【ミリマス】白石紬の一日 (52)

紬「んんっ…ん…ふわぁ…」

窓から差し込む光に眩しさを覚え、ゆっくりと体を起こす少女

朝日を受けて輝く銀の髪が美しい彼女の名は白石紬

大都会金沢よりアイドルになるために上京した17歳のJKだ

紬「…」

まだ眠いのかぽけーっとする紬

昨日は遅くまでプロデューサーへの文句を考えていたから仕方ない

仕方ないったら仕方ない

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紬「起きんと…」

ある程度呆けて満足したのか、のそっと布団から這い出る紬

着ているパジャマは少し前にプロデューサーから撮影のついでに贈られた品であり、何だかんだで気に入っている

ちなみにこのパジャマの他にもう一着、透け透けのネグリジェも贈られて来たのだがそちらは開封されることなく押し入れの最奥へと押しやられ、守護神と化している

眠気覚ましに焙じ茶を淹れて一息吐く紬

飲んでいるお茶は自分を慕ってくれている年下の金髪アイドルから抹茶や他のお茶、お茶菓子と一緒に贈られたもので、割と高級品だ

金沢の父親も良く大切なお客さんに出していた気がする

紬「…よし」

顔も洗い、バッチリと目が覚めた紬は外出のため、服を着替え始める

なお非常に残念だが着替えの様子はプライバシー保護のためカットとなることはご了承頂きたい

紬「うう、寒い…」

大都会東京の冷たい風が外に出た紬を襲う

確かに東京は金沢よりは暖かい、しかしだからと言って東京が暖かいかどうかはまた別の問題

詰まるところ金沢でも東京でも寒いもんは寒いのである、そこに何の違いもありはしないのだ

紬「東京の冬は辛い…」

ボソッと呟くもののソレで暖かくなるわけでも無く

今出来るせめてもの抵抗はマフラーを巻くことくらいだろう

プロデューサーに貰ったマフラーを巻くとやはり温かい

紬「…」

温かさとは違う熱で顔が熱くなるがそれはそれ

今はちょっとだけありがたい

ある程度防寒も出来たのでようやく駅へと向かう紬

東京の複雑怪奇な路線図を覚えるのには苦労した

プロデューサーに

「自分がよく使う路線さえ覚えたら後は必死に覚えなくても別に大丈夫だぞ?」

などという人の努力を水の泡にするようなド外道な発言をされたこともあるがそれはそれ

路線さえ絞ってしまえば覚えることなど容易い

…今は乗り換えアプリみたいに便利なアプリも存在するし

とにもかくにももう劇場に向かうのに迷うことは無い、何故ならちゃんと道を覚えたからだ

これならあのプロデューサーも失礼なことは言えないはずだ

紬「ふふっ♪」

ちょっと上機嫌になった紬を待ち受けていたのは、電車の遅延で混み合った駅のホームだった

紬「な、なんなん…!」

未だに慣れない…というよりも一生慣れる気のしない混み合った電車から降りて劇場へと向かう紬

たった数ヶ月しか来ていない筈なのにもうすっかり馴染んだ私達の劇場

765プロライブ劇場

その見慣れた建物の前で、紬に声をかけてきた者がいた

「あ!つむぎんおはよっ!」

紬「お、おはようございます高坂さん」

紬に声をかけてきた絶世の美少女の名は高坂海美

765プロの可愛らしいお姫様可愛らしいアイドルで運動が大好きな可愛らしい女の子だ可愛らしい

ランニングでもしていたのかキラキラとした汗を掻いており、まるでダイヤモンドのような煌めきを放っていたとても可愛らしい

紬「ランニングですか?」

海美「うん!いい汗をかくと気持ち良いからね!つむぎんも一緒に走ろっ!」

紬「申し訳ありません、私はこの後お仕事が…」

海美「そっかー仕事なら仕方ないね!また誘うから次は一緒に走ろうね!」

紬「はい、お誘いをお待ちしています」

海美「それじゃっ!またね!」

元気よくランニングを再開する可愛らしい海美

冬でも元気な彼女を見習って自分も少しは運動しようかと少し真剣に悩み始めた紬は、突如襲い掛かってきた冷たい潮風に身を縮めてそそくさと劇場へと入っていった

P「…という段取りになるんだが、大丈夫か、紬?」

紬「問題ありません、ちゃんと自分の務めを果たして参ります」

劇場内事務所でプロデューサーと今日の仕事の段取りを確認する紬

少しくたびれた様子のプロデューサーにもう少しシャンとしろと文句を言いたかったが、彼が残業代も出ないのに1週間以上泊まり込んで仕事をしているのを知っているので止めておいた

