花子「新しい!」貞子「生活!」メリー「なの!」 (169)

男:なぜか都市伝説の方々に命を狙われ続ける一般男性。部署異動した。

メリー:一殺30万の都市伝説生活から年棒2千万の勝ち組生活へ。

貞子:男の姉の下でメイド修行中。

花子:芸能事務所に入り、歌って踊れるYouTuberになるためレッスンに明け暮れている。

隣人:男の部屋のリフォームが完了したので隣の部屋の住民に戻った隣人さん。部署異動して男の部下に。

姉:人外じみた動きをする人間。本職のメイド。彼氏募集中。

社長:一年の3割を出張に費やす社長。雇ってください。

スマホ:多分今までの話の中のMVP。

トイレ:ワープゾーン。

モニター:出入り口。

壁:壁紙を張り替えたときに隣人の趣味で赤色にされた。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1591532140

【赤い部屋】

隣人(先輩と出会ってから3年目。私は二回目の部署異動で先輩の下へと帰ってきました!ついでに合鍵ももらいました!)

隣人「せーんぱーい!おっはようございまーす!あっさでっすよー!おっきてくださーい!」

隣人(このやりとり、まるで新婚さんのよう!)

貞子(残念ですね!それはすでに私が通った道です!)

隣人(メイド研修生は職場に帰れ)

貞子(研修場所から発信していますが?)

隣人(同じ都市伝説だからって何の説明も無しにテレパシーを使っていいと思うな!)

男「」

おっさん「心臓マッサージ!心臓マッサージ!ああもう!なんで現実で会う前に死ぬんだよ!」

隣人「・・・・・・」

おっさん「都市伝説法28条とか勘弁だぞ!せめてコンビニまで来いよ!」

隣人「・・・・・・」

おっさん「よ、よし。心臓は動き出した。じゃあ、あとは、人工呼吸?」

隣人「市ネ」

男(・・・・・・よく見た天上だ)

隣人「あ、先輩。起きましたか」

男「隣人。今回は俺なんで入院してるんだ?」

隣人「『夢の結末』っていう都市伝説に・・・・・・襲われる前に心筋梗塞で意識を失っていたらしいです」

男「マジかよ」

隣人「おそらく夢の中での出来事がショックで心臓が止まったんじゃないかと思ってます」

男「えっと、その都市伝説は?」

隣人「骨も残さず溶かしました」

男「だからうちの姉ちゃんみたいなことすんなって!」

隣人「先輩の敵は私の敵!死すべし!」

男「守ってくれる意思はありがたいんだけどさぁ・・・・・・」

隣人「とりあえず、すでに社長には連絡してますんで。しばらくは身を休めてください」

男「わかったけど・・・・・・なんでこんなに襲われるんだろうな」

隣人「あ、それ次期社長から聞いたんですけど、先輩って生命力が異様に低いらしいです」

男「はい?」

隣人「次期社長の彼女さんが占い師らしくて、いつ占っても死相が見えるらしくって」

男「死相・・・・・・」

隣人「むしろなんで今まで生きて来れたのか不思議なぐらいだそうですよ」

男「俺、そんなに命がやばいのか」

隣人「お姉さんも度々先輩の事を都市伝説から守ってるって聞いてますし」

男「ん?でも都市伝説から狙われるのと生命力とか関係なくないか?」

隣人「あー、都市伝説とか命を奪う怪談系って死にそうな奴しか狙わないんですよ。これ一部にしか知らされていないんですけど」

男「なんでだ?」

隣人「生命力にあふれてるやつを殺すと死神から目を付けられるそうで」

男「都市伝説界隈もたいへんなんだな」

隣人「なんで先輩の生命力がこんなに低いのかは・・・・・・ちょっとわからないです」

男「ふしぎだな。人より体力はあるつもりなんだが」

隣人「あ、生命力って肉体は関係ないんで。魂だけなんで」

男「・・・・・・鍛えても無駄ってことか」

隣人「お姉さんぐらいに強くなれば余裕で都市伝説ぐらい跳ね除け・・・・・・でも先輩襲われなくても死ぬしなぁ」

男「自分の心臓の弱さを実感してるところだからやめてくれ」

隣人(花子さんは収録のために山奥へ。貞子さんはメイド研修でアマゾン川へ。メリーさんは打ち合わせのために仕事場に宿泊中)

隣人(つまり!一歩抜きんでるには今がチャンス!この間を活かして先輩へ猛アタックするしかない!)

隣人(先輩の入院の期間に合わせて有休はとりました!この入院生活中がチャンス!甲斐甲斐しく世話をして、先輩のハートをいただいちゃいます!)

隣人(・・・・・・気を抜いたら物理的にハートをもらうことになりそうなんで注意しましょう)

男「てか、隣人の仕事は?」

隣人「私有休とりました。先輩の看病のためです」

男「いや、入院してるから俺の看病は看護師さんが・・・・・・」

隣人「私が!お世話!するんです!ナースさんにも色々教わりました!尿瓶とか!尿瓶とか!尿瓶とか!」

男「落ち着け。変態に片足突っ込んでるぞ」

隣人「頭の先からつま先まで私がお世話しますから!先輩はどうぞベッドで横になってくつろいでください!」

男「けが人でもないし普通に動けるんだが」

隣人「いいから!」

男(ここ1年で分かったこと。こいつは押しがメチャクチャ強い。基本的に引かない。そこがめんどくさい)

男(・・・・・・悪い子じゃないんだけどな。ぶっちゃけ見た目は割と好みだし)

隣人「・・・・・・どうしよう」

隣人(結局あの後何事もなく普通に先輩は退院してしまった。うん、特別怪我とかはなかったし。お世話とか何もできてないです)

隣人「・・・・・・自意識過剰、だったのかな」

隣人(人として生きるって決めてからも、この赤い目はずっとコンプレックスだった。先輩はそんな私の瞳をきれいだって褒めてくれた)

隣人「・・・・・・いわゆるビジネストーク、だったのかも」

隣人(なんだか、全部が不安になってくる。先輩にとって、私はただの後輩にしか過ぎないんでしょうか)

隣人(・・・・・・いや、実際にそうですよね。先輩の事をストーカーしてたのは私だし、先輩は私が隣に住んでるってことすら知りませんでしたし)

隣人「まあ、隠してたのは私ですが」

隣人(・・・・・・このままで、終わってたまるものですか。先輩が私の事をどう思っていようとも、私は先輩の事が好き)

隣人「この想いだけは誰にも負けない。その自信はある。だから、絶対に負けない!」

花子「・・・・・・」

隣人「とはいえ、合法的な手段で先輩を虜にするには・・・・・・」

花子「あのー・・・・・・」

隣人「はひゃいっ!?は、花子さん!?いつから!?」

花子「『どうしよう』のとこからかな」

隣人「最初からじゃないですか!」

花子「ゴハンできたから呼びに来たんだけど、なんかごめんね?」

隣人「あああ、なんでこんな独り言を言ってるところを母親に見られたような気分を味わってるんですか・・・・・・」

花子「ほら、私貞子とかメリーと違ってトイレからトイレに移動するってことでわかりにくいから、ね?気付かないのも仕方ないよ」

隣人「せめて玄関から入ってくれれば・・・・・・」

花子「オートロックだから鍵閉まってるし」

隣人「ああもう!高い防犯意識のバカー!」

花子「私らにとっては関係ないのが救いだよね」

隣人「関係ないから今こんなことになってるんですよー!」

メリー「あ、やっと来たの。遅いの」

花子「いろいろあったんだよ、いろいろ」

隣人「改めて私たち都市伝説の力の理不尽さがわかりましたよ・・・・・・」

男「気になったんだが、おまえら前の会社を辞めたりしてないのか?」

隣人「辞めましたよ」

メリー「辞表は叩きつけてきたの」

花子「辞めまーすってメールは送った」

貞子「郵送で退職願を出しましたけど」

男「それでも能力は残るんだな」

メリー「私は生まれつきみたいなものだしなの」

貞子「私も似たような感じです。死んでますけど」

花子「私もだねー。死んでるけど」

隣人「赤い部屋の方は先天的、S県月宮の方は後天的ですけど両方残ってますね。不思議ですけど」

隣人(メリーさん達も帰ってきていつもの日々が戻ってきました。私はご飯時だけ先輩のお部屋にお邪魔させてもらってる感じです)

隣人「・・・・・・ずるーい!あの三人だけずるいー!私も先輩と同じお部屋で過ごしたいー!同じベッドで眠りたいー!」

隣人(まああの三人と違ってそもそも私は養われる必要がなかったから仕方ないといえば仕方ないですが・・・・・・)

隣人「それにしてもあの三人はびっくりすぐほどアクションを起こしませんね。私が言えた話ではありませんが」

隣人(環境が一新されたことで向こうはその環境に馴染むのが大変で色恋にまで意識を向けている余裕がないんでしょうか)

隣人「・・・・・・それか、もしくは今の状況を壊したくないとか」

隣人(見ていたから知っています。隣の部屋の住人たちはみんな仲がいい。表面的に、ではなくもっと底の部分で)

隣人(私と違って、彼女たちは都市伝説に成る前は想像もできないような地獄を見てきたはず。あの三人のトラウマは計り知れない)

隣人「・・・・・・誰か一人が抜きんでると、残り2人のトラウマが発動してしまう?」

隣人(だからあの3人は互いに動けないのでは・・・・・・)

隣人(そうすると、私が先輩にアプローチをすることはあの心地よい環境を壊してしまうこと、なんでしょうか・・・・・・?)

隣人(拝啓、先輩、社長。助けてください。私は今――)

次期社長「御社への志望理由としては3つあり――」

隣人(次期社長の新卒採用の面接をしています)

隣人(いやいやいや、あなた結構な頻度で会社に来てましたよね!?就活の時期とは言っても面接とかなしに顔パスで通りますよね!?私も話したことありますし!)

隣人(なんで新卒3年目の私にこんな大物の相手を任せているんですか!?理路整然と話すし志望理由も素晴らしいの一言に尽きるし!)

隣人(経験豊富だから話の引き出しにも事欠かないし!何を質問しても言葉に詰まることなく個性がありつつもきれいな返答がきますし!)

隣人(社長もなんで私を人事課に配属したんですか!?先輩、助けて・・・・・・)

隣人「はぁぁぁぁ~・・・・・・」

男「よっ、お疲れ」

隣人「あ、先輩。ミルクコーヒー・・・・・・先輩、よく私の好きな奴覚えてましたね」

男「まあな。で、どうだった?次期社長の面接は」

隣人「どうだったもなにも緊張しましたよ!なんでこっちがガチガチにならないといけないんですか!?」

男「まあそれは仕方ない。俺たちにとっても馴染みのある子だとはいえ、まさか就活の場に来るとは思ってなかったからなぁ。俺も履歴書が送られてきたときには驚いたよ」

隣人「ってことは先輩、あらかじめ知ってたんですね!?」

男「そりゃな。課長も慌ててたけど、どこか納得してたよ。あの子ならこういうことするってな」

隣人「先輩たちはなんでそんなに落ち着いてるんですか・・・・・・」

男「隣人は夜勤だからあんまり会ってなかったか?あの子は誠実で公平性を大事にする子なんだ」

隣人「いや、それは見ればわかりますけど・・・・・・」

男「勤続30年の部長に聞いたら、あの子は5歳のころからここに来て実質勤続17年だってさ。うちの業務のことは全部知り尽くしてるよ。社長がいろいろ連れまわしてるし」

隣人「それだったらなおさら就活とかいらないじゃないですか。顔パスで通りますよ。みんな大歓迎ですよ」

男「そりゃそうだけどな。それじゃあ他の奴が納得しないだろって」

隣人「え?」

男「実際、社長から次期社長にそういう話はしてたらしいんだ。就活とか面倒な手続き踏まなくても全部やっとくよって。ただ、あの子はそれを拒否したらしい」

隣人「えっ!?なんでっ!?みんな納得しますよ!?あー次期社長がやっと正式に入ってくれたかーってなりますよ!?」

男「みんなそのつもりだったんだけどな。ただ、社長に直談判したらしい。『そんな裏口入学のようなことはしない。正面から堂々と入って見せる』って」

隣人「えー・・・・・でも、落とすに落とせないじゃないですか、そんなの」

男「続きがあるんだ。『そうじゃないと、今の社長のようにみんなが付いていきたいと思う人間にはなれない。次期社長として見据えてくれているならなおさらだ』ってな」

隣人「うー、それを聞くと確かにそうですかね・・・・・・」

男「あと、あの子今のバイト先からも経営者にならないかって話を持ち掛けられているらしい」

隣人「なんですか彼。優秀にもほどがありませんか」

男「新卒の就活ってのは企業が学生を選ぶのと同時に、学生側が企業を選ぶ場所なんだ。だからこそ俺たちは学生に対して平等に、そして真摯に接さなくちゃいけない」

男「そうじゃないと、学生側が選んでくれないぞってな。これ全部部長の受け売りだけど」

隣人「そう、ですね。私は就活とかしたことないんでそういうのよくわかりませんでしたけど、そっか。どっちにも選ぶ権利があるんだ」

男「まああの子なら問題なく採用されるだろ。実際面接してても何の問題もなく終わっただろ?」

隣人「はい。正直非の打ち所がありませんでした」

男「実力もあるからなぁ。業務知り尽くしてるから業界研究とかそんなレベルじゃないくらいの分析もかけてくるし。俺も説明会で質疑応答されたときは気が気じゃなかったよ」

隣人「どんな質問されたんですか?」

男「説明会で説明しきれなかったこと全般。多分あの場にいた他の学生はうちについて詳しく知り尽くしてしまっただろう」

隣人「知ってるのによく聞いてきますね」

男「向こうからしたらちゃんと説明できるか試してたんじゃないのか?まあ部長が対応してくれたからなんとかなったけど・・・・・・俺一人だとヤバかったな」

隣人「・・・・・・偉い人の考えることってよくわからないなぁ」

隣人(選択肢がある人ってすごいと思う。余裕があるから)

隣人(次期社長みたいな人だったらどこでも選り取り見取りだろうし、そりゃわざわざ選別みたいなことするよね)

隣人(・・・・・・先輩も、そうなのかな)

隣人「先輩にとって、私は選択肢のうちの一つに過ぎないんでしょうか」

隣人「それとも、そもそも選択肢に入っていないんでしょうか」

隣人「栓パいは、棉詩の琴は堂トモ面っていナい・・・・・・?」

隣人「・・・・・・宣杯、お兄ちゃん、先輩」

隣人「・・・・・・エへへ」

メリー「こらー」ガツッ

隣人「ひゃぐっ!?」

メリー「自分の世界に入り込むななのー。お前がそれやると面倒なことになるのー」

隣人「め、メリーさん?いつのまに・・・・・・」

メリー「夕飯時なのに来ないから心配してきたの。カバンに電話入れっぱなしだから気付かれなかっただけなの」

隣人「あ、すいません」

メリー「まったく、死体でも幼女でも人形でもないくせに贅沢言い過ぎなの」

隣人「え?」

メリー「貞子なんか裸エプロンでも汚いとか言われて終わってるの。そんな程度でへこむななの」

隣人「え、先輩酷くないですか?」

メリー「あいつ多分性欲が薄いの。理由はわからないけど」

隣人「性欲が薄いって、別に先輩はごく一般的な性癖ですし・・・・・・」

メリー「お前がなんでそれを知ってるかは聞かないでおいてやるの」

隣人「・・・・・・あっ」

メリー「ん?」

隣人「先輩、もしかして生命力が小さいから性欲が薄いんじゃ・・・・・・?」

メリー「え?アイツの生命力が小さい?」

隣人「だから都市伝説に狙われやすいんですって。この前も狙われて心臓止まってましたし」

メリー「あー・・・・・・」

隣人「そう考えると、どうにかして先輩の生命力を大きくすることが最優先なんでしょうかね」

メリー「わからんの。姉の言うことを真に受けると小さい頃からそうらしいしなの」

隣人「もしかして生まれつきそうだとしたら、難しいですかね」

メリー「そもそも生命力を大きくする方法を知らないからなんとも言えないの。それよりも夕飯だからさっさと来いなの」

隣人「あ、はい」

隣人「社長~、助けてくださ~い」

社長「え、なんですか?どうしましたか?」

隣人「次期社長の採用面接とか先輩のこととかいろいろあってもう頭の中ぐちゃぐちゃなんですよ~!」

社長「ああー・・・・・・男くんに関する話はともかくとして、大甥の担当は次回から部長ちゃんがしますから大丈夫ですよ」

隣人「ほんとですか?ほんとにあの重圧から解放してもらえるんですか?」

社長「はい、大丈夫ですよ。・・・・・・しかしまさか正面からくるとは」

隣人「それですよそれぇ!次期社長の内定なんか最初から決まってるようなものなんですからこんなことしなくていいじゃないですか!」

社長「人事課の人たちは割とそう言ってますよね。私はすんなり入ってくれるとは思ってませんでしたが・・・・・・」

隣人「なんかもう一個?行先があるんでしたっけ?」

社長「多分、それがなくても」

隣人「え、なんで?」

社長「そういう不正が嫌いなんですよね、彼。基本的になんでも正面突破しようとしたりして。それを貫き通せるところがかっこいいんですよね」

隣人「あの、社長?」

社長「まあそう言うわけですから採用人事の中でも一番手の部長ちゃんにお願いしてるわけです。彼女もまた立場だとかそういったもので判断しませんから」

隣人「あの人、貫禄ありますもんね」

社長「それで、男君のことはどうしたんですか?」

隣人「あっ、えーっとですね、先輩の生命力が小さいから大きくしてあげたいなという話でして」

社長「んー、注ぎ込めばいいんじゃないですか?」

隣人「それができたら苦労しませんって」

社長「できますよ?」

隣人「へっ?」

社長「こう、魔力を生命力に変換して注入すればわりかしなんとかなります。ただ、器がそもそも小さいとかだとどうしようもないですけど」

隣人「生命力の器・・・・・・そんなものが?」

社長「はい。あとはそうですね、これは私の師匠から聞いた話ですけど、禁呪の生命リンクを使えばなんとかなるという話もあります」

隣人「生命リンクって、それ言ってよかったんですか?」

社長「言ったところで出来る人は限られてますしね。やり方も知らないとできないですし」

隣人「なるほど。ちなみにどんな人ができるんですか?」

社長「えっと、どうでしたっけ。確か種族が違うことが大前提で、あとは性別も違ってる必要がありまして」

隣人「それで、やり方は?」

社長「えーっと、うろ覚えですけどキスがどうとか言ってたような・・・・・・まあお互いの生命力をつなげるバイパスさえ作ってしまえばいいので、アドリブで何とかなるって師匠は言ってましたけど」

隣人「なるほど、ありがとうございます」

社長「いえいえ。悩みが解決できるなら・・・・・・あれ?」

隣人「先輩っ!今行きますからねっ!」フッ

社長「あっ!い、行っちゃった・・・・・・こ、これってあれですよね?隣人ちゃんが実行しちゃう流れですよね?」

社長「・・・・・・えーと、資料は多分社長室に置いてあったから・・・・・・念のため隠しておきましょう。お姉ちゃんの家あたりに」

隣人「せーんぱーい!キスしましょー!」

男「断る」

隣人「えっ!?」

男「えっ?」

貞子「何を言ってるんですか隣人さん!私だってまだ・・・・・・あ、やりましたね。人工呼吸で」

花子「なんならおっさんともやってたのよね?いいじゃん、別に」

隣人「あれは未遂で止めました!代わりに私がしました!」

男「緊急事態下の行動と意識があるうちのキスを一緒くたにするな!」

メリー「てか、いきなりどうしたの?お前も貞子みたいに性欲に頭が支配され始めたの?」

隣人「ちーがーいーまーすー!先輩の生命力を増強する方法が見つかったんですー!」

男「えっ?まじでそんな方法があるのか?」

貞子「男さんの生命力?」

隣人「はい!なんでも、生命リンクの禁呪を使えばどうとか」

男「却下」

メリー「あほかなの」

隣人「なんでですかー!?」

男「禁呪ってついてる時点で使っていいもんじゃないだろ」

メリー「生命リンクってのも名前がヤバいの。多分片方が死んだらもう片方もってやつなの」

花子「どこぞのお空の世界みたいな話だよね」

貞子「生命リンク・・・・・・それはゾンビでもできるんでしょうか?」

メリー「やろうとすんななの。だいたい、それはなんのためにやるの?」

隣人「だって先輩の生命力が強くなれば性欲も・・・・・・あっ、えっと、今のは聞かなかったことに」

男「できるわけないだろ」

メリー「貞子と一緒に頭冷やせなの」

貞子「えっ、私もですか?」

花子「むしろなんで逃れられると思ったし」

隣人「・・・・・・追い出されちゃいましたね」

貞子「一晩反省していろとのことでしたのでまあいいでしょう。それよりも、ですよ」

隣人「はい!先輩とリンクする方法ですね!」

貞子「いや、それは別にどうでもよくて」

隣人「えっ?」

貞子「隣人さんが本気で誘惑すれば多分男さん手を出しますよ」

隣人「えっ?えっ?」

貞子「誘惑っていうか、むしろ自分から迫れって話でして。私の場合冗談めいてるってのがあるからまともに相手してくれませんが、隣人さんはそうじゃないでしょう」

隣人「あの、貞子さん?」

貞子「はい、なんですか?」

隣人「あの、その、そんな敵に塩を送るようなこと・・・・・・」

貞子「別にそんなつもりはありませんよ。もともと養ってもらえる立場を維持するための手段みたいなところがありましたし。ちゃんとした収入がある今となってはそこまでこだわりはないですね」

隣人「ええっ!?」

貞子「もちろん求められたらいつでもこの体を差し出しますよ?でも男さんは私の身体を求めてくれないので。残念ですが待つしかありません」

隣人「あ、あの、それだったら、その、私まるで独り相撲してたみたいな」

貞子「あ、もしかして私たち三人がライバルだと思ってました?」

隣人「そうですよっ!」

貞子「それは誤解です。そもそも私たちはスタートラインにすら立っていませんから」

隣人「えっ?」

貞子「確かに私たち三人とも男さんのことは好きですよ。身体を求められたら喜んで差し出しますし、死ねと言われれば死ねます。そんなレベルです」

隣人「それでも、スタートラインに立っていないんですか?」

貞子「はい。だって元々の立場が殺す殺されるの関係だったわけですよ?そして養う養われるの関係に移行したわけです。こんなので色恋なんてできるわけがないじゃないですか」

隣人「で、でも!」

貞子「そうですね、言うなれば疑似的な家族です。そんな関係を私たちは楽しんでいるんです。だから、それ以上は望んでいない」

貞子「でも、隣人さんは違いますよね。男さんとは会社の先輩後輩という立場から入って、別に貸し借りがあるわけでもない。部屋の件はリフォームが終わった時点で清算済みですしね」

隣人「・・・・・・」

花子「ただあまりにもストーカー気質だから基本的に自分から行けないんでしょ?だから燻ってる」

隣人「花子さんまで・・・・・・」

花子「『赤い部屋』ってそういうやつだしね。S県月宮もあれは拒絶されてるし・・・・・・っと、それはともかく。とりあえず当たって砕けろ、話しはそっからでしょ」

隣人「で、でも、そんなこと・・・・・・」

花子「あんたは尊敬する大好きな先輩からのアドバイスすらも聞けないって言うの?」

隣人「いや、花子さん達は別に」

花子「maleにそう言われたんでしょ」

隣人「!」

貞子「まあ我々からの話はこれくらいにしておきましょう。あとは自分で決めることです」

花子「そだね。あ、貞子はちゃんと一晩頭冷やして置けってメリーが言ってたから」

貞子「え?私戻れないんですか?」

隣人「・・・・・・ありがとう、ございます。私、やってみます」

貞子「はい、がんばってください。ところで布団を一式貸していただけるとありがたいのですが」

隣人「私の部屋に来客用の布団はありませんよ?」

貞子「・・・・・・」

隣人「・・・・・・」

貞子「ベッド借りますね!」バサッ

隣人「あっ、ちょっと!それ私の!」

貞子「アドバイス代だと思ってくださーい」

隣人「こ、ら、どきなさいよ・・・・・!」ググググググ

貞子「い、や、で、す・・・・・・・私は、柔らかくて暖かいベッドで眠る・・・・・・!」ググググググ

ミシッ

貞子「ん?」

隣人「どかないと、溶かしますよ・・・・・・!」

ミシミシッ

貞子「あ、あの、ちょっとヤバい音が」

隣人「どおりゃあああああああ!!!!」

バキッ

隣人「・・・・・・」

貞子「・・・・・・」

隣人「うわああああああああああああああ!私のベッドがあああああああああああああああ!!!!!」

貞子「ああ、えーっと、はい。これは私が悪いですね。ちゃんと弁償しますから落ち着いてください」

メリー「貞子ー、布団持って来てやったのー。感謝しろなのー・・・・・お?」

隣人「ベッド、ベッド・・・・・・おきにいりの・・・・・・初任給で買った・・・・・・」

メリー「・・・・・・おまえら本当にめんどくさいの」

隣人「・・・・・・当たって砕けろ、か」

隣人「うん、そうだよね。自分で何も言わずに、察して欲しいだけだとか、そんなのずるいよね」

隣人「他の三人も、ああは言ってるけど心のどこかでは先輩の事を恋愛的な意味で好きなはず」

隣人「・・・・・・そんな三人が背中を押してくれているのに、私ばっかりが逃げてはいられない」

隣人(今なら、次期社長の気持ちのなんとなくわかる気がします。ちゃんと正面から堂々といかないと、他の人が納得できない)

隣人(そして何より、自分が納得できない)

隣人「・・・・・・うん。がんばろう。私だってあのアザラシ製菓の社員なんです。こんなところで二の足を踏んでられません!」

隣人「先輩、話があります!」

男「ん?」

隣人(メリーさん、貞子さん、花子さんに背中を押されてついにこの日が来ました。先輩に、私の想いを伝える日が!)

