男「ひと味違うバレンタイン」 (19)

約7000文字


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バレンタインデー当日 学校 教室

女「……ねえ」

男「ん?」

女「放課後、屋上の扉の前に独りで来て」

男「え!?」

女「私、待ってるから」

男「お、おう!?」

女「あと誰にも言わないで」

男「わ、わかった!?」

先生「お~い、席につけ、六限目の授業を始めるぞ!」

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授業中

先生「次は教科書の八十一ページの例題から──」

女「……」

男「……」

え!? え!?

マジで?! そういうこと!? 

ホントに!?

俺の学校の屋上への扉は、基本的に施錠されている。

なので屋上への階段を登り切っても、あるのは開かない扉と小さな踊り場があるだけだ。

そんな場所に用がある奴はまずいない。

しかし逆に言えば、多数の生徒で賑わう学校内に置いては、数少ないひと気の無い場所とも言える。

男女がバレンタインに、秘密で、そしてひと気のない場所。

もう決まったようなもんだ。

チョコだ。

チョコレートしかない。

彼女がチョコをくれるなんて、そんな素振り全然なかったのに。

明るくて話しやすくて可愛くて、教室の中でも席が近いこともあってよく話す方だし。

彼女からチョコ貰いたいとは思っていたけど、まさか本当に貰えるなんて。

今日は髪型のセッティングに時間をかけた甲斐があった。

いや当日だけカッコつけても、女子はチョコレート用意できないけど。

まあ気分的にな。

先生「よし、次は八十ニページ、この問題をといてみ──」

問題! そう問題はこれからだ。

すなわち、義理なのか? 本命なのか?

教室内で義理チョコを渡す。別に不思議なことでも難易度が高いことでもない。

現に他の女子が義理だと言って、仲の良い男子にチョコを渡しているのを見た。

教室内では、義理チョコなら渡しても良いというような、渡しやすい空気が出来ていた。

にも拘らず渡さなかったということは、義理チョコではないということ。

つまり


本 命。


男「……へへへ」

先生「……男? どうした?」

男「え!?」

いつの間にか周りはみんな問題を解いており、俺の机の脇から怪訝そうな顔の先生が、こっそりと話しかけてきた。

先生「体調でも悪いのか?」

男「いえ」

先生「なら問題といとけ」

男「はい」

え~と

女「……八十ニページ」

男「あ、ありがとう」

女「ふふ」

なんで彼女はいつもと変わらないんだよ。

いやなんかこの子からチョコ貰えると考えると、元々可愛いけど普段の三倍ぐらい可愛くなってる気がする。

あ~もう、なんか俺ばっかりドキドキして、ずるくないか。

これってやっぱりそういうことなんかな?

先生「ここは期末テストに出るからな! 分からないところは質問するように!」

いかん。

今は授業に集中だ。

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先生「はい、今日の授業はここまでだ! そのままホームルーム始めるぞ!」

女「……」

男「……」

先生「といっても特に連絡事項はない! 掃除当番はサボらないように! 以上!」

先生「号令!」

「起立」

「礼」

「「ありがとうございました!」」

先生「はい解散! 帰る奴は気を付けて帰れよ!」

男「……あのさ?」

女「私、先に行くね」

男「あ、うん」

男「……」

男「……いくか」

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俺は廊下を歩いて目的地に向かう。

彼女を待たせるわけにはいかないからな。

だが目的地に着く前にシュミレーションだ。いやシミュレーションだっけ。

とにかくイメージトレーニングだ。

チョコを貰ったら、取り合えずありがとうってお礼を言おう。

それで付き合うとかそういう話になったら、突然過ぎて考えられないから時間をくださいって言おう。

すぐにでも付き合いたいけど、がっついていると思われたくないし。

頭の中ぐちゃぐちゃですぐに答えを出すのは、不誠実な気もする。

良し、これで完璧だ。

階段の前で、少しだけ立ち止まる。

男「ふ~」

この上で彼女が待ってる。

男「……」

良し、行こう。

屋上への階段を一段一段、幸せを噛みしめる様に上る。

付き合ったら遊園地とか行きたいな。ふたりで。

いや小さな公園とかでも、きっと楽しいから行きたいな。ふたりで。

大したことないようなことも、ふたりでならとても素敵なことのように感じられた。

俺の人生は今日という日のためにあった気がする。

いやきっとそうに違いない。

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屋上の扉に背中を預けるようにして、彼女は独り待っていた。

