高峯のあ「牛丼並……玉子とみそ汁もつけて」 (107)

●注意●
・短編形式
・日常系SS
・のあさんのキャラ、口調、クールなイメージが『著しく』崩壊します
・独自解釈している点が多々ありますので、ご了承下さい

●登場人物●
高峯のあ、他
http://i.imgur.com/zK8hxZs.jpg


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1585570123


●過去作
第1作:高峯のあ「牛丼並……あっ大盛りで」
高峯のあ「牛丼並……あっ大盛りで」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1447664976/)
第2作:高峯のあ「和風牛丼並……あっあとから揚げ」
高峯のあ「和風牛丼並……あっあとから揚げ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1448875583/)
第3作:高峯のあ「(プレミアム牛めし……あっあと焼のり)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1453369628
第4作(総集編):高峯のあ「牛丼大盛り……つぇ、つゆだケで……っ!」【番外編】
高峯のあ「牛丼大盛り……つぇ、つゆだケで……っ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1466684201/)
第5作:高峯のあ「牛丼並……4つでいいかしら?」
高峯のあ「牛丼並……4つでいいかしら?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1479041217/)
第6作:高峯のあ「牛丼とか……言ってる場合じゃない」【番外編②】
高峯のあ「牛丼とか……言ってる場合じゃない」【番外編②】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1540781116/)


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【吉野家?】


店員A「ご注文はお決まりですか?」

のあ「あっ、はい」

のあ「牛丼並……玉子とみそ汁もつけて」

のあ「……」

のあ「(フフッ……。名言よね、コレ)」

店員A「…………」

のあ「?」

店員A「よろしいんですか?」

のあ「えっ?」

店員A「ご注文は本当にそれだけでよろしいんですか!?」

のあ「っ!?」

のあ「アッ、ア、エ? えっ……」

店員B「驚かせてしまい申し訳ありません。しかし貴女は……」

店員B「貴女はなんと! 当店にお越しになられた100万人目のお客様なのですッ!」

のあ「!!!」

のあ「ヒ、100万人目……」

店員C「その特典として今回の代金は無料、つまり飽きるまで食べ放題ッ!!」

店員C「たくさんご注文していただいて結構でございますッ!!」

のあ「!?」

のあ「ほ、本当? いいんですか……?」

店員D「更に!!」

店員D「お客様にはこの特製のどんぶりを差し上げます!!」

のあ「ど、どんぶり??」

店員E「このどんぶりをご来店の際に持参していただければ、お客様には牛丼を無料で提供させていただけきます」

のあ「エッ!!」

のあ「そ、それってあの『キン肉マン』の作者に向けて、吉野家から感謝の証として贈られたっていう、あの都市伝説の……!」

店員E「我々からの、ほんの感謝の気持ちです」

のあ「(ッ!! 胴の部分に『高峯』って彫ってある! いつの間に!?)」

のあ「うそ……、ホントに……?」

店員F「そして更に!」

のあ「ま、まだあるの!?」


店員F「当店100万人来店記念に、お客様が考案していただくオリジナルメニューを当店で販売予定でございます」

のあ「それって……!」

のあ「前に、俳優の菅田将輝が吉野家とコラボした、ねぎ玉子とキムチをのせてボリューム満点テイストに仕上げた『菅田スペシャル』みたいな感じの……!?」

のあ「わ、私っ……あれから菅田将輝のファンになって、その、菅田将輝と竹達彩奈と中居正広とマートンはもう特に……!」

店員G「はい! お客様ともコラボさせていただきます!」

のあ「コラボ………でも、コラボって言っても、そんな、私みたいな……」

のあ「イケメン俳優とか人気アニメとかならまだしも、その……、吹けば飛ぶような一般人なんかと…………」

店員G「??」

店員A「何をおっしゃられますか、お客様」

のあ「……えっ?」

店員B「お客様……いえ、高峯のあさん」

店員C「貴女は、立派なアイドルではないですか」

のあ「ッ!!!」

店員D「華があり、その振る舞いに誰もが心を焦がし、羨望を抱く……」

店員E「アイドル、高峯のあ。いつもご活躍を拝見しています」

店員F「貴女のような方とコラボさせて貰えるなんて、本当に光栄です!!」

のあ「あ……、あぁ……っ」グスッ

のあ「あ、アイドル……、アイドルやってて、本当に良かった……!」ポロポロ











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【事務所 中庭】


周子「……」

のあ「…………」ムクッ

周子「のあさん」

周子「紗枝ちゃんからLINEで、のあさんの無防備な寝顔が送られてきたから、慌てて飛んできたけど」

周子「涎ダッラダラだよ……、天気がぽかぽかでちーっと油断したかね? はい、ハンカチ」

のあ「…………」

のあ「……………儚い、夢を視ていたわ」

周子「何の夢かは想像に難くないね」

のあ「……どうやったら夢の世界に行けるのかしら」

周子「デスタムーア様にお願いしたらいいんじゃないかな?」

のあ「……コラボ」

周子「ん?」

のあ「……高峯スペシャル」

周子「えっ?」


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【事務所】


みく「ん~~~……♪」

P「……」

みく「快適でいいにゃあ、クーラーが効いた事務所は♪」

P「猫はみんな、クーラーが嫌いって言うけどな」

みく「そう? みくは構わないけど?」

P「いくら女子寮のクーラーが壊れたからって、いつまでも事務所でくつろいでるもんじゃないぞ」

P「撮影の打ち合わせが終わったの、3時間前だろ?」

みく「えー……だって応接室でも、暑いからって沙理奈さんと聖來さんが水着のままのんびりしてたにゃ」

P「な、何やってるんだあの二人………そりゃあ、さっきグラビア撮影のための新作水着がどーとか言ってたが」

みく「ね? なんだかんだ皆、適当な理由を付けて事務所でゆっくりしたいんだよ」

みく「みくだって、こうやって事務所でゆっくりと過ごすのは久しぶりにゃ♪」ゴロゴロ

───ガチャ


アーニャ「お疲れさまです」

みく「あーにゃん、おっつにゃあ♪」

アーニャ「プロデューサー、これ、頼まれた買い物です」スッ

P「おっ、ありがとう。お釣りは机に置いておいてくれ」

P「先に好きなの取っていいぞ」

アーニャ「では……、この雪見だいふくを」

P「じゃあ俺はスイカバーもらいっ」

みく「……えっ! アイス!?」ガバッ!

アーニャ「皆さんの分も、ありますよ? いっぱい買ってきましたから」

みく「ハーゲンダッツ! ハーゲンダッツは!?」キラキラ

P「あのな、みく? あんな高いアイス、買うワケ無───」

アーニャ「はい、ありますよ♪ 7種類の味のなかで、どれがいいですか?」

みく「マカデミア! マカデミアナッツ一択にゃあっ♪」ガサガサ

P「(俺のお金……)」

アーニャ「……!」

アーニャ「ヴィ、ペォムニーチェ、ヴェータヴリーミャ……みく?」

みく「にゃ?」

アーニャ「こうして、みくとアイスを食べていると、2月の事を思い出しますね?」

アーニャ「のあと、3人で北海道に行った、あの日の事を」

P「あぁ、雪まつりのイベントのことか?」


みく「そうだねー……真冬のホテルで暖房を付けているにもかかわらず、アイスを買って食べたいとあーにゃんが言い出した時は」

みく「正気の沙汰じゃないと思ったにゃ。みく、寒いのは苦手だし」

P「おい。さっきと言ってる事が真逆じゃないか」

アーニャ「のあは……、彼女は、本当に綺麗な方です」

アーニャ「ハーフである私、よりも、雪のように白く透き通る肌で、あの撮影会は、誰しもが、彼女に目を奪われていました」

アーニャ「……雪化粧、とは、こういう事を、言う、のでしょうか?」

P「いや、ちょっと違うとは思うが」

P「まあしかし、確かに美人だよなぁ。ローマ美術の彫刻を彷彿とさせる滑らかな肌、おとぎ話の導き手のような謎めいた影のある雰囲気」

P「華奢な人かと思えば、体力テストでは美波を上回る成績だし、歌唱とダンスについては麗さんも太鼓判を押すほどだ」

P「今はまだエキストラや裏方に回る仕事が多いけど、大物になるポテンシャルは十分持っている人だよ」

P「な? 事務所でも何人か噂してるし、唯一同じ仕事をした二人も、そう思うだろ?」

みく「(…………)」

アーニャ「(…………)」

みく「(確かに……、眼光鋭いし近寄りがたいというか、ドライな人かと思った時もあるケド)」

みく「(でも、一緒に仕事した時は、なんだかんだ引率して貰ったし)」

みく「(風で煽られているビニール袋を猫と勘違いして追いかけてた事もあったし。その事に触れると、口止めとしてお弁当作ってくれたし。要求したのはみくだけど)」

みく「(……事務所のみんなや李衣菜チャンがウワサしてるよりは、真っ当なフツーの人かとは思うんだけど……)」

みく「ん~~………、よく分かんにゃい」

アーニャ「そう言えば……」

アーニャ「この前、自治会で一緒、でした」

P「自治会? 町内会か?」

P「町内会……。な、なんか高峯さんのイメージとかけ離れたワードだな」

アーニャ「ダー。私と、のあと、時子の3人で、ジャージ姿で、一緒にゴミ拾いを───」








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【高峯家】


ブオォォーーン…

のあ「あ゙あ゙ぁ゙~~~~……」

のあ「あ~つ~い~~~~………」

のあ「…………………………………」

のあ「わ゙~れ゙~わ゙~れ゙~ば~~~~~………」

のあ「ゔぢゅ゙ゔじん゙だぁ゙~~~~~……………」

のあ「あ゙あ゙あ゙あ゙ぁ゙~~~~~~~~~~~~~~……………」

ブオォォーーン…


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【???】


「ソロとして初舞台、それが生放送になるワケだけど………緊張する?」

*「期待に応えるまでです。あなた様、どうか最後まで、この私にお力添えを……」

「うん。もちろん応援してるよ」

「外部との連携はこっちでバッチリ受け持つから、あとは……」

*「はい。演出は先日話した通りに」

*「真の愛唱歌とは似て非なる、その……ぽっぷな印象ではなく」

*「星の瞬く音も聞こえてきそうな夜の静寂の、その闇に溶けてしまいそうな儚さで……」

*「自分の在り方を月に問うかのような、みすてりあすな雰囲気を演じてみたく思います」

「衣装も、それに見合ったものだったな。OK、演出はスタジオと相談してみるよ」

「あとバックダンサーはどうしようか?」

*「それは、…………」

*「……そうですね。折角の舞台故、私が直接吟味します」

「うん、分かった。近くの専門学校なら話が通しやすいんだけど……」

「もし他事務所の人を誘いたいなら、早めに言ってくれ。オーディションのスケジュールもあるし」

*「心得ました、あなた様」


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【事務所 応接室】


のあ「(私の名前は、高峯のあ)」

のあ「(24歳独身。職業はハイパードリームクリエイター(主に芸能関係))」

のあ「(この事務所にスカウトされて、半年近く経過します)」

のあ「(…………)」

のあ「(実はもうデビュー済みでCDとか発売しちゃったりもしてますが、主な仕事としてはドラマやCMのエキストラやパーツモデル等々。この前はどこかの大学でデッサンモデルとして出向きました。服は着てました)」

のあ「(忙しさに明け暮れる毎日……とはお世辞にも言えず、スケジュール帳は白い色が目立ちます。休みの日はレッスンか、家でゴロゴロしています)」

のあ「(懐事情も、健康で文化的な最低限度の生活を送れるくらいにはそれなりに保てています。たまにかなり派手に散財して、電気やガスが止まったり家賃が滞納して退去を迫られる時もありますが)」

のあ「(……けど、それより大事なことがあります)」

のあ「(先ほども言いましたが、アイドルとして活動を初め、半年が経ちます)」

のあ「(どの職場でもそうかと思いますが、今までは新人という肩書もあり、プロデューサーをはじめ、周囲からは目新しさや興味本位から、割と優しく接してもらっていました)」

のあ「(そろそろ、半年という月日の流れが、その目新しさを緩やかに慣らしていき、私も同じアイドル仲間として自然に皆に受け入れられてゆくものかと思っていましたが……)」

のあ「(…………)」

のあ「(…………全然、仲間として馴染めている気がしません)」


のあ「あぁ……、ああ……」

のあ「本当にマズイわ。そもそも自発的に話しかけようと試みた事なんて無いかもしれない」

のあ「楓さんと泰葉ちゃんが運良く隣の部屋にいなければ、今までやってられなかったかも分からないのに」

のあ「アドレスを交換したのは10人を越えたけど、でも友達と言えるかというと…………全く遊んだりしていないし」



*『え? 私はあなたの友達だと思っていました』



のあ「……うれしい。ありがとう」

のあ「友達含め、自分の居場所作りに関しては……」

のあ「学校でも職場でも、一般的には初めの3週間が勝負とか言うし。もう半年過ぎちゃったけど?」


*『もっと積極的に、自分をアピールしてみたらどうでしょうか?』


のあ「積極的に……。ムリ、ムリかなぁ」

のあ「貴女はコミュ力が高いかもしれないけど、私はどちらかというと陰キャだから、会話が持たないというか……自分の底が露呈するのが怖いというか……」

のあ「百歩譲って1対1の会話ならまだいけるの。けれど、そこに誰かもう一人加わると、もう私そっちのけで話がどんどん盛り上がって、私も適当に相槌打つだけで、いてもいなくても変わらないというか……」

のあ「例えるなら、アレ。3人で廊下を歩く構図だと、二人が楽しそうに会話しながら並んで歩く、その後ろから一人ポツンと付いて行くのが私で……。私がちょっと靴紐を結ぼうと立ち止まると、その二人は構わずスタスタ歩いて行ってしまって……、『あれ? これ私が一緒に歩く意味あるのかな?』みたいな……」


*『すみません。よくわかりません』


のあ「そっかぁ……そうだよね」

のあ「つまり何を言いたいかというと、アイドル活動を始めて半年が経って、もうそろそろ皆からチヤホヤされなくなる頃合いだけど……」

のあ「でもそうなったら私は便所飯まっしぐらだから……、だから、もっと皆から引き続きチヤホヤされたいの」

のあ「そのためには、どうしたら良いかという事なんだけど……」


*『もっと積極的に、自分をアピールしてみたらどうでしょうか?』


のあ「うーん……、私の考えとしてはね? 今月の目標は『友達作り』なの」

のあ「私の性格とキャラって、周りからはクールとかロボットとか超越神とか言われてるからね?」

のあ「それを受け入れて、明日からクールでミステリアスキャラを100%前面に押し出していってみたらいいんじゃないかぁって」

のあ「どう思う?」



*『よく聞き取れませんでした』

*『こんな風に話しかけてください。Wi-fiを有効にする、午前6時30分にアラームをセット、一郎くんに電話───』






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【岡崎家】


泰葉「………?」

泰葉「あの……、時子さん。隣の高峯さんの部屋から、なにか話し声が聞こえませんか?」

時子「……さあ」モグモグ

泰葉「(誰か来てるのかな?)」


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【事務所 応接室】


のあ「(siriちゃんにもお話ししたけど、今月の目標は『友達作り』)」

のあ「(そのためにまずは、しっかりとキャラを再認識するべきね)」

のあ「(クールに。クール…………よしっ)」

───ガチャ!


P「高峯さん、お待たせしました!」

のあ「……」

P「いやぁ、願ってもない申し出でしたよ!」

P「少し前にソロ活動を始めたAランクアイドルが出演する音楽番組、そのTV初披露の際のバックダンサーとして、まさかのウチの事務所から出演依頼とは!」

のあ「……」

P「俺としても鼻が高いです、高峯さん。オーディション通過、おめでとうございます」

P「そういえば彼女は、貴女とは髪色や雰囲気が似ていますね。これも何かの縁でしょうか」

のあ「……」

P「明後日、その事務所の横にあるスタジオで、メンバー全員の自己紹介を兼ねた打ち合わせをします。もちろん俺も同行しますが……」

のあ「……」

P「(………??)」

のあ「……」

P「高峯さん?」

P「今日はいつにも増して、その………口数が少ないというか、静かというか……」

のあ「(……)」






━━━━後日━━━━
【車内】


P「高峯さん。打ち合わせ、お疲れ様でした」

のあ「……」

P「彼女と高峯さん、どことなく波長が合ってるカンジで良かったです。俺なんて終始緊張しっぱなしで……」

P「全員、レベルが高いなんてもんじゃないですよ。今日は軽く流れの確認でしたが、終盤なんて皆さんほぼ完璧で」

P「初対面でどうしてあそこまで連携が出来るんでしょうね、もう脱帽でしたよ。もちろん、それは貴女も含めてですが」

のあ「……」

P「…………え、えっとぉ……」

のあ「……」

P「な……、なんかお腹空きませんか? ほ、ほらっ! そこの吉野家なんてどうですか??」

P「以前もご一緒しましたし、今日もどうかなぁ………なぁんて……」

のあ「」

P「あ、アハハ……………す、スイマセン、まっすぐ帰ります……」

のあ「(……)」グゥゥ…


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【事務所】


P「……美優さん」

美優「はい?」

P「最近、高峯さんに無視されてる気がするんですが……、俺、何かしましたかね?」

美優「Pさんが何かしたかは分かりませんが……」

美優「高峯さんなら、誰かれの区別なく無口な気がします。最近はいっそう」

美優「私もこの前、頷きだけでコミュニケーションが終了しましたよ」

P「や、やっぱりそうですか! どうしたのかなぁ」

美優「……虫歯とか?」

P「いえ、喋るのが辛そうというワケではないんです。この前の打ち合わせでも、自己紹介はしてたし……」

美優「うぅん……、本人に聞いてみては如何でしょう? ただでさえ多くは語らない人ですから、こちらから働き掛けてあげないと」

P「うーん……」









━━━━夜━━━━
【岡崎家 キッチン】


泰葉「あのーっ!」

泰葉「食後のケーキがありますけど、みなさんいかがですかー?」

楓『あ、ハーイ。欲しいでーす!』

時子『ええ』

泰葉「……」

泰葉「………?」

泰葉「あれ、楓さん? 高峯さんはそこにいますか?」

楓『ええ、いますよ』

泰葉「高峯さーん? ケーキ要りますかー?」

泰葉「……………………」

泰葉「高峯さーん!」

楓『……』

時子『……』

泰葉「……………………」

泰葉「………………………………………」

泰葉「3等分……っと」

泰葉「……」サクッ

時子『あーあ』

楓『や、泰葉ちゃん! 高峯さん、泣いちゃいましたよ!!』

泰葉「なっ、なんでですか!? 私のせいですか!?」


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【事務所】


───ガチャ

蘭子「闇に飲まれよっ!」(訳:おつかれさまですっ!)

蘭子「煉獄の業火が我が身を焦がす……、飽くなき救済を求める挽歌は、シヴァの息吹を呼び起こすであろう」(訳:外は本当に暑いですね……、事務所はクーラーが効いてて快適です♪)

蘭子「むー……?」

蘭子「終焉の調べか……?」(訳:誰もいない? 珍しいなぁ……)

蘭子「……」トコトコ

蘭子「よっ、と」ドサッ

蘭子「はー……♪」

蘭子「ん~~……っ」

蘭子「(涼しい……♪)」



ドタドタドタドタドタ……!!



蘭子「?」


───ガチャ!
バァン!!


蘭子「ヒッ!」




のあ「…………」




蘭子「せ、静謐の王女……!」(訳:た、高峯さん……)」

のあ「(ハー、ハー、ハー……っ!)」

のあ「(ま、間に合った! ら、蘭子ちゃんの出勤時間……!)」ドキドキ


蘭子「(は、走ってきたのかな? 息を荒げて………め、珍しい)」ドキドキ

蘭子「(き……、今日も綺麗だなぁ……少し髪が乱れてても、やっぱりカッコイイ……!)」

のあ「(ハー、ハー……、ふーっ……)」ジロッ!