隣人「せ、せせせ、先輩っ!ほ、本日はお日柄もよく」

男「いきなり他人行儀だな」

隣人「わ、わわた、わたわた、わたしとっ!」

隣人「私と子作りしてくださいっ!」

男「は?」

メリー「あほかなの!行き過ぎなの!」スパーン!

貞子「はい、一回退散ですね」

花子「男、そのままそこで待機」

男「あ、はい」

男(女子たちの仲がよろしくて何よりだけど、ちょっと疎外感。俺が家主なのに)

メリー「はい、復唱。まずはお付き合いから」

隣人「まずはお付き合いから」

貞子「結婚云々は後の話」

隣人「け、結婚だなんて・・・・・・まだはやいですよ」

花子「初手で子作りを迫ってたやつが名にそんな純情ぶってんの?」

隣人「き、緊張しただけなんです!緊張しただけですから!ちょっと頭の中がバグって過程が飛んじゃっただけですから!」

メリー「よーし、わかったの。男ー、テイク2行くからそのまま待機なのー。トイレとか大丈夫なのー?」

男「大丈夫だけどそれ同じ室内でやる話か?」

貞子「はい、テイク2スタートです。隣人さんが話しかけるところから」

隣人「は、はひっ!」

男「あんまり緊張すんなよ」

隣人「ほ、本日はお日柄もよく!」

男「うん、いい天気だな。外に出かけたいぐらいの快晴だ」

隣人「ああーっと、ええーっと、そ、そのっ!」

男「うんうん、落ち着いてな。一回深呼吸して」

隣人「は、はい!すーっ、はーっ、すーっ、はーっ・・・・・・よし!」

隣人「せ、先輩っ!あなたといると、月がきれいですね!」

男「・・・・・・今昼間だけど」

隣人「はえっ!?ああ、ええーと、今のはですね、その、ま、毎朝私が作った味噌汁を飲んでください!」

男「貞子さんの仕事を奪わないでやってくれ。朝食は今貞子さんが張り切ってるんだから」

隣人「ああーと、ええーと、そのっ、そのっ、そのっ!」

隣人「先輩の子種で私を孕ませてくださいっ!」

メリー「はい、もっかい退散なの。男、もうちょっと待ってほしいの」

男「お、おう」

男(もうこれ3回目やる必要なくね?)

メリー「はい、復唱。穿った表現は使わない」

隣人「穿った表現は使わない」

貞子「まっすぐ思いをぶつける」

隣人「まっすぐ思いをぶつける」

花子「すぐ孕みたがらない」

隣人「すぐ孕みたがらない」

メリー「よし、大丈夫なの?今度はちゃんと行けるの?」

隣人「い、行けます!はい!」

メリー「じゃあ、ゴーなの!」

隣人「はいっ!」

貞子「テイク3です、どうぞ」

男「うん」

隣人「せ、しぇしぇしぇんぱいっ!」

男「隣人、落ち着け」

隣人「本日はお日柄もよく」

男「さっきと同じパターンになってる。落ち着け」

隣人「ああーっと、ええーっと、そ、そのっ、あのっ、あれですっ!」

男「・・・・・・隣人。俺と、結婚を前提にお付き合いしてください」

隣人「はいっ!結婚を前提にお付き合い・・・・・・えええええっっっ!?!?!?!?」

男「・・・・・・俺自身も隣人のことが異性として好きなんだ。だから、これが俺の本心だ」

隣人「ああああっと、ええええっと、そのっっっっ!!!!」

男「どうだ?」

隣人「ごめんなさいいーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」フッ

男「・・・・・・え?」

花子「・・・・・・あいつ!ワープで逃げやがった!」

男「お、俺、ふら、れた?」

貞子「振られましたね」

メリー「しかも告白してこようした相手に振られたの」

男「・・・・・・」ドシャァッ

貞子「あああっ!男さんが真っ白に!」

花子「ちなみに、振られたの人生で何回目?」

男「さ、3回目・・・・・・」

花子「成功回数は?」

男「ゼロ・・・・・・」

メリー「・・・・・・まあ、どんまいなの」

隣人「社長ーっ!社長ーーーっ!どうしましょうーっ!私、私、先輩に告白されちゃいましたーーーーっ!」

社長『わ、わかったから落ち着いてください、ね?よかったじゃないですか。私も応援していた身として喜ばしい限りですよ』

隣人「で、でもっ、わ、私っ!頭が真っ白になってっ、お断りしちゃってっっっ!」

社長『・・・・・・はい?』

隣人「ごめんなさいって言って逃げてきちゃって、そのっ、あのっ、ええっとっ!」

社長『はー・・・・・・。こればっかりは私が口出しすることでもありませんからどうとも言えませんが、一つアドバイスをするのならば早く訂正をしに行った方がいいですよ』

隣人「で、でもっ!私今っ、先輩の顔真っすぐ見れませんっ!今も顔から火がでそうでっ!」

社長『言い訳してる暇があったらぐずぐずしてないでさっさと行きなさい。じゃないと、二度と伝えられないかもしれないんだから』

隣人「しゃ、社長?」

社長『これ以上は言いません。勝手にしなさい』ピッ

ツーツーツー

隣人「えっ、しゃ、社長?で、でも、私・・・・・・」

隣人「・・・・・・先輩、お兄ちゃん、先輩」

隣人「仙、牌・・・・・・鬼イちゃん・・・・・・だめっ!」

隣人「いちいち曇るな、いちいち昂るな。自分から逃げるな。先輩から逃げるな」

隣人「いつまでも社長に、先輩に、みんなに甘えるな。行け、自分で。立て。足を動かせ。行けっ!」ダッ

ガチャガチャ

隣人「・・・・・・」

ガチャガチャ

隣人(合鍵、部屋に忘れてきた)

メリー「えー、紆余曲折あったけどとりあえず交際開始おめでとうなの」

隣人「ありがとうございます」

男「ありがとう」

貞子「今日は私が研修で学んだメイド料理のフルコースですよ!たくさん食べてくださいね!」

花子「アマゾンのメイド研修で学んだメイド料理・・・・・・?」

メリー「ワニとか使いそうなの。それはそれで気になるの」

貞子「まあ使えなくもないですが、メイド料理の基本はどんな食材でも素早く丁寧においしく仕上げることです。ですからアマゾンでは現地でとった食材をその日の内においしく食べられるように処理をしてですね」

男「まあその話は後で食べながらゆっくり聞こう。てか、隣人はいいのか?」

隣人「なにがですか?」

男「こう、恋人が他の女と同棲してて」

隣人「今更ですよ。私にとってもお三方は恩人ですし、先輩の家族みたいなものなら私の家族みたいなものです!」

男「・・・・・・あと、先輩って呼び方はなんとかならないのか?」

隣人「あー、えーっと、お、おおおお、男、さん・・・・・・だ、だめですっ!むず痒いですっ!全身がむかむかしますっ!」

男「ひでぇ」

メリー「諦めろなの。私らが好きなだけ呼んでやるから我慢しろなの」

男「いや、お前らに呼んでほしいわけじゃないからな?」

メリー「ひどいの。死んで詫びるしかないの。死ねなの」

男「貞子さーん、メリーさんの分は虫料理のフルコースにしてやってくれー」

貞子「わかりましたー」

メリー「謝るの!謝るからそれは勘弁なの!私が長野県民みたいに虫ばっか食えないの!」

男「長野県民に謝れ」

隣人「だめですよー、先輩ー。メリーといちゃいちゃしてたらー」

男「別にいちゃついてるつもりはないんだが」

花子「あー、だめなんだー。彼女いるのに他の女といちゃつくなんてひどい男ー」

隣人「私とももっといちゃつきましょう!ほら!えーっと、先輩死ね!」

男「・・・・・・ごめん、割とショックだわ」

隣人「ごめんなさいっ!これは違うなって思いました!先輩死なないでー!」

To be continued...

完結編第一話、【赤い部屋】をお送りしました。
ちょっとリアルの方が忙しかったり息抜きしてたりで遅くなりました。このスレはこのまま使います。
次回は【トイレの花子さん】です。書き溜めたら投稿します。男君は死にます。
メリーちゃんまだ泣かない。

前回までのお話。ホントは>>1に貼る予定だったけど貼り忘れてた。

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【トイレの花子さん】

花子「はいどーもー、寝起きドッキリの時間でーす」

花子「えー、今日はウチのお兄ちゃんお姉ちゃんたちに寝起きドッキリを仕掛けてみようと思いまーす」

花子「さて、まずはお兄ちゃんから・・・・・・」

男「」ギシッギシッ

花子「・・・・・・?えっ、まさかあんまし見ちゃいけない感じ?私らが隣人の部屋で寝泊まりしてる間に向こうはしっぽりやってる感じ?」

花子「あー、寝起きドッキリは中止かなー・・・・・・?」

マント男「死ぬなッ!まだ質問していないってのっ!くそっ、このベッド良く弾むからやりづれぇ!畜生っ!」

花子「・・・・・・」

マント男「なぜこの私がこんな男の介抱なんぞやらにゃならんのだ!都市伝説法めっ!」

花子「続きは私がやっとくからあんたは消えろ」

男(・・・・・・またここか)

花子「やー、また死んでたね、男」

男「花子さん。まあ、ここにいるってことはそうなんだろうな」

花子「ちなみに今回の死因は寝る前に水を飲み過ぎて胃液が逆流して気管に入って窒息したからだよ」

男「マジか。よく生きてたな、俺」

花子「私が助けに来たからねー。あ、ついでに怪人赤マントに襲われてた」

男「え、どうなったんだ?」

花子「今頃下水処理場で泳いでるんじゃない?」

男「花子さんもなんか逞しくなったな」

花子「死なれたら困るの私たちだしね」

花子「はぁーあ、これだと寝起きドッキリ企画はだめだなー」

男「ああ、前言ってたあれか。別に続行してもいいじゃないか」

花子「男の場合寝起きポックリになりそうだし」

男「言い返せねぇ」

花子「なんかヤバい心臓病患ってるとかないよね?」

男「そんなはず、ないんだけど」

花子「それにしては心臓止まりすぎじゃ」

男「んー、そう聞くと心配になってきた。一回姉ちゃんに聞いてみるか」

花子「昔っからよく止まってたとかだったら笑うよね」

男「まあ無いと思うけど」

姉『止まってたわよ?』

男「はひ?」

姉『こう、都市伝説とか云々関係なくてね。ちょっと道で転んでそのショックで心臓止まったりとか。そのたびに私が殴って再起動させてたけど』

花子「うわー、的中ー」

姉『だから多分心臓に止まり癖みたいなのがついてるんじゃないかってお医者さんが言ってたわね』

花子「そんな捻挫癖みたいな」

男「心臓に止まり癖ってなんだよ!?止まったら死ぬだろ!?止まるんじゃねえよ!」

姉『大企業に就職して安定した生活を送ればそういうショックからも遠ざかると思ってたんだけれどね。さて、そろそろ仕事に戻るから切るわね』

貞子『お姉さーん!お風呂場の掃除終わりましたー!』

姉『確認しに行くわ。待ってて。それじゃあね』ピッ

花子「・・・・・・貞子、元気そうだね」

男「生き生きしてるよな。死んでるけど」

花子「はーっ、芸能人って楽じゃないなー」

隣人「どうしたんですか?」

花子「こう、もっと華やかなきらきらした世界を思い描いてたんだけどさ。実際はそうじゃないなーって」

メリー「JSYouTuberならパンツでもチラ見せしとけば一気に再生数上がるんじゃないの?」

花子「事務所の方針でそういうのはNG。水着来たりもモデルとかアイドルの人しかやらないしさー。今は実況の練習中」

貞子「実況に練習とかあるんですね」

花子「ゲーム実況するのも楽じゃないんだよね。こう、あんまり汚い言葉は使っちゃダメ。無言もダメ。魅せプレイもいる。うん、割とつらい」

隣人「やっぱりプロの人になるとそのあたりも考えてやらないといけないんですね」

花子「ウチに所属してる人らの中で一番実況がうまかったのは歌手だった」

貞子「なんで歌手が実況してるんですか」

花子「この前山奥に行った時にさ、お試しでいろいろやらせてもらったりやってもらったりしたわけよ。そこで見せてもらってさ」

メリー「そういえばそれの配信とかしないの?ひそかに気になってるの」

花子「今度テレビで流すって。今編集とかいろいろやってるとこらしい」

隣人「先輩、それまでに退院できるでしょうか」

花子「わかんね」

メリー「アイツの場合退院してもまた入院するかもしれんの。そうなる前に今検査してもらってるところだから仕方ないの」

貞子「心臓に止まり癖があるとか聞かされたら人間ドッグとかその他諸々全部行ってもらわないと困るじゃないですか」

隣人「入社時と、3年に一回会社から受けさせられるんです。今年先輩は受ける年なので、タイミングが良かったですね」

メリー「でも今まで特にそう言うのが見つかってないってことはやっぱり原因不明な気がするの」

花子「はぁー、世の中そううまくいかないもんだねー」

花子(ゲーム配信とかちょろいぜ!って思ってたんだけど、実際そううまくいかないなー)

花子(ゲームうまいだけじゃできないんだね。ってか、私以外もそこそこ強いし)

歌手「はっち連鎖~♪」

アイドル「なんで私が5連鎖組んでる間にそんなに組めるかな?」

ダンサー「やっぱこのゲームぷよの火力だけおかしくないですか?テトで相殺しきれないんですけど」

花子「テト側も連鎖で対処・・・・・・って行きたいところだけど、それやろうとする前に超火力で落とされるんだよね。あっ、詰んだ」

歌手「いぇーい!大・勝・利!」

花子(5回に2回ぐらいの確率で誰かしらに負ける。変なとこからぶっささったりするのマジ勘弁)

歌手「花子ちゃん、ほら、もっとなんか喋って!実況の練習!」

花子「ええー?えーっと、こっちはテトだからとりあえず開幕DT砲組むかパフェ積みするかでぷよ側の手を潰しましょう。潰しきれなくても相殺でぎり耐えたりします」

アイドル「いっくよー!つながれっ!そこっ!くらえっ!」

ダンサー「テトリス!テトリス!Tスピン!これで耐える!」

歌手「ここは一回受けて、発火っ!よし、行ける!」

花子「えーと、7連鎖ぐらいかな?とりあえずDTで相殺して」

アイドル「ああああっ!一杯落ちてきた!いや、まだ舞える、まだ私は戦えにゃーーーーっ!」

ダンサー「一回耐えさえすれば持ち直せるのがテト側の良い所ですよね」

花子「そだねー。ほいっ、よっと、まだっ、ここっ、T挟んで、もっかい!追加ッ!」

歌手「ちょ、ちょちょちょっと待って?そっち何連!?やばくない!?あああ急いで組まないと」

花子「まだまだいけるよー、ほいほいっとな!」

ダンサー「えーと、15連とか対処しきれないですね。対戦ありがとうございました」

歌手「やーらーれーたー」

花子「ふぅー、きっついわぁー・・・・・・」

男「そういや、明日花子さんの生配信だよな」

花子「そう!初生配信!JS設定だから昼間しか無理ってんで土曜の昼になったの!」

メリー「へー、なの。享年って大変なの」

貞子「メリーさんは何歳で登録したんですか?」

メリー「服のタグについてあった製造日を男に言っといたの」

男「俺は伝えられたそのままに社長に言った」

隣人「つまり花子さんも成人済の年齢を言っておけば時間の制約がなかったのでは?」

花子「登録してから言われても困るよ・・・・・・」

男「まあ明日は俺も隣人も貞子さんもメリーさんも休みだし全員で見るからな」

花子「宣言されると妙に緊張するんだけど」

男「スパチャってどうやるんだっけ?」

隣人「中抜きされるから直接渡した方がよくないですか?」

花子「こらそこ!そういうこと目の前で言うな!」

花子『どもー、はなちゃんねるのはなちゃんでーす。えー、今日が最初の生配信ってことでどきどきしてまーす。よろしくおねがいしまーす』

男「おっ、映った映った」

隣人「貞子さん、セッティングありがとうございます」

貞子「いえいえ。私も大きい画面で見たいですしね」

メリー「モニターに関しては貞子に任せておけば間違いないの」

花子『えー、生配信ははじめてでいろいろと緊張しててなにやったらいいかぶっちゃけ頭真っ白になって飛んでるんで、事前の予告通りのゲストに来てもらいます。アイドルさーん』

アイドル『早いよ!?私あと10分ぐらい余裕あったんだけど!?』

花子『いっそ全員呼ぶか』

歌手『呼ばれる前に出るか』

花子『・・・・・・ダンサーは?』

歌手『律儀に呼ばれるまで待機してるよ』

花子『ではさっそくゲームの方を始めていきたいと思います』

ダンサー『呼んでくださいよ!私待ちぼうけじゃないですか!台本だと私しょっぱなに呼ばれるって書いてあるんですけど!』

アイドル『この子弄り上手だね』

歌手『相方欲しいね。弄られる側』

花子『ってことで事務所の売れっ子三人組に来てもらいましたー。はい拍手ー。ついでにスパチャ投げてねー』

アイドル『露骨!』

隣人「うん、生き生きしてますね」

男「でも結構緊張してるな」

メリー「さっきから目線があっちいったりこっちいったりしてるの」

貞子「芸能人も大変そうですね」

隣人「先輩たち、よく見てますね」

男「なんだかんだアレと一緒に暮らしてもう半年以上経ってるしな。ある程度はわかるよ」

隣人「じゃあ私は今何を考えているかわかりますか?」

男「隣に座りたい、かな?」

隣人「ぴんぽんぴんぽん!正解でーっす!」

メリー「お前らうるさいの」

貞子「いちゃつくな呪い殺しますよ」

花子「えーっと、今回の企画ではとりあえずオンラインに潜って勝ったらウィニングライブをする、と」

アイドル「どこぞの未配信のアプリみたいなことするんだね」

花子「で、負けたらどうするの?」

アイドル「・・・・・・あー、どうしよ。ちょっと待ってね、歌手、集合」

歌手「あいさ」

ダンサー「あれ、私は?」

アイドル「そっちつないどいて」

ダンサー「あ、はい。えーっとですね、じゃあはなちゃんには簡単に自己紹介してもらいますか」

花子「え?あー、はなちゃんです。本名は花子です。よろしくおねがいします」

ダンサー「だめですよー、そんな自己紹介じゃ1次面接で落とされちゃいます」

花子「就活じゃないんだから」

ダンサー「私も就活生ですからねー。副業オーケーの会社を中心に受けてるんですが、これが中々受からなくてですねー」

花子「芸能人なのに?結構売れっ子なのに?」

ダンサー「売れっ子っていっても私自身のダンスはそこまで見てもらえてなくて、どっちかっていうとハプニングを期待されてて・・・・・・あれ?なんだか涙が出てきました」

花子「かわいそうに。そのままのダンサーでいてね」

ダンサー「ハプニング期待なの変わらないじゃないですかぁ!」

歌手「おまたせー。負けたら私が後ろでLOSER歌うから」

花子「えっ」

アイドル「ダンサーは歌に合わせてLOSERを踊る」

ダンサー「お任せあれ!」

花子「アイドルは?」

アイドル「私は音楽かける係。あと今から音源使うためにカラオケ会社に許可取ってくる」

花子「この場で!?」

アイドル「しかたないでしょ。じゃんけんに負けたんだし」

歌手「いえー!私の勝利ー!」

花子「そんな権利関係の話をジャンケンで決める!?」

男「・・・・・・配信が始まって10分。未だにゲームが始まらないな」

隣人「でも見てください。スパチャすっごい投げられてますよ。花子ちゃん関係ないですけど」

メリー「調べたらここの事務所の売れっ子四天王のウチ3人を呼んでるらしいの。そりゃみんな投げるの」

貞子「花子ちゃん、がんばって!」

男「どっかのタイミングで花子さんにも投げとかないと機嫌悪くなりそうだ」

隣人「口座の準備はできてます!」

メリー「いくら投げるつもりなの。落ち着けなの」

貞子(あの社長さんとかが知ってたら軽く云百万単位で投げてくれたりしませんかね)

