ロールシャッハ「嵐を呼ぶ、救いのヒーローたち」 (284)



長らく未完のままでしたが、急に完結したので投下いたします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1518695835

http://elephant.2chblog.jp/archives/52038587.html
http://elephant.2chblog.jp/archives/52049807.html

これらの続きになります。

ロールシャッハが南極で分解され再構成されたのち
ハンターになり念を修得しカスカベに向かうというすちゃらかな内容です。


以下は注意事項となります。

前二作はハンター×ハンターとウォッチメン(ロールシャッハ)のクロスでしたが、
今回はクレしん(主に劇場版)とウォッチメンとのクロスとなります。

H×Hは大きな背景となっていますが、本編はほとんど関係のない話です。

今回はH×Hを知らない方でもなんとなくわかる作りになっていますが、
劇場版のクレしんを知らない方にはまるでわからないものとなっています。

また、独自解釈などが含まれています。


前回から4年(!)以上も経ちました。
覚えていてくださる方がいらっしゃればありがたいです。

ちなみにこの間に何をしていたかというと、
こういったものをこしらえておりました。

https://imgur.com/1fZGGQ8
https://imgur.com/mrnsOAo
https://imgur.com/lDZv8ey






日誌 ロールシャッハ記

2000年 6月18日

俺が祖国と離別してから、一年半ほどが経つ。

ヨークシンの治安は、俺が来たころと比べると良好になったと言える。
組織犯罪は壊滅しつつあり、警察どもとマフィアの癒着も
断ち切れたと言って差し支えない。

もう俺があそこにとどまる必要はない。
俺のせねばならないことは、まだ無数にある。

東ゴルトー共和国を拠点として、キメラアントという危険生物が増殖している。

俺も二度ほど、その末端と交戦した。
雑兵ですら充分に人間を凌駕している。

人間以外の手による、こうした脅威を目にするのは初めてだ。

奴らを悪と見なすべきかどうか、俺にはわからない。
蟻どもは蟻どもで、腹を満たしているだけなのかも知れない。

ただし、これだけははっきりと言える。

どのような状況においても、喰われる者は最大限の抵抗と逆襲をする。
たとえその結果、ともに息絶えることになろうと。

協会を通じて、この事態の収束に小型の核が使われかねないとの情報が入った。

この情報はあくまで推測の域を出ない。

ただし懸念事項としては、その爆発の規模によっては、
東ゴルトー側の報復装置が作動するとのことだ。

これは推測ではない。事実だ。


――ひとつ、俺の推測として確かなことがある。

核は間違いなく落とされるということだ。

Dr.マンハッタン。
奴は以前、この世界の予知に妨げが起きていると俺に語った。
干渉波だ。それはおそらく、核爆発による電磁パルスであり……
そしてそれを止めることは、奴には不可能だと。

虫どもにわかるはずもない。
この争いの果てにあるのは、放射能に汚染された大地でしかないのだ。

だが希望はある。少なくとも、屍だけの未来を回避できる希望が。

報復装置は停止させられる。外部からの操作によって。

それに不可欠となる、コンピュータ・ウィルスというものがあるという。
ジャポンという島国にだ。

精密機械が風邪を引く――まるでジョークのようだ。
それがどんなものか、俺には想像もつかない。


不確かな情報だ。
鉄の義足で糸の橋を渡るかのような希望だ。
だが、誰かがやらねばならない。
そして、それをすべきは誰かなどではない。


今置かれたこの状況は、あのときの米ソと変わらない。

Dr.マンハッタンはここを無限の地球のひとつだと言ったが、
どの世界においても最終的に直面する問題というのはどこも大差ないらしい。

人々の死と、それによってもたらされる終末。

終わりなど何物にもない。
Dr.マンハッタンは、きっとそう言うだろう。


そうとも。
終わることなどない。
俺たちが抗う限り、よりよき世界は必ず来る。

たとえ俺たちの時代では無理だとしても、次の世代にはきっと。


.┓┏.




ロールシャッハ「Dr.オオブクロ……」

       「記録にある最後の在住地は……カスカベシティ」

ロールシャッハ「KAS……カスカベ。ここか」

ロールシャッハ(やはりサムライの国とよく似ている……もっとも、詳しくはない)

       (あの国はまぎれもなく被爆国であったが)

       (ここは実に平和そうだ。指を折ってもよさそうな奴が見当たらん)

       (地道に聞くより他なさそうだな)

       (携帯電話に翻訳機能があると聞いたが……)


ロールシャッハ(……これだ、間違いない。ケーブルを繋いで口元に……
        マイクロフォンのように使えばいいのか……)

ロールシャッハ「道をたずねたいのだが」

通行人に声をかけるロールシャッハ。

「え、なにこの人、コスプレ?」
「キャーッ、不審者!」

ロールシャッハ「……」

ロールシャッハ(ダメだ。どいつもこいつも話にならん)


警官「あのー、ちょっと職務質問、いいですかあ?」

ロールシャッハ「警察か……」

ロールシャッハ「HUNH.」

警官「とりあえずそのマスク取ってもらっていいですか」

ロールシャッハ「断る」

警官「いや、あのね。こっちは取ってもらいたいんですよ!」

ロールシャッハ「だから断ると言っている」

警官「困ったなあ……」

警官「なにか、身分証は?」

ロールシャッハ「これで充分か」スッ

警官「ん……ハンターライセンス!?」

警官(すげえ! ホンモノ! 初めて見た!)

警官「は、はい、確認できましたのでお返しします。でも、ちょっと、そのマスクは……」

ロールシャッハ「活動に欠かせないものだ」

警官「ええと、あの、どういったお仕事で?」

ロールシャッハ「お前が知る必要はない」

ロールシャッハ「仕事の邪魔だ、俺はもう行く」

警官「あ、その、失礼しました!」

ロールシャッハ(警察は好きじゃない)

       (奴らは法の味方だ。弱者の味方ではない)

ロールシャッハ(だがいないよりはマシか。事実、この街は平和そうだ……)


ロールシャッハ「HUNH.」

ロールシャッハ(さて……)

        (とりあえず記録上の、最後の所在地に向かおう)

        (なにか手がかりがあるかも知れん)


ロールシャッハ(HUR……?……見知った顔がある……あいつは……)

ハンゾー「おいおいおいおいおい! ロールシャッハじゃねえか!
     なんでこんなとこにいんだよ! クッソ奇遇じゃねえか!」

ロールシャッハ(……)

ロールシャッハ(ニンジャだ……)

ハンゾー「いやほんとなにしてんの? バカンス? なんだってこんなとこに、観光名所なら他にいくらでも」

ロールシャッハ「観光ではない。Dr.オオブクロという男を探している」

ハンゾー「大袋ォ? 知らねえなあ」

ハンゾー「そーそー、前にお前に話したサムライっつうのがどうもここいらにいたらしくてなー」

ロールシャッハ(この饒舌ぶりも変わっていない)

ロールシャッハ「お前はなにをしてるんだ、そんなジャージ姿で。あのニンジャ装束はどうした?」

ハンゾー「ああ、これか? 忍者ってえのは忍ぶ者だからな。
     この街であれじゃ、目立ってしょーがねーのよ。
     今地元警察と協力してモルヒーネ・ファミリーって連中の残党を追っかけてんだが」

ロールシャッハ(モルヒーネ・ファミリー……ふざけた名前だ)

ロールシャッハ(俺が関わる必要はない。このニンジャなら苦労はしないだろう)

ロールシャッハ(だが、捜査情報をこうもベラベラしゃべるあたり、
        こいつにそうした仕事は向かないのではないか……?)

ハンゾー「――ってなわけでよ。大変なんだこれが」

ハンゾー「あとお前な、この国は相当治安のいい方だから、
     下手に怪我させたり死なせたりしたらまずやばいぜ。
     大事な仕事だってんなら、なおさらやめとけ」

ロールシャッハ「HURM.」

ハンゾー「俺もここにいんのはあと数日だけどよ、大袋だっけ?
     なんかわかったら連絡するわ!」




ロールシャッハ(ああはいうものの、あんな奴の情報を待ってはいられない)

       (以前のようにネット上で賞金をかけるという手もあるが……
        いやダメだ、あのとき俺は任せっきりで、そのやり方を知らない)

       (通行人はどいつもこいつも俺を避ける)

       (……子供か。情報の入手は望み薄だが、話は聞いてもらえるだろう)


ロールシャッハ(ちょうどそこに、坊主頭の子供がいる……)


ロールシャッハ「そこの坊や」

マサオ「え、僕?」

ロールシャッハ「そうだ」

マサオ(なんだろこの人……なんかこわい……)

ロールシャッハ「このあたりにいた、オオブクロという男を探している。
        科学者か発明家かその辺のなにかだ。なんでもいい。なにか知っていれば……」

マサオ「大袋……大袋博士?……」

マサオ「あ!」

ロールシャッハ「どうした」

マサオ「う、ううん、知らない知らない、なんにも知らない!」

ロールシャッハ「……嘘をつくな」

マサオ「知りません知りません、わああっ」ダッ


ロールシャッハ(……行ってしまった)


ロールシャッハ(だがあの子供はなにか知っている……とんでもない幸運だ)



       (あとをつけよう)


カスカベ市内 公園

風間「それじゃ、今日のかすかべ防衛隊の活動は……」

ネネ「リアルおままごと!」

風間「ネネちゃん、それじゃ防衛にならないよ……」

ネネ「あら? 家庭の平和を守るのも立派な務めじゃなくって?」

しんのすけ「じゃあオラ、がんばっておうちの防衛するゾ!」

ボー「……自宅警備員」

風間「だからそんなんじゃなくってさ!」
  「……あれ、マサオくんどうしたの? 震えてるけど」

しんのすけ「ウンチなら我慢しない方がいいよ」

風間「黙ってろよ!」

マサオ「……さっき、変な人見たんだ」

   「帽子とコートと、白黒のマスクつけてて」

しんのすけ「ふーむ、それはなかなか危ういですなあ」

風間「怪しい、だろ」

ネネ「その人とお話したの?」

マサオ「うん、大袋博士について知らないか、って」

しんのすけ「玉袋博士? なんだかヒワイなお名前だゾ」

風間「おおぶくろ!」

ネネ「大袋博士って……」

ボー「香港に行ったときの、あのおじいさん」

マサオ「なんだかわかんないけど……あの人、きっと悪い人だよ!」

ネネ「じゃあ、今日はその人を探して正体を突き止める、ってのはどう?」

風間「危ないよネネちゃん! そういうことは大人の人に」


しんのすけ「風間くん!」

風間「っ! な、なんだよ」

しんのすけ「オシッコ行ってくる」

風間「……黙って行けよ」


公園 トイレ

しんのすけ「なんだか今日はいつもと違うにおいがいたしますなあ」

しんのすけ「芳香剤変えた?」

しんのすけ「ふーんふふーん」ジョロロ

しんのすけ「お?」

ロールシャッハ「…………」

ロールシャッハ「あの坊主頭の子供と知り合いらしいな」

しんのすけ「マサオくんのこと? まあそんなに深い仲じゃないけど」

しんのすけ「オラ野原しんのすけ。あんただれ」

ロールシャッハ「名乗る義務はない」

しんのすけ「挨拶できない人はろくな大人じゃないってかーちゃん言ってたゾ」

ロールシャッハ「HURM.」

ロールシャッハ「……ロールシャッハ。充分か」

しんのすけ「ろーる……?」


公園

風間「じゃあその人を見つけ次第、交番へ行ってお巡りさんに通報しよう!」

マサオ「僕もそれがいいと思う……」

ネネ「でもそんな人、ほんとにいたらもう捕まってるんじゃないの?」

ボー「うん。覆面してると、普通、怪しまれる」

しんのすけ「おまたせおまたせー」

風間「おしっこにどんだけ時間かけてんだよ……ん? その後ろの人は?」

ロールシャッハ「……」

マサオ「あ……あ!」

風間「え、もしかしてこの人!?」

しんのすけ「この人、マサオくんに用があるんだってー」

しんのすけ「ほらマサオくん、ちゃんとご挨拶しないと」グイ

マサオ「ちょっとしんちゃんやめてよ!」

ロールシャッハ「Dr.オオブクロについて知っているな。話を聞かせてもらおう」

ネネ「ちょっとあんた! いきなり出てきて子供相手になにしようって言うの!?」

ロールシャッハ「……」ジロ

ネネ「ひっ……!」

ロールシャッハ「……用があるのはこいつだけだ。お前らにはない」

ロールシャッハ「危害は加えない。安心しろ」

しんのすけ「このおじさんもそうおっしゃってますし、オラたちは大人しく帰りましょうか。
      二人の時間を邪魔しちゃ悪いしィー」

マサオ「待ってよ一人にしないでよ!」

風間「待ってください、確かに大袋博士とは以前会いましたけど、
   でもそれっきりだし、住所もなにも知らないんです!」

ロールシャッハ「……本当か」

しんのすけ「本当!?」

風間「なんでお前が聞くんだよ!」

ロールシャッハ(…………)

ロールシャッハ(詳しい話を求めたところ、この子供たちは過去に
       “ブタのヒヅメ”という反社会的組織に拉致されたことがあるという)

ロールシャッハ(Dr.オオブクロもその組織に捕えられていた。
        俺の求めるコンピュータ・ウィルスをそこで製造していたと)

ロールシャッハ(ただしその組織は、今はもう壊滅している)

       (コンピュータ・ウィルスは消失し、その後のDr.オオブクロの行方もわからない)

       (子供たちは帰った。面倒になるので交番には行かぬよう言っておいた)


       (帰らなかったのはこいつだけだ。確か……)

       (……シンノスケといったか)


市内 河原のどこか


しんのすけとロールシャッハ、土手を歩いている。


しんのすけ「おじさん、そのお面なに?」

ロールシャッハ「お面ではない。俺の顔だ」

しんのすけ「いい歳してヒーローごっこ?」

ロールシャッハ「ごっこではない」

しんのすけ「じゃあホンモノのヒーロー? 全然そうは見えないけど」

しんのすけ「誰と闘うの? メケメケ団? 秘密結社ミッドナイト?」

ロールシャッハ「答える義務はない」

しんのすけ「ははーん。きぎょうひみつというヤツですな」

ロールシャッハ「……ませたガキだな」

しんのすけ「いやあ、それほどでも」

ロールシャッハ「誉めてなどいない」

ロールシャッハ(見渡す限り、カスカベは平和だ。
        俺がここにいる意味が微塵も感じられない)

ロールシャッハ(平和だ。こちらの気が狂いそうなほどに)


「やだ、誘拐?」ヒソヒソ
「変質者じゃねえの」ヒソヒソ
「警察呼んどく?」ヒソヒソ
「関わらないようにしよ」ヒソヒソ


しんのすけ「なんか道行く人がウワサしてるゾ」

しんのすけ「おじさん、誘拐犯?」

ロールシャッハ「勝手についてきたのはお前だ」

しんのすけ「おお、そうだった」

ロールシャッハ「……なぜ俺についてくる?」

しんのすけ「んー、なんとなく」

ロールシャッハ「…………」

しんのすけ「おじさん、足短いね」

ロールシャッハ「それがどうした」

しんのすけ、ロールシャッハの前へ回る。
立ち止まるロールシャッハ。


コンコン
しんのすけ「ほほーう。誰にも気づかれず背が高くなる魔法のおクツですな」

ロールシャッハ「…………」

しんのすけ「……図星?」

ロールシャッハ「そうだ」

しんのすけ「んもーう、相変わらず無愛想なんだからあん」

ロールシャッハ「お前に愛想を使う義理などない」

しんのすけ「……やりにくいゾこのおじさん」


ロールシャッハ「……なんだ、あのガキどもは。喧嘩か?」

土手を見下ろすロールシャッハ。
目にも明らかな不良たちが乱闘している。
そしてその横に隠れている、埼玉紅さそり隊。

しんのすけ「お? 師匠!」

ロールシャッハ(マスターだと?……この子供はすでに不良の道を進もうとしているのか?)

しんのすけ「おーい! ししょー!」

竜子「げ! ジャガイモ小僧!」

しんのすけ「ねえねえ、これなんのオーディション?」

竜子「オーディションじゃねえ! 引っこんでろ!」

ロールシャッハ「ではなんだ?」

竜子「そりゃ見てのとおりカスカベの覇権をかけて……」

竜子「って誰だよオメーは!?」

お銀「え、ホントに誰こいつ?」

マリー「カスカベにこんな奴いたっけ?」

しんのすけ「で、どうすんの?」

しんのすけ「はけん、っての取りに行かなくていいの?」

竜子「いや、それはだな……」

しんのすけ「あ、そうか。最後に残った人に勝てばいいんだね」

竜子「ば、バカ、あたいらがそんな戦法使うかよ!」

お銀「でもちょっとその気だったでしょ」

マリー「そうでもしないとウチらが勝てるわけないもんねえ」

ロールシャッハ「…………」

ロールシャッハ、乱闘の中に飛び込んでいく。

竜子「なんなんだあいつ?」

しんのすけ「んーとねー、ロールスロイスのおじさん」

しんのすけ「あれ? ロールキャベツ? 蠟職人だったかな?」

竜子・お銀・マリー「???」

「なんだこいつ、急に割り込んできて、ぐふっ!」
「つええ! まずい、退け、退け!」


数分後、ロールシャッハとしんのすけ、
紅さそり隊を残して、他のグループは逃げ去った。



ロールシャッハ(加減はしておいた)

ロールシャッハ(この程度じゃ更生も望めないが)

ロールシャッハ(だがノット・トップスのサムライどもと比べるとかわいいものだ)

お銀「リーダー、なんかあいつやばいっすよ!」

マリー「ただのコスプレ野郎かと思ったけど……」

竜子「ちっ、な、なかなかやるじゃねーか……」

ロールシャッハ「お前たち」

竜子・お銀・マリー「!」

ロールシャッハ「そこの、シンノスケと関わりがあるようだが、
        こんな子供になにをさせている?」

竜子「そ、そいつは! 勝手にあたいらに付きまとってるだけで!」



ロールシャッハ「HURM.」

ロールシャッハ「それで、お前らは?」

ロールシャッハ「徒党を組んで、一体なにをしている?」

竜子「……お、お前ら、ここはガツンと決めるぞ」

お銀・マリー「え」

竜子「ふかづめ竜子!」

お銀「う、魚の目お銀!」

マリー「ふ、ふきでものマリー!」


竜子・お銀・マリー「三人そろって!」
         「サイタマ紅さそり隊!」


ロールシャッハ「…………」

ロールシャッハ「HEH.」

しんのすけ「おお! すごいゾ師匠! おじさん笑ったゾ!」

竜子「だからあたいらはお笑いやってんじゃねーつーの!」

お銀「……あれ鼻で笑ったんだよな」
マリー「……うん、どー考えても」

ロールシャッハ「フカヅメにウオノメにフキデモノか」

竜子「そっちを取るんじゃねえ!」

しんのすけ「なるほどおじさんもなかなかだゾ」

しんのすけ「んー、でも玉さすり隊はとりあえずオーディション勝ち抜けたんだよね」

竜子「オーディションでもねえし、あたいらは紅さそり隊だ、べ・に・さ・そ・り!」

ロールシャッハ「玉さすり?」

ロールシャッハ「お前らは淫売か?」

竜子「話をちゃんと聞け!」

お銀「淫売って……」
マリー「お笑いの方がまだ救いがあるよな……」


ロールシャッハ「活動目的が今一つわからんが、」

ロールシャッハ「お前らが無害だということはわかった」

竜子「んだとこの!」

殴りかかる竜子。難なくかわすロールシャッハ。

しんのすけ「おお、今日はクマさんおパンツですな」

竜子「見るな!」

ロールシャッハ「クマのパンツ?」

竜子「オメーはなんでそこに反応してんだよ!」

お銀「やっぱ変質者だよあいつ!」

マリー「リーダー、もう帰りましょう!」

ロールシャッハ(……ブレア・ロッシュ……)

ロールシャッハ(生きてさえいれば、いずれこの娘たちのように……)

竜子「放せよクソ! あいつ許さねえ!」

お銀「敵うわけないよ、リーダー、ね、帰ろ!」

マリー「ね、落ち着いて!」


ロールシャッハ(…………なる自由くらいはあったのだ)


ロールシャッハ(陽が落ちていく)

ロールシャッハ(子供たちが走っていく)

ロールシャッハ(家へ帰るのだろう。母の待つ家に)


ロールシャッハ「……お前も、もう帰るべきではないのか」

しんのすけ「おじさんはどうするの?」

ロールシャッハ「どこか宿を探す。なければ野宿だ」

しんのすけ「おじさんホームレス?」

ロールシャッハ「似たようなものだ」

しんのすけ「カスカベにはどのくらいいるの?」

ロールシャッハ「わからん。できる限り、長居はしないつもりだ」

しんのすけ「ならオラ、いいところ知ってるゾ!」

日誌 ロールシャッハ記


2000年 6月21日


カスカベはいい街だ。
俺がここにいることに、自分でも違和感を覚えるほどに。


ただし、住人は奇怪な連中が多い。
そろいの服で俺を撮影する男女。
手旗信号でサインを送る本屋。
ゴリラのような筋肉の女。
派手な化粧をして、ローラースケートをする男。


どいつもこいつも狂っているとしか思えない。
平和に浮かれている証拠だ。

その平和の中で、一見無意味な反発をする者がいる。
あの奇妙な少女たちのように。

ニューヨークのサムライは……あの連中は、近寄る終末の象徴のひとつと思っていた。
間違いなくあの夜に死んだことだろう。

あのガキどもがそれと同類とはとても思えないが……
この街にも終末が訪れたとき、等しく血のドブに流されゆくのか。


シンノスケという子供に宿を紹介してもらった。

マタズレ荘という。名前の意味はよくわからない。
大家はかつての俺の家の者と似たような、偏屈そうな中年の女だ。
大家という人種はどこもそうなのだろうか。

俺を目にしてしばし怪しんでいたが、ライセンスを見せると部屋を貸すことに承諾した。

これは本当に便利なものだ。
俺がどこへ行こうとも、その先で必ず手助けをしてくれる……


Dr.オオブクロの所在は未だわからない。存命かどうかすらも。

ふたば幼稚園

風間「でさ、昨日のあの人のことなんだけど……」

マサオ「またその話!? やめようよもォ……」

しんのすけ「えー、なになに、どの話?」

ネネ「昨日の変なマスク被ったおじさんよ!」

ボー「なにか、陰謀を感じる……」

しんのすけ「インポを感じる?」

ネネ「陰謀よ、い・ん・ぼ・う!」

マサオ「やっぱりあの人、なにか悪だくみを……」

風間「待って待って! 話を聞いてよ!」

風間「あのあと、うちに帰って考えたんだ」

風間「あの人、『ザ・クエスチョン』っていうコミックの主人公とそっくりなんだよ」

ネネ「『ザ・クエスチョン』? 聞いたことないわねー」

マサオ「僕も知らない。『漫画アクション』? それとも『まんがタウン』の奴?」

風間「違うんだ、これは」

しんのすけ「おやおや風間くん。『漫画なんてお子様向けのものは趣味じゃないね』なんて
いつも言ってる風間くんが、そんなマニアしか知らないような
漫画を知ってるなんておかしいですなあ」

風間「人の話を最後まで聞けよ!」


風間「外国の漫画なんだ。パパがお土産に買ってきてくれて」

しんのすけ「それでついハマっちゃってブリスター入りのフィギュアのコレクションも始めたんだー」

風間「そうそう! バリアントがまた渋いセレクトで泣かせる……って、なに言わすんだよ!」

風間「と、とにかく、その漫画、いつも
『この漫画は、実在の人物を元にしたフィクションです』って書いてあるんだ」

ネネ「なに言ってんのよ、そんなのウソに決まってんじゃない」

風間「僕もそう思ったんだけど……その漫画、それを大きなキャッチフレーズにしてるみたいで」

ボー「つまり、その主人公のモデルが、あの人」

しんのすけ「うーむ、貧乏を感じますなあ」

風間「陰謀な」

マサオ「じゃ、じゃあ、あの人悪い人じゃないってことかな……?」

ネネ「えー! ネネは絶対認めないわよ! あの人、悪い人に決まってる!」

しんのすけ「お?」

しんのすけ「おーい、こっちこっちー!」

マサオ「おーい、って、え!?」

ロールシャッハ「HUNH」



しんのすけ「おじさーん」

フェンス越しに、ロールシャッハへ歩み寄るしんのすけ。

ロールシャッハ「シンノスケか」

しんのすけ「おじさんなにしてんの? 昼間から幼稚園の周りをうろつく不審者ごっこ?」

ロールシャッハ「Dr.オオブクロの最後の所在地を突き止め、そこへ向かった」

しんのすけ「ふんふん、それで?」

ロールシャッハ「駐車場になってた」



風間「おいしんのすけ! お前、いつのまにそんなに仲良くなったんだ?」

しんのすけ「あらー風間くん、嫉妬?」

マサオ「やっぱり、怖い人じゃないってこと?」

ボー「人は、見かけによらない」

あい(しん様が、どこの馬の骨とも知れぬ輩と……)

ネネ「あら、あんたも嫉妬?」

あい「そんなのじゃありませんわ! 黒磯!」

黒磯「はっ!」

あい「あの汚らしい男を、追い払ってきなさい!」

黒磯「は、はあ……」

ロールシャッハ「……なんだ?」

黒磯「いやー、その、不躾なことを言うようですが、
あいお嬢様が早いところあなたにここを離れていただくようにと……」

ロールシャッハ「HURM.」

ロールシャッハ(Dr.オオブクロとの唯一の接点は、この子供たちしかいない)

ロールシャッハ「シンノスケ。園が終わるのは何時だ?」

しんのすけ「えー、うーんとねー……」

あい(まあ! しん様とアフターのお約束を!?)

あい「黒磯! 力づくで帰らせなさい!」

黒磯「ええ!? は、はい!」

フェンスを飛び越える黒磯。

ロールシャッハ「なんのつもりだ」

黒磯「……見ず知らずのあなたには申し訳ありませんが、
   あいお嬢様のご命令ですので」

ロールシャッハ「HURM.」


拳を交わすロールシャッハと黒磯。

ロールシャッハ(この男も、なかなかの手練のようだ)

マサオ「うわ、すっごい! カンフー映画みたい!」

ボー「間近で見ると、ド迫力」

しんのすけ「ふーむ、これが黒磯さんの本気か……」

風間「そんなこと言ってる場合じゃないだろ」


ロールシャッハ(マフィアンコミュニティーの用心棒どもと同程度……
        いや、それよりもいくらか上か)

ネネ「ちょっと、なんとかしなさいよ! あんたがけしかけたんでしょ!」

あい「あの男の方がいけないんですわ」

じきにロールシャッハが優勢となり、黒磯は背後から押さえつけられる。

ロールシャッハ「……まだやるか」

黒磯(ま……参った……)

あい「……黒磯! この役立たず!」

黒磯「も、申し訳ありません、あいお嬢様……」

ロールシャッハ「お前はあそこの偉そうなガキのお守りか」

ロールシャッハ「それだけの体がありながら、ただ腐らせてしまうばかりだな」

黒磯「な、なにを言う!」

ロールシャッハ「今俺がお前の腕をへし折っても、あのガキはお前を用済みにするだけだ」

ロールシャッハ「金と地位は、人間の傲慢を助長させる」

ロールシャッハ「あのガキも、じきに醜く歪むだろう」

黒磯「…………」

しんのすけ「あの二人、なんの話してるの?」

マサオ「大人の話、じゃないかな」

ボー「男の、話」

ネネ「リアルおままごとの参考になるわ……いや、ハードボイルド・おままごとってところね」

風間「ハードボイルドとおままごとは、ちょっと結びつかないんじゃないかな……」

あい「……ふんっ!」

よしなが「ちょっと、黒磯さん大丈夫!?」

しんのすけ「おお、今ごろ出てきた」

まつざか「不審者よ! 警察呼んで!」

上尾「は、はははは、ハイィ!」

上尾(不審者……不審者……)ドキドキ


ロールシャッハ「おい」

上尾「!」ビクゥ

ロールシャッハ「通報などやめておけ。どうせ無駄なことだ」

園長「あのー、すみませんがうちの園児にどういった御用でしょうか……?」

ロールシャッハ「あんたは?」

園長「ああ、私はここの――」

しんのすけ「組長!」

園長「園長です!」

ロールシャッハ(組長? ドンか。確かに、ただならぬ顔つきだが……)

ロールシャッハ「HURM.ここは、見た目ほど健全な施設ではないらしいな」

よしなが「しんちゃん! 誤解を招くようなこと言わないの!」

しんのすけ「なんで?」

ロールシャッハ「なるほどな。お前のような男の元では、確かにあのようなガキが増長するわけだ」

園長「いや、私はほんとにただの園長なんですってば!」

まつざか「ちょっと、警察まだ来ないの!?」

上尾「ええっ、だって今、やめておけ、って……」

まつざか「んもう! なに言いなりになってんのよ!」

上尾「あ、スイマセン、スイマセン!」

ネネ「ちょっとしんちゃん、なんとかしてよ!」

マサオ「園長先生、ボコボコにされちゃうよ!」

ボー「ボコボコじゃ、済まないかも……」

しんのすけ「えー、もー、しょうがないなー」

上尾「え、しんちゃん、ちょっと」

しんのすけ「そんじゃ、ほい!」

ロールシャッハ(なんだ? あの女、メガネが外れた瞬間から異様な殺気を……)

上尾「おいおいおいてめェ!」

黒磯「上尾先生! 危ない!」

ロールシャッハ「なんだ」

上尾「いい歳した大人が保育士でもねーのに昼間っからガキと遊びてえってか!?
   なに考えてんだ? ロリコンかてめえは!」


ロールシャッハ「おいちょっと待て」


ロールシャッハ(ひと悶着……いや、それ以上のことがあったが、)

       (ライセンスを見せることで収まった)


       (実に便利だ)


       (ここの園長と名乗る男……タカクラブンタも、話を聞く限りでは善人のようだ)

ロールシャッハ(もっとも、それがこうも顔に表れないのは滑稽だが)


園長「お仕事大変でしょうが、しかしうちの園児をそのような危険に巻き込むわけには……」


ロールシャッハ「HURM.」

ロールシャッハ「そうだな。あんたの言うとおりだ」


ロールシャッハ(俺は少し、焦っているのかも知れん)

ロールシャッハ(だがこうしているあいだにも、世界は間違いなく終末へ近づいている……)



黒磯「……あ、あの、」

ロールシャッハ「……なんだ?」

黒磯「……頑張ってください」

ロールシャッハ「なんのつもりだ」

黒磯「他意はありません。ただ、実は私もかつて、ハンターを目指していたものでして……」

ロールシャッハ「そうか」

ロールシャッハ「今からでも遅くはないぞ。35回受けた知り合いがいる」

黒磯「いえ」

黒磯「今の私には、あいお嬢様と、ふたば幼稚園の皆さまがいらっしゃいますので」


ロールシャッハ「…………」

黒磯「あなたには、きっと理解しがたいこととは思いますが」


ロールシャッハ「…………そうだな。俺には永遠にわからん」

ロールシャッハ「だが、俺も別に肩書を求めたわけではない」

ロールシャッハ「なすべきことに、この板切れが必要なだけだ」

あい「黒磯! どこなの? 来なさい!」

ロールシャッハ「……さっさと行け」

黒磯「はい!」

日誌 ロールシャッハ記

2000年 6月26日

手掛かりは依然としてつかめない。

――ここは平和だが、奇妙な街だ。

時があまりにも早く過ぎていくようだ。
にもかかわらず、実際はまるで一秒も時が経たないような感覚が、同時にある。

十年後にここを訪れて見るのもいいかもしれない。
俺がまだ生きていれば――また、世界も息をしていればの話だが。


それでも取り残されていくものはある。

路地裏の奥に“カスカベ座”という映画館を見つけた。
ニューヨークのものと比べると、あまりにも小規模でみすぼらしい劇場だ。
それが今は廃墟であることを差し引いても。


おそらく立地条件や土地の権利などの都合上、未だ取り壊されずに残っているのだろう。


中のガラスケースに、色褪せたブロマイドがまだ残っていた。

どれも知らない映画ばかりだ。
ここはアメリカではないことが、俺のいたアメリカのある世界ではないことを改めて知らされる。
ここに俺の知る映画など、存在するはずがないのだ。


……だがカードの中に、一枚だけ西部劇らしきものを見つけた。
この映画が存在したということは、かつての祖国の先人と似たような文化や歴史をたどった時代が
この星のどこかにあったということだ――もしくは単なる創作か。