蘭子「(ヒッ!)」

蘭子「(に、睨まれた!? い、いや……ち、違う、きっと目つきが鋭いだ、だけ、で……っ!)」ドキドキ

蘭子「(卯月さんが、昨日言ってた! 高峯さんは、見た目とは裏腹に優しい人だって………!)」

蘭子「(き、き、今日こそ、今日こそっ! おっお話……い、いえ、じ、自己紹介だけでも……!!)」

蘭子「(はぁー、はぁー、っ、…………あ、暑い! ……、あ、汗が……っ……はぁーっ……!!)」ドキドキ

蘭子「ゲホッ! ごほっ!?」

のあ「(ら、蘭子ちゃん……!)」

のあ「(……)」

のあ「(む、無口はダメってもう分かった! 蘭子ちゃんとお話しする時は……っ!)」

のあ「(『クール』に『厨二病』的な『インパクトのある』台詞を……!)」

のあ「(大丈夫っ。ファイナルファンタジーもやったし、BLEACHもドグラマグラも読んだし、飛影やルルーシュや八神庵の真似もしてみたし……!)」

のあ「(挨拶、挨拶から……クールに、クールにっ)」

のあ「(闇に飲まれよ的な、闇に飲まれよ的な……ッ!!)」

のあ「……っ」ドキドキ

蘭子「ワ……、わ、我が名は神崎蘭───」





のあ「興味ないわ」

のあ「……壁にでも話していなさい」





蘭子「ヒグッ!?」

蘭子「ハ、ひっ、ひ……、す、スミマセ…………!」ビクビク

蘭子「ヒ、ヒエッ………………ッ!」ダッ!

ガチャ! バァン!

タタタタタタタタ! ドテッ!!





のあ「…………」

のあ「…………」

のあ「…………ク」

のあ「クールって………」

のあ「…………なんだろ」

美波「(高峯さん……頑張って下さい……っ)」グスッ


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【事務所 応接室】


P「高峯さん。以前の共演の件の、衣装が届きましたよ」

P「シックでフォーマルなドレス、あまり飾り気のない清楚な印象で……、イメージは“ソフィスティケート”だとか」

のあ「(可愛いというよりは、大人びた衣装だわ………アイドルってカンジが全然しない)」

のあ「(仕事がデキる厳格な大人の女性が、休日に落ち着いたバーでお酒をゆっくり嗜んでいそうな………うん、そんなカンジ)」

P「振り付けも演出も衣装案も、全てそのアイドルが積極的に意見を出しているようでして」

P「……ウン、流石というべきでしょう。貴方にも、実にお似合です」

のあ「……」

のあ「(そういえば……)」

のあ「(プロデューサーさんって、私のキャラについてどう思ってるのかな?)」

のあ「(一番最初の頃は、まだ決めかねているって言ってたけど、その後アンニュイだとかミステリアスだとかサイバーゴスだとかオフィス系だとか……)」

のあ「(宣材写真だって、落ち着き目の服で普通に撮られたし。この前のライブだって、NARUTOのラスボスを思わせる神秘的なドレスを着せられて……)」

のあ「(……まあ)」

のあ「(需要があるのか、事実、今回もこういった衣装で、そのAランクのアイドルと共演までさせて貰えるし……)」

のあ「(この人の意見に従えばおそらく、間違いはないのだろうけど……)」

のあ「………」

P「高峯さん?」

のあ「………醇美な衣装。私には勿体無いくらい」

のあ「クールで、ミステリアスで……」

のあ「…………」


━━━━夜━━━━
【高峯家】


のあ「アー………」

のあ「確かに、クールやミステリアスなキャラはウケがいいのかもしれないけど……」

のあ「でも、可愛らしい恰好をしてお仕事もしてみたいわ」

のあ「着ぐるみでテーマパークのマスコットとか、メイド服とか、魔法少女とか………コスプレ?」

のあ「あぁ、やきもきする」

siri『もっと積極的に、自分をアピールしてみたらどうでしょうか?』

のあ「アピール……」

のあ「でも、こんなこと面と向かって言うのは恥ずかし───」

のあ「───!」ピーン!

のあ「そ、そうかっ! 別に口に出さずともいいんだわ!」

のあ「服装……、これでアピールすれば……っ!」

のあ「そうと決まれば、一旦クールキャラは忘れよう」ガタッ!

のあ「……」ガサガサ

のあ「可愛い服装……可愛い服装……」ガサガサ

のあ「…………」ガサガサ

のあ「………………」ガサガサ

のあ「……………………」ガサガサ

のあ「…………………………」ガサガサ

のあ「………………………………」ガサガサガサガサ











━━━━翌日━━━━
【事務所】


P「(……!)」

のあ「……」

P「高峯さん、これは珍しい」

P「貴女が、その……スウェットとパーカー……ですか? 控えめでグレーの……」

P「カジュアルな恰好ですね。いつもはもっと(SF映画みたいに近未来的で独創的な)洒落た格好をしているのに……」

のあ「…………」

P「……の、のあさん? ぐったりして……具合が悪いんですか?」

のあ「…………」

のあ「可愛い」

P「えっ?」

のあ「“可愛い”って……何かしら…………」

P「(ふ、深い! 禅問答か……!?)」


──────
────
──

──
────
──────
【レッスンルーム】


トレーナー「ハイ、じゃあ15分休憩しましょう」

真奈美「フー……」

みく「ふはぁー……」

のあ「……真奈美」

真奈美「ん。何かな?」

のあ「……理由を。何故、今回は私の練習に参加を?」

真奈美「ああ」

真奈美「君が今回、Aランクアイドルと共演するだろう? バックダンサーとして」

真奈美「今回のダンスは点で動くような激しいものではなく、官能的でかつ優美さを兼ね備え、不思議な魅力を感じさせるような………極めて行けばブガルーやロボットダンスと呼ばれるポップに近いスタイルに行き着くものだ」

真奈美「細かく切り分ければ正確には違うのだが………まぁ、とにかく興味があってね。勉強させて貰うよ」

のあ「(よく分からないけど)………心強いわ」

のあ「あと………みくも」

みく「にゃっ! みくも勉強にゃあ!」

みく「盗める物は盗んで、みくも早くランクを上げたいし♪」

のあ「(ふぅん……)」

みく「でものあにゃん、本当に大抜擢だね?」

真奈美「確かにな。大抵はダンススクールやそういう事務所に依頼するのだが……」

真奈美「変わった子だな。オーディションに関しても、他事務所から相性で厳選するとは」

トレーナー「私も教えられるのは基礎だけなので、メインは振り付け師の元で合同練習ですが……」

トレーナー「それまでに、みっちり基礎基本を叩き込むんで、しっかり付いて来てくださいね?」

のあ「無論よ」

のあ「(ヤバイ………今更だけど、Aランクアイドルとの共演が不安になってきた。でも頑張らなきゃ)」


のあ「…………」

のあ「真奈美、みく」

真奈美&みく「??」

のあ「少し、ここで待って貰えるかしら。外の自販機で………あれよ」

のあ「……御馳走したい。感謝を、形として」

真奈美&みく「(……!)」

真奈美「フフ……、じゃあ有り難く貰うとするよ」

みく「のあにゃん、ありがとうっ♪」

のあ「……明。貴女も」

トレーナー「め、滅相もない………、あ、ありがとうございますっ!」

のあ「(…………♪♪)」






━━━━━━━━━━━━
【通路 自販機前】


のあ「(フフフ……♪)」

のあ「(今のは間違いなく好感度アップだわ! 飲み物を奢る私っ……!)」

のあ「(事務所の自販機って、安いのよね♪ 500mlのペットボトルでも100円だし♪)」

のあ「(よし……、このスポーツドリンクを4人分4本……、400円………っと)」スッ


ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン
ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン
ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン
ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン ジャコン


のあ「(………♪)」

のあ「(! ……………………?)」





【 320 】





のあ「(…………!?)」

のあ「(う、ウソッ!? 何かの手数料!? そんな……っ)」

のあ「(ま、まさか吸い込まれた!? 10円玉40枚入れたのに………………ぃっ!?)」ジャララララー

のあ「(ガッ……、ほ、本当に32枚しか無くなってる!!)」

のあ「(か、返してっ! 私の10円玉8枚っ……!!)」ガンッ!

のあ「クッ……!!」

のあ「(お、奢れない!! 320円だと3人分しか買えない……、でも私の分は譲れない……)」


のあ「(……!!)」

のあ「(そ、そうかっ! 100円のペットボトルじゃなくて、80円の缶を買えば万事解決───)」

のあ「(───!? か、缶のスポーツドリンクが無い!? アクエリアスすら無い!!!)」

のあ「(お茶なら………でも、あれだけ見栄切って缶のお茶って地味………スーパーの大特価で30円で売ってるのに)」

のあ「(コーヒー………いや、苦いのは私が飲めない………ていうか何でこんなに種類の違うコーヒーばっかりあるのかしら………味の違いなんて有って無いようなものなのに)」

のあ「(果物系………けど、私のイメージじゃない………こんなの差し出したら鼻で笑われそう………主に真奈美さんに)」

のあ「(ぐ、くっ……!!)」









━━━━━5分後━━━━━
【レッスンルーム】


真奈美「ん。おかえり」

トレーナー「高峯さん、本当にありがとうございます♪」

みく「待ってたにゃー♪ さて、じゃあさっそ───」








【コーラ】








みく「───く……」

のあ「………………………………」








━━━━━20分後━━━━━


真奈美「ハァ、ハァ………ッ!」キュッキュッ

真奈美「(き……キツいな………アレを飲んで動くと…………ッ)」

みく「(う、生まれる…………うぷっ)」キュッキュッ

真奈美「(な、なにも全部飲む必要は無かったんだぞ、みく……ッ)」

みく「(そ、それは真奈美さんこそ…………っ、だ、だって……あんな『えっ、飲まないの?』みたいな視線をのあにゃんから向けられたら…………ウッ!)」

トレーナー「(で、出そうっ…………でも、すごい、高峯さん…………な、なんで顔色一つ変えず、今まで通りの動きを…………、さ、流石だわ…………うぐっ…………)」キュッキュッ






のあ「(は、吐きそう……っ)」グスッ

──────
────
──

──
────
──────
【高峯家】


のあ「友達作りと言えば……」

のあ「やっぱり一番は、共通の話題で盛り上がることがセオリーだと思うの」

Siri『はい、私もそう思います』

のあ「うん。以前にも、全く意図してはいなかったけれど……」

のあ「例えば、真奈美さんとならお料理の話(第1作)、伊吹ちゃんとなら恋愛映画の話(第2作)、夏樹ちゃんとならライブの話(第5作)……」

のあ「私のアドレス帳に入っている人達は、とりあえずきっかけがあって向こうから話しかけてきた」

Siri『すみません。よくわかりません』

のあ「つまり……!」

のあ「今度は私の番! 誰にでも共感・興味を引く話題を私から提供できれば……!」

のあ「お友達への第一歩! 好感度アップ間違い無しっ……!」

のあ「それにあたって、鉄板の話題はもうリサーチ済みよ」

のあ「ふ、フフフ……♪」ドキドキ








━━━━昼━━━━
【映画館 チケットカウンター】



『まだ会ったことのない君を、さがしている』



のあ「( 『君の名は。』 !!)」

のあ「(コレ! 君の名は。!!)」

のあ「(いまなんかすっごい流行ってて、老若男女誰しもが一日に2回は口にするほどの社会現象を巻き起こしていると噂の……!)」

のあ「(あぁ~……♪ ちょ、ちょっと楽しみ)」

のあ「(と、とりあえず券を買わなきゃ…………あー………こんな人ごみは久しぶり……緊張してきた……)」


━━━10分後━━━
【映画館 観客席】


のあ「(ふふっ……♪)」

のあ「(外は暑かったし奮発してコーラLサイズと、唐揚げとホットドッグとポップコーン……♪)」ゴクゴク

のあ「………」グビグビ

のあ「(人がいっぱいだなぁ………や、やっぱり若い人が多い……)」

のあ「(……これ、私の席……列の真ん中だけど…………)」

のあ「………」キョロキョロ

のあ「(トイレ、行っておこうかな…………いや、でも)」

のあ「(そろそろ始まりそうだし、大丈夫か)」

のあ「(……………♪)」ゴクゴク
















━━━1時間後━━━


のあ「ヒッ、フー、フー、フー……!」プルプル

のあ「ァ……あ、……あ、アノ……」

のあ「ス、スミマセ……ソノ……と、トイレに…………あの、道をヲォ………」プルプル

高峯さんの右側の席にいる関取のような体型をした女性「Zzz………」

のあ「(フゥー、フゥー、フゥー、フゥー……ッ!!)」

───クルッ


高峯さんの左側の席にいる関取のような体型をした女性「Zzz………」

のあ「オ、オォォ……!! ァァァ……!」プルプル

高峯さんの後方の席にいる関取のような体型をした女性「あの……すみません」

高峯さんの後方の席にいる関取のような体型をした女性「見えないんで、座ってもらっていいです?」

高峯さんの前方の席にいる関取のような体型をした女性「??」クルッ

のあ「ア!! ……す、すみま…せン………!」

のあ「……」カタン

高峯さんの右側の席にいる関取のような体型をした女性「Zzz………」

高峯さんの左側の席にいる関取のような体型をした女性「Zzz………」

高峯さんの後方の席にいる関取のような体型をした女性「……………」

高峯さんの前方の席にいる関取のような体型をした女性「……………」

のあ「(ふぅー、はぁー、ふぅー、ふ、ひ、ふっ…………!)」プルプル


──────
────
──

──
────
──────
【事務所】


美優「『君の名は。』?」

美優「あっ、巷で噂のアニメ映画ですか? 高峯さん、観たんですか?」

美優「う、ううん………この年になると、青春系の映画は人目が憚られますし」

美優「正直、観に行くかというと………。で、ですよね」

美優「けれど、その監督が以前に製作したという切ない恋をテーマにしたアニメ映画なら、多少の興味が……」





━━━━━━━━━━


P「君の縄?」

P「あ、あぁ! 『君の名は。』ですね!!」

P「興行収入が破竹の勢いで伸びているらしいですね。声優起用に関してはウチも一枚噛みたかった所ではありますが……」

P「興味ですか? うーん………いえ、実際のところはあまり無いです」

P「まあ、地上波で放送するなら、気が向けば………くらいですかね。どうせ観るなら『シン・ゴジラ』とか───」





━━━━━━━━━━


菜々「『君の名は』?」

菜々「もちろん知ってますよ♪ 高峯さんも、観たことがあるんですか?」

菜々「特に女性に人気を博した、原作はラジオドラマで、その後すぐに映画化されて大ヒットした悲恋の物語ですよね♪」

菜々「東京大空襲の際、銀座・数寄屋橋(すきやばし)で出会った男女が互いに名も明かさず、半年後の再会を約束して別れたものの……、戦火の渦に巻き込まれなかなか出会うことが叶わず、愛し合っているのに結ばれない───」

菜々「───えっ? 『君の名は。』??」





━━━━━━━━━━


雪美「??」

雪美「きみの名は……?」

雪美「…………………………」

雪美「………………ゆきみ?」

雪美「……………………??」


━━━━━━━━━━


美嘉「……あっ! えっ!?」

美嘉「あ、あぁ………ひ、久しぶり……!」

美嘉「え、映画? 『君の名は。』?」

美嘉「え、えっと……あ、その、み、観てないっていうか────」

美嘉「アレっ!? ちょっ、あのっ! ……えっ……………そ、それだけの用……?」

美嘉「……あー、きっと恥ずかしいのかな? ははっ♪」



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紗南「『君の名は。』? あー、美玲が言ってたかな?」

紗南「あたしはパスかなぁ……。うん、ああいう青春モノはちょっと退屈というか……、あっ、ハイスコアガールは好きだよ? えっ? 隕石?」

紗南「ね! ね? それよりさ、この前言ってたゲーム喫茶の話だけどね? KOFと首領蜂の基盤が入ったから一緒────って」

紗南「アレッ。た、高峯さん……?? お、おーい…………………」

紗南「………うぅん、もう少し乗ってあげるべきだった?」









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【事務所 中庭】

のあ「…………」

のあ「…………」

のあ「…………」シュン

















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【事務所 レッスンルーム】


美波「アーニャちゃん、今日って忙しかった?」

美波「もし良ければ、このレッスンが終わった後に一緒に映画とかどうかなぁって。今日はレディースデイだから割引だし……」

アーニャ「ええ♪ いいですよ、是非♪」

奏「伊吹ちゃん!!」

奏「き、『君の名は。』!! 『君の名は。』観に行きましょう、今日、今すぐにタクシー呼ぶから!!!」

伊吹「痛たたたたたた!!!! わ、分かったから、ひッ、引っ張るな腕をォォ!!!!!」


──────
────
──

──
────
──────
【高峯家】


のあ「(話題作り作戦は、あまりうまく行かなかった……。『君の名は。』、ラストがあっさり過ぎて拍子抜けしたけど、でも面白かったから良かったわ)」

のあ「(……かくなる上は)」

のあ「(そう、類は友を呼ぶ。かつて、楓さんとの出会いがそうだったように)」

のあ「(陰キャは引かれ合う、つまり……っ!!)」







━━━━翌日━━━━
【事務所 応接室】


文香「……」

文香「……」ペラッ

文香「……」



のあ「(……)」コソコソ

のあ「(ふ、フフ……♪)」コソコソ

のあ「(文香ちゃん、文香ちゃんがいたわ♪)」コソコソ

のあ「(以前ちょっぴり話したことがあったけど、まだ他人の域を出ていない子)」コソコソ

文香「……」ペラッ

のあ「(露出が少なく、いかにもネガティブで内向的ってカンジの地味な寒色系の服装! ひきこもりなインドア派を予感させる、日焼けとは縁のない不健康なほどに白い肌……!!)」コソコソ

のあ「(奥手で自信の無さを象徴するかのような、顔を覆わんとばかりの伸ばした前髪! 他者との関わりを拒絶し虚構の世界に閉じこもるオタク気質の典型的な趣味、『読書』……!!)」コソコソ

のあ「(陰キャ要素の数え役満! 滑稽なほど……陰キャ………!!)」コソコソ

のあ「(く、クク………、いかにも童貞に好かれそうで童貞キラーって感じのコ……!)」

のあ「(まさに陰キャを体現したかのような存在! これで陰キャじゃなかったら彼女は何だというの!? 詐欺師? 鷺沢だけに??)」コソコソ

のあ「(陰キャでないハズがないわっ! 私達、きっといいお友達になれる……!)」コソコソ




文香「(……)」

文香「(た、高峯さん……? ソファの陰に隠れて、一体何を……)」

───ガチャ!


文香「!」

のあ「(……!)」

ありす「おはようございます、文香さん」スッ

文香「おはようございます」


ありす「文香さん、この猛暑の中でよく厚着のままでいれますね?」

文香「ええ……カジュアルな服装だと、どうも落ち着かないと言いますか……」

文香「しかし季節感にそぐわないと言われれば否定はできません………鑑賞に堪えないでしょうか?」

ありす「いいえ。貴女なりの表現であれば、それでいい気はします」

ありす「けれど、脱水症や熱中症に気を付けてください。飲み物、下で買ってきたので、どうぞ」

文香「あっ……、ありがとうございます」

ありす「では私はレッスンの準備がありますから、また……」

───バタン



文香「……」

のあ「(……)」



───ガチャ!

フレデリカ「おつかれサマー♪ ああっ!」

周子「文香ちゃんだ。おつかれー」

フレデリカ「文香ちゃんっ! その服って、アタシと文香ちゃんが初めて会った時に着ていた服だよね!」

フレデリカ「うんうん、懐かしー♪ あの日の事は今でもセンメーに昨日の事のように覚えてるよー、昨日の晩ゴハンのメニューは忘れちゃったけど」

周子「ハイこれ、アイス。食べる?」

文香「この服は、先週購入したものですが………あっ、ありがとうございます」

周子「似合ってる似合ってる。ところで文香ちゃん、今日の夜さ?」

周子「あたしの家で志希ちゃんとフレちゃんと特製激辛鍋パするんだけれど、一緒にどうかな?」

文香「げ、激辛?」

フレデリカ「逆転の発想で、暑いから熱い物を食べると、暑さが裏返って涼しくなると思うんだー、えっ、ならない?」

フレデリカ「なせばなる! あきらめんなよっ!! ネバーギブアップッ!!! 修ッ造ッッ!!!!」

周子「暑くなる一方やないか」

文香「フレデリカさんの背中の土鍋は、そのためでしたか…………すみません、今日は先約がありますので……」

周子「おー、そかそか。じゃあさ、このフレちゃんの土鍋を一旦ここに置いとくから、ちょっと見といてくれる? 後で取りに来るから」

フレデリカ「文香ちゃん! その土鍋は生きているから、しっかり見張っておいてね! まるでタヌキみたいな尻尾とキュートなおめめが………アレ、これ土鍋だっけ?」

───バタン



文香「……」

のあ「(……)」



───ガチャ!