P「ごめんな、本来なら一緒に行ってやりたい所なんだがオカ研の依頼とかやらなきゃいけないことが沢山あってな…」

紬「問題ありません、それともあなたは私が誰かに着いてきて貰わなければ現地に辿り着けない軟弱者とでも言いたいのですか」

P「そんなことは無いけど…」

紬「それに路線図だってもう覚えました、山手線だろうと半蔵門線だろうと問題ありません」

ふふんと自信満々に胸を張って路線図を覚えたことを報告する

きっとこんな短期間に路線図を覚えた紬にプロデューサーは驚くことだろう

しかし

P「路線図を覚えたのは凄いけど、今日の現地最寄りの路線は埼京線だぞ?」

紬「…」

P「…」

紬「それはともかく、私は一人でも問題ありません」

P「心配だ…」

一旦ここまで

紬「では、行ってまいります」

P「車とか不審者には気を付けるんだぞ~」

全く、失礼な男だ

私を何だと思っているのか

あれでは幼子をお使いに出す心配性の親と変わらないではないか

人を子供扱いするなんて失礼だ

ぷりぷりと怒りながら電車で移動する紬

確かに社会人からしたらまだ未成年の紬など子供にしか見えないのだろう

別に背伸びしたいわけでもするつもりも無いけど、でも子供扱いされるのは何だかムカついてしまう

ふーっと深いため息を吐いて窓の外を見る紬

ちょうど電車は駅に到着し、働きアリや暇人達が電車の乗り降りをしていた

紬はそれを見ながらふと駅名を確認する

紬「…えっ」

その駅の名は、本来なら降りていなければならない駅の二駅先の駅だった

そう、考え事をしていた紬は降りるべき駅を通り過ぎ、乗り過ごしてしまったのだ

…というわけではなく

紬「…なんで東京の電車は無駄に種類多いん…?」

降りるべき駅が急行では停まらない駅なだけだった

細分化されている東京の電車事情に文句を言いながらも反対側のホームから普通電車に乗って目的地に到着した紬はプロデューサーへメールを送る

その内容は直訳すればちゃんと時間通りに到着したから心配するなというものだが、そこは白石紬

絶妙なまでの回りくどい書き方で読んだプロデューサーも理解するのに30秒は掛かるほどであった

とりあえず書きたいことを書いて満足した紬は予定より少し早くスタジオ入りを果たした

ちなみに撮影自体は何の滞りも無く順調に終了したので割愛する

スタッフから良い評価を貰った紬は上機嫌に帰り道を歩いていた

すると行くときには気付かなかったのだが、道に甘味処の所在を示す看板が置いてあることに気が付いた

紬「甘味処…」

今日の仕事は我ながらとても良く出来たと思う

つまり自分自身にご褒美を上げても誰も咎めはしないだろう

内心ウキウキしながら看板の示す道を行き、角を曲がる

角を曲がった先に、甘味処が見えた

…が

紬「り、臨時休業…!」

肝心の甘味処の戸には無慈悲にも臨時休業の張り紙が張られていた

なんという仕打ちなのだろうか

臨時休業なら看板も仕舞っておくべきでは無かろうか?

これでは自分のような哀れな被害者を増やすだけだ

しかし憤りを店にぶつけるわけにもいかない

仕方がないのでプロデューサーにメールで抗議をすることにした

とにかく今の思いを誰かに吐露しなくてはならない

とりあえず書きたいこと、言いたいことだけを書いたメールをプロデューサーに送信する

そしてメールを送ってから数分後、プロデューサーからメールが返ってきた

その内容は

「えっと…とりあえず○○屋の高級餡蜜買ってあるから落ち着こう、な?」

というものだった

わかっていない

この男は何も分かっていない

代わりの餡蜜があるから良いというわけではなく、今この瞬間目の前の甘味処が臨時休業していることが問題なのだ

なので紬は如何にプロデューサーがわかっていないかをメールにしたため送信する

少し長くなってしまったがそれはそれ、わかりやすく書いたのできっとプロデューサーも自分の過ちに気付くだろう

それから数分後、メールが返ってきた

「そ、そうか…代わりの餡蜜じゃ駄目だって事だな…わかった、じゃあ後日その店に行くからこの○○屋の餡蜜は他の和菓子党の誰かにあげることにするよ」

紬「!?」

何を血迷っているのだろうかあの男は

よりにもよってあの○○屋の餡蜜を他の人にあげる?

