担任教師「え? 天海春香がどうかしましたか?」 (64)

とある日、職員室

数学「いえ、特にどうかしたというわけじゃないんですが。
   天海ってアイドルやってるんですよね?
   今年から授業持つからちょっと気になって」

担任「ああ、なるほど。特に気にすることは無いと思いますよ。
  最近は結構売れてきてるみたいで欠課は前よりは増えてますけど、
  授業態度なんかはいたって真面目ですし」

数学「へー」

担任「提出物も……まぁ、ちょっと抜けてるところがあるんで
   たまに忘れる時はありますけど、大体はきっちり出してきますよ」

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体育(男)「お、天海の話ですか? アイドルの」

担任「ああ、はいそうです。アイドルの」

体育(男)「なるほど、さては数学くんは天海のファンだな?」

数学「えっ! いや違いますよ、そういうことじゃなくて!」

体育(男)「いやいや、あれはしょうがない。
     俺はもうあの話を聞いた瞬間から天海のファンだから。ね、先生!」

体育(女)「ああはいはい、あれね。犬かきね」

数学「犬かき? なんですかそれ」

体育(女)「いや、彼女はもうすごいんですよ犬かきが。
     水泳部の子のクロールと同着でしたから。いや、あれは勝ってたかも知れないな」

数学「い、犬かきでですか!?」

体育(男)「あぁもう見たかったなあー!
     それ聞いてから本気で次の女子の水泳見に行ってやろうと思いましたからね!」

体育(女)「他は全然たいしたことないんですよ?
     なのに犬かきだけは本当にすごかった……」

家庭「家庭科もそんな感じですよー」

担任「あ、家庭科先生」

数学「か、家庭科もですか!」

家庭「まぁ言っても、犬かきほどのインパクトはないですけど。
  お菓子作りはすごく得意なのに裁縫は……って感じですね。
  いやお菓子は本当に見事なんですよ? 聞いたら本人も趣味って言ってましたし」