奈緒「お疲れさまでーすっ」

加蓮「あっ、文香さんだ」

凛「お疲れさま」

文香「お疲れ様です」

奈緒「あっ! ち、丁度良かったっ!」

文香「えっ?」


加蓮「あ、そだね。あのね、文香さん……?」

加蓮「今日のご飯行く約束だけど………、なんかね、お店が臨時休業みたいで……」

凛「ごめんなさい。また今度にしない? アーニャにも伝えておくよ」

文香「そうでしたか……非常に残念ですが、またの機会という事で」

奈緒「でさ? その代わりに……」

文香「はい?」

奈緒「さっきすれ違ったんだけど、周子さんの家でなんか『楽しい』鍋パやるって言うから……」

加蓮「文香さんも一緒にどうですか? 夏樹さんと伊吹さんも来るんだって!」

凛「フレデリカと志希も来るって言ってたね」

文香「(………………………………………………………………………………………………)」

文香「………………………………………………………………………………ゴ、ご一緒します」

加蓮「やった♪」

加蓮「じゃあ予定は3時間後だから、また後で戻ってきますね? 文香さんも一緒に向かいましょう♪」

凛「文香が一緒なら、更に盛り上がりそうだね」

文香「い、いえっ……今回の食事に期待されても応える事は特には……」

凛「えっ?」

奈緒「文香が来るなら、ありすも誘ったら尻尾振って来るんじゃないか?」

加蓮「いやぁ、ダメでしょ流石に小学生は。門限的に」

凛「じゃあ、アーニャにも連絡しとこう。周子さんとアーニャは、家がアレだったから多分大丈夫なハズ」

奈緒「じゃあ、また後で。ちょっと三人でプロデューサーのところに行ってくるから」

加蓮「お疲れさまでーす♪」

凛「(……)」

文香「? 凛さん?」

凛「気配がするような……………いや、なんでもないよ」

凛「また後でね。お疲れ」スッ

文香「はい、お疲れ様でした」

───バタン


文香「………………」

文香「……………………」




のあ「………………………………」




文香「あっ……」

のあ「……」

文香「高峯さん、お疲れ様で───」

のあ「……らぎり」

文香「えっ?」

のあ「裏切り陰キャ……っ」グスッ

文香「(う、裏切り陰キャ!?)」


──────
────
──

──
────
──────
━━━━夜━━━━
【ファミリーマート前】


のあ「……」モグモグ

のあ「(文香ちゃん……陰キャかと思ったら、あんなに交友が広いとは思わなかった)」

のあ「(てっきり私みたいに上の空でテキトーに話すか、せめて舌が回らずどもるかと……)」

のあ「……」モグモグモグ

のあ「(まぁ、いいや。私にはsiriちゃんとポケモンGOがあるし)」

のあ「(フフ……♪)」モグモグ






━━━━━━━━━━


伊吹「だいじょぶかな? その鍋パに飛び入り参加しても」

美波「ウン、良いと思うよ? 伊吹ちゃんは部屋が近いし、前も奏ちゃんに誘われて途中から来たことあったでしょう?」

美波「とは言っても、私もアーニャちゃんに誘われてちゃっかり参加する身なんだけどね」

美波「お土産にメロン持て来たけど、フレデリカちゃんに見つからないようにしようかな。メロン鍋にされそう」

伊吹「でも、こんな暑い日に鍋パかぁ」

伊吹「奴らのために、ジュースいっぱい買っておこっか……へへっ♪ そこのファミマで───」

伊吹「───……っ!?」ピタッ!

美波「ッ!!!!」ピタッ!





のあ「!!」モグモグ





伊吹「えっ……?」

美波「」

のあ「」モグッ

伊吹「あ………あっ、え、エ? ね、ねえ美波?」

美波「わ、私には何も見えないよ?」キョロキョロ

伊吹「いやまだ何も言ってないよ」

伊吹「あそこのファミマの前……、黒ジャージ姿でポニーテール、普段と違ってメガネもかけて、オマケにポケモンGOプラスを腕に付けてファミチキ食べながらスマホ弄ってるあの人……」

美波「よ、妖精の類じゃないかな?」

伊吹「……高峯さん?」

美波「仮に!! 仮に妖精じゃなくても!!! よしんば妖精じゃなくても!!!!」

美波「ひっ人違いじゃないかなッ!?」

伊吹「まず妖精の仮定がおかしいよね!? いやアレ絶対そうだよ!!!」

のあ「」


伊吹「あっ、あの……!」スタスタ

美波「伊吹ちゃん!!入り口はこっちだよっ!!!」グイグイグイグイ!!!

伊吹「痛だだだだだ!? も、持ってかれる!!!」グイグイグイグイ!!!

のあ「」

伊吹「たッ、高峯さん! 高峯さん!?」グイグイグイグイ!!!

美波「待って!! 助けて!!! 誰か、誰か人を呼んでぇっ!!!!」グイグイグイグイ!!!

伊吹「何で何で!? あ、あのッ……!!」グイグイグイグイ!!!

伊吹「た、高峯さんですよね!?」グイグイグイグイ!!!








のあ「ヒッ……」

のあ「ひとちがい……で、ですっ……」








伊吹「ッ!?」

伊吹「に……似た人…………?」

美波「ほら伊吹ちゃん!! 暑いから早く中にはいろッ!!!!」ギュウゥゥゥ!!!

伊吹「ちょ、ちょまっ!!!自動ドア反応してないからあ、あでででででっっ!!!!」ギュウゥゥゥ!!!

ピンポンピンポンピンポーン……♪


伊吹「(……!? き、消えた!?)」

伊吹「(一瞬目を離した隙に……………よ、妖精……!?)」















━━━━5分後━━━━
【高峯家】


のあ「ハーっ! ぜえっ、はぁっ! はーっ、ふ、はーッ、はぁ、ひぁっ、はあっ……!」

のあ「はぁーっ、はぁッ! へあ、ふぅ、ぜえっ、グッ! ン、はぁーッ、はあーっ……!!」

のあ「ハァー、ハァー、ハァー、ハァー、ハァー、ハァー、ハァー、ハァー、ハァー、ハァー、ハァー、ハァー、ハァー、ハァー、ハァー、ハァー、ハァー、ハァー、ハァー、ハァー、ハァー、ハァー」

のあ「オ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙ッッッ!!!!!!!」

のあ「ア……、ンフ、く、ふっ……!」

のあ「……っ」グスッ


──────
────
──

──
────
──────
【事務所 応接室】


のあ「……」モグモグ

周子「へえ、すごい。Aランクアイドルのバックダンサー?」

のあ「うん」モグモグ

周子「あそこの事務所って、確か全員がSに近いAランク評価だった気がする。小規模ながら粒揃いの、超強豪プロダクション」

のあ「……周子ちゃんは?」モグモグ

周子「あたし? あたしはC」

周子「ウチの事務所にもSランクは3人しかいないけどさ、全体から見て、その中でもシューコちゃんはまんなかくらいかなぁ」

のあ「……私はG」モグモグ

周子「(G? Gなんてあったかな……)」

のあ「……」モグモグ

周子「……」

周子「それにしても……」

周子「………じー」

のあ「そ、そないに見んといてっ……」モグモグ

周子「かまわんでえーよ」

周子「のあさん、今日のお昼は吉野家のテイクアウトかー」

のあ「うん」

周子「好きやねー。飽きないの?」

のあ「飽きない。毎日でもイケる」

のあ「でも最近はお金が無くて……月一の楽しみに……」

周子「へー」

周子「この前話してた夢の出来事じゃないけどさ?」

周子「実現は不可能じゃないかもね。高峯スペシャル」

のあ「えっ?」


周子「んー。じゃあ分かりやすく例を挙げるとしたら」

周子「まずはコラボだね。共演や利的協力のことだけど、コラボって言っても定義は幅が広いんだよ」

周子「ミュージシャンや他分野のアーティスト同士がユニットを組んだだけでもコラボだし、ブランド・食料品諸々のメーカーと共同企画してもコラボ」

のあ「………わ、分かりやすく言うと?」

周子「はいよー。主に広告起用だけど……」

周子「『新田美波×日商簿記検定』、『和久井留美×秘書検定』、『柊志乃×ワインコンシェルジュ』」

周子「さらに、『上条春菜×メガネブランド』『宮本フレデリカ×美容整形外科』、『北川真尋×スポーツメーカー』、『日野茜×JRFU』、『神崎蘭子×玲音、A.I.R.A認定オーバーランクアイドルと夢の共演』」

周子「……そして、『ニュージェネレーション×すき家』」

のあ「あっ! 確かに、この事務所に入りたての頃、CMを見たことあるかも」

周子「ウチの事務所が誇る数少ないSランクアイドル城ヶ崎美嘉は、国内大手ファッションブランドメーカーとコラボして商品企画まで携わってたりもして……」

周子「もっと言うと、今度のあさんがバックダンサーとして共演するそのアイドルも、都内有名ラーメンチェーンとコラボして考案したオリジナル商品を期間限定で提供していたりもしたね」

のあ「へえ~……」

周子「本来なら、有名になって培ったコネを活かして、独立してからそーいう『ブランド』だったり『飲食店経営』を展開したりするんだけどさ」

のあ「飲食店経営……!」

周子「ちょっと人気が出てくると、そういうオファーがバンバン入ってくるんよ」

周子「のあさんもこれからどんどん人気が上がったら、ひょっとしたら何かの商品とコラボできるかもよ?」ニコニコ

のあ「う、うんっ! 私もいつか吉野家とコ───」

のあ「────ああああぁっ!?」

周子「わ!!」ビクッ!












~~~~~~~~~~

『───さあ、今日は吉呑みしましょう♪』

『───「吉野家」』

『…………でも、呑みすぎはよしなや? ……ふふっ♪』

~~~~~~~~~~~





━━━━夜━━━━
【岡崎家】


楓「……そういえば」

楓「吉野家とコラボしたことありますね。私」(第4作参照)

泰葉「私もありました。あくまで吉野家はおまけで、本命は携帯キャリアの宣伝ですが……」(第5作参照)

のあ「……」グスッ

のあ「(くやしい……っ)」

──────
────
──

──
────
──────
【事務所 応接室】


楓「この前、なか卯もコラボしてましたよね? アニメやソーシャルゲーム、有名歌手とかと」

周子「あぁ、ソレ知ってます」

周子「一部の商品を注文するとオマケとして描き下ろしのオリジナルカードが貰えたり、レシートや食券で、特製製品の応募が出来たり」

楓「ふふふ……!」

楓「私っ、『艦これ』のコラボの時は、必死でカードを集めましたっ」

楓「おかげで2キロばかりダイエットをする羽目になりましたが……」

周子「楓さん、結構ミーハーなんですね」

のあ「(この間、泰葉ちゃんが言ってたなぁ……本当だったんだ)」

楓「あと、アレもいいですよね」

楓「なか卯って食券制でして、券売機をタッチすると、その注文を復唱するかのようにメニューを読み上げる自動音声が店内に響き渡るんですが……」

楓「アニメや歌手とコラボしている期間は、その自動音声がキャラクターや本人の声に差し替わっているんですよ♪」

周子「へえー。楓さん、詳しいね」

のあ「……」

楓「私、なか卯は贔屓にしてるんです♪」

のあ「……」ピクッ


楓「なか卯の、ぎゅぴぎゅぴとした歯応えの唐揚げと冷たいビールの取り合わせは、もう最高ですよ♪」

周子「なんすかその、屈強なサイヤ人が歩いてきそうな歯応え」

楓「シメのうどんのラインナップも実に豊富! 小腹が空けば牛皿をちょっと摘まんだり……!」

楓「特に! 蒸し暑い夏っ! 汗水垂らしたサラリーマン達が何かに追われるように慌ただしく牛丼をかきこむのを傍目に、空調の効いた席でキンキンに冷えたビール片手にそれらを悠々と満喫している時なんて、もうッ……!」

周子「至福?」

楓「…………」

楓「…………いえ、その……『私の人生、これでいいのかな?』みたいな気分に……」

周子「(何だろ、この人………のあさんと同じタイプのニオイがする)」

のあ「……楓」

楓「はい?」

のあ「……なか卯が好きなのね」

楓「えっ? ……は、はい」

のあ「……吉野家のCM出たのに」

のあ「………………………」

のあ「………………………」ギリッ

楓「ヒッ……!?」





━━━━20分後━━━━

周子「のあさん?」

周子「さっきのは、ちょっと良く無かったかな。楓さんからしたら、いわれのない恨みなワケだし」

周子「楓さん、トイレに行ったきり帰って来んし」

のあ「ごめん……」

周子「……でも、ファンからしたらニヤっとするかもね。好きなキャラの声で迎えられるのは」

のあ「私もやってみたい……声優とか、ちょっと興味あるかも」

周子「のあさん、日常では全く声張れんけど大丈夫なん?」

のあ「…………オホン」

のあ「なっ、なみー」

周子「もうちょい声張らんと、バイトとしてですら採用されんレベルだよ?」

のあ「お……、おおもりーー」

周子「お。ちーと明こなったね。でもまだ恥ずかしさが抜けてへん」


周子「もっと……、こう、腹から声出すみたいにさ? 麗さんによく言われない?」

のあ「(…………)」

のあ「………………すうっ……!」

のあ「トッ!」








━━━━━━━━━━
【事務所 会議室】


美優「セラピスト向け雑誌、ですか?」

P「ええ。主に医療従事者や自然療法に携わる専門家の意見交換や、植物に関する研究発表であったり、アイドルとは趣が違うような堅い印象を受けますが……」

P「リラクゼーションに関する特集やエステティシャンの方々のインタビューであったりと、美と健康を意識した幅広い内容を取り扱ったりもするんです」

真奈美「化粧品メーカーの宣伝であったり、商品開発に関しての分析であったり、美と香りに関する歴史の紹介であったり、コンテンツもかなり充実していると聞いているよ、私も」

P「ええ、その通り。ですので美優さんには肩の力を抜いて、自身の好きなように意見投稿をして欲しいんです」

美優「はい、有り難い限りです」

P「化粧品メーカーの提供もありまして、美優さんの肌やメイクの写真を、その、かなり撮らせて頂けるようでして……」

P「その雑誌では、特に芸能絡みの特集としては異例の、個人で6ページ分」

真奈美「おぉ、光栄じゃないか、美優?」

美優「そ、そんなに頂けるんですか……、私に務まるかどうか」

真奈美「三船美優、美肌アプローチ特集か…………これは買いだな」

美優「かっ、からかわないで下さい!」

P「いえいえ! 自信を持って下さい、貴女だからこそ今回のオファーがあった訳ですから!」

P「美優さんの美しさに迫るインタビュー、写真、コラム! そりゃもう、余すことなく盛りだくさ───」





<  特盛ィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!





P「!!」

真奈美「!!」

美優「!!」

P「(……………………………………………………………………………………)」

真奈美「(……………………………………………………………………………………)」

美優「(……………………………………………………………………………………)」






P「(…………??)」

真奈美「(…………??)」

美優「(…………??)」

──────
────
──

──
────
──────
【事務所 更衣室】


───ガチャ

莉嘉「あっ、いた。お姉ちゃん」

美嘉「あれ、莉嘉じゃん。今日はレッスンじゃないでしょ?」

莉嘉「ウン、このあとPくんと一緒にショッピングだよっ☆」

美嘉「へえぇ、ラブラブだね」

美嘉「あー、なるほどね莉嘉、だから今日気合入れてキメてるんだ」

莉嘉「えへへ♪ 分かる、お姉ちゃん?」

美嘉「涼しげなオフショルダーのトップスでダイタンに、この前買ったばかりのハートのイヤリング。メイクのノリもバッチリじゃん。うん、イケてるイケてる♪」

美嘉「でも、あんまり街中で目立っちゃダメだよ?」

莉嘉「分かってるよ♪ ま、ショッピングのあとはPくん次第かなー?」

美嘉「……ていうか莉嘉、何か用?」

莉嘉「えっ?」

美嘉「だってさっき、『いた』って。アタシを探してたとかじゃなくて?」

莉嘉「あー、ううん? ベツにこれといった用じゃないケドさー」

美嘉「?」

莉嘉「お姉ちゃん、さっき廊下で夏樹さんと話してたじゃん?」

美嘉「!!!!」

莉嘉「コソコソしてたカンジで、なんか色紙みたいのもらって、嬉しそうにしてたから……」

莉嘉「……あっ。その色紙?」チラッ

美嘉「違うよ!! 莉嘉、これはジミヘンの色紙だから!!!」

莉嘉「イ、イヤ………まだ誰の色紙かは聞いてないんだけど……」

莉嘉「いきなり大声出さないでよ、もう。ビックリするじゃん」

美嘉「ご、ごめん……」


莉嘉「じゃあサイン色紙なんだ? お姉ちゃんの手の下にあるの」

莉嘉「ジミヘン………って、誰だっけ? アメリカ人??」

美嘉「うっ、うん。チョー有名人かな、ロック界の………夏樹もファンだって」

美嘉「こっ、このサインはその、アレだよ。さっ、最近、手に入ったからって……譲って貰って……」

莉嘉「へぇ~。フーン……」ニヤニヤ

美嘉「ハ、ハハ………」

莉嘉「お姉ちゃん、目がくるくる泳いでるよ?」ニヤニヤ

美嘉「なっ、なにが……っ??」

莉嘉「ジミヘンが活躍していたのって、確か半世紀以上も昔でしょ?」

美嘉「し、知ってるの?」

莉嘉「ウン、ちょっとだけね。そんな昔の人のサイン色紙が、色褪せないで真っ白なのはちょっとヘンかなって」

美嘉「っ!!」

莉嘉「あははははっ♪ お姉ちゃん、ウソつくのヘタすぎー♪」

莉嘉「ねえねえ、誰のサインー?? それとも、なんか書いてあるの???」

美嘉「ちょッ! だだ、ダメだって莉嘉!!」

美嘉「い、いいから早くプロデューサーと出掛けなって!!」

莉嘉「いーじゃん、P君もまだ美優さんと打ち合わせしてたしさ?」

美嘉「ちょっと嘘ついた! ゴメン盛った、流石にジミ・ヘンドリックスは嘘!」

莉嘉「じゃあ誰?」

美嘉「うん? ……アー…………」

美嘉「………………エ、エルヴィス??」

莉嘉「エルヴィス・プレスリー!? だから半世紀以上昔の人じゃん!!」

美嘉「あぁもうっ!!」

美嘉「じゃあヴァン・ヘイレン!! マイケル・ジャクソンっ!! ブルース・リーっっ!!!」

莉嘉「あははははっ♪ お姉ちゃん、もう最後はミュージシャンですらなくなってるし♪」

莉嘉「盛りすぎ盛りすぎ♪ 一体何───」





<  特盛ィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!





莉嘉「!!」

美嘉「!!」

莉嘉「(……………………………………………………………………………………)」

美嘉「(……………………………………………………………………………………)」








莉嘉「(…………??)」

美嘉「(…………??)」

──────
────
──

──
────
──────
【事務所】


美優「この前の生放送、お疲れ様でした。ハイ、お茶です」コトッ

のあ「生放送……?」

美優「えっ? この前、あのアイドルのバックダンサーで出演してましたよね?」

美優「生放送で」

のあ「(……!?)」

のあ「(な、生放送だったの!? よ、良かった………事前に知ってたら緊張で吐いてたわ)」

のあ「……微力ながら、主演の子に華を添えただけ」

のあ「人々の熱も歓声も、視線も……全ては彼女の輝きに注がれていた」

美優「あっ。あとですね?」

のあ「?」

美優「先ほど、Pさんが事務所で喜んでたんですけど、知ってますか?」

のあ「……」ズズッ

美優「のあさん、ネットで取り上げられてましたよ」

のあ「ブヘホッ!!!」ダバー

美優「(!?)」ビクッ!