花子「えー、じゃあさっさとはじめよう。今回はスマッシュなブラザーズ。うん、余裕だね」

歌手「どうかなー?おっ、マッチングしたね。じゃあはりきってどうぞ!」

・・・・・・

花子「勝利っ!対戦ありがとうございました!」

アイドル「はい、じゃあウィニングライブね」

花子「え、一戦ごと!?」

アイドル「そうだよ?」

花子「や、やってやんよ!これで再生数増えたらCD出してもらえるらしいし!」

歌手「がんばれー。・・・・・・あ、電話だ。ちょっとごめんね。もしもし、歌手ですけど。え、LOSERカバーしないかって?いや、私まだ歌ってないですし」

花子「売れっ子すごいなー。すぐ話が舞い込んでくる」

ダンサー「じゃあはりきってどうぞ!はなちゃんで、曲は『トイレの花子さん』です!」

男「まんまじゃねーか!」

隣人「まあ知ってるの私たちぐらいですし」

貞子「ふりふりの衣装着て踊ってますよ!かわいいですね!」

メリー「あの衣装はウチの提供なの」

貞子「えっ?」

メリー「私の仕事先の仕立屋に土下座して頼み込んだの。おかげでいつもより多めに服を着ることになったの。大変だったの」

男「あー、あのドレスを作った人か。納得だ」

隣人「いいなー、かわいいなー。ねえ先輩、私も・・・・・・」

男「無茶言わんでくれ。あそこの服いくらするか知ってるだろ。ウェディングドレスまで待ってくれ」

隣人「やったっ!」

貞子「いちゃつくなっ!」

花子「はぁ、はぁ・・・・・・」

歌手「あ、次マッチングしたよ」

花子「や、休ませてくれないの?」

歌手「配信時間決まってるんだから!はなちゃんにはちょうどいいハンデでしょ!」

花子「あ、あったりまえじゃん!やってやんよ!」

ダンサー「おおー、威勢いいですね」

アイドル「ゲームしてる間暇だね」

ダンサー「じゃあ私後ろで踊っておきますね」

アイドル「パッフェルベルのカノン流しとくね」

ダンサー「踊れと!?」

歌手「私弦楽器担当するから、アイドルは管楽器ね」

アイドル「楽器ないんだけど」

歌手「ボイパで」

アイドル「ボイパって打楽器だよね?」

歌手「まあ楽器の音を声で再現すればいいでしょ」

アイドル「アドリブで練習したこともないやつをやれと」

歌手「いけるいける!」

花子「よし!ゲームセット!」

ダンサー「あ、終わりましたね」

歌手「はいじゃあウィニングライブねー」

花子「ま、またぁ!?これってもしかして体力企画!?」

歌手「しょっぱなだから多少無茶ぶりしなきゃいけないじゃん」

アイドル「なんのために山奥でトレーニングしたと思ってんの」

ダンサー「山奥ではガールズトークと飯盒炊爨しかしてませんが?」

花子「わーん!事務所の先輩たち頭おかしいよー!」

ダンサー「私も含まれてますか!?」

花子「ぜぇーっ、ぜぇーっ、つ、つぎ!」

歌手「この子根性あるね」

アイドル「多分大物になるよ」

ダンサー「次の対戦相手は・・・・・・あっ」

花子「ん?どしたの?」

ダンサー「あー、この相手、多分知り合いです」

歌手「えっと?あー、多分大学の後輩だわ」

アイドル「あ、ほんとだ。ゲームうまい子だ」

花子「まあいいや!ごめんね先輩たちの後輩さん!私の再生数のために犠牲になって!」

・・・・・・

歌手「I'm a LOSER どうせだったら遠吠えだっていいだろう♪もう一回もう一回行こうぜ僕らの声♪」

花子「あああああああーっ!!!むかつくーーーーー!!!」

男「今だ!スパチャの準備を!」

隣人「できました!」

貞子「送信です!がんばって!」

メリー「花子、がんばれなの!」

隣人(この全員が一体になってる感じをみると、花子ちゃんって我が家の末っ子っていうかお姫様ですよね)

アイドル「あ、はなちゃんあてにスパチャ来てますよ。がんばってーって」

花子「え、ほんとに?よし!次こそは!・・・・・・って、連戦!いや、やってやる!勝ち越させない!」

歌手「ここいらで一つ踊ってみようぜ♪夜が明けるまで転がってこうぜ♪」

アイドル(これ、連敗し続けたら歌手は歌い続けてダンサーは踊り続けることになるのかな?それはそれで面白そうだしいいか)

・・・・・・

歌手「あいむあるーざーどうせだったらとおぼえだっていいだろっ、もういっかいもういっかいいこうぜぼくらのこえっ!」

ダンサー「はぁー、はぁー」

アイドル「あのー、はなちゃん?」

花子「勝つまで!勝つまで辞めない!私は止まらない!」

アイドル「あの、ふたりがそろそろ限界だから」

花子「勝てばいいんでしょ勝てば!」

・・・・・・

歌手「はぁーっ、はぁーっ、き、きっつ・・・・・・何回歌った・・・・・?」

ダンサー「だ、ダンスって、連続で何十回もやることを想定されてないんです、よ・・・・・・・」ガクッ

花子「・・・・・・うーーーーーっ!くやしいーーーーーーーーーーっ!」

アイドル「はい、時間切れー。世界戦闘力を落としまくったはなちゃんはどうなってしまうのでしょうか!それではまた次回ー!」

男「・・・・・あの花子さんが全戦全敗だと?」

隣人「我が家でゲーム大会開いたら優勝かっさらっていく花子さんが・・・・・まさかあんな」

メリー「相手の動きが頭おかしかったの。なんか花子の攻撃が全然当たらないの」

貞子「なんですかね、あのぴょんぴょんした動き」

男「まあ、相手が悪かったってことで」

花子「ただいまっ!テレビ使うよっ!」

男「お、おかえり」

メリー「トイレワープまで使って帰ってくるとは、どうしたの?」

花子「何って、特訓よ特訓!負けっぱなしでいられるもんですか!絶対ボコし返してやる!」

貞子「はい、がんばってください!」

―1週間後―

男「・・・・・・あれから花子さん、ずっと引きこもってるな。隣人の部屋に」

メリー「寝てる時以外はゲームしかやってないの。ごはんも置いとけ状態なの。おかげで向こうで寝れないの」

隣人「心配ですね。ちゃんと食べてはいるみたいですけど・・・・・・」

貞子「あの連敗が彼女を変えてしまったんですね」

男「いや、さすがによろしくないだろ。ちょっと一言言ってくる」

メリー「でもあいつ、今聞く耳持たないの」

男「やり方はいろいろあるさ。まあ任せてくれ。対処法は姉ちゃんのお嬢様から聞いてるんだ」

メリー「なんでお嬢様とかいう身分の人が引きこもりの対処法を知っているのか甚だ疑問ではあるの」

花子「ああもうっ!こんな反確の動きしたらダメっ!」

男「花子さーん」

花子「うっさい!話しかけんな!」

男「・・・・・・うん、予想通りの展開だ」

男(ここでブレーカーをひとつまみ)

バツン

花子「・・・・・・!?!?!?!?!?」

花子「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ”!?」

男(ヒドイ絶叫だ。とても女子とは思えない)

花子「なっ、なんでっ!?なんで電気消えたのっ!?電源っ!復帰っ!」

男「はい、そこで終了。終わりにしろ」

花子「お前かっ!なんてことすんのよ!」

男「花子さん、自分の姿鏡で見たか?すごいことになってるぞ」

花子「うっさいっ!ほっといて!」

男「臭いもすごいし・・・・・・風呂にも入ってないだろ」

花子「うっさいっての!アンタに指図される謂れはない!」

男「あるに決まってんだろ。家主だぞ。こっちは隣人の部屋だけど、隣人からもクレームが出てる」

花子「あっ、うっ、そのっ」

男「とにかく、一回風呂入れ。んで、こっちの部屋に来い。いいな?」

花子「で、でもぉ!」

男「1時間以内だ!返事っ!」

花子「は、はいっ!」

隣人「・・・・・・あれがお嬢様式」

貞子「今どきのお嬢様は引きこもりを強制的に外に出させるんですね」

メリー「引きこもりとかニートは家主に対して地位が低いの。そのカードを切られたら従うしかないの」

貞子「もしくは必死で懇願する」

メリー「たとえ身体を差し出してもなの。手は出してこなかったの」

隣人「あの、もしかして期待した事とかありました?」

貞子「正直に言うとありました」

メリー「期待というか、いつ来られてもいいようにはしてたの。いざやることやるとなって駄目でしたで捨てられたら悲惨なの」

隣人「ちなみに、みなさんはどのあたりまで付き合えます?」

貞子「死なない上に五体満足でいられるならなんでも」

メリー「身体さえ壊れなければ穴は全部使ってくれていいの」

隣人「私が言えた話じゃないですけどお二人の愛も結構重いですよね」

花子「お、お風呂あがりました」

男「よし。じゃあそこに正座。三人はちょっと隣に行っておいてくれ」

隣人「はーい」

メリー「これって向こうでやればよかったんじゃないの?」

男「ついでに掃除も頼む」

貞子「なるほど。今までメリーさんや隣人さんが済ませてしまうから活きなかった私のメイド仕込みの掃除スキルが活きる時ですね!」

メリー「掃除機とゴミ袋と適当に持っていくの」

隣人「掃除機なら私の部屋にもありますよ?」

メリー「こっちのこの前買い替えた最新式だから性能いいの。くるくるぽんなの」

隣人「なるほど」

男「早く行ってもらっていいか?」

隣人「あ、ごめんなさい」

男「さて、花子さん。今から俺はお説教をします」

花子「・・・・・・はい」

男「その前に、だ。なんで花子さんに怒ってると思う?」

花子「え、なんでって。・・・・・・引きこもって迷惑かけたからじゃないの?」

男「違う」

花子「え?えーと、お風呂にちゃんと入ってなかったから?ほら、男って綺麗好きっていうか臭いの嫌いだし」

男「そうじゃないな」

花子「ええっと、それじゃあ・・・・・・ええっと、ええっと?」

花子「・・・・・・わかんない」

男「うん、まあいいだろう。俺が怒ってるのは花子さんが自分の生活や身体をないがしろにしたからだ」

花子「・・・・・・は?」

男「社長が言ってたが、人外の存在でも生活が崩れることによって病気になったりするそうだ。んで、そうなったときに病院にいくのは大変らしい。人間の病院じゃ診れないからな」

花子「・・・・・・病院ぐらい自分でいけるし」

男「そういう話じゃない」

花子「ほっといたらいいじゃん!私だって今は自分でお金稼いでるし!病院代も自分で払える!男に迷惑かけないでしょ!」

男「ああ、花子さんが完全に自立してるっていうなら俺はそこに文句を付けられない。そうなると無関係だしな」

花子「だったら!・・・・・・出ていけって、言うの?私は、ここを出て行ったらいいの!?そういうことなの!?」

男「違う!」

花子「じゃあ、どういうつもりなのよ!」

男「俺もメリーさんも貞子さんも隣人も、花子さんのことは家族の一人として考えている。だから、自分をないがしろにすることには怒るんだ」

花子「なによ、それって・・・・・・」

男「仮にさ、俺が毎日酒を浴びるほど飲んで食べ物も油物とかラーメンとかばっかりで、みたいな生活を送ってたらお前ら文句つけるだろ?」

花子「そりゃそうよ!そんな生活してたら男すぐに死んじゃうじゃん!」

男「でも、都市伝説のとこはもう辞めたんだから法に縛られてるわけじゃないだろ?」

花子「そういうことじゃないでしょ!」

男「ああ。今花子さんが思ってることは、俺たちが花子さんに対して思っていたことだ」

花子「あっ・・・・・・」

男「仕事をする上での多少の不健康な生活なら見逃す。ただ生活がまともに送れないようになるっていうのなら、俺は仕事場に乗り込んででも花子さんを辞めさせる」

花子「で、でも・・・・・・」

男「今まで3人まとめて養ってきたのは誰だと思ってるんだ。今更元に戻ったところでまだまだ余裕だよ」

花子「でも、私、もっと強くならないと、あそこにいられないし・・・・・・」

男「本当にそうだっていうのなら、それこそ辞めさせる。だが、本当にそうなのか?花子さんの事務所は花子さんにゲーマーとして最強の腕を望んでるのか?」

花子「えっと・・・・・・」

男「少なくとも見ている限りだとそうじゃなかった。どっちかっていうとバラエティ枠だろ?芸能事務所だし」

花子「そう、かも」

男「そもそも前の生配信思い出してみろよ。勝ったらライブして負けたら後ろでライブされてたんだろ?あれ見て誰が全戦全勝を望むんだよ」

花子「・・・・・・」

男「確かに、花子さんはそれを望んでるかもしれない。ただ、そのために生活をないがしろにするのであれば是が非でも辞めさせる。それが家主としての俺の意思だ。異論はあるか?」

花子「・・・・・・ない」

男「ならばよし。それに、特訓するなら特訓するでその動画も録ったりできるんだろ?そういうのも配信して稼いで行きゃいいじゃんか」

花子「あっ、そっか。男ってけっこうがめついね」

男「これでも大企業の社員なんでね」

メリー「花子ーーーーっっ!終わったなら手伝えなのーーーーっ!」

貞子「なんですかあのゴミの量!しかもあなた、トイレにも全然行ってなかったみたいですね!トイレの花子さんのくせに!」

男「えっ」

花子「い、いや、それは、ね?反省してるから・・・・・・ね?」

男「あの」

隣人「先輩、聞かない方がいいです」

男「え、そこまでなのか?」

隣人「はい。そしてですね」

隣人「渡シの部屋をあん名風に津かッて汰コトについて御噺があり升」

花子「あっ・・・・・・」

男「よし!俺の分の説教終わり!こってりしぼられてこい!」

花子「やだーーーーー!許してーーーーーー!!!!」

花子「ひぐっ、えぐっ、えぐっ」

隣人「これに懲りたら今度から気を付けるように!」

花子「はい・・・・・・ひっぐ」

メリー「よし、説教も終わったみたいだしご飯にするの」

隣人「あれ、いつのまに?」

貞子「隣人さんのお説教が長かったので買い出しから調理まですべて済んじゃいましたよ」

男「よしよし、もうご飯だからそろそろ泣き止もうな」

花子「うん・・・・・・ひっぐ、ぐすっ」

メリー「たまには子供らしく叱られるのもいいもんなの」

貞子「私はしょっちゅう叱られてますけどね」

メリー「お前は問題行動が多すぎなの。メイドならもっと慎みを持てなの」

貞子「自分の欲には抗えません!」

メリー「駄メイドなの」

花子(なんか、こうやってしてると改めて一緒に暮らしてるって言うのを感じられる気がする)

花子(お互いに無関心じゃいられない、過干渉になっちゃうこともある。これが、家族、だよね)

花子(もちろん嫌なことだってある。でも、それ以上にいいことの方が多い)

花子(・・・・・・うん、がんばろう。とりあえずみんなが安心して生活できるぐらいには)

隣人「先輩、最後の一個、あーんしてください」

男「え?あーん」

花子「ぱくっ」

隣人「・・・・・・ちょっとぉ!?花子さん!?」

花子「べー、だ。いちゃいちゃしててさっさと食べないのが悪いんだよーだ。ごちそうさまー」

貞子「そうです!のろけを見せられるこっちの気持ちにもなってください!」

メリー「花子、よくやったの。いちゃつくならよそでやれなの」

男「そんなにいちゃいちゃしてたつもりはないんだけど・・・・・・」

花子「いやー、男からあーんしてもらって食べるご飯はおいしいなー!これを食べれない彼女さんはかわいそうだなー!」

隣人「こんのっ!いいでしょう花子さん、宣戦布告とみなしました!」

花子「ラグナロクオンラインで待ってるよー、月宮」

隣人「すぐインしますから!あなたを詐欺罪(食い逃げ)と窃盗罪で裁きます!覚悟の準備をしておいてください!いいですね!」

男「・・・・・・うん。元気になったみたいで何よりだな」

To be continued...

完結編第二話【トイレの花子さん】をお送りしました。
花子さんは子供らしさを大事にして書いたつもりですが、自分で書くとメスガキ感が出ないな。
もっと家庭内煽ってほしい。それで返り討ちにしてわからせたい。
次回は【呪いのビデオ】です。男は死にます。
メリーちゃんに二人羽織であつあつおでんを食べさせたい。

【呪いのビデオ】

貞子「荷物運んでもらってありがとうございます」

男「このぐらいお安い御用だよ。男だしな」

貞子「メタな話をしますけど男さん自分の名前を言っているのか性別の事を言っているのかわかりにくいですね」

男「そういうのは無しの方向で」

貞子「ふふ、でも助かりました。セールでちょっと買い込み過ぎちゃって」

男「これ社用車だからバレないうちに荷物はナビを通して家に入れといてくれ」

貞子「はーい」

男「てか開いてくれたら俺がツッコんどくけど」

貞子「え、いいんですか?」

男「これくらいなら任せてくれ!」ドンッ

貞子「もう、男さん。そんなに強く胸を叩いたらまた止まっちゃいますよー」

男「」

貞子「・・・・・・あれ?男さーん、もしもーし」

貞子「・・・・・・死んでる」

男「・・・・・・またここか」

貞子「はい、いつもの病院です。お医者さんもまたかって顔してましたよ」

男「ええっと、今回は何に襲われたんだ?」

貞子「・・・・・・しいて言えばパッション屋良?」

男「え?」

貞子「もしくはゴリラ?」

男「え、あの?俺の死因はなんですか?」

貞子「男さんが自分で胸を強くたたいたときに心臓が止まったことですね」

男「・・・・・・もしかして、今回都市伝説とか諸々は無関係?」

貞子「イエス」

男「・・・・・・弱いなぁ、俺」

貞子「まったくですよ。大手スーパーの駐車場で心臓マッサージを始める私の身にもなってください。あとAED持って来てくれたり救急車呼んでくれたりした人にも感謝してください」

男「毎度お世話になってます。ありがとうございます」

貞子「これはアレですね、家に帰ったらご褒美ックスですね」

男「え、なんて?」

貞子「ご褒美ックスですよ、ご褒美ックス」

男「聞き間違いじゃなかったか。聞き間違いであってほしかった」

貞子「もう一回言いましょうか?ごほう」

男「言わんでいい!」

貞子「うむむ、実際のところ男さんの心臓の弱さにはびっくりしますね」

花子「今回の死因には流石に草も生えない」

隣人「これ、まともに結婚とかできるんでしょうか・・・・・・プロポーズの緊張で心筋梗塞とか起こったら私どんな顔して救命すればいいのかわかりませんよ」

メリー「そうは言ってもどうにもならない問題なの。今まで通り死んだらすぐに蘇生するで対処するしかないの」

貞子「何が面倒って死因の予想がつかないことなんですよね。あの人勝手に死にますし」

隣人「ショック死、窒息死、失血死、中毒死。ここに心筋梗塞とかが加わると本当にヤバいです」

メリー「心臓を叩いて動かすのは漫画とかでよく見るけど逆をまさかやるとはなの。しかも自分に」

花子「実はアイツ北斗神拳の伝承者で自分自身の心臓が止まる秘孔を突いたとかそう言うの無い?」

貞子「男さんがそうならお姉さんも多少はそっち系の知識がありそうですが、まあ聞いている限りはないですね」

花子「ネタにマジレスされると反応に困るんだけど」

貞子「そう言うネタかと思いました」

貞子「今日も今日とて男さんは病院生活・・・・・・・」

メイド「また?」

貞子「はい。自分で胸を叩いた衝撃で心臓が止まっちゃって」

メイド「そういうときは反対側から同じ大きさの衝撃を伝えて対消滅させるのよ」

貞子「それ体の中で衝撃がぶつかり合ってもっとひどいことになりませんか?」

メイド「もしくは一瞬ずらすことによって心臓が止まると同時に心臓に衝撃を与えて動かすって言う荒業があるけど」

貞子「私にはそのタイミングを計ることができないですね」

メイド「難しいわね・・・・・・いっそのこと新しいのに取り換えられたらマシになるかもしれないけれど。私じゃダメなのよね」

貞子「え、お姉さんそんな方法考えてたんですか?」

メイド「だって私なら心臓が止まったところで自分で蘇生できるし」

貞子「思ったよりぶっ飛んだ思考でした」

メイド「ただ、血液型がね。私はAで男はBだから。姉弟で違うってのも面倒なのよね」

貞子「その壁は乗り越えられないんですね」

メイド「それもできないかと思ってね、幼馴染に血液全部抜いて入れ替えるとかできないかって聞いてみたのよ。所謂交換輸血ってやつ?」

貞子「だから思考がぶっ飛んでるんですって」

メイド「でも造血細胞とか諸々も入れ替えないといけないから現代科学じゃ無理だって言われたのよね」

貞子「今更ですけどお姉さんものすごくブラコンですね?」

メイド「そうかしら?普通だと思うけど」

貞子「普通の姉は弟のために心臓とか血液とかを丸々差し出そうと・・・・・・あれ、思うのかな?」

メイド「さっき言った幼馴染も弟のために医師免許取ったりしてるし、私の後輩も弟妹たちのために遠方で稼げる方じゃなくて近場の仕事を選んだし」

貞子「世の中のお姉さんはすごい人ばかりですね・・・・・・・ほんとうに」

メイド長「あら、世の中には私みたいに両親も兄弟も放ったまま10年以上あってない姉もいるのよ?」

貞子「メイド長?なんかまた複雑そうな家庭ですけど」

メイド長「ただ単に若気の至りで家出しただけだけど」

貞子「思ったより単純でした」

メイド長「あの頃はただの不良娘でね、家族には迷惑ばっかかけたもんよ。そんな私が今ではこんな大きなお屋敷のメイド長。人生なにがあるかわからないもんだわ」

メイド「私だって就活に失敗してお嬢様に拾われるまではメイドなんて選択肢なかったし」

貞子「ここのメイドさんたち、結構複雑な事情が多いんですね」

メイド長「まあ本家のお嬢様の専属メイドは趣味でやってるけど」

メイド「幼馴染で放っておけないからという理由だけで始めてましたね。忠誠心は高いけどいかんせん公私を分けられないところが玉に瑕でしょうか」

貞子「趣味でメイドさんやってる人もいるんですね。ちなみにここ、執事さんを見ないんですけどいらっしゃらないんですか?」

メイド長「執事研修をできるものがいなくて」

メイド「この女所帯の中で少数の男性に仕事をさせるのはかわいそうだと思わない?」

貞子「あー」

メイド長「とはいえ、昔はいたわよ。メイドの一人と結婚して普通の会社に行ったりバーテンダーの道に進んだりといろいろあって皆辞めちゃったけど」

貞子「あっ、やっぱり執事とメイドの恋愛とかもあるんですね。いいなー、そういうの憧れるなー」

メイド「統計確率で考えると1%切るわよ」

メイド長「そうホイホイあったら私ら独身じゃないわよ」

貞子「あ、はい。ごめんなさい」

貞子(実際、男さんの問題は心臓だけじゃないですしね)

貞子(お酒で死んだり打ち所が悪くて死んだり)

貞子(どうも死ぬってことに対する運がとても悪い気がします。悪運が無いといいますか)

貞子(でも結果として誰かが蘇生してると考えるとそうでもないんでしょうか?)