タイトルは書かれていない。この一枚からだけでは、この映画がなんなのかはまるでわからない。

カードには典型的な白人のガンマンと、どういうわけか東洋人の少女の姿が写っている。
インディアンではない。

しばらくそれを眺めたあとで、ケースを割ってその一枚を拾った。

このカードには、これから日誌の栞として働いてもらおう。

都内 スナック スウィングボール

ジャーク「…………」

ジャーク「なァ―――んか、」

ジャーク「いやな予感がするわ」

ローズ「便秘?」

ラベンダー「肌荒れ?」

レモン「加齢臭?」

サタケ「うちの経営の未来に影が?」

ジャーク「そんなんじゃないわよっ!」

ジャーク「魔人としての勘」

ラベンダー「元、でしょ」

ジャーク「今はただのオカマでも、わかることがあるのよ」

ジャーク「なーんかすっごいやばいこと起きそー」

ジャーク「てゆーかいろいろメチャクチャにひっかきまわす奴が来た、みたいな」

レモン「そうは言ってもねェ……」

ラベンダー「オカマの言うことだしねェ」

ローズ「信じらんないわねー」


サタケ「お前らもオカマだろうが……」

サタケ「大体ジャーク、それでお前はなにができるんだ?」

ジャーク「なんにもないわよ、ただのオカマだもーん」

ジャーク「ただあんたたちも腹くくっといた方がいいかも、って話」

レモン「くくる腹ねェ」

ローズ「オカマになると決めたときから、人生腹くくってるようなもんだしねェ」

ラベンダー「お兄たまはまだもう少し、引き締めた方がいいかもね」

ローズ「え」

サタケ「いらっしゃいませー、ご新規様二名、ご案内いたしまーす!」

サタケ「ほら仕事だ仕事。そう何度も何度も世界がどうにかなるわけねえだろ」



チバ県警 ナリタ東西署

よね「ちっくしょー、表彰されたってのにまたここに戻されるとは……」

  「はあ……」

  「やっぱり私、刑事向いてないのかな……」

  「…………」

よね「…………やめちゃおうかな……」

プルルルル
ガチャ

よね「はい、凶悪犯罪特別分室(資料室)……」

  「はいっ……えっ……はい、はいっ、わかりました!」

  「よし……これはきっと、もう一度世界を揺るがす大事件の予兆……」

よね「……もういっちょやるか!」


どこかの刑務所――


サイレンの中、看守を殴り倒していく男女。


マホ「おらおら! 邪魔だよ、どきな!」

ヘクソン「……マホ。無駄な体力を使うな」

ヘクソン「今は逃げおおせればいい」


パラダイスキング「よォう、あんたら、派手にやってるなあ」

マホ「? 誰だお前」

パラダイスキング「いかすネエちゃんだな。俺はパラダイスキング」

マホ「ケッ、本名かよそれ」


パラダイスキング「んなことはどうだっていい。あんた、そう、あんただ」

ヘクソン「なんだ」

パラダイスキング「あんた、特別収容棟にいた奴だろ?」

ヘクソン「そうだが……どうした」

パラダイスキング「このタイミングで同時に脱獄したのも、なんかの縁だと思ってね……」

ヘクソン「……お前の元にも、あのオカマどもが来たようだな」

パラダイスキング「当たりだ。最初は夢かと思ったんだが、
         あんたもそうだってェなら、ありゃマジだったらしいな」

マホ「ってことは、あたしらと同族ってわけかい」

パラダイスキング「そうなるかもなあ。よろしく頼むぜェ、ネエちゃん」

パラダイスキング「それより聞いたぜ、あんた、超能力が使えるんだって?」

ヘクソン「…………」

パラダイスキング「……マジらしいな」

パラダイスキング「ずゥっと思ってたのよ……ジャングルで鍛えた俺の闘技と、
         お前の超能力……どっちが上かってな」

ヘクソン「アクション仮面こと、郷剛太郎……それと野原しんのすけ……」

パラダイスキング「ほう!」

ヘクソン「お前の心は、その二人に対する憎悪でいっぱいだな」

ヘクソン「それに比べれば、俺など些細な興味の対象でしかない」

パラダイスキング「心が読めんのか。そりゃすげえや」

パラダイスキング「だが、そんなもんで俺に勝てるなんてふざけたことは思っちゃいねえよな」

ヘクソン「今の俺はそんなことに興味はない」

ヘクソン「この世が俺たちの手に落ちてからでも、その勝負は遅くないだろう」

パラダイスキング「……フッ……」

パラダイスキング「……ク――ルだぜェ」


マカオ「脱獄には成功したみたいね」

ジョマ「でもあんな強引なやり方だなんて、ゾクゾクしちゃう」

マカオ「クレイGやチョキリーヌたちより役に立ちそうね」

ジョマ「でも手駒は多い方がいい」

マカオ「そうね……」

マカオとジョマのあいだに、ブタを模した茶色の壺が浮かび上がる。


野原家

むさえ「ちょっと、姉ちゃん、ねえちゃあーん!」

みさえ「どうしたのよむさえ! こんな時間に」

むさえ「隣に越して来た人がなんか怖いんだって!」

みさえ「はあ?」


ひろし「で、その隣の人が夜中じゅうずっと起きたまま、ガリガリ物音立てたり……」

みさえ「ドアの隙間からからコバエがぶんぶん……」

みさえ「でもそれってあんたと一緒で、ものぐさなだけなんじゃないの?」

むさえ「違う違う、レベルが違うのよ! 一回ちらっと見たんだけど、
    包帯? なんか顔に巻いてるし、どーも見るからに怪しいっていうか、
    なんか……人殺してそうな顔なの」

ひろし「人殺しってまさかそんな」

むさえ「義兄さんはあいつを見たことないからそんなこと言えるのよ!」

むさえ「壁一枚隔てた向こうに殺人鬼がいると思うと……」

むさえ「ねえ、今夜だけ! 今夜だけ、泊めさせて!」

みさえ「もう、あんたって子は。でもそれだけじゃ解決にならないから、明日大家さんに相談するのよ」


TV「あの20世紀博が、パワーアップして帰ってきた! 『21世紀博』オープンに合わせて――」


むさえ「へー、なんかカンカンやってると思ったら、こんなのできるんだ」

みさえ「ちなみに明日は、この家空っぽになるから、留守番お願いね」

むさえ「え! なんで?」

むさえ「もしかしてこれに行くってんじゃ……」

ひろし「オープン初日にアクション仮面が来るんだとさ」

むさえ「あ、どーりでしんのすけよく寝てるわけだわ」

むさえ「えー、いーなーいーなーあたしも行きたーい!」

みさえ「あんたは子供じゃないんだから! 駄々こねたってダメ!」


・前回もした追記

20世紀博ができたのはクレしん作中では2001年中のことなのですが、
どうかこのSSでは20世紀中にできたということにしといてください。
20世紀が終わらないうちに建てるのも気が早いなとは思いますが。


翌日 野原家

しんのすけ「とーちゃん、かーちゃん、早く早くー!」

ひろし「こらこらしんのすけ、ショーまでまだ時間はあるんだから」

ひまわり「た、たやい!」

みさえ「ひまちゃんは、ママたちと一緒にゆっくり行きましょうねー」

みさえ「で、なんであんたもついてくるの」

むさえ「えへへー」

むさえ「いいじゃんいいじゃん、こーいうのはみんなで行く方が楽しいって」

みさえ「ほんっとに、もー……」

みさえ「迷子にだけはなんないでよね」

むさえ「そこまで子供じゃないって!」


ひろし「20世紀博が帰ってきたなんていうから、最初はうさんくせえと思ったけど」

ひろし「『20世紀の僕らが見た21世紀』か、やっぱりいいねえ」


しんのすけ「どうしても歳をとるとエクスタシーになるんだね」

ひろし「ノスタルジー!」

ひろし「でもな、見ろよ、海底都市に月面基地! スーパーロボットに宇宙大怪獣……
    今でも追いつけないくらい、すごい未来が描かれてるだろ?」

ひろし「ガラス越しのコマツザキシゲルの絵を見て思いを馳せ、家に帰って箱を開けたとき」

ひろし「ボール紙とセメダインのにおいが、俺を宇宙へ連れてってくれたもんさ」

しんのすけ「ほうほう。語るね父ちゃん」

ひろし「おうよ! なんつっても、父ちゃんはSF初段だからな」

マサオ「あれ、しんちゃんも来てたの?」

しんのすけ「お、マサオくん!」

ひろし「風間くん、ネネちゃん、ボーちゃんまで」

風間「こんにちは!」

ネネ「もうすぐアクション仮面ショー、はじまるわよ!」

ボー「早く行かないと、前の席、埋まっちゃう」

しんのすけ「おお、いけないいけない!」

ひろし「こらこら、走るな、転ぶぞ……いてっ!」


『アクション仮面ショー ―未来は僕らの手の中編―』


ミミ子「助けてー! アクション仮面!」

アクション仮面「くそう、メケメケZめ! 過去から蘇るとは、往生際の悪い奴だ!」

アクション仮面「だがそれもここまでだ! 悪の栄えた試しはないぞ!」

メケメケZ 「それはどうかなアクション仮面。今の今までお前が勝ち続けるとは、
      それもそれでなかなか不公平なものではないかね?」

アクション仮面「黙れ! この先の未来は、お前のような奴が触れていいものではない!」

「がんばれー! アクション仮面!」
「がんばれー! アクション仮面!」

ひろし「すごい人だかりだなー」
みさえ「アクション仮面は21世紀になっても、ずっと人気ってことかもね」

しんのすけ「がんばれー! アクション仮面!」



21世紀博 屋上のどこか


パラダイスキング「がんばれー、アクション仮面、か……」

        「ガキの声で勝てると思ったら大間違いだぜ」

        「でも残念ながら、シナリオっつうもんがある」

        「メケメケZは倒されて、今日もアクション仮面はみんなの笑顔を守りましたと、さ」

パラダイスキング「毎回これじゃ、食あたり起こしちまうと思わねーか?」

振り向くパラダイスキング。

パラダイスキング「ええ? 刑事さんよ」

よね「動くな……少しでも動いたら、撃つ」

パラダイスキング「相棒に聞いて知ってるぜェ……あんたに持たせた銃ほど、信用できねえもんはねえってな」

よね「そうだね……あんたの脳天、ぶち抜くかも知れないよ」


パラダイスキング「ま、いいか。飛び道具はハンデってことで」シュッ

よね(飛んだ!? 速いっ……)


パラダイスキング「後ろだよ」

よねの背中に、パラダイスキングの蹴りが一発。

パラダイスキング「あっけねーなァ、こんな雑魚どもの集団に捕まってたかと思うと情けなくなるぜ」

言い終わらぬうちに、その背後にもう一人が現れる。

ロールシャッハ「……俺なら文句はないか」
ボッ
拳をかわすパラダイスキング。

パラダイスキング「!」

         (いつのまに……)

        「お前も相当だな。警察じゃあなさそーだが」

パラダイスキング「だがお前を倒しても、俺の心は満たされねえ」

ロールシャッハ「なら、地獄で獄吏でも相手にするがいい」

パラダイスキング「おっかねえこと言うのな、おっさん」

パラダイスキング「でもこれならどうだ?」

ロールシャッハ「!」

失神したよねの手を握り、端からぶら下げるパラダイスキング。

ロールシャッハ「……やめろ。そいつは関係ない」

パラダイスキング「じゃ、無視できんのかよ?」パ

手を放すパラダイスキング。よねの体が落ちて行く。それを追い、飛び降りるロールシャッハ。

パラダイスキング「ヒーュッ、クールだぜ」


ロールシャッハ(女は受け止めたが……フック銃が間に合わない……)


ロールシャッハ(仕方がない……この街で使うことになるとは思わなかったが……)


ロールシャッハ(『廃墟の街(ザ・ハート・アタック・マシーン)』)


よねの体を抱え、アスファルトに着地するロールシャッハ。


「えー、なにあれー」
「ショーの一部?」
「凝った演出だなー」


しんのすけ「おお、キャベツのおじさん!」
マサオ「わ、ほんとだ!」
ネネ「女の人抱えてる……」
風間「も、もしかしてほんとに……」
ボー「スーパー・ヒーロー……」


むさえ「ねーちゃん、あれだよあれ! 絶対間違いないって、隣の奴!」

みさえ「あんたねー、なに寝ぼけたこと言ってんの!」


窓枠や木々を伝って降りてくるパラダイスキング。

パラダイスキング「ヒュウッ、あんたも超能力者かァ?」

ネネ「見て、あれ!」

しんのすけ「爆発頭!」

パラダイスキング「ヤッホー、また会ったなジャガイモ小僧。これはアフロだ。いい加減覚えとけ!」

アクション仮面「みなさん! これはショーじゃない!」

アクション仮面「ミミ子くん! 今すぐみんなの避難を!」

ミミ子「わかったわ!」

逃げ惑う群衆。

風間「しんのすけー!」
マサオ「しんちゃーん!」

しんのすけはひとり逆方向に走り、ステージを駆け上がる。

アクション仮面「……しんのすけくん! こっちに来ちゃ危ない!」

しんのすけ「大丈夫だよね、アクション仮面! あいつなんかすぐまたやっつけられるよね?」

アクション仮面「ああ、大丈夫だしんのすけくん。今すぐ――――ぐっ!」

パラダイスキング「おいおい、俺よりもガキへのアピールが優先か?」

ロールシャッハ「おい。俺を忘れるな」

パラダイスキング「だからお前の相手はしてらんねーって言ったろうが」スッ

ロールシャッハ(あれは……ダイナマイト!?)

パラダイスキング「ほらよ。こいつにじゃれついてな」ポイ

ロールシャッハ(投げ……、ダメだ、間に合わん!)

ダイナマイトの上に覆いかぶさるロールシャッハ。

直後、彼の腹の下で閃光と爆風が漏れる。
煙と逃げ惑う人々。ステージと客席と、双方の視界をふさいでいく。


ロールシャッハ(UUUK……)

ロールシャッハ(臓器は無事のようだが……しかし、クソ、立ち上がれん……)

アクション仮面「君! 大丈夫なのか!?」

パラダイスキング「てめーの相手はこっちだ、おらっ」ボッ

アクション仮面「くう……くく」

パラダイスキング「安心しな、お前にはあんな小道具は使わん」

パラダイスキング「こいつはな」

警備員「おい、なにしてる!?」
警備員「なんだ、なにか投げて……ダイナマイトか!?」

パラダイスキング「あーいううるせえハエどもに使うことにしたぜ!」

アクション仮面「やめろ!」

ひろし「しんのすけー、どこだー!?」
みさえ「しんちゃーん!」
ひまわり「うええええん、うええええん」
むさえ「しんのすけー! しんのすけえ!」


アクション仮面「パラダイスキング……ここはジャングルではないぞ……」


パラダイスキング「コンクリート・ジャングル。なんつって」ニカ

パラダイスキング「お前のために作られたステージはよォ、」

パラダイスキング「俺にとっちゃちょうどいいジャングルジムだぜェ」


ステージの上を飛び交いながら、アクション仮面を殴りつけていくパラダイスキング。
アクション仮面は、もうそこから離れることもできない。

しんのすけ「が、」

しんのすけ「がんばれアクションかめえええん!」

パラダイスキング「うるせえ! すっこんでろ!」

しんのすけ「うるさい! お前なんかオラとアクション仮面にコテンパンにやられたくせに!」


ロールシャッハ(ダメだ……回復が……)

パラダイスキング「そうだなあ、あれは本当に忌々しい記憶だったぜ。この俺様が……」

パラダイスキング「おめェみてーなクソガキにコケにされるなんてな」

しんのすけ「ひッ……」

パラダイスキング「だが残念だったな。あのお話の結末は……」

パラダイスキング「このパラダイスキングの鮮やかなリターンマッチで幕を閉じるんだ」

パラダイスキング「ヘイ、相棒!」

ヘクソンの乗る小型ヘリが、ハシゴを垂らす。アクション仮面を抱え、宙へと去るパラダイスキング。

ヘクソン「さっさと乗れ。お前の遊びに付き合えるのは、ここまでだ」

パラダイスキング「じゃーな、坊主。俺はお前らがどんなに駄々こねても手に入らねえ、
         本物のアクション仮面フィギュアでじっくり遊ばせてもらうぜえ!」

しんのすけ「あ、あ、」

しんのすけ「アクション……仮面……」


野原家

みさえ「……しんちゃん、さっさとゴハン食べちゃいなさい」

しんのすけ「……オラ、いい」

みさえ「なに言ってるの! 片付かないでしょうが!」

ひろし「しんのすけ、アクション仮面のことが心配なのか?」

しんのすけ「……」

しんのすけ「心配なんかじゃないもん! アクション仮面はあんな奴に負けたりなんかしないもん!」

しんのすけ「とーちゃんもかーちゃんも見たでしょ! アクション仮面があいつをやっつけるの!」

ひまわり「う、うええ」

みさえ「大きな声出さないで、ひまわりが驚くじゃない」

ひろし「……そうだ、しんのすけ、アクション仮面が負けるわけなんかない」

ひろし「だから今は、アクション仮面が帰るのを大人しく待って、そんでゴハン食べるんだ」

しんのすけ「……」


日誌 ロールシャッハ記

2000年 6月28日

なにかが動いている。
それも俺のまるで知らぬところで、巨大ななにかが。


あのテーマパークで舞台を襲った二人の怪人物。
刑事を名乗る女からその二人の情報を得た。
奴らは重犯罪者で、ともに脱獄を謀ったという。
ともに……というのが奇妙だ。
あの二人も狡猾さに長けてこそいるのだろうが、きっとそれだけではない。
奴らを解き放った者がいる。


なぜこの地に?
なんの目的で?


考えうる限り最悪のパターンは、俺の探し求めるものと、
奴らのそれが重なるというものだ。
そうなれば、なんとしても先に入手せねばならない。

だがその場合は逆に好機とも言えるだろう。
俺の求めるコンピュータ・ウィルスが、この地に眠っているという証明となる。

21世紀博。
あのテーマパークは、そう銘打たれていた。

21世紀……ニューヨークでは迎えることのなかった時代。

あのショーのセリフのとおりだ。
どす黒い血に染められた手に触れさせてはならない。

その時代が、前世紀より強き世界となるために。


続きは明日以降にいたします。
最初から投下してますので前回とかなり重複しています。

乙、まさか続きが見られるとは

>>44 以前からお読みいただいていた方でしょうか、すみません、長いことお待たせしました。
非常に時間が空きましたが、以前と同じ気持ちで楽しんでいただけると幸いです。


またずれ荘

ロールシャッハ「それで、グロリアと言ったか」

よね「え?」

ロールシャッハ「グロリア」

よね「え、ええ」

よね(自分で言っといて実際に呼ばれると恥ずかしいな)


ロールシャッハ「刑事と聞いたが、あの二人の行方は? 捜査情報はなにも入ってこないのか?」

よね「それが……全然……」

ロールシャッハ「使えぬ女だ」

よね「っ……」

よね「あんただって、ハンターなんでしょ! カスカベには他にいないの?」

ロールシャッハ「協会は現場にしか目が行ってない」

ロールシャッハ「こんな島国のことは気にも留めていないだろう」

よね「あんたも使えないじゃない!」

ロールシャッハ「HURM……」

よね「コンピュータ・ウィルスだっけ?」

よね「それだって、本当にあるかどうかわかんないんでしょ?」

ロールシャッハ「確かに、協会から得た情報ではない」

       「だが核戦争というのは俺たちの預かり知らぬところで、勝手に進んでいくものだ」

       「目を反らせば、気づいたころにはもう灰になってしまう」

       「お前の追っていたヘクソンという男……」

ロールシャッハ「かつて呪術を用いてこの世に手をかけようとしたとか」


よね「確かにそうだけど……そんな話マジで信じるの? 警視庁の誰も信じなかったのに……」

ロールシャッハ「ああ。信じるさ」

       「長く生きていると、信じられない存在に出会うことがたびたびある」

ロールシャッハ「今さらそんなもの、驚く気にもなれん」

よね「……ま、確かにね」

よね(こいつもダイナマイトに覆いかぶさって、死ななかったっていうし……フツーに考えたらヤベーよなそれ)


ロールシャッハ「だがおそらく、この先にはさらに驚くべきものが待ち受けている」

ロールシャッハ「頼りとなるのは、目を反らさぬ者だけだ」


ロールシャッハ「パラダイスキング……アクション仮面なる特撮番組の主人公を倒すことに執着した偏執狂……」

       「こちらは無視していい。その俳優が拉致されたにしろ、奴自身の目的は一つ果たされた」

       「目立った動きはしないだろう。難敵ではあるがな」

       「パラダイスキングはアクション仮面が目的だった。彼を演じる郷剛太郎本人が出演するショーのためにここへ来た」

       「問題はヘクソンだ。それだけの野望を持った男が、くだらぬ逆恨みにただ手を貸したとは思えん」

ロールシャッハ「奴の目的が、以前と変わらぬものだとすれば……」


よね「!」

よね「……コンピュータ・ウィルス!」

ロールシャッハ「そうだ。核ミサイルの報復装置……それを止められるならば、逆にそいつの気分ひとつで発射されるともならない」

       「ヘクソンは超能力者と言ったな。他人の心を読むことができると。距離を問わず」


       「Dr.オオブクロ本人か、あるいは関わりのある人物に対し、その力を使ったなら……」

ロールシャッハ「カスカベにそのウィルスがあると見ているのだろう」

よね「……こうしちゃいられない!」

またずれ荘 廊下



むさえ「…………」

むさえ「……なにしてんの?」

しんのすけ「しーっ!」

風間「このあいだアクション仮面ショーに乱入したっていう人が、ここに住んでるんです!」

むさえ「あーうん知ってる」

ネネ「私たち、カスカベ防衛隊の隊員として、重大な事件を見逃すわけには行かないんです」

むさえ「いや別にいーだろそれは……」

マサオ「でもやっぱり怖いよ……アクション仮面だって、負けちゃったんだし……」

ボー「マサオくん!」

マサオ「あ、ご、ごごゴメン!」

しんのすけ「オラたちカスカベ防衛隊が、もう一度アクション仮面をお助けに行くんだゾ!」

むさえ「……あのねえあんたたちねえ」

むさえ「アクション仮面がどうだか知らないけど、五歳児に脱獄犯の相手が務まるわけないでしょ。
     ほら、帰んな帰んな」

しんのすけ「大丈夫だゾ! キャベツのおじさんがいるもん!」

むさえ「ああ、隣の人? あのあとおまわりさんたちとなんか話してたから、
     悪い人じゃないとは思うけど」


むさえ「だからって子供が関わっていいわけないでしょー。
    ほら帰れすぐ帰れさあ早く」


部屋の戸が開く。

ロールシャッハ「……騒がしいぞ」

むさえ「いいっ!?」

しんのすけ「キャベツのおじさん!」

ロールシャッハ「……お前たちか」

しんのすけ「おじさんヒーローなんでしょ! 風間くんも言ってたゾ!」

風間「お、おい、しんのすけ……」

ロールシャッハ「……HURM.」

ロールシャッハ「とりあえず入れ。人目につく……」

しんのすけ「ん」

しんのすけ「なんでむさえちゃんも入ってくるの」

むさえ「いーじゃんいーじゃん、入れって言ってるんだし」

むさえ「……部屋の中見たら安心できそうだしねー」



よね「ええと、ロールシャッハ、だっけ、ねえ、どうしたって――」

ネネ「あーっ、あの女の人!」

しんのすけ「おお! 東松山よねさん!」

よね「あんた、なんでここに!?」

ロールシャッハ「グロリア。シンノスケを知ってるのか?」

しんのすけ「相変わらずグロリアって呼ばせてるの?」

よね「うるせーな! いいだろ別に!」

ネネ「キャー、グロリアだって!」

ネネ「ハードボイルドねえ!」

風間「ネネちゃん、あの人のこと悪い人だと思ってたんじゃないの?」

ネネ「ううん、女の人助けたところ、すっごくかっこよかったあ!」

ボー「女心と、秋の空」

風間「そりゃちょっと違うんじゃないかな」


しんのすけ「ところでこの部屋、汚いね」

むさえ「うんうん、あたしの倍は汚いかな」

むさえ「この短期間でここまで汚すとは……」

しんのすけ「感心するとこじゃないでしょ」

よね「せ、せまい……」





ロールシャッハ「――それで、このシンノスケはかつてお前とともに、
         タマヨミ一族と闘った、と」

よね「うん。巻き込まれたって言う方が正しいけど」

ロールシャッハ「そして、この五人の子供は“ブタのヒヅメ”なる組織に拉致され、
         Dr.オオブクロと接触した経験がある」

ロールシャッハ「HURM……少しは頼りになるか……」

ロールシャッハ(そのような危機的状況が、シンノスケ……なぜこの子供に降り注ぐのだろう)

ロールシャッハ(なにか、想定よりさらに大きな力を感じる)


マサオ「見て見て、このフック銃!」

マサオ「かっこいいなあー」

風間「なんか角砂糖いっぱい転がってるな……」

しんのすけ「あむ、ガリ、ガリ、ガリ」

風間「喰うなよ!」

しんのすけ「ただひたすらあまーい」

ネネ「当たり前でしょ」


ボー「日誌……」

ボー「読めない……」



よね「頼りって……この子たちをこの事件にも巻き込む気なの?」

ロールシャッハ「危険な目に合わせるつもりはない」

ロールシャッハ「俺から援助を求める気もない」

ロールシャッハ「だが、ほんのわずかでもこちらに有利に働けばいい」

ロールシャッハ「子供に助けられることは、初めてではないしな」

しんのすけ「は、そうだった!」

しんのすけ「おじさん! オラたちおじさんに協力しに来たんだゾ」

しんのすけ「そんでもって、アクション仮面をお助けするんだゾ!」

よね(はあ……)

よね(大丈夫かよほんとに)


しんのすけ「キャベツのおじさん!」

しんのすけ「オラたちなにすればいいの?」


ロールシャッハ「シンノスケ」

ロールシャッハ「気になっていたが、キャベツとはなんのことだ」

しんのすけ「野菜」

ロールシャッハ「それはわかる」


風間「なんだ、やっぱりしんのすけが勝手につけたあだ名か」

ネネ「でもなんでキャベツなの?」

むさえ「スーパーの特売でキャベツ大量に買ってったとか……」

マサオ「おすそ分けしてもらったとか……」

ボー「実家がキャベツ農家、とか」


しんのすけ「やだなーおじさんが自分で言ったんじゃない。ロールキャベ……
       あれ? ロールクラッシャーだったかな」


ロールシャッハ「……ロールシャッハだ」

ロールシャッハ(……同じ相手に二度も名乗るのは初めてだ……)

風間「全然違うじゃないか!」

しんのすけ「ろーるしゃっは……」

しんのすけ「じゃ、シャッちゃんだね」

むさえ「ちゃんをつけるか普通」

よね「プ、ククク……」

ロールシャッハ「なにがおかしい」

風間「それで、僕たちにお手伝いできることってありませんか?」


ロールシャッハ「そうだな……」

ロールシャッハ「Dr.オオブクロの居場所がわかるのが一番いいのだが、それは知らないのだな」

ロールシャッハ「HURM……」

        「とにかく市内をシラミ潰しに当たる」

        「お前たちは必ず、五人そろって行動すること」
 
        「それらしい場所やあの二人組を見たら、必ずその時点で俺に連絡を入れること」

ロールシャッハ「その程度だな。それ以上はするな。それだけ、必ず約束しろ」


しんのすけ「ブ・ラジャー!」

しんのすけ「よーし、カスカベ防衛隊、ファイヤー!」

風間・ネネ・マサオ・ボー「ファイヤー!」



むさえ「おっ、四畳半に集まった七人のヒーロー!」

むさえ「うーん、でも、背景がちょっとな―」





アクション仮面「…………」

        「…………」

        「……はっ……」

        「どこだ……私は、あのあと……」

アクション仮面「むっ……手がっ」


暗闇の中、目を覚ますアクション仮面。
両手を天井から吊るされ、両足も鎖で巻かれている。


トッペマ「気がついたのね。アクション仮面、だったかしら」

アクション仮面「! 人形……!?」

トッペマ「私はトッペマ。トッペマ・マペットよ」

アクション仮面「……喋る人形?」

トッペマ「うーん、人形だけど人形じゃないっていうか……」

トッペマ「オモチャじゃないの。こうして話している私は、生きた人間よ」

アクション仮面「……君も拘束されているところを見ると、私と同じように捕まったということか?」

トッペマ「ええ」

トッペマ「……驚くのも無理はないと思うけど、よく聞いて」


突如、BGMが流れ出す。


ウォウウォウウォ――――
     ウォウウォウウォ――――


BGM: 吼えよ! ドラゴン/Kung Fu Fighting by Carl Douglas




アクション仮面「!? よく聞けって、この歌のことか?」

トッペマ「え、いや、ちが……」


 ホ――ホハホッホ――――


パラダイスキング「よーやくお目覚めかい? 待ちくたびれたぜ」

トッペマ「!」


アクション仮面「パラダイスキング……!」

アクション仮面「これは一体なんの真似だ!」


パラダイスキング「お前にはこれからずゥーっと、俺様のサンドバックになってもらうことにした」


エビバディワズカンフーファイティンッ

パラダイスキング「ハッ!」ボッ

アクション仮面「うぐっ!」


ゾーズキッワーファスァズラァイニン

パラダイスキング「ハッ!」ボッ

アクション仮面「ぬおっ……」

トッペマ「ちょっと、なにするの!?」


パラダイスキング「うーん、登場はやはりこの曲に限る」

パラダイスキング「おらおらおら!」

拘束されたアクション仮面を、一方的に打ちのめすパラダイスキング。

トッペマ「やめて!」

パラダイスキング「うるせえなねじまき人形が生意気に口きいてんじゃねえ!」

アクション仮面「く、くく……」

パラダイスキング「アクション仮面。お前が起きるまでずっと待ってたんだ」

パラダイスキング「そう簡単に寝られちゃ困るぜ」

マホ「まずなにをするのかと思えば、ガキのヒーローごっこかよ」

パラダイスキング「ああん?」

マホ「そんなことのために脱獄したって?」

パラダイスキング「おいネエちゃん。もしかしてケンカ売ってんのか?」

マホ「そんなコスプレヒーローに負けたってんじゃ、あたしの相手にはなんねーよ」


ヘクソン「やめろ。二人とも」

ヘクソン「そんなくだらぬことで揉めるのはあとだ」


アクション仮面(この男がリーダーか?……しかし、一体なにを……)


すると、暗闇の奥からマカオとジョマが現れる。


マカオ「みんな、そろったみたいね」

ジョマ「人生ほんと、めでたしめでたしとはいかないものねえ」

マカオ「栄えるのはいつだって悪賢い者たち」

ジョマ「正義の味方が勝って終わりじゃ、そのうち廃業しちゃうものね」


アクション仮面(あ……こっちのがそうか)

アクション仮面「何者だ? あの……オカマ?か? どもは……」

トッペマ「奴らが、オカマ魔女のマカオとジョマよ。私のいた世界を、再び――」


マホ「べらべらおしゃべりしてんじゃねーよ!」シュルッ

リボンが飛び、トッペマの体に傷をつける。

トッペマ「うっ!」

アクション仮面「トッペマ! おい、やめろ!」

パラダイスキング「お前は自分のことを心配しやがれ」ボッ

アクション仮面「ぐ……はァッ……」


ジョマ「パーっと前祝いしたいところだけど、そうも言ってらんないから話を進めるわ」

マカオ「ヘクソン。Dr.オオブクロの研究施設は?」


ヘクソン「見つかった。山中に隠してある。これから、俺とパラダイスキングで向かおう」

マカオ「あら、ずいぶん張り切ってるのね」

ヘクソン「お前たちの顔をこれ以上見たくないだけだ」

ジョマ「連れないのねえ」

マカオ「ほんと。いい男なのに」

ヘクソン「オカマにはあまりいい思い出がないのでな」

ジョマ「このあいだ、そこのオモチャを連れ帰るときに乱入した奴ってのは?」

ヘクソン「奴についてもわかった。ロールシャッハ。プロのハンターだ」

マホ「なんだってそんな奴が?」

ヘクソン「狙いは我々と同じだ」

マカオ「厄介ね」

ジョマ「マホ。あんた行って、始末してきなさい」

マホ「ちっ。オカマってのはホント、女づかいが荒いぜ」

ヘクソン「待て。ひとりでは危険だ。奴も俺と似た超能力を持っている」

マカオ「なるほど。でも心配はいらないわよ」

ジョマ「あんたたちの、新しいお仲間を紹介するわ」


マカオ・ジョマ「アナコンダ! Mr.ハブ!」



カスカベ市 市内


ロールシャッハ「それで結局、あの二人は完全に行方が途絶えている、と」

よね「そうみたい。空へ逃げたって言ったって、普通ならそれだけで人目につくって言うのに」

ロールシャッハ「HURM……」

ロールシャッハ「後手に回るというのは、望ましくはないが……」

ロールシャッハ「向こうがこちらに出向くことを期待するか」

よね「確証はあるの?」

ロールシャッハ「ヘクソンの持つ力で俺たちの動きを察知できるというなら、
         俺が何者かであるということもすでに知れているだろう」

よね「ってことは、先に始末しよう……って?」

ロールシャッハ「それに賭ける」

よね「でもあいつメチャクチャ強いのよ? あんただってそりゃ強いんだろうけど、勝てる見込みはあるの?」

ロールシャッハ「さあな」

よね「さあな、って!」

ロールシャッハ「他に道がないのだ、今はそれしかない」

        「いちいち敵を探ってなどいられん」

ロールシャッハ「奴らを倒してそれで終わりじゃないんだ」


よね「……それより、さっきからどこに向かってるの? どんどん路地裏に入っていくけど……」


ロールシャッハ「奴らを招待する場だ。このあたりなら、連中も躊躇なく襲えるだろう」

よね「襲えるだろう、って……」


ロールシャッハ「……来るぞ」

よね「……マジ?」


二人の前方に現れる、長身の男。

ロールシャッハ「……あれがヘクソンか? 白人だが、見せられた写真とは顔が違う……」

よね「いや、あいつじゃない……!」

ハブ「……お初にお目にかかるな。俺はMr.ハブ」

ロールシャッハ「自分でMr.と名乗るとは傲慢な男だな」

ハブ「そう呼びたくなるさ。俺は偉大なるアナコンダ様の忠実な部下……」

ハブ「その戦列に、じきにお前たち愚民どもが加わるのだからな」

ロールシャッハ「……笑わせるな」


マホ「――どこかで見たと思ったら、あのヘボ刑事か」

よね「!」


よね「挟まれた……!」


ロールシャッハ「後ろは頼む、グロリア」

ハブへ飛びかかるロールシャッハ。


よね(頼むって……ええい、クソ!)

よね(確かこいつのリボン……刃物以上の切れ味が……)

よね「動くな! 一歩でも動いたら撃つ!」

マホ「お前の銃の腕前なんかわかってんのよ!」

よね(リラックス、リラックス……!)