のあ「………キ、興味深い」ダラダラ

美優「の、のあさん! 口と鼻からお茶がっ…………て、ティッシュどうぞ?」

のあ「……」フキフキ

美優「はい、コレ……分かります? ネットの意見をまとめたサイトらしいんですが」

のあ「…………」ヒョコッ



~~~~~~~~~~~~

【話題沸騰?】ソロ曲を初披露した四条貴音の、その後ろで踊るバックダンサーが美人すぎると話題に【高峯のあ】

・先日生放送にて、765プロダクションの四条貴音さんが自身初となるソロ曲をテレビで初披露。その際、彼女の後ろで踊る4人のバックダンサーのうちの一人が、やたら美人と話題になっています。


───Mステ観てるんだけど、四条貴音のバックダンサーが美人すぎる

───お姫ちんの左後ろにいる女性がヤバい。綺麗すぎる

───貴音より後ろにどうしても目がいく

───銀髪の外国人? ダンススクールの有名な方?

───【悲報】お姫ちん、ソロデビューを無名エキストラに喰われる


※注目の彼女の詳細は下記に記載
~~~~~~~~~~~~



のあ「(……!!)」

美優「SNSでも話題になってますよ。“美人すぎるバックダンサー”って」

美優「ただ、Pさんも言ってたんですけど、ちょっと懸念が……」

美優「ネットに取り上げられて話題になること自体は本当に喜ばしいことなんですが、それは逆に言えば…………」

美優「……って、のあさん? どこに行くんですか?」


━━━━━━━━━━
【女子トイレ】


のあ「え、えへ………フフフ……♪」

のあ「~~~……♪」ピッピッピッ

のあ「…………」

プルルルルルル♪

ガチャ!


のあ「あっ、もしもし。おかん?」

のあ「ウン、あー、今せつろし?」

のあ「ウン。ウン、ええって、せんどもええってそんな、ぼやかんといて」

のあ「……あんな? ネットでな?」

のあ「ウン、私のこと、おっきく取り上げられてはるんよ。ふふふっ♪ “美人すぎるバックダンサー”やて。ほんにな、信じられる?」

のあ「あ、ウン。エヌエスエヌな、うん? ちゃうって! エヌエスエヌやって!」

のあ「エヌエスエヌ! そう、『NSN』!!」

のあ「NSN!! そう、そこにとりあげられてるんやって!!!」

のあ「もー……、よう聞いといて。信じられんわぁ……いまどきそんな言葉も知らんの?」







━━━━━5分後━━━━━
【事務所】


───ガチャ

のあ「………ふぅ」

美優「あっ、お帰りなさい」

のあ「無知とは……恐ろしい物ね」

美優「??」

のあ「……それで、美優」

のあ「多数の人々の評価、傾聴に値する。続きを聞かせて欲しいの」

のあ「『NSN』に書かれていたことや………、他にも、全て」

美優「ええ、はい。え───」

美優「───…………………………………………………」

美優「(え……『NSN』…………!?)」


──────
────
──

──
────
──────
━━━━━━夜━━━━━━
【事務所】


P「高峯さん、この間は本当にお疲れ様でした」

のあ「……生放送かしら」

P「ハイ! SNSやネットニュースで、高峯さんの名前がついに大々的に上がりましたね」

P「以前、デビューの時も多少話題になったことがありましたが、今回は……」

P「初のテレビ出演!」

P「そして、あのAランクアイドルの話題を掻っ攫うほどのインパクト!」

P「なんてったって、“美人すぎるバックダンサー”ですよ?」

のあ「あの子に勝るというのは………酔狂な錯覚。過大な評価……」

のあ「(“美人すぎるバックダンサー”は正直嬉しいけど)」

P「ハハハ、またまたご謙遜を」

P「(…………)」

P「……ただですね? そのことに関して、俺からも一つだけ高峯さんに注意があります」

P「別に、なにも貴女が悪いことをした訳では無いのですが、こればかりはこの業界でも切って離せない事でして」

のあ「?」

P「うーん……」

P「ここで話すものなんですから、場所を変えましょう」

P「折角のテレビ初出演記念です。どこかお祝いも兼ねて食べにでも行きましょうか」

P「どこか、行きたいお店でも……」

のあ「(……!)」

のあ「…………」


http://i.imgur.com/icfs7Hs.jpg


のあ「(ウッ……)」

P「………」


http://i.imgur.com/H7btUnC.jpg


のあ「その…………え、エット……」

P「?」

のあ「ア、貴方の意思に委ねるわ」

P「えっ、そうですか?」

P「じゃあ、吉野家でも行きますか」






http://i.imgur.com/RYwc5Tx.jpg






のあ「(……!!?)」

のあ「よ、吉野家……!?」

P「えっ、は……、ハイ」


P「高峯さん、以前俺にこう言っていたの覚えてます? アイドルとしての初仕事を終えた後……」



~~~~~~~~~~

P『ちなみに、お店はどこが良いですか?』

のあ『……店?』

P『ええ。予約が必要な高級レストランとかは厳しいですけど……でも、高峯さんのためなら、今日は俺も頑張りますよ』

P『もし今決められないようでしたら、肉や魚や麺類とか、食べたいジャンルでもアバウトに言って下されば───』

のあ『……吉野家』

P『───ん、えっ?』

~~~~~~~~~~



のあ「……!」

P「それに、高峯さん。前に送迎中、車の中で吉野家の牛丼をおいしそうに食べていましたよね?」

P「最初は俺の懐事情に気を遣ってくれて、格安の吉野家なんて軽いジョークだろうとは思いましたが……」

P「……高峯さん。ひょっとして、吉野家とか好きだったりします?」

のあ「(ァ、あぐっ……!)」

P「いえ、高峯さんと共演したあのアイドルも、同じくクールでミステリアスを謳っていますが、その実は大のラーメンマニアと聞いてまして」

P「もしかすると高峯さんも、そういった庶民的な嗜好とか持っていたりするんじゃないかなぁって………」

P「なぁんて」

P「ジョークですよ。あくまで俺の妄想です」

のあ「あっ……!」

P「え?」

のあ「………ッ!!」

のあ「(ぜ、絶好のチャンスじゃない! いまこそ、いまこそ勇気を振り絞って言うの!!)」

のあ「(プロデューサーさんが考えているクールな路線も良いけど、本当は……!)」

のあ「(可愛い衣装もいっぱい着たいし! 牛丼もいっぱい食べたい! あわよくば吉野家とコラボがしたい……って!!)」

P「??」


のあ「こ、コラ、ボ……!」モゴモゴ

P「えっ、何ですか??」

のあ「す、ス、好き……、よ、ヨシノヤ…………」

P「えっ? もう一度言ってください?」

のあ「ア、そ、ソノ…………」モジモジ

pppppppp………!!


P「ん?」

P「メールだ………、ん…………ンッ!?」

のあ「ド、どうした、の……??」

P「あ。いや、その……少し待っていて下さい、すぐ戻ります」スッ

のあ「あっ……」

───ガチャ
バタン












━━━━━━━━━━
【事務所 別室】


奏「丸ビルに、女性人気のフレンチレストランがあるの。お店の名前は、『le sourire de la deesee(ラ・スーリール・ドゥ・ラ・デェス)』………意味は『女神の微笑』」

奏「高揚した女神の唇から微笑と言葉が流れ星のようにこぼれ、さながら蛍が飛び立つ野のように光が優しく伝わり、眼下一面に輝きが溢れていく」

奏「赤レンガ駅舎を初めとしたビル街の、きらびやかに火を灯す素敵な夜景が一望できるらしいわ……、美妙な例えと思わない? ふふっ」

奏「あっ。予約は2人分だけど、そうね……………Pさん、店の前までエスコート、お願いできる?」

P「チョ、ちょ、待───」

紗枝「なあなあ、Pはん? さっきな、牛丼がなんとか言ってはりましたけど……」

紗枝「国際通りに『浅草今半』てお店にな、えらい美味しい牛丼があるんよ。んんと………前にどちらさんと行ったんやったかなぁ……?」

紗枝「今からみんなで、そこによばれに行きまへん? もちろん、高峯はんも一緒に……♪」

P「な、何が!? いや、オ、落ち付───」

李衣菜「ちょ、プロデューサー!? 財布の中に2000円しかないよ!?」ゴソゴソ

李衣菜「ダメだよ! お祝いとか言ってたけどさ、高峯さんのプライベートタイムの規模はロックフェラー並なんだから、間違えると大ヤケドするよッ!?」

李衣菜「ナイトクラブ貸し切って! たっかいボトルをじゃんじゃん空けて! 銃弾の花火を打ち上げて、極め付けには警察車両とパーリナイ!! 逃走費、まず逃走費が足りないよ、ねえねえ、suica幾ら入ってる??」ブンブン

P「カ、返して、さ、財布……や、ヤメ───」

美波「……プロデューサーさん」

美波「彼女達の暴走を止められなかった私にも責任はあります………でも、高峯さんは、何か大事なことを告白しようとしていたんじゃないですか?」

美波「もう一度、彼女の言葉にしっかりと耳を傾けてあげてください……」

美波「ちなみに折角のお祝いだし、吉野家より……そうですね? 私の家とかどうですか?」

P「す、スミマセン……スミマセン……」



──────
────
──
※お祝いは延期になりました

──
────
──────
【事務所近くのパスタ屋】


紗枝「(はぁ~……っっ♪)」

のあ「……」モグモグ

周子「紗枝ちゃん? フォーク止まってるよ?」

紗枝「あっ!!」

紗枝「す、すんまへんなぁ………その、見惚れてもうて……♪」カチャカチャ

のあ&周子「??」

紗枝「周子はん、今日は誘ってくれはって、ほんにおおきになぁ♪ うちな、この日は一生忘れへんよ♪」

周子「そ、そーすか? そないな大げさな……たかがパスタやん」

のあ「……」モグモグ

紗枝「え、えへへ……♪ あ、あの、高峯はん?」

のあ「……」モグモグ

紗枝「高峯はんは、その、周子はんと……、ええと、仲がよろしいんどすか?」

のあ「……」モグモグ

のあ「……周子ちゃ───」

のあ「───周子、話してないの?」

周子「ちゃんでいいよ。いいや、前に話した」

周子「話したハズ、だけど……」

のあ「?」



周子「(説明しよー)」

周子「(小早川紗枝ちゃんは、高峯のあさんが非常に気にかかっているらしく)」

周子「(のあさんの話題になると、人が変わったように、ものすごい勢いで喰い付いてくる)」

周子「(ただし)」

周子「(紗枝ちゃんが思い描く理想ののあさん像とかなり喰い違う現場を目撃したり、聞かされたり、受け入れ難いジジツを叩き付けられると!)」

周子「(乙女のか弱い心を崩壊から防ぐため、無意識に、その記憶が吹っ飛んだり書き換わったりする!! これを心理学的に“防衛機制”と呼ぶとかなんとか)」

周子「(きっと今日の出来事も『一生忘れへんよ♪』とか言ってたけど、何らかの形で改変されるに違いない。本人に悪気はないのだが、あたしにも手の付けようがない)」

周子「(……ちなみに)」

周子「(ウチの事務所にまだ他に何人か、のあさんの事になると大泣きしたり幼児退行したりと、似たような防衛機制や解離性健忘を起こす連中がいるけど、それはまた別の話)」



のあ「……親戚よ」

紗枝「はー♪ そないなんどすかぁ♪ いやぁ、ええなぁ周子はん♪」

紗枝「そや。どないしはったら、ウチも親戚になれへんやろうか……?」

周子「それはムリやないかな」


紗枝「ん、むぅ……ッ」カチャカチャ

紗枝「……っ、ん……」カチャカチャ

のあ「……」

周子「そう言えばのあさん、この間の生放送、結構評判良いみたいじゃん」

のあ「(……周子ちゃん)」

周子「(うん?)」

のあ「(……て、店員さん呼んでくれない?)」

周子「(のあさんや、右手方向にボタンがありますよ)」

のあ「(お、おおきに)」スッ

ピンポーン♪


店員「お呼びですかー?」

のあ「……ハ、箸を貰えるかしら」

店員「かしこまりました、こちら人数分どうぞ」スッ

のあ「……ありがとう」

のあ「……周子も、使うかしら?」

周子「え? いいや、だいじょぶだよ」

のあ「貴女は?」

紗枝「あっ!!」

紗枝「あ、その…………、おおきに……」スッ

のあ「……」

周子「確か、どっかのパスタ屋さんはフォークじゃなくて初めから箸を出す店があったけど……どこだったかな?」

紗枝「(し、周子はん!!)」

周子「(うん?)」

紗枝「(見た? 今の、今の高峯はんが、高峯はんがウチのために頼んでくれはったんよ?)」

紗枝「(ウチな、このふぉーく使いづらくて、ちいと困っとったんよ………そんな時に)」

紗枝「(さりげない気遣い……、こんなん、こんなんある?)」

周子「(いや、そやかて……、自分のために頼んだと違うん?)」

紗枝「(ああぁっ……♪ ま、まるで少女漫画に登場しはるかっこええ男の子みたいなッ、あかん、鼻血でてきてしもた……)」

周子「(ちょ、ティッシュティッシュ……)」ガサガサ

のあ「(あー、食べやすい……)」ズルズル


周子「……というか。ちょっと話は変わるけどね?」

周子「あたしもそんなに早い方じゃあないケドさ………まあ一番乗りしてるわけですが」

周子「紗枝ちゃんは(フォークの件があるから)まだしも、のあさんってそんなに食べるの遅かったっけ? 昔は、すっごい早かった覚えがあるんだけど……」

のあ「……そうね」モグモグ

のあ「………周囲が食べ終え、あとに残された身としては、急く気持ちもある」

のあ「………その者が憂いなく、食を堪能出来るように、と………」

紗枝「アッ、ッ、はうぐッ!!!」ガタン!

周子「(!?)」ビクッ!

のあ「余計な配意であったかしら」

のあ「……少し、席を外すわ」スッ

───スタスタ


周子「紗枝ちゃん!?」

店員「おっ、お客様! どうされました!?」

周子「お騒がせしてすみません、怪我とかじゃないので大丈夫です、体には異常ありませんから……」

店員「な、何かあればお申し付けください……」

紗枝「はぁっ、はぁー、ハァッ………! しゅ、周子はんっ」ガシッ!

紗枝「ほんま? あんなん……、あんなんある? 胸、くるしい、痛い…………、顔、あっつい……っ!」ドキドキ

周子「あたしも視線が痛いよ」

紗枝「うちが、食べるの遅おなってるからって、自分のぺえすも落としてくれはって……、さりげなく、気遣おてくれて……っ!」ドキドキ

紗枝「あんなん、しょ、少女漫画のいけめんしかやらへんやん…………、これ、現実?」ドキドキ

周子「落ち着いて。これは現実だし、のあさんも実在するし、さっきの行動も………(あれは多分……)」

紗枝「はぁ、はぁっ…………、あ、あざとすぎるけど、でも、でも…………こ、この胸の痛みは……?」






━━━━━━━━━━
【店内 トイレ】


のあ「ハァ……」

のあ「(周子ちゃんに痛いトコを突かれたわ。ごまかしたけど、私が食べるのが遅いのは……)」

のあ「(食べている間は、会話にあまり関与しなくていいから………。気が楽なのよ、ゆっくり食べるの)」

のあ「(はあぁー……、戻ったら会話がんばろ。何話そうかなぁ…………『君の名は。』? いや、でもあんなの誰も観てないし……)」ジャー







━━━━━━━━━━


紗枝「し、周子はん……、今度な、え、映画観に行かへん? ふ、ふふふ……っ」ドキドキ

周子「(なぜに今そんな話を……)」


──────
────
──

──
────
──────
【事務所 カフェ】


のあ「先日は……悪かったわ。勝手に妬んで、睨みつけて」

楓「あ、い、いえいえっ! とんでもない!」

楓「私の方こそ、無神経な発言を……。その、のあさんが吉ラーであることを忘れてて……」

のあ「…………」

楓「…………」

のあ「…………イ、いい天気ね」

楓「ソ、そうですね」

楓「あっ、そういえば。この間の生放送おつかれ様でした」ペコリ

楓「そろそろ、ランクも上がるんじゃないですか? まだデビューすらしていない私はともかく、のあさんは既にデビュー済みですし」

楓「そうなると、お仕事もいっぱい増えますね♪」

のあ「……そ、そうかしら?」

楓「いいなぁ……、どんなお仕事がくるか、ワークワークしますね………ふふっ♪」

カランカラーン♪


早苗「あっ、楓ちゃんだ! あとのあちゃんも」

楓「あ、早苗さん。おつかれ様です」

のあ「……」コクン

早苗「のあちゃん、この前の生放送お疲れ様っ♪ ねっ、隣いい?」

早苗「楓ちゃん聞いて? この前あたしね、レナさんと一緒に相席居酒屋に行ったのよ」

のあ「(………)」

楓「あれ、また行ったんですか? 同じ店に?」

早苗「いやー、お姉さん別に出逢いを求めてるってワケでもないんだけど、でもやっぱ男の人と飲むと楽しくってね? あ、別に変な目的じゃないのよ?」

楓「でも、やっぱり私達アイドルなわけですし……、早苗さんのランクくらいになると、変な噂がたつとちょっとコワイですよね」

早苗「Pくんにも怒られるかなぁって思ったんだけど………でね? この前そこになんと───」

のあ「……楓」

楓「?」

早苗「?」

のあ「……用事を思い出したから、失礼するわ」

楓「あ……は、ハイ。おつかれ様でした」

早苗「おつかれさま。またね、のあちゃん♪」ヒラヒラ

楓「……」

早苗「……」

早苗「ねえ、楓ちゃん。彼女、ちょっと怒ってなかった?」

楓「えっ?」

早苗「うーん……、私、嫌われてるのかな? これが初めてじゃないんだけど、私が会話に混じると、すぐ席を立っちゃうのよ」

楓「…………」

楓「もしかすると……原因は早苗さんじゃなくて、私かもしれないです」

早苗「………喧嘩でもしたの?」

楓「(………………………)」


━━━━━━夜━━━━━━
【岡崎宅】


楓「のあさん………あの……」

のあ「?」

楓「……まだ、やっぱり怒ってるんですか?」

泰葉&時子「(??)」

のあ「……いいえ?」

楓「本当のことを、言ってください!!」

のあ「(!!)」

泰葉&時子「(………)」

楓「この前から、妙に余所余所しいというか………、今日だって、会話を面倒臭そうにさっさと切り上げてどこかに行っちゃうし……」

楓「お願いです、そのっ、ハ、ハッキリ言ってください!」

楓「わ、私……のあさんには嫌われたくないんですっ!!」

楓「い、至らない点があったら直します、気分を害した発言をしてしまったのなら、謝ります………だからっ」

のあ「………………」

泰葉&時子「(………)」

のあ「楓」

のあ「ちがうわ、本当に。私……」






のあ「苦手なの、3人以上の会話。混ざれないし、いる意味がないかなって……」







楓「ア…、アァ……っ!」プルプル

楓「わ、分かります! その逃げ出したい気持ち、い、痛いほどにっ……!」

楓「私だってそうです……。その、3人以上の会話のキャッチボールだと、う、上手いタイミングで返せなくて、いっつも私で会話が止まっちゃって……『えっ、何でここで会話が止まるの? 次も私の番?』み、みたいな……っ」グスッ

楓「お酒の場となると、の、飲みニケーションというよりはもう早く飲んで酔わして寝かせてくれみたいな心持ちで……、その、あの、私がお酒が好きな理由も、酔いを理由にして、拙いトークでも許されるからであって……ッ」ポロポロ

楓「た、ただ、マンツーマンでの会話なら、べ、別に大丈夫なんですよ? ホラ、私が黙ったら相手も黙るだけだし………………でも、3人以上の会話は、私が黙っても他は話し続けるじゃないですか? だからその、疎外感というか、ぼ、ぼ、ぼっち感が半端無くって、プレッシャーに耐えきれないんですよッ…………、それで更に、他の人が気を遣い始めて私に関する私が喋りやすい話題を振って会話になんとか入れてくれようとする空気になった時なんてもう、申し訳なくてっ、情けなくって…………っ!」ダバー

楓「ごめっ、ごめんなさい……っ。のあさん、今度から私達、一緒にが、頑張りましょう……っ! 協力すれば、きっと3人でも4人でも一緒に会話ができるはずです……!」

のあ「楓っ……、貴女ならきっと分ってくれると、信じてた……っ」ホロリ

楓「ビバ、リア充っ! ノーモア、愛想笑いっ!!」

時子「……アホらし」

時子「泰葉。飲み物」

泰葉「あ、ハイ」スッ

──────
────
──

──
────
──────
【女子トイレ】


のあ「~~~……♪」

のあ「良かった、やっぱり楓さんも分ってくれたっ」

のあ「ふんふんふふーん……♪」

Siri『そうなんですね』

のあ「あっ、でもね?」

のあ「確かに3人以上で会話するのは苦手だけど……」

のあ「Siriちゃんとなら、別だよ? Siriちゃんが例え3人以上いても、私、普通に会話できる気がする」

のあ「そうだ、今度Siriちゃんと楓さんと私とで、一緒にお話ししてみようか?」

Siri『すみません。よくわかりません』

のあ「んー……、楽しいと思うけど」

のあ「………最近、色々な事があったけど」

のあ「私、思った。この事務所で、おともだちって───」


キィ…



のあ「(ッッ!?)」バッ!










