000Gか」

勇者「ちっと高いな」

店主「……おや?アンタの剣……」

騎士「…俺か?」

店主「そうともさ。その剣、良い剣だな」

店主「何年くらい使ってるんだ?」

騎士「2年ほどだな」

店主「2年か。それにしては、いい輝きだ。あんたが研いでるのか?」

騎士「最近研いだのは彼だ」

店主「……ほう。そっちも良い研ぎ師のようだな」

店主「そして、アンタの雰囲気……ただものじゃないな」

勇者「わかるのか?」

店主「何年冒険者を見てきたと思ってんだ、そのくらいわかる。良い剣士だ」

店主「良い研ぎ師に、良い剣士か」

店主「気に入った、2000Gで譲ってやろう」

騎士「……ありがとう」ヂャララッ

店主「ほれ、鎧だ」ドンッ

騎士「今着ている鎧を処分してほしいんだが、できるか?」

店主「大丈夫だ、できるぞ」

騎士「ならば頼む」ガチャガチャッ ドサッ

店主「大分ぼろっちいな」

騎士「しばらく使っていたからな」ガチャッ ガチャッ カチッ

騎士「ふむ、この鎧、だいぶ軽いが、なかなか頑丈だな」コンコンッ

勇者「ほお、よかったな」

騎士「いい買い物をした」

勇者「俺は特に買う物は無いし、宿に戻るか?」

騎士「こちらも特に無い。そうするか」

勇者「明日は劇薬が報酬の依頼があるといいんだが」

騎士「そうだな、次は全て見てみるか」



───旅人の巣

勇者「お、魔法使いに、僧侶か」

魔法使い「やっほー………って、なにそれ騎士、新品?」

騎士「ああ、先程買った」

僧侶「わぁー、ピカピカです~!」

勇者「丁度いい、部屋に行く手間が省けた。明日も依頼掲示板の前に集合だ」

魔法使い「わかったー」

僧侶「はーい」

魔法使い「じゃ、あたし達は買い物行ってくるから、また明日ー」スタスタ

僧侶「また明日です~」スタスタ

勇者「さて、俺は部屋に戻る、また明日な」スタスタ

騎士「同じくだ。また明日」スタスタ


───勇者の部屋

勇者「さて」

勇者「する事も無いし、寝るか」

勇者「………明日は死ねるかな」バタッ

勇者「……………」

勇者「…………」

勇者「……」

勇者「zzz……」

すいません、自分も寝ます
何度も隙間が空いて、たかだか140レス程度の内容に2日もかかってしまいました……
しかし、自分でも完結がよくわからないのでかなりグダグダと続くと思いますが、
次回もどうぞよろしく。

続けます


───翌朝、依頼掲示板前

勇者「誰も来てないな」

勇者「……少し早く来すぎたか」

勇者「まあいい、何かいい依頼は……」

勇者「……………」

勇者「……………」

勇者「量が多いな……これは時間がかかりそうだ」

勇者「……ん?」

勇者「何だこの依頼?」

[勇敢な戦士は]
[裏面を見よ] 
[この街が、滅ぶ前に]

勇者「……?」ピラッ

勇者「……ほう」

[よくぞ見てくれた]
[私は町長だ]
[もし、これを見ている者が勇敢な戦士であるなら]
[私の家に来るがいい]
[詳しい話はそこで話す]
[報酬は、私に用意出来る物ならなんでもいい]