マホ「遅い!」

リボンが飛び、よねの腕を切りつける。

よね「っい、ってェー!」

マホ「その手じゃ銃も撃てないだろ? むしろその方がいいかも知れないけど」

よね、警棒を抜く。

よね「クッソ! チバ県警舐めんなよ!」


ロールシャッハ(この男……)

ロールシャッハとハブ、一進一退の攻防が続く。
そのさなか、カウンター気味にロールシャッハの拳がハブの顔面に命中する。


ハブ「むむっ……」

ロールシャッハ(……加減はしなかった。頭蓋が砕けていてもおかしくない)

ハブ「ふん」

ロールシャッハ(だが、この男はなぜまだ闘える?)

回転しながら蹴りを放つハブ。


ロールシャッハ(ただの人間ではない……)

        (念能力者? いや……)

        (何者かの力を受けている)

        (それもヘクソンによるものか?)

ロールシャッハ(それとも、別の誰かが……)




暗闇から、路地裏の光景を見るマカオとジョマ。

マカオ「あんたの部下もなかなかやるわね」

ジョマ「ヘクソンよりタイプかも、アタシ」

アナコンダ「ンフフ。これでも、魔人の力は健在なのでな」

マカオ「でも忘れないこと。アタシたちが壺を呼び起こさなきゃ、
     あなたたちは地球の終わりまで海の底だったってこと」


アナコンダ「だが、その終わりももうすぐ来るのだろう?」

ジョマ「ええ」

マカオ「すぐに」

ジョマ「そして新しい時代が始まる……」

マカオ「そう。21世紀がね」


カスカベ市 路地裏


ハブ「どうした。さっきから攻めて来ないようだが」

ハブの蹴りが、ロールシャッハの胸に命中する。

ロールシャッハ「UUK!」

ロールシャッハ「KUFF,KUFF」


ロールシャッハ(やはりだ……)

ロールシャッハ(この男は、人間ではない)


ハブ「久しぶりに外に出たのでな……遊んでいたいところだが」

ハブ「アナコンダ様の命令だ。早く済ませろとな」


ロールシャッハ(……だが大した問題ではない……)


よね「! ロールシャッハ! 避けて!」

ロールシャッハ「!?」

ザクッ

マホ「相棒を恨むなよ? そいつも結構頑張ったからな」

ロールシャッハの腹をリボンがつらぬいている。


ロールシャッハ「UUU……KK,KK」


引き抜かれるリボン。吹き出る血。


よね「ロールシャッハ!」

マホ「トドメをどうぞ、Mr.ハブ」

ハブ「ふむ」


ロールシャッハ(出血を……止めねば)

ロールシャッハ「グロリア、一度退くぞ」

よね「退くって、どこへ!?」


よねの腕をつかみ、引き寄せるロールシャッハ。


ロールシャッハ「上だ」

フック銃を抜き、ビルへ向けて撃つ。

ワイヤーを巻きながら、左右の壁を蹴って上昇するロールシャッハ。


マホ「野郎!」

ハブ「……逃がさん」

ハブの右腕に装着された爪が飛び出す。

よね「なにあれ!?」

二人に向けて射出される爪。

ロールシャッハ「!」

ロールシャッハ(まずい……奴も似たような装備を……)


迫る爪。
だが、それに銃弾がぶち当たり、爪は軌道を逸れて落ちる。


ロールシャッハ(なんだ、今度は……)

続けて数度の銃声。


マホ「っ……まだ仲間がいたのか!?」

ハブ「仕方ない……こちらも一時引き上げだ」


ビルの屋上へ降り立つロールシャッハとよね。

そこにもう一人、銃を携えた女が立っている。


「大丈夫ですか?」


ロールシャッハ「……ああ」

よね「大丈夫じゃないだろそのケガ!」


ロールシャッハ「とにかく助かった。あんたは?」

ルル「ルル・ル・ルル。ブリブリ王国親衛隊少佐です」


ロールシャッハ「るるるるる?」

よね「ブリブリ王国ゥ?」

ルル「それよりお二人とも、血まみれ……?」


よね「ああ、私のはこの人の血がかかっただけだから」

よね「そうだ、病院!」

ロールシャッハ「いや、いい」

ロールシャッハ「相当な切れ味だった。爆風より治癒はたやすい」
「いくらか休めば、じきに傷はふさがる」

よね「ふさがるって……」

よね「まあでも、ダイナマイト受け止めた人間だし、平気……なのか?」

ロールシャッハ「とにかく平気だ」


ロールシャッハ「それで、そのブリブリ王国とやらの人間がなんの用だ」


ルル「少々、わけあって来日しているのです……」

よね「その銃は?」

ルル「申請は通してあります」


ロールシャッハ「そこまでしてカスカベに来たということは……」

        「わけを聞かぬわけにはいくまい」


カスカベ市 喫茶店


竜子「いらっしゃいませェ……げ!」

竜子(こないだの覆面野郎!)

竜子(顔見られないようにしよ……)


ロールシャッハ「なんだフカヅメか」

竜子「竜子だ!」

ロールシャッハ「やはりな」

竜子(墓穴掘った……)


よね「あなた、高校生?」

竜子「あー、え、ええ、まあ」

竜子(ああもう、なんでこんなときに会わなきゃなんねえんだよ、クソ!)


よね「見かけによらないじゃん、女子高生の知り合いがいるなんて」

ロールシャッハ「知り合いなどというほどのものではない」

竜子「ああそうかよ! あたいだってテメーのそのきたねーマスクなんざ見たくもねえよ!」


ルル「コーヒー三つで。いいですか?」

ロールシャッハ「ああ。角砂糖をつけろ。個別包装の奴だ」

竜子(注文が多いなちくしょー)

竜子「か、かしこまりましたあ……」

竜子(女はべらせてサテンかよ、いい御身分だなァあいつも)


竜子(夏場にコートなんか着込みやがって)

竜子(ん? あれ、血か……?)


ロールシャッハ(ルル・ル・ルル)

        (ブリブリ王国など聞いたこともないが、敵ではなさそうだ)

        (軍人のようだが、ミス・ジュピター並みの体術を持っている)

ロールシャッハ(コメディアンとも似たような経緯があるのだろうか? それは聞かなかった)


よね「ブリブリ魔人……ブリブリの壺……」

よね「……とか言われてもなー」


ロールシャッハ「グロリア。お前も、ジャークなる魔人を見たのではなかったか?」

よね「いや、でもあれはただのオカマだったし……」


ルル「信じていただけないのは承知しています……しかし、あなた方を襲った、額に逆三角の刻印の男……」

ルル「あの男こそ、以前壺に封じ込められたMr.ハブなのです」


ロールシャッハ(……なぜMr.をつける?)

よね「それと、アナコンダ伯爵、ねえ」

ルル「私たちは、Mr.ハブを追って来日したのです」

ルル「彼が解き放たれたということは、つまり魔人の力を手にしたアナコンダもまたどこかに潜伏しているはず……」

ルル「……ともに、非常に危険な存在です」


ロールシャッハ「ハブという男……生身の人間ではないと思っていたが……」

ロールシャッハ「その、アナコンダの妖術を受けていたということか……」


ルル「ロールシャッハさん、でしたね? あなたの力を見込んで、どうか壺の捜索に力を貸していただけないでしょうか?」

ロールシャッハ「断る」

ルル「え」


よね「ちょっと、仮にも助けてもらっておいて、即答はねーだろ!」

ロールシャッハ「ならどうしろと?」

よね「そこは少し考えた上で、『いやちょっと今回はご遠慮させていただきます』
    とかそういう返し方を」

ロールシャッハ「どの道同じだろう」

よね「……あんたホントに社交辞令ってのがないのね……」

ロールシャッハ「かつてそれを学ぶ場に向かったのだが、初日で崩壊したからな」



ルル「……ほ、報酬はもちろん用意いたしますよ」

ルル「宮殿にもご招待いたしますし、王への謁見も」


よね「うへー。王国に招待だなんて、そうそうある話じゃ……」

よね「って、あんた聞いてるの?」

ロールシャッハ「……」


ルル「ああ、そうだ! 美しい女性もそれはそれはたくさん――」

ロールシャッハ「くどいぞ。俺は興味ない。お前の仕える王も、金も、女もだ」


ルル(ちッ。女でもダメか……)


ロールシャッハ「秘宝の奪還など俺には関係ない」

よね「……あんたって一体なに考えて生きてんの?」

ロールシャッハ「お前に理解されるつもりはない」

よね「ああそーかよ!」


ルル「……そうですか、残念ですが、仕方がありませんね」

ロールシャッハ「待て」

ルル「?」

ロールシャッハ「俺の聞きたいことはまだある」

よね「ずーずーしいな……」


ロールシャッハ「アナコンダとハブは壺の力を得ようとし、そして封じ込められた」

ロールシャッハ「お前の話では、その壺は海の底に沈み、二度と陽の光を浴びることはない、はずだった」


ロールシャッハ「誰か、解き放った奴がいるな」


よね「あんたの同業者がトレジャーハントして、ここまで流れて来たんじゃないの?」

ロールシャッハ「……本当に鈍い女だな、グロリア」

よね「なんだよ!」

ロールシャッハ「ハブとともに現れた女がいただろう」

ロールシャッハ「ヘクソン、パラダイスキングとともに脱獄した奴だ」

ロールシャッハ「魔人とやらがどの程度の力を持つのか定かではないが、いずれ俺たちの前に姿を現すことになる」

ルル「……!」

よね「じゃあ、結局それも例のコンピュータ・ウィルスを狙いに?」


ロールシャッハ「そう考えるのが妥当だろう。でなければ、このような一都市に拘泥する必要もあるまい」
        「ならば、魔人の力とは核の破壊力には匹敵しないか――」

ロールシャッハ「もしくは、誰にも核を使わせることなく、世界を手中に収める気か」

ロールシャッハ「滅びた大地の支配者になっても、なんの意味もないからな」



竜子(……なんかこの席すげーレベルの話してんな)


ルル「待ってください、ではあなた方は……やはり我々に協力していただけると?」

ロールシャッハ「勘違いするな」

ロールシャッハ「事態はお前の国だけの問題ではない」

ロールシャッハ「このまま行けば、カスカベは戦場になるかも知れない」


竜子「あ、あのー」

ロールシャッハ「なんだ」ジロ


竜子「ああ、いや、その」

竜子(やっぱおっかねー!)


よね「ちょっと、怖がってるじゃない」

ルル「どうかなさいました?」


竜子「いやー、なんか、ずいぶんとこうキナくさい話を……」

よね「ああ、いやいやっ、私たちは別に関係ないのよ!? 
    テロリストとかそんなんじゃないから」


ロールシャッハ「フカヅメ」

竜子「いっ……」

ロールシャッハ「ただのバカではなかったようだな」

ロールシャッハ「これは関係のないことなどではない。俺も、お前にもな」

ロールシャッハ「目に見えないものから、目を背けるな」

竜子「は、はあ……」

竜子(あれ?……誉められたのか?)



カスカベ市郊外 山中


切り崩した山肌に洞穴がある。

その上に、『ここがひみつのいりぐち』と書かれた看板。


パラダイスキング「…………」

パラダイスキング「ったく、なんてわかりやすいんだ」

パラダイスキング「罠じゃねーのか?」


ヘクソン「いや、罠ではない。大袋とその助手のセンスの問題だ」

パラダイスキング「奴らの心を探ってここまで来たって?」


ヘクソン「そうだ」

ヘクソン「二人は今、ブリブリ王国なる南の国でバカンスをしている……」

パラダイスキング「旅先のセンスも疑うな」


ヘクソン「コンピュータ・ウィルスはこの中にある」

ヘクソン「先を急ぐぞ」

パラダイスキング「へえへえ」



風間「あれだ! 絶対間違いない」

しんのすけ「あの入り口も、前とおんなじですな」

ネネ「シロ連れてきてよかったわね」

シロ「アン!」

マサオ「えらいね、シロ」

マサオ「じゃ、早く連絡しようよ。見つけたら連絡しろって、あの人言ってたでしょ?」

ボー「うん。それがいい」


しんのすけ「で、どうやってするの? 連絡」

風間・ネネ・マサオ・ボー「あ……」

シロ「……クゥーン」


風間「しまったァ! 僕としたことが!」

風間「携帯電話なんて持ってないし、公衆電話もない!」

しんのすけ「他にできそうなことと言えば……」

マサオ「矢文!」
ネネ「狼煙!」
ボー「伝書鳩!」

風間「……どれもできるわけないじゃんかー!」

しんのすけ「じゃあさ、こっそりあの中入ってみれば?」

風間「え?」

しんのすけ「電話くらい貸してもらえるかもよ?」



大袋博士の秘密(違法)研究所


パラダイスキング「なんだよなんだよ、ガラクタばっかじゃねえか」

パラダイスキング「スリッパコレクションって……」


パラダイスキング「それから、この尻のトルソーはなんなんだ?」

ヘクソン「大袋の趣味のようだ。女性は尻しか興味がなく、スリッパを人類最高の発明だと称している」

パラダイスキング「学者ってのはやっぱ頭おかしいんだな」


「何者だ。ここへなにをしに来た」


パラダイスキング「?」


足元の床が一部開く。小さなディスクの中から、立体映像が現れる。


ぶりぶりざえもん「博士は現在留守だ。御用の方はピーという音のあとに用件をどうぞ」


パラダイスキング「なんだこりゃ。音声案内か? 警備システムか?」

パラダイスキング「見た目は今どきフロッピーディスクみてーな感じだが……」


ぶりぶりざえもん「ぴいいいいいい」

パラダイスキング「お前が言うのかよ」

ぶりぶりざえもん「さ。さっさと用件を言え」

パラダイスキング「ブタのくせにいい声してんな。ついでに態度がでかい」

ぶりぶりざえもん「私をブタと呼ぶな!」

パラダイスキング「ブタじゃなきゃてめーはなんだっつうんだよ!」


ヘクソン「コンピュータ・ウィルスだ」

パラダイスキング「はあ?」

ヘクソン「ぶりぶりざえもんMk-2。これがそのウィルスだ」

パラダイスキング「マジかよ……」


ぶりぶりざえもん「いかにも。今は留守番の身に甘んじているがな」

パラダイスキング「プログラムごときが生意気に口を利くのか?」

ヘクソン「電子生命体と言った方が正しい。このブタの映像は意志を持つ」


物陰から覗く、カスカベ防衛隊の面々。


風間「! コンピュータ・ウィルスって、まさかとは思ったけど」

ボー「やっぱり、ぶりぶりざえもん」

しんのすけ「ぶりぶりざえもん!」

風間「静かにしろよ! 見つかっちゃうだろ!」

ネネ「あれもしんちゃんのぶりぶりざえもんじゃないのよ」

しんのすけ「オラのでもなんでも、関係ないゾ!」

しんのすけ「アクション仮面もぶりぶりざえもんも、オラのヒーローだもん!」




パラダイスキング「電子生命体ねェ。なんだかわかんねーが、まあいい」

パラダイスキング「おいブタ公。俺たちと来い」

ぶりぶりざえもん「私に命令するな!」

パラダイスキング「……ほんと態度のでけーブタだぜ」

ヘクソン「ぶりぶりざえもん。俺たちとともに来れば、こんなところで留守番などしなくていい」

ヘクソン「この世のすべてが手に入る。俺たちの好きなように、世界を動かせるのだ」

パラダイスキング「そうだぜ、お前だって好き放題できる」


ぶりぶりざえもん「ほう……」

        「……ヤダ」

パラダイスキング「んだと!?」


ぶりぶりざえもん「急に何人かもよくわからん野郎がノコノコ現れてハイそうですかなどと
          ついていくわけないだろう人の気持ちをもっとよく考えろこの野郎!」


パラダイスキング「……相棒。こいつの心は読めるのか?」

ヘクソン「さっきから試みてはいるが、やはり生身でない以上不可能のようだ」

ヘクソン「ちなみに、大袋自身もこいつの制御は不可能だ」

ヘクソン「このブタは完全に自分の意志で動いている」


パラダイスキング「……その博士ってのをとっつかまえて、もう一度作らせるのは?」

ヘクソン「……製作者に似たのだろう。おそらくこのブタを説得するより困難だ」

ぶりぶりざえもん「ブタじゃねえッつッてんだろッこのッ」

パラダイスキング「……なら強硬手段しかねえな」



床からディスクを抜くパラダイスキング。
その手のひらの上に立つ形となったぶりぶりざえもん。


ぶりぶりざえもん「なにをする気だ」

パラダイスキング「おいブタ。従わねえってんなら今すぐ握り潰すぜ」


ヘクソン「パラダイスキング。バックアップはないぞ。今そのディスクがウィルスそのものだ」

パラダイスキング「なら好都合さ」


パラダイスキング「三つ数えるうちに考えを変えな」


パラダイスキング「ひとつ」

ぶりぶりざえもん「従おう」


パラダイスキング「……急に素直じゃねーか」

ぶりぶりざえもん「私は常に強い者の味方だ」

パラダイスキング「エラソーに言うな!」


しんのすけ「待てー!」

パラダイスキング「ああん?」

パラダイスキング「なんだよ、またジャガイモ小僧か」

風間「しんのすけ!」

マサオ「しんちゃん!」


パラダイスキング「ほーう、お友達みんな一緒か」

パラダイスキング「なるほどな。お前らまたアクション仮面を助けるとかなんとか言って、
          俺たちをつけてきたんだな」

しんのすけ「そうだゾ爆発頭!」

パラダイスキング「アフロだ、ア・フ・ロ!」


ヘクソン「……そんなガキに構うな」

パラダイスキング「ホントにいーのかァ? 実はあんたも、このガキにしてやられたことがあるんじゃねえか?」

ヘクソン「…………」

パラダイスキング「図星だな」


ヘクソン「他人に心を読まれるのは初めてだ」

パラダイスキング「あんたのとはちと違うな。俺のは野生の勘って奴さ」


しんのすけ「ぶりぶりざえもん! そんな奴らについてっちゃダメだゾ!」

ぶりぶりざえもん「……しんのすけか」

しんのすけ「!」

しんのすけ「オラのこと、覚えてるの?」

ぶりぶりざえもん「……少しだけな」

しんのすけ「あいつら悪い奴なんだよ、ぶりぶりざえもん!」


パラダイスキング「おい!」

しんのすけの体を抱え上げるパラダイスキング。

風間「や、やめ!」

ネネ「しんちゃんになにするの!」

マサオ「放してよ放してよう!」

ボー「児童誘拐の罪は、重い!」

シロ「アン!アン!」

しんのすけ「やめろなにすんだ放せこのおバカーっ!」

パラダイスキング「びいびいうるせーぞクソガキども! 用があんのはこいつだけだ」

ヘクソン「なんのつもりだ」

パラダイスキング「もう一度逢わせてやんのさ。アクション仮面にな」


ぶりぶりざえもん「しんのすけ」

しんのすけ「ぶりぶりざえもん!」

ぶりぶりざえもん「今回は、」


ぶりぶりざえもん「あきらめろ」

しんのすけ「」ポワーン


しんのすけ「いやだいやだ放せおバカー!」

ヘクソン「オカマども。扉を開けろ」

ヘクソンたちの前に、暗闇の塊が現れる。

パラダイスキング「じゃーな。このガキの教育が終わったら、また遊ばしてやるよ」

風間「し、」

風間「しんのすけェーっ!」


カスカベ市 市内


よね「それで……これから、どうするの?」

ロールシャッハ「子供たちと合流しよう」

        「あのルルという女の助けがあるならば、退かせた方が安全だ」

ロールシャッハ「……手遅れになっていないといいのだがな」


ロールシャッハ、雑踏の中を歩く子供の姿を目にする。


ロールシャッハ「ん……シンノスケ?」

よね「いや、でも格好が……」


追おうとするロールシャッハ。だがそのとき、電気屋のテレビに臨時ニュースが流れる。


団「番組の途中ですが、ここで臨時ニュースをお伝えします。」

団「サイタマ県カスカベ市にて、現在凶悪犯が潜伏中との情報が入りました」

画面に映し出されるロールシャッハの姿。


団「凶悪犯は本名不詳、年齢不詳、『ロールシャッハ』という通称のみ知られており――」


よね「はあ!?」

よね「あんたなんかやらかしたの!?」

ロールシャッハ「……覚えがない」

よね(それはウソだろ……)


団「罪状は騒擾、騒乱、傷害、器物損壊、
   および異臭物陳列罪――身長170センチ弱、
   この時期にもかかわらずトレンチコートを着用、顔に白黒のマスクを被っており……」

周囲の人々の足が止まり、徐々に離れていく。


よね「ちょ、ちょっと、誤解だって!」

ロールシャッハ「……HURM.」



日誌 ロールシャッハ記

2000年 6月29日

状況が一転した。俺が追われる身となっている。
警察だけではない。煽動された市民もともに……

なぜメディアは俺を嗅ぎつけたのか?
この国がそもそも、俺がいることをよしとしないのか。

違う。
考えられる原因は――コンピュータ・ウィルスだ。

俺の携帯電話も、グロリアのものも、すべて一様に機能していないのもそれが一因だろう。

つまり……敵の手に渡ってしまった。

シンノスケたちが心配だ。すぐに安否を確認せねば。
そしてこの電波ジャックは、俺を消そうという魂胆であることは疑いを持たない。

カスカベ一帯の人間が、俺の敵に仕立て上げられている……
頼りとなるのはグロリアと、シンノスケたち、それとルルという――


いや。それも違う。

頼りになる者など誰ひとりとしていない。
俺は腑抜けていたのかも知れない。
その甘えがこの事態をもたらしたとも言える。
俺が頼れる者は、俺だけだ。



よね「――ダメ、どこの交番もあんたの手配書貼ってるよ」

よね「有力な情報には懸賞金だって」

よね「ほんと、こーいうことだけは早いんだから……」

よね「で、この先どうするの?」

ロールシャッハ「まずは……」

ロールシャッハ「シンノスケたちを捜す」

ロールシャッハ「それしか今は……できることはない」

カスカベ市 公園


スンノケシ「ルルともはぐれちゃったし、なぜか電話も使えない……」

スンノケシ「せっかくカスカベに行くんだから、しんちゃんにも逢えると思ってたのに……」

スンノケシ「お腹空いたな……はあ」

風間「! しんのすけ! しんのすけじゃないか!」
マサオ「しんちゃん! 無事だったの!?」
ネネ「帰してもらえたのね!」
風間「……心配させやがって、このおバカ!」

スンノケシ「え? ええと、その」

スンノケシ(このコたち……ボクのことしんちゃんだと勘違いしてるんだ)

風間「その格好はなんだよ? 石油王ごっこか?」

マサオ「どうやって帰って来れたの? ぶりぶりざえもんは?」

スンノケシ「ええと、ボク、その」

シロ「クンクン」
シロ「……ウーッ」

ネネ「シロ? どうしたの?」

シロ「アン!アン!」

スンノケシ(やっぱり、犬はわかるんだ)

スンノケシ「でも、怖がらなくて大丈夫だよ」ナデナデ

シロ「! クーン」

スンノケシ「うん、よしよし」

ボー「みんな、あまり、騒がない方がいい。しんちゃん、きっと怖い思いして、ショック受けてる」

風間「そうだね、よし、送ってってやるよ!」

スンノケシ「あ、あの!」

スンノケシ「ボクはしんちゃんじゃなくて、ブリブリ王国王子のスンノケシで……」

マサオ「またまたあ、いくらなんでもおふざけが過ぎるよ」

風間「そうだぞしんのすけ。みんな心配してたんだから……」



ボー「……」グッ

マサオ「わっ」

ネネ「ちょっと、どうしたのよボーちゃん!」

スンノケシ(どうしたんだろう……なんか話し込んでるけど)

マサオ「ボーちゃん、急に襟首つかまないでよ!」

ボー「……ごめん」

風間「それでなにがどうしたってのさ」

ボー「もしかしたら……」

ボー「しんちゃん、あの人たちに、洗脳されちゃったのかも知れない」

マサオ「せ、洗脳?」

ボー「うん。パラダイスキング、しんちゃんを恨んでる。
    だから、あの暗闇に吸いこんで、しんちゃんの人格を消して、とか……」

風間「そ、そんなバカな……」

スンノケシ「あ、あのう……」

マサオ「ひいいい! し、しんちゃん!」

ネネ「でも一理あるかも知れないわね。見てよあの目。
    いつものごっこ遊びのしんちゃんの目じゃないわ」

風間「ど、どうしたらいいのかな」

ボー「とりあえず、あまり刺激しないように、お家まで送ってあげないと」

マサオ「そ、そうだね、し、しんちゃん、早く帰ろう」

ネネ「ママも心配してるわよ」


スンノケシ「いや、だからボクは……」

スンノケシ(あ、でもこのままならしんちゃんの家には行けるのか……)

スンノケシ(電話は貸してもらえるかも……)


野原家


風間「じゃ、じゃあな、しんのすけ!」

マサオ「また、また明日ね!」

ネネ「今日はゆっくり休むのよ」

ボー「……それじゃ」


スンノケシ「う、うん……」

シロ「クゥーン」

スンノケシ(結局勘違いしたままだった……)


むさえ「おうしんのすけー、奇遇じゃん、今帰ったとこ?」


スンノケシ(しんちゃんの……お母さん?)

スンノケシ(こんなに若かったっけな……)

スンノケシ「ここ、野原しんのすけくんのお家ですよね? ボクはブリブリ王国王子の――」


むさえ「なにそれ、そういう遊び流行ってんの?」

スンノケシ「いえ、遊びではなく」

むさえ「はいはい、お家に入ろうねー」

スンノケシ「あの、ちょっと」

むさえ「鍵……郵便受けに……ああ、あったあった」


むさえ「それがさーテレビ観た? やっぱりあの覆面指名手配されてるとかでさー、
     もうこのご時世誰を信じていいのやら」

むさえ「ってなわけでまたしばらく厄介になるけどー」

むさえ「ほらほらそんな暑苦しいのとっとと脱いじゃいな!」



スンノケシ(この人を説得するのは相当大変そうだな……)

スンノケシ(しんちゃんのお父さんが来るまで、待っていよう……)

カスカベ市 日の暮れる市内


風間「しんのすけ……大丈夫かな」

ネネ「記憶が戻らなかったりとかするのかしら……」

マサオ「そうなったら……どうなっちゃうの?」

ボー「精神……病……院」

風間「そんな、まさか!」


電気屋の前を通る一行。


TV「繰り返しお伝えします。凶悪犯・ロールシャッハは依然として
   カスカベ市内に潜伏していると見られ……」


マサオ「ね、ねえねえ!」


風間「ん? このニュース……!」

ネネ「あの人、凶悪犯だって!」

マサオ「僕たち、やっぱり勘違いしてたのかな」

マサオ「もしかして、この人も秘密基地の人もみんな悪い人ばかりで」

ネネ「しんちゃんがああなったのも……」


風間「そんなことないよ! きっと……」

ネネ「きっと、なんだってのよ」

風間「わ、わかんないけど……」


ボー「……」

ボー「ぶりぶりざえもんの、仕業」

ボー「あのコンピュータ・ウィルスで、ウソのニュースを流してる」


風間「ボーちゃん、それ本当!?」

ボー「……かも知れない」


すると、路地裏から声がする。

よね「君たち、こっちこっち!」

路地裏へ入っていく四人。


ネネ「おねーさん、あのマスクのおじさんは!?」

よね「大丈夫、安心して……って、どっちを信じていいかわかんないか」


よね「あいつなら無事よ。で、ニュースは嘘っぱち……ってあたしも信じてるんだけどね」

風間「あのおじさんは、今どちらに?」

よね「誰かにばらしたりしないって、約束できる?」


カスカベ市――カスカベ座 ロビー


ロールシャッハ(……しばらくはここが拠点だ)

        (市民には見つかるまい。俺ですら、再びここに来るまで苦労したほどだからな)

        (しかし、不思議だ)

        (この映画館だけ……カスカベから切り離されているような……)


ロールシャッハ(まるで…………)

        (まるで、俺のようだ)






マサオ「あれ? ここ……」

ネネ「カスカベ座じゃない? カスカベ座!」

ボー「いつのまに」

風間「ほんとにいつのまに…………こんな道だったかな?」


ロールシャッハ「遅いぞ」

よね「だって、道が全ッ然わかんねーもん。来るたびに奇跡起きてるんじゃないかってくらい」

ロールシャッハ「まあいい……シンノスケは?」



ロールシャッハ(コンピュータ・ウィルス“ぶりぶりざえもん”)

        (それが確かに、奴らの手に渡ったとのことだ)

        (シンノスケを伴って、暗闇……ブラックホールのような空間に消えた……と)

        (異空間を操る……)

        (ヘクソンだろうか? アナコンダという男か?)

        (それとも……まだ他の奴が……)

        (シンノスケは拉致され、そして戻ってきた)

        (精神に異常をきたしていた、と彼らは語ったが……)

        (……ブリブリ王国という言葉が出たのが気がかりだ)

        (ルルとは連絡が取れない。電波ジャックは依然として続いており、市内は混沌の入り口にいる)

ロールシャッハ(あのデタラメのニュースが、不安をあおり続けている……)




野原家

みさえ「しんちゃーん? 帰ってたの?」

みさえ「手洗いうがいは――って、むさえ! あんたなにしてんの!」


むさえ「やだなーねーちゃんテレビ観てないのー?
     あたしんちの隣の奴、やっぱり凶悪犯だったよきょーあくはん」

みさえ「前にもそんなこと言って! あんたそれを理由にうちでゴロゴロしたいだけでしょうが!」


むさえ「ねーちゃん! ねーちゃんはかわいい妹が凶悪犯になにされてもいいっていうの?」

みさえ「んなこと言ってるうちはなんにもされないって。ところで、しんのすけは?」


むさえ「風呂―!」

みさえ「あ、あらしんちゃん、今上がったの?」


スンノケシ「あ……」

みさえ「偉いわね、ママ帰ってくる前にお風呂入ってるなんて」


スンノケシ「すみません、お風呂までいただいてしまって」

スンノケシ(? さっきより老けた?)


みさえ「なに言ってんの、あんたの家でしょ」

スンノケシ「いやですからボクは」


ひまわり「たや?」

ひまわり「うー、うー!」

スンノケシ「あれ?」

みさえ「なーに、ひまちゃん。お兄ちゃんと遊びたいの?」

ひまわり「んー、んーうー」

ひまわり「たやい!」


スンノケシ(そうか、しんちゃんのうち……家族が増えたんだ)

みさえ「じゃ、しんちゃん、悪いけどひまわりのことあやしててもらえる?」

スンノケシにひまわりを抱かせるみさえ。

ひまわり「た!」

スンノケシ(ひまわり……女の子かな)

スンノケシ「わ……赤ちゃん! 思ったより重い……!」


みさえ「どーしたのかしらねー、今日はいつもよりお兄ちゃんがハンサムに見えるの?」

スンノケシ「ええと、その、ですから」

ひまわり「たやいたやい!」「いーい」

スンノケシ「わわ、ちょっと」



むさえ「ねーちゃーん。次あたしお風呂入っていーい?」

スンノケシ「!?」

スンノケシ(……しんちゃんのママ……二人?)


みさえ「いーけど、今日家の人帰り早いって言ってたから、ぶつかんないよーにね」

むさえ「はいはーい」


スンノケシ「あの……しんちゃんのお母さん?」

みさえ「え、なに、その呼び方」

スンノケシ「ボクです、覚えてませんか!? ブリブリ王国で……」

みさえ「しんのすけー? いくらあんたがあの王子様に似てるからって、
     そういうウソはいけません。大人がやったら捕まっちゃうのよ!」

スンノケシ「本当なん……むっ!」

ひまわり「えひひひひひ。た!」

スンノケシ(誰か……助けて……)



ロールシャッハ「……シンノスケの家はどこだ。案内しろ」

マサオ「え、しんちゃんの家に行くの?」

ロールシャッハ「そうだ。確認しなければならん」

風間「でも、待ってください。今街中から狙われてるんでしょう?」

ネネ「そうよ! 家につく前に捕まっちゃうわ!」

ボー「危険、すぎる」


ロールシャッハ「俺のことはいい」

よね「あんた、その前にそのマスクくらい脱いで……」

よね「ってちょっと! 少しは私の話聞け!」


マサオを抱えるロールシャッハ。

マサオ「ひっ!」

ロールシャッハ「案内しろ」

マサオ「なんでボク!?」

走り出すロールシャッハ。


よね「ちっ……」

風間「僕らも追い駆けよう!」

ネネ・ボー「うん!」


マサオ「降ろしてよう降ろしてよう!」

ロールシャッハ「ダメだ。時が惜しい」


「いたぞ!」「子供を抱えてる!」
「誘拐!?」


市民のあいだを走るロールシャッハ。

「とっ捕まえてやれ!」

ロールシャッハの足元へ差し出される誰かのつま先。
それを踏みつけるロールシャッハ。
「ってェ!」

「おう、待てよおっさんぶっ!」
つかみかかる者を、片端から殴り飛ばしていくロールシャッハ。


ロールシャッハ(歩道じゃ遅い……)

マサオ「え、待って待って! 車!」


車道に飛び出し、ボンネットを飛び越えるロールシャッハ。

「警察! なにやってんだよ、早くしろ!」
「おい来た来た、見ろよ!」


ロールシャッハ「!」

輸送車がサイレンを鳴らして前方に躍り出る。降りてくる機動隊員。

隊員「街ん中で、こうも暴れられるとはな」

ずらりと、行く手に盾が並ぶ。


ロールシャッハ「飛ぶぞ」

マサオ「どこへ!?」

フック銃を抜くロールシャッハ。機動隊の背後のビルへ向けて撃ち、
ワイヤーを巻き取り、車を踏み走り、跳ぶ。


「なんだおい、あれ!」

マサオ「ひいいいいいいい!」


よね「あいつ、どこに……」

ネネ「見て、あっち!」

ボー「……飛んでる」

風間「やっぱりあの人、ホンモノのクエスチョン……?」


よね「ごめん、通して!」

すると、よねの肩をつかむ男。

「おいなんだよあんた、ケーサツか? それともあいつの知り合いかよ、っつ、いてて」

男は顔を押さえている。

「どうしてくれんだこのコブ!」

よね「るせー! せーとーぼーえーだろっ!」

よね、男を突き飛ばす。


マサオ「ひいいいいいいい」

ロールシャッハ、アーケードを縫うように水平に飛び、追手をまく。


ロールシャッハ「道はどっちだ」

        「目を開けろ」

ロールシャッハ「開けるんだ」


フックがビルの屋上の手すりにかかり、もう一度大きな跳躍。


マサオ「ひいいい……ムリムリムリムリ、あ、今浮いた! 風でムリ!」

ロールシャッハ「早くしろ。お前の友達が取り返しのつかないことになる」


マサオ「ムリムリ……ムリ……」

ロールシャッハ「下を見ても落ちはしない」


マサオ(…………)

    (……しんちゃんなら、笑ってるんだろうな)

    (……し、しんちゃん!)