女「……あっ、やっときた」

彼女は俺を見つけると、少しだけ咎めるようなことを言って微笑んだ。

男「ご、ごめん、待った?」

女「いいよ、呼び出したの。こっちだし」

男「……うん」

平然と。

平然と。

何でもないように。

何でもないように。

女「……ちょっと待って」

男「……うん」

やばい。

無理。

可愛い。

恥ずかしい。

好きです。

結婚してください。

死ぬ。

あ!

まずい!

言おうとしてたこと、全部とんだ!

女「……これ」

彼女は鞄から、綺麗に包装された長方形の赤い箱を差し出した。

箱にはピンク色のリボンが巻かれており、リボンと箱の間には真っ白な手紙が挟まっていた。

男「……お、俺でいいのか?」

女「うん、他にいないし」

男「……じゃあ──」

俺はそれを受け取ろうと手を伸ばした時、初めて気が付いた。

男「その指?」

女「あ、うん。チョコ作るときちょっとね」

絆創膏のついた彼女の小さな手からチョコレートを受け取る。

手作り。

手作りチョコ。

俺、もしかして明日には死ぬんじゃないかな。神様!

そうだ!

お礼を言うんだった。

男「……あ、ありが──」


女「お願い! それをイケメン君に渡して欲しいの!!」


男「え!?」

イケメン?

渡す?

何を?

これを?

手作りチョコを?

誰に?

イケメン?

何でここでイケメン?

これをイケメンに渡す???

女「……本当は昼休みに直接、渡すつもりだったの」

男「……」

女「……でもどうしても……どうしても渡せなくて、それで男君ならバスケ部で一緒だから」

あれ?

女「……部活終わったあとに、こっそり渡して欲しくて」

なんで?

女「部活が終わるまで待ちたいのだけど、今日は用事があって……」

どうして?

女「他に頼める友達もいないし」

友達……友達……友達……

女「男君?」

不安げな彼女の瞳が覗き込んでくる。

友達……いや、なら俺は!

男「ま、まかせとけ!!」

女「ほんと!?」

男「ああ、それで渡すとき、なんかアピールあるか?」

女「別にないよ」

男「けどさ、俺がこの手紙を読むわけにはいかないだろ?」

女「やめて!」

酷く焦った声を彼女があげる。 

女「それ、のり付けしてるから、イケメン君が読む前に読んだら分かるんだからね!」

男「ああ、うん、悪い。最初から読むつもりないよ」

彼女は俺の返事を聞いてホッとして、自分の言ったことの意味に気付いたみたいだった。

女「ご、ごめんなさい。頼んでいる立場なのに疑うようなこと言って」

男「いや、せめて義理なのか、本命なのかを確認したいと思ったんだ。もう大体わかったけど」

男「好きな人への手紙を、誰かに読まれるのは嫌だよな。うんうん」

女「……」

恥ずかしそうに彼女は俯いた。

男「よしわかった! 本命チョコだって言って渡して、真剣に考えてくれって言っとく!」

女「……お願いします」

男「ああ、イケメンと二人の時にバッチリ渡しとく!」

女「ありがとう。男君と友達で良かった」

男「ああ、俺は頼れる男だからな」

女「ふふ、そうだ! これあげるね」

男「これは?」

女「義理チョコ。といっても手作りチョコの材料の、板チョコのあまりだけど」

男「ありがとう。運動した後は筋肉がカロリーを求めるから助かるよ」

女「あはは、なあにそれ? でもこっちこそありがとう」

男「おう!」

女「……私、もう行かなくちゃ」

男「おうチョコは任しとけ!」

女「本当に本当にありがとう。またね!」

男「ああ、またな」

そう言って彼女は重い荷物を下ろしたかのように、軽やかな足取りで階段を駆け下りていった。

男「……」

男「……」

男「……ああぁあぁ~!」

静まり返った空間で独り、溜息と悲鳴の入り混じった奇声を上げる俺。

友達。義理チョコ。

死ぬ。なんかもう死にたい。

消えてなくなりたい。

誰か俺を、俺を素粒子レベルで分解してくれ!