貞子(心臓交換とかそういう話はメリーさんにはしないようにしておきましょう。彼女ならワンチャン自分のをあげるとか言いだしそうですし)

貞子(んー、こう考えるとみなさん愛が重いですね。恋人である隣人さんはともかくとして、メリーさんといいお姉さんといい心臓『程度』とか言っちゃいそうな人が多い)

貞子(私は流石に心臓を捧げたりはできないですね。死にたくないですし)

貞子(・・・・・・こう言うと私が薄情に見えてきますね)

貞子(隣人さんにああは言ったものの、私だって本当は男さんのこと・・・・・・)

貞子(・・・・・・そろそろ、潮時ですかね)

メリー「すごいの。考え事してるだけでみるみるうちに家がきれいになっていくの」

花子「やばいね。新居みたいにピッカピカだよ」

隣人「これがメイド修行を終えた貞子さんの実力ですか・・・・・・私も花嫁修業の一環として教わった方がいいんでしょうか」

メリー「隣人はまず感情のコントロールからなの。なんかあるとすぐスイッチが入って昂るのをやめるの」

花子「トレーニングやってみる?頑張って煽るけど」

隣人「花子ちゃん言い返したら泣くじゃないですか。嫌ですよ」

貞子「んー、寮って言っても結構いろいろあるんですねー。どこも細かい規則みたいなのはなさげですけど・・・・・・」

男「ん?貞子さん、それ何のパンフレット?」

貞子「メイド寮のパンフレットです。どこもそこそこの違いがあって割と悩むんですよね」

男「・・・・・・メイド寮?」

貞子「はい」

男「ってことは、ここを出るってことか?」

貞子「はい。そのつもりです」

男「・・・・・・仕事の都合でってことなら仕方ないけど、長居したら迷惑だからとかそう言う理由で出るっていうのなら反対するぞ」

貞子「迷惑だからというわけでもなくて。もちろん仕事場が近くなるので楽だというのもあるんですが、それ以上にプライベートの空間がほしいというか」

男「あー、なるほど。ウチ12畳一間だしな。個人部屋を用意しなかったのは俺の落ち度だ。悪かったな」

貞子「いえいえ、居候の身でそんな贅沢なこと言えませんよ。ただ、こうやって安定した稼ぎを得ている以上はやっぱり自立すべきですしね」

男「おお・・・・・・ついに貞子さんから自立の一言が!」

貞子「嬉しいですか?」

男「当然だろ。もう俺の手が必要無くなったってことだろ。精神的にも経済的にもさ。つまりは成長なわけだ。嬉しくて当然だろ。まあ、寂しくもあるけどな」

貞子「・・・・・・なるほど」

男「え?」

貞子「ああいえ、なんでもないです。男さんにはたくさんお世話になりましたし、また折を見て恩返しにも来ますから」

男「機織りでもしてくれるのか?」

貞子「メリーさんはモデルついでに服飾も学んでるそうですね。残念ながらメイド業に新しく物を作るという概念がありませんので」

男「あったらやってくれるのか。てかメリーさんはメリーさんで新しいスキルを身に着けてるのか」

貞子「モデル兼任の弟子みたいなものらしいですね。聞いたところによるとメリーさんを雇ってる方も元人形だとか」

男「まじかよ。世の中の人形ってよく動くんだな」

貞子「ほんとにですよ」

貞子(男さんが私たちを性的な目で見ない理由がわかりました)

貞子(彼にとって、私たちは庇護対象だったわけです。自分の娘のようなもの)

貞子(一部の変態を除いて一般の父親が娘に欲情しないように、男さんも私たちを女として見ていなかった)

貞子(・・・・・・そりゃスタートラインに立ってるわけないじゃないですか。自分で言ってて正解だったなんて)

貞子(彼が養うと決めてからは無意識に父親気分になっていた。もしくは、養うことを決めるために父親になり切っていた?)

貞子(まあ父親として見ると多少無茶なことは言っていますが・・・・・・本当に心の底から嫌がることを本気で言うことはありませんでしたね。多分)

貞子(よく考えると以前からそういう気はありましたね。隣人さんの騒動のときも私たちを自立させようとしたりだとか)

貞子(あの時は厄介払いみたいに受け取ってしまいましたが、今考えると巣立っていってほしかっただけなのではないでしょうか)

貞子(ならば、こうやって自立することがなによりもの恩返しになる。きっと、男さんも心から喜んでくれる)

貞子(・・・・・・ええ。それが一番なハズなのです。男さんが喜んでくれるのなら、私も嬉しい)

貞子(それなのになぜ、こんなにも寒く感じてしまうのでしょうか)

貞子(・・・・・・いけません。依存したままでは男さんが心配してしまいます。滅私奉公、それこそがメイドの性分)

貞子(今こそ、自立の時なのですから。もしかしたら私を見習って他の2人も自立しようとするかもしれませんし)

貞子(あの二人よりも成熟している私が、見本にならないといけないのです。みんな、自分の道を歩む時期が来たんです)

貞子(・・・・・・寂しいです、男さん)

男「えーでは、貞子さんの門出を祝って、かんぱーーい!」

「「「「かんぱーーい!」」」」

メリー「・・・・・・って、乾杯したのはいいんだけど、なんで貞子が全部料理作ってるの?」

貞子「当たり前です。メイドが料理を作らなくて誰が作るのですか」

メリー「今日ぐらいゆっくりしてればいいのになの」

花子「まあまあ、いいじゃんいいじゃん。作りたいんなら作らせればさ」

男「貞子さん、メイドやる以前から料理上手だったけどメイドになってからさらに上達したよな」

貞子「先輩方の教えがうまかったからですね。あとは私のセンスでしょうか」

メリー「謙遜してるのか自尊してるのかわからない言い方やめるの。でもおいしいの」

隣人「・・・・・・私もメイド料理を」

貞子「アマゾンのジャングルで1週間生活したいですか?」

隣人「やっぱいいですごめんなさい」

男「メイド修行といい芸能人レッスンといい大変そうだな」

メリー「山奥とかジャングルとかすごいの。こちとら空調が整った空間でしか過ごしてないの」

花子「山奥も楽しかったよ。普通にキャンプって感じで」

貞子「ジャングルの中は・・・・・・先輩メイドたちに驚かされましたね。なんでワニのデスロールにコークスクリューで対抗して勝利するのか」

男「なんだそれメチャクチャ聞きたい」

貞子「みなさん素でそのあたりの猛獣より強いんですよね。あの場所では私たちが食物連鎖の頂点でした。私も随分と鍛えられましたし」

隣人「貞子さんもお姉さんがやってたみたいなやつできるんですか?メイド真拳」

貞子「メイド真拳とはメイドとして日々行う業務を拳法に取り入れた武術です。なので動きを覚えたら自然とメイド仕事ができるようになりました」

男「メイド業務よりも先にメイド真拳を覚えたのか」

貞子「はい。特にお姉さんからはかなり熱心に教えていただきましたよ」

男「姉ちゃん、弟子欲しがってたからな・・・・・・」

メリー「花子やばいの。これは私たちも強化が必要なの」

花子「えーと、芸能人のスキルとしてはやっぱりダンスで竜巻おこしたりサイン色紙を飛び道具にして切り裂いたり?」

メリー「衣装モデルはなんなのなの。服を着替えてその服に合った動きをする能力とかなの?」

隣人「製菓会社勤めとしましてはお菓子で戦うべきなんでしょうか?コーラの原液なら使えますけど」

男「仕事=戦闘力みたいな考えをやめろ」

貞子「それでは、行ってきますね」

男「ああ。がんばってな。気が向いたらまた遊びに来てくれ」

メリー「いつでも戻ってきたらいいの。てか週一ぐらいで掃除しに来てくれたら嬉しいの」

隣人「先輩がすぐモノを散らかしちゃいますからね」

貞子「自分でしてください」

男「が、がんばる」

花子「メイド仲間さんたちにも配信見ろって言っといてね」

貞子「はい。メイド全員で見ます」

花子「ついでにスパチャも投げてね」

貞子「低評価連打なら」

花子「ぶっ殺すぞテメェ」

男「まあメリーさんが言ってたように、いつでも戻ってきてくれていいからな。困ったことがあったら相談にも乗るし」

隣人「貞子さんには助けられましたから、先輩に相談しにくかったら私でも大丈夫ですよ!」

貞子「・・・・・・ええ。そうさせてもらいますね。ではみなさん、また会いましょう!」

―1か月後―

同僚「貞子さん。今日の夜、時間は空いてますか?」

貞子「え?はい。私はいつでも暇ですよ」

同僚「その返答はなんて反応したらいいか・・・・・・まあ暇ならちょっとご飯食べに行きませんか?焼肉が食べたいんです」

貞子「それならこう、奥様の前でぽろっともらせばA5ランクの焼肉が食べられますよ」

同僚「貞子さん強かですね。ってそうじゃなくて!違うんです!私はあのチープでごはんといっしょに無限に食べられる焼肉が食べたいんです!」

貞子「まあその気持ちもわからなくは無いですが」

同僚「そしてそのままカラオケオール!」

貞子「明日の仕事に差し支えますよ」

同僚「なに言ってるんですか。明日はお休みじゃないですか」

貞子「あ、そうでしたね。どうも休日の感覚があまりなくて」

同僚「あー、まあわかりますよ。部屋から出ても同僚だらけですしね。自分が休みでも他の出勤する人とか見てたらあれ、今日ってどっちだったっけって思いますし」

貞子「専属の人とか大変そうですよね。同僚さんも今専属メイドの研修中でしたっけ?」

同僚「はい。未だお嬢様から太鼓判をもらえないですけど・・・・・・」

貞子「あのお嬢様もたまにメイドに交じってメイドをやってる様子を見ますが、あれはいったい?」

同僚「なんとあのお方、3年でメイド長から一流メイドの認定を受けた超エリートさんなんです。そして彼女も現職メイドらしいです」

貞子「お嬢様なのにメイドを・・・・・・?」

同僚「ですです。なぜかうちのメイドたちが有休をとるタイミングを把握してて、5人以上抜ける時に入ってくれるんですよ」

貞子「へぇ、いわゆるピンチヒッターってやつですか」

同僚「そして私は彼女の妹たちの専属を勤めるルートに入ってしまっているので仕事ぶりを評価されるわけです・・・・・・」

貞子「毎度お疲れ様です」

貞子(寮や職場の人たちは本当に良い人たちばかりです)

貞子(なにかと気にかけてくれますし、かわいがってもらえてますし)

貞子(なんていうか、大学のサークル仲間とかこんな感じなんでしょうかね。大学行ってないですけど)

貞子(見た目同い年ぐらいの人たちも友達って感じで気兼ねなく話せますし)

貞子(ええ、本当に良い人たちばかりで・・・・・・)

貞子(・・・・・・これで、よかったのです)

貞子(子供はいつか、巣立たないといけない。彼にとって私が子供だと言うのなら、そうするのが一番なのです)

貞子(・・・・・・専業主婦とか、正妻とか。夢のまた夢だったわけですね)

貞子(アンサーが言っていた通り、ただの願望。夢が叶わないから現実なのですし)

貞子(・・・・・・あの家は、温かかった)

貞子(本当に家族みたいでした。男さんは遠慮なしにいろいろ言ってきて、メリーさんは口うるさくあれをしろこれをしろと言ってきて、花子さんがわがままを言うわけです。それに便乗して隣人さんも男さんに甘える)

貞子(そうすると男さんが困って、メリーさんがまた口うるさくなって、隣人さんがシュンとして花子さんが煽って)

貞子(そして私は、メリーさんを諌めたり花子さんと一緒になって煽ってみたり隣人さんを横目にアピールしてみたり)

貞子(花子さんの仕事ぶりをみんなで応援したり、メリーさんの写真を見てあれこれ言い合ったり、隣人さんと男さんをもてはやして見たり嫉妬してみたり)

貞子(・・・・・・今は、どうでしょうか。みなさん、確かにとてもいい人たちばかりです)

貞子(不必要に和を乱したりはしない。同じ仕事をしているから話も合うし共感もできる)

貞子(でも、なんだか壁を感じてしまう。相手のプライベートに必要以上に踏み入らないように気を遣っている)

貞子(そりゃそうです。どこまで行ってもただの同僚で他人なんですから。仲が悪くなったりするとそれだけで立場も悪くなりますからね)

貞子(だから、一定の線引きをせざるを得ない。あくまでも同僚、あくまでも友達。そんな距離感を感じてしまう)

貞子(こういうの、ホームシックっていうんでしょうね。いずれは慣れるんでしょうけど)

貞子(でも、考えてしまう。もし私があのままあの家に居続けたらどうなっていたのか。変わらないけど心地よいあの日々が続いていたんじゃないでしょうか)

貞子(・・・・・・そして私は、自分の想いを押し殺したまま、男さんたちを眺め続けて)

貞子(・・・・・・なんだ。諦めきれてないじゃないですか)

貞子(こうやって離れれば忘れられると思ったのに。仕事の忙しさや新しい生活への苦労が考える暇さえ与えてくれないと思ったのに)

貞子(この職場はとってもホワイトで、お休みも多くて自由も多い。仕事もそこまで忙しくない。だから、時間はたくさんある)

貞子(メイド長曰くこの隙間の時間を使ってみなさん趣味をしたり婚活をしたりしてるらしいですけど)

貞子(今の私にとっては、それすらも煩わしい。考える時間がなければ、悩みなんてなくてすむのに―――)

ブーブー

貞子(電話、メリーさんから?)

貞子「もしもし、メリーさん?貞子ですけど」

メリー『貞子!今手空いてるの!?』

貞子「ええっと、休憩中です。あと15分ぐらいで仕事に戻ります。急いでる様子ですけど、なにかありました?」

メリー『やばいのやばいの!男のおじいちゃんからの電話で、その家からこの街まで向かう道の地蔵が破壊されたって!』

貞子「お地蔵さんが破壊された、なるほど、それは確かに・・・・・・え?」

メリー『つまり八尺様が男を狙って来てるの!なのにこんな日に限って男はスマホを二台とも置き忘れて外出してるの!』

貞子「えええっ!?だ、誰か近くには!?」

メリー『わからないの!今私ら全員で行きそうなところを必死で探してるの!行先をちゃんと聞いてればこんなことにはならなかったのになの!』

貞子「なるほど、わかりました」

メリー『仕事で忙しいっていうなら無理は言わないの。貞子も今は自分の生活があるの。ただ、一緒に探してくれたらすごく助かるの』

貞子「ええ、もちろん行きます。男さんの、みんなのためですから。ではいったん切りますね」

メリー『ごめんなの!頼んだの!』ピッ

貞子「・・・・・・さて、と。同僚さん、ごめんなさい!急用が出来たのでしばらく抜けます!」

同僚「はいは・・・・・・え?さ、貞子さん!?どこに行くんですか!?おーい!!!!せめて行先をーーーー!!!!」

同僚「・・・行っちゃった。スマホも置きっぱなしで、よっぽど急いでたんですね」

同僚「はぁ、しかたありません。穴埋めはしておきますか」

同僚(ていうか今、テレビの中に入っていったよね?貞子さん、もしかしてそっちの人なの?)

同僚(・・・・・・心配だなぁ。メイド長に報告して私も探しに行きますか)

男(・・・・・・貞子さん、元気にしてるかな)

男(姉ちゃんとは正確には職場が違うからあまり様子は聞けないし。新しい環境で馴染めてたらいいんだけど)

男「まあ、同居してた時よりはいい環境だよな。個人部屋あるし飯も豪華だろうし」

男(・・・・・・便りが無いのは元気な証拠って言うしな。むしろ清々してるのかも)

男「とはいえ、気になるのも事実。誰かを通してそれとなーく話が聞けないもんかね。次期社長とか」

男(あの人あの屋敷に結構出入りしてるらしいしな。もしかしたら貞子さんの事も知ってるかも)

ポポポポポポポポポポ

男「・・・・・・なんか、懐かしいフレーズ?鼠先輩だっけ?」

ポポポポポポポポポポ

男「にしてはやけに単調な・・・・・・」

八尺様「ポポポポポポポポポポ」

男「・・・・・・」

男(で、でけぇ!俺よりでかい!立ったまま女に見下ろされるのとか子供の頃以来だぞ!?)

男「あ、あの、何かご用ですか?」

八尺様「ポポポポポポポポポポ」

男「・・・・・・大きくて、ポポポポ。なーんか聞いたことあるような」

八尺様「ポッ」ブンッ

男「えっ」

「男さん!!!!!」

―メイド真拳奥義
 お帰りくださいませ―

ガッ

男「!?」

八尺様「ポッ、ポポポポッ」

貞子「自分の拳は自分で喰らいなさい!」

男「さ、貞子さん!?」

貞子「男さん、これやばいですよ!八尺様ですよ!」

男「・・・・・・えっ?また都市伝説!?しかもこんな白昼堂々!?」

八尺様「ポポポポ」

貞子「男さんのお爺さんのから電話があったそうで、八尺様が男さんを狙っていると聞きました」

男「爺ちゃんから!?」

貞子「ってことは昔から八尺様に目を付けられてたってことですね。男さん、やっぱりあなたの運おかしいですよ」

男「なんだかなぁ・・・・・・でも貞子さん、仕事は?」

貞子「抜けてきました!大事な時に大事な人を守れなくて何がメイドですか!」

男「メイドってそういうものだったっけ?」

貞子「とにかく!私が来たからにはもう安心です!メイド真拳はカウンターによって相手の攻撃を無力化することに特化した拳法!決して負けることはありません!さあ、どこからでもかかってきなさい!」

八尺様「・・・・・・」

貞子「・・・・・・」

八尺様「・・・・・・」

貞子「・・・・・・あれ?」

男「カウンター特化って言ったから攻撃を仕掛けてこないんじゃないか?」

貞子「・・・・・・そうでした!」

貞子「ど、どうしましょう!男さん!私やメリーさんを撃退したときみたいになにかいいアイデアはないですか!?」

男「あれは二人とも小細工頼りだからなんとかなっただけだっての!こんな物理で攻めてくるやつは無理だ!」

八尺様「ポポポポポポポポ」

貞子「このまま根競べをするっていうのもいいですけど・・・・・・ってか、男さんはどうしてこんな場所に?」

男「あー、実家がこのへんで、姉ちゃんとちょっと話をしようと思って・・・・・・」

貞子「なるほど。だからお屋敷からそこそこ近いんですね。てか、御実家電車で一駅ぐらいの距離なんですね」

男「ああ、うん。あとここ、前の家からもそこそこ近い」

貞子「あー、なるほど。つまり実家から離れたのは私たちのせいですね。ごめんなさい」

男「いや、それは別にいいんだが・・・・・・」

八尺様「ポポポポポポポポ」

男「どうするよ、これ」

貞子「私も構えを解くわけにはいきませんし、向こうの狙いは男さんですから男さんも動いたらいけませんし」

男「つまりあれだな、八方塞がりってわけだな。八尺様だけに」

貞子「男さん、さては結構余裕ですね?」

男「状況が状況だからどうにも緊迫できなくてな」

貞子(実は私は結構神経使ってますけどね!とがらせてますけどね!カウンター狙いってかなり疲れるんですけどね!!!!)