マサオ、目を開ける。


マサオ「!」

マサオ「す、すごいすごい、ボク飛んでる!」

ロールシャッハ「……そうだ。だから早くしろ」

マサオ「……うん、わかった!」



カスカベ市内 野原家宅へ続く路上


ひろし「ふー、今日はきっちり定時で帰れたなー」

    「しんのすけに土産も買ったし!」

    「アクション仮面とカンタムロボ、今のあいつにどっちがいいかわかんないから……
      どっちも買っちまったけど……」

    「いいさ。少しは気が晴れるよな」

ひろし「でもなんだってこんな騒がしいんだ……?」



ひろし「たーだいまーっ! しんのすけ、いるかーっ!」

みさえ「あらあなた、お帰りなさい。ごめんね、今またむさえが来てて、お風呂空いてないんだけど……」

ひろし「いーのいーの、風呂なんかあとあと!」

スンノケシ「あ、しんちゃんのお父さん!」

ひろし「おみやげだぞしんのすけ!」

紙袋をテーブルに置くひろし。


スンノケシ「あの、ボクはブリブリ王国の!」

ひろし「また懐かしい話出しやがって、冗談抜き抜き!」


みさえ「ちょっと、あなた……」

ひろし「ん?」

みさえ「今日のしんちゃん、なんだか様子がおかしいの」

みさえ「すごくいい子っていうか……シロの餌もあげてあったし、服もたたんで……」

ひろし「いいことじゃねーか。それがどうした?」


みさえ「……もしかして、ずっとこないだのこと……」

みさえ「いい子にしてれば、アクション仮面が帰ってくるとか……思ってるんじゃないかしら」

ひろし「…………」

テーブルに登ろうとするひまわり。

ひまわり「た、たやっ」

みさえ「ダメよ、これはお兄ちゃんの」

スンノケシ「よく聞いてください、ボクはブリブリ王国の」


ひろし「……しんのすけ」

ひろし「無理にいい子になろうとするな。そんなことしなくていいんだよ。
     父ちゃんと母ちゃんはな、そんなお前は見たくないんだ」


スンノケシ「……」

ひろし「……しんのすけ、開けないのか」


スンノケシ「いえ、これは…………」

スンノケシ(しんちゃん……)

スンノケシ(一体なにがあったんだろう……)


マサオ「そこ! そこの赤い屋根の家!」

ロールシャッハ「あれか」

シロ「!」

シロ「アン! アン!」


ロールシャッハ「……」ジロ

シロ「!……クウン」


ロールシャッハ、玄関をこじ開け、土足で上がり込む。


むさえ「はー、いいお湯だった!」

ロールシャッハ(!……あの女……)

むさえ「って、いいいいいい!?」

むさえ「ちょっと、来ないでよ、このストーカー!」

ロールシャッハ(……忙しい女だ)


スンノケシ(今の騒ぎ……もしかして、ルル?)

みさえ「ちょっと、なに!?」

ひろし「うわわ、なんなんだあんた一体!」

マサオ「ごめんなさいおじさん! しんちゃんに逢わせて!」

ひろし「マサオくん……!? どういう――」

ひろし「ていうかおいお前! 警察呼ぶぞ!」

みさえ「あなた! 一体なんなのよコレ!」

ひろし「こっちが聞きてえよ!」


スンノケシ「ルル?」

マサオ「いた! しんちゃん!」

ロールシャッハ「シンノスケ!」


スンノケシ(……なんだこの人!?)


ロールシャッハの腕から抜け落ちるマサオ。

マサオ「しんちゃん!?」

マサオ「ホントにしんちゃんだよね!?」


スンノケシ「ごめんなさい……でも、ボクは!」

スンノケシ「しんちゃんじゃありません! なにかの間違いです!」


マサオ「ウソだ! しんちゃんだよ! どこかおかしくなってるだけだよ!」

マサオ「お願いだから、しんちゃんって言ってよ!」


ロールシャッハ「待て」

ロールシャッハ「俺はてっきり、奴らがシンノスケに似た何者かを送りん込んだと……そうにらんでいた」

ロールシャッハ「だが、違うと自ら言い張るなら……」


スンノケシ「そうです、人違いです!」


みさえ「ちょっと、本当にどういうこと!? 説明しなさいよ!」

むさえ「ねえちゃん、凶悪犯だよ凶悪犯!」

みさえ「だからなに!」

みさえ「うちの子になにかしたっていうの!?」


ロールシャッハ「……やかましい」

ロールシャッハ「息子の顔も忘れながら母を名乗るな」


みさえ「っ……」
ひろし「……なんだとおいッ!」


そのとき、野原家の前に数台の車が止まる。

シロ「アン! アン!」

車から降りた者たちが植え込みへ侵入し、窓ガラスへ向かう。


ひろし「うっわ、今度はなんなんだよもう!」


スンノケシ「……ルル!」

ロールシャッハ「!」


マサオ「え、あのお姉さん、しんちゃんのお知り合い?」


スンノケシ「ボクは――」

ルル「――ブリブリ王国現王子、スンノケシ様です」

ルルと数名の兵士、縁側に立っている。


スンノケシ「ルル!」

みさえ「ルル……って」

ひろし「ルル……さん?」

ひまわり「たや?」

むさえ「王子……マジなの?」


ルル「王子! よかった……一時はどうなることかと……」

スンノケシ「でも、どうやってわかったの?」

ルル「王子に持たせておいた発信機を辿ってきました。ジャミングがあったおかげで手間取りましたが」

スンノケシ「ルル!」

ルル「王子!」


マサオ「どうなってんの……?」

ルル、ロールシャッハをにらみ、腰の銃を抜く。

みさえ「うわ、なになに!」

ひろし「ルルさんそんな物騒なものはしまって!」



ロールシャッハ「……」

ルル「貴様……肩書に騙されるところだったわ」

ルル「王子へ接触して、なにを企んでいた? 言いなさい」


ロールシャッハ「俺が捜していたのはそいつじゃない」

ロールシャッハ「シンノスケだ」


「――全員動くな!」


ルル「!?」

みさえ「なになに、まだなんかあんの!?」

ひろし「……ああーっ! あんときの刑事!」

みさえ「…………ああーっ!」

ひまわり「たっ!」


ロールシャッハ「……グロリア」


よね(土足)、ルルへ銃を向けている。

よね「はーっ、はーっ……」

ルル「……あなたもそうなの?」

よね「……なんかわかんないけど、そいつを下ろしなよ」

ルル「……数ならこっちが上よ」

よね「ケガしたきゃどーぞ……私の弾、どこに飛んでくかわかんないよ」

みさえ「止めてよね人んちで!」


風間・ネネ・ボー「お、おじゃまします!」

マサオ「みんな!」

風間「なにこれ……どういう状況……?」

ネネ「すっごい、映画みたい」

ボー「膠着、状態」




ロールシャッハ「……グロリア。銃を下ろせ」

よね「でも!」

ロールシャッハ「下ろせ!」

よね「断る!」

ルル「……」

よね「ダメ。今、下ろせない」



ひまわり「……う、う」

ひまわり「うええええええええええん!」

みさえ「ああ、ひまちゃん、ダメ、今泣かないで」

ひろし「……お前ら一体」

むさえ「ちょっと義兄さんまで怒らないで!」

ひろし「これが怒らずにいられるかよ!」


スンノケシ「あ、あの!」

スンノケシ「ボクは! 今、手違いでここにいます!」

スンノケシ「とにかく一度、落ちついてください!
       それからみんなの話をそれぞれ、聞き合うべきだと思います!」

ルル「王子……」

風間「しんのすけ……?」


ロールシャッハ(スンノケシ……とやらの言葉で、最悪の状況はまぬがれた)

ロールシャッハ(まるで“王子と乞食”だ。マーク・トウェインに見せたいほどだな)


よね「こ、腰抜けそう……」

ロールシャッハにもたれるグロリア。

ロールシャッハ「触るな」グイ

よね「うえ!」


ネネ「やーだ、いつもは女に優しくはないのね。ちょっと幻滅」

むさえ「いやだってあいつすげーもてなさそうじゃん」


ルル「とにかく……申し訳ありません……」

ルル「こちらの不注意で……こんな状況を作ってしまって」


テーブルに拳が叩きつけられる。ひろしのものだ。

ひろし「コンピュータ・ウィルスとか……蟻とか……核とか……」


ひろし「そうじゃねえだろうが!」

みさえ「あなた……」

ひろし「うちの息子は一体、どこに行っちまったってんだよ!」

ひろし「なあ」

立ち上がり、ロールシャッハの胸倉をつかむひろし。

よね「ちょっと……」

ひろし「うるせえ!」

ひろし「なあ、おい、あんたか? あんたのせいでしんのすけは連れ去られたってのかよ?」

ひろし「おい! おい! 答えろ!」


ロールシャッハ「お前は……シンノスケの」

ひろし「“父親”だよ!」

ロールシャッハを殴りつけるひろし。


みさえ「あなた……」

むさえ「義兄さん!」

マサオ「おじさん!」



ひろし「おい、おい、そこのテーブルの包みを見てくれよ、おい」

    「誰があれを、開けてくれるんだ?」

    「俺はあいつの喜ぶ顔が見たくて!」

    「……いつもみたいに、玄関開けたんだよ」

    「……おかしいのか、それって?」

ひろし「そんなに叶わねえ話なのかよ!?」

もう一度殴るひろし。

無抵抗のロールシャッハ。


スンノケシ「いけません、それ以上は……!」

ひろし「…………」

ひろしの目に、大粒の涙が浮かぶ。


ロールシャッハ「…………」スッ

起き上がり、ひろしの肩をつかむロールシャッハ。


ロールシャッハ「…………」


ロールシャッハ「…………必ず」


       「必ず無事に連れ戻す」


マサオ「…………」


マサオ「……おじさん!」

ネネ「マサオくん! どうしたの!」

マサオ「おじさん、本当のヒーローなんだよね?」

マサオ「あんなにびゅんびゅん、空、飛んだもんね?」

ロールシャッハ「…………」


風間「マサオくん、ダメだ――」

風間の腕をつかむボー。首を振り、

ボー「言わせて、あげて」


マサオ「ボクは、おじさんのこと信じるからね!」

    「誰に言われても、絶対に疑わないからね!」

    「だからおじさん!」

マサオ「絶対にしんちゃんを助けて、悪い奴らをやっつけてよね!」

ロールシャッハ「…………」

スンノケシ「ボクたちも、最大限の協力をいたします」

スンノケシ「お話を聞けてよかったです。ボクらの目的はすべて、いっしょなのですから!」


ロールシャッハ「…………」


「おい、ここだぞ、ここに逃げ込んだ、間違いねえ!」


よね「まずい、街のみんなが……」

いつのまにか、暴徒と化した市民が家を囲んでいる。


シロ「アン! アンアン! アン!」


ヨシリン「初めて見たときから、ずーっと怪しいと思ってたんだよねえ!」

ヨシリン「おまけに野原さんたちとまで繋がってるなんて!」

ミッチー「冴えてるう、ヨシリンッ」

ヨシリン「それほどでもないさ、ミッチー」


ひろし「くっそ、あいつら……焚きつけやがったな……」

みさえ「あなたちとにかく……お願い、早くここ離れてもらえないかしら」

ルル「すみませんが、それはできません」

ルル「暴徒となった民衆は標的の見境なく攻撃するものです。あなたたちも危ない」

ルル「特に今のような状況では、誰ひとり確固たる目的で動いてはいないでしょう」


よね「それも、あのデマばっかのニュースのせい?」

ルル「おそらく。加えて、ここまでに少し騒ぎを起こしすぎましたね」

ルル「皆それぞれ、不安がたまっていたのでしょう……」

ルル「私たちが道を開けます。みなさんは二階へ!」

よね「みんな靴持って、早く」

ひろし「あんたはさっきから人んちに土足で入ってんじゃねえ!」

みさえ「いーから急いでよ!」


むさえ「……二階?」



野原家 二階の屋根

ルル「ロープを下ろします。仲間が正面で引きつけているあいだに、裏から――」

みさえ「窓から出るの? 無理無理無理!」

ひろし「落ち着けみさえ! うちの家はそんなにでかくない!」

よね(よく言ったなこの人……)

マサオ「大丈夫、おばさん! ボクから行くよ!」

ネネ「マサオくんすごいはりきってる……」


シロ「アン! アン!」

ひろし「おおシロ、お前もちょっくら出かけるぞ!」




ロールシャッハ「……前は俺が行く。グロリア、お前はルルと後ろを固めておけ」


塀と塀の隙間を抜け、暴徒から逃れるロールシャッハ、よね、
ルルとスンノケシ、そしてしんのすけのいない野原家とカスカベ防衛隊。


ロールシャッハ(混沌だ)

        (街が飲み込まれていく)

        (来たばかりのころは……あんなにも穏やかだったこのカスカベが)

        (いや……)

        (もたらしたのは俺だ)


ロールシャッハ(“必ず無事に連れ戻す”)



ロールシャッハ(今度こそは)

        (今度こそは)

ここから新たに書いた分になります
(ここまでも推敲など細部を変えてはおります)。

すみませんが、かなり長いです。

今知ったんですがDCコレクティブルからロールシャッハのフィギュアが出るんですね……
良く動きそうな奴……死にたい……



しんのすけ「……お?」

しんのすけ「ここどこー?」

しんのすけ、両手足をしばられたまま床の上に転がっている。
周囲の暗がりが徐々に開けていく。

石造りの壁。
パステル調の毒々しい色使い。
平衡感覚の狂った天井と家具。


しんのすけ「……ヘンダー城? なんでこんなとこに」

部屋の隅に、天井から吊るされた何者かの姿が見える。

しんのすけ「アクション仮面!……トッペマ?」

二人ともひどく傷ついている。
特にアクション仮面のダメージは激しく、息も絶え絶えだ。


トッペマが目を覚ます。

トッペマ「……しんちゃんっ……?」

しんのすけ「トッペマ!」
     「んしょ、んしょ、んしょ」

身をよじり、体育座りの姿勢になる。
そのままケツだけ歩きを始めるしんのすけ。


しんのすけ「トッペマ、どうなってるの? トッペマもアクション仮面も大丈夫!?」

しんのすけ「ぶりぶりざえもんはどこに行ったの!?」

しんのすけ「ここグンマ?」


トッペマ「私は大丈夫。アクション仮面も……きっと、すぐに良くなるから」

トッペマ「聞きたいことはたくさんあるだろうけど、わかってることだけ話すね」

しんちゃん「また紙芝居で?」

トッペマ「……両手が使えないから口で言うわね」

しんのすけ「ほい」



トッペマ「しんちゃん、マカオとジョマをやっつけたでしょう?」

しんのすけ「……復活したの? メケメケZみたいに?」

トッペマ「そのとおりよ。私たちの力で喰い止められればよかったんだけど」

しんのすけ「そんでまたつかまっちゃったの? ス・ノーマンの中の人も?」

トッペマ「……ごめんね、しんちゃん」


トッペマ「オカマ魔女はもう一度、君たちの世界を奪うつもりよ」

しんのすけ「こりないヒトたちだね」

しんのすけ「で、ここはヘンダーランドなの?」


トッペマ「ええ、でも遊園地じゃないわ。奴らは復活したとはいえ、その力は弱まっていて、 
     しんちゃんの世界にヘンダーランドを移すほどの力は残ってなかったみたい。
     ここは私たちの、本当のヘンダーランドよ。
     今は奴らにのっとられてしまったけど、しんちゃんはここに連れてこられてしまったの」

しんのすけ「弱くなったならやっつけられないの?」

トッペマ「それがそうもいかないのよ。
      マカオとジョマは君たちの世界の強力な悪者を仲間につけていたの」


しんのすけ「ヘクソンとか爆発頭とか?」

トッペマ「知ってるの?」

しんのすけ「もっちろん! オラ、あいつらもやっつけたんだゾ」

トッペマ「あなた、何度も世界を救ってるのね」


トッペマ「……ぶりぶりざえもん、と言ってたわね」

しんのすけ「おお、そうだった!」

しんのすけ「オラたち、ぶりぶりざえもんを捜してたんだよ。
       そしたらあいつらが先に見つけちゃったんだ」

しんのすけ「あいつら、ぶりぶりざえもんを悪いことに使うつもりなんだゾ!」


アクション仮面「……」

アクション仮面「……しんのすけ君」

しんのすけ「アクション仮面!」


アクション仮面「ははは……また、情けないところを見せてしまったね」

アクション仮面「っつ、うう……」

トッペマ「大丈夫!?」

アクション仮面「なんの、これしき……」

アクション仮面「パラダイスキングが言っていた。ぶりぶりざえもんは電子生命体だと」

アクション仮面「奴らはそれを使って、我々の世界を破壊することなく手中に収める気だ」


トッペマ「自分たちは安全なところから、一方的に侵略するつもりなのね……許せない」


ヘンダー城 広間

玉座に座るマカオとジョマ。

その前に並ぶパラダイスキングたち。
木の人形の手のひらの上にぶりぶりざえもん。

ぶりぶりざえもん「……ヤダ」

ぶりぶりざえもん「気が向いたら世界を征服してやる。それまで待ってろ……」プー

パラダイスキング「何回言わせんだテメーこの野郎!」

ぶりぶりざえもん「さっきの偽ニュースを流してやっただろうあれは破格のサービスだそれで我慢しろ!」

パラダイスキング「握りつぶすぞテメー!」

ぶりぶりざえもん「そのあとでこのオカマたちはお前をどう処分するかな?」

パラダイスキング「ちっ……つえー者の味方ってか」


パラダイスキング「……ブタ。首を縦にふりゃこのねーちゃんがひと肌脱ぐってよ」

ぶりぶりざえもん「なに本当か!」

マホ「冗談じゃねえ! なんでブタなんかのために!」

パラダイスキング「今はつべこべ言うな!」


ぶりぶりざえもん「なんてな。ジョークだ。
          この私がたかがヒステリー女ひとりで買収されると思うなよブタ野郎!」

マホ「たかがとはなんだコラ!」

ハブ「……愚かな」

マホ「カンケーねーよーな顔してんじゃねーよ!」



アナコンダ「……どうするのかね? コントロールできんのならまるで使えないぞ」

マカオ「そうね、困ったわ……アタシたちでよければいくらでもひと肌脱ぐんだけど、ねえジョマ?」

ジョマ「んねえマカオ?」

マカオ・ジョマ「ンフフフフフフフ」

「「「………………」」」

ぶりぶりざえもん「…………」ポワーン


マカオ「ところで」

ぶりぶりざえもん「」ビクッ

ジョマ「いったいなにが不満だというのかしら?
     アタシたちが人間を支配すればこの世はもっと良くなるのよ? 多分ね」

ぶりぶりざえもん「証拠を出せ証拠を!」

マカオ「やってみれば、そのときわかるわ」


ぶりぶりざえもん「不満ならまだある!」

ぶりぶりざえもん「この私がお前たちより立場が低いのは我慢ならん!」


ジョマ「ん~、どうすればいいの~?」

ズボンを下ろし、尻を突き出すぶりぶりざえもん。


ぶりぶりざえもん「……私の尻にキスをしろ。ひとり左右一回ずつ全員な」

マホ「はあ!? できるかそんなもん!」

ハブ「よく考えろ。あれは実体じゃない」

パラダイスキング「……そーいう問題か?」


マカオ・ジョマ「しょうがないわねえん」

迫るオカマ魔女の唇!


ぶりぶりざえもん「……いややっぱりいい」

マカオ「遠慮しないでえーん」

ジョマ「んー、そうよ。オシリが腫れるくらいしてあげる」

アナコンダ「わしの代わりにアレクサンダー(ヘビ)の口でもいいかね?」

ぶりぶりざえもん「やめろと言ったぞ貴様ら!」


パラダイスキング「……こんな奴らが世界を左右するなんざ泣けてくるぜ」



広間の隅、座ったまま無言のヘクソン。
不意に立ち上がる。

ハブ「……どこへ行く?」

ヘクソン「……お前には関係ない」

ハブ「あの、ロールシャッハのマスクの男か?」

ヘクソン「だとしたらどうする」

ハブ「……死体を取りに行かせるなよ」


ヘクソン「…………」

ヘクソン「……オカマども。人形を借りるぞ」





ロールシャッハ(取り戻すべきものが二つ)

         (しんのすけと、“ぶりぶりざえもん”)

         (道中、子供たちからその品の詳細を聞いた)

         (電子生命体とも呼ぶべきそれは、自らの意志によって行動する、
          制御不能の代物だという)

         (だがそれは悪い報せではなかった)

         (子供たちによれば、初代の“ぶりぶりざえもん”は
          しんのすけの導きにより倫理を得、そののちに消失)

         (だが新たな“ぶりぶりざえもん”にも、その信念は受け継がれている……
          かすかな接触でしかないが、そう思われるという)


         (易々と敵に従うことはまずない、とのことだ)


         (問題が去ったわけではない)


         (奴が自由にならなければ、いずれにしろ世界に終末は訪れるのだ)




カスカベ座


日は沈み、夜。市内には赤色灯が瞬いている。
周囲の建物に跳ね返った光が、わずかにカスカベ座に差し込んでいる。



ロールシャッハ「……全員いるか?」

風間「番号!」
   「1!」
ネネ 「2!」
マサオ「3!」
ボー 「4!」
ひまわり「た」
シロ  「アン!」


むさえ「はいはい、いるいる全員いるー」


ひろし「ここは……カスカベ座?」
みさえ「なんでここなのよ?」


ロールシャッハ「カスカベの“穴”ともいえる場所だ。暴徒どもはまいた」

ロールシャッハ「全員中に入れ。ルル。中を頼む」


ルル「はい。さあ皆さん、こっちへ……」


ひろし「また映画の中入ったりしねーだろうな……」

みさえ「これ以上変なこと起きたらたまったもんじゃないわよ」



よね「何度も聞くようだけど、これからどうする?」

ロールシャッハ「HURM.」

ロールシャッハ「俺はロビーで待機し、奴らに備える」

ロールシャッハ「今一度襲いに来るだろう」


よね「……ブツは向こうに渡ったんじゃないの?」


ロールシャッハ「偽のニュースがいい証拠だ。ありがたいことに、
        連中は俺を脅威と見なしているらしい」

ロールシャッハ「死体を確認しない限りは、追跡を止めないだろう」

ロールシャッハ「……たとえ世界を手にしても、それを覆す者があると思っている……」



カスカベ座 シアター内


暗がりの中、ルルが懐中電灯で即席の証明を作る。

むさえ「こんなホコリくさいとこでカンヅメになるの?」

むさえ「大体なんでこんなとこまだ残ってんのよー?」


みさえ「うるっさいわね静かにして! あんただって部屋にいればよかったじゃない!」

みさえ「そうじゃなくても、今しんのすけが危ないのよ!?」

むさえ「うう……ゴメン」


風間「でも……大丈夫だと思います、きっと」

ひろし「風間くん……」

風間「ぶりぶりざえもんがいっしょですから! ほら、大袋博士の」


ひろし・みさえ「! 大袋博士のぶりぶりざえもん……」


ひろし・みさえ「……すっげー不安……」



スンノケシ「ルル、他のみんなは大丈夫?」

ルル「それが……外と連絡が取れない状態です」

ひろし「え!?」

ルル「おそらくは電波ジャックの影響でしょう」

ひろし「うわ、携帯が圏外だ……一応市内なのに」


ルル「念のため、ここからの逃走経路も確保しておきましょう」

スンノケシ「皆さんだけでも、なんとか安全に家に帰れればいいのですが――」


風間「……僕たちは大丈夫です! しんのすけが心配だもん」

ネネ「ネネも同じよ!」

マサオ「怖いけど、あのおじさんがいればなんとかなるよね、きっと!」

ボー「ボー! 僕たち、カスカベ防衛隊!」

ひろし「……みんな!」

むさえ「えー私はもう帰りたいけど、別にできることないしー」

一同「「「アアン!!??」」」

むさえ「う、うそうそ、冗談!」


ひまわり「……たや?」

ひまわり「!」





カスカベ座 ロビー


ロールシャッハ「ガリ、ガリ、ガリ……」


ロールシャッハ(……体力の消耗が激しい)

ロールシャッハ(……抑えていた痛みがよみがえってきた)

ロールシャッハ(……限界が近づいている)



よね「ねえ」

ロールシャッハ「……なんだ」

よね「あんたさっき、坊主の子にヒーローだって言われてたよね?」

ロールシャッハ「それがどうした」

よね「私もそうなりたかったんだよなー、って思って」


よね「一時はねっ? 私もうまくやれた、近づけたって思ったの」

よね「でも、いつまでも同じ速度で走れなくて」

よね「そうなることより、そうあり続けることが本当に難しいんだと思った」



ロールシャッハ「……もう終わったか?」

よね「なんだよ、人がせっかくマジな話をしてるってのに!」


ロールシャッハ「……ヒーローは誰でもなれる」

よね「……?」

ロールシャッハ「誰もがなることができ、」
        「そしてまた、誰もがなることができない」

よね「……ヒーローってなんだと思う? あんたなら知ってるんでしょ?」

ロールシャッハ「……あのニュースは、本当は間違いではない」


ロールシャッハ「俺はこのカスカベに混乱をもたらしたし、
        警察に追われることはこれが初めてじゃない」

ロールシャッハ「たとえ世界のすべてが敵に回ろうと、
        なにひとつ報われなくとも屈するな」


ロールシャッハ「……ヒーローとは……」


立ち上がり、窓の外を見る。


ロールシャッハ「最後まで、真実の側に立つ者だ」



よねもまた外を見る。

よね「!」

カスカベ座の周りを、無数の等身大の人形が取り囲んでいる。
無感情の兵たちだ。

よね「……なにあれ。全然動かないけど」

ロールシャッハ「HURM.妙だな……」

ロールシャッハ「奥に向かうぞ。連中を裏から逃がす」

と、後方から銃声。シアター内だ。

ロールシャッハ「!」

扉を開けると、中にヘクソンがいる。
ルルの首を絞め、持ち上げている。

ロールシャッハ「貴様……!」

        (……ヘクソン)

        (なんという早さだ)

        (他の者たちが硬直している……声も出さずに……)

ロールシャッハ(俺たちに気づかれぬためか。おそらくこれもこいつの能力のひとつ……)


ヘクソン「……場所を探るのに少々手こずった」


よね「表の人形は!? あんたのオモチャ!?」


ヘクソン「奴らとともに急襲するつもりだったが、どうしたわけかあの人形たちはここへ入れぬようだ」

ヘクソン「……感じるぞ。この建物自体に、なにか大きな力が働いているな」


ロールシャッハ「……その女を放せ」

ヘクソン「ならばそうしよう」

ルルの体を放り投げるヘクソン。
ロールシャッハが受け止め、荒っぽくよねにあずける。
その間に床に落ちた銃を拾い上げ、引き金を引くヘクソン。
ロールシャッハは走り、そのあとを追うように壁に弾痕が残る。

ロールシャッハ(威嚇か。当てようと思えばできるものを)

ライトに銃弾が当たり吹き飛ぶ。シアター内が暗転。

同時に、他の者の金縛りが解ける。

ひろし「う、動ける! みんな早く外へ!」

おびえた子供たちを抱えて走り出すひろし

よね「野原さん! 待って今外は――」

と、ヘクソンが弾切れの拳銃をよねの額に投げる。
よねが倒れるとともに、ひろしたちは入り口へ。


ロールシャッハ(……クソ!)

ロールシャッハ(銃声と暗闇で彼らをおびえさせ、外へ出すとは)

ロールシャッハ(……やられた……!)

ヘクソン「襲撃には慣れていると思ったが、期待外れのようだな」



ロールシャッハ(せめて、せめてこの男だけは)

ロールシャッハ「RRAAAALLL!!」

攻め立てるロールシャッハ。
当然、拳はかすりもせずに空を切る。

ヘクソン「勝算もなくただ闇雲に突っ込むとは……」

ヘクソン「失望したぞ」

ロールシャッハは追撃するがやはり平然といなされ、
重い蹴りを腹に入れられて崩れ落ちる。
ヘクソンは彼を後にし、外へ出る。


ひろしたちを人形が取り囲み、拘束する。

ひろし「わ、なんだなんだおい!」

ルル「放せ! その人たちは関係ない!」

ヘクソン「そこの子供たち」

風間・ネネ・マサオ・ボー「「「「!」」」」

ヘクソン「先ほどは逃がしてやったが……まだ首を突っ込むならただでは済まさん」

風間「……し、」

風間「しんのすけを返せ!」

ひろし「またお前かよ! くすぐりに弱いくせしてカッコつけてんじゃねえ!」

ひろし「もっかいやったるぞ! 口が裂けるほど笑わしたる!」

ヘクソン「ほう。野原ひろし。お前の頭の中には今でも」
みさえ「ああん?」

ひろし「うるせー言わせねえよ!!」



ロールシャッハ、よろめきながら彼らの前へ這い出す。
マスクの下では吐血している。
身体が、限界に近いようだ。


ロールシャッハ「UUK……」


ヘクソン「……なぜまだ立ち上がる?」

    「この街を見ろ。なにもわからぬ者たちが愚かにうめいている」

    「そして世界はさらに広く、かつ、この街よりよほど醜い」

    「お前もわかっているはずだ。この世界には終末が必要なのだと」


ヘクソン「その出来の悪い世界のために、なぜまだ闘える?」


ロールシャッハ「…………」

ロールシャッハ「……二度と失わないためだ」


ヘクソン、ロールシャッハに手をかざす。

ロールシャッハ「なんの真似だ……俺にも金縛りを……」

ロールシャッハ(!)

        (違う。そんな生易しいものではない)

        (心を読むその力で……俺の方へ侵蝕している!)



        (……俺は……)

        (……俺……)

        (…………)

ロールシャッハ、その場に力尽きる。


ヘクソン「……」

ヘクソン「……おい。そこの家族とガキどもを連れていけ」

ルル「待て!」

言葉ののちに、野原家とカスカベ防衛隊を連れた人形が姿を消す。


ロールシャッハ「――――」

ヘクソン「……この男もだ」

ロールシャッハの身体に人形がまとわりつく。

ロールシャッハはぐったりとしたまま、もう動かない。

よね、銃を構えて飛び出す。額から血を流している。

よね「ロールシャッハ!」

走りながら手を伸ばす。
だがその指先は届かずに、ロールシャッハの姿がこの世から消えていく。

よね「……そんな……!」



ヘクソン「……お前たちは残しておいてやる」

ヘクソン「……終末を楽しむがいい」

ヘクソンの姿も消え失せる。

よね「……」
ルル「……」
スンノケシ「……」



むさえ「え、なに? どうなったの?」



ヘンダー城 どこかの部屋


しんのすけ、後ろ手に縛られた縄を解こうと身をよじる。

しんのすけ「ふんっ! ふんっ! はー……ムリだゾ……」

アクション仮面「がんばれ、しんのすけ君! あと少しだ!」

トッペマ(しんちゃんの縄が解ければ……)

トッペマ(奪ったスゲーナスゴイデスのトランプを渡せる……!)



――扉が開く。


パラダイスキング「……おーい?」

アクション仮面「!」

しんのすけ「爆発頭!」

パラダイスキング「よかったなあボウズ? ほらまたアクション仮面に逢えただろ?」

しんのすけ「ヒキョー者! おまえなんかすぐにぐっちゃぐちゃの
       ぎったんぎったんのけっちょんちょんの……」


パラダイスキング「ったく、口の減らねえガキだな!」

アクション仮面「おい、その子にはなにもするな!」

パラダイスキング「……ハハハ! 俺はなにもしねーよ?」

        「ほかの奴はどうだか知らねえがな」

パラダイスキング「オカマどもが呼んでるぜ。お前ら全員こっちに来い」


ヘンダー城 広間


マカオとジョマの座る、玉座の前に並べられるしんのすけたち。

広間の左右に、彼らの部下となった者たちと、人形たち。


アナコンダ「んんん? また逢ったねえボク?」

しんのすけ「おじさん誰だっけ……?」

アナコンダ「んんんんんんん~? フフフ」

しんのすけ「……白うんこ!」

アナコンダ「返す返す思うのは」

アナコンダ「キミがあのときコミヤエツコのサインを欲しがったことだ」


アナコンダ「そのせいで、ワシはまたキミを痛めつけなくてはならなくなったよ……」


と、それをまったく無視し、いつのまにかケツだけ歩きで
マホの元へ向かっているしんのすけ。


しんのすけ「はーいおねいさんこんなところで逢うなんて奇遇だね~」

しんのすけ「これからオラとアクション仮面の逆転劇見ながらお茶しな~い?」


アクション仮面(……しんのすけくん……)
トッペマ(……しんちゃん……)

アナコンダ「……」

ハブ「おい、黙らせろ」

マホ「~~~~~ッ」

ポカァン!