俺が死ぬのは明日じゃなかったのか! 神様!

男「……」

男「…………」

男「………………」

男「……部活、行くか」

階段を上るときは、ふたりですることばかり考えていたのに。

下りの俺は、どこまでも独りだった。

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部活後 帰り道

イケメンは高身長、スポーツ万能、容姿端麗、成績優秀、性格も爽やか。

まさに絵に描いたようなイケメンだ。

そして俺とイケメンは帰りの方向が一緒だ。

だからいつも自然と二人なる。

二人きりになったタイミングを見計らい、切り出した。

男「……なあ、イケメン」

イケメン「ん?」

男「これ」

イケメン「えっなにこれ!?」

訝し気にイケメンは赤い箱を受け取る。

男「本命チョコ」

イケメン「えぇ!?」

男「真剣に考えてくれ」

イケメン「え!? え!? え!? ホントに!?」

男「……」

イケメン「……」

イケメン「……ホントなんだね……」

イケメンは心底、驚いた顔をしている。

男「……かはっ」

イケメン「?」

男「うはははははははっ!、冗談だよ冗談! うははっ!」

俺はこらえ切れず、爆笑してしまった。

イケメン「ひどいよ! 本気かと思ったよ!」

男「まあ、何も言わずに渡したらそうなるよな! うははっ!」

イケメン「どういうこと?」

男「やっぱ、俺は悪くねえってこと!」

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イケメンに俺が何故チョコレートを持っているのか、俺の勘違いも含めてすべて話した。

イケメン「あはは、いきなり呼び出されて、何も言わずにチョコレート渡されたらみんなそうなるよ」

男「だろ! 本命チョコ貰えるって思って、こっちは結婚生活まで考えてたのによ!」

イケメン「その状態なら僕も勘違いしそう。結婚生活は行き過ぎてキモイけど」

男「おい、同意するのかしないのかハッキリしろよ。あと今はキモイとか言わないで。泣きそう」

イケメン「あはは、ごめんごめん」

男「いやー、先走って『ありがとう』とか言わなくて良かったよ。もし言ってたら」


男『ありがとう』

女『は!?』

男『え!?』

女『……』

男『……』

女『…………』

男『…………あれ?』


男「みたいな地獄の沈黙が発生するとこだった」

イケメン「あはははは」

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男「さてと、冗談はここまで、約束はしっかり果たさないとな」

俺は真面目に、イケメンに向き直る。

イケメン「?」

男「俺は別に怒ってないよ。きっと彼女も余裕がなかったんだ」

男「そしてそのチョコにこもった思いは本物だと思う」

イケメン「……」

男「お前に直接、渡そうとしてどうしても渡せなかったんだってさ」

男「俺、少しだけ分かる気がする。好きだからこそ怖いんだ」

男「どうでもいい奴なら、いくらでも渡せる」

男「真剣だから嫌われるのが怖い。今までの関係が壊れてしまうのが怖い。ハッキリさせるのが怖いんだ」

男「いやこの理屈でいくと俺はどうでもいい奴だから、チョコを渡せたことになってかなり悲しいが」

男「お前がたくさんチョコ貰っているのは知ってる。でも」

男「そのチョコにこめられた、彼女の気持ちも真剣に考えてほしい」

イケメン「……わかった」

男「よっし、任務完了!」

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男「でもさ、クラスも違うのに、いったいどんな接点があってチョコ貰ってるんだよ! 顔か!?」

イケメン「たぶん彼女が駅で定期と財布を無くして困ってた時に、お金貸したことがあるからだと思う」

男「おまえって本当にイケメンが服着て歩いてるような奴だな」

イケメン「ふふ、大抵のイケメンは服着てると思うよ」

男「いやそうだけどさ。でもそうなんだ」

イケメン「お金も返してもらったし、大したことしてないのにな」

男「いや普通は困ってても気付かないよ」

イケメン「そうかな。鞄ゴソゴソして回りキョロキョロしてたから、何か困ってるのかと思って話しかけただけだよ」

男「はえ~、イケメンはやっぱ違うな。違い過ぎる」

イケメン「からかうなって」

男「へへ、ところでさ、結局、彼女とは付き合うの?」

イケメン「!」

イケメンは急に険しい表情になる。

男「あ、いや、ごめん。言いたくないんだったらいいんだ」

男「……」

イケメン「……」

男「……」

イケメン「……僕は君の」

男「……?」

イケメン「君のことが好きなんだよ!」

男「うぇええええ!?」

コイツいま何ていった!?