そのような悪行は到底許されるものではない

とにかく考えを改めさせなくてはならない

なので紬は急いで誰がいつどこで餡蜜がいらないと言ったのかという問いかけのメールを送り、その足で駅へと急ぐ

とにかく急いで戻らなくてはならない

党員の貴音に見つかろうものなら間違いなく彼女の胃へと餡蜜は消え去ってしまうだろう

紬は気持ち早足になりながら駅へと急いだ

紬「ただいま戻りました」

P「おかえり、紬」

行くときと違いところどころ破れたり焦げたスーツを着たプロデューサーが声をかけてきた

紬「プロデューサー、餡蜜は…」

P「ああ大丈夫、ちゃんと取ってあるよ」

どうやら考え直してくれたようだ

ホッとして胸をなで下ろす紬

P「仕事の方はどうだった?」

紬「問題ありませんでした」

P「そっか、流石紬だな、任せて良かったよ」

ニカッと笑いながら紬を褒めるプロデューサー

紬「べ、別にウチは自分の責任を果たしただけやし…」

いつまで経ってもプロデューサーに褒められるのは慣れない

自分自身何故慣れないのかはわからないけど、慣れないのだから仕方ないし考えてもこれまた仕方ない

何故なら、褒められて悪い気はしないのだから

P「それじゃあ仕事を頑張ってくれたご褒美…って訳ではないけど、○○屋の餡蜜を出してくるよ」

紬「○○屋の餡蜜…その甘美なる甘味はまさに完璧な一品…」

紬「金沢でもあれほどの餡蜜は中々お目にかかれませんでした」

P「エミリーも似たような事言ってたっけな…あれ?」

冷蔵庫を開けたプロデューサーが首をかしげてもう一度冷蔵庫の中を確認する

P「おかしいな…確かに冷蔵庫に入れたはずなんだが…」

紬「どうかしたのですか」

P「いや、冷蔵庫に入れたはずの餡蜜が無いんだよ…おかしいな」

紬「餡蜜が無い…?はっ、まさか」

P「心当たりでもあるのか?」

紬「プロデューサー、あなたが私に送ったメールを忘れたのですか?あなたは和菓子党の誰かに餡蜜を譲ると言っておりました」

それを聞いて急いで帰ってきたのだから間違いない

紬「つまりあなたは、無意識のうちに誰かに餡蜜を譲ったのです」

P「待て待て待てどこに証拠がある?俺は今日除霊して爆発した後誰にも会ってないんだぞ?」

紬「誰にも会っていない…つまりプロデューサーが誰にも会っていないということを証明出来る人もいないということです」

紬「そう…つまりあなたは無意識に誰か…自分自身で餡蜜を食べてしまった!」

P「な、なにぃ!?」

紬「考えてみれば不思議なことではありません、残業代や休日手当も出ないのに毎日休みも無く、更には泊まって仕事をしていたなら疲れて甘味を求めてしまうのはある意味当然です」