げんこつ。再度並べられるしんのすけ。

しんのすけ「……軽いジョークだゾ」


と、そこへ、ロールシャッハたちを連れたヘクソンと人形の群れが現れる。
ロールシャッハは意識を失ったままだ。
しんのすけたちとともに一ヵ所に固められる。


マカオ「あらお帰りなさい」
ジョマ「早かったのねえ?」


ヘクソン「…………」

ハブ「……ほう。なかなかやるな」

ヘクソン「……お前が使えんだけだ」

ハブ「……お前とも、いずれ決着をつけねばな」


ひろし「しんのすけ!」
みさえ「しんちゃん!」


しんのすけ「おおー! 父ちゃん母ちゃんひまわりシロ!」


ひろし「くっそまたお前らか! あとお前とかお前とか!
     あ、あとそちらのお姉さんとか」


みさえ・ひまわり「……けっ!」


風間「しんのすけ!」

しんのすけ「あれ風間くんたちも……」


しんのすけ「なんだみんなつかまっちゃったのか……」
      「はーやれやれ、困ったもんですな」


ひろし「おいオカマども! さっさとうちの子を返してどっか行け!」

ひろし「そしたら今日のところは許してやる!」

ジョマ「返せと言われて返すわけないでしょーん」

マカオ「それにあなた方親子、各方面からずいぶんと恨みを買ってるみたいね」

みさえ「それはあんたたちが悪いことしてるからでしょ! 巻き込まれる方の身にもなりなさい!」


ジョマ「……ンフフ」
マカオ「……ンフフ」
アナコンダ「……グフフ……」
ハブ「……ククク……」

含み笑いが悪の中に伝染し、やがて大きな高笑いへと変わっていく。


マカオ「……ぶりぶりざえもーん? いつまで隠れてるの、出てらっしゃーい?」

人形たちの中から一人が前に出る。
手の上にぶりぶりざえもんを乗せている。

しんのすけ「ぶりぶりざえもん!」

しんのすけ「このうらぎりものー! オラのこと覚えてたんじゃなかったのかー!」


ぶりぶりざえもん「あきらめろと言っただけだこの私も妥協するくらいのことはある!」

ぶりぶりざえもん「大体山奥のあんなチンケな機材しかないところで
          コンピュータ・ウィルスになにができるというのだこの野郎!」


マカオ「ちょっと黙りなさいぶりぶりざえもん」

ジョマ「なんでこのコたちを連れてきたと思うー?」

ぶりぶりざえもん「……人質か」

ジョマ「理解が早くていいわー、賢い子は好きよ、あ・た・し」

ぶりぶりざえもん「……」

しんのすけ「ぶりぶりざえもん!」


ぶりぶりざえもん「……」

ぶりぶりざえもん「……」

ぶりぶりざえもん「……笑わせるなこのオカマども!」

ぶりぶりざえもん「仮にもこの世界最高峰のプログラムである私が人質程度で心が揺らぐと思ったか!」

         「大体にしてお前らそんな手を使わねば
           世界征服できないような連中に手を貸すほど私は安くないぞ!」


ジョマ「じゃあこのコたち、消しちゃっていいのね」


ぶりぶりざえもん「それも待て!」

ぶりぶりざえもん「私からひとつ提案がある!」

マカオ「なーによー?」


ぶりぶりざえもん「私は常に強い者の味方だ」

ぶりぶりざえもん「ところがここにいる者たちはそろいもそろって
          たかが五歳児のしんのすけとそのファミリーに敗北しているというではないか」

ぶりぶりざえもん「ならばお前たち、もう一度しんのすけたちとフェアに勝負して勝ってみろ!
          お前たちが強い者だと私に証明してみせろ!」



ぶりぶりざえもん「勝負方法は!?」

         「ダンス!?」
         「ババ抜き!?」
         「追いかけっこ!?」
         「いや!」
         「バトルロイヤル!!」


ジョマ「……いいわね」
マカオ「ステキ……」


ぶりぶりざえもん「……決まりだな。勝者に対して従おう」

ぶりぶりざえもん「私は常に強い者の味方だ!」


すると、しんのすけたちの縄や鎖が砕け散る。
さらに広間の床が変形して壁になり、しんのすけたちを取り囲み、歪な箱になる。


マカオ・ジョマ「!?」

ジョマ「……ちょっとなんの真似?」


ぶりぶりざえもん「このヘンダー城は勝手がいい」

         「私はMk-2だぞ。大袋博士はこうした超常現象にも対応できるようアップグレードしている」

ぶりぶりざえもん「この城も私にとってはデータのようなものだ」
         「そんで大体なんとなく仕組みは理解した!」
         「私を乗せているこの人形も今は私の操作下にある!」


ジョマ「……人間ってタフねえ」
マカオ「そうね。これが終わったらしっかり滅ぼさなきゃいけないわ」


ぶりぶりざえもん「時間を決めるぞ。午前〇時になったら始めてよし!」


城の外、上空に巨大な砂時計が現れる。


ぶりぶりざえもん「その間しんのすけたちには準備の時間を与える!」


ジョマ「大盤振る舞いねえ」

マカオ「今その箱ごと消しちゃってもいいんだけど?」


ぶりぶりざえもん「下がれオカマども! お前たちにもこの時間にひとつサービスを与えてやる」

マカオ「あらそう」
ジョマ「どのみちずっとサービスしてもらうことになるけどね」

しんのすけ「ぶりぶりざえもん!」


しんのすけたちを閉じ込めた箱は子供の落書きのようなロケットに変形し、
展開した天井から飛び出して、夜空に消えていく。




ぶりぶりざえもん「……あ、出口をつけるのを忘れた」


ぶりぶりざえもん「……この作戦は失敗だ」



カスカベ市内 カスカベ座


よね「……」
ルル「……」
スンノケシ「……」


むさえ「え、どーすんの? そんで?」

よね「……あんたはもう帰っていいわ」


ルル「……彼らを信じて待つしかないでしょうか?」

ルル「もはや、手出しができません」

よね「信じていいのかな。あいつ、もうまともに生きてるかもわからないし……」


スンノケシ「僕らはとりあえず、本隊と合流しましょう」

スンノケシ「今後も敵がなにかを仕掛けてくることは間違いありませんから」

むさえ「しんのすけの顔でそんな真面目なこと言われると笑えてきちゃうなー」

ルル「無礼な!」

むさえ「ウソウソ、ゴメン!」

むさえ「てゆーかねえ、さっきのあれはなに? 魔法? ねーちゃんたちどこいっちゃったの?」


よね「……そうだ!」

ルル「どうしました? なにか……」

よね「知り合いに元・魔人がいる!」


ルル「しかし、携帯が使えません」

よね「なら公衆電話ってもんがある!」


都内 スウィングボール


プルルル
サタケ「はい、お電話ありがとうございま―-」

よね「もしもし聞こえる!? 私よ私!」

サタケ「……ねーちゃん、詐欺ならよそでやんな」

よね「私よ! 東松山よね! ナリタ東西署の刑事!」

サタケ「お前か! いったいなんの……」

よね「そこにジャークいるでしょ! ジャーク! 緊急事態!」

サタケ「待ってろ。おいジャーク、電話だ!」

サタケ「なんかわからんが、ヘッポコ刑事がきんきゅーじたいだとよ!」


ジャーク「ほらみなさいあんたたち! 魔人の勘が当たったじゃないの!」

ローズ「えー、でもあのコが言ってるんでしょ~?」

ラベンダー「ただの勘違いかもしれないわね」

レモン「大体あんたに用って、なにを頼ることがあんのよ?」

ジャーク「うるさいわねっ!」

サタケ「いーからはよ代われ!」


ジャーク「ハァーイもしもし、ジャークですぅー」

よね「あんた腐っても魔人よね? あんたの力あとちょっとでいいから使えない?」

ジャーク「えー……なに、そんなこと? できたらもうなんかしらやってるわよ」

よね「そこをどうにかしてしぼり出せない?」

よね「ヘクソンがまた悪いことしてんの! そこの三兄弟も無関係じゃないって伝え」ブツッ

ツーツーツー


ローズ「なんだったのよ?」

ジャーク「途中で切れちゃったけど、」

ジャーク「ヘクソンが股を悪くしたとかなんとか……」

ジャーク「こないだカスカベの方で逃亡中ってニュースで見たけどねえ」


一同「「「「なにィッ!」」」」


ローズ「あんたなんでそれを早く言わないのよ!」

ジャーク「だってあいつ怖いから関わりたくないんだもん」

レモン「急いで準備しておにいたまっ」

ラベンダー「途中で切れたなら、マジにヤバイ状況みたいね」


サタケ「……お客様。申し訳ありませんが本日はただいまをもって閉店とさせていただきます」

客「はあ? なんだ急に!」


サタケ「おそらく世界の危機ですので」ゴキゴキ

客「あ、はい……」

客「しょ、しょーがねーな、世界の危機じゃな……」

サタケ「またのご利用お待ちしております!」ニッコリ


カスカベ市内

暴動はやや落ち着いたものの、まだ警官が多く警備にあたっている。

よね、公衆電話に向かって叫ぶ。

よね「もしもし、もしもーしッ!」


よね「……切れちゃった」

と同時に、カスカベ全域が停電状態に。

よね「……停電!?」


ルル「……おそらくただの停電ではなさそうです」

ルル「…………来ました」


路地裏から這い出して来る人形たち。

人形「「「」」」カタカタカタカタ


人形の群れが、カスカベ市内を襲い始める。
どこで銃声がし、おさまったかに見えたパニックは、再度広がっていく。


ヘンダーランド 湖の上


ぶりぶりざえもんのつくった即席のロケットが、徐々に高度を落としていく。


一同「うわあああああああああああ!!!」

速度が落ち、やがて着水する。

しんのすけ、ロケットの窓越しに外を見る。
窓の向こうでは水面が徐々に上がっていく。


しんのすけ「ふう」

しんのすけ「これで安心ですな」


ひろし・みさえ「ふう……」

ひろし・みさえ「なわけねーだろ!」


ひろし「おいおいおいこれ沈んでねーか!?」

トッペマ「……今から天井に穴をあけるわ。みんな準備して」

    「トッペマ・マペット!」

天井が砕け散り、水が流れこんでくる。


アクション仮面「みんな! つかまれ!」

子供たちを外へ出すアクション仮面。

しんのすけ「おじさんがまだ中にいるゾ!」

アクション仮面「なんだと!?」

沈んでいくロケット。
アクション仮面はひとり潜り、意識のないままのロールシャッハに手を伸ばす。


アクション仮面(反応がない……生きているのか?)

アクション仮面、ロールシャッハの身体を抱え、引っ張り出す。



波打ち際にたどり着く一行。


トッペマ「その人、大丈夫?」

アクション仮面「大丈夫だ、呼吸はしている……」


ひろし・みさえ「しんのすけええええ!!」

しんのすけ「大げさだゾ二人とも」


ネネ「ここどこ? ヘンダーランドみたいだけど」

風間「……遊園地とはずいぶん違うね」

マサオ「なんか空に砂時計が浮いてるし」

ボー「とにかく、異次元」



トッペマ「そうね、説明すれば長くなるけど……」


トッペマ「トッペマ・マペット!」

トッペマの手元に紙芝居が出現する。


トッペマ「状況の説明とここまでのお話、はじまりはじまり~」

カスカベ防衛隊「わー!」パチパチ


ひろし・みさえ「」ポカーン

トッペマ「ごめんなさいね。ふざけてるわけじゃなくて、この方が緊張もほぐれるでしょ?」


……紙芝居の絵が動く。


トッペマ「オカマ魔女の二人が復活して、またヘンダーランドを攻め落としてしまったの」

     「ここがそのヘンダーランド。
      遊園地じゃなくて、あなたたちの住むところとは別の世界。
      でも、今はオカマ魔女たちに征服されてしまってるわ」


トッペマ「それどころか今度はほかの悪者もたくさん仲間にしてるからさあ大変!」

     「おまけにあなたたちの世界を征服するために“ぶりぶりざえもん”も手に入れてしまった」

     「けど、このぶりぶりざえもんはどうやら私たちの味方をしてくれているみたい」

     「オカマ魔女たちもうまく扱えなくて困ってるところ」

     「そしてオカマ魔女たちは彼の提案を飲んで、私たちにチャンスをくれた」

     「時刻は今夜の〇時。あそこに見える砂時計の砂が落ちきるまで」

     「それまでになんとか勝つ方法を見つけないと、
      ヘンダーランドもあなたたちの世界も、完全に征服されてしまうの!」


ひろし「……んーなにがなんだかよくわかんねえが、」

みさえ「もういちどあいつらをやっつけないとならないのね」

しんのすけ「そーゆーこと! わかった!?」

ひろし・みさえ「おめーはわかってんのかよ!!」


アクション仮面「なにか作戦はあるのか? オカマ魔女の弱点とか……」


しんのすけ「スゲーナスゴイデスのトランプは?」

ひろし「そうだよ! あれがあるじゃねえか!」


トッペマ「そう。スゲーナスゴイデスのトランプ」

トッペマ、カードを取り出す。


トッペマ「私が使っても大した力はないけれど、あなたたち生きた人間ならすごい力になる」

トッペマ「だけど、ここにあるのはたったの四枚」

トッペマ「私が封印していたんだけど、残りはオカマ魔女に奪われてしまったの。
      オカマ魔女の弱点はこのトランプのジョーカーだけど、
      これもあいつらが持ってるわ」

みさえ「じゃあ勝ち目なんてないじゃない……」


トッペマ「カードはゼロではないわ。このわずかなトランプでも、
      本当に強いハートの持ち主ならば、
      なんとか奴らに近づければ大きなダメージを与えられるはず……」


しんのすけ「……よおおおしっ!」


しんのすけ「マサオくん! 君しかいない!」

マサオ「待ってよなんでそうなるのー!」

ボー「マサオくん!」

ネネ「世界の運命がかかってるのよ、なんとかしなさいよ!」

風間「少なくともマサオくんではないだろう……」


アクション仮面「とにかく、場所を移動しよう。
         敵が時間を守るような律儀な奴かどうかわからない」

トッペマ「そうね。あそこの、見張り塔まで行きましょう」
     「あそこなら、もし敵が来てもすぐにわかるわ」


ヘンダーランド 見張り塔



ひろし「郷さん、そいつ、平気ですか?」

ロールシャッハをひろしが顎で指す。

アクション仮面「……わかりません。
        私は医者ではないのでくわしくはなんとも言えないが、
        多分、非常に危険な状態かと」


ひろし「でも……そいつのせいで、しんのすけも俺たちもここにいるんですよ?」

みさえ「そんな心配しなくたって。大体にして何者なんだか」


アクション仮面「……彼は悪者ではないと思っています」

アクション仮面「ステージの上で、奴らと闘っていましたから」


ひろし「けどそれだけじゃなんともなあ……」

アクション仮面「無理もないでしょう」

        「ただ私には、どうも彼が悪人とは思えないのです。
         長く、この仕事をしてるからですかね……」


ひまわり「たや、たやい」

トッペマ「あら、あなたとは初めましてね」

しんのすけ「妹のひまわりだゾ。こっちはシロ!」

シロ「アン!」

トッペマ「ふーん、しんちゃん、お兄ちゃんになったんだ」

しんのすけ「そうだゾ。もう手がかかって大変だゾ」

みさえ「手がかかるのはあんたもでしょーが!」


トッペマ「守ってあげなきゃね?」

しんのすけ「もっちろん!」


風間「あ、あのう」

トッペマ「風間くんだったかしら? しんちゃんのお友達ね?」

風間「あの、個人的な興味なんですがね、魔法というのはどういう仕組みなんでしょうか?
    いやその後学のためにというかなんというか」


しんのすけ「かーざーまーくん」

風間「な、なんだよ!」

しんのすけ「……惚れたね?」

風間「なにを言うんだよ急に!」


しんのすけ「もう隠さなくたっていいのに。
      風間くんがマリーちゃんももえPも好きなの、みんな知ってるゾ」

ボー「魔法を使う、女の子の人形、そんなの、好きになって当たり前」

風間「だとしても僕は大っぴらにそういうスタンスは取りたくないの!」


ネネ「でも魔法なんて憧れちゃうわね」

マサオ「一度くらい使ってみたいよね」

しんのすけ「マサオくん、やっぱり君しかいない!」

マサオ「蒸し返さないでよ!」

トッペマ「あはは!」

     「でもね、魔法なんてそんなにいいものじゃないの」

     「魔法も行き過ぎると、オカマ魔女みたいに悪い心の持ち主を生んでしまうわ」

トッペマ「本当はそんなもの、存在しない方がいいのよ」


トッペマ「……作戦を考えないとね」


アクション仮面「カードが四枚、子供は危険な目に合わせられない」
        「ここにいる大人は、彼を含めて四人……」

アクション仮面「効果を試す余裕はないな……」


トッペマ「……そうね」

アクション仮面「……さあ、子供たちは眠っていなさい」

しんのすけ「えーっ!!」

アクション仮面「よく眠らない子は強くなれないぞ」

ひろし「そうだぞみんな。あとは俺たちに任せとけって」

しんのすけ「不安~……」

ネネ「しんちゃんのパパじゃねえ……」

ひろし「うう……」


――――大停電のカスカベ市内


四方で悲鳴が飛び交っている。
人形たちは人間をとらえるとそのまま包み込み、まるで吸収するようにその身に閉じ込めていく。


路地裏から通りをうかがうよねたち。

よね「ちっくしょー……数が多すぎる……」

よね「あいつらもうやられちゃったのかな……」


スンノケシ「……それは、まだだと思います」

スンノケシ「それほど強力なコンピュータ・ウィルスを使うなら、
       こんなやり方ではなく、ミサイルでも撃ちあげてしまうでしょう。
       そのための脅迫もしてくるはずです」

ルル「そうです、まだウィルスは完全に敵の手に渡ったわけではないでしょう」


よね「とは言っても……」

よね「!」


路上で、ひとりの人間が襲われている。
よね、飛び出す。

ルル「待って!」


よね「あんた大丈夫―-」

人形「「」」カタカタカタカタ

人形「「」」クル

二体の人形が同時にこちらを向く。
襲われていた方も人形だ。


よね「! しまっ――――」

そのとき、大柄な身体が人形に体当たりを浴びせて吹き飛ばす。

サタケ「うおらァッ!」

ローズ「ひょー、やるう!」

ラベンダー「あら、刑事さん」

レモン「あんたたち大丈夫?」

ジャーク「来たわよーっ! ちょっとどうなってんのこれ?」



よね「ははっ……おっせーよ!」

むさえ「なんかオカマがいっぱい出てきた……」


よね、状況を説明する。

よね「……というわけで、」

よね「ジャーク! あんたの力でそいつらの世界に行けない!?」


ジャーク「ムリ」

ジャーク「ムリムリムリムリ、ム・リ。ムーリー」


ジャーク「賞味期限切れてるって言ったでしょ? あ・た・し」


一同(……このオカマ……)イラッ


スンノケシ「……でも、本当に不可能ならここへ来ませんよね」

スンノケシ「危険だけど、できないことはないのではありませんか?」


ローズ「なにこのコしんちゃんにソックリだけどかしこーい!」

ラベンダー「知的な魅力があるわね」

レモン「将来マジでいい男になるわあ」

ルル「お前たち王子に近づくな!」


サタケ「で、どうなんだお前」

ジャーク「んー……ま、NOと言ったらウソになるわね」


一同「「「……テメエエエ!」」」

一同がジャークに襲いかかり、フクロにしかける。


ジャーク「待って待って今から教えるからちょっと待ってってばねえ!」


ジャーク「人形がその異次元から出てくるんでしょう?
     簡単よ出口の反対は入口だもの。
     そっから向こうに入っちゃえばいいのよっ」

ルル「しかし、奴らはほとんど一瞬で出てきます」

ルル「そのような隙があるとは思えません」

ジャーク「そこであたしので・ば・ん。
      そのゲートをしばらく出したままにしとけばいいの」

ジャーク「でもそうなると、」
     「あたしはほぼ間違いなくあの人形に取り込まれちゃうわねえ……」

ルル「あれに取り込まれると?」

ジャーク「だいじょーぶよ死にゃーしないわ、ただ奴隷になるってだけ」

ジャーク「そのあとどうなるかはわかんないけど、一生コキ使われるんじゃない?」


ジャーク「あれ操ってるやつ、相当性格悪いわよ」

よね「やっつけるには?」


ジャーク「それも簡単、操ってるやつをやっつければいいの」

ジャーク「あんたたちがなんとか勝ってくんないと、
      あたしも未来永劫人形のまま」

ジャーク「けれど多分、あの人形二十万相手にするよりヤバイけどね」


ジャーク「どうする? それでも行く? 勝算あんの?
     あ、ちなみに行けるのは時間的にひとりだけよ」

サタケ「俺が行こう!」

ジャーク「あんたの図体で通れるわけないでしょこのゴリラ!」

サタケ「ううう……」

よね「私が行くわ!」

ローズ「あんたが行ってどうすんのよー」

よね「なんだとコラ!」

ルル「……私が行きます」

スンノケシ「ルル!」

ラベンダー「あなた、軍人さんよね?
      私たちより腕は立つみたいだけど」

レモン「じゃ、このコは私たちがあずかっておくわ」

ルル「王子に変なことをしたらただじゃおきませんよ……」


サタケ、スンノケシを持ち上げてむさえに渡す。

サタケ「ねーちゃん、しばらくこのコを頼む」

むさえ「え、あのちょっと」

むさえ(すげー筋肉……)



サタケ「ッしゃ行くぞおらあああッ!!!」

一同「おらあああッ!!!」


路上へ飛び出す面々。その間も人形は続々と湧き出している。

襲い来る無数の人形を殴り飛ばす三兄弟とサタケ。

よね「来たわ! こっち!」

空間が歪み、人形が一体新たに姿を見せる。

つかみかかる人形を警棒で押さえるよね。
人形はまだ半身をのぞかせているだけだ。

ジャーク「いいわよ引き抜いて!」

手をかざすジャーク。歪みが、徐々に大きくなる。
ルルが飛び込もうと構える。
が次の瞬間、よねを襲っていた人形が急旋回しルルに飛び掛かる。

ルル「ちィッ……!」

ジャークもまた別の人形に捕まり、身動きが取れなくなる。


ジャーク「やばいやばいやばい!」

ジャーク「あーんもうあんたでいいわ! さっさと行きなさい!」


よね「え、ちょ、ぅわあッ!!」

よね、ヤケクソのジャークに突き飛ばされる。
異次元の扉が閉じる。


ルル「くっ……」

ローズ「ちょっとねえどうなったの!」

ラベンダー「あの刑事さんが行っちゃったわけ?」

ルル「ええ……私としたことが……」

レモン「なんでもいいけどこっちもやばいわよ!」


――押し寄せる人形の群れ。


むさえ「やばいよこっちからも来た!」

サタケ「クソ……これまでか……」


と、そこへ軽トラックが突っ込んでくる。


竜子「あんたたち、こっちだ!」

車体には“21世紀博”の文字。
荷台に、紅さそり隊の面々。

お銀「うわ、どういうメンツだ? なんかオカマばっかじゃねーか」
マリー「ジャガイモ小僧もいるし……」


ルル「! あなた、喫茶店の……」

竜子「フフフ。ふかづめ」
お銀「やってる場合じゃないよリーダー!」

竜子「ああそうだッ、ほら早く乗って!」

マリー「向こうの、21世紀博ってとこが避難所になってるんスよ。
    あそこなら何人でも入れますんで」

お銀「あたいらはまあ、ボランティアっス」

竜子「そ、そういうことだ!」

サタケ「助かったぜ美少女ども!」

ローズ「あらあんたやっぱりロリコンなの?」

サタケ「違う!」

竜子・お銀・マリー(このおっさんすげー筋肉……)


ラベンダー「でも大丈夫かしら、あの刑事さん」

レモン「ジャークはつかまっちゃったし……」

スンノケシ「……今度こそ、信じて待つしかありません」

ルル「王子……」


むさえ「こんな形でまた21世紀博に行くとは思わなかったなー……」


ヘンダーランド 上空


よね(っ……ここは……)

よね「って、うわあああああああああ!!!!!」


よね、空中に放り出され、落下していく。

そのとき、トッペマが飛来して手をかざす。

トッペマ「トッペマ・マペット!」

よね「あれ、浮いてる……?」

よね「……あー、死ぬかと思った……」

トッペマ「あなたは? 見たところ人間のようだけど」

よね「ってあんたは……人形がしゃべってる?」


トッペマ「私のことはいいわ。オカマ魔女の手下?」

よね「確かにオカマの手は借りたけど……仲間が捕まってるから助けに来たんだよ!」

トッペマ「その仲間たちが誰か、言いなさい」


よね「ええと、野原しんのすけと、その家族と、友達と、あとロールシャッハ!」

よね「連れてってくれればわかる!」

トッペマ「……みんなはあそこの見張り塔にいるわ」

よね「あのショーの、アクション仮面も?」

トッペマ「ええ。彼も知ってるなら、ずっと追いかけてくれてたみたいね」

トッペマ「ごめんなさいね、疑ったりして」


よね「いーんだよ、そんなの」

よね「それより、ここは……」


トッペマ(……そりゃそーいう反応するわよねー)

トッペマ「……もう色んな人に説明したから、大分かいつまんで話すわね」


ヘンダーランド  午前〇時、五分前の見張り塔


子供たちは眠ってしまっている。
床に並べたスゲーナスゴイデスのトランプ。
外を見つめるアクション仮面。



アクション仮面「……戻ってきた!」

ひろし「敵もですか!?」

アクション仮面「いや……あれは、敵ではなさそうです」


宙を浮かんでくるトッペマとよね。

よね「おおーい、野原さーん!!」

ひろし・みさえ「…………」


アクション仮面「野原さん、お知り合いですか?」

ひろし「いやなんていうか……」

みさえ「戦力には数えなくてもいいわ、あのコ……」

よね「どういう意味だよ!」


トッペマ「とにかく、もう約束の時間が近づいています」

よね、ロールシャッハに近づく。

よね「ロールシャッハ!」

トッペマ「彼はいったい……?」

よね「肩書はあるにはあるけど……うーん」

よね「具体的にはやたらタフな、口の悪いおっさん?」


トッペマ「死んではいないみたいだけど、もうずっと目を覚まさないわ」

よね「でも奴らと闘うなら、この人は絶対必要になるよ」

よね「あんたの魔法でなんとかならないの?」

トッペマ「今の私では、してあげられることはないわ」



ひろし「おい、そんなことより時間がやべえぞ!――」


午前〇時。

すべての砂が落ちる。

城の鐘が、ヘンダーランドに響き渡る。




ヘンダー城 広間

ぶりぶりざえもん「……時間だ!!」

寝ぼけ顔でやってくるパラダイスキング
他の者は広間に集まっている。

パラダイスキング「よーおっしゃあ、待ちくたびれたぜえ!」

マホ「あー。あんた先行ってな」

パラダイスキング「……なんだテンション低いなオメー」

マホ「睡眠不足は肌に悪いんだよ! けっ!」

パラダイスキング「そーかよ、んじゃ俺は勝手にいくぜ」

マカオ「待ちなさい!」

パラダイスキング「ああん?」


ジョマ「あんたバカね。順番に行って順番にやられるのはヒーローもののお約束じゃない」

マカオ「アクション仮面好きなのにそんなこともわかんないのー?」

ジョマ「どうせここに来るしかないんだから、それまで待っていればいいわ」


マホ「だとよ。私は引き続き仮眠させてもらうぜ」


アナコンダ「しかし、退屈で死にそうだな」

ハブ「はははアナコンダ様。魔人の身体でどう死ぬと言うのですか」

アナコンダ「不死身ジョークだよぬはははははは」

アナコンダ「だが、退屈しのぎのショーくらい用意してくれているのだろう?」

ジョマ「あたり」

マカオ「ぶーりぶりざえもーん?」


ぶりぶりざえもん「……これが最後のサービスだぞ」

と、ヘンダー城のいたるところにモニターが出現する。

モニターには、人形に襲われるカスカベ各地の映像。


ハブ「市内の監視カメラの映像か……」

パラダイスキング「ほー、なんかやべえことになってんな?」


アナコンダ「ふははははは、ほら逃げろ逃げろ……ああ、惜しいなあ」

パラダイスキング「なあ賭けようぜ。次に映る奴が逃げ切れるかどうか」

アナコンダ「なかなかの名案だな」

ハブ「では私は、あのペアルックのカップルが逃げ切れる方に20万」

パラダイスキング「あー? そりゃ大穴じゃねえか?」

ヘクソン「…………」


映像が切り替わる。
21世紀博のホールに籠城した市民たち。


ジョマ「市民の大部分はここにいるわ」

マカオ「奴らが来る直前に、こちらの光景をお届けしちゃうわよ」

ジョマ「ぶりぶりざえもん?」

マカオ「あんたも一緒に、救いのヒーローが一度に全滅するのを見て―-」

マカオ・ジョマ「絶望するといいわ」



椅子に座り込んで、瞑想したままのヘクソン。


立ち上がり、玉座の前に歩み出る。


ヘクソン「……オカマども。俺はこんな余興に興味はない」

ヘクソン「俺は先に行くぞ」

ヘクソン「……あのコートの男と、野原しんのすけと勝負がしたい」


マカオ「しょーがないわねえん」

ジョマ「いいわ。捕まえてきたご褒美ね」

パラダイスキング「なんだよ、ずりーなあ」


ヘクソン、他の者をにらむ。

ヘクソン「手を出せば俺が相手になる」

ヘクソン「もうひとつ。スゲーナスゴイデスのカードを一枚よこせ」

ジョマ「贅沢ね」

マカオ「ンでもあんたいい男だからあげちゃーう」

ジョマ「どうせあなたじゃ使えないだろうけどね」


宙に浮くカードの束。一枚がヘクソンの元へ飛ぶ。

マカオ・ジョマ「行ってらっしゃい」

広間から姿を消すヘクソン。



ジョマ「四枚、カードが足りないわね」

マカオ「あら気づいたー? またあの人形がくすねたみたいよ」

ジョマ「けれどこの方が面白いわね。牙のない獣を狩っても仕方がないもの」

マカオ・ジョマ「ククククククククク」


ヘンダーランド 見張り塔


ひろし「……誰もこねーな……」

みさえ「こっちから行くわけにはいかないの?」

トッペマ「そうですね。この、ロールシャッハさんが
      目を覚ましてくれればその際に動くべきなのですが……」


よね「……みんな、来るよッ!」

ひろし「な、なにィッ!」

子供たちが目を覚ます。

ヘクソン、ヘンダーランドの建物の間を飛び越えてやってくる。


アクション仮面、タイミングを合わせ、窓に飛び込む瞬間に拳を放つも
あっさりとかわされ、逆に顎を打ち抜かれる。

アクション仮面「うぐっ!」

しんのすけ「……お?」

しんのすけ「アクション仮面!」

飛び起きるしんのすけ。

しんのすけ「おいお前! アクション仮面になにすんだ!」

ヘクソン「…………」

トッペマ「トッペマ・マペット!」

ヘクソンが手をかざす。
トッペマの手からはなにも出ない。

トッペマ「魔法が……効かないっ!?」

ヘクソン、距離を詰めて蹴り飛ばす。

トッペマ「くっ……!」

ヘクソン「落ち着け。お前たちにはなにもしない」


よね「……?」

ヘクソン、ロールシャッハに歩み寄る。

ヘクソン「用があるのはこの男だけだ」

トッペマ「そ……その人はまだ意識が戻らないわ、なにをしようというの?」

ヘクソン「……この男の精神を見る」

ヘクソン「野原しんのすけ」

しんのすけ「」ビクッ

ヘクソン「俺と勝負だ」

しんのすけ「……う、受けて立つゾ!」

みさえ「ダメよしんちゃん!」

ヘクソン「この男は今、記憶に紡がれた夢を見ている」

     「俺はこれから、この男の精神を破壊しにかかる」

     「それが勝負だ。お前とこの男の記憶とを繋ぐ。夢を共有するのだ」

ヘクソン「その中でこの男を捜し、救い出せ」


しんのすけ「う~ん???」


ヘクソン「問題ない。行けばおのずとわかる」

しんのすけ「……わかったゾ!」


トッペマ「精神の中だなんて、いったいどうやって……」

ヘクソン、胸元からカードを取り出す。

トッペマ「……スゲーナスゴイデスのトランプ!」

トッペマ「私利私欲のためでは、その力は使えないわ!」


ヘクソン「そんな下らぬことではない」

ヘクソン「……スゲーナ・スゴイデス」


次の瞬間、カードから黒い触手が次々と伸び、ヘクソンとしんのすけを包み込む。

その塊はロールシャッハの身体に吸い込まれるように消えていく。




ロールシャッハ(――――――――――)


ロールシャッハ(――――――――――)


ロールシャッハ(――――――――――)


ロールシャッハ(――――――――――)


ロールシャッハ(――――――ここは、)


ロールシャッハ(俺は、どうなったのだ)


ロールシャッハ(魂が、身体を離れていく感触があった)



目を開く。


ロールシャッハ(!)


――――ニューヨークの街。



ロールシャッハ(……ここがあの世か?)

ロールシャッハ(それとも再度、新たな地に飛んだのか?)