俺のことが好き?

たしかチョコ貰いまくりのモテまくりのコイツに、恋人がいないのはおかしい!?

こうゲイとか、ホモとか?

そういうことか!?

いや確かに辻褄は合うけど?

マジで!?

あっいや待てよ。これってもしかして?

イケメン「あはは、気付くの遅すぎでしょ!」

男「くっそ! そう来たか!」

イケメン「仕返しだよ。僕もビックリしたんだから」

男「あ~、やられた。というかモテモテなのに恋人いない奴が言うとか、シャレになってないだろ!」

イケメン「ふふふ」

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男「でさ、俺としてはそのチョコの彼女をもちろん応援してるけどさ」

男「彼女を含めていろんな子からチョコ貰ったんだろ。その中の誰かと付き合ったりしないのか?」

イケメン「……」

男「結婚まで妄想したフラれマンとしては、モテモテ選び放題で凄い羨ましいのだけどさ?」

イケメン「……君が真剣に話してくれたから、ここからは僕も冗談抜きだ」

いつもニコニコしているイケメンは真剣な表情になった。

男「あ、ああ」

イケメン「僕はこのチョコの彼女とは付き合わない」

男「何で!? まだ手紙も読んでないだろ!?」

イケメン「そしてチョコを貰った子達とも僕は付き合わない」

男「……」

イケメン「不満そうだね」

男「そりゃそうだろ! 真剣に考えてくれっていったのに! そんなにあっさり──」

イケメン「真剣に考えたさ!」

イケメン「……考えたからさ」

男「そんな……」

イケメン「……」

男「……」

イケメン「……僕は女先輩にフラれた」

男「え!?」

女先輩っていえば、美人で有名な先輩だ。

でも凄い理屈っぽい変人らしい。

コイツ女先輩のことが好きだったのか?

というか?

男「いつから!? なんで!? 俺そんなの知らないぞ!?」

イケメン「誰にも言ってないから、知らないだろうね」

男「……」

イケメン「いつからは、いつの間にかとしか言えない、気付いたら好きだった」

イケメン「なんでフラれたかは、僕も聞いてみた」

男「なんて?」

イケメン「『僕は君のことを恋愛対象に見たことはないし、これからもない』」

イケメン「『君に何かが足りないわけでもないし、何かすれば恋愛対象になるわけでもない』」

イケメン「『ただ僕の一番は別にいるってだけだ』ってさ」

僕?

男「……なんつうか、ばっさりフラれたな」

イケメン「うん、でも良かった」

男「はあ?」

イケメン「フラれたらどうせ傷つくんだ。なら真剣な気持ちを聞けた方がいい」

イケメン「真剣な気持ちには、真剣な気持ちで返す」

イケメン「たぶんそれだけでいいんだと思う」

男「……凄いな」

イケメン「うん。凄いよ。あんな風にフラれたら、なんだかもっと好きになったよ」

男「……いやそうじゃなくて、良かったなんて言えるお前が凄い」

イケメン「そうかな?」

男「そうだよ」

イケメン「……自慢に聞こえるかもしれないけど」

イケメン「僕は僕を好きな人を、好きになるわけじゃない」

イケメン「同じように僕の好きな人が、僕がモテるからといって、僕を好きになってくれるわけじゃないんだ」

イケメン「だから僕も君も本質的な所では、何も変わらないのだと思う」

男「そっか」

イケメン「うん」

男「あのさ?」

イケメン「ん?」

男「イケメンだのモテモテだの、からかって悪かったよ。もうからかわない」

イケメン「いいさ。分かってもらえたなら」

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男「しかしあれだな。お前の恋愛事情を全部聞いて、こいつは全然フェアじゃない」