「おーーーーーい!」

男「ん、あれは・・・」

貞子「え、同僚さん?」

八尺様「ポッ」ブンッ

貞子「しまっ――」

男「貞子さんっ!!!」バッ

貞子(だめ、避けられない。男さん、前に出ちゃダメ――)

同僚「でりゃああああっ!」バキッ

八尺様「ポッ!?」

同僚「大丈夫ですか貞子さん!っと、あと先輩の弟さん!」

男「あ、う、うん。大丈夫。貞子さんは?」

貞子「へ、平気です、けど」

八尺様「ポポポポポポポポ」

同僚「えーと、あなたに個人的な恨みはありませんがこの方たちは私の仲間と先輩の弟なのでできれば退散していただけるとありがたいのですが」

八尺様「ポポポポ」

同僚「その気はないわけですね、はい。では申し訳ありませんが人間じゃないっぽいですし退治させていただきます」

貞子「でも、メイド真拳ってカウンター特化だから退治って言っても」

同僚「たしかに、メイド真拳では向こうから攻撃してこないとだめですね。ですからこれは、メイド真拳ではありません!」

―捧愛拳
 慈愛―

同僚「はあああっ!!!」ズドン

八尺様「ポポポポポッ!?」バタッ

同僚「これがメイド真拳亜流・捧愛拳です」

貞子「えーと、これももしかしてそのうち私も?」

同僚「あ、これはお嬢様が独自に発展させたものなのでお嬢様から教えてもらわない限りは別に習得する必要はありませんよ」

男「何者なんだ、お嬢様・・・・・・」

貞子「それにしても、八尺様を一撃で・・・・・・都市伝説バリアってなんでしたっけ」

同僚「ああ、あれって人間限定でしたよね?私、シルキーっていう魔物でして。なので対人間バリアが効かなかったわけです」

男「姉ちゃんみたいにバリアごとぶっ倒したわけじゃないのか」

同僚「そんな先輩やお嬢様みたいなことできませんよー。じゃあ私はちょっとこの人を回収してメイド長に報告してきますから・・・・・・っと、忘れてた。貞子さん、これ、おきっぱなしでしたよ」

貞子「あ、私のスマホ。ありがとうございます」

同僚「いえいえ。それにしても貞子さんも、恋人さんがいらっしゃるなら言ってくれればよかったのに。メイドだからってお屋敷第一じゃなくていいんですよー?」

貞子「あ、えっとこの人はですね」

同僚「だーいじょうぶです。私、みんなからスピーカーって呼ばれてますから」

貞子「大丈夫な要素どこにありますか!?」

男「あの、同僚さん?」

同僚「メイド長や奥様旦那様には私の方からうまーく言っておきますので、おふた方はこのままゆるりとお過ごしください。それでは失礼しますねー」シュッ

男「・・・・・・あの人、予備動作無しで見えなくなるぐらいジャンプしたぞ」

貞子「お姉さんもお嬢様の専属って言ってましたし、必須スキルなのかもしれませんね」

男「メイドのか?」

貞子「・・・・・・メイドって、なんなんですかね」

男「わからん。とりあえず出てきたらSSのジャンルが変わることだけは確かだ」

貞子「・・・・・・とりあえず、一旦帰りましょうか」

男「ああ。メリーさんたちも心配してるだろうし。連絡も・・・・・・あっ、スマホ忘れた」

貞子「もう、肝心な時に抜けてますね、男さんは」

男「すまん、連絡頼む」

貞子「はいはい、お任せくださいっと」

メリー「はぁ、なんだかんだ無事でよかったの」

花子「心配したんだからね!貞子が駆けつけてなきゃどうなってたことやら!」

男「ご迷惑とご心配をおかけしまして申し訳ありません」

隣人「まったくですよ。貞子さんもお仕事中にごめんなさい」

貞子「いえ、有休消化という形にしてもらいましたし大丈夫ですよ」

男「こんな形で有休使わせて悪いな。なんかで返したいところだが」

貞子「なるほど、つまりご褒美ックスですね」

男「すまん、聞こえなかった。二回目は言わなくていいぞ。てか言うな」

貞子「ご褒美ックスですね!!!!」

男「言うなっつっただろ!」

隣人「なるほど、つまり私は対抗して恋人ックスを求めろと」

メリー「お前ら相変わらず頭の中がピンク過ぎなの」

花子「貞子も一ヶ月離れて過ごせば多少はピンクも抜けると思ったんだけど、変わらずだねー」

貞子「私を染めたければペンキでも持ってきなさい」

隣人「私の部屋に赤ペンキならありますよ」

男「被るか塗るかどっちがいい?」

貞子「冗談ですごめんなさい」

メリー「こいつらついにタッグを組みだしたの」

花子「いちゃいちゃしやがって。リア充爆発しろ」

貞子(・・・・・・このやりとり。なんだか懐かしいですね)

貞子(たったの1ヶ月離れていただけなのに、なんでこんなにも懐かしんでしまうのでしょうか)

貞子(今日のごはんは、これは隣人さんの味ですね。みんな味付けが違うのでわかりやすいです)

貞子(メイドの食事はレシピがありますから味が均一化されてるんですよね。品質保証はありますが、面白味は無いです。おいしいんですけど)

貞子(・・・・・・なんでしょうね。こうやって冗談を言い合ったり叱られたり同調したり便乗したり、たったこれだけのことなのにとても温かい)

貞子(実家のような安心感とは言いますが、まさにこういうことなんでしょうね)ポロポロ

貞子(本当に、心地よくて、過ごしやすくて、温かくて、帰って来たって思えてしまって)ポロポロ

メリー「さ、貞子!?どうしたの!?」

隣人「ま、まずかったですか!?泣くほどのはずれがあたりました!?」

男「ペンキは被せないし塗らないからな?大丈夫だぞ?」

花子「多少はピンクのままでもいいって!ね?」

貞子「違うんです、そうじゃないんです。そうじゃないんですけど、そうなんですぅ・・・・・・」ポロポロ

メリー「言ってることが支離滅裂なの!」

貞子「どうして、どうしてなんですかね。どうして、涙が出ちゃうんですか。どうして、こんなにも心地いいんですか。もう、帰るつもりなんてなかったのに、帰ってきたって思っちゃうんですか」ポロポロ

男「さ、貞子さん?帰るつもりがなかったって・・・・・・」

貞子「・・・・・・お酒!お酒ください!そこの棚の下!私の秘蔵のリキュールがありますから!」

隣人「えっと?・・・・・・あ、これですか?」

貞子「はい!そのままください!」

隣人「あ、はい。何で割ります?ロックとか炭酸とか・・・・・・炭酸水あったかな」

貞子「んぐっんぐっんぐっ」

隣人「ラッパ飲み!?」

メリー「貞子やめるの!それは直で飲むことを想定されたもんじゃないの!体壊すの!」

貞子「うるさいです!飲まなきゃやってられないんです!達観してるメリーさんにはわからないんです!」

メリー「何の話なの!?」

花子「ほら、せめてロックで割るとか」

貞子「お子様は黙ってなさい!」

花子「誰がお子様だこら!日本酒寄越せ!私も飲む!」

隣人「あ、はい。日本酒ですね」

男「貞子さん、とりあえず一旦落ち着いて」

貞子「男さん!男さんが悪いんですからね!」

男「え、俺?」

貞子「折角恋人ができてそっちに集中するかと思ったのに!扱いを全く変えてこなくて!」

隣人「花子ちゃん、どうぞ。貞子さんもちょっとチェイサー入れて」

貞子「こんなかわいい恋人さんがいるんですよ!?良妻ですよ!?早く結婚しろ!」

隣人「貞子さん?突然褒めてどうしました?そんなこと言われてもお酒しか出ませんよ」

メリー「出すななの」

男「えっと、貞子さんが何を言いたいのか」

貞子「もっと恋人らしくしてくれれば、さっさと結婚してくれれば私だって諦めがつくのに!なんで態度が変わらないんですか!」

隣人「・・・・・・はい?」

貞子「私だって、私だって本当は、本当は・・・・・・ほんとう、は・・・・・・zzz」

花子「寝たね」

メリー「寝たの」

隣人「貞子さん・・・・・・先輩?」

男「・・・・・・いや、ここまで言われて察せないほど鈍感じゃないけどさ。とりあえず貞子さんを布団に移そう」

メリー「貞子のやつ、衝撃の暴露をして寝やがったの。明日記憶残ってたらこいつ大変なの」

花子「にしてもなー、貞子も変な気回してたんだねー。あんだけピンクピンクって自称すらしてたのに随分と控えめじゃん」

隣人「・・・・・・私のせい、なんでしょうか。私が」

メリー「それは隣人が気に病むことじゃないの。私ら居候組の意見としては全会一致だったのは確かだし、そこに関しては変わりはないの」

花子「ただ、こいつがそれとは関係なしにバカで不器用だったってだけでさ。って言っても気にするなって方が難しいよね。どう、メリーもなんか暴露してみる?」

メリー「私が暴露することなんか何もないの。しいて言えば家賃もうちょい払わせろなの。なんなら全額持つの。今のメリーさんにはそれくらいの余裕があるの」

男「全員一律で均等にって話だっただろ。俺も金には困ってないし」

隣人(・・・・・・卑怯だな、私)

貞子「ん・・・・・・あれ、朝・・・・・・あれ、部屋の窓ってこんなに大きかったっけ・・・・・・?」

貞子「・・・・・・?あれ?私の部屋じゃない?」

貞子「・・・・・・?えーと?このベッドは見覚えがあります。男さんのです。そして床には男さんとメリーさんが寝てます」

貞子「隣人さんと花子さんがお隣で?メリーさんと隣人さん逆じゃありません?」

貞子「・・・・・・って、そうでした。私昨日八尺様の件のあとそのまま家に帰ってきて、みんなでごはん食べて、えーと」

メリー「ヤケ酒して告白まがいのことして寝やがったの」

貞子「ああ、そうなんですね。ありがとうございま・・・・・・え?」

メリー「おはようなの。二日酔いとかは?」

貞子「いえ、全然。ていうか、告白?誰が?」

メリー「貞子が」

貞子「誰に?」

メリー「男に」

貞子「・・・・・・え?」

メリー「正確に言うと、恋心の暴露なの。自分で暴走して言うだけ言って潰れやがったの」

貞子「・・・・・・そう、ですか。言っちゃったんですね、私」

メリー「言いやがったの。おかげで隣人がちょっと気を揉んでるの」

貞子「ああ、バカだなぁ。なんてバカなんでしょう。私って、ほんとに」

メリー「このまままた出て行くの?」

貞子「・・・・・・だって、いられないじゃないですか。こんなことじゃ」

メリー「んなことしたって男も隣人ももやもやしたまんまなの。どうせやるなら言いたいこと全部言えなの」

貞子「もう、うるさいですね。メリーさんだっていろいろ言ってないくせに」

メリー「人形は持ち主への愛が重くなるのは仕方ないことなの。メリーさんが生まれた経緯だって愛情が憎悪に変わったからなの。そういうものなの」

貞子「それを言えって言ってるんですよー」

メリー「残念ながら私は貞子と違って頭がピンクじゃないの。愛情ってのはもっといろいろあるの」

貞子「・・・・・・ええ、本当に。私からの愛情と、男さんからの愛情は似て非なるものですから。だから、一緒にはいられないんです」

メリー「そんなの当然なの。男からすれば私らは養う対象なんだからそういう目で見るわけにはいかないの。じゃないとそれは養うんじゃなくて搾取になるの」

貞子「そんなこと」

メリー「男からすればそうなっても仕方ないの。こいつの姉を見たらわかるの。あいつも愛が重かったの。ってことはこいつも重いの。だからそういうことは絶対にしないの」

貞子「・・・・・・」

メリー「貞子。もしちゃんと言いたいことを言えたなら、その後でめちゃくちゃいい情報を教えてやるの」

貞子「え?」

メリー「一般の職場や社会じゃ知り得ない情報なの。さ、わかったらさっさと言えなの」

貞子「え?え?で、でも」

メリー「私はとりあえず隣人に教えてくるの。いい報告待ってるの」

貞子「あ、ちょっと!メリーさん!」

男「・・・・・・あ、れ・・・・・・?朝、か・・・・・・?」

貞子「あっ、お、男さん。おはようございます」

男「ああ、おはよう、貞子さん。・・・・・・昨日の事、覚えてるか?」

貞子「いえ、全然」

男「そ、そうか」

貞子「ですが、メリーさんから全部聞きました」

男「えぇっ?」

貞子「・・・・・・メリーさんは、多分お姉さんですね。口うるさいながらもみんなをまとめて引っ張ってくれる我が家のお姉さん」

男「え、いきなりどうした?」

貞子「花子さんは生意気な妹です。でも、とってもかわいいんです。だからつい甘やかしちゃうところもあります」

貞子「隣人さんは、娘みたいな感じですね。やろうとしてることを応援してあげたくなりますし、自分の事よりも優先してあげたい」

男「すまん、悪いが話が見えない」

貞子「私から見たこの家のみんなの役割ですよ。暗くて冷たい井戸の底とは違う、明るくて温かい家庭。ここはそんな場所だと思ってます」

男「・・・・・・」

貞子「家族、って言うんですよね、こういうの。男さんから見たらきっと、私やメリーさん、花子さんは娘のような感じなんだと思うんです」

貞子「他のみんながどう思ってるのかはわかりませんが、少なくとも私はこう考えてました。だから、今までの環境を壊したくなかったんです」

貞子「でも、ダメでした。私たちが男さんの幸せを邪魔しちゃいけませんから。だから、私は隣人さんの後押しを決めたんです」

貞子「それでも、私自身の想いが消えるわけじゃありません。忘れたくって遠くに離れても、この場所の温かみを忘れることができない」

貞子「ごめんなさい、男さん。私は弱い女です。良妻賢母になんかなれません。大和撫子にもなれません。私には、この家庭を守ることなんてできません」

貞子「男さん、私はあなたのことが好きです。異性として、1人の男性として、あなたの事を愛しています」

男「貞子さん・・・・・・」

貞子「盛大に振ってください。容赦なく切ってください。あなたを呪い殺そうとした女が、あなたに受け入れられていいはずがないのです」

男「貞子さん」

貞子「あなたの幸せを奪おうとした女が、幸せになっていいはずがないのです。一度人生を終えた女が、新たな人生なんて歩んではいけないんです」

男「貞子さん!」

貞子「だから、おねがい・・・・・・ひどいことを言って、私を捨ててください。じゃないと私、弱い女だから、期待してしまうんです!もしかしたらって思ってしまうんです!」

男「貞子さんの気持ちはわかった。これまでちゃんと向き合ってこなかったのは俺のせいだ。悪かった」

貞子「ダメです、そんなこと言わないでください。これは私のわがままで、私が勝手に思ってるだけの事なんですから」

男「でも、俺にはもう隣人が――」

メリー「はいそこまでー、なのー」

貞子「・・・・・・メリーさん?今結構いいところなんですけど?」

メリー「ちゃんと言いたいこと言えたら。良い情報教えてやるって言ったの。私はそのへん嘘つかないの」

貞子「それにしてもタイミングってものがあるでしょう!」

メリー「そうなの?むしろ最高のタイミングだと思うの」

男「メリーさん、俺結構頑張って話を進めようとしたんだけど」

メリー「進められたら困るのはこっちなの。いいの?私らは隣人も含め人外なの。そこはオッケーなの?」

貞子「ええ、もちろん」

メリー「んで、人と交われる人外ってのは子供が作りにくいものなの。寿命が長いってか実質無いから仕方ないの」

男「そういや隣人もそんなこと言ってたな。妊活するのも大変だって」

メリー「だから婚姻に関する法律は人間用じゃなくて人外用の方が適用されるの。これは現代社会のどの国でも一緒なの」

貞子「えっと、つまり?」

メリー「人外法では婚姻の数に制限は無いの。そもそも婚姻規定は人外側は浮気すんなってぐらいしかないの」

貞子「・・・・・・あの?」

メリー「ていうか!注釈で書いてるの!種の存続のために必要な場合は例え相手が同じであろうと好きなだけ婚姻を結んでいいって!」

貞子「ええっと、それってつまり、その?重婚オッケーってことですか?」

メリー「これのいいところは婚姻を結ぶ側の相手の婚姻数の制限が撤廃されることなの。これは仕事先で教えてもらったの」

貞子「・・・・・・えーと?じゃあ私はなんで悩んでたんですか?振ってくれとか言った話は?」

メリー「独り相撲なの。男も」

男「・・・・・・マジかよ」

隣人「マジらしいですね。私も今社長に確認とりました。結婚とかの話は常識で考えるから人外法のことまで頭が回らない人の方が多いんですって」

メリー「私ら人外って面倒なことに一度パートナーを決めたらその相手としか子作りできないらしいの。だからこんな法律でも作っておかないとどんどん数が減っていくらしいの」

隣人「私たちがよく目を通す都市伝説法には婚姻関係の話とか全くないですしね。あれ罰則しか載ってないですし。これはマジでびっくりです」

貞子「・・・・・・うふふ、つまり、私があんなに悩んでいたのは全部無駄だったって、こと」

貞子「うふ、うふふ、うふふふふふふ」

隣人「わーっ!貞子さん!落ち着いてください!そのままだと昂り症状でちゃいますからー!」

男「・・・・・・ってことで、貞子さんは我が家で再び過ごすことになったから」

姉『わかったわ。それにしても重婚ねぇ。どおりでお嬢様が気にしなくていいと言っていたわけだわ』

男「やっぱりお嬢様は貞子さんの事知ってたか」

姉『ええ。愛する人のために身を引くという行為に感心していらっしゃったわ。だからこそ仕立屋さん、メリーさんの職場の人ね。彼女に人外法のことを教えるよう伝えたんだって』

男「世間は狭いなぁ。まあコネだらけだし仕方ないか」

姉『一区切りついたら実家に帰って挨拶させなさいよ。私もちゃぶ台ひっくり返してみたいし』

男「姉ちゃんがひっくり返したら天井抜けるだろ。やめろよ」

姉『そうそう、八尺様のことなんだけど、彼女はお爺ちゃんの家のかかしにしておいたから安心して良いわよ』

男「安心できねぇよ!なにしたんだ!」

姉『ちょっと説得しただけよ。お爺ちゃんの家で農業を手伝えば命だけは助けてあげるって言ったら帰ってくれてね』

男「・・・・・・説得方法については聞かないでおく」

姉『賢明ね。それじゃあ、切るわよ』

男「うん。それじゃあ」

貞子「八尺様レベルの物理都市伝説が襲ってくるとなると、やっぱ戦闘力最強の私が男さんのそばにいないといけませんね!」

メリー「まじでメイドってなんなのなの」

花子「なんか寝て起きたら貞子が元気になっててうざいんだけど」

貞子「今の私は無敵です!何が相手でも怖くないです!」

メリー「それ首から上がパックンチョされるフラグなの」

隣人「それにしてもあれですね。法律に縛られた結果法律に助けられるっていうこの状況、すごいですね」

メリー「この話は法に始まり法に終わったの。法治国家万歳なの」

花子「で、二股男さんの感想は?」

男「あれだけ言われて振ったら俺極悪非道どころじゃないよね?その呼ばれ方には納得できないよ?」

貞子「えっ、じゃ、じゃあ私とはその場の雰囲気と義務感で結婚を前提としたお付き合いを始めたということですか・・・・・・?」

男「ああいや、そういうわけじゃないって!くっそ、花子ォ!」

花子「やーいやーい、ふったまったおっとこー!」

メリー「まあ男はこれ以上相手を増やさないように頑張ってなの。これ以上増えたら私が面倒見切れないの」

花子「ねぇ男ー、二股から三股になってみる気はない~?私新しい衣装欲しいんだけど~」

隣人「花子ちゃん、前半部分を本気で言っているならともかく冗談で言っているなら怒りますよ」

貞子「少なくとも私たち二人はその部分に本気で悩んでたのでそこを茶化すとキレますよ」

花子「ごめんなさい。まあ芸能人的にもJS的にも一般男性の恋人はやばいし私に少なくともその気はないよ」

隣人「なるほど。で、メリーさんは?」

貞子「メリーさんのお気持ちはまだ表明してもらってませんね、ええ」

メリー「プロポーズされたら受け入れてやるの。そうじゃなかったら人形相手はやめとけなの」

貞子「聞きましたか男さん、受け入れ準備万端ですって!」

隣人「先輩!三股行っちゃいましょう!」

男「お前らは俺に不貞を勧めるな!」

To be continued...

完結編第三話【呪いのビデオ】終了です。ビデオ要素と呪い要素はトイレに流しました。
貞子さんが貞子っぽいことなにもしてない。しいて言えばモニターに飛び込んでワープしたぐらい。どうしてこうなった。
正直貞子さんと付き合わせるつもりはもともとなかった。なかったけど話の流れで付き合ってしまった。こいつら勝手にしゃべりだすから困る。
書いてたら愛着が出てきて幸せになる方向に持っていきたくなるから仕方ないね。
現在の家庭内戦闘力は 貞子>隣人>花子>男>メリー って感じ。
貞子はコンボをつなぐタイプ。隣人はデバフと一撃の火力で攻める。花子さんも秘技アリダンゴからの恐怖のベンキ流しが決まれば10割持っていける。
次回!メリー死す!デュエルスタンバイ!

【メリーさんの電話】

この話を噂程度ででも聞いたことある人は多いだろう。非通知の電話番号から着信がかかってきて、「もしもし、私メリーさん。今○○にいるの」と繰り返される。遠くの場所から段々と近くなっていき、最後には