数学「へ~……」

担任「まあ、そんな感じです。どうですか、大体わかりましたか? 天海のこと」

数学「あぁはい。なんていうか僕が思ってたより……普通だなと。犬かき以外は。
  アイドルなんてやってるんだからもっと変わってるのかと思ってました」

家庭「ふふっ、そうですね。普通ですあの子。まぁいい子ですけどね」

体育(男)「いや普通が一番ですよ、ほんとに!
     生徒らが全員普通ならどんだけ楽か。そんないい学校はない!」

体育(女)「ほんとにね」

数学「あはは……。取り敢えず天海のことはそんなに気にしなくて良さそうですね」

担任「そうですね、気にするのは欠課時数くらいでいいと思います」

数学「はい、ありがとうございました」

とある日、職員室

理科「はぁ~……」

社会「あれ、お疲れだね。どうしたそんなため息なんかついて」

理科「あぁいえ、星井がちょっと……」

社会「星井……星井美希? ああ、また寝てたとか?」

理科「そうなんです。もう何回起こしても全然起きなくて……」

社会「やっぱりか。ほんっとよく寝るよね、あいつ……。ねぇ先生!」

担任「ちょっ、私に振らないでくださいよ! 来そうな予感はしてましたけど!」

社会「どうなってるんだ星井の担任は! 誰だまったく!」

担任「私ですけど! いやでも、真面目な話、
   そろそろちょっと保護者の方にも話した方がいいかなーとは思ってるんですよね……」

理科「保護者に、ですか。それはどんな風に……?」

担任「やっぱり家庭での様子ですよね、聞きたいのは。ちゃんと寝られてるのか、とか」

社会「本人に聞いたことは?」

担任「何回か聞きましたよ。でも何も問題ないって」

理科「うーん……。じゃあ単純に無気力なんですかねぇ」

社会「俺は正直、あれなんかの病気なんじゃないかと思うけどなぁ……。
   ナルコレプシーとか」

担任「こないだなんか全校集会で立ったまま寝てましたからね」

理科「え、本当ですか」

社会「ちなみに保健室の方は? 何か言ってない?」

担任「いえ、特には。健康診断とかは別に問題なしでしたし、
  それにあの子、保健室には全然行かないですから」

理科「ああ、確かに確かに。体調悪いなら保健室行けって言っても、
  大丈夫って言って、そんでまた寝始めるんですよね」

社会「成績はそこまで悪くなかったよね? 確か」

担任「そう……ですね。はい、成績はそれほど問題ないです。
  あれだけ寝ててなんで問題ないのかが不思議ですけど」

理科「ですよねぇ……。あれでちゃんと起きててくれればなぁ……」

担任「ただ成績っていうより、
  星井さんの場合はどっちかというとあっちの方が怖いんですよね」

社会「あっち?」

担任「ほら、すごいじゃないですか。男子からの人気」

理科&社会「あー……」

理科「すごいですね、あれは確かに」

社会「うん、あれはすごい。あいつらもちょっとは落ち着けって感じだけど」

担任「まあ今のとこトラブルなんかにはなってないみたいですけどね」

理科「アイドルだからその辺は気をつけてるんですかね?」

担任「どうなんでしょう……。まあその辺も含めて、今度の面談で保護者に話してみますよ」

社会「大変だねぇ。お疲れ様」

担任「あはは、ありがとうございます。頑張ります」

とある日、職員室

音楽「あ、先生お疲れ様です」

担任「ああ、お疲れ様です」

音楽「どうですか最近、如月さんは。元気にしてますか?」

担任「如月ですか? はあ、まあ元気だと思いますよ」

音楽「クラスの子とはどんな感じです? 私の授業では近頃は……」

担任「あ、すみません次授業なんで。それじゃ」

音楽「えっ、あ、はい、すみません……」

音楽「……はぁ」

国語「いやー、やっぱきついですねぇ、担任先生」

音楽「あ、国語先生……。なんででしょうね?
  アイドルやってるってだけで不真面目な生徒扱いって、ちょっと極端過ぎる気がしますよ」

国語「不真面目どころか一番真面目なくらいなんですけどね。
  成績はあのクラスでも上の方だし。
  ノートとかすごいですよ、すごく綺麗で。課題も絶対出しますから」

音楽「ですよねぇ。まあ真面目過ぎて色々大変なとこもありますけど……」

国語「ああ、まぁ合唱部は……そうですよね。まだ辞めてはないんでしたっけ?」

音楽「そうですね、辞めてはないです。やっぱり全然来てないですけど」

音楽「でも、近頃はちょっと様子変わってきましたよね?」

国語「あ、ですよね! なんか、笑顔を見るようになった気がします」

音楽「そうそう。『隣の席で話してー』とかやった時も、
  結構楽しそうに話してたりするんですよ」

国語「こっちの授業もそんな感じですね。
  アイドルの方が上手くいってるおかげですかね?」

音楽「周りが変わったからっていうのもあるかも知れませんね。
   最近、ウチの部にも如月さんのファンになりつつある生徒が出てきたりしてますし」

国語「へー、そうなんですか!」

音楽「はい。だから、そろそろ折を見て、話してみようかと思って」

国語「話す……合唱部のことですか?」

音楽「はい。また部活の方に顔出してみないか、って」

国語「そうですね、今の感じならいけるかも知れないですね」

音楽「まあ、もう少し様子は見てみますけど。
   このままいい方向にいってくれれば良いですけどね」

国語「ですね。僕もちょくちょく、様子気にかけておきます」

音楽「はい、ありがとうございます。お願いします」

とある日、会議室

学年主任「新一年生の学年担任はこのようになっております。
     既にお知らせしてあるものと、変わりはないでしょうか?」

担任「ないですねぇ……やっぱりこのクラスですねぇ……」

数学「ですね。先生はそのクラスですね」

学年主任「? 何かおかしなところがありましたか?」

担任「ああ、いえ。ただちょっと、双子が……」

英語「あはは、元気でしたもんねぇ体験入学の時」

国語「あー、そう言えばそうでしたね。
  なんかすっごい元気な双子いましたよね。顔もそっくりで」

学年主任「双子、双子……。ああ、双海亜美と真美、ですね。
     元気というと、何か問題を起こしたとか?」

担任「いや問題ってほどでもないんですけど……。
   『こいつらの担任大変だろうなー』とか思いならが見てたんですよ僕。
   そしたらまさか……まさかこうなるとは!」

