高垣楓「あいするふたりであいすれば」 (35)


楓「ちひろさん、桶ってありますか?」


ちひろ「桶、ですか?」


楓「はい。桶、です」


ちひろ「多分、あっちに、温泉ロケで使った桶がいくつかあるかと思いますけど…どうするんですか?」


楓「足水、です」


ちひろ「足水?」


楓「ええ、桶に冷たい水を入れて、そこに足を入れるアレです」


ちひろ「ああ、あれって足水って言うんですか。そのまんまなんですね」

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楓「クーラーもいいんですけど、人口の風にずっと当たっているとくらくらっとなってしまいますから」


ちひろ「はいはい」


楓「あら、冷たい」


ちひろ「いちいち楓さんのダジャレに反応していたらキリがないじゃないですか。でも、熱中症に気をつけて、くらっときたら中に戻ってくださいね」


楓「はーい、オーケーでーす♪」


ちひろ「桶だけに、ですね。いってらっしゃい」


楓「いってきまーす」スタスタ


ちひろ「…」



ーーーーーーーーーーーー



楓「…」チャポン


楓「…」チャプチャプ


楓「…♪」


ちひろ「楓さん?」


楓「あら、ちひろさん」


ちひろ「よかったら私もいいですか?」


楓「ふふ、そうだといいなーと思って、実はもうひとつ用意してました」


ちひろ「わ、ありがとうございます。それじゃあ早速……よっと」チャポン


ちひろ「〜! 冷たい!」


楓「ふふ、そうでしょうそうでしょう。結構涼しくなれるんです」


ちひろ「はー……夏っぽいことしてるって感じしますねー…」


楓「まだまだ夏ははじまったばかりですよ?」


ちひろ「そうですけどー…結局お仕事と、事務所の大掃除で終わっちゃいそうでー…」


楓「ああ、大掃除がありましたか」


ちひろ「そうですよ。みんなが自分の趣味のものを持ち込むから無駄にバラエティ豊富になっちゃって。「ハンズ事務所」なんて呼ばれてるんですよ?」


楓「かっこいいじゃないですか」


ちひろ「そうですかー…? なんだかハンズと業務提携してるみたいじゃないですか……あ、でもまたコラボすればウチの子たちが活躍できるかも…?」


楓「ふふっ」


ちひろ「あっ、ごめんなさい、つい。お仕事のことを…」


楓「いいんですよ。ちひろさん、頼もしいです」


ちひろ「かえでさーん…やっぱり楓さんはわかってくれますよね? 中には「金の亡者」みたいに言ってくる人もいて…冗談なのはわかってるけど、ちょっとなー…」


楓「キャリアウーマン、素敵ですよ? 留美さんや美優さんもちひろさんはすごいって」


ちひろ「でもー…」


楓「でも?」


ちひろ「…モテないじゃないですかー!」


楓「あら、ちひろさん、彼氏さんが欲しいんですね」


ちひろ「そりゃあ私だって…年頃の女性ですし? 両親にも「いい人はいないのか」って…」


楓「そういうの、ありますよね」


ちひろ「楓さんもですか?」


楓「今はアイドルですけれど、いつかはひとりの女性になってしまいますから」


ちひろ「そうですよねー…」


楓「シンデレラ夢から覚めても魔法をかけてくれる方を探して…」


ちひろ「わあ、なんかロマンチックですね」


楓「そうでしょう? これ、婚活で使えるかもしれませんね」


ちひろ「楓さんも結婚願望あるんですね。意外」


楓「そうですか? 私だって人並みに興味はありますよ」


ちひろ「……あの、これは、この流れだから聞いちゃいますね」


楓「はい、なんでしょう」


ちひろ「楓さん、Pさんが…」


楓「ええ、好きですよ?」


ちひろ「ゔわ、あっさり」


楓「ゔわって」


ちひろ「やっぱりそうでしたかー…そうなのかなーって」


楓「ごめんなさい」


ちひろ「え?」


楓「だって、アイドルなのに」


ちひろ「ああ……まあ、仕方ないですよ。アイドル高垣楓である前に、ひとりの女性としての人生があるんですから」



チリーン…



楓「…」


ちひろ「…」


楓「…この風鈴は」


ちひろ「え? ああ、肇ちゃんがお土産に。地元の夏祭りで買ってきてくれたんです」


楓「素敵な音色ですね」


ちひろ「ええ…」


楓「…」チャプ


ちひろ「…」チャプ


ちひろ「…立場上はね?」


楓「はい」


ちひろ「応援はできないですよ? 一応、会社としての立場もあるので」


楓「…」


ちひろ「ですけれどもね? やっぱり、同じ女性ですし、同い年ですし、それなりに恋愛もしてきましたし、なんとなく、わかるんですよ。楓さんのPさんに対しての想いが本気なんだなってことは」