勇者「………」

騎士「……早いな」スタスタ

魔法使い「おまたせー」

僧侶「おはようございます~」

勇者「町長宅へ行くぞ」

騎士「なぜだ?」

勇者「これに書いてある通りだ」ピラッ

騎士「……………ふむ」

勇者「まず真偽を確かめる必要がある。行くぞ」スタスタ

魔法使い「ちょっ、何、意味わかんないんだけど、待ってってー!」

僧侶「わ、私も置いていかないでくださ~い!」

───町長宅、前

勇者「ここだな」

勇者「町長!」ドンドン

町長「はいはい、何かね」ガチャ

勇者「用がある」

町長「悪いが私は眠いんだ、後に──」

勇者「この依頼の事だ」ピラッ

町長「!!」

町長「眠気が吹き飛んだよ、上がりなさい」

勇者「ああ」

騎士「どうやら本物だったようだな」

魔法使い「ねー、依頼って何よー」

勇者「これだ」ピラッ

魔法使い「…………へぇ」

───町長宅、前

勇者「ここだな」

勇者「町長!」ドンドン

町長「はいはい、何かね」ガチャ

勇者「用がある」

町長「悪いが私は眠いんだ、後に──」

勇者「この依頼の事だ」ピラッ

町長「!!」

町長「眠気が吹き飛んだよ、上がりなさい」

勇者「ああ」

騎士「どうやら本物だったようだな」

魔法使い「ねー、依頼って何よー」

勇者「これだ」ピラッ

魔法使い「………………へぇ、なるほどね」

───町長宅

町長「……では、早速本題へ移ろう」

町長「君達、西の火山は知っているね?」

勇者「ああ」

町長「あの火山は活火山だ」

町長「だが、特に大きな噴火があるわけでもない。常に少しずつマグマを出しているだけで、そこまで危険ではない火山だったんだ」

勇者「……だった?」

町長「そう、最近まではね。先日、とある報告があったんだ」

勇者「…………」

町長「普段通り流れていると思ったら、いきなり『何か』が飛びはね、多量のマグマが流れ出た」

町長「というものだ」

町長「最初は冗談かと思ったよ。しかし、その報告は何人もの住民から寄せられた」

勇者「その『何か』というのは?」

町長「わからない。間近で見たという住民によると、『まるで蛇のような形だったが、前足だけあった』とのことだ」

勇者「………魔物か」

町長「恐らくは」

町長「そして、私はふと、とある事を思い出した」

町長「この街はその昔……と言っても、数百年も前の話だ」

町長「突如出現した溶岩の神により、火山は大噴火。この街を含め、多くの街がマグマの海に呑まれたという」

勇者「……溶岩の神、というのは、その『何か』の事だと?」

町長「わからない。しかし、その可能性は十分にありえるといえる。このままでは、この街はマグマに呑まれてしまうかもしれない」

町長「それだけは絶対に避けたいんだ」

勇者「つまり、その魔物を討伐しろ、という事だな」

町長「そういう事だ。言っておくが、生きて帰れる保証は無い。だが、頼れるのは君達のような勇敢な戦士だけなんだ」

町長「………頼まれて、くれるか」

勇者「無論だ」

町長「…ありがとう」

町長「討伐の決行は2日後、必要な武器や防具があれば、全て無料で支給するように言っておく」

勇者「助かる」

町長「それと、商店街の途中に小さな鍛冶屋があっただろう。そこも訪ねてみるといい」

勇者「わかった。では」スタスタ ガチャ

───商店街

勇者「言っておくが、今回の依頼は俺一人で決行する」

騎士「言うと思ったがな」

勇者「なら話は早い。俺が討伐に出かける前に、どこかへ避難してくれ」

騎士「わかった。お前らもいいな?」

魔法使い「わかったわ」

僧侶「……はい」

勇者「じゃあ、俺はこれから、町長の言っていた鍛冶屋とやらに行ってくる。まあ、宿で休むなりしていてくれ」

騎士「了解、では」スタスタ

魔法使い「じゃーねー」スタスタ

僧侶「で、ではっ!」スタスタ

───小さな鍛冶屋

勇者「お邪魔する」

鍛冶師「……………」カァンッ カァンッ

勇者「町長に依頼されて来た勇者という者だ」

鍛冶師「………座んな」カァンッ  コトッ

勇者「ああ」ドサッ

鍛冶師「話は聞いてる。例の『溶岩竜』を倒してくれるそうだな」

勇者「溶岩竜?何だそれは?」

鍛冶師「火山にいる魔物の通称だ」

勇者「ふむ」

鍛冶師「町長がアンタをここに寄越したのは、俺に剣を打てってことだな」

鍛冶師「待ってろ、とっておきの鉱石を持ってきてやる」

数分後


鍛冶師「……これだ」ゴドンッ

勇者「……ふむ、大きいな」

鍛冶師「大きさもあるが……この鉱石には、ある特徴があってな」

勇者「特徴?」

鍛冶師「……絶対に溶けない」

勇者「…ほう」

鍛冶師「一度、端を失う覚悟で溶岩に突っ込んだ」

鍛冶師「だが、この鉱石は溶けなかった」

勇者「それはすごいな」

勇者「しかし……どうやって剣を打つつもりなんだ?」

鍛冶師「削るだけだ」

勇者「…なるほどな」

鍛冶師「待っていろ、明日には完成させる」

勇者「ああ。期待しているぞ」

───翌日、鍛冶屋

勇者「来たぞ、いるか」ガチャ

鍛冶師「丁度いい所に来たな。そろそろ完成だ」シャッ シャッ シャッ

勇者「ほう、削っただけにしては整った形だな」

鍛冶師「こういった事は始めてやったのだが、案外できるものだな」シャッ シャッ シャッ

鍛冶師「……ふーむ……」チャキッ

鍛冶師「…………」ブンッ

鍛冶師「よし、完成だ。受け取りな」スッ

勇者「ありがとう」パシッ

勇者「持ち手まで削って造ったのか」

鍛冶師「まあ、もしもの時のためだがな」

勇者「いや、助かる。……せいッ!」ブンッ

勇者「よし、問題無いな」

鍛冶師「俺に出来る仕事はもう何も無い。頑張ってくれよ、勇者さん」

勇者「……ああ。必ず仕留めてくる」

鍛冶師「よし、良い目だ。安心して任せられるな」

勇者「では、宿で考えたい事があるのでな。また会おう」ガチャ

鍛冶師「……またな」


───旅人の巣、勇者の部屋

勇者「………溶岩の神、か」

勇者「恐らく相手は溶岩の中から出て戦うつもりは無いだろうな……」

勇者「という事は、この剣を持って溶岩に突っ込む事になるか」

勇者「………数百年前にも同じ魔物が目撃された、という事は、同じ魔物か、その魔物の子孫という可能性が高いな」

勇者「勝てるのか、俺は」

勇者「……いや、違うな」

勇者「勝たなければいけないんだ」

勇者「この街を、護るために」

───翌朝、街の入り口

勇者「………!」

勇者「お前ら」

騎士「一応、見送りにと思ってな」

魔法使い「さびしい思いで発たせる訳にはいかないからねーん」

僧侶「ご、ご迷惑でしたら、すいませんっ!」

勇者「……いや、ありがとう」

勇者「必ず勝ってくる」

魔法使い「頑張ってねー、勇者さん!」

僧侶「負けないで下さいっ!私達、信じてます!」

騎士「………行ってこい」

勇者「ああ」

勇者「死ぬ為に、戦ってくる」

───西の火山

勇者「熱いな……」

勇者「おっと、溶岩が」サッ

勇者「量が多くなってきてるな」

勇者「……早めに登ろう」ザッザッザッ


───西の火山、火口付近

勇者「そろそろか」ザッザッザッ

勇者「……よし。少しのぞいてみるか」

勇者「よっと」ザッ


ザパァァンッ!!

ジュワアアァァッ


溶岩竜「………む?」

溶岩竜「何かいた気がするのだが……我の気のせいのようだな」

ボコボコボコボコッ
シュゥゥゥゥゥ……

勇者「……気のせいじゃないぞ」

溶岩竜「……人間、か?」

勇者「お前か、溶岩の神ってのは」

溶岩竜「ふむ。人間どもは我をそう呼んでいるのだな」

勇者「今は溶岩竜って呼んでるが」

溶岩竜「まあ、そんな事はどうでもよいのだ」

溶岩竜「何をしに来た、人間」

勇者「……一つ、問う」

溶岩竜「よかろう、答えてやる」

勇者「お前はこの火山を噴火させる気なのか?」

溶岩竜「如何にも。真の目標はそれではないが」

勇者「真の目標、だと?」

溶岩竜「人間は知らぬであろうが、溶岩の底には『コア』と呼ばれるものがあるのだ。コアがあるからこそ、溶岩は超高温を保っていられる。いわば、エネルギー源というものでな」

溶岩竜「我は数百年に一度、そのコアからエネルギーを少しばかり吸収し、生命力に変換する。こうして、何千年も生き永らえてきたのだ」

溶岩流「そして、エネルギーを吸収する際には、爆発的な衝撃が発生するのだ。それによって噴火が起こる」

勇者「なるほどな」

勇者「つまり、お前は人間の街をマグマに呑ませたいんじゃなくて、あくまで生きる上でのサイクルの一部だと言うんだな」

溶岩竜「その通りだ、人間。理解が早くて助かるな」

溶岩竜「となると、さしずめお主は我を討ちに来たといったところか」

勇者「そうだ」

溶岩竜「では、こちらも一つ問おう」

勇者「……何だ」

溶岩竜「お主らとて馬鹿ではあるまい、噴火を恐れて、どこかへ避難したのであろう」

勇者「……そうだが」

溶岩竜「ならば、なぜ我を討とうとする?噴火が起きたところで、お主らに被害は出ぬであろう。それなのに、お主は我を討つというのか」

溶岩竜「それは、この自然界における『悪』だぞ」

勇者「自然界の善悪など知るか。俺は人間の善悪で行動する」

溶岩竜「……いい答えだ、人間。そして、その眼からは強い意志を感じる」

溶岩竜「よかろう!相手となってやるッ」ザバァッ

ガシッ  ガシッ
ズルゥンッ

勇者「……火口からは出て戦うのか」

溶岩竜「お主はあそこには入れぬであろう。それに、あの中での動きは鈍くなる。戦えたものではない」

溶岩竜「さあ、来るがいい、人間!」

勇者「はあああぁぁぁぁッ!!」ダッダッダッダッ

溶岩竜「馬鹿正直に突っ込んでくるか!剣ごと溶かしてくれるッ!」グオォッ

勇者「はぁッ!!」ブンッ

溶岩竜「ぬぅっ!」ガッ

溶岩竜「溶けぬ……だと!?」

勇者「油断したな」スッ ズバッ

溶岩竜「ぐぬっ……!」

溶岩竜「だが、この程度では我を討つ事などできぬぞッ!!」

溶岩竜「砕けよッ!」ズヒュンッ

勇者「尾か!」

勇者「イチかバチか……止まれぇぇぇッ!!」チャキッ

勇者(突く時は、『剣を上下に動かさない』……!!)