ロールシャッハ(…………日誌はある)



「ロールシャッハ!」


誰かが呼ぶ声がする。


振り向くロールシャッハ。
そこにいるのは、二人の不良だ。


「ロールシャッハ!」



「おめえに言ってんだよこのチビ!」

「なんとか言えよこの馬鹿!」


ロールシャッハ「……」

        「…………」
        「…………」
        「…………」
        「…………」
        「…………」

        「…………で、でも俺……」
        「……買い物に行かないと……」



――ウォルター「母ちゃんのお使いで……」


いつのまにか彼の姿は、赤毛でそばかすの、十歳の少年となっている。



タバコの不良(リッチー)「おめえの母ちゃんの欲しがるモノなら知ってるぜ!」

帽子の不良「マジでおめえの母ちゃん淫売なのか?」

ウォルター「どいてよ、行かないと……」

帽子「どこにも行かせねえぜ、これでもくらいな」

ウォルターの顔面へ押しつけられる、かじりかけの果実。
少年の顔が、怒りに染まっていく。


――ニューヨークの街路で、目を覚ますしんのすけ。


しんのすけ「お?」

しんのすけ「ここどこ? カスカベ?」

しんのすけ「うーん、なんか大事なことがあったような……??」

しんのすけ「うーん、うーん」

しんのすけ「……おお?」



しんのすけ「ねえねえなにしてんの? カツアゲ?」



帽子「あーん?」
タバコ「んだァこのガキ……」


しんのすけ「オラ知ってるゾ、こうやるんだよね」グイッ
      「『いーもんもんじゃんじょん』」

しんのすけ「ねえねえ、されてる方はどんな気持ち? ねえ今どんな気持ち?」


ウォルター「えっ……どうって……」

しんのすけ「髪の毛赤いけど、キミも不良?」

ウォルター「いや……違……」

しんのすけ「んもーう、率直な意見を述べられないと将来苦労するゾ。とーちゃんいつも言ってるゾ」


帽子「おいおい、急に割り込んできてなんのつもりだよ?」

しんのすけ「世知辛いおじさんたちの社会の観察をしようと思いまして」

タバコ「おじっ……俺はまだ15だ! クソガキ!」

しんのすけ「うっそー、その顔で15歳!? やだーサバ読むにも無理がありますわよねー奥さん」

ウォルター「奥さん……俺?」


タバコ「うるっせーな、どうでも俺はまだ15だ!」

しんのすけ「でもタバコ吸ってるゾ」

タバコ「タバコがなんだよ、ガキじゃねーンだ俺たちゃ」


しんのすけ「じゃあやっぱりおじさんじゃん」

タバコ「……このガキィ!」


しんのすけ「おおっといけない! 時間に遅れる」

帽子「んだあ、時計持ってるなんざ金持ちのガキか?」

しんのすけ「いいでしょー。ロレックスって言うんだぞ」

帽子「……サインペンで描いただけじゃねえか」


しんのすけ「じゃ、そういうことで」

タバコ「待てよ、さんざんおちょくりやがって……」

しんのすけ「えー、でもオラ、大事な人を捜してるからおじさんたちにかまっていられませんので」

タバコ「どこも行かせねえよ、二人まとめて……」


警官「お前ら、そこでなにしてる?」

帽子「やべえポリだ、逃げろ!」

警官「待て、おい!」

タバコ「置いてくなよ!」「走れ!」

しんのすけ「ほうほう……大人はオマワリさんに追いかけられると」

しんのすけ「……将来不安だなあ」


しんのすけ「さてと、長居は無用ですな」

ウォルター「ま、待ってよ」

しんのすけ「え、なに? もしかしてオラのサイン欲しいの?」

ウォルター「いや、そうじゃなくて……あ、ありがとう、助かったよ……」

しんのすけ「礼ならいらない、アメなら欲しい」


ウォルター、ポケットを探る。

ウォルター「……ごめん、なんにもあげられないや」

ウォルター「……人を捜してるの? さっき言ってた、お父さん?」


しんのすけ「おお、そうだった」

      「んーとねー、シャッちゃんっていう人。
        茶色のコート着て、しましまのマスク被ってるの」


ウォルター「……変わった人を捜してるんだね」

しんのすけ「ほんとほんと、もう信じられないくらい変な人」


ウォルター「キミが言うってことは、すごく変なんだろうね」

ウォルター「……ごめん、でも俺、そんな人知らないんだ」

しんのすけ「ほおほお、じゃ、そういうことで」



しんのすけ「……」


しんのすけ「なんでついてくるの?」

ウォルター「……いや、キミってすごいなあと思って」

しんのすけ「どこらへんが?」キリッ

ウォルター「うーん……なんだかわかんないけど、なんとなくすごい」

しんのすけ「いやァ、それほどでもォ」

ウォルター「……」


しんのすけ「オラ野原しんのすけ。あんただれ」

ウォルター「俺?」

      「俺は……」


ウォルター「ウォルター……ジョセフ・コバック……ス」


しんのすけ「ずいぶん長いお名前ですなあ」

ウォルター「……そうかな?」


しんのすけ「んー……ウォーちゃんとジョーちゃんとコバちゃん、どれがいい?」

ウォルター「え? ああ、ニックネームか……」

ウォルター(考えたことも……なかった)


しんのすけ「どれがいい?」

ウォルター「……なんでもいいよ」

しんのすけ「じゃあ決まり、フーちゃん」

ウォルター「全然違うじゃんか!」

しんのすけ「なんでもいいって言ったゾ」

ウォルター「言ったけども……」

しんのすけ「ジョセ、フゥ~、から取ったんだゾ」

しんのすけ「なんだかステディな感じがしない? ジョセ、フゥ~、ちゃん」


しんのすけ「オラのことは特別にしんちゃん、って呼んでもいいよ」

ウォルター「あ、ありがとう、しんちゃん……」

しんのすけ「フーちゃん!」

ウォルター「……しんちゃん」


陽が沈んでいく。


ウォルター(あれ?)


土手を歩く二人のシルエット。


河川が真っ赤に染まっている。


川は二つの街を分断している。

一方にはニューヨーク。一方にはカスカベ。


ウォルター(俺、今どこにいるんだろう?)


しんのすけ「うーん、なんか大事なことを忘れてるような……」


      「よーしこーなったら!」


      「わすれよお~っと」

しんのすけ「……かーえろっと」


ウォルター「帰るの?」

ウォルター「どこへ?」


しんのすけ「どこってキミィ、自分んちに決まってるでしょ」


ウォルター「そうか……そうだよね」


ウォルター「じゃあね、しんちゃん」

しんのすけ「バイバーイ」


しばらく歩き、ふと振り向くしんのすけ。

しんのすけ「……お?」


引き返す。その先で、ウォルターが立ったまま動かずにいる。


しんのすけ「……どしたの?」


ウォルター「なんだか……帰りたくないんだ、家に……」

しんのすけ「おお!?」

しんのすけ「いけないよ、オラたち、まだ知り合ったばかりじゃないか……!」

ウォルター「え?」


しんのすけ「でもキミがどうしてもって言うなら……オラ……オラ……」


ヘンダーランド 見張り塔


全員が、静止したロールシャッハの身体を見守る。


よね「……どうなったの……?」

トッペマ「わからない……」

みさえ「しんのすけ、どこに行ったのよ!?」


トッペマ「この方の精神の中にいることは間違いありません。
      でも、こんなカードの使い方は私も見たことがない」

トッペマ「それができたのは、あの男が超能力者であることと
      関係あるのかもしれません」

トッペマ「……あの男も、悪い意味で非常に強いハートの持ち主でした」


ひろし「そんなことよりどーなるんだよお!」

ひろし「しんのすけが夢の中で人探しだと?
     絶対無理に決まってんだろそんなもん!」


アクション仮面「精神を壊すと言っていたな。
         もしかすると、しんのすけくん自身も危ないかもしれん」


トッペマ「……同じように、彼の精神に入ることができれば……
      手助けができるかもしれません」


よね「……私が行く。カードの使い方を教えて」

トッペマ「ダメよ。本当にできるかどうか確証がない」

風間「そのトランプも、四枚しかないんですよね?」

よね「それでも彼がいなければ、絶対に勝てないわ!」


トッペマ「……使い方は簡単よ。カードを手にして、スゲーナ・スゴイデスと唱えればいいだけ」

トッペマ「でも、本当にカードの力を信じる心がなければ効果は全くないわ」


トッペマ「上辺だけで信じると願っても意味はないのよ」


アクション仮面「……そうとも。私もいまだ、完全に信じる気にはなれていない」

アクション仮面「テレビの中とは違うのだという気持ちが先走っている……」



よね「アクション仮面……さん?」

   「彼はね、こう言ってたわ」

   「ヒーローとは、最後まで真実の側に立つ者だ、って」

よね「私は信じるよ。ほかに道がないならね」


よね、カードを手に取る。深く息を吸う。


よね「…………スゲーナ・スゴイデスッ……!!!」



――――野原家

しんのすけ「おっかえりー!」

しんのすけ「なんだか、ずいぶん久しぶりな気がしますな」


みさえ「……ただいま、でしょ! あれ? その子は?」

しんのすけ「フーちゃん! カツアゲにあってたところをオラが助けたの」

みさえ「コラ、あんたって子は、またそんな危ないことして!」

しんのすけ「終わりよければすべてよし、情けは人のダメテラス」

みさえ「ためならずよ」

しんのすけ「そうともいうー」



しんのすけ(んー……まだなんか大事なこと忘れてるような……)

しんのすけ「はっ、アクション仮面!」

しんのすけ「そーそー! アクション仮面はじまっちゃう!」


ウォルター「あ、あの、えと……」

みさえ「えーと、ずいぶんお兄さんのお友達ができたのね」

みさえ(こう言っちゃなんだけど……なんだか汚い格好だし……
    あんまり健康そうに見えないわ)

みさえ(家出……とかなのかしら)

ウォルター「ええと、その……」

みさえ「よそのうちに入るときは、『おじゃまします!』よ」

ウォルター「お、おじゃ、おじゃまします」


ひまわり「た」

ウォルター「赤ちゃん……」

ひまわり「むー……んっ!」プィッ

ウォルター「……」

しんのすけ「あー、こら、ひまわり!」

      「お客さんに失礼な真似しちゃダメッ」ボソッ



みさえ「しんのすけー、シロに餌あげたの?」

しんのすけ「あとでー、アクション仮面がはじまるの!」

みさえ「ほんと、アクション仮面となるとああなんだから……」


シロ「……クゥン」

ウォルター「……」ジィー

シロ「ン! アンン……」


しんのすけ「アクション仮面、観るでしょ?」

ウォルター「……アクション仮面?」

しんのすけ「もしかして、アクション仮面知らないの?」

ウォルター「え……う、うん」

しんのすけ「よし、じゃあ今日からキミもファンになりたまえ」ピッ


アークショーンかーめーん
せいぎのかーめーんー
ゴッゴッゴー レッツゴー!


ウォルター(アクション仮面……)

ウォルター(スーパーマンとか、ナイトオウルみたいなものかな)

アクション仮面「正義は勝つ! ワーッハッハッハ!」
ミミ子「ワーッハッハッハ!」

しんのすけ「ワーッハッハッハ!」

しんのすけ「ほら、君も一緒にやりたまえ」

しんのすけ「ワーッハッハッハ!」


ウォルター「…………ワーッハッハ」

ウォルター「ワァーッハッハッハ!」


みさえ「あなた、お夕飯食べてく?」

ウォルター「いや、でも」

みさえ「いいのよ、遠慮しないで。なんなら泊まってってもいいけど」

    「そのときはお家にお電話だけ入れときなさい」




電話の前に立つウォルター。

「…………」カチャ

「………………」ガチャリ

みさえ「あら、終わった? お家の人、いいって?」

ウォルター「…………はい」


しんのすけ「ハンバーグの中にタマネギとピーマン入れるなんて卑怯だゾ!」

みさえ「好き嫌い言う子がいけないの! フーちゃんを見なさい!」

しんのすけ「フーちゃんはオラよりお兄さんだからいいんだもーん」

ウォルター(ハンバーグ……おいしいな……)

みさえ「そんなこと言うんだったら、フーちゃんにうちの子になってもらおうかしらー」

しんのすけ「ええーっ!」

みさえ「言うことの聞けない子はママの子じゃありませんー!」


――ダァン!

しんのすけ「」ビクッ
みさえ「え?」


テーブルを叩いたウォルター。

しんのすけ「ふ、フーちゃん……?」

ウォルター「……」


ひまわり「……えっ、えっ……」

ひまわり「うええええええん!」


みさえ「ちょっと、いきなりどうしたの?」

ウォルター「え……や……」
      「なんでも、ないです…………」


みさえ「あーよしよし泣かないで、いい子だから」

ひまわり「ええええん、ええええん!」


みさえ「おどかさないで、ひまわりはまだ小さいんだから……」

ウォルター(赤ちゃん……)

しんのすけ「もう、母ちゃんはひまわりが泣くとすぐこうなんだから」

みさえ「あんたもあたしもこうだったの! あんたのアクション仮面とはわけが違うのよ」


ウォルター(しんちゃんも……しんちゃんの母ちゃんも……)

ウォルター(……俺も……)


ひまわり「ひっ、ひっ、ひっ……」

ひまわり「……たあい」

ウォルター(あの子……笑った)



みさえ「――えー、遅くなるって? はい、はいはい、わかったわよ。
     ああ、ええと、今しんのすけの友達が遊びに来てるんだけど……」

みさえ「どうも複雑な家庭の子みたい……ううん、なにもおおごとにしたいわけじゃないの。
     でも、年頃の子みたいだから……」

みさえ「あなたに、話を聞いてもらいたかったんだけど……」




――ウォルターとしんのすけ、チラシの裏に絵を描いている。


しんのすけ「それなんの絵?」

白紙の一面に、黒の対称形。


ウォルター「……ん? なんだろう。描いてるときは覚えてたような……」

ウォルター「……なんだと思う? なんに見える?」

しんのすけ「ただの染みにしか見えないゾ」


ウォルター「そう……なんだけど……なにか、別なものを描いていたような」

ウォルター「なんでもいいんだ。なにか、似ている形はない?」

しんのすけ「うーん……」

しんのすけ「うーん……うーんうーん!」


ウォルター「ごめん……無理して考えなくてもいいよ」

しんのすけ「はー、頭使わせないでよまったくもう」


ウォルター「しんちゃんのそれは……? ブタ?」

しんのすけ「ブタじゃないよ。ぶりぶりざえもん」

ウォルター「なに、ぶりぶりざえもんって?」

しんのすけ「ぶりぶりざえもんは、救いのヒーローなんだよ」

ウォルター「ヒーロー?」

ウォルター「それって……アクション仮面みたいな?」


しんのすけ「うーん……多分ね」

ウォルター「アクション仮面と、どっちが強いの? カンタムより強いの?」


しんのすけ「うーんうーん……うーん……」

しんのすけ「一番弱いゾ」

ウォルター「弱いのにヒーローなの?」

しんのすけ「ぶりぶりざえもんはよわっちいけど、
      アクション仮面もカンタムロボもどうにもならないとき、
      みんなをお助けしてくれるんだゾ」

しんのすけ「だから弱くても、救いのヒーローなの」

ウォルター「……変なの」


しんのすけ「むかーしむかし」

ウォルター「え?」

しんのすけ「オラが考えた、ぶりぶりざえもんの物語」

しんのすけ「むかーしむかーし、
       おじいさんとおばあさんがあちこちにいましたが、
       ぶりぶりざえもんというブタは、一匹しかおりませんでした――」



みさえ「……ちゃんとよく洗いなさいよー」


風呂場


ウォルター(お風呂は……なんだか好きじゃないな)

しんのすけ「さっき、なんで怒ったの?」

ウォルター「だって……しんちゃんの母ちゃんが……
       しんちゃんをいらないって……」

しんのすけ「はあーやれやれ。子供だなあキミは」

しんのすけ「本気で言ってるわけないでしょー。あれはただのし・つ・け」

しんのすけ「つきあってあげるのも大変なんだゾ」


ウォルター「……」

ウォルター「……俺の母ちゃんは、本気で言うよ」


しんのすけ「またまたー」

ウォルター「……」
しんのすけ「……」


しんのすけ「……マジ?」

ウォルター「うん。だからお父さんは、母ちゃんに追い出されちゃったんだ」

しんのすけ「……ほお、ほお……」

ウォルター「でもお父さんはすごい人なんだ。国のために闘った、立派なお父さんさ」


しんのすけ「うちの父ちゃんは全然立派じゃないよ。すぐ酔っぱらうし足は臭いし」

しんのすけ「母ちゃんだってげんこつ! も、ぐりぐり! もするし」

しんのすけ「でもオラは父ちゃんも母ちゃんも、ひまわりもシロもみんな大好きだゾ」


ウォルター「……うらやましいな、しんちゃん」

しんのすけ「フーちゃんは、フーちゃんの母ちゃんのこと嫌い?」

ウォルター「…………」

      「わからない」


みさえ「あら、上がったの? ごめんね、うちあなたくらいの子がいないから、
     パジャマ、パパのでいいかしら?」


ウォルター「あ……ありがとう……ございます……」


ウォルター、パジャマを顔に当てる。

ウォルター(……お父さん……)

しんのすけ「……くさくない?」

ウォルター「ううん」

      「とても、いい匂いだよ」


寝室


ウォルター「しんちゃん」

しんのすけ「なあに、フーちゃん」


ウォルター「また、しんちゃんのうちに来てもいいかな……?」

しんのすけ「いつでもOKだゾ」


しんのすけ「今度、アクション仮面の映画観ようね。
       オラがアクション仮面をお助けした話、してあげる」

ウォルター「アクション仮面を助けたの? ホントに?」

しんのすけ「……もしかして疑ってる?」

ウォルター「んー……ちょっとね!」

しんのすけ「それだけじゃないゾ、オラだって、カスカベ防衛隊の一員だもん、
       救いのヒーローだもん、何度も、何度も、世界を、お助けしたんだゾ」

ウォルター「……すごいや」


しんのすけ「フーちゃんも、カスカベ防衛隊に入りたい?」

ウォルター「カスカベ防衛隊は、なにをするの?」

しんのすけ「カスカベの安全をお守り……ふわァ……するんだゾ」

ウォルター「俺はできないよ、そういうの」

しんのすけ「できるゾ。オラたち、ほんとに、何度も……世界の危機を救ったんだゾ」

しんのすけ「ほんとにほんと、ほんと……だゾ……Zz」

ウォルター「しんちゃん……」

しんのすけ「……Zzzzzzz」


ウォルター「ほんとに……キミはすごいな」



ひろし「――たーだいまー」

みさえ「あら、ホントに遅かったのね」

ひろし「いやー、ほんと今日は疲れた。ん、この靴……例の、しんのすけの友達のか?」

ひろし「ぼろぼろのズックだなー。そういや、俺も昔こんなの履いてたっけ……」

ひろし「んでー、その子は?」

みさえ「それが……」


しんのすけ「Zzzzzz……」
ウォルター「Zzzzzz……」


ひろし「ははは。もうすっかり寝ちゃってるか。でもしんのすけの友達にしちゃ、確かに大きいな」

    「どっちかっつうと、兄弟だな」

    「俺が俺の親父になって……ガキの俺を見てるみたいだ」


みさえ「でもホントにこの子、虐待を受けてるとかなら」

ひろし「そりゃいくらなんでも、考えすぎじゃないのか?」

みさえ「万が一ってこともあるじゃない」

ひろし「……俺は未だに、望まれずに生まれる子供ってのが信じられねえよ」


シロ「アン! アン!」

みさえ「あれ、シロ……ゴハンはちゃんとあげたのに」

そのとき居間のガラス戸が割れる。
侵入してくる、ネグリジェの大女。


「……ウォオオオルタアアアアアアア」


ウォルター「……」ピク


ひろし「え、おお、おいなんだあんた急に!」

みさえ「なんなのよ人んちのガラス壊したりして!」

シルビア・コバックス「ウォルタアアアア! どこ!」

しんのすけ「……お」ムニャ

起き上がるウォルター。よろよろと居間へ歩く。


ウォルター「……」

ウォルター「か、母ちゃん……」


ひろし「母ちゃん?」

シルビア「ウォルター! この、この、クソガキがあああ」

しんのすけ「……なになにー?」


みさえ「しんちゃん出てきちゃダメ!」

ひろし「おー、おいあんた! 人んちに上がり込むのみならず自分の子だなあ!」

ひろし「お? なんだ、やるのか? 俺はこう見えて卓球やってたんだぞ卓球!」         
    「みんなからは人間凶器のひろちゃんとをろあッ!」


しんのすけ「おお、父ちゃん弱い……」




ウォルターは立ち尽くしたまま動けずにいる。
“母ちゃん、ごめんよ”
そう言おうとしたが、顎は震えて言葉にならない。


シルビア「ウォルター! ウォルター! ウォルター? クソガキ?
      クソガキクソガキクソガキいいいいいいいいい、
      生むんじゃなかった? 生むんじゃなかった!
     “さっさと殺しておくんだったよ”!」


ウォルターに迫るシルビア。
そこへ割り込むひろし。

ひろし「キミ、危なーっひでぶ!」
殴られるひろし。

ひろし「ちっくしょー、これでどうだ!」
靴下を手にはめるひろし。
殴られるひろし。

ひろし「うわわわわわ! き、効かねー!」

しんのすけ「父ちゃん!」

ひろし「父ちゃんは平気だ! 引っ込んでろあわびゅっ!」
殴られるひろし。

しんのすけ「かっこ悪いゾ」

ひろし「ど、どうせ俺はカッコ悪い親父さ……」


ウォルター「とう……ちゃん」


みさえ「しんちゃん! 警察呼んで! 110番よ、わかるでしょ!」

しんのすけ「ぶ、ぶっ、ラジャー!」


そのとき、窓から二人目の女が突っ込み――


よね「警察ならここだあ! おらおらおらおらあああ!」


シルビア・コバックスへ当て身を喰らわせる。
倒れ込むシルビア。


しんのすけ「おお、なにしてんのこんなとこで!」

よね「あんたこそなにやってんのよ! 夢の中でさらに寝てどうすんの!」


しんのすけ「お?……お……おおおお! そうだった!」

しんのすけ「くうー! オラとしたことが!」


シルビア「クソガキ、クソガキ、クソガキイイイイイイイ」

シルビアの体中の関節が、ぐしゃぐしゃとメチャクチャな方向へ暴れている。

ひろし「うえ、なんだこいつ! 人形か!?」


よね「バケモノめ!」

よね、銃を撃つが、やはり誰にも当たらない。

よね「ちっ、ほらさっさと行くよ! あんたまで戻れなくなる!」


しんのすけ「でも父ちゃんと母ちゃんが!」

よね「夢の中だけよ! みんなあんたの心の幻!
    帰ったら、すぐにまた逢えるから!」


シルビア「クソガ、クソ、クソガキキキキキキキキキキ」グルングルングルン

シルビアの振り回す腕がウォルターに、向かっていく。


ウォルター(母ちゃん、母ちゃん、俺……本当は)

ウォルター「かあ……」


しんのすけ「フーちゃん!」

しんのすけ、ウォルターの手を引く。


よね「その子は!?」

しんのすけ「この子も一緒に行くの! ちゃんと本物のオラのうちにご招待するんだゾ!」


よね「とにかくあんたは肩につかまんな!」

しんのすけ「ほっほーい!」


よねにおぶさるしんのすけ。よねはウォルターの手を握る。

よね「キミ、走れる?」

ウォルター「うん」
      「お姉……さんは?」


よね「ふふーん」

よね「ナリタ東西署の正義の味方! グロリアこと東松山よね!」

よね(決まった……)

ウォルター(正義の、味方……)



よね「って、やべ、こうしちゃいられない、走って!」


シルビア「のおおおおおうナナナしいしいしい」グルグルグルグル

シルビア「自分がなにしたたたゴゲベガガキキキキキキたたたた」


ウォルター(母ちゃん)


走り出す三人。


ひろし「しんのすけ!」

みさえ「しんちゃん!」


しんのすけ「父ちゃん母ちゃん、オラ大事な用事思い出したから行ってくるね!」

しんのすけ「ちゃんと帰るから、ひまわりとシロにもよろしく!」



しんのすけ「じゃ、そういうことで!」


カスカベの街、その向こうにニューヨークの摩天楼。
そのあいだに樹々のように生え始める、ヘンダーランドの建造物。


よね「まずい……どんどんメチャクチャに……」


しんのすけ「で、おじさんは?」

よね「あんたが捜してたんじゃないの!?」


しんのすけ「……」

      「あちゃー」

よね「あちゃーって、おい!」

よね「きっとまだ……どこかに……」


しんのすけ「そういえばさー、フーちゃんちってどこ?」

しんのすけ「最初にいた、あそこのビルのどれか?」


ウォルター「……わかんない……」


よね「最初にいた……?」

よね「それってどこよ!?」

しんのすけ「うーんとねー」

しんのすけ「あのへん」


摩天楼を差すしんのすけ。


よね「クソ、あんな遠くかよ、クッソ!」

シルビア「クソガキイイイイイイイ」

よね「くっ……」

   「しつこいぞコラ!」

よね、シルビアの人形の顔面へ鉄拳を見舞う。
壊れた顔面へ、続けて警棒を突き刺す。


よね「いってえー! 固いっての」


シルビア「壊れちゃう壊れちゃう壊れれれれ」カタタタタ


ウォルター(母ちゃん?)


しんのすけ「また来るゾ!」

後方から、人形の行進が来る。
ヘンダー君の着ぐるみが先頭に立ち、指揮を執っている。


ヘンダー「ヘンだヘンだよ、ヘエエンダアアアラアンドオオオオ」
人形「」「」「」カタタタタタタタタタ


よね「ちっくしょー! もう、なんでもいいからどうにかしてよ!」

しんのすけ「前前前!」

前方から車が突っ込んでくる。運転席には人形。

よね「しめた!」

銃を構える。

よね「リラックス!」

しんのすけ「ほい!」フゥ

よね「あ、ああん」ダァン!

銃弾は、人形の額の中心を正確につらぬく。

よね「よしッ!」
しんのすけとウォルターを抱えて、よねは横転。

車は追っ手の人形の隊列を跳ね飛ばし、そして止まる。


よね「乗るわよ!」

車に乗り込む三人。飛びかかる人形。
よねはUターンさせて人形を振り払い、摩天楼へ向けて走らせる。


よね「ひとまずは安心、と……夢の中だとうまくいくのねー……
    これマジにやったら強盗に殺人にひき逃げか……」


しんのすけ「でもさー、なんでカスカベにヘンダーランドも
       あんな高いビルもあるの? 夢の中だから?」

よね「かもね。あのトッペマって子が言ってたわ。夢の中というか、記憶の中みたいな。
    で、あんたたち二人の記憶が絡み合ってるとかなんとか」

しんのすけ「なんでおねいさんの街は出てこないの?
       あんまりいい思い出がないとか?
       学生時代に初恋の人に手ひどく振られて――」

よね「私のことはどーでもいいわッ!」


ウォルターは窓を見つめている。

窓の外と、窓に映る自分の顔を交互に見ている。


(母ちゃん)

(あの母ちゃんは?)

(人形?)

(俺の、本当の母ちゃんは……)


(…………………………)


(……そうだ。母ちゃん、あのね)

(母ちゃんじゃない、母ちゃんに逢ったよ)

(ハンバーグ、おいしかった)


(母ちゃんに抱えられて、赤ちゃんが泣きやんで)

(笑ったんだ。魔法みたいだった)

(赤ちゃんは、すごくきらきらしてたよ)


(俺に吼えてこない犬もいたんだ)

(俺、怖くて触れなかったけど、今度は絶対触れるようになるよ)


(父ちゃんの匂いもかいだよ)

(いい匂いだった)

(俺の家にはない匂いだったよ)


(父ちゃんって、すごくかっこいいんだ)

(何度も俺を守ってくれたんだよ)

(でも俺のお父さんはきっと、もっともっとかっこいいよね)


(なんでって、友達ができたんだ)

(すっごく変な子なんだ)

(でも、すっごい子なんだよ)



(それでね、母ちゃん)

(一番すごいのはここからなんだ)

(俺、ヒーローを見たんだ)

(ひとりじゃないんだよ)


書き割りのような夜空に、月とヘンダー城の尖塔のシルエットが映っている。
城はみるみる規模を増し、摩天楼がその下で、地下茎のように埋もれている。


(母ちゃん)

(母ちゃん)

(母ちゃん……帰らなくちゃ)


(でも俺、今、どこへ……)

(…………どこ?)


(どこ……どこ、じゃない)

(ここは……あの光景は)



ウォルター「止めて。止めてくれ」

よね「は? あんた一体――」

ウォルター、車から飛び降りて走り出す。


裸足のまま、混沌のニューヨークを駆け抜けるウォルター。


廃墟になりゆく街の中で、人々が言葉を交わしている。


人形かどうか定かではない。

顔は見えない。

声だけが聴こえる。



「俺ァ、しがない新聞売りだがよ……」
「だからこそ情報にゃコト欠かねえのさ。その上で言ってんだぞ」
「やるなら今しかねえ!」

「ちっ、雨かよ。おっさん、その帽子貸してくれよ。濡れちまう」
「馬鹿を言うな。人にものを貸さないのが、俺の哲学なんだ」


(母ちゃん)


「では、ウォルター、言ってくれ。そのカードの絵が……」
「なんに見えるか」

「わからねえ……教えてくれよ」
「誰か教えてくれよ!」

「好きにしやがれ、くそったれ」
「全部お前に任すからな」

「俺は俺だ。仕事じゃねえ。いいから止めろ」

「ああ、私ひとりで……」
「世界を相手にするのさ」




(世界は)


「かよわくて……傷つきやすいの……」

「そこに、そのスノーボールがあったのよ」
「まるでガラスに閉じ込められた……別世界みたいに思えた」
「あの中はきっと、時間の流れが違うんだと思った」


(偶然の塊だ)


「これから、未だかつてない輝かしい時代が幕を開けるんだ」
「アホくせえんだよ、なにもかも!」


(虚無から生まれ)


「どうせ30年もしねえうちに、水爆がなにもかも燃やしちまうんだ」
「それまでは俺たちの手で社会を守るしかねえ」

「守るって……なにから守ると言うんだ?」


(人生という拷問に歯を喰い縛って耐えてから)


「誰かがなんとかしなきゃならないのに……」
「誰かが世界を救わなきゃ、大変なことに……」


(また虚無に戻る)


「こんな世の中だからこそ、互いに助け合わなければ……生きる意味がなくなってしまう」
「お願いだ、わかってくれ」


(ここは、そうだ)


(帰らなくちゃ)


「この世に正義はねえのかよ?」
「あのスーパー野郎たちは、少なくとも俺たちを守ろうとしてたよな」

「誰かが魔法でパっと片付けてくれたらって……」
「でも、そんな人はいないのよね」

「最近じゃ、スーパー・ヒーローものはさっぱりだ」

「あのテの腐れ超人どもァムカついてたまんねえ……」

「そこに、そのスノーボールがあったのよ」
「……中身はただの水だったわ」


(ごめんよ、母ちゃん、俺……)


「あなたも昔の衣装、着たりする?」
「いや、男がそんな真似をすればお笑い草だ」
「近所の子供たちはみんな、来週のハロウィンに向けて仮装の準備をしているから、
 私も浮かれて古着を掘り出すかも知れんがね」

「そうね、人生を正しく導く人の存在はとても重要だわ」
「でも、私にはそんな人がいなかったから……」

「うっかり親切もできやしねえ」


(母ちゃん)




「帽子……ありがとよ」

「なあおっさん、あんたも気ィつけてな」


(帰らなくちゃ)


「生きてることって凄いことなのね」
「本当に素敵なのね」
「……生きてるうちに、私を愛して」


(俺の街へ)


「船を出そうとでも思っていたのかな。まったく僕って奴は……」
「……本物のヒーローと直接逢って」
「彼の仲間に……後継者になるんだと思うと……身震いがした」


(さよなら)

(俺の街へ)

(俺の街へ)


(俺の)






「で、おめえ、名前は?」


「なんでここに来る?」


――アパートの中庭。


部屋にはいくつも灯りがともっており、窓を、ベランダを、非常階段を、
無数の人形たちが埋め尽くしている。
人形たちは互いに話すかのように、虚無の顔を向け合っている。


人形
「」カタタタタ「」カタカタカタ「」カタ「」「」カタタタタタタタタカカカカ
「」カタカタタタタ「」カタカタカタカタカタカタカタカタ「」カカカ「」カタカタ
「」カタカタカタ「」タ「」カカカ「」カタカタカタカタカタ「」カカカカカカ
「」カタタタタタタタ「」カカカ「」カタカタカタカタカタ「」カタタタタカタカタ
「」カタタ「」カタカタカタ「」カタ「」カタカタタタタ「」タ「」カカカ
「」カタタタタタタタ「」カタカタカタカタカタ「」カタタ「」カタカタカタカタタ
「」タタタタタ「」カカカ「」カタカタカタカタカタ「」カタタタタ「」カタカ
「」カタタタタタタタ「」カタカタカタカタカタ「」カタタタタタタタ「」カカカカ
「」タ「」カカ「」カタカタカタカタカタ「」カカカ「」カタタタタタタタカカ
「」カタカタカタカタカタ「」カタ「」「」カタタタタタタタ「」カタカタカタ
「」カタカタカタカタカタカタカタカタ「」カカカ「」カタカタタタタ「」カタカタ
「」カタ「」「」カタタタタタタタ「」カタ「」カタカタタタタ「」カタカ
「」カタカタカタカタカタカタ「」カカカ「」カタカタタタタ「」カタカタカタカカ
「」タ「」カカカ「」カタカタカタカタカタ「」カカカ「」カタタタタカタカタ
「」カタタ「」カタカタカタ「」カタ「」カタカタタタタ「」カタタタタカカカ
「」カタタタタタタタ「」カタカタカタカタカ「」カタカタカタカタカタ「」カタタ



立ち止まるウォルター・ジョセフ・コバックス。
素顔のまま、彼らすべてをにらみつける。



“――――”