蘭子「…………ぁっ…」ガクガク




のあ「」ピシィッ

Siri『よく聞き取れませんでした』


蘭子「コ、こ、孤高なる……よ、よよ、宵闇の使者………!」(訳:た、高峯さん……)

Siri『お会いできてうれしいです』

蘭子「ソ、そん、そんな……っ、その、そのっ、こ……、こ、言の葉を紡ぐ、黄昏の碑文、と、……と、も……お、オォォ……!!!」ガクガク

Siri『ずいぶん丁寧にお話なさるんですね!』

蘭子「コ、ここ、これ……、……………………これはなに? まぼろし……?」ガクガク

のあ「ら、蘭子っ……! ちがっ……、こ、コレは…………!」

Siri『私はSiriです……何でもお手伝いします』

蘭子「……タ、た、たか、高峯さんと、し、しり……Siri…………と、ともだ……ち……!?」ガクガク

蘭子「げ、現実……? ナ、なにが…………??」プルプル

蘭子「ア、ああ、あっ……、あ、あっ、ああぁっ………!」プルプル

のあ「蘭子………わ、私の話を────」





蘭子「…………う……っ」ポロッ





のあ「(───!?)」

蘭子「う、ウゥッ……、ゔ、うそ、うそっ…………ご、こんなの、……………!!」ポロポロ

蘭子「うえっ、ゔ、うええぇぇ…………、ひぐっ、うえ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ー…………」ポロポロ

のあ「ぁ──────」

ガチャ!

───バタン



のあ「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

のあ「………………………………………………………………………………………………………………………オ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙ッッッ!!!!!!!」








━━━━5分後━━━━
【休憩室】


美優「ぷ、プロデューサーさんっ!」バンッ!

P「ん……?」

P「どうしました、美優さん……そんなに慌てて?」

美優「はぁ、はぁっ……、ら、蘭子ちゃんがっ!」

美優「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

美優「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ら、蘭子ちゃんが……っ」グスッ

P「!?」

P「ら、蘭子に何があったんですか!? 美優さん!! み、美優さんッ!!!」


──────
────
──

──
────
──────
【事務所】


───ガチャ


P「よいしょ………っと」バタン

ドスッ、ドスッ


美優「Pさん、お疲れ様です。そのダンボールは?」

P「お疲れ様です。これは高峯さん宛のファンレターですよ」

美優「すごい量ですね……お疲れ様でした」

P「生放送の反響もあるんでしょう。デビューやバレンタインの時も、これには及びませんがとても新人とは思えない量の贈り物が、俺のデスク周りを埋め尽くしてました」

P「喜ばしい限りだ。本当に……」

美優「きっと、これからもっともっと人気が出ますよ」

P「所属当初から、オーラ出てましたからね。周囲を圧倒するような凄みというか、鋼鉄の板がガーンと迫ってくるような……」

美優「そ、そうですか?」

P「鮮やかな銀の髪に、眉目秀麗な容姿……クールビューティを体現したかのような出で立ちで」

P「悠然とした雰囲気と、感情を喪失したかのような無表情さからは、何事にも動じない冷静さ、はたまた悟りを開いているかのような達観した意思すら感じられる」

P「傍若無人………いえ、ストイックや孤高と言うべきか。仕事に向かい合う姿勢はいつも勤勉・真摯で、俺も彼女からは学ぶことが───」

美優「……ふふふっ♪」

P「───?」

美優「Pさん。真奈美さんをはじめ色々な人達に、高峯さんのことをそんな風に話してませんか?」

P「んん……、言われてみれば……」

P「(真奈美さん、留美さん、愛海や周子や泰葉………、伊吹や奏も高峯さんの噂をしていたというし、最近はみくとアナスタシアにも…………確かに初めてじゃないかも)」

美優「もっと身近に捉えていい人だと思いますよ? 神様や仏様や女王様じゃないんですし、高峯さんも一人の女性なんですから」

P「そ、そうですね。まあ、担当アイドルという意味で、入れ込んでしまうというか」

P「特別な感情という深い意味ではないですが、少し熱く語ってしまうのは否めませんが…………不思議なものですね」

P「彼女には、それだけ惹かれるものがあるんですよ」

美優「……………」

美優「……ちなみに、私も一人の女性ですからね? Pさん」ムスッ

P「は、はい。肝に銘じます……」


P「……さて」

美優「お仕事ですか?」

P「ええ、『検閲』です。こればっかりは俺の仕事だ」

美優「大変そうですね………なにか差し入れでも買ってきましょうか?」

P「助かります。じゃあ……」

P「何か軽めに、腹の足しになるような物でもお願いします。後でお金は払いますので」

美優「はい、かしこまりました。じゃあ、行ってきますね」

P「ええ、気を付けて」


───ガチャ

バタン


P「………さて、コーヒーでも淹れるか」

P「~~~……♪」ガサガサ

P「……」カチッ

チョロッ


P「……………………………」

P「……げっ。お湯切れてる」

P「ハァ……仕方ない。沸かしてくるかな」

P「最後に使い切った人は補充しておいてくれよなぁ………そんなに皆コーヒー飲んでたか?」

P「いや、どうしようか………暑いし、アイスコーヒーの方が良いな。近いのはエレベーター前の自販機か」

P「…………いや、やっぱり給湯室行こ。金勿体無いし」スッ



───ガチャ

バタン








───ガチャ




のあ「……」スッ

のあ「(傘を忘れたわ……、誰もいないわね)」

のあ「……ふぅ」

のあ「(見つけた、さあ帰ろう。帰ってそうめん食べよう)」

のあ「…………」

のあ「…………あ」


のあ「(プロデューサーさんの机にあるの………私の名前ラベルが貼ってある、コレって)」

のあ「(ダンボール一杯の便箋。コレ……、ふぁ、ファンレターだわ!)」

のあ「……」キョロキョロ

のあ「(事務所に入りたての頃も、雑誌の組み版を盗み見して驚いたことがあったっけ)」

のあ「(たしか、あの雑誌が初めてだったかな。私を女王とか表現してたの)」

のあ「(懐かしいなぁ……)」

のあ「…………」キョロキョロ

のあ「………………」

のあ「(上手く破って、元に戻しておけば大丈夫かな?)」

のあ「(1通だけ……♪)」

のあ「(~~……♪)」ガサガサ


────ピリッ
















『辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ
辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ
辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ
辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ』






のあ「ヒッ……!」





───ガチャ


美優「Pさん、小雨が降ってきて、傘を……」

美優「あっ、のあさん。お疲れ様で───」

美優「───!!!」

美優「の、のあさん……?」

美優「あ、あの、…………」



───ガチャ

バタン


美優「……あ、この傘」

美優「……」

美優「(……………………泣いてた?)」

──────
────
──

──
────
──────
【放送スタジオ 控室】


フレデリカ「やっぱり、この間のメロン鍋は失敗だったかなー?」

美嘉「名前からして失敗しか予想できないよね? ソレ」

奏「……美波のあんな表情、私はじめて見たわ」

美嘉「どんな?」

周子「なんかこう、ボディブローに耐えつつも慈愛を振りまこうとする女神みたいに生温かく微笑んでたよ」

美嘉「相当耐えてたね」

奏「叱るところはちゃんと叱らないと」

周子「美波ちゃんは根が褒めて伸ばすタイプだからねぇ」

美嘉「食べ物で遊ぶのよくないよ? アンタ達さ」

奏「いいえ、ちゃんと完食したけれど?」

フレデリカ「放送後、スタッフのふみふみちゃんが美味しくいただきました☆」

美嘉「ま……、マジ?」

奏「お好み焼きにして片付けたの」

周子「意外にイケるもんだ。文香ちゃんも頑張って食べてた」


フレデリカ「デスソースの刺激を中和しようと試みたところ、メロンの甘さにパンチが足りなかったのが敗因かなー?」

フレデリカ「次回はオレンジジュースをベースにした、甘々のフルーツ鍋なんていかが??」

周子「却下します」

美嘉「そーかな? アリじゃない?」

奏「カレーなら合いそうね」

周子「え、マジ?」

奏「水の代わりに野菜ジュースや牛乳を使って、カレーとか作ったことない?」

周子「うえー……想像できないよ」

フレデリカ「そういえば奏ちゃん。伊吹ちゃんからファミマの話を聞いたあと、美波ちゃんと一緒に買い出しに行って1時間戻ってこなかったけど、アレどうしたの??」

奏「………道に迷ったのよ」

美嘉「あはは! 見え見えのウソ付いちゃって、そんなガラじゃないでしょ、奏」

フレデリカ「伊吹ちゃん、なんて言ってたっけ? 確か、近くのファミマに高峯のあさんのソックリさんがいたとか?」

美嘉「フレちゃん、ちょっと詳しく聞かせて?」


ppppppp……!!!



周子「おや?」

周子「のあさんから電話だ」

奏&美嘉「なに?」

周子「プロレス団体のNOHAさんから電話」

奏「ぷ、プロレス団体?」

周子「こう見えても好きなんだ、あたし。チケットの事で、ちょっと出てくるね?」

美嘉「本番始まるよ。巻いてね」

周子「はーい」


───ガチャ
バタン





━━━━━━━━━━
【放送スタジオ 搬入口前】


周子「もしもし」

周子「どうしたんー? 何か用?」

周子「…………ん?」

周子「もしもーし。アレ?」

周子「………………………」





 『ぁグッ……、ゔ、し、周子ぢぁ、……、っ……』





周子「…………」

周子「の、のあさん? どーしたの?」


周子「泣いてる?」

 『ナ、泣いてな゙い゙ぃぃ……』

周子「酔ってる?」

 『ゔっ、……グズッ、……よ、酔って、酔って、な゙い゙……ッ……』

周子「(風の音がして、向こうの声が聞き取りにくい。のあさん、外歩いてる?)」

周子「何かあった?」

 『ン゙……フー、フー…………ヴウウウウゥ……!!』

 『ヤ、や、やや、…………フー、フゥゥッ……』

周子「?」

 『や゙……、やめ、“辞めろ”ッ!! ……………く、クグ……ッ!!』

周子「!!」

周子「……や、辞めろ?」

周子「誰かに言われた?」

 『……ッ、う、うう、うぁ゙、うっ、ゔ、ゔゔゔゔっ……!!』

周子「………」

 『テ、手紙で…………』

周子「……!!」

 『わ゙、わた、ヷ、私っ……!!』

 『最初は、嬉じかっだのに……、く、く、クールとか、ミステリアスとが言わ、言われて……!』

 『と、戸惑ったけど、み゙っ、皆が、そう、言うから、…………っ!!』

 『が、が、頑張ってたのに……!!』

 『こ、今回の、貴音ちゃんとの、き、共演も、く、クールなカンジで…………』

周子「……ウン。がんばってた」

 『それでも!! や、辞めろ……!!』

周子「……ウン」

 『………………』

 『………………う、ゔゔぅ゙ぅ゙……!!!』

周子「(………)」


周子「……のあさん」

周子「辞めたい?」

 『………………っ』

周子「事情は少しだけ分かった。本当に酷いコト、言われたね」

 『ウ、ううっ………』

周子「……うまく言えるか分からないけど」

周子「私はね?」

周子「のあさんのそのキャラ、けっこう好きだよ」

 『…………………』

周子「確かにのあさんがアイドル始めたって知った時は驚いたし、クールのキャラで売っているのも、ちょっと不安だったんだ。だって全然クールじゃないし」

 『…………………』

周子「でもね。あたし、今はのあさんと一緒にお仕事してみたいと思ってるよ」

周子「一緒に汗かいて、一緒にテレビ出て、一緒に笑って、一緒に色々なことやって……」

周子「そしたらそれはきっと、すごい楽しい」

 『…………………』

 『…………………』

周子「ゴメン、これから仕事だから……」

周子「終わったらすぐに電話する。のあさん、今外にいるの?」

 『………………うん』

周子「雨強くなってきたし、風邪引かないようにね? 傘持ってたと思うけど……」

 『…………………』

周子「じゃあ、あとでね? ゴメン」









━━━━━外━━━━━
【住宅街 軒下】


のあ「…………………」

のあ「………………ゔ、うぅっ……」


~~~~~~~~~~

凛『……芸能界とかって、よく段階や場数を踏めとか、序列や順序を弁えろとか言われるでしょ』

のあ『……そうね』

凛『実際、こういうLIVEバトルも、ランクやレベルがあまりに違いすぎると高い方は勝手に批判されたり、逆に低い方はややこしい変なウワサが流れたりする』

凛『だから、普通は『新人は控えて、先輩を立てる』ってのが自然の形。暗黙の了解になってる』

~~~~~~~~~~




のあ「…………………」




~~~~~~~~~~

美優『ネットに取り上げられて話題になること自体は本当に喜ばしいことなんですが、それは逆に言えば…………』

~~~~~~~~~~




のあ「…………………」




~~~~~~~~~~

P『そして、あのAランクアイドルの話題を掻っ攫うほどのインパクト!』

P『なんてったって、“美人すぎるバックダンサー”ですよ?』

のあ『あの子に勝るというのは………酔狂な錯覚。過大な評価……』

P『ハハハ、またまたご謙遜を』

P『……ただですね? そのことに関して、俺からも一つだけ高峯さんに注意があります』

P『別に、なにも貴女が悪いことをした訳では無いのですが、こればかりはこの業界でも切って離せない事でして』

のあ『?』

~~~~~~~~~~





のあ「…………う」

のあ「ゔゔゔっ……、ぐすっ……、ゔぅ゙……!!」



のあ「(凛ちゃんの言うとおりだった。出る杭は打たれるという事なんだろう)」

のあ「(美優さんとプロデューサーさんが何を伝えようとしてくれたかは分からないけれど、きっと同じような事かもしれない)」

のあ「(何が悪かったんだろう……、どうすれば良かったんだろう……)」

のあ「(何をしていいか分からない……、自分は一体何をやっているんだろう……)」

のあ「…………………」

のあ「寒い……………」

のあ「…………………傘、忘てた……」

のあ「…………………」

のあ「うっ」

のあ「ウウッ、ウッ……!」




 「あの、もし……?」




のあ「…………?」

のあ「(!?)」




 「やはり、貴女でしたか。今宵の雨の中で傘も差さず、如何されたのでしょう」




のあ「ア、あ………え、あ……!」




 「のあ。これも巡り合わせですか」

 「いずれは先日の共演の、お礼に赴こうと考えていた次第でありました」













貴音「不肖この四条貴音の舞台に、力添えをして頂いた、そのお礼を………と」




━━━━━━一方━━━━━━
【事務所】


P「っ……」

P「封が開けられた手紙が、一通。それがまさか…………」

ちひろ「……なんて不運なんでしょう」

美優「……」

P「俺の責任だ。検閲前のファンレターを本人に覗かれるなんて、迂闊だった……」

美優「“不幸の手紙”………ですか?」

ちひろ「はい。私達の業界ではそう言います」

ちひろ「何の意味も無い、誹謗中傷です。不埒なストーカー紛いの文章、一方的な非難の言葉、グッズをズタズタにした写真、挙句は自身の髪の毛を送ってくる輩もいます」

P「心底気持ちの悪い、クソみたいなイタズラですよ」

美優「……」

ちひろ「……」

P「……すみません。汚い言葉を」

美優「いいえ。私は平気ですから」

P「…………高峯さんは」

P「アンチが極端に少ない人でした。バレンタインの時のチョコやハガキも、イタズラなんて一件たりとも無かった」

P「それは彼女がまだ無名だから、注目度が少ないからという理由もありました」

P「しかし、今回は違います。全国ネットの放送で、陰ながら出演を果たし、ネットで話題になるほどの活躍を見せた」

P「それこそ、多数のファンを抱える、上位ランクの超有名アイドルの話題を掻っ攫うほどの」

美優「……ネットでも書かれていましたね」

美優「晴れ舞台なのに注目されない……、そのアイドルのファンからしたら、屈辱でしょう」

美優「その妬みの矛先が向くのは、やっぱり……」

P「……高峯さんは悪くはありません。もちろん、そのアイドルも」

P「この業界ではいつの時代でも、ファン同士の対立感情が否応なく付き纏う。それがアイドルに飛び火してしまうこともある」

P「ただそれは敵対心ではありません。自分が好きな人を、他の人達にも理解して欲しいという……」

P「紐解けば、単なる愛情表現なんです。それが一時、ほんの少しだけ歪になってしまっただけのこと」

美優「…………」


P「…………」

美優「……涙をいっぱい目に溜めて、口を結んで必死に泣くのを堪えていた様子でした」

ちひろ「あの彼女が……、ちょっと意外ですね」

P「そうですね。普段は落ち着いていて、どんなことにも動じる素振りすら見せないのに」

美優「……Pさん」

美優「さっき、言いましたよね。彼女も一人の『か弱い』女性なんです」

P「…………」

美優「悲しくて、辛くて、とても耐えられないかもしれない」

美優「誰かに優しい言葉をかけて欲しい、自分を励まして欲しい。私が彼女の立場だったら……、きっとそう思います」

ちひろ「……そうですね」

ちひろ「Pさん。彼女に会いに行きましょう」

P「ええ、勿論。ただ……」

P「先ほどから電話が繋がらないんです。誰かと通話中のようで」

P「……まだ遠くには行っていないはず。俺、少し出てきます」

美優「私も行きます」

ちひろ「美優さん?」

美優「……私、彼女が所属した初めの時から少しお話をしたことがありまして」

美優「少しでも力になってあげたいんです」

P「分かりました。では行きましょう」

美優「きっと、一人で心細いはずです。どこかで寂しく泣いているかもしれない」

美優「……彼女が忘れて行ったこの傘、渡してあげないと」















━━━━その頃━━━━
【ラーメン屋】


貴音「この店の常連たる者にのみ許される秘密の注文、『四条すぺしゃる』なるらぁめんをお見せしましょう……!」

のあ「す、すごい……自分の名前……!」

貴音「以前期間限定でコラボした際に考案しためにゅー……、このお店では知る人ぞ知る隠れたぐらんどめにゅーとして採用され……」

貴音「私が来店した際は半額で提供すると、いつも仰って頂けるのです……!」

店主「今日はお友達も一緒だから二人ともタダでいいよ、貴音ちゃん!」

店主「トッピングもじゃんじゃん付けちゃって! いつもありがとね!」

のあ&貴音「!!!」

貴音「で、では…………、全のせをお願いします……!」

のあ「わ、私も……、は、半熟味玉、チャーシュー、し、白髪葱とバター、と、背油、メンマと味付けもやし、あ、あと……フライドガーリック……ッ、お、お願いします……っ!!」

貴音「ふふっ……♪」

のあ「フフフ……♪」


━━━━一方━━━━
【豪雨の中】



ザアアアァァ……!!