男「スポーツマンはフェアでないとな。だから俺も全部を正直に話す」

イケメン「?」

男「正直、イケメンのお前でもフラれるんだと、ちょっとざまぁって思った」

男「後、俺はお前が誰とも付き合わないって聞いてホッとした」

男「応援するとかいったけど、お前と彼女が付き合うのはすげー嫌だ」

男「というか彼女が俺以外の誰かと付き合うのがすげー嫌だ」

男「これって好きってことなんだと思う」

男「だから今決めた!」

男「ホワイトデーに彼女を呼び出して告白する!」

男「イケメンにフラれて、傷心のところを俺の包容力で、ぐへへ」

イケメン「……」

男「どした?」

イケメン「真剣な気持ちには、真剣な気持ちで返すとは言ったけど」

イケメン「相手を傷つけるような事とか、隠しておきたい気持ちとか」

イケメン「自分が不利になることは、わざわざ言わなくてもいいと思うよ」

男「あり?」

イケメン「それにバレンタインデーに呼び出されて、勘違いして傷ついたのに」

イケメン「ホワイトデーに呼び出すの?」

男「そこがポイントよ。もしも何も考えずに呼び出しに応じるなら、突然の告白からの速攻を掛けられる」

イケメン「告白されると思ってきたら?」

男「その時は、バレンタインのときの俺のドキドキがわかるってわけよ」

イケメン「へえ」

男「要は期待させて裏切るのがダメなんだよ」

イケメン「今日の手作りチョコみたいな?」

男「そうそう。絶対もらえると思ってたのにって、うるさいよ!!」

イケメン「ふふ」

男「告白されるかもってドキドキ状態で、美味しいお菓子とセットで、想像以上の愛の告白を受けたらどうよ!」

イケメン「なるほどね。でも男子に呼び出されて、ホイホイ独りで来るかな?」

男「えっ嘘、来てくれないの!? マジで!?」

イケメン「女の子なら普通は怖いでしょ?」

男「そっか、そのパターンは考えなかった。……どうするべ?」

イケメン「いや、たぶん来てくれると思うけどね」

男「なんで?」

イケメン「いやだって信用してない奴に大切なもの預けないでしょ」

男「そっかそっか、イケメン大明神が言うなら信じるよ」

イケメン「イケメン大明神ってなにそれ?」

男「いや、待てよ。イケメン大明神もフラれマンだった。そう考えるとご利益があるか怪しい?」

イケメン「なに勝手言ってるんだ? というか僕は忘れてないぞ」

イケメン「僕がフラれて、ざまぁって思ったんだって?」

男「あっ、いや、ちょっとだぞ。ほんのちょっとだけ」

イケメン「……」

男「……」

イケメン「まあいい。許す」

男「……なんつうか、やっぱりイケメンだな!」

イケメン「もうからかわないんじゃないのか?」

男「いや、今のは違うよ。なんというか尊敬語のイケメン?」

イケメン「なにそれ?」

男「わからん。ふはは!」

イケメン「あはは!」

イケメンと俺は何だかとても可笑しくなって、声をあげて笑った。

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イケメン「じゃあ僕はこっちだから」

男「おう! またな!」

イケメン「またね」

イケメンと別れて、独り自宅への道を歩き出す。

話し相手がいなくなり、今日起きたことをじっくり考える。

イケメンも彼女も自分から行動したんだ。

待っていただけの俺とはまるで違う。

でも。

これからは俺も。

俺も彼女に、好きになってもらえるように頑張る。

そして来年のバレンタインは、念願の手作り本命チョコをゲットしてみせる。

男「……そうだ」

鞄の中から小さなビニール袋を取り出し、その中身を取り出す。

中身は彼女からの義理チョコだ。

何度も食べたことのある、ありきたりな市販品。

どこのスーパーでも買えるブラックチョコレート。

包みを開封して一口かじる。

男「んっ……ちょっと苦いな」

そのとき食べたチョコレートは、記憶の中の味とは少しだけ、少しだけ違った。


男「ひと味違うバレンタイン」  終わり


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