勇者「ふッ!!」ズドッ

溶岩竜「ぬっ……剣で刺して止めるか!……しかし!」

溶岩竜「このまま巻いてしまえばよいのだッ!!」ギュルルッ

勇者「ぐあっ…!し、絞まる……!」ギリギリ

溶岩竜「なかなかの腕前だったが、所詮人間だったな」

溶岩竜「落ちよ」パッ

勇者「下は……」ヒュゥゥゥゥ

勇者「火口…………!!!」ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥ……


ドボォォンッ


溶岩竜「………さて、エネルギーの吸収をするか」

ボコボコッ
ジュワァァッ


ボコボコボコボコボコッ
ジュワァァッ


ボコボコボコボコボコボコボコボコボコ…………
シュゥゥゥー……


勇者(やはり再生したか!ひとまず上に上がらないとな……)

勇者(……そうだ、剣だ、剣で壁を刺して、登れるはずだ!)

勇者(どこだ……!)


プカッ
プカプカッ


勇者「そこかぁッ!!」パシッ

勇者「うおおおぉぉぉっ!!」ブンッ

ザクッ

勇者「よ、よし、壁には刺さっ」

ジュワァァァァッ

ボコボコボコボコッ
ジュワァァッ
ボコボコボコボコボコボコボコ……
シュゥー……

勇者(よし、再生が完了した、早く登らなければ…)ガシッ

勇者「おおおぉぉぉぉぉッ!!」ググッ パシッ

勇者(よし、上半身だけは溶岩から離せた……これで登れるぞ!)グイッ




溶岩竜「むぅ……?何か音が……いや、声か?」

溶岩竜「なぁッ!?あれはッ!!」


勇者「はぁっ、はぁっ……」ザクッ パシッ ググググ……

勇者「よ、ようやく、着いた………」


溶岩竜「お主ッ!!確かに先程、溶岩の中へ落ちたはずだ!なぜ生きている!」

勇者「色々事情があってな、死ねない身体なんだ」

溶岩竜「不死身、とでも言うのか?そんな事がありえる訳が無かろう!今度は我の手で叩き潰してやるッ」ブオンッ

勇者「速……ッ」グチャァッ

溶岩竜「手ごたえあり、だ」

ボコボコボコッ
シュゥー……

勇者「まだまだ、死ねないな」

溶岩竜「なッ……!!」

続けます、何度も途切れてしまってもうしわけない


溶岩竜「お主……どんな魔法を……ッ!」

勇者「魔法なんか使えないさ」チャキッ

勇者「行くぞ」ダダダダッ

溶岩竜「ぬうっ」ヒュオッ

勇者「一回、斬れればいいッ!」ダダッ ズバンッ

溶岩竜「効かぬと言っておろうがっ!」ブンッ グチャァッ


ボコボコボコボコッ
シュゥゥゥー……


溶岩竜「何故だ!?なぜ死なぬ、なぜ生き返る!」

勇者「だから言っただろう。俺は不死身だ」

溶岩竜「ありえぬと言っているのだッ!!」

勇者「別に信じなくてもいいさ」

勇者「ただ、一つ忠告しておく。このまま戦えば、お前は間違いなく負けるだろう」

勇者「そこで、だ。お前が他の場所の火山へ移ってくれるなら、街の人間にも話をつけてきてやる」

勇者「あくまで俺の目的は報酬だ。お前を殺す事じゃない。お前のような強い生命力を持った生物を進んで殺したいとも思わん」



溶岩竜「断る」

勇者「何故だ」

溶岩竜「数千年も生きてきた我に誇りが無いとでも思ったか」

溶岩竜「人間如きに負ける程落ちぶれた覚えは無い」

溶岩竜「そして、人間に背を向けるなど、もっての他だ」

勇者「…………」

勇者「……じゃあ、仕方無いな」チャキッ

勇者「殺す」ダダッ

溶岩竜「やれるものならやってみろ、人間ッ!!」ヒュオンッ

勇者「ちっ、遠すぎたか」

グシャァッ

ボコボコボコッ
シュゥゥゥー……

勇者「よう」チャキッ

溶岩竜「……!!」

勇者「油断したな」ズドンッ

溶岩竜「ぐほあぁっ!!」

溶岩竜「し、刺突で内臓を狙ったか……!」

溶岩竜「……だが、外れのようだな」ブオンッ

勇者「爪……!」

ザンッ

ボコボコボコッ
シュゥゥー……

勇者「その爪、なかなかの切れ味だな」チャキッ

溶岩竜「………なぜ、死なぬ」

勇者「なんでだろうな。俺にもわからん」ダダッ

溶岩竜「ふん」ズドォッ

勇者「ぐ……ふっ…」

溶岩竜「………」ポイッ

勇者「ぐおっ……」ズシャアッ

ボコボコッ
シュゥー

溶岩竜「…………」

勇者「まだまだだ」チャキッ

勇者「………」ダッダッダッ

溶岩竜「当たらぬ」ヒュオンッ

グシャァッ

ボコボコボコボコッ
シュゥゥゥー……

勇者「ここなら当たるな」チャキッ

溶岩竜「ぬうっ!」グオォッ

勇者「はぁッ!」ズバァンッ

溶岩竜「ふんっ!」ザンッ

ボコボコボコッ
シュゥゥー…

溶岩竜「どうしたら死ぬのだ、お主は……!」

勇者「さあな。俺が知りたいくらいだ」チャキッ

溶岩竜「ぐうぅッ!!」ヒュオンッ

グシャッ

ボコボコボコボコッ
シュゥゥゥー

溶岩竜「くそッ!!」ズバッ

ボコボコボコボコッ
シュゥゥー

勇者「よし、一撃入ったッ!」ザンッ

グシャッ
ボコボコボコッ
シュゥゥー…

勇者「もう一撃だ!」スパッ

ドゴォンッ
ボコボコボコボコッ
シュゥゥー

溶岩竜「何故だぁ!!」ズドォッ

ボコボコボコッ
シュゥー

勇者「はッ!」ズドッ

溶岩竜「ぐ、ぬ……!」ガクッ

勇者「どうやら今回は当たりのようだな」

溶岩竜「な、何故だ、人間」

溶岩竜「溶かした。潰した。砕いた。斬り裂いた。貫いた」

溶岩竜「何故、死なぬ……」

勇者「……死ねないからさ」

溶岩竜「…………」

勇者「もう動けないようだな」チャキッ

溶岩竜「……そうだ」

勇者「もう一度聞く」

勇者「他の火山へ移ってくれないか」

溶岩竜「何度も言わせるな。断る」

勇者「あくまで誇りを持つか」

溶岩竜「我は負けた。敗者は死ぬが定めだ」

勇者「………いいだろう」

溶岩竜「さあ、やれ」





勇者「さらば、溶岩の神よ」

溶岩竜「さらばだ、不死身の人間」



ブンッ

スパンッ



ドォ……ン

勇者「溶岩竜の討伐、完了」

勇者「速く皆に知らせないとな」ザッ

勇者「……………」ザッザッザッ


───西の街、入り口

勇者「……戻ってたのか」

騎士「ああ。貴様が出発してから大分時間が経った。恐らく成功しただろうと思い、多くの住民は既に街へ戻ってきている」

勇者「そうだ。依頼は達成した」

騎士「だろうな。不死身の貴様が負ける要因など無い」

魔法使い「お疲れさまー」

僧侶「お疲れ様でした!」

勇者「町長はどうした?」

騎士「町民への事情の説明などで忙しいようだ。報酬などについては明日話すと言っていた」

勇者「そうか」

魔法使い「疲れてるでしょ?宿行って休んだら?」

勇者「いや、不死身のせいかわからんが、あまり疲れは無い」

魔法使い「………どーりで。銀山の時はバカみたいに速いペースで掘ってると思ったら、そういう事だったのね」