数学「でも、別に問題があるとか指導計画があるとかじゃないんでしょ?
   小学校の方からも特になにも聞いてないですよね?」

担任「それはまぁそうなんですけどね……」

英語「だったらいいじゃないですか。
   あの感じだと、うまくやればクラスをまとめていけるタイプになるかも知れませんよ」

担任「だったらいいんですけど……。
   っていうか今更ですけど、なんでこの二人同じクラスなんですか?
   あれだけ元気ならバラけさせてもいいような気もするんですが」

学年主任「んー……そういう案も一応出たんですけどね。
     ただやっぱり、小学校まではずっと一緒に居たわけで、
     中学校っていう新しい環境に入ると同時に離してしまうのは大丈夫かな……
     っていうことで、同じクラスにしたんですよね」

担任「う~ん……まぁ、そうですよねぇ」

国語「あとはアレですね。やばそうな奴らは一つに固めて、
   誰か一人の担任に犠牲になってもらおう、と」

担任「オイ! やっぱそういうことか!」

英語「大丈夫、先生はベテランでいらっしゃいますから!」

数学「そうそう、いけますいけます」

担任「ちょっと! 他人事だと思って!」

国語「あはは、まぁそれは冗談ですけど、多分大丈夫でしょう。
  体験入学での感じだと、普通に分別はつきそうですし。
  最初にきっちり引き締めておけばそう問題にはならないと思いますよ」