“――――ダニエル”


“この街のどこかで、お前ともう一度逢えるだろうか”

“お前がヒーローとなったわけを、俺も少しだけ実感できたようだ”


“俺の父と母”

“ブラウン管とコミック・ブック”

“そして俺のそばに、誰か、ヒーローがいてくれたなら、俺は俺でなかっただろうか”


“いや――”

“それでもお前と、肩を並べただろう”


“叶うならば伝えたい”

“たとえそれが幻でも”


中庭の中心、ヘンダー君が立っている。
手に、犬の鎖を持っている。四つんばいの人形が繋がれている。

ヘンダー「ヘンだ、ヘンだよ、ヘンダーランド」

人形がこちらを向く。

その人形は、顔の砕けたシルビアだ。

ヘンダー「ウソだと、思うなら」「ちょいと」「おいで」「おいで」


人形は――少女の靴を引っかけた骨をくわえている。

それを見つめる無数の人形たちが、今なおささやき合っている。



“だが、もう俺はウォルターじゃない”

“足跡を消すことはできない”

“新たに歩くこともできない”

“そのどちらも、今の俺は望まない”


“俺は――――”



“俺は、ロールシャッハだからだ”



しんのすけ「フーちゃああああん!」

よね「返事して!」


よね「ったく、本当はそれどころじゃ……」

よね「…………」


よね「……!……」

ふと向けた、よねの視線の先――


――――ロールシャッハが歩いてくる。


その奥に、無数の人形の残骸が散らばっている。


しんのすけ「……おじさん!」

よね「待って、人形かも……」



ロールシャッハ「…………」

ロールシャッハ「ここを抜けるぞ。もたもたするな」


しんのすけ「うわー、やっと逢えたのにあの感じ」

よね「……まさにあいつね」

よね「…………やった!」


よね、ロールシャッハにしがみつく。

よね「やったやったあ!」

ロールシャッハ「……」

よね「あ……」

よね「……ごめん……なさい」

しんのすけ「なんで謝るの?」

よね「い、いいんだよ!」


ロールシャッハ「……グロリア」

よね「え、えーと……」

よね「説明すると長くなるけど、ここは」

ロールシャッハ「わかっている」
        「すべては幻だろう」


よね「ええと、まあ、そんなところかな……はは」


よね「しっくりくるけど、なーんか納得いかないなー……」


しんのすけ「フーちゃああああん! フーちゃああああん」


ロールシャッハ「……なにをしている」

ロールシャッハ「時はもう無駄にできない」

よね「わかった、わかったってば!」

しんのすけ「フーちゃんは?」

よね「……でも、今はそんなことより――」

しんのすけ「そんなことじゃないゾ!」

ロールシャッハ「…………」


しんのすけ「オラ約束したんだもん! アクション仮面の映画、一緒に観るんだもん!」

しんのすけ「オラがアクション仮面をかっこよくお助けしたこともお話しするんだもん!」


しんのすけ「スンちゃんとルルのことだって、
       吹雪丸のことだって、
       トッペマのことだって、
       オカマのお坊さんたちのことだって、
       おっきなロボットのことだって、
       父ちゃんと母ちゃんを取り返したことだって、
       おまたのおじさんのことだって、
       つばきちゃんのことだって、
       ぶりぶりざえもんのことだって、
       幼稚園のみんなのことだって、
       もっともっといっぱい、
       まだいっぱいお話しすることがあるんだもん!」

よね「……でも……」

しんのすけ「でもじゃないゾ!」

しんのすけ「フーちゃんは母ちゃんが嫌いで、父ちゃんにも逢えないんだゾ!
       アクション仮面も知らなかったんだゾ!
       オラより年上のクセにうじうじしていて、
       カツアゲもされちゃうんだゾ!
       だからオラが、いっぱい楽しいお話聞かせてあげるんだもん!」

ロールシャッハ「……シンノスケ」

しんのすけ「なに!」

ロールシャッハ「……そいつは……赤い毛のガキのことか」

しんのすけ「そうだゾ!」

ロールシャッハ「ウォルターは、もう家に帰った」

よね「…………」

しんのすけ「なんでわかるの!」


ロールシャッハ「………………」


ロールシャッハ「 “しんちゃん”に伝えてくれと、そう言われたからだ」


しんのすけ「……」

しんのすけ「おじさんは、フーちゃんの家知ってるの?」


ロールシャッハ「ああ」

ロールシャッハ「知っているとも」


ロールシャッハ「遊ぶのはまた今度だ。今は、お前がお前の家に――」

        「帰らなくちゃ……」


ロールシャッハの染みが、少年の絵になる。

死んだと思って居た友人にまた会えたような喜び
一生続きは読めないもんだと思ってた

>>196なんかすごいこと言っていただきありがとうございます。
前スレが落ちたときに「まあ完結したらでいいや」と思ってそのまま熱が冷めていました。



ロールシャッハ「――それで、出口はどこだ」

よね「あんたが知ってるんじゃないの? あんたを捜してここまで来たのよ!」

ロールシャッハ「俺は知らん」

よね「あああ、クソ! ったくどいつもこいつも」


ハイウェイを突っ走る車。


ロールシャッハ(ここは文字どおりの悪夢だ)

        (ニューヨークの街並みは俺……)

        (カスカベの街並みはシンノスケ……)

        (珍奇な城と人形の怪物は、そこに踏み入る侵略者か)

        (いつか記憶を覗かれた、あれを何千倍にもしたようなものだろうか)


よね「ああもうクソ! スゲーナスゴイデス、スゲーナスゴイデス!
    もしもーし! トッペマー! 聞こえるー!?」


ロールシャッハ(……グロリアは狂ったのか?)

        (無理もない。俺ですら狂いかねん)

        (……グロリア……)

        (……あの女に似ている)

        (今度こそはきっと)

        (……そうだ。シンノスケもそうだ)

        (“必ず無事に連れ戻す”)


ロールシャッハ(シンノスケは……)


ロールシャッハ(他の誰にも似ていない)


摩天楼がヘンダー城につぶされ始め、倒壊していく。
あとに残るのは底のない暗闇と、廃墟のようなヘンダー城。


ボロボロの車で走りながら、それらを眺める三人。

よね「あっちはもうダメね。カスカベ側に引き返すしかなさそうだけど……」


窓に手をついて、外を見るしんのすけ。

しんのすけ(フーちゃん……)

しんのすけ「…………」

しんのすけ「お?」

しんのすけ「……ヘクソンだゾ!」

よね「なにィッ!」キキッ


しんのすけの指さす先、暗闇に浮かぶ尖塔にヘクソンが立っている。

宙に浮く尖塔を飛び越えながら、こちらへ接近している。


ロールシャッハ「……俺が行こう。お前たちは先に行け」

よね「なんで!? せっかく逢えたのに! あんたを連れ戻すのに……」

ロールシャッハ「すぐに戻る。約束する。三……」

ロールシャッハ「……いや、四人で、必ず帰還する」


ドアを蹴破り、飛び出すロールシャッハ。
フック銃を抜いた。




――尖塔の上で対峙するヘクソンとロールシャッハ。


ヘクソン「お前の心を初めて読んだときにわかった」

ヘクソン「お前は一度、終末を味わっているな」

ロールシャッハ「…………それがどうした」

ヘクソン、答えを返さずに周囲を見る。

ヘクソン「……これがそれを経たお前の心象風景というわけだ」

     「……まるで、」
    
     「まるで廃墟の街ではないか」


ロールシャッハ「…………」


ヘクソン「……一部始終、見させてもらった」

ロールシャッハ「どうだ。感想のほどは」

ヘクソン「…………」


ヘクソンが拳を作り、ゆっくりと構える。

ヘクソン「これがそうだ」

ヘクソン「安心しろ。今この空間で、互いの能力に意味はない」

ヘクソン「どの道、使えたとて変わりないがな」


ロールシャッハ「…………HURM.」

ロールシャッハ「…………いいだろう」


にらみ合うロールシャッハとヘクソン。

周囲では、ヘンダー城と摩天楼が音を立てて崩れている。

砕けて、その下の暗闇に消えていく。






ロールシャッハ「…………」

ヘクソン「…………」

ヘクソン「…………」

ロールシャッハ「…………」

ロールシャッハ「…………」ヘクソン「…………」

ヘクソン「…………」ロールシャッハ「…………」

ロールシャッハ「……………………」ヘクソン「……………………」

ヘクソン「……………………」ロールシャッハ「……………………」

ロールシャッハ「…………………………………………」ヘクソン




『!』

刹那、同時に突きだされる拳。
互いの拳が互いの胸を突き、そのどちらもが手首までをめり込ませている。

ヘクソンの唇から血が流れる。
ロールシャッハのマスクの下、痣のように血がにじんでいく。


ロールシャッハ「……MMMM…………」

        「UK,UU…………AAK」


拳を引き抜くロールシャッハ。
手袋は血に染まっている。


ロールシャッハ「KUFF,KUFF」


ロールシャッハ、膝をつく。
マスクから漏れたおびただしい血が首筋へ流れる。

ヘクソン「……それが、俺とお前との差だ。ウォルター……」

    「いや、ロールシャッハ」

ロールシャッハを見下ろすヘクソン。

ヘクソン「やはり、拳ひとつでは足りなかったか」


「俺たちは互いに絶望した。自らの立つ世界に」

「崖へ飛び込んだのだ。俺は抵抗しなかった。深淵へ向かって」

「お前は飛んだが、しかし落ちなかった。
 切り立った岩に刻まれながら、しがみついていた」

「その傷では登ることはできない。だがお前は落ちることもしない」


ヘクソン「ただじっと、俺の居場所をにらみつけている」


ヘクソンの胸には、風穴が開いている。


ヘクソン「……お前の姿を再び見たときからわかっていた。俺は、お前には勝てぬと」

ヘクソン「その鋼鉄の心を、俺は壊したかった」

ヘクソン「……いや違うな。確かめたかったと言おう」


ロールシャッハ「……なにが言いたい」


ヘクソン「それがすべてだ」

ヘクソン「俺は一足先に離脱するとしよう」


縁に足をかけるヘクソン。
二人の立つ尖塔はすでに崩壊が進み、大きく揺れ動いている。

ロールシャッハ「待て、どこへ……」

ヘクソン「俺はこの先、ただお前の行く末を見るにとどまる。
      野望がついえるのは初めてでもない」

ロールシャッハ「待て、ヘクソン……UUMMM」

ロールシャッハ「出口はどこだ? どうしたら現実に戻れる?」


ヘクソン「俺は答えではない」

ヘクソンの足元、縁にヒビが入る。

ヘクソン「この崩壊はお前の精神が引き起こしている」

ヘクソン「お前は世界を変えようとするが……
      いずれせよ世界は救えないのだと思っている」

ヘクソン「だから崩れる」

足場が崩れ、ヘクソンは落ちて行く。

ヘクソン「お前がまだ、崖へしがみつくならば早く行け」

ヘクソン「出口が崩れてしまわぬうちに」


ロールシャッハ「…………」

ロールシャッハ「…………」

ロールシャッハ「HOO…………HURM……」



よね「――ちょっとなんか、どんどん壊れてってない?」

よね「やばいやばいやばい、走れるとこほとんどないって!」

ガタン!
ボンネットに着地するロールシャッハ。
車へ乗り込む。


よね「!」

しんのすけ「おじさん!」

ロールシャッハ「待たせた」

よね「って早! ほんとにすぐ来たのね!」

ロールシャッハ「カタはついた」

よね「それはいいけど、どんどん周りが壊れてくんだけど」

よね「あの城がにょろにょろ伸びたら……なんだか腐ったみたいに、ぼろぼろー、って」

しんのすけ「後ろの方、もう道がなくなっちゃったゾ」

よね「げえっ!」

ロールシャッハ(俺の出口……)

ロールシャッハ(ニューヨークの街へは引き返せん)



しんのすけ「あーっ! オラんち!」

倒壊した野原家の前を通る。

しんのすけ「父ちゃーん! 母ちゃーん! ひまわりーっ! シローっ!」

ロールシャッハ「無駄だ。このカスカベもお前の精神の表れでしかない」


しんのすけ「じゃあなんで壊れてくの?
       オラ、カスカベにこんな風になってほしいなんて少しも思ってないゾ!」

しんのすけ「おじさん! おじさんってば!」


ロールシャッハ「…………」

ロールシャッハ「……シンノスケ」

ロールシャッハ「……俺が原因のようだ」

よね「はあ!?」

ロールシャッハ「ヘクソンが去り際に言った……俺が引き起こしたと」


ロールシャッハ(記憶のせいだ)

(ニューヨークの、300万の亡者の記憶)

(その廃墟にしがみつけと?)

(……ダメだ。今、救うべき世界があるのに)

(…………日誌か?)

(……ここにあるのが、ニューヨークに置いてきた日誌ならば……)

(そこになにか手がかりが……)


ロールシャッハ(2000年6月……違う。ダメか。ここにあるのも、新しい日誌だ)



よね「あーん、もうこうなったら!」

よね「しんのすけ! あんたが頼りよ!」

よね「なんかこう、こう、楽しいこととか想像してみて!」

しんのすけ「それでどうにかなるの?」

よね「知らねーよ! でも、やるだけやって! お願い!」


しんのすけ「んー……んー……」

(こういうとき、救いのヒーローが現れてくれるんだゾ)

(アクション仮面……カンタムロボ……ぶりぶりざえもん……)


しんのすけ(…………)

しんのすけ(……フーちゃん)




――しんちゃん、しんちゃん、聞こえる?

しんのすけ(……え、だれ?)


――あたしよ、つばき。もしかして忘れちゃった?

しんのすけ(……つばき……ちゃん?)

しんのすけ(……忘れるわけないゾ!)

しんのすけ(どこ!? どこにいるの?)



――……いい、しんちゃん、よく聞いて。
  ここはあの映画の中とおんなじ、お話の中だよ。
  しんちゃんの街と、お友達の街のお話。
  でも、ハッピーエンドじゃないみたい。


――しんちゃん、そんなところにいちゃダメ。
  お友達と一緒に、早くお家に帰らなくちゃ。
  パパとママも、みんなみんな、お外で大変なことになってるよ。
  
  早く、急いで。
  本当の世界のハッピーエンドに間に合わないよ。


しんのすけ「……わかったゾ、つばきちゃん!」

しんのすけ「カスカベ座! そこだゾ、きっと!」

ロールシャッハ「!」


よね「カスカベ座ってあのわかんないとこの……もう崩れてるんじゃ……」

しんのすけ「そんなことないゾ、このおバカ!」

ロールシャッハ「……他に向かえる先はないな」




――瓦礫の中のカスカベ座



よね「――残ってる! しかもこれだけしっかりくっきり……」

よね「でもまあ……確かに元から異次元にあるような建物ってゆーか」


ロールシャッハ(謎の多い建物だったが)

ロールシャッハ(なるほどな。おそらくここにも、誰かの念が込められていたのだろう……)

ロールシャッハ(きっとなにか、強い愛の念が)



スクリーンへ向かう三人。

しんのすけ「こっちこっち!」


古ぼけたスクリーンへ向けて、映写機が光を当てている。
スクリーンには真っ白な光の他、なにも映っていない。

よね「……上映してる?」

ロールシャッハ「!」

        (……光が……はね返って……)

――――――


ロールシャッハ「なんだ……なにもない……空間……?」

つばき「――こっち、こっちでーす」

しんのすけ「……!」

よね「……ええと」

ロールシャッハ「……HURM.」

しんのすけ「……つばきちゃーん!」

つばき「しんちゃーん!」

よね「なに、知り合い? どうなってんの?」

しんのすけ「わかってないなー。愛の奇跡、って奴」

よね「たかが五歳児がなに言ってんだか……」



しんのすけ「つばきちゃん、また逢えたね」

つばき「しんちゃんが、あたしのこと覚えていてくれたおかげだよ」

しんのすけ「やだなー。忘れるわけないゾ。つばきちゃんのこと!」

しんのすけ「いやーそれにしてもピンチのときに助けてくれるなんて、
       つばきちゃん、男心わかってるうー」

つばき「あはは。ありがとう。ずうっとここから見てたんだよ。
     でも、なかなか声が届かなかったの」


ロールシャッハ「……ここはなんだ? 本当に、あの幻覚の出口なのか?」

つばき「ええと、あたしも……詳しくはわからないんですが、
     多分それで合ってると思います。じきに、元の世界へ帰れるはずですよ」


しんのすけ「……オラ帰りたくない、ずっとここにいたーい」

つばき「ダメだよ。しんちゃんはちゃんと、しんちゃんの世界を生きなくちゃ」


ロールシャッハ「そうだ。いつまでもここにいるわけにはいかん」


しんのすけ「……つばきちゃん、さみしくない?」

つばき「……う、うん、さみしくはないよ、オケガワさんや……
     クリスさんたちもいるし……そう、たまにこうやって、
     カスカベ座のことを覚えていてくれる人が来てくれるもの」

しんのすけ「」ポワーン

つばき「……でも! しんちゃんがいないのは、ちょっとさみしいな!」

しんのすけ「そ、そーでしょそーでしょ、うん!」

しんのすけ「…………つばきちゃん、また逢える?」

つばき「……逢えるよ、きっと」


しんのすけ「あれ、でもそーいえばおじさんが四人で帰るって……そうだ、フーちゃん!」

しんのすけ「つばきちゃんつばきちゃん、もう一度向こうに戻して! 友達待たせてるんだゾ」


つばき「友達? 友達って――もしかして、赤い髪の男の子?」

しんのすけ「うん。おじさんは家に帰ったって言ってたけど、
       でもホントは急にいなくなっちゃったんだよ」

つばき「…………」

ロールシャッハ「…………」

よね「?……どうしたの、二人とも」

つばき「いえ、なんでもありません」


しんのすけ「もしかして……つばきちゃんみたいに……」

つばき「ううん、その子はね」

しんのすけ「あーっ、でもダメ! つばきちゃんにはオラの方が似合ってるゾ!」

頭を抱えるしんのすけを見て、ほほ笑むつばき。


つばき「安心して。その子はちゃんと、お家に帰れたから」

つばき「おじさんの言ったことは本当だよ。だから大丈夫」


しんのすけ「じゃ、また逢えるの?」

つばき「もちろん! あたしとしんちゃんだって、こうやって逢えたじゃない」

しんのすけ「じゃあ、アクション仮面に頼んで、カスカベ座でもっかい映画やってもらおーっと。
       約束したんだ。フーちゃんと一緒にアクション仮面の映画観るって」

つばき「…………ありがとう。それじゃ、ここで待ってるよ」



つばき「……」

つばき「あの……」

ロールシャッハ「なんだ」

つばき「お願いがあるんです……難しいかも知れませんが……
     しんちゃんに、あなたのことを教えてあげてくれませんか」

つばき「無理にとは言いません。
     でも、あたしはしんちゃんのところへは行けないから……」


ロールシャッハ「…………」

ロールシャッハ「…………約束しよう」


ロールシャッハ「俺から最後に、もうひとつ聞きたい」

ロールシャッハ、日誌から栞に使っていた写真を見せる。

ロールシャッハ「この少女……よく似ているが、お前か?」

つばき「わあ、嬉しい……そうです。まだ、残っていたんですね!」

ロールシャッハ「そうか……なら、こいつはお前に渡そう」


つばき「いいえ、大切にしていただいてるみたいで、とても嬉しいです」

つばき「それはあなたが持っていてください」

    「あたしがここに……いえ、しんちゃんやあなたたちと逢えたのは、
    そのカードが呼んだ奇跡かも知れませんから」


ロールシャッハ「………………」

ロールシャッハ「…………ああ」


栞をはさむロールシャッハ。



つばき「……そろそろ、お時間のようです」

よね「うわ、またなんか光が……」

ロールシャッハ「……出口の光のようだな」

しんのすけ「よーし」

しんのすけ「ふん! ふん!」

自らの頬を張るしんのすけ。

しんのすけ「オラのカスカベを、お助けに行くゾ!」


振り返り、手を振るしんのすけ。三人の姿が消えていく。


しんのすけ「じゃあねー! つばきちゃん! きっとまた来るからね!」

つばき「……うん、また逢おうね!」



つばき「……がんばってね、しんちゃん」





ヘンダーランド 見張り塔


ロールシャッハの身体が震え、光とともにしんのすけとよねが飛び出してくる。

アクション仮面に受け止められるしんのすけ。

アクション仮面「しんのすけ君!」

トッペマ「しんちゃん!」

よね、飛び出したまま壁にぶち当たる。

よね「いってえ!」

ひろし「うまくいったのか!?」

よね「……ヘクソンは!?」

アクション仮面「キミたちより先に、飛び出していった光があった。
         おそらくそれだろう」


マサオ「おじさん……」

ロールシャッハ「…………UMM……」

ロールシャッハ「KUFF,KUFF」


ロールシャッハ、周囲を見渡す。

ロールシャッハ「HURM.まだ異次元とはな……」

よね「ああいや、なんていうかそうじゃなくて――」


――日付不明 ロールシャッハ記


詳細な経緯を書き留めておく余裕はない。
事態が収束するまで、おそらくこれが最後の手記となるだろう。
更新されるかどうか、今の俺にはわからない。

俺たちは、あの混沌の世界を抜け出すことに成功した。

あの少女はそれを奇跡と呼んだ。


いいや。違う。

空の上に神はいない。
あの少女は天使なんかじゃないし、奇跡など起きようはずもない。
あれは奇跡ではない。
俺たちの残したなにもかもが、集束して生まれた在るべき結果だ。


価値はある。そうだ、この世界には――
救うというだけの、途方もない価値が。





ロールシャッハ「あんたがアクション仮面か……ショーにいた奴だな?」


アクション仮面「ん? あ、ああ、そうだとも」

スッ

アクション仮面(ん? 手? 握手か?)
ギュッ

ロールシャッハ「……」

アクション仮面「……そろそろ放してくれないか?」

ロールシャッハ「ああ」

アクション仮面(……なんだ今のは……)




21世紀博 ホール

避難しているカスカベ市民。外ではまだ人形の歩く音がする。
ホールの中は、予備電源によってかろうじて灯りが保たれている。

停電は復旧しない。
電波も届かない。
不安だけが蔓延している。


「ねえ、どうなってるの?」
「警察は? 自衛隊は?」
「そういや俺、なんか外国の軍隊みたいなの見たぞ」
「あ、あたしもあたしも」
「怖いよう怖いよう」「お母さん」


むさえ「いやー、あちーね。冷房行きわたってないよねこれ絶対」

むさえ「ちょっと、筋肉の人もっと向こう行ってよー」

ルル「あなた、ずいぶん能天気ですね」

むさえ「だって心配してもしょうがないじゃん?」

スンノケシ「しんちゃんたちのことも、ですか?」

むさえ「んー、心配してないと言ったら、別にそんなことないよ?」

    「でもさ、しんのすけっていつも、なんだかんだどうにかしちゃうっていうか」

    「変な話、かえって安心してんだよね」

    「だって、そんな気がしない?」

ローズ「……そうね、しんちゃんなら」

ラベンダー「ジャークを復活させたときはどうなるかと思ったけど」

レモン「あれも結局、笑って終わったしねー」

サタケ(ひまわりちゃん、大丈夫かな……)


むさえ「ね? 信じて待つって、そういうことじゃない?」



「あのロールなんとかいう犯罪者、どうなったんだ?」
「ここに紛れ込んでるんじゃない?」
「バーカ、あいつがやったに決まってんだろ」
「なにをだよ?」
「全部だよ、これ全部。決まってんじゃねえか」


ふと、子供がひとり泣き出す。

「おいうるせえぞ、黙らせろよ!」

サタケ「子供に黙れとはなんだこの野郎!」

さらにたくさんの子供が泣き出す。

ローズ「あーあ。悪化させちゃった」
サタケ「ぐぬぬ」

「もうイヤ! 早くおうちに帰して!」
「そうだ! ここにいても仕方ないだろ!」
「みんなで出ようぜ!」
「おい待てよ、開けたら入ってくるだろ!」


徐々にざわめきが広まっていく。

スンノケシ「……サタケさん、お願いがあります」

サタケ「ん……?」

ルル「王子……?」



サタケの肩に乗り、ステージの上に上がるスンノケシ。


「ああん?」
「なんだなんだ?」
「あらあの人いい筋肉ねえん、ステキだわあ」


スンノケシ「皆さん、よく聞いてください!」

スンノケシ「今ここで僕たちにできることはありません!」

「なんだあ、あのガキ……」


スンノケシ「でも考えてみてください、外の人形は、まだここへは入ってきません」
      「なにか目的があるのかもしれません!」
      「なにかはわかりませんが、すぐに襲ってこないことは確かです!」


さらにざわめく市民。
「だからなんだ!」

サタケ「おお、黙って聞けえいッ!」

スンノケシ「今、僕たちのために闘ってくれている人たちがいます!」

スンノケシ「今は、彼らを信じましょう! ここで騒ぎを起こせば、きっと敵の思うツボです!」

「誰が、」
「誰が闘ってるんだよ!?」
「そうだ! それを言え!」

スンノケシ「皆さんに凶悪犯と誤解されている、ロールシャッハさんという―-」

「はあ? 何言ってんだよ?」
「お前もあいつの仲間じゃないのか!?」

サタケ「おい、黙ってろっつったぞ!」



園長「――あれ? しんのすけ君じゃーないですか!」

立ち上がる園長。

スンノケシ(……全然知らない人だ……)
      (……でも、合わせておこう)

スンノケシ「ほ、ほっほほーい!」


園長「皆さん! あのコは私の幼稚園の園児ですよ!」
   「幼稚園児がこんな立派なことを言ってるんです!」
   「我々大人がしっかりしなくてどうするんですか?」

よしなが「しんちゃん……なんていい子に……」グス

まつざか「あれほんとにしんのすけ君?」

上尾「いいですねっ、あの、王族みたいな服!」


ローズ「いいわよーしんちゃん!」

ラベンダー「おにいたま、あの子は――」

レモン「いいのよ、今はしんちゃんで!」


チータ「うわマジだ、しんのすけ!」

北本「あらやだほんと!」

ロベルト「オー、ナンカわからんが、すごいぞチンノスケ!」

竜子・お銀・マリー(知り合いからすると衝撃の方がつええな……)

あい「真面目なしん様……素敵ッ……」クラッ

黒磯「お嬢様、お気を確かに!」


徐々に徐々に、しんのすけの名前を呼ぶ声で埋まっていく。

スンノケシ(……すごいな、しんちゃん)

スンノケシ(こんなにたくさんの友達がいるんだ……!)



ルル「王子……」ホロリ

サタケ「あんたのとこの王子、子供なのに手がかからなそうだな」

サタケ「それはそれで、さみしくねえか?」

ルル「いいえ、ちっとも」

ルル「私たちの、自慢の王子ですよ」




ヘンダーランド 見張り塔


ロールシャッハ(トッペマという人形から経緯を聞いた)

ロールシャッハ(敵はまだ城内にいる)

ロールシャッハ(俺たちが来るのを待ち構えているのだろう)


ロールシャッハ(そして、スゲーナ・スゴイデスというカード)

        (これが切り札となる)

        (戦力から見て、他に方法はない)


ロールシャッハ「残りが三枚か……」

ロールシャッハ「城内でこの三枚を使ったとしても―-」

トッペマ「ただ使うだけではまったく意味がないでしょう」


トッペマ「ゼロ距離で、カードの力すべてをオカマ魔女たちに叩き込む」

トッペマ「おそらく、それしかありません」

ロールシャッハ「HURM……」


風間「あの、僕たちにもできることありませんか?」

ネネ「ネネも闘う!ここまで来たんだもん!」

マサオ「き、気を散らすくらいできるよねっ」

ボー「隙を、つくる!」


アクション仮面「子供たちも含めて大丈夫か?」

よね「カードを持たせておけばいい。きっと大人よりうまく使えるよ」

トッペマ「私の魔法は弱いけど、みなさんを守るくらいはできます」

ひろし「あーもう、やりゃいいんだろやりゃあ!」

みさえ「そうよ、それしかないんだから!」

ひまわり「た!」

シロ「アン!」

しんのすけ「みんなで行くゾ、おじさん!」

ロールシャッハ「……HURM……」




ヘンダー城 城門前


夜霧の線路の上に、一直線に並ぶ一同。

しんのすけ、ロールシャッハ、アクション仮面、よね、
ひろし、みさえ、風間、ネネ、マサオ、ボー、ひまわりを乗せたシロ。

しんのすけの前方、宙を舞うトッペマ。

空は群青色。わずかに明るくなりつつある。



トッペマ「――いい? いくわよ」

トッペマ「トッペマ・マペット!」


城門が開き、線路へつながる。


しんのすけ「カスカベ防衛隊……………………ファイヤー!!!」


一同「「「ファイヤアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」





一同(劇画)「「「オラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」」」



ヘンダー城 広間


ジョマ「来たわね」
マカオ「ほーんと待ちくたびれちゃったわ」

ジョマ「何の考えもなく特攻かしら?」
マカオ「悪あがきするのも素敵ね」



ジョマ「……ぶりぶりざえもん?」

ぶりぶりざえもん「……フン」






21世紀博 ホール


突然、ステージ上のスクリーンに映像が映る。
だけでなく、各所のモニター、市民たちの携帯電話にも同じ映像。


マカオ「聞こえるかしらー? カスカベ市民のみなさん?」
ジョマ「あたしたちがその人形の主人よ、よろしくね」

すると、人形たちがホールの窓にまで押し寄せてくる。
窓に張り付く無数の人形。

マカオ「さーて今こちらではァん、」
ジョマ「あなた方愚民どものために戦ってくれてる救いのヒーローたちがいるわ」

走り抜けるしんのすけたちが映る。


一同(劇画) 「「「オラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」」」


「あれ……あの、ロールシャッハとかいうの!」



組長「? しんのすけくんが二人!? こっちにいるのは……?」
よしなが「風間くんたちも!」
まつざか「あそこ、ヘンダーランドじゃない?」
上尾(……行きたかったなー、ヘンダーランド)


ローズ「あら、あのコ頑張ってるじゃない!」
ラベンダー「あれでも一応刑事だもの」
レモン「ガッツは人一倍あるものね」

サタケ「ひまわりちゃーん、気をつけて―!!」

むさえ「あれ、ねーちゃんと義兄さんまで……」


「あ、アクション仮面だ!」
「郷さん? 本人?」
「がんばれえええええアクション仮面!!」
「郷さんあたしファンなんです!」


スンノケシ「しんちゃん……!! がんばれ……!」

――ヘンダー城


ジョマ「――なかなか反応がいいわね」
マカオ「――その期待をぶち壊しちゃうのが楽しみだわ」



パラダイスキング「おいお前ら、アクション仮面は俺の獲物だからな」

ハブ「……ヘクソンはどうした?」

マホ「いねーってことはやられたんだろうよ」

ハブ「……ならば楽しめるか」

アナコンダ「グフフフ。久々に魔人の力が使える……」




トッペマ「トッペマ・マペット!」

城の扉が開く。

人形の群れが押し寄せる。

走りながら突き飛ばすロールシャッハたち、子供たちは足の隙間を潜り抜けていく。


ハブ、ガントレットの爪を伸ばしてロールシャッハへ飛び掛かる。

フック銃を抜いて防ぐロールシャッハ。


ハブ「……ヘクソンを倒したのはお前だな」

ロールシャッハ「……だったらどうした」

ハブ「光栄に思え。お前は俺が殺してやる」


パラダイスキング「ようアクション仮面! 俺の相手はお前しかいないぜ」

パラダイスキング「またオーディエンスの中で散ってくれよ」

アクション仮面「ジャングルでは、散ったのは自分の方だと忘れたか?」

パラダイスキング「……ほざけェッ!!」



マホ「なんだい、あたしの相手は雑魚刑事さんか」

よね「負けたときの言い訳、考えときなよ!」

よね、引き金を引く。

マホ「オメーの弾なんか当たるわけねえだろクソ雑魚がッ!」

トッペマ「トッペマ・マペット!」

マホ(なにっ……軌道を変えた!?)

リボンで弾丸を落とすマホ。

マホ「ッちィ……ふざけやがってェエ!」




みさえ「おらおら邪魔だ邪魔だ!」
ひろし「人間凶器のひろちゃんを舐めんなよ!」

勢いだけで人形と渡り合う野原夫妻。



風間「マサオくん、パス!」

マサオ「うわあっと、とと、ボーちゃん、パス!」

ボー「ボー、ネネちゃん!」

ネネ「しんちゃん、パス!」

しんのすけ「ほい!」

しんのすけ「ひまとシロ、パス!」

ひまわり「たい!」
シロ「アン!」

一枚のカードをパスしながら、足元を駆け抜けていく六人と一匹。



アナコンダ「……ふむ」

ジョマ「あらなに、あなたまで参戦しちゃうの?」
マカオ「すぐに終わっちゃうんじゃなーい?」

アナコンダ「仲間外れはさみしくてね……フフフ」


しんのすけ「お!?」

姿を変えていくアナコンダ。
ヘビと一体化し、天井にまで届きそうな魔人の姿になる。


よね「ッ! おいおい、あんなのがいるのかよ……!」

トッペマ「よそ見しないで!」

トッペマ「くっ……」

よね「トッペマ!」

マホ「おらおらおらおらっ!」

ひろし「あ、ありゃ勝てんぜ……うっわ、なんか急に勢いが冷めたッ!」

みさえ「あなた、もっと眉間にしわ寄せて! 顔怖くすれば勢いが出るわッ!」


魔人アナコンダ「ンフフフ、フフフ」

一同を襲う魔人の腕。逃げ遅れた人形たちを巻き込んで、握りつぶしていく。


腕のヘビに追われるしんのすけ。

しんのすけ「おわっと、おわあっと!」


視線の先に、ぶりぶりざえもんを乗せた人形。


しんのすけ「ぶりぶりざえもん!」

しんのすけ「助けて、ぶりぶりざえもん!」

ぶりぶりざえもん「…………」


アナコンダの指がしんのすけをつかむ。

魔人アナコンダ「捕まえたぞボクうううう」

ひろし「しんのすけ!」
みさえ「しんちゃん!」



ハブ「……アナコンダ様が出てきた時点でお前たちの負けだ」

ロールシャッハ(ダメだ……間に合わない!)