魔法使い「じゃ、ご褒美として、一緒にお風呂入ってあげよっかぁ?」

勇者「……男に飢えすぎだろう……」

魔法使い「なっ、何よ!人を男ならなんでもいいと思ってる女みたいにっ!」

勇者「え」

騎士「…違うのか」

魔法使い「………ひどっ」

魔法使い「もういいもんっ!……僧侶ちゃん、あとで一緒にお風呂入ろっか」

僧侶「あ、はい……?いいですけど……」

僧侶「な、何でそんなに怪しい目で見つめてくるんですかっ!?」

勇者「まさかお前、そっちの気が……」

魔法使い「へあっ!?ち、違うわよ!僧侶ちゃんのお肌は白くてすべすべで柔らかいから、たまに触りたくなっちゃうのっ!」

僧侶「ま、まま、魔法使いさんっ!!……はずかしいですぅ……」

魔法使い「あー、ごめんごめん、ついうっかり」

僧侶「うぅぅ~……」

騎士「……自覚していないだけで、やはりお前……」

魔法使い「だから違うってばぁっ!!」

お盆めんどくさあばばばばば続けます



魔法使い「ってゆーかさー」

魔法使い「その、溶岩竜だっけ?…って、どんな感じの魔物だったわけ?」

勇者「そうだな……」

勇者「いや、話すと少し長くなる。宿へ向かいながら話そう」

魔法使い「おっけー」


───商店街

勇者「まず、見た目だ。これは住民の報告とそれほど変わらなかったな」

魔法使い「前足の生えた蛇…だっけ?」

勇者「そうだ。蛇と言うにはかなり大きかったが」

勇者「前足は移動に必要という訳でもない感じだったな」

騎士「では何に使うのだ?」

勇者「まあ、恐らく攻撃だと思う。爪が大きく、さらに切れ味も良かったみたいでな、何度も斬り裂かれた」

騎士「ふむ。つまり泥試合だったという訳だな」

勇者「……………まあ、そうだが」

勇者「尻尾は長かったな。それをムチの様に使って攻撃してきた」

勇者「前足の攻撃と違って威力は桁違いだったが、少し隙も出来るらしく、そこで斬りこむ事ができた」

騎士「ふむ……」

勇者「見た目はこんなもんだな。何か質問はあるか?」

僧侶「あ、じゃあ私から」

僧侶「えっと、表面はどれくらいの堅さだったんですか?」

勇者「そこまで堅い訳でも無かったな。斬撃の傷は少し浅くなるが、刺突をすればそれなりには刺さる、といった所だ」

僧侶「ふむふむ、鱗とかは無かったんですか?」

勇者「見たところでは無かったな」

僧侶「なるほど………」

勇者「他には無いか?」

騎士「無いな」

魔法使い「ありませーん」

勇者「では次だ」

勇者「会話は普通に出来たな。どうやらこの街が存在している事は知っていたらしい」

魔法使い「へぇ」

勇者「そしてここが重要なんだが」

勇者「奴は噴火を起こすのが目的では無かったみたいだ」

騎士「ほう?」

勇者「俺も初めて聞いたんだが………溶岩の底には『コア』なる物があるらしくてな」

勇者「それがあるから溶岩は超高温を保っていられる。いわばエネルギー源だ、と言っていた」

僧侶「は、初めて知りました……」

勇者「そして、奴はそのコアのエネルギーを数百年に一度、少しだけ吸収し、そのエネルギーを生命力に変え、何千年も生きてきたそうだ」

騎士「……という事は、数百年前の噴火もそいつがやったのか」

勇者「だろうな」

勇者「で、そのエネルギーを吸収する時には爆発的な衝撃が発生するらしい。それが原因で、噴火が起こる」

魔法使い「ふぅーん………」

魔法使い「て事は、その溶岩竜っていうのは、数百年に一度の食事って程度にしか思ってなかったって事?」

勇者「まあ、そうなるな」

勇者「俺が何度も再生するのを奴に見せてから、他の火山へ移ってくれないか、と交渉したんだが」

勇者「人間に背を向けるなどもっての他だ。と言って、あっさり断ってくれたな」

騎士「誇り高き魔物だったようだな」

勇者「ああ。特に凶暴な魔物って訳でもないみたいだったな。殺しに来るならやむを得ない、って程度だった」

僧侶「ほほ~」

勇者「まあ、その後は騎士が言っていた通り泥試合だ」

騎士「大体想像はつくな。何回殺されたか覚えてないだろう」

勇者「正直覚えてない。今までで一番殺されたかもしれん」

勇者「まあ死んでないが」

騎士「今回の報酬で死ねるといいな」

勇者「結構期待しているんだがな、今回は」

魔法使い「いやいや、溶岩に落ちて死ねない時点でムリでしょ」

勇者「……………………」

魔法使い「……あ、ごめん」

勇者「……………いや、いい。確かにそうだな」

勇者「………まあ、こんな所だな、溶岩竜については」

騎士「そうか。なかなか為になった、感謝する」

勇者「お、丁度いい、そろそろ宿に近付いてきた」

魔法使い「話してると短く感じるもんねー」

僧侶「全然気付きませんでした…」

勇者「到着だ」ガチャッ


───旅人の巣

店員「おお、あんたたちか!!いや、本当に助かった。宿泊代はいらないから、好きなだけ泊まっていってくれ!」

勇者「お、そうか。ありがとう」

魔法使い「わーお、思わぬ特典ゲット!」

僧侶「私達、何もしてませんけどねー」

騎士「まあ、いいではないか。少しでも金が浮く」

ネカフェで神のみ読んでました 面白かった


勇者「で、だ」

勇者「報酬について、少し相談したい事がある。少ししたら全員俺の部屋に集まってくれ」

騎士「了解」

魔法使い「よくわかんないけど、りょーかーい」

僧侶「了解です」



───数十分後、勇者の部屋

魔法使い「お待たせー」ガチャ

魔法使い「ありゃ、皆揃ってたんだ」

騎士「遅い」

勇者「よし、全員揃ったな」

勇者「では早速本題に移る。この依頼の報酬は、俺達が希望していい事になっていたな?」

騎士「ああ。この規模の街を守ったならば、その位は妥当だろう」

勇者「で、俺は報酬として、手に入るだけの劇薬を貰おうと思ってたんだが……」

勇者「……………溶岩に落ちて死ねない時点で、毒薬で死ねる望みは消え去った」

魔法使い「な、なんでみんな揃って私の方を見るのよっ!」

騎士「いや、お前のせいだろう」

魔法使い「あうっ」

勇者「まあ、それはいいんだ」

勇者「で、俺はもう劇薬は必要無いし、物として貰える報酬で死ねる手段が見つからん」

勇者「つまり俺が望む報酬が無いんだ」

勇者「まあ何が言いたいのかというとだな………」

勇者「お前らの中で一人だけ、俺の報酬を受け取る権限をやろう」

騎士「ふむ」

魔法使い「ま、マジで?」

僧侶「なるほど、その為に私達を呼んだんですね」

勇者「そういう事になるな。……というか、お前らは報酬として何を貰うんだ?」

騎士「金だな。しばらく消耗品や装備には困らない程度の金を貰う」

僧侶「私もお金ですねー。高級な魔道書とかも欲しいですし」

魔法使い「あたしもお金!お酒とか小説とかいっぱい買いたいし!」