「私メリーさん。今あなたの後ろにいるの」

この言葉で怪談は終わる。それがメリーさんの電話。この後に振り向いたら殺されるパターンや、振り向かなくても殺されるパターン、様々の結末が存在する。

なぜメリーさんは人を恨み、殺すようになったのか。

メリーは人形だ。かつてとある少女が引っ越しの際に捨ててしまった人形だ。人の形をした者には魂が宿りやすいという。きっとメリーさんにも魂が宿っていたのだろう。

だからこそ怯えた。捨てられる恐怖に。だからこそ憎んだ。恐怖を与えた少女を。そして、人形は彼女を――

人形は今もこの街をさまよっている。捨てられた恨みを忘れずに。朽ち果てた身体と携帯電話を持って。

「もしもし、私メリーさん。今」

メリー「あなたのうしろにいるの」

男「・・・・・・」

メリー「男、またホラーサイトを読み漁ってるの?そんなことしてたらまた声を掛けられたショックで心臓が止まるの」

男「いや、この話の中のメリーさんが今俺の背中に乗っかってきてお約束の台詞を言ってくれるってことになんていうか伝えようがない複雑な感情を抱いてるんだ」

メリー「言わんとしてることはわかるの。ただメリーさん本人としては別に街をさまよったことはないの。定住してたの」

男「都市伝説がまさか非正規労働者だとは誰も思わんよ」

メリー「クレーム入れてやるの。『メリーさんはワンルームマンションに住んでるの』ってなの」

男「都市伝説サイトのコメント欄に都市伝説がコメントするのは割と面白いな」

メリー「もしかしたら私以外にもやってるやつがいるかもしれないの。いたの。貞子と花子なの」

男「アイツらも暇かよ」

メリー「『貞子さんはビデオを捨てました!今はコンピューターウィルスとして入り込んできますよ!』『学校のトイレとか臭いし狭いし汚いし留まる価値なし。☆1つ』」ナノ

男「あいつら本人だからって言いたい放題だな」

メリー「コメントへのコメントも来てるの。『貞子さんは今メイドやってます』『花子ちゃんはネット配信やってますよ』」ナノ

男「隣人だな、これ」

メリー「やっぱり私も書いておくの。『メリーさんの身体は別に朽ち果ててないの。割ときれいな身体してるの』」

男「暇かよ」

メリー「暇なの」

メリー「貞子はメイド研修第二段でアラスカへ。花子は配信企画で北海道へ。そして隣人は研修ついでに社長と一緒に最近できた新しい工場に」

男「まさかの俺たち二人だけだからな」

メリー「一年ぐらい前はこうだったの。覚えてるの?」

男「そりゃ覚えてるよ。俺の記憶の中で初めて死んだときのことだし」

メリー「あれは7:3ぐらいで・・・・・いや、8:2・・・・・9:1ぐらいで男が悪いの!心臓弱すぎなの!」

男「譲ってくれてありがとう」

メリー「何言ってるの9側が男なの」

男「なんで!?」

メリー「冗談なの。でも、男の心臓が弱かったおかげで私は今こうやって幸せな生活を送れてるの」

男「お、おう」

メリー「ここに来るまではただ毎日を生きるためだけに消費するだけだったの。多分私が殺した奴の中には男に負けないぐらい優しい奴とかもいたと思うの」

メリー「こんな誰も幸せにならないことを止めてくれた心臓なの。感謝してるの」

男「心臓に、か」

メリー「男に、なの」

男「・・・・・ん?」

メリー「あいつらがいなかったら茶化されることもないし多少は素直になることにしたの」

男「お、おう」

メリー「なんなのなの、その態度はなの」

男「いや、なんだかメリーさんにそんなこと言われるのは慣れなくて」

メリー「普段言わないから慣れなくて当然なの。私も男に褒められたらしどろもどろになったの。そういうもんなの」

男「そういうもんか」

メリー「でも、こんな関係もありだと思うの。電話越しじゃないから言えることもあるの」

男「そうだな。お互いの顔が見えるからこそ言えることもある」

メリー「もちろん、言えないことも」

男「それこそ電話で言ってくれればいい」

メリー「電話は嫌いなの」

男「メリーさんなのに?」

メリー「当たり前なの。もう顔も覚えてないけれど、私が大切に思ってた人を殺した道具なの。嫌いで当然なの。スナイパーが全員銃が好きとは限らないの」

男「言い得て妙だな」

メリー「でも使えるものは使うのがメリーさんの主義なの」

男「いつも助かってるよ。ありがとう」

メリー「能力に、なの?」

男「メリーさんに、だ」

メリー「・・・・・や、やっぱり慣れないの」

男「でもなんでいきなりこんなことを?」

メリー「んー、例えば明日世界が終わるとしてなの。最後に言い合った言葉がお互い罵倒ってのは嫌なの」

男「まあそうだな」

メリー「もう少し素直になっていればなー、とかいろいろあると思うの。そういうのを意識して今後は素直デイを作っておくの」

男「つまり今日一日でこれは終わりと」

メリー「男が続けろって言うなら続けるの。私は男の命令には逆らえないの」

男「いや、もはや自分でも稼いでるしそんなことないだろ」

メリー「ううん。私は人形なの。だからどこまでいっても持ち主が必要なの。そして今の持ち主は男なの」

男「それがメリーさんのアイデンティティってやつか?」

メリー「いや、ただの本能なの」

男「ってことはそれを鵜呑みにすると人形から派生した存在ってみんな被支配欲を持ってるってことになるが」

メリー「そうなの」

男「・・・・・・メリーさん、3回回ってワンって言ってくれるか?」

メリー「自分でやれなの」

男「あれ?」

メリー「とりあえず今日の晩御飯を考えるの。二人だから大して手の込んだもの作らなくていいの」

男「子供がいないから飯を手抜きしてもいいか理論やめろ」

メリー「男はカップ麺でいいとして私はどの冷凍食品を食べるかなの」

男「せめて俺も冷食食わせてくれ」

メリー「業務スーパーにでも行ってチャーハンでも買ってこいなの」

男「え、てかマジで今日は手抜きなのか?」

メリー「どうしても手料理が食べたいって言うのなら考えてやらなくもないの」

男「俺、どうしてもメリーさんの真心がこもった温かい手料理が食べたいな」

メリー「わかったの。今夜は手羽先タップリのチゲ鍋なの」

男「この真夏に!?温かい手料理ってそういうことじゃないだろ!?」

メリー「インドみたいな暑い国でも辛くて熱いカレーを毎日食べてるの。日本でやってもおかしくないの」

男「そんなこち亀みたいな理論で納得させようとしないでくれ」

メリー「まあ我々には人類の英知である冷房が存在してるの。うるさい貞子もいないしガンガン使えるの」

男「よし、チゲ鍋するか」

メリー「その切り替えの早さには感服するの」

メリー「あっついの!男、温度下げてなの!」

男「冷房限界まで効かせてこれだ!」

メリー「やっぱり夏にチゲ鍋はやりすぎだったの。普通の鍋にしておくべきだったの」

男「辛みのせいで体温が上がるのがヤバいな」

メリー「すぐにお風呂に水張ってくるの。体温元に戻せなの」

男「いや、さすがにチゲ鍋で死んだら笑いものとかそう言うレベルじゃないからな?」

メリー「・・・・・・よく考えたら水風呂にいれてもショックで死にそうなの」

男「あの、メリーさん?俺の事特別指定保護動物と勘違いされてません?」

メリー「なにやったら死ぬかわからないのにリスクある事させられないの!冷房も適正温度に戻すの!体温下がって死なれたら困るの!」

男「俺毎年どうやって越冬してるんだろうね」

メリー「もしかして夏もヤバいの?水分補給しろなの。今度からスポドリ買っとくの」

男「至れり尽くせりだけど俺もうちょい頑丈だからな?」

メリー「自分で自分の胸を叩いて死ぬ男が何を言うかなの」

男「返す言葉もございません」

男「んで、結局水風呂張ったのはいいものの、なんで一緒に入ってるんだ?」

メリー「風呂で倒れられたら困るからなの。お互い普段の生活で全裸程度見慣れてるの。いちいち気にするななの」

男「お互い初期のころは一人暮らしの頃の生活が抜けなかったからなぁ。今は隣人がいるからマシにはなってるけど」

メリー「それに私もさっさと汗を流したかったの。暑くて気持ち悪かったの。水風呂最高なの」

男「・・・・・・この状態、貞子とか隣人に見られたらなんて言われるか」

メリー「見られてないからこそできることなの。あいつらは頭がピンク過ぎて面倒なの」

男「それには同意する。貞子さんはもともとだったけど隣人も付き合い始めてからだんだんとひどくなってたような」

メリー「一回ヤれば落ち着くかもしれないの。私の平穏の為にもさっさと童貞捨ててこいなの。花子にも童貞臭いとか言われなくなるの」

男「うっせぇ!タイミングがつかめないだけなんだよ!童貞だからしかたねぇだろ!」

メリー「むしろさっさと卒業したら多少がっつくようになるの?」

男「そんなもんやってみないとわからないって」

メリー「じゃ、やってみる?」

男「え?」

メリー「なーんて、冗談なの。男にその気があるなら別だけど、人形で童貞卒業とかマジで笑いものなの。ネット広告のマンガに載せられるのがオチなの」

男「『男が童貞を卒業した相手は、まさかの人形!?』みたいな感じか」

メリー「それに一発ヤってテクノブレイクとかも起こりそうだし心配なの。そう考えるとあいつらも迂闊に手を出せないのがわかるの」

男「やめてくれ、行為の最中に心臓が止まって全裸で蘇生されるとかお互いに一生のトラウマになるから」

メリー「風呂上りに食べるアイスは格別なの。男、死んでないの?」

男「死んでねぇよ」

メリー「よかったなの。アイスを急いで食べて頭が痛くなったショックで死なれたりしたら困るの」

男「メリーさんは本当に色んな想定をしてくれるな」

メリー「寝てただけで心筋梗塞で死ぬような男がそばにいるから仕方ないの。老人介護用の心音感知機をわざわざ買うはめになったの」

男「あれ、結構高いよな?少なくとも俺の年収じゃさらっと買えるもんじゃないんだが」

メリー「年収2千万舐めんななの。雇い主に相談したら快く買ってくれたの」

男「年収関係ねぇ!」

メリー「年棒2千万を私一人にだけとはいえポンと出せる時点でおかしいと思えなの。そんな経済力があるから余裕で買えるのなの。ちなみにアザラシ製菓の株主筆頭なの」

男「あー、ウチの会社確かに上場はしてないって聞いてるが・・・・・・え、親族経営だったのか?」

メリー「その辺も詳しく教えてもらえたの。どうやらあそこの社長5人兄妹らしいの。その内の兄は故人で血のつながらない4姉妹が残ってるらしいの」

男「もしかしてその4人で株全部持ってるとかそういうのじゃないよな」

メリー「そういうのなの。ちなみに次期社長は雇い主の孫なの」

男「こう聞くと割と危ない会社に聞こえなくもないんだが社長も次期社長もめちゃくちゃ有能で文句なしってのがすごいよな」

メリー「えーと、長女がどこか偉い人の付き人やってて次女が雇い主で三女が社長さんで四女がどっかの宝石屋さんで働いてるって感じらしいの」

男「社長も含めてあの親族にはプライバシーの概念がないのか?」

メリー「身内にはがばがばらしいの。私や隣人は身内認定されてるの」

男「身内基準軽いなぁ」

男「さて、そろそろ寝るか」

メリー「わかったなの」

男「・・・・・・今更ながら、メリーさんのその『なの』は付けないと会話できないのか?」

メリー「口癖に文句言うななの」

男「メリーさんの語尾が『の』以外だったこと聞いたことないし」

メリー「さっきお風呂でちょこっとやったのになの」

男「つまり普段は意識してるってことか?」

メリー「意識してつけないことはできるの。でも切羽詰まったらどうしても出ちゃうの。メリーさんに社会人としてビジネスする機会とかないから問題ないの」

男「じゃあ風呂でのあれはあえてつけなかったってことか?」

メリー「さーて、どうでしょうなの。んじゃ、電気消すの」

男「おう」

男「んで、2人に生活が始まって3日目も終わろうとしている頃だけどさ」

メリー「なんなのなの?」

男「なんで俺が寝てるベッドで寝てるんだ?ベッドが欲しいなら隣人のやつも使えるだろ?」

メリー「お人形は持ち主と一緒に寝るのが好きなの。子どもの頃ベッドで同じ布団に入れてもらえるってだけで人形カースト爆上がりだったの」

男「人形カーストって」

メリー「貞子や隣人がいる前じゃ流石に譲るけど、いないときぐらいはこんなことしても罰は当たらないの」

男「・・・・・・寂しいのか?」

メリー「そうなの」

男「なんだ、今日は本当に珍しく素直っていうかなんていうか」

メリー「当たり前なの。いつでもどこでもつんけんしてたら嫌われちゃうの。私は男に嫌われて捨てられたら生きていけないの」

男「相変わらず依存度高いよな。さばさばしてるように見えて」

メリー「当たり前なの。人形ってそういうものなの。だからこうやってたまには愛らしさを振りまいておかないといけないの」

男「愛らしさって」

メリー「それに、この人肌の温かさはいいものなの。冷房が効きすぎてるとかそういうわけじゃないの」

男「・・・・・・まあそれには同意するけどさ。別につんけんしてるからって捨てたりはしないさ。メリーさんがどういう人間、じゃないけど人間なのはわかってるし」

メリー「じゃあ純粋に甘えたいだけってことにしておくの」

男「そうかい。じゃ、そういうことにしとくか」

メリー「あと、側にいないとやっぱり不安なの。すぐ死にそうで」

男「おい」

メリー「ま、男の側には常に誰かしらいるから死んでもすぐ蘇生できるの。今は私しかいないからこうやっていなきゃだけどなの」

男「嫌な安心感だな、それ」

メリー「救命講習受けててよかったの。都市伝説で働いてた時の功績の1つなの」

男「備えあれば患いなしだな」

メリー「今となっては月1間隔で使ってるの。そういえば前回の入院からもうすぐ1ヶ月たつの」

男「不穏なこと言わないでくれ」

メリー「大丈夫なの。男のことは私が命に代えても守るの」

男「頼りにしてるよ、メリーさん」

メリー「任せてほしいの」









































「・・・・・・さん、・・・・・すか・・・・・・男・・・・・・」

「・・・・・・・んぱ・・・・・・!・・・・・・・ちゃんは・・・・・・・にが・・・・・・・!」

「・・・・・・・きて・・・・・・・おき・・・・・・・って・・・・・・ってんで」

花子「しょうが!!!!」ズドン

男「おうっ!?」

隣人「花子さん!なにするんですか!先輩がこんな状態なのに!」

花子「とりあえず起きてもらわなきゃ困るでしょ!生きてはいたんだから!」

貞子「ああ、おきました!男さん!よかった、生きていて・・・・・・・」

隣人「先輩、無事だったんですね!」

男「え?えっと、貞子さんと隣人と、花子さん?」

花子「やーっと起きた。で、起きたばっかりで悪いんだけど。今の状況説明してもらえる?」

男「え?今の状況って」

人形「」

男「・・・・・・・メリー、さん?」

今日は眠いし明日はちょっと忙しいのでここで切ります。とりあえずメリーさんと男のいちゃいちゃを書きたかった。
多分このスレ内で一番相思相愛なのにくっつかない不思議。
最初のメリーさん出オチスレから始まって早1ヶ月。こんなに長くなるとは思わなかった。
とりあえず男とメリーさんには早くくっついて子作りして幸せになってほしい。

隣人「話しかけても全く反応が無いです。・・・・・・・心臓も、動いていません」

男「・・・・・・・は?え?ちょ、ちょっと待ってくれ、なにがなんだか・・・・・・・」

貞子「混乱してますね。男さん、思い出せるところまででいいから思い出してください。まず今日は何月何日ですか?」

男「えっと、今日は、7月の17日で・・・・・・」

貞子「違います。今日は20日です。っと、まずは救急車を呼びますね」

隣人「あ、待ってください。メリーさんも診てもらわないといけないんで119じゃだめです。私が電話します」

花子「男の記憶が3日前から飛んでる。ってことはそっから気を失ってたってこと?」

男「ま、待ってくれ!さっきメリーさんの、心臓が動いてないって言ったか?そんな、俺みたいなこと、あるわけないよな?」

貞子「・・・・・・・あります。少なくとも私たちが帰ってきた時点でメリーさんの心臓は止まっていました」

花子「それどころか、ほら見てよ。関節も球体になってる。要は都市伝説とかじゃなくてただの人形になっちゃってるのよ」

男「なん、でだ?俺は確か、メリーさんと普通になんでもない話をしてただけで、そのあとベッドで寝て、それから、それ、から・・・・・・・思い、出せない」

隣人「先輩も一緒に診てもらいます。どっちにしろ衰弱がひどいですから。3日間飲まず食わずだったってことでしょうし」

貞子「なんとか間に合ってよかったです。メリーさんは、どうかはわからないですけれど」

花子「とりあえずあたしらは全員有休なりなんなりとってるから、とりあえず病院行って寝て。回復してから思い出せばいいから」

男「わか、った・・・・・・たのん、だ」バタッ

花子「・・・・・・さーて、頼れる司令塔も卑劣な参謀もいない状態よ」

隣人「私たち、正直肉体派ですもんね」

貞子「我が家の頭脳派二人がそろってやられるだなんて。まさか、このタイミングを見越していた?」

隣人「なんにせよ、必ず助けましょう。二人とも」

花子「もちろん」

貞子「当然です」

医者「・・・・・・このままだと余命は2ヶ月、といったところでしょうか」

貞子「えっ?」

隣人「よ、めい?」

花子「だ、誰の?」

医者「男さんとメリーさん、お二人ともです」

貞子「え、えっと?ど、どうしてですか?余命って、そんなに、どこか・・・・・・な、なにか重大な病気とか!?」

医者「いいえ。身体はいたって健康です。男さんもメリーさんも」

隣人「この人形の状態が健康なんですか?」

医者「ええ。一から説明します。まずは男さんの状態についてから」

医者「男さんは現在、何者かによって生命力を奪う呪いを受けている状態です」

花子「生命力を奪う呪いって・・・・・・都市伝説の奴らか」

医者「この呪いが男さんの生命力を少しずつ削っているので、全て削り切るまでに2ヶ月ぐらいかかると思ってください」

貞子「つ、つまりあれですね!その2ヶ月までに解呪できればなんとかなるわけですね!」

医者「そうですね。男さんの方は少なくとも問題なく生活できるようになるでしょう」

隣人「それで、メリーさんは?」

医者「メリーさんの方は、なんといいますか・・・・・・今彼女はいわゆる冬眠している状態なんです」

隣人「冬眠?」

花子「まだ冬っていうには早いのに?」

医者「ええ。これも順を追って話します」

医者「メリーさんの元来の生命力が100あるとします。この内普段の生命維持に使う分が30、一日の活動で使う分が20だとします。これで一日の生命力が半分失われるわけですね」

貞子「えっ、そ、そんなに使うんですか?」

医者「元々無生物であった身体を生物に変えて行動するというのはとても負担が大きいのです。付喪神なんかもそれですぐ消えてしまって、中々世に残らないんです」

花子「そっか、私らは一応元人間だったり普通に生きてたりするから・・・・・・」

医者「まあそういった生命力の消費は食事や睡眠で簡単に元に戻りますから、普段の生活では全く問題はないわけです。余っている分が不測の事態に対応できる予備ですね」

貞子「そうですよね、じゃないと死んじゃいますもんね」

医者「そして、男さんの元来の生命力はメリーさんと比較したら・・・・・・4ぐらいですかね」

花子「ひっく!あいつひっく!」

医者「そして男さんにかけられた呪いというのが厄介で、この生命力を一日かけてごっそりと全部持っていってしまうのです」

隣人「一日かけてメリーさん比4・・・・・・」

医者「その呪いから逃れる方法が彼らにはなかったのでしょう。なので、メリーさんが男さんを生き永らえさせるためにある方法を取りました」

医者「生命リンクの禁呪です」

隣人「・・・・・・えっ!?」

医者「この生命リンクの禁呪を使うと、メリーさんと男さんの生命力は常にイコールの状態、つまり二人とも52になるわけですね」

花子「あっ、そっか。100と4を足して2で割って52か」

医者「ですが、メリーさんは日常生活を送っているだけで50の生命力を消費します。そうすると余剰分が2しか残らないわけです」

隣人「その余剰分の2というのは・・・・・・」

医者「些細なことで消えてしまいます。たとえば、頭を打つだとか、心臓に衝撃を与えるだとかの外傷。突然驚かされたりなどの強いストレスを与えられる。こういったことで、です」

貞子「だから男さんはすぐに倒れてたんですか・・・・・・」

医者「二人の命がリンクしている以上、片方が死ぬともう片方も死にます。なので、メリーさんはお互いの命を守るためにただの人形へと戻り、生命力の消費を抑えているわけです」

花子「ってことはさ。メリーか男の生命力がもっと多くなればとりあえず二人ともなんとかなる?」

医者「そうですね、男さんに供給される生命力が呪いで失われる分よりも多くなれば二人とも療養の上動けるようになりますが・・・・・・」

隣人「・・・・・・どうしましょう。メリーさんに生命リンクの禁呪の存在を教えちゃったのは私ですし」

貞子「そもそもメリーさんはどこでやり方を覚えたんでしょう?正しい手順とかがあるんじゃありませんでしたっけ?」

花子「お医者さんはやり方とか知ってる?」

医者「ええ、もちろん。作ったの私ですし」

花子「へー、そりゃ知って・・・・・・はっ?」

医者「しかしあれはかなりの条件が整っていないとできない上に、やり方を記した本もずっと前に知り合いにあげちゃいましたからそうそう知られるわけが・・・・・・」

隣人「あの、そのお知り合いってもしかして社長だったりします?」

医者「あら、よくご存じですね。知り合いでしたか?」

隣人「・・・・・・」

隣人「もしもし社長っ!?生命リンクの禁呪が書かれた本とか持ってました!?」

社長『え?はい、確かに持って社長室に置いてましたけど、隣人ちゃんが使わないようにお姉ちゃんの家に移送しましたよ?』

隣人「そのお姉さんってあれですよね。メリーさんの仕事場の」

社長『はい、そうですね。・・・・・・え、もしかして、使っちゃいました?』

隣人「はい。メリーさんが。緊急事態だったみたいで」

社長『・・・・・・まさか裏目に出てしまうとは。ええっと、メリーさんって種族分類的には魔物か聖物か幽霊か妖怪か神かどれにあたるんでしたっけ?』

隣人「え?えーっと、メリーさんの種族分類って?」

貞子「都市伝説、と言いましても私や花子さんと隣人さんも別ですものね」

花子「付喪神がどうとか言ってたから神じゃないの?」

社長『と、とにかく!私もすぐにそっちに向かいます!』

隣人「あ、はい。おねがいします」

隣人「うーん、先輩とメリーさんが問題なく動けるようにするための方法・・・・・・」

貞子「メリーさん、やっぱり男さんに対する愛がすごいですね」

隣人「え、突然どうしました?」

貞子「元々人形であり、捨てられた恨みから動き出した彼女にとって物言わぬ人形に戻ることは死と等しいじゃないですか。ですが、男さんの延命のためにためらわずそれをやってのけた」

花子「今のメリーって男の生命維持装置だもんね。自分の意識とか身体とか全部捨ててまでそれをできるかって話」

隣人「自分の意識まで・・・・・・私は、無理です。だって、二度と先輩や皆と同じ時間を過ごせなくなるかもしれないだなんて、そんな・・・・・・」

貞子「ただ、お医者様の話でしたらメリーさん自身も消費を抑えるために眠っているだけみたいですし、2ヶ月の間に私たちで解決してしまえば元に戻るわけです」

花子「しっかし、生命リンクなんていったいどうやってやるんだろうね」

隣人「異種族間でキスがどうたらとは聞きましたけど。あと性別が違うのも必要とか、生命力をつなげるバイパスさえあればなんとかなるとか」

花子「・・・・・・いいこと思いついた」

貞子「なんですか?」

花子「私ら全員も男と生命リンクすればいいんじゃない?」

隣人「・・・・・・あ、そっか!そうすればメリーさんの負担も少なくて済みますし、男さんの生命力問題も解決するかもしれません!」

貞子「仮に私たち全員がメリーさんと同じ100だったとしても、えーと全員合わせてだいたい400だから、5人で割って80ですか」

隣人「先輩が端数に・・・・・・」

花子「あとは私らが不慮の事故とかで死なないように注意すればなんとかなるかも?」

隣人「そうですね。一度提案しに行きましょう」

医者「許可するわけないでしょう」

隣人「でも!それで二人が救えるかもしれないんですよ!」

医者「生命力を補充する方法は他にもあります。大切な人のことを想っての行動なのは理解できますが、結果を焦っていいことはありません」

貞子「でも!」

医者「そもそも生命リンクを禁呪としているのにはもっと大きなリスクがあるからです。メリーさんが行ったように一刻の猶予もない非常時ならばともかく、そうでないならば決して使わせません」

花子「じゃあどうするっていうのよ!このままほっといたら死んじゃうんでしょ!?」

医者「生命力を補充する方法は他にもあると言いました。もちろん準備が必要ですが、遅くとも1ヶ月以内には完了します」

隣人「その生命力を補充する方法の準備というのは、私たちになにか手伝えるようなことはないのでしょうか」

医者「その申し出はありがたいのですが、残念ですがありません。アレは素材も手順も専門知識と経験が必要ですので」

貞子「・・・・・・お任せして、大丈夫なんですか?本当に二人はよくなるんですか?」

医者「ええ。私の眼の前で起こっていいのは寿命による自然死だけです。私が担当している以上、決して死なせはしません」

貞子「・・・・・・なら、おねがいします。お金はいくらかかってもいいです。どんな方法を使っても集めます。一生かかってでも払います。だから、おねがいします」

医者「はい。お任せください。ここから先が私の仕事ですから」

貞子「よし、男さんたちのことはお医者様に任せました!私たちは待つだけです!」

花子「いや、ダメでしょ」

隣人「お医者様が言っていた呪いを解呪する方法、呪いをかけた犯人。ここがわからないと」

貞子「あ、そ、そうですね。しかし、呪いだけで絞り込むなんて難しくないですか?都市伝説なんて全員呪い殺すものですし」

花子「私はトイレに沈めるけど」

隣人「赤い部屋としては血を抜きます。S県月宮としては撲殺します。コーク・ロアは溶かします」

貞子「私、普通に呪い殺してたんですけど・・・・・・」

花子「ってことは解呪とかできないの?」

貞子「無理ですよ。呪いって人によってやり方が違いますし、手順が異なれば殺し方まで違うんですから」

社長「お待たせしました、みなさん」

隣人「あ、社長!と、お姉さん!」

姉「随分厄介なことになってるみたいね。生命リンクの禁呪だっけ?私もできないのかしら」

社長「あれは異種族同士でしかできませんので」

姉「そう、ならメリーさんの代わりに・・・・・・ということは無理なのね」

社長「それに、できたとしてもやらせませんよ。アレの一番のリスクはリンクをつなぐバイパスが切れたらどちらも死んでしまうこと。そのために定期的に補強して繋ぎ直さないといけないことですから。人数が増えれば増えるほど危険です」

貞子「な、なるほど・・・・・・何かの拍子に誰かとの繋がりが途切れると全員お陀仏・・・・・・」

社長「それに、一度やってしまうと元には戻せないという欠点もあります。だから本当に、切羽詰まっている状況でないと使えません。今回のメリーさんのように」

花子「禁呪ってだけあって欠点も多いんだね」

社長「さて、では男くんとメリーさんの現状を教えてもらえますか?」

社長「男くん自身は衰弱状態、メリーさんは人形化して休眠中。そしてその原因は男くんにかけられた呪い」

隣人「社長は解呪とかできないんですか?」

社長「私は無理ですね」

貞子「やっぱり無理ですか・・・・・・なんでもできそうなイメージがありましたが」

社長「私には無理ですが、大姪なら多分できます」

貞子「えっ?」

姉「ああ、あの子巫女だものね」

花子「ここにきてまた新キャラか」

社長「次期社長くんの妹なんです。彼女なら解呪ぐらいできるとは思いますが・・・・・・一度医者さんと話してきましょう。行ってきます」

隣人「お願いします、社長」

姉「さて、じゃあ男を狙った相手を探さないとね。ここにいてもなんだし、一度家に戻りましょうか」

隣人「うーん、部屋に特に異常はなし・・・・・・争った形跡もないですね」

花子「争う暇もなくやられたってこと?」

姉「少なくとも部屋に入り込んでくるってのは確定しているのよね?部屋で倒れていたんだから」

貞子「あ、そうですね。男さんの記憶から考えると、もしかしたら眠っていた時か眠る直前か」

姉「・・・・・・だめね。検討もつかないわ。私は考えるよりも身体を動かす派だから」

貞子「私もですね」

隣人「私もです」

花子「私も」

姉「・・・・・・誰か頭脳派の助っ人とかいないの?」

貞子「メイドたちは全員基本的に脳筋です」

隣人「私、先輩意外とあんまり交流してなくて・・・・・・」

花子「アイドルも歌手もダンサーも頭脳派っていうよりは身体でって感じだしなー」

姉「私の幼馴染も肉体派だし、推理とかはそういうのは・・・・・・あっ」

貞子「何か思いつきました?」

姉「いや、でもお嬢様の手を煩わせるわけには・・・・・・」

貞子「お嬢様って、本家の方じゃなくてお姉さんの専属の方ですよね?あの人も元メイドですし相当な肉体派なのでは?」

姉「そのお嬢様の幼馴染にいるのよ。ものすごくそういう推理とかが得意な子が。ただ、偏屈だし彼女と関係のない私の弟のために付き合ってくれるかどうか」

花子「あー、それでお嬢様に話をしてもらおうと」

姉「・・・・・・いや、彼女にも無関係じゃないわね。そういうことにしておきましょう。とりあえず連絡するけど、出てくれるかしら」

男(・・・・・・なんだ、ここは。周りが、すごく暗い)

男(暗い何かが、襲ってきている。俺は、いったいどこにいるんだ?)