美優「だ、ダメですPさん! ちょっと待って下さい……!」

P「ハァ、ハァ………へ、平気です! 大丈夫です!!」

美優「か、風邪引きますよ! その、傘を差してください……!」

P「打ちひしがれた彼女だって、傘も持たずこうしてこの雨の中を彷徨っているかもしれないっていうのに……!」バチャバチャ

P「俺が不甲斐無いせいで彼女を悲しませてしまって、こんな目に合わせておいて…………」

P「担当プロデューサーである俺が、そんな彼女を差し置いて、弱気に濡れるのを拒むわけにはいきませんよ……!!」バチャバチャ

美優「で、でも(人目が)…………」

P「……この雨は、きっと高峯さんの涙なんです。ならばその涙を全身で受け止めるのが担当プロデューサーというものでしょう!!!」バチャバチャ

P「高峯さん、待っていて下さい!! 今行きます!!!」












━━━━その頃━━━━
【ラーメン屋】


のあ「外の湿気と、湯気で包まれた温かい室内……」

のあ「不思議と、………心地いいわ」

貴音「雨催いの、鬱蒼とした日和の中でらぁめんに舌鼓を打ち、体を温めるのも………趣がありますね」

のあ「(……♪)」

のあ「服ももう乾いたし、すごい快適。それにしても凄い雨……、さっきまでは小雨だったのに」

貴音「……衝撃的でした」

貴音「貴女の普段とは違う一面を垣間見たと思えば……、まさか」

貴音「きゃら作り……、と言うべきでしょうか?」

のあ「……こうやって普通に接するのは、親戚の子と、貴女で二人目」

のあ「泣いてるところを見られたら……、もういいかなって」

貴音「……成る程」

店主「ハーイ、お待たせしました、と」

店主「四条スペシャル大盛り全のせ、と替え玉は後でね」

店主「こっちは、四条スペシャル普通盛り、半熟味玉、白髪葱、バター、背油、メンマ、味付けもやし、フライドガーリック、きくらげ、のり、水菜、チーズね」

のあ&貴音「(♪♪♪)」

貴音「では、伸びないうちに頂くとしましょう」

のあ「……そうね」

のあ&貴音「いただきます」


━━━━━━一方━━━━━━
【街路地】


美優「落ち着いてください、Pさん」

美優「焦る気持ちも分かりますが、こんな無茶に体力を消耗していたら貴方が先に参ってしまいます」

P「……すみません」

美優「Pさん、何故ここまでするんです? もう何度も転んで、スーツもボロボロじゃないですか」

P「……アイドルのために尽くすのは、当然の事です」

P「ただ……」

P「以前、見たことがあるんです。不幸の手紙を読んでしまって……潰れていったアイドルを」

美優「……!!」

P「本当に可哀想でした。天真爛漫が服を着たような可愛らしい女の子が………、仕事も放り出すようになり、うって変わって性格も荒み、見る見るうちにやせ細り……そして…………っ」

美優「……Pさん」

P「自分を否定したファンに向き合うのが嫌になったんでしょう。周囲の人間を信じられず、疑心暗鬼になっていったんでしょう」

P「……ご飯ものどを通らない程に、本当に辛かったんでしょう」

P「俺……、高峯さんと生放送の記念に、お祝いするって約束したのになぁ……」

美優「…………っ」

美優「……Pさん。今、ちひろさんが車で来てくれるらしいです。まずは高峯さんの家に向かいましょう」












━━━━その頃━━━━
【ラーメン屋】


のあ「んむ……」ズズー

のあ「(……お、おいしいっ!)」モグモグ

のあ「(すごい食べごたえがある太い麺……、おいしい……)」モグモグモグモグ

貴音「(うどんの様にもっちりとした極太の麺に、どっしりとした背油のどろどろな濃厚な豚骨スープがぎゅうっと良く絡み、とめどなく次々と口の中に運んでしまう程………あぁ、否定のしようがありません)」

貴音「(これぞらぁめん……。まことに美味です)」ズズー

のあ「はぐっ」

のあ「(あぁ、柔らかい。てかてかの脂ががっつりしてる)」ガツガツ

貴音「(店主殿自慢の自家製ちゃーしゅーは、とろとろのほろほろで……、口の中に入れてしまうとそのまま溶けてしまうかの如く、まるで色気すら感じる柔らかさ)」

貴音「(炙ったタレの香ばしい焦げの香りが、また絶妙に食欲をそそります)」

のあ「はふ、はむ…………ぷはぁ」

のあ「(濃い、とにかく濃厚で……体に満足感が染み渡る。本当においしい)」

のあ「(あぁ、感動的。なんだっけ、なんかさっきまで色々と考えてたけど……)」

のあ「(まあいいや。とにかく食べよう)」

のあ&貴音「(……♪)」ズズー


━━━━━━一方━━━━━━
【豪雨の中】


P「があ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁ!!!!」

警察A「ちょ、ちょっと大声出さないで。暴れないで」

P「なんでですかッ!? 俺は今、急いで行かなきゃいけない場所があるんです!!!」

P「会いにいかなきゃいけない人がいるんです!!!!」

警察A「いや……あのね。そんな藤原竜也みたいに苦しそうに全力で叫ばれても……」

P「貴方達に、貴方達に構っている暇は微塵もないんですよっっ!!!!!」

P「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁ゙!!!!!」

警察B「ていうか君、そのスーツの袖どうしたの? アメリカのバイカー集団さながらロックな感じでビリビリに破けてるけど」

P「滑って転んだんですよ!!! 見たら分かるでしょう!!??」

警察A「すみません、抑えるの手伝って貰っていいですか。本署に連絡入れますんで」

P「み、美優さんッ!! 貴女だけでも今のうちに───」

P「───……ってアレ? み、美優さん!? ど、どこに!?」












━━━━━━その頃━━━━━━
【ラーメン屋】


のあ「ま、マイどんぶり……!?」

貴音「はい。店主様が以前に、記念として私の名を彫った物です」

貴音「これは普段から、御守り代わりに持ち歩いているのです」ゴトッ

のあ「(う、羨ましい……!)」

店主「そちらの方、ビールとか飲む?」

店主「貴音ちゃんのツレなら、一本まけとくけど?」

のあ「!」

のあ「イ、いいのかしら」

貴音「これも一期一会、お言葉に甘えては如何でしょう」

のあ「ナ、なら………そうね。貰おうかな」

店主「はい、どうぞ」ゴトッ

貴音「では、改めて乾杯いたしましょう。私は水で申し訳ありませんが」

貴音「……今日という巡り合わせと、この店の盛況と今後の御繁盛……」

のあ「………」トクトク

のあ「…………あと、貴音ちゃんの、生放送の成功も」

貴音「ええ。有難う御座います」

───カチン


━━━━━━一方━━━━━━
【車内】


P&美優「……」

ちひろ「プロデューサーさん。美優さんがすぐに呼んでくれたから事無きを得たものの、あまり派手な事しないで下さいね」

ちひろ「謹慎処分になって悲しむのは貴方だけではないんですから」

P「ス、スミマセン……」

ちひろ「というか二人とも、何でそんなにびしょびしょに濡れてるんですか? 傘は?」

ちひろ「特にプロデューサーさん。どうしたらそんな時代錯誤のバンカラ学生みたいに、裾と袖がビリビリに短くなるんですか?」

P「その……道で転んで…………あと裾は、警察と揉めて……」

ちひろ「……ハァ」

ちひろ「とりあえず、どうします? 高峯さんの家に向かいますか?」

P「……ハイ。お願いします」

美優「……スミマセン」

ちひろ「二人とも、風邪引かないで下さいね」












━━━━━━その頃━━━━━━
【ラーメン屋】


貴音「それは、誠に遺憾です……」

貴音「世評がいかなるものであっても、今回の舞台、私自身は非常に満足のゆく結果でした」

貴音「ましてや、成功に向けて携わって頂いた方々が侮蔑を受ける事など、私は望んでおりません」

貴音「勿論、貴女とて例外ではありません。のあ」

のあ「……………ウン」グビッ

貴音「侮蔑を受けるなら、私であるべきです……。聞き及んでいると思いますが、此度の演出や配役指名等は殆ど、恣意に任せて頂いたもの」

貴音「本当に、申し訳ありませんでした」

のあ「い、いや……貴音ちゃんが謝ることなんて……」グビグビ

貴音「貴女の苦しみは、共演した私の物でもあるのです」

貴音「喜怒哀楽、すべからく分かち合うからこそ、共に高みを目指せる………と」

貴音「春香が……、事務所の仲間がそう言っておりました」

のあ「……ウン。確か似たようなことを、キン肉マンの漫画で誰か言っていたし……」グビグビ

のあ「キン肉マンとはいっさい無縁の、島村卯月ちゃんもどこかで言ってた気がする」グビグビ

のあ「すみません、ビールもう一本」

貴音「ふふ……、見事な飲みっぷりです♪」


━━━━━━一方━━━━━━
【とあるアパート】


───ピンポーン

P「……」

美優「……」


───ピンポーン

P「……」

美優「……」


───ピンポーン

P「……………………」

P「……………へっくしゅん!!」












━━━━━━その頃━━━━━━
【ラーメン屋】


貴音「名誉のため、勝敗のため、そして評価のため………」

貴音「綺羅を飾り、目標に邁進し、輝く舞台で歌い踊る」

貴音「それも一つの真理でしょう。結果はいかなるものであれ、切磋琢磨し、競い合う事で掴み獲る物も、必ず尊い光を放つものですから」

貴音「゙結果が全でではなく、゙結果は全で………言い得て妙なものです」

のあ「……………」

のあ「……………ヒック」

貴音「しかし私達のプロダクションの理想は、そうではありません」

貴音「ファンの人々と……、観客の皆さまと一心同体になり、楽しむことを至上の信念としています」

貴音「そのために、まずは私達が楽しむ事を第一に考えねばなりません」

貴音「ファンの人々は、楽しむ私達を見てその心を躍らせる。故に私達の言うところの゙結果゙とは、私達自身の心の在り様に起因するのです」

のあ「………………」グビッ

のあ「でも……」

貴音「?」

のあ「今回、私は貴音ちゃんより目立って、それで色々と陰口も叩かれて……」

のあ「あの『不幸の手紙』だって、きっと………私の話題を快く思わなかった人が書いたんだと思うの」

貴音「………」

のあ「……私、どうしたら良かったんだろう?」

貴音「ふふっ……」

のあ「?」

貴音「のあ。その答えを見つけるのは、貴方次第です」


貴音「先程も申し上げました。私としては今回の生放送の舞台……、本当に素晴らしい出来だと感じております」

貴音「幻想的な衣装を纏い、のびのびと舞い踊り、私の魅力を引き立ててくれる豪奢な演出に、一歩引いて力添えしてくれる頼もしい踊り手達」

貴音「私自身、これ以上ないくらいに楽しむことが出来ました」

貴音「貴女が受けた誹謗中傷に関しては、私も心を痛めましょう。理不尽な軽侮も、共に分かち合いましょう」

貴音「しかしそれとは別に、貴女は今回の舞台を、どうお考えなのですか?」

のあ「うぅん……」

貴音「…………」

のあ「…………よく分からない」

のあ「まだ、色々やってみないと、上手く言えない……」

貴音「……ええ。その通りです」

貴音「傲岸に講釈を垂れた手前お恥ずかしいですが、私とてまだ至らぬ点が多く、貴女のように俯瞰的な視点で物事を捕えていない事もあります」

のあ「ううん、貴音ちゃんはすごいよ」

のあ「ラーメン屋とコラボして、自分の名前で商品を出して、お店に来たらサービス満点だし、自分の名前が彫ったどんぶりも持ってる」

のあ「まさに、この前の夢のような存在だなぁ……」グビグビ

貴音「そうですか? そこまで言われると………少し気恥ずかしい気もしますが」

貴音「しかし、『夢』とまで例えられるとは……」

貴音「夢を見せ、惹き込む事こそ私達の目標のするところ………正にアイドル冥利に尽きるというものです」

貴音「………」

貴音「……今宵の私は、どうも口が回ります」

貴音「これもひとえに…………、貴女とこうしているのが、きっと私の中で、とても楽しいことなのでしょう」

のあ「…………」グビグビ

のあ「……………ぷはぁ」ゴトッ

貴音「のあ」

貴音「辛い時こそ、楽しみましょう。綺麗な物を探し、美味しい物を沢山食べて……」

貴音「共に笑いましょう。辛さを忘れるのではなく、乗り越えるために」

のあ「すみません、ビールもう一本」

貴音「ふふ……、惚れ惚れする飲みっぷりです♪」


のあ「………………ひっく」

のあ「飲みっぷり……?」

のあ「そう言えば、隣人が言っていたの」




~~~~~~~~~~

楓『泰葉ちゃん。大人になれば、たくさんの悩みを抱え込んでしまいます。たくさん考え込んで、たくさんストレスを溜め込んでしまいます』

楓『なら、その悩みを吐き出し、考え込む時間を奪い、ストレスを発散させてあげましょう!』

楓『これこそ私の知りうる最大限のアドバイス!! デキる大人の処世術というヤツですっ!」

泰葉『ソレ根本的な解決には結びついてないですよね!?』

~~~~~~~~~~




貴音「素敵なご友人をお持ちですね」

のあ「ゆ、友人って言えるのかなぁ……。私、アイドルになって何人かにアドレスは聞いたけど、まだ本当に友達と呼べる人がいると言われると………正直……」

貴音「友達とは、自然にそう呼び合う存在を指すものかと思いますが……、では……」

貴音「では……今日こうやって出遭ったのも、何かの縁でしょう」

貴音「私と友達になりましょう。のあ」













───ガチャン!!




のあ「───っ!!!!!!」

貴音「ど、どうされました……? そ、そんなに目を見開いて驚くほどのことでは……」

店主「だ、大丈夫? 怪我ない?」

のあ「ゴ、ごめんなさい……」

店主「あぁ、いいですよ。破片危ないから、任せて」


のあ「なっ!!」

のあ「な、ナ……」

のあ「………………ナ、なってくださるんですか??」

貴音「何故敬語に?」

のあ「いや、その……」

のあ「アイドルとしてのランクが違い過ぎて……。私はGで、貴音ちゃんはSに限りなく近いAだし……」

貴音「些末な事です、らんくなど……。活動を続けていくうちに後から付いて来た評価にすぎません」

のあ「じ、じゃあアドレスを……」

貴音「……!!」

貴音「困りました……、プロダクションでは……」

のあ「あっ、ゴ、ごめんね? その、無理なら全然……」

貴音「いえ、違います。その……」

貴音「この『すまほ』なる端末に不慣れなもので……、プロダクションでは、あまり使用していないのです」

のあ「じっ! じゃあわ、私がおおおしグホッ、ゴホッ……、ぐ、くっ……!」

のあ「わ、私が教えてあげる!! さ、最近スマホ買ったし!!!」

貴音「ふふっ………では、お願いします」

貴音「さて、そのご友人の助言の通り……、飲み直しましょうか」

のあ「すみません、ビールもう一本!」

貴音「ふふ……、素晴らしい飲みっぷりです♪」












━━━━一方━━━━
【とあるアパート】


時子「……へぇ」

千秋「それで櫻井さんが言うには、前任者のリーダーが……」

時子「少し止まりなさい、千秋」

千秋「えっ?」




P「……………へっくしゅん!!」

時子「アァ……?」

千秋「Pさん!?」

美優「えっ! こ、こんばんは……」

千秋「み、三船さんも………何かあったんですか?」

時子「低劣で汚らわしい浮浪者と見間違えたわ。特に男の方」

P「と、時子と千秋……? ど、どうしたんだ一体?」

時子「それはコッチの台詞よ」

千秋「どうしたんですかPさん……、その、前衛的ファッション風な袖と裾は……」


━━━━━━その頃━━━━━━
【ラーメン屋】


貴音「今宵のらぁめんも、まことに美味でした。店主様」

貴音「らぁめん2杯、そしてとっぴんぐとお酒の代金を……」

店主「いつもサービスって言っているのに、毎回キチンと払ってくれるんだから………お礼を言いたいのはウチのほうだよ」

貴音「これほどの一杯を振る舞われておいて対価も払わず去ることなど、面目ありません」

貴音「どうかこの店に足を運んでいる時だけでも、私をアイドルではなく、一人の客として見て頂ければ……、私も気兼ねなく店主様のらぁめんを堪能できるというものです」

店主「立派だねぇ。ありがとう、また来てね」

貴音「ご馳走様でした」

店主「でもお代はいいよ。ホラ、そこに」

貴音「……!」

店主「ツレの女性が、もうコップの下に置いてってるから」

店主「……って、あれ? さっきまであの人、そこに立ってたんだけど………どこ行ったんだろう?」

貴音「?? のあ、どこに……」

店主「……トイレにもいないし……、あれ?」

貴音「…………面妖な」

貴音「(………………………)」

貴音「(今宵の一杯は、まことに美味なものでしたが……)」

貴音「(しかしそれは、私が今日一人で訪れでいたら、この感覚に巡り合うことは無かったでしょう。それこそ、まさに筆舌に尽くし難いもの)」

貴音「(願わくば、またいつの日か……)」











━━━━一方━━━━
【とあるアパート】


P「ら…………!」

P「ラーメン屋にいた……!?」

美優「た、高峯さんが……ですか!?」

時子「ええ。知人と楽しそうに、豚の餌を豚のように貪る如く、暴飲暴食の限りを尽くしていたわ」


千秋「ホント? 財前さん」

時子「何で見ていないのよ、千秋」

千秋「気付かなかったわ。私、課題に夢中だったし……」

P「………………………………………」

美優「お、お二人もラーメンを食べてたんですか?」

時子「飲食店にいて、それ以外の目的があるのかしら?」

美優「いや、その……ちょっと意外かなと思って。あまりそういったジャンクフードに縁がなさそうだなと……」

時子「…………………」

時子「………ちょっとした野暮用よ。別に好き好んで豚の餌を啜っていた訳じゃないわ」

千秋「じゃあ、これから財前さんの部屋で、ちょっと課題に取り組まないといけないから」

美優「課題? 大学ですか?」

千秋「まあ…………そんなところ。サークルみたいな」

千秋「お疲れ様でした、お二人とも」

時子「せいぜい、交番の前を通る時はそのみすぼらしい服装を正してからにしなさい。特に男の方」

時子「不審者と警戒されて捕まったりでもしたら…………ハッ。笑いのために体を張るなんて、プロデューサーを辞めて芸人にでも転向したらどうかしら」

P「………………」

美優「………………」


───ガチャ
バタン




P「………………」

美優「………………」

P「………………………………」

美優「……………………………Pさん」

美優「カ……、帰りますか、とりあえず。ちひろさんも待っていますし」

P「……………………はぁ」

P「とにかく高峯さんが……、平気そうで何よりでした」

美優「……そうですね」

美優「………Pさん。彼女は……」

P「?」

美優「私達が考えているより……、意外としたたかなのかもしれないですね」

P「……はい。そうですね」


━━━━━━翌日━━━━━━
【事務所 応接室】


周子「そっかそっか……、大変だったね」

周子「でも、あの四条貴音とお忍びでデートとは………のあさんも大物だねえ」

のあ「うん。おかげで元気出た」

のあ「ビール一升瓶を何本も空けて……、途中で気持ち悪くなって、その……」

のあ「とりあえず五千円をコップの下に置いて、急いで帰宅して盛大に吐いた」

のあ「……あとで貴音ちゃんに謝っておかないと。勝手に帰ってゴメンって」

周子「(本当に大物だなぁ……)」

周子「それはさておき」

周子「ホラ。ぎゅーってしてあげる」

のあ「!」

周子「おいでおいで。ホントに大変だったね」

周子「ぎゅーーっ」

のあ「……………♪」ギュー

のあ「……あぁ、あったかい。まるで母親の胎盤に包まれているみたい」

周子「生々しい表現はやめて」

のあ「周子ちゃんのお腹………柔らかい。ぷにぷにしてる」

周子「それもまた複雑だけど………まあいいや」ナデナデ

周子「………のあさん。周りの声なんて気にしなくていいんだよ」

周子「のあさんはのあさんなんだから」

のあ「……うん。私もいつか吉野家とコラボを……」

周子「えっ、なに?」

のあ「ううん。なんでもない…………眠くなってきた」

周子「おうおう、よしよし」ナデナデ

のあ「………♪」

周子「………♪」























紗枝「…………………………………………………………………………………………」




周子「(ハッッッ!!!!!!!!!!!)」ビクゥ!!