楓「…ありがとう」


ちひろ「いえいえ……だから、まあ、あれですね。上手いことやってください。何かあれば責任をもって対応しますから。できれば、アイドルをやり遂げてから仲を深めていただけれるのに越したことはないんですけどね?」


楓「あ、確かに」


ちひろ「ですが、ひとつ問題が」


楓「何かしら」


ちひろ「楓さん、今、25歳。アイドルを引退する頃には?」


楓「あー…」


ちひろ「まあ、楓さんはお綺麗そうですけどねー」


楓「そうかしら。やっぱり若い子の方がいいのかも」


ちひろ「ですから、そこはまあ、バランスよくというか、ね?」


楓「はーい」


ちひろ「それに、Pさんと楓さんってなんだか姉弟みたいな距離感ですから、そこから一歩踏み込むには時間ががかりそうですしね!」


楓「そうなんですよ!」


ちひろ「あの人、「楓さんが俺のこと恋愛対象として見てるわけない」って思ってますからね」


楓「そうなんですよ! 「そういうのは好きな人にやってあげてくださいね」って!」


ちひろ「おまえだー!」


楓「って、なっちゃう時がありますよね」


ちひろ「楓さん、意外と奥手ですもんね。そこでそう言えたら済むのに」


楓「だって……恥ずかしいし、関係が壊れてしまったらイヤじゃないですか…」


ちひろ「おっとめー」


楓「むー…!」


ちひろ「…でもまあ、楓さんのこと、意識してないってことはないでしょうし、気長に関係を深めていったらどうですかって……完全に応援しちゃってますね、私」


楓「嬉しいですよ?」


ちひろ「それはどうも……やっぱり、応援しちゃいますよ同い年の女性同士。楓さんがうまくいったら参考にしたいなーとも思ってますし?」


楓「高垣楓、頑張りますっ」


ちひろ「うーん…流石に卯月ちゃんに比べてフレッシュ感が」


楓「ひどいっ」


ちひろ「ごめんなさい。でも、楓さんは大人の魅力があるじゃないですか」


楓「………押し倒しちゃえと?」


ちひろ「言ってません」


楓「ちっ」


ちひろ「悪態をつかないの」


楓「はーい…」


ちひろ「ま、Pさん、いい子ですよ。事務所の後輩としても、男の人としても、好感が持てます」


楓「あ、ちひろさんはダメですよ? ○○さんがいるじゃないですか」


ちひろ「えー、あの人はそういうんじゃないですよ」


楓「会社の同期で一緒にご飯を食べたり映画を見たりする方なのに?」


ちひろ「それは、ほら、同期だからこそ気兼ねなくというか、趣味も合うしいいかなってだけで」


楓「○○さんとちひろさんがしている行為を、一般的にはデートと言うんじゃ?」


ちひろ「ち、違いますよっ! 別に、なんとも」


楓「ほんとーに?」


ちひろ「そ、それは…」


楓「実は今さらそういう関係になるのもって思っていたりして?」


ちひろ「う」


楓「一度ご自分の言葉で言っちゃいましょう。ちひろさんは○○さんをすー?」


ちひろ「すー…」


楓「きー?」


ちひろ「きー……なんでしょうか?」


楓「私に言われても」



「ちひろさーん?」



ちひろ「ひゃい!」


楓「くすっ、ひゃい! だって」


ちひろ「びっくりちゃったんです! それより、この声って…」


P「あー、いたいた。ちひろさん、社長が探してましたよ」


ちひろ「あ、そうですか」


P「あ、楓さんも」


楓「こんにちは♪」


P「こんにちは。そんなところにいたら熱中症になっちゃいますよ?」


楓「大人なんですから、体調管理はできますよーだ」


P「体調管理ができてる人はお酒で記憶をなくしたりしないんじゃないでしょうか」


楓「管理はできてますよ? リバースしないでしょう、私?」


P「体調管理のハードルをもう少しあげてください。俺や美波に家まで送ってもらってるんだから。この前は肇まで」


楓「覚えてないもーん」


P「こっちは覚えてるんだよなあ」


ちひろ「ふーん…」


P「あ、すみません。変なところ見せちゃって」