男(・・・・・・でも、俺のいるところまでは来ない。いや、阻まれているのか?)

メリー「あ、起きたの。ってことは寝たってことなの」

男「・・・・・・メリーさん?」

メリー「ここは男の夢の中なの。夢って言うか精神世界って言うか魂そのものっていうか」

男「はあ、何を言いたいかはなんとなくわかった。わかったけどなんでメリーさんがここに?」

メリー「私と男の魂をリンクさせたの。だから当然なの」

男「えっ、魂をリンクさせたって?」

メリー「覚えてないの?男はある都市伝説に呪いをかけられたの。それで放っておいたら死ぬから、私の生命力をリンクさせたの」

男「すごく淡々と言ってるけどすごいこと言ってるな?」

メリー「とはいっても、事実だから仕方ないの。ってことで魂そのものが見えないチューブとかトンネルで繋がってる感じなの。だからこうやってお互いの精神の世界に行き来できるの」

男「なるほどなぁ。なんか世の中すごいことできるもんだな」

メリー「んで、私も男もこのままじゃ死ぬから私が全部の意識をこっちに持って来て、自分の身体の活動を停止させてるの」

男「・・・・・・メリーさん、ああ、そうだ。メリーさんは、確かただの人形になってて」

メリー「意識を保ったままじゃ身体を人形化することができなかったの。だからちょっとお邪魔してるの」

男「で、俺を襲った犯人は?」

メリー「・・・・・・そもそも、今回男はあいつの罠にひっかかったの」

男「え?」

メリー「ホラーサイトを漁ってたってのがそもそもの罠だったの。まさかアレが原因で都市伝説に引っかかるとは思いもしなかったの」

男「え?え?」

メリー「あいつの手口も巧妙なの。まさかホラーサイトそのものに罠を張ってるなんて」

男「ホラーサイトそのものに?・・・・・・ウイルス的な奴は貞子さんがやってるが・・・・・・いや、違う。ホラーサイトそのものってことは、内容の方か」

メリー「わかったの?」

男「都市伝説の中には知っただけで効果を及ぼすようなやつがある。ムラサキカガミとか。それ系で考えると・・・・・・」

姉「来てくれるみたいね」

花子「えっ、マジで!?」

姉「どうやらメリーさん本人の知り合いだったみたい。不思議な縁があるものね」

貞子「あの、それっていったい?」

幽霊「あ、私ごく普通の一般幽霊なんでお気になさらずに」

隣人「なるほど、幽霊・・・・・・ん?」

花子「・・・・・・あーっ!メリーがちょいちょい言ってた戸籍持ってる幽霊!」

幽霊「どもーっ、戸籍持ち勝ち組の幽霊でーっす。いやー聞いたよー。メリーさんが憑りつき相手にガチ恋してて命全部なげうってメガザルしたんだって?」

隣人「お姉さんなんて伝えたんですか!?」

姉「ありのままに」

幽霊「んで、私に犯人捜しをしろってことだね。この天才美少女を頼るのは賢い選択だよ。で、当日の行動とかなにかわかるものない?パソコンの履歴とか」

花子「履歴?まあ見れるけど。・・・・・・って言っても、ホラーサイト漁ってたぐらいかな。ほら、都市伝説まとめサイト」

貞子「あ、このサイト私も使ってますよ。コメントしましたし」

花子「私もやったー」

隣人「ちゃんと正しい情報を書き込んでおきましたよ」

姉「あなたたち・・・・・・」

幽霊「ふんふむふむ、えっとさらに履歴が?あー、なるほど。犯人こいつか」

貞子「え、もうわかったんですか!?」

幽霊「SS的にあんまり時間かけてられないしね。まず答えからいうと犯人はカシマレイコ」

花子「・・・・・・いっ!?」

幽霊「とりあえず、都市伝説ってのはその名の通り語り継がれるもの。だから何らかの形で伝播するようにしておかなければならない。その存在の維持の為にもね」

幽霊「で、こういうまとめサイトはうってつけのもんだね。いろんな人が覗くし」

幽霊「そしてこのサイトの履歴の中で①内容を知るだけで対象になる②夜寝ているときに襲ってくる③メリーでは太刀打ちできないほどの呪力の持ち主」

幽霊「こいつらをつなぎ合わせてやるとカシマレイコが出てくるってワケ。だってカシマレイコを扱ってるんだから『カシマレイコが出てくる条件の話』も載ってるわけでしょ?」

花子「・・・・・・ってことは、ホラーサイトでカシマレイコの怪談を見ただけでターゲットになるってこと!?」

幽霊「そういうことだね。このサイトはいろんな怪談を具体例を挙げて紹介してるわけだし」

姉「つまり、カシマレイコってやつをボコればいいのね」

幽霊「そういうことだねー。んじゃ、私はお役御免だね。サラダバー」ドロン

貞子「・・・・・・消えちゃいましたね」

隣人「あの幽霊さん、どこかで見たことあるような気が・・・・・・」

姉「まあこれで原因はわかったわけよ。なら本体を叩きに行けばいいのね」

貞子「・・・・・・本体、どこですか?」

花子「社宅じゃないの?」

貞子「あそこのどこに誰が住んでるとか私知りませんよ」

花子「私も」

隣人「次は場所の特定方法についての相談ですね。まあもしかしたら解呪に役立てるかもしれないですし明日病院に行ってみますか」

―翌日・病院―

貞子「おっとこさーん!お見舞いに来まし」

男「あぎゃああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」ゴロゴロゴロゴロ

巫女「はい、解呪完了ー」

貞子「男さんー!?」

社長「巫女ちゃん。これ大丈夫なの?」

巫女「あ、大丈夫ですよ。ちょっと脳内で痛みが反響してるだけなんで。ちょっとすれば治まります」

隣人「せ、先輩になにやったんですか!?」

巫女「何、って呪いを引きはがすために巫女力込めてデコピンを」

花子「あれデコピンの威力じゃな・・・・・・あ、いや、ちょっと待て。確か歌手のやつも似たようなことやってきたことある。お前アイツの知り合いか!」

巫女「え?歌手さん?あー、兄さんの友達だわ。兄さんが教えてくれたのよ、これのやり方。だから歌手さんも知ってるのか」

貞子「花子さん、知ってるんですか?」

花子「罰ゲームでデコピンくらったときに。脳が割れるかと思うぐらいやばいやつ。しかも痛みだけで跡とか一切残らない」

巫女「呪い相手にはこれが一番効くんですよね。呪いって脳の部分に悪影響及ぼしてるから」

社長「え、心臓とかじゃなくて?」

巫女「あれ全部頭なんですよね。心臓が攻撃されてると頭で思い込むことで実際に心臓に効果が出る。プラセボってやつです」

貞子「今呪い全部プラセボ扱いされましたけど。え、もしかして私のも?」

巫女「離れた場所から手も触れずに身体に直接ダメージを与えるっていうのは難しいけど、テレパシーの強制受信とかでやってやればプラセボ起こしてやれば可能なんです」

花子「へー」

隣人「現代の巫女ってなんかすごいですね」

巫女「姉が人間の肉体の研究してるんで。呪いがどこに効果を及ぼしてるのとか調べるのにも手伝ってもらったんです。んじゃ、私はこれで。お金はまた振り込んどいてください」

社長「はい、わかりました」

隣人「あの、社長?おいくらぐらいかかりましたか?」

社長「えーと、強制解呪コースで交通費こっち持ちの身内割り適応で3980円ですね」

貞子「お手頃!」

男「し、死ぬかと思った・・・・・・」

貞子「あ、男さん!よかった、これで男さんはとりあえずなんとかなりますね!」

花子「あとはメリーか」

隣人「メリーさん、お医者様が生命力を補充する準備をしてくれてるって話をしてましたけど・・・・・・あっ、説明しておくとですね」

男「ああ、メリーさんから直接聞いてる」

隣人「え?」

男「生命リンクってやつだろ?だからメリーさんと精神もつながったとか何とかで、夢の中で話を聞かされたんだよ」

貞子「魂が繋がる・・・・・・それはもはや〇ックスなのでは?」

花子「なに言ってんだお前」

隣人「貞子さん、社長がいる前なんで慎んでください」

社長「ああいえ、大丈夫です。というか、男くん」

男「あ、社長。すいません、また入院しちゃって」

社長「それはいいんですが・・・・・・その、男くんこれから大変ですよ」

男「この生命リンクの生活がですか?」

社長「はい。その、生命リンクをするときにキスと同時に自分の魔力とか霊力を相手に送り込んでバイパスを無理やり作るわけなんですが・・・・・・今後何度も補強してあげないといけないんです」

男「なるほど。ってことはキスを?」

社長「キスだけで補強しようとなるとそうですね、1時間続けて1週間といったところでしょうか」

男「効率悪いですね」

社長「なので、一番効果的なのが、その、当事者同士の性行為でして・・・・・・」

貞子「は?」

隣人「え?」

花子「なんですと?」

貞子「と、ととということは男さんはこれから先メリーさんと何度もセック〇をしなければならないってことですか!?」

社長「一回1時間の行為でだいたい1ヶ月ですね」

隣人「あー、あー、なるほどー。先輩、がんばってください」

男「あの、貞子さん?隣人さん?お二人的には大丈夫なんですか?」

隣人「正直メリーさんならいいです」

貞子「私メリーさんに愛情で勝ててないんで文句言う権利もないです」

花子「大草原だわ」

男「花子はそこに直れ」

医者「男さんとその御一行様、あまり病院では騒がないように」

貞子「あっ、ご、ごめんなさい」

医者「生命リンクについて詳しく説明しておきますけど、バイパス補強の期間は性行為の時間に二乗に比例します」

医者「また、メリーさんを目覚めさせるときにも意識を移動させる必要があるため行為を必要とします。キスだけでも軽くは戻りますから、その後は定着させるために性行為が必要です」

花子「・・・・・・もしかして、だから異性間じゃないと成立しないの?」

医者「はい。お互いの性器による深層での接触でなければリンクがうまくいきませんから」

隣人「女同士は深く差したりできないからとして、男同士は一応」

医者「一応医者として言っておきますけど肛門及び腸は性器ではありませんので。魂をリンクさせるときには使えません」

男「・・・・・・ってことは、少なくとも1回はメリーさんとしろってことなのか」

医者「そうなりますね。ただ生命力を補強するための準備がまだできていませんのでもうしばらくお待ちください。それまでは男さんもメリーさんの側を離れるのは禁止です」

隣人「じゃあ先輩、会社復帰は・・・・・・」

医者「しばらくは無理ですね」

社長「構いませんよ。事情が事情ですし。男くんが抜けた分は・・・・・・次期社長に穴埋めしてもらいましょうか」

隣人「内定者に人事担当の穴埋めさせるんですね」

社長「あの子ならできますから」

男(・・・・・・って言われてもな。正直病院で待つだけなのは変わらない)

男(・・・・・・今、隣のベッドで寝かされてるのがメリーさんか。本当に人形そのものだ)

男(以前のメリーさんと比べたらはっきりとわかる。無機質な目、赤味のない肌、表情のない顔)

男(人形としてはとてもきれいなんだと思う。多分ドールショップでマニアが信じられない値段を付けるぐらいには)

男(だけど、生きている本物には敵わない。メリーさんはもっときれいだ)

男(透き通るような瞳、ほのかに赤味のある白い肌、表情豊かな顔)

男(さばさばとしながらも情に厚く、小さいながらも家事万能で料理上手)

男(なんていうか、結婚するならこんな人がいいんだろうなっていう理想形だ。依存気味なのは若干よろしくないが、そこは人形の本能らしいので仕方ない)

男(・・・・・・絶対に目覚めさせてみせる。メリーさんはあの日俺にあれだけ素直になってくれた。俺はどうだ?)

男(まだだ。俺はまだメリーさんに素直な気持ちを全然見せてない。俺の素直デイはまだ始まっちゃいない)

男(だから、必ず――)

メリー(あー、もしもし、男?)

男「・・・・・・え?今、メリーさんの声が?」

メリー(そりゃするの。私は今男の意識に紛れ込んでるんだから)

男「あー、なるほど。ってことは俺の頭の中にいるみたいな感じか」

メリー(そういうことなの)

男(・・・・・・え?ってことは、さっきの全部聞こえてた感じ?)

メリー(そういうことなの)

男(・・・・・・ぐあああああああああああああああっ!殺せっ!殺してくれっ!)

メリー(やめるの!独白モノローグのつもりでかっこつけてたのを全部知られたからって死ぬのはなしなの!)

男(だって!だってだぜ!?俺割と臭い台詞言ってたんだぜ!?黒歴史なんてもんじゃねえよ!)

メリー(『俺の素直デイはまだ始まっちゃいない』きりっ、なの)

男(やめろおおおおおおおおおおお!!!!!)

メリー(割と面白いの。でも、考えてるだけじゃダメだよ)

男「いや、もう考えたくもないんだが・・・・・・」

メリー(私だって一人の女の子なんだから。ちゃんとその口からはっきりと聞かせてね)

男「・・・・・・あれ?メリーさん?今、口調が」

メリー(なんのことなの?わかんないの。えっちなことするのはいいけど丁寧に扱ってねなの)

男(童貞に期待すんな)

―3日後―

医者「えー、貞子さんたちの協力のもと無事に生命力を補充する準備ができました」

男「え、マジですか?早くないですか?」

貞子「だって私たちが世界中ワープしまくって素材集めてきましたもの!」

隣人「正直何度か死ぬかと思いました。社長がいてくれなかったら多分死んでました」

医者「あの子に素材について教えていたことが功を奏しました。みなさんが世界中をノータイムで行き来できるのも助かりました」

隣人「なにか手伝えることはないかと思ってましたので、こんな形で手伝えてよかったです」

花子「生命力補充するのってこんなに大変なんだ・・・・・・」

医者「仮にも人智を超えたことを行うわけですから。さて、みなさんのおかげでこうして賢者の石を完成させることができました」

男「・・・・・・賢者の石?錬金術とかのあれの?」

医者「はい。簡単な話です。例えばスマホの充電が足りない時はモバイルバッテリーを持ち歩いておけばいつ無くなってもすぐ充電できますよね?それと同様に、この賢者の石が生命力を溜め込むことでモバイルバッテリーのように生命力を補充できるのです」

男「な、なるほど」

医者「足りないものがあれば補ってあげればいい。パソコンのデータ容量が足りなければ外付けHDDを付けてあげるのと同じように。これで男さんの生命力が足りない問題も解決しますよ」

貞子「で、これってどうやって使うんですか?」

医者「そうですね、私が専属で診ている子はこれをもとにした身体補助の無機生物を創って体の中に潜ませましたが、男さんは人間ですし埋め込むわけにも・・・・・・」

仕立屋「だから私が出張ってきたわけだよー」

花子「また新キャラか!」

仕立屋「また、って言われても私メリーちゃんの雇い主だよ?一応名前は出てた」

貞子「それで、どうするんですか?」

仕立屋「人形の身体の事なら私にお任せあれ。どうせ生命リンクしてるんだからメリーちゃんボディの方に埋め込んでやれば十分に機能するよ」

医者「と、いうわけで今から手術をします。一応血が出たりはしないですけど、メリーさんの身体が一時的に解体されますので見たくなければ出ることをお勧めしますが・・・・・・」

隣人「か、身体の解体・・・・・・私出ておきますね」

貞子「私も。メリーさんが嫌がるかもしれませんし」

花子「だね。それじゃあ、あとはよろしくおねがいします」

医者「ええ、任せてください」

男「え、あの、俺は」

医者「生命リンクをしている以上、申し訳ありませんが側にいてもらいます」

メリー(私のために逃げんななの)

男「・・・・・・先々大丈夫か、俺」

メリー(こうして自分の身体がバラバラになってるのを見るとちょっと奇妙な感覚なの)

男(見てて気持ちのいいもんではないな)

メリー(でも扱いはすごく丁寧だし、解体した部分に埃とかが詰まったりしないように気を遣ってくれてるの)

男(よくわかるな)

メリー(自分の身体の事だからそれくらいわかるの)

男(人間はあんまり自分の身体のことをわかってなかったりするもんだが)

メリー(まあ私は人形時代の記憶もあるし扱われ方の違いも分かるの。元の主よりも男の方が扱いが丁寧なの)

男(いきなりどうした)

メリー(生命リンクをしたのは男の命を助ける方法がそれしかなかったからなの。これで損害を被るのは私の方だけなの)

男(だろうな。俺の生命力はメリーさんの4%しかないらしいし)

メリー(でも、私は全然後悔してないの。男と一緒に暮らす生活がはじまったときから私は命に代えても男を守るって決めてたの)

男(マジで?)

メリー(マジなの。あのときは男が殺されたら都市伝説法にひっかかるってのがあったからだけど、今は違うの。いや、もしかしたらあの時も今も変わらないかもしれないの)

メリー(どうせこの後することが決まってるから先に言っておくの。メリーさんの一世一代の告白なの)

男(え?)