のあ「紗枝……?」

周子「さ、紗枝ちゃん………!!」

紗枝「ア、あグ……、ぎ、ギ……」プルプル

周子「その壊れかけのロボットみたいな音はどっから出してんの!?」

紗枝「こ……、こ、これは……!!」プルプル

周子「(───!)」

紗枝「しゅ、しゅ、周子はん………な、ナなんで、た、たか高峯はんをひ、膝枕して、してはるのっ……!?」プルプル

紗枝「そ、そ、そんでっ……、お、お腹と腕とで………か、体全体で高峯はんの頭を、ほ、捕食してるみたいな…………!!?」プルプル

周子「表現!!」

周子「こ、これはね! その、まあ……、一種のコミュニケーションで……」

紗枝「そ、そないな……、た、タタ高峯はんの頭をっ……、な、な、なでなで……、な、なでなでして…………!!」プルプル

のあ「(…………)」

紗枝「ここ、コ、これは、な、ナ…………ッ、げほっ!!!!!」

周子「紗枝ちゃん!!」

紗枝「ア、あぁ……………、………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あっ?」

周子「?」





紗枝「ぶ……、VR彼氏?」

周子「落ち着いて、紗枝ちゃん。なんか『あぁ、それなら納得』みたいな顔してるけど、現実だから……」

のあ「(…………♪)」スリスリ











━━━━━━━━━━
【事務所】


美優「…………くしゅんっ」

真奈美「美優。風邪かな?」

真奈美「今時分珍しい。冷房の前で薄着で長居しすぎたか?」

美優「い、いえ……特には」

真奈美「? そうか」

真奈美「プロデューサー君も高熱で倒れたらしい。夏だからと言って、油断は大敵だな」

美優「ソ、そうですね……」


──────
────
──

──
────
──────
【とあるラーメン屋】



のあ「(…………)」

店員「おまたせしました、こちらエスニック風ラーメン、パクチー別盛りです」

店員「ごゆっくりどうぞー」

のあ「(…………♪)」

のあ「(ふ、フフ……! ここが貴音ちゃんが言ってた、オススメのお店……♪)」





店員「(……………)」

店員「(美人だなぁ……あの人)」チラッ

客A「(外国人のモデルか?)」チラッ

客B「(ジャンクなラーメン屋には不釣り合いなくらい綺麗な人だ……)」チラッ

客C「(やべぇ……ちょっとお前、声かけてみろって)」チラッ

客D「(近付けないって! なんかすげえ大物のオーラが出てる気がする……)」チラッ





のあ「(食券制で注文簡単。えすにっくとか言う、ちょっと理解出来ない小洒落たカンジで……!)」

のあ「(ま、まるでリア充みたい! 陰キャな私が、そして一人で! 一人ラーメンっ!!)」

のあ「(今月の目標の『友達作り』もなんとか達成したし、私もいよいよ……っ!)」

のあ「(ふ、フフフ……♪)」ドキドキ





店員「(……………)」

店員「(ひとつひとつの動作に……、俺達とはまるで生まれた世界が違うかのような、優美な品を含んでいる……)」チラッチラッ

客A「(美しすぎる……っ! なんか俺達、ここに居ていいのか?)」チラッチラッ

客B「(美しい女性の振る舞いを『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』と言うが………じゃあ今のあの人の……食べる姿は何と形容すればいいのか)」チラッチラッ

客C「(馬鹿野郎。花も恥じらう超美人だろ)」チラッチラッ

客D「(あれ……、おかしいな。俺、VRヘッドセット付けてたっけ)」チラッチラッ





のあ「(ふ、不思議と店全体から注目されてる気がする……っ、き、緊張してきたわ……フフッ♪)」


のあ「(……そうだっ!)」

のあ「(ちょうどいいかな。昨日始めた『インスタ』に、このラーメンの写真をあげよう♪)」

のあ「(わ、私もいよいよこれでリア充の仲間入り? あ、憧れの、い、意識高い系アピール? ふ、フフ……♪)」

のあ「(えへへ……、カメラ機能は……っと)」スッ

のあ「(よし……っ)」

───カチッ



パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ!!
パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ!!



のあ「ヒッ!」ビクッ!

───ぱっ


のあ「 ぁ っ 」




 ぼちゃっ!




のあ「」

のあ「ぁっ…………」クルッ

店員「(……っ)」スッ

のあ「ぁっ…………」クルッ

客A「(……っ)」スッ

客B「(……っ)」スッ

のあ「ぁっ…………」クルッ

客C「ごちそうさまでしたー」ガタッ

客D「あー、ラーメンうめぇー」ズズー

のあ「」ガタッ










━━━━━夜━━━━━
【岡崎宅】


泰葉「スマホをラーメン屋に忘れた?」

泰葉「不幸中の幸いですね、場所が分っているだけでも。でも、なんで取りに行かないんですか?」

のあ「…」

時子「楓。醤油取って」

楓「あ、ハイ」

のあ「…………………いけなぃ」

泰葉「な、なんでですか……」

──────
────
──

──
────
──────
【岡崎宅】


のあ「……時子」

時子「なによ」

のあ「貴女が泰葉の家で過ごすのは、何か理由があるのかしら」

のあ「……甘き誘惑。人間は、安息を求めるあまり堕落という闇に囚われる」

時子「その質問、そのまま返すわ。想像に難くは無いけれど」

のあ「セ、節約」

のあ「泰葉の家にいるだけで水光熱費が、とても浮く」

泰葉「あの、一応本人いるんですけど」

のあ「あと、居心地がとてもいい」

時子「私は退屈しのぎ。道化の滑稽な三文芝居でもたまには興が乗るわ」

時子「これ以上にないくらい、憐れみを感じさせてくれるという意味でね」

泰葉「(高峯さんのことかな)」

泰葉「でも時子さん、いつもご飯時に来るから、てっきりご飯が目的だと思ってましたよ」

時子「………」

のあ「お茶を貰えるかしら」

泰葉「あっ、ハイ」

泰葉「そう言えば、楓さんは今日来ないんですね?」

のあ「……?」

のあ「(確かに、珍しい。今日は楓さんの好きな銀だらのみりん漬けなのに)」

のあ「ラインも未読だったわ」



───ピンポーン!

泰葉「あ、来ましたね楓さん。よいしょっと」

時子「……貴女って、料理の心得はある?」

のあ「……!」

のあ「レシピを見ながらなら、自信はあるわ。多分」

時子「得意料理は?」

のあ「……おでんよ。母から教わった」

時子「あぁ……、貴女も人の子だったかしら。それにしても地味ね」

のあ「(じ、地味?)」

バタバタバタ

ガチャ




楓「み、み、みなさーーーん!!!!」



時子「来るや否や騒々しい」

のあ「お帰りなさい、楓」

楓「た、大変です! とと、とにかく……!」

のあ「何があったの?」

泰葉「??」

楓「わ、私っ! や、やりましたぁ!!」

楓「ランクが上がったんですよぉっ!!!」

のあ「(!!!!)」

泰葉「わぁ! おめでとうございます楓さん!」

時子「ふぅん。元々ランクは“G”で、じゃあ“F”かしら」

のあ「(まあ……、楓さんのほうが私より所属は早かったし、順当なのかな)」 ←Gランク







楓「それがっ……!!」

楓「“E”です!!!」

楓「い、一気に2ランクアップして……!! さ、さっきプロデューサーさんから呼び出されて、そのっ、わわ、私……!!!」









のあ「えっ……」


──────
────
──

──
────
──────
【続・岡崎宅】


泰葉「2ランクアップですか!?」

泰葉「相当珍しいですよ!! もしかして前代未聞かも」

のあ「(………)」

時子「へえ……、おめでとう」

楓「あ、ありがとうございます!」

時子「楓、リモコン取って」

楓「あっ、ハイ。う、うへへ……♪」

のあ「(………)」

泰葉「手に持っている袋は何ですか?」

楓「あっ、これはお菓子です」

時子「駄菓子じゃない。ポッキー、きのこの山、カントリーマアム……?」ゴソゴソ

楓「事務所でその場にいた子達が、おめでとうって、どんどん買って来てくれて……」

楓「いや、いやぁ、本当にそのっ、なんていうか……」

のあ「(………)」

泰葉「本当におめでとうございます、楓さん♪」

時子「良かったじゃない。仕事も増えるわね」ビリッ

楓「ば、バスチーが! た、食べたかったのに……!」

のあ「(………)」


泰葉「あっ」

泰葉「高峯さん、帰るんですか?」

時子「まだ何も食べてないのに、奇行ね」

泰葉「確かに珍しい。ご飯は欠かさず食べて帰るのに」

楓「の、のあさん?」

のあ「………」

のあ「………」

のあ「……腹痛よ」

泰葉「(嘘だ)」

楓「(嘘だ)」

時子「………」

楓「(………)」












━━━━━━1時間後━━━━━━
【居酒屋】


のあ「うぅ~、ううぅ~……!」

のあ「ぅあぁ~! くやしい、くやしいよおっ……!」

のあ「おめでたい……、おめでたいのに、素直に喜べないぃ~~……!」

周子「(最近呼びだされるスパンせまなってるなぁ)」

周子「あっ、店員さん。鯛茶漬けください」

のあ「ぐすっ………うぅぅ~~っ……」


──────
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──

──
────
──────
【続・居酒屋】


周子「ま」

周子「あたしは美味しい居酒屋ごはんが食べられるから、別に構わないんだけどね」モグモグ

のあ「ゔゔぅ゙っ……!」グビッ

周子「そんで? 楓さんが、えーっと?」

周子「妊娠したんだっけ?」

のあ「違う……。ランクが上がったの」

周子「あー」

のあ「………」

周子「あー、そやねえ」

周子「のあさんの方が、麗さんからの評価高いし、実はデビューもしてCDも出してるし、つい最近は四条貴音のバーターとしてバックダンサーもやったのにねえ」

のあ「そ、そう! そうなのっ!」

のあ「それに私の方がむ、む、胸もあるし!」

のあ「料理も出来るし! 寝起きもいいのに……!」

周子「(競う次元がかなり低い)」

周子「でもね、のあさん? 楓さんの方が所属は早いし、一応は楓さんも努力してきたわけだよね?」

周子「のあさんが周りと仲良くするために努力してるのと同じように。それが実を結んだんやね、楓さん」

のあ「た、確かに。楓さんの方が、なんか周囲から好かれているというか、色々と人脈が広そうな気もする」

周子「前職、モデルだったんだよね? まゆちゃんと悠貴ちゃんと以前は仲良くしてたって聞いたことがあるかも」

のあ「そ、そうなの?」


のあ「………」

周子「案外、のあさんは楓さんの事を良く知らないかもしれないよ」

のあ「で、でもやっぱり悔しい……」

のあ「同じGランク仲間かと思ったのに、同じぼっち仲間かと思ったのに……」

周子「楓さんもそうだけど、のあさんも自分が思ってるよりはコミュ障でも陰キャでもないと思うよ」

のあ「うぅ、うううっ……」グスッ

のあ「か、楓さんなんて、楓さんなんて……」

のあ「いっつもコンビニ弁当かスーパーの惣菜ばっかり食べてて、部屋からはアルコールの臭いがぷんぷんするし」

のあ「“咲いたばかりの白い百合の香りを漂わせるような楚楚とした艶やかさ”……なんて雑誌で謳われてるけれど、本当に香るのは酒精の生温かい臭いなのに」

のあ「ブラジャーだって2日に1回しか替えてないっていうし、靴下はしまむらブランドでまさに見えないところにお金はかけないを地で行く人だし」

周子「」

のあ「免許だって、実は楓さん効果測定で何回か引っかかって、技能試験も1回落ちてたし」

のあ「スーパーの試食、私ですら5往復が普通なのに楓さんは7往復ぐらいしてたし。会計後に袋詰めする台にある透明な袋、めっちゃ持って帰るし」

のあ「泰葉ちゃんのネットフリックスとフールーのアカウント、未だに借りてるっていうし。いや、それは私もこっそり使っているんだけれども」

のあ「トイレの音姫、いっつも使ってないし。エレベーターに乗った時、いっつも階間違えるし、それでいっつも動いてる時に消そうとしてダブルクリックするし」

のあ「吉野家じゃなくてなか卯派だし。口臭ケアのタブレット、いっつもボリボリ噛んでるし。リップクリーム、いっつも食べてるし」

のあ「楓さんなんて、楓さんなんて……」













━━━━━━━その頃━━━━━━━
【岡崎家】


楓「は……、は……」

楓「はっくしゅん!! はっくしゅん!!!」

泰葉「風邪ですか? 夏なのに珍しい」

時子「夏風邪は馬鹿が引く、って言うわね」

楓「ふ、フフ……♪ きっと誰かが私のウワサをしているんですよ!」

泰葉「まぁ、そうかもしれませんね。ランクも上がりましたし」

時子「くしゃみ2回は陰口よ」

楓「………………………」


──────
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──
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──────
【公園】


紗南「伝説レイドだーーっ!!」

美玲「(お、大声出すなッ! はずかしいぞッ!!)」

紗南「やっぱり実装初日だから、みんな集まるよねぇ♪ ぱっと見で、50人は越えてるよね」

美玲「(というか、ウチら以外はみんな大人だぞ………ポケモンGOユーザー層って平均年齢高いんだな……)」

紗南「今回はフリーザーだから、こおりタイプの弱点はほのおとかくとう、と………ホラ、美玲ちゃんもパーティ決めといて!」

美玲「んん~……」

美玲「(……!!)」

美玲「(紗南! 紗南!!)」

紗南「うん? レイドパス?」

美玲「(ちがう。あそこ)」

紗南「……うん?」

美玲「(黒のキャップ被って、一心不乱に画面タップしてる、あの人)」

美玲「(帽子以外の服装は事務所の時と変わらない近未来チックなやつで、木陰でひっそり立ちながらプレイしてるあそこの女の人)」

紗南「わっ、高峯さんだっ!!」

紗南「高峯さんっ! 高峯さーん!!」

紗南「高峯さん! おつかれさまですっ♪」

のあ「………」

美玲「高峯さんもポケモンGOか? ウチも紗南に連れて来られてさあ」

のあ「………」

紗南「時限式で、期間限定で、伝説ポケモンで、マルチ協力必須ときたらもうやるしかないよね!」

のあ「………」

紗南「高峯さん? もしよかったらアタシらと一緒のグループでやりませんか?」

のあ「………」


紗南「あの? 高峯さん??」

美玲「どうしたんだ? 体調でも悪いのか……?」

のあ「(………)」

のあ「………ヒ」

紗南&美玲「???」

のあ「人違い───」





美優「のあさん?」

真奈美「やあ! のあもここに来ていたのか!」

のあ「───グッ!?」





美優「だ、大丈夫ですか? 変装もせず……」

紗南「真奈美さん、美優さんも! おつかれさまですっ♪」

真奈美「おや、紗南。奇遇だね、美玲も」

美玲「二人も伝説レイドか? いや、ウォーキング……?」

真奈美「フフッ、ここに居る目的は君達と同じだよ。これから“奴”に取り掛かる所さ」

紗南「真奈美さん、かっこいいスポーツサングラスですね! 美優さんもGOプラ付けてて、本格的にやってるカンジで……!」

美優「最初は軽い気持ちで始めたんだけど、ウォーキングがてらにやっていると案外面白くてね?」

美玲「なぁ、紗南? あと30秒ってなってるけど、このままでいいのか??」

紗南「わ!? ままま待って入室早いよ美玲ちゃん!! アタシも準備するから、一旦待って!!」








のあ「」

のあ「(し、しまったわ……、美優さんと真奈美さんもポケモンGOやってるんだった……、完全に油断した……)」


──────
────
──
※第4作(番外編①)参照

──
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【続・喫茶店】


のあ「(………)」

店員「こちらメロンソーダとレモネードになります」

美玲「あ、ハイ! こっちだぞ!」

紗南「いっただきまーす♪」

美優「それにしても、本当にばったり会いましたね」

真奈美「確かに。いつの日だったか、夕食の買い出しに足を運んだスーパーで出くわした事もあったな」

のあ「……ええ」

真奈美「一年近く前か、懐かしいね」

店員「こちら、アップルティーです」カチャ

店員「ミルクティーのお客様」

美優「はい」スッ

真奈美「それにしても美優の言った通り、些か無防備だったんじゃないか、のあ?」

真奈美「仮にもアイドルである君が、これといったカモフラージュもせずに堂々と闊歩するのは。つい最近、Aランクさながらの話題をさらったばかりだろう」

美優「(……!)」

のあ「いいえ、構わない。ランクなど……」

のあ「……ランクなど。真価を曇らせ覆い隠す、表層の虚飾にしか過ぎない、……過ぎないわ」

真奈美「ん?」

美優「(……??)」

のあ「紅茶、頂こうかしら」

紗南「ねえ高峯さん? それ、紅茶に付いて来たやつ、それさ、ルマンド?」

美玲「ああ、ブルボンのお菓子か?」

のあ「ええ。その通りよ」

のあ「上質で優しい香気の紅茶には、安い甘味が不思議と調和をもたらすの……」カチャ

美優「………」

真奈美「………」







美優&真奈美「(───!?)」

美優「(ま、真奈美さん!? 私のミルクティーのも同じですけど、シナモンスティックですよコレ!!!)」

真奈美「(そ、そうだな)」


のあ「あむっ」

ガリッ! ばりっ、ばりっ!
ボリッ、ボリッ、ボリッ、ボリッ、ボリッ……


美優「」

真奈美「」

のあ「(硬っ……、そしてマズイわ、このルマンド。おまけに苦いしちょっと辛い)」ボリボリボリ

紗南「へえー。確かに『紅茶にはヤングドーナツですわー!』って桃華ちゃんが言ってたなぁ」

美玲「琴歌も“しみチョココーンスティック”が合うって言ってたぞ。よく分からない世界だな」

美優&真奈美「………………………………」

真奈美「(まさかシナモンスティックを食べる人間がいるとは思いもしなかったよ、美優)」

美優「(アレ、食べて大丈夫なんですか? 香りが付いた木の樹皮ですよね?)」

真奈美「(体を張ってからかっているのか、はたまた用途を知らなかったのか……)」

美優「(この間、緊張しすぎた瞳子さんがスティックシュガーとマドラーを間違えてコーヒー混ぜてましたけど、それに近い状態なんじゃあないですか?)」

美玲「なあ?」

美玲「美優さんのミルクティーにも同じの付いてるけど、残してるならウチが貰ってもいいか?」ヒョイ

美優&真奈美「(!?)」

美優「アッ! だ、だめっ!!」バッ!

美玲「わっ!? ご、ごめん………そんなに食べたかった?」

美優「あっ、びっくりさせてごめんね、美玲ちゃん。その、えっとぉ……」

美優「こ、こういう所のお茶請けってその、お酒が入ってたりするから、あの、………ッ」

のあ「………」ボリッ

美優「ッッ……!!!」


がじっ!
 ぼりっ、ぼりっ……


真奈美「………………………」

美優「ゥッ!!!! ……………ゔン、おいしィッ……!!」ボリボリ

美優「ヤ゙……、ウグッ……、やっぱリ、お酒がぁッ゙! ごほっ!? ゲホッ!!!」

真奈美「だ、大丈夫か!?」ガタッ!