P「…あっ、これは」

冷蔵庫の中で何かを見つけたのか、プロデューサーが反応する

紬「しかしあなたは無意識に食べたことを認めず…」

P「紬、紬」

プロデューサーが紬の話を遮り、冷蔵庫の中に入っていたであろう冷たい紙を取り出し、見せてきた

そこに書かれていたのは

「餡蜜おいしかったよ!ごちそうさま!」

という誰が書いたのかわからない無慈悲な一言であった

一旦ここまで

紬「な、な、なんやいねこれは!?」

P「書いてあるとおり誰かが食べたんだろうなぁ…」

なんと残酷なことをするのだろうか

人のものを勝手に全部食べるなどまさに悪魔の所業…いや、悪魔ですら遠慮して摘まみ食い程度に抑えるであろうことを考えると悪魔と呼ぶことすら生ぬるい

神を超え、悪魔すら倒す魔神の所業だ

紬「わ、私の餡蜜が…」

P「あ、あー…そんなに気落ちするなよ紬、また買ってきてやるから、な?」

紬「…あなたは何も分かっていません」

P「ん?」

紬「私はただ餡蜜が食べたかったのではなく、頑張って仕事を終えた自分へのご褒美として餡蜜を食べたかったのです」

紬「後日食べれば良いというわけでは無いのです」

P「なるほど…」

うなだれる紬と顎に手を当てて思案するプロデューサー

傍から見たらまるで破局寸前のカップルに見える

P「よしわかった、なら切り札を切るとするか」

紬「切り札…?」

そう言ってプロデューサーが懐から取り出したのはマジックテープ式の財布だ

バリバリと音を立てて財布を開いたプロデューサーはあるチケットらしきものを取り出した

P「これだ」

紬「それは…?」

P「以前エミリーが仕事で一日職人体験をしたことがあってな」

紬「はい、とても楽しそうに話していました…羨ましい」

P「これはその時に貰った特別優待券だ」

紬「!」

紬はプロデューサーから手渡されたチケットを確認する

○○庵特別優待券…どんな商品でも二品までなら無料で買えるというサービス券だ

○○庵は○○屋に勝るとも劣らぬ和菓子の老舗で、特に餡蜜が絶品だという

P「仕事を頑張ったご褒美にそれをプレゼントだ、好きなものと交換してくれ」

紬「本当に…良いのですか?」

P「もちろん、実は先方からもまた紬でお願いしますって連絡貰ってるくらい良かったみたいだし、そのくらいはな」

紬「プロデューサー…その…あんやと」

P「ん?」

紬「な、なんでもありません」

紬「…プロデューサー、○○庵に参りますので一緒に来て頂きたく」

P「何で?」

紬「あなたはチケットの中身を確認していないのですか?ここに受取人の身分証明が必要だと記載されています」

P「受取人の?あー、受取人の名前が765プロになってるんだな」

紬「はい、私達アイドルは名刺を持っていませんので」

P「わかった、なら一緒に行こう」

紬「はい…ふふ、楽しみです」

車に乗って○○庵へ向かう

窓の外を眺めながら紬は

たまにはプロデューサーと出掛けるのも悪くない、二品目はプロデューサー用に買って二人で食べても良いかも

そんなことを考えていた

運転するプロデューサーをチラッと盗み見る

鈍感で優柔不断で不躾な男だが、一緒にいて悪い気はしない

何故なら

金沢で出会わなければこんな日常を過ごすことも無かったはずだから

だから

紬「…あんやと」

ちょっとだけ、素直になってみよう

尾張

おまけ

P「○○庵、今日臨時休業だってさ」

紬「なんなん!?」

おまけ2

茜「つむつむ、聞いたよ…餡蜜のこと」

紬「野々原さん?」

茜「奪われちゃったんだよね、大切なものを」

紬「はい…私の餡蜜…」

茜「そんなつむつむだからこそ、茜ちゃんはつむつむを765プロ被害者の会に勧誘したいんだよ!」

紬「765プロ…被害者の会?」

茜「そう、みんな何かしら大切なものを奪われたアイドル達で構成されてるんだよ!」

美希「ミキもね、夢の中で社長におにぎりを勝手に食べられちゃったの」

紬「星井さん」

紗代子「私も、大事に取っておいたたい焼きを誰かに食べられたことがあるんです!」

紬「高山さん」

昴「オレも、控え室での野球を奪われたんだ…」

紬「永吉さん…」

小鳥「あたしは、若さを奪われてしまったの…」

茜「つむつむ、茜ちゃんはね、みんなで痛みを共有したいんだよ、だから…一緒に行こう?」

紬「野々原さん…はい、わかりました、私も入会します」

茜「よし!それじゃあこれからよろしくつむつむ!」

紬「はい、よろしくお願いいたします」

茜「それじゃあ早速つむつむ歓迎会のために茜ちゃんのとっておきのプリンをあげよう!」

紗代子「私も、美味しいたい焼きを買ってあるんです!」

紬「ありがとうございます、楽しみです」

しかし

「おいしかったよ!ごちそうさま!」

「たい焼き、真、美味でした」

茜「うにゃあああああ!!」

紗代子「絶っっっっっ対に許しません!」

紬「なんなんこの事務所…」

略奪に終わりは無いのだ

尾張名古屋

ちなみに世界観は
【ミリマス】瑞希「765プロオカ研部活動日誌」
【ミリマス】瑞希「765プロオカ研部活動日誌」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1496582874/)
と同じなので765プロライブ劇場の地下には除霊室があったりする

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