楓「変なところって」


ちひろ「手強そうとも、あと一歩とも見えますね」


楓「私もわかりかねてます」


P「何がですか?」


楓「こっちの話です」


楓・ちひろ「「ねー♪」」


P「はあ…?」


楓「女の子には秘密が多いんですよ」


ちひろ「ね」


P「女の子…?」


ちひろ「あら、25歳はもうおばさんだと?」


P「あ、いえ。女の子で、合ってます」


楓「弱い…」


P「はあ…?」


楓「女の子には秘密が多いんですよ」


ちひろ「ね」


P「女の子…?」


ちひろ「あら、25歳はもうおばさんだと?」


P「あ、いえ。女の子で、合ってます」


楓「弱い…」


ちひろ「それじゃあ、私は行きますね。Pさん、よかったら楓さんと一緒にどうですか?」


P「一緒にって…あ、足水ですか」


楓「ご存知でしたか」


P「懐かしいなあ…じゃあ、ちひろさんの代わりに俺が面倒見ますね」


楓「面倒って」


ちひろ「ふふ、よろしくお願いします」


楓「ちひろさんまで」


ちひろ「…楓さん、頑張ってくださいね」コソッ


楓「ちひろさん…ありがとう」コソッ


P「また内緒話してる」


ちひろ「ふふ♪ それじゃあ…」


P「あ、そうだ。ちひろさん、アイス食べます? さっき買ってきたんです。さっき事務所にいた人に分けちゃった余り物ですけど」


ちひろ「どれどれ。んー…それじゃあ、クーリッシュを貰おうかな。このパピコはせっかくですから、楓さんと分け合ったらどうですか?」


P「あ、そうですね。そうします」


ちひろ「では、またあとで…」スタスタ


P「はーい……じゃあ、楓さん。お隣、失礼しますね」


楓「どうぞどうぞ」


P「んー……やっぱり、こういうのいいですね、夏って感じで」チャポン


楓「Pさんは夏っぽいことしました?」


P「あんまりですねー…仕事と事務所の大掃除で終わっちゃいそうです。色んな物があって、俺は好きなんですけどねー」


楓「ハンズ事務所ってあだ名、ちひろさんはあまり気に入ってないみたいでしたよ」


P「そうなんですよねー…ハンズと業務提携してるみたいでかっこいいのに…ま、とにかく、そんな感じで夏は終わっちゃいそうですね。彼女はいないけど、アイドルのみんなと一緒だし、あまり贅沢言っちゃいけないですよね」


楓「………Pさん、いえ、プロデューサー」


P「なんで昔の呼び方に?」


楓「……彼女、いらっしゃらないんですね。そういえば」


P「そんな話しましたっけ? まあ、今はいませんねー…」


楓「へーえ……ふーん……」


P「いや、彼女がいた時だってありましたからね」


楓「はいはい」


P「あ、信じてませんね。パピコあげませんよ?」


楓「パピコはふたりで分けあったほうが美味しいんですよ?」


P「うっそだー」


楓「ほんとーです。あいするふたりで食べたら、美味しさも倍ですよ?」


P「あいする?」


楓「「アイスを食べる」を略してアイスる」


P「ああ、びっくりした……そっか……」


楓「さ、食べましょうね。アイスりましょう」


P「さっそく活用してきた」


楓「ふふん。では、割りますよー…せーの」



パキン



楓(…いつか、愛するふたりでアイスれば、幸せだろうな、なんて…ふふっ♪)



楓さんすき。一緒にアイス食べたい。

この前書いたの

藤原肇「私のギャップですか?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1529116513

酉は違いますが、去年書いた楓さんの

元カノは高垣楓さん
元カノは高垣楓さん - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1494074330/)

それでは、またの機会に。

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