勇者「………魔法使いだけ報酬無しでいいんじゃないか?一番どうでもいい物に使うつもりだぞ」

魔法使い「ちょっ、え、いいじゃん!」

騎士「せめて酒を買うのはやめろ」

魔法使い「むぅー……」

勇者「では、決め方だが」

勇者「ここに4つ、箱を用意した」コトン

勇者「そして、その中に一つずつ、この小石を入れる」チャラッ

騎士「運試し、という訳か」

勇者「その通り。察しが良くて助かる」

勇者「で、この赤い石が入っている箱が当たりだ」

魔法使い「3人の中で決めるのに何で4つなの?」

勇者「いい所に気が付いたな。全員ハズレの箱を選んだ場合、俺が適当なものを報酬として貰う。スリルがあっていいだろ?」

騎士「そのスリルはいらん」

勇者「じゃ、小石を入れていく。この時は見ていてもかまわないぞ」

騎士「わかった」

勇者「じゃあ、一つ目。ハズレの石だ」コトンッ

勇者「二つ目。ハズレの石」コトンッ

勇者「三つ目。これもハズレの石だ」コトンッ

勇者「そして最後。当たりの石」コトンッ

騎士「……………」

魔法使い「当たるといいなー…」

僧侶「どきどき……」

勇者「では全員、後ろを向いてくれ」

コトンッ スーッ カタッ


勇者「入れ替え終了。前を向いていいぞ」

魔法使い「何も変わって無いように見えるんだけど……」

勇者「じゃあ変わってないのかもしれないな」

僧侶「当たり、引けますように……」

騎士「…………ふむ」

勇者「じゃ、選んでいいぞ」

魔法使い「んー………、じゃ、私はこれで」

僧侶「私はこっちの箱で!」

騎士「…………」

勇者「どうした?騎士」

騎士「…………」スタスタスタ

勇者「な、なんでこっちに来るんだ?」

騎士「ここだな」ガシッ グイッ

魔法使い「ちょっ、勇者さんの腕なんて掴んで、何やってんの?ま、まさかアンタら……」

勇者「………当たりだ」パッ

騎士「赤い石。やはりな」

僧侶「え、あれ?何で勇者さんが持ってるんですか?さっき入れてたはずなのに……」

勇者「何でわかったんだ?」

騎士「概ね、箱に入れたような音は、ただ内側に石を当てただけの音だったのだろう」

勇者「……ああ、そうだ」

騎士「確かに上手い鳴らし方だったが、手を引き抜く時が不自然だったな。親指で何かを押さえている感じだったぞ」

騎士「手の出し方を統一していればもしかしたら気付かなかったかもしれんな」

勇者「ご名答。さすがだな」

魔法使い「だ、騙された……」

僧侶「全然気付かなかったです~……」

勇者「という事で、俺の分の報酬は騎士が貰う」

勇者「……そういえば、俺の分の報酬で、何を貰うつもりなんだ?」

騎士「そうだな……」

騎士「……馬車」

───翌日、町長宅

町長「──ふむ」

町長「では確認する」

町長「勇者、騎士、魔法使い、僧侶の順で、馬車、50000G、20000G、15000G」

町長「報酬はこれでいいんだな?」

勇者「ああ」

町長「では少し待っていてくれ。金はすぐ用意できるが、馬車は少し時間がかかる。専属の運転手も雇わねばならないからな」

騎士「運転手まで用意してくれるのか。ありがたい」

町長「ここらじゃそこそこ有名な運転手さ」

勇者「そりゃいい」

町長「夕方頃には恐らく用意出来ていると思うから、その時に街の入り口で会おう」

勇者「わかった。失礼する」ガチャ

騎士「では」

魔法使い「またー」

僧侶「また後ほど~」


バタン

───夕方、街の入り口

勇者「町長は……あれか。おーい!」

町長「……お、来たようだね」

町長「まず、お金だ。50000Gがこの袋、20000Gがこの袋で、15000Gがこの袋だ」スッ

騎士「ありがとう」

魔法使い「ありがとー」

僧侶「ありがとうございますー」

町長「そしてこれが馬車だ。毛布なども積んでおいた」

勇者「ふむ、中々大きな………ん?」

勇者「おい、何か見た事ないか、これ」

騎士「ああ。同感だ」

魔法使い「あー、確かに、なんか……」

僧侶「私も………」

町長「そして彼が運転手だ」

運転手「おう、よろし………」

運転手「って、アンタたちは!」

勇者「うおっ」

騎士「………ふっ」

魔法使い「うわっ!この前の人じゃん!」

僧侶「うわぁ!偶然ですね!」

町長「む、何だ、知り合いか?」

勇者「この街に来る時に乗った、馬車の運転手だ」

町長「なるほど、中々の偶然だな」

運転手「まあ、しばらくよろしくよ、勇者さん」

勇者「ああ。期待している」

騎士「ふっ、頼もしい限りだな」

勇者「さて」

勇者「そろそろこの街を出るか」

騎士「そうだな」

魔法使い「え、何で?」

勇者「劇薬が報酬の依頼を探す意味が無くなった」

魔法使い「あー……」

勇者「次は魔法に賭けてみようと思う。のだが、この街は魔法の技術がそこまで進歩していないみたいでな」

町長「劇薬云々はよくわからないが、そこまで魔法に頼った生活を送っていないからね、あまり進歩していない」

勇者「だろうな。という事で、次は魔法が盛んな街に行こうと思ってるんだが」

町長「それなら、首都に行けばいいんじゃないかな」

勇者「首都か………確かに、この国では一番盛んな場所だな。魔法に限らず」

町長「外来の者は基本的に通してくれないが、私が連絡しておくから、すんなり入れるはずだ」

勇者「助かる」

勇者「……では、明日の朝、首都に向けて出発する。今晩の内に準備をしておいてくれ」

騎士「了解」

魔法使い「わかったー」

僧侶「はーい」

───翌朝、街の入り口

勇者「揃ったな。忘れ物は無いか」

騎士「無い」

魔法使い「だいじょーぶ!」

僧侶「えーと………はい、大丈夫です!」

勇者「来た時より少し荷物が増えたな………まあいい」

勇者「運転手!出せるか?」

運転手「おう、いつでも行けるぜい!」

勇者「では全員、馬車に乗れ」ガチャ

騎士「久しぶりに感じるな」

魔法使い「あー、これこれ」

僧侶「やっぱり大きいですねー」

勇者「よし」バタン

勇者「出発してくれ!」

運転手「あいよっ!」パシンッ

ヒヒィィィィーーーン!!

運転手「へっ、こりゃまた…………おい、勇者さん、窓を開けてみな」

勇者「窓?」キィ…



町民A「勇者さーん!!ありがとー!!」

町民B「うちの店を守ってくれてありがとう!」

町民C「アンタこそ本物の勇者だ!!」

町民D「これからも頑張ってくれー!!」



勇者「…………!!」

運転手「町民全員が、アンタに感謝してるぜ」

騎士「それだけの事を貴様は成し遂げたのだ。誇っていい」

勇者「よっと」ガバッ



勇者「さらば、西の街!!」

勇者「また会おう!!!」


マタキテネー!! サヨウナラー! アリガトウ!!