担任「そりゃあきっちりやりますけど……」

学年主任「何かあれば私たちでフォローしますから。よろしくお願いしますね」

とある日、職員室

数学「お疲れ様です」

担任「あ、お疲れ様です」

数学「成績伝票です、よろしくお願いしまーす」

担任「おお、ありがとうございます。どうでしたか、ウチのクラスは」

数学「んー、まあ大体みんな頑張ってましたよ。
  ただちょっと、一人怪しげなのも居ますけど」

担任「あ~……高槻ですか」

数学「頑張ってはいるんですけどねぇ。
  やっぱりどうしても、能力が低いですから……」

担任「ですね……。なかなか上がりませんね」

数学「他の科目はどんななんですか?」

担任「いや、似たようなものですね。頑張ってるは頑張ってるみたいなんですけど」

数学「そっか……。平常点でなんとかなってる感じですよね。
  授業自体は一生懸命受けてますから」

担任「ですねぇ。まあ、ちょっと難しい説明すると顔がポカーンってなりますけど」

数学「そうそう、なりますね」

担任「提出物も頑張って出そうとはしてるんですが、
   やっぱりどうしても遅れたり抜けたりすることがあるんですよね」

数学「うーん……やっぱり、家庭の方が大変なんですかね」

担任「どうなんでしょう。あとはまぁ、アイドルもやってますからね」

数学「ああそうか、それもか。
   いやー……流石にちょっとキツイんじゃないですか?
   家事もやって、仕事もやって、っていうんじゃ……」

担任「んー……。ただ、本人はもう元気いっぱいですからね。
  勉強の方は単に能力って感じもします。
  あんまり効率よく物事こなすってタイプじゃありませんから」

体育「でもあの子、この時期の体育はすごいですよ」

数学「! そうなんですか? この時期っていうと、持久走?」

担任「あー、そうですね確かに確かに。持久力はすごいんですよね」

体育「そうそう、運動神経自体は飛び抜けて良くはないんだけどね。
  でもマラソンは本当に速い。陸上部にも負けてませんから」

数学「へー……。陸上部とかに入ったりはしないんですかね?」

体育「まぁねぇ。それはやっぱりホラ、家のこととかアイドルとかがあるから」

数学「そう言えば、進路はどうなんです?
   卒業したらそのままアイドルですか?」

担任「ああ、いえ。一応進学を考えてるみたいですよ。
   初めはそうは言ってなかったんですけど。プロデューサーに言われたとかで」

数学「プロデューサーに、ですか。
   あはは、なんかプロデューサーとか言われると本当にアイドルなんだって感じしますね」

担任「ですよね、僕も最初聞いたときそう思いました」

体育「それにしても、親じゃなくてプロデューサーに言われて進路決めるんですね。
   プロデューサーとも面談しといた方がいいんじゃない?」

担任「はは、確かに。一度会ってはみたいですね。
   アイドル頑張ってるかどうか、教えてもらわないと」

とある日、職員室

英語「担任先生、ちょっといいですか?」

担任「ん? はい、なんでしょう」

英語「先生のクラスに萩原雪歩って居るじゃないですか」

担任「ええ、はいはい」

英語「さっき廊下で見かけたんですけどね。
  名前はちょっと分からないんですけど、男子生徒にからかわれてて」

担任「男子生徒? ウチのクラスのですか?」

英語「多分そうだと思いますよ。
   それで、本人結構嫌そうっていうか、困ってるみたいだったんで……。
   一応、その場で軽く男子の方は指導しておきました」

担任「うわぁ、ありがとうございます。ウチのクラスか……誰だろう。
   ちなみになんて言ってからかわれてたんですか?」

英語「なんか、体育の後だったのかな?
   女子が多分サッカーやってて、それで萩原がボールを蹴り損なったらしくて。
   『ダッセー』とか、そんな感じで」

担任「なるほど……はぁ。なんでわざわざ女子の方とか見るかなぁ。
   しかもからかうって……。周りはどうだったんです? 他の生徒は居なかったんですか?」

英語「居ましたよ。周りは笑って見てるだけでしたね」

担任「周りも一緒になってはやし立てたり、っていうのは……」

英語「いえ、それはないです。僕がその男子を指導してる間に
   萩原と一緒に去って行きましたけど、一応慰めたりとかはしてたみたいです」

担任「そうですか……。萩原さんは嫌がってる感じだったんですよね?」

英語「そうですね、だいぶ困ってるような感じでした」

担任「ん~……。まああの子、結構気が弱いところがありますからね。
   からかわれて言い返せるような性格じゃないことは確かだし……。
   やっぱり、学校生活アンケートみたいなのやった方がいい気がしますね」

英語「ですよねぇ。なんでこの学校やってないんですかね?」

担任「ちょっと学年主任先生に提案してみますね。
  今は授業中……ですかね? まあ、職員室に戻ってきた時にでも」

英語「ですね、そうしましょう」

担任「ところで、先生よく萩原さんの名前わかりましたね。
  確かウチの授業は持ってなかったですよね?
  やっぱりアレですか? アイドルやってるから?」

英語「はは、まぁ、流石に。アイドルやってる生徒なんて、珍しいですから覚えますよ」

担任「あはは、ですよね。まあ普段の様子見てたら、
   全然アイドルなんてしそうにないんですけどね」

英語「あ、そうなんですか? 僕はよく知らないんですけど」

担任「気が小さくてすぐ落ち込むし、
   声も小さいし、歌とか踊りとか全然できそうにないんですよ。
   まぁ聞いてみたら、そんな自分を変えたくて……みたいなことは言ってましたけど」

英語「へー……。ちなみにアイドルをやってるところは見たことないんですか?」

担任「ないですねぇ。私、あんまりテレビは見ないので」

英語「それじゃ、もし萩原がテレビ出てるの見たら教えてあげますね。
  僕もちょっと興味あるし。ウチの生徒がアイドルやってるとこ」

担任「あはは、じゃあお願いします。楽しみにしてますね」

とある日、職員室

担任「先生、お疲れ様でした。生徒会、今終わりですか?」

生徒会担当「はい。想定したより長くかかりましたが、
       なんとかこの時間で終われて良かったです」

担任「本当にお疲れ様です。そう言えば、水瀬さんは生徒会ではどうですか?
   しっかりと働いてくれていますか?」

生徒会「ああ、水瀬さんは先生のクラスでしたね。
    よく働いてくれますよ。とてもテキパキとしていて」

担任「そうですか。まあ、彼女ならきちんとやってくれますよね」

生徒会「学年も三年生になって、近頃は一、二年生に指示したりまとめたりもしています。
    人をまとめてどんどん引っ張れるタイプですから、こっちも助かってますよ。
    さすがは水瀬家の長女、といったところでしょうか」