紗南「へえぇ、てことはルマンドに似たお菓子かぁ。いいなあ、アタシも将来食べてみたいなあ」

美玲「うーん、他のテーブルの人も結構残してるカンジだぞ。あまり美味しくないのか??」

のあ「………」ボリボリ




※その夜、三船美優はしっかり体調を崩した
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【事務所】


ちひろ「高峯さん、お疲れ様です」

のあ「(……!)」

のあ「ええ。貴女も」

ちひろ「丁度良かった、高峯さん? 実はアルバイトのお話があるんですけど」

のあ「……可能であるならば、若者とあまり接触しない内容であれば望ましいわ」

のあ「前回のナイトプールは……、少し私には不釣り合いだった」

ちひろ「!」

ちひろ「(彼女が日常の中で意思表示をするのは、本当に珍しい)」

ちひろ「(Pさんも言ってましたけど、寡黙の彼女であるからこそ尊重すべきですね)」

ちひろ「そうでしたか……。ご期待に沿えないようですみませんでした」

ちひろ「そういった要望があれば遠慮せず言ってくださいね?」

のあ「ええ、ありがとう」

ちひろ「今回の依頼者は、実は事務所の所属アイドルなんですよ」

ちひろ「もちろん、内輪だけで募集を掛けている、いわばボランティアに近いですね」

のあ「(へえ~、そんなのもやってるんだ。芸能事務所って色々身内で支え合ってるところがあるんだなぁ)」

ちひろ「時期が被っている都合上、一人だけ選んでください。内容も当然、精査していいですけど」

ちひろ「新田美波ちゃん、速水奏ちゃん、小早川紗枝ちゃん」

のあ「(………)」

ちひろ「あと……」

ちひろ「三船美優さん」









━━━━━━翌日━━━━━━
【三船宅】


美優「まさか、バイトを受けてくれるのがのあさんだったなんて、最近はよく会いますね」

のあ「内容は?」

美優「はい。実は私が直接的な依頼をしたのではなく、友人の頼みでして」


美優「本来は私が頼まれたんですけど、急な仕事の都合上どうしても最後まで面倒を見れなくて……」

のあ「明日から出張と聞いたわ、美優」

美優「沖縄の宮古島で、写真撮影をしてきます。前乗りですけど」

のあ「(う、羨ましい!)」

美優「お土産買ってきますね。それで、アルバイトの内容なんですが」




犬「グルルルルル……!!」




のあ「………」

のあ「美優」

のあ「貴女、前来た時には動物は飼っていなかったと認識していたのだけれども」

のあ「(しかも気性荒らそう。う、唸ってるし)」

美優「ええ、今回の依頼はこの子です」

のあ「えっ」

美優「この子は友人のペットですが、少しの間預かってくれと頼まれまして」

美優「のあさんには初めて話しますが、私、前に犬を飼っていたんです。それで私に白羽の矢が立ったようで、二つ返事で引き受けたのですが……」

のあ「止むを得ないわね。美優は……」

のあ「……貴女は、Dランクで多忙を極める身だから。貴女の憂いを断てれば幸いよ」

のあ「任せて」

美優「ありがとうございます。その、普段はこんなに唸ったりはしていないようなんですけど、今日はなんか機嫌が悪いみたいで……」

のあ「(不安だわ……)」

のあ「それで、彼の名前は?」







美優「……順一朗」






のあ「……え?」

のあ「じ、ジョン?」

美優「じゅ、順一朗です!」

のあ「順一朗……」

のあ「……マ、任せて美優」

のあ「貴女の息子、……順一朗は私が責任を持って預かるわ。貴女は後ろを振り返らずに自分の責務を全うして」

美優「わ、私の子供じゃなくて、友人のペットです! 本当にお任せしますからね……?」


☆つづく
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──

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──────
【三船宅】


~~~~~~回想~~~~~~

美優『期間は一泊二日で、今日は良ければ泊まって下さい。ウチにある物は何でも使って結構ですから』

美優『この子のご飯は朝晩2回、夕方ごろに外へ散歩もお願いします』

~~~~~~~~~~~~~~


のあ「………」

のあ「あー……、美優さんのおうち、久々だなぁ。去年の秋、美優さんと真奈美さんと三人でお鍋をした以来だわ」

のあ「部屋中良い香り。私もアロマとか始めようかなぁ」スンスン

のあ「………」チラッ

順一朗「………」

のあ「めちゃくちゃ興味無さそう。もしかして舐められてる?」

順一朗「………」

のあ「……はぁ」

のあ「引き受けた以上、貴方の面倒は私がみるわ。よろしくね、順一朗?」

順一朗「ワンッ!!!」

のあ「ヒッ!!!」

のあ「ぐ、くっ………犬は怖いなぁ。猫と違って攻撃力高そうだし」

のあ「……お腹空いた。冷蔵庫でも物色しようかしら」


~~~~~~1時間後~~~~~~


のあ「っ……!」モグモグ

のあ「やばっ! 冷食のアヒージョなんて初めて食べた!」

のあ「ん~、おいしいっ! ニンニクとオリーブオイルの風味が効いてて、これにパンをひたひたに付けて食べたらもうすごいんだろうなぁ」モグモグ

のあ「冷食の進化って素晴らしいなぁ。このニチレイのチャーハンと餃子なんて普通に作るよりも完成度高いと思う」パクパク

のあ「最近コンビニでよくみかけるSAVASのドリンクも意外にイケるわ。飲むヨーグルトも貰っておこうかな」グビッ

のあ「そういえば冷蔵庫にサラダチキンが大量に置いてあった。あとで頂こうかしら」

のあ「あとは、何が入ってたかな? どれどれ??」ガサガサ

のあ「美優さん、冷食とかこういうの結構あるし、普段はあんまり時間ないのかな? でも食材の冷凍保存ストックもかなりあるわね」

のあ「小麦粉とかって冷蔵庫で保存する物なの? うわ~、几帳面にフルーツとか野菜とか小分けにしてるし………こういうトコよね、やっぱり」

のあ「へえ~、ふ~ん……」ガサガサ

のあ「(なんか持って帰ろうかな……)」

のあ「私の冷蔵庫とは大違いだなぁ。といっても私の冷蔵庫、お金が無くて今は何にも入ってないけど」

のあ「ふふっ……、死にたくなってきたわ」

のあ「泰葉ちゃんの家の冷蔵庫は食材ばっかりだったなぁ。以前は料理の練習とか言ってたけど、あの頃より遥かに上達してきたわね」

のあ「楓さんの冷蔵庫は……、想像に難くないわね。ビールと酎ハイばっかり入ってそう」

のあ「あー……」

のあ「………………」

のあ「あっ。そろそろ散歩の時間ね、あの子の」

のあ「持ち物は美優さんが残してくれたメモに、ふむふむ……?」

のあ「この犬用ジャーキー数本と、リードと、袋と………、これくらいね」

のあ「………………」

のあ「このジャーキーって、私達も食べられるのかしら……」


☆つづく
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【三船宅・玄関】


のあ「………」

順一朗「ヘッ、ヘッ……!」

のあ「………」

のあ「このアパートを………2周くらいだけじゃダメ?」

順一朗「ガウッ!!!!」

のあ「ヒッ!!!! ………わ、分かったわ。ちゃんと行くから」

のあ「(くっ……、そっちの出方によっては餌抜きよ。せいぜい殊勝な態度でいる事ね)」

順一朗「ヘッ、ヘッ、ヘッ……!」

のあ「(緊張するなぁ。30分くらいでいいのかなぁ)」

のあ「(うちの事務所で犬飼ってる人って誰だろ)」

のあ「(優さんに、聖來さんは確か愛犬家って噂よね。雪美ちゃんは………、猫だったかしら?)」

のあ「はぁ~、そろそろ行こう」

のあ「ほら、順一朗。ほら」スッ

順一朗「ヘッ、ヘッ、ヘッ、ヘッ……!」


ガチャッ




順一朗「バウッ!!!!!!!!!」






グイッ!!!!






のあ「ちょっ!!!!!!!!!?」





順一朗「ヘッ! ヘッ! ヘッ! ヘッ! ヘッ!」



グイグイグイグイグイ!!!!!


のあ「おっ おっ お!?」

のあ「ちちちちょちょっ、ちょっとォォォ!!!!!!」



順一朗「ヘッ!! ヘッ!! ヘッ!! ヘッ!! ヘッ!! ヘッ!!」



のあ「強ッ!! ちょっ、まっ、まッッ……!!!!!」






するっ






のあ「 ァ゙ァ゙ッ 」






 ヘッ!! ヘッ! ヘッ、ヘ、………











のあ「………………………………………………………」

のあ「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」





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美優『わ、私の子供じゃなくて、友人のペットです! 本当にお任せしますからね……?』

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のあ「じ」

のあ「じゅんいちろうーーーーーーッ!!!!!」


☆つづく
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【三船宅・アパート前】


のあ「あ、あぁ……」ペタン

のあ「ま、まずい………か、かくじつに……」

のあ「ど、どっかいっちゃった……、戻ってこない……」

のあ「み、み、美優さんの、お友達の、なのに……」

のあ「ま、ま、まさか、あんなに引っぱる力が、つ、強いなんて……、も、もっと注意しておけば……」

のあ「あ、あぁぁ………」

のあ「………………………………」

のあ「お、おお追いかけないと、だ、だめ……」

のあ「く、車にでも……!」

のあ「轢かれたら……」

のあ「取り返しが……………」


のあ「………っ」

のあ「ぅっ……」ポロッ

のあ「な、なさ、情けないぃぃっ……!」ポロポロ

のあ「わ゙、わたじ、な、な゙んてことをぉ……!!」

のあ「ウッ、ウウウッ……!!」

のあ「順一朗……、じゅんいちろうぅぅっ……!!!」






























凛「………………………」






のあ「 ヴ ワ ァ ッ !!!!!!!!!!!」

凛「た、高峯さん?」

のあ「ヒッ!」

凛「や、そんなに怯えないでも」

のあ「ヒ、人違い、人違い……」

凛「いや、高峯さんでしょう?」

のあ「ご、ごめんなさい……」

凛「どうしたの? さっきからアスファルトに座り込んで」

のあ「あっ……」

のあ「み、見てた……?」

凛「う、ウン」

凛「『じゅんいちろうーーーーーーッ!!!!!』あたりから」

のあ「(終わった)」


☆つづく
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【三船宅・アパート前】


凛「“順一朗”って、高峯さんの……」

のあ「そ、そうなの……、その、私……」

のあ「に、逃げられちゃって……」

凛「(うっ)」

凛「(この人がこんなに取り乱しているなんて、よっぽど大切な人なんだろな……)」

凛「(名前呼びってことは弟? いや、この様子だと、まさか恋人?)」

凛「(ともかく、とんでもなく複雑な状況に遭遇しちゃったカンジかな、私)」

凛「………」

凛「何があったかは分からないけど」

凛「手伝うよ。その人のこと、探してこよう」

のあ「う、ウン!」

のあ「……その、私、慣れてなくて」

のあ「は、初めてだったから、あの、すごい力が強くて……」

のあ「て、抵抗できなくて……」

凛「(………っ!?)」


凛「そ、その………えっと………」

凛「(落ち着いて私!! これは興味本位じゃないけど、でもっ……!)」

凛「あー………乱暴なことをされたの?」

のあ「乱暴はされてないけど、その、いえ、でも首輪と紐は、指示通りだし……」

凛「首輪と紐!? もしかしてその人が付けてるの!?」

のあ「そ、そう……」

凛「(こ、これ以上は聞かないほうがお互いのためな気がする。ディープすぎて気になるけど、クールに、クールに……)」

凛「ウン。とにかく事情はさておき、早く追いかけよう」

凛「この業界じゃあ、プライベートの流出は一大事だから」

のあ「あ、ありがとう……」

凛「いいよ。同じ事務所の仲間同士、支え合わないとね」

のあ「………」

凛「電話してみる? それか、思い当たる行き先でもある?」

凛「なにか手がかりでもあれば……」

のあ「こ、これ、使えない?」

凛「何?」

のあ「これ」スッ

凛「えっ、何コレ」









~~~~~~~数分後~~~~~~~









凛「ほーら、ジャーキー! ジャーキーー!!!」

順一朗「ワンッ!! ワンッ!!!」

のあ「じゅ、順一朗!!」

のあ「良かった、戻ってきて……っ」

凛「(い、犬の事か……。変な想像しちゃって馬鹿みたい)」

凛「……犬ってさ、リード離しても割とそんなに遠くに行かないもんなんだよ。逃げるよりも近くの電柱とか塀のニオイ嗅ぐのに必死でね」

凛「それで、自分が普段食べてるおやつの名前とかで呼び掛けると、すっごい反応するんだ」

凛「私のハナコも離れちゃった時、この方法ですぐに戻ってきたなぁ」

のあ「本当に良かった………美優さんの順一朗にもしものことがあったら、彼女になんて言ったらよかったか……」

凛「(美優さんの犬、順一朗って名前なんだ……)」

凛「(へ、へえぇ。美優さんの方が色々と闇が深そう……)」


☆つづく
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【公園】


凛「可愛いゴールデンレトリバーだね、この子」

のあ「ゴールデン?」

凛「犬種だよ。ちなみにウチのハナコはヨークシャーテリアとミニチュアダックスのミックス」

のあ「へえ……」

凛「好奇心旺盛な子だ、この………順一郎は」

のあ「凛ちゃん」

凛「うん?」

のあ「今日は本当に助かった………ありがとう」

凛「いいえ、どういたしまして」

凛「フフッ。今日……、初めて本当の貴女に会った気がするよ、私」

凛「勿論、みんなには言わないから、安心して?」

のあ「……ええ」

凛「私も謝らなきゃいけないかな」

のあ「えっ?」

凛「寡黙な女王のキャラと、その感情が読み取れない見た目でさ。事務所のみんな、貴方の事を怖がってる」

凛「“ロボット”って揶揄したり、“宇宙の統率意識”っておかしく笑ってる子もいるよ」

凛「貴女は貴女で、色々と悩んでるかもしれないのにね」

のあ「凛ちゃん……」

凛「私も高峯さんの事、ターミネーターかETだと思ってたし」

のあ「凛ちゃん……?」


凛「でもそれは貴女の事を知らないから……、怖いから無意識に距離を置いているんだと思う」

凛「今日から、仲良く出来たら嬉しいかな?」

のあ「ええ、私も是非」

凛「高峯さんさ、前にLIVEバトルの時、私に言ったよね?」

凛「『貴女達3人は私と違う。共に支えあい、笑いあい、協力できる仲間がいる』って」

のあ「………」

凛「その、上手く言えないけど………キャラ作りって言うのかな。自分を偽って過ごすのは大変だと思う。でも」

凛「貴女も一人じゃないよ」

凛「頼ってくれるなら、周りは全力で応えてくれるから」

のあ「……ええ」

のあ「じ、じゃあ早速お願いしたいんだけど」

凛「うん、何?」

のあ「犬の事、良く知らないから、明日までお世話できるか分からないの」

のあ「美優さんには申し訳ないけど、その、今日一日付き合ってくれないかな?」

凛「ん、んー……」

凛「門限までならいいケド、それ以降は……」

のあ「うっ……」

凛「あ、そうだ! 優さんと聖來さんに連絡してみようか。今日予定が付くかどうか」

凛「知ってると思うけど、二人も犬飼ってるから、色々と助けてくれるはずだよ」

凛「美優さんの家って、さっきのアパート? 高そうなとこだったね、じゃあ早速色々と買い出し行こうか」

凛「ほら、行くよ。順一郎」

順一朗「ワンッ!」

のあ「………♪」

















━━━━━━━━後日━━━━━━━━
【事務所】


早苗「ねえ、美優ちゃん。その、野暮な事かと思うけど、一つ聞いてイイ?」

美優「はい、なんでしょう?」

早苗「最近事務所でウワサなんだけど、その……」

美優「ウワサ……?」


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★三船美優のウワサ★
http://i.imgur.com/hlzI7O6.png



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【岡崎宅】


泰葉「あ。いらっしゃい、高峯さん」

のあ「息災かしら」

泰葉「はい。5日ぶりですね」

のあ「今日の献立は何かしら」

泰葉「そうめんです。温玉と、豚ひき肉と、ねぎとごま油を使った台湾風の」

のあ「頂くわ。問題ないかしら」

泰葉「いつも4人分作っていたので、むしろ最近来ない方が困りましたよ」

泰葉「時子さんも来てますから」

のあ「ええ」

のあ「……楓は?」

泰葉「今日は………まだ来てないですね」

のあ「……そう」


━━━━━━━━━━━━━━━━


泰葉「どうですか? 台湾風そうめん」

時子「……台湾風」

泰葉「はい。このまえ千鶴ちゃんとプロデューサーと一緒に新宿のお店に行ったんですよ、仕事終わりに」

泰葉「台湾ラーメン。美味しかったんで、そうめんでも応用できないかなぁって」

時子「下の下ね。辛味が足りない」

泰葉「は、はぁ……」

時子「唐辛子と、ねぎではなくニラを入れるべきね。ニンニクも隠し味として欲しいところかしら」

泰葉「隠し味………ニンニクは主張が激しいと思うんですけど……」

時子「うるさい」

泰葉「時子さん、名古屋の出身でしたっけ」

泰葉「よく召し上がっていたんですか? 台湾ラーメン、確か発祥でしたよね」

時子「あんな低俗なB級グルメ、耳にするのも不快だわ」

のあ「………」

泰葉「高峯さん? 一口も食べてませんが、辛いのは嫌いでした?」

のあ「いいえ……」

時子「今回のは箸を付けるのも憚られる程の駄作と、嫌なら早く言いなさいな」

泰葉「じ、次回はちゃんとレシピを参考にしますよ!」

のあ「今日……」

のあ「楓は来るのかしら」

時子「まさか、まだ下らない劣等感にでも苛まれているのかしら? 貴女」

泰葉「と、時子さん!」


時子「上に行けば行くほど、本人にしかわからない悩み・苦痛が立ちふさがるわ」

時子「それを知らない訳では無いでしょう。元子役」

泰葉「そ、それは……」

のあ「悔しさを感じていないと言えば嘘になるけれど、それでも私は、素直に応援したい」

のあ「彼女に寄り添えるのは、私なのだから」



───貴女も一人じゃないよ

───頼ってくれるなら、周りは全力で応えてくれるから



のあ「………」

泰葉「Eランクからは、仕事の量が一気に増えてきます」

泰葉「楓さんは飄々としてますけど、それでも不安な事が増えてくるはずです」

泰葉「高峯さんの言うとおり、誰かが、どこかが、心と体の拠り所として必ず必要になってくる」

泰葉「私達がそうなってあげられると良いんですが……」

時子「……ハァ」

時子「辛気臭い。場末の廃墟でもまだ落ち着くわ」

時子「泰葉。楓は貴女と違って表と裏を使い分ける演技力もないだろうけれど、それほどストレスを溜めこむ性格とも思えないわ」

泰葉「私もそんな演技力なんて大層な物はないですよ。この業界の経験が少しばかり人より長いだけですから」

時子「あら、そうかしら」

時子「ここが火事になった際、駆けつけた貴女の目に光る涙はまさに迫真だったわよ」

泰葉「あれはもう本当に、二人には懲りて貰おうと思って………」

時子「………」

のあ「………」

泰葉「………」


















のあ「ソ、そうなの……?」

泰葉「ちちち違いますよ!!?? ほ、本当に心配したんですからあの時は!!!!!」

───ピンポーン!


泰葉「あ! あ!! 楓さんですよホラ!!!」ガタッ

のあ「泰葉、私はもう少し貴女の話が聞きたい」


ガチャッ!


楓「お邪魔しまーす♪ わぁ、ごま油の香ばしいニオイ!」

泰葉「お疲れさまです。ご飯食べますか?」

楓「ええ、モチロン! それより知ってますか泰葉ちゃん!」

楓「カフェでよくコーヒーと一緒についてくるルマンドみたいな棒、あれってシナモンスティックって言うんですよ」

楓「私、今までずっとお菓子だと思って齧ってたんですよねぇ。苦くて一口しか食べてなかったんですけど、今日初めて瑞樹さんに指摘されて、もう恥ずかしくって恥ずかしくって───……!」

のあ「……楓」

楓「───あっ!」

のあ「………」

のあ「……この間、言いそびれた事があるの」

のあ「Eランク昇格、おめでとう」

のあ「自分の事のように、本当に誇らしい。これから新しい舞台に羽ばたく貴女に幸運がある事を祈るわ」

楓「……!」

泰葉&時子「(………)」

楓「あ───」

楓「ありがとうございますっ♪」

のあ「……フッ」

楓「ふふっ♪ あー、お腹空いた、今日のご飯は何ですか??」

泰葉「楓さん、今日は台湾風そうめんですよ」

楓「あー! 台湾風って、名古屋のアレですね! よく居酒屋で見かけますけど、実はあんまり好きじゃないんですよ」

泰葉「えっ、そうなんです??」

時子「………」ピクッ


泰葉「じゃあ具を抜いて、普通のそうめんにしますか?」

楓「はい! お願いします!」

楓「名古屋の名物って、何か変なのばかりですよねぇ。台湾ラーメンも、小倉トーストとかあんスパとか天むすとか、高カロリー+高カロリーで胸焼けのオンパレードですし!」

楓「濃い味で誤魔化しておけば何とかなるオーラがむんむんなんですよねぇ、名古屋! 味噌やら胡椒やら唐辛子やら!!」

のあ&泰葉「(………)」

楓「安っぽいというかファミレスメニューというか、もうB級の中のB級ってカンジで、愛知県民の民度の底が知れるというかお里が知れるというか、『いやあれだけ偉そうな事いっておいてB級とか戸愚呂じゃ───


ガシィッ!!!



楓「ヴッ!!?」

時子「へえ……、流石はEランク。随分と口が回るようになったわね」

時子「上を目指すには、Bランクの味もたぁんと堪能しておくべきだと思うわ。辛(から)く、険しい道のりを往く楓には私からの餞別よ」

楓「えっ、えっ、えっ!?」

時子「泰葉。私が追加で味付けするから、貴女は休んでなさいな」

泰葉「はい。分かりました」

楓「えっ!? と、とと時子ちゃん!? ななな何でそんなに不機嫌なんですか!? 怖いですよ!!!」

楓「あっ!? まま、まさか時子ちゃん、名古屋って……!? あっ、違うんです違うんです誤解です!!!!」

楓「名古屋を馬鹿にしたつもりは無くて、その、台湾ラーメンだけに他意は────………




泰葉「高峯さん、どうですか? 台湾風そうめん」

のあ「確かに、少し辛さが欲しいかしら。魂を揺るがす程の刺激が」

泰葉「う~ん、輪切り唐辛子は入れたんですけどね。豆板醤とかラー油とかかなぁ?」

のあ「……でも、刺激が無くとも、それはそれで求める人がいるはず」

のあ「この落ち着いた優しい味付けも、私は好きよ」

泰葉「ありがとうございます。さて、私も食べようかな」



おわり
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──

以上です、ありがとうございました。
次の次で最終回の予定です。また次回。HTML依頼出しておきます。

乙!!今回も楽しかった

乙乙

ラスト。今回ばかりはとっきーの肩を持ちたい by名古屋生まれ

乙!

来てたのか乙
最終回…ウソダドンドコド-ン!

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