勇者「……かなり離れてしまったな」

騎士「きっと今頃、街で貴様は英雄扱いされているのだろう」

勇者「少し照れるな」

続行


───馬車の中

勇者「……さて」

勇者「早速なんだが、魔法使い、僧侶」

魔法使い「ん?」

僧侶「はい?」

勇者「人を殺す魔法ってどれくらいあるんだ?」

魔法使い「それはどっちの意味での?」

勇者「……どっち、と言うと?」

魔法使い「つまり、大爆発を起こして殺したり、爆炎で焼き尽くしたり、まあ要するに魔法の効果は人を殺す事じゃない魔法と」

魔法使い「相手に効果があれば即死する、効果そのものが人を殺す事の魔法」

魔法使い「このふたつがあるんだけど」

勇者「俺が探しているのは後者だな。それもとびっきり強力な」

魔法使い「うーん、即死魔法っていうのは結構少ないのよね」

魔法使い「いや、ある事はあるのよ?単純に種類が少ないってだけで、使える人は結構いるし」

魔法使い「ただ、ね」

勇者「………?」

魔法使い「代償が大きすぎんのよ。相手が強ければ強いほど」

勇者「代償……?」



魔法使い「使用者の寿命よ」

勇者「寿命……」

魔法使い「別に一回使ったって寿命がゼロになる訳じゃないし、自分と同等かそれ以下程度の相手に使う分には寿命が3,4日減る程度なんだけど」

魔法使い「いや、3、4日程度でもかなり危ない魔法なんだけどね」

魔法使い「それが例えば……そうね、2回目の依頼のドラゴンに使ったとするとね」

勇者「………どうなるんだ?」

魔法使い「3、4日なんてもんじゃないのよ。大体寿命3年くらいは持ってかれるわね」

勇者「さ、3年……」

魔法使い「で、種類が少ないっていうのは、効果が単純すぎて種類を増やせないってだけなの」

魔法使い「まあ種類が違うっていっても、違うのは成功確率と消費寿命だけなんだけどねーん」

勇者「成功確率?」

魔法使い「そ。例えば、成功確率が小の即死魔法は、成功率20%くらいって言われてるんだけど」

魔法使い「さっきの話のドラゴンにそれを使うと、半年ちょっとくらいしか寿命持ってかれないのよ」

勇者「なるほど」

魔法使い「逆に成功確率が最大の即死魔法は成功率95%くらいね。ほぼ失敗は無いと思う」

魔法使い「で、それを使うと3年持ってかれるってわけ」

勇者「………」

魔法使い「ってな訳で、使える人はいても使う人はほとんどいない魔法なのよ」

勇者「なるほど、ありがとう」

勇者「僧侶は何か知っていないか?」

僧侶「う~~ん……」

僧侶「私の魔法は治癒や治療をメインとしているものなので、そういった攻撃系の魔法はよくわからないですね~……」

僧侶「力になれなくてすいません…」

勇者「いや、いいんだ。ありがとう」

僧侶「あ、でも」

勇者「ん?」

僧侶「対象を死に至らしめるんじゃなくて、使用者の魂を代償として発動できる魔法ならいくつかありますよ」

勇者「いや、俺は魔法に関してはてんでダメなんだ。最下級の魔法ですら使えない」

僧侶「あらら……そうですか」

魔法使い「ちなみに一応教えといてあげるけど」

勇者「お、何だ」

魔法使い「即死魔法って詠唱がアホみたいに長いのよね~ん」

勇者「……どれくらいだ?」

魔法使い「10分くらい」

勇者「…な、長いな…」

魔法使い「そんなの敵と戦いながら唱えられる訳ないでしょ?」

勇者「確かにな」

魔法使い「まあそんなのもあって、ダントツで人気の無い攻撃魔法ってこと」

僧侶「……というか」

勇者「?」

僧侶「勇者さんって、治癒魔法とか使うと逆効果になるんですよね?」

勇者「ああ、そうだが」

僧侶「じゃあ」



僧侶「蘇生魔法使っちゃえばいいんじゃないですか?」



勇者「………!!!」

魔法使い「あっ!!」

僧侶「え、な、何でそんなに驚いてるんですか……?」

勇者「いや……完全に盲点だった」

勇者「そうだ、少し考えればわかってたはずだ」

勇者「治す魔法で悪化するなら、蘇生する魔法で死亡する!」

勇者「僧侶、今すぐ俺に蘇生魔法をかけるんだ!」

僧侶「え、えぇぇ……」

僧侶「わ、わかりました………」

勇者「頼む」

僧侶「いきますよ」

僧侶「蘇生魔法!!」パァー

勇者「あ」フラッ

勇者「」ドサァッ

魔法使い「えっ、死んだ?」

僧侶「ええええっ!?そ、そんなっ!勇者さーんっ!!!」

勇者「…………」

魔法使い「う、動かないんだけど……」

勇者「…………」ビクンッ

魔法使い「うわっ!」

勇者「…………」ガタガタガタガタガタガタ

僧侶「な、ななな何ですか!?」

勇者「…………」ピタッ

勇者「………はッ!!!」ガバッ

魔法使い「うわわっ!!」ビクッ

僧侶「ゆ、勇者さん!!」

勇者「お、おう、お前ら……」

勇者「今までで一番死に近付いたような気分だった……」

すまぬ・・・すまぬ・・・


騎士「魂が抜けたかのような倒れ方だったぞ」

僧侶「騎士さんはよく平然としていられますね……」

騎士「人が死ぬ所など嫌というほど見てきたのでな」

勇者「………………」

魔法使い「………………」

僧侶「…………」

騎士「………すまん」

勇者「………えっと………ああ、そうだ」

勇者「即死魔法にもそれなりに種類はあるらしいが、蘇生魔法には種類は無いのか?」

僧侶「ありますよ~」

勇者「確率が違うだけ、とかそんな所か」

僧侶「いえいえ、即死魔法と違って蘇生魔法は全て100%です」

勇者「ふむ?」

僧侶「蘇生魔法は、ランクが高ければ高い程、ひどい状態の死体も蘇生させられるんです」

僧侶「例えば、私の使う蘇生魔法のランクは中くらいなので、腕や足が1本2本切断されている程度の死体ならば蘇生できます」

勇者「中くらいでそんな性能なのか」

僧侶「というか、蘇生魔法はまだ限界が見つかっていない魔法なんです」

勇者「限界?」

僧侶「えーと、そうですね、現存する蘇生魔法の中で一番ランクが高いものは、腕1本さえあれば蘇生できます」

僧侶「ただし」

勇者「ただし?」

僧侶「蘇生には条件があるんです」

僧侶「一つ目が、その蘇生魔法のランクで蘇生できる状態の死体であること」

僧侶「そして二つ目が、死亡してから半日以内の死体であること」

勇者「ふむ」

勇者「つまり、魔物の大群による大量殺戮が起きた場合、一部の者は蘇生魔法で助かるが、その他は時間切れで蘇生不可能、ということか」

僧侶「そういう事になっちゃいますね」

僧侶「あと、魔力も結構使うので、そんなにひょいひょいと使える魔法でもないんです」

勇者「…………魔力を無駄遣いさせてしまったようだな、すまん」

僧侶「い、いえいえっ!このくらいなら平気です、平気!」

魔法使い「へーきじゃないでしょって」

僧侶「ま、魔法使いさん……」

魔法使い「勇者さん………もう少し魔法の勉強してみたらどう?」