担任「まあ、そう言った部分もあるかも知れませんね。
   ご家庭での教育もしっかりされているでしょうし」

生徒会「良いですね、ああいった生徒がクラスに一人居ると。
    あの様子だと、学業の方も優秀でしょう」

担任「んー……そうですね。特に問題はありません。
   ただ特別優秀かと言われれば、実はそんなこともないんですが」

生徒会「あれ、そうなんですか? それは少し意外ですね」

担任「授業態度は真面目だし、提出物も欠かさず出しますが、
   なかなか点数の方が取れないみたいで。特に数学に苦手意識があるみたいです」

生徒会「なるほど……。もしかすると、アイドルが忙しいのでは?」

担任「そうかも知れませんね。アイドルの方もとにかく本気のようですし。
   両立は少し大変なのかも知れません」

生徒会「水瀬さん自身、卒業後のことは考えているんですか?
    進学か、それともアイドルに専念するのか」

担任「進学を希望しているようですよ。進学先も、もう決めているようです」

生徒会「進学先も、ですか。さすが、その辺りはしっかりしていますね」

担任「ただそれは本人の意志というよりは、
  お兄さんたちと同じ高校に進学させるという、保護者の意向が強いようですが」

生徒会「ああ、そう言えばお兄さんが二人居るんでしたか。
    やはり水瀬家が通うのにふさわしい名門校なんでしょうねぇ」

担任「調べてみましたが、名門でしたね。
   ただ個人的には、一般の公立に通わせてもいいんじゃないかとは思うんですが」

生徒会「そうなんですか?」

担任「はい。本人が、水瀬家ということで特別扱いされることが好きじゃないみたいですから」

生徒会「ほー……。でも、アイドルはやってるんですね。
    そういう特別扱いはいいんでしょうか」

担任「いいんじゃないですか?
   アイドルとしての人気は水瀬家とは関係ありませんから」

生徒会「ああ、なるほど。家の力ではなく自分の力で、ということですか。
    そう考えると随分立派ですね。さすがは水瀬家……っと、これがいけないのか」

担任「そうですね。家柄のことはあまり気にしないであげると本人も嬉しいと思いますよ。
   ただ、そう言いつつプライドは高いようですから、
   その辺りはちょっと気を使ってあげる感じで」

生徒会「あはは、難しいですねぇ」

とある日、職員室

日本史「担任先生ー、ちょっといいですか?」

担任「はい、どうしました?」

日本史「菊地って先生のクラスでしたよね。
    これ、先生に渡しといていいですかね?」

担任「なんですかこれ、手紙? ……ああ、ラブレターか」

日本史「はい。廊下に落ちてたんで渡してやってください」

担任「すみません、ありがとうございます」

日本史「それにしても今時ラブレターなんて珍しいと思うんですけど、
     この学校に限ってはそういうこともないみたいですよね」

担任「っていうか、大体ここ女子高なのにまずそこがおかしいんですけどね本来は」

日本史「ですよね。ただでさえ珍しいのに女子同士って」

担任「逆に女子同士だから送りやすいのかも知れませんね。
   軽く、友達とか先輩後輩の関係の延長みたいな感じで」

数学「そういうものなんですかねぇ」

担任「まあでも、確かにカッコイイですからね。
  下手したらそのへんの男子よりカッコイイですよ」

日本史「ああまぁ、それは分かります。
    それ考えるとアイドルっていうのも天職なのかも知れないですね」

担任「ファンも女性ファンが多いみたいですね。本人は複雑かも知れませんけど」

日本史「複雑? と言うと?」

担任「男性ファンも欲しいみたいですよ。
  そこはやっぱり女子ですからね。可愛いって思ってもらいたいみたいです」

日本史「あはは、そうなんですか。その時点で結構可愛いじゃないですか」

担任「それ本人に言ってあげてください。喜びますよ」

日本史「いやいや、流石にそれはやめときます」

担任「ただちょっと心配なのは、
  保護者は娘がアイドルやってること知らないみたいなんですよね」

日本史「え!? そうなんですか!?」

担任「はい。父親に内緒でアイドルやってるそうです」

日本史「だ、大丈夫なんですかそれ。
    っていうかそんなの、有名になったらバレるんじゃないですか?」

担任「普通にバレるでしょうね。もちろん本人は覚悟の上みたいです」

日本史「はあ……。バレた時、やめさせられたりしなければいいですけどねぇ」

担任「そうなれば本人は徹底的に戦うつもりみたいですよ。
  そのときは……場合によっては三者面談も必要かなぁと思ってます」

日本史「うわぁ、大変ですね……。お疲れ様です」

担任「まぁまだ決まったわけじゃないですけどね。
  当人達の間で解決することを祈りますよ」

とある日、職員室

地理「お疲れ様です、先生。どうですか面談の方は」

担任「まあ、予定通り進んでますよ。でもアレですね。
  なかなか面白い子も居たものですね」

地理「面白い子?」

担任「ほら、ウチのクラスに沖縄から来た子が居るじゃないですか。我那覇響って」

地理「ああハイハイ、我那覇。居ましたね。どんなふうに面白かったんですか?」

担任「今日の面談で初めて知ったんですけど、
   彼女、アイドルになるために上京してきたらしいんですよ」

地理「えっ、アイドルですか!? それはまたなんというか、すごいですね」

担任「でしょう? まだデビューはしてないみたいですけど、
  もう事務所にも所属して、レッスンやらなんやらも受けてるみたいです。
  いや、沖縄にいた頃からそういう系のスクール? には通ってたらしいですけど」

地理「へー、すごい……。どんな感じの生徒ですっけ。写真あります?」

担任「ありますよ。えーっと……ほら、こんな感じです」

地理「ほー……。なるほど、確かにアイドルとかやっててもおかしくない感じですね」

担任「性格も明るいですしね。結構すぐ人気になるかも知れませんよ」

担任「面談も、あんなに楽しい面談は初めてだったかも知れません」

地理「そうなんですか? どんなだったんです?」

担任「もうとにかく喋り倒して。自分のこととか、ペットのこととか」

地理「ペット?」

担任「はい。すごいですよ。犬とか猫とかだけじゃなくて、
  ワニとかも飼ってるらしいですから」

地理「ワニ!? いやいや、それはないでしょ!」

担任「いや、どうも本当らしいんですよ。写真も見せてもらいました」

地理「ええ……」

担任「あと何が居たかな。ウサギとか、そうそう、豚も居ましたね!
  他にもまだ居たと思いますけど、ちょっと忘れちゃいました」

地理「すごい……」

担任「しかも、一人で飼ってるそうです」

地理「えっ? ちょっと待ってください。家族は一緒じゃないんですか?」

担任「それが一人暮らしなんですよ。すごいですよね」

地理「ほ、本当なんですかそれ。冗談とかじゃなく?」

担任「本当ですよ。調査書にも載ってましたから」

地理「はー……本当にすごい生徒の担任になりましたね」

担任「でもちょっと安心しましたよ。
   調査書見たときは色々大変そうだと思いましたけど、
   あれだけ明るくて元気なら、まぁうまくやっていけそうです。
   もう友達もできたみたいですし」

地理「そうですねぇ。ただやっぱり困ることも多いでしょうから、
   その辺はちゃんと見てあげた方がいいかも知れませんね」

担任「はい。まぁ一応、しばらくは気にかけておきます。
   多分問題ないとは思いますけどね」

地理「私も一応ちょっと気にしておきますね。何かあればまたお伝えします」

担任「ありがとうございます、よろしくお願いします」

とある日、職員室

担任「すみません、お待たせしましたー。ウチのクラスの進路希望です」

進路指導「おっ、ありがとうございます。
     ……ほぉ~……。やっぱり秋月は就職なんですねぇ」

担任「はい、本人の意思は固いみたいです」

進路「アイドルを続けるってことですか?
  プロデューサーになりたいとかも言ってるんでしたっけ」

担任「ですね。そのつもりみたいです」

進路「進学してもいいと思うんですけどねぇ。
   あの学力なら、国立も普通に行けるでしょう」

担任「受験に関しては私も一応何度か言ったんですけど、まあ変わりませんでしたね」

進路「保護者にも?」

担任「はい、もちろん。保護者も納得してるみたいです。
   もし駄目なら店を継がせればいいっていうのもあるかも知れませんけど」

進路「なるほどねぇ……。
   いやしかし、やっぱり想像できないなぁ。秋月がアイドルだなんて」

担任「ですよね、わかります。普段のイメージと結構かけ離れますよね」

進路「先生は見たことないんですか? 秋月がアイドルやってるところ」

担任「ああ、一度だけありますよ」

進路「本当ですか! どんな感じなんです?
   アイドルだから歌ったり踊ったりするんですよね?」

担任「してましたねぇ。すごかったですよ。
   『ザ・アイドル!』って感じで。普通にアイドルでした」

進路「へ~……。秋月がアイドル……。録画とかしてないんですか?」

担任「いやないですないです、録画は流石に!」

進路「えっ、そうなの? 駄目ですよ、担任なんだからちゃんと応援してあげなきゃ」

担任「それはまぁ、応援はしますけど……」

進路「じゃあ今度、録画して焼いて持ってきてくださいね」

担任「えっ! 本気ですか?」

進路「あはは、冗談ですよ。ただ、一度は見てみたいと思いますけどね」

担任「はは……。そういうことなら、確か明日くらいに出演する番組がありますよ」

進路「あ、そうなんですか? なんだ、ちゃんとチェックしてるじゃないですか」

担任「チェックというか……。まあ、ちょっと気にはなりますから」

進路「それじゃ、僕も明日見てみようかな。何時くらいからです?」

担任「えー、確か……夜の7時だったと思います」

進路「おっと、そりゃいかん。明日は早く帰らなきゃ。
   今日でパパッと仕事進めておこう」

担任「あはは、そうですね。それじゃ、進路入力お願いします」

進路「はい、ありがとうございましたー。
   先生も今日頑張って、明日は早く帰らないと駄目ですよ?」

担任「はは、分かりました。忘れないようにしますね」

とある日、職員室

英語「先生方、お疲れ様でした」

数学「お疲れ様でしたー。今年も無事、何事もなく全員卒業できて良かったですね」

国語「おっ……? 担任先生、それはもしかしてお手紙ですか?」

担任「ああ、はい。四条から、さっき」

数学「うわ、すごい! 筆で書かれてる! さすが四条って感じですね」

英語「量も結構ありますね……。それ、今読んじゃって大丈夫なんですか先生」

担任「いえ、家に帰ってじっくり読むことにします。
  でもやっぱり……こういうの、嬉しいですよね。教師冥利に尽きるというか」

国語「本当ですよね。それにしても四条は最後までなんというか……すごい生徒でしたね」

数学「うんうん。今だから言いますけど、
   なんでこんな普通の公立中に来たのかが不思議ですよね。
   絶対普通の家庭じゃなかったですよね、良い意味で」

英語「話し方とか明らかに違いましたもんね。
   とてもじゃないけど中学生とは思えませんでしたよ」

担任「なんていうか、話してると時々、
   向こうの方が年上なんじゃないかって思うときもありましたからね」

数学「わかります。なんていうか、オーラありましたよね」

担任「ただちょっと残念なのが、
   最後までクラスで今ひとつ打ち解けてなかった感じがするんですよね……」

国語「あれ、そうだったんですか?
   僕が見た感じだと、普通に会話なんかはしてたと思いますけど」

担任「ええ、会話はしてました。ただ、どこか壁があるというか……。
   まあ、今更言っても仕方ないですけど」

数学「なんていうか、結構不思議な雰囲気がありましたもんね。
   これからはアレでしょう? アイドルになるために東京に行くんでしょう?
   それもだいぶ変わってますよね」

英語「しかも、なんでしたっけ。
   トップアイドルになることが使命、みたいなこと言ってたんですよね?」

担任「そうですね。その使命っていうのは、結局詳しくは教えてくれませんでしたけど」

国語「うーん……謎ですねぇ」

数学「でも、全然アイドルって感じはしませんよね。
   どっちかというと女優って感じじゃないですか?」

国語「ああ確かに。大物女優って感じしますね」

数学「でも本人はアイドルになりたいんですよね?」

担任「はい、面談とかで何度か聞いてみましたけど、それはずっと一貫してましたね」

英語「ふーん……。やっぱり、不思議な子ですねぇ」

担任「正直、僕もあいつのことはよく分からないままでしたね。
   ただこうして手紙をくれたってことは、
   まあそれなりに担任としての仕事はできてたのかなと」

国語「そりゃあそうですよ。そうじゃなきゃ手紙なんてくれませんよ」

数学「あ、よく考えたら、その手紙って結構レアなんじゃないですか?
   四条がトップアイドルになったらお宝モノですよ!」

英語「確かに! こりゃあ、トップアイドルになるよう応援するしかありませんね!」

担任「あはは、そうですね。じゃあ、これは家宝にしましょう。
   未来のトップアイドルの直筆ですからね」

とある日、職員室

数学「あ、先生方おかえりなさーい。修学旅行、お疲れ様でした」

担任「お疲れでした……いや本当に……本当にお疲れでした……」

数学「え、ど、どうしたんですか先生」

学年主任「いやもうね、大変だったんですよ本当……三浦さんがもう……」

地理「ほらね! 言ったでしょ! 絶対やばいって!」

担任「いやまさかあれほどとは……本当にもう……。
  北海道の修学旅行引率で沖縄行ったのなんて僕くらいのもんでしょ本当……」

数学「え……?」

数学「え? 沖縄? どういうことですか?」

担任「そのまんまの意味ですよ……初日に三浦がいきなり消えて……。
   ほんのちょっと! ほんのちょっとだけ目を離した隙に消えて……!」

学年主任「散々探し回った挙句、本人から友達に電話があって、
      『今沖縄に向かってるそうです』……って」

数学「ええ……」

地理「あり得る。あいつなら十分あり得る」

担任「あり得るんじゃないですよ! あったんですよ実際に!」

数学「そ、そんなにやばいんですか? 三浦さんって」

地理「やばいですよ。地図が読めないなんてレベルじゃありませんから」

担任「方向音痴も極まるとここまでなんですね。
   勉強になりましたよ、本当……」

学年主任「言っちゃ悪いけど、正直もう……
     三浦さんを連れて外を歩くのだけはやりたくないですよねぇ……」

担任「本っ当に、常に見てないといけませんからね。
   沖縄から連れて帰ってからも、
   一瞬でも視界から外すと、フラフラと全く別の方向に行ってたりするんですよ」

数学「完全に小さな子供じゃないですか……」

担任「しかしこれはちょっと、卒業してからが心配過ぎますね……。
  まともに働ける気が全くしないんですけど」

地理「あいつは一体何になるつもりなんですか? 将来は」

担任「面談では、OLって言ってましたね。
  卒業後の進路としては進学を考えてるみたいですが……
  方向音痴でもOLってできるんでしょうか」

数学「どうなんでしょう。事務仕事中心なら、まあなんとかなりそうな気も……」

学年主任「営業は絶対無理でしょう。外回り中に外国とか行きますよ絶対」

担任「行きますね、絶対行くと思います」

学年主任「迷子で済めばいいんですけどねぇ……。
      事件とか事故になりそうで、それが本当に怖いですよね」

担任「そうなんですよね。せめて卒業までは何事もなく無事で居てほしいなぁ……。
   あ、そう言えば話は変わりますけど」

学年主任「はい、なんでしょう?」

担任「沖縄までの旅費って出してもらえるんですかね?」

学年主任「ああ……。事務で聞いてみましょう」

担任「すみません、お願いします」



  おしまい

付き合ってくれた人ありがとう、お疲れ様でした

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