メリー(私は男の事を愛してるの。身体も命も全部差し出せるの。寿命ごときに私たちを別れさせやしないの。死ぬときは一緒に死んでやるの)

メリー(だから、私の事を)







―愛して―





医者「手術は完了しました。あとは所定の行為を行うだけですが・・・・・・」

男「ありがとうございます。えっと、このままちょっとメリーさんを連れて外に出ていいですか?」

仕立屋「どぞどぞ。そだね、病院を出たら南に向かって真っすぐ歩くといいと思うよ」

医者「後の話はご家族の方にしておきますので、どうぞごゆっくり」

男「ありがとうございます。じゃあ、行ってきます」

医者「・・・・・・ちなみに、生命リンクってお互いの意識を共有したりできるんですよ」

仕立屋「知ってるー。だから脳内会話したりね」

医者「いいですね、若人の甘酸っぱい恋物語は」

仕立屋「私たちにだってあんな時代があったんだよー?」

医者「いつの話ですか、まったく。いいですよね、あなたは娘がちゃんと結婚もして子供も作っていて」

仕立屋「育て方が良かったんだよねー。まあそっちの娘も勉強頑張ってるじゃん」

医者「学や職はともかくとして、母親としては早く孫の顔が見たいものですよ」

仕立屋「曾孫くんかわいいよー。ひいおばあちゃーんって言ってくれてねー」

医者「羨ましい・・・・・・」

仕立屋「そういえば、石を入れる時についでに何か仕込んでなかった?」

医者「この国の出生率を上げるための仕込みを」

仕立屋「へー。やるねー」

医者「我々のような存在は子供ができにくいですからね。やれるときにこういうことをやっておかないと将来たいへんですから」

仕立屋「うー、じゃあ年棒の調整と産休とか育休の制度考えないと。手伝ってくれる?」

医者「暇なときならば」

メリーさん編中盤まで終了です。続きは夜に。

―翌日―

メリー「ただいまなのー」

男「ただいま」

貞子「あ、お帰りなさい!もう、何も言わずに事を始めるなんてひどいじゃないですか!」

隣人「あわよくば混じろうと思ってたのに!」

男「ほら、ムードとかね?いろいろあるからね?」

花子「おかえり、非童貞」

男「ただいま、処女」

花子「うっせぇ!JSだからいいのよ!」

貞子「で、なんでメリーさんはずっと抱っこされてるんですか?」

メリー「・・・・・・股が痛くて動けないからなの。90センチの身体に大の大人のモノはきついにもほどがあるの」

貞子「そういう生々しいことを言わないでください」

メリー「自分から聞いておいてその言い草はひどいの」

花子「てか、せめて一言ぐらい声かけてくれてもよかったんじゃない?私らずっと待合室で待機してたのに」

男「いや、その、な。いわゆる理性ってやつが抑えきれなくてだな」

隣人「なるほど。先輩、隣の部屋に来てください。第二ラウンド開始ですよ」

男「メリーさんが今日はまともに動けないから勘弁してやってくれ。介護してやらないと」

貞子「大丈夫ですよ、私がやっておきますので。花子ちゃん、家事は任せました」

花子「うぇっ!?ま、まあいいけどさ」

メリー「男、さっさとやってこいなの。栄誉ドリンクなら冷蔵庫に入ってるの」

男「いや、だからあの」

隣人「逃 が し ま せ ん よ ?」

―閑話―

医者「ってことで賢者の石の代金と手術代込みでこれだけだから」

仕立屋「・・・・・・え、マジ?」

社長「あのー、医者さん?」

医者「あなたたちの大事な社員なんですよね?これぐらい支払ってください」

仕立屋「いや、私も手術手伝ったじゃん!」

社長「そうですよ!私も素材集めてきました!」

医者「賢者の石を作るのに一番大変なのは錬金の部分です。これでも素材代は差し引いてますし手術代も割り引いてるんですから」

仕立屋「それにしても法外だと思うんだけど!」

社長「もっとこう、身内割とかないんですか!」

医者「ありません。支払いは一括のみで受け付けてますので」

社長「うー、師匠のばかー、けちんぼー」

仕立屋「物品納入じゃダメ?服好きなの一着作るからさ」

医者「だめです」

仕立屋「ちぇー」

―閑話休題―

―1週間後―

貞子「さて、我々としましても夫婦の禊的なものは全部やりましたのでそろそろ次のステップへと進みたいわけですが」

隣人「その前に、先輩を襲った犯人であるカシマレイコについての対策をとりたいんです」

花子「ねえどんな気持ち?その気もないJSにまで手を出して今どんな気持ち?」

男「うっせぇ!誘って来たのお前だろうが!」

花子「乗ったのは男ですぅ~」

メリー「お前らうっさいの。てか、犯人が分かってるのに対策とかまだしてなかったの?」

貞子「いえ、そのですね、場所の特定にいたってないので未だなにもできず・・・・・・」

メリー「場所の特定?なに言ってるの?バカなの?死ぬの?」

貞子「すでに死んでます!てか、なんでそんなこと言うんですか!」

メリー「はぁ、当たり前なの。私らは『都市伝説』なの。ターゲットの素性もなにも知らなくても殺りにいけるってのが持ち味なの」

隣人「・・・・・・あっ」

メリー「しかも今回は名前も素性もわかってるの。なら場所がどこであろうと私たちから逃げるすべはないの」

貞子「そういえばそうですね。ターゲットにしてしまえば関係ない話でした」

隣人「と、いうことは。久しぶりの本業復帰ですね」

花子「やってやろうじゃんか」

男「待ってくれ。やるにしても作戦は考えよう」

メリー「わかってるの。えげつない奴頼むの」

男「えっ」

貞子「私たちにやったみたいに二度と同じことをしようと思わないようにしてあげてくださいね」

花子「トラウマとか気にしなくていいよ。相手もいい大人だし」

隣人「道具ならいろいろ揃えますから!」

男「おまえらは俺をいったいどういう目で見てるんだ・・・・・・」

レイコ「・・・・・・おかしい!私が直々に呪ってやったっていうのに、なんであいつまだ死んでないのよ!」

レイコ「一回見に行ってもいいけど、噂じゃアイツのとこに不用意に行ったやつらは消されてるらしいし・・・・・・」

レイコ「・・・・・・果報は寝て待てよね。待つしかないか」

プルルルルルル

レイコ「ん?電話?もしもーし、カシマですけどー」

『もしもし、私メリーさん。今きさらぎ駅にいるの』

レイコ「え?メリーさん?間違い電話じゃ・・・・・・切れた」

テレビ「・・・・・・」

レイコ「あれ?私テレビ付けてたっけ?この時間こんな変な井戸が映ってる番組やってんのね」

『もしもし、私メリーさん。今かに道楽の前にいるの。自転車をこぐ音が聞こえるの』

レイコ「いや、あれスイッチで動かしてたし」

『もしもし、私メリーさん。今中古車販売店の白いソアラの前にいるの』

レイコ「え、あ、あれ?なんか、だんだん近づいてきてない?ねえ、メリーさん?なんか間違えてません?」

『もしもし、私メリーさん。今ケンタッキーの前にいるの。カーネルの人形がどこにもないの』

レイコ「あー、これターゲット間違えてるわね、うん。社宅に近づいてるだけだし。あとは放置でいいか。テレビでも見て落ち着こ」ポチッ

ポチポチ

レイコ「・・・・・・んー?おっかしいな、リモコン電池切れ?チャンネル変わらないじゃん」

レイコ「電池新しいのあったっけ・・・・・・いいや、直接変えよ。・・・・・・あれ?変わらない?」

レイコ「・・・・・・な、なんか気味悪くなってきた。トイレ行こ」

ガチャガチャ

レイコ「・・・・・・なんで鍵閉まってるの?」

トイレ「入ってまーす」

レイコ「・・・・・・いやいやいや!私一人暮らしなんですけど!あんた誰!?」

トイレ「んー?遊ぶのー?何して遊ぶー?」

レイコ「いや、だからあんた誰って・・・・・・もういいわ!」

ドンドンドン!!!

レイコ「な、なにっ!?壁ドン!?ったく、隣に住んでるの誰よ!」

レイコ「・・・・・・都合よく穴開いてんじゃん。知ってるやつだったら文句言ってやろ」

壁「・・・・・・」

レイコ「・・・・・・赤い。本棚でも置いてるの?まあそんなもんか」

レイコ「いや、ちょっと待て。メリーさんってあのサイトに変なコメントが書き込まれてたやつよね。自分で書いたっぽいやつ」

レイコ「他にはえっと、『呪いのビデオ』と『トイレの花子さん』と『赤い部屋』だっけ?自分でコメント打ってたやつら」

レイコ「・・・・・・て、テレビっ!まさか、これ、貞子のやつ!?」

レイコ「こら貞子!聞こえてるんでしょうが!返事しろ!」

テレビ「・・・・・・」

レイコ「だんまりか・・・・・・じゃあトイレは、花子!」

トイレ「はーい。何して遊ぶー?」

レイコ「遊ぶとかじゃないわよ!ここは私の家!さっさと帰れ!」

トイレ「んーと、首絞めごっことか?」

レイコ「ちっ、話しになんないわ。こら、赤い部屋!なんとか言え!」

壁「・・・・・・」

レイコ「ああもうこいつら、いったいどういうつもりよ!サイトの内容訂正しろってこと!?」

レイコ「ああもうめんどくさいわね!えーっと・・・・・・あれ、新着コメントが、いろんなとこに」

「お前を逃がさない」

レイコ「え?」

「お前がターゲットだ」

「お前は逃げられない」

「どこへ行ってもムダだ」

「決して逃がさない」

「我々が仕留める」

「これも仕事だ」

レイコ「な、なにこれ、全部のページのコメント欄に・・・・・・しかも、全部別ID」

「こんな都市伝説を知っているか」

レイコ「えっ?えーっと?」

【成功率100%の殺し屋集団】

仕事に失敗したことのない者しかいない殺し屋集団がいる。彼らは相手が何者であろうとも決して仕事を失敗しない。

あるところに自身の作った手順を踏んだにも関わらずターゲットを殺しきれなかった殺し屋がいた。その殺し屋はある集団に所属していた。

そのターゲットに生きていられては殺し屋集団の価値が薄れてしまう。なんとしてでも殺しきらなければならないのだ。

だが、手順を全てこなしたからにはそれ以上できることは何もない。待つことしかできない殺し屋はひたすら待ち続ける。

仕事をこなせぬ殺し屋にもはや存在価値はない。残しておいては噂が広まるばかり。

だから、失敗した殺し屋は別の殺し屋に殺されてしまうのだ。仕事に失敗した殺し屋がいなくなるようにするために。

レイコ「な、なに、これ・・・・・・」

『もしもし、私メリーさん。絶対に逃がさないの』

テレビ「逃が・・・・・さ・・・・・ない・・・・・・」

トイレ「ねえねえ、何して遊ぶのー?遊んでくれるまで逃がさないよー?」

壁「カシマレイコ・・・・・・・オ舞えを、逃がサない」

レイコ「え、う、嘘、よね?いやいやいや、私をターゲットにしたって意味ないじゃん!人間じゃないんだし!」

レイコ「ま、まさか、私が失敗したから殺しに来たってこと!?あんなコメントでたらめよね!?」

レイコ「そもそも私たちが集団ってことを知ってる奴なんか・・・・・・」

『もしもし、私メリーさん。今社宅のエントランスにいるの』

レイコ「ひいぃぃっ!!!!く、来るなッ!テレビも、と、とりあえず布で覆う!」

ドンドンドン

レイコ「扉が叩かれ、い、いや、大丈夫。扉なんか簡単に壊せるもんじゃない」

トイレ「ねぇねぇ、それでなんとかなると思ってるのー?」

レイコ「花子さん・・・・・・コイツ相手なら、なんとかなるか」

ガチャガチャ

レイコ「おら花子!鍵開けろ!」

『もしもし、私メリーさん。今あなたの部屋の前にいるの。205号室なの』

レイコ「いや、落ち着け、私。メリーさんごときにやられる私じゃない。あいつが次に電話をかけてきた瞬間」ガタガタ

ジュゥゥゥッ

レイコ「!?」

隣人「カシマレイコ・・・・・・荷ガ、さナい」

レイコ「と、扉が溶けたっ!?コーク・ロア!?」

貞子「逃がさない・・・・・・決して・・・・・・」

レイコ「さ、貞子がっ!」

花子「じゃあ、はじめよっか。虐殺ごっこ」

レイコ「く、来んな!来るんじゃないわっ!」

レイコ(だ、大丈夫!テーブルを立ててその後ろに隠れた!後ろは壁!これで近付いてきた瞬間を狙って)

『もしもし、私メリーさん。今』



 
な 


 

 

 

 
ろ 

に 

い 

る 



レイコ「」ブクブクブクブク

メリー「・・・・・・見事に気絶してるの」

貞子「相変わらず男さんの作戦はえげつないですね。都市伝説に都市伝説を味わわせるなんて」

花子「この非正規の会社を『殺し屋集団』に。都市伝説を『殺し屋』に。そう例えた・・・・・・ように見える都市伝説を作ったと」

隣人「で、どうしましょうか?やっぱり溶かします?」

メリー「いや、大丈夫なの。男からこれを預かってきてるの」

貞子「それは・・・・・・札束?」

メリー「違約金なの。これで払わせればターゲット変更もできるし私たちのとこに泣きついて来たりしないの」

貞子「私たちが男さんに泣きついたのも違約金が払えないからでしたしね」

花子「違約金は払えないわ貯金は尽きるわ脅されて仕事にトラウマ持つわでまあ少なくとも男をターゲットにしようとは思えないね」

メリー「ってことでこれで解決なの。居候が増えたりもしないの」

隣人「てか、隣空き部屋だったんですけど、珍しいですね」

メリー「そこは確か八尺様の部屋なの。アイツ自分の身長が2.4メートルだから204に住んでるって聞いたことがあるの」

隣人「八尺様って、あー今先輩のお爺さんのお家で農業してる」

メリー「よーし、書置きだけ残して撤収ー、なのー」

メリー「もしもし男?今終わったからそっちに帰るの」

メリー「ただいまなの」

男「お疲れー」

姉「お疲れ様」

貞子「ごめんなさい、お姉さんの出番はありませんでした」

姉「いえ。今回は男の仕込みがうまくいったってことだから」

隣人「サイトを見てくれるかどうかは賭けでしたしね。見てくれてなかったら・・・・・・お姉さんの出番でした」

花子「どう転ぼうともどうにかする手段を用意するあたり流石我が家の参謀だわ」

男「俺一人の命じゃないしな。万全を期して臨まないと」

貞子「そうですよね。男さんが死んじゃったらメリーさんも死んじゃいますし」

隣人「まあ生命力が強化されたから今後はそう簡単に死なないんですよね?」

メリー「らしいの。以前の私が100だとすると今の私たちは1人あたり500とかいう状態なの。オーバーフローにもほどがあるの」

姉「いいじゃない。それだけあったら安心だわ。それじゃあ私は帰るから」

メリー「幽霊のやつにもよろしく言っておいてほしいの。コメントのとこはマジでただの人海戦術なの。あいつが周りに声掛けしてくれたおかげなの」

姉「その幽霊さんから伝言よ。『私の憑りつき主の会社の社員とその未来の嫁の命がかかってるんでしょ?次期社長秘書としてこれぐらい当然』だって」

隣人「・・・・・・ああああああーーーーーーっ!思い出しました!あの幽霊さん、次期社長と一緒にたまにいる子です!」

男「え?あの子が?」

姉「ええ。ここのコメントも次期社長とその幼馴染たちや彼の彼女さんとかが書き込んでくれたの。私もやったけどね」

男「・・・・・・隣人、今度次期社長に礼をしにいこう。菓子折り持って」

隣人「そ、そうですね。私たち、次期社長を顎で使うとか言うとんでもないことしてたみたいですし」

姉「彼の好物はとろろよ。おいしいとろろを買いに青森あたりまでまた行くかしら?」

男「姉ちゃんその情報マジで助かる!」

姉「じゃあ、私はこれで失礼するわ。車が必要ならまた言ってちょうだい」

隣人「すいません、いつもいつも」

姉「ふふ、姉として当然よ。それじゃあね」

メリー「・・・・・・あ、そうそう。男に言っておかないといけないことが。一人の命じゃないで思い出したの」

男「ん?どうした?」

メリー「私、妊娠したの」

男「・・・・・・えっ?な、なんて?」

メリー「だから、妊娠したの。お腹に赤ちゃんがいるの」

貞子「えええっ!?あ、あの一回で!?」

メリー「そうなの。びっくりなの」

隣人「はぇー、すっごい確率ですよ。私たち妊娠率低いのに」

男「えっ、ま、マジか」

花子「男がパパでメリーがママになるのかー。パパー、ママー」

メリー「自分よりでかい娘を産んだつもりはまだないの」

男「いかがわしいからやめろ、花子さん。てか、そうか・・・・・・できたのか・・・・・・」

メリー「嫌だった?」

男「そうじゃなくてだな。こう、これから子供が増えるとかそういうのになったらもっと広い家がいるとか考えてた矢先だったから、まだ何も準備できてないのがな」

貞子「そうですね。私たちもいずれは子を産むつもりですし、それが1人とも限りませんしね」

隣人「そうなるとこの二部屋じゃ手狭ですね」

男「はぁー、社長に相談して一軒家建てるなりなんなりするか」

メリー「困った時の社長なの」

隣人「あの人不動産にも顔がききますし」

貞子「とりあえずあれですね。今夜はお赤飯にするべきですね」

花子「だねー。あとどっかで男の実家に挨拶をね」

男「そ、そうだった!それもあったんだ!」

隣人「大変ですよー、先輩。4人もつれて挨拶に行くんですからね」

メリー「しかもそのうち二人はどうみても大人に見えないサイズなの。いろいろ言われること間違いなしなの」

男「そうだな・・・・・・覚悟しとくか。姉ちゃんとも話し合って日程決めよう・・・・・・」

メリー「お義父さんもお義母さんも目を丸くして腰抜かしてたの」

男「そりゃそうだよ。結婚相手が4人ですとか、人間じゃないですとか、すでに妊娠してますとかさ。あまりにも情報が多すぎるだろ」

メリー「まあ最終的に認めてくれてよかったの。お義姉さんの威圧感がすごかったけど」

男「父さんも母さんもあんな威圧感向けられたら納得せざるを得ないって」

メリー「・・・・・・いい家族なの。あとでゆっくり話してもちゃんと認めてくれたし」

男「ああ。俺の事を育ててくれた大事な家族だ。そして今ここに新しい家族が宿ってる。今度は俺が育てる番だ」

メリー「違うの。俺『たち』が、なの」

男「っと、そうだったな。俺一人で育てるんじゃない。メリーさんがいて、貞子さんがいて、花子さんがいて、隣人がいて」

メリー「そして男もいる。私たち5人で名実ともに家族なの。花子にも手を出すのは意外だったの」

男「煽られたから、つい」

メリー「まあ花子だけ仲間外れってわけにもいかないし、これでよかったと思うの。男の節操のなさに感謝なの」

男「あれ、俺褒められてんの?貶されてんの?」

メリー「さーて、どっちでしょうなの」

男「・・・・・・なあ、メリーさん。メリーさんと初めて会って、もう1年半ぐらいか」

メリー「そうなの。あのときはまさか男の子供を妊娠するなんて考えてもなかったの」

男「俺だって人形と子作りするとか考えてもなかったさ」

メリー「人形にも死体にも幼女にも興奮しないって言ってたの。結局あれは生命力が低すぎて性欲が無かっただけだったの」

男「人並みに戻ったら一気に来たからな。痛かっただろ、メリーさん」

メリー「めちゃくちゃ痛かったの。でもそれが気持ちいいの」

男「Mかよ」

メリー「人形はみんなMなの。仕方ないの。本能なの。使ってもらえる喜びが勝るの」

男「・・・・・・それで、だ。いろいろとやったからには責任を取らないとな」

メリー「うん、とってもらうの」

男「だから、これ」パカッ

メリー「・・・・・・え?こ、これ、指輪?」

男「俗にいう給料三か月分ってやつだ。社長がいい宝石屋を紹介してくれてな。次期社長に勧められるがままにこの指輪を買ったんだ」

メリー「次期社長は何者なの」

男「その宝石屋でバイトしてた。あの人もまだ学生だしな」

メリー「なるほどなの。そりゃ勧められるの」

男「それで、だ。俺も一人の男として覚悟を決めないといけない。他の三人にはもうちょっと待ってもらうことになるけど、ひとまずメリーさんに」

メリー「・・・・・・本当にいいの?私、人形だよ?男を殺そうとしたんだよ?ただの居候だったんだよ?それでも、いいの?」

男「いいんだよ。いや、違うな。言いたいのはそうじゃない」







男「メリーさん。俺と、結婚してくれ」

メリー「はいっ!なのっ!」





貞子「次は3か月後ですね。話し合いの結果同居を始めた順でということになりましたので」

メリー「さ、貞子っ!?いつのまにっ!?」

花子「貞子だけじゃないよー。皆で見守ってたよー」

メリー「花子も・・・・・・ってことは」

隣人「はい、もちろん私もです!安心してください、先輩!生活費は私たちのお給料で何とかなりますから!」

男「えーっと、つまりそれは俺の給料は全額貯金に回せと」

貞子「そうすれば3ヶ月ごとにプロポーズできますよね?待ってますよ、綺麗な指輪」

花子「私、サファイアがいいなー。青くてきれいなやつ」

隣人「私は・・・・・・先輩なら、わかりますよね?」

男「ああ、うん。わかってるよ。ちゃんとやるから。扱いに差をつけるつもりはない」

メリー「あとは子供のことをどうするかなの。ちゃんと産めるかとか育てられるかとか」

男「今は科学も進んで、メリーさんみたいな身体でも子供は産める。帝王切開とかいろいろあるしな」

隣人「私も妊活がんばりますからね!幸いうちの会社産休とか育休とか託児所とか全部そろってますし!」

貞子「お屋敷の方も、少し離れたところに孤児院併設の託児所がありますし制度も整っていますし、いつ子供ができても大丈夫ですよ」

花子「・・・・・・ウチの事務所、結婚とか大丈夫なのかな。ちゃんと確認しとこ」

メリー「ふふ。あと、扱いに差をつけないのはいいけど、その分愛が軽くなるのは嫌なの。ちゃんと全員しっかりと愛してなの」

男「が、がんばります」

貞子「期待してますよー?とりあえず今夜あたり」

隣人「やりますか」

花子「がんばれー。あ、私は確認が終わるまでパスで」

メリー「ま、精の付くもの作ってやるの。それ食って今夜も頑張れなの」

男「・・・・・・俺、死なないよなぁ」

―半年後―

男「これで引っ越し完了っと!」

貞子「やっと片付きましたね」

メリー「手伝えなくてごめんなの」

花子「そんなお腹で手伝われたら余計に気を遣うっての」

隣人「そうですよ。私たち妊婦は力仕事じゃなくて家事で貢献しましょう」

メリー「わかってるの。男、その辺のダンボールに踏み台があるから持ってきて欲しいの」

男「あいよ。これだな」

メリー「これなの。私がキッチンに立つにはこれが必須なの」

貞子「中古のお家をリフォームして買うだけで新居とあまり変わらないのにすごくお安く買えましたね」

男「ああ。これから金はいくらあっても足りないんだ。助かるよ」

隣人「さーて、新居引越し完了祝いってことで手の込んだものを作りたいですが」

花子「食器類はそこの棚、調理器具は下に入ってるから」

隣人「材料は何が・・・・・・今夜はお好み焼きですかね。大したもの入ってないです」

貞子「まあまあ、これからそろえていけばいいんですよ」

男「今日のところはそれですませるとして、明日は食材の買い出しだな」

メリー「近所のスーパーとかもチェックしとかないとなの。セールのタイミングとかも知りたいの」

貞子「コンビニの場所とかも把握しておきたいですね。夜中突然アイスが食べたくなったときのためとかに」

花子「ゲームショップ近くにあればいいんだけどなー」

隣人「複合施設がありますし、みんなで行きましょうか」

メリー「さあ、これから新しい生活のはじまりなの!」

貞子「これからどんどん家族が増えていきますよ!」

花子「ちゃんと全員養えるように頑張ってよね、あ・な・た♡」

隣人「みんなで一緒にがんばりましょう!私たちみんなで!」

男「ああ!これからもよろしくな!」

THE END...?

これにて完結編の完結です!このスレだけで半月以上。こんなに長くするつもりはなかった。
出オチから始まったこのシリーズ、続きを希望してくれる声があったおかげで続くことになりました。ここまで続いたのは本当に読んでくれてた方々やレスをくれた方々のおかげです。
自分のオリジナルSSは一応全部同じ世界の話つもりなので、この先のSSでひょっこりとメリーさんたちが出てきたりするかもしれません。
次期社長な男くんとか幽霊なアリスとかダンサーなホム娘とか歌手な悪魔とかも出てくると思います。
魔物娘はいいものだ。ハーレムもいいものだ。
ハーレムは結果じゃなくて過程を楽しむものだと思ってます。でも好きになるのに究極的には理由はいらないとも思ってます。恋はするものじゃなくて落ちるものなので。
この話はここで終わりますが、またどこかで同じ酉を見かけたら読んであげてください。
メリーちゃんは尊い。

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