アクション仮面「しんのすけくん!」

パラダイスキング「こっち見ろォッ!!」ボッ

アクション仮面「ぐっ!」




しんのすけ「放せ放せこのおバカー!」

ぶりぶりざえもん「……お助け料ひゃくおくまんえん、ローンも可」

しんのすけ「!」

そのとき、ぶりぶりざえもんを乗せた人形のまわりに、
ほかの人形がぞろぞろと集まっていく。

人形の塊はやがて魔人とほぼ同じサイズとなり、
そのシルエットは大きく変わっていく。

しんのすけ「……カンタムロボ!!」

しんのすけ「すごいゾぶりぶりざえもん!」

ぶりぶりざえもん「フン。このくらい朝メシ前だ」



ジョマ「ちょっとあんたあ?」
マカオ「なにしてるのかしら、いけない子ね」


ぶりぶりざえもん「言っただろう。フェアな闘いだと」


「お前たちへのサービスは充分してやった」

「そんでこいつらは私の力を借りずにここまで来たのだ」

「このくらいのお助けのサービスをしてやるのが人情ってもんだろうが!!」


人形から生み出されたカンタムロボ、魔人へ拳を叩き込む。
しかし、アナコンダは倒れない。



魔人アナコンダ「グフフフ。少し驚いたよ」
        「だが、馬力が足りんのではないかね?」

ぶりぶりざえもん「ぬおっ……」


マカオ「いーわよアナコンダ。そのデカいのもいっしょに粉にしてあげなさい」

魔人アナコンダ「お安い御用だ……」


ぶりぶりざえもん「バカ! この、やめないかこのおバカ!」

しんのすけ「んんんっ、ぬぬぬぬっ!」



ネネ「マサオくん、パス!」
マサオ「はいッ!」

スゲーナスゴイデスのトランプを手にしたマサオ。
玉座の前に来る。

ジョマ「あらかわいらしいオニギリ坊やね」

マカオ「そのトランプの力であたしたちを倒そうというの? そんなハートの強い子には見えないけど?」

ジョマ「そうね、ヒーローって顔じゃないわ」


ジョマ「そのカードこっちに渡しなさい」
マカオ「そしたら君だけは許してあげるわ」


マサオ「…………」




マサオ「……そうだよ、僕はハートなんか強くない」


マサオ「ヒーローになれなくても、」

マサオ「でも手助けならできるんだッ!」

手を伸ばすジョマ。

が、マサオの背後をシロが駆け抜け――

ひまわり「た!」

ひまわりの手にカードが渡る。

風間「ひまわりちゃん!」

さらに、風間が受け取る。

風間(そうだ。僕も同じだ)

風間(たとえ魔法が使えても、世界を救えはしないだろう)

風間(でも魔法が使えなくても、)

風間(世界を救う手助けはできる)

風間「しんのすけ!」

魔人アナコンダ「フフフ、握りつぶしてくれる……」


風間「スゲーナ・スゴイデス!」

放たれた光が、しんのすけを突き刺す。




直後、アナコンダの指が切り落とされる。

魔人アナコンダ「なにッ……!?」



ひろし「しんのすけ……なのか!?」
みさえ「やだ、なにあの格好!」


紫と青の頭巾。赤の褌。その体躯は大人のもの。
その手には刀。


しんのすけ「ほほーいっ」

しんのすけ「大人しんちゃん、参上ッ!」



※雲黒斎の野望参照


トッペマ「しんちゃん!」


しんのすけ「オラ負けないゾ!」

しんのすけ「今のオラはすんんんんんごく、強い!」

しんのすけ「絶対に!」


しんのすけ、すさまじい速さでマホへと迫り、リボンを切り裂く。

マホ「くッ!」

よね「相手はこっちだろ!」

よね、警棒で締め上げる。


ついで、パラダイスキングへ迫るしんのすけ。

しんのすけ「アクション仮面!」

パラダイスキング「邪魔すんじゃねえ!」


アクション仮面「ありがとうしんのすけくん、助かった!」

しんのすけ「アクション仮面、オラに任せて!」

しんのすけ「お前はオラが倒す!」



ぶりぶりざえもん「おいコラアクション仮面ヒマになったならこっち手伝えっての!」

アクション仮面「おう!」

アクション仮面、カンタムロボの身体を駆け上がり、魔人の顔面を殴る蹴る。

アクション仮面「このっこのっ、このこのこの!」

魔人アナコンダ「こざかしい!」


しんのすけ、パラダイスキングへ切りかかる。
ブーツで刀と応戦するパラダイスキング。

パラダイスキング「すっこんでろ、このクソガキ!」

しんのすけ「ガキじゃないぞ、オラ野原しんのすけだ!」

刀が一閃、パラダイスキングのアフロを切り裂く。

パラダイスキング「!」

パラダイスキング「あ、ああああー! お前これお前!」

パラダイスキング「くっそおおお、もう許さねえ!」

トッペマ「トッペマ・マペット!!」

パラダイスキング「邪魔すんな!」


ネネ「しんちゃん、危ない!」

ボー「ボ――――!」

ハブの爪がしんのすけを狙う。
しんのすけ、刀でガード。

ハブ「……あまり調子に乗るなよ」

しんのすけ「お前もな!」

しんのすけ「おじさん!」


ロールシャッハ「KUFF,KUFF」

ロールシャッハ、マスクの端から血を流して立ち上がる。



ロールシャッハ(シンノスケには助けられたが……)


ロールシャッハ(……このままでは玉座に近づけない……)



ぶりぶりざえもん「……早くなんとかしろアクション仮面。
          このカンタムはもうそれほど持たん!」

アクション仮面「なんとかしろと言っても……!」

ぶりぶりざえもん「このままではあいつらがオカマどもを倒せんぞ!」


アクション仮面(トランプは残り二枚だ……!)

アクション仮面(私が、本当にこのカードの力を引き出せなければ……)


ぶりぶりざえもん「おいなにをさぼっている! 所詮お前は特撮番組の絵空事か!?」


アクション仮面(違う。あのときパラダイスキングの前で、
        しんのすけくんの声援を受けて立ち上がったとき)

アクション仮面(私は本当にヒーローだった)


アクション仮面(ロールシャッハ君とも、きっと同じように)


アクション仮面(そうだ。もう一度……)

アクション仮面(……もう一度、本物のヒーローになろう)



アクション仮面「……ぶりぶりざえもん! 少し離れろ!」

ぶりぶりざえもん「あ、ハイ」ビクッ

アクション仮面「……スゲーナ・スゴイデス……」


アクション仮面の拳が、強く輝きはじめる。



アクション仮面「アクション…………」

魔人アナコンダ「!?」


アクション仮面「……ビィイイイ―――――-ムッッッ!!!!!」


アナコンダが顔面を焼かれ、膝をつく。


魔人アナコンダ「……クソオオオオオオオ子供だましの分際でええええ!!!」


ハブ「アナコンダ様!」

気を取られたハブの顔面に、ロールシャッハの渾身の蹴りが炸裂する。

ハブ「ぬぐっ……」

しんのすけ「やったゾ!」



トッペマ「アクション仮面、加勢するわ!」
     「トッペマ・マペット!!」

トッペマの魔法が、アクションビームを増幅していく。

魔人アナコンダ「ぐ、くうううう……」


ぶりぶりざえもん「あの、ちょっとえーと」


アクション仮面「アクションビィーム!!」
トッペマ「トッペマ・マペット、トッペマ・マペット!!」


ぶりぶりざえもん「…………」

ぶりぶりざえもん「……ええい私のも喰らえ!」


ボロボロになったカンタムロボが、右ストレートを叩き込む。
同時に限界を超えて、砕けていくその右腕。
壁を突き破り、倒れるアナコンダ。


トッペマ「――今よ!」



一直線にがら空きになった玉座へ向けて、フック銃を放つロールシャッハ。



ロールシャッハ「――行くぞ、シンノスケ」

しんのすけ「おう!」


ワイヤーが一瞬で距離を詰める。


ジョマ「……あらあらまさか」
マカオ「私たちが出ることになるとはねェ」


オカマ魔女、立ち上がり、すさまじい速度の蹴りを放つ。


しんのすけ「うっ……」
ロールシャッハ「AAK!」


吹き飛ばされるロールシャッハ。
しんのすけはカードの効果が切れ、子供の姿に戻る。
失神したしんのすけの襟首をつまみ、持ち上げるマカオ。


マカオ「ハーイ、ざーんねん」
ジョマ「なかなかうまくはいかないものね……」


ロールシャッハ「…………UUMMM」



アクションビームの効果も切れる。
トッペマも力尽き、床に落ちる。
対岸でアナコンダが立ち上がる。

アナコンダに叩き落されるトッペマ、アクション仮面、ぶりぶりざえもん。


魔人アナコンダ「ゲームオーバーのようだな……」

パラダイスキング「ったくどうすんだこのアフロ!」

マホ「さっきの調子はどこいったんだよ? え?」

よね「……ロール……シャッハ……」

よねを締め上げるマホ。


ハブ「……お前たちはよくやった。それは誉めてやろう」

鼻血を拭い、ひろしとみさえに爪を向けるハブ。


残った人形たちに捕まったカスカベ防衛隊、ひまわりとシロ。



ジョマ「聞こえるかしら? カスカベのみなさん?」
マカオ「面白かったでしょう? ヒーローが勝てないというのもたまにはね」


城内のモニターに映る、21世紀博の避難所。
絶望の声が聞こえる。


スンノケシ「……しんちゃん!」


広間に声が響く。


スンノケシ「僕だよ、覚えてる!?」

      「また逢おうって約束したよね!」

      「ボク逢いに来たんだよ!」

スンノケシ「だから起きて、しんちゃん!」


その声は再び、しんのすけを呼ぶ声を広げていく。


ひろし「そうだぞしんのすけ、目を覚ませ!」
みさえ「もういくら寝坊してもいいから、今だけは起きて!」


トッペマ「しんちゃん!」
よね「しんのすけ!」
風間「しんのすけ!」
マサオ「しんちゃん!」
ネネ「しんちゃんってば!」
ボー「しん、ちゃん!」
ひまわり「たやー!」
シロ「アン!」
アクション仮面「しんのすけくん!」
ぶりぶりざえもん「おいしんのすけ!!」


しんのすけ「…………お……?」

しんのすけ「…………眠いゾ……」


ロールシャッハ「……シンノスケ」


しんのすけ「……はっ!」
      「シャッハのおじさん!」


ロールシャッハ「ああ」
        「……家に帰ろう」




ジョマ「感動のお目覚めね」
マカオ「なんの意味もないんだけどねえ」


ジョマ「……あなた、まだトランプを隠し持ってるわね」
マカオ「……渡さないと、罪なき市民が犠牲になるわよ」


ロールシャッハ、日誌を開く。


しんのすけ「ダメだゾ! 最後の一枚――!」


ジョマ「子供は正直ね」
マカオ「残酷なほどね」




ロールシャッハ「……HEH.」

         「こんな紙切れ」

         「……欲しけりゃくれてやる」



ピン、と指でカードを弾くロールシャッハ。

そいつは天井に届きそうなほどに宙を駆け上り――――



一同「「「「「「「「「「「「 !!! 」」」」」」」」」」」」



そして降りてくる――


ジョマ「これであなたたちは、」
マカオ「本当に詰みよ」





カードの絵柄は――――古い映画の写真――





マカオ・ジョマ「――――!」







そこに写る少女が――




――――つばきが、ウィンクする。







ロールシャッハ、いちばん新しいページを開く/
そしてそこから、本当のトランプを取り出す/
マカオとジョマの手が、トランプに伸びる/
しんのすけが束縛を振りほどき飛び出す/



カードを差し出すロールシャッハ/その端に触れるしんのすけの指。




ロールシャッハ「 スゲーナ / スゴイデス !」しんのすけ




とてつもない光があふれ――すべてをつらぬく。





――21世紀博


「……どうなったんだ……?」



真っ白な画面となった、21世紀博のスクリーン。


やや時間があって、ぶりぶりざえもんの絵と、一枚のロゴが出る。



『 嵐を呼ぶ! 救いのヒーローたち
   ~しかし、誰が世界を救うのか~ 』

        『終』




「……なんだ? 映画だったのか?」
「大規模なドッキリだったんじゃない?」
「いや、でも……」



カスカベ市内の人形が、次々と崩れていく。
そのあとに、取り込まれた人々の姿が。


ヨシリン「ミッチいいいい!」
ミッチー「ヨシリいいいン!」




ジャーク「……あ、あら……??」





サタケ「……やったのか?」

ローズ「あんたいったいなに見てたのよ!」

ラベンダー「完全勝利に決まってるでしょおバカじゃないの!」

レモン「おのんきに映画見てたわけじゃないのよ!」

サタケ「うう、うるせー!」

むさえ「ほーらね? だから言ったっしょ?」





園長「いやあしかし本当にしんのすけくんに似てますねえ」ナデリナデリ

スンノケシ「あの、ちょっと!」

ルル「王子に触らないでください!」


よしなが「このいい子さをしんちゃんにも少し分けてあげてほしいわ……」グス

まつざか「あら頑張ってたじゃない、本物のしんのすけくんも」

上尾「よしなが先生、号泣でしたよねあのとき」

よしなが「いいじゃないの、でもほんとに良かったあああああーん!」


あい「あの、しん様とはどういうご関係ですの?」

スンノケシ「ええと、友達だけど、顔が似ていることは別に……」

ルル「お嬢さん。我が国の王子に色目を使うのはやめていただけますか?」

黒磯「色目とはなんだ! お嬢様、こちらへ!」


ルル「……」黒磯「……」

ルル・黒磯「フンッ」





北本「災難だったねえロベルト」
ロベルト「でも、チンノスケのカッコいいトコロが見れたヨ!」



竜子「よーしお前ら、朝メシでも喰ってくか!」
お銀「お、リーダーのオゴリ?」
マリー「この状況で営業してんのー?」



スンノケシ「でも、ルル、」

スンノケシ「みんな、ちゃんと戻ってこれたかな?」

ルル「そうですね……やはり、あの場所に行ってみるのがよろしいかと」







――光の中の、ヘンダーランド




ロールシャッハ(光が……俺たちを粉々に吹き飛ばす)



トッペマ(こんな……すごい力だなんて……)

トッペマ(……笑っちゃうくらいね……)

しんのすけ「ほっほおおおおお!」

ぶりぶりざえもん「おい精密機器に強い光を当てるな!」

ひろし「しんのすけ! みさえ!」
みさえ「ひまわり! シロ!」
ひろし「風間くん、ネネちゃん」
みさえ「マサオくん、ボーちゃん!」
アクション仮面「みんなつかまれ!固まるんだ!」

よね「……ロールシャッハ!……」


声をかき消すような光の嵐。




しんのすけ「――トッペマ!」

トッペマ「大丈夫、もうすぐおさまるわ」

しんのすけ「……やりすぎた?」

トッペマ「んー、ちょっとね!」


トッペマ「でも、ありがとう」


風間「トッペマ……!」

トッペマ「風間くんたちもありがとう」


トッペマ「……みんな、みんな、とてもカッコよかったわ」


メモリ・ミモリ「……救いのヒーローたち……」


トッペマ、メモリ・ミモリの姿となり、やがて消えていく。





ロールシャッハ(――この感覚を、俺は知っている)


(Dr.マンハッタンに、南極で消されたときだ)


(俺はあのとき、この顔を脱ぎ捨てた)


(ウォルター・ジョセフ・コバックスとして死に――)


(奴に、ロールシャッハを殺させないために)



(あの幻の中で、俺は、俺の知らぬ故郷の姿を見た)


(そして確信した)


(白と黒の対称形は、あの地にまだ生きている)


ロールシャッハ(――ほんのわずかな一滴でも)



      「いや、その……」
      「すまない、忘れてくれ」
      「いいんだ」



ロールシャッハ(……ダニエル)

ロールシャッハ(……本当に、別れるべきときが来たようだ)




――カスカベ座 シアター内



目を覚ます一行。

しんのすけ「……お?」

みさえ「ここは……」

ひろし「…………帰ってきたんだ!」

ひろし・みさえ「やーったやったやった!」

風間「よかったー!」

マサオ「ふうう、ホントに死ぬかと思ったー……」

ネネ「でも、私も魔法使ってみたかったなー」

ボー「けれどぼくたち、すごい冒険、した!」


風間「……トッペマ……」

しんのすけ「どーしたの風間くん。トッペマとお別れしたのがさみしいの?」

風間「そんなんじゃない!」

風間「お前だって、前にここに来たときにはおんなじ感じだったじゃないか!」


しんのすけ「つばきちゃんにはまた逢えたもーん」

風間「え、どうやって!?」


しんのすけ「ナ・イ・ショ!」

しんのすけ「だからトッペマにもまたすぐ逢えるゾ!」

風間「根拠のないこと言うなよー!」



みさえ「なーんか、」

ひろし「やっと日常に戻ったって感じだな!」

ひまわり「た!」
シロ「アン!」



ロールシャッハ「……UU……MMM」

よね「……起きた?」


ロールシャッハ「ここは……」

よね「どこって、カスカベ座に決まってんじゃない!」


ロールシャッハ「HURM.」

ロールシャッハ「……また死んだのかと思った」

よね「はあ?」











ロールシャッハ「……ぶりぶりざえもんはどうした?」





よね「あ――――――――――!!!!」


一同「「「!!!!!!!!!!!!!」」」


ロールシャッハ(NO!)





アクション仮面「――それなら、ここにいるよ」


コスチュームのポケットから、ディスクを取り出すアクション仮面。


しんのすけ「アクション仮面! スッテキー!」

アクション仮面「ははは、私を助けてくれたときの君は、もっと素敵だったぞ」

しんのすけ「いやあそれほどでもお!」


よね「あー、マジでよかったァー……」


ぶりぶりざえもん「私を差し置いて盛り上がるなコラ!」

みさえ「やーだ、最近のオモチャはこんな高性能なのね」

ぶりぶりざえもん「オモチャじゃない!
           お前いったい今までなに見てたんだ!」


アクション仮面「……これで、君の期待には応えられたかな?」


ロールシャッハ「……ああ」

         「感謝する、アクション仮面」




スンノケシ「しんちゃ――ん!!」

しんのすけ「スンちゃ――ん!!」

風間「へえ、本当にしんのすけとそっくりだな!」

ネネ「でもしんちゃんよりかっこよくない?」

マサオ「兄弟みたいだよね」

ボー「兄弟というより、分身!」



ひろし「ん、んっ」(咳払い
ひろし「やあルルさん、相変わらずお美しい」

ポカァン!
みさえ「ごめんなさいねえうちのが……ホホホ」

ルル「ハハハ……野原さんたちもお変わりないようで。ご無事でなによりです」



ローズ「あんた観てたわよーやるじゃないのもう!」グリグリ
ラベンダー「銃の腕前は相変わらずだけどッ」グリグリ
レモン「結構戦力になってたじゃない!」グリグリ

よね「ちょ、ちょっと、いてえよ!……ハハッ!」



サタケ「ひ~まわりちゃ~ん!」

ひまわり「た! たあい!」

サタケ「こわかったでちゅね~でもがんばりまちたね~エライエライ!」

ジャーク「はあ~、見ちゃいらんないわ……」



ロールシャッハ「……ルル……」

ルル「わかっています。壺のことですね」

ロールシャッハ「そうだ。あれは戻っていない」

ルル「また、彼らやあのような者たちが現れると思いますか?」

ロールシャッハ「ああ」

ロールシャッハ「何度もな。だが、何度でも叩き潰す」

ルル「……我々も同じです」



ひろし「おー、そうだ、あんた!」

ロールシャッハ「……?」

ひろし「あんたのこと、俺は完全に許したわけじゃないからな!」

みさえ「あなた、ちょっと! しんのすけが帰ってきたんだから、それでいいじゃない!」

ひろし「俺の家族を危険な目に合わせたんだ、だから俺はあんたを絶対に許さん」


ロールシャッハ「……」


ひろし「だが、しんのすけを連れ戻すって約束を果たしたことには感謝する!」

ひろし「……ありがとう!」

頭を深く下げるひろし。

みさえ「あのー、ごめんなさいね? うちの人こういうとこ素直じゃなくて」


ロールシャッハ「……」

ロールシャッハ「……深く、受け止めておく」





ミミ子「お帰りなさい、アクション仮面!」

メケメケZ「これでおあずけになっていた勝負の続きができるな」

ミミ子「もう、今はショーでも撮影でもないんだから!」

アクション仮面「いやあ、もうホントに大変でした」


しんのすけ「大丈夫だゾ、正義は勝つ!」


しんのすけ「ワーッハッハッハ!」
アクション仮面「ワーッハッハッハ!」

男の子一同+ミミ子「「「ワーハッハッハ!」」」

ルル「……なにかの宗教でしょうか?」




よね「あんた、やんなくていいの?」


ロールシャッハ「HEH.」






ロールシャッハ「……WAH……ハハハ……」





















むさえ「みんなー、写真撮るよー!――――」





市内 どこかのビルの屋上



ヘクソン「……なんの用だ」


パラダイスキング「――あんたは帰って来れたんだな?」

パラダイスキング「どうだ? 最後に一戦、俺とやらねえか?」


ヘクソン「……くだらん」

ヘクソン「お前はおそらく、永遠に郷剛太郎にも勝てんだろう」


ヘクソン、ビルを飛び越えて消えていく。


パラダイスキング「あー、逃げやがったなあいつ」

マホ「で、あんたどーすんだい、これから。お互い、追われる身だろ」


パラダイスキング「そーさなあ……とりあえずこの髪の毛をどうにかする。それからもっかい南でも行くかァ」

マホ「お前あのアフロ似合うって本気で思ってたのかよ? 今の方がまだいいぜ」

パラダイスキング「どーせオンナにゃわかんねェーよ!!」




カスカベ市内 某レンタルビデオ屋



マイク水野「いらっしゃいませェー」

マイク水野「……!」


ロールシャッハ「あんたはカスカベ随一のシネフィルと聞いた」

ロールシャッハ「この映画がなにか、わかるか?」


ロールシャッハ、日誌の栞を取り出す。


マイク水野「……これは……!」

       「……これは、完成しなかった映画なんですよ」

       「間近でお蔵入りになっちゃったらしくてね、未完成のフィルムはあるみたいですが」

       「これは宣材のスチール写真でしょう」

マイク水野「いやー残念ながら、この映画を観ることはできないんです」


ロールシャッハ「……結末はどうなる?」

ロールシャッハ「知っているのだろう?」


マイク水野「……そりゃあなた、
       ハッピーエンドで終わるんですよ。
       そうとも、そうでなきゃね」


ロールシャッハ「……そうか」

ロールシャッハ「邪魔したな」


マイク水野「あのー、お客さん」

ロールシャッハ「?」


マイク水野「あなた、こないだ21世紀博のスクリーンに出てた人でしょう?
       ああやっぱりそうだ」

マイク水野「最近来る人来る人、あの映画はないか、って聞いてくるんですよ。
       映画じゃないのにね。“嵐を呼ぶ! 救いのヒーローたち”っていうアレ」


ロールシャッハ(そうか……あのブタが気を利かせたな)


マイク水野「古い映画にもいいのはたーくさんあるんですがねえ、
       若い人は全然です」

マイク水野「その映画を知ってるってのはなかなかですよ」


ロールシャッハ「……もういいか」

マイク水野「あ、あのー、サイン……って、もらえます?」


ロールシャッハ、差し出されたノートに書き記し、店を去る。


マイク水野「ありがとうございましたー!」



水野、ノートを見る。


“.┓┏. ”


マイク水野「……?」



市内 大袋博士の秘密(違法)研究所



ロールシャッハ(Dr.オオブクロの行方がわかった)


(助手とともにブリブリ王国を渡航中、痴漢で捕まり拘留されていたという)

(そのような男の肩に世界が乗っていたかと思うと吐き気がする)

(ただし、件の報復装置が破壊できることは間違いない)


(協会へはなにも報告していない)

(使用許可などない)

(無論、そんなものなくとも俺はやる)


ロールシャッハ(……ぶりぶりざえもん)


(こいつが味方でなければ勝てなかった)

(それはまた、シンノスケがいなくては成り立たなかったのだ)


ロールシャッハ(HEH……救いのヒーロー、か……)





コンピュータの前に座る大袋博士。隣にアンジェラ青梅。


それを囲むロールシャッハ、よね、ルル、スンノケシとしんのすけ。


大袋「ええと、マジでやっちゃってええかの?」

ロールシャッハ「構わん。どうせ俺にこの手の機械は使いこなせんからな」


大袋「ひとつ注意しておくと、こいつは複製もできなれば操作もできんよ。
    呼んでも戻らん。そこんところ、わかっとるね?」

ロールシャッハ「ああ」


しんのすけ「でもなんでまたぶりぶりざえもん作ったの?」

アンジェラ「もーったいなかったのよう、だってあんなにすごい電子生命体なのよ」

アンジェラ「もちろんSMLにはナ・イ・ショ」


よね「でもこれ、実際はサイバーテロだよな……」

アンジェラ「バレてもわかってくれるわよんきっと!」


大袋「またというより復活させたといった方が正しいのう」

大袋「しんのすけくん。キミのこともちゃあんと覚えとったじゃろ?」

しんのすけ「ほうほう」



ルル「……なぜここに保管していたのですか?」

大袋「怖かったんじゃようわしひとりでアップロードするの」

大袋「あんたらみたいなのが来るのを待っとったんじゃ」

よね「……そんな理由で……なんかアホらし……」


大袋「もうひとつ、理由はあるぞ」

大袋「最後は、しんのすけくんに送り出してもらわんとな」


スンノケシ「しんちゃん。キミが世界を変えるんだね!」

しんのすけ「いやあ照れますなあー」


大袋「ぶりぶりざえもんはこのコンピュータから
    この国のネットワークに侵入し、
    各国の回線や電子機器を勝手に経由して進んでいく。
    時間は正確にはわからんよ。
    そのほーふく装置の作動には間に合わんかもしれん」


ロールシャッハ「……最大限、急いでくれ」

ぶりぶりざえもん、モニターから飛び出す。

ぶりぶりざえもん「いいだろう。だがお助け料ひゃくおくまんえん」

ロールシャッハ「ローンも可だろう」

ぶりぶりざえもん「先に言うな!」



しんのすけ「ぶりぶりざえもん、」

しんのすけ「怖くない?」


ぶりぶりざえもん「……少しな」

ぶりぶりざえもん「だが案ずるな。こないだもこの街を救ったのだ」


しんのすけ「オラたち、また逢えるよね?」

ぶりぶりざえもん「……どうかな」

スンノケシ「逢えるよ! ボクたちだってそうじゃないか!」

ぶりぶりざえもん「……ものすごくヒマになったら、お前の家のテレビから出てきてやる」

しんのすけ「なんかホラーだゾ……」

ぶりぶりざえもん「おいせっかくいいこと言ったのにぶち壊すな!」




ロールシャッハ「ぶりぶりざえもん」

ロールシャッハ「装置を止められるのはお前だけだ」

ロールシャッハ「全部、お前に託すからな」


ぶりぶりざえもん「……わかってるっつーのッ! 子供扱いするな!」


大袋「さあ、しんのすけくん」

大袋「準備は整った。このキーを押してくれ」


しんのすけ「ほい!」


ぶりぶりざえもん「……じゃあな。元気でやれよ」

しんのすけ「……お前もな!」




しんのすけ、小さな指でキーを押す。





日誌 ロールシャッハ記


2000年7月1日


電子生命体“ぶりぶりざえもん”の奪還と、その送信は終わった。
これで、東ゴルドーの報復装置は破壊できる――まだ核は落ちていない。


カスカベの混乱は去った。
俺が来たときのように、すでに奇妙な住人たちが活気づいている……
俺のことすらも忘れているかのように。


つくづく奇妙なのは、この街はやはりあの映画館と同様に、
時間の流れから取り残されていると思えることだ。
八秒後も、八世紀後も同じく動いているかもしれない。
ほんの子供がその一瞬に、なんども世界を救うように。

Dr.マンハッタンがこの街を見たら、なんと言うのだろうか。
しかし、ここが終末に最も遠い街であることは間違いない……


カスカベはもはや俺を必要としていない。
――――ここを発とう。


終末は核だけによりもたらされるわけではない。
蟻どもは依然として健在だ。無論、それだけでもない。


この身が砕け散るまで、

…………俺が、俺の救えなかったニューヨークの魂と同じく、
廃墟の街の一部となるまで、俺には闘い続ける義務がある。






カスカベのどこか――――




ロールシャッハ、土手を歩いている。
よねとしんのすけがそのあとをついてくる。



しんのすけ「ねーねー、シャッハのおじさん、フーちゃんどこに行ったの?」


ロールシャッハ「……」


しんのすけ「おうち知ってるんじゃないの?」


ロールシャッハ「……」


しんのすけ「アクション仮面の映画観るって約束したんだゾ」


ロールシャッハ「……」


しんのすけ「……無視ですか」




よね「さてと、私は逃げてった奴ら追っかけなくっちゃなあ……」

   「これが最後になるかな……」

   「あんた、これからどうすんの?」


ロールシャッハ「……この国を出る」

よね「もう、二度と来ないの?」

ロールシャッハ「……今度のようなことでもなければな」

よね「……あっそ!」


ロールシャッハ「グロリア」

        「次に逢うことがあれば……」

        「……願わくばそのときは、
         もう少し役に立つようになっていてほしいものだ」


よね「……あんたも、その口の悪さ直しとけよな」

よね「……じゃあなっ」

ロールシャッハ「……HEH.」


しんのすけ「……行っちゃったゾ」

しんのすけ「いいのー? ほっといて?」

ロールシャッハ「……俺になんの関係がある……」

しんのすけ「……んー……さみしくない?」

ロールシャッハ「…………」

ロールシャッハ、振り返る。
彼女の姿はもう見えない。




ロールシャッハ「……シンノスケ」


ロールシャッハ「俺の顔がなんに見える?」


ロールシャッハの顔は、もう一度少年の絵になる。


しんのすけ「んーと、んーと、んー……」


ロールシャッハ「……見えたものを言ってみろ」


しんのすけ「アクション仮面!」


ロールシャッハ「……」


しんのすけ「とカンタムロボと、ぶりぶりざえもん!」



ロールシャッハ(!……)

ロールシャッハ「……HURM.」



しんのすけ「まだあるゾ!」


「オラの父ちゃんと母ちゃんにも見えるし、ひまわりとシロにも見えるゾ」

「じいちゃんとばあちゃんたちも、カスカベ防衛隊も、幼稚園のみんなも!」

「まわりの白いとこは師匠たちに見えるし、」

「ななこおねいさんにも見えるし、すごくキレイなチョウチョにも見えるゾ」


「フーちゃんにも、」

「おじさんにも見えるゾ!」


「たくさんいろんなものがあって、」

「オラ、ひとつに決められない」


しんのすけ「ああもう、また形が変わったゾ!……今度はねえ、……」


ロールシャッハ「……もう、充分だ」


しんのすけ「お?」


ロールシャッハ、帽子を脱ぎ、マスクを取り去る。


ロールシャッハ「……この顔は、どう見える?」


しんのすけ「?……」


しんのすけ「……!」





日誌 ロールシャッハ記


2000年7月1日 

追記



必ずまた逢える。
子供たちはそう繰り返していた。

だが俺には必要な言葉じゃない。
ただ彼らの記憶に、俺は浅からぬ爪跡をつけただろう。
それだけで、この俺には充分だ。


鏡を見る。


俺の顔が無限に変わっていく。
幾多の白と黒の対称形がそこにある。

その中に、俺は罰すべき幾多の者と、救うべき幾多の者を見る……
そしてまた、二度と現れない姿も。






――――今夜、この世界から終末がひとつ遠ざかる。





赤毛の少年は死んだ。
ウォルター・ジョセフ・コバックスは死んだ。



ロールシャッハは、まだここに生きている。



.┓┏.







ふたば幼稚園――



よしなが「しんちゃん、その絵はなに?」

しんのすけ「やれやれ、そんなこともわからないのかみどり」

よしなが「よしなが先生、でしょ!」


ネネ「ウサギ?」

マサオ「怪獣?」

ボー「……石……?」


風間「違うよ、みんな!」


風間「えー……っと、……この絵は、なんだろう?」



しんのすけ「やだなーみんな、決まってるでしょー」



しんのすけ「嵐を呼ぶ、救いのヒーローたちだゾ!」








4年越しに完結しました。自分でも驚く長さになりました。
本当はもっと出したいキャラクターがいたのですが(特に堂ヶ島少佐とか)
また完結しなくなりそうなので止めました。

お待たせした分、楽しんでいただけるものになっていたらいいなと思います。
ただこんな変則的なクロスでしたので、
これを楽しめる方は相当限られるのではないかとも思います。

ロールシャッハですが、最近DCコミックスで二代目(?)が登場したり、
ウォッチメンのテレビシリーズが始まるそうだったりで、まだまだ人気は衰えないようです。
テレビシリーズでは、私がウォッチメンで二番目に好きなキャラクターである
マルコム・ロングの扱いを映画よりもよくしてほしいなと期待しています。

補足ですが、>>187-190の「」内の台詞はウォッチメンの原作から、
個人的に好きなものや印象的なものを抜粋しています。
本書をお持ちの方は探してみるのも一興かと。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom