女「死者が歩き出す、この世界で」 (154)

 これはゾンビ物の内容となっております。苦手な方はブラウザバックを。

 それでは、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

 アナウンサー「今日午前11時半頃、T駅前で暴漢男が………」
 
 アナウンサー「暴漢の被害は拡大しています。皆様、暴漢に遭遇した際には……」
 
 アナウンサー「増え続ける『暴漢』。政府は自衛隊の出動も視野に……」
 
 アナウンサー「政府が今日の昼頃、『暴漢』を『狂人症感染者』とし……」
 
 アナウンサー「K地方全域に避難勧告が出されました。未だK地方にお住まいの方は今すぐ………」
 
 アナウンサー「この現象が日本だけではなく、世界中にも広がっていると……」
 
 プツン…
 

 女「はぁ……はぁ……」タッタッタ
 
 女「きゃっ!」バタッ
 
 女「うぅ……」
 
 チラリ   ア゙ア゙…
 
 狂人「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛……」ズル…ズル…
 
 女「ひ、ひぃぃ………!?」
 
 アアアアアアアアアア……
 

 女(あの狂人の後ろにも……あんなに、たくさん……)
 
 女(もう……駄目だ……)
 
 女「ごめんね……お父さん……お母さん……」
 
 スッ
 
 ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ン…   ドォッ!
 
 狂人「ガァッ!?」グチャッ
 

 女「え……? く、車……?」
 
 ウィィィィン…
 
 男「………」
 
 女(だ、誰? 狂人じゃ、ない……?)
 
 男「……乗れ」
 
 女「えっ、え?」
 
 男「早く」
 
 女「はっ、はいっ!」ガチャッ バンッ
 
 男「……飛ばすぞ、気をつけろ」ウ゛ンッ!
 
 ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ン……
 
 ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛……
 

 男「…………」
 
 女「…………」シーン…
 
 女「あ、あの……」
 
 男「なんだ」
 
 女「助けて頂いて……ありがとう、ございました……」
 
 男「ああ」
 

 女「あの……本当に、生きているんですよね……? 狂人なんかじゃ……」
 
 男「狂人は、ものを喋らん」
 
 女「わ、私……あの街で、ずっと……ひとりぼっちで……」
 
 女「友だちも、みんな……」
 
 女「生きている人間は、もしかしたら私だけじゃないかって……」グスッ ヒック
 
 男「…………」
 
 男「俺も……生きている人間を見るのは久しぶりだ」
 

 ヒック…  グスッ…
 
 女「すいません……うるさくしてしまって……」
 
 男「いい」
 
 女「……あの。今はどこに向かっているんですか……?」
 
 男「山だ」
 
 女「や、山……?」
 

 男「山はもともと人が少ない。潜む狂人もそこらよりマシだ」
 
 女「…………」チラ…
 
 女(少ないけど……さっきから、狂人が……)
 
 男「あまり外を覗かない方がいい」
 
 女「っ!」ビクッ
 
 男「目が合えば、追ってくるぞ。奴ら」
 
 男「追いつけないとしても、追われないに越したことはない」
 
 女「………はい」
 

 女(日本の国民のほとんどが狂人症に感染してから、二ヶ月が経った……)
 
 女(感染して狂人となった人間は、まるで知性を感じさせないような行動を取り)
 
 女(すぐに腐食が進み、見るに耐えない姿となる)
 
 女(そして……人を喰らわんと襲いかかる)
 
 女(狂人を倒すには、頭を……脳を完全壊すことしか方法がない……)
 
 女(まるで死体が歩き出したかのような光景は、よくあるゾンビ映画そのもので……)
 

 女(噛まれたり、狂人から狂人症を移されると高熱が出て一度心臓が止まる。つまりは、死ぬ)
 
 女(そして起き上がり、人を襲い出す……)
 
 女(結局医療機関の特効薬も完成せず、次から次へと人々が狂人へとなり果て……)
 
 女(日本が、壊滅した)
 

 女(残った自衛隊や警官は偉い人達の護衛に回ったり、避難民の誘導で手が一杯だったそうだ)
 
 女(噂では国外に逃亡、国内に拠点を造り留まっている、それか間に合わず全滅……)
 
 女(いろんな説が唱えられた)
 
 女(でもただ一つ、言えることは……)
 
 女(危険区域に取り残された私たちは、見捨てられたのだ)
 

キキーッ
 
 男「……着いたぞ」
 
 女「は、はい」
 
 女(本当に山だ……。道路沿いだけど、確かに狂人はいない……)
 
 男「見回りに行ってくる。窓から見えないようにして、じっとしていろ」
 
 女「き、危険じゃないですか!? そんな、危ないこと……」
 
 男「それで一度、痛い目を見たことがある」
 
 女「……っ」
 

 すいません、ID変わってますけど1です。


 男「夕方までには帰ってくる」
 
 男「キーは挿したままにしておくが、鍵は閉めておけ」
 
 女「わかり、ました……」
 
 男「…………」シャラリ…

 女(え? 剣? 刀? 鉈?)
 
 男「……」ザッザッザッ
 

 女「……」シーン
 
 女(あの人、大丈夫かな……)
 
 女(多分、同い年か……少し年上か……だよね?)
 
 女(私とそう変わらないのに……なんだか『慣れて』る感じだった……)
 
 女(それほど、狂人と戦って…………?)
 

 カァ カァ カァ
 
 コンコン
 
 女「!」ガバッ
 
 男「………」

 
 女「い、今開けますね!」ガチャッ 
 
 女「お、おかえりなさい……」

 
 男「……狂人は見たところいなかった」
 
 女「そ、そうですか……」
 
 男「一旦車の外に出ろ」
 

 男「…………」ガチャッ
 
 女(車の中の荷台に……武器がたくさん……)
 
 女(斧……スコップ……ノコギリ……釘バット……)
 
 男「……言っておくが」
 
 女「は、はいっ!」
 
 男「俺は聖人でもなければ、超人でもない」
 
 男「努力はするが、いつでも守れるとは限らない。だから、戦い方を覚えろ」
 
 女「……!」
 

 男「何か、武器はあるか?」

 女「こ、これなら……」
 
 男「包丁…………か。少し貸せ」
 
 女「…………?」テワタシ

 男「…………」ガサゴソ
 
 女(棒と、金槌と、釘と……あれは、ダクトテープ?)
 
 ビィィッ グルグル カンカン
 
 男「……包丁で狂人を殺せないこともないが、長さが足りん。簡易だが、槍に変えた方が役に立つ」
 
 男「……完成だ」
 
 槍包丁「」
 

 女「あ、あのっ……」
 
 男「なんだ、不満だったか」
 
 女「いえっ……そうじゃ、なくて……」
 
 女「私、その、力がなくて……。これで、狂人を倒せるでしょうか……?」
 
 男「ああ、倒せる。奴らは脆いからな」

 女「脆い……?」
 
 男「奴らはこの二ヶ月間、下手をすれば半年、雨ざらしとなってなにも防がずに歩いてるだけだ」
 
 男「そうじゃなくても、奴らは腐っている。それに肉は喰っても水は飲まん」
 
 男「乾いてもいる。だから脆い」
 
 男「それに視力も悪ければ、反射神経も皆無。そして馬鹿だ」
 
 男「なんとでもやりようはある。それに……」
 
 男「死が迫れば、自ずとも力は出る」
 
 女「………っ。わかり、ました……」
 

 男「ただ『新しい』狂人には気をつけろ。走りはしないが普通の奴より速いし、幾分か硬い」
 
 女「…………」
 
 ガサッ
 
 女「!?」ビクッ
 
 狂人「ア……ア……」ズル…ズル…
 
 男「ちっ、見逃していたか…………」
 
 男「丁度いい。見本を見せる」ヒュンッ
 

 男「基本的に頭を一撃で貫けるに越したことはないが、外した時は危険だ。だから敵が少数なら……」テクテク…
 
 狂人「ウ゛オ゛オ゛」
 
 男「足を狙え」ブンッ
 
 狂人「ガァァ」バシン ドサッ
 
 男「倒したあとは胸あたりを踏み……」ズン
 
 狂人「グゥゥ……」グ、グ…

 男「頭を一突きだ」グサッ
 
 狂人「ギャッ」
 

 狂人「」ズルリ…
 
 男「こうやって戦う」
 
 女「っっ」
 
 女(速い……! しかも、手慣れて……)
 
 男「二、三回続ければすぐ慣れる」テワタシ
 
 女「…………はい」
 
 男「車に戻るぞ。夕食だ」
 

 女(ツナの缶詰めに、焼き鳥の缶詰めに、乾パン……)
 
 女(この状況を考えれば……豪華と言えなくも……)
 
 男「水は飲んでもいいが、飲みすぎるな。いざという時に、動きにくくなる」
 
 女「あ、ありがとうございます」
 

 女(ツナの缶詰めに、焼き鳥の缶詰めに、乾パン……)
 
 女(この状況を考えれば……豪華と言えなくも……)
 
 男「水は飲んでもいいが、飲みすぎるな。いざという時に、動きにくくなる」
 
 女「あ、ありがとうございます」
 

 モグモグ…
 
 女(あ、美味しい……)
 
 女(久しぶりに、誰かとご飯を食べる……)
 
 女(会話は、ないけれど………、それでも……)
 
 女「…………ぐすっ」
 
 女「あ、すいま……ひっぐ、あれ……? うぅ……」
 
 男「…………」
 
 女「うぇぇぇぇぇん………」
 

 男「……………」ズイ
 
 女「あ……、え……? はち、みつ……?」
 
 男「乾パンに少しかければ、美味くなる」
 
 男「……俺にはこれくらいしかできないからな」
 
 女「あ、ありがとう、ございますっ……」
 

 
 翌朝。
 
 チュン チュン
 
 男「朝だ、起きろ」
 
 女「あ……え……? あっ!」
 
 女「お、おはようございます!」
 
 男「車を動かす。そこに置いてあるのが朝食だ」
 
 女「は、はい。ありがとうございます」
 

 ブロロロロロ…
 
 女「今度は、どこに向かうんですか……?」
 
 男「さぁな」
 
 女「え……?」
 
 男「アテはない。だがこのまま道に沿って行けば、人がいなさそうなところでもコンビニくらいはあるだろう」
 
 男「そこで食料品を得る」

 女「あ………」
 
 女(そうか……。この人、こうやって生きてきたんだ……)
 
 女(ずっと、一人で……。こうやって旅をして……)
 
 男「どうかしたか?」
 
 女「いえ……。なんでも、ないです」
 
 男「……そうか」
 

 キキーッ
 
 女(本当にあった……。ひどい有り様だけど、確かにコンビニだ。周りに狂人もいない……)
 
 男「協力してもらうぞ。槍を持って外に出ろ」
 
 女「はいっ……」
 

 女「……………」
 
 男「……………」
 
 女「あの…………」
 
 男「なんだ?」
 
 女「中に、入らないんですか?」
 
 男「……」っ時計
 
 男「あと20分経ったらな」
 

 5分後……
 
 パキッ
 
 狂人A「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
 
 狂人B「ウウ……」
 
 女(……! 狂人! それに、5体……)
 
 女(コンビニから出てくるのを、待って……)
 
 男「教えた通りにやれ。全て殺す」シャラリ
 

 男「………死体め」テクテク ザンッ
 
 狂人A「ギャアッ」ドサリ
 
 女(あんなに、簡単に……)
 
 狂人B「グゥゥ……」
 
 狂人C「ガアアッ」
 
 男「…………」ゲシッ、ドン、スパリ
 
 女(私もなにか、できることは………)
 

 男「1体、そっちにいったぞ」
 
 女「えっ? あっ!?」
 
 狂人D「ガアアアアアアア」
 
 女「ひっ……」
 
 女(落ち着かないと………)
 
 女(大丈夫……、あの狂人は腐っていて、動きも遅い……!)
 

 女(まず足を狙って……)
 
 女「やぁっ!」ブウン
 
 狂人D「ガアア……」ドサァ
 
 女(よし、倒れた……! あとは起き上がらないように踏んで)ズッ
 
 狂人D「グアア!」ガシッ
 
 女「ひぁっ!?」
 
 女(足を、掴まれ…………!?)
 

 男「落ち着け! 足に力を入れて、止めを刺せ!」
 
 女「くっ……」グサッ
 
 狂人D「ギッ、ガ、ァァァ!」
 
 女(し、死なない……!?)
 
 女(もう一度……!)グサッ
 
 狂人D「ギイッ」ググ…
 
 女(もう一度!)グサッ
 
 狂人D「アアッ」
 
 女(死ぬまでっっ!!)グサリ!
 

 バタリ… グサッ グサッ
 
 男「……もういい。そいつは死んでいる」
 
 狂人D「」
 
 女「ハァッ……ハァッ……」ズルリ…
 
 女「……………」チラリ
 
 狂人B「」
 
 狂人C「」
 
 狂人E「」
 

 男「怪我はないか?」
 
 女「……はい」
 
 男「なら、コンビニに入るぞ」
 
 女(映画みたいに、倒して高揚するものだと思ってたけど………)
 
 女(こんな、気分なんだ…………)
 

 男「足下に気をつけろ。ガラス破片が散らばっている」
 
 女「はい」
 
 女(薄暗い……)
 
 女(……? 今、何か奥で動いたような)


 狂人F「ガアアッ」ガシャンッ
 
 女(狂人……!? まだいたの!?)
 
 男「こういうこともある。油断は決してするな」
 
 ガシッ ガンガンッ ザン!
 
 女「速…………」ジーッ
 
 男「……鉈は、女が何度も振るには重いが」
 
 女「いや、武器を見てたわけじゃなく……」
 
 女(あそこまでなるのに、いったいどれだけ戦ったんだろう……)
 

 ガサゴソ
 
 女「これは……食べられるかな……」
 
 女「これは……う、腐ってる……」
 
 女(缶詰めとか……結構残ってる……。誰かがもっと取っていってると思ってたけど……)
 
 女(それほど、生存者が少ないの……?)
 
 女(あの狂人も、ここに食料を求めて…………)
 

 男「どうだ?」
 
 女「ひゃいっ!?」
 
 女「あ、ああ……すいません。考え事をしていて……」
 
 男「別にいいが、食料は」
 
 女「あ、結構ありました」ドサリ
 

 男「そうか。……これも、袋に」ポイ
 
 女「は、はい」
 
 女(……キャラメル?)
 
 女(昨日のはちみつと言い、甘いの、好きなのかな……)
 
 男「そろそろ出るぞ。あまり留まりすぎるのもよくない」
 
 女「わかりました」
 

 男「……乗ったな?」
 
 女「はい、乗ってます」
 
 男「なら出すぞ」
 
 ブゥゥゥゥン…
 

 女(また車を走らせてから、私たちの間に会話はなかった)
 
 女(こんな状況だから……なかなか楽しい会話なんてできない……)
 
 女(それに、男さんはあまり喋る方ではないだろうから)
 
 女(それでも私は、この二ヶ月で感じたことのないくらい居心地がよかった)
 
 女(だからこそ、これからのことなんて考えたくなかった)
 

 キキーッ
 
 女(ここは……ガソリンスタンド……?)
 
 男「車にガソリンを入れる。お前も槍を持って外に出て、周りを見張っておいてくれ」
 
 女「はい」
 
 男「それとあまり……俺から離れるな」
 
 男「一人になるのは危険だからな」
 
 女「…………」
 
 女(………………他意は、ないのだろう)
 

 女「静か……ですね……?」
 
 男「いないに越したことはないが……確かに1体もいないのは珍しいな」ドクドク…
 
 男「よし、入った」ガチャ
 
 女「じゃあもう車の中に……」
 
 男「……いや、待て」
 
 女「…………?」
 

 男「…………」テクテク
 
 女「お、男さん………?」
 
 男「…………ふむ」ピタリ
 
 女「……! これは、狂人の………死体……?」
 
 男「の、ようだ」シャガミ
 
 男(頭をかち割ったような傷跡……)
 
 男(傷口が乾き切っていない……。最近のものか………?)
 

 女「お、男さん……!」
 
 男「なんだ、狂人か?」スクッ
 
 女「いえ、そうじゃなくて……。ここに、何か小さな看板がかかっていて……」
 
 男「……………」クルッ
 
 男「!」
 
 女「裏に、何かあったんですか……?」
 

 男「……文字だ」
 
 女「え……?」
 
 男「殴り書きだが……『生存者の方は北へ。◇◇市○○ホテルにて、お待ちしております。6月12日』……今日の日付は」
 
 女「えっと……6月、15日です……」
 
 女「……ということは、三日前、ここに、誰かが……」
 
 男・女「…………………」
 
 男「可能性は高い。…………車に戻るぞ」
 

 女「ま、待ってください! 地図が、ここに……」
 
 男「これを書いた人間が置いていったのか」
 
 ァァァァァァァァァ…
 
 女「っ」ビクッ
 
 女「狂人が、向こうから……」
 
 男「なら殺して、旅を続けるぞ」
 
 男「迷うまでもない」
 

 ブロロロロロ…
 
 女(うう……、服に血が……)ドロッ
 
 男「運転しながらでは道がわからん。地図の読み方はわかるな? 案内してくれ」
 
 女「は、はいっ」
 

 ブロロロロロ…
 
 女「そこを右です。……はい。しばらく直進です」
 
 男「わかった。……あとどれくらいだ」
 
 女「正確には分かりませんが、もう街には入っていますし……だいぶ近くなってます。もう少しです」
 
 男「なら良い」
 

 女(生存者……本当にいるなら、どんな人なんだろう)
 
 女(男さんみたいな人? それとも……女の子、かな)
 
 女「……良い方たちだったらいいですね」
 
 男「あまり期待はするな。…………駄目だったとき、立ち直るのは容易ではない」
 
 女「………はい」
 
 男「…………俺にも、そういう経験はあったからな」ボソリ
 
 女「………え?」
 

 女「それって……」
 
 男「十字路が見えたぞ。どっちだ」
 
 女「あ、そこを左折です」
 
 男「わかった」グルン
 

 男「…………!!」
 
 女「え!?」
 
 ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛……
 ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛……
 ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
 
 女(狂人!? しかも今までの比じゃない! どう見ても、100以上………)
 
 男「………ちっ!!」グルンッ! ブオオオオオ!
 
 男「荒れる! 気をつけろ!」
 
 女「男さん! どの道からも、狂人が………!」
 

 男「椅子の下で、吹っ飛ばされないよう丸くなっていろ!」
 
 女「シートベルトは!?」
 
 男「駄目だ! 早くしろ!」
 
 女「は、はい!」
 
 男「ふっ」グンッ!
 

 グォォォォォォォ…  グチャッ ビチャッ ガタンッ 
 
 女「う………く………!」

 
 女(ひ、轢いてるんだ………、狂人を、車で……)
 
 女(でも、こう何度もぶつけていれば、車の方が……)
 

 キキーッ!
 
 男「槍を持て! 外に出るぞ!」
 
 女「え……!? に、荷物は………」
 
 男「ある程度の食料はこっちのかばんに入ってる!」
 
 女「は、はいっ!」ガチャッ
 
 女(き、狂人がいない……? 巻いたの……?)
 
 男「こっちだ」
 
 女「……!」ダッ
 

 男「この角を曲がって一旦止まるぞ」
 
 女「はいっ」
 
 女「ハァッ……」クルッ
 
 女(……! 狂人の群れが……車に……)
 
 男「ここからは徒歩でホテルに向かう。さっきの狂人の大部分はあれで時間を稼げるはずだ」
 
 女「はい……!」
 
 男「急ぐが、体力を考えて走れ。バテたら終わりだ」
 
 女「で、でもっ」
 
 男「奴らは足が遅い。大丈夫だ。逃げ切れる」
 

 男「よし、行くぞ」
 
 女「……くっ!」ダッ
 
 アァァアァァァァ… ウゥ…
 
 女(狂人が、行き先に……!)
 
 男「ふん!」ザシュッ
 
 狂人「ガァッ」ドシャア
 

 女(ダメだ……、さっきよりは少ないけど、それでも多い……!)
 
 女(とても男さんだけじゃ……! 私もなにか……!)
 
 男「下手なことを考えるな! 逃げ切ることだけを意識しろ!」ザンッ!
 
 女「でもっ……」
 
 男「足でまといだ!」
 
 女「うっ……」
 
 女「くぅっ!」ダッ
 

 男「はぁっ!」ズバッ
 
 狂人「ギャアッ」ガクン
 
 狂人a「アァ……」ス
 
 狂人b「ガァァァァ」
 
 女「男さん! こっち、少ないです……!」
 
 男「………! ふん!」バツンッ
 
 狂人a「ギャ!?」ブシィ
 

 狂人c「アアアアアアアアアア!」
 
 女「あっ!?」ガッ
 
 女(物陰に……! 見えてなかった………)ググ…
 
 男「くそっ……!」カチャッ バンッ!
 
 狂人c「グゥッ……!?」ドサ
 
 女「えっ!? 拳銃………!?」
 

 男「……………」バンッ バンッ バンッ
 
 狂人b「グ!?」
 
 狂人e「ガァッ」ドサッ
 
 狂人f「ギッ……」ドシャア
 
 男「行くぞ!」
 
 女「え、あ、はいっ」
 

 女「男さん、それっ……」
 
 男「以前警官の狂人から奪った。だが……」
 
 男「拳銃の経験はあまりない。近くなければ、外れる。一撃で仕留められるとも限らない」
 
 狂人g「ウアアアア」
 
 男「シィッ!」ズバッ
 
 男「………鉈の方が、慣れてるしな」
 
 女(それはそれで………)
 

 女「………!!」
 
 ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛……
 
 女「ここにも、狂人がこんなに………」
 
 男「残念だが、逆からも来ている」ガシッ ザンッ
 
 ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛……
 

 女「男さん……」
 
 男「ホテルに近いのは、そっちだな?」
 
 女「……はい」
 
 男「……すまない。もう、一か八かだ」
 
 男「俺が先に行く。お前は狂人がいない場所を縫って進むんだ」
 
 女「……っ」
 
 女(男さん、まさか……)
 

 男「振り返るなよ」
 
 女「そんな、私っ……!」
 
 男「行くぞ!」ダンッ
 
 狂人h「ガアアア」
 
 男「ふん!」ズバッ
 
 狂人i「アアアアアア……」ズルリ、ズルリ
 
 女「くっ……!」ヒラリ
 

 狂人j「ルウオオオオオオ!!」ガシッ
 
 狂人k「グアア……」ズイッ
 
 男「ぐっ!?」ググ…
 
 女「男さん!」ザクッ!
 
 狂人j「ギッ」ドサッ
 
 男「………! シッ!」ザンッ
 
 狂人k「ガッ……」ズシャァ…
 

 男「お前っ………」
 
 女「……どの道私だけじゃ、生き残れませんから」カタカタ…
 
 ウオオオオオオオオオ…
 
 女「二人で協力すれば、どうにかなるはずです……!」
 
 男「……………」
 
 男(……無理だ)
 
 男(二ヶ月。俺は狂人と戦ってきた。だからこそ、この数は)
 
 男(………無理だと、わかる)
 

 女「男さん………」
 
 男「なんだ」
 
 女「私……あなたに出会えて良かった……です」
 
 女「前なら私は、きっと、もう、諦めていた……」
 
 女「今も諦めそうです……けど」カタカタ…
 
 女「私はまだ、あなたと会えたから……生きていたい………だから、諦めたくないんです……!」
 
 男「…………」
 
 男「ああ、そうだな」
 

 男「行くぞ……!」
 
 女「は、はい!」
 
 ウオオオオオオオオオ…
 
 ターンッ  ギッ!?
 
 女「!?」
 
 女(狂人がひとりでに、倒れて………?)
 
 男「………?」
 

 オーイ… オーイ…
 
 女「声!? どこから……」

 
 
 メガネ「こっちだ! 急げ!」

 
 猟師「…………」っ猟銃 ターンッ ターンッ

 
 
 女「男さん………!」

 
 男「ああ………!」

 
 

 猟師「…………」
 
 ターンッ
 
 狂人l「グッ」
 
  ターンッ
 
 狂人m「ガッ」
 
 女(すごい、あの人………、必中……)
 

 男「シィッ!」ザシュッ
 
 女「男さん!?」
 
 男「先に行け。大丈夫だ、あの猟師がいればそうそう死なん」ザクッ
 
 女「……はいっ」
 

 タッタッタッタ…
 
 メガネ「よし、よし……! 大丈夫か!?」
 
 女「はぁっ……はぁっ……」
 
 猟師「……あの男は」ダーンッ
 
 女「た、助けてあげてください! あの人のおかげで、私はっ……」
 
 猟師「……もちろんだ」ダーンッ
 

 男「ふん!」ズバァッ
 
 ターンッ  ターンッ
 
 男「……」チラ
 
 女「男さん!」
 
 メガネ「早く! 狂人が集まってきてる!」

 
 男「………」コクリ 
 
 ダッ

 猟師「…………」ダーンッ
 
 狂人n「ガァッ!?」
 
 男「………誰か知らんが、助かった」ザザァッ
 
 メガネ「よし、来たな……! こっちだ!」
 

 タッタッタ…
 
 狂人o「ウゥアアアアア!!」
 
 男「ふん」ブンッ
 
 狂人o「ガッ」スパッ ドサッ
 
 メガネ「すごいなあの男の人……。誰なんだ?」
 
 女「私もよくは知りません。……だけど、優しい人です……」
 

 女「あっ!? メガネさん、危ないっ!」
 
 メガネ「え? うおおおおおおお!!?」ヒョイッ
 
 狂人p「グアアアアアアア」
 
 メガネ「~~~ッ、そらっ!!」っ斧 ザクゥ
 
 狂人p「ガァッ」ググ…
 
 メガネ「ああっ!!」ブン
 
 狂人p「ギッ」グチャア バタッ
 

 メガネ「はぁーっ」
 
 男「そこのメガネ。どっちだ」
 
 メガネ「え、ああ、右……」
 
 男「わかった」ザンッ
 

 ダーンッ ザンッ ザクッ グチャ 
 タッタッタッタ…
 
 メガネ「よし! 見えてきたぞ! あそこがゴールだ!」
 
 女(あれが……)
 
 猟師「……後ろから、だいぶ迫ってきているぞ」ダーンッ
 
 ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛……
 

 女(……! 門のところに、誰か……)

 
 
 巨漢「急げ! もうすぐそこだ、急げ!」

 
 不良「んん!? 猟師さんとメガネだけじゃねぇぞ! あと二人いる!」

 
 
 メガネ「走れ!」

 
 女「はぁっ、はぁっ」
 
 男「…………」
 

 ダッダッダッダ
 
 メガネ「いいぞ、入った!」ダッ
 
 女「はぁっ……はぁっ……」
 
 女(なんとか、間に合った………)
 
 男「……おい、あの猟師がまだ外だ」
 
 メガネ「え!?」
 

 ウァァァァァァ…
 ダーンッ ダーンッ
 
 メガネ「猟師さん、何してるんです!? 早くっ……」
 
 猟師「門を閉めろ!」ダーンッ
 
 メガネ「はっ!?」
 
 猟師「早く!」ダーンッ
 
 巨漢「………くっ! 閉めるぞ!」
 
 ガラガラガラ…
 

 猟師「………」ダーンッ
 
 狂人q「ギアッ」バタッ
 
 ダーンッ ダーンッ
 
 猟師「…………!」スッ ダッ!!
 
 ガラガラガラ…
 
 猟師「ふぅっ!」ダンッ!!
 
 ズザァァァァァ!!
 ガシャアアアアアアアンンンンン
 
 猟師「……間に合った………か」ハァ

 メガネ「門が閉まり切る直前に滑り込みなんて……また無茶なことを……」
 
 ガシャァ!! ヴァアアアアアア!!!
 
 女「ひっ」ビクッ
 
 女(狂人たちが……門の隙間から手を伸ばして……)
 
 メガネ「ああ……大丈夫大丈夫。あの門、ちょっとやそっとのことじゃ破れないし。放っておけばあいつらもどっかに散るよ」ハァ…
 
 男「…………」キョロ
 

 不良「おら死ね! ゾンビ共!」グサッ
 
 巨漢「ふん!」グサリ
 
 女「………」
 
 メガネ「まぁああやって、トラップとしても使えるんだけど」
 
 女「はぁ……」
 
 男「手伝うか?」
 
 メガネ「ああいいですよ。先に『リーダー』に会わないと」
 

 女「リーダー?」
 
 メガネ「そう。僕たちを纏めてるリーダー。あったらきっとビックリすると思うよ」
 
 女「………?」
 
 メガネ「まぁなにはともあれ……」
 
 メガネ「ようこそ、僕らの拠点へ」
 

 女(こうして私と男さんは、『拠点』へと入ることができた)
 
 女(ここまで来るのに、きっと男さんなしじゃ来れなかったと思う)
 
 女(この最悪な世界の中であっても、少しだけ)
 
 女(私は光が見えたような気がした)
 

  ・
  ・
  ・
  ガチャン
 
 男「中は荒れていないな」
 
 メガネ「はい。ここは元々狂人があまりいなかったし、掃除もしてますからね」
 
 ザワザワ… ヒソヒソ…
 
 女(人が、こんなに……)
 
 女「あの……ここには何人くらい……」
 
 メガネ「34人。君たちを入れて36人だ」
 

 メガネ「ちなみに今通ってきたのは裏門。正門もあったんだけど、なんでか壊れてまして」
 
 男「裏門から侵入される心配はないのか」
 
 メガネ「みんなで苦労して、バリケードを作って塞いであります」
 
 男「…………ふむ」
 

 タッタッタ…
 ガバッ!
 
 ヤンデレ「メガネさん!!」
 
 メガネ「どわっ!? ……や、ヤンデレさん?」
 
 ヤンデレ「お帰りなさい……お帰りなさぁい! 怪我はないですか!? どこか、悪いところは?!」
 
 メガネ「あ、ああ……大丈夫だよ。ありがとう。とりあえず抱きつくのは止めよう。ほら、血で汚れてるし」
 
 ヤンデレ「あとで洗濯しますからっ、大丈夫です!」ギュッ
 
 メガネ「そ、そういう問題じゃ……」
 
 猟師「……………先に行く。二人の案内と、リーダーの報告は俺がしておこう」
 
 猟師「彼女もお前が心配だったんだ。男だろ、恋人くらい安心させてやれ」
 
 メガネ「そっ、そんな関係じゃっ……」
 
 ヤンデレ「ありがとうございます、猟師さぁん。うふふ」
 

 テクテク…
 
 女「あの……さっきの方は……」
 
 猟師「……メガネが連れてきた。だからだろうな、あの娘はメガネに惚れてる。見ての通りだ」
 
 女「そうだったんですか………」チラ
 
 男「なんだ?」
 
 女「い、いえっ」
 
 女(境遇的には………私も同じ?)
 

 猟師「……さ、着いたぞ」

 
 猟師「リーダー、新たな生存者だ。入るぞ」コンコン 
 
 猟師「……中へ」ガチャ

 
 男「……………」
 
 女「……………えっ!?」
 

 リーダー「やぁ、はじめまして。私がここのリーダーだ」ニコリ
 
 女(この人……、よくテレビに出てた有名な政治家の人じゃっ……)
 
 男「……………」
 
 リーダー「ささ、そこに座って。お茶でも出そうか」
 
 リーダー「猟師さんもご苦労だったね。君もそこに座って。お茶を出すよ」カチャ
 
 猟師「…………ああ」
 
 リーダー「メガネ君は……大方ヤンデレさんと一緒か」ハハ
 

 男「…………なぜ、政治家がここにいる」
 
 リーダー「んー?」コポコポ
 
 男「政治家や、国の上層部は真っ先に避難したはずだ。自衛隊に護衛されてな」
 
 リーダー「実のところ私もそうしたかったんだが……」トクトク…
 
 リーダー「『なぜか』私のところだけ自衛隊の到着が遅れてね。こうして危険区域に置いてきぼり、って訳さ」カチャ
 
 リーダー「はい、どうぞ。紅茶なんて久しぶりじゃないかい? ちょっとしょぼいが、これは私からの歓迎だと思ってくれ」カチャ
 
 女「あ、ありがとうございます………」
 
 男「………」
 

 リーダー「……で、二人はどうしてここに?」
 
 女「私たち、ガソリンスタンドで看板を見たんです。それで……」
 
 リーダー「あぁ、あれか。メッセージを残しておいて良かったよ」ズズ…
 
 男「………………ここの周辺に、相当数の狂人を呼び寄せてしまった。問題はないのか」
 
 リーダー「気にすることはない。門以外の場所にはトラップを巡らせてる」
 
 猟師「……だが、しばらくは外に出ない方がいいな。完全に散るまで三日はかかる」
 
 リーダー「ああ。皆にも言っておこう。しばらく洗濯物は部屋干しだ」
 

 リーダー「とりあえず、だ。私たちは君ら二人を受け入れよう。現状やルールは追って説明するとして……なにか質問はあるかい?」
 
 男「……食料は足りているのか?」
 
 リーダー「ああ、充分にある。まぁ人間ってのは貯蓄が減り続ける状態だと不安になるから、今日のメガネ君と猟師さんに行ってもらったみたいに、度々順番で調達に行ってもらってるけどね」
 
 男「武器は」
 
 リーダー「近くのホームセンターで拝借してきたものなら、たっぷりある」
 
 男「罠の位置と、強度、信頼性」
 
 女「お、男さん……。ここなら一旦は安心ですし、とりあえず落ち着いて……」
 
 男「安心など、できるものか」
 
 女「っ」ビクッ
 

 リーダー「………………」ズズ…
 
 男「奴らは……狂人は、諦めるということを知らん。餌があれば、己の脳が壊れるまで突貫する。それが狂人だ」
 
 男「そんな奴らを相手に、数十人単位で拵えた拠点で安心など………」
 
 女「お、男さん……」
 
 猟師「……少し、俺たちに失礼じゃないか?」
 
 男「…………」
 

 男「………すまなかった。少し、疲れていたようだ」
 
 リーダー「ああ、そのようだね。まずはゆっくりと休むといい。幸い水道も生きてるし、シャワーでも浴びてきてはいかがかな」
 
 男「…………」スクッ
 
 女「あ、ありがとうございましたっ………」
 
 ギィィ バタン
 

 リーダー「………で、どうだい。あの二人は」
 
 猟師「女の方は、どこにでもいるって感じだ。少し戦いは慣れてる節があったが、初心者に毛が生えた程度」
 
 リーダー「男君は」
 
 猟師「…………まぁ。メガネや不良よりは強そうだな」
 
 猟師「はっきり言って、異常だ。狂人を殺すときの目付きが尋常じゃない」
 
 リーダー「楽しんでいる?」
 
 猟師「いいや……、心底憎んでいるような……まぁ多かれ少なかれ大抵の人間がそうだが……」
 
 猟師「あいつに至っては、目の前で、誰か……??大切な奴が喰われた、とかな……」
 

 リーダー「……ふむ」
 
 リーダー「まぁ今は何をするにしたって人手が足りない。ここまで来る判断力があるなら、突然発狂するなんてこともないだろうし」
 
 猟師「一応、目はつけておくが」
 
 リーダー「程々でいい。それより、あとで食堂のおばさんに伝えておいてくれ」
 
 猟師「なにを?」
 
 リーダー「今夜は、彼らの歓迎会だってね」
 

 ・
 ・
 ・
 
 主婦「え!? あなた、◆◆県から来たの!? 随分遠いところから……」
 
 女「え、ええ……。男さんが助けてくれて……」
 
 主婦「男さんって、さっきあなたの隣にいた彼よね? なかなかイイ男じゃない。彼氏?」
 
 女「ち、ちがいますっ!? そんなんじゃっ……」
 
 主婦「ふふっ、若いわね~。大事にしなさいよ。明日も隣にいるなんて限らないんだから」
 
 女「………はい」コクリ
 
 女「……あれ、そういえば男さんは……」
 
 主婦「あら? 私の息子もいないわね」
 

 テクテク…
 タッタッタ
 
 男「………?」キョロ
 
 少年「ねぇ! そこのお兄ちゃん!」
 
 男「…………俺か?」
 
 少年「そうそう!」
 
 少女「ちょ、ちょっと……馴れ馴れしいわよ!?」
 

 少年「聞いたぜ! あのお姉ちゃんを助けたんだろ!」
 
 男「…………まぁ、そうなるな」
 
 少年「それって、めちゃくちゃカッケーじゃん! ドラマとか映画の主人公みたいでさ!」
 
 男「主人公…………」
 
 少年「そうそう! なぁ、どんな風にあのゾンビとかと戦ったか教えてくれよ!」
 
 少女「ば、ばかっ……! あんまりそういうの聞くもんじゃ………!」
 

 少年「なぁー、いいじゃんかー、ちょっとだけさぁ」
 
 男「………………………………」
 
 男「…………………あまり、知らない方がいい」
 
 少年「ちぇっ、つまんねぇのー。巨漢のおっさんもいつもそうだしさー。猟師さんに至っては無視するし……」
 
 少女「あ、あたりまえじゃない! ほら、もう行くわよ!」
 
 少年「はいはい。わかったよー」
 
 少女「め、迷惑をおかけしましたー」ペコリ
 
 タッタッタ…
 
 男「……………」
 

 「あ、男さん」
 
 男「………ん?」
 
 メガネ「さっきはどうも。あの子たちと話してたんですか?」
 
 男「ああ」
 
 メガネ「驚きました? 小学生……中学1年生? あんな年代の子もいるんですよ。ここには」
 
 男「………狂人と、どう戦ったかを聞かれた」
 
 メガネ「ああ。僕も聞かれますよ。その度、はぐらかしてるんですけどね」
 
 男「………………あの子らには、知ってほしくはない」
 
 メガネ「……ええ」
 

男「狂人を倒した後でそいつらの内臓を食べてる何てな」

メガネ「でも旨いんだよなぁ生で食べても脳みそもジュルジュルって吸ってさクリーミーで最高だよね」

 メガネ「あ」
 
 巨漢「疲れた疲れた……」テクテク
 
 不良「うえ、血が……。シャワーシャワー」テクテク
 
 メガネ「お帰り、巨漢さん、不良くん」
 
 不良「げ、メガネ……」
 
 メガネ「え、何その反応。もしかして僕のこと嫌い?」
 
 不良「いや、そうじゃねーんだが……。お前といっしょにいるとよ、ヤンデレの奴が物陰からすごい睨んでくるから怖くて怖くて……」
 
 メガネ「まぁお互いこのナリじゃ、僕がイジメられてるように見えるかもね」ハハ
 

 男「…………」
 
 巨漢「お、さっきの。今日から新参って訳か」
 
 男「…………よろしく頼む」
 
 巨漢「おうとも」
 
 不良「新参っつたら、確かもう1人いたよな。カワイイ女の子」
 
 メガネ「女さんだね。たぶん僕と不良くんより年上だよ、あの人」
 
 不良「つっても2、3だろ? 狙っちゃおっかなー」ケラケラ
 
 メガネ「君には食堂のおばさんがいるじゃないか」
 
 不良「うるせぇよ!?」
 

 ワーワー ギャーギャー
 
 男「………そうか」
 
 男「こういうもの、だったな……」ボソリ
 
 巨漢「………………?」
 

 ・
 ・
 ・
 夜。
 
 ザワザワ… ガヤガヤ…
  
 リーダー「さぁて、みんな! これから重大な報告がある!」
 
 リーダー「既に何人か知ってる人もいると思うが、今日から新しく仲間が増えるんだ!」
 
 リーダー「男くんと、女さんの二人! みんな、仲良くしてやってくれ!」
 
 女「み、みなさん、至らぬこともあると思いますが、これからよろしくお願いします!」ペコッ
 
 男「……………よろしく頼む」
 
 ピューッ パチパチパチ
 
 リーダー「よし! じゃあ今夜は彼らの歓迎と、猟師さんとメガネくんの無事帰還の祝いも兼ねて、パーティーだ!」
 
 ワァー!!
 

 女(……それからは、この数ヶ月間で間違いなく一番楽しい一時だった)

 
 
 食堂のおばさん「さぁみんな! どんどん食べていっておくれよ!」

 
 不良「なんで俺も料理係なんだよ!?」ジュージュー
 
 おばさん「アンタのメシが美味いからさ! アッハハハハ」
 

 女(いろんな人がいて………)

 
 
 ヤンデレ「はぁい、メガネさん、あーん」

 
 メガネ「いや、ちょっとそれは恥ずかしいっていうか……」
 
 ヤンデレ「あーん」ズイッ
 
 メガネ「………あ、あーん……」モグリ
 
 ヤンデレ「美味しいですか?」
 
 メガネ「う、うん! 美味しいよ!」
 
 ヤンデレ「そうですか……。うふ、うふふふふ……」
 
 メガネ「何その不敵な笑いは!?」
 

 女(いろんな人が笑い合って………)

 
 
 少年「おっさんー、食い終わったらオセロしようぜー」

 
 巨漢「またか? お前、俺どころか少女ちゃんにも勝てたことねーじゃねぇか」
 
 少年「つ、次は負けねぇよ!」
 
 巨漢「しょうがねぇ、受けて立ってやる」
 
 主婦「あんまり巨漢さんに迷惑かけちゃだめよー」
 
 少年「わかってるよー、母ちゃん」
 

 女(いろんな人が………ってあれ?)
 
 少女「………………」
 
 女(あれは、確か少女ちゃん……? どうしたんだろ、1人で)
 
 タッタッタ…
 
 女「どうしたの?」
 
 少女「あっ………あなたはたしか……」
 
 女「女だよ」
 

 少女「すっすいません。気、遣わせちゃって………」
 
 女(聡い子………)
 
 女「うぅん、大丈夫。……それで、どうして一人で?」
 
 少女「わたし、パパとママが死んじゃって……」
 
 女「え!? ごっ、ごめ………」
 
 少女「………いいんですよ。もう、気持ちの整理も、つきましたから」
 

 女「いつも……一人なの?」
 
 少女「いやいや、そんなことないですよ。ここの人たちはみんな親切で……」
 
 少女「とくに主婦さんは、わたしを実の子供みたいに扱ってくれます。巨漢さんも、よく遊んでくれるし……アイツとも………」
 
 女「アイツ、って少年くんのこと?」
 
 少女「え? えぇ、はい」
 
 少女「最近、アイツは巨漢さんばっかりで……」
 
 少女「前は、よく遊んでくれたのになぁ………」ボソリ
 

 女「………………好きなんだね、少年くんのこと」
 
 少女「す、すすすすす好き!? ちがいますよ、ぜんっぜん!」
 
 女「あー……えっと、友達、として?」
 
 少女「へ? あ、あぁはい! 友達としてなら、まぁ……」
 
 女「じゃあさ、声掛けられるのを待ってるばかりじゃなくて、声を掛けてみたら?」
 
 少女「え、でもアイツ……、今オセロしてるし……」
 
 女「まぁまぁ、ほら」
 

 オッ? ショウジョチャンジャネーカ? 
 ド…ドウモ…
 アレ? オマエドコイッテタンダヨ
 ド、ドコデモイイジャナイ! ソレヨリアンタ、スッゴイマケテルワネ
 ウ、ウルセーナ!
 ギャクテンフカノウヨ、ソレ

 
 
 男「………………」

 
 リーダー「どうもどうも、男くん」
 
 男「………ああ」
 
 リーダー「隣、いいかな?」
 
 男「ああ………」
 

 リーダー「どうだい。すばらしいところだろ、ここは」
 
 男「確かに、生きている人間がこれほど集まっているのは久しぶりに見る」
 
 男「……………」
 
 男「……ここは」
 
 リーダー「うん?」
 
 男「お前が、作り上げたのか?」
 

 リーダー「……ええ。まぁそうなるねぇ」
 
 リーダー「最初は、私と食堂のおばさんと、もう一人いたんだよ」
 
 リーダー「その一人が死んでしまって、程なく猟師さんと不良くんが加わった」
 
 リーダー「次に巨漢さんとメガネくんが」
 
 リーダー「その次に主婦さんと少年くん。そして主婦さんに保護された少女ちゃんが加わった」
 
 リーダー「そしてメガネくんがヤンデレさんを。こういう風に、広がっていったわけだ」
 

 男「………それは、すごいな」
 
 リーダー「ははは、ありがとう。……と、言っても私にはあなたの方がすごいと思えるがね」
 
 男「…………」
 
 リーダー「二ヶ月、戦いっぱなしだろう? 以前は何を?」
 
 男「大学で、法学を」
 
 リーダー「へぇ、それはすごい」
 
 男「政治家が何を言っている」
 

 男「………だが」
 
 男「…………狂人を殺すよりも難しかった、ように思える」
 
 リーダー「狂人を殺すのが簡単だと?」
 
 男「そうは言っていない。だが奴らは脆くて、馬鹿で、行動が単純だ」
 
 男「対一では、そうそうやられん。……女子供老人ならともかく」
 
 リーダー「何事も、量が脅威ということか。仕事しかり、勉学しかり、狂人しかり」
 
 男「………ああ。そういうことだ」
 

 リーダー「じゃあ私はこれで失礼するよ。いささか心許ないかもしれないが、休憩のタイミングは間違えないことだ」
 
 男「…………」
 
 男「善処しよう」
 

 女「男さん!」テクテク
 
 男「ああ…………お前か」
 
 女「どうです、ここは?」
 
 男「…………あの男……リーダーにも、同じようなことを言われた」
 
 女「え」
 
 男「まぁお前とリーダーでは意味が違ってくるだろうが」
 
 女「か、からかわないでくださいよぅ」
 
 男「………………?」
 
 女(あ、からかったつもりはないのか……)
 

 女「隣、良いですか?」
 
 男「構わん」
 
 ストッ
 
 女「良い方たちですね、みんな」
 
 男「そうだな」
 
 女「昨日までの私なら、こんなところにいるなんて想像もつきませんでした」
 
 男「そうだな」
 

 女「お、男さん……? ちゃんと聞いてくれて……………」
 
 女「―――――――――」
 
 女(その時、私の目に映った男さんの横顔は)
 
 女(なにか、肩の荷が降りたような、憑き物が取れたような)
 
 女(そんな顔を、していた)
 




 
 
 男「ああ。本当に、そうだ」

 
 





 

 二週間後。
 
 テクテク…
 
 女「……男さん、最近ホテル内を歩き回っていますけど、どうかしたんですか?」
 
 男「ああ、それは…………」
 
 猟師「男」
 
 女「あ、猟師さん。こんにちは」
 
 猟師「ああ」
 
 男「なんだ。俺に用か」
 
 猟師「そうだ。話がある。ついてこい」
 
 男「わかった」
 
 女(……あ、行っちゃった……)
 
 女(それにしてもあの二人、どこか似てるような………)
 

 男「話とはなんだ?」
 
 猟師「まぁ待て。今からリーダーの部屋に向かう。そこで、話す」
 
 男「……………」
 
 猟師「ほら、入れ」ガチャ
 

 男(中に、リーダー、巨漢に、メガネに、不良、それと数人の男……。ここのおおよその男陣か)
 
 リーダー「やぁ、よく来てくれた」
 
 男「話とはなんだ」
 
 リーダー「ああ、それなんだけどね……」
 
 リーダー「以前、度々外へ物資の調達に行ってるって話はしたと思う」
 
 男「ああ。覚えている」
 
 リーダー「その調達を行っている人たち。メンバー的にはこの部屋にいるメガネ君らなんだが、それを『調達組』と呼んでるんだ」


 
 リーダー「君には、その調達組の一人になってほしい」
 
 男「構わん。次の調達はいつだ」

 
 

 リーダー「………即答だな」
 
 男「いずれこうなることは予測できていたからな」
 
 リーダー「頼もしいと言えなくもないが、普通は何らかの拒否の色を見せるものだと思っていたよ」
 
 男「………嬉しいわけではない。だが、拒否をして物事が上手く進むとも思えない」
 
 男「それに」
 

 男「俺はどうやら、狂人を殺していないと落ち着かないらしいからな」
 
 リーダー「…………………………そうかい」
 
 リーダー「だが、何があっても自分と仲間が優先だ」
 
 リーダー「次に物資。狂人を殺すことそれ自体は、目的じゃない」
 
 男「………ああ。わかっているつもりだ」
 

 リーダー「ならいいんだ」
 
 男「話は終わりか?」
 
 リーダー「ああ。こんなにスムーズに進むとは思わなかった。今度の調達は3日後。準備なりなんなりしておいてくれ」
 
 男「わかった」クルリ
 
 リーダー「あの娘にも、言っておいた方がいいかも知れないね」
 
 男「……………そうしよう」ガチャ
 

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年10月17日 (火) 21:36:40   ID: 2Vr4lL1W

もっと評価されるべき作品。
投稿が待ち遠しいです。

2 :  SS好きの774さん   2017年10月19日 (木) 10:43:13   ID: 3sjycqUK

緻密なストーリーで文章力にも長けていてとても面白い本当に良い作品だ

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