勇者「魔法使い」

魔法使い「僧侶ちゃん、あたしなら詳しくわかるから、蘇生魔法のランクと型、教えてくれない?」

僧侶「はい、ええと、中級上位の即効型です」

魔法使い「へえ、上位で即効型ね。なかなかやるじゃない」

僧侶「いえ、そんな事は……」

魔法使い「で、勇者さん」

魔法使い「中級上位の蘇生魔法……まあ要するに中の上って事よ」

勇者「………」

魔法使い「で、蘇生魔法っていうのは普通、数分の詠唱時間が必要なんだけど………即効型はすぐに発動できちゃうのよ」

魔法使い「その代わり、魔力をすっごい使うの」

魔法使い「えーっとまあ、大体………マックスの状態から2分の1くらいは持ってかれるわね」

勇者「に、2分の1………」

魔法使い「大体半日は休まないと回復しない量の魔力よ」

勇者「…………」

勇者「……ごめんなさい」

僧侶「ゆ、勇者さん、そんなに気にしないでください、私なら大丈夫ですから………」

魔法使い「僧侶ちゃん、こーゆーバカは何も知らないから、その内とんでもない注文してくるかもしれないのよ」

魔法使い「いっぺん反省させた方がいーのよ」

魔法使い「………で」

魔法使い「騎士くーん?」

騎士「………む?」

魔法使い「あなたなら魔法の知識くらいあるわよね?」

騎士「まあ、それなりには」

魔法使い「じゃー何か一言言っておくとかないのかなぁ、キミは」

騎士「……ぐっ……」

魔法使い「男二人は反省しなさいっ!」

勇者「………はい」

騎士「ぐぬぅ……」

魔法使い「で」

魔法使い「説教タイム終了!」

魔法使い「騎士くーん、なーに困っちゃった顔してんのよ、かわいい奴め!」ガシッ

騎士「ぬおっ」

魔法使い「うりうり~」ギュー

騎士「む、むおっ、ふっ」

勇者「なんだこいつ……」

僧侶「はっ、はわっ、はわわわああぁぁぁ…………」

僧侶「魔法使いさんっ!む、むねっ!胸っ!騎士さんの頭に当たってますっ!!」

魔法使い「ふっふぅ~ん、あ・て・て・ん・の・よ♪なーんて」ギュー

騎士「む、むぼっ、む、わ、むおっ」バタバタ

勇者「おい、そろそろ窒息するぞ」

魔法使い「あ、やば」パッ

騎士「ぶはぁっ!!!」

騎士「こ、殺す気か……」

魔法使い「ごめんごめーん、かーわいーい顔してるからついつい」

勇者「黙れ男に飢えた痴女」

魔法使い「だっ、なっ、ちがうってばぁっ!!!」

勇者「最早言い逃れは出来ない、いい加減認めたらどうだ」

魔法使い「違うもん!ぜっっったい違うもんっ!」

僧侶「で、でも、最近の魔法使いさんの行動はちょっとぉ……」

魔法使い「そ、僧侶ちゃんまでっ!?」ガーン

魔法使い「みんなあたしの敵なのね………仕方が無いわ」

勇者「何をシリアスっぽく言ってるんだお前は」

運転手「おォーい!ちっといいかー!」



勇者「何だ?」

運転手「えーと、誰でもいいんだが………あれだ、騎士、とかいったっけな、ちょっと前に来てくれや!」

騎士「む」

騎士「わかった、今行く」ガチャ

運転手「そこ、足元にちょっとだけ隙間空いてるから気をつけろ」

騎士「おっと」

騎士「で、何の用だ?」

運転手「そこから前、見えるか?」

騎士「ああ」

運転手「で、ちょっと質問したいんだが……」




運転手「アレって魔物か?」

騎士「………?」

運転手「アレだよ、えーと………ここ、砂漠だから慣れてねーと見にくいのか」

運転手「あの辺、よおぉーく見ると、少し盛り上がってるだろ?」

騎士「……………」

騎士「………ああ」

運転手「でもよ、あの盛り上がり方ってちっとばっかおかしいんだ」

運転手「まるで誰かが意図的に盛り上がらせたか、または」

運転手「何か『いる』ような感じでよ」

騎士「………進路にいるならば、一度様子を見るために馬車を止めるべきだな」

運転手「やっぱそう思うか?うし、ちょっと止めるぜ」

運転手「ほいっと」パシッ

ヒヒィィンッ
ピタッ

勇者「………ん?」

勇者「馬車が止まったみたいだな」

魔法使い「え、何?」

騎士「勇者、ちょっといいか」ガチャ

勇者「お、騎士。何で馬車が止まったんだ?」

騎士「進路上に謎の盛り上がりを見つけた。運転手曰く不自然な盛り上がり方らしい」

勇者「で、様子を見る為に止めたってところか」

騎士「そうだ。という事で、少し着いてきてもらうぞ」

勇者「ああ」

騎士「………念の為、剣も持っておけ」ガチャッ

勇者「……魔物の可能性もある、ってことか」チャキッ

騎士「相手は砂山か魔物かのどちらかだ。近付いたら即座に斬れ」

勇者「俺が先頭なのか………」

騎士「当たり前だろう、その不死身の体の使い時だ」

勇者「酷使(つか)い時、じゃないといいんだがな……」

騎士「行くぞ」ガチャ スタッ

勇者「おう」バッ スタッ

魔法使い「えーと、あたしたちは何してればいいの?」

騎士「もし魔物だった場合はすぐに応援に駆け付けられるようにしておけ」

魔法使い「おっけー」

僧侶「わかりました」

勇者「行くか」ザッザッザッ

騎士「ああ」ザッザッザッ


ザッザッザッザッザッ……


勇者「しかし、歩きにくいな……」ザッザッザッ

騎士「砂漠はそんなものだ、仕方無い」ザッザッザッ

騎士「ところで」

勇者「ん?」

騎士「その剣は何だ?」

勇者「ああ、溶岩竜討伐の前日に、とある鍛冶師が打った剣だ」

騎士「………普通の剣と何か違うのか?」

勇者「原理はよくわからんが、マグマでも溶かせない……金属?で出来ている」

騎士「ほう」

騎士「………これだな」

勇者「これは確かに不自然だな………」

勇者「早速斬るか?」

騎士「ああ、頼む」

勇者「……一応構えておいてくれ」

騎士「…了解」チャキッ

勇者「ただの砂山だといいんだけど……なッ!」ブンッ


ザンッ!


??「ギキキキキキキィィィィィィイイイ!!!」ドザァァンッ!

騎士「魔物かッ!!」

勇者「な、何だ!?」

騎士「恐らくサンドワーム、それも親玉クラスのサイズだ!」

勇者「サンドワーム!?こんなサイズの奴がい……」

騎士「!! まずいッ!くるぞ!!」

サンドワーム「キイイイィィィィィ!!」ビュンッ ガパァ…

勇者「うおっ」

騎士「口を大きく開いて……食う気か!!」


バグンッ


騎士「くっ!」

騎士「……いや、むしろ好都合だ。この前のドラゴンの様に、腹の中を斬り裂いてくれれば………」

騎士「……………」

騎士「剣が落ちてるんだが…………」

サンドワーム「ギイイイイィィィィッ!」ズルズルズル

騎士「くっ!」バッ

サンドワーム「ギ?」ピタッ

サンドワーム「ギギギギギギギギギギギ」クルンッ

騎士(恐らく鱗などは無い。よって、剣はすんなり入るだろうが………)

騎士(単純に質量で押し潰されるかもしれんな、または食われるか)

騎士(ここは応援を待とう)

騎士「こっちだ!」ダダダッ

サンドワーム「キイイィィィィィィッ!!」ズルズルズル

───馬車

魔法使い「わっ、あれって……」

僧侶「サンドワームじゃないですか!しかも親玉級!」

魔法使い「……マジで?」

僧侶「マジですっ!行きましょう!」

魔法使い「えー、でも、どうせ勇者さんがまたなんか……」

僧侶「そんなの関係ありませんっ!行きますよ!」グイッ スタッ

魔法使い「わかったわかった、わかったってばぁ」スタッ

僧侶「はぁっ、はぁっ」ダッダッダッ

魔法使い「は、走りにくーい……」ダッダッダッ

お久しぶりです。テストやら何やらで完全に忘れてました、申し訳無い。
ただぐだぐだ話しても特に意味は無いので早速続けます

騎士「はぁっ、はぁっ……」タッタッタッ

サンドワーム「ギィィィィィイイイイッ!!」ドザァァァ

騎士「足場が悪い……っ!」タッタッタッ

サンドワーム「ギイイィィッ!!」ザザザザザッ ガパァ…

騎士「ちいっ!」

騎士「くっ、おおぉっ!」バッ ズザァッ

騎士「よし、少し反撃といかせてもらおうかッ!」ザンッ

サンドワーム「ギ、ギ……ギキイイイイイイイィィィ!!」

騎士「手応え有り、やはり柔らかいようだな」チャキッ

騎士「……だいぶ動きも読めてきたところだ、2人が来るまでは持ち堪えてみせよう」ダッ

魔法使い「はぁ、はぁ………あっ、あれって騎士くんじゃないっ!?」タッタッタッ

僧侶「はっ、はっ、はっ……あれっ?ゆ、勇者さんはどこでしょう!?」タッタッタッ

魔法使い「さーあねっ!どーせまた食べられちゃったんじゃないのー!」タッタッタッ

僧侶「た、大変ですっ!急がなきゃっ!!」タタタタタッ

魔法使い「ちょっ、待ってって僧侶ちゃーん!」タタタッ





騎士「ぐっ……、…はぁっ、はぁっ………」

騎士「左腕、骨折……と、いったところか……っ!」

騎士「いや、あの巨体のタックルでこの程度で済んだのは幸運というべき…か」

騎士「深追いし過ぎだ、愚か者め……ッ!」

サンドワーム「ギイイィィ……」ガパァ…

騎士「はぁっ、はぁっ、………ちいっ」ダッダッダッ

騎士「くっ、まだか…ッ!」

騎士「いや、あと少しの筈だ…っ!反撃さえ試みなければ、問題な…」ガッ

騎士「しまっ」グラッ

サンドワーム「ギイイイイイイイイイイ!!」ドザザザァ

騎士(……避けきれん)

騎士(恐らく…このまま喰われるな……)

騎士(まあまあの人生だった───)


「射撃魔法────ッッ!!」

ドンッ……

ドゴォォォオン!


サンドワーム「ギ、キ、……ギキイイイイイィィィィィィァァァアアア!!!」ズシャアァァァン

騎士「な………」

魔法使い「大丈夫ッ!?騎士くんっ!!」ダダッ

騎士「あ、ああ……助かった」

僧侶「その左腕……やられちゃったんですかっ!?い、今回復魔法を……」

騎士「いや、俺は構わん、それよりも……」

魔法使い「あのデッカイのに仕返ししてやんないとねーっ……」ザッザッ

僧侶「そ、そうですねっ!もう許しません!」

サンドワーム「ギッ、ギイイ……キイイィィィィ!!!」ガバァァ

魔法使い「騎士くーん、ちょびっと後ろ下がってなさい」

騎士「……わかった」

僧侶「ま、ましゃ、まさか、アレ使うんですか?」

魔法使い「そっちの方が手っ取り早いでしょ?」

僧侶「ええ、まあ、そりゃそうですけど……」

魔法使い「じゃあ僧侶ちゃんよろしくぅ」

僧侶「どうなっても知りませんよっ!!」

僧侶「──結界魔法!!」キィイインッ

サンドワーム「ギイイイイイイイイイ!!」ドザザザザァァァ

騎士「……おい、……避けなくてもいいのか?」

魔法使い「まあ見てなさいってー」

僧侶「ひ、ひえぇぇ~……」

サンドワーム「ギイイイイッッ!!」ガキイィィンッ

騎士「……ほう」

魔法使い「えっへん、僧侶ちゃんにはこの前、結界魔法を覚えてもらったのよっ!」

騎士「見たところ規模は小さいようだが……効果はなかなかだな、完璧な防御だ」

魔法使い「でしょっ?んで、こんな感じでマヌケーに近付いてきちゃったヤツには」

魔法使い「あたしの射撃魔法で」キィィン

魔法使い「どーん、とね」ドゴオオォォォォン!!

サンドワーム「ギイイイ……ギ、ガ、カァ………」ドシャァァッ

魔法使い「んんーんっ、威力バッチリ!」

騎士「……なかなかやる」

魔法使い「どーってもんよー、なーんてねっ!」

騎士「しかし、前に馬車で使っていた射撃魔法とは比べ物にならない威力のようなのだが……」

魔法使い「あー、あれね」

魔法使い「今使ったのは形状を大砲の玉にする種類の射撃魔法なのよ、んで、威力は見ての通り高いんだけど」

魔法使い「魔力すんごい使うから疲れるのよねー…………ってことで」

魔法使い「助けてあげた恩を返してもらうついでにあとで馬車で腕枕してねっ!」

騎士「………………………」

僧侶「台無しです……」




勇者(…………何かすごい爆音がしたんだが……いつになったら出られるんだ?)

───しばらくして、馬車

勇者「……今回は何も役に立てずにすまん」

騎士「ああ……」

魔法使い「そこ肯定しちゃうんだ」

騎士「正直言ってこいつは食われただけだ、よりにもよって剣を落として」

騎士「まあ、今までの活躍があって良かったな、とだけ言っておく」

魔法使い「今回一番活躍したのはあたしと僧侶ちゃんでしょー」

僧侶「魔法使いさん、矛盾してますって」

魔法使い「2人で同着ゴールってことでいーの」

僧侶「は、はぁ…?」

騎士「……いや、見事な戦術だった」

魔法使い「へ?」

騎士「お互いを信用しているのが大きいだろう。心境というのは少なからず魔法にも影響すると聞く。今回はその信用がリラックスへと働き、魔力を出しやすくなったのだろうな」

魔法使い「……そ、そーお?えへへ」

勇者「……ところで、なんで騎士は腕枕なんてしてるんだ?」

魔法使い「そりゃあーもう、恩返しってヤツよ。騎士くんの」

勇者「騎士……まあその、なんだ、今後気をつければいいと思うぞ」

騎士「………ああ」

勇者「いい男が見つかるといいな。騎士と俺以外で」

魔法使い「なっ、なっ!」

魔法使い「なんで騎士くんは除外しちゃうの!?」

勇者「お前はパーティーメンバーをどんな目で見ているんだ」

魔法使い「異性を見る目」

騎士「やめろ」

僧侶「魔法使いさん……そ、そういうのは、パーティーの中で、その、そういう関係を持っちゃいけないかと……」

魔法使い「えー」

勇者「馬車から下ろされたいのか」

魔法使い「射撃魔法で撃ち壊すわよ?」

勇者「やめろ」

魔法使い「んーでもでも、今日は騎士くんの腕枕で寝るから」

騎士「……一応、助けてもらったという事実もあるしな……仕方あるまい……今日だけは付き合ってやろう」

勇者「……意外とまんざらでもないんじゃないか?」

騎士「変な勘違いをするな」


運転手「うおっし!いつでも出せるぞォ!!」


勇者「ああ、頼む!」

運転手「あいよ!」パシンッ  ヒヒィィィィーン


パカラッ、パカラッ、パカラッ………

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